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主な未侵入病害虫の解説 - maff.go.jp7~9mm、 乳白色。成虫は、飛しょうが不可能で、かんきつなどの 果樹に限らず、キクなどの草本類の茎に這い登り、

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Page 1: 主な未侵入病害虫の解説 - maff.go.jp7~9mm、 乳白色。成虫は、飛しょうが不可能で、かんきつなどの 果樹に限らず、キクなどの草本類の茎に這い登り、

主な未侵入病害虫の解説今回は、サトウキビ ・ゴム病とフラーバラゾウ

ムシを紹介する。

サ トウキビは、わが国へは慶長14年(1609)奄

美大島へ中国福建省から入ったのが初めてとされ

ているが、今日では、南西諸島の基幹農作物のひ

とつとなっている。サトウキビには、かつて黄条

病や赤腐病などが重大な被害をもたらしていたが、

品種改良の結果、現在ではほとんど問題にならな

いほどになっている。それだけに本誌のゴム病、

フィージー病(本 誌No.12で紹介)な ど海外の重要

病害の侵入を警戒しなければならない。品種改良

など栽植用に海外から持ち込む生茎葉や地下部は、

1作 期間の隔離検疫を受けなければならないこと

になっている。

また、フラーバラゾウムシは、カンキツ類を始

めとする多くの植物を食害する大害虫である。わ

が国に侵入した場合、アメリカ合衆国の例と同様

に温室害虫化し、分布範囲を拡大する危険性のあ

る害虫でもある。輸入検疫においては特定重要害

虫に指定されている。

サ ト ウ キ ビ ・ゴ ム 病

学 名:Xanthomonas campestris pv.vasculorum

(Cobb)Dowson英 名:Gumming disease,gummosis of

sugarcane

分布 北 ・中南アメリカ、北・ 中央 ・南アフリカ、

太洋州。サトウキビが大規模に栽培されているほ

とんどの国で発生しているといわれている。

寄生植物 サトウキビ、トウモロコシ、アミダネ

ヤシ属、ビンロウジ、キューバダイオウヤシ、ケ

ダケガヤ属の1種 等。人工接種により、このほか

多種類の植物に寄生性のあることが分っている。

病徴 病徴は品種によって異なる。抵抗性品種で

は、葉に黄色条斑が生じるだけであるが、抵抗性

のない品種では、葉に褐色斑点を伴った病斑が生

じ、やがてえそとなる。このえそは葉の広い面積

に及ぶことがある。一部の品種では赤色の条斑を

生じるので、赤条病と混同されやすい。茎の通導

組織には菌泥が生じ、やがて暗色となる。通導組

織が侵されることにより葉は枯れてくる。感受性

が非常に高い品種では、頂芽の下に黄色の菌泥が

滲出してくる。これが本病の特徴で、診断の決め

手となる。この菌泥は、ゴム状の細菌塊となって

正常な開花を阻害することがある。

病原菌 本菌には、いくつかの系統のあることが

知られている。グラム染色陰性、大きさ0.4~0.5

×1~1.5μmの 稈菌で単極毛がある。普通寒天培地

を使用し、28℃ で数日間培養すると光沢のある黄

色円形コロニーを形成する。本病菌は、り病穂木を切った切断刃によっても

伝染するので、穂木の植込み時には注意が必要で

ある。また、農機具、農夫、車両、動物又は昆虫

などによっても畑から畑へと伝搬される。畑の中

で最もじん速な伝染拡大の原因となるものは、風

を伴った雨である。風によって葉がこすれ合い、

無数の微小な傷ができて本菌の侵入が容易になる

からである。

本菌の感染により、葉内の生長調節物質のイン

ドール酢酸相当物質が健全葉に比べ50%、 ある種

の生長促進物質が35倍に増加した例がある。

被害 サトウキビには数種の細菌病があるが、本

病の被害が最も重大である。茎の生産量が減少し

り病茎の糖度が低下する。また、搾汁の加工工程

でゴム状細菌塊が施設を詰らせることがある。

防除方法 無病地域で生産された穂木を使用する

こと、又は抵抗性品種を栽培することなど。しか

し、外国では新しい系統の菌が出現した例がある

こと、サトウキビ以外にも寄主植物があることな

どから、防除の困難な病害のひとつであり、侵入

を特に警戒すべき病害である。

植物防疫病害虫情報 第14号(1984年7月15日)

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フ ラ ー バ ラ ゾ ウ ム シ

学 名:Pantomorus cervinus(Boheman)

英 名:Fuller's rose weevil

分布 ヨーロッパ、北アフリカ、中南アフリカ、

北アメリカ、南アメリカ、太洋州。

寄主 寄主範囲は広く、特にかんきつ類の害虫と

して重要視されている。

形態及び生態 成虫は、体長6~9mmで 長楕円形。

体の地色は黒褐色で、灰色か薄茶色のうろこをや

やまばらに備えるため、全体 として霜降状の外観

を呈す。翅鞘の両脇には、背面から見て逆「ハ」字

状の白斑を有する。口吻は短小で、胸部はほぼ円

筒状。卵は、長径約1mm、 短径はその4分 の1程

度。なめらかで薄黄色。長楕円形であるが卵塊と

して産卵されるため変形が起りやすい。幼虫は、

老熟幼虫では体長が約8mm、 乳白色、無脚で、内

側にわん曲。短毛をまばらに備える。 蛹は、体長

7~9mm、 乳白色。

成虫は、飛しょうが不可能で、かんきつなどの

果樹に限らず、キクなどの草本類の茎に這い登り、

葉を食害する。夜行性で、食害は夜間に行なわれ

る。雌成虫は、樹幹の根元付近の樹皮の割れ目な

どに産卵する。孵化幼虫は、地中に潜 り植物の根

を食害し、激し

い場合には枯死

させることもあ

る。老熟幼虫は

地下5~12cmに

作った土まゆの

中で蛹化する。

アメリカ合衆国においては多化性で、あらゆる態

で越冬が行われるようである。

被害は、春から秋、特に5月~7月頃に見られる。

アメリカ合衆国では、当初西部に分布していた

が、温室害虫でもあるところから人為的な寄主植

物の移動により、東部各州へも拡散したと考えら

れている。現在では北アメリカのみならず、アジ

アを除く温帯各地に点々と分布を拡大している。

本邦に分布する害虫で、本虫に類似する害虫に

は、通常果樹園などで発見される、ヒョウタンゾ

ウムシ類(Tanymecini族)が あり形態、生態、成

虫の葉の加害様相、発生時期などがよく似ている。

両者の簡単な区別点は、ヒョウタンゾウムシ類に

は、複眼のうしろ(胸 部前縁)に 毛があるが、フ

ラーバラゾウムシにはないことである。

防除法 薬剤によるほか、成虫が飛しょうできな

いことを利用して、樹幹に粘着剤を塗付する方法

が行われたことがある。

ヒョワタンゾウムシ類 フラーバラゾウムシ

サトウキビゴム病 フラーバラゾウムシ(成虫)

植物防疫病害虫情報 第14号(1984年7月15日)