26
持ち家社会における若者、女性、高齢者 および被災者の住宅事情に関する研究 平山 洋介

持ち家社会における若者、女性、高齢者 および被災者の住宅事情 … · 論文(4)「持ち家社会と住宅政策」では、戦後日本における持ち家社会の変化を、“大

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

持ち家社会における若者、女性、高齢者 および被災者の住宅事情に関する研究

平山 洋介

1 研究の目的

- 戦後日本の特徴の一つは、持ち家社会としての存立である。政府は、多くの人たちが標準パターンのライフコースを歩むと想定し、中間層の持ち家取得を促進する住宅政策を展開した。

- しかし、前世紀の末頃から、住宅市場の変動、労働市場の流動化、結婚・家族の変化などによって、住宅所有を促進するシステムは、より不安定になった。

- 本研究は、持ち家社会の変容という文脈のなかで、若者、女性、高齢者および被災者を対象とし、それぞれの住宅事情を明らかにしようとしたものである。

- 持ち家社会の中心を占めていた標準世帯は、大幅に減った。そこでは、住まいに関する社会変化を理解しようとするとき、標準世帯以外のグループに注意を向け、その住宅事情を解明することが、有力なアプローチの一つになる。

- 標準パターンのライフコースに乗る世帯に支援を集中するという政策の根拠は、すでに弱まっている。この研究では、より多様化するライフコースの軌道をニュートラルに支える方向性を展望しようとした。

2 研究の方法

- 建築学における住宅問題研究の方法の一つは、住み手と住宅の関係の把握である。本研究では、この点をふまえ、受け継ぐと同時に、住み手側と住宅側の双方の分析に関し、新たな手法を導入した。

- まず、住み手のとらえ方に関し、伝統的な住宅研究は、世帯単位分析に集中していたのに対し、本研究では、個人単位と家族単位の分析を進め、その必要性と有効性を主張した。若者、女性、高齢者などの実態は、世帯主に着目する世帯単位分析ではみえてこない。それは、個人単位分析によってはじめて把握可能になる。一方、持ち家は、住んでいる世帯の資産であるだけではなく、複数世代にまたがる家族の資産として存在する。住宅と世帯の関係だけではなく、住まいと個人/世帯/家族の関係をみようとする新たなアプローチを用意した点に、本研究の特徴がある。

- 次に、住宅のとらえ方について、本研究では、「親持ち家」「夫婦共同所有住宅」「付加住宅」「アウトライト住宅」などの持ち家に関する新たなカテゴリーを導入し、それぞれの分析道具としての有用性を示した。不安定就労の若者を保護する「親持ち家」、女性就労の増大にもとづく「夫婦共同所有住宅」、「付加住宅」を所有する高齢者の増加、高齢者・被災者にとっての「アウトライト住宅」の重要さなどに関し、新たな知見を得ることに成功した。

3 論文の構成

総論

第1部 住宅所有とライフコース変化(論文(1)~(4))

各論

第2部 住宅事情に関する世代間変化と若年層の特性

(論文(5)~(8))

第3部 住宅所有における女性の位置と役割(論文(9)~(12))

第4部 高齢者と住宅・土地資産形成(論文(13)~(16))

第5部 土地・持ち家被災と住宅復興(論文(17) ~(20))

4 論文の概要

第1部「住宅所有とライフコース変化」では、前世紀末からの持ち家社会の変容を、人びとのライフコース変化に関連づけて論じ、本論文全体の趣旨を示した。

論文(1) “Housing and the rise and fall of Japan’s social mainstream”では、戦後日

本における社会的メインストリームの拡大と衰退のプロセスを把握し、そこでの住宅システムの役割を論じた。

Figure 1. Changes in the ‘social mainstream’

Expansion

- Homeowners- Fmaily households- Middle classes

Inside

Outside

Transformation

- Homeowners- Fmaily households- Middle classes

Inside

Outside

論文(2) “Housing pathway divergence in Japan’s insecure economy”では、住宅に

関係するライフコース分岐の全体像を描き、それをアフォーダビリティの低下から説明した。バブル破綻以降では、所得のデフレーションがアフォーダビリティ問題の新たな構造を形成し、それがライフコース分岐の重要な因子となることを示したうえで、親の家にとどまる者/親の家を離れる者、単身世帯/家族世帯、片働き世帯/共働き世帯という3つの分岐の観察を通じて、“非典型”の多様なライフコースをたどる個人・世帯が増えている実態とそれぞれの住宅事情を分析した。

Changes in economic situations of owner-occupier households

Annual income < 5 million yen Monthly mortgage Mortgage repayment-to- <Age of head of household> repayment > 50,000 yen income > 15 %

0 10 20 30 40 50

< -34>199419992004

<35-44>199419992004

<45-54>199419992004

(%)0 10 20 30 40 50 60

< -34>199419992004

<35-44>199419992004

<45-54>199419992004

(%)0 10 20 30 40 50

< -34>199419992004

<35-44>199419992004

<45-54>199419992004

(%)

論文(3) “Individualization and familization in Japan’s home-owning democracy”では、住宅と社会変化の関係を「個人化」と「家族化」の組み合わせから説明するという新たな方法を示し、その有効性を論証した。 「個人化」と「家族化」は、人びとを正反対の方向に向かわせる力でありながら、「自立した世帯」による持ち家取得というパターンを減らす点では、同一方向の力を生んだ。

Figure 1. Vertical and Horizontal Individual-Family Relations

MarriedUnmarried

Dependent on parents' homes

Independent of parents' homes

論文(4)「持ち家社会と住宅政策」では、戦後日本における持ち家社会の変化を、“大衆化”から“階層化”への移行としてとらえ、そこでの住宅政策の役割を考察した。社会・経済条件の変化のなかで、持ち家セクターの安定はしだいに失われた。それでもなお、政府は持ち家重視の方針を維持し、景気低迷期に住宅購入を促し続けた。ここから生じたのは、社会・経済変化だけではなく、持ち家促進の政策それ自体が持ち家社会をより不安定にするというメカニズムである。

Note: Data are for households with two or more members.Source: National Survey of Family Income and Expenditure.

Figure 3.3 Changes in outstanding mortgage debts and gross assets onresidential-properties of owner-occupier households with mortgage debt

7.8

10.9

14.3

15.3

15.6

0 5 10 15 20

1989

1994

1999

2004

2009

(million yen)

Average current outstanding residential-property-mortgage debts

43.8

44.0

35.5

28.1

26.5

0 10 20 30 40 50

1989

1994

1999

2004

2009

(million yen)

Average current grossresidential-property assets

第2部「住宅事情に関する世代間変化と若年層の特性」では、人びとの住宅事情が世代によって顕著に差異化したことを示し、若い世代のライフコース分岐が持ち家社会をどのように変化させるのかを論じた。

論文(5) “Housing and generational fractures in Japan”では、住まいに関する世代

間変化の全体像を描き、それを経済・政策変化から説明した。さらに、若い世代のライフコース変化が都市空間を分化させ、家族世帯の持ち家取得による郊外形成という伝統的なパターンを衰退させることを示した。

0 10 20 30 40 50%

Source: Author's calculations from micro-data on the 2005 Population Census of Japan.

Figure 3. Ratio of parental home dwellers of those aged 25-34, 2005

Source: Author's calculations from micro-data on the 2005 Population Census of Japan.

Figure 4. Ratio of single people of those aged 25-34, 2005

0 10 20 30 40 50%

論文(6)「ベビーブーマーとベビーバスターの住宅履歴に関する比較分析」では、ベビーブーマー(1940年代後半生まれ)とベビーバスター(1950年代後半~1960年代前半生まれ)という二つのコーホートの住宅履歴が大きく異なることを明らかにした。すなわち、ブーマーの人生の歩みは、持ち家社会を形成する原動力となったのに対し、バスターの人生は、その不安定化を反映した。

注)・一戸建ては若干の長屋建てを含む。

  ・給与住宅は、社宅・官舎・寮。

  ・不明を除く。

図3-2 住宅所有形態の変化

21.1

26.0

31.1

32.6

22.7

18.3

74.9

51.9

38.1

25.6

0 25 50 75 100

25歳時

30歳時

35歳時

40歳時

45歳時

50歳時

東京圏・バスター

28.4

39.1

19.1

24.6

17.6

26.8

22.7

38.7

26.8

33.8

21.8

0 25 50 75 100

25歳時

30歳時

35歳時

40歳時

45歳時

50歳時

大阪圏・バスター

23.9

33.3

42.9

49.6

23.5

24.8

23.6

26.5

18.8

25.4

16.4

62.0

46.6

31.5

26.5

21.5

0 25 50 75 100

25歳時

30歳時

35歳時

40歳時

45歳時

50歳時

東京圏・ブーマー

0%25%50%75%100%

2 53 03 54 04 55 0

持家(一戸建て) 持家(マンション) 民営借家

給与住宅 親の家 その他

(%) (%)

19.5

37.9

51.4

59.6

65.1

22.5

20.3

20.8

20.9

18.8

34.2

25.3

21.3

30.8

0 25 50 75 100

25歳時

30歳時

35歳時

40歳時

45歳時

50歳時

大阪圏・ブーマー

論文(7)「若年層の居住実態に関する個人単位分析」では、公的統計のミクロデータを用い、世帯単位の統計を個人単位に組み替えたうえで、若者個人のおもな居住類型として「世帯内単身者」(親元に住む無配偶者)、「単身者」(一人世帯)、「世帯形成者」(夫婦中心世帯をつくる既婚者)を設定し、それぞれの型の特性を明らかにした。

注)1)1985年以前の2人以上世帯は20%抽出結果の数値。

  2)不明を除く。

資料)『国勢調査報告』より作成。

年齢別 若年者の居住類型

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

198

0

198

5

199

0

199

5

200

0

200

5

201

0

世帯形成者

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

198

0

198

5

199

0

199

5

200

0

200

5

201

0

単身者

0

10

20

30

40

50

60

70

80

90

198

0

198

5

199

0

199

5

200

0

200

5

201

0

世帯内単身者(%)

70%80%90%

1…

1…

1…

1…

2…

2…

2…25~29歳 30~34歳 35~39歳

論文(8)「若年・未婚・低所得層の居住実態について」では、 20~39歳、年収200万円未満の未婚者の住宅事情を分析し、旧来の住宅研究ではほとんど分析対象とならなかった「親持ち家」が若年・未婚・低所得層を支えている実態を明らかにした。

表 親との同別居別 仕事、収入、結婚意向、住宅所有形態親同居 親別居 計

% % %

<現在の仕事の雇用形態>

正規社員 7.5 8.8 7.8

契約・嘱託・派遣社員 7.5 14.3 9.1

パート、アルバイト、臨時・日雇い 36.9 41.9 38.0

自営業、自由業 5.3 8.3 6.0

無職 42.8 26.8 39.2

<年収>

なし 28.9 19.5 26.8

50万円未満 23.9 19.0 22.8

50万~100万円 18.9 20.6 19.3

100万~150万円 17.0 21.8 18.1150万~200万円 11.3 19.0 13.0

<結婚の意向>結婚の予定がある 1.5 6.0 2.5結婚できると思う 5.5 10.3 6.6結婚できるかわからない 21.5 16.3 20.3結婚できないと思う 20.0 14.5 18.8結婚したいと思わない 35.2 30.3 34.1わからない 16.4 22.6 17.8

(回答者数) (1,368) ( 399) (1,767)

第3部は、「住宅所有における女性の位置と役割」をテーマとする。ここでは、「世帯のなかの誰が住まいを所有しているのか」に着目し、持ち家の多くが「男性稼ぎ主」の所有物である一方、夫婦共同所有住宅が増えはじめ、女性の経済力が住宅条件を左右する新たな変数になっている状況を明らかにした。

論文(9) “Women and housing assets in the context of Japan’s home-owning democracy”は、欧米諸国と異なる日本の持ち家社会の特徴として、「男性稼ぎ主」の

所有する“ジェンダー化した持ち家”が多いことを指摘し、その現象を、住宅金融、労働市場、社会保障・税制および住宅政策の制度から説明した。

論文(10)「女性の配偶関係と住宅所有形態に関するパネルデータ分析」では、女性の住宅履歴が配偶関係に応じてまったく異なることを、パネルデータ分析から明らかにした。日本の持ち家社会では、女性たちの住まいの条件に対し、配偶関係が過剰といえるほど強い影響力をもつ。

論文(11)「女性の住宅所有に関する実態分析」では、持ち家率の説明に関し、これまでほとんど注目されなかった妻の経済力に着目し、「男性稼ぎ主」だけではなく、妻の所得が世帯の持ち家率に影響することを実証した。

注) 1)夫婦と子を含む勤労者世帯について集計。 2)不明を除く。

資料)平成16年全国消費実態調査のミクロデータより作成。

妻の勤め先収入別 子育て世帯における夫の勤め先収入、世帯年収、住宅所有形態(2004年)

住宅所有形態

47.450.750.358.1

60.068.976.877.5

31.728.734.8

31.0

20.816.1

13.616.3

11.210.4

12.0

12.7

0 20 40 60 80 100

<30~34歳>無し

130万円未満

130万~300万円

300万円以上

<35~39歳>無し

130万円未満

130万~300万円

300万円以上

持家民営借家・借間公営借家公団・公社借家給与住宅・寮・寄宿舎

(%)

世帯年収

48.151.3

22.6

27.526.2

14.2

38.938.4

51.615.4

42.343.9

48.7

25.083.3

26.827.2

36.394.4

0 20 40 60 80 100

<30~34歳>無し

130万円未満

130万~300万円

300万円以上

<35~39歳>無し

130万円未満

130万~300万円

300万円以上

300万円未満

300万~500万円

500万~700万円

700万円以上

(%)

夫の勤め先収入

15.525.0

12.7

50.162.0

53.555.9

30.142.2

53.331.6

37.320.617.6

25.1

42.738.2

27.952.0

13.2

11.3

22.912.9

0 20 40 60 80 100

<30~34歳>無し

130万円未満

130万~300万円

300万円以上

<35~39歳>無し

130万円未満

130万~300万円

300万円以上

300万円未満

300万~500万円

500万~700万円

700万円以上

(%)

<世帯主年齢>

論文(12)「持家取得における既婚女性の就業の役割」は、既婚女性を正規就労、非正規就労、家事専業に分け、それぞれの女性が持ち家取得においてはたす役割を分析し、妻の就業形態が住宅所有のあり方を左右することを示した。

注) 1)(  )内は回答者数。  2)不明を除く。

図4-6 雇用上の地位別 持家の延床面積・購入価格

36.5 24.6

20.9

22.6

26.0 39.7

39.9

0 25 50 75 100

正規被用

非正規被用

家事専業

2,000万円未満

2,000万~3,000万円

3,000万~4,000万円

4,000万~5,000万円

5,000万円以上

購入価格

(%)

45.1 24.3

24.2

49.8

37.2

21.8

20.3

0 25 50 75 100

正規被用

非正規被用

家事専業

50㎡未満

50~70㎡

70~100㎡

100㎡以上

延床面積

(%)

正規被用(144)

非正規被用(355)

家事専業(307)

(126)

(335)

(288)

注)1)持家取得時の雇用上の地位は、結婚後に持家を取得した者について    集計。  2)(  )内は回答者数。  3)不明を除く。

図4-5 現在の雇用上の地位別 結婚直後・持家取得時の雇用上の地位

83.381.9

37.213.4

39.413.7

8.36.3

30.438.0

13.1

45.1

30.9

9.4

30.1

27.471.5

0 25 50 75 100

<現在正規被用>

結婚直後(144)

持家取得時(127)

<現在非正規被用>

結婚直後(355)

持家取得時(337)

<現在家事専業>

結婚直後(307)

持家取得時(291)

正規被用 非正規被用 家事専業 その他 (%)

第4部「高齢者と住宅・土地資産形成」では、超高齢社会の文脈のなかで、住宅・土地の資産としての側面に着目し、その実態と政策上の含意を検討した。

論文(13) “The role of home ownership in Japan’s aged society”では、高齢者の多く

がアウトライト住宅に住み、したがって、重い住居費負担から逃れ、住宅資産を保有することを指摘し、その一方、世代間と世代内での住宅事情の差異が拡大し、それが高齢社会の安定を損なう可能性をはらむ点に注意を促した。

論文(14)「住宅・土地資産形成の変容に関する実態分析」では、持ち家を「ローン有り」と「ローン無し」に分節し、加齢にともなう「ローン無し」(アウトライト)住宅の増大が高齢期の生活条件となることを示すと同時に、ポストバブルの経済変化における住宅・土地資産形成のライフコース・モデルの不安定化を論じた。

論文(15)「高齢世帯の住宅資産保有に関する階層分析」では、「付加住宅」をもつかどうかで高齢層を区分するという新しい分析手法を導入し、それにもとづいて、住宅資産保有の階層化の実態を明らかにした。

表5-2 住宅所有形態別 高齢世帯の資産額(平均値) 2004年単数持家 複数持家 借家 計

(万円) (万円) (万円) (万円)

住宅資産額(A) 2,644.6 7,850.9 184.8 3,332.1耐久消費財等資産額(B) 131.9 189.4 43.5 132.1貯蓄等現在高(C) 1,766.8 2,818.1 815.2 1,850.2

住宅のための負債現在高(D) 171.7 402.6 5.7 195.2その他の負債現在高(E) 44.9 145.1 25.7 61.5負債現在高計(F=D+E) 216.5 547.7 31.4 256.8

金融資産額(G=C-F) 1,550.2 2,270.4 783.8 1,593.4

資産純価総額(A+B+G) 4,326.8 10,310.7 1,012.1 5,057.5注)1)65歳以上の世帯員を含む世帯について集計。

  2)住宅資産額は土地資産額を含む。

  3)住宅資産額、耐久消費財等資産額は純資産額。

  4)耐久消費財等資産額はゴルフ会員権等の資産額を含む。

  5)住宅のための負債は土地のための負債を含む。

  6)単身赴任・出稼ぎ・入院中の単身世帯を除く。 7)不明を除く。

資料)平成16年全国消費実態調査のミクロデータより作成。

論文(16) 「超高齢社会の住宅条件とその階層化」は、アウトライト持ち家の普及が超高齢社会の基盤を形成していると論じたうえで、高齢層の住宅条件がけっして均質ではなく、住宅所有形態に応じて分化していることを、住宅研究の伝統的なアプローチである住宅階層論にもとづき、実証的に示した。

 注)1)65歳以上の世帯員を含む世帯について集計。 2)住居費は、住宅ローン返済額、家賃・地代、設備修繕・維持費の合計。

   3)住居費負担率は、住居費の可処分所得に占める割合。 4)民営借家は借間を含む。 5)給与住宅は寮・寄宿舎を含む。

   6)単身赴任・出稼ぎ、入院中の単身世帯を除く。 7)不明を除く。

 資料)平成16年全国消費実態調査のミクロデータより作成。

図2 住宅所有形態別 高齢世帯の年収と住居費負担(2004年)

65.713.1

56.0

11.417.2

53.964.3

13.3

15.546.5

13.510.4

30.7

23.230.2

18.9

0 20 40 60 80 100

持ち家

公営借家

都市機構・公社借家

民営借家

給与住宅

住居費負担率

5%未満5~15%未満15~25%未満25%以上

(%)

78.983.5

16.123.1

77.4

12.940.0

36.623.820.9

10.5

20.119.4

11.7

0 20 40 60 80 100

持ち家

公営借家

都市機構・公社借家

民営借家

給与住宅

1カ月当たり住居費

3万円未満3万~5万円未満5万~7万円未満7万円以上

(%)

25.865.1

41.768.8

12.8

30.225.4

41.320.6

25.0

16.1

26.6

27.8

35.5

0 20 40 60 80 100

持ち家

公営借家

都市機構・公社借家

民営借家

給与住宅

世帯年収

300万円未満300万~500万円未満500万~700万円未満700万円以上

(%)

第5部「土地・持ち家被災と住宅復興」では、東日本大震災における被災者を対象とし、その生活再建の追跡から、住宅復興の政策を検証した。災害は、ライフコースの途上に発生し、その軌道に深刻な被害をおよぼす。そこからの生活再建に対する住宅の役割をみることが、ここでの関心事である。そして、東日本大震災は「持ち家社会に発生した大災害」にほかならない。大津波は、土地に甚大な被害を与え、大量の持ち家を破壊した。この「土地・持ち家被災」からの住宅復興のあり方を検討することが、研究の主眼となった。

論文(17) 「地域持続を支える住宅再生を」では、震災発生から10カ月がたった時点で、公的統計と被災自治体が実施した多様な被災者アンケートの結果を集め、住宅・土地被害に関する地域状況、被災世帯の特性、住宅・居住地についての被災者意向などを分析した。

筆者らは、岩手県釜石市の被災者を対象とし、市との協力関係にもとで、アンケート調査を年1回のペースで実施してきた。震災発生から半年後の調査の結果を分析したものが、論文(18)「東日本大震災における被災者の住宅事情」である。

続いて、論文(19)「東日本大震災後の住宅確保に関する被災者の実態・意向変化」は、震災半年後と1年半後に実施した釜石市の仮設世帯アンケートの結果を比較し、約1年という短い期間で被災者の住宅状況が大きく変わったことを明らかにした。

表8 希望する住宅の種類

2011年夏 2012年夏

% % 持家 78.9 49.1  <一戸建て> <76.6> <46.4>

    <集合住宅> < 2.3> < 2.8> 公的借家 13.6 43.7  <災害復興公営住宅> < - > <38.0>  <それ以外の公的借家> < - > < 5.7> 民営借家 5.2 2.5  <一戸建て> < 2.7> < 1.2>  <集合住宅・アパート> < 2.5> < 1.3> その他 2.2 4.6(回答者数) (1,034) ( 755)

注)1)その他は、高齢者施設、親・子・その他親族の家、社

  宅・寮・官舎等を含む。 2)不明を除く。

論文(20)「土地・持家被災」からの住宅再建」は、震災発生から約2年半がたった時点で、住宅復興の状況をまとめたものである。東北の被災地の特徴が「土地・持ち家被災」にある点を指摘したうえで、釜石市で続けている被災者アンケートの結果概要を示し、住宅復興に関する政策・制度の課題を検討した。

注)1)震災直前の住宅所有形態が持家(一戸建て)の世帯について集計。

  2)複数回答。 3)不明を除く。

図1 住宅再建に関する不安(2011年夏)

39.3

57.8

27.5

14.6

52.1

47.1

56.4

6.4

4.1

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60%

収入が安定する目途が

立っていない

再建のための手持ちの資金がない

再建のための資金を借りる

あてがない

以前の住宅ローンが残っている

復興計画で、再建を考えている土地

に住宅を建築できるかどうかまだ…

再建を考えている土地が災害時に安

全に住めるかどうかわからない

地域の将来像がはっきりしない

その他

住宅(持家)を再建する

つもりはない

復興計画で、再建を考えている

土地に住宅を建築できるかどうか

まだはっきりしない

(回答者数=983)

5 初出一覧 * ここで使用した図表は、初出論文で使用したものとは限らず、別途作成したものを含む。

第1部 住宅所有とライフコース変化

論文(1) Yosuke Hirayama (2014) Housing and the rise and fall of Japan’s social mainstream, in J. Doling and R. Ronald (eds.) Housing East Asia: Socioeconomic and Demographic Challenges, Hampshire: Palgrave Macmillan, 116-139. 論文(2) Yosuke Hirayama (2010) Housing pathway divergence in Japan’s insecure economy, Housing Studies, 25 (6), 777-797. 論文(3) Yosuke Hirayama (2015) Individualisation and familisation in Japan’s home-owning democracy, International Journal of Housing policy, DOI:10.1080/14616718.2015.1089730 論文(4) 平山洋介(2014.9)「持ち家社会と住宅政策」『社会政策』6 (1), 11-23.

第2部 住宅事情に関する世代間変化と若年層の特性

論文(5) Yosuke Hirayama (2013) Housing and generational fractures in Japan, in R. Forrest and N-M. Yip (eds.) Young People and Housing: Transitions, Trajectories and Generational Fractures, London: Routledge, 159-176. 論文(6) 平山洋介(2007)「ベビーブーマーとベビーバスターの住宅履歴に関する比較分析――K大学卒業者のケーススタディ」『日本建築学会計画系論文集』621, 123-130. 論文(7) 平山洋介(2008)「若年層の居住実態に関する個人単位分析」『日本建築学会計画系論文集』632, 2189-2195. 論文(8) 平山洋介・川田菜穂子(2015)「若年・未婚・低所得層の居住実態について」『日本建築学会計画系論文集』716, 2303-2313.

第3部 住宅所有における女性の位置と役割

論文(9) Yosuke Hirayama and Misa Izuhara (2008) Women and housing assets in the context of Japan’s home-owning democracy, Journal of Social Policy, 37 (4), 641-660. 論文(10) 平山洋介(2008)「女性の配偶関係と住宅所有形態に関するパネルデータ分析」『日本建築学会計画系論文集』627, 1045-1052. 論文(11) 平山洋介(2007)「女性の住宅所有に関する実態分析」『日本建築学会計画系論文集』616, 137-143. 論文(12) 平山洋介(2011)「持家取得における既婚女性の就業の役割」『日本建築学会計画系論文集』663, 983-992.

第4部 高齢者と住宅・土地資産形成

論文(13) Yosuke Hirayama (2010) The role of home ownership in Japan’s aged society, Journal of Housing and the Built Environment, 25 (2), 175-191. 論文(14) 平山洋介(2009)「住宅・土地資産形成の変容に関する実態分析」『日本建築学会計画系論文集』636, 431-438. 論文(15) 平山洋介(2010)「高齢世帯の住宅資産保有に関する階層分析」『日本建築学会計画系論文集』652, 1549-1555. 論文(16) 平山洋介(2015)「超高齢社会の住宅条件とその階層化」『都市計画』316, 40-45.

第5部 土地・持ち家被災と住宅復興

論文(17) 平山洋介(2012)「地域持続を支える住宅再生を」『世界』826, 214-226.

論文(18) 平山洋介・間野博・糟谷佐紀・佐藤慶一(2012)「東日本大震災における被災者の住宅事情――岩手県釜石市の仮設住宅入居世帯に関する実態調査を通して」『日本建築学会計画系論文集』679, 2157-2164.

論文(19) 平山洋介・間野博・糟谷佐紀・佐藤慶一(2014)「東日本大震災後の住宅確保に関する被災者の実態・意向変化――岩手県釜石市の仮設住宅入居世帯に対する「2011年夏」と「2012年夏」のアンケート調査から」『日本建築学会計画系論文集』696, 461-467.

論文(20) 平山洋介(2013)「土地・持家被災」からの住宅再建」平山洋介・斎藤浩(編)『住まいを再生する――東北復興の政策・制度論』岩波書店, 107-124.