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ISSN 2185-372X - 1 - 日本機械学会熱工学部門 JSME Thermal Engineering Division THERMAL ENGINEERING 日本機械学会熱工学部門ニュースレター TED Newsletter No.83 December 2017 1. TED Plaza ドライ低 NOx 水素専焼燃焼器の開発 岡田 邦夫(川崎重工業株式会社) 選択波長赤外線を用いた新規熱処理プロセス 近藤 良夫(日本ガイシ株式会社) 2. 2017 年度年次大会 熱工学部門報告 3. 94 期(2016 年度)熱工学部門賞・部門一般表彰報告 4. 行事案内 部門企画行事案内 部門関連行事案内 国際会議案内 5. その他 編集後記 TED Newsletter on the WEB

日本機械学会熱工学部門 JSME Thermal Engineering Division THERMAL ... · DLE combustor geometry of Kawasaki gas turbine . 燃焼器上流側のメインバーナで天然ガスを燃焼させているため,追焚きバーナの予混合燃料は,

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ISSN 2185-372X

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日本機械学会熱工学部門 JSME Thermal Engineering Division

THERMAL ENGINEERING

日本機械学会熱工学部門ニュースレター

TED Newsletter No.83 December 2017

目 次

1. TED Plaza ドライ低 NOx 水素専焼燃焼器の開発

岡田 邦夫(川崎重工業株式会社)

選択波長赤外線を用いた新規熱処理プロセス

近藤 良夫(日本ガイシ株式会社)

2. 2017 年度年次大会 熱工学部門報告

3. 第 94 期(2016 年度)熱工学部門賞・部門一般表彰報告

4. 行事案内

部門企画行事案内

部門関連行事案内

国際会議案内

5. その他 編集後記

TED Newsletter on the WEB

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JSME TED Newsletter, No.83, 2017

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TED Plaza

岡田 邦夫

川崎重工業株式会社

技術開発本部技術研究所熱システム研究部研究一課 [email protected]

1.はじめに 当社は,将来の低炭素・水素社会を睨み,水素の製造,液化,輸送・貯蔵,利用を一体とした

「CO2フリー水素チェーン(図 1)」を提唱している.資源国の未利用資源や余剰・安価な再生可

能エネルギーから低コストに水素ガスを製造,資源国の港湾にて水素ガスを液化,液体水素運搬

船にて海上輸送し,利用国にて二次エネルギーとして利用するコンセプトである.現在,製造か

ら輸送,利用に至る各要素技術の開発および製品化に取り組んでいる.本報では,水素ガスター

ビン発電のうち,最も重要な開発課題であるドライ低 NOx(窒素酸化物)水素専焼燃焼器の開発

状況について紹介する.

Fig. 1 Concept of CO2 free hydrogen supply chain in Kawasaki

2.川崎重工業における水素ガスタービンの開発

ガスタービンは,燃料多様性に優れることから水素を燃料ガスとすることは十分可能である.

しかしながら,水素に特有の燃焼特性に適合する燃焼技術が必要であり,水素の安定燃焼と低 NOx(窒素酸化物)性を兼ね備えた燃焼器の開発が鍵となる.水素は,燃焼速度が速いことから,希

薄予混合燃焼では逆火が生じる.このため,水素の低 NOx 燃焼の研究・開発では,多点噴射方式

により小さな水素火炎を用いる手法(Cerutti, et al., 2014, Funke, et al., 2012, 2013, Haj Ayed, et al., 2014, Hollon, et al., 2011, Marek, et al., 2005, Weiland, et al., 2011, York, et al., 2012)と急速混合および

ドライ低 NOx 水素専焼燃焼器の開発

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吹き上がり火炎を用いる手法(Asai, et al., 2011, 2014, Beerer, et al., 2012, Dodo, et al., 2011)がある.

当社では,二種類のドライ水素低 NOx 燃焼技術の開発に取り組んでいる.一つは,現行の天然ガ

ス焚き DLE 燃焼器の追焚きバーナから水素を投入し,天然ガスと水素を混焼させる方式である

(小田他, 2014).図 2 に当社ガスタービンの DLE 燃焼器構造を示す.拡散燃焼方式のパイロット

バーナ,予混合燃焼方式のメインバーナおよび追焚きバーナの三つのバーナで構成する.エンジ

ン起動時には安定性に優れるパイロットバーナ,高負荷時にはメインバーナおよび追焚きバーナ

にて低 NOx 運転を行う.

Fig. 2 DLE combustor geometry of Kawasaki gas turbine

燃焼器上流側のメインバーナで天然ガスを燃焼させているため,追焚きバーナの予混合燃料は,

高温・低酸素な燃焼ガス中に投入される.このため,追焚き燃料ガスの燃焼反応が緩やかとなり,

広い運転範囲で低 NOx 燃焼が可能である.水素投入時も同様に燃焼反応が緩やかになり,天然ガ

ス同様に低 NOx 燃焼が可能である. 追焚きバーナからの水素投入量が燃料ガス全体の 60vol%(熱量ベースで約 30%)で,NOx 排

出 25ppm(残存酸素 15%換算)保証が可能なレベルを達成している. もう一つは,燃料の全量を純水素焚きでドライ低 NOx 燃焼を目指すものである.2010 年より

ドイツ アーヘンにある AcUAS(Aachen University Applied Science)および B&B-AGEMA 社と共

同で,micro-mix 水素低 NOx 燃焼技術の産業用ガスタービン燃焼器への適用検討ならびに燃焼器

の概念設計を進めてきた. 次章では,micro-mix 水素低 NOx 燃焼技術と micro-mix バーナを適用した燃焼器の設計および低

圧燃焼試験結果について紹介する.

3.ドライ低 NOx水素専焼燃焼器の開発

3・1 micro-mix低 NOx水素燃焼技術 micro-mix 水素低 NOx 燃焼技術は,AcUAS にて 1980 年代から今日にかけ研究されている燃焼

技術であり,小型バーナを用いた水素の燃焼特性の取得や APU(航空機用補助動力装置)の水素

による運転試験が行われている.図 3 に micro-mix バーナの拡大図を示す.微小な水素噴射孔(直

径 0.3mm 程度)から水素を噴射し,直行する空気噴流と急速混合し,水素火炎を形成する.微小

な水素火炎を形成することで,局所的な高温域の発生を無くし,反応時間を短くして NOx の発生

を抑制する.

Fig. 3 Micro-mix burner geometry 3・2 ドライ低 NOx水素専焼燃焼器の設計

図 4 に 2MW 級ガスタービン M1A-17D の断面図を示す.本ガスタービンエンジンは同クラスで

は世界最高レベルの発電効率を誇り,都市ガス焚きでは NOx 排出量 35ppm(O2 = 0%)を達成し

ている.今回設計したドライ低 NOx 水素専焼燃焼器は M1A-17 の仕様と合致するように設計を行

った.

Pilot Burner Main Burner

Supplemental Burner

Hydrogen Injection Hole (Φ0.3)

Air Path

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図 5 にドライ低 NOx 水素専焼燃焼器の形状を示す.圧縮空気は,圧力ケーシングと燃焼器ライ

ナの間を通り,燃焼器ライナ保持管の空気孔により折り返す.整流板により流れを均一かつ一様

流にし,micro-mix バーナモジュールに供給する.水素が各リングに供給され,微小な水素火炎を

micro-mix バーナモジュール下流に形成する.水素噴射孔径については,試験用小型バーナにて噴

射孔 1mm でも低 NOx 燃焼が保たれることが確認された(堀川他,2015)ことから,噴射孔 1mmでの設計とした.

図 6 に micro-mix バーナモジュールと形成される火炎を示す.水素供給部は,リング形状とし

ており,水素の焚き量(運転負荷)に応じて使用するリング数を変更する.これにより,エンジ

ン起動時から低負荷時における高い燃焼効率と高負荷時の低 NOx 燃焼の両立が可能となる.

Fig. 4 Kawasaki M1A-17 Fig. 5 Final conceptual design Fig. 6 Micro-mix flame 本燃焼器では,燃料を段階的に水素供給リングから供給する,燃料ステージング方式を採用し

ている.図 7 に負荷に応じた水素の噴射状態を表す.着火からアイドル条件までは,外側の水素

供給リングのみ水素を噴射し,点火栓から発生する火花が可燃混合気に届きやすい設計としてい

る.アイドルから 40%負荷相当条件(低負荷条件)までは,内側 2 つの水素供給リング,40%負

荷相当条件から定格負荷相当条件(高負荷条件)まではすべての水素供給リングから水素を供給

する方式とした.

a) Ignition condition b) Low load condition c) High load condition

Fig. 7 Schematic view of fuel staging

以上の設計理念に基づき,燃焼器の設計を行った.図 8 に燃焼器設計に活用した CFD 数値解析

の結果例を示す.圧力損失が設計点付近となること,反応時間が小さくなることを確認した.

a) Velocity distribution b) Temperature distribution Fig. 8 CFD results of micro-mix combustor

Igniter

Liner Micro-mix

burner module

Homogenization plate

Fuel supply tube

Casing Air hole

Hydrogen Supply Ring

High Low Velocity

High Low Temperature

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3・3 ドライ低 NOx水素専焼燃焼器低圧燃焼試験結果

本設計に基づき,燃焼器の試作を行った.試作バーナモジュールおよび試作燃焼器を図 9 に示

す.バーナモジュールは水素火炎からの高温ガスに晒されるため,セラミックコーティングを施

した.本試作燃焼器にて,水素燃焼特性および低 NOx 性能を確認するための燃焼試験を実施した.

本試験では,高圧試験の前段階の試験として,低圧試験条件(0.2MPa)にて行った.試験条件を

表 1 に示す.

Table 1 Test condition 項目 単位 値

入口空気温度 K 620 入口空気圧力 MPa 0.2

Fig. 9 Micro-mix burner module and combustor 図 10 に天然ガスを用いた着火から,水素へ切り替えが完了するまでの燃焼器内の様子を示す.

着火には安全のために天然ガスを用いることとし,火炎が安定した後に水素への切り替えを実施

する運用とした. 本低圧試験結果での燃焼画像を図 11,NOx 排出特性(NOx 値:残存酸素 15%換算値)を図 12

に示す.横軸は熱量割合を示し,100%負荷が定格負荷(設計点)条件,0%負荷がアイドル条件

をそれぞれ示す.2 気圧条件下の試験では,すべての負荷条件において NOx 排出が 25ppm 以下と

なることを確認した.

a) Ignition b) Intermediate c) After switching condition to Hydrogen

Fig. 10 Combustion image after ignition

a) Idle b) Half load c) Full load Fig. 11 Combustion image Fig. 12 NOx emission results

本試験において,バーナモジュールの一部に赤熱が生じた.図 13 にバーナモジュールのサーモ

ペイント試験結果を示す.サーモペイントには紙面左上に KN3(Thermal Paint Services, Inc.製),

右下に KN8(Thermal Paint Services, Inc.製)を使用した.その結果,水素供給リング,Air Guiding Panel(空気流路の開口面積を決定する環状部品),Center Cone(燃焼器中央部の整流部品)の高

温化が確認された.本部品の冷却効率の向上について,次節にて改良を行った.

Inner 2 Rings All Rings

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Fig. 13 Thermal paint results 3・4 バーナモジュール冷却性能の改良

低圧試験により,高温化が確認された水素供給リング,Center Cone,Air Guiding Panel の冷却性

能の改良を図った.インピンジメント冷却構造を施したバーナモジュールの内部構造を図 14 に示

す.水素供給リングの冷却性能向上のため,水素供給リング内部での水素噴流により燃焼面側の

壁面をインピンジメント冷却する構造とした.本バーナ構造による伝熱性能の評価を CHT 解析に

より行った.CHT 解析結果を図 15 に示す.水素供給リング中心部の温度が低減できることを確

認できた.

a) Before improvement b) After improvement a) Before improvement b) After improvement Fig. 14 Improved cooling design Fig. 15 CHT results

初期形状の Center coneは内部から空気の噴流を壁面に衝突させるインピンジメント冷却構造を

採用していた.今回の高温化を受けて,Center cone にエフュージョン冷却構造を併用し,冷却効

率の向上を図った.図 16 に初期構造の Center cone,エフュージョン冷却を併用した Center coneにおけるそれぞれの CHT 解析結果を示す.設計変更により,Center cone の温度を低減できること

が確認された. Air Guiding Panel について,図 17 に示す寸法変更を施した.Air Guiding Panel の中央部に流れが

よどむ領域が広いことから,図 17 に示す Air Guiding Panel の幅を縮小し,高さを拡大した.これ

により,Air Guiding Panel 上での流れがよどむ領域を狭め,Air Guiding Panel への入熱の低減を図

った.

a) Before improvement b) After improvement Fig. 16 CHT results of Center cone Fig. 17 Modification of Air Guiding Panel

Low

High

Low

High

High

Low

High

Low

Height:Enlarge

Width:Shorten

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以上,水素供給リング,Center cone,Air Guiding Panel の形状変更を施した燃焼器における低圧

試験結果での燃焼画像を図 18,NOx 排出特性(NOx 値:残存酸素 15%換算値)を図 19 に示す.

横軸は熱量割合を示し,100%負荷が定格負荷(設計点)条件,0%負荷がアイドル条件をそれぞ

れ示す.水素供給リング,Center cone,Air Guiding Panel の形状変更を施しても NOx 排出量は概

ね変化なく,25ppm 以下となることを確認した. 図 20 にバーナモジュールのサーモペイント試験結果を示す.水素供給リング,Center Cone,

Air Guiding Panel の温度が低減できており,冷却効率の向上が確認された. a) Before improvement b) After improvement

Fig. 18 Combustion image at full load

a) Before improvement b) After improvement Fig. 20 Thermal Paint results Fig. 19 NOx emission results

3・5 水素専焼低 NOx燃焼器負荷遮断試験結果

負荷遮断を想定した,燃料遮断試験結果を図 21 に示す.負荷遮断は最も外側の水素供給リング

の燃料供給を遮断することを想定し,実施した.この結果,最も外側の水素供給リングの燃料を

遮断しても,未燃水素の排出や失火することなく,燃焼安定性を確保できることを確認した.

Fig. 21 Fuel cut-off test results 4.おわりに 当社で実施しているドライ低 NOx 水素専焼燃焼器における低圧燃焼試験結果から以下の成果

を得た.

Inner 2 Rings All Rings Low High

High Low

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• 0%負荷から 100%負荷に相当する条件において,NOx25ppm 以下の低 NOx 特性を確認した. • バーナモジュールの冷却改良により,水素火炎による部品の高温化を抑制した. • ガスタービン運転中の負荷遮断を想定した燃料遮断試験で,失火および未燃水素を発生させ

ることなく,安定した保炎性を確認した. 次の段階として,ガスタービンの実運転圧力条件に相当する高圧燃焼試験を実施し,NOx 排出

特性やバーナモジュールの冷却特性などの評価を引き続き行う. すでに需要のある副生水素利用および将来の低炭素・水素社会の早期実現に貢献できるように

今後も技術開発を進めていく. 謝辞

本研究は総合科学技術・イノベーション会議の SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)「エ

ネルギーキャリア」(管理法人:JST)によって実施されました.関係各位に深く謝意を表します. References (1) Asai, T., Dodo, S., Koizumi, H., Takahashi, H., Yoshida, S. and Inoue, H., Effects of

Multiple-Injection-Burner Configurations on Combustion Characteristics for Dry Low-NOx Combustion of Hydrogen-Rich Fuels, Proceedings of ASME Turbo Expo (2011), GT2011-45295.

(2) Asai, T., Dodo, S., Karishuku, M., Yagi, N., Akiyama, Y. and Hayashi, A., Performance of Multiple-Injection Dry Low-NOx Combustor on Hydrogen-Rich Fuel in an IGCC Pilot Plant, Proceedings of ASME Turbo Expo (2014), GT2014-25298.

(3) Beerer, D., McDonell, V., Therkelsen, P. and K. Cheng, R., Flashback, Blow out, Emissions, and Turbulent Displacement Flame Speed Measurements in Hydrogen and Methane Fired Low-Swirl Injector at Elevated Pressures and Temperatures, Proceedings of ASME Turbo Expo (2012), GT2012-68216.

(4) Cerutti, M., Cocchi, S., Modi, R., Sigali, S. and Bruti, G., Hydrogen Fueled Dry Low NOx Gas Turbine Combustor Conceptual Design, Proceedings of ASME Turbo Expo (2014), GT2014-26136.

(5) D. York, W., S. Ziminsky, W. and Yilmaz, E., Development and Testing of a Low NOx Hydrogen Combustion System for Heavy Duty Gas Turbine, Proceedings of ASME Turbo Expo (2012), GT2012-69913.

(6) Dodo, S., Asai, T., Koizumi, H., Takahashi, H., Yoshida, S. and Inoue, H., Combustion Characteristics of Multiple-Injection Combustor for for Dry Low-NOx Combustion of Hydrogen-Rich Fuels under Medium Pressure, Proceedings of ASME Turbo Expo (2011), GT2011-45459.

(7) Funke, H., Boerner, S., Keinz, J., Kusterer, K., Haj Ayed, A., Tekin, N., Kazari, M., Kitajima, J., Horikawa, A. and Okada, K., Experimental and Numerical Characterization of the Dry Low NOx Micromix Hydrogen Combustion Principle at Increased Energy Density for Industrial Hydrogen Gas Turbine Applications, Proceedings of ASME Turbo Expo (2013), GT2013-94771.

(8) Funke, H., Boerner, S., Keinz, J., Kusterer, K., Kroniger, D., Kitajima, J., Kazari, M. and Horikawa, A., Numerical and Experimental Characterization of Low NOx Micromix Principle for Industrial Hydrogen Gas Turbine Applications, Proceedings of ASME Turbo Expo (2012), GT2012-69421.

(9) Haj Ayed, A., Kusterer, K., Funke, H., Keinz, J., Kazari, M., Kitajima, J., Horikawa, A., Okada, K. and Bohn, D., Numerical Study on Increased Energy Density for the DLN Micromix Hydrogen Combustion Principle, Proceedings of ASME Turbo Expo (2014), GT2014-25848.

(10) Hollon, B., Steinthorsson, E., Mansour, A., McDonell, V. and Lee, H., Ultra-Low Hydrogen/Syngas Combustion with 1.3MW Injector using a Micro-Mixing Lean-Premix System, Proceedings of ASME Turbo Expo (2011), GT2011-45929.

(11) 堀川 敦史, 餝 雅英, 岡田 邦夫, Harald H.-W. FunkeJan Keinz, Karsten Kusterer, Anis Haj Ayed,ドライ水素低NOx燃焼技術の開発, 第 43回日本ガスタービン学会定期講演会講演論文集(2015), A-7, pp.53-57.

(12) Marek, C. J., D. Smith, T. and Kundu, K., Low Emission Hydrogen Combustion for Gas Turbines Using Lean Direct Injection, 41s AIAA/ASME/SAE/ASEE Joint Propulsion Conference and Exhibit (2005), AIAA-2005-3776.

(13) 小田 剛生, 櫻澤 俊明, 木下 康裕, 水素混焼技術の開発, 第 42 回日本ガスタービン学会定期講演会講演論文集 (2014),pp.11-14.

(14) T. Weiland, N., G. Sidwell, T. and A. Strakey, P., Testing of a Hydrogen Dilute Diffusion Array Injector at Gas Turbine Conditions, Proceedings of ASME Turbo Expo (2011), GT2011-46596.

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TED Plaza

近藤 良夫

日本ガイシ株式会社

産業プロセス事業部 [email protected]

1. はじめに

各種製造プロセス上,乾燥やアニール等を含めた熱処理技術は非常に重要である.例えばリチ

ウムイオン電池電極は,活物質,バインダおよび溶媒を混合したスラリーの塗布乾燥によって成

型され,不適切な乾燥条件下ではバインダが膜表面に析出し,電池性能が劣化する.こうした分

野において,熱風加熱方式主体では既に数多の検討がなされてきており,品質維持を前提とした

処理速度は今や限界に近い.そこで,赤外線を有効活用することを考える.灰色体型の放射スペ

クトルを特徴とするセラミックヒータは現在でも主流である一方で,近年,「熱ふく射の波長制

御」という観点から,各種研究が大学や公的研究機関を中心に進展してきた(日本伝熱学会,2011,Sakurai, et al., 2014,Totani, et al., 2017).そこでは先端的な微細構造による狭帯域波長制御技術等

が報告されているが,本報では,筆者の属する熱設備メーカの立場から,より従来技術の延長線

上に近い熱ふく射制御ということで,近年開発した近赤外線選択ヒータシステムについて概要を

記載させていただく.

2. 背景(従来の赤外線加熱)

赤外線とは,波長にして概ね 0.78μm ~ 1000μm の範囲の電磁波をいい,工業上では 3μm より

短い波長域を近赤外線,それ以上を遠赤外線と区別することが多い.多くの物質は赤外線を吸収

し昇温するため,別名で熱線ともよばれ,熱処理用途でしばしば用いられる.

Fig. 1 Planck distribution and NMP’s absorptivity

選択波長赤外線を用いた新規熱処理プロセス

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Fig. 2 Ceramic heater

図 1 に,任意温度の黒体(理想的放射体)より放射される電磁波のスペクトルと,代表的な溶

剤のひとつである NMP(N-メチル-ピロリドン)の推定吸収スペクトルを示す.横軸は波長,縦

軸は(単位面積当たりの)放射エネルギーおよび吸収率である.図 1 の釣鐘型のグラフ群が,Planck分布とよばれる黒体の放射スペクトルである.多くのセラミックヒータは,赤外波長域で概ねそ

の Planck 分布に準ずる灰色体型の放射スペクトルを有する. 図 2 に,実際に生産ラインで用いられているセラミックヒータの一例を示す.発熱体のニクロ

ム線をアルミナ等のセラミックでモールドした構造となっており,電圧印加によりセラミック表

面が高温化(200℃~700℃程度)することで, 熱ふく射として赤外線が放射される.セラミック

材表面の分光放射率は通常 4μm~10μm の波長域で高い水準にあり,平均で 0.8 を上回るものも多

い.流通素材にも関わらず理想に近い放射性能を持つ,という事実には一種の驚きがあるが,逆

に,選択的な放射は困難である.一方で,被加熱物側の吸収域は(図 1 例のように)いくつかの

波長に偏在しているのが普通である.よって,当該ヒータを用いた装置は,「汎用的にまずは幅広

い波長域で放射する」という設計思想になり,(結果, 複数波長を同時吸収させるので)概ね加熱

能力が高いのは事実であるが,昇温速度を制御しにくいという側面も持つ.急速すぎる昇温速度

は製品劣化等不具合につながるケースもある. 図 1 によれば,ヒータ温度が高くなるほど,主放射波長は短波長側に推移し(Wien の法則),

また単位面積当たりの総放射エネルギーは飛躍的に増大する.水やアルコール類をはじめとする

多くの溶剤は,波長 3μm 付近に強い吸収帯を有するが,その領域の放射を主体とするヒータは

700℃以上という高温になり,概ね 200℃以下を要求される乾燥プロセスでは,すなわち導入困難

となる.一方,6μm 以上の長波長放射を主体とするヒータ温度は 200℃以下と低下するものの,

今度は放射エネルギー密度が小さすぎ,設置コストに見合う加熱効果が得られない.結果的にヒ

ータ温度 300℃~500℃程度が現実的となり適用分野が限定されてしまう.そのような理由から,

特に乾燥工程において,セラミックヒータの導入は消極的であった. 3. 波長制御ヒータ 以上を背景として,筆者らは近赤外線選択放射システムを提案している(近藤,2014,Kondo,

2014).従来技術を踏襲しつつ,それに工夫を加えることで,前述の問題解決を試みたものである.

図 3 の上図は,波長制御ヒータの最も基本的な形状である.弊社では「波長制御ヒータ」と命名

している(以下そう記載する).金属フィラメントを複数の石英管内に封止し,当該石英管間の一

部をエアで強制冷却する.放射体であるフィラメントは,電圧印加により 700℃~1700℃に上昇

し,近赤外域にピークを持つ灰色体型のふく射を放射する.石英管は光学フィルター特性を持ち,

概ね 3.5μm より短波長側は 90%以上透過し,長波長側は逆に大部分吸収する.したがって,フィ

ラメントからの放射エネルギーのうち 3.5μm より短い領域(近赤外線主体)は,石英管を透過し

被加熱物に照射される.

ここで,石英管が単管で非冷却のものは,近赤外線ランプヒータの名前で広く市販されている.

その場合,3.5μm より長い領域(遠赤外線主体)は石英管に一旦吸収されるので,一定時間経過後

は管温度が数 100℃程度の高温となり,遠赤外線域の 2 次放射が生じてしまう.したがって結局

は灰色体型に近い放射スペクトルで用いられてきた. 波長制御ヒータでは,冷却エアとの熱交換により,吸収エネルギーが系外に取り去られること

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Fig. 3 Wavelength control heater and spectrum

で,管が冷却される.結果,近赤外域への波長選択と,ヒータ表面(この場合は石英管外面)温

度低温化の両立を実現した.図 3 下部に,波長制御ヒータ(青三角ドット)と従来型セラミック

ヒータ(黒ドット)の,同等総放射エネルギー時における放射スペクトルを示す.波長制御ヒー

タの近赤外域への波長選択性がみてとれる.また赤ドットのグラフは,冷却エアが無い場合の放

射スペクトルイメージである.長波長域の放射が残存している.

4. システム化 波長制御ヒータは,熱処理炉内に所定間隔で設置されることを想定しており,主として次の 3

項目によって制御される. ①ヒータ 1 本あたり投入電力,②ヒータ 1 本あたり冷却エア量,③炉内ヒータ密度(設置ピッチ)

図4に,波長制御ヒータを設置したロールツーロール搬送方式の乾燥炉実例を示す(加熱長6m).

右側の炉内写真は明るく見えるが,実際には可視光放射エネルギー分はごく微量であり,図の状

況で炉内主流温度は 100℃以下に保たれている.②の冷却エアは揮発溶剤の炉内掃気などに再利

用が可能である. 本システムのコンセプトにおいて,閉空間の非平衡性という観点は重要である.非平衡とは端

的に言うと,閉空間内部に温度差が生じている状態である.波長制御ヒータを用いた乾燥炉内部

は,冷却等を積極的に導入することにより,ヒータのフィラメント:1000℃超,内壁面および雰

囲気:100℃以下,というように,極端な温度差が定常的に維持されている.これが炉内電磁場の

波長分布を任意形状に保つための必要条件となる.逆に,内壁がすべて均一温度になった空間(ふ

く射平衡状態)では,その電磁場は例外なく当該温度におけるプランク分布に収斂してしまうた

め,波長制御の概念自体が成立しなくなる(Kondo and Yamashita, 2011,化学工学会,2016).こ

うした空間構成の最適化には数値解析が必須となる.

■inner

■outer

Fig. 4 Wavelength control heater dryer

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5. 乾燥効果検証実験例 本システムにおいて冷却機構は波長選択実現と表裏一体であるが,ひとつ疑問が生じる.放射

波長を選択して乾燥効果は落ちないのか?

従来の赤外線方式も,(導入可否は別として)熱風方式に対する乾燥速度の上昇を特徴のひとつ

として挙げてきた.そこでは,赤外線は波長依存なく一律に熱変換される(温度上昇に寄与)と

いうのが暗黙の了解であった.もしそうであるならば,複数波長同時吸収による塗布膜急昇温が

乾燥促進の主要因であり,波長選択は得策ではないことになる.

結論的には,波長制御ヒータを用いて,少なくとも水やアルコール系溶剤については高い乾燥

能力が確認されている.考察として,図 1 の NMP 吸収スペクトル中,近赤外域の 3μm 付近ピー

クに着目する.主に分子中の O-H 伸縮振動に起因し,分子間水素結合にも強く関係すると考えら

れるので,当該波長域の吸収は,(特に水膜界面での)水素結合ネットワーク解消を促し,乾燥に

直結する可能性がある.こうした特定波長赤外線と分子との相互作用についてはまだ仮説の段階

だが,本システムにより「低温乾燥」というコンセプトを可能性として掲げており,実験室レベ

ルでは(対熱風比)同等塗布膜温度での乾燥促進現象が確認されている. 当該目的の水系スラリーの乾燥実験例を紹介する.用いた装置および,手動塗布した直後のス

ラリーの写真を図 5 に示す.対象物は以下の通りである.塗布厚みは Wet で約 500μm 相当であっ

た.

基材 : ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム

スラリー : カーボン系粉体+水

また,装置側の条件は下記の通りである.条件 1 をリファレンスとして,条件 2 で乾燥傾向に差

異がでるか否かを検証した.両条件でそれぞれの消費電力は概ね一致させている.

・条件 1 (熱風のみ) : 熱風約 75℃ ; 電力 800W 相当 ・条件 2 (波長制御ヒータ) : 冷風 25℃ ; ヒータ 750W

■Method ■Slurry Fig. 5 Example of experiment

上記 2 つの条件それぞれについて,フィルム支持枠を搭載した形で炉下部に設置された電子天

秤により,スラリー重量変化を測定した.また,スラリー部に熱電対を設置し,温度変化も同時

に測定した.実験結果を図 6 に示す.実線が重量減少曲線で,点線が基材の温度推移曲線である.

図 6 によれば,条件 2 は条件 1 に比べて乾燥速度が 1.5 倍程度早くなっている.それにも関わ

らず,基材である PET フィルムの温度は 30℃程度も低下した.図示はしていないが,定率乾燥期

間中のスラリー部温度は下記の通りであった.条件 2 において塗布膜の温度も低下している.

・条件 1 (熱風のみ) : 約 45℃ ・条件 2 (波長制御ヒータ) : 約 40℃

当該実験結果は,本システムによる低温乾燥プロセス構築の可能性を示すものである.低温下で

の迅速な熱処理は,被加熱物のダメージレス等大きなメリットが期待できる.今後実験・理論両

面から検証を続けていきたい.

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Fig. 6 Result of experiment

6. その他の効果について

前節で記載した効果は被加熱物物性等に大きく依存し,常に保証されているわけではない.そ

れを前提としつつ,現在までに確認された効果事例のいくつかを記載する.

まず,PET 等のフィルム上での各種成型プロセスについては,その塗布物厚みが Wet 500μm 以

上の場合,熱風方式に比べ 1.5 倍~2 倍程度の処理速度向上を実現している.さらに ,処理中の

塗布膜温度について 10℃~30℃の低下を伴うケースもある.状況によっては,熱風のみでは実質

的に乾燥完了が困難(皮張生成必至)とみなされたプロセスにおいても,10 分~20 分程度で乾燥

完了する場合がある.

また,フィルム内部等の残留水分脱水にも実験例がある.一例としては,大気圧下で残留水分

が数 1000ppm のフィルムについて,10 秒程度の処理時間で数 10ppm オーダーまで低下させるこ

とが可能である.従来では恒温槽内で(真空)バッチ処理されるのが一般的であったが,波長制

御ヒータの導入により見直しが可能となるかもしれない.

冒頭で述べたリチウムイオン二次電池(LIB)の電極製造プロセスにおいては,既に客先導入が

実現している.対象物組成にも大きく依存し,また条件設定に相当の工夫を要するものの,実験

上(対熱風比で)乾燥時間短縮とバインダ偏析抑制双方の同時実現を確認している.

7. まとめ 筆者は長年セラミックヒータおよび装置の開発に従事してきた経緯があり,熱ふく射の波長制

御について意識しはじめたのは比較的最近のことになる.数年前に花村克悟先生(東京工業大)

のご好意でふく射研究のコミュニティーに参加させていただき,そこで最先端の研究を目の当た

りにしたことが,弊社内において,同分野の研究開発に取り組む上での大きなターニングポイン

トとなった.幸運に深く感謝するとともに,そうした先端研究を汎用技術として社会に普及させ

ることこそ企業の使命と認識し,今後さらなる努力を続けたい.現在,冒頭で記載したメタマテ

リアル関係の開発にも一部携わらせていただいているが,熱ふく射デバイスの開発という観点で

は,電磁界解析等による物理現象究明と並んで,「熱マネージメント」面の重要性も強く感じる.

企業の立場からは,主に後者の側で装置最適化等に少しでも寄与できれば幸甚である.

また,本報のシステム開発に従事した率直な感想としては,「波長制御」概念導入により,適用

フィールドの拡大を実感するとともに,(商品化上)検討すべき事項もまた飛躍的に増大するとい

う事実に驚いている.特に技術的発想の再構成(柔軟化)も必須である.例えば本報システムに

ついて,空間内における「非平衡状態の定常的形成」を本質とする旨を記載したが,これとて炉

内温度の均一性を第一に追求してきた従来の赤外線炉とは立ち位置を異にする.それらの根本的

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な優劣を詳らかにする意味は希薄であり,各々の特徴(メリット+デメリット)や原理を十分に

理解した上で,適所に最適な装置を用いるべきである.その実現には今後まだまだ大きな努力の

必要性を感ずる.

現状弊社において,少なくとも近外線選択照射下での実験環境が整ったため,まずは乾燥プロ

セスを中心に各種可能性を検討している.本報技術については,(波長制御というよりも)波長域

を少しだけ意識した熱ふく射システムとして位置づけるべきであろうが,その範疇内だけでも,

前述した低温乾燥のメカニズム検証等に加え,製造コスト削減等ハード面全般含め検討課題は山

積している.今後,任意の波長域をターゲットとした真の意味での「波長制御システム」確立・

普及に向けては,産学連携を前提とした更なる研究活動の活性化が望まれる.

References (1) 日本伝熱学会, 「特集:ふく射を放射する, ということ」の各解説論文, 伝熱, Vol. 50, No. 210

(2011), pp.1-44. (2) Sakurai, A., Zhao, B. and Zhang, Z., Prediction of the Resonance Condition of Metamaterial Emitters

and Absorbers using LC Circuit Model, Proceedings of 15th International Heat Transfer Conference (2014), Paper No. IHTC15-9012, pp. 1-10.

(3) Totani, T., Sakurai, A. and Kondo, Y., A Wavelength Control Emitter for Drying Furnace, Proceedings of 1st ACTS - Asian Conference on Thermal Sciences 2017 (2017), Paper No. P00423.

(4) 近藤良夫, 波長制御乾燥システム, エレクトロヒート No.194 (2014), pp.14-18. (5) Kondo, Y., 分散系塗布膜乾燥のための赤外線ヒータシステム, Colloid and Interface

Communication, Vol.39, No.4 (2014), pp.30-32. (6) Kondo, Y. and Yamashita, H., Theoretical Analysis of Thermal Radiative Equilibrium by a Radiosity

Method, Thermal Science and Engineering, Vol.19, No.1 (2011), pp.17-24. (7) 化学工学会, 環境エネルギー(2016), pp. 181-200.

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2017年度年次大会総合プログラム表紙

2017 年度年次大会 熱工学部門報告

第 94 期熱工学部門年次大会委員会 委員長 小原 哲郎(埼玉大学) 幹 事 櫻井 毅司(首都大学東京)

日本機械学会 2017 年度年次大会は,「120 年の伝統と

革新の調和~より広く,より深く,より豊かに」をキャ

ッチフレーズに 9 月 3 日(日)~6 日(水),埼玉大学

において開催されました.4 日間の会期の初日には,例

年通り市民への開放行事である市民フォーラムが行わ

れており,種々のイベントが企画され,多くの方に参加

して頂きました.特に,埼玉県およびさいたま市のご協

力により,燃料電池自動車および燃料電池バスの展示お

よび試乗会が開催され,多くの方に試乗して頂きました.

会期中には,「エネルギー・環境」,「超高齢化社会を支

える技術」,「オープンイノベーション」を大会テーマと

して 1,115 件の学術講演発表が行われております. 熱工学部門に関連した学術講演では,5 つのセッショ

ンからなる「熱工学一般セッション」において,26 件

(伝熱関連:20 件,燃焼関連:6 件)の講演発表が行わ

れております.年次大会の大きな特色である「部門横断

セッション」については,以下に述べるオーガナイズド

セッション 7 件が企画され,112 件の講演発表がありま

した. ・ 分散型エネルギーとシステムの最適化(熱工学部門,動力エネルギーシステム部門,計算力

学部門,環境工学部門),セッション数:2,講演件数:9 件 ・ 電池・二次電池とマイクロ・ナノ現象(熱工学部門,流体工学部門,マイクロ・ナノ工学部

門,動力エネルギーシステム部門,材料力学部門),セッション数:3,講演件数:15 件 ・ 情報機器,電子デバイスの強度・信頼性評価と熱制御(材料力学部門,熱工学部門,計算力

学部門),セッション数:3,講演件数:14 件 ・ 熱・流れ可視化計測(流体工学部門,動力エネルギーシステム部門,熱工学部門,バイオエ

ンジニアリング部門,エンジンシステム部門),セッション数:3,講演件数:15 件 ・ 乱流における運動量,熱,物質の輸送現象およびその応用(流体工学部門,熱工学部門),セ

ッション数:4,講演件数:21 件 ・ マイクロ・ナノスケールの熱流体現象(流体工学部門,熱工学部門,マイクロ・ナノ工学部

門),セッション数:3,講演件数:28 件 ・ 医工学テクノロジーによる医療福祉機器開発(医工学テクノロジー推進会議,機械力学・計測

制御部門,流体工学部門,計算力学部門,バイオエンジニアリング部門,ロボティクス・メカ

トロニクス部門,情報・知能・精密機器部門,材料力学部門,熱工学部門,マイクロ・ナノ工

学部門,機素潤滑設計部門),セッション数:2,講演件数:10 件 熱工学部門では,例年通り熱工学部門に関連する講演に対して「若手優秀講演フェロー賞」の

審査を行い,評価フォームによる採点を行っております.審査を行うにあたりご協力を頂きまし

た多くの先生方には,謝意を述べさせていただきます. 部門同好会は,熱工学部門,流体力学部門および計算力学部門の合同で,9 月 4 日夕方に埼玉

大学生協で開催され,合計 16 名の参加を頂きました. 最後になりましたが,今年度の年次大会の企画・運営にご尽力いただきましたオーガナイザー,

講演者,座長の皆様に厚く御礼申し上げます.2018 年度に関西大学で開催されます年次大会では,

さらに多くの皆様のご参加を賜り,研究交流と親睦を深めて頂けますよう祈念致しております.

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第 94 期(2016 年度)熱工学部門賞・部門一般表彰報告

2016年度部門賞委員会委員長

藤田 修(北海道大学)

熱工学部門では,第 94 期 (2016 年度)の部門賞・部門一般表彰について以下のように決定し,

TFEC9(沖縄コンベンションセンター)において贈呈しました.受賞者の方々は,本部門の「部

門賞および部門一般表彰規程」により運営委員会構成員ならびに本部門登録会員に候補者を募り,

部門賞委員会において部門賞 5 名・部門一般表彰 2 名を選考し,運営委員会の審議を経て決定さ

れました.また,贈呈式では,第 94 期(2016 年度)に本部門より若手優秀講演フェロー賞を受

賞された以下 3 名の方々の紹介も行いました. 熱工学部門賞

功績賞(永年功績賞)

岡崎 健 氏

功績賞(国際功績賞)

Sang Yong Lee 氏

贈賞理由:国内外の熱工学,

とりわけ高効率・クリーン

石炭利用技術,CO2 削減技

術,水素エネルギーシステ

ムなど,エネルギー・環境

技術をリードする永年にわ

たる熱工学への貢献が顕著

である.

贈賞理由:JSME-KSME Thermal and Fluids Engineering Conference にお

いてこれまでに実行委員,

国際科学委員,顧問等に就

任し,日韓の熱工学研究に

関する人的・学術的交流促

進において,これまでに多

大な功績を残している.

略歴:

1978 東京工業大学 大学院 理工学研究科 機械物

理工学専攻 博士課程 修了 1978 豊橋技術科学大学 工学部 助手 1984 豊橋技術科学大学 工学部 助教授 1992 東京工業大学 教授 2007 東京工業大学 理工学研究科工学系長・工学部

長 2009 東京工業大学 環境エネルギー機構長 2015 東京工業大学 特命教授(名誉教授)

略歴:

1974 B.S. in Mechanical Engineering, Seoul National University

1976 M.S. in Mechanical Engineering, KAIST 1982 Ph.D. in Northwestern University 1982 Assistant Professor, Dept. of Mechanical

Engineering, KAIST 1989 Associate Professor, Dept. of Mechanical

Engineering, KAIST 1994 Professor, Dept. of Mechanical Engineering,

KAIST 2016 Professor Emeritus, Dept. of Mechanical

Engineering, KAIST

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功績賞(研究功績賞)

小林 秀昭 氏

功績賞(技術功績賞)

田崎 豊 氏

贈賞理由:国内外の熱工

学,とりわけ高圧燃焼の研

究など極限環境における

燃焼現象の解明等,熱工学

研究の発展に貢献した功

績が顕著である.

贈賞理由:国内外の熱工

学,とりわけ燃料電池にお

けるガス拡散特性と液水

分布可視化の同時計測手

法の構築など,熱工学技術

の発展に貢献した功績が

顕著である.

略歴:

1981 東北大学 工学部 機械工学科 卒業 1983 東北大学 大学院 工学研究科 機械工学専攻

修士課程 修了 1983 日産自動車株式会社 入社 1984 東北大学 工学部 機械工学科 助手 1991 工学博士(東北大学) 1991 東北大学 流体科学研究所 助手 1992 東北大学 流体科学研究所 助教授 1994 カリフォルニア大学サンディエゴ校 客員研 究員 2003 東北大学 流体科学研究所 教授

略歴:

1980 茨城大学 大学院 工学研究科機械工学専攻 修了

1980 日産自動車株式会社 入社 2004 横浜国立大学 大学院 工学研究科博士課程

修了 2015 日産自動車株式会社 定年退職 2016 芝浦工業大学 工学部 機械機能工学科 非常

勤講師

業績賞

店橋 護 氏

贈賞理由:熱工学,とりわけ

全ての乱流現象が普遍的微

細構造で説明できることを

明らかにするなど,研究業績

が顕著である.

略歴:

1990 東京工業大学 工学部 機械物理工学科 卒業 1992 東京工業大学 大学院 理工学研究科 機械物

理工学専攻 修士課程 修了 1992 東京工業大学 工学部 助手 1996 博士(工学)(東京工業大学) 2000 東京工業大学 大学院 理工学研究科 助教授 2007 東京工業大学 大学院 理工学研究科 准教授 2012 東京工業大学 大学院 理工学研究科 教授

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部門一般表彰

貢献表彰

野村 信福 氏(愛媛大学)

保浦 知也 氏(名古屋工業大学)

贈賞理由:熱工学,とり

わけ液中プラズマ科学

などの分野での研究へ

の貢献,ならびに熱工学

部門活動に対する貢献

が顕著である.

贈賞理由:熱工学,とり

わけ乱流場における熱

物質移動などの分野で

の研究への貢献,ならび

に熱工学部門活動に対

する貢献が顕著である.

若手優秀講演フェロー賞

論文題目「低沸点作動流体と超親水沸騰面を有する

電子機器冷却デバイス」

論文題目「金属アルミニウム粒子の連続燃焼技術の

確立」

渡邊 耕介 氏(長崎大学)

橋本 清路 氏(岐阜大学)

贈賞理由:本講演は,超親水沸騰面を有する電子機

器冷却デバイスの除熱性能に関する研究としてそ

の内容が優れていると同時に,発表方法に創意工夫

がみられ,質疑に対する応答も的確であった.講演

者の能力と努力は敬意に値するものであり,今後の

活躍に期待が持てる.

贈賞理由:本講演は、金属アルミニウム粒子の連続

燃焼技術を評価した研究として,その内容が優れて

いると同時に,発表方法に創意工夫がみられ,質疑

に対する応答も的確であった.講演者の能力と努力

は敬意に値するものであり,今後の活躍に期待が持

てる.

論文題目「水プラズマのアーク制御による廃棄物分

解の高効率化」

松尾 剛志 氏(九州大学)

贈賞理由:本講演は,水プラズマのアーク制御を利

用して廃棄物分解の高効率化を実験的に明らかに

した研究としてその内容が優れていると同時に,発

表方法に創意工夫が見られ,質疑に対する応答も的

確であった.講演者の能力と努力は敬意に値するも

のであり,今後の活躍に期待が持てる.

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第 94 期(2016 年度)熱工学部門賞・部門一般表彰贈呈式 受賞者記念

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部門企画行事案内 -2019 年度- ●The Second Pacific Rim Thermal Engineering Conference (PRTEC2019)

開催日:2019 年 12 月 13 日(金)~17 日(火) 場 所:Hawaii, USA

-2018 年度- ●熱工学コンファレンス 2018

開催日:2018 年 10 月下旬 場 所:富山

●計算力学技術者 2 級認定試験対策講習会 開催日:2018 年 10 月 21 日(日)~22 日(月) 場 所:東京工業大学 開催日:2018 年 11 月 4 日(日)~5 日(月) 場 所:関西大学

●日本機械学会 2018 年度年次大会 開催日:2018 年 9 月 9 日(日)~12 日(水) 場 所:関西大学, 大阪府吹田市

部門関連行事案内 -2017 年度- ●第 28 回内燃機関シンポジウム

開催日:2017 年 12 月 6 日(水)~8 日(金) 場 所:福岡リーセントホテル,福岡県福岡市 主 催:自動車技術会、日本機械学会エンジンシステム部門

国際会議案内 -2018 年- ●The 29th International Symposium on Transport Phenomena (ISTP29)

開催日:2018 年 10 月 30 日(火)〜11 月 2 日(金) 開催地:Honolulu, Hawaii, U.S.A.

●The 16th International Heat Transfer Conference (IHTC-16) 開催日:2018 年 8 月 10 日(金)〜15 日(水) 開催地:Chinese National Convention Center, Beijing, China

●The 9th The definite conference on Turbulence, Heat and Mass Transfer (THMT-18) 開催日:2018 年 7 月 10 日(火)〜13 日(金) 開催地:Rio de Janeiro, Brazil

●The 3rd Thermal and Fluids Engineering Conference 開催日:2018 年 3 月 4 日(日)〜7 日(水) 開催地:Fort Lauderdale, FL, USA

-2017 年- ●The 11th Asia-Pacific Conference on Combustion(ASPACC2017)

開催日:2017 年 12 月 10 日(日)〜14 日(木) 開催地:Sydney, Australia

●The 11th Pacific Symposium on Flow Visualization and Image Processing (PSFVIP-11) 開催日:2017 年 12 月 1 日(金)〜3 日(日) 開催地:Kumamoto University, Kumamoto, Japan

行事案内

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編集後記 現在,日本における科学技術政策において,産学官連携が積極的に推進されています.文部科学省の定めると

ころでは,『「産」の研究開発は経済活動に直接結びついていくという意味で重要な役割を担っている.「学」は,

学術研究を基本的使命とし,未来を拓く新しい知の創造と人類の知的資産の継承等の役割を担っている.』とされ

ています. 本号の TED Plaza では,「産」を担っている民間企業における,熱工学分野の研究開発をご紹介頂きました. 川崎重工業株式会社の岡田邦夫様には,将来の低炭素・水素社会のための,水素ガスタービン発電におけるド

ライ低 NOx(窒素酸化物)水素専焼燃焼器の開発状況についてご執筆いただきました.非常に困難とされる水素

燃焼について,最先端の研究をご紹介いただいております. 日本ガイシ株式会社の近藤良夫様には,近年,ふく射伝熱の研究分野で盛んに研究されている波長選択制御技

術を実用化された研究開発の例として,選択波長赤外線を用いた新規熱処理プロセスについてご執筆いただきま

した.産学連携を成功させた大変興味深い研究活動をご紹介いただいております. お忙しい中,ご執筆を快諾くださり,編集作業に根気強くご協力くださった皆様に,心より御礼申し上げます. 末筆となりましたが,第 94 期(2016 年度)熱工学部門賞・部門一般表彰を受賞された皆様の栄えある受賞を

心からお祝い申し上げますとともに,2017 年度年次大会を成功裏に収められた関係者の皆様のご尽力に敬意を表

します.また,台風という大きなアクシデントにも関わらず,TFEC9 を成功裏に収められた関係者の皆様のご尽

力に敬意を表します.多くの皆様のご参加を賜り,活発な研究交流を頂きました.現在も台風に起因する業務が

続いておりますが,次号では TFEC9 の様子をお伝えすることができる見込みです.

(編集担当委員:福留・江目) 第 95 期広報委員会 委員長: 染矢 聡 (産業技術総合研究所)

幹 事: 片岡 秀文 (大阪府立大学) 委 員: 江目 宏樹 (山形大学)

大徳 忠史 (秋田県立大学)

富樫 憲一 (北海道立総合研究機構)

早川 晃弘 (東北大学)

福江 高志 (岩手大学)

福留 功二 (立命館大学)

©著作権:2017 一般社団法人 日本機械学会 熱工学部門

その他