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-05- 日本国際観光学会論文集(第21号)March,2014 《研究ノート》 いし もと とう せい 奈良県立大学 地域創造学部 観光学科 専任講師 奈良県立大学 地域創造学部 観光学科 専任講師 In recent years, the main stream of researches and investigations for Sustainable Tourism in global scale have become considerablydetailedscientificandanalyticassessingbymeansofimplementationofdiverseandappropriateindicatorssystem toward the tourist destinations mainly in UK, USA and Australia where this kind of research is so featured. This tendency shouldbeevaluatedhighlyandessentialaswellfromtheviewpointofreductionandmanagementoftourismimpactswithinthe destinations. On the other hand, simultaneously, it appears to the author, at least, that the above tendency might be occurring a slight negativeconsequenceregardingevaluationtothehistoricandculturalproperties,alsotheintangibleculturalheritageinevery region. Because it seems that the priority for recent sustainability research might be regarded mostly as something natural, social and environmental within the tourist destination due to long-term substantial impacts of human activities toward the nature world. In this meaning a sustainable development research of “Blue Plan” organized by UNEP, specifically the article “Towards an Observatory and a ‘Quality Label’ for Sustainable Tourism in the Mediterranean” has to be taken notice particularly.Becausethissurveypointsoutquitepositivelytheimportanceconcerningpreservationandrestorationofhistoric andculturalheritageoftheMediterraneancountries. Thisresearchaimstoelucidatetheimportantviewpointonpreservationandrestorationofculturalheritageenvironmentnot onlyforsustainabledevelopmentintouristdestination,butalsofortheir“rejuvenation”moreover“revitalization”,referringtothe nationalstrategicprojectofrestorationatthetraditionalsettlementofOia,SantoriniIsland,AegeanSea,inGreece,whichwas implementedduring975-992.BymeansofthisgovernmentalprojectfortunatelyOiahadagreatopportunitytoreviveherself fromthetownofDEPOPULATIONandcontinuouslytheotherregionalstakeholderssucceededtothisprojectinordertobeone ofthemostattractiveislanddestinationintheworld.Hopefullythiscasestudycouldsuggestapreciousmeaningconcernedwith creation&promotionofappealingdestinationsinJapanaswell. キーワード: 持続可能な観光(サスティナブルツーリズム)、文化遺産環境、伝統的建造物集落の保存・再生、ヘリテージツーリズ ム、サントリーニ島 Keywords: Sustainable Development of Tourism, Cultural Heritage Environment, Restoration & Preservation of Traditional Settlements,HeritageTourism,theIslandofSantorini 持続可能な観光発展における 文化遺産環境の保存・再生とその重要性 -「エーゲ海・サントリーニ島」における伝統的建造物集落の再生事例から- 1.はじめに 周知の通り SustainableTourism Developmentに関する研究は、今や世界 的にも様々な大学、研究機関および国際 機関(UNWTO、UNEP、UNESCO、EU etc.)において進められ、数々の論文、著 作が世に出されている。特にUNWTOが 2004年に「持続可能な観光のための指標」 (SustainableTourismIndicators : STI) をガイドブックとして作成したことをは じめ 、欧米豪そして中国においても、数 多くの指標を用いたモニタリングとその データ解析による観光地の管理システム が注目されている経緯を、日本の研究者 たちも報告している(二神:203、中島、 清水:203)。また、熊谷(203)が述べ る通り、970年代に米国における自然公 園の観光利用のために考案された管理運 営システム LAC(LimitsofAcceptable ChangeforWildernessPlanning)は、今 やニュージーランド、オーストラリアで も各国の自然公園の管理運営に採り入れ られているという。 このように軽量的な手法でのサスティ ナブルツーリズム研究が深化することは 実に喜ばしいことではあるが、他方、島 川(2002)が指摘する「社会・文化的に サスティナブル」、すなわち「新しい理論 で最も特徴的なのが、社会・文化的にサ スティナビリティを追及する点である。

持続可能な観光発展における 文化遺産環境の保存・再生とそ …Settlements, Heritage Tourism, the Island of Santorini 持続可能な観光発展における

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Page 1: 持続可能な観光発展における 文化遺産環境の保存・再生とそ …Settlements, Heritage Tourism, the Island of Santorini 持続可能な観光発展における

-�05-

日本国際観光学会論文集(第21号)March,2014

《研究ノート》

石い し

本も と

 東と う

生せ い

奈良県立大学 地域創造学部 観光学科 専任講師奈良県立大学 地域創造学部 観光学科 専任講師

In� recent� years,� the� main� stream� of� researches� and� investigations� for� Sustainable� Tourism� in� global� scale� have� become�

considerably�detailed�scientific�and�analytic�assessing�by�means�of�implementation�of�diverse�and�appropriate�indicators�system�

toward� the� tourist� destinations�mainly� in�UK,�USA�and�Australia�where� this� kind� of� research� is� so� featured.�This� tendency�

should�be�evaluated�highly�and�essential�as�well�from�the�viewpoint�of�reduction�and�management�of�tourism�impacts�within�the�

destinations.

On� the� other� hand,� simultaneously,� it� appears� to� the� author,� at� least,� that� the� above� tendency� might� be� occurring� a� slight�

negative�consequence�regarding�evaluation�to�the�historic�and�cultural�properties,�also�the�intangible�cultural�heritage�in�every�

region.�Because� it� seems� that� the�priority� for� recent� sustainability� research�might�be�regarded�mostly�as� something�natural,�

social� and� environmental�within� the� tourist� destination� due� to� long-term� substantial� impacts� of� human� activities� toward� the�

nature�world.� In� this�meaning�a� sustainable�development� research�of� “Blue�Plan”�organized�by�UNEP,� specifically� the�article�

“Towards� an� Observatory� and� a� ‘Quality� Label’� for� Sustainable� Tourism� in� the� Mediterranean”� has� to� be� taken� notice�

particularly.�Because�this�survey�points�out�quite�positively�the�importance�concerning�preservation�and�restoration�of�historic�

and�cultural�heritage�of�the�Mediterranean�countries.

This�research�aims�to�elucidate�the�important�viewpoint�on�preservation�and�restoration�of�cultural�heritage�environment�not�

only�for�sustainable�development�in�tourist�destination,�but�also�for�their�“rejuvenation”�moreover�“revitalization”,�referring�to�the�

national�strategic�project�of�restoration�at�the�traditional�settlement�of�Oia,�Santorini�Island,�Aegean�Sea,�in�Greece,�which�was�

implemented�during��975-�992.�By�means�of�this�governmental�project�fortunately�Oia�had�a�great�opportunity�to�revive�herself�

from�the�town�of�DEPOPULATION�and�continuously�the�other�regional�stakeholders�succeeded�to�this�project�in�order�to�be�one�

of�the�most�attractive�island�destination�in�the�world.�Hopefully�this�case�study�could�suggest�a�precious�meaning�concerned�with�

creation�&�promotion�of�appealing�destinations�in�Japan�as�well.

キーワード:�持続可能な観光(サスティナブルツーリズム)、文化遺産環境、伝統的建造物集落の保存・再生、ヘリテージツーリズ

ム、サントリーニ島

Keywords:�Sustainable� Development� of� Tourism,� Cultural� Heritage� Environment,� Restoration� &� Preservation� of� Traditional�

Settlements,�Heritage�Tourism,�the�Island�of�Santorini

持続可能な観光発展における文化遺産環境の保存・再生とその重要性-「エーゲ海・サントリーニ島」における伝統的建造物集落の再生事例から-

1.はじめに

� 周 知 の 通 り Sustainable�Tourism�

Developmentに関する研究は、今や世界

的にも様々な大学、研究機関および国際

機関(UNWTO、UNEP、UNESCO、EU�

etc.)において進められ、数々の論文、著

作が世に出されている。特にUNWTOが

2004年に「持続可能な観光のための指標」

(Sustainable�Tourism�Indicators:STI)

をガイドブックとして作成したことをは

じめ1、欧米豪そして中国においても、数

多くの指標を用いたモニタリングとその

データ解析による観光地の管理システム

が注目されている経緯を、日本の研究者

たちも報告している(二神:20�3、中島、

清水:20�3)。また、熊谷(20�3)が述べ

る通り、�970年代に米国における自然公

園の観光利用のために考案された管理運

営システム LAC(Limits�of�Acceptable�

Change�for�Wilderness�Planning)は、今

やニュージーランド、オーストラリアで

も各国の自然公園の管理運営に採り入れ

られているという。

 このように軽量的な手法でのサスティ

ナブルツーリズム研究が深化することは

実に喜ばしいことではあるが、他方、島

川(2002)が指摘する「社会・文化的に

サスティナブル」、すなわち「新しい理論

で最も特徴的なのが、社会・文化的にサ

スティナビリティを追及する点である。

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日本国際観光学会論文集(第21号)March,2014

(中略)今までの観光開発において無視さ

れがちであった、観光地に根付く文化、

伝統、歴史、風習すべてをサスティナブ

ルにしなければならないという発想であ

る」というような部分が、現時点では再

び影を潜めてはいないか…? と危惧す

るのは筆者だけであろうか。

 本論文では、近年の注目すべきサステ

ィナブルツーリズムの研究例を参考にし

つつ、その一つには、未だ日本では紹介

されていない地中海沿岸地域のサスティ

ナブルツーリズム研究をもとりあげなが

ら、地域における「有形・無形の文化財」

を主要な観光資源とした国際観光デステ

ィネーションの持続可能な発展に関して

考察していきたく思う。

2.視点を異にするサスティナブルツー

リズム研究例

2-1.グラハム・ミラーによる研究例

 今やサスティナビリティ研究分野にお

ける世界的なリーダーの一人とされる英

国サリー大学のミラー(Graham�Miller)

は、例えばアイルランドのDIT指標シス

テム、広域カリブ諸国連合のSTZC指標、

オーストラリアの TOMM 指標など、近

年世界の各地で開発、駆使されている

種々の指標モニタリングシステムに関し

て、詳 細 に 報 告 し て い る(Miller,��

Twining-Ward:2005)。

 ミラーによる研究手法の特徴の一つ

は、その「歴史眼」とも言うべき識見を

以て、各デスティネーションの発展段階

を捉えている点であろう。すなわち「対

象とする地域の歴史的バックグラウンド

から説きはじめ→同地域おけるツーリズ

ムの発生の経緯→その後ツーリズムがも

たらしたベネフィットとインパクト→サ

スティナブルツーリズムの必要性に着目

した要因→実際に指標を開発して実施→

データを収集・分析の上で政策に反映」と

いう一連の過程を整理する。しかしまた

指標を開発する段階では、ステークホル

ダーが描くデスティネーションとしての

最終的なヴィジョンあるいは到達点を可

能な限り具体化することを、とりわけ重

要視している。オーストラリア南部のカン

ガルー島におけるTOMMプロジェクト研

究などは、その代表的な例であろう。こ

れらの点は、寺崎(20�3)も「目的達成

型」の観光地モデルと指摘しているが、観

光地のサスティナビリティを検討する際

には最も大切な作業の一つである。

 ミラーはさらに、デスティネーション

に関わるステークホルダーの心理をも深

く掘り下げ、倫理観の喚起を訴えている。

そこでは近現代の著名なフィロアンソロ

ピストや哲学者、例えば「鉄鋼王」と称

さ れ た ア ン ド リ ュー ・ カ ー ネ ギ ー

(Andrew�Carnegie)、ステークホルダー

理論を主唱したフリーマン(Edward�

Freeman)、さらには『実践倫理批判』な

どを著わしたカント(Immanuel�Kant)

等の説得力ある言葉を用いつつ、各ス

テークホルダーの社会倫理啓発に努めて

いる。自然・社会環境が蒙るインパクト

そして経済効果の分析により、観光によ

る負荷の軽減に寄与するミラーの政策提

言にも、その背景に彼自身の篤い倫理観

さえ感じられる2。

 一方で、ミラーは自国の英国において

も、英国政府環境・食・地域事業局〔UK�

Government� Department� for� the�

Environment,� Food� and� Rural� Affairs

(Defra)〕(以下、Defra)と共に、国民の

サスティナブルツーリズムに対する理解

促進のため、積極的な研究活動を行って

いる(Miller:20�0)。その内容を端的に

説明すると以下の通りである。

 世界的なLCCの急成長もあって、近年

は航空機運賃が廉価になり、Defraは、航

空機の過剰運行による環境・エネルギー

へのインパクトを抑制するため3、国民の

旅客機による頻繁な海外旅行に注意を促

し、将来的には英国国民の旅行形態に変

化を与えたいという目標を掲げている。

その目標には具体的に次の4項目が挙げ

られている。①英国国内の観光地を国民

の休暇滞在先として支持されるようにク

オリティを高める ②国民の頻繁な(航

空機による海外)旅行に抑制を促す ③

国民がより持続可能な旅行形態を選択で

きるように ④国民が休暇期間中に、よ

り持続可能なアクティビティーを選べる

ように。-ミラーはそこで「観光による

環境へのインパクトを一般市民がどのよ

うに認識しているか?」というアンケー

トを実施、その結果を集計分析し、Defra

への提言としてまとめている。

 このように、英国の環境行政とサリー

大学とが協働し、地球的な自然環境を保

全するためには、まずサスティナブル

ツーリズムに対する市民国民の声や認識

を十分に理解しようと努力するその姿

勢、さらには環境・エネルギーへの負荷

を軽減するためには、自国民の旅行形態

に変化を与える政策までも見据えている

という先進的な官学連携のプロジェクト

に、筆者は驚きを隠し得ない。しかしな

がら、筆者が見る限り、ミラーの研究に

おいて観光地の歴史、伝統、文化や文化

財の持続可能性に関する言及がそれほど

多く見られないという、その一点にのみ

若干残念な思いが残る。

2-2.UNEPによるPLAN�BLUE調査研

究の紹介と本研究の位置づけ

 さて、20�3年2月のことであるが、世

界的には中国に次いで、欧州では初めて

となる UNWTO 後援のサスティナブル

ツーリズム観測センター(Sustainable�

Tourism�Observatory)が、ギリシャ国

立エーゲ大学に設立された。同年夏、筆

者も早速エーゲ大学を訪ね、初代所長イ

オアニス・スピラニス(Ioannis�Spilanis)

と面識を得ることができた。近年、スピ

ラニスはテリエル(Tellier)とともに

UNEP(United� Nations� Environment�

Programme)による Plan�Blue 調査研究

(20�2)に着手し、アフリカ北岸地域も含

めた地中海沿岸地域の観光デスティネー

ションにおいて、各地域の「高品質ブラ

ンド化」を目指した持続可能な観光のあ

るべき姿を検証している。A4版65頁にわ

たる詳細な報告書となった同研究の特徴

は以下の通りである。

①調査地の選定

 �地中海沿岸地域の無数のデスティネー

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日本国際観光学会論文集(第21号)March,2014

ションの中から、高級性、地域性、国

際性、規模、歴史性、人気度など、観

光地としての性格に偏らず、且つ様々

な地域を研究対象地としてとりあげて

いる。また、ローマやバルセロナなど

既に成熟し、高いネームバリューのあ

る観光都市などは調査対象から外して

いる。

②地域の「高品質ブランド化」を目指す

 �各種指標によるモニタリングデータを基

に、その地域に適切な「高品質ブランド

化」を目指す事例研究を行っている。具

体的には、大きく3つのカテゴリーに区

分し、国際的な大規模3S(Sea,�Sun�and�

Sand)リゾートとしてAlanya(Turkey)、

Djerba(Tunisia)、Torremolinos(Spain)

を、国内旅行客中心の3S 観光地として

El�Alamein(Egypt)、Marsa�Matrouh

(Egypt)、The� Tetouan� Coastal� Area

(Morocco)、Tipeza(Algeria)を、さら

には特殊性に富みヘリテージツーリズム

を看 板とする観 光 地として Cabras

(Italy)、Castelsardo(Italy)、Rovinj

(Croatia)、Siwa�Oasis(Egypt)という

合計��のデスティネーションの事例を挙

げている。

 同研究において筆者が特に注目するの

は、先述した欧米豪などのサスティナビ

リティ研究同様、観光行動が観光地に与

える環境的、経済的、社会的なインパク

トやベネフィットのモニタリングを実施

し分析に至るものの、地域の有形・無形

の文化遺産や町並み景観保存に関する言

及が相当な量割かれている。例えば、ス

ピ ラ ニ ス は そ の 中 で Mediterranean�

Strategy� for� Sustainable� Development

(MSSD)の重要な方向性の一つとして

「地中海沿岸地域の文化・環境遺産に焦点

を当てること」を明言しており、上記3

つのカテゴリーの観光地においても「特

殊性に富み、ヘリテージツーリズムを看

板とする観光地」の持続可能性を最も高

く評価している。中でもサルディニアの

Cabras と Castelsardo における地方行政

と中央政府による環境保全政策が、能く

自然&歴史文化遺産を保護しており、地

域の民芸や地産池消の食文化が新たな観

光資源となり、さらには地域の労働力が

観光産業を活性化させている点に注目し

ている。

 同研究におけるアプローチの背景に

は、古代からの歴史遺産、そして中世の

伝統的な町並みが数多く残る地中海沿岸

地域特有の歴史的背景が多分に影響して

いることと推測される。すなわち、周知

の通り地中海沿岸地域は、古代エジプト

文明、エーゲ海&古代ギリシャ文明、ヘ

ブライズム、ヘレニズム、古代ローマ文

化、ルネサンス、ビザンティン文化など、

人類の歴史上、非常に重要な文化文明が

誕生し繁栄した地である。そのような観

点から、上述したスピラニスとテリエル

のリサーチは、地中海沿岸地域における

サスティナブルツーリズム研究の独自性

を有しており、注目に値する。これは日

本においては未だ紹介されていないもの

の、以上の観点から高く評価されるべき

ものと筆者は信じる4。

 それらの調査分析、考察の末、スピラニ

スは最終結論において、バトラー(Butler)

のモデルを借りつつ、こう結んでいる。「地

中海沿岸の観光デスティネーションが『高

品質ブランド化』を遂げるには、特に成熟

を極めた3S(Sea,�Sun�and�Sand)デステ

ィネーションの『若返り』(rejuvenation)

が必要だ」という言ことば

を以て。

 然り、この「若返り」のエネルギーと知

恵が世界の多くの観光デスティネーション

においても求められているのではないだろ

うか? 筆者は長年「地中海」の北東部に

位置するギリシャ・エーゲ海地域をフィー

ルドとして研究を進めてきたが、本論文に

おいては、以下、「若返り」(rejuvenation)

というよりも、むしろツーリズムによる地域

の「甦り」(revitalization)と言っても過言

ではないような事例をとりあげて、その経

緯を探っていきたく思う。

 それは「エーゲ海の珠玉」とも呼ばれ

るサントリーニ島の事例である。この島

のある重要伝統的建造物集落の修復・再

生事業に関する報告書(Greek�National�

Tourism�Organisation:2009)、文献等を

調べて、その事実は明らかとなり、且つ

20�2年夏に行った現地調査により、その

歴史と経緯も確認できたのである。

3.2013年の観光統計データに見るギ

リシャ観光

 さて、筆者は20�0年年頭に「ギリシャ

経済危機」が表面化して以来、そのネガ

ティブインパクトによりギリシャ国内の

観光産業が大きな打撃を受ける中、しか

しそれにも打ち勝ち、むしろ集客力をア

ップさせているという、いわば「強い観

光力」を持つデスティネーションに関し

て調査研究を継続してきた(石本:20��、

20�2、20�3a、20�3b)。中でも20�2年シー

ズンにはその悪影響が最もピークに達し

たことは拙論の中でも報告済みである。

 ところが、ギリシャ銀行の最新調査に

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日本国際観光学会論文集(第21号)March,2014

よると、20�3年のシーズン(1~9月)

においては、ギリシャへのインバウンド

入込総数は前年同期比で�5.2%の増加と

報告されている5。これには、�2年6月に

行われた国政選挙後の政権の安定化がま

ずその要因に挙げられるだろうが、国内

の主要デスティネーション毎にも目を向

ける必要があるため、図1を作成した。

同図はa)20�0年~20�2年と、b)20�2年

(1~9月)~�3年(1~9月)における

外国人空路到着客前年比増減率の年平均

値(%)を色分けし、デスティネーショ

ン毎に示している。6

 このグラフからは、これまで筆者自身

の先行研究にもとりあげてきたとおり、

ミコノス島やサントリーニ島の南エーゲ

海諸島、そしてクレタ島のデスティネー

ションが強い観光力を示していること、

また図中右端のカラマタに代表されるペ

ロポネソス半島南部のマニ地方が顕著な

伸びを示していること。実に50%アップ

という記録的な数字を弾いていることな

どが確認できる7。

 中でも南エーゲ海のサントリーニ島

は、その近代の歴史を含めて、実に興味

深い。というのも、20世紀半ばには廃墟

と化していた町が、国の「伝統的建造物

集落再生事業」を契機に甦り、今や世界

中のツーリストから羨望のまなざしで見

つめられる魅力的な観光デスティネーシ

ョンへと生まれ変わっている。

4.事例研究-サントリーニ島8

  �(世界的観光デスティネーション「イ

ア地区」における「過疎」という過去)

4-1.世界的な人気を博すサントリーニ

島、その歴史・地理的概要

 サントリーニ島はエーゲ海のほぼ中央

部に円周状に浮かぶキクラデス諸島の南

端に位置する。アテネの外港であるピレ

ウ ス 港 よ り 約 2�0km、ク レ タ 島 か ら

�20kmの距離。紀元前2000年という石器

時代からエーゲ海で最も古い文明がこの

地に発生し、海上交通の要所として繁栄

した。

 この島はヨーロッパでも最古の文明と

言われるエーゲ海文明発祥の地で、その

歴史はとてつもなく古い。紀元前�500年

頃に島中央部の火山が大爆発を起こした

ため中心部が海底へ陥没し、カルデラ状

の地形に変形。今日では、サントリーニ

本島の他にテラシア島とアスプロニシ島

が内側に絶壁を連ねて環状に続き、その

中に新旧2つのカメニ島が黒々とした溶

岩をむき出しにして並んでいるが、この

ような島々の地形は長期にわたる火山活

動によって生み出されたものであって、

もともとは本島のプロフィティス・イリ

アス山を核とする円形の一つの島であっ

たと考えられている。9

 サントリーニ島の面積は76km2。島内

に�3の集落が存在し、人口は約7千人。

先のピレウスやクレタとは船の便で、ま

たアテネとの間に空の便で結ばれてい

る。夏期の観光シーズンには、主にヨー

ロッパ各地から多数のチャーター便が直

接に入り、華やかな賑わいを見せる。

 また、サントリーニ島は毎年のように

観光地として世界的な賞を様々受賞して

いる。20�2年の年末には英国 BBC の公

式ウェブサイトにおいて「世界の最も魅

力的な島�ベスト5」の筆頭に選ばれ、

20�3年に入って3月には、トリップアド

バイザーの“Travelers’�Choice�20�3”にお

いて「世界の人気の島トップ�0」で5位

にランクインし、ヨーロッパ部門として

は栄えある1位に輝いた。他にも島内の

アコモデーションが次々に世界的な賞を

受賞している。今や世界中から多くのリ

ゾート客、クルーズ客が妬むほどの憧れ

をもって訪れるエーゲ海、否、地中海き

ってのデスティネーションである。

4-2.島内第2の街イア(Oia)とその歴

史10

①�魅惑の観光スポットが秘める「過疎化」

という過去

 現在のサントリーニ島において中心の

街となるのはティラ島中部のフィラ

(Fira)。そしてそれに続く第2の街が同

島北部に位置するイア(Oia)である。イ

アの街は中世よりサントリーニにおける

5つのCastle�Townsの一つで、Castellia

(カステリア)と呼ばれていた。現在はフ

ィラと並び、サントリーニ観光において

も最も魅力的なスポットの一つで、カル

デラの絶壁にへばり付くような「洞窟ホ

テル」から眼下に望む紺碧のエーゲ海と、

その西の水平線に沈む夕陽の美しさは、

世界中から訪れる旅行客を魅了してやま

図2�)ギリシャの大まかな地域区分とサ

ントリーニ島の位置

写真1�)サントリーニ島フィラの街。眼

下にエーゲ海を望む(筆者撮影)

図3)サントリーニ島の地図

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日本国際観光学会論文集(第21号)March,2014

ない。

 ところが、このイア地区にはつい40年

ほど前まで「過疎化」に苦しみ、荒廃し

きっていたという歴史がある。そのよう

な状況から、どのようにして世界中の

人々を魅了する街と生まれ変わったの

か? そこには、おそらく「経済危機の

最中にも揺るがない観光力」そして「持

続可能な観光発展」のカギが隠されてい

るはずである。

②�海運業の拠点として繁栄を迎えたイア

 イアの興隆期は�9世紀終期から20世紀

初めにかけての時期。当時イアには帆船

の商船団が数多く寄港し、東地中海にお

いてロシアとエジプトのアレクサンドリ

アを結ぶ航路の格好の中継地点として繁

栄していた。また、イアは歴史的にも船

舶所有者の街であったと見られている。

例えば、�890年にはイアの人口は2500人

に満たなかったが、�30もの船舶がイアの

居住者所有であり、カルデラ下のアルメ

ニ港には小さくとも商船用のドックまで

造られていた。その時代、イアには�3の

行政教区が設けられ、銀行1件、税関、

様々な伝統工芸の工房、後背地からの重

要な農作物を販売する店舗も存在した。

4-3.伝統的家屋「洞窟住居」が造られ

た理由

 ところで、�9世紀終期から20世紀初頭

にかけて、イアをはじめサントリーニの

各地区・集落で「洞窟住居」が造られる

ようになった理由は何であろうか? そ

れには、先述した紀元前�500年頃の火山

大爆発まで遡るサントリーニの地質・地

形的特異性が大きく影響している。

 というのも、サントリーニ島はそれ以

降も歴史上度重なる火山噴火を起こして

きたために、全島の土地は比較的軟らか

な火山灰層で厚く覆われている。且つカ

ルデラの内側は急斜面の断崖であるゆ

え、島の住民たちにとって宅地を求める

こと自体が困難であった。よって、海運

業が盛んであった当時、富裕な船主等を

除く一般の船員たちは、断崖面に「横穴

洞窟」を掘って住居とした方が、より安

価に広い住まい空間を比較的容易に造る

ことができたのである。そして彼らは岩

盤に洞窟を掘りぬいただけではなく、エ

ントランスレベルには、屋根が主にドー

ム型をした石造りの拡張(継ぎ足し)部

分を設け、立派な玄関ホールに仕上げて

いた。建築形式としてはドーム型屋根の

他に、十字ドーム型のものも多く見られ

る。これにはやはりサントリーニが中世

キリスト教の拠点であったことが影響し

ているとみられる。それらがイアをはじ

めとした島内の各集落において独特の景

観を形成することとなった。

4-4.繁栄した海運業の終焉とイア、サ

ントリーニの過疎化

 ところが、このように麗しいイアの繁

栄もつかの間、海運業の世界でより安全

に長距離を航行する「蒸気船」が「帆船」

よりも優勢になるにつれ、ギリシャ&

エーゲ海における海運業の中心はアテネ

の外港であるピレウス港に移っていき、

イアは衰退の一途を辿ることになる。

�940年には�348人であったイアの人口

が、�977年になると306人まで激減してい

たのである。また、�928年と�956年には

地震による被害もあり、さらには�942年

冬の過酷な天候時には作物が育たず、食

料が途切れ、餓死者も少なからず出た。

そういった天災の影響もあり、その後次

第にサントリーニを離れる人々が増加し

た。つまり、イアのみならずサントリー

ニ島全体の集落が典型的な過疎地とな

り、寒々と荒れた果てた孤島へと様変わ

りしていった。

4-5.トラディショナル・セトゥルメン

ツ(伝統的建造物集落)としてのイア

 しかしその後、イアの繁栄を復活させ

る契機となる出来事があった。ギリシャ

観光省とギリシャ政府観光局(Greek�

National�Tourism�Organisation)がイア

地区の各集落に目を留め、�976年より荒

れ果てた集落の大規模な修復・復元プロ

ジェクト(第1期工事)に着手したので

ある��。�992年にようやく第4期工事を終

了したが、計�6年の歳月をかけて、イア

はいわゆる再生された「トラディショナ

ル・セトゥルメンツ」(伝統的建造物集

落)へと変貌を遂げたのである。

 以下、実施された同プロジェクトの手

法、実例の一部を紹介する。

①�約60件の伝統的家屋が修復・復元され

ており、総計200におよぶベッド数が確

保されるほどのゲストハウス群に転用

された。それらはイア、ペリボラス、

アムディの各集落に分散しているが、

且つそのすべてがカルデラの断崖側で

「オーシャンヴュー」の家屋が修復・復

元工事の対象として選ばれた。また、

このプロジェクトには「船舶所有者の

邸宅群」は含まれていない。その対象

家屋選定の条件は以下の通りである。

 ⅰ)�「空き家」あるいは「放棄された」

家屋であること。

 ⅱ)�個々の建造物が持つ建築様式が重

要視された。

 ⅲ)�原型は留めていなくとも、周囲の

建造物との比較からほぼ原形に近

い姿が想定可能な家屋。あるいは、

写真2�)サントリーニ島北部イア地区の

街並(筆者撮影)

写真3�)現在でもイアのグーラス集落に

数多く残る洞窟住居跡(筆者撮影)

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日本国際観光学会論文集(第21号)March,2014

所有者の記憶や資料から復元可能

と判断された建造物。

②�1件の古い喫茶店はゲストハウスの

「レセプション兼オペレーションオフ

ィス」として改修された。

③�ギリシャ政府観光局とギリシャ中小企

業局の監督下で、レセプションオフィ

ス隣の古商店が「伝統織物」の工房に

改修された。ここでイア在住の、ある

いは他の町々からの婦人たちが、伝統

織物の技術を訓練且つ習得すること

で、その技術の保存継承にも一役買う

こととなった。ここで作られたカーペ

ット、ブランケットなどは、政府観光

局運営のゲストハウスで使用され、ま

たその宿泊者に限って販売された。

④�「海洋博物館」がイアのメインストリー

トに面するある船舶所有者の邸宅を改

装して作られた。先述の通り�9世紀か

ら20世紀初頭、東地中海における商船

団の基地ともなったイアらしく、当時

の帆船の舳先となった女神像など、

数々の個人コレクションの寄贈によっ

て得られた船舶関連の珍しい品々を展

示した。

⑤�イアの古いワイン工房跡 “Cannava”

は、レストランに改装された。現在は

文化イベントも催されるホールとして

も使用されている。

⑥�グーラス集落はイア地区内でも最も古

くまた美しいところで、イアの中核と

も言える。ヴェネツィア統治時代のサ

ントリーニには5つのキャッスルタウ

ンがあったが、そのうち一つのキャッ

スルがここに存在した。�920年当時の

写真素材からは、グーラス地区がとて

もよく景観保存されていたことが確認

できるが、先述のとおり、その後商船

団の基地としての役割低下�⇒�島内人

口の本土への流出、そして�928年と56

年の大地震などで、その後はほぼ廃墟

となっていた。

⑦�ギリシャ政府観光局がグーラス集落の

修復工事に着手した�976年時点では、

地震の被害によるものか、この地区の

中心的教会であったパナギア・プラツ

ァニ教会はその基礎部分を残すのみで

殆ど全壊状況であった。小さなゾード

ホス・ピギ教会も被害が大きかった。

しかし、グーラス集落は当時からギリ

シャ文化省指定の重要景観保存地区で

あったので、古城の城壁部分とゾード

ホス・ピギ教会は完全に修復された。

⑧�また、公共インフラとしての汚水・上

水、貯水池がイア地区内に完備された。

⑨��その他、メインストリートを大理石の

舗道に造り替え、さらにアムディ港に

桟橋を建設。

4-6.プロジェクト終了後のイアの街

 初期の第1&2期プロジェクト(�976

~�980年)においては、ギリシャ政府観

光局の指揮の基、以上の工事が完了した。

この期間に同工事に関わった現地の職人

たちが、貴重な修復・復元の技術を習得

する機会を得たことは、同時にサント

リーニの伝統的家屋の建築技術を後代に

継承するためにも、この上ない賜物であ

ったと言えるだろう。

 後期の第3&4期プロジェクトは、2

つの民間建設会社に委託され、引き続き

修復・復元工事が継続された。その代表

的な工事の1つが「耐震用擁壁補強工事」

である。修復・復元された「トラディシ

ョナル・セトゥルメンツ」全体の7割に

当たる建造物において施工された。

 同プロジェクト終了当初は、復元され

た伝統的家屋は政府観光局直営のゲスト

ハウスとして宿泊客を受け入れるように

なったが、それ以降順次民間に払い下げ

られ、ホテル、レストラン、カフェ、商

店などの経営がより活発に進められた。

さらに、他の未修復の古民家に対しても

民間によるリノベーションの動きが一段

と加速し、街全体が年々活気を取り戻し

ていった。しかし近年は、イアの街並み

は「トラディショナル・セトゥルメンツ」

(伝統的建造物集落)として、その景観保

存および建築、改修が国の特別法により

厳しく保護・制限されており、いずれの

建築・建設計画も国の審議委員会により

承認されない限りは、施工は困難である。

5.結 論

 以上、今から40年ほど前には過疎化に

苦しんでいたサントリーニ島イア地区

が、国の伝統的建造物集落再生事業を契

機に見事に甦り、今や世界的にも注目を

集める観光デスティネーションとして成

長してきた経緯を綴った。「観光地として

持続可能な発展」というよりも、むしろ

「深刻な過疎化により存続が困難であっ

た集落が甦った」事例である。この事例

に関しては、現時点では日本において筆

者の他に研究報告を見ることはないが、

非常に重要な示唆を与えるものと確信す

る。サントリーニ島、イア地区の伝統的

建造物集落は、歴史的、建築学的観点か

らも、地域の独自性、住民の知恵や苦労

が結集して形成された貴重な文化遺産で

あった。そして本論文2-2)において触れ

たスピラニスの指摘、すなわち「地中海

沿岸地域の文化・環境遺産に焦点を当て

写真4�)�サントリーニ島イア地区の伝統

的建造物集落の再生例

   �左下部はドーム型玄関ホール拡張

部の例(筆者撮影)

写真5�)国の再生事業終了後、民間経営

が進むイア地区のホテル例(エス

ペラスホテル:筆者撮影)

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日本国際観光学会論文集(第21号)March,2014

る」というコンセプトと本質的に同じ方向

性をもって、デスティネーションづくりを

行っていったのがイア地区であった。

 そこには、再生後も国の事業を引継ぎ、

地元の経営者等ステークホルダーが、再

生古民家を利用して、地域の「独自性」

に富んだ中小規模のホテル、レストラン、

カフェ等、新用途への転用を展開。国も

建造物の外観に関しては厳しい規制を敷

くが、内部の活用については規制緩和を

進めている。加えて地産池消の「地中海

式食文化(ユネスコ無形文化遺産)」を地

元のサービス、ホスピタリティ・ビジネ

スに豊かに採り入れている点は、観光デ

スティネーションとしての人気と価値を

押し上げる要因となっている。また、イ

アにおいて再生事業が実施された�970年

代後半以降、同様の国家プロジェクトが、

他�5か所の伝統的建造物集落において実

施された。それらの地域も、現在注目す

べきデスティネーションとして成長の過

程にある。

 日本においても有形・無形の文化財を

活かした「持続可能」な観光発展ととも

に、「マイナスからプラス」を、あるいは

「無から有を生み出す」ツーリズム、そし

てデスティネーションづくりを、行政も

含め観光学界・業界で十分議論する必要

があると筆者は痛感する。

参考・引用文献

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調なエーゲ海・クレタ島における観光

力の要因とエコツーリズムの展開-ト

ラディショナル・セトゥルメンツとク

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際観光学会論文集』第20号、pp.8�-88.

・�石本東生(20�3b)「ギリシャ・エーゲ

海地域におけるトラディショナル・セ

トゥルメンツの復元と持続可能な観

光・発展の事例考察-サントリーニ島

の現地調査を基に-」『奈良県立大学研

究季報』第24巻第1号、pp.25-57.

・�石本東生(20�4)「伝統的集落景観と食

文化が織りなす持続可能な観光とアコ

モデーションビジネス-ギリシャ・

エーゲ海地域における事例研究-」『奈

良県立大学研究季報』第24巻第2号、

pp.�-37.

・�熊谷嘉隆(20�3)「『米国の自然公園利

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公社、pp.2-6.

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・�周藤芳幸・村田奈々子(2000)『ギリシ

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第2�6号、公益財団法人�日本交通公社、

pp.28-30.

・�中島泰、清水雄一(20�3)「世界観光機

関(UNWTO)による持続可能な観光

のための指標を活用した観光地の管

理・運営の体系-概要と国内導入の展

望」『観光文化』第2�6号、公益財団法

人�日本交通公社、pp.�4-20.

・�二神真美(20�3)「観光分野における持

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第2�6号、公益財団法人�日本交通公社、

pp.9-�3.

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(2009)�Preservation & Development of

Traditional Settlements (1975-1992)

Cultural Heritage Showcase,� The�

G.N.T.O�Programme,�Athens,�Greece,�

pp.�38-�77�passim.

・�Mavromataki�Maria�(2004)�Getting to

Know Santorini Full Tourist Guide

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・�Miller� Graham� and� Louise� Twining-

Ward� (2005)� Monitoring For a

Sustainable Tourism Transition, The

Challenge of Developing and Using

Indicators,� CABI� Publishing,� UK�

pp.53-77�passim,�pp.20�-23��passim.

・�Miller� Graham,� Kathryn� Rathouse,�

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・�Spilanis,� I.� and� J.� Le� Tellier�(20�2)�

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Destinations : A Guidebook2 �Miller� Graham� and� Louise� Twining-

Ward� (2005)� Monitoring For a

Sustainable Tourism Transition, The

Challenge of Developing and Using

Indicators,� CABI� Publishing,� UK�

pp.54-56.3 �英国のみならず、グローバルな意味で

の航空輸送産業の気候変動対策の現状

と課題に関しては、次の論文も参照さ

れたい。

 �塩谷さやか(20��)「航空輸送事業の気

候変動対策とグローバル・セクター・

アプローチ-ポスト京都議定書へ向け

た自主的取り組みの可能性-」日本国

際観光学会論文集第�8号、pp.4�-47.4 �現時点では、歴史考古学的さらには建

築学的見地からも具体的な指標を用い

て、デスティネーションの持続可能性

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日本国際観光学会論文集(第21号)March,2014

を調査するまでには至っておらず、各

関連行政の定める景観保存法・条例の

機能に関するチェックまでに止まって

いる。今後そのような領域での指標が

加えられ、モニタリングが実施される

ことを待望している。一方で、地中海

沿岸地域の観光デスティネーションを

「高品質ブランド化」するという明確な

ビジョンは、地域の価値を高め、持続

可能な観光発展への指針となる重要性

を秘めているに違いない。5 �“Express”�(Greek�Economics�Newspaper),�

20�4/0�/23�Website 版、http://www.

express.gr/news/ellada/740�08oz_�

20080225740�08.php3�(20�4/0�/24取得)6 �図1のように各デスティネーションの

データを時期によって2つに分けた理

由は次の通りである:a)ギリシャ経

済危機の発生が20�0年の年頭、そして

同危機が最もピークに達し、ギリシャ

のデフォルトやユーロ離脱、さらには

EU をも脱退するという最悪のシナリ

オが、相当な現実味を帯びて取り沙汰

されたのが20�2年5~6月。この年は

近年においてもギリシャ観光が最大の

ダメージを蒙った年である。一方、b)

今年20�3年は危機のピークを越え、国

内情勢としても平穏を取り戻し、前年

の反動からもギリシャへのインバウン

ドが格段に改善した年である。本図は

SETE(ギリシャ旅行業協会)の公式

WebSite� http://sete.gr/GR/Archiki/�

の統計データページより、20�3年��月

1日に関連データを取得。筆者が加工

作成した。7 �ペロポネソス半島南部カラマタについ

ては、ギリシャ旅行業協会(SETE)の

ウェブサイトに20�0~20�2年の年間

データが公表されておらず、20�2年1~

9月と20�3年1~9月のみが公表され

ている。そのため、データが1種類のみ

である。(20�3年��月1日データ取得)8 �図2のギリシャ地域区分図は、ギリシ

ャ 政 府 観 光 局 公 式 ウ ェ ブ サ イ ト

http://www.visitgreece.jp/map�よ り、

20�3年�0月�7日にデータを取得、筆者

が加工。9 �周藤芳幸(�997)「ギリシャの考古学」、

同成社、p.�00.周藤芳幸・村田奈々子

(2000)「ギリシャを知る事典」、東京堂

出版、p.64.�0 �「4-2.島内第2の街イア(Oia)とその

歴史」以降、イア伝統的建造物集落再

生に関する部分は、その多くを、ギリ

シャ観光省ギリシャ政府観光局アテネ

本 部 に て 作 成 さ れ た 英 文 報 告 書

Greek�National�Tourism�Organisation�

(2009)�Preservation & Development of

Traditional Settlements (1975-1992)

Cultural Heritage Showcase,� The�

G.N.T.O�Programme,�Athens,�Greece,�

pp.�38-�77を引用、参考としている。�� �当時、ギリシャ観光省�ギリシャ政府観

光局は、イアの集落以外にも、ギリシ

ャ全土で�6箇所に及ぶ伝統的な石造り

の集落を再生するプロジェクトを実施

した。その事業報告書が上記参考文献

の Preservation & Development of

Traditional Settlements (1975-1992)

Cultural Heritage Showcase である。

【本稿は所定の査読制度による審査を経たものである。】