10
1 地磁気観測所ニュース ISSN 1347-412X 2月24日に平成20年度調査研究成果報告会が開 催されました。今年度行われた調査研究は、重要課 題が12課題(活動的火山における総合的研究1課題 (個別課題5課題)含む)、基礎課題が5課題の計17課 題です。各課題名は観測所ニュース第27号で紹介し ています。報告会には女満別出張所、鹿屋出張所か らも担当官が出席し、報告や討論が行われました。以 下では、本年度の調査研究成果の中からいくつか紹 介します。 また、地磁気観測所のホームページには本ニュー スで紹介する課題以外にも掲載を予定しております ので、是非そちらもご覧下さい。 【地磁気ブロマイド記録のデジタル毎分値化に関する 調査】 地磁気観測所では大正2年(1913年)に柿岡で観 測を開始して以来、長年にわたって地球磁場の変化 を観測し続けています。 現在はデジタル方式でのデータ収録が行われてい ますが、1990年代までは、ブロマイド紙と呼ばれる写 真感光紙に観測出力を印画するアナログ方式で記録 が行われていました。これらの数十年間に及ぶ膨大 な観測の成果は、貴重な写真記録として現在も大切 に保管されています。 この特殊な写真に描かれたグラフ状の記録(図1) は、これまで手作業で読み取られ、毎時値(1時間毎 の値)が算出されてきました。しかし、適切にデジタル 化処理を行えば、より応用範囲が広く利用価値が高 い毎分値(1分毎の値)へと変換できると考えられるた め、過去の写真記録を高精度に変換するための手法 開発に取り組みました。 今年度の調査・開発により、歪み補正・高精度自動 読み取り・数値化・感度補正・絶対値化といった一連 平成20年度調査研究成果報告会 平成21年 (2009年) 4月1日 No. 30 平成20年度調査研究成果報告会 1 CA研究会出席 3 タイにおける地磁気観測 4 小笠原・父島で磁力計の台を造り 替えました 5 人事異動 7 研究発表等 8 談話会 9 昭和基地でのオーロラ光学観測 7 こいる ~メタボ検診に想う~ 10 平成21年度施設一般公開のお知ら 9 目次: 図1:1日分の写真記録(地磁気H,Z,D成分)

地磁気観測所ニュース No. 30 · この特殊な写真に描かれたグラフ状の記録(図1) は、これまで手作業で読み取られ、毎時値(1時間毎 の値)が算出されてきました。しかし、適切にデジタル

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 地磁気観測所ニュース No. 30 · この特殊な写真に描かれたグラフ状の記録(図1) は、これまで手作業で読み取られ、毎時値(1時間毎 の値)が算出されてきました。しかし、適切にデジタル

1

地磁気観測所ニュース

ISSN 1347-412X

2月24日に平成20年度調査研究成果報告会が開

催されました。今年度行われた調査研究は、重要課

題が12課題(活動的火山における総合的研究1課題

(個別課題5課題)含む)、基礎課題が5課題の計17課

題です。各課題名は観測所ニュース第27号で紹介し

ています。報告会には女満別出張所、鹿屋出張所か

らも担当官が出席し、報告や討論が行われました。以

下では、本年度の調査研究成果の中からいくつか紹

介します。

また、地磁気観測所のホームページには本ニュー

スで紹介する課題以外にも掲載を予定しております

ので、是非そちらもご覧下さい。

【地磁気ブロマイド記録のデジタル毎分値化に関する

調査】

地磁気観測所では大正2年(1913年)に柿岡で観

測を開始して以来、長年にわたって地球磁場の変化

を観測し続けています。

現在はデジタル方式でのデータ収録が行われてい

ますが、1990年代までは、ブロマイド紙と呼ばれる写

真感光紙に観測出力を印画するアナログ方式で記録

が行われていました。これらの数十年間に及ぶ膨大

な観測の成果は、貴重な写真記録として現在も大切

に保管されています。

この特殊な写真に描かれたグラフ状の記録(図1)

は、これまで手作業で読み取られ、毎時値(1時間毎

の値)が算出されてきました。しかし、適切にデジタル

化処理を行えば、より応用範囲が広く利用価値が高

い毎分値(1分毎の値)へと変換できると考えられるた

め、過去の写真記録を高精度に変換するための手法

開発に取り組みました。

今年度の調査・開発により、歪み補正・高精度自動

読み取り・数値化・感度補正・絶対値化といった一連

平成20年度調査研究成果報告会

平成21年 (2009年) 4 月 1 日

No. 30

平成20年度調査研究成果報告会 1

CA研究会出席 3

タイにおける地磁気観測 4

小笠原・父島で磁力計の台を造り

替えました5

人事異動 7

研究発表等 8

談話会 9

昭和基地でのオーロラ光学観測 7

こいる ~メタボ検診に想う~ 10

平成21年度施設一般公開のお知ら

せ9

目次:

図1:1日分の写真記録(地磁気H,Z,D成分)

Page 2: 地磁気観測所ニュース No. 30 · この特殊な写真に描かれたグラフ状の記録(図1) は、これまで手作業で読み取られ、毎時値(1時間毎 の値)が算出されてきました。しかし、適切にデジタル

2

No. 30 2009. 4. 1

のデジタル化処理を行うプログラムが試作されまし

た。変換処理の精度を確認するため、写真収録と並

行して別の磁力計によるデジタル収録も行われてい

た1976年(デジタル収録への移行期)の写真記録に

ついて今回開発した手法を適用したところ(図2)、同

時刻に並行して観測されたデジタル毎分値とほぼ等

しい結果が得られることが確認できました(図3)。

引き続き、過去のアナログ記録を利用価値の高い

データに変換するため、調査・開発を進めています。

【伊豆大島における調査観測】

伊豆大島三原山は、1986年の噴火以降23年が経

過し、過去の噴火例から8年~16年後に次の噴火が

起こると予想されています。地磁気全磁力観測により

火山活動に伴う地下の熱活動を捉える事を目的に、

三原山北側火口縁に磁力計を設置して連続観測を

2007年から開始しました。観測したデータから火山活

動に起因する地磁気全磁力値の変動(以下、ここで

は火山性変動と記します)を抽出するには、想定され

る火山性変動は微小であるので、測定データ中に含

まれる地球中心核起源及び電離圏・磁気圏起源によ

る磁場変化(広域的変動)を取り除く必要があります

(表1参照 )。図 4のデータ (MIK2-OSM)は観測点

(MIK2)のデータから広域的変動を取り除くため、島

内にある別の観測点(OSM:東京大学地震研究所)と

の差をとったものです。観測点周辺は、噴出した溶岩

が固化し磁性をもった岩石のため、地表面近くの地

中にある溶岩は、季節的な温度変化に伴い磁場が変

動することがあります。そのため地中の温度を計測し

地中温度変化による影響の除去を試みました(図4の

MIK2-OSM(温度補正後))。その結果、観測データ

(図4のMIK2-OSM)に見られた大きな変化は取り除く

ことができました。しかし、微少な火山性変動を抽出

するにはまだ不十分であり、今後、更に観測点の特

性の把握を行い、火山性変動の抽出を目指していま

す。

【伊豆半島東部における地磁気全磁力観測】

地震予知計画の一環として、静岡県伊東市御石ヶ

沢において、全磁力連続観測、全磁力繰り返し観

測、自然電位測定を行いました。全磁力繰り返し結

果を見ると、2007年までは柿岡と比べて減少傾向が

30120301303014030150

30160301703018030190

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12

nT

図2:写真記録から再現した地磁気毎分値H成分(半日分)

縦軸は地磁気の値、横軸は時刻を表す

-3 .0

-2 .0

-1 .0

0 .0

1 .0

2 .0

3 .0

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12

nT

図3:写真記録から再現した毎分値と並行観測のデジタル毎分

値との差(半日分) 縦軸は値の差、横軸は時刻を表す

表1:観測される磁場変動の大きさ

図4:観測点MIK2と参照点OSMの全磁力差の日平均値

(MIK2-OSM)、観測点MIK2近傍の地中温度と相関す

る成分を取り除いた結果(MIK2-OSM(温度補正後))、

観測点MIK2近傍の地中温度(地中温度MIK2)とその移

動平均(地中温度MIK2(移動平均))

4/1 7/1 10/1 1/1 4/1 7/1 10/1 1/12007 2008 2009

5nT

7℃

MIK2-OSM

MIK2-OSM(温度補正後)

地中温度MIK2地中温度MIK2(移動平均)

観測される磁場と火山性変動

地球中心核起源の磁場

平均:約50000nT

永年変化:~数10nT/年

電離圏・磁気圏起源の磁場変化

磁気嵐:~数100nT

日変化:~数10nT

海流起源の磁場変化

~10nT

火山活動起源の磁場変化

噴火時、活動域の近くなら・・・ ~100nT

活発な時・・・ ~10nT

静穏な時or活動域から遠い時・・・ ~1nT

Page 3: 地磁気観測所ニュース No. 30 · この特殊な写真に描かれたグラフ状の記録(図1) は、これまで手作業で読み取られ、毎時値(1時間毎 の値)が算出されてきました。しかし、適切にデジタル

3

地磁気観測所ニュース

見られていましたが、昨年の観測結果では、全磁力

連続観測点を含む北側の繰り返し観測点は柿岡と比

べて増加しており、南側の繰り返し観測点は引き続き

減少しています(図5)。

自然電位は、通常、標高が上がると電位が低くなる

地形効果を示しますが、今回までの測定結果では地

形効果はあまり見られず、全磁力観測点W点付近お

よび南側で電位が高くなる傾向が見られました(図

6)。これは、熱水上昇による電位異常の可能性が考

えられます。

この研究成果を今年3月の地震・火山噴火予知成

果報告シンポジウム(東京大学地震研究所)で発表し

ました。 (調査研究委員会事務局)

図6:御石ヶ沢における自然電位測定結果および全磁力連続観

測点と繰り返し観測点分布(●)

図中の地形図作成に当っては、国土地理院発行の「数値地

図50mメッシュ(火山標高)」を使用しています

図5:柿岡を基準とした御石ヶ沢における全磁力繰り返し観

測結果 観測点の位置は図6に示す

CA研究会出席

調査課 石井美樹

2月16日(月)・17日(火)に京都府宇治の京都大学

防災研究所の宇治キャンパスで開催されたCA

(Conductivity Anomaly)研究会に当所から2名が出

席し、2課題について発表してきましたので紹介しま

す。この研究会は東京大学地震研究所や京都大学

防災研究所などで毎年開催されているもので、今年

度は京都大学で「比抵抗構造推定のための陸域・海

域観測に関する研究集会」として開催されました。

講演内容は、大きく分けると「1.陸域・海域での電

磁気観測の現状とその解釈」、「2.陸域と海域それぞ

れにおける電磁気観測の問題点とその解決策」、「3.

陸域・海域連携観測と地球内部電気伝導度構造」、

「4.地球電磁気学諸問題」の4つのセッションからなっ

ています。1.では主に招待講演、2.では陸域と海域

における電磁気観測で現在直面している問題と解決

策に関する講演、3.では陸域、海域、もしくは、陸

域、海域連携観測による電気伝導度構造に関する講

演、4.では1.~3.以外の基礎的/萌芽的研究や技術

開発・問題提起等に関する講演があり、活発な議論

が交わされました。

当所からの1つ目の発表課題では、「気象庁地磁

気観測所におけるJGRFに関わるデータの一次解析

の概要(2)」と題して発表を行いました。当所は日本域

の地磁気永年変化標準磁場(JGRF)作成に用いる

データの収集を担当しています。今回のデータ収集

では、1999年~2005年までの7年間の地磁気全磁力

毎分値データを利用する計画となっており、データ提

供各機関の協力によって予定されていたデータの収

集はすでに終了しています。提供された各観測点の

位置は図1の通りです。

当所ではこれら提供データの予備解析として、

データの時刻ずれのチェック、欠測コードやヘッダー

情報が指定通りがどうかの確認およびデータフォー

マットの統一とデータ状況確認のためのプロット図作

成などを実施しており、その実施内容の現状を報告

しました。なお、今回編さんしたデータは今後各デー

全磁力繰り返し観測結果

-20

-15

-10

-5

0

5

10

15

20

1999/1 2000/1 2001/1 2002/1 2003/1 2004/1 2005/1 2006/1 2007/1 2008/1 2009/1

nT

連続点

N参照点

N点

N(new)点

W点

S点

W点

S点

N参照点

N点

連続点

自然電位の基準点

N(new)点

Page 4: 地磁気観測所ニュース No. 30 · この特殊な写真に描かれたグラフ状の記録(図1) は、これまで手作業で読み取られ、毎時値(1時間毎 の値)が算出されてきました。しかし、適切にデジタル

4

No. 30 2009. 4. 1

タ提供機関に還元する予定です。

また、「火山性磁場抽出のためのロバストカルマン

フィルタープログラムの開発」というタイトルで技術課

の清水技官が発表を行いました(写真1)。実際に火山

で観測される磁場には、火山活動に伴う磁場変動

(火山性磁場)の他に、地球中心核や電離圏・磁気

圏、海流などを起源とする変動も含まれ、これらの大

きさは火山活動によるものより大きいため、火山性磁

場を検出するには火山活動の影響を受けにくく、か

つ火山の近くに設置した現地参照観測点との単純差

を求める方法がしばしば用いられて来ました。しか

し、これは簡便な方法である一方、参照点に異常値

や欠測がある場合、直接その影響を受けてしまいま

す。加えて、火山近くの参照点を十分に維持・管理

するのは、容易なことではありません。そこで、現地参

照点ではなく、観測データを高精度で維持・管理して

いる定常観測点(例えば当所の様な観測点)を参照点

として、カルマンフィルターによる火山性磁場を検出

す る 手 法 が 開 発 さ れ ま し た(Fujii and Kanda,

2008)。この手法を業務で使用できるように改良し、

いくつかの火山の観測データに適用した結果を紹介

しました。

今回の研究会に参加することで、国内外の研究者

と交流を深めることが出来、今後の調査研究にとても

参考になりました。最後に、お世話になりました京都

大学防災研究所の皆様に感謝いたします。

図1:JGRFの観測点網 写真1:当所職員による発表の様子

2009年1月16日~25日にかけて、タイ王国のカン

チャナブリ観測点において地磁気絶対観測および真

方位観測を行いました。カンチャナブリ地磁気観測

点は、東京大学地震研究所と海洋研究開発機構とが

中心になって進めてきた「海半球プロジェクト」の地磁

気観測点のひとつです。

観測点はマヒドン大学のカンチャナブリキャンパス

内に設置されており、磁場の3成分(東西、南北、上

下)を測るフラックスゲート磁力計と、磁場の大きさを

測るオーバーハウザー磁力計を用いて地磁気の連

続観測を行っています。フラックスゲート磁力計は長

期間観測を続けると、計測値と実際の磁場の値との

間にずれが生じてしまいます。よって、定期的に校正

する必要があるのですが、その校正値を算出するた

めに行うのが地磁気絶対観測です。この観測は磁気

儀と呼ばれる装置を用いて手動で行う観測で、その

瞬間の地磁気の向き(偏角および伏角)を精密に測

定します(写真1)。また、北極星を用いた真方位観測

によって基準となる方角を測定することで、地磁気の

向きを正確に決定します。

「タイの季節は『暑い』・『もっと暑い』・『めちゃくちゃ

暑い』の3種類だよ」マヒドン大学のスタッフは笑いな

タイにおける地磁気観測

鹿屋出張所 長町信吾

Page 5: 地磁気観測所ニュース No. 30 · この特殊な写真に描かれたグラフ状の記録(図1) は、これまで手作業で読み取られ、毎時値(1時間毎 の値)が算出されてきました。しかし、適切にデジタル

5

地磁気観測所ニュース

がらそう教えてくれました(もちろん冗談ですが)。

本当は「冬」・「夏」・「雨季」の3種類で、1月は冬な

のですが日中の気温は30度近くまで上がります。観

測点は草ぶきの屋根があり暑すぎることはないので

すが、困ったことにハエや蚊がたくさん集まってきま

す。このため、たびたび殺虫スプレーを撒き、虫と格

闘しながらの観測となりました。また、マヒドン大学の

キャンパス内で見慣れないカブトムシに遭遇するな

ど、日本の「冬」とは大きく異なる気候でした。タイの

冬はさほど雨は降らないそうなので、観測期間中は

天候には恵まれたのですが、我々が日本に帰ってす

ぐに雨となったようで、晴天のうちに観測が行えたこと

は幸運でした。

観測終了後にはバンコクにあるタイ気象庁(Thai

Meteorological Department)の地震部門を訪問しま

した(写真2、3)。タイではスマトラ沖地震以降、地震

監視体制を強化しているそうで、室内にところ狭しと

置かれたモニターには、観測点配置や震源分布、地

震波形などさまざまなものが映し出されていました。

今後もさらに増員などの体制強化を行う予定なのだ

そうです。

今回このような貴重な体験をさせていただいたこと

に感謝いたします。また、お世話になりました東京大

学地震研究所、海洋研究開発機構およびマヒドン大

学の皆様には深くお礼申し上げます。

写真1:磁気儀調整の様子 写真3:タイ気象庁の地震部門ブース

写真2:タイ気象庁の建物

小笠原・父島で磁力計の台を造り替えました

観測課 源泰拓

東京からおよそ1000km離れた、船で25時間半か

かる小笠原諸島・父島でも地磁気の観測が行われて

います。父島観測点は無人で運営されており、デー

タは電話回線で柿岡の地磁気観測所に送られて収

録・処理されます。また、定期的に柿岡から職員が出

張し、観測と測器の保守を実施しています。このよう

にして得られた観測データは、日本の領海の南方海

域を代表する基準値として広く活用されています。

さて、2007年のはじめごろから父島観測点のデー

タに変動が見られはじめました。磁力計は地中に埋

められたコンクリート製の台に乗せています。その台

の傾きも特殊な装置で柿岡から監視しているのです

が、その傾きが大きく変動していました。とくに雨の後

に大きく動いていたことから、器械台そのものが地中

で破損し、ぐらついている状態と考えられました。磁

力計の傾きは磁場観測のデータに影響します。その

補正は不可能ではありませんが、さらに傾斜変動が

大きくなれば、観測精度を維持する事が難しくなりま

Page 6: 地磁気観測所ニュース No. 30 · この特殊な写真に描かれたグラフ状の記録(図1) は、これまで手作業で読み取られ、毎時値(1時間毎 の値)が算出されてきました。しかし、適切にデジタル

6

No. 30 2009. 4. 1

す。そこで、器械台をしっかりしたものに造り替えるこ

とになりました。

父島は全域が国立公園で、なかでも観測地点は

第一種特別地域に指定されています。ここでの工事

には環境省との協議が必要です。今回は父島にある

環境省小笠原自然保護官事務所と文書のやり取りを

して、工事許可をいただきました。

施工は2009年2月になりました。4日に東京港を出

航し、5日昼前に無事父島に到着。その日は準備で

終わり、翌日は朝6時から工事前の状態を確認する

ための観測。その後、造りかえる台に設置されていた

磁力計のセンサーを外して、いよいよ工事開始で

す。古い台を掘り返し、底を平らにならした後、セメン

トで新しい台を作ります。磁力計を載せる台ですから

鉄分を含む可能性がある砂は使わず、炭酸カルシウ

ムでどろどろにした骨材と白セメントを使います。練る

ときも鉄粉が混じらないよう、機械は使いません。

新しい台は四角の板の上に円柱を乗せた形です

が、その4分の3くらいは埋めてしまいます。この四角

の板と円柱をいかに強固に接着するかが器械台を安

定させるポイントで、今回はプラスチック製の棒を埋

め込んで一体化させました(写真1、2)。台を設置した

あとは、貯水タンクの底に円柱にあわせた穴を開けて

すっぽりかぶせます(写真3)。タンクの大きさは縦、

横、高さがおよそ1メートルで、磁力計のセンサーを

操作するとき中に入って作業ができます。写真4の右

に見える丸いものがセンサーで、左の四角いものは

中に降りるときの足場です。

新しい台に磁力計をセットしたときは、肩の荷が下

りた気がしました。

滞在中に工事を終えることができるかどうか、そし

てなによりも雨が心配でしたが、幸い天候に恵まれて

無事に観測を再開して帰ることができました。設置し

て一ヶ月ほど経ちますが、傾きの変動は以前の五分

の一くらいとなり、観測には問題のない状況になりま

した。これからも父島は重要な観測点としてデータを

送り続けてくれることでしょう。

写真1:器械台固着のためのプラスチック製の棒

写真2:埋設前の器械台

写真3:タンクをかぶせる様子

写真4:タンク内の磁力計

Page 7: 地磁気観測所ニュース No. 30 · この特殊な写真に描かれたグラフ状の記録(図1) は、これまで手作業で読み取られ、毎時値(1時間毎 の値)が算出されてきました。しかし、適切にデジタル

7

地磁気観測所ニュース

現在、50次南極観測隊の宙空部門隊員として

昭和基地で越冬生活している。宙空部門が担当

する業務の中にはオーロラ光学観測がある。暗視

装置を用いたオーロラのビデオ撮影やフィルタレ

ンズを使用して特定の波長の光でのオーロラ観測

など様々なアプローチでオーロラに関するデータ

を得ている。これまで生でオーロラを見たことがな

い私にとって美しいオーロラの観測はとても楽し

みな仕事の一つであった。2月末から白夜期が終

わり、太陽が沈むようになったのでオーロラ観測が

開始された。

ところがオーロラ観測が始ってから昭和基地で

は天候に恵まれず、オーロラ観測ができない日が

非常に多い。残念ながら私は越冬生活開始後、ま

だはっきりとしたオーロラは見ていない。50次観測

隊が越冬を開始してからすでに4回のブリザード

に見舞われており、そのうち2月20日のブリザード

で観測史上最高の日最大風速(47.4m/s)を記録

したのである。さらに曇天の日が多く、雲の上で

オーロラが出ているかもとがっかりした日も多い。

そんな中、3月15日に比較的鮮やかなオーロラが

現れたのである。その日の観測当番は私ではなく

もう一人の宙空隊員、香川氏であった。香川隊員

は親切にも無線で私に鮮明にオーロラが出ている

と連絡をくれたらしいが、非番であった私はバーで

飲んでおり気付かなかった。香川隊員からもらっ

たその時の美しいオーロラの写真を見て、後悔し

たのは言うまでもない(写真1)。

写真1:3月15日に出現したオーロラ(香川博之氏 撮影)

南極ほっとニュース

昭和基地でのオーロラ光学観測

観測課 高橋幸祐

人事異動

氏 名 新 所 属 旧 所 属

平成21年 3月 31日付

塚越 利光 退職 観測課長

氏 名 新 所 属 旧 所 属

平成21年 4月 1日付

外谷 健 観測課長 精密地震観測室主任研究官

田口 陽介 技術課主任研究官 観測課研究官

熊坂 信之 観測課研究官 技術課研究官

山本 輝明札幌管区気象台技術部地震火山課

火山監視・情報センター技術専門官女満別出張所技術係長

森山 多加志 女満別出張所技術係長 技術課

Page 8: 地磁気観測所ニュース No. 30 · この特殊な写真に描かれたグラフ状の記録(図1) は、これまで手作業で読み取られ、毎時値(1時間毎 の値)が算出されてきました。しかし、適切にデジタル

8

No. 30 2009. 4. 1

7-th General Assembly of Asian Seismological Commission (平成20年11月25日、つくば国際会議場)

Y. ISHIKAWA, Yuche Li*, and Myung-Soon Jun* :「Re-evaluation of the remarkable earthquakes

in Korean peninsular」

中国地震学会第12回学術大会 (平成20年12月2日、中国地震局地球物理研究所)

石川有三:「中、日両国地震対比研究」

気象庁地震火山部談話会 (平成20年12月16日、気象庁)

石川有三:「中国の地震と日本の地震+四川大地震現地視察報告」

気象庁水戸地方気象台談話会 (平成20年12月19日、水戸地方気象台)

石川有三:「中国の地震と日本の地震+四川大地震現地視察報告」

静岡大学Active Monitoring研究 (平成20年12月25日、静岡大学)

石川有三:「中国の地震と日本の地震+四川大地震現地視察報告」

日本大気電気学会第80回研究発表会 (平成21年1月9日、東京理科大学)

源泰拓:「南極昭和基地における大気電場観測」

IASPEI(International Asociation of Seismology and Physics of the Earth's Interior) Scientific

Assembly 2009 (平成20年1月12日、南アフリカ共和国ケープタウン)

Y. ISHIKAWA:「The 2008 Wenchuan earthquake and active period of the broad plate boundary

zoneRe-evaluation of the remarkable earthquakes in Korean peninsular 」

鹿児島地方気象台・台内活力研修 (平成21年2月6日、鹿児島地方気象台)

豊留修一:「地磁気観測所業務の紹介 」

Conductivity Anomaly研究会 (平成21年2月17日、京都大学防災研究所)

藤井郁子,清水淳平,森山多加志,熊坂信之,増子徳道,大川隆志,笹岡雅宏,笹井洋一*,上嶋誠*:「火山

性磁場抽出のためのロバストカルマンフィルタープログラムの開発」

石井美樹,池田清,芥川真由美:「気象庁地磁気観測所におけるJGRFに関わるデータの一次解析の概要(2) 」

平成20年度気象庁施設等機関研究報告会 (平成20年2月25日、気象庁)

源泰拓:「地磁気絶対観測の信頼性向上に関する調査」

平成20年度地震・火山噴火予知成果報告会シンポジウム (平成21年3月3日~5日、東京大学地震研究

所)

大和田毅,森山多加志,笹岡雅宏,森山多加志,徳本哲男,生駒良友:「伊豆半島東部における地磁気

全磁力観測」

高橋幸祐,田口陽介,源泰拓,大和田毅,笹岡雅宏:「草津白根山における地磁気全磁力観測」

石井美樹,中島新三郎,室松富二男:「気象庁における地磁気観測」

研究発表等

(*当所職員以外の研究者)

口頭発表等

消防科学と情報 No.94, 17-21, 2008

石川有三:「四川大地震の起こり方と震度分布」

地震ジャーナル No.46, 20-28, 2008

石川有三:「中国の地震」

論文等

Page 9: 地磁気観測所ニュース No. 30 · この特殊な写真に描かれたグラフ状の記録(図1) は、これまで手作業で読み取られ、毎時値(1時間毎 の値)が算出されてきました。しかし、適切にデジタル

9

地磁気観測所ニュース

科学技術について、広く一般の皆様に関心と理解

を深めていただくために、毎年各地で「科学技術週

間」の催しが行われています。

今年は【さいしょはどうして さいごはなるほど】を

テーマとし、全国的に多彩な行事が催されます。

地磁気観測所でも、この行事の一環として施設を

公開しますので、皆様方お誘い合わせのうえ、お気

軽にお越し下さい。

平成21年度施設一般公開のお知らせ

◇ 3月 18日 田口 陽介 (観測課) : 「地磁気現象報告2008年10月~2009年2月」

源 泰拓 (観測課) : 「最近の太陽活動と地磁気指数」

◇ 3月 23日 塚越 利光 (観測課長) : 「2000年伊豆諸島北部のイベント後の東海地域とその周辺

の地震・地殻・火山活動の変化 」

石川 有三(地磁気観測所長) : 「プレート運動の変化か?と見えた磁場変化」

談話会( 1 ~ 3 月)

Page 10: 地磁気観測所ニュース No. 30 · この特殊な写真に描かれたグラフ状の記録(図1) は、これまで手作業で読み取られ、毎時値(1時間毎 の値)が算出されてきました。しかし、適切にデジタル

10

No. 30 2009. 4. 1

日本などの先進国では、経済の発展等により

飢餓と決別し、飽食の時代を迎え過大な栄養の

摂取や運動不足による肥満が多く見られ、これ

らを要因とする生活習慣病が大きな問題となっ

ています。日本では生活習慣病の治療のため

の医療費が増大することが懸念されることから、

治療より予防を目的とした検診を行うこととなり

ました。共済組合(医療保険者)では生活習慣

病の予防として、メタボリックシンドローム(内臓

脂肪症候群)に着目した検診を平成20年度から

40歳以上74歳以下の職員と職員に扶養されて

いる家族にメタボ検診として実施しています。職

員への検診は毎年行われる健康診断に併せて

行われ、職員に扶養されている家族は共済組

合が指定した医療機関で受診しています。

メタボ検診では生活習慣や生活行動の他、

身体測定、血圧測定、理学的検査、尿検査や

血液検査が行われます。この検診の結果で異

常が見つかった場合は、生活習慣病の予防を

目的とした生活指導(特定保健指導)が行わ

れ、生活指導に基づく健康管理が必要となりま

す。

人類の誕生は、アフリカのエチオピア北東部

で発見された400万年前から300万年前頃の

ルーシーという名前のアウストラロピテクスの女

性の化石と考えられています。このころから人類

は飢餓との戦いで、狩猟などによる獲物は毎日

獲得できるものではなく、人類は生存するため

に獲物を栄養として体内に蓄積し飢餓に備えて

きました。その後、牧畜や農耕などの発展により

栄養の確保は安定してきましたが、現在に至っ

ても多くの人間が飢餓に苦しんでいます。メタボ

検診による健康管理はもちろん必要ですが、メ

タボリックシンドロームは特異なことであると思わ

れます。

現代社会は食糧危機、エネルギー危機や地

球環境の破壊などが問題となっており、将来に

不安を多く抱えています。私たちは置かれてい

る身の回りの環境を理解し、私たちの生活を身

の回りの環境と調和するよう見直すことも必要で

はないでしょうか。

(総務課長)

メタボ検診に想う

相澤 源保

年4回(1、4、7、10月 1日)発行

編集・発行 気象庁地磁気観測所

住所:〒315-0116 茨城県石岡市柿岡595

E-mail: [email protected]

TEL:0299-43-6909 / FAX:0299-44-0173 (調査課)

ホームページ: http://www.kakioka-jma.go.jp/

表紙写真: 昭和火口から噴気をあげる桜島(鹿児島)

「地磁気観測所ニュース」では皆様のご意見・ご質問を受け付けています。聞いてみたい

こと、わからないこと等、お気軽にお寄せください。