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有用タンパク質の高発現方法
九州工業大学
大学院生命体工学研究科 生体機能専攻 准教授 池野 慎也
研究の背景
ペプチド 酵素 抗体 応用分野
•医薬品 •食品/工業用酵素
基礎分野 結晶構造、機能解析
機能性タンパク質
これらのタンパク質は大腸菌、酵母、動物細胞などを用いて大量生産される。特に、大腸菌は遺伝子操作や培養が容易なことから、有用タンパク質の発現に多く用いられる。
しかし、タンパク質の種類よって、細胞内で大量発現させると封入体を形成するなど問題点が多く、目的タンパク質の大量生産の支障となっている。
2
従来技術とその問題点 〇従来技術 1)タンパク質の発現条件(温度、誘導条件など)を最適化する 2)宿主を変更する 3)発現系を変更する →高い発現能力を有するプロモーターや 分子シャペロン発現系を利用する手法 →mRNA分解酵素の欠損株を用いた手法 4)親水性のタンパク質を目的タンパク質と融合させて発現させる
〇問題点 3)の手法は、宿主が限定されてしまうため、他の宿主への転用が出来ない→汎用性が低い 4)の手法は、発現後に融合させた親水性タンパク質を酵素処理などで除去する必要がある→精製プロセスが煩雑となる
3
4
LEA(Late embryogenesis abundant) protein
○ 乾燥や浸透圧ストレスなどに伴うタンパク質の凝集を抑える
○ 共通して高い親水性をもつ
○ 1次構造と発現パターンの違いからGroup1~6に分類
○ 通常はランダムな状態で構造を持たず、乾燥ストレスを加える
とα-ヘリックスのコイル状に構造化する
種子が休眠に入っていく過程で、大量に合成蓄積される 乾燥耐性に関与するタンパク質
本技術の背景
LEAタンパク質の特徴
ネムリユスリカの幼虫のLEAタンパク質配列を参考にペプチドを設計
AKDGTKEKAGE LEA ペプチド
アミノ酸配列には規則性が存在する(11アミノ酸)
1,9 → 疎水性アミノ酸 3,7,11 → 酸性アミノ酸 2,6,8 → 塩基性アミノ酸 4,5,10 → 規則性無し
線虫 Caenorhabditis elegans
細菌類 Haemophilus influenzae
Group3に属されるLEAタンパク質を有する細胞
例
5
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11
高効率にタンパク質を発現させる方法として LEAタンパク質の機能に着目
1.サイトゾル中にLEAタンパク質を大量に発現させることで、 タンパク質が凝集しにくい環境を作る 2.LEAタンパク質全配列を発現させるのではなく、 主配列を繰り返したペプチドを共発現させる。 (サイズ分離等により目的タンパク質の精製が容易になる。)
高効率にタンパク質発現・精製が可能になる!?
大量発現・精製へ
6
本技術の背景
新技術の基となる研究成果・技術 発現タンパク質:GFP LEA ペプチド, n: repeats of LEA peptide
発現量
培養時間
7
LEAタンパク質をモチーフとした11アミノ酸からなるペプチドを共発現させると、目的タンパク質の発現量が増大
8
IPTG添加による発現誘導4時間後のGFP発現量(a)とGFPのmRNA量(b)を評価した。
LEAを共発現させなかったときのGFPの発現量およびmRNAに対しての各サンプルの相対値 A:LEA*1、B:LEA*2、C:LEA*3、D:LEA*4、E:LEA*6
DNA mRNA タンパク質
LEA ペプチドはタンパク質生合成のどの過程に作用して タンパク質発現量を向上させているのか?
? ?
mRNA量 タンパク質発現量
8
CAT: Chloramphenicol Acetyltransferase GFP:Green fluorescent protein
LEAペプチド共発現によるタンパク質発現量の経時変化①
Incubation time(h)
LEA無 LEA有
LEA無 LEA有
9
新技術の基となる研究成果
GUS: β- Glucuronidase LUC: Luciferase
0
0.00001
0.00002
0.00003
0.00004
0.00005
0.00006
0.00007
0.00008
0 2 4 6 8
Reac
tion
rate
Incubation time(h)
LEAペプチド共発現によるタンパク質発現量の経時変化②
LEA無 LEA有
LEA無 LEA有
10
新技術の基となる研究成果
発現量まとめ 培養8時間後のタンパク質発現量
GFP(蛍光タンパク質) 1.89倍
CAT(酵素) 1.61倍
GUS(酵素) 2.33倍
LUC(酵素) 0.82倍
GFP-HFB(構造タンパク質) 1.20倍
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新技術の基となる研究成果
5種中4種のタンパク発現量の増加・効率化が確認された
LEAペプチド配列の特性
1,5,9 → 疎水性アミノ酸 3,7,11 → 酸性アミノ酸 2,6,8 → 塩基性アミノ酸 4,10 → 特になし
LEAペプチドの配列において、 •静電的なチャージが必須 •疎水性アミノ酸を有する ことが細胞内タンパク質の発現量増大に関与している。
5番目を疎水性アミノ酸に換えたペプチド →LEAII 塩基性アミノ酸(K)を無くし、Gに換えたペプチド →LEAIII 酸性アミノ酸(D、E)を無くして、Gに換えたペプチド→LEAIV 疎水性アミノ酸を親水性アミノ酸へ換えたペプチド→LEAV
LEA-I A K D G T K E K A G E
LEA-II A K D G L K E K A G E
LEA-III A G D G T G E G A G E
LEA-IV A K G G T K G K A G G
LEA-V S K D G T K E K S G E
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LEAペプチドの機能
仮説1 仮説2
現在、メカニズムの検討中 13
Target protein
LEA peptide pFastBac Dual
(5238bp)
昆虫細胞を用いたタンパク質発現への応用
Spodoptera frugiperda 昆虫細胞 タンパク質発現増大を確認
糖鎖修飾など高機能なタンパク質の高発現が可能 14
まとめ
タンパク質発現系において、 11アミノ酸 からなるLEAペプチドがその発現量を増大させることが明らかとなった。
• 荷電側鎖が必要 • 親水部のみでなく、疎水性の側鎖が必要
・ 発現した目的タンパク質の凝集を抑制する ・ 目的タンパク質のフォールディングを促進する
LEAペプチドが機能するためには
目的遺伝子の転写量(mRNA)が増大していないことから、 LEAペプチドの作用機序として、以下のことが推測できる
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新技術の特徴・従来技術との比較
○他の宿主への適用が容易 大腸菌、昆虫細胞で利用可能。他の宿主への汎用も期待できる
○サイズ分離などによる除去精製プロセスが非常に簡便 従来技術は、発現後に融合させた親水性タンパク質(タグなど)を酵素処理などで除去する必要があるため、その精製プロセスが煩雑となる欠点を有している。
既存のタンパク質生合成系に当該ペプチドを発現する遺伝子を導入するだけで発現効率が倍増。 →生産性向上によりコストが半減!
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想定される用途・業界
国内の市場規模としては、タンパク質受託生産に限ってみても2005年に25億円だったものが、2010年には65億円まで伸びると予測されている (日経バイオ年鑑2011)
遺伝子組み換え技術による 細胞を用いたタンパク質(酵素、抗体、受容体など)の大量発現・精製
想定される用途
想定される業界 ・バイオ系企業(酵素・抗体の発現) ・タンパク質受託生産業者 ・研究機関(大学・研究所など)
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実用化に向けた課題
・大腸菌、昆虫細胞以外の他の宿主 (放線菌、酵母、ほ乳類細胞)での発現系への応用 ・本発現系での効果のデータベース化 ・無細胞タンパク質合成系への応用 ・LEAペプチドの細胞内での作用機序の解明 ・更なる効果を期待して、配列の規則性に従って構築した新しいペプチドの開発 (有用な配列を取得でき次第、特許化の検討を行う)
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企業への期待
• 現段階では実験室レベルでの発現実験しか行えていない
ため、パイロットスケールでタンパク質発現の技術を持つ企業との共同研究を希望。
• また、無細胞タンパク質合成系への本ペプチドの応用を検討しているため、無細胞タンパク質発現系を製品化しているまたは開発している企業との共同研究を希望。
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本技術に関する知的財産権
•発明の名称 :有用タンパク質の高発現方法 •出願番号 :特願2010-257410 :PCT/JP2011/076630 •出願人 :九州工業大学 •発明者 :池野慎也、春山哲也
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お問い合わせ先
国立大学法人九州工業大学大学 産学連携推進センター知的財産部門 TEL 093-884-3499 FAX 093-884-3531 e-mail [email protected]
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