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応用マテリアル工学コース 材料量子力学講義資料 http://loamm-ms.eng.hokudai.ac.jp/member/member_hasimoto.html 北海道大学大学院工学研究院材料科学部門 橋本直幸 1

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応用マテリアル工学コース

材料量子力学講義資料 http://loamm-ms.eng.hokudai.ac.jp/member/member_hasimoto.html

北海道大学大学院工学研究院材料科学部門

橋本直幸

1

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大きさが約 10-10 m 程度のプラスに帯電した 球形

の連続的なパン生地の中に乾ぶどうが如く電子が散らばっている

J.J. トムソンのレーズン・パン模型

ラザフォードの有核原子模型

1. 入射したα 粒子の大多数は そのまま直進し散乱しない 2. ごくわずかであるが大角度(90~180O)の散乱が起きる 3. 散乱の大きさ (散乱の起きる確率) は原子量に比例する

原子内の陽子は中心付近に局所的に存在し、

陽子とα 粒子のプラス電荷とがクーロンの斥力で反発しあう結果、α 粒子の大角度の散乱が起きる

原子模型の推定

α粒子の散乱に関する知見

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原子の半径は 電子の速さの2乗に 反比例 → 原子は任意の大きさをもてる

実際の原子サイズは一定

ラザフォードの原子模型の問題点

ラザフォードの有核原子模型 → 原子核の周りを電子が回転運動

クーロン力 と 電子の回転運動による 遠心力 とのつり合い?

加速度をもって 運動する荷電粒子は 電磁波を放射しエネルギーを損失 速さ は減少し上式は不成立

原子の崩壊

実際の水素原子は 安定

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ラザフォードの有核原子模型では、+Zeの電荷をもった重い原子核 が原子の中心にあり,その周りを軽い電子が取り巻いて運動している

この構造自体が不安定

「原子の安定性に関する困難」

「原子のスペクトルに関する困難」

放電管や種々の物質の電極の 間に高電圧をかけて放電させたとき放射される光は,その物質に特有の線スペクトル(決まった波長の光)を示す.

原子模型を考え,古典論に従えば,

原子は線スペクトルではなく,広がりをもつはず

ラザフォードの有核原子模型の困難

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ボーアの原子構造論

ラザフォードの有核原子模型 + 新しい仮説 ↓

ボーアの量子論

ボーアの量子論 仮説

1 原子は飛び飛びの値のエネルギーをもった状態でのみ存在し、 原子が光を放出・吸収するのは定常状態を遷移するときのみ 2 定常状態間の遷移によって放出・吸収される光の振動数nは, 振動数条件(hn=E’-E”)によって決まる 3 定常状態において電子は古典論の法則に従い,古典論で許され る可能な運動のうち,量子条件(∫pdq=2pap=nh: hはプランク定数)を満す 状態のみが定常状態として許される

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結晶中のポテンシャルエネルギー

ボーアの理論 ラザフォードの原子模型

陽子は中心に局所的に存在し、電子の回転運動による遠心力とクーロン力がつり合う.

定常状態において電子は古典論の法則に従い,量子条件を満して運動する.

原子半径: r = (4h2πε0/mq2)⋅(n2/Z)

クーロンの斥力 = -Zq2/4πε0r2

遠心力 = mv2/r 量子条件: 2prmv = nh

v = nh/mr

Z=1, n=1 のとき r = 0.529Å

水素原子の半径(ボーア半径)

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古典論における光子 (Photon)の発見→光は波動性と粒子性の2重性を持つ

ド・ブローイ の逆転の発想

電子や陽子のような 物質粒子は, ときに波動性を持つ

ド・ブローイ波 (物質波 )

アインシュタインの関係(E=hn, h=pl)を物質波に応用 量子条件: (2pa)p=nh

アインシュタインの関係: h=pl 2pa = nl

光も物質もともに粒子であり波動 である

ド・ブローイの物質波

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エネルギー量子の発見

物質や電気は不連続な基本単位の集合体 → 「原子的性質」

エネルギーの「原子的性質」 → エネルギー量子(Phonon)

エネルギーもまた 不連続であり,hnという エネルギー素量が存在 (振動数nを もつ固有振動のエネルギー E = nhn (波長の整数倍)

アインシュタイン と デバイ による比熱の再現

仮定: 振動数nの固体の固有振動 のエネルギーはhnを単位として その整数倍しか許されない 低温の領域を含む全ての温度領域で固体の比熱を再現可能

「エネルギーの原子的性質」は固体においても成立

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ニュートン力学: E = p2/2m …………… (1)

アインシュタイン,ド・ブローイの関係: p = h/l,E= hn ……… (2)

波動関数: Y(x, t) = sin(qx-wt) (波数: q=2p/l, 角振動数:w=2pn)

(2)より Y(x, t) = sin((p / h) x-(E / h) t)

波動方程式: A(∂Y /∂t) = (∂2Y/ ∂x2) ……… (3)

Y(x, t) = cos((p / h) x-(E / h) t) + isin ((p / h) x-(E / h) t) = exp(i(px-Et)/h) ……… (4)

(1), (3), (4)より A = -(i/h) (p2/E) = - 2mi/h

粒子に働く力のポテンシャル: V(x) E = p2/2m + V(x)

これらより (i/h) (∂Y /∂t) = - (h/2m)(∂2Y/ ∂x2) + V(x)Y

シュレーディンガー方程式

シュレディンガー方程式の導出

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シュレディンガーの波動力学(量子力学)

シュレディンガー方程式の最も簡単な解(自由粒子の波動関数)

波動関数 は一般に複素数 Point 1

シュレディンガー方程式の一般解

量子力学の基本方程式であるシュレディンガー 方程式が決定するのは波動関数であり、

波動関数からわかるのは粒子の存在確率である。

Point 2

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波動関数の意味

3次元空間中の座標 (x , y , z)近傍における3辺の長さが dx , dy , dz の 微小体積 (直方体) dV = dx dy dz を考える 時刻 t においてこの微小体積中に粒子が見出される確率すなわち“粒子の存在確率” をP (x , y , z , t ) dx dy dz とする.

「粒子の "存在確率"の確率密度は,波動関数の絶対値の2乗に等しい」

粒子は任意の時刻 t において空間のどこかに存在するから、

“存在確率”を全空間にわたって積分(全確率)すると1になる.

規格化条件

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エネルギー固有値

波動関数の絶対値の 2乗 |ψ|2 は質点の確率密度である

|ψ|2 は x のすべての範囲で有限

エネルギー E は 特定の値をもつ → エネルギー固有値

ばね(調和振動子)のエネルギー

ばねのポテンシャルエネルギー

エネルギーE が与えられたときの運動範囲

ポテンシャルの壁

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e = (1/2) hn + nhn = (n + 1/2)(hw/2p)

弾性波モードエネルギー: e

フォノンの数 零点エネルギー

一次元無限井戸型ポテンシャルのシュレーディンガー方程式を解く

定常状態におけるシュレーディンガー方程式の解(波動関数) : fn(x)

(1) V(x) = ∞ (x ≤ -L, L ≤ x ) のとき fn (x) = 0

(2) V(x) = 0 (-L ≤ x ≤ L) のとき fn (x) = Pcos(npx/2L) + Qsin(npx/2L)

定常状態におけるシュレーディンガー方程式の解 (1)

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定常状態におけるシュレーディンガー方程式の解 (2)

全区間において波動関数の絶対値の2乗を積分: 規格化

(1) x ≤ -L, L ≤ x のとき fn (x) = 0

(2) -L ≤ x ≤ L のとき fn (x) = (1/L)1/2cos(npx/2L) … n:odd

fn (x) = (1/L)1/2sin(npx/2L) … n: even

シュレーディンガー方程式の一般解(波動関数)

∫-LL

| fn (x) |2 dx = 1

このとき k = (2mE/h2)1/2 = (np /2L) より

En = n2p2h2/8mL2 エネルギー固有値

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fn (x) 固有関数

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–L L 0

n=1

n=2

n=3

l=(4/1)L

l=(4/2)L

l=(4/3)L

波長 l = (4/n)L

固有関数 fn (x)

運動量 p = h/l = nh/4L

波動関数

確率分布

一次元無限井戸型ポテンシャル

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不確定性原理

全ての粒子は波の性質を持つが、観測するときは粒子としてふるまう

状態が運動量や位置の固有関数でない場合、粒子の運動量や位置の測定値は観測するたびに異なる。

運動量 p = h/l = nh/4L 位置 x = L

運動量の曖昧さ Dp = 2 (h/l) = (nh/2L) 位置の曖昧さ Dx = 2L

短波長エネルギーの衝突

ハイゼンベルクの 実験 (γ線顕微鏡)

γ線

α

e- Dp•Dx = (nh/2L)•2L

Dp•Dx ≥ h Dx ≈ l/sina

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ハイゼンベルクと ボーアは, さまざまなケースに対する このような仮想的な実験 を行い, どんな場合でも 不確定性原理を 越えて正確な位置と 運動量を確定することは できないという 結論に達し, ミクロの世界では古典論的な常識 は捨ててしまっても かまわない と主張.

不確定性原理を説明する仮想実験装置

完全に真空にした部屋の中において鉄砲から水平に発射された電子は,重力によって鉛直下方に力を受ける. 古典論 (ニュートン力学)によれば電子は放物線 を描いて落下するはずであり, この電子の軌道を光源のランプを点灯して精密に測定(但し,光は電子に圧力を加えるので,電子の軌道が歪められないよう限りなく弱い光をあてる.→古典論では,光の強度に下限はない)すれば,測定された電子の軌道は限りなく放物線 に近くなり, 私達の常識 を 実験的に確かめる ことができる はずである.

光が粒子(光子)である場合 光の振動数を ν,波長をlとすると,光はエネルギー h ν,運動量 h /lを持った粒子として電子に衝突し,衝突された電子は最大でDp= h/lの運動量を受け取り,その結果 軌道が歪む. 軌道の歪を小さくするためには, Dpを小さくする(l を大きくする)とよいが,波長l が望遠鏡の大きさより大きいと電子の位置の識別は不可能となる.

電子の位置のあいまいさ(誤差): Dx=l 電子の運動量の あいまいさ (誤差) : Dp= h/l ∴ DxDp=h 電子の位置のあいまいさ(不確定性)を小さくしようとすれば,運動量の不確定性

が大きくなり,逆に,電子の運動量の不確定性を小さくしようとすれば,位置の不確定性が大きくなってしまう.位置と運動量の両方の測定値をきっちりとした値に確定することは できない.

補足:ハイゼンベルクの 不確定性原理 3rd

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トンネル現象

全エネルギ: E

ポテンシャルエネルギ: U

運動エネルギ: T

E = U + T 古典力学 T ≥ 0 量子力学 T > 0, T < 0

T < 0 T ≥ 0

–L L 0

U(x) = ∞ U(x) = 0 U(x) = U

U - E

T < 0であっても 粒子は存在確率をもつ

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