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111 日本専売公社の民営化過程(2) 1949-1985 1 は じめ に 2 日本専売公社の経営 2.1 資本蓄積 2.2 葉 タバ コ耕作 2.3 タバ コ製造 2.4 タバ コ販売 2.5 タバ コと財 政 2.6 内部か ら外部- (以上、48 4 号) 3 タバ コ民営論争 3.1 タバ コ民営論争 の経過 3.2 反対論者 としての専売論者 4 2 次臨調 5 2 次臨調答申と専売論者の妥協点 5.1 日本専売公社 5.2 自民党 5.3 葉 タバ コ耕作者 5.4 タバ コ販売業者 5.5 全専売 5.6 利害関係者の妥協点 6 ま とめ と残 され た課 題 3 タバ コ民営論争 3.1 タバコ民営論争の経過 ここでは、 日本専売公社の外部、 とりわけ各種の審議会で指摘 された専売制 ・公社制 に関す る諸問題を取 り上 げる。各種の審議会では、基本的には民営化賛成 と反対の両論が議論 されて きた。 これ らを一連 の タバ コ民営論争 と位置づ けて、第 2 次臨調で民営化が断行 されるまでの 経過をみていこう。図表 8は、第 2次臨調に至 るまでの各種の議論をまとめたものである。臨 時専売制度協議会が1951 年 に民営化先送 りを答 申 した ことを契機 に、 日本専売公社時代 の タバ コ民営論争は本格化した54).この図表からは、1960 2 月の産業計画会議の第10 次 レコメンデー シ ョン卸で初 めて分割 ・民営化が誼 われた ことがわか る。 キーワー ド:専売事業の限界、 タバ コ民営論争、第 2 次臨調、政 ・官 ・財 と日本専売公社

日本専売公社の民営化過程 1949-1985dlisv03.media.osaka-cu.ac.jp/contents/osakacu/kiyo/DB00000495.pdf · タバコ民営論者の見解の縮図として、ここでは、産業計画会議のタバコ民営論の内容を取り

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111

日本専売公社の民営化過程(2)1949-1985

村 上 了 太

1 はじめに

2 日本専売公社の経営

2.1 資本蓄積

2.2 葉タバコ耕作

2.3 タバコ製造

2.4 タバコ販売

2.5 タバコと財政

2.6 内部から外部-

(以上、48巻 4号)

3 タバコ民営論争

3.1 タバコ民営論争の経過

3.2 反対論者としての専売論者

4 第 2次臨調

5 第 2次臨調答申と専売論者の妥協点

5.1 日本専売公社

5.2 自民党

5.3 葉タバコ耕作者

5.4 タバコ販売業者

5.5 全専売

5.6 利害関係者の妥協点

6 まとめと残された課題

3 タバコ民営論争

3.1 タバコ民営論争の経過

ここでは、日本専売公社の外部、とりわけ各種の審議会で指摘された専売制 ・公社制に関す

る諸問題を取り上げる。各種の審議会では、基本的には民営化賛成と反対の両論が議論されて

きた。これらを一連のタバコ民営論争と位置づけて、第2次臨調で民営化が断行されるまでの

経過をみていこう。図表 8は、第 2次臨調に至るまでの各種の議論をまとめたものである。臨

時専売制度協議会が1951年に民営化先送りを答申したことを契機に、日本専売公社時代のタバ

コ民営論争は本格化した54).この図表からは、1960年 2月の産業計画会議の第10次レコメンデー

ション卸で初めて分割 ・民営化が誼われたことがわかる。

キーワー ド:専売事業の限界、タバコ民営論争、第 2次臨調、政 ・官 ・財と日本専売公社

112 経営研究 第49巻 第 2号

図表8 主なタバコ民営論争の経過

年 月 日 機 関 名 答 申 の 要 旨 方針

1951.2.12 臨時専売制度協議会 民営化は望ましいが、時期尚早 維持

1953.10.23 行政審議会 公共企業体の改善が必要 維持

1954.ll.4 臨時公共企業体合理化審議会 公共的かつ能率的経営を確保するため、なお改善の必要あり 維持

1956.10.1 日本財政経済研究所 本来あるべき公社の姿に戻す 維持

1957.12.25 公共企業体審議会 公共企業体の維持、組織 .運営は民間的センスを導入 維持

1960.2.25 第10次産業計画会議 分割 .民営化は実行の時代である 民営

1960.3.25 専売制度調査会 民営移行は困難である 維持

1964.9.29 臨時行政調査会 (第 1次) 予算、決算を消費税相当分と企業利益相当分に区分o政府の監督統制を必要最小限度に抑えるo企業形態論は別個の問題として扱う 保留

1977.ll.1 経営形態についての日本専売 基本的に専売制 .公社制を維持 しながら、 維持公社意見 所要の改善を図る

1978.6.19 公共企業体等基本問題会議経 専売制度を廃止 し、日本専売公社を分割 し 民営営形態懇談会専売公社部会 て民営化することが適当

1978.12.12 専売事業審議会 収入を税相当部分と企業利潤部分に明確イL価格法定制の緩和化 維持

1978.12.19 たばこ専売事業調査会 自主責任経営体制の確立が必要 維持

1979.10.31 経営形態についての公社の基 基本的に専売制 .公社制を維持 しながら、 維持本的立場 所要の改善を図る

注 :年月日は、答申など一定の結論を提示した日付である。

出所 :『たばこ専売史』各巻。

タバコ民営論者の見解の縮図として、ここでは、産業計画会議のタバコ民営論の内容を取 り

上げていこう.第10次 レコメンデーションでは日本専売公社民営化断行の理由として、 1)専

売納付金は酒税よりも財政的役割が小さくなったこと、 2)日本専売公社で製造 されるタバコ

はまず くて高いこと、 3)葉タバコ在庫高や設備投資金額などと比べると葉タバコ耕作農家へ

の失業補償は低額ですむことなどが提示された56).

他の審議会に比べると、 このレコメンデーションでは大胆な改革案が誼われたのである。 日

本専売公社のタバコがまず くて高いという指摘は、以前からタバコ民営論者が言及 してきたこ

とである57)。 しか し、日本専売公社が製造するからまずいのではなく、むしろ外国産葉 タバ コ

日本専売公社の民営化過程(2)(村上) 113

の使用率が低く、また国産葉タバコも在来種が中心であったことなどがその要因にある。また

タバコが高いことは、財政上の要求が依然として強いために、タバコの販売定価を高くせざる

を得ないという実状がその背景にあったのである。

以上のことから、いくつかの問題点がこのレコメンデーションには現れる。問題点の第1は、

専売納付金と酒税を対比させただけでは日本専売公社の限界を導出する結果にはならないこと

である。第2は、日本専売公社がタバコ専売事業の弊害を露呈させたわけではないことである。

第3は、葉タバコ耕作農家への失業補償の金額が、葉タバコ在庫金額や設備投資金額と対比さ

せただけでは低額であるとは指摘できないことである58).このようなことから、このレコメン

デーションからかいまみたタバコ民営論者の見解は、必ずしも的を射たものではないといえよ

う。

3.2 反対論者としての専売論者

他方、タバコ民営論者への対案は、専売論者の見解としてまとめられる。専売論者は、いず

れもタバコ民営論者の見解を一定程度受容しながらも、答申内容ではいずれも専売制 ・公社制

の枠組みを維持した上での改善を要望 している。専売論者がこのように民営移行を困難とした

上で、現行制度の維持 ・改善の必要性を説いたのはなぜだろうか。

専売制 ・公社制の廃止を内容とする臨調答申に対 して、専売論者の代表である大蔵省の動向

をみていこう。大蔵省の基本的な姿勢は、 1)葉タバコをめぐる農政問題や外国資本との競争

の問題などタバコ専売事業が置かれている現実的な解決策を用意せずに直ちに民営化すること

は適当ではなく、専売事業審議会で十分検討する必要があること、 2)経営形態問題は中 ・長

期的な問題であるため早急に結論を求める必要性はないこと、 3)臨調で民営化問題を先取り

すれば専売事業審議会の立場を損なうこと、4)現行制度の枠内で葉タバコ問題を改善するこ

となど一層の合理化を指摘するのは当然であるが、経営形態の問題は避けるべきであることな

どとまとめられる59)。大蔵省の見解は、葉タバコ専売の問題も取り上げてはいる. しか し、そ

の中心部分は全額政府出資者という立場に求められる。

専売制 ・公社制の温存で享受される恩恵について、ここでは、日本専売公社の総裁ポストで

は大蔵省の高級官僚00)が就任するという人事が行われていたことを指摘 しておこう。加えて、

経営者の任命権、公社に対する監督権、業務命令権、会計検査院などの監察権、予算や利益処

分などの財務上の統制権などは、全て大蔵省がもっていたのである61)。これらの諸条件を媒介

にして高級官僚が天下りするなど、日本専売公社も 「古手官僚の失業救済機関的な役割」62)を

果たすものであったといえる。図表 9では、大蔵省専売局時代には長官退任後のポストは様々

であることがわかる。それぞれ任期が不定のため在任の期間は、1年弱から10年程度までと様々

である。 しかし、その大半は、大蔵省出身者で占められたことがわかる。留意すべきは、退任

後のポストをみると、中には直接 ・間接を問わず、工事契約や物品納入の面で専売事業と関係

114 経営研究 第49巻 第2号

図表9 大蔵省専売局の歴代の長官と主な経歴

歴代 長 官 在 任 期 間 主 な 経 歴 退 任 後 の主 な ポ ス ト

1 仁 尾 惟 茂 1898.ll-1907.12 大蔵省 貴族院議員

2 溝 口 雄 幸 1907.12-12.12 東大法卒、大蔵省 首相

3 樫 井 繊太郎 1912.12-16.1 東大法卒、大蔵省 台湾銀行頭取

4 嘉 納 徳三郎 1916.1-18.6 東大法卒、大蔵省

5 野 中 清 1918.6-23.12 東大法卒、大蔵省

6 今 北 策之助 1923.12-29.2 東大法卒、大蔵省 日銀監事

7 平 野 亮 平 1929.2-32.1 東大法卒、大蔵省 日本曹達工業、岩井合資

8 佐々木 謙一郎 1932.1-34.7 東大法卒、大蔵省 南方開発金庫総裁

9 佐 野 正 次 1934.7-34.12 東大法卒、大蔵省 昭和写真工業監査役

10 中 島 繊 平 1934.12-36.3 東大法卒、大蔵省

ll 荒 井 誠一郎 1936.3-40.2 東大法卒、大蔵省 専売事業審議会会長

12 花 田 政 春 1940.2-41.9 東大法卒、大蔵省 日本曹達工業常務

13 山 田 繊之助 1941.9-42.ll 東大法卒、大蔵省 日本食塩製造社長

14 -木 内 四 郎 1942.ll-43.ll 東大法卒、大蔵省 参議院議員、太陽火災海上会長

15 溝 田 幸 雄 1943.ll-45.4 東大法卒、大蔵省 衆議院議員、満鉄理事

16 植 木 庚子郎 1945.4-46.1 東大法卒、大蔵省 衆議院議員、大井証券会長、蔵相

17 杉 山 昌 作 1946.1-47.9 京大経卒、大蔵省 日本製箔社長

18 野 田 卯 - 1947.9-48.4 東大文卒、大蔵省 大蔵事務次官、日本専売公社副総裁、参議院議員

荏 :1.仁尾の在任は、大蔵省専売局発足以前の、専売局長と煙草専売局長の期間も含む。

2.嘉納と野中の間に、杉浦倹-が在任。 しかし、6月7日から同20日までと極めて短期のため

省略した。

出所 :『たばこ専売史』各巻。

のある民間企業に天下りした人物も少なくないことである.たとえば、第12代の花田はソーダ

の原料となる工業用塩を使用する日本曹達、第13代の山田も塩専売事業に関係の深い日本食塩

製造、第17代の杉山もタバコ包装紙のアルミ箔に関係のある日本製箔、また第19代の原田も工

事契約で関係のある昭和アルミニウム・昭和電工というように、天下りしたことがわかる。さ

らに大日本帝国憲法下の官僚制度では、各省次官から大臣にもなれたし、貴族院議員に勅選さ

れ、それから大臣になる途も開けていたとの指摘は63)、専売局長官歴任後のポス トからもその

一端がうかがえる.このように、大蔵省専売局での長官人事は、官僚制の1つの縮図を表した

ものであったといえる。

次に、図表10でまとめた日本専売公社総裁の場合は、一部の例外を除き、東大法学部-大蔵

日本専売公社の民営化過程(2)(村上)

図表10 日本専売公社歴代の総裁と主な経歴

115

歴代 総 裁 在 任 期 間 主 な 経 歴 退任後の主なポスト

1 秋 山 孝之輔 1949.6-53.5 慶応大商卒、日東化学常務、公職資格訴願審査委員会委員 三菱銀行

2 入間野 武 雄 53.6-57.5 東大法卒、大蔵省、銀行局長 十五銀行副頭取

3 松 隈 秀 雄 57.6-61.5 東大法卒、大蔵省、同事務次官 東京商工会議所参与

4 阪 田 泰 二 61.6-65.9 東大法卒、大蔵省、国税庁長官 なし

5 東海林 武 雄 65.10-69.9 早稲田大政経卒、日東化学社長 日経連、経団連各理事

6 北 島 武 雄 69.10-73.10 東大法卒、大蔵省、国税庁長官

7 木 村 秀 弘 73.10-75.6 東大法卒、大蔵省、国税庁長官 任期途中で死去

8 泉 英之松 75.7-82.6 東大法卒、大蔵省、国税庁長官、 酒類業中央団体連絡協議日本専売公社副総裁 会会長

9 長 岡 賓 82.7-85.3 東大法卒、大蔵省、同事務次官、 JT社長、東京証券取引

出所 :『たばこ専売史』各巻、『日本人名大事典』平凡社、『現代人名情報事典』平凡社など。

省-高級官僚 (国税庁長官、大蔵事務次官級)という経歴の人物が総裁に就任 していることが

第 1の特徴にあげられる。また、任期が4年と定められたため、一部を除いて満了まで在任 し

ている。前職で高級官僚を経験 した後に、日本専売公社総裁のポストに就 くという道筋がある

ことは明らかである。 しかし、東大-大蔵省入省組による専売 トップのポス トは、日本専売公

社の時代にできあがった慣例ではない。むしろ、日本専売公社の時代は官僚独裁的な 「たらい

まわし式天下り人事」をまねき、ますます非民主的な体制を強化 した64)にすぎないのである。

在任期間が4年と定められたことは、逆に天下り人事による比較的短期間在任の自己保身的腰

掛官僚を多発させた要因であったといえる65)。そして、副総裁のポストも同様に、非民主的な

人事が行われていたといえる66).また、葉タバコの収納 ・輸入業務、タバコ配送、巻紙納入、

タバコの印刷などの業界に関係が深い民間企業にはほとんど官僚出身者が転出したことを指摘

する必要がある67)。このように、大蔵省専売局長官と日本専売公社総裁の人事をみる限りでは、

任期制度が導入された他は、大蔵省出身者、とりわけ高級官僚の天下り人事の温床となってい

たとみることができる。

以上のように、専売制 ・公社制の温存で高級官僚によって享受される恩恵は、天下り人事を

も可能にさせたような、利害関係の存在にある。 しかし、第 2次臨調の答申は、民営化を断行

し、形式上は専売論者がこれまで享受 してきた恩恵を断ち切ろうとしたといっても過言ではな

い。では、なぜ大蔵省をはじめとする専売論者は、第2次臨調の答申を容認 し、約40年間存続

した日本専売公社という組織を手放 して民営化に向かわせたのだろうか。

116 経営研究 第49巻 第2号

4 第 2次臨調

タバコ民営論争は、戦後改革期以降、各種の審議会や調査会の中でも民営化の有効性が議論

されてきた。しかし、専売制 ・公社制の温存で恩恵を享受する大蔵省の根強い反発は、その断

行を阻止していた。このようなタバコ民営論争の経過と対比すれば、1982年に答申が出された

第 2次臨調は、国鉄民営化を中心とした三公社改革の総決算としての位置づけが必要である。

ただし、第 2次臨調の成立や全体の審議過程は他に譲ることにして、ここでは、日本専売公社

を中心とした第2次臨調の答申について若干の吟味を加えていこう。

日本専売公社に対する第 2次臨調の考え方は、1982年7月の基本答申に求められる68)。 日本

専売公社への答申は、 1)当面政府が株式を保有する特殊会社とし、市場の状況をみながら逐

次公開すること、2)国産葉タバコ問題が解決され、特殊会社の経営基盤が強化された段階で

製造独占を廃止し、特殊会社を民営会社とすること、 3)葉タバコ全量買取制を廃止すること、

4)流通専売制度を廃止すること、 5)小売人指定制度を廃止すること、 6)専売納付金制度

を廃止することなどとまとめられる69).

1)の答申は、外国タバコについては自由販売を認めた上で特殊会社として自由な経営を求

めることを意味している。これによって、タバコ会社は関連事業や海外市場への進出が容易と

なるのである70)02)の問題とは、国産葉タバコの価格が外国産葉タバコに比べて3-4倍の

高さにあり、コストアップの要因となっていることを指している。肺ガンの誘発という問題で

消費量が頭打ちになっていることに加え71)、所得補償的意味合いの濃い国産葉タバコの価格形

成は、当然収益と費用の両面から日本専売公社の経営を圧迫する。さらに全量買取制度に裏打

ちされた過剰在庫も問題である。過剰在庫は1981年度で1年分の使用量に相当する約13万 トン、

金額にして2,433億円に達したといわれている72)。同年度の利益積立金が1,364億円であったこ

とから、この過剰在庫は利益を取り崩しても補える金額ではない水準までに達 したといえる73).

しかし、たばこ専売法第 5条に 「公社は、第18条第3項の規定により廃棄するものを除き、公

社の許可を受けてたばこの耕作をするものの収穫した全ての葉たばこを収納する」と規定のあ

る以上、たとえ在庫増で経営が圧迫されたとしても、国産葉タバコの買取を拒絶することはで

きないのである。日本専売公社にとって外国産葉タバコとの価格差と全量買取制度から生 じた

コストアップ、そして消費の限界という状態の中で、効率的に財政収入を確保 しなければなら

ないことが、唯一かつ最善の方針である。この残された選択肢からは、国産葉タバコの独占購

入権を専売権から切り離 し、全量買取制度を抜本的に見直す必要が出てきたのである。つまり、

耕作許可制であった従来の葉タバコ耕作を契約制に移行し、その契約に基づいた生産を行うよ

うに企図したものである。 3)は国産葉タバコの購入義務という規定を改革することを意味し

ている。4)の流通専売制度とは国内でタバコの流通事業を営む唯一の機関である日本専売公

社の立場を改めることを意味する。 すなわち、輸入タバコの取り扱いは、今後は他の企業にも

日本専売公社の民営化過程(2)(村上) 117

認めさせるという内容である。 5)の小売人指定制度とは、指定制 ・定価制に基づいてタバコ

販売業者同士の競争を避けることを目的としたものである。一定程度の地割りを行い、タバコ

販売業者を近接させないように流通専売制度も改革の必要性があったのである。 6)の専売納

付金制度を廃止することは、たばこ消費税制度に切り替えることを意味している。現行の地方

分配用のたばこ消費税と国税としての専売納付金制度を一本化 して、新たなたばこ消費税制度

が検討材料の1つにあがったのである。

以上のように、日本専売公社民営化を答申した臨調の争点は、原料耕作から販売過程に至る

利害関係者全てを改革の渦中に巻き込んではいるが、とりわけ葉タバコ専売制度がその中心で

ある。比較的高い価格で購入せざるを得ない上に、全量の買取が義務づけられていることにメ

スを入れることが最大の争点であったといえよう。では、臨調答申が、どのように日本専売公

社を民営化に導いたのか。利害関係者と臨調への対応を対比 しながら、その妥協点を探ること

が必要である。

5 第 2次臨調答申と専売論者の妥協点

5.1 大蔵省と日本専売公社

以下では、日本専売公社民営化の利害関係者を臨調、大蔵省、日本専売公社、全専売74)、経

済界、自民党、葉タバコ耕作農家およびタバコ販売業者の8者に絞ることにする75). これら8

者の見解が、どのように臨調答申の専売改革へと収赦していくかをみていこう。

まず、臨調答申を受けた際、日本専売公社の反応は、同年 7月30日に公表された、時の総裁

長岡賓76)の談話に集約されている.長岡の見解は 「今回提出された答申については、その内容

が先般の部会報告の基調を踏襲 したものとなっておりますので、事業の実態及び問題の所在な

らびに改善の必要性に関する考え方は、部会報告と同様、総 じて私共としましても理解し得る

ところでありますが、改革に関する具体的提言の中には、疑問なしとはし得ない部分もあると

考えております。例えば、たばこ事業の究極的な在り方を完全な民営形態とし、特殊会社化を

含む一連の措置がすべてそこに至る段階的過程として位置付けられている点は、かなり問題の

多い考え方であると思いますし、国内産葉たばこの取り扱い、或いはたばこ販売店の在り方に

関する提言なども、現実との調和の面で問題点があると思います」77)とある.

臨調は、日本専売公社および専売制度などの現状を踏まえた上での答申として、葉タバコ専

売制度や販売制度の改革を述べたものではないという評価が読みとられる。 しかし、民営化容

認に方針を転換させる妥協案が臨調内で示されて、日本専売公社は当初の見解を修正した。そ

の1つが分割を伴わず、現行の製造専売という独占状態を維持することであった。そして、製

造専売の維持の他に 「特殊会社でなければ合理化も思うようにできない。外国資本と戦えない

」78)という内部の要望もあったのである.民営化とはいえ、実質的には特殊会社化による経営

自主性の導入で妥協点をみて専売改革を要望したことは、逆に製造独占の維持とともに、大蔵

118 経営研究 第49巻 第 2号

省との連携が維持されること、さらには全量買取制度から解放されることなどが盛り込まれた

からに他ならない。

さらに留意を要する点は、以前より日本専売公社内部には、専売制 ・公社制下における事業

運営上の問題点として 「国内たばこ市場の成長性が限界を見せつつある中で、企業として引き

続き成長発展を図っていくためには、国内的には、新規事業の拡大により産業の裾野を広げる

必要があり、また対外的には、投資などを含めた施策により積極的に海外へ進出すべきであっ

たが、制度的な限界が存在 した。つまり、業務範囲 ・投資範囲は、公社法に限定されているた

め、事業の多角化と海外進出は困難な状況にあった」79)という声もあがっていたことである.

タバコの消費が限界に近づき、従来のような政策では財政収入の増大という目的を追求するこ

とができない。そのため、事業をタバコと塩にとどめておく必要はなく、既存の公社法などの

諸規制を撤廃し、多角化による方法で財政的貢献を図ることが必要であるとの日本専売公社内

部の見解は、臨調答申への収敦を物語るものでもある。

なお、日本専売公社の妥協点としての製造独占は次の規定による。すなわち、その規定は、

たばこ専売法第27条では 「製造たばこは、公社でなければ、製造 してはならない」という規定

があったが、新法でも 「製造たばこは、会社でなければ、製造 してはならない」とされ、製造

独占が民営化後も継続されたことである。たとえ消費が逓減傾向にあるとはいえ、国産タバコ

の製造独占の権限が与えられたことは、民営化後もタバコは主力の事業には変わりはないため、

主力の事業からの利潤が保証されたものといえる。国産タバコの製造独占は、外国産タバコと

の競争があるが、少なくとも国産タバコメーカーの競争が回避されたことを意味し、一定程度

の独占価格の形成を可能にさせた要因であったといえる。

5.2 自民党

臨調答申を受けて自民党専売特別委員会は 「専売公社の改革については、臨時行政調査会の

基本答申の主旨を尊重 し、積極的に取り組むこととするが、葉たばこ耕作者、たばこ販売店、

塩業関係者等に不安を与えることのないよう現行制度の基本的枠組みを堅持する一方、専売公

社に大幅な自主性を付与 した経営のもとで、企業性を発揮させるために必要な措置を講ずるこ

ととする」80)という決議を行った。この決議がいわゆるニュー公社論の骨子となる部分でもあ

り、日本専売公社民営化反対の意向を明らかにしたものである81)。自民党がニュー公社論を提

唱 したことは、外国タバコ企業と対等に戦うためには経営自主性などを確保 しうる体制を実現

することが不可欠としながらも、特殊会社 (株式会社)化された場合、利潤追求第一主義にな

り、葉タバコ耕作農家にしわ寄せがくるため、特殊会社化には反対の立場をとらざるを得なかっ

たのである82).っまり、タバコ専売事業の公益性の1つである葉タバコ耕作農家 とタバコ販売

店の保護を前提とした改革案が提示されたのである。

日本専売公社の民営化過程(2)(村上) 119

5.3 葉タバコ耕作者

葉タバコ耕作者の主張は、 1)特殊会社化により専売特別委員会の公的関与は株式会社の経

営権侵害になるという問題を惹起 し、専売特別委員会が関与する余地はなくなり、同時に葉タ

バコ耕作に不可欠な政治的農政的配慮がなくなること、2)株式会社化は利潤追求が最大の使

命となり、もっとも立場の弱い葉タバコ耕作者が犠牲となること、 3)株式公開が国会の議決

を必要としても、財政事情や国際情勢如何で民間に公開される恐れがあること、4)経営者が

かわると経営の内容が変わり、葉タバコ生産に対する姿勢も大きく変わることに集約される叫。

このように、葉タバコ耕作者は特殊会社化には反対の立場をとり、専売制 ・公社制の堅持を養っ

たのである。ただし葉タバコ専売については、その背景にある農政的配慮も忘れてはならない。

すなわち 「過剰在庫がありながら、需給調整が不十分に終わり、ますます過剰在庫を抱えるに

至ったこと。また供給過剰であり他作物より相当有利な価格水準に達 しながら、なお価格の大

幅な値上げが実現 したこと、さらに諸問題の是正が容易に進まないこと、などが 『農政的配慮』

のな (名 :筆者注)によって進行 したのであった。-しかし、このような問題があったことが、

すなわち農政的配慮が全面的に否定されるべきこと、とはならない。農政的配慮は、適切な仕

組みと運用の下においては非常に大きな社会的役割を果たすものであり、また現実のわが国に

於いては必要なことでもある」84)といえる。

5.4 タバコ販売業者

タバコ販売業者は、指定制と定価制の下で、恩恵を享受してきた。臨調答申では、流通専売

制度の廃止も誼われたが、タバコ販売業者の生業が奪われるという懸念から、彼らは反対した。

つまり、彼らの見解とは 「全国26万のたばこ販売店は指定制度となっており、営業と生活が維

持できるとともに、消費者にはどんな僻地でも同一価格で、どこでも求めやすいシステムとなっ

ています。民営になれば、競争が激化 し、小さな販売店は淘汰され、集中化されて大販売店だ

けが残る」85)という懸念である.

しかし、流通専売制度の廃止に伴う妥協案が示されたのである。すなわち、流通専売制度は

廃止するが、独占禁止政策と競争政策に配慮 しつつ、実質的には流通専売制度を維持するとい

う方針が固まることが、たばこ専売事業調査会の答申で明らかにされたのである86)。結局、流

通専売制度という呼称を使わないが、実態は流通専売制度を温存させるという妥協案が示され

たのである。

5.5 全専売

全専売は、民営化によるコストダウンの1つとして人員整理の波をかぶることは必至である。

このような情勢の中で、全専売は、たとえ専売改革が断行されても、その枠組は公企労法の適

用範囲内にとどめておく方針をもっていた。臨調-の反応は、 1)民営化 したからといって夕

120 経営研究 第49巻 第 2号

バコが安くなるとは限らないこと、 2)うまくて安全なタバコが供給されるとは保証されない

こと、3)タバコ販売店や葉タバコ耕作者が切り捨てられるおそれがあること、 4)タバコ産

業で働く労働者の雇用と生活が脅かされること、5)外国との競争に負けて外国の巨大タバコ

資本に支配されるおそれがあることとまとめられる87)。そして、全専売 としての見解は、「す

でに専売労働者は外国たばことの競争に勝っためとか、民営論に対処するためとか、いわゆる

『生き残り論』のもとに統廃合、二交代勤務の導入、時差出勤、営業売り抜きチーム制などの

『合理化』が進められています。民営になれば、さらに労働条件の低下、権利の抑圧、既得権

の侵害、人員削減が強まり、家族をふくめて雇用と生活が脅かされることになります」88)とい

うものであった。そして 「民営化になれば、この攻撃はさらに強められ、労働条件の低下、権

利の抑圧、既得権の侵害が強まろう。一定の条件が確保され、厚生年金や健康保険制度の基礎

をっくってきた共済制度も条件の切り下げが行なわれよう。人員の削減も強められよう。専売

労働者とその家族は雇用と生活がおびやかされ、年金制度の改悪を通 じて将来に至るまで生活

がおびやかされる」89)との指摘は、第 2次臨調答申への懸念を表す好例である。 しかし、全専

売には、これまでの利害関係者とは異なって、特別の妥協案が提示されたわけではないことに

も留意を要する。

5.6 利害関係者の妥協点

さて、これまでのように日本専売公社および自民党いずれの見解も微妙な表現がみられる。

しかし、彼らは、実態をみないままに民営化の構想が作り上げられていたという点で、臨調答

申に難色を示したのである。臨調答申が国産葉タバコ耕作の保護、および全国津々浦々にある

小売店の実状などを無視 した答申であったことは明らかである。専売制 ・公社制の問題を解決

する方策として、臨調は特殊会社化を通じた民営化を答申したのに対し、日本専売公社および

自民党はニュー公社論などで現状維持としたのである。 しかし、日本専売公社民営化の妥協点

は、これまでみてきたように、民営化を断行するものの、妥協案として上げられた点が、不完

全な民営化を促したことは明らかである。日本専売公社民営化の争点は、葉タバコ専売制度、

製造専売制度、指定制 ・定価制などを撤廃することにあった。 しかし、その実態は、現状維持

という点で決着をみたといえるであろう。

臨調答申後、いくつかの変化が生 じたが、その1つは1984年 3月28日、緊急の全国タバコ耕

作組合長会議が開催されたときに自民党専売特別委員長が 「株式会社とせざるを得ない事態と

なった」と説明し、タバコ耕作組合も最終的には了承 したことである90).

これを受けて自民党も持論のニュー公社論から特殊会社化を容認 し、いわば劇的に方針転換

したのである。すなわち、自民党専売特別委員会は 「専売特別委員会はニュー公社論を3年近

く主張し続けてきたが、『公社』という名前を押し通すことは不可能という結論になった。 し

かし、①全量買上げの確保、②価格 ・面積を決定するための審議会の設置、③株式の全額政府

日本専売公社の民営化過程(2)(村上) 121

出資、④政府に一定率の株式保有義務を課すこと、⑤株式売却には国会の承認を必要とするこ

と、など法律の内容において実質的にニュー公社制に相当する措置となっている。制度的に取

れるものはすべて取った。『公』の字を残せないのは残念だが、 この際理解 して欲 しい」91)と

葉タバコ耕作者に理解を求めたのである。

この時点で自民党は 「これまで、幹事会が中心となって、ニュー公社の実現に向け、大蔵省、

専売公社と鋭意調整を進めてきた。その結果、全量買取制、価格 ・面積の審議会による決定、

製造独占、定価制 ・指定制など現行制度の基本的枠組みは維持されることとなった。 しかし、

会社の経営形態については、他の政府機関との横並びの問題から、ニュー公社に給与統制の解

除などの当事者能力を付与することが困難であり、壁に突き当っている」92)として、ニュー公

社論による制約の多さを指摘 し、それを撤回したのである。

このように、自民党は 「株式会社といっても実質的には公社制度の基本的枠組みが貫ける、

という判断」93)で民営化容認の方針に転換し、同時に利害関係者への同意を求めることができ

たのである。すなわち専売制 ・公社制の解体で、不利益を被るのが必至であった葉タバコ耕作

者には、葉タバコ専売制度が継続されるという妥協案が提示されたのである。葉タバコ専売の

実質的な温存は、結局その見返りとしての投票基盤の維持を犠牲にはできないという利害関係

も絡み、葉タバコ耕作農家への保護を打ち切ることができないのが自民党の思惑であったので

ある。

臨調との対決姿勢が崩れる契機となったと思われるもう1つの点は、日本たばこ産業株式会

社法 (1984年法律第69号)第2条の 「政府は、常時、日本たばこ産業株式会社の発行済株式の

総数の2分の1以上に当たる株式を保有していなければならない」とする政府の過半数所有が

明記されたことに求められる。過半数所有を通 じて大蔵省は、支配を続けることができたので

ある。結局、公社であれ、株式会社であれ、何かの形を通じて特権幹部層がその事業体を支配

するという構造には変わりがないことに最も重要な妥協点があったのである94).

6 まとめと残された課題

日本専売公社民営化は、一方では経営効率化と組織合理化という目的を達成するために、他

方では外資と競争するという目的を達成するために、あたかも国鉄や電信電話の陰に隠れるよ

うにして断行された95)。日本専売公社民営化を正当化させた理由は、専売制 ・公社制の弊害に

求められる。しかし、その実態は、最大限の範囲内で現状維持の方針で既存の利害関係が温存

されることによって利害関係者を妥協させたことに求められる96).公社による専売経営が私企

業に比べて非効率とか非能率であるとする口実も、内部の分析が不十分な状態から導出された

ことにすぎない。内実からすれば、民営化は政治家における国有財産の払い下げを自らの手柄

とする材料の1つにしかすぎず、官僚の天下り先を作ることとの利害の一致によることにすぎ

ないのである。官僚天下りのために、大蔵省はJTとの間で何 らかの深い関係をもたせるとい

122 経営研究 第49巻 第2号

う妥協案の下で、民営化のゴーサインを下したのである。この場合、第 2次臨調の答申にも出

てきたように、大蔵省はJTの株式を常時過半数所有することで決着をみた。さらには日本専

売公社民営化の争点でもあった葉タバコ専売制度、製造専売制度、小売人指定制度および定価

制度など、表面上はこれらの呼称を用いないにしても、実質的にはこれらの諸制度が温存され

た点で妥協点がみいだされたのである。

冒頭で提起 したように、日本専売公社が盲腸的存在といわれながらも、約40年間専売事業を

展開し、継続できた理由は、専売制 ・公社制の維持で利害関係をもっ大蔵省や自民党の根強い

民営化反対の動きがあったからに他ならないのである。表面では将来のための改革とはいうも

のの、その実態は、専売制 ・公社制が温存されたと指摘できる。そして、このような改革の流

れは、戦後改革期以来掲げられてきた 「安くてうまいタバコを作る」という改革理念を蔑ろな

ものにさせたのである。安いことは、企業としてのコストダウンを意味する。この意味は、専

売労働者にしわ寄せが及ぶとも解されるが、消費者に安いタバコを供給することではない。製

造独占の状態が維持されて、一定程度の独占価格が引き続き形成されるため、消費者に安 くタ

バコを供給するわけではない。

以上のような過程を経て、日本専売公社は民営化された。実態は現状維持ではあるが、なぜ

このようにしてまでも民営論者は、民営化断行を必要としたのだろうか。その背景としては、

諸外国によるタバコ市場の開放圧力を下に、日本側当局者もその圧力には屈 しきれなかったこ

とに留意を要する97).そして、諸外国のタバコ・メーカーは、嫌煙権の確立などで社会運動の

槍玉に挙げられ、さらには主要な市場で消費量を減退させたことを受けて、危機感を暮らせた

ことにも遠因があろう。諸外国の市場開放圧力は、日本側当局者には、先のように海外市場へ

の進出と事業の多角化という意欲に転嫁させたとみなされよう。

では、JTは、特殊会社の形態をとってはいるものの、株式会社に変わりはない。これまで

に明示 してきた民営化断行によって、タバコ民営論者の掲げた理念は∫Tの事業運営に反映さ

れているのだろうか。もしくは本稿で導出してきたように、タバコ民営論とは結局民営化によ

る財界への利潤の奉納にすぎなかったのだろうか。本稿の帰結をJTの事業運営で実証するこ

とが残された課題となろう。

54)臨時専売制度協議会は、蔵相の諮問機関として発足した。ただその構成メンバーは財界、政界および

官僚出身者がその大半を占めていた。 しかも時の首相吉田が民営反対論者は協議会の委員を辞めさせよ

うと威圧するほど、民営化断行の方針が貫かれたのである。詳細は村上、前掲論文、1997年b~dを参

照されたい。

55)日本専売公社専売史編さん室 『たばこ専売史 第5巻 (資料編)』日本専売公社、1978年、42-43ペー

ジによると、松永安左衛門が1956年に設立した民間研究機関である産業計画会議は、民間人の自由な創

意と工夫によって、わが国産業経済の動向とその規模拡大について調査研究を進め、国民経済全般の理

日本専売公社の民営化過程(2)(村上) 123

想的形態を把握すること並びに産業発展の長期見通しを明らかにすることをその日的とした。

56)産業計画会議 「第10次レコメンデーション」(同上書、241-247ページ所収).

57)村上、前掲論文、1997年Cではタバコ民営論者の指摘、そして同1997年dでは専売論者の反論をそれ

ぞれ紹介している。

58)第 1と第2については、村上、前掲論文、1997年dでまとめた専売論者の見解である。

59)日本たばこ産業株式会社社史編築室、前掲書、下巻、1613-1614ページ。

60)官僚とは、本稿では福本邦雄 『官僚』弘文堂、1959年、139ページを引用して 「支配的影響力をもっ

一部官吏の集団である」と定義づけておく。そして高級官僚とは、官僚の中でも、局長や次官などの経

歴を持っ人物であると定義づけておく。しかし、辻清明 『新版 現代日本官僚制の研究』東京大学出版

会、1969年、173ページでは現代社会においては、巨大な社会集団 (企業 ・労働組合 ・政党などの集団)

では、その組織や運営方式が役所の慣行や意識と共通するような現象を呈することが多いことから、官

僚制を 「特定の集団における組織と行動様式にあたえられた名称である」と定義されている。

61)大森、前掲書、126ページ。

62)福本、前掲書、・147ページ。福本は、旧三公社、政府機関および特殊会社などの首脳陣の多 くが官僚

出身者であり、理事級を含めるとその数はきわめて多いと指摘している。

63)同上書、128ページ。

64)独占分析研究会、前掲書、232ページ。

65)同上書、260ページ。

66)副総裁の任期も総裁と同じく4年と規定されたが、掲載を省略した。なお、日本専売公社法第13条に

は 「総裁、副総裁及び理事の任期は、4年とし、監事の任期は、3年とする」とある。

67)福本、前掲書、235ページ。

68)第2次臨調は、タバコのみならず、塩専売事業についても答申を行った。しかし本稿では、タバコ専

売事業に重点を置くため、塩専売事業については割愛した。

69)臨時行政調査会事務局 『臨調基本提言』行政管理研究センター、1982年、276-282ページ.臨調の基

本的な考え方は、同書278-279ページによると、 1)葉タバコ問題が事業経営に占める重要性にかんが

み、企業的判断に基づく耕作面積 (量)及び購入価格の決定を行えるよう制度の改善を図る必要がある

こと、2)独占から生じがちな安易な経営から脱却するとともに、諸外国からの市場開放要請に適切に

対処するため、国内市場での国内品及び輸入品の適切な競争条件を整備する必要があること、4)巨大

外国企業と互角に競争していくためには、海外投資能力の付与、業務範囲の拡大等、国際競争に耐え得

る経営基盤の整備 ・強化に配慮する必要があること、5)国内市場で輸入品と競争 しっっ海外市場に積

極的に進出するためには、企業的経営に徹することが望ましく、経営の自主性を阻害する国会及び政府

による諸規制を排除し、経営の自主性を確立するとともに、より一層経営全体にわたる合理化 ・効率化

を推進する必要があること、などである。

70)加藤寛 『行革は日本を変える』春秋社、1982年、105ページ。

71)タバコと肺ガン誘発との関連性と専売事業の目的からすれば、日本専売公社が経営を継続するために

は、ニコチンやタールの量を減らした製品の製造 ・販売に移行するしか残された途はない。有害物質を

減らした製品は、フィルター付きタバコとして製造 ・販売されたのである。

72)新田俊三 「行革論登場と民営化論の意味するもの」(平和経済計画会議 ・公企業研究特別委員会編

『公企業と労働組合』御茶の水書房、1982年)、20ページ。

73)損益計算書における金額が1,364億円である。累積では、先の注23にあるように、8,019億円であった。

74)全専売とは、日本専売公社の労働組合である。総評40年史編碁委員全編 『総評40年史 (第3巻)』1993

124 経営研究 第49巻 第2号

年、413ページによると、1972年11月にたばこ共闘として総評に加盟 し、1974年11月に全専売と全配送

などにより、たばこ産業労働組合共闘会議も結成されるなどした。

75)中村太和 『民営化の政治経済学』日本経済評論社、1996年、210ページでは、電電公社分割 ・民営化

問題の利害関係者を臨調、郵政省、通産省、大蔵省、電電公社、全電通、経済界、自民党の8者に分け

ておられる。日本専売公社の場合、葉タバコ耕作農家を利害関係者に掲げた限りは、農林省の動きも取

り上げる必要がある。しかし葉タバコ耕作に関しては、たばこ耕作組合中央会が耕作者の代表として、

たばこ耕作審議会において公社との折衝に当たり、買入価格や耕作面積を決定 していた。このため農林

省が直接葉タバコ耕作に関与する機会が本文で取り上げた8者よりも乏しいと断定した。

76)日本専売公社最後の総裁。履歴などは図表10を参照されたい。

77)日本たばこ産業株式会社社史編纂室、前掲書、下巻、1623ページ。

78)同上書、1636ページ。

79)同上書、1607ページ.

80)日本たばこ産業株式会社社史編茶室、前掲書、上巻、774ページ。

81)ニュー公社論は、公社制の枠組みで必要な改革を講じる方法である。

82)日本たばこ産業株式会社社史編茶室、前掲書、下巻、1632ページ。

83)同上書、1637ページ。

84)戎野真夫 「専売公社の民営移管と葉タバコ生産」『農業と経済』第48巻第13号、1982年、106ページ。

85)寺原篤夫 「専売」(労働者教育協会編 『臨調 ・「行革」問題資料集』学習の友社、1982年)、79ページ。

86)日本たばこ産業株式会社社史編茶室編、前掲書、下巻、1628ページ。

87)寺原、前掲書、78-79ページ。寺原は、執筆時の肩書きを元全専売労組中央執行委員としている。 こ

のことから全専売の臨調に対する見解としてこの論文を位置づけることができる。

88)同上書、79ページ。

89)寺原篤夫 「財界に奉仕する専売の民営化」『労働運動』第198号、1982年、新日本出版社、124ページ。

90)日本たばこ産業株式会社社史編茶室、前掲書、下巻、1638ページ。

91)同上書、1638-1639ページ。

92)同上書、1638ページ。

93)同上書、1639ページ。

94)日本専売公社成立の時点では、この支配の側面は2つに分けられる。すなわちそのうちの1つは公社

は政府全額出資の法人であったこと、もう1つは専売権が政府の専属として、日本専売公社にはその実

行機関としての立場が与えられたことにまとめられる。日本専売公社は、その設立の時点から大蔵省の

支配を前提としたのである。

95)総務庁行政監察局、前掲書、13ページ。

96)大野、前掲書、90ページでは、「"はじめに民営化ありき"で出発し、財界流の企業原理、利潤原理

を徹底的に導入してゆけば万事よくなるのだという発想」が臨調路線を貫く中心的な思想であると述べ

られている。日本専売公社の場合もご多分に漏れず、まずは 「民営化ありき」から出発し、利害関係者

との折衝を経て、民営化容認へと収赦したといえる。

97)松原聴 『民営化と規制緩和』日本評論社、1991年、88ページ。