11
月間報告書 : 10 月 Glasgow School of Art Doctor of Philosophy in Design 13TD1110 松井 実 1. 研究 9 17 日ふたつのキャンパスを 2 往復するたらい回しの紆余曲折ののち,こちらでの指導教 員にあたるゴードン・ハッシュ教授と会う. 「この学校であなたはなんでもできる」「学部の授業を受けたい?それも可能だし,学部の授業を教員側からみるこ ともできる.まずは授業を受けてみて,そののちに教員側がどのような教育をしているか見るといいかもしれないね」 「私は自分のことを sociologist だと思っている」「すぐに答えを出さなくてもいいが,GSA であなたが何をしたいの か,何を学びたいのかをはっきりさせること」「最後に,論文の指導教員は必要か?あなたの面倒は私が見るが指導 教員ではない.大学によっては,ほんの 1 ヶ月ほどの滞在でも論文の指導教員が必要だと言うんだ,特に中国の大学 とかね」 同日 GSA リサーチフェローで江南大学客員教授の Ms Priscilla Chueng-Nainby と会う.IADSR 2013 に出席し日本を堪能してきたという.Skypark キャンパス近所の寿司屋で研究や人種,経済 システムなど様々なことについて討議した. 当初は他愛のない日本食の話などをしていたのだが国民保険の話から英国に滞在して 2 週間で 嫌というほど味わった資本主義+官僚主義のコンボと日本の社会民主主義と独特の労働観念につ いて話す流れになった. 国民保険 英国では,何もかもタダの公立病院による皆保険+富裕層用のショートカットとしての私立病 院のための私費による保険という両極端な 2 段階にわかれている.前者の皆保険制では受けられ るのは最低限の医療であり,しかも待ち時間が長いという前知識 1 はプリシラ氏により確認された. 日本では個人負担が 3 割あるかわりに待ち時間はほとんどなく(私達のいう病院の待合室での 数時間の「待ち時間」と彼らの数ヶ月の待ち時間では単位が違う),また私立病院と公立病院に さしたる差がない. 日本の国民保険の制度は非常に「優しく」,優しすぎると私は思っている.ある知り合いの医 者によると保険に加入していない外国人旅行者が日本で大怪我をした場合,病院のその場で日本 の国民保険に加入するサインをさせ,それを用いて治療するのだという.違法であるとはいえ保 険に加入している証拠を示さないと診療さえしてもらえないことがあるともきく米国とは正反対 の態度である. IASDR 2013 のプリシラ氏の論文 2 のタイトルに collective という言葉が入っていたのが気にな り,複雑系の話題に持っていく.まず私の論文のネタとして考えていた「製品には系譜があり時 系列に追っていくと遺伝している特徴がある」というところから製品を単純なコンポーネントと 1 例えば http://ci.nii.ac.jp/els/110000221971.pdf ?id=ART0000604979&type=pdf&lang=en&host=cinii&order_no=&ppv_type=0&lang_ sw=&no=1379765123&cp= 山崎 信也,足利短期大学研究紀要 15(1), 85-93, 1994-12-15 2 http://design-cu.jp/iasdr2013/papers/1647-1b.pdf

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月間報告書 : 10 月Glasgow School of Art Doctor of Philosophy in Design 13TD1110 松井 実

1. 研究

9月 17日ふたつのキャンパスを 2往復するたらい回しの紆余曲折ののち,こちらでの指導教員にあたるゴードン・ハッシュ教授と会う.「この学校であなたはなんでもできる」「学部の授業を受けたい?それも可能だし,学部の授業を教員側からみることもできる.まずは授業を受けてみて,そののちに教員側がどのような教育をしているか見るといいかもしれないね」「私は自分のことを sociologistだと思っている」「すぐに答えを出さなくてもいいが,GSAであなたが何をしたいのか,何を学びたいのかをはっきりさせること」「最後に,論文の指導教員は必要か?あなたの面倒は私が見るが指導教員ではない.大学によっては,ほんの 1ヶ月ほどの滞在でも論文の指導教員が必要だと言うんだ,特に中国の大学とかね」

同日 GSAリサーチフェローで江南大学客員教授のMs Priscilla Chueng-Nainbyと会う.IADSR 2013に出席し日本を堪能してきたという.Skyparkキャンパス近所の寿司屋で研究や人種,経済システムなど様々なことについて討議した.当初は他愛のない日本食の話などをしていたのだが国民保険の話から英国に滞在して 2週間で

嫌というほど味わった資本主義+官僚主義のコンボと日本の社会民主主義と独特の労働観念について話す流れになった.

国民保険英国では,何もかもタダの公立病院による皆保険+富裕層用のショートカットとしての私立病

院のための私費による保険という両極端な 2段階にわかれている.前者の皆保険制では受けられるのは最低限の医療であり,しかも待ち時間が長いという前知識 1はプリシラ氏により確認された.

日本では個人負担が 3割あるかわりに待ち時間はほとんどなく(私達のいう病院の待合室での数時間の「待ち時間」と彼らの数ヶ月の待ち時間では単位が違う),また私立病院と公立病院にさしたる差がない.日本の国民保険の制度は非常に「優しく」,優しすぎると私は思っている.ある知り合いの医

者によると保険に加入していない外国人旅行者が日本で大怪我をした場合,病院のその場で日本の国民保険に加入するサインをさせ,それを用いて治療するのだという.違法であるとはいえ保険に加入している証拠を示さないと診療さえしてもらえないことがあるともきく米国とは正反対の態度である.

IASDR 2013のプリシラ氏の論文 2のタイトルに collectiveという言葉が入っていたのが気になり,複雑系の話題に持っていく.まず私の論文のネタとして考えていた「製品には系譜があり時系列に追っていくと遺伝している特徴がある」というところから製品を単純なコンポーネントと

1 例えば http://ci.nii.ac.jp/els/110000221971.pdf ?id=ART0000604979&type=pdf&lang=en&host=cinii&order_no=&ppv_type=0&lang_sw=&no=1379765123&cp=山崎 信也,足利短期大学研究紀要 15(1), 85-93, 1994-12-152 http://design-cu.jp/iasdr2013/papers/1647-1b.pdf

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してモデル化することについて説明する.製品には経済システムや生産者たるデザイナーといった幾層ものレイヤーがありそれらひとつひとつが複雑系と呼ぶに足る不可解なシステムであるからにはデザインそのものを複雑系として捉えるのは難しい気がする,なので次善の策として手に取れる製品であればコンポーネントの構成が比較的単純明快なため製品の生物学が可能なのではないか,という話をする.すると彼女は「今私は本を執筆している」という.刊行前であるからあまり詳しくは説明しないが,複雑な現象,例えば寿司レストランが寿司を売る,という現象を複数人でコンポーネントに分割していき,それをビジュアライズしていくことでデザイン対象を理解しやすくすることでより効率的によりよいデザインに辿り着くといった前掲の IASDRの論文と同様の主旨らしい.複雑系をどう捉えているのか,と訊かれ答えに窮するが付け焼き刃の知識を右から左へとにかく伝えてみる.気づけば 4時間話し込んでいた.私は 1ヶ月に 1度ほどしかグラスゴーに来ない,普段はエディンバラの国立図書館で論文を書いている,今度エディンバラに来たら連絡して,と言い残しエディンバラに戻っていった.リサーチフェローというのはこういった方式を採る人が多いのだろうか? 1年に数回中国の大学に行ってはワークショップをして「学生にあることないこと教えてくる」と言っていた.日本でも聞いたことがないだけでありうるスタイルなのだろうか.

2. 授業・プロジェクト

2年次の Reduxというよりものづくりに傾倒したプロジェクトと 3年次の Brand Xというブランディングのプロジェクトのどちらかをとるとよいとゴードン教授に薦められた.たまたま両方の講師にひとりずつお会いして簡単に話すことができ,2年次担当の方が「私はこの授業を受け持って 1年目だから 3年次のものに参加したほうがよいよ」と少々冗談めかして仰っていたのでそれに従うことにした.

Brand Xは 9月 23日(アイスブレイキングのために一週間費やした他の学生とは異なりこれが私にとっては最初の授業だった.少し遅い)に,マグリットの「これはパイプではない」をもじってナイキのロゴに「これはブランドではない 3」とキャプションをつけた挿絵で始まった.

プロジェクトの要件10年後くらいの人たちのために何かをブランディングする.3–4人のチームで作業するが,最終的に個人のプロダクトも含むこと.7チームなのでキリスト教の 7つの大罪をもとに始めてみよう.基本的にはこれだけである.ターゲットグループも関わるべき企業も使われるべきテクノロジーも何も指定されない.しかも 7つの大罪とはなんとも欧米に留学している風ではないか.私は感激したが,私のグループのチームメイトの誰ひとりとして自分自身をキリスト教徒であると考えていなかった.ベラルーシ出身のナターシャ,グラスゴー出身のウィル,イスラエル出身のアルマ,そして日本出身の計 4人チームである.私達の班は Sloth(怠惰)を割り振られた.7つの大罪ランキングでは(そもそも大罪の中にランクがあるということすら知らなかった)4位である.

最初のミーティング4週間のプロジェクトであるしある程度じっくりと腰を落ち着けてどちらかというと巧遅なプロセスをとれるかと思っていた.比較的はやくに「情報」と「教育」というキーワードが挙がった.大学生の扱うテーマとしては少々大きすぎるしひねりが効いておらず個人的にはあまり嵌っている感触がなかったのだがここはグループワークであるしグラスゴーに入ったのでグラスゴーに従うことにした.

3 意図を汲み取るならば「これがブランドではない(ブランドはロゴデザインなどのことではない)」とすべきではあるが.

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ミーティングの作法の違いここでグループディスカッションでの興味深い日英の差異について簡単に触れてみたい.日本での理想的なグループワークの流れは乱暴にまとめると個々人がひとつひとつの案や思いつきを話し,それをきいたり話をつないだり膨らませたり疑問を挟んだりし,その中から時には自然に,時には意識的に大多数が面白いと思えたアイディアにしぼり,そこを新たな移動原点と捉えてまた話を膨らませる…という広げる→狭める→広げる→狭める→…流れの集合的アプローチである.自分のアイディ

アが優れていると感じている場合はまるで水に浮かぶ油の斑点を箸でゆっくりと動かすかのように柔らかく,ゆっくりと,しかし力強くガイドすることが望まれる.そうしないとグループという油の斑点から孤立するし,カドが立ってしまうからである.学生が行うグループワークは基本的に訓練であり,高々スポンサー企業への初歩的な提案にすぎない.提案物の質や自らの表現欲以前に「みんな仲良く楽しく」デザインすることのほうが優先されるのは自然だしより成熟したプロセスだと言える.それに対しどうも外国 4では,特に男性は,こういったグループワークにおいて流れを強く自ら

の考える方向に引き寄せる傾向があるように思う.日本ではこの傾向があまり強くないように感じる.リーダーシップとは異質のものである.発言の質よりも声の大きさが優先されるアメリカタイプで,確かに一理あるのだがやり方を工夫せねば大変にカドが立つ.トルコからの留学生が「私の国ではミーティングは日本でのようにうまくはゆかない,大抵誰

かが無理なオペレーションをして誰かが泣く」と言っていたこと,またフランスと GSAに半年ずつ留学した方が「フランスではミーティングはよく崩壊する,グループワークをしていたと思ったら次週には完全に個人プロジェクトに移行しているグループがあったりする」と教えてくれたことを思い合わせると日本のみんな仲良しホモジニアスなアプローチは大変にやりやすいように思う.というのも私はあまり後先考えず発言してしまうタイプで,幾度となくチームメイトがフォローして何とか滑らかに会議を進行させてくれていたことに,そのサポートを異国で失って初めて気付いた.これは改めるべきである.ことの成り行きはこうである.ミーティングの進行はアルマが私と同様にかなり急進的な「知識・知恵・記憶を外部に委託す

る」派で,ナターシャとウィルはどちらかというと既存のシステム・サービスに準じたものに魅力を感じているようであった.ディスカッションを開始してから 2時間ほどで数分中座し戻るとどうも様子がおかしい.中座する直前に Rosetta Stoneに代表される「没入型 immersive」が話題にあがっていたのだが,没入型体験式拡張現実 Augmented Reality教育ウェアラブルデバイスがいつの間にか最終的なアウトプットとして決定していたのである.そしてウィルが言うことには「10年後に売られる Google Glassのようなデバイスは高価なはずだ,だからリッチでヤングでプロな学生がターゲットだ」「没入型の体験は家で Glassを装着して歴史的な戦争の一部を体験するというものだ」と決定していた.前後関係もそう決定した理由もわからずひとつひとつの無理な想定について指摘していたら

「ではなにがいいと思うんだ,お前はさっきから人の批判ばかりしていて何も生み出していないではないか」という.確かにそれはそうだ.既に述べたように私は 4週間をバランスよく使うつもりだったのだ.

3. 自国のプロセスが主流であるという思い込み

ここに決定的な意識の違いがあったように思う.彼または彼らは巧遅よりも拙速を好み,まるで 1日で終了する超短期間ジョイントワークショップであるかのようなスピードで決定を急ぐ.これを事前に知っていればここまで互いのプロセスに違和感を感じずに進められたろうに.しかし時既に遅く,また私のまずい応答もありウィルは明らかに主導権を握ろうとしているのだとい

4 ここでは私がガイジンなので可能ならば避けたい言葉だが異邦,異邦人という意味である

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うことに気付いた.のらりくらりと抽象的なことをいう訳のわからないアジアの留学生はさておきとりあえず決めてしまおう,というのである.これは身に覚えのある話で,日本でも現地の学生は自らが主流であると感じているためプロセス,発想,知識,経験など基盤すべてが少しずつずれている留学生のアイディアをミーティングの最中にメインのものとして採用することは稀である.また中国での短期ワークショップに参加した千葉大学の学生も中国の学生を,確かにエネルギーはあるが「機能をたくさん詰め込めば勝ち」と思っている嫌いがあると評していた.彼らにはそれが主流・正義なのだろう.さらにフィンランドでのワークショップでも,日本人側が簡単に思いつき程度のアイディア,特に実現可能性はさしてないが発想を刺激するようなものをたくさん提案しても,現地の大学出身の学生に「そういうのはいいから現実的でありそうなものを作ろう」と誘導されるのが辛い,と漏らしていた人がいた.自分の慣れ親しんだプロセスを主流で正義,至高であると捉えているのは万国共通のようである.そういったわけで,ミーティングのゴールが自身のものと異なることに薄々気付いていながら私もまた自分の望む方向にグループという油の斑点を引っ張ろうとしていたことになる.私は批判ばかりしていたことを詫び,しかし AR(augmented reality)に限定するのだけは技術を方法としてではなく出発点としているからやめよう,と主張した.私たちの口論を見守っていたアルマもARを利用するのはあまりに短絡的だと思う,教育や情報をもとに明日までに考えてこよう,というところでミーティングは終了した.

1 週目プレゼンテーション当初は文字通り外部記憶装置を考えていた.脳の外部に海馬を拡張するような,情報のインプットとその整理・記憶を司る装置を設けこれから増えるであろう認知症の人はもちろん,若者にすら意味のある怠け lazinessだと思ったからだ.しかしこれはフィンランドでのワークショップで考えついたもので,没になった案である.自分で「欲しい」と思える水準にはあるが,それは「空を自由に飛べたらいいよね」というレベルの思いつきであり単純すぎ,基本的に万能装置はデザインしようとしないほうがよいと感じていたのでなにか他に怠惰を表しつつも誰かの生活をよりよくするブランディングはできないものかと考えていた.最終的にプレゼンテーション前日深夜に,ミーティングで雑談として何気なく取り上げていた「刑務所にいくために犯罪を犯すというのも徹底して怠惰ではある(けれど完全にその人の責任ではないのが面白い)」という話題を考えてみることにした.

England/Wales

Scotland

Italy

Japan

Belgium

Norway

[out of 100,000]

英国は日本やノルウェーに比べて人口あたりで 2.5倍ほどの受刑者を抱える.数値にすると約140人 /100,000と 65人 /100,000である.英国は欧州連合諸国の中でも比較的高い 5.ただ米国は700人 /100,000であるため段違いに多い.

5 http://news.bbc.co.uk/1/shared/spl/hi/uk/06/prisons/html/nn1page1.stm より.日英比較は http://www.nationmaster.com/compare/Japan/United-Kingdom/Crime

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しかも英国ではその伸びが著しい.

13

2 ScotlandThe Scottish Government publishes a statistical bulletin on Scottish prison statistics as part of a series of bulletins on aspects of the criminal justice system. Prison Statistics Scotland, 2011/12 was published in June 2012 and provides detailed statistics on the Scottish prison population.

The number of people in Scottish prisons passed 8,000 for the first time in August 2008 and reached its record level of 8,420 on 8 March 2012.3

Chart 11 shows the change in the average daily prison population in Scotland since the beginning of the 20th century. It shows noticeable declines during the periods around World War I and II followed by substantial increases in the 1950s/1960s and since the 1990s.

In 2011/12, the average daily population in Scottish prisons totalled 8,178, the highest average annual level ever recorded and an increase of 4% when compared with the previous year.

The female prison population was 468, 5.7% of the total, an increase of 8% on the previous year. Over the ten year period, 2002/03 – 2011/12, the average daily female prison population has increased by 66%. The comparative increase amongst the male population is 25%

The average population of sentenced young offenders was 534 in 2011/12, a reduction of 7% on the previous year. Sentenced young offenders comprise 7% of the total population.

The number of long-term adult prisoners, those sentenced to four years or more, including life sentences, increased by 2.5% to 2,326 in 2011/12. The number of short-term adult prisoners, those sentenced to less than four years (excluding fine defaulters) increased by 6% to 3,007 in 2011/12.

3 Communications Department, Scottish Prison Service Headquarters

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

6,000

7,000

8,000

9,000

1900 1905 1910 1915 1920 1925 1930 1935 1940 1945 1950 1955 1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 00/01 05/062010/11

Chart 10 - Prison population, Scotland, 1900-2011/12

Source: Prison Statistics Scotland, 2011/12, Scottish Government

2023

人口増加率を考えるとこの伸びは異様である.

なぜ犯罪そのものはよこばいなのに受刑者は増えるのか?原因のひとつに累犯率の高さにあるようだ.

of those sentenced in England and Wales had offended before

6

6 http://www.bbc.co.uk/news/uk-18188610 Reo�ending rates reach record level.

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ただしこれはどうも不確定のデータだ.Wikipediaの Recidivismのページ 7によると “As reported on BBC Radio 4 on 2 September 2005, the recidivism rates for released prisoners in the United States of America is 60% compared with 50% in the United Kingdom. ”とあるし,

こんなデータがあるかと思えば

こういうデータもある.一方

という人もいる.8純粋に検証不足なためもう少し調べてみようと思う.とにかく,次図において左のカリフォルニアの刑務所から右のノルウェーの刑務所にできるような何かの策をブランディングを通してできないか?と考えた.

これは日本人が考えるほど実現困難なアイディアではないと思う.日本と違って民間によって運営される刑務所はアメリカをはじめとして英国でもかなり盛んに行われつつある.9懲罰よりも社会復帰を目的とした刑務所は受刑させるだけでなく教育機関としてすら捉えられる.日本でも刑務所発のブランドがあることをご存じの方も多いかもしれない.

7 http://en.wikipedia.org/wiki/Recidivism8 http://www.thenorthernecho.co.uk/news/10240910.Reo�ending_rates_show__revolving_door__community_sentences_not_working__critics_say/9 http://www.rui.jp/ruinet.html?i=200&c=400&m=240603 増加する民間刑務所ビジネス.

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刑務作業により自らの「食い扶持を稼ぐ」ことができれば,それはもう殆ど社会復帰したと言えるのではないか?つまり刑務所をひとつの立派な経済的コミュニティとして扱えるのではないか?外界との接触が制限・監視されているため試験問題用紙は刑務所で印刷されるというが,同様にその強みを活かしてデータ管理や,「悪い諸君」であった頃の経験を活かして警備保障会社と連携するなど色々と特殊な強みがあると考えた.教員への受けはあまりよくなかった.まず「その案は他の人と話している過程で生まれたもの

か?」と訊かれた.これは鋭い指摘で,私の班は前述のいざこざもありあまり活発に話し合いしていたわけではなかったからだ.しかしこの刑務所の案に限って言えば雑談の中から生まれたものであり,1人ではたどり着けなかったたぐいのものだ.彼は続けて「他の案との粒が揃っていない」といった趣旨のことを指摘した.たしかにそれはそうで,他のメンバーはかなり身近な引きこもり対策だったりボディランゲージを教えるサービスだったり試着するシステムだったりを提案していた.これらはひとつのブランドでくくることができても刑務所の案は風呂敷の広げ方が違う.既存の公共の仕組みに大きく関わるため確かに動かしづらい大きな問題を扱った夢物語とも言える.しかし私はそういった「大きすぎるがコンセプトは悪くない」ところから自分の扱える規模にまで彫刻する方法を好む.小さくするのは簡単である.私に言わせれば他メンバーによるアイディアもリンクさせようがない 10のだが.ある程度悩んで辿り着いたアイディアだったので「異国だしまあこんなものか」程度に思って

いたが,あまり満足していない様子が伝わっていたのか GSA出身の他のチームの人が「君の刑務所の案面白かったよ」と慰めに来てくれた.「あの教員は現実的な案が好みだ,私も以前少し突飛だが面白いアイディアを持って行ったら単に“んー,No”という感じだったから」と.エスキースで教員側の好みによって色々と評価や気にするポイントが違うのに一喜一憂するのは学部での建築意匠のスタジオ授業を思い出させる.人間は評価を吸収する生き物らしい.11より経験を積んだ人間からの評価は重みが違い,それによるダメージを和らげるために同じ水準の人(学生)とその評価法そのものを評価しあうことで緊張を解いているように見受けられる.

4. 生活

持ってきたほうが良かったもの耳栓.トラベル用に売っているものではなく最高と名高いMoldex社のものを英国で購入した

が,日本では少々値は張るものの複数種の詰め合わせなどが売られており個人差の大きい耳腔形状にあったものを選べただろうにと悔やまれる.環境音そのものが非常にうるさく,ときたま行

10 厳密には,むりやりであればリンクさせられる(世界に無関係なものは存在しない)が,する意義がない.11 私の思いつきではなく中井久夫によるもの.

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われる近隣のパーティ対策にも必要だった.紙.デザインマネジメント研究室に所属している身としては俄に信じがたかったが,コピー用

紙すら学生には提供されていない.ペンもパソコンもポストイットもホワイトボードもなく,あるのはただ大きめの机と廃棄前の白いダンボールで,これに色々と書いていく.これが英国の私立美術大学の標準なのだろうか.A3のカラープリントは 1枚 70ペンス(100円以上!)工房を使うのも有料であるらしい.12

そして自転車とその用品である.以下に理由を示す.

5. 自転車 

自転車は日本から持ってくればよかったと悔やむ.決して非現実的な案ではない.用品いれて15kg程度のロードバイクを適度に分解して大きめのスーツケースに積み込めば行き帰りで 12000円程度,その隙間に食材などを詰め込めば重さ大きさ共にリーズナブルではないか.ここでふたつの疑問を持つだろう.1˚ その運送コストでそこそこのクォリティのバイクを現地で購入すればよいのではないか? 2˚ 果たしてグラスゴーで自転車は有効で可能 viableな選択なのか?まずはグラスゴーでの自転車購入について述べる.イギリスにママチャリに相当する自転車は存在しない.あるのは次の 3種類である.i. £500くらいからの高級でスポーティな新品自転車.1年以内の滞在のために購入する

のは厳しい.工業製品のコストに対するパフォーマンスが軒並み悪いイギリスで購入して日本に持ち帰るのもあまり賢いとはいえない.

ii. £40くらいからの中古自転車.果てしなくボロく重いもの,ピストのような Fixiesというギアがないタイプ(起伏に埋め尽くされたこの都市で Fixiesに乗る人がいるのだ),厚ぼったいマウンテンバイクなどが多い.肝心のロードバイク,クロスロードあたりは人気があるのか見当たらない.毎週の市場や中古自転車屋さん,Gumtreeという即決のみのローカルネットオークションなどを使うことになるだろう.Gumtreeは皆適当な出品をしているため不安である.

iii. £110くらいからのスーパーマーケットで買えるクロスロード.見た目だけの Look車のようで少々品質が不安である.こういうわけで,もし日本にお気に入りの自転車を持っている方であれば渡航時にスーツケー

スに入れて持って行ってしまうのがよいのではないか.次に 2 ˚について.英国は自転車先進国といわれているらしいが私はそうは感じない.常に緊

張を強いられる.自転車に乗る前に街ゆく自転車乗り達を観察していたがまず健康そうな人しか乗っていない.おばあちゃんや子どもはまず見ない.彼らが自転車に乗って移動することを想定していない.路側帯はなく自転車は明確に自動車の一員である.日本において,大きめの交差点で右に曲がりたいときに右折専用レーンに 車:自転車:車 というふうに並んだらそれはかなり変な行動(違法)である.だが英国では基本的にそうしなければならない.これは非常に怖い.路側帯や歩道を走っても,道路の右側を逆走しても,一方通行の道を逆走してしまっても基本的に怒られない日本は自転車の天国であると気付いた 13.唯一日本が明確に遅れをとっているラウンドアバウトの導入も,グラスゴーではまずお目にかかることがない. また街路がそもそも自転車にやさしくない.マンハッタン・京都的な碁盤目状のグリッドを走る時が最も良くない.おそらく自動車にスピードを出させないためにわざと設定しているのであろうが赤信号にひっかかる回数が日本とは比較にならないほど多い.英国では十字交差点において一方の方向が青になったときに同じ方向の横断歩道が青にならない.その代わり横断歩道が青になる時は全ての横断歩道が青になる.歩車分離を徹底させたもので良し悪しであろうか 14,私は歩行者車両共に青である時間が長い日本方式が圧倒的に優れていると思う.次の図でもわかるように日本は車の数に比しても英国より交通事故の死者数はわずかながら少ない.

12 粗末な設備の代償か授業は非常に面白い.13 甘やかされすぎで,最近取り締まりをきつくしようとしているのは正しいと思う.しかし英国は模範でないと思う.14 http://red.zero.jp/toinaosu/kaiho/50hase.pdf

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一般に自動車のマナーは悪くないがタクシーは例外で,危険な幅寄せ,対向車線からクラクションを鳴らしながら猛スピードで突っ込んでくる,パッシングの後罵ってくる,T字路で左折しようとして歩行者が行方を遮ると「車に道を譲れ」と怒鳴ってくる 15など生命の危険を感じるレベルの最悪の運転をしてくる.自転車乗り cyclistsが嫌いなのは理解できるが自分たちが速度,運動量の点で圧倒的に強者であることを自覚してほしい.16

他にも多すぎる一方通行道路やグラスゴー特有の殺人的な起伏,堅牢なチェーンをかけていても盗まれる治安,雨が多いのに露天の駐輪ポールなど決して完璧でない環境である.そのためか,かなり良心的な量の駐輪所が街のあちこちにあるのに日本の街中でみかけるような自転車の佃煮状態に出会うことはない.自転車はポピュラーな交通手段ではない.それでも私は自転車は選択肢の一つとしてありと思う.バスは高く英語が通じず遅くまともな

路線がなく 9時 5時の定時は 5分に一本あるがそれ以降は一気に 1時間に 2本まで減り,たった一種類の路線バスがとまるはずのバス停で何人待っていようと手を横に突き出して「停まってくれ,私はあなたのバスに乗りたい」という意思表示をしない限り停まってくれないしアナウンスも電光掲示もないので降りるバス停は慣れるまでは勘と運に頼る.これが英国である.地下鉄は高くろくなところにとまらない.歩くのは楽しいがやはり Skyparkは遠い.

6. エディンバラ旅行

誘われてエディンバラに日帰りで行ってきた.グラスゴーの駅で電車を待っていたら隣のホテルでボヤがでたらしく何故か殆ど関係ないであろう駅構内の飲食店が次々営業を中止した.電車はディーゼルで運賃は安い.窓が大きく大変見晴らしがよく牛や羊を眺めて過ごす.向かい合わせの席の間に固定テーブルを置く配置でゆったりしている.自転車は日本のように解体してバッグに詰め込む必要はなく引っ掛けておくハンガーが設置されている.これは大変うらやましい.

15 そうなのか,英国では日本とルールが違うのかと思い,違和感は覚えたもののその場は「本当か,信じられないが教えてくれてありがとう」と言ってやり過ごした.後日調べてみたがやはりそんなことはなかった.歩行者優先である https://www.gov.uk/using-the-road-159-to-203/road-junctions-170-to-183

16 探してみるとかなりある.例えば http://www.youtube.com/watch?v=e2cwJXNKJIg タクシーではないが http://www.youtube.com/watch?v=WGLhi_UhuMw 正直なところこの仕組みは無理があると思う.

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Arthur's Seatという切り立った岩,というか山に登る.

美しい場所であったが自殺の名所でもあるらしくバラを持って山を登る夫婦や献花を見かけた.

下:人が歩いた動線が自然に道となっている.最短距離ではないように思うが一度そこにわずかでも道があると考えるや人間はそこを歩く習性があるようだ.効率改善より安心を選ぶということだろうか?水は低きに流る.

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左上:なんということのない道だがどうも英国の空気と太陽光の質は特徴的な気がする.青をよく通し 100m程度でチンダル現象的ななにかで空気が青白く濁る気がする.イタリアの美しい光線ともまた違った質と思う.まだ観察不足なためこれからも気をつけて見てみたい.右上:セントジャイルズ大聖堂の椅子.建築的には教会建築に無知なため特に惹かれなかったが椅子は今まで見てきた椅子の中でももっとも美しいとおもった.左下:Arthur's Seatは登山道が大してないので最短距離で帰りたければ道無き道をゆく必要がある.一見危険だが自分たちが最もよく「怖がる」ので神経を張り詰めており見た目よりすんなりと降りることができる.右下:エディンバラはグラスゴーよりも日光が強くまたよく晴れるらしい.より一般的なヨーロッパの都市に感じる.

7 . 「英語がお上手ね」

最後に英語について述べて終わりたい.予想していたがやはり英語でのディスカッションは疲れる.英語で話し,聞き,応対することは殆ど苦ではない.苦なのは英語で考えるか日本語で考えるかのスイッチングが多いときである.これは 1人で考えているときでも同じで,ノート・メモを英語でとると思考も英語になる.基本的に人間は思考は母国語で行うことになるが,英語のエンジンが隣でフル回転している脇で日本語で静かに考えるのは難しい.英語のエンジンの回転エネルギーに任せて少々強引に英語で思考するか,英語エンジンは停止させて新たに日本語エンジンを始動させるかの 2択になる.前者を用いて「最近世界中で高齢化が進んでいる」ということを考えるのは可能だが「10年後の技術・社会的背景を見越して更に都市化の進んだスコットランド都市部での記憶の取り扱いについて」を考えるのは困難を伴う.厄介なのは不可能ではない点である.つい英語エンジンで難しい問題を考え始めると,気づくと空転しているのである.その問題について考えていたつもりだったのに本当は頭が真っ白になってぼんやりとしている.この状態に陥った時に現在有効な対処法は唯一,急いで日本語を沢山吸収することだ.これ以外でこのぼんやりから抜け出せたことはない.時間をかけても無駄だった.帰国する頃には英語エンジンで全て走破できるとよいのだが.現在このハイブリッドエンジンは開発途上にある.私の個人的な留学前後での目標のひとつはなるべく「英語がお上手ね your English is very

good」と言われなくなる英語力,言い換えると「議論・口論に勝てる英語」を身に付けること,だ.何を贅沢な,と思われるかもしれないが私はこれを赤ちゃんの「あんよ」に相当するものと位置づけている.「(赤ちゃんにしては)あんよがお上手ね」と同じ水準で「(英語が喋れないアジア人にしては)英語がお上手ね」と褒められるということはつまり彼らと同じ土俵にすら立ち入らせてもらえていないことの証左である.本当に彼らと同じ土俵上に到達したならば完璧に日本語を使いこなす来日人に私たちが接する際と同様に言語能力に言及されなくなるはずである.9月の「あんよカウント」は 4である 17.

17 隣人のベン,リサーチフェローのプリシラ,客員研究員のマテオ,ナターシャ