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道央地区血液研修会道央地区血液研修会
2010年4月21日
苫小牧市立病院
佐々木 洋
末梢血/骨髄像から
推測する血液疾患
血液疾患
• 造血器の一時的な異常によって起こった血液学的異常を呼ぶ
• 鉄欠乏、ビタミンB12欠乏、葉酸欠乏のように主因が造血器以外にあっても、血球系が主たる異常として現れるてくる病態も含む
• 診断は定型例で容易であるが、部分症状として血液異常が前景に出ている場合や他疾患を思わせる症状がある場合の診断は難しい
患者の状態
• 既往歴
• 家族歴
• 現病歴
• 居住歴
• 職業歴
出来るだけ情報を確認する必要がある
末梢血検査、生化学検査データ
病状を時々刻々と血液検査でフォロー
診断・治療
問診
• 出血傾向 鼻血、歯茎出血、血尿、下血
• 貧血 便の色、偏食の有無、妊娠
• リンパ節腫脹 いつから、大きさ、痛み
• 発熱 発熱の周期性、悪寒、咳、痰
• その他 神経症状、視力障害
• 家族歴 ATL、溶血性貧血
• 既往歴 薬剤、化粧品、手術歴
汎血球減少症(Pancytopenia)とは全ての細胞系が
減少している状態で白血球減少、貧血、血小板減少の同時存在を言う。ヘモグロビン値:男性13g/dl、女性:12g/dl未満、白血球数4,000/ μl未満、血小板数10万/ μl未満
血球減少症の定義
骨髄における血球産生の低下 ①多能性造血幹細胞の腫瘍化、減少によるもの 再生不良性貧血 発作性夜間血色素尿症(PNH)
急性前骨髄性白血病 低形成性急性白血病 ②無効造血によるもの 巨赤芽球性貧血 ビタミンB12欠乏症 葉酸欠乏性貧血 骨髄異形成症候群
末梢血、血球寿命の短縮によるもの ①各種の原因による脾機能亢進症 うつ血脾 感染脾 代謝異常による脾臓への異常物質の沈着
②他の減少 HPS SLE 薬剤性
診断に必要な検査
• 末梢血液検査(CBC)
• 生化学検査(LDH、UA)
• 細胞表面マーカー
• 染色体検査
• 遺伝子検査
• 超音波検査
• X線検査
• 血液像検査
• 骨髄像検査
• 骨髄生検
• 血液凝固検査
• 免疫電気泳動
• 骨髄統計提示
• 末梢血液像/骨髄像での疾患推測
• 当院のコメント提示(参考)
末梢血液/骨髄コメント報告の考え方
コメントによって診療Drが、数値データや細胞分類の
理解が深まる内容であることが大切
疾患を証明する形態所見の当院書き方
0
5
10
15
20
25
30
35
40
45
20歳代 40歳代 60歳代 80歳代
骨髄検査の年齢
高齢者おける血液データの考え方
• 感染症、循環器疾患、腎、肝疾患、糖尿病などの合併症が多い(50%)
• 白血球は増加しない非定型例が多い
• 背景細胞に形態異常を伴うものが多い
• 予後不良染色体異常が多い
• 薬剤耐性遺伝子の出現頻度が高い
高齢者における造血器悪性腫瘍の特徴
マルク疾患別割合 219例
ALL
2%
Lymphoma
11%
MM
4%
WMG
1%
MDS
12%
AML
6% CML
2%
CLL
1%
PV
2%
ET
2%
AA
9%
B19
1% TTP
1%
MegAnemia
2%
ITP
16%
DIC
2%鉄芽球性貧血
1%
HPS
2%
感染症、SLE他
25%
小児を除く
2004~2006
腫瘍性疾患(骨髄に異常証明)
血液疾患を予測し行った219例の骨髄穿刺検査中、腫瘍細胞を証明できた症例は31%であった
AA、免疫や感染症が原因とされる血球減
少(汎血球減少も含む)も同数認められた
CBC測定値に異常があって骨髄検査を行っても必ず
しも悪性細胞、形態異常が見つからない!
単なる失血? 産生不良? 免疫的細胞破壊?
脾臓が腫れてないか?
CBCから造血器腫瘍の予測
• 2007年1月~10月のマルク実施125件中の白血病とMDSデータを対象とし、CBC値、末
梢血液像所見を抽出した。
• 白血病とMDS患者は21症例で、悪性リンパ腫(ML)、小児白血病は含めないこととした。
t(8;21)M2 M2 ALL ALL CML CLL CLL
近医にて肺炎、インフルエンザが治らないため治療目的にて紹介
地元医院にて狭心症で通院中、倦怠感、労作時呼吸苦、胸部圧迫痛あり精査紹介
腹痛にて救急外来受診 首周りの腫脹、CBCにてWBC増加あり精査
近医DMで通院中、心窩部、背部痛で当院紹介
当院通院中にWBC、PLTが増加し精査
近医呼吸器科COPDにて通院中、慢性的WBC増加があり精査紹介
近医で原因不明の下肢むくみ発症。精査目的にて紹介
AML-MD AML-MD AML-Thera AML-MD AML-MD AML-MD AML-MD RAEB1 MDS(RCMD)
食欲不振、咳ソウで近医より紹介
当院消化器通院中、Bicytopenia出現にて精査
当院循環器科受診、定期検査CBCで汎血球減少、精査
膀胱癌治療歴
発熱、食欲不振で当院内科紹介
扁桃腺炎、蜂巣織炎を年末発症、近医受診で汎血球減少が判明。精査目的で紹介
胸痛、倦怠感にて循環器受診。汎血球減少精査
近医内科より皮下出血精査目的で紹介
ふらつき、眩うん、出血で消化器受診。血球減少精査。
発熱、右側背部痛、食欲不振にて近医受診。CBCにて汎血球減少、薬剤変更しても改善されない精査、紹介
ATL ATL ATL ATL ATL
脳出血リハビリ中、鼠径部腫脹3~5cmあり紹介
皮疹、右鼠径腫脹
歯科受診中右頚部腫脹右頚部リンパ節腫脹指摘、精査
DLBCL寛解にて退院後当院紹介。頚部腫脹・疼痛発症にて精査
当院、DM外来通院中に核不整リンパ球を検出し、精査
t(8;21) t(7;11) Ph Ph
provirus provirus 病理診断未
未 未
+8、他 +1、他
複雑
無 無+11、他複雑
+16
未無 無
-Y
染色体異常 2007年1月~10月
t8;21M2 M2 ALL ALL CML CLL CLL
WBC 4600 2400 133600 4200 16400 21000 12500
Hgb(g/dl) 9.0 10.0 13.5 15.0 12.2 13.4 13.8
MCV (fl) 96.1 97.6 87.5 89.0 91.0 99.0 101.0
RDW (%) 16.8 13.8 13.6 12.3 15.5 14.9 13.5
PLT x104 27.6 4.7 11.5 3.4 106.9 31.8 16.2
LDH (IU/L) 234 159 588 198 181 451 165
AML-MD AML-MD AML-The AML-MD AML-MD AML-MD AML-MD RAEB1 RCMD
WBC 2600 27000 2900 670 1100 2200 2600 6500 17850
Hgb(g/dl) 8.6 8.8 7.1 8.1 6.3 8.6 9.4 8.7 6.8
MCV (fl) 118.0 79.1 97.0 81.0 110.0 94.3 94.0 104.0 92.0
RDW (%) 15.6 26.8 15.1 15.2 15.1 15.3 17.8 16.3 16.8
PLT x104 0.8 3.3 6.3 3.5 6.4 5.8 3.4 3.2 4.6
LDH (IU/L) 198 311 152 102 N 382 250 221 760
ATL ATL ATL ATL ATL
5900 11890
478
94.0
14.1
21.4
173
13.8
92.3
13.1
25.8
252
WBC 3700 23700 3440
Hgb(g/dl) 11.1 10.0 7.4
MCV (fl) 104.0 86.4 99.0
RDW (%) 18.0 15.4 20.1
PLT x104 18.6 34.4 25.6
LDH (IU/L) 176 333 182
疾患とCBC値2007年1月~10月
高値
t8;21M2 M2 ALL ALL CML CLL CLL
WBC 4600 2400 133600 4200 16400 21000 12500
Hgb(g/dl) 9.0 10.0 13.5 15.0 12.2 13.4 13.8
MCV (fl) 96.1 97.6 87.5 89.0 91.0 99.0 101.0
RDW (%) 16.8 13.8 13.6 12.3 15.5 14.9 13.5
PLT x104 27.6 4.7 11.5 3.4 106.9 31.8 16.2
LDH (IU/L) 234 159 588 198 181 451 165
AML-MD AML-MD AML-The AML-MD AML-MD AML-MD AML-MD RAEB1 RCMD
WBC 2600 27000 2900 670 1100 2200 2600 6500 17850
Hgb(g/dl) 8.6 8.8 7.1 8.1 6.3 8.6 9.4 8.7 6.8
MCV (fl) 118.0 79.1 97.0 81.0 110.0 94.3 94.0 104.0 92.0
RDW (%) 15.6 26.8 15.1 15.2 15.1 15.3 17.8 16.3 16.8
PLT x104 0.8 3.3 6.3 3.5 6.4 5.8 3.4 3.2 4.6
LDH (IU/L) 198 311 152 102 N 382 250 221 760
ATL ATL ATL ATL ATL
5900 11890
478
94.0
14.1
21.4
173
13.8
92.3
13.1
25.8
252
WBC 3700 23700 3440
Hgb(g/dl) 11.1 10.0 7.4
MCV (fl) 104.0 86.4 99.0
RDW (%) 18 15.4 20.1
PLT x104 18.6 34.4 25.6
LDH (IU/L) 176 333 182
疾患とCBC値2007年1月~10月
低値
t8;21M2 M2 ALL ALL CML CLL CLL ATL ATL ATL ATL ATL
大小不同 + + + +
0.5
奇形赤血球
破砕赤血球
赤芽球 1
好中球減少 + +
左方移動 + + +
リンパ球減少
腫瘍細胞(%) 2 10 65 0 0 39 80 2.5 5 7 8.5
異形成
好塩基球増加 17
AML-MD AML-MD AML-Thera AML-MD AML-MD AML-MD AML-MD RAEB1 RCMD
大小不同 + + + + + + +
奇形赤血球 + +
破砕赤血球 +
赤芽球 4 25 15
好中球減少 + + + + + + +
左方移動 + + +
リンパ球減少 +
腫瘍細胞(%) 0.5 65 44 0 13(アウエル) 1 5(アウエル) 0 0
+ 脱顆粒 + 脱顆粒 +顆粒消失 +顆粒消失 +顆粒消失
+巨大PLT +巨大PLT +巨大PLT 異形成
末梢血液像形態の特徴 2007年1月~10月
データの解析
• M2~ATLにおいては、腫瘍細胞の検出(WBCの増加、CMLは好塩基球、血小板増加)にかかっている。
• AML-MD、MDS(RCMD)群で好中球減少、貧血、血小板減少があり、特にRDWは全てで高値であった。
• AML-MD~MDS群の形態異常としては、好中球顆粒減少の出現頻度が高く、巨大血小板出現も併せた場合は、高頻度に疾患推測が可能と考えられた。
白血病/MDSの全てをCBCから推測するのは無理であるが、MCV、RDWの数値の異常頻度は高かった。
末梢血液像から得られる異形成や芽球出現は直接診断に結びつくが半数レベルの出現であり、両所見を上手く活用し見逃しを最小にする必要がある。
症例と骨髄所見
症例
• 79歳 男性
• 貧血、血小板減少精査
WBC 4700 St 12% T-bil 0.5
RBC 241万 Seg 43.5% AST
ALT
LDH
BUN
Myelo 1.5% CRE 0.4
CRP
46
Hgb 8.4g Lym 35.5% 31
Ht 25.4% Mono 6.0% 201
PLT 2.4万 Aty-Lym 1% 21.9
Blast 0.5% 16.5
末梢血液像所見
• WBC形態は、好中球に軽度の左方移動を認め、好中球に①脱顆粒、②核過分葉異常を認めます。
• RBC形態は、大小不同、奇形細胞をの貧血所見を認めますが、網状赤血球%の増加が無いことから無効造血等の産生不良が推測されます。
• PLT形態では巨大細胞が散見され、形態異常を精査する必要があると思われます。
骨髄検査
• NCC 6.1万/μl• Mgk 64/μl
顆粒球系細胞 59.9% 赤芽球系細胞 15.4% M/E 比 3.9
単球 1.8% リンパ球 15.6% 形質細胞
芽球
5.0%
マクロファージ 1.4% 細網細胞 0.8% 10.0%
カウント数 601細胞
末梢血混入あり コメント
骨髄 X400
骨髄所見
• 末梢血混入がありましたが、細胞密度は低形成骨髄でMgk数も減少傾向です。
• 【Mgk形態】観察13細胞では、前Mgk8%、成熟Mgk23%、ら核38%、異常Mgk31%(単核細胞)で、マイクロMgkは認めないものの異常細胞の出現がありました。
• 【Myeloid形態】大半の細胞が脱顆粒を示し、一部で核分葉異常、大型細胞の異常がありました。
• 芽球比率はANCで10%、造血細胞中では12.6%でした。• 【Erythroid形態】細胞減少があり、核不整、核融解像を認めます。核不
整細胞は52%を占め明瞭な異形成を示すものでした。• 低形成骨髄ではあるものの赤芽球系、骨髄球系細胞に明瞭な異形成が
認められることからMDSを示す所見と考えられます。10%以上の芽球比率を伴い、MDSの分類からはRAEBⅡが疑われます。
症例
• 16歳 男児
• 経過 ITP(小児科)として経過を診ていたが、貧血に加えLDH、ALP上昇を認めるようになり内科精査
• 既往歴 4歳の時、気管支喘息入院、HPS発症
2004年1月 2005年1月 2005年5月 2005年6月 2006年9月 2007年2月 2007年11月 2008年9月
CBC
WBC (/μl) 5700 4700 6600 5300 4600 3000 3900 3000
RBC(×104/ μl) 329 326 296 271 304 228 209 209
Hgb(g /dl) 11.8 11.7 12.0 10.7 11.7 8.6 7.9 7.9
Ht(%) 33.5 33.3 33.4 30.8 33.7 25.7 23.1 23.5
MCV(fl) 101.8 101.9 112.8 113.6 110.9 113.0 111 112
RDW(%) 15.7 15.3 16.6 17.1 16.2 17.7 15.5 15.8
chemistry
PLT(×104/ μl ) 4.3 4 2.4 3.3 3.7 2.1 2.0 2.5
LDH(IU/l) 224 180 192 208 221 183 194 197
ALP(IU/l) 369
BMA
NCC (×104/ μl) 26.9 32.8 26.9 34.8 33.8
Mgk 32 47 32 52 8
Blast(%) 1.2 1.0 5.6 5.6 5.8
赤芽球核不整% 5.5 15 27 28 17
脱顆粒 脱顆粒 脱顆粒
inv(9)
診断名 RA? RA RAEB RAEB RAEB
検査データ推移
骨髄検査 2005年2月
• NCC 26.9万/μl• Mgk 32/μl
顆粒球系細胞 43.0% 赤芽球系細胞 27.3% M/E 比 1.58
単球 2.1% リンパ球 23.1% 形質細胞 1.4%
マクロファージ 1.8% 細網細胞 0.2%
カウント数 811細胞
B-M持続した血球減少と赤芽球形態異常
骨髄所見
• 【Mgk形態】観察9細胞では、単核細胞11%、成熟Mgk56%、ら核33%で、異形成を示す細胞は認めませんでした。
• 【Myeloid形態】顆粒形成、核型の過分葉、細胞の大型化などの異常は認めずNormal形態と考えられました。
• 【Erythroid形態】貧血所見に伴うErythroidの過形成所見を認めました。形態異常所見は、①Megaloblastic Change ②核融解像36%で多少増加 ③赤芽球200細胞中、核不整=核突出像が5.5%、ハウエル小体細胞1.5%で異形成を疑う所見です。
• *MPO正常、PAS染色は赤芽球陰性でした。• PLT減少は、Mgk数の減少に伴うものと考えられますが、貧
血につきまして、赤芽球異形成?による無効造血の可能性も考えられます。
骨髄検査 2008年4月
• NCC 33.8万/μl• Mgk 8/μl
顆粒球系細胞 52.9% 赤芽球系細胞 29.5% M/E 比 1.80
単球 2.4% リンパ球 9.1% 形質細胞
幼若リンパ球
1.9%
マクロファージ 0.2% 細網細胞 0.7% 2.0%
カウント数 714細胞
3年後
骨髄所見
• 細胞密度は過形成骨髄で、Mgk分布は明瞭に減少しております。• 【Mgk形態】観察6細胞では、成熟Mgk66.7%、ら核16.7%、異常Mgk
16.7%(単核細胞)で、形態異常は認めませんでした。• 【Myeloid形態】核不整Blast、大型Metaの出現があり芽球比率は
ANC5.8%でした。• 【Erythroid形態】若干数にMegaloblastic changeを認め正染性赤芽球
の増加がありました。核不整細胞は17%であり、明瞭な異形成出現と考えられました。
• 【Lymphoid形態】幼若リンパ球(核網繊細、核小体不明瞭)が2.0%の頻度で認めました。
• 明瞭な無効造血の発症と赤芽球系、骨髄球系細胞に異形成を認めることから、MDS所見の可能が高く5%以上の芽球出現からRAEBが推測されました。
知識を得る努力
• 血液疾患/血液形態に対する知識と経験が必要
• 血液形態のみに偏らない最新の知識を得ることも必要
• 診療側とのコミュニケーション