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6 超短編小説は、中国で「小小説」、「微型小説」、 或いは「極短編小説」などと呼ばれ、Flash Fictionの直訳と言われている。「小小説」は元々 短編小説から枝分かれしてできた部分で、現代 の中国に暮らす人々の多忙な暮らしに順応して 発展してきた長さの短い小説なのである。「小 小説」は普通の小説と同様、場面、登場人物、 登場人物の心理、展開を重視し、優秀な「小小 説」の作者は、変化が少ないが情緒が深い、或 いは変化が多いけれども感動的な中編小説も書 けるのである。 中国の劇作家、エッセイスト、作家の汪曽祺 (1920~1997)は『小小説とは何か』の中で次 のように述べている。「短編小説の一般的な本 質を、小小説は備えていなければならない。小 小説と短編小説は本質的に似ているが、違いも ある。大まかに言って、短編小説は散文の成分 がより多く、小小説は詩の成分をより多くすべ きである。小小説は短編小説と詩が混じり合っ た新しい品種で、それは叙事詩のように広く大 きくてはいけないし、抒情詩のような音楽性に 及ばない。小小説は散文で書かれた、叙事詩よ りもっと自由でのびのびしている、抒情詩より もっと話の筋や流れを備えているものと言って もよい。小小説は散文詩ではない。なぜなら小 小説は結局のところ、やはり小説なのだから。」 小小説の起源は、短編小説の創始者と言われ、 三百編近い作品を残したO Henry(1862~1910) と言われている。わが国ではSF小説作家、星新 一(1926.9.6.~1997.12.30)がよく知られている。 中国の小小説の特徴は一つの場面、一組の対 比、一声の賛嘆、ほんの一瞬のうちに、生活を 捉え、新しい発想を表現する。小小説の顕著な 特徴は小、新、巧、奇である。 小:長さが短い、テーマも小さい。 新:作品の構想や着想が斬新で、清新な作風、 どの作品も現実生活に対する独特の見方が表れ ている。 巧:よく練られた、隙間のない構造。特に取 捨選択と構成力が重要で、時間、場所、人物を できるだけ圧縮、集中させる。 奇:目新しく巧みな、意表を突く結末。多く の優秀な小小説は常に意表を突く結末で、読者 に机をたたいて絶賛させる。 我が国同様、文学雑誌の売れ行き不振が続 く中国において、毎号六十万を超える読者が いて、文学系雑誌の発行部数のトップを走っ ているのが、河南省鄭州市から月に二度発行 されている『小小説選刊』(1984年創刊,定価三 元,ISSN1003-7918)だ。 2017年7月12日、第十六回『小小説選刊』優 秀作品賞授賞式が嵩山飯店で挙行された。『俗 世奇人新篇』で優秀作品賞を受賞した小小説の 名手、馮驥才はかつて2007年、鄭州小小説フォー ラムで小小説について、次のように語った。 「中国には小小説の歴史はこれまでなかった。 もちろん唐・宋伝奇、『聊斎志異』、魯迅の小説 から多くの小小説を証拠として選び取ることが できるが、これまで小小説を特殊な概念、特殊 な文学ジャンル、特殊な事業としたことはなく、 小小説をプロデュースして、ある程度の規模に まで作り上げ、しかも巨大な創作組織を育成し、 文壇中に注目され、当代文学の新しいジャンル にしたことは、大したものだ。それは当代文化 を建設する責任感のあるやり方だ。河南省鄭州 市は小小説の故郷だ。鄭州は小小説で中国当代 文学史に多大な貢献をした。鄭州の小小説は中 国文学の小小説、小小説も鄭州によってその名 を全国に馳せた。(中略)私は河南の文学界に このような見識、出版界の見識、編集者の見識 があり小小説を先頭に立って提唱し、長年にわ たり努力し続けていることに敬服する。鄭州は 小小説の方面で多大な貢献を成したのである。」 中国では『小小説選刊』を刊行している百花 園雑誌社総編集長であり、河南省作家協会副主 席である楊暁敏が小小説の提唱者その人と言わ れている。 かげやま たつや(非常勤講師・中国文学) 中国のほんの話(₇₈) 中国の人々に愛される超短編小説 蔭山達弥 中国のほんの話 78

中国の人々に愛される超短編小説 - KUFS超短編小説は、中国で「小小説」、「微型小説」、 或いは「極短編小説」などと呼ばれ、Flash Fictionの直訳と言われている。「小小説」は元々

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研究者と図書館

 超短編小説は、中国で「小小説」、「微型小説」、或いは「極短編小説」などと呼ばれ、Flash Fictionの直訳と言われている。「小小説」は元々短編小説から枝分かれしてできた部分で、現代の中国に暮らす人々の多忙な暮らしに順応して発展してきた長さの短い小説なのである。「小小説」は普通の小説と同様、場面、登場人物、登場人物の心理、展開を重視し、優秀な「小小説」の作者は、変化が少ないが情緒が深い、或いは変化が多いけれども感動的な中編小説も書けるのである。 中国の劇作家、エッセイスト、作家の汪曽祺(1920~1997)は『小小説とは何か』の中で次のように述べている。「短編小説の一般的な本質を、小小説は備えていなければならない。小小説と短編小説は本質的に似ているが、違いもある。大まかに言って、短編小説は散文の成分がより多く、小小説は詩の成分をより多くすべきである。小小説は短編小説と詩が混じり合った新しい品種で、それは叙事詩のように広く大きくてはいけないし、抒情詩のような音楽性に及ばない。小小説は散文で書かれた、叙事詩よりもっと自由でのびのびしている、抒情詩よりもっと話の筋や流れを備えているものと言ってもよい。小小説は散文詩ではない。なぜなら小小説は結局のところ、やはり小説なのだから。」 小小説の起源は、短編小説の創始者と言われ、三百編近い作品を残したO Henry(1862~1910)と言われている。わが国ではSF小説作家、星新一(1926.9.6.~1997.12.30)がよく知られている。 中国の小小説の特徴は一つの場面、一組の対比、一声の賛嘆、ほんの一瞬のうちに、生活を捉え、新しい発想を表現する。小小説の顕著な特徴は小、新、巧、奇である。 小:長さが短い、テーマも小さい。 新:作品の構想や着想が斬新で、清新な作風、どの作品も現実生活に対する独特の見方が表れている。  巧:よく練られた、隙間のない構造。特に取捨選択と構成力が重要で、時間、場所、人物をできるだけ圧縮、集中させる。 奇:目新しく巧みな、意表を突く結末。多く

の優秀な小小説は常に意表を突く結末で、読者に机をたたいて絶賛させる。 我が国同様、文学雑誌の売れ行き不振が続く中国において、毎号六十万を超える読者がいて、文学系雑誌の発行部数のトップを走っているのが、河南省鄭州市から月に二度発行されている『小小説選刊』(1984年創刊,定価三元,ISSN1003-7918)だ。 2017年7月12日、第十六回『小小説選刊』優秀作品賞授賞式が嵩山飯店で挙行された。『俗世奇人新篇』で優秀作品賞を受賞した小小説の名手、馮驥才はかつて2007年、鄭州小小説フォーラムで小小説について、次のように語った。 「中国には小小説の歴史はこれまでなかった。もちろん唐・宋伝奇、『聊斎志異』、魯迅の小説から多くの小小説を証拠として選び取ることができるが、これまで小小説を特殊な概念、特殊な文学ジャンル、特殊な事業としたことはなく、小小説をプロデュースして、ある程度の規模にまで作り上げ、しかも巨大な創作組織を育成し、文壇中に注目され、当代文学の新しいジャンルにしたことは、大したものだ。それは当代文化を建設する責任感のあるやり方だ。河南省鄭州市は小小説の故郷だ。鄭州は小小説で中国当代文学史に多大な貢献をした。鄭州の小小説は中国文学の小小説、小小説も鄭州によってその名を全国に馳せた。(中略)私は河南の文学界にこのような見識、出版界の見識、編集者の見識があり小小説を先頭に立って提唱し、長年にわたり努力し続けていることに敬服する。鄭州は小小説の方面で多大な貢献を成したのである。」 中国では『小小説選刊』を刊行している百花園雑誌社総編集長であり、河南省作家協会副主席である楊暁敏が小小説の提唱者その人と言われている。

かげやま たつや(非常勤講師・中国文学)

中国のほんの話(₇₈)

中国の人々に愛される超短編小説蔭山達弥

中国のほんの話 78