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第 1章 ● 服薬管理の問題
498-229161
高齢者の服薬管理の問題
中館先生 認知症診療では服薬管理は重要な問題だと思います.まず認
知症を合併した高齢者の服薬管理の問題点から議論を進めていきたいと
思います.海老手先生からお話をお願いします.
海老手先生 認知症介護を行っている家族の多くは,認知症が軽い段
階では患者だけで服薬管理ができると考えていることが多いようで
す. 図 1 は,私の外来で抗認知症薬のリバスチグミンを開始する際,
対象患者が初診の時点でどのくらい手段的日常生活動作が自立している
のかを検討した結果です.軽微群は MMSE で 24 点以上を獲得した患
者群ですが,きちんとひとりで服薬をできる頻度は男性で 62.5%,女
性で 61.9%でした.つまり 3 人に 2 人は本人のみで服薬管理ができる
のですが,ひとりは前もって飲む薬が用意されていれば服薬ができる,
あるいはひとりで服薬をすることができないのです.認知症が軽微,軽
度の段階から家族あるいは周囲の人々が服薬介助やその管理に関与する
ことが求められる結果といえます.
高齢者では多種類の薬剤を処方されている,つまりポリファーマシー(多
剤併用)がしばしば問題視されていますが,このポリファーマシーの実
情について解説をお願いします.
現在,ポリファーマシーについて厳密な定義はないようですが,一般的
background vector created by starline - www.freepik.com服薬管理の問題
第1章
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には 5 種類あるいは 6 種類以上を服薬している場合にそのようによぶ
ようです.厚生労働省が公表している「2017 年社会医療診療行為別統
電話の使い方
38.5
47.2
76
買物
57.758.3
75
食事の支度 家事 洗濯 移動外出
38.5
55.650
服薬管理
23.1
33.3
62.5
金銭管理
23.1
38.1
50
■ 軽微群(8) ■ 軽度群(36) ■ 中等度群(26) ■ 高度群(4)24点以上MMSE: 20~23点
A) リバスチグミンを開始したアルツハイマー型認知症 230名男性:76名 IADLで評価
13~19点 12点以下
0
20
40
60
80
100%
電話の使い方
38.5
9.1
46.7
61.9
35.4
13.6
55.6
76.2
23.1
9.1
26.7
42.9
35.4
13.6
37.8
61.966.2
27.3
73.3
95.2
13.69.1
28.9
66.7
24.6
13.6
42.2
61.9
20
37.8
47.6
買物 食事の支度 家事 洗濯 移動外出 服薬管理 金銭管理
■ 軽微群(21) ■ 軽度群(45) ■ 中等度群(65) ■ 高度群(22)24点以上MMSE: 20~23点 13~19点 12点以下
0
20
40
60
80
100% B) リバスチグミンを開始したアルツハイマー型認知症 230名
女性:154名 IADLで評価
図 1 重症度別にみた手段的日常生活動作の自立の割合
第 1章 ● 服薬管理の問題
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計の概況 -2.薬剤の使用状況」(2019 年 5 月 1 日閲覧)をみますと,
75 歳以上では院内処方で 20.5%,院外処方で 24.5%が 7 種類以上の
薬剤を処方されていることがわかります 図 2 .高齢者では多くの併存
疾患をもつことから処方される薬剤が多くなるのは避けられないかとは
思いますが,それでも 75 歳以上の高齢者 4,5 名にひとりは 7 種類以
上の薬剤を服薬していることになります.認知症患者に限定した統計は
ないようですが高齢認知症患者でも同様の傾向があると推測されます.
加賀利先生 高齢認知症患者では,身体疾患の治療薬を含めて多くの薬
剤を服薬していることが多いと思います. 図 3 は,私の外来を受診し
てきた初診認知症患者 493 名が服薬している薬剤の種類を検討した結
果です.6 種類以上の服薬をポリファーマシーと規定すると約 2 割の患
者がこれに該当しています.10 種類以上服薬している患者も 23 名い
ます.このように大量の薬剤が本当に必要なのか,服薬管理をどう進め
ていけばよいのかなど多くの課題があげられます.「クスリはリスクで
0~14歳0
20
40
60
80
100%
53.6
28.7
12.1
5.6
15~39歳
53.2
29.6
11.5
5.6
40~64歳
49.9
29.3
12.3
8.6
院内処方(入院外・投薬) 院外処方(薬局調剤)
65~74歳
45.9
29
13.8
11.4
75歳以上
37.1
26.3
16.2
20.5
0~14歳
39.9
32.1
17.7
10.2
15~39歳
44.9
32.7
14.9
7.5
40~64歳
46.3
30
13.7
10.1
65~74歳
43.5
28.6
14.4
13.5
75歳以上
34.3
24.9
16.3
24.5
■ 1~2種類 ■ 3~4種類 ■ 5~6種類 ■ 7種類
図 2 院内処方・院外処方別にみた年齢階級・薬剤種類別数階級別の件数の構成割合 (2017年 6月審査分)2017年社会医療診療行為別統計の概況 ︲2.薬剤の使用状況(2019年 5月 1日閲覧)から著者が改変作成
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ある」との視点から考えますと高齢者の薬物療法に関して根本的なパラ
ダイムシフトが必要ではないでしょうか.
認知症患者の服薬管理をいかに担保するかと同時にポリファーマシーを
どう改善していくかが認知症診療では大きな問題であろうと思います.
ポリファーマシーをどう減らしていくのかは重要な問題だと思いますが
本書の目的とやや離れてしまいますので現状の把握に留めることにし,
ついで認知症患者の服薬管理の問題に移っていきたいと思います.
私は,認知症と診断された患者に関して認知症が軽い段階から家族ある
いは周囲の人々が服薬管理になんらかの関わりをもつべきであると考え
ています. 表 1 に服薬管理の原則を示しました.認知機能障害が軽微,
軽度の段階でも患者ひとりに服薬を任せず家族や周囲の人々が服薬開始
の声かけや服薬したかどうかの確認を行うべきといえます.この段階で
は患者に薬袋管理を任せられることが多いのですが,過去に薬袋の紛失
歴がある場合には家族が薬袋自体を管理したほうがよいでしょう.中等
度に進展してきた段階では,アルツハイマー型認知症では記憶障害も相
■ 人数
98名(19.9%)
なし
115
1
34
2
51
3
47
40
20
40
60
80
100
120名
53
5
54
6
43
7
32
8
28
9
15
10
7
11
5
12
6
13
3
14
1
15
1
図 3 初診認知症患者における服薬の検討(八千代病院 愛知県認知症疾患医療センター n=493)
第 1章 ● 服薬管理の問題
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当進んでいることから飲み忘れや過剰服薬の危険性が高まります.薬袋
を家族が管理し,服薬の度に患者の前に薬をセットし服薬を確認します.
高度に進展した場合には,ヒートシールや一包化された袋から家族が薬
を取り出し患者が薬を口の中に入れ嚥下をし終わるまでの見守りが必要
になります.この段階でしばしばみられる失敗は,患者に薬を渡した後
その場から家族が去ってしまった結果,患者が薬を飲み忘れる,あるい
は捨ててしまうことです. 図 4 は私が 15 年ほど前に経験した事例で
すが,家族がヒートシールのまま患者に薬を渡したところ患者がヒート
シールごと服薬してしまったのです.患者に外来を受診してもらい胃カ
メラで食道入口部に挟まっていた薬を除去してもらいました.私はこの
事例を経験したことで認知症患者における服薬管理の重要性を認識する
ようになりました.
表 1 認知症患者の服薬管理の原則
● 軽微,軽度の段階 患者ひとりに管理を任せず家族あるいは周囲の人々が声かけや服薬したかどうかの確認を行う.理想的には薬剤を家族らが預かるほうがよい.
● 中等度の段階 家族が薬袋を含めた管理を必ず行う.患者の前に薬をセットする.
● 高度の段階 家族や周囲の人々がヒートシールや一包化された袋から薬を取り出し患者に手渡し患者が確実に服薬,嚥下をしたことを必ず確認する.
図 4 食道入口部に挟まった薬