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二階算術の部分体系のモデル
山崎 武 (東北大学大学院理学研究科)[email protected]於:聖徳大学 2006.8.31- 9.02 数学基礎論サマースクール 2006
内容:
1. ω-モデルとは何か?
2. Π11-CA0とACA0
3. ω-部分モデル
4. ω-モデルの拡大5. 追加
1 ω-モデルとは何か?
1.1 二階算術の言語 L2
1.2 L2-構造
1.3 L2-理論
1.4 論理式の階層
1.5 ω-モデル上での解釈
1.1 二階算術の言語 L2
L2 の特徴:「数」と「集合」 それぞれのために 2種類の変数をもつ.
数変数:x, y, z, ...
集合変数:X, Y , Z, ...
それにあわせて数変数・集合変数それぞれに量化記号がある:∀X, ∀x,∃X, ∃x, ...
記号:0, 1, +, ·, <, ∈
L2 の項 = 数項と集合に関する項.
集合に関する項 = 集合変数.
数項 = 一階ペアノ算術 PAの言語の項 ∼ 自然数係数の多変数多項式
原子論理式:t1 = t2, t1 < t2, t1 ∈ X の形のもの.
(t1 と t2 は数項,X は集合変数)
論理式:原子論理式から一階述語論理と同じようにして,命題論理結合子 ¬, ∧, ∨, →, ↔と,数変数量化記号 ∀x, ∃x, 及び,集合変数量化記号 ∀X, ∃X を適切に組み合わせてできるもの.文 = 自由変数のない論理式.
以後,括弧の省略など普通に使われる用例にしたがい,数項や論理式は意味のとりやすい形で表現し厳密な形で表記しないことにする.
(例) 3 6∈ X・・・¬((1 + 1) + 1) ∈ X),t ≤ s・・・t < s ∨ t = s,
X ⊆ Y・・・∀x(x ∈ X → x ∈ Y )
Remark. 集合変数に関する表記X = Y は論理式∀x(x ∈ X ↔ x ∈ Y )の略にすぎない! したがって,集合に関する等式X = Y は原子論理式ではない.
1.2 L2-理論
L2の形式体系(L2-理論)Tは L2の文の集合によって定めることができる.この集合もまた Tとあらわす.Tに属する文を Tの公理という.代表的な L2-理論は Z2 である.
Definition 1.1 二階算術 Z2 は次の3種類の公理からなる L2 の形式体系である.
(1) 自然数の順序 < や演算 +, · に関する基本公理.
(2) 帰納法公理 : (0 ∈ X ∧ ∀n(n ∈ X → n + 1 ∈ X)) → ∀n(n ∈ X)
(3) 集合内包公理:∃X∀n(n ∈ X ↔ ϕ(n)), ただし ϕ(n)はX を自由変数にもたない論理式である.
通常の述語論理の推論規則や公理を用いて導かれる文を Tの定理という.ここで,等号 =に関する公理は仮定しておく.文 ϕが Tの定理であるとき,T ` ϕとかき,Tで ϕが証明できるという.また,L2 の形式体系 T1と T2に対して,T1のすべての公理が T2の定理となるとき,T1 は T2 の部分体系という.
1.3 L2-構造
言語 L2 の解釈は次のようになされる.
Definition 1.2 (L2-構造) 次の 4条件をみたす 7つ組
M = (|M |, SM , 0M , 1M , +M , ·M , <M )
を L2-構造または,L2-モデルという.
(1) 0M , 1M ∈ |M |かつ φ 6= SM ⊆ P (|M |).(2) |M | ∩ SM = φ
(3) +M , ·M はともに |M |上の 2項演算.
(4) <M は M 上の 2項関係をあらわす.
|M |は数変数のための領域をあらわし,SM は集合変数のための領域をあらわす.
言語 L2(M) = L2 に |M | ∪ SM の各要素に対応する新しい定数記号を加えたもの.
L2 の場合と同じようにして L2(M)の論理式も定めることができる.このとき,L2 の論理式は L2(M)の論理式でもある.L2(M)の論理式のことを(M における)L2 のパラメータ付き論理式という.
パラメータ付き論理式は L2-構造M において自然に解釈される.パラメータ付き文 ϕがM で真であることをM |= ϕとあらわす.すると例えば,
M |= ϕ1 ∨ ϕ2 ⇔ (M |= ϕ1またはM |= ϕ2),
M |= ∃xϕ(x) ⇔ (M |= ϕ(a)となる a ∈ |M |が存在する),
M |= ∀Xϕ(X) ⇔ (任意の A ∈ SMに対して,M |= ϕ(A))
等となる.ここで,a, Aはそれぞれ a,Aに対応する定数記号である.以降は ϕ(a)や ϕ(A)などは単に ϕ(a), ϕ(A)とかく.
最も代表的な L2-構造は (ω, P (ω), 0, 1, +, ·, <)である.ここで0, 1, +, ·, <は自然数上の通常の演算をあらわす.これを L2 の標準構造とよぶことにする.
L2-構造M = (|M |, SM , 0M , 1M ,+M , ·M , <M )から SM をのぞいた
(|M |, 0M , 1M , +M , ·M , <M )
をM の一階部分というa.L2-構造は集合変数のための領域をもつので,1階部分が (ω, 0, 1, +, ·, <)であっても,標準構造であるとは限らない.
Definition 1.3 (ω-モデル) 1階部分が (ω, 0, 1, +, ·, <)である L2-構造 (ω, S, 0, 1, +, ·, <) を ω-モデルという.ω-モデル (ω, S, 0, 1,+, ·, <)は二階部分 S によって定まるので,単に S であらわすこともある.
標準構造 P (ω)において真である文,すなわち P (ω) |= ϕである文 ϕ
は,真な文という.a標準構造の 1 階部分は (1 階) ペアノ算術 PA の標準モデルである.
L2 の形式体系 Tの公理すべてが真である L2-構造を T のモデルという.標準構造 P (ω)は Z2 の ω-モデルである.
Theorem 1.1 (L2-理論における完全性定理) Tを L2の形式体系とする.このとき,任意の L2 の文 ϕについて,
T ` ϕ ⇔ Tの任意のモデルM でM |= ϕ
となる.
集合内包公理についての補足.
論理式 ϕ(n)に対する内包公理は,直観的には,ϕ(n)によって定義される集合X = {n | ϕ(n)}の存在を保証するものである.しかし!ϕ(n)はX 以外の自由変数を持つ場合がある.この場合,その自由変数は任意のパラメータとして扱われている.
例えば,ϕ(n)を n 6∈ Y という論理式とすると,内包公理
∃X∀n(n ∈ X ↔ n /∈ Y ).
は,与えられた任意の集合 Y に対して,その補集合X が存在することを主張している.つまり,変数 Y はパラメータの役割を果たしている.
より正確には...
ϕ(x, y1, . . . , yn, Y1, . . . , Ym)を x, y1, . . . , yn, Y1, . . . , Ym 以外の自由変数をもたない L2-論理式とする.このとき,ϕについての内包公理が L2-構造M で真になるのは,任意の b1, . . . bn ∈ |M |, A1, . . . , Am ∈ SM に対し,
{a ∈ |M | : M |= ϕ(a, b1, . . . , bn, A1, . . . , Am)} ∈ SM
となるときである.つまり,L2-構造M が集合内包公理をみたすのは,(パラメータを用いて)M 上定義可能なすべての集合が SM に属するときである.
1.4 論理式の階層
Definition 1.4 (1) 集合変数に関する量化記号を含まない論理式を算術的論理式という.算術的論理式は,Π1
0-論理式または Σ10-論理式とも
いう.また,算術的論理式全体の集合を Π10 もしくは Σ1
0 とあらわす.
(2) 任意の自然数 k ∈ ωに対し,次の形の論理式を Π1k-論理式という:
∀X1∃X2 · · ·Xk θ
ただし,θは算術的論理式, X1, X2, . . . , Xk は集合変数.また,Π1k-論
理式全体の集合を Π1k とあらわす.
(3) 任意の自然数 k ∈ ωに対し,次の形の論理式を Σ1k-論理式という:
∃X1∀X2 · · ·Xk θ
ただし,θは算術的論理式, X1, X2, . . . , Xk は集合変数.Σ1k-論理式全
体の集合を Σ1k とあらわす.
ここで (2)と (3)の定義にあらわれる式はともに集合変数に関する量化記号として ∃と ∀が交互にあわせて k回あらわれる形である.パラメータ付き論理式に対しても同様に定める.
¬∀Xϕ ↔ ∃X¬ϕ,¬∃Xϕ ↔ ∀X¬ϕ, ϕ ↔ ¬¬ϕより,任意の Π1k-論理
式はある Σ1k-論理式の否定に,また任意の Σ1
k-論理式はある Π1k-論理式
の否定に論理的に同値である.また,無意味な量化記号の付け足しにより,任意の k ∈ ωについて,
Σ1k ∪Π1
k ⊆ Σ1k+1 ∩Π1
k+1
がわかる.
Definition 1.5 (1) 論理式 ϕと数変数 n,nを含まない数項 tに対して,∀n(n < t → ϕ)の形の論理式を (∀n < t)ϕ,∃n(n < t ∧ ϕ)の形の論理式を (∃n < t)ϕとあらわす.(∀n ≤ t), (∃n ≤ t)も同様に定める.この (∀n < t),(∃n < t), (∀n ≤ t), (∃n ≤ t)を有界量化記号という.
(2) 量化記号がすべて有界量化記号の形でしかあらわれない算術的論理式を有界論理式という.有界論理式は Π0
0-論理式または Σ00-論理式とも
いう.有界論理式全体の集合は単に Π00 もしくは Σ0
0 とかく.
Definition 1.6 (1) 任意の k ∈ ωに対し,次の形の算術的論理式をΠ0
k-論理式という:∀x1∃x2 · · ·xk θ
ただし,θは有界論理式, x1, x2, . . . , xk は数変数.また,Π0k-論理式全
体の集合は Π0k とあらわす.
(2) 任意の k ∈ ωに対し,次の形の算術的論理式を Σ0k-論理式という:
∃x1∀x2 · · ·xk θ
ただし,θは有界論理式, x1, x2, . . . , xk は数変数.また,Σ0k-論理式全
体の集合は Σ0k とあらわす.
ここで (3)と (4)の定義にあらわれる式はともに数変数の量化記号として ∃と ∀が交互にあわせて k回あらわれる形である.
1.5 ω-モデル上での解釈
Definition 1.7 (ω-モデル上の定義可能性) (1) S を ω-モデルとし,ϕ(x)を自由変数が xのみしかない論理式とする.集合 A ⊆ ωが
A = {n ∈ ω | S |= ϕ(n)}
となるとき,Aは S上定義可能であるという.とくに P (ω)上定義可能なときは,たんに定義可能という.パラメータ付き論理式についても同様に定義する.
(2) k ∈ ωとする.集合 A ⊆ ωは,B1, . . . , Bm だけをパラメータにもつパラメータ付き Π1
k-論理式を用いて定義可能であるとき,Π1
k(B1, . . . , Bm)であるという.Σ1k(B1, . . . , Bm), Π0
k(B1, . . . , Bm),Σ0
k(B1, . . . , Bm)等についても同様に定義する.とくに,Π1k(φ),
Σ1k(φ), . . .らを単に Π1
k,Σ1k, . . .とも書く.
ϕが算術的文ならば,任意の ω-モデル S に対して,
S |= ϕ ⇔ P (ω) |= ϕ
である.したがって,集合 A ⊆ ωが,算術的論理式 ϕを用いて,定義可能であること,すなわち P (ω)上で定義可能であることと,S 上で定義可能であることは同じである.これはパラメータを含む場合もかわらない.例えば,ϕを A1, . . . Am ⊆ ωのみをパラメータにもつ算術的文であるとき,A1, . . . Am を要素にもつ任意の ω-モデル S に対して,
S |= ϕ ⇔ P (ω) |= ϕ
である.
ところが,ϕが Π11 文であるときは,このようなことは必ずしも成り立
たない.なぜならば,ϕが算術的論理式 θ(X)を用いて ∀Xθ(X)とあらわせているとすると,ω-モデル S の解釈では,
S |= ∀Xθ(X) ⇔ 任意の A ∈ S に対して S |= θ(A).
であるからである.
(例) {φ} |= ∀X∀n(n 6∈ X), P (ω) 6|= ∀X∀n(n 6∈ X)
このように,算術的でない文に関しては標準構造と ω-モデルで真偽が異なる場合がある.
Definition 1.8 ω-モデル S は,任意の (S のパラメータ付きの )Π11-
文 ϕに対して,
S |= ϕ ⇔ P (ω) |= ϕ
となるとき β-モデルという.形式体系 Tのモデルとなる β-モデルは,Tの β-モデルという.
2 Π11-CA0とACA0
2.1 体系の定義
2.2 ACA0 の ω-モデルの特徴付け (1)
2.3 ACAの ω-モデルの特徴付け (2)
2.4 Π11-CA0 の β-モデルの特徴付け
2.5 ω-モデル上での解釈
2.1 体系の定義
Definition 2.1 Γを論理式の集合とする.次の制限された集合内包公理を Γ-内包公理という:∃X∀n(n ∈ X ↔ ϕ(n)),ただし ϕ(n)はX を自由変数にもたない Γに属する論理式である.
Definition 2.2 k ∈ ωとする.形式体系 Π1k-CA0 は次の3種類の公理
からなる.
(1) 基本公理. (2) 帰納法公理. (3) Π1k-内包公理.
Fact. Π1k-CA0 ⊆ Π1
k+1-CA0.Σ1k-CA0=Π1
k-CA0.
Fact. Π1∞ =
⋃k∈ω Π1
k とすると,Z2 = Π1∞-CA0.
Definition 2.3 Π10-CA0 を特に ACA0 という.
ACAは算術的内包公理 (arithmetical comprehension axiom) の略である.
2.2 ACA0の ω-モデルの特徴付け (1)
Lemma 2.1 S を ω-モデルとする.このとき,
S′ = {A ⊆ ω | Aは S 上で,(パラメータ付きの )
算術的論理式を用いて定義可能 }は,S を含む ACA0 の最小の ω-モデルである.
問題点. S′ が ACA0 のモデルであるためには,S′ 上のパラメータ付きの算術的論理式を用いて定義可能な集合も S′に属さなければならない.
(証明のアイデア) S′ 上のパラメータ付きの算術的論理式は,S 上のパラメータ付きの算術的論理式に書きかえられる.
(例)ϕ(A) ・・・ ∀y(∃x(ϕ1(x) ∧ 2x + 3y ∈ A) → (ϕ2(y) ∨ y ∈ A))
t ∈ Aの形を ψ(t)でおきかえると...
∀y(∃x(ϕ1(x) ∧ ψ(2x + 3y)) → (ϕ2(y) ∨ ψ(y)))
特に S = {φ}について考えることで Lemma 2.1から次が得られる.
Corollary 2.2 Π10 集合全体 ARITH = {A ⊂ ω | Aは Π1
0} は,ACA0
の最小の ω-モデルである.
2.3 ACAの ω-モデルの特徴付け (2)
以上の特徴付けを更に明確にするために,再帰理論 (recursiontheory)からいくつかの結果を利用する.
Definition 2.4 (相対的計算可能性) 集合 A ⊆ ωは,B ⊆ ωをオラクルに用いたチューリング・マシンで計算可能であるとき,B-計算可能,もしくは,B-再帰的 (B-recursive)といい,A ≤T B とあらわす.
Theorem 2.3 (Post) 任意の集合 A,B ⊆ ωに対して,Aが,B-計算可能であることと,Σ0
1(B)かつ Π01(B)であることは同値である.
Theorem 2.4 B ⊆ ωとする.このとき,次をみたす Σ01(B)集合K
が存在する:任意の Σ01(B)集合 Aに対して,ある e ∈ ωが存在して,
∀n ∈ ω(n ∈ A ⇔ 〈e, n〉 ∈ K).
ただし,ここで,〈e, n〉 = (e + n + 1)(e + n)/2 + eである.各 B に対するこのようなK を,BT とかくa.
A,B ⊆ ωに対し,
A⊕B = {2n : n ∈ A} ∪ {2n + 1 : n ∈ B}
とさだめる.このとき,
Theorem 2.5 A,B, C ⊆ ωとする.Aが,Σ01(B, C)であることと
Σ01(B ⊕ C)であることは同値である.
a再帰理論では,BT は B′ とかくのが普通であるが他の使用との混乱を防ぐためにここではこれを用いる.
Theorem 2.6 S を ω-モデルとする.このとき,S が ACA0 のモデルであることと,S が次の 3条件をみたすことは同値である.
(1) 任意の A,B ∈ S に対して,A⊕B ∈ S である.
(2) 任意の A ≤T B, B ∈ S に対して,A ∈ S である.
(3) 任意の A ∈ S に対して,AT ∈ S である.
(証明) S が ACA0 のモデルならば,上の 3条件をみたすのは明らかである.よって逆を示す.ω-モデル S は上の 3条件をみたしているとする.このとき,Π1
0-内包公理をみたすことを示せばよい.
そこで,主張「Sは Σ0k-内包公理をみたす」を kに関する数学的帰納
法で示す. k = 1のとき明らか.kで成り立つとして k + 1で成り立つことを示す.(ここで,内包公理にはパラメータが許されていることが役に立つ.)
ϕ(x)を (パラメータ付き)Σ0k+1-論理式とする.このとき,ある Σ0
k-論理式 θ(m, n)を使って,ϕ(n) ↔ ∃m¬θ(m,n)とあらわせる.帰納法の仮定から,B = {〈m,n〉 | S |= θ(m,n)}は Sに属する.よって,条件(2), (3)より,
A = {n ∈ ω | ∃m〈m,n〉 6∈ B}も S に属し,明らかに,S |= ∀n(n ∈ A ↔ ϕ(n))である.よって示せた.2
S を ACA0 の ω-モデルとする.このとき A ⊆ ωに対して,
A ∈ S ならば,AT ∈ S, A(2)T = (AT)T ∈ S, A(3)T = (A(2)T)T,A(4)T = (A(3)T)T, . . ., A(n+1)T = (A(n)T)T ∈ S, . . .
特に,{A ⊆ ω | ∃n ∈ ω(A ≤T φ(n)T)} は,ACA0 の最小の ω-モデル(すなわち,ARITH)である.
各 A ⊆ ω, n ∈ ωに対して,An = {m ∈ ω | 〈n,m〉 ∈ A} とする.また,任意の自然数mに対し, lim
n→∞XAn(m)が存在するとき,A(もしく
は,〈An | n ∈ ω〉)は極限をもつといい,XB(m) = limn→∞
XAn(m)に
よって定まる集合 B を A(もしくは,〈An | n ∈ ω〉)の極限という.ここで,XY は Y の特性関数である.
Lemma 2.7 (極限補題) A,B ⊆ ωとする.このとき,A ≤T BT であることと,Aがある B-計算可能な集合の極限になることは同値である.
Theorem 2.8 S を ω-モデルとする.このとき,S が ACA0 のモデルであることと,S が次の 3条件をみたすことは同値である.
(1) 任意の A,B ∈ S に対して,A⊕B ∈ S である.
(2) 任意の A ≤T B, B ∈ S に対して,A ∈ S である.
(3) 任意のA ∈ Sに対して,Aが極限Bをもつならば,B ∈ Sである.
2.4 Π11-CA0の β-モデルの特徴付け
Theorem 2.9 (Quinsey) 自然数 k > 0をとる.SをΠ1k-CA0の ω-モ
デルとする.このとき,S′ ( SとなるΠ1k-CA0のモデル S′が存在する.
Remark. Π11-CA0 の ω-モデルの特徴付けが,ACA0 の時のようにうま
くいかないわけは,ω-モデル S と標準構造とでは,Π11文に関する真偽
が異なる場合があるからで
Theorem 2.10 B ⊆ ωとする.このとき,次をみたす Σ11(B)集合 T
が存在する:任意の Σ11(B)集合 Aに対して,ある e ∈ ωが存在して,
∀n ∈ ω(n ∈ A ⇔ 〈e, n〉 ∈ T ).
各 B に対するこのような T を,BH とかく.
Theorem 2.11 (クリーネの基底定理) ϕ(Y, X)は,Y, X のみを自由変数にもつ Σ1
1-論理式とする.このとき,B ⊆ ωに対し,∃Y ϕ(Y, B)が真ならば,ある A ≤T BH で ϕ(A,B)が真となる.
(証明) ϕ(Y,X)を Y, X のみを自由変数にもつ Σ11-論理式とする.この
とき,ϕはある Σ11-論理式 θ(m, X)によって,∀nθ(Y [n], X)とあらわ
せるa.
いま,B ⊆ ωに対し,∃Y ϕ(Y,B) が真であるとする.このとき,
C = {σ ∈ 2<ω | ∃Y (∀nθ(Y [n], B) ∧ Y [lh(σ)] = σ)} ≤T BH
である.ここで,A ⊆ ωを C を用いて原始再帰的に,n ∈ A ⇔ A[n]_〈1〉 ∈ C で定める.すると,A ≤T C より A ≤T BH であり,ϕ(A,B)は真となる.2
aクリーネの標準化定理を考えよ.Y [n] は 〈XY (0), . . . , XY (n − 1)〉 のことである.ここでは,より厳密にはそのゲーデル数のことである.
Theorem 2.12 S を ω-モデルとする.このとき,S が Π11-CA0 の β-
モデルであることと,S が次の 3条件をみたすことは同値である.
(1) 任意の A,B ∈ S に対して,A⊕B ∈ S である.
(2) 任意の A ≤T B, B ∈ S に対して,A ∈ S である.
(3) 任意の A ∈ S に対して,AH ∈ S である.
(証明) S が Π11-CA0 の β-モデルならば,上の 3条件をみたすのは明ら
かである.よって逆を示す.ω-モデル S は上の 3条件をみたしているとする.
S が β-モデルであることを示す.ϕを B ∈ S のみをパラメータにもつ Σ1
1-文とする.ϕは,B のみをパラメータにもつある算術的論理式θ(Y, B)を用いて ∃Y θ(Y, B)とあらわされる.
条件 (2), (3)により,任意の A ≤T BH に対して A ∈ S である.
これとクリーネの基底定理から,
S |= ∃Y θ(Y,B) ⇒ P (ω) |= ∃Y ϕ(Y, B) ⇒ P (ω) |= ∃Y ≤T BHϕ(Y,B) ⇒ S |= ∃Y ϕ(Y, B).
したがって,P (ω) |= ∃Y ϕ(Y, B) ⇔ S |= ∃Y ϕ(Y,B).
また,S が Π11-内包公理をみたすこともわかる.2
A ⊆ ωに対して,A(0)H = A, A(1)H = AH, . . ., A(n+1)H = (A(n)H)H,. . .とする.
Corollary 2.13
{A ⊆ ω | ∃n ∈ ω(A ≤T φ(n)H)}
は Π11-CA0 の最小の β-モデルとなる.
一般に,任意の 1 ≤ k ≤ ∞に対し,Π1k-CA0 はそれぞれ最小の β-モ
デルをもつ.
なんらかの Π02-論理式 θを用いて,∃Xθの形であらわせる論理式を
Σ1,w1 -論理式という.ただしX は集合変数である.
Definition 2.5 S を ω-モデルとする.
(1) 集合 A ⊆ ωは,B1, . . . , Bm だけをパラメータにもつパラメータ付き Σ1
1-論理式を用いて S 上定義可能であるとき,Σ11(B1, . . . , Bm; S)で
あるという.
(2) 集合 A ⊆ ωは,B1, . . . , Bm だけをパラメータにもつパラメータ付き Σ1,w
1 -論理式を用いて S 上定義可能であるとき,Σ1,w
1 (B1, . . . , Bm;S)であるという.
(3) B ∈ S とする.このとき,次をみたす Σ1,w1 (B;S)集合 T を BH
S とかく:任意の Σ1,w
1 (B; S)集合 Aに対して,ある e ∈ ωが存在して,
∀n ∈ ω(n ∈ A ↔ 〈e, n〉 ∈ T ).
は真である.
Theorem2.12中の条件 (1), (2)をみたす任意の ω-モデル S と B ∈ S
に対して,BHS は存在する
a.
Lemma 2.14 S を ACA0 の ω-モデルとし,B ∈ S とする.このとき,任意の Π1
1(B; S)集合 Aに対して, A ≤T BHS である.
Theorem 2.15 S を ω-モデルとする.このとき,S が Π11-CA0 の ω-
モデルであることと,S が次の 3条件をみたすことは同値である.
(1) 任意の A,B ∈ S に対して,A⊕B ∈ S である.
(2) 任意の A ≤T B, B ∈ S に対して,A ∈ S である.
(3) 任意の A ∈ S に対して,AHS ∈ S である.
aただし,S に属するとは限らない.
Theorem 2.12 S を ω-モデルとする.このとき,S が Π11-CA0 の β-
モデルであることと,S が次の 3条件をみたすことは同値である.
(1) 任意の A,B ∈ S に対して,A⊕B ∈ S である.
(2) 任意の A ≤T B, B ∈ S に対して,A ∈ S である.
(3) 任意の A ∈ S に対して,AH ∈ S である.
3 ω-部分モデル
3.1 体系 RCA0
3.2 ω-部分モデル
3.3 可算被コード ω-部分モデル
3.1 体系 RCA0
Definition 3.1 (1) 次の帰納法公理を Σ01-帰納法という:任意の Σ0
1-論理式 ϕ(n)に対し,
ϕ(0) ∧ ∀n(ϕ(n) → ϕ(n + 1)) → ∀nϕ(n).
(2) 次の制限された集合内包公理を∆01-内包公理,もしくは再帰的内包
公理という:X を自由変数にもたない任意の Σ01-論理式 ϕ(n)と ψ(n)
に対し,
∀n(ϕ(n) ↔ ¬ψ(n)) → ∃X∀n(n ∈ X ↔ ϕ(n)).
Definition 3.2 RCA0 は次の3種類の公理からなる.
(1) 基本公理. (2) Σ01-帰納法.(3) ∆0
1-内包公理.
Theorem 2.3, 2.4にしたがえば,RCA0 の ω-モデルは次のように特徴づけられる.
Lemma 3.1 S を ω-モデルとする.このとき,S が RCA0 のモデルであることと,S が次の 2条件をみたすことは同値である.
(1) 任意の A,B ∈ S に対して,A⊕B ∈ S である.
(2) 任意の A ≤T B, B ∈ S に対して,A ∈ S である.
Corollary 3.2 計算可能集合全体 REC = {A ⊆ ω|A ≤T φ} は RCA0
の最小の ω-モデルであるa.
aφT 6∈ REC なので REC は ACA0 のモデルではない.
Theorem 2.6 S を ω-モデルとする.このとき,S が ACA0 のモデルであることと,S が次の 3条件をみたすことは同値である.
(1) 任意の A,B ∈ S に対して,A⊕B ∈ S である.
(2) 任意の A ≤T B, B ∈ S に対して,A ∈ S である.
(3) 任意の A ∈ S に対して,AT ∈ S である.
Remark. RCA0 は自然数に関する素朴な事実を証明するには十分な強さをもつ体系である.例えば.順序 <の線形性,和や積の可換性や順序の保存性などの基本的な性質, 関数の合成,再帰理論に関する基本定理などである.本講演では,そのあたりのことは厳密に扱うことはしないが,暗黙のうちにこれらの事実を利用する.
3.2 ω-部分モデル
Definition 3.3 (1) L2-構造M , M ′ は,一階部分が同じで SM ⊆ SM ′
であるとき,M はM ′ の ω-部分モデルといい,M ⊆ω M ′ とあらわす.
(2) M ⊆ω M ′ とする.M の任意のパラメータ付き Σ11 文 ϕに対して,
M |= ϕ ⇔ M ′ |= ϕとなるとき,M はM ′ の β-部分モデルといい,M ⊆β M ′ とあらわす.
上の定義では L2-構造の一階部分に対する制限はない.したがって,ω-部分モデルは必ずしも ω-モデルとは限らない.ω-モデルと β-モデルはそれぞれ,標準構造の ω-部分モデル.β-部分モデルということである.
前節や 2.3節,2.4節で述べられたことは,ω-部分モデルについて拡張したものにできる.特に,Theorem 2.12 を拡張したものは次のようになる.
Lemma 3.3 M ′ |= Π11-CA0 とし,M ⊆ω M ′ とする.このとき,次の
2条件は同値である.
(1) M ⊆β M ′ かつM |= Π11-CA0
(2) M |= RCA0 かつ, 任意のX ∈ SM に対して,M ′ の解釈における「XH
S」は SM に属するa.
Corollary 3.4 Π11-CA0 の任意のモデルは,最小の β-部分モデルを
もつ.
aXH = XHP (ω)
であり,M ′ = P (ω) のときが,Theorem 2.12 である.
Theorem 2.12 S を ω-モデルとする.このとき,S が Π11-CA0 の β-
モデルであることと,S が次の 3条件をみたすことは同値である.
(1) 任意の A,B ∈ S に対して,A⊕B ∈ S である.
(2) 任意の A ≤T B, B ∈ S に対して,A ∈ S である.
(3) 任意の A ∈ S に対して,AH ∈ S である.
3.3 可算披コード ω-モデル
(RCA0などの)形式体系の枠内で定める形式的な自然数全体の集合をNとあらわす.
Definition 3.4 RCA0 で次が定義できる.W ⊆ Nを可算披コード ω-モデルという.このとき,W は,
M = (N, {Wn | n ∈ N}, 0, 1, +, ·, <)
という L2-構造のコードしたものとみなされる.M のパラメータ付き文の(ゲーデル数の)全体の集合を SntM とする.各 ϕ ∈ SntM に対し,Sub(ϕ)を,ϕの部分論理式に適当な代入をすることで得られる文ψ ∈ SntM 全体の集合とする.このとき,ϕの付置 f : Sub(ϕ) → {0, 1}は次のタルスキの充足条件をみたすものである:
f(t1 = t2) = 1 ↔ t1 = t2, f(¬ψ) = 1− f(ψ),
f(∀Xψ(X)) = 1 ↔ (∀m ∈ N f(ψ(Wm)) = 1) など.
ϕに対する付置 f に対し,f(ϕ) = 1となるとき,W |= ϕとかく.
Lemma 3.5 ϕを L2 の文とする.ACA0 で次が示せる.任意の可算披コード ω-モデルW に対し,ϕの付置がただ一つ存在する.
Theorem 3.6 Π11-CA0で次が示せる.任意のX ⊆ Nに対し,X ∈ W
かつ ACA0 のモデルとなる可算披コード ω-モデルW が存在する.
(証明のアイデア) Π11-CA0 で考えるa. X ⊆ Nとする.このとき,
〈X(n)T | n ∈ N〉 が存在する.ここで, (オラクル付きの)計算可能集合の indexを利用して,W = {Y ⊆ ω | ∃n ∈ N(Y ≤T X(n)T)} を考えればよい.2
Corollary 3.7 Π11-CA0 で,ACA0 の無矛盾性が示せる.
a厳密には,ここでの ∗(n)T や ≤T などの概念は形式化されたものであることに注意する.
4 ω-モデルの拡大
4.1 体系WKL0
4.2 WKL0 の ω-モデル
4.3 更なる結果
4.1 体系WKL0
Definition 4.1 (ケーニッヒの補題) RCA0 において次が定義できる.T ⊆ N<N は,その各要素のすべての始切片が再び T の要素となるとき,すなわち ∀σ ∈ T (∀τ ⊆ σ)(σ ∈ T )であるとき,木 (tree)という.木 T に対して,関数 f : N→ Nは ∀n(f [n] ∈ T )となるとき,すなわちT に沿った枝別れのない無限道をあらわすとき,単に T の道 (path)という.ここで,f [n] = 〈f(0), . . . , f(n− 1)〉である.2<N の部分集合となる木を 0-1木という.「有限枝分かれの無限木は必ず道をもつ」という主張をケーニッヒの補題といい,「無限 0-1木は必ず道をもつ」という主張を弱ケーニッヒの補題という.
Definition 4.2 RCA0に弱ケーニヒの補題を加えた体系WKL0という.
Remark. RCA0 にケーニッヒの補題を加えた体系は ACA0 と同じであることが知られている.したがって,WKL0 は,RCA0 と ACA0 の中間に位置する体系である.WKL0 は数学を展開する上でも非常に豊かな体系である.そこで証明できるものは,例えば,有界実閉区間上のハイネ=ボレルの被覆定理,実数値連続関数の最大値原理,ワイエルシュトラスの多項式近似定理,微分方程式についてのコーシー・ペアノの定理,ブラウワーの不動点定理,可分バナッハ空間におけるハーン・バナッハの定理,可算可換環は素イデアルの存在,可算順体には代数閉包の一意存在など,枚挙に暇がない.
4.2 WKL0の ω-モデル
以下では,集合とその特性関数は同一視する.よって,P (ω)と 2ω は同じものである.X のみを自由変数にもつ Π0
1 論理式 ϕ(X)を用いて,{X ⊆ ω : P (ω) |= ϕ(X)}とあらわせるものを,2ω の Π0
1クラスという.
Lemma 4.1 A ⊆ 2ω が空でない Π01クラスであることと,Aがある計
算可能な無限 0-1木 T の道全体のなす集合 [T ]であらわせることとは同値である.
Lemma 4.2 共通部分をもたない 2つの Σ01-集合 A, B で,
A ⊆ C ⊆ Bc となる計算可能集合 C が存在しないものがある.
Corollary 4.3 RECはWKL0 のモデルではない.
Definition 4.3 (Simpson) 2ω の Π01 クラスを再帰的にすべて並べた
ものを 〈Pe : e ∈ ω〉とする.ω × ω<ω の有限集合 pに対して,
∀ (e, σ) ∈ p(Xσ(0) ⊕ · · · ⊕Xσ(lh(σ)−1) ∈ Pe)
がとなるとき,〈Xn : n ∈ ω〉は pと会うという.
P = {p ⊆ ω × ω<ω | pは有限集合で、
標準構造において pと会う 〈Xn : n ∈ ω〉が存在する }とする.また P上に,p ⊇ qで半順序 p ≤ qを定める.
D ⊆ Pは,∀p ∈ P∃q ∈ D(q ≤ p)であるとき,稠密という.集合列〈Gn : n ∈ ω〉は,Pの任意の定義可能な稠密集合Dに対して,Dのある要素 pに会うとき,ジェネリックという.
Lemma 4.4 ϕ(X)を Π01-論理式とする.このとき,次がWKL0 で示
せる.∃Xϕ(X)は,ある Π01-論理式と同値である.
Lemma 4.5 任意の p ∈ Pに対して, pと会うジェネッリク〈Gn : n ∈ ω〉が存在する.
Proof. [p]を pに会う 〈Xn : n ∈ ω〉全体のなす集合とする.[p]は(2ω)ω 上の閉集合である. Gを p ∈ Gとなる P上のジェネリック・フィルターとすると,(2ω)ω のコンパクト性より
⋂{[q] : q ∈ G} 6= φとなる.このとき,〈Gn : n ∈ ω〉 ∈ ⋂{[q] : q ∈ G} を取ればよい.2
Lemma 4.6 任意のジェネリック 〈Gn : n ∈ ω〉に対し,{Gn : n ∈ ω}はWKL0 の ω-モデルである.
Proof. ∃X(X ⊕Gn1 ⊕ · · · ⊕Gnk∈ Pe)とする.すなわち,
Gn1 ⊕ · · · ⊕Gnkをオラクルにもつ e番目の相対的再帰 0-1無限木を考
える.すると,Gn1 ⊕ · · · ⊕Gnk∈ Pe′ となる e′ が存在する.
ところで,p ∈ Dを
p ∈ P ∧ ((p ∪ {(e′, 〈n1, . . . , nk〉)} 6∈ P) ∨ ∃n((e, 〈n, n1, . . . , nk〉) ∈ p))
であるようにDを定めると,Dは稠密なので,ジェネリック〈Gn : n ∈ ω〉はある p ∈ Dに会う.
このとき,Dの定義より,Gn ⊕Gn1 ⊕ · · · ⊕Gnk∈ Peとなる nが存
在する.よって,最初に与えた 0-1無限木は {Gn : n ∈ ω}内に道をもつ.2
Lemma 4.7 p ∈ P, m ∈ ωとする.pと会うどの 〈Xn : n ∈ ω〉に対してもm番目の集合Xm がおなじ Aであるとき,Aは計算可能である.
Lemma 4.8 C は C ∩ REC = ∅である可算集合とし, p ∈ Pとする.このとき,C ∩ {Gn : n ∈ ω} = ∅をみたす,pに会うジェネリック〈Gn : n ∈ ω〉が存在する.Corollary 4.9 φ′ 6∈ S となるWKL0 の ω-モデルが存在する.
Corollary 4.10 WKL0 から ACA0 は導けない.
4.3 更なる結果
Definition 4.4 L2 に可算個の集合定数X0,X1, . . .を加えた言語をL2(〈Xn : n ∈ ω〉)とする.ϕを L2(〈Xn : n ∈ ω〉)の文とする.pに会う任意のジェネッリク 〈Gn : n ∈ ω〉に対し,{Gn : n ∈ ω} |= ϕ となるとき,pは ϕを強制するといい,p ° ϕとかく.ただし,{Gn : n ∈ ω}において,各Xn は Gn と解釈する.
強制法の標準的な議論により次の補題が成り立つ.
Lemma 4.11 ϕを L2(〈Xn : n ∈ ω〉)の文とする.pに会う任意のジェネッリク 〈Gn : n ∈ ω〉に対し, {Gn : n ∈ ω} |= ϕならば,q ° ϕとなるある q ≤ pに 〈Gn : n ∈ ω〉は会う.
Definition 4.5 πは ωから ωの全単射とする.このとき,p ∈ PとL2(〈Xn : n ∈ ω〉)-文 ϕに対し,π(p) = {(e, 〈π(n1), . . . , π(nk)〉) : (e, 〈n1, . . . , nk〉) ∈ p},π(ϕ) =「ϕの中の各Xn をXπ(n) に置き換えたもの」と定める.
明らかに p ° ϕ ⇔ π(p) ° π(ϕ)である.
supp(p) =⋃{{n1, . . . , nk} : (e, 〈n1, . . . , nk〉) ∈ p}.
を p ∈ Pのサポートという.
p, q ∈ Pに対して, supp(p) ∩ supp(q) = φならば,p ∪ q ∈ Pである.また,〈Gn : n ∈ ω〉がジェネリックならば,ωから ωの全単射 πに対して,〈Gπ(n) : n ∈ ω〉もジェネリックである.Lemma 4.12 任意の p, q ∈ Pは,同じ L2-文を強制する.
Lemma 4.13 2つのジェネリック 〈Gn : n ∈ ω〉と 〈G′n : n ∈ ω〉によって得られる2つの ω-モデル {Gn : n ∈ ω},{Gn : n ∈ ω}は同じL2-文をみたす.
Definition 4.6 M を L2-構造とする.集合 A ⊆ |M |は,ある(パラメータなしの)L2 論理式 ϕ(X)で,M |= ϕ(A)となる(SM の中の)ただ一つの集合であるとき,S 上定義可能aという.
Theorem 4.14 WKL0 の ω-モデル S で,S 上定義可能な集合がすべて計算可能となるものが存在する.
また,任意の集合 Y に対し,Definition ??を相対化したものを考えると,パラメータを認めるように拡張した定義可能性について次の結果を得る.
Theorem 4.15 「∀X, Y (X は Y のみをパラメータに使って定義可能ならば,X ≤T Y )である」をみたすWKL0 の ω-モデルが存在する.
aこの「定義可能性」は Definition 1.6の定義可能性と異なる.次の Theoreom 4.10,
4.11,および Theorem 5.6 においてのみ,Definition 4.6 の意味の定義可能性を用いることにする,
以上の議論は ω-モデルにこだわる必要がなく,WKL0 の可算モデルにおいて同様の議論をすることができ,次の結果を得る.
Theorem 4.16 ϕ(X, Y )をX, Y のみを自由変数にもつ算術的論理式とする.このとき,WKL0 ` ∀X∃!Y ϕ(X, Y )ならば,RCA0 ` ∀X∃!Y ϕ(X, Y )である.
5 追加
5.1 体系 ATR0
Definition 5.1 RCA0 において次が定義できる.N上の 2項関係X ⊆ N× Nは (等号付き )順序関係であるとする.X の領域をfield(X) = {i : (i, i) ∈ X}とする.文脈上 i ∈ field(X)であることが明らかなときは field(X)は省略することもある.このX で決まる順序を≤X とする.すなわち,i ≤X j は (i, j) ∈ X のことである.また,i <X j は i ≤X j かつ i 6= j のこととする.
X は無限下降列をもたない,つまり,∀n ∈ N(f(n + 1) <X f(n))となる関数 f : N→ field(X) が存在しないとき整礎 (well-founded)という.整礎な全順序X を可算整列順序 (countable well-ordering)という.
Lemma 5.1 (算術的超限帰納法) ϕ(j)を算術的論理式とする.このとき ACA0 で次が証明できる.X が可算整列順序のとき,∀j((∀i <X j)ϕ(i) → ϕ(j))ならば ∀jϕ(j)である.
Definition 5.2 (算術的超限再帰) (1) θ(x, Y )を算術的論理式とする.このとき,Hθ(X, Y )を次をあらわす算術的論理式とする:
X は全順序で Y = {(n, j) : θ(n, Y j)} ⊆ N2 である.
ただし,Y j は {(m, i) ∈ Y : i <X j ∧ (m, i) ∈ Y }のことである.またθ(x, Y )は x, Y 以外の自由変数をもってもよい.その場合,Hθ(X,Y )も同じ自由変数をもつ.
(2) 次の公理図式を算術的超限再帰という:
∀X(X が可算整列順序ならば ∃Y Hθ(X,Y )), ここで θは算術的論理式である.
Definition 5.3 ACA0 に算術的超限再帰公理を加えた体系を ATR0 という.
Lemma 5.2 任意の β-モデルは ATR0 のモデルである.
3.3節のように,この結果は可算披コード ω-モデルを利用して形式化することができる.
Definition 5.4 RCA0 で次が定義できる.可算披コード ω-モデルW
は,x, y, X, Y のみを自由変数にもつ任意の Σ1,w1 -論理式 ϕ(x, y, X, Y )
に対して,
∀n,m, l, k ∈ N(ϕ(n,m, Wl,Wk) ↔ W |= ϕ(n, m,Wl, Wk))
をみたすとき,可算披コード β-モデルという.
Theorem 5.3 ACA0 で次が示せる.任意の可算披コード β-モデルW
は ATR0 のモデルである.
Theorem 5.4 Π11-CA0で次が示せる.任意のX ⊆ Nに対し,X ∈ W
となる可算披コード β-モデルW が存在するa.
Corollary 5.5 Π11-CA0 で,ATR0 の無矛盾性が示せる.
WKL0 と ATR0 はよく似た性質をもつ.例えば,Theorem 4.13に対応するものとして次が成り立つ.
Theorem 5.6 ATR0 の β-モデル S で,S 上定義可能な集合がすべて∆1
1 となるものが存在する.
aこの主張は ACA0 のもとで,Π11-CA0 と同値である.
5.2 逆数学
(フリードマンの原則 I) 適切な公理から定理が証明できるならば, その公理はその定理から証明できる.
つまり,公理から定理を導く数学の通常のパターンとは逆に,定理からそれを証明するのに用いた公理を導くことができるということである.この原則に基づく研究が「逆数学」である.
RCA0 ⊆ Tとする.多くの場合,古典的数学の定理 τ の中にあらわれる概念は,コード化を利用して RCA0 で定義できると考えられる.
(原則 Iの厳密化)RCA0で定義できる数学の定理 τ に対して,多くの場合,適切な Tを選べば RCA0 上で Tと τ の同値性が証明できる.
具体例:
Theorem 5.7 RCA0 上で次の同値性が示せる.
(1) ACA0. (2) ボルツァノ・ワイエルシュトラスの定理.
更に!
(逆数学の基本原理)非常に多くの場合において,RCA0で定義できる数学の定理 τ は,RCA0 で証明できるかもしくは, WKL0, ACA0,ATR0, Π1
1-CA0 のいずれかと RCA0 上で同値になる.