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持続可能な農業:食料生産と生物多様性保全を担う農業 Food Production and Biodiversity Conservation towards Sustainable Agriculture
害虫が増えやすい、天敵が働きにくい環境
過度の農薬への依存
自然制御(多様な天敵の働き強化)
Enhancement of diversified natural
enemies for natural regulation
モノカルチャー(単植栽培:一種類の作物のみを植える)
生態系サービス Ecosystem services
近代農業の問題点
生態系に生息する天敵(良い虫)を害虫防除に活用
Integrated Pest Management with native natural enemies
プロジェクトの正式名称:西南暖地での果菜類における農業に有用な
生物多様性の管理技術の確立
天敵を最大限に活用した、西日本での野菜栽培~生態系や農家に優しい食料生産技術の確立 少し誤解されそうですが、分かり易いタイトルに変えました
資源集中仮説、天敵仮説で説明されます(専門の講義で勉強する内容です)。
天敵が働かない、天敵の働きが不十分なのは、天敵が働けない環境を作っているからなんだ!
私達のプロジェクトでは、宮崎大学を中心に宮崎県、鹿児島県、広島県、徳島県、奈良県、野菜茶業試験場(独法研究所)と一緒に、天敵を活かした、新しい農業技術を作ろうとしています。
今、農業の役割が大きく変わろうとしているよ!Watch a changing role of agriculture
宮崎大学で研究中の天敵の写真が、シュプリンガ-社から出版されているApplied Entomology and
Zoology誌の表紙を飾りま
した。(宮崎大・佐藤正義君撮影)
なぜ、農薬がたくさん必要?
クイズ 日本はどれ?
安全安心な野菜、果物、お米。でもみんなきれいな、傷のないものが欲しいですよね。
害虫や病気から作物を守るため、多くの国でたくさんの農薬が使用されています。
■アメリカ、■ドイツ、■フランス、■イギリス、●オランダ、●韓国、●日本、
0
5
10
15
20
25
1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003
kg/ha
農薬使用量
日本
韓国
オランダ
イギリス
フランス
ドイツ
アメリカ
このグラフは農地で使用される農薬量の変化を示しています。日本は何番(どの色)の線?
答はこの下にあります。自分で考えた後、ここを開いて下さい。
いろいろな理由・・・・ どれもホントです
1 農薬をまかないと、害虫が増え、作物を加害する。
2 多くの害虫は農薬に強くなっているので(抵抗性の発達)、いろいろな種類の農薬を何回もまく必要がある。
3 少しでも虫キズのある野菜や果物は買ってもらえない。
4 害虫を退治してくれる良い虫(天敵)が少なかったり、その働きが不十分。
5 (そしてこれが一番大事なのですが)現在の農業では、害虫を退治してくれる良い虫つまり天敵が働ける環境ができていない!
私達のプロジェクトは次のような疑問からスタートしました。
☆農薬に依存しなければ、食料は作れないのか?
☆天敵の力は頼りない、不十分なものなのか?
☆生態系サービスと呼ばれる生態系の機能、ここでは多様な天敵の働きを農業生産場面で活用できないのか?
☆環境に優しい“環境保全型農業”と生物多様性に優しい“生物多様性保全型農業”をうまく融合させられないのか?
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
天敵の「なぜWhy?」と「どうしたらHow?」
◆生態系の機能を引き出すための方策
1)天敵の隠れ場所(リフュージ)を作る
2)天敵に餌を供給する植物(花)を設置
生態系の機能(天敵など)を活用するため、天敵が能力を発揮できる環境を作り、農薬にあまり頼らない栽培技術を確立します。と言っても、上のような畑を作ることはできません。そこで、
①なぜ、畑や果樹園で天敵は活動できない?
②なぜ、天敵の働きは不十分?
③どうしたら、天敵を畑や果樹園で活用できる?
④どうしたら、天敵のパフォーマンスを高められる?
① ② ③
⑥
⑤④
⑩
⑨⑧⑦
⑯⑮
⑭⑬⑫⑪
⑰ ⑱
皆さん、気づいてますか?私達の身の回りにはさまざまな種類の天敵、それも害虫防除をまかせられそうな頼もしい天敵がいます。
そこで、クイズ2:左の①から⑱の天敵で、親子関係にあるのは何番と何番?全部で何組?
①の答:害虫防除(専門的には駆除ではなく、防除と言います)で使用される農薬は天敵の生存に悪影響を及ぼすものがほとんどです。つまり害虫退治のために散布される農薬は天敵を殺し、畑や果樹園から天敵を排除していることになります。
②から④の答を教えてくれる畑を偶然インドネシアの山奥に見つけました。先進国の農業だけが進んでいると思いがちですが、昔からの知恵が凝縮されたこのインドネシアの畑は、まさに天敵が働きやすい、天敵の力を引き出すために作られたようでした。
畑の周囲にはネギやトウモロコシ、豆類が植えられ、その中で複数の種類の野菜が栽培されています。一つの作物(ひとつの品種)のみを植えるモノカルチャー(単植)ではなく、ミックスカルチャー(混植)と呼ばれる栽培です。
クイズ 親子を探せ!?
答わかった人は、宮崎大学・大野先生(ohnok@
cc.miyazaki-u.ac.jp)まで携帯から発信!
KG1
0
1
2
3
4
8/24 8/31 9/10
プレオ プレオ
H’
13種H’=2.52
ヒメハナ 41頭
14種H’=2.24
ヒメハナ 65頭
11種H’=2.49
ヒメハナ 27頭
プレオプレオ
HK3
0
1
2
3
4
7/24 8/11 8/27
アディオン
アファーム
トルネードアドマイヤー
H’
9種H’=2.76ヒメハナ 0頭
3種H’=1.58
ヒメハナ 1頭
1種H’=0
ヒメハナ 0頭
アディオンアドマイヤー アファームトルネード
5月上旬にナスを植えて、6月から10月まで収穫が続きます。慣行防除(一般的な)圃場では、多いとこ
ろだと、毎週農薬が散布されます。そのような圃場を調査すると、天敵はほんのわずかな種類だけが見つかりました(下の表の赤い範囲を見て下さい)。
捕獲生物群名 HK3 TK2 ST1 ST2 HG1 HG2 HG3 KG1 KG2 NB1 NB2 NB3 KK1 KK2 TK1 HK1 HK2 AY1 AY2 AY3
クロヒョウタンカスミ成虫 1 1 4 1 2 1
クロヒョウタンカスミ幼虫 2 2 2
ヒメハナカメムシ類成虫 1 1 25 19 7 5 136 5 7 2 3 5 2
ヒメハナカメムシ類幼虫 2 2 3 1 16 1 1
ハリクチブトカメムシ成虫 1
ハリクチブトカメムシ幼虫 1
クサカゲロウ類
ゴミムシ類 1 1
アオバアリガタハネカクシ 1
ハネカクシ類
ウスフタホシテントウ 1
ナナホシテントウ 2
ヒメカメノコテントウ成虫 3 1 3 1 1 1
ヒメカメノコテントウ幼虫 1
ダンダラテントウ 1
キイロテントウ成虫 1
クロヘリヒメテントウ成虫 8
ヒメテントウ類
ショクガタマバエ
ヒラタアブ類成虫 1 4
タマゴコバチ類 1
寄生蜂類 1 1 1 1 3 1 1 4 5 1 2 2 1 1 1
カブリダニ類 6 5 2 3 5 3
コガネグモ 1
クモ類 1 3 7 2 6 29 11 31 9 3 6 8 12 4 8 10 7
様々な露地ナス畑で天敵の多様性を調べてみました
ほぼ毎週、天敵に影響のある農薬散布
減農薬
無農薬
宮崎県内500kmを移動しながらの露地ナスほ場調査の結果です。やはり、農薬の影響が少ない畑では、多様な天敵が観察されました。
表 宮崎県北部および中部のナスほ場(20箇所)における節足動物群集(天敵)、2009年データ
高千穂1 日の影3
日向1 延岡2
2009~10年:多様性調査および農家からの聞き取り、防除アドバイス(宮崎県内)
日向3
減農薬ほ場で観察された有用生物
夏秋ナス栽培と指標生物種発生
5月 6月 7月 8月 9月 10月
ヒメハナカメムシ類
ウロコアシナガグモ
ヒメカメノコテントウ
定植 収穫・管理(剪定)
2年間の西日本での調査から、上の3種が存在するナス圃場では、多様な生物が維持されている畑だと言えそうです。
上に示した3種類の天敵を指標生物(Bioindicator species)とすることで、農薬
への依存度を減らした、有用生物の多様性維持につながる栽培が行われている畑を特定できると考えています。ヨーロッパ等では、このような農業に取り組む農家に対して、環境や生物多様性を社会のために維持してくれるという意味で国から補償金(お礼)が支払われています。
農業は食料生産だけではなく、私達の住環境や生態系の健全な維持にも大きな役割を担っているということです。
①のように、非選択的農薬が使われたナス畑では、天敵の種数が極端に少なくなり、有力な捕食性天敵であり指標生物種でもあるヒメハナカメムシ類も見つかりません。
天敵に優しい農薬が使われたナス畑②では、夏の間さまざまな天敵が圃場で観察され、ヒメハナカメムシ類もたくさん見つかりました。多様度指数H’も2.5と、畑では高い数値を示しました。
非選択的農薬:いろいろな種類の害虫を殺せる便利な農薬ですが、いろんな虫を殺すということは、天敵もすべて殺すという意味です。
選択的農薬 :ある特定の一種あるいは2,3種にしか殺虫効果のない農薬です。いろいろな種類の害虫の防除に使えないので、農家の方は非選択的農薬に比べると不便に感じます。しかし、最大の利点を見落としてはいけません。天敵に影響が少ない、天敵を保護しながら、害虫の防除ができるのです。
① 調査方法:農家ほ場での農薬散布の聞き取りおよび20分間(4名)でナス株上の天
敵を採集。調査では、カブリダニおよび寄生蜂を除く、5目23科67種(クモ類を含む)を同定。
捕食性天敵群集の多様性および種数の推移と農薬散布の関係を解析。 種の多様度指数 (Species richness) Shannon-Winer H‘ = - ΣpiInpi ここでpi= Ni/N
②
天敵を畑に呼び込む、畑にとどめるために
プロジェクトで検討している露地ナスのイメージは、右のような畑です。
ハーブ類での捕食性天敵の働き強化と誘引(宮崎農試・中村氏、宮崎大・山本データ)
ソバ:天敵群集の多様性を高める最適の植物(野茶試・太田氏、宮崎大・市川・竹之山データ)。
クローバーや雑草は天敵の生息場所(宮崎大・市川・田中・中渡瀬データ)。
マリーゴールド:ヒメハナカメムシ類の生息場所(奈良農試・井村氏の発見)
オクラ:捕食性天敵の生息場所(徳島農試・中野氏の発見)
畑の中や外に、どんな植物を植える?
ソルゴー障壁:風傷対策、害虫侵入阻止、アブラムシ類の捕食者群集の繁殖場所(岡山農試・永井氏の発見)。プロジェクトでデータをさらに補強
ハーブ類、各種作物を対象に天敵を誘引、天敵の生息場所となる植物(インセクタリー・プラント)を検討しました。
ハーブ類やソバに対するヒラタアブ類の反応
ヒラタアブ類ハエ目 Dipteraハナアブ科 Syrphidae成虫:花粉を摂食幼虫:アブラムシ類を捕食
(Turkyの多重比較検定, p>0.05)
単植区および混植区で観察されたヒラタアブ類個体数の推移 (Mean±S.E.)
ヒラタアブ類飛来数/区
0
4
8
12
5/2 5/12 5/22 6/1 6/11 6/21 7/1
ホーリーバジル
0
4
8
12
5/2 5/12 5/22 6/1 6/11 6/21 7/1
コリアンダー
0
4
8
12
5/2 5/12 5/22 6/1 6/11 6/21 7/1
ディル
0
4
8
12
5/8 5/15 5/22 5/29 6/5 6/12 6/19 6/26 7/3
ソバ
0
4
8
12
5/8 5/15 5/22 5/29 6/5 6/12 6/19 6/26 7/3
混植区
0.0
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
1.2
1.4
1.6
1.8
0.0
0.4
0.8
1.2
1.6
2.0
7/26 8/
2
8/9
8/16
8/23
8/30 9/
6
9/13
9/20
9/27
10/4
10/1
1
10/1
8
10/2
5
11/1
アザミウマ類個体数
/
芽
ヒメハナカメムシ類個体数
/
芽
芽 西側ハナカメA
ハナカメL
アザミA
アザミL
0.0
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
1.2
1.4
1.6
1.8
0.0
0.4
0.8
1.2
1.6
2.0
7/26 8/
2
8/9
8/16
8/23
8/30 9/
6
9/13
9/20
9/27
10/4
アザミウマ類個体数
/
芽
ヒメハナカメムシ類個体数
/
芽
芽 東側ハナカメAハナカメLアザミAアザミL
0.0
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
1.2
1.4
1.6
1.8
0.0
0.4
0.8
1.2
1.6
2.0
7/26 8/
2
8/9
8/16
8/23
8/30 9/
6
9/13
9/20
9/27
10/4
アザミウマ類個体数
/
葉
ヒメハナカメムシ類個体数
/
葉
葉 東側ハナカメAハナカメLアザミAアザミL
0.0
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
1.2
1.4
1.6
1.8
0.0
0.4
0.8
1.2
1.6
2.0 7/
26 8/2
8/9
8/16
8/23
8/30 9/
6
9/13
9/20
9/27
10/4
10/1
1
10/1
8
10/2
5
11/1
アザミウマ類個体数
/
葉
ヒメハナカメムシ類個体数
/
葉
葉 西側ハナカメA
ハナカメL
アザミA
アザミL
図 オクラでのヒメハナカメムシ類およびアザミウマ類の個体数推移Mean±S.E.
E
E:開花終了
A
A:つぼみ
B
B:開花初期1~3分
D
D:開花最盛期8~10分
C :開花中期4~7分
C
ヒメハナカメムシ類は何を餌としている?
オクラの花芽と花、 分泌液を摂食するヒメハナカメムシの一種
トウモロコシの花粉を摂食するヒメハナカメムシの一種
ニンジン、トウモロコシは春から初夏にかけて、ヒメハナカメムシ類のインセクタリー・プラントとして有望。
オクラでは夏から秋にかけて、餌となる虫がいなくてもヒメハナカメムシ類は生存している。オクラは不思議なインセクタリー・プラント(宮崎大・林、山本データ)。
ホーリーバジル、ソバは天敵を誘引するインセクタリー・プラント。アブラムシ類の捕食性天敵であるヒラタアブ類、ハダニ類やアザミウマ類の捕食性天敵であるカブリダニ類やヒメハナカメムシ類が誘引される(宮崎農試中村氏、宮崎大・竹之山データ)。
注)取り組みすべてを農家に勧めるのではありません。農家の経験、畑の周辺環境等に応じて、オプション(選択肢)を用意します。