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- 18 - 東海望楼平成20年4月号●2008-4 5 10 調10 調10 統計望楼 統計望楼 統計望楼 統計望楼 統計望楼 統計望楼 統計望楼 統計望楼 第 12 回 震災が人々の生活と 第 12 回 震災が人々の生活と 人生に与えた影響② 人生に与えた影響② 名古屋大学大学院 名古屋大学大学院 環境学研究科 環境学研究科 (名古屋大学災害対策室) (名古屋大学災害対策室) 木村 玲欧 木村 玲欧 数字から知る 数字から知る 人々の心理と行動 人々の心理と行動 数字から知る 数字から知る 人々の心理と行動 人々の心理と行動 数字から知る 数字から知る 人々の心理と行動 人々の心理と行動 数字から知る 数字から知る 人々の心理と行動 人々の心理と行動 6.5 7.1 12.2 12.4 15.2 15.4 15.9 18.6 21.9 22.0 33.3 37.8 50.9 12.2 16.8 33.7 18.4 14.4 31.3 37.8 37.3 42.1 37.6 39.1 33.8 29.2 31.9 34.4 42.4 30.1 25.9 39.8 23.6 29.4 20.4 32.9 22.7 22.6 11.1 23.6 19.8 6.9 20.1 21.7 7.8 16.0 8.9 10.7 4.2 2.4 2.4 3.7 3.7 3.3 3.3 25.7 21.9 4.8 19.0 22.8 5.7 6.8 5.9 5.0 5.5 3.3 2.2 2.5 0% 20% 40% 60% 80% 100% まったくそう思う 震災での体験は得がたい経験だった(n=979どちらかといえば そう思う どちらとも言えない まったくそう 思わない どちらかといえばそう思わない 生きることは意味があると強く感じる n=974人生には何らかの意味があると思う(n=964震災後人も捨てたものでないと感じる n=972現在がふつうのくらしに感じられる(n=982暮らし方のめどが立っている(n=969毎日の生活は決まったことの繰り返し n=977人生の使命を考えるようになった(n=960震災での体験は過去から消したい(n=968震災のことを思い出したくない(n=965震災によって精神的に成長できた(n=967震災については触れてほしくない(n=969震災の話は聞きたくない(n=965図 7:震災の体験(10 年後) 2 1 5 5 100

月、被災地で無作為抽出調査を行って、 「震災からの 最後に ... · 2008-04-05 · の研究チームがインタビュー調査などから収集した 13の震災の体験・教訓

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Page 1: 月、被災地で無作為抽出調査を行って、 「震災からの 最後に ... · 2008-04-05 · の研究チームがインタビュー調査などから収集した 13の震災の体験・教訓

- 18 -東海望楼平成20年4月号●2008-4

5.震災は人生に意味を見いだした「得がたい体験」

最後に「震災は人々にどんな体験・教訓をもたらしたのか」ということ

について述べたいと思います。

私たちの研究チームでは、阪神・淡路大震災から10年後の2005年1

月、被災地で無作為抽出調査を行って、「震災からの10年間」を被災者に

総括してもらいました。その調査の中で「震災からこれまでの10年間を振

り返ると、その間の体験について、あなたはどのような印象をお持ちです

か。それぞれあてはまる番号一つに○をつけてください」として、私たち

統計望楼統計望楼統計望楼統計望楼統計望楼統計望楼統計望楼統計望楼

第 12 回 震災が人々の生活と第 12 回 震災が人々の生活と     人生に与えた影響②     人生に与えた影響②

名古屋大学大学院名古屋大学大学院環境学研究科環境学研究科(名古屋大学災害対策室)(名古屋大学災害対策室)

木村 玲欧木村 玲欧

数字から知る数字から知る人々の心理と行動人々の心理と行動数字から知る数字から知る人々の心理と行動人々の心理と行動数字から知る数字から知る人々の心理と行動人々の心理と行動数字から知る数字から知る人々の心理と行動人々の心理と行動

6.5

7.1

12.2

12.4

15.2

15.4

15.9

18.6

21.9

22.0

33.3

37.8

50.9

12.2

16.8

33.7

18.4

14.4

31.3

37.8

37.3

42.1

37.6

39.1

33.8

29.2

31.9

34.4

42.4

30.1

25.9

39.8

23.6

29.4

20.4

32.9

22.7

22.6

11.1

23.6

19.8

6.9

20.1

21.7

7.8

16.0

8.9

10.7

4.2

2.42.4

3.73.7

3.33.3

25.7

21.9

4.8

19.0

22.8

5.7

6.8

5.9

5.0

5.5

3.3

2.2

2.5

0% 20% 40% 60% 80% 100%

まったくそう思う

震災での体験は得がたい経験だった(n=979)

どちらかといえばそう思う

どちらとも言えない まったくそう思わない

どちらかといえばそう思わない

生きることは意味があると強く感じる(n=974)

人生には何らかの意味があると思う(n=964)

震災後人も捨てたものでないと感じる(n=972)

現在がふつうのくらしに感じられる(n=982)

暮らし方のめどが立っている(n=969)

毎日の生活は決まったことの繰り返し(n=977)

人生の使命を考えるようになった(n=960)

震災での体験は過去から消したい(n=968)

震災のことを思い出したくない(n=965)

震災によって精神的に成長できた(n=967)

震災については触れてほしくない(n=969)

震災の話は聞きたくない(n=965)

図 7:震災の体験(10 年後)

 

小数点第2位を四捨五入しているため、「1まったくそう思う〜5

まったくそう思わない」の5段階を足し合わせたときに100%にならない

ものがある。

Page 2: 月、被災地で無作為抽出調査を行って、 「震災からの 最後に ... · 2008-04-05 · の研究チームがインタビュー調査などから収集した 13の震災の体験・教訓

- 19 - 東海望楼平成20年4月号●2008-4

の研究チームがインタビュー調査などから収集した13の震災の体験・教訓

について、「1まったくそう思う〜5まったくそう思わない」の5段階で

共感度を尋ねました。この質問によって「震災」というライフイベントに

対して、被災者がどういう意味づけをしているのかを明らかにしようとし

たのです。

図7が結果です。「まったくそう思う」「どちらかといえばそう思う」

と回答した人が多かった項目を見ると、「震災での体験は得がたい経験

だった」(80・1%)、「人生には何らかの意味があると思う」(72・4%)、

「生きることは意味があると強く感じる」(71・6%)などであり、震災

という体験自体を肯定的にとらえている人が多かったことがわかります。

次に「まったくそう思う」「どちらかといえばそう思う」が50〜70%の

ものを見ると、「現在がふつうのくらしに感じられる」(64%)、「震災後

人も捨てたものでないと感じる」(59・6%)、「暮らし方のめどが立って

いる」(55・9%)、「毎日の生活は決まったことの繰り返し」(53・7%)

であり、10年という月日によって「新しい日常生活モード」に半数以上の

人が移っていることが明らかになりました。

6.平時の世の中だからこそ、災害への備えを!

一方で、「震災の話は聞きたくない」(18・7%)、「震災については触

れてほしくない」(23・9%)、「震災での体験は過去から消したい」

(29・6%)などは、「まったくそう思わない」「どちらかといえばそう

思わない」の方が多く、震災を否定的にとらえている人は比較的少ないこ

ともわかりました。

しかし、これを家屋被害程度別でクロス集計(第3回)してみると、少

し事情が違ってきます(図8)。震災を肯定的な体験としてとらえている

ほとんどの項目では、統計的に意味のある差は見られませんでしたが、震

災を否定的にとらえている「震災での体験は過去から消したい」「震災の

ことを思い出したくない」「震災については触れてほしくない」「震災の

震災のことを思い出したくない

現在がふつうのくらしに感じられる

人生には何らかの意味があると思う

震災によって精神的に成長できた

震災の話は聞きたくない

人生の使命を考えるようになった

震災での体験は過去から消したい

震災後人も捨てたものでないと感じる

生きることは意味があると強く感じる

震災での体験は得がたい経験だった

暮らし方のめどが立っている

震災については触れてほしくない

毎日の生活は決まったことの繰り返し

14.5

17.5

26.4

33.6

41.8

10.410.4

13.8.813.8

56.9

13.08.0

21.3

22.9

28.2

19.4

15.9

14.5

35.9

53.7

12.8

25.7

11.7

14.7

8.4

10.5

17.7

18.0

24.5

38.7

30.1.130.1

20.4

13.0

4.1.14.1

10.7

13.3

14.414.4

18.5

18.7

38.3

50.5

33.0

22.9

14.6

5.04.3

5.4

8.6

15.2

18.1.118.1

34.4

32.1

43.9

5.9

0 10 40 50 603020%

被害なし(n=184~189)一部損壊(n=438~446)半壊半焼(n=191~197)全壊全焼(n=142~149)

家屋被害

図 8:震災の体験(家屋被害別)(「そう思う」と回答した人の割合)

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- 20 -東海望楼平成20年4月号●2008-4

話は聞きたくない」については「そう思う」人が全壊全焼家屋の被災者に

多く、統計的にも意味のある差が見られたのです。つまり家屋被害が大き

い被災者については、震災を肯定的にとらえる一方で、まだまだ被災者

モードの中で震災を否定的にとらえる人も多いことが考えられます。これ

は第8回で述べた復旧・復興カレンダーにおける「自分が被災者だと意識

しなくなった」人を家屋被害程度別に見たときに、家屋被害の大きい被災

者は震災から10年が経過していても、約半分の人が未だに「自分を被災者

である」と認識していたことからもわかります。

行政の再建・復興施策を見てみると「震災10年」を一区切りに打ち切ら

れるものが多いことがわかります。もちろん行政的にも、10年前の災害被

災者の対応ばかりにいつまでも目を向けてはいられなく、どこかで手を打

たなければならないことも事実でしょう。しかし被災者の体験というのは、

どこかで区切れるものではなく、連続しているのです。特に家屋被害の大

きい被災者の生活再建過程は、10年という月日をもってしても、なお途上

にあるのです。多くの人が日常生活を取り戻し、限りなく平時に近い世の

中においても、被災者を見守り、次の災害に備えて被災教訓を継承し、地

域の防災力を高めていく必要があることを、私たちは忘れてはなりません。

1年間にわたった連載も、これでおしまいです。みなさんに、被災者の

心理と行動、被災社会の復旧・復興について「知らなかった」「おもしろ

かった」「役に立ちそうだ」といっていただけるのならば、これに勝る喜

びはありません。

このようなデータを生みだすことができたのは、「私たちの研究チー

ム」のおかげです。京都大学防災研究所の林春男先生、新潟大学災害復興

科学センターの田村圭子先生、同志社大学社会学部の立木茂雄先生、ハイ

パーリサーチ株式会社の浦田康幸先生といった中核メンバーをはじめとす

る皆様に深く御礼申し上げます。

そして最後に、筆の遅い私を忍耐強く見守ってくださった、『東海望楼』

編集部をはじめ関係者の皆様にはたいへんお世話になりました。心から感

謝申し上げます。

▲被災した神戸市役所(平成 7年 2月撮影)

▲長田区の火災現場(平成 7年 2月撮影)

 

木村玲欧(きむられお)

 

1975年、東京都生まれ。早稲田大学卒業後、京都大学大学院を経て、

2003年より名古屋大学大学院環境学研究科助手(名古屋大学災害対策室助

手を併任)を勤める。2007年4月より助教。博士(情報学)(京都大学)、

認定心理士、専門社会調査士。

 

阪神・淡路大震災、新潟県中越地震、スマトラ沖地震津波をはじめ、194

4年東南海地震、1945年三河地震などを事例とした、被災者心理・行動、

生活再建過程の解明と被害想定手法の研究を行っている。名古屋市「地域特性

に応じた防災力向上検討委員会」委員、内閣府「災害教訓の継承に関する専門

調査会 東南海地震・三河地震分科会」委員なども歴任する。

 

著書に『12歳からの被災者学』(NHK出版)、『三河地震60年目の真実』(中

日新聞社)、『超巨大地震がやってきた

スマトラ沖地震津波に学べ』(時事通信

社)、『いま活断層が危ない

中部の内陸直下型地震』(中日新聞社)などがある。

〈執筆者プロフィール〉