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1094:202(海霧) 北海道釧路市における市街地と郊外・海岸での海霧の観測* 博・八木鶴平** 1981年7月14~20日と1982年7月26日~8月4日の計17日間,北海道釧路市において海霧の地上観 った.市街地の観測点と郊外で海岸の観測点とにおいて,反射型視程計による視程,細線式霧水量計による 霧水量及び一般気象要素の連続測定により,都市による海霧の消散の程度を実測した.その結果,市街地の 観測点での霧の延べ発現時間は郊外で海岸の観測点の1/2~1/6であった.また,3例の解析結果について 詳述し,釧路市で観測された海霧の特徴と都市域での消散の程度及び釧路地方の夏期にみられる海霧以外の 霧の存在について議論した. 1.緒 北海道と東北地方の太平洋沿岸は5月から8月にかけ て海霧に襲われる.特に,北海道の釧路・根室地方の海 岸部の霧日数は毎年約110日もあり,その多くは海霧に よるものである.この地方の海霧は,沖合の冷水域で発 生した霧が南風によって移流するもので,海岸付近に数 日間濃霧をもたらし,視程50mにも低下することがあ る.この海霧の克服のために,種々の統計調査や観測調 査がなされてきた.組織的な調査研究としては,1943~ 1945年に大規模な合同調査(技術院研究動員会議,1945) が,1950~1953年に防霧林の研究(北海道林務部(1953) など)が行われた.これらの研究も含めた太平洋沿岸の 海霧についての解説が唐津ら(1963)によってまとめら れている.黒岩・大喜多(1959)による解説にも同地方 の霧について述べられている.また,沢井(1982)によ る霧の諸間題を考える最近の解説が興味深い. 従来,海霧の海上での発生のメカニズム,鉛直構造お *Observation of sea fogs at the urban area and the coastal suburbs in Kushiro city, Hokkaido. **Hiroshi Ueda and Tsuruhei Yagi,国立防災 科学技術センター. 一1983年11月7日受領一 一1983年12月17日受理一 1984年2月 よび移流の仕方などの研究がなされてきた.これらの問 題に加えて,都市の市街地での海霧の消散効果はどの程 度であるか,海霧の侵入を受ける海岸部でも海霧以外の 霧が発現しているのではないかなど,解明しなければな らない問題は多い.また1940年代と1950年代の観測以 後,最近では,気象衛星をはじめ種々の観測機器が開発 されているので,これらを利用した総合的な観測を実施 すれば明らかになることも多いと思われる.また近年, 都市化や生活様式の変化等により,交通事故対策,都市 計画あるいは保健衛生面の考慮など,海霧対策も多様化 が求められるようになり,海霧の予測精度の向上と海霧 め特性の詳細な調査の要望が高まっている.このような 背景にあって,海霧の発生・変質機構の解明,モニタリ ングと予測手法の開発,都市域での海霧の特性の把握, および防霧実験などを目的とした総合観測が,気象研究 所,国立防災科学技術センター,および土木試験所によ って釧路市周辺で実施された. 著者らはその一環として,1981年と1982年に合計17日 間,釧路市の市街地と郊外・海岸で視程や霧水量などの 地上連続観測を行った.両地点での連続観測の結果を 中心に,他機関による周辺の観測記録を利用して解析を 行い,市街地と郊外・海岸の霧の特性を比較した.各年 の観測の概要と解析結果の一部については,八木・上田 (1982,1983)および上田・八木(1982)に報告され 63

北海道釧路市における市街地と郊外・海岸での海霧の観測* …勉2 ・」UL1812 ・」UL.1912. ・』UL2。コ2198124 δ25 し ]20 匡 ⊃ト15 く 庄 ]10

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1094:202(海霧)

北海道釧路市における市街地と郊外・海岸での海霧の観測*

上  田 博・八木鶴平**

 要 旨

 1981年7月14~20日と1982年7月26日~8月4日の計17日間,北海道釧路市において海霧の地上観測を行

った.市街地の観測点と郊外で海岸の観測点とにおいて,反射型視程計による視程,細線式霧水量計による

霧水量及び一般気象要素の連続測定により,都市による海霧の消散の程度を実測した.その結果,市街地の

観測点での霧の延べ発現時間は郊外で海岸の観測点の1/2~1/6であった.また,3例の解析結果について

詳述し,釧路市で観測された海霧の特徴と都市域での消散の程度及び釧路地方の夏期にみられる海霧以外の

霧の存在について議論した.

 1.緒 言

 北海道と東北地方の太平洋沿岸は5月から8月にかけ

て海霧に襲われる.特に,北海道の釧路・根室地方の海

岸部の霧日数は毎年約110日もあり,その多くは海霧に

よるものである.この地方の海霧は,沖合の冷水域で発

生した霧が南風によって移流するもので,海岸付近に数

日間濃霧をもたらし,視程50mにも低下することがあ

る.この海霧の克服のために,種々の統計調査や観測調

査がなされてきた.組織的な調査研究としては,1943~

1945年に大規模な合同調査(技術院研究動員会議,1945)

が,1950~1953年に防霧林の研究(北海道林務部(1953)

など)が行われた.これらの研究も含めた太平洋沿岸の

海霧についての解説が唐津ら(1963)によってまとめら

れている.黒岩・大喜多(1959)による解説にも同地方

の霧について述べられている.また,沢井(1982)によ

る霧の諸間題を考える最近の解説が興味深い.

 従来,海霧の海上での発生のメカニズム,鉛直構造お

*Observation of sea fogs at the urban area

 and the coastal suburbs in Kushiro city,

 Hokkaido.**Hiroshi Ueda and Tsuruhei Yagi,国立防災

 科学技術センター.

  一1983年11月7日受領一  一1983年12月17日受理一

1984年2月

よび移流の仕方などの研究がなされてきた.これらの問

題に加えて,都市の市街地での海霧の消散効果はどの程

度であるか,海霧の侵入を受ける海岸部でも海霧以外の

霧が発現しているのではないかなど,解明しなければな

らない問題は多い.また1940年代と1950年代の観測以

後,最近では,気象衛星をはじめ種々の観測機器が開発

されているので,これらを利用した総合的な観測を実施

すれば明らかになることも多いと思われる.また近年,

都市化や生活様式の変化等により,交通事故対策,都市

計画あるいは保健衛生面の考慮など,海霧対策も多様化

が求められるようになり,海霧の予測精度の向上と海霧

め特性の詳細な調査の要望が高まっている.このような

背景にあって,海霧の発生・変質機構の解明,モニタリ

ングと予測手法の開発,都市域での海霧の特性の把握,

および防霧実験などを目的とした総合観測が,気象研究

所,国立防災科学技術センター,および土木試験所によ

って釧路市周辺で実施された.

 著者らはその一環として,1981年と1982年に合計17日

間,釧路市の市街地と郊外・海岸で視程や霧水量などの

地上連続観測を行った.両地点での連続観測の結果を

中心に,他機関による周辺の観測記録を利用して解析を

行い,市街地と郊外・海岸の霧の特性を比較した.各年

の観測の概要と解析結果の一部については,八木・上田

(1982,1983)および上田・八木(1982)に報告されて

63

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138 北海道釧路市における市街地と郊外・海岸での海霧の観測

第1図 釧路市周辺の地形と観測点.

いる.本報告では,全観測期間の霧の特徴と3つの事例

についての詳しい解析結果を述べる.

 2.観測方法

 2.1.観測期間

 都市域の存在によって海霧が変質(消散)することが

知られている.この変質の特性を調べるために,海岸か

ら数km内陸の市街地と郊外の海岸との2観測点で,

1981年7月14日から7月20日までと1982年7月26日から

8月4日まで観測を行った.固定観測点では3交替制で

24時間観測体制をとった.また,1982年には適宜自動車

による移動観測を行った.

 2.2.観測地点

 地上連続観測は,第1図に示した釧路市の柳町と大楽

毛で行った.釧路市は釧路川の流域に広がる釧路湿原が

東と西の丘陵にはさまれて南の太平洋に至る海岸部にあ

るため,海霧の侵入を直接受ける位置にある.釧路市の

市街地にある柳町の観測点は,西南西へ約2km,市の

中心部を通っては南南東へ約2kmで海岸に至る地点で

ある.柳町は屋外スケートリンクのフィールド(芝地)

を観測露場とした.周辺は高い建物や一般住宅の密集地

である.柳町は,南から侵入した海霧が市街地を通過す

64

る間に変質を受けた霧を観測でぎる地点である.釧路市

の郊外にある大楽毛の観測点は柳町から西へ約7kmの

地点である.大楽毛は東西に走る汀線から約100mの雑

草の茂った砂地を観測露場とした.ここは周囲にほとん

ど建造物や木立ちがなく,海からの霧を直接観測できる

地点である.

 第1図の柳町と大楽毛周辺の●印は気象研究所と土木

試験所によって設置された観測点を示す.土木試験所に

よる透過型視程計は湿原の西側にそって大楽毛(海岸)

の北に内陸へ向かって,北斗(海岸から約5km),下幌

呂(同15km)および鶴居(同25km)の順に,さらに,

海岸の西港,丘陵の釧路空港に設置された.これらの観

測点の他に釧路市内に数点,風向・風速の常時観測点が

ある.

 2.3.観測項目と測定機器

 2.3.1.霧水量

 単位体積の空気中に含まれる霧粒の水の全重量を霧水

量といい,通常空気1m3中のグラム数で表す.霧水量

の連続測定のために,Sasy6(1968)により開発された細

線式霧水量計を製作し,観測に使用した.地上1.5mに

設置した霧水量計の矩形風洞に霧粒を含んだ空気を一定

風速(5~6m/sec)で引き込み,風洞内に張った細線

に霧粒を捕捉する.この細線は一定速度で移動してお

り,細線に捕捉された霧粒は,金属・ッドで色素処理さ

れた炉紙の上にしごき集められ,集まった水の量に対応

した大きさの痕跡を残す.30秒ごとに1個の痕跡を残す

ようにし,解析には5分間の10個の痕跡による霧水量の

平均値を用いた.1981年の霧水量の測定では一部欠測が

あったが,1982年の観測では炉紙交換の時間を除き欠測

はなかった.なお,移動観測に使用した霧水量計は,上

述の細線式霧水量計を小型軽量にし,自動車のルーフキ

ャリアに固定し,自動車の蓄電池で作動するようにした

ものである.

 2.3.2.視程

 視程の計器による観測には,透過型視程計により大気

透過率を測定することが多いが,今回の観測では近赤外

線ビームにより大気の反射率を測定する反射型視程計を

使用した.これは投光器と受光器が一枚の基板に併置さ

れているため投・受光器相互の光軸の狂いがなく,小型

軽量で取り扱いが簡単である.反射型視程計の出力と視

程の関係は透過型視程計との比較測定により検定された

ものである.視程計の投受光部は地上1・5mに設置した.

視程計の時定数を40秒とし,比較的ゆるやかな変動に

、天気”3L2.

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北海道釧路市における市街地と郊外・海岸での海霧の観測 139

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第2図

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反射型視程計による視程と気温からみた市街地にある柳町観測点と郊

外・海岸にある大楽毛観測点での観測期間中の霧の発現状況.

着目した.視程の解析には5分ごとの読み取り値を用い

た.1981年および1982年の観測期間中欠測なく連続記録

がとられた.

 2.3.3.粒径分布

 霧粒の粒径分布の測定は,酸化マグネシウム膜上に自

然落下した霧粒を捕捉する方法(丸山・浜(1954)など)

によった.各測定は霧の濃度により20~60秒間露出し,

測定間隔は通常30分とした.この粒径分布より霧水量を

算出し,細線式霧水量計による霧水量と比較した.

 2.3.4.その他の観測項目

 隔測温湿度計による地上1.5mの気温・露点の測定,

エーロベンによる地上10mの風向・風速の測定,およ

び写真と目視による霧の状況の観測を行った.気温の解

析には5分ごとの読み取り値を,風向g風速の解析には

30分間隔の読み取り値を用いた.移動観測の測定項目

は,細線式霧水量計による霧水量,自然落下法による粒

径分布,熱線風速計による風速と気温,および目視によ

る視程である.

1984年2月

 3.観測結果

 3.1.観測期間中の霧の概要

 観測期間中の霧(視程1km未満)の発現状況を,市

街地にある柳町観測点と郊外の海岸にある大楽毛観測点

    まの視程と気温の変化でながめると第2図のようになる.

上の2つの欄が1981年の観測結果,下の2つの欄が1982

年の観測結果を示す.気温は点線が柳町,実線が大楽毛

を示す.視程は1km未満,200m以下および100m以

下の段階に分け,それぞれ図の右上の欄に例示した線の

太さで表した.上段が柳町,下段が大楽毛である.な

お,視程が1km以上の場合は細い点線で示した.

 まず視程の記録からみる.1981年の観測で霧の発現が

あったのは7月14~17日および19日で,18日と20日には

霧の発現はなかった.延べ発現時間数は柳町で約43時

間,大楽毛は約82時間で,柳町は大楽毛の半分しか霧が

観測されていない.また,視程200m以下の濃霧に限る

と柳町は大楽毛の6分の1の発現時間しかなかった.

1982年の観測期間の前半,7月26日から30日にかけては

65

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140 北海道釧路市における市街地と郊外・海岸での海霧の観測

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      3第3図 1982年8月1日20時から2目1時までの柳

    町観測点と大楽毛観測点における気温,風

    向・風速,視程及び細線式霧水量計による

    霧水量の変化.ロ印とO印はそれぞれ柳町    と大楽毛における粒径分布から求めた霧水

    量を示す.

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全く霧が発現しなかったが,後半7月31日から8月4日

まで連日霧が発現した.1982年の観測期間中の霧の延べ

発現時間は,柳町で16時間,大楽毛は96時間で,柳町は

大楽毛の6分の1であった.視程200m以下の濃霧に限

ると柳町は大楽毛の10分の1以下であった.この比は

1931年の観測より小さくなっており,1982年の観測では

柳町の霧がかなり薄かったことを示している.

 次に気温の変化を視程の変化と対照してみる.1981年

の観測期間の霧の発現はおおむね13~15。C以下の時で

あり,濃い霧は気温の下がったときに発現していること

がわかる.また両観測点の気温を比較すると,,全体に柳

町の方が大楽毛より数度高く,霧が発現しているときで

も1~2。Cの差がみられた.1982年の観測期間の後半

の霧の発現時の気温はおおむね15~17。C以下であった.

これは,2週間ほど観測時期の早かった1981年の観測と

比べると,霧の発現時の気温で数度高くなっている.ま

た,柳町と大楽毛の気温を比較すると,1981年の観測と

同様,市街地にある柳町の気温は郊外の海岸にある大楽

毛より数度高くなっていた.

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第4図 1982年8月1日20時から2日1時までの鶴    居,下幌呂,北斗及び西港(土木試験所測

    定)と柳町観測点及び大楽毛観測点での視

    程.

 このような視程と気温の変化をもたらした気象概況を

次に述べる.1981年7月14日から17日午前中にかけて一

連の霧が発現した.このとき,東北北部には梅雨前線が

あって,北海道の東方に中心をもつ高気圧により,釧路

市では南風が持続した.7月17日に東北北部の梅雨があ

け,7月18日から20日は太平洋高気圧の影響を受け,釧

路市では南風が持続しなくなった.18日は柳町,大楽毛

共に霧の発現はなかった.19日未明には柳町,大楽毛共

に非常に濃い霧が発現したが,数時間の持続で終わった・

この19目未明の霧については3・3・節で詳しく述べる.

1982年7月26日から30日にかけて北海道はオホーツク海

高気圧に被われ,釧路市ではこの期間東北東の風が持続

し,柳町と大楽毛共に視程は良好であった.7月31日か

ら8月4日にかけてはオホーツク海高気圧が南に移動

し,釧路市では南風が入り,大楽毛で連日霧が発現し

た.8月2日から3日は台風10号の影響で7~8m/sec

の強い南風が吹いた.これに続いて8月4日未明には北

風のときに柳町の方が大楽毛より濃い霧が観測された.

8月1日夜半の霧と8月4日未明の霧についてはそれぞ

れ3.2.節と3.4.節で詳しく述べる.

 3.2.1982年8月1日夜半の霧

 1982年8月1目夜から2日未明にかけて,釧路地方は

千島南東海上の高気圧からのびる帯状の高圧部に入り,

織天気”31.2

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北海道釧路市における市街地と郊外・海岸での海霧の観測 141

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1982年8月1日21時50分から23時10分までの自動車による移』動観測.各測定点での霧水量(上

段)と気温(下段)を測定時刻とともに示した.また大楽毛観測点と柳町観測点での霧水量と気

温も比較のために示した.

釧路市では南風が入った.南風が数日持続し広い範囲で

濃い霧が継続するのが釧路地方の典型的な海霧とする

と,このときの霧は,比較的薄いが典型的な海霧であっ

たと考えられた.

 第3図に8月1日20時~3月2日1時の,地上気温,

風向・風速,視程および霧水量の変化を示した.気温,

視程および細線式霧水量計による霧水量は5分間隔の値

をプ・ットし,柳町を点線,大楽毛を実線で示した.風

向・風速は30分間隔で示した.粒径分布から求めた霧水

量を柳町と大楽毛それぞれ・印とo印で示した.

 風の変化をみると柳町は東南東~西南西の風であり,

大楽毛ではほぽ南東風であった.柳町と大楽毛の周辺の

観測でもこの時刻南南西から南東の風であった.気温の

変化をみると,大楽毛の気温は16・5~17・5。Cで,柳

町の気温はこれより1~2。C高く18~19。Cであっ

た.視程の変化をみると大楽毛の視程は21時から23時ま

で200m以下であり,これに対応して柳町の視程は21時

1984年2月

から23時まで1km以下にな:り,濃いときには200mに

近づいた.細線式霧水量計による霧水量は視程の変化に

大体対応し,大楽毛の霧水量は21時から23時まで0・1

g/m3以上で,最大0.14g/m3に達した.これは,1982

年の観測としては7月31日夜半に大楽毛で観測した霧水

量O.24g/m3(このときの視程120m)に次ぐものであ

った.柳町の霧水量は大楽毛の値より小さく最大で0.09

g/m3であった.なお,霧水量の記録が一部とぎれてい

るのは,目視で霧の発現が認められないので運転を停止

していたときおよび炉紙等の交換のための中断である.

粒径分布から求めた霧水量は,数点を除いて,霧水量計

で測定した霧水量に近い値を示した.

 土木試験所の透過型視程計の記録により内陸の視程の

時間変化の違いをみた.記録を5分ごとに読み取り,

第3図の視程と同じ表現にして第4図に示した.観測点

の配置の順に並べ,比較のために柳町の視程を破線で示

し,西港の視程を図の一一番下に示した.最も内陸の鶴居

67

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142 北海道釧路市における市街地と郊外・海岸での海霧の観測

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第6図

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1981年7月18日21時30分から19日7時までの柳町観測点と大楽毛観測点

における,気温,風向・風速,視程及び霧水量の変化.

07

では少し霧が薄くなっているが,各地点ともほぽ21~23

時頃に濃く,視程200m程度であり,8月2日O時頃に

視程1km程度に回復している.柳町は大楽毛から東へ

7km離れているが,海岸からの距離は北斗とほぼ同じ

そある.柳町の近くの海岸にある西港でも視程約200m

に達しており,南風が持続して内陸まで霧が侵入してい

たときに,柳町が他より一貫して視程が良いのは都市に

よる消散の効果が現われたためであると考えられる.

 上述の観測時刻内に行った移動観測の結果を第5図に

示した.大楽毛の近くのA点を21時50分に出発し,海岸

線にほぼ平行に移動し,柳町の近くのE点を22時30分に

おり返し,A点にもどった.A~Eの各点で約5分間停

車して測定した.霧水量と気温の測定値を四角の枠内に

示した.柳町と大楽毛の気温と霧水量および気象台の気

温も示した.大楽毛では17。C以下なのに対して市街地

では18。C以上になっており,市街地の方が郊外の海岸

にある大楽毛より1~2。C高温になっている.この例

68

の霧水量は,大楽毛でもO・09g/m3であり濃い霧では

なかったが,市街地の霧水量は大楽毛よりさらに小さく

ほぽ半分になっている.このように,移動観測によって

も,市街地での海霧の消散の程度が実測された.

 3.3.1981年7月19日未明の霧

 観測期間で一一番濃い海霧であった1981年7月19日未明

の例について述べる.前日の18日日中は晴天で,大楽毛

で24。C,柳町で27QCまで気温が上昇し,18日夜も星

空が広がった.ところが,大楽毛では18日23時頃,柳町

では19日0時頃に霧が発現した.

 第6図に柳町と大楽毛の18日21時30分から19日7時ま

での,気温,風向・風速,視程および霧水量の変化を示

した.表示方法は第3図と同じである.大楽毛では北北

東の風が西風に変わり気温が約7。C低下した18日23時

すぎに霧が発現し,視程約100mになった.一方,柳町

では大楽毛から約1時間遅れて,北北東の風が西風に変

わり,20。Cから13.5。Cまで下がった19日0時頃に霧

、天気”31.2.

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北海道釧路市における市街地と郊外・海岸での海霧の観測 143

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」UL.18   JUL.19,  1981

第7図1981年7月18日23時から19日7時まで    の鶴居,下幌呂,北斗及び西港(土木

    試験所測定)と柳町観測点及び大楽毛

    観測点での視程.

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が発現し,視程約100mに達した.霧は一旦消散した

が,両地点とも,19日1時30分頃から再び霧が発現し

た.大楽毛では19日2時から5時30分頃まで視程100m

以下が続き,6時40分頃霧が消えた.柳町では2時20分

頃視程100m近くに達し,4時35分に視程80mになり,

5時30分頃に霧が消散した.なお,18日23時から19日1

時頃までの霧水量計による霧水量は欠測である.

 視程の変化におおむね対応して霧水量も変化してい

る.大楽毛では2時30分に霧水量O.75g/m3に達し,

柳町では5時前に0.459/m3に達した.これらの値は,

濃い海霧の霧水量として知られる1g/m3に近いもので

あり,両年の観測期間中最大のものであった.自由落下

法で求めた霧水量は,細線式霧水量計で求めた霧水量よ

り小さく出ている.これは小さな霧粒などを十分捕捉し

きれないためと考えられる.

 柳町で,視程の最小値と霧水量の最大値を記録閣したの

は4時50分頃であり大楽毛より遅れている.この遅れ

は,両地点共に西風の時におきているので,西風による

移流のためと考えられるが,観測点の間隔が長いので詳

細については不明である.

 大楽毛から内陸の18日23時から19日7時までの視程の

変化を第7図に示した.下幌呂と鶴居では19日2時すぎ

まで霧の発現はなく,視程も200m程度までしか達しな

かった.大楽毛の北約5kmの北斗では大楽毛とほぼ同

1984年2月

第8図

  02       03       04       05

AUG.4    1982  」

  1982年8月4日1時から6時までの柳  町観測点と大楽毛観測点における,気

  温,風向・風速,視程及び霧水量の変  化.

06

時刻の18日23時すぎに霧が発現し,その東約6kmの西

港と約7kmの柳町では約1時間後の19日O時頃に霧が

発現している.これらの事実から,海岸から数kmの内

陸までの範囲で西から東に霧が移動したことがわかる.

このことは,沢井ら(1982)による西風の吹きは’じめの

時刻と気温の変化の解析によって,西ないし海岸から霧

が移動したという結果に対応している.

 この霧は,海からの風(西~西南西)のときに発現し

たかなり濃い海霧であったが,数時間しか持続しなかっ

たので,広い地域に数日にわたうて発現する典型的な海

霧とは異なると考えられる.

 3。4.1982年8月4日末明の霧

 市街地にある柳町の方が郊外で海岸にある大楽毛より

霧が濃くなった1982年8月4日未明の霧について述べ

る.第8図に1時から6時までの気温,風向・風速,視

程および霧水量の変化を示した.柳町と大楽毛共に南南

東~南東の風が一旦無風になり北北西~北北東の風にな

った2時30分頃から,柳町で霧が発現し,大楽毛で霧が

消散しだした.柳町で霧が一番濃くなる直前の4時の大

楽毛と柳町の周辺の地上風はいずれもほぼ北風になって

おり,この北風は比較的広い範囲にわたった.

 大楽毛では北風になると気温が約2。C上昇し17。Cか

69

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144

100

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北海道釧路市における市街地と郊外・海岸での海霧の観測

TSURUI

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03    04 05 6第9図 1982年8月4日1時から6時までの鶴    居,下幌呂及び北斗(土木試験所測定)

    と柳町観測点及び大楽毛観測点の視程.

6

ら19。Cになり,4時に一旦気温が下がったが北風にな

るとまた気温が上昇した.無風になり気温の下がった4

時頃には視程が低下したが,北風になった4時30分頃に

はまた視程が回復し,その後南東風になり再び視程が低

下した.無風または南東風のときは海から侵入する霧が

かかったと考えられる.一方柳町では,2時30分から4時

30分まで北風が持続し視程110mに達する濃い霧になっ

た.その間気温はずっと19。C程度と高かった.霧水量

は4時10分に0・16g/m3に達した.1982年の柳町の観

測では,この視程110mは最低値,霧水量0・16g/m3は

最大値であった.粒径分布から求めた霧水量は霧水量計

による霧水量より大楽毛で少し小さくなっているほかほ

ぼ一致した.

 8月4日1時から6時の内陸の視程の変化を第9図に

示した.柳町で霧の濃かった3~5時には北斗,下幌

呂,および鶴居ではほとんど霧は発現していない.ま

た,これら3地点では大楽毛でみられたような視程の急

変もみられない.柳町の北方と東方に観測点がないので

霧の起源はわからないが,8月4日未明に北風で陸から

海に向かって風が吹いた時の柳町で濃かった霧は,少な

くとも海霧ではなかったことは明らかである.

 4.まとめと考察

 1981年と1982年の合計17日間釧路市の市街地と郊外海

岸の2観測点で,視程,霧水量および気温などの連続観

測により,海霧が市街地で変質を受け,海から上陸した

ばかりの霧より薄くなる程度を実測した.霧の延べ発現

70

日数は10日であった.視程の最小値と霧水量の最大値

は,大楽毛で1981年には60m・0.759/m3,1982年には

120m・0.249/m3であり,柳町で1981年には80m・

0・45g/m3,1982年には110m・0.16g/m3であった.

柳町における霧の発現時間の大楽毛の霧の発現時間に対

する割合は,1981年の観測では約1/2,1982年の観測で

は約1/6であった.視程200m以下の濃霧では,柳町の

大楽毛に対する割合は,1981年は約1/6,1982年は約1/

10であった.このように,市街地の柳町の霧はかなり薄

いことが実測された.発現した霧が海霧と考えられる場

合には,柳町は大楽毛の2倍以上の視程のことが多かっ

た.

 海霧が市街地で薄くなる理由として;①南風によって

冷水域を移流してきた海霧が市街地の高温域に入ると霧

粒は蒸発する,②市街地では建造物や植生によって霧粒

が捕捉される,③高い建物などによって気流がみだされ

て温位の高い空気が下層に降り地面付近の湿度が小さく

なって霧粒が蒸発する,④都市域の存在と直接関係しな

いが海岸から数kmの所にある柳町に到達する前に大粒

の霧粒は地表に落下する,などが考えられる.これらの

理由のうち,市街地で気温が高いことは,第2図で市街

地の柳町の気温が海から直接侵入する霧を観測している

郊外の大楽毛より常に1,2。Cから数。C高くなってい

たことや第5図に示した移動観測の結果からわかる.た

だし,市街地の柳町より内陸の観測点の方が気温が高く

なることもあるので,都市の効果だけを量的に取り出す

のは困難である.捕捉の効果は,防霧ネットや防霧林な

どの実験で確かめられているので,量的には不明な点が

あっても効果があることは明らかである(北海道林務部

(1953)など).市街地で霧が薄くなることの原因別の量

的な見積もりを行うためには,それに見合った観測が必

要である.今回の観測ではまず種々の効果が重なった全

体としての霧の消散の程度を実測し,霧の特性を調べる

ことに力点が置かれた.市街地でのこのような観測研究

は今までになかったものである.

 今回の観測では海霧以外の霧も観測された.たとえ

ば,1982年8月4日未明の例は北風の時に市街地の柳町

に郊外で海岸の大楽毛より濃い霧が発現した.また,本

報告では述べていないが,1981年7月18日未明には,大

楽毛と柳町では全く霧の発現がみられなかったのに,内

陸では放射霧が発現した(上田・八木,1982).このよう

に夏期の釧路市にも種々の霧が発現しており,複数の成

因の霧が重なって発現することもあると考えられる.ま

黙天気”31.2.

Page 9: 北海道釧路市における市街地と郊外・海岸での海霧の観測* …勉2 ・」UL1812 ・」UL.1912. ・』UL2。コ2198124 δ25 し ]20 匡 ⊃ト15 く 庄 ]10

北海道釧路市における市街地と郊外・海岸での海霧の観測

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≡100霧20031000  23       00       01       02       03      04

   AUG.3   AUG.4    1962          ● 第10図 1982年8月3日23時から8月4日4時     までの釧路空港(土木試験所測定)と

     大楽毛観測点の視程.

一 一←一一:KUSHlROKUKO

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た,たとえ海霧であっても広範囲に数日持続する非常に

濃い典型的な海霧だけでなく,1981年7月19日未明の海

霧のように持続時間が短く海岸近くだけに発現したと考

えられるものもある.最近,釧路・根室地方の沿岸だけ

に発現する沿岸霧の存在が柴田(1980)らによって指摘

された.

 市街地での霧の消散を考える際には,視程を測定する

高さを考慮する必要がある.たとえば丘陵の上では,低

い層雲が接地したり気温が低平地より少し低いことなど

により,濃い霧が観測されることがあると考えられる.

第10図に1982年8月3日23時~4日4時の標高差約90m

の丘陵上にある釧路空港の視程の変化を示す.比較のた

めに大楽毛の視程を点線で示した.第9図でわかるよう

に8月4日1時から4時まで北斗以北の内陸では視程

300m以上であるのに,第10図に示した丘陵上の釧路空

港では視程200mから100m以下の濃霧である.また約

5時間連続して大楽毛の視程の約1/2という濃さであっ

た.これは水平的な場所の違いよりも,空港が丘陵上に

あったことがきいているだろう.高さによる霧の発現の

様子の違いは,市街地の消散においてもみられる.写真

観測などによると,市街地の地上10m程度までは水平

視程1km以上でも,地上数十mに登ると明らかに水平

視程1km以下になっていることもあった.ゾソデによ

る数百mの鉛直構造の観測に加えて,視程と霧水量の数

十mの高度差での連続観測を行うと都市域での消散効果

の量的な取り扱いの一助となろう.

 今後釧路市周辺に展開された気象研究所および土木試

験所の観測の解析結果を参照して更に検討を加える必要

があるが,今回の視程や霧水量の連続観測の結果は霧の

予測や都市設計,住民の保健衛生対策などの基礎資料と

して役立つものと考えられる.

145

 謝 辞

 現地観測の実施および風向・風速記録の収集にあたっ

ては,釧路市役所等地元関係機関に大変御世話になっ

た.気象庁気象研究所の佐粧純男室長と松尾敬世主任研

究官には細線式霧水量計による霧水量の測定および酸化

マグネシウム膜による霧粒の粒径分布の測定に関して,

北海道開発局土木試験所の竹内政夫室長には視程の測定

に関してそれぞれ有益な助言をいただいた.記して感謝

の意を表す.

 本研究は科学技術振興調整費によるr北日本太平洋沿

岸地方における海霧と山背風に関する総合研究」の一環

としてなされたものである.

文献技術院研究動員会議11945:千島,北海道の霧の研

 究,206PP.(1981年に日本気象協会より復刻版が

 刊行された).

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 299PP・唐津 進・増沢 昇・沢田昭夫・斎藤 実・荒川正

 一・孫野長治,1963:北海道太平洋岸の霧,気象

 研究ノート,14,1-23.

黒岩大助・大喜多敏一,1959:最近の霧の研究と展

 望,気象研究ノート,10,247-294.

丸山晴久・浜昊一,1954:酸化マグネシウム煙に よる霧粒の測定法,J.Met.Soc・Japan,32,49-

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 海霧の観測,国立防災科学技術センター研究報告, 29, 69-92.

八木鶴平・上田 博,1982:北海道釧路市における

 昭和56年度海霧観測の概要,国立防災科学技術セ

 ンター研究速報,45,18PP・

    ・    ,1983:北海道釧路市における

 昭和57年度海霧観測の概要,国立防災科学技術セ

 ソター研究速報,49,19PP・

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