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第三部 幼児期段階に重要な指導内容

幼児期段階に重要な指導内容 · 表1 視覚障害幼児用手指運動訓練プログラム Ⅰ 基 本 運 動 Ⅱ 身 辺 処 理 Ⅲ 道具の使用 Ⅳ 構成動作

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第三部

幼児期段階に重要な指導内容

第7章 感覚学習

1 感覚学習の必要性

視覚障害児は,感覚過程の中でも主要な過程の一つである視覚を欠いたり,不十分であっ

たりするので,他の感覚を総動員してそれを補償しなければならない。それは実際には,触

覚と聴覚が重要な役割を果たすことになる。

この中でも,触覚は能動的な感覚であるために,外界への適切な働きかけの仕方を指導す

ることが,触覚的認知の発達の必須条件である。多くの視覚障害幼児は手指運動の発達の遅

れがあり,手指の有する多様な機能をバランスよく発達させるためには,初期的段階からの

系統的な指導が必要である。手のひら全体でものをつかむというような初期的な動作から始

まって,細かいものをつまんで操作するというような巧緻的な動作,さらには複雑な図形の

認知まで,広範囲にわたって系統的に指導することにより,手指による掌握・操作機能を高

め,探索・認知の適切な技術を習得させることが重要である。

弱視児に関しては,保有視力を最大限に活用するための計画的な指導も必要である。

2 視覚障害幼児用手指運動訓練プログラムによる指導

幼児期中期の視覚障害幼児を対象とした感覚教育のプログラムとしては,「視覚障害幼児

用手指運動訓練プログラム」(表1)がある。このプログラムの適用年齢は,2歳から4歳

6か月である。ただし,重複障害児を対象とする場合は,8歳までを適用年齢としている。

「基本運動」・「身辺処理」・「道具の使用」・「構成動作」の四つの領域で構成されており,

手指の基本的機能を獲得することを目的としたプログラムである。領域は,さらに11の小

領域に分けられ,その中で各訓練項目が,難度の低いものから高いものへと並べられており,

それをStep1からStep4の四つの段階に階層化してある。

プログラムについては,「目の不自由な子の感覚教育百科」に記載されている。プログラム

に記されている指導方法に従うことを原則とするが,子供が主体的に取り組むことができる

よう,子供の特性に応じて指導方法を工夫する必要がある。

3 視覚障害幼児用感覚訓練プログラムによる指導

幼児期後期の視覚障害幼児を対象とした感覚教育のプログラムとしては,「視覚障害幼児用

感覚訓練プログラム」(表2)がある。このプログラムの適用年齢は,4歳から6歳である。

「基本概念」・「手指運動」・「触運動」・「図形概念」の四つの領域から構成されており,感

覚活用の機能を高めることを目的としたプログラムである。Step1からStep5まで

の五つの指導段階がある。これらは幼児期に行うことが望ましいが,幼児期に十分指導を行

っていない場合は,小学部で丁寧に指導する必要がある。

プログラムについては,「目の不自由な子の感覚教育百科」に記載されている。原則として,

プログラムに記されている指導方法に従うが,ある程度,子供の特性に応じた柔軟な方法を

とってもかまわない。表2の留意事項には,指導する際に気を付けた方が良い点や,プログ

ラムによる指導に入る前に習得しておいた方が良い点等について記している。

また,これらの指導は自立活動の時間のみでなく生活全般で繰り返して指導していく必要

がある。

表1 視覚障害幼児用手指運動訓練プログラム

Ⅰ 基 本 運 動 Ⅱ 身 辺 処 理 Ⅲ 道具の使用 Ⅳ 構成動作

1 基本的運動 2 掌握動作 3 操 作 1 食 事 2 着 衣 3 衛 生 1 筆記用具 2 工作用品 1 紙 2 砂・粘土 3 積木

2:6

3:6

Step1

1)握る・開く

2)合掌

3)バイバイ

4)拍手

1)積木をつかむ

2)玩具を握る

3)錠剤をつまむ

4)積木をはなす

5)積木を持ちかえる

1)机をたたく

ア)手のひらで

イ)こぶしで

2)円筒を転がすⅠ

3)タッピングⅠ

4)蛇口の開閉

5)押す・押さえる

1)フォークⅠ

2)スプーンⅠ

1)マジックテー

プの取り外し

1)手を洗う 1)クレヨン

でぐるぐ

る丸を描

1)しわくち

ゃにする

2)破る

1)手の平

で粘土

玉をつ

ぶす

1)3 個の

積木

-縦-

2)5 個の

積木

-横-

Step2

5)指切り

6)指ではさみの

形をつくる

6)ビー玉をコップ

の中に入れるⅠ

7)ページをめくるⅠ

6)円筒を転がすⅡ

7)瓶のふたの開閉

8)洗濯バサミを抜く

ア)上から

イ)横から

9)玉さし盤Ⅰ

10)タッピングⅡ

3)くだものの皮

をむくⅠ

4)食べ物の包装

をとくⅠ

2)ちょう結びを

とく

3)ファスナーを

開け閉めする

4)スナップを外

2)タオルで手や

顔をふく

2)クレヨン

で縦・横の

線を引く

1)木づちで突

起を打つ

2)のりをつけ

3)セロハンテ

-プを切る

3)折り目を

つける

2)粘土で

ヘビを

つくる

3)砂を

スコッ

プで

すくう

3)5 個の

積木

-縦-

Step3

7)ちょうだいの

8)指で輪をつく

8)ビー玉をコップの

中に入れるⅡ

9)ページをめくるⅡ

11)洗濯バサミでは

さむ

ア)上から

イ)横から

12)玉さし盤Ⅱ

13)タッピングⅢ

14)はめ板をはめる

5)フォークⅡ

6)スプーンⅡ

5)スナップをと

める

6)ボタンを外す

ア)たて穴

イ)横穴

3)歯磨きⅠ

4)石けんで手を

洗う

3)鉛筆で,ぐ

るぐる丸,

縦・横の線

を描く

4)のりで貼る

5)セロハンテ

ープを貼る

6)はさみで切

4)端を合わ

せて折る

ア)

イ)

4)砂を手

ですく

5)粘土を

丸める

4)9 個の

積木

-縦-

Step4

15)玉さし盤Ⅲ

16)ひもを巻く

7)くだものの皮

をむくⅡ

8)食べ物の包装

をとくⅡ

9)はしを使う

7)ボタンをかけ

ア)たて穴

イ)横穴

5)タオルをしぼ

ア)握りしぼり

イ)捩りしぼり

6)歯磨きⅡ

4)表面作図器

(盲児)

ボールペン

を持って描

(弱視児)

鉛筆を持っ

て描く

7)のりで貼る

8)セロハンテ

-プを貼る

9)はさみで切

るⅡ

5)簡単なも

のをつく

ア)舟

イ)チュー

リップ

ウ)扇風機

6)粘土を

ちぎっ

て丸め

5)橋をつ

くるⅠ

6)橋をつ

くるⅡ

※「 」の記号の付いている項目は,訓練終了後,引き続き家庭でも指導に留意し,定着を図ることを必要とするものである。

領域

小領域

段階

年齢基準

表2 視覚障害幼児用感覚訓練プログラム

領域

段階 1 基本概念 留意事項

Step 1

1)線概念[共]※

2)大小概念[共](1)円 (2)正方形

3)色の弁別[弱]※

4)長短概念[共]※

1)線の左端を起点として左手の人差し

指を置き,右手の人差し指等で線をたど

るよう促す。

2)凸図カードが難しい場合は,①厚紙

で作った大小の○・□,②凸図の線の外

側を切り取ったカードを用いた後,凸図

カードで指導する。

4)棒磁石や棒など具体物を用いた長短

比較の後,図形カードで指導する。

Step 2

5)諸概念[共]

(1)粗滑 (2)多少 (3)重軽

(4)高低 (5)太細 (6)硬軟

6)角度の概念[共]

(1)角度の大小

(2)直角概念

5)(1)触る絵本や具体物を触察する際

にも,「ざらざら」「つるつる」など触感

を統一した言葉で表現することを習慣

化する。(2)(3)(4)(5)(6)あらゆる機会

を捉えて様々な具体物を触って比較し,

「多い」「少ない」「重い」「軽い」「高い」

「低い」「太い」「細い」「硬い」「軟らか

い」という概念を教える。

6)難しい場合は,厚紙で大小の角度を

作ったカードや三角定規を用いて角度

を比較した後,凸図カードで指導する。

Step 3

7)交差の概念[共](1)+(2)∞(3)

8)弁別訓練Ⅰ[共]

(1)大小弁別 ア)正方形 イ)円

(2)長短弁別

(3)角度の大小弁別

8)(1)(2)5枚のカードでの大小・長短

弁別が難しい場合は,3枚(1辺または

直径7cm,5cm,3cm)のカードを用い

て指導した後,4枚,5枚と枚数を増や

して指導する。

(3)3枚(50°,40°,30°)のカードを

用いて指導した後,4枚,5枚と枚数を

増やして指導する。

Step 4

9)平行・垂直概念[共]

(1)体幹との平行・垂直概念

(2)2本の棒による平行・垂直概念

(3)2本の棒で十字架をつくる

10)弁別訓練Ⅱ[共]

(1)粗滑 (2)多少 (3)重軽

(4)高低 (5)太細 (6)硬軟

10)(1)(2)(3)(4)(5)五つの弁別が難し

い場合は,違いが分かりやすい三つを選

び提示して指導した後,弁別数を四つ,

五つと増やして指導する。

注) [盲]:盲児 [弱]:弱視児 [共]:盲児・弱視児に共通

※ 訓練項目のうち,そのまま1ユニットとなるもの

□ 一つの訓練項目に多くの内容を含んでいるため,内容をいくつかに分け1ユニ

ットごとにしてある

領域

段階 2 手指運動 留意事項

Step 1

1)指による基本動作Ⅰ[共]

(1)積木 (2)タッピング

(3)ビー玉をコップの中に入れる

2)手指を使った身辺処理[共]

(1)ファスナーの開閉

(2)スナップのかけ外し

(3)ボタンのかけ外し

1)(2)人差し指でなく,手のひらで

計数器を押さえてしまう場合は,計数

器を小さい箱に入れ,箱の上部に人差

し指が入る小さい穴を開けるなど,人

差し指で押さえる必然性をもたせる。

2)訓練器のみではなく,鞄や衣服な

どで日々指導を積み重ねる。

Step 2

3)玉さし盤Ⅰ[弱]

(1)左→右 (2)上→下

4)指による基本操作Ⅱ[共]

(1)ひもを巻く (2)ねじを回す

5)指の独立[共]

(1)指を1本ずつ折る

(2)1本ずつ親指につける

(3)指数1~5

5)(1)(2)(3)の指の動きが含まれた手

遊びを毎日行うことで,指の分化を促

す。

(3)朝の会などで,毎日月日を指数で表

す。

Step 3

6)玉さし盤Ⅰ[盲]

(1)左→右 (2)上→下

7)眼と手の協応訓練Ⅰ[弱]※

8)折り紙[共]

(1)端を合わせて折る

(2)簡単なものを作る

9)道具の使用[共]

(1)はさみ (2)のり

(3)とんかち積木

6)眼と手の協応訓練Ⅰの指導に入る

前に,鉛筆の正しい持ち方を教え,3

cm 幅に折ったり切ったりした紙に,縦

線・横線・曲線を描く練習をしておく。

8)(1)事前に,左手で紙が動かないよ

うに左端を押さえ,右手の人差し指で

折り山を左から右になぞってしっかり

折り目を付ける練習をしておく。

9)(1)1cm×3cm程度のテープ状にし

た紙を1回で切り落とす練習をした

後,連続切りに移行する。

Step 4

10)玉さし盤Ⅱ[共]

(1)左上→右下 (2)右上→左下

11)眼と手の協応訓練Ⅱ[弱]※

12)基本図形の記憶と構成[共]

(1)三角形 (2)四角形 (3)円

(4)平行四辺形 (5)ひし形

(6)台形 (7)五角形 (8)だ円

12)事前に,三角形や四角形のマグネ

ットやマグフォーマーなどで,様々な

形を作ったり,分解したりする構成遊

びを繰り返し行っておく。

Step 5

13)眼と手の協応訓練Ⅲ[弱]※

14)玉さし盤Ⅲ[共]

(1)四角形

(2)三角形

14)四角形や三角形になるようにペッ

グをさすことが難しければ,初めに見

本を示して触らせ,1辺に何個ずつさ

せばよいのか数えさせる。

注) [盲]:盲児 [弱]:弱視児 [共]:盲児・弱視児に共通

※ 訓練項目のうちそのまま1ユニットとなるもの

□ 一つの訓練項目に多くの内容を含んでいるため,内容をいくつかに分け1

ユニットごとにしてある

3 触運動 留意事項

1)直線[共]※

2)曲線[共]※

1)2)軽い触圧でたどることがで

きるよう,初めは指導者が触読指を

左手の親指と人差し指で持ち,他の

指は手の甲を軽く握るようにして,

たどり方を教える。

3)複雑な曲線[共]※

4)折れ線[共]※

5)種々の曲線・折れ線[共]※

3)4)5)触圧をかけてたどって

いたら,手の甲を握り,力を調整し

て,常に軽い触圧を保つよう指導す

る。

6)点線による直線・曲線・折れ線Ⅰ[共]※

7)交差する曲線・折れ線[共]※

3)4)5)の留意事項と同様であ

る。

8)点線による直線・曲線・折れ線Ⅰ[共]※

9)触運動記憶[盲]※

3)4)5)の留意事項と同様であ

る。

10)基本図形の記憶と指(筆記用具)による再生[共]

(1)三角形

(2)四角形

(3)円

10)盲児の場合は,左手の人差し指

を描き始めの位置に置いたり,描い

た後を触って確かめたりするよう

促す。

注) [盲]:盲児 [弱]:弱視児 [共]:盲児・弱視児に共通

※ 訓練項目のうちそのまま1ユニットとなるもの

□ 一つの訓練項目に多くの内容を含んでいるため,内容をいくつかに分け1ユニ

ットごとにしてある。

4 図形概念 留意事項

1)基本図形[共]※ 1)凸図カードが難しい場合は,①厚紙で作った○・

△・□,②凸図の線の外側を切り取ったカードを用い

た後,凸図カードで指導する。初めに,できるだけ多

くの指を使って全体を触って全体像を把握した後,左

手の人差し指を起点に置き,右手の人差し指等で凸図

を触るよう促す。

2)応用図形[共]※

3)類似図形[共]※

4)諸図形[共]※

1)の留意事項と同様である。

5)1),2),3)の図形弁別

[盲]※

6)複雑な図形[弱]※

7)立体図形の弁別[共]

(1)球 (2)立方体 (3)直方体

(4)円柱 (5)円錐 (6)三角柱

7)事前に,立方体や直方体,円柱や三角柱などの積

み木で構成遊びを繰り返し行っておく。

8)大型図形[弱]※

9)点線図形[盲]※

10)仲間分け[共]※

10)1)の留意事項と同様である。

11)回転図形[共]※

12)裏返し図形[共]※

13)重なり図形[共]※

11)12)1)の留意事項と同様である。

注) [盲]:盲児 [弱]:弱視児 [共]:盲児・弱視児に共通

※ 訓練項目のうちそのまま1ユニットとなるもの

□ 一つの訓練項目に多くの内容を含んでいるため,内容をいくつかに分け1ユニ

ットごとにしてある。

第8章 視知覚学習

1 視知覚全般について

視知覚とは,視覚的刺激を認知して弁別し,それらの刺激を以前の経験と連合させて解釈

するという能力である。弱視児は,見えにくいために自然と目から入ってくる刺激も少なく,

見る経験も少ない。そのため,視知覚が落ち込むことがある。

視知覚の主な能力は,「視覚―運動の協応」「図形と素地」「知覚の恒常性」「空間における

位置」「空間関係」と5領域に分けられ,それらを系統的に指導することが望ましい。

視知覚の力が高まることは,学習の基礎(読む・書く)を支える上で重要であるととらえ

ている。例えば,「視覚―運動の協応」の中の目と手の協応が正確にできないと運筆がスムー

ズにできない。「図形と素地」の弁別ができないと模写することや板書を視写することに困難

さを示す。「知覚の恒常性」が落ち込むと図形の形や大きさが正確にとらえられず,「空間に

おける位置」の知覚や「空間関係」の知覚が落ち込むとノートの適切な使い方ができなかっ

たり,図や絵や表など広がりをもつものが正確に大きさをとらえて視写できなかったりとい

うことが出てくる。

そこで,まず,フロスティッグ視知覚発達検査(日本文化科学社)を実施して児童の視知

覚の実態を正確につかむ。この検査で,上記の5領域別のプロフィールが得られる。そのプ

ロフィールを基に,本来は相対的に得意な領域も併せて指導を行う。しかし,指導時間の関

係で相対的に落ち込んでいる領域を重点的に指導する場合もある。指導を進める際には,フ

ロスティッグ視知覚能力促進法を参考にしたり,幼児児童生徒の見え方に応じた自作の視知

覚教材を用いたりして指導する。

フロスティッグ視知覚能力促進法は,子供用の視知覚学習ブックとそれに対応した教師用

のテキストからなり,それぞれ初級・中級・上級がある。子供用学習ブックは子供が鉛筆等

(テキストではクレヨンとなっている)で直接書き込む練習問題で構成されている。その学

習ブックの裏表紙の裏にある「個人成績記録表」で,学習ブックのどのページがどの視知覚

領域に対応してあるかが分かるようになっている。学習は机上での「書く」活動なので,そ

の際の姿勢や筆記用具の持ち方の指導も必要である。弱視児は目を近付けて最大視認力が得

られる視距離で学習するので,必要に応じて書見台や斜面台を使用する。また視距離が特に

短い場合は,筆記用具を持つ角度を小さくする(寝かせるようにする)などの工夫も必要と

なる場合がある。

2 分野別指導方法について

ここでは,子供用視知覚学習ブックの中で特に留意が必要な指導事項について説明する。

(1) 視覚―運動の協応の指導

主に目と手の協応動作を獲得するための指導について説明する。まず,なぞり書きであ

る。初期指導では,視力に応じた線の太さを考え教材を用意する。また,なぞる線の色と

筆記用具の色を変えることも必要である。

なぞり書きをさせる場合は次のことに留意して指導する。

ア なぞる線を指でなぞらせ,線の始点と終点,軌跡を意識させる。

イ 筆記用具の先がなぞる線と重なっていることを確かめさせながら,ゆっくり動かすよ

うに言葉を掛ける。

ウ なぞり終わった後は,必ず自分で線から逸脱していないか確かめるようにさせる。逸

脱している場所を見付けることも「見る」という点では大切なことなので,見付けたこ

とを評価するとよい。

エ なぜ逸脱したのか指導者と幼児児童生徒で分析する。例えば,「視線が先に行ってしま

った。」「鉛筆を早く動かせすぎた。」これらが,子供たちの次のめあてとなるように意識

させる。

また,交差した線の弁別についても指導する必要がある。

(2) 図形と素地の指導

図形の素地が弁別できると,注意の方向を適切に変更したり,無関係な刺激を排除した

りして,その時の行動に合わせて適切に視線を動かせるようになる。

たくさんの重なり合った図形の中から目的の図形を抽出して見付け出す場合の指導方法

は次のとおりである。

ア 目的の図形をしっかり認知させ,特徴を言語化させる。

イ 線を丁寧に目で追うように指導する。その際,先ほどの特徴に見合うかどうか確かめ

させる時間を設ける。

ウ 交差している線を弁別することができるように目的の図形は見えやすい色でなぞると

よい。

エ どうしても見付けにくい場合は,目的の図形を切り抜いて重ね合わせて見付けさせる

ように指導する。

(3) 知覚の恒常性の指導

知覚の恒常性は,ものの形や大きさ,色などの識別できる力のことである。また,二次

元の平面に描かれた三次元の事物や三次元空間の中におかれた平面図などの認知にも役立

つ。大きさ,高さ,長さなどを認知する力が含まれる。

いろいろな大きさで向きも様々に並んでいる図形を大きさ順に並べる指導は,次のこと

に留意して指導を行う。

ア 何段階の大きさに分類するのかを理解する時間をとる。

イ 図形の向きにも着目することを伝える。

ウ どうしても見付けにくい場合は,目的の図形を切り抜いて向きを変えて置いたり,並

べたりして認識させた後,見付けさせるように指導する。

(4) 空間における位置の指導

ものごとと自分の身体との位置関係を認知する学習である。次のことに留意して指導を

行う。

ア 探す図形や絵をしっかり見る時間をとり,分かることを言語化させる。

イ 図形の向きにも着目させ,見付けさせる。

ウ どうしても見付けにくい場合は,目的の図形を切り抜いて重ね合わせて見付けさせる

ように指導する。

(5) 空間関係の指導

空間関係の知覚とは,2個以上の事物と自分との関係,事物相互の位置関係を把握する

ことである。初期の段階では,これは,実際に事物を用いて,指導を行うのが望ましい。

細部の位置を認識する学習では,次のことに留意して指導を行う。

ア 探す図形や絵をしっかり見る時間をとり,分かることを言語化させる。

イ 何が違うのかを言語化させる。

ウ どうしても見付けにくい場合は,違うところに色を付け,言語化できるように指導す

る。

(6) 指導全般について

視知覚の指導については,子供用視知覚学習ブックの使用だけでなく,身体概念の形成,

手指機能の向上,学習用具の使用技能の向上,日常生活動作等でも行うことができる。実

物を見せ,特徴を言語化させたり,いろいろな絵を見せたりすることも有効である。それ

らと関連付けて教師が常に意識しながら指導するとよい。

3 保有視機能活用指導プログラム

これは,視機能の発達レベルが0~4歳くらいの弱視児の視知覚向上を目的として作成さ

れたプログラムであり,生活年齢が12歳以下の弱視児が対象とされている。

表3 保有視機能活用指導プログラム

1.注 視 2.追 視 3.注意点の

移動

4.初期的

探索

5.目と手の

協応

6.基本図形

の弁別 7.視認知

0:4

1)点滅光源

の注視

2)接近光源

の注視

3)固定光源

の注視

1)直身動体

の追視

1)定点一定

点間の移

4)玩具の追視 2)非直進動

体の追視

2)定点一任

意点間の

移動

1)目標物の

探索Ⅰ

1:6

3)任意点-

任意点間

の移動

2)目標物の

探索Ⅱ

1)玉入れ

2)2個の積み木

3)目標物の

探索Ⅲ

3)3個の積み木

4)規則的動体

へのリーチ

ング

1)円板はめ

4)目標物の

探索Ⅳ

5)5個の積み木

6)不規則的動

体へのリー

チング

2)○△,○□

の板はめ

3)○△□の板

はめ

1)具体物の識別

2)簡単な絵の

識別

3:0

3)直線の追視 7)目標物叩き

8)9個の積み木

4)○の大小比較

5)形の異同弁

別Ⅰ

3)具体物のネ

-ミング

4)絵のネーミ

ングⅠ

4)複雑な線

の追視Ⅰ

9)直線たどり 6)線の長短比較

7)形の異同弁

別Ⅱ

5)絵と具体物

のマッチング

6)色の識別

5)複雑な線

の追視Ⅱ

10)曲線たどり

11)ひも通し

8)直線・曲線

・折れ線の

識別

9)形合わせ

7)絵のネーミ

ングⅡ

8)人形・絵の

身体部分の

識別

領域 段階

第9章 日常生活動作の指導

1 身体の動き

視覚障害児は視覚的な模倣ができにくいため,身体の動かし方については,一つ一つの動

きを丁寧に教えたり,身体的な介助をしたり,動きができるような場を設定したりして習得

させることが必要である。また,平衡性や巧緻性などの動きを高めるための指導も幼児期に

は指導する必要がある。指導については,「視覚障害幼児用巧緻性・敏捷性運動指導プログラ

ム」「視覚障害幼児用基本動作訓練プログラム」「視覚障害幼児用平衡性運動指導プラグラム」

を活用している。これらは,教師が遊びの場を作ったり,ゲーム性を取り入れたりして楽し

んで活動することができるように工夫して指導を行うことが大切である。

2 手指機能の向上

視覚障害児の手指の発達は遅れていると言われる。そこで,計画的,系統的に丁寧な指導

をする必要である。「視覚障害児用手指運動訓練プログラム」(第7章 表1 参照)を用い,

指導している。

3 生活動作の獲得

生活していく中での様々な動作については,丁寧な指導を行い,毎日行うことで身に付い

ていく。指先で確かめたり,たどったりする動作を行うため,視覚障害児にとって必要な,

両手を機能的に使う力や空間認識を高めることができる。基本的な手の動きがある程度でき

るようになると,自分でやり方を工夫して行うことができるようになる。すべて教えず,試

行錯誤したり,自分でやり方を工夫したりする力を育てることも大切にする。

これらの指導については十分に家庭や寄宿舎と連携しながら指導をし,学校だけの取組に

ならないように留意する。

(1) 衣服の着脱

初期の段階では,衣服を着た状態で,「袖」「裾」などの名称を教えて,意識させるよう

にするとよい。また,「衣服を被せてもらって,袖を通すのを自分で行う。」「両手で裾を

持たせてもらって,自分で被って袖を通す。」「衣服の前側が表になるように,裾や履

が手前になるように置いてもらって,一人で着る。」というように,自分でできる動作を

少しずつ増やし,支援を減らしていく。脱ぎ着しやすいゆったりした衣服で行う。

脱ぐ動作の方が簡単なので脱ぐ動作から指導を行う。裏返しになる脱ぎ方は,後から直

しにくいため,支援を行いながら,はじめから裏返しにならない方法で指導を行うのがよ

い。

着る動作については,ある程度できるようになったら,Tシャツやズボンなどを自分で

前後を確認して着るよう指導を行う。後ろ身頃の左裾にボタンを付けて目印にしたり,

衣服の内側に付いたタグを探したりして身頃の前後を区別して着るようにする。

被る上着の着脱ができるようになったら,前開きの上着やボタン・スナップ・ファスナ

ーの付いた衣服が一人でできるように指導を行う。ボタンの練習では,小さく平たいボ

タンは難しいため,球形のボタンをフェルトに縫い付け,ボタン穴の開いたフェルトを

何枚も被せていくなど,遊びの中でボタンの操作に慣れさせるようにする。衣服でのボ

タン操作は,ボタンの真ん中がへこんでいるもの,すり鉢状になっているものを用いる

と,指がボタンから離れにくい。操作しやすい大きめのボタン・スナップなどのついた

衣服は着る機会が少ないため,家庭との連携により,給食用のスプーン・フォークを入

れる袋にボタンやスナップの付いたものを用意してもらったり,ボタンの付いたパジャ

マを着用してもらったりすると,毎日操作を行うことで身に付いていく。

図1 ボタン練習着 図2 スナップ練習具

図3 スプーン入れ 図4 ファスナー練習着

ファスナーを閉じる指導の際は,各部位を触らせて

名称を理解させ,「スライダーのトンネルの中にエレメ

ントの角を入れて,止まるまで押し込む。」などと仕組

みを伝えながら,何度か一緒に行って入れる感覚を覚

えさせる。

また,着替えの場所を分かりやすくするために,1

枚のマットの上で着替えるようにしたり,片付ける場

所を分かりやすくするために,かごを置いたりするな 図5 椅子の下への上靴の片付け

ど環境を整えることが大切である。片付ける場所を決

めておくと探しやすいことを理解させる。

以下の表は,指導手順に重点をおいたものは手順1,指導段階に重点をおいたものは段階

1などとして,脱ぎ方,着方,たたみ方の指導手順や指導段階を表している。

ア 衣服の脱ぎ方

<被る上着>

手順1

袖を持って腕から抜く。きつい場合

は,袖を抜く前に裾を少し上げるよう

にする。

手順2

両手で襟

元を持って

頭から抜く。

<ズボン>

手順1

親指をズボンの中に入れて前側を,同じように手を後

ろに回して後ろ側を膝下まで下げる。

手順2

腰を下ろした姿勢で,または,立

った姿勢で足を抜く。

<靴下>

手順1

履口に親指を入れてかかとが出るまで下げる。

手順2

つま先を引っ張る。

できるようになったら,縫い代部分の有無などにより判断して,裏返しを直す方法を指導す

る。

イ 衣服の着方

<被る上着>

段階1

後ろ身頃左裾

に付けたボタン

を左手に持ち,右

手で裾をたどっ

て被る。

段階2

裾(ボタンが付いていな

い)を探してまず被り,裾

を降ろしたときに,タグが

左側にくるように又は襟首

のタグが首の後ろになるよ

うに,衣服を回して袖を通

す。

段階3

裾を探して,裾から手を

入れてタグが左になるよ

うにして裾を持ち,右手で

反対側の裾を持って被る。

<前開きの上着>

段階1

首回り部分の両端を両手に持たせ

る支援を受けて,袖を通す。

段階2

ファスナーやボタンなどを手掛かりに首回

り部分を探して,その両端を持ち,袖を通す。

<ズボン>

段階1

履口中央に付いたボタンや左端に付けたボ

タンで,前側であることを確認して,履口を

持って履く。

段階2

ポケットの有無や形状(ポケットの手を入

れる部分の前と後ろの差異)を区別して前側

であることを確認して履く。

<靴下>

段階1

履くときに左右の指で持つ位置に,糸を使

って玉止めで印を付けておく。前側であるこ

とを確認して履く。

段階2

玉止めで付けた印をはずす。つま先が向こ

う側,かかとが手前になるようにして履口を

持って履く。

ウ 衣服のたたみ方

初期の段階は,服が全て広げられるような広い場所で行い,徐々に机の上などの狭い場所

でもできるように指導する。

はじめは袖や身頃を広げて置いた状態を触って,「左袖」「右袖」「首回り」「裾」の部分の

位置が触って分かるようにしたり,自分で身頃の前側が表になるように広げたりすることが

できるようする。

<被る上着>

手順1

裾のタグが右側になるように,

または襟首のタグを確認して,前

後を確かめ,裾が手前になるよう

に,床やマットの上などに置く。

手順2

身頃の脇の線が裾の両端

にくるように合わせる。

手順3

服の袖を,両手を広げた状態

に開き,それぞれの袖を両手を

使ってしわがないように十分

に伸ばす。

手順4

指先で袖と身頃の付け根の縫

い目のところに置き,袖口をたた

む。反対側もたたむ。

手順5

裾を持って肩のところに合

わせる。又は肩の方を持って

裾に合わせる。

右下の図は肩の位置は,自

分で工夫して,小指や薬指を

使って確かめているところで

ある。

手順6

しわがないように,両手を使っ

て伸ばす。

手順7

横長になったものを半分

にたたむ。

手順8

両手を使ってしわを伸ばし

て終わりである。

<前開きの上着>

被る上着がたためるようになってから

段階1

自分の前に裾を広げて置いてもらう支援を受けて,前開き部

分を真ん中で揃える。袖を両手を広げた状態に広げる。袖と身

頃をたたむ。たたむ手順は被る上着と同じである。

段階2

裾のタグが右側になるよう

に裾を手前に置き,身頃の脇の

線が両端にくるように合わせ

る。前開き部分を真ん中で揃え

る。以降の手順は段階1と同じ

である。

<ズボン>

段階1

履口を手前に裾を向こう側に

広げ,裾を片方ずつ履口の方にた

たみ,左右を合わせてたたむ。

段階2

履口を手前に裾を向こう

側に広げる。90度向きを

変えたところに移動し,手

前側の筒を向こう側に合わ

せるようにたたむ。合わせ

たものを左右に二つにたた

む,三つにたたむなどステ

ップアップさせる。

段階3

履口と裾を自分の左右に広

げる。以降の手順は段階2と同

じである。

(2) 固結び,蝶結び

初期の段階では,1回結んだものをほどかせたり,固結びしたものを簡単にほどく方法

でほどかせたりするなどして,紐結びに興味をもたせるようにする。

練習用に箱を用いる。紐が上下に動きにくくするため,箱の裏側中央に穴をあけ,箱の

中から紐が左右に出るようにしておくとよい。また,机の上に置いたときに箱のがたつき

を抑えるため,箱の裏側に用いる紐と同じ紐を2本貼り付けておくとよい。必要に応じて

滑り止めマットを下に敷く。

固結び,蝶結びなどは,風呂敷で包んで結ぶ,三角巾を頭に付けて結ぶ,割烹着の紐を

結ぶ,靴紐を結ぶ,綴じ紐でファイリングするなど,いろいろな場面で活用できるように

指導する。

<固結びをほどく>

手順1

左に伸びた紐を右側に寝かせるようにする。

手順2

右手に結び目を持ち,左右に引っ張る。

<固結びをする>

手順1

右から出る紐が上になるようにして2本の

紐を交差させ,右の紐をくぐらせて結ぶ。

手順2

左に伸びた紐が上になるように,もう一度

交差させる。(この方法だと縦結びにならな

い。)

<蝶結び(紐が向こう側に垂れる方法)をする>

蝶結びをほどくことができるようになってか

ら 手順1

右から出る紐が上になるようにして2本の

紐を交差させ,右の紐をくぐらせて結ぶ。

手順2

右に伸びた紐を,結び目の根元で輪っかを

作る。

手順3

左に伸びた紐で,輪っ

かの根元を1周させて,

右手の親指の爪の上に

載せてくぐらせる。

手順4

親指の爪の上に載

った紐を,右手の親指

と人差し指で引っ張

り,はじめに作った輪

っかと反対方向に引

っ張る。

《応用例》紐結びができるようになると生活の中で使用させる。

(3) 箸の持ち方

箸の持ち方などは,初期の段階では自立活動の時間に指導を行い,ある程度できるよう

になったら給食の時間と並行して指導を行う。

はじめは上の箸を鉛筆を持つ要領で持ち,箸の先を上下に動かす練習を行う。できるよ

うになったら下の箸を薬指の爪の横の生え際あたりに載せて2本の箸で練習する。下の箸

と合わせて動かすときは,上の箸と下の箸が補助具でつながっている箸を用いると箸の先

が交差しないのでやりやすい。粘土でつくった玉を摘んだり,練習用のくびれのあるプラ

スティック片を容器から別の容器に移し入れたりする練習を行うとよい。できるようにな

ったら,補助具をはずして同じように練習を行う。実際の食事のときは「摘みやすい食べ

物を5回,箸を使って食べる。」といったように,無理をしないよう取り組む。

(4) 大切にしたい生活動作

次の生活動作も日常生活の中で取り組ませたい内容である。

おやつの準備・片付けをする。連絡帳の紙を折って穴あけパンチで綴じる。連絡の紙を

折ってケースに入れる。日付シールを枠の真ん中に貼る。出席表にレーズライターで丸を

書くなど。

図6 片付けをする

図7 連絡帳の紙を折る 図8 穴あけパンチで綴じる

図9 日付シールを枠の真ん中に貼る 図10 連絡の紙を折ってケースに入れる