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「藻場を食害するムラサキウニが、 地元産キャベツを食べて美味しいウニに変身!」 □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□ Point 三浦半島沿岸の藻場を食害するムラサキウニに対し、特産品であるキャベツの規格外品の餌付けを考案。 実験によりキャベツは他の野菜や常食の海藻よりもよく食べ、甘味の濃いウニになることが判明。 事業者、研究機関、農家など地域での取組機運が高く、地域のイメージアップにも期待がかかる。 地方創生の一環で県内事業者もムラサキウニの養殖実験に挑戦。手間をかけずに済む方法の開発を目指す。 取組主体の概要短縮、システムの簡便性など、 優位性に富んだ技術 神奈川県の三浦半島沿岸海域では、近年、藻場が著しく減少・消失 する磯焼け現象が発生している。その原因の1つとして、ムラサキウ ニによる食害があり、このウニは餌不足で身入りが悪く漁獲対象とな らないことから、さらに繁殖して食害が拡大する悪循環が指摘されて いる。磯焼けの影響で、藻場に生息するアワビやイセエビが減り、稚魚 も育たなくなる可能性があるため、水産資源の減少が懸念されている。 神奈川県水産技術センターでは、ウニの研究に携わっていたOBか ら聞いた「ウニは何でも食べる雑食性だ」という話から、 研究員が「身 入りの悪いムラサキウニをキャベツで餌付けすると育つのではないか。」と 着想し、三浦半島で生産されている規格外の野菜を飼料として、ムラ サキウニを養殖する研究を始めることになった。 三浦半島は、野菜生産出荷安定法により 3 月から 6 月上旬に収穫さ れる春キャベツが国の指定産地に認定されているが、成長途中で割れる などしてキズの入った規格外キャベツの有効利用が課題となっているコアとなる取組 ムラサキウニ養殖の実用化に向けて、食害防止のため除去したムラ サキウニの餌付け実験を実施。水槽内に水流を作り、短冊状に切った キャベツを2,3 ヵ月間餌付けすると身入りに成功した。キャベツで餌 付けしたムラサキウニの呈味成分を調べると、甘味成分のアラニンや グリシンが増える一方で、苦み成分のバリンが減る傾向が見られた。 研究員が試食したところ、他の野菜や海藻を与えたものと比べて、 キャベツを与えたムラサキウニは全体的に甘味が強く、苦みの少ない果物 のような味わいが特徴的であることを確認。キャベツによる餌付けは、 他の野菜や海藻よりも甘味の強いウニにできることが分かった。 なお、様々な野菜や海藻での餌付けを行ったところ、ムラサキウニ が好んで食べるものと食べないものがあり、中でもキャベツは最も好 んで食べる野菜の1つでもあったという。 ムラサキウニの雑食性に注目し、藻場の食害防止で除去した ムラサキウニに特産品のキャベツで餌付けすることを考案。 神奈川県水産技術センター 事業展開のポイント 優位性に富んだ技術 現在、同センターでは、周辺地域の各機関と連携しながら除去し たムラサキウニの養殖の実用化に向けた取組を実践しており、近隣 の水族館・京急油壺マリンパークでは野菜による飼育展示による一 般向け啓発活動を、神奈川県立海洋科学高校では餌料として利用で きる野菜類の調査を行っている。 また、規格外キャベツを提供するなどこの取組に協力するキャベ ツ農家が多いことに加え、漁業協同組合、水産加工業者、養殖業者、 魚市場、百貨店バイヤーなどからも同センターに問合せがあり、多 方面から注目されている。 なお、ムラサキウニの産卵期である7月以前の4月から6月が養 殖時期であり、春キャベツの収穫時期とうまくマッチしている点は 取り組みやすいポイントだという。同センターでは、三浦半島沿 岸の藻場の食害を防ぐため除去されたムラサキウニが、規格外の三浦 産キャベツを食べることで、美味しいウニに生まれ変わる。」というストーリ ーが、地域のイメージアップにつながるものとして期待している。 さらに事業展開していくための課題、今後の展開 2018 年には、地域再生計画による地方創生の一環として、3 つの 県内事業者が同センターのサポートを受けてムラサキウニの養殖実 験に挑戦した。2019年には、同センターが地域の漁業協同組合に委 託して生産実証試験を行うほか、2 つの事業者(別の漁業協同組合、 水産加工業者)が同センターのサポートを受けて養殖実験に挑戦す る予定である。 また、 同センターと連携先による試食会では、キャベツで餌付けしたム ラサキウニは「十分に販売できる美味しさだ。」との評価を得ており、担当 者もこのウニが地域特産となる魅力を備えていることを実感してい るようだ。 手間をかけずに養殖できる方法の開発が課題。 ムラサキウニ養殖の実用化に向けて、同センターでは、①水槽内 のウニに偏りない均一な餌付けの方法、②美味しさを引き立てる色 味の向上、③身入り量の充実、④大量飼育や閉鎖系飼育の実現の4 点の主な課題に取組んでいる。 「ムラサキウニをキャベツで餌付けすることは簡単ですが、身とな る生殖巣の発達について不明な点が多く、量産化にはまだ課題があ ります。その一方で、飼育に適した水深や密度など、うまく餌付け できるポイントが分かってきました。今後は、できるだけ手間をかけ ない養殖方法を考えながら、養殖を始めるところからのポイントを明らか にしていき、その結果を飼育マニュアルにまとめることで、ムラサキウニの 活用を広めていきたいと思っています。」と担当者は話す。 地域のイメージアップに期待。 農家も含め、地域での取組機運も高まりつつある。 地方創生の一環として、県内事業者もムラサキウニの養殖 実験に挑戦。試食会でも好評を得る。 キャベツがムラサキウニの飼料となり、なおかつウニの甘味 を引き出す効果が他の野菜より高いことが実験で判明。 2017 年 6 月に漁業関係者等を対象として開催 された試食会の様子。 ムラサキウニへの餌付けの様子。 ムラサキウニはトゲに絡めたキャベツの 破片を口まで運んで食べる。 茎以外を食べられてしまった海藻(写真下)。 磯焼けの原因となっている。 身入りの悪いウニ(左上)に、キャベツを 餌付けすることで身入りに成功(下)。

「藻場を食害するムラサキウニが、 地元産キャベツ …...バイオマスの〝入口〟から〝出口〟までを回していく仕組み 取組の「創意工夫」と新たな「付加価値」

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Page 1: 「藻場を食害するムラサキウニが、 地元産キャベツ …...バイオマスの〝入口〟から〝出口〟までを回していく仕組み 取組の「創意工夫」と新たな「付加価値」

「藻場を食害するムラサキウニが、

地元産キャベツを食べて美味しいウニに変身!」

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Point

● 三浦半島沿岸の藻場を食害するムラサキウニに対し、特産品であるキャベツの規格外品の餌付けを考案。

● 実験によりキャベツは他の野菜や常食の海藻よりもよく食べ、甘味の濃いウニになることが判明。

● 事業者、研究機関、農家など地域での取組機運が高く、地域のイメージアップにも期待がかかる。

● 地方創生の一環で県内事業者もムラサキウニの養殖実験に挑戦。手間をかけずに済む方法の開発を目指す。

取組主体の概要短縮、システムの簡便性など、

優位性に富んだ技術

神奈川県の三浦半島沿岸海域では、近年、藻場が著しく減少・消失

する磯焼け現象が発生している。その原因の1つとして、ムラサキウ

ニによる食害があり、このウニは餌不足で身入りが悪く漁獲対象とな

らないことから、さらに繁殖して食害が拡大する悪循環が指摘されて

いる。磯焼けの影響で、藻場に生息するアワビやイセエビが減り、稚魚

も育たなくなる可能性があるため、水産資源の減少が懸念されている。

神奈川県水産技術センターでは、ウニの研究に携わっていたOBか

ら聞いた「ウニは何でも食べる雑食性だ」という話から、研究員が「身

入りの悪いムラサキウニをキャベツで餌付けすると育つのではないか。」と

着想し、三浦半島で生産されている規格外の野菜を飼料として、ムラ

サキウニを養殖する研究を始めることになった。

三浦半島は、野菜生産出荷安定法により 3月から 6月上旬に収穫さ

れる春キャベツが国の指定産地に認定されているが、成長途中で割れる

などしてキズの入った規格外キャベツの有効利用が課題となっている。

コアとなる取組

ムラサキウニ養殖の実用化に向けて、食害防止のため除去したムラ

サキウニの餌付け実験を実施。水槽内に水流を作り、短冊状に切った

キャベツを 2,3 ヵ月間餌付けすると身入りに成功した。キャベツで餌

付けしたムラサキウニの呈味成分を調べると、甘味成分のアラニンや

グリシンが増える一方で、苦み成分のバリンが減る傾向が見られた。

研究員が試食したところ、他の野菜や海藻を与えたものと比べて、

キャベツを与えたムラサキウニは全体的に甘味が強く、苦みの少ない果物

のような味わいが特徴的であることを確認。キャベツによる餌付けは、

他の野菜や海藻よりも甘味の強いウニにできることが分かった。

なお、様々な野菜や海藻での餌付けを行ったところ、ムラサキウニ

が好んで食べるものと食べないものがあり、中でもキャベツは最も好

んで食べる野菜の1つでもあったという。

ムラサキウニの雑食性に注目し、藻場の食害防止で除去した

ムラサキウニに特産品のキャベツで餌付けすることを考案。

神奈川県水産技術センター 事業展開のポイント

優位性に富んだ技術

現在、同センターでは、周辺地域の各機関と連携しながら除去し

たムラサキウニの養殖の実用化に向けた取組を実践しており、近隣

の水族館・京急油壺マリンパークでは野菜による飼育展示による一

般向け啓発活動を、神奈川県立海洋科学高校では餌料として利用で

きる野菜類の調査を行っている。

また、規格外キャベツを提供するなどこの取組に協力するキャベ

ツ農家が多いことに加え、漁業協同組合、水産加工業者、養殖業者、

魚市場、百貨店バイヤーなどからも同センターに問合せがあり、多

方面から注目されている。

なお、ムラサキウニの産卵期である7月以前の4月から6月が養

殖時期であり、春キャベツの収穫時期とうまくマッチしている点は

取り組みやすいポイントだという。同センターでは、「三浦半島沿

岸の藻場の食害を防ぐため除去されたムラサキウニが、規格外の三浦

産キャベツを食べることで、美味しいウニに生まれ変わる。」というストーリ

ーが、地域のイメージアップにつながるものとして期待している。

さらに事業展開していくための課題、今後の展開

2018 年には、地域再生計画による地方創生の一環として、3 つの

県内事業者が同センターのサポートを受けてムラサキウニの養殖実

験に挑戦した。2019 年には、同センターが地域の漁業協同組合に委

託して生産実証試験を行うほか、2 つの事業者(別の漁業協同組合、

水産加工業者)が同センターのサポートを受けて養殖実験に挑戦す

る予定である。

また、同センターと連携先による試食会では、キャベツで餌付けしたム

ラサキウニは「十分に販売できる美味しさだ。」との評価を得ており、担当

者もこのウニが地域特産となる魅力を備えていることを実感してい

るようだ。

手間をかけずに養殖できる方法の開発が課題。

ムラサキウニ養殖の実用化に向けて、同センターでは、①水槽内

のウニに偏りない均一な餌付けの方法、②美味しさを引き立てる色

味の向上、③身入り量の充実、④大量飼育や閉鎖系飼育の実現の4

点の主な課題に取組んでいる。

「ムラサキウニをキャベツで餌付けすることは簡単ですが、身とな

る生殖巣の発達について不明な点が多く、量産化にはまだ課題があ

ります。その一方で、飼育に適した水深や密度など、うまく餌付け

できるポイントが分かってきました。今後は、できるだけ手間をかけ

ない養殖方法を考えながら、養殖を始めるところからのポイントを明らか

にしていき、その結果を飼育マニュアルにまとめることで、ムラサキウニの

活用を広めていきたいと思っています。」と担当者は話す。

地域のイメージアップに期待。

農家も含め、地域での取組機運も高まりつつある。

地方創生の一環として、県内事業者もムラサキウニの養殖

実験に挑戦。試食会でも好評を得る。

キャベツがムラサキウニの飼料となり、なおかつウニの甘味

を引き出す効果が他の野菜より高いことが実験で判明。 2017年6月に漁業関係者等を対象として開催

された試食会の様子。

ムラサキウニへの餌付けの様子。

ムラサキウニはトゲに絡めたキャベツの

破片を口まで運んで食べる。

茎以外を食べられてしまった海藻(写真下)。

磯焼けの原因となっている。

身入りの悪いウニ(左上)に、キャベツを

餌付けすることで身入りに成功(下)。

Page 2: 「藻場を食害するムラサキウニが、 地元産キャベツ …...バイオマスの〝入口〟から〝出口〟までを回していく仕組み 取組の「創意工夫」と新たな「付加価値」

バイオマスの〝入口〟から〝出口〟までを回していく仕組み 取組の「創意工夫」と新たな「付加価値」

●バイオマスの〝入口〟において、藻場の食害防止で除去したムラサキウニと規格外キャベツの2種類を活

用することで、環境保全や適切なバイオマスの処理に加えて、水産業と農業の連携機会の創出や、「三浦

産」ブランドの構築の効果も創出している。

●神奈川県水産技術センターによる除去したムラサキウニの養殖技術の実用化に向けた研究開発に、水族館や

水産高校が参画。県内事業者による養殖実験を同センターがサポート。

●除去したムラサキウニの養殖事業が県内事業者等による新たなビジネスとして期待できる。

【創意工夫】

研究機関や水族館、学校、漁業協同組合、農家など、地域の様々な主体が連携を図り、事業を展開して

いる。

創意工夫例

ビジネスモデル 新たなバイオマスへの着目・着想 ・除去したムラサキウニの活用

・地元産の規格外キャベツでの餌付け

事業の構築

入口・出口との活発なコミュニケーション ・研究機関、漁業協同組合、水族館、学校、農家が連携

公的補助の活用・施策の展開 ・地方創生の取組として養殖試験を実施

研究開発機能を持ち、自ら日々研究する ・公的研究機関が考案し実施。事業者の取組もサポート

継続

効果的な広報活動 ・記者発表、ホームページ発表(販売先が関心を寄せる)

外部評価、おすみつきを得る ・試食会の開催

他のモデルへの応用 ・飼育マニュアルの作成などによる実用化支援

【付加価値】

経済的価値の創出、地域環境整備、地域環境共生ともに複数の項目があり、取組を通じた付加価値が多

い事例と考えられる。

三浦半島の特産品を活用

三浦半島特産のキャベツを活用す

ることで、ウニのブランド化が期待で

きる

県内事業者によるムラサキウニ養殖

事業者による新たなビジネスとな

る可能性

除去したムラサキウニを食用に

未利用の食害生物を材料として、付

加価値の高い商品を開発

廃棄コストの削減

規格外キャベツの廃棄コストの削

減が期待できる

水産業と農業の連携機会の創出

地域内でも連携する機会が少ない

水産業と農業の連携によって、実用化

が見込める取組

公共機関による研究開発

神奈川県水産技術センターが実用

化に向けてムラサキウニの養殖試験

を行う事業者をサポート。他の地域

機関も取組に協力

藻場を食害するムラサキウニの除去

三浦半島沿岸の磯焼けの一因であ

る、漁獲対象とならないムラサキウニ

の活用方策として期待できる

規格外キャベツの活用

規格外のキャベツをそのまま飼料

として活用

事業所名:神奈川県水産技術センター 設 立:1911 年

所 在 地:神奈川県三浦市三崎町城ヶ島養老子 T E L:046-882-2312

代 表 者:所長 利波之徳 職 員 数:69 名

事業内容:水産業振興を目的とした漁業の推進、水産物の加工利用、海況・漁況情報の活用、水域環境保全に関する研究など

H P:http://www.pref.kanagawa.jp/div/1730/

神奈川県水産技術センター(神奈川県三浦市) 「藻場を食害するムラサキウニが、地元産キャベツを食べて美味しいウニに変身!」