7
―1― 2000年 3月 APA No.75-1 地形分類データの利活用に関する 研究開発 1.はじめに 1998年は、集中豪雨で水害が多く発生し被害者が多 数出てしまった。特に河川氾濫においては上流地域の 情報を正確に迅速に伝達することの重要さを痛感し た。そこで、防災 GIS などの需要が高まる現在、国 土地理院で発刊されている、特に洪水における防災地 図である「土地条件図」に注目し、その中の地形分類 データから災害の予測や防災情報への手がかりを目的 として、その利活用を検証してみることにした。 1.1 研究の概要・目的 土地条件図の地形分類データを違った観点から分析 した。分析には地理情報システムの利用を試みた。す なわち、地形分類データの持つ本来の意味から、防災 や土地利用に判断できるような一般的な情報を(地理 情報システムを通じて)簡略化して抽出し、判りやす い図に表現してみようと言うことである。 そして、その結果を実災害データと検証し、どの程 度利用できるものか、また防災関連に使用できるもの かなどを明らかにすることで地形分類データの利活用 に関する研究とする。 1.2 資料 今回の研究で主流となった資料を以下に述べる。 ①土地条件図 防災対策や土地利用・土地保全・地域開発等の計画 策定に必要な、土地の自然条件等に関する基礎資料を 提供する目的で、昭和35年から継続して国土地理院に より、作成されている。 土地条件図は、 地形分類、 地盤高、 各種機関 および施設の3つの要素で構成されている。 地形分類は、土地を、その形態、生い立ち、性質な どから分類したもので、その土地が山地であるか、台 地であるか、低地であるか、また同じ低地の中でも高 燥な土地であるか、低湿な土地であるか、あるいは自 然の地形を人工的にどのように改変しているかなど を、区分して表示したものである。 ②地域特性図 国土地理院では、平成6年度から「第五次基本測量 長期計画」のひとつとして「地理情報の整備」が決め られ、地域単位で各種地理情報を集成していく「総合 地域誌」を現在整備している。 総合地域誌は、一つの地域を単位として既存の主題 図、統計資料など国土に関する各種の地理情報を集成 し、その地域の地理的特性を統合化して扱える国土の 地理情報データベースを構築し、データベースとして 格納していくものである。1~2年で1地域を対象に 整備し、「研究調査報告書」「地域特性図集」及び「地 域特性数値情報」にまとめることになっている。 1.3 研究環境 今回の研究で使用した主要機器とソフトウェアは以 下のようである。 ①機器 EWS ... SUN SPARCstation 10 ②ソフトウェア ARC/INFO ARC Version 6.1.1 INFO 9.42 2.研究対象地域 研究対象地域は、災害データとの比較の関連で既存 の総合地域誌データである、新潟地域を選択した。 ―1― 日本測量調査技術協会

地形分類データの利活用に関する 研究開発archive.sokugikyo.or.jp/pdf/apa75_2000_03/apa75010003.pdf―1― 2000年 3月 APA No.75-1 地形分類データの利活用に関する

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

  • ― 1―

    2000年 3月

    APA No.75-1

    地形分類データの利活用に関する研究開発

    厚 川 美 久

    1.はじめに

    1998年は、集中豪雨で水害が多く発生し被害者が多

    数出てしまった。特に河川氾濫においては上流地域の

    情報を正確に迅速に伝達することの重要さを痛感し

    た。そこで、防災 GISなどの需要が高まる現在、国

    土地理院で発刊されている、特に洪水における防災地

    図である「土地条件図」に注目し、その中の地形分類

    データから災害の予測や防災情報への手がかりを目的

    として、その利活用を検証してみることにした。

    1.1 研究の概要・目的

    土地条件図の地形分類データを違った観点から分析

    した。分析には地理情報システムの利用を試みた。す

    なわち、地形分類データの持つ本来の意味から、防災

    や土地利用に判断できるような一般的な情報を(地理

    情報システムを通じて)簡略化して抽出し、判りやす

    い図に表現してみようと言うことである。

    そして、その結果を実災害データと検証し、どの程

    度利用できるものか、また防災関連に使用できるもの

    かなどを明らかにすることで地形分類データの利活用

    に関する研究とする。

    1.2 資料

    今回の研究で主流となった資料を以下に述べる。

    ①土地条件図

    防災対策や土地利用・土地保全・地域開発等の計画

    策定に必要な、土地の自然条件等に関する基礎資料を

    提供する目的で、昭和35年から継続して国土地理院に

    より、作成されている。

    土地条件図は、 地形分類、 地盤高、 各種機関

    および施設の3つの要素で構成されている。

    地形分類は、土地を、その形態、生い立ち、性質な

    どから分類したもので、その土地が山地であるか、台

    地であるか、低地であるか、また同じ低地の中でも高

    燥な土地であるか、低湿な土地であるか、あるいは自

    然の地形を人工的にどのように改変しているかなど

    を、区分して表示したものである。

    ②地域特性図

    国土地理院では、平成6年度から「第五次基本測量

    長期計画」のひとつとして「地理情報の整備」が決め

    られ、地域単位で各種地理情報を集成していく「総合

    地域誌」を現在整備している。

    総合地域誌は、一つの地域を単位として既存の主題

    図、統計資料など国土に関する各種の地理情報を集成

    し、その地域の地理的特性を統合化して扱える国土の

    地理情報データベースを構築し、データベースとして

    格納していくものである。1~2年で1地域を対象に

    整備し、「研究調査報告書」「地域特性図集」及び「地

    域特性数値情報」にまとめることになっている。

    1.3 研究環境

    今回の研究で使用した主要機器とソフトウェアは以

    下のようである。

    ①機器

    EWS ... SUN SPARCstation 10

    ②ソフトウェア

    ARC/INFO ARC Version 6.1.1

    INFO 9.42

    2.研究対象地域

    研究対象地域は、災害データとの比較の関連で既存

    の総合地域誌データである、新潟地域を選択した。

    ― 1―

    日本測量調査技術協会

  • ― 2―

    図1 対象地域

    表1 新潟用地形分類と土地条件図との関係

    ●新潟地域

    内野・新潟・弥彦・新津の4面で、新潟地域とする。

    2.1 地図データ

    総合地域誌のデータとして以下のものが存在した。

    ①国土数値情報データ……土地利用データ・標高デー

    タ・行政界データ・砂防指定地データ

    ②国土数値情報以外のデータ……洪水氾濫データ・地

    盤高データ・土地条件データ・人口データ・道路

    データ

    ③地震災害危険性データ……災害危険状況図・地震災

    害図

    これらのうち、面的な地形分類データと面的な災害

    データを利用することとした。すなわち地形分類デー

    タとしては、上記の土地条件データ。災害データとし

    ては、上記の洪水氾濫データの他、地震災害データと

    して、上記地震災害危険性データの地震災害図の元

    データであった新潟地震による噴砂口・断層等の変

    化・地震による浸水地域・焼失地域の各データを利用

    することとした。

    2.2 属性データ

    ①地形分類データ(土地条件データ)について→表1

    ②地震災害データについて→表2

    ③洪水氾濫データについて→表3

    2.3 付加データ

    土地条件図の添付資料に、表4(地形面と災害・土

    地利用との関係)がある。

    この表を元にして、今回の付加データを作成した。

    表5に付加データである地形分類と対応する地盤・災

    害・土地利用関係コード表を載せる。

    なお、各項目のコードは、必ずしも順位付けを表した

    ものではない。

    ― 2―

  • ― 3―

    表2 地震災害属性

    表3 洪水災害属性

    表4 地形面と災害・土地利用との関係

    表5 地形分類とそれに対応する地盤・災害・土地利用関係コード表

    新潟地域データ用

    ― 3―

  • ― 4―

    表6 成果図一覧表7 地盤状況と洪水災害の重ね合わせ表

    3.手法と成果

    ①手法

    ARC/INFOのマクロ言語(AML)を用いること

    で、作業の簡略化及び成果の統一性を計った。

    ・上述の付加データと土地条件図とを結合させ

    る。

    ・内野・新潟・弥彦・新津の4面を合成する。

    500枚までの複数図面の合成。

    ・経緯度座標から、UTM座標・公共座標・出図

    用の座標へ座標変換する。

    ・出図用グラフィックファイル作成、HPGL2や

    ILLUSTRATORに変換。

    ・重ね合わせた面積割合を算出処理する。

    以上のことをパラメータにより処理できる AMLを

    作成した。

    ②成果

    結果を成果図と表・グラフにまとめた。

    以下に成果図の一覧を示す。なお、地盤状況図以

    外の図面は、図4として本章の最後に付した。

    表とグラフにおいては、紙面の都合で全てを紹介

    できないが、以下に一部を載せる。

    3.1 考察及び課題

    今回の地形分類データの利活用では、ARC/INFO

    を用いて土地条件図や地域特性図のデータに情報を付

    加するといった手法で違った目的の図面を作成するこ

    とが出来た。また、実際の災害データとの面積比較に

    よって地形分類データを災害や土地利用との関連性か

    ら検証することが出来た。

    しかし、今回の場合は時間的制約などから面的要素

    の色塗り表現に絞って行なったため、実際の地形分類

    データでは、変形地形などの線情報や標高などの点情

    報が、より重要条件となってくるはずである。例え

    ば、点や線情報からの経路計算(避難路誘導)や3 D

    シュミレーション(土石流の進度や斜面崩壊など)がよ

    り視覚的に情報伝達できる手法と言えよう。

    また、人工地形の扱い方も土地条件図だけでは判断

    しづらいので、総合地域誌のように様々な観点から情

    報分析することによって不明瞭な地形をより明確にし

    ていくべきである。

    GISや、防災関連の資料として地形分類データの

    利活用は欠かせないものとなっていくはずであるが、

    そのためにも情報の収集と整備手法を確立すると同時

    に、迅速かつ正確な情報技術の利用を併用していくこ

    とが今後最も重要となる課題であろう。

    ― 4―

  • ― 5―

    図2 地盤状況と洪水災害

    図3 2.地盤状況図

    4.おわりに

    防災地図としての土地条件図は、様々な情報が網羅

    されているためアナログ地図としては一枚に表現する

    には困難を要し、色彩別表現法の図式などを熟知しな

    ければならないので一般的に普及出来ていないのが現

    状である。しかし、例えば今回のように土地条件図読

    図における専門知識をシステムに登録し、読図負担を

    軽減することで視点の違った判りやすい図面に変換す

    ることが可能であるので、デジタル情報として整備す

    ることにより GISや防災地図の基礎資料として広く

    利用されるべき情報であることに間違いはない。

    地形分類データは、情報の分析・整備手法の確立

    (標準化)・利用形態の検討を行ない、本来の目的で

    ある防災にさらなる貢献ができるものと思われる。そ

    して自然災害による犠牲者を一人でも少なくすること

    を、正確で迅速な情報伝達と共に達成できることを切

    に願う次第である。

    謝辞

    本研究は、平成10年9月1日~平成10年12月25日ま

    で「建設省研修所等部外研究員受け入れ規定」(昭和

    55年4月1日建設省訓令第3号第8条)に基づいて行

    なった。

    研究に際し、国土地理院地理調査部地理第一課鈴木

    課長・浅井課長補佐・酒井係長をはじめ、課員の方々

    には、研究開発環境の準備からデータ提供に至るまで

    多大なる御協力を頂き、この場を借りて厚く御礼申し

    上げます。

    ― 5―

  • ― 6―

    図4 各種成果図

    ― 6―

  • ― 7―

    参考文献

    1)安芸元清(1969)「防災と地図 防災計画への地図の

    利用」

    2)大矢雅彦・丸山裕一・海津正倫・春山成子・平井幸

    弘・熊木洋太・長澤良太・杉浦正美・久保純子

    (1998)「地形分類図の読み方・作り方」

    3)建設省国土地理院地理調査部(1996)「地理調査50年

    の歩み」国土地理院技術資料 D.1‐NO.339

    4)建設省国土地理院(1996)「地域特性図 新潟平野」

    国土地理院技術資料 D.1‐NO.341

    5)建設省国土地理院(1996)「総合地域誌整備に関する

    研究作業報告書」

    6)建設省国土地理院(1997)「総合地域誌整備に関する

    研究作業(その2)報告書」

    7)国際協力事業団筑波インターナショナルセンター

    (1993)「測量技術コース 参考資料{地形図作成}

    分野教科書(和文)」

    (昭和株式会社)

    ― 7―