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木質バイオマスボイラ導入マニュアル (山形県最上地域 木質チップボイラ導入 編) 平成 25 年 10 月 山形県最上総合支庁

木質バイオマスボイラ導入マニュアル...1 1. はじめに 1.1. 木質バイオマスボイラの導入意義と実施ポイント 森林資源由来の木質バイオマスは、古くから薪炭として利用されていましたが、やがて石油などの化石燃料に変

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木質バイオマスボイラ導入マニュアル

(山形県最上地域 木質チップボイラ導入 編)

平成 25 年 10 月 山形県最上総合支庁

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目 次

1. はじめに ····································································································································· 1

1.1. 木質バイオマスボイラの導入意義と実施ポイント········································································· 1

1.2. 木質バイオマスボイラ導入おける留意すべき点············································································ 1

2. バイオマスボイラ導入・運転までの取組み ························································································ 3

2.1. 事業企画段階のポイント·········································································································· 4

2.2. 運転段階時のポイント············································································································· 6

2.3. 灰の処理方法························································································································· 8

3. バイオマス導入候補施設における熱需要の把握 ·················································································10

3.1. 化石燃料ボイラと木質バイオマスボイラの違い···········································································10

3.2. 熱需要の調査・分析···············································································································13

3.3. 木質バイオマスボイラの導入のポイント····················································································15

4. 木質バイオマス燃料の特徴と品質 ···································································································16

4.1. 木質バイオマス燃料の種類······································································································16

4.2. 木質チップ燃料の特性············································································································17

4.3. 木質バイオマスの含水率·········································································································20

5. 木質バイオマスボイラの技術 ·········································································································23

5.1. 木質バイオマスボイラの関連設備·····························································································23

5.2. 上地域内の主なバイオマス導入事例·······················································································26

6. 事業費用における関連コスト ·········································································································28

6.1. バイオマスエネルギー利用時のコスト·······················································································29

6.2. バイオマス導入における収支計画の考え方·················································································33

6.3. バイオマス事業のコスト低減化に向けて····················································································37

7. 参考資料 ····································································································································38

7.1. 用語の定義···························································································································38

7.2. 関連法規······························································································································39

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1. はじめに

1.1. 木質バイオマスボイラの導入意義と実施ポイント

森林資源由来の木質バイオマスは、古くから薪炭として利用されていましたが、やがて石油などの化石燃料に変

化してきた歴史があります。しかし、近年では、カーボンニュートラルなエネルギー源として、木質バイオマスは

改めて注目を集めています。特に、戦後植林した森林資源が成熟し、蓄積量の大幅な増加や社会情勢による化石燃

料価格の上昇から木質バイオマス利用の可能性は広がってきています。

一般的に、木質バイオマスには電力利用と熱利用があげられ、電力利用ではエネルギー効率は 10~20%台にしか

なりません。一方で熱利用であればエネルギー効率を 80%以上引き出すことができます。また、熱利用では比較的

小規模な利用が可能であり、需要者も供給者も地元主体となることから、地域の産業として位置づけることができ

ます。また、バイオマス熱利用が拡大することによって化石燃料を代替することで、資金が地域で循環するだけで

なく、地域において新たな付加価値を生み出すことになり、地域経済への貢献、CO2 削減、環境負荷軽減、森林資

源の有効活用と、多様な効果が期待できます。

なお、木質バイオマス利用は、近年、燃焼機器の効率向上や自動制御・運転などにより、使い勝手も大幅に改善

されています。しかし、化石燃料とは燃料特性が異なるため留意しなければならない点も多くあげられます。木質

バイオマスを利用するためには、燃焼機器や木質燃料の特性を十分に踏まえて設計・施工、運用をすることが不可

欠です。

1.2. 木質バイオマスボイラ導入における留意すべき点

これから木質バイオマスボイラを導入するに際して、重要な視点としては以下の通りです。

(1) 木質バイオマスボイラの設備稼働率を高める

化石燃料代の上昇により、バイオマスの価格が相対的に有利になってきていますが、課題としてバイオマスは初

期コスト(設備費、設置関連経費など)が高くなることや燃料の調達価格、適切な管理体制など総合的な判断のも

とで化石燃料よりも有利にならない限り、導入は困難を極めます。このため、バイオマスボイラ導入に際しては、

初期コストを可能な限り抑え、年間稼働時間が一定以上あることなどの条件をクリアすることが必要です。

(2) 適切なバイオマスボイラ規模と貯湯槽の設定

対象施設の年間熱需要が一定な施設と仮定した場合、設備稼働率を高めるには、ボイラと貯湯槽の規模設定が重

要です。化石燃料では、熱需要の変動に応じて出力を調整することが可能であるため、施設の熱需要のピークに合

わせて設計するのが一般的です。一方でバイオマスボイラは、木質燃料の燃焼特性から機器の出力調整に制限があ

り、基本的に一定の出力以上で燃焼を続ける必要があります。効果的な導入に際しては熱需要の変動を把握しボイ

ラの稼働を 適化することや規模を設定することが重要です。また、熱需要の全体をバイオマスボイラ 1 台で対応

するのではなく、一定時間のピーク需要に対しては化石燃料ボイラを使うなどして、 適化を図ることも考えられ

ます。

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(3) チップ燃料の品質管理とボイラ機種の選定

木質バイオマス燃料は、原料となる樹種や伐採時期により木材中の水分量(以下、含水率)が変化し、燃料化す

る際の加工方法によって形状が変わってきます。なお、燃料性状により対応できるバイオマスボイラの種類も異な

るため、機器選定に際しては、地域で手に入る燃料の品質を勘案したうえで、適合した設備を選定する必要があり

ます。また、既存のバイオマスボイラ導入事例から見て、トラブル案件として多くみられるのが、燃料サイロから

ボイラへの燃料供給であり、これは燃料の含水率が大きく関わっているとの報告もあります。そのため安定的な運

転のためには、導入する際の木質燃料の品質管理方法に関して燃料供給先との十分な事前協議が必要です。

(4) 設計・施工と運営体制の整備

バイオマスボイラは化石燃料のボイラとは異なり、木質バイオマス燃料、燃焼機器の特性を十分に考慮した上で

設計・施工をする必要があります。また、品質の一定な木質燃料がどれだけ安定的に供給されるかが、事業運営を

行っていく中で重要です。年間に定期的なメンテナンスも適切に行わなければなりません。以上のことから、バイ

オマスボイラの管理者が一定の専門研修を受けて管理・運転に努めることで多くのトラブルを回避することができ

ます。

(5) チップ燃料生産・運搬体制の確認

チップ燃料の原料としてあげられるのが、未利用間伐材や製材後に発生する副産物利用となっています。バイオ

マスボイラで燃焼するチップは、基本的に不純物が混じっていない木質系 100%が条件となっており、不純物が入

ると燃焼に影響してトラブルの原因になりかねません。調達できるチップがどのような原料を利用しているのか、

生産方法なども事前に確認しておくのも重要です。なお、チップの価格に関しては、事業を安定的に運転・維持す

るためには特に重要です。どのようなチップの品質なのか、条件を把握してコストがいくらなのか確認しましょう。

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2. バイオマスボイラ導入・運転までの取組み

木質バイオマスボイラの導入に際しては、①熱需要に合った規模の設備、②現地で調達可能なチップの品質に

合うボイラの選定、③設備費を一定の範囲内に抑えることが不可欠です。つまり、バイオマスボイラ導入に際し

ては、設計と施工管理が極めて重要だということです。

現状では、設計・見積りをボイラメーカーに依頼することが一般に行われていますが、この場合、設計の専門

性や第三者性が担保されず、メーカー主導の機器選定となりがちです。その結果、設計が過大でコストが大幅に

かかるのみならず、適切な運転ができず燃料を無駄に消費してしまう、構造的に使い勝手に問題がある、現地で

調達できるチップにボイラが合っておらず、適切な燃焼ができないなどのトラブルが起こりかねません。木質バ

イオマスボイラを導入するに際しては、ユーザーの立場に立って設計・施工管理をする体制(プロジェクト・マネ

ジメント)を構築することが不可欠です。利用を実践から普及へと進めていくうえで、設備の低コスト化、高効率

化、運用性の向上は避けて通れません。バイオマスを 新の方法でエネルギー利用する仕組みはまだまだ事例も

情報も少ないため、担当レベルではどうやってプロジェクトを進めればよいのかが分からないのも無理はありま

せん。そこで、バイオマス導入までマネジメントの手順を説明します。

図表 1 バイオマス導入までの一般的な実施工程

実施項目 内容

1 計画立案・調査

・基本計画(構想)

・事業性調査(FS 調査※)

・基本設計

導入目的と必要性の確認

導入対象施設の調査(熱需要・運営状況・敷地条件など)

燃料製造箇所の状況確認(チップ品質・燃料価格・供給体制)

法規制・支援制度・バイオマスボイラ技術動向など

経済性の検討(設備関連・工事関連概算見積り発注)

環境性の確認(騒音・悪臭・振動など)

2 実施設計 想定されるバイオマス燃料仕様条件の決定(性状条件)

バイオマスボイラ関連設備の仕様条件の設定

バイオマス設備取扱メーカー等の選定・詳細見積りの発注

> 保守・管理の範囲と各種費用の確認

> 設備性能未達リスクに関する契約条項の協議

燃料品質・供給条件に関する契約内容の決定

> 燃料製造業者:燃料品質、燃料価格

> 燃料供給業者:運搬車両、対応範囲

燃焼灰の処理方法

事業関係者での合意形成

3 設置工事・試運転調整 工事監理(工期確認、納品チェック)

管理者向けバイオマスボイラ関連設備に関する事前研修

設備性能試験の実施

4 運転・保守 バイオマスボイラの運転・管理

> メーカー対応(定期確認・消耗品確認)

> 管理者対応 (設備掃除・燃料の品質確認・その他)

燃焼灰の処理

※Feasibility Study:事業性

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2.1. 事業企画段階のポイント

(1) 事業マネジメントのポイント

プロジェクトを進めるうえで担当者は、バイオマスの特牲をよく理解することが不可欠です。また、先行事例

をよく調査し、できれば現地を訪問して課題を分析することが重要です。しかしながら、担当者の知識や経験に

は自ずと限界があることから、第三者による調査の実施が必要となります。この段階の調査として重要なのは事

業性調査と呼ばれるもので、目的の遂行のための手段や採算性から事業化の可能性を検討するものです。これに

より「基本設計」が導き出されます。FS 調査の実施にあたっては、国や自治体の補助金を活用できる場合があ

ります。ただし、事業メニューによっては実施内容や実施主体に制限があるため確認が必要です。多くの場合、

調査は外部のコンサルタント業者に委託されますが、業者の経験や能力には大きな差があるため、その選定に際

しては実績について詳しく評価する必要があります。また、施設の導入の際には設計のための費用を必要経費と

して計上しておく必要があります。

プロジェクトの成功は、FS 調査あるいは基本設計の段階から運転開始に至るまで統括するプロジェクトの全

体の監理者(プロジェクトマネージャーなど)を設置することが望ましく、発注者側に監理者を置くことが難し

ければ、外部の専門家にその機能を委託することも構いませんが、その際は、発注者視点でプロジェクトを統括

する者の存在が非常に重要となります。また関わる契約期間も重要で、実施設計が済んで入札が終わったからと

いって、あとは受注者任せではいけません。

① 計画立案・調査(基本設計)

図表 2 計画立案・調査の主な実施内容

確認事項 条件項目 備 考

○化石燃料の種類 使用化石燃料の種類から対象となる施設を抽出

バイオマスボイラ

導入の優位性

○施設概要(設備種類・規模等)

○化石燃料使用量

○施設利用者

既存のボイラの特性(設備稼働率、ボイラ種、機器出力など)から施設概要、エネルギー需要を把握

設備更新の必要性 ○設備経過年数

○設備更新 計画的な導入なのか確認

○既存設備室の状況 既存設備室が利用可能なのか判断

○施設内敷地の状況 土地利用可能か確認(施設運営上支障がないか)

既存の敷設配管の確認

○冬期間の状況 設置候補地における冬期間の積雪による影響や除雪の状況等を把

○燃料補給ルートの状況

○燃料補給の作業スペースの状況

燃料補給に係る車両の搬入ルートや道路幅の確認

燃料補給の作業時のスペース確保が可能か把握

○周辺環境への影響 バイオマスボイラの立ち上げ時の煙の影響や運営上の想定される騒音・匂いなど周辺への影響を確認

設備設置条件

(既存システム

との合致性)

○施設周辺の建設計画有無 将来的に新たな施設整備計画の有無を確認し、設置候補地との調

整や連携を図る

環境性 ○二酸化炭素削減効果 施設ごとに想定される二酸化炭素削減効果を把握

その他必要条件 ○その他 バイオマスボイラの効果的な導入を図るため、施設ごとに必要と思われる細かな部分を把握

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② 実施設計のポイント

実施設計とは、FS 調査あるいは基本設計よりもさらに踏み込んで詳細な設計を行うことです。仕様書には導

入する機器のメーカー名や設備仕様、数量、設計基準など必要となる全ての情報が記載されます。また設計図書

にはプラントやボイラの図面などが含まれます。提案型の入札の場合は、基本仕様と概算予算、参考図面での入

札となります。応札するメーカーが実施設計書に相当する資料を用意して入札に参加することとなります。また、

終的な仕様の決定は入札後に行います。

③ バイオマスボイラメーカーの選定方法

メーカー等、設備を納入する業者の選定は一般的に入札により行います。機器が特殊で 1 社しか存在しないと

いった場合には随意契約もありますが、基本的には入札を実施するのが望ましいといえます。入札方法には以下

があります。

1 つめはメーカーと機種を絞り込んだ上での価格入札です。1 つの製品に対して複数の代理店が存在する場合

に、工事費込みでの入札を行います。比較的小さな規模の導入案件などの入札で用いられます。

2 つめは、メーカーを指定せずに機器の仕様のみを指定して、複数の競合メーカーによる価格入札を実施する

ケースです。個別発注契約の典型的な入札方式です。機器と工事を別々に入札するケースと機器と工事をセット

で入札するケースがあります。主にバイオマスボイラ設備などの入札で用いられます。

3 つめは提案型の入札です。プラントに納める機械類を新規に一式で発注するような契約の場合に用いられま

す。価格は発注者側の予算(上限のみ)を設けた上で、提案内容に従って査定を行い、総合評価の高い応札者が落

札する形となります。専門性の高い規模の大きな発注案件では提案型の入札が望ましいです。

④ 設計監理

入札後の契約業務より、この時点から設計監理が始まります。予定された期間内に決められた仕様・図面で製

品が納められたかどうかなど工事を監理します。バイオマスボイラ導入時などの工事は、国内の実施案件も少な

いこともあり、予定外のトラブルが発生して工期が延びることが多々ありますが、コスト・オーバーランや、ス

ケジュール・オーバーラン等のリスクがあるため、契約において発注価格や完工保障、納期遅延時の予定損害賠

償金などの条項をよく検討しておくべきです。

⑤ 完成・引渡し

予定内に工事が完了すると、性能試験を実施し、仕様書に定められた内容通りに製品が納入されたかどうかを

確認します。万が一、性能が要件に達していない時のリスクに備えて、性能未達リスク条項を契約時に定めなけ

ればなりません。性能試験に合格すると、発注者に施設の引渡しを行います。同時に、運転・保守訓練や研修を

実施し、運転・保守マニュアルの整備を行います。また、保守計画の策定や発注者との保守管理契約なども不可

欠となります。

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2.2. 運転段階時のポイント

(1) チップボイラの運転体制

チップボイラと化石燃料ボイラの通常の運転・管理に関しての大きな違いは、ボイラの着火やボイラの掃除、

燃焼灰の掃除等が発生するといった点です。チップボイラは機器の特性上、急な熱需要変動に対しての対応が出

来ないため、一度着火したら 24 時間火を絶やさない連続運転を得意としています。現在、販売されているチッ

プボイラの多くは化石燃料ボイラ同様に自動運転が可能であり、一度着火させれば消火しない限り、無人での運

転・管理が可能です。国内のチップボイラ導入事例をみても、メンテナンスは施設職員が他業務と兼務で運転・

管理している事例が多く見られます。

図表 3 チップボイラの日常運転イメージフロー

(2) チップボイラ設備の定期メンテナンス

化石燃料ボイラの場合は、大部分がバーナー部に関わるもの(点火部、送風機・モータ部、配管部品、電気品

等)に対して、チップボイラは手動着火方式が一般的で、点検部分が少なくメンテナンスの回数が少ないです。

一方で、チップボイラには、油圧機構(燃料積出し・搬送装置駆動部等)及び排ガス・灰処理関係の設備を設け

ている機種が多く、これらの定期メンテナンスが必要になってきます。また、ボイラの使用状況により回数が異

なりますが、 低で年 2 回の定期メンテナンスが必要であり、実際はメーカーとの年 1~4 回の定期点検契約を

締結する場合が多く見られます。また点検とは別に、大気汚染防止法により伝熱面積が 10m2 以上のボイラに対

しては、化石燃料ボイラと同様に、ばい煙の測定が義務付けられています。

図表 4 チップボイラのメンテナンス作業及び対応内容

項 目 頻 度 一般的なコスト 対応者 備 考

ばい煙測定費※ 2 回・基/年 10~20 万円/回・基 導入施設 ボイラ伝熱面積が 10m2 以上の場合

メーカー定期保守点検費 1~3 回・基/年 10~20 万円/回・基 メーカー

① 燃焼装置点検 年 1 回 - メーカー 点検・清掃

② 煙管点検 3 ヶ月に 1 回 - メーカー 清掃

③ 炉本体点検 年 1 回 - メーカー 清掃・点検

④ 安全装置・各種センサー 4 ヶ月に 1 回 - メーカー 確認

⑤ 燃料供給装置 年 1 回 - メーカー グリースアップ

⑥ 各部消耗品点検 年 1 回 - メーカー 磨耗点検・交換

点 火

(手動・自動)

通常運転(自動運転)

スイッチ OFF によるボイラ停止

木質バイオマス

燃料残量確認

灰の掃除

消 火

無圧型のバイオマス温水ボイラならば、

運転員は特別な技術や資格を要さない。

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(3) チップボイラの日常の管理体制

図表 5 チップボイラの管理における一般的な作業

一般的な作業 頻 度 概 要

燃料残量確認 適 宜 燃料製造元や供給元が休止している場合や施設によっては長距離で輸送しなけ

ればならない場合、1 日に補給出来る回数が限られる。このように即時に対応が

出来ない場合は、施設の運営に支障を来たすため定期的な燃料残量の確認が

必要となる。

サイロ内燃料の

ならし作業

適 宜 通常のボイラ運転時において、燃料サイロからボイラへの燃料供給がストップしてし

まうとトラブルの原因となるので、サイロ内の燃料をならす作業を行う場合がある。

※バイオマス燃料は既存の化石燃料と違い固形燃料であるため、気候条件や冬

期間の燃料形状により、燃料供給過程でのトラブルの原因となることが多い。

着火・消化 適 宜 着火に関しては、手動着火と自動着火があるが、自動着火の場合は、予め乾燥し

ているチップや紙くず等着火生の高いものを燃焼炉に投入し、自動運転に切り替

わるまで炉内温度を上昇させることが必要となり、着火から安定運転まで 3~4 時

間程度が費やされることが多い。一方、着火バーナーによる自動着火のシステム

に関しては、一部のバイオマスボイラメーカーでは、標準で付属しているものや、場

合によってはオプションで設置が可能である。なお、自動着火と手動着火方式につ

いては、導入対象施設のボイラの運転方法やボイラの管理担当者の作業負担具

合により判断する必要がある。消火に関しては、一連のシステムスイッチをオフに

することで、燃料サイロからの燃料供給がストップし、自動的に消化する仕組みに

なっている。ただし、ボイラをオフにしても燃焼炉内の火は直ぐには消えずに燻って

いる状態であり、燃焼炉内の火が完全に消えるのは数時間を要する。

灰受けタンク

交換

1~3 日/回

程度※1

灰受けタンクの交換は、通常は 1~3 日間で交換する場合が多い。ただし、木質バ

イオマス燃料の性状や使用量にもより作業量は大きく変動する。

灰掃除

(煙管・燃焼炉)

適 宜

(年 1~2 回)※1

煙管掃除に関しては、機種によっては煙管に付着した灰をコンプレッサーで落とす

システムが搭載しているものと、ブラシ等を用いて手作業で落とす方式がある。

ボイラ内部の煙管掃除については、木質バイオマス燃料が完全燃焼していれば、

それほど灰は発生しないため、年に数回程度の作業になる。しかし、木質バイオマ

ス燃料の含水率が極端に高く、不完全燃焼の場合には数週間に 1 回の煙管掃除

を要する場合もある。また、使用する燃料によっては、ボイラ内部の炉内や煙管に

灰が付着している場合があるため、ボイラを停止して掃除をする場合がある。ただ

し、通常はメーカーが行う定期メンテナンスで実施するため、緊急を要する場合の

みが多い。燃焼炉の灰掃除に関しては、一般的に灰だし装置が搭載されていれ

ば、炉内の灰が一定量たまると自動で作動する仕組みであり、外部コンテナに排

出されるようになっている。ただし、燃料の灰分量によっては、定期的な燃焼炉内

の手動による掃除が必要となる。

チップボイラの煙管部(左) 煙管掃除用ブラシ(右)

冬季間の燃料搬

入時における施

設周辺の除雪

適 宜

(地域による)

降雪量が多いとトラック等による運搬車両の通行や、燃料の投入作業に支障を来

たさないように施設周辺の除雪作業が発生する。そのため、燃料補給のタイミング

等、計画的に燃料補給を行う必要が生じる。

※1:使用する燃料の含水率や性状によって、その回数は変動する

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2.3. 灰の処理方法

(1) 木質バイオマス燃焼による灰の分類

木質バイオマスボイラの運転により発生する燃焼灰は、機器の構成上、火格子や第一次燃焼室で発生する主灰

と、サイクロンで集じんされる飛灰、バグフィルターに捕捉されるフィルター飛灰の 3 種類に分類されます。主

灰と飛灰の割合は、ストーカー炉の場合、チップボイラではおよそ 7:3、ペレットボイラでは 9:1 程度である

ことが多くなります。灰の取扱いは、廃棄物処理法と密接に関わることとなるため、廃棄物対策課等の関係者も

含めた協議が必要となります。

図表 6 木質燃料の燃焼から発生する灰種類

灰の種類 概要

主灰 火格子や一次燃焼室で発生する灰。

固定床炉では樹皮が多く含まれると融点が低下し、クリンカの発生や焼結を引き起こしやすくなる

サイクロン飛灰 排ガスと共に、細かい無機粒子状物質が運ばれ、二次燃焼室や燃焼室出口に置かれるサイクロンで除じんする部分の灰 5~50μm の粗い粒子

フィルター飛灰 電気式の集じん機やバグフィルター(繊維性のフィルター)で除じんされた、さらに細かい飛灰。主として1μm 以下のエアロゾル(煙霧質)の粒子となる。

効率の高いばいじん除去装置を設置しない小規模な燃焼設備では、この部分の飛灰は排ガス共に大気中に排出される。

(2) 作業上の安全対策

木質バイオマスボイラより発生する灰は、作業中に吸い込んだり目に入ったりすると、鼻、喉、肺、粘膜等の

炎症を引き起こすことがあるため、対策が必要となります。灰が存在する環境下で働く場合は、防護用機材(ゴ

ーグル、防塵マスク、防護被服)を装着します。通常は、燃焼する木質バイオマス燃料に不純物(薬品、金属等)

の混入がなければ、人体に影響するほどの問題はないとされています。

開放空間で貯蔵されている灰は数ヶ月後には埃っぽさがなくなり、水和物(湿気を含むため)となっていく特

徴がありますが、灰出し設備・貯留設備へ焼却灰等を投入する際には、予め、散水等による焼却灰等の加湿を行

い、飛散・流出防止を徹底することや、灰出し設備・貯留設備中の焼却灰等の飛散・流出防止を徹底することが

望ましいとされています。

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(3) 燃焼灰の発生量

木質バイオマスの燃焼後に発生する灰は、木質バイオマス燃料の原材料主成分によって灰分量が変化します。

乾量基準(ドライベース)の重量比で示すと、針葉樹木部の 0.5%から樹皮の 5~8%まで様々です。樹皮のみの

場合は、樹皮自体の化学組成と石や土等の付着物により灰分が多くなります。また、廃木材の場合は、加工や利

用の過程で付加された異物や汚染物質で灰分が高くなる傾向があります。

図表 7 木質バイオマス燃料の種類と灰分量

木質バイオマス燃料 対象原料 灰分量

樹皮 製材端材 5.0 ~ 8.0%

樹皮付のチップ 間伐材(低質材) 1.0 ~ 2.5%

製紙用チップ(皮無) 間伐材(低質材) 0.8 ~ 1.4%

おが屑 製材端材 0.5 ~ 1.1%

廃木材 建築廃材 3.0 ~ 12.0%

出典:「季刊木質エネルギーNo.19」(熊崎實)より

(4) 木質燃焼灰の利用方法

通常、燃焼灰を取扱う際は、化学的に未処理の木質バイオマス燃料から得られた灰だけとする必要があります。

また、木質バイオマス燃料自体に不純物が混入されていなくても、燃料の加工、運搬、補給といった作業工程の

中で、異物が混入することも想定されるため、燃焼灰を食品加工に利用する場合等は、一定の期間をおいて繰り

返し燃焼灰の成分分析を行い、有害物質等の混入の有無を把握して安全性を確認することが必要です。

また、流通経路の整備と製品の質の保証が必要となりますが、土壌改良剤の場合は農協等に協力してもらうこ

とで、既存流通網が利用可能となる場合があります。ただし、灰の取扱いについては県や自治体によって法令上

の制約を受ける場合があるので、地域における基幹産業等と絡めて活用方策や適切な処理方法について検討する

機会を設け、十分に協議を行うことが望まれます。

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3. バイオマス導入候補施設における熱需要の把握

化石燃料ボイラと木質バイオマスボイラでは、技術面と経済面が違うため、木質バイオマスボイラを有効に設計

するには、対象となる施設の熱需要の把握分析が重要になってきます。導入主体がそれらを把握していれば、過剰

設備や不適合な設備を売り込まれることへの防衛になります。熱需要から設計を行っていくと、運転方法から経済

計算まで専門家でなくても意味が分かるようになります。また、貴重な木質資源を燃焼する前に、省エネをしてエ

ネルギー消費そのものを減らすことも重要です。熱需要を把握することで、持続可能な木質バイオマス資源を有効

に利用することができます。

3.1. 化石燃料ボイラと木質バイオマスボイラの違い

木質バイオマスボイラは化石燃料とは異なり、急激な出力調整が難しく、一定の出力以上で運転することが前提

となっています。毎朝起動して毎晩停止するような運転パターンを DSS(Daily Start and Stop)運転と呼びます

が、木質バイオマスボイラは基本的に、DSS 運転には向いていません。木質燃料は着火と出力上げに時間がかかる

うえ、発停時の不完全燃焼の排気管理が難しく、毎日の温度変化で炉内の耐火レンガが徐々に傷むなどコストと環

境、管理の面で問題が見られます。つまり、木質バイオマスボイラは一定の出力以上で連続運転することがふさわ

しく、できるだけ定常負荷に近い形で運用するよう設計することが肝心です。

設計に際しては、こうしたバイオマスボイラの特性を踏まえて、ボイラと貯湯槽の大きさを考えることが特に重

要となってきます。だからこそ、バイオマスボイラの計画においては、熱需要を的確に把握する必要あります。

化石燃料ボイラと木質バイオマスボイラでは、本体のサイズ、燃料の燃焼特性、燃料供給システム、付帯設備の

有無、設置スペースの制約など、様々な相違点があることを認識した上で検討を行います。木質バイオマスボイラ

が持つ構造上の複雑さやサイズが大きくなることにより高度な制御が要求されることや現状では国内市場が小規模

であるため、導入のための設置費用は高額となる場合が多くあります。

木質バイオマスボイラは化石燃料ボイラと比べると本体サイズが大きい。

ボイラを収容するための建屋だけでなく燃料のサイロも必要であるためサイロの新設、そのためのスペース

の確保を検討しなければならない。

固体燃料であるため、スクリューなど燃料供装置を新たに検討する必要がある。

木灰が発生するため、除去方法や取り扱い方法を検討する必要がある。

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図表 8 バイオマス利用機器の主な適応範囲

チップボイラ 化石燃料ボイラ

重量 10.5MJ/㎏(40%WB) A 重油 42.7MJ/L

灯油 43.5MJ/L 燃料低位発熱量

(湿量基準) 容量 5.8MJ/L(40%WB)

A 重油 36.7MJ/L

灯油 34.8MJ/L

熱効率例 70~85% 85~92%

出力制御 30%~100%等比例制御 小規模は高・低燃焼・OFF 切替え

大規模は比例制御が多い。

耐久性

化石燃料に比較して燃焼温度低く腐食性物資も少ないため長く使える 15 年以上が期待できる。

10 年~15 年

(A 重油は硫黄分多く使用状況によりさらに短くなる)

ばいじん 着火時に多く発生する。 低い

SOX 極めて少ない A 重油に多い 環境性

NOX やや低い やや高い

寸法 大 小

運転特性 ・負荷追従特性悪い

・チップ供給装置の詰まり

追従性良好

安定性良好

メンテナンス性 ・灰除去

・定期点検(年 1,2 回) ・ 小

建設費 高(助成制度有) 低

ランニングコスト例 低~中 中~高(変動激しい)

(1) 出力調整の方法

化石燃料ボイラと木質バイオマスボイラでは、技術面で本質的に大きな違いがあります。

図表 9 化石燃料とバイオマス燃料とのボイラの特性の違い

化石燃料 木質燃料

燃料形態 バーナーで微粒化噴射(石油・石炭)され良好に空気と混合

大きさと熱量を固体で持つ燃料

燃焼の仕方 表面から内部へ燃焼進行

一次燃焼(ガス化)と二次燃焼(完全酸化)

燃焼室と燃焼形態

燃焼室に噴射されながら瞬時に完全燃焼

火格子上を時間かけて順次移動

燃焼室内に燃料の滞留量がある

火室壁 水管や炉筒煙管など火炎を囲む鉄等から直接水に伝熱

燃焼専用の耐火物壁(伝熱は後段)

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これら特性の違いから、熱源としての木質バイオマスボイラの使い勝手は、石油・ガスとは異なってきます。木

質燃料を取扱う際の固有の特性を十分に踏まえておかないとトラブルの原因に繋がります。

図表 10 木質バイオマスボイラの特性とトラブルの発生例

木質バイオマスボイラの特性や制約 トラブルの発生例

出力変動や起動停止は時間がかかり、容易にできない 時間帯や用途による需要に対して過大・過小な出力で無駄

の多い燃焼になる

低出力では不完全燃焼になる

制御された燃焼が維持しにくい

黒煙の排出

タール・すすがボイラ内や煙道に付着する

出力の変動速度に上限があり、緩やかな変化を必要とする 耐火物の早期劣化・破損

これらへの対処方法としては、主に以下の二つがあります。

① どのような負荷変化があるか、即ち時間帯毎にどのような熱の使われ方をしているかを知り、貯湯槽を入れ

るなど、木質バイオマスボイラの急な負荷変動を減らす

② 夜間や休日、春夏秋など、熱負荷の低い時間パターンや長さを知り、木質バイオマスボイラが 低出力以下

にならない範囲で連続運転できるようボイラと貯湯槽の組合せとする

(2) 稼働率の向上及び容量の設定

バイオマスボイラに関しては、化石燃料ボイラと比べて初期投資とランニングコストが変わってくるため、設計

に関しては、導入を想定している施設の熱需要を適切に把握する必要があり、主な視点としては容量を中心に設計

するか、稼動率を中心に設計するかが考えられます。例として、出力調整が容易な化石撚料ボイラの場合は、 大

負荷を把握して大きめの設備容量を設置して済んでいました。ボイラの価格も安いため、それでも大したコスト増

にもなりませんでした。ところが、バイオマスの場合は、燃料調達価格は化石燃料と比べて割安傾向ですが、ボイ

ラの設備が高いため、その容量は設備利用率を高める 適な規模を設定することが求められます。

図表 11 化石燃料と木質燃料の初期投資と燃料費の違い

設備初期投資

(イニシャルコスト) 燃料費 設計の中心観点

化石燃料 安い

(業務用でも数百万円) 高価、高騰懸念

十分な容量

(ピーク対応・バックアップ)

木質燃料 高い

(業務用で数千万~)※ 相対的に安価

相対的に安い燃料を使って稼働率を高める

(投資回収)

※ 燃焼機器の価格は欧州では日本のコストのおよそ 1/5 以下となっている。

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3.2. 熱需要の調査・分析

(1) 熱需要の把握

熱需要とは、導入施設のエネルギー利用量を表します。木質バイオマスボイラにおいて必要な情報となるのは様々

な特性です。例えば熱の利用方法、温度帯、燃料消費率、設備使用時間、消費傾向の変化や分布状況、伝熱方法な

どがあげられます。設計にて考えなければならない論点と拠り所とする熱需要のデータを示します。

図表 12 熱需要の把握ポイントと設計上の留意・検討部分

検討事項 設計論点 設計での検討例

年総需要 機器サイズ(容量)の設定 年間の単純平均の需要(消費率)を設備出力とすると、理論的には稼働率 100%となるため目安とできる

月別需要

(季節パターン)

機器サイズ(容量)の設定

低稼働(低負荷時)

通年稼働分や冬期間の熱不可を把握することができる。

冬季の熱需要の多い季節は月別単純平均の熱負荷によって稼働率が 100%になるため目安になりやすい。

低熱負荷の期間を見て 低稼働(低負荷時)の対策を検討する

日別需要

(時間帯パターン)

熱負荷対応の平準化

初期費用の抑制

低稼働

24 時間の時系列の中で時間別の負荷を見込み、バイオマスボイラの必要出力と貯湯槽、化石燃料ボイラなどの組み合わせなど計画する。

夜間時など、熱負荷の低い時間帯での設備の 低主力の稼働時の対策を検討する。

需要強度の確認

熱負荷への設備対応

(ピーク負荷の対応)

化石燃料との運転組合せ

対象施設の熱需要強度(局所的に熱需要が高い部分)を確認し、その発生頻度により、化石燃料ボイラ対応の部分など検討を行う。

特定の熱負荷がある場合は、ピーク負荷対応のため貯湯槽の設置やその規模を検討する。

必要温度の把握

エネルギー消費に対する設備規模の 適化

ランニングコストの経済性

エネルギー消費量に対して、過剰な設備にならないように適切な規模設定をするために把握する

※通常は安全幅を持たせるために想定する温度帯に対応する分より必要以上に温度帯をあげている事例も見られるため

現場の運転状況確認 省エネによるエネルギー消費量の抑制

既存の熱利用方法の見直しや改善を図り、省エネ実施できる方法を確認し、エネルギー消費量そのものを減少させる方法を確認する

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(2) 熱需要の調査方法

① 既存のエネルギー(石油・ガス・電気)消費から把握

新築建物などでの新たな熱需要であれば、従来から設備計画の中で熱負荷計算は行われていますので、設計士か

らのデータを活用できます。ただし、実際には、既存建物の化石燃料の消費を木質バイオマスに転換するケースが

多く、新築時に熱負荷計算をしていない場合や当時の資料が残っていないケースがほとんどです。

このため、熱需要の把握は、現状のエネルギー消費量、即ち石油・ガス・電気のデータを用いることが一般的で

す。石油・ガス・電気の金額は、およそ月単位にて把握されており、経費伝票などから確認ができます。熱対策を

行う対象は一部の施設なのに対し、それら費用支払は、事業所全体であるなど、利用解釈の難しいデータの場合も

あります。できる限り対象箇所の具体的な内訳のあるデータを把握します。

② 実測によるエネルギー使用量の把握

施設の熱需要を調査する場合は、精度を上げるために既存熱源の負荷の実測を行うのが良いです。すべての季節

にわたり実測することは困難ですが、一般的な使用状況として平日と休日などサンプル日のデータを採ることは、

時間帯別の熱需要の内訳・パターンを知る大きな手がかりになります。

計測方法としては、温水配管の外部に取り付ける非破壊型の流量計と往きと還り管の断熱被覆の下に潜らせる熱

電対をセットし、データロガーで記録します。この場合、器材投資はかかりますが、設計や経済計算の精度が上が

るため有益と言えます。

③ 熱需要の分析

熱需要調査においては、実際の消費量状況と誤差があるため、熱需要の特性を理解して設計への応用を考えるた

めに分析していくことが重要です。月々のエネルギー消費量を可視化(グラフ化)すると、季節変動から熱の使途

や内訳が推計できるようになってきます。春や秋の中間期と呼ばれる期間を基準にして、冬期間の暖房の利用がは

じまる期間の消費量の増分との差が、およそ暖房の熱需要と推測できます。また、新築で行われる熱負荷計算を応

用して、対象建物の仕様を置いて計算してみることも推測につながります。例えば事務所の暖房であれば、窓・壁

等から熱の漏れる負荷、換気で熱が漏れる負荷、人や機械による発熱分が見られます。それらの分析と実データを

参照しながら現実性を確認します。

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3.3. 木質バイオマスボイラの導入のポイント

バイオマスボイラ導入を検討する際には、いくつか注意する点があります。従来の化石燃料利用機器の場合は、

施設のエネルギー需要のピーク時に対応が出来るように、余裕を持たせた設備の規模設定を行いますが、バイオマ

スボイラの導入規模は必ずしもピーク時に合せる必要はありません。バイオマスボイラの特徴として、ON-OFF で

の着火・消火が出来る化石燃料ボイラと違って、点火しても設定温度に達するまで時間が掛かることや、消火して

も直ぐに熱が下がらない等の特性を持っており、-度高温に達すれば、そのまま定常運転をすることが好ましく低

負荷状態で長時間運転を続けると燃焼が不安定になります。また、バイオマスボイラは、一般的に熱負荷の 30~

100%の間で比例制御を自動的に行っており 30%以下の低負荷が長く続くような機器の規模選定は相応しくありま

せん。そのため、バイオマスボイラの 適な導入方法としては施設のエネルギー需要のうち、ベースとなる部分を

バイオマスボイラで対応しピーク負荷対応には化石燃料を使用するなど、それぞれの機器特性を生かしたシステム

設計が合理的と考えられます。また既存の化石燃料ボイラとの併用システムのメリットとして、バイオマスボイラ

がトラブル等で運転停止した場合でも、既存の設備をバックアップ用として利用出来るため、施設運営上のリスク

を回避することができます。

図表 13 化石燃料ボイラとバイオマスボイラを併用した利用システムイメージ

バイオマスボイラと化石燃料ボイラの比較

・エネルギーのベース需要をバイオマスボイラで対応。

・エネルギーのピーク需要は化石燃料ボイラとの併用で対応。

コストパフォーマンスの高いシステム

◎バイオマスボイラ関連設備の導入コストが高いため、既存化石燃料利用システムと同規模のものを

導入した場合は、高額な導入設備費が必要となる。また、バイオマスボイラは、施設のエネルギー

需要形態に対して、瞬間的なエネルギー変動に対する追随性が乏しい。

化石燃料ボイラで対応

バイオマスボイラで対応

化石燃料ボイラ規模

(既存システム)

バイオマスボイラ規模

(導入システム)

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4. 木質バイオマス燃料の特徴と品質

木質バイオマス燃料は、薪やチップ、ペレットなど種類も多く、さらには同一の種類でも形状や水分が様々であ

り、品質にばらつきがあるのが大きな特徴です。このため、木質バイオマスは種類、品質によって使うボイラなど

の燃焼機器も異なってきます。この点で、木質バイオマスは燃料の品質が一定でボイラの選定が容易な、都市ガス

や灯油・重油などの化石燃料利用の延長として考えることはできません。

例えば、バイオマスボイラや燃料供給装置に適合しない形状や水分の燃料を投入すると、定格出力が出ない、鎮

火してしまう、燃料供給装置が詰るなど、化石燃料にはなかったトラブルが起きやすくなります。 近では技術も

進み、自動燃焼など、バイオマスボイラの利便性も大幅に高まってきています。したがって、これらの特牲をよく

理解したうえで、燃料とボイラの組み合わせを決め、適切に運営していけば、木質バイオマス導入のメリットを十

分に引き出すことができます。木質バイオマス燃料の種類を整理したうえで、品質確保で も重要な水分について

解説し、次いで木質バイオマスの一般的な利用形態であるチップの特性について解説します。

4.1. 木質バイオマス燃料の種類

木質バイオマス燃料は、森林から直接産出する燃料と木材加工から生じる端材・木くず由来の燃料に大きく二分

されます。以下に、主な木質燃料の種類と特性を整理します。

図表 14 主な木質燃料の特性

燃料種 長所 短所

チップ

製造が比較的容易である

原料として葉や枝条や末木なども利

用可能である

中~大規模の熱利用施設の燃料とし

て対応可能

燃料チップのサプライチェーンが未

整備である

製紙用チップを利用することが多く、

燃料用チップとしては高含水率でコ

ストが高い

燃焼器の仕様、規模に対応した品質規

格が整理されてない

エネルギー密度が低い

木質ペレット

品質が安定し、取り扱いが容易

燃料の自動供給が可能、火力の調整・

管理が容易である

発熱量が高くエネルギー密度が高い

ため燃料装置も小型化が可能で、スト

ーブからボイラまで燃料として幅広

く利用できる

製造工程がやや複雑で製造技術の修

熟を要する

製造コストが比較的高い

燃料の品質維持において水湿に弱い

流通ルートが未成熟傾向である

製造が容易である

個人でも原料から薪の製造が可能

火力の調整が難しい

高出力を期待するもの用途には向か

ない

燃料供給の自動化は難しい

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4.2. 木質チップ燃料の特性

チップ燃料の原料としては、間伐材や林地残材、製材端材などが利用しやすく生産・運搬も比較的容易です。ま

た、木質チップは、燃料供給・燃焼の自動化が進んでおり大量利用に対応できることから、今後、 も利用が増え

ると見込まれるバイオマス燃料です。チップ燃料の取扱いには、他の木質燃料以上に形状や水分などに注意するこ

とが必要です。特に、形状・水分とボイラの適合性が重要で、この組み合わせを誤ると出力不足やトラブルの原因

になります。また、不純物が混入すると不具合につながるので、品質管理を適切に行うことが必要です。

(1) 木質チップの形状と燃料供給システムの適正

木質チップ燃料は、木材を破砕したものであり、チップ化は燃料化において も一般的な方法です。木質バイオ

マスボイラで燃料利用する際には、チップ形状、含水率が非常に重要となります。また、チップ形状は大別して切

削チップと破砕チップに分けられ、チップ化する機械によって区分されます。

切削チップは、製紙用チップとして多く利用されているものと同じ正方形の形状であり、バイオマスボイラでも

容易に利用できます。破砕チップについては、燃料サイロにおけるブリッジ(チップがサイロ内でアーチ構造を形

成して閉塞し、排出口から供給されない現象)が発生しやすいため、サイロの設計時は注意が必要となります。

また、破砕チップは燃料供給スクリュー内での詰まりも発生するため、チェーンコンベアなどチップ形状に注意

したチップ搬送方式を採用する必要があります。含水率については、ボイラの機種ごとに上限含水率が決まってお

り、低含水率のチップほど燃焼時の効率は高くなります。なお、高含水率の破砕チップは、長期間保存していると

発酵、発熱し発火する可能性も考えられるため、1 週間分のサイロ容量を目安とします。

図表 15 切削、破砕チップの比較表

切削チップ 破砕チップ

チップ形状

薄い方形状 細長い繊維状又は破砕形状

製造方法

カッター式

カッター刃で削り取る方法で製造

ハンマーミル方式

ハンマーの打撃衝撃で破砕

カッターミル方式

受刃と切断刃によるせん軒力で破砕

燃料特徴

形状が均等で流動牲が良い

生産速度が速くなるほど品質が不均で流動性が悪くなる傾向があるため注意

燃料供給装置でブリッジが形成しにくくトラブルの可能性が低い

長尺物の発生など形状が不均質で流動性が悪い

スクリュー式の搬送装置でチップが詰まりやすい傾向

燃料供給方法 スクリューコンベア チェーンコンベア式、プッシャー式

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出典:「最上地域の木質バイオマス資源の活用に向けて(平成 25 年 3 月)」山形県最上総合支庁

図表 16 最上地域管内のチップ燃料の主な生産事業体

最上バイオマスエネルギー供給㈱

㈱もがみ木質エネルギー

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(2) チップ含水率とボイラの適性

木質バイオマス燃料は含水率の違いにより燃焼時の発熱量が異なります。また、ボイラには機種毎に使用する燃

料の含水率が指定されています。ボイラの燃焼方式には水分が 45% (WB) 以上でも燃焼可能な移動床式ボイラが

ありますが、出力規模が l00kW 以上となり、価格もその分割高になります。また、安定した出力を維持するために

は、連続運転が前提です。なお、移動床式ボイラの場合には水分の高い燃料を使用するため、着火は手動となりま

す。

乾燥したチップしか燃焼できない固定床式ボイラに水分の高いチップを投入した場合、必要とする熱量が得られ

ないばかりか鎮火してしまう場合があります。寒冷地では、水分の高い燃料がサイロ内で凍結してチップが供給さ

れないといった問題も発生しています。この場合、本来ならボイラの廃熱を利用してサイロのチップを乾燥する方

法もあります。このように、チップの品質によってボイラ形式が異なります。利用するチップの品質を決めてから

ボイラ機種を決定し、適切な設計をすること、ならびにチップの品質管理を適切に行うことが必要です。

図表 17 ボイラの燃焼方式とチップ含水率の適正

燃焼方式 移動床式 固定式床

特 徴

チップが燃焼室内の火床を移動して乾燥しながら燃焼することができる。

[対応要件]

・ 出力 100kW 以上のボイラ規模

・ 高含水率対応で価格が割高傾向

・ 連続運転、手動着火が一般的

燃焼室内で乾燥工程がないため、乾燥チップのみでの対応となる。

[対応要件]

・ 小規模(出力 100kW 以下)のボイラ規模

・ 移動床式に比べて、小型で価格が安い傾向になる

含水率の対応範囲 低 ~ 高 (45%WB 以上)

※生チップ適応範囲

低 (45%WB 以下)

※乾燥チップ適応範囲

(3) 木質燃料によるトラブル例

チップ原料には、間伐材や林地残材の他に製材端材や木くずなどが利用されるため、土石や砂利・金属などの異

物が混入している場合があります。異物の混入はチッパーを損傷させるとともに、ボイラの燃料供給システムに大

きな損傷を与えかねません。また、土に含まれるガラス成分は燃焼時に溶けて炉内の損傷の原因にもなります。燃

料供給者に対して事前に原料の由来や原料の追跡確認の可否についても確認しておくことが必要です。

図表 18 チップの品質におけるバイオマスボイラの主な不具合

内 容

燃料形状の不具合

・ 不完全燃焼(細い燃料が多い場合)

・ 燃料供給の詰まり

・ 燃料供給が停止することによる鎮火

含水率による影響

・ 高含水率チップによる不完全燃焼による出力不足、鎮火

・ 低含水率による過剰出力、消費量の増加

・ 燃料サイロ及び供給装置内における結露、凍結による設備停止

不純物の混入

・ 原料内に混入する不純物(化学物質など)

> 灰の処理問題

> 排ガス対策

・ 混入物(土砂、石、金属など)による燃焼への影響

> 燃料供給装置の詰まり、損傷

> ボイラ燃焼炉の損傷

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4.3. 木質バイオマスの含水率

(1) 木質燃料に含まれる水分基準

木質燃料に含まれる水分の比率を「含水率」と表します。木の含水率には乾量基準含水率(ドライベース:DB)

と湿量基準含水率(ウェットベース:WB)が存在しており、日本工業規格(JIS)に含水率として規定されている計

算方法が「乾量基準(ドライベース)」に当たります。

○ 乾量基準含水率(ドライベース:DB)

乾量基準(ドライベース)とは、完全に乾燥させた木材の重量に対する水の割合を正確に表すことを目的にした

計測法で用材利用や研究分野の基準に使われています。乾量基準含水率○%は、木材に含まれる水分の重量(kg)

対全乾状態(水分無し)での木の重量(kg)の割合で示されます。

○湿量基準含水率(ウェットベース:WB)

湿量基準(ウェットベース)とは、水分を含んでいる状態の木材(生木)の重量に対する水の割合を表しています。

現状では「湿量基準(ウェットベース)」の方が、バイオマス計測方法として適切で国際的に定着しています。

本マニュアルでも水分の比率は、湿量基準を表す含水率を用います。湿量基準含水率○%は、木材に含まれる水

分の重量(kg)対 生木(湿った木)の重量(kg)の割合で示されます。

図表 19 乾量基準と湿量基準の関係

乾量基準

DB% 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 150

湿量基準

WB% 9.1 16.7 23.1 28.6 33.3 37.5 41.2 44.4 47.4 50.0 60

※伐採直後の立木は湿量基準 55~60%

※欧州の木質燃料の基準値は湿量基準 35%

乾量基準含水率 ○ %

(ドライベース:DB)

木材に含まれる水分の重量(kg)× 100

木材の乾燥重量(kg) =

湿量基準含水率 ○ %

(ウェットベース:WB)

木材に含まれる水分の重量(kg)× 100

生木の重量(kg) =

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(2) 木質燃料の含水率と熱量の関係

木質燃料の発熱量は、以下の図表 20 に示すとおり含水率が高いほど低くなります。これは、燃料中に含まれる

木質部分が少ないことがほとんどの理由ですが、加えて燃料中の水分を蒸発させるのにも熱が使われるためです。

このため、同じ重さの燃料を燃焼させた場合、燃料に含まれる水分で得られる熱量に差が出てきます。ボイラの定

格出力は、それぞれ指定されている含水率の燃料を用いた場合の出力表示であるため、指定された水分の燃料を用

いれば燃料消費も 適化され、安定出力が維持されると同時にボイラへの負担も小さく、維持管理が容易になりま

す。特に当初指定された木質燃料の含水率よりも高い場合、表示されている定格出力が得られず、出力を維持する

ためには燃料を余計に消費することになります。また不完全燃焼による乾留ガス、有害物質および臭気の発生や鎮

火することもあります。このような場合、ボイラに負担がかかりトラブル発生の原因となり、排気部分の維持管理

コストが増大することもあります。また、指定された含水率よりも低い場合、発熱量が大きすぎて熱を捨てること

にもなりかねません。また燃焼が早すぎて燃料消費量も想定より増えてしまいます。さらに、炉内が高温になりす

ぎると、耐火レンガの劣化が進む原因になります。このように木質燃料の含水率の管理は、木質バイオマス利用の

も重要なポイントといえます。

図表 20 スギの低位発熱量(MJ/㎏)※一般値

木質バイオマス燃料は、ほぼ均一の規格(熱量)をもった化石燃料(低位発熱量 A 重油 37.1MJ/L、灯油 34.9MJ/L)

とは異なり、木材に含まれている水分量(含水率)により、その発熱量が大きく異なります。林地残材や間伐材と

いった生木に近いものは含水率が高く発熱量は小さく、建材のように加工(人工乾燥)されたものは含水率が低く

発熱量は高くなります。したがって燃料コストの重量単価が同じであっても含水率の低いほうが、熱量単価が低く

なるためエネルギー利用には有利になります。

図表 21 木質バイオマス燃料の一般的な含水率(WB)

チップ 製材所端材

生チップ 20~50%(WB) 製材所の残端材 25~60%(WB)

屋下で保管されたチップ 20~30%(WB) 木工所の残端材 7~17%(WB)

空気乾燥されたチップ 15~20%(WB)

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(3) 木質燃料の含水率の計測

バイオマスボイラで安定した燃焼を行うためには、バイオマスボイラに合致した水分の燃料が必要です。このた

め、木質燃料の水分管理を行う必要があります。一般的には、燃料供給時は販売者や生産者が確認を行い、燃料購

入者は定期的にサンプリング試験を行って確認します。主な水分の確認方法は、次のとおりです。

図表 22 含水率の確認方法

計測方法 測定方法 測定時期

計測器

・ 水分計や含水率計と呼ばれる木材中の水分量を計測する機器を使用

・ 迅速に結果を確認できるが計測値は近似値で誤差を含むことに注意が必要

燃料納品時

簡便測定法

・ 事前にバケツなど計測容器当たりの水分を測定しておき一覧表を作成して容器の重量を測定した値で水分を推定

・ 測定値は近似値で誤差を含むことに注意

燃料納品時

室内試験

(全乾法)

・ 専門の乾燥器を用いて一定量の試料の絶乾室料と乾燥前の質量から正確な水分を計測

・ 測定時間は 1~2 日程度必要

一定量取引ごとに実施

(4) 木質燃料の単位

木質燃料の取扱い単位は様々ありますが、発熱量が燃料の価値基準の要素となっています。欧州の木質燃料の含

水率の基準値は 35%(WB)となっており、この水分のときの単位重量(t)当りの発熱量は、図表 23 に示すとお

りです。

図表 23 一般的な木材の含水率と発熱量

高位発熱量(HHV) 低位発熱量(LHV) 欧州基準

含水率 木質樹種・部位

Mcal/t GJ/t MWh/t Mcal/t GJ/t MWh/t

針葉樹 木部 3,210 13.5 3.73 2,790 11.7 3.24

樹皮 3,180 13.4 3.70 2,760 11.6 3.21

広葉樹 木部 3,060 12.9 3.56 2,630 11.1 3.06

35%

(WB)

樹皮 3,040 12.8 3.53 2,610 11.0 3.03

事例 簡易測定法の風景 (金山町森林組合)

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5. 木質バイオマスボイラの技術

木質バイオマスをエネルギーとして利用するためには装置の選定が重要です。容量や対応する燃料種、得られる

熱の種類、金額(初期投資、運転経費)も様々であるため、現場に 適な装置を検討しなければなりません。また、

装置から生み出されたエネルギーをどのように利用するかといったシステム設計も重要です。

5.1. 木質バイオマスボイラの関連設備

(1) バイオマス燃料機器の種類

バイオマスを単に燃やすだけでは、効率的にエネルギーを取り出すことはできません。 適な燃焼管理を行いつ

つ熱を 大限に回収する装置をボイラと呼びます。バイオマスボイラとは、熱源設備のうち廃棄物を含まない木材

由来の固体燃料を直接燃焼し、温水や蒸気、冷水、温風を製造するなど、化石燃料機器と比較しても遜色のない高

効率(効率 80%以上)な機器を対象とします。現代の木質バイオマスボイラは、自動運転、自動制御の能力を備え

(薪ボイラを除く)、二次燃焼の技術を採用し高い燃焼効率(80~90%)を達成していますが、同時に効率や性能

の低い木質バイオマスボイラ等も存在しています。熱回収に頓着せずに減容だけを目的とした装置は焼却炉です。

日本では、焼却炉の発想の延長で設計されたボイラもあります。その場合、本来のボイラに比ベエネルギー効率が

劣るので注意が必要です。

今後、木質バイオマスボイラ等の普及にあたって、環境性(排気ガスの CO 濃度やばいじん濃度の低減化)と経

済性(効率向上による省燃料化)に優れた機器の選定が必要となってきます。

図表 24 バイオマス利用機器の主な適応範囲

エネルギー変換設備 適合燃料

燃焼器

出力規模 利用箇所

利用用途

薪 チップ ペレット

燃焼

効率

(%)

ストーブ 数 kW 個室暖房 暖房 ○ × ○ 70~90

温風発生器 数十~150kW 温室暖房 暖房 △ × ○ 70~90

20~

100kW 家庭 暖房・給湯 ○ △ ○ 70~90

小規模

100~

200kW 小施設

暖房・給湯・

加温・冷房 × ○ △ 70~90

中規模 200~

1,000kW

事業所

工場

冷暖房・給湯

熱電供給 ― ○ ○ 70~90

石炭混焼 ― ○ △ 30~40

熱電供給 ― ○ ― 40~70

ボイラ

大規模 1,000~

30,000kW

工場

発電所

木質発電 ― ○ ― 10~30

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(2) バイオマス燃料の供給方法

木質バイオマスエネルギーを導入する際に、木質燃料の種類によっては利用機器を選定しなくてはなりません。

チップボイラの場合の燃料供給システムの適合性として、一般的にチップボイラ取扱メーカーの多くは燃料サイロ

からボイラ本体への燃料供給システムにスクリュー方式を採用しており、チップ形状と含水率が一定であれば利用

可能です。チップボイラは燃料の性質が一定でないと適正な燃焼が維持されないため、燃料の品質をよく確かめて

から利用する必要があります。

図表 25 スクリュー方式 図表 26 チェーンコンベア・プッシャー方式

図表 27 木質バイオマス燃料と燃料供給方式の適合性

燃料供給方式 対象燃料

スクリュー方式 チェーンコンベア・プッシャー方式※

切削チップ

○ 利用可 ・製紙用チップ利用可能

・燃料の含水率調整が必要

○ 対応可

破砕チップ

△ 利用可(条件付) ※燃料の含水率が高いとスクリュー部分に付着し燃料

供給がストップする恐れがある。

○ 対応可

樹皮チップ

△ 利用不可(条件付) ※燃料の含水率が高いとスクリュー部分に付着し、燃料

供給がストップする恐れがある。

○ 対応可

※対応出来る機器メーカーに限りがある。また、オーダーメードのため設備コスト負担増。

チップ燃料に関しては、主に製紙用チップと破砕型チップがあり、製紙用チップは、形状が均一でありスクリュ

ー方式で十分に利用が可能です。また、破砕型チップの場合、形状に均一性がなく、チップの含水率が高いと燃料

供給過程でブリッジ(燃料細片の絡み合いや圧力により、燃料供給システム内で燃料が付着する等して燃料が供給

出来なくなる状態)が生じるためボイラへの燃料供給がストップするトラブルが生じやすくなります。

燃料サイロから、チップボイラ本体へ安定した燃料供給を行うためには、チェーンコンベア・プッシャー方式を

選定する必要がありますが、スクリュー方式からチェーンコンベア・プッシャー方式への変更に対応出来るメーカ

ーに限りがあります。また、システム変更が可能でもオーダーメードになるため、コスト負担を伴うことになり、

注意が必要です。

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(3) バイオマス燃料の貯蔵方法

チップボイラ導入の際には、燃料となるチップ貯留するサイロを設置または建設する必要があります。サイロの

形式によってボイラ導入後における燃料供給時の利便性や人件費、燃料費などに影響するため、導入施設の状況、

配送車両の種類と合わせて検討します。サイロの形式と建設費については、施設の敷地条件等により変化します。

チップについては燃料供給に関してトラブルが多いので、その違いを留意して設計を行います。また、サイロの設

置にあたっては、維持管理スペースを確保するほか、意匠上、景観に配慮することも重要です。

図表 28 燃料サイロに関する特徴

形 式 敷設方法 特 徴 留意事項

倉庫型

地上式

半地下式

地下式

建設工事 新築建物または新規機械室建設時と

一体で工事する場合には、費用的に有

利になる。

半地下式および地下式の場合は、輸送

用ダンプからの投入がしやすい。

地上式の倉庫の場

合は、ダンプでの投

入がやや困難。

設置型

コンテナ型(鋼板製)

ブロック型

既製品の設置

(大規模なもの

は現場組立て

が必要)

既存施設に新たに導入する際には工

事が比較的容易であり安価なため採

用されることが多い。また貯留容量が

概ね 70m3 以上必要となるような場合

は、強度の問題や既製品が無いため建

設工事での対応となる。

コンテナ型では、ホ

イストでフレコン

バッグを吊って納

入する方法もある。

金山町森林組合 ウェルネスプラザ 上 岩手県沢内村雪国文化研究所

図表 29 倉庫型(地上式) 図表 30 倉庫型(地下式) 図表 31 コンテナ型

■ 燃料サイロの設計方法

燃料サイロ容量は、下記の計算式にて算出・設計します。

木質バイオマス燃料燃焼量 [kg/日] C × 貯蔵日数 d

サイロ容量 V [m3] =

密度(貯蔵時の隙間も考慮した見かけの密度)[kg/m3] ρ

注意)消防法によって木質燃料の貯蔵量が 1t以上から届出の提出が義務付けられている。

したがって、チップは V>10m3、以上の場合対象となる。

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5.2. 最上地域内の主なバイオマス導入事例

図表 32 最上地域内の主なバイオマス導入事例(2013 年 9 月現在)

施設名 区分 対象地 導入機種 熱利用種 規模 導入状況 利用状況等

株式会社庄司製材所

(本社工場) 民間 真室川町

チップボイラ

(国産)

温水

(木材乾燥用) 800kW H15 年

木材乾燥用熱源に自社

で発生するバークを利

ウェルネスプラザ 上 公共 上町 チップボイラ

(シュミット|スイス)

温水

(冷暖房・給湯・融雪)

550kW

700kW

H17~19 年

H19 年~

高齢者総合福祉センタ

ー、介護老人保健施

設、 上町立病院、グ

ループホーム、高齢者

生活福祉センターの給

湯、冷暖房用

株式会社庄司製材所

(金山工場) 民間 金山町

チップボイラ

(シュミット|スイス)

温水

(木材乾燥用) 1500kW H19 年 2 月

自社で発生するバーク、

製材端材を燃料に利用

している木材乾燥用の

熱源として利用

バイオソリッドエナジー

株式会社 民間 新庄市 木チップ燃焼炉

熱風

(汚泥乾燥用) 1163kW H20 年 4 月

下水汚泥を木くず焚き

ボイラ(&重油ボイラ)で

乾燥、粒状にして燃料

化。石炭ボイラの代替

燃料として県外の製紙

工場へ供給

金山町森林組合 民間 金山町 チップボイラ

(巴商会|国産)

温水

(木材乾燥用) 200kW H20 年 7 月

製材時に発生する背板

等をチップ燃料化

木材乾燥用の熱源とし

て利用

有限会社

舟形マッシュルーム 民間 舟形町

チップボイラ

(巴商会|国産)

貫流式蒸気

(殺菌、培養保温) 500 ㎏/h H20 年~

キノコ生産時の殺菌、培

養保温に利用。既存の

重油焚蒸気ボイラと併

すこやかプラザ

(あたごこども園) 公共 上町

チップボイラ

(シュミット|スイス)

温水

(暖房・融雪) 180kW H21 年~

園内の暖房と駐車場の

融雪

株式会社庄司製材所

(釜淵工場) 民間 真室川町

チップボイラ

(シュミット|スイス)

温水

(木材乾燥用) 1500kW H21 年度

自社で発生するバーク、

製材端材を燃料に利用

している木材乾燥用の

熱源として利用

上町

※ウェルネスプラザ 上 公共 上町

チップボイラ

(シュミット|スイス)

温水

(冷暖房・給湯・融雪)900kW H23 年~

紅梅荘(特別養護老人

ホーム)の融雪・給湯・

冷暖房、給食センター

の給湯・食洗機に利用

ホットハウスカムロ 公共 金山町

チップボイラ

(ポリテクニク

|オーストリア)

温水

(温泉加温) 400kW H25 年 3 月 温浴施設の温泉加温

山形県 上総合支庁 公共 新庄市 チップボイラ 温水

(暖房) ―

真室川町梅里苑 公共 真室川町 チップボイラ 温水

(温泉加温、他未定) ―

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出典:「最上地域の木質バイオマス資源の活用に向けて(平成 25 年 3 月)」山形県最上総合支庁

図表 33 最上地域内の主なバイオマス導入事例(2013 年 9 月現在)

導入済みボイラー

導入予定ボイラー

木質燃料チップ供給会社の構成企業

凡例

導入済みボイラー

導入予定ボイラー

木質燃料チップ供給会社の構成企業

凡例

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6. 事業費用における関連コスト

近年、化石燃料価格の上昇によりバイオマス燃料価格が相対的に有利になってきています。他方でバイオマスは

ボイラの設備費が相対的に高くなり、バイオマス燃焼機器の焼技術や自動制御などイノベーションが進んだとはい

え、利便性は化石燃料に優位性があります。したがって、トータルコストで化石燃料の利用時よりも有利にならな

い限り、ユーザーがバイオマス導入のメリットを引き出すことは困難と言えます。このためバイオマスボイラ導入

に際しては、初期費用(設備費など)を可能な限り抑えることが重要です。また、年間稼働時間が一定以上あるこ

となどの条件をクリアし、一定期間内で化石燃料よりもバイオマス利用がコスト的に有利になることが重要な判断

基準になるといえます。

出典;石油製品価格モニタリング調査「産業用価格(軽油・A 重油)調査」(平成25年度 資源エネルギー庁 )

図表 34 東北地区の産業用 A重油価格(消費税抜き) 対象期間:2007 年 1 月~2013 年 7 月(現在)

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6.1. バイオマスエネルギー利用時のコスト

バイオマス事業に必要となるコストは、初期費用(イニシャルコスト)と運転維持費用(ランニングコスト)の

大きく 2 つに分けられます。

図表 35 バイオマス関連事業の事業コストの分類

分類 主な発生費用

初期費用

(イニシャルコスト)

・ 設計費(基本設計・実施設計など)

・ 機器費用(ボイラ本体・配管等の付帯設備)

・ 建屋、燃料サイロ

・ その他(造成費・建築費など)

運転・維持管理費

(ランニングコスト)

・ 燃料費(バイオマス燃料、化石燃料)

・ 設備の運転・維持管理費

> メンテナンス費 (メーカー側・事業者側)

> 設備稼働における電気代

> 灰の処理費用

> 除雪費(地域条件による)

・ 固定資産税等

(1) 初期費用(イニシャルコスト)

日本国内での導入状況から見て、バイオマスボイラのイニシャルコストの一般的な傾向について定量的なデータ

が存在しないため、対象施設の状況を踏まえた上でメーカーや建設会社に個別に問い合わせることが一般的です。

また、発注後に想定外の工事が必要になり、当初の想定した見積り金額を超えてしまうケースも見られます。

また、日本で導入されている高性能なバイオマス関連設備(チップボイラ)に関しては、国内でも 100 数十台が

導入されていると言われていますが、依然として市場が小さいため機器価格の低下も進んでいません。一般に普及

が進んでいる欧州と比べても現地価格から約 4~8 倍にも達しており、これらの初期費用(イニシャルコスト)を

庄縮・削減できるかによって、事業が実施できるか大きく左右されます。

図表 36 バイオマスボイラの標準的な設備費(300kW 級)

費用項目 価格 備考

ボイラ関連設備 2,500~4,000 万円 配管・制御盤含む

建設工事費 2,000~4,000 万円 1次工事、2次工事など

建屋・燃料サイロ 2,000~4,000 万円 簡易建屋、半地下・地下式サイロ

その他建設工事 1,000~2,000 万円 敷地造成費用など

合計 7,000 万~1 億円 ※条件により金額は変動あり

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(2) 運転・維持管理費(ランニングコスト)

① 燃料費

バイオマスボイラを利用する際のチップ燃料については、海外などでは、エネルギー単位(kWh)あたりの価格で

取引が行われていますが、日本ではエネルギー単位ではなく重量ベースで表記・取引されており、バイオマス燃料

の取引の基準含水率は湿量基準で 35%が目安になります。

地域条件にもよりますが、日本での木質チップの取引価格は、概ね 8,000~15,000 円/t(2,000~4,000 円/m3)

程度になります。ただし、その際の含水率は 35~50%(WB)まで幅があり、燃料化する原料、時期や加工条件に

より変化します。燃料利用として標準的な 35%(WB)の含水率に管理されたチップは、日本ではかなり高品質な

部類に該当します。

木質チップ(スギ)の低位発熱量 11.3MJ/㎏(35%WB)で 3,000 円/m3 の場合に、重油価格 70~80 円/Lに相

当すると考えられます。木費チップの燃焼において、燃料の含水率の管理は重要です。木質バイオマスを普及させ

ていくためには、適切に含水率を管理することにより質のよいチップを生産し、適正な価格を形成していくことが

重要です。

図表 37 1kWh 当りのエネルギー単価の比較(円/kWh) ※参考

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② 保守・点検費(メンテナンス費)

保守・点検費用は、ボイラメーカー等との契約内容により大きく異なってきます。特に、1 年間に複数回の技術

者派遣によるメンテナンスを行うなどのケースでは、ボイラ一台あたりの保守・点検費用は 100 万円にもなります。

一方、木質バイオマスボイラの特性をよく理解し、適切な運転を行いかつ日常的な保守・点検は自ら行い、一部の

専門的な保守・点検についてのみを適切な訓練を受けた地域企業を発掘して委託することができれば保守・点検費

用を 10 万~30 万円程度に抑えることができます。

なお、ボイラ指定範囲外の高含水率チップを投入するなどバイオマスボイラにとって無理な運転方法は不完全燃

焼を招きやすくなり、タールやススがボイラに付着することを増加させます。また、耐火壁に負担がかかるなど、

長期的には部品交換の頻度が上がってしまいます。バイオマスボイラを適切に運転することは、保守・点検費用を

一定の範囲内に抑えるためには考慮すべき条件です。

図表 38 バイオマスボイラ関連設備の消耗部品

消 耗 部 品 主な交換頻度 一般的なコスト

① 制御機器(センサー類) 5 年 30~50 万円/回・基

② 動力機器(モーター類) 10 年/回 50~60 万円/回・基

③ 燃焼室耐火ブロック交換 10 年/回 50~60 万円/回・基

④ 燃料搬送装置(スクリュー類) 5~10 年/回 15~20 万円/回・基

※注意:消耗品の交換頻度はボイラ設備の使用状況によって変わる。

③ 灰の処理費用

木質チップを燃焼した際に発生する燃焼灰は、産業廃棄物として処理しなければならないため処理委託費用が発

生します。灰の発生量は燃料の質に左右されます。日本で導入されているバイオマスボイラでは、一般的に使用さ

れる樹皮付きのチップは、発生する灰分量は 1.0~2.5%程度です。なお、灰の処理費用単価については、10,000 円

/t 程度が一般的な相場のようです。

④ 電気代

現在、市場にでている木質バイオマスボイラは、全自動運転が一般的となっており、燃料の搬送から燃焼制御な

ど各プロセスで電子制御がされています。そのため、電力容量及び電気料金が発生します。メーカーによる設備関

連の資料(カタログ等)には、設備関連機器の定格電気容量(kW)が示されています。また、これらボイラ本体

で消費される電力以外にも、循環ポンプ、熱量メーター、電灯、サイロシャッタ一等など必要に応じた電力が必要

です。

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図表 39 バイオマスボイラ関連設備の電気容量の内訳(出力 240kW)

消 耗 部 品 出力規模

排ガスファン 1.5 kW

燃料空気ファン 0.18 kW

ストーカスクリューモーター 0.25 kW

ドージングスクリューモーター 0.25 kW

サイロディスチャージモーター 0.55 kW

スワイベルアームモーター 1.1 kW

火格子油圧ポンプ 0.37 kW

火格子灰出しスクリュー 0.25 kW

熱源ポンプ 0.4 kW

エアーコンプレッサ 1.5 kW

出力合計 5.3 kW

※出所:トモエテクノ社資料

図表 40 バイオマスボイラ関連設備の電気料金の試算(参考)

ボイラ定格出力 電気容量 年間稼働時間 年間電気料金

100~180 kW 4.6 kW 441,600 円

240~360 kW 5.3 kW 508,800 円

450~550 kW 7.9kW 758,400 円

700~900 kW 14.0 kW

4,800 時間

(200 日×24 時間)

1,344,000 円

※出所:トモエテクノ社資料により、ボイラ定格出力を抽出し電気料金を 20 円/kWh として試算した。

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6.2. バイオマス導入における収支計画の考え方

(1) バイオマス導入における収支計画の考え方

木質バイオマスボイラを導入する場合のベースとなる収支計算については、バイオマス燃料費を 12,000 円/t

(3,000 円/m3)、含水率 35%WB として、設備の年間稼働時間を想定して、化石燃料とトータルコストが同じに

なる期間(投資回収年)を計算すると設備はバイオマスボイラの方が高いですが、ランニングコストは燃料費の削減

効果で安くなります。したがって、一定時間使用すれば、このランニングコストの削減費用が累積されて、設備費

の差額を償却することができます。つまり、設備稼働時間(使用年数)を長く確保することができれば、それだけ

償却を早めることができます。

図表 41 バイオマスボイラ導入による累計コストによる削減のイメージ

(2) 収支計画の手順

収支計画の策定の手順は次のとおりになります。以下この手順に従って 300kW の中規模チップボイラを例に試

算をしてみます。

図表 42 収支計画の策定の手順

収支計画の手順 概 要

① 設備費用の差額の試算 チップボイラと比較対象になる化石燃料ボイラの設備費用の差額の試算を行います。

② ランニングコスト削減の試算 チップボイラ導入によって想定されるランニングコストの削減額の試算を行います。

③ 単純投資回収年数の試算 初期費用(イニシャルコスト)の差額をランニングコスト削減額で除して単純投資回収年数を試算します。

④ 結果の評価分析 投資回収年数が償却期間内に納まるかを確認し、稼働時間や初期費用の数値を変動させながら、事業の優位性を分析していきます。

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① 初期費用(イニシャルコスト)差額の試算

初期費用の試算をする場合、メーカーや建設会社から取得する見積りを基に試算します。仮に 300kW の定格出

力の場合に設備費用として、チップボイラ関連設備(ボイラ本体、配管、燃料サイロ込み)で 7,000 万円、化石燃

料ボイラ 300 万円と想定します。また、現状ではバイオマスボイラの導入については、国や都道府県が提示してい

る公的な補助金が活用できるケース(一般的に民間事業者の場合1/3補助、行政などは1/2補助が多い。)があ

ります。このように仮定すると設備費用の差額は、以下の通り試算できます。

■ 設備費用差額 ={ チップボイラ初期費用 ×(補助残2/3・1/2)}- 化石燃料ボイラ初期費用

={ 7,000 万円 ×(補助残2/3・1/2)} - 300 万円

= (民間事業者) 4,700 万円 - 300 万円 = 4,400 万円

= (行政など) 3,500 万円 - 300 万円 = 3,300 万円

② ランニングコスト削減額の試算

ランニングコストの内、 も大きな割合を占めるのは燃料費になります。使用する燃料量は、必要とされる熱需要

に対して、ボイラの稼働時間で決まります。ここでは年間稼働時間を 4,800 時間(200 日 24 時間連続運転)と置いて、

計算をします。使用する燃料量は、ボイラの定格出力に稼働時間を乗じて必要な熱量を計算し、それぞれの燃料の

持つ熱量(低位発熱量)で除して試算します。チップの場合の必要な燃料費は、以下のとおり試算できます。

■ 燃料費の試算方法

燃料費 = { 必要熱量 ÷ チップ低位発熱量 } × 燃料単価

= { (定格出力)×(稼働時間)÷ チップ低位発熱量 } × 燃料単価

図表 43 燃料費の算出方法

定格出力

(kW)

稼働時間

(h/年)

必要熱量

(kWh/年)

③ = ①×②

必要燃料量

(チップ:t/年)

(化石燃料:L/年)

燃料費

(円/年)

※推計

チップボイラ関連 449 t/年 5,389,620 円/年

化石燃料ボイラ

300kW 4800h/年 1,440,000 kWh/年

141,176 L/年 12,988,235 円/年

差額 7,598,615 円/年

※燃料の低位発熱量 チップ:3.21kWh/kg 化石燃料(重油)10.20kWh/L とした。

燃料価格 チップ:12,000 円/t 化石燃料(重油)92 円/L とした。

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その他のランニングコストとして、チップボイラの場合は、灰処理費用や保守・点検費用、電気代などを見込ん

でおく必要があります。灰の発生量は、チップ燃料の概ね 2%とし、灰の処理費用は 10,000 円/tとしました。保守・

点検費用は、日常的なものは自社で行い、年に 2 度の定期点検をメーカーに発注することを前提にして、15 万円/

年としました。電気代は、電気容量(300kW ボイラーの場合 5kW 程度)に、稼働時間 4800h と電気料金単価(20 円

/kWh) を乗じて計算しました。

図表 44 その他のランニングコストの算出方法

項 目 金 額 備 考

灰の処理費用 89,800 円 灰発生量×灰処理費用単価

= (チップ燃料使用量 449t×灰分 2%) ×10,000 円/t

保守点検費用 300,000 円 メーカーの点検費用@15 万円・回として年 2 回点検発注

電気代 480,000 円 電気容量(kW)×稼働時間(h)×電気料金単価(円/kWh)

= 5kW × 4,800h × 20 円/kWh

※電気代は設備の使用条件により変動する。今回は電気容量に稼働時間を乗じて算出した。

■ ランニングコスト削減の試算方法

ランニングコスト削減額 = 化石燃料ボイラランニングコスト ー チップボイラランニングコスト

= 化石燃料ボイラ燃料費 - ( チップボイラ燃料費 + 灰処理費 + 保守点検費 + 電気代 )

= 12,988,235 円/年 ― ( 5,389,620 円 + 89,800 円 + 300,000 円+ 480,000 円 )

= 6,728,815 円/年

③ 単純投資回収年数の計算

以上の計算を踏まえて、単純投資回収年数を計算すると以下のようになります。

■ 単純投資回収年数の試算方法

単純投資回収年数 = 初期費用(イニシャルコスト) ÷ ランニングコスト削減額

= (民間事業者:補助金 1/3) 4,700 万円 ÷ 6,728,815 円/年 = 7.0 年

= (行政など:補助金 1/2) 3,500 万円 ÷ 6,728,815 円/年 = 5.2 年

= (補助金無し) 7,000 万円 ÷ 6,728,815 円/年 = 10.4 年

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④ 試算結果の評価分析

以上の計算では、単純投資回収年数は、補助金無しの場合は 10.4 年となり、民間事業者が1/3の補助を受けた

場合は 7.0 年、行政などが1/2の補助を受けた場合は 5.2 年という結果になり、大まかな収支傾向が予測できます。

ただし、ここでは融資を受けた場合の支払金利や租税公課(主に固定資産税)などを見込んでいませんので、キャッ

シュフローはこれより厳しくなることに留意しなければなりません。また、初期費用(イニシャルコスト)が予想

以上に係る場合も同様に厳しくなります。なお、バイオマスボイラの導入に関しては、既存の化石燃料ボイラを導

入した場合の燃料価格とバイオマスボイラを導入した場合のランニングコストの差額で回収していく特性からも、

稼働時間に比例していきますので、燃料価格と稼働時間を見て代替できる規模やコストを詳細に検討していくこと

が重要です。

図表 45 バイオマスボイラ導入における試算結果(20 年想定時)の評価分析

単位:万円

初期費用 累計稼動年数(使用年数) 想定導入設備

(万円)※1 1 年目 2 年目 3 年目 4 年目 5 年目 6 年目 7 年目 8 年目 9 年目 10年目

重油ボイラ 300 万円 1,599 2,898 4,196 5,495 6,794 8,093 9,392 10,691 11,989 13,288

バイオマスボイラ(補助金無) 7,000 万円 7,626 8,252 8,878 9,504 10,130 10,756 11,382 12,008 12,633 13,259

バイオマスボイラ(1/3 補助) 4,700 万円 5,326 5,952 6,578 7,204 7,830 8,456 9,082 9,708 10,333 10,959

バイオマスボイラ(1/2 補助) 3,500 万円 4,126 4,752 5,378 6,004 6,630 7,256 7,882 8,508 9,133 9,759

11年目 12年目 13年目 14年目 15年目 16年目 17年目 18年目 19年目 20年目

重油ボイラ 14,587 15,886 17,185 18,484 19,782 21,081 22,380 23,679 24,978 26,276

バイオマスボイラ(補助金無) 13,885 14,511 15,137 15,763 16,389 17,015 17,641 18,267 18,893 19,519

バイオマスボイラ(1/3 補助) 11,585 12,211 12,837 13,463 14,089 14,715 15,341 15,967 16,593 17,219

バイオマスボイラ(1/2 補助) 10,385 11,011 11,637 12,263 12,889 13,515 14,141 14,767 15,393 16,019

※初期費用は設定値。燃料価格:チップ:12,000 円/t(約 3,000 円/㎥)、化石燃料(重油)92 円/L とした。 ※燃料の低位発熱量 チップ:3.21kWh/kg 化石燃料(重油)10.20kWh/L とした。

※毎年のメンテナンス費および税金などは含んでいない。

図表 46 バイオマスボイラ導入における累計コスト試算の評価分析イメージ

万円

投資回収年数

補助金無:10.4 年

投資回収年数

補助金 1/2:5.2 年

投資回収年数

補助金 1/3:7.0 年

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6.3. バイオマス事業のコスト低減化に向けて

バイオマスボイラを導入する際に、事業投資を経済的に見合ったものにするためには、初期費用(イニシャルコ

スト)となるバイオマスボイラの「設備費用」を可能な限り低減化するため、それに対して毎年の「ランニングコ

スト削減額」の割合を可能な限り増やすことが必要です。ランニングコストについては、地域内で調達できる適正

な「燃料費」の下で「設備稼働時間」をしっかりと確保することがポイントになります。また、運転面では、木質

バイオマスボイラの特性をよく理解して適正運転に努めることともに、設備稼働時間の確保と保守・点検費の削減

をおこない、ランニングコストの抑制を図ることが重要です。また、更に保守・点検など他業者に任せるのではな

く、可能な範囲で自社で行うことにより、この費用を削減することができます。

① 設備費用

日本の木質バイオマスボイラの初期費用は、バイオマスボイラの導入が盛んな欧州などと比較すると極めて高い

ものです。ボイラ一本体で 5~8 倍、総工費で 10 倍近い価格となることもあります。

今後のバイオマスボイラの普及のためには、この初期費用を削減する方法を確立することが必要です。また、低

コストの設備を導入した場合でも、期待される性能を十分に引き出す設備設計になっていることを実証していくこ

とが不可欠です。欧州では、バイオマスボイラの規格があり、 低限の性能が保証されていますが、日本には同様

の規格が存在していません。そのため、現状では価格のみで判断した場合、初期費用の高い傾向がある欧州製のバ

イオマスボイラを避けて、比較的、安価な国産ボイラを選択すると、想定する効果を得られないこともあります。

国産ボイラの中には、焼却炉の延長で設計されている機器があり、その場合は廃棄物の減容が目的となっていて設

備のエネルギー効率が低いものもあるので事業目的を考えると注意が必要です。

なお、設備費用の抑制のためには、対象となる施設の熱需要の適切な把握により、必要分の出力を備えたボイラ

を導入するといった努力も重要です。また、建屋やサイロなどについても、自社や地域内の建設業者、設備業者と

協議を重ねることで、コスト削減につなげることが可能です。日本ではバイオマスボイラ関連の工事について、専

門技術の蓄積がまだ十分ではないことに加えて、補助金を活用する際に、可能な限り安全かつ頑丈なものとしてコ

ストをかけて建設するケースがあり、全体的なコストを押し上げている要因となっています。

以上のことの前提として、可能な限り先行的に導入している施設について現地に足を運び、事業費や運営状況等

を現地の実践情報を入手して反映させることを薦めます。

② 稼働時間の確保(設備利用率の向上)

バイオマスボイラの稼働時間の確保も全体コストの削減するために重要な要因です。化石燃料価格と比べてバイ

オマス燃料価格に優位性が見られるのを前提とした場合、稼働時間により化石燃料の代替割合が増えるため、収支

内容は変化します。この点、対象施設が温泉施設などの場合は、年間を通して熱需要がありますのでバイオマス導

入が容易になります。稼働時間の確保で重要なのがボイラの規模であり、比較的規模の小さなボイラでベース部分

の熱需要を負担し、化石燃料ボイラをバックアップに需要のピークに対応するという方法が望ましいと言えます。

③ 燃料単価の交渉

チップ価格は、地域事情によって調達価格が変わってきます。事業を検討する場合には、価格面で化石燃料価格

に比べてバイオマス燃料は有利になることが前提になります。地域によっては、利用する燃料として見込んでいる

燃料の含水率調整や形状が不十分で、燃料の品質管理ができない箇所もあるため、事前の確認が必要です。

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7. 参考資料

7.1. 用語の定義

(1) SI 接頭語

十進の倍量単位を作成するために、単一記号で表記する単位

接頭語の記号 名称 科学的記数法

k キロ 103

M メガ 106

G ギガ 109

(2) 熱量・仕事エネルギー単位

MJ (メガジュール) kWh (キロワット時) kcal (キロカロリー)

MJ 1 0.278 239

kWh 3.6 1 860

kcal 0.004186 0.00116 1

※1J は 1W の仕事率を 1 秒間行ったときの仕事とも定義され、1 時間行った場合 3,600J=1Wh となる。

(3) 発熱量について

発熱量には、高位(総)発熱量と低位(真)発熱量があり、高位発熱量は一般的な熱量計によって測定された値

で水蒸気の蒸発熱を含んだ発熱量をいう。一方、高位発熱量から水蒸気分の蒸発熱を減じた発熱量を低位発熱量と

いうが、水蒸気となって排気される発熱量は回収システムを取り入れなければ利用出来ない。したがって、燃料の

発熱量は低位発熱量を用いる。

(4) 熱量計算と二酸化炭素排出係数について

燃料 発熱量(ジュール単位) 二酸化炭素排出係数※2

原油 38.2 MJ/L -

ガソリン 34.6 MJ/L 2.32 kg-CO2/L

軽油 37.7 MJ/L 2.62 kg-CO2/L

灯油 36.7 MJ/L 2.49 kg-CO2/L

A 重油 39.1 MJ/L 2.71 kg-CO2/L

C 重油 41.7 MJ/L 2.98 kg-CO2/L

LP ガス(プロパン)※1 51.2 MJ/ kg 3.00 kg-CO2/ kg

チップ 10.0 MJ/ kg - kg-CO2/ kg※3

ペレット 18.0 MJ/ kg - kg-CO2/ kg※3

資料:「総合エネルギー統計」(経済産業省・日本エネルギー経済研究所)

※1 :質量(kg)から容積(m3)に 1kg = 0.5 m3

として換算

※2 :地球温暖化対策の推進に関する法律施行令第三条(平成 18 年 3 月 24 日一部改正)

※3 :バイオマス資源のカーボンニュートラルの特性から、二酸化炭素排出は 0 kg-CO2/ kg と定義する。

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7.2. 関連法規

法律名称 概要 手続き 内容

廃棄物の処理及び清

掃に関する法律

産業廃棄物の収集・

運搬・処理

小型焼却炉

許可

・ 焼却能力 200kg/h 以上、または火格子面積 2m2 以上

・ 蕗棄物を引き取って処理する事を業とする

・ 破砕能力が 5t/日以上

ダイオキシン類対策特

別措置法

小型焼却炉としての取

扱う場合 届出

焼却能力 50kg/h 以上、または火格子面積 0.5m2 以上はダイオキシン類

排出基準の適用

電気事業法 一定規模以上の発電

施設の場合

許可

届出

事業許可、電気工作物の届出、特定規壊電気事業の届出、保安規定の

届出、工事計画の認可等

エネルギーの使用の合理化に関する法律

エネルギーを一定以上利用する施設では

有資格者が必要

届出 電力を 600 万kWh/年以上または熱を原油換算で 1500kL/年以上消費する施設(施設内で自家消費する分は除く)

大気汚染防止法 一定の規模施設にお

いて規制値あり 届出

伝熱面積 10 m2 以上、またはバーナー燃焼能力重油換算 50L/h 以上の

場合、ばい煙発生施設として届出が必要

騒音規制法 一定の規模施設において規制値あり

届出 原動機の定格出力が 2.25kW以上

振動規制法 一定の規模施設にお

いて規制値あり 届出 指定地域内の施設で定格出力が 2.2kW以上

特定工場における公

害防止組織の整備に関する法律

公害防止統括者・公

害防止主任管理者・公害防止管理者の選

届出

ばい煙発生施設

1. 大気汚染防止法による「ばい煙発生施設」のうち、有害物質を発生させる施設(14 種類指定されている)を設置している工場

2. 工場全体の「ばい煙発生施設」からの排出ガス量が 10,000Nm3/時

以上の工場

特定粉じん発生施設

大気汚染防止法による「特定粉じん発生施設」

一般粉じん発生施設

大気汚染防止法による「一般粉じん発生施設」

汚水等排出施設等

水質汚濁防止法による「特定施設」のうち「汚水等排出施設」のが設置されている工場

1. 有害物質を排出する施設を設置している工場

2. 排出水量が 1,000m3/日以上の工場

騒音発生施設

1. 機械プレス(呼び加圧能力が 100t以上のもの)

2. 鋳造機(落下部分の重量が 1t以上のもの)

振動発生施設

1. 液圧プレス(矯正プレスを除く。呼び加圧能力が 300t以上のもの)

2. 機械プレス(呼び加圧能力が 100t以上のもの)

3. 鋳造機(落下部分の重量が 1t以上のもの)

労働安全衛生法 一定規模以上のボイ

ラがある場合 届出 貫流ボイラ:伝熱面積 5m2 超え 10m2 以下

消防法 燃料貯蔵量が一定数

量以上の場合 届出

・ 指定可燃物 10m3 以上の燃料保管

・ 外部への指定可燃物の表示と保管場所に消火器類を常備

建築基準法 建築物における煙突 - 許可・届出はないが構造上の基準あり

熱供給事業法 他施設へ一定規模以上の熱供給を行う場

許可 21GJ/h 以上(=5,834kW=502 万kcal/h 以上)

水質汚濁防止法 水質汚濁に関する規

制値 届出

1. 特定施設を設置する事業場等(特定事業場)から公共用水域に排出さ

れる水

2. 有害物質使用特定施設から地下に浸透する汚水等を含む水

3. 貯油施設等を設置する事業場から事故により排出される油

以上の 1~3 に該当する事業所等はこの法律の適用を受ける

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■ 参考文献

第 2 章

1) 季刊木質エネルギーNo.19(熊崎實)

第 4 章

1) 上地域の木質バイオマス資源の活用に向けて(平成 25 年 3 月)山形県 上総合支庁

2) 金山町森林組合 燃料用チップ含水率指標

3) 石油製品価格モニタリング調査「産業用価格(軽油・A 重油)調査」(平成25年度 資源エネルギー庁 )

参考資料

1) 総合エネルギー統計(経済産業省・日本エネルギー経済研究所)

全体

1) 木質バイオマスボイラー導入指針(株式会社森のエネルギー研究所.2012.3)

2) 木質バイオマスボイラー導入・運用に関わる実務テキスト

(株式会社森林環境リアライズ・富士通総研・環境エネルギー普及株式会社 2013.3)

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木質バイオマスボイラ導入マニュアル

(山形県 上地域 木質チップボイラ導入 編)

平成 25 年 10 月(初版)

発行 山形県 上総合支庁 産業経済部 森林整備課

〒996-0002 新庄市金沢字大道上 2034 TEL:0233-29-1351

作成・協力:NPO 法人バイオマスもがみの会