4
人口減少・少子高齢化と就業の変化 経営環境研究部 部長兼研究理事 河谷 善夫 (かわたに よしお) 資料1 年齢階級別人口推移と将来推計 (出所) 「国勢調査」、総務省「人口推計」及び、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年推計)」の出生中位・死亡中位仮定による推計結果」より作成。 2,249 1,542 8,590 7,545 892 1,760 597 1,798 25.7 18.2 13.1 12.2 11.1 10.8 6.3 7.9 12.0 22.8 28.1 31.2 35.3 0 10 20 30 40 0 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 12,000 14,000 1965 70 75 80 85 90 95 2000 05 10 15 18 20 25 30 35 40 0~141564657475歳以上 0-14歳割合(右%) 65歳以上割合(右%) 平成期間 推計 9,921 10,467 11,194 11,706 12,105 12,361 12,557 12,693 12,777 12,806 12,709 12,644 12,532 12,254 11,913 11,522 11,092 万人 資料2 男女就業者推移 (出所)総務省「労働力調査・基本集計(長期時系列)」より作成。 3,453 3,599 3,205 201 512 2,340 2,489 2,596 134 176 350 40.4 44.2 5.5 12.9 0 10 20 30 40 50 0 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000 6,000 7,000 1989 91 93 95 97 99 01 03 05 07 09 11 13 15 17 18 男性65歳未満 65歳以上 女性65歳未満 65歳以上 女性占率(%) 65歳以上占率(%) 6,128 6,557 6,663 万人 資料3 男性・女性正規・非正規雇用者数と非正規割合の推移 (出所)総務庁「労働力調査特別調査」、総務省「労働力調査・詳細集計」より作成。 2,407 2,639 2,322 229 310 670 1,045 1,172 1,101 588 840 1,447 19.1 38.2 8.7 22.4 36.0 56.8 0 10 20 30 40 50 60 0 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000 6,000 1989 91 93 95 97 99 01 03 05 07 09 11 13 15 17 18 男性正規 男性非正規 女性正規 女性非正規 男・女非正規割合(右%) 男性非正規割合(右%) 女性非正規割合(右%) 4,269 4,961 5,540 万人 1 第一生命経済研レポート 2019.05 平成を振り返る~日本の社会構造~

平成を振り返る~日本の社会構造~ 人口減少・少子高齢化と就業 …group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/monthly/pdf/1905_1.pdf · 専業主婦世帯の数の推移を示したのが資料5だが、足元で

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: 平成を振り返る~日本の社会構造~ 人口減少・少子高齢化と就業 …group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/monthly/pdf/1905_1.pdf · 専業主婦世帯の数の推移を示したのが資料5だが、足元で

人口減少・少子高齢化と就業の変化

経営環境研究部 部長兼研究理事 河谷 善夫(かわたに よしお)

資料1 年齢階級別人口推移と将来推計

(出所)「国勢調査」、総務省「人口推計」及び、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年推計)」の出生中位・死亡中位仮定による推計結果」より作成。

2,249 1,542

8,590

7,545

8921,760

597 1,798

25.7

18.2

13.1 12.2 11.1 10.8 6.3 7.9

12.0

22.8

28.1

31.2

35.3

0

10

20

30

40

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

12,000

14,000

1965 70 75 80 85 90 95 2000 05 10 15 18 20 25 30 35 400~14歳 15~64歳 65~74歳 75歳以上 0-14歳割合(右%) 65歳以上割合(右%)

平成期間 推計

9,921 10,46711,194

11,706 12,105 12,361 12,557 12,693 12,777 12,806 12,709 12,644 12,532 12,254 11,913 11,52211,092

万人

資料2 男女就業者推移

(出所)総務省「労働力調査・基本集計(長期時系列)」より作成。

3,453 3,599 3,205

201 512

2,340 2,489 2,596

134176 350

40.4

44.2

5.5

12.9

0

10

20

30

40

50

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

6,000

7,000

1989 91 93 95 97 99 01 03 05 07 09 11 13 15 17 18

男性65歳未満 男65歳以上 女性65歳未満 女65歳以上 女性占率(右%) 65歳以上占率(右%)

6,1286,557 6,663

万人

資料3 男性・女性正規・非正規雇用者数と非正規割合の推移

(出所)総務庁「労働力調査特別調査」、総務省「労働力調査・詳細集計」より作成。

2,407 2,639

2,322

229310 670

1,045

1,172 1,101

588 840

1,447

19.1

38.2

8.7

22.4

36.0

56.8

0

10

20

30

40

50

60

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

6,000

1989 91 93 95 97 99 01 03 05 07 09 11 13 15 17 18男性正規 男性非正規 女性正規 女性非正規 男・女非正規割合(右%) 男性非正規割合(右%) 女性非正規割合(右%)

4,269

4,961

5,540万人

1 第一生命経済研レポート 2019.05

平成を振り返る~日本の社会構造~平成を振り返る~日本の社会構造~

Page 2: 平成を振り返る~日本の社会構造~ 人口減少・少子高齢化と就業 …group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/monthly/pdf/1905_1.pdf · 専業主婦世帯の数の推移を示したのが資料5だが、足元で

 社会を構成する基本要素は、まず人であり、そしてその働き方といえる。従って、人口と就業状況の動向を追うことは社会構造の変化を理解する上で重要である。

 我が国においては昭和終盤から既に人口増加は減速していた。そして、2008年をピークとして平成後半以降、総人口は減少が続いており、人口減少時代を迎えた(資料1)。 人口減少の原因は少子化の進行といえる。資料1の通り平成においては、15歳未満人口割合は出生数の減少が継続したことから、減少の一途を辿った。そしてこの傾向は今後も当面続くと考えられる。これに伴って人口も、2040年には2010年頃と比べて、1,800万人弱減少すると推計されている。平成は人口減少の始まった時代として記憶されるだろう。 また、平成においては急速に高齢化が進んだ。これも昭和終盤から続いていたが、平成に入り、加速した。65歳以上人口の総人口に占める割合(高齢化率)は平成の初期では10%を少し超える水準だったが、末期になると30%近くまで上昇した。65歳以上の人口は平成初期では1,500万人弱程度だったが、平成末期には3,500万人程度となり、2,000万人も増加した。一方15歳未満人口は、平成を通じ700万人程度減少し、15-64歳という生産年齢人口も、1,000万人程度減少した。 このようなスピードで高齢化した国は世界にもこれまで例がなく、この高齢化によって、社会・経済は大きな影響を受けている。社会保障制度が平成において、大きな社会課題となったのも、この少子高齢化が最大の原因といえる。

 平成の期間を通じ、就業の中心となる生産年齢人口は大きく減少した。では平成を通じて、実際に働く就業者の数は減少したのだろうか? 平成の前半までは就業者は増加していたが、以降その増加はとどまった(資料2)。しかし平成後半には再び増加傾向となった。平成の最初と末期を比べると、男性の生産年齢の就業者は250万人程度減少したが、男性高齢者の

社会構造の基本要素である人口と就業

少子高齢化の進行と人口減少の始まり

それでも就業者数は拡大

就業者が300万人程度増加し、男性就業者数は全体として60万人程度増加した。一方、女性の生産年齢の就業者は250万人増加し、そして女性高齢就業者も200万人程度増加した。この結果、平成を通してみると、就業者数は、500万人程度の増加となった。 つまり、平成においては、それまで働き手の中心となってきた男性生産年齢の就業者は減少となったものの、女性及び、高齢者という、平成以前は就業の主たる担い手ではなかった層が、多く就業しはじめたことで、我が国の就業人口は、減少とはならず、むしろ増加となったのである。

 平成に入る少し前の1986年に男女雇用機会均等法が施行され、女性の社会進出の本格化が始まったとされる。社会で働く女性は、平成を通じて広く広まっていったといってよいだろう。平成の期間の男女の就業率の推移をみると(資料4)、男性がほぼ一定の水準であるのに対して、女性の生産年齢の就業率は平成を通し15%程度上昇した結果、70%弱に達した。25-45歳という出産・子育ての期間の年代層においてはその上昇度合いはさらに高くなっており、足元ではこの年代の3/4以上の女性は就業しているという状況だ。 このような女性の就業の一般化を既婚世帯の視点でとらえると、共働き世帯が増加したということになる。共働き・専業主婦世帯の数の推移を示したのが資料5だが、足元で

女性就業の一般化と専業主婦の減少

資料4 男女就業率の推移

(出所)総務省「労働力調査・基本集計」より作成。

54.8 女性15-64歳

69.6

59.5

女性25-44歳

76.5

80.6

男性15-64歳 83.9

50%

60%

70%

80%

90%

100%

2第一生命経済研レポート 2019.05

平成を振り返る~日本の社会構造~平成を振り返る~日本の社会構造~

Page 3: 平成を振り返る~日本の社会構造~ 人口減少・少子高齢化と就業 …group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/monthly/pdf/1905_1.pdf · 専業主婦世帯の数の推移を示したのが資料5だが、足元で

は共働き世帯数は、専業主婦世帯の2倍程度に達しており、既に専業主婦層は少数派となっている状況といえる。 平成を通して、女性は結婚・出産・子育てといった期間にも就業を続けることが一般的になってきたといえるだろう。

 平成を通じた就業の変化の中で、もう一つ大きな変化として、非正規雇用者の増大が挙げられる。 資料3の通り、まず男性の正規雇用者は、平成末期には平成初期より80万人程度減少し、平成の最大値であった1997年からは約300万人減少した。しかし、男性非正規の雇用者は、平成を通して440万人程度増加しており、結局、平成を通し、男性雇用者も360万人程度の増加となった。女性については正規雇用者も若干の増加の上、非正規雇用者が860万人弱増加したことにより、女性雇用者は平成を通して950万人弱の増加となった。 非正規雇用者の割合は、男女共平成を通じて上昇し、男性は、8.7%から22.4%に、女性は36%から56.8%に上昇した。結果、男女計で19.1%から38.2%と倍に上昇したことになる。非正規雇用者は、雇用者全体の4割近くを占めるようになった。

 非正規雇用者の増加は、男女のどの年代で特に顕著に見られたのかを確認するために、男性・女性別に年齢階級

就業者の中でも非正規雇用者が特に急増

女性・高齢者で非正規雇用者の増加

別非正規雇用者数の推移をみたものが、資料6である。男性をみると、増加が特に著しくなっているのは、65歳以上の年齢層であることがわかる。その他の年齢階級では、ほぼ一様に増加或いは減少しているようだが、非正規雇用者のボリュームとしては55-64歳層が多くなっている。 一方、女性をみるとやはり男性よりかなり著しい増加となった。15-24歳、25-34歳の若年を除けば、どの年齢層の伸びもかなり著しく、やはり非正規雇用者の伸びは女性の非正規雇用者の増加による部分が大きいことがうかがえる。また、女性においても足元では、65歳以上の高齢者の非正規雇用者の増加が特に顕著になってきていることがみてとれる。 このように非正規雇用者は、女性が中心となって拡大が進みつつ、且つ高齢者もまた、顕著に増加したのである。

資料5 共働き、片働き世帯数の推移

(※)2011年は岩手県、宮城県、福島県を除く全国の結果(出所) 厚生労働省「厚生労働白書」、内閣府「男女共同参画白書」総務庁「労働力調査特別

調査」、総務省「労働力調査・詳細集計」より作成。

930

専業主婦世帯600

783

共働き世帯1,219

0

200

400

600

800

1,000

1,200

1,400

1816141210080604022000979593911989

万世帯

資料6 年齢階級別非正規雇用者数推移

(出所) 総務庁「労働力調査特別調査」、総務省「労働力調査・詳細集計」より作成。

<男性>

0

50

100

150

200

1989 91 93 95 97 2000 02 04 06 08 10 12 14 16 1815~24歳(在学中を除く) 25~34歳35~44歳 45~54歳55~64歳 65歳以上

万人

<女性>

0

50

100

150

200

250

300

350

400

1989 91 93 95 97 2000 02 04 06 08 10 12 14 16 1815~24歳(在学中を除く) 25~34歳35~44歳 45~54歳55~64歳 65歳以上

万人

3 第一生命経済研レポート 2019.05

平成を振り返る~日本の社会構造~平成を振り返る~日本の社会構造~

Page 4: 平成を振り返る~日本の社会構造~ 人口減少・少子高齢化と就業 …group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/monthly/pdf/1905_1.pdf · 専業主婦世帯の数の推移を示したのが資料5だが、足元で

 出産・子育て中の年齢層でも女性の就業率が上がっていることを示したが、この継続就業はどのような形で進んだのだろうか? 平成が始まる少しの前の1987年と平成末期の2017年での女性年齢階級別雇用形態毎の就業数の状態を比較すると(資料7)、高齢者のパート・アルバイト、嘱託その他といった非正規雇用者の増加と共に、出産・子育て期間となる30歳以降の女性の非正規雇用者数の増加が顕著に認められる。 ここから出産・子育て期間中の女性の就業の増加は非正規雇用の増加によるものであると考えられる。 一方、正規雇用されている正社員の数も、1987年時点ほど20歳代後半以降で減少しておらず、出産し、子育てを

出産・子育て中に継続就業する女性の雇用形態 する期間中も正社員として継続就業している女性も増加傾向にあることがうかがえる。 つまり若年からキャリアを積み、その経験を活かし、継続して正規社員として働き続ける女性も平成の間、増加傾向にあったといえる。

 ここまで、平成の間に生じた人口、就業の変化を振り返ってきたが、これを踏まえ新たな時代の人口・就業に状況について考えてみたい。 まず、人口についてはこれからも従来の推計と大きくは違わない経過を辿ることになると考えられる。ただし、大規模な移民政策など非常に大きな政策転換があれば、日本の人口が増大に向かう可能性はあるが、その可能性はあまり高くないと思われる。基本的には少子高齢化傾向が当面続くと考えられる。 就業面では、これから、働き方自体がICT等の発達により、大きく変わることが予想される。これまでのように、決まった就業場所に通勤し、所定時間勤務するといった形ではなく、在宅等での自由な形態の勤務が普及すると考えられ、特に女性の出産・子育て期の継続就業等に追い風になることが考えられる。 また、AI等の技術進展により、人が行わなければならない業務が大きく変化する可能性がある。足元こそ、人手不足が叫ばれているが、新たな時代には人手をさほど掛けず、効率的な生産・サービス活動がなされる可能性がある。そうなれば人の働き方も大きく変化し、人々が一つの仕事に全ての労働時間を割くのではなく、複数の仕事をもちながら効率的に働く形態が増加し、新たな雇用形態が生まれるかもしれない。そうなると正規雇用・非正規雇用という区分にさほどの意味がなくなる可能性もある。また、定年延長制度が普及することで、高齢者就業のあり方も大きく変わることが予想される。 そういう意味で、就業については平成に起こった変化とは非連続な変化が新たな時代に生じる可能性が大きいといえよう。

(注) 本稿で使用している「労働力調査」関係のグラフで2001年までは労働力調査特別調査、以降は労働力調査(詳細集計)の結果を使用しているものがある。双方で調査方法、調査月等相違することから、時系列比較には注意を要する。

新たな時代の人口、就業形態の見通し

資料7 女性の年齢階級別の雇用形態別就業数の比較(昭和末期VS平成末期)

(出所) 総務庁、総務省「就業構造基本調査」より作成。

<1987 年>

<2017 年>

550

2,368

1,404 948

1,184 1,051 1,017 898 547

209 134

204

359

351

466

1,001 999

852 572

321

168 101

12

76

74

50

73 76

76

74

68

55 42

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

3,000

3,500

正社員 パート・アルバイト 派遣社員・嘱託・その他

万人

95

1,157 1,613

1,391 1,308 1,444 1,351 1,140 886

402 424 414

714

506 751 1,002

1,450 1,556

1,348

1,184

1,081 1,365

14

187

309 315 338

423 449

350

286

312 294

0

500

1,000

1,500

2,000

2,500

3,000

3,500

正規社員 パート・アルバイト 派遣・嘱託・その他

万人

4第一生命経済研レポート 2019.05

平成を振り返る~日本の社会構造~平成を振り返る~日本の社会構造~