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地震発生のメカニズム (断層運動としての地震) 加藤 愛太郎(東大地震研究所)

地震発生のメカニズム (断層運動としての地震)gachon.eri.u-tokyo.ac.jp/~hitosi/Lectures/komaba2017/...2017/07/05  · Ozawa et al. (2012) 地震発生前 Nishimura

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地震発生のメカニズム(断層運動としての地震)

加藤愛太郎(東大地震研究所)

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Reidの弾性反発説

UCSB ERI 2015

Gilbert, USGS

1906年サンフランシスコ地震(M7.9)

地震のモデル ~ 固着すべり

※1910年頃は、プレートテクトニクスはまだ確立されていない。

固着 ➟ 弾性エネルギー蓄積 ➟ すべりで解放

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地震はどのようにして起こるのですか?

地震本部のパンフレット(2015)

固着ステージ

断層運動(短時間)

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USGS Quake caster

固着すべりの単純な例:バネ・スライダーモデル

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固着すべりの単純な例:バネ・スライダーモデル

𝑚 𝑥 = 𝑘 𝑥𝐿 − 𝑥 − 𝜇𝑑𝑚𝑔

𝑥 = 0, 𝑡 = 0

𝜔0 = 𝑘/𝑚

𝑥 = 𝑥𝑠 =2𝑚𝑔

𝑘𝜇𝑠 − 𝜇𝑑 , 𝑡 = 𝑡𝑠 =

𝜋

𝜔0,

𝑥 =𝑚𝑔

𝑘(𝜇𝑠 − 𝜇𝑑)(1 − 𝑐𝑜𝑠𝜔0𝑡)

𝑘𝑥𝐿 = 𝜇𝑠𝑚𝑔𝑥

𝑡𝑡𝑠

𝑥𝑠

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2016年熊本地震の際に活動した断層

産総研(2017)

日奈久断層のトレンチ(甲佐町山出)

トレンチ調査・地下へと続く断層

・主要なすべり面の厚みは薄い.

・複数の断層面

・過去1万5000年の間に4~5回の活動.

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2014年長野県北部地震(M6.7)の際に活動した断層気象庁

深さ

(km

)

断層粘土(ガウジ)

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1995年兵庫県南部地震(M7.3)の際に活動した断層

北淡震災記念公園

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左横ずれ 右横ずれ

正断層 逆断層

断層運動の分類

f:断層面の走向d:断層面の傾斜角l:断層すべりの方向

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断層運動の種類とP波の初動極性との関係

圧縮変形膨張変形

P波は粗密波なので、圧縮変形が伝わると“押し”になる.

P波は粗密波なので、膨張変形が伝わると“引き”になる.

押し引きの領域は4つに分割できる。4つの領域を分ける平面波2つあるが、そのうちの1つが断層面となる。もう1つの面は、補助面と呼ばれる。

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断層運動の種類とP波の初動極性との関係

等価物体力Double-couple forces

圧縮変形膨張変形

P波は粗密波なので、圧縮変形が伝わると“押し”になる.

P波は粗密波なので、膨張変形が伝わると“引き”になる.

角運動量の保存

どちらの断層面が滑ったかは地震波から同定できない.

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断層運動と地震波の放射特性

P波の放射パターン

S波の放射パターン

地震波の放射パターンから断層の走向、傾斜方向、すべり方向が推定可能.

Stein & Wysession (2003)

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左横ずれ断層運動を表す地表の変位パターンが明瞭

干渉SAR解析複数の干渉画像➡3D変形を抽出

国土地理院

断層運動と地震波の放射特性

2016年鳥取県中部の地震

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発震機構解の見方(下半球投影)

http://www.data.jma.go.jp/svd/eqev/data/mech/kaisetu/meca_image.html

横ずれ型

逆断層型(低角・高角)

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断層運動:せん断破壊すべり現象

断層面上の固着部分が破壊してすべる

内陸の活断層の場合深さ約10 ㎞:圧力 約3000気圧

(300 MPa)

最初に、断層面の一部を破壊して滑る→地震波が最初に放出される(“震源”と呼ばれる破壊開始点)

その後、すべりが断層面上を広がる→その領域からも、地震波がさらに放出される。

破壊すべりがどんどん拡大する→大地震へ発展

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D

S

Mo : 地震モーメント

Mo = m× D × Sm :剛性率D : 平均すべり量S:断層の面積

モーメントマグニチュード: Mw

Mw = (log Mo - 9.1) / 1.5

断層運動の規模(地震モーメント)

Mwが1つ大きくなる:Dが約3倍, Sが約10倍増加.Moは約30倍.

2011年東北地方太平洋沖地震:D = 20 mS = 400 km × 200 kmm = 30 GPa➡ Mo = 4.8 × 1022 Nm, Mw = 9.05

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2016年熊本地震の本震時の破壊過程(Mw7.0)

・破壊開始点から北東方向へすべりが進展(約20秒間)パルス的な破壊進展

・断層の長さ:約40 km

・すべりのピークは断層北西部の浅い場所

(最大すべり量約4 m)

・余震は大滑り域と相補的

0秒

20秒

※黒線:観測波形赤線:モデル波形

Asano and Iwata (2016)

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1) 断層の固着(すべり遅れ)によるひずみの蓄積.2) 断層面の応力が強度に達すると断層面でのすべり(地震)が発生.3) 地震波の放射(揺れ)、地面の変動、津波の発生.

沈み込み帯のプレート境界型地震の発生モデル(概念モデル)

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日本列島の地殻変動データの期間: 1996~1999

2つのプレートの沈み込み➡日本列島の圧縮変形※上記の観測中は、特段大きな地震が無かった時期

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Nishimura (2014, JDR) Cyranoski (2012)

陸地の

東向き変位

2011年東北地方太平洋沖地震前の地面の変動

地震発生前

西向き変位: ~2cm/yr

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2011年東北地方太平洋沖地震前の地面の変動

Ozawa et al. (2012)

地震発生前

Nishimura (2014, JDR)

西向き変位: ~2cm/yr地震発生前の固着レートの分布

宮城県沖に固着率の高い領域が存在

GPS Data:April 2000

to March 2001

アスペリティ(強い固着領域)

↓・地震時に大きく滑ると考えられる・階層的な分布

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2011年東北地方太平洋沖地震前後の地面の変動(Before and After)

地震発生前 地震発生時

Nishimura (2014, JDR)

西向き変位: ~2cm/yr 東向き変位: ~5m(最大値)

すべり域:宮城沖の強い固着領域

に概ね一致

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2011年東北地方太平洋沖地震時の変動を海域で測定

固着が強い場合

海上保安庁

海上保安庁

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2011年東北地方太平洋沖地震時の大変動(海溝よりの浅い側で特大な滑り)

Nishimura (2014, Annual Rev.)

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2011年東北地方太平洋沖地震の震源過程(海溝よりの浅い側で特大なすべり)

Sun et al. (2015) Maeda et al. (2013)

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海溝軸付近での深部調査掘削(JFAST)

The deep-sea drilling vessel Chikyu“ちきゅう”

operated by JAMSTEC

掘削地点水深: 約 6900m海底下: 約 850m

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Chester et al. (2013, Science)

水深約6.9 kmから海底下約850 mのドリリング!

海溝軸付近での深部調査掘削(JFAST)

Chester et al. (2013)

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厚みの薄い断層帯(~5 m)&鱗状の変形組織

Chester et al. (2013)

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Wang (2013)

・巨大津波を引き起こしたプレート境界断層浅部は、スメクタイトを大量に含む遠洋性粘土層に沿って局所化(変形帯の厚さ~5 m)して発達している.

・コア試料を用いた室内実験により、摩擦発熱による間隙水圧上昇が効果的に起こり、地震時に断層が非常に滑りやすくなったことが明らかになった。

➟ひとたび地震時に断層の摩擦強度が低下すれば、深部からの破壊伝播を促進しプレート境界浅部でも大きな滑りが生じ得る。

Ujiie et al. (2013)

すべり速度: 1.3 m/s

USGS掘削コア試料を用いたせん断すべり実験

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まとめ

・断層運動としての地震断層面の固着➡ひずみエネルギーの蓄積➡断層面が急にずれて蓄えられたひずみを解放する現象

・断層運動の分類と地震波の放射パターン

・震源過程(断層すべりの時空間発展)

・東北地方太平洋沖地震の断層面の調査研究