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「例題で学ぶ機械振動学」 サンプルページ - 森北出版i 本書は,力学の基礎を学んだ人を対象に,機械振動学の基礎をできるだけやさしく

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「例題で学ぶ機械振動学」

サンプルページ

この本の定価・判型などは,以下の URL からご覧いただけます.

http://www.morikita.co.jp/books/mid/066711

※このサンプルページの内容は,初版 1 刷発行当時のものです.

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◇本書のサポート情報などをホームページに掲載する場合が

あります.下記のアドレスにアクセスしご確認ください.

http://www.morikita.co.jp/support/

■本書の無断複写は著作権法上での例外を除き禁じられています.

複写される場合は,その都度事前に(株)日本著作出版権管理システム

(電話 03–3817–5670,FAX 03–3815–8199)の許諾を得てください.

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本書は,力学の基礎を学んだ人を対象に,機械振動学の基礎をできるだけやさしく

まとめた入門的な教科書である.本書の前身である「わかりやすい機械力学」が出版

されて 16年が経過し,その間に社会情勢が大きく変化し,新しい機械振動学の教科書

の必要性が生じてきた.「わかりやすい機械力学」が著者の独自色をあまりにも強く出

しすぎたことへの反省から,本書はそれと比較して平易で,標準的な機械振動学の入

門書となるように心がけた.また,姉妹編ともいる「演習で学ぶ機械力学」が力学の

基礎に力点をおいたため,ラグランジュの方程式とラプラス変換を犠牲にしたことか

ら,本書はそれらもできるだけ平易に解説している.そして,力学や工業力学を学ん

だ学生諸君が,はじめて機械振動学を自学自習するのをたすけるためにできるだけ多

くの例題を示し,さらに理解力のアップを図るために演習問題も多くした.

本書が機械振動学の入門書であること,ページ数や講義時間数に制約があることな

どを考慮して,「非線形振動」「制振工学」「パラメータ励振」「不規則振動」「往復機関

の振動」「回転体の力学」「振動のデータ処理」などは実際には非常に重要な項目であ

るが,すべて割愛した.それらに興味のある方は,それぞれの専門書をみていただき

たい.

学生諸君はともすれば筋道を抜きにして結果の公式だけを暗記したがるけれども,

機械振動学は基礎から筋道をたてて考えていく学問であるので,式の誘導方法などは

あえて冗長ともいるほど平易に記述している.そのため,本文をはじめから読めば,理

解できるようになっている.しかし,教科書を読んだだけで理解力や計算力が身につ

くというものではないので,演習問題にぜひ挑戦してほしい.

本書が,機械振動学を学ぼうとする学生諸君の基礎学力向上の一助となれば,著者

らとしてこの上ない喜びである.

最後に,本書の趣旨をご理解いただき,さまざまな便宜を図っていただき,編集・

校正に多大な援助をいただいた森北出版の石田昇司氏と二宮惇氏に心からお礼申し上

げる.

2008年 11月

著 者 

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第 0章 序 ····························································································· 1

0.1 機械振動学とは 1

0.2 本書が取り扱う領域 2

0.3 機械振動学で用いられる単位 3

第 1章 一自由度系の振動 ···································································· 5

1.1 自由度と運動方程式 5

(1) 自由度 5 (2) 力の図示 6

(3) 運動方程式 7 (4) 単振り子の運動方程式 14

1.2 ばね・ダッシュポット・摩擦 18

(1) ばね力 18 (2) 粘性抵抗力 21

(3) 乾性摩擦 22

1.3 等価ばね定数 25

(1) 直列結合のばね 25 (2) 並列結合のばね 25

1.4 不減衰系の自由振動 27

(1) 解を三角関数で仮定する方法 27 (2) 解を指数関数で仮定する方法 29

1.5 減衰系の自由振動 32

(1) 解 λの分類 33

(2) ばねばかりに急におもりを載せた場合 38

1.6 調和外力による強制振動 39

(1) 不減衰系(c = 0) 39 (2) 減衰系(0 < c < ccr) 41

(3) 定常振動の別の表現方法 46

1.7 力伝達率 47

1.8 調和変位による強制振動 48

(1) 不減衰系 48 (2) 減衰系 50

1.9 一般の外力による振動 52

第 2章 二自由度系の振動 ·································································· 54

2.1 運動方程式と振動数方程式 54

(1) 自動車の場合 54 (2) 2円板 –軸系の場合 56

(3) 直列の質量・ばね系の場合 57

2.2 ベクトルと行列による表現 61

2.3 固有モードベクトルとモード行列 67

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iv 目 次

(1) 直交性 67 (2) モード行列 69

(3) 自由振動の解 71

2.4 粘性減衰があるときの固有振動 72

2.5 外力による強制振動(不減衰系) 75

2.6 外力による強制振動(減衰系) 78

2.7 行列 C∗ が対角行列になるための条件 85

(1) 必要十分条件(その 1) 85 (2) 必要十分条件(その 2) 86

第 3章 ラグランジュの方程式 ··························································· 89

3.1 力学的エネルギーの概念 89

(1) 運動エネルギー 89 (2) 回転体の運動エネルギー 90

(3) 弾性力のポテンシャルエネルギー 91

(4) 散逸関数 92

3.2 運動方程式からエネルギーへ 93

3.3 エネルギーから運動方程式へ 97

3.4 一般的なラグランジュの方程式への準備 99

3.5 一般的なラグランジュの方程式 101

第 4章 多自由度系の固有振動数と固有モードベクトルの近似計算 ··········· 115

4.1 レイリーの方法 115

4.2 影響係数を用いる方法 120

4.3 ダンカレーの公式 124

4.4 レイリーの近似解と影響係数による近似解の比較 126

4.5 繰り返し法(べき乗法) 127

4.6 第 2次以上のモードの固有振動数と固有モードベクトル 128

(1) 最高次モードの場合 128 (2) 第 2次モードの場合 129

第 5章 連続体の振動解析 ································································· 132

5.1 弦の振動 132

(1) 運動方程式の誘導 132 (2) 固有関数と固有振動数 134

(3) 自由振動 137 (4) 強制振動 141

5.2 弾性棒のたて振動 146

(1) 両端自由の棒 147 (2) 一端固定・他端自由の棒 148

(3) 両端固定の棒 149

5.3 一端固定・他端質量の棒 152

5.4 弾性棒のねじり振動 157

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目 次 v

5.5 梁の横振動 159

(1) 運動方程式の誘導 160 (2) 固有関数と固有振動数 161

(3) 固有関数の直交性 169 (4) 強制振動 171

5.6 レイリーの方法 173

5.7 連続体のエネルギー 174

(1) 弦 174 (2) 棒 175

(3) 梁 175

第 6章 ラプラス変換による振動問題の解き方 ·································· 176

6.1 ラプラス変換の基本 176

6.2 一自由度振動系の解析 182

(1) 不減衰系の自由振動 182 (2) 減衰系の自由振動 182

(3) 不減衰系の強制振動 183 (4) 減衰系の強制振動 184

6.3 衝撃による振動 187

6.4 急に荷重を加えた場合 188

6.5 任意の外力による振動 188

(1) ラプラス変換法 189 (2) インパルス応答法 189

6.6 弦の振動解析 190

(1) 弦の自由振動 190 (2) 弦の強制振動 193

6.7 棒の衝突 196

演習問題解答 ······················································································ 199

参考文献 ····························································································· 211

索 引 ································································································· 212

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0.1 機械振動学とはJISによれば,「機械系の運動または変位を表す量の大きさが,時間の経過とともに

その平均値または基準値よりも大きな状態と小さな状態とを交互に繰り返す現象」を

機械振動という.機械振動学は,この機械振動に関する学問体系で,機械力学と同じ

意味で用いられることも多い.

機械には,モータ,エンジン,タービン,駆動軸,クラッチなど回転運動をする要

素が非常に多い.質量をもつ機械要素が回転運動をした場合の現象として振動が知ら

れており,機械を設計する場合には,この振動が生じないようにすることが多い.

たとえば,機械を図 0.1のように単純化して,どのような問題が起きるかを考えて

みよう.質量 m の回転体があって,質量のないまっすぐで剛なシャフトに取り付け

られているとする.さらに,回転体の重心 G とシャフトの中心(回転の中心)C と

の距離を r としておく.このような回転体が,ばね定数 k の板ばねで支持された質

量 M の物体に取り付けられているとする.この回転体を角速度 ω で回転させると,

遠心力 mrω2 が生じる.この力は角速度 ω で回転しているので,その水平方向成分

は mrω2 cosωt と表される.これは一定時間 T = 2π/ω 増すごとに,同じ値を繰り

図 0.1 機械の振動の摸式図

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2 第 0 章 序

返す関数であるから周期関数であり,調和関数と呼ばれる.質量 M の物体からみれ

ば,この力は外力であるから,調和外力と呼ばれる.これが質量 M の物体の水平方

向の振動を引き起こす.つまり,図 0.1の系は,質量 M の物体とばね定数 k のばね

で構成される系に調和外力が作用する機械振動系である.

振動は好ましくない場合が多いので,振動を抑制することが必要になる.いまのよ

うな例の場合,大きく分けて次の 2つの対策が考えられる.

1©振動の原因になるものを除去あるいは小さくする.重心 G とシャフトの中心 C との距離 r を 0にするか,小さくする.

2©振動の原因が完全に除去できない場合は,振幅や力の伝達を小さくする.上の例でいえば,距離 r を 0にできなければ調和外力は除去できず,生じる振動

ができるだけ小さくなるように支持系を設計する.また,地震のように基礎の部分

が振動する場合には,振動が機械本体や建築物に伝わらないような支持系を考える

ことである.

このような機械の運転にともなう機械本体の振動や,地震による建築物の振動など

の運動方程式を構築し,それを解析して,振動を軽減するための対策の指針を与える

学問体系が機械振動学である.本書は,そのための入門的な教科書である.

0.2 本書が取り扱う領域一般に,機械振動学が対象とする領域を表にすると,図 0.2のように非常に範囲が

広いが,本書では機械の線形振動の解析のみを取り扱う.

また,振動系・振動は図 0.3のようにも分類されるが,本書では太字の項目のみを

取り扱う.

図 0.2 機械振動学の分類の例

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0.3 機械振動学で用いられる単位 3

図 0.3 振動系・振動の分類

0.3 機械振動学で用いられる単位本書では,長さ・速度・加速度・質量・力など,いろいろな物理量が現れる.物理

量にはそれぞれ単位があり,現在は SI(国際単位系)という国際的に定められた単位

が使われる.SIでは,長さにメートル(記号m),質量にキログラム(記号 kg),時

間に秒(記号 s)を,基本の単位として定めている.

速度は単位時間あたりの移動距離であるからm/s,加速度は単位時間あたりの速度

変化であるからm/s2 というように,基本単位を組み合わせた単位で表す.このよう

な単位を組立単位という.

これらのうちのおもなものを表 0.1に,そのほかの単位を表 0.2に示す.

表 0.1 おもな SI 単位 1©

量 名 称 記 号

時 間 秒 s

長 さ メートル m

質 量 キログラム kg

平面角 ラジアン rad

速度,速さ メートル毎秒 m/s

加速度 メートル毎秒毎秒 m/s2

回転数,回転速度 毎 秒 s−1

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4 第 0 章 序

表 0.1 おもな SI 単位 2©

量 名 称 記 号

振動数 ヘルツ Hz(= s−1)

角速度 ラジアン毎秒 rad/s

角振動数 ラジアン毎秒 rad/s

角加速度 ラジアン毎秒毎秒 rad/s2

運動量 キログラムメートル毎秒 kg·m/s

角運動量,運動量のモーメント キログラム平方メートル毎秒 kg·m2/s

力 ニュートン N(= kg·m/s2)

力のモーメント,トルク ニュートンメートル N·m力 積 ニュートン秒 N·s慣性モーメント キログラム平方メートル kg·m2

密 度 キログラム毎立方メートル kg/m3

応 力 パスカル Pa(= N/m2)

エネルギー,仕事 ジュール J(= N·m)動力,仕事率 ワット W(= N·m/s)

弾性係数 パスカル Pa

ばね定数 ニュートン毎メートル N/m

ねじりこわさ ニュートンメートル毎ラジアン N·m/rad

減衰係数 ニュートン秒毎メートル N·s/m

動こわさ ニュートン毎メートル N/m

コンプライアンス メートル毎ニュートン m/N

インピーダンス ニュートン秒毎メートル N·s/m

モビリティ メートル毎ニュートン毎秒 m/(N·s)

表 0.2 そのほかの単位

量 名 称 記 号

力 重量キログラム kg重,kgf,kgw(1 kgf = 9.80665N)

応 力 重量キログラム毎平方メートル kgf/m2

比重量 重量キログラム毎立方メートル kgf/m3

仕事率 仏馬力 PS(1PS = 75 kg 重・m/s)

回転数 回毎分 rpm, r/min

加速度 ガル Gal(1Gal = 10−2 m/s2)

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54

■学習目標

■ベクトルと行列を用いた運動方程式になれること

■振動数方程式を理解すること

■固有振動数と固有モードベクトルを理解すること

2.1 運動方程式と振動数方程式二自由度系といってもその例は無数にあるから,ここでは図 2.1のような最も単純

化した系を例にとって考える.

図 2.1 二自由度系の例

(1)自動車の場合図 2.1(a) のような一平面内で振動する自動車を考える.前後のばね定数が k1,

k2 [N/m]のばねの部分で上下に振動するので,前後のばね上の静止平衡位置からの変

位 x1, x2 [m]が必要になる.しかし,重心に関する運動方程式を作るには,重心の上

下振動を表す静止平衡位置からの変位 x と,重心まわりの静止平衡状態からの回転角

度 θ [rad]が用いられる.

いま,上向きの変位を正,時計方向の回転角度を正,車の質量をm [kg],重心まわ

りの慣性モーメントを J [kg·m2]とすると,ばねがいずれも伸びている状態を想定す

れば,車にはばねの部分で下向きに大きさが,それぞれ k1x1, k2x2の復元力がはたら

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2.1 運動方程式と振動数方程式 55

くので,上下方向の運動方程式は,

mx = −k1x1 − k2x2 (2.1)

となる.そして,復元力 k1x1 は重心まわりに正のモーメントを有し,復元力 k2x2 は

負のモーメントを有するので,回転の運動方程式は,

Jθ = l1k1x1 − l2k2x2 (2.2)

となる.

微小振動を仮定すると,

x1 = x− l1θ, x2 = x+ l2θ (2.3)

が成立するので,運動方程式は,⎧⎨⎩mx+ (k1 + k2)x− (l1k1 − l2k2)θ = 0

Jθ − (l1k1 − l2k2)x+ (l21k1 + l22k2)θ = 0(2.4)

となる.l1k1 − l2k2 = 0 という特別な場合は,x と θ は互いに独立に変化する.つ

まり,重心に上下方向の力を加えた場合,上下振動のみが生じ,回転運動は生じない.

これ以外の場合には,x と θ は互いに影響しあう.これを,x と θ は互いに連成す

るといい,式 (2.4)の中の−(l1k1−l2k2)θ および−(l1k1−l2k2)xを連成項(coupling

term)という.

さて,式 (2.4)から固有振動数を求める.運動方程式の形をよくみれば,x, x, θ, θ

が同形式の関数でなければならず,そのような関数としては三角関数と指数関数が考

えられる.そこで,解をたとえば,

x = A cosωt, θ = B cosωt (2.5)

と仮定する.これを式 (2.4)に代入し,cosωt を約すことにより,⎧⎨⎩{(k1 + k2) −mω2}A− (l1k1 − l2k2)B = 0

−(l1k1 − l2k2)A+ {(l21k1 + l22k2) − Jω2}B = 0(2.6)

が得られる.これより⎧⎪⎪⎪⎨⎪⎪⎪⎩B =

k1 + k2 − ω2m

l1k1 − l2k2A

A

[l1k1 − l2k2 − k1 + k2 − ω2m

l1k1 − l2k2(l21k1 + l22k2 − ω2J)

]= 0

(2.7)

が得られる.これが A = B = 0 ではない非自明解(nontrivial solution)をもつ

ためには(あるいは,A = B = 0 という自明解をもたないためには),第 2式の [ ]

内が 0,つまり,

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56 第 2 章 二自由度系の振動

(k1 + k2 − ω2m)(l21k1 + l22k2 − ω2J) − (l1k1 − l2k2)2

= mJω4 − {m(l21k1 + l22k2) + J(k1 + k2)}ω2 + k1k2(l1 + l2)2

= 0 (2.8)

という ω2 の二次方程式(複二次式)が成立しなければならない.つまり,簡単にいえ

ば,式 (2.6)の係数行列式が 0 でなければならない.これによって固有振動数が決ま

るから,式 (2.8)を振動数方程式(frequency equation)という.そして,これの

2つの正の解 ω を固有振動数という.式 (2.5)をみれば,負の解も,正の解も振動数

としては同じであるから,以後正の解だけを考えればよい.2つの解のうち小さい方

の解 ω1 を第 1次の固有振動数,大きい方の解 ω2 を第 2次の固有振動数という.こ

のとき,それぞれの固有振動数に対応して振幅の比の値が,式 (2.7)の第 1式より,

Ai

Bi=

l1k1 − l2k2

k1 + k2 − ω2im

(i = 1, 2)

で定義される.

なお,解を式 (2.5)の代わりに,以下のように仮定しても,上と同じ議論が成り立つ.

x = A sinωt, θ = B sinωt (2.5)′

(2)2円板 –軸系の場合図 2.1(b)のような 2つの回転円板が軸でつながれている系は,軸の慣性モーメント

を考慮に入れれば,無限自由度のねじり振動系となるが,軸の慣性モーメントを無視し

て軸はねじり剛性のみを有するとすれば,二自由度のねじり振動系となる.静止平衡

位置からの円板の角変位を θ1, θ2 [rad],軸のねじりのばね定数を k [N·m/rad]とおけ

ば,ねじりモーメントは k(θ2−θ1) と表される.よって,慣性モーメントが J1 [kg·m2]

の円板 1の運動方程式は,

J1θ1 = k(θ2 − θ1) (2.9)

となり,慣性モーメントが J2 の円板 2の運動方程式は,

J2θ2 = −k(θ2 − θ1) (2.10)

となる.式 (2.9)の kθ2,式 (2.10)の kθ1 が連成項である.

この連立微分方程式の解は,すぐに,

θ1 = A cosωt, θ2 = B cosωt (2.11)

と仮定でき,式 (2.9), (2.10)より,

(k − J1ω2)A− kB = 0, −kA+ (k − J2ω

2)B = 0 (2.12)

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2.1 運動方程式と振動数方程式 57

となる.これより,

B =k − ω2J1

kA, A

{(k − ω2J1)(k − ω2J2)

k− k

}= 0 (2.13)

となるので,非自明解が得られるためには,第 2式の { }内が 0,つまり式 (2.12)の

係数行列式が 0 より

ω2{ω2J1J2 − k(J1 + J2)} = 0 (2.14)

でなければならず,次式が得られる.

ω2 = 0, ω2 =k(J1 + J2)J1J2

(2.15)

ω = 0 は,振動することなく系全体が一体となって回転するにすぎないことを意味

しており,固有振動数は結局

ω =

√k(J1 + J2)J1J2

(2.16)

のみとなる.このときの振幅の比の値は,式 (2.13)の第 1式により,

A

B=

k

k − ω2J1= −J2

J1

で与えられる.

解を式 (2.11)の代わりに,

θ1 = A sinωt, θ2 = B sinωt (2.11)′

と仮定しても,上と同じように変形できる.

(3)直列の質量・ばね系の場合次に,図 2.1(c)のような直列の質量・ばね系を考える.ここでもニュートンの運動

の第 2法則にもとづいて運動方程式を誘導する.

重力の場での静止平衡位置からの変位を考えるならば,重力はすでに考慮ずみのた

め,質量 m1 [kg]に作用する力(F1 とおく)は上下のばねの力だけとなり,変位 x1 [m]

を正とすれば,下のばねから力 k1x1 [N]で下向きに引っ張られ,2つの質量の相対変位

(静止平衡位置からの変位の差)x2 − x1 を正とすれば,上のばねから力 k2(x2 − x1)

で上向きに引っ張られる.このようにすると,結局

F1 = −k1x1 + k2(x2 − x1) (2.17)

となる.よって,ニュートンの運動の第 2法則より,次式が得られる.

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58 第 2 章 二自由度系の振動

m1x1 = −k1x1 + k2(x2 − x1) (2.18)

質量 m2 に作用する力(F2 とおく)は上のばね力だけで,上のばねからは相対変位

x2 − x1 に比例した力 k2 (x2 − x1) で下向きに引っ張られるので,負号をつけて

F2 = −k2(x2 − x1) (2.19)

となり,

m2x2 = −k2(x2 − x1) (2.20)

が得られる.このようにして,いまの二自由度系の運動方程式は,式 (2.18)と式 (2.20)

となり,式 (2.18)の k2x2,式 (2.20)の k2x1 が連成項である.

この連立微分方程式の解は,すぐに,

x1 = A cosωt, x2 = B cosωt (2.21)

と仮定できることがわかる.これを式 (2.18), (2.20)に代入することにより,

(k1 + k2 −m1ω2)A− k2B = 0, −k2A+ (k2 −m2ω

2)B = 0 (2.22)

が得られる.よって,次式となる.

B =k1 + k2 − ω2m1

k2A, A

{(k1 + k2 − ω2m1)(k2 − ω2m2)

k2− k2

}= 0

(2.23)

これが非自明解をもつためには,第 2式の {  } 内が 0,つまり式 (2.22)の係数行列

式が 0より

(k1 + k2 − ω2m1)(k2 − ω2m2) − k22

= m1m2(ω2)2 − {m1k2 +m2(k1 + k2)}ω2 + k1k2 = 0 (2.24)

という ω2 の二次方程式が成立しなければならない.この振動数方程式の小さい方の

正の解 ω1 を第 1次の固有振動数,大きい方の解 ω2 を第 2次の固有振動数という.こ

のとき,それぞれの固有振動数に対応して振幅の比の値が,式 (2.23)の第 1式により,

Ai

Bi=

k2

k1 + k2 − ω2im1

(i = 1, 2)

で定義される.

ここでも,やはり解を式 (2.21)の代わりに,

x1 = A sinωt, x2 = B sinωt (2.21)′

と仮定しても,上と同じ議論が成り立つ.

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2.1 運動方程式と振動数方程式 59

例題 2.1 3つのばねで支えられた物体

図 2.2(a)のような xy 平面内にある長さが l の 3つのばねで支えられた質量m

の物体の,微小振動の運動方程式を求めよ.

図 2.2 3 つのばねで支えられた物体

解答

図 2.2(b)のように,質量 m が静止平衡位置 O から点 M まで移動したとし,その微

小変位を x, y とする.まず,点 A で支えられているばねの伸び,または縮みを求めると,√(x− l cosα1)2 + (y − l sinα1)2 − l

=√l2 − 2l(x cosα1 + y sinα1) + x2 + y2 − l

� l

{√1 − 2

l(x cosα1 + y sinα1) − 1

}

� −(x cosα1 + y sinα1)

となる.これが正のときは伸びていることを表し,負のときは縮んでいることを表す.こ

れにばね定数 k をかけると復元力になる.x, y を微小としているので,変形後のばねが

x, y 軸となす角度は α1 のままである.よって,復元力の

x成分;−k(x cosα1 + y sinα1) cosα1

y 成分;−k(x cosα1 + y sinα1) sinα1

となる.これらが正のときはばねが伸びているので,復元力は x, y 軸の正の向きにはたら

き,負のときは縮んでいるので,負の向きにはたらく.ほかのばねについても同様である.

こうして,3つのばねで支えられた質量 m の運動方程式は,次式となる.{mx = −kx(cos2 α1 + cos2 α2) − ky(sinα1 cosα1 + sinα2 cosα2)

my = −kx(sinα1 cosα1 + sinα2 cosα2)−ky(sin2 α1 + sin2 α2 + 1)(2.25)

たとえば,α1 = 45◦, α2 = 135◦ のとき,

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60 第 2 章 二自由度系の振動

mx = −kx, my = −2ky (2.25)′

となって,連成項は存在しない.

例題 2.2 複振り子

図 2.3 複振り子

図 2.3のような複振り子の運動方程式を求めよ.

解答

最初から微小振動と仮定すれば,比較的簡単に運動方程式

を導くことができるが,ここでは微小振動と仮定せずに運動方

程式を導く.質量 m1 を支持する未知の力を T1,質量 m2 を

支持する未知の力を T2 とおけば,質量 m1 の運動方程式は,{m1x1 = −T1 sin θ1 + T2 sin θ2

m1y1 = −T1 cos θ1 + T2 cos θ2 +m1g(2.26)

となり,質量 m2 の運動方程式は,

m2x2 = −T2 sin θ2, m2y2 = −T2 cos θ2 +m2g (2.27)

となる.とにかく未知の力を用いてでも,静止座標系で運動方程式をたてておく.

振り子の運動を扱っているので,2つの傾き角に関する運動方程式に変形するのがよさ

そうだと見当をつけて,次に座標変換の式

x1 = l1 sin θ1, y1 = l1 cos θ1 (2.28)

および,

x2 = l1 sin θ1 + l2 sin θ2, y2 = l1 cos θ1 + l2 cos θ2 (2.29)

を導入する.式 (2.28), (2.29)を時間について微分して,式 (2.26), (2.27)に代入すると,{m1(−l1 sin θ1 · θ21 + l1 cos θ1 · θ1) = −T1 sin θ1 + T2 sin θ2

m1(−l1 cos θ1 · θ21 − l1 sin θ1 · θ1) = −T1 cos θ1 + T2 cos θ2 +m1g(2.30)

および,⎧⎪⎪⎪⎨⎪⎪⎪⎩

m2(−l1 sin θ1 · θ21 + l1 cos θ1 · θ1 − l2 sin θ2 · θ22 + l2 cos θ2 · θ2)= −T2 sin θ2

m2(−l1 cos θ1 · θ21 − l1 sin θ1 · θ1 − l2 cos θ2 · θ22 − l2 sin θ2 · θ2)= −T2 cos θ2 +m2g

(2.31)

が得られる.これらの式から,未知の力 T1 と T2 を消去すれば,次式が得られる.⎧⎪⎨⎪⎩

(m1 +m2)l1θ1 −m2l2 sin(θ2 − θ1) · θ22 +m2l2 cos(θ2 − θ1) · θ2= −(m1 +m2)g sin θ1

m2{−l1 sin(θ1 − θ2) · θ22 + l1 cos(θ1 − θ2) · θ1 + l2θ2 =−m2g sin θ2

(2.32)

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2.2 ベクトルと行列による表現 61

未知の力 T1 と T2 の消去法

式 (2.31)が T1 をふくまないので,式 (2.29)から T1 をふくまない式を作って,

これらから T2 を消去する.

まず,式 (2.30)の第 1式に cos θ1 を,第 2式に sin θ1 を,それぞれかけて引き

算をして,T1 を消去すれば,

m1l1θ1 = T2 sin(θ2 − θ1) −m1g sin θ1

が得られる.式 (2.31)の第 1式に cos θ1 を,第 2式に sin θ1 を,それぞれかけて

引き算をすれば,

m2{l1θ1−l2 sin(θ2−θ1)θ22+l2 cos(θ2−θ1)θ2}=−T2 sin(θ2−θ1)−m2g sin θ1

となる.これらを足し合わせれば,T2 が消去されて式 (2.32)の第 1式が得られる.

次に,式 (2.31)の第 1式に cos θ2 を,第 2式に sin θ2 を,それぞれかけて引き

算をして T2 を消去すれば,式 (2.32)の第 2式が得られる.

さて,式 (2.32)において微小振動を仮定して,

sin(θ2 − θ1) = θ2 − θ1, cos(θ2 − θ1) = 1, sin θ1 = θ1, sin θ2 = θ2

とおき,高次の微小項 (θ1 − θ2) · θ22 を無視すれば,{(m1 +m2)l1θ1 +m2l2θ2 = −(m1 +m2)gθ1

m2l1θ1 +m2l2θ2 = −m2gθ2(2.33)

となる.微小振動とした場合,式 (2.28), (2.29)により,

x1 = l1θ1, x2 = l1θ1 + l2θ2 (2.34)

とおけば,式 (2.33)は,⎧⎪⎨⎪⎩

m1x1 +

{(m1 +m2)

g

l1+m2

g

l2

}x1 −m2

g

l2x2 = 0

m2x2 −m2g

l2x1 +m2

g

l2x2 = 0

(2.35)

となる.これを上の 2.1節(3)と対比させて,

(m1 +m2)g

l1= k1, m2

g

l2= k2

とおけば,2.1節(3)と同じ取扱いができることがわかる.

2.2 ベクトルと行列による表現上のいずれの場合で考えてもよいが,連立の運動方程式をベクトルと行列で表現す

ることを考える.

たとえば,式 (2.18), (2.20)において,

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62 第 2 章 二自由度系の振動

[x1

x2

]= x,

[m1 0

0 m2

]= M ,

[k1 + k2 −k2

−k2 k2

]= K

というベクトルと行列を定義すれば,次のように表現できる.

Mx+Kx = 0 (2.36)

このM を質量行列(mass matrix)といい,K を剛性行列(stiffness matrix)

という.上のように絶対変位でベクトル x を定義すれば,質量行列は対角であり,剛

性行列は実対称である.

2.1節(1)の場合は回転の慣性モーメントをふくむけれども,やはりM を質量行列

といい,K を剛性行列という.

式 (2.36)の解を,

x = a cosωt (2.37)

とおいてみると,式 (2.35)より,

(K − ω2M)a = 0 (2.38)

が得られる.これは式 (2.22)に対応するものである.この代数方程式が a = 0 以外

の解(非自明解)をもつための必要十分条件は係数行列式∣∣K − ω2M

∣∣ が 0になるこ

とである.すなわち,次式が成り立つ.∣∣K − ω2M∣∣ = 0 (2.39)

これが,振動数方程式である.2.1節(1)~(3)のそれぞれの場合に応じて,行列 K,

M の具体的な形は違うが,式 (2.39)の表現は同じである.ここでは,二自由度系を

例にとってはいるが,一般的な線形の多自由度系についても同様の議論が成立する.

いまの系について固有振動数を求める.式 (2.38)を展開すると,∣∣∣∣∣ k1 + k2 − ω2m1 −k2

−k2 k2 − ω2m2

∣∣∣∣∣= (k1 + k2 − ω2m1)(k2 − ω2m2) − k2

2

= m1m2(ω2)2 − {m1k2 +m2(k1 + k2)}ω2 + k1k2 = 0 (2.40)

となり,式 (2.24)と一致する.この解は,

ω2 =1

2m1m2[m1k2 +m2(k1+k2)±

√{m1k2 +m2(k1 + k2)}2− 4m1m2k1k2]

(2.41)

となる.これの解の判別式は,

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132

■学習目標

■連続体の運動方程式(偏微分方程式)を導けるようにすること

■偏微分方程式の解き方を習得すること

■固有関数とその直交性を理解すること

5.1 弦の振動第 4章までは質量体とばねとダッシュポットを組み合わせた,いわゆる集中定数系の

振動を取り扱ってきたが,機械構造物ではほかに弦,弾性軸,弾性柱,梁などの振動

もみられる.これらを設計する場合には,これらの振動特性を知っていなければなら

ない.弦,弾性軸,弾性柱,梁などは質量が空間に連続的に分布しているので,分布

定数系または連続体(continuum)と呼ばれ,これらの振動を表す運動方程式は,集

中定数系とは基本的に異なっている.この章ではこれを詳しく説明する.

弦の振動解析の歴史は,非常に古い.17世紀には,ガリレイ,デカルト,ホイヘン

スなどが弦の振動に注意を払い,18世紀にはテイラーによってすでに運動方程式が導

かれ(1715),ダランベール(1747),オイラー(1751),ダニエル・ベルヌーイ(1753)

らによって一般解がみつけられている.

(1)運動方程式の誘導弦の運動方程式を導くにあたり,次のような仮定を設ける.

1©弦は両端を固定され,長さは一定である.クレーンのワイヤのように重力場で鉛直に吊されたものや長さが変化するもの,

あるいはベルトのように長さは一定でも時間とともに境界が移動するものは対象外

とする.

2©張力 T [N]は一定で,振動中も変化しない.

振動すると弦が伸び縮みするので張力は変化するが,これを考えると非常に複雑

な非線形系となるから,張力を一定と仮定する.また,重力場で鉛直に吊されたも

のも,位置によって張力が異なるので,簡単のために水平に張られているとする.

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5.1 弦の振動 133

3©線密度 σ [kg/m]は一様である.

4©振動は微小である.大変形の場合も非線形系となる.

5©一平面内で振動する.

図 5.1 弦の要素

このときの運動方程式もまたニュートン

の運動の第 2法則に従って導かれる.いま,

図 5.1 のような弦の微小要素に作用する力

について考える.ただし,x は弦に沿った座

標,u は弦の変位である.

微小区間 x~x + dx の弦要素の長さは,

微小振動の仮定により dx である.したがっ

て,その質量は σdx であり,加速度は,

∂2u(x, t)∂t2

であるから(2変数 x, t の関数を t のみで微分する場合,偏微分になる.常微分と区

別すること),質量×加速度は,

σ∂2u(x, t)∂t2

dx (5.1)

と表される.一方,外力を考えなければ,この微小要素に作用する力は張力 T の u 方

向の成分のみである.図 5.1のように傾きが正の状態を想定すれば,左側の座標 x で

は張力の u 方向成分は負の向きに T sin θ と表され,右側の x+ dx では傾き角の増

分を加えて正の向きに T sin(θ + dθ) と表される.

ところで,左側の x での変位曲線の接線の勾配は,

∂u(x, t)∂x

= tan θ

であり,微小振動の仮定によって,

tan θ � sin θ

が成立するので,張力 T の u 方向成分は,次式となる.

T sin θ � T tan θ = T∂u(x, t)∂x

右側の x+ dx での変位曲線の接線の勾配は,

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134 第 5 章 連続体の振動解析

∂u(x+ dx, t)∂x

� ∂u(x, t)∂x

+∂2u(x, t)∂x2

dx � tan(θ + dθ)

のようになり,微小振動の仮定によって,

T sin(θ + dθ) � T tan(θ + dθ) � T∂u(x, t)∂x

+ T∂2u(x, t)∂x2

dx

となる.以下では,表記の簡単のために必要な場合を除いて,分子にある (x, t) を省

略する.結局,微小要素にはたらく張力 T の u方向成分は,差し引きして u の正の

向きに,

T∂2u

∂x2dx (5.2)

となる.こうして,運動の第 2法則によって,式 (5.1)と (5.2)を等しいとおいて,

σ∂2u

∂t2dx = T

∂2u

∂x2dx (5.3)

が得られる.両辺を dx で割ると,

σ∂2u

∂t2= T

∂2u

∂x2(5.4)

となる.ここで,

a2 =T

σ(5.5)

とおけば,

∂2u

∂t2= a2 ∂

2u

∂x2(5.6)

という波動方程式(wave equation)と呼ばれる双曲型の偏微分方程式(partial

differential equation)が得られる.あとで出てくるが,a は弦の内部を伝わる波

の速さを表している.

(2)固有関数と固有振動数ダランベールは式 (5.6)の解が,

u = φ(x+ at) + ψ(x− at) (5.7)

になることを示し(p. 138のダランベールの解参照),オイラーとダニエル・ベルヌー

イは解を sin関数の級数で示した.ここでは級数による解の求め方を示す.

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5.1 弦の振動 135

固有振動の場合 固有振動に限定すると,式 (5.6)の解を次のように仮定してよい.

u(x, t) = X(x) cosωt (5.8)

ただし,X(x) はこれから求める未知関数,ω は未知の振動数である.これらを決定

するために,式 (5.6)に代入すると,任意の時刻について,

d2X

dx2+(ωa

)2

X = 0 (5.9)

が得られ,この一般解は,単振動の場合と同様にして,

X(x) = A cosω

ax+B sin

ω

ax (5.10)

と表される.x = 0 および x = l で固定という弦の両端の条件(これを境界条件

boundary conditionsという)により,

u(0, t) = u(l, t) = 0 (5.11)

でなければならないが,時間に無関係にこれが成立するためには,式 (5.8)の仮定から,

X(0) = X(l) = 0 (5.12)

でなければならない.X(0) = 0 からは,

A = 0 (5.13)

が得られ,X(l) = 0 からは,

B sinω

al = 0 (5.14)

が得られる.B = 0 であれば,X = 0 となって式 (5.8)は振動しない解になるから,

振動の解を求める場合には,これは考慮の対象外となる.そこで,結局

sinω

al = 0 (5.15)

でなければならない.これより,

ω

al = nπ (n = 1, 2, · · · ) (5.16)

が得られる.ある正の整数 nに対する ω を ωn と表し,これを第n次の固有振動数と

呼ぶ.それは,

ωn =nπa

l=nπ

l

√T

σ(n = 1, 2, · · · ) (5.17)

のように表される.このとき式 (5.10)に添え字 n をつけて,

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136 第 5 章 連続体の振動解析

Xn(x) = Bn sinnπ

lx (5.18)

が得られる.これは第 n 次固有振動数 ωn で振動する変位成分の x 方向の振幅分布を

表しており,第 n次の固有関数(eigenfunction∗)),固有モード関数,振動モードあ

るいは規準関数と呼ばれる.n = 1 のときの固有振動数を基本振動数(fundamental

frequency),そのときの調和振動を基本波(fundamental)といい,n � 2 以上の

振動数をもつ調和振動を高調波(higher harmonic)という.また,Xn(x) = 0 と

なる点を節(せつ,ふし;node),Xn(x) が極大となる点を腹(はら;loop)という.

固有関数の場合にも,固有モードベクトルの場合と同じく,直交性と正規化の議論

がある.まず,ベクトルの内積に相当するものとして,2つの固有関数 Xm と Xn の

積の x = 0~l での積分を考えると,

∫ l

0

XmXndx = BmBn

∫ l

0

sinmπx

lsin

nπx

ldx =

⎧⎨⎩

0 (m �= n)

B2n

l

2(m = n)

(5.19)

となるから直交性(orthogonality)が成立する.とくに n = m のとき,

B2n

l

2= 1 (5.20)

となるように係数 Bn を定めると,式 (5.19)は,

∫ l

0

XmXndx = δmn =

{0 (m �= n)

1 (m = n)(5.21)

と書ける.ただし,δmn はクロネッカーのデルタ(Kronecker’s delta)である.この

ような固有関数

Xn(x) =

√2l

sinnπ

lx (5.22)

を正規固有関数(normalized eigenfunction)という.

変数分離法 上では解を式 (5.8)のように仮定したが,一般的に,

u(x, t) = X(x)T (t) (5.23)

∗) eigen はアイゲンと読み,「自己の,固有の」を意味するドイツ語の形容詞である.

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5.1 弦の振動 137

とおくこともできる.これは,x の関数と t の関数に分けているので,変数分離法と

呼ばれる.仮定した式 (5.23)を式 (5.6)に代入することにより,

Xd2T

dt2= a2T

d2X

dx2(5.24)

が得られる.左右両辺にふくまれる微分は,1変数の関数の微分であるから,偏微分

ではなく常微分である.両辺を XT で割れば,

1T

d2T

dt2= a2 1

X

d2X

dx2(5.25)

となる.左辺は位置 x に無関係であり,右辺は時間 t に無関係であるが,それらが

いつでもどこでも等しくなるのは,いずれも定数のときである.その定数を仮に −ω2

とおくと,

d2T

dt2+ ω2T = 0 (5.26)

および,

d2X

dx2+(ωa

)2

X = 0 (5.27)

となる.式 (5.26)は単振動の式であるから,その一般解は

T = C cosωt+D sinωt (5.28)

となり,式 (5.27)は式 (5.9)と一致している.よって,これ以降は固有振動の場合と

同じようにすればよい.

例題 5.1 弦の第 1次固有振動数

次のような弦の第 1次固有振動数を求めよ.

長さ l = 1 m,張力 T = 100 N,線密度σ = 1 kg/m

解答

a =

√T

σ= 10 [m/s] より,ω1 =

πa

l= 31.4 [rad/s]

(3)自由振動5.1節(2)の 1©は,方程式 (5.6)の解を式 (5.8)のように仮定したときの議論であっ

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138 第 5 章 連続体の振動解析

たが,解を

u(x, t) = X(x) sinωt (5.29)

と仮定しても,同様に式 (5.17)~(5.22)が得られる.つまり,固有振動数と正規固有

関数は変わらない.すると,式 (5.6)の一般解はこれらの解の総和になるから,正規

固有関数 Xn(x) を用いて,

u(x, t) =∞∑

n=1

Xn(x)(Cn cosωnt+Dn sinωnt) (5.30)

のようになる.ここの係数 Cn と Dn は初期条件で決まる.

いま,t = 0 のときの変位分布を u0(x),速度分布を v0(x) と表すと,

u0(x) =∞∑

n=1

Xn(x)Cn (5.31)

v0(x) =∞∑

n=1

Xn(x)ωnDn (5.32)

が成立する.式 (5.31), (5.32) の「両辺に第 m 次正規固有関数 Xm(x) をかけて

x = 0~l で積分し,正規直交の関係式 (5.21)の性質を利用する」(この操作は何度

も出てくるので,よく理解すること)と,

Cm =∫ l

0

u0(x)Xm(x)dx (5.33)

ωmDm =∫ l

0

v0(x)Xm(x)dx (5.34)

のように係数が決まる(この場合,添え字が m になることに注意).

ダランベールの解

自由振動の場合,式 (5.7)

u = φ(x+ at) + ψ(x− at) (5.7)

の φ や ψ は,次のように求めることができる.初期条件により,

φ(x) + ψ(x) = u0(x) (5.35)

aφ′(x) − aψ′(x) = v0(x) (5.36)

が成立する.x = 0 で変位が 0であることを考慮して式 (5.36)を積分すると,

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212

◆英数字2 次形式 96

M 直交する 68

Q 値 36

◆あ 行位相 28

一自由度系 5

一端固定・他端支持梁 168

一端固定・他端質量の棒 152

一端固定・他端自由の棒 148

一端固定・他端自由梁 164

一般解 28

一般化座標 101

一般化力 101

インパルス応答 188

ヴァンデルモンド行列 86

裏関数 176

裏推移定理 177

運動エネルギー 90

運動方程式 6

影響係数 120

エネルギー法 115

遠心力 112

遠心力振り子 15

円すい振り子 16

鉛直ばね振り子 20

オイラーの公式 29

表関数 176

表推移第 1 定理 178

重み関数 151

◆か 行回転の運動方程式 9

回転半径 12

重ね合わせの原理 28

仮想仕事の原理 100

仮想変位 100

加速度 3

加速度共振振動数 44

過渡振動 42

慣性極モーメント 11

慣性抵抗 9

乾性摩擦 21

慣性モーメント 10

慣性力 9

規準座標 69

基本解 28

基本振動数 136

基本の単位 3

基本波 136

境界条件 135

共振 40

共振曲線 41

共振振動数 40

共振点 40

強制振動 39

区分線形系 23

組立単位 3

繰り返し法 127

クロネッカーのデルタ 68

クーロン摩擦 21

原関数 176

減衰行列 73

減衰固有振動数 35

減衰比 35

弦の振動 132

剛性行列 62

合成積分 178

高調波 136

固有振動数 56

コリオリの力 112

◆さ 行最適減衰比 83

散逸関数 92

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索 引 213

三自由度系 5

質量行列 62

周期 29

自由振動 27

集中定数系 132

自由度 5

周波数 29

周波数応答 46

周波数伝達関数 186

初期条件 27

初期速度 27

初期変位 27

振動数比 40

振動数方程式 56

振幅 28

振幅倍率 40

振幅比 40

水平ばね振り子 19

ストークスの公式 139

正規固有関数 136

節 136

線形常微分方程式 22

線形要素 22

像関数 176

相反定理 122

速度 3

速度共振振動数 44

◆た 行第 i 次の固有振動数 63

第 1 平行移動定理 177

第 n 次の固有関数 136

第 n 次の固有振動数 135

対数減衰率 35

第 2 平行移動定理 178

たたみこみ積分 178

ダッシュポット 21

たて振動 146

ダランベールの解 138

ダランベールの原理 8

単位ステップ関数 177

単位ランプ関数 177

ダンカレーの公式 125

単振動 28

ダンパー 21

単振り子 14

力 6

力伝達率 47

力の三要素 6

力のモーメント 10

超越方程式 153

超過減衰 34

超関数 180

調和外力 39

調和振動 28

直列結合 25

直交性 68, 136, 169

定常振動 42

定数変化法 52

テイラー展開 30

ディラックの δ 関数 156

デュアメル積分 178

伝達関数 183

動荷重係数 39

等価ばね定数 25

動吸振器 76

同次微分方程式 38

動摩擦係数 23

特殊解 38

トルク 10

トレース 125

◆な 行二自由度系 5

ニュートンの運動の三法則 7

ねじりこわさ 158

ねじり振動 157

粘性減衰係数 21

粘性動吸振器 81

伸びこわさ 147

◆は 行波動の伝播の速さ 139

波動方程式 134

ばね定数 18

腹 136

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214 索 引

パラメータ励振 112

パラメータ励振系 50

反共振 76

反共振振動数 76

非自明解 55

非線形常微分方程式 23

ピッチング 6

非同次微分方程式 38

微分方程式 6

非保存力 99

標準重力加速度 12

比例減衰 74

復元力 19

複振り子 60

不減衰固有円振動数 28

不減衰固有角振動数 28

不減衰固有振動数 28

節 136

不足減衰 34

フックの法則 18

分布定数系 132

並列結合 25

べき乗法 127

ベクトル軌跡 46

変位共振振動数 43

変位による強制振動 48

変数分離法 137

偏微分方程式 134

保存力 99

ポテンシャルエネルギー 92

ボード線図 46

◆ま 行マクローリン展開 30

曲げ剛性 160

曲げこわさ 160

曲げ振動 160

免震支持 51

モード外力 76

モード行列 69

モード減衰比 74

モード剛性 70

モード質量 70

◆や 行ヨーイング 6

横振動 160

◆ら 行ラグランジュ関数 101

ラグランジュの方程式 101

ラプラス逆変換 178

ラプラス変換 176

留数 185

両端固定の棒 149

両端固定梁 166

両端自由梁 167

両端単純支持梁 163

臨界減衰 36

レイリー商 117

レイリーの方法 117, 173

連成項 55

連続体 132

ローリング 6

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著 者 略 歴

小寺 忠(こてら・ただし)1970年 京都大学大学院工学研究科博士課程数理工学専攻単位取得退学1970年 神戸大学工学部生産機械工学科助手1970年 工学博士(京都大学)1971年 神戸大学工学部生産機械工学科助教授1980年 チェコスロバキア科学アカデミー

熱力学研究所研究員(1981 年まで)1989年 福井大学工学部機械工学科教授2006年 福井大学大学院工学研究科教授2008年 福井大学名誉教授

現在に至る

矢野 澄雄(やの・すみお)1978年 神戸大学大学院工学研究科修士課程生産機械工学専攻修了1978年 福井大学工学部機械工学科助手1984年 工学博士(京都大学)1986年 神戸大学教育学部技術科講師1988年 フンボルト財団奨学研究員としてダルムシュタット工科大学(独)

にて研究1991年 神戸大学教育学部技術科助教授1992年 神戸大学発達科学部人間環境科学科助教授2001年 神戸大学発達科学部人間環境科学科教授2007年 神戸大学大学院人間発達環境学研究科教授

現在に至る

例題で学ぶ機械振動学 C© 小寺 忠・矢野澄雄 2009

2009 年 1 月 22 日 第 1 版第 1 刷発行 【本書の無断転載を禁ず】

著 者 小寺 忠・矢野澄雄発 行 者 森北博巳発 行 所 森北出版株式会社

東京都千代田区富士見 1–4–11(〒102–0071)電話 03–3265–8341/ FAX 03–3264–8709

http://www.morikita.co.jp/

日本書籍出版協会・自然科学書協会・工学書協会 会員<(株)日本著作出版権管理システム委託出版物>

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