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日本の水・世界の水
命の水が涸れ始めている
1.日本の水
①国内の水
②輸入している水
③捨てている水
④日本の水も充分ではない
2.世界の水
①アジアの国々
②アメリカとオーストラリア
3.木を育てよう
①節約は勿論だけれど
②水源涵養林
③だから、木を植えよう
汐崎教育福祉研究所
http://www8.plala.or.jp/shiozaki-IWE/images/water.pdf
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日本の水・世界の水 — 命の水が涸れ始めている
汐崎 郁代 © 2014年 12月 27日 1.日本の水
① 国内の水
多くの日本人は、なんとなく「日本は水が豊かできれいな国」だと思っているのでは
ないでしょうか。では、どうして? ふつう「水」と云われて、都会地に住む人がまず思
い浮かべるのは、飲んだり、料理に使う水、またお風呂や掃除や洗濯に使う、すなわち
生活用水か、または観光地で見る美しい湖水や川、滝の景色、澄んだ湧き水、あるいは
青い海の風景などだからでしょう。
けれども、もちろん、水はほかにも色々
の目的で使われています。例えば農業用水、
田んぼに引きこむ水や畑の作物に散布す
る水、家畜の飲み水や飼料作り、体を洗っ
たり小屋の清掃に使う水もあるでしょう。
また建築や家具・工芸品に使う木材は、水
が無くては育ちません。工業用水にもいろ
いろあって、機械・食品・医薬品やその他
の化学製品メーカー、その他数えれば限り
が無いし、誰でもがお世話になる病院などは、入院患者さんの衛生の問題を含め、いっ
たいどれだけの水が必要なのでしょうか。
国土交通省の、2006年のデータによると、日本人は生活用水として一人一日当り、平
均 305 リットル使うほか、農・工業用水にも一人一日当り平均で約 1,500 リットル、合
計 1,800リットルを使っているそうです。これは大きめのペットボトル約一千本ですね。
② 輸入している水
本当はこれだけではありません。日本ではこのほかに、①と同じくらいの水を輸入し
ています。そのことを見るために、ここでちょっと頭を切り変えて、食べ物のことを考
えてみましょう。最近は知っている人も多いと思いますが、日本人が食べる食料品のお
およそ 60%は、輸入品だと云われています。細かい数字は農林水産省が発表している統
計データなどに出ていますが、これがなかなか解りにくい。ざっと書くと、お米以外の
穀物=小麦その他は殆ど、砂糖や野菜・果物の農作物や、牛・豚肉などの畜産、乳製品
北海道、大沼
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などの酪農製品は半分以上、魚介類は半分くらい、輸入しています。と、いうことは、
私達の食べ物のあと 60%分を作るための水も、本当は(世界のどこかで)使っているこ
とになります。これを計算すると、一人一日当り、1,350 リットルほどです。ペットボ
トル 700本ですね。
そのほかにも木材は、建築・家具・製紙などに使われていますが、国産のものはたっ
た 28%、残りは世界中から輸入されているそうです。このことは、大日本山林会のホー
ムページに書かれています(余談ですが、大日本山林会は、秋篠宮が総裁をつとめてい
られます)。木もその 80%くらいは水で出来ていますから、木を育てるのに消費された
水の量を考えてみれば、やはり水を輸入しているのと同じことになります。木が育つの
に必要な水の量についての計算は難しいらしく、研究者の間でも色々と議論があるよう
なので、はっきりした数値はわかりませんが、食物の分と合わせると、少なくとも、国
内で使っている水と同程度以上を輸入していると云えそうです。後の項で書きますが、
これは実は、アジア大陸の多くの人々が使える量の 100倍以上です。このことだけ見て
も、日本は水に恵まれている、と云って
喜んでばかりはいられないのです。
また、日本が食料を一番多く輸入して
いるのはアメリカ、中国、オーストラリ
アで、カナダからは木材も輸入していま
す。最近はアメリカやオーストラリアも、
農業用の水源が涸れ始めている上、残っ
ている水も生活・工業廃水によって汚染
が進んでいるそうです。
③ 捨てている水
その様な中、日本では食料の半分ほどが、食べられずに捨てられているのをご存じで
しょうか。国連食糧農業機関の報告書には、食料の種類別に、生産量に対して無駄にな
る割合を、年間一人当りで載せてあります。ざっと全ての種類の平均をとってみると、
日本などのアジア先進国で、おおよそ 40%を無駄にしていることが判ります。水で考え
れば、1,000 リットル以上も無駄にしていることになるかと思います。日本人は一人で
3,000リットル以上も使って、しかもそのうち 1,000リットルも無駄に捨てています。そ
の一部は、実は水資源の少ない中国ほかのアジアから輸入しているのです。このことは
次の2.で詳しく書きます。
円筒分水(川崎市高津区久地=溝の口駅近) 川の水を付近の農地に公平に配分(1941年製作)
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④ 日本の水も充分ではない
むろん、日本国内にも水に不自由している地域はあります。都市部や特に臨海地域で
は水が不足していて、遠く山間部から延々水道管を引いて来て利用していますが、その
ことと森林破壊とは無縁ではないかも知れません。また天候のせいで臨時に渇水化する
地域のことは時々ニュースで伝えられる通り、全ての日本人が、豊かな筈の水の恩恵を
受けているわけではないことも、是非知っておいて頂きたいと思います。
ちなみに日本には約 1.3億人、世界人口 70億人の、わずか 2%しか人が住んでいない
のです。このことも頭に入れて、次の節を見て下さい。
2.世界の水
① アジアの国々
お相撲の逸ノ城さんは、モンゴルから日本に来てみたら「水道の蛇口から水が出て来
て、それが飲める」ことに、とてもびっくりしたそうです。逸ノ城さんはモンゴルのア
ルハンガイ県出身、標高 2,000メートルの土地です。この辺りでは水道も無くはないが、
一般的には井戸から地下水を汲み上げて生活に使います。水道も地下水を汲み上げて流
しているのだそうです。地下水はかなり豊かにあるらしいのだけれど、排水設備が充分
整備されていないので、地表から生活排水や工業廃水が滲み込むため、衛生上問題にな
ることもあるそうです。モンゴルから日本の三重大学に留学した学生さんが 2006 年に
書いた学位論文によると、特に最近、モンゴルも近代化が進むにつれて、汚染が年々ひ
どくなるとのことです。
モンゴルをはじめ中央アジアの国々は、世界一人口が多く、約 11億人の人々が住ん
でいるのに、実は水資源に恵まれないこと
でも世界一です。世界地図を見れば明らか
に、アジアの真ん中には茶色に塗られた広
大な領域が広がっていますね。特に最近明
らかになった衝撃的なニュースがあります。
それは、カザフスタンとウズベキスタンと
いう2つの国にまたがるアラル海が涸れ続
け、現在殆ど消滅した、というニュースで
す。アラル海はアム・ダリア、シル・ダリ
アという2本の川が流れ込む湖で、上の2
中央アジアからアラビア半島へかけての
砂漠は砂地ではなく、大小の岩が地表に露
出する、不毛の地だ。「ゴビ」と云うのは、
このような地質のこと。
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つの国のほか、流域にあるキルギス、タジキスタン、アフガニスタン、トルクメニスタ
ンの4つの国が、農・漁業の恩恵を受けて来ました。過去には世界第4位の大きさだっ
たのですが、沿岸で農業用水を取りこみすぎたことが原因で、干上がってしまいました。
このことは人々の生活をおびやかすだけでなく、雨が降らなくなり、健康被害も出てい
るそうです。勿論アラル海だけではありません。インドや中国、ロシアなどで農業の大
規模機械化が進んでいる今日この頃、地下水の急な枯渇が深刻になっています。前に述
べた国土交通省のデータによると、アジア一帯の国々の平均では、一人一日当り 20 リ
ットル以下しか水を使えないといいます。これでは、滅多にシャワーも使えないし、ま
してお風呂に入ることなどまず出来そうもありませんね。11億と云えば、日本の人口の
10倍にもなるのに、使える水は 100分の 1以下、ということです。日本はそのような国々
からさえ水を輸入しているのですから、これはもう、それらの国から「奪っている」と
さえ云えるでしょう。
アラル海がほぼ完全に消滅した。 日本ウズベキスタン協会—緊急シンポジウム(2014-10-16)から
② アメリカとオーストラリア
地下水の枯渇は途上国だけの問題ではありません。アメリカは日本が農産物を購入し
ている最大の取引先ですが、アメリカの農業は、大量に地下水を汲み上げ、巨大なスプ
リンクラーを使って広範囲に散水する、というやり方を続けて来ています。このため地
下水の急激な減少や、五大湖の水位が下がるという事態になり、その分、地上から生活
排水や農・工業排水が流れ込んで、結局、地下水も汚染が進んでいるそうです。当然、
これからのアメリカも取水制限をするでしょうし、そうなると農業生産物の輸出量も、
制限されるかも知れません。
同じように、オーストラリアも、地図を見れば明らかなように、ほとんど森の無い乾
燥地ですね。川は海岸近くを流れているだけで、中央部分は山と沙漠です。最近は頻繁
に干ばつに見舞われ、国は気候変動に対応して、灌漑用水の割り当てを調節するなどの
政策を始めたそうですから、今後の食料供給もどう変るかわかりません。
このように、地球上の水は本当に、危機的な状況になっていることを、理解して頂け
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たでしょうか。
3.木を育てよう
① 節約は勿論だけれど
まず節約ということは、だれでも思い付くでしょう。都市や村の自治体や、大きな会
社、施設などでは、最近は大規模な水の浄化設備を備えて再利用するなどして、節水の
考え方はかなり普及して来ました。個人ではこのようなことは無理でも、多くの人々は
すでに風呂の残り湯の再利用とか、洗い物は容器に貯めた水で洗うとか、その他色々実
行しておられることでしょう。
② 水源涵養林
ここではもう少し積極的に、水源確保のことを考えましょう。日本はどうして水が豊
富なのか、世界的に水の豊かな国はどのようなところでしょうか。答えは明らかに、地
図が緑色に塗られている地域、すなわち森林地帯ですね。森では木が根元に水を蓄え、
吸い上げて空中に蒸発させます。この間に水は濾過されて、きれいになった水がやがて
雨となって返って来ます。繁った沢山の樹の葉は雨を受けとめ、ゆっくりと地上に返し
ます。雨の一部は滲み込んで地下水になるでしょう。地下水はゆっくり流れて川や湖に
入る間に、ふたたび濾過されて、きれいな水になり、周りの土地をうるおして、また空
に帰り、循環します。
雨が降らなければ草木は育たない、育たなければ雨も降らない、その悪循環が沙漠の
水不足の原因となっています。水が無いからといって、やたらに深く井戸を掘り、地下
水を汲み上げた土地では、地下のミネラルが地上に流れて、塩害を引き起こしたり、中
には井戸水に有毒なヒ素が溶けていて飲めなかったり、ということが実際に起っていま
す。
③ だから、木を植えよう
個人で出来ることとしては、自宅に木や
草を植えて育てるのは良いでしょう。また、
近くの公園や並木などの樹木を大切にす
ることも有用です。一人で出来なくても、
今では各地に森林保全や緑化を目的とし
たボランティアグループが活動していま 酒水の滝-滝沢川(神奈川県足柄上郡、 環境省選定-名水百選から)
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すから、それに参加するのも一つの方法です。自分で活動出来なければそれを応援する
だけでも良いし、寄付金を送るのも良いでしょう。お住いの地域だけでなく、日本各地
や、世界で活動しているグループも沢山ありますから、区役所などで調べてお金を寄付
するだけでも、役立ちます。小さなことでも良いから、私達の、地球の、水・そして生
活環境を救うために、行動を起こして頂ければ、幸いです。
以下に、参考資料を挙げておきます。
参考資料
— やさしい解説 —
国土交通省のデータ http://www2.aia.pref.aichi.jp/koryu/j/kyouzai/PDF/katsuyo-manyual-2/siryo/E/2/1.pdf 水土里(みどり)ネット北海道:http://www.htochiren.jp/tkyujin/kankyo.htm 消滅の危機にひんするアラル海 - NHKオンライン http://cgi4.nhk.or.jp/eco-channel/jp/movie/play.cgi?did=D0013770428_00000 日本ウズベキスタン協会—緊急シンポジウム(2014-10-16) http://nobuhiko-shima.hatenablog.com/entry/20141016 アメリカ 加速度的に地下水枯渇:
ハザードラボ、http://www.hazardlab.jp/know/topics/detail/1/3/1308.html 山林会ホームページから:http://www.sanrinkai.or.jp/back2/back/message2.html 「水の基本」、ほか:千賀裕太郎監修、誠文堂新光社 環境省ホームページ:
「仮想水計算機」、http://www.env.go.jp/water/virtual_water/kyouzai.html
— その他の解説・記事 —
モンゴル・ウランバートル周辺地域の河川. 水、地下水の水質: Oyun, Volodiya, 三重大学、
2007: http://miuse.mie-u.ac.jp/bitstream/10076/8965/1/2006L002.pdf 国際農林業協働協会-JAICAFホムページ: http://www.jaicaf.or.jp/fao/publication/shoseki_2011_1.htm
オーストラリアにおける農産物の生産・貿易政策の現状:日本貿易振興機構(JETRO) https://www.jetro.go.jp/jfile/report/07000023/05001663.pdf 環境省選定 名水百選/名水一覧:https://www2.env.go.jp/water-pub/mizu-site/meisui/list/
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— 統計データ — 国土交通省、水資源: http://www.mlit.go.jp/mizukokudo/mizsei/mizukokudo_mizsei_fr2_000012.html 農林水産省、食料需給インフォーメーション:http://www.maff.go.jp/j/zyukyu/jki/ 農林水産省、海外食料需給レポート-2014/15 http://www.maff.go.jp/j/zyukyu/jki/j_rep/annual/pdf/05_trade.pdf 林野庁ホームページ、統計情報、平成 24年度木材需給表: http://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/mokuzai_zyukyu/index.html 米国における水質保全のための排水権取引制度‐ 主役は農業汚染対策‐ LA-51 日本政策投資銀行、ロサンゼルス事務所、2003年11月、 駐在員事務所報告 国 際 部 http://www.dbj.jp/reportshift/area/losangeles/pdf_all/051.pdf