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プラスチックには熱可塑性プラスチックと熱硬化性プラスチッ
クがある。両プラスチックの主要な構成成分はポリマー(高分
子)であるが、分子構造には大きな違いがある。本章では、プラ
スチックの基礎知識を深めるためポリマーの概念、両プラスチッ
クの構造的な相違点、成形材料のできるまでの工程、製造法、成
形加工法などについて解説する。
第1章
プラスチックの基礎
10
プラスチックとは1.1
1.1.1 ポリマーの概念 「ポリマー(高分子)」の基本的な定義は IPUPAC(国際純正応用化学連合)の高分子命名員会によって提案されており、本質的には構成単位(モノマーユニット)が合成反応によって繰り返し結合した重合体(ポリマー)とされている1)。この繰り返し結合の数を重合度といい、分子量はモノマーユニットの分子量と重合度の積である。一般的に分子量 10,000 以上(重合度100 以上)のものを「ポリマー」、10,000 以下(重合度 2~100)のものを「オリゴマー(低重合体)」と称している。 例えば、ポリエチレンの化学式は次の通りである。 [-CH2-CH2-]n ここで、モノマーユニット(原子量 C:12、H:1)の分子量mは 28 であるから、重合度 nが 10,000 の場合には分子量(m×n)は 280,000 となる。ただし、ポリマーには分子量分布があるので、実際には平均分子量として表現する。また、単純な線状ポリマーではなく分岐構造、網状構造などもあるので複雑である。 ポリマーには天然ポリマー、半合成ポリマー、合成ポリマーがある。天然ポリマーには、自然界に存在するセルロース、デンプン、タンパク質、天然ゴムなどがある。半合成ポリマーは天然ポリマーを化学変性したもので、ニトロセルロース、アセチルセルロースなどがある。合成ポリマーは、主として石油原料から化学合成されたモノマーを重合してポリマーに合成したものである。合成ポリマーにはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレートなどを始め、その他の多くのポリマーがある。現在ではポリマーというと合成ポリマーを意味することが多い。また、ポリマーを原料にした材料または製品には、プラスチック、繊維、ゴム、塗料などがある。
第1章 プラスチックの基礎
11
1.1.2 熱可塑性プラスチックと熱硬化性プラスチック JIS 用語の定義では、プラスチックは「必須の構成成分として高重合体(ポリマー)を含み、かつ完成製品へのある段階で流れによって形を与え得る材料」となっている。分かりやすく表現すれば、ポリマーを必須構成成分とした成形可能な材料である。また、プラスチックのことを「樹脂」と表現することもある。樹脂の語源は樹木から分泌され滲みだして固まった樹脂状物質のことであるが、その後、プラスチックのことを「合成樹脂」または略して「樹脂」と表現するようになった。 プラスチックは熱可塑性プラスチックと熱硬化性プラスチックに大別される。( 1)熱可塑性プラスチック
「可塑性」とは、力を加えると変形し、力を除いても元に復元しない性質をいう。加熱すると可塑性を示すものを「熱可塑性」という。熱可塑性プラスチックは、加熱すると可塑性を示して賦形でき、冷やすと固体(成形品)になるものである。再度加熱すると可塑性になり成形できる。熱可塑性プラスチックは熱可塑性ポリマーを主原料にして、必要に応じて添加剤、充填材、着色剤を加えたものである。プラスチックの性質は、主原料である熱可塑性ポリマーの性質を反映する。 熱可塑性ポリマーの概念図を図 1.1に示す。熱可塑性ポリマーは長い鎖状の巨大分子の集合体である。個々のポリマーは共有結合(一次結合)で結合している。一方、ポリマー分子間はファンデルワールス結合や水素結合(二次結合)で結合し、かつ分子間に絡み合いも存在する。それぞれの結合エネ
図 1.1 熱可塑性ポリマーの概念図
分子間結合:水素結合、ファンデルワールス結合
分子結合:共有結合
分子の絡み合い
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ルギーの大きさを表 1.1に示す2)。ポリマー分子の共有結合エネルギーは金属結合に匹敵する大きさである。一方、分子間のファンデルワールス結合や水素結合エネルギーは分子結合エネルギーの約 1/100 オーダーである。また、分子間には絡み合い点が多いほど分子間力は大きくなる。なお、水素結合はアミド基(-NHCO-)や水酸基(-OH)を有する一部のポリマーに限られており、多くのポリマーの分子間はファンデルワールス結合で結合している。 熱可塑性ポリマーを加熱すると分子の熱運動が活発になり、分子間隔が拡がるので、分子相互間の結合力が弱くなる。そのため、温度上昇に伴って強度や弾性率は低下し、やがて可塑性を示すようになる。同時に熱運動によって体積膨張を示す。逆に、冷却すると熱運動は次第に不活発になり、やがて固化する。この過程では体積減少を示す。( 2)熱硬化性プラスチック
熱硬化性プラスチックは、成形材料の段階では流動性を示して成形でき、加熱すると硬化するプラスチックである。いったん硬化すると加熱しても流動しないので再度成形することは困難である。 熱硬化性プラスチックの硬化後の分子構造の概念を図 1.2に示す。熱可塑性ポリマーとは異なり橋かけ構造(架橋構造)になっている。分子間に橋が架かった構造であるので「網状ポリマー」とも呼ばれている。架橋構造になることで見かけ分子量は増大してポリマーとなる。架橋分子は強固な共有結合であるので、架橋構造になると分子の熱運動は制約される。そのため再度加熱しても可塑性を示さなくなる。もちろん、熱硬化性といってもすべての分子が架橋しているわけではないので、温度上昇に伴ってある程度は強度や
表 1.1 分子結合の種類と結合エネルギー2)
分類 結合の種類結合
エネルギー(kcal/mol)
分子間力が働く分子間距離(nm)
該当するプラスチック
一次結合(分子結合)
共有結合 50~200 0.1~0.2 プラスチック全般
二次結合(分子間結合)
水素結合 2~7 0.2~0.4 ポリアミド
ファンデルワールス結合
0.01~1 0.3~0.5 プラスチック全般
第1章 プラスチックの基礎
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弾性率は低下する。 また、架橋反応によって共有結合するため架橋収縮を起こす。熱硬化性プラスチックの強度特性は架橋密度に左右される。ここで「架橋密度」とは、全体の構造単位に対する架橋を起こした構造単位の数の割合である。
1.1.3 成形材料ができるまで( 1)熱可塑性プラスチック
石油を原料とする熱可塑性プラスチックを例にして、成形材料ができるまでの工程を図 1.3に示す。同図のように原油を常圧蒸留によって沸点別に分
図 1.2 熱硬化性プラスチックの概念図
架橋点 架橋分子プレポリマー(低重合体)
図 1.3 成形材料ができるまでの工程(石油原料の例)
原油 モノマー
ポリマー
プラスチック成形材料
コンパウンディング
LPG
ガソリン
ナフサ
灯油
軽油
重油
蒸留 分解、化学合成 重合
配合剤