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- 25 - ユニバーサルデザインの考えを取り入れた授業づくりに関する研究 -個々の学習スタイルを生かした学び合いを通して- 宇部市立東岐波小学校 教諭 関本 清子 1 研究の意図 (1) 研究の背景 平成19年4月文部科学省は、「特別支援教育の推進について(通知) *1 」において、「特別支 援教育は、障害のある幼児児童生徒への教育にとどまらず、障害の有無やその他の個々の違い を認識しつつ様々な人々が生き生きと活躍できる共生社会の形成の基礎となるものであり、我 が国の現在及び将来の社会にとって重要な意味をもってくる」と述べている。 また、同年12月に「障害者基本計画-重点施策実施5カ年計画(後期)- *2 」(内閣府)が策定され、 共生社会の実現に向けて、さらなる取組の目標等が定められた。本計画では、「障害の有無に かかわらず、国民誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合う社会」において「自己選択と自己 決定の下に社会のあらゆる活動に参加、参画」できることが重要であると述べられている。さら に、「利用者本位の支援を行うこと」や「地域における自立や社会参加に係る障壁を除くため、 誰もが快適で利用しやすいユニバーサルデザインに配慮した生活環境の整備等を推進するこ と」等も述べられている。 ユニバーサルデザインとは、様々な立場の人にとって可能な限り使いやすいデザインであり、 好みや能力に合わせて、自己選択して利用できるものである。多様な他者を互いに理解し、認 め合い、受け入れること、つまり「多様性の尊重」をめざしているといえる。 こうしたユニバーサルデザインの考えは、教育においても注目され、障害の有無にかかわら ず、幼児児童生徒一人ひとりの多様な教育的ニーズに対応していくことの重要性が述べられて いる。国立特別支援教育総合研究所の廣瀬氏(2009)は、特別な教育的ニーズのある子どもへ の指導や支援は、多様な教育的ニーズのあるすべての子どもへの指導や支援に役立つという 認識から、特別支援教育にユニバーサルデザインの考えを取り入れた授業づくりを行うこと で、すべての子どもが主体的に学習し、相互理解を深めることができるとしている。 (2) ユニバーサルデザインの考えを取り入れた授業 特別な教育的ニーズのある児童を含め、様々なニーズのある児童が在籍する学級において、す べての児童の教育的ニーズに応えるためには、個別に行う支援で対応することに加えて、一斉 授業の中に多様なニーズに応じる適切な指導や支援を始めから盛り込んで授業をデザインす ることが重要と考える。 そこで、本研究では、ユニバーサルデザインの考えを取り入れた授業を、「特別な指導や支 援を必要としている児童だけでなく、学級すべての児童の幅広い興味・関心や学力等に対応し、 多様な学びを可能な限り保障できる授業」ととらえることとし、授業づくりに取り組むことに した。 また、「幅広い興味・関心や学力等に対応」できる授業づくりを行うために、個々の学習ス タイルに焦点を当てることとした。児童が複数の学習スタイルの中から「自分に合った学びや

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ユニバーサルデザインの考えを取り入れた授業づくりに関する研究

-個々の学習スタイルを生かした学び合いを通して-

宇部市立東岐波小学校 教諭 関本 清子

1 研究の意図

(1) 研究の背景

平成19年4月文部科学省は、「特別支援教育の推進について(通知) *1」において、「特別支

援教育は、障害のある幼児児童生徒への教育にとどまらず、障害の有無やその他の個々の違い

を認識しつつ様々な人々が生き生きと活躍できる共生社会の形成の基礎となるものであり、我

が国の現在及び将来の社会にとって重要な意味をもってくる」と述べている。

また、同年12月に「障害者基本計画-重点施策実施5カ年計画(後期)-*2」(内閣府)が策定され、

共生社会の実現に向けて、さらなる取組の目標等が定められた。本計画では、「障害の有無に

かかわらず、国民誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合う社会」において「自己選択と自己

決定の下に社会のあらゆる活動に参加、参画」できることが重要であると述べられている。さら

に、「利用者本位の支援を行うこと」や「地域における自立や社会参加に係る障壁を除くため、

誰もが快適で利用しやすいユニバーサルデザインに配慮した生活環境の整備等を推進するこ

と」等も述べられている。

ユニバーサルデザインとは、様々な立場の人にとって可能な限り使いやすいデザインであり、

好みや能力に合わせて、自己選択して利用できるものである。多様な他者を互いに理解し、認

め合い、受け入れること、つまり「多様性の尊重」をめざしているといえる。 こうしたユニバーサルデザインの考えは、教育においても注目され、障害の有無にかかわら

ず、幼児児童生徒一人ひとりの多様な教育的ニーズに対応していくことの重要性が述べられて

いる。国立特別支援教育総合研究所の廣瀬氏(2009)は、特別な教育的ニーズのある子どもへ

の指導や支援は、多様な教育的ニーズのあるすべての子どもへの指導や支援に役立つという

認識から、特別支援教育にユニバーサルデザインの考えを取り入れた授業づくりを行うこと

で、すべての子どもが主体的に学習し、相互理解を深めることができるとしている。 (2) ユニバーサルデザインの考えを取り入れた授業

特別な教育的ニーズのある児童を含め、様々なニーズのある児童が在籍する学級において、す

べての児童の教育的ニーズに応えるためには、個別に行う支援で対応することに加えて、一斉

授業の中に多様なニーズに応じる適切な指導や支援を始めから盛り込んで授業をデザインす

ることが重要と考える。 そこで、本研究では、ユニバーサルデザインの考えを取り入れた授業を、「特別な指導や支

援を必要としている児童だけでなく、学級すべての児童の幅広い興味・関心や学力等に対応し、

多様な学びを可能な限り保障できる授業」ととらえることとし、授業づくりに取り組むことに

した。 また、「幅広い興味・関心や学力等に対応」できる授業づくりを行うために、個々の学習ス

タイルに焦点を当てることとした。児童が複数の学習スタイルの中から「自分に合った学びや

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すい学習スタイル」を自己選択して学習に生かすことで、より主体的かつ意欲的に取り組む

ことができると考えた。さらに、グループや全体の場で互いの思いや、多様な考えを伝え合

い学び合うことで交流を深め、「学びの共有による相互理解の促進」を図ることをめざした。 (3) 研究の仮説

本研究では、仮説を「個々の児童が自分に合った学びやすい学習スタイルを生かして学び、

グループや全体の場で互いの思いや多様な考えを伝え合うことで、学習意欲が高まるとともに、

他者との交流を深めることができる」とし、研究を進めることとした。

2 研究の内容

(1) 学習スタイルのとらえ方と分類

辰野(1989)は、学習スタイルを「学習の際に好んで用いる認知活動、学習活動の様式・方

法*3」と定義している。学習スタイルは、刺激や情報を受け止め、処理する過程のどの段階、

つまり知覚、記憶、思考のどの段階に重点を置くかによって、いろいろな見方ができる。また、

外界からの刺激や情報を受け取るとき、その見方、受け止め方、さらには処理の仕方は人に

よって異なっている。

本研究では、情報の取入れ方に焦点を当て、Neil.Flemingと Colleen.Millsが考案したVARK

システムを参考にして学習スタイルを分類した(表1)。

VARK システムは学習の際の情報の取入れ方の分類法で、情報の取入れに使用する経路(チャン

ネル)を4つに分類している。人間はいくつかのチャンネルを使って情報を取り入れている

が、どのチャンネルを優先して使用するかには個人差があるとされる。自分に合った学びや

すい学習スタイルに気付き、自己選択し、活用することは特別な教育的ニーズのある児童だ

けでなく、すべての児童にとって学びやすく、学習意欲が高まると考える。

(2) 児童の実態把握

まず、授業を実施する第5学年の児童が好む学習スタイルを把握するために、生活や学習

の個人記録の整理と担任からの聞取り及び観察を行った。自分の考えを文章にして考えるよ

りも、絵や図を描きながら考えることを好む児童が多いこと、実験や操作活動等、身体を動

かしながら学習することを好む児童が多いこと等の具体的な実態を把握することができた。

さらに、個々の児童の学習スタイルを客観的に把握するために、VARK システム及び川崎市

総合教育センターの研究(2006)を参考にして、学習スタイルの好みを問う質問紙「学習ス

タイルチェックシート」(表2)を作成し、第5学年4クラスの児童(138 人)に実施した。こ

の質問紙は、4つの学習スタイルについての設問が各7項目ずつあり全部で 28 項目の設問か

ら構成されている。この「学習スタイルチェックシート」の回答結果から、各学級における

学習スタイル別の人数の把握と児童一人ひとりの学びやすい学習スタイルの推定を行った。

学習スタイル 情報の取入れ方の例

V 見る(Visual) 地図や図表、絵や写真、動画等を活用して視覚的に情報を取り入れる。

A 聴く(Aural) 講義、講演等音声による説明や効果音等を活用して聴覚的に情報を取り入れる。

R 読む/書く

(Reading/Writing)

文章を読んだり、説明する文章を書いたりするなど文字を活用して情報を取り入れ

る。

K 運動(Kinesthetic) 身体の動きを活用して情報を取り入れる。

表1 VARKシステムを参考にした学習スタイルの分類

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図1は、5年A組(36 人)の児童の回答結果を示している。この結果から、個々の児童が

好む学習スタイルは、学級内において偏りがあることが分かった。また、図2に示すAさんの

ように、1つの学習スタイルが他の学習スタイルよりも高い得点を示す児童と、Bさんのよう

に、複数の学習スタイルがほぼ同じ得点を示す児童がいることも明らかになった。個々の「学習

スタイルチェックシート」の結果は、一人ひとりの児童に知らせ、児童が自分に合う学びやす

い学習スタイルを考える場において参考とさせた。

設問項目

<4:とてもそう思う 3:そう思う 2:あまりそう思わない 1:そう思わない の4段階で回答>

V「見る」学習スタイル

過去の出来事を思い出すとき、景色やその場の様子を写真や絵のように思いうかべることができる。

算数の文章問題をとくとき、イラストや図を描くと分かりやすい。

地図を見て、場所をさがすことが得意である。

漢字を覚えるとき、見るだけで覚えることができる。

道具の使い方の説明を聞くよりも、人が使っているところを見た方がよく分かる。

工作をするとき、図を見ると作りやすい。

ジグソーパズルが好きである。

A「聴く」学習スタイル

文章で書かれた説明を読むよりも、説明を聞いた方が分かりやすい。

まわりが少しうるさくても、先生や友だちの話を聞き取ることができる。

友だちの考えを聞いて、話し合いながら学習するのが好きである。

詩を覚えるとき、先生や友だちが読むのを聞くと覚えやすい。

都道府県名を覚えるとき、歌ったり声に出して言ったりすると覚えやすい。

考えをまとめるとき、声に出して言うと、整理しやすい。

歌詞を覚えるとき、CDを聞くだけで覚えることができる。

R「読む/書く」学習スタイル

むずかしい言葉の意味は、国語辞典の説明を読むとよく分かる。

絵や図を見るよりも、言葉で説明が書いてある方が分かりやすい。

自分の考えは人と話すよりも、書いた方が整理しやすい。

詩を覚えるとき、書くと覚えやすい。

工作するとき、文字で書かれた説明を読むと作りやすい。

メモをとることが得意である。

長い文章を読むことが好きである。

K「運動」学習スタイル

物語の登場人物になったつもりで、身体を動かしてみると、様子や気持ちがよく分かる。

空気や水の性質を調べるとき、教科書を読むよりも、実験して調べる方が好きである。

新しいわざを身につけるとき、身体を動かしながら練習をするのが好きである。

物を作るとき、切ったり組み合わせたりして試しながら作るのが好きである。

分数の学習をするとき、ますや折り紙を使いながら学習すると分かりやすい。

話をするとき、自然に手や身体が動く。

音楽を聞くとき、自然に身体が動く。

表2 「学習スタイルチェックシート」の設問項目

学習ス

タイル

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(3) 個々の学習スタイルを生かした学び合いの授業づくり

個々の児童の学習スタイルを生かした学び合いの授業

づくりを行うに当たり、教科を国語科に絞って研究を進

めることとした。なお、国語科の授業においては、言語

活動の充実を図ることが特に重要である。そこで、授業

実践では、「学習スタイルを生かす」、「学び合いを深

める」という本研究の視点に、「言語活動を充実する」と

いう視点を加え、授業づくりを行うこととした。

そして、「学習スタイル」について、「知る」、「選択する」、「活用する」の3つの Step(図

3)を授業の中に段階的に取り入れることで、自分に合った学びやすい学習スタイルを生かし

て「学び合いを深める」ことができると考えた。

まず、「知る」段階では、4つの学習スタイルをすべ

て体験させ、学習スタイルには様々な種類があることを

知らせる授業を仕組んだ。そして、授業での体験による

「学びやすいと感じた学習スタイル」と「学習スタイル

チェックシート」の回答結果から「学びやすいと推定さ

れた学習スタイル」を比較・検討し、自分に合った学習

スタイルについて考える場を設定した。

次に、「選択」の段階では、自分にとって学びやすい

と考えられる学習スタイルを1つ自己選択して学習す

る授業を仕組んだ。

さらに、「活用」の段階では、自分に合った学びやすい学習スタイルを1つ自己選択するだ

けでなく、複数選択したり組み合わせたりすることで、新たな視点を獲得するなど、より学習

が深まる授業を仕組んだ。

また、すべての段階において、学習したことをグループ内や全体の場で共有できる場を設定

し、「相互理解の促進」や「言語活動の充実」も図ることとした。

(4) 授業実践

ア 単元の概要

授業は、第5学年国語科「詩を味わおう」の単元で担任とのTTで実施した。全9時間の

図1「学習スタイルチェックシート」の回答結果(5年A組)

図2「学習スタイルチェックシート」

による回答結果(AさんとBさん)

人数

図3 学習スタイルの取入れ方の3段階

0 5 10 15(人)

Aさん「読む/書く」学習スタイルが合うと推定

Bさん 複数の学習スタイルが合うと推定

20

自分に合う学習スタイルの推定結果を知る

Step2 学習スタイルを選択する

Step1 学習スタイルを知る

Step3 学習スタイルを活用する

16

20 18

V 見る

A 聴く

R読む/書く

K 運動

複数

14

3

1

13

5 R読む/書く

V見る

A聴く K運動

13

28

15 13

K運動

V見る

A聴く

R読む/書く

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単元計画については、表3に示す。

1学期には自然の描写が中心の3編の文語詩「晴間/海雀/雪」の授業を、2学期前半には物

語的な空想の詩「未確認飛行物体」の授業を、2学期後半にはなぞ解き、比喩、連想等の表現

が工夫された4編の短詩「ねぎぼうず/ケムシ・―/耳/蝶」の授業を3時間ずつ計9時間実施し

た。

教材名

(実施時期)

目標及び指導計画

(○:目標 (1)~(3)は指導計画)

学習スタイルの 生かし方

Step1 知る

Step2 選択

Step3 活用

「晴間/海雀/雪」 全3時間

(7月中旬)

○文語の調子や言葉の響き・リズムに気を付けて、情景を

想像しながら読み、詩の表現の豊かさを味わうことがで

きる。

(1)「晴間」の情景を4つの学習スタイルを用いて想像しなが

ら表現の豊かさを味わう。

(2)「海雀」の情景を4つの学習スタイルを用いて想像しなが

ら表現の豊かさを味わう。

(3)「雪」の情景を4つの学習スタイルを用いて想像しながら

表現の豊かさを味わう。

「未確認飛行物体」

全3時間

(9月中旬)

○詩の表現を味わい、作者のものの見方・感じ方について考え、

感想をもつことができる。 ○詩を読んで考えたことを伝え合い、自分の考えを広げたり深

めたりすることができる。 (1)難語句を調べ、自分の学びやすい学習スタイルを選択して

詩の情景を想像し、イメージを膨らませる。

(2)詩の情景や心情を想像してイメージを膨らませ、同じ学習

スタイルのグループで学び合う。

(3)学習スタイル別のグループで学び合ったことを全体に伝

え交流する。

「ねぎぼうず /ケ

ムシ・―/耳/蝶」 全3時間

(10 月下旬)

○短詩を読み、言葉のもつ意味を想像したり、表現のよさを味

わったりすることができる。 ○自ら選択した題材について、イメージを膨らませて短詩を書

くことができる。 ○書いた詩を発表し合い、表現の仕方に着目して感想を交流す

ることができる。 (1)学習スタイルを活用しながら「ねぎぼうず」、「ケムシ・

―」の表現のおもしろさを味わう。

(2)学習スタイルを活用しながら「耳」、「蝶」の情景を想像し、

表現の豊かさを味わう。

(3)自分に合う学習スタイルで取材した後、異なる学習スタイ

ルを取り入れ、複数の学習スタイルを組み合わせた新たな

学習スタイルを用いて短詩を作る。

イ 授業実践①「詩を味わおう 晴間/海雀/雪」

(ア) 授業の実際

「晴間/海雀/雪」の授業では、Step1の「学習スタイルを知る」ことを主な目的として、詩の

情景を想像し、イメージを膨らませる学習を行った。それぞれの詩の情景に合った写真や絵を

提示したり、効果音やつぶやきの声を聴かせたり、視写や書き込みをさせたり、動作化をさせ

たりする学習活動を通して、4つの学習スタイルを体験させた(表4)。

さらに、それぞれの学習スタイルを体験した後に、自分に合う学びやすいと感じた学習スタ

イルを振り返る機会も設けた。

表3 第5学年国語科「詩を味わおう」(全9時間)の単元計画

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(イ) 授業の考察

児童は4つの学習スタイルを知り、授業の中で体験しながら学びやすい学習スタイルに

ついて考える機会をもつことができた。また、児童にとっては、文語調の詩の学習は初めて

であったが、学習スタイルを用いて学ぶことで、詩の情景をイメージしやすくなり、文語

の表現に対する抵抗感の減少にもつながった。さらに、ペアやグループでの学び合いを取

り入れ、詩の情景について想像したことを伝え合い、表現の豊かさを味わうことができた。

表5は、5年B組の児童(33 人)が、3時間の詩の授業から自分に合う学びやすい学習ス

タイルについて考え、振返りカードの設問に回答した結果を示している。全員の児童が自

分に合う学びやすい学習スタイルについて振り返る機会を設けたことで、個々の学習スタ

イルについての認識を深めることができた。そこで、授業実践①の体験を通して学びやす

いと感じた学習スタイルを授業実践②につなぎ、学習スタイルを「選択」する際の参考と

することが重要であると考えた。

振返りカードの設問項目(一部抜粋) 見る 聴く 読む/書く 運動

自分に合う学びやすい学習スタイルはどの学習

スタイルだと思いますか? 17 人 5人 3人 8人

また、児童の感想からも、3時間の授業での学習スタイルの体験を通して、より自分が

学びやすい学習スタイルについての自己理解が深まったことがうかがえた。そして、同じ

学習スタイルで学び合うと分かりやすく、楽しいと感じられたことも分かった。具体的に

は、以下のような感想(一部抜粋)があった。

学習スタイル 学習スタイルの体験の実際

「見る」

写真を見たり、想像したこと

を絵に描いたりして詩のイ

メージを膨らませる。

「聴く」

想像した音を擬態語にして声

に出したり、効果音やつぶや

きを入れた音読を聴いたりし

て詩のイメージを膨らませ

る。

「読む/

書く」

想像した情景を文字で書き加

えたり、物語に書き換えたり、

それらを読んだりして詩のイ

メージを膨らませる。

「運動」

想像した情景や人物の様子を

動作化して詩のイメージを膨

らませる。

表5 児童の振返りカード(5年B組)

表4 詩の学習での4つの学習スタイル

海雀の様子を

波の動きに合

わせて動作化

しながら 【海雀】

山の天候の移

り変わりに伴

う情景の変化

等を絵に描き

ながら【晴間】

雪の降り積もる

夜の情景や家の

中で子どもが眠

る様子等を行間

に書いて読みな

がら 【雪】

ザザァー

ザッパァーン

ピィーピィー

波の音や海雀の鳴き

声を聴きながら

【海雀】

海雀の動

きを波に

合わせて

やってみ

よう!

「波ゆりく

ればゆり上

げて」って こ ん な 動

き?

三好達治

雪が数日前からしんしん

と降り積もっている

太郎を眠らせ、

家の屋根には、たくさん

の雪が積もり、周りは一

面の雪景色

太郎の屋根に雪ふ

りつむ。

家の外は、静かに月明

かりに照らされている。

二連:激しい雷雨 三連:静かな晴間

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さらに、「学習スタイルを知る」学習を通して、詩の学習への興味・関心も高まったこ

とがうかがえた。具体的には、以下のような感想(一部抜粋)があった。

ウ 授業実践②「詩を味わおう 未確認飛行物体」

(ア) 授業の実際

「未確認飛行物体」の授業では、Step2の「学習スタイルを選択する」ことを主な目

的として、4つの学習スタイルの中から学びやすい学習スタイルを1つ自己選択し、そ

れぞれのグループに分かれて学びを深めることとした。そのため、「学習スタイルチェッ

クシート」の回答結果と前回の詩の授業での体験から、自分に合った学習スタイルにつ

いて事前に考える場を設定した。また、学習スタイルが同じグループ内で学びを共有す

るとともに、全体でも発表し、互いに交流を深めた。図4は5年C組(34 人)の授業での

様子を示したものである。

そして、個々の学習スタイルを選択して生かすことの効果について、自分に合った

学びやすい学習スタイルを自己選択した群と自己選択しなかった群とで比較し、検証

することとした。そのため、5年D組(34 人:4、5人×8グループ)では、学習スタ

イルを自己選択せず、全員が「読む/書く」学習スタイルで詩のイメージを膨らませた。

なお、その後の授業において、学習スタイルを自己選択させ、学び合いを深める機会

を設け、「学習スタイルを活用する」段階で、支障のないように配慮した。

図4 4つの学習スタイルの自己選択と学びの共有(5年C組)

○ 私たちは話合いで「眠らせ」というのは「お母さんが眠らせたのだろう」ということ

になったけれど、他のグループの友だちは、聴く学習スタイルを用いて学んだときに、

「雪の静けさが眠らせた」と考えていた。すごいなと思った。その意見を聞くと、私

もだんだんそう思えてきた。

○ 雪の詩を友だちが声に出して読んでくれたことで、たくさん想像することができた。

「海雀」の五・七・五のリズムと少しちがっていた。たった二文の詩が、太郎と次郎

の名前以外は同じ文のくり返しになっていておもしろいなと思った。

○ 「聴く」と「読む/書く」の学習スタイルを比べたら、自分には文字で書き込む「読む/

書く」学習スタイルが合っていると感じた。これからも、このことを活用して、学習

をスムーズに進めたいと思った。

○ 今日は「見る」学習スタイルで詩を勉強したことが一番心に残った。同じやり方でいっ

しょに勉強できる仲間とやった方が分かりやすく、楽しかった。また、他の詩を勉強

するときも、今日みたいなグループで学び合いをしたい。

録音して聴く

スピーカーで、

音読やつぶやき

を聴きながら

薬缶さん早

く来ないか

なあ・・・

はぁはぁ苦しい

よ、でも大好きな

花に早く会いた

いよ。

短冊に想像した

情景等を書いて

貼り、読みながら

R「読む/書く」学習スタイル(11人:3グループ)

A「聴く」学習スタイル(4人:1グループ)

ペープサートを使って

想像した薬缶と花の様

子を動作化しながら

プロジェクター

で、描いた絵を見

ながら

V「見る」学習スタイル(11人:3グループ)

K「運動」学習スタイル(8人:2グループ)

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以下に、本時の指導案を示す。

本時案(3/3時)

○ 本時のねらい

詩を読んで想像したことを伝え合い、自分の考えを広げたり深めたりすることができる。

○ 展開

学習活動・学習内容 教師の支援

T1 T2(担任)

1 前時を振り返り、本時のめあてを知

る。

・一輪の花に水をやる薬缶の様子

・めあての確認

2 詩を工夫して音読する。

・間の取り方

・強弱の付け方

・緩急 等

3 薬缶と花の様子について膨らませた

イメージを発表し、考えを交流する。

・息せき切って飛ぶ薬缶の様子

・一輪の花に水をやる薬缶の様子

・水をみんなかけられた一輪の花の様子

・水をみんなやって戻って来る薬缶の様子

V 「見る」学習スタイルで想像した

イメージ

A 「聴く」学習スタイルで想像した

イメージ

R 「読む/書く」学習スタイルで想

像したイメージ

K 「運動」学習スタイルで想像した

イメージ

4 交流を通して深めた読みを

ワークシートに書く。

・薬缶のやさしさ

・白い花への愛情

・一生懸命さ 等

5 本時のまとめをする。

・振返りカードの記入

・本時の感想

UD 前時の学習の感想を紹介し、多様な読みが

あることやその価値について知らせる。

・ 想像した薬缶の様子が表れるよう

に間を取ったり、強弱を付けたり、

緩急に気を付けたりして読ませる。

UD 前時に学習スタイル別のグループ

で学び合ったことを他の学習スタイ

ルの児童と共有できるようにさせる。

・ ワークシートを基に、読み取った

ことを伝え合わせる。

V「見る」学習スタイルの児童には、

ワークシートに描いた絵をプロジェ

クターで提示させ発表させる。

A「聴く」学習スタイルの児童には、

音やつぶやきを入れて音読させた

り、前時に録音した音読を再生し

たりして、みんなに聴かせる。

R「読む/書く」学習スタイルの児童に

は、短冊に書いた言葉を読ませたり、

黒板に貼らせたりして発表させる。

K「運動」学習スタイルの児童には、

前時に録画したビデオを使って動

きを説明させたり、ぺープサート

を利用して発表させたりする。

UD 友だちと自分のイメージを比べ、共感し

たところや違っているところについて意

見を交流させてよさを見つけ合わせる。

・ 読みが変わったところや深まった

ところを書き加えたり書き換えた

りさせる。

・ 作品の主題にかかわる表現を全体

で共有させる。

・ 学習を振り返り、自己評価や感想

を書かせる。

UD 学びの深まりや意欲が感じられる

感想を紹介し、みんなで学び合っ

たよさを伝える。

・事前に各自のワークシート

を配付しておく。

・集中して聴くことが難しい

児童には、個別に声を掛け

て集中できるように支援す

る。

・機器を使用する場合は、発

表の補助に入る。

・自己表現をためらう児童に

は、安心して発表できる方

法を助言する。

・優れた表現や伝え方を褒め

て意欲をもたせる。

・ワークシートへの記述が難

しい児童には、板書を参考

にして記述するように助言

する。

・振返りカードの記入が進ま

ない児童は、ワークシート

に立ち返らせて記入できる

ように支援する。

※UD ユニバーサルデザインの考えを取り入れた支援 学習スタイル:V見る、A聴く、R読む /書く、K運動

薬缶と一輪の花の様子について想像したことを伝え合おう

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(イ) 授業の考察

授業後に、児童は授業実践の視点「学習スタイル」、「学び合い」、「言語活動」の3項目(表

6)に対して4段階で自己評価した。そして、自分に合った学びやすい学習スタイルを自己選

択した群と自己選択しなかった群で回答結果を比較した(図5)。

「学習スタイル」について問う質問では、

同じ学習スタイルを選択したグループで学び

合った学習スタイル選択あり群の平均値が

3.3 であるのに対して、学習スタイル選択な

し群の平均値は 2.9 であった。この結果から、

「学習スタイル」を自己選択して学ぶことを

通して、児童は自分に合った学びやすい「学

習スタイル」を学習に役立たせることができ

ると感じることが明らかになった。

「学び合い」について問う質問では、学習

スタイル選択あり群の平均値が 3.5 であるの

に対して、学習スタイル選択なし群の平均値

は 3.2 であった。自分に合った学びやすい「学

習スタイル」を自己選択して学ぶことは、他

のグループの多様な考え方やよさを見つける

ことに役立つ結果となった。児童は、自分た

ちの学び方だけでは気付かなかったことに気

付いて、学びを深めることができたと考える。

「言語活動」について問う質問では、学習

スタイル選択あり群の平均値が 3.7 であるの

に対して、学習スタイル選択なし群の平均値は 3.2 であった。自分に合った学びやすい「学

習スタイル」を自己選択して学ぶことは、詩の情景や心情をより豊かに想像させ、積極的な表

現活動に結び付く結果となった。

さらに、児童の感想には「他の学習スタイルのグループの考え方や発表が自分の想像を膨

らませるヒントになり役立った」、「他のグループのよいところや、改めて自分たちのよいと

ころが分かってよかった。次の詩の学習も頑張りたい」などがあり、児童の自己評価の結果

だけでなく、感想からも主体的に学習に取り組み、学習意欲が高まったことやグループ内だ

けでなく学級全体で他者との交流を深めたことがうかがえた。

エ 授業実践③「詩を味わおう ねぎぼうず/ケムシ・―/耳/蝶」

(ア) 授業の実際

「ねぎぼうず/ケムシ・―/耳/蝶」の授業では、Step2までの学習を生かして、Step3の「学

習スタイルを活用すること」を主な目的として、4つの短詩について学習した後、短詩作り

の学習を行った。以下、短詩作りの学習について述べる。

まず、題材についての取材は、自分に合った学びやすい学習スタイルを自己選択して取り

組むことができるようにした。そして、詩の推こうを行う場面では、異なる学習スタイルを選択

自己評価の質問項目

(4:よくできた ~1:できなかったの4段階で評価)

学習

スタイル

それぞれのグループで学んだことが、学

習に役立ったと思いますか。

学び合い 他のグループの考えを聞いて、よさを見

つけることができましたか。

言語活動 詩の情景や心情をより想像して書いた

り発表したりすることができましたか。

図5 児童の自己評価

-学習スタイル自己選択あり群となし群の比較-

表6 児童の自己評価の質問項目

3.2

3.2

2.9

3.7

3.5

3.3

0 1 2 3 4

言語活動

学び合い

学習スタイル

学習スタイル自己選択あり 学習スタイル自己選択なし

評価項目

自己評価

0 1 2 3 4 (点)

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した児童とともに、グループ内や学級全体で交流する活動を通して、複数の学習スタイルを

組み合わせて学習することとした。以下に本時の指導案を示す。

本時案(3/3時)

○ 本時のねらい

・自分に合った学習スタイルで題材の情報を取り入れ、イメージを膨らませることができる。

・比喩、連想等の表現を工夫して、短詩作りができる。

・書いた詩を発表し合い、表現の仕方に着目して感想を交流することができる。

○ 展開

学習活動・学習内容 教師の支援

T1 T2(担任)

1 前時を振り返り、本時のめ

あてを知る。

・前時の振返り

・めあての確認

2 多様な学習スタイルを生

かして、グループで詩の題

材についてイメージを膨ら

ませ、言葉に置き換える。

V 「見る」学習スタイルで想像

したイメージ

A 「聴く」学習スタイルで想像

したイメージ

R 「読む/書く」学習スタイルで

想像したイメージ

K 「運動」学習スタイルで想像

したイメージ

3 表現を工夫して短詩を作

る。

・なぞ解き

・比喩

・連想

UD 児童が事前に書きたい題材につ

いて取材した情報を把握し、4つ

の学習コーナーを設置しておく。

UD 見る、聴く、読む/書く、運動

の4つの学習スタイルから自

分が想像を膨らませやすい学

習スタイルを選ぶことができ

るようにさせる。

・ 書きたい題材についてのイメー

ジを膨らませることができる

よう、グループ内で学び合い、

表現の工夫に生かせるように

させる。

UD 1つの学習スタイルだけでな

く、複数の学習スタイルでイ

メージを膨らませてもよいこ

とを知らせる。

・ 自分の思いを効果的に表現で

きるよう、言葉の選び方や表

現方法等について個別に助言

する。

・ 短冊の表には作品を書き、裏

には作品に込められた気持ち

や工夫点を記述させる。

・題材カードを配付しておく。

・集中して活動することが難し

い児童には、個別に声を掛けて

集中できるように支援する。

・想像することができにくい児

童には、自分に合った学習スタ

イルや情報の手掛かりについ

て助言したり、提示したりす

る。

・機器を使用する児童がいる場

合は、操作の補助に入る。

・短冊に書いた詩を黒板に掲示

して、作品を鑑賞したり、参

考にしたりできるようにさせ

る。

・表現された言葉を吟味させた

り、創作活動を楽しませたりす

るため、短冊を複数用意する。

V 「見る」:写真・映像や絵を見ることができるようさせる。

A 「聴く」:効果音や声を聴くことができるようにさせる。

R 「読む/書く」:言葉による説明を読んだり書き込んだりすることが

できるようにさせる。

K 「運動」:題材の動きを動作化することができるようにさせる。

短詩を作ろう ― 山口の詩人「まど・―さん」になっちゃおう! ―

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(イ) 授業の考察

短詩作りの授業において、学びやすい学習スタイルを自己選択し、活用しながら学びを

深めた例を図6に示した。Cさんは、日頃から絵や図を描くことを好んでおり、自分に合っ

た学びやすい「見る」学習スタイルで「ハムスター」について取材を行った。実物を見なが

ら、ハムスターが走っている様子を絵に表し、「足速そう」と「ゴロゴロ」の二つの言葉

を書き添えた。

Cさんは、その後、自分とは異なる「読む/書く」学習スタイルを選択したグループ内

の児童とともに、取材した絵や自分の家で撮ってきた写真を用いて学び合う学習を通して、

「見る」学習スタイルに「読む/書く」学習スタイルを組み合わせていった。最初に書き

添えた言葉は2つであったが、新たな視点から多くの言葉を連想し、題材について多様な

とらえ方ができたので、表現を工夫して短詩を作ることができた。このように、学習スタ

イルを選択し、複数組み合わせて活用することによって、言語活動の充実も図ることがで

きたと考える。

(5) 3つの授業実践を通しての考察

本研究では、第5学年国語科「詩を味わおう」の単元全9時間の実践を通して、研究仮説で述

べた学習スタイルを生かすことの効果について検証を行った。

学習への取組の様子や授業後の児童の自己評価及び感想等から、学習スタイルを「知る」、

「選択する」、「活用する」という3つの Step で段階的に学ぶことにより、自分に合った学び

やすい学習スタイルを認識し、主体的に選択・活用できるようになることが分かった。

4 グループ内で詩を発表し、

感想を交流する。

・共感したところ

・表現のよさ

5 本時のまとめをする。

・詩の紹介

・感想の発表

UD 友だちの発表を聞いて、共感し

たところや表現のよさについて

意見を交流させ、グループ内の

多様な考えが互いに役立ったこ

とを確認し合うようにさせる。

・ 他のグループの友だちの作品

を学級全体で味わうことがで

きるようにさせる。

・ 学習を振り返り、自己評価や

感想を書いて発表させる。

・自己表現をためらう児童には、安

心して発表できる方法を助言す

る。

・振返りカードの記入が進まない児

童には、グループの友だちからの感

想を再確認できるようにさせる。

図6 児童の学習の深まり - 短詩作りにおけるCさんの例 -

※ UD ユニバーサルデザインの考えを取り入れた支援 学習スタイル:V見る、A聴く、R読む /書く、K運動

「ハムスター」 ○

○○

昼間はゴロゴロ

夜は走る練習

持久走は必ず一位

完成した短詩を交流 「見る」+「読む/書く」学習スタイルで推こう 「見る」学習スタイルで取材

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また、児童一人ひとりが、学習スタイルを生かして、意欲的に学ぶことで、単元の目標で

ある「情景を想像しながら読み、詩の表現の豊かさを味わうこと」や「詩を読んで考えたこ

とを伝え合い、自分の考えを広げたり深めたりすること」の達成につながったと考える。

3 まとめと今後の課題

(1) 研究のまとめ

本研究では、特別支援教育にユニバーサルデザインの考えを取り入れ、特別な指導や支援を

必要としている児童だけでなく、学級すべての児童のニーズに応じて、始めからみんなが学

びやすくなる授業づくりを試みた。VARKシステム

を参考にした「学習スタイル」を生かして学び合

う活動は、主体的な学習を促し、学習意欲を高め

たり、他者との交流を深めたりすることが分かっ

た。本研究における授業実践は、児童の多様性を

尊重し、一人ひとりのニーズに応じるユニバーサ

ルデザインの考えを取り入れた授業の一例となっ

たと考える(図7)。

(2) 今後の課題

今後は、国語科の「詩を味わおう」の単元にとどまらず、より多くの単元や他教科の実践

を通して、「ユニバーサルデザインの考えを取り入れた授業づくり」を追究していきたい。

また、授業形態、学習内容の伝え方、学級経営、教育環境等についてもユニバーサルデザ

インの考えを取り入れ、見直しを図りながら、学級すべての児童にとって、より学びやすく、

学びたくなる授業づくりを進めていきたい。

さらに、自分に合った学びやすい学習スタイルを主体的に選択・活用することを、長期的

視点から系統的、組織的に積み重ねることで、自己理解や他者理解を促進させ、多様性を認

め合い、相互に尊重し合う児童の育成を図りたい。

【引用文献】

*1:文部科学省、『特別支援教育の推進について(通知)』、2007

*2:内閣府、『障害者基本計画-重点施策実施5カ年計画(後期)-』、2007

*3:辰野千寿、『学習スタイルを生かす先生』、図書文化社、1989、p16

【参考文献】

廣瀬由美子・桂聖・坪田耕三、『通常の学級担任がつくる授業のユニバーサルデザイン』、東洋館出版社、2009

特別支援教育の実践研究会編 、『特別支援教育の実践情報(No124)―ユニバーサルデザインの考えによる特別支援教育―』、

明治図書出版、2008

小島道生・宇野宏幸・井澤信三、『発達障害の子がいるクラスの授業・学級経営の工夫』、明治図書出版、2008

高橋あつ子、『一から始める特別支援教育「校内研修」ハンドブック』、明治図書出版、2007

篠田千枝(岡山県総合教育センター)、『指導資料 通常学級における特別支援教育の観点から見た学級経営・授業づくり』、2009

栗山八寿子他(川崎市総合教育センター平成 18 年度研究紀要 20 号)、『通常の学級における特別な教育的ニーズのある

児童生徒に対する支援の在り方-オープン教室を通して子どもの自己肯定感を高める取組-』、2006

川内美彦、『ユニバーサル・デザイン-バリアフリーへの問いかけ』、学芸出版社、2001

Ron Hale-Evans、夏目大訳、『Mind パフォーマンスHacks 脳と心のユーザーマニュアル』、オライリー・ジャパン、2007

Neil.Fleming、『VARK a guide to learning style』、http://www.vark‐learn.com/english/index.asp

図7 研究のまとめ

ユニバーサルデザインの考えを

取り入れた授業づくり 「学習スタイル」を生かした学び合い

-VARK システムを参考にして-

主体的な

学習を促す