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人 間 行 動 学 科 地 理 学 コ ー ス
在 日 ベ ト ナ ム 人 の 移 住 か ら 見 た 定 住 ― 神 戸 市 長 田 区 を 事 例 と し て ―
学 部 文 学 部
卒 業 年 度 平 成 2 3 年 度
学 籍 番 号 A 0 8 L A 11 9
本 多ほ ん だ
あ ず さあ ず さ
目 次 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1
Ⅰ は じ め に ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2
1) 研 究 の 背 景 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2
2) 先 行 研 究 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 3
Ⅱ 在 日 ベ ト ナ ム 人 の 概 要 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 6
1) 難 民 の 歴 史 的 背 景 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 6
2) 日 本 の 対 応 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 8
3) 長 田 区 に お け る 在 日 ベ ト ナ ム 人 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 11
Ⅲ 在 日 ベ ト ナ ム 人 の 居 住 地 移 動 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1 3
1) 集 中 地 域 の 変 化 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 1 3
2) 長 田 区 へ の 移 住 と 定 住 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2 2
( a) 定 住 初 期 の 生 活 過 程 ― C の 事 例 ・ ・ ・ ・ ・ 2 4
( b) 長 田 区 へ の 「 再 移 住 」 ― H の 事 例 ・ ・ ・ ・ 2 6
Ⅳ 長 田 区 の 捉 え ら れ 方 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2 9
1) 定 住 の 事 例 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2 9
( a) 住 み や す さ を 語 っ た N の 事 例 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 2 9
( b) 家 を 買 っ た T の 事 例 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 3 0
( c ) 居 住 2 年 で 震 災 に 遭 っ た O の 事 例 ・ ・ ・ ・ 3 1
2) 考 察 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 3 3
Ⅴ 終 わ り に ・ ・ ・ ・ ・ ・ 3 7
注 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 4 0
参 考 文 献 ・ ・ ・ ・ ・ ・ 4 3
Ⅰ は じ め に
1) 研 究 の 背 景
1 9 8 0 年 代 以 降 、 ニ ュ ー カ マ ー の 外 国 人 が 多 数 来 日 す る
よ う に な り 、 日 本 に 住 む 外 国 人 の 数 は 年 々 増 加 し て い る 。
2 0 1 0 年 末 現 在 に お け る 外 国 人 登 録 者 は 約 2 1 3 万 人 で あ り 、
日 本 の 総 人 口 の 1 . 6 7 % を 占 め て い る 1 ) 。こ の よ う に 外 国 人
は 今 や 身 近 な 隣 人 と な り つ つ あ る が 、 彼 ら は 日 本 に お い
て ど の よ う に 生 活 し て い る の だ ろ う か 。
一 口 に 外 国 人 と い っ て も 彼 ら の 国 籍 や エ ス ニ シ テ ィ 、日
本 に 来 た 背 景 な ど は さ ま ざ ま で あ る 。 例 え ば コ リ ア ン タ
ウ ン が 形 成 さ れ る よ う に 彼 ら の 存 在 が 可 視 的 に 表 れ る こ
と も あ れ ば 、 そ の 存 在 や 生 活 の 様 子 が 表 か ら 見 え に く い
人 々 も い る 。 後 者 に あ た る エ ス ニ ッ ク グ ル ー プ の 一 つ が 、
ベ ト ナ ム 人 で あ る 。 日 本 に 在 住 す る ベ ト ナ ム 人 に は 、 ベ
ト ナ ム を 脱 出 し 日 本 に 来 た ベ ト ナ ム 人 難 民 の 人 々 が 多 い 。
1 9 9 4 年 で は ベ ト ナ ム 国 籍 者 総 数 8 , 2 2 9 人 に 対 し 、 ベ ト ナ
ム 人 難 民 の 累 計 は 7 , 1 6 9 人 で あ り ( 川 上 , 2 0 0 1)、 8 0 % 以
上 が 難 民 と し て 来 日 し た 人 々 で あ る 。 現 在 で は 、 難 民 で
は な い 形 で 来 日 す る ベ ト ナ ム 人 が 増 加 し て い る が 、 依 然
と し て 難 民 が ベ ト ナ ム 人 全 体 に 占 め る 割 合 は 大 き く 、 半
分 を 占 め る と 考 え ら れ る 。 し か し 難 民 と し て 来 日 し て 約
3 0 年 、 彼 ら が ど の よ う に 生 き て き た の か は あ ま り 知 ら れ
て い な い 。 ベ ト ナ ム 人 が 表 か ら 見 え に く い の は 、 在 日 コ
リ ア ン や 中 国 人 な ど 他 の エ ス ニ ッ ク グ ル ー プ と 比 較 し て
数 が 少 な い こ と が あ る 2 ) 。ま た 、日 本 社 会 は ベ ト ナ ム 人 難
民 に 対 し て 目 を 向 け て お ら ず 、 ベ ト ナ ム 人 自 身 も 日 本 社
会 と 積 極 的 に 関 わ ろ う と し な い と も い わ れ る ( 高 橋 ,
2 0 0 4 )。 し か し 難 民 の 発 生 は 、 我 々 に 関 わ り の な い こ と で
は な い 。 難 民 事 業 本 部 に よ れ ば 、 2 0 0 9 年 現 在 、 国 連 難 民
高 等 弁 務 官 事 務 所 ( U N H C R ) の 保 護 と 援 助 を 受 け て い る
難 民 は 約 3 , 6 5 0 万 人 お り 、 世 界 の 1 8 7 人 に 1 人 が 難 民 と
い う 計 算 に な る 。 そ の 他 に も 数 に 上 が ら な い 人 た ち が 多
数 存 在 す る こ と を 考 え る と 、5 , 0 0 0 万 人 以 上 の 難 民 が い る
と 推 定 さ れ る 。「 難 民 の 時 代 」( 宮 島 , 1 9 9 4 ) と い わ れ る 現
代 に 、 日 本 で は 難 民 の 姿 が 見 え に く い 。 難 民 を 身 近 な 問
題 と し て 考 え る た め に 、 難 民 と し て 来 日 し た ベ ト ナ ム 人
に 目 を 向 け る べ き で あ る 。
本 稿 で は 、日 本 に い る ベ ト ナ ム 人 の 中 で も 難 民 と し て 来
日 し た 人 々 に 注 目 し 、「 在 日 ベ ト ナ ム 人 」 と 呼 ぶ こ と と す
る 。 以 降 で は 、 ① ベ ト ナ ム に ル ー ツ を 持 ち 、 ② 難 民 と し
て 来 日 し 3 ) 日 本 に 居 住 す る 、 こ の 2 条 件 を 同 時 に 満 た す
人 々 と そ の 子 孫 を 対 象 と し 、「 在 日 ベ ト ナ ム 人 」 と し て 取
り 扱 う 。 在 留 資 格 で は 、「 永 住 者 」「 定 住 者 」「 日 本 人 の 配
偶 者 等 」「 永 住 者 の 配 偶 者 等 」に あ た り 、 2 0 1 0 年 現 在 ベ ト
ナ ム 人 総 数 の 4 3 % で あ る 。 ま た 、 日 本 国 籍 を 取 得 し た 人
た ち も 含 ん で い る 。 近 年 、 留 学 や 技 術 研 修 を 目 的 と す る
ベ ト ナ ム 人 が 増 加 し て い る が 、 こ れ ら の 人 々 は 現 政 権 の
「 派 遣 あ る い は 許 可 」 を 得 て 来 日 し て お り 、「 難 民 」 と し
て 来 日 し 定 住 し て き た 人 々 と は 異 な る 人 々 で あ る た め
( 川 上 , 2 0 0 1)、 対 象 に は 含 ま な い 。
2) 先 行 研 究
在 日 ベ ト ナ ム 人 に つ い て の 研 究 で は 、政 府 に よ る 調 査 報
告 書 で イ ン ド シ ナ 難 民 の 受 け 入 れ や 定 住 の 現 状 が 見 ら れ
る 。 日 本 に お け る ベ ト ナ ム 人 難 民 の 生 活 世 界 に 複 数 の 視
点 か ら 迫 っ た 点 で 、 川 上 ( 2 0 0 1 ) は 先 駆 的 な 研 究 を 行 っ
て い る 。 ベ ト ナ ム に い た と き の 生 活 、 難 民 を 取 り 巻 く 日
本 の 社 会 環 境 、 国 際 情 勢 と い う 視 点 を 設 定 し 、 そ れ ら が
ベ ト ナ ム 人 難 民 の 定 住 過 程 に ど の よ う に 影 響 し て い る の
か 、 あ る い は し て い な い の か を 分 析 し た 。 歴 史 的 ・ 文 化
的 背 景 、 コ ミ ュ ニ テ ィ の 形 成 、 社 会 的 ネ ッ ト ワ ー ク な ど
を 幅 広 く 取 り 上 げ て い る た め 、 在 日 ベ ト ナ ム 人 の 全 体 像
を 知 る こ と が で き る 。 川 上 が 注 目 し た の は 、 ベ ト ナ ム 人
難 民 の も つ 「 難 民 性 」 で あ る 。 難 民 と し て の 出 自 か ら 来
る 内 面 的 な 不 安 感 と 、 難 民 と い う 立 場 か ら 生 じ る 不 安 定
性 を 「 難 民 性 」 と 呼 び 、 彼 ら は 「 難 民 性 」 か ら 生 じ る 不
安 を 抱 え な が ら 生 活 し て い る と い う 。
戸 田 ( 2 0 0 1 ) は 、 神 戸 市 の 在 日 ベ ト ナ ム 人 を 事 例 と し
て 、 在 日 ベ ト ナ ム 人 に よ る 組 織 や コ ミ ュ ニ テ ィ が ど の よ
う に 形 成 さ れ 変 容 し て き た か を 考 察 し て い る 。 特 に 注 釈
を 付 け た 部 分 以 外 は 、 す べ て が 自 身 の フ ィ ー ル ド ワ ー ク
に 基 づ く 記 述 だ と い い 、 在 日 ベ ト ナ ム 人 に よ り 深 く 入 り
込 ん だ 研 究 と い え よ う 。 戸 田 に よ る と 、 神 戸 市 の 在 日 ベ
ト ナ ム 人 コ ミ ュ ニ テ ィ は 日 常 的 に 存 在 す る の で は な く 、
日 本 社 会 と の 緊 張 関 係 か ら 意 識 さ れ る と い う 。 震 災 と い
う 非 日 常 の 場 面 に お い て コ ミ ュ ニ テ ィ が 形 成 さ れ た こ と
は 、 在 日 ベ ト ナ ム 人 の 自 立 と 自 律 の 表 れ で あ り 、 彼 ら は
主 体 性 を 持 っ た 存 在 で あ る と 論 じ た 。
こ れ ら の 代 表 的 な 研 究 を 始 め と し て 、い く つ か の 研 究 が
な さ れ て き た 。し か し 、次 の 2 点 で 、課 題 を 残 し て い る 。
第 一 に 、 在 日 ベ ト ナ ム 人 に つ い て の 研 究 は 他 の エ ス ニ ッ
ク グ ル ー プ に つ い て の 研 究 と 比 べ る と 数 が 少 な い 。 前 述
の よ う に ベ ト ナ ム 人 は 表 か ら 見 え に く い と い う た め 、 研
究 対 象 に な り に く い と い う こ と が 大 き い だ ろ う 。 第 二 に 、
研 究 内 容 の 面 で あ る 。 在 日 ベ ト ナ ム 人 の 定 住 化 や 適 応 に
つ い て は 頻 繁 に 取 り 上 げ ら れ て き た が 、 彼 ら の 国 内 に お
け る 居 住 地 移 動 に 注 目 し て 論 じ ら れ た も の は 少 な い 4 ) 。ま
た 、 特 に 神 戸 市 の 事 例 で は 、 阪 神 ・ 淡 路 大 震 災 ( 以 下 、
震 災 ) 以 降 の 時 期 が 対 象 と な っ て い な い 。 震 災 後 の ベ ト
ナ ム 人 に 関 し て 、 戸 田 ( 2 0 0 1 ) は 被 災 時 に お け る ベ ト ナ
ム 人 の コ ミ ュ ニ テ ィ 形 成 を 論 じ て お り 、 神 戸 商 科 大 学 舟
場 研 究 室 ( 1 9 9 6 ) は 震 災 前 後 の 生 活 環 境 の 変 化 に つ い て
報 告 し て い る 。 し か し 、 そ れ ら の 研 究 は 震 災 か ら 1、 2 年
後 ま で の 時 期 に 限 ら れ て お り 、 そ の 後 1 0 数 年 あ ま り 彼 ら
が ど の よ う な 生 活 を 送 っ て き た か に つ い て 触 れ ら れ て い
な い 。 以 上 の 点 で 、 在 日 ベ ト ナ ム 人 と い う 対 象 は 研 究 の
余 地 を 残 し て い る と い え る 。
そ こ で 本 稿 で は 、兵 庫 県 神 戸 市 長 田 区 を 調 査 対 象 地 域 と
し 、 在 日 ベ ト ナ ム 人 が 国 内 に お い て ど の よ う に 居 住 地 移
動 を し て き た の か 、 再 び 移 住 す る の か を 分 析 す る こ と に
よ り 、 彼 ら に と っ て 長 田 区 が ど う い っ た 位 置 づ け に あ る
の か を 考 察 す る 。 研 究 方 法 は 、 長 田 区 の 在 日 ベ ト ナ ム 人
に 対 す る 聞 き 取 り 調 査 と す る 。
以 下 第 2 章 で は 、難 民 が 発 生 し た 背 景 と 日 本 政 府 が と っ
た 受 入 れ 政 策 な ど の 対 応 を 説 明 し 、 在 日 ベ ト ナ ム 人 を 概
観 す る 。 対 象 地 域 で あ る 長 田 区 に つ い て も 述 べ る 。 第 3
章 で は 、 在 日 ベ ト ナ ム 人 の 国 内 に お け る 居 住 地 移 動 を 数
量 的 に 分 析 し た 後 、 長 田 区 で の 移 住 の 動 き と 定 住 過 程 を
考 察 す る 。 第 3 章 の 結 果 を 踏 ま え て 第 4 章 は 在 日 ベ ト ナ
ム 人 が 長 田 区 を ど う 捉 え て お り 、 長 田 区 で の 生 活 に 表 れ
て い る の か を 明 ら か に す る 。
Ⅱ 在 日 ベ ト ナ ム 人 の 概 要
1) 難 民 の 歴 史 的 背 景
1 9 6 3 年 の ア メ リ カ に よ る 北 爆 開 始 に よ っ て 本 格 化 し た
ベ ト ナ ム 戦 争 ( 第 二 次 イ ン ド シ ナ 戦 争 ) は 、 1 9 7 5 年 4 月
の サ イ ゴ ン 陥 落 に よ り 終 結 し 、 共 産 党 に よ る 政 権 が ベ ト
ナ ム を 統 一 し た 。 ベ ト ナ ム 戦 争 終 結 後 、 大 量 に 発 生 し た
難 民 は そ の の ち 何 年 に も わ た っ て 流 出 し 続 け た 。 隣 国 の
ラ オ ス 、 カ ン ボ ジ ア と 合 わ せ て 三 国 か ら の 難 民 を イ ン ド
シ ナ 難 民 と い い 、 そ の 総 数 は 約 1 4 4 万 人 に 達 す る 。 イ ン
ド シ ナ 難 民 の う ち 、 ベ ト ナ ム か ら は 小 舟 に 乗 っ て 海 路 で
脱 出 し た ボ ー ト ピ ー プ ル 、 ラ オ ス と カ ン ボ ジ ア か ら は 陸
路 で タ イ に 逃 れ た ラ ン ド ピ ー プ ル が 大 半 だ っ た 。 一 口 に
ベ ト ナ ム 難 民 と い っ て も 、 そ の 背 景 ・ 性 格 は 流 出 の 時 期
に よ っ て 異 な る 。 そ こ で 五 島 ( 加 藤 ほ か , 1 9 9 6) に よ る 分
類 を 参 考 に し て 、 ベ ト ナ ム 難 民 の 背 景 に つ い て 述 べ る 。
ま ず 1 9 7 5 年 4 月 の 戦 争 終 結 に と も な い ベ ト ナ ム か ら 国
外 へ 脱 出 を 試 み た 人 た ち が い た 。 こ の と き 難 民 の 多 く は
南 ベ ト ナ ム 軍 ・ 政 府 関 係 者 と そ の 家 族 、 豊 か な 華 僑 あ る
い は 華 人 で 、 1 9 7 5 年 以 前 に 北 か ら 逃 れ て き た 北 部 出 身 の
エ リ ー ト 層 も 含 ま れ て い た と い う ( 川 上 , 2 0 0 1)。 彼 ら は
ア メ リ カ 軍 の 援 助 で 富 を 築 い て き た 人 々 で 、 そ の ま ま ベ
ト ナ ム に 留 ま れ ば 新 し い 共 産 主 義 政 権 に よ っ て 報 復 さ れ
る 恐 れ が あ り 、 新 政 権 に 対 し て 政 治 ・ 経 済 的 に 不 安 や 不
信 を 持 つ 人 々 で あ っ た 。 エ リ ー ト 層 の 一 部 は ア メ リ カ 軍
の 撤 退 と 共 に 米 国 へ と 移 住 し た が 、 そ の 後 も 小 舟 に 乗 っ
て 海 路 で 国 外 へ 脱 出 す る 人 々 は 後 を 絶 た な か っ た ( 第 1
期 : 1 9 7 5 年 4 月 ~ 1 9 7 8 年 2 月 )。
1 9 7 8 年 3 月 か ら は こ れ ま で と は 異 な る 華 僑 ・ 華 人 が 難
民 の 中 心 と な っ た 。 ベ ト ナ ム 政 府 は 華 僑 ・ 華 人 の 地 位 を
は く 奪 し た り 職 場 か ら 追 い 出 し た り 、 資 産 没 収 に ま で 及
ぶ 強 圧 的 な 華 僑 政 策 を と っ た た め 、 経 済 的 に も 政 治 的 に
も 苦 し い 立 場 に 置 か れ た 華 僑 ・ 華 人 が 北 ベ ト ナ ム 、 南 ベ
ト ナ ム の 双 方 か ら 大 量 に 流 出 し た の だ っ た 。 ま た 同 時 期
に ベ ト ナ ム 政 府 が 起 こ し た カ ン ボ ジ ア 侵 攻 ( 第 三 次 イ ン
ド シ ナ 戦 争 ) や 中 越 戦 争 へ の 徴 兵 を 忌 避 し て 難 民 と な る
者 も み ら れ た 。1 9 7 9 年 に は イ ン ド シ ナ 難 民 は 3 9 1 , 3 3 3 人 、
そ の う ち ボ ー ト ピ ー プ ル は 2 0 1 , 1 8 9 人 に 達 し 、 難 民 の 流
出 は ピ ー ク と な っ た ( 第 2 期 : 1 9 7 8 年 3 月 ~ 1 9 7 9 年 1 0
月 )。
1 9 7 9 年 1 0 月 以 降 に 流 出 し た の は 、ベ ト ナ ム の 政 治 ・ 経
済 状 況 に 失 望 し た 人 々 で あ っ た 。 こ れ ま で に 比 べ る と 、
さ ま ざ ま な 出 身 階 層 の 人 々 が 見 ら れ る 。 こ の 時 期 の ベ ト
ナ ム は 、 カ ン ボ ジ ア 侵 攻 や 中 越 戦 争 に よ る 軍 事 支 出 が 大
き な 負 担 に な っ て お り 、 ま た カ ン ボ ジ ア か ら の 撤 退 を 求
め る 国 際 社 会 は ベ ト ナ ム へ の 援 助 や 支 援 を 凍 結 し た 。 こ
の よ う な 状 況 を 打 開 す べ く ベ ト ナ ム 政 府 が 打 ち 出 し た 政
策 は 、 一 時 的 に は 労 働 者 ・ 農 民 の 意 欲 を 高 め る 効 果 が あ
っ た も の の 、 実 際 の 経 済 成 長 に は ほ と ん ど 効 果 は な か っ
た 。 1 9 8 6 年 末 に は こ の 政 策 の 影 響 か ら イ ン フ レ を 招 き 、
経 済 状 況 を 一 層 悪 化 さ せ て し ま っ た 。 さ ら に 、 こ の 時 期
に 至 る と 、 南 ベ ト ナ ム の 人 々 の 間 で は 共 産 党 の 政 治 指 導
へ の 失 望 感 が 強 ま っ て い た 。 こ の よ う な 政 治 ・ 経 済 状 況
か ら 幅 広 い 人 々 が ベ ト ナ ム を 脱 出 し 、 中 に は 北 部 出 身 者
ま で も が 難 民 と し て 流 出 す る よ う に な っ た( 第 3 期:1 9 7 9
年 1 0 月 ~ 1 9 8 6 年 1 2 月 )。
1 9 8 7 年 か ら 、 1 9 8 6 年 1 2 月 に 開 催 さ れ た 第 6 回 党 大 会
で 従 来 の 急 進 的 な 社 会 主 義 路 線 の 過 ち を 素 直 に 認 め 、 ド
イ モ イ ( 刷 新 ) と 呼 ば れ る 路 線 を 採 用 し て ベ ト ナ ム の 国
内 外 政 策 を 大 幅 に 変 更 し 始 め た 。 ド イ モ イ 政 策 で は 市 場
メ カ ニ ズ ム を 取 り 入 れ 、 経 済 開 放 政 策 の 一 環 と し て 国 外
在 住 の ベ ト ナ ム 人 か ら の 家 族 へ の 送 金 を 奨 励 し た 。 し か
し こ の ド イ モ イ 政 策 は 、 か え っ て 難 民 を 流 出 さ せ る こ と
と な っ た 。 難 民 と し て 国 外 へ 出 た 者 に も 一 時 帰 国 が 許 さ
れ る よ う に な っ た た め 、 難 民 に な る こ と へ の 心 理 的 抵 抗
が 薄 ら い だ 。 む し ろ ベ ト ナ ム か ら 脱 出 し て 豊 か に な り た
い と い う 意 識 が 強 ま っ た 。 そ の た め こ の 時 期 に は 、 難 民
と し て 国 外 へ 脱 出 し 豊 か に な ろ う と す る 経 済 難 民 が 大 部
分 だ っ た 。 1 9 8 9 年 に は 出 稼 ぎ 目 的 の 偽 装 難 民 が 発 生 す る
ほ ど だ っ た ( 第 4 期 : 1 9 8 7 年 1 月 ~ 1 9 8 9 年 6 月 )。
1 9 8 9 年 6 月 以 降 、 ボ ー ト ピ ー プ ル の 数 は 減 少 し 、 合 法
的 出 国 が 増 加 し た 。 ベ ト ナ ム 政 府 は 国 内 の 経 済 政 策 や 開
放 政 策 を 一 層 推 進 し た た め 、 ベ ト ナ ム に 経 済 成 長 が 期 待
で き る よ う に な っ た 。 さ ら に 、 第 4 期 の 事 態 に よ り 各 国
の 難 民 受 け 入 れ 体 制 も 変 化 し た た め 、 難 民 の 発 生 は 終 息
し て い っ た ( 第 5 期 : 1 9 8 9 年 6 月 ~ )。
2) 日 本 の 対 応
1 9 7 5 年 5 月 1 2 日 、ア メ リ カ 船 に 助 け ら れ た ベ ト ナ ム 人
9 人 が 千 葉 港 に 着 い た 。日 本 に 上 陸 し た 最 初 の ベ ト ナ ム 難
民 の 事 例 で あ る 。 当 初 日 本 政 府 は 、 移 民 ま た は 定 着 居 住
を 目 的 と す る 外 国 人 の 入 国 を 厳 し く 制 限 し て き た 入 国 管
理 の 基 本 方 針 と の 関 連 ( 加 藤 , 1 9 9 4) か ら 、 難 民 を 受 け 入
れ な い 方 針 を と っ て い た 。こ の と き 、 U N H C R が 日 本 政 府
に 対 し て 、 ベ ト ナ ム 難 民 の 上 陸 と 一 時 滞 在 の 許 可 を 正 式
に 要 請 し た た め 、 そ れ を 受 け た 日 本 政 府 は 定 住 受 け 入 れ
国 の 決 定 前 で あ っ て も 、 彼 ら の 一 時 滞 在 を 認 め た の だ っ
た 。1 9 7 7 年 9 月 の 閣 議 了 解 で は 、「人 道 問 題 に 関 す る 国 際
協 力 の 一 環 と し て 」 対 策 を 推 進 す る こ と を 定 め た 。 こ れ
は ベ ト ナ ム 難 民 に 対 す る 政 治 方 針 と し て 初 め て 正 式 に 定
め た も の だ っ た が 、 こ の 時 点 で は 、 難 民 へ の 施 策 は 一 時
滞 在 を 前 提 に し て い た 。
最 初 の 到 着 以 降 も 、日 本 へ の ボ ー ト ピ ー プ ル の 到 着 は 続
き 、 1 9 7 5 年 は 1 2 6 人 、 1 9 7 6 年 は 2 4 7 人 、 1 9 7 7 年 は 8 3 3
人 と 到 着 人 数 は 急 増 し た 。 ま た 、 多 く の イ ン ド シ ナ 難 民
が 到 着 し た タ イ 、 イ ン ド ネ シ ア 、 マ レ ー シ ア 、 香 港 な ど
の 東 南 ア ジ ア 諸 国 で は 、 難 民 の 数 が 増 え 続 け た こ と で 対
応 が 困 難 な 事 態 に 陥 っ て い た 。 こ の よ う な 内 外 の 状 況 か
ら 、 1 9 7 8 年 4 月 の 閣 議 了 解 に よ り 、 ベ ト ナ ム 難 民 の 定 住
を 認 め る 方 針 を 決 定 し た 。 1 9 7 9 年 7 月 に は ジ ュ ネ ー ブ で
国 連 に よ る イ ン ド シ ナ 難 民 問 題 国 際 会 議 が 開 催 さ れ 、 そ
の 決 定 を 受 け て 国 際 社 会 は 難 民 を 受 け 入 れ る 体 制 を 確 認
し た 。日 本 政 府 は 同 年 4 月 の 閣 議 了 解 に よ り 、5 0 0 人 の 定
住 枠 の 設 定 、 海 外 の 難 民 キ ャ ン プ に 滞 在 す る イ ン ド シ ナ
難 民 の 受 け 入 れ を 決 定 し て い た が 、 国 際 会 議 で の 決 定 を
受 け た 7 月 に は 、 改 め て 閣 議 了 解 を 行 っ て 、 定 住 許 可 条
件 を 緩 和 し た 。 こ の と き の 定 住 枠 5 0 0 人 に 対 し て 、 実 際
に 定 住 希 望 を 申 請 す る 者 は 少 な か っ た 。 定 住 枠 が 5 0 0 人
と い う 小 さ い 数 字 に 設 定 さ れ た こ と か ら 、 難 民 が 日 本 で
の 定 住 を 考 え る 気 持 ち を 持 て な か っ た 可 能 性 も あ る と い
う ( 田 中 , 1 9 9 4)。
1 9 7 9 年 11 月 に は 、日 本 政 府 の 委 託 を 受 け 、財 団 法 人 ア
ジ ア 福 祉 教 育 財 団 内 に 難 民 事 業 本 部 が 設 置 さ れ た 。 難 民
事 業 本 部 は 、 同 年 1 2 月 に 兵 庫 県 姫 路 市 に 姫 路 定 住 促 進 セ
ン タ ー ( 以 下 、 姫 路 セ ン タ ー ) を 、 1 9 8 0 年 2 月 に は 神 奈
川 県 大 和 市 に 大 和 定 住 促 進 セ ン タ ー を 開 設 し た 。 そ れ ぞ
れ の セ ン タ ー で 行 わ れ 、 日 本 へ の 定 住 者 に 対 し て 日 本 語
教 育 や 生 活 指 導 、 社 会 生 活 適 応 指 導 な ど の 定 住 促 進 事 業
が 行 わ れ た 。 1 9 8 2 年 に 一 時 滞 在 の 難 民 を 援 助 す る 難 民 一
時 レ セ プ シ ョ ン セ ン タ ー が 長 崎 県 大 村 市 に 開 設 さ れ 、
1 9 8 3 年 に は イ ン ド シ ナ 難 民 の 長 期 滞 在 に 対 応 す る た め 、
東 京 都 品 川 区 に 国 際 救 援 セ ン タ ー が 開 設 さ れ た 。
1 9 8 0 年 6 月 の 閣 議 了 解 に よ り 、 定 住 枠 は 5 0 0 人 か ら
1 0 0 0 人 に 拡 大 さ れ 、 合 法 出 国 計 画 ( O D P : O r d i n a r y
D e p a r t u r e P r o g r a m )に 基 づ く ベ ト ナ ム か ら の 家 族 呼 び 寄
せ も 開 始 し た 。 日 本 政 府 は 定 住 枠 を こ の 後 、 1 9 8 1 年 に は
3 , 0 0 0 人 、 1 9 8 3 年 に は 5 , 0 0 0 人 、 1 9 8 5 年 に は 1 0 , 0 0 0 人
と た び た び 拡 大 し て い っ た 。
1 9 7 9 、 8 0 年 を ピ ー ク に イ ン ド シ ナ 難 民 の 流 出 数 、 ボ ー
ト ピ ー プ ル の 日 本 上 陸 数 は 徐 々 に 減 少 し て い た が 、 1 9 8 0
年 代 後 半 か ら 再 び そ の 数 は 増 加 し た 。 こ の 増 加 は こ れ ま
で の 難 民 と は 背 景 が 異 な り 、 よ り よ い 生 活 を 求 め る 出 稼
ぎ 目 的 の ボ ー ト ピ ー プ ル が 大 部 分 で あ っ た 。 こ の よ う な
状 況 の 変 化 を 受 け て 、 1 9 8 9 年 6 月 に 国 連 に よ る イ ン ド シ
ナ 難 民 国 際 会 議 が 開 催 さ れ 、 経 済 難 民 の 流 出 を 防 止 す る
た め に 包 括 的 行 動 計 画 が 採 択 さ れ た 。 日 本 も 各 国 と 同 様
に 、 新 た に 上 陸 す る ボ ー ト ピ ー プ ル に 対 し て 難 民 認 定 審
査 ( ス ク リ ー ニ ン グ ) を 実 施 し 、 認 定 さ れ な か っ た 人 に
は 本 国 へ 帰 還 す る よ う 対 処 し た 。 ス ク リ ー ニ ン グ の 導 入
に よ り 、 難 民 と し て 受 け 入 れ る 数 は 激 減 し た 。 1 9 9 4 年 3
月 に は 国 際 会 議 の 声 明 を 踏 ま え 、 閣 議 了 解 に よ り 難 民 に
対 す る ス ク リ ー ニ ン グ を 廃 止 し た 。 1 9 9 5 年 を 最 後 に 日 本
へ ボ ー ト ピ ー プ ル の 上 陸 は な く 、 以 降 の イ ン ド シ ナ 難 民
の 受 け 入 れ は O D P に よ る 家 族 呼 び 寄 せ に 限 ら れ て い る 。
定 住 促 進 事 業 に お い て も 、難 民 事 業 本 部 は 1 9 9 6 年 に 姫 路
定 住 促 進 セ ン タ ー 、 1 9 9 8 年 に 大 和 定 住 促 進 セ ン タ ー を 閉
所 し た 。 2 0 0 5 年 末 を も っ て 、 イ ン ド シ ナ 難 民 の 受 け 入 れ
は 終 了 し 、 ベ ト ナ ム 人 難 民 の 定 住 許 可 数 は 8 , 6 5 6 人 で あ
っ た 。
3) 長 田 区 に お け る 在 日 ベ ト ナ ム 人
2 0 1 0 年 現 在 、 都 道 府 県 別 ご と の ベ ト ナ ム 国 籍 者 数 は 神
奈 川 県 が 5 , 9 0 6 人 で 最 も 多 く 、 兵 庫 県 が 4 , 3 0 0 人 、 愛 知
県 が 4 , 1 2 7 人 と 続 く 5 ) 。兵 庫 県 は 、神 奈 川 県 の 次 に 多 数 の
ベ ト ナ ム 人 人 口 を 抱 え て い る 。 神 奈 川 県 、 兵 庫 県 に ベ ト
ナ ム 人 が 多 い の は 、こ れ ら の 地 域 に 定 住 促 進 セ ン タ ー( 以
下 、 セ ン タ ー ) が 置 か れ た こ と が 関 係 す る 。 定 住 促 進 セ
ン タ ー が 斡 旋 す る 就 職 先 が 比 較 的 こ の 近 辺 に 多 く な る た
め だ と 考 え ら れ る ( 川 上 , 2 0 0 1)。 兵 庫 県 全 体 で み る と 、
姫 路 セ ン タ ー が あ っ た 姫 路 市 に 1 , 6 2 2 人 が 住 ん で い る 。
一 方 、神 戸 市 は 1 , 5 4 0 人 で あ り 6 ) 、姫 路 市 と 同 じ 規 模 で ベ
ト ナ ム 国 籍 者 が 居 住 し て い る 。 兵 庫 県 下 の ベ ト ナ ム 人 の
約 7 割 が 姫 路 市 と 神 戸 市 に 在 住 す る こ と に な る か ら 、 そ
の 規 模 の 大 き さ が 分 か る 。
次 に 、神 戸 市 全 体 か ら 長 田 区 を 見 て み る 。長 田 区 は 神 戸
市 の 中 南 部 に 位 置 し 、人 口 は 1 0 0 , 8 9 9 人 の 区 で あ る( 2 0 1 1
年 11 月 末 )。 地 場 産 業 の 一 つ で あ る ケ ミ カ ル シ ュ ー ズ 産
業 が 盛 ん で あ る 。 ケ ミ カ ル シ ュ ー ズ 産 業 に 関 わ る 在 日 コ
リ ア ン を 中 心 に 外 国 人 が 多 く 住 む 地 域 で あ る 。 長 田 区 の
人 口 に 占 め る 外 国 人 登 録 者 数 の 割 合 は 7 % で 、 日 本 全 体 で
の 1 . 6 7 % よ り も 高 い こ と が 分 か る 。2 0 11 年 11 月 現 在 、神
戸 市 在 住 の ベ ト ナ ム 人 は 1 , 5 2 7 人 で あ る 。 区 別 で は 、 長
田 区 が 8 9 7 人 で 最 も 多 く 、 神 戸 市 の ベ ト ナ ム 国 籍 者 の
5 8 . 7 % が 長 田 区 に 居 住 し て い る 。次 い で 、兵 庫 区 が 1 9 9 人 、
中 央 区 が 1 2 1 人 7 ) 、 須 磨 区 が 1 0 4 人 と な っ て い る 。 長 田
区 を 中 心 と し て 隣 接 す る 兵 庫 区 、 須 磨 区 に 広 が る 一 帯 は 、
在 日 ベ ト ナ ム 人 の 集 住 地 域 と な っ て い る 。
長 田 区 に 在 日 ベ ト ナ ム 人 が 多 く 住 む よ う に な っ た 理 由 と
し て 、 先 行 研 究 で は 次 の よ う に 述 べ ら れ て き た 。 最 も 重
要 な 要 素 と し て 、 仕 事 が あ る 。 長 田 区 は ケ ミ カ ル シ ュ ー
ズ 産 業 や 機 械 工 業 な ど の 中 小 企 業 が 集 積 す る 産 業 地 域 で
あ る 。 こ れ ら の 工 場 で は 言 葉 が 通 じ な く て も 働 く こ と が
で き た 。 ま た 、 産 業 地 域 と い う こ と で 安 価 な ア パ ー ト や
文 化 住 宅 が 多 い 。 こ れ ら の 点 は 、 一 般 的 に い わ れ る エ ス
ニ ッ ク・マ イ ノ リ テ ィ の 集 住 地 区 の 特 徴 8 ) に あ て は ま る と
い え る 。 ま た 、 在 日 ベ ト ナ ム 人 が 住 み 始 め た こ と で 生 ま
れ た 、 ベ ト ナ ム 人 住 民 が 多 い と い う 要 素 も 大 き な 理 由 で
あ る 。 ほ か に は 、 交 通 の 便 が よ い 、 カ ト リ ッ ク 教 会 を 核
と し た ネ ッ ト ワ ー ク が 存 在 す る と い う 要 素 が あ げ ら れ る 。
Ⅲ 在 日 ベ ト ナ ム 人 の 居 住 地 移 動
第 3 章 で は 、在 日 ベ ト ナ ム 人 が 国 内 に お い て ど の よ う な
移 動 を し て い る の か を 分 析 す る 。 一 般 的 に 、 外 国 人 は 日
本 人 よ り も 頻 繁 に 移 動 す る と い わ れ て い る 。 石 川 と リ ャ
ウ( 2 0 0 7)は 、都 道 府 県 間 移 動 率 で は 、外 国 人 が 1 0 . 3 % 、
全 人 口 が 7 . 0 % で あ り 、 外 国 人 の 移 動 率 は 日 本 人 よ り 高 い
傾 向 に あ る と 示 し た 。 外 国 人 の 国 内 移 動 は 、 国 籍 に よ っ
て 差 異 が あ る こ と も 明 ら か に な っ て い る 。 一 方 、 エ ス ニ
ッ ク マ イ ノ リ テ ィ の 定 住 化 に つ い て は 次 の よ う に 一 般 化
さ れ て い る 。 定 住 の 初 期 に は 、「 マ ジ ョ リ テ ィ に よ る 差
別 ・ 偏 見 か ら 身 を 守 り 集 住 か ら 生 じ る メ リ ッ ト を 期 待 し
て 」、 同 一 民 族 人 口 の 多 い 地 域 に 住 む た め 、 集 住 地 域 が 形
成 さ れ る 。 集 住 地 域 へ の 移 住 は 、 親 族 や 移 民 同 士 の ネ ッ
ト ワ ー ク が 重 要 な 役 割 を 果 た し て い る 。 そ の 後 、 適 応 や
同 化 が 進 み 、「 ホ ス ト 国 に お け る 社 会 経 済 的 地 位 が 向 上 し 、
社 会 階 層 が 上 昇 す る と 」、 集 住 地 域 を 離 れ 郊 外 や 他 地 域 へ
転 出 し て い く ( 石 川 , 2 0 1 1)。
と こ ろ で 、在 日 ベ ト ナ ム 人 の 移 住 に つ い て 、川 上( 2 0 0 1 )
は 都 市 近 郊 へ 「 再 移 住 」 す る 傾 向 を 、 次 の よ う に 指 摘 し
て い る 。 彼 に よ る と 、 イ ン ド シ ナ 難 民 は 全 国 に 分 散 的 に
居 住 す る よ う 、 各 地 の 施 設 に 収 容 さ れ た り 就 職 斡 旋 さ れ
た り し た 形 跡 が 読 み 取 れ る 。 し か し 、「 日 本 語 の 不 便 な 定
住 初 期 か ら 徐 々 に 適 応 が 進 む に つ れ て 、 さ ま ざ ま な 情 報
( 仕 事 、 住 宅 、 同 国 人 の ネ ッ ト ワ ー ク 等 ) を 得 て 、 よ り
良 い 生 活 環 境 を 求 め て 移 動 し て い く 傾 向 が あ る 」 と い う 。
1) 集 中 地 域 の 変 化
在 日 ベ ト ナ ム 人 の 居 住 地 移 動 は 、日 本 全 体 と し て ど の よ
う な 傾 向 が 見 ら れ る の か を 確 認 す る 。 こ こ で は 統 計 を 用
い て 9 ) 、 都 道 府 県 別 で 数 量 的 に 把 握 す る 。 表 1 は 、 1 9 8 7
年 か ら 2 0 0 9 年 ま で 5 ・ 6 年 ご と に 、 各 都 道 府 県 の ベ ト ナ
ム 国 籍 者 数 の 推 移 ( 上 段 ) と 、 各 都 道 府 県 の 数 が ベ ト ナ
ム 国 籍 者 総 数 に 占 め る 割 合 の 推 移( 下 段 )を 示 し て い る 。
表 1 ベ ト ナ ム 国 籍 者 数 と 集 中 の 推 移
都 道 府 県 1 9 8 7 年 1 9 8 9 年 1 9 9 3 年 1 9 9 9 年 2 0 0 4 年 2 0 0 9 年
総 数 4 3 8 8 4 7 6 3 6 8 8 3 1 3 5 0 5 2 3 8 5 3 4 1 1 3 6
東 京 1 0 4 1 9 8 6 1 2 8 0 1 2 8 6 1 9 0 4 3 2 2 6
2 3 . 7 2 % 2 0 . 7 0 % 1 8 . 6 0 % 9 . 5 2 % 7 . 9 8 % 7 . 8 4 %
神 奈 川 6 6 6 8 0 6 1 4 7 0 2 5 2 3 3 6 4 0 5 5 8 8
1 5 . 1 8 % 1 6 . 9 2 % 2 1 . 3 6 % 1 8 . 6 8 % 1 5 . 2 6 % 1 3 . 5 8 %
愛 知 9 1 5 8 5 8 3 4 2 1 5 8 4 4 9 5 1
2 . 0 7 % 1 . 2 2 % 0 . 8 4 % 2 . 5 3 % 6 . 6 4 % 1 2 . 0 4 %
兵 庫 7 4 8 1 0 1 4 1 3 4 6 2 1 6 1 2 9 0 3 4 1 9 0
1 7 . 0 5 % 2 1 . 2 9 % 1 9 . 5 6 % 1 6 . 0 0 % 1 2 . 1 7 % 1 0 . 1 9 %
出 典 : 昭 和 6 2 年 版 ~ 平 成 2 1 年 版 『 在 留 外 国 人 統 計 』 を 元 に 作
成
ベ ト ナ ム 国 籍 者 総 数 に 占 め る 割 合 が 大 き い ほ ど 、 全 国 的
に 見 て ベ ト ナ ム 国 籍 者 が 集 中 し て い る 都 道 府 県 で あ る と
い え る 。 始 点 の 1 9 8 7 年 と 終 点 の 2 0 0 9 年 の ベ ト ナ ム 国 籍
者 数 の 上 位 3 都 道 府 県 を そ れ ぞ れ 取 り 出 し 、 ベ ト ナ ム 国
籍 者 数 の 集 中 す る 都 道 府 県 は 経 年 で 変 化 し て い る か を 見
た 1 0 ) 。 1 9 8 7 年 時 と 2 0 0 9 年 時 で 、 ベ ト ナ ム 人 の 集 中 す る
都 道 府 県 は 同 じ な の か 、 あ る い は 変 化 し て い る の か を 分
析 す る 。 表 1 に よ る と 、 ベ ト ナ ム 人 の 集 中 に は 変 化 が み
ら れ る 。 1 9 8 7 年 の 上 位 で あ る 東 京 都 、 神 奈 川 県 、 兵 庫 県
に お い て 、 ベ ト ナ ム 人 数 は そ の 後 も 一 貫 し て 増 加 し て い
る 。 と こ ろ が ベ ト ナ ム 人 数 の 総 数 に 占 め る 割 合 は 年 々 減
少 し て お り 、 こ れ ら 3 都 県 へ の 集 中 が 緩 や か に な っ て い
る こ と が 分 か る 。 ま た 、 1 9 8 7 年 の 時 点 で は 集 住 地 で は な
か っ た 愛 知 県 に お い て 、 ベ ト ナ ム 国 籍 者 数 、 総 数 に 占 め
る 割 合 が 2 0 0 0 年 代 か ら 増 加 し 、 2 0 0 9 年 に は 上 位 に な っ
た 。 ま た 表 1 に 記 載 は な い が 、 静 岡 県 、 三 重 県 な ど で も
割 合 が や や 増 加 し て い る と 確 認 で き た 。
他 の 国 籍 グ ル ー プ で は ど の よ う な 傾 向 が あ る の か 、コ リ
ア ン 、 中 国 人 、 ブ ラ ジ ル 人 と の 比 較 を 通 し て 、 ベ ト ナ ム
人 の 特 徴 を 述 べ る 。 ベ ト ナ ム 人 と 同 じ 方 法 で そ れ ぞ れ 表
に 表 し た 。 韓 国 ・ 朝 鮮 国 籍 で は 、 1 9 8 7 年 と 2 0 0 9 年 で 集
中 地 の 上 位 3 都 府 県 に 変 化 は な い 。 東 京 都 で 人 口 の 増 加
と 集 中 が 見 ら れ 、 大 阪 府 と 兵 庫 県 で は ど ち ら の 値 も 減 少
し て い る ( 表 2 韓 国 ・ 朝 鮮 国 籍 者 数 と 集 中 の 推 移 )。 ビ
ジ ネ ス や 就 学 ・ 留 学 と し て ニ ュ ー カ マ ー が 流 入 す る 一 方 、
オ ー ル ド カ マ ー は 高 齢 化 に 伴 う 自 然 減 や 若 年 層 を 中 心 と
し た 日 本 国 籍 取 得 の 増 加 な ど に よ り 減 少 す る ( 石 川 ,
2 0 0 7 ) と い う コ リ ア ン の 特 徴 が 表 れ て い る 。
表 2 韓 国 ・ 朝 鮮 国 籍 者 数 と 集 中 の 推 移
都 道 府 県 1 9 8 7 年 1 9 8 9 年 1 9 9 3 年 1 9 9 9 年 2 0 0 4 年 2 0 0 9 年
総 数 6 7 7 9 5 9 6 7 7 1 4 0 6 8 8 1 4 4 6 3 8 8 2 8 6 1 3 7 9 1 5 8 9 2 3 9
東 京 8 2 2 7 9 8 6 1 0 5 9 5 9 5 5 9 2 9 8 4 1 0 0 5 2 8 1 1 4 9 6 1
1 2 . 1 4 % 1 2 . 7 2 % 1 3 . 9 4 % 1 4 . 5 6 % 1 6 . 3 8 % 1 9 . 5 1 %
大 阪 1 8 8 1 2 1 1 8 7 1 7 7 1 8 3 3 2 2 1 6 3 0 6 7 1 4 9 1 6 4 1 3 3 3 9 6
2 7 . 7 5 % 2 7 . 6 4 % 2 6 . 6 4 % 2 5 . 5 3 % 2 4 . 3 0 % 2 2 . 6 4 %
兵 庫 7 1 3 5 4 7 0 7 6 2 7 1 1 0 8 6 6 8 6 9 6 1 3 8 7 5 4 6 3 5
1 0 . 5 2 % 1 0 . 4 5 % 1 0 . 3 3 % 1 0 . 4 7 % 1 0 . 0 0 % 9 . 2 7 %
出 典 : 昭 和 6 2 年 版 ~ 平 成 2 1 年 版 『 在 留 外 国 人 統 計 』 を 元 に 作
成
中 国 国 籍 者 数 は 、 全 国 的 に 増 加 が 顕 著 で あ る ( 表 3 中
国 国 籍 者 数 と 集 中 の 推 移 )。 一 方 、 総 数 に 占 め る 各 都 府 県
の 中 国 国 籍 者 数 の 割 合 は い ず れ に お い て も 減 少 し て お り 、
居 住 地 が 全 国 に 拡 散 し て い る こ と が 中 国 人 の 傾 向 で あ る 。
こ れ は 都 市 部 か ら 郊 外 へ 向 か う 流 れ と と も に 、 中 国 人 の
居 住 の 郊 外 化 と し て 石 川 ( 2 0 0 7 ) が 述 べ て い る 。
表 3 中 国 国 籍 者 数 と 集 中 の 推 移
都 道 府 県 1 9 8 7 年 1 9 8 9 年 1 9 9 3 年 1 9 9 9 年 2 0 0 4 年 2 0 0 9 年
総 数 8 4 3 9 7 1 2 9 2 6 9 1 9 5 3 3 4 2 7 2 2 3 0 4 6 2 3 9 6 6 5 5 3 7 7
東 京 3 0 4 5 9 6 0 3 0 6 7 2 9 5 8 7 7 5 1 3 1 1 9 3 5 2 1 4 4 4 6 9
3 6 . 0 9 % 4 6 . 6 5 % 3 7 . 3 5 % 2 8 . 4 7 % 2 5 . 8 1 % 2 2 . 0 4 %
神 奈 川 7 8 1 9 1 0 0 6 9 1 7 9 1 5 2 2 5 4 1 3 6 2 5 6 5 1 7 8 9
9 . 2 6 % 7 . 7 9 % 9 . 1 7 % 8 . 2 8 % 7 . 8 4 % 7 . 9 0 %
大 阪 9 4 3 5 1 1 9 2 1 1 6 3 5 2 2 4 7 8 2 3 6 4 2 4 4 8 1 5 5
1 1 . 1 8 % 9 . 2 2 % 8 . 3 7 % 9 . 1 0 % 7 . 8 8 % 7 . 3 5 %
兵 庫 9 4 3 6 9 8 6 9 1 2 4 9 1 1 3 9 7 0 1 9 8 7 4 2 4 7 6 0
1 1 . 1 8 % 7 . 6 3 % 6 . 3 9 % 5 . 1 3 % 4 . 3 0 % 3 . 7 8 %
出 典 : 昭 和 6 2 年 版 ~ 平 成 2 1 年 版 『 在 留 外 国 人 統 計 』 を 元 に 作
成
ブ ラ ジ ル 国 籍 者 は 、1 9 8 7 年 と 2 0 0 9 年 時 で は 上 位 3 県 が
異 な っ て い る 。2 0 0 9 年 の 上 位 3 県 で あ る 静 岡 県 、愛 知 県 、
三 重 県 は 、 1 9 9 3 年 か ら 急 激 に 総 数 に 占 め る ブ ラ ジ ル 人 数
の 割 合 が 増 加 し 、 こ れ ら の 地 域 へ ブ ラ ジ ル 人 が 集 中 し て
い る と 分 か る ( 表 4 ブ ラ ジ ル 国 籍 者 数 と 集 中 の 推 移 )。
ブ ラ ジ ル 人 は 都 市 部 よ り も 、 東 海 ・ 中 京 地 方 の 工 業 地 帯
へ 集 中 す る 傾 向 が 強 い と い え る 。
表 4 ブ ラ ジ ル 国 籍 者 数 と 集 中 の 推 移
都 道 府 県 1 9 8 7 年 1 9 8 9 年 1 9 9 3 年 1 9 9 9 年 2 0 0 4 年 2 0 0 9 年
総 数 2 1 3 5 4 1 5 9 1 4 7 8 0 3 2 2 2 2 1 7 2 7 4 7 0 0 3 1 2 5 8 2
東 京 5 3 4 6 2 6 6 5 0 8 4 6 4 8 4 7 1 7 4 5 7 4
2 5 . 0 1 % 1 5 . 0 5 % 4 . 4 0 % 2 . 0 9 % 1 . 7 2 % 1 . 4 6 %
神 奈 川 1 8 8 6 8 2 1 4 6 9 8 1 3 1 5 5 1 3 8 3 7 1 4 2 4 8
8 . 8 1 % 1 6 . 4 0 % 9 . 9 4 % 5 . 9 2 % 5 . 0 4 % 4 . 5 6 %
静 岡 4 8 3 5 9 1 9 8 0 3 3 1 3 2 9 4 1 4 8 9 5 1 4 4 1
2 . 2 5 % 8 . 6 3 % 1 3 . 4 0 % 1 4 . 1 0 % 1 5 . 1 0 % 1 6 . 4 6 %
愛 知 7 3 2 4 8 2 9 6 0 7 4 0 8 7 3 5 7 3 3 6 7 9 1 5 6
3 . 4 2 % 5 . 9 6 % 2 0 . 0 3 % 1 8 . 3 9 % 2 0 . 8 7 % 2 5 . 3 2 %
三 重 2 5 1 2 3 5 4 6 4 1 2 9 0 3 1 7 6 1 9 2 1 6 6 8
1 . 1 7 % 2 . 9 6 % 3 . 7 0 % 5 . 8 1 % 6 . 4 1 % 6 . 9 3 %
沖 縄 1 4 7 1 6 6 1 5 1 1 5 6 1 6 5 2 3 5
6 . 8 9 % 3 . 9 9 % 0 . 1 0 % 0 . 0 7 % 0 . 0 6 % 0 . 0 8 %
出 典 : 昭 和 6 2 年 版 ~ 平 成 2 1 年 版 『 在 留 外 国 人 統 計 』 を 元 に 作
成
こ れ ら 3 つ の 国 籍 グ ル ー プ と 比 較 す る と 、ベ ト ナ ム 人 は
1 9 8 7 年 時 の 上 位 3 都 県 に 集 中 す る 割 合 が 小 さ く な り 、 中
国 人 の 傾 向 と 同 様 に 居 住 地 が 全 国 的 に 拡 散 し て い る 。 ま
た 、 2 0 0 9 年 に 愛 知 県 の ベ ト ナ ム 人 の 絶 対 数 と 集 中 が 高 ま
っ て い る 。 ブ ラ ジ ル 人 の 特 徴 を 参 考 に す れ ば 、 こ の 傾 向
は 工 業 地 帯 へ 集 中 し て い る こ と を 示 す と 考 え ら れ る 。
以 上 か ら 、ベ ト ナ ム 人 の 居 住 地 移 動 に つ い て 全 国 的 に は
次 の こ と が い え る 。 1 9 8 7 年 に ベ ト ナ ム 国 籍 者 が 集 中 す る
府 県 に お い て 人 数 は 一 貫 し て 増 加 し て い る が 、 そ の 集 中
の 程 度 は 小 さ く な り 、 居 住 地 が 拡 散 し て い る 。 そ し て 、
都 市 近 郊 で は な い 工 業 地 帯 へ 集 中 す る と い う 新 た な 動 き
が み ら れ る 。 こ の 新 た な 動 き が 、 ベ ト ナ ム 人 の 国 内 移 動
で あ る の か 、 あ る い は 国 外 か ら 直 接 入 っ て き て い る の か
は 判 断 で き な い 。
次 に 、長 田 区 に お け る ベ ト ナ ム 人 集 住 の 変 化 を み る 。長
田 区 に 在 住 す る ベ ト ナ ム 人 は 、 大 部 分 が 難 民 と し て 日 本
を 訪 れ て い る 1 1 ) 。 そ の た め こ こ で は 、 ベ ト ナ ム 国 籍 者 数
を 在 日 ベ ト ナ ム 人 の 数 と 見 な し て よ い だ ろ う 。 長 田 区 に
お い て も 同 様 に 、 ベ ト ナ ム 国 籍 者 数 を 縦 棒 、 ベ ト ナ ム 国
籍 者 数 が 神 戸 市 の ベ ト ナ ム 国 籍 者 総 数 に 占 め る 割 合 を 折
線 で 表 し た( 図 1 神 戸 市 3 区 に お け る ベ ト ナ ム 国 籍 者 数
と 集 中 の 推 移 )。 周 辺 へ の 広 が り を 見 る た め に 、 須 磨 区 、
兵 庫 区 も 合 わ せ て 表 現 す る 。 神 戸 市 統 計 で ベ ト ナ ム 国 籍
が 初 め て 分 類 さ れ た の は 、 1 9 8 3 年 で あ る 。 当 時 で 長 田 区
に は 2 7 人 の ベ ト ナ ム 人 が い た 。 そ の 後 現 在 に 至 る ま で 、
神 戸 市 、 長 田 区 の 両 方 で ベ ト ナ ム 人 は 一 貫 し て 増 加 し て
い る 。 神 戸 市 総 数 に 占 め る 長 田 区 の ベ ト ナ ム 人 数 の 割 合
は 、震 災 後 に 少 し 低 く な っ た が 、 5 割 強 の 割 合 の ま ま 推 移
し て い る 。 そ れ に 対 し て 、 須 磨 区 の ベ ト ナ ム 人 数 と 総 数
に 占 め る 割 合 は と も に 低 下 し た 。 兵 庫 区 へ の 集 中 は 、 震
災 後 に 低 下 し た の ち ほ ぼ 変 わ っ て い な い 。 長 田 区 に 隣 接
す る 地 域 へ 集 住 が 移 っ て い る の で は な い と い え る 。 こ の
よ う に 、 在 日 ベ ト ナ ム 人 が 長 田 区 へ 集 住 す る 傾 向 は 維 持
さ れ て お り 、 周 辺 地 域 へ の 拡 散 や 流 出 は 見 ら れ な い 。
図 1 神 戸 市 3 区 に お け る ベ ト ナ ム 国 籍 者 数 と 集 中 の 推 移
出 典 : 昭 和 5 9 年 版 ~ 平 成 2 1 年 版 『 神 戸 市 統 計 書 』 を 元 に 著 者
が 作 成
図 2 神 戸 市 3 区 に お け る 韓 国 ・ 朝 鮮 国 籍 者 数 と 集 中 の 推 移
出 典 : 昭 和 5 9 年 版 ~ 平 成 2 1 年 版 『 神 戸 市 統 計 書 』 を 元 に 著 者
が 作 成
都 道 府 県 の 場 合 と 同 様 に 、長 田 区 の 他 の 国 籍 グ ル ー プ を
取 り 上 げ 、 変 化 を 見 た 。 す る と 、 コ リ ア ン 、 中 国 人 、 ブ
ラ ジ ル 人 に 共 通 し て 、 長 田 区 で は 震 災 後 に 人 口 が 減 少 し
た 。韓 国 ・ 朝 鮮 国 籍 者 数 の 変 化( 図 2 神 戸 市 3 区 に お け
る 韓 国 ・ 朝 鮮 国 籍 者 数 と 集 中 の 推 移 ) は 前 述 の オ ー ル ド
カ マ ー の 人 口 変 化 傾 向 に 合 致 し て お り 、 ニ ュ ー カ マ ー の
流 入 は な い と 分 か る 。 中 国 国 籍 者 数 は 、 震 災 に よ る 減 少
後 に 再 び 増 加 し て い る( 図 3 神 戸 市 3 区 に お け る 中 国 国
籍 者 数 と 集 中 の 推 移 )。 神 戸 市 総 数 に 占 め る 長 田 区 の 中 国
国 籍 者 数 の 割 合 は 減 少 が 続 い て お り 、 兵 庫 区 の 割 合 は 増
加 し て い る 。 長 田 区 に 集 中 せ ず 周 辺 へ の 拡 散 、 あ る い は
兵 庫 区 へ 集 中 し て い る と い え る 。
図 3 神 戸 市 3 区 に お け る 中 国 国 籍 者 数 と 集 中 の 推 移
出 典 : 昭 和 5 9 年 版 ~ 平 成 2 1 年 版 『 神 戸 市 統 計 書 』 を 元 に 著 者
が 作 成
ブ ラ ジ ル 国 籍 者 数 は 、 ベ ト ナ ム 人 、 コ リ ア ン 、 中 国 人 と
比 べ て 少 な く 、人 口 変 化 も 一 進 一 退 で あ る( 図 4 神 戸 市
3 区 に お け る ブ ラ ジ ル 国 籍 者 数 と 集 中 の 推 移 )。 神 戸 市 総
数 に 占 め る 長 田 区 の ブ ラ ジ ル 国 籍 者 数 の 割 合 は 、 震 災 後
に 低 下 し た ま ま で あ る 。 須 磨 区 、 兵 庫 区 に お い て ブ ラ ジ
ル 人 数 は 減 少 し 、 各 区 の 割 合 も ま た 震 災 後 に 低 下 し 回 復
し て い な い 。 長 田 区 に は ブ ラ ジ ル 人 が 集 中 し て い る と は
い え ず 、 周 辺 へ 拡 散 も し て い な い 。 長 田 区 一 帯 か ら 他 の
地 域 へ 転 出 し て い る と 考 え ら れ る 。
図 4 神 戸 市 3 区 に お け る ブ ラ ジ ル 国 籍 者 数 と 集 中 の 推 移
出 典 : 昭 和 5 9 年 版 ~ 平 成 2 1 年 版 『 神 戸 市 統 計 書 』 を 元 に 著 者
が 作 成
こ れ ら の 国 籍 グ ル ー プ と 比 較 し て ベ ト ナ ム 人 に 特 有 な
こ と は 、震 災 後 の 1 9 9 9 年 に 人 口 減 少 が 見 ら れ な か っ た こ
と で あ る 。 在 日 ベ ト ナ ム 人 が 長 田 区 に 集 住 す る 傾 向 は 、
震 災 の 影 響 を あ ま り 受 け ず 保 た れ て い る と 考 え ら れ る 。
都 道 府 県 別 に み た ベ ト ナ ム 人 の 集 中 の 動 き と 、長 田 区 に
お け る 在 日 ベ ト ナ ム 人 の 集 住 を 合 わ せ る と 、 次 の よ う に
言 え る 。 全 国 的 に は ベ ト ナ ム 人 の 居 住 地 は 拡 散 し て お り 、
エ ス ニ ッ ク マ イ ノ リ テ ィ の 定 住 化 に つ い て 一 般 化 さ れ た 、
集 住 地 域 か ら 拡 散 し て い く 傾 向 が 表 れ て い る 。 と こ ろ が 、
長 田 区 で は 在 日 ベ ト ナ ム 人 の 集 住 が 維 持 さ れ て お り 、 周
辺 へ は 拡 散 し て い な い 。 こ の よ う に 、 長 田 区 の 在 日 ベ ト
ナ ム 人 の 場 合 に は 一 般 的 傾 向 に あ て は ま ら な い と こ ろ が
あ る 。 長 田 区 に は 、 在 日 ベ ト ナ ム 人 を 引 き つ け る 要 素 が
あ る と 考 え ら れ る 。
2) 長 田 区 へ の 移 住 と 定 住
全 国 的 に は ベ ト ナ ム 人 の 居 住 地 が 拡 散 し て い る 一 方 、長
田 区 で は 在 日 ベ ト ナ ム 人 の 集 住 が 維 持 さ れ て い る こ と が
数 量 的 な 分 析 か ら 分 か っ た 。 次 に 、 長 田 区 に お い て 「 再
移 住 」( 川 上 , 2 0 0 1) の 傾 向 が 見 ら れ る か を 、 長 田 区 の 在
日 ベ ト ナ ム 人 の 事 例 に よ っ て 、 質 的 に 検 証 し た い 1 2 ) 。 イ
ン フ ォ ー マ ン ト を 探 す に あ た っ て は 、 た か と り コ ミ ュ ニ
テ ィ セ ン タ ー を 構 成 す る 団 体 の 一 つ で あ る N G O ベ ト ナ ム
i n K O B E の 存 在 が 大 き い 。 聞 き 取 り 調 査 、 イ ン フ ォ ー マ
ン ト の 紹 介 の 両 方 で 協 力 し て い た だ い た 。 代 表 の N は 長
田 区 の 在 日 ベ ト ナ ム 人 か ら 信 頼 を 寄 せ ら れ 、 人 脈 を 持 っ
て お り 、実 情 に 精 通 す る 人 物 で あ る 。今 回 、 5 件 の 在 日 ベ
ト ナ ム 人 に 対 し て 聞 き 取 り 調 査 を 行 う こ と が で き た 。 移
住 は 家 族 の 生 活 設 計 の 中 で 決 定 さ れ る た め 、 世 帯 を 単 位
と し て 扱 っ て い る 。 質 問 内 容 は 、 来 日 し て か ら こ れ ま で
に 住 ん だ 土 地 、 そ の 土 地 で 送 っ た 生 活 、 移 住 し た き っ か
け と 理 由 で あ る 。
表 5 5 件 の プ ロ フ ィ ー ル
出 典 : 聞 き 取 り 調 査 の 結 果 に よ る
最 初 に 5 件 の 事 例 を 整 理 す る 。聞 き 取 り を し た 5 人 の プ
ロ フ ィ ー ル を 表 5 に 表 し た 。 全 員 が ベ ト ナ ム か ら の 脱 出
を 経 験 し た 難 民 1 世 で あ る 。 南 部 出 身 者 が 3 人 で や や 多
い 。 在 日 ベ ト ナ ム 人 で は 出 身 や エ ス ニ シ テ ィ ご と の 住 み
分 け が 行 わ れ て お り 、 長 田 区 に は 南 部 出 身 が 多 い ( 志 賀 ,
2 0 0 5 ) こ と を 反 映 し て い る 。 職 業 に は 、 ケ ミ カ ル シ ュ ー
ズ 産 業 を 始 め と し て 幅 広 く 業 種 が 見 ら れ た 。5 人 の ラ イ フ
ヒ ス ト リ ー は 表 6 の 通 り で あ る 。 ベ ト ナ ム を 出 た 時 期 は
さ ま ざ ま で あ り 、 第 2 章 で 述 べ た よ う に 難 民 の 背 景 は 差
異 が あ る と 分 か る 。
長 田 区 に 居 住 し た 時 期 は 、 か な り 早 い 時 期 の 1 9 7 9 年 か
ら 1 9 9 0 年 代 初 期 ま で 幅 広 く み ら れ る 。居 住 地 の 移 動 を 整
理 す る と 、 セ ン タ ー か ら 直 接 長 田 区 に 来 た 人 ( C 、 O ) と
セ ン タ ー か ら 一 度 他 の 土 地 に 住 み 、 そ の 後 長 田 区 へ 来 た
人 ( H 、 N 、 T) が い る 。 後 者 は 、「 再 移 住 」 し た 例 だ と い
え る 。こ の 3 件 で は 、 H は 3 年 、 N は 半 年 、 T は 1 年 弱 で
長 田 区 へ 移 住 し て お り 、 来 日 後 、 短 期 間 で 居 住 地 を 移 動
し て い る 。 川 上 ( 2 0 0 1 ) の 言 葉 を 借 り れ ば 、「 日 本 語 の 不
便 な 定 住 初 期 か ら 徐 々 に 適 応 が 進 む に つ れ て ( 中 略 ) よ
り 良 い 生 活 環 境 を 求 め て 移 動 」 し た 結 果 が 、 長 田 区 だ っ
た 。 た だ 、 3 年 以 内 の 短 期 間 を 「 適 応 が 進 ん だ 」 と い え る
か ど う か 、 こ こ で は 判 断 で き な い 。 長 田 区 へ 来 た き っ か
け は 3 件 と も が 知 り 合 い か ら の 誘 い で あ り 、 移 住 に お い
て 在 日 ベ ト ナ ム 人 の ネ ッ ト ワ ー ク が 機 能 し て い る 。 知 り
合 い の 繋 が り と し て 、N は セ ン タ ー で の 知 り 合 い を 挙 げ て
い る 。 セ ン タ ー に は 、 同 時 期 に ボ ー ト で 日 本 に 到 着 し た
人 が 同 期 生 で 入 所 す る 。 そ の た め 同 じ ボ ー ト に 乗 っ て い
た 人 、 つ ま り ベ ト ナ ム で も 同 地 域 や 近 辺 に 住 ん で い た 人
の 繋 が り が 多 く な る 。 た だ し 異 な る ケ ー ス も あ り 、 こ れ
表 6 ラ イ フ ヒ ス ト リ ー 年 表
出 典 : 聞 き 取 り 調 査 の 結 果 に よ る
は 後 述 す る 。
長 田 区 在 住 の 在 日 ベ ト ナ ム 人 に は 、直 接 長 田 区 に 来 て 定
住 し た 人 と 、「 再 移 住 」 を 経 験 し 長 田 区 に 来 た 人 が お り 、
定 住 前 に 移 住 の 動 き が あ っ た こ と が 分 か っ た 。 次 に は 2
件 の 事 例 を 取 り 上 げ 、 そ れ ぞ れ に お け る 定 住 と 移 住 の 表
れ を 考 察 す る 。
( a) 定 住 初 期 の 生 活 過 程 ― C の 事 例
C は ベ ト ナ ム 中 部 の 出 身 で 、 7 人 兄 弟 の 家 族 だ っ た 。 通
っ て い た 学 校 を 途 中 で や め て 、 ベ ト ナ ム 戦 争 中 は 南 ベ ト
ナ ム の 軍 隊 に 入 っ て い た 。戦 争 が 終 わ る と 、捕 ら え ら れ 、
刑 務 所 に 入 れ ら れ て し ま っ た 。刑 務 所 を 出 た 後 、C は 1 9 7 7
年 に ボ ー ト で ベ ト ナ ム か ら 出 た 。 日 本 へ 向 か う ノ ル ウ ェ
ー の 船 に 助 け ら れ て 、 広 島 県 の 広 島 港 に た ど り 着 い た 。
広 島 県 か ら 神 奈 川 県 鎌 倉 市 へ 移 り 、 鎌 倉 市 に あ る 民 間 の
支 援 施 設 に 入 っ た 。 施 設 で 日 本 語 の 勉 強 を し な が ら 、 新
宿 区 に 通 い 1 年 半 ほ ど 飲 食 店 の 皿 洗 い を し て 働 い た 。 給
料 は 往 復 の 電 車 代 と 食 事 代 に 使 う と ほ と ん ど 残 ら な か っ
た 。
1 9 7 9 年 に 姫 路 定 住 促 進 セ ン タ ー が 開 設 さ れ る と 、 1 期
生 と し て 入 所 し た 。 定 住 促 進 セ ン タ ー で 溶 接 工 の 仕 事 を
紹 介 し て も ら い 、 会 社 の 寮 に 住 む こ と で き た 。 溶 接 工 場
で 働 い て い た が 、 働 き 始 め て 4 年 で 会 社 は 倒 産 し て し ま
っ た 。 仕 事 が な く な っ た の で 、 町 中 に 貼 ら れ た チ ラ シ を
見 て 、 機 械 修 理 の 仕 事 に 就 い た 。 会 社 の 人 に 教 え て も ら
っ て 、 仕 事 を 覚 え た 。 機 械 業 で 働 い て い る 一 時 期 、 貿 易
業 を 起 こ し て 兼 業 し て い た 。 貿 易 業 を し て い る と 、 ベ ト
ナ ム 人 と 取 引 を す る の だ が 、 ベ ト ナ ム 人 の 仕 事 の し か た
は C の そ れ と 合 わ な い と 感 じ る こ と が あ っ た 。
貿 易 業 は 、阪 神 大 震 災 を き っ か け に や め て し ま っ た 。そ
の 後 は 、 同 じ 機 械 業 の 会 社 で 働 い て い る 。 社 員 は 6 人 で
あ る 。 社 長 か ら 信 頼 さ れ て 、 会 社 の 主 要 な 仕 事 を 任 さ れ
て い る 。
C は 最 も 初 期 に 長 田 区 に 住 み 始 め た 在 日 ベ ト ナ ム 人 の
一 人 で あ る と 思 わ れ る 。 C が セ ン タ ー か ら 長 田 区 に 来 た
1 9 7 9 年 に は 、統 計 上 で も ま だ ベ ト ナ ム 国 籍 の 分 類 は な く 、
そ の 他 あ る い は 無 国 籍 は ど ち ら も 1 桁 の 数 し か い な か っ
た 。C の 事 例 か ら 、集 住 す る 前 の 長 田 区 で 移 住 初 期 の 人 が
い か に 定 住 を し た か が 見 え る 。ま ず 注 目 さ れ る の は 、C の
仕 事 に 対 す る 考 え 方 が 日 本 人 の そ れ に 近 い と い う 点 で あ
る 。 C は ベ ト ナ ム で は 学 校 を 中 退 し て 軍 隊 に 入 っ て お り 、
ベ ト ナ ム で 働 い た 経 験 が な か っ た 。 初 め て 働 い た の が 日
本 の 会 社 だ っ た の で 、 日 本 の 仕 事 の 仕 方 や 考 え 方 を あ ま
り 反 発 な く 受 け 止 め る こ と が で き た 。 一 時 期 、 貿 易 業 を
し て い た と き の 話 に そ れ が 表 れ て い る 。 貿 易 業 で は 、 日
本 で 中 古 の 電 化 製 品 や 耕 運 機 を 集 め ベ ト ナ ム へ 輸 出 す る
1 3 ) 。 そ の た め ベ ト ナ ム 本 国 の ベ ト ナ ム 人 と の 間 で 仕 事 が
行 わ れ る の だ が 、C は 取 引 を す る 際 に 、彼 ら が 支 払 い や 期
限 に 対 し て き っ ち り し て い な い と 感 じ る こ と が あ っ た 。C
は そ れ を 「 や り 方 が 合 わ な い 」 と い う ふ う に 話 し た 。 こ
の よ う に 、C は 自 ら の 仕 事 観 を ベ ト ナ ム 本 国 の ベ ト ナ ム 人
と は 異 な る も の と し て 認 識 し て い る 。
次 に 注 目 さ れ る の は 、ネ ッ ト ワ ー ク で あ る 。C に は 大 阪
府 八 尾 市 に 住 む 友 人 が い る 。 友 人 と は セ ン タ ー を 訪 れ た
と き に 知 り 合 い に な り 、 交 流 が 続 い て い る と い う 。 セ ン
タ ー で は 日 本 語 教 育 が 終 わ る と 就 職 斡 旋 を す る の だ が 、C
は 退 所 後 も セ ン タ ー を 訪 れ 、 在 日 ベ ト ナ ム 人 と 繋 が り を
作 っ た 。 そ こ で 知 り 合 っ た 在 日 ベ ト ナ ム 人 が 長 田 区 に 居
住 す る と き に 、 身 の 回 り の 援 助 を し て い た と い う 1 4 ) 。 後
述 す る T は 「 自 分 た ち 家 族 が 長 田 に 来 た と き 、 生 活 の い
ろ ん な こ と を 手 伝 っ て く れ た 。C さ ん と 親 し い 日 本 人 の 人
が 一 緒 に い て 、 日 本 語 が 必 要 な と き 助 け て く れ た 」 と 言
っ て い る 。T 家 族 の よ う に 長 田 区 に 入 っ て く る 在 日 ベ ト ナ
ム 人 の 繋 が り を 持 つ 一 方 で 、 日 本 人 と 繋 が り を 持 っ て い
る と 分 か る 。 日 本 語 の 書 類 や 手 続 き な ど で は 、 在 日 ベ ト
ナ ム 人 よ り も 日 本 人 の ほ う が 精 通 し て い る 部 分 が あ る 。
そ の よ う な 場 合 に 、 自 分 を サ ポ ー ト し て く れ る よ う に 日
本 人 と も 関 わ り を 結 ん だ と い え る 。
在 日 ベ ト ナ ム 人 の 先 住 者 が 少 な い な か で C は 、 日 本 人
と の 繋 が り を 持 っ た り 、 日 本 人 に 近 い 考 え 方 を 身 に 付 け
た り し て 、 生 活 手 段 と し て 日 本 に 同 化 す る 一 方 、 セ ン タ
ー を 訪 れ て 知 り 合 い を 作 り 、 在 日 ベ ト ナ ム 人 が 住 む 手 助
け を す る な ど 、 在 日 ベ ト ナ ム 人 の ネ ッ ト ワ ー ク を 構 築 し
た 。 そ こ に は 、 日 本 へ の 同 化 と い う 生 活 手 段 に よ っ て 在
日 ベ ト ナ ム 人 の 集 住 を 促 進 す る 、 と い う 過 程 が 考 え ら れ
る 。
( b) 長 田 区 へ の 「 再 移 住 」 ― H の 事 例
H は ベ ト ナ ム 南 部 出 身 で 、 1 9 7 8 年 の 9 才 の と き 、 父 の
所 有 す る 舟 で ベ ト ナ ム を 脱 出 し た 。 両 親 と 7 人 兄 弟 ( 姉
妹 含 む )の 家 族 だ っ た 。長 さ 1 0 m 、幅 2 m の 舟 に 家 族 ・ 親
戚 、 同 じ 地 域 に 住 ん で い た 人 た ち 、 合 わ せ て 7 4 人 が 乗 り
込 ん だ 。 シ ン ガ ポ ー ル へ 向 か お う と し て シ ン ガ ポ ー ル 沖
を 漂 流 し て い た と こ ろ を 、 ノ ル ウ ェ ー の 船 に 救 助 さ れ た 。
船 が 横 浜 港 に 到 着 す る と 、 救 助 さ れ た 人 た ち は 3、 4 個 の
グ ル ー プ に 分 け ら れ て 、 そ れ ぞ れ 別 の 地 域 に 収 容 さ れ た 。
H の 家 族 の グ ル ー プ は バ ス に 乗 っ て 長 崎 へ 向 か っ た 。 長
崎 の 収 容 セ ン タ ー で は 1 年 半 、日 本 語 教 育 な ど を 受 け た 。
救 助 さ れ た の が ノ ル ウ ェ ー の 船 だ っ た の で 、 当 初 は ノ ル
ウ ェ ー へ 渡 る こ と を 考 え て い た 。 し か し 手 続 き に 何 年 も
か か る と い う 話 を 聞 い て あ き ら め た 。
和 歌 山 の 教 会 が 自 分 た ち の 援 助 を す る と 申 し 出 た の で 、
ま た 先 に 親 戚 が 移 っ て い た こ と も あ り 、1 9 8 0 年 に H の 家
族 は 和 歌 山 県 海 南 市 へ 住 む こ と に し た 。 教 会 に は ア イ ル
ラ ン ド 人 の 神 父 が い て 、 住 居 の 世 話 を し て く れ た 。
神 戸 市 に 移 り 住 ん だ き っ か け は 、H の 父 の 知 り 合 い が 誘
っ て く れ た か ら で あ る 。 H の 父 は ま ず 先 に 1 人 で 神 戸 に
来 て 、 家 を 借 り 1 年 く ら い 神 戸 で 働 い た 。 1 9 8 3 年 の 夏 、
家 族 そ ろ っ て 和 歌 山 か ら 長 田 区 に 移 り 住 ん だ 。 神 父 は 心
配 し て 「 そ っ ち ( 神 戸 ) で 大 丈 夫 か 」 と 連 絡 し て く れ た
と い う 。
H は セ ン タ ー か ら 一 度 他 の 土 地 に 住 み 、そ の 後 長 田 区 へ
来 た 事 例 で あ る 。 H の 事 例 で は 、 ど の よ う に 長 田 区 へ 移
住 し て き た か が 注 目 さ れ る 。 H は 来 日 し た と き 9 才 だ っ
た の で 、 こ れ ら の 居 住 地 移 動 は H 家 族 に よ る 決 定 で あ っ
た 。H 家 族 は 和 歌 山 か ら 移 住 す る と き 、H の 父 だ け が 先 に
神 戸 に 来 て い る 。 家 族 が 移 っ て く る 前 に 、 長 田 区 で の 生
活 基 盤 を 作 っ た と い え る 。 あ る い は 、 神 戸 で 1 年 間 働 い
て み て 、 神 戸 と 和 歌 山 の ど ち ら が よ り 経 済 的 に 満 足 で き
る か を 判 断 す る 意 図 が あ っ た と も 考 え ら れ る 。 そ の 結 果 、
長 田 区 へ の 移 住 を 主 体 的 に 選 択 し た 。 ま た 、 移 動 の と き
に 在 日 ベ ト ナ ム 人 同 士 の ネ ッ ト ワ ー ク が 働 い て い る こ と
が 分 か る 。 1 9 8 3 年 前 後 は 、 長 田 区 に 住 む 在 日 ベ ト ナ ム 人
が 増 加 し 始 め た 時 期 で あ る 。 H の 父 は 知 り 合 い か ら 、 仕
事 の 話 や 在 日 ベ ト ナ ム 人 の 住 民 が い る こ と な ど を 聞 い た
と 考 え ら れ る 。
こ の よ う に 、長 田 区 へ の 移 住 過 程 に お い て は 、先 に 生 活
基 盤 を 形 成 す る 、 あ る い は す で に 長 田 区 に 住 む 知 り 合 い
を つ て に す る な ど 、 生 活 の 安 定 を 実 現 し よ う と す る 戦 略
が 見 え て く る 。
Ⅳ 長 田 区 の 捉 え ら れ 方
第 3 章 で は 、長 田 区 に は 他 の 地 域 か ら 移 住 し て き た「 再
移 住 」の 傾 向 を 3 件 の 事 例 と し て 確 認 す る こ と が で き た 。
こ れ ら の 事 例 で は 、 来 日 後 数 年 の 短 期 間 で 移 動 し 、 そ の
後 頻 繁 に 移 動 す る こ と は な く 定 住 し て い る 。 注 目 さ れ る
の は 、 居 住 地 移 動 を し た 彼 ら が そ の 後 は 長 田 区 に 定 着 し
た こ と で あ る 。 長 田 区 か ら の 移 出 は な い の か 。 長 田 区 に
在 日 ベ ト ナ ム 人 が 留 ま り 定 住 す る の は な ぜ だ ろ う か 。第 4
章 で は 、 在 日 ベ ト ナ ム 人 に と っ て 長 田 区 は ど の よ う に 受
け 取 ら れ て い る の か を 、 彼 ら の 語 り か ら 考 察 す る 。
1) 定 住 の 事 例
( a) 住 み や す さ を 語 っ た N の 事 例
1 9 8 1 年 に N は 兄 と 一 緒 に ボ ー ト で ベ ト ナ ム を 出 た 。 日
本 へ 向 か う 船 に 救 助 さ れ 、 徳 島 県 の 小 松 島 港 に 着 い た 。
用 意 さ れ た バ ス に 乗 っ て 、 長 崎 県 の キ ャ ン プ へ 行 っ た 。
長 崎 に 滞 在 中 、 ベ ト ナ ム 人 難 民 の 男 性 と 結 婚 し た 。 ア メ
リ カ へ 渡 る こ と を 希 望 し て い た が 許 可 が 下 り ず 、 日 本 へ
の 定 住 が 決 ま っ た 。 当 時 は ア メ リ カ が 難 民 受 入 れ を 大 幅
に 削 減 し 始 め た 時 期 だ っ た 。 姫 路 セ ン タ ー で 3 か 月 の 日
本 語 教 育 を 受 け た あ と 、 就 職 斡 旋 を 受 け て 香 川 県 丸 亀 市
へ 住 ん だ 。 夫 が 紹 介 さ れ た 仕 事 は 、 海 洋 気 象 ブ イ の 清 掃
作 業 だ っ た 。会 社 が 住 居 の 世 話 を し て く れ た 。N は 子 ど も
の 面 倒 を み て 生 活 し て い た が 、 回 り に は 他 に ベ ト ナ ム 人
は い な か っ た の で 、 不 安 で 心 細 か っ た 。
丸 亀 市 で の 生 活 が 半 年 を 過 ぎ た こ ろ 、セ ン タ ー で の 知 り
合 い か ら 、 神 戸 に ベ ト ナ ム 人 が 多 い か ら 来 な い か と 誘 わ
れ た 。 そ の 知 り 合 い が 家 を 探 し て く れ て 、 1 9 8 3 年 安 い ア
パ ー ト を 借 り て 長 田 に 移 り 住 ん だ 。 仕 事 は 町 中 の チ ラ シ
を 見 て 自 分 で 探 し た 。N は 保 育 所 に 子 ど も を 預 け て 、ケ ミ
カ ル シ ュ ー ズ 工 場 で 働 い た 。 ベ ト ナ ム 人 の 従 業 員 は N 一
人 だ っ た 。 工 程 の な か で も 、 貼 工 の 仕 事 は 技 術 が 必 要 だ
っ た が 、 手 先 が 器 用 な の で 仕 事 を 見 て 簡 単 に 覚 え た 。
N 家 族 は 阪 神 大 震 災 の 半 年 前 に ア パ ー ト か ら 市 営 住 宅
に 引 っ 越 し て い た の で 、 被 害 は 少 な か っ た 。 し か し 被 害
を 受 け た 町 の 様 子 を 見 る と 怖 か っ た 。 震 災 後 は 地 域 の 中
学 校 に 避 難 を し た が 、N は 日 本 語 の 情 報 が 理 解 で き た の で 、
避 難 生 活 で あ ま り 困 ら な か っ た 。 と こ ろ が 余 震 が ひ ど い
う え に 、「 地 震 が も う 1 回 来 る か も し れ な い 」 と い う 噂 を
聞 い た の で 、 ベ ト ナ ム へ 2 か 月 間 避 難 し た 。 そ の 後 日 本
に 帰 っ て き た が 、 電 気 と 水 道 が 復 旧 し 始 め る と 家 に 帰 る
こ と が で き た 。
震 災 の 後 、長 田 区 か ら 出 て い く こ と を 考 え た こ と は な か
っ た 。 子 ど も の 学 校 が あ る し 、 仕 事 も あ る 。「 こ こ に 住 み
慣 れ た か ら 出 て い こ う と は 思 わ な か っ た 」。「教 会 、仕 事 、
南 京 町 が あ っ て 住 み や す い 町 だ と 思 う 」 と 話 し た 。
( b) 家 を 買 っ た T の 事 例
T は 1 9 8 1 年 、 9 才 の と き 家 族 8 人 や 親 戚 と 共 に 、 4 9 人
乗 り の ボ ー ト で 出 国 し た 。 海 上 で パ ナ マ の 船 に 拾 わ れ て 、
徳 島 県 の 小 松 島 港 に 着 い た 。 用 意 さ れ て い た バ ス に 乗 っ
て 長 崎 へ 行 き 、 日 本 の 審 査 を 待 っ て 長 崎 で 1 年 半 ほ ど 生
活 し た 。T の 家 族 は 親 戚 を 頼 っ て ア メ リ カ へ 渡 る こ と を 希
望 し て い た が 許 可 が 下 り ず 、 日 本 に 定 住 す る こ と に な っ
た 。
日 本 へ の 定 住 が 決 ま る と 姫 路 セ ン タ ー に 入 り 、 3 、 4 か
月 く ら い を 姫 路 で 生 活 し た 。 そ の 後 、 セ ン タ ー が 造 船 会
社 で の 仕 事 を 紹 介 し て く れ た の で 、T 家 族 は 香 川 県 丸 亀 市
へ 移 り 住 ん だ 。 造 船 会 社 の 社 長 が 家 の 世 話 を し て く れ た 。
造 船 の 仕 事 は 日 給 4 5 0 0 円 ほ ど だ っ た 。
小 学 6 年 の と き 、香 川 県 か ら 兵 庫 県 へ 移 り 住 ん だ 。父 の
知 り 合 い が 長 田 で ケ ミ カ ル シ ュ ー ズ の 仕 事 を し て お り 、
神 戸 へ 来 な い か と 誘 っ て く れ た か ら だ っ た 。T に 仕 事 と 家
を 紹 介 し て も ら い 、T の 父 は ケ ミ カ ル シ ュ ー ズ 工 場 で 働 い
た 。 T は 美 容 師 の 専 門 学 校 を 卒 業 し 、 美 容 院 で 働 い た が 、
北 鈴 蘭 台 に あ る 勤 め 先 ま で は 遠 く て 大 変 だ っ た そ う だ 。
体 調 を 崩 す こ と が 多 く 、 休 養 を 挟 み な が ら 働 い て き た 。
1 9 8 9 年 に 、 在 日 ベ ト ナ ム 人 の 男 性 と 結 婚 し た 。 夫 は T の
父 と 同 じ く ケ ミ カ ル シ ュ ー ズ 工 場 で 4、 5 年 働 き 、 そ の 後
貿 易 業 を し て い た 。
阪 神 大 震 災 で は 家 が 半 壊 し た 。両 親 や 親 戚 の 家 は 全 壊 し
て し ま っ た の で 、 彼 ら の 家 具 を 自 宅 に 運 ん で き て 住 め る
状 況 で は な か っ た 。 そ の た め ベ ト ナ ム の 親 戚 の 家 へ 2 か
月 間 避 難 し た 。 帰 っ て き た あ と 同 じ 家 に 住 み 始 め た が 、
地 震 で 家 が 揺 れ た 記 憶 か ら 子 ど も が 怖 が っ て い た の で 、
一 戸 建 て の 家 を 買 っ た 。 家 を 買 う と き 、 最 初 は 外 国 人 だ
か ら と 銀 行 に 融 資 ( 住 宅 ロ ー ン ) を 一 度 断 ら れ た が 、 た
か と り コ ミ ュ ニ テ ィ セ ン タ ー の 人 に 融 資 を 手 伝 っ て も ら
い 、家 を 買 う こ と が で き た 。震 災 で 大 変 な 思 い を し た が 、
そ れ で も 「 こ こ 以 外 の 土 地 は 知 ら な い か ら 、 他 の 土 地 に
住 む こ と は 考 え ら れ な い 。慣 れ て い る し 、土 地 勘 が あ る 。
親 も 親 戚 夫 婦 も 住 ん で い る か ら 」 と 話 し た 。
( c ) 居 住 2 年 で 震 災 に 遭 っ た O の 事 例
O は ベ ト ナ ム で 専 門 学 校 を 卒 業 後 働 い て い た が 、 1 9 8 9
年 2 0 代 の と き に 、ボ ー ト で ベ ト ナ ム を 出 た 。2 0 日 間 漂 流
し 、 中 国 の 船 に 助 け ら れ て 香 港 に 着 い た 。 香 港 の 難 民 キ
ャ ン プ で は レ ス ト ラ ン で 働 き な が ら 、 4 年 間 暮 ら し た 。香
港 の 滞 在 中 に 古 い 知 り 合 い と 再 会 し 、1 年 後 に 結 婚 し 長 男
を 生 ん だ 。
香 港 か ら 日 本 へ 来 て 姫 路 セ ン タ ー に 入 所 し 、 4 か 月 間 の
日 本 語 教 育 を 受 け た 。 長 田 に 来 た の は 1 9 9 3 年 だ っ た 。 夫
が 先 に ケ ミ カ ル シ ュ ー ズ 工 場 で 働 い て い た の で 、 追 っ て
長 田 に 移 住 し た 。 ケ ミ カ ル シ ュ ー ズ 工 場 の 社 長 が 保 証 人
に な っ て 、 ワ ン ル ー ム マ ン シ ョ ン を 借 り る こ と が で き た 。
マ ン シ ョ ン に は O 家 族 と 同 じ よ う に 、 社 長 が 保 証 人 に な
っ た ベ ト ナ ム 人 た ち が 多 く 住 ん で い た 。「 入 居 者 の ほ と ん
ど が ベ ト ナ ム 人 だ っ た と 思 う 」 と 話 し た 。 社 長 に は と て
も 世 話 に な っ て 「 今 で も 感 謝 し て い る 」 と い い 、 今 で も
付 き 合 い が 続 い て い る 。 長 田 に 来 た と き 、 娘 は 1 か 月 で
息 子 も 小 さ か っ た の で 、 子 ど も た ち を 保 育 園 に 預 け て 、
ケ ミ カ ル シ ュ ー ズ 工 場 で 働 い た 。 最 も 多 い と き に は 月 2 0
万 円 を 稼 い だ 。
阪 神 大 震 災 の と き 、O 家 族 は セ ン タ ー で 知 り 合 っ た 友 人
に 会 い に 、 八 尾 市 へ 行 っ て い た 。 戻 っ て 来 て も 家 の 中 で
は 暮 ら せ な か っ た の で 、 し ば ら く 公 園 で 避 難 生 活 を し た 。
し か し 地 震 が ま た 起 こ る か も し れ な い と 不 安 だ っ た の で 、
3 か 月 間 ベ ト ナ ム に 帰 っ た 。
1 9 9 8 年 に 、 ケ ミ カ ル シ ュ ー ズ 工 場 の 仕 事 を や め て 、 ベ
ト ナ ム 料 理 の レ ス ト ラ ン を 始 め た 。 O と 友 人 2 人 と 一 緒
に 、 3 人 の 共 同 で 経 営 し た 。 レ ス ト ラ ン を 始 め た の は 、 3
人 で 店 を 交 代 で 回 せ ば 順 番 に 子 ど も の 面 倒 を み る 時 間 が
と れ る か ら だ と い う 。今 は 1 人 で レ ス ト ラ ン を し て い る 。
休 日 の 夜 に は 、 レ ス ト ラ ン に ベ ト ナ ム 人 客 が 集 ま っ て 過
ご し た り 、カ ラ オ ケ を し た り す る 。O は「 長 田 は 生 活 に 便
利 な と こ ろ 」 だ と い う 。 震 災 を 経 験 し た が そ れ で も 長 田
に 住 み 続 け た の は 、「 家 を 借 り る の は 大 変 だ か ら 。 引 っ 越
す と ま た 一 か ら 借 り な い と い け な い 」 と 話 し た 。
2) 考 察
3 件 の 事 例 に 共 通 す る の は 、 彼 ら が 長 田 区 を 「 住 み や す
い 」「 慣 れ て い る 」「 便 利 な と こ ろ 」 と 肯 定 的 に 話 す と い
う こ と で あ る 。 N G O 代 表 で あ る N は 長 田 区 の 住 み や す さ
に つ い て 教 会 や 仕 事 を あ げ て い る が 、 そ れ を 次 の よ う に
詳 し く 話 し て く れ た 。「 ケ ミ カ ル シ ュ ー ズ の 仕 事 は 、 お ば
あ さ ん か ら 子 ど も ま で ど ん な 人 で も 働 け る 内 職 が あ る 。
こ う い っ た 内 職 は 他 の 地 域 に は め っ た に な い 。 ま た 、 神
戸 市 は 、 震 災 を き っ か け に 通 訳 や 学 校 で の 対 応 な ど 、 外
国 人 に 対 し て サ ー ビ ス が 充 実 し て い る か ら 暮 ら し や す
い 」。 こ の よ う に 、 在 日 ベ ト ナ ム 人 は 長 田 区 を 肯 定 的 に 捉
え る が 、 そ れ は 彼 ら が 定 住 す る と き に ど う 表 れ て い る だ
ろ う か 。
T は 、 長 田 区 に 長 く 住 ん で い る 在 日 ベ ト ナ ム 人 で あ る 。
子 ど も の と き か ら 長 田 区 に 住 む T に と っ て 、 長 田 区 は 育
っ た 地 域 で あ り 、 両 親 や 親 戚 が い る と い う 安 心 感 が 得 ら
れ る 。T は 震 災 後 に 以 前 ま で の 家 を 出 る 節 目 に 立 ち 、引 っ
越 す か そ の ま ま 住 み 続 け る か を 選 べ た 。 結 果 と し て 住 宅
ロ ー ン を 組 ん で い る の だ か ら 、 ど ち ら を も 選 べ る 経 済 力
を 持 っ て い た 。 在 日 ベ ト ナ ム 人 に と っ て 移 住 は 他 の 地 域
で 一 か ら 生 活 を 築 く こ と を 、 定 住 と は 今 ま で 住 ん で き た
長 田 区 で の 生 活 基 盤 を 維 持 す る こ と を 意 味 す る 。T は 、生
活 基 盤 の 維 持 を 選 ん だ 。T が 長 田 区 に「 住 み 慣 れ 」て お り 、
在 日 ベ ト ナ ム 人 の ネ ッ ト ワ ー ク が 保 た れ て い る か ら で あ
る 。 移 住 し て そ れ ら を 失 う こ と は 損 失 だ と 判 断 し た と い
え る 。 も ち ろ ん 、 子 ど も が 学 校 を 変 わ る の を 避 け る と い
う 個 人 の 戦 略 も あ っ た だ ろ う 。T は 特 に 意 識 す る こ と な く
こ の よ う な 判 断 を し た と 思 わ れ る 。「 他 の 土 地 に 住 む こ と
は 考 え ら れ な い 」と い う 言 葉 か ら は 、T は 長 田 区 以 外 に 住
む こ と を 考 え た こ と も な く 、 長 田 区 に 住 み 続 け る こ と を
当 た り 前 に 受 け 止 め て い た と 読 み 取 れ る 。
生 活 基 盤 の 維 持 を 選 ん だ こ と は 、O の 言 葉 に も 明 確 に 表
れ る 。O は 長 田 区 に 住 み 始 め て 2 年 で 震 災 に 遭 っ て お り 、
住 み 慣 れ る に は 居 住 期 間 が 少 な い 。 し か し 「 引 っ 越 す と
ま た 一 」 か ら 借 り な い と い け な い 」 か ら 、 そ の ま ま 移 住
を 考 え な か っ た 。 幸 い マ ン シ ョ ン に 住 み 続 け る こ と が で
き 仕 事 も あ っ た た め 、 長 田 区 で 築 き 始 め て い た 生 活 を 維
持 し た の で あ る 。 の ち に レ ス ト ラ ン を 始 め た こ と で 、 生
活 は よ り 定 住 に 傾 い た と い え る 。 た だ 、「 家 を 借 り る の は
大 変 だ 」 と O が 話 す こ と は 、 生 活 基 盤 の 維 持 を 選 択 し た
積 極 性 だ け で な く 、 新 し い 生 活 基 盤 の 形 成 に リ ス ク を 感
じ て い る と い う 面 も 見 え る 。 第 3 章 で 取 り 上 げ た H の 事
例 に は 、 同 様 に 消 極 的 な 一 面 が あ る 。
中 学 2 年 の と き 海 南 市 か ら 長 田 区 に 来 た H は 、 2 0 才 の
と き 、 父 の 貿 易 業 の 仕 事 を 本 格 的 に 手 伝 い 始 め た 。 震 災
当 日 は 長 田 に は お ら ず 、 仕 事 で ベ ト ナ ム へ 行 っ て い た 。
日 本 行 き の 飛 行 機 が 飛 ば ず 、 震 災 か ら 3 か 月 後 、 長 田 に
戻 る こ と が で き た 。 妻 の ベ ト ナ ム 人 女 性 と は 、 ベ ト ナ ム
で 出 会 っ て 結 婚 し 、 震 災 後 に 一 緒 に 日 本 に 来 た 。 舟 で 脱
出 し た と き の 記 憶 に 比 べ た ら 、 地 震 く ら い た い し た こ と
が な い と 思 え た か ら 、 長 田 か ら 移 ろ う と は 思 わ な か っ た 。
父 か ら 引 き 継 い で 、 現 在 は 1 人 で 貿 易 業 を 営 ん で い る 。
主 に 中 古 品 の 農 業 機 械 を 取 り 扱 っ て い る 。 多 い と き は 月
に 3 0、 4 0 万 円 を 稼 げ る が 、 売 上 な し の 月 も あ る 。 年 収 は
4 0 0 万 ほ ど で 、家 族 4 人 で ぎ り ぎ り 生 活 で き て い る と い う 。
会 社 に 入 れ ば も っ と 稼 げ る の だ ろ う け ど 、 個 人 で す る 仕
事 だ か ら 融 通 が き く の で 続 け て い る 。 子 ど も た ち と 遊 ぶ
時 間 な ど を 自 由 に つ く る こ と が で き る 。 国 籍 を ま だ と っ
て い な い し 、 生 活 に 余 裕 が な い の で 今 の と こ ろ 家 を 買 う
予 定 は な い 。 条 件 が 整 っ た ら 買 う か も し れ な い 。
H は 長 田 区 で 育 ち 、前 述 の T と 同 様 住 み 慣 れ て い る 。貿
易 業 は 収 入 が 安 定 せ ず 、 生 活 に 余 裕 が あ る と は い え な い 。
し か し 雇 用 者 に な っ て 収 入 を 向 上 さ せ る よ り も 、 子 ど も
た ち の た め の 時 間 が あ る 生 活 を 選 ん で い る 。 そ れ は 個 人
と し て の 選 択 で あ る 。 し か し H に そ う さ せ る の は 、 ベ ト
ナ ム へ 中 古 品 を 輸 出 す る 貿 易 業 に 携 わ っ て い る か ら 選 べ
る の で あ り 、 貿 易 業 に 携 わ る の は 在 日 ベ ト ナ ム 人 ゆ え で
あ る 。 す な わ ち 、 個 人 の 選 択 で あ る の に 、 在 日 ベ ト ナ ム
人 と い う 属 性 に よ っ て 規 定 さ れ て い る 一 面 が あ る 。 ベ ト
ナ ム 人 は 仕 事 と 居 住 が 近 接 す る こ と を 望 む 傾 向 が 強 く 1 5 ) 、
今 の 仕 事 を 続 け る と い う こ と は 長 田 区 に 住 み 続 け る こ と
に な る 。
以 上 か ら 、在 日 ベ ト ナ ム 人 の 定 住 に つ い て 次 の よ う に い
え る 。 在 日 ベ ト ナ ム 人 は 長 田 区 で 個 人 と し て 、 在 日 ベ ト
ナ ム 人 の グ ル ー プ と し て 生 活 基 盤 を 形 成 し て き た 。 そ の
こ と は 彼 ら に と っ て 、「 長 田 区 は 住 み や す い 」 と し て 肯 定
的 に 話 さ れ る 。 生 活 戦 略 に お い て も 、 彼 ら は 「 住 み や す
さ 」 で あ る 生 活 基 盤 を 維 持 す る 。 彼 ら が 生 活 基 盤 の 安 定
を 重 視 す る こ と は 、 日 系 ブ ラ ジ ル 人 が 帰 郷 を 前 提 と し た
出 稼 ぎ で あ る こ と と 対 照 的 で あ る 1 6 ) 。 し か し 、 他 の 選 択
肢 の リ ス ク か ら 消 極 的 に 長 田 区 へ の 居 住 を 選 択 し た り 、
個 人 の 戦 略 で あ っ て も 在 日 ベ ト ナ ム 人 と い う 属 性 が 長 田
区 に 居 住 さ せ た り す る 一 面 も あ る 。 生 活 基 盤 の 安 定 を 重
視 す る た め に 、 無 意 識 の う ち に 選 択 肢 が 狭 め ら れ て い る
状 況 が 時 と し て 起 こ る と 考 え ら れ る 。
と こ ろ で 、長 田 区 へ 移 入 し た 事 例 は 確 認 で き た が 長 田 区
か ら 移 出 す る 動 き は あ る の か 。 定 住 側 か ら の 視 点 に 終 始
し た た め 、 考 察 す る に あ た っ て 十 分 で は な い が 、 長 田 区
か ら の 移 住 の 例 は い く つ か 確 認 で き た 。 第 一 に 、 震 災 時
の 移 住 で あ る 。 N に よ る と 、「 震 災 の あ と 、 2、 3 世 帯 が 長
田 か ら 出 て い っ た 。 長 田 か ら 一 時 的 に 避 難 す る つ も り で
出 て 行 っ て 、 そ の ま ま 避 難 先 の 土 地 に 居 着 い た よ う だ 」
と い う 。 大 阪 府 八 尾 市 も ま た 、 在 日 ベ ト ナ ム 人 の 集 住 地
域 と し て 知 ら れ て い る が 、 震 災 か ら 半 年 後 の 調 査 で は 、 3
人 が 八 尾 市 へ 避 難 し た こ と が 分 か っ て い る ( 神 戸 商 科 大
学 舟 場 研 究 室 , 1 9 9 6)。 第 二 に 、 現 在 で も 在 日 ベ ト ナ ム 人
が 移 動 す る 事 例 は あ る 。 N P O ト ッ カ ビ は 、 大 阪 府 八 尾 市
で 在 日 コ リ ア ン を 始 め と す る 外 国 人 の 生 活 支 援 を し て い
る 。 ベ ト ナ ム 人 に 対 す る 活 動 も 行 っ て お り 、 こ こ 1 年 半
の 間 に 長 田 区 か ら 引 っ 越 し て き た 家 族 が 、 市 役 所 へ の 手
続 き に 関 し て 相 談 に 来 た と 分 か っ た 。 長 田 区 か ら の 移 住
は 、 少 な い な が ら も 存 在 し て い る 。
調 査 で 捕 捉 で き な か っ た 理 由 を 次 の よ う に 考 え る 。今 回
の 調 査 で は イ ン フ ォ ー マ ン ト を 探 す に あ た り 、 N G O ベ ト
ナ ム i n K O B E の 協 力 と 、 調 査 で 出 会 っ た 在 日 ベ ト ナ ム 人
に 紹 介 し て い た だ く 方 法 を 取 っ た 。 そ の た め 彼 ら の 人 脈
に 頼 っ た 部 分 が 大 き く 、 事 例 に は 彼 ら の 個 人 的 な ネ ッ ト
ワ ー ク が 反 映 さ れ て い る 。 在 日 ベ ト ナ ム 人 に は 多 様 な 要
素 が あ り 、 出 身 地 や 宗 教 に よ っ て ネ ッ ト ワ ー ク が 異 な る 。
今 回 の 調 査 で は 、 在 日 ベ ト ナ ム 人 を 一 つ の グ ル ー プ と し
て 捉 え る に は 至 ら な か っ た の で あ る 。
Ⅴ 終 わ り に
在 日 ベ ト ナ ム 人 の 集 住 は 、 1 9 8 0 年 代 に は 特 定 の 県 に 集
中 す る 傾 向 に あ っ た が 、 徐 々 に 集 中 は 緩 や か に な り 居 住
地 が 全 国 的 に 拡 散 し て い る 。 一 方 で 、 長 田 区 で は 在 日 ベ
ト ナ ム 人 が 集 住 す る 傾 向 は 維 持 さ れ て お り 、 長 田 区 は 在
日 ベ ト ナ ム 人 を 引 き つ け る 要 素 を 持 っ て い る と 考 え ら れ
た 。 事 例 か ら 、 長 田 区 在 住 の 在 日 ベ ト ナ ム 人 に は 、 直 接
長 田 区 に 移 住 し た 場 合 と 、 来 日 後 他 の 地 域 に 住 ん だ 後 に
長 田 区 に 移 住 し て き た 場 合 が あ る こ と が 分 か っ た 。 初 期
の 定 住 者 は 、 日 本 へ の 同 化 と い う 生 活 手 段 に よ っ て 在 日
ベ ト ナ ム 人 が 長 田 に 移 住 す る 足 が か り を 形 成 し た 過 程 が
確 認 さ れ た 。 ま た 、 再 移 住 し た 者 は 在 日 ベ ト ナ ム 人 の ネ
ッ ト ワ ー ク を 利 用 し て 居 住 地 移 動 を し て い た 。 い ず れ も 、
生 活 基 盤 の 安 定 を 重 視 し た 戦 略 を 取 っ て い た と い え る 。
長 田 区 に 定 住 す る 在 日 ベ ト ナ ム 人 の 語 り か ら は 、長 田 区
が「 住 み や す い 」地 域 と し て 肯 定 的 に 受 け 取 ら れ て い る 。
実 際 長 田 区 は 、 仕 事 や 住 居 、 教 会 と い っ た 生 活 環 境 に 恵
ま れ 、 居 住 年 数 を 経 て 在 日 ベ ト ナ ム 人 の ネ ッ ト ワ ー ク が
形 成 さ れ て い る 。 ま た 、 震 災 を 契 機 に N G O 団 体 の 支 援 が
発 展 し 、 地 域 住 民 と 在 日 ベ ト ナ ム 人 住 民 の 間 で は 良 好 な
関 係 が 構 築 さ れ て い る 。 在 日 ベ ト ナ ム 人 は 居 住 を 選 択 す
る 場 面 で 、 こ の よ う な 生 活 基 盤 を 好 ま し い も の と 考 え 、
維 持 す る こ と を 重 視 し て き た 。 し か し 、 彼 ら が 生 活 基 盤
の 安 定 を 重 視 す る と い う 行 動 を と る と き 、 他 の 地 域 で 一
か ら 生 活 を 始 め る こ と に リ ス ク を 感 じ て い た り 、 在 日 ベ
ト ナ ム 人 と い う 属 性 が 長 田 区 に 居 住 さ せ た り す る 一 面 も
あ る 。 意 識 し な い と こ ろ で 長 田 区 以 外 の 選 択 肢 が 狭 め ら
れ て い る 部 分 が あ る と 考 え ら れ る 。
調 査 を 通 し て 、長 田 区 の 在 日 ベ ト ナ ム 人 に と っ て 、生 活
の 助 け に な り 、頼 り に さ れ て い る の は 行 政 よ り も N G O 団
体 の 活 動 で あ る と 感 じ た 。 在 日 ベ ト ナ ム 人 自 身 が 意 識 せ
ず に お か れ て い る 不 自 由 さ は 、 日 常 生 活 の 延 長 に あ り 、
N G O や N P O の 活 動 が ま さ に 直 面 す る 現 場 で あ る 。本 研 究
が そ れ ら 活 動 の 場 面 で 僅 か な が ら で も 糧 と な る こ と を 願
う 。
こ れ ま で 、居 住 地 移 動 か ら 在 日 ベ ト ナ ム 人 に と っ て の 長
田 区 を 考 察 し て き た 。 し か し 、 事 例 の 少 な さ か ら 一 例 を
指 摘 す る に と ど ま り 、 長 田 区 か ら の 移 出 の 具 体 的 な 事 例
を 把 握 し て い な い 。 そ の た め 、 在 日 ベ ト ナ ム 人 の 居 住 地
移 動 の 流 れ や 傾 向 を 一 般 化 す る こ と が で き な か っ た 。 今
後 の 研 究 で は 、 在 日 ベ ト ナ ム 人 に 移 住 の 一 般 的 傾 向 は あ
る の か 、 長 田 区 か ら 移 出 す る 事 例 は ど の よ う な も の な の
か 、 現 在 ど の よ う な 層 の ベ ト ナ ム 人 が 長 田 区 に 移 入 し て
い る の か 、 こ う し た 点 に つ い て 明 ら か に す る こ と が 望 ま
れ る 。
( 2 3 , 3 4 5 字 )
謝 辞
本 研 究 を 進 め る に あ た り 、ご 指 導 を 頂 い た 指 導 教 員 の 山
崎 孝 史 教 授 に 感 謝 い た し ま す 。
た か と り コ ミ ュ ニ テ ィ セ ン タ ー の 事 務 員 で あ り 神 戸 大
学 大 学 院 国 際 文 化 学 研 究 科 の 野 上 恵 美 さ ん に は 、 イ ン フ
ォ ー マ ン ト の 紹 介 や 本 研 究 へ の 助 言 な ど 、 ひ と か た な ら
ぬ お 世 話 に な り ま し た 。 あ り が と う ご ざ い ま し た 。
そ し て 、 聞 き 取 り 調 査 に 快 く 協 力 し て 頂 い た 、 N G O ベ
ト ナ ム i n K O B E 代 表 の N さ ん 、 事 務 員 の T さ ん 、 N P O
ト ッ カ ビ の 西 川 さ ん 、 長 田 区 の 在 日 ベ ト ナ ム 人 住 民 の 皆
様 に 心 か ら 感 謝 い た し ま す 。 本 当 に あ り が と う ご ざ い ま
し た 。
注
1) 平 成 2 3 年 版 『 在 留 外 国 人 統 計 』 に よ る 。
2) 平 成 2 3 年 版 『 在 留 外 国 人 統 計 』 に よ る と 、 ベ ト ナ ム
国 籍 登 録 者 は 4 1 , 7 8 1 人 、 韓 国 ・ 朝 鮮 国 籍 登 録 者 は
5 6 5 , 9 8 9 人 、 中 国 国 籍 登 録 者 は 6 8 7 , 1 5 6 人 、 ブ ラ ジ
ル 国 籍 登 録 者 は 2 3 0 , 5 5 2 人 で あ る 。
3) ベ ト ナ ム 難 民 の 日 本 へ の 入 国 経 路 は 、 ボ ー ト ピ ー プ
ル 、 海 外 の 難 民 キ ャ ン プ を 経 由 し て か ら の 来 日 、 国
連 の 合 法 出 国 計 画 に 基 づ く 家 族 呼 び 寄 せ の 3 通 り が
あ る ( 野 上 , 2 0 0 4)。
4) 在 日 コ リ ア ン の 居 住 地 移 動 の 研 究 と し て 湯 田( 1 9 9 9 )
が あ る 。 居 住 地 移 動 を 論 じ た 研 究 が 少 な い こ と は 、
外 国 人 研 究 全 体 に お い て い え る 。
5) 平 成 2 3 年 版 『 在 留 外 国 人 統 計 』 に よ る 。
6) 『 兵 庫 県 統 計 書 平 成 2 1 年 』 に よ る 。
7) 中 央 区 で は 、 華 僑 ・ 華 人 系 の ベ ト ナ ム 人 が 中 国 人 コ
ミ ュ ニ テ ィ の 外 縁 に 独 自 の ネ ッ ト ワ ー ク を 持 っ て 居
住 し て い る ( 川 上 , 2 0 0 1)。
8) 「 エ ス ニ ッ ク・マ イ ノ リ テ ィ の 集 住 は 、多 く の 場 合 、
都 市 内 の イ ン ナ ー シ テ ィ と 呼 ば れ る 範 囲 に 見 ら れ る 。
( 中 略 ) こ こ は 雇 用 機 会 に 恵 ま れ た 都 心 部 に 近 く 、
徒 歩 や 公 共 交 通 機 関 に よ る 通 勤 が 可 能 で あ る 。ま た 、
市 街 地 が 形 成 さ れ た 時 期 が 比 較 的 早 く 、 建 物 の 老 朽
化 が 進 ん で い る こ と が 多 い た め 賃 貸 料 が 安 く 、 エ ス
ニ ッ ク ・ マ ジ ョ リ テ ィ が 敬 遠 し が ち で あ る こ と が 、
移 民 が 集 住 す る 理 由 で あ る 」( 石 川 , 2 0 1 1)。
9) 昭 和 6 2 年 版 ~ 平 成 2 1 年 版 『 在 留 外 国 人 統 計 』 に よ
る 。
1 0) た だ し 、 把 握 で き る の は 集 中 の 程 度 で あ り 、 純 移 動
で は な い こ と に 注 意 し て お き た い 。 ま た 、 在 日 ベ ト
ナ ム 人 と 新 規 入 国 し た ベ ト ナ ム 人 を ベ ト ナ ム 国 籍 者
と し て 同 じ カ テ ゴ リ で 扱 っ て い る 点 に も 注 意 す る 。
1 1) 留 学 ・ 研 修 目 的 の ベ ト ナ ム 人 は 、 大 学 や 研 修 先 企 業
の 近 く に 住 む た め 、 長 田 区 に は ほ と ん ど い な い 。
1 2) 川 上 ( 2 0 0 1 ) は 、 ベ ト ナ ム 国 籍 者 の 人 口 推 移 か ら 、
在 日 ベ ト ナ ム 人 が 都 市 近 郊 へ の 「 再 移 住 」 す る 傾 向
を 指 摘 し て い る 。こ の 指 摘 は 統 計 か ら 導 か れ て お り 、
実 際 に 移 住 し た 事 例 を 調 査 に よ っ て 把 握 し た の で は
な い 。 そ の た め 、 聞 き 取 り 調 査 に よ っ て 検 証 す る こ
と は 意 味 が あ る 。
1 3) 1 9 8 0 年 代 後 半 か ら 盛 ん に な っ た 。 中 古 品 貿 易 に つ い
て は 戸 田 ( 2 0 0 1 ) が 詳 し い 。
1 4) 調 査 時 に ふ れ た C の 人 柄 に は 、 世 話 好 き な の だ ろ う
と 思 わ せ る 一 面 が あ っ た 。 C 個 人 が そ う い っ た 人 物
で あ る 点 も 大 き い の か も し れ な い 。
1 5) T は こ こ 数 年 電 車 に 乗 っ て い な い と い う 。C は 自 転 車
で 会 社 に 通 っ て い る 。ま た 、本 文 で 後 述 す る N P O ト
ッ カ ビ の ベ ト ナ ム 語 通 訳 者 へ の 聞 き 取 り に よ る と 、
「 ベ ト ナ ム の 人 た ち は 、 電 車 や バ ス に 乗 ら ず に 行 け
る 距 離 で 仕 事 を 探 し て い る 。 天 王 寺 の ほ う の 仕 事 を
勧 め て も 、 行 き た が ら な い 」 と い う 。 戸 田 ( 2 0 0 1 )
も 同 様 の 傾 向 に つ い て 詳 し く 述 べ て い る 。
1 6) 日 系 ブ ラ ジ ル 人 は 、 企 業 に 直 接 雇 用 さ れ る と 社 会 保
険 料 の 分 だ け 賃 金 が 下 が っ て し ま う た め 、 業 務 請 負
業 者 に 間 接 雇 用 さ れ る こ と を 選 ぶ 。 請 負 労 働 者 は 企
業 側 の 生 産 調 整 に よ っ て 必 要 な 時 ・ 場 所 に 必 要 な 人
数 が 送 ら れ る の で 、 頻 繁 に 配 置 転 換 が 行 わ れ る ( 梶
田 ほ か , 2 0 0 5 )。 そ の 結 果 、 居 住 地 移 動 を 繰 り 返 す 。
参 考 文 献
石 川 義 孝 編 ( 2 0 0 7 )『 人 口 減 少 と 地 域 ― 地 理 学 的 ア プ ロ ー
チ 』 京 都 大 学 学 術 出 版 会
石 川 義 孝 ( 2 0 11 )「 第 6 章 在 留 外 国 人 」: 石 川 義 孝 、 井 上
孝 、田 原 祐 子 編( 2 0 1 1 )『 地 域 と 人 口 か ら 見 る 日 本 の 姿 』
4 3 - 4 9 頁 . 古 今 書 院
梶 田 孝 道 、 丹 野 清 人 、 樋 口 直 人 ( 2 0 0 5 )『 顔 の 見 え な い 定
住 化:日 系 ブ ラ ジ ル 人 と 国 家・市 場・移 民 ネ ッ ト ワ ー ク 』
名 古 屋 大 学 出 版 会
外 国 人 地 震 情 報 セ ン タ ー ( 1 9 9 6 )『 阪 神 大 震 災 と 外 国 人 :
「 多 文 化 共 生 社 会 」 の 現 状 と 可 能 性 』 明 石 書 店
加 藤 節 、 宮 島 喬 編 ( 1 9 9 6 )『 難 民 』 東 京 大 学 出 版 会
川 上 郁 雄 ( 2 0 0 1)『 越 境 す る 家 族 : 在 日 ベ ト ナ ム 系 住 民 の
生 活 世 界 』 明 石 書 店
倉 田 良 樹 ( 2 0 0 3 )「 日 本 に 定 住 す る ベ ト ナ ム 系 住 民 の 就 労
状 況 」 一 橋 大 学 機 関 リ ポ ジ ト リ
h t t p : / / h d l . h a n d l e . n e t / 1 0 0 8 6 / 1 4 3 7 6( 2 0 11 / 0 2 / 1 5 印 刷 )
神 戸 商 科 大 学 舟 場 研 究 室 編 ( 1 9 9 6 )『 阪 神 ・ 淡 路 大 震 災 に
お け る ア ジ ア 系 定 住 者 の 生 活 ネ ッ ト ワ ー ク の 変 貌 と 再
生 へ の 展 望:定 住 ベ ト ナ ム 人 を 中 心 と し て 』神 戸 商 科 大
学 舟 場 研 究 室
志 賀 照 明 ( 2 0 0 5)「 ベ ト ナ ム 難 民 の グ ロ ー バ ル ・ ネ ッ ト ワ
ー ク ― 神 戸 市 を 事 例 と し て 」 兵 庫 地 理 5 0 , 1 6 - 2 4 頁
高 橋 椿 ( 2 0 0 9 )「 在 日 ベ ト ナ ム 人 の 定 住 過 程 ― 在 日 ベ ト ナ
ム 人 コ ミ ュ ニ テ ィ の 事 例 か ら ― 」大 阪 市 立 大 学 大 学 院 文
学 研 究 科 提 出 修 士 論 文
戸 田 佳 子 ( 2 0 0 1)『 日 本 の ベ ト ナ ム 人 コ ミ ュ ニ テ ィ : 1 世
の 時 代 、 そ し て 今 』 暁 印 書 館
野 上 恵 美 ( 2 0 1 0 )「 在 日 ベ ト ナ ム 人 に 関 す る 研 究 の 課 題 と
展 望 」 神 戸 文 化 人 類 学 研 究 3 , 5 5 - 6 5 頁
山 本 俊 一 郎 ( 2 0 0 2 )「 神 戸 ケ ミ カ ル シ ュ ー ズ 産 地 に お け る
エ ス ニ シ テ ィ の 態 様 ― 在 日 韓 国・朝 鮮 人 経 営 者 の 社 会 経
済 的 ネ ッ ト ワ ー ク ― 」 季 刊 地 理 学 5 4 , 1 - 1 9 頁
湯 田 ミ ノ リ ( 1 9 9 9 )「 在 日 韓 国 ・ 朝 鮮 人 の 居 住 地 移 動 か ら
見 た 集 住 地 域 の 形 成 ・ 維 持 過 程 ― 福 岡 市 を 事 例 と し て
― 」 地 域 調 査 報 告 2 1 , 9 9 - 1 1 0 頁
難 民 事 業 本 部 h t t p : / / w w w. r h q . g r . j p / ( 2 0 1 2 / 0 1 / 1 0 最 終 閲
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