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富山大学人間発達科学部・附属学校園 共同研究プロジェクト 平成28 年度報告書 富山大学スクラムプラン ―学校バリアフリーへの挑戦― 2016 富山大学人間発達科学部 富山大学人間発達科学部附属幼稚園 富山大学人間発達科学部附属小学校 富山大学人間発達科学部附属中学校 富山大学人間発達科学部附属特別支援学校 富山大学人間発達科学部附属 人間発達科学研究実践総合センター

富山大学スクラムプラン ―学校バリアフリーへの挑 …富山大学人間発達科学部・附属学校園 共同研究プロジェクト 平成28 年度報告書

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Page 1: 富山大学スクラムプラン ―学校バリアフリーへの挑 …富山大学人間発達科学部・附属学校園 共同研究プロジェクト 平成28 年度報告書

富山大学人間発達科学部・附属学校園

共同研究プロジェクト 平成28 年度報告書

富山大学スクラムプラン

―学校バリアフリーへの挑戦―

2016

富山大学人間発達科学部

富山大学人間発達科学部附属幼稚園

富山大学人間発達科学部附属小学校

富山大学人間発達科学部附属中学校

富山大学人間発達科学部附属特別支援学校

富山大学人間発達科学部附属

人間発達科学研究実践総合センター

Page 2: 富山大学スクラムプラン ―学校バリアフリーへの挑 …富山大学人間発達科学部・附属学校園 共同研究プロジェクト 平成28 年度報告書

はじめに

附属学校園と学部とが連携して進めるこの共同研究プロジェクトは,教育学部時代の平

成12年度にスタートしました。附属学校園の教員も大学の教員も自主参加を原則として,

協力してプロジェクトを継続してきました。そこで目指したものは,教育実践の向上につ

ながる共同研究,子どもたちの成長につながる共同研究でした。

平成28 年度の共同研究プロジェクトは,13 の研究グループ,延べ 93 名のメンバー

が参加し,多くの教科・領域等に関わる実践的な研究が,子どもたちのよりよい学びや育

ちのために展開されました。附属学校園の教員と大学の教員とが力を合わせて進めた研究

は,学術研究的な知見と,附属学校園で日々行われ,蓄積されている授業実践における知

見との両方を十分に活用して進められた研究であり,その意義は大きく,価値あるものと

考えます。

このような研究が進められただけでなく,研究成果のより積極的な発信を行うため,そ

して,附属学校園の教員と大学の教員との協力体制をより充実させるため,本プロジェク

トのワーキンググループにおける活動内容についての検討も行われました。その結果,平

成 29 年度より,今までのワーキンググループの中に,運営グループ,研究成果発信方法

検討グループ,附属学校園での大学教員による授業実施検討グループを作ることとなりま

した。今後,これらのグループ内で共同研究プロジェクトがより意義あるものとなるよう

に検討を進めていきます。

平成 29 年 3 月には,新しい幼稚園教育要領,小・中学校学習指導要領が告示されまし

た。本報告書にまとめられている授業実践等の内容は,子どもたちの,主体的・対話的で

深い学びの姿でもあると考えられ,新しい教育要領や指導要領実施の際にも役立つものと

考えております。

本報告書が教育現場の皆様のお役に立てることを期待しております。そして,本報告書

や共同研究プロジェクトへの忌憚のないご意見やご指導ご鞭撻を賜ることができましたら

大変ありがたく存じます。今後とも附属学校園と大学の連携にさらなるご理解,ご協力を

賜りますよう,心よりお願い申し上げます。

平成 29 年 9 月

共同研究プロジェクト・ワーキンググループ委員長

人間発達科学研究実践総合センター

長谷川春生

Page 3: 富山大学スクラムプラン ―学校バリアフリーへの挑 …富山大学人間発達科学部・附属学校園 共同研究プロジェクト 平成28 年度報告書

目 次

今年度の活動の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1

グループ研究

国語科教育 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 4

社会科教育 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5

理科教育 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 32

造形教育 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 33

家庭科教育 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 41

健康教育 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 48

英語科教育 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 70

ムーブメント教育 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 73

ICT の教育利用 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 84

特別支援教育コーディネーターの連携 ・・・・・・・・・ 94

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平成28 年度のプロジェクトの概要

(1)プロジェクトの実施体制

富山大学人間発達科学部と同附属学校園の共同研究プロジェクトは、平成28 年で17

年目を迎えた。本年度のプロジェクトは、昨年と同様、学部に設置されている附属学校運

営委員会の所管事業として実施された。同委員会のもとにプロジェクト推進のためのワー

キンググループが設置され、企画・運営に当たった。プロジェクト実施にかかる経費は学

部共通経費から措置された。なお、本プロジェクトのさらなる充実のために、平成 29 年

度より、ワーキンググループ内に、運営グループ、研究成果発信方法検討グループ、附

属学校園での大学教員による授業実施検討グループを作ることを決定した。

(2)プロジェクトの内容

本年度の共同研究プロジェクトは、ここ数年来と同様、グループ研究を中心に進めた。

グループ研究は、学部および附属学校園の教員が、研究したいテーマを出し合い、そのテ

ーマへの参加者を相互に募ってグループを作り、グループごとに研究活動を進めるもので

ある。本年度は以下のような13 のグループが作られた。なお、諸般の事情により報告書

が掲載されていないグループもある。

グループ名 研究内容 代表者

国語科教育 研究発表会や教育実習などの機会を通して、よりよ

い国語科の授業のあり方を探る。

米田猛(学部)

社会科教育 楽しくわかる社会科の授業づくりについて考える。 岡﨑誠司(学部)

理科教育 実際の授業を通した授業実践の検証、および実践内

容を踏まえた理科教育における教授法・学習論の研

究を行う。

片岡弘(学部)

造形教育 幼小中のつながりを意識しながら、造形教育で身に

つける力について研究する。

隅敦(学部)

家庭科教育 家庭科の授業実践の開発と検討を行う。 磯﨑尚子(学部)

健康教育 児童・生徒の生活習慣について実態を捉え、心身と

もに健康な生活を送るための支援のあり方を探る

藤本孝子(学部)

1

Page 6: 富山大学スクラムプラン ―学校バリアフリーへの挑 …富山大学人間発達科学部・附属学校園 共同研究プロジェクト 平成28 年度報告書

グループ名 研究内容 代表者

英語科教育 小学校における英語活動を含め、楽しくわかる英語

科の授業づくりを考える。

岡崎浩幸(教職大

学院)

生活・総合 幼稚園(生活単元学習)、小学校(生活・総合)の

授業を分析・検討し、よりよい支援のあり方を探る。

小林真(学部)

ムーブメント

教育

幼児の運動遊び、小学校低学年の体ほぐしの運動、

特別支援学校の自立活動や体育で実践するムーブメ

ント教育を取り入れた授業づくりについて考える。

越村早貴子(特別

支援学校)

ICT の教育利用 教育における ICT 活用の在り方を考え、授業実践等

を通して ICT 活用の効果を明らかにする。

長谷川春生(教職

大学院)

支援ツールと

ICT

児童生徒の自立的、主体的な姿を実現するための「支

援ツール」のデジタル化を試みる。

水内豊和(学部)

特別支援教育コ

ーディネーター

の連携

事例検討を通して、コーディネーターの役割や校内

での協力体制の在り方、特別な支援を要する児童生

徒への適切な対応について考える。

和田充紀(学部)

適応行動から特

別支援を考える

従来の子どもの知的・認知能力からだけでなく、

Vineland 適応行動尺度による社会生活能力の把握

を通して個に応じた・将来を見据えた支援を考える

方法について検討する。

水内豊和(学部)

(3)ワーキンググループ会議

第1回 平成28 年4月11 日(月)

・今年度の企画・参加者募集について (持ち回り)

第2回 平成28 年5月 11 日(水)

・今年度のグループの確定 (持ち回り)

第3回 平成28 年 6 月 27 日(月)

・今年度のグループ予算の確定 (持ち回り)

第4回 平成28 年12月 8 日(木)(於:附属中学校)

・来年度のプロジェクトについて

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(4)グループ研究代表者懇談会

平成 28 年10月 6 日(木)グループ研究を実施する上での情報交換

(5)運営組織

①附属学校運営委員会

・学部:鳥海清司(学部長)、千田恭子(附属人間発達科学研究実践総合センター長)、

隅敦(教務委員長)、岸本忠之(発達教育学科長)、上山輝(人間環境システム学科

長)、米田猛

・附属幼稚園: 小林真(園長)、廣田仁美(副園長)

・附属小学校: 根岸秀行(校長)、原野克憲(副校長)

・附属中学校: 堀田朋基(校長)、有島洋之(副校長)

・附属特別支援学校: 竹村哲(校長)、野原秀年(副校長)

②ワーキンググループ

・学部: 千田恭子、小川亮、岡崎浩幸、長谷川春生(長)

・附属幼稚園: 米﨑瑛美

・附属小学校: 松井智史

・附属中学校: 龍瀧治宏

・附属特別支援学校: 柳川公三子

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国語科教育グループ国語科授業の研究

代 表 : 米田 猛、宮城 信、西田谷洋附属小学校 : 北岡 明、松井智史附属中学校 : 萩中奈穂美、長澤信行、上不理恵

1. 活動の方針

附属小学校・附属中学校の日常的な研究活動に即した研究実践内容にする。具体的には、

(1) 研究発表会で公開する授業や校内研究授業などの学習指導案検討を行う。

(2) 日常的な授業において、お互いに観察を行う。

(3) 教育実習の指導の在り方について、検討を行う。

したがって、特別に研究主題を設けてする研究ではない。また、上記(1)~(3)の研究は

附属教員にも学部教員にも喫緊かつ重要な課題であり、この研究を行うことは、そのまま

附属校園の使命を果たすものでもある。

2. 活動の実際

2016.4.27(於附属小学校)

(1) 附属小学校「春の教育研究発表会」における公開授業の学習指導案検討会を行う。

・「チリン」が楽しいのはなぜ?(小学校第3学年) 【授業者・北岡 明】

・なぜ、筆者は「鳥獣戯画」を「人類の宝」と表現したのだろう?

(小学校第6学年) 【授業者・松井智史】

(2) 附属中学校「教育研究協議会」における公開授業の学習指導案検討会を行う。

・報告文を書こう(中学校第1学年) 【授業者・長澤信行】

・意見文を書こう(中学校第3学年) 【授業者・上不理恵】

2016.11.4(於附属中学校)

(1) 附属中学校校内研修会における授業についての検討

・類義のオノマトペ」の微妙な違いを分かりやすく説明しよう-比較して・例を挙

げて-(中学校第2学年) 【授業者・萩中奈穂美】

3. 活動の成果と課題

(1) 附属校園の重要な使命であり、かつ日常的に常に問題意識のある「教育研究発表

会」の授業検討(事前・事後)について論議できたことはよかった。特に、小学校

・中学校の授業について(本年度は特に中学校が小学校のことを)知ることができ

たのは、小学校・中学校の連携の観点から収穫である。

(2) 附属小学校・附属中学校の校内研修における学習指導案を検討する試みも、今後

継続していく必要がある。国語科の立場で学習指導案を検討することができるから

である。

(文責・米田 猛)

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社会科教育グループ

「おもしろい社会科授業」の創造2016

学 部 根岸秀行・岡﨑誠司・笹田茂樹

附属小学校 阿久津理・岩山直樹

附属中学校 北岡 聡・龍瀧治宏・坂田元丈

1.はじめに

(1)研究の目的

これまで本研究プロジェクトでは、評価問題の作成・検討を通して、あるべき社会科授

業の具体像を探求してきた。その際、実践した授業の単元展開を明らかにし、実践との関

わりのもと、評価問題とその背景となる理念を明らかにしてきた。

さて、次期学習指導要領の改訂に向けて、求められる資質・能力が各種教育誌にて論じ

られてきた。これまでの本研究プロジェクトにおいては、思考・判断・表現の能力に焦点

を当ててきたが、それを含めて今一度検討し直す必要があるだろう。そこで、以下の目的

のもと、研究の結果を報告したい。

授業実践の事実を確定し、実践後実施した評価問題を検討することを通して、求められ

る資質・能力を探求する。

(2)研究の方法

以下の過程で研究を進めた。

第1回共同研究プロジェクト(8月)研究の目的と方法・研究計画の検討

評価問題の検討

第2回共同研究プロジェクト(11月)評価問題の検討

第3回共同研究プロジェクト(12月)評価問題の検討

各検討会では、実際の単元展開と評価問題および児童生徒の解答を吟味した。その際、

「評価範囲」(教科書の該当ページの明示)、「評価問題作成の意図」(評価問題作成者の

学力観・学習指導要領の解釈の明示)、「評価基準」(発達段階に応じた学力観の明示)を

各提案者は明らかにするよう努めた。

(文責 岡﨑誠司)

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2.小学校第4年生「社会的な思考力・判断力・表現力」を育成する授業概要と評価問題

―小単元「富岩運河とわたしたちの富山」の検討を通して―

(1)小単元「富岩運河とわたしたちの富山」の実践概要

① 単元のねらい

② 単元について

本単元では、第4学年の内容(5)ウ「地域の発展に尽くした先人の具体的事例」を扱う。

ここでは、地域の人々の生活の移り変わりや願いを取り上げ、「地域の発展に尽くした先

人の働きや苦心が現在の地域の生活の向上に大きな影響を及ぼしたこと」を理解し、「地

域社会に対する誇りと愛情を育む」という態度を身に付けること」とある。

教科書で従来行われている一人の生き方を追うような実践では、一面的な見方を形成し

てしまったり、道徳的な授業に偏ってしまったりする問題点が考えられる。地域社会の発

展は、複数の社会的事象が関係しているため、複数の立場の先人が関わっている。そのた

め、先人の働きと地域社会の発展を考える際には、一つの立場だけではなく、複数の立場

の先人が地域社会の発展に関わっていることを知る必要がある。その上で、先人の働きや

苦心が、地域社会へ大きな影響を及ぼしたことを理解することが必要であろう。

そこで、本単元の本質を「地域社会の発展を複数の立場から捉え、地域の人々の生活の

向上に尽くした先人の働きを実感すること」とした。

・富岩運河工事や神通川の馳越工事を通して、地域の発展に尽くした先人の働きに関

心をもち、それらを意欲的に調べることができる。

【社会的事象への関心・意欲・態度】

・富岩運河工事や神通川の馳越工事において、立場によって様々な見方や考え方がで

きることを考え、適切に表現することができる。 【社会的な思考・判断・表現】

・富岩運河工事や神通川の馳越工事について、各種資料を活用したり、調査したりし

て、必要な情報を集めることができる。 【観察・資料活用の技能】

・富岩運河工事や神通川の馳越工事を通して、地域の発展に尽くした先人の働きと地

域住民の願いや生活の向上を理解することができる。

【社会的事象についての知識・理解】

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③ 全体計画(11時間)

主な学習活動 ○教師の支援 ●認識の深まり

第1次 神通川の流れの変化の理由を探ろう

はじめの認識の形成①〜⑦

○なぜ、富岩運河ができたのだろう。

○神通川はどのように真っすぐにな

ったのだろう。

○なぜ、昔の人は神通川を真っすぐ

にしたのだろう。

○河川の変化を捉えることができるように、現在と130年

前の地図を比較できる資料を提示する。

○主体的に調べ学習ができるように、副読本を活用したり、

インターネットを使って資料を集めたりすることができる

場を設ける。

第2次 富岩運河冠水公園ができた理由を探ろう

○富岩運河はどのようにつくられた

のだろう。

○なぜ、富岩運河ができたのだろう。

○実感を伴って理解ができるように、郷土博物館の見学、語

り部から話を聞く場を設ける。

●はじめの認識

富岩運河計画は、一石三鳥の工事で、県民にとってはよい

ものだった。しかし、奥田住民にとっては、家や田畑を失わ

ない所に運河の位置を計画した方がいい。

思考の活性化⑧

○なぜ、奥田において富岩運河が問

題だったのだろう。

○「奥田住民にとっては、家や田を失わない所に運河の位置

を計画した方がいい」という子供の捉えと、「奥田住民の家

や田畑がつぶれるところに運河ができている」という事実

とのズレを生かして、矛盾を顕在化する。

●思考の活性化

こんなに大問題なのに、なぜ、奥田住民は、少しずらすこ

とで、運河をつくることを認めたのだろう。

深まった認識の形成⑨

○こんなに大問題なのに、なぜ、奥

田住民は、少しずらすことで、運

河をつくることを認めたのだろ

う。

○運河完成後の奥田村の発展を捉えることができるように、

奥田村に関する資料を提示する。

●深まった認識

富岩運河計画は、奥田住民にとって心配事が多い計画だっ

た。しかし、その計画は、住民の生活が向上し、奥田村が発

展するものだった。

第3次 富岩運河の歴史について学んだことを発信しよう

認識の深まりの実感⑩⑪

○もしあなたが、語り部であったら、

どのような内容を話すとよいと思

いますか。それはなぜですか。

○学んだことを説明しよう。(課外)

○価値判断することができるように、学んだことを説明する

場を設ける。

●認識の深まりの実感

富岩運河や環水公園は、県や奥田住民の願いが込められて

いる場所で、富山の宝物だ。この歴史をいろんな人に知って

もらいたい。

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(2)評価問題

①評価問題

「もしあなたが語り部であったら、どのような内容を話すとよいと思いますか。それはな

ぜですか」

②評価問題作成の意図

地域社会の発展は、多くの立場の人々の相互関係で成り立っている。そのため、一つの

立場だけでなく、多くの立場の人がその発展に関わっていることを知る必要がある。その

上で、先人の働きや苦心が、地域社会へ大きな影響を及ぼしたことを理解することが必要

であると考えた。

そこで、本単元における評価問題では、中学年という発達段階を踏まえ、県(県民)と

奥田住民の2つの立場を取り上げる。そして、県(県民)の立場のみから富岩運河計画を

捉えるのではなく、奥田住民の立場からも富岩運河計画を取り上げることができるかを見

る。また、単元を通して子供が、富岩運河や富山のまちに対して、どのような価値をもち、

得た知識を他者へどのように広めようとしたのかを見る。

③ 解答例

富岩運河は、県民にとって富山のまちを発展させるための工事であったことと、奥田住

民にとっては大問題となったこと、そして、県と奥田住民が長い間話合いを行い、お互い

の思いを運河に込めて言ったことを話せばよいと思います。なぜなら、一つの立場だけで

歴史を話すと、もう一方の立場の人たちがかわいそうだかです。歴史を話すには、いろい

ろな人の思いが込められていることを話さなければいけません。

説明例

富岩運河を知っていますか。今は県内外から観光客も訪れる素敵な公園の一部として有

名です。この運河ですが、どのような歴史があるか知っていますか。

富岩運河は、次の3つの理由により計画されました。

1つ目は、神通川をまっすぐにするときにできた廃川地を、運河を掘った土砂で埋め立

てるため。

2つ目は、船での運搬が盛んであった当時の港を整備するため。

3つ目は、富山市・東岩瀬港間の一帯を工業地域として利用するため。(富山の工業化)

富岩運河計画は、当時の県民にとって、まちが整備されたり工業化されたりするなど、

一石三鳥の工事として、とても喜ばしいことでした。

しかし、その運河は、計画では奥田村を通ることになります。そのため、奥田村に住む

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奥田住民にとっては、家や田が失われる大問題なのです。奥田住民は、村で運河計画につ

いて話合い、奥田村の願いを県に手紙として送りました。県も奥田住民の気持ちはよくわ

かります。しかし、県の発展も考える答えを出すのが難しいのです。ただ、運河が完成す

ることで、奥田村も人口が増えたり工場ができたりするなど、奥田村が発展します。奥田

住民にとって、運河は大問題でもありますが、生活をよりよくするためのものでもありま

した。

そこで、県と奥田村は 1 年3ヶ月にも及ぶ長い話合いを行いました。その話合いでは、

県が奥田住民に変わりの家を用意したり、新しくできた工場で働けるようにすることなど

を約束したりしました。その結果、運河を計画から神通川沿いに180m 移動することで、

工事を進めることに決まりました。そうして、運河が完成し、県にとっても奥田村にとっ

ても運河はまちや生活を発展させるものになりました。

このように、富岩運河には、当時の県と奥田村住民の思いが込められているのです。

(3)成果と課題

県や奥田住民の立場といった、一方の立場のみから富岩運河の歴史を説明文に書く子供

は見られなかった。これは、単元の本質を複数の立場に置き、子供が県から奥田住民の立

場へと視点を移動し、切実感をもって学習を進めることができるように単元構想を行った

からであろう。また、子供は、説明文を基に、家族へ富岩運河の完成を物語のように話し

た。そして、振り返りで、富岩運河を「富山の宝物」「奇跡の場所」「富山県にとって欠か

せない場所」「昔の人の願いがこもっている場所」とまとめた。これは、子供が富岩運河に

対して、県や地域住民の願いが込められていることへの価値を見出した姿である。

このことから、「複数の立場から社会的事象を捉えること」「切実感をもって社会的事象

に関わりの深い立場の願いを捉えること」「自分の学びを他者に認めてもらうこと」で、子

供は社会的事象に対して認識を深めていき、地域に親しみをもつことが分かった。

一方で、富岩運河以外の社会的事象を取り上げ、複数の立場の人々が地域社会の発展に

関わっていることを理解できたかどうかを見ることができなかった。社会的な見方・考え

方を広げていくためにも、さまざまな社会的事象を取り上げていきたい。

(岩山 直樹)

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3.小学校第6学年「思考・判断能力」を育成する授業概要と評価

-小単元「北条時宗と元寇」の検討を通して-

(1)小単元「北条時宗と元寇」の実践概要

① 単元のねらい

・ 武士のくらし、源平の戦い、鎌倉幕府の始まり、元との戦いとそれらに関わる人物の

働きや代表的な文化遺産に関心をもち、進んで調べることができる。

【社会的事象への関心・意欲・態度】

・ 武士のくらし、源平の戦い、鎌倉幕府の始まり、元との戦いとそれらに関わる人物の

働きの意味について思考・判断したことを言語などで適切にを表現することができ

る。 【社会的な思考・判断・表現】

・ 武士のくらし、源平の戦い、鎌倉幕府の始まり、元との戦いとそれらに関わる人物の

働きについて、文化財、地図や年表、その他の資料を活用して、必要な情報を集めて

読み取り、ノートや作品などにまとめることができる。 【観察・資料活用の技能】

・ 武士による政治が始まったこと、鎌倉に幕府が開かれ武士の力が全国に及ぶように

なったこと、北条時宗を中心とした元との戦いが鎌倉幕府の全国支配に大きな影響を

及ぼしたことを理解している。 【社会的事象についての知識・理解】

② 単元について

本単元の学習内容は、6年内容(1)(ウ)「源頼朝が平氏打倒の兵を挙げたころから

鎌倉に幕府が置かれたころまでの時期のうち、源平の戦い、鎌倉幕府の始まり、元との戦

いの三つの歴史的事象を取り上げ、これらを具体的に調べることを通して、武士による政

治が始まったことが分かること」である。この内容からまず、「武士による政治」を理解

することが大切であると解釈することができる。そして、「武士による政治」に対し、三

つの事象から理解を図るため、三つの事象による政治への始まりからその後の変化等、政

治への影響を理解する必要があることが分かる。この内容を社会科の本質である「開かれ

た科学的社会認識の育成」、言い換えると、「子供が事象を科学的に認識した上での公正

な価値判断を行うこと」という視点で考察する。すると、政治への影響だけでなく、社会

の仕組みの影響まで考える必要があることが見えてくる。なぜなら、事象と政治の関係だ

けでなく、当時の社会の仕組みに与えた影響まで学習することにより、武士の政治の中心

となった幕府の意図、武士の反応等、双方の立場から事象を多面的に捉えることができ、

政治の善し悪しまで、より公正に価値判断を行うことが可能になるからである。つまり、

本単元の本質は「源平の戦い、鎌倉幕府の始まり、元との戦いの三つの事象による武士の

政治への影響及び、社会の仕組みへの影響」とおくことができる。このような解釈のもと、

単元開発を試みたい。

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Page 15: 富山大学スクラムプラン ―学校バリアフリーへの挑 …富山大学人間発達科学部・附属学校園 共同研究プロジェクト 平成28 年度報告書

③ 単元の展開 全10時間

主な学習活動 子供の認識の深まり

一 武士の登場によって、世の中はどのように変わっ

次 ていったのだろう。

① ○鎌倉幕府の政策について各自が判断するという見通 ○武士のくらしから、貴族と異なる立

しをもって学習計画を立て、源平の戦い、鎌倉幕府 場であることを理解し、武士という

の始まり、元との戦いの内容について調べる。 知識を獲得する。

・武士が登場した。平安時代の平和で優雅な感じとは ○鎌倉時代は、武士が現れ、戦に勝っ

違い、戦の多い世の中になってきた。 た人物によって治められた時代だと

いう概念がつくられる。

平氏と源氏は、どのように力をつけたのだろう。

○武士が力をつける様子や平氏と源氏の合戦の様子を ○平氏と源氏が行ったことについて調

② 調べ、話し合う。 べ、武士の立場から、平氏と源氏の

・武士のかしらとしての信用が高まり、源氏や平氏が 政治に対するよさや問題点が明らか

貴族にかわって政治を行うようになった。 になる。

・平氏のような政治は、武士にとってよくない。源氏 鎌倉幕府への武士への期待に共感す

の鎌倉幕府での政治に期待したい。 る。

源頼朝は、武士をどのように従えたのだろう。

○「幕府と武士の関係」「鎌倉武士の分類」「地頭や武 ○武士への共感を基に、幕府との関係

③ 士団による領地の問題」などの資料をもとに、当時 に対する両者のメリットを感じる。

の領地の仕組みやについて考える。 裁判の仕組みがつくられるなど、領

・ご恩と奉公の関係は、幕府と御家人にとってよい関 地をめぐるの問題が多いことを知

係だ。 り、幕府によって社会の仕組みを整

・武士と言っても御家人やそうでない人がいる。土地 えることへの必要性に気付く。

をめぐる争いが多い。武士だけでは解決できない。

北条時宗は、領地をめぐる争いの多い世の中をど ○国内の様子が安定しない中、元から

のように治めたのだろう。 国書が届いたという事実と出合い、

問題意識をもつ。

○北条時宗が執権になった当時の様子、元の要求につ

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④ いて調べる。 ○国内の様子、元の大軍という調べ学

・土地の問題があるのに、大国の元から、国書が届い 習の情報から、元軍に対する2度の

事 た。対応が難しい。 勝利という結果に対し、ズレを感じ、

実 ・元は8年かけて、万全の準備をし、大軍で来ている。 問いが生まれる。

認 なぜ、元を追い払うことができたのだろう。

次 なぜ,元軍を追い払うことができたのだろう。 ○資料を基に調べ、武士の奮戦や暴風

① 雨を主な要因として元寇を捉え、は

② ○元軍との戦闘の様子や時宗の対応を調べ、追い払う じめの認識を形成する。

③ ことができた原因について話し合う。 時宗の対応や国内の様子、武士の

社 ・ご恩と奉公の関係があって、一所懸命に戦ったから 意識の高まりなどの事実から、矛盾

会 勝つことができた。台風によって何とか勝つことが を顕在化し、仮説の見直しを図る。

認 できた。 幕府の綿密で適切な対応を要因とし

識 て加え、深まった認識を形成する。

三 元寇への対応によって良くなったこと、問題点を

次 幕府と武士の立場からまとめよう。 ○幕府の立場での政策の結果について

① の評価、武士の立場での評価を考え、

② ○幕府と武士の立場からのコメントを考えて話し合う 友達の考えを聞く中で、武士による

ことで、時代の特色を明らかにする。 政治の特色を明らかにし、中心概念

価 ・税の制度改革、異国降伏祈願による国の一体化、様 を獲得する。

値 々な防御体制などがうまくいった。ただ、武士の要

判 求には、応えられない。 【幕府の立場】 〇幕府と武士の考えのズレから、幕府

断 ・一致団結できたのはよかった。しかし、働きに対し への不満が高まっていくことを理解

て、領地を増やすなど、もっと認められるべきだ。 する。

【武士の立場】

12

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(3)評価問題

① 評価問題

鎌倉時代 ~元寇新聞~

( )番 名前( )

1 鎌倉時代の武士とは?

2 直撃!北条時宗に政策の目的をインタビュー

3 非御家人にインタビュー

4 御家人にインタビュー

5 国同士の争いとなった元寇とは

6 社説 「元を退けた理由」

鎌倉幕府 8代執権北条時宗

幕府側の御家人

朝廷や寺社勢力などの御家人

元寇の様子

資料

北条時宗

人物画

御家人

イ ラ ス ト

御家人

イ ラ ス ト

13

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7 社説 「『敵国降伏』政策は、よい政策か、よくない政策か」

発行日 平成28年7月 日

(4)成果と課題

・設問1~5においては、子供の歴史的事象の理解度をみることができた。

・設問6について

元を退けた理由 暴風雨 防塁・長門探題 非御家人と 神に祈った

の協力 成果

5時間目 24名 20名 5名 0名

複数回答可( )は% (49%) (41%) (10%) (0%)

単元後 34名 25名 13名 6名

(44%) (32%) (17%) (7%)

上記のように、敵国降伏祈願の政策を学習した後は、幕府の敵国降伏政策が非御家人に

対しても効果があったことを理解する様子が見られた。大きく捉えると暴風雨49%→4

4%、時宗の政策が51%→56%となったことが分かる。しかし、数値上では歴史的事

象の大きな解釈の変容とは言い難い。

ここでは、複数の理由を解答してもよい問い方であった為、このような結果がでたと考

えられる。協同研究プロジェクト出席のメンバーからは、子供の解釈の変容を捉えるので

あれば、「あなたが執権として、三度目の元寇に備えるならば、どのような対応をします

か」と問うとよい、という意見が出された。この出題であれば、政策の善し悪しを子供が

価値判断した上で、解答することができるであろう。

今後も、児童の獲得した知識を用いて判断を問う形での評価問題の改善を図っていきた

い。

(阿久津 理)

14

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4.中学校第1学年「思考力・判断力・表現力」を育成する授業概要と評価問題

ー単元「世界の諸地域 南アメリカ州 ~持続可能な社会づくりの視点(ESD)

を生かして~」の評価問題の検討を通してー

(1) 単元「世界の諸地域 南アメリカ州 ~持続可能な社会づくりの視点(ESD)

を生かして~」の評価問題の検討を通してー」の実践概要

この単元は、中学校学習指導要領の地理的分野の大項目「(1)世界の様々な地域」の中

項目「ウ 世界の諸地域」の中の小項目(オ)南アメリカに基づいて設定・開発したもの

である。中項目では「各州に暮らす人々の生活の様子を的確に把握できる地理的事象を取

り上げ、それを基に主題を設けて、それぞれの州の地域的特色を理解させる」ことをねら

いとしている。南アメリカ州の地域的特色を理解していく主題として、学習指導要領解説

に例としてあげられている「森林破壊と環境保全」が示されており、本単元でも、その「森

林破壊と環境保全」が適していると思い、それを主題としたい。そして、熱帯雨林の減少

による環境問題を地域に即してとらえることは、「持続可能な社会」について考えること

につながる。本時では、図1が示す「環境の保全」(環境の保全と回復)、「経済の開発」

(貧困削減)、「社会の発展」(世代間の公平、

地域間の公平)の3つの構成概念を獲得させ、

持続可能な社会づくりに関わる課題に気付か

せたいと考えている。そこで、ESDの視点

から、南アメリカ州の地域的特色を捉えてい

きたい。

南アメリカに進出してきたスペイン人やポルトガル人は、大土地所有制をもたらし、大

規模な農業がみられる。ブラジルでは、さとうきびやコーヒー豆を栽培し、コーヒー豆は

世界一の産地となった。アルゼンチンでは、パンパとよばれる大平原で、小麦栽培と牛の

放牧が行われていた。一方、大土地所有制の影響を受けていない地域もあり、アマゾンで

は自給的な焼畑農業が行われ、アンデス高地では、じゃがいもやとうもろこしを標高に応

じて栽培する伝統的な農業がみられる。近年、モノカルチャー経済からの脱却で、ブラジ

ルやアルゼンチンでは、アメリカ式の企業的な農業経営が導入されて大豆の大規模栽培が

発展し、国際市場で大きな割合を占めるようになった。大豆をしぼった食用油としぼりか

すからつくられる飼料は、世界中で需要が高まっており、日本やヨーロッパ、中国への輸

出がのびている。また、バイオ燃料の原料となるさとうきびの生産も増加している。

また、南アメリカは、鉱産資源に恵まれており、ブラジルの鉄鉱石、チリの銅、ベネズ

エラやエクアドルの原油などが輸出されている。また、ブラジルやアルゼンチンはアメリ

カ合衆国や日本などの外国企業を受け入れることで、鉄鋼や自動車などの重化学工業を発

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展させたことで経済が発展し、豊かな消費生活が実現されてきた。特にブラジルは、BR

ICsの一国として、世界の経済において存在感を増しつつある。

上記で見てきたように、輸出のために大規模に森林を伐採し、農薬や化学肥料を大量に

投入する企業的農業は、農業の持続的な発展の面だけでなく、環境面での課題も生じてい

る。また、アマゾンの開発のためにアマゾン横断道路を建設し、その沿線で商業的な木材

伐採や燃料用の薪炭材のための過剰伐採が行われた。また、外国企業が伐採して大規模な

牧場を切り開いている。そして、増えてきた電力需要に水力発電用ダムが建設したり、鉄

鉱石を開発したりしたため、熱帯林が破壊されている。このように経済発展の影には環境

の問題が深刻である。「世界の肺」とよばるアマゾンの熱帯林の破壊は、大気中の二酸化

炭素濃度を上げ、地球温暖化の大きな原因の一つと考えられている。この地球温暖化は、

北極・南極の氷床を溶かし海水面の上昇をもたらし沈みゆく国が存在してきているだけで

なく、世界中の様々な異常気象をもたらし、大きな災害を引き起こしているとされている。

これらは、アマゾンに住む先住民と都市部に住む者とに地域間での不公平さや、子や孫の

世代が現在と同じような生活を送ることができない世代間の不公平さを生む可能性が高い

と言える。

これまで述べてきたような南アメリカ州の特色を理解していく上でESDの視点に立

ち、持続可能な社会づくりに関わる課題を見いだし、それらをどのように解決していく

べきなのかを合理的に判断する市民を育成する授業が求められていると考える。

そこで、アマゾンの先住民、ブラジル開発農家、ブラジル事業者、ブラジルの政治家の

四つの立場で、多面的・多角的にアマゾン熱帯林減少の環境問題について討論させ、持続

可能な社会づくりの争点を考察し説明させる場面を設ける。そして、その争点から持続

可能な社会づくりに必要な「環境の保全」、「経済の開発」、「社会の発展」の3つの構成

概念に導いていきたい。また、最終的に持続可能な社会づくりに関わる課題を解決する

ための方法を合理的に判断させていくことで、持続可能な社会の形成者を含めた市民的

資質の育成につなげていきたいと考えている。

(2)単元の展開

過程 教師による発問・指示 期待される生徒の反応・獲得させたい知識

第1次 1 日本で飲まれているコーヒーの豆 (地図帳の統計資料、追加資料を見て答える。)

問題把握か は、どこから輸入されているか。 ・ブラジル、ベトナム、アフリカの国々など

ら仮説設定 2 コーヒー豆は、どのような所で栽 ・暑い場所、降水量が多い場所

培されているのだろうか。 (地図帳で調べる)

・ブラジル高原の高所、東南アジアやアフリカ

でも高地である。

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・赤道付近である。

・コーヒー豆は、涼しく温度が一定の場所

3 南アメリカ大陸の自然環境を調べ ・アンデス山脈、ギアナ高地、ブラジル高原に

てみよう。 アマゾンは囲まれ盆地になっている。

・アマゾン川が流れ、熱帯林が広がっている。

・パンパの大草原が広がり、南端は寒帯で氷河

が見られる。

4 なぜアマゾンの熱帯林が、破壊さ (各自の予想をノートに書く)

れているのだろうか。(学習問題1)・人口増加により住宅地の整備のため

・アマゾンの木を輸出するため。

・観光地化が進んでいるから。

・大規模農業をして輸出するため。

・工業用地化のため。

第2次 5 教科書・地図帳・資料集を見て、 (教科書・地図帳・資料集で調べる)

仮説の検証 なぜアマゾンの熱帯林が、破壊され ・アマゾン地域の人口密度が高くなる場所が増

ているのか検証してみよう。(学習 えていないので、人口増加により住宅地の整

問題2) 備のためではない。

・世界各地へ輸出されており、アマゾンの木を

輸出するために伐採が進んでいる。

・自然ツーリズムにより熱帯林自体が観光地と

なっており保護しているので違う。また、

人口密度も高くなっていない。

・伐採により大規模牧場を整備して、肉牛の生

産を伸ばしている。また、世界需要が高まっ

ており大豆生産も急増している。→中国の豚

肉消費量の急増が影響。コーヒー豆生産に頼

るモノカルチャー経済からの脱するため。

・鉄鉱石や木材の輸出するための道路や鉄道の

整備による伐採。工業化が進み、電力需要か

ら水力発電用のダム建設による破壊。

第3次 6 アマゾンの熱帯林の開発をこのま (4つの立場に分かれてグループ討論)

持続可能な ま続けてもよいのだろうか。(学習 ・先住民…都市的な生活をしたいわけではな

社会をつく 問題3) い。熱帯林での伝統的生活をしたいだけだ。

るための概 どんどん縮小されている。

念(ESDの ・開発農民…開発のおかげで現金収入が増え

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視点)の獲 た。家族のためにも子どもの学費のためにも

得(社会的 大切だ。環境のことは二の次だ。

な見方) ・事業者…開発を続け、上位先進国に追いつき

豊かにするべきだ。開発をやめると失業者も

増大する。

・ブラジル政府…先住民を守るためにも地球温

暖化防止のためにもアマゾンをこれ以上開発

するのは止めないといけない。しかし、国民

の収入や経済成長もしなければいけない。

7 討論での対立点は何だったか。 ・先住民の生活や地球温暖化防止を考え、開発

を止めると、経済が成長しない。

・経済を優先し、開発を続けると先住民が住む

場所を失い、地球温暖化が進行する。

(環境の視点、経済の視点の獲得)

8 ブラジル政府が、環境を優先した ・環境を優先したら、先住民が得をし、開発農

政策を行った場合、または、経済を 民や事業者が損をする。また、経済を優先し

優先した政策を行った場合、30年 たら、先住民が損をし、開発農民や事業者が

後、どのようなことが考えられるか。 得をする。(地域間の公平の視点)

(学習問題4) ・環境を優先したら、経済が停滞し、貧しくな

り子が十分な教育を受けることができなくな

る。(世代間の公平)

・経済を優先したら、一時的に利益はあるが、

いずれ開発を進めることができなくなり、次

の世代が困ることになる。(世代間の公平)

第4次 9 3つの視点を満たしたアマゾンの (各自の考えをノートに書く)

解決方法 熱帯林の破壊を防止する解決方法は ・伐採地を制限する。失業者が出るので、政府

社会的な考 どうあればよいだろうか。 が負担する。→お金が必要になる。

え方(価値 ・また、新しい産業(IT、観光)に就かせる。

判断) →お金が必要になる。

・植林をする。→お金が必要になる。

10 開発経済学の考え方を説明する。・コモンズの悲劇、クズネック曲線、京都メカ

ニズム

11 3つの視点を満たしたアマゾン (各自の考えをワークシートに書く)

の熱帯林の破壊を防止する解決方

法はどうあればよいだろうか。

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(3)評価問題

①評価問題

設問 資料のような現状で開発が進んでいった場合、解決方法を考えていくうえで、ど

のようなことが起こることが予想され、どのようなことを考慮しなければならないか。

①「熱帯林・先住民」、②「30年後の東南アジア」、③「30年後の日本と東南アジア

の関係」のそれぞれの視点から説明しなさい。

②評価問題作成の意図

本評価問題は、中学校第1学年の思考力・判断力・表現力を評価しようとしている。授

業では、「アマゾンの開発を、このまま続けてもよいのだろうか。」について、アマゾン

の先住民、ブラジル開発農家、ブラジル事業者、ブラジルの政治家の四つの立場で、多面

的・多角的にアマゾン熱帯林減少の環境問題について討論させ、持続可能な社会づくりの

争点を考察し説明させた。そして、その争点から持続可能な社会づくりに必要な「環境

の保全」、「経済の開発」、「社会の発展」の3つの構成概念に気付かせていくことで、思

考力・判断力・表現力が育成されると考えた。そして、評価問題では、持続可能な社会づ

くりに必要な構成概念で社会を見たり、考えたりする力がついたかを確認するために、

本授業で扱っていない資料を用いて問題を作成し、評価しようとしている。視点1では、

環境的視点(環境の保全)、視点2では、社会的視点(世代間の平等)、視点3では社会

的視点(地域間の平等)が身に付いているか、を評価するものとなっている。

資料 東南アジアにおける熱帯林の減少○熱帯林の破壊の主な理由

①熱帯林が、用材としての需要が高い・熱帯林の中で使うことが出来るの有用材は、ラワンやチークなどに限られる。・ラワンは、合板材としての需要が高く、日本は世界一の輸入国になっている。・熱帯林から有用材を切り出すときは、周りのじゃまな木を根こそぎ伐採したり、

林道を建設したりする→そのため、森林全体が大規模に破壊される。

②農地開発・熱帯林が大規模に焼き払われて、輸出用の油やし等の大農園が開発されている。・マングローブの広がる沿岸部では、日本向けのえびの養殖池にかわっている

※パーム油は食用、調理用油、洗剤、塗料、ろうそく、インク、化粧品、バイオディーゼル燃料、即席めん、マーガリン、パン、ポテトチップス、ファストフードの揚げ油、チョコレート菓子、スナック菓子、揚げ物の冷凍食品など、毎日のように食べるものに入っており、日本人の生活は、パーム油に支えられている。

○影響・日本など先進国の外貨を獲得するための開発で、事業者が利益を得ている。木材

の収入によって恩恵を受けている人々がいる。・しかし、熱帯林の中で生活していた先住民は、生活基盤を壊されている。そのた

め、先住民による森林の伐採反対運動などが起きている。・熱帯林の減少により、地球温暖化が進行する。

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③評価基準

・視点1:熱帯林が減少し、先住民の居住区も減少する。先住民の生活を保護することや

地球温暖化を防止していくことを考慮しなければならない。(「環境の視点」から述べ

られているか)

・視点2:しばらくは熱帯林の開発により経済的成長し豊かな生活がしばらく続く。30

年後は、熱帯林は開発し尽くされ、経済的成長は減速し環境の破壊が進み30年後の世

代は苦しい生活を強いられる。熱帯林を残すような開発を考慮しなければならない。

(「世代間の不平等」から述べられているか)

・視点3:日本は、東南アジアからの製品で豊かな生活を送ることができ環境も悪化しな

い。一方、東南アジアは、熱帯林が破壊されて環境が悪化し、開発も行えず経済的に停

滞する。どこも豊かに発展し続ける成長を考慮しなければならない。(「地域間の不平

等」から述べられているか)

(4)成果と課題

表2 評価問題における正答率・誤答率・無答率(全体159人)

正答 誤答 無答

視点1 148人(93%) 8人 (5%) 3人(2%)

視点2 25人(16%) 132人(83%) 1人(1%)

視点3 17人(11%) 137人(86%) 5人(3%)

視点1から、「環境の視点」は生活経験からも比較的理解しやすく、身に付いている。

一方、視点2や視点3から、「社会の視点」である「世代間で不平等」「地域間の不平等」

による見方や考え方は、定着していないことがわかる。南アメリカ州の事例では、「社会

の視点」は理解できていたと思われる。しかし、東南アジアでの事例になると、その「社

会の視点」を転移して活用できていない。この理由として、いくつかあげられる。一つ目

は、「社会の視点」は「環境の視点」と違い、生活経験から得られるものではなく新しい

考え方なので、定着するにはもう少し他の事例で考える機会を増やすことが必要であると

思われる。二つ目は、評価問題の設問の仕方である。もう少し「社会の視点」を利用する

ことを示唆するような設問文にすることも必要だったと思われる。

これらの結果から、授業中に思考し判断させ、そこで学んだ見方・考え方を他の事例で

活用し転用させてみる活動を取り入れるように授業改善をしていく必要がある。

(文責 龍瀧治宏)

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5.中学校2年生 思考力・判断力・表現力を育成する授業概要と評価問題

― 単元「幕末の日本~徳川慶喜の決断~」の評価問題の検討を通して ―

(1)単元名「幕末の日本 ~徳川慶喜の決断~ 」の実践概要

本単元は,学習指導要領の歴史的分野の大項目「(5)近代の日本と世界」に入る。中項目

は「イ 開国とその影響、富国強兵・殖産興業政策、文明開化などを通して、新政府による

改革の特色を考えさせ、明治維新によって近代国家の基礎が整えられて、人々の生活が大き

く変化したことを理解させる。」を取り扱う。今回扱う単元は,江戸時代における江戸幕府

近世から近代への転換のようすをとらえようとするものである。「時代の転換のようすをと

らえる学習」は「政治面をはじめとする変革に着目し,それによって前の時代と違うどのよ

うな特色が生まれたのか」をとらえようとするものである。この学習をすることで,「思考・

判断や表現などの活動を通じて,歴史について考察する力や説明する力」が育てられ,それ

ぞれの時代の特色の理解や認識を一層深めることができると考える。

江戸時代末期は, およそ260年間にわたる江戸幕府による支配が崩れていく時期である

と同時に, 中世から近世にかけて続いた封建社会が終わりを迎える時期である。産業の発

達によって人々の生活が豊かになった19世紀, 江戸幕府は度重なる改革にもかかわらず

財政難を克服することができず, やがて反幕府勢力の台頭を許し, 政権を返上した。幕府

滅亡の背景には, 国内事情ばかりでなく, 世界情勢も複雑に関係している。アメリカは、

アジア貿易や捕鯨の中継地として日本に開国を求め、1853 年にペリーが浦賀に来航し、

翌年日米和親条約を結んだ。この過程で幕府は先例を破って大名に意見を求め、朝廷にも報

告したため、大名や朝廷の発言力が強まるきっかけとなった。1858 年には米英露蘭仏と

通商条約を結んだが、相手国の領事裁判権を認め、日本の関税自主権を認めない不平等条約

であった。貿易の開始により国内の物価が高騰し幕府に対する不満が高まった。幕府が朝廷

の許可を受けずに通商条約を結んだことから尊王攘夷運動が盛んになった。

本単元で取り上げる「四か国艦隊摂海侵入事件」は、この激動の中1865年におこった。

これは、イギリス・フランス・オランダ・アメリカの公使を乗せた連合艦隊が兵庫沖に侵入

し、その軍事力を背景に安政五カ国条約(通商条約)の勅許と兵庫の早期開港を迫った事件

である。幕府は、要求をのめない場合は軍事行動も辞さないという外圧への対応だけでなく、

攘夷派の武士の激発や幕府から権力を奪おうとする勢力、また攘夷派である天皇を筆頭とし

た朝廷との関係に苦慮していた。この危機に、当時禁裏御守衛総督であった徳川慶喜は、御

前会議において彼自身がイニシアチブをとって諸藩の「勅許やむなし」の意見をとりまとめ、

条約勅許を天皇から得ることに成功、艦隊の軍事行動を回避することができた。条約勅許は、

薩英戦争や下関砲台占拠に続いて攘夷が不可能であることを天皇自身が認めたものであり、

攘夷運動に終止符を打つものとなった。また、政策の意思決定においては、幕府の一存で決

定してきた形態から、多くの藩の意見を取り入れ、朝廷とも調整を図りながら進めていく形

態に移行していくきっかけとなった。その意味では、この事件は、この後の明治新政府によ

る政策決定・実行のためのしくみへと移行していく大きな転換点になった事件であるといえ

る。近代化を推し進めていくその後の我が国の動きと国際情勢とのかかわりを考えるうえで、

このような幕末から幕府滅亡までの経緯をとらえることを通して江戸時代から明治時代へ、

近世から近代への大きな時代の転換をとらえることができるよう、この単元を構成した。

地理・歴史的分野ともに,単元のはじめに「どのような」「どのように」といった課題をも

とに基礎的・基本的な事実を確認する学習を行い,つづけて「なぜ」といった課題に対して,

原因や仕組み,法則などの概念 を確認する学習(ここまでが「社会的な見方」,つまり事

実認識の段階)を行っている。そして,単元の終わりに「~~すべきか,否か」や「よいの

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か,よくないのか」といった課題をもとに,判断する学習(「社会的な考え方」,つまり価値

認識の段階)を行い,全体として社会について分かる(つまり社会認識形成)という学習を

してきている。

地理的分野では『仮想X市はどの防災に力を入れていけばよいだろうか』という課題につ

いて,「ハード防災」「ソフト防災」の概念を用いて価値判断する学習を行った。また,『四

国新幹線開業は徳島県にとってどうなのだろうか』という課題については,「移動の利便性」

「経済波及効果」を「選択の基準」として,「よいことである」のか「よくないことである」

のかについて討論する学習を行った。討論の実際では資料を基に立論や反論,反論に対して

反論するなどの姿が見られた。また、観光などの経済波及効果や時間短縮効果といったメリ

ットや,ストロー効果や既存の公共交通機関の衰退といったデメリットについて,論述する

ことができるようになった。

歴史的分野では,織田信長の天下統一へ向けた事業や豊臣秀吉の全国統一事業を扱い,資

料をもとに説明していくことを通して,中世から近世社会への変化についてとらえる学習を

行った。生徒は中世に認められていた自力救済や荘園制,兵農未分離の社会が近世に入って

変容してきたことについて理解を深めてきてはいる。一方,「~~すればよい」といったよ

うな合理的判断が求められるような学習は行ってきてはおらず,市民的資質育成については

課題が残っていると考えられる。

教科の本質に迫るための手立ては以下の通りとした。

① 価値判断する場面の工夫

社会認識形成を通して,市民的資質を育成するための合理的判断を行うには,価値判断

する場面が必要である。歴史的分野における「・・時代とは~~という時代であった」な

どの概念的な知識を土台に価値判断を行い,「どのように決断すればよいか」といったよう

な学習課題について、様々な立場から考えたり客観的な立場から考えたりすることで、多

面的・多角的で合理的な判断ができるようにしたい。

② 主体的に追究する課題設定の工夫

歴史はすでに起こってしまった事実であるので、これを検証したり,解釈したりしなが

ら合理的判断を迫ることができるようにする必要がある。そこで、本時においては、「徳川

慶喜は、どのように決断すべきなのだろうか」という課題を設定し、条約の勅許をえるべ

きか否かについて「尊王」「攘夷」「開国」「佐幕」の4つの立場からの検証を通して合理的

判断をせまるようにした。それぞれの立場から徳川慶喜になりきってこの決断について考

えていくことで、より主体的に課題を追究する姿が期待できる。

③ ワークシート(学習カード)の工夫

「トゥールミン・モデル」を活かしたワークシートを用いることで,確かな根拠をもとに

考えることができる。自分の思考・判断したことを整理しながら,見方・考え方を表現す

ることが期待できる。

(2)本時の展開

1)指導目標

幕末において外国からの圧力が益々強くなる中で幕府の権力が次第に弱まり、公武合体を

目指す幕府や尊王や攘夷を唱える様々な有力藩の台頭の中で、様々な思惑のバランスを考え

て政策決定を行っていることに気付くことができる。 ・・・・・・[科学的社会認識形成]

移りゆく時代の中で生きる人物の生き方を考えることを通して,歴史的分野の知識・概念

を基盤とした合理的判断力を身に付けさせる。 ・・・・・・・・[市民的資質育成]

22

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2)展 開

学習活動と予想される生徒の反応 指 導 上 の 留 意 点

1 前時までの学習の振り返りを行い,本時の学習課題を確認する。

2 4人班になり、各立場から勅許を求めるか否かについて討論し

合う。

3 全体で討論を行う。

・朝廷と幕府の関係は切ってはならないものである。朝廷は立てつ

つ幕府の意志を示し、権力が存続できるように決断しなくてはな

らない。

・外国との戦争に負けて、清のようになってはいけない。外国との

関係を良好に保ちつつ、国内でのより強い合意形成を図る必要が

ある。

・反論の場面を適宜設け

ることで,生徒の思考や

判断がより深まるように

する。

4 歴史的事実はどうであったかを確認し、その決断の是非につい

て、今日の討論を基に判断する。

・外国との戦乱を回避し、国を守ったことになるのでとても良い判

断だったと思う。

・幕府主導で意思決定がなされたことで、幕府を倒そうとする勢力

を押しのけることができ、権力が継続したことはよかった。

・天皇や朝廷との調整を図り、多くの藩の意見を取り入れたことは、

以後の民主政治につながるので良いと思う。

・多くの藩の意見を取り入れたことは、幕府の一存で決定してきた

状態を覆すものであり、結果的に幕府の威信を下げるものとなっ

たのでよくない。

・板書をみて考えるよう

に促すことで、今日の討

論の内容をもとに判断を

行うことができるように

する。

・次の時間は、各自が判

断したことと政策決定の

変化を比較しながら新し

い時代の政治の仕組みに

ついて目を向けていくこ

とを告げる。

徳川慶喜は、どのような決断を下すべきなのだろうか。

尊王 攘夷 開国 佐幕

・外国の軍隊を大阪や京都

に入れ戦乱を起こしてし

まえば、天皇をお守りする

ことができない。

・勅許を引きだし朝廷がみ

ずから交渉をすることで、

天皇の影響力をより強く

内外にアピールできる。

・外国の軍隊は強大であ

る。もはや自分たちは攘

夷とは言ってられない。

・負けて属国になるまえ

に、勅許を出していただ

き対等に交渉し、外国を

排除する好機をうかが

うべきだ。

・これからは広く西

洋の国々と交流を深

め、国の力を高めて

いくべきである。そ

れを天皇にも納得し

てもらえばよい。

・ここで外国と戦争に

なれば、幕府の権力を

保つどころではない。

・どうにか勅許を引き

だし、その手柄で外国

との関係を強くし幕

府の後ろ盾になって

もらえないか。

・天皇は攘夷派である。天

皇の意志は大切にしなけ

ればならず、勅許をもらう

など考えられない。

・勅許を出すと、これまで

の意志と逆のことを決定

することになり、天皇の権

威に傷がつく。

・外国の軍隊は強大だ

が、ここで勅許を引きだ

せばますます外国の圧

力は強くなる。いいなり

にはなれない。

・国を挙げて外国と戦え

ば外圧を排除できるか

もしれない。

・開国は必要だが、

天皇は攘夷派であ

る。天皇に無理強い

をせず、少しずつ天

皇に納得させていく

ほうがよいことを外

国にも説明して交渉

を進めてはどうか。

・もし戦争になるとし

ても、外国への強硬な

姿勢を示せば、幕府に

反対する勢力や民衆

の心を幕府に引き寄

せることができるの

ではないか。

23

Page 28: 富山大学スクラムプラン ―学校バリアフリーへの挑 …富山大学人間発達科学部・附属学校園 共同研究プロジェクト 平成28 年度報告書

(3)評価問題

①評価問題

次の文を読んで、あとの問いに答えなさい。

設問 坂本龍馬は暗殺されたのだとしたら、その依頼者はどのような人物や組織で、なぜ殺され

なければならなかったと考えられるか。次の資料を基に、当時の時代背景を踏まえて自分の

考えを書きなさい。

資料Ⅰ 坂本龍馬という人物 資料Ⅱ 当時の京都の様子

資料Ⅲ 大政奉還前後の政治情勢

②評価問題の意図

この単元は、学習指導要領解説では、「開国とその影響、富国強兵・殖産興業政策、文明開

化などを通して、新政府による改革の特色を考えさせ、明治維新によって近代国家の基礎が整

えられて、人々の生活が大きく変化したことを理解させる」ことをねらいとしている。

本問題は、中学校第2学年の思考・判断・表現力等を評価しようとしている。「どのような

決断を下すべきか」という問いに対して、「勅許を求める」「勅許を求めない」という判断につ

いて、様々な立場から考えを深め、その判断の理由づけについて話合うという授業が展開され

た。高山右近の生い立ちから解釈した「選択の基準」を明確にして、多面的・多角的な視点で

大政奉還からまもない1867年11月15日深夜、京都の四条河原町の北にある近江屋において、幕末の

志士である坂本龍馬とその友人が、何者かによって殺害された。実行犯は幕府に属する警察組織の一つである

京都見廻組と言われているが諸説あり、また、2人が殺された理由は特定されていない。

龍馬は自由な立場で日本全体の問題と関わろう

と、土佐藩を抜け出し多くの人物と出会っていろい

ろな意見に耳を傾けた。その結果、薩長同盟を仲介

すると同時に、大政奉還の実現にも力を尽くした。

当時の京都は幕末の混乱の真っただ中に

あった。幕府の役人を暗殺する者もいたた

め、幕府は新選組や見廻組などの警察組織

をつくり、取り締まりを行っていた。

幕府 薩摩藩から圧力をかけら

れ行き詰っていた幕府に、土佐

藩から大政奉還の提案があっ

た。慶喜は幕府内の反対意見を

退け、1867 年 10 月に大政奉

還を行った。

土佐藩 土佐藩の実力者後藤象二郎は初め龍馬

と対立していたがのちに和解。龍馬の組織である

海援隊を支援した。後藤はだれにも明かしていな

いが、大政奉還という龍馬の考えを後藤が知り、

それが土佐藩の助言として幕府に伝わり大政奉

還がなされることになったといわれている

薩摩藩 薩長同盟を結んだ薩摩藩は、幕府を倒し

権力を奪おうと考えていた。しかし、幕府が大政

奉還をしたため倒幕を進める理由を失ってしま

った。薩摩藩にとって大政奉還は大迷惑な案であ

り、薩摩藩は倒幕の新たな理由を考えなくてはな

らなくなった。

長州藩 京都で天皇を武力で

奪い取ろうとした禁門の変を

起こした長州藩は、京都への出

入りは禁止となっており、京都

への取り次ぎは薩摩藩に対応

してもらっていた。

同盟

対 立

対 立

助言

24

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幕末から明治の時代の特色(社会認識形成)を捉えることで、判断する場(市民的資質育成)

ができると考えた。そして、評価問題では、授業では扱っていない以下の資料と問いを用意し

て、社会認識形成および市民的資質育成に関わる思考・判断・表現力等を評価しようとした。

③評価基準

正答例

「暗殺者は、薩摩藩が京都の浪人に依頼したと考える。藩閥に頼らない政治を考えていた龍馬

は、薩摩藩にとっては邪魔な存在だった。当時京都は治安が悪かったので、チャンスだと考

えたのではないか。」

④ 評価結果(生徒の回答例と正答率)

○ 幕府の軍が手向けたのもだと考える。龍馬は「倒幕」を掲げ、大政奉還へ向けた倒幕のリ

ーダー的惣菜であり、幕府存続派にとっては敵であった。倒幕派を滅ぼすために、両㎡は打

つべきと考えるのが自然である。

○ 薩摩藩が殺害したと考える。資料Ⅲから、倒幕をするために薩長同盟を結んだのに、龍馬

が大政奉還という案を考え思惑が外れたので、恨んだと思う。当時長州藩は京都には入れな

かったので、実行は薩摩藩がしたのではないかと考えた。

○ 幕府の、それも地位の高い人であると考える。多くの立場の人と会って、いろいろな意見

を知っている龍馬が、手のひらを反してその意見を利用して何かをたくらむかもしれないと

いうことを恐れたと考えられる。

× 坂本龍馬が考えた大政奉還は幕府にとって政権を返すのでいい案ではなかったし、長州・

薩摩藩にとっても実際の徳川政権は残るため、どちらからも恨まれるようになった。この中

でもとくに長州・薩摩藩の恨みは大きいと考えたので、犯人は長州・薩摩藩であると考える。

× 長州・薩摩の人で政治を行っていこうと考えているのに、土佐の人が来たから迷惑だった

から。

× 薩摩藩で、倒幕の新しい理由がないので、「龍馬が幕府に殺された」ということで、新し

い理由にしたかったから。

正答 82,4% 誤答 13,3% 無答 4,3%

(4)成果と課題

① 成果

幕末の情勢を念頭に置きながら、龍馬のしたこと、それぞれの立場の思惑をしっかりととら

え、どの立場でどんなことが考えうるかをよく考えながら記述されている回答が多く見られた。

8割という高めの正答率ではあったが、提示された課題について、授業を通して身に付けた力

を応用して考え思考を整理して考えを深めることができたかどうかを評価することができる

問題となっていたと考える。

② 課題

生徒が授業を通して捉えた様々な立場から答えることの出来る問題となっていたため、どの

立場から答えても根拠が資料に基づいておれば正答としたため、評価基準が広く、汎用性が高

い問題であるかという点には課題が残る。視点を絞り、考えを深めて答えに至らせる問題作り

としては、まだまだ工夫が必要である (文責 北岡 聡)

(あ) 「だれが」が明確に示されている。

(い) 龍馬を取り巻く様々な立場の思惑を資料から読み取り、暗殺の根拠としている。

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6.中学校第3学年「思考・判断・表現力」を育成する授業概要と評価問題

— 単元「民主主義と政治参加 ~法に基づく公正な裁判の保障~」 —

(1)単元「民主主義と政治参加~法に基づく公正な裁判の保障~」の実践概要

本単元は,学習指導要領の公民的分野の大項目「(3)私たちと政治」に入る。中項目「イ

民主政治と政治参加」の「国民の権利を守り,社会の秩序を維持するために,法に基づ

く公正な裁判の保障があることについて理解させるとともに,民主政治の推進と,公正な

世論の形成や国民の政治参加との関連について考えさせる」と合わせて,内容の取り扱い

(イ)「法に基づく公正な裁判の保障に関連させて,裁判員制度についても触れること」を

取り扱う。また,本単元を取り扱うにあたり,「対立と合意」「効率と公正」という見方

や考え方を,現代社会をとらえる概念的な枠組みの基礎として習得させた上で,活用して

いく。それは学習指導要領解説から「対立と合意」「効率と公正」という「習得した見方

や考え方は,これ以降の学習において活用するとともに,繰り返し吟味して,さらに広く

深く成長させていくことが大切である」とある通りである。

今回の単元では,政治の中でも司法に関するもので,法に基づく公正な裁判によって国

民の権利が守られ,社会の秩序が維持されていることを理解し,そのために司法権の独立

と法による裁判が憲法で保障されていることを扱う。特に,司法制度改革の一環として2

009(平成21)年から導入された裁判員制度を通して,国民が司法に関心を高めたり,司

法への信頼を高めたりすることについて取り扱う。刑事裁判において刑罰を科すというこ

とは,国が人の自由や権利を奪うことを意味し,本当に犯罪を行った人に適正な刑罰を科

すことは,市民が安全に暮らすためには必要である。しかし,一方で近代以前において,

不利益な事実を述べさせるための過酷な取り調べによって,人間の尊厳が蹂躙されてきた

歴史もあり,無実の市民に刑罰を科したり,適正な手続きを取らずに刑罰を科したりして,

市民の自由や権利が不当に奪われてしまうこともあった。公正に事実を認定するためには,

多様な知識や経験をもった市民が議論をした上で判断することが有効である。人は異なっ

た知識や経験をもつ人と議論することで,自分の思い込みや決めつけに気付くことができ

る。逆に多様性のない閉鎖的な環境では,思い込みや決めつけに気付かずに判断してしま

う危険がある。そのことから,国の最高法規である憲法に定められている刑事裁判の基本

的な原則や権利を保障するために,市民が理性と常識に照らして判断する仕組みが整えら

れたという点について,主体的・協働的かつ体験的にとらえさせたいと考え,本単元を構

成した。

課題設定や題材の工夫については、18歳選挙権という社会情勢の変化に合わせて,小

学校・中学校・高等学校の社会系教科への要請も高まる中,中学校公民的分野の学習にお

いては,社会認識や合理的判断をもとに「市民として行動」する態度を育成することが求

められている。また,裁判員制度を学習する意義については,「模擬裁判評議の経験が裁

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判員制度に対する評価に及ぼす影響」という先行研究がある。これによれば,模擬裁判・

評議を実際に体験した人で「周囲の意見に流されてしまう」「裁判官などの権威に従って

しまう」と回答した人は少なく,むしろ「評議前より評議後の方が発言しやすくなった」

という回答の比率が高くなり,議論することの大切さに気付いているという結果が得られ

ている。このことからも,今回扱う模擬裁判・評議の学習には一定の効果が見込まれると

言える。

「法教育」と「教科の本質」との相関については、司法に関する教育は「法教育」もし

くは「法育」と呼ばれている。例えば「法育」の定義は「模擬裁判教育を中心としたアク

ティブ・ラーニング(主体的・共働的体験活動)である」とされ,社会のあり方を考え,民

主的な社会の一員として主体的に生きるための自覚と能力を育む効果があるとされる。ま

た,次のような力を身に付けることが期待される。1つ目は「社会規範を知る」,つまり

犯罪は身近にあることを知ると同時に,社会規範に触れさせることができること。2つ目

は「論理的思考力」,つまり相手の話を聞き,思考を整理しながら論拠を推測し,主体的

に判断して,自分の考えを論理的にまとめることができるようになること。3つ目は「自

己表現力の向上」,つまり立場や状況に応じた話し方や態度を考えることができ,表現方

法を工夫するようになる。意見が異なる人と話し合うので,自分の考えの論理的根拠と説

得力のある話し方をして,相手の心を動かす伝え方を学ぶことができること。最後に4つ

目は「意志決定力と責任感の育成」つまり,自分の下した判断の結果で人の人生が決定さ

れるのであるから,自分の発言の重要性に気付き,責任感を育成することにつながること。

これらのことは,社会科でめざす「科学的社会認識の形成」や,それを通した「市民的資

質の育成」という「教科の本質」に迫っていくことであり,下図に示した「21世紀型能

力」における「基礎力」「思考力」「実践力」の育成にもつながるものであると考える。

(2)本時の展開

1)指導目標

①裁判員制度の仕組みや意義(司法に対する国民の理解が深まることやその信頼が高ま

ること)や法に基づく公正な裁判の保障について理解させる。 [社会認識形成]

②法令や証拠などの根拠を明確にしながら思考し,判断したことを表現する力を身に付

けさせる。 [合理的判断]

③ 模擬裁判(裁判員)の経験を通して,社会事象についての関心を高め,市民として自

ら行動するとはどのようなことなのかについて考えさせる。 [市民的資質育成]

2)展開

学習活動と予想される生徒の反応 指導上の留意点

1 前時までの学習を振り返る。

・模擬裁判の「審理」場面を想起する。 ・前時に行った模擬裁判の「審理」の内容

・「評議」の事実認定における論点整理を行う。 や「評議」を扱うことを確認する。

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2 学習課題を確認し,裁判員として「評議」を行う。

裁判員はどのような思いで判決を出しているのだろうか。

(1)事実認定「被告人に殺意があったのかどうか?」

・殺意は認められ,殺人未遂罪が適用される。 ・殺意は認められず,傷害罪が適用される。

↑傷の深さが10㎝なので,刺す時に殺意はあった。↑刺したのは一度なので殺意はなかった。

↑謝罪を求めるのに,包丁はやり過ぎである。 ↑刃物を持ち出したのは,殴られたからだ

↑800m持ち歩く程,仕返しの気持ちが強かった。↑被告人はひどく酔っていた。

↑強い殺意はないが「未必の故意」が認められる。 ↑治療費の支払いに応じている。

(2)「被告人は有罪か,それとも無罪か?」 ・前時までの評議において,被告人と被害

・有罪である。 者の間で,もみ合いがあったのかどうか

↑公判前整理から無罪は争われていないし,被告人は被 検討している。証人の発言を採用すると,

害者に大けがを負わせているので,有罪は免れない。 もみ合いはなかったと認められる点に続

(3)(有罪の場合)「量刑はどれくらいが適当か?」 けて,本時は殺意について検討させる。

・刑法に未遂はその刑を減免するとあり,判例や裁判官 ・有罪か無罪かを決める際には,これまで

の助言から未遂罪はその刑を半減するのが一般的なの の審理の内容から客観的に判断させる。

で,殺人罪の最低「懲役5年」の半分程度を適用し, ・量刑や執行猶予に関する詳細な法令の解

2年から3年が適当ではないか。 釈・適用については,実際の評議でも裁

・民事上の解決,被害者感情が収まっていることなどの 判官が助言をしながら進めることに触

情状を酌量し,執行猶予を付けた判決が適当である。 れ,裁判官役の教師が助言を行う。

・執行猶予の際は,懲役3年を超えることもできない。 ・合理的な疑問が残っていないのかを確認

・執行猶予は,判例や裁判官の助言から3年~5年が妥 しながら,納得のいく判決が出せるよう

当ではないか。 確認を行ったり,指名を行ったりする。

3 判決を出すに至るまでに感じたことや裁判員制度の 実際に裁判員をやってみて,どう思ったか

意義について考えたことを発表する。 について意見を書かせ,発表させる。

・人を裁くこと,人生を決めることは怖い面もあった。 ・前時までに行ったアンケートやこれまで

・一般市民の感情で裁判が左右されないか心配が残る。 行ってきた具体的な裁判(評議)の場面を

・市民感覚に近いからこそ公正だと言えるのではないか。 想起させることで,裁判員制度における

・感情に流されず,根拠を明確に議論することが大切だ。 効率と公正,国民が参加する裁判員制度

・他者と議論することで,事実がより明確に判った。 の意義,公正な裁判のしくみへの理解,

・検察官・被告人・弁護人・証人など,さまざまな意見, 根拠を明確にして判断したり議論したり

証拠をもとに総合的に判断する点が裁判の公正さだ。 することの大切さ,市民として社会に参

・日々社会で起きているできごとに注目していきたい。 画する意欲などに目を向けさせる。

3)学習評価の視点

① 裁判員制度の意義,公正な裁判の保障のしくみを理解することができた。 (ワークシート・発言)

② 根拠を基に合理的に思考したり判断したりしたことを表現することができた。 (発言)

③ 模擬裁判を通し,市民として社会参画することについて考えることができた。 (ワークシート・発言)

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(3)評価問題

1)評価問題の実際

<問いⅠ>社会認識形成に重点が置かれた評価問題

資料1の事例を読んで,もしあなたが裁判員だったとしたら,有罪・無罪のどちらに

しますか,資料1の「刑法第37条・1項」を根拠に,理由を添えて述べなさい。

資料1 事件のあらまし

太平洋沖で1隻の船が大破し,乗組員たちは海に投げ出された。一人の男が溺れない

ようにするために壊れた船の板きれにすがりついているともう一人,同じ板につかまろ

うとするものが近づいてきた。

しかし,2人がつかまれば板そのものが沈んでしまうので,後から来た者を突き飛ば

し,水死させた。その後,男は殺人罪で裁判にかけられることになり,裁判員裁判が開

かれることになった。

・刑法第199条(殺人)

「人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する。」

・刑法第37条・1項(緊急避難)

「自己または他人の生命,身体,自由または財産に対する現在の危難を避けるため,やむ

を得ずにした行為は,これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場

合に限り,罰しない。…」

(→緊急避難に値すれば,無罪となる。しかし,程度を超えた場合は有罪となる。)

<問いⅡ>市民的資質育成に重点を置いた評価問題

資料2・3を見て,Bさんの反論を社会参画の視点から述べなさい(解答者の個人

的な考えを問うものではありません)。

また,根拠を述べただけでは反論にはならないので,理由を必ず入れて答えなさい.。

資料2 裁判員裁判における死刑判決の新聞記事とA・Bさんの意見

Aさんの意見(※A・Bさんの意見は仮想で,新聞記事との関連はありません。)

「裁判員制度は重大な事件を扱うことから,死刑という極刑を下すかどうかの判断が

求められる。今回,裁判員として死刑判決を出すことになった私の友人の思いを想像

してみると,裁判員制度は負担も大きく,よい制度ではないと思いますね。」

Bさんの意見「私は裁判員制度の意義を社会参画の視点から考え,Aさんの意見には反論します。」

「 反 論 。」

資料3 裁判員制度の意義 <最高裁判所・法務省・日本弁護士連合会のHPやパ ンフレットからの引用>

・主権をもつ国民が、自らの意思を司法(裁判所)に投じる場を設けた。

・裁判官という専門職だけの意見ではなく、国民一般の意見を裁判に採り入れる。

・裁判は怖い、裁判は無関係という国民の意識から、身近な司法をめざす。など

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2)評価問題作成の意図

本問題は授業で扱っていない資料や問いを用意して、中学校第3学年の思考・判断・表

現力等を評価しようとしている。

<問いⅠ>は、古代より緊急避難について扱われる事例で、いわゆる「カルネアデスの

舟板」とよばれるものである。社会認識形成についての評価問題として、模擬裁判や模擬

評議の学習で身に付けた法的なものの見方考え方(リーガル・マインド)を用いて、新た

な命題についても思考・判断できるかどうかを評価しようとするものである。

<問いⅡ>は、市民的資質育成についての評価問題として、主権者である国民が司法に

参加すること、つまり社会の一員として行動することの意義について表現できるかを問う

もので、問題文中の意見に反論することで、判断したことを評価しようとするものである。

3)評価基準

問いⅠについての正答例と基準

基準:緊急避難にあたる行為かどうかを、法的解釈の上で述べられていること。

・「有罪」を選んだ場合 ・「無罪」を選んだ場合

突き飛ばすという行為は、相手を死に至 2人とも死んでしまうかもしれないとい

らしめる行為であると分かっていたはずで、う状況で1人が助かったのは、避けようと

行き過ぎた行為であるので、緊急避難には した害の範囲を超えるものではないので、

あたらないと判断できるから。 緊急避難にあたると判断できるから。

問いⅡについての正答例と基準

基準:司法を通した社会参画の意義について、資料3を用いて説明している。

・法を運用する側として、国民には参加の権利があり、義務もあると考えられるから。

・専門職だけでなく市民感覚を取り入れることで、より公正な判断につなげられるから。

・犯罪は他人事ではないことを知り、身近な司法をめざすことにつながるから。

4)評価結果

(n=158) 問いⅠの結果 問いⅡの結果

「有罪」で説明 「無罪」で説明

正 答 99人(62。7%) 36人(22.7%) 130人(82.3%)

135人 (85.4%)

誤 答 1人 (0.6%) 7人(4.4%)

無 答 36人 (22.8%) 21人(13.3%)

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(4)成果と課題

1)成果

問いⅠ・問いⅡとも、他に応用して考え、自ら解決方法を見つけ、取捨選択したこと

を評価するという点から、授業で扱っていない資料を用いたので、生徒の思考・判断・

表現力等について、授業で行った判断を転用して検討できる問題であったと考えられる。

また、1年生のときからトゥールミン・モデルを用いたワークシートによる記述を授業

でも行ってきたので、新たな命題に対しても資料を根拠に主張や理由付けを論述する力

が定着してきていると考えられる。

昨年度より、社会認識形成の度合いと市民的資質育成の度合いを想定した評価問題を

作成し、今年度も同様の方法で作問した。誤答の生徒の内訳は、問題文の読み違い(資

料を根拠にしていない。正しい語句の用い方をしていない。)など、思考・判断・表現と

いうよりは、技能の段階での見落としがあると見受けられる。(3)の4)の結果にある

通り、8割を越える生徒が正答している。論述ができた生徒の多くは、こちらが想定し

た評価基準をクリアして正解していることから、思考・判断・表現の力が身に付いてい

ると捉えることができる。

2)課題

問いⅠ・問いⅡの両方とも、(3)4)の結果のとおり、無答者がいることが分かる。

今回の評価問題を時間の制約の多い定期考査に含めたことで、他の問題を解くことに時

間を割くために、はじめから解こうとしていない場合も考えられることから、評価を実

施する機会をもう一度検討する必要がある。一方、無答の生徒の多くは、定期考査にお

いて他の問題でも誤答や無答が目立つことも伺え、社会認識形成と市民的資質育成を統

合的に説く社会科として、日頃の授業での指導方法の改善や付けさせたい力を定着させ

る手立てについて、検討していく必要である。

本時の学習では「裁判員はどのような思いで判決を出しているのだろうか」という問

いを立てている。これは、判決を出すまでにどのように法的に情報を処理するかという

判断を問うものであると同時に、社会に生きる市民として人の人生にある一定の判断を

下すことの意義について捉えさせるという目的もあった。この問いを立てるにあたり、

知識を構造化させることと連動して、発問を構造化して授業構成を考えた。今後は、市

民として参画する意義について、どのような問いを設けるのか、学習者・授業者双方の

立場に立って分析していくことが必要となる。

(文責 坂田元丈)

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理科教育グループ

理科授業の再考 -外来種の授業を通して-

代 表 : 椚座圭太郎、片岡 弘、林 衛、土井 徹

附属小学校 : 鼎 裕憲、福田慎一郎、有島智美

附属中学校 : 堀 篤史、大門知代、玉生貴大

1.今年度の目的と活動経過

理科授業について再考するために,小学校5年生を対象に,小学校理科では通常扱われる

ことのない外来種についての授業実践を行い,授業参観後に協議を行った。経過の詳細は次

のとおりである。

部会は 4 回開催し,方針と授業実践者(土井)の決定(7月7日),授業(10月25日,

10月27日),授業協議と総括(11月14日)を行った。授業は計3時間であり,1時間

目に身近に存在する多種多様な外来種についての情報提供を行い,2時間目にオオクチバス

とホンビノスガイの移入の経緯や国内における現状について詳細な情報提供を行った。3時

間目には,これらの情報を踏まえて,オオクチバス,ホンビノスガイとどのようにつきあっ

ていくかを4名程度で相談させた。授業協議の主な内容は次のとおりであった。

・琵琶湖では釣り上げたオオクチバスをリリースすることは条例で禁止されており,回収

BOX や回収生簀に入れることになっている。このような事実を示しながら,かつ,オオクチ

バスは人間によって移入されたものであり,彼らはただ生きているだけであることを示せば,

子どもたちは命について考えることができたのではないか。

・社会科の授業のようだと思った。価値判断は理科でするものなのか。

・今回の授業の中で,理科が担うことは何だったのか。生態系に関する知識の一部分を習得

する機会とは言えるかもしれないが,教材化を考えるならば子どもたちが問題意識をもつ仕

掛けを考えなければならない。「へぇーそうなんだ」で終わってはいけない。

・日本学術会議が2月にリリースした情報には,高校理科で物理・化学・生物・地学を統合

して将来,価値判断するための基礎を学ぶための教科が必要ではないかという提言がある。

この視点で,小学校,中学校では,どのような学習が考えられるかという議論はできないか。

2.成果と課題

・協議を通してメンバーの理科授業観の相違が浮き彫りになったことが,成果でもあり次に

繋がる課題でもある。次年度の方針等は,この成果と課題を踏まえて検討する必要がある。

(文責:土井 徹)

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造形教育研究グループ

-幼小中のつながりを意識しながら、

造形教育で身につける力について研究する-

代 表 : 隅 敦

附属幼稚園 : 米崎瑛美

附属小学校 : 江田希

附属中学校 : 萩原至道

人間発達科学部: 鼓みどり、上山 輝、若山育代

本研究グループは、本年度も校種間の造形教育における連携を念頭において、可能な限

り会合を行い、共通の視点を持ちながら授業実践を基に意見交換を行うことを心がけてき

た。本年度から、富山県産材の杉の間伐材で作成された積み木を用いての実践を通して、

子供の材料体験における多様な反応をビデオで撮影し詳細な分析を行うことを実施し、主

題に迫ることにした。

Ⅰ 平成 28 年度本研究グループの活動の足跡

本年度は、以下にあげるように 1 年間を通して、附属幼稚園と小学校における実践を軸

に月1回の会合で検討を行いながら成果をまとめ、3月末の学会発表へとつないでいった。

5 月 14 日(土)10:00〜12:00(於:隅研究室)

*本年度の活動計画立案。授業研究の内容検討。

6 月 11 日(土)10:00〜12:00(於:隅研究室)

*積み木実践を通して研究する内容についての検討。

7 月 9 日(土)10:00〜12:00(於:隅研究室)

*積み木実践の分析方法の検討。

9 月 10 日(土)10:00〜12:00(於:隅研究室)

*実践の具体的内容についての検討。

10 月 2 日(水)10:45〜11:30(於:附属幼稚園 遊戯室)

*積み木実践 附属幼稚園うめ組(年長)対象「ならべてつんで」

11 月 12 日(土)10:00〜12:00(於:隅研究室)

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*美術科教育学会静岡大会における発表用演題タイトルの決定。

11 月 22 日(火)11:35〜12:20(於:附属小 1 階ワークスペース)

*積み木実践 附属小学校 1 年生対象造形遊び「ならべてつんで」

12 月 10 日(土)10:00〜12:00(於:鼓研究室)

*幼・小の積み木実践の内容比較。

2 月 11 日(土)10:00〜12:00(於:隅研究室)

*美術科教育学会静岡大会 発表プレゼンおよび原稿検討。

3 月 11 日(土)9:00〜11:00(於:附属幼稚園)

*美術科教育学会大阪大会 発表プレゼンおよび原稿検討。

3月 28 日(土)10:15〜10:45(於:静岡県コンベンションアーツセンター/グランシ

ップ 9・10F)

*第 39回美術科教育学会大阪大会(於:静岡県コンベンションアーツセンター 会場E2)

「幼稚園と小学校における積み木遊びの実践Ⅰ-幼小人事交流におけるアクション・リサー

チ-」発表 発表代表者 附属幼稚園 米﨑瑛美教諭

Ⅱ 第 39 回美術科教育学会静岡大会における発表内容

発表題目

「幼稚園と小学校における積み木遊びの実践Ⅰ

-幼小人事交流におけるアクション・リサーチ-」

1.研究の目的

表題の積み木遊びとは、図画工作科では造形遊びと呼ばれる活動ですが、美術科を専門

にしていない小学校教師が、図画工作科の授業をするとき、この造形遊びを敬遠しがちな

風潮があるといいます。私自身も以前小学校に勤めていたのですが、造形遊びと幼稚園や

保育所での遊びとの違いをつかめなかったり、指導や評価の方法が分からなかったりする

という理由から敬遠している一人でした。

そして人事交流の一環で小学校から幼稚園に勤務するようになった私は、幼稚園と小学

校では図画工作科や生活科等において、一見似通った活動があっても、そのベースとなる

指導要領が大きく違うこと、子どもの姿にも違いがあることを実感しています。そこで、

幼稚園と小学校において、造形遊びにおける子どもの活動のねらいはもちろん、それにせ

まる教師の指導のあり方も明らかにしたいという思いが生まれました。

本研究では、幼稚園と小学校において同じ積み木を使用した造形遊びの実践を取り上げ

てアクション・リサーチを実施しました。アクション・リサーチとは、教え学ぶといった

教育環境において、教師、管理職、学校カウンセラー、支援者などによって行われる体系

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的な探求活動です i。アクション・リサーチでは、当事者である教師が焦点化すべき課題を

確定し、データを集め、課題が解決されたかどうかを分析し、解釈を深め、さらによりよ

くするために次に何をすべきか計画を立てます。

本研究ではアクション・リサーチのこれらの手順に基づき、「年長児と1年生の造形遊び

のねらいとそれにせまる教師の指導にはどのような違いがあるのか」を課題としました。

両者を比較することで、年長児と1年生の子どもの発達に即し、かつ、幼稚園と小学校で

の学びが滑らかに繋がるようなねらいと指導のあり方とはどのようなものであるかを明確

にしたいという思いがあったためです。

2.研究の方法

(1)実践者および対象幼児・児童、実践時期

実践者は現在 T 大学附属幼稚園に勤務する A 教師です。現在は、幼稚園において年長

組を担任しています。対象となる子どもは、A 教師が担任する年長児クラス 18 名、小学

校では1年生 33 名です。実践時期は、同じ年の 11 月です。

(2)材料

使用した材料は、富山県産木材で作られた積み木です。実物をいくつか持ってきました。

積み木は不定形で、丸や四角、三角など様々な形をしており、サイズや色、木目など多様

なものでした。これらの積み木は幼稚園においても小学校においてもシートの上にすべて

の積み木を混合して山状に積んでおきました。子どもたちはその積み木の山から好きなだ

け積み木を持っていき、積み木遊びをしました。なお、対象となった子どもの人数に比例

して、小学校では幼稚園で使用した積み木の2倍量を用意しました。幼稚園における実践

場所は遊戯室であり、小学校においては教室前のワークスペースです。

(3)記録および分析方法

記録は、ビデオカメラを使用しました。ビデオカメラは、定点による子どもの活動を記

録するためのもの4台と、A教師の動きや言葉がけを記録するためのものを用意しました。

また、A 教師の言動を記録したものを逐語記録として書き起こしました。それらの記録を

もとに、子どもの活動と教師の言葉がけを分析しました。

3.指導計画

まず、指導計画を立てました。

活動内容は、積み木を用いた造形遊びです。

幼稚園での活動のねらいは、

○ 県産材積み木に興味をもち、手触りや香り、形の面白さなどに気付く。

○ 見立てたり組み合わせたりなどして、積み木の使い方を自分なりに工夫して遊ぶこと

を楽しむ。

としました。

一方、小学校での題材の目標は

○ 積み木に関心をもち、並べたり、積んだりすることを楽しもうとする。(造形への関

心・意欲・態度)

○ 積み木の形や大きさの違いや面白さに気付き、様々な組み合わせ方を思い付いたり、

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つくりながら新しい形を考えたりする。(発想や構想の能力)

○ 積み木の使い方を試しながら、自分なりの表し方を工夫する。(創造的な技能)

○ 積み木でつくる面白さを感じながら、互いの表現のよさを見付ける。自分の活動の

楽しさや面白さを、形の選び方や組み合わせ方に着目して感じ取る。(鑑賞の能力)

と設定しました。赤字になっているところは、幼小で似通っている部分であり、積み木に

興味をもち、自分なりに工夫しながら進んで活動するという主体的な活動をねらう視点が

共通しています。異なる部分は、幼稚園では、材料の性質を感じ取るねらいがあり、小学

校では、発想や構想の能力や鑑賞の能力の目標も含まれるところが異なるところだといえ

ます。

このねらいのもと、指導案を立てました。その際、幼稚園教育要領で本実践に関連する

内容は、健康領域、人間関係領域、環境領域、表現領域の中で、このようなものが挙げら

れます。小学校学習指導要領の中で関連する内容は、A 表現領域のこの部分です。さらに、

長瀬らによると、幼稚園と小学校教育の違いとして、そのねらいが幼稚園では方向目標で

あるのに対し、小学校では到達目標であるところが挙げられています。

そこで、指導案を作成する際、指導の留意点として、幼稚園での実践では、「積み木のど

んな性質に興味をもっているのか、どんなイメージをもっているのか等、一人一人の思い

を見取り、子どもとやりとりする中で、共感したり思いがもっと膨らむような声をかけた

りする」と共感することに重点を置き、小学校では「材料とじっくりかかわる姿を大切に

し、並べ方や材料の選び方の工夫を見付けて認める」と、その子の意図や工夫を言葉にし

て認めることで、自分の活動のよさや面白さに気付くことができるようにしようと考えま

した。どちらも、子どもの活動を「受け止める」という点では共通していますが、この「受

け止める」ということについては、幼稚園教育要領解説でも「幼児は、あるものに出会い、

心が揺さぶられて感動すると、感じていることをそのまま表そうとする。その表れを教師

が受け止め、認めることによって、幼児は自分の活動の意味を明確にすることができる」

と明記されています。一方、小学校学習指導要領解説の中でも「指導に当たっては、育成

を図る資質や能力を明らかにし、児童の表現や作品を幅広くとらえるとともに、一人一人

の児童が、自分の思いで活動を進めることができるようにし、その子らしい表現を認める

ようにする必要がある」と明記されています。また、ローウェンフェルドは著書の中で教

師の指導の本質的な要件として、①教師は、自分も、自分の欲求も、子どもの欲求に従わ

せることができなくてはいけない。②教師は、子どもの身体的、心理的欲求を自らよく承

知していなければならない。と述べており、教師は子どもの欲求や要求などの思いを受け

止めることが重要であることを説いています。

以上のことから、教師の「受け止める」かかわりによって、年長児と小学1年生の造形

遊びにおける主体的な活動を促すかどうかを視点として、実践を行うことにしました。子

どもの活動の受け止め方として、見付けて認める、共感する、同意する、驚くというかか

わりを意識して行いました。また、子どもの主体的な活動としてこのような行為を想定し

ていました。

4.結果および考察

それでは、実践の様子を見ていきます。

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(1)まず、導入です。

幼稚園の実践では、素材とのふれ合いを大切

にしたいという意図から、活動前に一つずつ積

み木を渡しました。「まな板みたい」「竹みたい」

と形や質感からイメージをふくらますつぶやき

とともに、「いいにおいがする」と鼻に近付けて

香りをかいだり、「シュッて切ってある」「すべ

すべする」と手触りに気付いたりする子どもの

姿もありました。

また、どちらの実践でも、始めに材料を提示

し「どんなふうに遊べるか」子どもたちに問い

かけました。すると、小学生では動きのあるも

のを作ろうとする子どもがいたところに違いが

見られました。そのような発想を促す問いかけ

をした後、題材名と活動内容を提示し、危険行

為の注意をした流れはどちらも同じです。

(2)次に、子どもの活動の様子を述べます。

まず、4台の定点カメラの記録をもとに5分

ごとに全体の子どもの活動の様子を見ていきま

す。(写真の解説)

これらの記録から、子どもの主体的な活動を

挙げると、以上のようになりました。赤字は、

計画段階で想定していなかった行為です。下線

が引いてあるのは、その実践にのみ見られた行

為です。小学校学習指導要領に「幼児期と小学

校低学年の児童は、同じような発達の特性をも

っている」と書かれている通り、共通して出現

している行為も多くありました。

その中で違いの見られたところも述べていき

ます。

まず、幼稚園での実践では、ほとんどの幼児が積み木を何かに見立てながら遊んでいま

した。(イメージ先行)一つの積み木を何かに見立てるところから始まり、「バイオリン」

「美術館」「前日にした遊びの再現」等、自分の生活に密着した具体性のあるものに見立て

る子どもが多いことが分かります。一方、児童は、積み木を積んだり並べたりしている中

でイメージを後付する子どもが多く見られました。(行為先行)「タワー」「ビル」「工事現

場」等、幼児よりイメージが一般化され、概念的になっていました。

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次に、積む行為の様子に違いが見られました。

幼児は崩れることを期待しながら次々に積み木

を積んでいき、崩れると大喜びしていました。

一方、小学1年生の積む行為は、板状の積み木

と直方体を交互に積んでみて、それで崩れてし

まうと板状の面積の広いものから順に積み上げ

る等、崩れないためにどうしたらよいか考えて

いる様子が見受けられました。また、その積む

行為を楽しんでいた子どもたちの遊びがどう変

化していったかを見てみると、幼児は何度か崩

れることを楽しむと、迷路作りという平面に広

がる遊びに移っていきました。一方、小学生は、

高さやバランスを形作りに生かし、立体的に活

動が広がっていく様子が見られました。

また、円柱形の積み木を転がす子どももいま

したが、幼児は床の上を転がして楽しんでいる

のに対し、小学生は、安定する坂を作り、その

上をまっすぐに転がっていくよう試行錯誤する

様子が見られました。

どちらの実践でも、終始個人で活動を進める

子ども、友達と誘い合って共同で作り始める子

ども、活動していくうちに友達とつながってい

く子ども、中には積み木の取り合いで教師の仲

裁を必要とする子どもがおり、他者とのかかわ

りの面で大きな差異は見られませんでした。

(3)活動中の教師の指導について

実践後、それぞれの実践における活動中の教

師の言葉がけを振り返りました。幼稚園の実践

では、子どもから「見て見て。〇〇作った。こ

こがこんなふうに…」と作っているもののイメ

ージを伝えてくることが多く、教師もその子の

イメージを受け止めてやりとりすることがほと

んどでした。子どものイメージを聞き取る中で、

「だからここは斜めになっているんだね」「ここ

を通るれるようにしたんだね」とその子のイメ

ージと積み木をの使い方をつなぐ声かけもありましたが、その子のイメージの世界に一緒

に浸る言葉がほとんどでした。また「音が鳴る」「転がる」と材料の特徴の気付きを受け止

める言葉もありました。

小学校での実践でも、逐語記録をもとに分類すると、ほとんどが子どもの活動を受け止

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める言葉かけだったことが分かりました。詳しく

見ると始め数分は全体を見て回り、一人一人の子

どもにかける最初の言葉は、ほとんどが積み木の

選び方や組み合わせ方を認める内容でした。それ

に対して子どもは「〇〇を作ってる」とイメージ

を伝えてきたり、教師がイメージを探る質問をし

たりして、子どものイメージがふくらんでいきま

す。

後半に入ると、その子のイメージをもとに積み

木の使い方を認める言葉がけやバランス・動きの

生かし方を認める言葉がけが増えていきます。受

け止める中で、子どもの形の選び方や組み合わせ

方の意図を言語化したり、驚きを示したりする言

葉が多いことが分かりました。

A児らは、かまぼこ状積み木の曲面に長い積み

木を渡し、その上に積み木を積む行為に教師が大

きく反応したことで満足そうな笑顔を見せます。

それから幾度か崩れることがあっても最後まで、

その行為を楽しみ満足感を得ていました。(振り返りシートより)

右の写真は、自分の背まで積み上がったことを教師に認められたB児らです。最後は崩

れてしまい作ったものはありませんでしたが、活動終了時にも「ここまであったんだ」と

自分の身長を示しながら熱心に話す様子から、心を動かし楽しんだ興奮が残っていること

がうかがえます。

受け止められることで子どもは、のびのびと活動を楽しみ、自分の興味や材料とのかか

わりを追求していくことができることが分かります。

しかし、その一方、小学校の実践では、幼稚園と違って

○ 積み木の形や大きさの違いや面白さに気付き、様々な組み合わせ方を思い付いたり、

つくりながら新しい形を考えたりする。(発想や構想の能力)

〇 積み木の使い方を工夫しながら、自分なりの表し方を工夫する。(創造的な技能)

という到達目標があるにもかかわらず、新たな発想や技能の芽生えを促すような言葉がけ

がほとんどできていないことも見えました。例えば、積み上げることを楽しんでいる子ど

もに「〇〇みたいだね」とイメージをもって楽しむ視点を示したり、家を作っている子ど

もに「こんなふうに立てたらもっと壁みたいになるかな」と新たな積み木の使い方を提案

したりすることができたかもしれません。

なかなかしたいことが見付からず、手の動いていなかったC児に対して、教師は、2本

の柱を立てようとしているのを手伝い、上に板を渡して見せたり、「橋みたいだね」とイメ

ージを言葉にしたりしましたが、C児の心には響かなかったようでした。その後、C児は

別の組み合わせ方を試していきます。

また、「ケーキを作ろうか」と相談している D 児らに、教師は「もしかしてこれがお皿?」

と提案すると「いいね」と笑顔を見せたものの、その後、家作りに変化していきました。

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以上のことから、子どもの意図を強調したり、今している活動を後押ししたりする支援

は子どもの心に届きやすいのですが、新たな発想や技能の高まりを促す支援はとても難し

いことを実感しました。

では、(アクション・リサーチの手順に従って)この考察を振り返り、どう次の計画に生

かしていくか考えました。私の考える一つの提案は、子ども同士が互いの活動を見合った

り、かかわりが生まれたりするようなきっかけをつくるというものです。他者の活動を見

ることで、自分自身で、気付きや新たな興味を得て、実現しようとしていくことが、子ど

ものさらなる主体的な活動を促すのではないかと考えるからです。

5.おわりに

活動中に積み木の取り合いをしていた E 児と F 児は、次第に互いが積み木を縦に積み上

げるという同じ行為を楽しんでいることに気付き、二人のビルとタワーの間に道ができて

つながりました。振り返りシートには、二人ともビルとタワーがつながったこと、ヘリポ

ートがあることを書いており、イメージを共有しながら楽しんだことが分かります。担任

の先生は「この二人が誰かとつながるなんて驚いた」と話しており、彼らは造形遊びの中

で伸び伸びと自分を表現し、活動を通してつながったことがうかがえます。幼稚園では「人

間関係」が5領域の一つとして扱われています。そこで、小学校でも、個別の評価はある

ものの、教師が人間関係の視点を意識しながらかかわることで、幼児教育と小学校教育の

間につながりが生まれ、子どもたちの体験がより円滑につながっていくのではないかと感

じています。

i 小柳和喜雄「教師の成長と教員養成におけるアクション・リサーチの潜在力に関する研究」『奈良教育大学教育学部

附属教育実践総合センター第 13 号』2004 年、p84

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家庭科教育グループ

特別支援学校小学部の生活単元学習における

家庭科分野の授業実践研究

-家庭生活につながる食事づくり-

代 表 : 磯﨑 尚子

附属小学校 : 池田 美貴

附属中学校 : 吉田 みづき

附属特別支援学校 : 高附 真梨子

学 部 : 姜 信善

はじめに

特別支援学校の学習指導要領の中、「知的障害のある者」の項における家庭科は、中学部

になって「職業・家庭」として「家庭」という教科名が出てくる。そして、高等部に至って

「家庭」となる。中学部の職業・家庭の前段階として、小学部に「生活」がある。学習指導

要領では、小学部「生活」の目標を「日常生活の基本的な習慣を身に付け、集団生活への参

加に必要な態度や技能を養うとともに、自分と身近な社会や自然とのかかわりについて関

心を深め、自立的な生活をするための基礎的能力と態度を育てる」1)としている。「生活」

の内容は、児童の生活に関係の深い「基本的生活習慣」「健康・安全」「遊び」「交際」「役割」

「手伝い・仕事」「きまり」「日課・予定」「金銭」「自然」「社会の仕組み」「公共施設」の 12

観点から示されており、幾つかの観点を組み合わせたり、他の教科等との関連を十分に図っ

たりして総合的に指導することが重要であるとされている。本実践研究では、各教科等を合

わせた指導である「生活単元学習」の授業で指導したことを報告する。

1 本授業実践の概要

(1)単元名

「宿泊学習の朝食を作ろう」(特別支援学校小学部 5、6 年)

(2)単元目標

・宿泊学習での朝食作りに向けて、見通しをもって調理活動に取り組むことができる。

・自分の役割が分かり、友達と協力して調理活動に取り組むことができる。

・調理活動の流れが分かり、衛生面・安全面に気を付けて調理することができる。

(3)児童の実態

本学習グループの児童は、5 年男子 3 名、6 年男子 2 名、女子 1 名の計 6 名であり、

自閉症スペクトラム、ダウン症候群の児童である。言語の理解、コミュニケーション能力

面で個人差はあるものの、簡単な会話をすることができ、人との関わりを楽しみに意欲的

に学習に取り組む集団であり、特に調理活動は児童にとって楽しみで好きな活動である。

昨年度までの生活単元学習では、カップケーキやホットケーキ、焼きそばやピザトース

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ト、お好み焼きなど簡単なおやつや軽食の調理に取り組んでいる。家庭では、学校で取り

組んだ調理の手順表を持ち帰って家族と一緒に取り組んだり、食事の準備の手伝いに取

り組んだりしている。

(4)単元計画(全 10 時間)

本単元では、宿泊学習の朝食を作ることを最終目標にし、以下の指導計画で学習を進め

た。

第 1 次 栄養バランスのよい食事メニューを考えよう(2 時間)

第 2 次 材料を買って、調理しよう(4 時間×4)

2 授業実践の実際

(1)「栄養バランスのよい食事メニューを考えよう」

1 食分の食事を作るため、栄養教諭と連携し、「栄養バランスのよい食事」について学

習し、その学習を踏まえて宿泊学習の朝食メニューを決める活動を行った。

1.一日元気に過ごせる

朝食ってどんなの

かな?

・今日の朝食

・主食・主菜・副菜って

何?

2.朝食バイキングゲーム

・「主食・主菜・副菜の3

つがそろった元気ス

イッチ ON の朝食」の

ルールで料理カード

を選び、ワークシート

に貼って、発表する。

<学習に使用したスライド>

<「元気スイッチ ON

朝食」

ワークシート>

<料理カードを選ぶ

様子>

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3.宿泊学習の

朝食メニューを

決めよう

・主食と副菜、飲み物を

選んでワークシート

に貼る。

(材料の買い物後に

行う)

宿泊学習では、入浴の準備、出かける準備など荷物の管理をしたり、布団を敷いたり、

使用した場所を掃除したりなど普段家族にしてもらっていることも「自分の身の回りの

ことを自分で行う」という目当てをもって取り組むことをねらいとした。その一環として

の朝食作りも決められたメニューを作るのではなく、自分たちでメニューを考えるとこ

ろからスタートするように設定した。児童の生活の中で 1 食分を自分で考える経験はほ

とんどなく、家庭や学校で何気なく食べている食事がバランスのよいものだったという

ことや好きな物ばかり食べればよいというわけではないということに気付くきっかけに

なることを願って取り組んだ。

主食は児童の普段食べている朝食を調査すると、ごはん、パン両方に分かれたため、調

理に要する時間、家庭への般化を考え、食パンに市販のチューブ入りの具を塗り、オーブ

ントースターで焼く「○○トースト」か、炊飯器で炊いたご飯にふりかけを混ぜる「○○

ごはん」から選ぶことにした。主菜は電子レンジを使って調理する「○○ココット目玉焼

き」とし、入れる具は児童の意見で決めることにした。副菜はポットでお湯を注いで作る

インスタントのスープかみそ汁とし、数種類から選ぶこととした。その他、フルーツヨー

グルトはヨーグルトにフルーツの缶詰を入れることとし、飲み物も数種類から選ぶこと

とした。

<「ぼくの朝食メニュー」ワークシート>

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(2)材料を買って、調理しよう

調理を行うにあたり、自分の分を自分で作るのではなく、ご飯係、トースト係、汁物係

など役割を分担して作ることにした。時間的な制約もあるが、同じものを 1 回の授業で

何回も繰り返して作ることにより、調理器具の扱いや作り方により早く慣れ、友達が選ん

だ具のものを責任をもって作るということをねらいとした。このことは例えば、家庭でイ

ンスタントみそ汁を作るとなったときに、家族にどの具にするか聞き、作って渡すという

ことにつながると考えられる。

材料を買う活動では、学校の近くのスーパーに行き、係ごとに分かれ、友達と相談しな

がら必要なものを買うこととした。ご飯係はふりかけコーナーに行き、2 種類のふりかけ

を選ぶ、デザート係は缶詰コーナーに行き、3 種類の缶詰を選ぶなどである。そして買っ

てきた物を発表し、それを見て自分の朝食メニューを決めるという活動を行った。その後、

各係は友達に聞いて、誰が何を選んだかの「オーダー表」を作る活動を行った。

<「買い物メモ」ワークシート>

選んだ飲み物名を記入

名前

<誰が何を選んだのかの「オーダー表」>

<「買い物メモ」を見て、係の友達と相談し

ながらふりかけを選ぶ児童の様子>

選んだ人の名前を記入

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調理活動では、今までも調理実習前に掲示物等を活用して確認してきていることだが、

「①清潔に②安全に③協力して」を約束として行った。今回はオーブントースターや電気

ポットなどの調理機器を使用したり、缶詰を開けたりする活動があるため、「②安全に」

を特に気を付けるように促した。何が危険なのか、どうすれば安全なのかを具体的に示す

ようにしたことで、オーブントースターの使用では、「熱い」=「怖い」というイメージ

をもつ児童が、どこが熱くてどこが熱くないのかが分かることで熱いところを触らない

ように気を付け、怖がらずに扱うことができるようになった。また、熱い汁物を運ぶ児童

が同じ空間にいるので他の児童も移動の際には周りをよく見てぶつからないように、通

り道を開けるようにしたり、電子レンジから器を出す際に熱いので布巾でくるんで持つ

ようにしたり、缶詰を開けた後、手を切らないようにふたや容器を扱ったりなどの姿が見

られた。

児童ができるだけ一人で調理を進められるように簡単な「調理手順表」を用いたり、効

率よく調理を進められるよう、まずは炊飯器のスイッチを入れ、ご飯を炊いている間に身

支度、手洗い、テーブル拭き、フルーツヨーグルト作り、飲み物入れというように「活動

手順表」を示したりした。児童自身見通しをもって活動を進めるようになり、回を重ねる

につれ、調理に要する時間がかなり短縮された。

<やけどに注意しながらトーストを取り出したり、

慎重に味噌汁を運んだりする児童の様子>

<「活動手順表」を友達と確認

する児童の様子>

<「調理手順表」>

<「調理のやくそく」を掲示>

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会食の際には「〇〇くん、たまごおいしいよ。」とココット目玉焼き係の児童に感想を

伝えたり、友達が自分とは違うメニューを食べているのを見て「次はぼくも〇〇にしよう」

と言ったりする姿、「ぼく〇〇好き」というのを聞いて、次回買い物する際にリクエスト

のものを選ぶようにする姿が見られた。

3 授業実践を終えて

最終目標である宿泊学習の朝食作りを含め、計 4 回の調理活動を経て児童は自分の担

当した調理に慣れ、自信をもって取り組む姿が見られた。その後、夏休み中に家庭でココ

ット目玉焼きを食事の一品として作った児童、電気ポットの使用に自信をもち、家族にコ

コアやカフェオレを入れることが楽しみになった児童、米とぎが手伝いのレパートリー

の一つとして加わった児童など家庭生活につながった様子を保護者から聞くことができ

た。

また、今回は調理活動だけでなく、メニューを考える活動、必要な材料を買う活動も含

めた単元構成としたことで、児童が考え、判断する場面を多く設定することができた。1

回目の調理を経て 2 回目の調理の買い物に行く際には、「塩コショウはまだ残っているか

ら今回は買う必要がない」「〇〇さんが好きと言っていたからこれを買っておこう」、自分

のメニューを決める際には、コーンスープを希望したのは 3 人だけど今 2 袋しかないと

いう状況で「じゃんけんで決めて負けたら残っている中から選び直ししよう」など、状況

に応じてどうすればよいか自分で考え、時には友達や教師に相談し、決めるという姿が多

く見られた。実際の家庭生活でもあり得る場面を経験することができたのではないかと

思う。

今回は児童が安全に留意して扱えるように配慮しながら、電気ポット、オーブントース

ター、電子レンジなどの調理器具を用いた。家庭での調理活動を考えると他にもピーラー、

<ぼく(わたし)の昼食>

<「オーダー表」を友達と確認しながら飲み物を

入れる児童の様子>

<誰が何の飲み物を頼んだかを記入した

「オーダー表」>

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包丁、ガスレンジ、IHクッキングヒーターなど安全に留意しながら扱うことを学習して

いきたいが、より慎重に扱うことを留意しなければならない調理器具、機器を扱うときに

常にマンツーマン指導ができるわけではなく、時間的な制約もあるので小学部段階では

なかなか取り扱っていないのが現状である。児童の実態に合わせ、個々の活動をうまく組

み合わせて取り扱っていけるよう工夫することが今後の課題である。

おわりに

小学部5、6 年生という段階での食事作りということを念頭に置き、調理活動に至るま

での学習をどこまで行うか、調理ではどのような食材、調理機器、調理器具、調理方法を

用いるかの精選にあたり、①現在の児童の家庭生活を想定すること、②中学部・高等部で

も行われる食事作りの学習につながることの 2 点を重視した。今後もこの 2 つの視点を

踏まえて授業実践を行っていきたい。

【引用文献】

1)文部科学省「特別支援学校学習指導要領解説 総則等編(幼稚部・小学部・中学部)」

(平成 21 年)、252~253 頁

【参考文献】

・全国特別支援学校知的障害教育校長会編著、井上とも子・小川純子監修(平成 27 年)『知

的障害特別支援学校の「家庭」指導』ジアース教育新社

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健康教育グループ

児童・生徒の「健康な生活」を目指す実践

代 表 : 藤本 孝子

附属小学校 : 松森 由香里

附属中学校 : 大場 真紀子

附属特別支援学校 : 池田 優香

学部 : 澤 聡美、神川 康子

(1) 学部での取り組みー生活習慣調査(H24からH27年度報告書のつづき)―

健康教育グループ(以下、生活習慣研究会)では、子どもたちの成長・発達を支える

生活習慣を睡眠習慣・運動習慣・食習慣から検討し、富山県における実態を把握すると

ともに、将来を担う子どもたちが元気で健やかに育つための家庭や学校における教育プ

ログラムを提案することを目的に、幼児から社会人までを対象とした大規模アンケート

調査を起案し、実施してきた。これまで、幼稚園・保育園11校、小学校9校、中学校4

校、高校4校、大学2校、社会人より、延べ7472枚の調査票を回収した。今年度は、

アンケートの依頼・回収を終了とし、全データをコード化し入力する作業を終えた。

また、上述のアンケート調査に加え、計4回の生活習慣研究会を開催し、アンケート

の進捗状況や分析結果、今後の分析の方向性、各学校における健康教育の実態と改善効

果などについて意見交換を行った。

ここでは、アンケート調査より、富山県の中学生、高校生、大学生(合計2984名)

を分析対象とし朝食摂取の状況と体型・生活習慣・心身の健康状態・生活態度との関連

性を検討した結果を報告する。

分析の結果、普段の朝食の摂取については、欠食習慣のある者の割合は、中学校では

1年生9.2%、2年生6.0%、3年生7.9%、中学生全体では7.7%、高校生では1年生4.

3%、2年生7.9%、3年生12.6%、高校生全体では8.3%、大学生では41.1%であっ

た(図1)。大学生で朝食欠食習慣のある者の割合が、高校生全体の約5倍程度著しく

増加することが明らかとなった。また、男女差は中学1年生、高校3年生、大学生に有

意に認められ、女子より男子に欠食者が多い結果であった。

図2は調査日の朝食内容についての回答をまとめたものである。中学1年生から高校

2年生では、25~35%の生徒が「主食+主菜+副菜」を組み合わせた朝食をとってお

り、最も多い回答であった。高校3年生では、最も多い回答は「主食のみ」の26.1%

であり、「主食+主菜+副菜」の25.1%をわずかに上回っていた。そして大学生は「主

食のみ」の33.5%が最も多く、「主食+主菜+副菜」は8.8%であった。中学生・高校生

48

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と比較して、大学生で欠食率が著しく増加し、摂食者もバランスの良い朝食を摂ってい

る者の割合が小さくなった。

体型、生活習慣、心身の健康状態、生活態度と朝食摂取の関連性を検討した結果、朝

食摂食者と欠食者との間に多くの有意差が認められた。標準体型(BMI:18.5~25)の

者は、欠食者に比べて摂食者に多くみられた。朝食摂食者は、睡眠習慣が良好であり、

健康的な食生活を送っていて、運動量が多いという傾向がみられた。他にも朝食摂食者

には、「家族や友達との関係が良好」「やる気や集中力がある」「テレビやゲーム時間

が短い」「学習時間が多い」「衛生面での自己管理能力が高い」などの特徴がみられた

。また、体の調子については、朝食摂食者と欠食者との間には大きな違いは見られなか

った。

朝食欠食はこれまで多くの研究がなされ、改善への取り組みも行われている。しかし

ながら、なかなか欠食率が改善されないのが現状である。今後は、発達段階別に詳細に

検討するとともに、高校卒業後を見据えた生活の自己管理能力を高めるための支援のあ

り方を検討していきたい。

図1 朝食の欠食習慣について

図 2 朝食の摂取内容について

中学生 平均 7.7%

高校生 平均 8.3%

49

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(2)小学校での取り組み

― 「附属っ子 チャレンジファイブ!」の結果より ―

1 はじめに

昨年度引き続き、今年度も「附属っ子 チャレンジファイブ!」を実施した。子供た

ちの生活の過ごし方が、生涯の健康につながるよう、学校と家庭が連携して子供たちの

指導に取り組むことを目的としている。また、規則正しい生活を送ることが、よりよい

姿勢で過ごすことにつながり、学習に集中したり、運動に意欲的に取り組んだりできる

ことを導く。そこで、今年度は特に「姿勢」について重点を置き、具体的な項目にした。

学校内の子供たちの様子から、頬杖をしていたり、足を横に出していたりして座って

いる姿を見かける。姿勢は生活習慣と大きく関係し、睡眠不足等の生活の乱れが授業に

集中できないことを招くこともある。小学生のこの時期に、よくない姿勢は今後の成長

に影響も与える。そこで、今年度の「附属っ子 チャレンジファイブ!」の項目を下記

のようにした。

資料1 「附属っ子 チャレンジファイブ!」の調査項目

〈子供〉

① 朝、すっきり目が覚めた。

② 授業中、いすに深く座った。

③ 授業中、両足を床につけた。

④ 給食後に歯をみがいた。

⑤ 夜( 時 分)までに寝た。

〈保護者〉

① 朝、自分で起きていた。

② 食事の時、いすに深く座った。

③ 食事の時、テーブルに向かってまっすぐ座った。

④ 夕食の後、歯みがきをしていた。

⑤ 夜( 時 分)には寝ていた。

2 「朝の目覚め」について

本校の多くの子供たちが、バスや電車などの交通機関を利用して通学している。朝、

早い子供は7時半前には登校するために、朝5時に起きているという子供もいる。前日

は、習い事や宿題等で就寝時刻が遅くなることもあり、さらに朝、早く起きるとなると、

自分で起きることが難しいことが予想される。子供たちの感想から、「自分で起きるため

に、目覚ましをセットしている」と書かれてあり、工夫していることが分かる。また、

保護者の感想から、「起こされないようして、自分で起きるようにしましょう」と書かれ

⑤の就寝時刻は自分の生

活に合わせて設定する。

50

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ていることからも、朝早く、自分自身で起きることが子供たちの課題である。「附属っ子

チャレンジファイブ!」に4月と2月の結果について比較した。

資料2 朝の目覚めについて

グラフから、低学年は自分で起きる子供が少ないことが分かる。また、4月は子供た

ちの意識は高いが、2月になると、自分では起きることができる子供が少し減ることが

分かる。4月は向上心が高い様子、2月になると寒さのために起きることに時間がかか

ることが考えられる。

3 「姿勢」について

資料3 姿勢について

1年 2年 3年 4年 5年 6年 全校

4月 50.0 57.6 76.8 45.5 63.6 58.3 58.82月 46.9 64.4 71.0 28.4 58.3 57.9 54.8

0.010.020.030.040.050.060.070.080.090.0%

1年 2年 3年 4年 5年 6年 全校

いすに深く座る(4月) 75.8 77.3 87.0 81.8 83.3 76.4 80.2〃 (2月) 62.5 84.7 94.2 71.6 90.0 78.9 82.2

両足を床につける(4月) 78.8 78.8 81.3 72.7 78.8 73.6 77.3〃 (2月) 71.9 78.0 95.4 67.2 88.3 73.7 80.1

0102030405060708090

100%

51

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4 月と 2 月を比較すると、意識はさほど変わらないが、持続することができるようだ。

特に意識が高まったのは 3 年生であった。3年生の教室では、担任が毎朝、カードをチ

ェックするとともに、姿勢について声をかけていることが分かった。子供たちの意識を

高めるためには、担任の協力が欠かせない。職員が同じ目当てをもって、取り組むこと

が大事である。

4 「歯みがき」について 資料4 歯みがきについて

学校での給食後の歯みがきの定着は難しい。給食終了後に児童保健委員によって歯み

がきを呼びかけ、約三分間、音楽をかけているが、休み時間に遊びたいという気持ちを

優先させるのか、歯みがきが疎かになっている。特に、高学年が顕著である。 夜、寝る前の歯みがきは定着している。家庭の声かけがあって、習慣化となっている。

給食後の歯みがきが定着するよう、指導を徹底していきたい。 5 「就寝」について 本校の子供たちは低学年の頃は早く寝ている。これは、家庭の意識が高いことが分か

る。中学年になると、家庭学習の時間が増え、遅くなり始め、高学年になると就寝時刻

がさらに遅くなる。本校の子供たちのほとんどは習い事や宿題をするために就寝時刻が

遅くなっている。ゲームをしたりテレビを見たりする子供はほとんどいない。 就寝時刻のばらつきから、習い事等があって同じ時刻に寝ることが難しいことが分か

る。子供たちの実状を配慮し、これ以上は遅くならないように、学校から家庭に声をか

けていきたい。

1年 2年 3年 4年 5年 6年 全校

給食後(4月) 92.4 68.2 73.9 37.9 56.1 13.9 56.5〃 (2月) 71.9 66.1 81.2 31.3 51.7 23.7 55.1

夜、寝る前(4月) 93.9 88.7 85.5 90.5 88.9 88.6 87.3〃 (2月) 87.1 96.5 95.5 83.3 91.5 86.5 88.6

0102030405060708090

100%

52

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資料5 就寝について

資料6 就寝時刻について

6 おわりに 「姿勢」について重点を置くとともに、規則正しい生活を送ることについて呼びかけ

た。授業中の姿勢は声をかけると意識をするが、すぐに楽な姿勢(よくない姿勢)で過

ごしている姿を見かける。今年度も、「附属っ子 チャレンジファイブ!」に取り組んだ

が、集計結果から少し低迷していることが分かった。子供たちの意識を高めるために、

担任の先生方への働きかけが必要である。また、家庭への啓蒙をこまめにすることが大

切である。継続的に取り組むために、今後、情報収集したり、職員、家庭と連携したり

することで、「よりよい附属っ子」の育成に臨みたい。

1年 2年 3年 4年 5年 6年 全校

4月 53.0 43.9 42.0 22.7 31.8 31.9 37.52月 34.4 33.9 50.7 23.5 40.0 23.7 35.3

0

10

20

30

40

50

60%

0% 20% 40% 60% 80% 100%

4月

2月9時前

9~9:309:30~1010~10:3010:30~1111時以降

53

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(3)附属中学校での取り組み

保健室来室生徒には、ストレスが原因と思われる心因性の症状を訴える生徒が少

なくない。中学校の3年間は、自分探しの入り口であり、思春期を迎え、進路決定、

対人関係など不安や悩みを抱える時期である。富山県で行っている生活習慣アンケ

ート(とやまゲンキッズ作戦)の質問項目の中でも、「学校生活は楽しい」と答え

る生徒は、学年が上がるほど少なくなっている。そこで、多くの生徒が悩みを抱え

始める第2学年を対象に、保健体育科の「心身の発達と心の健康」の単元で、保健

体育課教諭(T1)、養護教諭(T2)、スクールカウンセラー(T3)のティーム

ティーチングでストレスマネジメント教育を試みた。

-とやまゲンキッズ作戦の結果より-

① 生徒の実態

事前に、冨永良喜 1)による「ストレス反応 20」と「ストレス対処 25」の調査

を実施した。学年の平均得点を評価基準で判定すると、ストレス得点は高いが、望

ましい対処方法(リラックス・気分転換・相談など)の得点が低いことから、ストレ

スマネジメントを身につける必要性があると考えた。

<ストレス反応 20 「平均得点と評価」実施日:平成 28 年11月 対象:第 2 学年 157 名 >

<ストレス対処 25「平均得点と評価」実施日:平成 28 年11月 対象:第 2 学年 157 名 >

0

20

40

60

80

100

平成26年度 平成27年度 平成28年度 県平均(H27)

「学校生活は楽しい」と答える生徒の割合

1年 2年 3年

問題に立ち向かう リラックス・気分転換 相談 傷つけ・発散 感情抑制

平均得点 12.8 11.1 12.0 6.0 12.2評価 高い【12以上16未満】 中くらい【9以上12未満】 中くらい【10以上15未満】  中くらい【5以上8未満】 中くらい【10以上14未満】

望ましくない対処法望ましい対処法対処方法

ストレス項目 緊張 怒り 抑うつ 生活不調 合計ストレス得点

平均得点 3.1 4.2 3.1 4.5 14.9評価 高い【2以上4未満】 高い【4以上7未満】 高い【2以上4未満】 高い【4以上6未満】  高い【11以上17未満】

54

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② 実践

多くの生徒が悩みを抱え始める第2学年で、ストレスマネジメント教育を行いたいと考え、

平成26年度から、保健体育科の第1学年で行う単元「心身の発達と心の健康」の中の「欲

求不満やストレスへの対処」を、第2学年の保健に組み込み、保健体育課教諭(T1)、養護

教諭(T2)、スクールカウンセラー(T3)のティームティーチングで授業を行っている。

・単元名 心身の発達と心の健康「欲求不満やストレスへの対処」

・本時のねらい

・心と体は密接に関係していることを理解する。

・心の健康を保つためには欲求やストレスに適切に対処することが必要であること

を理解する。

・自分に合ったストレスの対処方法を探り、実践しようとする意欲をもつ。

・展開

学習活動 指導上の留意点 資料

導入

○事例から、心の不安や緊張が体

に影響していることを振り返

る。

・よくある緊張の場面から、心と体が密

接に関係していることを実感させる。

(T1)

資料1

資料2

資料3

資料4

資料5

展開

自分のストレス度を知ろう

○ストレスチェックを記入する。

○心と体が影響し合う仕組みを科

学的に理解する。

・ストレス反応は心や体だけでなく、行

動にも表れることを説明し、攻撃性の

強い生徒にもストレスを実感させる。

(T1)

・心と体はホルモンや自律神経の働きで

密接に繋がっていることを理解させ

る。(T2)

ストレス対処方法を考えよう

○緊張を和らげるために普段行っ

ている行動を振り返る。

○自分に合うストレス対処方法は

人それぞれであることを知り、

自分に合った対処方法を見つけ

出す必要性を理解する。

○学習の感想を記入する。

個人のアドバイスシートを受け

取り、ストレス度や対処力を確

認する。

・テスト・スポーツ・スピーチの3つを

キーワードとして与え、6人グループ

で1つ選択し、具体的な対処方法を話

し合う。カードに記入し、黒板に張る。

・ストレスを前向きに受け止め、自分に

合ったストレス対処方法を考えさせ

る。(T3)

・事前に行った「ストレス反応 20」と

「ストレス対処 25」からアドバイス

シートを作成し、個々に配布する。

(T1)

まとめ

55

Page 60: 富山大学スクラムプラン ―学校バリアフリーへの挑 …富山大学人間発達科学部・附属学校園 共同研究プロジェクト 平成28 年度報告書

<資料1>

56

Page 61: 富山大学スクラムプラン ―学校バリアフリーへの挑 …富山大学人間発達科学部・附属学校園 共同研究プロジェクト 平成28 年度報告書

<資料2>

57

Page 62: 富山大学スクラムプラン ―学校バリアフリーへの挑 …富山大学人間発達科学部・附属学校園 共同研究プロジェクト 平成28 年度報告書

<資料3>

58

Page 63: 富山大学スクラムプラン ―学校バリアフリーへの挑 …富山大学人間発達科学部・附属学校園 共同研究プロジェクト 平成28 年度報告書

<資料4>

59

Page 64: 富山大学スクラムプラン ―学校バリアフリーへの挑 …富山大学人間発達科学部・附属学校園 共同研究プロジェクト 平成28 年度報告書

<資料5>

③ 結果

・事例1(男子生徒A)

(授業の感想)

僕の人生、半分くらいが全てストレスであった。しかし、それをどのようにして乗

り越えていくのか、それが僕の課題であった。また、ストレスの対処方法も色々あっ

て自分らしい自分の方法を見つけていくべきだと思った。

ストレス反応 41点 【とても高い】

望ましいストレス対処

問題に立ち向かう 6点 【低い】

気持ちの対処 6点 【低い】

相談 4点 【とても低い】

望ましくない対処

傷つけ 12点 【とても高い】

気持ちの押し込め 6点 【低い】

生徒Aは、ストレス反応の合計点が41【とても高い17以上】と群を抜いて高く、

ストレス対処も、自分や物を傷つけたり、気持ちを押し込めたりする傾向があり、相

談したりリラックスしたりする望ましいストレスの対処方法が身についていなかっ

た。授業を通して自分のストレスに気付き、自分に合った対処方法を見つけて行きた

いと感想を記入している。この生徒は、後日、悩みを大人に相談できるようになった。

60

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・事例2(男子生徒B)

(授業後の感想)

自意識がありすぎるかもしれませんが、コミュニケーションがうまい、それ自体が

とても楽しいので、ストレスはありません。先ほどのアンケートでも点数は低くて、

まあいいかなと思っていました。でも、ストレス、緊張を感じることはあると思うの

で、対策(歌う・ルーティーン、笑う、友達と話す、イメージ、好きな事など)がク

ラスのみんなからたくさん出たので、そういうことがあれば使いたい。家では多くス

トレスを感じることもありますが、学校は楽しい!この授業で学んだことを生かしよ

りよい生活に努めます。

ストレス反応 6点【低い】

望ましいストレス対処

問題に立ち向かう 14点【高い】

気持ちの対処 16点【高い】

相談 17点【高い】

望ましくない対処

傷つけ 6点【中くらい】

気持ちの押し込め 9点【低い】

生徒Bは、ストレス反応の合計点が6【低い3~6】と低く、望ましいストレス対

処方法も十分に行える生徒である。クラスの友達が行っているストレス対処方法に興

味をもち、試してみたいと記入している。ストレス対処方法の幅が広まったと思われ

る。

・事例3(男子生徒C)

(授業後の感想)

僕はよくテストやテニスの大会の時、緊張をして実力を出せないっていう時があっ

たけど、今日の授業を受けて和らげたりする方法が分かりました。これから、テスト

やテニスの大会の前には笑ったり、深呼吸をしたりしていきたいです。最近イライラ

して、物や弟にあたってしまうことがあったので、楽しいことを考えて笑ったり深呼

吸をしたりして和らげていきたいと思いました。

ストレス反応 6点【低い】

望ましいストレス対処

問題に立ち向かう 11 点【中くらい】

気持ちの対処 16点【高い】

相談 12点【中くらい】

望ましくない対処

傷つけ 3点【低い】

気持ちの押し込め 8点【低い】

61

Page 66: 富山大学スクラムプラン ―学校バリアフリーへの挑 …富山大学人間発達科学部・附属学校園 共同研究プロジェクト 平成28 年度報告書

生徒Cは、ストレス反応の合計点が6【低い3~6】と低く、望ましいストレス対

処も十分に行える生徒である。部活動の大会で、緊張をコントロールすることが難し

いと感じており、授業を通してその対処方法を適切に理解していた。また、最近の自

分のストレス対処方法が良くないことにも気づき、改善したいと反省している。

・事例4(女子生徒D)

(授業後の感想)

ストレスは発散させずためていたが、体にも悪影響が出ると知って自分なりの解決

法を見つけたいと思った。人にあたるなどはやめようと思った。まず、ストレスをつ

くらないことで全てを防げるから、なるべくがまんしないようにしようと思う。

ストレス反応 20点【とても高い】

望ましいストレス対処

問題に立ち向かう 20点【とても高い】

気持ちの対処 10点【中くらい】

相談 16点【高い】

望ましくない対処

傷つけ 4点【低い】

気持ちの押し込め 19点【とても高い】

生徒Dは、ストレス反応の合計点が20【とても高い17以上】と高く、ストレス

対処は、気持ちを押し込める傾向の高い生徒である。授業を通して、気持ちを押し込

めることが自分の体に良くないことに気付き、我慢しないで別の対処方法を探ろうと

気持ちが動いていることが分かる。

・事例5(女子生徒E)

(授業後の感想)

どうしても最近人間関係やテストなどが続きイライラすることが多くなってきた。

ストレスフリーとまではいかないけど改善したいと思った。ストレスは人生のスパイ

スなどと一度も考えたことがなかったので、理解した上で行動できるように努力しよ

うと思う。

ストレス反応 39点【とても高い】

望ましいストレス対処

問題に立ち向かう 7 点【低い】

気持ちの対処 8点【低い】

相談 6点【低い】

望ましくない対処

傷つけ 13点【とても高い】

気持ちの押し込め 15点【高い】

62

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生徒Eは、ストレス反応の合計点が39【とても高い17以上】と高く、ストレス

対処も、自分や物を傷つけたり、気持ちを押し込めたりする傾向が高く、相談したり

リラックスしたりする望ましいストレスの対処方法が身についていない生徒である。

授業を通して自分のストレスに気付き、カウンセラーの「ストレスは人生のスパイス

である」という言葉を受け止め、ストレスをプラスに受け止めようと考える様子が見

られた。

④ 考察

これまでストレスを抱えていることを自覚しないまま、何となくイライラした気持

ちを抱えていた生徒が、自分のストレスを理解し、対処したいと考えることができた。

また、スクールカウンセラーを交えてティームティーチングを行ったことで、ストレ

スの対処方法を適切に指導することができた。多くの生徒はストレスを前向きに捉え、

自分に合った対処方法について考えることができた。さらに、「心とからだの健康観察

と教育相談ツール集」を活用し、ストレスチェックの結果をアドバイスシートにして

配布したことにより、一人一人に応じた細かなアドバイスを手渡すことができ、個に

合った指導を行うことができた。今後はさらに、アサーショントレーニングのような

ストレス対処スキルを身につける指導も行っていきたい。

<参考文献>

1)冨永良喜 「ストレスマネジメント理論による心と体の健康観察と教育相談ツール

集」あいり出版 2014

63

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(4) 附属特別支援学校での取り組み

―中学部保健「健康な生活」の実践から―

1 はじめに

本校では、保護者が記入した生活習慣アンケートより、児童生徒の睡眠、食事、

運動等、生活習慣に関する実態把握を行っている。就寝時刻、起床時刻の結果は、

以下のグラフのとおりである。小学部、中学部、高等部、それぞれ数名ではあるが、

就寝時刻が遅い児童生徒がいる。成長期の児童生徒にとって、規則正しい生活習慣

とは何か、なぜ大切なのか、自分たちの体にどのような影響を及ぼすのかなどにつ

いて学ぶことは重要であり、卒業後、「自分の体は自分で守る」という意識をもち、

自己管理できるようになってもらいたいと考える。11月~1月に中学部保健で行

った授業「健康な生活」についての実践と、その考察について3以降にまとめた。

2 実態

生活習慣アンケート結果より(4月実施 保護者記入)

5.9% 88.2%

72.2%

33.3%

5.9%

22.2%

45.8%

5.6%

20.8%

就寝時刻(平日)

19時台 21時台 22時台 23時台

58.8%

33.3%

16.7%

35.3%

50.0%

50.0%

5.9%

16.7%

33.3%

就寝時刻(休日)

21時台 22時台 23時台

5.9%

11.1%

16.7%

82.4%

77.8%

79.2%

11.8%

11.1%

4.2%

起床時刻(平日)

5時台 6時台 7時台

5.6%

16.7%

41.2%

33.3%

29.2%

47.1%

44.4%

37.5%

11.8%

16.7%

16.7%

起床時刻(休日)

5時台 6時台 7時台 8時以降

64

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3 実践

中学部保健(A グループ 男子3名・女子3名 計6名)

〇1校時

A さん(規則正しい生活)と B さん(不規則な生活)の生活を比べ、どちらの生

活が望ましいか確認をし、規則正しい生活を送ると抵抗力が強くなることを学習し

た。また、風邪を引いたときに発熱、鼻水、咳などの症状が現れるのは、体を守る

ための大切な働きであることを学んだ。抵抗力を強くするためには、「睡眠」「食事」

「運動」が大切であること、また、睡眠において、中学生の場合8時間半~9時間

睡眠をとることが望ましいなど学習した上で、自ら生活目標を設定し、一週間、生

活チェックシートを記入することを宿題とした。

65

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〇2校時

一週間記入した生活習慣チェックシートを振り返り、結果表にまとめた。その結

果から、良かったところ、悪かったところ、直したいところをまとめた。

〇3校時

前時にまとめたワークシートを基に、一人ずつ「自分の生活を振り返って」につ

いて発表を行った。また、他生徒には、発表者の生活について良かったところを発

表してもらい、養護教諭からは、これまでの欠席状況、健康状態を伝えた。その後、

中学部3年間欠席しなかった先輩(高等部生徒)の生活習慣に関するインタビュー

動画を観てもらい、自らの生活習慣を改めて振り返る時間を設けた。そして、冬休

み中の生活目標を立て、再度生活習慣チェックシートを記入することを宿題とした。

66

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〇4校時

冬休み中の生活習慣チェックシートの結果を振り返り、良かったところ、悪かっ

たところ、直したいところを再度確認するとともに、一回目と比べ改善できたこと、

改善できなかったことなども確認した。また、成長期の中学生にとって、体作りを

行う大事な時期に、規則正しい生活を送ることはとても大切であること、自分の体

は自分で守り、自己管理できる力を身に付ける必要があることを再度確認した。

個人の結果より

改善がみられたケース

・中2男子

一回目、お手伝いはたくさんしたが、運動をしなかったと反省点に挙げた。

二回目は、意識し、縄跳びやストレッチなどの運動をほぼ毎日行うことが

できた。

一回目 二回目

67

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・中3女子

普段、おやつの量を意識することなくたくさん食べていたが、生活習慣

チェックシート記入期間は、おやつの量を意識し食べ過ぎないように気を

付けることができ、二回目も意識することができた。

一回目 二回目

改善がみられなかったケース

・中1男子

一回目、休日の起床時刻が 9 時であったため、もう少し早く起きることが

できないか尋ねると、「休日はゆっくりしたい、家族も、9 時くらいに起床す

る。だから難しい。」と答えた。やはり、冬休み中も9時に起床していた。

一回目 二回目

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・中1女子

普段から就寝時刻は遅く、23時前後になることが多い。冬休み中は、さ

らに遅く24時前後に就寝することが多かった。また、朝食を食べない日も

目立った。

一回目 二回目

4 考察

これまで培ってきた生活習慣を変えることは難しい。しかしながら、生活の記録

を取り、振り返りながら過ごす期間を設けることで、自らの生活と向き合うことが

できる。今回改善がみられなかったケースもあったが、その後も、登校時や休み時

間、保健室来室時などに定期的に養護教諭から言葉を掛け、様子の確認を行ってい

る。今後も継続して言葉を掛けていきたいと思う。また、児童生徒の生活習慣につ

いては、保護者記入の生活習慣アンケートより把握していたものの、今回のように、

養護教諭が直接授業を行い、生徒に生活習慣チェックシートを記入してもらうこと

で、生徒自身のみならず、養護教諭も生徒の実態を詳しく把握することができた。

今回改善がみられなかった中1男子のケースにおいても、授業中に「家族が9時に

起きる」という実態を把握できたことで、改善が難しい原因を知ることができ、そ

の原因を把握した上で、「9時に起きてもいいが、その後、朝ご飯をしっかり食べる

こと、夜は夜更かしせず、決まった時刻に早めに寝ること」など、その生徒に応じ

た適切なアドバイスを行うことができる。このような点からも、生活習慣に関する

授業の必要性を改めて感じた。さらに、今回の授業では、保健担当教諭と幾度も話

し合いを行い、授業を計画した。やはり、児童生徒の実態をよく把握し、普段授業

を行っている教諭との事前打ち合わせはとても大切である。授業の進め方、支援の

仕方、分かりやすいワークシートの作り方など、たくさんのことを教えてもらった。

生徒の実態を十分に理解している教諭と専門分野の養護教諭がともに授業を作り上

げることの重要性についても、改めて感じることができた。今後も、他教諭と連携

し、保健指導を行っていきたい。

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英語科教育グループ

代 表 : 岡崎 浩幸

附属小学校 : 横山 恵

附属中学校 : 吉崎 理香、太田昌宏、飯島悠一

学 部 : 荻原 洋、岡崎 浩幸

今年度は、附属中学におけるCAN-DO リストの形式による学習到達目標の設定と実践、達成状況の把握につ

いての成果と課題をこれまでの経過を踏まえて代表の吉崎が報告する。

CAN-DO リスト運用3年目の成果と課題

平成26年度からスタートしたCAN-DO リスト運用だが、平成28年度で3年目を迎え、3月には初めて3

年間を通してCAN-DOリスト運用の下で授業を進めた生徒たちが卒業していった。

この3年間の実践をとおして得た成果と課題についてまとめてみたい。成果については4点考えられる。1つ

めは、平成26年度に卒業生の声が引き金となって作成したCAN-DO リストであるが、4技能それぞれにおい

て卒業時のめざす姿を示したことにより、中学校時点でのゴールがはっきりとし、総合的なコミュニケーション

力をつけていくという授業作りの手立てがたてやすくなった。教員間でも、卒業時の姿を共有しあうことにより、

各学年でつけておくべき力を念頭において指導を行うことができた。

2つめは、教員、生徒ともに見通しをもって取り組めることである。CAN-DO リスト、年間指導計画、学習

到達度セルフチェックシートを連動させることで、教員側にとってはCAN-DOリストの適切性をはかり改善を

行っていくということや、自分の授業実践を振り返ることができるというメリットがある(岡崎他、2017)。そ

して、CAN-DO リストを作成したときは意識していなかったことであるが、生徒にとってもメリットが大きか

った。生徒はCAN-DO リストや年間指導計画を直接目にすることはないが、学習到達度セルフチェックシート

を年度初めに生徒に配布したときの反応が、まず教師にとっても驚きだった。生徒は当然のことながら彼らの視

点からシートの内容を見るので、4月当初に初めてみたときにどよめきが起こり、「先生、これを1年間でやって

いくのですね。え~、難しくないですか?」と直接訴える生徒もいれば、隣の生徒と各項目について話す生徒、

中には自分のノートにいくつかの項目をメモしている生徒までいた。1年生以外の生徒にとっては、セルフチェ

ックシートに示された内容と、中学校入学以来自分が身に付けていると考えている英語力とのギャップを測るチ

ャンスであり、これから求められる力をあらかじめ理解するチャンスでもある。この生徒の姿を見たときに、自

律的な英語学習者を育てるために1つ重要なことは、英語学習の具体的なゴールを生徒一人一人に目に見える形

でもつことができるようにすることだと感じた。そしてそれを教員と共有しているのだという意識をもつことが

大切である。中学校段階で、「将来英語を使って○○するから英語をがんばる」というような目標を明確にもって

いる生徒は少ない。本来なら生徒それぞれの内発的動機づけがあり、自律的な学習者は育っていくのだと思われ

るが、中学校では教員と共有するセルフチェックシートを基盤としてそれぞれの英語学習への見通しをもたせる

というのは効果的である。平成28年度からは、各生徒に年間を通して、いつでも見ることができるように学習

到達度セルフチェックシートの保管用を与えている。

3つめの成果は、4技能それぞれの本校生徒の弱点の把握とそれを補強するための手立てが見えてきたことで

ある。スピーキングに関しては、何かを描写したり説明したりする力、相手の発話を受けて自分の意見や考えを

即興で言う力が弱い。これらに関しては、発話スピードを速くする訓練を行ったり、現在も行っている指導を1

学年の後半から段階をおって継続していったりすることが大切である。ライティングに関しては、意見文での論

拠の述べ方やパラグラフライティングの基礎が定着していないことが挙げられる。これらは2年生の後半から2

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つのものを比較したときの意見文の作り方や、客観的理由とはどんなものかというような地道な指導が必要であ

る。国語科など他教科との連携も必要である。リーディングに関しては、卒業生たちは高校で求められている力

とのギャップに苦しんでいるが、中学校卒業時でのリーディング力は決して低くはない。むしろ必要なのは、中

高が連携したCAN-DOリスト作りである。これについては課題の部分で後述する。リスニングについては、実

は一番早急に改善策が必要な技能であることがわかった。学習到達度セルフチェックシートをみていると、英語

の上位者ほどリスニングが弱いという自己評価をしており、実際平成27年度以降に本校の3学年の生徒を対象

に実施された文部科学省の英語力調査によると、4技能の中で劣っていたのはリスニング力だった。そこで、平

成28年度には1,2年生で授業中に毎時間NHKラジオ講座「基礎英語1・2」を活用し、言語の使用場面を

意識させながら授業実践をしている。リスニングの指導については、CAN-DO リストの見直しや評価の方法に

ついても課題があるが、まずそれらの課題を把握できたということは成果である。

4つめの成果は、継続的指導の重要性を再認識できたことである。学習到達度セルフチェックシートの集計を

見ていると、大部分の生徒は、年度末に向けて各項目に対する自分の力が伸びていると判断している。これは、

各項目について集中的に学習したあとも、授業の中で帯学習の時間を使ったり、教師とのインタラクションの中

で繰り返し話したり、聞いたりしていることが原因と考えられる。また、平成26年度2学年だった生徒の自己

評価が低かった項目を、平成27年度の3学年の年間指導計画の中に再度組みこみ、繰り返し指導を行ったこと

で、生徒たちの自己評価が上がった例もある。これらのことから、教員と生徒が問題意識を共有している課題に

関しては、学年をまたいでも何度でも授業で取り上げ、底上げをしていく必要と有効性を感じることができた。

一方で課題と感じられる点もいくつかある。1つの大きな課題は、評価の問題である。学習到達度セルフチェ

ックシートに、ある程度具体的に記述があるとはいえ、生徒がめざすゴールをもっと明確に示し、生徒と共有す

る必要がある。平成27年度までに、スピーキングに関しては、英語科の教員で共有し、生徒にも公開している

CAN-DO リストに基づいた評価基準表(ルーブリック)がいくつかある。しかし、その他の技能に関しては、

それぞれの担当教員が作成しているものはあるものの、全学年を通した長期スパンの評価基準が存在していない。

前述したように、指導と評価が一体化し、PDCAサイクルが機能するようにするためには、CAN-DOリストや

年間指導計画だけでは不完全で、英語科の教員間にも理解の微妙なずれが生じやすい。

次に、CAN-DO リストそのものの妥当性はどうかという課題がある。本校CAN-DO リストは、本校の生徒

の実態とめざす姿をふまえて作成し、活用しながら、このあとも改善を加えていくつもりである。ただ、正直に

言って、CAN-DO リストを作成するのは簡単なことではない。改善を加えていく過程でも、英語科内で何度か

話し合う必要がある。しかも、例えば、ある年のある学年の実態だけを見て、安易にCAN-DOリストの内容を

増やしたり削除したりしていると、そもそもの意義を失っていく可能性もでてくる。本校英語科では、CAN-DO

リストの有効性を強く感じているが、他の中学校でもCAN-DO リストに基づく授業実践を行うためには、リー

ダーシップをとって作成・実践にあたることのできる教員の存在か、CAN-DO リストの作成がもっと短時間で

できるようになるか、その両方か、が必要なのではないだろうか。また、現在本校では、CAN-DO リスト、年

間指導計画、学習到達度セルフチェックシートを連動させている状態だが、これに前述したように評価の要素が

必要である。平成28年度からは、スピーキングだけではなく他の技能についてもCAN-DO リストに基づく3

年間を見通した評価基準を作成していく過程にある。ただ、評価の要素やCAN-DO リスト自体の妥当性を考え

るときに、何らかの客観的指標が参考として欲しくなってくる。平成27年度の3学年生徒の英語検定の実績は

以下に示すとおりであり、本校のCAN-DOリストと生徒の実態がずれているということはないと考えているが、

4技能それぞれの実態や、それぞれの技能の中でも弱点とする分野を客観的指標をもとに把握する必要はあった。

この点を踏まえ、平成28年度には1、2年生を対象に12月にGTEC for Studentsを導入した。今後、年1

回継続的に受験していくことで生徒にとっては自分自身の英語力の向上や弱点を実感でき、教師にとっても指導

の改善につなげることができる。

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最後に、小中高の連携の問題がある。本

校は附属小学校が隣接しており、小学校外

国語活動のCAN-DOリストも作成されて

いるので、連携体制をとることは比較的容

易である。しかし、中高の連携は全く行わ

れていないというのが現状である。

中学校の CAN-DO リストと高校の

CAN-DO リストに関連性や連続性がなけ

れば、苦しむのは生徒である。前述したが、

例えばリーディングの技能において卒業生

たちが感じるギャップを埋め、高校におい

て英語嫌いを作らないためには中高の英語科の教員が集まって CAN-DO リストを作成することが必要である。

高大接続も重要だが、高校入学時に生徒が乗り越えなければいけない大きな壁を考えると、富山県全体において

も中高の連携を強く意識していくことも急務なのではないだろうか。

4 おわりに

平成28年度は、CAN-DO リストの活用という意味で、本校英語科にとっては区切りの年だった。今後は、

これまでの実践を踏まえて、評価も含めて活用していく上での課題を改善していきたい。継続して実践研究を進

めていき、CAN-DO リストの運用が生徒の英語力の向上にどのように寄与することができるのか実証していき

たい。

参考文献

岡崎浩幸、吉崎理香、太田昌宏、飯島悠一 (2017) 附属中学における学習到達目標の設定・活用の成果と

課題 - CAN-DO リスト設定の教師・生徒への影響 - 富山大学人間発達科学部紀要, 11(3), 77-87

文部科学省 (2011) 外国語能力の向上に関する検討会:国際共通語としての英語力向上のための5つの提言

と具体的施策

文部科学省 (2013) 『各中・高等学校の外国語教育における「CAN-DOリスト」の形での学習到達目標設

定のための手引き』

中教審教育課程企画特別部会 (2015) 「論点整理」

渡邉寛治(2016.4)『指導と評価「英語教育の現状とこれから」』日本教育評価研究会

(文責:吉崎)

2級10人6%

準2級56人36%

3級71人45%

4級2人1% なし19人12%

平成27年度第3学年英検保有率

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1 目的

・ムーブメント教育について理解を深め、教育活動に生かす。

2 方法

・ムーブメント教室やムーブメント研修会に参加することで、ムーブメント教育の理解を

深める。

・ムーブメント教育を取り入れた授業実践や事例検討を行うことで、実態に応じた効果的

なプログラムを蓄積する。

3 研修の経過

実施日 研修会

平成28年

7月29日(金)

研修会『親子ムーブメント教室』

助言:安藤正紀先生(玉川大学教授)

場所:しらとり支援学校 体育館

11月10日(木)

研修会『MEPA 研修会』 講師:近江ひと美(附属特別支援教頭)

場所:附属特別支援学校 視聴覚室

12月10日(土)

研修会『親子ムーブメント教室』

助言:阿部美穂子先生(北海道教育大学教授)

場所:しらとり支援学校 体育館

12月15日(木)

授業研究『遊び』

場所:附属幼稚園

12月16日(金)

授業研究『遊びの指導』

場所:附属特別支援学校 遊戯室

12月19日(月)

授業研究『高等部 情報』

場所:附属特別支援学校 視聴覚室

12月20日(火)

研修会『授業検討会』

場所:附属特別支援学校 視聴覚室

平成29年

2月 2日(木)

授業研究『高等部 自立活動』

場所:附属特別支援学校 体育館

3月 6日(月)

授業研究『高等部 音楽科』

場所:附属特別支援学校 音楽室

3月 6日(月)

研修会『授業検討会』

場所:附属特別支援学校 視聴覚室

ムーブメントグループ 学 部 大川信行 和田充紀

附属特別支援学校 近江ひと美・栗林睦美・野﨑美保・稲垣恭子

越村早貴子(代表)

附 属 幼 稚 園 高島浩美

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親子ムーブメント教室(しらとり支援学校会場) 12月10日(土)

(1) プログラム「魔法のスカーフで出かけよう」(小学生以上グループ)について

プログラムの概要 活動の様子より

1)あつまり

ねらい:活動の見通し

① 今日の活動の流れ

について、説明を

聞く。

2)仲間を見つけよう

ねらい:簡単なやり取り、イメージの表現

① 音楽に合わせて動き、止まったら、相

手を探して自己紹介をする。相手に

「好きな〇〇」の質問をする。質問に

答える。

② 最後に自己紹介した相手とペアにな

り、好きな色のスカーフを決めても

らいに行く。

3)食べ物をゲットするぞ

<小学生グループ>

① ペアごとにスカーフを広げて床に置

いて座る。

② ペアの一人が離れた森の木のところ

へ行き、じゃんけんをする。

③ 好きな色と形のビーンズバッグをも

らい、床を滑らせて友達にパスする。

④ 受け取ったビーンズバッグをスカー

フにのせる。

・見通しをもつだけでなく、これから始ま

る活動に期待をもって話を聞いている様

子が見られた。

・保護者と一緒に、質問や答えを考えなが

ら活動に参加していた。

・答えるのが難しい児童には、保護者や支

援者が絵を描いたり言葉で話したりして

選択肢を示すことで答えることができて

いた。

・最初は、大人とペアになって活動したが、

最後には、子供同士でペアになって活動

した。最初に大人との活動を経験したこ

とにより、子供同士でもスムーズに行う

ことができていた。

・木のところまで行って食べ物をもらう場

面では、じゃんけんをしたり、好きな色

や形を選んで伝えたり、考えて伝える様

子が見られた。

・身体が小さくて遠くまで投げることが難

しい子供でも、床を滑らせることによっ

て離れたところにいる友達までパスする

ことができていた。

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Page 79: 富山大学スクラムプラン ―学校バリアフリーへの挑 …富山大学人間発達科学部・附属学校園 共同研究プロジェクト 平成28 年度報告書

4)森の探検に出発

① スカーフをペアの友達二人で持ち、

食料に見立てたビーンズバッグを落

とさないように、トンネルや川を越え

る。

② 泥棒が来たら、食料に見立てたビーン

ズバッグを身体の上に載せて制止し、

木のふりをして通り過ぎるのを待つ。

5)森の探検に出発

① スカーフの上のビーンズバッグを材

料にして、ごちそうを作る。

② 大人を招待して、ごちそうの説明を

し、味を表情で示す。

6)片付けをしよう

① 大人が投げるビーンズバッグを木の

前でスカーフでキャッチして、木の枝

に載せる。

② お世話になった魔法のスカーフをき

れいに畳み、お礼を言って返す。

③ ペアの友達にお礼を言って別れる。

・泥棒がやってきたという設定を理解し

て、泥棒がやってきたことに気付くとす

ぐにビーンズバッグを身体に載せて固ま

ったかのように動かず、じっとしている

子供たちの姿が印象的だった。

・子供たちがそれぞれの料理、それぞれの

味と表情を考えて表現していた。周りの

大人と話しているときも楽しそうにして

いたが、全体の場で注目される中で発言

するときにも嬉しさを感じている様子が

見られた。

・大人が投げるビーンズバッグをよく見た

り、スカーフがきちんと広がるように 2

人で協力したりして行っていた。

・どの子も保護者や友達と協力してきれい

にスカーフを畳んでいた。

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Page 80: 富山大学スクラムプラン ―学校バリアフリーへの挑 …富山大学人間発達科学部・附属学校園 共同研究プロジェクト 平成28 年度報告書

7)まとめ

①自分が楽しかったことを振り返る。

②友達の楽しかったことを聞く。

・どの子も嬉しそうに、楽しかった活動に

ついて話していた。

(2)プログラムの解説

講師 北海道教育大学教授 阿部 美穂子 先生

今回のプログラムは幼児のプログラムと小学生のプログラムで共通している箇所があ

った。幼児グループではおおかみ、小学生グループでは泥棒が出てくるプログラムだった。

幼児グループでは、変装も場面も設定のないところから急に出てきた大人をおおかみと

して認識することは子供たちにとっては難しい。しかし、小学生グループでは簡単な変装

だけで、急に横から出てきた大人を泥棒として認識してストーリーに沿って活動するこ

とができていた。このような発達段階を考えた上で、大人がどこからどう出てくるかを考

えることも大切な支援の一つである。

また、以前は全体の場で発言することが難しかった子供が今回発言することができて

いた。日々の活動の積み重ねが子供を育てている。今後も、グループごとの活動で子供た

ちを育てていってほしい。

(3)参加を終えて

事前に送ってもらった阿部先生のプログラムには、支援者に対する「応援ポイント」、

何を目的に活動をするかの狙い、環境設定が事細かに書かれていた。阿部先生は、これだ

けの内容を頭の中でシュミレーションした上で臨むから、実際のプログラムが事前のね

らいから外れることなくスムーズに流れるのだと感じた。しかし、プログラムどおりにた

だ流しているのではなくて、子供達の実態を見極め、狙いから外れない程度に活動を微妙

に変えているところも見ることができ、それは必要で大切なことだと思った。周りの支援

者たちも、事前の「応援ポイント」と狙いを知らされているからこそ、的確な支援を行う

ことにつながっていたのだと思う。事前にきちんと考えて整理しておくこと、それを一緒

に活動する支援者たちに伝えておくこと、子供たちの実態に応じて柔軟に活動を変化さ

せることの大切さを学ぶことができた。

また、子供たちの想像を促す活動、片付けも楽しく行うことができるプログラム、最後

に子供たち自身に振り返る機会を設けたまとめの時間など、参考にしたい内容がたくさ

んあった。ぜひ今後の自分の実践に生かしたい。

(越村 早貴子)

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附属幼稚園 教諭 高島 浩美

1 日時 平成28 年12月15 日(木)10:40~11:20

2 対象幼児 年少児 25 名

3 場所 附属幼稚園 遊戯室

4 ねらい・内容

○ 保育者やクラスの友達と一緒に、簡単なルールのゲーム遊びを楽しむ。

〇 ピタッと動きを止めるおもしろさを感じたり、捕まったり、捕まえたりする楽しさ

を味わったりする。

・ 保育者や友達と一緒に、「だるまさんがころんだ」をして遊ぶ。

・ 捕まったり、捕まえたりして遊ぶ。

5 活動内容

12 月 8 日

9 日

・ 保育者が鬼をする。

・ 動くところを見られたら、鬼の家(マット)に捕まることを知る。

・ 捕まらなかったら、ゴールできる(ベンチに座る)ことを知る。

12 日

・ 動くところを見られたら、鬼と手をつなぐことを知る。

・ 捕まっている友達と鬼(保育者)がつないでいる手を「切った」ら、

鬼に捕まっている友達を助けられることを知る。

15 日 ・ 鬼の交代の仕方を知る。

本日の幼児の活動 援助のポイント

○「だるまさんがころんだ」をすることを知る。

〇ルールを思い出す。

・動くところを見られたら、鬼と手をつなぐ。

・捕まっている友達と鬼がつないでいる手を

「切った」ら、鬼に捕まっている友達を助け

られる。

〇「だるまさんがころんだ」をする。

・保育者が鬼をする。

・前回、ルールが変わった点について、

やって見せて思い出せるようにす

る。

・欠席していた子どももいるので、説

明しながら一度やってみる。

<みんなと一緒の時間>

「簡単なルールのゲームを楽しもう ~だるまさんがころんだ~」

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〇新しいルールを知る。

・「切った」で逃げたとき、鬼が「止まれ」と

言ったらその場で止まる。

・鬼が 歩ジャンプで進み、鬼にタッチされた

子どもの中から次の鬼を決める。

〇新しいルールで「だるまさんがころんだ」をす

る。

〇楽しかったことや次回にやってみたいことな

どを話す。

・子ども数人にモデルに前に出てもら

って動きを交えて伝え、どの場面の

ルールなのか分かるようにする。

・鬼になりたくない子どももいると思

われるので、何人かタッチしてその

中でなりたい子どもが次の鬼にな

るようにする。鬼になりたい子が複

数人いたら、じゃんけんで決めるよ

うに話をする。

・ジャンプの歩幅と距離を考えて、何

歩にするか決めるようにする。

・ルールが変わった場面では、確認し

ながらゲームを進めるようにする。

・子どもの言葉に深く共感し、クラス

みんなで「楽しかった」という満足

感を十分味わえるようにする。

◇評価の観点

○ 保育者やクラスの友達と一緒に、ゲーム遊びを楽しんでいたか。

〇 ピタッと動きを止めるおもしろさを感じたり、捕まったり、捕まえたりする楽しさ

を味わったりしていたか。

6 成果

助言をもとに、次のような改善案をもった。次の実践に生かしたい。

・ 「だるまさんがころんだ」の言い方のスピードを大袈裟に変えることで、さらにゲ

ームを楽しむことができる。

・ 3才では、発達段階的にどこまでのルールが有効か、楽しむために必要なルールは

どこまでのものかを見極めていく。

・ 3才はきちんとルールを守ることより、ゆるいルールの中でみんなで楽しむことが

大切。

・ 音が鳴ったら止まる等、どんな動きを育てたいかという目的によって、遊び方を変

えることができる。

・ 止まってじっとする動きについて、10 までは動かないのように区切ってもよい。

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附属特別支援学校 高等部 教諭 栗林 睦美

1 対象生徒

(1) 高等部 1 年4名、2 年5名、3 年5名 計 14名

(2)実態

1)体の使い方にぎこちなさがある。

2)友達と一緒に動きを合わせて活動する経験が乏しく、難しい。

2 場所

附属特別支援学校 体育館

3 目標

(1)個別の指導計画の自立活動の目標

・体の動きを調整したり、友達と動きのタイミングを合わせたりしてボールを使った

運動ができる。

・キャスターボードゲームでは、いろいろな姿勢や体の使い方を工夫してキャスター

ボードに乗り、友達とゲームをすることができる。

(2)単元の目標

1)遊具を使ったいろいろな運動を通して、自分の体を意識し調整しながら動かすこと

ができる。

2)友達と一緒に、パラシュートを音楽に合わせて動かしたり、キャスターボードやボ

ールを使ったゲームをしたりする中で、動きを工夫する、タイミングを合わせる、指

示を聞いて動くなど周りとコミュニケーションを取りながら楽しく活動することがで

きる。

3)遊具の扱いに気を付け、友達と協力して活動の準備や片付けができる。

4 活動内容

(1) プレイバルーン(銀河鉄道999)…パラシュートを使っていろいろな動きを友達

と一緒にしよう。

・強弱を意識して

・いろんな動きや姿勢を組み合わせた技を友達と合わせて

(2)キャスターボードゲーム…いろいろな姿勢でキャスターボードに乗ってゲームをし

よう。

・体の使い方を工夫して

・友達と協力して

(2) ボールリレーゲーム…友達とボールを蹴ったり、保持したりしてリレーゲームをし

よう。

・力の入れ方を工夫して

・友達とタイミングを合わせて

<高等部 自立活動>

「いろいろな遊具を使って体を動かそう!」

~工夫して動こう、友達と合わせて動こう~

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Page 84: 富山大学スクラムプラン ―学校バリアフリーへの挑 …富山大学人間発達科学部・附属学校園 共同研究プロジェクト 平成28 年度報告書

・パラシュートがもつ特

性の面白さ、そのパラシ

ュートを使って友達や教

師と活動する楽しさを味

わう。

・姿勢を変えてゴムバンド

をくぐったり、並んだコ

ーンを蛇行しながら進ん

だりする。

・腹ばい姿勢で両手でこい

で前進する。

・乗り方を工夫して、ビー

ンズバッグをたくさん集

める。

・集めたビーンズバッグを

相手のチームの友達とタ

イミングを合わせて一つ

ずつ投げながら数える。

学習活動 ねらい

プレイバルーン

(銀河鉄道999)

○パラシュートを順手で持って立つ。

○教師の指示を聞いてその動きをする。

・振る(大きく、細かく、片手で)

・上下に動かす

・引っ張る、縮まる

・高く上げてロケットを作り、戻る

・シーソーのように左右に傾ける

・ドーム(きのこ、帽子)作り

・寝て、パラシュートを蹴る

・歩く(右回り、左回り)

・走る(右回り、左回り)

・パラシュート飛ばし

○音楽に合わせてパラシュートを動かす。

(教師の支援)

・動きがイメージしやすい言葉を使う。

・パラシュートを順手でし

っかり持つことができ

る。

・教師の動きへの指示や強

弱などを表した手の動

きを見て、調整しながら

手や体を動かす。

・パラシュートを媒介に

いろいろな姿勢や体の

動き、友達と動きを合わ

せることを経験する。

キャスターボードゲーム

<障害物レース>

・2グループに分かれる。

・行きはキャスターボードに正座し、ゴム

バンドをくぐり、コーンを蛇行しながら

進み、帰りは腹這いで戻り、友達と交代

する(全員が終了するまで)。

<宝探しゲーム>

・2グループに分かれる。

・それぞれが好きな乗り方でキャスターボ

ードに乗って散らばった宝物(ビーンズ

バッグ)を取りに行って自分のチームの

籠に入れる。(1分30秒)

・ビーンズバッグの数をチームのメンバ

ーが交代で投げながら数える。

(教師の支援)

・体を協調して使っていない生徒には、

一部だけ使うように促す。(キャスター

ボードに正座して、手だけでこぐなど)

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Page 85: 富山大学スクラムプラン ―学校バリアフリーへの挑 …富山大学人間発達科学部・附属学校園 共同研究プロジェクト 平成28 年度報告書

・ボールの蹴り方(強い、

弱い、方向)を工夫し

て段ボールを移動させ

る。

・それたボールを友達と

協力して段ボールに当

てる。

・チームのメンバーは、

ペアの友達が蹴りやす

いように協力し、それ

たボールをペアの友達

に蹴って返す。

<成果>

プレイバルーンでは、「バルーン技に挑戦しよう」とイラスト図を示し、少しずつ技を増

やしていった。教師の「動きの言葉掛け」をよく聞き、パラシュートを持ったまま、腕を

上に上げ、伸ばし続けたり、ロケット、帽子などの技を友達とタイミングを合わせて行っ

たりすることができた。腹筋を使ってパラシュートを蹴り続ける動きも笛が鳴るまで続け

ることができるようになった。パラシュートが苦手だったTさんも友達と一緒に楽しく最

後まで参加できるようになった。キャスターボードゲームでは、宝探しゲームを好んで生

徒は行った。腹這いや座位姿勢でキャスターボードに乗り、障害物や友達にぶつからない

よう、体の向きを変えたり、スピードを調整したりして移動し、いろいろな場所にあるビ

ーンズバッグを持って自分のチームの籠に入れることができた。数を数えるときも、相手

チームの友達とタイミングを合わせ、声を出しビーンズバッグを投げ、隣の友達に籠を渡

すことができた。ビーンズバッグをただ投げるだけでなく、中央に的を作ることで、狙っ

て投げるという課題性が上がり、生徒も楽しんで挑戦するようになった。ボールリレーゲ

ームでは、二人組になり、ボールを蹴り、段ボールに当てて段ボールを少しずつ動かして

いくという活動の中で、ボールを蹴る力加減、段ボールに当てる方向、段ボールから跳ね

返ってそれたボールを友達と協力して戻すことを、言葉を掛け合って行う姿が見られるよ

うになった。大きくそれたボールをチームの友達がペアの友達に言葉を掛けて、戻したり、

励ましたりすることが増えた。繰り返しの中で、段ボールを早く移動させたいために強く

蹴るより、ボールを当てる方向やそっと蹴る力加減に気付き、工夫する様子が見られた。

今回、それぞれの活動の中で、生徒が楽しみながら動きを工夫したり、友達とタイミン

グを合わせて動いたりするという成果が得られた。活動として、キャスターボードゲーム

やボールリレーゲームなどゲームの活動を二つ入れたが、ゲームには勝敗があり、後半、

勝敗にこだわり、負けると行動を荒げるKさんもいた。最後の授業で「かっこいい負け方」

ということを生徒に示し、負けたときに自分はどんな行動をとるのか考えさせ、自分で考

えた行動をとることを仕組んだことで、Kさんも怒らず自分が考えた「かっこいい負け方」

で相手チームの勝利を受け入れることができた。今後はゲームの楽しさを生かした活動だ

けでなく、動きそのものを工夫し、楽しめる活動も増やしていきたい。

ボールリレーゲーム

<段ボール運搬レース>

・2グループに分かれる。

・ペアの友達とボールを蹴って段ボールに

当て動かし、段ボールを次のペアまで運

搬する。最後まで行ったら段ボールをペ

アで一緒に持って次のペアに渡してス

タートまで戻す。(ボールの数だけ繰り

返し行う)

※ボールがころがりそれた場合は他の友

達ペアが協力して戻す。

(教師の支援)

・蹴る力、コントロール力をボールの素材

を変えることで工夫できるようにする。

81

Page 86: 富山大学スクラムプラン ―学校バリアフリーへの挑 …富山大学人間発達科学部・附属学校園 共同研究プロジェクト 平成28 年度報告書

附属特別支援学校 高等部教諭 野﨑 美保

1 対象生徒

Aグループ 高等部 1年4名、2年4名、3年4名 計12名

Bグループ 高等部 1年4名、2年4名、3年4名 計12名

2 目標

・「らいおんハート(SMAP)」に合わせて、ダンスやボディパーカッションなどの動きを考

え、曲の構成に合わせて、歌やダンスなど決められたパフォーマンスを行うことができる。

・卒業を祝う会において、高等部全員でパフォーマンスをすることができる。

3 全体計画

第1次…曲の構成を知ろう。

第2次…動きを考えよう。

第3次…歌おう、楽しもう。

4 授業期間

平成29年2月~3月 計4回

Aグループ…月曜日、Bグループ…水曜日 2限(9:25~10:15)

5 授業の展開 3月6日(月)

1 あいさつ

2 今日の予定

3 発声練習

4 歌おう、楽しもう

①曲の構成・担当確認

・場面毎に区切られた歌詞

カードを見て、Aグルー

プが担当する部分、ソロ

で歌う場面、全員で歌う

場面、パフォーマンスを

する場面等と担当者を確

認する。

<音楽>「歌おう、楽しもう」

~動きを考えて、みんなでパフォーマンス~

82

Page 87: 富山大学スクラムプラン ―学校バリアフリーへの挑 …富山大学人間発達科学部・附属学校園 共同研究プロジェクト 平成28 年度報告書

②部分練習(歌) ・ソロで歌う部分、全員で歌う部分を区切

りながら音楽に合わせて歌う。

③パフォーマンスを考えよう ・ダンスの部分の音楽を何度か聞き、自分

で体を動かしながら動き方を考える。

④発表しよう ・考えた動きをみんなで発表し合う。

⑤Aグループのパフォーマンスを決めよう ・グループ全員で行うダンスについて考え、

ダンスリーダーを決める。

⑥曲に合わせて歌おう、踊ろう ・歌う部分、踊る部分を音楽に合わせて通

して行う。

5 あいさつ

6 まとめ

・1月から候補曲を募ったり、活動の予告をしたりしてきたことで、普段の授業では自分から歌う

様子の見られない生徒が自分からソロパートに立候補して楽しそうに歌ったり、曲に合わせた動

きを考えることの苦手な生徒が、家庭でダンスを考えてきて友達の前で発表したりするなど、積

極的に活動に取り組む様子が見られた。

・今後は、参考となる動きのパターンを示すなどの工夫を取り入れ、自分で動きを考えたり身体表

現をしたりすることが苦手な生徒も、動きの幅を広げたり、組み合わせを考えることでオリジナ

ルのパフォーマンスを構成したりすることができるように支援方法を工夫していきたい。

ソロパートを順番に歌う生徒

グループ全員で歌う

グループ全員でダンス

83

Page 88: 富山大学スクラムプラン ―学校バリアフリーへの挑 …富山大学人間発達科学部・附属学校園 共同研究プロジェクト 平成28 年度報告書

ICTの教育利用グループ

代 表 : 長谷川春生

附属小学校 : 阿久津理,鼎裕憲,福田慎一郎,岩山直樹

附属特別支援学校 : 黒地忍,瀧脇隆志

学部・教職大学院 : 水内豊和,成瀬喜則

1.活動の目的

教育における ICT 活用や情報活用能力育成の在り方を考え,授業実践を通してそれら

を明らかにする。

2.本年度の活動内容

(1)研究会への参加

以下の研究会に参加し,小中学校,特別支援学校等における ICT 活用や情報活用能

力育成の方法等について研修を深めた。

① 富山大学人間発達科学部附属人間発達科学研究実践総合センター

学習環境研究部門研究会

「小中学校におけるプログラミング教育はどうあればよいか」

・ 日時

平成28年11月12日(土)14:00~17:20

・ 場所

富山大学人間発達科学部2棟1階211教室

・ 内容

プログラミング教育に関する講演と,参加者がタブレット端末を使用したプロ

グラミング体験をするワークショップが行われた。

② 日本デジタル教科書学会研究会

「小学校におけるプログラミング教育を考える」

(後援:富山大学人間発達科学部附属人間発達科学研究実践総合センター)

・ 日時

平成 29 年 3 月 19 日(日)14:00~17:00

・ 場所

富山大学人間発達科学部 1 棟 1 階 113 教室

・ 内容

4 名の講師によるプログラミング教育に関する講演,さらに,講師と参加者に

よる,プログラミング教育の在り方や今後の取組の必要性などについての意見交

換が行われた。

(2)授業実践等を通した ICT 活用や情報活用能力育成についての検討

附属小学校の岩山直樹教諭による取組において,タブレット端末を授業で活用する

ことの成果と課題について検討を行った。また,附属特別支援学校においてもタブレッ

ト端末の活用方法について検討を行った。

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教材提示における効果的なタブレット端末の活用

-3学年 社会科「残したいもの、伝えたいもの」の実践を通して-

富山大学人間発達科学部附属小学校 岩山直樹

1 はじめに

2020年の一人一台端末に向け、全県で ICT 機器における様々な整備が行われてきて

いる。本県でもその整備が進められてきているが、一部の学校のみに留まっている。ICT

機器の中でも、タブレット型端末の活用が注目されているが、環境整備や機材数、授業へ

の活用方法等が課題となり、整備が進まっていないのが現状である。

本校や他校の教師にタブレット型端末が導入されることについてインタビューをしたと

ころ、「数台のタブレット型端末は導入したが、教師用となっている」「自分(教師)が活

用できないのに、どうやってタブレット型端末を授業に活用していけば良いのか分からな

い」と言った回答を得た。このアンケートから、「タブレット端末の活用主体者は教師であ

ること」「教師自身が活用方法に悩みを抱えていること」が分かる。児童一人一台端末以前

に、教師が授業で端末を効果的に活用することができなければ、ICT 機器全般における有効

な指導には至らないだろう。

タブレット端末では、様々な資料を画像として容易に取り込むことができ、自由に教材

として提示することができる。その際、テレビやプロジェクター等の大画面に画像を映し

出すことで、イメージを全体で共有し、子供の興味関心を引き出したり、問題意識を高め

たりすることができる。これは、教師がタブレット端末を授業に容易に活用できる方法の

一つであるが、より子供たちの興味関心や問題意識を高めるためには提示方法の工夫が効

果的となる。

そこで、本実践では教師用タブレット端末一台を活用した授業を行い、教材提示におけ

る効果的なタブレット端末の活用を明らかにすることとした。この実践を積み重ねていく

ことで、活用に悩む多くの教師に有効な活用方法を提案していく。

2 実践の計画

(1) 単元名

第3学年 社会科「残したいもの、伝えたいもの」

(2) 単元の目標

・身近な地域に古くから残っている建造物や行事に関心をもち、それらを意欲的に調べ

ることができる。 【社会的事象への関心・意欲・態度】

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・身近な地域に古くから残っている建造物や行事にこめられた地域の人々の願いと保

存・継承するための工夫や努力とを関連付けて考え、適切に表現することができる。

【社会的な思考・判断・表現】

・身近な地域に古くから残っている建造物や行事について、各種資料を活用したり、調

査したりして、必要な情報を集めることができる。 【観察・資料活用の技能】

・身近な地域に古くから残っている建造物や行事を保存し継承するための人々の願いや

努力、苦心を理解することができる。 【社会的事象についての知識・理解】

(3) 単元計画(概要)

時 主 な 学 習 活 動

第1次 身近な地域に古くから残っている建物や行事について調べよう

1 富山県にはどのような昔から伝わる行事や祭りがあるのだろう。

2

3 調べて見たい富山県内の昔から伝わる行事や祭りについて調べよう。

4 なぜ、昔にできた行事や祭りが今も残り続けているのだろう。

第2次 おくわ様について知ろう

5 なぜ、細入村の本芳さんは、くわをもてなしているのだろう。(発展)(本時)

第3次 学んだことを家族や地域の方々に伝えよう

6 わたしたちはどのようなことを家族に伝えればよいだろう。

(4) 単元におけるタブレット端末の活用

授業で活用する資料をタブレット端末に取り込み、その資料をテレビで拡大提示する。

その際、ねらいに沿った活用を行う。また、児童の興味関心、問題意識が高まるよう、提

示方法やタイミング(加工、見せ方)を工夫する。さらに、学習の足跡が残るよう、タブ

レット端末でテレビに提示した資料は、紙媒体で黒板に掲示したり児童たちに配布したり

する。

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3 本時の学習(本時5/6時間)

(1)ねらい

○ 本芳さんのお鍬様を続けていこうとする思いを考えることを通して、地域の伝統

行事を守っていくために自分たちがすべき役割を考えることができる。

【社会的な思考・判断・表現】

学 習 活 動 指導上の留意点 評価

1 資料を基に、学習問題をつくる。

・座布団の上で鍬がもてなされている。

2 学習問題について予想する。

・畑で作物がたくさんとれるから、あり

がとうの気持ちを伝えるためかな。

3 資料を基に話し合い、予想を確かめる。

・お鍬様は、細入地区の農家で 400 年前

から続く伝統行事なんだね。

・鍬を神様としていて、元気で1年間働

くことができたことに対する思いを伝

えるものなんだね。

・細入村の人口が減っていっている。お

鍬様を行う家は、60 年前は 100 件だ

ったけど、今はどれくらいなのかな。

行事は大切なものだから、それほど人

数は減っていないはずだ。

・受け継いでいる家は本芳さんの1件し

かないの⁉奥さんも入院されて料理も

準備できない。お鍬様はどうなるのか

な。

4 本芳さんの立場から、お鍬様を続けて

いくことへの思いを考えワークシートに

書く。

・自分たちがお鍬様を受け継ぐ最後の家

だから、ここでやめるわけにはいかな

い。

・周りの人に助けてもらおう。

・今年は息子さんが、料理を準備された

んだね。息子さんにはお鍬様を受け継ご

うとする思いが引き継がれているね。

5 もし自分たちが細入住民だったら、ど

んなことができるか考える。

・家族に話をして、自分の家で続けるこ

とができないか相談する。

・実際に本芳さんの家で参加して、体験

したことを周りに広める。

○問いが生まれるよう、ICT

機器を活用して、資料を提

示する。

○予想を焦点化してから、資

料を配布する。

○行事を受け継ぐ立場から

行事を捉えることができる

ようにするため、立場を明

確にして話すことができる

よう、問い返しをする。ま

た、ICT 機器を活用して、

資料「人口の変化」や「行

事を受け継ぐ人数」に着目

させ、新たな問いが生まれ

るようにする。

○子供が、行事を受け継ぐ立

場に立って行事を捉え始め

たところで、本芳さんの近

況が分かる新聞記事を提示

する。

○本芳さんの立場から、伝統

行事に対する思いや願いを

書くことができるよう、ワ

ークシートを配布する。

○伝統行事を受け継ぐ大切

さが受け継がれていること

に気付くことができるよ

う、今年(2017)の資料

を提示する。

○社会参画の意識を高める

ことができるように、価値

判断する場を設ける。

・前時まで

の学習や

本時の資

料を根拠

として、

自分の考

えを表現

すること

が で き

る。(ノー

ト・発言)

【 思 ・

判・表】

・話合いで

確かめた

ことや資

料から読

み取った

事 実 か

ら、学習

問題につ

いての考

えを表す

ことがで

きる。(ノ

ート・発

言)【思・

判・表】

なぜ、本芳さんは鍬をもてなしているのだろう。

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Page 92: 富山大学スクラムプラン ―学校バリアフリーへの挑 …富山大学人間発達科学部・附属学校園 共同研究プロジェクト 平成28 年度報告書

T :細入村で行われている「ある行事」の新聞記事をもってきました。 写真を見て分か

ることは何ですか。

C1:御膳に料理がある。

T :ここだね。(拡大提示する)*

C2:正座している。*

C3:卒業式みたいに手をグーにしている。*

T :みんなはどのような時にそのような姿勢をするかな。

C :礼儀正しい時にするよ。

C4:あっ、座布団もあるよ。*

C5:誰かお客さんが来ているんじゃないかな。

T :どんなお客さんが来ていると思いますか。

C :偉い人。例えば、神様、大統領、村長、天皇。早くみたい。

T :では、見てみましょう。(「?」を下に下げていく)

C :あれっ?いないよ!

T :みんなは偉い人と予想していたね。(「?」を一度止める)

C :うん、けど大人ではないな。もしかして赤ちゃん?早く見たい!

T :では、見てみましょう。

C :え!くわ!?何で?

T :みなさんが、今日知りたいことは何ですか。

C6:なぜ、くわが家の中でもてなされているのか。

4 授業の実際

(1) 社会的事象に興味関心をもち、問題意識を高める場面(見せ方、タイミング)

導入では、地図上で細入村の位置を確認した後、以下のようにして新聞記事を提示した。

まず、写真から分かることを確認し、「?」で隠された対象が何か予想する場を設けた。

子供たちは、人物(以下本芳さん)や御供物に着目し始め、「?」が本芳さんにとって重要

なお客さん(人物)ではないかと予想した。子供たちの「『?』が知りたい」という思いが

高まったところで、上に重ねた「?」のシートを上から下へとゆっくり下げていった。す

ると、お客さんであればすぐにその姿が見えるのだが、なかなか見えない。予想した人物

がいないことに対して、子供たちはつぶやき始めた。教師はその様子を確認し、「?」を下

げるのを止め、新たに予想する場を設けた。子供が新たに予想したところで、教師が「?」

を全て取ると、対象が「くわ」である

ことに子供たちは問題意識を高め始

めた。そして、「なぜ、くわがもてな

されているのだろう」という学習問題

をつくりあげた。

【資料提示の場面】

【提示資料:おくわ様の様子】

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Page 93: 富山大学スクラムプラン ―学校バリアフリーへの挑 …富山大学人間発達科学部・附属学校園 共同研究プロジェクト 平成28 年度報告書

C1:昔からの伝統だから、意外と減ってないんじゃないかな。

C2:少なくとも、本芳さんはいるから、1人以上は絶対いるね。

T :見ていきますよ。(「?」を下げていく)

C :えっ!えっ!いないよ!(「?」を全てとる)

えっ、1軒!?本芳さんだけ!

T :みんなどうして「えっ」と言ったの?

C3:60 年前は 100軒だったのに、今は1軒しかない。

C4:本芳さんだけが頑張っている。

C5:このままだとおくわ様が無くなってしまうよ。本芳さんが頑張らないと。

(2) 社会的事象に関わりの深い立場に対して切実感をもつ場面

(見せ方、タイミング、加工)

学習問題に対して予想を立てた子供たちは、教師が配布した資料を基に、細入村で行わ

れている「おくわ様」の由来を読み取り、その意味を理解した。

また、資料には「60 年前行事を行っていた軒数」と「細入村の人口の変化」が書かれて

いる。子供たちがその事実から現在行事を行っている軒数が気になり始めたところで、教

師は「おくわ様を行う家」のグラフを提示した。既習事項で昔の人々の願いを受け継ぐ大

切さを理解していることもあり、子供たちは、現在の件数を 30 軒と予想した。

【配付資料:おくわ様について】

【提示資料:おくわ様を行う家のグラフ】

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Page 94: 富山大学スクラムプラン ―学校バリアフリーへの挑 …富山大学人間発達科学部・附属学校園 共同研究プロジェクト 平成28 年度報告書

①の場面と同様に「?」を上から下へと下げて行くと、子供たちは、本芳さんの1軒だ

けしかおくわ様を行っていないことに驚きを示した。そして、本芳さんの立場から、おく

わ様を捉え始めた。子供たちが、本芳さんの立場に立って考え始めたところで、教師は今

年の新聞記事(加工した一部)を提示した。そ

こには、奥さんが入院されたため、今年の行事

を断念したという記事が書かれている。その記

事を見た子供たちは、1軒しか行っていないお

くわ様を続けることに対して、本芳さんはどう

考えていたのか気になり始めた。そこで、教師

は、子供が行事を受け継ぐ本芳さんの気持ちに

なっておくわ様を行う気持ちを考える場を設け

た。

(3) 社会的事象に関わりの深い立場に立って考える場面(見せ方、タイミング、加工)

子供たちは、「先祖から続く大事な行事だから

続けたい。けど、料理が準備できないからどう

しよう。諦めるしかないのか」と、本芳さんが

悩んでいると発言した。しかし、「このままでは

無くなってしまう。これからも続けなければ」

「本芳さんは絶対に続けたいと言うはずだ」と

言う考えが続くことで、子供たちは、今年も行

事が続いたはずだと考え始めた。子供たちが、

今年の行事が行われたのかどうか気になり始めたところで、教師は、写真の半分を提示し

た。すると、本芳さんがくわをもてなしているのだ。さらに、くわの前には料理が並んで

いる。その写真を見た子供たちは、おくわ様

が今年も行われたことに喜びの声をあげた。

その中で「誰が料理を用意したのか」と、疑

問をつぶやく声もあった。そのつぶやきを教

師が全体に広め、予想する場を設けた。子供

たちが、「近所の人が作ってくれたのではな

か」「家族が作ってくれたのではないか」と、

伝統を受け継ぐ他の人々へ視点が移った所

で、残りの新聞記事を提示し、配布した。子

【配付資料:北日本新聞

平成29年1月12日付】

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Page 95: 富山大学スクラムプラン ―学校バリアフリーへの挑 …富山大学人間発達科学部・附属学校園 共同研究プロジェクト 平成28 年度報告書

供たちはその中から、「本芳さんの息子さんが料理を用意したこと」「本芳さん自身も行事

をやめることは先祖に申し訳なく、これからも続けたいと願っていること」を読み取った。

その際、教師は子供がどこを読み取っているのか画面上で新聞記事を拡大することで、共

通理解を図れるようにした。こうして子供たちは、息子さんに行事を守っていくことの願

いが受け継がれていることを理解した。

5 まとめ

○ ねらいに沿って、意図的に資料を隠したり見せたりすることで、子供は興味関心や

問題意識を高める。また、子供の様子を見取りながら提示することが、子供の主体的

な学びを生むために効果的である。

○ 画面に資料を映し出すだけではなく、紙媒体の資料を黒板に掲示したり子供に配付

したりすることが、子供が資料を活用していく上で効果的である。

△ 機器のトラブルが発生したり教師が教材提示に着目し過ぎて、子供を見取ることが

できなくなったりする場面が想定される。タブレット端末の操作に慣れる研修を広め

ていく必要がある。

6 おわりに

本実践は、教材提示における効果的なタブレット端末の活用を明らかにすることとした

ものであった。端末の活用のみに囚われることなく、子供が主体的に学ぶことができる環

境をつくる上での一つの道具として、これからの教師が自信をもって授業にICT機器を

活用できる提案や研修を行っていきたい。

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Page 96: 富山大学スクラムプラン ―学校バリアフリーへの挑 …富山大学人間発達科学部・附属学校園 共同研究プロジェクト 平成28 年度報告書

附属特別支援学校におけるタブレット端末を活用した授業実践例

附属特別支援学校 黒地忍 瀧脇隆志

<活動が記録しやすいデジタルチャレンジ日記>

【対象】中学部2年 男子 1名

【目的】書字が苦手な生徒の抵抗感を減らし、自分

の活動を継続してチャレンジ日記に記録で

きるようにする。

【成果】生徒が操作に自信をもっている iPad を使

用し、Excel でチャレンジ日記の枠を準備

した。その結果、それまでできなかった家

で行ったお手伝いの配膳をチャレンジ日記

に記録することが確実にできるようになっ

た。

<ランニングの記録を振り返るためのグラフ化>

【対象】中学部2年生 男子 4名

【目的】ランニングの記録が、目標を達成できたかどうかを判断できるようにし、次回へ

の意欲につながるようにする。

【成果】Excel を使ってランニングの数値を入力するだけで、グラフができ上がるようにし

た。目標記録や目標達成エリアをグラフ中に示した。その結果、全員が目標記録

を達成できたかどうかを判断し、目標を達成するためには次回どうしたらよいか

を考え、教師に伝えることができた。

<宝探しの様子を生中継>

【対象】中学部 国語 A グループ 4名

【目的】友達が指示文を読んで宝を探しているところに分かりやすく伝えることができる

ようにする。

【成果】指示文を全員で確認し、代表者が宝探しに向かう。Facetime を使うことで、その

様子を教室で見られるようにした。その結果、残った三人が宝を探している生徒

ランニング記録表のグラフ

iPadを操作する生徒

(かかった時間)

(曜日)

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に「ストップ」「もっと前」「○○(部屋の名前)」などのアドバイスをすることが

できた。

<アプリを使って漢字練習>

【対象】中学部 国語 A グループ 4名

【目的】書き順を意識しながら、漢字を練習する。

【成果】授業の名前の漢字から自分で書けるようになりた

いものを選び、その漢字を iPad の漢字アプリを

使用して、一人で書き順を確かめながら練習しい

くつかの漢字を覚えることができた。

<家で形を探してメールで報告>

【対象】中学部 数学Dグループ 6名

【目的】三角形や四角形などの平面や、三角錐や四角柱な

どの立体を家で探して写真を撮り、メールで教師

に報告する。その画像を見せながら発表できるよ

うにする。

【成果】iPad を自分で操作しながら、探してきた画像を全

員に見せて発表することができた。

<当日の日課を写真で連絡>

【対象】中学部 2年生 男子 1名

【目的】言葉が不明瞭で書字も苦手な生徒が、自分から希望した

係をできるようにする。

【成果】日課黒板を iPad で写真に撮って印刷して掲示すること

で、当日の持ち物や時間割の変更を友達に伝えることが

できた。

<かっこよくラジオ体操をしよう>

【対象】中学部 1年生 男子 1名

【目的】ラジオ体操の際に、しっかり体を反らしたり、腕を伸ばしたりできない生徒が、

自分のラジオ体操の様子の動画を見て、どのような動きをしたらよいかに気付き

ながら、ラジオ体操ができるようにする。

【成果】ラジオ体操の様子を動画で撮影し、アプリ「Coach my video」を使って、ラジ

オ体操に取り組んでいる友達と自分の違いに気付き、しっかり体を反らしたり、

腕を伸ばしたりしてラジオ体操をすることができた。

漢字練習の様子

発表の様子

日課黒板を写真に撮る生徒

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「特別支援教育コーディネーターの連携」グループ

高等学校における特別支援教育体制および

入学から進路までをふまえた連携に関する研究

―特別支援教育コーディネーターを対象とした質問紙調査を通して―

代 表 : 和田充紀

学 部 : 宮 一志

附属特別支援学校 : 廣島幸子、堀ひろみ、栗林睦美、幅裕子、遠藤安由子

1.活動の方針と内容

「特殊教育」から「特別支援教育」への転換がなされてからすでに 10 年以上が経過し

ている。「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する全国実態

調査」(文部科学省,2009)における全国の中学校 3 年生に対する調査の結果では、発

達障害等困難のある生徒の約 75.7%が高等学校に進学する実態が明らかにされた。また、

高等学校進学者全体に対する発達障害等困難のある生徒の割合は約 2.2%という結果が示

された。この現状を受けて、教育現場における基礎的な体制は整備がすすめられてきてい

る。しかしながら、高等学校における特別支援教育の充実に関しては多くの課題が指摘さ

れている。

そこで、本県内の高等学校における、特別支援教育の現状と課題について把握し、高等

学校における発達障害あるいは発達の気になる生徒に対する必要な支援と学びの環境、連

携のあり方について検討する必要があると考えた。

具体的な活動内容は次のとおりである。

(1)県内の高等学校における、特別支援教育の現状と課題および、関係機関との連携状況、

「通級による指導」に関する教員の意識、について調査を行う

(2)調査結果についてまとめ、学部紀要にて報告する

2. 活動の成果

(1)について

「高等学校における特別支援教育の必要性と連携に関するアンケート」を作成し、県内

公立および私立高等学校の特別支援教育コーディネーターまたは、特別支援教育に関する

コーディネーター的な役割を担う教員を対象として調査を依頼・実施した。

◯調査時期:2016年9月~10月

◯調査内容:資料 1 参照

(2)について

調査結果についてまとめ、学部紀要(第 11 巻 12 号)にて報告した。

94

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資料 1:アンケート

高等学校における特別支援教育の必要性と連携に関するアンケート

本アンケートは、特別支援を要する生徒さんとそのご家族が安心して学校生活を送ることができるように、

またそのために支援者が適切な支援をすることができるようにするための基礎資料を得るために実施するも

のです。

支援者である学校の先生方が、特別支援教育に対してどの程度の必要性を感じているのか、どのような支

援体制や連携が行なわれる必要があるのかについて検討することを目的としています。

ご多用の折大変恐縮ですが、何卒よろしくお願いします。

1.回答している方についておたずねします。

Q1.性別について

A:男

B:女

Q2.年齢について

A:20代

B:30代

C:40代

D:50代

E:60代

Q3.職種について

A:校長・管理職

B:特別支援教育コーディネーター

C:教務主任

D:生徒指導

E:学年主任

F:養護教諭

G:その他( )

以下、当てはまる文字や数字に◯をつけてください。

記述欄が数ヶ所あります。該当の方のみ、ご記入をお願いします。

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Page 100: 富山大学スクラムプラン ―学校バリアフリーへの挑 …富山大学人間発達科学部・附属学校園 共同研究プロジェクト 平成28 年度報告書

2.特別支援教育の必要性や支援体制などについておたずねします。

それぞれの項目について該当する番号を選んでください。

3.その他

日頃、感じておられることがあれば、ご自由にご記入ください。

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富山大学人間発達科学部・附属学校園 共同研究プロジェクト 平成28 年度報告書 富山大学スクラムプラン ―学校バリアフリーへの挑戦― 2016 発行日 平成29年9月15日 発行者 富山大学人間発達科学部 〒930-8555 富山市五福3190 TEL 076-445-6257(総務) FAX 076-445-6264 富山大学人間発達科学部附属学校園 〒930-8556 富山市五艘1300 TEL 076-445-2800(事務室) FAX 076-445-2802