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(2007 年度日本私立学校振興・共済事業団助成) ソフィアシンポジウム報告書 (第 27 回国際シンポジウム) 「グローバル化と先進国における貧困と社会的排除: 野宿者、フリーター、移住労働者の現場から」 Globalization, Poverty and Social Exclusion in Developed Countries: First-hand Perspective on the Homeless, “Freeters” and Migrant Workers 上智大学社会正義研究所 Institute for the Study of Social Justice, Sophia University

「グローバル化と先進国における貧困と社会的排 …pweb.sophia.ac.jp/shimokawa/zemi/27sympo.pdf(2007年度日本私立学校振興・共済事業団助成) ソフィアシンポジウム報告書

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(2007 年度日本私立学校振興・共済事業団助成)

ソフィアシンポジウム報告書

(第 27 回国際シンポジウム)

「グローバル化と先進国における貧困と社会的排除:

野宿者、フリーター、移住労働者の現場から」

Globalization, Poverty and Social Exclusion in

Developed Countries: First-hand Perspective on the

Homeless, “Freeters” and Migrant Workers

上智大学社会正義研究所

Institute for the Study of Social Justice, Sophia University

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目次

開会の辞……………………………………………………………………………下川 雅嗣 1

オリエンテーション………………………………………………………………下川 雅嗣 1

歓迎のあいさつ……………………………………………………………………石澤 良昭 4

基調講演 「グローバル化と先進国における貧困と社会的排除」

フランスの現状とそれに対する実践………………………………………アニー・プール 6

韓国の現状とそれに対する実践………………………………………………申 明浩 12

日本の現状とそれに対する実践………………………………………………笹沼 弘志 23

パネルディスカッション 「野宿者、フリーター、移住労働者の現状と課題」

報告:野宿者の現場から………………………………………………………中桐 康介 30

報告:フリーターの現場から…………………………………………………山口 素明 37

報告:移住労働者の現場から…………………………………………………山口 智之 46

討論…………………………………………… アニー・プール/申 明浩/笹沼 弘志 50

共同の祈り…………………………………………………………北原 葉子/安藤 勇 54

ワークショップ 「グローバル化と周辺化」

討論者……………………………アニー・プール/申 明浩/笹沼 弘志/中桐 康介

/山口 素明/山口 智之/千葉 杲弘 56

閉会の辞……………………………………………………………………………植田 隆子 70

講師紹介…………………………………………………………………………………………… 71

資料 ソフィアシンポジウム(第 27 回国際シンポジウム)「グローバル化と先進国に

おける貧困と社会的排除:野宿者、フリーター、移住労働者の現場から」(和・英)……73

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開会の辞

下川雅嗣(上智大学社会正義研究所所長)

はじめまして、社会正義研究所の下川です。この度は、上智大学社会正義研究所と国際基督教大

学社会科学研究所共催の第 27 回国際シンポジウムにいらしてくださり、ありがとうございます。このシンポジウムは、今年は上智大学のソフィアシンポジウムという形式をとっております。「グ

ローバル化と先進国における貧困と社会的排除:野宿者、フリーター、移住労働者の現場から」というテーマでこれから開催したいと思います。最初に少し簡単なオリエンテーションと趣旨説明を

させていただきたいと思います。 このプログラムは、上智大学の社会正義研究所と国際基督教大学の社会科学研究所が共催という

形で、これまで 26 回連続して行われてきております。この場にICUの社会科学研究所の植田隆子所長も来られているので、ご紹介いたします。 これまで上智大学と国際基督教大学は毎年交代で企画を考えているわけですけれども、今年は上

智大学の社会正義研究所の番でした。社会正義研究所では、今の世界的傾向、特に先進国、そして

日本でも最近顕著になってきている傾向として、経済的自由化と政治的反自由化の流れに注目し、

今年の後半ぐらいから、シンポジウムを繰り返してきました。すなわち、経済的にはどんどん自由

化が進んでいるのに対して、政治的にはどちらかと言うと、反自由化が進行していること、たとえ

ば、社会福祉に対しては個人の自由と責任に任せた小さな政府が目指されているけれども、軍事だ

とか治安に対しては非常に大きな強い政府ができつつある、といったようなことに注目しているわ

けです。後者の政治的な反自由化に関しては、「自由は危ないのか」というシンポジウムを今年こ

れまで二回行い、君が代不起立の問題だとか、または憲法の問題について論じてきました。 これに対して、今回のシンポジウムは経済的な自由化についての話が中心となると思います。先

進国の日本でも今、「格差社会」、「ワーキング・プア(働く貧困層)」、「ネットカフェ難民」などの

言葉が流行りだし、実際、そのような現象が、世の中で多く見られるようになってきました。今年

になってマスコミでもこれらの問題もよく取り上げられているわけですけれども、実は日本社会に

は既に 10 年以上前に新しい貧困だとか、社会的な排除だとか、そういったようなものがじわじわと広がってきていたんだと理解しております。そしてこの原因は、グローバル化だとか、新自由主

義的グローバリゼーションの影響であると言われています。今まではそういうグローバル化の被害

とか貧困問題を論じる際には、どちらかというと途上国の問題であって先進国内はあまり関係ない、

というような雰囲気が強かったように思います。しかし、今言ったように、実はグローバル化の影

響で先進国の中でも新しい貧困が広がってきているということが、大きな問題になり始めているわ

けです。よってこのシンポジウムは特に先進国における新しい貧困、または社会的排除について論

じることができればと思っております。 もちろん、グローバル化というと良い面も悪い面もあると思いますから、単純には言えないと思

いますけれど、今のグローバル化の流れの中には新自由主義(ネオリベラリズム)がグローバルス

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タンダードになりつつあるという怖い流れがあります。ここで取り扱う新しい貧困だとか社会的排

除というものは、この新自由主義のグローバル化に起因している部分が大きいのではないかという

ようなことが言われています。新自由主義政策というのは簡単に言うと、小さな政府、すなわち人々

の生存権とかそういったようなものに対する国家の責任を放棄して、福祉国家を解体し、あとは市

場と民間、または場合によってはNGOとか市民、個人の自助努力に全てを丸投げするといったよ

うな政策なんですが、そのような政策を各国だけで個別に採用しているのであれば、それぞれの国

内の問題で話は済むけれど、これだけグローバル化した社会では多国籍企業の影響力が強く、ある

大きな一つの国がそれをやってしまうと、全世界が新自由主義政策を取らざるを得ないような流れ

になってしまうというような気がいたします。このため、途上国だけでなく、先進国の中でも新た

な貧困、社会的排除が生じてきているし、その問題の根は深く深刻な問題だ、と少なくとも私は考

えているわけです。そういったようなところで、このシンポジウムでは、―今回お呼びしたのはフ

ランス及び韓国、そして日本なんですけれど―先進国における新しい貧困の現実の理解、または社

会分析、そしてそれに対してどういうふうな運動が始まっているのか、その可能性はあるのか、と

いうような現場からの報告を中心に企画したいと思います。このシンポジウムで、グローバル化に

よって先進国でどのような新しい貧困者と社会的排除が創出されているのか、それについてどのよ

うに実践が行われているのか、とにかく現実の共有から次の一歩が始まると思っていますので、皆

さんと一緒にこのシンポジウムで現実の共有をしていければ良いのではないかと考えています。よ

ろしくお願いいたします。 では、まず上智大学の石澤学長の方から、お話がありますのでよろしく御願いいたします。

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建学の精神を発信する社会正義研究所

石澤良昭(上智大学長)

ソフィアシンポジウム開催に当たり、まず共同開催の国際基督教大学社会科学研究所に心から感

謝申し上げます。国際シンポジウムには、いろんな方が参加してくださっております。そういう意

味におきましてなにか、両大学の学術協力、絆の強さ、共に世界に向けて、発信していこうという、

私たちの気持ちがこのシンポジウムに凝集されております。 私はカンボジアのことをやっておりまして、カンボジアで貧困について、頭を悩ませています。

これだけ急激なグローバル化の中で、カンボジアはどこへ行くんだろうという気持ち、これはずっ

と頭の中にある問題でございます。そういう意味で今日、いろいろご討論いただいて、またそれに

向けて、解決に向けて、あるいは改善に向けてですね、何か方向が示唆いただければ幸いでござい

ます。 本学の社会正義研究所というのは、これはまさしく上智大学の建学の精神を現場で実践化する、

あるいは社会化するという事業をずっとやってきております。そういう意味で、社会正義研究所と

言うのは世界に開かれた上智大学の「窓」であり、発信の窓口になっています。そして本学で唯一

のアフリカへの窓口となっています。それから、いろんな紛争地や災害現場に出かけてくださって

ますし、ある意味では上智大学の国際貢献を先導し、外の世界へ向けての窓口でございます。そう

いう意味におきまして、これまでの所長の任務をしてこられましたマタイス先生、町野先生、そし

て今回の下川先生と、お三方ともこうした今、グローバル化によって被害を受けて、波に巻き込ま

れている社会的弱者の現状を、どのように認識していらっしゃるか、次年度の行動計画などをご討

論いただくわけですが、その議論を見守りたく存じます。 私はカンボジアの遺跡が専門なものですから、各地を周り、農村、奥地を入ってまいります。そ

ういたしますと、本当に市場でもすべて現金決済ですから、食べ物はあるにしても、やはり全てお

金で買わなければならない。前のような、豚一頭持っていってですね、文房具いくつ貰ってくると

か、鶏何羽もっていって、その市場で買ってくるとかが出来なくなりつつあります。 言うなれば、村落社会も大きな変革に、グローバル化の波に巻き込まれつつあります。そういう

問題を再考察していく、社会正義研究所というのは、本当に頑張っている研究所だと思いますし、

これを今度 Center of Global Concernにするなどという構想も出ているように聞いております。また今後も充実をはかり発展していく研究所になっていくのではないかと思っております。 とにかく私たちは、現代に起きている問題に目を注ぎながら、人類が当面する諸課題に対する意

識をきちっと持っていく、そして私たちは研究をやりながら、同時に現代社会の大きな変わり目を

どう判断して位置づけていくかを考えなければならない。 上智の社会正義研究所は、今日の非常に up to dateな問題に取組んでおりますが、このグローバル化っていうのは、本当に一つの暴力だろうと思っております。このグローバル化にどのように私

たちが対処するか、どのように考えていくか、どのように行動を起こすか、に尽きるかと思います。

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今日はフランスからご参加いただきました、アニー・プールさん、Droit au logement(DAL)というこれは大変なNPOでございまして、こうしたところと、手を携えていくというのはどうで

しょうか。 簡単でございますが、今日一日、いろんな意見を戦わせていただいて、またこのシンポジウムの

報告書ができる、そしてそれが世界へ発信される、そういう小さな発信かもしれませんが、大きな

力になる可能性があります。社会正義研究所の地道な活動を高く評価いたしております。 どうか今日一日よろしくご議論お願いします。 司会(田中かず子)ICU国際関係学科(社会階層論)の田中かず子と申します。今日は基調講演

の司会という大役を仰せつかりましたが、タイムキーパーの仕事をきちんとやりたいと思います。 それでは早速ですが、プログラムに書いてある順番で進めていただきたいと思います。まず、ア

ニー・プールさんですが、彼女は共産党の党員として活発に活動なさっていた時期があり、その後

労働組合運動に関わって活動を続けられました。1992 年にDAL、住宅への権利運動という運動に出会われて、その後この運動にコミットされてこられました。現在は ATTAC France(アタック・フランス)の主要なメンバーとして活躍されております。それではアニー・プールさん、どう

ぞよろしくお願いいたします。

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基調講演:グローバル化と先進国における貧困と社会的排除

フランスの現状とそれに対する実践

アニー・プール

(住宅への権利運動(Droit au logement: DAL)、NO-VOX、パリ政治学院非常勤講師)

1 フランスにおける貧困 

開発途上国における貧困問題は常に議論されてきました。貧困問題は、今日では先進国でも新し

い問題ではありません。先進国に、貧困問題が存在しなかったと考えられる時期は、唯一、第二次

大戦後の再建期のみです。この時代、人口の大半は、庶民的な貧しい生活を送っていました。しか

しながら戦後の経済復興期に、さまざまな富が蓄積されていき、同時に社会改革も進行しました。

とくに 1968 年のフランスの 5 月革命は、大きな変革をもたらしました。この革命で労働者、そし

て一般的な人たちは、何を要求したのでしょうか。戦後 30 年経ち、富が蓄積された中で、富の再

分配、富の共有と言ったものを要求したのです。経済格差がフランス中に広がっていたためです。

政府がとるべき選択肢は単純でした。30 年間蓄積された富の再分配か、さらなる富の蓄積のいず

れかでした。当時の政府は当然のことながら、富の蓄積を選びました。その結果、貧困問題は早い

時期に深刻になりました。 

貧困をめぐる歴史における重要な転換期のひとつは 1995 年でした。この年、シラクは、社会的

亀裂との闘いを公約に掲げて大統領選挙に勝ちました。フランスの歴史上初めて、大統領がフラン

スの社会に社会的亀裂が存在することを公に認めたのです。貧困問題への対処のあり方については、

大きく二つの立場に分かれます。一つめは、貧困削減は道徳的に必要と考えるものであります。す

べての市民は慈善団体や NGOを通じてお金を寄付します。これは、貧困は政治問題ではなく、社

会の道徳の問題であるという考え方です。二つめの考え方は、これは左派の考え方ですが、貧困を

政治問題と考えます。貧困は社会によって生み出されたのだから、貧困は経済的・政治的な選択に

よって管理されなくてはならない、つまり政治的に公的な対策がとられなくてはならない、という

考え方です。 

この二つの考え方はもちろん対立します。このイデオロギー的に対立は現在も存在しています。

フランスには今日、800万人が貧困ライン以下の生活を送っています。貧困ラインは、フランスで

は世帯の月収 816 ユーロと定められています。そして全世帯の 10%が貧困ライン以下にあると推

定されています。ここに含まれるのは失業者だけではありません。30%は就労しているのに十分な

収入がないワーキング・プアです。貧困は、伝統的には個人的なライフスタイルの選択や、ライフ

サイクルのなかで遭遇する事故 によるものが多数でしたが、働いていても貧困から抜け出せない

人が近年急増しています。その原因は自由主義の加速にあると考えられます。RMI(社会統合のた

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めの最低収入保障)を 800 万人が受給しています。RMI は、単身者なら 390 ユーロ、夫婦ならば

555ユーロが毎月支給されます。そして、二人の子どもがいる夫婦でも、支給額は貧困ラインの 816

ユーロ以下です。フランスでは 200 万世帯以上がこの RMI だけで暮らしています。つまり二人の

子どもを抱えながら、貧困ライン以下の生活を余儀なくされています。 

一時、状況は変化しうると考えられました。というのはフランスでは、社会運動がかなり強いか

らです。実際に貧困に反対する運動が活性化しました。また、グローバリズムと自由主義に対する

強力な抵抗勢力が形成されました。しかし保革共存時代は、自由主義経済化にひた走る前の休息段

階でしかありませんでした。というのも、二つのイデオロギーが対立していたため、経済的にも政

治的にも、いずれの選択肢もとられず、状況は良くも悪くもならず、現状が維持されていました。

しかし、2004 年以来、貧困はふたたび拡大しています。貧困層の割合が人口の約 10.2%にまで増

えました。 

貧困層が拡大した結果、まず失業者の数が増加しました。しかし、この事実は失業率だけに還元

されません。フランスの社会運動にとって貧困とは経済的な形だけで定義されません。社会的地位、

文化、教育、医療保障へのアクセス、あるいは他の基本的な人権へのアクセスによって定義されま

す。つまり貧困は包括的な 概念としてとらえられています。したがって貧困対策にあたっては、

さまざまな側面からのアプローチが必要になります。 

 

2 自由主義者によるイデオロギー戦争 

貧困との闘いは、これはもちろん政治的抵抗という性格も帯びてきます。同時に二つの異なる概

念、二つの読解に関わってきます。ランボーの有名な文章がありますが、これを読むに当たり、二

つの読み方があります。「私は他者である(Je  suis un autre)」 というこの文章をユマニスト的

な読み方をすれば、私は他者なくしては存在できない、つまり言語や思想の交流・交換によって個

人は構築されている、すなわち社会は集合的に作られているという考え方になります一方、リベラ

ルな右派は、この文章は、私と他者とは競合状態にあると解釈します。他者は敵であり、私は闘わ

なくてはいけない、他者は自分が認めない相手である、という解釈で非常に野蛮な人間の考え方に

つながっていきます。 

この二つの考え方の対立は、今日のイデオロギー戦争を先取りしていた、と私は思っています。

社会的戦争がはじまったといってもよいと思います。今後ますます野蛮な状態が広がっていくでし

ょうし、その結果から生じる社会的なコストは高くなると思います。社会的な犠牲も生まれるでし

ょう。どうやってこのイデオロギー的な、政治的な対立に対処していくか。まず、ユマニスト的読

み方を広げていかなくてはなりません。右派のほうも自らの読みの勢力範囲を広げています。ヨー

ロッパ統合は、シェンゲン協定(注1)からも分かるように、欧州を経済地域として一つの陣営を

作ることを目的としています。これはアメリカやアジアなどの経済地域・陣営と対抗するものです。

これは、きわめて自由主義的な思想に到達します。 

 

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3 グローバリゼーションの結果 

こうした流れに対抗するのは、反グローバリズムの運動です。つまり、もう一つのグローバル

化を求める運動です。これまでのような陣営の対立ではなく、国境を越えた連帯により、自由主義

とグローバリズムに抵抗していこうという考え方を生み出しています。 

EUには現在 2億人の貧困層がいます。ブルガリア、ルーマニア、ポーランドでは、国民の 50%

が貧困ライン以下で暮らしています。ですから、アメリカやアジアの経済統合地域、陣営に対して

豊かな陣営として対抗できるヨーロッパ、という考え方は愚かです。EU の最優先課題は貧困削減

のはずなのに、実際にはそうした取り組みは行われていません。欧州市場は、国ごとに役割が分担

されています。フランスは航空産業や物流、建設、原子力産業が強い分野として認められています。

他の国々も、さまざまな分野を自分たちの優先的な市場として割り当てられています。 

この政策は、フランスでは国民の一部に非常に深刻な結果をもたらしました。各国ごとに優先的

な市場を割り当てたことによって、フランスでは鉄鋼業や繊維業が 切り捨てられてしまいました。

切り捨てられた産業は特定の地域の地場産業でした。多くの場合、その地域の唯一の産業でした。

たとえば鉄鋼や繊維はフランス北部の産業でした。唯一の産業が切り捨てられた結果、地域全体が

貧困に陥りました。北フランスや東フランスは、20年以上も貧困に苦しんでいます。 

フランスにおける社会的に深刻な二つめの現象は、都市の貧困層が不動産投機により、追い出さ

れていることです。追い出された結果、都市郊外に貧困層が集中するようになっています。フラン

スのいわゆる平均的な郊外の団地では、若者の失業率が 70%、貧困ライン以下の生活を送る世帯

が 50%から 60%にのぼります。 

4 社会的に排除された労働者と貧困化 

つぎに社会運動の実践について話します。失業者、あるいはワーキング・プア(働く貧困層)、

非正規雇用にある者は、正規労働市場から排除されているわけですが、彼ら、彼女らは見放され、

公的支援も受けていません。労働組合の支援からも排除されています。フランスの労働組合は正規

雇用の労働者雇用者の擁護に専念しているため、それ以外の人を排除する傾向にあります。そのた

め近年、失業者やホームレス、非正規滞在移民を担い手とする運動が活性化しています。これらの

運動のヒントは北米から来ています。国際 NGOs のグリーンピースやアクトアップなどの運動の

影響がフランスに及んだものです。社会に対して、政治組織や労働組合とは関係なく、新しい形態

を採用した運動です。これらは分かりやすい形で社会に対して働きかけるものです。そもそもは、

政府や自治体あるいは公共性の高い企業が所有する不動産で空き家になっている物件をホームレ

スが住居を占拠するという形ではじまりました。たとえばサンマルタン運河沿いにテントを張って、

ホームレスの存在を 訴える運動です。公共空間で社会問題を可視化するのが戦略です。失業者に

かんしては戦略が少し違いますが、特徴は同じです。たとえば職安を占拠して、失業問題を知らし

めるために、まずどのようにして解雇されたのかを説明し、雇用を得るためにさまざまな運動に取

り組みます。非正規滞在移民については、このような運動の組織は非常に難しいですが、フランス

では、非正規滞在移民に対する連帯感があります。したがって運動そのものが一般の人々からも支

援を受けることができるという比較的恵まれた社会環境があります。非正規滞在の労働者の正規化

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を求めて内務省や労働省の前でデモをすることもありますが、在留資格のない生徒の強制送還に抗

議して教師と生徒たちが学校に立てこもり、警官と対立するというような運動もあります。たとえ

ば、ある飛行機で非正規滞在移民が強制送還になることを事前に把握して、その飛行機が離陸する

ときに乗客にシートベルトの着用をしないように呼びかけて抵抗する、あるいは船による強制送還

の時には、その船の出発を阻止するというようなさまざまな運動があります。さまざまな新しい戦

略による、新しい形の運動が生み出されていきます。結果的に組合や政党にも影響を及ぼし、旧態

依然とした運動のあり方に再考を迫っています。 

興味深いことには、世論調査の結果、83%の人が、フランス社会は豊かなのに、多くの人がホー

ムレス状態にあることは許容できないと答えています。もちろんホームレスの運動による空き家占

拠や リストラに反対する失業者のスーパーマーケット占拠など、運動の過程では世論の批判もあ

りました。それにもかかわらず、ホームレスや失業者の運動を支持すると答える人は 80%にも及

びます。このような支持を背景に、この運動の基本的な戦略は、さまざまな運動を結ぶネットワー

クを作ることにありました。そうすることによって小さくバラバラな運動ではなく、ネットワーク

でつながり、とくにグローバル化した社会において、いかなる原因によりいかなる現象が起きてい

るかを集約して訴えることができます。このようなネットワークが存在したがゆえに、失業者、あ

るいは非正規滞在移民がそこに加わることができました。 

ネットワークの存在により、ひとつの主張だけではなく、さまざまな主張が目に見えるようにな

りました。そして、世論に対して訴えかけてこそ、問題は解決に向かいます。世論が変わることに

よって、政府も、政治的方向性を変えていきます。私たちは、これを「反権力」と呼んでいます。

「反権力」とは、大規模な連帯を 形成しさまざまな活動を組織し、それによって社会に問いかけ

ることを意味します。社会がその結果、政府に対して、あるいは制度に対して、現状ではダメだ、 

受け入れられない、というように仕向けていくものです。 

5 NOVOXネットワークの創設 

私が所属している NOVOX というネットワークは、フランスで行われてきたさまざまな社会運

動の帰結でしかありません。さまざまな運動を集めたもの、とくに、もっとも排除されている貧困

層の組織です。フランスでの経験から、私たちは、やはり国際的にもネットワークを作ることが重

要だと考えました。なぜでしょうか。私は、いわゆる為政者や政治的・国際的な制度だけに問題が

あると考えてはいません。もうひとつのグローバル化を掲げている運動の中にも貧困層を排除する

問題があると考えています。「オルタモンディアリスト」という、もうひとつのグローバル化を掲

げる運動は、世界社会フォーラム(World Social Forum 2001~)をきっかけに登場しました。世界社会フォーラムは、 いまある多国籍企業主導のグローバル化とは異なり、民主主義的な国際

的ガバナンスを訴えるものです。ところが、ガバナンス(良い統治)のあり方をめぐる議論におい

ては、専門家、エキスパートに意見を求めます。それによって、専門家の考え方が一つの権威ある

考えであるということで、その考え方に収斂されていく傾向にあります。しかし多国籍企業主導の

グローバル化に対抗するオルタナティブを、単一の「もうひとつのグローバル化」モデルによって

示すことはできません。積極的に批判を受け入れる、多様な考えが保障されなくてはならないので

す。これがもうひとつのグローバル化を求める運動内部の問題です。NOVOXは、世界社会フォー

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ラムを国境を越えて他の運動団体と出会う場として考えています。そうした場は必要ですが、同時

にグローバル化に対抗して国境を越えた連帯を主張しなければ意味がないと思います。NOVOXは

それを具体的な形で主張してきました。 

たとえばブラジルのポルトアレグレで世界社会フォーラムが開催されたときには空きビルを占

拠しました。ポルトアレグレには 23 万の貧困世帯が住宅から立退きを執行されてホームレス状態

にありました。そこで私たちは空きビルを占拠し、この建物の社会的な機能の復活を要求しました。

つまりホームレスの人たちが都心部のこの空きビルに住むことを主張したわけです。現在、この建

物は実際に公営住宅となりました。わたしたちは運動の成功をうれしく思っています。ケニアのナ

イロビでは、私たちはピープルズ・パーラメント(民衆議会)というスラムの居住者の会議に参加

しました。そして高額な参加費ゆえに貧困層を排除する世界フォーラムの扉を打ち破って、スラム

の人たちも参加できるようにしました。かれらの社会分析、経験、意見もフォーラムで主張できる

ようにするためです。インドの世界社会フォーラムでは、被差別カーストであるダリットが組織し

た行進に参加しました。最貧層で、権利をもっとも剥奪された人たちと一緒に問題を考えなければ、

フォーラムを開催する意味がないと私たちは主張しました。私たちがマリの首都バマコで開催され

た世界社会フォーラムに行ったときは、フランス政府による非正規滞在移民の国外退去に反対して、

フランス大使館前で抗議行動をしました。アテネのヨーロッパ社会フォーラムでは、非正規滞在移

民を強制送還する前に拷問が行われている警察署の前で抗議しました。 

私たちはこうした活動をしていますが、ヒーローを気取ったり、白馬の騎士になったつもりでは

ありません。社会フォーラムに対して、NGO に対して、労働組合に対して、さまざまな市民団体に対して、最貧層や非正規滞在移民とこそ、連帯が必要であると訴えているのです。こうした考え

から、NOVOX はさまざまな国際会議やフォーラムにおいて、貧困層との連帯を主張しています。これは重要なことです。その理由は簡単です。 

第一に、ミドルクラスがいかにして貧困層と連帯するかという問題です。ミドルクラスは貧しい

人たちと切り離されてはいけない。つながりを持たなくてはならないと思うのです。社会は、野蛮

な、経済的なリベラリズムだけを目指すべきではないと思います。ミドルクラスが、自分のことだ

けを考えて、社会的上昇を志向して、自分たちも上流社会、豊かな層になることを考えているとす

れば、社会的な亀裂は更に酷くなってしまいます。そのような状況が続けば、社会は野蛮に陥って

しまいます。そうすると本当に貧困層の居場所がなくなってしまいます。そして新たに経済発展を

遂げつつある国であろうと「南」のの国であろうと大規模な搾取が行われるようになります。中国

やインドでは、すでにそうした状況が現実のものとなり、社会的亀裂が生じています。もちろん社

会的上昇を遂げる人々もいるでしょう。しかし、ますます多くの人たちがより一層貧困な状況に追

いやられているのです。たとえば中国では、一定の間、国民全体の生活水準が上昇していましたが、

現在では、経済発展にともなう恩恵や福祉はすべての人にいきわたってはいません。西欧モデルが

中国やインドなど新たに経済発展しつつある国にも広がってしまいました。これらの国でも新たに

貧困層と富裕層に二極化して、亀裂が深まっているのです。 

最後にお見せする映像は、フランスにおいてリベラル右派の政権が生まれてから、社会運動に対

する弾圧がいかに厳しくなったかを示すものです。10 月から 370 のホームレスの家族が、公営住

宅への入居を求めて銀行通りの路上を占拠して、キャンプ生活をしています。彼らのテントや毛布

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は軍隊が介入して撤去してしまいました。それでも家族らはそこを動かず、30 日の間軍隊に包囲

されて、そのうち 3日間は食事をすることもできませんでした。軍隊が路上に寝ることを妨害する

ため、夜もずっと立ったままでいなくてはなりませんでした。マイナス 4度の夜も、テントも毛布

もなしで過ごさなくてはなりませんでした。これらの家族は非正規滞在の移民だけではありません。

もっとも、その多くは移民出身の家族でした。 というのも貧困な移民家族が多いからです。もち

ろん貧困層は移民出身者だけではありません。不安定雇用の 83%は女性が従事しています。しか

も、ますます多くの若年層が不安定就労層を占めるようになっています。 

サルコジが大統領に就任する以前は、パリ市における社会運動については警察が担当していまし

た。つまり公的秩序の問題と考えられていたのです。しかしサルコジが大統領になった現在では軍

隊が担当するようになりました。つまり社会的な運動は国家に対する攻撃とみなされるようになっ

たことを示しています。 

銀行通りを占拠してから二ヶ月の間に、軍隊の介入が7回ありました。しかし、住宅を求める家

族たちは今も退いていません。慈善団体のエマウスとカリタスが家族たちに連帯してマットや毛布

を提供してくれたため、現在までキャンプを続けることができました。その間にも 200人ほどが逮

捕され、運動を支持した多くの人が追訴されました。私たちの運動は非暴力を貫いています。した

がって占拠した路上を明け渡すことを拒否しますが、暴力は用いません。強制排除されるまで、そ

の場を動かないのです。占拠の様子をすべてこのように映像で記録しているのは、私たちが追訴さ

れたときに、警察に対して暴力を行使したという嫌疑がかけられますので、私たちは暴力を用いて

いないという証拠にするためです。 

注1:シェンゲン協定(Schengen  Convention)・・・ヨーロッパ各国において、国境でのパスポート

や IDカードの提示なしで自由に人間の通過を認める協定。1985年、ルクセンブルグのシェンゲン村にて調印された。 

司会 どうもありがとうございました。フランスにおける深刻な貧困の問題、そしてそれに抵抗す

る新しい運動についてレポートしていただきました。この抵抗運動を支援している人が市民の中に

多く存在するというお話をうかがってとても新鮮で、非常にフランスらしく思えたのは私だけでし

ょうか。どうもありがとうございました。 それでは申先生の発表に移らせていただきます。申明浩先生は現在、韓国都市研究所(Korean

Center for City and Environment Research、KOCER)の所長を勤めておられます。1985年からこのKOCERに所属し、活動を続けてこられました。また、大学院では、都市人類学の修士を終

えられ、現在は社会政策の博士課程で研究をなさっておられます。それでは、申先生、よろしくお

願いいたします。

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韓国の現状とそれに対する実践

申明浩 (韓国都市研究所所長(Korea Center for City and Environmental Research: KOCER))

皆さん、こんにちは。ご紹介いただきました申明浩と申します。私が仕事をしている韓国都市研

究所が 1985年に初めて作られた時は、「都市貧民研究所」という名前でした。最初に我々が主に扱ったテーマとしては、80 年代始めから、ソウルで、都市開発のために行われた強制撤去問題であります。それに対抗するために市民を教育し、組織するための仕事を始めました。したがって、最

初の名前は「研究所」だったんですけれども、研究よりは人々を扇動したり、あるいはオルグする

のが仕事でした。それに多くの時間を費やしたと思います。そのあと政府の政策が変わり、強制撤

去のようなことはあまり行われなくなったという環境変化もあったし、また市民自らが組織を作る

こともできるようになりました。そういう影響の中で我が研究所は現場に行くより、現場と緊密に

関係を持ちながら、政府の政策を研究する方向に変えてきたわけです。ご存知のように、韓国は

1990 年末に、為替通貨危機、いわゆる「IMF通貨危機」を迎えるようになります。それを起点にして、韓国社会で深刻な両極化、貧困問題が表れ始めました。

1997 年の始め頃だと思っておりますが、我が研究所で二か月毎に発刊する「都市と貧困」という雑誌がありました。周りの研究所を愛してきた人々も、そして私の友人、同僚たちも、今はこう

いう時代なのに未だに貧困の話ばかりしているのかと、いつも冗談っぽく言っていました。当時の

韓国社会では、貧困問題はすでに過去のものであり、あまり重要なことではないと解釈されていま

した。そういう時から、わずか二か月後に為替通貨危機が発生し、そのあとに貧困、あるいは貧し

い人々の問題は、韓国の社会で何より重要なイシューとして浮上し始めました。幸いにも、「都市

と貧困」という雑誌のタイトルはいまだに維持されております。 実際に、韓国社会では通貨危機を迎える前に、たとえば 1990年代始め頃までは、不平等問題は解決された、平等社会に向かっているという評価がありました。そして貧困問題もそれほど深刻で

はないとも言われました。しかし、こういう不平等問題がもっと深刻化されたのは 1993年、金泳三政権が登場してからだと思います。金泳三政権が実施したスローガンは世界化、グローバル化と

いうテーマでした。金融自由化と規制緩和を実施して、韓国社会でも世界化、グローバル化が本格

的に展開されていきます。ところが、準備されないまま実施されたため、蓄積された問題が 90 年末の為替通貨危機につながります。

1貧困と両極化 (1)貧困率の推移 まず、貧困率を見てみたいと思います。政府で、生計支援をするために、基準を作ることで、最

低生計費用を出しております。それから最低生計費用を基準にして、韓国の絶対貧困率を図1に見

ることができます。貧困率は通貨危機直後には 15.5%まで上昇して、それ以降は減少しているように思われましたが、2003年から 2005年にかけて再び上昇の趨勢にあることが分かります。そして、

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全体のうち、中位所得の 50%に満たない所得世帯の比率を表す相対的貧困率を見てみても似たような傾向が見られます(図2)。これは 97年末の通貨危機以前の状態まで韓国の貧困率が低下していないことを意味しております。

<図1> 絶対貧困率の推移(可処分所得基準)

11.11 10.8311.68

11.24

15.5

11.8110.91

9.61 9.74 9.7510.52 10.18

4.95 4.79

8.99.35

7.61

6.5

5.216.13 6.05

6.545.73

0

2

4

6

8

10

12

14

16

18

1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006

(%)

全国世帯

都市世帯

都市勤労者世帯

出処:両極化民生対策委員会(2007)、<貧困および不平等の原因と再分配の効果>

<図2>相対貧困率の推移(可処分所得基準)

14.63 15.03 15.17 15.3

14.52

12.7413.25

12.6813.63

14.23 14.4 14.59

9.138.17

10.57 10.489.63 9.71 9.33

10.5511.08 11.24 10.84

0

2

4

6

8

10

12

14

16

18

1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006

(%)

全国世帯

都市世帯

都市勤労者世帯

出処:両極化民生対策委員会(2007)、<貧困および不平等の原因と再分配の効果>

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過去に比べて現在貧困層に表れている特徴としては、先ほどのフランスの事例でも見られるよう

に、勤労貧困層、いわゆる「ワーキング・プア」が増えていることです。実際、貧困層の中でも勤

労能力がない、いわゆる年老いた階層の方が一番貧困率が高いのは過去と同じ現象なんですが、勤

労貧困層、つまり、一生懸命仕事をしているにも関わらず、貧困状態を抜け出すことができない人々

の比率が、相対的に増えています。こういう説明は全般的に仕事が不安定化し、就職しても不完全

な就職状態にある人が増えていることを意味しています。過去3年間の所得増加率と 1999年から2002 年までの所得増加率を比較してみると、最近3年間の都市世帯全体の所得増加率が過去に比べて下落していることがわかります。図3を見てほしいんですが、過去3年間の都市世帯の所得増

加率は過去に比べて減少しております。その中でも自営業者世帯の所得増加率が大きくとても減少

しています。韓国社会は、自営業者の割合がとても高い国です。通貨危機以降、失業者が増えて、

多くの人々がまた改めて自営業を始めました。それにより、新たな競争が生まれ、内需景気の沈滞

が続き、自営業者の間でも貧困率がさらに高くなるようになります。

<図3>都市世帯の所得増加率の推移

5.79

2.21

5.44

2.71

6.19

1.67

3.27

2.08

0

1

2

3

4

5

6

7

1999-2002 2003-2006

(%)

全体 勤労者世帯 自営業者世帯 無職者世帯

出処:両極化民生対策委員会(2007)、<貧困のおよび不平等の原因と再分配の効果>

(2)所得不平等の推移

1997年、今から 10年前の時期と 2004年の所得を比較してみたのが、図4に表れています。都市勤労者世帯を所得水準に合わせて、5つの分位に分けてみた表です。これを見ますと、低所得層

は 1/5 分位、高所得層は 5/5 分位を示していて、2/5 分位から 4/5 分位を中間層だと言えると思います。この表からわかるように、95年と 2004年を比較してみますと、高所得層は 4.6%増加しているのですが、低所得層は 13.3%減少していることが分かります。それと、中間層は 1.1%減少しています。そして、所得分配状態の不平等度を表すジニ係数なのですが(図 5)、これも前の表で見られることと同じ傾向を見せています。98年以降にジニ係数が低くならない現象が続いています。

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<図4> 世帯所得階層別所得占有率の増加率(2004年/1997年)

-13.3

-4.4

-1.1

1.3

4.6

-0.9

-16

-14

-12

-10

-8

-6

-4

-2

0

2

4

6

1/5分位 2/5分位 3/5分位 4/5分位 5/5分位 中間層

資料:統計庁、<都市家計調査>各年度資料 <図5> ジニ係数および所得分位比率の推移

0.26

0.27

0.28

0.29

0.3

0.31

0.32

0.33

1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004

2

2.5

3

3.5

4

4.5

5

5.5

6

ジニ係数(左側) 所得5分位配率(右側)

資料:統計庁、<都市家計調査>各年度原資料

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<表1>世帯所得階層別所得占有率の推移

資料:統計庁、<都市家計調査>各年度資料> (3)雇用の両極化 このように低所得層の収入が減少しているのですが、これは雇用が不安定な状況が続いているか

らです。まず、賃金勤労者の間では、臨時職、あるいは日雇いなど非正規職勤労者の比率が増加し

ている趨勢にあります。もちろん企業では、雇用費用の負担が大きい正規職よりは相対的に負担が

少ない、臨時職、あるいは日雇い職を好ましく思っています。そして企業では「構造調整」という

のも、為替危機以降、頻繁に行われています。図6を見ていただきたいのですが、週 36 時間未満働く、いわゆる就職状態が不安定な人々の状況、そして 36 時間以上働く人々の比率を表すものです。この表によると、96年以降、一週間のうち 36時間以上仕事ができない不安定な雇用層が増加していることが分かります。さらに 10 年間の雇用実態を分析してみると、従来あった仕事が消滅していく反面、新しい仕事が日雇いを中心に増加していることです。 そして、この表は勤労者の労働力の状態、すなわち就業状態なのか、失業状態なのか、あるいは

臨時職なのか、日雇い職なのか、などを表すものですが、その働く状態が頻繁に変わることがわか

ります。これは就職状態が長く続かずに、失業状態に変わったり、あるいは失業状態が就業状態に

変わることを意味しますが、失業が就業状態に変わる時、正規職に移る可能性が大きく下落した反

面、日雇い職状態に移行する可能性が大幅に高くなっていることです。これは再就職をしても職の

質が低下し、雇用不安を加速させていることを意味します。これを働き口、仕事先の両極化と言え

るのですが、これは韓国経済が今まで築いてきた成長、その裏側には、影の影響がもっと深くなっ

てきたことだとも言えます。 韓国経済は、実際 90 年代まで、安い賃金の上で経済成長を為し遂げてきたのですが、その後、

区分 1/5分位 2/5分位 3/5分位 4/5分位 5/5分位 低所得層 中間層 高所得層

1994年 8.5 13.5 17.5 22.9 37.6 8.5 53.9 37.6

1995年 8.5 13.5 17.5 23.0 37.5 8.5 54.0 37.5

1996年 8.2 13.3 17.5 23.1 37.9 8.2 53.9 37.9

1997年 8.3 13.6 17.7 23.1 37.2 8.3 54.4 37.2

1998年 7.4 12.8 17.1 22.9 39.8 7.4 52.8 39.8

1999年 7.3 12.6 16.9 22.9 40.2 7.3 52.4 40.2

2000年 7.5 12.7 17.0 22.7 40.1 7.5 52.4 40.1

2001年 7.5 12.5 16.9 22.7 40.3 7.5 52.1 40.3

2002年 7.7 12.7 17.1 22.9 39.7 7.7 52.7 39.7

2003年 7.4 13.2 17.4 23.2 38.8 7.4 53.8 38.8

2004年 7.2 13.0 17.5 23.4 38.9 7.2 53.9 38.9

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いわゆるグローバル化の変化の中で、新しく成長する力をまだ見つけ出せないまま、過去の成長は

限界に直面し、その中で新たにグローバル化のための開放経済を迎えなければならない状況になっ

たのです。多くの先進国で現れている経済状況とも同じく、韓国社会でも、製造業の退潮と、多種

産業化、そしてサービス業の比重が高まっております。しかし、経済成長率は鈍化、情報発信技術

は成長している中、それによる高熟練技術者と低賃金労働者の需要は増加しているので、中間労働

者が没落する現象が起こっております。そして、表2で、賃金を比較してみると、正規職より、臨

時、日雇い賃金の比率が 2003 年から 50%以下と低くなり、大企業賃金に対する中小企業賃金も2004年には 60%以下に落ちております。このような賃金格差の最も大きな原因は、大企業と中小企業間、あるいは輸出企業と内需企業間、あるいはIT企業と非IT企業間の生産性の違いによる

利益率の格差が広がっていることにあります。これによって、賃金の格差も広がっています。 <図6> 勤労者別雇用比重の推移

80%

85%

90%

95%

100%

1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005年度

36時間未満

36時間以上

資料:統計庁、<経済活動人口調査>各年度資料

(4)経済両極化の世界化 国際間資本の移動が迅速化し、投資資本から見れば、短期間に高所得を上げたい望みで、収益率

が高い企業の方に投資を増やし、収益率が低い企業に対しては、資本を回収していく形で制裁する

ようになります。そうして企業はより迅速な市場の要求に応じるために、短い時間に高収入を上げ

る方法しか考えなくなります。結局、企業は収益を極大化する方法として、労働関連費用を減らす

ため、自然と労働は柔軟になります。正規職の代わりに契約職や臨時職の非正規職を増やし、常に

個人別の人事政策を実施して、賃金差をつけ、また個人の経歴管理をすることによって労働の強度

は高くなります。韓国の場合は、雇用の柔軟化、というメカニズムに作られていきます。韓国は通

貨危機以降、雇用の柔軟化が大きく増加してきました。ある調査によりますと、OECD国家の中

で、労働柔軟化の 1位を誇る国がアメリカだと言われるのですが、韓国がアメリカよりはるかに高

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いという調査結果もあります。それだけ労働者の生活は不安な状況に苦しめられていることを意味

します。 韓国はIT産業を中心に輸出が増えているのですが、しかし、このIT産業を作るための中間財

を外国から輸入しなければいけないし、また、部品素材産業がまともに発展できないため、大企業

中心の成長が続き、それが中小企業の成長にはつながっていない状況になっています。それがまた

雇用増加にもつながっていない状況にもなっています。さっき皆さんにお見せした、図と表らは所

得を基準にした統計です。政府が作った勤労所得から抽出したものですが、資産所得、不動産、株

式による所得はここに反映されていないのです。それは政府の関係者たちも認めているのですが、

提示されたこの表よりもはるかに深刻な不平等の状況になっているということです。これは表に資

産を入れれば所得の格差がさらに広くなるからです。実際不動産や株式などによる所得格差がもっ

と広がっています。 現在、韓国の場合、盧武鉉現政権の人気がほとんど底に落ちています。これには様々な理由があ

りますが、なにより盧武鉉政権の 5年間に住宅価格が 2倍以上暴騰し、庶民の生活レベルから見れば、自家を持つ夢はさらに遠ざかるようになってしまったのが大きい原因です。そして、韓国では

私教育が一般化されて、たとえば名門大学に入るために塾に通うことで私教育費が非常に高くなり

ますが、これは学校教育が正常化されていないのが原因であります。こういう住宅、教育問題が解

決されていないことも貧富の格差につながります。庶民にとって最も負担が大きい生計費項目に関

する質問に対し、教育費、医療費、そして住居費を取り上げています。どの社会でも、その社会を

支えていく 3つの分野を取り上げると、教育、住宅、医療分野になると思いますが、こういう条件がみなされていないことで、庶民がより苦しい生活を強いられております。 要するに、現在の韓国経済の全般的な状況は、分配が悪化し、そして貧困者が増加し、家計の負

債などが増えることによって、国民の消費が委縮し、国民の消費の委縮が再び需要と投資に資本が

回されないことにより、家計所得もまた低くなっていく、悪循環の仕組みになっていると言えます。 <表2>従事している地位別の企業規模別賃金格差の推移

資料:ジョン・ビョンユほか(2006)を再編集

年度 賃金勤労者

全体 常雇い勤労者 臨時/日雇

い勤労者 常雇い対比

臨時/日雇

い職賃金比

率(%)

300人以上 300人未満 大企業対比

中小企業賃

金比率(%)

2000年 114.3 152.7 78.3 51.3 165.1 107.1 64.9

2001年 124.2 164.9 84.3 51.1 184.5 115.8 62.8

2002年 132.5 176.9 90.1 51.0 200.7 123.6 61.6

2003年 146.6 195.8 95.2 48.6 225.3 135.4 60.1

2004年 154.2 203.6 98.9 48.6 238.0 142.3 59.8

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2 政府の対応策とその評価 (1)強化される柔軟性(flexibility)、微弱な安全性(security) 通貨危機以降、実際大量失業者が増えると、政府もそれに対しての対策を講ずるために努力して

きました。金大中大統領の時には、「国民基礎生活保障制度」を導入し、過去より生活保護のため

のセーフティネットワークを作ったことになります。しかし、新自由主義の影響を受けた結果、失

業、不平等問題が出てきたので、このような政策の導入は国民生活の不安を防ぐための臨時的な制

度にすぎませんでした。 続く盧武鉉政権も、成長と分配を並行させることを強調していました。そして、前の政権と同じ

く福祉と勤労をつなげている勤労連携型福祉(workfare)の原則を固守して、「社会的働き口」、つまり政府が予算を出して、仕事先を作っていくプログラムを実施しました。また福祉支援を受けて

いる人々に対して、自発できるようなプランを作り、職業訓練を実施する政策を拡充し、新たに「勤

労所得保全税制」というアメリカの制度を導入しようと準備しております。 しかし、政府のこのような政策は労働の柔軟化の傾向を防ぐものではありません。西欧社会では、

労働の柔軟化だけでは多くの問題が出ているので、柔軟化の中でも、安全面を確保していく(柔軟

安全性の確保)ことが重要だと言っています。しかし、労働柔軟化は進められてきたのですが、雇

用の安全はそれほど確保されてこなかったのが問題です。

<表3>社会保険及び付加給与適用比率

資料:ジョン・ビョンユ(2006:136)<表8>の一部 (2)積極的労働市場政策の限界 政府は失業関連政策をいくつか実施してきたのですが、それは「積極的な労働市場の開拓政策」

であり、失業問題の解決には大きな効果を上げることはできませんでした。最近では、政府組織の

中に「両極化国民対策委員会」も作って、そして政府部署である「企画予算処」の中に「両極化国

民対策本部」という別途組織を作り、失業、貧困政策を総括・調整するように権限を与えているの

ですが、これがどれくらい機能を果たすのか、注視されているところです。

国民年金 健康保険 雇用保険 退職金 賞与金 時間外手当

有給休暇

全体(全体賃

金労働者対

比比重)

61.4 61.9 53.1 54.1 52.1 43.6 45.0

正規職 78.2 77.7 76.2 80.5 82.0 82.3 81.6 非正規職 21.8 22.3 23.8 19.5 18.0 17.7 18.4

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3 民間部門の対応 これに対して民間社会運動の方を見てみます。社会運動は大きく分けて 2つがあります。1つは政府の失政を批判し、政府の対策よりもっと根本的な対策を追求する、いわゆる政治運動の流れが

あります。そしてもう1つは、実際に失業者ないし貧困層とともにプログラムを通じて彼らと会っ

て、組織化しようとする地域運動の流れがあります。 まず、政治運動の流れとしては、2005年 9月に、旧左派、または新左派運動を網羅する 133の団体、つまり労働組合、あるいは市民団体が集まって「社会両極化解消国民連帯」を発足させまし

た。これらは大きな集会の輪を広げ、政府に対しても社会改革課題 21 項目を強く要求する運動を行ってきました。そして最近、政府は「非正規職保護法」を作りました。しかしこれは大企業に悪

用されて、契約職である勤労者の解雇のために頻繁に使われております。これに対抗して、契約職

である勤労者たちが街で抵抗運動を続ける現象も起きております。こういう政治運動は、進歩陣営

の声を伝達したという点では、一定の成果もあるのですが、しかしこれが韓国の政治運動の地形を

変化させるほどの幅広い支持を集めることまではできない状況にあります。 一方、後者の類型である地域運動は、「住民密着型運動」とも言えると思います。これは失業者

のための就業斡旋プログラムを運営したり、生産共同体を組織したり、あるいは貧困地域の児童と

青少年のための勉強部屋の運営や、無住宅者への住居福祉サービスを斡旋、提供しています。この

ような運動の目標は、まず貧民当事者が直面している苦痛を解消し、その過程を通じて、彼ら、彼

女らが自分の権利を見つけ、自立するように組織化していくことです。ところで、このような地域

密着型運動はプログラムを実施しなければならないので、財政的な基盤なしにこの運動を実施して

いくのは難しいです。政府は通貨危機以降、失職貧困層のための福祉インフラを拡充し、予算も大

きく増やしたことがありますが、そういう政府のプログラムを運動団体が引き受けることによって、

住民とプログラムを実施してきたのが、一連の傾向でした。現在には相当の貧民運動グループが政

府の事業を委託受けて、それを遂行していく方向に転換しています。 しかし、皆さんも予測すると思うのですが、そこには多くの問題点もあります。それは運動の自

立性が消失され、政府に対する反対運動もあまり積極的にできない傾向もあります。したがって、

政府と徹底的に距離を置き、支援を受けない原則を持っている団体もあります。そしてもう1つの

問題は、韓国社会は全体的に右傾化にあるということです。日本も現在右傾化しているのではない

かと、私が知っている範囲では推測しているのですが、韓国の場合は、現代史のなかで屈折された

歴史の記憶、あるいはその歴史の影響による複雑な原因があります。特に南北分断の状況の中で、

韓国の政権はいつも反共産主義政策をとって北朝鮮と対峙してきたので、いわゆる左派政権が成り

立つ土壌がほとんどありませんでした。したがって、左派政党の芽は早い時期から根こそぎ摘み取

られてしまった現状もあります。よって、理念的なスペクタクルから見た時に、ほとんど左派がい

ない状況、いわゆる右派の存在だけが維持されてきた、政治的なイデオロギーの地形があります。 今現在登録された政党の中で唯一、左派政党は民主労働党という政党です。これは、わずか 7年前に一つの民間団体から始まった組織です。今現在、299名の国会議員の中で民主労働党の国会議員はわずか 10 人に過ぎません。これは実際、国民に多くの影響を及ぼすにはいかにも少ない数です。韓国では 80 年代後半に起こった民主化運動というものがあるのですが、ある政治家は「この

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民主化運動勢力は確固たる政治政党にはつながらず、古い秩序の政党に吸収されて、またその勢力

は官僚と資本の連合に包囲されてしまった」と嘆きまじりの指摘をしております。 4 展望 前半で申し上げましたが、韓国社会は 30 年間、西欧の後期産業社会が抱いてきた問題をそのまま経験しています。勤労貧困層の問題、社会排除の問題、雇用柔軟化の問題、働き口の両極化、低

出産及び高齢化の問題。しかしこういう問題をどう解決していくのか、大統領直属のある委員会が

説明しているのは、「根本的に解決するためには、経済産業政策、労働市場政策、教育政策がお互

いに連携をして、戦略的に総合的な対策を組まないといけない」ということであります。私はそう

いう説明を聞きながら、根本的な問題解決策を見出すのが難しいようにも聞こえました。これは世

界のどの国を見ても、このように複雑に絡んでいる問題を一挙に解決する画期的な政策や制度を発

見できないでいます。それならば、多様な次元で民と官が可能な限りすべての政策を講じる道しか

ないと思います。 韓国社会はOECD加入諸国の中でも社会福祉政策がまだ微弱な国です。このような貧困問題を

解決するための社会政策を深く考えていると、究極的にはこれは政治の問題だというふうになりま

す。特に韓国社会では、さらに政治問題になっています。言い換えますと、政治的にもっとこの問

題を取組もうとする勢力が増え、国民の支持がそれにつながらないと、様々な政策、制度だけでは

根本的にその問題が解決されないことです。保守化されている韓国社会で、このような問題の解決

には悲観的、あるいは懐疑的な傾向さえあります。しかしこのような問題の解決に向けて引き続き

抵抗する勢力が存在している限り、もっと時間が経つにつれ新しい希望も見えてくると思います。 現在、韓国では大統領選挙運動が行なわれております。混雑、混沌の状態が続き、多くの国民が

誰を選ぶべきか迷ったり、怒りを爆発させる人もいます。現在候補者のなかで、一番当選率の高い

野党候補の前ソウル市長李明博(イ・ミョンバク)は市場主義、そして自由主義の価値観を強く持

っている人です。彼は、教育分野を含め全ての分野を市場の競争によって解決すべきだと主張して

います。これはとても悲観的な状況ですが、ところがその中でも希望を言っている人もいます。そ

のような右派政権の下で、もしかして国民がいわゆる社会正義、平等の問題を真剣に悩む勢力が誰

かをだんだん明確に理解するようになるだろうということです。あいまいに執権している今の与党

が続くと、より進歩を訴えた人々の勢力がその中に吸収されたり、その境界線があいまいになって

しまいます。右派政権の下で新しい境界線を作っていくことが社会運動にとってもっと有利ではな

いかという声もあります。私はその声を信じることを決めました。 私は先ほど申し上げた二つの類型の社会運動を全部実行すべきだと思います。政治的な性格の運

動も持続され、その中で進歩陣営が政党の形で国民の支持をもっと確保していくべきです。ところ

が、現在の民主労働党のような左派政党はまた未熟な側面が多くあります。そういう面は自ら反省

し、変わっていくべきだと思います。大衆的な基盤に立ってないで、理念的な先導性だけで提示さ

れる政策対案に対してはどれほど現実性があるのかが問われてしまいます。民主労働党にはそのよ

うな政策が今まで多かったことも事実です。今の傾向が続くと、左派政党が国民的な信頼を集める

には難しいと思います。もちろん歴史の過程で、進歩政党が根下ろしをするのに厳しかった状況が

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あったことも理解しますが、これを突破するための多くの努力があるべきだと思います。それには

住民に密着した大衆運動も一緒に進行していくべきだと思います。 約 2 週間前のことなのですが、韓国社会投資支援財団が改めて創立されました。そこには失業、貧困問題に関して今まで活動してきた市民団体が多数参加しております。しかしその財団は、政府

の支援金で財政が確保される組織です。財政は公的資金で、運営は民と官が行うことです。これに

関して多くの議論もありました。一切政府の公的資金で仕事をしてこなかったある市民団体の立場

から見たときに、包括的な連合が正しいのか、もしかしたら政府の手先のような役割になるのでは

ないのか、あるいは政府の右傾化を助けていく財団になるのではないかという様々な悩みもありま

した。しかし長い時間の議論と討論の上、我々はその財団への参加を決めました。 主にそこでは、貧しい人々、失業者のための経済活性化を促進するための人的資源を開発し、そ

して社会資本を活用していくようになると思います。これは経済と分離した分配政策だけの社会福

祉政策ではなく、経済活動と密着した社会統合の道に行こうというプログラムになります。ヨーロ

ッパで実験してきた社会経済、そして日本の労働組合で実施してきた経験などを学びながら、今後

事業化していく計画にあります。この財団への参加はこれまで市民社会団体が指摘してきた問題点

が全くない訳でもないのですが、そういう問題を意識し、警戒しながらも、住民と密着した新しい

運動を開いていくために必要であると我々は考えております。これで、私の発表を閉めさせていた

だきます。 司会 申先生どうもありがとうございました。1997 年の通貨危機から急速に回復した国として、韓国は非常に注目されてきました。しかし一方で、急速な二極化、日本と同様に非正規雇用化によ

るワーキング・プアの増大という、大変深刻な問題が起きているというお話でした。ワークショッ

プの時に質疑応答が十分できるように、時間をとりたいと思います。では、次の笹沼先生に移りた

いと思います。 笹沼先生は、憲法学がご専門で、静岡大学で教鞭をとっておられます。野宿者のための静岡パト

ロールの事務局長をなさっておられまして、「人権の実践の場」ということで現場に深く関わって

おられます。笹沼先生、どうぞよろしくお願いいたします。

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日本の現状とそれに対する実践

笹沼弘志(静岡大学教授)

みなさん、こんにちは。静岡大学の笹沼です。よろしくお願いいたします。 1 貧困と社会的排除 現在、日本においては「貧困」という言葉が大変流行しております。今まで貧困という言葉は、

新聞にもほとんど出ない、忌み嫌われた言葉でした。しかし、現在グローバル化の中で、企業の成

長を優先させるために、爆発的に非正規雇用が拡大し、そして不安定就労者の貧困化が進んでおり

ます。日本においてもフランスや韓国のような、いわゆる「ワーキング・プア」と呼ばれる人たち

が、激増していると言われております。日本においては貧困率というものが発表されてはおりませ

んが、OECDが日本の貧困率というものを発表しておりまして、それは 2002年、アメリカに次いで、OECD諸国の中では第二位という発表がありました。日本の 13%以上の人たちが貧困率・貧困線以下で暮らしているということです。人口から考えれば 1000万人以上の人たちが貧困率以下ということです。その中には、日雇い派遣などに就労して、十分な収入がなくて家賃を払うこと

ができずに、安定した住居、アパートなどに住むことができずに、インターネットカフェやハンバ

ーガーショップなどで夜を過ごす人たちも少なくありません。そのような、いくら働いても安定し

た生活を送ることができないワーキング・プアの存在が注目されております。 このような貧困の問題は、実は従来からも存在していた問題です。ただし、従来の貧困というも

のは隠されてきました。その一方で、雇用の非正規化が爆発的に進み、新たな形で若年の貧困層が

増えてきたために、新たな貧困が注目されているということです。隠されてきた貧困というものは、

現在日本で、多くは路上で野宿などをして、生活している人たちが辿ってきた歴史、人生であるわ

けです。つまり、従来も不安定で、低収入で、法によって保護されない労働者たちがいました。そ

の人たちが現在野宿生活、ホームレス状態に陥っているわけです。 新しいワーキング・プアや新しい貧困が注目される一方で、従来の古い貧困層、そしてホームレ

スの人たちの存在が忘れ去られているのではないかと思われる傾向があります。2002 年に、ホームレス自立支援特別措置法が制定されました。これはホームレスの人たちが 1990年代に増大する中で、公園や路上に多くのホームレスの人たちが目につく形で現れたことを受けて制定されたもの

です。そして、2003 年3月に全国調査、初めて全国でホームレスの人たちの数の調査が行われ、その数は 25,296 人でした。そして、今年、法律の見直しのために新たな調査が行われましたが、ホームレスの人びとの数は 18,564人。2003年に比べ、約3割減ったと政府はその成果を強調しています。日本政府によれば、これほど多くの数が減ったのは、雇用が改善したこと、雇用条件が改

善したこと、そしてもう一つは、ホームレス自立支援政策が成果をあげたことが挙げられています。

しかし、雇用が改善していないことは今の不安定雇用の爆発的な拡大から言って、明らかです。失

業率は低くなっていますが、その低くなっている、つまり拡大している雇用というのは実は非正規

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雇用で、ワーキング・プアが拡大しているだけなのです。他方、自立支援事業によってホームレス

の数が減ったというのは、実際に大きく数を減らしている都市が、大阪、東京、名古屋であること

に注目すべきでしょう。この3つの都市は、公園や路上におけるホームレスの人たちのテントを撤

去することに力を注いできました。また、ホームレスの人たちを公園から追い出して、シェルター

や自立支援センターといった施設に収容することに努力してきました。そのため、目につく形での

ホームレスの数が減っただけではないのかという疑いがあります。東京や大阪のホームレスの人た

ちの概数調査というのは、9時から5時の昼間―これは役人の勤務時間中でしか行われません―となりますと、テントを持たないで、夜間、路上で寝るホームレスの人たちはカウントされていない

ことになります。つまり、夜間路上で寝るしかない人たちは、昼間は立って歩いているから、ある

いはどこか建物の中にいるから、ホームレスとしてカウントされません。これが、ホームレスの数

が減った理由の一つではないかと思われております。 このように、ホームレスの人たちの存在が見えなくなり、そして彼らに対する対策もこれ以上す

る必要がないのだという考え方を日本政府はとろうとしていると思われます。他方、新しいワーキ

ング・プア、新しい貧困層に対しては、手厚い対策をとるというような姿勢を見せております。し

かし実際には、十分なことはなされないでしょう。政府は現在、不安定就労で、低賃金で、住居確

保できない若い労働者たちの中で、インターネットカフェなどで泊まっている人を、次ように呼ん

でおります。これは、翻訳が非常に難しい言葉ですが、「住居喪失不安定就労者」と呼んでおりま

す。日本では、路上で寝ている人、公園のテントで寝て暮らしている人たちを、英語の言葉をその

まま日本の言葉に移し替えて、「ホームレス」と呼んでおります。路上で寝る人たちは「ホームレ

ス」であり、インターネットカフェで止まっている人たちは、日本語で、「住居喪失者」というふ

うに呼ぶわけです。翻訳すれば、英語やフランス語はどちらも同じ言葉ですが、日本政府は、この

二つは全く異なると言っております。実際には、インターネットカフェで泊まっている人たちも、

一週間のうち、5日以上泊まっている人は二割程度で、それ以外の日は、たとえば2日や3日、あ

るいはそれ以上路上で過ごす人たちも少なくありません。インターネットカフェで泊まることがで

きないときに、どこで泊まっているのか、という調査も政府はしているのですが、第一位はファー

ストフード店、つまり、インターネットカフェでなければハンバーガーショップ、一杯 100円のコーヒーで夜を過ごすということです。インターネットカフェは一泊 1000円以上しますから、1000円以上出せないときは、ハンバーガーショップで泊まる。その 100円も出せないときは、路上で泊まる。合計すればその人たちの 5割以上がインターネットカフェで泊まらないときは、ハンバーガーショップか路上に泊まるということになります。つまり、日本政府は、ホームレスの人たちと住

居喪失者は異なると言っておりますが、同じ人たちであるわけです。しかし、調査をする観点が異

なるから、違う人だ。また、住居喪失者に対する調査や対策をとるのは、職安局、職業の安定を図

ることを目的としている部署が担当する、と。それに対して、路上のホームレスの人たちを担当す

るのは、地域福祉課の福祉担当の部署が行う。担当部署が異なるから、対象となる人も違うと、こ

ういう説明です。 そのように、貧困問題についても新たにこのような住居喪失者とホームレスという差別が敢えて

持ち込まれようとしています。それはなぜでしょうか。インターネットカフェに泊まっている人た

ちは、低収入ではありますが、勤労収入があります。つまりどこかの企業に雇われて働いている。

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それに対して、ホームレスの人たちはどこかの企業に雇われて働いていない。あるいは社会生活を

自ら拒否している人たちであるというような考え方がある。だから、住居喪失者というインターネ

ットカフェに泊まる若い人たち、あるいは年齢が高い人たちもいますが、インターネットカフェに

泊まる労働者たちと、路上に寝るホームレスの人たちをあえて、区別しているように思われます。 このように、貧困の世界にも新たな分断が持ち込まれているわけです。そして、貧困の中でもさ

らに差別されている人たちは、仕事に就くことができない、福祉・社会保障を受けられないだけで

なく、住居を失って路上で寝泊まりせざるを得ない。路上で寝泊まりするために、若者などの襲撃

を受けて殺されてしまうこともあります。また、路上や公園で寝泊まりしているために、役所によ

って、強制手的に排除されたりします。そのような排除の事件がここ三年に相次いでおります。こ

れについては午後の部で大阪の中桐さんの方から詳しいお話があると期待しております。 また、路上で何の保護もなく生活せざるを得ない人たちは、治安管理の対象とされています。生

き延びるためにどこかに寝ている、それだけで犯罪者扱いされる。さらに、生き延びるために何ら

かの食料を手に入れようとして、あるいは生活の糧を得るために、ゴミとして廃棄されたアルミ缶

を集めたりすることが、窃盗罪ということで、捕まるということさえ起こっています。貧困で何の

支えもない人たちが、犯罪者に仕立てあげられようとしている。そして刑務所に送られる。このよ

うな厳しい排除を受けているのが、今の日本社会の現実です。 2 自立した個人の公正な競争と社会的排除 (1)妥協なき構造改革と「自立」の席巻 このような社会的排除を支えているキーワードがあります。それは、「自立 independence」とい

うことになります。そして個人の自由な選択。そして、「自己責任」。「自立」と「自己責任」とい

う言葉が、この社会的排除を支えている言葉になります。今年 2007年の年明けとともに、日本経団連は『希望の国、日本』を発表しました。その基本理念は、自立した個人の自由な競争と自己責

任であります。これは、日本は希望の国であるというふうに言っています。『希望の国』では、人

種、信条、性別、年齢、障害の有無などにより差別はされない、と言っております。しかし、結果

の平等は求められない、結果の平等は許してはならない、と言っております。なぜなら、公正な競

争、人々のやる気、それを失わせるからだ、というわけです。結果の平等は無気力と怠惰を助長す

る、つまり、社会保障や公的扶助は怠け者を作り出すだけだから、そのようなものは最小限度にと

どめるべきである、というわけです。公的扶助、社会保障などを整備するよりは、企業の中で頑張

って働く。就労して、働いて自立する、そういう道徳を国民の中に育てなければならない、このよ

うに言っております。このような考え方に基づいて、日本の政策はこの 20 年間進められてきました。1980年代始めから現在に至るまで、行財政改革、行政や財政構造を全面的に変えていく。様々な経済活動の規制を撤廃していく。さらには社会保障とか雇用など、国家の積極的な規制によって、

社会的な公正を確保するための分野においても規制を撤廃していく。雇用における規制の緩和。社

会保障における規制の緩和。社会保障における規制の緩和というのは意味が通じませんが、それは

どういうことかと言いますと、社会保障においても国家の責任を最小限にして、個人の自助努力に

よって、生活を支えるようにするということです。それはアメリカやヨーロッパで”work fare"と呼

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ばれるような、日本では「就労自立」といわれるような政策です。 (2)再チャレンジと排除の重層化 総務省の労働力調査結果によれば、2007 年 1 月から3月の平均で、役職を除く雇用者のうち、非正規雇用の占める割合は 33.7%になっています。この数字は労働者派遣法が施行された 1986年の 16.6%に比べて、倍以上伸びております。性別で見ると、男性 18.4%、女性 54.1%であり、15才から 24 歳の若年労働者では、約半数が非正規雇用という状況です。このように非正規雇用が爆発的に増えていますが、非正規雇用の中にはパートタイム労働、日本では特に若者がパートタイム

労働に就くときは、アルバイトというドイツ語を使っております。そして、契約社員、短期の雇用

で働く有期雇用の形態、あるいは派遣労働といったような、多様な働き方があります。こうした多

様な働き方を、それぞれ個人が自分の判断で自由に選択しているのが今の日本社会であると考えら

れているわけです。このように多様な働き方を自由に選択できるというのは、個人の自由がよりよ

く保障された公正な社会だからである、というのが企業や政府の考え方です。特に、経団連会長の

キャノンの会長である御手洗さんは、自分の会社でも本当はやってはならない製造業の派遣労働を

やっておりました。これは法律で禁止されていることです。請負労働を装っていたのですが、実際

には派遣労働であった。それが、違法であるということで、社会的に避難を浴びた時に、御手洗さ

んはこう言いました。 「それは法律が悪いのだ。法律を改正しろ。」 これは、泥棒した犯人が捕まった時に「私は悪くない。法律が悪い。」と言うのと全く同じこと

です。 このような非正規労働者は、低賃金であるということだけではなくて、正社員、正規雇用の社員

には行われている社会保険などが補償されておりません。健康保険と医療保険や年金に加入するた

めには、週 30 時間以上の労働時間がなければならないわけですが、企業はこのような年金や健康保険に入らせないために、あえて短時間に雇用をとどめています。契約期間を短くして、できるだ

け保険に入らせないようにしています。それは、保険料負担を免れようとするからです。賃金を払

わないだけじゃなくて、社会保険料も払わない。非正規労働者は、正規雇用の労働者の半分以下の

賃金ですが、さらに、保険料も払わないことによって、さらに、儲けているわけです。言ってみれ

ば、4倍儲けている、と言えるでしょう。そのような中、政府の役人や、政府の経済政策を推進し

ているイデオローグの経済学者は、こう言っています。 「現在の正規労働者、正社員と、非正規労働者との間には、極めて大きな格差がある、賃金格差

や社会保障などの格差がある。これは、由々しきことである。」と。「なぜ、このような格差がある

のか。それは、正規労働者が悪いんだ。」と。「正規社員が自分たちの特権にしがみついているから、

ワーキング・プアが虐げられているのだ。」と、言っています。だから、正社員の待遇を引き下げ

て平等にしろ、と言っています。賃金を下げるだけではなくて、もっと言うと、正社員という、正

規雇用自体をなくそうとしています。解雇自由、いつでも解雇できるようにしたいのが、今の政府

や経済界の考え方です。現在、解雇することは法律で制約されています。しかし、お金を払えば、

補償金を払えば、解雇できるという制度を導入しようとしています。このような企業の利益を最優

先させるような政策を、非正規労働者、貧しい人たちの権利保障のために行うのだ。このように政

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府や財界は言い張っているわけです。 このような言い方に、非正規労働者たちは騙されるでしょうか。たしかに、自分と同じだけしか

働いていない正社員が、自分よりも給料が倍以上である。病気の時は有給休暇もとれる。病院にも

行ける。しかし、私は半分以下の給料で、有給休暇も取れずに、また病院に行くための保険もでな

い。これは非常にやりきれないことです。正社員を恨むこともあるかもしれません。しかし、現実

はそのようなことばかりではありません。非正規雇用の労働者たちが、正社員の待遇を悪化させる

制度の導入に反対して、果敢に闘っています。 今年、ホワイトカラー労働者、正規労働者、賃金を実質上大幅にカットするための政策である、

ホワイトカラー・エグゼンプションというものを、国や企業は導入しようとしました。しかし、こ

れに対して最も果敢に闘ったのは、フリーター労組や、派遣の労働組合員、フリーターというのは

これも難しいかもしれませんが、アルバイト、パートタイム・ジョブなどに従事している若者たち

の労働組合、が率先して反対の声をあげました。既存の正社員中心の、正社員しかほとんどいない

労働組合は、なかなか反対の声を上げられなかったのに、非正規雇用の労働者たちは大きな声で反

対の声をあげました。 最近、経団連の御手洗富士夫会長が言っていることをちょっとご紹介しましょう。現在、生活保

護の金額の引き下げを必死に政府や財界、揃ってやろうとしているわけですが、御手洗会長はこう

言っています。 「生活保護は、自助努力の精神を阻害する。健常な身、健康な身体で働かない、働こうとしない

者の身は、補償すべきでない。自助努力をしない人は駄目だ。」 こう断言しています。経済界が、企業が生活保護の引き下げに熱心になるのはなぜでしょうか。

生活保護は企業が出すわけではありません。なぜ、企業が生活保護の引き下げに熱心になるかとい

えば、生活保護基準が、最低賃金の基準を決定する際に、大きな決定力を持っているからです。そ

して今、厚生労働省は、生活保護基準、その中の生活扶助を引き下げようとしています。これほど

貧困が社会的問題となっており、また、生活保護を受けることができずに餓死をする人がいる状況

のなかで、なぜあえて生活保護を下げようとするのか。極めて理不尽なことであろうと思います。 3 社会的排除克服の可能性 戦後日本の労働組合は、一つの企業に一つの労働組合というような企業内組合という形で組織さ

れてきました。また、その労働組合に組織されたのは、正規雇用の労働者でした。非正規雇用の労

働者、あるいはその会社の下請け企業の労働者、あるいはさらにその下請けの下請けの労働者。一

番末端の現場の労働者の多くは、たとえば建設業においては、日雇い労働者でした。彼らは、本来

は違法な建設労働に派遣されて労働していた人たちです。いわば、労働法の保護の外に置かれてき

た人たちです。そして、彼らは社会保障からも排除されてきました。そのような人たちが、現在野

宿生活に追いやられています。また、1980年代以降に、拡大してきた非正規雇用の労働者たちも、雇用や社会保障から排除されています。しかし、そのような非正規雇用の労働者たちは、現在、力

を失っている従来の企業別組合に代わって、非常に活発な活動を展開しています。2002 年には、全国の地域ユニオンというですね、個人加盟の労働組合があります。その地域ユニオンが全国的な

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組織を作り、そして非常に活発な活動をしています。その全国ユニオンなどに参加している派遣労

働者のユニオン、労働組合も作られて、多くの成功をあげています。現在最も大きな問題の一つで

ある、労働者派遣業の最大手の企業の中で、労使協定を結ぶという大きな成果をあげました。その

中でも、日雇い派遣労働者たちに、雇用保険を適用させることを約束させました。これは極めて大

きな成果です。 また、生活保護の引き下げや、あるいは生活保護を生活困窮者に対して出さない福祉事務所に対

する闘いを、全国各地の生活困窮者やその生活困窮者とともに闘う法律家たちが、多くの成果を上

げております。全国の生活困窮者や法律家たちは、全国的な組織を作って現在の生活保護の引き下

げに対して反対する闘いを行っております。 4 まとめ 最後に、これは午後の討論のために一言お話ししておきます。 公園や路上で生活している野宿者、ホームレスの人々に対する排除は極めて厳しいものがありま

す。それに対して、強制的な追いたてに対する闘いというのが、非常に果敢に行われています。し

かしそれは、暴力に対して暴力で対抗するという形ではなくて、暴力に対して、暴力を無力となる

ような新しい闘い方で闘っております。暴力を無力とし、新しい社会を創り上げる、そのような闘

いです。 たとえば、これは東京の代々木公園、そこにホームレス生活、野宿生活をする若者たちが作った

カフェがあります。カフェ。ここではお金がかかりません。笑顔と、温かい気持ちと、何か持って

いけば挨拶だけでも、お茶を飲ませてくれます。このようにして人々が出会う新しい世界をホーム

レスの人たちが築き上げています。 静岡での活動も紹介します。これは、仕事を奪われたホームレスの人たち、失業者たちが、仕事

を作っている場面です。ものをつくっているのは確かです。牛乳パックのリサイクルなんですけれ

ども、牛乳パックをリサイクルして、葉書を作る作業をしているわけです。しかし、彼らの目的は

ものを作ることではありません。仕事を作ること。そして、仕事を一緒にやる仲間を作ること。そ

して、仲間と一緒に仕事をできる場所を作ること。これが彼らの目的です。彼らから仕事を奪い、

居場所を奪い、排除する権力に対して、彼らは暴力ではなくて、新しい世界を作ることによって対

抗しているわけです。 午後にお話をしていただく中桐さんも、そのような素晴らしい試みをされました。今年2月大阪

の長居公園に住む、ホームレスの人たち、テント村を作って生活してきた人たちに対する排除が行

われました。これに対しては、フランスなどでも、抗議の活動が行われたと聞いております。この

排除に対して、中桐さんたち長居公園のみなさんは素晴らしい対抗、カウンターの行動を行いまし

た。それは、舞台を立てて、その舞台の上で演じることでした。これは、舞台という場所を作り、

そして演じることで人々に呼びかけて、出会う場所を作った、ということです。そして出会う場所

を作って、呼びかけることによって、新しい人間関係、新しい社会といったものを創り出そうとす

る試みだったと思います。排除に対する闘いは、暴力によって人を排除することではなくて、排除

との闘いは新しい社会を創り出す、そういう創造的な闘いだということをまさに証明した例だと思

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います。このような形で、仕事も居場所、家も奪われた人たちが、新しい社会を作り出し続けるこ

とによって、排除と闘っていくことになると思います。以上、私のお話を終わりにさせていただき

ます。ありがとうございました。 司会 笹沼先生、ありがとうございました。フランス、韓国、それから日本、という歴史的・文化

的な背景が違う、経済的な発展のプロセスも違う、そういう国々のお話をうかがいながら、それで

も、同じようなことを経験しているんだなぁと、ひしひしと感じることができました。やはり個人

レベルに説明を求めていく新自由主義的な考え方によって、社会的弱者、貧困が作られ構造化され、

それを正当化する文化的な暴力が働いているのだ、というふうに考えていかなければならないんじ

ゃないか。そしてここでは当事者の声を聞き、当事者主体の活動を支えながら、同時に一般市民を

巻き込んでいくような、経済的論理ではなく、むしろ政治的な論理を打ち立てていくことが非常に

重要なんじゃないか、というふうに考えました。 それでは、これで基調講演の部を終わらせていただきます。どうもありがとうございました。

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パネルディスカッション

「野宿者、フリーター、移住労働者の現状と課題」

司会(下川)これから午後の部を始めたいと思います。午後の部は、「野宿者、フリーター、移

住労働者の現状と課題」というテーマでパネルディスカッションを行いたいと思います。午前中に

基調講演という形で、フランスの現状と韓国の現状、そして日本の現状に関しては全体像の話をし

ていただきました。午後の最初のパネルディスカッションでは主に、日本の現場の話、特に野宿者、

フリーター、移住労働者の現状と課題、そして彼らの運動がどのように行なわれているのかという

ようなことを知ってもらうため、現場の報告を中心に話していただきたいと思っています。 それでは、まず野宿者の現場から、釜ヶ崎パトロールの会の中桐康介さんに話をしてもらいたい

と思います。中桐さんは長居公園に実際に住みながら、野宿者の仲間作りや、そこでの仕事作り、

そして強制排除に闘うというような様々な活動を何年もやってらっしゃいます。そういう野宿者の

現場からの話、そしてまた彼はこれらの運動を新自由主義への対峙として位置づけておられるので、

そのあたりも含めて中桐さんの話を聞きたいと思います。では、中桐さん宜しくお願い致します。

報告:野宿者の現場から

中桐康介(釜ヶ崎パトロールの会)

こんにちは。中桐です。よろしくお願いします。こういったところで話をするのは今でも慣れな

いので、今日も緊張していまして、うまいことしゃべれないかもしれませんが、よろしくお願いし

ます。 今、下川さんにご紹介いただきましたが、僕は 6年前に、当時通っていた大学を辞めて、大阪に長居公園という大きな公園があるのですが―サッカーのワールドカップが開催されたり、この間は

Mr.Children のコンサートもやっていたんですけど―そのような大きな公園に引っ越しました。2002年の4月です。それから 5年間そこで生活をしながら、野宿の仲間と運動を進めてきました。今年の 2 月 5 日に強制排除をされまして、今は大阪市の北の方にあります扇町公園という公園で20 人くらいの仲間と一緒に暮らしながら、釜ヶ崎パトロールの会としての活動をしております。野宿の問題についての報告は、午前中の笹沼さんのレジュメに詳細に書かれておりますので、僕の

方からはそこと被らない部分を話させてもらいます。

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1 この十年の経過 90年代前半 バブル崩壊 釜ヶ崎反失業闘争 90年代後半 「野宿者問題」の顕在化 NPOやボランティアの登場 1999年 厚生労働省「ホームレス三類型」 生活保護拡大 2000年 長居公園シェルター 「貧困ビジネス」 2002年 ホームレス法制定 法による二重基準 最初に、笹沼さんのレジュメの最後の方で非常に過大な評価をいただいたと思っているのですが

(注1)、長居公園の強制排除に当たって、僕ら仲間と一緒に芝居の上演をしました。その様子を

ビデオで見てもらいたいと思います。まずはご覧いただきたいと思います。 このブルーシートで覆われたところが、今から舞台が登場するんですが、ここは元々僕ら村に住

んでいた仲間の食堂でして、2、3 日前の晩にこっそり、その中に丸太を組んで舞台を隠していたんですね。今ここからでは見えにくいのですが、画面の右手側に僕らの暮らしたテント村がこの時

点、15 件くらいあります。左手側、これはもう見えないのですが、何百人というガードマンと市の職員、それから警察とたくさんの野次馬がいます。今まさに対峙している状態です。次の場面お

願いします。 ついでに、この芝居に登場した仲間ですね、テント村の中で暮らした仲間にどんな人がいたのか

ということも紹介したいと思います。この、舞台の上で金髪で白い化粧をしている、彼の年齢は当

時ちょうど 50歳です。野宿生活になって 3年です。以前は板前さんをやっていたんですね。95年の阪神大震災で店が被害にあって潰れてしまって、たくさんの借金を抱えて従業員への給料も払え

ない状態になってしまいました。そこで、もう家も店も売り払って、大阪の方へやってきたという

経過がありました。そういったことがきっかけとなって、家を出てしまったのが三年前です。野宿

になった当初は長居公園の陸上競技場の軒下で 1年くらい暮らしていました。その後に、子どもたちによる襲撃が続いたということもあって、このテント村で暮らすようになりました。 次に登場する労働者なのですが、彼はこうして「愛してる!愛している!」と叫んでいます。目

の前にガードマンや市の職員や警察がいるわけですが、彼は、ガードマンたちにこの言葉を言いた

いとしきりに言っておりました。彼は 30 年間、釜ヶ崎だとか東京の山谷だとか日雇労働者の町を渡り歩く日雇い労働者だったんですね。この 1年半前に大阪にやってきました。僕らの村で暮らしている間は、彼は電化製品、ビデオデッキだとかテレビだとかコンポだとか、そういったものを近

所で拾い集めて、暮らしをしていました。強制排除された後も、釜ヶ崎の近くでそのような暮らし

をしています。彼が警備員に対して「愛してる」という言葉を叫びたいと言ったのは、僕らの野宿

の労働者の多くはやはり、警備員という仕事を経験しているんですね。野宿になる直前の仕事が警

備員だったとか、野宿生活からやっと見つけた仕事が警備員だったとか。だから彼は、警備員に対

して「同じ労働者としての仲間なんだ」ということを言いたかったんですね。ぼくらが度々抗議行

動に出向く市役所周辺の警備に当たっているガードマンが、実はかつて釜ヶ崎の労働者だったとい

うこともありました。この人は長居公園で野宿生活をして、かれこれ 10 年という人で、その間にも 1997年の 10月に開催された「なみはや国体」の際の排除や 2002年のサッカーワールドカップ

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の時の排除、施設収容などを経験してきました(注2)。それでも当時は、それなりに説明会とか

交渉とかがありました。ところが今回は、公園事務所が「いっさい妥協しない」と言ったこともあ

って、この大阪市の姿勢の変化に対して非常に腹を立てていまして、「わしは最後までやる」と言

っていました。 この状態で 3時間くらい頑張ったんですかね、芝居を繰り返し上演しながら 3時間くらい頑張って、最後には市の職員がヘルメットを被って一斉に排除にかかって立ち退かされたわけですが。な

ぜこのような芝居の上映ということになったのか、というと、口の悪い人から言わせれば、もっと

真面目にやれ、ちゃんと闘えよというような人もいたわけですが、僕らはいたって真面目に、真剣

にこの芝居を上演するということになりました。その過程を説明するのにいくつかレジュメを追っ

ていきたいと思います。 この 10年の経過についてはここでは多く触れません。一つだけ、1999年、厚生労働省が大きな方針を出したということに触れます。現在の雇用の不安定化を引き起こした経営側の指針として、

1995 年に日経連が出した「新時代の日本的経営」というのがありましたけど、それと非常によく似た「ホームレス三類型」という方針を、厚生労働省が打ち出しました。3つの分類のうち1つ目は、就労意欲のあるもの、2 つ目が医療や福祉の保護が必要なもの、3 つ目に社会生活を拒否するもの、といった三類型にわけまして、それぞれ政策のフローチャートを決めて一貫してこの三類型

にのっとって大阪市の場合でも、他の自治体でも、のっとっているわけです。 2 長居公園での経験から (1)野宿者に対する排除と収容 長居公園で見てきたことについて報告します。(1)この 10年の経過のところで、2000年長居公園シェルターと書いてありますが、これは、上智大学学内共同研究「知っていますか?野宿者のこ

と。」(2006 年度)で僕が話をさせてもらったものの記録があります。ここでも触れているかもしれませんが、長居公園で大きな動きがあったのは、2000年の 12月に仮設一時避難所というシェルターが建てられたことです。シェルター設置以前は、500人の労働者が長居公園の中で暮らしていました。公園を歩くと、緑よりもブルーシートの方が多いという状況です。そこへこのシェルター

を建設して、そのブルーシートの排除を進めた大きな動きがあったのが 2000年でした。このときに、500人の野宿の労働者が突き付けられたのが、施設に入るか、もし入らないのだったらいずれ強制排除するぞ、ということでした。入所か立ち退きかの二者択一を迫られる中で、最終的にはほ

ぼ全ての人が長居公園から出ていくことになりまして、2002年に僕が長居公園に引っ越した時は、2000年当時に公園で暮らしていた人は一人もいない、という状況でした。 今回の長居公園の行政代執行のような大掛かりな強制排除というのは非常に注目を集めるわけ

ですが、「強制排除も辞さないぞ」というような圧力を受けながら進められる、見えにくい排除と

いうのが日々進行していることが非常に重大な問題だと思っております。 丁度ひと月前、40 人の労働者が強制排除されるということがありました。それは、大阪市の市

役所がある中心街に、中之島公園という公園があるのですが、そこで 40 人くらいの人がテント小屋がけで暮らしていました。今年の春先 6月くらいに立ち退きを求められました。その時に公園の

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事務所から言われていたことも曖昧なことなんですよ。「秋頃には出て行ってもらわないとあかん

で」と。「来年の花見の時までには出て行ってもらわないとあかんで」と。中之島の仲間の尻に火

がつきだしたのが秋になってからでした。「11月1日はフェンスで封鎖するから、それまでには立ち退いてくれ」と。 今、その中之島公園はフェンスで封鎖されて、その 40 の労働者は誰もいません。工事が既に始まっています。彼らの中で、大阪市の方で用意したシェルターに入った人もいますが、今も他の公

園で野宿している人もいます。新たな場所にテントや小屋を建てた人も7人いますしダンボール一

枚で路上で寝ている人もいます。ただこういった排除が日々起こっているということは、もちろん

新聞にも報道されませんし、この渋谷駅のような事件は、きっと渋谷駅だけではなくてあちこちで、

大阪市でも起こっていることだと思います。これが今現在、進行していることです。 3 社会的排除との闘いの中で (1)貧困を可視化するテント村・直接行動としてのテント新設の闘い 僕らがテント村でどのようなことをやっていたのかということを、簡単に説明いたします。僕が

長居公園に越した 2002年の4月、その時点では、このような村で、黒板の置いてある左側の建物が食堂なのですけれども、そこにさっきの芝居の舞台を建てたんです。僕が引っ越した時には、も

うその画面に映っている周辺の7軒しかありませんでした。 その年の秋に 2つの大きな事件があって、次の正月にはこの、右側、左側、両側全部に 26軒、だから 1年間で 20軒のテントを建てていきました。これが僕らにとって非常に大きな取り組みでした。というのも、2000 年にシェルターを設置して以降、長居公園はガードマンが雇われて、24時間監視下におかれて、そのガードマンの仕事が、新しいテントを建てさせない、張らせないとい

う仕事だったからです。 この年の秋に起こった事件の一つというのが、大規模な襲撃事件です。その事件で、僕の知って

いるだけでも 3人の人が重傷を負わされて、救急搬送をされています。近所の中学生がやったんですけど、連続的に大規模な事件がありました。それからもうひとつは、この長居公園から歩いて

30分くらいの近所で、30人くらいの人が追い出されるということがありました。僕らはその襲撃と追い出しを受けて、襲撃で危ないからうちにおいでよ、安心して寝る所がないんだったらうちの

ところにおいでよ、ということで声をかけていって、新しいテントをどんどん建てていったわけで

す。 ガードマンはもちろん抵抗しました。ずっと巡外監視しているのですが、僕らがテントを張ろう

と木から木へロープを一本張ったらすぐにトランシーバーで連絡をとって、6人くらいのガードマ

ンがやってきます。さらに 10 人くらいの公園事務所の職員がやってきます。それを僕らが分担して、まさに体を張ってガードマンを止めながらテントをバサッと被せて、中に布団を放り込んで横

になったら勝ちというようなことを繰り返し深夜にやったり、色々あの手この手でやってきた訳で

す。 こうやって、かつて 500軒があったテント村がほぼゼロになって、近所の人とか公園使っている人とか皆思うわけですよ、「長居公園では野宿の問題が解決したな。解決にむかっているな。」と。

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全然そんなことないわけで、次から次へと新たに野宿になる人は生まれていました。そうすると彼

らを受け入れていく場所を作っていくことが一つだし、目に見えない形で排除されている問題を目

に見える形で表現していくということも積極的な意味付けとしてやっていました。

(2)うつぼ公園強制排除 次に、なぜ芝居で抵抗しようということになったかについてです。長居公園の強制排除の 1年前

にうつぼ公園という大阪市内の公園で強制排除がありました。このときは 17 人の労働者が排除の被害にあっています。彼らのうちの 5人は長居公園に引っ越してきましたし、長居公園にいた仲間もうつぼ公園の強制排除の応援にいきました。うつぼ公園の強制排除の現場では、8時間くらい押し合いへし合いの攻防があったわけですが、そこで新聞やテレビも沢山来て報道するわけですよ。

ですが、マスコミを通じて報道されたものというのは、やはり暴力的なぶつかり合いであったり、

同情や支援の対象としての野宿者の描かれ方であったりで、どちらにしてもひどく一面的なんです

よね。野宿の仲間の生活のとても豊かな面は描かれない。ましてや強制排除のような場面では、無

理ですよ。 ぼくらはその描かれない部分を何とかしたかった、というか、暴力的な描かれ方ばかりすること

に我慢がならなかったんです。うつぼの時とは何か違うことをやろう、ということだけはお互いに

言っていたんです。テント村の仲間で。何をもって「暴力的」というのかは論議が必要なんですが。 たとえば、公園事務所の職員との関係でも、彼らとはぼくらは日常的に接しているわけです。他

愛もない挨拶からちょっとしたお願いから、緊張関係はもちろんあるんですけど、それでも一定、

互いを尊重しあった関係がある、はずだと僕は思う。だから、野宿の仲間が自立支援センターに入

らない理由だとか、強制排除が何の解決にもならないことは、彼らは熟知しているんです。うつぼ

公園の強制排除のときでさえ、決して喜んであの作業をしているわけではない、と僕は信じてる。

だからこそよけいに罪が深いんですけど。地域社会とのかかわりについても、「アルミ缶持ってき

たで」と差し入れてくれたりとか、「犬を預かってほしい」と頼まれたりとか、迷子になった子ど

もを捜してほしいとか、朝夕に挨拶を交わしたりとか、トイレの流しをできるだけきれいにしてお

こうと気をつかったりとか、とにかく争いや対立ばかりじゃない日常生活があったわけです。これ

を表現したかったんです。

(3)「自立支援」への抵抗 私が野宿者の運動にかかわりを深くしていったのは、先に申し上げた 2000年の排除がきっかけでした。このときはサッカーのワールドカップ日韓大会開催のためと、大阪オリンピック誘致のた

めの排除だったんですが、この排除の時期に私は、当時まだ大学生だったんですが、聞き取り調査

をやったんです。仲間の会のテントに泊まりこみながら、50 人以上の労働者に長い時間をかけて聞き取りをしました。 そこでわかったことと言いますか、僕なりに受け止めたこととのいうのが、野宿の労働者の豊か

さとでも言うべきものだったと思います。彼らはシェルターに入るか否かの二者択一を迫られてい

たわけですが、シェルターに入らずに頑張っていた労働者は、みなアルミ缶拾いの仕事でやってい

けているわけですよ。食べているわけですね。彼らはみんな「自力でここまでやってきた」という

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誇りを持っている。そこへもってきて、「排除ありき」という大阪市の姿勢、お仕着せの「自立支

援」に強く反発したんですね。野宿労働者が排除の過程で奪われるのは寝床だけじゃありません。

仕事を通じて得てきたこうした労働者としての誇り、地域の住民や隣近所の仲間との人間関係、そ

ういったもの、これは財産ですね、貴重な財産。そういったものまで根こそぎ否定され、奪い去ら

れる経験なんです。 また一方で、野宿の仲間は「自己責任論」とよく似たスティグマを深く負わされているのも事実

です。「こうなったのも仕方ない」、「わしが悪かったんや」という傷と、「ここにテントを張ってお

っていいわけがない」という負い目との 2つがあります。 私が長居公園で野宿の仲間と一緒に作っていきたかったものっていうのは、この財産を守り育て

て、傷や負い目を取り除いていくということなんです。だから僕らの運動というのは、必ずしも野

宿からの脱却を求めるものではありません。たとえ野宿であっても、安全・安心のうちに暮らせる

こと。その先に、憲法 25 条に「すべての人は健康で文化的な生活を送る権利を有する」とあるのになぞらえて、「健康で文化的な野宿生活」を目指すことができるんじゃないかと考えています。

そのための方法論をしっかり持っているというわけじゃあないんですけどね。 (注1)「排除に対する闘いは、暴力によって人を排除することではなくて、排除との闘いは新し

い社会を創り出す、そういう創造的な闘いだということをまさに証明した例だと思います」(笹沼弘志講演より抜粋) (注2)双方とも長居公園に敷設されている大阪長居陸上競技場(通称長居スタジアム)で開催された。

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司会 中桐さんありがとうございました。大阪の長居公園での経験から、またうつぼ公園の強制

排除の現実を分かち合っていただきました。それと同時に、これらの問題の根にある排除と分断を

引き起こす新自由主義の問題点も明らかにしていただいたと思います。さらには、それでも公園で

の野宿者のコミュニティに存在している将来への可能性やコミュニティ再生の必要性、また分断を

乗り越える闘いなどについても語っていただいたと思います。 ただ補足するならば、今の政策の流れの中では、全国的に公園で新しいテントはもう建てられな

いようになってきており、ある意味でコミュニティを再生することは不可能なような政策がどんど

ん進んでいるわけです。そして政策においては、コミュニティの再生を阻止するだけでなく、さら

なる分断を強いるような方向が進められています。具体的には、行政は公園や河川敷でテントや小

屋に住んでいる野宿者と、それ以外の例えば駅周辺に寝場所を決めずに生活している流動層と言わ

れている野宿者とには違う政策を適用します。テントを畳む人だけが利用できる支援策がある一方

で、もっと悲惨な状況にあるテントさえ持てない野宿者には何も対策が為されないわけです。それ

によって同じ野宿者どうしが分断されます。このようなことが起きているわけですが、これは、先

ほど笹沼さんの話であったように、厚生労働省が言う「ネットカフェ難民」、つまり住所喪失労働

者と野宿者(ホームレス)は違うという話にも出てくる共通な傾向です。つまり、新自由主義的政

策の一つの本質は、貧しい人々や社会的弱者を、排除するだけでなく、それらが繋がれないように

分断していくということのように思います。その流れの中で、例えば野宿者とネットカフェ難民(住

所喪失労働者)、さらにはフリーターなど、もちろん次の話の外国人移住労働者もそうですが、そ

れぞれが一緒に今の社会のおかしさに抵抗するようなことが出来にくくなる方向に、行政が分断を

しようとしているのではなかろうかとも思います。 このシンポジウムでは、この分断に対して実は全部の問題が根の部分でつながっているのではな

いか、だとしたらもっとお互いの問題を共通なものとして理解し分断に抗することが重要ではない

かということで、午後のパネルディスカッションではそれぞれ野宿者、フリーター、そして移住労

働者の現場から一堂に集まって報告してもらうことを考えたわけです。 そのようなわけで、次はフリーター全般労働組合の山口さんに話をお願いしたいと思います。フ

リーターの労働組合は、最近段々増えてきています。急に有名になったグッドウィルユニオンとか、

フルキャストユニオンなどいろいろありますが、フリーター全般労組は彼らとも繋がって運動され

ているし、また若い人たちが非常に多くて、私から見たら一番生き生きした労働組合じゃないかと

いうような印象をもっています。ここには学生の方々が大勢おられますが、たぶん他人事じゃない

と思います。大学を卒業しても、正規就職しない人、しようとしてもできない人もいるでしょう。

そういう時にはフリーター全般労組を知っておけば、後々助けになると思いますので、そういう事

も含めて山口さんにお話をお願いしたいと思います。山口さん宜しくお願い致します。

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報告:フリーターの現場から

山口素明(フリーター全般労働組合)

ご紹介に与りました山口です。毎回こういう前置きなのですが、フリーター労組というと、もう

少し若いやつが出てくるんじゃないかと思われるのですが、白髪交じりのおっちゃんが出てきて申

し訳ありません。

では、まずレジュメに沿って進める前に、フリーターをめぐる状況を軽く話していきたいと考え

ております。みなさん、「フリーター問題」の語られ方を少し思い起こしていただきたいと思いま

す。一般的には、働かない若者の問題、つまり先々のことを考えないその日暮らしをしている若者

の問題と捉えられてきました。統計では内閣府定義であるとか厚生労働省定義っていう形で、そう

いうフリーターの数が膨大にあることが問題だとされてきました。ですが、この意味でのフリータ

ー問題というのは、すでに解決していると言って良いと思います。なぜならば、フリーター数は年々

減少しているので。フリーターは統計上どんどん減らされているんですね。なぜかと言うと単純な

話で、子どもが少ないからです。「15 歳から 34 歳までのアルバイトをしている人」これが政府の

言う、フリーターなわけです。そうしますと、35 歳になるとフリーターじゃなくなりますから、

当然、私も年齢的にはもうフリーターではありません。新しくフリーターに入ってくる子は、少子

化ですので少ないというわけです。従ってフリーター問題はどんどん解決に向かっているという、

こういう構造に今なっているわけです。

一方で、私なんかを指して、新しく厚生労働省が「高齢フリーター」という言葉を作ったようで

す。高齢フリーターの問題は若者とは別にあるとかなんか話をしているようです。先ほど下川さん

の方からも話があったように、色々なところで細分化、分類をして、それで個別に別々の問題だと

扱う行政の姿勢は本当にあるなと思います。

若年フリーター、いわゆる若者への対策で言うと、あちこちに、たとえば経済産業省が「ジョブ

カフェ」事業というのを設置しています。最近の『AERA(アエラ)』(注1)で面白い記事が出

ていました。その記事によると、経産省は、地域にこの事業をまる投げしていて、そのまる投げさ

れた地域がさらに地元でそれを引き受ける民間企業やNPOに運営をまる投げしているそうなん

です。たとえばリクルート社が請け負って、それでキャリアカウンセラー、―就職相談員なんです

けれども―を派遣するんですね。それでリクルート社が経産省から受け取っているキャリアカウン

セラーの給料とのは、どうやら日給 12 万円だそうです。しかも実際に現場でジョブカフェの職員

が受け取っているのは月給で 20 万ちょい」っていうことですから、一体いくらリクルートがパク

ッてるのかっていう問題がそこで出てくるんですね。

新自由主義政策っていうのは公共的な支えや行政の関与をなるべく減らしていく方向でいって

いるわけだけれども、その背景には就職に困っている貧困な若者をネタにしたビジネス作りがある。

『AERA(アエラ)』が報じたリクルート社なんかはその典型であったんですけれども、そうい

うある意味で若者貧困ビジネス(注2)を展開している会社もあるという状況です。

そしてもう一点。フリーター労組にはマスコミの方々から様々な取材がきます。その中で、一番

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多いパターンっていうのが、「貧しい人を探しています」と、「生活困窮フリーターを紹介してくだ

さい」。これが非常に多いんですね。もちろん貧困の問題っていうのは、先ほどの話にも出たよう

に、「ネットカフェ難民」というふうに言われる人々の問題や、それこそ明日のご飯に困る、住む

所がない、そういう人たちがたくさんいるわけなんです。しかしそのマスコミの視線がですね、「貧

しい者を見たい」あるいは「貧困で悲惨なものを見たい」っていうところにすごくシフトしている

なと感じています。この間のNHK特集(注3)以降、比較的「貧困」っていうのが社会的論点に

なったわけなんですけれども、その視線には問題があるなと思います。労組内でも、もちろん貧し

い人はいますよ。たくさんいますけども、「貧しい人を見たいっていうことで、取材が来てるんだ

けど、受ける?」って聞いても、そりゃ普通は受けませんよね。それはその人の生活の中に入って

ご飯食べているところだとか、働きに行くところを撮らせてくださいっていうわけだけれども、そ

んなの嫌ですよね。考えてみたら、テレビ番組は製作会社なんか全部外注で下請けでやっているわ

けだから、そこにも貧しい人がたくさんいるのに、その足元を映さずに外の貧困を映したいってい

うことがよく聞く話です。

もちろん貧困問題はあります、この間も生活保護法の基準が切り下げられました。最低賃金より

も生活保護基準が上回っていると、だから働いても生活保護基準以上に賃金がもらえない人たちが

いる、これワーキングプアだと言っていたわけですが、ひどい話で、解消するのは簡単だと。保護

基準を切り下げていけば、ワーキングプアは解消するって、そういうふざけた計算でやっている。

実際はそうではなくて、生活保護を申請しようと思ったって、窓口に行っても断られて―本当はそ

んなの申請主義だから書類をとにかく出したら審査しなくちゃいけないんだけども―ところが審

査すらしない、申請書類を出すことすらしないということをずっとやっておいて、それで最低賃金

ぎりぎりのところで、あるいはそれを下回る基準で働かされたりしていることこそが問題なのであ

って、生活保護を切り下げるという問題ではないはずなのです。ところが残念ながら、そういう形

で問題が出ています。だから貧困という論点は非常に大きな論点です。

1 フリーター全般労働組合とは

でも、僕らはその一方で貧困っていう論点に吸収されきらないところを考えていかなきゃいけな

いんじゃないかと思うんです。それで、ようやくレジュメに入りますが、フリーター労組というの

はですね、今言いましたように、別に厚生労働省の定義に従ってフリーターの労組をやっているわ

けじゃなくて、基本的には職場に組合がなくて、自分の労働条件、あるいは生活の条件に非常に問

題を抱えているという人たちにも利用できる、一人でも入れる組合として作っています。その中で、

僕たちが課題にしていることというのは、不安定な生活を強いられる人たちということで、「プレ

カリアート」なんて言葉で言ってるんですが、これはフリーター、アルバイト、派遣だけじゃなく、

請負で自営業で暮らしている人、農業労働者、農民あるいは小さな商店主、今の社会の中で不安定

化させられている人たちはつながっていかないといけない、と単純に労働者だけの問題だけではな

くて、雇用されている人たちだけの問題ではなくて、そういう不安定化ということをなんとかして

いかないと、これはもう先はないぞっていうことで考えています。

そして、先ほどの話とちょっとつながってくるんですが、その中で僕ら昨年、一昨年、まあその

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前の 2004 年に結成した時は準備会でメーデーをやったんですが、今年、昨年、一昨年(注4)と

メーデーの集会をやっています。タイトルは、「自由と生存のメーデー」というふうに名づけてい

ます。非常に良い名前だと自分でも思っております。なんでかっていうと、貧困という問題の立て

方は、とりあえず生きられるようにしろと要約されるわけですが、生きていりゃいいってもんじゃ

ない。それはすごく重要なんだけども、一方で「自由に生きたい。自分がこの世に生を受けたのは、

別に人と競争したりとか、あるいは生き残るために必死になるためにこの世に生まれてきたわけじ

ゃない。」ということがとても重要です。生きることは何か条件付けられるものじゃない。自由に

自分の思い通りに楽しく過ごしたりとか、色んな人と話をしたりとか、つながったりとか、キレた

りケンカしたりとか、そういうことを自由にやっていきたいっていうのは、大切にしなきゃいけな

いことだと思うんですよね。ところがそれが引き換えにされているんです。自由と生存は引き換え

にされている。「自由に暮らしたいんだろ?だったら生活が苦しくても我慢しろ。」と、あるいは「生

きたいんだろ?だったらそんなわがままを言うな。」と。でもこれは引き換えにされるものではな

くて、やっぱり自由に生きていきたいんですね。そのことをちゃんとしっかり出していきたいとい

う考えが込められているタイトルです。そういう、お祭りを年に一回やります。そしてあとは、こ

の間 12 月1日に「反戦と抵抗の祭り~生きのびる」という集会に関わって、準備してきました。

労働の問題っていうのは単に現場の労使関係の問題ではないし、労働政策だけの問題ではなくて社

会全体の問題です。だから「~生きのびる」のイベントでは、反戦運動や反原発、あるいは農業や

食の問題を扱うグループなど様々な取り組みをこの世の中でやっていこうという人たちと一緒に

イベントを作っていく試みをしたわけです。そういうことを派手なところではやっています。準備

不足で申し訳ないんですけれども、ネットで検索していただければ、どんな感じのイベントだった

のかっていうのがわかると思いますので、興味関心持った方は見ていただきたいと思います。(注

5)

2 取り組み事例

それで本題というか、労組のもうちょっと労組っぽい活動の話をしようと思います。レジュメの

「取り組み事例」っていうところで、この間僕らが取り組んできた事例っていうのを色々ワァーっ

と書いておきました。フリーター労組っていうことで、フリーターのイメージっていうのは、皆さ

ん固定したものがあるかなと思うんですけれども、本当に個々に当たると、個々バラバラなんです

よ。本当に典型的なフリーターっていう、くちゃくちゃガムを噛んでて、金髪で、とかそんな人い

ないですよ。そういう人もいますけど、それは典型という形で存在するわけではなくて、これはも

う本当に様々なんです。だから、働いてるところも様々だし、色々ひどい目にあった場合も様々な

んですね。

(1)ある歯科医院のアルバイト

たとえば、ある歯科医院のアルバイト、―女性なんですが―この方は色々な仕事を転々としてき

て、ようやく安定した職―しかも歯医者で働いているって言ったら、それなりに、周りの人はへぇ

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ーっていうふうにちゃんと扱ってくれます―に就くことができました。キャバクラで働いてるって

言ったら、みんな白い目で見るけど、ようやくこういう仕事に就けたっていうことで喜んでいたん

です。しかし、喜んでいたら、一ヶ月も経たないうちに解雇されました。この解雇の理由は、職場

の人間関係がうまくいかないという院長の判断です。前からいた事務の人とそりが合わないという。

解雇通告はケータイのメールに一通、「もう明日から来なくていいから。気まずいだろうから荷物

は送るよ。」と、こういうメールが来ただけ。その日から、彼女は路頭に迷うわけですよ。だって

もう当てにして、働き始めて一ヶ月後には給料が出るだろうと思って働いてて、二ヶ月後も給料も

らえるだろうって思って働いてて、突然解雇です。解雇予告もなしでやられました。そしてこの方

は組合に駆け込んできた。さて、向こうと交渉したときの院長の第一声が、「アルバイトって労働

者なの?組合とかOKなの?」でした。そういう状況にフリーターの雇用状況はあるんですね。

(2)病院清掃派遣での雇い止め

病院清掃派遣の雇い止めの人。何が理由だったかって言うと、派遣先で「接遇」が悪い。「接遇」

っていうのはつまり、人当たりですよね。清掃の仕事で接遇ってなんなんだってことなんですが、

それを理由にされて、ちょっと困ると言われて、派遣元の方から「じゃあうちで紹介できません。」

っていう話で、派遣会社も雇い止めになった。宝飾店アルバイトの人。この人は一日無断で欠勤し

たということが解雇の理由です。それはもう体調が悪くてどうしてもいけなくて、電話すれば良か

ったんだろうけれども、電話は家族に頼んだところ家族が電話するの忘れてですね、無断欠勤とい

うことになった。本人は持病があるのに、それを会社に言わなかったことは詐欺だ、賠償金を請求

するぞ、なんてことまで言われて解雇です。

(3)地域物産展のアルバイト

あるいは地域物産展のアルバイトの方、この人はレジの金を盗んだっていう容疑で解雇されまし

た。そんなの、社長がいくらでも抜けるような体制で、それでずっと今までもどんぶり勘定でやっ

てて、それなのに本人のせいにされてですね、それで解雇です。諸々です。このたくさんの問題で

共通して見えてくることがあるかって言ったら難しいんですが、まず言えるのは、経営している側

の責任感の無さですよね。人を雇うことへの責任感の無さっていうのをものすごく感じます。

(4)ある予備校講師での雇い止め

たとえば、予備校講師で雇い止めになった人、この人のケース―実は昨日交渉に行ってきたんで

すが―交渉の中で経営の側が何を言ったかっていうと、「新しい人を入れたいんだから、新しい人

を入れるために古い人に去ってもらうのは当然でしょ。」と、こういうことを言うわけです。予備

校は激戦なんだと、予備校は激戦で常に常に新しい人材を入れて、教務能力の水準を向上させてい

かなきゃいけない、だから新しい人を入れるために古い人を雇い止めにするのは当然でしょう、と

こういう言い方をするんです。彼らにとって、人は物なんですよね。つまり、新しい機械が出たか

ら古い機械は原価消却したんだから、もう捨てちゃうのは当然なんだ、という考え方と全く同じで、

そういうことを平気でやる。多くの会社は労働組合も知らない。

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(5)ある宝飾店の場合

先ほどの宝飾店の場合だと、労働組合で団体交渉の申し入れをしたら、経営者がまず何をやった

かっていうと、警察に「ヤクザから脅されてる。」って訴えに行ったんです。「労働組合みたいです

よ。」って警察の方に言われたっていう、そんなことがあったわけですけど。まあ本当に知らない

し、もう一つの問題は、解雇になって相談に来るケースが非常に多いわけです。解雇、雇い止めが

多いってどういうことかって言うと、非常に厳しい状況にあったりとかしても、解雇になるまで働

いてる側も黙っているんですね。これはまあ、自分のことに置き換えてみると、確かに我慢できる

ところまで我慢して、どうしようもなくなったらやろうっていうのはわかんないわけでもないんだ

けども、それだけ労働組合だとか、基本的に法律上保証されている手続きであるとか権利が行使さ

れないままに来ているということが大きいと思います。

特に昨今、小学校、中学校の時からマネー教育をやらなくてはいけないっていう議論があるんで

すね。小学生、中学生に株式の仕組みを教えたり、だとかなんかそのファンドのどうのこうのを教

えなきゃいけないというような話をするわけですよ。そんなことをやったってですね、ファンドマ

ネージャーになる人間っていうのは 1000 人に1人いるかどうか知らないですけれど、大方はフリ

ーター、大方は普通の労働者になるわけですよね。そうしたらもうちょっと、労働法教育を小学校、

中学校の段階からやった方がいいと思うんですよ。ここに若者、学生さんもいらっしゃって、たぶ

ん夢に燃えていると思います。多くの学生さんの気分としては、フリーターにだけはなりたくない

という話はよく聞く話です。私もちょっと教育産業関係で仕事をしているので、聞くと、「フリー

ターやニート(注6)にだけは絶対になりたくない。おれは正社員になるんだ。」これが夢だと言

う。どういう夢だよって思うんですが、そういうことを言うわけですよね。現実の問題を考えれば、

3分の1が非正規雇用です。全雇用者のうちの3分の1が非正規雇用ですから、3人に1人はいわ

ゆる簡単に言えばフリーターになるわけです。その現実を踏まえて、じゃあそこで悲惨なことにな

らないような教育が本当は必要なんだろうと思うのですが、そうなっていないという現状がありま

す。それでですね、その次の日雇い派遣問題の話にちょっと触れようと思います。

3 日雇い派遣問題

フリーターの中でも色々なんですが、その中でもスポット派遣、いわゆる日雇い派遣というとこ

ろで働いている人がいます。スポット派遣の仕事っていうのは、―モバイトドットコムとかいって

宣伝してたりしますけど―ケータイ電話で登録すると、「仕事は今日は入れますか?」とかいって

仕事がきて、4、5時間行ってそこで仕事をしてお金をもらう、とこういう仕事です。これ自体が、

先ほども 99 年っていうのは中桐さんの方からもありましたが、日雇い派遣問題っていうのも 99 年

っていうのが画期で、99 年に派遣法が改正されてここにあげられている4業種、その他は弁護士

とか特殊な専門能力を持つものですね。それを除いた派遣の原則の自由化が行われました。それか

らも色んなところに派遣で入る、とにかくスポットで日雇いで入るというケースが増えています。

グッドウィルだとかフルキャストだというのが有名です。これがだいたい3割から4割、ピンはね

しているんですね。先ほどのリクルート社のピンはねっていうのは 9割を超えているわけで、そこ

までは行かないまでもグッドウィルやフルキャスト、エムクルーなどを挙げていますけども、だい

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たい3割4割はねなんですね。ピンはねって言いますけども、このピンはねのピンは一ですからね。

一割は良いだろうと、でも3はね4はねっていうのは何なんだっていうことですよね。そもそもお

かしい。それで3割、4割ピンはねして六本木ヒルズの最上階に住んでたりとかすると。これはど

ういうことなんだと、それで別荘にはボーリング場があったりすると。これはどういうことなんだ

と。こういうふうなことをちゃんと本当は問題にしていかなくてはいけないことだろうと思います。

グッドウィルで手がかりになったのは、「データ装備費問題」、―たくさんマスコミに出たので知っ

ている方も非常に多いと思いますが―一稼働あたり 200 円とか、エムクルーという派遣会社に至っ

ては 500 円とっていたというわけです。そもそも給料が 8000 円とかなのに、そこから 200 円、500

円引かれたらたまらないわけです。しかもそれが、業務管理費、安全協力費、福利厚生費と名前が

ついているのに何に使われているのか全くわからない。本人には全く返ってこない。グッドウィル

は最初はですね、「現場で物を壊した時の弁償に充てる。その保険金です。」なんて言ったんですけ

れども、現場で実際に物を壊したので弁償の保険を使いたいって言ったら使わせてくれないってい

うね。そういうような、非常に不明瞭な形で天引きをしてたっていう、まぁこれに関してはもう訴

訟を起こしています。返還を約束しているところもあります。

あともう一つは白手帳ですね。白手帳ってあんまりご存知ない方が多いと思います。あるいは日

雇い関係の、寄せ場の運動では有名なものですけれども、日雇い雇用保険被保険者手帳というもの

です。これが今、スポット派遣で働いている人に対しては、実質日雇い労働なわけだから、今まで

制度としてある白手帳を使わせるようにしようということで取り組みを進めています。今のところ、

フルキャストの渋谷店では、事業者認定されて事業者になっていますので、フルキャストは渋谷店

だけですね、今のところ。白手帳の印紙を発行しています。これも、どこがネックになっているか

と言うと、他の会社も、たとえばフルキャストにしてもずいぶん前から事業者申請はしているんで

すね。ところが、厚生労働省が待ったをかけていると。厚生労働省がスポット派遣で働く人たちに

失業保険を出すことを渋ってきたんですね。今回何を言ったかっていうと、ずうっとスポット派遣

で働いていくつもりの人には出そうっていうことになった。よくわからないですね。そうじゃなく

て、働く場所がそこしかない時にそれをもらえるのが当然の権利だろうという話なのに、ずうっと

日雇い派遣でやっていこうという人には出そう、とこういうフルキャストの渋谷店のみで今のとこ

ろ受けられることになっています。これを拡大化させていく分断をやらせないで、ちゃんと失業保

険をスポット派遣にもとらせていく活動をやっていかなければいけないなと思っています。それで

ですね、とりあえずレジュメの最後のところで、直面している問題というところに移りたいと思い

ます。

4 直面している問題

この間やってきて、一番問題なのは、先ほど言ったように、とにかく経営者の意識っていうのは

本当に問題です。

たとえば、例の中でもネットワークビジネスの常雇いのケースなんていうのが面白かった。ネッ

トワークビジネスってありますよね、ちょっとヤバイところ―解雇になって良かったんじゃないか

と思うんですけど―とりあえずはそれでもハローワークで常雇いだっていうことで見つけて、会員

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を勧誘する営業の仕事ではなくて総務の仕事で入った。でも中では基本的には勧誘の仕事をやらさ

れて、ノルマを課されて、20 人会員を獲得してこいと言うわけですよ。友人を当たってと。本人

ね、本当にいい人で、できないんですよ、それが。できないでゼロ件だったんですよ。で、ゼロ件

だからそれで会社側は就業能力がないということで解雇っていう話だったんですね。でもこれね、

就業能力なしっていうのはそれでは言えないんですね。会社側としては、たとえば、もともと総務

職で入っているんだから総務の仕事させればいいはずなのに、営業の仕事させてるのはおかしい。

もし就業能力がないとしても能力開発のための努力をOJT(注7)でちゃんと会社側がやってい

かなければいけない。この会社がね、能力開発で何をやったかというと、本人に自費で本を買わせ

て読書感想文を書かせたことだけです。本人は読書感想文書いたんだけど、返ってこないんだよね

と、書かせて終わり。それで本人に能力なしで解雇する。それで組合に入って交渉して「解雇を撤

回してください。」と言ったら「撤回します。でも雇い止めです。」って。意味がわからないですよ

ね。常雇い、つまり期間定めなしの雇用なのに突如三ヶ月契約なんだとか言い出して。でも向こう

側から出てきた文章には、「解雇」って書いてあるんですよ。しかもハローワークには常雇いで出

してるんですよ、求人票を。もういい加減なんですよその辺。ぐちゃぐちゃでいい加減。それで、

それが通ると思ってるんですね。通らないってことを逐一やっていかないといけないと思います。

そしてその次に問題になってくるのは、非正規雇用者側の意識だと思います。それは一つは犠牲

の累進性って書きましたけど、これは何のことかって言うと、自分は辛い状況にある、ひどい、何

とかしたいと思う一方、でもホームレスの人はもっと辛いし、もっとひどい。自分は今の立場を失

ってホームレスになりたくない。あるいは、外国、例えばルワンダに行けばもっとひどいことがあ

るんだから、自分は日本に生まれてよかった、とかね。意味がわからないんですけど、そういうこ

とで次々悪いもの、辛いものとかっていうことを観念の中で作り上げて、それで自分の状況はまだ

ましだっていうふうに納得してしまうところがある。

あとですね、責任意識の過剰さっていうのがあると思うんですね。これは正社員の人によくある

んですけど、正社員と比べてフリーターは責任がない、正社員は責任があるんだと思われている。

何の責任なのかってよく考えてみてほしいんですけど、実は何にも責任なんかないはずなのに責任

意識がものすごいある。でも、フリーターもあるんです。フリーターは何かっていうと、正社員は

身分が保証されていて安定していて楽な仕事をしている、でも現場を仕切っているのは俺だと、現

場で一生懸命仕事をしているのは僕じゃないかという、こういう責任意識です。ものすごい強いん

ですね。で、そういうところから、自分が置かれている状況を問題にしにくい。コーヒーショップ

の賃金未払いの例なんかだと、本当に最低賃金ギリギリですよ、ギリギリで働かされて、それでア

ルバイトなのに自分一人しか店にいなくて、本人が店長扱いされて、それで一生懸命働いていた。

土曜日には店長会議なんかに出席していたと。土曜日の朝9時から社長の所に呼ばれて、社長が怒

鳴り散らす。それをひたすら我慢して聞いていなきゃいけない。それでも本人は、自分がコーヒー

ショップを回している、という意識で耐えているんですよね。でも耐えられなくて、というかその

前に倒れちゃって、病気になっちゃったんですけどね。責任意識があまりに過剰であるっていうこ

とが問題じゃないか。

そして、あとは雇用の間接化って書きましたけども、これはつまり、本来は直接雇用すべきもの

を派遣でまかなう。あるいは請負という形で自営業扱いにする。「偽装請負」っていうのは問題に

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なりましたけれども―本来は指揮監督をしているのにも関わらず、請負だとしていた現場がたくさ

んありましたけど―請負であるとかあるいはフリーランスっていうことでアウトソーシングして

外部化していくっていうことで、もちろんそれはその前の非正規雇用者の過剰な責任問題とも絡ん

でいるんですけれども、そういうのが問題なんじゃないかと思います。あとですね、本当に厳しい

状況の中で、フリーター労組はまだまだ小さな組合で一生懸命やってはいるんですけれど、なかな

かこう千人、一万人いるような組合じゃございませんので、とりあえずなかなか当事者と接点が作

りにくいなっていう状況があります。それは今言ったような問題もあるんですけれど、もう一つは

文化的な閉塞状況っていうのがあると思うんですね。たとえば、今ここでお話しているところで聞

いていらっしゃる方々の文化水準は非常に高くて、こういう問題に関心を持ってここにいらっしゃ

る。ところが、フリーターの多くはこういう所にはまず来ないです。ワーキング・プアの記事だと

か、先ほども言いましたけど『AERA(アエラ)』だとか読まないです。テレビもドキュメンタ

リーなんか見ないです。そうなると、多分、今社会の中で、非正規の労働組合なんかが増えてると

先ほど下川さんも言いましたけれど、そのことを知らない可能性もある。そうすると、どうつなが

っていくのかが非常に難しい。

警備員をやっている組合員なんかに言わせると、警備員の事務所の近くに必ずあるものっていう

のがパチンコ屋なんですね。パチンコ屋の近くに消費者金融があるんですね。つまり、週休で4、

5万もらうとパチンコ屋行ってバアーっと使って、その後、足りないなと言って消費者金融で借り

て、じゃあ警備で今週は 10 勤くらい入るかって―10 勤っていうのは日勤夜勤で数えていって 10

回ですよ―そんぐらい入るかなんていう形で稼いで、またパチンコで使っちゃう。そのままグルグ

ルグルとそこから出てこないんですね。忙しいですから、とにかく働くのも忙しいし、パチンコす

るのも忙しいんですよ。そうすると、なかなかそれ以外のことが考えにくいっていうのがあって、

そこをどうやって開いて、つながれる回路を作り出していくかっていうことがすごく私たちが抱え

ている課題です。労働と消費と借金のサイクルに閉じ込められている状況をどうするのか。これが

課題として大きいと考えています。まとまりのない話でしたけれど、以上です。

注1:『AERA(アエラ)』「日給 12万円の「異常」委託費」2007年 12月3日号 注2:「貧困ビジネス」については、湯浅誠著『貧困襲来』(吹山書店、2007)に詳しい。 それは著者によって「誰にも頼られなくなった存在の、その寄る辺のなさにつけ込んで、利潤

を上げるビジネス」と定義されている。またその具体的な事業例も挙げられている。『貧困襲

来』より引用すると、一つ目は「人材派遣会社」。とりわけ「日雇い派遣」に代表されるよう

な、低賃金・細切れを得意とするグッドウィルやフルキャストのような人材派遣会社」である

と示されている。また「消費者金融」「銀行」、「ギャンブル」などが挙げられている。 注3:NHKスペシャル「ワーキング・プア~働いても働いても豊かになれない」

2007 年7月 23 日(日)午後 9時~10:14 分放送

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注4: 2005 年、2006 年、2007 年

注5: 「自由と生存のメーデー」2007年 4月 30日 http://mayday2007.nobody.jp/

注6: ニート(NEET)とは英国政府が労働政策上の人口の分類として定義した言葉で

「Not in Education ,Employment or Training」の略語であり、日本語訳は「教育を受けておらず、

労働をしておらず、職業訓練もしていない」となる。

注7: On-the-Job Training。 企業などで行なわれる職業指導のひとつで、実務の中で職業訓練を

していく方法。

司会 どうもありがとうございました。まさに現場の話だったと思います。フリーターの置かれ

た現場のことをあまり知らない方も、よく聞けて参考になったと思います。個人的には、自由と生

存が引き換えにされているというのは本当に鋭い指摘だと思いました。 続いて、移住労働者の現場からアジアン・ピープルズ・フレンドシップ・ソサエティー(APF

S)の山口さんにお話していただきたいと思います。移住労働者を支援するグループとしては、市

民団体、そしてキリスト教関係者など、様々な人たちや様々な団体が国内に存在していると思うの

ですが、APFSの特徴は、移住労働者自体がAPFSの中核を担って、彼ら自身が運動の主体と

なっていくことを模索している団体です。移住労働者運動において、他の国々、特に有名なのは香

港などでしょうが、移住労働者そのものが運動の主体になっていますが、日本の中で当事者運動を

するのは、非常に困難が伴います。そういった中でAPFSは移住労働者当人が主体となって運動

をしている、数少ない団体だと思います。では、APFSの山口さんお願いします。

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報告 移住労働者の現場から

山口智之(Asian People’s Friendship Society: APFS) みなさん、こんにちは。東京の板橋区にあるAPFSという外国人の支援団体からやって参りま

した、山口と申します。よろしくお願いいたします。本日は、移住労働者に関しての報告というこ

とを承っています。移住労働者、これは外国人労働者ということです。今日のお話は、外国人労働

者の中でもとりわけ非正規滞在、簡単に言いますと、「不法滞在」の移住労働者に重点をおいてち

ょっとお話をさせていただきたい、というふうに思っております。 1 80年代、ニューカマー(「デカセギ」外国人)の出現 (バブル経済期) まず私たちのグループの簡単な紹介から始めさせていただきたいんですけれども、1980 年代、いわゆるバブル経済のころですね―会場にいらっしゃっている若い学生の方々はまだ生まれてな

かったかもしれませんが―非常に景気が良くて、日本に、国内で労働力が不足していた時代があり

ました。この頃、いわゆる第三世界アジアの国々を中心として日本に出稼ぎにやって来る人が増え

たわけです。「ニューカマー」と呼ばれる人々ですね。この人たちは、ちょうど日本で特に零細企

業が労働力不足で悩んでいた時期にやって来ました。若い人たちはおしゃれで給料の良いところで

働くけれども、当時3Kって言った、「汚い・きつい・危険」、こういった労働現場では働きたくな

い。そのため、そういった零細企業、工場なんかでは労働力が確保できないために黒字倒産、黒字

なんだけれども労働力が追いつかなくて倒産してしまう、そういうような状況すら生まれていた。

そこで、ちょうどニーズがマッチしたんですね。すなわちアジアの国々を中心とした第三世界から

やってくる出稼ぎ労働者と、それから日本人の雇用を確保できない零細企業のニーズがマッチして、

どんどん日本の零細企業で働くアジアの労働者たちが増えていった。こうしたアジアからの労働者

たちは当然のことながら、文化の異なる日本で様々な問題に直面しました。このような移住労働者

の相談を受け始めた。それが私たちのグループのスタートですね。私たちのグループ設立が 1987年ですので、今年でちょうど 20 年になるんですけれども、本当に多くの移住労働者が私たちの元を訪れました。代行主義ではなくて、私たちは当事者と一緒に問題を解決していく、というような

意識をもって活動を行っておりました。 さきほど、出稼ぎのニューカマーというお話をしましたけれども、出稼ぎに日本にやってくる

人々の中で二種類あったんですね。一つは「単純労働」のことを言います。これは、工場のライン

であるとか、あるいは居酒屋で料理を運ぶとかそういった単純労働をしに日本にやって来た人。も

う一つは「サイドドア」と呼ばれるものです。これは今話題になっています研修生、あるいは技能

実習生といった形で日本にやって来た人のことです。もともとこの「サイドドア」という制度は、

途上国の人々を日本に迎え入れて日本で技術を伝えて、そしてやがて彼らがあるいは彼女らが国に

帰った時にその技術を役立ててもらおうと、そういう建て前です。しかしながら、現実は自給 300円の労働者と言われているくらいにひどい状況におかれています。これはどういうことかと言いま

すと、研修生は労働者として、実際は本当に労働しているんです。ところが、技術を教えてもらい

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にやってくる人たちであるということで、労働者とは認められていないんです。ですから労働法が

適用されません。それゆえ最低賃金も守られていないんです。それからもう一つ、サイドドアに関

する問題点をあげますと、これは 1989年の入管法改正というのがあったんですけれども、この時に日系南米人、日系ペルー人であるとかブラジル人、あるいはボリビア人といった南米の人々に―

日本人が移民で南米に昔行っていたわけですよね―そういった人たちの子孫を日本に受け入れ、そ

して単純労働に就かせた。そういうことを日本政府はやってきたわけです。 こういったサイドドアはいわば合法的なやり方ですね。ところが合法的でないものもあります。

すなわちバックドアと言われるものです。これはいわゆる不法滞在です。1980 年代、多くのアジアの国々の人々が観光目的で―在留資格で言いますと、短期滞在という在留資格になるんですけれ

ども―日本にやってきて、そのまんま―多くはブローカーを通じてなんですけれども―日本の工場

で働き始めます。そして毎月給料をもらって、その給料の何割かを自分の国に送金します。そうい

った状況が 1980年代、90年代に起こってきたわけです。一時期、一番多い時で不法滞在者―私たちは「非正規滞在」という言葉を使っていますが―は日本国内で 30 万人近くいました。現在はずいぶん減って 20 万人くらいになっていますけれども。ここで数字のことをちょっと言っておきますと、今、日本国内で外国人登録をしている外国人が約 200万人強います。今現在の非正規滞在者が 20万人くらいいますから、10人に 1人の外国人は非正規滞在なんですね。それだけ多くの非正規滞在者が日本に暮らしているということをまず皆さんに理解していただきたいと思います。 こういった非正規滞在労働者たちは当初は非常に厳しい状況におかれていました。要するに使い

捨ての労働力としてこき使われ、酷使されていたわけです。ごく初期の頃に私たちのところに相談

に来た非正規滞在労働者の例を一つ二つあげますと、一番ひどいのが労災ですね、労働災害。これ

は業務中に怪我をする、あるいは通勤中に怪我をすることが含まれます。あるイラン人のケースだ

ったんですけれども、彼は芝刈りで芝を刈る仕事をしていたんですね。たまたま芝を刈る機械の刃

が石ころに当たってしまって、その石ころがはじけて自分の目に当たってしまったんですね、目を

直撃してしまった。ところがその雇用主は、「そんなのたいしたことじゃない、一晩冷やしておけ」

と、病院にも連れて行ってくれなかった。彼らは本人だけでは病院に行けないんですね。言葉の問

題などがありまして。痛みで一晩中眠れなくて次の日の朝、同国人に「助けてくれ」という電話を

かけた。その電話を受けたイラン人が病院に連れて行ったところ、眼球破裂、いわゆる失明だと。

医者からは、「なんで昨日のうちに来なかったのか、事故直後に来なかったのか。事故直後に来て

いればそこまで至らなかったはずだ」と、こういうことがありました。あるいはこれは、今でもあ

るんですけれども、いわゆる製造業のライン、プレス工員っていうのは結構多いんですね。その事

業主の中には、生産効率を上げるためにわざと安全装置を外してしまう。安全装置をいちいちかけ

ていたんではスピードが出ない。生産効率を上げるためには、安全配慮なんか関係ないんだと。そ

のために指を切断する、指を落とす人は今でも絶えません。ひどいことにこういった、たとえば指

を切断したようなケースの人は、当然さすがにその日は病院に会社は連れて行きます。そして治療

もさせます。けれども会社はそこで、10万とか 20万円とかをポンッと渡すんですね。そして「これでお前、後はどうにかしろ」、「もう顔見せなくていいよ」と、「もうクビだよ」と、言うんです。

もうとんでもない話ですよね。これは当然、労災隠しであり、労働法では労働災害の療養中では解

雇できませんから、不当解雇でもあり、何よりもその雇用主がいかにその外国人、特に非正規滞在

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の労働者に対して差別的な意識を持っているかということがわかると思います。たとえばこれが日

本人の労働者であればそこまではできなかったというふうに思っています。一応は 1988年に労働省の通達がありまして、職業安定法、労働者派遣法、労働基準法等関係法令は、日本国内における

労働であれば日本人であると否とは問わず、また不法就労であると否とを問わず適用されるもので

あると政府は一応言っているわけです。ところが今でもそういった労災隠しが耐えない、特に零細

企業ではこういった政府の労働省の通達なんていうのは全く絵に描いた餅でしかないというのが

現実です。 その他にも当然、残業代の未払いですとかあります。あるいはある中国人の労働者の話ですけれ

ども、焼肉屋さんの厨房で働いていて、お客さんが帰る時にちょうど厨房で水をたくさん出して洗

っていて、お客さんが帰ったのに気づかなくて、「ありがとうございました」ということを言わな

かったんですね。そしたらば、店長が怒ってですね、「お前はビザもない中国人のくせして、あり

がとうも言えないのか」といきなり殴られ、顔面を殴られて、3針、4針。こういう事実もありま

す。これが、やっぱり私たちがなかなか見ることや、知ることができない非正規滞在労働者、就労

者ですね。全部とは言いませんが、少なくない部分が直面している現実であるということをまず報

告したいと思います。 2 バブル崩壊後~少子高齢化を迎える現在(在留特別許可による合法化)

それから非正規滞在者は、やはり日本でいいお金が稼げます。貨幣価値が全然違いますから。そ

うすると、なかなか自分の国に帰るということができない人がいるんですね。そうすると当初、80年代に日本に来た時は 20 代だった青年たちも、やがて歳をとって彼女や奥さんを呼び寄せて、そして子どもをつくる。非正規滞在の二世ですよね。非正規滞在者といっても外国人登録ができます。

むしろ、しなきゃいけないんですね。ただ在留資格がないという形での外国人登録になるんですけ

れども、外国人登録をして公立学校に行くこともできます。ですから、在留資格のない、いつ強制

送還されるかもわからない子どもたちが学校に通って、小学校、中学校に進むというような状況に

90 年代後半からなってきたわけですね。そこでやはり一つ問題になったのが子どもたち―少し話は移住労働者から子どもたちに代わりますけれども―子どもたちは将来が描けないんですよね。た

とえば将来何になりたい、看護師さんになりたい、野球選手になりたい、大学の先生になりたい、

そういう夢はあっても、いつ警察や入管に捕まって自分の生まれた国―あるいは日本で生まれた子

もいるんですけど―ほとんど見知らない、言葉もわからない祖国に帰されるかわからない、そのよ

うな状況が生まれてきてしまった、それに対して政府というのは何もしなかったんですね。 私たちが非常にショックを受けたことがあります。ある中学生の女の子だったんですけれども、

やはり非正規滞在の両親でした。非正規滞在の両親を持ち、日本で生まれた女の子でした。彼女は

当然在留資格も持っていません。オーバーステイです。彼女の学校で修学旅行で韓国に行くことに

なったんですね。韓国に行くことになったんだけれども、当然彼女は日本から出られないわけです

よ。日本から出てしまったら、もう帰って来られないわけですから。それで彼女は本当に悩んだ、

親もその時になってやっと、本当に気がついたんです。このままじゃいけないんだと。自分たちは

お金を稼ぐために、入管法を犯して日本で暮らしてきた。だから自分たちが責められるのはしょう

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がない。けれども、このままじゃ子どもたちがこれから私たち以上にもっと苦しまなければいけな

いんだと。なんとか今問題を解決しなきゃいけないんだ、というふうに親たちが考え始めたんです。

そこで 1999年、私たちAPFSで非正規滞在家族、17家族 64名を集団で入国管理局に出頭させたわけです。在留特別許可と言いますけれども、法務大臣が特別な事情があると認めた場合に限り、

非正規滞在者を日本で生活することを許可する、在留を許可する、そういったものがあるんですね。

日本国内で強固な生活基盤ができた、もう子どもたちは国に帰っても暮らしていけないんだ、日本

にしか暮らす場所がないんだということを主張して、64名 17家族が入国管理局に出頭して、特別許可を求めるという行動を起こしました。 それまでは、ニューカマーについては、この在留特別許可というのは主に日本人と結婚したとい

うようなケースに限って言えました。日本人とのつながりは一切ない、あくまでも外国人の家庭だ

というところで、一つの大きな特色といいますか、一つのこれまでの在留許可に関する大きな転換

を迫る行動だったとも思います。その結果、新聞にも出ていたと思いますが、去年の 12 月くらいから今年の 2月くらいまで、時々マスコミに出て報道されたんですけれども、群馬の方のイラン人の家族で、娘が日本に来たのが 2歳の時、今は 18歳になって短大に入ることが決まっているというイラン人の非正規滞在家族の問題が、度々マスコミに載ったのを覚えていらっしゃる方がいるか

もしれません。この家族が、私たちが組織した在留特別許可の一斉行動を起こした最後の家族だっ

たんです。このイランの家族は結局、お父さん、お母さんと小学生の次女は日本に残ることができ

ず、イランに帰されてしまいました。長女だけはとりあえず日本で学校に行き、その後も暮らすこ

とができることが認められた。このような行動を通じまして今、在留特別許可に関して言いますと、

おおむね日本で 10 年以上滞在する両親、そして子どもが中学校一年生くらい―子供というのは、日本で生まれたか、もしくはごく小さい時に日本にやってきた者―こういった家族には、ほぼ在留

特別許可が認められるようになってきています。こうした在留特別許可の運用、適用ということを

通じて、生活が一定、安心できるようになった非正規滞在家族も、近年は増えてきています。この

ような在留特別許可、とにかく日本で残されている非正規滞在の人々を何とか合法化しよう、とい

う私たちの側からの働きかけに対して、日本政府の法務省の側も若干ここにきて態度を変えてきて

いまして、昔は一切―アムネスティというんですけども―非正規滞在者の一斉合法化、これに関し

ては日本は認めないという非常に強固な姿勢を日本はとってきたんですけれども、近年になって在

留特別許可のガイドラインというのを作成しまして、そのなかで、あくまでも法務大臣が自由裁量

で決めるものであるけれども、日本国への定着性が強い家族で出身国に帰っても、生活するのが困

難な家族に関してはある程度在留特別許可を認めましょうということを言い始めてきています。 今回お話をさせていただく中で一つ、ぜひとも皆さんに考えていただきたいんですけれども、皆

さん、不法滞在者、不法滞在移住労働者と聞いた場合何を考えますか?おそらくは外国人犯罪、凶

悪犯罪というような言葉が思い浮かぶのではないないかなと思います。実際に私も外国人の支援を

始める前は、やっぱり不法滞在者というのは犯罪者であるというイメージが強かったです。ところ

が現実に彼らと向かい合ってみると、不法滞在の人たちはそれほど犯罪を犯さないんです。なぜな

ら、彼らはなるべく長い期間日本にいたいんです。そして、仕送りを毎月毎月続けたいんです。だ

からあえて、リスクの大きい犯罪に手を染めるということはまず少ないんです。むしろ外国人犯罪

というのは、外国のマフィアと繋がっている人たちとか、確信犯的に日本に短期でやってきて犯罪

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を犯して帰っていく―そういう人たちの方が多いんですね。ですので、今、非常にマスコミが治安

対策であるとかテロ対策だとかいうことを名目に外国人、特に非正規滞在者に対して厳しい論調を

張っている現実がありますけれども、表面だけではなくて、そういったマスコミが主張しているも

のの裏にある現実というのも少し本ですとかインターネットですとか今はいろいろありますから、

調べていただければなと思います。 3 日本の移民政策を根底から問うものとして(一つの提言)

それから今後のことですけれども、これから少子高齢化にともない日本政府は移民政策、海外か

ら単純労働の人々を受け入れようという方向に動いていると思います。しかしそのような労働力が

足りないから入れればいいや、そのような単純な行き当たりばったりな考え方をやめてほしいです。

そうではなくて実際に、今いる非正規滞在の人たちで真面目に暮らして、日本で善良に暮らして、

日本の地域に溶け込んでいる人たちはたくさんいます。こういう人たちの問題をまず解決する。そ

の上で改めて、長期的なスパンにたって外国人の受け入れ政策なり、移民政策を考えていかなけれ

ばいけないんじゃないかなと、このように私たちは思っております。時間がやってきましたので、

私からの報告は以上とさせていただきます。ありがとうございました。 司会 どうもありがとうございました。やはりこれも移住労働者の現場からの生の話で、非常に示

唆に富むものでした。また、この問題に関して良く知らない私たちにとって、現実に何が起こって

いるのか、ニュースにもあまり載らない(載っているのもありますが)いろいろな問題を知ること

ができたと思います。 さて、これまで日本の現場からの三つの報告をしていただきました。残された時間はパネルディ

スカッションということで、まずは、やはりそれぞれの国で同じような問題に直面し、そのことを

よく知っている韓国とフランスからのゲストスピーカーがいらっしゃっていますので、日本の現場

からの報告についての何らかのコメントを伺いたいと思います。あと笹沼さんには、全体像を見て

いる専門家としてお三方の報告に対してコメントなり、あるいは質問なりしていただければありが

たいのですが、どなたかいかがでしょうか? 笹沼 三人のお話をお聴きしまして、特に社会的に排除された人々の社会の中で生き延びる困難さ、

また、排除された人々同士の、そして排除している側の我々の社会の中で、ある程度安定した暮ら

しをしている我々と、排除された人々のつながることの困難さという問題が浮き彫りになってきた

かと思います。またその排除を超えて、つながっていく生き方についても様々な試行錯誤、新しい

試みが出ているということが明らかになっていると思います。本日の討論者の一人である中桐さん

はいわゆる社会的排除という exclusionじゃなくて evictionという追い立て―最も露骨な暴力に対して芝居や演劇という形で乗り越えていく、つながっていく、そういう方法を仲間と一緒に創り出

されています。そしてフリーター労組の山口素明さんは、文化的閉塞性なり、雇用の厳しさなど様々

な困難があり、分断支配される道具としての携帯電話が日雇いスポット派遣では利用されています。

逆にそれなどを労働組合活動にフルに活用して、一人の闘いをみんなで支えているという活動も、

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今までなかった新しいつながり方を発明されているかなと思いました。それと最後の山口智之さん

による発表では、非正規滞在の労働者の生き延びる方法として―言ってみれば自ら入管に赴くって、

逮捕してくださいというようなものですから、奇想天外な試みだったわけですけれども―あえて社

会の中に自分たちがいるんだぞと、自分たちの存在を認めろという形で、逆転の発想かと思うんで

すが、それによってつながっていく可能性を発見されていったと、そういったようなぎりぎりの排

除の場面で、だからこそある意味では権力の思いもつかないような逃げ道というのがあるのかもし

れません。そういうようなところを突破していく色んな可能性を発見しているなということを私自

身は感じました。 少し抽象的だったかもしれませんが、感想としては排除限界ぎりぎりで闘っていく中での可能性

を見つける、言ってみれば、どんなに支配しようと思っても権力は実はそんなに完全ではありえな

い。どうしても水漏れというか、こぼれおちるものがあってそこから逆転の発想につなげていくと

いうのが、ただ暗くならない明るい、一番苦しい中での闘いが展望を見つけている一つの可能性に

気づかせていただいたように思いました。 司会 どうもありがとうございました。確かに日本の現場で、それぞれの現場で創意工夫がなされ

ていて、そこに可能性があるのが御三方の話からよく分かったと思います。ただ、いずれの運動も

『持たざる者』の運動だと思うんですが、『持たざる者』として、これらの運動がネットワークを

作りながら大きくなっていくことは日本では難しいような気がします。これに対して、特にアニー

さんがNO‐VOX、これは『持たざる者』のネットワークだと思いますけれども、NO‐VOX

で挑戦していることの一つはこのネットワーク作りだと思います。アニーさんから何かコメントが

いただければありがたいのですが。 プール 最初に貧困ということについてコメントをしたいのですが、今の笹沼さんの発言を聴いて、

まずフランスと日本には共通点が多いと思いました。ただ同時に、相違点もかなりあると思いまし

た。一つには雇用主が、たとえば解雇したときに、自分が解雇したアルバイトなり従業員たちがど

うなるのか想像に至らないと労組の山口素明さんが発言なさっていたと思いますが、私が思うに雇

用主は彼らが解雇された結果、どのようになるかなんていうことは 100%わかっているけれど、そ

んなの知ったことではない、ということだと思います。それに対して、雇われている方というのは

自分たちの権利、あるいは労働組合など、もっと自分たちを守るために知っておかなければならな

いことを確かに知らされてないのであろう思いました。 

私が非常に驚いたのは貧困の問題を「生存」といったテーマと結びつけて話しておられたことで

す。私たちはどちらかというと「生存」というよりは「抵抗」を強調してきました。たとえば「抵

抗」そのものが「生存」だと私たちは言いますが、その辺にフランスと日本に発想の違いがあると

思いました。もしかすると、日本の方が少し考え方が悲観的なのか、私たちがやや楽観的過ぎるの

かもしれませんが、フランスの方が、貧困の問題が異議申し立てに結びつくことが多いように思い

ました。 

非正規雇用ということについて付け加えさせていただきたいのですが、派遣で働いている人たち

が、どれくらいピンはねされ、搾取されているかについてですが、フランスの場合だと派遣のよう

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な非正規な雇用形態にある人の場合は、その非正規な状態で働かなければいけないことに対して手

当てがつきます。雇う側が手当てを給料の 10%上乗せしなければなりません。不安定手当てとい

いますか、不安定であることに対する代償のようなものとして 10%つきます。ただ雇用主は、不

安定な雇用形態というものをどんどん利用する傾向にあって、たとえば、外国からフランスに安い

労働者をわざわざ働きに来させなくても、ヨーロッパ統合の中で、たとえばフランスで働いている

人でも、その人の雇用契約はアイルランドで結ばれていて、アイルランドの労働基準が適用される

というようなことが起きています。あるいはポーランド人であれば、ポーランドの派遣業者によっ

て雇われたポーランド人が、フランスに建設労業などで働きに来るときには給料もポーランドの給

料の水準で、フランス側の企業はポーランド人を働かせる上で、社会保障を若干は払わなければな

りませんが、ポーランドの労働基準のまま外国人を働かせることができますから、今では生産拠点

を外国に移さなくても、外国で低い労働条件にある人をそのままの条件でフランスに連れてきて働

かせることができるというようなことが起きています。 

最後にご質問いただいた、持たざる者のネットワークについてですが、私はネットワークの形成

はそれほど難しいことだとは思っていません。たとえばフランスの場合には、社会的正義のために

富を再分配する、誰もが基本的人権を尊重されるべきだ、というスローガンを掲げて、一つになる

ことができました。このような基本的な権利を侵害していくようなグローバリゼーションに反対と

いう闘い、そういった闘いのあり方が機能しました。アルチュール・ランボーの言葉を午前中にあ

げましたが、そのようなコンセプトによって、持たざる者たちが一つにまとまっていくことができ

ると思います。貧しい者、持たざる者たちは、グローバリゼーションによってもっとも影響を受け

ている者たちですから、そういった意味で手を結ぶことが出来ると考えています。 

 

司会 どうもありがとうございました。あと、申先生からも何かお一言コメントいただければあり

がたいです。 申 日本の事例を聴きながら思い浮かんだところだけを説明していきたいと思います。どの社会で

も主流に属する人々は自分の利益を高めるために、あるいは拡大するために周辺にいる人々の利益

を犯して自分の利益を増やしていく傾向があると思います。しかし、周辺の人々に対しては生活が

甘い、依存的で他人に頼っているというような認識は中世時代からあったと思います。ところが、

こういう認識はいつも必要なときだけ強調されて利用されていると思います。人間はとても多様な

存在でもあります。礼儀が正しい人もいれば、そうでない人もいる、言語が違うし、皮膚の色が違

う人もいます。しかしこういうことを主流の人々は差別、区別することで、自分の利益を考えてい

ます。一方、こういう区別あるいは差別は強まる時代もあれば弱まる時代もあります。経済が不景

気になると、こういう区別意識が強まっていくことになると思います。それを克服するために我々

は連帯をいつも考えております。 両極化問題は韓国でも深刻で、最近、様々な国際シンポジウムが行われています。先日ある国際

シンポジウムでフランスの活動家を招待し、失業者問題を聞いたことがありました。そのフランス

活動家に問題解決において、何が一番難しいかと我々が聞くと、フランスの人々の中で、失業者に

対する関心が低いというのが何より難しいと言われました。要するに、今自分自身は仕事があるの

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で、自分が失業することは、あまり考えていないということです。いつも他人の立場に変わること

を、日常的にあまり考えていないということを指摘していると思います。こういう話を聞いて、フ

ランスの状況と韓国の状況が非常に似ているという印象を受けました。 そしてもう一つ我々が感じた重要なことは、主流の人々がいつも周辺の人々を差別して区別しよ

うとしているところ、その境界線にいる中間層の人々からどう理解してもらって、我々の運動の中

に彼ら・彼女らを入れようとするのか、またそういう運動をどう作っていくのかの問題です。 韓国の賃貸アパートで生活している住民の自治会を作る運動をやってきました。ところが、たと

えば中間層が住んでいるあるアパートで、住民自らが組織した相談会が行われたことがあります。

その会議で言われたのは、「アパートの値段がもっと上がるまで、売らないで一緒に住みましょう」

ということでした。韓国で不動産は、短時間に値段が急騰することで、一般庶民が利益をあげる商

品として認識されています。しかし、一般の人々がこのようにお金を儲けるために考えている状態

では、人々の間に連帯を作って、他人を配慮していくような運動は非常に難しいです。 また、このような事例もあります。韓国の中間層のアパートの入り口には、いつも警備室があり、

2人の警備員が立っています。警備員は、大体が非正規職ですが、翌年から、彼らに対する最低賃金制度が適用するようになるので、彼らは今より高い賃金を受けるようになっていました。しかし、

中産層のアパートでは警備費削減のために、自治会で警備員を解雇して、代わりに自動監視カメラ

を入り口に設置して、無人システムで管理するのはどうかという提案が出ました。住民自治会では

無人システムの方がもっと警備の質を上げられるからということです。警備員たちにとっては、

「我々の賃金を上げなくてもいいので、仕事をくれ」ということです。 これらの事例を申し上げるのは、このような問題解決がどれほど難しいかということを指摘した

いからです。つまり住民たちが警備をそのまま置きながら、住民たちの配慮の中で一緒に生存でき

るような状況を住民自らが作らないと問題解決ができないということです。一般大衆にどういう形

でもっとアクセスしながら新しい運動を作っていくのか、これは次のセクションでもって一緒に議

論したいテーマです。 司会 どうもありがとうございました。三人の報告者、そして討論者の方々、ありがとうござい

ました。それでは今から、最後のワークショップに入りたいと思います。その前に、この国際シン

ポジウムでは、例年そうなんですが、共同の祈りというのがありますので、皆様ぜひご参加くださ

い。なおその後のワークショップでは、フロアーからの質問に報告者と討論者がまず答え、そして

時間があれば報告者や討論者にさらに意見を出し合ってもらい、ワークショップをするという形で

いきたいと思いますので、よろしくお願いします。どうもありがとうございました。

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共同の祈り

北原葉子牧師(国際基督教大学)

それではお祈りさせていただきます。命と正義の主、主イエス・キリストの御降誕を祈念するク

リスマスを目前に控えた今日、私たちは現代社会の抱える大きな歪みが露呈した貧困とグローバリ

ズムの問題に向き合ってきました。それぞれの場で研究に実際に取り組む一人ひとりをこの場に集

め、このような機会を与えてくださったことを感謝します。 貧困や格差はまるでブームのように人々の口に上ってきております。しかし主よ、私たちは認め

ざるを得ません。日本が経済成長を誇った時も繁栄から取り残された人々はいました。また途上国

では経済のグローバリズムが進む中で今日食べる食にも、また今飲む水にさえ欠いてきた多くの方

たちがずっとおられたことを認めざるを得ません。貧困をもたらす構造的な暴力の深刻さを、私た

ちが今住んでいる社会の中で目の前にしなければなかなか痛感できなかったこの鈍さをどうかお

許しください。 富める者がますます富み、また持たざる者がますます奪われていく、そのような動きに先進国、

途上国問わず多くの者が巻き込まれていますが、しかしそれゆえにこそより多くの人が、自分の問

題としてグローバリズムの課題を受け止めていくことができるように、この暗い事態をチャンスと

して生かしていくことができるように私たちに知恵を与えてください。 イエス・キリストは人間として生まれ地上を歩み、構造的暴力のもと貧しく、自尊心をも奪われ、

地を這うように生きていた人々のただなかに入り、彼らに神の子としての尊厳と誇りを取り戻して

くださいました。どうぞこの主の歩みに習うものとならしてください。まさに私たちの社会は、弱

者が苦しみ、また強者が搾取、不正を繰り返す、その動きを見ても見えない、また聞いても聞こえ

ないように覆い隠すごまかしや、冷酷さが覆っています。そのような私たちのかたくなさを打ち砕

くためにイエス・キリストは十字架にまで下り、死んでくださったことを改めて思い返します。こ

の言い表せない主のみ業に答え、どうか全ての人が神から与えられた恵みをともに分かち合い、分

断ではなく全ての人が等しく命と力と真の希望に満ちていくことができるように、そのようにして、

真の平和がこの世界になるようにどうぞ力を尽くさせてください。 貧困の原因は非常に複雑に絡み合い、ひとつの方法、ひとつの取り組みでは全てを解決すること

は到底できませんが、ここに集う一人ひとりのそれぞれの取り組みを主が祝してください。そして

それぞれ異なる働きをしながらも、互いがつながって励まし合いながら、この時代の病と闘ってい

くことができますように。分断された人々が互いに手を取り合ってつながっていこうとしています。

どうぞ特にこの働きを主が祝してくださいますように、この祈りを主イエス・キリストの御名によ

っておささげいたします。アーメン。

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安藤勇神父(イエズス会社会司牧センター) 光が下を見下ろして暗闇を見ました。光、命が地を見下ろして日本社会を見ました。年間 35,000人くらいの自殺者―そして昨日、日本で死刑判決を受けた三人の方々が処刑されました。そのうち

の一人は 74歳の車椅子の方でした。あそこに行きたい、と光は言いました。 平和が下を見下ろして戦争を見ました。ちょうど 10年前、カナダのオタワで 26カ国が集まって世界から地雷を廃止する条約を結びました。そこで新しい時代 2000ミレニアムを迎えました。新しい平和の社会が期待されました。ところがアフガニスタン、イラク戦争が起こり、アフリカ大陸

では紛争が絶えません。あそこに行きたい、と平和は言いました。 愛が下を見下ろして妬みを見ました。米国ニューヨークの 9.11事件が起きて、世界中に新しく、暗い影が落とされました。それは国際テロと呼ばれます。そこでは人間同士は仲間ではなく敵であ

る、ということが前提になっています。そして次々に新しいテロ対策法が作られ、それによって野

宿者は公園から追い出されやすくなりました。日本では先月から、入国する外国人一人一人の写真

と指紋を採るようになり、戦争状況にある地域に自衛隊を問題なく派遣することができるようにな

りました。あそこに行きたい、と愛は言いました。 「言葉は肉となって私たちの間に宿られた」―私たちはその救い主の栄光を見ました。アーメン。

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ワークショップ:「グローバル化と周辺化」

司会(中野)上智大学社会正義研究所の中野と申します。ディスカッションの司会をつとめさせて

いただきます。フロアーの皆様から多数質問を承っておりますので、できるだけ多数お答えしたい

と思っておりますが、何分ご覧のとおり、非常に多くのパネリストがいらっしゃる中での、おそら

くシンポジウムとしてはこんなにパネリストがいるというのは最大規模だと思うのですが、なかな

か時間がうまく取れないかもしれませんので、場合によっては、はしょったりさせていただく場合

があるかもしれません。しかし、必ずいただいたものはご指名がある場合にはその方、ない場合に

はそれに近い方に後ほどお見せすることはいたしますので、取り上げられなかったという風にお感

じになられた方、ご了承ください。 まずICUの千葉先生のほうから、今までお話を聞かれた中で、ディスカッサントとしてコメン

トをいただけたらという風に思います。それでは千葉先生お願いします。 千葉 本日は素晴らしいシンポジウムに参加することができまして、大変光栄に存じます。私は、

大学の教職を去ってからかなり経っておりますが、現役の頃は、学長の石澤さんとはカンボジアで

よくお会いしたことがありました。今日の表題である「ソーシァリー マージナライズド」 (socially marginalized) の一員として参加していると思っていただいて結構でございます。 今日、フランス、韓国、日本の発表を聞きまして、色々今まで知らなかった新しいことを学ぶこ

とができて、大変嬉しく思っております。やはりフランスとアジアを比べますと共通の面もありま

すが、色々異なる面もかなりあるなという印象を受けました。私は 20 年フランスに住んでいまし

たので、フランス社会の中のカラクリについて多少は存じているつもりですけれど、やはりフラン

ス社会には人権思想や社会主義の伝統があって、非常に人権に対する視点が強いということと、そ

れからやはりフランス人の政治家、行政官の方々の知的なアプローチで法律が非常に整備されてい

るという感じですね。日本の場合はどちらかというと頭脳よりは感性で色々物事が動いて、法律は

必ずしも完全ではなくてもこれまでは社会の人々の善意が不完全な隙間を補っていたという点が

あったかと思います。ところが、最近になって社会はそのような善意では補いきれないほど複雑化

して、そこに大きな問題が起きているのではないかと思います。従って、法律や行政の制度と心や

感性との隙間を、どのように埋めていくかということが、我々のこれからの大きな問題だと思いま

す。 そこで、アジアを例にとりますと、共に生きる、「共生」という概念がアジアには定着していま

すけども、韓国に行きますと、相談の「相」という字に「生きる」という字を書いて、「相生」

(SangSaeng)という日本の「共生」にあたる言葉があります。 これはどちらかというと家族やコミュニティーの中でお互いに助け合うというニュアンスが非常に強いのですが、日本の「共生」

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はどちらかというとそれぞれが別々に存在していて、それがお互いにあまり邪魔しないように生存

していくという意味合いが強いと思います。それから同じようにフィリピンに行きますと、共生に

近い概念でサマサマ(SamaSama) とかバヤニーハン(Bayanihan)という言葉がありまして、これもお互いに小さいコミュニティーで協力しながら皆の生活を良くしていこうという文化的な表現で

す。最近では 2004年の中国共産党全国大会において、「若諧社会」(Harmonious Society)という政策が採択されました。この概念が現在の中国の国内政治、国際政治の中核にあるものと思います。 そこでこのような観点から今回のフリーター、あるいは野宿者や移住労働者という問題を見ます

と、やはりこれらの人々と日本の国内でどのように共に生きていくかということをもう少し真剣に

考えなくてはいけないということが明白になります。先ほど山口さんがおっしゃったように、政府

は少子高齢化を前に色々な人道的な立場から移民政策を根底から問わなくてはいけないというこ

とには大賛成でございます。そこで例えば、今フィリピンに行きますと、日本に介護師を送るため

の日本語の教育も始まっています。向こうではこれから本当に素晴らしい社会に行くのだという期

待を持って、皆準備をしていますが、日本に行けば全てが上手くいくと思っている人がかなりおり

ます。では、その人たちが日本に来て本当に幸せだと思うような受け入れ態勢があるかどうかとい

うことは私たちも真剣に考えていかなくてはいけません。政府のお都合主義でただ受け入れる、と

いうことを決めるだけではなく、社会の中にその人々の受け皿をきちんと作っていく必要があると

思います。 私の専門は教育ですが、教育の面から日本社会の中に文化的な多様性、異なる民族、あるいは多

種の職業の人たちが共に生きて行く社会的枠組みをどのように推進していけるのだろうかという

ことに大きな関心があります。ところが学校教育の実態を見ますと、学習指導要領などで厳しく規

定されていますし、最近は総合学習から学力向上に重点が移行し、学力を増進するための知識を中

心とした教育に移ろうとしています。その中で優しい心を育むような教育は日本で本当に復活でき

るのだろうか、ということに大きな疑問を持っているわけです。これに対して、それを補うという

か、もっと刺激するためにはNPOとかマスメディアによるノンフォーマル教育がもっともっと活

発に行われて、社会にこのような現状を訴えていく必要があるのではないかと思います。それから、

日本国内の家族や教師が、いろいろの形態の教育の中でこの問題を取り上げるだけではなく、日常

の生活の中ですべての人々の権利を認め合い、そして全ての人々が権利を享受できるような環境作

りをするための会話や行為が自然にできるような環境は、いつになったら出来上がるのだろうかだ

ろうかと案じています。 私達は世界寺子屋運動を通して、アジアの諸国で識字教育の振興のための支援活動を行っていま

す。その中で、ベトナムの北部山岳地帯に日本の公民館のような地域学習センター(Community Learning Center)を村の中に建てて、そこで村の人たちがそのセンターを自分たちで運営して、その村の改善のため、家族の生活改善のために協力して来ましたが、JICA の協力を得て山岳地域に 30 のセンターを建てました。ところがベトナム政府はこのアプローチを非常に気に入り、瞬く間に自分たちの手でこの運動を全国的に展開して、現在では 8000校以上のセンターが地域社会が主体となって建設されました。これは多くの人々がコミュニティーのなかで生きていくためには、

その人たちが活性化して、自分たちで自分たちの生活を上手くマネージしていくことの必要性を認

めたことではないかと思います。我々も、コミュニティーの中で公民館が戦後の民主化のために大

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きな役割を果たしたように、誰でもいつでも気軽に行けるような地域センターが沢山設立され、そ

のネットワークができあがればいいなと感じました。 司会 どうもありがとうございました。論点は非常に様々だと思います。千葉先生からうかがった

ものも含めまして、このあと皆様にご議論いただけたらと思いますが、その前に一方ご紹介が遅れ

ていまして、茨城大学の稲葉先生、今までプールさんの通訳をやってくださっていましたので、お

顔はご存知だったと思いますが、実は本当はできたらパネリストとしてご参加いただきたい方では

あったのですけれど、今回はプールさんと親しく動き回っていらっしゃるということでお引き受け

いただきました。また後ほどプールさんとあわせてコメントいただけたらと思います。 それでは、いくつかありましたご質問の中からいくつか取り上げてみたいと思います。方式とし

ては、先ほども申し上げましたけれどもコメンテーターの方が非常に多いということで、質問をあ

る程度まとめた形で私の方で紹介いたしまして、お一方ずつとりあえず当ててある質問をお答えい

ただいて、もしそれでまだ時間が余ったならば、パネリストの間で議論、あるいはフロアから補足

的にあればまた受け付けるという形で進めていきたいと思います。 まずトップバッターということで、笹沼先生から始めさせていただけたらと思います。いくつか

ある質問からまとめてちょっとご紹介させていただきます。一つ目のものとしてあったのが、ホー

ムレス自立支援特措法に典型的にあったように、自立支援を標榜した新自由主義的な政策というこ

とが出てきていて、その中で権利的保障というのが本来はあったはずなのに、恩恵的救済という方

に随分傾いてきているのではないかと、現状の社会政策が権利としての保障を要求する主体の形成

を妨げる方向にある以上、生きる権利のための戦いとして社会運動の存在意義があると思うので権

利論の観点からご意見を聞かせてくださいというものが一つでした。 もう一つは、笹沼先生が午前中におっしゃった言葉の中に暴力、もしくは社会的排除が無力とな

るような社会を目指したいということをおっしゃっていて、非常にいい言葉だと思うと、マザー・

テレサがおっしゃっていたように「社会的無関心=最大の暴力」というようなことがあって、自分

にはホームレス、貧困は関係ないという発想こそが先進国のエゴイズムなのではないかと、ですの

でこの言葉について具体的な内容についてお話をしていただけたらというのがありました。 最後は具体的な質問なのですが、東京都の地域生活移行支援事業についてですが、第一次地域生

活移行者で富山、新宿、墨田の三公園で二年満期となった人の中で、自立した人、13 万円以上の収入を得た人というのは 9.8%です。この数字についてどう思われますかと、かなり具体的な質問ですけれども、以上まとめて笹沼先生の方でよろしくお願いします。 笹沼 ご質問ありがとうございます。まず、ホームレス自立支援に関する特別措置法ですけれど

も、「自立支援」という言葉が 1990年代から良く使われるようになりまして、高齢者の自立支援とか母子家庭の自立支援とか、あるいは障害者の自立支援とか、色々使われるようになったわけです。

しかしながらこれが、日本でいうところの「措置から契約へ」というような形で、一方的に保護の

客体として保護を受けるのではなく、権利主体として認めようという本人の自己決定権の尊重へと

結びつく一方で、実はそれが自己責任を尊重することとも結びつくわけです。 同時に色々な考え方がごちゃごちゃと出てきて現れてきたわけですけれども、そういう中で自立

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支援というのが実は「就労自立」という、いわゆるワークフェアーWorkfare というようなものを特に意味する言葉として一人歩きしているという現状があると思います。これは、今日の私の資料

の8ページのところに自立という言葉についてちょっと説明させていただいております。この日本

語で言う「自立」という言葉は「自立事情」という言葉とセットで使われることが多かったわけで

すけれども、自立という言葉は伝統的には、自力、他人に頼らず一人で生きる自活する、そういう

ような独力で生きるという意味で使われることが多いわけです。財産があるものはその財産を使っ

て、財産がないものは額に汗して頑張って働けというのが日本的な意味での自立、経済的就労自立

ということになるわけです。そうしますと、経済的に他者に依存しないといけない人は自立できな

い、ということになります。 現実に「自立できる」前提があるということが自由に行動できる、自由に自己主張できる、権利

主体として尊重されるということの条件とされたと。そして自立できる前提のないもの、他人の保

護に依存しなくてはいけないものは、服従を強いられると、そのような構造があるわけですね。自

由、自己決定するためには自立できなきゃいけない、保護に依存する人は自由に制約されても仕方

がない。保護と生存との引き換えという、先ほどの山口さんのお話がまさに当てはまるわけですけ

れども、こういう自立という考え方が従来型の考え方であります。 それに対して日本では、だいたい 70 年代末くらいからですが、新しい自立という考え方が登場してきました。これは、例えば北欧のノーマライゼーション Normalizationの考え方とか、あるいはアメリカの自立生活運動といったようなものの影響を受けて、新しい自立、他者の援助を受けな

がら自己決定あるいは自分の思うように生きていくこと、これを「新しい自立」というふうに呼ん

だりしてきました。本来、自立支援というのは新しい自立、たとえば障害者、たとえば身体障害な

り、例えば脳性まひの障害を持っていることによって、たとえば 24 時間、他人の介助を受けなければ生きていけない方がいたとします。そういう方が他人の介助を受けながら地域で自分が思った

ように生きていくということを、あえて自立生活という風に呼んだわけですね。新しい自立という

のは、そのような保護を受けながらの自立ということです。日本でいわれる自立の支援というのは、

そのような様々な援助を受けて初めて自分の思うように自由に自分の幸福を追求していくことが

できるんだ、という考え方であったはずなのです。 ところが、その古い自立と新しい自立という考え方がせめぎあう中で、色々と混同されていく。

そこで古い、自力で生きるという意味での自立を強制するというような形で自立の支援というのが

使われてしまうことが多いわけですね。たとえば障害者自立支援法や、あるいはホームレス自立支

援といったときも特に就労自立というのを中心に据えることによって他人に依存せずに生きなさ

いという意味になってしまいがちだと、そういう危険性があるということですね。ただし就労って

いうのが直ちに悪いわけじゃなくて、就労っていうのは先ほどもちょっとお話したんですが、色ん

な仲間と一緒に仕事をすることによって自己実現していくだけじゃなくて、仲間との関係、社会の

ありようを作りだしていく、というのが仕事、就労ですから、それは非常にポジティブな意味を持

つわけですけれども、その就労を支援するという名のもとに自力で生きろと無理強いする、強制す

るというような方向に転換しがちなのです。そういったような緊張関係というのがあるために、権

利ではなく、恩恵というような形で使われがちな側面、あるいはその自力で生きろということを強

制するというふうに使われがちだと言うことであろうかと思います。ちょっと長くなって申し訳ご

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ざいませんでした。 それと、暴力を無力にさせる力ということですが、たとえばあのガンジーにしても非暴力の抵抗

っていうのは様々な―先ほどプールさんの方からもお話がありましたが―これは、暴力をふるうと

いうのは他人を、暴力を行使される相手方をモノとして扱うということですけれども、同時に暴力

を行使する自分自身をモノとしてしまう、ケダモノと言っていいかもしれませんけれども、暴力と

いうのは暴力を行使する人自身を暴力の下僕にしてしまうものです。暴力に囚われているというの

は、自分で理性的に判断できない、怒りにかられて他人を馬鹿とかなんとか言って罵ってしまうよ

うに、自分自身をコントロールできない状況です。それに対して、その暴力をふるっている人に対

して、たとえば様々な形で呼びかける。その暴力はおかしいのではないかと呼びかけることによっ

て、暴力を行使する人間を暴力の呪縛から解放すると力が呼びかけの力にはあるのではないか。そ

れが中桐さんたちの演劇、演ずる舞台から「愛してる」というように、呼びかけるのが正にそのよ

うな暴力の支配から人々を解放する力を持っていたと私は考えております。 最後に、東京都の地域生活移行支援事業、これはご存知ない方もいらっしゃると思いますが、東

京都の公園内にテントを建てて居住している皆さんだけを基本的には対象として、テントをたたん

で立ち退くのであればアパートを 3000円で貸し出し、住まわせてあげるというものです。また、就労自立できるくらいの仕事を出すという約束で始まった事業ですけれども、結局は就労自立を果

たすという目的で開始された事業です。しかしその成果として就労自立、生活できるだけの少なく

とも、最低生活費と言いますか、生活保護費と同じくらいの収入を得ることができた人、13 万っていうのは東京都ではさらに下回るわけですけれども、これが1割近くいたというのを大きく評価

する側面もあるかもしれません。 しかし、当初の目的から言うと、たった一割としかいえない部分もあります。同時にその 13 万円の仕事と言うのが安定した仕事と言えるのか、先ほども言いましたように、最低生活費と言いま

すか、生活保護費基準から考えれば、ぎりぎりそれを下回るくらいの収入です。あるいはそれ以上

の収入を持っている人も中にはいるんですけれども。ということは、結局は生活保護なしに生きら

れないということが、これだけの手厚い施策をとっても明らかだということが言えると思います。

つまりホームレスの人たちに対しては生活保護ではない、就労自立というのを政策として立てた。

生活保護を受けさせないで済むような政策をとったにも関わらず、ふたを開けてみれば実は生活保

護なくして地域での自立した生活はできないということが証明されてしまったということが一点

あると思います。もう一つは、逆に安定した生活のためには、住宅が不可欠であるということ。そ

の住宅は自力では獲得できない。それを行政が提供することによってたとえ一割であれ、ある程度

の収入を得られる人たちが出てきた、その点は成果であろうと思います。つまり日本では特に住宅

政策というのが市場に完全にゆだねられていて不足しております。そこの最後の自力ではどうにも

ならない住宅ぐらいは行政の責任で整備していく必要があろうと。それを提供して、住居を確保で

きて初めて働くことができるわけで、住宅については行政の責任で整備すべきであろうと言うふう

に考えます。 司会 ありがとうございました。それでは次に、アニー・プールさんに質問を三つほどあげさせて

いただきます。一つ目は、プールさんが関わっていらっしゃるATTACのこととも関わってくる

と思うんですけれども、各国の貧困の対極にある利益を求めて国々を歩き回る国際金融資本をどう

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考えたらいいのか、―あんまり今日はその話は出なかったと思いますが―金融ということが非常に

高い利益を求めて色んな事をしている。それについてどう考えたらいいのかというのが質問の一点

目で、二点目の質問は、政党政府など国の政策に関与する団体への意見提言という形での行動は行

わないのか、これはNO‐VOXやそういった団体での運動のことだと思うんですけれども、例え

ば企業や農業団体などはロビー活動を行って政策に関与しているけれども、そういったことはしな

いのかと。そして最後の三つ目の質問ですけれども、来年のサミットが日本の洞爺湖で行われるわ

けですけれども、サミットに向けて市民団体はどのような取り組みができるでしょうか、またどの

ような取り組みを考えていますか、というような質問です。 プール おっしゃるとおり、私はアタック・フランス(ATTAC FRANCE)の執行部に属

していて、創設者の一人でもあります。私がアタックの創設に関わったのは、先ほど出てきたよう

な国際的な投機に対する課税のような、アタックが創設された時の目標に同意していたからでもあ

るのですが、何よりもアタックが民衆教育というのを目標に掲げていて、なおかつその民衆教育を

行動に移すということを目標として掲げていたからです。民衆教育が直接行動に結びつくという考

えから、私はアタックの活動に意義を感じました。それは、たとえばどういったテーマであっても、

会議を行って議論をして終わり、というだけではなく、たとえば、実際に水の民営化問題を人々に

見えるように可視化する、そういった活動を貧困層が住んでいる地域に行って問題にする、といっ

た直接行動です。  

あるいはフランスでは医療費がこれまでは 100%保険によって払われていたのが、今では一部を

負担しなくてはなりません。こういった問題を、社会問題として明らかにしていく、可視化してい

く、そうした活動をアタックの運動家は、他の運動団体の人たちとともに、貧困層が多く住んでい

る地域で行ってきました。たとえばそういった地域の区役所、市役所の前でデモを行って、実際に

その地域が抱えている問題、たとえば地域の郵便局が閉鎖されたり、公立病院が撤退してしまうと

いったような問題を明らかにして、それを阻止するなど、勝利を収めてきました。そのようなアタ

ックの活動を私は評価しています。 

二番目にいただいたご質問は、ロビー活動と言ってもよいかと思いますが、そういった政策提言

活動は、私たちの運動とは補完的な関係にあると思っています。私が活動しているNO‐VOXは、

具体的な直接行動を行う運動団体で、とりわけ各地の現場を持っている運動団体と対等な関係(ど

ちらかが、どちらかに何かを命令するような上下の関係ではなく)を保ちながら、行動を一緒に行

います。それに対して、たとえば貧困地域の内部でキャンペーンや署名運動を行って、政府や政府

に近い機関に働きかけていく運動を行っているところもあります。私は、これは運動が対象にする

相手も違っているし、相互に補い合っているものであり、知的に役割を分担している関係にあると

思っています。 

G8に関してですが、G8のおかげでこれらの大国というものが一般的なことしか言えないとい

うか、結局たいした事をしていない、ということを示す上では、役に立っているのではないかと思

います。社会運動団体にとってG8というものがどのような存在かというと、まず何よりも、異な

る考え方をする運動体に出会う場を提供してもらう機会だと思います。先ほど申し上げたように、

政策提言ロビイングを中心にするような団体や、同時にNO‐VOXのような直接行動をする運動

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団体、そういった色々な運動団体が出会う場になっています。たとえば、前回のドイツのロストッ

クでのG8反対のためにNGOが用意したカウンターサミットで用意されたポスターがあります。

そのポスターには三人の人物が写っていて、そのうち一人は「私は行動する」と書いてあります。

その人は具体的には、「私は許可されたデモだけに参加する」と言うような意味です。二番目の人

は、「私は封鎖する」と書かれていて、それは場合によってはデモを規制する警察と直接対峙する

こともあるし、サミット自体を阻止する行動に参加する意思を表明しています。三番目は、「私は

キャンプに残る」。つまりデモにも行かないし、あるいは封鎖にも参加しない。けれども、私は今

あるようなグローバリゼーションの政策には反対であるということです。この三人は、まったく違

う行為の仕方、運動への参加の仕方でありながら、同じ一つの、今あるグローバリゼーションには

反対ということで一致している、そこで手が結ばれている、ということを表しているわけです。た

とえばNO‐VOXの場合にも、カリタス(カトリック教会社会福祉事業慈善団体)と一緒にセミ

ナーを行い、貧困に対するセミナーや討論を一緒に行ったり、同じようにハビタット・インターナ

ショナル(HABITAT)とも一緒に野宿者や居住についてのセミナーを行っています。このよ

うに異なるタイプの団体とも私たちは一緒に活動しています。仮に私たちNO‐VOXが例えばデ

モに参加し、封鎖に参加すると言っても、多分カリタスやハビタットがそれに反対するということ

はないと思います。なぜなら、重要なのはG8において色々な団体が集まり、今まで出会ったこと

もない運動体が知り合うことだからです。違う形で運動していても、自由主義的なグローバリゼー

ションに反対であるという一点においてだけ意見を共有して、お互いに連帯し、他の相違は認め合

う、と。そういう場として私はG8は重要だと思っています。そういうわけで、日本で来年G8が

行われる時にも、私たちはもちろんそこで行われる議論や討論に参加しますし、おそらくG8に反

対する、G8を封鎖するというような活動にも参加すると思います。何よりも、日本の運動団体が

望むのであれば、私たちは具体的な行動で連帯を示したいと思っています。とりわけ連帯は私たち

の活動にもっとも近い野宿者、非正規滞在の外国人と失業者といった人たちの運動に連帯を示すよ

うな活動をしたいと思っています。 司会 ありがとうございました。続いて申さんに二点質問があります。一つは、先ほどの金融の(ネ

オリベラルな)グローバル化との関連なんですけれども、新自由主義的グローバル化と先進国の貧

困の因果関係について、特に韓国の例というか、ご体験を踏まえてお話いただけたらということと、

もう一つは、韓国の撤去民の運動の実状についてお話しいただけたらということです。 申 私が、午前中にみなさんに申し上げたことは、為替通貨危機以降の韓国社会の変化と、先進国

の貧困の問題がどう関係があるのかということの説明だったと思います。韓国では、為替通貨危機

が大きな社会的衝撃でもありました。そして国際通貨基金の(IMF)からお金を借り入れること

は国としても侮辱であり、恥辱のものでもありました。そしてそうした実情を報道するテレビ番組

が放送されることも多々ありました。日本ではネットカフェ難民という事例があるのですが、韓国

のあるドキュメンタリー番組でも、一人の父親が二人の息子とともにサウナルームで一緒に生活す

る様子が放送されました。その父親は建設現場で日雇いの仕事をしていて、一日で稼いだお金によ

ってサウナルームで生活するのですが、サウナルームのお金を払えない日は、息子たちだけをそこ

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で寝かせて、自分は外で寝ていました。この父親は、経済危機がある前までは、普通のサラリーマ

ンとして生活していた人でした。 次に、強制撤去された住民の運動に関して説明します。現在、アパート建設にはいくつかの事業

形態がありますが、その中で政府が仲介している再開発地域では、地域の住民が作られた賃貸アパ

ートにそのまま入れるようになるので、そこでは大きな問題はありません。問題は、民間業者が開

発するアパート開発地域です。80 年代にも同じような傾向がありましたが、民間開発地域は、民間企業が地域の土地を買い上げ、そこにアパート、商店を作ろうとするのですが、そのときに賃貸

契約を受けた人々に対して、適切な保証をしないことで様々な衝突が起きてきます。政府がそこに

介入することは難しいです。その民間企業に対して、いわゆる「撤去闘争」をして最後まで抵抗す

る世帯もありますが、その場合はその世帯に対して、地方自治体が公共賃貸アパートの住居権とい

うチケットを配るという制度もあります。今現在も、全国的な撤去に抵抗するために「全国撤去民

連合」あるいは「連盟」のような組織があり、撤去反対運動をしているのですが、過去に比べてそ

れほど力強い運動にはなっていません。それは、「貧困」というテーマが、韓国社会でそれほど大

きな問題になってこなかったことを意味しています。 司会 どうもありがとうございました。あまりにもパネリストが多いので、もう一方ご紹介するの

を忘れていたことに気づきました。申先生の通訳をやってくださっていたのは李泳采先生、恵泉女

学園大学で教えてらっしゃいます。どうもありがとうございました。 今日は本当に日本語とフランス語と韓国語ということで、同時通訳がある午前中は良かったんで

すけれども、その後はないので耳元通訳ということで大変な企画ではあったんですけれど、稲葉先

生や李先生のおかげで、つつがなくありがとうございます。 続きまして、中桐さんにご質問がいくつかあります。やや両方の視点からのものという感じでも

あるので、ある意味一つの問題についてのものかもしれません。一つは、人権を守るということに

なっているけれども、色んなことが市場原理に委ねきってしまっていると、いわゆる強い人は弱い

人あってこその強い人、もちろんかぎかっこ付きの「強い人」「弱い人」なんですけれども、すべ

ての人が否定されない、排除されないために、住居も生まれながら皆に与えられるべきものでしょ

う。行き過ぎた市場原理主義は一個人のみではなし、地球をも壊してしまうと今日の話を聞いて改

めて思いました。 ややそれと対照的な問題提起ということで、一貫して特殊的利益、個人、特に貧困者を公共の福

祉の名のもとに制限することを批判しているように思われたけれども、公共の福祉というのも個人

の諸利益の相対であり、秩序の維持などのため重要な目的を持っている以上、ある特定の個人の利

益を理由にして社会に負担を強いることは、最小限に負担すべきである。日本の野宿者の場合、当

初は生存権に関わる主張であったようだが、徐々に人権的主張が過剰に強まってパフォーマンスと

化してきたようにも見受けられる。行政がアパートを用意するなど生きていくための代替政策を提

示しているにも関わらず、特段の事情もないのに公園に住み続けることには正当な理由がない。居

住の自由を特段の事情として主張するのであろうが、それでは公共の施設である公園を利用する一

般人の利益はどうなるのであろうか。この二つの利益が拮抗する場合、後者、すなわちここで言わ

れている公共の福祉だと思うのですが、公共の福祉を保護する功利主義的な側面からだけではなく、

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正義の側面からしても正当ではないだろうか、という意見です。中桐さんお願いします。 中桐 上手いこと整理してしゃべれるかどうかわかりませんが、一つはご意見を聞いていてパッと

思いついたのが、ダブルスタンダード(二重基準)ということですね。たとえば、行政の代替政策

について長居公園にもシェルターという施設が建てられたり、自立支援センターという施設が大阪

市内に4箇所建てられていたりするわけですが、こういった施設に入るか、立ち退くかということ

で僕ら長居公園の仲間も迫られていたわけです。その施設の内容は、たとえば職業、仕事をハロー

ワークの人を招いて斡旋したり、職業訓練をやったりしています。居室の内容は、自立支援センタ

ーの場合は 8人部屋ないし 10人部屋で、二段ベッド、長居公園にあったシェルターの場合は、一人 1.5畳と荷物置き場。こういった施設について二重基準と言ったのは生活保護施設よりも非常に劣悪な条件の施設だということです。 大阪市内にも生活保護施設があります。厚生施設、救護施設、そういった施設が多々あるわけで

すが、そういった施設よりも更にひどい内容の施設です。みなさんは、野宿しているよりは、そう

いった施設で暮らしている方が良いだろう、ダンボールやテントで寝るよりもそういった施設の方

がまだマシだろうと思われるかもしれません。でも、公園事務所の職員に、「じゃあ、あんたそう

いった施設に入りたいと思うの?」と聞くと、そりゃ入りたくないと言うわけですよ。ホームレス

特別措置法という法律について、笹沼さんのレジュメの中にもありますが、こういったホームレス

法ができる半世紀も前に生活保護法という法律があります。この生活保護法には、憲法 25 条にもあるんでしょう、それが最低生活基準であり、その法に定められた施設の水準というのが最低水準

なわけです。それよりも低い施設の内容で満足しろ、それで代替だと言われたときに、その二重基

準に僕ら長居の仲間には納得できるものじゃないというふうに思っていました。というのが一つ。 それからもう一つ、長居公園の仲間が強制排除に抵抗して抗議行動をしたわけですが、たとえば、

さっきの映像にあった金髪で化粧をした板前さんをやっていたという彼が、どういうふうに言って

いたかというと、彼は長居公園で暮らしている間、いくつかの仕事を持っていました。電化製品を

拾い集める仕事をやっていたりしましたが、支援者の紹介で高齢者のデイケア、そういった施設で

料理をする仕事、一日3時間くらいのものだったんですが、それを最後の半年くらいはやっていま

した。「ハローワークには三年間で 20 回くらい行った。」と言っています。僕が一緒に暮らしている間も何度か行っていましたけれども、彼は「自立支援センターなんかには入らずに、自力で仕事

を見つけたい。」とずっと言い張っていて、最終的には、長居公園を強制排除された後に、たまた

ま良いところが見つかって、そこに通いながらお金を貯めて、今アパートに上がっているわけです

けれども。 彼が言っていたのは、「私は私なりに三年間必死で生活を作ってきました。自立しています。私

なりの必死の三年間を自立支援センターに入れということで、否定されることが一番我慢できませ

ん。とても馬鹿にされたような思いがします。」というふうに言っていました。彼が、最後まで抵

抗すると言っていた一番の動機は、やはりそういうところだったと思います。人間として扱われな

い彼の三年間が完全に否定されてしまうということへの抗議だったと思います。 それから三点目に公共の福祉というものと個人の利益といったもの、その自由権的な主張が過大

になっていないかということですが、僕はそう言われたときにもやはりダブルスタンダードという

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ものを感じます。果たして、たとえば公園を占拠していることで公共の利益が損なわれるといった

時に、誰にとっての公共の利益なのか。そこで言われている「公共」の中にはおそらく野宿の労働

者は含まれていません。家を持っていて、安定した仕事を持っていて、大きな犬を飼っていたり、

毎朝ラジオ体操をしていたり、年金でひと月 15 万もらっていたり、彼ら個人にとっての利益と、先ほどの板前の人や、あるいは釜ヶ崎で 30 年働いたのに、仕事がなくなって公園で野宿せざるを得なくなった人たちの、自分で生活を作っていくための営みといった利益が果たして、同じ条件で

比べて良いものかどうか、僕はそう言われたときに非常に憤りをもって疑問を感じます。整理でき

たかどうかわかりませんが、以上です。 司会 ありがとうございます。非常に難しい問題というか、私自身も上智大学で教えていて、「勝

ち組」に所属しているという風に思っている人が多い大学の一つだと思っているので、多くの人は

良い企業に入って一般の正社員になって―という発想をしていると思います。ですので、たまに、

学生の持つ企業のイメージの良さというのには驚きます。企業というのは皆良いものだと思ってい

る。悪く言うという言説を日本では聞くことがないので、非常にそういったものに対して、例えば

今のダブルスタンダードの話で言えば、企業に生存権とかって書いてあった記憶はないんですけれ

ども、一応法人ということで人格を与えられて社会に存在しているわけですけれども、企業減税と

かそういったことをやっているという中で、未曾有の収益を上げていても、今日ご紹介があったよ

うな問題が出てくるということについては、全く問題を感じないという学生が非常に多い。今のう

ちは感じないんだと思うんです。それがいつまで続くのかな、なんていう風に思うんですけれども。 今日の議論の中で何度も出てきているなと思うのが、いわゆる右と左の対立ということで考えると、

秩序ないし権威というものを非常に大切に思うのか、それとも連帯ないし権利というものを大切に

思うのかということについて、たぶん感性的なものもあるのでしょうが、人によってとか、文化的

に日本や韓国はおそらくフランスなどと比べて、人権というようなものは贅沢品だという風に思っ

ている意識というのは非常に強いんだと思います。その中で、なかなかそうは言っていながらも、

より多くの人が秩序というものが自分たちのためになっているという風に丸め込まれているとい

うところにおいては、我々話が合う人同士で話していても先にはつながらないというか、何度も色

んな形で可視化ということを中桐さんたちがお芝居という形でやってみるということ、笹沼さんが

おっしゃっていましたし、あるいはプールさんたちにしても、また別の形で可視化ということを図

ることをやっていたりするんですけれども。人権というのはある種の贅沢品だと思い、今のような

時代は仕方がない、それよりも秩序や権威というものが保障された方が多くの人にとってためにな

るんじゃないか、と考える人たちに、いかにして話しかけ、果たしてそういうものなのかなと問い

かけられるようになるには、非常に我々-下川さんも最初にご紹介があったようにー今年、シンポ

ジウムを重ねてきている中で、未だに答えが出てこないものではあります。その点については、当

然中産階級にまで火がついたらおそらくやっとわかるんでしょうけれども、その頃にはもう遅いん

だろうという風には、おそらくまた山口さんの方からも… 山口(フリーター労組)ちょっと今の点に関して一点だけ良いですか。僕はデモとかやるんですけ

ど、デモをする権利と車を通す権利と、それがぶつかると警察はずっとそう言うわけです。「歩行

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者や車両の交通者と、あなたたちの勝手な主張を世の中でする権利とどちらが重要なんですか。」

と。それは政治的主張をする権利の方が重要です。圧倒的に重要です。車は待てば通行できますが、

政治的主張は待てと言われて禁止されたらできないのですから、その権利は拮抗するものではあり

ません。公園の話で言えば、例えば大地震が起きたとします、大地震が起きてみて、さあどこに住

みますか?住む所がないと言って公園にみんな住むでしょう。その時に公園にみんな避難して、阪

神の件だとか、新潟の件だとかいくらでもそういうことはあるわけです。そういう時に、私的な空

間に住んで良い、つまり、お金や土地を持っている民家に入っていって住んで良いと言うのであれ

ばそれは良いけれど、ところがそこまでのところはとりあえず秩序を守ろうということだったら、

公園に住む権利を認めた方が合理的ではないですか。とりあえず、みんなで住めるのですから。野

宿の問題で今起こっている問題はそういうことでしょう。つまり住む所、公園で住む権利を与える

ということと、それを保証するということと、犬の散歩で公園を訪れる権利が拮抗するというのは、

全く馬鹿げた考えだと僕は思います。犬の散歩に来ても良いわけです。散歩に来て、テントがあっ

て話して交流すれば良いじゃないですか。そうしたら、より別の形でつながりができますし、ただ

単にテントを排除された後の人の生活のない公園の中を楽しむというよりは、はるかに良いかもし

れません。そこが単純にぶつかってしまうだとか拮抗してしまうと考えるのが、権利の概念として

非常に貧困だと僕は思います。

司会 続いてフリーター労組の山口さんに二点ご質問ということでお願いします。「労働者派遣法

の解約を元に戻すということが次の通常国会に提出されるということを聞いていますが、市民の側

から応援、支援する有効な手立てはあるんでしょうか。この法案は何が何でも成立させたいと思っ

ています。」というのが一つ。それからもう一つ、「貧しい人がさらに貧しい人を見て、自分はまだ

マシだから我慢しようという意識、根本問題は一緒、グローバル化であって、彼らの意識がそのよ

うであることはなんだか違うように思う。」と。またこれらのこととリンクしているという風に感

じますが、フリーターにはなりたくないという若者の意識、誰かを下に見て自らの連帯の可能性を

消しているというふうに思います。このような持たざるもの同士の排除をいかに連帯できる状況と

つながっていけば良いでしょうかということです。これは今話していたことと随分重なると思いま

すが、お願いします。

山口(フリーター労組)派遣法の改正というのは、いわゆる日雇い派遣の禁止とかそういうことを

盛り込んでということもあるんですけれども、なかなか政治情勢で難しい話になっていて、今のと

ころは衆参逆転状況という形で、参議院の方が民主党をつっついてとかいう話が色々あるんですけ

れども、ただ民主党も今は言っているんです。「今はとりあえず格差、貧困の問題が大事で、派遣

法に関してもやらなきゃいけない。」というふうに言っているのですが、これは政権をとったらど

うなるかわからないですからね。基本的にネオリベラルな思考を持った人たちが民主党の中にもた

くさんいるし、それが軸になっているということもあるので、これは予断を許さないです。だから

派遣法うんぬんに関しては、色んなところから声を上げていただくしかないといったところで、今

とりあえずは日雇い派遣、そういったものすごいピンはねをしている状況だとか、無制限に派遣を

している状況だとかを変えていくということをみなさん見て、声を上げていただきたいということ

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に尽きると思います。

フリーターになりたくない意識というとこなんですけれども、さきほどから少し感じていたんで

すけれど、一つのキーワードとして「共生」という言葉が上がっています。共に生きる共生という

概念は非常に重要だと思います。ただ日本の中で共生ということを言ったときに、そこについてま

わる言葉が、迷惑をかけないとか、一緒に生きているんだから互いに我慢しあいましょうという意

識が、非常に強い気がするんです。例えば、うちの組合員で、警備関係の仕事をしている人の話を

少ししたんですけれども、その彼というのは組合に入る前に職場で、個人で有給休暇をとったんで

す。どういうことかというと、有給などとれないというふうに言われていたんですけれども、個人

で色々労政事務所や労基所をまわったりとかして、「これは個人でもできるから。あなたは条件を

満たしているから。」と言われて、なるほどと言って冊子を持っていって、それで経営者に話して

認めさせたんです。それをやったら、職場の先輩に何を言われたかというと、「なんてお前はわが

ままなんだ」と。おかしな話ですよね。つまり警備業界なんかだと、結局日勤夜勤の仕組みで週

10 勤とか下手すると 14 勤も平気で行われているところなんです。そこで有給休暇がとれると言っ

たら、それは皆の利益になるはずなんですが、そこで「自分がとった、皆もとりましょうよ。」と

いうふうに言ったら「わがままだ。」と、「そういう出しゃばったことはするな。」ということを言

われてしまうと。経営者から睨まれるからという話ではなくて、その中である種やり方が変わるか

ら嫌だとか、職場の人間関係がどうだとで色々言われたんだと思います。

共生という言葉からはお互いに邪魔にならないように頬をすぼめあって、生きていくという考え

方が出てきてしまう、その共生イメージを転換していかないと上手くいかないかなと思うんです。

迷惑かけあったって良いんだと、ときにはケンカになったり、ぶつかったりしても良いんだと。そ

の中で色んな調整をしたりしていけば良いんだというくらいに考えていかないとなかなかダメな

んじゃないでしょうか。特に、フリーターになりたくない、あるいはホームレスになりたくないと

いう意識が優越しているということは、人々が非常に分断されていて、その中で差別がある状況で

す。だから下に落とされるという脅迫のもとに、一生懸命やらなくてはいけないという圧力も働く

わけです。生きる時にたいして苦労のない社会がやはり良いわけです。基本的な住居が保証されて、

医療だとかあるいは教育の差別が無償で受けられて、そういう基礎がしっかり築かれていくことが

必要なのではないかと思います。

主体の意識としては、迷惑をかけても良い、迷惑をかけても良いから自分が権利やあるいは正し

いと思うことを主張していく、あるいは互いに主張しあうという関係を作っていくこと。そして、

社会的には基礎的な生活条件の支えというのを要求していくというのが必要だと思います。全然不

可能なことではなくて、ウェブ上などでも出ているので、調べてもらえれば良いのですが、野村総

研(野村総合研究所)が 2006 年に出しているレポートで、日本の各世帯の純金融資産の調査をし

ています。ようは格差社会だから超富裕層向けのビジネスをやりなさいというレポートなのですが、

5億円以上の純金融資産、これは土地が入らなくて、ローンで借金している分も入らない、それを

さっぴいた純金融資産で5億円以上ある世帯が52000世帯あるんです。その次が1億円から5億円、

その次が 5000 万から1億、3000 万から 5000 万という区分で、3000 万以下は一般人というふうに

やっているんですが、3000 万なんていう金融資産は一般人にはないぞっていう、そういう状況が

あるわけです。例えば、フリーターの支援事業でも、ホームレス支援事業でも何でも良いのですが、

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そこに例えば公共と福祉という話で考えたら、そういう人たちがいて、そこにお金を使ったりとか

そこに支援をしたりということが、全体の利益を損なうなどという言い方は、非常に小さい話です。

5億円以上の金融資産は多分、私なんかは一生かかっても使い切れないですから。私くらいの生活

をさせていただけるならば、別に良いじゃないですかと。そうしたら相続税率を引き上げるとか、

あるいは消費税も社会保障目的だ何だかんだ言って引き上げるのではなくて、富裕税に切り替えて

いくとか、色んな方法があるはずなんです。それらをまぁ、みなさんいろんなところで発想してい

けばいいんじゃないかなと思います。

司会 ありがとうございました。お待たせいたしました。最後になりましたがAPSFの山口さん

に質問です。質問はひとつなんですけれど、「移住労働者と日本の労働者の連帯というのは可能な

のだろうか」と。これはおそらくフランスであるとかより、移民社会というふうに知られている国

においていろんな問題が起きているということを踏まえた質問だと思いますが。お願いいたします。

山口(APFS)もう 10年、15年くらい前ですね、私たちも様々な日本人の労働組合とお付き合いをしていたことがあるんですけれど、そこで移住労働者の存在というのが、日本の労働者にはな

かなか受け入れられないんじゃないかという声がよく聞かれました。というのも、いわゆる移住労

働者は安い労働力として、零細企業から重宝がられるために、日本人の労働者の職場をどんどん奪

ってしまっているんじゃないかというわけなんです。一方で、私たちのところのグループにいる移

住労働者に話を聞いてみると、日本人の労働者―これは昔の話ですが、10年、15年前の話、「たくさん我慢をすれば辛い職場だけれども、無いことはないじゃないですか、なんでみんな一生懸命働

こうとしないんですか。」―そういうような意見の対立がありました。その当時、「日本人労働者と

移住労働者の対立というのはかなり根深い、これを解消するのはなかなか大変じゃないか」と、私

たちのグループ内でいろいろ討論した覚えがあります。 ところが、ここにきて、特に格差社会といわれるような状況になってきて、状況は変わってきま

したね。というのは、やはり移住労働者も日本人労働者、特に非正規雇用で不安定な雇用の方々に

おいてもですけれども、私たちは要するに両者共にあたかも対立する存在のように思い込んでいた

んですけれども、実はそれは思い込まされていただけのことだと。だけれども、むき出しの格差社

会になってきて、いよいよ本当に、日本の労働者も移住労働者も生存がかかってくるような状況に

なってくると、もう対立じゃないんだよと、これは富める者と持たざる者の対立なんだよという、

あたかも、もう今日のシンポジウムの核心だと思うんですけれど、そういうところにそろそろ気が

つき始めている。これは日本人の労働組合もそうです。 それから私たちのグループにいる外国人移住労働者もそうです。これからは互いに手を取り合い、

結び合わなきゃいけない。正規も非正規もない。この場合の正規というのは正規雇用も非正規雇用

もない。正規滞在も非正規滞在もない。正規も非正規もなく、手を結ぼうという言葉が少なくとも

私たちの周辺では最近になって出始めています。 司会 ありがとうございました。時間がもう迫ってまいりましたので、このセッションを終わりに

したいと思うんですが、私などに到底今日の話し合いをまとめるなどということはできないので、

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そういったことはあきらめていきたいと思います。ただ、一つ思うのはやはり、今日いろいろ話が

出てきた中で問題になっていることというのは、最終的に、まず第一歩としては、おそらく多くの

日本人は気づいていないと思うんですが、実は私たちは非常にイデオロギー性が高い時代に生きて

いるということを認識してもいいのかなと思います。それがまず第一歩だろうと。というのは、「イ

デオロギー」というふうに言うと、普通は「共産主義でそれは終わったんだ」と。今はもうみんな

が自由でお互い競争してやっていくし、問題はどう経営するかとそういった話だから、政治におい

てももうイデオロギーは終わったといった言説それ自体がイデオロギーだと、本当はそうだってい

うことについて、やはりまず自覚することが始まりではないかと。 そうなってくるとやはり、イデオロギーの問題である以上はひとりひとりのその心の中の問題、

何を考えているかという問題であることとまたあわせて政治問題でもあるのです。というのは、そ

のイデオロギー装置として例えば国家を、国家権力というものが存在したりだとか、あるいはマス

メディアというものがあって、人が何をどう見るのかということについてそれを規定するのは、一

面ではひとりひとりなんだけれども、と同時に権力者というのはそういったものを規定する力って

いうのを非常に強く持っている、というのがあるわけですから、そこにやはり我々の大きな問題が

潜んでいて、だからひとりひとりのレベルで我々がどうやって社会的な排除を受けている人々、こ

れを生み出している社会、その中における自分ということと向き合うのか、ということと、そうい

った横暴をいかに防ぐのかということについて政治的な砦を築けるのか。 プールさんがおっしゃっていたような「抵抗することっていうこと自体が生存することなんだ」

というような考え方というのは、非常に強いものがあると思うんですね。これはある種おそらく韓

国もそうだと思いますし、日本から見てフランスのような国っていうのは、まだずいぶんそういっ

たものが残っているんだなという印象が、おそらく多くの方に強かったと思うんですけれど、もち

ろんそのフランスにおいてもサルコジ大統領のような人っていうのが当選したし、やや低落しだし

たとはいえ非常に大きな人気を、まだ持っているという状況があって、とても安穏としていられる

状況ではない。その中でいかに我々が人間の尊厳・人権といったものを守る砦を築く、その政治的

な砦を築けるのか、といったことにやはりかかっていくだろうというふうに思います。これ以上の

ことというのはとても言えませんので、最後に植田先生のほうにまとめていただくことになると思

いますが、以上でこのセッションは終わりにしたいと思います。どうもありがとうございました。

それでは最後に閉会の辞を植田先生、お願いします。

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閉会の辞

植田隆子(国際基督教大学社会科学研究所所長)

ご紹介にあずかりました国際基督教大学の植田でございます。とてもこのような豊富な内容のま

とめをおこなうということは私の力に余っておりますが、本日第 27 回共催の国際シンポジウムが多数ご来場の下に盛会のうちに執り行われまして、まことにおめでとうございます。 上智大学の下川社会正義研究所所長の熱意溢れる、ご企画が実られまして『グローバル化と先進

国における貧困と社会的排除』という目下重要な問題が、日本の現場から、あるいはフランス・韓

国からの貴重なご報告がなされまして、非常に議論も深まりました。 私どもの大学の大学院生や学生も何名か参加させていただき、この会場で勉強させていただきま

して、まことにありがとうございました。 私自身は 80年代のスイスに二年間、90年代のベルギーに約三年間住んだことがありまして、移住労働者の多い土地柄、生活実感がございます。それから、約二年余り前に放送大学の「EU論」

という番組を作るために、これは現在も放映中でありますけれども、アフリカからの不法移民がジ

ブラルタル海峡を越えて渡って来る南スペインのアルヘシラスという港町で出入国管理のロケを

行ったことがございます。その時にたまたまアフリカから不法入国をした方が手錠をかけられて強

制送還される場面に居合わせましたけれども、このような問題というのは遠い国のできごとではな

く、我々の直接的な問題であることは今日の議論からも明らかでございます。 一年後は、第 28 回の国際シンポジウムを国際基督教大学で開催いたす順番になっております。

私どもこれから企画を立てまして準備を進めることになりますが、上智大学のご協力をお願い申し

上げまして、閉会の辞とさせていただきます。本日はどうもありがとうございました。

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講師紹介

石澤良昭 上智大学学長 下川雅嗣 上智大学社会正義研究所所長 田中かず子 国際基督教大学教授 アニー・プール 住宅への権利運動(Droit au logement:DAL)、NO-VOX、パリ政治学院非常勤講師 申 明浩 韓国都市研究所副所長(Korea Center for City and Environment Research:KOCER) 笹沼弘志 静岡大学教授 著書『ホームレスと自立/排除-路上に<幸福を夢見る権利>はあるか』(大月書店、2008年) 中桐康介 釜ヶ崎パトロールの会 山口素明 フリーター全般労働組合 山口智之 エイシアン・ピープルズ・フレンドシップ・ソサエティ Asian People’s Friendship Society(A.P.F.S.) 北原葉子 国際基督教大学牧師 安藤 勇

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イエズス会社会司牧センター長 稲葉奈々子 茨城大学准教授 千葉杲弘 国際基督教大学 COE客員教授 中野晃一 上智大学准教授 植田隆子 国際基督教大学社会科学研究所所長

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資料 ソフィアシンポジウム(第 27 回国際シンポジウム)(和・英)

「グローバル化と先進国における貧困と社会的排除:

野宿者、フリーター、移住労働者の現場から」 主催:上智大学社会正義研究所、国際基督教大学社会科学研究所

日時:2007 年 12 月 8 日(土) 10am~6pm

会場:上智大学 2号館 17 階 国際会議場(JR 丸の内線 四谷駅下車 5分)

参加費:無料(通訳あり)

趣旨

今年になって急に、「格差社会」「ワーキング・プア」という言葉が世の中でよく見られるようになってきま

したが、実はすでに10年以上前から日本社会に新しい「貧困」がじわじわと広がってきています。そしてそ

れはグローバル化、特に新自由主義的グローバリゼーションの影響とも言われています。

この新自由主義的グローバリゼーションは、国際通貨基金(IMF)・世界銀行(WB)の構造調整プログラ

ム、世界貿易機関(WTO)体制、先進国と途上国間の多くの自由貿易協定(FTA)を通して従来から途上

国(特にその民衆)に対して、グローバル化の利益を大きく上回る悪影響を強く与えていると思われていま

す。しかしながら昨今、先進国でさえも新自由主義的グローバリゼーションによるネガティブな影響が強く

意識されるようになってきています。

そこで、今回の国際シンポジウムは、特に日本を含めた先進国に注目し、先進国における新しい「貧

困」の現実理解、社会分析、現場からの報告を中心に企画します。このシンポジウムで、グローバル化に

より先進国でどのように新たな貧困者と社会的排除が創出されてきているのか、そしてそれに対してどの

ような実践がおこなわれているのか、これらの現実を共有することができればと思います。

10:00am

1:30pm

4:00pm

4:10pm

5:45pm

プログラム 開会の辞 下川雅嗣 (上智大学社会正義研究所所長)

歓迎のあいさつ 石澤良昭 (上智大学長)

オリエンテーション 下川雅嗣

基調講演 「グローバル化と先進国における貧困と社会的排除」 司会 田中かず子 (国際基督教

大学教授)

フランスの現状とそれに対する実践 アニー・プール(住宅への権利運動(Droit au logement:DAL)、

NO-VOX、パリ政治学院非常勤講師)

韓国の現状とそれに対する実践 申明浩 (韓国都市研究所副所長(Korea Center for City and

Environment Research:KOCER))

日本の現状とそれに対する実践 笹沼弘志 (静岡大学教授)

パネルディスカッション 「野宿者、フリーター、移住労働者の現状と課題」 司会:下川雅嗣

報告:野宿者の現場から 中桐康介 (釜ヶ崎パトロールの会)

報告:フリーターの現場から 山口素明 (フリーター全般労働組合)

報告:移住労働者の現場から 山口智之(Asian People’s Friendship Society: APFS)

討論:アニー・プール、申明浩、笹沼弘志

共同の祈り 北原葉子 (国際基督教大学牧師)、安藤勇(イエズス会社会司牧センター長)

ワークショップ 「グローバル化と周辺化」 司会:中野晃一 (上智大学准教授)

討論者:アニー・プール、申明浩、笹沼弘志、中桐康介、山口素明、山口智之、稲葉奈々子(茨城大学准

教授)、千葉杲弘(国際基督教大学 COE 客員教授)、他

閉会の辞 植田隆子 (国際基督教大学社会科学研究所所長)

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Globalization, Poverty and Social Exclusion in

Developed Countries: First-hand Perspective on the

Homeless, “Freeters” and Migrant Workers

Date: December 8, 2007 (Saturday) Venue: International Conference Room1702,17F, No. 2 BLDG, Sophia University (JR Marunouchi

Line Yotsuya Station 5min walk) Organizers: Institute for the Study of Social Justice (ISSJ), Sophia University, Social Science Research

Institute (SSRI), International Christian University Entrance Fee: Free of Charge (With Translation)

Objective

While phrases such as “stratified society” and “working poor” seem to have suddenly appeared with great frequency in the past year, in fact it has already been more than a decade since a new kind of poverty began to spread, bit by bit, throughout Japan. This has been attributed to the influence of globalization, neo-liberal globalization, in particular.

It has long been thought that, due to the structural adjustment programs of the IMF and the World Bank, the organizational structure of the World Trade Organization, and the majority of free trade agreements between developed and developing countries, the negative effects of neo-liberal globalization have far exceeded the benefits for developing countries, and particularly for their populations. More recently, however, a stronger awareness of neo- liberal globalization’s negative impact on even the developed countries has begun to emerge.

Focusing particular attention upon Japan and other developed countries, this year’s international symposium is designed to provide a realistic understanding, social analysis, and first-hand accounts of this new kind of poverty. This symposium thus seeks to facilitate a shared understanding of the new types of poverty and social exclusion being produced by globalization, as well as the practices being employed to address them.

Program 10:00am

1:30pm

4:00pm

4:10pm

5:45pm

Opening Remarks SHIMOKAWA Masatsugu (Director, ISSJ, Sophia University)

Welcoming Address ISHIZAWA Yoshiaki (President, Sophia University)

Orientation SHIMOKAWA Masatsugu

Keynote Presentations:‘Globalization, poverty and social exclusion in Developed Countries’

Chair TANAKA Kazuko (Professor,International Christian University)

The situation and responses in France POURRE Annie Droit au logement(DAL), NO-VOX, Part-time Lecturer,

Institut d'Etudes Politiques de Paris

The situation and responses in South Korea SHIN, Myong-Ho(vice-director of Korea Center forCity and Environment

Research: KOCER)

The situation and responses in Japan SASANUMA Hiroshi (Professor, Shizuoka University)

Panel Discussion “The Current Situation and Issues Surrounding the Homeless, “Freeters,” and Migrant

Workers” Chair: SHIMOKAWA Masatsugu

Report: A first-hand report on “homeless” NAKAGIRI Kosuke (Kamagasaki Patrol)

Report: A first-hand report on “freeters” YAMAGUCHI Motoaki (Freeter Zenpan Roudou Kumiai: FZRK)

Report: A first-hand report on “migrant workers” YAMAGUCHI Tomoyuki (Asian People’s Friend -ship Society:

APFS)

Panelists:POURRE Annie, SHIN Myong-Ho, SASANUMA Hiroshi

Prayers Rev. KITAHARA Yoko (International Christian University), Fr. ANDO Isamu (Jesuit Social Commitments in

Japan and in Asia)

Workshop ‘Globalization and marginalization’ Chair: NAKANO Koichi (Sophia University)

Panelists: POURRE Annie, SHIN, Myong-Ho, SASANUMA Hiroshi, NAKAGIRI Kosuke, YAMAGUCHI

Motoaki, YAMAGUCHI Tomoyuki, INABA Nanako (Ibaraki University), CHIBA Akihiro(COE Visiting Professor,

International Christian University)

Closing Remark UETA Takako (Director, SSRI, International Christian University)

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報告書

「グローバル化と先進国における貧困と社会的排除:野宿者、フリーター、移住労働者の現場から」

Globalization, Poverty and Social Exclusion in Developed Countries: First-hand Perspective on the

Homeless, “Freeters” and Migrant Workers

発 行 日 2008 年 7 月

発 行 所 上智大学社会正義研究所

〒102-8554 東京都千代田区紀尾井町 7-1

電話 03-3238-3023

Fax. 03-3238-4237

印 刷 所 株式会社エーエフジェイ

〒113-0033

東京都文京区本郷 3-3-11NCK ビル4F

電話(03)5840-7235