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平成23年度地域保健総合推進事業 地域医療再生計画における保健所の関与 に関する研究事業報告書 平成24(2012)年3月 一般財団法人日本公衆衛生協会 分担事業者 惠上博文 (山口県宇部環境保健所長)

地域医療再生計画における保健所の関与 に関する研究事業報 …12月 全国保健所長会第1回総会(東京)50数名参加 東京都麹町保健所に事務局を置く

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平成23年度地域保健総合推進事業

地域医療再生計画における保健所の関与

に関する研究事業報告書

平成24(2012)年3月

一般財団法人日本公衆衛生協会

分担事業者 惠上博文

(山口県宇部環境保健所長)

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全国保健所長会の歩み

年 重 要 事 項 背 景

昭和22年 12月 全国保健所長会第1回総会(東京)50数名参加

東京都麹町保健所に事務局を置く

日本国憲法施行

保健所法全面改正

昭和23年

3月 第2回総会(箱根)、48都府県の参加役員と厚相

初会見、大臣から本会を厚相の諮問機関としたい

旨の発言と育成に努力するとの確約

政令市指定30市

昭和24年 4月 第3回総会(京都市)

全都道府県に保健所長会結成、全国8ブロック制 GHQ新しい保健所映像の作成

昭和27年 8月 第9回総会(札幌)

年1回の総会とし、日本公衆衛生学会と同時開催 講和条約

昭和29年 5月 第1回全ブロック役員会開催、政令市部会設置

昭和30年 6月 第12回総会(新潟)、第1回全国保健所長会長賞

昭和32年 10月 創立10周年記念表彰第 第14回総会(大阪) 公衆衛生たそがれ論、水俣病

昭和35年 10月 第17回総会(兵庫県) 保健所の型別編成構想

昭和41年 10月 創立20周年記念表彰 第23回総会(千葉) 丙午で出生激減

昭和43年 10月 保健所あり方委員会発足 基幹保健所構想

昭和47年 8月 沖縄県保健所長会、九州ブロックに加盟 沖縄返還

保健所問題懇談会基調報告

昭和53年 10月 創立30周年記念感謝状 第35回総会(東京)

11月 日本公衆衛生協会に事務所を移す 第一次国民健康づくり計画推進通知

昭和57年 5月 所長会研修会発足

昭和58年 老人保健法施行

昭和59年 保健所法の一部改正

昭和60年 保健所運営費補助金の交付金化

昭和62年 5月 創立40周年記念式典 第44回総会(東京) 地域保健将来構想検討会設置

平成 5年 地域保健基本問題研究会設置

平成 6年 地域保健法成立

平成 9年 10月 創立50周年記念式典 第54回総会(東京) 保健所数激減(845⇒706)地域保健法施行

平成12年

保健所数(594)

健康日本21の推進、介護保険法施行

平成15年 健康増進法施行

平成18年 第五次医療法改正

平成19年 10月 創立60周年記念式典 第64回総会(松山) 保健所数(518)

結核予防法を感染症法に統合

平成20年 高齢者医療確保法施行

保健所数(517)

平成21年 保健所数(510)

平成22年

地域医療再生計画有識者会議設置

地域保健対策検討会設置

医療計画の見直し等に関する検討会設置

保健所数(494)

平成23年 保健所数(495)

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目 次

【Ⅰ 事業の概要】

第1 事業目的・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1

第2 事業組織・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1

第3 事業経過の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1

第4 事業結果の概要

1 班会議の開催・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1

2 アンケート調査・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1

3 現地ヒアリング調査・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1

4 報告書の作成・配布・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1

5 事業成果の普及・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 1

第5 アンケート調査票・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 3

第6 現地ヒアリング調査票・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5

【Ⅱ 事業内容の総括・概要】

第1 事業内容の総括(抄録形式)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 6

第2 事業内容の概要(スライド形式)

1 地域医療再生計画の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 8

2 地域医療再生計画の構成・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 9

3 地域医療再生計画の特色・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10

4 研究の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 10

5 アンケート調査の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11

6 アンケート調査結果の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 11

7 現地ヒアリング調査の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 13

8 現地ヒアリング調査対象保健所・・・・・・・・・・・・・・・・・ 14

9 事例1岩手県釜石圏域地域医療再生計画への関与・・・・・・・・・ 15

10 事例2新潟県佐渡圏域地域医療再生計画への関与・・・・・・・・・ 16

11 事例3静岡県中東遠圏域地域医療再生計画への関与・・・・・・・・ 17

12 事例4富山県新川圏域地域医療再生計画への関与・・・・・・・・・ 18

13 事例5賀県東近江圏域地域医療再生計画への関与・・・・・・・・・ 19

14 事例6兵庫県阪神南圏域地域医療再生計画への関与・・・・・・・・ 20

15 事例7広島県福山・府中圏域地域医療再生計画への関与・・・・・・ 21

16 地域医療再生計画への保健所の関与の考え方・・・・・・・・・・・ 22

17 地域医療再生計画における保健所の役割・・・・・・・・・・・・・ 22

18 地域医療再生計画への保健所の関与のメリット・・・・・・・・・・ 23

19 地域医療再生計画への関与のポイント点検表・・・・・・・・・・・ 23

20 地域医療の担う医師の定着への関与・・・・・・・・・・・・・・・ 24

21 地域医療連携体制構築への関与・・・・・・・・・・・・・・・・・ 24

22 地域医療連携体制構築への関与のポイント点検表・・・・・・・・・ 25

23 地域医療連携情報ネットワーク構築への関与の考え方・・・・・・・ 26

24 地域医療連携情報ネットワーク構築への関与のポイント点検表・・・ 26

25 地域医療連携情報ネットワーク運用への関与の考え方・・・・・・・ 27

26 地域医療連携情報ネットワーク運用への関与のポイント点検表・・・ 27

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27 地域医療連携情報ネットワーク更新への更新の考え方・・・・・・・ 28

28 地域医療連携情報ネットワークの評価指標の考え方・・・・・・・・ 28

29 地域医療連携情報ネットワークの調整指標の例示・・・・・・・・・ 29

30 適切な受診行動の啓発への関与・・・・・・・・・・・・・・・・・ 29

31 市町村の地域医療推進への関与・・・・・・・・・・・・・・・・・ 30

32 住民・医療・行政の協働への関与・・・・・・・・・・・・・・・・ 30

33 研究成果の普及・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 31

34 結論及び今後の計画・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 31

【Ⅲ 現地ヒアリング調査事例報告】

事例1 岩手県釜石圏域地域医療再生計画への関与・・・・・・・・・・・・ 32

(重点化項目:地域がん診療連携拠点病院の整備、在宅医療の推進等)

(関与保健所:岩手県釜石保健所)

・県民みんなで支える岩手の地域医療推進運動方針・・・・・・・・ 43

事例2 新潟県佐渡圏域地域医療再生計画への関与・・・・・・・・・・・・ 44

(重点化項目:救急医療、周産期医療および医療連携)

(関与保健所:新潟県佐渡保健所)

・地域医療連携ネットワークの構築工程・・・・・・・・・・・・・ 53

事例3 静岡県中東遠圏域地域医療再生計画への関与・・・・・・・・・・・ 54

(重点化項目:公立病院の統合・再編及び医療連携体制の構築)

(関与保健所:静岡県西部保健所)

事例4 富山県新川圏域地域医療再生計画への関与・・・・・・・・・・・・ 68

(重点化項目:周産期・救急医療体制の強化及び在宅医療体制の充実)

(関与保健所:富山県新川厚生センター)

事例5 滋賀県東近江圏域地域医療再生計画への関与・・・・・・・・・・・ 80

(重点化項目:救急医療及び機能分化・連携)

(関与保健所:滋賀県東近江保健所)

・東近江地域医療支援センターの整備内容・事業例・・・・・・・・ 90

・広域地域医療支援センターにおける地域医療福祉連携情報システム 91

事例6 兵庫県阪神南圏域地域医療再生計画への関与・・・・・・・・・・・ 92

(関与重点化項目:小児(救急)医療、周産期医療及び救急医療の総合

的な診療機能体制の充実及び医療人材育成システムの構築)

(関与保健所:兵庫県芦屋保健所)

事例7 広島県福山・府中地域医療再生計画等への関与・・・・・・・・・ 102

(重点化項目:救急医療体制の確保及び在宅医療の充実)

(関与保健所:広島県福山市保健所)

・府中市の地域医療再生に向けた取組・・・・・・・・・・・・・ 109

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【Ⅰ 事業の概要】

第1 事業目的

平成 21年度、各都道府県においては、特に解決すべき医療課題を有する地域(原則として二次

医療圏域)2か所を対象として地域医療再生計画を策定した上、厚生労働省の平成 21年度補正予

算による臨時特例交付金 50億円(25億円×2圏域)の交付を受けて、平成 25年度末の計画終期に

向けて医師・看護師の確保・定着、救急医療・周産期医療体制の強化、地域医療連携体制の構築、

適切な受診行動の啓発、地域医療支援センターの設置、基幹病院の施設・設備整備、地域医療連

携情報ネットワークの構築等を推進している。

こうした中、対象地域に所在している保健所においては、推進会議事務局又は事業実施主体と

して精力的に関与しており、その際の考え方やポイント、ノウハウを一定蓄積しているものの、

この有意義な知見を整理して全国レベルで他の保健所と共有するまでには至っていない。

このため、地域医療再生・地域医療連携に向けて保健所における企画・調整機能の強化に資す

るため、アンケート調査により全国の関与状況及び現地ヒアリング調査対象保健所を把握すると

ともに、現地ヒアリング調査による詳細な関与状況を総括して保健所が関与する際の考え方やポ

イント、ノウハウを提言・普及するほか、全国的に進捗している情報通信技術(以下「ICT」)

を活用した地域医療連携情報ネットワーク構築事業は、構築組織、構築知識、工程管理及び予算

調整の点で他のものとは大きく異なることから、別に総括して提言する。

第2 事業組織

事業組織は表1のとおり。

第3 事業経過の概要

事業実施経過の概要は表2の

とおり。

第4 事業結果の概要

1 班会議の開催

平成 23年 7月から 12月ま

で東京都及び秋田県で 4回開

催して研究事業の企画・調整

及び進捗管理を実施した。

2 アンケート調査

平成 23年 8 月、対象地域(94 計画 118二次医療圏域)に所在する保健所 155か所を対象

として第5のアンケート調査票により郵送法(回答率 100.0%)で実施し、全国の関与状況及

び関与保健所 93か所(60.0%)を把握した。現地ヒアリング調査の対象保健所については、

まず別に定める選定基準(P13)を満たす 19か所を把握し、次に電話調査で回答状況を補足

し、そして班会議で最終的に対象保健所として 7か所を選定した。

3 現地ヒアリング調査

平成 23年 10月から同年 12月まで表 3の保健所 7か所に対して第6の現地ヒアリング調査

票により現地ヒアリング調査を実施し、把握した詳細な関与状況を総括して保健所が関与す

る際の考え方やポイント、ノウハウを提言した。

4 事業成果の普及

平成 23年 10月、第 70回日本公衆衛生学会総会第 14分科会(秋田県)等で講演・発表し

て地域医療再生計画に保健所が関与する際の考え方やポイント、ノウハウの普及を図った。

5 報告書の作成

平成 24年 3月、研究報告書を作成して全国の保健所を始め関係施設・団体に配布した。

表1 地域医療再生計画における保健所の関与に関する研究班

役 名 氏 名 所 属

分担事業 惠上博文 山口県宇部環境保健所長

事業協力 池田和功 大阪府堺市北保健センター所長

〃 石丸泰隆 山口県岩国環境保健所長

〃 浦山京子 東京都江東区保健所長

〃 柳原博樹 岩手県宮古保健所長

〃 山中朋子 青森県弘前保健所長

助 言 者 田城孝雄 順天堂大学スポーツ健康科学部教授

〃 德本史郎 浜松医科大学健康社会医学講座特任助教

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表2 事業実施経過

平成23年 6月 2日

28日

7月31日

8月 8日

9月19日

10月18日

19日

20日

11月20日

12月 8日

18日

19日

平成24年 3月 1日

20日

病院管理研究協会病院経営戦略としての地域連携セミナー講演(東京都)

「地域医療連携体制の構築と評価への保健所の関与(惠上博文)」

地域保健総合推進事業説明会(惠上博文)

第1回研究班会議(東京都)

アンケート調査

第2回研究班会議(東京都)

現地ヒアリング調査開始

全国保健所長会総会学術担当報告(秋田県)

「地域医療再生計画における保健所の関与に関する研究(惠上博文)」

第3回研究班会議(秋田県)

第70回日本公衆衛生学会総会第14分科会(医療制度・医療政策)示説発表

「地域医療再生計画における保健所の関与に関するアンケート調査(石丸泰隆)」

「地域医療再生計画における保健所の関与に関する研究(惠上博文)」

第9回日本予防医学会学術総会セッションC(疫学・調査)(東京都)

「地域医療再生計画における保健所の関与に関する研究(惠上博文)」

現地ヒアリング調査終了

第4回研究班会議(東京都)

地域保健総合推進事業中間報告会

地域保健総合推進事業発表会(東京都)

「地域医療再生計画における保健所の関与に関する研究(惠上博文)」

病院再生研究会地域医療再生シンポジウム「地域医療再生資金と医療ICT活用

事例」(東京都)

「パネルディスカッションで指定発言(惠上博文)」

表3 現地ヒアリング調査対象保健所

調査事例 関係する地域医療再生計画 対 象 保 健 所 調 査 者

事 例 1 岩手県釜石圏域地域医療再生計画 岩手県釜石保健所 山中 朋子

事 例 2 新潟県佐渡圏域地域医療再生計画 新潟県佐渡保健所 柳原 博樹

事 例 3 静岡県中東遠圏域地域医療再生計画 静岡県西部保健所 德本 史郎

事 例 4 富山県富山圏域地域医療再生計画 富山県新川保健所 池田 和功

事 例 5 滋賀県東近江圏域地域医療再生計画 滋賀県東近江保健所 惠上 博文

事 例 6 兵庫県阪神南圏域地域医療再生計画 兵庫県芦屋保健所 池田 和功

事 例 7 広島県福山・府中圏域地域医療再生計画 広島県福山市保健所 石丸 泰隆

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第5 アンケート調査票

1 属性情報

保健所名 担当者名 電 話

所属二次医療圏域名 連絡アドレス

2 保健所関与の概要 ① 「関与している」とは当該事業を企画・立案又は推進・支援していることをいいます。

② 運営事業及び施設・設備整備事業の名称は地域医療再生計画を参考に記入してください。

問1 保健所は圏域の地域医療再生計

画に関与していますか。

1 関与している ⇒ 問2からの質問に御回答ください。

2 関与していない ⇒ 問3からの質問に御回答ください。

問2 保健所が関与している事業名及

びその実施主体(県からの補助金

の交付先・予算の令達先等)を記

入してください。

注1:事業名・実施主体は複数回答可

注2:解答欄が不足する場合は本調査

票を複写して回答ください。

注3:地域医療再生計画推進協議会等

の運営は問3で記入してくださ

い。

1 運営事業(関与の大きい順番に記入してください。)

①事業名

実施主体:①保健所 ②医師会 ③病 院 ④市町村 ⑤その他( )

②事業名

実施主体:①保健所 ②医師会 ③病 院 ④市町村 ⑤その他( )

③事業名

実施主体:①保健所 ②医師会 ③病 院 ④市町村 ⑤その他( )

④事業名

実施主体:①保健所 ②医師会 ③病 院 ④市町村 ⑤その他( )

2 施設・設備整備事業(関与の大きい順番に記入してください。)

①事業名

②事業名

③事業名

④事業名

問2-2

保健所は運営事業でどんな役割

を果たしていますか(複数回答可)。

1 運営事業(問2―1-①に同じ)

①医療情報の収集 ②関係者への研修 ③協議の場の主催 ④関係機関間の調整

⑤適切な受診行動啓発 ⑥評価指標の収集 ⑦事業の工程管理 ⑧事業予算の調整

2 運営事業(問2―1ー②に同じ)

①医療情報の収集 ②関係者への研修 ③協議の場の主催 ④関係機関間の調整

⑤適切な受診行動啓発 ⑥評価指標の収集 ⑦事業の工程管理 ⑧事業予算の調整

3 運営事業(問2-1―③に同じ)

①医療情報の収集 ②関係者への研修 ③協議の場の主催 ④関係機関間の調整

⑤適切な受診行動啓発 ⑥評価指標の収集 ⑦事業の工程管理 ⑧事業予算の調整

4 運営事業(問2―1―④に同じ)

①医療情報の収集 ②関係者への研修 ③協議の場の主催 ④関係機関間の調整

⑤適切な受診行動啓発 ⑥評価指標の収集 ⑦事業の工程管理 ⑧事業予算の調整

問3 地域医療再生計画を推進する事

務局(既存組織の活用可)はどこに

設置していますか(複数回答可)

1 設置している(会議の名称: )

事務局:①保健所 ②医師会 ③病 院 ④市町村 ⑤その他( )

2 設置してない

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3 保健所関与の自由記載

関与事業に関する保健所の役割、保健所の企画・調整の成果・課題、今後の関与計画、回答内容の補足、関与してい

ない理由等について、自由に御記入ください。

○ 御協力、誠にありがとうございました。

山口県岩国環境保健所 石丸康隆(TEL 0827-29-1512 FAX 0827-29-1594 )

○ 御回答の締切は平成23年8月24日(水)です。

○ 運営事業の概要、実施要綱、委員名簿等関係資料があれば、お手数ですが御送付くださるようお願いします。

○ 御質問・御照会の場合、調査票の電子データ御依頼の場合は、次のアドレスに電子メールでお願いします。

[email protected]

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第6 現地ヒアリング調査票

第1 対象地域の現状及び保健所の体制

1 対象地域の現状 圏域名、地勢、市町村名、人口、面積、高齢化率

2 対象地域の医療資源 人口10万対一般病院・一般病床・医師、基幹病院名、地域医師会名

3 保健所の組織・担当者 (1) 保健所の組織(課室、正規職員、医師の数・職位)

(2) 地域医療再生計画の担当者(職位、人数、職種)

第2 地域医療再生計画の概要

1 重点化項目

2 対象地域の現状及び課題

3 具体的な施策 (1) 県全体の取組事業(運営事業・施設及び設備整備事業)

(2) 圏域の取組事業 ( 〃 )

第3 保健所関与事業の概要

1 保健所関与の総括 開始時期、目的目標、事務局、関与内容、方法

2 主な関与事業 取組事業名(実施主体)

3 保健所の役割・取組

4 保健所関与の予算 平成23年度予算額(又は地域医療再生計画期間の総額)、主な使途

第4 保健所関与事業の詳細

1 平成22年度までの関与過程

(1) 地域医療再生計画以前の経過・取組、対象地域の選定方法・理由

(2) 具体的施策の実施・関与過程、都道府県本庁との調整過程

(3) 関係団体・施設(地域医師会、基幹病院、市町村等)との調整過程

2 平成23年度の関与過程

(1) 推進組織(目的目標、事務局の場所、取組、開催頻度、構成員)

(2) 重要人物との連携(内容、経過、工夫、特色)

(3) 関係者への研修 ( 〃 )

(4) 地域医療連携体制の構築(内容、経過、工夫、特色、課題)

(5) 適切な受診行動の啓発( 〃 )

(6) 市町村による地域医療推進( 〃 )

(7) 住民・医療・行政の協働( 〃 )

(8) 地域医療を担う医師の定着( 〃 )

(9) 都道府県本庁との連携(内容、役割分担、経過、工夫、特色)

3 関係機関による保健所の評価

4 関与事業の今後の方向

5 事例の所感

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P6

【Ⅱ 事業内容の総括・概要】

第1 事業内容の総括(抄録形式)

○ 要 旨 地域医療再生計画(以下「再生計画」)の対象地域に所在する保健所(以下「所在保健所」)を始

め地域医療再生・地域医療連携に取り組んでいる全国保健所の企画・調整機能の強化に資するため、所在保健所の

全国的な関与状況に関するアンケート調査及び関与している保健所(以下「関与保健所」)に関する現地ヒアリン

グ調査を実施して所在保健所の6割が関与していること、保健所の役割、関与する際の考え方やポイント、ノウハ

ウ、関与することによるメリット、地域医療連携情報ネットワーク構築のポイント等を一定程度示すことができた。

1 目 的

平成21年度、各都道府県においては、二次医療圏

域を基本とする地域2か所を対象として医療課題を

解決するため、再生計画を策定して厚生労働省から

地域医療再生基金50億円(25億円×2か所)の交付を

受けて、平成25年度末の計画終期に向けて医師・看

護師の確保、救急医療・周産期医療体制の強化、地

域医療連携体制の構築、地域医療支援センターの整

備、適切な受診行動の啓発、基幹病院等の施設・設

備整備、地域医療連携情報ネットワーク(以下「情

報ネットワーク」)の構築等を推進している。

こうした中、所在保健所においては、再生計画の

推進会議事務局又は事業実施主体として精力的な関

与を通じて、その際の考え方やポイント、ノウハウ

を一定蓄積してきているものの、この知見を整理・

発表して再生計画や地域医療計画に取り組んでいる

全国の保健所と共有しているとは言い難い。

このため、地域医療再生・地域医療連携に取り組

んでいる保健所における企画・調整機能の向上に資

するため、アンケート調査で全国の関与状況及び現

地ヒアリング調査対象保健所候補(以下「対象保健

所候補」)を把握するとともに、対象保健所に対する

現地ヒアリング調査で把握した詳細な関与状況を総

括して保健所の役割、関与する際の考え方やポイン

ト、ノウハウ等を提言する。併せて、再生計画を契

機として全国で構築が進捗している情報通信技術

(以下「ICT」)を活用した情報ネットワーク構築

は、構築組織、構築知識、工程管理及び予算調整の

点で他の関与事業とは大きく異なることから、別に

総括して同様に提言する。

2 方 法

(1) 保健所関与アンケート調査

平成23年8月、所在保健所の関与状況及び現地

ヒアリング調査対象保健所候補を把握するため、

所在保健所155か所(94計画118二次圏域)にアン

ケート調査(調査票は P3~P4 を参照。)を実施し

た(回答率は100.0%)。主な調査項目は①関与の有

無、②関与事業の名称、③関与事業の実施主体、

④関与(運営)事業での保健所の役割及び⑤再生

計画推進会議(共同)事務局の設置場所である。

(2) 保健所関与現地ヒアリング調査

アンケート調査で把握した現地ヒアリング調査

(調査票はP5を参照。)対象保健所候補について、

選定基準に基づき7か所を選定し、平成 23 年 10

月から平成23年12月まで調査を実施した。

主な調査項目は①保健所関与の概要(主な関与

事業、保健所の役割・取組、保健所関与の予算)、

②保健所関与の詳細(推進組織、重要人物との連携、

関係者への研修、地域医療連携体制の構築、適切

な受診行動の啓発、市町村による地域医療推進、

住民・医療・行政の協働、地域医療を担う医師の

定着、県本庁との連携)、③関係機関による保健所

の評価及び④関与事業の今後の方向である。

3 結果及び考察

(1) 保健所関与アンケート調査結果

まず、対象人口が 30 万人未満の再生計画数は

56.4%(53計画)、対象地域の圏域数が厚生労働省

通知で基本とした1圏域の再生計画数は80.9%(76

計画)、つぎに、所在保健所数のうち再生計画に関

与している保健所は93か所(60.0%)、そして、保

健所が関与している事業数(運営事業及び施設・

設備整備事業)は 200件、このうち保健所を(共

同)実施主体とするものは124件(62.0%)である

が、これを事業内容別にみると、再生計画推進会

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議(共同)事務局が 47.6%と最も高く、次いで地

域医療連携体制構築 12.1%、救急医療体制構築

8.1%、情報ネットワーク構築 9.7%と続いている。

(2) 保健所現地ヒアリング調査事例の総括・提言

所在保健所7か所(事例報告7事例)を対象と

して現地ヒアリング調査を実施して把握した詳細

な関与状況を総括し、保健所が関与する際の考え

方やポイント、ノウハウを提言した。なお、7報

告事例のうち4事例で情報ネットワーク構築に関

与している。

地域医療再生を図るため、保健所においては、

再生計画推進会議(共同)事務局として関与する

際の重点項目、果たす役割、関与のメリット、関

与のポイント等をあらかじめ押さえた上、関係団

体・施設と連携しつつ、地域として総合的に関与

事業を展開することが重要である。

ア 保健所関与の重点項目・ポイント点検表

保健所関与の重点項目として①地域医療を担

う医師の定着、②地域医療連携体制の構築、③

適切な受診行動の啓発、④市町村の地域医療推

進及び⑤住民・医療・行政の協働を把握し、各

項目について、その考え方を提言するとともに、

ポイント点検票を作成した。

イ 保健所の役割

保健所の役割として①医療情報の収集・分析、

②関与事業の企画・立案、③再生計画推進会議

の運営、④関係施設・団体間の調整、⑤関係者

への研修、⑥評価指標の検討、⑦関与事業の工

程管理及び⑧関与事業の予算調整を把握したも

のの、医療計画とは異なる再生計画の特色とし

ては、施設・設備整備事業にも関与している観

点から⑦及び⑧が上げられる。

ウ 保健所関与のメリット

保健所が地域として総合的に再生計画に関与

するためには、そのメリットを医療施設・医師

会に適切に説明して再生計画推進会議(共同)

事務局を引き受けることが重要である。そのメ

リットとしては、①公平・公正な企画・調整、

の把握及び④本来業務として実施する専任組織

を把握したが、これらは行政機関としての特性

に由来するものであり、再生計画としては、施

設整備事業に関与して工程管理や予算調整を行

うことから、④が特に重要であると考えられる。

エ 地域医療連携情報ネットワークへの関与

まず、情報ネットワークの構築・運用・更新

への関与の考え方として①基本的な考え方、②

位置づけ、③基幹病院参画の観点、④構築組織

の構成・強化、⑤運用予算、⑥更新予算及び⑦

保健所の役割を上げているが、構築後の最重要

課題は、概ね 5年後に更新に向けて保健所は、

更新工程に基づき必要な役割を果たして運用事

務局を支援する必要がある。

つぎに、情報ネットワーク構築への関与のポ

イントとして創設期~構築期では①基本的な考

え方、②周囲の意向、③構築事務局の所在・構

成、④構築事務局の業務、⑤ICT助言者の確

保、⑥構築会議の階層別整備、⑦コンテンツの

決定及び⑧構築予算の調達の各項目を上げて点

検票を作成しているが、④の業務及び⑥の会議

を適切に実施するためには、毎月関係者で工程

管理の共有を適切に行うことが重要である。

4 結論及び今後の計画

地域医療再生・地域医療連携に向けた保健所にお

ける企画・調整機能の向上に資するため、現地ヒア

リング調査で把握した詳細な関与状況を総括して保

健所が関与する際の考え方やポイント、ノウハウと

ともに、全国で進捗している地域医療連携情報ネッ

トワーク構築に関与する際の考え方やポイント、ノ

ウハウもそれぞれ提言することができた。

平成24年度も、関与保健所への現地ヒアリング調査

を継続しながら、個別具体的な関与事例を集積・検

討していくとともに、その普及のための研修会を開

催する予定である。

5 発 表

(1) 第70回日本公衆衛生学会総会第14分科会(医

療制度・医療政策)示説発表

(2) 第9回日本予防医学会学術総会示説発表

(3) 病院管理研究協会病院経営戦略としての地域連

携セミナー講演

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【Ⅱ 事業内容の総括・概要】

第2 事業内容の概要(スライド形式)

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○ 平成 22年当時の状況

【県立釜石病院(基幹病院)】

1 病 床 数:272床(一般病床 272床)

2 各種指定:二次救急輪番病院、地域災害拠点病院、基幹型臨床研修病院等

【県立大槌病院】

1 病 床 数:一般病床 119床のうち医師不足で 60床稼働(一般病床 58床及び感染症病床 2床)

2 各種指定:二次救急輪番病院、基幹型臨床研修病院等

○ 平成 23年度の状況

【県立釜石病院(基幹病院)】

地震で被災した本館病棟(246床)や手術室 4室を閉鎖して入院患者を内陸に後方搬送するととも

に、耐震化工事を終了していた新病棟(26床)や手術室 1室で重症患者を収容していたが、平成 23

年 8月から耐震化工事が終了した 4~6階病棟(230床)や手術室 3室を再開し、10月からは残りの

3階病棟(16床)を再開して全病棟(272床)が稼働している。

【県立大槌病院仮設診療所】

津波で全壊した後、平成 23年 4月、地元公民館に仮設診療所を開設し、7月に大槌川上流に移転・

新築して内視鏡検査や超音波断層検査をできるようにしている。

【Ⅲ 現地ヒアリング調査事例報告】

事例1 岩手県釜石地域医療再生計画への関与

調査先 岩手県釜石保健所

第1 地域の現状及び保健所の体制

1 対象地域の現状

釜石圏域(以下「圏域」)は、県南東部に位置して釜石市及

び大槌町から成り、中山間地を背にして太平洋に面するリア

ス式海岸に特有の狭隘な地形を形成し、中山間地や国道、海

岸沿いに集落が点在している。面積は 642 ㎞ 2で全県の約 4%、

人口は約 5万 5千人(釜石市約 4万人)で全県の約 4%を占め、

高齢化率は 34.3%と全県 27.1%を上回る(平成 22年 10月)。

東日本大震災(以下「大震災」)の死亡・行方不明者は 2,300

人余りに上り、本年 10月は人口約 5万人で前年同月から約 4,600人(8.5%)減少している。

2 対象地域の医療資源

大震災前の病院一般病床数(人口 10万対)は全県を 6割強上回る病床過剰地域であるが、医

療施設従事医師数は全国を 4割下回る深刻な医師不足地域として病院勤務医が広く薄い配置に

なっている。また、県立釜石病院が基幹病院として急性期医療、県立大槌病院が地域病院とし

て亜急性期医療、その他の病院が長期療養を担い、地域医師会は釜石医師会が活動している。

大震災の地震・津波によって病院は 6施設全て、そのほかの医療施設では 7割前後が被災し

たものの、医療提供体制の復旧に懸命に取り組んだ結果、平成 23年 3月、病院は全施設、その

他の医療施設では 6~7割が、それぞれ自施設又は仮施設で診療を再開できている。

注 1:病院・病床数は平成 22年 10月及び医師数は平成 22年 12月 注 2:( )は人口 10万対

一般病院数 病院一般病床数 医療施設従事医師数

全 国 7,587施設( 5.9) 903,621床( 706) 280,431人( 219)

岩 手 県 80施設( 6.0) 10,992床( 826) 2,413人( 181)

圏 域 5施設( 9.2) 742床( 1,359) 71人( 130)

釜 石 市 4施設( 10.2) 623床( 1,585) 62人( 158)

大 槌 町 1施設( 6.5) 119床( 778) 9人( 59)

県立大槌病院

仮設診療所○

遠野市

県立釜石病院

大船渡市

山田町

保健所

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注:復旧率(仮設分も含む。)=(既存施設数-被災施設数+再開施設数計)/既存施設数×100(%)

3 保健所等の組織・担当者

(1) 保健所の組織

釜石保健所(以下「保健所」)は、4 課体制(企画管理課、福祉課、保健課及び環境衛生

課)で正規職員数は 27人、このうち医師は、平成 22年度新任の保健所長 1人である。

(2) 地域医療再生計画の担当者

主な担当者は、総括の保健所長のほか連絡調整の次長、企画管理課長及び同課企画グルー

プ総括主幹(全て行政職)の 4人であるが、所長を除く 3人は、平成 23年度の新任者である。

なお、次長の前職は、県保健福祉企画室企画課長として地域医療再生計画を担当していた。

(3) 釜石市の地域医療再生計画の担当者

釜石市の主な担当者は、健康増進課地域医療連携推進室(平成 19年 6月設置)の室長(健

康推進課長兼務)、同室の主幹及び係長(全て行政職)の 3人である。

第2 地域医療再生計画の概要

1 重点化項目

県立釜石病院の地域がん診療拠点病院の整備、在宅医療の推進等

2 対象地域の現状及び課題(医師・看護師の確保対策等は除く。)

(1) がん医療体制

二次医療圏域のうち唯一の未整備圏域である釜石圏域において、がん診療連携拠点病院の

指定に向けて県立釜石病院に放射線治療機器の整備及び専門医の配置を図る必要がある。

(2) 医療連携体制

ア 県立釜石病院においては、患者の集中で医師に過剰な負担が生じており、特に消化器内

科の常勤医は1人体制であることから、不在時の診療体制を確保する必要がある。

イ 釜石医師会においては、介護・福祉サービスとの連携、通院困難地域への対応も含む在

宅医療を拡充し、その調整組織を設置する必要がある。

ウ 県立釜石病院が中心となって医療施設間の医療情報ネットワークシステムを構築すると

ともに、介護・福祉サービスと連携しながら転・退院調整を効率的に実施する必要がある。

エ 地域医療を守るための住民の自主的な啓発活動が、住民一人一人の適切な受診行動につ

ながることにより地域医療を確保できるよう支援する必要がある。

(3) 周産期医療体制

県立釜石病院においては、常勤医の不在で県立大船渡病院から産婦人科医の派遣を平日昼

夜間に受けているが、分娩取扱い件数の 9割を占める院内助産システムを適切に維持すると

ともに、県立大船渡病院へのハイリスク分娩の搬送体制も適切に確保する必要がある。

(4) 医療提供施設

圏域の基幹病院及び地域災害拠点病院として医療機能を維持するためには、県立釜石病院

の老朽施設の耐震化工事等を早急に実施する必要がある。

表 圏域の医療提供施設の被災及び復旧の状況(平成 24年 3月現在)

区 別 既 存

施 設

被 災 施 設

復旧率

再 開 再 開

見 込 廃 止 未 定

自施設 仮施設 計

病 院 6 6 5 1 6 0 0 0 100.0%

医科診療所 20 15 3 8 11 1 1 2 73.3%

歯科診療所 24 17 3 10 13 0 3 1 76.5%

調 剤 薬 局 22 15 5 4 9 2 4 0 60.0%

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3 具体的な施策(医師・看護師の確保対策等は除く。)

(1) 県全体の取組事業(実施主体)

ア 基幹病院診療応援事業(市町村)

市町村が、学会出席で不在となる基幹病院勤務医の代診医として開業医を派遣する。

(2) 圏域の取組事業(平成22年度~25年度)(すべて県立釜石病院を実施主体とする。)

ア 放射線治療機器整備事業(県立釜石病院)

地域がん診療連携拠点病院の指定に向けて放射線治療機器(棟)を整備する。

イ 在宅医療推進センター設置・運営事業(県立釜石病院)

在宅医療を中心とした医療連携体制を調整する中核組織の活動拠点施設を整備する。

ウ 医療情報ネットワークシステム導入事業(県立釜石病院)

医療施設間で診療の予約及び診療情報の共有ができる医療情報ネットワークを導入する。

エ 地域住民活動拠点整備事業(県立釜石病院)

県立釜石病院サポーターズ及びボランティアの活動拠点施設を整備する。

オ 院内助産施設勤務環境改善事業(県立釜石病院)

院内助産施設(仮眠室・授乳室・分娩台)の改修及び分娩監視システムの整備を行う。

カ 高規格救急車導入事業(県立釜石病院)

周産期医療搬送及び救急・災害医療搬送の充実に向けて高規格救急車を整備する。

キ 耐震化等施設・設備改修事業(県立釜石病院)

基幹病院としての医療機能維持に向けて老朽化した病棟の耐震化工事等を実施する。

第3 保健所関与事業の概要

1 保健所関与の総括

圏域における医療完結率の向上及び在宅医療の拡充を推進する医療体制を整備するため、地

域医療再生計画推進委員会等の共同事務局として、がん診療連携拠点病院の指定、在宅医療推

進センターの運営、医療情報ネットワークシステムの導入、地域住民活動拠点の整備等に係る

推進方策の企画・立案、関係団体・施設間の総合調整等に取り組んでいる事例である。

なお、保健所においては、本圏域を対象とする地域医療再生計画に加えて大震災の被災県と

して三次圏域を対象とする地域医療再生計画(以下「医療の復興計画」)の作成にも関与してい

ることから、医療提供体制の復旧・復興に係る内容も適宜記述していく。

2 主な関与事業

(1) 県全体の取組事業

ア 基幹病院診療応援事業

(2) 圏域の取組事業

イ 在宅医療推進センター設置・運営事業(県立釜石病院)

ウ 医療情報ネットワークシステム導入事業(県立釜石病院)

エ 地域住民活動拠点整備事業(県立釜石病院)

3 保健所の役割・取組

保健所においては、釜石市と連携しながら、医療情報の収集・分析、関与事業の推進方策に

係る企画・立案、推進委員会等の運営、関係団体・施設間の総合調整、関係者への研修、地域

住民への説明、関与事業の工程管理等の役割を果たしている。

4 保健所関与の予算

県保健福祉企画室(以下「県本庁」)において、当初、地域医療再生計画への保健所の関与を

想定していなかったことから、保健所の関与に要する予算を措置していないものの、必要に応

じ、地域医療再生計画推進委員会等の運営経費(需用費、役務費等)の令達を受けている。

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【平成 21年度の開始事業(県全体の取組事業)】

ア 基幹病院診療応援事業

平成 21年 7月、釜石市が、県立釜石病院消化器内科医(1人)の不在時に応援医師を派遣する釜

石医師会に待機料を支援する釜石地域医療応援サポート事業を単独事業として開始していた。

第4 保健所関与事業の詳細

1 平成 22年度までの関与過程

平成 21年 10月、県本庁においては、地域がん診療連携拠点病院が県内で唯一未整備である

こと、県立釜石病院を始め病院勤務医が大幅に不足していること、釜石市が釜石地域医療スク

ラム構想※を提出していること、及び県立釜石病院サポーターズが市の支援を受けて活動して

いることから、医療団体、行政団体及び住民団体が協働する地域医療再生を期待できるとして

釜石圏域を対象とする地域医療再生計画を決定した後、保健所の関与を想定しないまま取りま

とめていた圏域の取組事業について、関係者への説明を逐次進めていった。 ※ 県本庁による地域医療再生計画に盛り込むべき取組事業の提案依頼を受けて、釜石市が、次の六つの取組(①

総合医を育てるセンターの設置、②保健・医療・福祉の連携拠点の設置、③医療従事者の働きやすい環境づくり、

④市生活応援センターと連携した住民の健康安心づくり、⑤県立釜石病院の放射線治療機器整備等がん医療機能

の充実及び⑥周産期ネットワークの充実)から成る意見書を釜石地域医療スクラム構想として提案している。

こうした中、平成 22年 5月、新任の保健所長においては、釜石市長が保健所の関与に期待し

ていること、県本庁の説明が圏域に十分届いていないこと、及び「釜石保健医療圏地域医療懇

談会提言」※の推進が必要であることから、県本庁と協議を進めた結果、保健所は、釜石市と

ともに本格的に関与することとなり、6 月、県本庁と準備会議を開催し、当該再生計画につい

て、推進体制、推進方法及び工程管理の考え方並びに保健所の役割を協議・調整した。 ※ 平成 21年 10月、保健所に設置した当該懇談会は、①医師確保の対策、②保健・医療・福祉の連携及び③休日・

時間外受診の在り方ついて、住民、医療及び行政が、それぞれの立場で行うことが望ましい取組を提言している。

まず、「釜石・大槌地域医療再生計画推進委員会」について、保健所においては、共同事務

局として 7 月の第 1 回委員会で地域医療再生計画及び圏域医療連携推進プラン※に基づく取組

事業の進捗状況を意見交換するとともに、在宅医療・住民連携部会及び医療情報ネットワーク

部会の設置を承認し、平成 23年 2月の第 2回委員会では各取組事業の進捗状況を意見交換した

ほか、救急外来等受診行動実態調査結果や大槌町出身医師等との懇談結果を報告している。 ※ 平成 21年 3月、保健所において、岩手県保健医療計画で示している医療連携体制について、地域住民及び医療

施設・団体に周知・啓発するとともに、望ましい医療連携体制を構築するために作成した圏域実施計画。

つぎに、「在宅医療・住民連携部会」については、平成 22年 8月の第 1回部会で在宅医療の

現状・課題の整理、在宅医療を支援する病院・診療所及び県立釜石病院に設置する在宅医療推

進センターにそれぞれ必要な機能を意見交換し、12月の第 2回部会では、医療情報ネットワー

ク部会と合同開催して当該ネットワークの整備・運用への当該推進センターの関与、在宅医療

の充実及び介護・福祉との連携を意見交換している。なお、平成 23年 3月の第 3回部会は、当

該ネットワークを意見交換する予定としていたが、大震災で中止とした

そして、「医療情報ネットワーク部会」については、平成 22年 9月の第 1回部会で県立釜石

病院長が当該再生計画の概要を説明した後、共有する医療情報及び連携施設の範囲、医師会及

び市町行政の協力を意見交換し、平成 22年 12月の第 2回部会では、当該ネットワークによる

共有情報に加え、関係施設・団体が必要とする情報を検討するため、在宅医療・住民連携部会

と合同開催し、平成 25年度までの当該ネットワーク導入計画を確認するとともに、先行する基

本設計の拡充案を意見を交換している。なお、平成 23年 3月の第 3回部会は、在宅医療・住民

連携部会と同様に大震災で中止とした。

こうして関係施設・団体間の情報共有・共通理解の下、効果的な取組事業の推進に向けて、

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【平成 22年度の終了事業(圏域の取組事業)】

カ 高規格救急車の導入事業(県立釜石病院)

高規格救急車を導入して平成 23年 4月から運用。

【平成 23年度での終了事業(圏域の取組事業)】

イ 在宅医療推進センター設置・運営事業(県立釜石病院)

在宅医療推進センターを設置して平成 24年 4月から支援専門員を配置して運営開始予定。

エ 地域住民活動拠点整備事業(県立釜石病院)

多目的会議室(事務室・控室)を整備して平成 24年 4月から病院サポーターズ等が活動開始予定。

オ 院内助産施設勤務環境改善事業(県立釜石病院)

施設の改修及び分娩監視システムの整備を終了して平成 24年 4月から運用予定。

キ 耐震化等施設・設備改修事業(県立釜石病院)

平成 23年 8月に耐震化工事を終了して大半の病棟、10月からは全ての病棟をそれぞれ運用。

ネットワークが発生して取組事業が進捗し始めた平成 23年 3月、大震災が圏域を襲った。

2 平成 23年度の関与過程

大震災直後から全国の医療支援チームが、圏域に入って避難所を担当してくれている間、被

災した医療施設が懸命の復旧にそれぞれ取り組み、大半の医療施設が自施設又は仮施設で再開

し始め、避難所数も大幅に減少し、通院のための交通機関も復旧したことから、6 月には当該

チームに感謝して全て撤退してもらい、地元の医療施設が患者を引き継いでいる。

7月、保健所においては、在宅医療・住民連携部会及び医療情報ネットワーク部会の両会長

も参加した第 1回当該委員会世話人会を開催し、大震災後に中断していた地域医療再生計画の

内容は、大幅に変更する性格ものではなく、むしろ新たな課題にも対応するため、適宜追加し

ていくことを確認するとともに、医療復興の始動及び医療再生の再始動を正式に切っている。

この後は、圏域として一体的な事業展開をより意識することとなり、当該委員会を医療復興

も協議する場としても位置づけて、12月の第 2回当該委員会世話人会及び平成 24年 2月の第 2

回当該委員会において、「医療の復興計画(案)」について、現行の地域医療再生計画の主要事

業との整合性及び医療提供体制の再建の観点から協議しているほか、地域医療再生計画終了後

も、適切に事業を継続していくため、釜石市地域医療連携推進室に事務局を置く「釜石・大槌

地域医療連携協議会」の設置を承認している。

(1) 推進組織

関与事業の推進組織については、上位組織の「釜石・大槌地域医療再生計画推進委員会(世

話人会)」及び下部組織の「在宅医療・住民連携部会」及び「医療情報ネットワーク部会」

並び「釜石・大槌地域医療連携協議会」を設置・運営している。

ア 地域医療再生計画推進委員会(共同事務局:県医療局、県保健福祉企画室及び保健所)

平成 22 年 7 月、地域医療再生計画事業の円滑な実施に資するため、当該推進委員会を

設置し、平成 23年度からは、「医療の復興計画」を協議する場としても位置付けて、当該

推進委員会 1回及び世話人会 2回開催している。

【地域医療再生計画推進委員会】

委員長の釜石医師会長のほか県立釜石病院長、県立大槌病院長、せいてつ記念病院長、国立病院機

構釜石病院長、釜石厚生病院長、釜石のぞみ病院長、釜石歯科医師会長、釜石薬剤師会長、釜石広域介

護支援専門員協議会長、県立釜石病院サポーターズ代表、釜石市長、大槌町長及び保健所長の計 14人。

【世話人会】

釜石医師会長、副会長 2 人、理事、県立釜石病院長、副院長、釜石市副市長、保健福祉部長、地域

医療連携推進室長、係長、高齢介護福祉課長、保健所長、同次長及び同企画管理課長の計 14人。

【共同事務局】

県医療局経営管理課企画予算担当課長、県保健福祉企画室企画課長、主任主査、主査 2 人、保健所

次長及び同企画管理課長の計 7人。

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P37

イ 在宅医療・住民連携部会(事務局:釜石市地域医療連携推進室)

平成 22年 8月から在宅医療推進センター設置・運営事業及び地域住民活動拠点整備事業

について、専門的見地から意見交換するために開催して平成 23年度末、県立釜石病院に当

該施設を整備し、平成 24年度は、釜石市地域包括支援センターの医療社会福祉士 1人が、

当該推進センターの常駐を予定していたが、大震災の影響で延期となっている。

ウ 医療情報ネットワーク部会(事務局:釜石市地域医療連携推進室)

先進事例(函館市のSEC〔ID-Link〕)を先行視察した後、平成 22年 9月から医療情報

ネットワークシステム導入事業について、専門的な見地から意見交換するために開催して

事業スキームを意見交換し、12月に富士フィルムメディカルの地域医療連携ソリューショ

ン※1のプレゼンを受けている。平成 23 年度は、医療情報ネットワークシステム導入基礎

調査※2、富士ゼロックスの在宅医療支援患者情報統合システム※3及び東北地域医療情報基

盤構築事業(NECの地域医療連携ネットワーク※4及びNTT東日本の地域医療連携シス

テム※5)のプレゼンを受けて事業スキームを検討し、後期からは第Ⅰ期工程として県立釜

石病院に富士フィルムメディカルによる院内ネットワークシステム※6を導入している。 ※1 地域医療連携サービス(C@RNA Connect)、遠隔読影支援システム(SYNAPSE Teleradiology)等

※2 平成 22 年 10 月、関係団体・施設を対象とした医療情報管理・ICT環境の現状、閲覧希望医療情報、

将来に実現を希望する内容及び災害時を想定した留意事項を質問項目とする自記式アンケート調査。

※3 平成 24年度、釜石圏域の釜石ファミリークリニックで運用する予定である。

※4 平成 25年に岩手県宮古市でNECの地域医療連携ネットワークサービス(ID-Link)の運用を予定。

※5 平成 25年に宮城県石巻圏域・気仙沼圏域で光タイムライン診療情報連携システムの運用を予定。

※6 平成 24年秋に向けて病院向けのICTソリューション(SYNAPSE)の導入に着手している。

【在宅医療・住民連携部会】

部会長の釜石医師会介護在宅診療部会長のほか県立釜石病院地域医療福祉連携室長、看護師長、医

療社会事業士及び医事経営課主査、釜石のぞみ病院医療社会福祉士、釜石広域介護専門員協議会副会

長、県立釜石病院サポーターズ、釜石市副市長及び大槌町福祉課長の計 10人。オブザーバーは、県本

庁主査、保健所長、同次長、同企画管理課長及び釜石市地域包括支援センター社会福祉士職の計 5人。

【同部会事務局】

釜石市地域医療連携推進室長(行政職)、主幹(行政職)及び係長(行政職)の計 3人。

【医療情報ネットワーク部会】

部会長の釜石医師会副会長のほか県立釜石病院副院長 2 人、総合診療科長、看護師長補佐、医事経

営課主事、県立大槌病院副院長、医事経営課長、せいてつ記念病院第一内科長、国立病院機構釜石病

院長、釜石厚生病院長代行、釜石のぞみ病院主事、釜石歯科医師会専務理事、釜石薬剤師会長及び釜

石広域介護支援専門員協議会長の計 15人。オブザーバーとして県立釜石病院長、県保健福祉企画室主

査 2人、保健所長、同次長及び同企画管理課長の計 6人。

【医療情報ネットワーク導入の骨子】

1 導入工程

平成 21~23年度:医療情報ネットワークシステムの企画

平成 23~24年度:第Ⅰ期工程(県立釜石病院に院内ネットワークシステム導入。)

平成 24年度○○:第Ⅱ期工程(病院・診療所に地域ネットワークシステム導入予定。)

平成 25年度○○:第Ⅱ期工程(歯科診療所、調剤薬局、介護事施設、行政施設等に導入予定)

2 共有情報

(1) 基本情報:氏名、年齢、性別、住所、電話番号、疾患名(疑いを含む)、既往歴、家族歴等

(2) 医療情報:検査・画像データ、退院時要約、看護要約、各種レポート 地域連携パス等

3 主な機能

(1) 他の医療施設から県立釜石病院の診療予約が可能。

(2) 他の医療施設から県立釜石病院の各種検査及び栄養指導の予約が可能。

(3) 医療施設及び介護事施設間で当該者の情報の共有が可能。

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P38

エ 釜石・大槌地域医療連携推進協議会(事務局:釜石市地域医療連携推進室)

平成 24 年 2 月、地域保健・医療・介護・福祉の連携、在宅医療推進センターの運営及

び医療情報ネットワークの運用について、地域医療再生計画終了後においても、適切に継

続していくとともに、契約事務及び予算事務を的確に処理していくため、釜石市に事務局

を置く当該協議会を設置し、保健所は、その運営を支援している。

(2) 重要人物との連携

まず、釜石医師会長である。大震災後に必ず在宅医療を中心とした医療提供体制を再構築

するという決意を胸に抱いて地域医療再生計画推進委員会会長、釜石市復興まちづくり委員

会会長、地域包括ケアを考える懇話会会長として地域医療の再生はもとより地域包括ケアの

推進、さらに復興計画の実現に揺るぎないリーダーシップを発揮している。

つぎに、基幹病院の県立釜石病院長である。地域医療再生計画事業について、大震災で中

断しながらも精力的に調整してほぼ遅れを取り戻している。また、大震災当時の救急・災害

医療については、地域災害拠点病院として重症患者の受入れ、入院患者の後方搬送、避難所

への巡回診療、耐震補強工事の工期短縮等にリーダーシップを発揮している。

そして、釜石市長である。平成 22年度から地域医療再生計画推進委員会在宅医療・住民連

携部会及び医療情報ネットワーク部会(後進の地域医療連携協議会)の事務局を引き受けて

医療情報ネットワークの運用及び在宅医療推進センターの運営を推進している。

保健所においては、それぞれの重要人物と緊密な連携を図りながら、地域医療再生計画事

業の推進を連絡・調整している。

(3) 関係者への研修

関係者への研修については、地域保健・医療・福祉・介護連携に関するものであれば、釜

石医師会、県立釜石病院、釜石市及び保健所が協働して企画・実施して関係者が参加してい

るが、平成 23年度は、前年度に引き続き災害医療活動に係る研修会を開催している。

(4) 地域医療連携体制の構築

深刻な医師不足の中、圏域唯一の急性期病院である県立釜石病院を守るためには、可能な

限りの保健・医療・介護・福祉連携体制構築が急務であることを地域として共有している。

【地域医療連携推進協議会構成施設・団体】

釜石医師会、県立釜石病院、県立大槌病院、せいてつ記念病院、国立病院機構釜石病院、釜石厚生

病院、釜石のぞみ病院、釜石歯科医師会、釜石薬剤師会、釜石広域介護支援専門員協議会、釜石市、

大槌町長及び保健所の計 13施設・団体。

【第3回釜石医師会学術講演会(救急の日特別企画)】(平成 23年 10月 180人参加〔(会員 24人〕)

1 テーマ「東日本大震災発災後の災害医療活動を語る」 (座長:県立釜石病院長遠藤秀彦)

2 発表1「発災後の保健所対応」 (釜石保健所企画管理課長 八重樫 佳子)

発表2「釜石市の保健活動報告」 (釜石市健康推進課係長 洞口 祐子)

発表3「大槌消防署における震災から 5日間の救急活動」 (釜石消防署係長 岩間 英治)

発表4「大槌町寺野弓道場避難所における救護所活動」 (釜石医師会副会長 植田 俊郎)

発表5「発災後の釜石歯科医師会の取組」 (釜石歯科医師会長 鈴木 勝釜)

発表6「お薬手帳が役立った災害医療」 (釜石薬剤師会理事 中田 義仁)

発表7「病院被災と入院患者への対応」 (釜石のぞみ病院長 葛西 款)

発表8「災害医療において国立釜石病院が果たした役割」 (釜石病院長 土肥 守)

発表9「被災地災害拠点病院での対応」 (県立釜石病院副院長 吉田 徹)

発表10「災害対策本部医療班の運営から学んだこと」(釜石医師会災害対策本部長 寺田 尚弘)

3 パネルディスカッション(発表者 10人及び参加者)

4 総 括 (釜石保健所長鈴木宏俊及び釜石医師会長小泉嘉明)

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まず、平成 22 年度から医療情報ネットワークシステム導入に着手するとともに、平成 23

年度、県立釜石病院に在宅医療推進センター等を設置したほか、釜石市に地域医療連携推進

協議会を設置して病々連携・病診連携を支援する医療(情報)連携基盤を構築している。

(5) 適切な受診行動の啓発

平成 22年度の受診行動実態調査を受けて平成 23年度から適切な受診行動の啓発強化に取

り組もうとした矢先、大震災によって県立大槌病院(一時的に体調を崩した中軽症患者の搬

送先)が全壊して二次救急医療機能を喪失し、かつ、大震災で人口が約 1割減少する中、圏

域で唯一の急性期病院である県立釜石病院への二次救急搬送件数は、平成 22年度と比べると、

平成 23年度に 3割弱(1,820件)と増加したまま推移している。

この一方、集落機能の大半を喪失した被災地域においては、住居の違い、家族の犠牲・就

労の有無等様々な要因が絡み合って生活環境や受診環境を複雑にして体調を崩しても受診し

ないまま重症化し易いことから、全戸訪問調査及び支援拠点づくりを通じて受診が必要な住

民の早期発見に努めるとともに、市町の広報で必要な受診を行うよう促進している。

(6) 市町による地域医療推進

釜石市においては、県立釜石病院の危機に直面する中、まず、平成 20年 6月、地域医療連

携推進室を設置して県立釜石病院、釜石医師会、保健所等との連携体制を強化し、つぎに、

平成 22年 8月、当該推進委員会部会の事務局を引き受けて在宅医療・住民連携支援及び医療

情報ネットワーク導入を支援し、そして、平成 23年 12月には、内閣官房の「環境未来都市」

の認定を受けて平成 24年 5月策定予定の「釜石市環境未来都市計画」(計画期間:平成 24~

28年度)において、産業福祉都市かまいしの構築に在宅医療推進センター設置・運営事業及

び医療情報ネットワークシステム導入事業を位置付けているが、保健所においては、こうし

た釜石市と緊密に連携を図りながら、当該事業を連絡。調整している。

さらに、多職種協働による在宅医療支援体制を構築するため、在宅医療・住民連携部会で

の意見交換を踏まえて、平成 24年度、厚生労働省在宅医療連携拠点事業の採択に向けて、地

域医療連携推進室に設置する在宅医療連携拠点が、各タスクや症例の関係者と共に連携・調

整拠点及び診療支援拠点として、①多職種連携の課題に係る解決策の検討、②在宅医療従事

者の負担軽減の支援、③効率的な医療提供のための多職種連携、④地域住民への普及・啓発

及び⑤在宅医療従事人材の育成に取り組むとする申請概要を年度末に決定している。

また、大槌町においては、全壊した県立大槌病院の再建について、県医療局と連携して安

全性(津波被害を受けない)、迅速性(早期工事着工が可能)及びアクセス性(高齢者が通院

し易い)の観点から旧病院跡地と同じ町方地域での高台の候補地を探しつつ、県立大槌病院

を始めとする大通町の医療関係者と病院の機能や規模について意見交換を進めている。

(7) 住民・医療・行政の協働

岩手県においては、平成 20年度から県民みんなで支える岩手の地域医療推進運動のスロー

ガン「みんなの力を 医療の力に!」県民も医療の担い手であるという認識の下、自らの健康

は自らで守ること、症状や医療施設の役割に応じた受診行動を喚起すること等県民一人ひとりが

地域の医療を支える「県民総参加型」の地域医療体制づくりを進めている。

こうした中、特に沿岸被災地にある保健所としては、住民の健康維持を最優先として自らの健

康管理の徹底、健康診査の受診奨励、体調不良を重症化させない適切な受診の促進や生活習慣病

の予防に関する普及・啓発活動を推進している。

【環境未来都市構想】

平成 22年 6月、閣議決定した新成長戦略で 21の国家戦略プロジェクトの一つとして環境や超高齢化

等の点で優れた成功事例を創出して国内外に普及・展開することによって需要拡大、雇用創出等ととも

に、地域の活性化を実現して我が国全体を持続可能な経済社会へと変革することを目指している。

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(8) 地域医療を担う医師の定着

保健所においては、圏域の最重要課題である県立釜石病院の医師を確保・定着するため、

県立釜石病院、釜石医師会及び釜石市と連携して医学生や研修医を対象とした地域の医療視

閲・団体との交流会の場を設定している。また、釜石市においても、従来の医師確保対策事

業を強化するべく、平成 22年 6月補正予算に基づく「釜石応援団医師ネットワーク事業」を

創設し、釜石市にゆかりのある医師情報を収集するとともに、適宜訪問して交流会を開催す

るほか、釜石市の地域医療のホームページを作成して全国に情報発信している。

(9) 県本庁との連携

県立釜石病院を実施主体とする関与事業について、保健所は、県保健福祉部及び県医療局

と頻回に打合せる等思いがけない本格的な本庁・出先連携を経験している。

3 関係機関による保健所の評価

保健所については、地域医療再生、医療の復興及び各種県計画推進に関する各連携・調整拠

点として被災地の現況にも考慮を払いながら、総合的・包括的・中長期的な観点から保健所長

を始め関係職員が粘り強い関与を継続していることから、高い評価を受けている。

4 関与事業の今後の方向

保健所においては、関与事業について、関係施設・団体が、実施主体として適切に終了して

継続できるよう支援するとともに、中長期的に地域医療連携体制を構築する観点から関与事業

が発展的に役割・機能を発揮できるよう関与を強化することとしている。

第5 所 感

1 類を見ない大震災を契機として圏域の乏しい医療・介護資源が、大きく被災した危機に直面

し、医療連携や多職種協働が、地域の医療・介護を支えるということの重要性が、専門職種や

地域住民にも改めて見えてきたことが、圏域として一体的・効果的・効率的な地域医療再生計

画事業を展開する基盤となっていると考えられる。

2 地域医療再生計画については、平成 23年 3月 11日の大震災で圏域が甚大な被害を受けて中

断したものの、被災した医療施設を始め懸命の復旧に取り取り組み、僅か 4 か月後の平成 23

年 7月には、医療復興の始動及び再生計画の再始動を切れたことには、多くの課題を抱えなが

らも広域大規模災害の公衆衛生拠点として、一日も早い復旧を目指して保健所長を先頭に日夜

苦闘を続けて一定の役割を果たせた保健所も、与って力があるものと考えられる。

3 平成 23年度末、医療情報ネットワーク導入等に当たる地域医療連携推進協議会を設置して釜

石市に事務局を置いたことは、実施主値である釜石医師会及び県立釜石病院を始めとする医療

施設及び市町行政が、地域医療再生計画終了後も協働して主体的・安定的・継続的に運用でき

る力量を形成することに資するものとして、他の保健所の参考になるものと考えられる。

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平成 24年度釜石地域県立病院運営協議会資料

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【県民みんなで支える岩手の地域医療推進運動方針】

1 今後の取組に向けて

本県では、平成 20 年 11 月、県内の保健医療、産業、学校関係団体、行政等が参画する上記推進会議

を設立し、「県民みんなで支える岩手の地域医療推進会議」を設立し、県民総参加型の地域医療体制づく

りに向けて県民運動を展開してきました。この結果、県民の医療機関の役割分担に対する認知度の高ま

りや県立病院における救急患者の減少など県民の医療に対する意識や受診行動に変化の兆しがみられる

とともに、地域で病院と医療を支えようという地域での機運が高まり、住民活動の組織が結成され、県

内各地に広がってきています。その一方で、「平成 22 年度医療と健康に関する県民意識調査結果」をみ

ると、医師不足や地域の医療は県民みんなで支えるといった考え方に対する県民の認識は余り高まって

おらず、地域医療に対する県民意識の高まりは、途上にあると考えられます。

このことから、更なる県民の意識への浸透に向け、県民に最も身近な市町村や地域住民の自主的な活

動などと連携して、県民一体となった取組を継続していく必要があります。なお、沿岸被災地での取組

については、県民の健康維持を最優先としつつ、「県民一人ひとりの健康が地域医療を支える」といった

面から、例えば自らの健康管理の徹底、健診の受診奨励、不調を重症化させない適切な受診などの促進

や生活習慣病の予防に関する知識の普及など県民への啓発活動をより図っていくことが必要です。被災

地の医療体制は、現地の方々のたゆまぬ努力はもとより、県内外からの様々な団体からの活動にも支え

られていたことから、「県民みんなで岩手の地域医療を支える」活動の一環として、他地域との連携や相

互支援の活動などについても、その助長に向けて啓発していくことも大切です。

2 運動期間

平成 23年 4月 1日から平成 26年 3月 31日まで

3 運動スローガン

「みんなの力を 医療の力に!」

4 構成団体の役割

構成団体は、県民が支える地域医療体制づくりに係る意識啓発を促進するための取組に努めるものと

します。

【構成団体に期待される共通の取組】

■自らの健康は自分で守るとの意識啓発 ■救急医療等の適正受診に関する啓発

■生活習慣病予防に関する知識の普及 ■地域医療に関する理解の促進

■かかりつけ医等の普及 ■会報や広報誌への掲載等による広報活動

■県や他の構成団体が主催する関連事業への参加、共催、後援等の協力

【産業界における取組例】

○従業員やその家族、会員等への健康教育の実施 ○従業員やその家族、会員等の心の健康づくり支援

○従業員やその家族、会員等に対する健診の受診奨励、受診率の向上

○従業員やその家族、会員等が行う医療や健康づくりに関する活動への支援

○企業や団体としての保健医療に関する社会貢献活動の推進等

【学校・教育機関における取組例】

○子どもの頃からの生活習慣病予防等に関する健康教育

○児童・生徒や保護者、学生に対する地域医療に関する理解の促進や適正受診等に関する意識啓発

○ 医療人材の育成 ○遠隔医療への取組等

【行政における取組例】

○医師確保対策の推進 ○医療連携体制の構築 ○保健・医療・介護(福祉)の連携推進

○医療に対する県民理解の促進と情報提供の推進

○県民に対する適正受診等に関する広報・意識啓発事業の実施

○産業、学校・教育団体等との連携強化及び各種団体の取組や住民活動の支援等

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事例2 新潟県佐渡地域医療再生計画への関与

調査先 新潟県佐渡保健所(佐渡地域振興局健康福祉環境部)

第1 地域の現状及び保健所の体制

1 対象地域の現状

佐渡圏域(以下「圏域」)は、新潟市の西方約 45km(新潟空港から

両津にある佐渡空港まで飛行機で 25分)の日本海に浮かぶ国内最大の

離島(東西約 30km 南北約 60km で海岸線約 280km)である。圏域を構

成する自治体である佐渡市(以下「市」)の面積は東京 23 区の約 1.4

倍の 855 ㎞ 2(山林・原野が約 8 割)で全県の約 7%、人口は約 6 万 3

千人で全県の約 2.6%を占め、高齢化率は 36.8%と全県 26.3%を大きく

上回っている過疎・超高齢の離島である(平成 22年 10月)。

2 対象地域の医療資源

圏域の既存病床数は、基準病床数 936床(一般病床及び療養病床)に対して 648床と約 3割

下回っている。病院一般病床数(人口 10万対)は全県を 3割弱上回る一方、病院療養病床数は

3 割強下回り、一般病床の過剰及び療養病床の不足となっている。また、医療施設従事医師数

は全県を 3割下回り、基幹病院の厚生連佐渡総合病院(以下「佐渡総合病院」)を始め一般病院

5施設で深刻な医師不足が生じている。また、地域医師会は佐渡医師会が活動している。

注 1:病院数・病床数は平成 22年 10月及び医師数は平成 22年 12月。注 2: ( )は人口 10万対数。 3 保健所の組織・担当者

(1) 保健所の組織

佐渡保健所(以下「保健所」)の組織は、4課体制(庶務課、企画福祉課、地域保健課及び

生活衛生課)で正規職員数は 30人、このうち医師は 1人(所長)である。

なお、所長は、新津保健所(新潟市)を兼務し、佐渡保健所には週 3日出務している。

(2) 地域医療再生計画の担当者

主な担当者は、総括の所長のほか連絡・調整の次長(行政職)及び地域保健課長(保健師)

並びに実務の同課主任 2人(診療放射線技師及び診療放射線技師)の 5人である。

なお、所長は、新津保健所(新潟市)を兼務し、佐渡保健所には週 2日勤務している。

一般病院数 病院一般病床数 医療施設従事医師数

全 国 7,587施設( 5.9) 903,621床( 706) 280,431人( 219)

新 潟 県 111施設( 4.7) 17,425床( 734) 4,207人( 177)

圏 域 5施設( 8.0) 593床( 945) 82人( 133)

○市役所 ●

佐渡保健所

市立相川病院

市立両津病院

◎佐渡総合病院

【厚生連佐渡総合病院】(平成 23年 10月に移転・新築)

1 病 床 数:354床(一般病床 350床(移転前に比べ 68床の削減)及び感染症 4床)

2 各種指定:市休日急患センター、二次救急輪番病院、地域災害拠点病院、へき地中核病院、管

理型臨床研修病院等

3 新規整備:リニアック、ガンマカメラ、屋上ヘリポート、地域医療連携電子カルテ等

【佐渡市立両津病院】

1 一般病床99床、2 二次救急輪番病院、へき地医療拠点病院等

【佐渡市立相川病院】

1 療養病床52床、2 二次救急輪番病院。

【このほか一般病院 2施設及び精神科病院 1施設】

厚生連羽茂病院(一般 45床)、佐和田病院(療養 34床)及び厚生連真野みずほ病院(精神 158床)

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第2 地域医療再生計画の概要

1 重点化項目

救急医療、周産期医療及び医療連携

2 対象地域の現状及び課題(圏域に関係しない医師・看護師の確保対策を除く。)

(1) 救急医療及び周産期医療

ア 市休日急患センターにあっては休日昼間のみ及び二次救急輪番病院3施設にあっては全

夜間を対応しているが、佐渡総合病院に救急搬送が集中しているため、一次救急医療体制

の充実及び二次救急輪番病院3施設間の連携強化を図る必要がある。

イ 周産期医療体制整備計画において、佐渡総合病院については、圏域唯一の地域周産期医

療関連施設として産婦人科常勤医1人が、主に正常分娩を取り扱っている。

ウ 圏域では対応できない重症患者、ハイリスク新生児等は、消防防災ヘリを活用して本土

の救命救急センター、総合母子周産期医療センター等に搬送しているため、新潟圏域に所

在する基幹病院と医療連携体制を構築する必要がある。

(2) 医療連携体制

ア 深刻な医療資源不足に対応するため、既存の医療資源を最大限活用できる地域医療連携

体制を構築する必要がある。

イ 慢性疾患のある高齢者等が、家庭で療養できるようにするため、医療提供施設、介護・

福祉事業所等が連携した在宅医療体制を構築する必要がある。

3 具体的な施策

(1) 県全体の取組事業(実施主体)

ア 救急・周産期医療体制の充実・強化

① 遠隔診療支援システム事業(県医務薬事課)

重症患者等の医療の確保、専門領域外の診療リスクの回避、1 人当直時のストレスの

軽減等を図るため、情報通信技術(以下「ICT」)を活用して新潟大学医歯学病院と

佐渡総合病院を結ぶ遠隔診療支援システムを構築する。

(2) 圏域の取組事業(実施主体)

ア 救急・周産期医療体制の充実

① 佐渡総合病院の機能強化事業(佐渡総合病院)

圏域の救急医療体制及び周産期医療体制を充実するため、移転新築後、佐渡市と連携

した救急ワークステーション、屋上へリポート、重症治療室等を整備する。

② 遠隔診療支援システム事業(医療施設)

③ ドクターヘリの導入検討事業(県医務薬事課)

圏域で対応できない重症患者、ハイリスク新生児等を本土の対応可能な医療施設に搬

送するため、ドクターへリの導入を検討する。

イ 地域医療連携体制の構築

① 地域医療連携ネットワークシステム構築事業(医療施設)

地域医療連携体制を構築するため、ICTを活用して診療情報を共有する地域医療連

携ネットワークシステム(以下「ネットワークシステム」)を構築する。

ウ 在宅医療提供体制構築事業

① 在宅診療支援システム事業(医療施設)

在宅医療提供体制を構築するため、主治医が、訪問看護師から携帯テレビ電話による

患者状況の電送を受けて、主治医が処置を指示する在宅診療支援システムを構築する。

エ 地域医療再生計画推進事業

① 地域医療再生計画に定める事業を推進するため、必要な会議及び調査を行う。

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第3 保健所関与事業の概要

1 保健所関与の総括

医療資源が大幅に不足する広大な離島の医療提供体制を確保するため、ICTを活用した地

域医療連携ネットワークの構築・運用について、当該事業検討委員会等の非公式の共同事務局

として適切に関与している。

2 主な関与事業(見出し符号は第2-3による)

(1) 県全体の取組事業

(2) 圏域の取組事業

次の各システムを統合して地域医療連携ネットワーク事業として一体的に構築する。

ア 救急・周産期医療体制の充実・強化

② 遠隔診療支援システム事業

イ 地域医療連携体制の構築

① 地域医療連携ネットワーク

システム構築事業

ウ 在宅医療提供体制の構築

① 在宅診療支援システム事業

エ 地域医療再生計画推進事業

3 保健所の役割・取組 注1:単位は千円。 注2:※には別途国庫補助金が措置されている。

地域医療連携推進協議会理事会を始めとする各種推進組織の非公式の共同事務局として、医

療情報の収集・分析、推進組織の運営、医療施設・団体間の調整、関係者への研修会、関与事

業の工程管理、当該理事会・県本庁間の予算調整等に適切に取り組んでいる。

4 保健所関与の予算

平成 23年度は、会議費、調査費及び研修会費に関する予算を確保している。

第4 保健所関与事業の詳細

1 平成 23年度までの関与過程

平成16年3月、1市7町2村の合併で誕生した佐渡市においては、新市として効率的な医療資源

の運用及び医療従事者の確保に資する医療環境の整備を図るため、保健所と連携しながら「佐

渡市地域医療計画策定委員会」を設置し、平成19年3月、医療提供体制の再構築、救急医療体制

の整備、へき地医療体制の整備及び医療従事者の確保・養成対策に関する医療施策の方向性を

定める「佐渡市地域医療計画(計画期間:平成18~22年度)」を策定・推進していた。

こうした中、平成21年7月、保健所においては、県医務薬事課(以下「県本庁」)からの地域

医療再生計画に係る事業提案の要請を病院6施設、佐渡医師会及び佐渡市に伝達した。これを受

けて佐渡総合病院及び佐渡医師会においては、ネットワークシステム構築事業に一本化して提

案したところ、県本庁は、深刻な医師不足に加え高齢過疎の離島であることから、高度救命救

急医療等特定分野の医療を除き、地域完結型医療体制を構築する必要性が高いこと、また、医

療施設・団体が合意を形成していることから、対象地域の候補としている。

平成21年10月、県本庁においては、ネットワークシステムに遠隔診療支援システム及び在宅

診療支援システムを追加して編成した地域医療連携ネットワーク(以下「ネットワーク」)事

業等から成る地域医療再生計画(案)を取りまとめ、保健所と共催した圏域の関係者との意見

交換会で地域医療再生計画の提出の了承を受けて厚生労働省に提出している。

平成 22年 5月、県本庁及び保健所においては、ネットワーク事業の実務面を調整する組織と

して佐渡総合病院に共同事務室を置く「地域医療連携ネットワーク事業検討委員会」を設置し

てネットワーク事業の推進方針及び進行管理並びに事業計画及び収支予算、要件定義等支援業

表1 関与事業の予算

関 与 事 業 総事業費 基金負担

遠隔診療支援システム 621,344 394,464※

地域医療連携ネットワークシステム 950,000 950,000※

在宅診療支援システム 395,959 281,786※

計 1,967,303 1,626,250

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務に係るICT事業者への情報(委託予算見積書)の提供依頼及びプロポーザル競技の実施要

領並びに審査委員会設置要綱の決定に加えてネットワーク事業を運営等する組織として「地域

医療連携推進協議会」の設置等構築工程フェイズⅠのシステム企画を支援している。

2 平成 23年度の関与過程

平成 23年 5月、プロポーザル競技による要件定義等支援事業者(バーチャレクス・コンサル

ティング「以下〔VXC〕」)の選定・業務実施、8 月~9 月、関係施設説明会の開催、11 月、

シンポジウムの開催、平成 24年 3月、プロポーザル競技による開発事業者(日本ユニシス)の

選定、この間の地域医療連携推進協議会の運営、地域医療連携ネットワークシステム検討委員

会の設置・運営、NPO法人への移行等構築工程フェイズⅡの要件定義を支援している。

(1) 推進組織

ア 地域医療連携推進協議会(共同事務局:佐渡医師会及び共同事務室:佐渡総合病院)

当該推進協議会については、平成 23年 3月、法人格の取得を視野に収めてネットワーク

事業に関する構築及び運営の主体の確立に向けて、上記ネットワーク事業検討委員会の後

継の任意団体として設立して総会 1回及び理事会 4回開催し、ネットワーク事業の推進方

針及び進行管理並びに事業計画及び収支予算、地域医療連携ネットワーク機能図及び要求

機能概要説明書、ネットワークシステム開発等に係るプロポーザル競技の実施要領及び審

査委員会設置要綱、当該推進協議からNPO法人への移行・設立を決定している。 イ 地域医療連携ネットワークシステムプロポーザル競技審査委員会(事務局:佐渡医師会)

当該審査委員会については、ネットワークシステム構築に係る全体計画の策定、要件定

義書の作成、開発仕様書の作成及び開発事業者調達の準備を委託するため、平成 23 年 4

月から 4回開催して 5月にVXCを選定している。VXCの実施業務の成果を活用して引

き続き、ネットワークシステムに係る開発計画の策定、開発実施及び運用計画の策定を委

成 24年 1月から 4回開催して 3月に日本ユニシスを選定している。

【地域医療連携推進協議会理事会】

会長の佐渡医師会長のほか副会長の佐渡市副市長及び佐渡総合病院長、理事の佐渡医師会副会長、

佐渡歯科医師会長、佐渡市両津病院長、佐渡市相川病院長、真野みずほ病院長、羽茂病院長、佐和田

病院長、佐渡総合病院事務長、佐渡市市民生活課長、佐渡総合病院外科部長、監事の佐渡医師会理事

及び佐渡歯科医師会専務理事の計15人。

【共同事務局】

事務局長の佐渡市民生活課長のほか事務局次長の佐渡市民生活課健康推進室長、事務局員の佐渡総

合病院医事課主任及び佐渡医師会事務局員の4人。

【要件定義等支援業務プロポーザル競技審査委員会】

委員長の佐渡総合病院外科部長のほか副委員長の佐渡市立両津病院長、委員の佐渡医師会理事、佐

渡歯科医師会理事、佐渡市市民生活課長及び県情報政策課情報主幹の計6人。

【開発等業務プロポーザル競技審査委員会】

委員長の佐渡総合病院外科部長のほか副委員長の佐渡市立両津病院長、委員の佐渡医師会理事、佐

渡歯科医師会専務理事、さくら薬局畑野管理薬剤師及び新潟県情報政策課情報主幹の計6人。

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【地域医療連携ネットワークシステム検討委員会】

委員長の佐渡総合病院外科部長のほか副委員長の佐渡医師会理事及び佐渡市両津病院長、委員の佐

渡医師会理事、佐渡歯科医師会副会長及び専務理事、市相川病院庶務係長、真野みずほ病院総務課主

任、羽茂病院事務部主任、佐和田病院総務財務課員、介護老人福祉施設長、介護老人保健施設事務長、

さくら薬局管理薬剤師、佐渡市市民生活課健康推進室長、保健所長及び同地域保健課長の計 17人。

ウ 地域医療連携ネットワークシステム検討委員会(事務局及び事務室は上記協議会と同様)

当該検討委員会については、ネットワークシステム開発の実務面を調整するため、地域

医療連携推進協議会の下部組織として平成 23年 7月に設置して 8回開催している。

(2) 関係機関の重要人物との連携

重要人物は、佐渡総合病院外科

部長である。平成 21年度、地域医

療再生計画の対象地域を目指して

佐渡医師会・病院間の合意形成に

貢献した後、平成 22年度にネット

ワーク事業検討

委員会長、平成 23年度にはネットワークシステム検討委員会長及びネットワークシステム

プロポーザル競技審査委員会とし

てネットワークの構築を多面にわたって主導している。

こうした中、保健所においては、同部長と緊密に連携・調整して現状調査、資料作成、方

針決定、連絡調整等ネットワークシステムの構築実務を適切に支援している。

(3) 関係者への研修等

平成 23年 8月から 9月までネットワークシステムの構築概要、機能概要及びコストシミュ

レーションについて、全ての病院、医科診療所、歯科診療所、調剤薬局及び介護事業所を対

象として 3回の説明会(延べ 74施設・事業所の参加)を開催し、第 3回説明会の終了後に実

態として参加の余地のある全ての施設・事業所を対象として参加意向をアンケート調査(回

収率 74.1%〔86/116施設〕)している。

(4) 地域医療連携体制の構築

ネットワークシステムの構築以外には特に講じてはいないが、厚生連佐渡総合病院は、病

院間連携の一環として佐渡市立両津病院、厚生連真野みずほ病院(一般病院)及び厚生連羽

茂病院(精神科病院)に医師を派遣している。

(5) 適切な受診行動の啓発

地域医療連携推進協議会においては、佐渡市ケーブルテレビによる地域医療連携をテーマ

とする自主番組の制作に協力して医療現場の現状と抱える課題を普及するとともに、ネット

ワークシステム構築及び適切な受診行動の必要性等課題解決のための道筋を啓発している。

(6) 佐渡市による地域医療連携推進

佐渡市においては、第一次佐渡市地域医療計画に引き続き、第二次計画を策定して地域医

療連携による地域完結型医療体制(高度救命救急医療等特定分野の医療を除く。)の構築を

目指しており、ネットワークシステムについては、医療提供施設・団体と連携・協力し、構

築を推進するとともに、構築後は安定的・効果的に運用できるよう支援することとしている。

また、佐渡市においては、これまで市休日急患センターの佐渡総合病院内科外来への移設・

運営(平成 22年 11月)、佐渡総合病院の移転(平成 23年 10月)、島南部地域の医療拠点

となる厚生連羽茂病院の運営等への独自の財政支援にも取り組むとともに、佐渡市ケーブル

テレビによる地域医療連携をテーマとする自主番組の制作を推進している。

保健所においては、上記のとおり地域医療連携等を推進している佐渡市と第一次佐渡市地

表2 参加意向アンケート調査結果

区 分 参加数(A) 対象数(B) 参加率(A/B)

病 院 6 6 100.0%

医科診療所 15 19 78.9%

歯科診療所 9 24 37.5%

調 剤 薬 局 11 20 55.0%

介護事業所 23 47 48.9%

計 64 116 55.2%

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域医療計画の策定時から緊密に連携しながら、圏域の医療提供体制の構築を協働している。

(7) 住民・医療・行政の協働

地域医療連携推進協議会においては、ネットワークシステムの適切な運営のためには、地

域住民との協働(システム参加施設間で診療情報を共有することの同意)が必要であること

から、平成 23年 11月、シンポジウム「佐渡の医療、現在、これから」(主催:新潟大学全学

佐渡同窓会)を佐渡医師会や佐渡市と共催し、今後の佐渡の医療システムについて、シンポ

ジストが、それぞれ立場から活発に討論している。また、佐渡市ケーブルテレビは、当該推

進協議会の協力を受けて平成 24年 1月に当日の様子を自主制作番組として放映している。 (8) 地域医療を担う医師の定着に向けた協働

現在のところ医師の定着に向けた協働は、特に講じてはいないが、ネットワークシステム

の運用によって魅力的な医療提供体制を構築して先進的な取組を全国に発信し、地域医療を

志す医師の招聘と定着につながることを期待している。

(9) 県本庁との連携

県本庁にあって地域医療再生計画全般の主導・調整・工程管理、保健所にあってはネット

ワークシステムの連絡調整・工程管理という役割分担及び業務連携によって円滑に推進して

いる。さらに、地域医療連携ネットワークシステム検討委員会委員を務めている県情報政策

課情報主幹においては、ネットワークシステム構築に関する技術面の助言とともに、委託事

業者の成果物に係る監査も受けている。

3 関係機関による評価

保健所については、平成 22年度までは地域医療推進協会議の公式の共同事務局、平成 23年

度からは非公式の共同事務局として公正・公平な立場から関係機関間及び関係機関と県本庁間

を連絡・調整することによって、要件定義業務の円滑な実施を適切に支援していることから、

関係機関は、保健所の連絡・調整機能を一様に評価している。

4 関与事業の今後の方向

平成 24年度は、構築工程フェイズⅢの第1期システム(ネットワークシステム)の運用及び

ネットワークホームページの整備を計画しているが、最大の課題である患者同意の取得(診療

情報をシステム参加施設間で共有することの同意)の推進方策を検討する予定である。

また、任意団体の地域医療連携推進協議会については、法人格を取得することによりネット

ワーク事業の推進体制を明確にして円滑な執行を図るため、平成 24年 4月に向けてNPO法人

に移行する準備を鋭意進めている。

第5 事例の所感

【シンポジウム「佐渡の医療、現在、これから」】(参加者:約 180人)

1 主 催: 新潟大学全学佐渡同窓会

2 テ ー マ「新佐渡総合病院と佐渡医療システム」

3 座 長:新潟大学全学佐渡同窓会 服部晃(佐渡総合病院前院長)

○○〃○○○:○○○○○〃○○○○○ 仲川純子(NPO法人トキどき応援団事務局長)

4 シンポジスト:新潟県福祉保健部副部長 得津 馨

○○〃○○○:地域医療連携ネットワーク検討委員会長 佐藤賢治(佐渡総合病院外科部長)

○○〃○○○:佐渡総合病院長 百都 健

○○〃○○○:佐渡医師会長 田尻正記(田尻内科医院長)

○○〃○○○:佐渡市立両津病院長 石塚 修

○○〃○○○:歯科医師会在宅歯科医療連携室担当 渡辺 守(渡部歯科医院長)

○○〃○○○:佐渡小児科医チーム 岡崎 実(佐渡総合病院小児科医長)

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1 広大な島内に散在する医療提供施設をあたかも一つの医療施設のように機能させる仮想「佐

渡島病院構想」の実現を目指し、唯一の基幹病院が主導する大規模なネットワークシステムの

構築を保健所が非公式の共同事務局として適切に支援している事例である。

2 地域医療連携・地域医療再生を支援するツールとして重要な地域医療連携情報ネットワーク

の構築に関与している保健所にとっては、ICTに精通している職員を確保し難い中にあって

も県情報政策課情報主幹の助言も得ながら、システム企画から要件定義までの関与内容及び工

程管理は参考になるものと考えられる。

3 ネットワークシステムの要件定義の順調な進捗の要因については、非公式な事務局ながらも

保健所において、医療情報の収集・分析、各種推進組織の運営、医療施設・団体間の連絡・調

整、関係者への研修会、関与事業の工程管理、当該理事会・県本庁間の予算調整等を推進して

いることが与って大きいものと考えられる。

3 広域・大規模なネットワークシステムの開発段階においては、現場の業務及びニーズを把握

してシステム構築過程の要件定義に適切に落とし込める人材とともに、システム調達プロセス

を的確に工程管理できる人材の活用が鍵になるといわれている。

このため、本事例において保健所においては、医療現場のニーズ及びICTに詳しい重要人

物と緊密に連携しながら、さらに、システムの要件定義及び調達プロセスに精通しているコン

サルティング事業者及び県情報政策課情報主幹と協働してシステムの構築を進めている。

4 地域医療連携推進協議会においては、佐渡市ケーブルテレビによる昨年度の「佐渡島病院構

想」をテーマとする自主番組に引き続き、本年度もシンポジウム「佐渡の医療 現在、これか

ら」の自主番組の取材・制作に協力して効果的・効率的に医療現場の現状と抱える課題を普及

するとともに、ネットワークシステム構築及び適切な受診行動の必要性等課題解決のための道

筋を啓発している。

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【地域医療連携ネットワークの構築工程】

フェイズⅠ:システム企画(平成 22年度実施:事業費〔調査費等〕921千円)

1 地域医療連携ネットワーク基本計画の策定

島内の医療に関連する現状の把握、情報通信技術企業の提供するシステム・他のシステム運

用事例等の情報収集を行いながら、構築すべきシステムの基本計画を策定。

① 地域医療連携ネットワーク意向アンケート調査(対象:6病院・21診療所、回答率 89%)

② 地域医療連携医療情報アンケート調査(医療情報の保管・管理方法、在宅診療の現状)

③ 地域医療連携ネットワークシステム情報交換会(NEC、富士通、富士フィルム、NTT)

④ 地域医療連携ネットワークインフラ調査(光、ADSL、ISDN、LAN、CATV)

⑤ 在宅診療支援システムヒアリング(居宅介護支援事業所管理者〔介護支援専門員〕)

⑥ 地域医療連携ネットワークシステムに他の二つのシステムを包括して一体的な構築方針を決定。

2 地域医療連携ネットワークシステム要件定義等支援業務に係る情報提供依頼(RFI)

情報通信技術事業者に対して要件定義等支援業務委託に関する見積額等の情報提供を依頼。

① 情報提供依頼(対象:ウルシステムズ、VCX、NEC、富士通、NTTデータ経営研究所)

② 要件定義等支援業務委託予算要求(平成 23年度当初予算)

3 地域医療連携ネットワークシステム要件定義等支援業務委託内容の決定

RFIで把握した情報を参考にして要件定義等支援業務の委託内容を決定。

① 要件定義等支援業務委託仕様書を決定

② 要件定義等支援業務プロポーザル競技審査委員会設置要綱を決定

③ 地域医療連携ネットワーク事業運営組織(第 1回佐渡地域医療連携推進協議会設立総会)を設立

フェイズⅡ:要件定義(平成 23年度実施:事業費(委託費)70,837千円)

1 要件定義等支援業務委託の補助金受領

地域医療連携推進協議会が保健所を経由で県本庁に補助金交付を申請して補助金を受領。

2 要件定義等支援業務委託に係る事業者の選定・契約

当該支援業務内容に基づいてプロポーザル公募により事業者(VXC)を選定して契約。

① 平成 22年度に決定した要件定義等支援業務内容を基にしてプロポーザル公募

② 審査委員会によるプロポーザルの審査(ヒアリングの実施を含む。)

③ 審査結果を受けて最優秀提案者等を理事会に報告、事業者を選定して契約。

④ ネットワークシステム検討委員会(理事会)の設置を決定。

3 要件定義等支援業務事業者による業務実施

地域医療連携ネットワークシステム検討委員会における検討・調整を受けながら、当該支援業務事

業者が、当該ネットワークシステム構築に係る全体計画、要件定義、開発事業者の調達を支援。

① 地域医療連携ネットワークシステム構築計画の全体計画等の策定。

・再生計画の趣旨に即した開発方法を検討し、システム全体の計画案を提案。

・推進協議会及び事業者の人員から業務実施体制を策定し、各人の業務分担、役割等について提案。

② 地域医療連携ネットワークシステムの要件定義等の作業。

・現行システムの調査及びシステム要件の定義(要件定義書及び開発仕様書の作成)

③ 開発事業者候補にRFIを実施して提出を受けたRFI回答を基に要件定義書を修正。

④ 地域医療連携ネットワークシステムの構築事業者の調達準備

・構築事業者調達仕様書の作成支援及び構築事業者調達に係る評価基準の作成支援

4 システム構築の予算要求・調整(平成 24年度当初予算)

5 調達支援事業者及びシステム開発事業者の選定

プロポーザル公募により調達支援事業者及びシステム開発事業者(日本ユニシス)を選定。

フェイズⅢ:第1期システム構築(主に平成 24年度~25年度予定)

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事 例 3

静岡県中東遠地域医療再生計画への関与

調査先 静岡県西部健康福祉センター(保健所)

第1 対象地域の現状及び保健所の体制

1 対象地域の現状

県西部に位置する中東遠圏域(以下「圏域」)

は、南アルプス南端辺縁と東西 55㎞の海岸線

の間に広がり、浜松市(約 80万 1千人)を中

心とする西部圏域(約 86万 1千人)及び志太

榛原圏域(約 47万 3千人)に隣接し、袋井市・

掛川市に跨る小笠山が、圏域の東西を中遠地

域と東遠地域に分け、圏域の中央部は、幹線

道路が東西に貫通しているが、東南端の御前

崎市から救命救急センターを備える磐田市立総合病院までは自動車で 1時間以上要する等救急

救命医療へのアクセスに恵まれていない。

また、構成市町は 5市 1町、人口は約 47万 1千人で全県の約 13%、面積は 832㎞2で全県の

約 11%を占め、高齢化率は 21.7%と全県 23.8%を下回っている(平成 22年 10月現在)。

2 対象地域の医療資源

病院一般病床数は全国を4割弱及び医療施設従事医師数は5割強それぞれ下回る中、各市町が

単独開設する公立病院6施設は、これまで急性期医療を提供する「総合病院」として役割をどう

にか果たしてきたものの、勤務医の不足や施設の老朽化により診療体制の縮小、病床利用率の

低下又は一般病床の休床※に直面している等地域医療や病院運営の維持が厳しさを増している。

※ 休床率は市立御前崎総合病院44%、市立袋井市民病院30%、公立森病院22%及び掛川市立総合病院9%である。

こうした中、掛川市・袋井市においては、将来の建替えや勤務医の不足とともに、公立病院

改革プランにも協働して対応するため、平成19年12月から両市立病院の再編・統合の協議を始

め、平成21年秋には中遠地域の基幹病院である磐田市立総合病院に加え、平成25年春には東遠

地域にも循環器・脳卒中センター及び糖尿病拠点を備える新たな基幹病院として中東遠総合医

療センターを整備する基本計画を固めている。また、地域医師会は、磐田市医師会、磐周医師

会(袋井市及び森町)及び小笠医師会(掛川市、御前崎市及び菊川町)が活動している。

一般病院数 病院一般病床数 医療施設従事医師数

市立御前崎総合病院

菊川市立

総合病院

○ 市立袋井 市民病院

磐田市立

総合病院

遠州灘

掛川市立

総合病院

保健所

中東遠総合 医療センター ◎

東遠地域

浜松市

島田市

牧之原市 ◎

中遠地域

公立 森病院 ○

遠州灘

西部圏域

志太榛原圏域

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注 1:病院数・病床数は平成 22年 10月現在、及び、医師数は平成 22年 12月現在。注 2:( )は人口 10万人対。

全 国 7,587施設( 5.9) 903,621床( 706) 280,431人( 219)

静 岡 県 155施設( 4.1) 22,011床( 585) 6,883人( 183)

中東遠圏域 1 (47.1万人) 14施設( 3.0) 2,035床( 432) 581人( 123)

中遠地域 1 (27.3万人) 10施設( 3.7) 1,147床( 420) 355人( 130)

磐田市 (16.9万人) 7施設( 4.2) 618床( 367) 249人( 148)

袋井市 ( 8.5万人) 2施設( 2.4) 398床( 469) 88人( 104)

森 町 ( 1.9万人) 1施設( 5.1) 131床( 674) 18人( 93)

東遠地域 1 (19.8万人) 4施設( 2.0) 888床( 448) 226人( 114)

掛川市 (11.6万人) 2施設( 1.7) 448床( 385) 134人( 115)

御前崎市( 3.5万人) 1施設( 2.9) 238床( 686) 31人( 89)

菊川市 ( 4.7万人) 1施設( 2.1) 202床( 429) 61人( 130)

浜 松 市 (80.1万人) 31施設( 3.9) 4,912床( 613) 1,908人( 238)

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(

1

)

西

○中遠地域

【磐田市立総合病院】(基幹病院として高度急性期~一般急性期を分担)

1 病 床 数:500床(一般498床及び感染症2床)

2 各種指定:地域がん診療連携拠点病院(平成22年4月)、地域リハビリテーション広域支援セン

ター、二次救急輪番病院、救命救急センター(平成21年4月)、地域災害拠点病院、

地域周産期母子医療センター、地域医療支援病院(平成23年9月)、基幹型臨床研修

病院等

【袋井市民病院】(平成 25 年春の閉院までは一般急性期、その後は聖隷袋井市民病院〔指定管理者:

聖隷福祉事業団〕として亜急性期・回復期~療養期を分担)

1 病 床 数:400床(一般 398床及び感染症 2床)

2 各種指定:二次救急輪番病院、地域災害拠点病院等

3 跡 施 設:平成 23年総合健康センター構想(①健康指導センター、②健康福祉支援センター、

③外来健診センター、④聖隷袋井市民病院一般 50床及び療養 100床〔今後、回復期

リハビリテーション病棟に 50床を転換予定〕、⑤在宅療養支援センター、⑥休日夜

間急患センター等)

【公立森町病院】(一般急性期~亜急性期・回復期~療養期を分担)

1 病 床 数:131床(一般 93床及び療養 38床〔平成 21年 11月に回復期リハビリテーション病棟

に 38床を転換済み〕)

2 各種指定:二次救急輪番病院等

○東遠地域

【掛川市立総合病院】(平成 25 年春の閉院までは一般急性期、その後は掛川東病院〔医療法人〕とし

て亜急性期・回復期~療養期を分担)

1 病 床 数:450床(一般 448床及び感染症病床 2床)

2 各種指定: 二次救急輪番病院、認知症疾患医療センター、地域災害拠点病院等

3 跡 施 設:平成 23年希望の丘構想(①地域健康医療支援センター、②掛川東病院療養 240床〔今

後、回復期リハビリテーション病棟に 40 床を転換予定〕、③介護老人保健施設 100

床、④介護老人福祉施設定員 100人、⑤小笠掛川急患診療所等)

【市立御前崎総合病院】(一般急性期~亜急性期・回復期~療養期を分担)

1 病 床 数:292 床(一般 238 床及び療養 54 床〔平成 21 年 4 月に回復期リハビリテーション病

棟に 38床を転換済み〕)

2 各種指定:二次救急輪番病院等

【菊川市立総合病院】(一般急性期~亜急性期・回復期を分担)

1 病 床 数:260床(一般 202床〔平成 21年 7月に回復期リハビリテーション病棟に 40床を転換

済み〕及び精神 58床)

2 各種指定:二次救急輪番病院等

【中東遠総合医療センター(平成 25年春の開院)】(基幹病院として一般急性期~高度急性期を分担)

1 病 床 数:500床(一般 496床及び感染症 4床)で統合前の両病院の計 850床から 350床の削減

2 各種指定:認知症疾患医療センター、二次救急輪番病院、救急センター(将来の救命救急セン

ター指定を目標)、地域災害拠点病院、協力型臨床研修病院等

【救急医療体制】

1 一次救急医療体制

(1) 中遠地域(磐田市):平成24年度に夜間急患センターを南部に移転し在宅輪番医制を廃止予定。

〃 (袋井市):休日急患診療室(昼間)を跡施設に開設予定及び在宅輪番医制(平日夜間)。

〃 (森 町):公立森町病院

(2) 東遠地域:平成21年度小笠医師会掛川医療センターに急患診療室を開設し在宅輪番医制廃止。

2 二次救急医療体制:二次救急輪番病院 6施設(全て公立病院)

3 三次救急医療体制:磐田市立総合病院救命救急センター

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下「保健所」)の構成は、2部 4課(医療健康部(地域医療課及び健康増進課)並びに衛生環境

部(衛生薬務課及び環境課))、正規職員数は 40人(医療健康部 19人及び衛生環境部 21人)、

このうち医師は 1人(保健所長兼センター医監)である。

(2) 地域医療再生計画の担当者

地域医療再生計画の主な担当者は、総括の保健所長のほか同医療健康部長(保健師)、同部

地域医療課長(事務職)及び同課主幹(保健師)の 4人である。

第2 地域医療再生計画の概要

1 重点化項目

公立病院の統合・再編及び医療連携体制の構築

2 対象地域の現状及び課題

(1) 既存病床数が基準病床数(3,081床)を 170床下回る中、公立病院の一般病床は全体の 17%

が休床し、入院患者の約 3割が圏域外に流出していることから、不足する勤務医を確保する

とともに、地域として分担する医療機能に応じ一般病床を転換することが重要である。

(2) 公立病院の勤務医の不足に対応するためには、圏域の一次救急医療体制の充実とともに、

救急医療で患者の重症度を判断するトリアージを行える家庭医の養成が重要である。

また、在宅医療を推進するためには、関与する医療施設の増加とともに、多職種間連携を

支援する仕組の整備のほか、プライマリケア※を実践できる家庭医の養成も重要である。

(3) 掛川市立総合病院及び袋井市民病院においては、施設の老朽化、勤務医の不足、経営の悪

化とともに、公立病院病院改革にも対応するため、両病院を統合・再編して東遠地域に新た

な基幹病院として新病院を整備する基本計画を固めている。

(4) がん診療においては、圏域に地域がん診療連携拠点病院が不在のため、がん患者の 5割強

が浜松市の医療施設で受療していることから、平成22年 4月の地域がん診療連携拠点病院の

指定に向けて磐田市立総合病院の高精度放射線治療装置を整備することが重要である。

(5) 圏域東部に隣接する志太榛原圏域への圏域外搬送は 891件(搬送件数全体の 6.2%)に上り、

このうち御前崎市からのものが約 9割を占めが、その主な搬送先の榛原総合病院は、勤務医

の不足で診療体制を大幅に縮小しており、かつ、磐田市立総合病院までは 1時間以上を要す

ることから、東遠地域に整備する基幹病院には救命救急機能を備えることが重要である。

(6) 地域医療再生においては、圏域の医療連携拠点として企画・運用の役割を担うセンターを

運営して総合的・計画的に連携を図りながら、圏域統一疾病別連携パス開発、地域医療連携

情報システム導入等各種の取組事業を実施することが重要である。

(7) 市立御前崎総合病院においては、ICT(情報通信技術)を活用する地域医療連携で重要

なツールとなる電子カルテシステムの導入を急ぐことが重要である。

3 具体的な施策

(1) 県全体の取組事業(事業実施主体及び事業予算)

(2) 圏域の取組事業(事業実施主体及び事業予算)

ア 医師確保対策事業

(ア) 家庭医養成プログラム構築事業(磐田市立総合病院・菊川市立総合病院・公立森町病

院及び4億4,000万円〔運営費〕)

家庭医を養成・確保するため、ミシガン大学の指導医を招聘して磐田市立総合病院が

中核施設として専門研修、菊川市立総合病院及び公立森町病院が連携して特性を活かし

た家庭医療研修をそれぞれ実施して家庭医養成プログラムの構築を支援する。

(イ) 家庭医療センター整備事業(菊川市立総合病院・公立森町病院及び4億円〔整備費〕)

各科専門医の支援及び高度医療機器がない環境で幅広い分野の初期診断・治療能力を

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養うため、病院とは別に両病院に家庭医療センター(研修施設)の整備を支援する。

イ 掛川・袋井両市立病院の統合・再編に伴う機能強化及び公立病院間の機能分担事業

(ア) 掛川市・袋井市新病院建設事業(新病院建設事務組合及び9億3,000万円〔整備費〕)

一般急性期医療機能の集約化・拠点化による高度急性期機能の形成に向けて、両病院

を統合・再編して東遠地域に循環器・脳卒中センター及び糖尿病拠点を備える新たな基

幹病院(中東遠総合医療センター)の整備を支援する。

(イ) 腫瘍センター整備事業(磐田市立総合病院及び2億2,000万円〔整備費〕)

地域がん診療連携拠点病院の指定に向けて放射線治療を充実するため、高精度放射線

治療装置及び外来化学療法室を設置する腫瘍センターの整備を支援する。

ウ 医療施設等間の連携促進事業

(ア) 地域医療再生支援センター運営・実施事業(1億2,000万円〔うち運営費1億800万円〕)

a 地域医療再生支援センター運営事業

地域医療再生計画の進行管理及び地域医療再生支援センター事業の総括を実施する。

b 地域医療再生支援センター実施事業

① 圏域統一疾病別連携パス開発事業(公立病院6施設及び運営費)

② 看護師口腔ケア講習会開催事業(小笠掛川歯科医師会及び運営費)

急性期病棟の看護師に口腔ケアの基礎知識及び技術を習得する講習会を開催する。

③ 地域医療連携情報システム導入事業(公立病院6施設及び運営費)

ICT(情報通信技術)を活用して診療情報を開示・共有できる環境を整備する。

④ 感染症診査協議会デジタル画像対応事業(保健所及び運営費)

感染症診査協議会に医療施設からのデジタル画像を表示できる装置を整備する。

⑤ 診療情報集約化・DB化事業(保健所〔浜松医科大学に委託〕及び運営費)

DPCデータの分析情報を提供して各公立病院の医療・運営の評価を支援する。

⑥ 地域医療再生支援センター整備事業(新病院建設事務組合及び整備費)

当該支援センターの中東遠総合医療センターへの移設・整備を支援する。

(イ) 地域健康医療支援センター創設事業(掛川市及び8,000万円〔運営費〕)

在宅医療を支援するため、地域包括支援センター、訪問看護・介護ステーション及び

在宅医療支援機能を備える地域健康医療支援センター5施設の運営を支援する。

(ウ) 袋井市民病院跡施設病床整備事業(袋井市民病院及び8,000万円〔整備費〕)

袋井市民病院跡施設について、急性期・回復期医療の後方病床や在宅療養患者の一時

入院病床として有効利用するため、一般病床の療養病床への転換を支援する。

エ 医療連携ICT(情報通信技術)化推進事業

(ア) 電子カルテシステム導入事業(市立御前崎総合病院及び2億3,000万円〔整備費〕)

ICTを活用した地域医療連携体制に参画して診療情報を開示・共有するため、その

重要なツールとなる電子カルテシステムの市立御前崎総合病院への導入を支援する。

第3 保健所関与の概要

1 保健所関与の総括

公立病院が全市町に散在して勤務医不足が深刻化する中、持続可能な医療提供体制を確保す

るため、保健所は、地域医療再生計画の進行等を管理する地域医療再生支援センターの事務局

を務める掛川市と協働して圏域統一連携パス開発、地域医療連携情報システム導入、救急医療

体制再構築、家庭医を始め医師確保等幅広い事業について、適宜連絡・調整している。

2 主な関与事業(見出し符号は第2-3の具体的な施策と同一)

(2) 圏域の取組事業(実施主体)

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ア 医師確保対策事業

(ア) 家庭医養成プログラム構築事業

ウ 医療施設等間の連携促進事業

(ア) 地域医療再生支援センター運営・実施事業

a 地域医療再生支援センター運営事業(事務局設置施設)

b 地域医療再生支援センター実施事業(各事業実施主体)

① 圏域統一疾病別連携パス開発事業(公立病院6施設)

② 看護師口腔ケア講習会開催事業(小笠掛川歯科医師会)

③ 地域医療連携情報システム導入事業(公立病院6施設)

④ 感染症診査協議会デジタル画像対応事業(保健所)

⑤ 診療情報集約化・DB化事業(保健所〔浜松医科大学に委託〕)

⑥ 地域医療再生支援センター整備事業(新病院建設事務組合)

3 保健所の役割・取組

関与事業について、①情報の収集・分析、②企画・立案、③推進会議の運営、④関係施設・

団体間の連絡・調整、⑤関係者の研修、⑥工程管理及び⑥予算調整の役割を果たしている。

4 保健所関与の予算

平成23年度の地域医療再生支援センター運営・実施事業の予算総額は 655万円、この内訳は

地域医療再生支援センター運営事業が 16 万円及び地域医療再生支援センター実施事業が 639

万円(圏域統一疾病別連携パス開発事業 83 万円、看護師のための口腔ケア講習会開催事業 40

万円、診療情報集約化及びデータベース化事業 516万円)である。

このうち保健所の執行予算は、診療情報集約化・データベース化(浜松医科大学に委託実施)

事業の計 516万円である。

第4 保健所関与事業の詳細

1 平成 22年度までの関与過程

(1) 救急医療体制の構築

保健所においては、平成 15年度に新たに設置した中東遠地域メディカルコントロール協議

会について、中東遠地域医療協議会(事務局:保健所)の救急医療作業部会としての位置付

も兼ねて救急医療体制構築の検討を本格的に始め、勤務医の不足が深刻化した平成 18年度か

らは、公立病院 6 施設、休日夜間急患センター2 施設及び在宅輪番医制 3 地区に対する救急

受療者数調査並びに消防本部 5団体に対する救急搬送先病院調査を毎月実施し、両協議会に

おいて両調査データから救急医療体制を適宜評価しながら、平成 18年 10月から次のとおり

救急医療体制の構築に係る対策を逐次実行に移せるよう適宜連絡・調整している。

(2) 掛川市・袋井市新病院(基幹病院)の建設

両市においては、老朽化した市立病院の建替をほぼ同時期に迎えて病院経営の悪化にも直

面している中、袋井市が、平成 18年 2月、県健康福祉部技監(医師)も参加する在り方検討

委員会(事務局:病院管理課)、掛川市が、同年 8月、同技監及び保健所長も参加する在り方

検討委員会(事務局:病院経営企画課)」をそれぞれ設置して検討を開始し、両市立病院の統

【救急医療体制構築に係る対策の推移】

平成 18年 10月 一次救急医療体制充実のために磐周医師会・小笠医師会による各在宅輪番制の拡充

〃 年 131月 二次救急輪番病院の負担軽減のために地域住民への適切な受診行動に向けての啓発

平成 20年 12月 志太榛原圏域への搬送件数削減のために新病院基本構想に救急医療体制充実を記載

平成 21年 04月 小笠医師会による在宅輪番医制を廃止して掛川医療センターへの急患診療室の開設

平成〃平成 三次救急医療体制充実のために磐田市立総合病院における救命救急センターの指定

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合・再編及び公立病院間の連

携を目指すべきとの提言書を

それぞれ取りまとめている。

これを受けて保健所においては、平成 19年 3月、圏域 6市町の首長、自治体病院長、同技

監等を構成員とする「今後の自治体病院の在り方会議」を事務局として 2回開催し、上記参

加者間において、①地域完結型医療体制が必要であること、②御前崎市、菊川市及び森町は、

各自治体病院の現状を維持したいこと、③新病院建設の方針決定を受けて県(保健所を含む。)

は、今後、必要な支援をしていくことを確認している。

こうした中、両市においては、同年 12月、県部長、理事及び保健所長も参加する「新病院

建設協議会」を設置して 1年余の検討を経て新病院基本構想を策定し、平成 21年 1月に新病

院建設協定書を締結している。

これを受けて新病院建設事務組合においては、同年 7月、基本構想の具体化に着手して県

部長が参加する「医療機能懇話会」から新病院の医療機能や地域連携に係る助言も受けて、

平成 22年 3月に新病院建設基本計画(医療機能、建物の配置・構成)を策定している。

この間、保健所においては、情報を収集・分析して地域医療協議会や地域メディカルコン

トロール協議会、県地域医療課(以下「県本庁」)に提供しているほか、新病院建設協議会の

運営や基本構想の策定、新病院本体建設工事に係る行政手続等を適宜支援している。

(3) 地域医療連携体制の構築

各公立病院においては、地域医療の提供や病院運営の維持が厳しさを増していく中、喫緊

の課題である機能分担及び業務連携について、平成 17年からの新病院建設の在り方検討を契

機として本格的に検討を始め、さらに、公立病院改革プラン(再編・ネットワーク化等)の

作成に向けて現実的に検討を深める一方、保健所の地域医療協議会や地域メディカルコント

ロール協議会の場を活用して圏域としての方向性や取組の意見交換も重ねていた。

こうした中、平成 19年、磐田市立総合病院にあっては、基幹病院として高度急性期~一般

急性期機能を分担・強化するとともに、掛川市立総合病院・袋井市民病院にあっては、統合・

再編により基幹病院となる新病院を建設して高度急性期~一般急性期機能を形成・分担する

ほか、基幹病院の連携先となる菊川市立総合病院、市立御前崎総合病院及び公立森町病院に

あっては、一般急性期~回復期~療養機能を分担する方向性を共有している。

まず業務面の取組については、平成 20年 1月、中遠地域の磐田市立総合病院・公立森町病

院が、3 月、東遠地域の掛川市立総合病院・袋井市民病院が、及び菊川市立総合病院・市立

御前崎総合病院が、医師の派遣・研修や業務連携に係る協定をそれぞれ締結している。

高度急性期 一 般 急 性 期 亜急性期・回復期 療養期

【掛川市・袋井市新病院建設の推移】

平成 18年 10月 袋井市検討委員会が提言「掛川市との統合が望ましい」

平成 19年 01月 掛川市検討委員会が提言「袋井市との統合及び近隣自治体との連携を目指すべき」

〃成 113月 保健所が今後の自治体病院の在り方会議を 3回開催

平成〃成 112月 両市が「掛川市・袋井市新病院建設協議会」を設置

平成 20年 12月 協議会が「掛川市・袋井市新病院基本構想」を策定

平成 21年 04月 両市が掛川市・袋井市新病院建設準備会設立(事務組合設立までの間)

平成〃平成 7月 両市が掛川市・袋井市新病院建設事務組合設立(地方自治法に基づく一部事務組合)

平成〃平成 8月 第 1回医療機能懇話会(平成 22年 3月まで計 3回)を開催

平成 22年 03月 新病院建設基本計画を策定

平成〃平成 2月 新病院建設基本設計を完了

平成 23年 03月 新病院建設実施設計を完了

平成〃平成 7月 新病院本体建設工事に着手

平成 25年 春 新病院開院の予定

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次に施設整備については、

磐田市立総合病院にあっては

平成 21年 4月、救命救急セン

ター、平成 22年 4月に地域が

ん診療連携拠点病院、平成 23

年 9月には地域医療支援病院

の各指定を受ける一方、市立

御前崎総合病院にあっては平

成 21年 4月、菊川市立総合病

院にあっては同年 7月、公立

森町病院にあっては同年 11 月に回復期リハビリテーション病棟を整備して基幹病院との機

能分担の明確化・業務連携の強化を本格的に図りつつある。

このほか平成 18年度から磐田市立総合病院、掛川市立総合病院及び袋井市民病院が、計画

管理病院として共通の脳卒中地地域連携パスの運用、磐田市立総合病院及び掛川市立総合病

院が、共通の大腿骨頸部骨折地域連携パスの運用、平成 21年度からは磐田市立総合病院が、

地域医師会と連携して五大がんの地域連携パスの運用をそれぞれ開始している。

この間、保健所においては、情報を収集・分析して県本庁に提供しているほか、地域とし

ての方向性の共有や機能分担・業務連携を促進するために適宜連絡・調整している。

(4) 家庭医の養成

平成 20年 12月、磐田市立総合病院副院長は、県の外国人指導医師招へい事業を活用した

旧知のミシガン大学家庭医療学科准教授※1の講演に触発を受けて、家庭医の養成が、勤務医

不足や地域医療再生への有効な処方箋になり得ると思い、早速、同病院長補佐や准教授、医

療過疎に悩む公立森町病院長と話し合って賛同を得たので、同大学の支援を受けて世界標準

の家庭医養成プログラム(レジデントコース 3年間及びフェローコース 2年間)の構築や家

庭医療センターの整備を行って家庭医を養成する医師確保対策事業の骨子を作成した。

そして、磐田市立総合病院として骨子の具体化及びその実現を図るため、磐田市はもとよ

り当該事業を支援するミシガン大学、同病院とともに研修病院となる公立森町病院及び菊川

市立総合病院、家庭医療センターを整備する森町及び菊川市とそれぞれ協議を始め、平成 21

年 6月に当該事業の概要(概算を含む。)を作成した後、県の医師確保対策への位置付け及び

補助金を要望して保健所や県本庁との協議に臨んでいる。

8 月には磐田市立総合病院が、インターネット上で家庭医養成プログラムを公表して医師

臨床研修を修了した専門研修医(定員 8人)を募集するとともに、家庭医療センターの施設・

設備の整備、研修システムの決定、研修プログラムの管理、指導医の確保等について一般財

団法人家庭医療学研究所(事務局:埼玉県)と専門的な協議も進めている。

平成 22年 3月、当該事業の主体として磐田市長(会長)を始め菊川市長、森町長及び各公

立病院長 3人の計 6人が、静岡家庭医養成連絡協議会(事務局:磐田市立総合病院医療支援

課)を設立してミシガン大学及び家庭医療学研究所と研修・指導契約※を締結した後、4月か

ら 4人の専門研修医が、公立病院 3施設をローテーションしながら、ほぼ全科にわたる専門

研修を開始しているが、平成 23年後半に菊川市及び森町の家庭医療センター(クリニック)

が竣工した後は、本格的な家庭医療研修(外来診療中心)を開始する予定である。

この間、保健所においては、情報を収集・分析して県本庁や地域医療協議会、地域メディ

カルコントロール協議会に提供し、地域医療再生計画事業として具体化するために適宜助

言・調整した後は、ふじのくに地域医療支援センター西部支部として支援している。 ※1 准教授は、高校時代に菊川市での 1 年間の留学経験を持つ親日家で日本語も堪能である。ミシガン州で日

磐田市立総合病院 ←連携協定→ 公 立 森 町 病 院

菊 川 市 立 総 合 病 院

↓連携協定↑

市 立 御 前 崎 総 合 病 院

掛 川 市 立 総 合 病 院

統合 ・再編+ ↓連携協定↑

↓ 袋 井 市 民 病 院

中東遠総合医療センター(平成 25年春)

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本人向けのクリニックを運営するとともに、日本での家庭医療の普及を目指して講演会やセミナーを数多く

開催しているほか、米国での家庭医療の研修や留学を志す多くの若手日本人医師も支援している。

※2 毎年、ミシガン大学の指導医 5、6人が、 1回約 10日間滞在して研修医の指導に当たるとともに、家庭医

療教育リソース(教育メディア、学術研究、研修マニュアル、学術文献)の提供を受けるほか、専門研修医

が、ミシガン大学に 2週間の短期留学を最低 1回行って家庭医療学科の生涯教育コースに参加する。

(5) 地域医療再生計画への関与

こうした中、平成 21年 6月、県本庁が、地域医療再生計画の作成を各保健所に指示したこ

とを受けて、保健所においては、これまで地域医療協議会や地域メディカルコントロール協

議会で対応してきた上記課題を中心にして圏域の公立病院や地域医師会、市町と協議を重ね

て掛川・袋井両市立病院の統合・再編に伴う公立病院間の機能分担・機能強化事業を柱とす

る骨子を作成し、地域医療協議会での検討・修正を経て 7月に地域医療再生計画(骨子)を

提出し、県本庁においては、検討の結果、8月、中東遠圏域を対象地域の候補に上げている。

9 月、県医療対策協議会及び県医療審議会で対象地域として選定を受けた後、保健所にお

いては、県本庁を始め関係施設・団体との連絡・調整を深め、10月には地域医療協議会での

検討・修正を経て地域医療再生計画(案)を県本庁に提出している。

県本庁からの内示を受けて保健所は、平成 22年 1月、地域医療再生計画に係る関係者の打

合せ会を開催して圏域取組事業の内容及び進め方、3 月、地域医療再生支援センターに係る

打合せ会を開始して運営組織・事務局及び所管事業をそれぞれ検討している。

平成22年7月、地域医療再生支援センターを設置して第1回運営委員会を開催して平成22年

度所管事業計画・予算(案)の承認を受け、11月に幹事会を開催して平成23年度所管事業計

画・予算(案)及び事務局の1年前倒しの移設を検討した上、12月、第2回運営委員会を開催

して地域医療再生計画事業の進捗状況報告、平成23年度所管事業計画・予算(案)の承認及

び掛川市地域医療推進課への事務局移設の承認を受けている。

2 平成 23年度の関与過程

(1) 推進組織

ア 中東遠地域医療再生支援センター(事務局:平成 22年 7月から保健所及び平成 23年 4

月からは掛川市地域医療推進課に移設)

地域医療再生支援センターは、平成 22年 7月に地域医療再生計画の進行(予算)管理、

医療施設・団体間の連携等を図るために設置し、その円滑で効果的な運営を期するために

運営委員会及び幹事会を設置している。平成 23年度は、それぞれ 2回開催して平成 23年

度事業(決算)の報告及び平成 24年度事業(予算)の協議を行っている。

保健所においては、平成 23年 4月、掛川市地域医療推進課に事務局を移設した後も事務

局と協働しながら、センター実施事業を中心にして適宜助言・調整を継続している。

なお、事務局は、平成 25年春に中東遠総合医療センターに再移設する予定である。

【中東遠地域医療再生支援センター運営委員会構成委員】

委員長の保健所長のほか磐田市長、掛川市長、袋井市長、御前崎市長、菊川市長、森町長、磐田市立

総合病院長、掛川市立総合病院長、袋井市立袋井市民病院長、御前崎市立御前崎総合病院長、菊川市立

総合病院長、公立森町病院長、磐田市医師会長、磐周医師会長、小笠医師会長、榛原医師会長、磐周歯

科医師会長、小笠掛川歯科医師会長、磐田薬剤師会長、小笠袋井薬剤師会長及び掛川市・袋井市新病院

建設事務組合管理者の計 22人。

【中東遠地域医療再生支援センター幹事会構成委員】

幹事長の保健所医療健康部長のほか磐田市健康福祉部長、掛川市健康福祉部長、袋井市健康福祉部

長、御前崎市市民部長、菊川市健康福祉部長、森町保健福祉課長、磐田市立総合病院事務部長、掛川市

立総合病院事務局長、袋井市立袋井市民病院事務局長、御前崎市立御前崎総合病院事務部長、菊川市立

総合病院事務部長、公立森町病院事務局長、掛川市・袋井市新病院建設事務組合事務局長の計14人。

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イ 中東遠地域医療協議会(事務局:保健所)

地域医療協議会は、昭和63年度から県地域保健医療計画に基づき設置して医療提供体制

の整備・充実に係る必要な事項を協議しているが、平成21年度からは、地域医療再生計画

の基本方針を協議する場としても活用している。平成23年度は、1回開催して県保健医療計

画の中東遠圏域計画の進行管理や地域医療再生計画の進捗状況を協議している。

ウ 中東遠地域メディカルコントロール協議会(事務局:保健所)

地域メディカルコントロール協議会は、平成15年度、救急救命活動を医学的に管理して

病院前救護体制の充実を図るために設置しているが、地域医療協議会の救急医療作業部会

としての位置付けも与えて救急医療体制構築の検討を本格的に始め、平成23年度は、1回開

催して両調査データから救急医療体制を評価するとともに、平成25年春に開院予定の中東

遠総合医療センターを前提にした救急医療体制の再構築も検討している。

(2) 重要人物との連携

特定の重要人物は不在であるが、関与事業に応じて中心となる重要人物と適宜連絡・調整

を実施している。

(3) 関係者への研修

急性期病棟に勤務する看護師が、口腔ケアを実施できるようにするため、口腔ケアの知識

及び実践技術を習得するための講習会を小笠掛川歯科医師会に委託して開催している。

(4) 地域医療連携体制の構築

平成 22年度、地域医療再生支援センター実施事業として公立病院 6施設及び地域医師会 3

団体から成る中東遠疾病別地域連携パス作成部会(事務局:地域医療再生支援センター)を

設置して乳がん骨転移、腰部脊柱管狭窄症、慢性閉塞性肺疾患及び肝炎(担当:磐田市立総

合病院)、糖尿病(同:掛川市立総合病院)、急性心筋梗塞(同:袋井市民病院)並びにうつ

院(同:菊川市立総合病院)に係る圏域統一連携パスの作成に着手し、平成 24年度から糖尿

病、腰部脊柱管狭窄症、慢性閉塞性肺疾患及び肝炎の運用を予定している。

なお、5大がん、脳卒中及び大腿骨近位部骨折の各地域連携パスは、中東遠圏域の当該病

院が、それぞれの様式で運用しているが、隣接する西部圏域との広域連携も必要であること

【中東遠地域医療協議会構成委員】

会長の保健所長のほか磐田市長のほか掛川市長、袋井市長、御前崎市長、菊川市長、森町長、磐田市

立総合病院長、掛川市立総合病院長、袋井市立袋井市民病院長、御前崎市立御前崎総合病院長、菊川市

立総合病院長、公立森町病院長、磐田市医師会長、磐周医師会長、小笠医師会長、榛原医師会長、磐周

歯科医師会長、小笠掛川歯科医師会長、磐田薬剤師会長、小笠袋井薬剤師会長、磐田市消防長、袋井市

森町広域行政組合消防長、掛川市消防長、磐田市自治会連合会長、掛川市区長会連合会長、袋井市自治

会連合会長、菊川市連合自治会長、御前崎市老人クラブ連合会長、森町シニアクラブ連合会長及び県消

費者団体連盟西部支部副支部長の計 31人。

【平成 23年度看護師のための口腔ケア講習会】(平成 23年 11月の 2日間 参加者 20人)

1 対 象:圏域の公立病院 6施設に勤務している看護師

2 講 師:浜松医療センター口腔外科医長 蓜島桂子

3 内 容:①講義:総説、口腔ケアの基礎知識、歯科に紹介すべき症例

〃 :②実習:人工呼吸器患者の口腔ケア、実習:アセスメントプラン

【中東遠地域メディカルコントロール協議会委員】

会長の磐田市医師会長、磐周医師会長、小笠医師会長、榛原医師会長、磐田市立総合病院救命救急

センター長、掛川市立総合病院整形外科診療部長、袋井市民病院内科部長、市立御前崎総合病院副病

院長、菊川市立総合病院副院長、公立森町病院医長、磐田市消防本部消防長、掛川市消防本部消防長、

袋井市森町広域行政組合袋井消防本部消防長、菊川市消防本部消防長、御前崎市消防本部消防長及び

保健所長の計 16人

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から、県西部広域連携パス委員会に参画して西部圏域統一連携パスも運用している。

さらに、平成 23年 6月、地域医療再生支援センター事業として公立病院 6施設及び地域医

師会 3団体から成る地域医療連携システム導入事業作業部会(事務局:地域医療再生支援セ

ンター)を設置して検討を始め、平成 24年 1月、市立御前崎総合病院が、公立病院の中で先

駆けて診療情報の開示施設として富士通の Human Bridge※1を基幹とする「ふじのくにバーチ

ャル・メガ・ホスピタル(略称:ふじのくにねっと※2)」に参加し、平成 24年度に他の公立

病院(統合・再編する掛川市及び袋井市の両病院を除く。)も、参加する予定である。

この間、保健所においては、地域医療再生支援センターと協働してふじのくにねっとの調

査及び富士通との協議を進め、市立御前崎総合病院を始め導入予定の各公立病院及び市町と

も適宜連絡・調整を進めている。 ※1 複数の基幹病院等が公開する各診療情報を集約するとともに、連携医療施設がインターネットに接続する

パソコンから集約した診療情報を参照できるようにする等医療連携を支援する医療情報連携基盤である。

※2 地方独立行政法人静岡県立病院機構が、平成 22年度から 2か年間、総務省「地域ICT利活用広域連携事

業」を受託し、富士通と共同で地域医療連携システム「ふじのくにバーチャル・メガ・ホスピタル(事務局:

静岡県立総合病院)」を構築・運用し、平成 24年度からは、自主事業としての運用を開始している。

(5) 適切な受診行動の啓発

地域医療再生計画には取組事業がないものの、平成 23 年度、掛川市にあっては市報 8 月

号、袋井市にあっては市報 9月号で適切な受診行動や救急車利用を啓発している。また、新

病院建設事務組合にあっては定期的に発行している新病院建設だよりの中でも(平成 21年 6

月の Vol.1~平成 23年 10月の Vol.9)適宜啓発している。

この一方、掛川市の市民活動団体「f.a.n.地域医療を育む会」は、会報 f.a.nや子供の上

手な受診ハンドブック(~こんな時はどうする?~)を活用して出前講座や各種イベントで

適切な受診行動や救急車の利用を啓発するとともに、賢い受診の 10か条も提案している。

また、袋井の市民活動団体「NPO法人ブライツ」は、会報や子供の上手な受診ハンドブ

ックを活用して「しゃべり場救急座談会」や「安心できる地域医療を目指す出前講座」、各

種イベントで啓発するとともに、私たちができる五つの心がけを提案している。

(6) 市町による地域医療推進

掛川市においては、平成 16 年の新市建設計画の重点プロジェクトの一つである保健・医

療・介護・福祉の総合的な連携を支援する拠点となる総合健康センター(地域医療再生支援

センターの旧称)の整備について継続的に検討してきた中、まず、平成 21 年 7 月、「健康

【賢い受診の 10か条(f.a.n.地域医療を育む会)】

1 伝えたい事はメモして準備する(症状はいつから、どのように続いているかはっきりと伝える)

2 自覚症状は具体的に伝える 。

3 受診にはメモ用紙を持参する(病名など忘れないようにメモをする)。

4 医師を変えるときは紹介状を貰う(病状や薬など正確に新しい医師に伝える)。

5 紹介状は余裕をもってお願いする(一週間位の時間の余裕をもって依頼しましょう) 。

6 かかりつけ手帳を利用し、薬の名前を覚えましょう。

7 駆け込み受診はマナー違反です(丁寧な診療が受けにくくなります)。

8 診察が受け易い服装で症状が確認し易いように配慮しましょう。

9 納得がいかない説明には何度も質問をしましょう(治療法などよくわからない時など)。

10 診察室ではプライベートな会話は慎みましょう 。

【私たちができる5つの心がけ(NPO法人ブライツ)】

1 かかりつけ医を持とう。 4 医療関係者の方々に感謝の気持ちを持とう。

2 コンビに受診を控えよう。 5 助け合いネットワークを広げよう。

3 救急車をタクシー代わりに使うのをやめよう。

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医療日本一」の実現を目指す新市長は、地域医療再生計画を好機として地域健康医療支援セ

ンターの整備に見通しを付けて、平成 21 年 8 月、地域医療体制整備検討委員会を設置して

平成 25 年春に開院予定である掛川市・袋井市新病院を中心とする地域医療連携体制、特に

在宅医療介護連携体制の構築における地域健康医療支援センターの具体的な在り方の検討

を庁内で重ね、平成 21年 12月に地域健康医療支援センター構想等を取りまとめている。

つぎに、平成 22年 4月、地域医療推進課を新設して組織的・計画的な地域医療行政の推進

体制を整備し、平成 23 年度までに地域健康医療支援センター2 施設を創設(平成 26 年度末

に 5施設予定)するとともに、市民活動団体と協働して地域医療講演会を主催している。

そして、平成 23年 4月から地域医療推進課は、保健所から適宜支援を受けながら、地域医

療再生支援センターの事務局として地域医療再生計画事業の進行管理を図っている。

この一方、「日本一健康文化都市」を宣言している袋井市健康づくり政策課においては、

新病院開院後の市民病院施設の利活用を視野に入れて健康長寿の実現に向けた保健・医療・

介護サービスの在り方を検討するため、平成 22年 2月、保健・医療・介護構想検討懇話会を

設置して協議を始め、平成 23年 1月、「保健・医療・介護構想~安心と信頼の予防医療・地

域医療・地域ケアの確立(平成 22~26年度)」を策定し、地域医療分野は、地域連携による

地域診療・在宅療養体制の確立を掲げて外来・健診部門、休日夜間急患部門、外来・回復期

リハビリテーション病床・療養病床部門及び在宅療養支援部門の機能概要を作成している。

(7) 医療・住民・行政との協働

保健所においては、地域医療再生計画に当該事業がないものの、市民活動団体による取組

を適宜支援しているとともに、県本庁が、県民が身近な医療について考えて受診行動を見直

してもらう契機として毎年 9月を「地域医療を考える月間」に定めたことを受けて、平成 24

年度からは平成 22年度補正予算に基づく地域医療再生計画事業としてフォラーム、シンポジ

ウム、医療体験イベント等協働事業を実施していく予定である。

なお、市民活動団体においては、平成 23年 5月から浜松医科大学地域医療学講座特任教授

の呼び掛けを受けて、中東遠圏域・志太榛原圏域の地域医療の在り方及び公立病院との提携

を探るため、地域医療支援ネットワーク協議会を年 2回程度開催して情報交換している。

ア f.a.n.地域医療を育む会(平成 21年 10月設立 会員数 100人)

平成 21年度から(平成 23年度からは掛川市市民活動団体推進モデル事業)出前講座や

イベントで説明しながら配布する情報紙の発行、子供の上手な受診ハンドブックの作成、

出前講座(受診ハンドブック及び賢い受診の 10か条)、掛川市立総合病院での「ありがと

うメッセージボード」の設置・運用、地域医療講演会の開催等に取り組んでいる。 イ NPO法人ブライツ(平成 16年 6月設立 会員数 25人)

平成 22 年度からは袋井市協働まちづくり委託事業として安心できる地域医療体制を目

指して冊子「しゃべり場救急隊」、地域医療啓発ポスター、救急医療便利手帳及び会報の

発行並びにしゃべり場救座談会及び地域医療講演会の開催に取り組んでいる。

【平成 23年度f.a.n.地域医療講演会】(平成 24年 2月 参加者約 100人)

1 基 調 講 演「安心して暮らせる地域づくりに必要なこと」

講 師:浜松医科大学医学部地域医療学講座特任教授 山岡 泰治

2 パネルディスカッション「住み慣れた地域で安心して暮らせるために」

① コーディネータ:浜松医科大学医学部地域医療学講座特任教授 山岡 泰治

② パネリスト :掛川市東部地域健康医療支援センター所長 松下きみ子

〃 :第六地区の民生・児童委員協議会長 阿部 雅之

〃 :掛川市立総合病院地域連携室長 萩田 和彦

〃 :f.a.n.地域医療を育む会長 武田 和子

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ウ 森町病院友の会(平成 22年 10月に設立して会員数 300人)

平成 22年度から森町を中心に活動しており、毎年 6地区で地域懇談会の開催に取り組む

等地域住民と公立森病院との懸け橋となって公立森病院を支援している。

このほか御前崎市や磐田市、菊川市にも、f.a.n.地域医療を育む会やNPO法人ブラ

イツ、浜松医科大学地域医療学講座の支援を受けて市民活動団体の設立の動きがある。

エ 掛川市・袋井市新病院建設事務組合

新病院建設事務組合においては、平成 23年 3月、新病院建設市民説明会を開催した際、

市民活動団体が、活動報告を行って医療・住民・行政との協働を呼び掛けている。

(8) 医師の定着に向けた協働

保健所においては、平成 22年 10月からふじのくに地域医療支援センター(本部事務局:

県地域医療課)の西部支部(支部長は保健所長)として中東遠・西部圏域が連携して専門医

研修ネットワークプログラムの構築及び研修病院の施設・設備整備による研修環境の充実に

取り組むとともに、研修病院ガイド合同説明会、病院見学バスツアー及び研修会を開催して

いるほか、本部事務局と連携して圏域独自の家庭医養成プログラムの紹介にも努めている。

東・中・西部の病院等

A病院 B病院 C病院

D病院 E病院 F病院

G病院 H病院 I病院 専門医研修ネットワーク

臨床研修病院、専門研修病院等

高 校 生 等

・病院勤務

・研修参加

・病院見学

医師・医学生・研修医

実態調査

事業提案

医師支援

情報提供

リクルート

情報発信

育成セミナ

ート

東・中・西部支部

事務局

(保健所)

ふじのくに地域医療支援センター

支部運営会議

・実施事業の

検討立案

・運営調整

本 部

事務局

(県地域医療課)

理 事 会

・企 画

・総 括

・事業決定

①職業斡旋(調整・マッチング) ②キャリア支援形成

③修学研修資金貸与者の勤務先病院の決定支援

・現状報告

・指導医育成

・支援調整依頼

・取組要望

・事業提案

医師就労相談事業業務委託

(専任医師・専従職員)

浜松医科大学 県立病院機構

就業相談

【平成 23年度地域医療シンポジウム】(平成 24年 1月 参加者約 130人)

1 シンポジウム 「安心できる医療体制を目指して」

2 コーディネータ:浜松医科大学医学部地域医療学講座特任教授 山岡 泰治

3 パネリスト :袋井青年会議所理事長 寺田 直樹

〃 :磐周医師会長 徳永 宏司

〃 :袋井市立袋井市民病看護部長 鈴木 貞子

〃 :袋井市長 原田 英之

〃 :NPO法人ブライツ理事長 村田 朝子

【第 2回掛川市・袋井市新病院建設市民説明会】(2会場で参加者 450人)

1 進捗状況の説明:新病院建設事務組合事務局長 松井 孝

2 基調講演1:「昨今の医療情勢と新病院への期待」(名古屋大学医学部病院長 松尾 清一)

2 基調講演2:「地域医療を守る」 (前浜松医科大学長 寺尾 俊彦)

3 活動報告1:f.a.n.地域医療を育む会長 武田 和子

3 活動報告2:NPO法人ブライツ理事長 村田 朝子

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(9) 県本庁との協働

県本庁は、地域医療再生計画全般の主導・調整及び進行管理、保健所は、関与事業を中心

とした情報の収集・分析、地域医療協議会や地域メディカルコントロール協議会の運営及び

医療施設・団体間の調整という役割分担で協働している。

なお、事業実施主体に対する補助金の交付事務は、すべて県本庁で執行している。

3 関係機関による保健所の評価

保健所においては、救急医療体制や地域医療連携体制の構築について、地域医療協議会や地

域メディカルコントロール協議会の場を活用して圏域としての方向性や取組の意見交換も重ね

ている中、地域医療再生計画を好機として実質的な事務局として公正・公平な立場から市町を

始め医療施設・団体、県本庁等と適宜連絡・調整しながら、地域医療再生計画事業を支援して

医療提供体制の確保に向けて道筋を付けたことから、良好な評価を受けている。

4 関与事業の今後の方向

(1) 地域医療連携体制の構築

平成 25 年春の中東遠総合医療センター開院に向けて地域医療再生支援センター実施事業

を始めとする地域医療再生計画事業について、地域医療再生支援センター、地域メディカル

コントロール協議会及び地域医療協議会において、保健所は、関係機関と協議を積み重ねな

がら、圏域として救急医療体制を始めとする地域医療連携体制の構築を連絡・調整していく。

(2) 家庭医の養成

地域医療再生計画終了後も実施する静岡家庭医養成プログラムについては、現在、20人が

(平成 24年度参加予定の 6人を含む。)が参加しているが、保健所においては、ふじのくに

地域医療支援センターの西部支部として関係機関と協働しながら、研修修了後も圏域に定着

して地域医療の再生に貢献してもらえるよう必要な支援を実施していく。

第5 事例の所感

1 保健所においては、西部圏域及び志太榛原圏域に隣接した管内 5市 1町に公立病院が散在す

る圏域における持続可能な医療提供体制を確保するため、地域医療再生計画の実質的な事務局

として公立病院の統合・再編を中心とした圏域の公立病院ネットワーク化を連絡・調整すると

ともに、圏域統一疾病別連携パスの開発、地域医療連携情報システムの導入等を支援して地域

医療連携体制の構築を連絡・調整していることは、他の保健所の参考になるものと考える。

2 保健所においては、家庭医を養成する医師確保対策事業の提案を受けて地域医療再生計画事

業として具体化するために適宜助言・調整した後は、静岡家庭医養成プログラムの運営及び静

岡家庭医養成連絡協議会を支援しているとともに、ふじのくに地域医療支援センターの西部支

部として中東遠圏域及び西部圏域が連携して総合的な医師の確保・定着に取り組んでいること

は、全国的にも先進的な取組として他の保健所の参考になるものと考える。

3 圏域においては、f.a.n.地域医療を育む会、NPO法人ブライツ等市民活動団体が、浜松

医科大学地域医療学講座や保健所の支援を受けて市民協働事業又は「地域医療を考える月間」

推進事業として適切な受診行動の啓発に向けて医療・住民・行政と活発に協働しているが、保

健所においては、持続可能な地域医療連携体制構築のために不可欠なものとして中東遠圏域に

とどまることなく、他の圏域への波及に向けて他の保健所と連携することが期待される。

【産婦人科家庭医療学講座(浜松医科大学)】

平成 24 年 6 月、県本庁及び保健所の支援を得て静岡家庭医養成連絡協議会は、平成 22 年度補正予

算に基づく地域医療再生計画事業として浜松医科大学に産婦人科家庭医療学講座を設置し、特任教授

及び特任助教が、平成 24年 1月から分娩の取扱いを中止していた菊川市立総合病院において、平成 25

年 6月から分娩の取扱いを再開して家庭医養成プログラムの産婦人科研修を担当する予定である。

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事 例 4 富山県富山圏域地域医療再生計画への関与

調査対象 富山県新川厚生センター

富山圏域の医療課題の解決に影響を与える

新川圏域において、再生計画事業の在宅医療

支援センターの運営に参画している新川地域

在宅医療療養連携協議会を平成19年から支

援している新川厚生センターを調査対象とし

て在宅医療体制構築支援を中心に記述する。

第 1 地域の現状及び保健所の体制

1 対象地域の現状

対象地域である富山圏域は、北アルプ

スに連なる山林地帯を背景として県中

央部に位置している。構成市町村は県庁

所在地(中核市)の富山市、滑川市及び

中新川郡の 2市 2町 1村、面積は全県の

約 43%、人口は約 50万 8千人(富山市約 42万 2千人)で全県の約 46%を占めている。

この一方、関係地域の新川圏域は、県北東部に位置して構成市町は魚津市、黒部市及び下新

川郡(入善町及び朝日町)の 2 市 2 町、面積は 925km2(山林が 80%以上)で全県の約 22%、人

口は約 12万 8千人(魚津市約 4万 5千人、黒部市約 4万 2千人及び下新川郡は約 4万 1千人)

で全県の約 12%を占め、高齢化率は 28.2%で全県 26.1%よりやや高い(平成 22年 10月)

2 対象地域の医療資源

富山圏域の医師数は全県より 2割弱上回っているものの、周産期医療及び救急医療を担う医

師が減少している中、新生児集中治療管理室(以下「NICU」)設置病院(県立中央病院及

び富山大学附属病院)においては、富山市民病院のNICU休止によりハイリスク分娩の受入

れ増加と黒部市民病院からの搬送患者の受入れ増加とがあいまって負担が増大している。

この一方、新川圏域の医師数が全県を約 15%下回っている中、産科診療所が僅か 2 施設に減

少し、一次急患センターも未整備であることから、圏域唯一の基幹病院である黒部市民病院に

おいては、周産期を始めとする軽症の救急患者が集中して負担が過大になっている。また、地

域医師会は、魚津市医師会及び下新川郡医師会(事務局:黒部市)が活動している。 注 1:病院数・病床数は平成 22年 10月現在及び医師数は平成 22年 12月現在。 注 2: ( )は人口 10万対数

注 3:富山圏域における人口 10万人対医療施設従事医師数は、富山大学付属病院を除くと全県を約 26%下回っている。

一般病院数 病院一般病床数 医療施設従事医師数

全 国 7,587施設( 5.9) 903,621床( 706) 280,431人( 219)

富 山 県 91施設( 8.3) 8,916床( 816) 2,445人( 224)

富 山 圏 域 44施設( 8.7) 4,268床( 840) 1,346人( 265)

富 山 市 40施設( 9.5) 3,838床( 910) 1,252人( 297)

滑 川 市 2施設( 5.9) 211床( 627) 45人( 134)

中 新 川 郡 2施設( 3.8) 219床( 418) 49人( 94)

新 川 圏 域 12施設( 9.4) 1,069床( 838) 242人( 190)

魚 津 市 4施設( 8.9) 300床( 667) 80人( 178)

黒 部 市 4施設( 9.6) 444床( 1,061) 121人( 289)

下 新 川 郡 4施設( 9.8) 325床( 796) 41人( 100)

あさひ総合病院

新潟県

富山圏域

●富山市保健所

入善町

富山市

◎黒部市民病院

◎富山労災病院 ●魚津支所

新川圏域

長野県

富山大学

附属病院

◎富山市民病院

◎富山県立中央病院 黒部市

魚津市

上市町

立山町

滑川市

●中部厚生センター

●新川厚生センター 富山湾 朝日町

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3 保健所の組織・担当者

(1) 保健所の組織

新川厚生センター(以下「保健所」)は、本所及び魚津支所から成り、本所は 5課体制(企

画管理課、福祉課、保健予防課、衛生課及び試験検査課)及び支所は 2課体制(衛生予防課

及び地域健康課)で正規職員数は 55人、このうち医師は 1人(所長)である。

(2) 地域医療再生計画の担当者

地域医療再生計画の主な担当者は、総括の所長、連絡・調整の同次長(兼企画管理課長)

及び同課企画調整班長(保健師)である。

【企画管理課企画調整班の主な業務】

①地域医療推進対策協議会、②医療計画及び医療連携、③保健統計調査、④市町保健支援活動、⑤

保健医療福祉関係者研修、⑥栄養調査、⑦食育推進及び⑧地域職域連携

○ 富山圏域基幹病院 5施設

【富山大学附属病院(基幹病院)】

1 病 床 数:612床(一般569床及び精神43床)

2 各種指定:地域がん診療連携拠点病院、二次救急輪番病院、基幹災害医療センター、地域周産

期母子医療センター、基幹型臨床研修病院、特定機能病院等

【県立中央病院(基幹病院)】

1 病 床 数:737床(一般665床、精神50床、結核20床及び感染症2床)

2 各種指定:県がん診療連携拠点病院、二次救急輪番病院、救命救急センター、基幹災害医療セ

ンター、総合周産期母子医療センター、地域医療支援病院、基幹型臨床研修病院

【富山市民病院(基幹病院)】

1 病 床 数:595床(一般539床、精神50床及び感染症6床)

2 各種指定:地域がん診療連携拠点病院、地域リハビリテーション広域支援センター、二次救急

輪番病院、地域災害医療センター、地域周産期母子医療センター、地域医療支援病

院、基幹型臨床研修病院等

【富山赤十字病院(基幹病院)】

1 病 床 数:435床(一般435床)

2 各種指定:県がん診療地域連携拠点病院、二次救急輪番病院、地域災害医療センター、地域医

療支援病院、基幹型臨床研修病院等

【済生会富山病院(基幹病院)】

1 病 床 数:250床(一般 250床)

2 各種指定:二次救急輪番病院、基幹型臨床研修病院等

※ このほかの二次救急輪番病院は、厚生連滑川病院(279床〔一般 211床及び精神 68床〕)及びか

みいち総合病院(219床〔一般 159床及び精神 60床〕)の 2施設である。

○新川圏域基幹病院 3施設

【黒部市民病院(基幹病院)】

1 病 床 数:414床(一般405床、結核5床及び感染症4床)

2 各種指定:地域がん診療連携拠点病院、地域リハビリテーション広域支援センター、二次救急

輪番病院、新川地域救命センター(2.5次)、地域災害医療センター、へき地中核病院、

地域周産期母子医療センター、圏域一次小児急患センター、基幹型臨床研修病院等

【富山労災病院】

1 病 床 数:300床(一般300床)

2 各種指定:地域がん診療連携拠点病院、二次救急輪番病院、協力型臨床研修病院等

【あさひ総合病院】

1 病 床 数:199床(一般194床及び結核5床) 2 各種指定:二次救急輪番病院

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第2 地域医療再生計画の概要

1 重点化項目(新川圏域)

周産期・救急医療体制の強化及び在宅医療体制の充実

2 対象地域の現状及び課題

黒部市民病院においては、周産期を始め軽症救急患者が集中して医師の負担が過大になると

ともに、富山圏域のNICU設置病院への周産期搬送も増加して負担の増大を招いているので、

地域完結型医療体制構築を目指して当該病院の機能強化及び負担軽減を図るため、周産期・救

急医療体制の強化に加えて退院患者の受皿として在宅医療体制の充実が急務となっている。

3 具体的な施策(圏域に関係しない医師・看護師の確保対策を除く。)

(1) 県全体の取組事業(実施主体)

ア 周産期・小児救急医療体制の強化

① 周産期医療施設設備整備事業(黒部市民病院等関係病院)

黒部市民病院の機能強化を図るため、地域周産期母子医療センターの設備を整備する。

イ 救急医療体制の強化

① 救急医療適切受診住民啓発事業(県医務課)

黒部市民病院の負担軽減を図るため、適切な受診を呼び掛ける啓発を展開する。

(2) 新川圏域の取組事業(実施主体及び予算額)

ア 救急医療機能の強化

① 一次(成人)急患センター設置事業(未定及び 2億 5,000万円)

黒部市民病院の負担軽減を図るため、一次(成人)急患センターの設置を支援する。

イ 在宅医療体制の充実

黒部市民病院の負担軽減を図るため、退院患者の受皿として在宅医療体制を充実する。

① 在宅医療支援センター運営支援事業(下新川郡医師会及び 3,000万円)

在宅医療体制を構築するため、在宅医療に取り組む診療所について、グループ化の促

進及びグループ運営の支援を図る在宅医療支援センターの運営を支援する。

② 在宅療養支援短期入院病床確保事業(桜井病院及び 1,680万円)

医療依存度の高い在宅療養者及びその介護家族を支援するため、家族の急病・急用又

は不意のレスパイトの場合、療養者が緊急に短期入院できる専用病床 2床を確保する。

③ 在宅歯科診療体制整備事業(魚津市、黒部市及び下新川郡の歯科医師会及び 800万円)

在宅歯科診療を支援するため、歯科用ポータブル診療ユニット 4台を整備する。

第3 保健所関与の概要

1 保健所関与の総括

新川圏域において地域完結型医療体制構築に向けて圏域唯一の基幹病院である黒部市民病

院の負担軽減を図るため、在宅医療の企画・調整拠点となる在宅医療支援センター運営への支

援を中心として在宅支援短期入院病床の確保及び一次急患センターの設置に関与している。

2 主な関与事業(見出し符号は第2-3の具体的な施策と同一)

(1) 全県の取組事業(実施主体)

(2) 圏域の取組事業(実施主体)

ア 救急医療機能の強化

① 一次(成人)急患センター設置支援事業(未定)

イ 在宅医療体制の充実

① 在宅医療支援センター運営支援事業(下新川郡医師会)

② 在宅療養支援短期入院病床確保事業(桜井病院)

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3 保健所の役割・取組

保健所においては、地域医療再生計画事業への関与に当たり、医療・介護情報の収集・分析、

関与事業の企画・立案、関与事業の推進会議の運営、医療施設・団体間の調整、保健・医療・

介護関係者への研修、関与事業の工程管理、関与事業の予算調整等に取り組んでいる。

4 保健所関与の予算

保健所においては、実施主体となる関与事業がないため、予算の令達を受けていない。

第4 保健所関与の詳細

1 平成 22年度までの関与過程

○新川地域在宅医療療養連携協議会及び下新川郡医師会(事務局:下新川郡医師会)の取組

平成18年7月、中川医院長を発起人とする新川地域医療連携懇話会(以下「医療連携懇話会」)

は、安心な在宅終末期医療を継続的に提供するため、在宅医連携を基盤にして支援病院との病

診連携体制も構築するべく、在宅医 8人による 8診療グループ(1Gは主治医 1人及び副主治医

2 人)を編成した上、公的病院 4 施設(圏域外の県立中央病院も含む。)と連携して在宅終末期

医療及び在宅栄養管理を対象とする在宅医療連携パスの運用を開始している。

平成 19年 6月、医療連携懇話会から発展した新川地域在宅医療療養連携協議会(以下「在宅

医療療養連携協議会」)においては、連携ツールの開発・運用に加えて総会・講演会の開催等に

取り組むこととし、平成 20年 2月には、在宅医療連携パスの関係者が多く参加している下新川

郡医師会生涯教育講座で運用の経緯・状況・症例を発表して参加者に協力を呼び掛けている。

これらを受けて平成 20年 4月、下新川郡医師会においては、在宅医療連携パスを普及する方

針を決定した上、新川地域医療連携とパス検討委員会を設立、5 月にアンケート調査で在宅医

の希望を把握、7月に魚津市医師会と合同生涯教育講座(在宅医療連携パス)を共催、10月に

下新川郡医師会在宅医療推進研修会で発表、平成 21 年 5 月には病院勤務医 2 人も含む在宅医

16人による 16診療グループ編成を承認して在宅医療連携パスの運用体制を充実している。

この間、在宅医療療養連携協議会は、在宅医療医薬連携推進事業(厚生労働省委託事業)を

新川圏域薬剤師会と協働した結果、平成 21年度から調剤薬局薬剤師 18人が、4グループ(1G

は担当 1人及び副担当 1人)を編成して麻薬管理や注射薬調剤、服薬指導に参画している。

また、在宅医療療養連携協議会においては、運用症例の漸増(平成 21年 4月末で計 21症例)

に伴って患者情報を即時に共有できる連携ツール開発が課題になったので、県高齢福祉課から

在宅患者情報共有モデル事業(単年度 200万円)を受託して 8月に在宅医療ICT化委員会を

設置し、Office Groove2007をプラットホームとして開発を始め、モデル運用後の平成 22年 4

月からは新川地域在宅医療療養連携協議会ネットワーク「あんしん在宅ネットにいかわ」と名

付けるとともに、在宅医療連携パスの対象を全ての疾病・病態に拡大して本格運用している。

【新川地域医療連携懇話会の参加施設】(平成 17年 4月発足)

発起人の入善町の中川医院中川彦人院長のほか診療所 8施設、後方支援病院 4施設(富山労災病院、

県立中央病院、黒部市民病院及びあさひ総合病院)及び訪問看護ステーション 5施設の計 17施設。

【Office Groove2007で共有する患者情報】

ケア基本情報、療養実施計画書、在宅診療報告書、検査結果、投与薬剤、質疑応答・意見交換、訪

問往診予定表、画像データ等のほか連携パスのアウトカム評価のためのデスカンファレンスにも利用。

【あんしん在宅ネットにいかわ参加施設会】(平成 23年 4月)

新川地域在宅医療支援センター、基幹病院地域医療連携室 4 施設(富山労災病院、県立中央病院、

黒部市民病院及びあさひ総合病院)、基幹病院医師 3 施設、桜井病院 1 施設、診療所 13 施設、調剤薬

局 8 施設、訪問看護ステーション 5 施設、訪問リハビリテーション 2 施設(深川病院及び池田リハビ

リテーション病院)、居宅介護支援事業所 12施設及びデイサービスセンター2施設の計 51施設。

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こうした中、下新川郡医師会が地域医療再生計画事業として提案した新川地域在宅医療支援

センターが、平成 22年 4月から運営を開始し、平成 22年度は、運営会議 2回及び作業部会 4

回に加え 6月のパス運用集積症例アンケート調査(55症例)、7月の Grooveバックアップシス

テム導入、両医師会合同生涯教育講座、がん患者在宅療養支援事例検討会(富山労災病院)及

び第 5回在宅医療療養連携協議会総会、8月から Groove出張講習会開始(年度末まで 8回)、

11月の当該事例検討会(黒部市民病院)、12月の協議会講演会、2月の当該協議会世話人会及

び地域連携パス講演会、3月の保健・医療・福祉関係者活動研修会等を支援又は実施している。

○保健所の取組

保健所の取組については、在宅医療体制構築に向けた支援であるが、この主要な経過は、保

健・医療・福祉関係者活動研修会(以下「関係者活動研修会」)からみると理解しやすいことか

ら、当該研修会に限定して記述する。

まず、平成 18年度関係者活動研修会のテーマについては、これまでの在宅医療連携から更に

進める時期を迎えていると判断したことから、初めて在宅医療介護連携を採用して講師に医療

連携懇話会長を招き、連携パス運用の経緯や状況の説明及び協力の呼び掛けを受けた。これが

契機となって、医療連携懇懇話会に参加する職種・施設が増加して在宅医療療養連携協議会へ

の発展し、12月に保健所長が、世話人会顧問に就任して支援を深めることになった。

つぎに、平成 19年度関係者活動研修会においては、在宅緩和ケア普及に向けて在宅医が薬剤

師の参画を切望していることを把握したので、新川圏域薬剤師会等と調整し、シンポジウムに

調剤薬局薬剤師を招いて在宅医療体制への参画表明を受けている。平成 20年度には薬剤師会が、

在宅医療療養連携協議会と協働して在宅医療医薬連携推進事業を実施した後、平成 20年度関係

者活動研修会においては、事業報告に招いた薬剤師会長が、薬剤師の役割や業務を講演して平

成 21年度から薬剤師が正式に参画している。

そして、平成 21年度関係者活動研修会においては、多くの在宅療養者が、口腔問題を抱えな

がらも受療機会が少ないことを把握したので、シンポジストに歯科医院長を招いた。訪問歯科

診療を実践している立場からQOLの向上や誤嚥性肺炎の予防に向けて多職種連携による在宅

口腔ケアの重要性を説明した上、歯科医の参画に向けて協力を呼び掛けたほか、平成 22年度に

歯科用ポータブル診療ユニット 4台を整備する予定も紹介している。

さらに、平成 22年度関係者活動研修会においては、在宅患者情報共有モデル事業も踏まえて

ICTを活用した多職種連携ツール(Groove)を普及するため、シンポジストに招いた多職種

の利用者が、各立場から説明して参加者に利用を呼び掛けている。

【平成 18年度保健・医療・福祉関係者活動研修会】(平成 19年 3月 参加者 93人)

1 基調講演1:医師の立場から見た在宅医療・ケアにおける関係者への連携~実践を中心に~

講 師1:新川地域医療連携懇話会発起人 中川彦人

2 基調講演2:医療制度改革に伴う医療・ケアの諸課題

講 師2:新川厚生センター所長 大江 浩

【平成 19年度保健・医療・福祉関係者活動研修会】(平成 20年 3月 参加者 175人)

1 基 調 講 演「在宅医療・ケアにおける関係機関との連携と実践」

講 師:新川地域在宅医療療養協議会長 中川彦人

2 シンポジウム「在宅ターミナルケアにおける関係機関の役割」

① 座 長:新川厚生センター所長 大江 浩

② オブザーバー:新川地域在宅医療療養協議会長 中川彦人

③ シンポジスト:黒部市民病院在宅介護支援センター主任看護師 稲葉智佳子

〃 :訪問看護ステーションふかがわ管理者 村井敏美

〃 :黒部市社会福祉協議会居宅訪問介護主任 米島典子

〃 :メープル薬局管理薬剤師 見澤哲郎

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○地域医療再生計画への関与

県高齢福祉課においては、在宅医療、訪問看護及び医療介護連携について今後の課題及び方

向性を協議するため、診療グループ代表として中川医院長が参画している県あんしん在宅医

療・訪問看護推進会議(平成 20 年 5 月設置して毎年度開催)が、10 月に策定した在宅医療の

推進方策を踏まえて、平成 21年度新規事業として在宅医療チームづくり推進支援事業(初年度

実施主体:射水市医師会及び氷見市医師会)、在宅医療事例研修会開催事業(実施主体:全厚生

センター4 か所)、在宅医療連携推進シンポジウム(実施主体:富山県医師会)、短期入院情報

提供支援事業(実施主体:県高齢福祉課)等を企画・推進している。

さらに、平成 21年 6月、県の政府要望においては、平成 22年度事業として新川地域の取組

を踏まえてICTを活用した在宅患者情報共有の支援、在宅患者集積情報の管理、在宅医・病

院間の調整等を行う在宅医療支援センターの運営支援を提案している。

この一方、在宅医療療養連携協議会においては、総会、世話人会、講演会及び研修会の開催

並びに参加施設・会員管理に加えて、対象を全ての疾病・病態に拡大した在宅医療連携パスの

本格運用及びあんしん在宅ネットにいかわの本格運用集積症例の管理等にそれぞれ伴う事務

【平成 20年度保健・医療・福祉関係者活動研修会】(平成 21年 2月 参加者 192人)

1 報 告「新川地域在宅医療医薬連携推進事業この 1年」

講 師:在宅医療医薬連携推進検討会副委員長(新川圏域薬剤師会長) 沓掛 隆義

2 シンポジウム「在宅療養を支える多職種連携と調剤薬局薬剤師の参画」

① 座 長:新川地域在宅医療療養協議会長 中川彦人

② オブザーバー:長崎薬剤師在宅医療研究会研修会世話人会代表 中野正治

③ シンポジスト:藤が丘クリニック院長(在宅医療ICT化委員会長) 藤岡照裕

〃 :黒部市民病院地域医療連携室看護師長 辻 京子

〃 :朝日町訪問リハビリテーション管理者 水島正栄

〃 :本江うぇるね薬局管理薬剤師 清河雄介

3 講 演「多職種連携のための情報共有」

講 師:黒部市民病院地域医療連携室長 中田明夫

【平成 21年度保健・医療・福祉関係者活動研修会】(平成 22年 3月 参加者 215人)

1 講 演「生きる力を支援する包括的口腔ケア~多職種連携の不可欠性と実践に必要な共

有認識と共通語~」

講 師:岐阜県郡上市国保和良歯科診療所長 南 温

2 シンポジウム「多職種協働で行う在宅での口腔機能向上と栄養管理」

① 座 長:新川地域在宅医療療養協議会長 中川彦人

② オブザーバー:岐阜県郡上市国保和良歯科診療所長 南 温

③ シンポジスト:藤が丘クリニック院長 藤岡照裕

〃 :黒部市民病院栄養科係長 飯野みゆき

〃 :訪問看護ステーションふかがわ管理者 村井敏美

〃 :大菅歯科医院長 大菅 明

【平成 22年度保健・医療・福祉関係者活動研修会】(平成 23年 3月 参加者 113人)

1 シンポジウム「これからの地域医療連携を考える~ICTを活用した多職種連携~」

① 座 長:新川地域在宅医療療養協議会長 中川彦人

② シンポジスト:川瀬医院長 川瀬紀夫

〃 :下新川郡医師会黒部訪問看護ステーション管理者 遠藤幸枝

〃 :池田リハビリテーション病院居宅介護支援事業所管理者 草 弓子

〃 :社会福祉法人海望福祉会総合施設長 大﨑雅子

2 講 演:「ICTを活用した情報共有を進める上でのルールと落とし穴」

講 師:黒部市民病院リハビリテーション科部長 今田光一

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【新川医療圏小児急患センターへの保健所の関与】

新川広域圏域事務組合は、各運営主体として、平成 17 年 10 月、黒部市民病院に新川医療圏小児急

患センターを開設し、平成 17年 3月、新川地区休日夜間急患医療センター(旧黒部市)を廃止した。

保健所においては、平成 16年度に小児急患センター運営協議会を設置して圏域の小児救急医療体制

の整備を協議し、センター設置後は、毎年度 1回程度開催して診療実績や運営体制を協議している。

量・作業量が年々漸増しきており、適切に処理していくことが厳しくなりつつあった。

こうした中、県医務課においては、地域医療再生計画について、平成 21年 6月、関係団体・

施設向け説明会で概要を説明して意見を交換するとともに、8 月末締切りで提案事業を募集し

ているほか、保健所長会では管内関係団体・施設からの相談等への対応も依頼し、その後も、

必要に応じ、関係団体・施設から個別に意見を聴取している。

9 月中旬、種々の提案・意見を検討した結果、地域医療再生計画の対象地域一つとして富山

市民病院のNICU休止後の周産期医療体制の再構築を喫緊の医療課題とする富山圏域を内定

した上、富山圏域の医療課題の解決に重要な影響を与える関係地域として富山圏域への患者流

出に向けて地域完結型医療体制の構築を医療課題とする新川圏域を位置づけている。

9 月中旬、県医療審議会で対象地域及び関係地域の承認を受けた後、各圏域の医療課題に対

応する施策の方向性及び具体的な事業をそれぞれ設定して地域医療再生計画(案)を作成し、

関係団体・施設との最終調整を進めながら、10月上旬に県医療審議会、10月中旬には保健所の

地域医療推進対策協議会でそれぞれ承認を受けて厚生労働省に提出している。

平成 22年 2月、地域医療再生基金の交付決定を受けて、保健所においては、新川地域在宅医

療支援センター運営支援事業の委託先を協議する会議に参加した後、下新川郡医師会及び魚津

市医師会間を調整した結果、下新川郡医師会に決定して事務職員 1人が専従する事務局を同医

師会館に設置し、さらに、運営規約、運営組織、事業計画等を実質的に作成している。

平成 22年 4月から在宅医療支援センターが、運営を開始して前述した種々の取組を支援又は

実施しているが、保健所においては、運営委員会委員及び作業部会委員を中心にして各取組の

実施者とも連携を図りながら、センター運営の自立に向けて必要な支援を適宜行っている。

このほかの関与事業である在宅療養支援短期入院病床確保事業は、平成2 2年 4月から医療依

存度の高い在宅療養者※が、介護家族の急病・急用又は不意のレスパイトの場合、介護支援専

門員が調整して緊急に短期入院(原則 7日以内)できるよう、介護保険の短期入所療養介護事

業所指定を受けている病院・介護老人保健施設の専用病床 2床を通年で確保するものである。

同年 2月に該当する病院 7施設及び介護老人保健施設 7施設を対象として事業説明会を開催

して委託先の専用 2病床を供用できる医療施設を公募し、総合的に応募病院を検討した結果、3

月には桜井病院を選定して病床確保の委託契約を締結している。 ※ 在宅重症難病患者の場合は、上述の事業ではなく在宅重症難病患者一時入院(原則 14日以内)事業を利用して

難病医療連絡協議会の難病医療専門員が調整する難病医療拠点病院・協力病院(24施設)に入院することとなる。

最後の一次(成人)急患センター設置支援事業は、下新川郡医師会、魚津市医師会及び黒部

市からの提案を受けて圏域に当該センター1 施設を設置するものであるが、設置場所、運営主

体及び運営形態は、圏域の市町、医師会、公的病院等関係者が決定することになった。

交付決定を受けて提案者の両医師会においては、それぞれ団体としての意見集約及び方針決

定に向け精力的に検討や調査を進めている中、平成 22年 8月、新川地域医療推進対策会議(事

務局:保健所)の協議により以後の検討を担うことになったので、合同委員会を設置して検討

を進めた結果、同年 11月、医師会ごとのセンター設置に向け個別に検討を深めることを決定し

た以後は、両医師会を中心として公的病院、市町等の関係者が協議を始めている。

この間、保健所においては、これまでの経緯も踏まえ、かつ、魚津支所とも連携しながら、

公正・公平な立場から情報収集や情報提供、相談対応等支援を行っている。

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2 平成 23年度の関与過程

保健所においては、在宅医療療養連携協議会及び在宅医療支援センターの運営を引き続き支

援しながら、在宅療養支援短期入院病床の利用促進に向けて居宅介護支援事業者に 9月に説明

会(魚津市)及び 10月に研修会(入善町)を各 1回実施しているほか、一次急患センターの設

置に向けて関係機関との連絡会の開催に係る連絡・調整を行っている。

(1) 推進組織

ア 新川地域在宅医療療養連携協議会(事務局:下新川郡医師会)

平成 19年 6月、安心な在宅医療療養の提供を目指し、新川医療連携懇話会を廃止して新

川地域在宅医療療養連携協議会を設立して総会、世話人会、講演会及び研修会の開催、連

携ツールの開発・運用等に取り組んでおり、平成 23年度は、総会 1回、世話人会 1回及び

講演会 1回を開催したほか、あんしん在宅ネットにいかわの利用規定を作成している。

イ 新川地域在宅医療支援センター運営協議会(事務局:下新川郡医師会)

平成 22年 4月、下新川郡医師会及び魚津市医師会においては、在宅医療に取り組む診療

所について、グループ化の促進及びグループ運営の支援を図るため、下新川医師会館に事

務局を置く新川地域在宅医療支援センターを設置して運営を開始し、平成 23年度は、運営

委員会 2回及び作業部会 2回の開催を始めとする各種事業を支援又は実施している。

(2) 重要人物との連携

重要人物については、運営委員会作業部会長(平成 12年から黒部市民病院地域連携室部外

部長、平成 19年からは在宅医療療養連携協議会長及び平成 20年からは下新川郡医師会副会

長)及び事務局専従職員(元黒部市民病院地域連携室員)である。保健所においては、在宅

医療体制構築の開拓者である作業部会長とは、平成 18年度から保健所事業の検討会・研修会

【新川地域在宅医療支援センターの事業】

①在宅医療支援センターの運営委員会及び作業部会の開催、②支援団体(新川地域在宅医療療養連

携協議会、魚津市メディカルネット蜃気楼及び下新川郡医師会地域医療連携委員会)の総会及び役員

会の開催、③両医師会合同研修会及び講演会の開催、④在宅主治医の紹介依頼への対応、⑤あんし

ん在宅ネット運用集積症例の管理、⑥ICT化への支援及び⑦関係施設・団体との連絡調整

【新川地域在宅医療支援センター運営委員会】

会長の下新川郡医師会長のほか魚津市医師会長、下新川郡医師会代表、魚津市医師会代表、富山

労災病院地域連携室長、黒部市民病院地域連携室長及び運営委員会作業部会長の計 7人。

【新川地域在宅医療支援センター運営委員会作業部会】

部会長の新川地域医療療養協議会長のほか副会長の新川地域医療療養協議会副会長(IT化委員

会長)及びメディカルネット蜃気楼会員、委員の富山労災病院地域連携室長、黒部市民病院地域連

携室長、あさひ総合病院地域連携室長、黒部市医師会代表、魚津市医師会代表、下新川郡医師会入

善町代表及び朝日町代表、顧問の保健所長及び黒部市民病院整形外科部長の計 13人。

【新川地域在宅医療療養連携協議会】(平成 23年 4月)

1 役 員:会長の中川医院長のほか副会長 2 人(黒部市民病院地域連携室長及び下新川郡医師

会代表)、世話人10人(医師 6人〔富山労災病院、県立中央病院、黒部市民病院、あさひ総合病

院、川瀬医院、枡崎クリニック〕、管理薬剤師 1人、介護支援専門員 1人、訪問看護師 1人及び

理学療法士 1人)及び顧問 4人(保健所長、両医師会長、黒部市民病院整形外科部長)の計17人。

2 参加施設:病院 9 施設(富山労災病院、県立中央病院、黒部市民病院、あさひ総合病院、深川

病院、坂本記念病院、桜井病院、魚津病院及び池田リハビリテーション病院)、診療所20施設、

調剤薬局12施設、訪問看護ステーション 5 施設、訪問リハビリテーション 4 施設、居宅介護支

援事業所10施設、デイサービスセンター1施設 、両医師会及び保健所の計 64施設・団体。

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の企画・調整を協働して圏域の関係職種に構築に向けた取組を普及している。また、在宅医

療支援センターの運営事務の要である事務局員とは、多種多様な運営事務を協働しながら、

これまで蓄積してきたノウハウを伝えて運営が軌道に乗るよう支援している。

(3) 関係者への研修

ア 保健・医療・福祉関係者活動研修会

本活動研修会については、平成 11年度から関係施設・職種が相互理解を深め、連携の在

り方を考える機会とするとともに、地域医療連携体制の構築に資するため、毎年度末に 1

回開催している。その内容については、日常の調整活動によって把握した種々の情報から

主要な課題を設定して保健所内、更に関係施設・団体と協議する中で次年度の取組の方針

を定めて、その方針を共有・推進できるよう企画・調整している。

平成 23年度は、保健・医療・福祉関係者活動研修会、地域リハビリテーション研修会及

び難病支援者研修会を新川地域在宅医療療養支援者研修会として合同開催している。

イ がん患者在宅療養支援事例検討会

本事例検討会については、平成 21年度からがん患者の在宅療養支援の内容・経過等を振

り返ることによって関係施設・職種が相互理解を深め、連携の在り方を考える機会とする

とともに、地域ケア体制の構築を図るため、地域がん診療連携拠点病院 2施設(黒部市民

病院及び富山労災病院)で毎年度各 1回共催している。

毎回、事例提供者を含むサービス事業者、司会者、助言者等数人によって、まず実務者

打合せ 1回(事例の選出と討議事項の確認)、次に事前調整会議 1回(事例の概要と討議

の視点の確認)を開催した上、事例検討会を迎えている。

【平成 23年度新川地域在宅医療療養支援者研修会】(平成 24年 3月 参加者 79人)

1 主テーマ:「暮らしの中でいのちを支え、その人らしい生き方を支援する」

2 基調講演:「緩和ケアにおけるスピリチュアルケア」

講 師:めぐみ在宅クリニック院長 小澤竹俊

3 分科会1:演習(グループワーク&ロールプレイ)

テ ー マ:「実践!援助的コミュニケーション~患者から逃げない~」

講 師:めぐみ在宅クリニック院長 小澤竹俊

4 分科会2:講義と実技

テ ー マ:「神経難病患者の"伝える"意欲とその方法を支援する」

講 師:あさひ総合病院リハビリテーションセンター主査(言語聴覚士) 松田崇

【平成 23年度第 1回がん患者の在宅療養支援事例検討会】(平成 23年 8月 参加者 82人)

1 テ ー マ:疼痛緩和のため在宅で塩酸モルヒネ持続静脈注射が必要になったケースへの支援

2 進 行 者:富山労災病院看護師長 佐々木悦子

助 言 者:富山労災病院消化器科部長 新敷吉成

3 事例紹介:病院主治医の立場から 富山労災病院第二外科部長 吉本勝博

〃 病院地域連携室の立場から 富山労災病院緩和ケア認定看護師 山海恵美

〃 かかりつけ医の立場から 桝崎クリニック院長 桝崎繁喜

〃 薬剤師の立場から 本江うぇるね薬局管理者 清河雄介

〃 介護支援専門員の立場から 魚津居宅介護支援事業所管理者 辻 和栄

【平成 23年度第 2回がん患者の在宅療養支援事例検討会】(平成 23年 11月 参加者 81人)

1 テ ー マ:本人・家族が願う在宅での生活が実現した事例~在宅における苦痛緩和とは~

2 進 行 者:黒部市民病院がん診療センター長 桐山 正人

3 事例紹介:病院主治医の立場から 黒部市民病院外科部長 岩田啓子

〃 病院地域連携室の立場から 黒部市民病院地域医療連携室看護師長 川田佳代子

〃 かかりつけ医の立場から 千代クリニック院長 千代英夫

〃 訪問看護師の立場から 訪問看護ステーションふかがわ管理者 村井敏美

〃 介護支援専門員の立場から 黒部市民病院在宅介護支援センター 稲場智佳子

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ウ 在宅療養支援事例検討会

在宅療養支援事例検討会については、在宅療養者の多様なニーズに対応するため、困難

事例に係る対応、ケア方法、支援経過等を振り返ることによって、現場レベルにおける相

互理解を深め、連携の在り方を考える機会とするとともに、地域ケアの質の向上を図る場

として、平成 20年度までは年 6回開催して毎年延べ 170~190人が参加していたが、平成

21年度からは年 3回開催して毎年延べ 100~130人が参加している。

毎回、事例提供者を含むサービス事業者、司会者、助言者等数人によって、まず実務者

打合せ 1回(事例の選出と討議事項の確認)、次に事前調整会議 1回(事例の概要と討議の

視点の確認)を開催した上、事例検討会を開始している。

(4) 地域医療連携体制の構築

保健所においては、公正・公平な立場から新川地域リハビリテーション広域支援センター

(事務局:黒部市民病院に平成 13年度設置)を事務局とする平成 18年 11月から大腿骨頸部

骨折地域連携パスの本格運用、平成 20年 9月からの脳卒中地域連携パスの本格運用をそれぞ

れ支援(情報提供、連絡調整等)しているとともに、保健所を事務局とする平成 22年 1月か

ら急性心筋梗塞地域連携パス(手帳)及び糖尿病地域連携パス(手帳)を本格運用している。

ア 脳卒中及び大腿骨頸部骨折

① ルール:地域リハビリテーション連絡協議会(事務局:平成 13年度保健所に設置)、

地域連携パスワーキンググループ(事務局:広域支援センター)、地域リハビ

リテーション連携指針及び地域連携パス手引

② ロール:各医療機能を担う医療施設リスト及び地域リハビリテーション活動マップ

③ ツール:地域連携パス及びメーリングリスト

イ 急性心筋梗塞及び糖尿病

① ルール:地域連携パスWG(事務局:保健所)及び地域連携パス(手帳)手引

② ロール:各医療機能を担う医療施設リスト及び地域リハビリテーション活動マップ

③ ツール:地域連携パス(手帳)

(5) 適切な受診行動の啓発

救急医療及び小児救急医療に係る適切な受診については、市町や医療施設・団体等ととも

に市町広報、母子保健事業、ケーブルテレビ等を活用して啓発している。

(6) 市町による地域医療推進

黒部市長においては、平成 20 年度(4 会場で参加者 343 人)に引き続き平成 21 年度のタ

ウンミーティング(4 会場で参加者 269 人)でも救急医療体制の課題を提起した上、地域医

療再生計画に休日夜間急患センターの整備を要望していることを直接説明するとともに、適

切な救急車利用や受診行動を直接呼び掛けている。

(7) 住民・医療・行政の協働

【平成 23年度事例検討会】(参加者 121人)

第1回テーマ:認知症で意思疎通が困難なケースにおける不穏時対応と介護者支援

〃 事 例:認知症で意思疎通が困難な女性で不穏時に興奮状態や攻撃的になることも。

〃 論 点:①本人の不穏に係る理解・対応及び②介護者の精神的・身体的な負担軽減の対応

第2回テーマ:独居でインシュリン自己注射が必要な高齢者への支援

〃 事 例:①90歳代の独居女性、②糖尿病で通院治療中及び③食事や服薬を自己管理で継続中。

〃 論 点:①自己管理への支援、②糖尿病食への事業所の対応及び③緊急時支援体制・安否確認

第3回テーマ:経済的虐待の疑いのある認知症高齢者への支援

〃 事 例:①90歳代の独居女性及び②健康保険料及び介護保険料の滞納

〃 論 点:①別居家族との連絡方法及び②別居家族から金銭管理の理解を得る方法

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新川地域在宅医療支援センターにおいては、平成24年度から住み慣れた地域で安心して暮

らすことの大切さを考えてもらうため、各市町と連携しながら、3地区(入善地区、黒部地区

及び新川地区)で市民公開講座「在宅医療ってなぁに」の開催を開始する予定にしている。

(8) 地域医療を担う医師の定着に向けた協働

現在、地域医療を担う医師の定着に向けた協働は、特に講じられていない。

(9) 県本庁との連携

県医務課にあっては地域医療再生計画全般の企画・調整、工程管理及び予算執行に加えて

一次(成人)急患センター設置支援事業、県高齢福祉課にあっては在宅医療に係る関与事業

の企画・調整及び工程管理、保健所にあっては関与事業を中心とした圏域の連絡調整という

役割分担で地域医療計画の推進を協働している。

3 関係機関による保健所の評価

平成 18年度から保健所においては、地域医療連携体制を本格的に構築していく取組の中で豊

富な経験やノウハウを蓄積してきたことから、関与事業の担当者は、相談内容に即した助言・

指導を適宜受けられたので、保健所を頼もしい存在として評価している。

4 関与事業の今後の方向

在宅医療体制の構築に向けて、講演会、研修会及びカンファレンスの充実による質の高い在

宅医療の提供、Groove導入施設の増加による多職種間の情報共有及び業務連携の拡充、参加病

院医局への説明会及び市民公開講座の開催による普及・啓発活動に取り組む予定である。

第5 事例の所感

1 新川地域在宅医療療養連携協議会において、平成 17年度から在宅医療体制構築に取り組んで

いた中、地域医療再生計画を契機として平成 22年度から在宅医療支援センターの運営を始め在

宅医療連携パスの全疾病・病態への対象者拡大、あんしん在宅ネットにいかわの本格運用及び

ホームページの整備を開始していくことにより、体制構築が大幅に進捗している事例である。

2 在宅医療体制構築が進捗している要因には、熱心な医師の主導はもとより、保健所の支援も

上げられる。保健所においては、構築主体を医療者に置き自らは支援という役割分担を堅持し

た上、地域の公平・公正な連絡・調整役として当該協議会の要望に適宜対応するとともに、関

係者活動研修会、事例検討会等の場を活用して多職種とのネットワークづくりに努めている。

3 特に平成 9年度から継続している事例検討会については、企画調整班保健師が中心となって

【入善地区の市民公開講座「在宅医療ってなぁに」】(平成 24年 6月・7月・8月予定)

テーマ:「老いても住み慣れた地域で安心して暮らそう」

進 行:新川地域在宅医療支援センター事務局員 家敷真澄

第1部:1 在宅受入れ体制整備の紹介

〃 :2 多職種連携の紹介

・訪問診療:藤が丘クリニック院長・医師 藤岡照裕

・訪問看護:黒部訪問看護ステーション訪問看護師 遠藤幸枝

・訪問介護:黒部市社会福祉協議会訪問介護員 能登美知子

・訪問薬剤管理:メープル薬局管理薬剤師 見澤哲郎

・訪問リハビリ:池田リハビリテーション病院作業療法士 清水賢治

・介護支援:ケアサポートきらり居宅介護支援専門員 新田和子

・地域連携:黒部市民病院地域医療連携室看護師長 川田佳代子

・地域調整:新川厚生センター企画管理課企画調整班保健師 山下夕美

〃 :3 患者家族の経験談

第2部 特別講演:「病気としての老衰~エイジングに備えよ~」

特別講師:東京ミッドタウンクリニック在宅医療部長 大蔵暢(朝日町出身)

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年 6回(実務者打合せ及び事前調整会議を含めると 18回)開催しており、毎年延べ 200人前後

の関係職種が参加して困難事例に係る考え方や対応を検討・共有しているが、こうした長年の

地道な取組も、医療連携体制の基盤づくりに貢献している。

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事例5 滋賀県東近江圏域地域医療再生計画への関与

調査先 滋賀県東近江保健所

第1 地域の現状及び保健所の体制

1 対象地域の現状

県南東部に位置する東近江圏域(以下「圏

域」)は、平地や丘陵地が東西に長く鈴鹿山

系から琵琶湖に広がり、構成市町は近江八

幡市、東近江市、蒲生郡(日野町・竜王町)

の2市2町、面積は647㎞2で全県の約19%、

人口は約 23万 3千人(近江八幡市約 8万 1

千人・東近江市約 11万 6千人)で全県の約

17%を占め、高齢化率は 21.5%と全県 20.5%をやや上回っている(平成 22年 10月)。

2 対象地域の医療資源

近江八幡市にあっては市立総合医療センター(圏域唯一の基幹病院)が所在して医療施設従

事医師数はほぼ全県並であるが、この一方、東近江市にあっては全県を 4割下回り、特に国公

立病院 3施設では、深刻な勤務医不足により二次救急医療・周産期医療を始めとする医療提供

体制が弱体化し、市内で収容すべき患者が、市立総合医療センターに流出している。

こうした中、地域医療再生計画を契機として東近江市で病院の再編・整備が加速し、滋賀医

科大学の県寄附講座から医師 14人の派遣を受けて、国立病院機構滋賀病院(大学から高速道路

で約 35㎞)を母体とする二つ目の基幹病院となる東近江総合医療センターが、平成 25年 4月

に開院予定である。地域医師会は、近江八幡市蒲生郡医師会及び東近江医師会が活動している。

注 1:病院数・病床数は平成 22年 10月及び医師数は平成 22年 12月。注 2: ( )は人口 10万対数。

一般病院数 病院一般病床数 医療施設従事医師数

全 国 7,587施設( 5.9) 903,621床( 706) 280,431人( 219)

滋 賀 県 53施設( 3.8) 9,574床( 682) 2,830人( 201)

圏 域 11施設( 4.7) 1,333床( 572) 321人( 138)

近江八幡市 2施設( 2.5) 469床( 577) 154人( 189)

東近江市 8施設( 6.9) 718床( 618) 133人( 115)

○東近江敬愛病院

●東近江保健所

琵琶湖

○日野記念病院

○滋賀病院→◎東近江総合医療 センター

○東近江市立蒲生病院

→東近江市蒲生医療センター

【近江八幡休日急患診療所及び八日市休日急患診療所】

診療時間は土休日の午前 10時(土は午後 3時)~午後 8時。なお、八日市の土曜日は休診。

【二次救急輪番病院 6施設(休日昼間及び毎夜間)】

近江八幡市立総合医療センター(407床〔一般403床・感染症4床〕)、国立病院機構滋賀病院(220

床〔一般200床・結核20床、平成20~21年度は二次救急輪番から離脱〕)、日野記念病院(195床〔一

般146床・療養49床〕)、東近江市立能登川病院(一般120床)、東近江市立蒲生病院(一般120床〔平

成25年4月から有床診療所19床の東近江市蒲生医療センターに転換して滋賀医科大学家庭医療学講

座と連携して家庭医を養成する予定である。〕)及び東近江敬愛病院(154床〔一般90床・療養64床〕)。

【近江八幡市立総合医療センター(基幹病院)】

1 病 床 数:407床(一般403床・感染症4床)

2 各種指定:二次救急輪番病院、救命救急センター、地域災害拠点病院、地域周産期母子医療セ

ンター、小児二次救急輪番病院、地域医療支援病院、基幹型臨床研修病院等

【国立病院機構東近江総合医療センター(平成25年4月開院予定の基幹病院)】

1 病 床 数:320床(一般304床〔滋賀病院の一般200床に蒲生病院の104床を統合〕・結核16床)

2 各種指定:県地域がん診療連携支援病院、二次救急輪番病院、小児二次救急輪番病院等

近江八幡市

立総合医療

センター

彦根市

湖南市

野洲市

竜王町

甲賀市 三重県

○東近江市立能登川病院

愛荘町

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3 保健所の組織・担当者

(1) 保健所の組織

東近江保健所(以下「保健所」)は、2課体制(保健福祉課・健康衛生課)で正規職員数

は 30人、このうち医師は 1人(所長)である。

(2) 地域医療再生計画の担当者

地域医療再生計画の主な担当者は、保健所長及び事務次長のほか保健福祉課総務調整担当

として同課長補佐(行政職)、同主幹(行政職)及び同主査(行政職)並びに地域保健福祉担

当として同課長補佐(保健師)、同主幹(保健師)及び同主査(保健師)の計 8人である。

第2 地域医療再生計画の概要

1 重点化項目

救急医療及び機能分化・連携

2 対象地域の現状及び課題

(1) 救急医療体制

ア 一次救急医療体制については、東近江行政組合(構成:圏域 2市 2町及び愛荘町)によ

る近江八幡及び東近江の両休日急患診療所に加えて、東近江医師会による平日夜間在宅当

番医制を運用しているものの、二次救急輪番病院で軽症患者の時間外受診が増加している

ことから、救急医療適正利用の周知及び当該診療所の充実が必要である。

イ 二次救急医療体制については、東近江市の国公立病院 3施設の医療提供体制が、深刻な

勤務医不足により弱体化し、市内で受け入れるべき患者が、近江八幡市立総合医療センタ

ーに流出していることから、同市に二次救急輪番病院を新たに整備する必要がある。

ウ 三次救急医療体制については、当該総合医療センターの救命救急センターへの救急搬送

患者が増加していることから、その設備を充実して勤務医の負担を軽減する必要がある。

エ 転院搬送については、搬送患者の医療継続や容態管理が困難であることから、当該総合

医療センターに高規格救急車(ドクターカーの運用を予定。)を整備する必要がある。

(2) 周産期医療体制

分娩取扱い施設については、3施設と不足して平成 19年から彦根市立病院が、取扱いを休

止したことにより、当該総合医療センターの取扱い数が増加していることから、東近江市に

取扱い施設を新たに整備するとともに、当該総合医療センターの設備を充実する必要がある。

(3) 医療提供施設

ア 東近江市の国公立病院 3施設については、医療提供体制が弱体化していることから、国

立滋賀病院を母体として急性期医療を中心とする基幹病院を整備し、公立病院を後方病院

としての回復期病院及び家庭医療を中心とする有床診療所に機能転換する必要がある。

イ このほかの回復期・維持期病院についても、急性期病院の後方病院及び在宅医療の支援

病院としての役割も果たすため、当該病院の施設・設備を整備する必要がある。

ウ 神経難病医療については、約 4割の患者が圏域外で入院していることから、圏域内で入

院できる体制とともに、求めに応じ、在宅療養できる体制を整備する必要がある。

エ 調剤薬局については、訪問薬剤管理指導、麻薬管理指導及び無菌製剤調製にほとんど取

り組んでいないことから、在宅医療に取り組む薬局を整備する必要がある。

(4) 医療連携体制

ア 平成 19年 12月から東近江地域医療連携ネットワーク研究会(以下「三方よし研究会」)

が、脳卒中地域連携パスの開発・運用を開始し、急性期病院から回復期病院を経て維持期

病院や老人保健福祉施設、診療所までの地域医療連携体制を構築しつつある。

イ 脳卒中を除く主要な疾病及び在宅医療については、地域医療連携体制及び在宅医療連携

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体制が進捗していないことから、地域の医師会、歯科医師会及び薬剤師会(以下「三師会」)

による地域医療連携の推進拠点として両市に地域医療支援センターを整備するとともに、

地域医療福祉連携の推進拠点として広域地域医療支援センターを整備する必要がある。

ウ 地域医療連携体制の構築については、診療情報の共有に係る医師の事務負担が大きいこ

とから、情報通信技術(以下「ICT」)を活用して医療施設間で効果的・効率的に診療

情報を共有できる地域医療情報ネットワークを整備する必要がある。

エ 地域医療福祉連携の推進については、地域医療・介護・福祉情報の共有に係る負担が大

きいことから、ICTを活用して脳卒中地域連携パスの開発、多職種連携の推進及び地域

資源情報の共有を支援する地域医療福祉連携情報システムを整備する必要がある。

3 具体的な施策(医師・看護師の確保対策は除く。)

(1) 全県の取組事業(実施主体)

ア 救急医療確保対策事業

① 救急医療適正利用の周知(県医療福祉推進室)

救急医療の適正な利用を図るため、啓発番組(びわ湖放送)の制作・放映及び啓発パ

ンフレットの作成配布を行って県民に対する周知を図る。

② 県民フォーラムの開催(県医療福祉推進室及び各保健所)

地域全体で地域医療を守るという意識を涵養するため、地域医療及び病院勤務医の現

状を普及・啓発する県民フォーラムを各圏域で開催する。

イ 在宅医療推進体制総合調整事業

① 在宅療養支援センターの整備・運営(県医師会及び地域医師会)

在宅医療を推進するため、在宅療養患者の情報を共有するとともに、多職種連携を調

整する在宅療養支援地域センターを各圏域で整備・運営する。

② 基幹薬局体制整備事業(県薬剤師会及び地域薬剤師会)

調剤薬局による在宅医療への取組を促進するため、圏域の基幹調剤薬局にクリーンベ

ンチの整備、注射薬の無菌調製研修、在宅医療の研修等を実施する。

③ 地域から医療福祉を考える懇話会の運営(各保健所)

地域医療福祉を守り育てるためには、地域住民の理解・協力を必要とすることから、

医療福祉について住民参加で協働する当該懇話会を各圏域で運営する。

(2) 圏域の取組事業(実施主体)

ア 救急医療体制整備・充実事業

① 休日急患診療所の整備・充実(東近江行政組合)

② 救命救急センターの充実及び高規格救急車の整備(当該総合医療センター)

イ 周産期医療体制整備・充実事業

① 分娩取扱い施設の整備及び地域周産期母子医療センターの充実(国立病院機構滋賀病

院及び当該総合医療センター)

ウ 医療施設再編・整備事業

① 東近江総合医療センターの整備(320床のうち 216床は滋賀病院からの引継ぎ)

② 東近江市立能登川病院の回復期病院への機能転換(東近江市)

③ 東近江市立蒲生病院の有床診療所への機能転換(東近江市、104床を滋賀病院に統合)

④ 回復期医療・維持期医療を担う病院の機能強化(当該病院)

⑤ 難病患者レスパイト入院の運営( 〃 )

エ 医療連携体制構築事業

① 地域医療再生計画推進協議会の設置・運営(県本庁及び保健所)

② 地域医療支援センターの整備・運営(本年度から東近江行政組合)

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近江八幡市及び東近江市に休日急患診療所、在宅療養支援センター、三師会事務局、

広域地域医療支援センター等が入居する複合施設をそれぞれ整備・運営する。

③ 広域地域医療支援センターの整備・運営(本年度から当該協議会)

④ 地域医療情報ネットワークの整備・運用(来年度から当該病院及び当該協議会)

⑤ 地域医療福祉連携情報システムの整備・運用(本年度から当該協議会)

第4 保健所関与の概要

1 保健所関与の総括

地域医療連携体制及び在宅医療連携体制の構築を目指して、地域医療再生計画推進協議会の

共同事務局として地域医療支援センター及び広域地域医療支援センターの整備を中心として、

ICTを活用した地域医療福祉連携情報システムの整備等に関与している。

2 主な関与事業(見出し符号は第2-3の具体的な施策と同一)

(1) 県全体の取組事業(実施主体)

ア 救急医療確保対策事業

② 県民フォーラムの開催(県医療福祉推進室及び各保健所)

イ 在宅医療推進体制総合調整事業

① 在宅療養支援地域センターの設置・運営(県医師会及び地域医師会)

③ 地域から医療福祉を考える懇話会の運営(各保健所)

(2) 圏域の取組事業(実施主体)

ウ 医療提供施設再編・整備事業

⑤ 難病患者レスパイト入院の運用(当該病院)

エ 医療連携体制構築事業

① 地域医療再生計画推進協議会の設置・運営(県本庁及び保健所)

② 地域医療支援センターの整備・運営(平成 23年度から東近江行政組合)

③ 広域地域医療支援センターの整備・運営(平成 23年度から当該協議会)

④ 地域医療情報ネットワークの整備・運用(平成 23年度から当該病院及び当該協議会)

⑤ 地域医療福祉連携情報システムの整備・運用(平成 23年度から当該協議会)

3 保健所の役割・取組

地域医療再生計画推進協議会の共同事務局等として、医療連携体制及び在宅医療介護連携体

制構築に向けて情報収集・分析、関与事業の企画・立案、推進協議会の運営、関係施設・団体

間の調整、関係者への研修、関与事業の工程管理・予算調整等に取り組んでいる。

4 保健所関与の予算

平成 23 年度の主要な関与事業の予算は、地域医療再生計画推進協議会設置・運営費等 352

万円の令達を受けている。なお、平成 25年度末までの総額は 1,209万円である。

第5 保健所関与の詳細

1 平成 22年度までの関与過程

東近江市においては、国公立病院 3施設の深刻な勤務医不足によって二次救急医療・周産期

医療を始め医療提供体制が弱体化したことから、平成 20年 1月から一連の委員会や検討会で具

体的な対策の検討を進め、平成 21年 9月、国立滋賀病院、市立能登川病院及び市立蒲生病院の

再編・統合により国立滋賀病院を母体とする基幹病院(「東近江総合医療センター」)を整備

するとともに、両市立病院を後方支援施設に機能転換する方向性を取りまとめている。

こうした中、平成 21年 6月下旬、県医務薬務課においては、東近江圏域について、政策医療

の提供が困難になっていること、在宅療養ニーズに対応できていないこと及び三方よし研究会

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が活動していることから、対象地域として選定して 7月から取組事業の実施主体と協議調整会

議を 4回開催し、11月には取組事業の概略とともに医療連携体制の構築を決定している。

平成 22年 5月、保健所においては、県医務薬務課と共同事務局を構成した第 1回地域医療再

生計画推進協議会で平成 22年度の事業計画及び事業予算を協議したが、実施主体又は実施内容

が未定の医療連携体制構築事業は、保健所が、事務局として調整役を担うことになった。

地域医師会、当該病院及び市町と個別意見交換会を 6回重ねた上、11月に開催した第 2回当

該協議会では、地域医療連携部会の下部組織として取組事業ごとに作業部会(以後は検討状況

に応じて改組)を設置して平成 22年度の事業計画及び事業予算を決定した。

平成 23年 3月、第 3回当該協議会では、平成 23年度の事業計画を協議した後、実施主体が

決まった地域医療支援センター(東近江行政組合)及び広域地域医療支援センター(当該協議

会)の基本計画(案)を検討している。なお、地域医療福祉連携情報システム(実施主体未定)

及び地域医療情報ネットワーク(実施主体未定)は、両支援センターの役割や機能に密接に関

係することから、両センターの基本計画を作成後、検討を深めることとした。

2 平成 23年度の関与過程

平成 23年 11月、保健所においては、第 1回当該協議会でICTを活用した地域医療福祉連

携情報システム整備の視点として①脳卒中地域連携パスの運用・評価(システム開発)にとど

まらず、②在宅療養・看取りでの多職種情報連携の支援(グループウェア活用)及び③地域医

療介護福祉情報の共有(ポータルサイト構築)を挙げて協議した後、ICT化検討委員会を設

置して基本的な考え方及び課題別の検討を進める推進することを決定している。

さらに、地域医療支援センターについては、詳細計画(推進ビジョン、機能事業、実施主体、

施設設備、費用負担及び簡易図面)を協議した後、引き続き、地域医療福祉検討会(地域医療

支援センター関係者会議)において、建物全体の整備、建設後の維持管理、広域地域医療支援

センターの整備、在宅療養支援センターの整備等を具体的に検討している。

その後、東近江行政組合が、東近江地域医療支援センターにあっては東近江三師会との調整

会議、当該センター管理者、二市二町衛生主管課長会議及び地域医療福祉検討会を経て、平成

24年 3月、第 2回当該協議会においては、滋賀病院の敷地に来年度施工すること、近江八幡当

該センターにあっては来年度設計(建設場所は未定)すること、地域医療情報ネットワークの

実施主体は当該病院及び当該推進協議会にすることを決めている。

(1) 推進組織

ア 地域医療再生計画推進協議会(共同事務局:平成 22~23 年度は県医務薬務課及び保健

所、平成 24~25年度は県医療福祉推進課及び保健所)

当該協議会については、総合的・効果的に当該事業を推進するため、平成 22年 5月に設

置して協議調整及び工程管理を実施しており、本年度は 2回開催している。

イ 地域医療連携部会(地域医療連携ネットワーク推進会議〔事務局:保健所〕)

当該部会については、地域医療支援センター及び地域医療情報ネットワークを検討する

【地域医療再生計画推進協議会】

会長の近江八幡市蒲生郡医師会長(前期 2 年)及び東近江医師会長(後期 2 年)のほか県歯科医師

会湖東支部長、県薬剤師会八幡支部長、県薬剤師会東近江支部長、県看護協会第 4 地区支部長、滋賀

医科大学医学部付属病院長、国立病院機構滋賀病院長、近江八幡市立総合医療センター院長、東近江

市立蒲生病院長及び能登川病院長、ヴォーリズ記念病院長、八幡青樹会病院長、青葉病院理事長、近

江温泉病院長、神崎中央病院長、湖東記念病院長、東近江敬愛病院長、日野記念病院長、近江八幡市

子ども未来部長、東近江市地域医療管理監、日野町福祉課長、竜王町健康推進課主監、東近江行政組

合事務局長、県健康推進課長及び保健所長の計 26人。このほか陪席者は三方よし研究会世話人会代表

(県医師会副会長)及び国立病院機構本部近畿ブロック事務所統括部長の 2人。

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ため、平成 22年 11月に当該協議会の下部組織として、かつ、地域医療連携ネットワーク

推進会議(以下「三方よし推進会議」)として設置しているが、当該部会の作業組織で検討

が完結していることから、これまで開催していない。

ウ 地域医療福祉検討会(地域医療支援センター関係者会議〔事務局:保健所〕)

当該検討会については、地域医療支援センターの整備・運営の在り方を関係者で検討す

るため、平成 22年 11月、地域医療連携部会の下部組織として設置し、本年度は 4回開催

して地域医療支援センターの基本計画を作成している。

エ 地域医療福祉連携に係るICT化検討委員会(事務局:保健所)

当該委員会は、地域医療福祉連携情報システムを整備するため、平成 23年 11月、地域

医療福祉検討会の下部組織として設置して本年度 3回開催して課題別に検討を進めている。

オ 地域医療連携ネットワーク研究会(三方よし研究会〔事務局:保健所〕)

当該研究会については、平成 19年 9月から診療水準の向上及び会員間の連携を強化する

ため、毎月第三木曜日に脳卒中地域連携パスの開発・運用を中心としてリレートーク、研

究会報告、30分学習会、事例検討会、情報提供等を積み重ねて毎回 100人を超える関係者

が参加している(平成 24年 3月現在で通算 52回)。研究会のテーマは、回を重ねるにつれ

て病院間の連携から徐々に在宅医療や在宅介護、医療介護連携全般に広がっている。また、

地域医療再生計画の概要や進捗についても、周知する場になっている。

【三方よし研究会の世話人会構成施設・団体】

世話人会代表の東近江医師会のほか近江八幡蒲生郡医師会、県歯科医師会湖東支部、近江八幡市立

総合医療センター、ヴォーリズ記念病院、国立病院機構滋賀病院、東近江市立蒲生病院・能登川病院、

青葉病院、近江温泉病院、神崎中央病院、湖東記念病院、東近江敬愛病院、日野記念病院、弓削メデ

ィカルクリニック、リハビリセンターあゆみ、介護老人保健施設ここちの郷、訪問看護ステーション

なごみ、NPOしみんふくしの家八日市、NPO結の家、東近江消防本部、近江八幡市、東近江市、

日野町、竜王町、県本庁及び保健所の計 27施設・団体。

【三方よし研究会の運営ノウハウ】

1 座席は必ず車座で 2 必ず全員自己紹介から 3 盛り上っても閉会時間は厳守

4 議題は予め役割分担を 5 走りながら考え修正 6 解決できそうな課題から

7 市民の参加は大歓迎 8 会場は当番機関の持回り 9 会場当番が学習会の講師を

【三方よし研究会の命名】

近江商人の家訓「売り手よし、買い手よし、世間よし」に倣って「患者よし、医療機関よし、地域

よし」を目指して命名

【地域医療福祉検討会構成施設・団体(地域医療支援センター関係者会議)】

近江八幡市蒲生郡医師会、東近江医師会、三方よし研究会世話人会、県歯科医師会湖東支部、県薬

剤師会八幡支部、県薬剤師会東近江支部、県看護協会第 4 地区支部、県歯科衛生士会湖東支部、近江

八幡市立総合医療センター、ヴォーリズ記念病院、八幡青樹会病院、国立病院機構滋賀病院、東近江

市立蒲生病院・能登川病院、青葉病院、近江温泉病院、神崎中央病院、湖東記念病院、東近江敬愛病

院、日野記念病院、東近江介護サービス事業者協議会、県訪問看護ステーション連絡協議会第 4 地区

支部、リハビリセンターあゆみ、在宅ケアセンターみのり、介護老人保健施設ここちの郷、東近江行

政組合、近江八幡市、東近江市、日野町、竜王町、県本庁及び保健所の計 32施設・団体。

【地域医療福祉連携に係るICT化検討委員会構成施設・団体】

委員長の江八幡市立総合医療センター副院長のほか近江八幡市蒲生郡医師会、東近江医師会、三方

よし研究会世話人会、県歯科医師会湖東支部、県薬剤師会八幡支部、県薬剤師会東近江支部、ヴォー

リズ記念病院、八幡青樹会病院、国立病院機構滋賀病院、東近江市立蒲生病院、東近江市立能登川病

院、青葉病院、近江温泉病院、神崎中央病院、湖東記念病院、東近江敬愛病院、日野記念病院、近江

八幡市、東近江市、日野町、竜王町、東近江介護サービス事業者協議会及び保健所の計 24施設・団体。

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(2) 関係機関の重要人物との連携

近江八幡市蒲生郡医師会長及び東近江医師会長においては、地域医療再生計画推進協議会

等各種医療福祉連携に関する検討の場で重要な役割を果たしていることから、保健所におい

ては、両者と緊密に連携しながら、関与事業の企画・調整を推進している。

(3) 関係者への研修

各種の検討会・研究会・委員会で研修や視察を適宜実施しているが、このうち三方よし研

究会においては、30分学習会や事例検討会を毎回開催している。

(4) 地域医療連携体制の構築

平成 19年 12月から脳卒中地域連携パスの運用を開始し、平成 23年 2月からはCD媒体に

よる域連携パスの試用(ファイルメーカーで作成した様式にデータ入力)を重ねながら、平

成 23年末には運用件数が約 1,570人に達して搬送先の明確化、在院日数の短縮化及び治療内

容の充実で成果を上げているものの、多くの課題に直面して元の紙媒体の様式に戻している

が、その運用状況は、県内統一脳卒中地域連携パスの開発に提供する予定である。

(5) 適切な受診行動の啓発

平成23年9月、県本庁が圏域で主催した「地域医療を考えるフォーラム2011」におけるパネ

ルディスカッションにおいて、保健所長が、コーディネータとしてパネラーからの救急医療

の現状及び課題の報告を受けて救急医療の適切な利用について参加者と理解を深めている。

また、平成24年2月、保健所、東近江市、「地域から医療福祉を考える東近江懇話会」及び

「市民が考える医療フォーラム実行委員会(事務局:しみんふくしの家八日市)」においては、

「まちの医療を支えるのは一人ひとりの意識です」をテーマとする「地域から医療福祉を考

【地域医療を考えるフォーラム 2011】(平成 23年 9月 参加者約 110人)

1 テーマ「みんなで考えよう、これからの救急医療」

2 講 演「ドクターヘリ発進! フライトドクターが語る」

講 師:大阪大学医学部附属病院高度救命救急センター助教 中川雄公

3 パネルディスカッション「突然の病気、あなたはどうしますか?」

コーディネータ:東近江保健所長 瀬戸昌子

アドバイザー :大阪大学医学部附属病院高度救命救急センター助教 中川雄公

パネラー :近江八幡市立総合医療センター救命救急センター部長 鶴田宏史

〃 :近江八幡市立蒲生郡医師会長 久我正文

〃 :東近江行政組合消防本部救急救命士 澤田 剛

〃 :地域から医療福祉を考える東近江懇話会座長 小梶 猛

【平成 23年度東近江地域医療連携ネットワーク研究会の 30分学習会】(テーマ、講師所属・氏名)

テーマ 講師所属 氏 名

4月 肝臓病―肝炎 東近江市立能登川病院長 竹内孝幸

5月 能登川園流終末期の関わり方 特別養護老人ホーム能登川園事務部長 伊藤善行

6月 写真家がみた在宅医療の現場から 写真家 國森康弘

7月 八幡青樹会病院の紹介 八幡青樹会病院長 由利和雄

9月 近江八幡市が目指すネットワーク 近江八幡市地域包括支援センター 村田知子

10月 東近江敬愛病院の近況 東近江敬愛病院長 間嶋 孝

11月 東近江市地域包括支援センター 東近江市いきいき支援課主幹 外村俊夫

12月 ガンマナイフ治療 湖東記念病院脳神経外科医 平井久雄

1月 竜王町の地域リハビリテーション 竜王町地域包括支援センター保健師 茶谷貴子

2月 心臓リハビリテーション 近江八幡市立総合医療センター理学療法士 森本順子

3月 日野町の取組 日野町地域包括支援センター 坂田敦子

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えるフォーラム」を主催して適正な受診行動を啓発している。

(6) 市町による地域医療推進

東近江市においては、合併により市立能登川病院及び蒲生病院を所管したことから、平成

18年1月に地域医療政策課を設置し、平成19年3月の「東近江市病院在り方検討会」の提言、

平成20年11月の「東近江市立病院等整備委員会」の中間報告、平成21年9月の「東近江市地域

医療体制検討会」の提言をそれぞれ受けて、急性期医療を中心とする基幹病院を整備すると

ともに、両公立病院を後方病院に機能転換する方向性を取り求めている。

こうした中、地域医療再生計画を契機として地域医療政策を本格的に推進してきており、

平成25年4月の東近江総合医療センターの整備、滋賀医科大学への寄付講座(滋賀県)の設置

による国立病院機構滋賀病院への医師派遣、市立能登川病院・蒲生病院の機能転換及び医療

連携体制の構築を目指す東近江市地域医療改革プロジェクトに取り組んでいる。

(7) 住民・医療・福祉・行政との協働

平成 20年 12月、保健所においては、元気に活動して最期まで安心して住むことのできる

「地産・地育・地療(老)・地死」の地域づくりに向けて、医療・福祉・行政関係者が連携を

強め、地域住民とともに地域の在るべき総合的な医療・福祉を協働するため、「地域から医療

福祉を考える東近江懇話会(以下「地域懇話会」)」を設置して、これまで 15回(本年度は 3

回)開催して小児科受診リーフレットの作成、子育てお母さん学習会の開催、地域医療福祉

フォーラムの開催、地域医療啓発パンフレットの作成等を公民協働で活動を展開している。

(8) 地域医療を担う医師の定着に向けた協働

現在ところ、医師の定着に向けた協働は、特に講じていない。

(9) 県本庁との連携

県本庁にあっては地域医療再生計画全般の作成・主導・調整・工程管理、保健所にあって

は圏域の関与事業を中心とした連絡調整・工程管理という役割分担で地域医療再生計画を協

働している。

3 関係機関による保健所の評価

保健所においては、地域医療再生計画推進協議会の共同事務局として地域医療支援センター

及び広域地域医療支援センターの整備を中心として地域医療福祉連携情報システムの整備に

ついて、基幹病院及び地域医師会を始めとする関係施設・団体ときめ細かく企画・調整して関

【平成 23年度地域から医療福祉を考えるフォーラム】(平成 24年 2月 参加者約 150人)

1 テ ー マ「まちの医療を支えるのは一人ひとりの意識です」

2 情報提供「もしもあなたが糖尿病といわれたら」

提 供 者:東近江市保険年金課職員

3 啓 発 劇「もしもあなたが脳卒中で倒れたら~東近江脳卒中地域連携の様子~」

出 演 者:地域から医療福祉を考える東近江懇話会委員ほか

4 講 演「賢い患者になりましょう、新医者にかかる十箇条」

講 師:ささえあい医療人権センターCOML(コムル)理事長 山口育子

【地域からの医療福祉を考える懇話会】(事務局:保健所)

NPO法人しみんふくしの家八日市理事長、NPO日野まちなみ保全会員、NPO子育てサポート

おうみはちまんすくすく代表理事、はちどりの会代表及び西蓮寺住職(以上は市民)、中村医院長、久

我内科医院、湖東記念病院脳神経外科医、近江八幡市立総合医療センター小児科医及び滋賀県医師会

副会長(以上は医療)、NPO法人いっぷく理事長、NPO結の家理事長、NPO木もれび理事長及び

訪問看護ステーションみのり所長(以上は福祉)並びに東近江行政組合消防本部警防課主幹、東近江市

八日市図書館長、東近江市いきいき支援課主幹、近江八幡市福祉総合支援課主幹、日野町介護支援課

長及び竜王町住民福祉主監(以上は行政)の計 20人。

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与事業を着実に進めていることから、高い評価を受けている。

4 関与事業の今後の方向

保健所においては、平成 25年度の運営に向けて、地域医療支援センターにあってはハード面

(設計、建築及び管理)及びソフト面(地域医療福祉支援体制)、広域地域医療支援センターに

あっては三方よし研究会の充実、地域医療福祉連携情報システムの構築を推進していく。また、

地域医療情報ネットワークの整備にあっては平成 24年度から本格的な調査・研究に着手してい

く予定である。

第6 事例の所感

1 保健所においては、東近江市の医療提供体制が弱体化する中、地域医療再生計画推進協議会

の共同事務局を県本庁と構成した上、地域医療福祉連携体制の本格的な構築を目指して地域医

療支援センター及び広域地域医療支援センターの整備を中心として、地域医療福祉連携情報シ

ステムの整備等をきめ細かく企画・調整している事例である。

2 地域医療再生計画事業の企画・調整に当たっては、平成 19年度から三方よし研究会事務局と

して、脳卒中地域連携パスの推進過程で構築してきたヒューマンネットワークを基盤として活

用していることは、他の保健所の参考になるものと考えられる。

3 ICTを活用した地域医療福祉連携情報システムについて、①脳卒中地域連携パスシステム

の開発(地域医療の階層)、②多職種情報連携ツールの導入(地域医療介護の階層)及び③地域

医療介護福祉情報ポータルサイトの構築(地域医療介護福祉の階層)を柱とする三階層の取組

を一体的に運用できるノウハウを蓄積して全国に情報発信することを期待したい。

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東近江地域医療支援センターの整備内容・事業例

注:休日急患診療所、在宅療養支援センター、医師会・歯科医師会・薬剤師会の各事務局及び研修室・会議室・相談室は、近江八幡地域医療支援センターと共通である。

整 備 内 容 想定される具体的な事業例 主たる実施主体 関 係 機 関

休日急患診療所

・休日救急診療の拠点

・非常時に向けた3診体制・待合室・駐車場の確保

・休日急患診療を円滑に進めるための日頃の連携

・行政組合 ・ 市 町

・ 医師会・歯科医師会・薬剤師会

在宅療養支援センター

・患者中心の地域の医療連携・情報共有の推進

(グループウェア・ICTを活用した会議システム)

・診診連携・病診連携の推進

・在宅医療で24時間対応が必要な時の調整

・在宅主治医の紹介

・訪問看護ステーションの情報提供

・地域医療従事者研修会の開催(研修医の地域医療研修支援)

・住民啓発(予防を含む。)・住民相談

・医療材料・衛生材料の共同購入・管理

・医師会

・ 医師会・歯科医師・薬剤師会

・ 回復期病院・維持期病院

・ 訪問看護ステーション

・ 介護サービス事業所

・ 介護支援専門員協議会

・ 市町(地域包括支援センター等)

医師会事務局

歯科医師会事務局

薬剤師会事務局

・関係機関の事務局

・医療器材の共同利用(簡易クリーンベンチ)

(基幹薬局への簡易クリーンベンチを配置、在宅療養医薬品の研修)

・地域医療を推進するための情報集約・提供

・医師会

・歯科医師会

・薬剤師会

研修室・会議室・相談室

(多職種連携)

・ 地域関係者の研修・協議の場所

・ 非常時には休日急患診療所の施設として利用 ・入居者による管理 ・関係団体のすべて

広域地域医療支援センター

(近江中部地域医療福祉連携支援

センター(愛称:中部ぴあはーと)

(交流・学び・気づき・育み拠点)

(地域連携パス運用管理拠点)

(ICTを含む情報連携拠点)

・地域療連携パスの運用管理等医療連携の推進

(口腔ケア又は糖尿病・歯周病治療の医療連携体制)

・医療・介護・福祉情報の集約・提供

・連携のための機会の提供

・地域資源の評価と充実に向けた提案

・情報連携の電子化に向けた検討

・住民・関係者向けの研修・啓発

・当初は保健所が全面的

に支援

・平成25年度は地域医療

再生計画推進協議会

・平成26年度はセンター

運営協議会)

・病院(急性期・回復期・維持期)

・市町(地域包括支援センター等)

・保健所

・行政組合

・医師会・歯科医師会・薬剤師会

・介護サービス事業所

※上記関係機関による運営会議を設置

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広域地域医療支援センターにおける

ICTを活用した地域医療福祉連携情報システム

1 目指す地域の姿

(1) 地域住民が安心できる「地産」、「地育」、「地老(療)」及び「地死」の実現

(2) 健康水準の向上及び地域資源の質・量の充実

2 ICTを活用する狙い

ICTを活用してみんなが目指したい地域医療福祉連携を実現・拡充する。

3 指 針

ヒューマンネットワークを構築している本地域において、

(1) 介護・福祉まで含むシステムを構築していく。

(2) 現行の取組からの発展方を目指していく。

4 推進の三つの視点

(1) 脳卒中地域連携パスの効率的な運用、評価及び分析

(2) 在宅療養・看取りの円滑な推進に資する多職種間の連携

(3) 地域医療・介護・福祉の円滑な連携に資する地域資源情報の共有

病 院 診 療 所 薬 局

リハビリ

看 護

介 護

社 協

行 政

行 政

地域医療・介護・福祉資源情報のコミュニケーション

地域情報ポータルサイトの

共有ホルダーを活用

病 院 診 療 所 薬 局

リハビリ

看 護

介 護

地域医療・介護間のコミュニケーション

グループウェア等を活用

急性期病院 回復期病院

維持期病院・施設 かかりつけ医

地域医療間のコミュニケーション

パス様式から集計・分析まで

のシステム開発

多施設の多職種が、様々なタイミングで必要となるコミュニケーション

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事例6 兵庫県阪神南圏域地域医療再生計画への関与

調査先 兵庫県芦屋健康福祉事務所(保健所)

第1 対象地域の現状及び保健所の体制

1 対象地域の現状

県南東部に位置する阪神南圏域(以下「圏域」)は、

東は大阪府、西は神戸市、北は阪神北圏域に面して

北西部の六甲山系から丘陵地、南部の広大な平野へ

と連続し、中央部には武庫川が流れている。構成市

は、圏域東部の尼崎市、圏域西部の西宮市及び芦屋

市の 3市、面積は 168 km2(東西・南北 21㎞)で全

県の約 2%、人口は約 103万人(中核市の尼崎市約 45

万 4千人、同西宮市約 48万人 3千人及び芦屋市 9万 3千人)で全県の約 18%を占め、高齢化率

は 21.4%と全県 22.9%をやや下回っている(平成 22年 10月)。また、阪神南圏域は、隣接する

阪神北圏域(構成市町:4 市 1 町、面積:480 km2(東西 34 ㎞・南北 31 ㎞)及び人口:約 72

万人)と三次圏域としての阪神地域(人口約 175万人)を構成している。

2 対象地域の医療資源

医療施設従事医師数が全県より 2 割高いこと、400 床以上の大規模病院が比較的多いこと及

び主な病院間で診療機能の重複があることから、医療資源に総じて恵まれているものの、小児

救急医療体制は厳しい状況にあるとともに、分娩の取扱いを制限又は休止する病院が増加して

いるほか、二次救急医療体制が縮小して阪神地域を担う救命救急センターは兵庫医科大学病院

のみと不足しているが、阪神地域を構成する阪神北圏域でも、ほぼ同様の状況にある。

こうした中、県病院局においては、県立尼崎病院及び県立塚口病院が、求められる高度専門

医療及び特殊医療の提供が困難な状況にあることを踏まえ、圏域はもとより阪神地域としての

医療提供体制の課題解決にも資するため、両病院を統合再編して圏域東部に新規の基幹病院

((仮称)県立尼崎総合医療センター)を整備し、小児(救急)医療、周産期医療、救急医療等

を重点的に充実するとともに、マグネットホスピタル※として医療人材の確保・養成を図る基

本構想を平成 21年後半までに固めている。また、地域医師会は、各市医師会が活動している。 ※ マグネットホスピタルとは、充実した診療体制及び施設設備を有して高度専門医療を提供するとともに、

高い人材育成能力を持って医師・看護師等を引き付けるほか、患者からも高い信頼を得ている魅力ある病院。

注 1:

病院・病床数は平成 22年 10月及び医師数は平成 22年 12月。注 2:( )は人口 10万対。

一般病院数 病院一般病床数 医療施設従事医師数

全 国 7,587施設( 5.9) 903,621床( 706) 280,431人( 219)

兵 庫 県 317施設( 5.7) 37,996床( 680) 12,027人( 215)

圏 域 49施設( 4.8) 6,200床( 602) 2,633人( 256)

西 宮 市 21施設( 4.4) 3,006床( 623) 1,377人( 285)

尼 崎 市 25施設( 5,5) 2,855床( 629) 1,089人( 240)

芦 屋 市 3施設( 3.2) 339床( 364) 167人( 179)

芦屋市立

芦屋病院 ○ 県立西宮

病院◎

関西◎

労災病院

兵庫医科大学病院

神戸市

宝塚市

伊丹市

県立尼崎病院

県立塚口病院

大阪市

西宮市立中央病院 ○

川西市

阪神南圏域

保健所

県立尼崎総合医療センター

阪神北圏域

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※1 地域小児医療センター(二次機能):小児専門医療及び 24 時間体制での小児救急を実施できる病院

※2 小児中核病院(三次機能):高度専門的小児医療及び 24 時間体制での小児救命救急医療を実施できる病院

※3 兵庫県が独自に指定しているがん診療連携拠点病院。

※4 北米型ERの特徴は、①重症度、傷病の種類、年齢によらず全ての救急患者をERで診療する、②救急医が

全ての救急患者を診療する、③救急医がERの管理運営を行う、④研修医が救急診療する場合には、ERに常

【県立西宮病院(圏域西部の基幹病院)】

1 病 床 数:400床(一般病床 400床)

2 各種指定:がん診療連携拠点病院※3、救命救急センター、地域災害拠点病院、小児二次救急輪

番病院、地域医療支援病院、基幹型臨床研修病院等

【西宮市立中央病院(圏域西部)】

1 病 床 数:257床(一般病床257床)

2 各種指定:がん診療連携拠点病院※3、二次救急輪番病院、小児二次救急輪番病院、基幹型臨床

研修病院

【芦屋市立芦屋病院(圏域西部)】

1 病 床 数:199床(一般病床199床)

2 各種指定:二次救急輪番病院、小児二次救急輪番病院、基幹型臨床研修病院等

【関西労災病院(圏域東部の基幹病院)】

1 病 床 数:642床(一般病床 642床)

2 各種指定:地域がん診療連携拠点病院、圏域東部リハビリテーション広域支援センター、二次

救急輪番病院、小児二次救急輪番病院、地域医療支援病院、基幹型臨床研修病院等

【県立尼崎病院(圏域東部の基幹病院)】

1 病 床 数:500床(一般病床 492床及び感染病床 8床)

2 各種指定:がん診療連携拠点病院※3、地域医療支援病院、基幹型臨床研修病院等

3 跡地利用:平成 27年 5月の閉院後は、少なくとも 170床程度の病院を中核に介護老人保健施設

等として再利用される予定。

4 備 考:平成 19年県立塚口病院に小児科・産科婦人科を移管。

【県立塚口病院(圏域東部の基幹病院)】

1 病 床 数:400床(一般病床 400床)

2 各種指定:地域周産期母子医療センター、地域小児医療センター※2、基幹型臨床研修病院等

3 跡地利用:平成 27年 5月の閉院後は、新病院を中核に介護老人保健施設等が整備される予定。

4 備 考:平成 19年県立尼崎病院に脳神経外科・呼吸器外科を移管。

【(仮称)県立尼崎総合医療センター(圏域東部の基幹病院)】(平成 27年 5月開院予定)

1 病 床 数:730床(一般病床 722床(両県立病院の 892床から 170床減算)及び感染病床 8床)

2 病床用途:一般病床 722床(ER56床(ER24床、小児ER10床、冠動脈集中治療室 16床及び

脳卒中集中治療室 6床)、総合周産期母子医療センター33床及びその他 633床)

3 指定予定:救命救急センター(北米型ER※4)、屋上ヘリポート、地域災害拠点病院、総合周産

期母子医療センター、小児中核病院、地域医療支援病院、基幹型臨床研修病院等

【兵庫医科大学病院(圏域西部の基幹病院)】

1 病 床 数:991床(一般病床 947床及び精神病床 44床)

2 各種指定:地域がん診療連携拠点病院、圏域西部リハビリテーション広域支援センター、救命

救急センター、地域災害拠点病院、地域周産期母子医療センター、小児中核病院※1、

基幹型臨床研修病院、特定機能病院等

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従医が指導を行う、⑤救急医はERでの診療のみを行い、入院診療を担当しない。

3 保健所の組織・担当者

(1) 保健所の組織

保健所は、4 課体制(企画課、監査福祉課、地域保健課及び食品薬務衛生課)で正規職員

数は 32人、このうち医師は 1人(保健所長)である。

(2) 地域医療再生計画の担当者

地域医療再生計画の主な担当者は、総括の保健所長のほか連絡・調整の副所長(企画課長

〔行政職〕)及び同企画課課長補佐(保健師)の 3人である。

(3) 市保健所

中核市の尼崎市及び西宮市は、尼崎市保健所及び西宮市保健所をそれぞれ設置している。

第2 地域医療再生計画の概要

1 重点化項目

小児(救急)医療、周産期医療及び救急医療の総合的な診療機能体制の充実及び医療人材育

成システムの構築

2 対象地域の現状及び課題

(1) 小児救急医療体制

ア 一次救急医療体制は、圏域東部の要である尼崎市休日夜間急病診療所で深夜帯の運営が

厳しい状況にあるとともに、阪神北圏域の阪神北広域こども急病センター(伊丹市)では

受診児の8%(平成20年度)を圏域の患児が占めていることから、阪神地域として小児の一

次救急医療体制の在り方について検討する必要がある。

イ 小児二次救急医療体制は、小児二次救急輪番病院9施設が運営しているものの、その維持

が厳しい状況が続いており、また、阪神北圏域でも同様の状況にあることから、阪神地域

として小児の二次救急医療体制の在り方について検討する必要がある。

ウ 小児医療連携圏域(阪神南圏域及び阪神北圏域)を対象とする小児三次救急医療体制は、

救急搬送件数が減少する中、圏域東部の県立塚口病院は、阪神地域の小児二次救急輪番病

院の後送病院として収容件数が大きく増加し、阪神北広域こども急病センターからの後送

患児の20%(平成20年度)も収容していることから、小児中核病院指定に向けて24時間体制

で小児救命救急医療を提供できる体制を整備する必要がある。

(2) 周産期医療体制

ア 出生数の増加率(平成17~19年)は、8.8%と全県3.0%を大きく上回るものの、産科標榜

病院8施設のうち3施設が分娩の取扱いを休止・制限し、また、阪神北圏域でも同様の状況

にあることから、阪神地域として産科医の確保方策について検討する必要がある。

イ 低出生体重児数の増加率は、12.3%と全県4.4%を大きく上回るものの、県立塚口病院の地

域周産期母子医療センターNICU(新生児集中治療管理室)は、恒常的に満床となって

いることから、NICUの増床等低出生体重児に対する対応を充実する必要がある。

ウ 低出生体重児数が大きく増加している中、合併症妊娠はもとより胎児・新生児異常及び

産科合併症以外の合併症への対応も急務となっていることから、麻酔科医を始め脳外科医、

心臓血管外科医等を確保して総合周産期母子医療センターを整備する必要がある。

(3) 救急医療体制

ア 一次救急医療体制は、休日夜間急患センター及び在宅当番医制の維持が厳しい状況にあ

り、また、阪神北圏域でも対応できない空白の時間帯が生じていることから、阪神地域と

して成人の一次救急医療体制の在り方について検討する必要がある。

イ 二次救急医療体制は、運営している二次救急輪番病院が、平成19年度の32施設から平成

21年度には30施設に減少している等二次救急医療体制が縮小しており、また、輪番制に参

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加していない圏域東部の県立尼崎病院では、救急搬送患者の収容人数が、12.4%増加(平成

17~19年度)していることから、二次救急医療体制を充実する必要がある。

ウ 三次救急医療体制は、阪神地域の拠点施設である圏域西部の兵庫医科大学病院救命救急

センターが単独で運営しているが、対象人口が約175万人と多いものの、圏域東部の基幹病

院である関西労災病院で平成20年に救急医3人のうち2人が派遣停止を受けて準救急救命医

療に提供が困難となっていることから、新たに救命救急センターを整備する必要がある。

エ 照会回数の増加によって収容所要時間が延長していることから、現場に到着した救急隊

や休日夜間急患センターが、搬送先病院を効率的に決定できるようにするとともに、搬送

患者を収容した病院が、治療終了後、転院先病院を効率的に選択できるようにするほか、

収容患者の診療情報を転院先病院と効率的に共有できるようにする必要がある。

3 具体的な施策(圏域に関係しない医師・看護師の確保対策は除く。)

(1) 全県の取組事業(実施主体)

(2) 圏域の取組事業(実施主体)

ア 総合的な救急医療体制の確立

① 県立尼崎病院及び県立塚口病院の統合再編事業(県病院局)

阪神地域として両院を統合再編して小児中核病院指定に向けた小児救命救急医療セン

ター、妊産婦の合併症に対応できる総合周産期母子医療センター及び救命救急センター

(北米型ER)を設置するとともに、マグネットホスピタルとして展開等を推進する。 ※ 総事業費220億円程度のうち約21億円程度に地域医療再生基金(総額25億円の8割強)を充てる見込み。

イ 医療施設間の連携強化

① 救急医療施設間の医療情報ネットワーク構築事業(尼崎市医師会)

二次救急輪番病院が、収容可能な患者情報を随時提供するシステムとともに、治療終

了後の転院先病院の選択に資する医療施設機能情報を提供するシステムのほか、転院後

も切れ目のない医療を提供するための紹介患者の診療情報を共有するシステムをICT

(情報通信技術)を活用した医療情報ネットワークを構築する。

② 阪神地域一次救急医療施設と後送病院の連携強化支援事業(県立西宮病院)

救急医療体制を推進するため、阪神地域における一次救急医療施設を中心とする二次

救急病院等との連携に資する連絡協議会、症例検討会、研修会、講習会等を支援する。

③ 地域医療支援病院の連携推進支援事業(県立西宮病院・関西労災病院・県立尼崎病院)

救急医療体制を推進するため、地域医療支援病院が実施する登録医等との小児・周産

期・救急医療等に係る症例検討会、研修会及び施設・設備の共同利用を支援する。

④ 救急医療施設と回復期病院等の連携推進支援事業(保健所)

救急医療体制を推進するため、救急医療施設が実施する回復期病院・かかりつけ医と

の連携に資する地域連携パスの取組、症例検討会、研修会、講習会等を支援する。

ウ 救急医療体制整備に向けた協議体制の確立及び地域の意識醸成

① 阪神地域救急医療連携協議会設置事業(保健所)

県立尼崎病院及び県立塚口病院の統合再編を始めとする阪神地域の医療状況の変化を

踏まえた上、阪神地域における救急医療の在り方、機能の分担及び業務の連携について

協議・調整するため、阪神地域救急医療連携協議会を設置する。

② 阪神地域小児・成人初期救急医療等の在り方ワーキング部会設置事業(芦屋保健所は

小児及び宝塚保健所は成人を担当)

阪神地域における小児・成人の初期救急医療の在り方、機能の分担及び業務の連携に

ついて協議・調整するため、上記協議会にワーキング部会をそれぞれ設置する。

③ 地域住民等への適切な受診行動の普及・啓発事業(保健所)

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地域住民に対して救急医療体制に係る正しい知識の普及及び適切な受診行動の啓発に

より安定的な体制の整備・運用に向けた機運を醸成するため、リーフレット・パンフレ

ットの配布、広報紙及びホームページへの掲載、フォーラムの開催等を行う。

第3 保健所関与の概要

1 保健所関与の総括

県立尼崎病院及び県立塚口病院の統合再編を中核として阪神地域における持続的かつ安定的

な(小児)救急医療体制を確保するため、救急医療連携協議会等の事務局として協議体制の確

立及び適切な受診行動の啓発、地域連携パス運用の支援に取り組んでいる。

2 主な関与事業(見出し符号は第2-3の具体的な施策と同一)

(2) 圏域の取組事業(実施主体)

イ 医療施設間の連携強化

④ 救急医療施設と回復期病院等の連携推進支援事業(保健所)

ウ 救急医療体制整備に向けた協議体制の確立及び地域の意識醸成

① 阪神地域救急医療連携協議会設置事業(保健所)

② 阪神地域小児一次救急医療等の在り方ワーキング部会設置事業(保健所)

③ 地域住民等への適切な受診行動の普及・啓発事業(保健所)

3 保健所の役割・取組

(小児)救急医療体制を確保するため、医療情報の収集・分析、関与事業の企画・立案、関

与事業推進会議の運営、関係施設・団体間の調整、関係者の研修等の役割を果たしている。

4 保健所関与の予算

平成 23 年度も救急医療体制整備に向けた協議体制の確立及び地域の意識醸成に係る事業予

算として約 170万円の令達を受けている。

第4 保健所関与事業の詳細

1 平成 22年度までの関与過程

○県病院局の取組

県病院局において、平成 17年 2月の県立病院の基本的方向に基づき、県立尼崎病院は総合型

病院として、県立塚口病院は総合型病院から成育医療※病院に向けて診療機能を充実してきた

ものの、県立塚口病院は、麻酔科医を始め医師の減少、施設設備の老朽化・狭隘化、患者数減

少による経営悪化から、高度専門医療及び特殊医療の提供が困難な状況になっている。 ※ 成育医療とは、受精卵から出発して胎児、新生児、小児(乳児,幼児,学童)、思春期を経て生殖世代となっ

て次世代を生み出すというサイクルにおける心身の病態を包括的,継続的に診る医療。

平成 20年 10月の新行財政構造改革推進方策においては、県立尼崎病院及び県立塚口病院に

ついて、平成 24年度を目途に両病院を統合再編して新病院を整備するとの基本方向とともに、

外部委員会を設置して平成 21年度前半を目途に具体的な診療機能の再編、施設設備の整備及び

病院跡地の利活用を検討するとの取組内容を定めている。

県病院局においては、平成 20年 11月、圏域はもとより阪神地域としての医療提供体制の課

題をも解決するため、県立尼崎病院及び県立塚口病院の統合再編検討委員会を設置して更に検

討を深め、平成 21年 10月、統合再編して圏域東部に基幹病院を新規整備するとの報告書を取

りまとめ、平成 22年 2月に総合的な診療機能を活かして小児(救急)医療、周産期医療、救急

医療等を重点的に充実するとともに、マグネットホスピタルとして医療人材の確保・養成を図

るとの基本構想、更に平成 22年 12月には基本構想を具体化した基本計画を策定している。

○保健所の取組

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P97

この一方、保健所においては、平成 18年 10月、医療確保体制の強化事業の一環としては阪

神南医療確保対策圏域会議(事務局:保健所)を設置して圏域の特性に応じた医療提供体制の

検討及び圏域内調整の実施に着手し、平成 20年度は、公立病院等のネットワーク化について検

討し、平成 21年 3月、取組方策として①県立尼崎病院と県立塚口病院の統合再編、②県立西宮

病院、西宮市立中央病院及び芦屋市立芦屋病院によるネットワーク化の検討、③小児救急医療

体制の充実・確保に向けた検討を取りまとめている。

その具体化に向けて②では、平成 20年 12月から 3病院長ネットワーク会議をおおむね 2か

月に 1回開催し、各病院の強みを生かした診療連携の検討、芦屋市立芦屋病院建替(平成 22~

23年度)の際には、県立西宮病院が産科・周産期患者の引受け等を行っている。③では、平成

20 年 12 月から小児医療連携圏域(阪神南圏域及び阪神北圏域)として両圏域の二次・三次救

急医療相互支援体制を検討するため、小児医療連携圏域推進のための検討会議(以下「小児医

療連携圏域推進検討会議」)の開催を始めている。

○地域医療再生計画への関与

こうした中、平成 21年 6月、県医務課(以下「県本庁」)においては、地域医療再生計画に

ついて、各圏域の公立病院等ネットワーク化の検討内容(平成 21年 3月)を推進する好機とし

て対象地域の選定及び内容の策定を主導することとし、公立病院の再編統合の成熟度及び効果

度並びにモデル性の観点から総合的に検討した結果、阪神南圏域について、両病院の統合再編

基本構想の策定に着手していること、三次救急医療・周産期医療の確保を期待できること及び

マグネットホスピタルとして医療人材の育成を期待できることから、対象圏域として内定した。

県本庁においては、平成 21年 9月中旬、県医療審議会で対象地域の承認を受けた後、圏域公

立病院ネットワーク化計画を前提にして保健所を始め関係施設・団体との調整を加速して地域

医療再生計画(案)を作成した。10月中旬に県医療審議会、10月下旬には阪神南医療確保対策

圏域会議でそれぞれ承認を受けた後、保健所は、平成 22年度から関与事業を本格実施するため、

保健所長を始め担当者が圏域の二次救急輪番病院から課題等を聴取している。

平成22年度は、救急医療体制整備に向け協議体制の確立及び地域の意識醸成を図るため、6

月、保健所に事務局を置く阪神地域救急医療連携協議会(以下「救急医療連携協議会」)を設

置して両病院の統合再編を始めとして説明・協議を行い、9月には救急医療連携協議会の部会と

して阪神南北の小児救急の在り方に関するワーキング部会(以下「小児救急の在り方ワーキン

グ会議」)を設置して2回開催するとともに、構成委員・機関から外れた関係委員・機関にも検

討内容を適宜報告して意見を聴取することにより検討内容を普及・補完している等阪神地域総

体としての意思の集約・形成に努めているほか、適切な受診行動の啓発も開始している。

また、医療施設間の連携強化に向けて脳卒中地域連携パス運用を支援するため、阪神南圏域

脳卒中地域連携パス連絡会を 4回共催するとともに、地域リハビリテーション連絡協議会・研

修会を 3回共催しているほか、五大がんの地域連携パス(県統一版)の普及に向けても平成 23

年 1月及び 3月に阪神地域がん地域連携パス推進打合せ会を事務局として 2回開催している。

2 平成 23年度の関与過程

(1) 推進組織

【3病院長ネットワーク会議(事務局:保健所)】

1 参加機関:県立西宮病院、西宮市立中央病院、芦屋市立芦屋病院、県医務課及び保健所

2 検討内容:周産期医療、救急医療その他診療に係る機能分担及び業務連携

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ア 阪神地域救急医療連携協議会(事務局:保健所)

平成22年6月、阪神地域における持続的かつ安定的な救急医療体制を確保するため、阪神

南医療確保対策圏域会議を基礎にして救急医療連携協議会を設置し、平成23年5月に開催し

て協議調整及び工程管理を行い、この下部組織としてワーキング部会を設置している。

イ 阪神地域小児一次救急等の在り方ワーキング部会(事務局:保健所)

平成 22年 9月、小児一次救急医療等の在り方を専門的に協議調整するため、救急医療連

携協議会の下部組織としてワーキング部会を設置して平成 23年度は 11月に開催している

が、一次・二次救急とも深夜帯の小児科医の確保が難しい状況を共有している。

(2) 重要人物との連携

特定の重要人物は不在であるものの、事案ごとに関係者と協議・調整している。

(3) 関係者への研修

五大がんの地域連携パス(県統一版)の普及に向けて合同説明会を 2回開催している。

(4) 地域医療連携体制の構築

【阪神地域小児救急医療ワーキング部会構成機関】

尼崎市医師会、西宮市医師会、伊丹市医師会、阪神北広域こども急病センター、県立尼崎病院、県立

塚口病院、伊丹市立伊丹病院、明和病院、尼崎市保健所保健企画課、宝塚市健康推進課の計 10機関。

【阪神地域救急医療連携協議会構成委員】

尼崎市医師会長、西宮市医師会長、芦屋市医師会長、伊丹市医師会長、宝塚市医師会長、川西市医師

会長、三田市医師会長、県看護協会推薦委員、県立尼崎病院長、県立塚口病院長、県立西宮病院長、西

宮市立中央病院長、芦屋市立芦屋病院長、関西労災病院長、兵庫医科大学病院長、伊丹市立伊丹病院長、

宝塚市立病院長、川西市立川西病院長、三田市民病院長、兵庫県民間病院協会推薦委員、尼崎市医務監・

保健所保健衛生担当参与、西宮市健康福祉局長・保健所長、芦屋市保健福祉部長、伊丹市健康福祉部長、

宝塚市健康福祉部長、川西市健康福祉部長、三田市健康福祉部長、猪名川町生活部長、阪神南県民局長、

阪神北県民局長、宝塚保健所長、伊丹保健所長及び芦屋保健所長の計 35人。

【平成 23年度第1回阪神圏域がん地域連携パス合同説明会】(平成 23年 7月 参加者 86人)

1 ガイダンス:「がん地域連携パス」

ガ イ ド 者:関西労災病院長補佐・外科部長 田村 茂行

2 報 告:「各がん地域連携パス」

座 長:近畿中央病院副院長(兵庫県がん診療連携協議会幹事) 小林 研二

説 明 者:胃がん 関西労災病院長補佐・外科部長 田村 茂行

〃 :肝がん 関西労災病院消化器内科部長 萩原 秀紀

〃 :大腸がん 近畿中央病院外科医長 小森 孝通

〃 :肺がん 兵庫医科大学病院がんセンター准教授 福岡 和也

〃 :乳がん 関西労災病院乳腺外科副部長 柄川千代美

【平成 23年度第2回阪神圏域がん地域連携パス合同説明会】(平成 23年 9月、参加者 72人)

1 ガイダンス:「がん地域連携パス」

ガ イ ド 者:関西労災病院長補佐・外科部長 田村 茂行

2 報 告:「各がん地域連携パス」

座 長:県立がんセンター副院長(県がん診療連携協議会幹事長) 足立 秀治

説 明 者:胃がん 関西労災病院長補佐・外科部長 田村 茂行

〃 :肝がん 兵庫県立西宮病院・外科医長 柏﨑 正樹

〃 :大腸がん 兵庫医科大学病院下部消化器外科准教授 松原 長秀

〃 :肺がん 兵庫医科大学病院がんセンター准教授 福岡 和也

〃 :乳がん 宮内クリニック院長 宮内 啓輔

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まず、がんについて保健所は、県がん診療連携協議会が平成22年10月に作成した五大がん

の地域連携パス(県統一版)を普及するため、平成23年1月、阪神地域がん地域連携パス連絡

協議会を事務局として設立して運用説明会の企画開催、診療施設間の意見交換等を支援して

いたが、平成23年3月からは、代表幹事を務める病院が主導した方が望ましいと思い至ったこ

とから、尼崎市の関西労災病院(地域がん診療連携拠点病院)に事務局を移設している。

つぎに、脳卒中については、平成 19年 10月から尼崎市域を中心として関西労災病院を事

務局として、平成 22年 2月からは西宮市域を中心として西宮協立脳神経外科病院を事務局と

してそれぞれ地域連携パスを運用しているが、保健所は、地域医療再生計画事業の一環とし

て平成 22年度から研修会、連絡会議等を共催している。

ア 尼崎市域を中心とする地域連携パス

① ルール:阪神南圏域(尼崎市)脳卒中地域連携パス連絡会(事務局:関西労災病院(圏

域東部リハビリテーション広域支援センター))

② ロール:医療機能リスト(急性期病院 6施設、回復期病院 9施設、維持期病院 7施

設、診療所 4施設及び老人保健施設 9施設)

③ ツール:阪神南圏域(尼崎市)脳卒中地域連携パス

イ 西宮市域を中心とする地域連携パス

① ルール:西宮市脳卒中地域連携パス会議(事務局:西宮協立脳神経外科病院)

② ロール:医療機能リスト(急性期病院 4施設、回復期病院 7施設及び診療所 10施設)

③ ツール:西宮市脳卒中地域連携パス

(5) 適切な受診行動の啓発

小児救急医療体制を確保するため、平成 22年度から 24年度まで保健所においては、各市

医師会医師、各市保健師、小児救急医療電話相談看護師等を講師として育児サークル(支援

ボランティア団体)を対象とする出前講座を平成 22 年度に 29 回(参加者 1483 人))、平成

23 年度には 24 回(参加者 834 人)開催して独自に 2,500 部作成したリーフレット※(医療

施設にも配布)を活用して適切な受診行動の啓発を推進している。

また、乳幼児健診時には、救急時の対応に役立つ連絡先が一目で分かるマグネット式カー

ド「ピタッと救急マグネット※」を 10,000個作成して保護者に配布して好評を博している。

こうした取組について、救急医療連携協議会、小児救急医療ワーキング部会等で阪神北圏

域の市町にも説明するとともに、阪神南県民局の広報誌やホームページに掲載することによ

り、啓発に取り組む市町を拡大している。 ※ リーフレットの作成費用はその全額及びマグネット式カードは作成費用はその一部にそれぞれ「地域の夢推

進事業予算」を充当している。

(6) 市による地域医療推進

尼崎市保健所においては、平成 16年 3月、第一次尼崎市地域保健医療計画(期間:16~22

年度)を事務局として策定した後、重点課題に位置付けた小児救急医療体制の充実について

は、専門部会で継続検討して平成 18年 9月に報告書を作成し、その具体化に向けて取り組ん

でいた中、地域医療再生計画を契機として阪神地域として広域的に協議調整を行うこととな

【阪神圏域がん地域連携パス連絡協議会】(事務局:関西労災病院)

国指定地域がん診療連携拠点病院 3施設(兵庫医科大学病院、関西労災病院及び近畿中央病院)、県

指定地域がん診療連携拠点病院 4施設(兵庫県立尼崎病院、兵庫県立西宮病院、西宮市立中央病院及び

伊丹市立伊丹病院)、県指定地域がん診療連携準拠点病院 5施設(明和病院、兵庫中央病院、宝塚市立

病院、川西市立川西病院及び三田市民病院)、地域医師会 7団体(尼崎市医師会、西宮市医師会、芦屋

市医師会、伊丹市医師会、宝塚市医師会、川西市医師会及び三田市医師会)、圏域保健所 5か所(芦屋

保健所、西宮市保健所、尼崎市保健所、宝塚保健所及び伊丹保健所)の計 24施設・団体

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り、救急医療連携協議会、小児救急医療ワーキング部会等に参画している。

(7) 医療・住民・行政との協働

適切な受診行動の啓発について、医師会、支援ボランティア団体、市行政及び保健所が、

上記のとおり協働している。

(8) 医師の定着に向けた協働

現在ところ、医師の定着に向けた協働は、特に講じていない。

(9) 県本庁との協働

県本庁は、地域医療再生計画全般の主導・調整及び進捗管理、保健所は、関与事業を中心

とした情報の収集・分析、救急医療連携協議会等の運営及び医療施設・団体間の調整という

役割分担で協働している。

なお、事業実施主体に対する補助金の交付事務は、すべて県本庁で執行している。

3 関係機関による保健所の評価

地域医療再生計画については、本格的に着手してからまだ 2年ばかりなので、関係機関によ

る評価は受けていないものの、保健所については、事業実施主体からの照会・相談に対して適

切に対応して信頼感を高めているようである。

4 関与事業の今後の方向

(1) (小児)救急医療

阪神地域における一次から三次までの救急医療体制を構築するため、現状の課題を明確に

して連携方策を検討していくとともに、各市町の実施事業として適切な受診行動の啓発を継

続できるよう検討・支援していく。

(2) 医療施設間の連携強化

救急医療体制を推進するため、救急医療施設が実施する回復期病院等の連携に資する地域

連携パスの打合せ会、研修会等を引き続き支援していく。

第5 事例の所感

1 人口が極めて稠密な阪神地域(50 ㎞四方に約 175 万人が集住して人口密度 2,707 人/km2(全

国 343人/km2))を対象として、持続的かつ安定的な(小児)救急医療体制の確保という困難な

課題に対応するため、保健所においては、阪神北圏域の連携拠点である宝塚保健所及び伊丹保

健所と緊密な協議・調整を図りながら、協議体制の確立等に取り組んでいる事例である。

2 救急医療連携協議会及び小児救急医療ワーキング会議について、保健所においては、事務局

が主導した原案を提示して関係者の意見を聴いて決定するのではなく、参加者が一つ一つの意

見を積み重ねて地域の在り方を共に探り創るという運営を行っており、地域のことは地域で主

体的に考えて保健所はそれを取りまとめていくという姿勢は参考になるものと考える。

3 保健所においては、がんの地域医療連携体制の構築を図るため、当初、五大がんの地域医療

連携パスの普及を目指して事務局として医療施設・団体に参画を呼び掛けて取組を進めていく

中、地域医療連携は医療施設・団体が主体となることが望ましいと思い至ったことから、関西

労災病院に事務局を移設して後方支援の役割を堅持している姿勢は参考になるものと考える。

4 適切な受診行動の啓発については、地域の救急医療体制に即してきめ細かく定期的に繰り返

すことが重要であることから、平成 24年度まで保健所が取組を先導した後は、市町に引き継い

で定着するよう支援することとし、様々な機会を活用して必要性や実施方法・効果を説明して

働き掛けた結果、狙いどおり市の取組を進めていることは参考になるものと考える。

5 この一方、県病院局においても、阪神地域として総合的な診療体制の充実を図るため、既存

基幹病院 3施設に加えて県立尼崎・塚口病院の統合再編による(仮称)尼崎総合医療センター

の整備を進めているが、保健所が事務局として取り組んでいる上記取組は、これらの基幹病院

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が、それぞれの医療機能を適切に発揮できるようにする環境づくりにもつながっている。

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事例7 広島県福山・府中圏域地域医療再生計画等への関与

調査先 広島県福山市保健所

福山市保健所は、福山市域の救急医療体制の充

実・強化を目的として関与していることから、本報

告も、この内容を中心にして記述する。

第1 対象地域の現状及び保健所の体制

1 対象地域の現状

県東部に位置する福山・府中圏域(以下「圏

域」)は、南北約 60㎞、東西約 30㎞と南北に長

く、瀬戸内海に面して都市地域が広がる南部の

福山市域(福山市)及び中国山地に面して中山

間地域が広がる北部の府中地域(府中市及び神

石高原町)の 2市 1町から成る。東部は、岡山

県南西部圏域の井笠地域(井原市及び笠岡市)

と隣接し県境を越えた生活圏を形成している。

圏域の面積は 1,096㎞ 2(全県の約 13%)及び

人口は約 51万 4千人(全県の約 18%)である。

中核市の福山市は、圏域人口の 9割を占めて人口が微増している一方、府中地域は、漸減し

ており、圏域の高齢化率は 24.0%で全県 23.7%と全県並であるが、福山市の 22.9%に対して府中

地域は、33.6%と全県を大きく上回り、過疎化・高齢化が進行している。(平成 22年 10月)。

2 対象地域の医療資源

福山市域の医療資源は、500 床以上の大規模病院がなく 400 床の福山市民病院及び 410 床の

福山医療センターの両基幹病院を始めとする中小の一般病院数が、全県を 12%上回るものの、

医療施設従事医師数が 15%下回り、不足している勤務医が、薄く広い配置になっている。

こうした中、一次から三次までの救急医療体制は一定整備しているものの、二次救急輪番病

院においては、時間外の軽症受診者の漸増、市域外からの救急搬送の漸増、救急医療に従事す

る勤務医の減少により過大な負担が生じて、二次救急医療体制の確保が、厳しい状況にある。

この一方、府中地域をみると、基幹病院である厚生連府中総合病院(199 床)は、勤務医が

ほぼ半減し、病院一般病床数が全県を 2割強、医療施設従事医師数が 3割強下回り、地域医療

の確保が厳しい事態にある。また、地区医師会は、圏域の医師会員総数の約 7割を占める福山

市医師会(神石高原町を含む。)を始めとする松永沼隈地区医師会(福山市西南部)、深安地区

医師会(福山市東部)及び府中地区医師会(福山市北部を含む。)の 4団体が活動している。

一般病院数 病院一般病床数 医療施設従事医師数

全 国 7,587施設( 5.9) 903,621床( 706) 280,431人( 219)

広 島 県 223施設( 7.8) 21,369床( 747) 6,748人( 236)

圏 域(51万 4千人) 45施設( 8.8) 3,685床( 717) 1,005人( 195)

福 山 市 域(46万 1千人) 40施設( 8.7) 3,387床( 734) 924人( 200)

福 山 市(46万 1千人) 40施設( 8.7) 3,387床( 734) 924人( 200)

府 中 地 域( 5万 3千人) 5施設( 9.5) 298床( 563) 81人( 153)

府 中 市( 4万 3千人) 4施設( 9,4) 251床( 590) 73人( 172)

神石高原町( 1万人 ) 1施設( 9,7) 47床( 454) 8人( 77)

神石高原

町立病院

府中北

市民病院

福山医療

センター

三原市

尾道市

瀬戸内海

福山支所● 福山市保健所●

福山市域

尾三圏域 福山市民病院

南西部圏域

井原市

井笠支所

府中地域

注 1:病院数・病床数は平成 22年 10月現在及び医師数は平成 22年 12月現在。注 2:( )は人口 10万対。

厚生連府中

総合病院

岡山県

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Ⅰ 福山市域(平成 21年 4月)

【福山市民病院(基幹病院)】

1 病 床 数:400床(一般 394床及び感染床 6床)⇒(平成 25年 506床〔一般 500床〕に増床)

2 各種指定:国指定地域がん診療連携拠点病院(平成 18年)、救命救急センター、地域災害拠

点病院、小児二次救急輪番病院、地域医療支援病院、基幹型臨床研修病院等

3 備 考:平成 19年度から産科診療の中止(なお、平成 23年 10月から再開)

【国立病院機構福山医療センター(基幹病院)】

1 病 床 数:410床(一般)

2 各種指定:県指定がん診療連携拠点病院(平成 22年)、(小児)二次救急輪番病院、地域周

産期母子医療センター、地域医療支援病院、基幹型臨床研修病院等

【公立学校共済組合中国中央病院(基幹病院)】

1 病 床 数:277床(一般)

2 各種指定:県指定がん診療連携拠点病院(平成 22年)、(小児)二次救急輪番病院、基幹型

臨床研修病院等

【日本鋼管福山病院(基幹病院)】

1 病 床 数:236床(一般)

2 各種指定:(小児)二次救急輪番病院、地域災害拠点病院、基幹型臨床研修病院等

【救急医療体制】

1 一次救急医療体制

在宅当番医体制(休日昼間)及び福山夜間小児診療所(毎準夜間)

※1:夜間小児診療所は、平成 12年 4月、福山市医師会が、医師会館を増築して整備している。

※2:夜間成人診療所は、現在整備途上にあるので、成人の急病は、二次救急医療体制で対応している。

2 二次救急医療体制(輪番病院)

福山医療センター、中国中央病院、日本鋼管福山病院、大田記念病院 180 床(一般)、神原

病院 165床(一般)、楠本病院 152床(うち一般 102床及び残りは療養病床)、福山第一病院 132

床(うち一般 82 床)、寺岡整形外科病院 122 床(うち一般 50 床)、沼隈病院 118 床(うち一般

60床)、セントラル病院 99床(一般)、及び亀川病院 74床(うち一般 50床)の 11施設

Ⅱ 府中地域(平成 21年 4月)

【厚生連府中総合病院】

1 病 床 数:199床(一般 145床及び療養 54床)

2 各種指定:二次救急輪番病院

3 備 考 1:平成 16年度から産科診療の中止

備 考 2:平成 21年度から小児二次救急輪番病院から脱退。

備 考 3:平成 24年度から地方独立行政法人府中市病院機構が、厚生連から当該病院の譲

渡を受けて府中北市民病院と経営部門を統合して府中市民病院として運営。

【府中市立府中北市民病院】

1 病 床 数:110床(一般 60床及び療養 50床)

2 備 考:平成 24年度から産科診療の中止

【神石高原町立病院】

1 病 床 数:95床(一般 47床及び療養 48床) 2 各種指定:へき地医療拠点病院

3 備 考:平成 21年 4月から社会医療法人(JR府中駅まで 5㎞の福山市に所在している

寺岡記念病院を運営。)が、指定管理者として運営している。

【救急医療体制】

1 一次救急医療体制

在宅当番医体制(休日昼間)

2 二次救急医療体制(輪番病院)

厚生連府中総合病院及び寺岡記念病院 263床(一般 211床及び療養 52床)

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3 保健所の組織・担当者

(1) 福山市保健所の組織

中核市である福山市保健所は、6課体制(総務課、健康推進課、生活衛生課、保健予防課、

試験検査課及び成人健診課)で正規職員数は 120人、このうち医師は、3人(保健所長、総

務課主幹及び健康推進課主幹)である。

(2) 地域医療再生計画の担当者

担当者は、総括の保健所長のほか連絡・調整の保健所次長(行政職)、同総務課長(行政職)、

同総務課次長(行政職)及び同主査(行政職)の計 5人である。

(3) 広島県東部保健所福山支所

県東部保健所福山支所(以下「福山支所」)は、府中市及び神石高原町を所管している。

第2 地域医療再生計画の概要

1 重点化項目

中山間地域における救急・医療機能の連携・強化、医師確保等

2 対象地域の現状及び課題

(1) 中山間地域における医療機能の再編・連携強化

府中地域の医療体制を確保するためには、厚生連府中総合病院及び府中北市民病院の医療

機能を連携・強化して救急医療体制の充実及び効率的な医師配置を図ることが必要である。

(2) 福山市域の救急医療体制の充実

福山市域の救急医療体制を確保するためには、二次救急輪番病院でのウォークイン受診又

は救急車を利用する軽症受診者の減少を図ることが必要である。

3 具体的な施策(事業実施主体及び事業予算)

(1) 中山間地域における医療機能の再編・連携強化

ア 厚生連府中総合病院の建替・整備(病院及び 7億 4,900万円)

救急医療、産科医療及び小児救急医療の充実を図るため、老朽化・狭隘化が進んでいる

厚生連府中総合病院の建替・整備を支援し、府中北市民病院との連携を強化する。

(2) 福山市域の救急医療体制の充実

ア 福山夜間成人診療所整備事業(福山市保健所及び 6億 7,800万円)

二次救急輪番病院での軽症受診者の割合の減少を図るため、成人を対象とする夜間の診

療所を整備する。

第3 保健所関与事業の概要

1 関与事業の目的・総括

二次救急輪番病院等において、時間外の軽症受診者の漸増、市域外からの救急搬送や時間外

受診の漸増、救急医療に従事する勤務医の減少により過大な負担が生じている中、軽症受診者

の減少を図るための成人を対象とした夜間の診療所の整備や適切な受診行動啓発の強化、岡山

県井笠地域からの救急搬送や時間外受診の適正化に向けた県境を越えた医療広域連携等に取り

組んでいる。

2 主な関与事業(事業実施主体)

(2) 福山市域の救急医療体制の充実

ア 福山夜間成人診療所整備事業

3 保健所の役割・取組

関与事業について、医療情報の収集・分析、企画・立案、推進会議の運営、関係施設・団体

間の調整、関係者への研修、住民への啓発、工程管理及び予算調整の役割を果たしている。

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第4 保健所関与事業の詳細

1 平成 22年度までの関与過程

福山市域の二次救急輪番病院等においては、ウォークイン受診及び救急搬送による時間外の

軽症受診者の漸増、二次救急医療体制が弱体化した府中地域・井笠地域からの救急搬送(受診)

の漸増、産科・小児科を始め救急医療に従事する勤務医の高齢化・減少により過大な負担が生

じた結果、このまま推移すると、二次救急医療体制を確保することが、厳しくなる状況にある。

このため、平成 20年に福山支所及び福山市保健所が、地区医師会や基幹病院に呼び掛けて厳

しくなる状況への対策に係る協議を重ねた結果、小児と同様、成人を対象とする夜間の診療所

の整備、二次救急輪番病院の増加及び福山市民病院の急性期医療の充実を取りまとめている。

こうした中、平成 21年 6月、県医療政策課(以下「県本庁」)において、保健所(支所)担

当課長会議を開催して各保健所(支所)に事務局を置く地域保健対策協議会に対して特に解決

すべき地域の課題及び取り組むべき事業の提案を要請し、これを受けて福山支所においては、

圏域の地区医師会・病院に事業提案を要請した上、7月、「福山・府中地域保健対策協議会」(以

下「地域保健対策協議会」)で保健所の福山夜間成人診療所の整備事業及び厚生連府中総合病院

の建替・整備事業を主な柱とする提案事業を決定して県本庁に提出した。

県本庁を事務局とする「広島県地域医療再生計画推進委員会」においては、各圏域が提案し

た七つの提案事業に加えて広島大学及び広島県医師会が提案した二つの提案事業について、医

療施設の集約化・連携強化、救急医療体制の再構築・強化、医師確保対策の位置付けの視点か

ら検討した結果、広島圏域とともに福山・府中圏域を対象圏域として選定した後、選定圏域に

隣接する圏域も含めて実施した方が効果的な提案事業及び全圏域で実施した方が効果的な医師

確保対策事業も盛り込んで地域医療再生計画(案)を作成し、9月、県本庁に報告した。

10月、県本庁においては、県医療審議会の決定を経て地域医療再生計画(案)を厚生労働省

に提出した後、必要な見直しの要請を受けて修正したものを再提出した。

平成 22年 6月、福山市保健所においては、福山支所と緊密な連携を図りながら、「福山夜間

成人診療所整備事業に係る連絡調整会議」を設置し、おおむね毎月開催して、広島県、市消防

局及び地区医師会との連絡調整及び工程管理を本格的に推進している。

さらに、小児二次救急輪番病院においては、小児科勤務医の高齢化や減少の中で運営してき

たものの、平成 23年 3月からは、ついに輪番日を決定できない空白日が、月に 3、4日が発生

したことから、持続可能な小児救急医療体制の在り方を検討する必要に直面した。

2 平成 23年度の関与過程

(1) 推進組織

ア 福山・府中地域保健対策協議会(事務局:福山支所)

圏域の保健・医療・福祉を推進するため、原則として毎年 1回開催して圏域保健医療計

画等を推進している地域保健対策協議会において、平成 21年 7月、地域医療再生計画に係

る提案事業として福山夜間成人診療所整備事業及び厚生連府中総合病院の建替・整備事業

を決定・提出し、平成 22年度からは、当該事業の連絡調整及び進行管理を行っている。

イ 福山夜間成人診療所整備事業に係る連絡調整会議(事務局:福山市保健所)

成人を対象とする夜間一次救急医療体制の充実を図るため、平成 22年 6月、保健所に事

務局を置く当該連絡調整会議を設置しておおむね毎月開催している。

【福山・府中地域保健対策協議会】

会長の深安地区医師会長のほか福山市、松永沼隈地区及び府中地区の各医師会長、福山市民病院及び

福山医療センターの両院長、福山市、府中地区及び神石地区の各歯科医師会長、福山市薬剤師会長、県

老人福祉施設連盟(福山ブロック)、福山市、府中市及び神石高原町の各社会福祉協議会長、福山市長、

府中市長、神石高原町長、福山市保健所長、東部保健所長及び福山支所長の計 20人

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まず、保健所においては、診療内容から協議を始め、平成 23年度前半までには、准夜間

に内科・外科の医師 2人が診療すること、地区医師会で構成する一般社団法人が指定管理

者として管理運営すること、整備用地を夜間小児診療所の西隣とすることを合意している。

これを受けて福山市保健所においては、平成 24年度末の診療所開設を目指して整備用地

の買収及び建物の実施設計を進めるほか、出務医師や看護師の確保、医療設備・機器の選

定及び入札、地域住民への診療所の周知等診療所の整備・運用実務の調整を主導している。

ウ 福山・府中地域小児救急医療連絡協議会(事務局:保健所)

平成 23 年 5 月、将来にわたって持続可能な小児救急医療体制の在り方を検討していく

ため、福山市保健所に事務局を置く「福山・府中地域小児救急医療連絡協議会」を設置し

て年度末までに 4回開催して輪番空白日への対応を検討している。

(2) 地区医師会との連携

圏域の主要な医師会である福山市医師会においては、以前から福山市に要望していた福山

夜間成人診療所の整備について、当該連絡調整会議等で協議を重ねてきているが、福山市保

健所は、事務局として緊密に連携して実務協議を支援・調整している。

(3) 関係者への研修

福山市保健所においては、救急医療及び救急搬送の従事者の資質向上を図るため、毎年 9

月の救急の日及び救急医療週間の行事の一環として地区医師会、福山地区消防組合と協働し

て「救急医療セミナー」を開催しているが、平成 23年度は、次のとおり開催している。

(4) 地域医療連携体制の構築

ア 五大がん地域連携パス様式の統一要望を受けて、平成 22年 8月、福山市民病院副病院長

が、他の基幹病院 3施設に呼び掛けて「五大がん地域連携パス懇談会」を開催して協議・

調整を積み重ねて平成 23年、胃がん、大腸がん及び肝がんの圏域統一地域連携パスを作成

した一方、肺がん及び乳がんは、県統一地域連携パスを導入した。

当該懇談会においては、地域連携パスの普及に向けて地域保健対策協議会の「がん医療

連携協議会」に移行し、平成 23 年 8 月、関係者説明会を開催した後、10 月からモデル運

用を始め、平成 24年 3月、運用マニュアルを作成後に本格運用を開始している。

イ 圏域メディカルコントロール協議会(事務局:福山地区消防組合消防局)及び保健所に

おいては、傷病者の搬送及び医療施設による傷病者の受入の迅速かつ適切な実施を図るた

め、地域保健対策協議会と連携して傷病者の受入照会に使用する「実施基準(医療施設リ

ストを含む。)」を定めて、平成 23年 9月から運用している。

(5) 適切な受診行動の啓発

保健所においては、二次救急輪番病院での軽症受診者の減少を図るべく、適切な受診行動

の普及に向けて、パンフレット「救急現場はピンチです!」の全世帯配布、医療施設や公共

【2011年度救急医療セミナー】(平成 23年 9月 参加者約 250人)

1 主催:福山市保健所、福山市医師会、福山地区消防組合及び地域保健対策協議会

2 対象:救急医療従事者及び救急搬送従事者

3 講演「心肺蘇生ガイドライン 2010(改訂点のポイント)」

11111「広島県傷病者の搬送及び受入れの実施基準」

111座長:福山府中圏域メディカルコントロール協議会長 大田泰正

講師:広島大学大学院救急医学教授 谷川攻一

【福山・府中地域小児救急医療連絡協議会】

会長の福山市医師会担当理事のほか福山市民病院小児科部長、福山医療センター小児科部長、中国中

央病院小児科部長、日本鋼管福山病院小児科部長、福山支所長、府中市健康福祉部長、福山地区消防局

警防部長、福山市保健部長及び同保健所長の計 10人。

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施設への啓発ポスターの掲示、市広報やホームページでの情報発信に取り組んでいる。

さらに、小児二次救急輪番病院においては、小児科勤務医の減少や高齢化により輪番日を

決定できない空白日が発生したので、おおむね毎月、市広報に「みんなで守ろう!福山の小

児医療」との見出しで不急の受診を控えるよう等啓発活動も適宜強化している。

(6) 市町による地域医療推進

ア 福山市においては、地域の基幹病院(竣工後は 506床の大規模病院)として急性期医療・

がん医療を中心に診療機能の充実を図るため、平成 23年 7月から病棟の増床(106床)、外

来化学療法室、内視鏡室等施設・設備整備に取り組んでいる。また、市域外の神石高原町

立病院や井原市立井原市民病院にも医師を派遣して外来診療を支援している。

イ 府中市においては、深刻化する医師不足、地域医療機能の低下及び病院の経営状況の悪

化が進行する中、将来にわたり市民が安心して受療できる体制の確保を目指して、まず、

平成 22年 9月、「府中市の地域医療を守り育てる基本条例」を策定し、病院及び医師を大

事に守り育てる姿勢と節度ある受診への協力を市民に求めている。

つぎに、平成 23年 3月、圏域地域医療再生計画と連動した「府中地域医療再生計画」を

策定し、地域完結型医療への転換、病院と診療所の連携、病院の再編(府中総合病院及び

府中北市民病院の経営統合)等を推進していくこととしている。

(7) 医療・住民・行政との協働

保健所と役割を分担した福山地区消防局においては、地区医師会及び住民組織と協働して

救急医療の現状について、市民の理解を深めてもらうため、9 月の救急の日及び救急医療週

間の行事の一環として、平成 23年度は、次のとおり開催している。

(8) 医師の定着に向けた協働

福山市保健所においては、危機に直面した小児二次救急輪番病院 4施設(平成 21年常勤医

17 人から平成 23 年 12 人に減少)を支援するため、平成 23 年度新規事業として非常勤医の

派遣を受ける当該施設が支給する手当の最高額との差額を当該病院に対して差額を補填する

「小児二次救急医師確保対策事業(年間 24回で計 178万円を計上)」を創設している。

(9) 県境を越えた広域連携

井笠地区においては、二次救急医療体制が深刻な医師不足により縮小し、かつ、一次救急

医療体制が未整備なこともあって、福山市の二次救急輪番病院で軽症患者がウォークイン受

診したり、救急隊が全患者の約 2割を搬送したりして、福山市に大きな負担を掛けていた。

平成 22年 11月、福山市で開催した「第1回救急医療相互連携協力協議会(出席者:広島

県本庁、福山市保健所、備中保健所、笠岡市及び井原市)」で広島県本庁から岡山県に対し

て二次救急輪番病院での受診ルール遵守を要請した。

つぎに、平成 23年 6月、備中保健所においては、福山市の小児二次救急輪番病院で井笠地

区の受診者が全体の 9%を占めているとの新聞報道に加え、福山市医師会長から福山市内の二

次救急輪番病院に対象者以外の患児を紹介しないよう要請を受けたことから、福山市保健所

【2011年救急法等講習会「救急健康教室」】(平成 23年 9月 参加者 123人)

1 主 催:深安地区医師会及び福山地区消防組合消防局

2 講演1:「救急のいろは」 (講師:髙橋脳神経外科院長 髙橋一則)

講演2:「救急車の適正利用」 (講師:深安消防署救急隊長 小川哲史)

3 講 習:「心肺蘇生法、AEDの使用法」 (指導:深安消防署救急隊員)

【2011年救急法等講習会】(平成 23年 9月 参加者 86人)

1 主 催:松永沼隈地区医師会及び福山地区消防組合消防局

2 講演1:「放射線の健康影響」 (講師:広島大学教授 田代 聡)

3 講 習:「心肺蘇生法、AEDの使用法」 (指導:西消防署救急隊員)

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を訪問して現状を確認した後、笠岡第一病院での夜間小児救急の受入れ調整の依頼を受けた。

そして、9 月、福山市で開催した「第2回救急医療相互連携協力協議会(出席者:前回に

加えて福山支所)」を受けて、備中保健所は、①福山夜間成人診療所への診療医師の派遣、

②休日昼間の二次救急協力当番病院制度の強化、③笠岡第一病院での夜間小児救急患者の受

入れ、④井笠地区の病院 9施設間での当直医情報の共有等の協議を始めている。

こうした中、平成 24年 1月、福山・府中圏域及び井笠地域が抱える医療課題について、相

互理解を深めて広域連携の方策を模索する「広島・岡山県境を越えた医療広域連携会議」の

設立を受けて、福山市保健所長は、当該連携会議及び救急医療・MC体制、小児救急体制及

び周産期医療体制の各検討部会の構成委員として参画している。

この一連の県境を越えた広域連携協議において、福山市保健所は、県本庁とも連携を図り

ながら、福山支所と共に市域の医療施設・団体の意見の取りまとめを連絡・調整している。

なお、岡山県においては、当該医療広域連携会議の取組について、県本庁及び備中保健所

を事業主体とする「県境における救急医療体制の確立事業」として「岡山県地域医療再生計

画(平成 22年度分)」に位置付けている。

3 関係機関による保健所の評価

懸案の夜間成人診療所の整備によって二次救急輪番病院等の負担が軽減するものと想定でき

たことから、地域医療再生計画を高く評価している。また、保健所については、地区医師会、

二次救急輪番病院等に対して公平・公正な連絡・調整を図り、一定の評価を受けている。

このほか県境を越えた広域的な二次救急医療体制の課題を抱える圏域においては、広域調整

役の県本庁及び福山支所と緊密に連携を図っている。

4 関与事業の今後の方向

保健所においては、平成 24年度末の当該診療所の開設に向けて、設計・建築を進めるととも

に、出務医師を確保・登録や運営の安定化方策を地区医師会等と具体的に協議していく。

第5 事例の所感

1 厳しくなっていく二次救急医療体制を確保するため、保健所において、県本庁及び福山支所

と緊密に連携しながら、地域医療再生計画事業として市域の軽症受診者の減少を図るための夜

間成人診療所を整備しているとともに、岡山県井笠地域からの救急搬送及びウォークイン受診

の適正化に向けた県境を越えた医療広域連携にも取り組んでいることは、同様の課題に直面し

ている保健所にとって参考となる好事例である。

2 また、福山市保健所においては、平成 20年に地区医師会や基幹病院と取りまとめた対策を受

けて、地域医療再生計画事業として夜間成人診療所の整備はもとより、市域の独自の取組とし

て適切な受診行動に向けて啓発を強化しているとともに、協議・調整による二次救急輪番病院

に新たな参加施設を確保したほか、福山市民病院の急性期医療の充実も支援している等官・公・

民が協働した総合的な取組を推進していることは、他の圏域の参考になると考える。

【広島・岡山 県境を越えた医療広域連携会議(協働事務局:広島県医療政策課・岡山県医療推進課)】

広島県:福山市、深安地区、松永沼隅地区及び府中地区の各医師会長、福山医療センター、福山市

民病院、中国中央病院及び日本鋼管福山病院の各院長、圏域MC協議会長、地域小児救急

医療連絡協議会長、福山地区消防局救急救助課長、県健康福祉局長・地域ケア部長・医療

政策課長・消防保安課長及び福山市保健福祉局長・保健部長・保健所長(18人)

岡山県:笠岡及び井原の両医師会長、笠岡市立市民病院、笠岡第一病院、井原市民病院、川崎医科

大学附属病院及び倉敷中央病院の各院長、備中地区MC協議会長、倉敷市消防局主幹、笠

岡地区及び井原地区の両消防本部警防課長、県保健福祉部長・医療推進課参与・消防保安

課長・備中保健所長、笠岡市健康医療課長及び井原市保健センター長 (18人)

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3 福山市保健所においては、軽症受診者の減少対策の一つとして夜間成人診療所の整備はもと

より、パンフレット「救急現場はピンチです!」の全世帯配布、啓発ポスターの掲示、市広報

やホームページでの情報発信に取り組んでいる最中、更に小児二次救急医療体制が危機に直面

したことから、おおむね毎月、市広報に「みんなで守ろう!福山の小児医療」との見出しで不

急の受診を控えるよう啓発活動を一段強化していることは、他の保健所の参考になると考える。

【府中市の地域医療再生に向けた取組】

1 府中市の地域医療を守り育てる基本条例の骨格(平成 22年 9月制定)

第1条(目的)、第2条(基本理念)、第3条(市の責務)、第4条(医療施設及び医療従事者の責務)

及び第5条(市民の協力)

2 府中市地域医療再生協議会 (平成 22年 9月条例設置)

当該協議会は、府中地域の医療機能の再生及び府中市病院事業の経営形態の見直しを所掌し、限られ

た医療資源を地域全体で有効に活用して将来にわたって市民が安心して受療できる体制を審議する。

3 府中市地域医療再生計画(平成 23年 3月策定)の骨子及び地域医療再生の工程

工程1

平成 23年 3月 JA広島厚生連が府中総合病院の経営を府中市に譲渡

平成 24年 4月

地方独立行政法人府中市病院機構を設立

広島厚生連府中総合病院の名称を府中市民病院に改称

府中市病院機構が府中市民病院及び府中北市民病院を運営

工程2

平成 24年度~

地域完結型医療の構築

①新たな地域医療機能の整備

②救急医療体制の確保

平成 25年度~ 府中市民病院の建替

産科診療及び小児二次救急医療の再開

平成 27年度~ 府中市病院事業の黒字化及び経営の強化

地域医療支援病院認可への取組

工程3 平成 28年度~ 府中地域全体としての医療提供体制の構築

参考資料:府中市の市政情報「府中市の地域医療再生に向けて」のホームページを編集

【府中市地域医療再生協議会委員】(事務局:府中市医療政策課)

府中市副市長、広島県厚生連合会代表理事専務、府中市立湯が丘病院長、府中市健康地域づくり審議会市立病

院経営審査分科会長、府中地区医師会長・副会長 2人、府中市町内会連合会久佐町内会長・北部地区会長、府

中市議会総務文教委員会長・厚生委員会長、府中市教育委員会委員、じょうげ居宅介護支援事業所管理者、社

会福祉法人府中静和寮長及びリョービ株式会社総務部長の計 15人のほかオブザーバー2人(広島県医師会副

会長及び福山支所厚生保健課医療事業調整監)。

【府中市地域医療再生計画策定経過】(平成 22年 10月から平成 23年 2月まで)

1 地域医療再生協議会:3回

2 1111〃1111行政部会 2回

3 1111〃1111医療部会(医師グループ 3回及び医療従事者グループ 4回)

4 1111〃1111住民部会(上下地区グループ 3回及び)

※【JA府中総合病院】(平成 22年 10月から平成 23年 2月まで)

職員説明会 2回及び医療従事者グループホーム意見交換会 2回

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平成23年度地域保健総合推進事業

「地域医療再生計画における保健所の関与に関する研究」報告書

発 行 月 平成24年3月

発行・編集 一般財団法人日本公衆衛生協会

分担事業者 惠 上 博 文(山口県宇部環境保健所長)

〒755-0031 宇部市常盤町 2-3-28

TEL 0836-31-3200

FAX 0836-34-4121

E-mail address [email protected]

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保健所は、地域医療の連携及び 地域医療の再生を推進します!