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平成29年9月15日発行(年4回発行) ISSN 1348-6063 「地域共生社会」と地域づくりの本質を問う 地域課題解決のための非営利・協同組織による役割発揮には、中央省庁から の期待も高まり続けている。厚生労働省の「我が事・丸ごと 地域共生社会」 構想もその一つだ。本特集では、政策決定サイドから草の根の実践事例まで幅 広い論考を取り揃えた。これらを参考としつつ、協同組合による地域づくりへ の新たな関与の仕方を提案したい。 協同組合研究誌 [季刊] 2017 AUTUMN No.660

「地域共生社会」と地域づくりの本質を問う · 協同組合研究誌 にじ 201 号 660 -2- 特集「地 域共生社会」と地域づくりの本質を問う

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Page 1: 「地域共生社会」と地域づくりの本質を問う · 協同組合研究誌 にじ 201 号 660 -2- 特集「地 域共生社会」と地域づくりの本質を問う

協同組合経営研究誌[季刊]平成29年9月15日発行(年4回発行) ISSN 1348-6063

特集 「地域共生社会」と地域づくりの本質を問う

 地域課題解決のための非営利・協同組織による役割発揮には、中央省庁からの期待も高まり続けている。厚生労働省の「我が事・丸ごと 地域共生社会」構想もその一つだ。本特集では、政策決定サイドから草の根の実践事例まで幅広い論考を取り揃えた。これらを参考としつつ、協同組合による地域づくりへの新たな関与の仕方を提案したい。

協同組合研究誌[季刊]

2017AUTUMN

No.660

Page 2: 「地域共生社会」と地域づくりの本質を問う · 協同組合研究誌 にじ 201 号 660 -2- 特集「地 域共生社会」と地域づくりの本質を問う

■目 次〔オピニオン〕追い風、向かい風…………………………………………………………………… 濱田 武士……… 1

… (北海学園大学 教授)特集:「地域共生社会」と地域づくりの本質を問う<論考編>特集解題……………………………………………………………………………… 田中 夏子……… 2

… (社会学[地域社会学、労働社会学、協同組合論]・農)「地域共生社会」論と共生保障の戦略… ………………………………………… 宮本 太郎……… 7… (中央大学 教授)「地域共生社会」の背景とねらい…………………………………………………… 野﨑 伸一……… 17… (厚生労働省 政策統括官(総合政策担当)付社会保障担当参事官室 政策企画官)地域共生社会とコミュニティ・オーガナイジング……………………………………… 室田 信一……… 30

… (首都大学東京 准教授)<実践編>介護・生活支援分野の住民による助け合い活動の意義と限界―「地域共生社会」構想は地域に「強制」をしいる社会を避けられるか?……… 橋本  理……… 40

… (関西大学 教授)〈支え合い〉を支える―ふるさとの会の居住・生活支援―………………………………………………… 滝脇  憲……… 48

… (NPO法人ふるさとの会 常務理事)ひとりの声から始まる「地域共生社会」への道程―「くらしサポート・ウィズ」の取り組みが問いかけること―………………………… 金  宝藍……… 60

… (明治大学 兼任講師)地域に根ざした福島県厚生連の歩みと現状~健康増進活動による地域貢献~…… 重富 秀一……… 71

… (福島厚生連双葉厚生病院 院長)総合的な生活支援体制構築に向けた東海村の取り組み―“多機関の協働による包括的支援体制構築事業”のモデル事業取り組みを通じて―…… 古市 こずえ……… 79

… (社会福祉法人東海村社会福祉協議会生活支援課・生活支援ネットワーク係長)武蔵野市テンミリオンハウス事業―介護保険制度と併走した18年… ……………………………… 武蔵野市役所高齢者支援課……… 87

「困りごと」が人をつなぎ、「地域」をつくる………………………………………… 下村 朋史……… 96… (ワーカーズコープ・センター事業団 北海道事業本部)協同組合による草の根のコミュニティ開発―イギリスの実践家からみた成功の秘訣… …トニ・メレデュー、コレット・オレガン、シェリファ・アトゥーシ…… 106

… (アカウント3)〔特別寄稿〕柳田國男社会科教科書に見る協同思想(上)……………………………………… 堀越 芳昭…… 122

… (山梨大学 元教授)〔協同の広場〕持続可能な開発目標(SDGs)を活用しよう………………………………………… 前田 健喜…… 136

… (JC総研 協同組合研究部長・主任研究員)〔書評〕高瀬雅男著『反トラスト法と協同組合―日米の適用除外立法の根拠と範囲―』日本経済評論社、2017年…………………………………………………………… 明田  作…… 145… (農林中金総合研究所・客員研究員)田中秀樹編『協同の再発見―「小さな協同」の発展と協同組合の未来―』家の光協会、2017年………………………………………………………………… 田中 夏子…… 150

… (社会学[地域社会学、労働社会学、協同組合論]・農)〔窓〕「全国生協・人づくり支援センター」の取り組み… ………………………………… 久保 典子…… 159… (日本生活協同組合連合会 政策企画部)〔編集後記〕… …………………………………………………………………………………………… 163

■目 次〔オピニオン〕追い風、向かい風 ………………………………………………………………… 濱田 武士……… 1

(北海学園大学 教授)特集:「地域共生社会」と地域づくりの本質を問う<論考編>特集解題…………………………………………………………………………… 田中 夏子……… 2

(社会学[地域社会学、労働社会学、協同組合論]・農)「地域共生社会」論と共生保障の戦略 ………………………………………… 宮本 太郎……… 7

(中央大学 教授)「地域共生社会」の背景とねらい ………………………………………………… 野﨑 伸一……… 17… (厚生労働省 政策統括官(総合政策担当)付社会保障担当参事官室 政策企画官)地域共生社会とコミュニティ・オーガナイジング……………………………………… 室田 信一……… 30

… (首都大学東京 准教授)<実践編>介護・生活支援分野の住民による助け合い活動の意義と限界―「地域共生社会」構想は地域に「強制」をしいる社会を避けられるか?……… 橋本  理……… 40

… (関西大学 教授)〈支え合い〉を支える―ふるさとの会の居住・生活支援―………………………………………………… 滝脇  憲……… 48

… (NPO法人ふるさとの会 常務理事)ひとりの声から始まる「地域共生社会」への道程―「くらしサポート・ウィズ」の取り組みが問いかけること―………………………… 金  宝藍……… 60

… (明治大学兼任講師)地域に根ざした福島県厚生連の歩みと現状~健康増進活動による地域貢献~…… 重富 秀一……… 71

… (福島厚生連双葉厚生病院 院長)総合的な生活支援体制構築に向けた東海村の取り組み―“多機関の協働による包括的支援体制構築事業”のモデル事業取り組みを通じて―…… 古市 こずえ……… 79

… (社会福祉法人東海村社会福祉協議会生活支援課・生活支援ネットワーク係長)武蔵野市テンミリオンハウス事業―介護保険制度と併走した18年… ……………………………… 武蔵野市役所高齢者支援課……… 87

「困りごと」が人をつなぎ、「地域」をつくる………………………………………… 下村 朋史……… 96… (ワーカーズコープ・センター事業団 北海道事業本部)協同組合による草の根のコミュニティ開発―イギリスの実践家からみた成功の秘訣… …トニ・メレデュー、コレット・オレガン、シェリファ・アトゥーシ…… 106

… (アカウント3)〔特別寄稿〕柳田國男社会科教科書に見る協同思想(上)……………………………………… 堀越 芳昭…… 122

… (山梨大学 元教授)〔協同の広場〕持続可能な開発目標(SDGs)を活用しよう………………………………………… 前田 健喜…… 136

… (JC総研 協同組合研究部長・主任研究員)〔書評〕高瀬雅男著『反トラスト法と協同組合―日米の適用除外立法の根拠と範囲―』日本経済評論社、2017年…………………………………………………………… 明田  作…… 145… (農林中金総合研究所・客員研究員)田中秀樹編『協同の再発見―「小さな協同」の発展と協同組合の未来―』家の光協会、2017年………………………………………………………………… 田中 夏子…… 150

… (社会学[地域社会学、労働社会学、協同組合論]・農)〔窓〕「全国生協・人づくり支援センター」の取り組み… ………………………………… 久保 典子…… 159… (日本生活協同組合連合会 政策企画部)〔編集後記〕… …………………………………………………………………………………………… 163

協同組合経営研究誌[季刊]平成28年9月15日発行

協同組合研究誌『にじ』2016年…臨時増刊(第656号) …編集発行人 勝又…博三 定価1,600円(税込)発…行…所 一般社団法人…JC総研 〒162-0826 東京都新宿区市谷船河原町11番地 飯田橋レインボービル5階Tel…:…03-6280-7254 Fax…:…03-3268-8761 URL…:…http://www. jc-so-ken.or.jp

協同組合研究誌

にじ

2016

臨時増刊

一般社団法人

JC総研

平成28年9月15日発行 ISSN 1348-6063

農協改革を協同組合から問う

協同組合研究誌

2016臨時増刊

2016増刊号表紙(E).indd 1 2016/09/13 17:46:09

2017秋660号表紙.indd 2 2017/09/08 17:24:28

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-2-協同組合研究誌 にじ 2017 秋号 №660

特集 「地域共生社会」と地域づくりの本質を問う

特 集 解 題

田中 夏子Tanaka  Natsuko 

●社会学[地域社会学、労働社会学、協同組合論]・農

昨年初夏、政府の「骨太方針2016」お

よび「ニッポン一億総活躍プラン」(とも

に平成28年6月2日閣議決定)が発表され、

「支え手側と受け手側に分かれるのでは

なく、あらゆる住民が役割を持ち、支え

合いながら、自分らしく活躍できる地域

コミュニティを育成」、「公的サービス

と協働して助け合いながら暮らすことの

できる仕組み」が提唱された。それに先

立って2015年9月厚労省のプロジェク

トチームがその原型を示し、また昨年7

月以降、同省から「我が事・丸ごと」を

キーワードに、高齢者、障害者、児童、難

病患者、生活困窮者、若年無業者等も含

む、地域での支えあいの仕組みが提起さ

れてきた。

他方、支えあいの仕組み自体は、すで

に多くの地域で取り組まれ、歴史的には

労福協(労働者福祉協議会。労働団体と生

協の連携を元祖とする組織)をはじめ、今

日では、協同組合としても医療福祉生協

や労福協はもとより、JAの「助けあい」、

生協の「おたがいさま」、労協の「社会

連帯経営」等でも長年、探究されてきて

いる。例えば労協では「当事者」性にこ

だわり、あるいは困りごとが相互に袖ふ

れあう中で生み出された複合的な拠点等、

考え方としては「わがこと」「まるごと」

につながる実践的経験が蓄積されている

といえよう。

しかしこのように、政策の言葉と市民

運動の蓄積が重なりあう中にあって、地

域実践の最前線では、戸惑いの声が出て

いることも事実だ。特に「地域包括ケア

システム強化」の一環として本年5月に

可決された「介護保険法一部改正」に対

しては、日本医療生活協同組合連合会等、

協同組合サイドからも懸念や反対が表明

されている。大枠の理念を共有しつつ、

その理念具体化のために展開するはずの

仕組みづくり~つまり政策レベルの議論

~が、どの方向にいこうとしているのか、

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-3- 協同組合研究誌 にじ 2017 秋号 №660

「共生」にこめられた理念を堅持する意

味でも、策定プロセスの段階から、市民

的実践と政策陣営との対話が必要なので

はないかと考える。

***

本特集は、上記のような問題意識のも

と、「対話」の試みとして、前半は3つの

論考編から構成される。

まず冒頭、「共生保障」という社会構想

とその道筋を、多様な実践を踏襲しなが

ら組み立ててきた宮本太郎氏に、特集の

総括となる論考を寄せていただいた。宮

本氏は、「地域共生社会」論が持つ「3つ

の源流」を分析した上で、今日の「地域

共生社会」論に作用する「2つのベクト

ル」(支えあいの拡充と財政当局の支出削減

圧力)の存在を指摘する。続いて、氏が

展開する「共生保障」論によって、前述

の2つのベクトルのうち前者を軸にしつ

つ、「地域共生」というビジョンを当初の

趣旨から変質させないために、市民側の

関与を呼びかける。

次に、厚労省にて地域共生政策の策定

およびその具体化のための仕組みづく

りに携わってきた野﨑伸一氏の論考で

は、「地域共生社会」提唱の背景となった

社会構造の変化から説き起こし、その基

本的な考え方を、地域の各種の実践に依

拠しながら提起しつつ、開発途上にある

この構想を、従来の政策とは異なるアプ

ローチ~すなわちボトムアップ~で育て

ていくべきとの結語が示される。

ところで前2者の論文で指摘された、

「地域共生」の考え方が本来もっている

はずの可能性を拡充していくための市民

側の関与、ボトムアップはどのようにし

て可能となるか。その点を示唆するのが、

3つ目の室田信一氏の論考である。室田

氏は、同論考のキーワードである「コ

ミュニティ・オーガナイジング」につい

て、「組織化と訳されることもあるが、組

織化という言葉のもつ『つながりのない

個々のものを、一定の機能をもつように

まとめる』というその意味には含まれな

い他の要素」、すなわち「個々人の成長を

促すことや、パワーを蓄積すること、政

治的な力動に関与するといった要素」等

が含まれる概念であるという。そして、

その概念の特徴、可能性を掘り下げ、こ

うした視点をそなえて、あらためて「地

域共生」の構想を見直すと、疑問にも直

面すると指摘する。

たとえば、「『支援する側・される側』と

いう非対称性の問題を克服する」との地

域共生の提起が、結果として「課題に直

面している当事者の存在を曖昧」化して

はいないだろうかといった疑問だ。「地

域共生」の探究は、深まれば深まるほど、

政策との葛藤のみならず、市民と課題に

直面する当事者、あるいは当事者間にも

様々なダイナミズムをもたらすことにな

ろう。そのとき、そうした緊張関係と向

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-4-協同組合研究誌 にじ 2017 秋号 №660

き合うにはどうしたらいいか、コミュニ

ティ・オーガナイジングの発想がヒント

になりうることが示唆されている。

***

続く実践編は、8つの論文から構成さ

れるが、「国の政策との緊張感ある対話」

の部といえよう。

橋本理氏の論文では、その副題を「『地

域共生社会』構想は地域に『強制』をし

いる社会を避けられるか?」とする挑戦

的な内容だ。事例に依拠して「公的な扶

助が求められるような状況においてさえ、

互助による資源動員がなされている現

実」があることを指摘し、「地域住民の過

重な負担に報いるためには、地域共生社

会の実現に向けて国は具体的にどのよう

な役割を担うのか、自らの責任は何かを

改めて明言すべき」と提言する。

NPO法人ふるさとの会の滝脇憲氏の

論文では、「地域力強化検討会中間とり

まとめ」等を挙げながら政策との対話を

試みつつ、都市部で単身、困窮、高齢や

障害・傷病による要介護等、何重もの困

難を抱える人々の住まいと生活を支える

活動が、どのような到達点と厳しさを抱

えるかが率直に提起され、政策が志向す

べき方向性を示唆する。

金宝藍氏の論文では「生活サポート生

活協同組合・東京」を母体とする一般社

団法人「くらしサポート・ウィズ」の生

活総合支援活動に焦点をあてる。金氏は、

現代社会が「関係の危機」にさらされて

いるとの認識のもと、その危機克服にむ

けて「くらしサポート・ウィズ」 の活動

に内在する「地域づくりの含意」を重視

すべきとする。著者が注目するのは「相

談者自身が相談内容を自らが解決する主

体」となる学びの過程が存在する点だ。

また、「インターンシップin協同組合」を

通じては、「若者自身の人生の選択肢を

増やし豊かにする」とともに、同事業を

共に担う様々な協同組合間で人材を育成

するためのネットワークが形成されてい

く経過が描かれ、そこから、地域づくり

の本質を浮上させる。

双葉厚生病院の重富秀一氏の論文では、

JA福島厚生連がどのように「保健・医療・

福祉事業を通して、農家組合員・地域住民

の健康を守り、豊かな地域づくりに貢献」

してきたかが詳細に提示される。双葉厚

生病院では、市民公開講座やJAと連携し

た健康講話を定期的に開催、また患者組

織との連携も築いてきた。しかし、2011

年3月の原発事故によって、病院は現在

も休院を余儀なくされている。原発事故

後、様々な「著名な専門家」が住民対象

に、放射線被ばくに関わる説明をするも、

情報発信者と受け手との間に信頼関係が

不在な中での説明は、住民にとって受け

入れがたいものだったとし、「地域に根ざ

した健康増進活動」を実質化していくた

めには、長期にわたる多様な切り口での、

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-5- 協同組合研究誌 にじ 2017 秋号 №660

住民と医療関係者との学びあいと信頼醸

成が欠かせないことを示唆する。

東海村社会福祉協議会の古市こずえ氏

の論文では、同社協が、高齢者や要介護

者への支援に留まらず、若者、稼働年齢

層、障がい者世帯やひとり親世帯などで、

社会的に孤立状態にある人々への支援を、

地域(行政や住民)へのどういった働き

かけのもとで行なってきたか、その時間

をかけた地道なプロセスが示される。コ

ミュニティソーシャルワーカー(相談支

援包括化推進員)を軸としながら、フォー

マル、インフォーマルな社会的資源を結

びつけつつ、全世代・全対象型の地域包

括支援体制を生み出してきた東海村社協

の経験は、地域共生を下から積み上げて

いく際、示唆的だ。

武蔵野市役所高齢者支援課の論文では、

武蔵野市(東京都)が介護保険制度発足に

先立ち、制度の「余波」の試算に基づい

て20年にわたり独自に運営してきた「テ

ンミリオンハウス事業」を詳述いただい

た。現在市内8か所に広がったこの事業

では、「地域の誰でも気軽に利用するこ

とができる」という当初からの基本方針

のもと、運営者は住民を主体とした団体

(法人格の有無問わず)で、その裁量を重

んじる。同時に社協の関わり(事業支援や

ネットワークづくり)や事業評価等、サー

ビスの質を支える仕組みが整備されてい

る。同課では、「運営団体の自由さ」を担

保するためには「行政の覚悟と度量」が

問われるとし、共助を支える公助を強調

する。

ワーカーズコープ・センター事業団の

下村朋史氏の論文では、恵庭市(北海道)

から「福祉除雪」への対応依頼を受けた

ワーカーズコープが、同市から受託して

いた指定管理事業「憩の家」の利用者に

声をかけ、生活支援事業「あいよ!」を

立ち上げた経過から始まる。このような、

「地域の困りごと」が人々の「つながり」

を生む回路が、様々な場面で見られるこ

とを詳細な事例によって示した上で、こ

れらが持続的に拡充していくための課題

を提起する。

最後に、イギリスの「アカウント3スリー

のトニ・メレデュー氏、コレット・オレ

ガン氏、シェリファ・アトゥーシ氏によ

る論文では、協同組合による草の根のコ

ミュニティ開発の意義、効果、そして具

体的な手法が示される。黒人および少数

民族の女性たちが構成する協同組合「ア

カウント3」の歴史をたどると、コミュ

ニティ開発の原点が、反差別・反貧困の

運動にあることがあらためて確認できよ

う。1990年代前半から、独自のコミュニ

ティビジネスの手法を編み出し、当初は

女性たちの仕事起こしとして出発した活

動が男性を含む仕事起こしに広がり、家

族経済の向上のみならず家族関係の変化

を促す経過が描かれる。その後、雇用創

Page 7: 「地域共生社会」と地域づくりの本質を問う · 協同組合研究誌 にじ 201 号 660 -2- 特集「地 域共生社会」と地域づくりの本質を問う

-6-協同組合研究誌 にじ 2017 秋号 №660

出をベースとして、ソマリア移民・難民

の意向を受け、移民女性たちの学びや仕

事を組織し、若者の未来を切り開くため

の基金の活用等が展開していく。総じ

て、同団体の事業のめざすものは、「地域

の虚像を浮き彫りにするために、地域の

人々とともに物語を再構成」し、成果と

いうよりも「プロセス」を生み出すこと

にあるとされる。

***

協同組合のコミュニティへの貢献は、

協同組合原則改訂以降、盛んに議論され

てきたテーマだ。しかし必ずしも実践面

で順調な深化を見てきたとはいえない。

特集を通じて、そこには、理念と手法に

関わる2つの要因があることがうかがえ

る。1つ目は、協同組合がなぜ地域に関

わるのか、という点だ。目的が、人間が大

切にされる暮らしと仕事の実現にあるこ

とはいうまでもないが、それは、社会的

排除との闘いという土台の上で展開して

いくべき課題であることが確認できよう。

2つ目は、当事者がどのような排除にさ

らされているのか、それを当事者視点で

解釈し再構成することの重要性である。

「協同組合の、コミュニティへの関与」と

いうとき、どうしても協同組合が主導す

る一方向的なものとなりがちだ。本特集

に登場する諸実践は、こうした一方向的

関与の手法を協同組合が見直し、地域の

様々な関係者が当事者となり、学びと交

流を重ねていく中で、地域社会の運営主

体となっていく、その経過を生み出す重

要性を示している。

さらに本解題冒頭の問題意識と重ねる

ならば、上記の理念とプロセスは、短期

的な成果を求め、財政困難によるコスト

カットと結びついた「地域共生」とは明

確な一線を画すものであることも今一度

強調しておきたい。

本号執筆陣は、真の「地域共生」を生

み出すために、日々、研究・実践に奔走

なさっている方々であり、大変な多忙を

ぬって、本誌に貴重な考察と実践事例を

お示しいただいた。そのご尽力に、あら

ためて深く感謝申し上げる。

田中 夏子(たなか・なつこ)1960年 東京都生まれ慶応義塾大学文学研究科 修士課程修了都留文科大学教授(2013年3月まで)を経て、現在は、農と協同組合研究に従事都留文科大学非常勤講師、明治大学大学院非常勤講師

〔主な著書〕『協同組合は「未来の創造者」になれるか』共著 家の光協会 2014年

『イタリア社会的経済の地域展開』 日本経済評論社 2004年

〔主な論文〕「社会的排除と闘う協同:イタリア社会的協同組合の取り組みを題材に」(『世界 特集:協同が社会を変える』836号 2012年11月)ほか