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あきた経済 2017.5 6 経済の動き 1 「地域おこし協力隊」制度 (1)地域おこし協力隊(以下、 「協力隊」)の制度 概要は、次のとおりである。 ≪制度概要≫ 都市地域から過疎地域等の条件不利地域 に住民票を移動し、生活の拠点を移した者を 地方公共団体が「地域おこし協力隊員(以下、 「隊員」)」として委嘱。隊員は、一定期間、 地域に居住し、地域ブランドや地場産品の開 発・販売・PR等の地域おこしの支援や、農 林水産業への従事、住民の生活支援などの 「地域協力活動」を行いながら、その地域へ の定住・定着を図る取組 ≪活動期間≫ 概ね1年以上3年以下 ≪総務省の支援≫ 隊員の募集等に要する経費、隊員の活動に 要する経費および隊員等の起業に要する経 費について、特別交付税により財政支援 ・隊員の活動に関する経費:隊員1人あたり 400万円上限 ① 報償費(給与)等200万円 ② その他の経費200万円 ※報償費については隊員のスキルや地理 的条件により最大250万円まで支給可能。 ただし、隊員1人あたり400万円の上限は 変更されない。 ・隊員の起業に要する経費:最終年次又は任 期終了翌年の起業する者1人あたり100万 円上限 ・隊員の募集等に要する経費:1団体あたり 200万円上限 また、都道府県が地域おこし協力隊等を対 象とする研修等に要する経費については、普 通交付税により財政支援 (2)人口減少や高齢化が進む地域に、地域外の 熱意あふれる若者等を誘致し、新たな視点で地 域の活性化を図る制度といえる。 人件費のほか活動経費についても財政支援の 「地域おこし協力隊」の活用 「地域おこし協力隊」は、都市部の若者等が、地方自治体の募集に応じて委嘱を受け、国か ら生活費等の支援を受けながら、一定期間地方に移り住み、住民の生活支援や地域の活性化に 取り組む活動で、その地域への定住・定着も図る取組として、平成21年に総務省によって創 設された制度である。 その有用性の認知度の高まりとともに、本制度の活用が全国的に広がっている。平成28年 度の地域おこし協力隊員は、全国886の自治体において3,978人に上る。 県内においても、平成28年10月17日時点で、秋田県(1名)のほか、16市町村(8市 5町3村)で44名、計45名の隊員が活動を展開している。本年に入って、秋田市や大仙市で も初めて隊員を採用するなど、県内でも広がりを見せている。 本稿では、「地域おこし協力隊制度」の意義等について考察する。

「地域おこし協力隊」の活用 · 2018-11-28 · とが分かる。最近は「移住・定住活動」型が増 加傾向にある。 (2)また、都道府県が地域おこし協力隊等を対

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あきた経済 2017.56

経済の動き

1 「地域おこし協力隊」制度(1)地域おこし協力隊(以下、「協力隊」)の制度

概要は、次のとおりである。

≪制度概要≫

 都市地域から過疎地域等の条件不利地域

に住民票を移動し、生活の拠点を移した者を

地方公共団体が「地域おこし協力隊員(以下、

「隊員」)」として委嘱。隊員は、一定期間、

地域に居住し、地域ブランドや地場産品の開

発・販売・PR等の地域おこしの支援や、農

林水産業への従事、住民の生活支援などの

「地域協力活動」を行いながら、その地域へ

の定住・定着を図る取組

≪活動期間≫

 概ね1年以上3年以下

≪総務省の支援≫

 隊員の募集等に要する経費、隊員の活動に

要する経費および隊員等の起業に要する経

費について、特別交付税により財政支援

・隊員の活動に関する経費:隊員1人あたり

400万円上限

① 報償費(給与)等200万円

② その他の経費200万円

※報償費については隊員のスキルや地理

的条件により最大250万円まで支給可能。

ただし、隊員1人あたり400万円の上限は

変更されない。

・隊員の起業に要する経費:最終年次又は任

期終了翌年の起業する者1人あたり100万

円上限

・隊員の募集等に要する経費:1団体あたり

200万円上限

 また、都道府県が地域おこし協力隊等を対

象とする研修等に要する経費については、普

通交付税により財政支援

(2)人口減少や高齢化が進む地域に、地域外の

熱意あふれる若者等を誘致し、新たな視点で地

域の活性化を図る制度といえる。

 人件費のほか活動経費についても財政支援の

「地域おこし協力隊」の活用 「地域おこし協力隊」は、都市部の若者等が、地方自治体の募集に応じて委嘱を受け、国から生活費等の支援を受けながら、一定期間地方に移り住み、住民の生活支援や地域の活性化に取り組む活動で、その地域への定住・定着も図る取組として、平成21年に総務省によって創設された制度である。 その有用性の認知度の高まりとともに、本制度の活用が全国的に広がっている。平成28年度の地域おこし協力隊員は、全国886の自治体において3,978人に上る。 県内においても、平成28年10月17日時点で、秋田県(1名)のほか、16市町村(8市5町3村)で44名、計45名の隊員が活動を展開している。本年に入って、秋田市や大仙市でも初めて隊員を採用するなど、県内でも広がりを見せている。 本稿では、「地域おこし協力隊制度」の意義等について考察する。

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あきた経済 2017.5 7

経済の動き

対象となっており、自治体にとっても使い勝手

のよい制度である。また起業についても考慮さ

れていることで、活動範囲の広がり・進展が期

待できる。

 なお、委嘱の方法、期間、名称等は地域の実

情に応じて弾力的に対応できる。

2 協力隊導入の効果(1)協力隊導入の効果として、隊員・受入地方公

共団体・地域にとって、次の通り「三方よし」

の取組であることがあげられている。

≪「隊員」にとって≫

○自身の才能・能力を活かした活動

○理想とする暮らしや生き甲斐の発見

≪「地域」にとって≫

○斬新な視点(ヨソモノ・ワカモノ)

○隊員の熱意と行動力が地域に大きな刺

激を与える

≪「地方公共団体」にとって≫

○行政ではできなかった柔軟な地域おこ

し策

○住民が増えることによる地域の活性化

(2)定住状況

 本制度の目的の1つとして「その地域への

定住・定着も図ること」が掲げられているが、総

務省「地域おこし協力隊の定住状況等に係る

調査結果」(平成27年度―任期終了隊員945人回

答)によると、要点(特徴)として次の点があ

げられている。

① 任期終了後、約6割の隊員が活動地と同

じ地域に定住

② 定住者の約4割が女性

③ 各世代で男性よりも女性の定住傾向が高

④ 同一市町村内に定住した隊員の約2割は

起業(前回調査時―平成25年6月末時点

―の9%から17%に大幅増加)

[起業内訳]

○株式会社設立  ○一般財団法人設立

○NPO法人設立 ○農業法人設立

○飲食店経営   ○カフェ経営

○鍼灸院開設   ○整体師

○経営コンサルタント

3 隊員数及び受入自治体数の推移 隊員数及び受入自治体数の推移は図表1のと

おりであり、年度を追うごとに隊員数・受入自

治体数が大幅に増加している。

 また、特徴として、①隊員の約4割が女性で

あること、②隊員の約7割が20歳代と30歳代

であること、があげられる。

4 地域協力活動(1)「地域協力活動」の例

 「地域協力活動」とは、地域力の維持・強化

に資する活動で、地域おこし協力隊推進要領に

活動例として次のとおり示されている。

・地域おこしの支援(地域行事やイベントの

応援、伝統芸能や祭りの復活、地域ブラン

資料:総務省HPより当研究所作成

図表1 地域おこし協力隊の隊員数及び受入自治体数の推移

4,500

4,000

3,500

3,000

2,500

2,000

1,500

1,000

500

0

1,200

1,000

800

600

400

200

0

(人) (団体)

(年度)平成21 22 23 24 25 26 27 28

自治体数(右軸)隊員数(左軸)

3190

147207

318

444

673

886

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あきた経済 2017.58

経済の動き

ドや地場産品の開発・販売・プロモーショ

ン、空き店舗活用など商店街活性化、都市

との交流事業・教育交流事業の応援、移住

者受け入れ促進、地域メディアなどを使っ

た情報発信 等)

・農林水産業従事(農作業支援、耕作放棄地

再生、畜産業支援 等)

・水源保全・監視活動(水源地の整備・清掃

活動 等)

・環境保全活動(不法投棄パトロール、道路

の清掃 等)

・住民の生活支援(見守りサービス、通院・

買物のサポート 等)

・その他(健康づくり支援、野生鳥獣の保護

管理、有形民俗資料保存、婚活イベント開

催 等)

(2)「おおむねの例示」として示されているが、

上記のとおり幅広い活動が認められているほ

か、その具体的内容は、個々人の能力や適性

及び各地域の実情に応じ、地方自治体が自主

的な判断で決定するものとされている。

5 県内の活動状況(1)平成28年10月時点の県内隊員の活動状況

は図表2のとおりである。

 「主な活動内容」を見ると、前記「地域協力

活動」の例示を受けて、地域資源活用特化型か

ら総合型まで、幅広な活動が展開されているこ

とが分かる。最近は「移住・定住活動」型が増

加傾向にある。

(2)また、都道府県が地域おこし協力隊等を対

象とする研修等に要する経費については、地方

交付税により財政支援を受けられることから、

隊員の定住促進を図るとともに、県内市町村の

本制度の活用を促進するため、本県において

も、平成28年度から「地域おこし協力隊制度

導入加速化支援事業」を推進している。

 事業内容は、県内隊員の交流会及び研修会の

開催、市町村に対する制度の説明会の開催、首

都圏での募集市町村との合同募集説明会の開催

等である。

6 さいごに(1)若者の田園回帰が叫ばれて久しい。例えば、

内閣府の「都市住民の農山漁村定住願望」調査

によると、「願望がある」と「どちらかといえば

ある」の合計が、平成17年(回答数975人)

の20.6%から平成26年(回答者1,147人)に

は31.6%に増えている。

 この流れを受け止める格好の制度ともいえる。

(2)隊員の受け入れにあたっては、慣れない地

域で活動が円滑に行えるように、受入・サポー

トのための態勢を構築することが重要である。

 これは募集前に綿密に行うだけに限らず、活

動開始後も状況に応じて柔軟に対応する必要が

ある。

(3)活動例示にみられるように、全ての地域活

性化に関わる活動が認められる制度である。官

(自治体)の発想だけでなく、民(住民・NP

O法人・企業)の発想による地域活性化活動

も、本制度を活用して、官民連携事業として取

り込むことも可能であろう。

(4)地域活性化のための人材として、「ヨソモノ、

ワカモノ、バカモノ」の3要素が必要とよくい

われる。隊員は、その“ヨソモノ”、“ワカモノ”

であり、自分の居住地以外の地域の役に立ちた

いという熱意なくして務まらない(良い意味で

の)“バカモノ”でもある。その熱意に応え、自

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経済の動き

治体、地域住民ともに活動することが何より肝

要であろう。また、隊員の活動には限界がある。

地域おこしやまちづくりの主役はあくまでも住

民であることを忘れてはならない。 (松渕秀和)

図表2 秋田県地域おこし協力隊の活動状況(平成28年10月 17日現在)市町村名 名称 隊員数 主な活動内容

鹿角市 鹿角市移住コンシェルジュ 4名(男性3名、女性1名)

①移住定住関係(相談、体験機会提供、受入体制整備、移住後サポート)②情報発信 ③空き家データバンクの運営等

大館市

移住プロデューサー 2名(男性1名、女性1名)

①移住者と地元住民との交流会の開催②市のイベント運営業務、地域活性化プロジェクト支援③情報発信、都市圏での移住相談会参加

地域おこし協力隊 4名(女性4名)

①市のイベント運営業務、地域活性化プロジェクトの支援②市の観光及び秋田犬の情報発信、観光振興活動③情報発信、都市圏での移住相談会参加

北秋田市 地域おこし協力隊 1名(女性1名) ①地元産品のPRと販路拡大

上小阿仁村 地域おこし協力隊(八木沢地域担当) 1名(男性1名)

①農作物の生産を通じた集落の活性化②水源地整備、不法投棄パトロール、清掃活動③住民の生活支援(見守り、通院、買い物、除雪等)④地域資源の発掘、振興 ⑤村主催行事への協力

能代市 地域おこし協力隊 3名(男性2名、女性1名)

①バスケと宇宙をキーワードとした情報発信等②バスケをキーワードとした観光開発、商品開発等

藤里町 地域おこし協力隊(中通・北部地域担当各1名)

4名(男性1名、女性3名)

①地域誌発行 ②住民活動拠点管理 ③地域活動支援④住民活動参加 ⑤除雪・草刈り ⑥起業

八峰町移住コンシェルジュ 1名(男性1名) ①空き家活用事業

②移住促進イベント・婚活イベントの開催 ③情報発信

地域おこし協力隊 1名(男性1名) ①ジオパーク推進事業

三種町 地域おこし協力隊 2名(男性2名)①クアオルト健康ウォーキング実施時のガイド、スタッフ、普及啓発 ②ウォーキングコース整備③健康食メニュー企画

男鹿市 地域おこし協力隊 2名(男性1名、女性1名)

①そば畑支援 ②すげ笠づくり ③海の森づくり秋田④キタノウラオモテ通信発行 ⑤自然体験プロジェクト支援⑥FUNAKAWAひのめ市への出店 ⑦情報発信

五城目町 地域おこし協力隊 4名(男性2名、女性2名)

①地域資源の発掘・情報発信②農商工連携による6次産業化支援 ③起業化支援④移住定住支援 ⑤空き家の掘り起しと整理⑥空き家所有者と移住希望者とのマッチング

大潟村 地域おこし協力隊 2名(男性2名) ①産直センターの野菜の販売促進②スポーツ振興全般(特に水上スキー)

にかほ市 地域おこし協力隊 1名(女性1名) ①木版画家池田修三の作品を活用したまちづくり

仙北市 地域おこし協力隊 2名(男性1名、女性1名)

①全戸訪問 ②地域行事等のコミュニティ活動の応援③特産品開発への協力 ④コミュニティ事業の企画・運営⑤グリーンツーリズム活動への協力⑥国際交流活動への協力

湯沢市 地域おこし協力隊 5名(男性3名、女性2名)

①小野小町の研究・調査等情報発信②地域の独自文化の調査及び発掘③伝統産業の再活性化による地域おこし④滞在型観光プログラムの企画・開発⑤「ゆざわジオパーク」に関する情報発信及び啓蒙活動⑥「川連漆器」の伝承職人を目指す⑦水稲生産を中心に農業技術を取得し、生産者を目指す

羽後町 地域おこし協力隊 4名(男性3名、女性1名)

①観光資源の発掘及びPR ②定住支援③特産品開発 ④農作業支援

東成瀬村 地域おこし協力隊 1名(女性1名)①農作業支援 ②農事組合法人等の支援 ③物産販路拡大④新商品開発(特産品「でらかぶ」を活用)⑤地域行事等への参加と協力

秋田県 お宝ネットひろげ隊 1名(女性1名) ①GB(じっちゃん・ばっちゃん)ビジネス拡大展開事業②つながる・広がる「里山の恵み」プロモーション事業

資料:秋田県HPより当研究所作成

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