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「カイ」の木(楷樹 : Pistacia chinensis Regel) 中国原産のうるし科の落葉高木。雌雄異株で中国に広く分布している。我が 国に,初めて入ったのは大正4年であり,現在全国 20 ヵ所ぐらいにしかない といわれ,大変珍しい木である。 孔子廟にゆかりのある木であるため,苗は,全国の学問に関係がある所へ配 られ,聖木とか名木とかいわれている。 本校にも,昭和 15 年中国の孔子廟の老木の実から育てたもので,浜松市の 野原茂六氏から譲り受けたものが,隣接する附属浜松中学校の敷地内に,どっ しりと根をおろしている。 題字:副校長 大村高弘 表紙絵:教諭 有川貴子)

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「カイ」の木(楷樹 : Pistacia chinensis Regel) 中国原産のうるし科の落葉高木。雌雄異株で中国に広く分布している。我が国に,初めて入ったのは大正4年であり,現在全国 20 ヵ所ぐらいにしかないといわれ,大変珍しい木である。 孔子廟にゆかりのある木であるため,苗は,全国の学問に関係がある所へ配られ,聖木とか名木とかいわれている。 本校にも,昭和 15 年中国の孔子廟の老木の実から育てたもので,浜松市の野原茂六氏から譲り受けたものが,隣接する附属浜松中学校の敷地内に,どっしりと根をおろしている。

(題字:副校長 大村高弘 表紙絵:教諭 有川貴子)

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変貌する社会状況の<今>と教育界の<未来>をめぐる論考 校長 新保 淳

 平成 29 年3月に新学習指導要領が公示されました。そのため教育界では日本の新しい時代,すなわち<未来>を支えるために必要となる「子どもの資質・能力の育成」に視線が集まっています。 一方,教育界の外を眺めてみますと,「子どもの<未来>の力」ではなく,「おじさんの<今>の力」にも注目が集められているようです。それは NHK の " クローズアップ現代+(平成 29 年 9 月 28 日放送)" において,「 40 代・50 代でも遅くない! 転職市場は " おじさん " の力を求めている」という話題を提供していました。現実社会では再就職がままならないと思われていた,「" おじさん " の力」が<今>注目を集めているという内容に,「何故?」という多少の驚きがありました。 この番組の概要について説明しますと,図に見られるように,仕事を直接遂行する上で求められる専門的な能力を「テクニカルスキル」,また特定の業種・職種・時代背景にとらわれない能力を「ポータブルスキル」と呼ぶこと。またそれは,ごく普通の中年のサラリーマンも仕事で培ったなんらかのスキルがあるはず,という視点に基づいた分析手法であることが紹介されていました。こうした視点によって面接を受け転職した中年サラリーマンは,その後に与えられたそれまでとは全く異なる職場において,イノベーション(革新)をもたらすという実績が紹介されていました。 例えば,通販会社のアパレル部門から,菓子メーカーの経営企画課長に転職した女性が評価されたポータブルスキルは," 女性の好みに精通していること " でした。彼女はこのスキルを生かして販売戦略を一新し,商品の売り上げアップにつなげたそうです。また,生命保険会社の営業部長だった男性は,食品メーカーの品質管理部長に転職しましたが,そこで評価されたポータブルスキルは," パートやアルバイトの管理能力 " でした。地道なルーティン業務を行う現場スタッフのモチベーションを高めた彼の経験が,工場で働くパート管理に生かすポータブルスキルとして評価されたそうです。このことから,常なるイノベーションが求められる現代社会において必要とされる人材は,「テクニカルスキル」という専門的な能力だけでなく「ポータブルスキル」としてのいわば汎用的な能力が求められているのです。 ではこの分析手法を「教師」という職業にあてはめてみることにしましょう。仕事を直接遂行する上で求められる専門的な教師の能力とは,社会に蓄積された「知識・技能」を教師が持っている「テクニカルスキル」を使って,指導対象である児童・生徒のためにそれらを適切に教材化し授業実践を行うことができる,ということになるでしょうか。では,教師という特定の業種・職種・時代背景にとらわれない能力としての「ポータブルスキル」とは,何に相当するのでしょうか。先にあげ

窓辺

< 図 人物を評価する際に基準となるスキル >

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た事例に単純にあてはめて," 児童・生徒の好みに精通している " という「観察力」や,児童・生徒を対象として鍛えた「人事管理能力」とするだけでは不十分でしょうか。それとも新学習指導要領が「カリキュラム・マネジメントの推進」を求めているように,「『従来の教科』のみによって授業実践する能力」=「テクニカルスキル」とするならば,特定の教科にとらわれない能力としての「『カリキュラム・マネジメント』という視点から授業実践する能力」,すなわち「物事を俯瞰的に見る能力」が「ポータブルスキル」に相当するのかもしれません。 平成 29 年3月に公示された新学習指導要領は,当然のことながら現実社会の<今>を越えて,児童・生徒の<未来>の姿を見据えた内容となっています。そこでは全ての教科等において,①生きて働く「知識・技能」の習得,②未知の状況にも対応できる「思考力・判断力・表現力等」の育成,③学びを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力・人間性」の涵養についてといった,三つの柱からの再整理とそれらのバランスの良さが求められています。すなわち,これからの社会における様々な変化に積極的に向きあい,持続可能な社会の創り手として学校での学びを人生や社会に生かそうとする児童・生徒の<未来>の姿が教育に求められています。 ここまでに取り上げた変貌する社会状況が示す<今>,および教育界における<未来>という話題から何を考えることができるでしょうか。 一つとしては「知識・技能」という「テクニカルスキル」をただ単に習得することに留まらず,「思考力・判断力・表現力等」の能力を育成し働かせることによって,未知の状況に対処しうる「特定の業種・職種・時代背景にとらわれない」汎用的な能力としての「ポータブルスキル」に高める必要があるという点では,<今>も<未来>も同様に捉えることができるのではないでしょうか。 もう一つは,こうした「知識・技能」・「テクニカルスキル」と「思考力・判断力・表現力等」・「ポータブルスキル」の背後に存在する「『学びに向かう力・人間性』の涵養」や「スタンス」の関係です。「『学びに向かう力・人間性』の涵養」の「涵養」という用語を辞書でひもとくと,「水が自然に染み込むように,無理をしないでゆっくりと養い育てること」となっています。すなわちこの「涵養」という用語は,「時間的蓄積」(「時熟」と表現されることもある)を条件とするという意味合いが強いと言えるでしょう。一方「スタンス」とは,その人が「物事に対峙する際に取る立場や姿勢」という意味合いが含まれているようです。 変貌のプロセスにある<今>求められる人材とは,教育期間において<将来>に向けて人生や社会で生かすために「習得」され「育成」された力と,それらの学びを根底で支えるエネルギー源としての「学びに向かう力」が「涵養」されることによって,まずは,卒業後の職業における「テクニカルスキル」を持つ人と言えるでしょう。そしてその後にそれらが「ポータブルスキル」として「時熟」し,「スタンス」との関係においてさらに深められるとするならば,これらの一連の流れは,一人の人間の成長について教育界が描く<未来>と変貌する社会状況の<今>とを結ぶ一つのストーリーであると言えるかもしれません。

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◇窓辺「変貌する社会状況の<今>と教育界の<未来>をめぐる論考」 校長 新保  淳

◇教育随想「感性を磨く」 静西教育事務所長 山田 泰巳 ・・・・・・・ 1

◇特集 「これからの小学校英語で育みたい資質・能力」○問われるコミュニケーション(能力)観:小学校英語の課題 静岡大学教育学部准教授 亘理 陽一 ・・・・・・・ 3○小学校外国語教育で育成する資質・能力と授業づくり 静西教育事務所教育主査 染葉 美智子 ・・・・・・・ 6

◇第95回教育研究での取り組み総論 研究主任 中村 孝一 ・・・・・・・ 8各論Ⅰ 理論提案者 有川 貴子 ・・・・・・ 11各論Ⅱ 理論提案者 大橋 健一 ・・・・・・ 14国語科Ⅰ 田中 義文 ・・・・・・ 17国語科Ⅱ 佐野 教代 ・・・・・・ 19社会科 中村 孝一 ・・・・・・ 21算数科Ⅰ 服部 優 ・・・・・・ 23算数科Ⅱ 大橋 健一 ・・・・・・ 25理 科 村松 正浩 ・・・・・・ 27音楽科 藤井 早苗 ・・・・・・ 28図画工作科 有川 貴子 ・・・・・・ 31体育科 牧澤 利光 ・・・・・・ 33生活科 横山 勝之 ・・・・・・ 35総 合 髙木 裕之 ・・・・・・ 37英 語 常名 剛司 ・・・・・・ 39

目 次

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学校保健 比奈地 むつみ・・・・・・ 41「附属小だからできること」を考える 校務主任 山田 正典 ・・・・・・ 43

◇第95回教育研究発表会 講演会骨子演題「深い学びを実現する授業デザイン」~学習課題や活動の在り方,その原理等について~聖心女子大学文学部教育学科 大学院文学研究科人間科学専攻 教育研究領域

教授 益川 弘如 ・・・・・・ 45

◇実践の窓 研究協力委員 実践報告国語科 浜松市立北浜小学校 片瀬 智美 ・・・・・・ 52国語科 森町立森小学校 兼子万紀郎 ・・・・・・ 54社会科 浜松市立可美小学校 藤田 直也 ・・・・・・ 56算数科 袋井市立笠原小学校 加藤麻衣子 ・・・・・・ 58算数科 浜松市立井伊谷小学校 岩岡 暁子 ・・・・・・ 60理 科 浜松市立奥山小学校 杉山 瑛一 ・・・・・・ 62音楽科 浜松市立篠原小学校 平井 美紅 ・・・・・・ 64図画工作科 磐田市立岩田北小学校 宮木 友香 ・・・・・・ 66体育科 磐田市立田原小学校 鈴木 正洋 ・・・・・・ 68生活科 浜松市立大平台小学校 藤﨑 徹 ・・・・・・ 70総 合 磐田市立磐田南小学校 大堂 浩平 ・・・・・・ 72外国語活動 浜松市立上島小学校 久米 優子 ・・・・・・ 74学校保健 浜松市立北部中学校 髙木 志穂 ・・・・・・ 76

◇編集後記・研究同人 ・・・・・・ 78

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「感性を磨く」 静西教育事務所長 山田 泰巳

1 感性豊かな人 「日々,広葉樹の色が変わっていく。こんな色もあるのか?と感動や発見があります。木々は,毎日葉が落ちて形が変わり,隙間ができて,今まで見えていない向こうの景色が見えて空間を感じます。風にゆられて落ちる葉の様子は,予想しづらい動きがあり,おもしろさがあります。落葉が風によって転がる時は,何とも言えない音が聞こえます。木々を見ていると,色・形・空間・動き・音の変化があり,飽きません。きっと子どもたちも,校庭の木々を眺めながら,日々多くの発見をしていることでしょう。」 これは,ある会における前静西教育事務所長の挨拶の言葉である。前所長は,所内の会においても,対外的な会においても,挨拶があると必ず日常生活の中でのちょっとした自然の変化について触れてから本題に入っていった。日々忙しく仕事をしていると,なかなか気付かずに過ぎてしまう自然の変化や子どもへの影響など,改めて見つめ直すことにつながり,心が洗われたものである。と同時に,自分の感性のなさをつくづく感じてしまった。見ようとして見なくても,無意識のうちに感じ,言葉や動きに表すことができる人の感性は,どのようにして磨かれ,豊かになっていったのだろうか。

2 気付く目と気付く心 かれこれ 30 年ほど前になるが,ある中学校に勤務していた頃の話である。理科の教科担任であるA教諭は,気圧や風向きなどの気象とその変化を学ばせるために,天気図に着目して,日々の移り変わりを取り上げることにした。そこで,生徒には,新聞に掲載される天気図を毎日切り抜いてノートに貼ることを課し,授業において,高気圧や低気圧の位置,前線の通過や等圧線の様子などから天気の変化について理解をさせていったのである。 ところが,ある時,A教諭は,思いも寄らず配慮に欠けていたことに気付くことになる。実は,ある生徒の家では,新聞を購読していなかったのである。少し困ったような様子でいる生徒を心配した学級担任のB教諭が,そっと声を掛け,話を聞いてみると,新聞を購読していないことを言い出せず,理科の課題にどう対応してよいか困っていることを打ち明けたのだ。このことを知ったB教諭は,自分で購入した新聞(B教諭もまた,実家を離れて一人暮らしをしていたため,新聞の定期購読をしていなかった。)を生徒に渡し,ノートに貼らせたのだった。 記憶が曖昧で,はっきりと覚えていないが,何かのきっかけで,後日その事実を知ったA教諭は,自分自身の配慮の足りなさ,生徒に辛い思いをさせた後悔,B教諭の陰の支えに涙を流し,生徒とB教諭に謝罪をしたということである。困っていることを口に出して言う力も必要だとする見方もあるかもしれないが,教師2年目であったB教諭が,生徒の困り感を察知し,寄り添い,そっと支えようとした姿に,私自身,大きな感銘を受けたのを覚えている。目に見えない感情を読み取るのは,なかなか難しいし,相手が何を求めているのかを察知するのも難しいものだ。こうした,ちょっとした変化に気付く目,どう対応したら相手のためかということに気付く心,そして,自分自身の対応を振り返り,受け止める心を持った教師たちが,子どもの心を育てているのだと感じ,今でも私の心に深く

教育随想

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刻まれている。

3 関わりの中で磨かれる感性 人は一人で生活しているのではなく,必ず他との関わりの中で生活している。家では,家族,親戚,近所との付き合いがあり,職場では,上司,同僚は勿論,学校であれば子どもや保護者,地域の方をはじめ,様々な立場の方たちとの関わりがある。一見関係ないように思える街ですれ違った見ず知らずの人やお店の店員さんも,自分を取り巻く中の一人である。 複数の人が関わり合って生活していれば,少なからず影響を与え合い,受け合うことになる。知識や技術は,本を読んだり,練習したりすることで身に付けていくことはできるが,気付く目や気付く心,感動する心,どんな言葉が適切で,何を大切にすればよいかなど,感覚的なものは,そう簡単に身に付くものではない。よく,「人権意識は高まってきたが,人権感覚が身に付いたとはなかなか言えない。」と言うが,意識しないとできないことは,まだまだ感覚として身に付いているとは言い難いということである。 しかし,「環境が人をつくる」と言われるように,人の感性は,取り巻く環境の影響を受け,磨かれていくものだと思う。よく気付く人たちと一緒にいると,自然に目配りや気配りができるようになっていくものである。逆に,物が整理されていない環境の中で生活していれば,整理整頓への意識は薄くなり,乱雑な中で生活していても気にならなくなる。マイナスの見方・考え方をしていると,ついつい欠点指摘型の思考になってしまうものだ。同じ表れを見ていても,「おしゃべりで落ち着かない」と捉えるのではなく,「活発で元気がよい」とリフレーミングして肯定的な思考ができる感性を持ちたいものである。

4 授業における感性 教師の仕事は,授業,生徒指導,学級経営,学校行事等々,多岐にわたるが,中でも最も多くの時間を掛けている授業における感性を磨くのは,教職人生を豊かにする上で欠かせないことである。教科の本質を押さえる感性,子どもの実態を捉える感性,目標に迫る教材・単元計画・手立て・発問等を工夫する感性,子どものつぶやきを拾う感性,子どもの思い・頑張り・困り感を感じ取る感性,子どもの学びを見取る感性…。教師の様々な感性によって,授業は,子どもにとって魅力あるものとなっていく。これらの感性を磨いていくことは,授業力を高めるだけでなく,生徒指導力や学級経営力も高めていくことにつながるのではないだろうか。

 教員の多忙化が注目され,働き方改革が叫ばれている。こうした中で,教師同士の関わりが薄くなり,校内研修が個々に任されないようにしたい。授業を語り合う風土がある学校には,刺激を与え合い,受け合う場がそこかしこにある。教師が感性を磨いていくことは,その先で子どもの感性を磨くことにつながっていくのだと感じている。

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特 集これからの小学校英語で育みたい

資質・能力

 ネイティブの英語話者よりも,ノンネイティブの英語話者の方が多いと言われる現代のグローバル社会。世界中の人々とつながる国際共通語でもある英語を使ったコミュニケーションの資質・能力を育むために,小学校において英語教育をどのように推進していけばよいのだろうか。 新学習指導要領の下で,小学校 3,4 年で「外国語活動」。5,6 年で教科として聞く,話す,読む,書くことの 4 技能を学ぶ「外国語科」になる。大きな変革期を迎えている今,これからの小学校英語で育みたい資質・能力について考える。

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特 集 Ⅰ

問われるコミュニケーション(能力)観:小学校英語の課題静岡大学 学術院教育学領域 教育学部 英語教育講座 准教授 亘理 陽一

 外国語学習を,図 1 に示される要素の重なりと捉えることができる。語彙を覚えることも文法を学ぶこともそれとして重要だが,外国語学習は決してそれのみでは成り立たない。個々の言語表現であれその体系としての文法であれ,それは常に具体的な文脈の中で意味を持つ。仮に理解できない語彙・文法があったとしても,「その場面・状況を理解する」ことで言語的コミュニケーションが成立する場合は少なくない。

 例えば,街中でキャリーケースを引いている人が何かを尋ねてきたとしよう。その人の話す英語がほとんど全く聞き取れなかったとしても,宿の予約情報を書かれた紙を持っていたり困った表情をしていたりすれば,あるいはせめて "hotel"や "place" といった音声が聞き取れたなら,宿泊先までの道順を尋ねているのではないかと推測できるだろう。あるいは,駅や空港で聞こえてきた放送を全て正確に聞き取れなかったとしても,それがスポーツの実況や個人的に想いを伝えるメッセージだとは考えにくく,発車時刻の遅れや乗り場の変更等のアナウンスで

はないかと考えて,自分の乗車予定の便の情報を注意して聞こうとするだろう。 逆に言えば,応じるべき「コミュニケーションを行う目的や場面,状況」とはどのようなものであるかを学習者自身が常に考え模索することが重要だ。教える側には,それに値する必然性を持った言語活動を提供できているかが問われることになる。現実のコミュニケーションで,誰かと会ってすぐ,何の前置きもなく "What animals do you like?" と訊くことが果たしてあるだろうか。そこには,好きな動物について話しているという暗黙の前提がある。しかし,通常それを訊くのは,相手から「昨日,動物園に行った」とか「動物行動学者になりたい」といった報告があったからであろう。確かに,日本語で子どもたちが交わす会話を想像してみると,教室で誰かの席まで行って「ねえ,動物,何が好き?」と突然訊くことはあるかもしれない。しかし,この場合でも,尋ねる前に「ねえ」という呼びかけがあり,「動物」がトピックとして導入されている。「(いま急遽トピックとなった『動物』の中で)何が好き?」と問うまでの,この一つの発言にすら,それを双方にとって自然なものとする文脈が存在するということである。これに対し,いきなり「どの動物が好き?」と訊くとしたらどうだろう。訊かれた方は奇異に感じて「え?動物?何で?」と返すのではないだろうか。この「何で?」に端的に示されるように,質問には何か意図がある。その意図がいつも明示されるとは限らないが,人気の動物調査が目的であれ,動物行動学

< 図 1 外国語学習の 3 要素 >

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者になるためのアドバイスをしようと思ったのであれ,答えを聞いて何も言わずに会話が終了するのは不自然だろう。しかし,子どもたちが教室内を歩き回って "What animals do you like?" とだけ聴き,"I like cats." とだけ答え,(ワークシートに印をつけたり記入したりす)る外国語活動の授業は何度も目にしてきた。これは,コミュニケーションではなく,会話の体裁をしたペアでのパターン・プラクティスである。そのような活動で育まれる「コミュニケーションを図る基礎となる資質・能力」とはどのようなものか,改めて問い直す必要がある。 コミュニケーションには,このような言語一般的な側面もあれば,日本語と英語で特徴が異なる側面もある。「外国語によるコミュニケーションにおける見方・考え方」について重要となるのはその異同であり,それ故,「英語話者の文化(・社会・考え方)を知る」ことが重要となる。例えば相づちには,うなずきと音声表現(とその組み合わせ)があり,音声表現としての相づちは「はい」,「そうそう」,「なるほど」,"Yes," "Right," "I see" のような語彙的相づちと,「ああ」,「ええ」,"Oh," "Un-huh" のような非語彙的あいづちに分けられる。日本語の会話ではうなずきと非語彙的あいづちが英語より多く用いられ,英語の会話では語彙的あいづちが日本語より多く用いられる傾向があり,日本語のほうが相手の発言の途中により多くのあいづちを打つことが研究で示されている(メイナード , 1993; 津田ほか , 2015)。つまり,日本語では自然だと思ってうなずいていても,英語話者にとっては過度な反応に映り,意図に反してターン・テイキングの意思が無いこと,もしくは逆にターンを取ろうと急かす意思表示となるかもしれないのだ。こうした特徴は多くの場合それぞれの言語に埋め込まれており,母語話者が自覚できているとも限らない。Eric Carle の絵本 Do you want to be my friend? の日本語版は『ね,ぼくのともだちになって!』であり,

「ぼくのともだちになりたい?」ではない。それは何故なのか,日英語のどういう見方・考え方がそこに反映されているのか,教える側が教材を研究し,子どもたちが経験をもとに考え,意見を交わすことを可能にする授業づくりが求められる(水島 , 2017)。 「語彙・文法」が外国語学習の重要な柱であることは間違いないが,入門期の段階において学習が具体的な用例を中心に進み,熟達につれ徐々に規則中心の学びへと移行していくと考えればなおさら,現行の中学校の学習内容がそのまま降りてくると考えるべきではない。教科化が直ちに語彙・文法をそれとして網羅的・体系的に扱うことを意味するわけではなく,むしろ今以上に,外国語活動の段階からの(音声・文字それ自体の身体的経験を含めた)豊富な英語受容経験がその後の学習の下支えとなると言える。つまり,日本人教員も含めた周囲の話者の自然な英語使用に触れ,そのメッセージを理解する経験の蓄積が,子どもたちに英語の分析的理解に対する下地を準備するのである。 意味のある英語受容・産出経験という点から見ると,教員・ALT と,あるいは子ども同士で行う言語活動も,文脈から切り離された表現手段をただ覚えて再生し,誰かに正解・不正解の判定を仰ぐようなものではあり得ず,本人の伝えたいこと・訊きたいことから出発し,駆使できる表現手段の中から最善だと思うものを選択し,コミュニケーションがうまく行くことを目指すのが理想ということになる。こちらから表現手段やフィードバックを与えることは勿論あるとしても,本人の伝えたいこと・訊きたいことに必要な表現手段を提供して活用を促すか,与えられた目的・場面・状況に応じて提供した表現手段を駆使

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できるかを問いたい。そうでなければ,子どもたちが英語を使用する過程で「思考力・表現力・判断力」を発揮することも,次につながる手応えや課題を感じることもないだろう。子どもたちが本当に "What animals do you like?" と訊きたいと思うのはどういう目的・場面・状況で,それが意味のあるやり取りとなるには前後にどのような表現手段が必要なのか。これからの小学校英語では,そうした教える側のコミュニケーション(能力)観がますます問われることになる。

参考文献メイナード,泉子・K. (1993).『会話分析』東京 : くろしお出版 .水島梨紗 (2017).「相互作用の中で生じる発話の意味と働き」酒井英樹・滝沢雄一・亘理陽

一 ( 編 )『小学校で英語を教えるためのミニマム・エッセンシャルズ : 小学校外国語科内容論』(pp. 128-140)東京 : 三省堂 .

津田早苗・村田泰美・大谷麻美・岩田祐子・重光由加・大塚容子 (2015).『日・英語談話スタイルの対照研究』東京 : ひつじ書房 .

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特 集 Ⅱ

 新学習指導要領において,外国語教育の充実は,教育内容の主な改善事項の一つとして挙げられている。①小学校において,中学年で「外国語活動」を,高学年で「外国語科」を導入,②小・中・高等学校一貫した学びを重視し,外国語能力の向上を図る目標を設定,③国語教育との連携を図り日本語の特徴や言語の豊かさに気付く指導の充実が図られることとなった。現行学習指導要領では5・6年生の外国語活動計 70 時間単位だったものが,3・4年生の外国語活動計 70 時間,5・6年生の外国語科計 140 時間,合計 210 時間単位と3倍の時数に改訂された。また,国際的な基準などを参考に,「聞くこと」「読むこと」「話すこと [ やり取り ]」「話すこと [ 発表 ]」「書くこと」の五つの領域で,「外国語を使って何ができるようになるのか」を明確にした目標が小・中・高等学校の段階別に示された。以上のように,外国語教育の抜本的強化が図られている。 中学年の外国語活動の目標は,「外国語による聞くこと,話すことの言語活動を通して,コミュニケーションを図る素地となる資質・能力」の育成であり,現行の外国語活動の目標と同じ趣旨である。これまでと同様に,主体的にコミュニケーションを図ろうとする態度を養うためには,言語活動を設定する際に,児童が興味・関心を持つ題材を扱い,「誰に」,

「何のために」という「相手意識」や「目的意識」を持たせ,聞いたり話したりする必然性のある体験的な活動を設定することが大切である。また,中学年の児童が外国語活動において初めて英語に触れることを踏まえ,まず,聞く活動を十分に設定することが大切である。その際,活動を通じて相づちを打ったり,感想を述べたりしながら聞くことを指導し,そのような聞き方がより豊かなコミュニケーションにつながるものであることを実感させるようにしたい。なお,中学年の特徴的な教材として絵本の活用がある。絵本は,理解可能な大量のインプットを与えることができる身近な教材である。児童は絵を頼りに,「英語を聞いて意味が分かる」体験をすることができ,また,同じ表現が繰り返し出てくるため,自然に語彙や表現を身に付けやすいという利点がある。 教科となる高学年の外国語科の目標は,「外国語による聞くこと,読むこと,話すこと,書くことの言語活動を通して,コミュニケーションを図る基礎となる資質・能力」の育成である。「読むこと」「書くこと」の言語活動が追加されているが,知識及び技能の目標には,(1) 外国語の音声や文字,語彙,表現,文構造,言語の働きなどについて,日本語と外国語との違いに気付き,これらの知識を理解するとともに,読むこと,書くことに慣れ親しみ,聞くこと,読むこと,話すこと,書くことによる実際のコミュニケーションにおいて活用できる基礎的な技能を身に付けるようにする。とある。「読むこと」「書くこと」においては,慣れ親しませることから指導する必要があり,「聞くこと」「話すこと」と同等の指導を求めるものではないことに留意する必要がある。また,「読むこと」や「書くこと」の目標には,「音声で十分に慣れ親しんだ簡単な語句や基本的な表現」と限定されていることにも留意が必要である。このことからも,外国語科

小学校外国語教育で育成する資質・能力と授業づくり静西教育事務所 地域支援課 教育主査 染葉 美智子

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の授業も,外国語活動と同様に音声中心の授業であることがわかる。 今回の改訂では,「話すこと」の目標が,[ やり取り ] と [ 発表 ] の2領域に分かれて設定された。国際的な基準を参考にしたこともあるが,実際の日常生活におけるコミュニケーションの場面は,その場でのやり取りが大多数を占めるため,それに対応できる資質・能力の育成が求められている。高学年では,英語表現の定着のために,既習表現を繰り返し使用する活動,いわゆるスモール・トークが設定されている。5年生は指導者の話を聞くことを中心に,6年生はペアで伝え合うことを中心に行う。やり取りをある程度継続させるためには,相手が言ったことを繰り返したり,応答したり,質問したりすることができるように指導をする必要がある。しかし,児童にとって,その場で質問したり,質問に答えたりすることは難しく,すぐにできないのは自然なことである。まず,教師が「やってみせる」指導から始め,児童に成果をすぐに求めず,長いスパンをかけて児童を育てていく意識と継続的な指導が必要である。 また,全教科等において,目指す資質・能力が「知識及び技能」,「思考力,判断力,表現力」,「学びに向かう力,人間性等」の三つの柱で再整理された。生きて働く「知識・技能」,未知の状況にも対応できる「思考力・判断力・表現力」を育成するためには,個別の知識や技能としてのみならず,獲得した知識や技能が実際のコミュニケーションで活用できるように指導することが大切である。つまり,単に機械的に外国語を使ってやり取りするのではなく,児童に言語活動の目的や言語の使用場面を意識させながら,互いの考えや気持ちを伝え合うなどの活動を設定して,児童が必要な言語材料を取捨選択して活用できるようにすることが,今まで以上に重要となる。 現行の学習指導要領の外国語活動で大切にされてきたのは,子どもたちの「聞きたい」「伝えたい」という思いである。6年生の新教材において,I enjoyed fishing. のような過去の表現が扱われる単元があるが,この場合も同様である。あくまで,自分が経験したことを伝えるための表現として指導するだけであり,「過去形」という文法の用法の指導を行うことではない。今現在も,Hi, friends! 2 の Let's go to Italy の単元で,不定詞表現が扱われているが,「不定詞」の文法指導はされていないはずである。子どもたちの「○○したい」という気持ちを表すための表現として,言語活動の中で使用しているにすぎない。新学習指導要領において扱う語彙や表現は多くなるが,大切なことは,子どもたちが伝え合いたいという思いをもって英語でコミュニケーションを楽しむことである。 新学習指導要領における小学校の外国語教育に対して,多くの教師が不安感や負担感を感じており,その理由の多くが,教科化に伴う評価のことや学習指導要領から正しい情報を得るための時間的余裕がないことによると思われる。平成 30 年度から移行措置対応が始まる。ぜひ,校内研修で,文部科学省の HP に掲載されている学習指導要領解説や研修ガイドブックを全職員で読み合い,基本理念や目標及び内容,指導上配慮する事項についての理解を深めながら,学校体制で準備を進めていただきたい。とても丁寧に,分かりやすく記載されているため,理解が深まるとともに,授業を実践する上での疑問の解決につながると考えられる。

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第95回教育研究での取り組み

 子どもの資質・能力を育むために,本校では教科の本質に迫る授業実践を目指して研究に取り組んできた。特に,各教科・総合・英語の授業において深い学びができるよう,課題や問いに対する活動を焦点化した実践や,対話を通して解決策や答えを深めていく実践など,授業改善を進めてきた。これらの授業改善を通して,子どもの資質・能力をより高めることはできたのだろうか。

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1 研究主題について 現在の子どもが成人する時代の我が国は,「厳しい挑戦の時代」を迎えていると予想されている。世界に類を見ない速さで進行する少子高齢化による生産年齢人口の減少,人や物,情報等が国境を越えて行き交う目まぐるしいグローバル化の進展やテクノロジーの発展によって,社会構造や雇用環境は大きく変化するというものである。子どもが就くことになる職業の在り方も様変わりし,子どもの半数以上が,現在には存在しない職業に就業することになるとの予測もある。 また,地球環境問題・環境汚染問題の深刻さを考えると,未来に持続可能な社会を構築することも喫緊の課題になると考えられる。 子どもは,今この社会で生きると共に,将来,めまぐるしく変化する社会の中を主体的に対応して生き抜いていかなければならない。そのためには,我が国の伝統や文化を尊重し,他者と協同しながらより良い社会の構築に参画し,自らのもっている力を発揮して自己実現を図り,未来を切り拓いていく力を身に付けることが求められている。 このような社会を生き抜くためには,学校で知識を身に付けるにとどまるのではなく,知識を活用し,新たな知識を創出できるような資質や能力を子どもに育んでいかなければならない。そこで,今後,子どもに育むべき資質や能力を明らかにし,あるべき学びの姿を研究していきたいと考え以下のように研究主題を設定し,研究を進め2年次となった。

<第 95 回教育研究 研究主題>

21 世紀を生き抜くための資質・能力の育成

2 本校の子どもに育みたい資質・能力と研究課題 本校の子ども(以下,子ども)は,知的好奇心が旺盛で,事象と積極的にかかわり,自分が興味をもったことに対して意欲的に追究する姿が多く見られる。例えば,分からないことや自分の考え方では説明できない事象に出会ったときには,あきらめるのではなく,逆に追究・解決への意欲を高めるようなことが多い。さらに,知識が豊富で,自分の思いや考えを積極的に伝えようとする気持ちをもっている。 しかし,21 世紀を生き抜く資質・能力という視点から,子どもの表れを考えてみると,意欲的に学習に取り組むことが多いものの,自分から積極的に学習課題を見つけるというよりも,学習課題が与えられるのを待っている場合も多い。何が課題になるのか予想もできず,答えなき問いに取り組まなければならない未来を生きる子どもには,自ら課題をつかみ,課題を解決する学びの姿を期待したい。 また,知識が豊富な子どもが多いが,学習においては,答えを知っていることに満足し,新たな知識を生み出したり,より深い理解を求めたりする意欲が低い。さらに,自分だけ課題を解決して学習を終えてしまう場合や,仲が良いという理由で仲間と活動し,人間関係が課題解決志向型の学習集団まで高まらない傾向がある。

総論  21 世紀を生き抜くための資質 ・ 能力の育成

研究主任 中村 孝一

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 このような子どもの姿を見たとき,わたしたちが子どもに育みたい 21 世紀を生き抜く資質・能力は,「子どもが自ら課題をもち,仲間と協同的に課題解決をする中で資質・能力が発揮され,生活の中で使うことができる実践力」まで高めたいと願うのである。 21 世紀を生き抜くためには,協同的に活動する資質・能力と自律的に活動する資質・能力を育むことが必要である。また,ここで育む資質・能力は,授業の中だけで発揮されるのではなく,日常生活で発揮できる実践力まで高め,子どもが生きる未来へも,もっていくことができる資質・能力にすることが必要である。このような自律と協同の資質・能力が育まれるとき,研究主題である「21 世紀を生き抜く資質・能力」に迫ることができると考える。 そこで,研究課題を以下のように設定し,目指す授業創造について実践的に研究することにした。研究課題についても昨年度より継続し,2年次となる。

<第 95 回教育研究 研究課題>

自律と協同の資質・能力を育むカリキュラム創造と授業づくり

3 本校で育みたい資質・能力 資質・能力は,互いの資質・能力を分離・分散して考えるのではなく,資質・能力や知識・技能・態度が相互にかかわり合って,一体的,総合的に高め合い,育成されると考える。自律的に活動できれば協同的に活動できるわけではなく,協同的に活動することの視点が欠けていれば,自律的に活動することの意味を考えることができない。また,思考や知識を高めるためには,教科の本質的な理解が必要であるとすれば,全てが有機的に結びついた文脈で学びが進むはずである。つまり,資質・能力を育む学びとは,自律的かつ協同的に自分や集団の知識や思考を高める過程になるのである。 したがって,本校で育みたい資質・能力とは,

 各教科・総合・生活創造の本質にかかわる知識や技能を高める過程を通して育まれる,自律的・主体的に活動しようとする態度,他者とかかわってより良い自分や集団を生み出そうとする協同的な態度,思考,および知識・技能の総体である。

と定義することができる。

4 これまでの研究の経緯と第 95 回研究の視点 94 回研究では,資質・能力を単体で直接育むことを目指すのではなく,各教科の本質に迫る知識や技能,見方・考え方が個や集団において高まる過程を大切にすることによって,自律的・協同的な資質・能力も育まれると考え,実践を行ってきた。 各論Ⅰ「本質に触れる学びを通して資質・能力を発揮するカリキュラム創造」では,本校で考える各教科・総合の本質を「働きかける対象」と「対象への働きかけ方」と押さえ,各教科・総合の学びの枠組みを示した。各教科・総合において「何を」「どのように学ぶの

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か」を明らかにしたことで,学びのプロセスが重視されるようになった。「本質に触れる学び」により,各教科・総合ならではの見方や考え方,そして自律と協同の資質・能力が一体となって育まれ,それがさらに「本質に触れる学び」を深め,各教科の学びの姿につながることが分かった。 各論Ⅱ「自律と協同の資質・能力を育む授業づくり」では「自律と協同の資質・能力を発揮して学ぶ姿」を本校で目指すべき学びの姿の具体として定義した。そして,課題設定,追究活動,振り返りにおける授業づくりの視点を示し,それらを単元構想や振り返りの視点とし,授業の修正改善を行った。その中で,特に,子どもが葛藤する要素を含んだ課題設定や手立てが学習意欲を引き出し,それが子どもが自律と協同の資質・能力を発揮して学ぶ姿につながることが分かった。 しかし,カリキュラム創造においては,カリキュラム・マネジメントの考え方に基づき,教育活動全体でより効果的に資質・能力を育んでいく必要があるのではないかという課題があげられた。 本校は,カリキュラムを構成する領域として,「教科」,「総合」の2つの領域の他に,「生活創造」領域が設けられ,3領域で教育実践を行っていることに大きな特色がある。前回研究で実践した「教科」「総合」の2領域だけでなく,「生活創造」領域においても育みたい資質・能力や本質と照らし合わせ,目指す子どもの「学びの姿」を表し,教師の手立てを明らかにして実践を行っていく。これによりカリキュラム全体で自律と協同の資質・能力を育むことに向け,3つの学習領域ごとの役割が明確になり,よりよく資質・能力を育むことができると考えた。 そこで,本研究の一つ目の視点を下記のように設定して,実践に取り組むこととした。

<研究の視点Ⅰ>「資質・能力を育むためのカリキュラム・マネジメント

           ―「生活創造」領域の学びの捉え直しから―」

 また,授業づくりにおいては,学習課題によって子どもが資質・能力を発揮しづらい授業や単元になってしまっている場合があるなど,学習課題の質が課題としてあげられた。学習課題は各教科の本質に触れる学びの出発点であり,自律と協同の資質・能力を発揮して学ぶ子どもの原動力となるものである。学習課題の在り方やそれを生かした授業デザインを行っていくことが「本質に触れる学び」や「資質・能力を育む学び」につながるものと考える。 そこで,本研究の2つ目の視点を下記のように設定して実践研究に取り組むことにした。

<研究の視点Ⅱ>「自律と協同の資質・能力を育む学習課題の在り方と授業デザイン」

この2つの視点を,それぞれ各論Ⅰ,各論Ⅱとして具体的な研究に取り組んでいく。

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1 資質・能力を育むためのカリキュラム・マネジメントとは これからの教育現場では,学校ごとに,効果的に,子どもに資質・能力を育むためのカリキュラム・マネジメントを推進していくことが求められる。本校が考える資質・能力を育むためのカリキュラム・マネジメントは,これまでに学校が長い時間を掛けて培ってきたカリキュラムをゼロに戻し,始めから再構築しなければならないということではない。学校がこれまでの教育活動を通じて培ってきたものを大切に生かしながら,子どもに育みたいものについて資質・能力面から捉え直し,より効果的な学びを探っていこうとする営み(school-based curriculum)のことである。カリキュラム・マネジメントには,様々な要素があるが,ここでは,その第一歩となる,「教育目標の具現化」を進め,その達成のための手立てを明らかにすることに焦点を当てていく。

2 資質・能力を育むための「教育目標の具現化」とその手立て 本校では,カリキュラムを構成する「教科」「総合」「生活創造」の三領域について,学習領域ごとに,その役割を「資質・能力」面から再考することにした。 「資質・能力」面から再考するための手立てとしては,以下の3段階を設定した。

(1)学校の現状を把握し,カリキュラム全体を通じて育みたい資質・能力を設定する。(2)学習領域ごとの目標を設定する。(3)学習領域ごとの目標達成のための手立てを明らかにする。

 本校では,第 94 回研究において,(1)については,育みたい資質・能力を「自律と協同の資質・能力」と設定し,それを具体化・明確化した目標として,「自律と協同の資質・能力を発揮して学ぶ姿」を考えた。また,(2)(3)に当たる取り組みとして,「教科」「総合」領域については,それぞれの領域で発揮させる自律と協同の資質・能力や,本質と照らし合わせ目標を表し,その達成のための具体的な手立てを考え,単元や授業デザインを行ってきた。

 そこで本論では,上記で設定した3つの手立てに沿って,「生活創造」領域でも学びの姿として目標を表し,その達成のための具体的な手立てを考えていく。 これにより,本校では,3つの学習領域全てで,目指すべき子どもの「学びの姿」として目標が設定されることになり,「自律と協同の資質・能力を発揮して学ぶ姿」に向かうことができると考えた。

3 「生活創造」とは 「生活創造」は,本校において平成8年度から,子どもの思いや願いを出発点に,子ども自らが生活を創り出す経験を保障する場として,道徳と特別活動を包含した学習領域とし

各論Ⅰ 自律と協同の資質 ・ 能力を育むためのカリキュラム ・            マネジメント— 「生活創造」 領域の学びの捉え直しから—

理論提案者 有川 貴子

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て今日までカリキュラム開発が行われてきた領域である。また,「生活創造」での教師の在り方は,本校の教育全体の基盤となる考え方にもなっている。 平成 29 年度,本校の「生活創造」領域は,以下のような内容で計画・実施している。

学校行事(体験活動を含む)・道徳・プロジェクト活動(学校,学級)・学級活動・英語活動(平成 30年度より教科化予定)・ふれあい活動(異年齢集団による活動)・附小フェスタ(子どもの発案で行う学校祭)

 「生活創造」は,ただ「教科」「総合」以外のいわゆる特別活動や道徳,英語活動等を一括りにしただけの領域ではない。本校では,子どもの生活経験と,学校での教育活動で育むべき人間性や資質・能力とを結び付けながら実践することで,子どもにとってより効果的な学びにすることができると考えている。そのため,「生活創造」領域ではそれぞれの学びにおいて,子どもの体験的活動を伴って展開することに主眼が置かれている。自らの手で生活や活動を創り出す過程の中では,子どもは様々な立場や状況に立ち,仲間と考えたり議論したりしながらよりよい方法を探し出していくべき場面に必然的に出会うこととなり,そこで成功や失敗を積み重ねながら,子どもの人間性が育まれていく。それは,机上での学習や疑似体験に終わらず,実体験を通し自分事として子どもの心に染み込む経験となり,深い学びとして働く。「生活創造」は,子どもを主体に,教師がその体験的な学びに寄り添うことで深めていく学習領域なのである。 そして,「生活創造」の本質は,

 学校行事やプロジェクト活動などの教育活動に子どもが自ら思いをもってかかわり,子ども自らの手で,学校生活をより楽しく,豊かにしていく活動を通じ,そこで人間として生きていくための社会性を経験として学んでいくこと

である。社会的な存在としての人間には,他に対する責任が伴う。他に対して責任をもつとは,自己中心的になったり,逆に社会規範に従順になって逃げたりしないということである。つまり,自主的・自治的な活動を通して,自らの生活を創るとともに他に対する責任を学ぶことが「生活創造」の位置づけである。

「自らの生活を創るとともに他に対する責任を学ぶ」ことは,ここでいう社会性と同義であり,一人ひとりが自分のよさに気づき,自分に自信をもち,自分と身の回りの仲間とが互いの見方や考え方,感じ方の違いを受け入れながら,その存在を認め合い,共に生活する空間を共有し合って生きるよさを知ることである。

4 「生活創造」領域を資質・能力面から再考する 以下 , 項目2で述べた手立てを基に,「生活創造」領域を再考する。(1)「生活創造」で発揮される自律と協同の資質・能力を設定する 「生活創造」の学びで発揮される自律と協同の資質・能力を次のように考えた。

・仲間や学校生活とかかわり,自分の思いをもつこと・自分に自信をもち,表現すること・集団の一員として自分の果たすべき役割を考え,工夫してやり遂げること

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・仲間の思いを大切にして話し合ったり,自分の思いと比べたりすること・目標に向かってよりよい方法を探り,協力して活動すること・自分の立場や活動が周囲に及ぼす影響について気づいたり考えたりすること

(2)「生活創造」の学びの姿(目標)を設定する 学びの本質や「生活創造」で発揮させる自律と協同の資質・能力から,「生活創造」で目指す学びの姿(目標)を設定した。 仲間とともに過ごす生活をよりよいものにするために,学校生活の改善に取り組んだり,社会生活にも進んでかかわったりすることにより,人間関係を築いたり,自分の役割や責任を果たしたり,自分の生かし方を考えたりする経験を積み,社会的存在としての自己を見つけ出そうとしている。

(3)「生活創造」の学びのサイクルと学びの手立て 「生活創造」は教師と子どもが共に創る学びである。子どもの思いや願いを中心とし,子どもが活動を展開しながらも,教師が子どもの活動に寄り添い,その活動を捉えて学びの価値を見出し,次の学びへ向かわせながら,子どもの学びの姿を見取っていくことを繰り返す中で,初めて創られていく学びである。 「生活創造」の学びの主体は,教師ではなく子どもである。「生活創造」の学びのサイクルは,主体である子どもの活動として表される。本校では,「生活創造」の子どもの学びのサイクルを,右図のように考えている。 上で示した学びのサイクルでは,子どもは思いや願いから派生した活動に向かい,始めからこのサイクル通りにスムーズに活動できるわけではない。各段階で 学びが停滞したり,前へ戻ったりすることもあるであろう。そこで,教師は子どもの学びを次の段階に導き,促進する役割を担う。教師が学びにどのような視点をもち,どのように寄り添っていくか,教師の立ち位置が鍵になるのである。そこで,教師の子どもの学びへの手立てを次のようにまとめ,実践している。① 学校生活をよりよいものにするために,子どもが活動に向けて,自分なりの思いや願いをもつ場面を設定する。

② 活動目標を,教師と子どもが共有し,活動へ向けての具体的な課題を把握させる。③ 活動目標を踏まえ,子どもに活動内容や活動の見通しを立てさせたり,計画を考えさせたりする。

④ 子どもが課題解決に至る過程を重視する。試行錯誤の中で活動を追究させ,やり遂げさせる。 

⑤ 一つの事象について様々な考えがあることを体感させる。意見を比較したり,協力したりする体験を通して,仲間と活動することのよさを感じさせる。

⑥ 活動を省察する場面を設定する。振り返りを生かして,次の活動に向けて具体的な課題を把握させたり,必要なアドバイスを行ったりする。

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1 自律と協同の資質・能力を育む学習課題の在り方(1)課題設定の重要さ 子どもが自律と協同の資質・能力を発揮しながら,各教科の本質に触れる学びを進めるためには,学びの出発点となる学習課題が重要である。それは,追究する価値があると感じられる学習課題であれば,学びの原動力となるからである。資質・能力を育成するという面から,学習課題の質をより高めるためには,どのようにしていけばよいかを考えた。

(2)各教科の本質に触れる学びにつながる問いや思い 子どもは,教材や事象,体験活動などの働き掛ける対象と出会った時,様々な問いや思いをもつ。このような子どもが感じた問いや思いを生かして学習課題を設定していくことで,子どもの学習意欲は高まり,学びは深まっていく。子どもが感じる問いや思いから,各教科の本質に触れる学びにつながる問いや思いを学級で共有し,学習課題の設定に生かすことができれば,その後の追究活動の中で,子どもは自律と協同の資質・能力を発揮しながら,各教科の本質に触れる学びを進めることができる。また,直接には本質に触れる学びにはつながらないように感じる問いや思いであっても,それらの問いや思いの中には,各教科の本質に触れる学びにつながる要素が含まれている場合もある。教師がこのような問いや思いを関連させて学習課題を設定していくことで,各教科の本質に触れる学びへと向かわせることができる。 そのため,大切なのは,授業をデザインする際に,子どもが感じた問いや思いから,各教科の本質に触れる学びにつながる問いや子どもにもたせたい思いは何かを見出しておくことである。これを見出さず,子どもが感じた問いや思いであれば,どんな問いや思いでもよいと考えてしまい,それを基に学習課題を設定してしまうと,その後,いくら追究活動を行わせても,子どもの学びは,各教科の本質に触れる学びにつながらない。

(3)本質に触れる学びにつながる問いや思いを見い出す視点 各教科の学びの深まりにかかわってくるのは,各教科で身に付けられる「見方・考え方」である。各教科の本質に触れる学びにつながる問いや思いを見い出す際には,各教科で身に付けられる「見方・考え方」とのつながりを意識することが必要である。各教科の

「見方・考え方」につながるような問いや思いが,本質に触れる学びにつながる問いや思いになる。 そのため,本質に触れる学びにつながる問いや思いを見い出す視点を次のように押さえた。

① 各教科特有の「見方・考え方」を働かせることにより,解決できること② 単元を越えて繰り返し現れるような問いであること③ 単純な一つの答えがなく,多様な考え方や表現方法が出されること

各論Ⅱ 「自律と協同の資質 ・ 能力を育む学習課題の在り方と授業デザイン」

理論提案者 大橋 健一

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④ 様々な知識や技能が統合されて,各教科で身に付けたい「見方・考え方」へとつながること

 このような各教科の「見方・考え方」につながる問いや思いを軸に学ぶことで,自律と協同の資質・能力を発揮しながら,本質に触れる学びを行うことができる。そして,このような本質に触れる学びにつながる問いや思いを生かして,学習課題を設定していきたい。

(4)対象との出会いから学習課題の設定までを一体的に考える 前研究で示した課題設定の視点を踏まえ,子どもが自律と協同の資質・能力を発揮しやすくなるように,最初に子どもに示す教材や学習活動などの対象を考える。そして,子どもの実態と照らし合わせ,最初に示す教材や学習活動,それらに含まれる葛藤の要素,教師が講じる手立てなどから,子どもがどのような問いや思いを感じるかどうかを考える。この時,葛藤の要素を含む教材や学習活動を示した場合には,葛藤の要素から,子どもが感じると考えられる問いや思いには,どのようなものがあるかについても考える。 また,各教科で身に付けたい「見方・考え方」から学習課題や最初に提示する対象を考える場合もある。このように考えていく時には,まずは,各教科の本質や各教科で身に付けたい「見方・考え方」は何かを考える必要がある。それを明らかにしたら,その

「見方・考え方」につながる問いや思いは何かを考え,学習課題を設定する。そして,その学習課題につながるように最初に提示する対象や子どもの関心が向かうような対象との出会わせ方や学習活動,手立てを考えていく。 自律と協同の資質・能力を発揮しながら,本質に触れる学びにしていくためには,最初に提示する対象との出会いから,子どもがどのような問いや思いを感じるか,各教科で身に付けたい「見方・考え方」から学習課題や最初に提示する対象を何がふさわしいかなど,これらを一体的に考え,学習課題を設定していくことが重要である。

2 自律と協同の資質・能力を育む授業デザイン 設定した学習課題を生かして,授業をデザインしていくために,大切なことを次のように考えた。

(1)働き掛ける対象から学習課題を共有したり焦点化したりする 最初に提示した教材や事象・学習活動から,すべての子どもが本質に触れる学びにつながるような問いや思いをもつとは限らない。そのため,提示した教材や事象・学習活動から本質に触れる学びにつながる問いや思いへと子どもの追究や関心が向かうような手立てを考えることが必要である。 また,本質に触れる学びにつながるような問いの中には,子どもは気づかない問いではあるが,それを問われると,子どもが追究して答えを出してみたくなるような問いもある。そのような問いが,各教科で身に付けたい「見方・考え方」へとつながるのであれば,このような問いを子どもに学習課題として教師が投げ掛ければよい。

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 本質に触れる学びへとつながる問いや思いから,仲間と追究せざるを得ないことや追究したい学習課題を仲間と共有し,追究していくことを焦点化していくことが必要である。

(2)学習課題を追究するために必要なことは何か考える 学習課題を追究するためには,それを考えるための材料が必要となる。それは子どもがもつ知識であったり,教材や資料であったり,学習環境であったりするなど様々なものが考えられる。追究を深めるためには,子どもはどのような知識をもっているかを把握し,どのような教材や資料,体験活動,学習環境の工夫などが必要であるかを考える必要がある。

(3)子どもの学びの文脈を「本物の実践」に近づける 資質・能力を育んでいくためには,資質・能力を十分に発揮する経験を積み重ねていくことが必要である。そのためには,子どもの学びを現実の世界に存在する「本物の実践」に可能な限り近づけるように,子どもの学びの文脈を考えていくことが必要である。このような学びの文脈は,真正な学びの文脈と言われる。真正な学びの文脈に近づけるのは,現実の世界に存在する問題を解決する際には,様々な教科の知識や技能,これまでの経験などで得た知識などが組み合わされて用いられるため,真正な学びの文脈に限りなく近づけた方が,子どもがより資質・能力を発揮しやすくなると考えられるからである。

(4)対話を促す支援を考える 学習課題が仲間と追究せざるを得ない,仲間と追究してみたい共通の課題となっていれば,課題に対する自分の考えができてくると,仲間と話し合いたいという気持ちが自然と生まれてくる。また,対話は,考えを深める際に,重要なものでもある。他者と話し合うことで,自分の考えと仲間の考えとの共通点や相違点に気づき,自分の考えを深めることができる。このような対話を促す支援を考えていくことが,重要である。

(5)学びの振り返りの仕方を工夫する 自分の追究や仲間との追究の結果,どのようなことが分かったのか,何ができるようになったのかを自覚することが大切である。そして,学習課題を解決し,学習内容を理解することにより,新たに感じる問いや思い,課題もある。この新たに感じた問いや思いを解決したことにより見えてきた新しい課題を自覚することも大切である。そのために,学びの振り返りの仕方を工夫することが重要である。

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1 子どもの問いや思いを生かし,本質に触れる学びにつなげる学習課題の設定(1)単元デザイン

単元の本質 発揮させる自律と協同の資質・能力 登場人物の心情の変化や人物の相互関係について話し合うことを通して,登場人物の生き方や作者のものの見方や考え方を捉え,自分の考えをまとめること

・初発の感想を基に,作品に対する思いをもったり,感じ方の違いに気づいたりすること・大造じいさんの作戦名を話し合うことで,物語の構成やおおまかなあらすじを捉えること

学習活動1 椋鳩十作品のブックトークを聞き,

共通点や感じたことを話し合い,学習の筋道をつかむ。

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3つの作戦から,大造じいさんの残雪に対する思いや見方を読み取る。

2 作品の魅力を新聞で伝えるために,効果的な表現方法や読み取る視点について考え,学習課題を立てる。

7 大造じいさんの最後の言葉を基に話し合う。

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大造じいさんとガンを通して学んだ椋鳩十作品の魅力を新聞にまとめて仲間に伝え,推敲を加えて新聞コンクールに応募する。

3 大造じいさんとガンを読んで,初発の感想を話し合う。

4 大造じいさんの3つの作戦について話し合い,物語の大筋をつかむ。

(2)学習課題の設定 単元の導入では,椋鳩十作品について話し合った。2学期の始めから教室には椋鳩十作品集が設置してあり,子どもは1つ以上の作品に目を通していた。そこで,自分が読んだ作品についてペアで話合い,共通するものは何かをベン図に整理させた。すると,作品は違えども,どの作品にも共通する作者のものの見方を子どもは捉え始めた。ノートには、「動物とのかかわりをえがいた作品が多い」「作者は命の大切さを投げ掛けている」

「動物が強く生きるための『おきて』がある」「読者に動物と同じように助け合い,協力しようという読後感を与えている」などと記述されていた。そこで,椋鳩十作品について読み取ったことを表現する方法として,新聞コンクールに応募し,客観的な評価を受けることを提案した。 第2時では,新聞コンクールに応募するに当たって,「どうすれば目にとまるような新聞が作れるか」と投げ掛けた。すると「見出しや文字の大きさを工夫すべき」「図やイラストを入れたい」といった表記に関する意見が多く,内容面に意識が向いていなかった。そこで,実際にコンクールに応募した作品を見せ,「ごんぎつねを例に考えたら,どんな記事が書けそうか」と問い掛けた。すると「作者を紹介したい」「動物の本当の姿を解説したい」「作り話を考えたい」「作者の考えに対する自分たちの考え(批評)を入れたい」

国語科Ⅰ 田中 義文

5年 「椋鳩十作品の魅力を発信しよう」 ~大造じいさんとガン~

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など、様々な意見が出された。さらに「大造じいさんとガン」が昔から変わらず扱われていることを伝え,それはなぜかを問い掛けた。子どもは「魅力的な話だから」「感動させられるから」「椋鳩十の考えが分かって,読む価値があるから」などと発言した。子どもが作者や作品の魅力を捉えながら読もうという意識をもてたところで,「作品の魅力を読み解いて,新聞記事で伝えよう」という学習課題を設定した。

2 自律と協同の資質・能力を発揮させるための手立てと子どもの表れ 第7時では,大造じいさんの最後の言葉にある「ひきょうなやり方」「堂々と戦おう」に着目させることで言葉の矛盾に気づかせ,「おりのふたをいっぱいに開けてやりました」という行動から大造じいさんの心情を深く捉え直すことを通して,作者である椋鳩十の物事の捉え方を考えさせた。 「狩人が猟をすることに卑怯なことなんてあるのか」と教師が投げ掛けると,「狩人も生きていくために猟をするから卑怯ではない」「大造じいさんは真剣に猟をしている」という意見が出た。また一方で「卑怯というのは残雪に対しての気持ち」「ライバルや友人のように感じていた残雪に対しての大造じいさんの考え」という意見も出てきた。大造じいさんの立場から考えを深めていこうとする様子を見取った教師は,個々の考えをワークシートに書かせた後,グループで話合いを行った。 前時の学習で,「ハヤブサとの戦いを通して,大造じいさんと残雪には友情が芽生えた」

「大造じいさんは残雪をライバルと考えていて,戦いを楽しみにしている」という主旨の考えが多く発表されていたので,グループワークでも大造じいさんの残雪に対する考え方が話し合われた。ホワイトボードには「大造じいさんはずるをしないで戦いたかったと思う。大造じいさんのプライド」「来年もダイナミックな戦いをしたいと思って放したのではないか」「ハヤブサが入ってしまって正々堂々と戦えなかったので、また正々堂々と戦いたいと思っている」などの記述があった。最後に全体で話し合うと,A女が「ハヤブサとの戦いで弱っている残雪をとってしまうのはいいとこ取りで卑怯なやり方。私だったらライバルとは全力でやりたい」と発言した。こうした発言を受けてまとめたワークシートには「来年は1対1で戦いたい。来年のじいさんの作戦を残雪が破るのが楽しみになっている」「じいさんは堂々と男らしい戦いがしたかった。残雪と戦うことは自分の生きがい」といった記述が見られた。話合いを通して,大造じいさんの心情を深く捉え直し,作者の意図する人間と動物との関係に着目した深い学びにつながったと教師は見取った。

3 実践を振り返って 新聞コンクールで紹介するにあたり,文学作品の何を取り上げていくかを話し合って進めていくことで,単元を通して目的意識をもち,学びを深めることができた。今後も対象との出会いからどんな目的意識をもたせられるかを考えていきたい。

< 心情について話し合う子ども >

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1 子どもの問いや思いを生かし,本質に触れる学びにつなげる学習課題の設定(1)単元デザイン

単元の本質 発揮させる自律と協同の資質・能力 登場する人物についての人物像,考え方や生き方を同じ人物をテーマにした複数の本や資料を比べて読むことにより,多面的にとらえ,自分の考えを形成すること

・複数の本や資料を読み比べることで人物像をつかんだり,表現の類似点や相違点に気づいたりすること・偉人の人生に触れ,仲間と話合うことを通して自分なりに価値づけるとともに自分の考え方や生き方を見つめること

学習活動1 「井伊家伝記」の一部を読んで分かる

ことを出し合い,井伊直虎の考え方や生き方について知りたいという思いをもつ。

5 井伊家の姫様が次郎法師になった訳とそのときの次郎法師の心情を探る。

2 「女城主 井伊直虎」や児童用文庫「井伊直虎」を読んで,直虎の生涯をまとめる。

6 次郎法師が女城主直虎になった訳と直虎となって奮闘したときの心情を探る。

3 7 虎松を家康に引き合わせた訳とそのときの直虎の心情を探る。

4 直虎に関わる井伊家人物関係図をまとめる。

8 直虎の考え方,生き方に対する自分の考えをまとめる。

総合的な学習の時間

・外部講師のお話を聞く。・校外学習に行く(龍潭寺,大河ドラマ館)・5年生にパンフレットを見せながら「井伊直虎」を紹介する。・体験旅行中に,京都で出会った人に「井伊直虎」を紹介する。

(2)学習課題の設定 第1時では,古文で書かれた井伊家伝記を提示し「亀之丞が信州へ落ち行くことと姫が剃髪することにどんな関係があるのだろう」「尼と僧侶は何が違うのだろう」「次郎法師になったとき姫は何歳だったのだろう」「なぜ女の人が城主になったのだろう」といった疑問を生み出すようにした。そして,井伊家伝記を読んで分かることを尋ねた。すると,

「直盛公には一人の娘がいた」「娘と亀之丞は結婚の約束をしていた」「亀之丞が信州に落ち延びたので,娘は南渓和尚の弟子になった」「次郎法師の一生が書いてある」「分かった。これは井伊直虎のことだ」など分からないなりに仲間と話し合う中で,大河ドラマで放映されている井伊直虎のことが書かれていることに気づき始めた。しかし,大河ドラマを見ている人数を調べると約4分の1,直虎に関わる本を読んだことがある子どもは一人もいなかった。 そこで,「直虎の考え方や生き方を知り,大河ドラマ化された訳を考えよう」と投げ掛

国語科Ⅱ 佐野 教代

6年 「井伊直虎」 を紹介しよう

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けることで,問いや思いを共有,焦点化した。そして,直虎のことを知ったらどうしたいかを尋ねると,「直虎のことをパンフレットにまとめて下級生に説明したり,体験旅行に行ったときに京都の人に渡したりしたい」という意見にまとまり,「井伊直虎のことを知って下級生や京都の人に紹介しよう」という課題を設定した。

2 自律と協同の資質・能力を発揮させるための手立てと  子どもの表れ 第5時では,井伊家の姫様が次郎法師になった訳とそのときの次郎法師の心情を探ることにした。そのために,5冊の本から追究したい本を選ばせ,井伊家伝記をもとにどのように出家の場面が描かれているかについて考えさせた。 個人で自分の考えをもち,それをもとに小集団で交流し,全体での話合いにつなげる中で,自律と協同の資質と能力を発揮させることができると考えたからだ。まず,姫の様子や心情が分かるところに線を引かせ,そこから分かることを書き込ませた。次に同じ本を選んだ3~4人組で話し合い,出家に対する姫の心情が強く表れている文を3文選ばせランク付けをさせた。そして,全体の場で選んだ文と理由を発表させ,気づいたことをまとめていった。 子どもは,仲間と話し合うことで文を吟味し「-亀之丞さまがわたくしをお嫁様にしなくても,わたくしは亀之丞様以外のお嫁様にはなれません!わたくしは,約束を裏切るようなことは,ぜったいにしません」「私の代で,井伊家をつぶすわけにはいかない…」「-井伊家のことを思うからこそ,わたしはきめたのです!」「-わたしさえ尼になれば,だれも殺されたり罰せられたりしないですみます…」「-自分でさっさと,髪をうなじのあたりでばっさりと切り落として…」などの文を挙げた。そこから,気づいたことを発表させると,表し方は本によって違うけれど,どの本からも,井伊家を守りたいという姫の思いが伝わってきた。常体で書かれている本と敬体で書かれている本では,常体の方が姫の必死さを感じた。などのように表現に着目する子どもがいた。また,自分の幸せよりも井伊家を守ることを優先したところがすごい。女の命とも言える髪の毛をばっさり切るなんて私にはできないけれどその覚悟がすごい,などのように姫の人物像や生き方に着目する子どももいた。これらの発言から,教師は,自らの考えをもち,仲間と話し合うことで読みを深めることができたと見取った。

3 実践を振り返って 地域素材を教材化するために,複数の本や資料の比べ読みを行い,類似点や相違点を見つけながら人物の心情に迫り,自分の考えを形成することができた。今後も対象との出会いを工夫し,単元の本質に触れる学習課題を設定していきたい。

< 天龍寺で会った人に直虎を紹介する子ども >

< 叙述について話し合う子ども >

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1 子どもの問いや思いを生かし,本質に触れる学びにつなげる学習課題の設定(1)単元デザイン

単元の本質 発揮させる自律と協同の資質・能力 浜松市のものづくり(生産の仕事)について観察,調査したこと,地図や各種統計資料を活用して調べ,ものづくりの様子やそれらに携わる人の思いや願い,背景などを自分自身の生活と結び付けて捉えること

・ものづくりについて調査したことや,各種資料を基に,根拠を明確にして考えを説明し,仲間と比較すること・仲間と課題解決に取り組んだり,考えを交流したりし,浜松市のものづくりについて多角的・多面的な見方をすること

学習活動【ステージⅢ~ものづくり編~(12 ~ 22 / 60)】1213

浜松が「ものづくりのまち」と呼ばれていることを知り,学習課題を設定し,学習の見通しをもつ。浜松市はなぜ「ものづくりのまち」と呼ばれているのだろう。

16~18

ものづくりの見学に行き,どんな物がどのように作られているかを調べる。

1920

調べたことをポスターにまとめ,ポスターセッションを行う。

14 浜松市ではどこでどんな物が作られているかを調べる。

21 「ものづくりのまち」と呼ばれる理由とこれからの「ものづくりのまち浜松」について考える。

15 見学したいものづくり(工場)を選び,グループ毎に見学の計画を立てる。

22 見 学 し た こ と を も と に 工 場 宣 伝SONG をつくる。

(2)学習課題の設定 ステージⅢでは,浜松市の「ものづくり(生産の仕事)」の様子について調べ,そこで見つけたことを浜松紹介 SONG にまとめていく。前ステージまでの浜松の様子を紹介する歌をつくるという課題とともに,浜松の「ものづくり」自体に子どもが課題をもち,追究活動を行わせたいと考えた。 第 12 時では,「ものづくりのまち浜松」というキャッチフレーズが存在することを伝え,なぜそのように呼ばれるのだろうと投げ掛けた。すると,「浜松ではいろんなものをたくさん作っているのではないか」「本田宗一郎がいたからではないか」「ものをつくる仕事をしている人がたくさんいるのかもしれない」「日本で一番ものを作っている市なのかもしれない」などと様々に予想をした。そして,市町別工業生産額の資料を提示した。全国では工業生産額が 16 位であることを読み取ると,「どうして全国で上位でもないのに『ものづくりのまち』と呼ばれているんだろう」と疑問(葛藤)が生まれた。そこで,浜松市の「ものづくり」の様子について詳しく調べ,なぜ「ものづくり」のまちと呼ばれているか,その理由を解き明かそうという課題を設定した。「浜松市のどこでどんな物が作られているか」「生産量全国一位のものはあるか」「浜松発祥の物はあるか」「浜松の

社会科 中村 孝一

3年 「浜松紹介 SONG をつくろう~ものづくり編~」

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ものづくりの歴史を調べたい」「実際に工場に見学に行き,様子を調べたい」など,子どもたちから具体的な課題を次々と引き出すことができた。

2 自律と協同の資質・能力を発揮させるための手立てと子どもの表れ 第 21 時では,これからの「ものづくりのまち浜松」のために自分たちができることの 1つが,その魅力を歌で発信することではないかという意見が出された。そこで第 22 時では,浜松のものづくり全体を紹介する歌ではなく,それぞれの工場のすばらしさを宣伝する歌

(替え歌)をグループ毎に作る活動を設定した。グループ毎に工場に見学に行き,工場の様子やそこで働く人から様々な「ものづくり」の魅力を一人一人が感じ取っている。それぞれが感じ取った魅力を伝え合い,それらを精選しながら工場を宣伝する歌を作ることで,何を魅力として歌詞に取り入れていくか他者と折り合いをつける必要性が生まれるとともに,様々な魅力について話し合う活動を通して,自分だけでは気づかったその工場の魅力にあらためて気づくことができると考えた。 第 22 時の「どんなことを歌詞に盛り込んでいくか」を話し合う活動では,まず各自が歌詞に盛り込みたい内容を付せんに書かせた。そして内容について「必ず入れたい」「入れてもよい」「入れる必要なし」の3つに整理しながら順位付けを行わせ,上位5つの内容を歌詞へ盛り込んでいくようにさせた。また,似たような内容は付せんを重ね1つに整理していくように声を掛けた。子どもは「製品名は必ず入れたい。でも代表的なものだけでいいのではないか」「作っているものもすごいけれど,職人さんの技術がこの工場の魅力じゃないかな」「『頑張って作っている』という言葉よりも,工場の人が大切にしていた言葉『考え,チャレンジする』という言葉の方がものづくりへの思いが伝わる」「浜松で初めて作られたものだから『浜松生まれ』という言葉を入れていこう」などと付せんに示した各自の意見を統合したり,精選したりしながら各工場の魅力について捉え直していった。また,入れたい内容がなかなか決まらないというグループがあった。そこで,他のグループの様子を見に行く時間を設定した。作っているものやその品物のよさ,働く人のすごさや工夫,ものづくりに対する考え方など,他のグループの作った歌詞や他のグループの仲間からヒントを得て自分のグループへ持ち帰り,話合いを進める様子が見られた。

3 実践を振り返って 事実とのずれから子どもの問いが生まれる葛藤状況をつくり出し,学習課題を設定することは本質に触れる学びに有効であった。また,個々の学びを持ち寄り,グループとしてより最適なものへと追究活動を進めていくことで,さらに個々の学びが深まったり,次の課題が見つかったりするなど,深い学びへとつながることが分かった。今後も対象との出会いを工夫し,学習課題を設定していきたい。

< 付せんを使って歌詞を検討する様子 >

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1 子どもの問いや思いを生かし,本質に触れる学びにつなげる学習課題の設定(1)単元デザイン

単元の本質 発揮させる自律と協同の資質・能力 回転の大きさを表す量としての角の意味について理解し,角の大きさを普遍単位「度

(°)」を用いて表したり,分度器を使って角度を測定したり,角をかいたりすること

・角の大きさの測り方を考え,分度器を用いて角の大きさを測定したり,必要な大きさの角をかこうとしたりすること・角の大きさを表すための方法として,普遍単位「度(°)」の必要性やそのよさを仲間と話し合うこと・仲間と共によりよい扇を作り,投扇興大会を行うこと

学習活動1 投扇興を体験させ,自分の作りたい

扇のイメージをもち,扇子を紙に描き写す。

5 分度器を使って,必要な大きさの角を測定する。

2 紙に描き写した扇形がどんな扇形なのかを調べる活動を通して,角の大きさに目を向ける。

6 身の回りにあるいろいろなものの角の大きさを,分度器を用いて測ったり,必要な大きさの角をかいたりする。

3 紙に描き写した扇形の中心角を,三角定規などを使って調べる。

7 自分で作った扇を使って、グループ対抗の投扇興大会を行う。

4 角の大きさをだれにでも分かりやすく表すにはどうすればよいか考える。

(2)学習課題の設定 第1時では,初めに子どもに投扇興の動画を見せ,場の設定や投げ方などの基本的なルールを確認した。その後,扇子の開き具合は自由に変えて良いこと,厚紙で自分の扇を作って投扇興大会を行うことを伝え,自由に遊ばせる時間をとった。子どもは,扇子の開き具合を自由に変えて遊びながら,「扇子を大きく開いておくと,ふわりと飛ぶな」「扇子を閉じた方がまっすぐ飛ぶから,狙いやすいかもしれないな」と自分の作りたい扇のイメージをふくらませていった。この開き具合を変えながら遊ぶ活動を通して,回転量としての角を意識させながら,自分の作りたい扇を紙に描き写させた。また,子どもに「どんな扇を作ろうと思ったのか」と問いかけたところ,「扇子をいっぱいに広げたところから少し閉じた扇」「扇子を両手いっぱいに開いた扇」「三角帽子やピザみたいな形の扇」などと言い表す姿が見られた。

算数科Ⅰ 服部 優

4年 「投扇興大会を開こう」

< 投扇興に挑戦する子ども >

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 第2時では,「的によく当たる扇について調べよう」と投げ掛け,第1時で命中率の高かった扇について,図形の特徴を調べる活動を行った。子どもは,扇形の半径や弧の端から端までの距離について,定規を使って調べたり,扇子の面積や中心角の大きさが,与えられた扇子の骨の数がいくつ分かを調べたり,三角定規を組み合わせて中心角の大きさを表そうとしたりする姿が見られた。活動の中から,「同じ扇子でも,調べる扇子によって骨の数が違うよ」「長さは定規で測れるけれど,面積や角の大きさを測れる道具はないのかな」という声が上がった。そして,広がり具合を正しく測ったり伝えたりするためには,中心角を正しく計測することが大切だということに気づき,「角の表し方や測り方を調べて,自分の扇を作ろう」という学習課題を設定した。

2 自律と協同の資質・能力を発揮させるための手立てと子どもの表れ 第2時の的によく当たる扇について調べる活動の交流の場面で,ジグソー法を用いることで,角についての普遍単位の必要性に気づかせたいと考えた。そのために,第1時の投扇興で遊ぶ場面から,グループごとに半径が同じで骨の数の異なる3種類の扇子を使わせた。そして,よく当たる扇について調べて交流する場面で,違うエキスパートグループと交流することで,同じ骨の数の扇子でも開き具合が違ったり,同じ扇子の開き具合を表しても骨の数が違ったりすることに気づき,扇子が測定の道具としては不十分であること,長さについて,定規を使って計測し,cm を使って表したように,角も普遍単位で表し,それを計測する道具が必要であることに気づき,学習課題につなげることができた。 また,単元のまとめとして,投扇興大会をグループ対抗で行うこととし,単元全体を通してグループで学習する活動を多く取り入れた。その結果,分度器の中心を合わせて測定できない子や,110°の角に 70°と書いている子にもグループの中で声を掛け合いながら正しい分度器の使い方を身に付けていく子どもの姿が見られた。 これらの子どもの姿から,教師は子どもが自らの考えをもち,仲間と協力して学びを深めていくことができたと見取った。

3 実践を振り返って 本単元では,遊びの中から算数の課題を見つけ,課題を解決する必要性を感じながら活動ができるように,単元構想を工夫した。子どもは扇形を描き写したり,どんな扇形かを友達に伝えたりするためには,扇形の半径と中心角の大きさが分かれば良いことに気づき,算数科の本質に触れる学びを行うことができた。一方,前単元で面積の学習をしていたため,扇形の説明に面積を使うことにこだわる子どももいた。単元だけでなく,年間計画や系統性も踏まえて単元構想を立てる必要性を感じた。今後も対象との出会いを工夫し,生活の中や遊びの中から算数科の本質に触れる学びにつなげられるような学習課題が設定できるよう,研究を深めていきたい。

< 扇子を使って開き具合を説明する子ども >

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1 子どもの問いや思いを生かし,本質に触れる学びにつなげる学習課題の設定(1)単元デザイン

単元の本質 発揮させる自律と協同の資質・能力 三角形や四角形などの身の回りにある図形について,構成要素に着目して図形を分類したり構成したり,性質を見い出したりすること

・身の回りにある図形の分類の仕方を辺や角に着目して,仲間と共に考えること・タングラムやパターンブロックなどを使って,仲間と共に形作り遊びを行ったり図形を構成したりすること

学習活動1 タングラムやパターンブロックを

使って,形作りを行う。6 長方形や正方形の意味や性質につい

て知る。2 ピースの仲間分けの仕方を考えるこ

とを通して,三角形や四角形について知る。

7 直角三角形の意味や性質について知る。

3 8 方眼紙に長方形や正方形,直角三角形をかいたり,折り紙で作ったこれらの図形を敷き詰めたりする。

4 紙を切ったり,点を結んだりして,三角形や四角形を作る。

9 パターンブロックを使って,三角形を作る。

5 紙を折って直角を作り,それを基にして,タングラムやパターンブロックの仲間分けをする。

(2)学習課題の設定 第1時では,図形への関心を高めるために,タングラムやパターンブロックを使った形作りを行わせることにした。その際に,各自が作ったものを説明する中で,どのような形を使ったかうまく説明できない状況があることに気づかせることにより,図形の構成要素に着目した仲間分けの活動へとつなげようと考えた。 タングラムやパターンブロックでの形作りを行わせた後,どのようなものを作ったのか発表させた。子どもは,「赤と緑を使って,花を作ったよ」「黄色をたくさん並べて,はちの巣みたいなのを作ったよ」「青と白のピースを使って,きれいな模様をつくったよ」などと発表をした。ほとんどの子どもが,使ったピースを説明するのに,色を用いていた。そこで,教師は,「青を使って作ったと言ったけど,このピースのことかな」とタングラムに入っている青色の三角形のピースを示した。子どもは「違うよ。このダイヤみたいな形のピースだよ」とパターンブロックのピースのことだと言った。「でも,みんなの説明だとどちらのピースのことも青と言っているから,分からなかったよ」と話すと子どもは「確かにそうだ」と言って納得していた。そこで,教師は子どもに,「これらのピースのことをうまく仲間に伝えるにはどうしたらいいかな」と子どもに投げ掛けた。そして,

算数科Ⅱ 大橋 健一

2年 「形の仲間わけ」 をしよう

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子どもの「みんなが同じ名前で形のことを呼べばいい」という発言を受け,教師は,「形に名前を付けるために,仲間分けの仕方を考えよう」と投げ掛け,「形の仲間分けをしよう」という学習課題を設定した。

2 自律と協同の資質・能力を発揮させるための手立てと子どもの表れ 第9時では,パターンブロックの緑色のピース9枚を使ってできる三角形と同じ三角形をいろいろなパターンブロックのピースを使って作る活動を行った。 この三角形の作り方は,40 種類以上ある。組み合わせ方の多様さも考えると,一人だけではうまく課題を解決できず,他者と協同する必要性が出てくることが考えられるため,単元の最後に設定することにした。 追究活動を始めると子どもは,「赤色のピースだけでも三角形ができる」「青色のピースと緑色のピースを使って,三角形ができた」「たくさんの作り方が見つかって,時間が足りない」「黄色のピースを使っても三角形が作れた」とつぶやきながら,様々な組み合わせ方で三角形を作っていった。進んで追究を行う子どもの姿から,自律の資質・能力を発揮していることが感じられた。 追究活動後,全体での話合いを行った。始めに,何枚のパターンブロックのピースを使って,三角形を作ることができたか聞くと,子どもは,3枚から9枚のパターンブロックを使って,三角形を作ることができたと答えた。そのため,それぞれの枚数でどのようにして,三角形を作ったのかを発表させた。その中で,7枚を使った作り方を多くの子どもが見付けていないことが分かった。「7枚のパターンブロックのピースを使った作り方を見付けてみよう」と子どもに投げ掛けると,周りの仲間と話合いながら,7枚のパターンブロックを使った三角形の作り方を再度追究し始めた。仲間と作った組み合わせ方を確かめたり,分からない時には仲間に相談したりする様子が見られた。

3 実践を振り返って 図形への関心を高め,図形の構成要素に着目して仲間分けをすることができるように,単元を通して,タングラムとパターンブロックのピースを使って活動できるように単元をデザインしたことで,子どもは自律と協同の資質・能力を発揮しながら,学ぶことができた。 しかし,第9時の子どもの表れのように,個々での追究に没頭してしまう様子も見られたため,協同の資質・能力を発揮できるような授業デザインや手立てについて,今後更に研究を深めていきたい。

< 追究活動の様子 >

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1 子どもの問いや思いを生かし,本質に触れる学びにつなげる学習課題の設定(1)単元デザイン

単元の本質 発揮させる自律と協同の資質・能力 土地やその中に含まれる物に着目して,土地のつくりやでき方を多面的に調べ,土地のつくりと変化を捉えること

・自分の知識や概念では説明できない現象や事象に出会い,課題をもつこと・仲間に自分の考えを伝えること・仲間と自分の考えを比較すること・仲間と協力し,最適解を導き出すこと

学習活動1  西之島が成長し変化する様子を映

像資料で観察することを通して,土地はつくられ,変化することをつかむ。

7  顕微鏡やルーペを使って,地層を構成している礫岩,砂岩,泥岩の特徴を知り,堆積岩についての理解を深める。

23

 粘性の異なる素材を用いた火山のモデル実験を通して,火山活動による地層のでき方を知る。

8  化石を分類する活動を通して,化石となった生物が生きていたときの環境を類推する。

4  顕微鏡やルーペを使って,火山灰や礫の特徴を調べ,火山の活動により形成された地層の理解を深める。

9  地層モデルの操作や資料から,土地の形成を考え話し合うことを通して,水中で形成された地層が地上で見られる妥当な考えに近づける。

56

流水実験や堆積実験を通して,流れる水の働きによる堆積でできた地層の形成を知る。

1011

 50 万年後の富士山と北岳の標高を考えることを通して,土地の変化を多面的に捉える。

(2)学習課題の設定 地層には,流れる水の働きによって水の中で礫・砂・泥が堆積してできる場合と火山活動によって火山灰や溶岩の積み重なってできる場合の主に2通りがある。本校の5・6年生は7月末に富士山麓の野外施設で林間学校を行うので,火山の景観や火山活動によってつくられた土地に親しんでいる。朝霧高原から見える富士山の大沢崩れは年々広がっており,このことを題材にすることで,大量の土砂が移動していることが理解しやすくなり,流れる水の働きによる土地の侵食・運搬・堆積に思考が結び付きやすいと考えた。さらに,静岡県のはるか南にある西之島の 2013 年からの噴火,拡大はたびたび報道され,土地の拡大が 2017 年現在も進行している。このような現状を活用し,火山活動を土地のつくりと変化の単元の始めに取り扱うことで,土地がつくられ変化する一連の過程を順序良く学べると考え

理科 村松 正浩

6年 「山はどうして高いの? ~土地のつくりと変化~」

< 火山噴火のモデル実験 >

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た。また,火山ではない山があり,高いのはなぜなのか。そもそも水の中に堆積した地層はなぜ地上で見ることができるのか。単元の中で教師が意図的に「山はどうして高いのか」と子どもに投げ掛けることが,子どもが見慣れている土地の形状に光を当て,見慣れている土地のことなのに実は科学的につくりを理解しているわけではないという気づきにつながり,学ぶ意味をもつことに結び付くと考えた。このようにして,山を本単元の出発点とした学習課題を設定した。

2 自律と協同の資質・能力を発揮させるための手立てと子どもの表れ 第8時に,化石の分類をすることで,子どもは化石には水中の生物が多いことに気づいた。そこで,教師は水生生物の化石がなぜ地表で見られるのかと意図的な問い掛けをした。すると,子どもは既習学習や経験などを活用して,自律の資質・能力を発揮し「水は,温められると蒸発する。海の水も蒸発し,海面が下がって地層が地表に現れた」と考える干上がり説。「土地が左右から大きな力を加えられ,地層がずれて盛り上がり,地表に現れた」と考える地震説。

「波の力により,海底に沈んだ水生生物や泥・砂・礫などが打ち上げられ地表に現れた」と考える波による打ち上げ説の主に3つの説を形成した。そこで,教師は同じ説の子どもをグループにまとめ,仮説が立証できるように実験方法をグループで考えさせ実験を行わせたり,他のグループの意見を聞き自分たちの意見と比較する場を設定したりすることで,子どもが協同の資質・能力を発揮しやすくなる環境を整えた。 第9時では,教師は,子どもに他グループとの話合いの手立てとしてタブレット端末で実験を動画撮影させ,交流時に活用できるようにした。子どもは撮影を意識するで,明確な実験結果を出すことにこだわりを見せた。地震説のグループは,力を斜め上側にかけると土地がより盛り上がることから,「斜めに力をかけると,盛り上がるよ」「写真の地層みたいになった」などと道具の操作方法や条件を積極的に話し合い,学びを深めていた。干上がり説のグループは,「水が蒸発して減るのには時間がかかる」「どれくらいの時間がかかるのだろう」と時間を意識するようになった。波による打ち上げ説のグループは土地が削られ,地表に地層がでなかったので他グループの結果を知りたいという思いが高まった。他班の実験動画を見るとともに解説を聞くことで,共通理解をすることができ,自分達の結果と比較,検討することで,多面的な見方で土地のつくりと変化を考える姿が見られた。

3 実践を振り返って 土地のつくりと変化を,山をテーマにした実験や観察をすることで,子どもは体系的・体験的に考えることができ,自律と協同の資質・能力を発揮する場が生まれたと見取った。児童の実態と単元の本質にあった授業デザインを考え,深い学びにつながる学習課題が生まれる授業が展開できるように,教材研究を進めていきたい。

< 地震説のモデル実験 >

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1 子どもの問いや思いを生かし,本質に触れる学びにつなげる学習課題の設定(1)単元デザイン

単元の本質 発揮させる自律と協同の資質・能力 音楽の知覚・感受を通して,曲想や歌詞,音楽を形づくる要素を手がかりに表現方法を工夫し,思いや意図に合うように演奏すること

・日本の歌との出会いから日本の歌のよさに気づき,活動への見通しをもつこと・自分の思いや意図を伝え合う活動を通して,よりよい表現活動を考えること・互いの音を聴き合い,自分や仲間のよさに気づくこと

学習活動1 国内外の様々な童謡を聴き比べて,

「日本の歌百選」に選定された楽曲から日本の歌の特徴をつかむ。

4 お気に入りの日本の歌を,同じ楽曲を選んだ仲間と歌って紹介する。

2 第1時で聴いた日本の歌から,お気に入りの1曲を個々に選曲する。

5 「日本の歌百選」に選定されていない唱歌や童謡を聴き,日本の歌のよさを味わう。3 選曲した日本の歌を,同じ楽曲を選

んだ仲間と,楽曲に合うように工夫して歌う。

(2)学習課題の設定 第1時では,まず,幼稚園や保育園で歌った歌を想起させ,楽曲が数多くあることを捉えさせた。次に,1学期に子どもが親しんで歌った楽曲「かたつむり」が日本の歌であることを知らせてから,「今から聴く歌は,日本の歌か,外国の歌か当ててみよう」と投げ掛け,日本の歌か外国の歌かを予想させた。そして,曲名を伝えてから用意しておいた 15 曲の童謡を順に聴かせた。 鑑賞前に子どもは,「日本語の曲なら,日本の歌だ」とつぶやいていたが,次第に「歌詞にB・I・N・G・O…と英語が聞こえたから,外国の歌かな」「ロンドン橋はイギリスにあるから,外国の歌だ」と歌詞を手がかりに予想していった。「外国の歌はリズミカルな歌が多い。同じ言葉が繰り返し出てきておもしろい」と曲想や歌詞にも注目するようになった子どもは,「日本の歌は優しい感じ」「もっと小さかった頃を思い出して,懐かしくなれる歌が多い」「日本の歌は,歌の中で誰かとお話をしているみたい」と,日本の歌の特徴にも気づき始めた。 用意した全ての楽曲を日本の歌と外国の歌に分けてから,教師は,鑑賞した日本の歌が「日本の歌百選」選定の楽曲であり,皆で歌い継いでほしいと願う日本の歌が,数多くあることを紹介した。しかし,子どもから,「知らない歌の方が多い」「こんなにたく

音楽科 藤井 早苗

1年 「にほんのうたとなかよし」

< 曲想の違いについて話し合う >

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さん歌えない。これでは,日本の歌と仲良くなれない」という声があった。そこで,教師が「どうしたら,もっと日本の歌と仲良くなれるかな」と投げ掛けると,「もっと日本の歌をたくさん歌えるようになりたい」「気に入った日本の歌をもっと素敵に歌えるようになりたい」という声が多く上がった。そこで,「お気に入りの日本の歌を,曲の感じに合うように仲間と歌えるようになろう」という課題を設定した。

2 自律と協同の資質・能力を発揮させるための手立てと子どもの表れ 第3時では,自分で選んだお気に入りの日本の歌をもっと素敵に歌えるようになろうと,同じ楽曲を選択した仲間とよりよい表現方法を考えた。3~4人のチームでの表現活動がより充実したものになるために,教師は次のような手立てを打った。 まず,第2時にお気に入りの歌を選曲させる際,歌詞カードを配布して歌詞に着目させながら音源を聴かせた。歌詞を見て鑑賞させることにより,曲想から情景をつかみやすくした。そして,歌詞や曲想からイメージしたことを絵に表現させることで,子どもは言葉の意味を明確にすることができた。 次に,自分たちの思いや意図をもってチームの表現活動を進めることができるように,チーム用の拡大楽譜と,選曲した楽曲の音源が入ったタブレット端末やCDプレーヤーをチーム分用意した。子どもは,前時に描いた絵を見ながら「この絵のお母さんみたいに,優しい感じで歌いたい。もっと柔らかい声で歌おう」「お手本みたいに歌えるように,何回か聴いて,うまく歌える秘密を見つけよう」「お手本の歌では,メダカが逃げないように小さな声で歌っているね。真似してみよう」「始めのところは,もっと穏やかに歌おうね。忘れないように,チームの楽譜に書いておこう」と,自分たちで目標としている歌声や歌い方に近づくことができるように,試行錯誤をしながら意欲的に歌い方を工夫することができた。 代表チームによる中間発表では,「わたしたちが選んだ『ゆりかごの歌』は,赤ちゃんをそっと寝かせる歌だから,弟に優しく話しかけるように歌います」と,チームの意図を伝えた上で,聴いている仲間に歌を披露することができた。聴いていた仲間も発表者の工夫点に気づき,歌い方のよかったところを伝えたり,発表を聴いて得たことを中間発表後のチーム活動で自分たちの表現に生かしたりすることができた。これらの子どもの姿から,教師は,自分の思いや意図をもとに,音源を手がかりにして仲間と表現方法を工夫し合い,学びを深めることができたと見取った。

3 実践を振り返って 導入時での鑑賞活動を充実させることで,子どもは,曲想や歌詞,音楽を形づくる要素を手がかりに表現方法を工夫し,楽曲に合うように歌うことができた。今後も,子どもがより学びたくなるような対象との出会いを工夫し,単元の本質に触れる学習課題を設定していきたい。

< お気に入りの歌を歌う子ども >

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1 子どもの問いや思いを生かし,本質に触れる学びにつなげる学習課題の設定(1)単元デザイン

単元の本質 発揮させる自律と協同の資質・能力 感性や想像力を豊かに働かせた「音色紙」づくりを通して,自他の音や言葉と,色と形のイメージとのつながりに気づき,「音色紙」を生かして大型紙芝居「ふしぎの天神森へ」をつくりあげること

・自分が色や形で表したいもののイメージをもってつくること・自他の考えを伝え合ったり比べたりして試行錯誤しながら,方法を選び取ってつくりあげること・多様な感じ方や表し方を認め合い,互いのよさを取り入れ,力を合わせてよりよいものをつくろうとすること

学習活動1 詩やピアノ曲を鑑賞し,感じたこと

をクレヨンで色や形に表す体験をする。

6 選んだフレーズのグループごとに,「音色紙」を使って紙芝居をつくる。7

2 「ふしぎの天神森へ」の大型紙芝居の表紙や,8つのテーマ曲に出会う。

3 8つのテーマ曲から1曲を選び,感じたことを絵の具で色や形に表し,

「音色紙」をつくる。

8 BGM として流すテーマ曲の曲想や,加えたい効果音を想定しながら,紙芝居の仕上げ方を考える。

4 選んだ曲ごとにグループをつくり,想像したことを話し合う。それを全体交流し,「ふしぎの天神森へ」の物語を考える。

9 全体交流したことをもとに,紙芝居をつくりあげる。5

生活創造 つくりあげた紙芝居と,テーマ曲や効果音を組み合わせながら全体で発表の仕方を話し合って練習し,学級で企画した全校イベントで発表する。

(2)学習課題の設定 本単元では,学級で1つの表現をつくりあげようという子どもの思いを共有し,「みんなのアイデアを持ち寄って,大型紙芝居『ふしぎの天神森へ』をつくりあげよう」という課題を設定した。 形や色と自分のイメージをつなぐ練習として,第1時ではピアニストの谷川賢作氏をゲストティーチャーに招き,谷川俊太郎氏作詩・谷川賢作氏作曲の「みんなやわらかい」を教材に,詩や音楽を鑑賞して感じたことを,色や形で表し,詩の挿絵をかく体験をした。「みんなやわらかい」には,「はずかしがるしかく」などが登場する。子どもは,詩の言葉や,その詩に寄せられたピアノ曲から「はずかしいって,何色だろう」

図画工作科 有川 貴子

4年 「音色紙」 でつくる, 大型紙芝居 『ふしぎの天神森へ』

< クレヨンの「音色紙」>

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「しわしわ,のところがかわいい音だから,まっすぐはかわいい色でかこう」などと,言葉や音楽と,色と形のイメージをつなぎながら製作した。ここで子どもは,個々にもつイメージが異なることに気づき,またそれを楽しみながら「音色紙」づくりの活動をした。 1学期の実践において,子どもは,グループごとに影絵芝居を発表する経験をしている。学級が育ってきた2学期の本実践では,教師は,「音色紙」を使い,学級で1つの大型紙芝居をつくることを子どもに投げ掛け,「ふしぎの天神森へ」というタイトルだけが書かれた大きな段ボール台紙を子どもに見せた。子どもは , 学校の敷地にある天神森がテーマになった紙芝居制作や,親しみを感じている谷川氏作曲のテーマ曲を使うことに

「楽しそう」「チャレンジしてみたい」という思いをもった。しかし同時に,「大きな紙芝居を学級でどうやってつくればよいのだろう」「グループでの影絵芝居の時よりも,話合いが必要になる」という葛藤も生まれたが,子どもからつくりあげるための様々なアイデアが生まれるきっかけとなった。 図画工作科のよさは「つくりあげる」という,子どもにも分かり易い学びのゴールがあることにもある。このような,単元の本質に触れながら子どもの学習意欲を喚起するとともに子どもがチャレンジする要素を含む課題を設定することで,高い意欲を保ち ,学びを展開していくことができた。

2 自律と協同の資質・能力を発揮させるための手立てと子どもの表れ 図画工作科において,子どもに自律と協同の資質・能力を発揮させるためには,子どもが「自分はこのように表したい」「思いを生かしてつくりあげたい」「仲間の思いを知りたい」

「みんなで考えるとよりよくなる」と感じられるような課題や教材の設定が重要な手立てとなる。本実践での課題設定は項目1の通りである。 本実践では,紙芝居づくりの教材として,谷川氏 , ロバの音楽座の松本氏より提供して頂いた,ミュージカル「ふしぎの森へ」より8つのテーマ曲を扱った。森で起こる物語をテーマに作られた曲集は,お話の好きな本学級の子どもにわくわくする思いを喚起した。また,第1時で作曲者である谷川氏がゲストティーチャーとして子どもと触れ合い,子どもと一緒に「音色紙」づくりをしたり,曲への思いを語ってくれたりしたことで,教材の曲集は,子どもにとってより魅力あるものになった。  第4・5時で学級全体で「ふしぎの天神森へ」の物語を考えた時には,どこか谷川氏を彷彿とさせる登場人物が現れた。また,第7時で再び谷川氏と会うと,つくった「音色紙」を得意そうに説明したり,録音してもらいたい BGM について真剣に考える姿や,高い意欲を保って紙芝居づくりが進める姿が見られた。

3 実践を振り返って 子どもの実態や教科の学びの本質,また発揮させたい資質・能力を見据えた学習課題の設定や,子どもの心が動く「ひと・もの・こと」を教材に選定することの重要性を確かめられた。今後も,学びを活性化させる手立てを追究していきたい。

<BGM について谷川氏と話し合う >

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1 子どもの問いや思いを生かし,本質に触れる学びにつなげる学習課題の設定(1)単元デザイン

単元の本質 発揮させる自律と協同の資質・能力 フライングディスクを使ったゲームで,攻めや守りに関する課題をつかみ,遊び方や攻め方・守り方を選び,ゲームに親しむこと

・自己に適した投げ方・捕り方,場や人数,規則などを選び,仲間と共に伝え合うこと・上手にできるようになったことやゲームの楽しみ方などを振り返ること

学習活動1 個人で楽しめるボールを使ったゲー

ムを体験する。5 U24 日本代表選手と「ガッツゲーム」

に出会う。2 個人で楽しめるフライングディスク

を使ったゲームを体験する。6 仲間と協力して,「ガッツゲーム」を

行う。3 「ディスタンスゲーム」を行い,「ディ

スクゴルフ」に取り組む。789

どうすればもっと「みんなが楽しめるゲーム」になるか考える。

4 「ディスクゴルフ」を楽しむ。仲間の作ったコースも試す。

10 ゲームの楽しみ方を考え,「ドッヂビー」に親しませる。

(2)学習課題の設定 第5時には,U 24 日本代表である飯島選手や大学生のアルティメット選手と子どもを出会わせ,本物のディスクゲームに触れることで,本物のスポーツに出会うという体験を味わわせた。教師は,飯島選手が大学生の選手が並んだエンドゾーンに向かい,ディスクを思い切り投げる場面と子どもを出会わせた。

「ガッツ」との出会いである。ものすごいスピードのディスクが選手の守る隙間をすり抜けていく。それを怖がらずにキャッチしようとする選手たちの様子を見て,多くの子どもが,「やってみたい」「自分にもできそうだ」とディスクを求めて教師に近寄ってきた。しかし,実際に数人の子どもが投げてみると,遠くまで届かずに落ちたり,スピードのないディスクがキャッチされたりすることが相次いだ。子どもが,うまくできない思いをもっていると考えた教師は,コートの広さや守りの人数を工夫することで,「みんなが楽しめる」ゲームになるということに気づかせようと考えた。その1つが,大学生2人のディフェンスと子どもとの試しのゲームである。コートに3つの線を設け,一番近くは1点,真ん中は2点,一番遠くは3点とし,子どもに自分に合った距離からディスクを投げさせることで,「これなら自分にもできそうだ」という思いをもたせようとした。実際にゲームを行うと,得点を取る子どもが相次ぎ,ガッツゲームの楽しさに触れ始めている様子であった。このゲームを行った後,教師は,どうすれば,フライングディスクゲームをもっと楽しめるようにな

体育科 牧澤 利光

1年 「フライングディスクゲーム ・ 55」

< ガッツゲームと出会う >

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るのかと投げ掛け,子どもの問いや思いを共有,焦点化し,「フライングディスクゲームを楽しむには,どんな動き方や遊び方をすればいいのかな」と学習課題を設定した。

2 自律と協同の資質・能力を発揮させるための手立てと子どもの表れ 第6時には,前回少しだけ試した「ガッツゲーム」をじっくりと自分たちで行った。そこで,教師は,体育館の器具庫の中から,得点板を持ち出し,子どもに見せた。子どもは,相手と得点の競争ができることに興味を覚え,「やってみたい」「おもしろそう」と口々に話した。また,教師は,守りがディスクをキャッチできたらどうするかを子どもに問うと「キャッチできたら1点にする」という声が挙がり,そのルールを本時から採用することにした。ゲームの前には,自分のチームの課題に応じて,捕る練習をする「パスラリー」,投げる練習をする「ターゲットゲーム」のどちらかをグループで選び,ゲームをすることにした。練習の前,黄色のビブスを着たグループは,練習の場について話合いを始めた。取ることが苦手だと話す子がいる一方で,投げても真っ直ぐに飛ばないから投げる練習をしたいなどと伝え合った。結局,「ディスクをキャッチできれば得点になる」という理由から「パスラリー」を選び,練習後,ゲームに臨むことに決めた。 第7時では,ゲームをする前に,教師は,コートの広さを考えることを提案した。幅の広いコートと狭いコートのどちらを選ぶか,対戦グループ同士で話し合わせると,狭い方が守りやすいのではないかという考えが挙がった。すると,どちらのグループも狭いコートを選んだ。その理由として,「狭い方が少し難しくて楽しめる」「捕りやすくなって守りの得点が増えそう」などの見方・考え方に関する表れが出された。また,前時の振り返りの中で,キャッチした時の得点はどうするかと教師が問うと,「1点だけでは,おもしろくない」「相手が投げたところの違いで捕った時に得点が変えられるようにしたい」という声が上がり,本時のゲームから遠くから飛んでくるディスクをキャッチすると得点が増えるというルールを設定することにした。本時のゲームは,接戦となり,後攻の白グループが最後の2投まで2点差でピンクグループに勝っていた。そこで,3点のキャッチを決めたピンクグループの逆転が決まると歓声に包まれた。これらのことから,自己に適した投げ方・捕り方,場や人数,規則などを選び,仲間と共に伝え合い,ゲームを楽しむことができていると教師は見取った。

3 実践を振り返って フライングディスクを使い,少し難しい方が楽しめるという体育科の見方・考え方を働かせたことで,自律と協同の資質・能力を発揮しながら学習することができた。今後も,話合いの場面で見方・考え方を働かせることで,単元の本質に触れる学びを行っていきたい。

< コートの広さについて話し合う >

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1 子どもの問いや思いを生かし,本質に触れる学びにつなげる学習課題の設定(1)単元デザイン

単元の本質 発揮させる自律と協同の資質・能力 自分たちで図書館運営をすることを通して,市の図書館に携わる人々の運営の工夫を探したり見つけたりしながら,図書館の施設の様子やそれらを支える人々への工夫や思いへの気づきを深めること

・身近にある市の図書館でルールやマナーを守って,安全に気を付けて利用したり,図書館を支える人々とかかわったりすること・ブックランドを開くために,どのような工夫が必要であるかを市の図書館見学から考えること・よりよいブックランドにするために,自分たちのやり方から課題を見つけ,仲間と相談したり話し合ったりしながら解決する方法を考えること

学習活動1 市の図書館へ行く計画を立てる。 11 「2年2組ブックランド」を開く計画

を立てたり,役割分担を行ったりする。

2~5

市の図書館へ行き,自分の借りたい本を見つけ,借りる。

【図書館探検①】

12~14

それぞれの役割ごとに「2年2組ブックランド」を開くための準備をする。

6 図書館を利用して気づいたことを話し合い,次の見学で聞いてみたいことを考える。

15 「2年2組ブックランド」を開き,1年生を招待する準備をする。(昼休みなどにブックランドを開く。)

7~9

図書館の様子を観察したり,働いている人に自分の知りたい図書館運営の工夫をインタビューしたりする。

【図書館探検②】

16 よりよい「ブックランド」にするために,前半の活動での課題を見つけ,解決する方法を考える。

10 図書館で聞いてきた図書館運営の工夫について話し合う。

17 「2年2組ブックランド」を開催して,楽しかったことやよかったことを振り返る。

(2)学習課題の設定 第1時では,図書館探検に行くために準備しておかなければいけないことを確認し合った。確認し合う中で特に,マナーやルールを守ることが大切であることに気づき,周りの人に迷惑をかけないように図書館探検を楽しもうということになった。また,読んでみたい本を自分で見つけて借りてみようという課題も与えた。 第2時から第4時に,図書館探検に出掛けた。前時で話し合った図書館でのマナーを確認し,自分の力で読みたい本を探して実際にその本を借りてみることにした。子どもは読みたい本を必死に探し始めた。仲間と協力して探そうとする子どもは,分類された

生活科 横山 勝之

2年 「2年2組ブックランドをひらこう」

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本の位置を確認しながら本を探していた。しかし,すぐに見つけることができず困っている様子も見られた。また,検索機を操作して探している子どもは検索結果が出ても,どこにその本があるかを見つけることができず,どうしたらいいのか迷っていた。図書館司書の方に読みたい本の情報を伝え,探してもらうようにしている姿も見られた。振り返りには,「本が多くあり過ぎて,見つけるのが大変だった」「本を探すには機械を使う方法,図書館の人に直接聞く方法があることが分かった」「自分のカードを使って本を借りることができた」「図書館は本を借りるだけでなく,本を読んだり勉強したりすることもできることが分かった」などの感想が見られた。 第5時では1回目の図書館探検の様子を,写真を見ながら確認し合った。本時のめあてとして「読書室と城北図書館をくらべてみよう」とし,似ているところや違うところを見つける活動を行った。読書室と城北図書館には相違点が多くあるが,共通点としてどちらも多くの本があり,魅力的な面が多くあることに気づいた。その魅力をみんなに感じてもらえるように教師から「図書館のよさを知ってみんなに伝えるために,実際に図書館を作ってみよう。そしてその図書館を2年2組ブックランドという名前にしよう」と投げ掛けた。子どもは驚きながらも自分たちで図書館を作ることに関心を示した。ブックランドを開くために,この単元でどのような学習をしていけばいいかを考えさせ,「図書館や読書室では多くの人に利用してもらうためにどんな工夫をしているのだろうか」という単元の課題を設定した。

2 自律と協同の資質・能力を発揮させるための手立てと子どもの表れ 第6時では,導入で「ブックランド」とはどのような活動か確認し合い,「ブックランド」を開くために図書館探検でどんなところを見学したり,どんなことをインタビューしたりするか考えようという本時のめあてを設定した。 子どもは学校の読書室や前回の図書館探検で見てきた城北図書館の様子を確認しながら,

「本棚の様子を確認しよう」「図書館の人はどんな仕事をしているのか」など,自分の考えをワークシートにまとめていた。考えたことを短冊に書き,黒板に掲示することで,全員で確認できるようにした。掲示された短冊の内容を仲間との話合いを通して類型化することで,図書館探検でのインタビュー内容や見学するところをはっきりさせていった。「本の並べ方をどうしているのか」「ルールやマナーを守ってもらうためにどんなことをしているのか」「読みたい本を見つけやすくするためにどんなことをしているのか」など,図書館探検に向けて,見学やインタビューの視点をもつことができた。

3 実践を振り返って 1回目の図書館探検での課題と「ブックランド」を開くための運営方法を関連させて考えさせることによって,市の図書館では多くの人に利用してもらうためにどんな工夫をしているのかという単元の本質に触れる学習課題を設定することができた。今後も体験活動からの気づきをもとに,本質に迫る学習課題を設定できるような単元構想をしていきたい。

< 図書館探検に向けて話し合う子ども >

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1 子どもの問いや思いを生かし,本質に触れる学びにつなげる学習課題の設定(1)単元デザイン

単元の本質 発揮させる自律と協同の資質・能力 ラグビーワールドカップの魅力について,他者(専門家,仲間,教師,保護者,地域の人)とかかわり,他者の思いや考えと比べ,スポーツの魅力や,日本・世界各国の文化など,これまで関心のなかったことにも関心を広げたり,深めたりし,積極的にかかわろうとすること

・今まで気づかなかったラグビーの魅力を感じ,みんなに発信したいという思いをもつこと・仲間とよりよい伝え方を考え,分かりやすくなるよう工夫すること・学習を振り返り,より分かりやすい伝え方を考えようとすること

ステージⅡの学習活動1 どうしたら学校のみんながラグビー

に興味をもってくれるか考える。6 保護者を対象にサポーターズパーク

を開催する。2 サポーターズパークの全体計画を立

て,全体の見通しをもつ。7 仲間からもらった意見をもとに課題

を出し合い,活動を修正・改善する。3 サポーターズパークで伝えたいこと

を調べ,まとめる。8 全校を対象にサポーターズパークを

グランドオープンする。4 同学年を対象にサポーターズパーク

をプレオープンする。9 これまでの活動を振り返り,ラグビー

の魅力をまとめる。5 仲間からもらった意見をもとに,課

題を出し合い,活動を修正・改善する。10 スタジアムや街中でラグビーの魅力

を伝える方法を考え,まとめる。(2)学習課題の設定 ステージⅡでは,「上手くまとめたつもりなのに,なぜ魅力が上手く伝わらないのか」という葛藤状況を生み出し,「よりよく伝える方法を考えたい」という,共通の課題を子どもにもたせたいと考えた。そこで,ラグビーの魅力を学校のみんなに伝える「附属浜松小ラグビーサポーターズパーク」を開こうと投げ掛け,学級,学年の仲間,全校,保護者と対象を変えながら,数回にわたってサポーターズパークを開催し,発表,省察,修正・改善を繰り返して行えるような単元にデザインした。 子どもは,同学年対象のサポーターズパークプレオープンを目標に「ラグビーの歴史」「ラグビーエンブレムのひみつ」「体験コーナー」など,テーマごとのグループに分かれ,調べたりまとめたりする活動に取り組んだ。 そして,サポーターズパークをプレオープンし,隣のクラスの子どもに体験したり,発表を聞いてもらったりした後,アンケートを書いてもらった。 アンケートの結果は,「サポーターズパークは楽しかったか」というという問いには,

総合 髙木 裕之

3年 「ラグビーワールドカップPR大使になろう」

< サポーターズパーク  プレオープンの様子 >

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平均 75.8 点「ラグビーに興味をもてましたか」という問いには,平均 66.4 点というものがあった。子どもに結果を示すと「エー。低い」「1組は厳しいなあ」と言っていた。自分たちなりに上手くいったと感じていた子どもは,落胆した様子であった。その後,よかった点や改善点など,具体的なアドバイスを子どもに紹介していくと,子どもたちは

「体験コーナーでただ楽しんでいるだけではラグビーの魅力は伝わらない」「1年生に合わせると6年生には簡単すぎる。誰に伝えるようにまとめるのかしっかり決めた方がいい」とつぶやき始めた。 この表れは,「伝えたい目的からはずれないこと」「相手を意識すること」「関連づけてまとめること」「目的に応じて伝える手法を工夫すること」などの,よりよいまとめ方の視点を自分たちで獲得していくことにつながると考えた。そして「ラグビーの魅力を相手に分かりやすく伝えるにはどうしたらいいだろう」と投げ掛け,課題を焦点・共有化して,学習課題を設定した。

2 自律と協同の資質・能力を発揮させるための手立てと子どもの表れ 学習課題を設定した後,「体験コーナーで,ただ楽しんでいるだけでは,ラグビーに魅力は伝わらない」という子どもの発言を基に,「関連づけてまとめる」という視点で,まとめ方をよりよいものにしていけるのではないかと考え,「ラグビーの魅力をもっとくわしく伝えられるように,みんなが調べてきたテーマを組み合わせられないだろうか」と投げ掛けた。 すると,子どもは「どんな反則をしたらペナルティーキックを与えられるか説明できるからルールと体験を組み合わせよう」「ラグビーのポジションを説明するときに有名な選手も紹介すれば分かりやすくなる」と言い,様々なテーマを組み合わせはじめた。「ランキングとその国の文化」「ポジション別のすごい選手」「選手の生活」など,新しいテーマが生まれた。そこで,もう一度新しいテーマで調べていった方がよいということになり,これまでのテーマごとのグループを解体し新しいグループを作ったりメンバーをシャッフルしたりすることにした。 「ラグビーの歴史を調べた時に,7人制とか 10 人制とか,いろいろなルールのラグビーができたことが分かったから,ルールの歴史をまとめたい」と言って「ラグビーの歴史」から「ルール・ポジション」のグループへ移動した子もいた。これまでに調べてきたことを関連づけ,次のグループで生かそうとする姿も見られた。3 実践を振り返って 学級全体で共通した失敗経験をさせることは,葛藤状況を生み出した。そして,サポーターズパークをよりよく進化させ,成功させるために「よりよく伝える方法を考えたい」という課題をもたせるのに有効であった。また,準備,発表,省察,修正・改善を繰り返して行う単元デザインをし,修正・改善の過程で,どのようなまとめ方がよいのか考えるように課題を焦点化していくことで,仲間と協同し,自分たちの手でよりよい伝え方を獲得していくことにつながった。今後も,自律と協同の資質・能力を発揮する探究活動のあり方を探っていきたい。

< ラグビーランキングと その国の文化を組み合わせたまとめ >

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1 子どもの問いや思いを生かし,本質に触れる学びにつなげる学習課題の設定(1)単元デザイン

単元の本質 発揮させる自律と協同の資質・能力 留学生や外国人観光客と静岡のよさを伝え合う表現を理解し,言語活動を通して,聞くこと,話すこと,読むこと,書くことの技能を育て,自分の考えや思いを伝え合うこと

・Small Talk で,仲間が使った表現を参考に,自分の表現を増やすこと・仲間と静岡のよさを話し合い,自分の考えを形成,整理,再構築すること・交流会の場面で,留学生の経験や好みを尋ねて,反応を見ながら,自分の考えを伝えること

学習活動1 日本への外国人観光客は急増してい

るが,静岡はあまり知られていないことを,グラフやインタビュー映像から気づき,出身国を尋ねたり,答えたりする表現に慣れ親しむ。"Where are you from?""I'm from ~ ."

4 主要穀物の生産分布図から,日本と外国の食文化の違いに気づき,食べたことがある食べ物を尋ねたり,答えたりする表現(過去形)を知り,慣れ親しむ。"What did you eat in Shizuoka?""I ate ~ ."

2 日本と外国の建物の違いに気づき,行ったことがある場所を尋ねたり,答えたりする表現(過去形)を知り,慣れ親しむ。"Where did you go in Shizuoka?""I went to ~ ."

6 グラフから世界の季節の違いに気づき,相手の好みの季節に合ったお勧めの場所や食べ物を紹介して,静岡のよさを仲間と話し合う。

3 7 留学生交流会を開き,留学生と静岡のよさを話し合う。

8 外国人観光客に向けて静岡のよさを伝えるパンフレットを作る。

総合的な学習 の時間

・体験旅行中に,外国人観光客にパンフレットを見せながら,静岡のよさを紹介する。

(2)学習課題の設定 子どもが単元の本質に触れながら学習を進めるためには,

「外国人に自分の好きなことを英語で伝えたい」という思いをもたせることが必要であると考えた。そのために,現在,日本では外国人観光客が急増しているが,静岡のことはあまり知られていないという実態に気づかせたいと考えた。教師による京都でのインタビュー映像から,「外国人はたくさんいるけど,静岡のことは知らない。来てくれていない」という

英語 常名 剛司

5年 「Welcome to Shizuoka. 静岡へようこそ」

< 静岡のよさを話し合う子ども >

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ことに気づかせた。映像の中で,外国人観光客が静岡のことを知らないと答えるのを聞くたびに,子どもは悲しそうな顔を見せた。自分たちが大好きな静岡のよいところはたくさんあるのに,外国人観光客にあまり知られていないのが悲しいという葛藤状況が生まれた。そこで,教師は "We have no good points of Shizuoka? Shizuoka is bad?" と問い掛けると,子どもは首を振り,口々に No と言った。そして,"What place do you like in Shizuoka? What food do you like in Shizuoka?" と問い掛けると,"Mt.Fuji, Katyoen, Fish" などと静岡の好きな場所や食べ物を言い出した。そこで,教師は,"Do you want to introduce good points of Shizuoka?" と聞くと,子どもは頷いたり,"Yes!" と答えたりした。子どもは,静岡のよさを外国人に伝え,ぜひ静岡に来てもらいたいという思いを共有,焦点化することができ,本単元では,「留学生や外国人観光客に静岡のよさを伝えよう」という課題を設定した。

2 自律と協同の資質・能力を発揮させるための手立てと子どもの表れ 毎時間,帯活動として取り組んでいる Small Talk では,単元に関わる既習表現をスパイラルに学び,聞く・話す力を高めている。子どもの振り返りでは,「以前は自信がなく,自分から素直に言えなかった。しかし,Aさんが大きなリアクションをしてくれたのもあり,1学期よりも自分から大きな声で言えた」「Bさんがすごく質問してきて,やりやすかった」とあった。自律と協同の資質・能力が発揮されたことにより,発話が促されていた。 第6時では,既習表現を使いながら,相手の好みの季節に合わせてお気に入りの場所や食べ物を勧めることで静岡のよさを吟味する活動を仲間と行った。互いのお気に入りの場所や食べ物を勧め合うことで,子どもは,自分では気づかなかった静岡のよさに気づき笑顔を見せていた。振り返りの記述では,「話したら,どんどん話題が生まれて,いっぱい話せるようになり,楽しく話せた」「相手がどんどんしゃべってくれて話しやすかった」とあった。経験や好みを尋ねて,相手に合わせて静岡のよさを話し合うという思考を伴う高度なコミュニケーション活動であったが,相手を変えながら何度も話合う場を設けたこと,活動の途中で Sharing Time を設けて,多様な表現例を共有したこと,タブレット端末で紹介したい場所や物の画像を補助的に使用させたことで,自律と協同の資質・能力を発揮する姿につながったと教師は見取った。

3 実践を振り返って 本単元の課題を,子どもが自分ごととして,本当に英語で話したいと思うようなものを設定することで,生き生きと取り組む姿が見られた。子どもは,英語を使うための「ごっこ」や「疑似体験」ではない,自分ごとに関わる英語の本質に触れる学びと出会うことで,目をきらきらと輝かせて,その資質・能力を高めていった。今後も対象との出会いを工夫し,本物の文脈に触れる学習課題のあり方を考えていきたい。

< 留学生と話し合う子ども >

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1 子どもの問いや思いを生かし,本質に触れる学びにつなげる学習課題の設定(1)単元デザイン

単元の本質 発揮させる自律と協同の資質・能力 体の発育・発達ついて関心をもち,よりよく発育・発達するために課題を見つけ自己の健康生活に生かそうとすること

・身近な生活行動から健康課題に気づくこと・体の成長の仕方や変化について仲間と予想したり,体がよりよく育つためにはどのような生活をしたらよいかを考えたりすること

学習活動(体育科保健領域5時間+保健指導3)保健指導6月

中学3年生と小学4年生の体つきを比べ,体の発育・発達について知りたいという思いをもつ。

2 ある子どもの一日の生活にアドバイスする活動を通して,体をよりよく発育・発達させるための生活の仕方を考える。

1 自分の身長の変化を調べたり,発育の個人差を仲間と予想したりし,体はどのように大きくなっていくか考える。

4 思春期に起こる男女に起こる体つきやその他の変化,それらの個人差について考える。

5 思春期に起こる初経,精通についてまとめる。また,異性への関心が芽生える時期であることに気づく。

保健指導9月

過去と現代の平均身長の比較クイズを行い,体の発育と生活の関連について予想する。

保健指導1月

自分の体をよりよく発育・発達させるための生活の仕方を振り返り,行動目標を考える。

(2)学習課題の設定 9月の保健指導は,体の発育と生活の関連に気づかせたいと考え,過去と現代の小学4年生の平均身長比較クイズを行った。最初に行った 100 年前と現代の平均身長比較クイズでは,多くの子どもが現代の小学生の方が平均身長は高いという正しい答えを予想し,理由は栄養状態がよくなったからではないかと考えた。昔の給食を紹介し,身長の伸びは遺伝の影響もあるが生活状態も関連していることに気づかせることができた。 次の 2000 年と 2016 年の平均身長比較クイズでは,多くの子どもが 2000 年より 2016年の方が高くなっていると予想した。子どもの予想に反し,平均身長は 2000 年頃をピークに伸び悩んでいることを伝えると,とても驚いている様子だった。順調に伸びていた平均身長が伸び悩んでいる実態に,葛藤場面が生まれた。その理由について,「ゲームや

学校保健 比奈地 むつみ

4年 育ちゆく体とわたし

< 保健室での保健指導の様子 >

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テレビの時間が長く運動不足になったり,睡眠不足になったりしているからかな」「いろいろなジュースがあって,牛乳を飲む人が減っているからかも」など,多くの予想が出された。そこで,「この理由ははっきり分かっていないが,これから成長するみんながよりよく育つためには,どんなことを心掛けて生活したらよいか一緒に考えよう」と投げ掛け,問いや思いを焦点化した。そして,6月の保健指導に来校した中学3年生のように大きく成長したいと思っている小学4年生Aさんの生活を例示し,「大きくなりたいAさんに,どんな生活をしたらよいかアドバイスを考えよう」と学習課題を設定した。

2 自律と協同の資質・能力を発揮させるための手立てと子どもの表れ 体をよりよく発育・発達させるための生活の仕方を考えるため,グループの仲間とAさんの生活にアドバイスを考えさせた。 第2時には,先に3人の小集団で既有知識を用いてアドバイスを考えさせた。そのアドバイスに,Aさんがもっと納得する理由を加えるために,グループの3人を食事,運動,休養・睡眠の担当に分けて,専門家から体が成長する時期にどんなことに心掛けたらよいか聞き,まとめさせた。各自が学んだ内容をもとに仲間と対話を深めることで,自律と協同の資質・能力を発揮させることにつなげると共に,活動を通して自己の課題を見つけ,健康生活に生かそうとする意識を高めたいと考えた。子どもは各専門家の話を興味深く聞き,ワークシートにまとめていた。 第3時は,最初に前時にまとめた専門家の話を,別のテーマで学んだ仲間に伝えさせた。どの子どもも,ミニ博士になって自分がまとめた内容を意欲的に伝えていた。次に,前時に考えたアドバイスにAさんが納得する理由を加えさせた。子どもは食事,運動,休養・睡眠について学んだ内容を活用し,「運動は骨が丈夫になるし,肺や心臓の働きも活発になるからもっと運動するといい。外で運動して太陽の光を浴びると骨が強くなって,一石二鳥です」「今の時期は,骨,筋肉,胃,心臓などが発育する時期だから栄養をとらなくてはいけない。だから給食を残さない方がいいよ」「生活リズムを整えてしっかり寝ると,成長ホルモンが多く出て体が成長するから,寝る時間を早くするといい。長く寝ないと丈夫な体が作られなくて,生活にも影響が出てしまう」など,多くのアドバイスを考えた。 最後に,生活を振り返り,体がよりよく成長していくために自分へのアドバイスを考えさせた。食事,運動,休養・睡眠の重要性や効果を理解し,自分の健康課題を解決していこうとする意欲が感じられる記述が多かった。各自が専門家から学んだ知識を小集団で交流したり,他者へアドバイスをしたりする活動を通して,身近な生活行動から健康課題に気づき,健康生活に生かそうとする意識を高めることができたと見取った。

3 実践を振り返って 本実践では,子どもがよりよく育つための課題について,正しい情報を得た上で,生活と関連づけて理解し,健康行動の実践につなげることができたと考える。今後も,保健教育を通して子どもが健康的な生活を実践していけるよう研究を重ねたい。

< 自分の生活へアドバイスをしたワークシートの記述 >

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1 実習生との関わりの中で

 附属浜松小学校には附属学校としての使命が2つあります。1つは「教育研究」そしてもう1つが「教育実習」です。10 月5日に第 95 回教育研究発表会を終え,1週間を空けた 10 月 16 日には,教育実習Ⅰの学生 52 名が1週間の実習にやってきました。本校では年間を通して約 120 名の実習生が来ます。各担任は一度の実習で約3名,多いときには5名の実習生を指導します。実習では,指導案の書き方から実際の授業までを指導するのはもちろん,生活指導の仕方や教員としての振る舞いまで指導をします。担任として,日中は学級経営と授業をしながら,実習生の指導案を見たり,実習録を読んだりします。放課後には実習生とともに指導案作りや一日の振り返りなどを行い,自分の仕事に戻れるのはずいぶん遅い時間となります。そんな実習期間が年間に7週間。1年の5分の1の時間を実習生指導に充てることになります。担任として非常に負担となることは事実です。しかし,この教育実習は我々教員にとって,とても大切な時間になっていることも事実です。 実習生の中には教員になりたい強い思いを持っている実習生も,そうではない実習生もいます。どんな実習生であれ,全員がほぼ初めて教壇に立ちます。緊張しながら子どもに語りかける実習生と,大好きな実習生のために頑張ろうとする子ども。まさに,教師と子どもが一体となって作る授業の姿がそこにはあります。そして,一つ一つの授業に一喜一憂する実習生たちの姿に接していると,我々教員も初心に戻らずにはいられません。そして,日々の忙しさの中で忘れてしまいがちな,子どもや教材,発問の一つ一つに真摯に向き合う大切さを実習生たちは思い出させてくれます。 よく,授業の中に教え合いの場面を設定します。人に教えることで,本当に知識は身に付き,使えるようになります。人に説明できないようでは,まだまだ知識として身に付いていない。理解できていない証拠です。私たちが実習生に教えるということは,これと同じです。教師としての経験や知識が自分自身に身に付いているか,使えるものになっているかを確かめる機会。さらには確かに使えるものにしていく営みだと言えるでしょう。 私たち附属小学校の教員は実習生を育てながら,自分たちも成長していきます。そして,目の前の実習生に教師としての夢や志をもってもらおうと努力をしています。そうすることが,附属学校としての使命,地域の教育を担う教師を育て,地域に貢献するという私たちの使命だと感じています。

「附属小だからできること」 を考える

校務主任 山田 正典

< 実習生との対面式 >

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2 「附属だから」への迷いの中で

 研究会に向けて授業研究を行っていると,「附属小だからできるのだと言われてしまわないか」と心配の声が上がります。附属小の授業はよく「打ち上げ花火」と言われます。どこかイベント的で派手で奇抜な授業。日常の授業とはかけ離れた授業という印象なのでしょう。実際,自分も外から附属小を見ているときにはそう感じていたし,自分が附属小に来たばかりの時にも,何か特別な授業をしなければいけないのではないかと思っていました。また,研究授業を終えた後も,「やっぱり附属小の子たちは優秀だね」「附属小の子たちはたくさん意見を言うね」と意見をもらうことも少なくありませんでした。もちろん,自分の授業が子どもの資質や能力に任せたものだったり,教師としての力量不足だったりしたことも原因です。そんな中で私たちは「附属小だから」と言われてしまうことを心配し,授業づくりに悩んでしまうのです。 現在,各方面で附属学校はそのあり方や存在意義について問われています。有識者会議も開かれ,選考方法などについても提案が出されました。そんな中だからこそ,私たちは「附属小だから」を考え直すことが大切なのではないかと考えています。「附属小だから」という言葉はあまりよい意味で使われることはありません。しかし「附属小だから」ということは悪いことではありません。例えば山間部にある学校ならば山間部ならではの教育が,学校が都市部にあるのであれば都市部ならではの教育があります。つまりどこの学校にも

「○○小だから」があるはずなのです。大切なのは,私たち教員が画一的な教育,つまり,どこでも・だれでも・どんな時にも同じ授業をするのではなく,目の前の地域や子どもや時期を捉えて,最適な授業をすることではないでしょうか。目の前にいる子どもたちの力を最大限に引き出し,子どもたちの学びが最大限に深まるような授業作りを考えることが大切ではないでしょうか。そこで考えられている授業の方策は,決して附属小でしか使えない方策ではなく,どの学校でも使うことのできる方策であると思います。私たち附属小の教員は「附属小だからできること」をとことん考えるべきなのではないのかと今は考えています。もちろん,それは子どもの能力や環境に任せただけのものではなく,子どもたちの資質や能力を最大限に生かし,伸ばす方策を考えるということです。そして,そうして考えた「附属小だからできること」を研究会を通して見て頂くことで,参観をしてくださる多くの先生方に何かしらの還元ができるのではないかと思います。そして,「附属小だからできること」をとことん考えることで,私たち教員は地域の小学校に行った時にも「○○小だからできること」をとことん考えることのできる教員になれるのではないかと考えます。 附属浜松小学校の使命は,袋井,森,磐田,浜松,湖西の広い範囲に及ぶ地域の教育に貢献をしていくことです。それは,教育実習を通して多くの教員を育てること,そして,教育研究を通して,少しでも先生方の授業づくりの役に立つことだと考えます。「附属小だからできること」をこれからも大切にしながら,地域に貢献できる学校でありたいと思います。

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講演会骨子演題 「深い学びを実現する授業デザイン

~学習課題や活動の在り方,その原理等について聖心女子大学 教授 益川 弘如先生

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第95回教育研究発表会益川先生講演記録

 今回は,「深い学びを実現する授業デザイン」という形でお話しします。主体的・対話的で深い学びとは一体どういうものかというところです。この主体的・対話的で深い学びの話の前に,実は大きく関わってくるのが,評価なのです。結局,どういう授業をやっても,子どもがどのくらい学べて,そして,次の授業の時間,どうすればもっといい授業展開にしていけるのかという,いわゆる広い意味での評価,アセスメントと切り離せないので,その話から入っていきます。 北米の研究者ペレグリーノの研究グループは,評価の三角形という形で整理しています。評価とは,認知・観察・解釈の3つから成り立っています。そして,この認知の部分とは,子どもに引き起こしたい認知過程,学習過程のことです。このような形で本時,または単元を通して,目指す姿,いわゆる教師の願いこそが認知にあたります。願いが実現できたかどうかを測定するのに,子どもの頭の中を直接見ることはできません。これが人の学びの評価をする1番の難しさですが,直接的にどれだけねらっていた学びが起きていたかを見ることができないので,何らかの観察方法を使って,頭の中を把握しようとする試みというのが学習の評価ということになります。この観察する手段における一つとして,全国学力・学習状況調査のようなペーパーテストが1つの観察の方法になります。一番現場に近いものだと,授業中に指名された子どもが何を,どのようなことを発言するのかということも一種の観察する手段となります。これらを元に,観察できた認知過程を解釈します。 学習科学の研究で,世界史の講義を受けた2人の生徒への質問の事例があります。教師が生徒に「スペインの無敵艦隊が戦ったのは何年ですか」という質問をします。それに対して,生徒Aは「1588 年です」と答えました。教師は,「それにはどういう意味があるか話してくれますか」と言ったのです。生徒Aは,「話せることはほとんどないです。あくまで年代の一つです。試験のために覚えました。」と言いました。対して生徒Bは「1590 年前後です」と答え,正確な年号を言うことはできませんでした。教師が,「どうしてそう言うのですか」と質問したら,「イギリス人がヴァージニアに定住し始めたのが 1600 年直後だということは分かっています。正確な年代は覚えていませんが。イギリスはスペインが大西洋を支配している間は遠征をしようとはしないでしょう。大きな遠征を組織するのには数年かかりますから,イギリスが大西洋の海域権を得たのは 1500 年代の終わり頃だったに違いないということになります」というように答えました。この2人のどちらを評価したらいいのでしょうか。年号を問うような穴埋め問題の時には生徒Aの方が点数を取れるでしょう。でも,世界史を体系的に知っているのは生徒Bの方だと思います。なぜここでこの例を取り上げたのかというと,評価の三角形を考えた時に,年号を覚えてほしいのか,それとも世界史の見方・考え方を深く分かってほしいのかという目的によって,観察する手段が変わるからです。学習目標が生徒なりに歴史に対する事実の体系的な理解を作りだしてほしいのであれば,穴埋めテストではその子は点を取れなくなります。丸暗記で頑張って覚えた子の方が,点数が高くなるということが起こってしまいます。そこから,暗記した子の方がいい学びを起こしたという解釈になってしまうので,それは間違った評価ということになってしまいます。体系的な理解を作り出してほしいのであれば,記述テストにして,そのこと自身を問うて,体系的な記述ができているかということを評価するように,観察の窓を広げていかなければいけないということになります。生徒Bは4つの歴史について記述しています。学習目標が歴史的事実を多く知っている,事実が推測されているということになれば,評価軸を用いるような観察をすることで生徒Bができているというよ

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うに解釈できます。浜松小学校のように「資質・能力を育む」「その教科の本質を追究する」というような授業展開をした上で,テスト問題を穴埋め問題とか,事実を確認する選択肢問題というのをやっていると,子どもは一生懸命考えているのに,点が取れなくなります。そうすると子どもは,授業中では楽しく話し合うけど,ずっと覚えて定着しておかないといけないことは,年代を覚えていることや選択肢問題に答えることで,授業と自分が学習する範囲の分断ということが起きてしまいます。本来,ねらっている資質・能力の育成が実現できなくなります。子どもはテストに敏感です。授業をどんなに教師が工夫しても,そういう確認テストばかりやってしまうと,子どもはそれだけを復習するという形になってしまいます。逆に教師から見てもせっかく教科の本質を追究している授業をしているのに,なぜテストの点が取れないのかということこそが評価の三角形のバランスが悪いということなのです。まず,授業を改善するのではなく,観察の窓を変えてみないと,知識が大切なのか,思考力・判断力・表現力が大切なのかという振り子の振れるところから脱せなくなるということになります。 もう一つは授業で教師が全体を覚えていくことを大切にする学習課題を課したり,授業のまとめを教師が黒板で行ったりすると,生徒Aのタイプが増えてしまうことです。そうではなく,見方・考え方を働かせながら背景について考えたいなと思わせる学習課題や対話の場面にしかけがあることで生徒Bのタイプの子を増やすことができます。私たちの研究チームでお薦めの授業方法の型の一つとして,知識構成型ジグソー法があります。教師の役割としては学習課題を提示することとエキスパート資料を渡すことです。教師は,グループ活動中,子どもの活動にほとんど干渉することはありません。最後,クロストーク活動の時にさらに深めてもらうためにいろいろな工夫を教師なりにします。全て主体性のある対話を子どもにさせるために,子どもに任せる方法です。提示する学習課題と渡すエキスパート資料を,教科の見方・考え方を働かせてくれるように,教師が仕向けることがこの授業方法の大きな特徴になっています。だからこそ学習課題が機能しないと授業も成立しないということになります。うまくいかなかったジグソー法の例を紹介します。「豊臣秀吉が作った3つの制度について学ぼう」という課題を考えさせるために「太閤検地について」「身分統制令について」「刀狩令について」の3つのエキスパート資料を準備しました。グループでどれか一つを担当して,紹介し合って学ぼうという形で授業を行いました。そうすると最後の子どものまとめは「○○を定める太閤検地」「厳しく区別する身分統制令」

「武器を農民から取り上げる刀狩令」という3つの制度を作ったとして授業が終わってしまいました。従来の知識を覚えておくことが大切な授業であるならば,これでよかったかもしれません。しかし,本当は3つの制度を覚えてもらうことが大切なのではありません。

「この豊臣政権時代に一体何が起きていたのか」ということを理解して,「それが当時の人々にとって幸せだったのだろうか」ということや「そういう政治の在り方」や「日本のそのときの状態や仕組みが今の現代社会と比べてみたときにどうなのだろうか」と考えられるというような歴史の見方・考え方を働かせて学ぶことが大切なのです。しかし,こういう授業スタイルで進めていくとジグソー法で学習を進めても,回し読みをして「太閤検地というのは~」「身分統制令というのは~」「刀狩令というのは~」ということを書き写して

「できました」となります。このような授業は,主体的な学び,対話的な学びは起きているように感じますが,深い学びには至っていません。単なる情報を書き写しているだけです。この授業を見直し,次のような形で再び授業を実施しました。「豊臣秀吉はどんな社会を作ったのだろうか」という課題で同じようなエキスパート資料を3つ用意しました。そうするとお互いの担当した資料を紹介し合うのですが,「そのあとどんな社会を作ったのか」「この制度にはそれぞれ共通点があるはずだ。どこに共通点があるのだろうか」「豊臣秀吉は何

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をやりたかったのか」などの議論が起きるわけです。いわば主体的・対話的な学びの対話のところで,歴史の見方・考え方を働かせるような対話がより多く出てくる授業に変わりました。そして子どものまとめでは,「秀吉は,武士と農民を厳しく区別し,刀も取り上げて,農民が確実に年貢を納めないといけない社会を作った。これによって農民が反乱をすることを防ぎ,年貢も確実に手に入るので,武士にとっては安定した社会になった」という,それぞれの立場から見て,統合的な意味を作り出すまとめをしました。そのとき,「お前も農民だったのになんてひどいことをするんだ」というような質問が出てきました。この質問に対して「農民出身だったのでどこを規制すれば楽に締め付けることができるのかということを知っていたのではないか」という議論になるとか,教師から問い掛けではなく,子どもから「今はだれにとって住みやすい社会なのか」など,まさに生きて働く知識として還元してくるような,問いが生まれてくるような授業になったそうです。 前者のジグソー法と比べて後者のジグソー法の方が,歴史が面白くなり,好きになっていきます。ここで大切になってくるのが教材研究です。教師が教材を把握して,うまく教えるための教材研究ではなくて,子どもがどんなふうに話し合って構成してくれそうかというように子どもの視点からの教材研究こそ,これから学習にとって大切になってくると思います。 対話場面をどういう場所に位置付けるかによっても変わってくる例があります。スタンフォード大学の学習科学者であるシュワルツの研究です。数学「密度」の単元,全7時間を,2パターンでクラスによってそれぞれ違う教授方法で行います。どちらもグループでの話合い活動が入っているのですが,一方は公式を教わってから,グループ演習を解いて定着をしていく「教えて考えさせる」タイプ,もう一方はグループで演習問題を解いてから,公式を教わる「考えさせて教える」タイプです。3週間後に確認テストをしたのですが,そのテストの平均点には大きな有意差はありませんでした。ここまでの結果を見れば,授業中のどこに話合いをもってくればよいかについては,教師が好きな場面で入れて行けばいいのではないかという話になります。例えば「考えさせて教える」は何となく主体的で良さそうに見えますが,授業時間内に収まりそうにないのでやめようと考える先生方もいらっしゃるでしょう。また,苦手な子はこのやり方をすると全然解くことができず,数学の有用感が下がってしまい,もっと数学が嫌いになってしまうのではないかと懸念されます。そうすると,「教えて考えさせる」ことで「解けた」と経験をさせた方がいいのではとなってしまいます。しかし,この研究はここで終わるのではなく,別のタイプのテスト問題を出していました。それは「密度」の単元とその前まで習ってきた単元と組み合わせて考えないと解けないという問題です。その結果が,「教えて考えさせる」授業よりも「考えさせて教える」授業の方が,2倍以上平均点が高かったのです。話合いの様子を IC レコーダーで子どもの発話記録を録って,どういう話合いをしていたのかという,いわゆる発話分析をして原因を定めることをしました。「教えて考えさせる」授業での対話場面というのは典型的に次のようなことが多かったのです。演習問題を解いているとき,どの数値が公式のどこに当てはめればいいのだろうかというような,練習問題の答えを出す方法についてたくさん話し合っていました。確かに文章題を解けるようになるためには,その解き方を話し合うことも大事かもしれませんが,本当にこの話し合っている内容というのは,教科の本質的な部分で見方・考え方を働かせているのか,これは必ずしもそうではありません。一方「考えさせて教える」授業での対話場面の分析をすると「密度」というのはどのようにすれば求めることができるのだろうかということにかなりの時間を使って話合いを行っていたのです。答えを導き出す方法についても話し合っているのですが,どうすれば解けるのだろうかだけではなくて,そもそも「密度」というのは,どうやって求めるのかにつ

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いても多く話し合われていたそうです。こちらの話し合っている内容の方が,教科の見方・考え方を働かせた対話になっているはずです。結果,今まで自分が解いてきた方法ではない問題が出てきた場合でも,自分なりに考えて解くことができるようになっていくのです。ちなみにこの論文のタイトルが「未来の学習のための準備」というものでした。授業で育まなければいけない力というのは,それぞれの時間に学んだ内容が解けるということではなくて,そこで考えて分かったことを使って未来に新しいものを解かなければいけないときに,発揮できる力が身に付けるための授業作りを大切にすることを示した論文だったのです。授業は単元や年間指導を長い目で見ていきながら,教科で学ぶ内容において資質・能力を発揮できる状態にします。つまり,見方・考え方を働かせてその教科の内容を深く知っていくことが必要になったときに,生きて働く知識・技能として習得される状態になります。ここの例であれば「考えさせて教える」授業の方が,習得具合というのが,生きて働く形につながったのです。 主体的・対話的で深い学びというのは学習科学の観点から見ると,次の3点が授業の中に入っている必要があります。一つ目は子ども自身が自分で答えを作り出していくような授業です。答えを知って公式を知って,いかに当てはめていくかという授業ではなく,その公式自身は子どもが対話しながら,悩みながら作っていくような授業です。二つ目は,子ども同士が考えながら対話して,自分の考えを少しずつよくしていく,知っていることを伝えるだけではなく,分からないということも素直に言い合いながら考えていく対話場面が表れている授業です。三つ目は,以上のように学んだことで,教師が行ったことだけを覚えておけばいいというわけではなくて,その先に知りたいことが生まれてくるような授業です。先ほどの公式を教わって練習問題を解くよりも,いろいろ解いてから公式を教わった方が,「いやもっとこういう解き方を自分たちは考えたんだけど,それはダメなのかな」とかいろいろな問いが生まれてくるような授業になってきます。このように問いが生まれることこそ,学び続ける力であるとか,意欲を高めたり,その教科が好きになったりすることにつながっていくのです。 深い学びにつながる主体的,対話的な活動を支えていくためには,学習課題を教科の見方・考え方を働かせたくなるように,焦点化します。学習活動においては,教科の見方・考え方を働かせる場面に対話を取り入れます。とりあえず対話を入れましたという授業は,子どもにとって考えるのが難しそうだからということで,本時の一番大切なところではなく,その前段階や簡単なところについて対話させて,その後,大切なところをできる子に発表させたり,先生がまとめてしまったりする場合があります。そうするとやはり,教科の見方・考え方を働かせる場面とずれてしまいます。どの場面に少人数での対話や考えて表現する場面を設定するのかを吟味する必要があります。この対話すべき場面では,各教科で共通する人の学びの法則が働いています。建設的相互作用という考え方です。一人で話を聞いたり,自分で家庭学習したりしているときに理解したつもりになると,人間はそこで分かったというふうに思い込み,それ以上深めようとしません。浅い理解であっても間違っていても気づかないのです。ただ,二人以上で,先ほどのようないい学習課題が出され,共通の目標に向かって,考えたり問題を解いたりすると,自分の考え方が間違っているのかなと見直す機会が増えます。相手の話を聞くときも,どうしてそういう考え方をもっているのだろうと,自分の考え方と比べることで,広い視野から自分の考えをもう一度見直すことになります。このような対話を通して,自分の考えを少しずつ深めていき,自分の考えを何度も繰り返すようなプロセスを起こすことにつながります。また,他人の意見や経験を自分の中に取り込むことが自分の理解を豊かにしていくということになるので,納得できるより広い理解になります。このレベルで理解すると,次に理解できないということも

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見えてくることになります。もう一つ,学びの原則として,理解の社会的構成モデルがあります。学びの段階を3つのレベルに分けるとこのレベル1というのが,子どもの授業を受ける初めの状態のことです。教室には,その教科の得意な子,苦手な子,いろいろな資質・能力や性格をもった子がいます。つまり,教室は,ある子だけが知ってること,間違った理論をもっている子が存在する状態です。例えば,学校で教えたいことがレベル3とします。従来の教材研究は,このレベル3の内容を,レベル1の子に,いかにうまく伝えていくかということが多かったのです。一番大切なことは,子どもだけでは分からないだろうからということで,そこを学び合いではなく教師が説明しようということになります。分かりやすい説明のために ICT やいろいろな道具を活用して説明します。そうすると,子どもは,先ほど建設的相互作用にもあったように,一人で話を聞いてると,分かったつもりになりやすくなるのです。また,教師の分かりやすい説明が,自分の知識とは完全に結びつかないのです。このようなことで,宙に浮いた理解になってしまい,結局は1~2週間すると忘れてしまうのです。授業の直後の振り返りでは,よく分かったと振り返るが,結局忘れてしまうことが起きてしまうのです。大切なのは対話です。自分で考えて言葉にする,そして,他の人から「そうだね」と言われると,初めてつながるということです。このような活動を通して「そうだね」と言われると,自分のつなげ方は合っているんだという形で納得して定着します。「えっそうなの」と質問されると,このつなげ方は間違っていたのかもとまた感覚活動が始まることになります。こういう形で表現し,自分なりにつなげることに教科の見方・考え方を働かせる場面をもってくるのが大切なポイントです。そのポイントはどこにあるのかということを 2016 年 12 月の中教審答申から考えていきます。知識と思考力等は学びの中で往還しながら育成されるという,学習に関する科学的知見の蓄積を活用することや,学習内容の削減は行わず「アクティブ・ラーニング」の視点から学習過程を質的に改善することを目指そうと言っています。 従来の単元設計だと,知識・技能をまず教師が説明して,インプットさせます。その後に,思考・判断・表現力を発揮させる応用課題を通して定着させていくという考え方が一般的だったと思います。これだと,質的に改善するには限界があります。ここに書かれている

「往還しながら育成される」とは,単元を通していろいろな場面で,思考・判断力・表現力を発揮させながら,技能を生きて働く形で習得させていこうというイメージです。知識と思考・判断・表現力を分断して活動させるのではなく,一体的に考えていこうというイメージが入ってきているのだと思います。学習科学から見ると,学習者が現在もっている資質・能力をその子なりに使いながら,各教科の見方・考え方を働かせて考える授業展開をすると,各教科の重要な内容について理解を構成していくことができるのです。事実のみを覚えるのではなく,その教科と内容に対する深い理解と同時に,この資質・能力や見方・考え方を働かせたからよかったという経験を積むことができるのです。 具体例として,国語のある単元設計について話します。本文を朗読した後に,まず新出漢字を押さえます。その後に,段落に番号をつけて,ある段落の一文に線を引かせ,その部分についての根拠を班で話し合って発表し合います。その後,読み取り方を指導し,教師がまとめて終わることを段落ごとに繰り返します。そして,授業の最後にこの文学作品が伝えたかったことについて,班で話し合ってリーフレットにまとめるという単元設計があるとします。もう一つは本文を朗読した後,まず全体を朗読した後に,この文学作品が伝えたかったことを自分なりにまとめさせます。その後,自分なりの解釈を班の中で交流したりとか,他者との間で共有したりします。そのときに気になったところを,具体的に示しながら共有して,その文学作品の読み取りの広がりを共有していきます。教師から自分自身の考える中では出てきそうもない異なる立場の人の視点を複数示されて,その視点

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から本文を読み直し,その視点から伝えたかったことについてまとめて,また共有していきます。最後に新出漢字は,活動していくときに,調べておこうと伝えておきます。これら2タイプの単元設計があります。 このように単元の流し方が,どういう力を求めているのかということにもつながり,やはりテストの問題にも影響してきます。個人的には後者の単元の方がいいと思いますが,このような2つの授業展開と,これから示すテスト問題を比べて考えていきたいと思います。 現行の大学入試センター問題をはじめ,業者のテストとか県の統一テストなどについていうと,ある文学作品が出た場合に,初めに漢字の読みを答える問題が出されることが多いです。その次に,棒線が引いてあって,その部分の答えを選ぶ問題が来ます。そして最後,3番目の部分に核心部分に対する解釈を選ぶ問題が来ています。このようなテスト形式だと,例えばセンター入試ぐらいの一大事のテストになってくると,まず生徒たちは,設問を読んでから,本文の一部を読むと,答えられる範囲の設問だけでもう答えを出してしまうみたいな,そういう解き方をするのです。または消去法で考えて,答えが何か当てはめるという答え探しをするような解き方をしてしまいます。それで,国語の力を測るというテストになってしまうのです。これでは,テストの問題の解き方を学んでいるのではという話になってしまいます。教師の対応として,テストの点を確実にとれるのは,漢字の読み書きなので,まずそこを一生懸命,その子にさせようとするのです。算数であれば,まずは計算問題ができるようにしよう,文章問題はいいからというようになるのです。こう考えてみると,研究者の立場から見えてくる,これからの試験問題の姿は,ある文学作品が出た後に,核心のところについてまず自分なりの解釈を書く問題,ある社会的立場の人から見ると気になる表現はどこか探して傍線を引く問題,最後は核心部分について,自分の立場ではなくて別の,そういう社会的立場である人から,この文学作品を読み取ると,どう読み取れるでしょうか,ということを考える問題となります。このようなテストになると,全体を見通して,国語の見方・考え方に沿って,その人はどう考えたのか,他の方はどう考えたのかを考えていくような形になっていくと思います。それで対応付けていくと,授業の流れも,苦手な子でも自分なりの解釈をもち,交換しながらも他の人の考えを知りながら,また新たな視点を知り,深めていく,そのプロセスで必要に応じて漢字も学んでいく形にした方が,得意な子も苦手な子も,それぞれに伸びていき,国語の見方・考え方を働かせるような授業になり,しかも評価にまでつながっていくと思います。 資質・能力の3要素を適切に評価するものを,教育改革と謳っています。これまで例にあげてきたような豊かな形で学んだ子どもが適切に評価されるように,日々の授業においても,評価の三角形や観察の窓を増やしていってほしいと思います。浜松小学校の研究も3年目につなげていくのであれば,その窓を増やしていくことで,今回育みたいところを見取りながら,次のステップへ進んでいくことができるといいと思います。 こういう窓を増やしていくというのが大切だと考える理由として,次の学習指導要領の総則に関連するポイントがいくつか書かれています。児童生徒が各教科等の特質に応じた見方・考え方を働かせながら,知識を相互に関連付けてより深く理解したり,情報を精査して考えを形成したり,問題を見い出して解決策を考えたり,思いや考えを基に創造したりすることに向かう学習の過程を重視することと書いてあります。これは,いわば見方・考え方を働かせる部分に,学習過程とどこか違う考える時間を割り当ててくださいということが書かれているのではないかと思います。知識を相互に関連付けてより深く理解したり,この活動自身を子どもにやらせてみようという話になったりします。つい教師は,実際授業をやるときに,子どもの姿を考えると,知識を関連付けるのは難しいから,どんな

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知識があるのかを見つける話合い活動にしておいて,教師がまとめながらどうつながってるか,黒板で先線を引くなどし,もしくは,その教科が得意な子に発表させながら,関連付けてまとめようとしてしまいます。そうではなくて,この関連付けを教科の見方・考え方を働かせながら行わなければいけません。その結果,うまくできなくても次につなげられればいいので,そういう学習過程を重視していくことが大切だと思います。 うまくいかなかったとき,どう改善していくかが,次のポイントになります。次期学習指導要領総則には学習評価の充実が記載されています。これは,各教科等の目標の実践に向けた学習の状況を把握する観点から,学習の過程や成果を評価し,指導の改善は学習意欲の向上を図り,資質・能力の育成に生かすこととなっています。今回の評価というのは,学習成果,結果がどうなったかだけではなくて,学習の過程を大切にした授業づくりを行ったので,学習の過程及び成果の両方を評価していこうとなっています。共に評価して,その結果,教師自身の指導改善を行い,子どもが教科の見方・考え方を働かせて,さらに分かったと思えるように,学習意欲の向上を図るように授業を改善していこうということです。こういうことを繰り返すことで,資質・能力,技能,思考・判断,表現,学びに向かう力,人間性の育成に生かすようにするということが書かれています。成果だけで一般的なところを見るのではなく,学習の過程で,子どもはどうなっていったのかや,覚えたことを子ども自身にどのように語るかというところの評価に変わってきています。このような評価に変えて授業改善を続けることが,よりよい授業の姿に結び付いていくと思います。 主体的・対話的で深い学びの評価というのは,テストの善し悪しと結び付けるのは難しいことです。だから,コストのかからない穴埋め問題や選択肢問題にどうしても頼ってしまいがちになります。しかしこのタイプの問題は,丸暗記したのか,考えて深く理解した成果,生きた知識になっているのかの区別が難しいのです。だから,アクティブ・ラーニングのような学びは,深い学びを目指したもので,やはりその深さを評価して,次に繋げる必要があると思います。だから,コストはかかるが,自由記述を中心とした評価に変えて,子どもなりに説明させることを大切にしていきます。例えば,子どもの学びが深まるよう引用することが大事なので,授業の前と,授業の後で,2回同じ問いについて書かせます。子ども自身に成長した授業だったかを振り返らせます。苦手な子も伸びた授業だっかか,得意だった子もさらに伸びたかというのを見ながら授業を進めていくことや,子どもがどんな課題で話合いをしているか,しっかり見方・考え方を働かせた話合いになっているかをチェックします。大変ですが,研究授業などにおいては,丁寧に記録して比べてみるとさらに深まっていくと思います。

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実践の窓研究協力委員 実践報告

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1 はじめに 友達と対話したり活動したりすることを通した学びを楽しんでいる子供が多い反面,学習内容については教師から教えてもらうことを待つ,受身な姿勢が見受けられた。また,自分の思いを一方的に話したり書いたりしたまま,言葉を精査する必要性に対して意識が低い子供も多かった。そこで,相手を意識し,言葉を的確に用いて伝え合い,学びを深める活動を行うことで力を伸ばすことができるのではないかと考えた。本単元では,国語科で付けた力を生活科の学習で生かすことができるよう関連付けを図り,実践に取り組んだ。

2 実践(1)子供の思いを生かした学習計画,課題設定  図画工作科で転がるおもちゃを作った際,作り方を友達同士で説明させた。作り方がそれぞれ違うことに気付かせ,作り方を伝え合う楽しさを感じさせた。その後,生活科

「うごくおもちゃを作ろう」の学習で,1年生と一緒に活動を行うことを伝えたところ,「1年生におもちゃの作り方を説明したい」という子供の思いが生まれた。そこで,思いを生かして「分かりやすい説明書をつくろう」という課題を設定し,学習を始めた。学習計画は教室内に掲示し,矢印で本時の学習課題を指し示して授業の始めに毎回確認し,これまでの学習を振り返った本時の流れをつかませた。

(2)言葉に着目して「読む」「書く」活動 教科書教材「しかけカードの作り方」を読み進めながら,説明に必要な要素,順序を表す言葉などを確かめた。より分かりやすい説明ができるよう,相手に伝わる言葉選びを繰り返し意識付けた。教材文では,カードの作り方や大きさについては数値を用いるなどして詳しく表現されている。しかし,飾りの大きさについての表現は,やや曖昧である。そこで,大きさの異なる3種類の飾りを比べ,「ちょうどよい飾りの大きさ」について話し合う活動を行った。自分のカードに飾りを合わせながら「ちょうどよい飾りの大きさ」に視点を絞って話し合わせ,具体的に言い表したり,説明したりすることの大切さに気づくことができるようにした。当初3つの見本を比べて,A女は「中くらいの大きさがぴったりだ」と話した。それに対してB男が「中くらいは比べないと分からない。自分で作るときに大きさが分からないから,同じくらいの大きさの他のものに例えたらいい」と発言した。自分の思い浮かべるイメージを言葉で伝え,共通したイメージが持てるよう,適切な表現についての話し合いが進んだ。最後には,「にわとりの卵と同じくらいの大きさ」「手のひらにすっぽり入るくらいがちょうどいい大きさだ」などといった表現が子供から生まれた。相手を意識した言葉を選びたい,という子供の思いが話し合いの共通の視点となり,読みを深めることができた。実際におもちゃの説明書を書き進める中でも,C男「長さの単位を勉強していない 1 年生でもわかるように,黒板消しと

国語科2年 「おもちゃの説明書を作ろう」

浜松市立北浜小学校 片瀬 智美

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同じ長さと書こう」と相手を意識した言葉選びができていた。言いかえをすることでより伝わりやすくなることにも気付き,説明書づくりに生かすことができた。 また,説明書を書く途中で,必ず友達同士で読み合う機会を設定した。「1 年生にもわかる言葉で」「作る順序を正しく」「大きさは何かと比べて詳しく」などのチェックポイントを提示し,視点を絞って読み合うようにした。よりよい表現になるよう,言葉に対する意識を高く持って活動ができた。友達から助言を得たことで,語彙の広がりも見られた。

(3)学びを定着させ,深めるための振り返り 本単元以外でも,国語科の学習では毎時間振り返りを積み上げてきた。単なる授業の感想にならないように,本時の目標を再確認し,毎回,振り返りの視点を提示して行った。かざりの大きさについての学習では,D子「自分に分かるだけでなく 1 年生にも分かるようにしたい」,E子「○○くらい,を正しく使うと分かりやすい」といった言葉の使い方を意識した振り返りができた。授業を通じて,自分にどのような力が身に付いたのかを言語化し,客観的に捉えることができた。

3 成果と課題 生活科「うごくおもちゃであそぼう」では,自ら進んで 1 年生に向けた説明書づくりに取り組んだ。書き進める中で,友達と読み合い,言葉の選び方をアドバイスし合う姿が見られた。その他の学習活動でも,発言する際,具体的な例を挙げたり,言い回しを工夫したりするなど「相手に分かるように伝えたい」という思いが高まったことが感じられた。言葉のもつ働きを意識し,伝える相手に合わせて,よりよい表現を考えた成果ではないかと考える。しかし,まだ語彙の少ない子供たち故,言葉でうまく表現しきれないことも多い。今後,語彙を広げて,よりよい表現をすることによって,さらに主体的なコミュニケーションのとれる子の育成をしていきたいと考える。

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1 はじめに 本学級の児童は , 時間を見つけて読書をする習慣が身についていて , 週末の課題を含めて ,毎月500ページ以上読書をする児童が多い。しかし , 読書量が必ずしも読み取りの力に直結しているわけではなく , 難しい問題に直面すると諦めてしまう傾向がある。 そこで , 読書が好きな児童の長所をつなげ , 附属浜松小学校国語科の「物語のもつ魅力や働きを理解しながら読む」力を , 一人一人が高めていけないかと考えた。そのために宮沢賢治作品の並行読書を行い ,「やまなし」で身に付けた読みの力を , 自分の決めた一冊にもつなげて読む力を育んでいけるように授業を進めた。

2 実践(1)出会いからの並行読書,目的意識 本単元に入るに当たって , 児童は何の情報もなく「やまなし」を読んでみた。「意味がわからない」と疑問を抱く児童が多いと予想されたので , その上で批評家になって作品の良さを考える活動を行った。A男:とにかく言葉が不思議。でも , 色々な表現の仕方があっておもしろい。B女:同じ言葉を何度も使ったり , 自分で作った言葉を使ったりしていて工夫がすごい。C女:こんな目線で書く作者に会ってみたい。といった意見が出た。特に表現方法に注目した児童が多かった。そこで , ①筆者の思いや考え方を知ろう。②表現方法の工夫に着目しよう。という2点を中心に単元を貫く言語活動を「宮沢賢治作品の本の扉を作成し , 紹介しよう」と設定した。 そこで,学級に宮沢賢治作品を集めたブースを設け,色々な作品に親しめるようにした。また , 本校で行っているペア活動の際に , 読み聞かせを行うという目的意識を追加し , 何度も読むことで読みの深まりを生じるように仕掛けた。

(2)本の扉①宮沢賢治を知ろう 「雨ニモ負ケズ」や「イーハトーヴの夢」を読み , 宮沢賢治の人となりや作品に込められた思いを話し合い , 整理した。「自然」「命」「優しさ」「幸せ」といった作品の根底にあるテーマを児童は理解した。

国語科6年 「本の扉を開こう」 ~やまなし~

森町立森小学校 兼子 万紀郎

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②「表現の良さ」を知ろう  授業は「やまなし」を学級全員で読み進め ,「やまなし」と同様のテーマ , 表現を自分の一冊から見つけていった。 まずは全員で「やまなし」の良さを見つけていった。○かぷかぷ笑った。つぶつぶ暗いあわ。△鉄砲玉のような。コンパスのように。光のように。□花が天井をすべる。 子どもたちが感じた素敵な表現を○擬態語・△比喩□その他の表現の3つに整理した。その見方を生かし , 自分の一冊を見てみた。D女:「オツベルと像」…「うぐいすみたいないい声」「花火みたいに飛び出した」「のんのんのんのん」E女:「注文の多い料理店」…「白くまのような」「草はざわざわ木の葉はかさかさ」といったように , それぞれの作品の中の巧みな表現方法を見つけることができた。

③作品の込められた思いを考えよう 「やまなし」を読み進め , 5月と12月の相違点を考えて進めると , カワセミとやまなしの作品上の存在意義について子どもたちの思考はつながった。カワセミは命を奪い , やまなしは命をつなぐ。そこから ,「自然の怖さとつながり」といった思いが作品に込められていると考えた。それらをもとに , 自分の一冊に込められた宮沢賢治の思いを読み進めた。

「オツベルとゾウ」…仲間と助け合う大切さ。「いちょうの実」…親子の離れ。大切な妹妹をなくした寂しさ。「よだかの星」…命の大切さといった思いが込められていると考えた。

3 成果と課題 対象との出会いにおいて,疑問や興味を抱き , 学習につなげていくことで , 意欲的に取り組む姿が見られた。また , 学級全員での学びと , 一人学びを効果的に用いることで , 作品に対しての理解を深めることができた。友達が見つけた擬態語に近い表現が自分の選んだ作品にもあることを発見し , 宮沢賢治の作品に共通するものに気づく児童もいた。 表現方法は色々な作品に共通していることが多く,学んだ力を生かすことができたが ,作品に込められた宮沢賢治の思いは , 必ずしも全作品に共通しているわけではなく , テーマがわかりにくかったり ,「私はこう考えた。」というように , 個々の読み取りの力に左右されたりする点が大きかった。 児童にとっては , 作品の背景にある時代や作者の思いを知ることで , 作品の魅力を味わうことができた。今後は , 一人一人の読みの深まりを意識して研修を重ねていきたい。

< 思いを追究する子ども >

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1 はじめに 社会科の学習対象の中でも,6年生で学習する政治は,児童からすると自分の生活に関係のないものという意識が強いように思われる。しかし,この政治こそ今後の社会を生きる児童に最も身近なものであり,その根幹にある日本国憲法は,国民生活の基本となっている。日常生活の事柄を「国民の権利」という視点から見直したり,憲法の条文を使った表現活動を行ったりすることを通して,当たり前のように過ごしている自分たちの生活や民主政治の基本に実は日本国憲法があることを理解してほしい。そして,社会的事象を日本国憲法との関わりという視点から考えてほしいと思い,実践を行った。

2 実践(1)中心資料を繰り返し活用して,「国民の権利」という見方と深まりを生む 単元の導入で,1枚の写真(投票所に設けられたスロープ)を提示した。投票所であることが分かり,「どうして投票所にスロープがあるのでしょう」と問い掛けると,「高齢者や足の不自由な人も入りやすくするため」といった「福祉」の視点からの意見が多く挙がった。 国民主権の学習を行った後,参政権の学習の際に再度,導入で使用したスロープの写真を提示した。単元の導入と同様に「投票所にスロープがある理由」についてグループや全体で考えた。しかし,この授業では,一段低くなっている投票用紙の記入台の写真も資料として加えた。それにより,車いすを使用する人が単に投票所に「入るため」ではなく,「投票するため」という理由を見出すことができた。国民主権の学習と関連付けて,「スロープやバリアフリーの記入台がないと国民主権なのに投票できない人が出てしまう。」という意見も挙がった。まとめと振り返りの中でA女は「投票所のスロープは国民の参政権を守るためにも必要。投票所のバリアフリーが広がってほしい」と書いていた。複数の資料を関連付けることで,これまで「福祉」という見方で見ていた事象を「国民の権利」という見方で見ることができた。また,中心資料を繰り返し活用することで,その変容がより分かりやすくなった。

(2)仲間と,条文を自分たちの言葉や図で表すことで,学習問題に迫る 日本国憲法で保障されている国民の権利をタイトルのみ簡単に紹介して感想を発表させると「当たり前のことばかり書いてあるけど,本当に憲法は必要なのか」という意見が挙がり,児童の疑問から「日本国憲法はどうしてあるのか」という学習問題で学習を進めることとなった。 基本的人権の尊重として保障されている国民の権利と義務を学ぶ際,グループで1つの条文を担当して,「条文の意味」と「その条文がなかったらどうなるか」の2点について画用紙にまとめ,発表する活動を取り入れた。担当する条文は教師が選んだものから

社会科6年 「日本国憲法はどうしてあるの」

浜松市立可美小学校 藤田 直也

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グループごとに選択した。各グループには,担当する条文と辞書,本の資料を与えた。絵も入れながらどのグループも自分たちの言葉で分かりやすく表現していた。児童の言葉で書かれていることで抵抗なく憲法に触れるだけでなく,条文に合った表現をするために,相談をしながら仲間とその権利の意味を考えていた。また,「その条文がなかったら」を考えることで,日本国憲法が国民の生活の基本となっていることも理解できた。単元の初めに「憲法はあまり必要ない」と考えていたA男は,学習後の振り返りで「日本国憲法は当たり前のことを書いているのではなく,憲法が今の生活の当たり前を作っている」と考えるようになり,憲法に対する考え方が深まっていた。

3 成果と課題 同じ写真を導入と展開で活用することで,「国民の権利」という見方に気付くことができた。また,その意識の変容や深まりを知ることができた。国民の権利について,仲間とともに条文を自分たちの言葉で表す活動を通して,憲法への抵抗感が薄れ,内容の理解にもつながった。「その条文がなかったら」という視点を表現内容に入れることで,より日本国憲法と国民の生活とのつながりを理解できた。 一方,課題設定の場面では,教師が用意した資料や問い掛けから課題の設定を行っており,児童が受け手となっていた。児童が興味をもちにくい対象こそ,課題設定の場面での活動や対象との出会わせ方を工夫することで,児童が興味をもち,自ら課題を見出すようにしていきたい。

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1 はじめに 本学級の児童は,身の回りの事象に興味や関心をもったり,「これはどういうことだろう」と疑問に感じたりする子が多い。算数科の授業でも,教師とのやりとりから課題を見付け,

「やってみよう」「解いてみたい」と意欲的に取り組む姿が見られる。しかし,どのように解けばよいのか解決までの見通しがもてなかったり,答えを導き出すことが難しいと感じたりすると,すぐに諦めてしまうことがある。 本単元「速さ」は,どの子も日常生活の中でよく触れている。陸上練習で100m走を計測したり,家族の車に乗ればスピードメーターを見たりして,「速さ」の概念はどの子ももっている。そこで,導入では子どもの疑問や関心の高い話題から課題を設定した。また,体験活動を取り入れることで,量感覚をつかみやすくした。このような手立てで本単元を構成すれば,子どもたちの学びへの意欲を持続させることができ,本質に触れる学びにつながると考えた。

2 実践(1)子どもたちの言葉による課題設定 本単元の導入段階では,「速さ」という言葉から連想するものとして,ボルト選手や新幹線などが子どもたちから挙がった。そこで,100mを9.98秒で走った桐生選手を話題に出した。すると,「桐生選手よりも速い動物には何がいるのかな」という疑問が挙がった。「チーターは速い」「ダチョウはどうかな」「どれくらいの速さで走るのかな」など,次々と子どもたちからつぶやきが出た。「小学館の図鑑・NEO+ プラス くらべる図鑑 新版」(発行所:小学館)を見せると,子どもたちの興味や関心はさらに高まった。課題は,子どもたちから出た「桐生選手よりも速い動物は?」になった。また,自分の100m走の記録を基にすると,「時速は何㎞なのだろう」「マラソン選手はどれくらいの速さで走っているのかな」と次々と疑問が生まれたので,それらの言葉を使って学習課題とした。子どもたちの興味や関心のある話題から学習課題を設定することで,子どもたちの学習意欲が持続できていることが感じられた。

(2)体験による追究活動 「速さ」の学習を進めていくと,数字だけの単純な計算になってしまい,単位の間違えや量感覚がつかめない子が出てくる。前出の図鑑によると,小学生の走る時速は19kmと載っていた。そのことを話すと,「その速さは,普通の小学生の速さなのか」「自分たちと比べて速いか遅いか分からない」「自分も実際に走って確かめたい」といった声が

算数科6年 「速さ」

袋井市立笠原小学校 加藤 麻衣子

<「速さ」から連想を広げる子ども >

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挙がった。そこで,「1時間走って確かめるのか」と尋ねた。すると,「1時間走り続けなくても,1分走れば時速は求められる。1秒では短すぎて分からない」と子どもたちの反応があった。1時間ずっと同じ速さで走ることはできないが,「平均としての速さを求めることができる」ということを,ここで押さえることもできた。実際に走って,時速を求めると,「友達の結果を知りたい」という思いが生まれ,自然と交流を始めた。「何kmだった」と結果を聞く過程で,計算の仕方を説明し合った。お互いに説明し合うことでミスに気付くこともできた。このように,実際に走る活動を取り入れることで,子どもたちの量感覚が磨かれたり,学びへの意欲が持続されたりし,より深い学びにつなげることができた。

3 成果と課題 本単元「速さ」は,日常生活と結び付いている。子どもたちも「速い」「遅い」などの言葉を用いて,日常的に速さを表現している。単純な計算問題だけをやっていると,「自分がやっている計算は,何を求めるためにやっているのか分からなくなってしまう」という姿が今までに何度か見られた。そうなると,途端に学習意欲が低下してしまう。今回,単元の導入で子どもたちの関心を高め,子どもたちの言葉によって学習を進めることができたので,意欲を持続させることができた。また,体験活動を取り入れることで,子どもたちが「速さ」の量感覚をつかむことができ,見当をつけて計算する力も付いてきた。 課題は,子どもの発言の見極めである。どの言葉を課題にすれば,本質に触れる学びになるのか,子どもたちの言葉をつないで授業をデザインすることは難しいと感じた。今後も研修を重ねていきたい。

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1 はじめに 本学級は,明るく素直で,どの学習に対しても,真面目に取り組む子供たちである。反面,自分の考えがもてても,自信がもてず,全体の場で発表することを苦手とする子が多い。 そこで,附属浜松小学校で大切にしている「本質に触れる学びにつなげるための対象との出会い」という視点をもとに,子供たちに自分の考えを友達に伝えたくなるような場の設定を工夫してみた。6年「円の面積」の単元での実践を紹介する。

2 実践(1)対象との出会い 「円の面積」での導入で,「アキコーズピザへようこそ」と題して,ピザ屋を想定した。ピザ屋のチラシを実物投影機で見せながら,雰囲気を作り出す。そこで,大きさの違う3つのピザを店長より提案。「Sサイズ直径 15㎝ 900 円,Mサイズ直径 20㎝ 1500 円,Lサイズ 30㎝ 3500 円,この3つのピザのうち,どのピザがお得だろうか?」と問いかけた。

 子供たちは,「う~ん」と悩み出す。「Sサイズのピザかな?」「えっ,そうかなあ?ぼくは,大きいピザが一番お得だと思うな」と自然に会話が始まっていく。自分が一番お得だと思うピザのところにネームプレートを置かせ,課題解決に入っていく。 次に,全体で見通しをもつ。「何を調べれば,どれがお得か

分かるのかな?」A男,「1円あたりの面積を調べればよい」B女,「1? あたりの値段を調べれば,よいと思う」5年時に学習した「単位量あたりの大きさ」に結び付けて考える児童が出てきて,「あぁ~,なるほど」と学級全体で納得し,見通しをもつことができた。そこで,普段,行っている3人グループでの学習隊形を生かし,3つのピザをグループで分担し,同じピザのグループで集まって課題を解決し,再度,3人グループになり比較検討する,ジグソー学習を取り入れて,学習を進めていった。

(2) 学びを深める場の設定 最初の3人グループを解体し,同じ課題のメンバーが集まり,課題解決を進めていく。S サイズのピザを選んだグループは,ピザを4等分し,その4等分したものの1? の正方形の数を数えていくやり方の児童が多くみられた。L サイズのピザを選んだグループでは,S サイズと同じやり方でやっていたが,数が合わず,数えるのに大変だという声が上がってきた。そこで,C男が「ピザをカットして,置き換えれば,平行四辺形か長方形になって,面積の公式が使える

んじゃないかな」と意見を述べ,それを聞いたD女も「なるほどね。習った図形に変えれば,面積を求めることができそうだね」と。L サイズのグループは,「カット方式」と

算数科6年「アキコーズピザへようこそ~円の面積~」

浜松市立井伊谷小学校 岩岡 暁子

< 板書の様子 >

< 課題解決の様子 >

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題して,取り組み始めた。M サイズは,どちらの方法も見られた。わからない児童は,同じグループのメンバーなら聞いてよいというルールのもと行ったため,周りの子にわからないことを聞きながら,なんとかピザの面積を求めることができた。 もとの3人グループに戻り,1㎠あたりの値段を計算し,比較検討し,全体で確認することができた。また,全体では,1㎠の正方形の数を数える方法は全員が理解できたが,C 男が命名した「カット方式」のやり方は円の面積の公式を導き出す重要な鍵になる内容であるため,丁寧に扱った。児童が提示した式を活用し,式の意味を考えさせた。そして,子供たちとともに,円の面積の公式を導き出すことができた。最終的には,円の面積の公式を利用して,1㎠あたりの値段も正確に出した。子供たちが出した答えと一致したので,多くの子供たちは,達成感を味わうことができ,学習を終えることができた。

3 成果と課題 必要感のある課題と,ジグソー学習を取り入れたことで,子供たちの意欲を高め,課題解決を進めることができたことは成果だと思う。友達との自然な会話も生まれ,本質に触れる学びに近づけることができた。しかし,算数が苦手な子にとっては,やり遂げた達成感を味わうところまでたどり着いたのか,課題が残る。より多くの子が達成感を味わうことができる対象って何だろう?教師として,問い続けていきたい。

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1 はじめに 本単元で扱う太陽は,地上から毎日見ることができ,児童にとっては大変身近な学習材であるといえる。しかし,太陽の光は,児童にとっては当たり前に存在するものであり,手でつかんだり,触ったりできるものではないため,なかなか意識しにくい存在でもある。 そこで,児童が太陽の光の力を意識化できるようにするためにソーラークッカーを用いて目玉焼きを焼く実験を通して単元を組み立てようと考えた。

2 実践(1)目玉焼きを焼く実験から問いをもつ 単元の導入では,ソーラークッカーを紹介しよく晴れた日の運動場で目玉焼きを焼く実験を行った。比較するという考え方に触れさせるため,卵を乗せた皿をソーラークッカーの上と,ただの地面にそれぞれ置くという対照実験で行い,経過を観察した。その結果,ソーラークッカーの上に置いた卵のみが焼けたのを見て,子供たちは「どうしてこっちだけが焼けたのですか」「電池や火は本当にないのですか」などといった,疑問の声を多く挙げた。疑問を解決するために,ソーラークッカーの装置を再度調べるなどをしたが,その場では疑問を解決できなかったため「ソーラークッカーで卵が焼けたのはどうしてかな」という問いを,今後の学習を通して追究していくことを確認し,学級全体で単元を通した問いを共有することができた。

(2)問いを解決するための実験を行う 次時に,問いに対する答えの予想をしたところ,ソーラークッカーの銀色の表面が太陽の光を跳ね返しているのではないか,その光が卵に集まって卵が焼けたのではないかという仮説を立てることができ,以下のような実験を行うこととした。 ① 光は跳ね返るのか確認する実験 ② 光は熱いのか確認する実験 ③ 光は集まるとどうなるのか調べる実験 それぞれの実験について,児童はグループで実験方法を考え,次時以降追究した。 ①の実験では,ソーラークッカーを模した銀紙や鏡に,懐中電灯を使って光を当てることで実験を行った。これによって光の反射を学習することができた。 ②の実験では,児童たちは,学習発表会で使用しているハロゲンライトが熱かったことを想起し,放射温度計によってこの温度を測ることによって,光には熱があることを確認した。 ③の実験では,①の実験を生かし,鏡によって光を反射させ,一カ所に集め,観察することで,光は集めるとより明るくなり温度も上がることを突き止めることができた。

理科3年 「太陽の光を調べよう」

浜松市立奥山小学校 杉山 瑛一

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(3)問いを解決する ①~③の実験から,児童たちは予想が正しそうであることを認識しグループごとに「ソーラークッカーで卵が焼けたのはどうしてかな」という初めの問いを解決することができた。

3 成果と課題 理科学習の本質は,単に無目的な実験を行い自然界の性質を理解することではなく,実際の現象から課題を捉え,観察や実験を通して課題を解決していくことである。本実践では,その本質に触れるという意味で意義深いものだと考える。また,問いを始めに共有し,それをグループで協力しながら解決していく学習スタイルをとったことで,児童の自律的協同的な学習を促すことができた。さらに,見方・考え方という点でも,学習上の様々な点で光の量的関係に着目し,温度や光量の違いを比較する活動を行うことができた。これは,理科における資質・能力を育むために大変重要なことだと考える。 しかし,児童の多様な考えを引き出すという視点から見ると課題がある。本実践では,実験方法の考案という点で児童の多様な考えを引き出すことができた。だが,本実践で設定した問いに対する答えは1つに定まってしまっており,学習の広がりがなく,一本道の学習であるという側面は否めない。今後は,より広がりのある課題を考案し,児童の資質・能力をより高めていきたい。

<児童の考えの例>

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1 はじめに 附属小学校の研究課題「自律と協同の資質・能力を育むカリキュラム創造と授業づくり」の課題設定と授業デザインに着目した。そして,子どもが学習の目的意識を明確にもち,主体的に他者と関わりながら自己を高められるような題材にしようと構想を練った。また,振り返りを充実させることにより,子どもが自らの学びを受け止め,さらに次の学びへの思いが生まれるだろうと考え,本題材を実践した。

2 実践(1)目標設定 前題材「おとのたかさにきをつけてうたおう」では,階名で模唱や暗唱をして音程感を養った。子どもは,音には高低があることに気づき,音の高さに気を付けて歌うことができた。そこで,本題材では音の高低による旋律の特徴や鍵盤ハーモニカの音色を聴き取ったり感じ取ったりしながら,音色に気をつけて簡単な旋律を表現させたいと考えた。 鍵盤ハーモニカの音色に興味をもてるように題材の導入では,鑑賞曲「みつばちのぼうけん」を聴いた。子どもは楽曲を聴いて,鍵盤ハーモニカの音色からみつばちが冒険する様子を想像し,鍵盤ハーモニカの表現の豊かさを味わい「吹いてみたい」「曲を演奏したい」と思いをもった。そこで,鍵盤ハーモニカのことを知り,音色に気をつけていろいろな旋律を表現することを目標に,題材名を「鍵盤ハーモニカとなかよくなろう」と設定した。

(2)交流活動 子どもが音や運指に抵抗なく鍵盤ハーモニカに親しむことができるように,音遊びの活動を取り入れた。 鍵盤ハーモニカの音を自由に出させると「ボタン(鍵盤)の押すところを変えると違う高さの音が出る」と音の高低があることに気づいた。その後,好きな1音で音のリレーや2人組で問いと答えの仕組みで音による対話をした。自分や友達の表現を聴いて「低い音でずっと息を入れると長い音になる。宇宙にいるみたい」「少ない息にすると消えそうな音になった」など,音の長短や音の質感による強弱を表現できることに気付き,鍵盤ハーモニカの音色のよさや面白さを感じ取ることができた。 「他の音も吹きたい」と思いをもった子どもは,「ド・レ・ミ」の3音,「ド・レ・ミ・ファ・ソ」の5音で音遊びをした。これらの活動では,旋律の動きが視覚でも分かるように旋律を図(図1)に示した。図の名前を考えて親しみを持たせ,どのような動きの旋律になっているかを意識して音遊びができるようにした。 友達と,問いと答えの仕組みで旋律の対話をすると「高いぎざぎざと低いぎざぎざのお話だね」

音楽科1年 「けんばんハーモニカとなかよくなろう」

浜松市立篠原小学校 平井 美紅

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 「強いのぼりと弱いくだりはけんかをしているみたい」など友達の表現をよく聴いて,その表現に対してどのように答えるのか,音色やリズム,旋律の動きを考えて表現した。またお気に入りの旋律を簡単に記譜(図2)し,旋律の特徴を考えて,友達の旋律と繋げたり繰り返したりした。これらの活動を通して音色や旋律のよさや面白さを感じ取ることができた。 音遊びに十分に親しみ,簡単な旋律を表現できるようになった子どもは,「曲を吹いてみたい」という思いをもった。そこで,教科書教材の「なかよし」を演奏する活動を設定した。音遊びを通していろいろな動きの旋律を表現していたため,多くの子が順次進行や跳躍進行も無理なく演奏することができ,友達と音を合わせて演奏を楽しむことができた。

(3)振り返り 毎時の終末の振り返り活動では,めあてに対して,◎・〇・△の3段階の記号による評価と分かったことや思ったことを記述させた。「ド・レ・ミ・ファ・ソの音でいろいろなお話をして楽しかった」「ぎざぎざと山の順番を変えてつなげるといい音楽ができた」のように本時の学習を見つめ,自らの学びを受け止めることができた。また,「もっと難しい音や曲も吹いてみたい」と次の学びへの思いを記述する子どもも多くいた。

3 成果と課題 題材の導入で,鑑賞曲を聴いて鍵盤ハーモニカの音色の豊かさを味わわせることで子どもは,「吹けるようになりたい」という思いを持続して活動に取り組むことができた。音遊びを通して交流活動をすることで子どもは,相手の音をよく聴いて,音や旋律をどのように表現するか思考しながら,自分の思いを表現することができた。振り返り活動によって,一年生なりに学習を見つめ,学びに対する達成感を得て,次の意欲をもつことができた。 高い音を「大きい音」と話す等,子どもが伝えたいことと話す言葉が違うことがあった。

「短い音」を聴くと「拍の間に隙間がある」と答える子もいた。子どもが伝えたい思いを教師が理解して必要に応じて音楽的な言葉や用語に変換しながら,子ども達の語彙を増やし,今後の交流活動を充実させたい。

< 図1 旋律の図 > < 図2 簡単な記譜 >

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1 はじめに 何かを作り出すことがゴールなのではなく,図工で作ったものを生かす活動ができないかと考えていた。 今年度,磐田北小学校では,9月 30 日に運動会を行った。2年生は,リズムダンスを披露する。ダンスの構想を練っているとき,一工夫できないものかと考えた。そこで思い付いたのが,今回のお面である。子どもたちには,運動会のダンスをぐっと盛り上げるお面を作ろうと投げ掛けた。 作りたいお面のイメージをもち,色や形,材料を選ぶ。材料の特徴を生かしたり,材料をしっかりと固定したりする接着方法を身に付けさせたいと考えた。

2 実践(1)単元の本質に迫るための手立て 本単元では,単元の本質を「お面のよさや面白さに気付き,自分のイメージするお面を作るために,色,形,材料を選び,効果的に使うことで自分の表現に生かすことができる」とした。小学校低学年ということで,漠然としたイメージをもつ中で,そのイメージにとらわれることなく,その時感じたことや友達のお面作りからの刺激などを大切にしていくようにした。 自分の作りたいお面のイメージをもつために,お面の役割について話し合った。そこで,

「お面は,役になり切ったり,気持ちを盛り上げ楽しくなったりするものだ」と共有化を図った。その後,世界のお面を例示することで,お面の多様さや表現の面白さに気付かせた。また,自分たちが踊るダンスの曲を聴き,作りたいお面のイメージをもたせた。 材料は,子どもたちが扱いやすく,軽く,工夫ができ,華やかに見えるものを準備しておいた。材料の特徴,よさ,できることを,子どもたちの意見を集約し黒板に可視化した。 イメージを形にすること,材料をしっかりと接着させるには何をどのように使うのかということについて,子どもたちの葛藤が生じた。そこで,はさみの切り込みの入れ方の指導や,友達の表現の鑑賞などを通して,問題解決を図った。また,接着の問題については,どの材料にどの用具をどのように使うとよいか,子どもたちの経験や実践から,意見を出し合い,黒板に可視化し,共有化を図った。

(2)見方や感じ方を育むために 自分の見方や感じ方をもち,また新たな見方や感じ方に気付かせるために,今回,子どもにとって新たな題材であるお面作りに挑戦した。運動会のダンスを,自分たちの作ったお面で更に盛り上げようと投げ掛けることにより,主体的な学びにしようと考えた。

図画工作科2年「おめんをつくろう!おめんでたのしもう!」

磐田市立磐田北小学校 宮木 友香

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 また,世界のお面や準備された材料からどんなイメージをもつのか,教材に対する対話を大切にした。製作過程では,自分のイメージや材料の使い方に,よさや面白さを感じることができるように声を掛け,見方や感じ方が広がるようにした。 友達の形や材料の使い方を見て知ることで,そのよさを自分の製作に取り入れることができるように声を掛けた。A子は花紙でリボンや花を作っていた。B男は,花紙を面の側面に貼ることで,淡い色合いを出した。その花紙の工夫が学級に広がり,花紙万能説が生まれた。このように,イメージを塗り替えていく面白さを味わわせ,新たな見方や感じ方に気付かせていった。

3 成果と課題 完成前から,お面を被りたがり,ダンス曲を流すと,指示がなくてもお面を被って踊っている子どもたちの姿から,自分のお気に入りのお面を作っているのだという気持ちが伺えた。骨格作りの段階から,お面を着けたときの高揚感を感じているようで,製作期間,お面を着けている子どもたちをよく見掛けた。お面の面白さを感じ,思いっきり楽しむことができたため,2年生にふさわしい題材であったと感じる。 また,材料の厳選は,子どもたちのなかで自然と共有化が図られ,表現の広がりが見られた。材料に合った用具の使い方を可視化することも,共有化が図られたため,自力解決につながり,創作意欲も向上した。 単元を通して,自分が作りたいものを,自分で材料や用具を選び,工夫しながら形を作っていくことができたと感じる。 今回,材料をこちらで準備してしまったが,本当によかったのかという思いが初めからあった。しっかりと授業を振り返り分析し,子どもの見方や感じ方を更に広げるためにはどのような手立てが有効なのか,模索していきたい。

< お面を被って踊る子ども >

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1 はじめに 本学級35名の児童は,とても活発で,進んで運動に取り組もうとする子が多い。1年生の跳び箱を使った遊びを通して,運動の行い方を知っている子やまたぎ越す動きができる子が多かった。また,1学期に「マット遊び名人になろう」の単元を行ったことで,手や体,足を操作する技能と体の柔軟性が高まってきた。 一方で,学習に向かう態度については課題が残り,友達と一緒に安全に道具を運んだり,順番を守って仲良く運動したりする学習態度がまだ身に付いていない子がいた。数人の子は,跳び箱を使った運動遊びに苦手意識があり,進んで運動に取り組めず,結果として跳び箱をまたぎ越せない子もいることが分かった。その理由としては,両足踏切ができない,踏み切って腰を上にはね上げられない,着手を前にできずお尻が当たってしまうからである。思考・判断の面でも課題があり,自分で練習の場所や遊び方を選べず教師や友達に頼ってしまったり,遊びの行い方を間違えてしまったりする子がいた。 今回の実践では,本学級児童の実態から,体育科で身に付けたい自律と協同の資質・能力として,①学習に向かう態度(協力して道具を準備したり,進んで遊び方を考えたりする態度)を育てること②自分で苦手を見つけ得意になるための練習方法を自分で選択する思考判断力を育てること③跳び箱を両手で支持してまたぎ越す動きを身に付けさせること

(運動の本質)を重点とした。それぞれの資質・能力を発揮させる手立てとして,意図的な「しかけ」を考えた。

2 実践(1)学習に向かう態度を育てる 「しかけ」として良い準備のやり方をみんなで考えたり,前時で準備にかかった時間を提示し「視覚化」したりした。すると,「重たいものは2人で息を合わせて持つ」「後ろ向きにならないように横向きで歩く」「役割分担した方が,早く準備できる」などの言葉が集まり,結果として2分台ですばやく,かつ安全に,準備や片付けができるようになった。また,子ども自らが考えた遊び方や場所を授業に取り入れることで,自分たちから学習を進めていけるようになった。最終的に,8つの場を設定し,練習を進めることができた。

(2)友達のよい動き方をみんなで出し合い,評価の仕方を「共有化」したペア学習 「しかけ」として,友達のよい動き方をみんなで出し合う時間を設定し,ポイントを分かりやすく3点ずつ押さえることにした。ペアでそのポイントができているか動き方を見合い,評価の仕方を「共有化」した。運動をする前に,一人が「○○に気を付けてやるよ」と言い,動きが終わったあとに,「どうだった?」と見ていた人に聞かせることでお互いに評価し合った。その中で,「・・・したらもっといいから,もう一度やってみて」「・・・

体育科2年 「器械 ・ 器具を使っての運動遊び」

磐田市立田原小学校 鈴木 正洋

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がこうだったよ」と交流している姿も見られた。

(3)「踏切での腰の跳ね」感覚と「着手での手や腕の支持」感覚への「焦点化」 助走から着地までの一連の流れの中で,「踏切での腰の跳ね」感覚と「着手での手や腕の支持」感覚を「焦点化」した。掲示物に印をつけてスポットライトを当て,「視覚化」した。授業初めの「慣れの運動」の中に腰を跳ね上げるための「カエルの足うち」,腕支持感覚を高めるための「カエル倒立」,練習の場にはそれぞれの感覚を高められる遊びを意図的に設置した。意識して練習したことで,基礎的感覚が高まった。踏切と跳ね上げ,腕支持感覚が高まった子は,より雄大なまたぎ越しができるようになった。

3 成果と課題 体育科で発揮される自律的・協同的な資質・能力として,低学年であることを考え「体の動かし方」と「遊び方」の2点に絞って,子どもに投げ掛けた。苦手な子も積極的に運動したこと,順番やルールを守ったこと,自分の考えた遊び方を進んで発表したことから自律的な資質・能力が高まり,準備や片付けを協力して行ったことやペアでお互いの動きを見合いアドバイスできたことから協同的な資質・能力が高まったと考える。 一方で,いろいろな遊びの中の動きが,またぎ越しの動きにどうつながっているのか分からないままになっていた。ペア学習のときに,具体的なアドバイスができず「よかったよ」

「だめだったよ」としか交流できていなかった子も多くいた。「・・だったからもっとこうした方がいいよ」「・・のときのこの動きができたから,跳び箱が4段跳べたのだ」と言える思考力の高まりのある学習をこれから進めていきたいと思った。

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1 はじめに 子どもを取り巻く環境が日々変化する中で,生活科では,「気づきの質を高め,活動や体験を一層充実するための学習活動」が求められている。さらに,予想困難な社会の中で,知識を基盤とした課題解決をすることができる能力があることが重要になってくる。 本実践では,地域で働く人と関わり,気づいたことを思い思いの方法で表現することで,地域への親しみや愛着をもつことをねらいとした。そこで,附属小の研究する「自律と協同の資質・能力を発揮する学びを創造する視点」に着目し,課題設定・追求活動・振り返りの3点を重視して単元構想を行い,実践していくこととした。

2 実践(1)学習課題設定 本校のある大平台は,佐鳴湖西岸に位置し,近年新興住宅街として整備された。商店の数は多く,また種類も豊富である。2年生の子どもは,近所の商店よりも公園に親しみがあり,よく利用するようであった。そこで,地域への愛着をより深めるために,地元の商店に視点を当てて単元を構想していった。「愛着」という点を考えると,商店を訪れてインタビューするだけではねらいに到達できないと考えた。そこで,「大平台ってすごいんだ」「もっとお店に行ってみたい」と,自分の地域に誇りがもてるようにするために,「大平台のお店じまんをしよう」という,単元を通した課題を設定した。お店自慢をする相手は,別の商店について調べた2年生と,低学年である1年生とした。

(2)追求活動①訪問計画・お店訪問 校外での活動を2回設定した。1回目は,大平台の学区にどれだけのお店があるのかを調べること,2回目は,自分が興味のある商店を訪ねて仕事の見学やインタビューをすることを目的とした。事前に,調べたいことやインタビューの内容をグループで話し合った。「どんなことを聞けば,お店自慢につながるか」と尋ねる時間を設けた。子どもなりに話し合った結果,「そのお店のこだわりの商品やサービスを紹介することがお店自慢になる」とまとまり,それがお店訪問をする上での共通のめあてとなった。 訪問の際には,計画で考えたことの他に,商店を訪問して気づいた,そのお店ならではの仕事やものに着目することで,より細かな質問ができた。 「お店自慢をする」という単元のゴールの姿を想像していたため,どのグループも臨機応変に質問を考えたり,見学をしたりすることができた。②発表準備・発表 4時間かけて,発表に向けての準備をした。訪問での気づきを自覚し,より深められるように紙芝居やクイズ,劇,ペープサートなどの多様な形で表現する活動を設定

生活科2年 「大平台のお店じまんをしよう」

浜松市立大平台小学校 藤﨑 徹

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した。その際,発表内容にふさわしい表現方法を考えるよう助言した。お菓子の作り方を紹介したいというグループは,小道具を作り,せりふを考えて寸劇で表現した。また,一日に作るパンの数を伝えたいグループは,聞き手がより数字に注目できるよう,画用紙に大きく数字を書くとともに,クイズ形式にして発表した。花屋で使う大きな冷蔵庫を紹介するグループは,訪問のときに撮影した画像を提示しながら説明をした。 6つのグループが同時に作業を進めているため,常に机間支援をしながら授業を進めた。同じ商店を調べた子ども同士,それぞれで気づいたことをすり合わせながら活動をするので,作業を進める中でも自然と振り返りをし,気づきを自覚することができた。

(3)課題や成長を感じる学びの振り返り 毎時間の授業の終末には,学習の振り返りを行った。振り返りカードを用意して,文章で1時間の授業の感想や進み具合等を記入させた。「ここまでできたから次は□」や「○ができなかったから次は△」と子どもが自らゴールからどれだけのところにいるかということを確認しながら,次時の目標をもつことができた。さらに,記入されていることをもとに,次時に各グループにどのような声掛けをすればよいかや,進み具合をもとに1時間の授業をどう組み立てたらよいかを,教師が前もって考えることもできた。

3 成果と課題 単元を通した課題を設定することで,子どもに学びの必要感をもたせ,意欲を継続したまま単元を終えることができた。また,話合いや調査の視点を与えることで,子ども自身で追求する姿が見られた。単元の終末には,「調べたお店にまた行きたい」という思いをもつ子どもが非常に多かったため,地域への愛着が増したのではないかと思う。 課題としては,気づきが深まった姿をどう教師が見取り,評価するかということだ。授業の中では支援することばかりに気をとられ,子どもの小さな変化を見取ることが難しかった。確かな規準を設け,子どものわずかな変容を捉えられるよう研究を続けていきたい。

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1 はじめに 若年層全体に占めるニートの割合は , 依然増加傾向にあり , 社会問題になっている。さらに AI(人工知能)が発達することで,現在存在する仕事の半数近くが十年,二十年後にはロボット化されるという報道も話題になった。現在小学生の子どもが成人し職業を選択しようとするとき,憧れていた職業の多くが存在しないかもしれない。そのとき子どもはどのように職業を選ぶのだろうか。 本単元では,単に職業についての知識を深めたり夢を具体的に持ったりすることを優先する学習にならないように配慮した。子どもが社会と共に生きる力を身に付けるためには,

「何になりたい」と同時に「どのように社会に貢献できる大人になりたいか」について焦点化して考えることが重要であると考えたからである。そこでテーマを「生き方を考える~歴史に学ぶ・人に学ぶ~」とし,抽象的とも言えるテーマに迫る過程の中で,主体的,創造的,協同的に取り組む態度を育成することをねらい本単元を設定した。

2 実践(1)学びの出発点 課題設定のため,6年生全員を対象にオリエンテーションを行った。率直に生き方について考えたことはあるか尋ねると,あまり考えたことがないという児童がほとんどであった。そこで,生き方を考えるヒントを集めるために,今までに生きてきた地域の歴史について知ることから始めようと投げ掛けた。 「地域の歴史や過去のことがわかる古いものにはどんなものがありますか」と発問すると子どもからは「家の近くに石碑があります」「お寺に古い看板があるが,どのような意味かは分かりません」など,多くの意見が出た。身近な地域の歴史や先人の業績に興味はあるが,詳しく知らないという子がほとんどであった。 そのため,まず個人で地域の歴史が分かる場所や史跡を探してみることにした。休日を利用して子どもは実際にその場に出掛け写真を撮ったり家族や地域の方から昔の話を聞いたりし,翌週にはいくつかの史跡や数名の人物の名前を挙げることができた。

(2)地域と関わって学ぶ 次に,それらを3つのコースに分類した。特に行ってみたいコースを選び,グループごとにフィールドワークの計画を立てた。 大池と千手堂公民館前の土地改良の石碑について,磐田南交流センターの紹介で,保存会や自治会長の方から直接話を聞くことができた。昔の様子について尋ねたり,説明を聞いたりする中で,子どもは,理解を深めることができただけでなく,この地域がいろいろな人に大切に守られてきたものだということに気づくことができた。

総合6年「生き方を考える~歴史に学ぶ ・ 人に学ぶ~」

磐田市立磐田南小学校 大堂 浩平

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(3)対話を取り入れた課題追求 その後,それぞれのコースごとにどのようなことが分かったか,疑問点は何かについて話し合った。そして学級に戻り,3つのコースそれぞれ1名ずつの3人グループを構成し,各々が見てきたことや疑問に思ったことを話し合った。 子どもは自分の見てきた史跡について生き生きと伝えるだけでなく,他のコースを見てきた子どもの話にも興味を持って聞き入っていた。また,進んで質問したり答えたりする様子が自然と生まれ,地域の歴史への関心を高める活動として有効であったと感じた。 もっと知りたいこと,新たに調べてみたいことがいくつか出てきたところで,思考ツール「ピラミッドチャート」を使い,自分が調べたいことが何かを明確にしやすくなるようにした。

(4)国語科と関連させて,発信する 国語科「町のよさを伝えるパンフレットを作ろう」では,磐田市の「産業」「自然」「特産物」などのテーマでパンフレットにまとめるとともに,総合学習で個々のテーマで調べてきた内容を「歴史」のページとして紹介する学習活動を組み入れた。浜松市立和地小学校と連携し,お互いの市の良さをパンフレットで紹介し合うというゴールを設定することで,子どもは磐田市のことをあまり知らない人にも伝わりやすいパンフレットになるようにと,意欲的に取り組むことができた。

3 成果と課題 個人探究の場面では,ほとんどの子どもが休日に進んで市立図書館や磐田駅などに出向き資料を集めるなど,主体的に学習する資質・能力や課題解決の力を伸ばすことができたのではないかと思う。さらに横断的な学習を取り入れたことで,両教科において子どもの意欲を引き出すことができた。しかし,1学期の活動をパンフレットを完成させることで終わってしまったことは課題である。自分を見つめ,生き方を考えるというところに焦点化したゴールをきちんと用意しておく必要があった。この課題は,2学期以降の「人に学ぶ」へつなげ,改善していきたいと思う。

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1 はじめに 未来を生き抜く子どもにとって,グローバル化の進展は確実であり,人種や言語,そして多様な価値観の存在を認め合い,互いに共存していくことが求められる。世界に目を向け,幅広い視野を養う第一歩として,身近な友達との関わりにより,互いのよさや考えの違いに気付き,コミュニケーションを図る楽しさを実感させることが重要だと考える。 そこで,本実践では修学旅行と関連させ,自分の行きたい場所とその理由を友達と伝え合うことをねらいとした。自分の思いや考えを伝え合うことで,他者への理解を深めたり,人と関わることの楽しさを体験させたりしたいと考えた。これは,附属小が目指す「自律と協同の資質・能力を育む学習課題の在り方」につながるのではないかと捉える。

2 実践(1)題材との出合わせ方の工夫 Hi,friends!2 Lesson5「Where do you want to go?」を本学級の実態に合わせ,修学旅行で行きたい場所とその理由を伝え合う活動とした。子どもたちが楽しみにしている修学旅行の日程,写真や動画等を見せると,「早く行きたい」「この場所でこんなものを見たい」という思いを膨らませることができた。また,担任の行きたい場所とその理由を紹介し,単元の最終ゴールを示したことで,何を目指すのか,自分なら何をどうやって紹介しようかといった学びの道筋を立てることができ,単元を通して関心を高めることにつながった。

(2)英語への自信をつけるために 本学級の子どもは,初めて出合う英語に不安感を抱いたり,分からないとあきらめてしまったりする傾向にある。子どもに英語を豊富に与え,思わず言いたくなる活動を仕組むことで,英語に対する不安感を減らし,徐々に自信を持たせたいと考えた。そのために,次の二つの手立てを工夫した。 一つ目は,絵本の活用である。絵本は,ストーリー性があり,良質なインプットとして有効な教材である。今回は,英語への関心を高める手立てとして,授業の導入時に絵本を活用した。どの絵本も繰り返しのフレーズが多く,次を予想する楽しさもあり,子どもたちは熱心に耳を傾けていた。また,教師の質問に素早く反応し,英語で答える姿も見られ,絵本が子どもの英語への関心を高めることにつながったと捉える。振り返りカードからも,「柵やかごの中にどんな動物が入っているかあてるのがとても楽しかった。今度は違う本も読んでもらいたい」という声も挙がった。 二つ目は,言い慣れる活動時にアウトプットを急がず,インプットの量を増やす工夫である。担任が英語を話すモデルとなり,ICTを活用しながら指示語や褒め言葉を積極的に伝えた。聞いて反応する活動を多く行い,十分に聞き慣れた頃に子どもから発話

外国語活動6年 「Let's Go to School Trip!」

浜松市立上島小学校 久米 優子

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させることで,自然と英語を声に出すことができた。1学期に「英語を覚えないと分からなくなるのでは」と感じていた子どもが「英語は覚えるのではなくて,よく聞けばなんとなく分かった。今日は聞くことの大切さに気付いた」「先生の言っている英語はほとんど同じことを言っているからだんだん分かってきた」など,英語に対して徐々に自信を持つ声が挙がるようになった。

(3)関わり合える楽しさを実感させるために 自分の思いを友達と伝え合う場では,互いに気持ちのよい関わり方を工夫した。相手の話を聞いて,「Wow」「Nice」「Really?」等の反応を促したことで,話し手に興味を持って聞いていることが伝わり,話し手がより伝えたいという思いを高めていった。「交流した時に,リアクションしてくれた友達がたくさんいたので,話している最中も楽しく伝えることができた」「自分が話している時,友達が『Nice』と言ってくれてうれしかった」等の振り返りが多く見られた。 また,「ディズニーランドに行きたいという意見が多くても,見たいものや食べたいものが違って面白かった。今日伝えたことを修学旅行で話せたらいいなと思った」「自分の知らない情報が英語で聞けたから,もっと修学旅行に興味がわいた」等,考えの違いやよさを認め合い,新たな気付きから関わり合う楽しさを実感させることもできた。

3 成果と課題 学校行事と関連付けた単元構想により,子どもの外国語活動への意欲や,伝えたいという思いを高めることができた。また,絵本の活用や,真正な情報のやり取りによって,英語への興味付けや人と関わることの楽しさを実感させることができた。 一方で,フレーズとその理由だけの固定的なやり取りで完結する姿も見られた。コミュニケーションを行う目的や場面,状況等に応じて,英語を活用しながら,関わり合うことの楽しさを感じられるような単元構想を今後も工夫していきたい。

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1 はじめに 本校の子ども達は学習や部活動にまじめに取り組み,行事や体験的な活動では生き生きと活動することができる。また,地域には卒業生が多く,本校の教育に対する理解も深い。一方で,家庭環境に問題を抱えている子どもも少なくない。保健室に来室する子どもの様子からも,家庭生活が安定せず,就寝時間が遅かったり朝食をとっていなかったりと,基本的な生活習慣が整っていない様子が伺える。そのような様子から,子どもが自分自身で健康管理ができる力が必要であると考え,学校保健目標を「自ら進んで健康管理できる子どもの育成」とし,取り組みを行っている。

2 実践(1)委員会活動 1~2ヶ月に1回程度,保体委員会の活動の一つとして,紙芝居によるミニ保健指導を実施している。朝読書の時間に各クラスの保体委員と保体班が協力して健康に関する紙芝居を読み,「熱中症対策」「朝食の大切さ」「インフルエンザ予防」などを呼びかけている。委員会活動として定着しているため子どもは集中して聞くことができ,健康的な生活を意識させる良い機会になっている。

(2)養護教諭による保健指導 発達支援コーディネーターからの

「家庭生活が安定しない子どもが多いので,生活習慣について学校できちんと指導したい」という意見をきっかけに,発達支援学級の子ども全員を対象に養護教諭による保健指導を行った。1学期に歯磨き指導,2学期には生活習慣に関する指導を行った。

①資料の工夫 発達段階が様々であること,集中して授業に取り組むことが苦手な子どもが多いことから,具体物や視覚的な資料を多く用いた。特に委員会活動で使用している紙芝居はとても有効な資料となり,担任からも「子どもが集中してよく聞いていた」「内容がイメージしやすくてよかった」との感想があった。

学校保健 「自ら進んで健康管理できる生徒の育成」

浜松市立北部中学校 髙木 志穂

< 保健指導のワークシート >

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②自己の課題に気付かせ改善させる 2学期の生活習慣に関する指導では,事前に生活アンケートを取り,実態を把握するとともに,個々に生活帯グラフを作成させた。 指導の中では,まず,学級のアンケート結果を提示し,自分の生活と比較させた。「朝ごはん食べてない人なんているんだ」「私全然だめだ」などの反応があり,良い生活習慣のイメージをつかんだり,自分の課題に気付いたりしている様子が伺えた。 次に,事前に記入した生活帯グラフを活用し,個々の課題に焦点を当てた。規則正しい生活の知識が浅い子どもも多いため,生活習慣に関する知識や生活リズム改善のポイントを丁寧に説明し,一つの項目を説明するごとに個々の生活帯グラフを確認する時間をとった。 最後に個々の課題から改善策を考えさせた。「自分の生活の直したいところ」を明確にし,「それがどうなると良いか」というイメージを持たせ,「そのために具体的に何ができるか」を考えるという流れができるよう,ワークシートを工夫した。

③改善につなげる 最後に考えた具体策に1週間取り組ませた。また,継続的な指導として,担任が朝食についての読み聞かせを行った。

3 成果と課題 保体委員会が主体的に活動することにより,子ども同士での声掛けにつながっている。保体委員の子どもからは「テスト前は睡眠不足になりがちだから睡眠チェックなどをしていきたい」といった,気づきやアイディアが出てくるようになった。また,発達支援学級の子どもへは,養護教諭が指導を行ったことで , 健康に関する知識が深まり,担任からの声掛けがしやすくなったとの声が聞かれた。実践を通して,健康意識は高まりつつあるように感じるが,定着するまでには至っていない。今後も,保健週間や学校保健委員会を通し,子どもが自ら健康課題に気付き,改善策を考え,実践していけるような活動を進めていきたい。

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 第 95 回教育研究発表会では,多くの方々に御参会いただき,私たちの研究について貴重な御意見をいただくことができました。この「楷樹」第61号では,「自律と協同の資質・能力を育むカリキュラム創造と授業づくり」をテーマとして取り組んだ私たちの教育実践を紹介しています。よりよい教育研究を進めるため,本号を読まれた方からの御批正をいただければ幸いです。 また,本号では,本校の研究発表会に携わっていただいた先生方より玉稿をお寄せいただき,教育内容や方法についての御示唆をいただきました。厚く御礼申し上げます。 最後に,助言者,研究協力委員の方をはじめ,多くの皆様に支えられ本校の教育研究は成り立っています。今後も,本校教育研究への御指導・御支援をよろしくお願いいたします。

「楷樹」第61号担当 佐野教代 常名剛司

○ 本 校 職 員校  長 新保  淳副 校 長 大村 高弘主幹教諭 山田 正典指導教諭 冨永 浩司教  諭 中村 孝一   有川 貴子   大橋 健一   牧澤 利光 田中 義文   藤井 早苗   佐野 教代   常名 剛司 横山 勝之   村松 正浩   服部  優   髙木 裕之 栗田 佳澄養護教諭 比奈地 むつみ栄養教諭 中村 あずさ

● 編集後記

● 研究同人

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楷樹  第 61 号2017(平成29)年12月発行

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