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主 催:環境省、(財)日本環境協会
平成23年度 土壌汚染対策セミナー
土壌汚染の未然防止対策について
京都大学名誉教授 森 澤 眞 輔
1
平成23年10月26日 朱鷺メッセ 新潟コンベンションセンター
講師の自己紹介 略 歴: 昭和44年 京都大学工学部 衛生工学科卒業 昭和46年 京都大学大学院工学研究科 修士課程(衛生工学専攻)修了 昭和48年 京都大学大学院工学研究科 博士課程(衛生工学専攻)中退 京都大学助手 昭和53年 京都大学助教授 平成 7年 京都大学教授 平成22年 京都大学を定年退職、名誉教授
現 職: 京都大学iPS細胞研究所 特定拠点教授/所長補佐
専門分野: 環境リスク工学、環境デザイン工学、土壌・地下水環境工学 環境汚染が人や生態系に及ぼす影響(リスク)を評価し、リスクを低減する工学的方法 について研究。
2
本日の話題 (環境省:『土壌汚染の未然防止等マニュアル』の紹介を中心に)
1.土壌汚染とその原因の現況
2.土壌汚染を未然に防止する対策マニュアル ・対策チェックポイント ・対策危険予知(KY)シート 3.未然防止対策の効果の評価
3
4
表-1 土壌汚染対策法が指定している特定有害物質 ! " #! $! %! &! '! (! )! *! "
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土壌汚染対策法が指定していない物質であっても、環境中での分解性 が低く、毒性の高い物質については、特定有害物質と同様に漏洩等による 土壌汚染に十分に注意する必要がある。 また、これらの物質を含む商品が、異なる名称で流通・使用されている。 これらの商品についても留意する必要がある。
5
○土壌環境基準等の超過事例の内では、「(8)(原因)不明」が全体の半分近くを占める。 ○原因が判明している事例の内では、「(2)汚染原因物質の不適切な取扱いによる漏洩」 が最も多く、全体の概ね1/4を占めている。 土壌汚染を未然に防止するためには、有害物質の取扱いに十分に注意を払い、 「有害物質の人為的な漏洩」を防止することが効果的な対応である。
土壌環境基準等超過事例の原因行為
2%1%
(1)
449
(2)
1,000
(3)
217
(4) 176
(5) 66
(6)
38
(7) 235
(8) 1,904
3 20
4,085
11%
24%
5%
4%6%
47%
-120
22 3
6
既存の汚染事例の収集・分析の視点 (有効な対策案の抽出)
対策案の区分 ○ハード(Hardware)対策: 設備や装置の設置や改良等を内容にする対策。
○ソ フ ト(Software)対策: 設備や装置の運転・運用方式の改善、人による監視やマンパワーに よる対応等を内容にする対策。
○ハート(Heartware)対策 設備や装置と人との接合領域、いわゆるマン・マシン・インターフェイス における課題(ヒューマン・エラー)等に信頼関係の醸成や心理的側面 を含めて対応する対策。
『土壌汚染の未然防止等マニュアル』 (略称:対策マニュアル)
【作成の方法と手順】 ①「有害物質の不適切な取扱い等が原因の漏洩等によって発生した 典型的な土壌汚染事例における有害物質取扱いの教訓情報」を 収集・分析し、
②「有害物質による土壌汚染を防止するためのソフト対策、ハート対策 及びハード対策」を抽出し、
③「有害物質の漏洩等を、事業者自らが五感等を活用して簡易に認識 し、早期の土壌汚染対策・調査に繋げるチェックポイント」を整理し
KY(危険予知)シートの形式に倣って、分かり易く簡潔に図示する。
7
8
『土壌汚染の未然防止等マニュアル』の構成 (構成、対象範囲)
環境省ホームページ(http://www.env.go.jp/water/dojo/gl-man.html)において公開中。
9
土壌汚染事例の解析 ○施設の破損等(ハード対策の不備)による汚染原因物質の漏洩事例84件に 比較して、ソフト対策の不備に起因する事例が多い。
○ソフト対策の不備に起因する事例の内では、溶剤や廃液等の移し替え作業等、 有害物質を直接取扱う場合(カテゴリー1~カテゴリー3)に比較的漏洩が起こ り易いことが伺える。
(4) 5%
(6)1%
(5) 0%
20
745
(1) 11%
(2) 15%
(3) 5%
(8) 56% (7)7%
(1)
84
(2)
112
(3)
37
(4) 33
(5) 3
(6)
5
(7) 51
(8) 420
-220
22 3
(4) 5%
32
(1) 27%
(2) 22%
(5) 5%
(3) 41%
(1) 1
10
(2) 2
8
(3) 3
15
(4) 4
2
(5)
2
-3
37
10
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図-4 地下水汚染事例を対象にする汚染原因行為の分析
地下水汚染事例の解析 ○漏洩場所では生産に関連する施設・設備がほぼ半数を占める。
○漏洩原因ではソフト対策の不備(作業等に関する原因)が、ハード対策の不備 (施設・設備に関する原因)を上回る 。
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(6)1%
(1) 53%
(3) 13%
(4) 9%
(2) 14%
(5) 10%
95
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(1) 29%(10) 2%
(3) 3%
(7) 20%
(8) 12%
(9) 10%
17
38
45 (2) 4%
11
土壌・地下水汚染事例の分析 (土壌汚染を未然に防止するための教訓の抽出)
1.未然防止のためのチェックポイント(⇨ 表‐5) (A)事前準備、 (B)設備・配管等の外観確認、 (C)作業工程の実態確認、 (D)設備周辺の状況確認
2.汚染事例の分析、共通する教訓の抽出(⇨表‐2) 土壌汚染の内、汚染の場所(位置)、状況、原因、採られた対策 等が把握可能な32事例に注目。 3.対策マニュアルの作成(⇨表‐3) KYシートに倣って、典型例を簡潔に図示。 事業場の特性に応じた、独自のマニュアルの作成を期待。
12
表-5(A) 事前準備に関するチェックポイント
13
表-5(B) 設備・配管等の外観確認に関するチェックポイント
14
表-5(C) 作業工程の実態確認に関するチェックポイント
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表-5(D) 設備周辺の状況確認に関するチェックポイント
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土壌・地下水汚染事例の分析 (土壌汚染を未然に防止するための教訓の抽出)
1.未然防止のためのチェックポイント(⇨ 表‐5) (A)事前準備、 (B)設備・配管等の外観確認、 (C)作業工程の実態確認、 (D)設備周辺の状況確認
2.汚染事例の分析、共通する教訓の抽出(⇨表‐2) 土壌汚染の内、汚染の場所(位置)、状況、原因、採られた対策 等が把握可能な32事例に注目。 3.対策マニュアルの作成(⇨表‐3) KYシートに倣って、典型例を簡潔に図示。 事業場の特性に応じた、独自のマニュアルの作成を期待。
土壌汚染137事例のヒアリング調査 (目 的):土壌汚染の未然防止(チェックポイントの抽出、対策マニュアルの作成) に有用な情報の抽出
調査対象事例:G14
調査対象事例:S30
17
18
表-2 フランジの締め付け不良等、溶剤等を使用する施設の不適正な 管理による有害物質の漏洩を防ぐ対策の検討事例
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土壌・地下水汚染事例の分析 (土壌汚染を未然に防止するための教訓の抽出)
1.未然防止のためのチェックポイント(⇨ 表‐5) (A)事前準備、 (B)設備・配管等の外観確認、 (C)作業工程の実態確認、 (D)設備周辺の状況確認
2.汚染事例の分析、共通する教訓の抽出(⇨表‐2) 土壌汚染の内、汚染の場所(位置)、状況、原因、採られた対策 等が把握可能な32事例に注目。 3.対策マニュアルの作成(⇨表‐3) KYシートに倣って、典型例を簡潔に図示。 事業場の特性に応じた、独自のマニュアルの作成を期待。
20
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表‐3 土壌汚染の未然防止対策の例(1) 有害物質の不適切な取扱い等による漏洩による土壌汚染や地下水汚染事例
洗浄液で金属部品や機械等を洗浄する洗浄設備
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表-4 土壌汚染の未然防止対策の例(2) 有害物質の不適切な取扱い等による漏洩による土壌汚染や地下水汚染事例
21
22
表-4補 土壌汚染の未然防止対策の例(3) 有害物質の不適切な取扱い等による漏洩による土壌汚染や地下水汚染事例
23
3.未然防止対策の効果の評価 ○未然防止マニュアル、チェックポイントは過去の事例・経験に依拠。
○有用な知見の見落とし、見逃しは無いか?
○未然防止効果の定量的評価は可能か? ・効果の比較 ・コストパフォーマンスの分析 ・対策のベスト・ミックスのデザイン
未然防止対策の選択 ○対策の効果(コスト・パフォーマンス)を評価し、最適対策案や対策案の ベスト・ミックスをデザインする方法は?
○そのためには先ず、土壌汚染の発生確率や未然防止対策の効果を定 量的に評価する必要がある。
【Fault Tree 解析法】 失敗(Fault)がどのようなメカニズムによって分析・把握すること により、注目するFaultの発生確率を評価する手法(詳細後述)。 【Event Tree 解析法】 事故(Accident)を、事故を構成する要素事象(Event)の連鎖であると定義 する。要素Eventの発生確率を得ることにより、事故の発生確率を評価する ことができる。適切に要素Eventを抽出できれば、起こりえる全ての事故を Eventの連鎖(Event Sequence)として特定することができる。 事故発生確率を低減できる策として事故削減策を抽出することができ、 削減策を要素Event毎に整理することができる。
24
25
事故原因の発生確率を評価するために (Fault Tree 解析)
26
増感剤の塗布工程(前後に原料貯留、回収・精製タンク)において、有害物質 を含む増感剤・溶剤等が漏洩するケース(事故)を想定し、Fault Tree解析法を 適用し、漏洩防止対策の効果を定量的に評価する可能性を紹介する。
Fault Tree解析法は、このような事故の発生確率を評価するための有効な方法 である。発生確率を低減させる可能性がある対策を組み込んでFault Tree解析を 行うことにより、低減可能な発生確率の大きさを指標にして、削減策の効果を定 量的に評価することができる。
Fault Tree解析の試行
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(ここに注目して発生頻度を解析)
図-6 有害物質漏洩事故(Fault)の発生・抑制機構の解析(例示)
27
自動漏洩回収 機能の喪失
(更に展開)
(更に展開)
緊急対応 失敗
増 感 剤 ・ 溶 剤 の 漏 洩
(その他の要因)
貯留タンクから のOverflow
貯留タンク底部 からの漏洩
バルブ等の 誤操作
供給pipe接合部 からの漏洩
Pipe接合部の 腐食/劣化
自動漏洩防止 機能の喪失
漏洩監視機能 の不作動
交換品
不 適
頻度 不適
接合部の 点検不良
監 視 機能喪失
装置 故障
要員 不在
発見 失敗
対策失敗 締め 忘れ
交換 ミ ス
発見成功 自動 監視
目視 点検
対策 不能
漏洩 発生
and(論理積)gate or(論理和)gate 要素Fault(事象)
(
凡例)
28
Fault Tree解析 発生確率を評価したい目的のFault (最上位のFault、結果として発生するFault ) を設定し、そのFaultが発生するために必要な原因Fault を探索する。因果関係の 伝播を支配するメカニズムに注目して、上位(結果)Fault と下位(原因)Fault を連 結し、この手順を、それ以上は分解できない下位Faultが得られる迄繰り返す。 得られた樹状のTreeがFault Treeである。Fault Treeが得られれば、下位Fault の 発生確率から上位Faultの発生確率を算定することができる。
因果関係の伝播を支配するメカニズム (And gate と Or gate)
接合部の 点検不良
発見 失敗 0.02
0.0102
and
監 視 機能喪失
0.51
監 視 機能喪失
装置 故障
要員 不在
0.01
0.5 0.51
or
And(論理積)gate 下位Faultが全て生起したときにのみ上位Fault が生起する。上位Faultの生起確率は、全ての 下位Faultの発生確率の積で与えられる。
Or(論理和)gate 下位Faultのいずれか一つが生起したときに上位 Faultが生起する。上位Faultの生起確率は、全て の下位Faultの発生確率の算術和で与えられる。
=0.02x0.51 =0.01+0.5
29 図-7 漏洩リスク削減策と効果(例示)
交換品
不 適
頻度 不適
接合部の 点検不良
監 視 機能喪失
装置 故障
要員 不在
発見 失敗
0.01
0.01
0.5
0.01
0.51
0.02
0.0102
(A)漏洩監視を人が保障(比較の基準)
and
or
or
交換品
不 適
頻度 不適
接合部の 点検不良
監 視 機能喪失
装置 故障
遠隔対応 失敗
発見 失敗
0.01
0.01
0.1
0.01
0.11
0.02
0.0022
and
or
or
(B)漏洩監視を遠隔対応(失敗確率を低減)
交換品
不 適
頻度 不適
接合部の 点検不良
監 視 機能喪失 緊 急
補助装置 故障
発見 失敗
0.01
0.0001
0.01
0.01
0.01 装置 故障
0.02
0.000002
(C)漏洩監視を冗長化(監視構造を改革)
and
or
and
1/4.6に減少
1/1,100に減少
1/5,100に減少
(A)比較の 基準
(B)遠隔監視 装置導入
(B)冗長監視 装置導入
漏洩発見の失敗頻度
=0.01+0.5 =0.01x0.01
=0.01+0.1
=0.01+0.01
=0.01+0.01 =0.01+0.01
30
潜在的な汚染原因(事故)を見逃さないために (Event Tree 解析)
事故の予兆 (ハインリッヒの法則:ヒヤリ・ハットの法則)
『「重傷」以上の災害が1件あれば,その背後に29件の「軽症」の災害が、 さらにその背後に300件の傷害を伴わない(ヒヤリ・ハット)事象が発生し ている。 』(H.W.ハインリッヒが労働災害事例の統計的分析により発見 )
深刻な事故等の予兆として発生する「ヒヤリ・ハット」した事象を契機に、災害が 現実のものになる前に、対策を講じることによって事故や災害を効果的に予防で きる可能性が大きい。 ヒヤリ・ハット事象に遭遇したとき、深刻な災害に発展しなかったことに安心する のではなく、事故の予兆が得られたことを認識し、土壌汚染の未然防止に役立て るセンスを養い、役立てるしくみを準備することが望まれる。
31
汚染事故未然防止策デザインの可能性 Event Tree解析法は、事故の発生確率や事故防止対策の効果を定量的に評価 するための有効な方法である。起こりえる全ての事故(Eventの連鎖)を特定し、各 事故の発生確率を評価することができる。 各Eventの発生確率の評価にはFault Tree解析法が適用される例が多い。
32
!-8 "#$%&'()*+,Event Tree-./012!
"#$%!,34!
&'5678!9:,;<=!
"#$%!,&'!
&'>?@ABC!789:,;<=!
&'>?DEFC!789:,;<=!
"#$%,GH!&ICJKLM!
Yes (0.01)!
Yes (0.90)!
No (0.10)!
Yes (0.01)!
No (0.99)!
Yes (0.01)!
Yes (0.01)!
Yes (0.01)!
No (0.99)!No (0.99)!
No (0.99)!
Yes (0.01)!
No (0.99)!
No (0.99)!
1.0x10-1!
8.9x10-1!
8.9x10-5!
8.9x10-7!
9.0x10-9!
8.9x10-7!
8.9x10-5!
8.8x10-3!
"N1.0#!
※赤の太線は有害物質が漏洩する事故を示す。
33
『土壌汚染の未然防止等マニュアル』 を活用するために
34
独自の対策マニュアル、チェックポイント 事業所の工程や設備等の特徴、過去に経験した有害物質の漏洩等の 事故や漏洩等の事故に繋がる可能性のあった事例(ヒヤリ・ハット事例)、 作業員の配置等に応じて、独自の対策マニュアルを作成し、定期的に改 訂し、持続的に活用することが望まれる。
また、チェックポイントを対策マニュアルと併せて活用することにより、 双方の実効性が高まると期待できる。
35
応急対策
漏洩の未然防止や漏洩の拡大防止、作業者等に対する安全確保等の ための応急(緊急)措置を直ちに実施することが極めて重要である。紹介 した対策マニュアルの事例は、これらの応急対策と対立しない。 応急対策は、緊急事態に遭遇した時、遅滞無く実施する必要がある。 事業所において起こりえる漏洩や汚染のケースを予め想定し、採用が考 えられる一時措置や恒久措置(本格的な修復対策等)の内容と整合する、 応急対策を予め準備しておく必要がある。
(応急対策) (一時対策) (恒久対策)
36
土壌汚染を発見した場合の措置
○土壌汚染調査 ○拡散防止対策/浄化対策 ○汚染モニタリング
『土壌汚染の未然防止等マニュアル』では、特定有害物質の特徴に応じて、 土壌汚染の有無を確認する調査の方法や、有害物質の拡散防止対策、土壌 汚染の浄化対策の適用例が、有害物質の種類、対策の種類・適用場所・方法、 対策に必要な期間、効果や費用等が具体的に紹介されている。
お手元に配布されている「対策マニュアル」を、一読され、参照・活用される様 お願い申し上げます。
37
ご清聴ありがとうございました。 この話題提供および「対策マニュアル」が、日常的な汚染防止対策の 励行と持続的な改良の機会になれば幸いです。