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6 Training Journal May 2012 ●スポーツ健康科学 2 3 日、東京のサピアタワーに て、立命館大学総合理工学研究機構 であるスポーツ・健康産業研究セン ター主催のシンポジウムが開催され た。 立命館大学は京都衣笠キャンパ ス、びわこ・くさつキャンパス(以 下:BKC)に主な学術・研究拠点を おく総合大学である。20104月よ りスポーツ健康科学部が創設され、 20124 月からは大学院スポーツ 健康科学部博士後期課程も設置され る。大学・研究機関の中では早くか ら産学官連携の取り組みを開始し、 近年新たな強化策として総合理工学 研究機構を立ちあげた。この部門は 学部・大学院からは独立した組織で、 産学官連携を強めるため、よりスピ ードと柔軟性を重視した組織改革を 行っている。20124月にはスポー ツ・健康産業研究センターからスポ ーツ健康科学研究センターへと強 化・移行する予定となっている。 今回のシンポジウムには多くのス ポーツ・健康関連企業だけでなく、 政府・自治体などの担当者も参加し、 同大学のスポーツ・健康産業研究成 果に耳を傾けていた。まず、研究セ ンター副センター長の伊坂忠夫氏 は、研究センターが学術拠点となり、 企業との共同研究やマッチングを推 進することで国民のQOL向上にも 大きく貢献できることを発信した。 次に、現在世界的に注目されている トレーニング手法「Tabata protocolの発案者であるスポーツ健康科学部 学部長の田畑泉氏が、この手法の有 用性について語った。この手法によ り最大酸素摂取量が増加するばかり か、数週間で無酸素性エネルギー供 給量も35 %増加するという実験結 果も発表された。ただ、科学的基礎 が理解されにくいことから、新たに Super Tabata protocol」というトレ ーニング法を開発し、現在研究を進 めているということにも触れてい た。 続いて、スポーツ健康科学部の教 授・准教授陣より研究シーズ紹介が 行われた。運動時の筋代謝や測定法 が専門の浜岡隆文氏によれば、筋の 酸素消費量をさまざまな手法を用い て分析することにより、筋代謝の性 質や血流状態がわかるとのことだっ た。たとえばこれを応用すると、選 手がマラソン向きなのか短距離向き なのかの判断指標となりうるとい う。また、骨格筋のエネルギー代謝 が専門の藤田聡氏は、運動刺激や栄 養摂取が骨格筋肥大にどう関わるの か、また加齢による骨格筋量減少の メカニズムについて解説されてい た。他に、スポーツ生化学の家光素 行氏、トレーニング科学の後藤一成 氏、生体工学の塩澤成弘氏からの発 表もあり、計 5 トピックが紹介され た。 シンポジウム終了後には懇談・名 刺交換会が行われ、多くの企業担当 者らと各研究者が今後の方向性につ いて議論を重ねていたのが印象的で あった。 立命館大学と研究センターにおい て、多くの研究がなされ社会貢献に つながっている背景には、たとえば MRI(磁気共鳴画像装置)を24時間 自由に使用できるなど高度な専門機 器を取りそろえ、また優秀な人材の リクルートを大学が積極的に行って きたことによるものであろう。産学 官連携のためには研究する側の学術 ON THE SPOT 現場から スポーツ・健康産業研究セン ターシンポジウム in 東京 シンポジウムの様子

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6 Training Journal May 2012

●スポーツ健康科学

 2月 3日、東京のサピアタワーにて、立命館大学総合理工学研究機構であるスポーツ・健康産業研究センター主催のシンポジウムが開催された。

 立命館大学は京都衣笠キャンパス、びわこ・くさつキャンパス(以下:BKC)に主な学術・研究拠点をおく総合大学である。2010年4月よりスポーツ健康科学部が創設され、2012年 4月からは大学院スポーツ健康科学部博士後期課程も設置される。大学・研究機関の中では早くから産学官連携の取り組みを開始し、近年新たな強化策として総合理工学研究機構を立ちあげた。この部門は学部・大学院からは独立した組織で、産学官連携を強めるため、よりスピードと柔軟性を重視した組織改革を

行っている。2012年4月にはスポーツ・健康産業研究センターからスポーツ健康科学研究センターへと強化・移行する予定となっている。

 今回のシンポジウムには多くのスポーツ・健康関連企業だけでなく、政府・自治体などの担当者も参加し、同大学のスポーツ・健康産業研究成果に耳を傾けていた。まず、研究センター副センター長の伊坂忠夫氏は、研究センターが学術拠点となり、企業との共同研究やマッチングを推進することで国民のQOL向上にも大きく貢献できることを発信した。次に、現在世界的に注目されているトレーニング手法「Tabata protocol」の発案者であるスポーツ健康科学部学部長の田畑泉氏が、この手法の有用性について語った。この手法により最大酸素摂取量が増加するばかりか、数週間で無酸素性エネルギー供給量も35%増加するという実験結果も発表された。ただ、科学的基礎

が理解されにくいことから、新たに「Super Tabata protocol」というトレーニング法を開発し、現在研究を進めているということにも触れていた。 続いて、スポーツ健康科学部の教授・准教授陣より研究シーズ紹介が行われた。運動時の筋代謝や測定法が専門の浜岡隆文氏によれば、筋の酸素消費量をさまざまな手法を用いて分析することにより、筋代謝の性質や血流状態がわかるとのことだった。たとえばこれを応用すると、選手がマラソン向きなのか短距離向きなのかの判断指標となりうるという。また、骨格筋のエネルギー代謝が専門の藤田聡氏は、運動刺激や栄養摂取が骨格筋肥大にどう関わるのか、また加齢による骨格筋量減少のメカニズムについて解説されていた。他に、スポーツ生化学の家光素行氏、トレーニング科学の後藤一成氏、生体工学の塩澤成弘氏からの発表もあり、計 5トピックが紹介された。 シンポジウム終了後には懇談・名刺交換会が行われ、多くの企業担当者らと各研究者が今後の方向性について議論を重ねていたのが印象的であった。 立命館大学と研究センターにおいて、多くの研究がなされ社会貢献につながっている背景には、たとえばMRI(磁気共鳴画像装置)を24時間自由に使用できるなど高度な専門機器を取りそろえ、また優秀な人材のリクルートを大学が積極的に行ってきたことによるものであろう。産学官連携のためには研究する側の学術

ON THE SPOT

現場から

スポーツ・健康産業研究センターシンポジウム in東京

シンポジウムの様子

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現場から

に、大石氏自身の目標は3段階に変化していったことを述べた。トレーナーを目指しているときは「日本のスポーツ界に貢献できる人間になる」と思い、修業時には「五輪に行く」と努力し、代表トレーナーのときは「この選手たちを絶対に世界一にする」と変わっていったそうだ。 最後に、信条として「トレーナーを必要としないアスリートに」を掲げた。アスリートのために、自分で判断して行動できる選手を育みたいという。そのためには、トレーナーがとる態度も大切だと説いた。率先垂範という熟語があるように、選手は常にトレーナーの行動を見ている。トレーナーにとっては「伝わる」ように「伝える」力が必要で、説得するのではなく納得してもらうために理論による裏づけが重要だと話した。納得してもらい、継続的な取り組みにつなげることができれば、選手の自主性を高められるという。目に見える行動の中に目に見えない想いを込めることによって、信頼を得て、影響力を与えられる存在になっていく。そう考えると、トレーナーには「伝道者」という言葉が合うのではないかと話した。 以上に加えて、スポーツの世界は体得・体現する難しさがあるという話も出た。トレーナーも知識ばかりではなく、経験することが大きな財産になる。「もし今日失敗してしまってもその原因を正確につかみ反省すれば、明日は武器となり、明後日には財産となる」と大石氏は言う。正しい方向に励むことは、がむしゃらなだけの努力を的確な努力に変える 1歩になるだろう。 その後、日本と米国の比較があった。トレーナーの意識、トレーナーのニーズ、監督の役割などにおける日米の違いは、文化の違いもあるた

的な発表だけでなく、広く世に認知してもらうためのPR活動が大切であり、民間企業を招いての今回のシンポジウムが大学の社会貢献という意味で、とても意義あるものだと感じられた。      (坂本和雄)

●トレーニング

 2月25日、HUMAN SAWAKI GYM

(東京・高田馬場)にて、ソフトボール日本代表トレーナーの大石益代氏による「職業としてのトレーナーに関する考察」セミナーが行われた。トレーナーとしての内面に触れ、どう行動に移していくかに焦点を当てた内容だった。 最初に、大石氏がトレーナーを目指した動機にもふれた自己紹介があった。大石氏はトレーナーになるためさまざまな場所へ足を運び、自分をアピールしたという。そこで出会った人に導かれるように現場を経験できた。これがただの幸運かというと、トレーナーを志し、あらゆるチャンスをつかむために勇気を持って動いたからこそできたことで、いつ成るかはわからなくても、種をまかなければ実らないと話した。 ここで「あなたの原点は何ですか」と問われた。なぜトレーナーになったのか、またはなりたいのか。目標は何か、どんなトレーナーでいたいか。トレーナーとしての信条(軸)は。大石氏は自分自身を例に話を進めた。大石氏の原点は、高校生のときにケガに苦しんだことだという。あのときの自分に向けて教えたいことを今、アスリートに伝えるようにしているそうだ。そこには、短期的な「成功」よりも、長期的な「成長」を、という願いが込められている。さら

め一概にどちらがいいとは言えないが、比べることによって日本の文化がトレーナーの環境に反映していることがわかりやすく示された。それを踏まえて、今の状態の何がよいか、何を変えたいかを考えた。たとえば監督やチームとの信頼関係を構築したければ、マイナス要素も積極的に捉え、小さな突破口を見つけて根気よく改善や改革を続けることを提案した。このようなコミュニケーション力は必要なことだと言う。そして、すべてにおいてその時々に応じた「よい加減」というバランスが大事だと続けた。 最後に、これからのトレーナーへの助言で締めくくられた。いわく、「まずは引き出しを増やせ」とのこと。本当にいいものを見るためには時間が必要で、さまざまなものを見る中で自分の向き不向きを理解し、自分の強みを獲得することができる。もちろん簡単なことではないが、本当に自分のやりたいことはこれだと充実感を得られ、相手も満足することを見つけるために勧めていた。 ここまでの1時間半にわたる講義の後、今セミナーの主催者で、モーグル日本代表ストレングス&コンディショニングコーチでもある遠山健太氏も加わり、質疑応答が行われた。両者とも、参加者の質問に対し経験も交え丁寧に答えていた。中には金銭面に関しての質問も出て、トレーナーを取り巻く現実の厳しさも痛感させられた。 トレーナーの役割とは何か、またトレーナーとして自身の意識を高めるために何をしていくべきかにふれたセミナーであった。以前と比べれば、格段にその存在が認められ、必要性も高まってきた。しかし、まだまだアピールしていかねばならない部分もある。今セミナーは、トレー

職業としてのトレーナーに関する考察

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ナーの存在意義を高める上での次の段階は何かを考えるよい機会になった。         (佐々木愛)

●バレーボール

 3月10・11日、慶應義塾大学日吉キャンパス(神奈川県横浜市)にて第17回日本バレーボール学会が行われた。 1日目のシンポジウム「復興・再生におけるスポーツの貢献を考える」では、松沢成文氏(前神奈川県知事)、増田久士氏(釜石シーウェイブスRFC事務局長)、村山光義氏(公益社団法人全国大学体育連合理事)が、それぞれの考えを述べた。 まず松沢氏は、自身もラグビーの経験があり、スポーツを通じてリーダーシップとチームワークが学べることを実感したという。その影響もあり、とくに県知事任期中にはプロチームやそれに近いチームを地域全体で育てていこうと取り組んできた。スポーツには観る楽しさと参加する楽しさがあり、それはどの世代にも共通していると明言した。これからの復興に向けては、「夢を持ちたい」と語った。大きな国際大会を東北で開催し、地域の人を励まし、世界に復興の様子を見てもらいたい。そして、今後もスポーツの特性を生かし、地域活性につなげられればと話した。 次に増田氏は、岩手県釜石市は人口が4万人を切るため、地域に根ざしたチーム運営を目指してきた。その中での基本方針は、①選手の強化につながる費用は落とさない。②経費は必要最低限にし、単価を切り詰める。③ファンのために必要なことはやる。④サポーターが増えること

ON THE SPOT

はやる。それらの実現のため、岩手県内の企業を回ってスポンサーを探したり、子どもたちへの普及活動を行ったりしてきた。しかし、昨年の震災直後、クラブの存続が難しくなり活動を一時休止。それでもクラブとして何かできればと思い、復興支援のボランティア活動を開始した。すると、世界中のラグビーチームから支援が届き、スポーツの力を感じたという。しかも、被災者が「練習はしているのか?」と声を掛けてくれ、11年 5月に練習を開始、9月からのトップイーストリーグに参加。さまざまな支援がなければシーズンを乗り切れなかったと心からの感謝の意を表した。また、震災を通して、スポーツが地域にあることにより、それを誇りに思う人々の気持ちや連帯意識が小さな市に明るさをもたらしていたのではないかと実感したと語った。 最後に村山氏から、全国大学体育連合の支援事業と、スポーツの本質およびどのように復興に作用できるかについての話があった。全国大学体育連合とは大学体育の教育の資質を高める団体である。震災以降、法人として復興に携わり、そのための資金をホームページなどで募ってきた。その他にも、現地が求めるものに合ったものを支援してきた。その中で村山氏はこのように考えたという。スポーツは頂点を目指す点で、観る人にとって挑戦や感動のシンボルになっている。また、語源は気晴らしや遊びであり、遊びから発展して日常生活の中で文化として形づくられ、継承されてきた。よって、スポーツで元気は得られるものの生活が変わるわけではない。ただ、日々の文化活動の一部であるスポーツを活用すれば、復興・再生への道が開けるはずだと明言した。

 その後のディスカッションでは、五輪の招致活動とも絡め、「今、スポーツに金をかけていいのか?」という質問が出た。その返答は、招致活動も含めたスポーツ活動に、未来への目的意識を持って取り組むことで人が交わる機会を増やせば、復興や再生した姿を世界に見せることができる。スポーツの価値は五輪という大きな舞台にもウォーキングなどの各要素にもあり、それを国民にわかってもらう努力を誰かがしなければならないとまとめられた。 続いてのフォーラムでは、「混合バレーボールの活動報告と新ルールへの参加型ディスカッション」が行われ、藤村雄志氏(日本混合バレーボール連盟代表)と大江芳弘氏(日本混合バレーボール協会会長)が意見を交わした。 男女 3人ずつでチームを組む混合バレーボールは 9年前に始まり、現在800チームが連盟登録、約 3万人が親しんでいるという。震災の影響でチーム数は20%減少したが、チャリティ大会を開催したり、物品や参加費の一部を寄付したりなどの支援活動を行ってきたとの活動報告があった。ルール改正については、活発なディスカッションが行われた。男性有利にならないように、かつ審判が混同しないようにする必要性があり、男女別の 6人制や 9人制とは違った特性が見えた。 1日目の最後には、一般研究発表(ポスターセッション)が行われ、貼り出された 6枚のポスターの前で参加者がそれぞれの発表者と意見交換をしていた。 2日目の午前中は、橋本吉登氏(寒川病院)と板倉尚子氏(日本女子体育大学)を講師に迎え、「バレーボール選手における体幹の障害とその予防」というテーマでフォーラムが

第17回日本バレーボール学会

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現場から

開催された。 橋本氏からは、腰部の基本的な機能解剖と、腰部の代表的な障害についての説明があった。脊柱に着目した場合、腰椎の伸展と回旋の動きにより腰椎の分離、滑り症が起こりやすいことが骨模型とコンピューター画像を使って詳細に説明された。とくにレベルの高いスパイカーの多くが、小児期から同じ動きを繰り返してきたことにより障害を起こしやすい。そのため、指導者は選手のフォームを分析し、個々に適した指導を行うことが重要である。 板倉氏からは、バレーボール競技での腰部障害を防ぐためのセルフモニタリングとコンディショニングの方法のレクチャーがあった。アライメントチェック、筋の出力チェックやトレーニングなどについて、現役のトレーナーが実際の動作を行いながら、解説と注意点の説明が行われた。その中で、バレーボール選手はハンドリング側(利き手側)の肩甲帯が下制している場合が多く、反対側の腰部に腰痛などの障害を訴える選手が多いということである。他にも、バレーボールの競技特性から、円背が多くなるため胸椎の可動性低下が多く見られる。また、構えのポジションにおいて股関節が屈曲位にあるため、腸腰筋などが伸展制限される。これらが腰痛につながらないよう、日頃から選手同士でのストレッチを行うことが大切とのことだった。 午後からは小林宣彦氏(都立小川高等学校)・小林海氏(目白大学)を司会に迎え「バレーボールにおける瞬発的な動作開始を考える~他の球技種目との比較からヒントをえて~」というテーマで、同じネットスポーツであるバドミントン、テニス、バレーボールの指導者である 3名の

講師によりレクチャーが行われた。 最初に、バドミントン指導者の立場から加藤幸司氏(慶應義塾大学)が、プレイングセンター(返球しやすい場所)から次のプレイングセンターへのステップを 4つの局面を例に解説した。また、ブレーキングによりあらかじめ大腿部に負荷をかけることで着地時の膝の流れを抑え、プッシュオフ(蹴り出し)につなげる「プレ・ローディング」の解説が行われた。世界のトップレベルの選手はこのプレ・ローディングを、プレー中随所に行っていることが映像で紹介された。 次に村松憲氏(慶應義塾大学)より、世界トップレベルの選手の試合映像を多数用いて、テニスにおけるスプリットステップについて解説が行われた。テニスはバドミントンと同じ 1対 1の競技であり、時速200kmを超えるといわれるサーブに対して、返すだけの守りのレシーブでは相手にとってチャンスボールとなってしまうことから、「予測を重視して早めに決断し、片足を浮かせて着地する」もしくは「観察を重視して正確に判断し、両足で着地する」

という大きく分けて 2つのステップに分類できることが説明された。 最後に、「バレーボールにおける瞬発的な動きのコツとそのメカニズム」について黒川貞生氏(明治学院大学)より解説が行われた。バレーボールもバドミントン、テニスと同じくスプリットステップが使われている。スプリットステップは、着地の反動を用いて腱に大きなエネルギーを溜め、そのエネルギーを次の動きの際に瞬時に使う(ストレッチ-ショートニングサイクル)ことでより俊敏な動きができる。バレーボールではレシーブなどでの基本姿勢が低いので、膝関節より足関節でのエネルギー活用が多いと思われる。もちろんレシーブに限らず、ブロックやスパイク動作でもスプリットステップが多く行われていることが解説された。 以上の講師の発表後、参加者より熱心な質疑応答が行われた。 全体を通して、バレーボールという競技の枠、プロアスリートかアマチュアプレーヤーかという枠を超えた内容が多く、日本の復興に少しでも寄与することを目指すという意味

復興・再生に向けスポーツが持つ役割を皆で共有した

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において、大変有意義な 2日間であった。   (佐々木愛、福山勝基)

トレーニング

 3月25日、ワイズ・ワークアウト(兵庫県西宮市)にて、体育会学生トレーナー勉強会が開催された。これは、近隣大学の体育会クラブに所属する学生トレーナーと共に行う勉強会である。今回は 3回目の開催であり、勉強会のテーマは参加者への事前アンケートによって決定される。今回のテーマは、「ストレッチング」であった。勉強会を進行するのは、ワイズ・ワークアウトコーチの弓場大士氏と宇治本諒士氏である。宇治本氏がメインで進行役を務め、弓場氏がポイントを押さえながら進行をサポートし、講師が一方的に話す講習会形式ではなくあくまで勉強会形式にこだわっているのが特徴である。今回は10名の学生トレーナーが参加した。 まず、勉強会は17時開始であるが、参加者は16時30分に集合する。

そして、開始時間まで参加者ら全員での雑談が始まった。これは、勉強会の取り組みとして大切にしていることだそうで、参加者同士が自然に意見交換をしやすくなるような雰囲気をこの最初の30分間で作り出していた。大変和やかな雰囲気である。 この雰囲気のまま、勉強会が本格的にスタートする。最初に、「ストレッチング」の理論についての勉強から始まった。宇治本氏から柔軟性とは何か、トレーニングと柔軟性の関係、各種ストレッチングのメリットとデメリットについての説明が行われた。ここで、大変印象に残った場面がある。筋の伸張反射における見解について、宇治本氏と弓場氏とで解釈の違いがあった。そのやり取りに参加者である数名の学生が積極的に自身の考えを意見していたことである。このようなやり取りがあったことで、筋の伸張反射のメカニズムや現場への応用についての認識が深まり、参加者全員に大変強く印象づけられたような気がする。この勉強会の在り方を窺える場面であった。 そして、2人組になり、静的パー

トナーストレッチングやウッドバーを活用した動的柔軟性エクササイズが紹介された。ここでは、宇治本氏が全体の進行と説明をし、弓場氏が適宜、説明を付け加えるという形式で進められた。今回は、主に下半身のパートナーストレッチングが紹介された。宇治本氏からは、遣り手側は自身の身体をうまく使うこと、受け手側と情報交換をしながら行うこと、ゴムを伸ばすようなイメージで筋肉の付着部同士を伸ばすことなど、説明の 1つ 1つに思わず頷いてしまうことに気づく。これらは、実際の選手に対したときの試行錯誤から生まれた気づきの部分だからなのかもしれない。弓場氏からは、受け手側の身体を丁寧に扱ってあげること、ストレッチングしているときや受け手側になったときの感覚をしっかり把握することなどが補足された。 続いて、ウッドバーを活用した動的柔軟性エクササイズでは、オーバーヘッドスクワット、クロスオーバースクワット、相撲スタイルスクワットの 3種目が紹介された。参加者はこれら 3種目を実際に体験して自身の柔軟性の確認を行った上で、それぞれに必要とされる静的ストレッチングの種目をパートナー同士で考えて実践し、再度、動的柔軟性エクササイズを行うことでの複合効果を実感してみるという取り組みも行われた。弓場氏からは、ストレッチングを単なるストレッチングという認識に終始するのではなく、トレーニングの 1つとして捉えることも重要であることが伝えられた。 最後に、参加者同士の情報交換である。それぞれが現在抱えている疑問点や課題について、宇治本氏と弓場氏が参加者の意見を引き出しながら進められた。参加者の所属する現

体育会学生トレーナー勉強会

ポイントを補足する弓場氏

ON THE SPOT

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現場から

場の状況は非常にさまざまである。学生主体で活動しているクラブや、学内に常駐する専門職からアドバイスをもらいながら活動をするクラブ、トレーニングはランニングが中心のクラブや、積極的にウェイトトレーニングに取り組むクラブなど、大変多様であった。 今回の参加者が所属するクラブは、テニス部、陸上ホッケー部、競泳部、女子ラクロス部、男子ラクロス部であった。ここでも大変興味深いことが起こる。陸上ホッケー部と男子ラクロス部で、持久力向上を目的としたトレーニングや体力測定内容が非常に類似していたことだ。ここから、参加者同士の情報交換が加速する。実際の測定数値の平均や普段のトレーニング量や強度などの情報交換を通じて、互いが非常に刺激を受けていたようであった。また、

競泳部では、スタビリティボールを活用した体幹のエクササイズが大変盛んに行われているそうだ。その取り組みの内容や豊富さに、他の参加者も大変関心を抱いていた。当初の勉強会の予定は、17時から20時までであったが、気がつけば21時30

分を過ぎている。それにも関わらず、参加者は時間を気にしている様子がない。本当に興味や関心があり、知的興味が非常に高まっているのだろう。 今回のワイズ・ワークアウトでの勉強会は、大変個性豊かなものであった。参加者からのアンケートをもとにテーマを選定することや、開始前の雑談、率直な意見交換、知的興味の促進など、大変自由なものを感じた。また、それと同時に、このような形態での勉強会を成立させるためには、主催する側の寛容さや状況

判断の鋭さなど、非常に高いマネジメント能力が問われるだろう。今回の参加者の様子を見ていると、非常に満足をしているようである。勉強会を通じて専門的な知識や方法論だけでなく、実際の各クラブの取り組みを知ることができたことで見聞が大きく広がったのだろう。また、次の勉強会のテーマについても方向性が見えてきたようであった。ワイズ・ワークアウトでは、今後もこのような勉強会を開催していく予定である。         (南川哲人)

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