Osaka University Knowledge Archive : OUKA...ge15）は、7例中1例がStage田、残る6例が StagelVであった。膵全摘ならびに自家部分膵移植術1⑪一2’に際し、門脈合併切除術を6例

Title 自家部分移植膵の内分泌機能の変化に関する臨床的研究

Author(s) 北川, 透

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URL http://hdl.handle.net/11094/36065

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Note

Osaka University Knowledge Archive : OUKAOsaka University Knowledge Archive : OUKA

https://ir.library.osaka-u.ac.jp/

Osaka University

㌫岡

一

の能機泌分内の膵植移分部家自

究研的床臨るす関に化変

⑪口㏄OF口．

n㏄耐Eh㏄㎎已C㎝仰加S

“加川已叩⑪けω加川川㏄㎎S㎡

猟Mh“㏄㏄h

大阪大学医学部　外科学第一講座

The　First　Department　of　Surgery，

Osaka　University　Medical　School

　　　　　　北川　透

　　　　Toru　Kitagawa

　　　（主任：川島康生教授）

和文抄録

　自家部分移植膵の内分泌機能の変化を明白

にするため、自家部分膵移植症例7例に、術

前、術後早期ならびに術後長期において経静

脈的アルギニン負荷試験を施行し、末梢血中

におけるグルカゴンならびにインスリンの反

応性の変化を検討した。術式対照として膵頭

十二指腸切除症例12例を用いた。その結果、

以下の点が明確となった。　（1）術後早期に

おいて、末梢血中での両ホルモンの反応性は、

自家部分膵移植群では、術前に比し有意の変

化は認められなかった。これに対し膵頭十二

指腸切除群では、術前に比し有意の低下が認

められた。　（2）術後長期において、末梢血

中での両ホルモンの反応性は、自家部分膵移

植群では、術前ならびに術後早期に比し有意

の変化は認められなかった。膵頭十二指腸切

除群では、術後早期に比し有意の変化は認め

られず、術前の状態には復さなかった。以上

より、膵全摘兼自家部分膵移植は、末梢血中

でのグルカゴンならびにインスリンの反応性

を術前と同程度に維持し得る。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ABSTRACT

　　　　III　an　att二empt　ヒo　clarify　t二he　changes　of　endocrine

functi・ns　afヒer　segmen［al　aut・transplantaヒi・n・f

pancreas，　seven　patients　were　investigated　wit二h

intravenous　argilline　infusion　（0．59／kg／30min）　before

and　early　after　（mean　9．2　weeks）　segmel／t二al

autotransp］．antati．on　（SAT）　of　the　pancreas　to　the　groin

following　t二〇tal　pancreaヒectomy・　　Five　of　t二hese　seven

patient二s　were　a］．so　investigated　late　after　（IIlean　7・2

months）　SAT．　　The　same　invesヒigat二ion　was　made　in　t二welve

patients　undergone　pancreatoduodenectomy　（PD）　as

compared　with　the　patients　performed　SAT・　　Plasma

91ucagon　（IRG）　and　ins／llin　（TRT）　responses　in　the

peripheral　venous　blood　were　eva］．uated・　　The　responses

of　工RG　and　IRI　early　afヒer　SAT　were　not二　significanヒ1y

different　from　before　SAT．　　The　responses　of　TRG　and

IRI　early　after　PD　were　significantly　decreased

compared　wiヒh　before　PD．　　The　responses　of　J■RG　and　IRI

late　afヒer　SAT　were　not　significalltl．y　differenヒ　from

before　and　early　after　SAT．　　The　responses　of　IRG　and

IRI　late　aft二er　PD　were　decreased　compared　wit二h　before

PD　and　were　not　significantly　different　from　early

after　PD．　　It　is　concluded　t二hat　segmental

autotransplantated　pancreas　is　able　to　preserve　the

resp・nses・f　g1・・ag・n　and　i・・uli・i・th・peripheral

venous　blood　to　t二he　each　preoperative　levels・

Key　words　：　autot二ransplantation・　pancreatoduodenect二〇my

　　　　　　　　　　　pancreas，　glucagon，　insulin

目　次

緒　　言

研究対象

研究方法

成　　績

　1．血漿ブドウ糖値、血漿グルカゴン値な

　　　らびに血漿インスリン値の変化

　　（1）術前から術後早期の変化

　　（2）術後長期までの変化

　2．血漿ブドウ糖値、血漿グルカゴン値な

　　　らびに血漿インスリンの指標の変化

考　　察

1．術前の膵内分泌機能

2．膵内分泌機能の術後早期の変化

3．膵内分泌機能の術後長期までの変化

4．血漿ブドウ糖値の変化

総　　括

結　　論

謝　　辞

一 1一

一 2一

参考文献

緒　言

　膵癌の根治性を追求して施行される膵全摘

術の術後には、膵内分泌機能の脱落により、

インスリン依存型糖尿病の発症は不可避であ

る。膵全摘患者に対する現行のインスリン療

法は、厳重な毎日の食事管理とインスリン注

射を必要とし、これが著しく患者のQuality

of　Lifeを低下させている1）－2）。加えて、現

行のインスリン療法では、グルカゴン、ソマ

トスタチン、Pancreatic　Polypeptide（PP）等

他の膵ホルモンは補充されず、生理的な血糖

調節と円滑な代謝維持が困難であり、糖尿病

性細小血管合併症の進行は避けられない引一6

㌔従って、膵癌症例に対する膵切除に際して

は、根治性を追求する一方で、術後のQualit

yofLifcの低下を最小限にとどめるべく膵内

分泌機能の温存を考慮せねばならない。

　膵頭部領域癌症例において、癌腫が膵頭部

に限局している場合には、膵頭十二指腸切除

一 3一

術が根治手術として施行されている。　これら

の症例においては、術後の膵A、B細胞機能

は術前に比し低下することが報告されている

7）－1①。　しかし、一旦低下した膵内分泌機能

は長期に亘り維持され、特別の療法を必要と

していない9）－1D。即ち、残存せる尾側膵に

て、治療を必要としない程度の許容範囲内の

代謝維持が可能であると判断される。

　そこで、教室においては、膵全摘のやむな

きに至る症例においては、癌腫が進展してい

ない膵尾側を自家移植し、膵内分泌機能の温

存を計ってきた口‥12）。これらの症例におい

ても、術後に特別の療法を必要としていない。

同様の試みは、国際的にも散発的に為されて

いる13‥1川。　ところが、これら症例における

膵内分泌機能に関し、いまだ系統的な検討が

為されていない。

　本研究においては、自家部分膵移植症例の

グルカゴンならびにインスリンの反応性の変

化を、術前から術後早期、　さらに術後長期に

一 4一

至るまで観察した。その成績より、移植膵の

膵A、　B両細胞機能の移植後の推移を系統的

に明白にせんとした。

一 5一

研究対象

　昭和60年9月から昭和63年4月までの間に、

大阪大学第1外科ならびにその関連施設にお

いて、膵全摘兼自家部分膵移植術を施行した

膵頭部癌症例7例を対象とした（Table　1）。

年齢は41歳～67歳（平均55．3±10．1歳）、性

別は男3例、女4例であり、体重は41kg～57

kg（平均49．3±5．7kg）であった。膵癌のSta

ge15）は、7例中1例がStage田、残る6例が

StagelVであった。膵全摘ならびに自家部分膵

移植術1⑪一2’に際し、門脈合併切除術を6例

に、肝動脈合併切除再建術、左副腎摘出術を

各1例に施行した。

　膵全摘後、摘出した膵臓は直ちにアプロチ

ニン（トラジロール⑧、Bayer薬品株式会社、

西ドイツ）1×104U／d1、ヘパリン・ナトリ

ゥム（ノボ・ヘパリン⑧、小玉株式会社、東

京）200U／dlを加えた0℃の生理食塩水に単

純浸漬した。冷虚血下で腫瘍を含む膵頭側な

一 6一

らびに脾臓を切除した。脾動静脈は可及的に

中枢側にて切離した。主膵管内には、ポリエ

チレン製チューブを挿入、留置した。作成し

た膵移植片の脾動静脈の中枢側をそれぞれ左

大腿動静脈に端側吻合し、膵実質を左鼠径部

皮下に埋入した。主膵管に挿入したチューブ

は皮膚を通して体外に出し、膵外痩とした（

Figure　l）。消化管の再建はいずれもRoux－e

nY法に則って施行した（Figure　2）。

　摘出ならびに移植操作中の膵臓虚血は、冷

虚血（0℃）1時間7分～4時間28分（平均2時

間24分）であった。移植膵量は膵臓全体の35

％～45％（平均39、3±3．5％）であった。

　血栓予防の目的で、術中の膵臓摘出直前に、

経静脈的にヘバリン・ナトリウム100U／kgの

投与を行い、さらに手術終了直後より経口摂

取開始までの間、ヘパリン・ナトリウムの静

脈内持続投与を行った。経口摂取開始後は、

ワーファリン・カリウム（ワーファリン⑤、

エーザイ株式会社、東京）0．05mg／kg／日を術

一 7一

後3カ月まで経口的に投与した。

　糖尿病診断基準委員会の判定基準16）の50g

一経ロブドウ糖負荷試験による耐糖能は、術前

は糖尿病型4例、境界型2例、正常型1例で

あり、術後早期は糖尿病型2例、境界型3例、

正常型2例であった。

　自家部分膵移植症例（自家部分膵移植群）

は、残存尾側膵が異所性に存在する。切除臓

器ならびに消化管再建が類似し、残存尾側膵

が門脈系に存在する膵頭十二指腸切除術（Ch

ild法再建17））を施行した膵頭部癌症例12例

（Table　2）を術式対照とした（膵頭十二指腸

切除群）。膵頭十二指腸切除群の年齢は42歳

～75歳（平均58．8±10．6歳）、性別は男7例、

女5例であり、体重は37kg～58kg（平均48．4

±7．4kg）であった。年齢ならびに体重に関し

て、自家部分膵移植群に比し有意の差は認め

られなかった。膵癌のS七ageは12例中4例がS

tage　I、　6例がStageH、　2例がStage皿1であ

った。残膵量は膵臓全体の50～60％（平均52

一 8一

．5±4．5％）であり、自家部分膵移植群に比し

有意に大（p＜0．Ol）であった。50g一経ロブド

ウ糖負荷試験における耐糖能は、術前は糖尿

病型3例、境界型4例、正常型2例であり、

術後早期は糖尿病型5例、境界型2例、正常

型5例であった。

　正常対照として、健常成人10例を検索した

（正常対照群）。正常対照群の年齢は31歳～

54歳（平均37．8±6．3歳）、性別は男8例、女

2例であり、体重は50kg～68kg（平均56．4±

5．8kg）であった。

一 9一

研究方法

　本研究においては、経静脈的アルギニン負

荷に対するグルカゴンならびにインスリンの

分泌能をもって、膵内分泌機能を評価した。

自家部分膵移植群においては、術前6～32日（

平均13．4日前）ならびに術後手術侵襲から脱

却し日常生活が可能と判断された退院直前の

術後4～13週（平均9．2週、術後早期）に検索

した。そのうち5例（Tablel、症例1～5）

においては、術後半年以上を経過した術後6～

10ヶ月（平均7．2ヶ月、術後長期）に再び検索

した。

　膵頭十二指腸切除群は、術前1～34日（平均

8．9日前）、術後3～23週（平均6．4週、術後早

期）ならびに術後12～19ヶ月（平均14．5ヶ月、

術後長期）に検索した。

1．　アルギニン負荷試験の方法：

　早朝空腹時に体重kg当り0．5gのL一アルギ

一 10一

ニン塩酸塩（10％アルギニン、森下製薬株式

会社、大阪）を正中皮静脈に一定速度で30分

間点滴静注し、対側の正中皮静脈より負荷前

15分、負荷直前ならびに負荷開始後5分、　10分、

20分、30分、45分、60分、90分に採血した。

2．血液の処理の方法：

　採取した血液は、直ちに全血lm1当りEthy

Ienediaminetetraacetic　acid（EDTA）

1mgならびにアプロチニン　500　KIUを添加した

試験管内に移して氷冷した。さらに、4℃、

3、000rpmにて［n1漿を遠心分離し、－20℃にて

凍結保存した。

3．測定方法：

（1）血1糖値：1血漿ブドウ糖値は自動測定装

置（Glucoroder－E、アナリティカル・インス

ッルメント社、東京）を用いたGlucose－oxid

ase法1いにより測定した。

（2）血漿グルカゴン（｜RG）：Dr．　Ungerよ

一 11一

り供給された膵グルカゴン特異抗体（30K）

19）を用いた一抗体法Radioimmunoassay20）－2

2）により測定した。

　本研究におけるIRG値のlntrassay　Varianc

eは6．7％、Interassay　Varianceは11．9％であ

った。

（3）血漿インスリン（IRI）：インスリン測

定用キット（INSIK－1、　CEA－IRE－SORIN社、　フ

ランス）を用いた二抗体法Radioimmunoassay

23）により測定した。

　本研究におけるIRI値のlntraassay　Varian

ceは2．3％、　Interassay　Varianceは19．6％で

あった。なお、IRG値ならびにIRI値に関して、

同一症例の試料は全て同一測定系にて測定し

た。

4．膵内分泌機能の評価の方法：

　インスリンならびにグルカゴン分泌能の評

価のための指標として、個々の症例にっいて、

以下の値を算出した。

一 12一

①負荷前値：負荷前15分と負荷直前の値の平

　均値を負荷前値とした。

②最大反応量：アルギニン負荷後の最高血漿

　ブドウ糖値、最高血漿グルカゴン値ならび

　に最高血漿インスリン値より各々の負荷前

　値を減じた値を各々、Max」Glucose値、

　Max41RG値ならびにMax41RI値とした。

③累積反応量：血漿ブドウ糖値、血漿グルカ

　ゴン値ならびに血漿インスリン値から各々

　の負荷前値を減じた値（ZGIucose、∠IRG

　ならびに∠IRI）に負荷後の時間を乗じた値

　の総和を各々、E∠Glucose値、　E∠1RG値

　ならびにE∠］IRI値とした。

5．成績の処理：

　結果は平均値±標準誤差（Mean±SEM）で表記

した。同一群における平均値の有意差検定は

対応のあるt検定を、各群間の平均値の有意

差検定は対応のないt検定を用いた。p〈o．0

5をもって有意の差とした。

一 13一

成　績

1．血漿ブドウ糖値、血漿グルカゴン値なら

びに血漿インスリン値の変化

（1）術前から術後早期の変化

1）血漿ブドウ糖値

　自家部分膵移植群の負荷前値（Figure　5）

は、術前は111±12mg／dl、術後早期は94±4

mg／dlであり、両者の間に有意の差は認めら

れなかった。両者とも正常対照群の負荷前値

93±3mg／d1に比し有意の差は認められなかっ

た。アルギニン負荷後の血漿ブドウ糖値（Fi

gure　3上段）は、術前には、負荷前値に比し、

負荷後5分から30分において有意に高値であ

った。術後早期には、負荷前値に比し、負荷

後いずれの時点においても有意の差は認めら

れなかった。術前の値と術後早期の値との間

には、負荷後いずれの時点においても有意の

一 14一

差は認められなかった。正常対照群において

は、負荷前値に比し、負荷後5分から45分にお

いて有意に高値であった。　自家部分膵移植群

の術前の値は、正常対照群に比し、負荷後い

ずれの時点においても有意の差は認められな

かった。術後早期の値は、正常対照群に比し、

負荷後10分から30分において有意に低値であ

った。

　膵頭十二指腸切除群の負荷前値（Figure　5）

は、術前は97±8mg／dl、術後早期は94±5m

g／d1であり、両者の間に有意の差は認められ

なかった。両者とも正常対照群に比し有意の

差は認められなかった。アルギニン負荷後の

血漿ブドウ糖値（Figure　4上段）は、術前に

は、負荷前値に比し、負荷後5分から45分に

おいて有意に高値であった。正常対照群に比

し、負荷後いずれの時点においても有意の差

は認められなかった。術後早期には、負荷前

値に比し、負荷後5分から60分において有意

に高値であった。正常対照群に比し、負荷後

一 15一

10分において有意に低値であり、負荷後60分

ならびに90分において有意に高値であった。

術前の値と術後早期の値との間には、負荷後

いずれの時点においても有意の差は認められ

なかった。

　自家部分膵移植群の値と膵頭十二指腸切除

群の値との間には、術前ならびに術後早期の

負荷前後いずれの時点においても有意の差は

認められなかった。

2）血漿グルカゴン値


は、術前は71±19pg／ml、術後早期は69±30

pg／mlであり、両者の間に有意の差は認めら


93±35pg／mlに比し有意の差は認められなか

った。アルギニン負荷後の血漿グルカゴン値

（Figure　3中段）は、術前には、負荷前値に

比し、負荷後5分から90分において有意に高

値であった。術後早期には、負荷前値に比し、

一 16一

負荷後5分ならびに負荷後30分から60分におい

て有意に高値であった。術前の値と術後早期

の値との間には、負荷後いずれの時点におい

ても有意の差は認められなかった。正常対照

群においては、負荷前値に比し、負荷後5分か

ら60分において有意に高値であった。自家部

分膵移植群の術前ならびに術後早期の値は、

正常対照群に比し、負荷後いずれの時点にお

いても有意の差は認められなかった。


は、術前は46±14pg／m1、術後早期は18±6

pg／m1であり、両者の間に有意の差は認められ

なかった。両者とも正常対照群に比し有意の


血漿グルカゴン値（Figure　4中段）は、術前

には、負荷前値に比し、負荷後5分から90分

において有意に高値であった。正常対照群に

比し、負荷後いずれの時点においても有意の

差は認められなかった。術後早期には、負荷

前値に比し、負荷後5分から90分において有

一 17一

意に高値であった。術前の値ならびに正常対

照群に比し、負荷後5分から90分において有意

に低値であった。





3）血漿インスリン値


は、術前は15±2μU／ml、術後早期は15±2

μU／mlであり、両者の間に有意の差は認めら


10±1μU／m1に比し有意に高値であった。ア

ルギニン負荷後の血漿インスリン値（Figure

3下段）は、術前には、負荷前値に比し、負

荷後5分から60分において有意に高値であっ

た。術後早期には、負荷前値に比し、負荷後

5分から10分において有意に高値であった。

術前の値と術後甲期の値との間には、負荷後

一 18一

いずれの時点においても有意の差は認められ

なかった。正常対照群においては、負荷後5分

から60分において負荷前値に比し有意に高値

であった。　自家部分膵移植群の術前の値は、

正常対照群に比し、負荷後30分において有意

に低値であり、負荷後90分において有意に高

値であった。術後早期の値は、正常対照群に

比し、負荷後20分から45分〃において有意に低

値であり、負荷後90分において有意に高値で

あった。


は、術前は16±1μU／ml、術後早期は13±1

μU／m1であり、両者の間に有意の差は認めら

れなかった。術前の値は正常対照群に比し有

意に高値であった。術後早期の値は正常対照

群に比し有意の差は認められなかった。アル

ギニン負荷後の血漿インスリン値（Figure　4

下段）は、術前には、負荷前値に比し、負荷

後5分から45分において有意に高値であった。

正常対照群に比し、負荷後90分において有意

一 19一

に高値であった。術後早期には、負荷前値に

比し、負荷後5分から60分において有意に高

値であった。術前の値ならびに正常対照群に

比し、負荷後5分から45分において有意に低値

であった。





（2）術後長期までの変化

1）血漿ブドウ糖値


は、術後長期は82エ12mg／dlであり、術前な

らびに術後早期の値に比し有意の差は認めら

れなかった。正常対照群に比し有意の差は認

められなかった。アルギニン負荷後の血漿ブ

ドウ糖値（Figure　8上段）は、術後長期には、

負荷前値に比し、負荷後いずれの時点におい

一 20一

ても有意の差は認められなかった。術前、術

後早期の値ならびに正常対照群に比し、負荷


れなかった。


は、術後長期は97±4mg／dlであり、術前、術

後早期の値ならびに正常対照群に比し有意の


血漿ブドウ糖値（Figure　9上段）は、術後長

期には、負荷前値に比し、負荷後5分から45

分において有意に高値であった。術前ならび

に術後早期の値に比し、負荷後いずれの時点

においても有意の差は認められなかった。正

常対照群に比し、負荷後60分において有意に

高値であった。


群の値との間には、術後長期の負荷前後いず

れの時点においても有意の差は認められなか

った。

一 21一

2）血漿グルカゴン値


は、術後長期は103±35pg／mlであり、術前、

術後早期の値ならびに正常対照群に比し有意

の差は認められなかった。アルギニン負荷後

の血漿グルカゴン値（Figure　8中段）は、術

後長期には、負荷前値に比し、負荷後20分な

らびに30分において有意に高値であった。術

前、術後早期の値ならびに正常対照群に比し、

負荷後いずれの時点においても有意の差は認

められなかった。


は、術後長期は43±11pg／mlであり、術前、

術後早期の値ならびに正常対照群に比し有意

の差は認められなかった。アルギニン負荷後

の血漿グルカゴン値（Figure　9中段）は、術

後長期には、負荷前値に比し、負荷後5分か

ら90分において有意に高値であった。術前の

値に比し、負荷後5分から20分において有意

に低値であった。術後早期の値に比し、負荷

一 22一


れなかった。正常対照群に比し、負荷後5分

から20分において有意に低値であった。




った。

3）血漿インスリン値


は、術後長期は42±27μU／mlであり、術前な



められなかった。アルギニン負荷後の血漿イ

ンスリン値（Figure　8下段）は、術後長期に

は、負荷前値に比し、負荷後いずれの時点に

おいても有意の差は認められなかった。術前、

術後早期の値ならびに正常対照群に比し、負

荷後いずれの時点においても有意の差は認め

られなかった。

一 23一


は、術後長期は13±2μU／mlであり、術前な



められなかった。アルギニン負荷後の血漿イ

ンスリン値（Figure　9下段）は、術後長期に

は、負荷前値に比し、負荷後5分から60分に

おいて有意に高値であった。術前の値に比し、

負荷後5分から30分において有意に低値であ

った。術後早期の値に比し、負荷後いずれの

時点においても有意の差は認められなかった。

正常対照群に比し、負荷後5分から30分にお

いて有意に低値であった。




った。

2．血漿ブドウ糖値、1血漿グルカゴン値なら

一 24一

びに血漿インスリンの指標の変化

1）血漿ブドウ糖値の指標

①Max∠Glucose値（Figure　10）

　自家部分膵移植群：術後早期には個々の症

例の術前の値に比し2例が増加し、　2例が不

変で、　3例が減少した。術前の値16±5mg／d

lに比し術後早期の値11±4mg／dlは有意の差

は認められなかった。両者とも正常対照群33

±4mg／dlに比し有意に低値であった。術後長

期に負荷試験を施行し得た5例においても、

術前の値と術後早期の値との間に有意差は認

められなかった。術後長期には術後早期の値

に比し5例が増加し、減少した症例はなかっ

た。術後長期の値14±7mg／dlは術前ならびに

術後早期の値に比し有意の差は認められず、

正常対照群に比し有意に低値であった。

　膵頭十二指腸切除群：術後早期に個々の症

例の術前の値に比し8例が増加し、　4例が減

少した。術後長期には術後早期の値に比し5

一 25一

例が増加し、7例が減少した。術前の値20±

2mg／dlに比し術後早期の値26±4mg／dlは有

意の差は認められなかった。術後長期の値23

±6mg／dlは術前ならびに術後早期の値に比し

有意の差は認められなかった。術前の値は正

常対照群に比し有意に低値であった。術後早

期ならびに術後長期の値は正常対照群に比し

有意の差は認められなかった。術前、術後早

期ならびに術後長期において、　自家部分膵移

植群の値と膵頭十二指腸切除群の値との間に

有意の差は認められなかった。

②E∠］Glucose値（Figure　11）


例の術前の値に比し4例が増加し、3例が減

少した。術前の値744±323mg・min／dlに比し

術後早期の値473±274mg・min／dlは有意の差

は認められなかった。両者とも正常対照群1，

060±156mg・min／dlに比し有意の差は認めら

れなかった。術後長期に負荷試験を施行し得

一 26一

た5例においても、術前の値と術後早期の値

との間に有意差は認められなかった。術後長

期には術後早期の値に比し5例が増加し、減

少した症例はなかった。術後長期の値642±3

54mg・min／dlは術前の値ならびに正常対照群

に比し有意の差は認められず、術後早期の値

に比し有意に高値であった。



少した。術後長期には術後早期の値に比し5

例が増加し、　7例が減少した。術前の値740±

132mg・min／dlに比し術後早期の値1，270±26

5mg・min／dlは有意に高値であった。術後長期

の値943±456mg・min／dlは術前ならびに術後

早期の値に比し有意の差は認められなかった。

三者とも正常対照群に比し有意の差は認めら

れなかった。術前、術後早期ならびに術後長

期において、自家部分膵移植群の値と膵頭十

二指腸切除群の値との間に有意の差は認めら

れなかった。

一 27一

2）血漿グルカゴン値の指標

①Max∠IRG値（Figure　12）



少した。術前の値420±60pg／mlに比し術後早

期の値680±280pg／mlは有意の差は認められ

なかった。両者とも正常対照群440±80pg／m

lに比し有意の差は認められなかった。術後長

期に負荷試験を施行し得た5例においても、

術前の値と術後早期の値との間に有意差は認

められなかった。術後長期には術後早期の値

に比し4例が増加し、　1例が減少した。術後

長期の値640±360pg／mlは術前、術後早期の

値ならびに正常対照群に比し有意の差は認め

られなかった。


例の術前の値に比し増加したのは1例のみで

あった。術後長期には術後早期の値に比し7

一 28一

例が増加し、　5例が減少した。術前の値530±

100pg／mlに比し術後早期の値230±50　pg／ml

は有意に低値であった。術後長期の値340±8

0pg／mlは術前ならびに術後早期の値に比し有

意の差は認められなかった。術前ならびに術

後長期の値は正常対照群に比し有意の差は認

められなかった。術後早期の値は正常対照群

に比し有意に低値であった。術前、術後早期

ならびに術後長期において、自家部分膵移植

群の値と膵頭十二指腸切除群の値との間に有

意の差は認められなかった。

②Σ∠IRG値（Figure　13）



少した。術前の値21，000±2，300pg・min／mlに

比し術後早期の値23，300±7，100pg・min／mlは

有意の差は認められなかった。両者とも正常

対照群19，300±3，100pg・min／m1に比し有意の

差は認められなかった。術後長期に負荷試験

一 29一

を施行し得た5例においても、術前の値と術

後早期の値との間に有意差は認められなかっ

た。術後長期には術後早期の値に比し4例が

増加し、　1例が減少した。術後長期の値29，8

00±15，600pg・min／mlは術前、術後早期の値

ならびに正常対照群に比し有意の差は認めら

れなかった。




例が増加し、　6例が減少した。術前の値21，3

00±2，500pg・min／mlに比し術後早期の値11，

500±2，400pg・min／mlは有意に低値であった。

術後長期の値ユ4，000±2，900pg・min／mlは術前

の値に比し有意に低値であり、術後早期の値

に比し有意の差は認められなかった。三者と

も正常対照群に比し有意の差は認められなか

った。術前、術後早期ならびに術後長期にお

いて、自家部分膵移植群の値と膵頭十二指腸

切除群の値との間に有意の差は認められなか

一 30一

った。

3）血漿インスリン値の指標

①Max∠IRI値（Figure　14）



少した。術前の値28±6μU／mlに比し術後早

期の値26±9μU／mlは有意の差は認められな

かった。両者とも正常対照群64±10μU／mlに

比し有意に低値であった。術後長期に負荷試

験を施行し得た5例においても、術前の値と

術後早期の値との間に有意差は認められなか

った。術後長期には術後早期の値に比し1例

が増加し、4例が減少した。術後長期の値14

±7μU／mlは術前ならびに術後早期の値に比

し有意の差は認められず、正常対照群に比し

有意に低値であった。



一 31一


例が増加し、4例が減少した。術前の値56±

16μU／m1に比し術後早期の値18±3μU／m1は

有意に低値であった。術後長期の値25±7μ

U／mlは術前の値に比し有意に低値であり、術

後早期の値に比し有意の差は認められなかっ

た。術前の値は正常対照群に比し有意の差は

認められなかった。術後早期ならびに術後長

期の値は正常対照群に比し有意に低値であっ

た。術前、術後早期ならびに術後長期におい

て、自家部分膵移植群の値と膵頭十二指腸切

除群の値との間に有意の差は認められなかっ

た。

②Σ∠IRI値（Figure　15）



少した。術前の値1，130±290μU・min／m1に比

し術後早期の値660±290μU・min／mlは有意の

差は認められなかった。両者とも正常対照群

一 32一

2，290±320μU・min／mlに比し有意に低値であ

った。術後長期に負荷試験を施行し得た5例

においても、術前の値と術後早期の値との間

に有意差は認められなかった。術後長期には

術後早期の値に比し2例が増加し、　3例が減

少した。術後長期の値480±300μU・min／mlは

術前ならびに術後早期の値に比し有意の差は

認められず、正常対照群に比し有意に低値で

あった。

　膵頭十二指腸切除群：個々の症例の術前の

値に比し術後早期に増加したのは1例のみで


例が増加し、　6例が減少した。術前の値2，34

0±770μU・min／mlに比し術後早期の値690±

160μU・min／mlは有意に低値であった。術後

長期の値1，060±380μU・min／mlは術前の値に

比し有意に低値であり、術後早期の値に比し

有意の差は認められなかった。術前の値は正

常対照群に比し有意の差は認められなかった。

術後早期ならびに術後長期の値は正常対照群

一 33一

に比し有意に低値であった。術前、術後早期

ならびに術後長期において、自家部分膵移植

群の値と膵頭十二指腸切除群の値との間に有

意の差は認められなかった。

一 34一

考　察

　膵移植後の膵内分泌機能は術前に比しどの

程度保持されているのか、また、膵移植後の

膵内分泌機能が術後長期に亘り如何なる変化

を示すのかは、自家膵移植のみならず同種膵

移植においても、　これまで系統的には検討さ

れていない。一般に、同種膵移植においては、

自己膵が体内に共存しており、移植膵固有の

内分泌機能を評価し得ない。移植膵の機能評

価には、体内に移植膵のみが存在する状態に

おいて初めて可能である。本研究の対象とし

た症例は、解剖学的にはこの条件を満足せし

めている。また、自家移植症例なるが故に、

拒絶反応あるいは抗免疫療法の影響のない状

態での膵内分泌機能の変化を観察することが

可能であった。

　本研究においては、膵内分泌機能を、膵内

分泌細胞への一定の負荷刺激に対するホルモ

ン分泌動態をもって評価した。術前、術後早

一 35一

期ならびに術後長期の間で比較するに際し、

膵切除術に伴う消化管の切除再建の影響を避

けるため、経日負荷ではなく経静脈的負荷刺

激とし、膵A、　B両細胞に対して分泌刺激能

を有するアルギニン24〕－25）を用いた。

1．術前の膵内分泌機能

　膵頭部癌症例においては、従来より、癌病

変に伴う膵実質の破壊ならびに膵液の欝滞に

より、非癌部に随伴性膵炎が惹起されること

が報告されている2い。事実、本研究の対象と

した自家部分膵移植群ならびに膵頭十二指腸

切除群の切除膵には、組織学的に高度ないし

中等度の線維化が認められ、慢性膵炎の像を

呈していた。

　本研究の自家部分膵移植群の術前において

認められたインスリン分泌低下は、慢性膵炎

に伴う膵B細胞障害27‥2臼によるものではな

いかと考えられた。　しかし、同じ膵頭部癌症

一 36一

例でありながら、膵頭十二指腸切除群の術前

のインスリンの反応性は、正常対照群に比し

低下した症例が認められる一方で、正常対照

群に比し充進した症例も認められ、著しい個

体差が認められた。その結果、膵頭十二指腸

切除群の術前のインスリンの反応性は、正常

対照群に比し有意の差は認められなかった。

　自家部分膵移植群は膵頭十二指腸切除術で

は根治性の得難いと判断された症例であり、

膵頭十二指腸切除群に比し、原疾患の局所病

態が進行しており、非癌部膵組織の荒廃も高

度であると推測される。事実、自家部分膵移

植群の7例中6例がStageIVであったのに対し、

膵頭十二指腸切除群ではStagelVの症例は存在

せず、Stagel、　H、　IIIが各々4、　6、　2例と

明らかな相違が認められた。この事実より、

膵頭十二指腸切除群においては、随伴性膵炎

による膵内分泌細胞の障害の程度が症例によ

り様々であると考えられ、インスリンの反応

性に著しい個体差が生じたのではないかと考

一 37一

えられた。一方、自家部分膵移植群において

は、いずれの症例においても随伴性膵炎によ

る膵内分泌細胞障害が高度であったため、術

前のインスリンの反応性が正常対照群に比し

有意に低下する結果になったのではないかと

考えられた。

　慢性膵炎症例の膵B細胞機能低下例におい

ても、膵A細胞機能は温存されていることが

ある29い30）。　また、病理形態学的に慢性膵炎

症例の膵臓において、膵A細胞に比し、膵B

細胞の変性が著しいとする報告3Dがある。　こ

れらの報告を勘案すると、膵B細胞に比し、

膵A細胞は障害に対する抵抗性が強いと考え

られる。本研究の自家部分膵移植群の術前に

おいて、インスリン分泌能は明らかに低下し

ているに拘らず、グルカゴン分泌能には低下

が認められなかった。この事実から、本群に

おいても、随伴性膵炎に伴う機能障害の程度

は、膵A細胞に比し、膵B細胞が著しかった

と考えられた。

一 38一

　以上を小括すると、自家部分膵移植術を施

行した膵頭部癌症例の術前には、膵A細胞機

能の低下は認められず、膵B細胞機能の低下

が認められた。　この機能低下には膵癌に伴う

随伴性膵炎の関与が推察された。

2．膵内分泌機能の術後早期の変化

　術後早期の末梢血中でのグルカゴンならび

にインスリンの反応性は、術前に比し、自家

部分膵移植群においては有意の差は認められ

なかった。ところが、膵頭十二指腸切除群に

おいては有意に低下していた。　この差異が惹

起された原因として、両群間の残膵量の差異、

残存膵の存在部位の相違、膵虚血の有無が推

察される。以下、これらの諸点について個別

に考察する。

①残膵量に関して：

　膵実質細胞量の変化を示す残膵量は、自家

一 39一

部分膵移植群では35～45％であり、膵頭十二

指腸切除群の50～60％に比し明らかに少ない。

本研究における膵頭十二指腸切除群の術後早

期の末梢血中でのグルカゴンならびにインス

リンの反応性は、術前に比し低下した。これ

は、膵A、B両細胞機能は膵頭十二指腸切除

術後に低下するとする山本9）ならびにMiyata

ら1①の成績を再確認する成績である。彼等は、

この膵A、　B両細胞機能の低下の原因として、

膵内分泌細胞の機能量の減少を挙げている。

従って、膵頭十二指腸切除群に比し残膵量の

少ない自家部分膵移植群においても、術後早

期の膵A、B両細胞機能は術前に比し低下し

て然るべきである。しかしながら、自家部分

膵移植群の術後早期の末梢血中でのグルカゴ

ンならびにインスリンの反応性は、術前に比

し低下していなかった。従って、自家部分膵

移植群と膵頭十二指腸切除群との成績の差異

を両群の残膵量の差異では説明し難い。

一 40一

②残存膵の存在部位に関して：

　残存膵は、自家部分膵移植群においては大

循環系に存在し、膵頭十二指腸切除群におい

ては門脈系に存在する。本来、門脈系に存在

する膵臓から分泌された膵ホルモンは、門脈

を介し、肝臓を経て混合静脈血に流入する。

この際、肝臓において、　グルカゴンは10～20

％32）、インスリンは39～68％32）－34｝が除去

される。　自家部分膵移植群においては、移植

膵より分泌されたグルカゴンならびにインス

リンは直接混合静脈血中に流入する。　その結

果、門脈血中の両ホルモンの濃度は混合静脈

血中濃度よりも高値ではあり得ない。従って、

肝臓において除去される両ホルモンの量は、

術前に比し少ないと考えられる。しかるに、

末梢血中における両ホルモンの反応性は移植

前後において差を認めない。おそらく、両ホ

ルモンの分泌量の低下と肝臓で除去されるホ

ルモン量の減少が相殺された結果として惹起

された現象と考えられた。

一 41一

③膵虚血に関して：

　本研究の移植膵は温虚血は受けていないと

考えられ、1時間7分～4時間28分（平均2時間

24分）の冷虚血を経ていた。膵頭十二指腸切

除群においては、膵臓は虚血操作を受けてい

ない。冷虚血により膵臓を保存すると、24時

間後においても膵内分泌機能は温存されるこ

とが犬の自家膵移植実験において証明されて

いる35）。臨床例における同種膵移植では、温

虚血時間は5～18分以下、冷虚血時間は10～

12時間以下であれば、膵内分泌機能は良好に

保たれると報告されている36）’38）。従って、

本研究の移植操作時に生ずる虚血は、膵内分

泌機能に影響する主たる因子であるとは考え

難い。

　以上を小括すると、自家部分膵移植群にお

いては、膵細胞量の減少のため、術後早期の

グルカゴンならびにインスリンの分泌量は術

一 42一

前に比し低下すると考えられる。しかし、末

梢血中での両ホルモンの反応性は、移植膵が

大循環系に存在するため、術前と同程度に保

持されていると考えられた。

3．膵内分泌機能の術後長期までの変化

　自家部分膵移植後長期の膵内分泌機能に関

して、Tosa七ti39）らは、膵全摘ないしは膵亜

全摘後に自家部分膵移植を施行した慢性膵炎

3症例において、術後4ヶ月から術後1年に

亘り正常人と同程度の経静脈的ブドウ糖負荷

に対する耐糖能ならびにインスリン分泌能が

維持されたことを報告している。しかし、こ

の報告では、対象が僅か3症例であり、膵内

分泌機能の術前からの系統的な検討は為され

ていない。Rossiら40）は、膵全摘ないしは膵

亜全摘後に自家部分膵移植を施行した慢性膵

炎10症例において、術後5ヶ月から術後54ヶ

月に耐糖能ならびにインスリンの分泌能を観

一 43一

察し、糖尿病の発症が阻止ないしは遅延され

たと報告している。しかし、インスリン分泌

に対する負荷試験の方法、時期が症例毎に異

なっており、この報告においても、膵内分泌

機能の術前からの系統的な検討は為されてい

ない。唯一の移植前後の膵内分泌機能の比較

は、niya七aら11）によるものである。彼らは自

家部分膵移植を行った慢性膵炎の1症例にお

いて、手術前後に末梢血中でのアルギニン負

荷時の血糖値、グルカゴンならびにインスリ

ンの変動を観察している。その結果、移植後

にはアルギニン負荷後の血糖値の反応は欠落

すること、ならびにグルカゴン、インスリン

の反応性が手術前後に顕著な差が認められな

いことを報告している。

　一方、自家移植膵の術後長期の膵A細胞機

能に関する検討は、これまで皆無である。本

研究においては、術後早期と術後長期とにお

いて、膵A、B両細胞機能を系統的に比較し、

その変化より術後長期までの膵内分泌機能の

一 44一

推移を明確せんとした。その結果、自家部分

膵移植群の5例において、術後早期から術後

長期の間に末梢血中のグルカゴンならびにイ

ンスリンの反応性に有意の変化は認められな

かった。この事実より、自家部分膵移植群の

術後早期の膵A、B両細胞機能は、術後長期

においても低下することなく保持継続され得

ると考えられた。この現象は同所性に尾側膵

が残存している膵頭十二指腸切除群において

も観察された事実であり、膵内分泌機能の長

期の変化に、膵臓が異所性に存在することに

よる特異性は観察されなかった。

　以上を小括すると、自家部分移植膵の膵A、

B両細胞機能は、術前と同程度の末梢血中で

のグルカゴンならびにインスリンの反応性を

術後長期に保持し得る。

4．血漿ブドウ糖値の変化

アルギニン負荷前の血漿ブドウ糖値は、各

一 45一

群の術前、術後早期ならびに術後長期の間に

有意の差は認められなかった。また、各群の

間にも有意の差は認められなかった。従って、

アルギニン負荷前の血漿ブドウ糖値の差異に

より、グルカゴンならびにインスリンの反応

性の差異が生じるとは考え難い。

　アルギニン負荷後の血糖値の上昇の欠落は、

膵頭十二指腸切除症例においては観察されず、

おそらく、自家部分膵移植症例に特異的な現

象ではないかと推察された。移植後早期と長

期における末梢血中のグルカゴンの変動には

差異は認められなかった。一方、移植後早期

の末梢血中のインスリン値は負荷後明らかに

上昇しているのに反し、移植後長期において

は、負荷後に有意の変化が観察されなかった。

従って、術後早期ならびに長期に共通して観

察された血糖値の特異性の発現機序は、イン

スリンの変動の差異には求め難い。おそらく、

移植後には、分泌されたグルカゴンの肝臓に

おける除去量が術前に比し減少したと同様の

一 46一

機序により、グルカゴンによる肝臓での糖新

生量が減少したため、アルギニン負荷後の血

糖値の上昇の欠落が惹起されたと考えられる。

　アルギニンは、グルカゴンならびにインス

リン分泌促進作用2⑪一25）以外に、下垂体より

成長ホルモン4Dならびにプロラクチン42‥4

3）の分泌促進作用を有する。成長ホルモンは、

単独では末梢組織での糖利用の促進作用を有

するが、糖負荷時にはインスリンに拮抗し、

末梢組織でのブドウ糖の取り込みを抑制する

ことにより、二次的に血糖値を上昇させる44

）パ5）。プロラクチンが糖代謝に直接関与する

証左はない。手術侵襲が直接及んでいない下

垂体の細胞群に、アルギニン負荷に対する反

応性の変化が膵移植術後に惹起されたとは考

え難いが、可能性としては否定し得ない。従

って、移植後アルギニン負荷時に血糖値の変

動が観察されないことに、成長ホルモン分泌

動態の変化が関与している可能性は、本研究

における成績からは否定し得ない。

一 47一

総　括

　自家部分膵移植症例に、術前、術後早期（

平均9．2週）ならびに術後長期（平均7．2ヶ月）

において経静脈的アルギニン負荷試験を施行

し、末梢血中におけるグルカゴンならびにイ

ンスリンの反応性の変化を検討した。術式対

照として膵頭十二指腸切除症例を用いた。そ

の結果、以下の点が明確となった。

1．術後早期においては、末梢血中でのグル

　　カゴンならびにインスリンの反応性は、

　　自家部分膵移植群では、術前に比し有意

　　の変化は認められなかった。これに対し、

　　膵頭十二指腸切除群では、術前に比し有

　　意の低下が認められた。

2．術後長期においても、末梢血中でのグル

　　カゴンならびにインスリンの反応性は、

　　自家部分膵移植群では、術前ならびに術

　　後早期に比し有意の変化は認められなか

　　った。膵頭十二指腸切除群では、術後早

一 48一

期に比し有意の変化は認められず、術前

の状態には復さなかった。

結　論

　膵全摘兼自家部分膵移植は、末梢血中での

グルカゴンならびにインスリンの反応性を術

前と同程度に維持し得る。

謝　辞

　稿を終えるに当たり、御指導、御校閲を賜

りました恩師、川島康生教授、ならびに、終

始御指導頂きました宮田正彦講師に対し心よ

り感謝の意を表します。

一 49一

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一 62一

附図　（Figure　1～15）

Pl寸　表　　　　　　（　Tab　l　e　　　1　～　　2　）

自家部分移植膵の内分泌機能の

　変化に関する臨床的研究

大阪大学医学部　外科学第一講座

　北川　透

SMV

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　　SV　：　Splenic　vein

　　SMV　：　Superior　mesenteric　　IMV　：　Inferior　mesenteric　　IVC　：　lnferior　vena　cava　　FV　：　Femoral　vein

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Figure　2。　　Reconstruction　of　alimentarytract　after　total　pancreatectomy．

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Figure　3．　　Plasma　levels　of　glucose，glucagon　（IRG）　and　insulin　（IRI）　in

response　to　intravenous　arginineinfusion　（0．5g／kg／30min）　before　and

early　after　segmentalautotransplantation　of　pancreas　（SAT，N＝7）．　　Shaded　area　indicates　the　rangeof　normal　controls　（N＝10）．　　Values　are

expressed　as　mean±SEM．＊　：　p〈0．05　vs　Normal　Controls

＊

Arglnlne

PDBgforg

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一15 O 50 60 90

Time　　（mln）

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50

O

Figure　4．　　Plasma　levels　of　glucose，glucagon　（IRG）　and　insulin　（1RI）　in

reSpOnse　to　intravenous　arginineinfusion　（0．5g／kg／30min）　before　andearly　after　pancreatoduodenectomy　（PD，N＝12）．　　Shaded　area　indicates　the　rangeof　normal　controls　（N＝10）．　　Values　are

expressed　as　mean±SEM．＊　：　p〈0．05　vs　Normal　Controls＃　：　p〈0．05　vs　Before　PD

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Af†er

　PD

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　PD

Figure　5．　　Basal　of　plasma　glucose（Basal　Glucose）　before，　early　after　and

late　after　segmental　autotransplantationof　pancreas　（SAT，　N＝7），　normal　controls（N＝10）　and　pancreatoduodenectomy　（PD，N・12）．

（P9／mし）

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SAT

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　PD

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Af†er

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Figure　6．　　Basal　of　plasma　glucagon（Basal　IRG）　before，　early　after　and　late

after　segmental　autotransplantation　ofpancreas　（SAT，　Nニ7），　normal　controls（N＝10）　and　pancreatoduodenectomy　（PD，N・12）．

75

50

25

O

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Before

　SAT

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Figllre　7．　　Basal　of　plasma　insulin（Basal　IRI）　before，　early　after　and　late

after　segmental　autotransplantation　ofparlcreas　（SAT，　N＝7），　normal　controls（N＝10）　and　pancreatoduodenectomy　（PD，N・12）．

＊　：　P〈0．05　vs　Normal　Controls　（N＝／0）

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一15 O 　　50

Time　　（min）

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Figure　8．　　Plasma　levels　of　glucose，glucagon　（IRG）　and　insulin　（IRI）　in

reSpOnse　tO　intraVenOUS　arginineinfusion　（0．5g／kg／30min）　late　after

segmental　autotransplantation　ofpancreas　（SAT，　N＝5）．　　Shaded　area

indicates　the　range　of　nor剛al　controls（N＝10）．　　Values　are　expressed　as

mean±SEM．

Arglnlng

（も＼Oε

ΦのOOコ一〇　〇∈⑩〇一江

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Figure　9．glucagonresponseinfusionpancreatoduodenectomyShaded　areanOrmal　COntrOISexpressed＊　：　p〈0．05

＃　：　p〈0．05

　　Plasma　levels　of　glucose，（IRG）　and　insulin　（IRI）　in

tO　intraVenOUS　arginine（0．5g／kg／30min）　late　after　　　　　　　　　　　　（PD，　N＝12）．

　　　indicates　the　range　of　　　　　　（N＝10）．　　Values　are

　as　mean±SEM，

　vs　Normal　Controls　vs　Before　PD

（mg／dし）

75

50

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Figure　10．　　Maximum　increment　of　plasmaglucose　（Max∠］Glucose）　in　resPonse　tointravenous　arginine　infusion　before，early　after　and　late　after　segmentalautotransplantation　of　pancreas　（SAT，N＝7），　normal　controls　（N＝10）　and

pancreatoduodenectomy　（PD，　N＝12）．＊　：　p〈0．05　vs　Normal　Controls　（N＝10）

（mg・mln／dし）

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Figure　11．　　Sum　of　plasma　glucose　value（E　∠］Glucose）　in　response　to　intravenous

arginine　infusion　before，　early　afterand　late　after　segmentalautotransplantation　of　pancreas　（SAT，N＝7），　normal　controls　（Nニ10）　and

pancreatoduodenectomy　（PD，　N＝12）．

（P9／mし）

2000

℃OO

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Figure　l2．　　Maximum　increment　of　plasmaglucagon　（Max∠］　IRG）　in　response　to

intravenous　arginine　infusion　before，early　after　alld　late　after　segmentalautotransplantation　of　pancreas　（SAT，N＝7），　110rrnal　controls　（N＝10）　and

pancreatoduodenectomy　（PD，　N＝12）．＊　：　P〈0．05　vs　Normal　Colltrols　（N＝10＞

（P9・min／mし）

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Figure　13．　　Sum　of　plasma　glucagonsecretior1　（Σ：　∠］　IRG）　in　response　to

intravenous　arginine　infusion　before，early　after　and　late　after　scgmentalautotransplantation　of　pancreas　（SAT，Nニ7＞，　normal　controls　（N＝10）　and

pancreatoduodenectomy　（PD，　N＝12＞．

（μ∪／mし）

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　PD

Figure　14．　　Maximum　increment　of　plasmainsulin　（Max∠］　IRI）　in　responso　to

intravenous　arginine　infusion　before，early　after　and　late　after　segmentalautotransplantation　of　pancreas　（SAT，N＝7），　normal　controls　（Nニ10）　and

pancreatoduodenectomy　（PD，　N；12）．＊　：　p〈0．05　vs　Normal　Controls　（N＝10）

（μ∪・min／mし）

10000

5000

O

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＊

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　PD

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　PD

Figure　15．　　Sum　of　plasma　insulinsecretion　（E　∠］　IRI）　in　response　to

intravenous　arginine　infusion　before，early　after　and　 late　after　segmentalautotransplantation　of　pancreas　（SAT，N＝7），　normal　controls　（N＝10）　and

pancreatoduodcnectomy　（PD，　N＝12）．＊　：　p〈0．05　vs　Normal　Controls　（N＝10）

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Documents

Osaka University Knowledge Archive : OUKA...ge15）は、7例中1例がStage田、残る6例が StagelVであった。膵全摘ならびに自家部分膵 移植術1⑪一2’に際し、門脈合併切除術を6例

Osaka University Knowledge Archive : OUKA...ge15）は、7例中1例がStage田、残る6例が StagelVであった。膵全摘ならびに自家部分膵移植術1⑪一2’に際し、門脈合併切除術を6例