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SATテクノロジー・ショーケース 2019 現在,日本人の 2 人に 1 人はがんに罹患し,3 人に 1 人はがんで死亡している。放射線治療は,手術による外 科療法,抗がん剤による化学療法と並ぶ,がん治療の 3 本柱の1つである。放射線治療は,切らずにがん治療が 可能であり,機能や形態を温存した治療が可能である。こ れらの利点から,近年では 20 万人以上の人が放射線治 療を受けている。 放射線治療が可能となっているのは,がん細胞と正常 細胞の放射線感受性の差を利用して,がん細胞が主に死 滅する線量を腫瘍に対して照射しているためである。この ことから,放射線治療では患者に投与している線量を正確 に決定することが必要不可欠である。 医療用リニアックから出力される高エネルギー光子線は, コリメータと呼ばれる金属ブロックによって照射範囲が決 められるが,この金属ブロックによる散乱によって線量が 変化してしまう。 近年,放射線治療の技術が発達し,狭い範囲に放射線 を照射することができ,小さな腫瘍の治療が可能となって いるが,その分コリメータによる散乱の影響を正確に評価 する必要がある。そこで,本研究では放射線の散乱などを 再現するモンテカルロシミュレーションを用いて狭い照射 野におけるコリメータによる放射線散乱の計測方法の検討 を行った。 計測には医療用リニアック(図1)から出力される10 MVの 高エネルギー光子線を使用した。モンテカルロシミュレー ション(図2)を使用して,医療用リニアックを再現し,医療用 リニアックから出力される高エネルギー光子線のシミュレ ーションを行い,コリメータによる放射線散乱の変化を調 べた。 日本医学物理学会 編集:外部放射線治療における水吸 収線量の標準計測法(標準計測法12), ㈱通商産業研究 社 発行, 2012年9月10日 第1版第1刷発行. 図 1 産総研の医療用リニアック 現在,日本に約 1000 台設置されており,最も一般的に 放射線治療で使用されている装置である。 図 2 モンテカルロシミュレーションによる 放射線散乱の解析 モンテカルロシミュレーションを使用して医療用リニアッ クから出力される高エネルギー光子線の成分をリニア ック内のヘッド構造物毎に分離した。 Primary 10 -6 10 -5 10 -4 10 -3 10 -2 Back scatter plate MLC Jaws 0 2 4 6 8 10 10 -6 10 -5 10 -4 10 -3 10 -2 Energy(MeV) Primary collimator Flattening filter 10 -6 10 -5 10 -4 10 -3 10 -2 Photon energy fluence per 100 incident electorons (MeV/cm 2 ) (b) (a) (c) 表発表問合せ先 3 0 0 - 0 3 9 4 4 6 6 9 - 2 T E L 0 2 9 - 8 8 8 - 4 0 0 0 Y a s u e - k e n j i @ a i s t . g o . j p 1放射線治療 (2)リニアック (3)モンテカルロシミュレーション 清水 森人 1) , 森下 雄一郎 1) 1) 産業技術総合研究所 分析計測標準部門 P-36 38

P-36 モンテカルロシミュレーションによる 医療・ …...MLC Jaws 0 2 4 6 8 10 10-6 10-5 10-4 10-3 10-2 Energy(MeV) Primary collimator Flattening filter 10-6 10-5 10-4

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Page 1: P-36 モンテカルロシミュレーションによる 医療・ …...MLC Jaws 0 2 4 6 8 10 10-6 10-5 10-4 10-3 10-2 Energy(MeV) Primary collimator Flattening filter 10-6 10-5 10-4

SATテクノロジー・ショーケース2019

■ はじめに

現在,日本人の 2 人に 1 人はがんに罹患し,3 人に 1

人はがんで死亡している。放射線治療は,手術による外

科療法,抗がん剤による化学療法と並ぶ,がん治療の 3

本柱の1つである。放射線治療は,切らずにがん治療が

可能であり,機能や形態を温存した治療が可能である。こ

れらの利点から,近年では 20 万人以上の人が放射線治

療を受けている。

放射線治療が可能となっているのは,がん細胞と正常

細胞の放射線感受性の差を利用して,がん細胞が主に死

滅する線量を腫瘍に対して照射しているためである。この

ことから,放射線治療では患者に投与している線量を正確

に決定することが必要不可欠である。

医療用リニアックから出力される高エネルギー光子線は,

コリメータと呼ばれる金属ブロックによって照射範囲が決

められるが,この金属ブロックによる散乱によって線量が

変化してしまう。

近年,放射線治療の技術が発達し,狭い範囲に放射線

を照射することができ,小さな腫瘍の治療が可能となって

いるが,その分コリメータによる散乱の影響を正確に評価

する必要がある。そこで,本研究では放射線の散乱などを

再現するモンテカルロシミュレーションを用いて狭い照射

野におけるコリメータによる放射線散乱の計測方法の検討

を行った。

■ 活動内容 計測には医療用リニアック(図1)から出力される10 MVの

高エネルギー光子線を使用した。モンテカルロシミュレーション(図2)を使用して,医療用リニアックを再現し,医療用リニアックから出力される高エネルギー光子線のシミュレーションを行い,コリメータによる放射線散乱の変化を調べた。 ■ 参考資料 日本医学物理学会 編集:外部放射線治療における水吸収線量の標準計測法(標準計測法12), ㈱通商産業研究社 発行, 2012年9月10日 第1版第1刷発行.

図 1 産総研の医療用リニアック

現在,日本に約 1000 台設置されており,最も一般的に

放射線治療で使用されている装置である。

図 2 モンテカルロシミュレーションによる

放射線散乱の解析

モンテカルロシミュレーションを使用して医療用リニアッ

クから出力される高エネルギー光子線の成分をリニア

ック内のヘッド構造物毎に分離した。

Primary

10-6

10-5

10-4

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10-2

Back scatter plateMLCJaws

0 2 4 6 8 1010-6

10-5

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医療・福祉・介護

モンテカルロシミュレーションによる コリメータ散乱計測の検討

代表発表者 安江 憲治(やすえ けんじ) 所 属 茨城県立医療大学大学院 保健医療科学研究科

問合せ先 〒300-0394 茨城県稲敷郡阿見町大字阿見 4669-2 TEL:029-888-4000 [email protected]

■キーワード: (1)放射線治療 (2)リニアック (3)モンテカルロシミュレーション ■共同研究者: 清水 森人 1), 森下 雄一郎 1) 1) 産業技術総合研究所 分析計測標準部門

P-36

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