79
第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012

p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の

  • Upload
    others

  • View
    1

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の

第1部

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~

2012

8

第1部

 2011年 3月 11日に発生したマグニチュード90の東北地方太平洋沖地震は国内観測史上最大規模の地震であり大規模な津波を伴い未曾有の大災害を引き起こしました 東京電力株式会社(以下東京電力)福島第一原子力発電所事故では政府による避難屋内退避の指示等により多数の居住者等が避難その他の行動を余儀なくされあるいは事業者が生産及び営業を含めた事業活動の断念を余儀なくされる等同発電所から半径約30km 圏内を中心に福島県全体のみならず周辺の各県も含めた広範囲に影響を及ぼす事態に至りました この東京電力福島原子力発電所事故東日本大震災により原子力の安全性について国民の信頼が大きく損なわれまた電力石油ガスといったエネルギーの供給に混乱が生じる等国内におけるエネルギーの安定供給体制の災害に対する脆弱性や原子力の安全確保に関する課題が改めて浮き彫りになる等の課題が明らかになりました 将来にわたって国民が安心できる持続可能性のあるエネルギー政策の構築が求められている中東京電力

福島第一原子力発電所における事故により国民の生活地域経済環境に対して甚大な被害を与えたことによる深い反省を踏まえ「福島のような事故を二度と繰り返してはならない」ことを肝に銘じ我が国のエネルギー政策をゼロベースで見直すこととし現在まで様々な検討を行ってきています 本年はこの「エネルギー政策の白紙からの見直し」についてこれまで(2012年 7 月末頃まで1)の経緯を整理し明らかにすることを第1部の重要なねらいとしています まず東日本大震災で明らかになった課題を概観します(第1章)次に震災後からこれまで(2012年 7月末まで)に講じられた電力省エネルギー新エネルギーに関する主な施策(第2章)原子力発電所事故に関連して行われた取組の概要現状今後への課題等(第3章)を取り上げますそして現行のエネルギー政策をゼロベースで見直すに当たって設置されたエネルギー環境会議総合資源エネルギー調査会基本問題委員会をはじめとする関係審議会等の構成検討結果等を概観(第4章)することでこれまで行ってきたエネルギー政策の見直しの経緯を明らかにします

はじめに

1 組織名肩書き等は記載事項当時のものを掲載しています

9

第1章

第1章東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故で明らかになった課題2

 本章では第2章以降で取り上げるエネルギー政策のゼロベースの見直しに先立ち東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故によって生じた被害の状況と明らかになった課題を概観します

第1節 電力

1被害の状況

 2011年 3月 11日東北地方太平洋沖地震とそれが引き起こした津波により東京電力福島第一原子力発電所において未曾有の大規模かつ長期にわたる原子力事故が発生しました東京電力福島第一原子力発電所からは大量の放射性物質が放出され住民が避難生活を余儀なくされていますまた原子力発電所の停止火力発電所の被災等により東京電力及び東北電力管内を中心に広範囲にわたり停電が発生しました

2講じた措置(対応)と明らかになった課題

 原子力施設の安全確保に向けた措置として事故の収束に向けた取組(原子力災害対策本部の設置等)全国の原子力施設の安全性安心を高める取組(緊急安全対策原子力発電所の停止要請等)を行いましたまた事故原因の究明として東京電力福島原子力発電所における事故調査検証委員会の設置IAEA報告書の提出等を行いました原子力被災者への対応としては原子力被災者生活支援チームの設置原子力損害賠償支援機構の設立等を行いました 東京電力福島第一原子力発電所の事故や火力発電所の停止等は東日本の電力供給力を一挙に大きく低下させましたが東日本(50Hz帯)の電力不足に対して西日本(60Hz帯)からの余剰電力の融通を十分に行う事等ができなかったため2011年 3月 14日以降東

京電力管内で計10日間計画停電の実施に至りました(第111-2-1) 2011年度夏期冬期の電力需給対策については電力需給緊急対策本部(2011年5月16日電力需給に関する検討会合に改組)において議論が積み重ねられました夏期の電力需給対策については供給力の追加措置を講じる一方東京電力及び東北電力管内においてはピーク期間時間帯3の使用最大電力について15の抑制(節電)を要請し特に大口需要家4については電気事業法第27条に基づく使用制限を実施する等の対応を行いましたまた関西電力管内においては全体として10以上の節電の要請を行い中西日本のその他の電力管内(中部電力北陸電力中国電力四国電力九州電力の各管内)においては国民生活や経済活動に支障を生じない範囲での節電に取り組みました冬期の電力需給対策については供給力の向上等の対策を行うとともにピーク電力不足による停電等を回避するため全国(沖縄を除く)の需要家の皆様に2011年12月1日から2012年3月30日までの

2 東日本大震災による電力都市ガス石油LPGの被害状況対応明らかになった課題については2011 年 7 月末頃までの経緯について「平成 22 年度エネルギーに関する年次報告」においても記載しています3 各電力会社管内において節電を要請する期間時間帯です4 東京電力及び東北電力並びにその供給区域内で供給している特定規模電気事業者と直接需給契約を締結している需要家です

5500

5000

4500

4000

3500

3000

2500

(万 kW) (回)8

7

6

5

4

3

2

1

0311 13 15 17 19 21 23 25 27 29 31

1

5 5

7

5

4

2

1 1 1

計画停電の延べ回数

供給能力の推移

需要予測の推移

震災と原発事故

第111-2-1 東京電力管内における計画停電の実施回数

10

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第1章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故で明らかになった課題

第1章

間節電を要請し特に需給の厳しい関西電力九州電力管内においては一定の期間中数値目標を設定5

して節電を要請しました このように東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所の事故は原子力の安全性確保周波数変換所や連系線の容量不足電力需給逼迫の産業への影響回避等の課題を明らかにしました

第2節 都市ガス

1被害の状況

 都市ガス事業等においては震災による津波や液状化等によりガスの製造設備や供給設備(導管等)が破損しました供給設備の被害は過去の震災においてもありましたが今回の東日本大震災では津波により一部の製造設備が機能停止にまで陥りました特に沿岸部にあった仙台市ガス局のLNG基地(LNGタンカーから受け入れたLNGを貯蔵気化させて都市ガスとして供給する施設)は津波で被災し主要な電気設備が冠水するとともに護岸の一部が流される等の甚大な被害が生じました今回の大震災において我が国は大規模な需要をまかなうLNG基地の機能停止を初めて経験しました

2講じた措置(対応)と明らかになった課題

 全国の都市ガス事業者による復旧応援移動式ガス発生設備による臨時供給を行ったほか復旧に1年近い期間を要することが見込まれていた仙台市ガス局のLNG基地に代わり新潟-仙台間を結ぶ広域天然ガスパイプラインによる代替供給(第112-2-1)を行い供給再開作業が可能となった結果大震災から1カ月強で復旧を完了しました 現状の我が国の天然ガスパイプラインネットワークを見ますと都市ガスの需要地ごとに分断されており新潟-仙台間のような広域的な天然ガスパイプラインが存在する地域は極めてまれであると言えますその意味において今回の震災によって仮に単独のLNG基地に供給を依存する地域において製造設備が被災し機能停止に陥った場合たとえ復旧応援があった

としても都市ガスの供給そのものが停止するため長期間に渡りガス供給が途絶するリスクがあることが顕在化しました

第3節 石油LPG

1被害の状況

 震災により臨海部を中心に港湾や道路が大きな被害を受けました東北地方で唯一の製油所であるJX日鉱日石エネルギー株式会社仙台製油所をはじめ東北関東地方にある9製油所のうち6製油所が被災しましたまた主要供給拠点である塩釜油槽所の受入港湾にタンカーが着桟できない状況となるとともにタンクローリーが多数被災する等被災地における石油製品の安定供給に支障を来しました またLPガス供給基地は東北各県及び茨城県の9基地中7基地が被災し充塡所は被災3県(岩手宮城福島)の160カ所中28カ所が使用不可能になりました 石油製品(ガソリン灯油軽油等)の流通網についてはタンクローリーが津波により多数被災したことに加え道路鉄道事情が大幅に悪化し交通網が分断状況となったこと等により油槽所からサービスス

5  関西電力管内2011 年 12 月 19 日~2012 年 3 月 23 日までの間「10以上」(ただし生産活動等に配慮) 九州電力管内2011 年 12 月 26 日~2012 年 2 月 3 日までの間「5以上」(ただし生産活動等に配慮)

仙台市ガス局LNG基地(被災)

LNG基地

ガス事業者

幹線パイプライン

第112-2-1 新潟 - 仙台間の天然ガスパイプライン

11

第3節 石油LPG

第1章

テーション(SS)へのガソリン等の安定的な輸送が困難な状況となりましたまた津波の影響でサービスステーション(SS)についても給油設備が被害を受けたこと等により岩手や宮城の一部地域において全てのサービスステーション(SS)が営業不能になった市町村もありました

2講じた措置(対応)と明らかになった課題

(1)震災において講じた対応①被災地からの個別燃料供給要請への対応 震災発生直後より医療機関や警察消防を始め各方面から差し迫った石油製品供給の要請がありました政府は石油連盟全国石油業共済協同組合連合会石油元売各社と協力して対応体制を構築し24時間態勢でこれらの要請に対応するとともにLPガスについても他地域からの輸送体制を強化6する等して被災地への供給確保を行うと共に軒下在庫7の活用及び仮設住宅への供給等8を行いました

② 包括的な供給プランの策定(東北地方(被災地)及び関東圏でのガソリン軽油等の供給確保) 今次震災においては津波等によるタンクローリーの被災や東北関東地方にある製油所の被災による国内の石油精製能力の低下によって被災地等における石油製品の安定供給に支障を来しました 石油元売各社は経済産業大臣からの被災地へのタンクローリーの追加投入や製油所稼働率の引き上げについての要請に基づき約300台のタンクローリーの追加投入や西日本における石油製品の増産を実施しましたその増産分についてはタンカー等により被災地へ大量転送しました 津波等により被災し出荷困難な状況に陥った太平洋側の油槽所については石油元売各社による設備の復旧関係機関協力下での近海海域の掃海周辺道路の回復による油槽所機能の早期回復が図られました また比較的被害の小さかった油槽所を複数の石油会社間で共同利用する等の柔軟な対応により被災地

への石油供給を行いました これらの対応に加え消防警察等の緊急車両への燃料供給を優先するよう石油販売業界に要請するとともに緊急車両に対して確実に燃料供給を行うために東北圏で合計385カ所関東圏で合計348カ所のサービスステーション(SS)を緊急重点サービスステーションとして認定しました また福島原子力発電所周辺地域においては住民の方々の自主避難を円滑に進めるため関係団体に対して重点的な燃料供給を行う旨の要請も行いました なお上記以外の対応としてタンク貨車による鉄道輸送やドラム缶のトラック等による被災地への石油製品の大量輸送石油備蓄法に基づく民間備蓄義務の引き下げ及び国家備蓄LPガスの放出(交換)等9を行い東北地方(被災地)及び関東圏における石油製品の供給確保に取り組みました

③エネルギー供給施設の復旧等の支援 今回の震災では津波により給油設備が被害を受け多くのサービスステーション(SS)が営業不能に陥りました被災地域における石油製品の供給体制を早期に回復させるため被害を受けた給油設備の補修や安全点検を行う等のサービスステーション早期復旧支援に取り組みつつサービスステーションの復旧が完了するまでの間についても移動式給油機やタンクコンテナを設置する等して簡易サービスステーションによる仮営業の支援も行いました また震災により経営が悪化した被災地域のサービスステーション(SS)の資金繰りに関しても全国石油協会が金融機関からの資金調達を行う際の保証人になり借入債務の保証を行うことで対応しました 更に津波等による損壊により通常の信用取引が困難になった被災地域のサービスステーション(SS)についても売掛債権の未回収リスクを国が負担することで石油製品の安定供給の支援を行いました LPガスについては中小企業が所有する10カ所程度の充填所や震災前に東北地方の半分以上のLPガス

6 LPガス輸入業者からなる日本 LPガス協会においてあらかじめ定めていた相互支援協定を発動し東北関東の他の基地等から代替供給を速やかに実施しました7 通常LPガスの供給先には LPガス容器が複数本設置され軒下在庫とも言われています復旧については個別の対応となるため早期の供給再開が可能です8 ほぼ全ての仮設住宅約 53000 軒に対して供給されています9 LPガス元売業者からの国家備蓄 LPガスの放出要請を受け「石油の備蓄の確保等に関する法律」に基づき隣接する神栖国家備蓄基地の備蓄 LPガスを 4万トン放出(交換)しました

12

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第1章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故で明らかになった課題

第1章

供給を担っていた仙台ガスターミナルに対し設備復旧の支援を行いましたまたLPガス輸入業者からなる日本LPガス協会においてあらかじめ定めていた相互支援協定を発動し上記国家備蓄の放出や東北関東の他の基地等からローリーによる代替供給を速やかに実施した結果東北地方におけるLPガスの安定供給を確保することが出来ました

10 東北地方(被災地)及び関東圏でのガソリン軽油等の供給確保 - 緊急の供給確保措置と拡大輸送ルートの設定(2011 年 3 月 17 日公表)より作成しています

(2)明らかになった課題 今回の震災での経験を踏まえ石油基地LPガス出荷基地充填所等の災害対応能力や物流機能の強化情報収集情報提供体制の強化等災害時にも確実に石油製品を供給できる体制の整備が課題として明らかになりました

稼働率アップによる追加増産分等を東北地方に転送(約2万 kℓ日)

輸出抑制需要抑制

西日本の製油所の稼働率95以上へ

ローリーの大量投入鉄道による輸送ルートの確保

拠点SSの整備

関東圏への安定供給

西日本の製油所における製品在庫の取り崩しと関東への転送(3日以内に5万kℓ)

関東圏の製油所にお ける製品在庫の取り 崩し(約3万kℓ)事業者間連携による 円滑な供給体制

東北地方への重要供給拠点タンク貯蔵量25kℓ出荷能力約5000kℓ日全油種合計の能力

(注) 1万 kℓ日=約63 万バレル日

(参考)宮城県の1日あたりの燃料油販売量は約1万kℓ日東北全体では38万kℓ日

JX大分製油所

太陽四国事業所

コスモ坂出製油所東燃ゼネラル

和歌山工場

コスモ四日市製油所昭シェル四日市製油所

出光愛知製油所昭シェル山口製油所

出光徳山製油所

JX麻里布製油所JX水島製油所 コスモ堺製油所東燃ゼネラル堺工場

新潟油槽所仙台

塩竈油槽所の機能回復

酒日油槽所気仙沼油槽所times

秋田油槽所 八戸油槽所times青森油槽所

室蘭製油所 苫小牧製油所

第113-2-1  東北地方(被災地)及び関東圏でのガソリン軽油等の供給確保の為の包括プラン10

13

第2章

 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故により我が国のエネルギーに関して様々な課題が明らかになり我が国はエネルギー政策のゼロベースの見直しを行ってきました11また同時に我が国はエネルギーに関して生じた課題について様々な対応を図ってきました本章では震災後から2012年 7月下旬頃までの電力省エネルギー新エネルギーに関して講じた施策について取り上げます12

第1節 電力需給対策

12011年度夏期の需給対策と結果

 震災後直ちに立ち上がった官房長官を本部長とする「電力需給緊急対策本部」において夏期の電力需給対策等について議論が積み重ねられ第5回電力需給緊急対策本部(2011年 5月 13日)13において「夏期の電力需給対策」が取りまとめられ対策が講じられました

(1)供給面の対策 主な供給面の対策として震災により失われた供給力を補うために東京電力及び東北電力が行う発電設備の設置事業について環境影響評価法の適用除外となることを確認したほか電気事業法に基づく火力発電施設の定期検査実施時期について最大1年間の延長を認める運用を実施することとしましたまた経済産業省から自家発設置事業者に対し売電要請設備導入や燃料費の補助等を措置することとしました

(2)節電要請 余震等による火力の復旧の遅れ再被災等のリスクを踏まえて供給力と需要が一致するギリギリのライ

ンではなく一定の余裕を持ったものとすることが適当であるという観点で行われました 東京電力及び東北電力管内においてはピーク期間時間帯の使用最大電力について15の抑制(節電)を要請し特に大口需要家については電気事業法第27条に基づく使用制限を実施する等の対応を行いました電気の使用制限期間は東京電力管内は2011年 7月 1日~9月22日の9時~20時(平日のみ)東北電力管内は同年7月1日~9月9日の9時~20時(平日のみ)とされました また関西電力管内においては全体として10以上の節電の要請を行いました節電要請期間は2011年7月25日~9月22日の9時~20時(平日のみ)とされました 中西日本のその他の電力管内(中部電力北陸電力中国電力四国電力九州電力の各管内)においては国民生活や経済活動に支障を生じない範囲での節電に取り組みました その後電気事業法第27条に基づく使用制限については2011年 8月 30日に東北東京電力管内の需給バランスが改善していることや被災地の方々からの早期終了を求める声があることを踏まえ「9月2日(金)を最後に東日本大震災及び新潟福島豪雨の被災地に所在する大口需要家の方々に対する電気事業法第27条に基づく電気の使用制限を終了すること」「9月9日(金)を最後に東京電力管内に所在する大口需要家の方々に対する電気事業法第27条に基づく電気の使用制限を終了すること」が決定されました

(3)2011年度夏期の結果①全体 節電要請等を踏まえた需要家の皆様の協力等により需要は各地域において概ね目標とする水準で推移しました2011年夏期の需要気温が高かった日と

11 第 1部第 4章に詳述しています12 石油LPG に関して講じた施策は第 4章第 3節に記載しています13 「電力需給緊急対策本部」は 2011 年 5 月 16 日をもって「電力需給に関する検討会合」に改組しました

第2章東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故後に講じたエネルギーに関する主な施策

14

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第2章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故後に講じたエネルギーに関する主な施策

第2章

2010年夏期の気温が同程度の日を選定して比較した場合ピーク時の電力需要は2010年比東京電力で19東北電力で18関西電力で8となり電力会社による供給力の積み上げや機動的な電力融通等の対応と相まって計画停電や需給ひっ迫による停電は回避することができました

②大口需要家(契約電力500kW以上の事業者) 最大ピーク需要を2010年比で見ますと東京電力で27東北電力で18関西電力で9の効果がありました使用制限を課した東京電力東北電力では目標以上の節電が行われ数値目標を提示しただけの関西電力でも目標に応じた節電効果がありました 大口需要家のうち産業部門に関しては電気の使用目的が生産活動に直結しており節電にはコストが伴いました休日夜間へのシフトのよる労務費増自家発活用による燃料費増等により相当のコストが発生した例もありました オフィスビルや店舗といった業務部門においては冷房や照明が電力需要の太宗を占めており照明の間引きLED照明の導入空調設定エレベーターの間引き等基本的には大きなコストをかけることなく電気代を節約しながら数値目標を実現しました

③小口需要家(契約電力500kW未満の事業者) 最大ピーク需要を2010年比で見ますと東京電力で19東北電力で17関西電力で10の効果がありました各電力管内とも節電要請に対応した自主的な数値目標でも目標に応じた節電効果が発揮されました 小口需要家のうち産業部門に関しては休日夜間へのシフトによる労務費増自家発活用による燃料費増等により相当のコストが発生した例もある等電気の使用目的が生産活動に直結しており節電にはコストが伴いましたコンビニエンスストア等の店舗を中心とする業務部門では電力使用の太宗を冷房や照明が占めており照明(間引きLED照明の導入)空調の設定エレベーターの間引き等基本的には大きなコストをかけることなく電気代を節約しながら数値目標を実現しました

④家庭 節電要請にほぼ対応した成果がありました家庭部

門においてはこまめな消灯LED照明の導入空調設定の工夫等により基本的には大きな支出をすることなく節電を実現しました

22011年度冬期の需給対策と結果

 2011年 11月 1日に合同開催されたエネルギー環境会議電力需給に関する検討会合において「今冬の電力需給対策」がとりまとめられ対策が講じられました

(1)供給面の対策 電力会社の取組としては引き続き供給力の積み増し努力を続けていくとともに日々の電力系統の運用において各社の需給状況を踏まえつつ更に機動的な相互の融通を行うことで需給がひっ迫する地域の需給バランスを確保できるような対応を行うこととしました 政府の取組としては2011年 11月 1日にエネルギー環境会議にてとりまとめられた「エネルギー需給安定行動計画」に基づき予算規制改革等あらゆる措置を検討しできる限りの措置を講じることとされました

(2)需要抑制の目標 供給力の最大限の積み上げを行った上でもなお存在する需給ギャップについてはピーク期間時間帯の使用最大電力(kW)の抑制(節電)により対応することとし節電要請は経済社会への影響を最小化するため「電気事業法第27条に基づく電気の使用制限は行わない」「具体的な節電の要請に当たっては経済活動や国民生活の実態に応じたきめ細かな対応を求める」という考え方に基づき行われました 関西電力と九州電力においては供給力が最大需要見通しを下回るためピーク期間時間帯の最大使用電力についてそれぞれ数値目標を伴う節電要請が行われましたなお病院や鉄道等ライフライン機能等の維持に支障が出る場合や生産活動に実質的な影響を及ぼす場合等については機能維持への支障や生産活動への実質的な影響が生じない範囲で自主的な目標を設定し節電を行うよう要請することとされました 関西電力管内には10以上の節電要請が行われました節電要請期間は2011年 12月 19日~2012年3月23日の9時~21時(平日(12月29日12月30日1月3日1月4日を除く)のみ)とされました

15

第1節 電力需給対策

第2章

 九州電力管内には5以上の節電要請が行われました節電要請期間は2011年 12月 19日~2012年2月 3日の9時~21時(平日(12月 29日12月 30日1月3日1月4日を除く)のみ)とされましたその後2011年 11月 24日付けで九州電力が玄海原子力発電所4号機の定期検査開始日を法定期限(13カ月)である2011年 12月 25日とすることを決定したことに伴い九州電力の需給バランスを再精査したところ玄海4号機の定期検査開始日までは一定の供給力が確保される見通しとなったため節電期間の開始日が当初の2011年 12月 19日から2011年 12月 26日に変更されました その他の電力会社(北海道電力東北電力東京電力中部電力北陸電力中国電力及び四国電力)管内については国民生活及び経済活動に支障を生じない範囲での期間時間帯における使用最大電力の抑制(具体的には照明空調機器等の節電等)が要請されました14節電要請期間は2011年 12月 1日~2012年 3月 30日の平日(12月 29日12月 30日1月3日1月4日を除く)9時~21時(九州電力管内については8時~21時)とされました

(3)2011年度冬期の結果①全体 節電要請等を踏まえた需要家の皆様の協力等により需要は各地域において概ね目標とする水準で推移しました2011年度冬の節電要請期間における電力需要と2010年度冬の同時期における電力需要とを比較した場合ピーク時の電力需要は関西電力で5九州電力で62となり電力会社による供給力の積み上げや機動的な電力融通等の対応と相まって計画停電や需給ひっ迫による停電は回避することができま

した15

②大口需要家(契約電力500kW以上の事業者) 最大ピーク需要を2010年度比でみますと生産活動等に配慮しても関西電力で6九州電力で7の効果がありました 多くの大口需要家は需給調整契約等における経済合理性を踏まえてピークカット等を実施し生産活動等への実質的な影響は回避されました

③小口需要家(契約電力500kW未満の事業者) 最大ピーク需要を2010年度比でみますと生産活動等に配慮しても関西電力で5九州電力で6の効果がありました 節電の内容は照明と空調に関するものが最も多く生産活動等への実質的な影響は回避されました

④家庭 家庭部門においてはこまめな消灯LED照明の導入空調設定の工夫等により基本的には大きな支出をすることなく節電を実現しました

32012年度夏期の需給対策

 2012年4月末から5月初旬にわたり今夏の需給見通しについてエネルギー環境会議及び電力需給に関する検討会合の下に設置された「需給検証委員会」で検討が行われました 検証の結果「関西電力管内で昨年の東京電力管内で想定されたピーク電力不足よりも厳しい状況になる恐れがあること」「九州電力北海道電力及び四国電力管内でも電力需給のひっ迫が見込まれるとともに全ての地域で火力発電所の稼働が増える結果燃料

14 数値目標付き節電期間以外の関西電力九州電力管内についても同様です15 数値目標を伴わない節電要請を行った電力管内のピーク需要については下記の通りです 北海道22東北22東京74中部28北陸33中国41四国29(2010 年比)

第121-3-1 でんき予報

16

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第2章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故後に講じたエネルギーに関する主な施策

第2章

コストが増加し2012年度には31兆円の国富の流出が生じると推計されておりこのまま放置すれば本年秋以降電気料金上昇のリスクも高まること」が明らかになりました これを受けて2012年 5月18日に合同開催されたエネルギー環境会議電力需給に関する検討会合において「今夏の電力需給対策」がとりまとめられ対策が講じられました

(1)供給面の対策 電力会社の取組としては需給検証委員会における検証を踏まえ現段階で確実と見られる供給力を基本とし今後確実に見込めるようになった供給力についてはその時点で上方修正することとしまた約2週間前(可能な範囲)1週間前前日の三段階で融通可能量を明確化する等日々の運用において中西日本の地域全体あるいは東日本の地域全体として機動的な電力融通を行うことにより地域全体としての需給バランスを確保できるような対応を行うこととされました 政府の取組としてはエネルギー需給安定関連の2011(平成23)年度補正予算2012(平成24)年度予算

の執行を加速しその際関西北海道九州東北及び四国を優先することとしましたまたエネルギー規制制度改革アクションプランを着実に実行することとされました

(2)需給ひっ迫時の対応 国民各層の節電への協力にもかかわらず急激な気温変化や大型発電所の計画外停止等により電力需給がひっ迫する可能性がある場合には政府はあらかじめひっ迫が想定される特定の電力会社管内に「電力需給ひっ迫警報」を発令し報道機関や地方公共団体等の協力を得て緊急節電要請を行うこととされました また計画停電は実施しないことが原則ですが大規模な電源の脱落等万が一に備えて関西電力管内に加えて予備率がマイナスと見込まれる九州電力北海道電力及び四国電力管内においても計画停電の準備を進めておくこととされました

(3)需要抑制の目標 需給検証委員会における検証結果を踏まえ需給ギャップ(kW)を解消するため需要家に対し節電を要

需給ひっ迫警報の発令(第一報)

需給ひっ迫警報の発令(続報)

「緊急速報メール」発出

節電協力による停電回避

電力会社が計画停電の実施を発表

前日1800目途

当日900目途

計画停電開始の3~4時間前

計画停電実施の2時間程度前

需給ひっ迫警報発令から計画停電への流れ

他社から電力融通を受けても需給がひっ迫する電力会社の供給予備率が3を下回る見通しとなった場合政府から当該電力会社の管内に対し警報を発令翌日行う可能性のある計画停電について電力会社から公表する

当日900を目途に政府から発令その後も需給状況の変化を踏まえて必要に応じ続報を発令

第1グループ(830~)から計画停電を実施する場合は900の警報の発令は行わない場合があるまた必要に応じ900以前に続報を発令する場合があるなお需給ひっ迫のおそれが解消されたと判断される場合には警報を解除する

引き続き需給のひっ迫状況が解消されない場合計画停電を開始する可能性がある時間の引き3~4時間前に政府から「緊急速報メール」を発信し電気の利用を極力控えることを要請

引き続き需給のひっ迫状況が解消されず最大限の融通を受けても中西日本全体若しくは北海道電力管内において供給予備率が1程度を下回る見通しとなった場合計画停電を実施する可能性がある時間帯ごとにその2時間程度前に電力会社から計画停電の実施を発表

大型発電機の計画外停止が重なり短時間に需給がひっ迫した場合等においては警報や緊急速報メールを発令することなく計画停電を実施する場合がある

(注) 北海道電力管内については北本連系線等が計画外停止した場合等においても更なる発電機等の計画外停止等が停電(計画停電や場合によっては不測の停電)につながる可能性があるためその旨を速やかに周知する万一不測の停電が起きた場合にも速やかに計画停電に移行する

当日早朝や午前中に大型発電所の計画外停止が重なった場合等においては急遽警報を発令する場合がある

緊急速報メールは早朝深夜の時間帯等需要抑制効果が見込めないと判断される場合には送信しない

第121-3-2 需給ひっ迫警報発令から計画停電への流れ

17

第1節 電力需給対策

第2章

請することとされましたこの際より合理的なピーク時の電力不足解消策として全国レベルでの節電と融通の最大活用を行うこととされました 個別の需要家に対する要請に当たっては需要家からの意見(「需要家間の公平性確保」)や需要家への「分かりやすさ」等も踏まえ2010年の使用電力需要の実績(節電影響を含まない需要実績)を基準として要請することとされました16 また被災地や高齢者等の弱者に対して無理な節電を要請することがないよう要請時には配慮を行うこととされました 併せて関連支援措置の執行の加速規制制度改革の推進等の構造的対策や需要の変動に効率的に対応する新たなピークカット対策を推進することとしこれらの需要面での対策に当たっては地方公共団体等の協力を得て創意工夫によるきめ細かい対応を行うことにより国民生活や経済活動への影響を最小化することを目指すこととされました 各電力会社管内の需要家に対する要請については北海道電力管内には2010年比7以上の節電要請が

行われました節電要請期間は2012年 7月 23日~9月7日9時~20時(平日(8月13日~15日)を除く)同年9月10日~14日 17時~20時とされました 東京東北電力管内には東日本全体としては2012年夏季想定需要(猛暑節電あり)の場合には最低限必要となる供給予備率(3)は確保できる見通しであること東北電力管内においては被災地の復興需要に配慮することが適切であることから数値目標を伴わない節電要請が行われました節電要請期間は2012年 7月 2日~9月28日の平日(同年8月13日~15日を除く)9時~20時とされました 中西日本各社の管内については中西日本における広域での節電目標を数値目標付きで要請し広く中西日本の需要家の協力を募ることにより関西電力及び九州電力の節電目標を引き下げ一律かつ強制的な手段である電力使用制限命令を回避するという方針を踏まえ関西電力管内には2010年比15以上の節電要請が行われました節電要請期間は2012年 7月 2日~9月7日9時~20時(平日(8月13日~15日を除く)とされました

16 病院や鉄道等のライフライン機能や国の安全保障上極めて重要な施設の機能等の維持に支障がでる場合には機能維持への支障が生じない範囲で自主的に目標を設定し実施することを要請(オフィス部門間接部門は共通目標の節電を要請)されました

需要サイドの取組

供給サイドの取組

新たなピークカット対策のためのアクションプラン(進捗状況)

自家発余剰購入の拡大 電力会社が需要家の自家発による電力を購入した場合買い取り分を需要家の節電とみなす指針(昨年11月公表)に基づき需要家において自家発を有効に活用今夏の節電期間において九カ所の自家発を活用し40カ所を超える供給地で節電みなしを実施する予定(化学電機製紙繊維等)この他検討中の案件ありまた補助金(6月29日まで公募)を通じて自家発設備の導入活用を促進分散型売電市場の開設 6月18日より分散型グリーン売電市場を開設自家発等の小規模電源や系統への送電量が一定ではない電力も売電可能6月27日には第一号案件の取引が成立(東京電力管内の複数のコジェネ電源最大32 万 kW程度)卸電力取引所の時間前市場の利用要件緩和 6月20日から卸電力取引所の時間前市場の買いに関する制限を撤廃し経済的理由での買い入札や差し替えを可能とする運用を開始

計画調整契約随時調整契約の拡充(特別高圧高圧大口小口向け) 各電力会社が需給調整契約のプランの拡充や割引単価を拡大(例関西電力が随時調整契約のうち前日通告プランに加え前週通告プランを新設中部電力は管外(関西電力)の需給ひっ迫時にも発動可能な契約を設定)季節別時間帯別料金の活用新たなピーク料金メニューの設定(低圧向け) 東京電力(61~)関西電力(71~)が新たなピーク料金メニューを導入(新メニューの申込み件数は東京電力約520件(511-73)関西電力約11900件(521-73))九州電力及び四国電力はピーク料金の実証を実施また関西電力及び北海道電力が一定の節電を達成した家庭にプレゼントを進呈するキャンペーン(7~9月)を実施アグリゲーターを活用したDSM(デマンドサイドマネージメント)(特別高圧高圧大口小口向け) 東京電力は複数の需要家のピーク需要抑制の取組を取りまとめることで大規模なピーク需要抑制を実現するプランを公募5件のプランについて取りまとめ事業者(アグリゲーター)との契約締結を発表(6月6日) 関西電力はBEMS(ビルエネルギー管理システム)を導入した複数の需要家に対し負荷調整を働きかけピーク抑制を実施するアグリゲーターを公募(528~615)18社の応募があり現在協議中 中部電力はアグリゲーター2社と契約し高圧小口の需要家を対象に遠隔操作によりデマンドコントローラーの設定値を低く設定すること等によりピーク時の需要を抑制(仮に管内で需給が厳しい状況とならずとも実証的に発動する予定)(626)入札等によるネガワット取引(特別高圧高圧大口向け) 関西電力が7月2日よりネガワット取引(需給ひっ迫が予想される場合に電力会社が需要家から節電(負荷抑制)を入札により確保する仕組)を実施その際関西電力管外(中部北陸中国)管内の需要家も対象とすることを発表(621)スマートメーター向け検定手数料の引き下げ(低圧向け)(エネルギー規制規制改革アクションプラン関連) 7月1日より低圧用スマートメーターの検定手数料を大幅に引き下げ(1台670円から370円に)

第121-3-3 新たなピークカット対策のためのアクションプラン(2012年 7月 5日現在)

18

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第2章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故後に講じたエネルギーに関する主な施策

第2章

 四国電力管内には2010年比7以上の節電要請が行われました節電要請期間は2012年 7月 2日~9月7日9時~20時(平日(8月13日~15日除く))とされました 九州電力管内には2010年比10以上の節電要請が行われました節電要請期間は2012年 7月 2日~9月7日9時~20時(平日(8月13日~15日を除く))とされました 中部北陸中国電力管内には2010年比5以上の節電要請が行われました節電要請期間は2012年7月2日~9月7日9時~20時(平日(8月13日~15日を除く))とされました その後2012年 7月 9日に大飯原子力発電所3号機が定格熱出力一定運転となったことを踏まえ同年7月10日から関西電力管内については2010年比10以上に低減中部北陸中国電力管内については定着した節電分相当を数値目標として設定することとしそれぞれ4以上4以上3以上に低減されました また数値目標を伴う節電要請期間及び時間は変更しないこととされました 更に7月25日に大飯原子力発電所4号機が定格熱出力一定運転となったことを踏まえ7月26日から中部北陸中国電力管内については数値目標(それぞれ2010年比4以上4以上3以上)を解除し「数値目標を伴わない節電」に変更関西電力管内については引き続き2010年比10以上の節電

要請を行うこととされましたが生産活動に支障が生じる場合は2010年比5以上に低減四国電力管内については2010年比7以上から2010年比5以上に低減することとされました また節電要請期間及び時間は変更しないこととされ引き続き高齢者乳幼児等の弱者熱中症等の健康被害への配慮を行うこととされました

第2節 原子力発電所再起動

1原子力施設の安全性安心を高める取組

(1)緊急安全対策等の実施 原子力安全保安院は今般の事故と同程度の地震と津波により全交流電源喪失最終ヒートシンクの喪失に至ったとしても炉心損傷等深刻な事態を回避し冷温停止状態に移行するための対策として2011年 3月 30日事業者に対して緊急安全対策を指示しました 短期対策としては電源車や代替注水のためのポンプの配備東京電力福島第一原子力発電所を襲ったものと同程度の津波を想定した建屋への浸水対策手順書の整備等に加え中長期対策として設備の本格的な水密化や防潮堤等の防護措置の実施を要求しましたその後これらの実施状況について事業者から報告を受け2011年 5月評価確認を実施しましたなお防潮堤の設置等の中長期対策の実施状況については引き続き厳格に確認を行っていく予定です また2011年 4月 15日には外部電源の信頼性の向上を図るため複数ルート回線の確保開閉所の耐震性確保等を指示し更に同年6月7日には万一シビアアクシデントが発生した場合でも迅速に対応するため事故時の通信管理機能確保放射線防護体制の強化を指示しましたこれらの指示に基づく実施状況についても現場確認を実施する等評価確認を行っています

第121-3-4 2012年度 夏季の節電メニュー中部 関西 北陸 中国 四国 九州

当初(7月 2日~) 5以上 15以上 5以上 5以上 7以上 10以上3号機定熱運転後(7月10日~)

4以上(定着した節電分)

10以上4以上

(定着した節電分)3以上

(定着した節電分) 7以上 10以上

4号機定熱運転後(7月26日~)

一般的な節電要請

10以上生産活動に支障が生じる場合は5以上

一般的な節電要請

一般的な節電要請

5以上 10以上

7月 25日 4号機定格熱出力一定運転(定熱運転)

第121-3-5 2012年度夏期節電目標の改訂の変遷

19

第2節 原子力発電所再起動

第2章

(2) 東京電力福島第一原子力発電所事故の知見 事故の原因等の調査については原子力安全と原子力防災を中心に事故の評価や得られた教訓を取りまとめ2011年 6月9月の2回IAEAに対して日本政府としての報告を提出しました また2011年 5月から6月にかけて各国の専門家及びIAEAの専門家で構成された調査団を受け入れ事実関係の調査を行いその時点における教訓等を国際社会と共有しました 更に事故から得られる技術的な知見を可能な限り抽出するため原子力安全保安院は2011年 10月から「東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の技術的知見に関する意見聴取会」を外部の専門家の参加を得て全面公開の下8回開催しパブリックコメントを経た上で2012年 3月に報告書をとりまとめましたその中で今回の事故では津波による被水によって所内電源設備や冷却設備が機能を喪失したことを受け今後の規制に反映すべきと考えられる事項として所内電源設備や冷却設備の位置的分散浸水対策事故時の最終ヒートシンクの強化等の必要性を提示した「30の対策」をとりまとめました 「東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の技術的知見に関する意見聴取会」に加え東京電力福島第一原発等で観測された地震津波等の影響については原子力安全保安院は2011年 9月から専門家の参加を得て「地震津波に関する意見聴取会」「建築物構造に関する意見聴取会」をそれぞれ11回8回開催し2012年2月に中間とりまとめを行いましたまた東京電力福島第一原発事故における経年劣化の影響について検証するため専門家の参加を得て「高経年化技術評価に関する意見聴取会」を6回開催し2012年 2月に取りまとめを行いましたこれらの検討結果についてはそれぞれ原子力安全委員会に報告するとともに「30の対策」に反映させています

(3)ストレステストによる評価 2011年7月6日の原子力安全委員会からの要請及び7月11日に公表された政府方針「我が国原子力発電所の安全性の確認について」に基づき原子力安全保安院では原子力発電所の更なる安全性の向上と安全性についての国民住民の方々の安心信頼の確保のため評価手法評価実施計画を作成し原子力安全委員会の確認を得た上で事業者に対して総合的安全評価(いわゆるストレステスト)の実施を指示しまし

た ストレステスト一次評価においては定期検査で停止中の原子力発電所について運転の再開の可否について判断することとしており全交流電源喪失及び最終ヒートシンク喪失に関してそれぞれの事象時の冷却継続時間クリフエッジの特定緊急安全対策の効果等について評価します事業者の一次評価の結果については原子力安全保安院が公開の会議で外部の専門家の意見を聴きつつ「東京電力福島第一原子力発電所を襲ったような地震津波が来襲しても炉心損傷に至らないこと」の確認を行い更に原子力安全保安院の審査の妥当性を原子力安全委員会が確認しますなお大飯発電所34号機については原子力安全保安院が審査書を2012年 2月 13日にとりまとめ同年3月23日に原子力安全委員会が見解をとりまとめています

2大飯発電所34号機の再起動

(1)原子力発電所に関する四大臣会合 2012年 3月に大飯発電所34号機について原子力安全保安院による審査結果及び原子力安全委員会による見解がとりまとめられたことを受けて内閣総理大臣内閣官房長官経済産業大臣内閣府特命担当大臣(原子力担当)からなる「原子力発電所に関する四大臣会合」を同年4月3日から6回にわたり開催しました まず東京電力福島第一原子力発電所事故の発生以降緊急安全対策等の安全対策の実施政府事故調や原子力安全保安院の意見聴取会等の専門家による事故検証や知見の蓄積ストレステスト一次評価による安全性評価等1年間の対策や知見の積み重ねを踏まえ分かりやすい形に整理したものとして四大臣会合で「原子力発電所の再起動にあたっての安全性に関する判断基準」を取りまとめました大飯発電所34号機は東京電力福島第一原子力発電所を襲ったような地震津波が来襲しても燃料損傷には至らないこと更なる安全性信頼性向上のための着実な実施計画が明らかになっていること等を確認したことから「原子力発電所の再起動にあたっての安全性に関する判断基準」に適合し安全性が十分に確保されていることを確認しました 併せて再起動の必要性を検証しましたその結果関西地域ではこれまでの供給力積み増しの努力を勘案してもなお電力不足となる可能性があること原子力

20

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第2章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故後に講じたエネルギーに関する主な施策

第2章

発電所の停止がもたらすコスト増により国民負担が増加しその影響は小売店や中小企業家庭に広く及ぶことエネルギー安全保障の確保等の点から大飯発電所34号機の再起動には必要性があることを確認しました 以上のように大飯34号機の再起動には安全性と必要性があることを判断し四大臣としてこの判断について国民の皆様に対して責任を持って説明し理解が得られるよう努めていくこと何よりも立地自治体の理解が得られるよう全力を挙げていくことそしてこうした一定の理解が得られた場合には最終的に再起動の是非について決断することを同年4月13日に確認しました

(2)立地自治体等への説明 2012年4月13日の四大臣会合を受けて同月14日に枝野経済産業大臣が福井県を訪問し西川福井県知事時岡おおい町長等と会談を行いましたまたおおい町からの要望を踏まえ同月26日に開催されたおおい町住民説明会において柳澤経済産業副大臣が政府の判断について説明を行いました 政府の再起動の安全性判断等について説明の要望があった関西広域連合京都府滋賀県等の周辺自治体に対しても関係閣僚等が説明を行いましたこれらの説明結果を踏まえ同年5月30日の四大臣会合において関係自治体の一定の理解が得られつつあると判断しこれまで40年間にわたって原子力発電所の安全確保に直接向き合い電力の安定供給に貢献してきた立地自治体である福井県おおい町の判断が得られれば政府として最終的な再起動判断をすることを決定しました これを受けて同年6月4日には細野内閣府特命担当大臣(原子力担当)齋藤内閣官房副長官牧野経済産業副大臣が福井県を訪問し西川福井県知事時岡おおい町長と会談し周辺自治体への説明状況等について説明を行いました同月8日には野田内閣総理大臣が記者会見を行い「国民の生活を守るために大飯発電所34号機を再起動すべきだというのが私の判断」との考えを国民に対し説明しました これらの国からの説明等を踏まえて福井県おおい町でも検討が行われ同月14日に時岡おおい町長が西川福井県知事に対して再起動に関する政府判断について了承する旨を伝え同月16日には西川福井県知事が野田内閣総理大臣等の関係閣僚と会談し政

府の再起動判断について了承する旨が伝えられました

(3)大飯発電所34号機の再起動 これを受けて原子力発電所に関する四大臣会合を同日に開催し四大臣として大飯発電所34号機を再起動することを政府の最終的な判断としました 四大臣会合では新たな規制機関の発足までの間地元の皆様の安全安心のため特別な監視体制を速やかに立ち上げ起動作業にあたっても安全に遺漏なきよう万全を期していくこと政府として原子力に関する安全性を確保しそれを更に高めていく努力をどこまでも不断に追求していくこと等を確認しました 同日の政府の最終判断を受けて関西電力は大飯34号機の再起動準備を行い3号機は同年7月1日に再起動され同月5日に調整運転を開始し4号機は同年7月18日に再起動され同月21日に調整運転を開始しました

第3節 電気料金制度の見直し1 現行の電気料金制度の問題点と見直しに至る経緯

 2011年3月の東日本大震災発生以降電力需給のひっ迫や原子力損害賠償燃料コスト増による電力コスト上昇懸念等電気事業をとりまく状況は大きく変化しましたこうした中東京電力による原子力損害賠償の支援スキームの策定に際し国民負担の最小化と電力の安定供給確保のため設置された「東京電力に関する経営財務調査委員会」の報告書(2011年 10月公

知見の整理

主な安全対策

地震津波に関する意見聴取会

緊急安全対策

外部電源対策等

シビアアクシデント対策

建築物構造に関する意見聴取会

高経年化技術評価に関する意見聴取会

総合的安全評価に関する意見聴取会(ストレステスト)

技術的知見に関する意見聴取会

安全性評価

進捗状況の反映

330基準1

H233 H241

67 618指示 確認(短期対策)

確認415 67

指示213722

指示1114

第1回 保安院審査書取りまとめ

1024第 1回

328

930

第 1回929第 1回

1129第 1回

実施状況の活用216

中間取りまとめ

中間取りまとめ

中間取りまとめ

67第 1回 1226中間取りまとめ福島原発事故独立検証委員会 227調査検証報告書

323

原安委確認

取りまとめ30の対策

知見の活用

取りまとめ

基準2

基準3

第1回43第2回45第3回46第4回49第5回412第6回413216

216

216

123-31IAEAレビュー

指示

大飯34号機

四大臣による整理確認

更なる知見の拡充

確認

東京電力福島原子力発電所における事故調査検証委員会

56事業者による更なる信頼性向上の取組

第122-2-1 これまでの安全性確保に向けた取り組み

21

第3節 電気料金制度の見直し

第2章

表)においても現行の電気料金制度とその運用について問題点が指摘されました 現行の制度は競争による経営効率化の効果を規制分野の需要家に機動的に還元するという観点から「値下げ届出制」を採用しています これは①事業者間のサービス向上競争の促進②経営効率化分の自主的な内部留保による財務体質の強化を目的に③経営効率化分の配分に対する説明責任を前提として導入されていたものですが他方で値下げの届出改定では行政は事前に原価査定を行わないため値下げ幅について事業者による効率化によるものか過去の届出原価の見積もりが過大であったこと等によるものなのかが明らかではないという問題がありました このため原価の適正性が確保されていないのではないかまた原価の中に電気の安定供給に必要なもの以外の費用が含まれているのではないかといった指摘が当該報告書においてなされることとなりました

2電気料金制度見直しの内容

 こうした現行制度とその運用への指摘を踏まえ2011年には「電気料金制度運用の見直しに関する有識者会議」が開催され規制料金として行政による原価の適正性確保と事業者の経営効率化インセンティブをどのようにバランスさせるかその際にどのような費用についてどのような水準までを適正な原価と考えるか対外的な説明責任をどのように確保するのかといった観点から現行の総括原価方式に基づく電気料金制度下において実施すべきものを中心に検討が行われました公開で行われた計6回の議論とパブリックコメントを経て2012年 3月に報告書がとりまとめられました報告書で示された基本的な考え方は以下の通りです (1)値上げ認可時の査定においては原価の厳格な査定を行う一方値下げ届出時や事業評価においては事業者による説明と行政による事後チェックを的確に行うことを徹底 (2)事業に要する費用全ての回収を認めるのではなくあるべき適正な費用のみの回収を認めることを徹底 (3)一般電気事業者が自らの供給力のみに依存する安定供給確保から他社供給力や需要側の取組も活用した安定供給確保に転換することを促す

<報告書の概要>(1)原価の適正性の確保値上げ認可時には広告宣伝費寄付金団体費については原価算入を認めないまた人件費修繕費等についてはメルクマール等により査定人件費の例一般企業の平均値を基本に他の公益企業の平均値とも比較(2)新しい火力入札火力電源を自社で新設増設リプレースする場合は原則全て入札(3)公正かつ適正な事業報酬正当な理由なく著しく低い稼働率となっている設備はレートベース対象資産(事業報酬の算定の基礎となる資産)の対象外(4)原価算定期間及び電源構成変動への対応経営効率化を織り込む等の観点から認可時は3年を原則また原価算定期間内に電源構成が大きく変動した場合には変動分のみを料金に反映(5)託送料金(送配電線の利用料)の適正化託送料金について第三者が適切性妥当性を確認(6)デマンドレスポンス料金とスマートメーターの導入時間帯別料金の多様化や三段階料金の見直し季節別料金の導入等の検討スマートメーターの導入に当たっては入札を原則(7)事後評価原価算定期間終了後には原価と実績値算定期間終了後の収支見通し利益の使途等について評価

 以上の報告書の内容を踏まえ一般電気事業供給約款料金算定規則一般電気事業供給約款料金審査要領電気料金情報公開ガイドライン等を2012年 3月に改正しました

3 東京電力の電気料金値上げに係る認可申請について

 2012年 5月 11日に東京電力から経済産業大臣に対し電気事業法第19条第1項の規定に基づき電気料金を平均1028引き上げる(値上げ)等の供給約款変更認可申請(以下「料金認可申請」という)が提出されました 東京電力は料金原価について合理化の実施により年平均2785億円の削減を行ったものの燃料費を中心として大幅な増加が避けられず収支不足額が年平均

22

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第2章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故後に講じたエネルギーに関する主な施策

第2章

6763億円となり赤字構造の早急な改善に向け値上げ認可申請がなされました 経済産業省においては電気料金認可プロセスに外部専門家の知見を取り入れ専門的かつ中立的客観的な観点から料金査定方針等の検討を行う観点から「総合資源エネルギー調査会総合部会電気料金審査専門委員会」(以下「委員会」という)を設置しました(委員長安念潤司 中央大学法科大学院教授委員長代理山内弘隆 一橋大学大学院商学研究科 教授) 2012年 5月 15日の第1回委員会以降委員会は東京電力から経済産業省に提出された料金認可申請について個別の原価にも踏み込んだ検討を含め計10回の審議を行いました開催に当たっては審議の透明性を高めるため委員会の審議は議事内容配布資料を含め全て公開形式で開催されました また料金認可申請が東京電力管内を中心に広く社会経済に影響を及ぼす事案であることに鑑み広く一般の意見を聴取するため第1回委員会においては自治体消費者団体中小企業団体関係者を招き意見を聴取しましたまた2012年 6月 7日に東京6月9日にさいたま市で電気事業法第108条に基づく公聴会を実施し国民から広く意見の聴取を行いました更に公聴会において委員会の委員も消費者からの生の声を聞くべきとの意見があったことを受けて第8回委員会において消費者団体を公募の上意見を聴取しました更にインターネットを通じた意見募集である「国民の声」や公聴会に寄せられた意見が経済産業省から報告され随時の論議に反映されました加えて第1回から第10回の全てにおいて消費者団体消費者庁からオブザーバーとしての参加を得て活発に議論が行われました 2012年 6月 12日の第5回委員会以降委員が2人1組となり担当分野につき査定方針を検討しましたその結果が第9回委員会において各担当委員から報告され2012年 7月 5日の第10回委員会において委員会としての査定方針案が取りまとめられ同日経済産業大臣に提出されました なお委員会は経済産業大臣から付託されたミッションに基づき電気事業法及び同法に基づく規則一般電気事業供給約款審査要領(以下「審査要領」という)「電気料金制度運用の見直しに係る有識者会議報告書」等の予め定められたルールに則って査定方針案を中立的客観的かつ専門的な見地から検討しました

 委員会でとりまとめられた査定方針案をもって経済産業省は消費者庁と協議を行い2012年 7月 12日には経済産業大臣と消費者担当大臣との間で電気の安定供給や原子力損害賠償の迅速かつ適切な実施の確保に支障を来さないことを前提に消費者の目線や他の公的資金投入企業の事例を踏まえ徹底的な経営合理化を図るものとするとの認識で一致し7月19日に協議が整いましたこれを受け経済産業省としての査定方針を策定し7月20日に物価問題に関する関係閣僚会議の了承を得ましたなお具体的な査定方針の主な内容としては以下の通りです(1)人件費について料金原価算定期間各年における管理職職員の年収を震災前と比べて3割超引き下げ3年間の全社員の平均年収で見ても近年の公的資金投入企業(最大2362)のいずれをも上回る削減率(2368)とすることにより約90億円の減額(2)調達等について総合特別事業計画に基づき修繕費委託費について既に10削減した上で料金認可申請がなされているがそれ以外の費用項目も含む随意契約について原則10削減を求め未達成分を減額するとともに子会社関連会社との随意契約取引について更なる深掘りを行うことにより約100億の原価の削減(3)燃料費について各火力発電所の燃料使用量を発電所の発電効率等を踏まえてより一層の効率化配分を徹底することにより相対的に燃料費の高い石油系火力発電所の燃料使用量を抑制していることを確認するとともに原価算定期間中に価格の更新時期を迎えるLNGのプロジェクトのうち近時の値上がり傾向の市況を踏まえ値上げを織り込んでいるものについて東京電力の交渉努力を先取りする形で直近実績レベルまで原価を減額する等により約120億円の原価の削減(4)福島第一原子力発電所56号機に係る安定化維持費用及び賠償関連費用について事故直後に特別損失として認識し処理した費用(約9000億円)は2011年度末までに特別損失で計上されておりこれ以外に新たに必要となる経費のうち資本的支出(設備投資)が生じた場合当該設備は将来の収益を生むものではなく資産性が認められないため会計上資産価値が特別損失処理され減価償却費が発生しないことから申請原価に含まれていない 他方で資本的支出以外の経常的に発生する費用である費用及び賠償に関する受付や業務フロー作成等の委託費をはじめとする賠償対応費用についてこう

23

第4節 再生可能エネルギー固定価格買取制度導入

第2章

した費用が原価算入されない場合東京電力としての原子炉廃止措置賠償といった責務が果たせなくなるとともに国民全体の負担に依らざるを得なくなるため東京電力が採用するADR弁護士費用は控除する等厳に必要な費用に限った上で原価へ算入 また事故に伴い発生した賠償支払額そのものは原子力損害賠償支援機構法の枠組に基づき原子力損害賠償支援機構から東京電力に対し国の交付国債を原資とする資金援助が行われていることから料金原価に含まれない(5)事業報酬の算定に当たっては震災後の経営リスクを踏まえ2011年 3月 11日から申請日前日の2012年 5月 10日までの期間の9電力会社平均の経営リスクに係る指標に基づいて算定を行い約93億円の原価の削減 2012年 7月 25日に東京電力より提出された申請内容の修正が査定方針通りであることが確認できたため電気事業法第19条に基づき経済産業大臣が認可を行い最終的な値上げ幅は平均846となりました なお消費者への十分な周知を図るために東京電力の値上げの実施時期を2012年 9月1日としました

第4節 再生可能エネルギー固定価格買取制度導入 近年新興国を中心としたエネルギー需要の急増に伴う国際的な資源獲得競争の激化や国内外における地球温暖化対策の強化が求められる状況の中純国産のエネルギー源であり二酸化炭素を排出しない再生可能エネルギーの果たす役割の重要性が高まってきています本項では再生可能エネルギーの導入支援策の大きな柱である固定価格買取制度導入の背景と経過制度開始後の状況をまとめます

1制度導入の背景

 固定価格買取制度は再生可能エネルギー(太陽光風力水力地熱バイオマス)によって発電された電気を国が定める一定の期間にわたって国が定める一定の価格で購入することを電気事業者に義務づける

制度ですこれにより再生可能エネルギーを用いる発電投資への投資回収の不確実性を低減させこれらに対する投資を促すことで再生可能エネルギーの導入拡大を加速化させる効果が得られると見込まれていますまた導入拡大が加速すれば設備の量産化が進み現時点では他のエネルギーに比して割高な再生可能エネルギーのコストダウンが進展することも期待されています このように再生可能エネルギーの導入拡大にとって大きな効果を持つ固定価格買取制度の導入は東日本大震災以前から検討されており「エネルギー基本計画」や「新成長戦略」においても言及がなされていました17この制度を実施に移すため2011年 3月 11日に「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」(以下「特措法」)案が閣議決定されましたその後東日本大震災及び福島第一原子力発電所における事故を経て中長期的に脱原子力依存を進めていくためにも再生可能エネルギーに対する期待はこれまで以上に高まりました同法案の国会審議の過程では政府が提出した法案に対して民主党自由民主党公明党の三党の合意に基づき一層の再生可能エネルギーの導入拡大の観点から修正がなされ最終的にこの修正を反映した形で同年8月26日に法案が成立し同年8月30日に公布されました

<参考>主な国会修正事項 政府案では太陽光発電以外は一律の価格と期間での買取りを想定していたところ再生可能エネルギー源の種別利用形態規模ごとに価格と期間を設定 事業活動に当たって電力を多く使用する事業を行う事業者に対する負担軽減措置の創設  (売上高当たりの電気使用量が製造業については製造業平均の8倍以上非製造業については非製造業平均の政令で定める倍数(14倍)以上の事業を行っている等の要件を満たす事業者に適用) 政府案では調達価格等の決定プロセスは総合資源エネルギー調査会の意見を聴いて定めることとされていたところ新たに設けられる調達価格等算定委員会の意見を尊重し定めることに変更 等

17 2010 年 6 月に改訂策定された「エネルギー基本計画」や同月に策定された「新成長戦略」においても一次エネルギーに占める再生可能エネルギーの割合を2020 年度までに 10に引き上げることを目標とする等これまで以上の再生可能エネルギーの導入拡大が求められるようになっておりこのような高い目標を実現するための最も効果的な手段として固定価格買取制度を導入することが検討されていました

24

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第2章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故後に講じたエネルギーに関する主な施策

第2章

2 調達価格等算定委員会の検討経過と結論

 上記のように特措法においては経済産業大臣は調達価格(電気事業者が買い取る際の価格)と調達期間(調達価格での買取りが継続する期間)を決定するにあたり国会の同意を得た上で任命される委員から構成される調達価格等算定委員会(以下「委員会」と言う)の意見を尊重することが明記されました2012年 3月に以下の5名が委員会の委員として両議院の同意を得た上で任命され同月から委員会での議論が開始されました 委員会では法律の内容や国会における議論を踏ま

えつつ業界団体等からのヒアリング(太陽光発電協会等の各種発電に係る業界団体や新規参入を予定している事業者経済団体等)各種論点についての詳細な議論検討が全7回にわたり行われました その上で委員会は2012年 4月27日に「平成24年度調達価格及び調達期間に関する意見」をとりまとめ枝野経済産業大臣に提出しました 経済産業省においては提出された意見を尊重し意見通り調達価格調達期間を決定し同年6月18日に告示しました(第124-2-1)また法律の規定に従い調達価格調達期間については委員会の意見と併せて国会にも報告がなされました

3制度開始後の状況

 2012年7月1日の制度開始以降同年7月末現在で33695件出力にして合計約57万kWの設備が制度の適用を受けることができる設備として経済産業大臣により認定されていますこうした認定を受けた案件を含め市場では固定価格買取制度の導入を機に様々な事業化プランの検討が進んでおり政府の試算では2012年度だけでも設備容量ベースで合計250万kW程度の再生可能エネルギーの導入拡大が進むと見込んでいます(第124-3-1) 一方で固定価格買取制度では電気事業者が再生可能エネルギー由来の電気の買取りに要した費用について賦課金として電気料金に上乗せする形で国民の皆様にご負担いただくことになっています2012年度

委員会名簿植田 和弘(委員長) 京都大学大学院経済学研究科教授

山内 弘隆(委員長代理)一橋大学大学院商学研究科教授

辰巳 菊子 (公社)日本消費生活アドバイザーコンサルタント協会理事環境委員長

山地 憲治 (公財)地球環境産業技術研究機構(RITE)理事研究所長

和田 武 日本環境学会会長

電源 太陽光 風力 地熱 中小水力

調達区分 10kW以上 20kW以上 20kW未満10kW未満(余剰買取)

15万kW以上

15万kW未満

1000kW以上30000kW未満

200kW以上1000kW未満

200kW未満

費用

費用

建設費

建設費

運転維持費(1年当たり)

運転維持費(1年当たり)

325万円kW 466万円kW 30万円kW 125万円kW 79万円kW 123万円kW 85万円kW 80万円kW 100万円kW

10千円kW

392万円 kW

47千円kW 60千円kW 33千円kW 48千円kW 95千円kW 69千円kW 75千円kW

税前 7税前7税前18税前8税前 6

税前 1 税前 8 税前 4 税前 4 税前 4

税前32(1) 税前13(2)IRR

IRR

調達価格1kWh当たり

調達価格1kWh当たり

税込(3)4200円

4095 円 3360 円 2520 円 1785 円 1365 円

42円(1)

2310円 5775円 2730円 4200円 2520円 3045円 3570円

税抜

税抜税込

40円

39円 32円 24円 17円 13円

42円 22円 55円 26円 40円 24円 29円 34円20年20年

20年

20年20年 15年15年10年調達期間

調達期間

電源 バイオマス

バイオマスの種類 ガス化(下水汚泥)

ガス化(家畜糞尿)

固形燃料燃焼(未利用木材)

固形燃料燃焼(一般木材)

固形燃料燃焼(一般廃棄物)

固形燃料燃焼(下水汚泥)

固形燃料燃焼(リサイクル木材)

41万円kW 41万円kW 31万円 kW 35万円kW27万円kW22万円 kW27万円kW27万円kW184万円 kW

調達区分

【メタンガス発酵ガス化バイオマス】 【未利用木材】【一般木材(含パーム梛子殻】

【廃棄物形(木質以外バイオマス)】 【リサイクル木材】

第124-2-1 告示された調達価格等

(注) 1 住宅用太陽光発電について       10kW未満の太陽光発電については一見10kW以上の価格と

同一のように見えるが家庭用についてはkW当たり35万円(2012年度)の補助金の効果を勘案すると実質48円に相当するなお一般消費者には消費税の納税義務がないことから税抜き価格と税込み価格が同じとなっている

   2 地熱発電のIRRについて       地表調査調査井の掘削など地点開発に一件当たり46億円程度

かかること事業化に結びつく成功率が低いこと(7程度)等に鑑みIRRは13と他の電源より高い設定を行っている

   3 消費税の取扱いについて       消費税については将来的な消費税の税率変更の可能性も想定

し外税方式とすることとしたただし一般消費者向けが太宗となる太陽光発電の余剰買取の買取区分については従来どおりとした

第 124-3-1  2012年度の再生可能エネルギーの導入量見込み

2011年度時点における導入量

2012年7月末までに認定を受けた設備容量

2012年度末までの導入予測

太陽光(住宅) 約400万kW 約144万kW +約150万kW

太陽光(非住宅) 約80万kW 約301万kW +約50万kW

風力 約250万kW 約122万kW +約38万kW

中小水力(1000kW以上30000kW未満)

約935万kW - +約2万kW

中小水力(1000kW未満)

約20万kW 約01万kW +約1万kW

バイオマス 約210万kW - +約9万kW

地熱 約50万kW - -

合計 約1945万kW 約567万kW +約250万kW

(出所) 1 単年度導入量については太陽光発電はJPEA出荷統計風力発電はJWPA統計その他電源はRPSデータ等より

    2 2012年度見込みについては各種前提により資源エネルギー庁推計

25

第5節 省エネルギー法改正に向けて

第2章

においては賦課金の単価は1kWh当たり022円となっていますこれにこれまで実施してきた太陽光の余剰電力買取制度の負担(全国平均で1kWh当たり007円)と併せて2012年度では1kWh当たり029円(全国平均)のご負担をお願いすることになりますこれは一月に7000円程度の電気料金をお支払いいただいているご家庭(一月300kWh程度の電力使用量を想定)であれば一月約87円の負担となります再生可能エネルギーの導入拡大が進めば賦課金の負担も増大していくことから負担が過重なものとならないよう常に配慮することが重要ですこのため固定価格買取制度の下では再生可能エネルギー発電事業者が実際に設備の設置等に要した費用について事後的に経済産業省に報告することを求めており集計されたデータを翌年度以降の調達価格の審査に活用することで発電設備等のコスト低減の成果を適切に調達価格の見直しに反映することとしています

第5節 省エネルギー法改正に向けて

1背景

 エネルギーの使用の合理化に関する法律(以下省エネ法)は「熱管理法」を全面改正する形で1979年に成立しました 1998年の改正で導入されたトップランナー制度はエネルギー消費機器の製造輸入事業者に対し3~10年程度先に設定される目標年度において高い水準(トップランナー基準)を満たすことを求め目標年度になると報告を求めてその達成状況を確認する制度です制度導入当初対象機器は乗用自動車エアコン蛍光灯等9品目でしたが最近ではルーター等も対象に追加され現在までに23品目に拡大し世帯当たり電気消費量に占める割合の6割をカバーしています2012年にはヒートポンプやLED照明といった近年急速に普及が見られた機器についてもトップランナー制度の対象に追加する等引き続き対象機器の拡大や目標値の強化を実施しています 2008年には10度目の改正を行い①これまでの工場事業場単位から事業者単位の規制に変更②事業者の省エネルギー状況を比較できる指標(ベンチマーク指標)を定め中長期的に達成すべき水準を目標として設定するセクター別ベンチマークを導入③事業者が自

主的に行う共同省エネルギー事業について国はその取組を促進するよう法律の施行にあたり適切な配慮をすることとしたこと等大きく三つの点が変更されました このような改正を経て省エネ法の規制対象事業者は改正前の7500事業者から約1万2000事業者に増加しました我が国はGDPが約2倍となった過去30年間でエネルギー効率を約37改善してきましたがその中で省エネ法は重要な役割を果たしてきたと言えます

2 省エネ法改正に向けた動きと省エネ部会における検討

 石油危機に端を発したエネルギー危機を乗り越えるために省エネ法は化石燃料の使用量の低減と経済成長を両立することを目指し需要サイドの努力によってこれを克服してきました そして東日本大震災及び東京電力福島第一原子力発電所事故以降エネルギーの需給問題に対する関心が高まりエネルギー政策の前提となる状況自体も大きく変わりました従来省エネルギーの議論の中心は化石燃料の使用量を全体としてどう減らすかということでありそのこと自体はオイルショック以来の流れの中で大きな意義がありました 震災以降のエネルギー需給の問題に鑑みますとエネルギー全体としての使用量の抑制だけではなく電力需要のピークにどう対応していくかの議論が必要であり現行省エネ法に含まれていない「ピーク対策」への対応は非常に重要な政策課題となりました また我が国の最終エネルギー消費は二度のオイ

19 倍

伸び(1973 rarr2010年度)

28倍

09 倍

0

100

200

300

400

500

600

0

50

100

150

200

250

300

350

400

450

73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 9192 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10

(100万石油換算トン) (兆円2000年価格)

産業部門

家庭部門

運輸部門

業務部門

439

188

229

144

655

92164

89

実質GDP1973rarr2010

24 倍

22倍

25倍

(注) 「総合エネルギー統計」は1990 年度以降の数値について算出方法が変更されている

(出所) 資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」内閣府「国民経済計算年報」(一財)日本エネルギー経済研究所「エネルギー経済統計要覧」

第125-2-1  最終エネルギー消費量の推移(1973年~2010年)

26

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第2章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故後に講じたエネルギーに関する主な施策

第2章

ルショック後や近年の不況時を除きほぼ一貫して増加しています部門別のエネルギー消費量はオイルショック以降産業部門が約09倍のところ民生部門は約25倍運輸部門は約19倍と大幅に増加しています(第125-2-1)従来から十分な努力により省エネルギーを進めてきた産業部門における更なる省エネルギー対策に加えエネルギー消費量の増加が著しい民生(業務家庭)部門において一層の省エネルギーを進める必要があります(第125-2-2) 民生部門対策としてはトップランナー制度による自動車や家電等機器の省エネルギー性能の向上や住宅建築物の省エネルギー基準の策定等を行ってきました今後は日常生活の中でエネルギーをいかに少なくしつつ快適な生活を送るかつまり我慢ではなく持続可能な省エネルギーを進めていく必要があり住宅建築物全体の省エネルギー性能の底上げについて検討が必要となります 総合資源エネルギー調査会省エネルギー部会ではこれらの背景を踏まえ今後の省エネルギー政策の展開について検討を行い2012年 2月に「中間取りまとめ」を取りまとめましたこの「中間取りまとめ」を踏まえ政府は電力ピーク対策及び民生部門の省エネルギ

ー対策を盛り込んだ省エネ法の改正案を2012年 3月13日に第180回通常国会に提出いたしました

3省エネ法改正案について

 我が国経済の発展のためにはエネルギー需給の早期安定化が不可欠であり供給体制の強化に万全を期しその上で需要サイドにおいては持続可能な省エネルギーを進めていくという観点から主に以下の2点の改正を実施します まず1点目は需要家が従来の省エネルギー対策に加え蓄電池やエネルギー管理システム(BEMSHEMS)自家発電蓄熱式の空調ガス空調等の活用等により電力需要ピーク時の系統電力の使用を低減する取組を行った場合にこれを評価できる体系にする点です具体的にはピーク時間帯に工夫して系統電力の使用を減らす取組(節電)をした場合にこれ以外の時間帯で系統電力の使用を減らした場合よりも改善の度合いを大きく評価することで省エネ法の努力目標(原単位の改善率年平均1)を達成しやすくなるよう努力目標の算出方法を見直します 2点目はこれまでエネルギーを消費する機械器具を対象としていたトップランナー制度にそれ自体はエネルギーを消費しないものの他の建築物や機器等のエネルギーの消費効率の向上に資する機械器具等を新たな対象として追加し住宅建築物分野の省エネルギー対策を強化する点ですこれまでのトップランナー制度は法律上エネルギーを消費する機械器具が対象であり他の建築物や機器等のエネルギーの消費効率向上に資する機械器具等は対象とされていませんでした新たにトップランナー制度に追加する機械器具等としては具体的には窓断熱材水回り設備等の建築材料等を想定しており企業の技術革新を促すことで住宅建築物の省エネルギー性能の底上げを図っていきます

建築物

給湯用14

暖房用16

動力他49

冷房用13

厨房用9

3

8

住宅

動力他35

冷房用

給湯用28

暖房用27

厨房用

(注) 建築材料等の省エネルギー性能の向上により住宅では約 6割建築物では約 4割を占める暖冷房給湯用エネルギー消費量の削減に貢献

(出所) (一財)日本エネルギー経済研究所「エネルギー経済統計要覧」

第125-2-2  民生分野におけるエネルギー消費の現状(2010年度)

27

第3章

 2011年 3月 11日に発生した東北地方太平洋沖地震とこれによる津波は東京電力福島第一原子力発電所において極めて重大かつ広範囲に影響を及ぼす原子力事故を引き起こしました 今回の事故に関する調査検証は「東京電力福島原子力発電所における事故調査検証委員会」(政府事故調)国会(東京電力福島原子力発電所事故調査委員会)18事故の当事者である東京電力や規制当局である経済産業省原子力安全保安院民間団体等によっても行われておりまた政府の原子力災害対策本部から国際原子力機関(IAEA)に対して日本国政府の報告書も提出されています 本章では「東京電力福島原子力発電所における事故調査検証委員会」(政府事故調)において行われた事故の原因調査究明事故を踏まえた緊急安全対策やストレステスト等の規制当局の取組原子力規制委員会の設立東京電力福島第一原子力発電所の廃止に向けた取組東京電力による被災者賠償と原子力損害賠償支援機構の設立原子力被災者支援について概要と現状今後への課題等を取り上げます

第1節  「東京電力福島原子力発電所における事故調査検証委員会」における事故原因の調査究明

1委員会の発足に至る背景

 政府は極めて重大かつ広範囲に影響を及ぼした今回の原子力事故の原因及び事故による被害の原因を究明するための調査検証を国民の目線に立って開かれた中立的な立場から多角的に行い被害の拡大防止及び同種事故の再発防止等に関する政策提言を行わせることを目的として2011年 5月 24日の閣議決定により内閣官房に「東京電力福島原子力発電所における事故調査検証委員会」(政府事故調)を設置しました

 同委員会は従来の原子力行政から独立した立場で技術的な問題のみならず制度的な問題も含めた包括的な検討を行うことを任務として調査検証を行いました

2委員会の構成

 委員会は畑村洋太郎委員長(東京大学名誉教授工学院大学教授)以下内閣総理大臣により指名された10人のメンバーで構成されました更に専門的技術的事項について助言を得るため委員長の指名により2名の技術顧問が置かれましたまた調査検証を補佐する事務局には事務局長以下の各府省庁出身者のほか社会技術論原子炉過酷事故解析避難行動等の分野の専門家8名を配置し専門家をチーム長として三つの調査検証チーム(社会システム等検証チーム事故原因等調査チーム被害拡大防止対策等検証チーム)が設置されました

第3章原子力発電所事故関連

18 報告書ダイジェスト版を参考資料に掲載しています

委員会名簿畑村 洋太郎(委員長) 東京大学名誉教授工学院大学教授

尾池 和夫 国際高等研究所所長前京都大学総長

柿沼 志津子 (独)放射線医学総合研究所放射線防護研究センターチームリーダー

高須 幸雄 東京大学グローバル地域研究機構特任教授前国際連合日本政府代表部特命全権大使

髙野 利雄 弁護士元名古屋高等検察庁検事長

田中 康郎 明治大学法科大学院教授元札幌高等裁判所長官

林 陽子 弁護士

古川 道郎 福島県川俣町長

柳田 邦男 作家評論家

吉岡 斉 九州大学副学長

安部 誠治(技術顧問) 関西大学教授

淵上 正朗(技術顧問) 株式会社小松製作所顧問工学博士

28

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第3章 原子力発電所事故関連

第3章

3調査検証の経過

 同委員会は2011年 6月 7日に開催された第1回委員会において基本的方向を定め調査検証に着手しました主として事務局を通じて東京電力原子力安全保安院原子力安全委員会をはじめとする関係事業者関係機関から資料の提出を受けてこれを分析するとともにこれらの役職員構成員や事故発生当時の閣僚更に学識経験者等を含め幅広く関係者のヒアリングが行われましたヒアリングを行った関係者は総数772名総聴取時間は概算で1479時間に上りました 作業の進捗は毎月1回開催される委員会において報告確認され2011年 12月 26日に開催された第6回委員会において中間報告がとりまとめられましたこの中間報告では今回の事故に対する国内外の関心の高さや関係機関における事故の教訓を踏まえた取組の進行状況を考慮しそれまでに明らかになった事実関係をできる限り詳細に記述するとともに事故発生後の政府諸機関の対応の問題点事前の津波シビアアクシデント対策の問題点等について可能な範囲で考察を加え緊急事態応急対策拠点施設(オフサイトセンター)の機能維持モニタリングの運用改善緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)の活用住民避難への備え原子力安全規制機関の在り方といった事柄について提言が行われました また2012年 2月 24日25日に開催された第8回委員会では調査検証の内容を国際的な関心に応えるものにするため海外5カ国(米仏スウェーデン韓中)から国際的に著名な原子力放射線等の専門家を招へいして意見交換が行われました このほか委員会は主に地震津波対策について検討するため事故現場である福島第一第二発電所に加え日本原子力発電東海第二発電所東北電力女川原子力発電所同社原町火力発電所中部電力浜岡原子力発電所及び東京電力刈羽原子力発電所を視察しました更に今回の原子力災害で被災した自治体のうち福島県大熊町双葉町浪江町南相馬市及び飯館村の各首長並びに浪江町から避難している住民からの意見聴取を行い仮設住宅の視察を行いました 2012年 7月 23日に開催された第13回委員会において最終報告19がとりまとめられ同日畑村委員長

から野田内閣総理大臣に手交されましたこの最終報告では中間報告の段階では調査が未了で取り上げることができなかった事項や中間報告で取り上げましたもののその後更なる調査検証が行われた事項等が盛り込まれました 最終報告では福島第一原子力発電所の1号機から3号機の主要な施設設備の被害状況について事態の進展に伴う損傷の拡大状況に関する分析も含めて改めて詳述するとともに同原発1号機3号機及び4号機の原子炉建屋の水素ガス爆発等に関する検討が行われました更に中間報告の段階では調査検証が未了であった同原子力発電所5号機及び6号機における事故対処同原発の外部電源復旧状況や福島第二原子力発電所における事故対処の状況原子力災害発生後の国等の組織的対応状況主として発電所外でなされた被害拡大防止のための対処としての環境放射線モニタリングSPEEDIの活用の在り方(SPEEDIにより単位量放出を仮定した予測結果は得られており仮にその情報が提供されていれば各地方自治体及び住民はより適切に避難のタイミングや避難の方向を選択できた可能性があったと言える事等)住民の避難等日本海溝沿いの地震津波に関する科学的知見シビアアクシデント対策の在り方原子力災害対応体制の検討経緯国際法国際基準関係について記述されました またこれらの主要な問題点に分析を加えた上「抜本的かつ実効性ある事故防止対策の構築」「複合災害という視点の欠如」「『被害者の視点からの欠陥分析』の重要性」等重要な論点9項目の総括を行いあわせて原子力災害の再発防止及び被害軽減のための同委員会の提言を七つのカテゴリーに分類して掲載しました(最終報告概要版を参考資料として第一部第4章第5節の後に記載)

<提言> (1)安全対策防災対策の基本的視点に関するもの  複合災害を視野に入れた対策に関する提言  リスク認識の転換を求める提言  「被害者の視点からの欠陥分析」に関する提言   防災計画に新しい知見を取り入れることに関す

る提言 (2)原子力発電の安全対策に関するもの

19 報告書概要を参考資料に掲載しています

29

第2節 東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえた規制当局の取組

第3章

  事故防止策の構築に関する提言  総合的リスク評価の必要性に関する提言  シビアアクシデント対策に関する提言 (3)原子力災害に対応する態勢に関するもの  原災時の危機管理態勢の再構築に関する提言  原子力災害対策本部の在り方に関する提言  オフサイトセンターに関する提言  原災対応における県の役割に関する提言 (4)被害の防止軽減策に関するもの  広報とリスクコミュニケーションに関する提言  モニタリングの運用改善に関する提言  SPEEDIシステムに関する提言  住民避難の在り方に関する提言  安定ヨウ素剤の服用に関する提言  緊急被ばく医療機関に関する提言  放射線に関する国民の理解に関する提言   諸外国との情報共有や諸外国からの支援受入れ

に関する提言 (5)国際的調和に関するもの  IAEA基準等との国際的調和に関する提言 (6)関係機関の在り方に関するもの  原子力安全規制機関の在り方に関する提言  東京電力の在り方に関する提言  安全文化の再構築に関する提言 (7)継続的な原因解明被害調査に関するもの  事故原因の解明継続に関する提言   被害の全容を明らかにする調査の実施に関する

提言

第2節  東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえた規制当局の取組

1 東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえた緊急安全対策

 原子力安全保安院は東京電力福島第一原子力発電所に来襲したものと同程度の地震と津波により全交流電源喪失に至ったとしても炉心損傷等深刻な事態を回避し冷温停止状態に繋げるための対策として2011年 3月 30日事業者に対して緊急安全対策を指示しました これまでに東京電力福島第一原子力発電所を除く全原子力発電所から実施状況報告を受け原子力安

全保安院として2011年 5月 6日には東京電力福島第一原子力発電所東京電力福島第二原子力発電所東北電力女川原子力発電所以外の各原子力発電所について同年6月1日には女川原子力発電所について同年11月28日には東京電力福島第二原子力発電所について緊急安全対策が適切に実施されていることを確認しました具体的には緊急時対応計画の作成緊急時の電源確保のための電源車や代替注水のための消防ポンプの配置浸水対策水源の確保や緊急時における手順書の整備訓練の実施といった対策(短期対策)が実施されたことを確認しましたこれらの対策については一部が技術基準における要求事項に含められたほか事故時の手順の整備が行われるよう保安規定も改定されています 更に緊急安全対策では海水ポンプ電動機等の予備品の確保空冷式非常用発電機等の設置や水密化防潮壁防潮堤の設置等津波に対する防護措置が中長期対策として要求されており原子力安全保安院は事業者が今後これらを適切に実施される計画を有していることを確認しました なお東京電力福島第二原子力発電所については冷温停止状態を維持するために必要な対策が取られているかという観点から確認を行いました 核燃料サイクル施設に関しては同年5月1日に再処理施設を対象に緊急安全対策を指示し同月中に各事業者から実施状況の報告を受けましたまた同年6月15日には各事業所において緊急安全対策(電源車浸水対策緊急時の手順書整備訓練の実施等短期対策)が適切に実施されていることを原子力安全保安院として確認しましたなお指示に対する報告があった時点において各施設は検査期間中であることから検査後の状況を踏まえた対策に関しては今後改めて報告がなされることとなっています

2 原子力発電所等の外部電源の信頼性確保

 2011年 3月 11日の地震により東京電力福島第一原子力発電所及び日本原電東海第二原子力発電所の外部電源が喪失したことに加え同年4月7日に宮城県沖で発生した地震により東北電力東通原子力発電所及び日本原燃六ヶ所再処理事業所において一時的に外部電源の喪失が発生しましたこれまで外部電源については特段の対策を求めてきませんでしたが今回外部電源の喪失が複数のサイトで発生したことを

30

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第3章 原子力発電所事故関連

第3章

踏まえ原子力安全保安院は外部電源の信頼性の更なる向上を図るため同年4月15日各事業者に対し外部電源の信頼性確保のための対応を検討しその結果を報告するよう指示を行い同年6月7日各社から報告の提出を受けて報告内容の評価確認を行いましたなお東京電力福島第二原子力発電所における外部電源の信頼性確保に係る対応については同年11月 28日に提出を受け評価確認を行いました今後各事業者から報告された各対策の実施状況を厳格に確認していくこととしています また原子力発電所の開閉所等の電気設備が機器の倒壊損傷等により機能不全に陥る事例も発生したことからこのような事態が発生する可能性についての影響評価及びその評価結果を踏まえた対策策定に係る実施状況についても報告することを各事業者に対して指示し2011年 7月 7日その実施状況について中間報告がなされました 更に2012年 1月 19日東京電力より東京電力福島第一原子力発電所等の開閉所に係る電気設備の損傷原因は東北地方太平洋沖地震により開閉所において発生した地震動が設計基準を超過したことであると報告されたことから各事業者に対して今後発生する可能性のある地震による耐震安全性の評価及び対策の実施を求めること等を追加指示しました同年2月17日各事業者等から耐震安全性評価に係る実施計画が報告されており今後評価結果が報告され次第その内容を確認していくこととしています

3 東京電力福島第一原子力発電所事故の技術的知見

 今回の事故から可能な限りの教訓を引き出し今後の原子力安全に役立てていくことは規制機関の責務です原子力安全保安院は事故の発生及び事故の進展について現時点までに判明している事実関係について工学的な観点から事故シーケンスに従って設備や操作手順に即して出来る限り深く整理分析することにより事象の各段階における技術的知見を体系的に抽出し主に設備手順に係る必要な対策の方向性について検討しました 具体的な検討の対象は東京電力福島第一原子力発電所の事故における外部電源設備(変電所開閉所等)所内電気設備(非常用電源設備等)冷却設備(炉心冷却系補機冷却系等)閉込機能に関する設備(格納容器ベント設備等)指揮通信計装制御設備(通信

設備炉内計装設備等)等です事故シーケンスにおける検討の範囲は地震の発生から炉心損傷及び閉込機能喪失により放射性物質が外部環境に放出されるまでの発電所で生じた事象としました 未だ放射性物質による汚染等のため現場の確認を行うことが難しい設備機器が多く溶融落下した炉心の状況等事象の解明が十分に進んでいない部分も残されていますが2011年 10月から8回にわたり公開の意見聴取会の場で外部の専門家によるレビューを受ける等して2012年 3月五つの分野について「30項目の安全対策」を以下のとおり取りまとめました (1) 外部電源対策(4対策)地震等による長時間の

外部電源喪失の防止 (2) 所内電気設備対策(7対策)共有要因による所

内電源の機能喪失防止や非常用電源の強化 (3) 冷却注水設備対策(6対策)冷却注水機能喪

失の防止 (4) 格納容器破損水素爆発対策(7対策)格納容

器の早期破損防止や放射性物質の非管理放出の防止

 (5) 管理計装設備対策(6対策)状態把握プラント管理機能の抜本的強化

 これらの対策は新たな規制の枠組みの下で技術的な要求事項を検討する際の基礎とすることを想定していますただしこれらの対策は地震と津波の重畳による全交流電源喪失を起因事象とする東京電力福島第一原子力発電所事故の事象面からボトムアップ的に導き出したものですそのためこれらの対策間の関係や重要度の比較システム全体としての安全性向上について検討するとともにより広い起因事象を包含したシビアアクシデントへの対応も含めトップダウン的な方法論により体系的に検討整理する必要がありますまた実際に規制として適用するに当たっては更に設計ガイドライン等の整備が必要です

4 既設の発電用原子炉施設等の安全性に関する総合評価(いわゆる「ストレステスト」)

 原子力安全委員会は東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえ既設の発電用原子炉施設について設計上の想定を超える外部事象に対する頑健性に関して総合的な評価を行うことが重要であるとの考えのもと2011年 7月 6日に「東京電力株式会社福島第一原子力発電所における事故を踏まえた既設の発電用原

31

第2節 東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえた規制当局の取組

第3章

子炉施設の安全性に関する総合的評価の実施について」をとりまとめ原子力安全保安院に対し発電用原子炉施設の安全性に関する総合的評価の実施を要請しました 我が国の原子力発電所の安全性については前述の緊急安全対策等により今般の事故と同程度の地震津波が発生しても深刻な事態に至ることなく冷温停止に繋げるための対策を実施しておりその結果については原子力安全保安院により確認がなされています他方定期検査後の原子力発電所の再起動に関しては原子力安全保安院による安全性の確認について国民住民の方々に十分な理解が得られているとは言い難い状況を踏まえ政府において原子力発電所の更なる安全性の向上と安全性についての国民住民の方々の安心信頼の確保のため欧州諸国を参考に新たな手続きルールに基づく安全評価としてストレステストを実施することが同年7月11日に閣僚レベルで方針決定されました この決定によれば原子力発電所のストレステストは2段階で評価することとしており一次評価は定期検査で停止中の原子力発電所の運転再開の可否について判断するために行われることになっています同年7月21日原子力安全保安院はこのストレステストを一次評価と二次評価に分けた評価手法及び実施計画を原子力安全委員会の確認を受けた上でとりまとめ翌日事業者に評価の実施を指示しました 一次評価においては「安全上重要な施設機器等について設計上の想定を超える事象に対してどの程度の安全裕度が確保されているか評価する評価は許容値等に対しどの程度の裕度を有するかという観点から行うまた設計上の想定を超える事象に対し安全性を確保するために取られている措置について多重防護(defense in depth)の観点からその効果を示すこれにより必要な安全水準に一定の安全裕度が上乗せされていることを確認する」としておりこれにより緊急安全対策の効果も含め先般の事故と同程度の地震津波が来襲しても炉心損傷といった深刻な事態に至らないことを確認します原子力安全保安院は事業者からこれまでに22プラント(2012年 7月 20日現在)について一次評価に係る報告書の提出を受けこのうち大飯発電所34号機及び伊方発電所3号機について原子力安全保安院の評価を終了していますまた大飯発電所34号機について原子力安全委員会は原子力安全保安院による評価の確

認を行い見解を取りまとめています 更に二次評価においては「設計上の想定を超える事象の発生を仮定し評価対象の原子力発電所がどの程度の事象まで燃料の重大な損傷を発生させることなく耐えることができるか安全裕度(耐力)を評価しますまた燃料の重大な損傷を防止するための措置について多重防護の観点からその効果を示すとともにクリフエッジを特定して潜在的な脆弱性を明らかにしますこれにより既設の発電用原子炉施設について設計上の想定を超える外部事象に対する頑健性に関して総合的に評価する」としています なお原子力安全保安院は2012年 1月IAEAによるレビューミッションを受け入れストレステストに関する原子力安全保安院の指示及び審査プロセスが基本的にIAEAの安全基準と整合していると結論づけられるとともに二次評価を含むストレステストのプロセスとそれ以外の規制活動の全般的な有効性を向上させると考えられる課題を特定し勧告がなされています IAEAからの指摘事項については耐震等を含め真摯に受け止め可能なものから順次実施していくこととしています 核燃料サイクル施設については原子力安全委員会からの要請等はなかったものの海外の状況等も踏まえて原子力安全保安院の判断により2011年 11月25日に加工事業者貯蔵事業者再処理事業者廃棄物管理事業者廃棄物埋設事業者に対して総合的評価の実施を指示しましたサイクル施設におけるストレステストは一次評価と二次評価に分けての評価は行いませんが安全裕度の確認と設計上の想定を超える事象の発生と拡大を防止するための措置の効果を明らかにするという方針は原子力発電所の場合とほぼ同様となっていますこれらの評価の結果は事業者が施設の安全性を向上させるための更なる対策を講じる際の参考となるものです各事業者からは2012年 4月 27日に原子力安全保安院に報告書の提出がありました

5シビアアクシデント管理

 我が国においては東京電力福島第一原子力発電所事故の発生前までシビアアクシデントは工学的には現実的に起こるとは考えられないほど発生の可能性は小さいとされ規制対象には含まれず事業者の自主的な取り組みとして対策が進められてきました事業

32

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第3章 原子力発電所事故関連

第3章

者は1992年に通商産業省からの要請を受けて確率論的安全評価の実施とアクシデントマネジメント(AM)対策の整備を進め東京電力福島第一原子力発電所においてもAM対策が整備されていましたしかし今回の事故を踏まえますとこのAM対策は外的事象特に津波により広範囲に電気系統が使用不能に陥る共通原因故障についての想定が十分でなくあらかじめ用意されていたAM対策は厳しい環境の中で十分に機能せず炉心溶融更には大規模放出を防ぐことができませんでした 更に従来の我が国はスリーマイルアイランド原子力発電所事故チェルノブイリ原子力発電所事故及び2001年の同時多発テロ等欧米等で進展している炉心損傷にいたる可能性のある事態に対する対策(シビアアクシデント対策)を含め国際機関や欧米諸国等の動向や研究成果に関する情報を入手し自らの規制活動に活用する努力が十分ではありませんでした 先般の事故を踏まえ2011年 6月原子力災害対策本部は「原子力安全に関するIAEA閣僚会議に対する日本国政府の報告書」においてこれまで事業者による自主的な取組みとしていたことを改めこれを法規制上の要求にするべきこと等シビアアクシデント対策に関する教訓をとりまとめました 原子力安全保安院は教訓のとりまとめと並行して2011年 6月 7日中央制御室の作業環境の確保通信設備の確保高線量対応防護服等の資機材の確保及び放射線管理のための体制の整備水素爆発防止対策並びにがれき撤去用の重機の配備の5項目を直ちに取り組むべき措置としてその実施を指示し立入検査等を通じて実施状況の確認を行いました また原子力安全委員会は2011年 10月に「発電用軽水型原子炉施設におけるシビアアクシデント対策について」を決定し従来多重防護の考えに基づく防護策の要求は設計基準事象への対処の範囲(IAEA-INSAG の多重防護策の定義による第3の防護レベルまで)にとどまっていましたが今後はIAEA-INSAG の定義による第4の防護レベルに相当する「シビアアクシデントの発生防止影響緩和」に対しても規制上の要求や確認対象の範囲を拡大することを含めて安全確保策を強化することとすべきとしました 政府においては2012年 1月に原子炉等規制法の改正を含む原子力組織制度改革法案を国会に提出しましたその後与党野党の協議の上法案を国会に提出し同年6月20日法案が成立していますまた

法律は同年6月27日に公布されています同法案ではこれらを踏まえてシビアアクシデントも考慮した安全規制への転換のための改正が含まれています 更に原子力安全保安院は前述のとおり東京電力福島第一原子力発電所事故の技術的知見としてシビアアクシデント時の代替注水機能の強化格納容器の過圧過温破損防止水素爆発の防止対策といったシビアアクシデント管理対策を含む30項目の対策をとりまとめた上でシビアアクシデント対策についてはトップダウンの方法論により今後体系的に検討整理する必要性を示しましたまた深層防護の考え方の徹底シビアアクシデント対策の多様性柔軟性操作性内的事象外的事象を広く包含したシビアアクシデント対策の必要性等今後の規制に反映すべき視点を挙げました 原子力安全保安院は上記の視点を踏まえ外部有識者の意見を聴きながらシビアアクシデント対策規制の基本的考え方について検討を進めています 加えて我が国は前述のとおり原子力発電所に対するストレステストとして2段階の評価を行っていますが原子力安全保安院は一次評価では主に燃料の重大な損傷を防止するとの観点でアクシデントマネジメント対策及び緊急安全対策の有効性を確認しています今後実施される予定である二次評価においてはIAEAの勧告及び助言も踏まえてシビアアクシデントに至った以降の対応の有効性についても燃料が損傷した後の緩和手段の有効性やクリフエッジに至るまでの時間の評価等について確認していきます その上で原子力安全保安院はシビアアクシデントマネジメントに係る中長期の取組として東京電力福島第一原子力発電所事故から得られた技術的な知見IAEAの安全基準や欧州のストレステストの実施状況等も参照の上検討を進めました 原子力安全保安院や原子力安全委員会の活動は新たな原子力規制機関に適切に引き継ぐこととされましたまた新たな原子力規制機関の下ではシビアアクシデント対策を法令要求化する改正原子炉等規制法に基づき事業者による総合的なアクシデントマネジメントプログラムの策定等について監視監督していくこととしています

6緊急時準備と対応

 原子力安全保安院は前述のとおり2011年 6月

33

第2節 東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえた規制当局の取組

第3章

備等の予算措置を講じているところです 更にオフサイトセンターの具体的な在り方を検討すべく原子力安全保安院において専門家による意見聴取会を開催しているところです意見聴取会や関係自治体の意見等を踏まえつつオフサイトセンターが担うべき役割を明確にし放射性物質の拡散影響や複合災害から受ける影響等も勘案してその立地地点や備えるべき遮へい機能等を検討することとしています なお新たな防災体制は今後新たな規制機関の設置と同時に行うことを想定していますがそれまでの間も万が一の事態発生に備え原子力災害対策本部事務局機能の官邸への集中と強化を進めるとともにPAZ の考え方を踏まえ直ちに避難に係る指示を行う等可能な限りこれらの新たな考え方を取り入れた対応を行えるようにすることとしています UPZ の導入により避難をあらかじめ準備しておくべき地域が大幅に拡大しまた関係する市町村の数も増加することからこれらの自治体における地域防災計画の策定準備も進められています 事故時に自治体や住民に対する情報提供が適切に行われていなかった点についても厳しい批判があり適切な時期に適切なデータを提供できなかったことから政府は情報を隠蔽しようとしたのではないかとの厳しい批判が寄せられました今後はこうした反省に立ち緊急時における情報提供の仕組みについても見直し通信システムも強化することとしています なお先に述べたとおり規制と利用の分離及び原子力安全規制の一元化の観点から政府は環境省に原子力規制庁を設置する等関係組織の再編及びその機能強化を行うこととしており原子力組織制度改革法案等を第180回通常国会に提出しましたその後与党野党の協議の上より独立性の高い原子力規制委員会を設置すべく法案を国会に提出し2012年 6月 20日法案が成立し同年6月27日に公布されています 今後速やかに原子力災害対策指針を策定することとしておりオフサイトセンターの在り方等の課題等について検討を進めその結果を原子力災害対策指針に反映させていくとともに緊急時に各機関が円滑な活動を実施できるよう防災基本計画を修正したほか原子力災害対策マニュアルについても改正することを予定しています

7日緊急時における発電所構内通信手段の確保等万一シビアアクシデントが発生した場合でも迅速に対応を確保する観点から直ちに取り組むべき緊急時における発電所構内通信手段の確保等の措置を整理指示しその実施状況を確認しました更に2012年 3月に原子力安全保安院がとりまとめた東京電力福島第一原子力発電所事故の技術的知見に関する報告書の中でとりまとめた30の対策には緊急時対策として事故時の指揮所の確保整備通信機能確保計装設備の信頼性確保プラント状態の監視機能の強化事故時モニタリング機能の強化及び非常事態への対応体制の構築訓練の実施が含まれていますこれらの対策については今後安全規制に反映すべき点として整理したものです 発電所外の広範囲の緊急時対策としては前述のとおり原子力安全委員会では『原子力施設等の防災対策について』の見直しについての検討を行い2012年3月予防的防護措置を準備する区域(PAZ)を概ね5km とすること緊急防護措置を準備する区域(UPZ)を概ね30km とすること放射性物質を含んだプルーム(気体状あるいは粒子状の物質を含んだ空気の一団)による被ばくの影響を避けるための防護措置を実施する地域(PPAPlume Protection Planning Area)を概ね50km(参考値)とすること等の考え方が示されました 加えて今回原子力災害対策本部事務局が情報のハブ機能を十分に果たすことが出来なかったこと原子力災害現地対策本部についても初期段階での人員参集の遅れや拠点となるオフサイトセンター機能の不全が生じてしまったこと等の反省に立ち政府の防災体制の全面的な見直しを図ることとしています具体的には原子力災害対策本部の事務局を官邸内に速やかに立ち上げ官邸を拠点として情報収集と対応情報発信に当たること原子力発電所の状況を速やかに把握するため電気事業者本社等の対策拠点に審議官級の職員を派遣するとともに官邸原子力安全規制機関電気事業者の対策拠点原子力発電所等を結ぶテレビ会議システムを立ち上げる等の対策を講ずることとしました 原子力安全保安院はオフサイトセンターについても緊急的な対策として昨年来衛星回線の拡充等の通信体制の強化放射線防護対策としての防護服やマスクの充実食料飲料水の備蓄の拡充代替オフサイトセンターに搬入可能な可搬型通信資機材の整

34

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第3章 原子力発電所事故関連

第3章

7国際協力に係る取組

 政府は東京電力福島第一原子力発電所事故から得られる知見と教訓を国際社会と共有し国際的な原子力安全の強化に貢献していくことを責務であると認識し2011年 6月の IAEA閣僚会議及び同年9月の IAEA総会の機会を捉え事故についての包括的な報告を行ってきました事故発生以降の近隣国及び国際社会とのコミュニケーション国際社会との協力原子力安全関連条約に関する取組IAEA安全基準への貢献及びその活用並びに国際的なピアレビューを踏まえ引き続き各国機関との一層効果的な連携を図ります

第3節 原子力規制委員会

1 規制組織の在り方に係る反省を踏まえた取組

 2011年 6月に公表された「原子力安全に関するIAEA閣僚会議に対する日本国政府の報告書」において「原子力安全確保に関する行政組織が分かれていることにより国民に対して災害防止上十分な安全確保活動が行われることに第一義的責任を有する者の所在が不明確であった」と指摘されているように東日本大震災以前まで我が国の原子力安全規制行政体制においてその第一義的責任を有する者の所在が不明確でした この反省を踏まえ政府は「原子力安全規制に関する組織等の改革の基本方針」(2011年 8月 15日閣議決定(以下基本方針))を公表しましたその中には「当面の安全規制組織の見直しの方針」として「①規制と利用の分離」「②原子力安全規制に係る関係業務の一元化」「③危機管理」「④官民を問わず質の高い人材の確保」「⑤規制の在り方や関係制度の見直し」という五つの見直しの方針や「新組織を設置するために必要な法律案の立案等の準備を2012年 4月の設置を目指して行うこと」「東京電力福島第一原子力発電所における事故調査検証委員会による組織の在り方に係る検証結果等が示された場合は柔軟に対応する」旨が盛り込まれましたまた「中長期的な原子力政策及びエネルギー政策の見直しや事故調査検証委員会による検証の結果を含めてより広範な検討を進め新組織が担うべき業務の在り方やより実効的で強

力な安全規制組織の在り方について2012年末を目途に成案を得る」こととされました 更にこの基本方針を基に原子力安全規制に関する組織のあり方原子力安全規制強化のあり方等について検討するため原発事故の収束及び再発防止担当大臣が当該分野に関する専門的知見を有する者に参集を求め意見を聞くことを目的として原子力事故再発防止顧問会議が開催されました2011年 10月 4日から12月 2日にかけて4回開催され「原子力事故再発防止顧問会議提言」がとりまとめられましたこの中で①「規制と利用の分離」②「一元化」③「危機管理」④「人材の育成」⑤「新安全規制」⑥「透明性」⑦「国際性」の七つの原則に基づいて原子力安全規制組織等の改革を進めていくべきであるとされました これらの議論を踏まえ原子力安全規制行政に係る組織及び制度の改革に関し国会における審議を経て衆議院環境委員長から「原子力規制委員会設置法案」が提案され2012年 6月 20日に可決成立しました

2原子力規制委員会設置法の概要

 このような経緯を踏まえ成立した原子力規制委員会設置法の概要については以下のとおりとなっています

原子力規制委員会設置法について(1)目的

 原子力利用に関する政策に係る縦割り行政の弊害を除去し並びに一の行政組織が原子力利用の推進及び規制の両方の機能を担うことにより生ずる問題を解消するため原子力利用における事故の発生を常に想定しその防止に最善かつ最大の努力をしなければならないという認識に立って確立された国際的な基準を踏まえて原子力利用における安全の確保を図るため必要な施策を策定しまたは実施する事務を一元的につかさどるとともにその委員長及び委員が専門的知見に基づき中立公正な立場で独立して職権を行使する原子力規制委員会を設置しもって国民の生命健康及び財産の保護環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的とする

(2)概要 ① 原子力規制委員会の組織及び機能

35

第4節 東京電力福島第一原子力発電所1~4号機の廃止に向けた取組

第3章

  環境省の外局として原子力規制委員会を設置(いわゆる「3条委員会」)(委員長及び委員4名は国会同意を得て総理が任命)

  原子力規制委員会の事務局として原子力規制庁を設置

  原子力安全規制核セキュリティ核不拡散の保障措置放射線モニタリング放射性同位元素等の規制を一元化

  (独)原子力安全基盤機構(JNES)を所管(必要となる法制上の措置を速やかに講じてJNESを原子力規制庁に統合)

  (独)日本原子力研究開発機構(JAEA)及び(独)放射線医学総合研究所の業務の一部を共管

 ② 原子力安全規制の転換

  重大事故対策の強化  最新の知見に基づく規制の実施(バックフィット制度)

  40年運転制限制の導入 等

 ③ 原子力防災対策の強化

  内閣に原子力防災会議を設置し関係機関との緊密な連携の下で原子力防災対策を推進

  原子力災害対策指針の法定化

  原子力災害対策本部の強化緊急事態解除後の事後対策の円滑化

  緊急時における原子力災害対策本部長(総理)の権限を明確化

(3)施行期日

  公布の日(2012年 6月 27日)から3月以内で政令で定める日

   (国会同意人事の手続きは公布日から施行)  核不拡散の保障措置放射線モニタリングの実施機能放射性同位元素等の規制の一元化等は2013年 4月 1日

  原子炉等規制法の改正は施行日施行日から10月以内で政令で定める日1年3月以内で政令で定める日と段階的に施行

  原子力災害対策特別措置法の改正の一部は施行日から6月以内で政令で定める日

第4節 東京電力福島第一原子力発電所1~4号機の廃止に向けた取組

1冷温停止に向けた取組

 事故の収束に向けては2011年 4月 17日に東京電力がとりまとめた「福島第一原子力発電所事故の収束に向けた道筋」(以下道筋)が着実かつ極力前倒しされて実施されるよう検討作業のフォローアップや必要な安全性の確認を行ってきました 2011年5月17日には原子力災害対策本部が「東京電力福島第一原子力発電所事故の収束検証に関する当面の取組のロードマップ」を公表し事故の収束までの政府の取組を示しましたまた同年5月17日及び同年6月17日には東京電力が道筋の改訂版をとりまとめ窒素封入や循環冷却システムの設置運転等の原子炉使用済燃料プールの安定的な冷却に向けた取組み汚染水処理設備の設置等の放射性物質で汚染された水の閉じこめ保管処理再利用の取組み飛散防止剤や原子炉建屋カバリングの設計導入支援等の大気土壌での放射性物質の抑制に向けた取

20 左の図緑色部分の組織と事務が右の図の原子力規制委員会に一元化されました

【これまでの規制体制】 【新しい規制体制】

内閣府経済産業省

経済産業省

文部科学省

原子力委員会

原子力規制委員会

委員長+委員4名(国会同意人事)

原子力規制庁(事務局)

環境省

規制規制ダブルチェックで規制

資源エネルギー庁

資源エネルギー庁

電力会社等 研究機関大学等

電力会社研究機関大学等

核物質を守るための対策の総合調整

原子炉の安全審査のダブルチェック等

発電用原子炉の安全規制 等

原子力安全委員会

原子力安全保安院

試験研究炉等の安全規制核不拡散の保障措置の規制(1)放射線のモニタリングSPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)の運用放射性同位元素等の規制201341より移管

第133-2-1 これまでの規制体制と新しい規制体制20

36

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第3章 原子力発電所事故関連

第3章

組み空間土壌海水等の体系的なモニタリングの実施等の取組みを行いました同年7月19日には道筋のステップ1の目標が概ね予定通りに達成されたことが確認されると共にステップ2に進むにあたり東京電力だけでなく政府もより一体となり事故収束に取り組む観点から東京電力の「道筋」と政府の「ロードマップ」を統合した「東京電力福島第一原子力発電所事故の収束に向けた道筋 当面の取組のロードマップ(改訂版)」を発表しました同年10月 3日にはステップ2完了後から廃炉作業の開始までの期間における安全確保のための基本目標を「中期的安全確保の考え方」として定め東京電力に対してこれに適合するよう指示しましたこれを受けて東京電力から提出された報告書について専門家の方々による緻密な検証作業を経て万一不測の事態が発生したとしても敷地境界における被ばく線量が十分低い状態を維持できるとの評価結果を得ました これを踏まえ東京電力福島第一原子力発電所が冷温停止状態に達したことを確認しステップ2の完了を判断したところです一方で漏水等のトラブルが発生していた状況を受けて2012年 3月 28日原子力安全保安院は東京電力に対して主要設備を仮設設備から恒久的な設備に更新すること等中長期的な信頼性向上のために優先的に取り組むべき事項についての具体的な実施計画を策定するよう指示しました

2中長期ロードマップに基づく取組

 ステップ2完了(2011年 12月)以降はそれまでのプラント安定化に向けた取組から確実にプラントの安定状態を維持する取組に移行するとともに1~4号機の使用済燃料プールからの燃料の取り出し1~3号機の原子炉圧力容器及び原子炉格納容器からの燃料デブリ(燃料と被覆管等が溶融し再固化したもの)の取り出し等廃止措置に向けた中長期に亘る取組が進められています このような中長期の取組については同年8月に原子力委員会に設置された東京電力福島第一原子力発電所における中長期措置検討専門部会において技術的課題研究開発項目が整理されるとともに「燃料デブリ取り出し開始までの期間は10年以内を目標廃止措置が全て終了するまでは30年以上の期間を要するものと推定される」との整理がなされています 同年11月 9日には経済産業大臣及び原発事故収束再発防止担当大臣より廃止措置等に向けた中長

期ロードマップの策定等についての指示が東京電力資源エネルギー庁原子力安全保安院に出されました 更に同年12月 16日ステップ2完了に伴い政府東京電力統合対策室を廃止し原子力災害対策本部の下中長期ロードマップの策定と進捗管理を行う政府東京電力中長期対策会議が設置され同年12月21日同会議において「東京電力福島第一原子力発電所1~4号機の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ」(以下中長期ロードマップ)が決定されました(第134-2-1) 中長期ロードマップではステップ2完了から2年以内の開始を目標とした使用済燃料プール内の燃料取り出し開始までを第1期と定義し使用済燃料プール内の燃料取り出し開始のための準備作業を行うとともに燃料デブリ取り出しに必要な研究開発を開始し成果を活用した現場調査に着手する等廃止措置等に向けた本格的な作業開始までの集中的な準備を行います 第1期以降ではステップ2完了から10年以内の開始を目標とした燃料デブリ取り出し開始までを第2期としその後の廃止措置終了までを第3期と定義しました また中長期ロードマップの進捗管理を着実に行うため政府東京電力中長期対策会議の下に「運営会

ステップ1 2 第 1期 第2期 第3期

現在(ステップ2完了) 2年以内 10年以内 30~40年後

<安定状態達成>冷温停止状態放出の大幅抑制

要員の計画的育成配置意欲向上策作業安全確保に向けた取組(継続実施)

使用済燃料プール内の燃料取り出しが開始されるまでの期間(2年以内)

燃料デブリ取り出しが開始されるまでの期間(10年以内)

廃止措置終了までの期間(30~ 40年後)

使用済燃料プール内の燃料の取り出し開始(4号機2年以内)発電所全体からの追加的放出及び事故後に発生した放射性廃棄物(水処理二次廃棄物ガレキ等)による放射線の影響を低減しこれらによる敷地境界にお け る 実 効 線 量1mSv年未満とする原子炉冷却滞留水処理の安定的継続信頼性向上燃料デブリ取り出しに向けた研究開発及び除染作業に着手放射性廃棄物処理処分に向けた研究開発に着手

全号機の使用済燃料プール内の燃料の取り出しの終了建屋内の除染格納容器の修復及び水張り等燃料デブリ取り出しの準備を完了し燃料デブリ取り出し開始(10 年以内目標)原子炉冷却の安定的な継続滞留水処理の完了放射性廃棄物処理処分に向けた研究開発の継続原子炉施設の解体に向けた研究開発に着手

燃料デブリの取り出し完了(20~25年後)廃止措置の完了(30 ~ 40 年後)放射性廃棄物の処理処分の実施

第134-2-1  中長期ロードマップ(2011年 12月 21日)の概要

37

第4節 東京電力福島第一原子力発電所1~4号機の廃止に向けた取組

第3章

議」が設置され中長期ロードマップの個別の計画ごとの進捗管理が行われています同会議の内容資料は経済産業省ホームページで公開されるとともに立地地域の地元自治体に対してはTV会議訪問説明等により個別情報提供がなされています 加えて中長期的に「冷温停止状態」を維持することを始めとして発電所の安全を確保するためには適切な保守管理の実施や設備の更新も含め信頼性向上に向けた取組を引き続き実施していくことが必要不可欠であることから2012年 3月 28日原子力安全保安院から東京電力に対し設備機器に関する中長期の信頼性の向上のための指示がなされ同年5月11日までに「実施計画」の提出が求められましたこれを受け政府東京電力中長期対策会議では東京電力が提出する「実施計画」を踏まえた中長期ロードマップの改訂を行い工程を厳格に管理することにより更なる安全性信頼性の確保を図ることとしています このように廃炉に向けた取組は中長期ロードマップに基づき発電所の安全に万全を期しながら国内外の叡智を結集し政府と東京電力が一体となって廃炉に至る最後の最後まで全力を挙げて取り組まれていきます

3研究開発

 先記の2011年11月9日における枝野経済産業大臣及び細野原発事故収束再発防止担当大臣からは資源エネルギー庁原子力安全保安院及び東京電力に対し中長期ロードマップの策定とともに廃止措置等のための研究開発計画の策定について指示が出されました これを受け資源エネルギー庁及び東京電力は文部科学省(独)日本原子力研究開発機構(JAEA)及び東京電力福島第一原子力発電所の設計建設に関して知見経験を有するプラントメーカーである東芝及び日立製作所日立GEニュークリアエナジーの協力を得ながら同年12月 21日に開催された政府東京電力中長期対策会議において研究開発計画を決定しました本計画では研究開発を作業に応じて「使用済燃料プール燃料取り出しに係る研究開発」「燃料デブリ取り出し準備に係る研究開発」「放射性廃棄物処理処分に係る研究開発」及び「遠隔操作機器に係る技術開発」に分類し実施することとしています 特に原子力施設の将来の廃炉安全基盤の強化のための技術基盤の整備国として知見経験の蓄積

共有を図ることが必要な研究開発等は国が行うべきものとして体制強化を図りながら実施します また同会議において研究開発計画の進捗管理を行う場として研究開発推進本部が設置され個別研究開発プロジェクトのマネジメント国内外叡智の結集のための具体的取組研究拠点構想等について集中的に議論を行ってきました 2012年 2月には「東京電力福島第一原子力発電所の廃止措置等に向けた燃料デブリ取出し準備の機器装置開発等に係る技術カタログ検討ワークショップ」を開催し研究開発プロジェクトにおいて採用すべき技術シーズのカタログの充実を図るため国内有識者を集め求められる技術ニーズ仕様を共有し意見を交換しました また同年3月には「東京電力福島第一原子力発電所1~4号機の廃止措置等に向けた研究開発計画に係る国際ワークショップシンポジウム」を開催し研究開発計画において取り組む課題及び対応の方向について国際的な情報発信を実施するとともに国内外の有識者専門家との間で課題への対応の方向について討議を実施し有識者専門家より技術的な提案アドバイスを受けました 更にプロジェクトの実施に当たり的確なマネジメントを行っていく観点から2011年度末に個々の研究開発プロジェクトの実績評価及び2012年度以降の計画見直しの方向を取りまとめた本見直しでは現場ニーズをプロジェクトに的確に反映するための体制の強化や中長期視点での人材確保育成を意識した取組を進めていくこととしています 今後も本計画に沿って東京電力福島第一原子力

燃料デブリ取出し準備ワーキングチーム

機器装置開発等サブワーキングチーム(SWT)

報告審議 報告審議

研究開発推進本部

報告審議

事務局

使用済燃料プール燃料取り出しワーキングチーム

炉内状況把握解析SWT

放射性廃棄物処理処分ワーキングチーム

遠隔技術タスクフォース

燃料デブリ性状把握処理準備SWT

23FY-

燃料集合体の長期健全性

25FY-

損傷燃料等の処理技術

23FY-

建屋内の遠隔除染

24FY-

総合的線量低減計画策定

23FY-

PCVRPV健全性評価

23FY-

建屋PCV漏えい箇所特定

23FY-

建屋PCV止水補修

23FY-

PCV内部調査

25FY-

RPV内部調査

27FY-

デブリ炉内構造物取出し

25FY-

デブリ燃料収納技術

24FY-

デブリ臨界管理

23FY-

事故進展解析

23FY-

模擬デブリ特性把握

23FY-

デブリ処置技術

24FY-

デブリ計量管理方策

28FY-

実デブリ性状分析

23FY-

汚染水処理の廃棄物安定化

23FY-

廃棄物の処理処分検討

第134-3-1 研究開発体制

38

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第3章 原子力発電所事故関連

第3章

発電所1~4号機の廃止措置等に向けた中長期の取組を進める上で必要な研究開発を着実に進めていきます なお研究開発の成果として得られた知見技術は国内外の将来の原子力施設の廃止措置や安全基盤の強化等にも広く役立つものと期待されます

第5節 原子力損害賠償

1 原子力損害賠償紛争審査会の設置及び指針の背景

 2011年3月11日の福島原子力発電所事故発生以降多くの住民が避難生活や生産及び営業を含めた事業活動の断念等を余儀なくされており被害者の方々が一日でも早く安心で安全な生活を取り戻せるよう迅速公平かつ適正な救済が必要です政府は今回の事故に関して原子力損害の賠償を円滑に進められるよう原子力損害の範囲など当事者による自主的な解決に資する一般的な指針の策定等の業務を行うため原子力損害の賠償に関する法律に基づき2011年 4月 11日より「原子力損害賠償紛争審査会」を設置しました 同審査会においては被害者の迅速な救済を図るため原子力損害に該当する蓋然性の高いものから順次指針として提示することとしました 紛争審査会は同年4月28日には政府等による指示等に基づく損害の範囲を示す第一次指針を策定しその後第二次指針(同年5月31日)及び第二次指針追補(同年6月31日)の策定により指針で示す原子力損害の範囲を拡大し同年8月5日には原子力損害の範囲の全体像を示す中間指針を策定しましたその間各省庁に加え地方公共団体事業者団体等からヒアリングを行うとともに17分野76名の専門委員による各分野の被害状況調査を行い被害状況等の把握に努めました その後紛争審査会では同年12月 6日に自主的避難等に係る損害に関する中間指針第一次追補2012年 3月 16日政府による避難区域等の見直し等に係る損害についての中間指針第二次追補を策定しましたまた指針に類型化した損害として明記されていないものが賠償の対象とならないというものではなく個別具体的な事情に応じて事故との相当因果関係のある損害として賠償され得ることも指針に明記さ

れています

(1) 原子力損害の範囲の全体像を示す中間指針の概要

 中間指針で示された項目は以下のとおりです 政府による避難等の指示等に係る損害  政府による航行危険区域等及び飛行禁止区域の設定に係る損害

  政府等による農林水産物等の出荷制限指示等に係る損害

 その他の政府指示等に係る損害  いわゆる風評被害(一般的基準農林漁業食品産業観光業製造業サービス業等輸出)

 いわゆる間接損害 放射線被曝による損害 被害者への各種給付金と損害賠償金との調整 地方公共団体等の財産的損害等

(2) 自主的避難に係る損害についての中間指針第一次追補の概要

 中間指針の策定の際事故との相当因果関係を判断する客観的基準を見いだすことが難しいことから継続審議事項とされた政府等の指示に基づかない「自主的避難」について2011年 12月 6日に自主的避難等に係る損害に関する中間指針第一次追補を策定しました[基本的考え方] 事故発生当初の十分な情報がない時期は大量の放射性物質の放出による被ばくへの恐怖不安を抱くことは年齢等問わず一定の合理性が認められる 事故発生からしばらく経過後は放射線量等に関する情報がある程度入手できるようになった状況下にあり少なくとも子供妊婦の場合は放射線への感受性が高い可能性があることが一般に認識されていることから被ばくへの恐怖不安を抱くことは一定の合理性が認められる 上記恐怖不安による自主的避難のみならず自主的避難を行わずに滞在し続けた者にも賠償すべき損害が認められる

[自主的避難等対象区域] 発電所からの距離避難指示等対象区域との近接性政府等から公表された放射線量に関する情報自主的避難の状況等を総合的に勘案して対象区域(福島県内の避難指示対象区域を除く23市町村)を明示

39

第5節 原子力損害賠償

第3章

(3) 政府による避難区域等の見直し等に係る損害についての中間指針第二次追補の概要

 政府の原子力災害対策本部が同年12月 16日原子炉は安定状態に達し事故そのものは収束に至ったことを確認し同月26日に避難指示区域の見直しに関する基本的考え方及び今後の課題を示したこと等を踏まえ紛争審査会は本年3月16日政府による避難区域等の見直し等に係る損害についての中間指針第二次追補を策定しました中間指針第二次追補で示された項目は以下のとおりです 避難区域見直し後の避難費用及び精神的損害 旧緊急時避難準備区域の避難費用及び精神的損害 特定避難勧奨地点の避難費用及び精神的損害 不動産の価値の喪失または減少等について 営業損害就労不能等に伴う損害 自主的避難等に係る損害 除染等に係る損害

2 原子力損害賠償紛争解決センターの設置

 原子力損害賠償紛争審査会は今回の東京電力福島第一第二原子力発電所事故により被害を受けた方々の原子力事業者(東京電力)に対する損害賠償について円滑迅速かつ公正に紛争を解決することを目的として同審査会の下に「原子力損害賠償紛争解決センター」を設置し2011年 9月東京都港区と福島県郡山市の2カ所において業務を開始しました同センターにおいては紛争の当事者(被害者または原子力事業者)の申立てにより仲介委員が申立人と相手方の双方から事情を聴き取って損害の調査検討を行い双方の意見を調整しながら和解案を提示する和解の仲介業務を実施しています 同センターでは2012年 2月以降多くの申立に共通すると思われる問題点に関して一定の基準を示す「総括基準」を順次策定公開しているほかセンターで実施されている和解仲介の結果を広く周知し今後の賠償を円滑に進めていく上での参考とするため和解実例を順次公開しています 更に同年7月には和解仲介の申立に関して出来る限り被害者の方々の居所等の近くで話し合いを実施する等きめ細やかな対応を実施するため福島県内の各地域(県北会津いわき相双)に同センター福島事務所の支所を設置しました

3 原子力損害賠償補償契約に関する法律に基づく措置

 政府は原子力損害賠償補償契約に関する法律に基づき原子力損害賠償補償契約を原子力事業者と締結しており地震噴火等により原子力損害が発生した場合にはこの契約に基づく補償金を支払うこととなっています 今般の事故を受け政府は2011年 11月原子力損害賠償補償契約に基づき東京電力福島第一原子力発電所分の1200億円を東京電力へ支払いました

4原子力損害賠償支援機構の設立の背景

 2011年 3月 11日の東日本大震災により東京電力福島原子力発電所事故による大規模な原子力損害の発生を受け2011年 6月 14日に「東京電力福島原子力発電所事故に係る原子力損害の賠償に関する政府の支援の枠組みについて」が閣議決定され東京電力福島原子力発電所事故に係る原子力損害の賠償に関する政府の支援の枠組みについて政府としてこれまで原子力政策を推進してきたことに伴う社会的な責任を負っていることに鑑み ① 被害者への迅速かつ適切な損害賠償のための万全の措置

 ② 東京電力福島原子力発電所の状態の安定化事故処理に関係する事業者等への悪影響の回避

 ③電力の安定供給の三つを確保するため「国民負担の極小化」を図ることを基本として損害賠償に関する支援を行うための万全の措置を講ずることが確認されました こうしたことを受け2011年 8月 10日に原子力損害賠償支援機構法及び関連する政省令が公布施行され原子力事業に係る巨額の損害賠償が生じる可能性を踏まえ原子力事業者による相互扶助の考えに基づき将来にわたって原子力損害賠償の支払等に対応できる支援組織を中心とした仕組みを構築するため同年9月12日に原子力損害賠償支援機構が設立されました なお原子力損害賠償支援機構法の附則において原子力損害賠償の実施状況等を踏まえ原子力損害の賠償に関する法律の改正等の抜本的な見直しをはじめとする必要な措置を講ずるものとされています

40

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第3章 原子力発電所事故関連

第3章

5原子力損害賠償支援機構の枠組み

 原子力損害賠償支援機構(以下機構)を中心とした原子力事業者による相互扶助の枠組みは以下のようになっています

(1)原子力事業者からの負担金の収納 原子力損害が発生した場合の損害賠償の支払等に対応するため損害賠償に備えるための積立てを行います 機構は機構の業務に要する費用として原子力事業者から負担金の収納を行います 機構に第三者委員会的な組織として「運営委員会」を設置し原子力事業者への資金援助に係る議決等機構の業務運営に関する議決を行います

(2)機構による通常の資金援助 原子力事業者が損害賠償を実施する上で機構の援助を必要とするときは機構は運営委員会の議決を経て資金援助(資金の交付株式の引受け融資社債の購入等)を行います 機構は資金援助に必要な資金を調達するため政府保証債の発行金融機関からの借入れをすることができます

(3)機構による特別資金援助①特別事業計画の認定 機構が原子力事業者に資金援助を行う際政府の特別な支援が必要な場合原子力事業者と共に「特別事業計画」を作成し主務大臣の認定を求めます 特別事業計画には原子力損害賠償額の見通し賠償の迅速かつ適切な実施のための方策資金援助の内容及び額経営の合理化の方策賠償履行に要する資金を確保するための関係者(ステークホルダー)の協力の要請経営責任の明確化のための方策等について記載します 機構は計画作成に当たり原子力事業者の資産の厳正かつ客観的な評価及び経営内容の徹底した見直しを行うとともに原子力事業者による関係者に対する協力の要請が適切かつ十分なものであるかどうかを確認します 主務大臣は関係行政機関の長への協議を経て特別事業計画を認定します

②特別事業計画に基づく事業者への援助 主務大臣の認定を受け機構は特別事業計画に基づく資金援助(特別援助)を実施するため政府は機構に国債を交付し機構は国債の償還を求め(現金化)原子力事業者に対し必要な資金を交付します 政府は国債が交付されてもなお損害賠償に充てるための資金が不足するおそれがあると認めるときに限り予算で定める額の範囲内において機構に対し必要な資金の交付を行うことができます 機構は政府保証債の発行等により資金を調達し事業者を支援します

③機構による国庫納付 機構から援助を受けた原子力事業者は特別負担金を支払います 機構は負担金等をもって国債の償還額に達するまで国庫納付を行います ただし政府は負担金によって電気の安定供給等に支障を来しまたは利用者に著しい負担を及ぼす過大な負担金を定めることとなり国民生活国民経済に重大な支障を生ずるおそれがある場合機構に対して必要な資金の交付を行うことができます

④損害賠償の円滑化業務 機構は損害賠償の円滑な実施を支援するため(ア)被害者からの相談に応じ必要な情報の提供及び助言を行うとともに(イ)原子力事業者が保有する資産の買取り及び(ウ)賠償支払の代行(原子力事業者からの委託を受けて賠償の支払国または都道府県知事の委託を受けて仮払金の支払)を行うことができます 平成二十三年原子力事故による被害に係る緊急措置に関する法律案に基づく国による仮払金

6特別事業計画策定の経緯と支援の経過

① 2011年11月4日に特別事業計画を認定(緊急特別事業計画の認定)

② 2012年 2月 13日に認定特別事業計画の変更認定

③ 2012年5月9日に認定特別事業計画の変更認定(総合特別事業計画の認定)

 機構は東京電力による賠償金の速やかな支払を確

41

第5節 原子力損害賠償

第3章

保するため2012年 2月に緊急特別事業計画の変更を行いましたこの中でその時点での要賠償額の見通し1兆7003億 2200万円から原子力損害の賠償に関する法律第7条第1項に規定する賠償措置額として既に東京電力が受領している1200億円を控除した金額を損害賠償の履行に充てるための資金として2012年度までに交付することとしていましたしかしながらその後新たな賠償基準の策定等により損害賠償の見通しが2兆5462億7100万円となったため機構は東京電力に対し当該要賠償額から上記1200億円を控除した2兆4262億 7100万円を損害賠償の履行に充てるための資金として交付することとしていますなお交付の時期についてはすでに機構が交付した1兆1168億円(同年7月26日時点)を控除した金額を2013年度までに交付する予定です また原子力損害賠償支援機構法第38条第1項の規定に基づき機構の業務に要する費用に充てるため各電力会社が負担する負担金については同年3月30日に2011年度一般負担金年度総額を815億と決定しました

7賠償の実績及び業務の改善

(1)賠償に向けた体制の整備及び賠償の実績 東京電力は2011年4月15日に国の「原子力発電所事故による経済被害対応本部」において原子力災害対策特別措置法の規定に基づき当面の必要な資金を「仮払補償金」として支払いするよう決定がなされたことを受け同日仮払補償金の開始を公表しましたまた同社は原子力損害賠償紛争審査会による中間指針(2011年 8月 5日)を踏まえ同年8月30日に個人の本賠償2011年 9月 21日に法人個人事業者の本賠償の開始を公表するとともに本賠償の対象賠償額の算定基準等を提示しました(法人個人事業者については同年9月21日に発表)個人事業者ともに同年9月に請求書送付受付(一次請求同年3~8月分)を開始し同年10月 5日に本賠償の支払いを開始しました2012年 7月末までに仮払補償金本賠償合計で約1兆795億円の支払いが行われています(仮払約1469億円本賠償約9326億円)

(2)賠償業務の改善 東京電力に対しては2011年 10月の本賠償開始後被害者の方々に対して親身親切な損害賠償が行われていない等の不満が多く寄せられておりました東京

電力は機構とともに策定した緊急特別事業計画においてこうした状況を改善すべく「5つのお約束」(迅速な賠償のお支払いきめ細やかな賠償のお支払い原子力損害賠償紛争解決センターの和解仲介案の尊重親切な書類手続き誠実な御要望への対応)を掲げ賠償業務の行程管理の徹底や請求書類の簡素化等東京電力の賠償実施体制の建て直しを行ってきました また機構はこうした東京電力の取組を継続的にモニタリングするほか自ら弁護士行政書士等からなる「訪問相談チーム」を派遣する等賠償の円滑化に向けた取組を行いました こうした取組の結果請求書類の確認や賠償金のお支払いについて計画に定めた目標期間内での対応の実現原子力損害賠償紛争解決センターの和解仲介案の尊重や指針外への対応等一定の改善も見られています

<総合特別事業計画(2012年5月9日認定)のポイント>(1) 東京電力の取組と関係者の協力 国と東京電力の双方には厳しい状況をともに連帯して乗り越えていく重い責務 東京電力はあらゆる手段を総動員し「賠償廃止措置安定供給」の責任を果たす 国はエネルギー政策や原子力政策全体についての責務と相まって責任を果たしていく 国家的難題に直面しているという認識の下関係者全ての持てる力を結集することが必要

(2) 東京電力の新経営体制①原子力損害賠償支援機構が東京電力の総議決権の2分の1超を取得(「一時的公的管理」)するとともに追加的に議決権を取得できる転換権付無議決権種類株式を引き受けることで潜在的には総議決権の3分の2超の議決権を確保②会長以下役員の退任顧問制度全廃退職慰労金の受取辞退 等

(3) 合理化の深掘り10年間で33兆円超のコスト削減を行う①人件費(10年間で12758億円削減)②資材役務経費(10年間で6641億円削減)③買電燃料調達に係る費用(10年間で1986億円削減)

42

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第3章 原子力発電所事故関連

第3章

④その他経費(10年間で9687億円削減)⑤資産売却不動産電気事業資産以外は原則全て売却(2472億円相当(時価ベース))有価証券2011年度から原則3年以内に3301億円相当の有価証券を売却子会社関連会社2011年度から原則3年以内に119社中45社 1301億円相当を売却

(4) 料金改定【前提】燃料費等増を合理化の徹底により圧縮した上で必要最小限の料金改定(3年原価とし柏崎刈羽原発の2013年度4月以降の順次稼働を収支計画の前提として置く)①規制部門で1028料金引上げ(原価算定期間の3年間)を収支計画の前提として置く(注電気事業法に基づく経済産業大臣認可が必要であり査定の結果846になった)②自由化部門は1639料金引上げ(査定の結果1490になった)「自由化料金については総原価洗替えの結果を反映し4月からの差額を割り引く」旨明記

(5) 賠償コスト廃炉コスト①帰還困難地域の財物全損賠償等の新基準を踏まえ約8500億円を積み増し(総額約25兆円)②除染は予算執行の進捗国からの求償等合理的な見積もりが可能になるまで計上せず③廃炉コストは「ロードマップ」に対応した積上げによる費用を今後見積もり

(6) 事業改革(東京電力の方向性改革の段取り)①入札による競争や外部事業者等との連携を通じた最適需給の実現②社内カンパニー(燃料火力送配電小売)(「自前主義」から「外部連携」へ)LNG発電コスト低減に焦点調達集約化インフラ共同運用IPP入札③国際標準に準拠したスマートメーターのオープンな調達企業連携による省エネサービス

(7) 金融機関株主責任財務基盤強化

①金融機関自律的な資金調達力の回復まで与信を維持主要取引機関は融資1兆円追加②機構による株式の引受け株主総会後払込金額総額1兆円21

③既存株主株式の希薄化当面の間 無配

第6節 原子力被災者支援 東京電力福島第一原子力発電所事故では政府による避難屋内退避の指示等により多数の居住者等が避難その他の行動を余儀なくされあるいは事業者が生産及び営業を含めた事業活動の断念を余儀なくされる等東京電力福島第一原子力発電所から半径約30km 圏内を中心に福島県全体のみならず周辺の各県も含めた広範囲に影響を及ぼす事態に至りました 2011年 3月 29日には原子力被災者への生活支援を強化するため原子力災害対策本部の下に原子力被災者生活支援チームが設置され避難受入れ態勢の確保除染体制の確保被災地への物資等の輸送補給被ばくに係る医療の確保環境モニタリングと正確迅速な情報提供等を行ってきました同年5月17日には原子力災害対策本部は「原子力被災者への対応に関する当面の取組方針」及び「原子力被災者への対応に関する当面の取組のロードマップ」を策定公表しこれらに基づき応急仮設住宅の確保計画的避難の実施住民の健康管理がれき汚泥の処理や放射線量等分布マップの作成農地土壌の除染技術開発に関する実証試験の実施等の取組を行ってきたところです 2012年 2月 10日には福島の復興再生に関する施策を総合的に策定し継続的迅速に実施するための組織として復興庁が設置され生活再建策(賠償長期避難者支援自治体ごとの帰還支援)産業振興及び雇用対策放射線対策等(リスクコミュニケーションモニタリング除染区域見直し)等につき関係省庁と連携して被災者支援をより一層推進するための体制が整備されましたまた同年3月30日には「福島復興再生特別措置法」が成立し同年4月5日には2012度予算として復興経費3兆7754億円が計上される等法制度及び予算の側面からも被災者支援を推進す

21 出資額は東京電力A種優先株式 16 億株(払込総額 3200 億円)と東京電力B種優先株式 34 億株(払込総額 6800 億円)の合計

43

第6節 原子力被災者支援

第3章

るための施策が講じられています

1避難指示区域等の設定経緯

 2011年 3月 11日東北地方太平洋沖地震とそれが引き起こした津波により東京電力の福島第一原子力発電所及び福島第二原子力発電所において原子力緊急事態が発生しましたこれを受けて同日政府は原子力緊急事態宣言を発出するとともに原子力災害対策本部を設置しました 事故の発生以降事故の深刻化に伴い住民に避難を求める区域を順次拡大し翌12日に原子力災害対策本部長は福島県知事及び関係市町村長に対し東京電力福島第一原子力発電所から半径20km圏内の住民等の避難を指示しましたまた同月15日には東京電力福島第一原子力発電所から半径20kmから30km圏内の居住者等の屋内退避を指示しました(第136-3-2) 更に同年4月21日には引き続き東京電力福島第一原子力発電所が不安定な状態であることに鑑み同発電所の半径20km圏内について住民等の避難を徹底し生命または身体に対する危険を防止するため

原子力災害対策本部長は福島県知事及び関係市町村長に対し同区域を警戒区域に設定することを指示しました翌22日の午前0時警戒区域が設定され緊急事態応急対策に従事する者以外の者は市町村長の許可なく同区域に立ち入ることができなくなりこの立入制限を徹底するため警戒区域境界に物理的な立入り制限の措置が講じられることとなりました また環境モニタリングにおいて東京電力福島第一原子力発電所の半径20km以遠において積算線量が高い地域が確認されたことから同年4月22日原子力災害対策本部長は福島県知事及び関係市町村長に対し事故発生から1年の期間内に積算線量が20mSvに達するおそれのある区域を計画的避難区域に設定し居住者等を計画的に避難させるよう指示しました 同時に東京電力福島第一原子力発電所から半径20kmから30kmの区域については屋内退避の指示を解除し今後なお緊急時に屋内退避や避難の対応が求められる可能性が否定できない区域(概ね東京電力福島第一原子力発電所から半径20kmから30kmの区域に相当)について原子力災害対策本部長は福島県知事及び関係市町村長に対し当該区域を緊急時避難準備区域に設定し居住者等に避難または屋内退避

浪江町葛尾村

双葉町

大熊町

富岡町

広野町

川内村

田村市

川俣町

伊達市

いわき市

小野町

二本松市

相馬市

福島第二原子力発電所

計画的避難区域

警戒区域

南相馬市飯舘村南相馬市避難指示解除準備区域(2012416~)

南相馬市帰還困難区域(2012416~)

南相馬市居住制限区域(2012416~)

田村市避難指示解除準備区域(201241~)

川内村避難指示解除準備区域(201241~)

川内村居住制限区域(201241~)

避難指示解除準備区域居住制限区域帰還困難区域

警戒区域計画的避難区域

凡例20km

楢葉町

飯舘村帰還困難区域(2012717~)

飯舘村居住制限区域(2012717~)

飯舘村避難指示解除準備区域(2012717~)

楢葉町避難指示解除準備区域(2012810~)

福島第一原子力発電所

約5km

図136-2-1  避難指示区域と警戒区域の概念図(2012年7月31日現在)

図136-1-1  東京電力福島第一原子力発電所に係る避難等の指示の経過

2011年3月11日2123

半径3km圏避難半径3~10km圏屋内退避

3月12日544

半径10km圏避難

3月12日1825

半径20km圏避難

3月15日1100

半径20~30km圏屋内退避

4月21日1100

半径20km圏警戒区域(設定は22日午前0時)

4月22日944

半径20~30km圏屋内退避の解除葛尾村浪江町飯舘村川俣町の一部及び南相馬市の一部避難(計画的避難区域)広野町楢葉町川内村田村市の一部及び南相馬市の一部緊急時避難準備区域

9月30日1811

広野町楢葉町川内村田村市の一部及び南相馬市の一部緊急時避難準備区域の解除

2012年3月30日

川内村田村市南相馬市警戒区域を解除し三つの新たな避難指示区域に見直し(川内村及び田村市は4月1日実施南相馬市は4月16日実施)

6月15日 飯舘村三つの新たな避難指示区域に見直し(7月17日に実施)

7月31日 楢葉町避難指示解除準備区域に見直し(8月10日に実施)富岡町大熊町双葉町及び浪江町海域のうち陸域の約5kmから東側の避難指示区域及び警戒区域を解除

44

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第3章 原子力発電所事故関連

第3章

の準備をさせるよう指示しました

2避難指示区域等の見直し

 東京電力福島第一原子力発電所の事故に伴い設定された避難指示区域及び警戒区域等は原子力発電所の安全性の確認や放射線被ばくの危険性の低下等を踏まえ区域の見直しを実施することとなりました 2011年 8月 9日原子力災害対策本部は緊急時避難準備区域について原子力発電所の安全性評価(水素爆発が生じたり原子炉等の冷却ができなくなる可能性が低くなっていること仮に注水が中断した場合でも発電所から20km以遠において受ける放射線影響が十分小さいこと等)区域内における放射線量の詳細なモニタリングの結果(学校等をはじめとする主要ポイントの周辺を含む測定をしたほとんどの地点で空間線量が十分低いことが確認されたこと)及び公的サービスインフラ等の復旧のめどが立ったことを踏まえ同区域を解除することを決定しました 関係市町村は当該方針に基づき住民の円滑な移転支援学校医療施設等の公的サービスの再開公的インフラの復旧学校グラウンド園庭等の除染を含む実情に応じた「復旧計画」を策定しましたこれを受け原子力災害対策本部は同年9月30日に緊急時避難準備区域を一括して解除することを決定し原子力災害対策本部長から福島県知事及び関係市町村長にその旨指示しました 2011年 12月 26日原子力災害対策本部は「放射性物質の放出が管理され放射線量が大幅に抑えられている」というステップ2の目標達成と完了を受けて東京電力福島第一原子力発電所の事故収束の状況や放射線被ばくの危険性の低下を踏まえ警戒区域(原子力発電所から半径20km の区域)についてはインフラ等の安全確認応急復旧を行うとともに防災防犯対策等について関係者間で十分に調整を図った上で解除することを決定しましたまた避難指示区域(原子力発電所から半径20km の区域及び同半径20km 以遠の計画的避難区域)については関係者と協議した上で放射線量を基準として以下の三つの区域に見直すことを決定しました

① 避難指示解除準備区域 年間積算線量が20mSv以下となることが確実であることが確認された区域同区域においては引き続き避難指示は継続されることとなりますが除染イ

ンフラ復旧雇用対策等の復旧復興のための支援策を迅速に実施し住民の一日でも早い帰還を目指します

② 居住制限区域 年間積算線量が20mSvを超えるおそれがあり住民の被ばく線量を低減する観点から引き続き避難を継続することが求められる区域同区域においては将来的に住民が帰還しコミュニティを再建することを目指し除染やインフラ復旧等を計画的に実施します

③ 帰還困難区域 5年間を経過してもなお年間積算線量が20mSvを下回らないおそれのある現時点で年間積算線量が50mSv超の区域同区域は将来にわたって居住を制限することを原則とし同区域の設定は5年間固定します 当該方針に基づき区域見直しに係る協議が整った市町村について区域見直しを実施しています(第136-2-1 2012年 7月 31日現在)

3警戒区域への一時立入り

 2011年 4月 22日午前0時東京電力福島第一原子力発電所から半径20km圏内は警戒区域に設定され当該区域への立入りが制限されることとなりました他方で着の身着のままで避難を余儀なくされた住民から自宅への一時立入り等に係る強い要望が寄せら

図136-3-1 警戒区域への一時立ち入り

一時立入り対象市町村

警戒域内の対象数

1巡目 2巡目

世帯数 人数バス立入り

車持ち出し

マイカー立入り バス立入り車持ち出し

世帯数 人数 台数 世帯数 人数 世帯数 人数 台数

田村市 約110 約400 76 130 6 112 260 0 0 2

南相馬市

約4000

約14300

2907 5030 511 3335 8169 66 95 102

楢葉町約2600

約7700

1909 3197 364 2067 5372 102 142 45

富岡町約6000

約16000

4537 7631 741 4757 10921 275 398 126

川内村 約160 約400 82 135 19 92 227 0 0 0

大熊町約4000

約11500

3525 5683 1021 3265 7495 210 308 129

双葉町約2400

約6900

2061 3547 573 1930 4638 177 279 62

浪江町約6700

約19600

4812 8218 916 4622 11031 234 345 90

葛尾村 約80 約300 17 27 1 40 91 0 0 0

計約26000

約77000

19850 33468 4146 20108 47944 1064 1567 554

45

第6節 原子力被災者支援

第3章

れましたこれを受け立入りを行う住民の安全確保を大前提に同年5月10日から当該区域への一時立入りを実施することとなりましたこれまで四巡目までの一時立入りを実施し延べ約73370世帯約162002人(2012年 7月末日現在)の住民が立入りを行っています 一巡目はバスによる集団での立入り方式のみにより実施していましたが持ち出せる荷物の量が少ない待ち時間が長いといった要望が寄せられました二巡目からは住民からのこうした要望等を踏まえバス方式と併せてマイカーによる一時立入りを可能としました

 更に三巡目からは立入りを行う住民の利便性を高めること等を目的として住民が車から降りることなく受付を行うドライブスルー方式の導入の他自宅以外の場所への一時立入り(墓参りのための立入り等)や引っ越し業者等の帯同を認める等の改善を行いました 加えて四巡目からはそれまで市町村が行っていた立入り日の調整等を新たに設置するコールセンターにおいて行うこととしこれまで以上にスムーズな受付が可能となりました 五巡目以降についても住民の安全確保を大前提として立入りを行う住民の負担の少ない方法で立入りが可能となる体制の構築を目指しています

4除染の実施

 東日本大震災に伴う原子力発電所の事故によって放出された放射性物質による環境の汚染が生じておりこれによる人の健康または生活環境に及ぼす影響を速やかに低減することが喫緊の課題となっていますこうした状況を踏まえ「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法」(以下「放射性物質汚染対処特措法」)が可決成立し2011年 8月 30日に公布されました 同年11月 11日には「放射性物質汚染対処特措法に基づく基本方針」を閣議決定し環境の汚染の状況についての監視測定事故由来放射性物質により汚染された廃棄物の処理土壌等の除染等の措置等に係る考え方が取りまとめられ関係者の連携の下事故由来放射性物質による環境の汚染が人の健康または生活環境に及ぼす影響が速やかに低減されるようまた復興の取組が加速されるよう同方針に基づき取り組むこととしています 除染の実施に当たり同年11月以降警戒区域や計画的避難区域等において除染の効果的な実施のために必要となる技術の実証実験等のための除染モデル実証事業等を実施しその成果を2012年 6月に公表しましたまた2011年 12月以降は自衛隊等による除染活動の拠点となる施設(役場公民館等)や除染を行う地域にアクセスする道路及び除染に必要な水等を供給するインフラ施設を対象に先行的な除染を実施しています 放射性物質汚染対処特措法に基づき国が除染を実

一時立入り対象市町村

警戒域内の対象数

3巡目 4巡目

世帯数 人数マイカー立入り

バス立入り車持ち出し

マイカー立入り

バス立入り

世帯数 人数 世帯数 人数 台数 世帯数 人数 世帯数 人数

田村市 約110 約400 90 196 0 0 0 - - - -

南相馬市

約4000

約14300

3032 7941 39 57 14 - - - -

楢葉町約2600

約7700

1951 5005 66 92 6 1826 4950 38 59

富岡町約6000

約16000

4240 10025 158 217 10 3721 8954 124 181

川内村 約160 約400 0 0 0 0 0 - - - -

大熊町約4000

約11500

2944 6936 162 234 8 2533 6328 98 148

双葉町約2400

約6900

1744 4362 92 140 7 1593 4184 85 125

浪江町約6700

約19600

3764 9207 209 305 10 3494 8761 157 226

葛尾村 約80 約300 0 0 0 0 0 0 0 0 0

計約26000

約77000

17675 43476 726 1045 55 13167 33177 502 739

(注) 1 全体の数値は平成22年度国勢調査及び各市町村データ(復旧計画等)からの概数

   2 マイカーを所有していない住民の方については近所の住民の方等が同乗させて1台で複数世帯分の立入りを行うケースがあるため立入台数が立入世帯数より少なくなる場合があるなお1世帯が複数台の自動車で立入ることは認められていない

46

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第3章 原子力発電所事故関連

第3章

施する除染特別地域においては市町村ごとに策定する特別地域内除染実施計画に従って事業を進めることとしており一時保管場所の確保や除染業務の発注に必要な情報が整った市町村について特別地域内除染実施計画に基づき本格除染の実施を開始していますまた市町村が中心となって除染を実施する除染実施区域においては市町村が除染実施計画を策定し除染事業を進めることとされており現在各地で除染事業の取組が進められています 環境省においては放射性物質汚染対処特措法が2012年 1月に全面施行されたことに伴い福島県等における除染を推進するために福島環境再生事務所を開所し体制の整備を行いました更に福島県及び環境省では除染等に関する専門家を市町村等の要請に応じて派遣するとともに除染のボランティア活動等の関連情報の収集発信を行うための拠点として国福島県関係機関関係団体等の連携を図る除染情報プラザを設置しました

5健康管理調査の支援等

(1)福島県民健康管理調査事業の支援 福島県民の皆様の中長期的な健康管理を可能とするため国では平成23年度(2011年度)第二次補正予算により福島県が創設した「福島県民健康管理基金」に782億円の交付金を拠出し全面的に県を支援しています福島県ではこの基金を活用して全県民を対象に県民健康管理調査を実施し被ばく線量の把握や健康状態を把握するための健康診査等を行うこととしています特に震災時点で18才以下であった全ての方を対象に甲状腺の超音波検査を実施していますこの他にホールボディカウンターによる検査や中学生以下の子ども及び妊婦に対する個人線量計(ガラ

スバッジ等)の貸与などを実施しています

(2) 原子力被災者等の健康不安対策に関するアクションプランの推進

 東京電力福島第一原発事故の被災者をはじめとする国民が抱える放射線による健康不安についてはこれまでも様々な取組を講じてきましたが ①今般の被災者等の不安を十分に踏まえた情報発信としていたか(平易な用語の使用等) ②専門家等からの一方的な情報発信に偏り不安を感じている被災者等との双方向のコミュニケーションが不足していなかったか ③不安解消のためのコミュニケーションを行う人や場(拠点を含む)が十分に確保されていたかといった問題により依然として不安を十分に解消できていない状況です

 関係省庁等がこうした問題意識を共有した上で必要となる施策の全体像を明らかにし政府一丸となって健康不安対策の確実な実施に取り組むべく2012年4月20日に環境大臣を議長とする原子力被災者等の健康不安対策調整会議を設置し同年5月31日にアクションプランを策定しました 重点施策として ①関係者の連携共通理解の醸成 ②放射線による健康影響等に係る人材育成国民とのコミュニケーション ③放射線影響等に係る拠点等の整備連携強化 ④国際的な連携の強化の4つを掲げており本取組を確実かつ計画的に実行していくこととしています

47

第4章

 東日本大震災を契機とした東京電力福島第一原子力発電所における事故により国民の生活地域経済環境に対して甚大な被害を与えたことに対する深い反省を踏まえ現行のエネルギー政策をゼロベースで見直すこととなりました 見直しにあたっては政府一丸となって策定するため国家戦略担当大臣を議長経済産業大臣と環境大臣兼原発事故の収束及び再発防止担当大臣を副議長とする「エネルギー環境会議」が設置されましたまた総合資源エネルギー調査会に「基本問題委員会」が設置される等相互に独立した関係審議会等が設置され議論が行われました 前述の「エネルギー環境会議」の方針によりエネルギー基本計画の策定に先立って「エネルギーミックスの選択肢」を国民に提示することとされ「基本問題委員会」において他の関係審議会の報告を受けつつ「エネルギーミックスの選択肢」の原案が策定されました 「エネルギー環境会議」はこの「エネルギーミックスの選択肢」の原案を原子力委員会や中央環境審議会等で検討されている原子力政策や地球温暖化対策の選択肢の原案と合わせてとりまとめ「エネルギー環境に関する選択肢」を統一的に提示し国民的な議論を進め「革新的エネルギー環境戦略」の決定を行い

ますエネルギー基本計画は関係行政機関の長の意見を聴くとともに総合資源エネルギー調査会の意見を聴いて経済産業大臣が案を作成し閣議で決定することとなっています 本章では2012年 7月末頃までのエネルギー環境会議総合資源エネルギー調査会基本問題委員会をはじめとする関係審議会等の構成検討結果等を概観します

第1節 電力システム改革関連

1対応の方向性

 電力システム改革に関する論点整理を目的として2011年11月に「電力システム改革に関するタスクフォース」を経済産業省内に立ち上げ同年12月末に「電力システム改革に関するタスクフォース論点整理」をとりまとめましたまた同月総合資源エネルギー調査会基本問題委員会において「新しい「エネルギー基本計画」策定に向けた論点整理」がとりまとめられましたこれらを踏まえ今後のあるべき電力システムの具体的な制度設計を行うため2012年 2月に総合資源エネルギー調査会総合部会に「電力システム改革専門委員会」を設置しました本専門委員会において8回にわたり精力的な検討を進め同年7月13日に「電力システム改革の基本方針」がとりまとめられました本基本方針では小売全面自由化卸電力市場の活性化送配電部門の広域性中立性の確保等が改革の基本方針として提言されています

2 電力システム改革専門委員会の発足に至る背景委員会の構成経過今後の動き

(1)背景 2011年12月にとりまとめた「電力システム改革に関するタスクフォース論点整理」においては「低廉で安定的な電力供給」を実現する「より競争的で開かれた電

第4章東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえたエネルギー政策の見直し

エネルギー環境会議

国民的議論

エネルギー環境の選択肢の原案提示

革新的エネルギー環境戦略提示

基本問題委員会事故調査委員会(1)

原発事故の技術知見委員会(2)

電力システム改革専門委員会

省エネルギー部会

天然ガスシフト基盤整備専門委員会

資源燃料政策(3)

内閣官房原子力委員会等

総合資源エネルギー調査会

(注) 1 東京電力福島原子力発電所における事故調査検証委員会等   2 東京電力福島第一原子力発電所事故の技術的知見に関する意見

聴取会意見聴取会   3 資源燃料政策に関する有識者との意見交換会

第140-0-1  エネルギー基本計画策定関連の政府内における主な検討の場

48

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第4章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえたエネルギー政策の見直し

第4章

力市場」を構築することを基本理念とし「新たな需要抑制策」「需要家の選択」「供給の多様化」「競争の促進と市場の広域化」「安定性と効率性の両立」について10の論点をまとめました また同月にとりまとめられた「新しい「エネルギー基本計画」策定に向けた論点整理」においては「大規模集中電源に大きく依存した現行の電力システムの限界が明らかになったことを踏まえ今後は需要家への多様な選択肢の提供と多様な供給力(再生可能エネルギーコジェネ自家発電等)の最大活用によってリスク分散と効率性を確保する次世代システムを実現していく必要があるとしていますまたこうしたシステムを盤石にするためにも送配電ネットワークの強化広域化や送電部門の中立性の確保が重要な課題である」等の基本的方向性が示されました この基本的方向に沿って今後のあるべき電力システムの具体的な制度設計を行うことが喫緊の課題であることから将来のエネルギーミックスのあり方と併せこれを支える電力システムについて専門的な検討を行うため総合資源エネルギー調査会総合部会の下に「電力システム改革専門委員会」を設置しました

(2)委員会の構成 電力システム改革専門委員会の委員は学識経験者や消費者代表者等を含む11名から構成されています 一般電気事業者や特定規模電気事業者(新電力)はオブザーバーとして参加しました

(3)経過 第1回(2012年 2月 2日) 議題 電力システム改革に関するタスクフォース「論

点整理」について 第2回(2012年 3月 6日) 議題需要サイドの取組について  東京都富士フイルム株式会社一般電気事業者(中部電力株式会社関西電力株式会社)新電力(株式会社エネット)からプレゼンテーション

 第3回(2012年 4月 3日) 議題供給の多様性について  株式会社日本製紙グループ本社東京ガス株式会社JX日鉱日石エネルギー株式会社一般電気事業者(中部電力株式会社関西電力株式会社)新電力(株式会社エネット)からプレゼンテーション

 第4回(2012年 4月 25日) 議題競争の促進と広域化について  フランス送電会社(RTE)公正取引委員会一般電気事業者(中部電力株式会社関西電力株式会社)新電力(株式会社エネット)からプレゼンテーション

 第5回(2012年 5月 18日) 議題 総合的な検討(1) 小売全面自由化送配電部

門の広域化中立化 第6回(2012年 5月 31日) 議題 総合的な検討(2) 送配電部門の広域化中立

化卸電力市場の活性化等 第7回(2012年 6月 21日) 議題 総合的な検討(3) 送配電部門の広域化中立

化卸電力市場の活性化等 第8回(2012年 7月 13日) 議題 総合的な検討(4) 電力システム改革の基本方

針案

(4)電力システム改革の基本方針①需要サイド(小売分野)の改革 ア)小売全面自由化(地域独占の撤廃)  一般電気事業者による地域独占を撤廃し小売全面自由化を実施  ただし「自由化」によって供給の空白地帯が生じないよう最終保障サービス等「自由化の代償措置」には周到な設計を行う(年内を目処に詳細設計)

委員会名簿伊藤 元重(委員長) 東京大学大学院経済学研究科教授

安念 潤司(委員長代理) 中央大学法科大学院教授

伊藤 敏憲 伊藤リサーチアンドアドバイザリー代表取締役兼アナリスト

大田 弘子 政策研究大学院大学教授

小笠原 潤一 (一財)日本エネルギー経済研究所電力グループマネージャー研究主幹

柏木 孝夫 東京工業大学特命教授高橋 洋 富士通総研経済研究所主任研究員

辰巳 菊子 (公社)日本消費生活アドバイザーコンサルタント協会常任顧問

八田 達夫 学習院大学特別客員教授松村 敏弘 東京大学社会科学研究所教授横山 明彦 東京大学大学院新領域創成研究科教授

49

第2節 天然ガス

第4章

 イ)料金規制の撤廃(総括原価方式の撤廃)  競争の進展に応じて一般電気事業者の供給義務や料金規制を撤廃

②供給サイド(発電分野)の改革 ア)発電の全面自由化(卸規制の撤廃)  卸規制(発電事業者から一般電気事業者への長期大量の電力供給に供給義務や料金規制を課している)を撤廃する

  ただし卸規制の撤廃が需給に混乱を与えないよう移行期間における十分な配慮を行う

 イ)卸電力市場の活性化  特定の供給区域の枠を超えて全国大で効率的な電源の有効活用を実現するため卸電力市場で既存の事業者の電源が活発に取引される方策を講じる  具体的には少なくとも供給予備力を超える電源は卸市場に投入するとの考え方を前提とし取引ルールを設計する

③送配電部門の改革(中立性公平性の徹底) ア)送配電部門の「広域性」の確保  これまでの「供給区域ごとに需給を管理する」仕組みを改めより広域的全国的に供給力を有効活用するため広域系統運用機関を設立する イ)送配電部門の「中立性」の確保  ①機能分離型または②法的分離型の方式により各供給区域の送配電部門の中立性を確保  機能分離型hellipエリアの系統計画系統運用の機能を一般電気事業者の送配電部門から分離し広域系統運用機関に移管する方式  法的分離型hellipエリアの系統計画系統運用の機能から送配電設備を所有し開発保守する業務までを含む送配電部門全体を別法人とする方式  いずれの方式であっても中立性確保のための人事予算等に係る行為規制や送配電部門と発電小売部門との情報の取扱契約の取扱の公平性の確保が不可欠であるこうした規制の内容や様々な技術的論点を精査しながら年内を目処に詳細設計を行う ウ)地域間連系線等の強化  50Hzと 60Hzの周波数変換設備と東西連系線の容量を増強(120万kWrarr210万kWrarr300万kW)  北海道本州間連系線の増強(60万kWrarr90万kW)を早期に実現風力発電の導入状況等を踏まえて

更なる増強を検討  風力発電の重点整備地区について政策的支援も含め送配電網整備の具体的方法を検討

④詳細設計へ向けて  改革実行の際には世界で最も高い信頼性を有する我が国の技術と人材の蓄積やる気を尊重する  以上の基本方針の下制度改革を着実に実行本制度改革は新たなシステムへの投資と大きな事業体制の変革を伴うものであり綿密な詳細設計と十分な時間をかけた手順工程表が必要  年内を目処に各課題について更に検討を進める

(5)今後の動き 電力システム改革専門委員会において取りまとめられた「電力システム改革の基本方針」を踏まえ制度改革を着実に実行することとしています詳細な制度設計については年内を目途に検討を進めることとしています

第2節 天然ガス

1 天然ガスシフト基盤整備専門委員会について

(1)背景 総合資源エネルギー調査会総合部会基本問題委員会(以下「基本問題委員会」という)において昨年12月に公表された論点整理では「天然ガスシフトを始め環境負荷に最大限配慮しながら化石燃料を有効活用す

広域系統運用者(全国機関)系統計画業務の実施広域連系線(地域間連系線+主要幹線)の運用エリア(九電力管内)系統運用者への系統運用監視勧告電力市場の形成

エリアの系統運用者(地方支部)

エリアの系統運用系統計画機能

エリアの系統運用者(電力事業者の送配電部門)人事予算等の独立性ルールが必要エリアの系統運用系統計画機能

+送配電設備の所有(開発保守)電力事業者の送配電部門

電力事業者の発電小売部門 電力事業者の発電小売部門

送配電設備の所有(開発保守)

規制対象

同一組織パターン1機能分離型

(機能を分離)パターン2法的分離型

(会社を分離)

広域連系線の開発保守指示

広域連系線の開発保守指示

エリア送配電設備の開発保守指示

別会社

第141-2-1 新しい送配電部門のイメージ像

50

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第4章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえたエネルギー政策の見直し

第4章

る(化石燃料のクリーン利用)」ことを基本的方向の一つとして更に議論を深めていくこととされました 天然ガスシフトの動きについては世界的に見てもいわゆる「シェールガス革命」といった新たな供給源の立ち上がりによって天然ガスの可採年数が大幅に増加し長期的にも世界全体の需要を満たすことができる見込みも高いことから今後天然ガスが果たす役割への期待はより一層高まってきています 我が国においては東日本大震災を契機として大規模集中電源に大きく依存した現行の電力システムの限界が明らかになりました今後は原子力発電への依存度をできる限り低減させていく方向性の中で再生可能エネルギーコジェネ自家発等の多様な分散型電源の供給力の最大活用によってリスク分散と効率性を確保する次世代システムを実現していくとともに熱の有効利用を含めた最先端の省エネルギー社会を実現していくこと等が必要となりますその中で化石燃料の中でも最もクリーンでかつ世界に広く分散して賦存する天然ガスへのシフトは一層重要な課題となるものと考えられます 一方天然ガスの供給については前述のとおり東日本大震災によって今後仮に一極集中したLNG基地に天然ガス供給を依存する大都市圏において基地の機能停止が起こった場合長期にわたり供給が途絶するリスクがあることが顕在化しました このような状況を踏まえれば今後の我が国の天然ガスシフトに向けては一段と高いレベルの天然ガス供給基盤のセキュリティが不可欠です 加えて天然ガスの供給基盤にはセキュリティの向上のみならず発電用燃料都市ガス原料としての天然ガスの利用可能性向上ガス価格低廉化の可能性二酸化炭素削減等といった多様な意義があり今後はこれらの意義を踏まえつつ今後の天然ガスシフトを支えるに十分な天然ガス供給基盤の整備を進めていく必要があります 更に将来的には国際天然ガスパイプラインネットワークの形成やメタンハイドレートの開発等の動きも視野に入れながら天然ガス利用のメリットを最大限享受できるような供給基盤が長期的に構築されていくことも期待されます 以上を踏まえ天然ガスシフトに向けた基盤(広域パイプライン等)整備に関する専門的検討を行うため総合資源エネルギー調査会総合部会の下に「天然ガスシフト基盤整備専門委員会」を設置しました

(2)委員構成委員長 横倉 尚 武蔵大学経済学部教授委員 柏木 孝夫 東京工業大学特命教授 橘川 武郎 一橋大学大学院商学研究科教授 古城 誠 上智大学法学部教授 八田 達夫 学習院大学特別客員教授 松村 敏弘 東京大学社会科学研究所教授 山内 弘隆 一橋大学大学院商学研究科教授

(3)審議経過第1回(2012年 1月 17日) 本委員会で明らかにしていくべき論点について 我が国の天然ガス及びその供給基盤の現状と課題

第2回(同年2月27日)  天然ガスシフトに向けた基盤整備について事業者及びユーザー企業より意見聴取

  bull 中堅中小ガス事業者(仙台市ガス局)  bull 都市ガスユーザー企業(ブリヂストン)  bull  広域でパイプライン整備に取り組んでいる事

業者(大阪ガス中部電力国際石油開発帝石)

  bull  地下貯蔵に知見を有する事業者(石油資源開発)

第3回(同年4月6日)  これまでの議論やヒアリング結果を踏まえた論点整理について

 海外調査結果について

第4回(同年5月15日)  東京ガス大阪ガス東邦ガスからの供給継続性に関するヒアリング

 天然ガスシフト基盤整備の新しいあり方について

第5回(同年6月13日) とりまとめに向けた議論

第6回(同年6月26日) 報告書(案)について

2対応の方針

 我が国における今後の天然ガスシフトを見据えればそれを支える広域天然ガスパイプラインネットワーク

51

第3節 石油LPG

第4章

という供給基盤をできるだけ早期に構築していく必要があります

(1)整備基本方針の策定 本委員会の報告書では我が国全体における全体最適的な観点からの広域天然ガスパイプライン地下貯蔵施設等の天然ガス供給基盤の整備基本方針を国が策定し民間事業者の活力を最大限活用していくことを官民の役割分担の基本的考えとし天然ガス供給基盤整備を推進していくこととされました 整備基本方針の策定に当たっては供給セキュリティ向上利用可能性向上価格低廉化二酸化炭素削減等の多様な意義社会的効果という要素のみならず将来の国際パイプラインとの連結やメタンハイドレートの活用も視野に入れつつ世界的な「天然ガスの黄金時代」の恩恵を国民が享受できるような環境を目指していく必要があります 本委員会では整備基本方針で定めるべき内容として以下の事項が挙げられました 整備ルート等の設定 スペック熱量等の設定 整備の時間軸プライオリティ

(2)事業者間連携に向けた利害調整 報告書では整備基本方針と民間事業者との利害が一致しない場合の調整や多様なエネルギー事業者同士の連携を促進するためエネルギー事業者間の利害調整を検討すべきとされました

(3)整備費用負担の在り方 基盤整備に当たっては事業収入に加えセキュリティ向上利用可能性向上価格低廉化二酸化炭素削減等といった社会的効果の部分も含め費用負担の問題を解決する必要があります 費用負担については「受益者負担」の原則を基本としつつも受益の種類によって負担の手法は様々であり特定負担一般負担全国民負担等の様々な組み合わせが考えられる上受益の範囲程度については個別事業に基づく調整が必要となります本委員会では整備基本方針において受益者負担の手法範囲程度時点の調整等の「基本的な考え方」を示しそれに基づき整備事業ごとに負担の在り方を検討することとされました

(4)整備促進の在り方(コスト低減需要増加) 整備費用そのものの低減のため関係規制の緩和や運用見直しを進め効果の高い財政支援措置等を検討するとともにパイプライン整備と一体的に天然ガス火力や天然ガスコジェネ等の新規沿線需要を喚起し事業採算性を高めていくことが必要とされました

3今後の方向性

 今後は新たなエネルギー基本計画の内容を踏まえ様々な分野の有識者や事業者の意見知見を傾聴しつつ必要な取組を速やかに講じていくこととしています

第3節 石油LPG

1対応の方向性

(1)資源確保戦略 第15回パッケージ型インフラ海外展開関係大臣会合(2012年 6月 27日開催)において「資源確保戦略」が報告されました本戦略は「資源確保指針」(2008年 3月 28日閣議了解)の考え方を踏まえつつ世界的な資源確保競争の激化や東日本大震災以降の化石燃料の調達コスト増大等資源を巡る国内外の厳しい情勢に鑑み現在の資源確保の現状及び今後の見通しをあらためて分析し我が国の官民の持つリソースを最大限活かすために策定されたものです 資源確保戦略の5本柱として①資源獲得の重要国に対する政府一体となった働きかけ②資源ユーザー産業の上流開発への関与の促進③資源国に対する協力のパッケージ化④資源権益獲得に対する資金供給の機能強化⑤国際的なフォーラムやルールの積極活用を重点的に取り組むこととしていますなお今後のエネルギー政策の見直し結果等に伴い本戦略についても必要に応じて見直しが行われる予定です

(2)国内災害対策①石油(ア)備蓄 東日本大震災により被災した久慈国家備蓄基地において原油流出等の二次被害を防ぐため仮設復旧工事を早期に行うとともに今後の津波対策として非常用電源等の重要設備を高台に移設するための対応を

52

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第4章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえたエネルギー政策の見直し

第4章

行いました また他基地においては地震津波対策として防災訓練や基地の耐震診断等を実施する等国家備蓄基地の災害対応能力向上を図りました(イ)流通 東日本大震災を教訓とし全国的な防災減災の観点から緊急車両への優先給油を含め地域における石油製品の供給体制の整備が重要ですそのため地域において中核となるSSを選定し自家発電設備等の災害対応能力を強化する設備投資に支援を行いました

② LPG 東日本大震災においては冠水による電気系統の故障や停電による出荷設備の一時的停止等により出荷が遅れたり災害時を想定した情報収集体制が脆弱であったため適切な情報収集に時間がかかってしまったLPガス基地充填所が多く存在しましたこのことからLPガス出荷基地及び充填所の災害対応能力及び情報収集情報提供体制の強化の必要性が改めて認識されたため出荷基地や充填所に対し自家発電設備や衛星電話等の設置を行う等災害対応能力の強化等に取り組んでいます

(3) 備蓄法(「石油の備蓄の確保等に関する法律」)改正

①背景 東日本大震災発生時には製油所油槽所等やタンクローリー等の物流網が広範囲にわたって被災したため政府石油業界をあげて供給体制の早期立て直しに取り組みましたまたこのとき国内災害時としては初めて石油会社等の石油の基準備蓄量を引き下げ民間の備蓄石油を放出できるよう措置することとしました

②概要 この震災時の経験を踏まえ1970年代の石油ショックの経験から主に海外からの原油供給が不足する事態に備えて制定された「石油の備蓄の確保等に関する法律」について(a)災害時における国内の特定の地域への石油の供給不足時に石油会社等が備蓄石油を放出するための要件を緩和し(b)一定規模以上の石油業者

に対し共同で地域ごとに災害時の連絡体制や設備の共同利用の方法等を定めた計画の作成を義務付ける規程を加える等の改正を行うことで災害時にも確実に石油を供給する体制を強化することとしました同改正案22は2012年 2月 10日に閣議決定し国会に提出されました

2 資源燃料政策に関する有識者との意見交換会

 本会は「エネルギー需給安定行動計画」(2011年 11月 1日エネルギー環境会議決定)を踏まえ資源燃料政策のうち先行して取り組むべき事項について個別施策の具体化な議論を行ために全5回わたり開催されましたまた従来の総合資源エネルギー調査会にとらわれずに意見交換会を行うため消費者被災自治体防災物流の専門家資源燃料のユーザ産業等の多岐にわたりメンバーを募集し並行して会合の開催と同時に事務局から示された「たたき台」をホームページで公表し国民各層からも広く意見を募集しました 本会は「災害時における石油ガスの安定供給」と「世界的な資源需要の高まりや災害等を踏まえた資源開発確保」という二つのテーマを設け前期テーマでは東日本大震災後に生じた供給支障の教訓をふまえた初動対応の迅速化大規模災害を見越した災害に強い供給体制の整備について検討を行いました後期テーマでは国際的な資源需要の高まり震災後の新たな資源需要を踏まえた化石燃料や鉱物資源地熱資源の開発の促進に向けての体制の検討を行いました とりまとめ後にWEB上で「資源燃料の安定供給確保のための先行実施対策」を公表し今後の資源確保の政府方針を示していきました

第4節 エネルギー環境会議 エネルギーシステムの歪み脆弱性を是正し安全安定供給効率環境の要請に応える短期中期長期からなる革新的エネルギー環境戦略及び2013年以降の地球温暖化対策の国内対策を政府一丸となって策定するため2011年 6月 7日にエネルギー環境会議が設置されました本会議は国家戦略担当大臣を

22 災害時における石油の供給不足への対処等のための石油の備蓄の確保等に関する法律等の一部を改正する法律案です

53

第4節 エネルギー環境会議

第4章

議長経済産業大臣と環境大臣兼原発事故の収束及び再発防止担当大臣を副議長とするものですエネルギー環境戦略の白紙からの見直しに先立ち2011年 7月 29日に「革新的エネルギー環境戦略策定に向けた中間的な整理」をまとめ原子力発電所への依存度低減分散型システムへの移行国民的議論の展開という三つの大きな方向性を提示しました エネルギー環境会議は2011年 10月 3日に「コスト等検証委員会」を設置しその検討の結果として同年12月 19日に同委員会報告書により戦略見直しの前提条件となる社会的費用も含めた電源別の発電コストを明らかにしましたまた同月21日に原子力発電所への依存度低減という方針を実現する上で化石燃料への依存度低減を旨とするエネルギー安全保障との両立をどう図るのか地球温暖化対策との両立をどう図るのか経済性に優れ安全なエネルギー確保をどう現実のものとするのかといった視点から春を目途にまずはエネルギー環境戦略に関する複数の選択肢を提示しその上で夏の戦略決定につなげるという基本方針を提示しました この基本方針に基づき原子力委員会総合資源エネルギー調査会及び中央環境審議会は原子力政策エネルギーミックス国内温暖化対策をどう組み直すのかという視点で選択肢提示に向けた検討を行いました2012年 6月 8日にエネルギー環境会議はこれら関係会議体での検討をとりまとめ統合的な選択肢案を提示するため選択肢設計の中間的整理を決定しました 更に関係会議体がこの中間的整理を踏まえながら検討を進め2012年 6月 29日に「エネルギー環境に関する選択肢」を提示しましたこの中で政府は新しいエネルギー選択として「原発からグリーンへ」とい

う大きな方向性のもと2030年に向け原子力発電所低減の度合いや再エネ省エネルギーの拡大の度合いやスピードが異なるゼロ1520~25の三つのシナリオを提示しました エネルギー環境会議ではこの三つのシナリオをもとに国民同士の対話が進むよう国民的議論を更に展開しエネルギー環境の選択肢に関する情報提供データベースの整備意見聴取会の全国11カ所での開催討論型世論調査パブリックコメントの募集等を行いました

1 エネルギー環境の選択肢に関する情報提供データベースの整備

 内閣官房国家戦略室ホームページに特設サイト「話そうldquoエネルギーと環境のみらいrdquo」を開設し三つの選択肢が決定されるまでの議論の経過や元となる考え方やデータこの課題に関する様々な分野の有識者の声等の提供を行いました(第144-1-1)

2意見聴取会

 2012年 7月 14日のさいたま市をはじめとして全国11カ所で「エネルギー環境の選択肢に関する意見聴取会」を実施しました(福島会場では「エネルギー環境の選択肢に関する福島県民の意見を聴く会」として開催)

(1)実施形式 参加者は一会場100~200名で希望者を公募し抽選で選出し聴取会をインターネットで中継配信しました 聴取会では担当省庁(内閣官房経済産業省環境省)の政務が出席し冒頭政府から選択肢について説明しましたその後に希望者を公募し抽選で選出した意見表明者全員の意見を聞いた上で意見表明者による追加コメント及びやり取りを行いました意見表明者の人数は当初三つのシナリオごとに3名ずつとしていましたが途中から人数を12名に拡大し三つのシナリオ以外の意見の表明者も追加し更に意見表明希望者の割合に応じて人数を配分することとしましたまた福島県民の意見を聴く会ではシナリオの区別なく意見表明者を公募し30名の意見表明者が陳述することとしました参加者に対しては会場でアンケートを実施しました

63

10

26

2010年実績 ゼロシナリオ 15シナリオ 20~25シナリオ

現行エネルギー基本計画

65

35

55

30

15

50 50

30

20

25

25

20

45

35

火力

原子力

再生可能エネルギー

第144-0-1  各シナリオにおける発電構成(2030年)

54

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第4章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえたエネルギー政策の見直し

第4章

(2)開催場所開催スケジュール7月14日 さいたま市7月15日 仙台市7月16日 名古屋市7月22日 札幌市大阪市7月28日 富山市7月29日 広島市那覇市8月1日 福島市(福島県民の意見を聴く会)8月4日 高松市福岡市

3討論型世論調査

 「エネルギー環境の選択肢に関する討論型世論調査実行委員会」23が政府のエネルギー環境会議より提示された「エネルギー環境に関する選択肢」(2012年 6月 29日)に関する「討論型世論調査」を2012年7月上旬から実施しました24

(1)討論型世論調査の概要 討論型世論調査とは複雑な政策課題についての市民の表面的な理解の下での意見を調べる通常の世論調査に加え無作為に抽出された属性や意見の異なる市民が当該課題について学習し専門家の情報提供を受け市民同士での議論を経ることにより熟慮した上での意見の変化を調べる手法です同手法は米国スタンフォード大学のフィシュキン教授らにより考案され世界全体で40回以上国内では過去5回実施されてきました

(2)具体的な調査方法①最初に無作為に抽出された一般市民に対して通常と同様の世論調査(T1)を行う②その中からあらかじめ定めた日に1カ所に集まり開催する「討論フォーラム」に参加する者を無作為に抽出し討論課題についてバランスよく情報をまとめた討論資料を郵送し学習いただく③討論フォーラムの最初に2度目の意向調査(T2)を行う④討論フォーラムに参加した市民を小グループに分けて訓練されたモデレータの司会のもとで市民同士で討論を行う「小グループ討論」と参加者が専門家(パネリスト)に質問を行う「全体会議」を繰り返す

23 実行委員会が討論型世論調査の企画運営を行い中立的な運営を担保する方法の一つとして監修委員会の監修専門家委員会の意見や助言の提供第三者検証委員会による実行委員会から独立した立場での討論型世論調査の実施過程の検証が行われました24 2012 年 7 月 12 日に実行委員会より今回の討論型世論調査は無作為抽出による「電話世論調査」を 7月上旬から中旬に2日間の「討論フォーラム」を 8月 4日5日に行う事が発表されました

第144-1-1 国民的議論パンフレット(ジュニア用)より

55

第5節 エネルギー基本計画の検討

第4章

⑤討論フォーラムの最後に3度目の調査(T3)を行い三つの調査結果の変化を分析する

4パブリックコメント

 インターネット郵送FAXで「エネルギー環境に関する選択肢」に対する意見の募集を2012年 7月 2日から開始しました当初7月末日を締切としていましたが同年7月13日に締切を同年8月12日まで延長しました

第5節 エネルギー基本計画の検討

1基本問題委員会の設置

 エネルギー基本計画はエネルギー政策の基本的な方向性を示すためにエネルギー政策基本法に基づきエネルギーの需給に関する基本的な方針や講ずべき施策等を内容とする政府が策定する計画であり関係行政機関の長の意見を聴くとともに総合資源エネルギー調査会の意見を聴いて経済産業大臣が案を作成し閣議で決定することとなっています 直近のエネルギー基本計画は2010年 6月に策定されましたが東日本大震災及び東京電力福島第一原子力発電所の事故を踏まえエネルギー政策をゼロベースから見直し新たな計画を策定すべく2011年 10月に総合資源エネルギー調査会総合部会に基本問題委員会(以下委員会と表記)が設置され委員長に三村明夫総合資源エネルギー調査会総合部会長が就任しました

2委員会の議論の経過

 委員会は2011年 10月 3日に第1回委員会が開催されましたエネルギーに関する様々な議題についてこれまで約10カ月に亘り計30回開催され25エネルギーに関する相互に独立した審議会等からの報告等や議論が行われています

(1) 新しい「エネルギー基本計画」策定に向けた論点整理(2011年 12月 20日)

 第1回委員会以降委員会では様々な論点について幅広い意見が出され議論が行われましたそれを受け第6回基本問題委員会(2011年12月6日)に『新しい「エネルギー基本計画」策定に向けた論点整理(案)』が提示され第6回委員会第7回委員会(2011年 12月 13日)で議論が行われましたとりまとめられた論点整理では今後の本格的な議論の出発点として主要な論点についてこれまでの議論の大きな方向感が整理されました

(2) 「エネルギーミックスの選択肢の原案について」(2012年 6月19日)

 第27回委員会(2012年 6月 19日)においてエネルギー環境会議に報告を行う「エネルギーミックスの選択肢の原案」が取りまとめられ四つのエネルギーミックスの選択肢26がエネルギー環境会議に報告することとされました 提示された四つの選択肢はそのうち三つの選択肢(選択肢1~3)が「定量的なイメージ」と「必要な対策」の双方をパッケージとして含むものとされ四つ目の選択肢は「定量的なイメージ」を明示しない選択肢とされました(選択肢4)

①選択肢1意思を持って原子力発電比率ゼロをできるだけ早期に実現し再生可能エネルギーを基軸とした電源構成とする 《2030年の電源構成のイメージ》 原子力発電 0 再生可能エネルギー27 約 35 火力発電28 約 50 コジェネ29 約 15 省エネルギー(節電)30 約2割(約1割) エネルギー起源CO2排出量31 約16

25 2012 年 7 月 30 日現在26 同時に参考として「不確実な状況下での幅広い選択肢を確保するため意思を持って現状程度の原発の設備容量を維持し原子力発電比率を 2010 年度より拡大させる」シナリオについて経済影響や二酸化炭素排出量等の試算を行い上記のⅰ~ⅳの選択肢と併せて提示することとされました27 「再生可能エネルギー」には本来廃棄物発電は含まれませんがここでは便宜上廃棄物発電を含めたものが「再生可能エネルギー」とされました28 火力発電には自家発(モノジェネのみ)を含みます29 コジェネには家庭用燃料電池を含みますまた売電分(系統への逆潮流)を含みます

56

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第4章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえたエネルギー政策の見直し

第4章

30 省エネルギー及び節電の数字は2010 年度実績比です31 参考として1990 年比の数値を基本問題委員会事務局が試算した数値です

②選択肢2意思を持って再生可能エネルギーの利用拡大を最大限進め原子力依存度を低減させる併せて原子力発電の安全強化等を全力で推進する情勢の変化に柔軟に対応するため2030年以降の電源構成はその成果を見極めた上で本格的な議論を経て決定する 《2030年の電源構成のイメージ》 原子力発電 約 15 再生可能エネルギー 約 30 火力発電 約 40 コジェネ 約 15 省エネルギー(節電) 約 2割(約1割) エネルギー起源CO2排出量 約20

③選択肢3安全基準や体制の再構築を行った上で原子力発電への依存度は低減させるがエネルギー安全保障や人材技術基盤の確保地球温暖化対策等の観点から今後とも意思を持って一定の比率を中長期的に維持し再生可能エネルギーも含め多様で偏りの小さいエネルギー構成を実現する

 《2030年の電源構成のイメージ》 原子力発電 約 20~25 再生可能エネルギー 約 20~25 火力発電 約 35 コジェネ 約 15 省エネルギー(節電) 約 2割(約1割) エネルギー起源CO2排出量 約23

④選択肢4社会的コストを事業者(更には需要家)が負担する仕組みの下で市場における需要家の選択により社会的に最適な電源構成を実現する 《2030年の電源構成のイメージ》本選択肢についてはエネルギーミックスの定量的なイメージは提示しない

 以上の四つの選択肢がエネルギー環境会議に報告されエネルギー環境会議はこの原案を原子力委員会や中央環境審議会等で検討されている原子力政策や地球温暖化対策の選択肢の原案と合わせてとりまとめ「エネルギー環境戦略に関する選択肢」を統一的に提示し国民的な議論を進めることとなりました

(別表)第145-2-1 基本問題委員会 委員一覧(2012年 7月 30日現在)三村 明夫(委員長) 新日本製鐵代表取締役会長阿南 久 全国消費者団体連絡会事務局長飯田 哲也 NPO法人環境エネルギー政策研究所所長植田 和弘 京都大学大学院経済学研究科教授槍田 松瑩 三井物産取締役会長

枝廣 淳子 ジャパンフォーサステナビリティ代表幸せ経済社会研究所所長

大島 堅一 立命館大学国際関係学部教授柏木 孝夫 東京工業大学特命教授金本 良嗣 政策研究大学院大学教授学長特別補佐北岡 伸一 東京大学大学院法学政治学研究科教授橘川 武郎 一橋大学大学院商学研究科教授河野 龍太郎 BNPパリバ証券経済調査本部長チーフエコノミスト榊原 定征 東レ代表取締役会長

崎田 裕子 ジャーナリスト環境カウンセラーNPO法人持続可能な社会をつくる元気ネット理事長

菅家 功 日本労働組合総連合会副事務局長高橋 洋 富士通総研主任研究員辰巳 菊子 (公社)日本消費生活アドバイザーコンサルタント協会常任顧問

57

第5節 エネルギー基本計画の検討

第4章

田中 知 東京大学大学院工学系研究科教授寺島 実郎 (一財)日本総合研究所理事長豊田 正和 (一財)日本エネルギー経済研究所理事長

中上 英俊 住環境計画研究所代表取締役所長東京工業大学統合研究院特任教授

八田 達夫 学習院大学特別客員教授伴  英幸 認定NPO法人原子力資料情報室共同代表松村 敏弘 東京大学社会科学研究所教授山地 憲治 (公財)地球環境産業技術研究機構理事研究所長

(別表)第145-2-2 各開催回の議題と概要(第30回委員会まで)開催回 日時 議題 概要第1回 2011年

10月3日エネルギー基本計画の見直しについて

①「『革新的エネルギー環境戦略』策定に向けた中間的な整理」の報告②自由討議

第2回 10月26日 ベストミックスを考える視点等 阿南委員飯田委員橘川委員崎田委員及び高橋委員からのプレゼンテーションとそれに基づく質疑等

第3回 11月9日 ベストミックスと原子力の位置づけ国民視点からのエネルギー政策等

①ベストミックスと原子力の位置づけについて田中委員及び伴委員からのプレゼンテーションとそれに基づく質疑等②国民視点からのエネルギー政策について枝廣委員河野委員辰巳委員及び八田委員からのプレゼンテーションとそれに基づく質疑等

第4回 11月16日 国際情勢とベストミックスユーザーからみたベストミックス等

①国際情勢とベストミックスについてファンデルフーフェンIEA事務局長寺島委員及び豊田委員からのプレゼンテーションとそれに基づく質疑等②ユーザーからみたベストミックスについて榊原委員及び中上委員からのプレゼンとそれに基づく質疑等

第5回 11月30日 あるべきベストミックスと政策市場技術の関わり等

槍田委員柏木委員金本委員松村委員山地委員及び植田委員からのプレゼンとそれに基づく質疑等

第6回 12月6日 論点整理等 ①論点整理について議論②第2回核セキュリティサミット開催に向けた韓国の賢人会議について北岡委員によるプレゼンとそれに基づく質疑等③スウェーデンのエネルギー政策についてコーベリエル元スウェーデンエネルギー庁長官からのプレゼンとそれに基づく質疑等④2011年夏の電力需要対策のフォローアップについて

第7回 12月12日 論点整理等 ①論点整理について議論②当面の議題等について議論

第8回 2012年1月18日

電力システム改革についてエネルギー環境会議による「基本方針」及びコスト等検証委員会の結果 等

①電力システム改革について議論②エネルギー環境会議による「基本方針」及びコスト等検証委員会の結果等について議論③地球温暖化対策の経緯と現状④資源燃料の安定供給確保のための先行実施対策⑤電力システム改革に関するタスクフォース論点整理

第9回 1月24日 原子力発電の位置づけ 等 原子力発電の位置づけ等について議論第10回 2月1日 東京電力福島原子力発電所に

おける事故調査検証委員会の中間報告について新たな原子力安全規制体系の検討状況について 等

①東京電力福島原子力発電所における事故調査検証委員会の中間報告について②新たな原子力安全規制体系の検討状況について③東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の技術的知見に関する意見聴取会(原子力安全保安院)の中間論点整理について④東京電力による賠償進捗状況⑤東京電力福島原子力発電所における事故調査検証委員会 中間報告 について⑥内閣官房原子力安全規制組織等改革準備室 新たな原子力安全規制体系について⑦福島第一事故の技術的知見に関する意見聴取会 中間とりまとめ(案)について⑧世界の原子力賠償制度の概要原子力損害賠償補償契約の補償料率の改定について⑨低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ報告書について⑩原子力被災者への取組について

58

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第4章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえたエネルギー政策の見直し

第4章

32 <ヒアリング対象>電気事業連合会(八木誠会長)株式会社エネット(池辺裕昭社長)石油連盟(天坊昭彦会長)日本ガス協会(鳥原光憲会長)日本 LPガス協会(松澤純会長)33 <ヒアリング対象>全国知事会エネルギー環境問題特別委員会(橋本昌委員長(茨城県知事))

第11回 2月9日 省エネルギー節電対策(熱の有効活用を含む)について 等

省エネルギー節電対策(熱の有効活用を含む)等について議論

第12回 2月14日 主要なエネルギー供給事業者団体からのヒアリングと質疑エネルギー安全保障について(委員からの論点提起と質疑) 等

①主要なエネルギー供給事業者団体32からのヒアリングと質疑②エネルギー安全保障について事務局から資料()を提出するとともに飯田委員高橋委員田中委員寺島委員豊田委員八田委員からの論点提起と質疑日本に加え主要国(アメリカ英国フランスドイツスペイン中国インド韓国)の自給率一次エネルギー供給構成電源構成化石燃料輸入先停電時間省エネ等について分析した資料

第13回 2月22日 全国知事会からのヒアリングと質疑再生可能エネルギーの導入拡大の可能性について化石燃料の確保とクリーン利用の可能性について 等

①全国知事会33からのヒアリングと質疑②再生可能エネルギーの導入拡大の可能性について③化石燃料の確保とクリーン利用の可能性について④ドイツやスペインにおける固定価格買取制度の最近の状況 等

第14回 3月7日 原子力発電の位置づけ 等 ①原子力政策大綱の見直しや核燃料サイクル政策の選択肢の検討状況等に関する原子力委員会からの報告及び質疑等②ドイツにおける固定価格買取制度の最近の状況(続報)ドイツ商工会議所が行ったアンケート「明日のエネルギーと資源」の紹介 等

第15回 3月14日 エネルギーミックスの選択肢について 等

①各委員から提出されたエネルギーミックスに関する意見を元にエネルギーミックスの選択肢について議論②「エネルギーの使用の合理化に関する法律(省エネ法)の一部を改正する法律案」の概要

第16回 3月19日 エネルギーミックスの選択肢について 等

各委員から提出されたエネルギーミックスに関する意見を元にエネルギーミックスの選択肢について議論

第17回 3月27日 エネルギーミックスの選択肢について 等

各委員の意見を類型化したエネルギーミックスの選択肢に関する整理(案)を提示しどの選択肢を経済影響分析の対象とするかについて議論

第18回 4月11日 エネルギーミックスの選択肢について 等

エネルギーミックスの選択肢について各選択肢の基本的な考え方や対策等について議論

第19回 4月16日 エネルギーミックスの選択肢について 等

①エネルギーミックスの選択肢について各選択肢の基本的な考え方や対策等について議論②再生可能エネルギーの導入拡大に伴う追加的コスト

第20回 4月26日 エネルギーミックスの選択肢について 等

エネルギーミックスの選択肢について各選択肢の基本的な考え方や対策等について議論

第21回 5月9日 エネルギーミックスの選択肢について 等

エネルギーミックスの選択肢の候補の経済影響分析結果や選択肢の原案の取りまとめ方等について議論

第22回 5月14日 エネルギーミックスの選択肢について 等

①省エネに関する専門的な検証結果について議論②コジェネに関する専門的な検証結果について議論③「エネルギーミックスの選択肢の原案」の整理のあり方について議論

第23回 5月21日 エネルギーミックスの選択肢について 等

①電力システム改革専門委員会及び天然ガスシフト基盤整備専門委員会の検討状況の報告②経済影響分析に係る感度分析の結果について議論③「エネルギーミックスの選択肢の原案」の整理のあり方について議論

第24回 5月24日 エネルギーミックスの選択肢について 等

「エネルギーミックスの選択肢の原案」の整理のあり方について議論

第25回 5月28日 エネルギーミックスの選択肢について 等

①経済影響分析を巡る論点について議論②「エネルギーミックスの選択肢の原案」について議論

第26回 6月5日 エネルギーミックスの選択肢について 等

①「エネルギーミックスの選択肢の原案」について議論②2020年のエネルギーミックスのあり方について議論

第27回 6月19日 エネルギー基本計画の見直しについて(資源燃料政策について 等)

①エネルギー環境会議における選択肢に関する中間的整理について報告②エネルギー基本計画の見直しに関する主要な論点について議論③資源燃料の安定供給の課題と今後の対応について議論

第28回 7月5日 エネルギー基本計画の見直しについて(蓄電池及び水素についてエネルギー基本計画の見直しの主要論点について 等)

①エネルギー環境会議で提示された選択肢について報告②蓄電池及び水素について議論③資源確保戦略について

59

第5節 エネルギー基本計画の検討

第4章

第29回 7月11日 エネルギー基本計画の見直しについて(スマートコミュニティー熱国際エネルギー協力について 等)

①熱の有効利用及びスマートコミュニティについて議論②エネルギー基本計画』の見直しに関する主要な論点について議論③国際エネルギー環境協力について議論④天然ガスシフトに向けた基盤整備について議論

第30回 7月30日 エネルギー基本計画の見直しについて(電力システム改革コジェネ普及策「エネルギー基本計画」の骨子について 等)

①電力システム改革専門委員会の検討結果について報告②コジェネの導入促進のための取組について議論③エネルギーに関する今後の重点施策について議論

60

参考資料

東京電力福島原子力発電所における事故調査検証委員会 最終報告(概要)

はじめに【ⅠⅥはじめに】 平成 23 年 3 月 11 日東京電力株式会社(以下「東京電力」という)福島第一原子力発電所(以下「福島第一原発」という)及び福島第二原子力発電所(以下「福島第二原発」という)は東北地方太平洋沖地震とこれに伴う津波によって損傷し特に福島第一原発では国際原子力放射線事象評価尺度(INES)レベル 7の極めて深刻なシビアアクシデントが発生した 同年 5月 24 日この事故の原因及びこの事故による被害の原因を調査検証し事故による被害の拡大防止及び同種事故の再発防止等に関する政策提言を行うことを目的に閣議決定に基づき当委員会が設置された当委員会はその後福島第一原発及び福島第二原発を始めとする現地の視察関係地方自治体の首長や住民からの意見聴取関係者のヒアリング(対象者数 772 名)等の調査検証活動を行い同年 12 月 26 日に中間報告を取りまとめさらに平成 24 年 7 月 23日に最終報告を取りまとめた 最終報告は中間報告と一体となるものであり主として中間報告後の調査検証の結果を記述したものである この概要は最終報告のうち問題点の考察と提言に当たるⅥ章の記述を中心に簡略化したものである見出しの後の【 】内は「最終報告(本文編)」の主な該当箇所を示す提言は太字で表記している

1 主要な問題点の分析(1)事故発生後の東京電力等の対処及び損傷状況に関する分析a 福島第二原発における現場対処と比較した福島第一原発の問題点【Ⅱ 5(8)Ⅵ 1(1)a】 福島第一原発における事故対処に関する問題点については中間報告に記述したとおりであるがその後の調査で判明した福島第二原発における現場対処の実際と比較して以下のような問題点が改めて明らかとなった

(a)3号機代替注水 福島第一原発 3号機においては高圧注水系手動停止の際に代替手段をあらかじめ準備しなかったことにより6時間以上にわたって原子炉注水が中断した福島第二原発では手順の細目について相違があるものの基本的には次なる代替手段が実際に機能するか否かを確認の上で注水手段の切替えを行うという対応がとられていた 福島第二原発では外部電源が使用可能であったことから作業環境も福島第一原発と比較すると良好であり事態の対応に当たったスタッフは心理的にもより余裕があったと思われるしかしこれらの点を考慮したとしても福島第一原発における対応は適切さを欠いたものであった

(b)2号機 SC 圧力温度の監視 福島第一原発 2号機では平成 23 年 3 月 11 日の全電源喪失以降原子炉隔離時冷却系(RCIC)が作動していたものの電源喪失により制御不能でありいつ停止するかも分からない状況にあった中で同月 12 日 4 時頃以降RCIC の水源を復水貯蔵タンクから圧力抑制室(SC)に切り替えたしかし電源喪失によって残留熱除去系による冷却が期待できない場合にこのような運転方法を長時間継続するとSC の圧力及び温度が上昇しRCIC の冷却機能及び注水機能が低下するほかRCIC が機能しなくなった場合の次なる代替注水手段である消防車を用いた消火系注水に必要な主蒸気逃し安全弁(SR 弁)による減圧操作が困難になるなどのおそれがあったしたがってSC の圧力及び温度を継続して監視するとともにあらかじめ消防車注水ラインを準備しRCIC 停止を待たずに原子炉減圧操作を行う必要があったと考えられるしかし実際には同月 14 日 4 時 30 分頃まで前記のような計測が行われず速やかな代替注水が実施されることもなかった 他方福島第二原発ではRCIC 作動中から間断なく注水を実施することを視野に入れSC の圧力及び水温を監視しながら段階的に SR 弁を開操作して復水補給水系による注水を実施するなどの対応がとられた 前記(a)で述べように福島第一原発と福島第二原発では状況の違いはあるにせよ福島第一原発における対処は福島第

61

参考資料

二原発におけるそれと比べて適切さが欠けていたと指摘せざるを得ない

b 損傷状況の継続した徹底的な解明の必要性【Ⅵ 1(1)b】 当委員会は可能な限りの事実の調査検証を行ってきたが現地調査における困難性や時間的制約等のため福島第一原発の主要施設の損傷が生じた箇所その程度時間的経緯を始めとする全体的な損傷状況の詳細放射性物質の漏出経緯原子炉建屋爆発の原因等についていまだに解明できていない点も存在する国電力事業者原子力発電プラントメーカー研究機関関連学会といったおよそ原子力発電に関わる関係者(関係組織)は今回の事故の事実解明と検証を最後まで担うべき立場にありこうした未解明の諸事項についてそれぞれの立場で包括的かつ徹底した調査検証を継続する組織的態勢を組むべきである

(2)事故発生後の政府等の事故対処に関する分析a 原子力災害現地対策本部【Ⅲ 5(4)Ⅵ 1(2)a】 政府の原子力災害対策マニュアル(以下「原災マニュアル」という)は原子力災害現地対策本部(以下「現地対策本部」という)の設置される緊急事態応急対策拠点施設(以下「オフサイトセンター」という)が機能するということを前提に作成されているが今回の事故の際はその前提が崩れ原災マニュアルが予定していたような対応ができなくなるという問題が生じた そもそもシビアアクシデントにおいてもオフサイトセンターが機能するような方策をあらかじめ講じておくべきであったし仮にオフサイトセンターが機能しなくなるような事態になったとしても事故に対処できるような方策を併せて講じておく必要があった また原子力災害対策本部(以下「原災本部」という)長から現地対策本部長への権限の委任については原子力安全保安院(以下「保安院」という)職員が原災本部長である菅直人内閣総理大臣(以下「菅総理」という)の了承を求めるタイミングを失した上現地対策本部から再三にわたって委任手続の進捗状況の確認を求められても主体的に動かずまた内閣官房及び内閣府の職員も保安院に対して委任手続を進めるよう注意喚起せず委任手続が行われないという問題が発生した そのような状況において現地対策本部は経済産業省緊急時対応センター(ERC)に置かれた原災本部事務局とも協議の上必要な措置を漏れなく迅速に行うため権限の委任手続が終了しているものとして避難措置の実施等について種々の決定を行いかつ実施した

b 原子力災害対策本部【Ⅲ 2(1)4(2)Ⅵ 1(2)b】(a)官邸内の対応 原災マニュアルによれば原子力災害が発生した際政府における緊急事態応急対策の中心となる原災本部は官邸に設置しまた情報の集約内閣総理大臣への報告政府としての総合調整を集中的に行うため官邸地下にある官邸危機管理センターに官邸対策室を置くこととされているまた各省庁の局長級幹部職員は同センターに参集することとされておりそのメンバーを「緊急参集チーム」と呼んでいる同チームには緊急時において迅速的確な意思決定がなされるよう各省庁が持つ情報を迅速に集約しそれに基づいて機動的に意見調整を行うことが期待されている しかし今回の事故においては避難措置等の事故対応についての重要な意思決定の多くはこの官邸危機管理センター(緊急参集チーム)から離れて官邸地下の中 2階の一室又は官邸 5階において関係閣僚原子力安全委員会(以下「安全委員会」という)委員長保安院幹部東京電力幹部らにより行われた一般に原子力災害が発生した場合できる限り情報入手が容易で現場の動きを把握しやすい現場に近い場所に対策の拠点が設置される必要がある政府における福島第一原発の情報収集拠点であったERC から離れた官邸内において意思決定が行われていたことまた官邸内においてもその情報集約拠点である官邸危機管理センターとは離れた別の場所(官邸 5階等)において意思決定が行われていたことなどから情報の不足と偏在が生じ十分な情報がないままに意思決定せざるを得ない場合も生じたという点は今回の一つの大きな教訓とすべきである なお平成 23 年 3 月 15 日に東京電力本店に福島原子力発電所事故対策統合本部が設置されたことは福島第一原発についての情報アクセスの改善という面では積極的に評価をすることも可能であるが政府の対応に必要な情報は必ずしも東京電力に係る情報のみではない上東京に本社本店のない他の電力会社の原子力発電所において同様の事故が発生する場合もあり得ることから今回の事例を普遍的な先例とするべきではない正確な情報を迅速に入手することはいうまでもなく原子力災害対策の基本である電力事業者の本社本店に移動することなく官邸等政府施設内にいながらよ

62

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

り情報に近接することのできる仕組みの構築が検討されるべきである

(b)情報収集の問題点 中間報告で詳述したようにERCの中に東京電力本店やオフサイトセンターが東京電力のテレビ会議システムを通じて現場の情報を得ていることを把握している者はほとんどおらず東京電力のテレビ会議システムをERCにも設置するということに思いが至らなかったまた情報収集のために保安院職員を東京電力本店へ派遣するといった積極的な行動も起こさなかった

c 福島県災害対策本部【Ⅳ 3(2)bⅥ 1(2)c】 福島県は平成 23 年 3 月 11 日知事を本部長とする福島県災害対策本部(以下「県災対本部」という)を設置し事故対応に当たったが県災対本部内外の連携等が十分ではなかったために避難区域内に取り残された双葉病院の入院患者等の避難救出が大きく遅れるなどの問題が発生した 被災地からの避難救出における今回のような事態の再発を防ぐためには県が設置する災害対策本部の班編成を平時の組織を単に縦割り的に寄せ集めたものでなく対応すべき措置に応じた横断的機能的なものにするとともに全体を統括調整できる仕組みを設けかつ各班相互の意思疎通の強化を図ること防災計画においても県の災害対策本部に詰める職員のみならず必要に応じいつでも他の職員も災害対応に当たる全庁態勢をとること等が必要である また原子力災害においてはその規模の大きさから県が前面に出て対応に当たらなければならずこの点を踏まえた防災計画を策定する必要がある

d その他の具体的な対応に関する分析【Ⅲ 2(1)Ⅵ 1(2)d】(a)原子力緊急事態宣言の発出 平成 23 年 3 月 11 日 17 時 42 分頃海江田万里経済産業大臣(以下「海江田経産大臣」という)は寺坂信昭原子力安全保安院長(以下「寺坂保安院長」という)らと共に菅総理に対し原子力災害対策特別措置法第 15 条第 1項に定める原子力緊急事態の発生を報告するとともに原子力緊急事態宣言の発出について了承を求めたしかし寺坂保安院長らは菅総理から福島第一原発の原子炉の状況や関連法令等について問われこれに対して十分な説明をすることができないまま時間が経過し菅総理は同日 18 時 12 分頃から約 5分間予定されていた与野党党首会談に出席したため上申手続は一時中断した同会談から戻った菅総理は間もなく原子力緊急事態宣言の発出を了承し同宣言は同日 19 時 3 分に発出された一般的に原子力災害においては事態が急速に進展することがあり得るところであり進行している事態や関連法令の詳細についての把握よりまず緊急事態宣言の発出を優先すべきであったと思われる

(b)福島第一原発視察 菅総理は平成 23 年 3 月 12 日福島第一原発事故に関する情報が十分に入っていなかったことなどから福島第一原発の視察を実行したこの視察は事故もなく終了し結果的には福島第一原発におけるベント実施への影響もなかったと認められるしかしながら今回のような大規模災害事故が発生した場合において最高指揮官の立場にある内閣総理大臣が長時間にわたって官邸を離れ危険が伴う現地視察を行い緊急対応に追われていた現地を訪れたことについては他の代わりとなる人物を派遣して状況を確認させるなどの方法によるべきではなかったのかという点でなお疑問が残る

(c)具体的事故対処についての官邸の関与 菅総理は平成 23 年 3 月 12 日 18 時過ぎ頃海江田経産大臣からその直前に同大臣が発した福島第一原発 1号機原子炉への海水注入命令について報告を受けた際炉内に海水を注入すると再臨界の可能性があるのではないかとの疑問を発しその場に同席した班目春樹原子力安全委員会委員長(以下「班目委員長」という)がその可能性を否定しなかったことから更に海水注入の是非を検討させることとしたその場に同席していた東京電力の武黒一郎フェロー(以下「武黒フェロー」という)は同日 19 時過ぎ頃福島第一原発の吉田昌郎所長に電話し「今官邸で検討中だから海水注入を待ってほしい」と強く要請した菅総理が再臨界の可能性についての質問を発した際その場には班目委員長のほか平岡英治原子力安全保安院次長武黒フェロー等の原子炉に関する専門的知見を有する関係者が複数いたが的確な応答をした者はおらず誰一人として専門家としての役割を果たしていなかったまた安易に海水注入を中止させようとした東京電力幹部の姿勢にも問題があったこのようなすぐれて現場対処に関わる事柄はまず現場の状況を最も把握し専

63

参考資料

門的技術的知識も持ち合わせている事業者がその責任で判断すべきものであり政府官邸はその対応を把握し適否についても吟味しつつも事業者として適切な対応をとっているのであれば事業者に任せ対応が不適切不十分と認められる場合に限って必要な措置を講じることを命ずるべきである当初から政府や官邸が陣頭指揮をとるような形で現場の対応に介入することは適切ではないと言えよう

(3)被害の拡大防止策に関する分析a 原発事故の特異性【Ⅵ 1(3)a】 原子力発電所の大規模な事故は施設設備の壊滅的破壊という事故そのものが重大であるだけでなく放出された放射性物質の拡散によって広範な地域の住民等の健康生命に影響を与え市街地農地山林海水を汚染し経済的活動を停滞させひいては地域社会を崩壊させるなど他の分野の事故には見られない深刻な影響をもたらすという点で極めて特異であるこのような原発事故の調査検証に当たっては事故原因とその背景について明らかにするだけでなく被害の発生拡大を防止する取組が適切であったのか否かそれが十分なものでなかったとするならそれはなぜなのかといった問題についても多角的に調査分析しあるべき被害防止への方策を見いださなければならない

b モニタリングの在り方【Ⅳ 1(2)aⅥ 1(3)b】 モニタリングに関する問題点等については既に中間報告で述べたとおりであるがさらにオフサイトセンターが機能しない場合のモニタリングの役割分担について指摘しておきたい 今回の事故においてはオフサイトセンターにある現地対策本部を拠点としたモニタリング活動が十分でなかったことから平成 23 年 3 月 16 日関係機関の役割分担が整理され各機関が実施しているモニタリングのデータの取りまとめ及び公表は文部科学省がデータの評価は安全委員会が安全委員会が行った評価に基づく対応は原災本部がそれぞれ行うことが取り決められたしかし急を要する状況の中でデータ評価の範囲等について関係機関の間で事前に十分な調整が行われた上で取決めがなされたとは言い難い状況にあった このような応急の状況で役割分担の取決めが必要となったのはモニタリングデータの集約評価公表評価に基づく対応という一連の作業を担うこととされていた現地対策本部(オフサイトセンター)が機能しない事態が生ずることを想定していなかったためと考えられる今回の事態を教訓にモニタリング態勢整備の見直しが必要である

c SPEEDI の活用の在り方【Ⅳ 2(1)(3)(4)Ⅵ 1(3)c】(a)システム及びその活用主体の問題点 緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)は原子力事故発生時緊急時対策支援システム(ERSS)から伝送される放出源情報を前提に周辺環境における放射線量率等を予測することができる装置であるがERSS は事故発生時には機能しなくなるおそれがありその場合の SPEEDI の活用方法についてあらかじめ検討しその検討結果を事故対応に当たるべき関係者間で共有しておくべきであった しかしながら事故対応に当たっていた多くの者はERSS が機能しなくなるや SPEEDI を避難に活用する余地はないものと考えていた環境放射線モニタリング指針には放出源情報が得られない場合の SPEEDI の活用方法も記載されていたがこれを避難に活用できるとのコンセンサスもなかったまたオフサイトセンターが機能しなくなった場合における SPEEDI の活用主体(運用及び公表の責任を負う機関)についても明確になっていなかった

(b)SPEEDI と避難指示 SPEEDI が有効に活用されなかった大きな原因は前記(a)のとおりいずれの関係機関もERSS から放出源情報が得られない場合には SPEEDI を避難に活用することはできないという認識の下これを避難の実施に役立てるという発想を持ち合わせていなかった点にあったと考えられるしかしSPEEDI により単位量放出を仮定した予測結果は得られており仮にその情報が提供されていれば各地方自治体及び住民はより適切に避難のタイミングや避難の方向を選択できた可能性があったと言えようERSS から放出源情報を得られない場合でもSPEEDI を活用する余地はあったと考えられる

d 住民に対する避難指示【Ⅳ 3(1)b(2)Ⅵ 1(3)d】 住民に対する避難指示に関する問題点等については中間報告で述べたとおりであるが中間報告後の調査検証を踏まえ更に以下の点を指摘しておく

64

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

(a)福島第二原発から 10km圏外への避難指示 平成 23 年 3 月 12 日 17 時 39 分福島第二原発から半径 10km圏外への避難指示が発出されたこの避難指示は同日15 時 36 分の福島第一原発 1号機における爆発を受け官邸 5階において福島第二原発についても同様の事象が発生する可能性があるので万一の事態に備える必要があるとの判断に基づいて発出されたものであり原子炉への注水状況原子炉の水位や圧力等の福島第二原発の各号機の具体的状況を踏まえて検討されたものではなかった この避難措置の約 1時間後の同日 18 時 25 分福島第一原発から 20km圏外への避難指示が発出されたが広野町北端のごく一部の地域のみは福島第一原発から 20kmの範囲に含まれないので福島第二原発から 10km圏外への避難指示が発出されなければ避難指示区域に含まれることはなかった福島第二原発から 10km 圏外への避難指示については情報不足で混乱する中福島第一原発 1号機の原子炉建屋爆発という事態を受けて判断されたが当時の福島第二原発の状況は実際には比較的安定しておりその決定過程には問題が残った

(b)病院患者等の避難 寝たきりの患者が多く入院していた双葉病院については入院患者の救出が大きく遅れかつ搬送先が遠方の高等学校の体育館とされるなど不適切と言わざるを得ない事態が生じたこうした事態の再発を防ぐためには前記(2)cで指摘したもののほか避難を担当する自衛隊が警察無線を有する県警に協力を求めるなどして外部との連絡体制の確保に留意する必要があるまた言うまでもなく人命救助に当たる者は改めてその責任の重さを自覚し強い責任感を持って任務に当たるべきである

e 被ばくへの対応【Ⅳ 4(3)b(c)(5)ab(6)5(2)aⅥ 1(3)e】(a)APD の未装着問題 事故発生後の福島第一原発の作業員(放射線業務従事者)にとって各自が警報付きポケット線量計(APD)を装着しその受けた放射線量を測定することは線量限度を超える被ばくを避けるため不可欠であったしかし福島第一原発においてはもともと配備されていたAPD が被水するなどしたため平成 23年 3月 15日以降の作業において代表者のみがAPD を装着する例外的な運用を始めこれが同月 31 日まで続いた この問題について調査したところ実際には事故発生直後に他の発電所等から合計 950 個のAPD が届けられていたが適合する充電器や警報設定器がないなどとして使用されないまま放置されたこと等が明らかとなった その経緯等を見ると現場作業員の被ばく防止に関する東京電力社員の意識は低かったと言わざるを得ないこれは「被ばく線量はできる限り小さくすべきである」という広く受け入れられている国際放射線防護委員会(ICRP)の考え方が十分に理解されていないことをうかがわせるものであり東京電力における被ばく回避の放射線教育の在り方に問題があったと言わざるを得ない

(b)国のヨウ素剤服用指示 現地対策本部医療班は平成 23 年 3 月 13 日スクリーニングレベルに関する現地対策本部長指示を発出するための準備を始めたその過程において安全委員会はERCに対しスクリーニングレベルを超えた者に対しては安定ヨウ素剤を投与すべきとのコメントをFAX 送信し安全委員会からERCに派遣されていたリエゾンがこれを受け取ったしかしこのコメントはERC 医療班内で共有検討が行われず現地対策本部にも伝えられなかったこれは同リエゾンが安全委員会のコメントを本部長指示に盛り込むことの重要性必要性を認識していなかったことによるものと考えられる 他方安全委員会も前記コメントが前記指示に盛り込まれないであろうことを知りながら「委員会はあくまでも助言機関である助言すべき事項は既に助言した」との理由から何らそれ以上のアクションを起こさなかった点で国民の安全を所管する行政機関としての責任感に欠けていたと言わざるを得ない

(c)県のヨウ素剤服用指示 三春町は平成 23 年 3 月 14 日深夜住民の被ばくが予想されたことから安定ヨウ素剤の配布服用指示を決定し同月 15 日町民に周知を行い薬剤師の立会いの下安定ヨウ素剤の配布を行ったこれを知った福島県の職員は三春町に対し国からの指示がないことを理由に配布中止と回収の指示を出したが三春町はこれに従わなかった安定ヨウ素剤の服用についての安全委員会の意見が前記(b)のような経緯で葬られている点を考慮すると国からの指示がなかったからという理由で三春町の判断を不適切であったと言うことはできない現在安定ヨウ素剤の服用については基

65

参考資料

本的に国の災害対策本部の判断に委ねる運用となっているが前記経験を踏まえ各自治体等が独自の判断で住民に服用させることができる仕組み事前に住民に安定ヨウ素剤を配布することの是非等について見直すことがむしろ必要であろう

(d)スクリーニングレベルの引上げ 福島県は当初スクリーニングレベルを 40Bqcm2(1 万 3000cpm相当)と設定していたが平成 23 年 3 月 13 日同月 14 日以降の全身除染のスクリーニングレベルを 10 万 cpmに引き上げた安全委員会は福島県のスクリーニングレベル引上げの意向を知りERCに対し一旦はスクリーニングレベルを 1万 3000cpmに据え置くべきであるとの助言を行ったが同月 19 日には 10 万 cpmへの引上げを是認する助言を行い現地対策本部長は同月 20 日スクリーニングレベルを 10 万 cpmとする指示を発出した しかし当時は全身除染(シャワー)のスクリーニングレベルの引上げではなく線量等に応じたきめ細かな除染方法(脱衣拭き取り等)の策定こそが必要であったまた安全委員会が発出した 10 万 cpmというスクリーニングレベルを許容する助言及びこれに基づいて現地対策本部長が発出した指示はスクリーニングレベルを単純に 10 万 cpm に引き上げるのみで検出レベルが 1万 3000cpm 以上 10 万 cpm 未満であった者に対しては何らの除染も要求しておらずその者に対する除染は不要であるかのように解釈する余地があるものとなっておりかえって問題であったまたスクリーニングレベルについては同月 13 日に発せられた現地対策本部長指示が県災対本部の担当班に伝わっていないなど国と県のコミュニケーションに関する問題も発生した今回のような緊急事態にあっては重要情報を関係者がしっかりと共有することの重要性を認識し関係行政組織間の調整能力に長けた者が緊急事態対応部署(班)のトップを構成し国や地方自治体の関係行政機関が一体となって事故対処に当たることが不可欠である

(e)校舎校庭等の利用基準 文部科学省は平成 23 年 4 月 19 日学校等の校舎校庭等の利用判断基準について38μSvh(年間にすると ICRP が定める「現存被ばく状況」における参考レベルの上限値である 20mSv に相当)以上の空間線量率が測定された学校等については校庭での活動を 1日 1時間程度に制限し38μSvh 未満の空間線量率が測定された学校については平常どおり利用して差し支えないとする考え方を公表したこれに対してはあたかも 20mSv年までの被ばくを許容するもので子どもへの配慮に欠ける事前に十分な説明や広報がなされなかったといった批判や懸念が寄せられた 確かに文部科学省の当時の説明は20mSv年を利用の基準値にしたと理解されてもやむを得ない面があり放射線に対する強い不安を解消するものとは言い難くリスクコミュニケーションの観点から見ても適切ではなかったまた一般に大人よりも放射線の影響が大きいと言われる子どもが利用する校舎校庭等について「現存被ばく状況」の上限値を用いたことが適当であったかどうかについてもなお議論の余地があろう その後文部科学省はより生活実態に合わせた被ばく線量の再試算を行い1年間で 10mSv 以下という数値を示したしかし放射線が子どもに対して与える影響は大人に対するそれよりも大きいとされていることICRP 勧告が「現存被ばく状況」においても参考レベル 1~20mSv年の中でできる限り被ばく線量を低減するよう求めていること(防護の最適化)などを考慮すると国としては10mSv年という数値に安心することなく被ばく線量をできる限り低くするような方策をとるべきであり38μSvh 未満の学校等についても校庭等での活動に基準を設けるなどして被ばく線量をより低く抑えるよう配慮するのが適当であったと思われる

(f)緊急被ばく医療機関 福島第一原発において事故が発生した場合の初期被ばく医療機関として 6病院が指定されていたがそのうち 4病院は避難区域内に立地していたことから被ばく医療機関としての機能を果たすことができなかったしたがって今回のようなシビアアクシデントが発生した場合においても緊急被ばく医療が提供できるよう緊急被ばく医療機関を原子力発電所周辺に集中させず避難区域に含まれる可能性の低い地域を選定しそこに相当数の初期被ばく医療機関を指定しておくとともに緊急被ばく医療機関が都道府県を超えて広域的に連携する態勢を整える必要があると考えられる

(g)放射線に関する国民の理解 今回の事故を契機として改めて放射線防護に万全を期する必要があることが再確認されたが他方で放射線を「正しく恐れる」必要性についても認識させられた今後も不必要な被ばくをできる限り避けるため最大限の努力が払われるべきことは当然であるがそれと同時に個々の国民が放射線のリスクについて正確な情報に基づいて判断できるようすな

66

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

わち情報がないためにいたずらに不安を感じたり逆にリスクを軽視したりすることがないようできる限り国民が放射線に関する知識や理解を深める機会が多く設けられる必要がある

f 国民への情報提供に関する分析【Ⅳ 8(2)(4)(5)(8)(9)Ⅵ 1(3)f】(a)官邸の事前了解 平成 23 年 3 月 12 日福島第一原発 1号機の「炉心溶融」の可能性が保安院の中村幸一郎審議官によって広報された官邸に詰めていた関係者はそれまで「炉心溶融」の可能性について報告を受けていなかったため保安院が官邸の把握していない事実を事前告知することなく広報したとして問題視し広報内容について官邸への事前連絡を求めたこのことが契機となって寺坂保安院長の判断で保安院においてはプレス発表に先立って内容について官邸の事前了解を得ることとしたまた東京電力も同月 13 日以降プレス発表に先立って官邸の了解を得た上で広報することとしこれらが原因でプレス発表が遅れることがあった 政府の意思決定及び広報の中心となるべき官邸としては迅速な情報提供を求めるのは当然のことであるがプレス発表の際に事前了解を得た上で行うこととすると緊急性を有する情報が直ちに広報できない状況が生ずるおそれがある緊急性の高い情報については各広報機関が独自の判断で広報することが必要となる場面もあり情報の全てについて官邸の事前了解を求めることは必ずしも適切ではない

(b)炉心溶融を積極的に否定した保安院の広報 前記(a)のとおり保安院はプレス発表前に官邸の了解を得ることとしたがその後保安院広報官の一部には「炉心溶融」に言及するのを避けるためかなり無理のある広報をした形跡が認められるすなわち平成 23 年 3 月 14 日の保安院のプレス発表において西山英彦保安院付が炉心溶融の可能性を肯定し又は炉心溶融の可能性を否定しない発言を行った際同席した保安院職員が同発言を取り消すかのように「まだ溶融とかそういう段階ではないと思っております」などと炉心溶融の可能性を積極的に否定する趣旨の発言を行った 前記の保安院職員の発言はその主観的認識がどうであったかはともかく炉心溶融の可能性という否定し難い事実を積極的に否定する内容となっており中央及び現地の災害対策関係者や地域住民の切羽詰まった情報ニーズを誤った方向へ導く極めて不適切なものであった

(c)放射線の影響に関する広報 福島第一原発事故による一般住民等の被ばく又は被ばくのおそれについての広報の際政府はしばしば「直ちに(人体に影響を及ぼすものでない)」との表現を用いたしかしながら「直ちに人体に影響を及ぼすものではない」との表現については「人体への影響を心配する必要はない」という意味と反対に「直ちに人体に影響を及ぼすことはないが長期的には人体への影響がある」という意味がありいずれの意味で用いているのか必ずしも明らかではなかったこのようなどちらの意味にも受け取れる表現は緊急時における広報の在り方として避けるべきでありリスクコミュニケーションの観点からも今後の重要な検討課題である

(d)「不測事態シナリオの素描」の不公表問題 平成 23 年 3 月 22 日菅総理は原子力委員会委員長である近藤駿介氏に対し福島第一原発事故の最悪事態の想定とその場合の対策を検討するよう依頼したこの依頼を受けて同氏は「福島第一原子力発電所の不測事態シナリオの素描」(以下「素描」という)を作成し同月 25 日細野豪志内閣総理大臣補佐官(以下「細野補佐官」という)へ提出した細野補佐官は素描が示す対策についての検討を進めたが素描を公表することはしなかった素描はその内容が現実に発生する可能性の低い仮定的事実に基づいたシミュレーションであったことから素描を公表しなかったことが不適切であったとまでは言えないただし一般論として言えば仮定の事実に基づくシミュレーション結果であっても公表の必要性シミュレーション結果に対する対策の有無公表のタイミングを考慮し前提条件を丁寧に説明した上で公表するという選択肢もあり得ると考えられる

g 国外への情報提供や諸外国等との連携の在り方【Ⅳ 910(2)Ⅵ 1(3)g】(a)諸外国との情報共有 事故発生後我が国は必ずしも諸外国が満足するような事故関連情報の提供を行っていなかった諸外国とりわけ日本国内に多数の市民が在住する国や近隣国に対する情報提供は我が国の国民に対するそれと同様に極めて重要であ

67

参考資料

り迅速かつ正確な情報提供ができるよう言語の違いにも配慮した上積極的かつ丁寧な対応が求められる

(b)諸外国からの支援の受入れ 我が国は諸外国からの支援物資を受け入れる態勢に不備があったほか受入物資を保管する場所がなかったことから当初支援物資の提供を直ちに受け入れることができなかった原子力災害発生時に諸外国から支援物資の提供があった場合はできる限り早くこれを受け入れることが国際礼譲の点からも国内における支援物資の必要性を迅速に満たすという点からも必要である今後は今回のような初期段階での混乱と不適切な対応が生じないよう支援物資の受入態勢について担当官庁のマニュアルや原子力事業者防災業務計画等において対応方法を定めておく必要がある

(4)事故の未然防止策や事前の防災対策に関する分析a 総合的リスク評価とシビアアクシデント対策の必要性【Ⅴ 3(1)(2)Ⅵ 1(4)a】(a)外的事象を対象としたアクシデントマネジメント導入に至らなかった経緯 我が国においてはアクシデントマネジメントとして整備されたのは内的事象に起因する対策のみで地震津波等の外的事象は具体的な検討対象とはならなかった このような事情の背景としてはシビアアクシデント対策を検討するのに有用な手法とされる確率論的安全評価(PSA)については福島原発事故発生以前に確立されていた外的事象 PSAは地震 PSAのみで手法として限定的であったこと定期安全レビューが外的事象 PSA についての技術的水準の進歩を勘案してシビアアクシデント対策の改善を促す機会とはならなかったこと外的事象 PSA を実施して合理的追加対策があれば行うことを奨励すべきとの指摘があったものの耐震バックチェックの作業等の事情から早急に導入を検討するには至らなかったことなどが挙げられる その結果として地震 PSAによる評価や津波に対する安全評価を始めとして事故の起因となる可能性がある火災火山斜面崩落等の外部事象を含めた総合的なリスク評価は行われていなかった

(b)総合的リスク評価の必要性 施設の置かれた自然環境は様々であり発生頻度は高くない場合ではあっても地震地震随伴事象以外の溢水火山火災等の外的事象及び従前から評価の対象としてきた内的事象をも考慮に入れて施設の置かれた自然環境特性に応じて総合的なリスク評価を事業者が行い規制当局等が確認を行うことが必要であるその際には必ずしも PSA の標準化が完了していない外的事象についても事業者は現段階で可能な手法を積極的に用いるとともに国においてもその研究が促進されるよう支援することが必要である

(c)総合的リスク評価を踏まえたシビアアクシデント対策の策定 原子力発電施設の安全を今後とも確保していくためには外的事象をも考慮に入れた総合的安全評価を実施し様々な種類の内的事象や外的事象の各特性に対する施設の脆弱性を見いだしそれらの脆弱性に対し設計基準事象を大幅に超え炉心が重大な損傷を受けるような場合を想定して有効なシビアアクシデント対策を検討し準備しておく必要があるまたそれらの対策の有効性についてPSA 等の手法により評価する必要がある その場合PSA 手法の未成熟等によりリスク評価方法に制約があるとしてもその特徴と限界を理解の上事業者は自らの施設の安全性確保のためのシビアアクシデント対策の検討評価を行うべきでありその検討に当たっては諸外国の状況等についても十分参照する必要がある規制当局等も緊急性のあるシビアアクシデント対策の実施については自然災害等の際に果たして有効かどうかリスク評価手法等を用いて確認検討すべきである

b 原子力防災対策の見直し【Ⅴ 4(2)(3)Ⅵ 1(4)b】 原子力防災体制の整備については国際原子力機関(IAEA)における原子力又は放射線緊急事態に関する安全基準の策定に伴い平成 18 年に安全委員会において「原子力施設等の防災対策について」(以下「防災指針」という)の見直し作業が行われ我が国における予防的措置範囲(PAZ)の導入等が検討されたが安全委員会と保安院との調整の結果防災指針に PAZ の概念や範囲は直接には書き込まないこととなった 原子力災害と大規模自然災害とが同時期に発生する複合災害については保安院において検討が開始されたが自然災害原子力災害を所掌する中央防災会議での検討の申入れが行われたのは東日本大震災のわずか三日前であった 今回の事故以前の原子力防災対策を重点的に充実すべき地域の範囲は原子力発電所から8~10km 圏内とすることを大前提に仮想事故を相当に上回る事故の発生時でも十分対応可能であるとみなして設定されていたが今回の事故に鑑み

68

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

どのような事故を想定して避難区域等を設定するのか再検討することが必要である また原子力災害の際の国の責任の重要性に鑑み単に住民避難等の原子力施設敷地外の対応にとどまらず事業者と協議しつつ原子力災害の際に事業者への支援や協力として国が行うべきことの内容を検討すべきである

(5)原子力安全規制機関等に関する分析【Ⅴ6Ⅵ 1(5)】 保安院は事故の未然防止のための取組や事故後の対応においてその所掌にふさわしい役割を十分に果たしてきたとは言い難い保安院のこのような問題点を踏まえ当委員会は中間報告において原子力安全規制機関の在り方として5点の指摘を行った最終報告においてはその後の調査検証の結果を踏まえ以下の 2点の指摘を加えることとするなお今回追加する 2点は安全委員会についても共通する事柄である① 国際機関外国規制当局との積極的交流 現在の保安院等の定員状況ではIAEA やアメリカ合衆国原子力規制委員会への少数の人事交流にとどまりまた国内事務処理に優先的に当たらざるを得ないために国際会議等での十分なプレゼンスの発揮には限界があり規制当局等の組織の実力の向上や原子力安全に関する国際社会との協調に十分に資するには至っていない 国の行政機関の定員措置については行政機関全体の問題であることから保安院等のみに関する検討で済むものではないが原子力安全の重要性に鑑み新たに設置される原子力安全規制機関の定員措置については十分に考慮する必要があるまた新設の規制機関においては前記定員措置のほか国際貢献を果たすにふさわしい態勢整備に努めるとともに国際機関外国規制当局との人的交流を担える人材の育成に努めるべきである② 規制当局の態勢の強化 原子力発電の安全を確保するためには単に発生した個別問題への対応にとどまらず国内外の最新の知見はもとより国際的な安全規制や核セキュリティ等の動向にも留意しつつ国内規制を最新最善のものに改訂する努力を不断に継続する必要があるまた今回のような事故の未然防止が重要なことはいうまでもないが原子力災害の社会への影響の大きさに鑑みれば災害発生時に迅速かつ有効な活動が展開できるよう平常時から防災計画の策定や防災訓練等を実施し緊急時の対応に万全を期すべきであるさらに緊急事態において専門知識に基づく的確な助言指導ができる専門的技術能力や組織が有するリソースを有効かつ効率的に機能させるマネジメント能力の涵養に努めなければならないそのためにはそれにふさわしい予算人的スタッフの在り方の検討が必要である

(6)東京電力に関する分析【Ⅵ1(6)】a 危機対応能力の脆弱性 今回のシビアアクシデントに対する東京電力社員の対処対応を検証していくと自ら考えて事態に臨むという姿勢が十分ではなく危機対処に必要な柔軟かつ積極的な思考に欠ける点があったと言わざるを得ないこのことは個々人の問題というよりは東京電力がそのような資質能力の向上を図ることに主眼を置いた教育訓練を行ってこなかったことに問題があったと言うべきであろう更に問題を遡っていくと東京電力を含む電力事業者も国も我が国の原子力発電所では深刻なシビアアクシデントは起こり得ないという安全神話にとらわれていたがゆえに危機を身近で起こり得る現実のものと捉えられなくなっていたことに根源的な問題があると思われる 東京電力には原子力安全に関し一次的な責任を負う事業者としてこれまでの教育訓練の内容を真摯に見直し原子力に携わる者一人一人に対し事故対処に当たって求められる資質能力の向上を目指した実践的な教育訓練を実施するよう強く期待する

b 専門職掌別の縦割り組織の問題点 東京電力は原子力災害に組織的一体的に対処するため緊急時対策本部等の組織化を図りその中に発電班復旧班技術班等の機能班を設けているしかしこれらの機能班は事態を見渡して総合的に捉えその中に自らの班の役割を位置付け必要な支援業務を行うといった視点が不足していた

c 過酷な事態を想定した教育訓練の欠如 緊急時対策本部内の機能班に所属する一人一人が時宜にかなった判断をなし得ずまた機能班として十分な機能が果たし得なかったことの根底には複数号機において全交流電源が喪失するといった過酷な事態を想定した十分な教育訓練がなされていなかったことがあると考えられる

69

参考資料

d 事故原因究明への熱意の不足 東京電力は事故から 1年以上が経過した現時点においてもなお事故原因について徹底的に解明して再発防止に役立てようとする姿勢が十分とは言えない当委員会としては東京電力が今後も事故原因の解明を積極的に進めることを強く求める

e より高い安全文化の構築が必要 東京電力は原子力発電所の安全性に一義的な責任を負う事業者として国民に対して重大な社会的責任を負っているが津波を始め自然災害によって炉心が重大な損傷を受ける事態に至る事故の対策が不十分であり福島第一原発が設計基準を超える津波に襲われるリスクについても結果として十分な対応を講じていなかった組織的に見ても危機対応能力に脆弱な面があったこと事故対応に当たって縦割り組織の問題が見受けられたこと過酷な事態を想定した教育訓練が不十分であったこと事故原因究明への熱意が十分感じられないことなどの多くの問題が認められた東京電力は当委員会の指摘を真摯に受け止めてこれらの問題点を解消しより高いレベルの安全文化を全社的に構築するよう更に努力すべきである

(7)IAEA 基準などとの国際的調和に関する分析【Ⅴ5Ⅵ 1(7)】 保安院などの規制当局等はIAEA 安全基準を参照して国内基準の見直しや策定を行う必要性は認識していたもののほとんど実施してこなかった原子力発電の安全を確保するためには国内外の原子力に関する知見の蓄積や技術進歩に合わせて国内の規制水準を常に最新のものとしていくことが必要であるそのためにはIAEA等の国際基準の動向も参照して国内基準を最新最善のものとする不断の努力をすべきである またこれまでも地震や津波に関する分野ではIAEA の基準策定活動に我が国も貢献してきたが今回の事故への反省を踏まえて原子力安全に関する教訓を学びそれを我が国のみならず他国での同様の事故の発生防止に資するよう事故から得られた知見と教訓を国際社会に発信していく必要があるまた国内基準の見直しを行う場合それを国際基準として一般化することが有効有益なものについてはIAEA等の基準に反映されるように努めるなどして国際貢献を行うべきである

2 重要な論点の総括(1)抜本的かつ実効性ある事故防止策の構築【Ⅵ2(1)】 当委員会は福島第一原発の損傷状況や事故対処の実態国や東京電力等による原発事故防止に向けた事前の取組状況等について調査検証を行い中間報告及び最終報告においてそれぞれについて多くの問題点があったことを指摘した当委員会としては国電力事業者原子力発電プラントメーカー研究機関原子力学会といったおよそ原子力発電に関わる関係者が指摘を真摯に受け止め問題点を解消改善するための具体的取組を進めることを強く要望する技術的原子力工学的な問題点を解消改善するためにどのような具体的取組が必要かは原子力全般についての高度な専門的知見を踏まえた検討が必要なものも少なくないこれについては原子力発電に関わる関係者においてその専門的知見を活用して具体化すべきでありその検討に当たっては当委員会が指摘した問題点を十分考慮するとともにその検討の経緯及び結果について社会への説明責任を果たす必要があると考える

(2)複合災害という視点の欠如【Ⅵ2(2)】 東日本大震災は地震津波原発事故からなる大規模かつ広域的な複合災害であり国及び地方自治体は地震や停電等により通信手段等が途絶する中オフサイトセンターの機能が十分に発揮できなくなったりモニタリング機器等に損傷が生ずるなど様々な場面で混乱し問題への対応に遅れや不備等が生じた国や大半の地方自治体において原発事故が複合災害という形で発生することを想定していなかったことは原子力発電所それ自体の安全とそれを取り巻く地域社会の安全の両面において我が国の危機管理態勢の不十分さを示したものであった今後原子力発電所の安全対策を見直す際には大規模な複合災害の発生という点を十分に視野に入れた対応策の策定が必要である

(3)求められるリスク認識の転換【Ⅵ2(3)】 近年地震研究においてはプレートテクトニクス論をベースに震源域の地域別特性や大津波を引き起こすいわゆる津波地震の海底断層の特性発生の頻度と発生確率の確率論的な評価などが注目されるようになってきたそういう新たな知見を防災対策の重点地域の特定に利用することはそれなりに合理性があると言える

70

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

 しかし①地震津波の確率論的評価は記録が詳しく残っている限られた事例を根拠にしており古文書等の記録が不十分で地震津波の規模や震源モデルを推定しにくい長い周期で起きているものについてはデータベースから外されていること②研究組織や関係行政機関によって防災対策の根拠を明確にするために地震津波等の自然災害の発生確率計算の精度の向上が図られた反面自然現象には現在の学問の知見を超えるような事象が起こることがありそういう極めてまれな事象への備えも必ず並行して考慮しなくてはならないという伝統的な防災対策の心得が考慮されなくなりがちになっていたこと③地震津波の想定について極めてまれなケースについては「残余のリスク」「残る課題」等の表現で検討課題に挙げられてはきたが実際には継続して深く検討されずに放置されてきたこと等に見られるように学問の進歩の一方でそこから防災対策の隙間が生まれるという問題が生じていたこのような落とし穴から抜け出すには安全対策防災対策の前提となるリスクの捉え方を次のように大きく転換させる必要があろう ① 日本は古来様々な自然災害に襲われてきた「災害大国」であることを肝に命じて自然界の脅威地殻変動の規模と時間スケールの大きさに対し謙虚に向き合うこと ② リスクの捉え方を大きく転換すること 今回のような巨大津波災害や原子力発電所のシビアアクシデントのように広域にわたり甚大な被害をもたらす事故災害の場合には発生確率にかかわらずしかるべき安全対策防災対策を立てておくべきであるという新たな防災思想が行政においても企業においても確立される必要がある ③ 安全対策防災対策の範囲について一定の線引きをした場合「残余のリスク」「残る課題」とされた問題を放置することなく更なる掘り下げた検討を確実に継続させるための制度が必要である

(4)「被害者の視点からの欠陥分析」の重要性【Ⅵ2(4)】 原子力発電に関わる領域を「システム中枢領域」「システム支援領域」「地域安全領域」の三つに分けた上で事業者側の視点からシステムの安全性を見るとまず懸命に取り組むのは「システム中枢領域」の安全確保であるがその安全性の認識が確信にまでなると中枢領域以外の安全性の確保については緩みが生じがちになるまた「システム中枢領域」にせよ「システム支援領域」にせよ安全性を確保してあると言っても設計の前提条件の範囲内でのことであって条件外の事象が起きた場合には安全性は担保されなくなるすなわち ① 事業者や規制機関が「システム中枢領域」の安全性を設計の前提条件の枠の中だけで過信すると安全対策が破綻する ② 「システム支援領域」や「地域安全領域」における安全対策は「システム中枢領域」の安全性のレベルにかかわりなく万一の場合に独立して機能するものでなければならないその原則が忘れられると地域の人々の命に関わる安全防護壁に多くの「穴」(欠陥)ができてしまう危険性が高くなる そのような欠陥を見付け安全への防護壁を確実なものにするための方法として立ち位置を被害を受ける側に置いた「被害者の視点からの欠陥分析」と言うべき方法を提案したいこれは規制関係機関や地方自治体の防災担当者が災害問題の専門家の協力を得て「もしそこに住んでいるのが自分や家族だったら」という思いを込めて最悪の事態が生じた場合自分に何が降りかかってくるかを徹底的に分析するという方法である 行政と事業者がなすべきことは分析によって浮かび上がった対策の不備や欠陥について改善策を講じていくことであるがすぐに全ての欠陥の「穴」を塞ぐのは困難であろうその場合残された対策とその問題点を公表し今後どう対処していくべきかを規制関係機関と関係自治体が地域の住民と議論して共働で次善の策を絞り出すという取組が重要となるだろうそのような地域の住民の視点に立った災害の捉え方と安全への取組が定着して初めてこの国に真の安全で安心できる社会を創造することができると言えよう 事故が起きると広範囲の被害をもたらすおそれのある原子力発電所のようなシステムの設計設置運用に当たっては地域の避難計画を含めて安全性を確実なものにするために事業者や規制関係機関による「被害者の視点」を見据えたリスク要因の点検洗い出しが必要でありそうした取組を定着させるべきである なお住民の避難計画とその訓練については原発事故による放射性物質の飛散範囲が極めて広くなることを考慮して県と関係市町村が連合して混乱を最小限にとどめる実効性のある態勢を構築すべきである

(5)「想定外」問題と行政東京電力の危機感の希薄さ【Ⅵ2(5)】 「想定外」という言葉には大別すると二つの意味がある一つは最先端の学術的な知見をもってしても予測できなかった事象が起きた場合でありもう一つは予想されるあらゆる事態に対応できるようにするには財源等の制約から無理があるため現実的な判断により発生確率の低い事象については除外するという線引きをしていたところ線引きした範

71

参考資料

囲を大きく超える事象が起きたという場合である今回の大津波の発生はこの 10 年余りの地震学の進展と防災行政の経緯を調べてみると後者であったことが分かる福島県沖の津波地震への防災対策に関するこれまでの行政の意思決定過程を行政の論理の枠内で見るとそれなりの合理性があったことは否定できないしかし今回の事故による甚大な被害を前にして行政には何の誤りもなかった「想定外」の大地震大津波だったから仕方がないと言って済ますことはできるだろうかそれでは安全な社会づくりの教訓は何も得られないだろう 行政の論理や責任の有無とは関係なく被害を少しでも小さくする方法あるいは選択肢はなかったのか行政の意思決定の枠組みを変革する道はなかったのかという視点から要因分析を行うと次のような問題点が浮かび上がってくる ① 地震についての科学的知見はいまだ不十分なものであり研究成果を逐次取り入れて防災対策に生かしていかなければならない換言すればある時点までの知見で決められた方針を長期間にわたって引きずり続けることなく地震津波の学問研究の進展に敏感に対応し新しい重要な知見が登場した場合には適時必要な見直しや修正を行うことが必要である ② 発生確率が低いかあるいは不明という理由により財源等の制約からある地域が防災対策の強化対象から外されていた場合万一大地震大津波が発生すると被害は非常に大きくなると考えられる行政は少数であっても地震研究者が危険性を指摘する特定の領域や例えば津波堆積物のような古い時代に大地震大津波が発生した形跡がある領域については地震の実態解明を急ぐための研究プロジェクトを立ち上げるとか関係地域に情報を開示して行政住民専門家が一体となって万一に備える新しい発想の防災計画を策定する等の取組をすべきであろう ③ 中央防災会議が決める防災計画は原発立地を特別視することなく進められてきたが今後は原発立地の領域における災害リスクを注視すべきである原子力発電所の防災対策は保安院の担当とされてきたが中央防災会議の方針は原子力発電所の防災対策にも密接に関連することから中央防災会議においても原子力発電所を念頭に置いた検討を行うべきである一方東京電力の津波対策の経緯等を追ってみると同社には原発プラントに致命的な打撃を与えるおそれのある大津波に対する緊迫感と想像力が欠けていたと言わざるを得ないそしてそのことが深刻な原発事故を生じさせまた被害の拡大を防ぐ対策が不十分であったことの重要な背景要因の一つであったと言えるであろう

(6)政府の危機管理態勢の問題点【Ⅵ2(6)】 今回原災マニュアルに規定のない官邸 5階が一種の司令センターとなりまた菅総理が前面に出た形で事故対応に当たった背景には現地対策本部が本来的な役割を果たせなかったこと官邸による情報集約態勢や安全委員会による助言機能が十分ではなかったことなどの事情があったしかしながら内閣総理大臣は政府の各機関部局に情報収集とその対応策を任せ専門部署から上がる重要事項に関してのみ選択肢を出させた上で適切な最終決断を行うというのがその本来の役割である自らが当事者として現場介入することは現場を混乱させるとともに重要判断の機会を失しあるいは判断を誤る結果を生むことにもつながりかねず弊害の方が大きいと言うべきであろう 今回の事態を教訓に原子力事故と地震津波災害との複合災害の発生を想定した原災マニュアルの見直しを含め原子力災害発生時の危機管理態勢の再構築を早急に図る必要があるその検討に当たってはオフサイトセンターの強化という観点に加えてそもそも現地対策本部に関係機関が参集して事故対処に当たるという枠組みでは対応できない事態が発生した場合にどのような態勢で対応に当たるべきかについても具体的に検討し必要な態勢を構築しておく必要がある

(7)広報の問題点とリスクコミュニケーション【Ⅵ2(7)】 今回の事故において事故発生後の政府の国民に対する情報の提供の仕方には避難を余儀なくされた周辺住民や国民の立場からは真実を迅速正確に伝えていないのではないかとの疑問や疑いを生じさせかねないものが多く見られた周辺住民の避難にとって重要な放射性物質の拡散状況とその予測についての情報提供方法炉心の状態(特に炉心溶融)や福島第一原発 3号機の危機的な状態等に関する情報提供方法また放射線の人体への影響について頻繁に「直ちに人体に影響を及ぼすものではない」といった分かりにくい説明が繰り返されたことなどである 国民と政府機関との信頼関係を構築し社会に混乱や不信を引き起こさない適切な情報発信をしていくためには関係者間でリスクに関する情報や意見を相互に交換して信頼関係を構築しつつ合意形成を図るというリスクコミュニケーションの視点を取り入れる必要がある緊急時における迅速かつ正確でしかも分かりやすく誤解を生まないような国民への情報提供の在り方についてしかるべき組織を設置して政府として検討を行うことが必要である加えて広報の仕方によっては国民にいたずらに不安を与えかねないこともあることから非常時緊急時において広報担当の官房長官に的確な助言をすることのできるクライシスコミニュケーションの専門家を配置するなどの検討が必要である

72

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

(8)国民の命に関わる安全文化の重要性【Ⅵ2(8)】 事業者である東京電力及び規制当局である保安院のいずれについても安全文化が十分に定着しているとは言い難い状況にあった一旦事故が起きると重大な事態が生じる原子力発電事業においては安全文化の確立は国民の命に関わる問題である今回の大災害の発生を踏まえ事業者や規制当局関係団体審議会関係者などおよそあらゆる原発関係者には安全文化の再構築を図ることを強く求めたい

(9)事故原因被害の全容を解明する調査継続の必要性【Ⅵ2(9)】a 引き続き事故原因の解明が必要 当委員会は最終報告の提出をもって任務を終えることとなるが前記 1(1)bのとおり福島第一原発の主要施設の損傷が生じた箇所その程度時間的経緯を始めとする被害状況の詳細放射性物質の漏出経緯原子炉建屋爆発の原因等についていまだに解明できていない点も多々存在する また住民等の健康への影響農畜水産物等や空気土壌水等の汚染などは今後も継続的な調査検証を要する問題であるが現時点までの調査検証にとどめざるを得なかったさらに原子力損害賠償の在り方や除染等のように生じた損害の修復の問題でありかつ今後長期間の対応を要すると見込まれることから当委員会の調査検証の対象とはしなかったものの被害者や被災地にとって極めて重要で社会的関心の高い問題もある 国電力事業者原子力発電プラントメーカー研究機関関連学会といったおよそ原子力発電に関わる関係者(関係組織)は今回の事故の検証及び事実解明を積極的に担うべき立場にありこうした未解明の諸事項についてそれぞれの立場で包括的かつ徹底した調査検証を継続するべきである特に国は当委員会や国会に設置された東京電力福島原子力発電所事故調査委員会の活動が終わったことをもって福島原発災害に関する事故調査検証を終えたとするのでなく引き続き事故原因の究明に主導的に取り組むべきであるとりわけ放射線レベルが下がった段階での原子炉建屋内の詳細な実地検証(地震動の影響の検証も含む)は必ず行うべき作業である

b 被害の全容を明らかにするための調査が必要 今回の原発事故は実に様々な深刻な被害を広範囲にわたる地域にもたらした未曽有の原子力災害を経験した我が国としてなすべきことは「人間の被害」の全容について専門分野別の学術調査と膨大な数の関係者被害者の証言記録の収集による総合的な調査を行ってこれらを記録にまとめ被害者の救済支援復興事業が十分かどうかを検証するとともに原発事故がもたらす被害がいかに深く広いものであるかその詳細な事実を未来への教訓として後世に伝えることであろう福島原発災害に関わる総合的な調査の結果を踏まえて記された「人間の被害」の全容を教訓として後世に伝えることは国家的な責務であると当委員会は考える「人間の被害」の調査には様々な学問分野の研究者の参加と多くの費用と時間が必要となるだろうが国が率先して自治体研究機関民間団体等の協力を得て調査態勢を構築するとともに調査の実施についても必要な支援を行うことを求めたい

3 原子力災害の再発防止及び被害軽減のための提言 当委員会は中間報告及び最終報告においてこれまでの調査検証によって判明した事実を基に原子力災害の再発防止及び被害軽減のための提言を行った当委員会は国関係自治体事業者等の関係機関がこれらを今後の安全対策防災対策に反映させ実施していくことを強く要望する政府においては関係省庁関係部局に提言の反映や実施に向けた具体化を指示するとともに関係省庁関係部局の取組状況を把握しその状況を取りまとめて公表するなど確実なフォローアップをすることを求めたいまた関係自治体東京電力その他の関係機関においても同様に提言を反映実施するとともに取組状況をフォローアップすることを求めたい ここでは中間報告及び最終報告で行った提言を七つの項目に分類して整理しておく最終報告における提言は「最終報告(本文編)」の記載箇所及び本概要における該当頁を示した中間報告における提言は「中間報告(本文編)」の記載箇所を示すとともに提言自体を再録した

(1)安全対策防災対策の基本的視点に関するもの  複合災害を視野に入れた対策に関する提言(最終報告Ⅵ 2(2)概要 22 頁)  リスク認識の転換を求める提言(最終報告Ⅵ 2(3)概要 23 頁)  「被害者の視点からの欠陥分析」に関する提言(最終報告Ⅵ 2(4)概要 24 頁)  防災計画に新しい知見を取り入れることに関する提言(最終報告Ⅵ 2(5)概要 25 頁)

73

参考資料

(2)原子力発電の安全対策に関するもの  事故防止策の構築に関する提言(最終報告Ⅵ 2(1)概要 22 頁)  総合的リスク評価の必要性に関する提言(最終報告Ⅵ 1(4)a(b)概要 17 頁)  シビアアクシデント対策に関する提言(最終報告Ⅵ 1(4)a(c)概要 17 頁)

(3)原子力災害に対応する態勢に関するもの  原災時の危機管理態勢の再構築に関する提言(最終報告Ⅵ 2(6)概要 26 頁)  原子力災害対策本部の在り方に関する提言(最終報告Ⅵ 1(2)b(a)概要 4頁)  オフサイトセンターに関する提言(中間報告Ⅶ 3(1)a) 政府はオフサイトセンターが大規模災害にあっても機能を維持できる施設となるよう速やかに適切な整備を図る必要がある  原災対応における県の役割に関する提言(最終報告Ⅵ 1(2)c概要 6頁)

(4)被害の防止軽減策に関するもの  広報とリスクコミュニケーションに関する提言(最終報告Ⅵ 2(7)概要 27 頁)  モニタリングの運用改善に関する提言(中間報告Ⅶ 5(2)d) ① モニタリングシステムが肝心なときに機能不全に陥らないよう地震津波等の様々な事象を想定してシステム設計を行うとともに複合災害の場合も想定して対策を講じておく必要があるまたモニタリングカーについて地震による道路の損傷等の事態が発生した場合の移動巡回等の方法に関して必要な対策を講じるべきである ② モニタリングシステムの機能重要性について関係機関及び職員の認識を深めるために研修等の機会を充実させる必要がある  SPEEDI システムに関する提言(中間報告Ⅶ 5(3)c) 被害拡大を防止し国民の納得できる有効な情報を迅速に提供できるようSPEEDI システムの運用上の改善措置を講じる必要があるまた地震等の様々な複合要因に対してシステムの機能が損なわれることのないようハード面でも強化策が講じられる必要がある  住民避難の在り方に関する提言(①~④は中間報告Ⅶ 5(4)c更に最終報告Ⅵ 1(4)b概要 18 頁) ① 重大な原発事故が発生した場合に放射性物質がどのように放出拡散し地上にはどのように降ってくるのかについてまた放射線被ばくによる健康被害について住民が常日頃から基本的な知識を持っておけるよう公的な啓発活動が必要である ② 地方自治体は原発事故の特異さを考慮した避難態勢を準備し実際に近い形での避難訓練を定期的に実施し住民も真剣に訓練に参加する取組が必要である ③ 避難に関しては数千人から十数万人規模の住民の移動が必要になる場合もあることを念頭に置いて交通手段の確保交通整理遠隔地における避難場所の確保避難先での水食糧の確保等について具体的な計画を立案するなど平常時から準備しておく必要がある特に医療機関老人ホーム福祉施設自宅等における重症患者重度障害者等社会的弱者の避難については格別の対策を講じる必要がある ④ 以上のような対策を地元の市町村任せにするのではなく避難計画や防災計画の策定と運用について原子力災害が広域にわたることも考慮して県や国も積極的に関与していく必要がある  安定ヨウ素剤の服用に関する提言(最終報告Ⅵ 1(3)e(c)概要 11 頁)  緊急被ばく医療機関に関する提言(最終報告Ⅵ 1(3)e(f)概要 13 頁)  放射線に関する国民の理解に関する提言(最終報告Ⅵ 1(3)e(g)概要 14 頁)  諸外国との情報共有や諸外国からの支援受入れに関する提言(最終報告Ⅵ 1(3)g(a)(b)概要 16 頁)

(5)国際的調和に関するもの  IAEA 基準などとの国際的調和に関する提言(最終報告Ⅵ 1(7)概要 21 頁)

(6)関係機関の在り方に関するもの  原子力安全規制機関の在り方に関する提言 ① 独立性と透明性の確保(中間報告Ⅶ 8(2)a)

74

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

 独立性と透明性を確保することが必要であり自律的に機能できるために必要な権限財源と人員を付与すると同時に国民に対する原子力安全についての説明責任を持たせることが必要である ② 緊急事態に迅速かつ適切に対応する組織力(中間報告Ⅶ 8(2)b) 災害発生時に迅速な活動が展開できるよう平常時から防災計画の策定や防災訓練等を実施しておくことのみならず緊急事態において対応に当たる責任者や関係機関に対して専門知識に基づく助言指導ができる専門能力や組織が有するリソースを有効かつ効率的に機能させるマネジメント能力の涵養が必要である また責任を持って危機対処の任に当たることの自覚を強く持つとともに大規模災害に対応できるだけの体制を事前に整備し関係省庁や関係地方自治体と連携して関係組織全体で対応できる体制の整備も図った上その中での規制機関の役割も明確にしておく必要がある ③ 国内外への災害情報の提供機関としての役割の自覚(中間報告Ⅶ 8(2)c) 情報提供の在り方の重要性を組織として深く自覚し緊急時に適時適切な情報提供を行い得るよう平素から組織的に態勢を整備しておく必要がある ④ 優秀な人材の確保と専門能力の向上(中間報告Ⅶ 8(2)d) 優れた専門能力を有する優秀な人材を確保できるような処遇条件の改善職員が長期的研修や実習を経験できる機会の拡大原子力放射線関係を含む他の行政機関や研究機関との人事交流の実施など職員の一貫性あるキャリア形成を可能とするような人事運用計画の検討が必要である ⑤ 科学的知見蓄積と情報収集の努力(中間報告Ⅶ 8(2)e) 関連学会や専門ジャーナル(海外も含む)海外の規制機関等の動向を絶えずフォローアップし規制活動に資する知見を継続的に獲得していく必要があるまたその知見の意味するところを理解しこれを組織的に共有した上で十分に活用するとともにその成果を組織として継承伝達していく必要がある ⑥ 国際機関外国規制当局との積極的交流(最終報告Ⅵ 1(5)概要 19 頁) ⑦ 規制当局の態勢強化(最終報告Ⅵ 1(5)概要 19 頁)  東京電力の在り方に関する提言(最終報告Ⅵ 1(6)e概要 20 頁)  安全文化の再構築に関する提言(最終報告Ⅵ 2(8)概要 27 頁)

(7)継続的な原因解明被害調査に関するもの  事故原因の解明継続に関する提言(最終報告Ⅵ 2(9)a概要 28 頁)  被害の全容を明らかにする調査の実施に関する提言(最終報告Ⅵ 2(9)b概要 28 頁)

委員長所感抜粋(今回の事故で得られた知見について)

 今回の事故で得られた知見を他の分野にも適用することができ100 年後の評価にも耐えるようにするためにはこれを単なる個別の分野における知見で終わらせずより一般化普遍化された知識にまで高めることが必要である以下福島原発事故という未曽有の災害についての調査検証を締めくくるに当たり今回の事故からどのような知識が得られるかについて整理しその主なものを示しておくこととしたい

(1)あり得ることは起こるあり得ないと思うことも起こる 今回の事故の直接的な原因は「長時間の全電源喪失は起こらない」との前提の下に全てが構築運営されていたことに尽きる「あり得ることは起こる」と考えるべきであるさらに「あり得ないと思う」という認識にすら至らない現象もあり得る言い換えれば「思い付きもしない現象も起こり得る」ことも併せて認識しておく必要があろう

(2)見たくないものは見えない見たいものが見える 人間はものを見たり考えたりするとき自分が好ましいと思うものや自分がやろうと思う方向だけを見がちで見たくないもの都合の悪いことは見えないものである自分の利害だけでなく自分を取り巻く組織社会時代の様々な影響によって自分の見方が偏っていることを常に自覚し必ず見落としがあると意識していなければならない

75

参考資料

(3)可能な限りの想定と十分な準備をする 過去のある時点での想定にとらわれず常に可能な限り想定の見直しを行って事故や災害の未然防止策を講じるとともにこれまで思い付きもしない事態も起こり得るとの発想の下で十分な準備をすることが必要である

(4)形を作っただけでは機能しない仕組みは作れるが目的は共有されない 事業者も規制関係機関も地方自治体もそれぞれの組織が形式的には原発事故に対応する仕組みを作っていたしかしいざ事故が起こるとその対応には不備が散見されたそれは組織の構成員がその仕組みが何を目的とし社会から何を預託されているかについて十分自覚していなかったためと考えられる構成員それぞれが社会から何を預託され自分が全体の中でどこにいるのかまた自分の働きが全体にどのような影響を与えるかを常に考えているような状態を作らなければならない

(5)全ては変わるのであり変化に柔軟に対応する 与条件を固定して考えると詳細にしかも形の上では立派な対応ができるしかし与条件は常に変化するものであり常に変化に応じた対応を模索し続けなければ実態に合わなくなる全ての事柄が変化すると考え細心の注意を払って観察し外部の声に謙虚に耳を傾け適切な対応を続けることが必要である

(6)危険の存在を認め危険に正対して議論できる文化を作る どのような事態が生ずるかを完全に予見することは何人にもできないにもかかわらず危険を完全に排除すべきと考えることは可能性の低い危険の存在をないことにする「安全神話」につながる危険がある危険を危険として認め危険に正対して議論できる文化を作らなければ安全というベールに覆われた大きな危険を放置することになる

(7) 自分の目で見て自分の頭で考え判断行動することが重要であることを認識しそのような能力を涵養することが重要である想定外の事故災害に対処するには自ら考えて事態に臨む姿勢と柔軟かつ能動的な思考が必要である平時からこのような資質や能力を高める組織運営を行うとともに教育や訓練を行っておくことが重要である

 この事故は自然が人間の考えに欠落があることを教えてくれたものと受け止めこの事故を永遠に忘れることなく教訓を学び続けなければならない

東京電力福島原子力発電所における事故調査検証委員会委員長 畑村洋太郎

76

国会 東京電力福島原子力発電所事故調査委員会 報告書(ダイジェスト版)

はじめに 福島原子力発電所事故は終わっていないこれは世界の原子力の歴史に残る大事故であり科学技術先進国の一つである日本で起きたことに世界中の人々は驚愕した世界が注目する中日本政府と東京電力の事故対応の模様は世界が注目する中で日本が抱えている根本的な問題を露呈することとなった想定できたはずの事故がなぜ起こったのかその根本的な原因は日本が高度経済成長を遂げたころにまで遡る政界官界財界が一体となり国策として共通の目標に向かって進む中複雑に絡まった『規制の虜(Regulatory Capture)』が生まれた そこにはほぼ 50 年にわたる一党支配と新卒一括採用年功序列終身雇用といった官と財の際立った組織構造とそれを当然と考える日本人の「思いこみ(マインドセット)」があった経済成長に伴い「自信」は次第に「おごり慢心」に変わり始めた入社や入省年次で上り詰める「単線路線のエリート」たちにとって前例を踏襲すること組織の利益を守ることは重要な使命となったこの使命は国民の命を守ることよりも優先され世界の安全に対する動向を知りながらもそれらに目を向けず安全対策は先送りされたそして日本の原発はいわば無防備のまま311 の日を迎えることとなった 311 の日広範囲に及ぶ巨大地震津波という自然災害とそれによって引き起こされた原子力災害への対応は極めて困難なものだったことは疑いもないしかもこの 50 年で初めてとなる歴史的な政権交代からわずか 18 カ月の新政権下でこの事故を迎えた当時の政府規制当局そして事業者は原子力のシビアアクシデント(過酷事故)における心の準備や各自の地位に伴う責任の重さへの理解そしてそれを果たす覚悟はあったのかこの事故が「人災」であることは明らかで歴代及び当時の政府規制当局そして事業者である東京電力による人々の命と社会を守るという責任感の欠如があった この大事故から9か月国民の代表である国会(立法府)の下に憲政史上初めて政府からも事業者からも独立したこの調査委員会が衆参両院において全会一致で議決され誕生した今回の事故原因の調査は過去の規制や事業者との構造といった問題の根幹に触れずには核心にたどりつけない私たちは委員会の活動のキーワードを「国民」「未来」「世界」としたそして委員会の使命を「国民による国民のための事故調査」「過ちから学ぶ未来に向けた提言」「世界の中の日本という視点(日本の世界への責任)」とした限られた条件の中6か月の調査活動を行った総括がこの報告書である被災された福島の皆さま特に将来を担う子どもたちの生活が一日でも早く落ち着かれることを心から祈りたいまた日本が経験したこの大事故に手を差し伸べてくださった世界中の方々私たち委員会の調査に協力支援をしてくださった方々初めての国会の事故調査委員会誕生に力を注がれた立法府の方々に深い感謝の意を表したい

東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(国会事故調)委員長 黒川 清

提言提言1 規制当局に対する国会の監視国民の健康と安全を守るために規制当局を監視する目的で国会に原子力に係る問題に関する常設の委員会等を設置する

1) この委員会は規制当局からの説明聴取や利害関係者又は学識経験者等からの意見聴取その他の調査を恒常的に行う2) この委員会は最新の知見を持って安全問題に対応できるよう事業者行政機関から独立したグ ローバルな視点を持った専門家からなる諮問機関を設ける3) この委員会は今回の事故検証で発見された多くの問題に関しその実施改善状況について継続 的な監視活動を行う(「国会による継続監視が必要な事項」として本編に添付)4) この委員会はこの事故調査報告について今後の政府による履行状況を監視し定期的に報告を求める

77

参考資料

提言2 政府の危機管理体制の見直し緊急時の政府自治体及び事業者の役割と責任を明らかにすることを含め政府の危機管理体制に関係する制度についての抜本的な見直しを行う

1) 政府の危機管理体制の抜本的な見直しを行う緊急時に対応できる執行力のある体制づくり指揮命 令系統の一本化を制度的に確立する2) 放射能の放出に伴う発電所外(オフサイト)の対応措置は住民の健康と安全を第一に政府及び自治体が中心となって政府の危機管理機能のもとに役割分担を行い実施する3) 事故時における発電所内(オンサイト)での対応(止める冷やす閉じ込める)については第一義的に事業者の責任とし政治家による場当たり的な指示介入を防ぐ仕組みとする

提言3 被災住民に対する政府の対応被災地の環境を長期的継続的にモニターしながら住民の健康と安全を守り生活基盤を回復するため政府の責任において以下の対応を早急に取る必要がある

1) 長期にわたる健康被害及び健康不安へ対応するため国の負担による外部内部被ばくの継続的検査と健康診断及び医療提供の制度を設ける情報については提供側の都合ではなく住民の健康と安全を第一に住民個々人が自ら判断できる材料となる情報開示を進める2) 森林あるいは河川を含めて広範囲に存在する放射性物質は場所によっては増加することもあり得るので住民の生活基盤を長期的に維持する視点から放射性物質の再拡散や沈殿堆積等の継続的なモニタリング及び汚染拡大防止対策を実施する3) 政府は除染場所の選別基準と作業スケジュールを示し住民が帰宅あるいは移転補償を自分で判断し選択できるように必要な政策を実施する

提言4 電気事業者の監視東電は電気事業者として経産省との密接な関係を基に電事連を介して保安院等の規制当局の意思決定過程に干渉してきた国会は提言1に示した規制機関の監視監督に加えて事業者が規制当局に不当な圧力をかけることのないように厳しく監視する必要がある

1) 政府は電気事業者との間の接触についてルールを定めそれに従った情報開示を求める2) 電気事業者間において原子力安全のための先進事例を確認しその達成に向けた不断の努力を促す相互監視体制を構築する3) 東電に対してガバナンス体制危機管理体制情報開示体制等を再構築しより高い安全目標に向けて継続した自己改革を実施するように促す4) 以上の施策の実効性を確保するため電気事業者のガバナンスの健全性安全基準安全対策の遵守状態等を監視するために立ち入り調査権を伴う監査体制を国会主導で構築する

提言5 新しい規制組織の要件規制組織は今回の事故を契機に国民の健康と安全を最優先とし常に安全の向上に向けて自ら変革を続けていく組織になるよう抜本的な転換を図る新たな規制組織は以下の要件を満たすものとする1) 高い独立性①政府内の推進組織からの独立性②事業者からの独立性③政治からの独立性を実現し監督機能を強化するための指揮命令系統責任権限及びその業務プロセスを確立する2) 透明性①各種諮問委員会等を含めて意思決定過程を開示しその過程において電気事業者等の利害関係者の関与を排除する②定期的に国会に対して全ての意思決定過程決定参加者施策実施状況等について報告する義務を課す③推進組織事業者政治との間の交渉折衝等に関しては議事録を残し原則公開する④委員の選定は第三者機関に1次定として相当数の候補者の選定を行わせた上でその中から国会同意人事として国会が最終決定するといった透明なプロセスを設定する3) 専門能力と職務への責任感①新しい規制組織の人材を世界でも通用するレベルにまで早期に育成しまたそのよ

78

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

うな人材の採用育成を実現すべく原子力規制分野でのグローバルな人材交流教育訓練を実施する②外国人有識者を含む助言組織を設置し規制当局の運営人材在り方等の必要な要件設定等に関する助言を得る③新しい組織の一員として職務への責任感を持った人材を中心とすべく「ノーリターンルール」を当初より例外なく適用する4) 一元化特に緊急時の迅速な情報共有意思決定司令塔機能の発揮に向けて組織体制の効果的な一元化を図る5) 自律性本組織には国民の健康と安全の実現のため常に最新の知見を取り入れながら組織の見直しを行い自己変革を続けることを要求し国会はその過程を監視する

提言6 原子力法規制の見直し原子力法規制については以下を含め抜本的に見直す必要がある1) 世界の最新の技術的知見等を踏まえ国民の健康と安全を第一とする一元的な法体系へと再構築する2) 安全確保のため第一義的な責任を負う事業者と原子力災害発生時にこの事業者を支援する他の事故対応を行う各当事者の役割分担を明確化する3) 原子力法規制が内外の事故の教訓世界の安全基準の動向及び最新の技術的知見等が反映されたものになるよう規制当局に対してこれを不断かつ迅速に見直していくことを義務付けその履行を監視する仕組みを構築する4) 新しいルールを既設の原子炉にも遡及適用すること(いわゆるバックフィット)を原則としそれがルール改訂の抑制といった本末転倒な事態につながらないように廃炉すべき場合と次善の策が許される場合との線引きを明確にする

提言7 独立調査委員会の活用未解明部分の事故原因の究明事故の収束に向けたプロセス被害の拡大防止本報告で今回は扱わなかった廃炉の道筋や使用済み核燃料問題等国民生活に重大な影響のあるテーマについて調査審議するために国会に原子力事業者及び行政機関から独立した民間中心の専門家からなる第三者機関として(原子力臨時調査委員会〈仮称〉)を設置するまた国会がこのような独立した調査委員会を課題別に立ち上げられる仕組みとしこれまでの発想に拘泥せず引き続き調査検討を行う

結論の要旨【認識の共有化】 平成 23(2011)年 3月 11 日に起きた東日本大震災に伴う東京電力福島原子力発電所事故は世界の歴史に残る大事故であるそしてこの報告が提出される平成 24(2012)年 6月においても依然として事故は収束しておらず被害も継続している 破損した原子炉の現状は詳しくは判明しておらず今後の地震台風などの自然災害に果たして耐えられるのか分からない今後の環境汚染をどこまで防止できるのかも明確ではない廃炉までの道のりも長く予測できない一方被害を受けた住民の生活基盤の回復は進まず健康被害への不安も解消されていない 当委員会は「事故は継続しており被災後の福島第一原子力発電所(以下「福島第一原発」という)の建物と設備の脆弱性及び被害を受けた住民への対応は急務である」と認識するまた「この事故報告が提出されることで事故が過去のものとされてしまうこと」に強い危惧を覚える日本全体そして世界に大きな影響を与え今なお続いているこの事故は今後も独立した第三者によって継続して厳しく監視検証されるべきである(提言 7に対応) 当委員会はこのような認識を共有化して以下のような調査に当たった

【事故の根源的原因】 事故の根源的な原因は東北地方太平洋沖地震が発生した平成 23(2011)年 3月 11 日(以下「311」という)以前に求められる当委員会の調査によれば311 時点において福島第一原発は地震にも津波にも耐えられる保証がない脆弱な状態であったと推定される地震津波による被災の可能性自然現象を起因とするシビアアクシデント(過酷事故)への対策大量の放射能の放出が考えられる場合の住民の安全保護など事業者である東京電力(以下「東電」という)及び規制当局である内閣府原子力安全委員会(以下「安全委員会」という)経済産業省原子力安全保安院(以下「保安院」という)また原子力推進行政当局である経済産業省(以下「経産省」という)がそれまでに当然備えておくべきこと実施すべきことをしていなかった 平成 18(2006)年に耐震基準について安全委員会が旧指針を改訂し新指針として保安院が全国の原子力事業者に対

79

参考資料

して耐震安全性評価(以下「耐震バックチェック」という)の実施を求めた 東電は最終報告の期限を平成 21(2009)年 6月と届けていたが耐震バックチェックは進められずいつしか社内では平成 28(2016)年 1月へと先送りされた東電及び保安院は新指針に適合するためには耐震補強工事が必要であることを認識していたにもかかわらず1~3号機については全く工事を実施していなかった保安院はあくまでも事業者の自主的取り組みであるとし大幅な遅れを黙認していた事故後東電は5号機については目視調査で有意な損傷はなかったとしているがそれをもって 1~3号機に地震動による損傷がなかったとは言えない 平成 18(2006)年には福島第一原発の敷地高さを超える津波が来た場合に全電源喪失に至ること土木学会評価を上回る津波が到来した場合海水ポンプが機能喪失し炉心損傷に至る危険があることは保安院と東電の間で認識が共有されていた保安院は東電が対応を先延ばししていることを承知していたが明確な指示を行わなかった 規制を導入する際に規制当局が事業者にその意向を確認していた事実も判明している安全委員会は平成 5(1993)年に全電源喪失の発生の確率が低いこと原子力プラントの全交流電源喪失に対する耐久性は十分であるとしそれ以降長時間にわたる全交流電源喪失を考慮する必要はないとの立場を取ってきたが当委員会の調査の中でこの全交流電源喪失の可能性は考えなくてもよいとの理由を事業者に作文させていたことが判明したまた当委員会の参考人質疑で安全委員会が深層防護(原子力施設の安全対策を多段的に設ける考え方IAEA〈国際原子力機関〉では 5層まで考慮されている1について日本は 5層のうちの 3層までしか対応できていないことを認識しながら黙認してきたことも判明した 規制当局はまた海外からの知見の導入に対しても消極的であったシビアアクシデント対策は地震や津波などの外部事象に起因する事故を取り上げず内部事象に起因する対策にとどまった米国では 911 以降に B5b2に示された新たな対策が講じられたがこの情報は保安院にとどめられてしまった防衛にかかわる機微情報に配慮しつつ必要な部分を電力事業者に伝え対策を要求していれば今回の事故は防げた可能性がある このように今回の事故はこれまで何回も対策を打つ機会があったにもかかわらず歴代の規制当局及び東電経営陣がそれぞれ意図的な先送り不作為あるいは自己の組織に都合の良い判断を行うことによって安全対策が取られないまま 311 を迎えたことで発生したものであった 当委員会の調査によれば東電は新たな知見に基づく規制が導入されると既設炉の稼働率に深刻な影響が生ずるほか安全性に関する過去の主張を維持できず訴訟などで不利になるといった恐れを抱いておりそれを回避したいという動機から安全対策の規制化に強く反対し電気事業連合会(以下「電事連」という)を介して規制当局に働きかけていた このような事業者側の姿勢に対し本来国民の安全を守る立場から毅然とした対応をすべき規制当局も専門性において事業者に劣後していたこと過去に自ら安全と認めた原子力発電所に対する訴訟リスクを回避することを重視したことまた保安院が原子力推進官庁である経産省の組織の一部であったこと等から安全について積極的に制度化していくことに否定的であった 事業者が規制当局を骨抜きにすることに成功する中で「原発はもともと安全が確保されている」という大前提が共有され既設炉の安全性過去の規制の正当性を否定するような意見や知見それを反映した規制指針の施行が回避緩和先送りされるように落としどころを探り合っていた これを構造的に見れば以下のように整理できる本来原子力安全規制の対象となるべきであった東電は市場原理が働かない中で情報の優位性を武器に電事連等を通じて歴代の規制当局に規制の先送りあるいは基準の軟化等に向け強く圧力をかけてきたこの圧力の源泉は電力事業の監督官庁でもある原子力政策推進の経産省との密接な関係であり経産省の一部である保安院との関係はその大きな枠組みの中で位置付けられていた規制当局は事業者への情報の偏在自身の組織優先の姿勢等から事業者の主張する「既設炉の稼働の維持」「訴訟対応で求められる無謬性」を後押しすることになったこのように歴代の規制当局と東電との関係においては規制する立場とされる立場の「逆転関係」が起き規制当局は電力事業者の「虜(とりこ)」となっていたその結果原子力安全についての監視監督機能が崩壊していたと見ることができる3 当委員会は本事故の根源的原因は歴代の規制当局と東電との関係について「規制する立場とされる立場が『逆転関係』となることによる原子力安全についての監視監督機能の崩壊が起きた点に求められる」と認識する何度も事前に対策

1 IAEAの深層防護(Defence in Depth)2 平成 13(2001)年 9月 11 日の同時多発テロの後平成 14(2002)年 2月にNRC(米国原子力規制委員会)が策定したテロ対策全電源喪失を想定した機材の備えと訓練を米国の全原子力発電所に義務付けている3 これは規制当局が事業者の「虜(とりこ)」となって被規制産業である事業者の利益最大化に傾注するといういわゆる「規制の虜(Regulatory Capture)」によっても説明できるものである

80

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

を立てるチャンスがあったことに鑑みれば今回の事故は「自然災害」ではなくあきらかに「人災」である(提言1に対応)

【事故の直接的原因】 本事故の直接的原因は地震及び地震に誘発された津波という自然現象であるが事故が実際にどのように進展していったかに関しては重要な点において解明されていないことが多いその大きな理由の一つは本事故の推移と直接関係する重要な機器配管類のほとんどがこの先何年も実際に立ち入ってつぶさに調査検証することのできない原子炉建屋及び原子炉格納容器内部にあるためである しかし東電は事故の主因を早々に津波とし「確認できた範囲においては」というただし書きはあるものの「安全上重要な機器は地震で損傷を受けたものはほとんど認められない」と中間報告書に明記しまた政府も IAEAに提出した事故報告書に同趣旨のことを記した 直接的原因を実証なしに津波に狭く限定しようとする背景は不明だが本編第 1部で述べるように既設炉への影響を最小化しようという考えが東電の経営を支配してきたのであってここでもまた同じ動機が存在しているようにも見えるあるいは東電の中間報告にあるように「想定外」とすることで責任を回避するための方便のようにも聞こえるが当委員会の調査では地震のリスクと同様に津波のリスクも東電及び規制当局関係者によって事前に認識されていたことが検証されており言い訳の余地はない 事故の主因を津波のみに限定すべきでない理由としてスクラム(原子炉緊急停止)後に最大の揺れが到達したこと小規模の LOCA(小さな配管破断などの小破口冷却材喪失事故)の可能性は独立行政法人原子力安全基盤機構(JNES)の解析結果も示唆していること1号機の運転員が配管からの冷却材の漏れを気にしていたことそして 1号機の主蒸気逃がし安全弁(SR弁)は作動しなかった可能性を否定できないことなどが挙げられ特に 1号機の地震による損傷の可能性は否定できないまた外部送電系が地震に対して多様性独立性が確保されていなかったことまたかねてから指摘のあった東電新福島変電所の耐震性不足などが外部電源喪失の一因となった 当委員会は事故の直接的原因について「安全上重要な機器の地震による損傷はないとは確定的には言えない」特に「1号機においては小規模の LOCAが起きた可能性を否定できない」との結論に達したしかし未解明な部分が残っておりこれについて引き続き第三者による検証が行われることを期待する(提言 7に対応)

【運転上の問題の評価】 発電所の現場の運転上の問題についてはいくつか特記すべきことはあるがむしろ今回のようにシビアアクシデント対策がない場合全電源喪失状態に陥った際に現場で打てる手は極めて限られるということが検証された1号機の非常用復水器(IC)の操作及びその後の確認作業の是非については全交流電源喪失(SBO)直後からの系統確認としかるべき運転操作に迅速に対応できなかったしかし ICの操作に関してはマニュアルもなくまた運転員は十分訓練されていなかったさらに本事故においてはおそらく早期のうちに ICの蒸気管に非凝縮性の水素ガスが充満しそのために自然循環が阻害されICが機能喪失していたと当委員会は推測しているこうした事情を考慮すれば単純に事故当時の運転員の判断や操作の非を問うことはできない 東電の経営陣が耐震工事の遅れ及び津波対策の先送りの事実を把握し福島第一原発の脆弱性を認識していたと考えられることから被災時の現場の状態はある程度事前にも想像できたはずである少なくとも発電所の脆弱性を補うためにもシビアアクシデント時に現場で対応する準備を行わせるのは経営として必要なことであった東電の本店及び発電所の幹部もこのような状況下で少なくとも緊急時の現場の対応について準備をすることが必要であった以上を考えればこれは運転員作業員個人の問題に帰するのではなく東電の組織的問題として考えるべき事柄である ベントライン構成についても電源が喪失し放射線量の高い中でのライン構成作業自体が困難でありかつ時間がかかるものであったシビアアクシデント手順書の中の図面も不備であったことが判明しており見づらい図面を時間に追われつつ懐中電灯で解明する作業を強いられた官邸はベントに時間がかかることから東電への不信が高まったとしているが実際の作業は困難を極めるものであった 多重防護が一気に破られ同時に 4基の原子炉の電源が喪失するという中で2号機の原子炉隔離時冷却系(RCIC)が長時間稼働したこと2号機のブローアウトパネルが脱落したこと協力会社の決死のがれき処理が思った以上に進んだことなど偶然というべき状況がなければ23号機はさらに厳しい状況に陥ったとも考えられるシビアアクシデント対策がない状態で直流電源も含めた全電源喪失状況を作り出してしまったことで既にその後の結果は避けられなかったと判断した 当委員会は「過酷事故に対する十分な準備レベルの高い知識と訓練機材の点検がなされまた緊急性について運転

81

参考資料

員作業員に対する時間的要件の具体的な指示ができる準備があればより効果的な事後対応ができた可能性は否定できないすなわち東電の組織的な問題である」と認識する(提言 4に対応)

【緊急時対応の問題】 いったん事故が発災した後の緊急時対応について官邸規制当局東電経営陣にはその準備も心構えもなくその結果被害拡大を防ぐことはできなかった保安院は原子力災害対策本部の事務局としての役割を果たすことが期待されたが過去の事故の規模を超える災害への備えはなく本来の機能を果たすことはできなかった官邸は発災直後の最も重要な時間帯に緊急事態宣言を速やかに出すことができなかった本来官邸は現地対策本部を通じて事業者とコンタクトをすべきとされていたしかし官邸は東電の本店及び現場に直接的な指示を出しそのことによって現場の指揮命令系統が混乱したさらに15 日に東電本店内に設置された統合対策本部も法的な根拠はなかった 1号機のベントの必要性については官邸規制当局あるいは東電とも一致していたが官邸はベントがいつまでも実施されないことから東電に疑念不信を持った東電は平時の連絡先である保安院にはベントの作業中である旨を伝えていたがそれが経産省のトップそして官邸に伝えられていたという事実は認められない保安院の機能不全東電本店の情報不足は結果として官邸と東電の間の不信を募らせその後総理が発電所の現場に直接乗り込み指示を行う事態になったその後も続いた官邸による発電所の現場への直接的な介入は現場対応の重要な時間を無駄にするというだけでなく指揮命令系統の混乱を拡大する結果となった 東電本店は的確な情報を官邸に伝えるとともに発電所の現場の技術的支援という重要な役割を果たすべきであったが官邸の顔色をうかがいながらむしろ官邸の意向を現場に伝える役割だけの状態に陥った3月 14 日2号機の状況が厳しくなる中で東電が全員撤退を考えているのではないかという点について東電と官邸の間で認識のギャップが拡大したがこの根源には両者の相互不信が広がる中で東電の清水社長が官邸の意向を探るかのような曖昧な連絡に終始した点があったと考えられるただし①発電所の現場は全面退避を一切考えていなかったこと②東電本店においても退避基準の検討は進められていたが全面退避が決定された形跡はなく清水社長が官邸に呼ばれる前に確定した退避計画も緊急対応メンバーを残して退避するといった内容であったこと③当時清水社長から連絡を受けた保安院長は全面退避の相談とは受け止めなかったこと④テレビ会議システムでつながっていたオフサイトセンターにおいても全面退避が議論されているという認識がなかったこと等から判断して総理によって東電の全員撤退が阻止されたと理解することはできない 重要なのは時の総理の個人の能力判断に依存するのではなく国民の安全を守ることのできる危機管理の仕組みを構築することである 当委員会は事故の進展を止められなかったあるいは被害を最小化できなかった最大の原因は「官邸及び規制当局を含めた危機管理体制が機能しなかったこと」そして「緊急時対応において事業者の責任政府の責任の境界が曖昧であったこと」にあると結論付けた(提言 2に対応)

【被害拡大の要因】 事故発災当時政府から自治体に対する連絡が遅れたばかりではなくその深刻さも伝えられなかった同じように避難を余儀なくされた地域でも原子力発電所からの距離によって事故情報の伝達速度に大きな差が生じた立地町でさえ3km圏避難の出た 21 時 23 分には事故情報は住民の 20程度しか伝わっていない10km圏内の住民の多くは 15 条報告から 12 時間以上たった 3月 12 日の朝 5時 44 分の避難指示の時点で事故情報を知ったしかしその際に事故の進展あるいは避難に役立つ情報は伝えられなかった着の身着のままの避難多数回の避難移動あるいは線量の高い地域への移動が続出したその後の長期にわたる屋内避難指示及び自主避難指示での混乱モニタリング情報が示されないために線量の高い地域に避難した住民の被ばく影響がないと言われて 4月まで避難指示が出されず放置された地域など避難施策は混乱した当委員会は事故前の原子力防災体制の整備の遅れ複合災害対策の遅れとともに既存の防災体制の改善に消極的であった歴代の規制当局の問題点も確認している 当委員会は避難指示が住民に的確に伝わらなかった点について「これまでの規制当局の原子力防災対策への怠慢と当時の官邸規制当局の危機管理意識の低さが今回の住民避難の混乱の根底にあり住民の健康と安全に関して責任を持つべき官邸及び規制当局の危機管理体制は機能しなかった」と結論付けた(提言 2に対応)

【住民の被害状況】 本事故により合計約 15 万人が避難区域から避難した本事故の収束作業に従事した中で100mSv(シーベルト)を超え

82

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

る線量を被ばくした作業員は 167 人とされている福島県内の 1800km2 もの広大な土地が年間 5mSv 以上の積算線量をもたらす土地となってしまったと推定される被害を受けた広範囲かつ多くの住民は不必要な被ばくを経験したまた避難のための移動が原因と思われる死亡者も発生したしかも住民は事故から 1年以上たっても先が見えない状態に置かれている政府はこのような被災地域の住民の状況を十分把握した上で避難区域の再編生活基盤の回復除染医療福祉の再整備など住民の長期的な生活改善策を系統的継続的に打ち出していくべきであるが縦割り省庁別の通常業務的施策しかなく住民の目から見るといまだに整合性のある統合的な施策が政府から打ち出されていない 我々が実施したタウンミーティングや 1万人を超す住民アンケートにはいまだに進まない政府の対応に厳しい声が多数寄せられている 放射線の急性障害はしきい値があるとされているが低線量被ばくによる晩発障害はしきい値がなくリスクは線量に比例して増えることが国際的に合意されている 年齢個人の放射線感受性放射線量によってその影響は変わるまた未解明の部分も残る一方政府は一方的に線量の数字を基準として出すのみでどの程度が長期的な健康という観点からして大丈夫なのか人によって影響はどう違うのか今後どのように自己管理をしていかなければならないのかといった判断をするために住民が必要とする情報を示していない政府は住民全体一律ではなく乳幼児から若年層妊婦放射線感受性の強い人など住民個々人が自分の行動判断に役立つレベルまで理解を深めてもらう努力をしていない 当委員会は「被災地の住民にとって事故の状況は続いている放射線被ばくによる健康問題家族生活基盤の崩壊そして広大な土地の環境汚染問題は深刻であるいまだに被災者住民の避難生活は続き必要な除染あるいは復興の道筋も見えていない当委員会には多数の住民の方々からの悲痛な声が届けられている先の見えない避難所生活など現在も多くの人が心身ともに苦難の生活を強いられている」と認識するまたその理由として「政府規制当局の住民の健康と安全を守る意思の欠如と健康を守る対策の遅れ被害を受けた住民の生活基盤回復の対応の遅れさらには受け手の視点を考えない情報公表にある」と結論付けた(提言 3に対応)

【問題解決に向けて】 本事故の根源的原因は「人災」であるがこの「人災」を特定個人の過ちとして処理してしまう限り問題の本質の解決策とはならず失った国民の信頼回復は実現できないこれらの背後にあるのは自らの行動を正当化し責任回避を最優先に記録を残さない不透明な組織制度さらにはそれらを許容する法的な枠組みであったまた関係者に共通していたのはおよそ原子力を扱う者に許されない無知と慢心であり世界の潮流を無視し国民の安全を最優先とせず組織の利益を最優先とする組織依存のマインドセット(思い込み常識)であった 当委員会は事故原因を個々人の資質能力の問題に帰結させるのではなく規制される側とする側の「逆転関係」を形成した真因である「組織的制度的問題」がこのような「人災」を引き起こしたと考えるこの根本原因の解決なくして単に人を入れ替えあるいは組織の名称を変えるだけでは再発防止は不可能である(提言 45及び 6に対応)

【事業者】 東電はエネルギー政策や原子力規制に強い影響力を行使しながらも自らは矢面に立たず役所に責任を転嫁する経営を続けてきたそのため東電のガバナンスは自律性と責任感が希薄で官僚的であったがその一方で原子力技術に関する情報の格差を武器に電事連等を介して規制を骨抜きにする試みを続けてきた その背景には東電のリスクマネジメントのゆがみを指摘することができる東電はシビアアクシデントによって周辺住民の健康等に被害を与えること自体をリスクとして捉えるのではなくシビアアクシデント対策を立てるに当たって既設炉を停止したり訴訟上不利になったりすることを経営上のリスクとして捉えていた 東電は現場の技術者の意向よりも官邸の意向を優先したり退避に関する相談に際しても官邸の意向を探るかのような曖昧な態度に終始したりしたその意味で東電は官邸の過剰介入や全面撤退との誤解を責めることが許される立場にはなくむしろそうした混乱を招いた張本人であった 本事故発生後における東電の情報開示は必ずしも十分であったとはいえない確定した事実確認された事実のみを開示し不確実な情報のうち特に不都合な情報は開示しないといった姿勢がみられた特に 2号機の事故情報の開示に問題があったほか計画停電の基礎となる電力供給の見通しについても情報開示に遅れがみられた 当委員会は「規制された以上の安全対策を行わず常により高い安全を目指す姿勢に欠けまた緊急時に発電所の事故対応の支援ができない現場軽視の東京電力経営陣の姿勢は原子力を扱う事業者としての資格があるのか」との疑問を呈した(提言 4に対応)

83

参考資料

【規制当局】 規制当局は原子力の安全に対する監視監督機能を果たせなかった専門性の欠如等の理由から規制当局が事業者の虜(とりこ)となり規制の先送りや事業者の自主対応を許すことで事業者の利益を図り同時に自らは直接的責任を回避してきた規制当局の推進官庁事業者からの独立性は形骸化しておりその能力においても専門性においてもまた安全への徹底的なこだわりという点においても国民の安全を守るには程遠いレベルだった

 当委員会では「規制当局は組織の形態あるいは位置付けを変えるだけではなくその実態の抜本的な転換を行わない限り国民の安全は守られない国際的な安全基準に背を向ける内向きの態度を改め国際社会から信頼される規制機関への脱皮が必要であるまた今回の事故を契機に変化に対応し継続的に自己改革を続けていく姿勢が必要である」と結論付けた(提言 5に対応)

【法規制】 日本の原子力法規制はその改定において実際に発生した事故のみを踏まえた対症療法的パッチワーク的対応が重ねられ諸外国における事故や安全への取り組み等を真摯に受け止めて法規制を見直す姿勢にも欠けていたその結果予測可能なリスクであっても過去に顕在化していなければ対策が講じられず常に想定外のリスクにさらされることとなった また原子力法規制は原子力利用の促進が第一義的な目的とされ国民の生命身体の安全が第一とはされてこなかったさらに原子力法規制全体を通じての事業者の第一義的責任が明確にされておらず原子力災害発生時については第一義的責任を負う事業者に対し他の事故対応を行う各当事者がどのような活動を行ってこれを支援すべきかについての役割分担が不明確であった加えて諸外国で取り入れられている深層防護の考え方についても法規制の検討に際し十分に考慮されてこなかった 当委員会では「原子力法規制はその目的法体系を含めた法規制全般について抜本的に見直す必要があるかかる見直しに当たっては世界の最新の技術的知見等を反映しこの反映を担保するための仕組みを構築するべきである」と結論付けた(提言 6に対応) 以上のことを認識し教訓とした上で当委員会としては未来志向の立場に立って以下の 7つの提言を行う今後国会において十分な議論をいただきたいなおこの 7つの提言とは別に今後国会による継続監視が必要な事項を本編付録として添付した

提言の実現に向けて ここに示した 7つの提言は当委員会が国会から付託された使命を受けて調査作成した本報告書の最も基本的で重要なことを反映したものであるしたがって当委員会は国会に対してこの提言の実現に向けた実施計画を速やかに策定しその進捗の状況を国民に公表することを期待する この提言の実現に向けた第一歩を踏み出すことはこの事故によって日本が失った世界からの信用を取り戻し国家に対する国民の信頼を回復するための必要条件であると確信する 事故が起こってから 16 カ月が経過したこの間この事故について数多くの内外の報告書調査の記録著作等が作成されたそのいくつかには我々が意を強くする結論や提案がなされているしかしわが国の原子力安全の現実を目の当たりにした我々の視点からは根本的な問題の解決には不十分であると言わざるを得ない 原子力を扱う先進国は原子力の安全確保は第一に国民の安全にあるとし福島原子力発電所事故後はさらなる安全水準の向上に向けた取り組みが行われている一方わが国では従来もそして今回のような大事故を経ても対症療法的な対策が行われているにすぎないこのような小手先の対策を集積しても今回のような事故の根本的な問題は解決しない この事故から学び事故対策を徹底すると同時に日本の原子力対策を国民の安全を第一に考えるものに根本的に変革していくことが必要である ここにある提言を一歩一歩着実に実行し不断の改革の努力を尽くすことこそが国民から未来を託された国会議員国権の最高機関たる国会及び国民一人一人の使命であると当委員会は確信する 福島原発事故はまだ終わっていない被災された方々の将来もまだまだ見えない国民の目から見た新しい安全対策が今強く求められているこれはこの委員会の委員一同の一致した強い願いである

84

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

委員会について 当委員会の根拠法令である「東京電力福島原子力発電所事故調査委員会法(以下「委員会法」4という)」は平成 23 (2011)年 10 月 30 日に施行され委員長及び委員の 10 名は国会の承認を得て同年 12 月 8 日両議院の議長より任命された【委員長】黒川 清(政策研究大学院大学アカデミックフェロー元日本学術会議会長)【委員】石橋 克彦(理学博士地震学者神戸大学名誉教授)大島 賢三(独立行政法人国際協力機構顧問元国際連合大使)崎山 比早子(医学博士元放射線医学総合研究所主任研究官)櫻井 正史(弁護士元名古屋高等検察庁検事長元防衛省防衛監察監)田中 耕一(分析化学者株式会社島津製作所フェロー)田中 三彦(科学ジャーナリスト)野村 修也(中央大学法科大学院教授弁護士)蜂須賀 禮子(福島県大熊町商工会会長)横山 禎徳(社会システムデザイナー東京大学エグゼクティブマネジメントプログラム企画推進責任者)【調査の概要】ヒアリング 延べ 1167 人(900 時間超)原発視察(福島第一および第二女川東海) 9 回タウンミーティング 3 回(合計 400 人超)被災住民アンケート回答者数 住民 10633 人 (自由回答コメント 8066 人)作業従業員アンケート回答者数 2415 人東電規制官庁および関係者に対する資料請求 2000 件以上

【委員会の情報公開】委員会開催 19 回(動画中継合計 約 60 時間)すべての委員会を動画配信(合計視聴者数 約 80 万人) Facebookツイッターのソーシャルメディア活用 (17 万件以上の書き込み)東京電力福島原子力発電所事故から 16 カ月がたち既にその間に政府や東京電力のみならず数多くの検証の試みがなされ報告著書マスメディアなどの多様な媒体で公表されている国内ばかりでなく国際機関からもまた海外からも発信されているそれらに記述されていることとこの委員会報告に記載されていることは重複している部分も多くあるだろうしかし当委員会が参考人のヒアリングを世界に対して公開して行った意味はそれを見た一人一人がそれまでのメディアを通じた情報と比較しながらより立体的にまた客観的に事故の原因を把握し今後何をなすべきか判断できる材料を提供するということにあると考えるそこにこそ公開の意味があるのでありそのような認識でこの委

4 「東京電力福島原子力発電所事故調査委員会法」

85

参考資料

員会は活動を行い報告書を作成した

【当委員会で扱わなかった事項】 設置に際し委員会法 10 条各号により我々に課せられた課題解決を最優先とするため以下の点については今回の調査の対象外とした1) 日本の今後のエネルギー政策に関する事項(原子力発電の推進あるいは廃止も含めて)2) 使用済み核燃料処理処分等に関する事項3) 原子炉の実地検証を必要とする事項で当面線量が高くて実施ができない施設の検証に関する事項4) 個々の賠償除染などの事故処理費用に関する事項5) 事故処理費用の負担が事業者の支払い能力を超える場合の責任の所在に関する事項6) 原子力発電所事業に対する投資家株式市場の事故防止につながるガバナンス機能に関する事項7) 個々の原子力発電所の再稼働に関する事項8) 政策制度について通常行政府が行うべき具体的な設計に関する事項9) 事故後の原子炉の状況の把握及び廃炉のプロセスに関する事項発電所周辺地域の再生に関する事項10) その他委員の合意によって範囲外と決めた事項等 当委員会の根拠法令である「東京電力福島原子力発電所事故調査委員会法(以下「委員会法」4という)」は平成 23(2011)年 10 月 30 日に施行され委員長及び委員の 10 名は国会の承認を得て同年 12 月 8 日両議院の議長より任命されたhttpnaiicgojp本編要約をホームページで公開(日英)<お問い合わせ先>東京電力福島原子力発電所事故調査委員会事務局 e-mailpressnaiicjp

Page 2: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の

8

第1部

 2011年 3月 11日に発生したマグニチュード90の東北地方太平洋沖地震は国内観測史上最大規模の地震であり大規模な津波を伴い未曾有の大災害を引き起こしました 東京電力株式会社(以下東京電力)福島第一原子力発電所事故では政府による避難屋内退避の指示等により多数の居住者等が避難その他の行動を余儀なくされあるいは事業者が生産及び営業を含めた事業活動の断念を余儀なくされる等同発電所から半径約30km 圏内を中心に福島県全体のみならず周辺の各県も含めた広範囲に影響を及ぼす事態に至りました この東京電力福島原子力発電所事故東日本大震災により原子力の安全性について国民の信頼が大きく損なわれまた電力石油ガスといったエネルギーの供給に混乱が生じる等国内におけるエネルギーの安定供給体制の災害に対する脆弱性や原子力の安全確保に関する課題が改めて浮き彫りになる等の課題が明らかになりました 将来にわたって国民が安心できる持続可能性のあるエネルギー政策の構築が求められている中東京電力

福島第一原子力発電所における事故により国民の生活地域経済環境に対して甚大な被害を与えたことによる深い反省を踏まえ「福島のような事故を二度と繰り返してはならない」ことを肝に銘じ我が国のエネルギー政策をゼロベースで見直すこととし現在まで様々な検討を行ってきています 本年はこの「エネルギー政策の白紙からの見直し」についてこれまで(2012年 7 月末頃まで1)の経緯を整理し明らかにすることを第1部の重要なねらいとしています まず東日本大震災で明らかになった課題を概観します(第1章)次に震災後からこれまで(2012年 7月末まで)に講じられた電力省エネルギー新エネルギーに関する主な施策(第2章)原子力発電所事故に関連して行われた取組の概要現状今後への課題等(第3章)を取り上げますそして現行のエネルギー政策をゼロベースで見直すに当たって設置されたエネルギー環境会議総合資源エネルギー調査会基本問題委員会をはじめとする関係審議会等の構成検討結果等を概観(第4章)することでこれまで行ってきたエネルギー政策の見直しの経緯を明らかにします

はじめに

1 組織名肩書き等は記載事項当時のものを掲載しています

9

第1章

第1章東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故で明らかになった課題2

 本章では第2章以降で取り上げるエネルギー政策のゼロベースの見直しに先立ち東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故によって生じた被害の状況と明らかになった課題を概観します

第1節 電力

1被害の状況

 2011年 3月 11日東北地方太平洋沖地震とそれが引き起こした津波により東京電力福島第一原子力発電所において未曾有の大規模かつ長期にわたる原子力事故が発生しました東京電力福島第一原子力発電所からは大量の放射性物質が放出され住民が避難生活を余儀なくされていますまた原子力発電所の停止火力発電所の被災等により東京電力及び東北電力管内を中心に広範囲にわたり停電が発生しました

2講じた措置(対応)と明らかになった課題

 原子力施設の安全確保に向けた措置として事故の収束に向けた取組(原子力災害対策本部の設置等)全国の原子力施設の安全性安心を高める取組(緊急安全対策原子力発電所の停止要請等)を行いましたまた事故原因の究明として東京電力福島原子力発電所における事故調査検証委員会の設置IAEA報告書の提出等を行いました原子力被災者への対応としては原子力被災者生活支援チームの設置原子力損害賠償支援機構の設立等を行いました 東京電力福島第一原子力発電所の事故や火力発電所の停止等は東日本の電力供給力を一挙に大きく低下させましたが東日本(50Hz帯)の電力不足に対して西日本(60Hz帯)からの余剰電力の融通を十分に行う事等ができなかったため2011年 3月 14日以降東

京電力管内で計10日間計画停電の実施に至りました(第111-2-1) 2011年度夏期冬期の電力需給対策については電力需給緊急対策本部(2011年5月16日電力需給に関する検討会合に改組)において議論が積み重ねられました夏期の電力需給対策については供給力の追加措置を講じる一方東京電力及び東北電力管内においてはピーク期間時間帯3の使用最大電力について15の抑制(節電)を要請し特に大口需要家4については電気事業法第27条に基づく使用制限を実施する等の対応を行いましたまた関西電力管内においては全体として10以上の節電の要請を行い中西日本のその他の電力管内(中部電力北陸電力中国電力四国電力九州電力の各管内)においては国民生活や経済活動に支障を生じない範囲での節電に取り組みました冬期の電力需給対策については供給力の向上等の対策を行うとともにピーク電力不足による停電等を回避するため全国(沖縄を除く)の需要家の皆様に2011年12月1日から2012年3月30日までの

2 東日本大震災による電力都市ガス石油LPGの被害状況対応明らかになった課題については2011 年 7 月末頃までの経緯について「平成 22 年度エネルギーに関する年次報告」においても記載しています3 各電力会社管内において節電を要請する期間時間帯です4 東京電力及び東北電力並びにその供給区域内で供給している特定規模電気事業者と直接需給契約を締結している需要家です

5500

5000

4500

4000

3500

3000

2500

(万 kW) (回)8

7

6

5

4

3

2

1

0311 13 15 17 19 21 23 25 27 29 31

1

5 5

7

5

4

2

1 1 1

計画停電の延べ回数

供給能力の推移

需要予測の推移

震災と原発事故

第111-2-1 東京電力管内における計画停電の実施回数

10

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第1章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故で明らかになった課題

第1章

間節電を要請し特に需給の厳しい関西電力九州電力管内においては一定の期間中数値目標を設定5

して節電を要請しました このように東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所の事故は原子力の安全性確保周波数変換所や連系線の容量不足電力需給逼迫の産業への影響回避等の課題を明らかにしました

第2節 都市ガス

1被害の状況

 都市ガス事業等においては震災による津波や液状化等によりガスの製造設備や供給設備(導管等)が破損しました供給設備の被害は過去の震災においてもありましたが今回の東日本大震災では津波により一部の製造設備が機能停止にまで陥りました特に沿岸部にあった仙台市ガス局のLNG基地(LNGタンカーから受け入れたLNGを貯蔵気化させて都市ガスとして供給する施設)は津波で被災し主要な電気設備が冠水するとともに護岸の一部が流される等の甚大な被害が生じました今回の大震災において我が国は大規模な需要をまかなうLNG基地の機能停止を初めて経験しました

2講じた措置(対応)と明らかになった課題

 全国の都市ガス事業者による復旧応援移動式ガス発生設備による臨時供給を行ったほか復旧に1年近い期間を要することが見込まれていた仙台市ガス局のLNG基地に代わり新潟-仙台間を結ぶ広域天然ガスパイプラインによる代替供給(第112-2-1)を行い供給再開作業が可能となった結果大震災から1カ月強で復旧を完了しました 現状の我が国の天然ガスパイプラインネットワークを見ますと都市ガスの需要地ごとに分断されており新潟-仙台間のような広域的な天然ガスパイプラインが存在する地域は極めてまれであると言えますその意味において今回の震災によって仮に単独のLNG基地に供給を依存する地域において製造設備が被災し機能停止に陥った場合たとえ復旧応援があった

としても都市ガスの供給そのものが停止するため長期間に渡りガス供給が途絶するリスクがあることが顕在化しました

第3節 石油LPG

1被害の状況

 震災により臨海部を中心に港湾や道路が大きな被害を受けました東北地方で唯一の製油所であるJX日鉱日石エネルギー株式会社仙台製油所をはじめ東北関東地方にある9製油所のうち6製油所が被災しましたまた主要供給拠点である塩釜油槽所の受入港湾にタンカーが着桟できない状況となるとともにタンクローリーが多数被災する等被災地における石油製品の安定供給に支障を来しました またLPガス供給基地は東北各県及び茨城県の9基地中7基地が被災し充塡所は被災3県(岩手宮城福島)の160カ所中28カ所が使用不可能になりました 石油製品(ガソリン灯油軽油等)の流通網についてはタンクローリーが津波により多数被災したことに加え道路鉄道事情が大幅に悪化し交通網が分断状況となったこと等により油槽所からサービスス

5  関西電力管内2011 年 12 月 19 日~2012 年 3 月 23 日までの間「10以上」(ただし生産活動等に配慮) 九州電力管内2011 年 12 月 26 日~2012 年 2 月 3 日までの間「5以上」(ただし生産活動等に配慮)

仙台市ガス局LNG基地(被災)

LNG基地

ガス事業者

幹線パイプライン

第112-2-1 新潟 - 仙台間の天然ガスパイプライン

11

第3節 石油LPG

第1章

テーション(SS)へのガソリン等の安定的な輸送が困難な状況となりましたまた津波の影響でサービスステーション(SS)についても給油設備が被害を受けたこと等により岩手や宮城の一部地域において全てのサービスステーション(SS)が営業不能になった市町村もありました

2講じた措置(対応)と明らかになった課題

(1)震災において講じた対応①被災地からの個別燃料供給要請への対応 震災発生直後より医療機関や警察消防を始め各方面から差し迫った石油製品供給の要請がありました政府は石油連盟全国石油業共済協同組合連合会石油元売各社と協力して対応体制を構築し24時間態勢でこれらの要請に対応するとともにLPガスについても他地域からの輸送体制を強化6する等して被災地への供給確保を行うと共に軒下在庫7の活用及び仮設住宅への供給等8を行いました

② 包括的な供給プランの策定(東北地方(被災地)及び関東圏でのガソリン軽油等の供給確保) 今次震災においては津波等によるタンクローリーの被災や東北関東地方にある製油所の被災による国内の石油精製能力の低下によって被災地等における石油製品の安定供給に支障を来しました 石油元売各社は経済産業大臣からの被災地へのタンクローリーの追加投入や製油所稼働率の引き上げについての要請に基づき約300台のタンクローリーの追加投入や西日本における石油製品の増産を実施しましたその増産分についてはタンカー等により被災地へ大量転送しました 津波等により被災し出荷困難な状況に陥った太平洋側の油槽所については石油元売各社による設備の復旧関係機関協力下での近海海域の掃海周辺道路の回復による油槽所機能の早期回復が図られました また比較的被害の小さかった油槽所を複数の石油会社間で共同利用する等の柔軟な対応により被災地

への石油供給を行いました これらの対応に加え消防警察等の緊急車両への燃料供給を優先するよう石油販売業界に要請するとともに緊急車両に対して確実に燃料供給を行うために東北圏で合計385カ所関東圏で合計348カ所のサービスステーション(SS)を緊急重点サービスステーションとして認定しました また福島原子力発電所周辺地域においては住民の方々の自主避難を円滑に進めるため関係団体に対して重点的な燃料供給を行う旨の要請も行いました なお上記以外の対応としてタンク貨車による鉄道輸送やドラム缶のトラック等による被災地への石油製品の大量輸送石油備蓄法に基づく民間備蓄義務の引き下げ及び国家備蓄LPガスの放出(交換)等9を行い東北地方(被災地)及び関東圏における石油製品の供給確保に取り組みました

③エネルギー供給施設の復旧等の支援 今回の震災では津波により給油設備が被害を受け多くのサービスステーション(SS)が営業不能に陥りました被災地域における石油製品の供給体制を早期に回復させるため被害を受けた給油設備の補修や安全点検を行う等のサービスステーション早期復旧支援に取り組みつつサービスステーションの復旧が完了するまでの間についても移動式給油機やタンクコンテナを設置する等して簡易サービスステーションによる仮営業の支援も行いました また震災により経営が悪化した被災地域のサービスステーション(SS)の資金繰りに関しても全国石油協会が金融機関からの資金調達を行う際の保証人になり借入債務の保証を行うことで対応しました 更に津波等による損壊により通常の信用取引が困難になった被災地域のサービスステーション(SS)についても売掛債権の未回収リスクを国が負担することで石油製品の安定供給の支援を行いました LPガスについては中小企業が所有する10カ所程度の充填所や震災前に東北地方の半分以上のLPガス

6 LPガス輸入業者からなる日本 LPガス協会においてあらかじめ定めていた相互支援協定を発動し東北関東の他の基地等から代替供給を速やかに実施しました7 通常LPガスの供給先には LPガス容器が複数本設置され軒下在庫とも言われています復旧については個別の対応となるため早期の供給再開が可能です8 ほぼ全ての仮設住宅約 53000 軒に対して供給されています9 LPガス元売業者からの国家備蓄 LPガスの放出要請を受け「石油の備蓄の確保等に関する法律」に基づき隣接する神栖国家備蓄基地の備蓄 LPガスを 4万トン放出(交換)しました

12

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第1章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故で明らかになった課題

第1章

供給を担っていた仙台ガスターミナルに対し設備復旧の支援を行いましたまたLPガス輸入業者からなる日本LPガス協会においてあらかじめ定めていた相互支援協定を発動し上記国家備蓄の放出や東北関東の他の基地等からローリーによる代替供給を速やかに実施した結果東北地方におけるLPガスの安定供給を確保することが出来ました

10 東北地方(被災地)及び関東圏でのガソリン軽油等の供給確保 - 緊急の供給確保措置と拡大輸送ルートの設定(2011 年 3 月 17 日公表)より作成しています

(2)明らかになった課題 今回の震災での経験を踏まえ石油基地LPガス出荷基地充填所等の災害対応能力や物流機能の強化情報収集情報提供体制の強化等災害時にも確実に石油製品を供給できる体制の整備が課題として明らかになりました

稼働率アップによる追加増産分等を東北地方に転送(約2万 kℓ日)

輸出抑制需要抑制

西日本の製油所の稼働率95以上へ

ローリーの大量投入鉄道による輸送ルートの確保

拠点SSの整備

関東圏への安定供給

西日本の製油所における製品在庫の取り崩しと関東への転送(3日以内に5万kℓ)

関東圏の製油所にお ける製品在庫の取り 崩し(約3万kℓ)事業者間連携による 円滑な供給体制

東北地方への重要供給拠点タンク貯蔵量25kℓ出荷能力約5000kℓ日全油種合計の能力

(注) 1万 kℓ日=約63 万バレル日

(参考)宮城県の1日あたりの燃料油販売量は約1万kℓ日東北全体では38万kℓ日

JX大分製油所

太陽四国事業所

コスモ坂出製油所東燃ゼネラル

和歌山工場

コスモ四日市製油所昭シェル四日市製油所

出光愛知製油所昭シェル山口製油所

出光徳山製油所

JX麻里布製油所JX水島製油所 コスモ堺製油所東燃ゼネラル堺工場

新潟油槽所仙台

塩竈油槽所の機能回復

酒日油槽所気仙沼油槽所times

秋田油槽所 八戸油槽所times青森油槽所

室蘭製油所 苫小牧製油所

第113-2-1  東北地方(被災地)及び関東圏でのガソリン軽油等の供給確保の為の包括プラン10

13

第2章

 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故により我が国のエネルギーに関して様々な課題が明らかになり我が国はエネルギー政策のゼロベースの見直しを行ってきました11また同時に我が国はエネルギーに関して生じた課題について様々な対応を図ってきました本章では震災後から2012年 7月下旬頃までの電力省エネルギー新エネルギーに関して講じた施策について取り上げます12

第1節 電力需給対策

12011年度夏期の需給対策と結果

 震災後直ちに立ち上がった官房長官を本部長とする「電力需給緊急対策本部」において夏期の電力需給対策等について議論が積み重ねられ第5回電力需給緊急対策本部(2011年 5月 13日)13において「夏期の電力需給対策」が取りまとめられ対策が講じられました

(1)供給面の対策 主な供給面の対策として震災により失われた供給力を補うために東京電力及び東北電力が行う発電設備の設置事業について環境影響評価法の適用除外となることを確認したほか電気事業法に基づく火力発電施設の定期検査実施時期について最大1年間の延長を認める運用を実施することとしましたまた経済産業省から自家発設置事業者に対し売電要請設備導入や燃料費の補助等を措置することとしました

(2)節電要請 余震等による火力の復旧の遅れ再被災等のリスクを踏まえて供給力と需要が一致するギリギリのライ

ンではなく一定の余裕を持ったものとすることが適当であるという観点で行われました 東京電力及び東北電力管内においてはピーク期間時間帯の使用最大電力について15の抑制(節電)を要請し特に大口需要家については電気事業法第27条に基づく使用制限を実施する等の対応を行いました電気の使用制限期間は東京電力管内は2011年 7月 1日~9月22日の9時~20時(平日のみ)東北電力管内は同年7月1日~9月9日の9時~20時(平日のみ)とされました また関西電力管内においては全体として10以上の節電の要請を行いました節電要請期間は2011年7月25日~9月22日の9時~20時(平日のみ)とされました 中西日本のその他の電力管内(中部電力北陸電力中国電力四国電力九州電力の各管内)においては国民生活や経済活動に支障を生じない範囲での節電に取り組みました その後電気事業法第27条に基づく使用制限については2011年 8月 30日に東北東京電力管内の需給バランスが改善していることや被災地の方々からの早期終了を求める声があることを踏まえ「9月2日(金)を最後に東日本大震災及び新潟福島豪雨の被災地に所在する大口需要家の方々に対する電気事業法第27条に基づく電気の使用制限を終了すること」「9月9日(金)を最後に東京電力管内に所在する大口需要家の方々に対する電気事業法第27条に基づく電気の使用制限を終了すること」が決定されました

(3)2011年度夏期の結果①全体 節電要請等を踏まえた需要家の皆様の協力等により需要は各地域において概ね目標とする水準で推移しました2011年夏期の需要気温が高かった日と

11 第 1部第 4章に詳述しています12 石油LPG に関して講じた施策は第 4章第 3節に記載しています13 「電力需給緊急対策本部」は 2011 年 5 月 16 日をもって「電力需給に関する検討会合」に改組しました

第2章東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故後に講じたエネルギーに関する主な施策

14

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第2章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故後に講じたエネルギーに関する主な施策

第2章

2010年夏期の気温が同程度の日を選定して比較した場合ピーク時の電力需要は2010年比東京電力で19東北電力で18関西電力で8となり電力会社による供給力の積み上げや機動的な電力融通等の対応と相まって計画停電や需給ひっ迫による停電は回避することができました

②大口需要家(契約電力500kW以上の事業者) 最大ピーク需要を2010年比で見ますと東京電力で27東北電力で18関西電力で9の効果がありました使用制限を課した東京電力東北電力では目標以上の節電が行われ数値目標を提示しただけの関西電力でも目標に応じた節電効果がありました 大口需要家のうち産業部門に関しては電気の使用目的が生産活動に直結しており節電にはコストが伴いました休日夜間へのシフトのよる労務費増自家発活用による燃料費増等により相当のコストが発生した例もありました オフィスビルや店舗といった業務部門においては冷房や照明が電力需要の太宗を占めており照明の間引きLED照明の導入空調設定エレベーターの間引き等基本的には大きなコストをかけることなく電気代を節約しながら数値目標を実現しました

③小口需要家(契約電力500kW未満の事業者) 最大ピーク需要を2010年比で見ますと東京電力で19東北電力で17関西電力で10の効果がありました各電力管内とも節電要請に対応した自主的な数値目標でも目標に応じた節電効果が発揮されました 小口需要家のうち産業部門に関しては休日夜間へのシフトによる労務費増自家発活用による燃料費増等により相当のコストが発生した例もある等電気の使用目的が生産活動に直結しており節電にはコストが伴いましたコンビニエンスストア等の店舗を中心とする業務部門では電力使用の太宗を冷房や照明が占めており照明(間引きLED照明の導入)空調の設定エレベーターの間引き等基本的には大きなコストをかけることなく電気代を節約しながら数値目標を実現しました

④家庭 節電要請にほぼ対応した成果がありました家庭部

門においてはこまめな消灯LED照明の導入空調設定の工夫等により基本的には大きな支出をすることなく節電を実現しました

22011年度冬期の需給対策と結果

 2011年 11月 1日に合同開催されたエネルギー環境会議電力需給に関する検討会合において「今冬の電力需給対策」がとりまとめられ対策が講じられました

(1)供給面の対策 電力会社の取組としては引き続き供給力の積み増し努力を続けていくとともに日々の電力系統の運用において各社の需給状況を踏まえつつ更に機動的な相互の融通を行うことで需給がひっ迫する地域の需給バランスを確保できるような対応を行うこととしました 政府の取組としては2011年 11月 1日にエネルギー環境会議にてとりまとめられた「エネルギー需給安定行動計画」に基づき予算規制改革等あらゆる措置を検討しできる限りの措置を講じることとされました

(2)需要抑制の目標 供給力の最大限の積み上げを行った上でもなお存在する需給ギャップについてはピーク期間時間帯の使用最大電力(kW)の抑制(節電)により対応することとし節電要請は経済社会への影響を最小化するため「電気事業法第27条に基づく電気の使用制限は行わない」「具体的な節電の要請に当たっては経済活動や国民生活の実態に応じたきめ細かな対応を求める」という考え方に基づき行われました 関西電力と九州電力においては供給力が最大需要見通しを下回るためピーク期間時間帯の最大使用電力についてそれぞれ数値目標を伴う節電要請が行われましたなお病院や鉄道等ライフライン機能等の維持に支障が出る場合や生産活動に実質的な影響を及ぼす場合等については機能維持への支障や生産活動への実質的な影響が生じない範囲で自主的な目標を設定し節電を行うよう要請することとされました 関西電力管内には10以上の節電要請が行われました節電要請期間は2011年 12月 19日~2012年3月23日の9時~21時(平日(12月29日12月30日1月3日1月4日を除く)のみ)とされました

15

第1節 電力需給対策

第2章

 九州電力管内には5以上の節電要請が行われました節電要請期間は2011年 12月 19日~2012年2月 3日の9時~21時(平日(12月 29日12月 30日1月3日1月4日を除く)のみ)とされましたその後2011年 11月 24日付けで九州電力が玄海原子力発電所4号機の定期検査開始日を法定期限(13カ月)である2011年 12月 25日とすることを決定したことに伴い九州電力の需給バランスを再精査したところ玄海4号機の定期検査開始日までは一定の供給力が確保される見通しとなったため節電期間の開始日が当初の2011年 12月 19日から2011年 12月 26日に変更されました その他の電力会社(北海道電力東北電力東京電力中部電力北陸電力中国電力及び四国電力)管内については国民生活及び経済活動に支障を生じない範囲での期間時間帯における使用最大電力の抑制(具体的には照明空調機器等の節電等)が要請されました14節電要請期間は2011年 12月 1日~2012年 3月 30日の平日(12月 29日12月 30日1月3日1月4日を除く)9時~21時(九州電力管内については8時~21時)とされました

(3)2011年度冬期の結果①全体 節電要請等を踏まえた需要家の皆様の協力等により需要は各地域において概ね目標とする水準で推移しました2011年度冬の節電要請期間における電力需要と2010年度冬の同時期における電力需要とを比較した場合ピーク時の電力需要は関西電力で5九州電力で62となり電力会社による供給力の積み上げや機動的な電力融通等の対応と相まって計画停電や需給ひっ迫による停電は回避することができま

した15

②大口需要家(契約電力500kW以上の事業者) 最大ピーク需要を2010年度比でみますと生産活動等に配慮しても関西電力で6九州電力で7の効果がありました 多くの大口需要家は需給調整契約等における経済合理性を踏まえてピークカット等を実施し生産活動等への実質的な影響は回避されました

③小口需要家(契約電力500kW未満の事業者) 最大ピーク需要を2010年度比でみますと生産活動等に配慮しても関西電力で5九州電力で6の効果がありました 節電の内容は照明と空調に関するものが最も多く生産活動等への実質的な影響は回避されました

④家庭 家庭部門においてはこまめな消灯LED照明の導入空調設定の工夫等により基本的には大きな支出をすることなく節電を実現しました

32012年度夏期の需給対策

 2012年4月末から5月初旬にわたり今夏の需給見通しについてエネルギー環境会議及び電力需給に関する検討会合の下に設置された「需給検証委員会」で検討が行われました 検証の結果「関西電力管内で昨年の東京電力管内で想定されたピーク電力不足よりも厳しい状況になる恐れがあること」「九州電力北海道電力及び四国電力管内でも電力需給のひっ迫が見込まれるとともに全ての地域で火力発電所の稼働が増える結果燃料

14 数値目標付き節電期間以外の関西電力九州電力管内についても同様です15 数値目標を伴わない節電要請を行った電力管内のピーク需要については下記の通りです 北海道22東北22東京74中部28北陸33中国41四国29(2010 年比)

第121-3-1 でんき予報

16

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第2章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故後に講じたエネルギーに関する主な施策

第2章

コストが増加し2012年度には31兆円の国富の流出が生じると推計されておりこのまま放置すれば本年秋以降電気料金上昇のリスクも高まること」が明らかになりました これを受けて2012年 5月18日に合同開催されたエネルギー環境会議電力需給に関する検討会合において「今夏の電力需給対策」がとりまとめられ対策が講じられました

(1)供給面の対策 電力会社の取組としては需給検証委員会における検証を踏まえ現段階で確実と見られる供給力を基本とし今後確実に見込めるようになった供給力についてはその時点で上方修正することとしまた約2週間前(可能な範囲)1週間前前日の三段階で融通可能量を明確化する等日々の運用において中西日本の地域全体あるいは東日本の地域全体として機動的な電力融通を行うことにより地域全体としての需給バランスを確保できるような対応を行うこととされました 政府の取組としてはエネルギー需給安定関連の2011(平成23)年度補正予算2012(平成24)年度予算

の執行を加速しその際関西北海道九州東北及び四国を優先することとしましたまたエネルギー規制制度改革アクションプランを着実に実行することとされました

(2)需給ひっ迫時の対応 国民各層の節電への協力にもかかわらず急激な気温変化や大型発電所の計画外停止等により電力需給がひっ迫する可能性がある場合には政府はあらかじめひっ迫が想定される特定の電力会社管内に「電力需給ひっ迫警報」を発令し報道機関や地方公共団体等の協力を得て緊急節電要請を行うこととされました また計画停電は実施しないことが原則ですが大規模な電源の脱落等万が一に備えて関西電力管内に加えて予備率がマイナスと見込まれる九州電力北海道電力及び四国電力管内においても計画停電の準備を進めておくこととされました

(3)需要抑制の目標 需給検証委員会における検証結果を踏まえ需給ギャップ(kW)を解消するため需要家に対し節電を要

需給ひっ迫警報の発令(第一報)

需給ひっ迫警報の発令(続報)

「緊急速報メール」発出

節電協力による停電回避

電力会社が計画停電の実施を発表

前日1800目途

当日900目途

計画停電開始の3~4時間前

計画停電実施の2時間程度前

需給ひっ迫警報発令から計画停電への流れ

他社から電力融通を受けても需給がひっ迫する電力会社の供給予備率が3を下回る見通しとなった場合政府から当該電力会社の管内に対し警報を発令翌日行う可能性のある計画停電について電力会社から公表する

当日900を目途に政府から発令その後も需給状況の変化を踏まえて必要に応じ続報を発令

第1グループ(830~)から計画停電を実施する場合は900の警報の発令は行わない場合があるまた必要に応じ900以前に続報を発令する場合があるなお需給ひっ迫のおそれが解消されたと判断される場合には警報を解除する

引き続き需給のひっ迫状況が解消されない場合計画停電を開始する可能性がある時間の引き3~4時間前に政府から「緊急速報メール」を発信し電気の利用を極力控えることを要請

引き続き需給のひっ迫状況が解消されず最大限の融通を受けても中西日本全体若しくは北海道電力管内において供給予備率が1程度を下回る見通しとなった場合計画停電を実施する可能性がある時間帯ごとにその2時間程度前に電力会社から計画停電の実施を発表

大型発電機の計画外停止が重なり短時間に需給がひっ迫した場合等においては警報や緊急速報メールを発令することなく計画停電を実施する場合がある

(注) 北海道電力管内については北本連系線等が計画外停止した場合等においても更なる発電機等の計画外停止等が停電(計画停電や場合によっては不測の停電)につながる可能性があるためその旨を速やかに周知する万一不測の停電が起きた場合にも速やかに計画停電に移行する

当日早朝や午前中に大型発電所の計画外停止が重なった場合等においては急遽警報を発令する場合がある

緊急速報メールは早朝深夜の時間帯等需要抑制効果が見込めないと判断される場合には送信しない

第121-3-2 需給ひっ迫警報発令から計画停電への流れ

17

第1節 電力需給対策

第2章

請することとされましたこの際より合理的なピーク時の電力不足解消策として全国レベルでの節電と融通の最大活用を行うこととされました 個別の需要家に対する要請に当たっては需要家からの意見(「需要家間の公平性確保」)や需要家への「分かりやすさ」等も踏まえ2010年の使用電力需要の実績(節電影響を含まない需要実績)を基準として要請することとされました16 また被災地や高齢者等の弱者に対して無理な節電を要請することがないよう要請時には配慮を行うこととされました 併せて関連支援措置の執行の加速規制制度改革の推進等の構造的対策や需要の変動に効率的に対応する新たなピークカット対策を推進することとしこれらの需要面での対策に当たっては地方公共団体等の協力を得て創意工夫によるきめ細かい対応を行うことにより国民生活や経済活動への影響を最小化することを目指すこととされました 各電力会社管内の需要家に対する要請については北海道電力管内には2010年比7以上の節電要請が

行われました節電要請期間は2012年 7月 23日~9月7日9時~20時(平日(8月13日~15日)を除く)同年9月10日~14日 17時~20時とされました 東京東北電力管内には東日本全体としては2012年夏季想定需要(猛暑節電あり)の場合には最低限必要となる供給予備率(3)は確保できる見通しであること東北電力管内においては被災地の復興需要に配慮することが適切であることから数値目標を伴わない節電要請が行われました節電要請期間は2012年 7月 2日~9月28日の平日(同年8月13日~15日を除く)9時~20時とされました 中西日本各社の管内については中西日本における広域での節電目標を数値目標付きで要請し広く中西日本の需要家の協力を募ることにより関西電力及び九州電力の節電目標を引き下げ一律かつ強制的な手段である電力使用制限命令を回避するという方針を踏まえ関西電力管内には2010年比15以上の節電要請が行われました節電要請期間は2012年 7月 2日~9月7日9時~20時(平日(8月13日~15日を除く)とされました

16 病院や鉄道等のライフライン機能や国の安全保障上極めて重要な施設の機能等の維持に支障がでる場合には機能維持への支障が生じない範囲で自主的に目標を設定し実施することを要請(オフィス部門間接部門は共通目標の節電を要請)されました

需要サイドの取組

供給サイドの取組

新たなピークカット対策のためのアクションプラン(進捗状況)

自家発余剰購入の拡大 電力会社が需要家の自家発による電力を購入した場合買い取り分を需要家の節電とみなす指針(昨年11月公表)に基づき需要家において自家発を有効に活用今夏の節電期間において九カ所の自家発を活用し40カ所を超える供給地で節電みなしを実施する予定(化学電機製紙繊維等)この他検討中の案件ありまた補助金(6月29日まで公募)を通じて自家発設備の導入活用を促進分散型売電市場の開設 6月18日より分散型グリーン売電市場を開設自家発等の小規模電源や系統への送電量が一定ではない電力も売電可能6月27日には第一号案件の取引が成立(東京電力管内の複数のコジェネ電源最大32 万 kW程度)卸電力取引所の時間前市場の利用要件緩和 6月20日から卸電力取引所の時間前市場の買いに関する制限を撤廃し経済的理由での買い入札や差し替えを可能とする運用を開始

計画調整契約随時調整契約の拡充(特別高圧高圧大口小口向け) 各電力会社が需給調整契約のプランの拡充や割引単価を拡大(例関西電力が随時調整契約のうち前日通告プランに加え前週通告プランを新設中部電力は管外(関西電力)の需給ひっ迫時にも発動可能な契約を設定)季節別時間帯別料金の活用新たなピーク料金メニューの設定(低圧向け) 東京電力(61~)関西電力(71~)が新たなピーク料金メニューを導入(新メニューの申込み件数は東京電力約520件(511-73)関西電力約11900件(521-73))九州電力及び四国電力はピーク料金の実証を実施また関西電力及び北海道電力が一定の節電を達成した家庭にプレゼントを進呈するキャンペーン(7~9月)を実施アグリゲーターを活用したDSM(デマンドサイドマネージメント)(特別高圧高圧大口小口向け) 東京電力は複数の需要家のピーク需要抑制の取組を取りまとめることで大規模なピーク需要抑制を実現するプランを公募5件のプランについて取りまとめ事業者(アグリゲーター)との契約締結を発表(6月6日) 関西電力はBEMS(ビルエネルギー管理システム)を導入した複数の需要家に対し負荷調整を働きかけピーク抑制を実施するアグリゲーターを公募(528~615)18社の応募があり現在協議中 中部電力はアグリゲーター2社と契約し高圧小口の需要家を対象に遠隔操作によりデマンドコントローラーの設定値を低く設定すること等によりピーク時の需要を抑制(仮に管内で需給が厳しい状況とならずとも実証的に発動する予定)(626)入札等によるネガワット取引(特別高圧高圧大口向け) 関西電力が7月2日よりネガワット取引(需給ひっ迫が予想される場合に電力会社が需要家から節電(負荷抑制)を入札により確保する仕組)を実施その際関西電力管外(中部北陸中国)管内の需要家も対象とすることを発表(621)スマートメーター向け検定手数料の引き下げ(低圧向け)(エネルギー規制規制改革アクションプラン関連) 7月1日より低圧用スマートメーターの検定手数料を大幅に引き下げ(1台670円から370円に)

第121-3-3 新たなピークカット対策のためのアクションプラン(2012年 7月 5日現在)

18

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第2章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故後に講じたエネルギーに関する主な施策

第2章

 四国電力管内には2010年比7以上の節電要請が行われました節電要請期間は2012年 7月 2日~9月7日9時~20時(平日(8月13日~15日除く))とされました 九州電力管内には2010年比10以上の節電要請が行われました節電要請期間は2012年 7月 2日~9月7日9時~20時(平日(8月13日~15日を除く))とされました 中部北陸中国電力管内には2010年比5以上の節電要請が行われました節電要請期間は2012年7月2日~9月7日9時~20時(平日(8月13日~15日を除く))とされました その後2012年 7月 9日に大飯原子力発電所3号機が定格熱出力一定運転となったことを踏まえ同年7月10日から関西電力管内については2010年比10以上に低減中部北陸中国電力管内については定着した節電分相当を数値目標として設定することとしそれぞれ4以上4以上3以上に低減されました また数値目標を伴う節電要請期間及び時間は変更しないこととされました 更に7月25日に大飯原子力発電所4号機が定格熱出力一定運転となったことを踏まえ7月26日から中部北陸中国電力管内については数値目標(それぞれ2010年比4以上4以上3以上)を解除し「数値目標を伴わない節電」に変更関西電力管内については引き続き2010年比10以上の節電

要請を行うこととされましたが生産活動に支障が生じる場合は2010年比5以上に低減四国電力管内については2010年比7以上から2010年比5以上に低減することとされました また節電要請期間及び時間は変更しないこととされ引き続き高齢者乳幼児等の弱者熱中症等の健康被害への配慮を行うこととされました

第2節 原子力発電所再起動

1原子力施設の安全性安心を高める取組

(1)緊急安全対策等の実施 原子力安全保安院は今般の事故と同程度の地震と津波により全交流電源喪失最終ヒートシンクの喪失に至ったとしても炉心損傷等深刻な事態を回避し冷温停止状態に移行するための対策として2011年 3月 30日事業者に対して緊急安全対策を指示しました 短期対策としては電源車や代替注水のためのポンプの配備東京電力福島第一原子力発電所を襲ったものと同程度の津波を想定した建屋への浸水対策手順書の整備等に加え中長期対策として設備の本格的な水密化や防潮堤等の防護措置の実施を要求しましたその後これらの実施状況について事業者から報告を受け2011年 5月評価確認を実施しましたなお防潮堤の設置等の中長期対策の実施状況については引き続き厳格に確認を行っていく予定です また2011年 4月 15日には外部電源の信頼性の向上を図るため複数ルート回線の確保開閉所の耐震性確保等を指示し更に同年6月7日には万一シビアアクシデントが発生した場合でも迅速に対応するため事故時の通信管理機能確保放射線防護体制の強化を指示しましたこれらの指示に基づく実施状況についても現場確認を実施する等評価確認を行っています

第121-3-4 2012年度 夏季の節電メニュー中部 関西 北陸 中国 四国 九州

当初(7月 2日~) 5以上 15以上 5以上 5以上 7以上 10以上3号機定熱運転後(7月10日~)

4以上(定着した節電分)

10以上4以上

(定着した節電分)3以上

(定着した節電分) 7以上 10以上

4号機定熱運転後(7月26日~)

一般的な節電要請

10以上生産活動に支障が生じる場合は5以上

一般的な節電要請

一般的な節電要請

5以上 10以上

7月 25日 4号機定格熱出力一定運転(定熱運転)

第121-3-5 2012年度夏期節電目標の改訂の変遷

19

第2節 原子力発電所再起動

第2章

(2) 東京電力福島第一原子力発電所事故の知見 事故の原因等の調査については原子力安全と原子力防災を中心に事故の評価や得られた教訓を取りまとめ2011年 6月9月の2回IAEAに対して日本政府としての報告を提出しました また2011年 5月から6月にかけて各国の専門家及びIAEAの専門家で構成された調査団を受け入れ事実関係の調査を行いその時点における教訓等を国際社会と共有しました 更に事故から得られる技術的な知見を可能な限り抽出するため原子力安全保安院は2011年 10月から「東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の技術的知見に関する意見聴取会」を外部の専門家の参加を得て全面公開の下8回開催しパブリックコメントを経た上で2012年 3月に報告書をとりまとめましたその中で今回の事故では津波による被水によって所内電源設備や冷却設備が機能を喪失したことを受け今後の規制に反映すべきと考えられる事項として所内電源設備や冷却設備の位置的分散浸水対策事故時の最終ヒートシンクの強化等の必要性を提示した「30の対策」をとりまとめました 「東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の技術的知見に関する意見聴取会」に加え東京電力福島第一原発等で観測された地震津波等の影響については原子力安全保安院は2011年 9月から専門家の参加を得て「地震津波に関する意見聴取会」「建築物構造に関する意見聴取会」をそれぞれ11回8回開催し2012年2月に中間とりまとめを行いましたまた東京電力福島第一原発事故における経年劣化の影響について検証するため専門家の参加を得て「高経年化技術評価に関する意見聴取会」を6回開催し2012年 2月に取りまとめを行いましたこれらの検討結果についてはそれぞれ原子力安全委員会に報告するとともに「30の対策」に反映させています

(3)ストレステストによる評価 2011年7月6日の原子力安全委員会からの要請及び7月11日に公表された政府方針「我が国原子力発電所の安全性の確認について」に基づき原子力安全保安院では原子力発電所の更なる安全性の向上と安全性についての国民住民の方々の安心信頼の確保のため評価手法評価実施計画を作成し原子力安全委員会の確認を得た上で事業者に対して総合的安全評価(いわゆるストレステスト)の実施を指示しまし

た ストレステスト一次評価においては定期検査で停止中の原子力発電所について運転の再開の可否について判断することとしており全交流電源喪失及び最終ヒートシンク喪失に関してそれぞれの事象時の冷却継続時間クリフエッジの特定緊急安全対策の効果等について評価します事業者の一次評価の結果については原子力安全保安院が公開の会議で外部の専門家の意見を聴きつつ「東京電力福島第一原子力発電所を襲ったような地震津波が来襲しても炉心損傷に至らないこと」の確認を行い更に原子力安全保安院の審査の妥当性を原子力安全委員会が確認しますなお大飯発電所34号機については原子力安全保安院が審査書を2012年 2月 13日にとりまとめ同年3月23日に原子力安全委員会が見解をとりまとめています

2大飯発電所34号機の再起動

(1)原子力発電所に関する四大臣会合 2012年 3月に大飯発電所34号機について原子力安全保安院による審査結果及び原子力安全委員会による見解がとりまとめられたことを受けて内閣総理大臣内閣官房長官経済産業大臣内閣府特命担当大臣(原子力担当)からなる「原子力発電所に関する四大臣会合」を同年4月3日から6回にわたり開催しました まず東京電力福島第一原子力発電所事故の発生以降緊急安全対策等の安全対策の実施政府事故調や原子力安全保安院の意見聴取会等の専門家による事故検証や知見の蓄積ストレステスト一次評価による安全性評価等1年間の対策や知見の積み重ねを踏まえ分かりやすい形に整理したものとして四大臣会合で「原子力発電所の再起動にあたっての安全性に関する判断基準」を取りまとめました大飯発電所34号機は東京電力福島第一原子力発電所を襲ったような地震津波が来襲しても燃料損傷には至らないこと更なる安全性信頼性向上のための着実な実施計画が明らかになっていること等を確認したことから「原子力発電所の再起動にあたっての安全性に関する判断基準」に適合し安全性が十分に確保されていることを確認しました 併せて再起動の必要性を検証しましたその結果関西地域ではこれまでの供給力積み増しの努力を勘案してもなお電力不足となる可能性があること原子力

20

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第2章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故後に講じたエネルギーに関する主な施策

第2章

発電所の停止がもたらすコスト増により国民負担が増加しその影響は小売店や中小企業家庭に広く及ぶことエネルギー安全保障の確保等の点から大飯発電所34号機の再起動には必要性があることを確認しました 以上のように大飯34号機の再起動には安全性と必要性があることを判断し四大臣としてこの判断について国民の皆様に対して責任を持って説明し理解が得られるよう努めていくこと何よりも立地自治体の理解が得られるよう全力を挙げていくことそしてこうした一定の理解が得られた場合には最終的に再起動の是非について決断することを同年4月13日に確認しました

(2)立地自治体等への説明 2012年4月13日の四大臣会合を受けて同月14日に枝野経済産業大臣が福井県を訪問し西川福井県知事時岡おおい町長等と会談を行いましたまたおおい町からの要望を踏まえ同月26日に開催されたおおい町住民説明会において柳澤経済産業副大臣が政府の判断について説明を行いました 政府の再起動の安全性判断等について説明の要望があった関西広域連合京都府滋賀県等の周辺自治体に対しても関係閣僚等が説明を行いましたこれらの説明結果を踏まえ同年5月30日の四大臣会合において関係自治体の一定の理解が得られつつあると判断しこれまで40年間にわたって原子力発電所の安全確保に直接向き合い電力の安定供給に貢献してきた立地自治体である福井県おおい町の判断が得られれば政府として最終的な再起動判断をすることを決定しました これを受けて同年6月4日には細野内閣府特命担当大臣(原子力担当)齋藤内閣官房副長官牧野経済産業副大臣が福井県を訪問し西川福井県知事時岡おおい町長と会談し周辺自治体への説明状況等について説明を行いました同月8日には野田内閣総理大臣が記者会見を行い「国民の生活を守るために大飯発電所34号機を再起動すべきだというのが私の判断」との考えを国民に対し説明しました これらの国からの説明等を踏まえて福井県おおい町でも検討が行われ同月14日に時岡おおい町長が西川福井県知事に対して再起動に関する政府判断について了承する旨を伝え同月16日には西川福井県知事が野田内閣総理大臣等の関係閣僚と会談し政

府の再起動判断について了承する旨が伝えられました

(3)大飯発電所34号機の再起動 これを受けて原子力発電所に関する四大臣会合を同日に開催し四大臣として大飯発電所34号機を再起動することを政府の最終的な判断としました 四大臣会合では新たな規制機関の発足までの間地元の皆様の安全安心のため特別な監視体制を速やかに立ち上げ起動作業にあたっても安全に遺漏なきよう万全を期していくこと政府として原子力に関する安全性を確保しそれを更に高めていく努力をどこまでも不断に追求していくこと等を確認しました 同日の政府の最終判断を受けて関西電力は大飯34号機の再起動準備を行い3号機は同年7月1日に再起動され同月5日に調整運転を開始し4号機は同年7月18日に再起動され同月21日に調整運転を開始しました

第3節 電気料金制度の見直し1 現行の電気料金制度の問題点と見直しに至る経緯

 2011年3月の東日本大震災発生以降電力需給のひっ迫や原子力損害賠償燃料コスト増による電力コスト上昇懸念等電気事業をとりまく状況は大きく変化しましたこうした中東京電力による原子力損害賠償の支援スキームの策定に際し国民負担の最小化と電力の安定供給確保のため設置された「東京電力に関する経営財務調査委員会」の報告書(2011年 10月公

知見の整理

主な安全対策

地震津波に関する意見聴取会

緊急安全対策

外部電源対策等

シビアアクシデント対策

建築物構造に関する意見聴取会

高経年化技術評価に関する意見聴取会

総合的安全評価に関する意見聴取会(ストレステスト)

技術的知見に関する意見聴取会

安全性評価

進捗状況の反映

330基準1

H233 H241

67 618指示 確認(短期対策)

確認415 67

指示213722

指示1114

第1回 保安院審査書取りまとめ

1024第 1回

328

930

第 1回929第 1回

1129第 1回

実施状況の活用216

中間取りまとめ

中間取りまとめ

中間取りまとめ

67第 1回 1226中間取りまとめ福島原発事故独立検証委員会 227調査検証報告書

323

原安委確認

取りまとめ30の対策

知見の活用

取りまとめ

基準2

基準3

第1回43第2回45第3回46第4回49第5回412第6回413216

216

216

123-31IAEAレビュー

指示

大飯34号機

四大臣による整理確認

更なる知見の拡充

確認

東京電力福島原子力発電所における事故調査検証委員会

56事業者による更なる信頼性向上の取組

第122-2-1 これまでの安全性確保に向けた取り組み

21

第3節 電気料金制度の見直し

第2章

表)においても現行の電気料金制度とその運用について問題点が指摘されました 現行の制度は競争による経営効率化の効果を規制分野の需要家に機動的に還元するという観点から「値下げ届出制」を採用しています これは①事業者間のサービス向上競争の促進②経営効率化分の自主的な内部留保による財務体質の強化を目的に③経営効率化分の配分に対する説明責任を前提として導入されていたものですが他方で値下げの届出改定では行政は事前に原価査定を行わないため値下げ幅について事業者による効率化によるものか過去の届出原価の見積もりが過大であったこと等によるものなのかが明らかではないという問題がありました このため原価の適正性が確保されていないのではないかまた原価の中に電気の安定供給に必要なもの以外の費用が含まれているのではないかといった指摘が当該報告書においてなされることとなりました

2電気料金制度見直しの内容

 こうした現行制度とその運用への指摘を踏まえ2011年には「電気料金制度運用の見直しに関する有識者会議」が開催され規制料金として行政による原価の適正性確保と事業者の経営効率化インセンティブをどのようにバランスさせるかその際にどのような費用についてどのような水準までを適正な原価と考えるか対外的な説明責任をどのように確保するのかといった観点から現行の総括原価方式に基づく電気料金制度下において実施すべきものを中心に検討が行われました公開で行われた計6回の議論とパブリックコメントを経て2012年 3月に報告書がとりまとめられました報告書で示された基本的な考え方は以下の通りです (1)値上げ認可時の査定においては原価の厳格な査定を行う一方値下げ届出時や事業評価においては事業者による説明と行政による事後チェックを的確に行うことを徹底 (2)事業に要する費用全ての回収を認めるのではなくあるべき適正な費用のみの回収を認めることを徹底 (3)一般電気事業者が自らの供給力のみに依存する安定供給確保から他社供給力や需要側の取組も活用した安定供給確保に転換することを促す

<報告書の概要>(1)原価の適正性の確保値上げ認可時には広告宣伝費寄付金団体費については原価算入を認めないまた人件費修繕費等についてはメルクマール等により査定人件費の例一般企業の平均値を基本に他の公益企業の平均値とも比較(2)新しい火力入札火力電源を自社で新設増設リプレースする場合は原則全て入札(3)公正かつ適正な事業報酬正当な理由なく著しく低い稼働率となっている設備はレートベース対象資産(事業報酬の算定の基礎となる資産)の対象外(4)原価算定期間及び電源構成変動への対応経営効率化を織り込む等の観点から認可時は3年を原則また原価算定期間内に電源構成が大きく変動した場合には変動分のみを料金に反映(5)託送料金(送配電線の利用料)の適正化託送料金について第三者が適切性妥当性を確認(6)デマンドレスポンス料金とスマートメーターの導入時間帯別料金の多様化や三段階料金の見直し季節別料金の導入等の検討スマートメーターの導入に当たっては入札を原則(7)事後評価原価算定期間終了後には原価と実績値算定期間終了後の収支見通し利益の使途等について評価

 以上の報告書の内容を踏まえ一般電気事業供給約款料金算定規則一般電気事業供給約款料金審査要領電気料金情報公開ガイドライン等を2012年 3月に改正しました

3 東京電力の電気料金値上げに係る認可申請について

 2012年 5月 11日に東京電力から経済産業大臣に対し電気事業法第19条第1項の規定に基づき電気料金を平均1028引き上げる(値上げ)等の供給約款変更認可申請(以下「料金認可申請」という)が提出されました 東京電力は料金原価について合理化の実施により年平均2785億円の削減を行ったものの燃料費を中心として大幅な増加が避けられず収支不足額が年平均

22

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第2章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故後に講じたエネルギーに関する主な施策

第2章

6763億円となり赤字構造の早急な改善に向け値上げ認可申請がなされました 経済産業省においては電気料金認可プロセスに外部専門家の知見を取り入れ専門的かつ中立的客観的な観点から料金査定方針等の検討を行う観点から「総合資源エネルギー調査会総合部会電気料金審査専門委員会」(以下「委員会」という)を設置しました(委員長安念潤司 中央大学法科大学院教授委員長代理山内弘隆 一橋大学大学院商学研究科 教授) 2012年 5月 15日の第1回委員会以降委員会は東京電力から経済産業省に提出された料金認可申請について個別の原価にも踏み込んだ検討を含め計10回の審議を行いました開催に当たっては審議の透明性を高めるため委員会の審議は議事内容配布資料を含め全て公開形式で開催されました また料金認可申請が東京電力管内を中心に広く社会経済に影響を及ぼす事案であることに鑑み広く一般の意見を聴取するため第1回委員会においては自治体消費者団体中小企業団体関係者を招き意見を聴取しましたまた2012年 6月 7日に東京6月9日にさいたま市で電気事業法第108条に基づく公聴会を実施し国民から広く意見の聴取を行いました更に公聴会において委員会の委員も消費者からの生の声を聞くべきとの意見があったことを受けて第8回委員会において消費者団体を公募の上意見を聴取しました更にインターネットを通じた意見募集である「国民の声」や公聴会に寄せられた意見が経済産業省から報告され随時の論議に反映されました加えて第1回から第10回の全てにおいて消費者団体消費者庁からオブザーバーとしての参加を得て活発に議論が行われました 2012年 6月 12日の第5回委員会以降委員が2人1組となり担当分野につき査定方針を検討しましたその結果が第9回委員会において各担当委員から報告され2012年 7月 5日の第10回委員会において委員会としての査定方針案が取りまとめられ同日経済産業大臣に提出されました なお委員会は経済産業大臣から付託されたミッションに基づき電気事業法及び同法に基づく規則一般電気事業供給約款審査要領(以下「審査要領」という)「電気料金制度運用の見直しに係る有識者会議報告書」等の予め定められたルールに則って査定方針案を中立的客観的かつ専門的な見地から検討しました

 委員会でとりまとめられた査定方針案をもって経済産業省は消費者庁と協議を行い2012年 7月 12日には経済産業大臣と消費者担当大臣との間で電気の安定供給や原子力損害賠償の迅速かつ適切な実施の確保に支障を来さないことを前提に消費者の目線や他の公的資金投入企業の事例を踏まえ徹底的な経営合理化を図るものとするとの認識で一致し7月19日に協議が整いましたこれを受け経済産業省としての査定方針を策定し7月20日に物価問題に関する関係閣僚会議の了承を得ましたなお具体的な査定方針の主な内容としては以下の通りです(1)人件費について料金原価算定期間各年における管理職職員の年収を震災前と比べて3割超引き下げ3年間の全社員の平均年収で見ても近年の公的資金投入企業(最大2362)のいずれをも上回る削減率(2368)とすることにより約90億円の減額(2)調達等について総合特別事業計画に基づき修繕費委託費について既に10削減した上で料金認可申請がなされているがそれ以外の費用項目も含む随意契約について原則10削減を求め未達成分を減額するとともに子会社関連会社との随意契約取引について更なる深掘りを行うことにより約100億の原価の削減(3)燃料費について各火力発電所の燃料使用量を発電所の発電効率等を踏まえてより一層の効率化配分を徹底することにより相対的に燃料費の高い石油系火力発電所の燃料使用量を抑制していることを確認するとともに原価算定期間中に価格の更新時期を迎えるLNGのプロジェクトのうち近時の値上がり傾向の市況を踏まえ値上げを織り込んでいるものについて東京電力の交渉努力を先取りする形で直近実績レベルまで原価を減額する等により約120億円の原価の削減(4)福島第一原子力発電所56号機に係る安定化維持費用及び賠償関連費用について事故直後に特別損失として認識し処理した費用(約9000億円)は2011年度末までに特別損失で計上されておりこれ以外に新たに必要となる経費のうち資本的支出(設備投資)が生じた場合当該設備は将来の収益を生むものではなく資産性が認められないため会計上資産価値が特別損失処理され減価償却費が発生しないことから申請原価に含まれていない 他方で資本的支出以外の経常的に発生する費用である費用及び賠償に関する受付や業務フロー作成等の委託費をはじめとする賠償対応費用についてこう

23

第4節 再生可能エネルギー固定価格買取制度導入

第2章

した費用が原価算入されない場合東京電力としての原子炉廃止措置賠償といった責務が果たせなくなるとともに国民全体の負担に依らざるを得なくなるため東京電力が採用するADR弁護士費用は控除する等厳に必要な費用に限った上で原価へ算入 また事故に伴い発生した賠償支払額そのものは原子力損害賠償支援機構法の枠組に基づき原子力損害賠償支援機構から東京電力に対し国の交付国債を原資とする資金援助が行われていることから料金原価に含まれない(5)事業報酬の算定に当たっては震災後の経営リスクを踏まえ2011年 3月 11日から申請日前日の2012年 5月 10日までの期間の9電力会社平均の経営リスクに係る指標に基づいて算定を行い約93億円の原価の削減 2012年 7月 25日に東京電力より提出された申請内容の修正が査定方針通りであることが確認できたため電気事業法第19条に基づき経済産業大臣が認可を行い最終的な値上げ幅は平均846となりました なお消費者への十分な周知を図るために東京電力の値上げの実施時期を2012年 9月1日としました

第4節 再生可能エネルギー固定価格買取制度導入 近年新興国を中心としたエネルギー需要の急増に伴う国際的な資源獲得競争の激化や国内外における地球温暖化対策の強化が求められる状況の中純国産のエネルギー源であり二酸化炭素を排出しない再生可能エネルギーの果たす役割の重要性が高まってきています本項では再生可能エネルギーの導入支援策の大きな柱である固定価格買取制度導入の背景と経過制度開始後の状況をまとめます

1制度導入の背景

 固定価格買取制度は再生可能エネルギー(太陽光風力水力地熱バイオマス)によって発電された電気を国が定める一定の期間にわたって国が定める一定の価格で購入することを電気事業者に義務づける

制度ですこれにより再生可能エネルギーを用いる発電投資への投資回収の不確実性を低減させこれらに対する投資を促すことで再生可能エネルギーの導入拡大を加速化させる効果が得られると見込まれていますまた導入拡大が加速すれば設備の量産化が進み現時点では他のエネルギーに比して割高な再生可能エネルギーのコストダウンが進展することも期待されています このように再生可能エネルギーの導入拡大にとって大きな効果を持つ固定価格買取制度の導入は東日本大震災以前から検討されており「エネルギー基本計画」や「新成長戦略」においても言及がなされていました17この制度を実施に移すため2011年 3月 11日に「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」(以下「特措法」)案が閣議決定されましたその後東日本大震災及び福島第一原子力発電所における事故を経て中長期的に脱原子力依存を進めていくためにも再生可能エネルギーに対する期待はこれまで以上に高まりました同法案の国会審議の過程では政府が提出した法案に対して民主党自由民主党公明党の三党の合意に基づき一層の再生可能エネルギーの導入拡大の観点から修正がなされ最終的にこの修正を反映した形で同年8月26日に法案が成立し同年8月30日に公布されました

<参考>主な国会修正事項 政府案では太陽光発電以外は一律の価格と期間での買取りを想定していたところ再生可能エネルギー源の種別利用形態規模ごとに価格と期間を設定 事業活動に当たって電力を多く使用する事業を行う事業者に対する負担軽減措置の創設  (売上高当たりの電気使用量が製造業については製造業平均の8倍以上非製造業については非製造業平均の政令で定める倍数(14倍)以上の事業を行っている等の要件を満たす事業者に適用) 政府案では調達価格等の決定プロセスは総合資源エネルギー調査会の意見を聴いて定めることとされていたところ新たに設けられる調達価格等算定委員会の意見を尊重し定めることに変更 等

17 2010 年 6 月に改訂策定された「エネルギー基本計画」や同月に策定された「新成長戦略」においても一次エネルギーに占める再生可能エネルギーの割合を2020 年度までに 10に引き上げることを目標とする等これまで以上の再生可能エネルギーの導入拡大が求められるようになっておりこのような高い目標を実現するための最も効果的な手段として固定価格買取制度を導入することが検討されていました

24

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第2章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故後に講じたエネルギーに関する主な施策

第2章

2 調達価格等算定委員会の検討経過と結論

 上記のように特措法においては経済産業大臣は調達価格(電気事業者が買い取る際の価格)と調達期間(調達価格での買取りが継続する期間)を決定するにあたり国会の同意を得た上で任命される委員から構成される調達価格等算定委員会(以下「委員会」と言う)の意見を尊重することが明記されました2012年 3月に以下の5名が委員会の委員として両議院の同意を得た上で任命され同月から委員会での議論が開始されました 委員会では法律の内容や国会における議論を踏ま

えつつ業界団体等からのヒアリング(太陽光発電協会等の各種発電に係る業界団体や新規参入を予定している事業者経済団体等)各種論点についての詳細な議論検討が全7回にわたり行われました その上で委員会は2012年 4月27日に「平成24年度調達価格及び調達期間に関する意見」をとりまとめ枝野経済産業大臣に提出しました 経済産業省においては提出された意見を尊重し意見通り調達価格調達期間を決定し同年6月18日に告示しました(第124-2-1)また法律の規定に従い調達価格調達期間については委員会の意見と併せて国会にも報告がなされました

3制度開始後の状況

 2012年7月1日の制度開始以降同年7月末現在で33695件出力にして合計約57万kWの設備が制度の適用を受けることができる設備として経済産業大臣により認定されていますこうした認定を受けた案件を含め市場では固定価格買取制度の導入を機に様々な事業化プランの検討が進んでおり政府の試算では2012年度だけでも設備容量ベースで合計250万kW程度の再生可能エネルギーの導入拡大が進むと見込んでいます(第124-3-1) 一方で固定価格買取制度では電気事業者が再生可能エネルギー由来の電気の買取りに要した費用について賦課金として電気料金に上乗せする形で国民の皆様にご負担いただくことになっています2012年度

委員会名簿植田 和弘(委員長) 京都大学大学院経済学研究科教授

山内 弘隆(委員長代理)一橋大学大学院商学研究科教授

辰巳 菊子 (公社)日本消費生活アドバイザーコンサルタント協会理事環境委員長

山地 憲治 (公財)地球環境産業技術研究機構(RITE)理事研究所長

和田 武 日本環境学会会長

電源 太陽光 風力 地熱 中小水力

調達区分 10kW以上 20kW以上 20kW未満10kW未満(余剰買取)

15万kW以上

15万kW未満

1000kW以上30000kW未満

200kW以上1000kW未満

200kW未満

費用

費用

建設費

建設費

運転維持費(1年当たり)

運転維持費(1年当たり)

325万円kW 466万円kW 30万円kW 125万円kW 79万円kW 123万円kW 85万円kW 80万円kW 100万円kW

10千円kW

392万円 kW

47千円kW 60千円kW 33千円kW 48千円kW 95千円kW 69千円kW 75千円kW

税前 7税前7税前18税前8税前 6

税前 1 税前 8 税前 4 税前 4 税前 4

税前32(1) 税前13(2)IRR

IRR

調達価格1kWh当たり

調達価格1kWh当たり

税込(3)4200円

4095 円 3360 円 2520 円 1785 円 1365 円

42円(1)

2310円 5775円 2730円 4200円 2520円 3045円 3570円

税抜

税抜税込

40円

39円 32円 24円 17円 13円

42円 22円 55円 26円 40円 24円 29円 34円20年20年

20年

20年20年 15年15年10年調達期間

調達期間

電源 バイオマス

バイオマスの種類 ガス化(下水汚泥)

ガス化(家畜糞尿)

固形燃料燃焼(未利用木材)

固形燃料燃焼(一般木材)

固形燃料燃焼(一般廃棄物)

固形燃料燃焼(下水汚泥)

固形燃料燃焼(リサイクル木材)

41万円kW 41万円kW 31万円 kW 35万円kW27万円kW22万円 kW27万円kW27万円kW184万円 kW

調達区分

【メタンガス発酵ガス化バイオマス】 【未利用木材】【一般木材(含パーム梛子殻】

【廃棄物形(木質以外バイオマス)】 【リサイクル木材】

第124-2-1 告示された調達価格等

(注) 1 住宅用太陽光発電について       10kW未満の太陽光発電については一見10kW以上の価格と

同一のように見えるが家庭用についてはkW当たり35万円(2012年度)の補助金の効果を勘案すると実質48円に相当するなお一般消費者には消費税の納税義務がないことから税抜き価格と税込み価格が同じとなっている

   2 地熱発電のIRRについて       地表調査調査井の掘削など地点開発に一件当たり46億円程度

かかること事業化に結びつく成功率が低いこと(7程度)等に鑑みIRRは13と他の電源より高い設定を行っている

   3 消費税の取扱いについて       消費税については将来的な消費税の税率変更の可能性も想定

し外税方式とすることとしたただし一般消費者向けが太宗となる太陽光発電の余剰買取の買取区分については従来どおりとした

第 124-3-1  2012年度の再生可能エネルギーの導入量見込み

2011年度時点における導入量

2012年7月末までに認定を受けた設備容量

2012年度末までの導入予測

太陽光(住宅) 約400万kW 約144万kW +約150万kW

太陽光(非住宅) 約80万kW 約301万kW +約50万kW

風力 約250万kW 約122万kW +約38万kW

中小水力(1000kW以上30000kW未満)

約935万kW - +約2万kW

中小水力(1000kW未満)

約20万kW 約01万kW +約1万kW

バイオマス 約210万kW - +約9万kW

地熱 約50万kW - -

合計 約1945万kW 約567万kW +約250万kW

(出所) 1 単年度導入量については太陽光発電はJPEA出荷統計風力発電はJWPA統計その他電源はRPSデータ等より

    2 2012年度見込みについては各種前提により資源エネルギー庁推計

25

第5節 省エネルギー法改正に向けて

第2章

においては賦課金の単価は1kWh当たり022円となっていますこれにこれまで実施してきた太陽光の余剰電力買取制度の負担(全国平均で1kWh当たり007円)と併せて2012年度では1kWh当たり029円(全国平均)のご負担をお願いすることになりますこれは一月に7000円程度の電気料金をお支払いいただいているご家庭(一月300kWh程度の電力使用量を想定)であれば一月約87円の負担となります再生可能エネルギーの導入拡大が進めば賦課金の負担も増大していくことから負担が過重なものとならないよう常に配慮することが重要ですこのため固定価格買取制度の下では再生可能エネルギー発電事業者が実際に設備の設置等に要した費用について事後的に経済産業省に報告することを求めており集計されたデータを翌年度以降の調達価格の審査に活用することで発電設備等のコスト低減の成果を適切に調達価格の見直しに反映することとしています

第5節 省エネルギー法改正に向けて

1背景

 エネルギーの使用の合理化に関する法律(以下省エネ法)は「熱管理法」を全面改正する形で1979年に成立しました 1998年の改正で導入されたトップランナー制度はエネルギー消費機器の製造輸入事業者に対し3~10年程度先に設定される目標年度において高い水準(トップランナー基準)を満たすことを求め目標年度になると報告を求めてその達成状況を確認する制度です制度導入当初対象機器は乗用自動車エアコン蛍光灯等9品目でしたが最近ではルーター等も対象に追加され現在までに23品目に拡大し世帯当たり電気消費量に占める割合の6割をカバーしています2012年にはヒートポンプやLED照明といった近年急速に普及が見られた機器についてもトップランナー制度の対象に追加する等引き続き対象機器の拡大や目標値の強化を実施しています 2008年には10度目の改正を行い①これまでの工場事業場単位から事業者単位の規制に変更②事業者の省エネルギー状況を比較できる指標(ベンチマーク指標)を定め中長期的に達成すべき水準を目標として設定するセクター別ベンチマークを導入③事業者が自

主的に行う共同省エネルギー事業について国はその取組を促進するよう法律の施行にあたり適切な配慮をすることとしたこと等大きく三つの点が変更されました このような改正を経て省エネ法の規制対象事業者は改正前の7500事業者から約1万2000事業者に増加しました我が国はGDPが約2倍となった過去30年間でエネルギー効率を約37改善してきましたがその中で省エネ法は重要な役割を果たしてきたと言えます

2 省エネ法改正に向けた動きと省エネ部会における検討

 石油危機に端を発したエネルギー危機を乗り越えるために省エネ法は化石燃料の使用量の低減と経済成長を両立することを目指し需要サイドの努力によってこれを克服してきました そして東日本大震災及び東京電力福島第一原子力発電所事故以降エネルギーの需給問題に対する関心が高まりエネルギー政策の前提となる状況自体も大きく変わりました従来省エネルギーの議論の中心は化石燃料の使用量を全体としてどう減らすかということでありそのこと自体はオイルショック以来の流れの中で大きな意義がありました 震災以降のエネルギー需給の問題に鑑みますとエネルギー全体としての使用量の抑制だけではなく電力需要のピークにどう対応していくかの議論が必要であり現行省エネ法に含まれていない「ピーク対策」への対応は非常に重要な政策課題となりました また我が国の最終エネルギー消費は二度のオイ

19 倍

伸び(1973 rarr2010年度)

28倍

09 倍

0

100

200

300

400

500

600

0

50

100

150

200

250

300

350

400

450

73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 9192 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10

(100万石油換算トン) (兆円2000年価格)

産業部門

家庭部門

運輸部門

業務部門

439

188

229

144

655

92164

89

実質GDP1973rarr2010

24 倍

22倍

25倍

(注) 「総合エネルギー統計」は1990 年度以降の数値について算出方法が変更されている

(出所) 資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」内閣府「国民経済計算年報」(一財)日本エネルギー経済研究所「エネルギー経済統計要覧」

第125-2-1  最終エネルギー消費量の推移(1973年~2010年)

26

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第2章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故後に講じたエネルギーに関する主な施策

第2章

ルショック後や近年の不況時を除きほぼ一貫して増加しています部門別のエネルギー消費量はオイルショック以降産業部門が約09倍のところ民生部門は約25倍運輸部門は約19倍と大幅に増加しています(第125-2-1)従来から十分な努力により省エネルギーを進めてきた産業部門における更なる省エネルギー対策に加えエネルギー消費量の増加が著しい民生(業務家庭)部門において一層の省エネルギーを進める必要があります(第125-2-2) 民生部門対策としてはトップランナー制度による自動車や家電等機器の省エネルギー性能の向上や住宅建築物の省エネルギー基準の策定等を行ってきました今後は日常生活の中でエネルギーをいかに少なくしつつ快適な生活を送るかつまり我慢ではなく持続可能な省エネルギーを進めていく必要があり住宅建築物全体の省エネルギー性能の底上げについて検討が必要となります 総合資源エネルギー調査会省エネルギー部会ではこれらの背景を踏まえ今後の省エネルギー政策の展開について検討を行い2012年 2月に「中間取りまとめ」を取りまとめましたこの「中間取りまとめ」を踏まえ政府は電力ピーク対策及び民生部門の省エネルギ

ー対策を盛り込んだ省エネ法の改正案を2012年 3月13日に第180回通常国会に提出いたしました

3省エネ法改正案について

 我が国経済の発展のためにはエネルギー需給の早期安定化が不可欠であり供給体制の強化に万全を期しその上で需要サイドにおいては持続可能な省エネルギーを進めていくという観点から主に以下の2点の改正を実施します まず1点目は需要家が従来の省エネルギー対策に加え蓄電池やエネルギー管理システム(BEMSHEMS)自家発電蓄熱式の空調ガス空調等の活用等により電力需要ピーク時の系統電力の使用を低減する取組を行った場合にこれを評価できる体系にする点です具体的にはピーク時間帯に工夫して系統電力の使用を減らす取組(節電)をした場合にこれ以外の時間帯で系統電力の使用を減らした場合よりも改善の度合いを大きく評価することで省エネ法の努力目標(原単位の改善率年平均1)を達成しやすくなるよう努力目標の算出方法を見直します 2点目はこれまでエネルギーを消費する機械器具を対象としていたトップランナー制度にそれ自体はエネルギーを消費しないものの他の建築物や機器等のエネルギーの消費効率の向上に資する機械器具等を新たな対象として追加し住宅建築物分野の省エネルギー対策を強化する点ですこれまでのトップランナー制度は法律上エネルギーを消費する機械器具が対象であり他の建築物や機器等のエネルギーの消費効率向上に資する機械器具等は対象とされていませんでした新たにトップランナー制度に追加する機械器具等としては具体的には窓断熱材水回り設備等の建築材料等を想定しており企業の技術革新を促すことで住宅建築物の省エネルギー性能の底上げを図っていきます

建築物

給湯用14

暖房用16

動力他49

冷房用13

厨房用9

3

8

住宅

動力他35

冷房用

給湯用28

暖房用27

厨房用

(注) 建築材料等の省エネルギー性能の向上により住宅では約 6割建築物では約 4割を占める暖冷房給湯用エネルギー消費量の削減に貢献

(出所) (一財)日本エネルギー経済研究所「エネルギー経済統計要覧」

第125-2-2  民生分野におけるエネルギー消費の現状(2010年度)

27

第3章

 2011年 3月 11日に発生した東北地方太平洋沖地震とこれによる津波は東京電力福島第一原子力発電所において極めて重大かつ広範囲に影響を及ぼす原子力事故を引き起こしました 今回の事故に関する調査検証は「東京電力福島原子力発電所における事故調査検証委員会」(政府事故調)国会(東京電力福島原子力発電所事故調査委員会)18事故の当事者である東京電力や規制当局である経済産業省原子力安全保安院民間団体等によっても行われておりまた政府の原子力災害対策本部から国際原子力機関(IAEA)に対して日本国政府の報告書も提出されています 本章では「東京電力福島原子力発電所における事故調査検証委員会」(政府事故調)において行われた事故の原因調査究明事故を踏まえた緊急安全対策やストレステスト等の規制当局の取組原子力規制委員会の設立東京電力福島第一原子力発電所の廃止に向けた取組東京電力による被災者賠償と原子力損害賠償支援機構の設立原子力被災者支援について概要と現状今後への課題等を取り上げます

第1節  「東京電力福島原子力発電所における事故調査検証委員会」における事故原因の調査究明

1委員会の発足に至る背景

 政府は極めて重大かつ広範囲に影響を及ぼした今回の原子力事故の原因及び事故による被害の原因を究明するための調査検証を国民の目線に立って開かれた中立的な立場から多角的に行い被害の拡大防止及び同種事故の再発防止等に関する政策提言を行わせることを目的として2011年 5月 24日の閣議決定により内閣官房に「東京電力福島原子力発電所における事故調査検証委員会」(政府事故調)を設置しました

 同委員会は従来の原子力行政から独立した立場で技術的な問題のみならず制度的な問題も含めた包括的な検討を行うことを任務として調査検証を行いました

2委員会の構成

 委員会は畑村洋太郎委員長(東京大学名誉教授工学院大学教授)以下内閣総理大臣により指名された10人のメンバーで構成されました更に専門的技術的事項について助言を得るため委員長の指名により2名の技術顧問が置かれましたまた調査検証を補佐する事務局には事務局長以下の各府省庁出身者のほか社会技術論原子炉過酷事故解析避難行動等の分野の専門家8名を配置し専門家をチーム長として三つの調査検証チーム(社会システム等検証チーム事故原因等調査チーム被害拡大防止対策等検証チーム)が設置されました

第3章原子力発電所事故関連

18 報告書ダイジェスト版を参考資料に掲載しています

委員会名簿畑村 洋太郎(委員長) 東京大学名誉教授工学院大学教授

尾池 和夫 国際高等研究所所長前京都大学総長

柿沼 志津子 (独)放射線医学総合研究所放射線防護研究センターチームリーダー

高須 幸雄 東京大学グローバル地域研究機構特任教授前国際連合日本政府代表部特命全権大使

髙野 利雄 弁護士元名古屋高等検察庁検事長

田中 康郎 明治大学法科大学院教授元札幌高等裁判所長官

林 陽子 弁護士

古川 道郎 福島県川俣町長

柳田 邦男 作家評論家

吉岡 斉 九州大学副学長

安部 誠治(技術顧問) 関西大学教授

淵上 正朗(技術顧問) 株式会社小松製作所顧問工学博士

28

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第3章 原子力発電所事故関連

第3章

3調査検証の経過

 同委員会は2011年 6月 7日に開催された第1回委員会において基本的方向を定め調査検証に着手しました主として事務局を通じて東京電力原子力安全保安院原子力安全委員会をはじめとする関係事業者関係機関から資料の提出を受けてこれを分析するとともにこれらの役職員構成員や事故発生当時の閣僚更に学識経験者等を含め幅広く関係者のヒアリングが行われましたヒアリングを行った関係者は総数772名総聴取時間は概算で1479時間に上りました 作業の進捗は毎月1回開催される委員会において報告確認され2011年 12月 26日に開催された第6回委員会において中間報告がとりまとめられましたこの中間報告では今回の事故に対する国内外の関心の高さや関係機関における事故の教訓を踏まえた取組の進行状況を考慮しそれまでに明らかになった事実関係をできる限り詳細に記述するとともに事故発生後の政府諸機関の対応の問題点事前の津波シビアアクシデント対策の問題点等について可能な範囲で考察を加え緊急事態応急対策拠点施設(オフサイトセンター)の機能維持モニタリングの運用改善緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)の活用住民避難への備え原子力安全規制機関の在り方といった事柄について提言が行われました また2012年 2月 24日25日に開催された第8回委員会では調査検証の内容を国際的な関心に応えるものにするため海外5カ国(米仏スウェーデン韓中)から国際的に著名な原子力放射線等の専門家を招へいして意見交換が行われました このほか委員会は主に地震津波対策について検討するため事故現場である福島第一第二発電所に加え日本原子力発電東海第二発電所東北電力女川原子力発電所同社原町火力発電所中部電力浜岡原子力発電所及び東京電力刈羽原子力発電所を視察しました更に今回の原子力災害で被災した自治体のうち福島県大熊町双葉町浪江町南相馬市及び飯館村の各首長並びに浪江町から避難している住民からの意見聴取を行い仮設住宅の視察を行いました 2012年 7月 23日に開催された第13回委員会において最終報告19がとりまとめられ同日畑村委員長

から野田内閣総理大臣に手交されましたこの最終報告では中間報告の段階では調査が未了で取り上げることができなかった事項や中間報告で取り上げましたもののその後更なる調査検証が行われた事項等が盛り込まれました 最終報告では福島第一原子力発電所の1号機から3号機の主要な施設設備の被害状況について事態の進展に伴う損傷の拡大状況に関する分析も含めて改めて詳述するとともに同原発1号機3号機及び4号機の原子炉建屋の水素ガス爆発等に関する検討が行われました更に中間報告の段階では調査検証が未了であった同原子力発電所5号機及び6号機における事故対処同原発の外部電源復旧状況や福島第二原子力発電所における事故対処の状況原子力災害発生後の国等の組織的対応状況主として発電所外でなされた被害拡大防止のための対処としての環境放射線モニタリングSPEEDIの活用の在り方(SPEEDIにより単位量放出を仮定した予測結果は得られており仮にその情報が提供されていれば各地方自治体及び住民はより適切に避難のタイミングや避難の方向を選択できた可能性があったと言える事等)住民の避難等日本海溝沿いの地震津波に関する科学的知見シビアアクシデント対策の在り方原子力災害対応体制の検討経緯国際法国際基準関係について記述されました またこれらの主要な問題点に分析を加えた上「抜本的かつ実効性ある事故防止対策の構築」「複合災害という視点の欠如」「『被害者の視点からの欠陥分析』の重要性」等重要な論点9項目の総括を行いあわせて原子力災害の再発防止及び被害軽減のための同委員会の提言を七つのカテゴリーに分類して掲載しました(最終報告概要版を参考資料として第一部第4章第5節の後に記載)

<提言> (1)安全対策防災対策の基本的視点に関するもの  複合災害を視野に入れた対策に関する提言  リスク認識の転換を求める提言  「被害者の視点からの欠陥分析」に関する提言   防災計画に新しい知見を取り入れることに関す

る提言 (2)原子力発電の安全対策に関するもの

19 報告書概要を参考資料に掲載しています

29

第2節 東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえた規制当局の取組

第3章

  事故防止策の構築に関する提言  総合的リスク評価の必要性に関する提言  シビアアクシデント対策に関する提言 (3)原子力災害に対応する態勢に関するもの  原災時の危機管理態勢の再構築に関する提言  原子力災害対策本部の在り方に関する提言  オフサイトセンターに関する提言  原災対応における県の役割に関する提言 (4)被害の防止軽減策に関するもの  広報とリスクコミュニケーションに関する提言  モニタリングの運用改善に関する提言  SPEEDIシステムに関する提言  住民避難の在り方に関する提言  安定ヨウ素剤の服用に関する提言  緊急被ばく医療機関に関する提言  放射線に関する国民の理解に関する提言   諸外国との情報共有や諸外国からの支援受入れ

に関する提言 (5)国際的調和に関するもの  IAEA基準等との国際的調和に関する提言 (6)関係機関の在り方に関するもの  原子力安全規制機関の在り方に関する提言  東京電力の在り方に関する提言  安全文化の再構築に関する提言 (7)継続的な原因解明被害調査に関するもの  事故原因の解明継続に関する提言   被害の全容を明らかにする調査の実施に関する

提言

第2節  東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえた規制当局の取組

1 東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえた緊急安全対策

 原子力安全保安院は東京電力福島第一原子力発電所に来襲したものと同程度の地震と津波により全交流電源喪失に至ったとしても炉心損傷等深刻な事態を回避し冷温停止状態に繋げるための対策として2011年 3月 30日事業者に対して緊急安全対策を指示しました これまでに東京電力福島第一原子力発電所を除く全原子力発電所から実施状況報告を受け原子力安

全保安院として2011年 5月 6日には東京電力福島第一原子力発電所東京電力福島第二原子力発電所東北電力女川原子力発電所以外の各原子力発電所について同年6月1日には女川原子力発電所について同年11月28日には東京電力福島第二原子力発電所について緊急安全対策が適切に実施されていることを確認しました具体的には緊急時対応計画の作成緊急時の電源確保のための電源車や代替注水のための消防ポンプの配置浸水対策水源の確保や緊急時における手順書の整備訓練の実施といった対策(短期対策)が実施されたことを確認しましたこれらの対策については一部が技術基準における要求事項に含められたほか事故時の手順の整備が行われるよう保安規定も改定されています 更に緊急安全対策では海水ポンプ電動機等の予備品の確保空冷式非常用発電機等の設置や水密化防潮壁防潮堤の設置等津波に対する防護措置が中長期対策として要求されており原子力安全保安院は事業者が今後これらを適切に実施される計画を有していることを確認しました なお東京電力福島第二原子力発電所については冷温停止状態を維持するために必要な対策が取られているかという観点から確認を行いました 核燃料サイクル施設に関しては同年5月1日に再処理施設を対象に緊急安全対策を指示し同月中に各事業者から実施状況の報告を受けましたまた同年6月15日には各事業所において緊急安全対策(電源車浸水対策緊急時の手順書整備訓練の実施等短期対策)が適切に実施されていることを原子力安全保安院として確認しましたなお指示に対する報告があった時点において各施設は検査期間中であることから検査後の状況を踏まえた対策に関しては今後改めて報告がなされることとなっています

2 原子力発電所等の外部電源の信頼性確保

 2011年 3月 11日の地震により東京電力福島第一原子力発電所及び日本原電東海第二原子力発電所の外部電源が喪失したことに加え同年4月7日に宮城県沖で発生した地震により東北電力東通原子力発電所及び日本原燃六ヶ所再処理事業所において一時的に外部電源の喪失が発生しましたこれまで外部電源については特段の対策を求めてきませんでしたが今回外部電源の喪失が複数のサイトで発生したことを

30

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第3章 原子力発電所事故関連

第3章

踏まえ原子力安全保安院は外部電源の信頼性の更なる向上を図るため同年4月15日各事業者に対し外部電源の信頼性確保のための対応を検討しその結果を報告するよう指示を行い同年6月7日各社から報告の提出を受けて報告内容の評価確認を行いましたなお東京電力福島第二原子力発電所における外部電源の信頼性確保に係る対応については同年11月 28日に提出を受け評価確認を行いました今後各事業者から報告された各対策の実施状況を厳格に確認していくこととしています また原子力発電所の開閉所等の電気設備が機器の倒壊損傷等により機能不全に陥る事例も発生したことからこのような事態が発生する可能性についての影響評価及びその評価結果を踏まえた対策策定に係る実施状況についても報告することを各事業者に対して指示し2011年 7月 7日その実施状況について中間報告がなされました 更に2012年 1月 19日東京電力より東京電力福島第一原子力発電所等の開閉所に係る電気設備の損傷原因は東北地方太平洋沖地震により開閉所において発生した地震動が設計基準を超過したことであると報告されたことから各事業者に対して今後発生する可能性のある地震による耐震安全性の評価及び対策の実施を求めること等を追加指示しました同年2月17日各事業者等から耐震安全性評価に係る実施計画が報告されており今後評価結果が報告され次第その内容を確認していくこととしています

3 東京電力福島第一原子力発電所事故の技術的知見

 今回の事故から可能な限りの教訓を引き出し今後の原子力安全に役立てていくことは規制機関の責務です原子力安全保安院は事故の発生及び事故の進展について現時点までに判明している事実関係について工学的な観点から事故シーケンスに従って設備や操作手順に即して出来る限り深く整理分析することにより事象の各段階における技術的知見を体系的に抽出し主に設備手順に係る必要な対策の方向性について検討しました 具体的な検討の対象は東京電力福島第一原子力発電所の事故における外部電源設備(変電所開閉所等)所内電気設備(非常用電源設備等)冷却設備(炉心冷却系補機冷却系等)閉込機能に関する設備(格納容器ベント設備等)指揮通信計装制御設備(通信

設備炉内計装設備等)等です事故シーケンスにおける検討の範囲は地震の発生から炉心損傷及び閉込機能喪失により放射性物質が外部環境に放出されるまでの発電所で生じた事象としました 未だ放射性物質による汚染等のため現場の確認を行うことが難しい設備機器が多く溶融落下した炉心の状況等事象の解明が十分に進んでいない部分も残されていますが2011年 10月から8回にわたり公開の意見聴取会の場で外部の専門家によるレビューを受ける等して2012年 3月五つの分野について「30項目の安全対策」を以下のとおり取りまとめました (1) 外部電源対策(4対策)地震等による長時間の

外部電源喪失の防止 (2) 所内電気設備対策(7対策)共有要因による所

内電源の機能喪失防止や非常用電源の強化 (3) 冷却注水設備対策(6対策)冷却注水機能喪

失の防止 (4) 格納容器破損水素爆発対策(7対策)格納容

器の早期破損防止や放射性物質の非管理放出の防止

 (5) 管理計装設備対策(6対策)状態把握プラント管理機能の抜本的強化

 これらの対策は新たな規制の枠組みの下で技術的な要求事項を検討する際の基礎とすることを想定していますただしこれらの対策は地震と津波の重畳による全交流電源喪失を起因事象とする東京電力福島第一原子力発電所事故の事象面からボトムアップ的に導き出したものですそのためこれらの対策間の関係や重要度の比較システム全体としての安全性向上について検討するとともにより広い起因事象を包含したシビアアクシデントへの対応も含めトップダウン的な方法論により体系的に検討整理する必要がありますまた実際に規制として適用するに当たっては更に設計ガイドライン等の整備が必要です

4 既設の発電用原子炉施設等の安全性に関する総合評価(いわゆる「ストレステスト」)

 原子力安全委員会は東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえ既設の発電用原子炉施設について設計上の想定を超える外部事象に対する頑健性に関して総合的な評価を行うことが重要であるとの考えのもと2011年 7月 6日に「東京電力株式会社福島第一原子力発電所における事故を踏まえた既設の発電用原

31

第2節 東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえた規制当局の取組

第3章

子炉施設の安全性に関する総合的評価の実施について」をとりまとめ原子力安全保安院に対し発電用原子炉施設の安全性に関する総合的評価の実施を要請しました 我が国の原子力発電所の安全性については前述の緊急安全対策等により今般の事故と同程度の地震津波が発生しても深刻な事態に至ることなく冷温停止に繋げるための対策を実施しておりその結果については原子力安全保安院により確認がなされています他方定期検査後の原子力発電所の再起動に関しては原子力安全保安院による安全性の確認について国民住民の方々に十分な理解が得られているとは言い難い状況を踏まえ政府において原子力発電所の更なる安全性の向上と安全性についての国民住民の方々の安心信頼の確保のため欧州諸国を参考に新たな手続きルールに基づく安全評価としてストレステストを実施することが同年7月11日に閣僚レベルで方針決定されました この決定によれば原子力発電所のストレステストは2段階で評価することとしており一次評価は定期検査で停止中の原子力発電所の運転再開の可否について判断するために行われることになっています同年7月21日原子力安全保安院はこのストレステストを一次評価と二次評価に分けた評価手法及び実施計画を原子力安全委員会の確認を受けた上でとりまとめ翌日事業者に評価の実施を指示しました 一次評価においては「安全上重要な施設機器等について設計上の想定を超える事象に対してどの程度の安全裕度が確保されているか評価する評価は許容値等に対しどの程度の裕度を有するかという観点から行うまた設計上の想定を超える事象に対し安全性を確保するために取られている措置について多重防護(defense in depth)の観点からその効果を示すこれにより必要な安全水準に一定の安全裕度が上乗せされていることを確認する」としておりこれにより緊急安全対策の効果も含め先般の事故と同程度の地震津波が来襲しても炉心損傷といった深刻な事態に至らないことを確認します原子力安全保安院は事業者からこれまでに22プラント(2012年 7月 20日現在)について一次評価に係る報告書の提出を受けこのうち大飯発電所34号機及び伊方発電所3号機について原子力安全保安院の評価を終了していますまた大飯発電所34号機について原子力安全委員会は原子力安全保安院による評価の確

認を行い見解を取りまとめています 更に二次評価においては「設計上の想定を超える事象の発生を仮定し評価対象の原子力発電所がどの程度の事象まで燃料の重大な損傷を発生させることなく耐えることができるか安全裕度(耐力)を評価しますまた燃料の重大な損傷を防止するための措置について多重防護の観点からその効果を示すとともにクリフエッジを特定して潜在的な脆弱性を明らかにしますこれにより既設の発電用原子炉施設について設計上の想定を超える外部事象に対する頑健性に関して総合的に評価する」としています なお原子力安全保安院は2012年 1月IAEAによるレビューミッションを受け入れストレステストに関する原子力安全保安院の指示及び審査プロセスが基本的にIAEAの安全基準と整合していると結論づけられるとともに二次評価を含むストレステストのプロセスとそれ以外の規制活動の全般的な有効性を向上させると考えられる課題を特定し勧告がなされています IAEAからの指摘事項については耐震等を含め真摯に受け止め可能なものから順次実施していくこととしています 核燃料サイクル施設については原子力安全委員会からの要請等はなかったものの海外の状況等も踏まえて原子力安全保安院の判断により2011年 11月25日に加工事業者貯蔵事業者再処理事業者廃棄物管理事業者廃棄物埋設事業者に対して総合的評価の実施を指示しましたサイクル施設におけるストレステストは一次評価と二次評価に分けての評価は行いませんが安全裕度の確認と設計上の想定を超える事象の発生と拡大を防止するための措置の効果を明らかにするという方針は原子力発電所の場合とほぼ同様となっていますこれらの評価の結果は事業者が施設の安全性を向上させるための更なる対策を講じる際の参考となるものです各事業者からは2012年 4月 27日に原子力安全保安院に報告書の提出がありました

5シビアアクシデント管理

 我が国においては東京電力福島第一原子力発電所事故の発生前までシビアアクシデントは工学的には現実的に起こるとは考えられないほど発生の可能性は小さいとされ規制対象には含まれず事業者の自主的な取り組みとして対策が進められてきました事業

32

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第3章 原子力発電所事故関連

第3章

者は1992年に通商産業省からの要請を受けて確率論的安全評価の実施とアクシデントマネジメント(AM)対策の整備を進め東京電力福島第一原子力発電所においてもAM対策が整備されていましたしかし今回の事故を踏まえますとこのAM対策は外的事象特に津波により広範囲に電気系統が使用不能に陥る共通原因故障についての想定が十分でなくあらかじめ用意されていたAM対策は厳しい環境の中で十分に機能せず炉心溶融更には大規模放出を防ぐことができませんでした 更に従来の我が国はスリーマイルアイランド原子力発電所事故チェルノブイリ原子力発電所事故及び2001年の同時多発テロ等欧米等で進展している炉心損傷にいたる可能性のある事態に対する対策(シビアアクシデント対策)を含め国際機関や欧米諸国等の動向や研究成果に関する情報を入手し自らの規制活動に活用する努力が十分ではありませんでした 先般の事故を踏まえ2011年 6月原子力災害対策本部は「原子力安全に関するIAEA閣僚会議に対する日本国政府の報告書」においてこれまで事業者による自主的な取組みとしていたことを改めこれを法規制上の要求にするべきこと等シビアアクシデント対策に関する教訓をとりまとめました 原子力安全保安院は教訓のとりまとめと並行して2011年 6月 7日中央制御室の作業環境の確保通信設備の確保高線量対応防護服等の資機材の確保及び放射線管理のための体制の整備水素爆発防止対策並びにがれき撤去用の重機の配備の5項目を直ちに取り組むべき措置としてその実施を指示し立入検査等を通じて実施状況の確認を行いました また原子力安全委員会は2011年 10月に「発電用軽水型原子炉施設におけるシビアアクシデント対策について」を決定し従来多重防護の考えに基づく防護策の要求は設計基準事象への対処の範囲(IAEA-INSAG の多重防護策の定義による第3の防護レベルまで)にとどまっていましたが今後はIAEA-INSAG の定義による第4の防護レベルに相当する「シビアアクシデントの発生防止影響緩和」に対しても規制上の要求や確認対象の範囲を拡大することを含めて安全確保策を強化することとすべきとしました 政府においては2012年 1月に原子炉等規制法の改正を含む原子力組織制度改革法案を国会に提出しましたその後与党野党の協議の上法案を国会に提出し同年6月20日法案が成立していますまた

法律は同年6月27日に公布されています同法案ではこれらを踏まえてシビアアクシデントも考慮した安全規制への転換のための改正が含まれています 更に原子力安全保安院は前述のとおり東京電力福島第一原子力発電所事故の技術的知見としてシビアアクシデント時の代替注水機能の強化格納容器の過圧過温破損防止水素爆発の防止対策といったシビアアクシデント管理対策を含む30項目の対策をとりまとめた上でシビアアクシデント対策についてはトップダウンの方法論により今後体系的に検討整理する必要性を示しましたまた深層防護の考え方の徹底シビアアクシデント対策の多様性柔軟性操作性内的事象外的事象を広く包含したシビアアクシデント対策の必要性等今後の規制に反映すべき視点を挙げました 原子力安全保安院は上記の視点を踏まえ外部有識者の意見を聴きながらシビアアクシデント対策規制の基本的考え方について検討を進めています 加えて我が国は前述のとおり原子力発電所に対するストレステストとして2段階の評価を行っていますが原子力安全保安院は一次評価では主に燃料の重大な損傷を防止するとの観点でアクシデントマネジメント対策及び緊急安全対策の有効性を確認しています今後実施される予定である二次評価においてはIAEAの勧告及び助言も踏まえてシビアアクシデントに至った以降の対応の有効性についても燃料が損傷した後の緩和手段の有効性やクリフエッジに至るまでの時間の評価等について確認していきます その上で原子力安全保安院はシビアアクシデントマネジメントに係る中長期の取組として東京電力福島第一原子力発電所事故から得られた技術的な知見IAEAの安全基準や欧州のストレステストの実施状況等も参照の上検討を進めました 原子力安全保安院や原子力安全委員会の活動は新たな原子力規制機関に適切に引き継ぐこととされましたまた新たな原子力規制機関の下ではシビアアクシデント対策を法令要求化する改正原子炉等規制法に基づき事業者による総合的なアクシデントマネジメントプログラムの策定等について監視監督していくこととしています

6緊急時準備と対応

 原子力安全保安院は前述のとおり2011年 6月

33

第2節 東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえた規制当局の取組

第3章

備等の予算措置を講じているところです 更にオフサイトセンターの具体的な在り方を検討すべく原子力安全保安院において専門家による意見聴取会を開催しているところです意見聴取会や関係自治体の意見等を踏まえつつオフサイトセンターが担うべき役割を明確にし放射性物質の拡散影響や複合災害から受ける影響等も勘案してその立地地点や備えるべき遮へい機能等を検討することとしています なお新たな防災体制は今後新たな規制機関の設置と同時に行うことを想定していますがそれまでの間も万が一の事態発生に備え原子力災害対策本部事務局機能の官邸への集中と強化を進めるとともにPAZ の考え方を踏まえ直ちに避難に係る指示を行う等可能な限りこれらの新たな考え方を取り入れた対応を行えるようにすることとしています UPZ の導入により避難をあらかじめ準備しておくべき地域が大幅に拡大しまた関係する市町村の数も増加することからこれらの自治体における地域防災計画の策定準備も進められています 事故時に自治体や住民に対する情報提供が適切に行われていなかった点についても厳しい批判があり適切な時期に適切なデータを提供できなかったことから政府は情報を隠蔽しようとしたのではないかとの厳しい批判が寄せられました今後はこうした反省に立ち緊急時における情報提供の仕組みについても見直し通信システムも強化することとしています なお先に述べたとおり規制と利用の分離及び原子力安全規制の一元化の観点から政府は環境省に原子力規制庁を設置する等関係組織の再編及びその機能強化を行うこととしており原子力組織制度改革法案等を第180回通常国会に提出しましたその後与党野党の協議の上より独立性の高い原子力規制委員会を設置すべく法案を国会に提出し2012年 6月 20日法案が成立し同年6月27日に公布されています 今後速やかに原子力災害対策指針を策定することとしておりオフサイトセンターの在り方等の課題等について検討を進めその結果を原子力災害対策指針に反映させていくとともに緊急時に各機関が円滑な活動を実施できるよう防災基本計画を修正したほか原子力災害対策マニュアルについても改正することを予定しています

7日緊急時における発電所構内通信手段の確保等万一シビアアクシデントが発生した場合でも迅速に対応を確保する観点から直ちに取り組むべき緊急時における発電所構内通信手段の確保等の措置を整理指示しその実施状況を確認しました更に2012年 3月に原子力安全保安院がとりまとめた東京電力福島第一原子力発電所事故の技術的知見に関する報告書の中でとりまとめた30の対策には緊急時対策として事故時の指揮所の確保整備通信機能確保計装設備の信頼性確保プラント状態の監視機能の強化事故時モニタリング機能の強化及び非常事態への対応体制の構築訓練の実施が含まれていますこれらの対策については今後安全規制に反映すべき点として整理したものです 発電所外の広範囲の緊急時対策としては前述のとおり原子力安全委員会では『原子力施設等の防災対策について』の見直しについての検討を行い2012年3月予防的防護措置を準備する区域(PAZ)を概ね5km とすること緊急防護措置を準備する区域(UPZ)を概ね30km とすること放射性物質を含んだプルーム(気体状あるいは粒子状の物質を含んだ空気の一団)による被ばくの影響を避けるための防護措置を実施する地域(PPAPlume Protection Planning Area)を概ね50km(参考値)とすること等の考え方が示されました 加えて今回原子力災害対策本部事務局が情報のハブ機能を十分に果たすことが出来なかったこと原子力災害現地対策本部についても初期段階での人員参集の遅れや拠点となるオフサイトセンター機能の不全が生じてしまったこと等の反省に立ち政府の防災体制の全面的な見直しを図ることとしています具体的には原子力災害対策本部の事務局を官邸内に速やかに立ち上げ官邸を拠点として情報収集と対応情報発信に当たること原子力発電所の状況を速やかに把握するため電気事業者本社等の対策拠点に審議官級の職員を派遣するとともに官邸原子力安全規制機関電気事業者の対策拠点原子力発電所等を結ぶテレビ会議システムを立ち上げる等の対策を講ずることとしました 原子力安全保安院はオフサイトセンターについても緊急的な対策として昨年来衛星回線の拡充等の通信体制の強化放射線防護対策としての防護服やマスクの充実食料飲料水の備蓄の拡充代替オフサイトセンターに搬入可能な可搬型通信資機材の整

34

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第3章 原子力発電所事故関連

第3章

7国際協力に係る取組

 政府は東京電力福島第一原子力発電所事故から得られる知見と教訓を国際社会と共有し国際的な原子力安全の強化に貢献していくことを責務であると認識し2011年 6月の IAEA閣僚会議及び同年9月の IAEA総会の機会を捉え事故についての包括的な報告を行ってきました事故発生以降の近隣国及び国際社会とのコミュニケーション国際社会との協力原子力安全関連条約に関する取組IAEA安全基準への貢献及びその活用並びに国際的なピアレビューを踏まえ引き続き各国機関との一層効果的な連携を図ります

第3節 原子力規制委員会

1 規制組織の在り方に係る反省を踏まえた取組

 2011年 6月に公表された「原子力安全に関するIAEA閣僚会議に対する日本国政府の報告書」において「原子力安全確保に関する行政組織が分かれていることにより国民に対して災害防止上十分な安全確保活動が行われることに第一義的責任を有する者の所在が不明確であった」と指摘されているように東日本大震災以前まで我が国の原子力安全規制行政体制においてその第一義的責任を有する者の所在が不明確でした この反省を踏まえ政府は「原子力安全規制に関する組織等の改革の基本方針」(2011年 8月 15日閣議決定(以下基本方針))を公表しましたその中には「当面の安全規制組織の見直しの方針」として「①規制と利用の分離」「②原子力安全規制に係る関係業務の一元化」「③危機管理」「④官民を問わず質の高い人材の確保」「⑤規制の在り方や関係制度の見直し」という五つの見直しの方針や「新組織を設置するために必要な法律案の立案等の準備を2012年 4月の設置を目指して行うこと」「東京電力福島第一原子力発電所における事故調査検証委員会による組織の在り方に係る検証結果等が示された場合は柔軟に対応する」旨が盛り込まれましたまた「中長期的な原子力政策及びエネルギー政策の見直しや事故調査検証委員会による検証の結果を含めてより広範な検討を進め新組織が担うべき業務の在り方やより実効的で強

力な安全規制組織の在り方について2012年末を目途に成案を得る」こととされました 更にこの基本方針を基に原子力安全規制に関する組織のあり方原子力安全規制強化のあり方等について検討するため原発事故の収束及び再発防止担当大臣が当該分野に関する専門的知見を有する者に参集を求め意見を聞くことを目的として原子力事故再発防止顧問会議が開催されました2011年 10月 4日から12月 2日にかけて4回開催され「原子力事故再発防止顧問会議提言」がとりまとめられましたこの中で①「規制と利用の分離」②「一元化」③「危機管理」④「人材の育成」⑤「新安全規制」⑥「透明性」⑦「国際性」の七つの原則に基づいて原子力安全規制組織等の改革を進めていくべきであるとされました これらの議論を踏まえ原子力安全規制行政に係る組織及び制度の改革に関し国会における審議を経て衆議院環境委員長から「原子力規制委員会設置法案」が提案され2012年 6月 20日に可決成立しました

2原子力規制委員会設置法の概要

 このような経緯を踏まえ成立した原子力規制委員会設置法の概要については以下のとおりとなっています

原子力規制委員会設置法について(1)目的

 原子力利用に関する政策に係る縦割り行政の弊害を除去し並びに一の行政組織が原子力利用の推進及び規制の両方の機能を担うことにより生ずる問題を解消するため原子力利用における事故の発生を常に想定しその防止に最善かつ最大の努力をしなければならないという認識に立って確立された国際的な基準を踏まえて原子力利用における安全の確保を図るため必要な施策を策定しまたは実施する事務を一元的につかさどるとともにその委員長及び委員が専門的知見に基づき中立公正な立場で独立して職権を行使する原子力規制委員会を設置しもって国民の生命健康及び財産の保護環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的とする

(2)概要 ① 原子力規制委員会の組織及び機能

35

第4節 東京電力福島第一原子力発電所1~4号機の廃止に向けた取組

第3章

  環境省の外局として原子力規制委員会を設置(いわゆる「3条委員会」)(委員長及び委員4名は国会同意を得て総理が任命)

  原子力規制委員会の事務局として原子力規制庁を設置

  原子力安全規制核セキュリティ核不拡散の保障措置放射線モニタリング放射性同位元素等の規制を一元化

  (独)原子力安全基盤機構(JNES)を所管(必要となる法制上の措置を速やかに講じてJNESを原子力規制庁に統合)

  (独)日本原子力研究開発機構(JAEA)及び(独)放射線医学総合研究所の業務の一部を共管

 ② 原子力安全規制の転換

  重大事故対策の強化  最新の知見に基づく規制の実施(バックフィット制度)

  40年運転制限制の導入 等

 ③ 原子力防災対策の強化

  内閣に原子力防災会議を設置し関係機関との緊密な連携の下で原子力防災対策を推進

  原子力災害対策指針の法定化

  原子力災害対策本部の強化緊急事態解除後の事後対策の円滑化

  緊急時における原子力災害対策本部長(総理)の権限を明確化

(3)施行期日

  公布の日(2012年 6月 27日)から3月以内で政令で定める日

   (国会同意人事の手続きは公布日から施行)  核不拡散の保障措置放射線モニタリングの実施機能放射性同位元素等の規制の一元化等は2013年 4月 1日

  原子炉等規制法の改正は施行日施行日から10月以内で政令で定める日1年3月以内で政令で定める日と段階的に施行

  原子力災害対策特別措置法の改正の一部は施行日から6月以内で政令で定める日

第4節 東京電力福島第一原子力発電所1~4号機の廃止に向けた取組

1冷温停止に向けた取組

 事故の収束に向けては2011年 4月 17日に東京電力がとりまとめた「福島第一原子力発電所事故の収束に向けた道筋」(以下道筋)が着実かつ極力前倒しされて実施されるよう検討作業のフォローアップや必要な安全性の確認を行ってきました 2011年5月17日には原子力災害対策本部が「東京電力福島第一原子力発電所事故の収束検証に関する当面の取組のロードマップ」を公表し事故の収束までの政府の取組を示しましたまた同年5月17日及び同年6月17日には東京電力が道筋の改訂版をとりまとめ窒素封入や循環冷却システムの設置運転等の原子炉使用済燃料プールの安定的な冷却に向けた取組み汚染水処理設備の設置等の放射性物質で汚染された水の閉じこめ保管処理再利用の取組み飛散防止剤や原子炉建屋カバリングの設計導入支援等の大気土壌での放射性物質の抑制に向けた取

20 左の図緑色部分の組織と事務が右の図の原子力規制委員会に一元化されました

【これまでの規制体制】 【新しい規制体制】

内閣府経済産業省

経済産業省

文部科学省

原子力委員会

原子力規制委員会

委員長+委員4名(国会同意人事)

原子力規制庁(事務局)

環境省

規制規制ダブルチェックで規制

資源エネルギー庁

資源エネルギー庁

電力会社等 研究機関大学等

電力会社研究機関大学等

核物質を守るための対策の総合調整

原子炉の安全審査のダブルチェック等

発電用原子炉の安全規制 等

原子力安全委員会

原子力安全保安院

試験研究炉等の安全規制核不拡散の保障措置の規制(1)放射線のモニタリングSPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)の運用放射性同位元素等の規制201341より移管

第133-2-1 これまでの規制体制と新しい規制体制20

36

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第3章 原子力発電所事故関連

第3章

組み空間土壌海水等の体系的なモニタリングの実施等の取組みを行いました同年7月19日には道筋のステップ1の目標が概ね予定通りに達成されたことが確認されると共にステップ2に進むにあたり東京電力だけでなく政府もより一体となり事故収束に取り組む観点から東京電力の「道筋」と政府の「ロードマップ」を統合した「東京電力福島第一原子力発電所事故の収束に向けた道筋 当面の取組のロードマップ(改訂版)」を発表しました同年10月 3日にはステップ2完了後から廃炉作業の開始までの期間における安全確保のための基本目標を「中期的安全確保の考え方」として定め東京電力に対してこれに適合するよう指示しましたこれを受けて東京電力から提出された報告書について専門家の方々による緻密な検証作業を経て万一不測の事態が発生したとしても敷地境界における被ばく線量が十分低い状態を維持できるとの評価結果を得ました これを踏まえ東京電力福島第一原子力発電所が冷温停止状態に達したことを確認しステップ2の完了を判断したところです一方で漏水等のトラブルが発生していた状況を受けて2012年 3月 28日原子力安全保安院は東京電力に対して主要設備を仮設設備から恒久的な設備に更新すること等中長期的な信頼性向上のために優先的に取り組むべき事項についての具体的な実施計画を策定するよう指示しました

2中長期ロードマップに基づく取組

 ステップ2完了(2011年 12月)以降はそれまでのプラント安定化に向けた取組から確実にプラントの安定状態を維持する取組に移行するとともに1~4号機の使用済燃料プールからの燃料の取り出し1~3号機の原子炉圧力容器及び原子炉格納容器からの燃料デブリ(燃料と被覆管等が溶融し再固化したもの)の取り出し等廃止措置に向けた中長期に亘る取組が進められています このような中長期の取組については同年8月に原子力委員会に設置された東京電力福島第一原子力発電所における中長期措置検討専門部会において技術的課題研究開発項目が整理されるとともに「燃料デブリ取り出し開始までの期間は10年以内を目標廃止措置が全て終了するまでは30年以上の期間を要するものと推定される」との整理がなされています 同年11月 9日には経済産業大臣及び原発事故収束再発防止担当大臣より廃止措置等に向けた中長

期ロードマップの策定等についての指示が東京電力資源エネルギー庁原子力安全保安院に出されました 更に同年12月 16日ステップ2完了に伴い政府東京電力統合対策室を廃止し原子力災害対策本部の下中長期ロードマップの策定と進捗管理を行う政府東京電力中長期対策会議が設置され同年12月21日同会議において「東京電力福島第一原子力発電所1~4号機の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ」(以下中長期ロードマップ)が決定されました(第134-2-1) 中長期ロードマップではステップ2完了から2年以内の開始を目標とした使用済燃料プール内の燃料取り出し開始までを第1期と定義し使用済燃料プール内の燃料取り出し開始のための準備作業を行うとともに燃料デブリ取り出しに必要な研究開発を開始し成果を活用した現場調査に着手する等廃止措置等に向けた本格的な作業開始までの集中的な準備を行います 第1期以降ではステップ2完了から10年以内の開始を目標とした燃料デブリ取り出し開始までを第2期としその後の廃止措置終了までを第3期と定義しました また中長期ロードマップの進捗管理を着実に行うため政府東京電力中長期対策会議の下に「運営会

ステップ1 2 第 1期 第2期 第3期

現在(ステップ2完了) 2年以内 10年以内 30~40年後

<安定状態達成>冷温停止状態放出の大幅抑制

要員の計画的育成配置意欲向上策作業安全確保に向けた取組(継続実施)

使用済燃料プール内の燃料取り出しが開始されるまでの期間(2年以内)

燃料デブリ取り出しが開始されるまでの期間(10年以内)

廃止措置終了までの期間(30~ 40年後)

使用済燃料プール内の燃料の取り出し開始(4号機2年以内)発電所全体からの追加的放出及び事故後に発生した放射性廃棄物(水処理二次廃棄物ガレキ等)による放射線の影響を低減しこれらによる敷地境界にお け る 実 効 線 量1mSv年未満とする原子炉冷却滞留水処理の安定的継続信頼性向上燃料デブリ取り出しに向けた研究開発及び除染作業に着手放射性廃棄物処理処分に向けた研究開発に着手

全号機の使用済燃料プール内の燃料の取り出しの終了建屋内の除染格納容器の修復及び水張り等燃料デブリ取り出しの準備を完了し燃料デブリ取り出し開始(10 年以内目標)原子炉冷却の安定的な継続滞留水処理の完了放射性廃棄物処理処分に向けた研究開発の継続原子炉施設の解体に向けた研究開発に着手

燃料デブリの取り出し完了(20~25年後)廃止措置の完了(30 ~ 40 年後)放射性廃棄物の処理処分の実施

第134-2-1  中長期ロードマップ(2011年 12月 21日)の概要

37

第4節 東京電力福島第一原子力発電所1~4号機の廃止に向けた取組

第3章

議」が設置され中長期ロードマップの個別の計画ごとの進捗管理が行われています同会議の内容資料は経済産業省ホームページで公開されるとともに立地地域の地元自治体に対してはTV会議訪問説明等により個別情報提供がなされています 加えて中長期的に「冷温停止状態」を維持することを始めとして発電所の安全を確保するためには適切な保守管理の実施や設備の更新も含め信頼性向上に向けた取組を引き続き実施していくことが必要不可欠であることから2012年 3月 28日原子力安全保安院から東京電力に対し設備機器に関する中長期の信頼性の向上のための指示がなされ同年5月11日までに「実施計画」の提出が求められましたこれを受け政府東京電力中長期対策会議では東京電力が提出する「実施計画」を踏まえた中長期ロードマップの改訂を行い工程を厳格に管理することにより更なる安全性信頼性の確保を図ることとしています このように廃炉に向けた取組は中長期ロードマップに基づき発電所の安全に万全を期しながら国内外の叡智を結集し政府と東京電力が一体となって廃炉に至る最後の最後まで全力を挙げて取り組まれていきます

3研究開発

 先記の2011年11月9日における枝野経済産業大臣及び細野原発事故収束再発防止担当大臣からは資源エネルギー庁原子力安全保安院及び東京電力に対し中長期ロードマップの策定とともに廃止措置等のための研究開発計画の策定について指示が出されました これを受け資源エネルギー庁及び東京電力は文部科学省(独)日本原子力研究開発機構(JAEA)及び東京電力福島第一原子力発電所の設計建設に関して知見経験を有するプラントメーカーである東芝及び日立製作所日立GEニュークリアエナジーの協力を得ながら同年12月 21日に開催された政府東京電力中長期対策会議において研究開発計画を決定しました本計画では研究開発を作業に応じて「使用済燃料プール燃料取り出しに係る研究開発」「燃料デブリ取り出し準備に係る研究開発」「放射性廃棄物処理処分に係る研究開発」及び「遠隔操作機器に係る技術開発」に分類し実施することとしています 特に原子力施設の将来の廃炉安全基盤の強化のための技術基盤の整備国として知見経験の蓄積

共有を図ることが必要な研究開発等は国が行うべきものとして体制強化を図りながら実施します また同会議において研究開発計画の進捗管理を行う場として研究開発推進本部が設置され個別研究開発プロジェクトのマネジメント国内外叡智の結集のための具体的取組研究拠点構想等について集中的に議論を行ってきました 2012年 2月には「東京電力福島第一原子力発電所の廃止措置等に向けた燃料デブリ取出し準備の機器装置開発等に係る技術カタログ検討ワークショップ」を開催し研究開発プロジェクトにおいて採用すべき技術シーズのカタログの充実を図るため国内有識者を集め求められる技術ニーズ仕様を共有し意見を交換しました また同年3月には「東京電力福島第一原子力発電所1~4号機の廃止措置等に向けた研究開発計画に係る国際ワークショップシンポジウム」を開催し研究開発計画において取り組む課題及び対応の方向について国際的な情報発信を実施するとともに国内外の有識者専門家との間で課題への対応の方向について討議を実施し有識者専門家より技術的な提案アドバイスを受けました 更にプロジェクトの実施に当たり的確なマネジメントを行っていく観点から2011年度末に個々の研究開発プロジェクトの実績評価及び2012年度以降の計画見直しの方向を取りまとめた本見直しでは現場ニーズをプロジェクトに的確に反映するための体制の強化や中長期視点での人材確保育成を意識した取組を進めていくこととしています 今後も本計画に沿って東京電力福島第一原子力

燃料デブリ取出し準備ワーキングチーム

機器装置開発等サブワーキングチーム(SWT)

報告審議 報告審議

研究開発推進本部

報告審議

事務局

使用済燃料プール燃料取り出しワーキングチーム

炉内状況把握解析SWT

放射性廃棄物処理処分ワーキングチーム

遠隔技術タスクフォース

燃料デブリ性状把握処理準備SWT

23FY-

燃料集合体の長期健全性

25FY-

損傷燃料等の処理技術

23FY-

建屋内の遠隔除染

24FY-

総合的線量低減計画策定

23FY-

PCVRPV健全性評価

23FY-

建屋PCV漏えい箇所特定

23FY-

建屋PCV止水補修

23FY-

PCV内部調査

25FY-

RPV内部調査

27FY-

デブリ炉内構造物取出し

25FY-

デブリ燃料収納技術

24FY-

デブリ臨界管理

23FY-

事故進展解析

23FY-

模擬デブリ特性把握

23FY-

デブリ処置技術

24FY-

デブリ計量管理方策

28FY-

実デブリ性状分析

23FY-

汚染水処理の廃棄物安定化

23FY-

廃棄物の処理処分検討

第134-3-1 研究開発体制

38

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第3章 原子力発電所事故関連

第3章

発電所1~4号機の廃止措置等に向けた中長期の取組を進める上で必要な研究開発を着実に進めていきます なお研究開発の成果として得られた知見技術は国内外の将来の原子力施設の廃止措置や安全基盤の強化等にも広く役立つものと期待されます

第5節 原子力損害賠償

1 原子力損害賠償紛争審査会の設置及び指針の背景

 2011年3月11日の福島原子力発電所事故発生以降多くの住民が避難生活や生産及び営業を含めた事業活動の断念等を余儀なくされており被害者の方々が一日でも早く安心で安全な生活を取り戻せるよう迅速公平かつ適正な救済が必要です政府は今回の事故に関して原子力損害の賠償を円滑に進められるよう原子力損害の範囲など当事者による自主的な解決に資する一般的な指針の策定等の業務を行うため原子力損害の賠償に関する法律に基づき2011年 4月 11日より「原子力損害賠償紛争審査会」を設置しました 同審査会においては被害者の迅速な救済を図るため原子力損害に該当する蓋然性の高いものから順次指針として提示することとしました 紛争審査会は同年4月28日には政府等による指示等に基づく損害の範囲を示す第一次指針を策定しその後第二次指針(同年5月31日)及び第二次指針追補(同年6月31日)の策定により指針で示す原子力損害の範囲を拡大し同年8月5日には原子力損害の範囲の全体像を示す中間指針を策定しましたその間各省庁に加え地方公共団体事業者団体等からヒアリングを行うとともに17分野76名の専門委員による各分野の被害状況調査を行い被害状況等の把握に努めました その後紛争審査会では同年12月 6日に自主的避難等に係る損害に関する中間指針第一次追補2012年 3月 16日政府による避難区域等の見直し等に係る損害についての中間指針第二次追補を策定しましたまた指針に類型化した損害として明記されていないものが賠償の対象とならないというものではなく個別具体的な事情に応じて事故との相当因果関係のある損害として賠償され得ることも指針に明記さ

れています

(1) 原子力損害の範囲の全体像を示す中間指針の概要

 中間指針で示された項目は以下のとおりです 政府による避難等の指示等に係る損害  政府による航行危険区域等及び飛行禁止区域の設定に係る損害

  政府等による農林水産物等の出荷制限指示等に係る損害

 その他の政府指示等に係る損害  いわゆる風評被害(一般的基準農林漁業食品産業観光業製造業サービス業等輸出)

 いわゆる間接損害 放射線被曝による損害 被害者への各種給付金と損害賠償金との調整 地方公共団体等の財産的損害等

(2) 自主的避難に係る損害についての中間指針第一次追補の概要

 中間指針の策定の際事故との相当因果関係を判断する客観的基準を見いだすことが難しいことから継続審議事項とされた政府等の指示に基づかない「自主的避難」について2011年 12月 6日に自主的避難等に係る損害に関する中間指針第一次追補を策定しました[基本的考え方] 事故発生当初の十分な情報がない時期は大量の放射性物質の放出による被ばくへの恐怖不安を抱くことは年齢等問わず一定の合理性が認められる 事故発生からしばらく経過後は放射線量等に関する情報がある程度入手できるようになった状況下にあり少なくとも子供妊婦の場合は放射線への感受性が高い可能性があることが一般に認識されていることから被ばくへの恐怖不安を抱くことは一定の合理性が認められる 上記恐怖不安による自主的避難のみならず自主的避難を行わずに滞在し続けた者にも賠償すべき損害が認められる

[自主的避難等対象区域] 発電所からの距離避難指示等対象区域との近接性政府等から公表された放射線量に関する情報自主的避難の状況等を総合的に勘案して対象区域(福島県内の避難指示対象区域を除く23市町村)を明示

39

第5節 原子力損害賠償

第3章

(3) 政府による避難区域等の見直し等に係る損害についての中間指針第二次追補の概要

 政府の原子力災害対策本部が同年12月 16日原子炉は安定状態に達し事故そのものは収束に至ったことを確認し同月26日に避難指示区域の見直しに関する基本的考え方及び今後の課題を示したこと等を踏まえ紛争審査会は本年3月16日政府による避難区域等の見直し等に係る損害についての中間指針第二次追補を策定しました中間指針第二次追補で示された項目は以下のとおりです 避難区域見直し後の避難費用及び精神的損害 旧緊急時避難準備区域の避難費用及び精神的損害 特定避難勧奨地点の避難費用及び精神的損害 不動産の価値の喪失または減少等について 営業損害就労不能等に伴う損害 自主的避難等に係る損害 除染等に係る損害

2 原子力損害賠償紛争解決センターの設置

 原子力損害賠償紛争審査会は今回の東京電力福島第一第二原子力発電所事故により被害を受けた方々の原子力事業者(東京電力)に対する損害賠償について円滑迅速かつ公正に紛争を解決することを目的として同審査会の下に「原子力損害賠償紛争解決センター」を設置し2011年 9月東京都港区と福島県郡山市の2カ所において業務を開始しました同センターにおいては紛争の当事者(被害者または原子力事業者)の申立てにより仲介委員が申立人と相手方の双方から事情を聴き取って損害の調査検討を行い双方の意見を調整しながら和解案を提示する和解の仲介業務を実施しています 同センターでは2012年 2月以降多くの申立に共通すると思われる問題点に関して一定の基準を示す「総括基準」を順次策定公開しているほかセンターで実施されている和解仲介の結果を広く周知し今後の賠償を円滑に進めていく上での参考とするため和解実例を順次公開しています 更に同年7月には和解仲介の申立に関して出来る限り被害者の方々の居所等の近くで話し合いを実施する等きめ細やかな対応を実施するため福島県内の各地域(県北会津いわき相双)に同センター福島事務所の支所を設置しました

3 原子力損害賠償補償契約に関する法律に基づく措置

 政府は原子力損害賠償補償契約に関する法律に基づき原子力損害賠償補償契約を原子力事業者と締結しており地震噴火等により原子力損害が発生した場合にはこの契約に基づく補償金を支払うこととなっています 今般の事故を受け政府は2011年 11月原子力損害賠償補償契約に基づき東京電力福島第一原子力発電所分の1200億円を東京電力へ支払いました

4原子力損害賠償支援機構の設立の背景

 2011年 3月 11日の東日本大震災により東京電力福島原子力発電所事故による大規模な原子力損害の発生を受け2011年 6月 14日に「東京電力福島原子力発電所事故に係る原子力損害の賠償に関する政府の支援の枠組みについて」が閣議決定され東京電力福島原子力発電所事故に係る原子力損害の賠償に関する政府の支援の枠組みについて政府としてこれまで原子力政策を推進してきたことに伴う社会的な責任を負っていることに鑑み ① 被害者への迅速かつ適切な損害賠償のための万全の措置

 ② 東京電力福島原子力発電所の状態の安定化事故処理に関係する事業者等への悪影響の回避

 ③電力の安定供給の三つを確保するため「国民負担の極小化」を図ることを基本として損害賠償に関する支援を行うための万全の措置を講ずることが確認されました こうしたことを受け2011年 8月 10日に原子力損害賠償支援機構法及び関連する政省令が公布施行され原子力事業に係る巨額の損害賠償が生じる可能性を踏まえ原子力事業者による相互扶助の考えに基づき将来にわたって原子力損害賠償の支払等に対応できる支援組織を中心とした仕組みを構築するため同年9月12日に原子力損害賠償支援機構が設立されました なお原子力損害賠償支援機構法の附則において原子力損害賠償の実施状況等を踏まえ原子力損害の賠償に関する法律の改正等の抜本的な見直しをはじめとする必要な措置を講ずるものとされています

40

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第3章 原子力発電所事故関連

第3章

5原子力損害賠償支援機構の枠組み

 原子力損害賠償支援機構(以下機構)を中心とした原子力事業者による相互扶助の枠組みは以下のようになっています

(1)原子力事業者からの負担金の収納 原子力損害が発生した場合の損害賠償の支払等に対応するため損害賠償に備えるための積立てを行います 機構は機構の業務に要する費用として原子力事業者から負担金の収納を行います 機構に第三者委員会的な組織として「運営委員会」を設置し原子力事業者への資金援助に係る議決等機構の業務運営に関する議決を行います

(2)機構による通常の資金援助 原子力事業者が損害賠償を実施する上で機構の援助を必要とするときは機構は運営委員会の議決を経て資金援助(資金の交付株式の引受け融資社債の購入等)を行います 機構は資金援助に必要な資金を調達するため政府保証債の発行金融機関からの借入れをすることができます

(3)機構による特別資金援助①特別事業計画の認定 機構が原子力事業者に資金援助を行う際政府の特別な支援が必要な場合原子力事業者と共に「特別事業計画」を作成し主務大臣の認定を求めます 特別事業計画には原子力損害賠償額の見通し賠償の迅速かつ適切な実施のための方策資金援助の内容及び額経営の合理化の方策賠償履行に要する資金を確保するための関係者(ステークホルダー)の協力の要請経営責任の明確化のための方策等について記載します 機構は計画作成に当たり原子力事業者の資産の厳正かつ客観的な評価及び経営内容の徹底した見直しを行うとともに原子力事業者による関係者に対する協力の要請が適切かつ十分なものであるかどうかを確認します 主務大臣は関係行政機関の長への協議を経て特別事業計画を認定します

②特別事業計画に基づく事業者への援助 主務大臣の認定を受け機構は特別事業計画に基づく資金援助(特別援助)を実施するため政府は機構に国債を交付し機構は国債の償還を求め(現金化)原子力事業者に対し必要な資金を交付します 政府は国債が交付されてもなお損害賠償に充てるための資金が不足するおそれがあると認めるときに限り予算で定める額の範囲内において機構に対し必要な資金の交付を行うことができます 機構は政府保証債の発行等により資金を調達し事業者を支援します

③機構による国庫納付 機構から援助を受けた原子力事業者は特別負担金を支払います 機構は負担金等をもって国債の償還額に達するまで国庫納付を行います ただし政府は負担金によって電気の安定供給等に支障を来しまたは利用者に著しい負担を及ぼす過大な負担金を定めることとなり国民生活国民経済に重大な支障を生ずるおそれがある場合機構に対して必要な資金の交付を行うことができます

④損害賠償の円滑化業務 機構は損害賠償の円滑な実施を支援するため(ア)被害者からの相談に応じ必要な情報の提供及び助言を行うとともに(イ)原子力事業者が保有する資産の買取り及び(ウ)賠償支払の代行(原子力事業者からの委託を受けて賠償の支払国または都道府県知事の委託を受けて仮払金の支払)を行うことができます 平成二十三年原子力事故による被害に係る緊急措置に関する法律案に基づく国による仮払金

6特別事業計画策定の経緯と支援の経過

① 2011年11月4日に特別事業計画を認定(緊急特別事業計画の認定)

② 2012年 2月 13日に認定特別事業計画の変更認定

③ 2012年5月9日に認定特別事業計画の変更認定(総合特別事業計画の認定)

 機構は東京電力による賠償金の速やかな支払を確

41

第5節 原子力損害賠償

第3章

保するため2012年 2月に緊急特別事業計画の変更を行いましたこの中でその時点での要賠償額の見通し1兆7003億 2200万円から原子力損害の賠償に関する法律第7条第1項に規定する賠償措置額として既に東京電力が受領している1200億円を控除した金額を損害賠償の履行に充てるための資金として2012年度までに交付することとしていましたしかしながらその後新たな賠償基準の策定等により損害賠償の見通しが2兆5462億7100万円となったため機構は東京電力に対し当該要賠償額から上記1200億円を控除した2兆4262億 7100万円を損害賠償の履行に充てるための資金として交付することとしていますなお交付の時期についてはすでに機構が交付した1兆1168億円(同年7月26日時点)を控除した金額を2013年度までに交付する予定です また原子力損害賠償支援機構法第38条第1項の規定に基づき機構の業務に要する費用に充てるため各電力会社が負担する負担金については同年3月30日に2011年度一般負担金年度総額を815億と決定しました

7賠償の実績及び業務の改善

(1)賠償に向けた体制の整備及び賠償の実績 東京電力は2011年4月15日に国の「原子力発電所事故による経済被害対応本部」において原子力災害対策特別措置法の規定に基づき当面の必要な資金を「仮払補償金」として支払いするよう決定がなされたことを受け同日仮払補償金の開始を公表しましたまた同社は原子力損害賠償紛争審査会による中間指針(2011年 8月 5日)を踏まえ同年8月30日に個人の本賠償2011年 9月 21日に法人個人事業者の本賠償の開始を公表するとともに本賠償の対象賠償額の算定基準等を提示しました(法人個人事業者については同年9月21日に発表)個人事業者ともに同年9月に請求書送付受付(一次請求同年3~8月分)を開始し同年10月 5日に本賠償の支払いを開始しました2012年 7月末までに仮払補償金本賠償合計で約1兆795億円の支払いが行われています(仮払約1469億円本賠償約9326億円)

(2)賠償業務の改善 東京電力に対しては2011年 10月の本賠償開始後被害者の方々に対して親身親切な損害賠償が行われていない等の不満が多く寄せられておりました東京

電力は機構とともに策定した緊急特別事業計画においてこうした状況を改善すべく「5つのお約束」(迅速な賠償のお支払いきめ細やかな賠償のお支払い原子力損害賠償紛争解決センターの和解仲介案の尊重親切な書類手続き誠実な御要望への対応)を掲げ賠償業務の行程管理の徹底や請求書類の簡素化等東京電力の賠償実施体制の建て直しを行ってきました また機構はこうした東京電力の取組を継続的にモニタリングするほか自ら弁護士行政書士等からなる「訪問相談チーム」を派遣する等賠償の円滑化に向けた取組を行いました こうした取組の結果請求書類の確認や賠償金のお支払いについて計画に定めた目標期間内での対応の実現原子力損害賠償紛争解決センターの和解仲介案の尊重や指針外への対応等一定の改善も見られています

<総合特別事業計画(2012年5月9日認定)のポイント>(1) 東京電力の取組と関係者の協力 国と東京電力の双方には厳しい状況をともに連帯して乗り越えていく重い責務 東京電力はあらゆる手段を総動員し「賠償廃止措置安定供給」の責任を果たす 国はエネルギー政策や原子力政策全体についての責務と相まって責任を果たしていく 国家的難題に直面しているという認識の下関係者全ての持てる力を結集することが必要

(2) 東京電力の新経営体制①原子力損害賠償支援機構が東京電力の総議決権の2分の1超を取得(「一時的公的管理」)するとともに追加的に議決権を取得できる転換権付無議決権種類株式を引き受けることで潜在的には総議決権の3分の2超の議決権を確保②会長以下役員の退任顧問制度全廃退職慰労金の受取辞退 等

(3) 合理化の深掘り10年間で33兆円超のコスト削減を行う①人件費(10年間で12758億円削減)②資材役務経費(10年間で6641億円削減)③買電燃料調達に係る費用(10年間で1986億円削減)

42

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第3章 原子力発電所事故関連

第3章

④その他経費(10年間で9687億円削減)⑤資産売却不動産電気事業資産以外は原則全て売却(2472億円相当(時価ベース))有価証券2011年度から原則3年以内に3301億円相当の有価証券を売却子会社関連会社2011年度から原則3年以内に119社中45社 1301億円相当を売却

(4) 料金改定【前提】燃料費等増を合理化の徹底により圧縮した上で必要最小限の料金改定(3年原価とし柏崎刈羽原発の2013年度4月以降の順次稼働を収支計画の前提として置く)①規制部門で1028料金引上げ(原価算定期間の3年間)を収支計画の前提として置く(注電気事業法に基づく経済産業大臣認可が必要であり査定の結果846になった)②自由化部門は1639料金引上げ(査定の結果1490になった)「自由化料金については総原価洗替えの結果を反映し4月からの差額を割り引く」旨明記

(5) 賠償コスト廃炉コスト①帰還困難地域の財物全損賠償等の新基準を踏まえ約8500億円を積み増し(総額約25兆円)②除染は予算執行の進捗国からの求償等合理的な見積もりが可能になるまで計上せず③廃炉コストは「ロードマップ」に対応した積上げによる費用を今後見積もり

(6) 事業改革(東京電力の方向性改革の段取り)①入札による競争や外部事業者等との連携を通じた最適需給の実現②社内カンパニー(燃料火力送配電小売)(「自前主義」から「外部連携」へ)LNG発電コスト低減に焦点調達集約化インフラ共同運用IPP入札③国際標準に準拠したスマートメーターのオープンな調達企業連携による省エネサービス

(7) 金融機関株主責任財務基盤強化

①金融機関自律的な資金調達力の回復まで与信を維持主要取引機関は融資1兆円追加②機構による株式の引受け株主総会後払込金額総額1兆円21

③既存株主株式の希薄化当面の間 無配

第6節 原子力被災者支援 東京電力福島第一原子力発電所事故では政府による避難屋内退避の指示等により多数の居住者等が避難その他の行動を余儀なくされあるいは事業者が生産及び営業を含めた事業活動の断念を余儀なくされる等東京電力福島第一原子力発電所から半径約30km 圏内を中心に福島県全体のみならず周辺の各県も含めた広範囲に影響を及ぼす事態に至りました 2011年 3月 29日には原子力被災者への生活支援を強化するため原子力災害対策本部の下に原子力被災者生活支援チームが設置され避難受入れ態勢の確保除染体制の確保被災地への物資等の輸送補給被ばくに係る医療の確保環境モニタリングと正確迅速な情報提供等を行ってきました同年5月17日には原子力災害対策本部は「原子力被災者への対応に関する当面の取組方針」及び「原子力被災者への対応に関する当面の取組のロードマップ」を策定公表しこれらに基づき応急仮設住宅の確保計画的避難の実施住民の健康管理がれき汚泥の処理や放射線量等分布マップの作成農地土壌の除染技術開発に関する実証試験の実施等の取組を行ってきたところです 2012年 2月 10日には福島の復興再生に関する施策を総合的に策定し継続的迅速に実施するための組織として復興庁が設置され生活再建策(賠償長期避難者支援自治体ごとの帰還支援)産業振興及び雇用対策放射線対策等(リスクコミュニケーションモニタリング除染区域見直し)等につき関係省庁と連携して被災者支援をより一層推進するための体制が整備されましたまた同年3月30日には「福島復興再生特別措置法」が成立し同年4月5日には2012度予算として復興経費3兆7754億円が計上される等法制度及び予算の側面からも被災者支援を推進す

21 出資額は東京電力A種優先株式 16 億株(払込総額 3200 億円)と東京電力B種優先株式 34 億株(払込総額 6800 億円)の合計

43

第6節 原子力被災者支援

第3章

るための施策が講じられています

1避難指示区域等の設定経緯

 2011年 3月 11日東北地方太平洋沖地震とそれが引き起こした津波により東京電力の福島第一原子力発電所及び福島第二原子力発電所において原子力緊急事態が発生しましたこれを受けて同日政府は原子力緊急事態宣言を発出するとともに原子力災害対策本部を設置しました 事故の発生以降事故の深刻化に伴い住民に避難を求める区域を順次拡大し翌12日に原子力災害対策本部長は福島県知事及び関係市町村長に対し東京電力福島第一原子力発電所から半径20km圏内の住民等の避難を指示しましたまた同月15日には東京電力福島第一原子力発電所から半径20kmから30km圏内の居住者等の屋内退避を指示しました(第136-3-2) 更に同年4月21日には引き続き東京電力福島第一原子力発電所が不安定な状態であることに鑑み同発電所の半径20km圏内について住民等の避難を徹底し生命または身体に対する危険を防止するため

原子力災害対策本部長は福島県知事及び関係市町村長に対し同区域を警戒区域に設定することを指示しました翌22日の午前0時警戒区域が設定され緊急事態応急対策に従事する者以外の者は市町村長の許可なく同区域に立ち入ることができなくなりこの立入制限を徹底するため警戒区域境界に物理的な立入り制限の措置が講じられることとなりました また環境モニタリングにおいて東京電力福島第一原子力発電所の半径20km以遠において積算線量が高い地域が確認されたことから同年4月22日原子力災害対策本部長は福島県知事及び関係市町村長に対し事故発生から1年の期間内に積算線量が20mSvに達するおそれのある区域を計画的避難区域に設定し居住者等を計画的に避難させるよう指示しました 同時に東京電力福島第一原子力発電所から半径20kmから30kmの区域については屋内退避の指示を解除し今後なお緊急時に屋内退避や避難の対応が求められる可能性が否定できない区域(概ね東京電力福島第一原子力発電所から半径20kmから30kmの区域に相当)について原子力災害対策本部長は福島県知事及び関係市町村長に対し当該区域を緊急時避難準備区域に設定し居住者等に避難または屋内退避

浪江町葛尾村

双葉町

大熊町

富岡町

広野町

川内村

田村市

川俣町

伊達市

いわき市

小野町

二本松市

相馬市

福島第二原子力発電所

計画的避難区域

警戒区域

南相馬市飯舘村南相馬市避難指示解除準備区域(2012416~)

南相馬市帰還困難区域(2012416~)

南相馬市居住制限区域(2012416~)

田村市避難指示解除準備区域(201241~)

川内村避難指示解除準備区域(201241~)

川内村居住制限区域(201241~)

避難指示解除準備区域居住制限区域帰還困難区域

警戒区域計画的避難区域

凡例20km

楢葉町

飯舘村帰還困難区域(2012717~)

飯舘村居住制限区域(2012717~)

飯舘村避難指示解除準備区域(2012717~)

楢葉町避難指示解除準備区域(2012810~)

福島第一原子力発電所

約5km

図136-2-1  避難指示区域と警戒区域の概念図(2012年7月31日現在)

図136-1-1  東京電力福島第一原子力発電所に係る避難等の指示の経過

2011年3月11日2123

半径3km圏避難半径3~10km圏屋内退避

3月12日544

半径10km圏避難

3月12日1825

半径20km圏避難

3月15日1100

半径20~30km圏屋内退避

4月21日1100

半径20km圏警戒区域(設定は22日午前0時)

4月22日944

半径20~30km圏屋内退避の解除葛尾村浪江町飯舘村川俣町の一部及び南相馬市の一部避難(計画的避難区域)広野町楢葉町川内村田村市の一部及び南相馬市の一部緊急時避難準備区域

9月30日1811

広野町楢葉町川内村田村市の一部及び南相馬市の一部緊急時避難準備区域の解除

2012年3月30日

川内村田村市南相馬市警戒区域を解除し三つの新たな避難指示区域に見直し(川内村及び田村市は4月1日実施南相馬市は4月16日実施)

6月15日 飯舘村三つの新たな避難指示区域に見直し(7月17日に実施)

7月31日 楢葉町避難指示解除準備区域に見直し(8月10日に実施)富岡町大熊町双葉町及び浪江町海域のうち陸域の約5kmから東側の避難指示区域及び警戒区域を解除

44

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第3章 原子力発電所事故関連

第3章

の準備をさせるよう指示しました

2避難指示区域等の見直し

 東京電力福島第一原子力発電所の事故に伴い設定された避難指示区域及び警戒区域等は原子力発電所の安全性の確認や放射線被ばくの危険性の低下等を踏まえ区域の見直しを実施することとなりました 2011年 8月 9日原子力災害対策本部は緊急時避難準備区域について原子力発電所の安全性評価(水素爆発が生じたり原子炉等の冷却ができなくなる可能性が低くなっていること仮に注水が中断した場合でも発電所から20km以遠において受ける放射線影響が十分小さいこと等)区域内における放射線量の詳細なモニタリングの結果(学校等をはじめとする主要ポイントの周辺を含む測定をしたほとんどの地点で空間線量が十分低いことが確認されたこと)及び公的サービスインフラ等の復旧のめどが立ったことを踏まえ同区域を解除することを決定しました 関係市町村は当該方針に基づき住民の円滑な移転支援学校医療施設等の公的サービスの再開公的インフラの復旧学校グラウンド園庭等の除染を含む実情に応じた「復旧計画」を策定しましたこれを受け原子力災害対策本部は同年9月30日に緊急時避難準備区域を一括して解除することを決定し原子力災害対策本部長から福島県知事及び関係市町村長にその旨指示しました 2011年 12月 26日原子力災害対策本部は「放射性物質の放出が管理され放射線量が大幅に抑えられている」というステップ2の目標達成と完了を受けて東京電力福島第一原子力発電所の事故収束の状況や放射線被ばくの危険性の低下を踏まえ警戒区域(原子力発電所から半径20km の区域)についてはインフラ等の安全確認応急復旧を行うとともに防災防犯対策等について関係者間で十分に調整を図った上で解除することを決定しましたまた避難指示区域(原子力発電所から半径20km の区域及び同半径20km 以遠の計画的避難区域)については関係者と協議した上で放射線量を基準として以下の三つの区域に見直すことを決定しました

① 避難指示解除準備区域 年間積算線量が20mSv以下となることが確実であることが確認された区域同区域においては引き続き避難指示は継続されることとなりますが除染イ

ンフラ復旧雇用対策等の復旧復興のための支援策を迅速に実施し住民の一日でも早い帰還を目指します

② 居住制限区域 年間積算線量が20mSvを超えるおそれがあり住民の被ばく線量を低減する観点から引き続き避難を継続することが求められる区域同区域においては将来的に住民が帰還しコミュニティを再建することを目指し除染やインフラ復旧等を計画的に実施します

③ 帰還困難区域 5年間を経過してもなお年間積算線量が20mSvを下回らないおそれのある現時点で年間積算線量が50mSv超の区域同区域は将来にわたって居住を制限することを原則とし同区域の設定は5年間固定します 当該方針に基づき区域見直しに係る協議が整った市町村について区域見直しを実施しています(第136-2-1 2012年 7月 31日現在)

3警戒区域への一時立入り

 2011年 4月 22日午前0時東京電力福島第一原子力発電所から半径20km圏内は警戒区域に設定され当該区域への立入りが制限されることとなりました他方で着の身着のままで避難を余儀なくされた住民から自宅への一時立入り等に係る強い要望が寄せら

図136-3-1 警戒区域への一時立ち入り

一時立入り対象市町村

警戒域内の対象数

1巡目 2巡目

世帯数 人数バス立入り

車持ち出し

マイカー立入り バス立入り車持ち出し

世帯数 人数 台数 世帯数 人数 世帯数 人数 台数

田村市 約110 約400 76 130 6 112 260 0 0 2

南相馬市

約4000

約14300

2907 5030 511 3335 8169 66 95 102

楢葉町約2600

約7700

1909 3197 364 2067 5372 102 142 45

富岡町約6000

約16000

4537 7631 741 4757 10921 275 398 126

川内村 約160 約400 82 135 19 92 227 0 0 0

大熊町約4000

約11500

3525 5683 1021 3265 7495 210 308 129

双葉町約2400

約6900

2061 3547 573 1930 4638 177 279 62

浪江町約6700

約19600

4812 8218 916 4622 11031 234 345 90

葛尾村 約80 約300 17 27 1 40 91 0 0 0

計約26000

約77000

19850 33468 4146 20108 47944 1064 1567 554

45

第6節 原子力被災者支援

第3章

れましたこれを受け立入りを行う住民の安全確保を大前提に同年5月10日から当該区域への一時立入りを実施することとなりましたこれまで四巡目までの一時立入りを実施し延べ約73370世帯約162002人(2012年 7月末日現在)の住民が立入りを行っています 一巡目はバスによる集団での立入り方式のみにより実施していましたが持ち出せる荷物の量が少ない待ち時間が長いといった要望が寄せられました二巡目からは住民からのこうした要望等を踏まえバス方式と併せてマイカーによる一時立入りを可能としました

 更に三巡目からは立入りを行う住民の利便性を高めること等を目的として住民が車から降りることなく受付を行うドライブスルー方式の導入の他自宅以外の場所への一時立入り(墓参りのための立入り等)や引っ越し業者等の帯同を認める等の改善を行いました 加えて四巡目からはそれまで市町村が行っていた立入り日の調整等を新たに設置するコールセンターにおいて行うこととしこれまで以上にスムーズな受付が可能となりました 五巡目以降についても住民の安全確保を大前提として立入りを行う住民の負担の少ない方法で立入りが可能となる体制の構築を目指しています

4除染の実施

 東日本大震災に伴う原子力発電所の事故によって放出された放射性物質による環境の汚染が生じておりこれによる人の健康または生活環境に及ぼす影響を速やかに低減することが喫緊の課題となっていますこうした状況を踏まえ「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法」(以下「放射性物質汚染対処特措法」)が可決成立し2011年 8月 30日に公布されました 同年11月 11日には「放射性物質汚染対処特措法に基づく基本方針」を閣議決定し環境の汚染の状況についての監視測定事故由来放射性物質により汚染された廃棄物の処理土壌等の除染等の措置等に係る考え方が取りまとめられ関係者の連携の下事故由来放射性物質による環境の汚染が人の健康または生活環境に及ぼす影響が速やかに低減されるようまた復興の取組が加速されるよう同方針に基づき取り組むこととしています 除染の実施に当たり同年11月以降警戒区域や計画的避難区域等において除染の効果的な実施のために必要となる技術の実証実験等のための除染モデル実証事業等を実施しその成果を2012年 6月に公表しましたまた2011年 12月以降は自衛隊等による除染活動の拠点となる施設(役場公民館等)や除染を行う地域にアクセスする道路及び除染に必要な水等を供給するインフラ施設を対象に先行的な除染を実施しています 放射性物質汚染対処特措法に基づき国が除染を実

一時立入り対象市町村

警戒域内の対象数

3巡目 4巡目

世帯数 人数マイカー立入り

バス立入り車持ち出し

マイカー立入り

バス立入り

世帯数 人数 世帯数 人数 台数 世帯数 人数 世帯数 人数

田村市 約110 約400 90 196 0 0 0 - - - -

南相馬市

約4000

約14300

3032 7941 39 57 14 - - - -

楢葉町約2600

約7700

1951 5005 66 92 6 1826 4950 38 59

富岡町約6000

約16000

4240 10025 158 217 10 3721 8954 124 181

川内村 約160 約400 0 0 0 0 0 - - - -

大熊町約4000

約11500

2944 6936 162 234 8 2533 6328 98 148

双葉町約2400

約6900

1744 4362 92 140 7 1593 4184 85 125

浪江町約6700

約19600

3764 9207 209 305 10 3494 8761 157 226

葛尾村 約80 約300 0 0 0 0 0 0 0 0 0

計約26000

約77000

17675 43476 726 1045 55 13167 33177 502 739

(注) 1 全体の数値は平成22年度国勢調査及び各市町村データ(復旧計画等)からの概数

   2 マイカーを所有していない住民の方については近所の住民の方等が同乗させて1台で複数世帯分の立入りを行うケースがあるため立入台数が立入世帯数より少なくなる場合があるなお1世帯が複数台の自動車で立入ることは認められていない

46

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第3章 原子力発電所事故関連

第3章

施する除染特別地域においては市町村ごとに策定する特別地域内除染実施計画に従って事業を進めることとしており一時保管場所の確保や除染業務の発注に必要な情報が整った市町村について特別地域内除染実施計画に基づき本格除染の実施を開始していますまた市町村が中心となって除染を実施する除染実施区域においては市町村が除染実施計画を策定し除染事業を進めることとされており現在各地で除染事業の取組が進められています 環境省においては放射性物質汚染対処特措法が2012年 1月に全面施行されたことに伴い福島県等における除染を推進するために福島環境再生事務所を開所し体制の整備を行いました更に福島県及び環境省では除染等に関する専門家を市町村等の要請に応じて派遣するとともに除染のボランティア活動等の関連情報の収集発信を行うための拠点として国福島県関係機関関係団体等の連携を図る除染情報プラザを設置しました

5健康管理調査の支援等

(1)福島県民健康管理調査事業の支援 福島県民の皆様の中長期的な健康管理を可能とするため国では平成23年度(2011年度)第二次補正予算により福島県が創設した「福島県民健康管理基金」に782億円の交付金を拠出し全面的に県を支援しています福島県ではこの基金を活用して全県民を対象に県民健康管理調査を実施し被ばく線量の把握や健康状態を把握するための健康診査等を行うこととしています特に震災時点で18才以下であった全ての方を対象に甲状腺の超音波検査を実施していますこの他にホールボディカウンターによる検査や中学生以下の子ども及び妊婦に対する個人線量計(ガラ

スバッジ等)の貸与などを実施しています

(2) 原子力被災者等の健康不安対策に関するアクションプランの推進

 東京電力福島第一原発事故の被災者をはじめとする国民が抱える放射線による健康不安についてはこれまでも様々な取組を講じてきましたが ①今般の被災者等の不安を十分に踏まえた情報発信としていたか(平易な用語の使用等) ②専門家等からの一方的な情報発信に偏り不安を感じている被災者等との双方向のコミュニケーションが不足していなかったか ③不安解消のためのコミュニケーションを行う人や場(拠点を含む)が十分に確保されていたかといった問題により依然として不安を十分に解消できていない状況です

 関係省庁等がこうした問題意識を共有した上で必要となる施策の全体像を明らかにし政府一丸となって健康不安対策の確実な実施に取り組むべく2012年4月20日に環境大臣を議長とする原子力被災者等の健康不安対策調整会議を設置し同年5月31日にアクションプランを策定しました 重点施策として ①関係者の連携共通理解の醸成 ②放射線による健康影響等に係る人材育成国民とのコミュニケーション ③放射線影響等に係る拠点等の整備連携強化 ④国際的な連携の強化の4つを掲げており本取組を確実かつ計画的に実行していくこととしています

47

第4章

 東日本大震災を契機とした東京電力福島第一原子力発電所における事故により国民の生活地域経済環境に対して甚大な被害を与えたことに対する深い反省を踏まえ現行のエネルギー政策をゼロベースで見直すこととなりました 見直しにあたっては政府一丸となって策定するため国家戦略担当大臣を議長経済産業大臣と環境大臣兼原発事故の収束及び再発防止担当大臣を副議長とする「エネルギー環境会議」が設置されましたまた総合資源エネルギー調査会に「基本問題委員会」が設置される等相互に独立した関係審議会等が設置され議論が行われました 前述の「エネルギー環境会議」の方針によりエネルギー基本計画の策定に先立って「エネルギーミックスの選択肢」を国民に提示することとされ「基本問題委員会」において他の関係審議会の報告を受けつつ「エネルギーミックスの選択肢」の原案が策定されました 「エネルギー環境会議」はこの「エネルギーミックスの選択肢」の原案を原子力委員会や中央環境審議会等で検討されている原子力政策や地球温暖化対策の選択肢の原案と合わせてとりまとめ「エネルギー環境に関する選択肢」を統一的に提示し国民的な議論を進め「革新的エネルギー環境戦略」の決定を行い

ますエネルギー基本計画は関係行政機関の長の意見を聴くとともに総合資源エネルギー調査会の意見を聴いて経済産業大臣が案を作成し閣議で決定することとなっています 本章では2012年 7月末頃までのエネルギー環境会議総合資源エネルギー調査会基本問題委員会をはじめとする関係審議会等の構成検討結果等を概観します

第1節 電力システム改革関連

1対応の方向性

 電力システム改革に関する論点整理を目的として2011年11月に「電力システム改革に関するタスクフォース」を経済産業省内に立ち上げ同年12月末に「電力システム改革に関するタスクフォース論点整理」をとりまとめましたまた同月総合資源エネルギー調査会基本問題委員会において「新しい「エネルギー基本計画」策定に向けた論点整理」がとりまとめられましたこれらを踏まえ今後のあるべき電力システムの具体的な制度設計を行うため2012年 2月に総合資源エネルギー調査会総合部会に「電力システム改革専門委員会」を設置しました本専門委員会において8回にわたり精力的な検討を進め同年7月13日に「電力システム改革の基本方針」がとりまとめられました本基本方針では小売全面自由化卸電力市場の活性化送配電部門の広域性中立性の確保等が改革の基本方針として提言されています

2 電力システム改革専門委員会の発足に至る背景委員会の構成経過今後の動き

(1)背景 2011年12月にとりまとめた「電力システム改革に関するタスクフォース論点整理」においては「低廉で安定的な電力供給」を実現する「より競争的で開かれた電

第4章東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえたエネルギー政策の見直し

エネルギー環境会議

国民的議論

エネルギー環境の選択肢の原案提示

革新的エネルギー環境戦略提示

基本問題委員会事故調査委員会(1)

原発事故の技術知見委員会(2)

電力システム改革専門委員会

省エネルギー部会

天然ガスシフト基盤整備専門委員会

資源燃料政策(3)

内閣官房原子力委員会等

総合資源エネルギー調査会

(注) 1 東京電力福島原子力発電所における事故調査検証委員会等   2 東京電力福島第一原子力発電所事故の技術的知見に関する意見

聴取会意見聴取会   3 資源燃料政策に関する有識者との意見交換会

第140-0-1  エネルギー基本計画策定関連の政府内における主な検討の場

48

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第4章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえたエネルギー政策の見直し

第4章

力市場」を構築することを基本理念とし「新たな需要抑制策」「需要家の選択」「供給の多様化」「競争の促進と市場の広域化」「安定性と効率性の両立」について10の論点をまとめました また同月にとりまとめられた「新しい「エネルギー基本計画」策定に向けた論点整理」においては「大規模集中電源に大きく依存した現行の電力システムの限界が明らかになったことを踏まえ今後は需要家への多様な選択肢の提供と多様な供給力(再生可能エネルギーコジェネ自家発電等)の最大活用によってリスク分散と効率性を確保する次世代システムを実現していく必要があるとしていますまたこうしたシステムを盤石にするためにも送配電ネットワークの強化広域化や送電部門の中立性の確保が重要な課題である」等の基本的方向性が示されました この基本的方向に沿って今後のあるべき電力システムの具体的な制度設計を行うことが喫緊の課題であることから将来のエネルギーミックスのあり方と併せこれを支える電力システムについて専門的な検討を行うため総合資源エネルギー調査会総合部会の下に「電力システム改革専門委員会」を設置しました

(2)委員会の構成 電力システム改革専門委員会の委員は学識経験者や消費者代表者等を含む11名から構成されています 一般電気事業者や特定規模電気事業者(新電力)はオブザーバーとして参加しました

(3)経過 第1回(2012年 2月 2日) 議題 電力システム改革に関するタスクフォース「論

点整理」について 第2回(2012年 3月 6日) 議題需要サイドの取組について  東京都富士フイルム株式会社一般電気事業者(中部電力株式会社関西電力株式会社)新電力(株式会社エネット)からプレゼンテーション

 第3回(2012年 4月 3日) 議題供給の多様性について  株式会社日本製紙グループ本社東京ガス株式会社JX日鉱日石エネルギー株式会社一般電気事業者(中部電力株式会社関西電力株式会社)新電力(株式会社エネット)からプレゼンテーション

 第4回(2012年 4月 25日) 議題競争の促進と広域化について  フランス送電会社(RTE)公正取引委員会一般電気事業者(中部電力株式会社関西電力株式会社)新電力(株式会社エネット)からプレゼンテーション

 第5回(2012年 5月 18日) 議題 総合的な検討(1) 小売全面自由化送配電部

門の広域化中立化 第6回(2012年 5月 31日) 議題 総合的な検討(2) 送配電部門の広域化中立

化卸電力市場の活性化等 第7回(2012年 6月 21日) 議題 総合的な検討(3) 送配電部門の広域化中立

化卸電力市場の活性化等 第8回(2012年 7月 13日) 議題 総合的な検討(4) 電力システム改革の基本方

針案

(4)電力システム改革の基本方針①需要サイド(小売分野)の改革 ア)小売全面自由化(地域独占の撤廃)  一般電気事業者による地域独占を撤廃し小売全面自由化を実施  ただし「自由化」によって供給の空白地帯が生じないよう最終保障サービス等「自由化の代償措置」には周到な設計を行う(年内を目処に詳細設計)

委員会名簿伊藤 元重(委員長) 東京大学大学院経済学研究科教授

安念 潤司(委員長代理) 中央大学法科大学院教授

伊藤 敏憲 伊藤リサーチアンドアドバイザリー代表取締役兼アナリスト

大田 弘子 政策研究大学院大学教授

小笠原 潤一 (一財)日本エネルギー経済研究所電力グループマネージャー研究主幹

柏木 孝夫 東京工業大学特命教授高橋 洋 富士通総研経済研究所主任研究員

辰巳 菊子 (公社)日本消費生活アドバイザーコンサルタント協会常任顧問

八田 達夫 学習院大学特別客員教授松村 敏弘 東京大学社会科学研究所教授横山 明彦 東京大学大学院新領域創成研究科教授

49

第2節 天然ガス

第4章

 イ)料金規制の撤廃(総括原価方式の撤廃)  競争の進展に応じて一般電気事業者の供給義務や料金規制を撤廃

②供給サイド(発電分野)の改革 ア)発電の全面自由化(卸規制の撤廃)  卸規制(発電事業者から一般電気事業者への長期大量の電力供給に供給義務や料金規制を課している)を撤廃する

  ただし卸規制の撤廃が需給に混乱を与えないよう移行期間における十分な配慮を行う

 イ)卸電力市場の活性化  特定の供給区域の枠を超えて全国大で効率的な電源の有効活用を実現するため卸電力市場で既存の事業者の電源が活発に取引される方策を講じる  具体的には少なくとも供給予備力を超える電源は卸市場に投入するとの考え方を前提とし取引ルールを設計する

③送配電部門の改革(中立性公平性の徹底) ア)送配電部門の「広域性」の確保  これまでの「供給区域ごとに需給を管理する」仕組みを改めより広域的全国的に供給力を有効活用するため広域系統運用機関を設立する イ)送配電部門の「中立性」の確保  ①機能分離型または②法的分離型の方式により各供給区域の送配電部門の中立性を確保  機能分離型hellipエリアの系統計画系統運用の機能を一般電気事業者の送配電部門から分離し広域系統運用機関に移管する方式  法的分離型hellipエリアの系統計画系統運用の機能から送配電設備を所有し開発保守する業務までを含む送配電部門全体を別法人とする方式  いずれの方式であっても中立性確保のための人事予算等に係る行為規制や送配電部門と発電小売部門との情報の取扱契約の取扱の公平性の確保が不可欠であるこうした規制の内容や様々な技術的論点を精査しながら年内を目処に詳細設計を行う ウ)地域間連系線等の強化  50Hzと 60Hzの周波数変換設備と東西連系線の容量を増強(120万kWrarr210万kWrarr300万kW)  北海道本州間連系線の増強(60万kWrarr90万kW)を早期に実現風力発電の導入状況等を踏まえて

更なる増強を検討  風力発電の重点整備地区について政策的支援も含め送配電網整備の具体的方法を検討

④詳細設計へ向けて  改革実行の際には世界で最も高い信頼性を有する我が国の技術と人材の蓄積やる気を尊重する  以上の基本方針の下制度改革を着実に実行本制度改革は新たなシステムへの投資と大きな事業体制の変革を伴うものであり綿密な詳細設計と十分な時間をかけた手順工程表が必要  年内を目処に各課題について更に検討を進める

(5)今後の動き 電力システム改革専門委員会において取りまとめられた「電力システム改革の基本方針」を踏まえ制度改革を着実に実行することとしています詳細な制度設計については年内を目途に検討を進めることとしています

第2節 天然ガス

1 天然ガスシフト基盤整備専門委員会について

(1)背景 総合資源エネルギー調査会総合部会基本問題委員会(以下「基本問題委員会」という)において昨年12月に公表された論点整理では「天然ガスシフトを始め環境負荷に最大限配慮しながら化石燃料を有効活用す

広域系統運用者(全国機関)系統計画業務の実施広域連系線(地域間連系線+主要幹線)の運用エリア(九電力管内)系統運用者への系統運用監視勧告電力市場の形成

エリアの系統運用者(地方支部)

エリアの系統運用系統計画機能

エリアの系統運用者(電力事業者の送配電部門)人事予算等の独立性ルールが必要エリアの系統運用系統計画機能

+送配電設備の所有(開発保守)電力事業者の送配電部門

電力事業者の発電小売部門 電力事業者の発電小売部門

送配電設備の所有(開発保守)

規制対象

同一組織パターン1機能分離型

(機能を分離)パターン2法的分離型

(会社を分離)

広域連系線の開発保守指示

広域連系線の開発保守指示

エリア送配電設備の開発保守指示

別会社

第141-2-1 新しい送配電部門のイメージ像

50

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第4章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえたエネルギー政策の見直し

第4章

る(化石燃料のクリーン利用)」ことを基本的方向の一つとして更に議論を深めていくこととされました 天然ガスシフトの動きについては世界的に見てもいわゆる「シェールガス革命」といった新たな供給源の立ち上がりによって天然ガスの可採年数が大幅に増加し長期的にも世界全体の需要を満たすことができる見込みも高いことから今後天然ガスが果たす役割への期待はより一層高まってきています 我が国においては東日本大震災を契機として大規模集中電源に大きく依存した現行の電力システムの限界が明らかになりました今後は原子力発電への依存度をできる限り低減させていく方向性の中で再生可能エネルギーコジェネ自家発等の多様な分散型電源の供給力の最大活用によってリスク分散と効率性を確保する次世代システムを実現していくとともに熱の有効利用を含めた最先端の省エネルギー社会を実現していくこと等が必要となりますその中で化石燃料の中でも最もクリーンでかつ世界に広く分散して賦存する天然ガスへのシフトは一層重要な課題となるものと考えられます 一方天然ガスの供給については前述のとおり東日本大震災によって今後仮に一極集中したLNG基地に天然ガス供給を依存する大都市圏において基地の機能停止が起こった場合長期にわたり供給が途絶するリスクがあることが顕在化しました このような状況を踏まえれば今後の我が国の天然ガスシフトに向けては一段と高いレベルの天然ガス供給基盤のセキュリティが不可欠です 加えて天然ガスの供給基盤にはセキュリティの向上のみならず発電用燃料都市ガス原料としての天然ガスの利用可能性向上ガス価格低廉化の可能性二酸化炭素削減等といった多様な意義があり今後はこれらの意義を踏まえつつ今後の天然ガスシフトを支えるに十分な天然ガス供給基盤の整備を進めていく必要があります 更に将来的には国際天然ガスパイプラインネットワークの形成やメタンハイドレートの開発等の動きも視野に入れながら天然ガス利用のメリットを最大限享受できるような供給基盤が長期的に構築されていくことも期待されます 以上を踏まえ天然ガスシフトに向けた基盤(広域パイプライン等)整備に関する専門的検討を行うため総合資源エネルギー調査会総合部会の下に「天然ガスシフト基盤整備専門委員会」を設置しました

(2)委員構成委員長 横倉 尚 武蔵大学経済学部教授委員 柏木 孝夫 東京工業大学特命教授 橘川 武郎 一橋大学大学院商学研究科教授 古城 誠 上智大学法学部教授 八田 達夫 学習院大学特別客員教授 松村 敏弘 東京大学社会科学研究所教授 山内 弘隆 一橋大学大学院商学研究科教授

(3)審議経過第1回(2012年 1月 17日) 本委員会で明らかにしていくべき論点について 我が国の天然ガス及びその供給基盤の現状と課題

第2回(同年2月27日)  天然ガスシフトに向けた基盤整備について事業者及びユーザー企業より意見聴取

  bull 中堅中小ガス事業者(仙台市ガス局)  bull 都市ガスユーザー企業(ブリヂストン)  bull  広域でパイプライン整備に取り組んでいる事

業者(大阪ガス中部電力国際石油開発帝石)

  bull  地下貯蔵に知見を有する事業者(石油資源開発)

第3回(同年4月6日)  これまでの議論やヒアリング結果を踏まえた論点整理について

 海外調査結果について

第4回(同年5月15日)  東京ガス大阪ガス東邦ガスからの供給継続性に関するヒアリング

 天然ガスシフト基盤整備の新しいあり方について

第5回(同年6月13日) とりまとめに向けた議論

第6回(同年6月26日) 報告書(案)について

2対応の方針

 我が国における今後の天然ガスシフトを見据えればそれを支える広域天然ガスパイプラインネットワーク

51

第3節 石油LPG

第4章

という供給基盤をできるだけ早期に構築していく必要があります

(1)整備基本方針の策定 本委員会の報告書では我が国全体における全体最適的な観点からの広域天然ガスパイプライン地下貯蔵施設等の天然ガス供給基盤の整備基本方針を国が策定し民間事業者の活力を最大限活用していくことを官民の役割分担の基本的考えとし天然ガス供給基盤整備を推進していくこととされました 整備基本方針の策定に当たっては供給セキュリティ向上利用可能性向上価格低廉化二酸化炭素削減等の多様な意義社会的効果という要素のみならず将来の国際パイプラインとの連結やメタンハイドレートの活用も視野に入れつつ世界的な「天然ガスの黄金時代」の恩恵を国民が享受できるような環境を目指していく必要があります 本委員会では整備基本方針で定めるべき内容として以下の事項が挙げられました 整備ルート等の設定 スペック熱量等の設定 整備の時間軸プライオリティ

(2)事業者間連携に向けた利害調整 報告書では整備基本方針と民間事業者との利害が一致しない場合の調整や多様なエネルギー事業者同士の連携を促進するためエネルギー事業者間の利害調整を検討すべきとされました

(3)整備費用負担の在り方 基盤整備に当たっては事業収入に加えセキュリティ向上利用可能性向上価格低廉化二酸化炭素削減等といった社会的効果の部分も含め費用負担の問題を解決する必要があります 費用負担については「受益者負担」の原則を基本としつつも受益の種類によって負担の手法は様々であり特定負担一般負担全国民負担等の様々な組み合わせが考えられる上受益の範囲程度については個別事業に基づく調整が必要となります本委員会では整備基本方針において受益者負担の手法範囲程度時点の調整等の「基本的な考え方」を示しそれに基づき整備事業ごとに負担の在り方を検討することとされました

(4)整備促進の在り方(コスト低減需要増加) 整備費用そのものの低減のため関係規制の緩和や運用見直しを進め効果の高い財政支援措置等を検討するとともにパイプライン整備と一体的に天然ガス火力や天然ガスコジェネ等の新規沿線需要を喚起し事業採算性を高めていくことが必要とされました

3今後の方向性

 今後は新たなエネルギー基本計画の内容を踏まえ様々な分野の有識者や事業者の意見知見を傾聴しつつ必要な取組を速やかに講じていくこととしています

第3節 石油LPG

1対応の方向性

(1)資源確保戦略 第15回パッケージ型インフラ海外展開関係大臣会合(2012年 6月 27日開催)において「資源確保戦略」が報告されました本戦略は「資源確保指針」(2008年 3月 28日閣議了解)の考え方を踏まえつつ世界的な資源確保競争の激化や東日本大震災以降の化石燃料の調達コスト増大等資源を巡る国内外の厳しい情勢に鑑み現在の資源確保の現状及び今後の見通しをあらためて分析し我が国の官民の持つリソースを最大限活かすために策定されたものです 資源確保戦略の5本柱として①資源獲得の重要国に対する政府一体となった働きかけ②資源ユーザー産業の上流開発への関与の促進③資源国に対する協力のパッケージ化④資源権益獲得に対する資金供給の機能強化⑤国際的なフォーラムやルールの積極活用を重点的に取り組むこととしていますなお今後のエネルギー政策の見直し結果等に伴い本戦略についても必要に応じて見直しが行われる予定です

(2)国内災害対策①石油(ア)備蓄 東日本大震災により被災した久慈国家備蓄基地において原油流出等の二次被害を防ぐため仮設復旧工事を早期に行うとともに今後の津波対策として非常用電源等の重要設備を高台に移設するための対応を

52

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第4章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえたエネルギー政策の見直し

第4章

行いました また他基地においては地震津波対策として防災訓練や基地の耐震診断等を実施する等国家備蓄基地の災害対応能力向上を図りました(イ)流通 東日本大震災を教訓とし全国的な防災減災の観点から緊急車両への優先給油を含め地域における石油製品の供給体制の整備が重要ですそのため地域において中核となるSSを選定し自家発電設備等の災害対応能力を強化する設備投資に支援を行いました

② LPG 東日本大震災においては冠水による電気系統の故障や停電による出荷設備の一時的停止等により出荷が遅れたり災害時を想定した情報収集体制が脆弱であったため適切な情報収集に時間がかかってしまったLPガス基地充填所が多く存在しましたこのことからLPガス出荷基地及び充填所の災害対応能力及び情報収集情報提供体制の強化の必要性が改めて認識されたため出荷基地や充填所に対し自家発電設備や衛星電話等の設置を行う等災害対応能力の強化等に取り組んでいます

(3) 備蓄法(「石油の備蓄の確保等に関する法律」)改正

①背景 東日本大震災発生時には製油所油槽所等やタンクローリー等の物流網が広範囲にわたって被災したため政府石油業界をあげて供給体制の早期立て直しに取り組みましたまたこのとき国内災害時としては初めて石油会社等の石油の基準備蓄量を引き下げ民間の備蓄石油を放出できるよう措置することとしました

②概要 この震災時の経験を踏まえ1970年代の石油ショックの経験から主に海外からの原油供給が不足する事態に備えて制定された「石油の備蓄の確保等に関する法律」について(a)災害時における国内の特定の地域への石油の供給不足時に石油会社等が備蓄石油を放出するための要件を緩和し(b)一定規模以上の石油業者

に対し共同で地域ごとに災害時の連絡体制や設備の共同利用の方法等を定めた計画の作成を義務付ける規程を加える等の改正を行うことで災害時にも確実に石油を供給する体制を強化することとしました同改正案22は2012年 2月 10日に閣議決定し国会に提出されました

2 資源燃料政策に関する有識者との意見交換会

 本会は「エネルギー需給安定行動計画」(2011年 11月 1日エネルギー環境会議決定)を踏まえ資源燃料政策のうち先行して取り組むべき事項について個別施策の具体化な議論を行ために全5回わたり開催されましたまた従来の総合資源エネルギー調査会にとらわれずに意見交換会を行うため消費者被災自治体防災物流の専門家資源燃料のユーザ産業等の多岐にわたりメンバーを募集し並行して会合の開催と同時に事務局から示された「たたき台」をホームページで公表し国民各層からも広く意見を募集しました 本会は「災害時における石油ガスの安定供給」と「世界的な資源需要の高まりや災害等を踏まえた資源開発確保」という二つのテーマを設け前期テーマでは東日本大震災後に生じた供給支障の教訓をふまえた初動対応の迅速化大規模災害を見越した災害に強い供給体制の整備について検討を行いました後期テーマでは国際的な資源需要の高まり震災後の新たな資源需要を踏まえた化石燃料や鉱物資源地熱資源の開発の促進に向けての体制の検討を行いました とりまとめ後にWEB上で「資源燃料の安定供給確保のための先行実施対策」を公表し今後の資源確保の政府方針を示していきました

第4節 エネルギー環境会議 エネルギーシステムの歪み脆弱性を是正し安全安定供給効率環境の要請に応える短期中期長期からなる革新的エネルギー環境戦略及び2013年以降の地球温暖化対策の国内対策を政府一丸となって策定するため2011年 6月 7日にエネルギー環境会議が設置されました本会議は国家戦略担当大臣を

22 災害時における石油の供給不足への対処等のための石油の備蓄の確保等に関する法律等の一部を改正する法律案です

53

第4節 エネルギー環境会議

第4章

議長経済産業大臣と環境大臣兼原発事故の収束及び再発防止担当大臣を副議長とするものですエネルギー環境戦略の白紙からの見直しに先立ち2011年 7月 29日に「革新的エネルギー環境戦略策定に向けた中間的な整理」をまとめ原子力発電所への依存度低減分散型システムへの移行国民的議論の展開という三つの大きな方向性を提示しました エネルギー環境会議は2011年 10月 3日に「コスト等検証委員会」を設置しその検討の結果として同年12月 19日に同委員会報告書により戦略見直しの前提条件となる社会的費用も含めた電源別の発電コストを明らかにしましたまた同月21日に原子力発電所への依存度低減という方針を実現する上で化石燃料への依存度低減を旨とするエネルギー安全保障との両立をどう図るのか地球温暖化対策との両立をどう図るのか経済性に優れ安全なエネルギー確保をどう現実のものとするのかといった視点から春を目途にまずはエネルギー環境戦略に関する複数の選択肢を提示しその上で夏の戦略決定につなげるという基本方針を提示しました この基本方針に基づき原子力委員会総合資源エネルギー調査会及び中央環境審議会は原子力政策エネルギーミックス国内温暖化対策をどう組み直すのかという視点で選択肢提示に向けた検討を行いました2012年 6月 8日にエネルギー環境会議はこれら関係会議体での検討をとりまとめ統合的な選択肢案を提示するため選択肢設計の中間的整理を決定しました 更に関係会議体がこの中間的整理を踏まえながら検討を進め2012年 6月 29日に「エネルギー環境に関する選択肢」を提示しましたこの中で政府は新しいエネルギー選択として「原発からグリーンへ」とい

う大きな方向性のもと2030年に向け原子力発電所低減の度合いや再エネ省エネルギーの拡大の度合いやスピードが異なるゼロ1520~25の三つのシナリオを提示しました エネルギー環境会議ではこの三つのシナリオをもとに国民同士の対話が進むよう国民的議論を更に展開しエネルギー環境の選択肢に関する情報提供データベースの整備意見聴取会の全国11カ所での開催討論型世論調査パブリックコメントの募集等を行いました

1 エネルギー環境の選択肢に関する情報提供データベースの整備

 内閣官房国家戦略室ホームページに特設サイト「話そうldquoエネルギーと環境のみらいrdquo」を開設し三つの選択肢が決定されるまでの議論の経過や元となる考え方やデータこの課題に関する様々な分野の有識者の声等の提供を行いました(第144-1-1)

2意見聴取会

 2012年 7月 14日のさいたま市をはじめとして全国11カ所で「エネルギー環境の選択肢に関する意見聴取会」を実施しました(福島会場では「エネルギー環境の選択肢に関する福島県民の意見を聴く会」として開催)

(1)実施形式 参加者は一会場100~200名で希望者を公募し抽選で選出し聴取会をインターネットで中継配信しました 聴取会では担当省庁(内閣官房経済産業省環境省)の政務が出席し冒頭政府から選択肢について説明しましたその後に希望者を公募し抽選で選出した意見表明者全員の意見を聞いた上で意見表明者による追加コメント及びやり取りを行いました意見表明者の人数は当初三つのシナリオごとに3名ずつとしていましたが途中から人数を12名に拡大し三つのシナリオ以外の意見の表明者も追加し更に意見表明希望者の割合に応じて人数を配分することとしましたまた福島県民の意見を聴く会ではシナリオの区別なく意見表明者を公募し30名の意見表明者が陳述することとしました参加者に対しては会場でアンケートを実施しました

63

10

26

2010年実績 ゼロシナリオ 15シナリオ 20~25シナリオ

現行エネルギー基本計画

65

35

55

30

15

50 50

30

20

25

25

20

45

35

火力

原子力

再生可能エネルギー

第144-0-1  各シナリオにおける発電構成(2030年)

54

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第4章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえたエネルギー政策の見直し

第4章

(2)開催場所開催スケジュール7月14日 さいたま市7月15日 仙台市7月16日 名古屋市7月22日 札幌市大阪市7月28日 富山市7月29日 広島市那覇市8月1日 福島市(福島県民の意見を聴く会)8月4日 高松市福岡市

3討論型世論調査

 「エネルギー環境の選択肢に関する討論型世論調査実行委員会」23が政府のエネルギー環境会議より提示された「エネルギー環境に関する選択肢」(2012年 6月 29日)に関する「討論型世論調査」を2012年7月上旬から実施しました24

(1)討論型世論調査の概要 討論型世論調査とは複雑な政策課題についての市民の表面的な理解の下での意見を調べる通常の世論調査に加え無作為に抽出された属性や意見の異なる市民が当該課題について学習し専門家の情報提供を受け市民同士での議論を経ることにより熟慮した上での意見の変化を調べる手法です同手法は米国スタンフォード大学のフィシュキン教授らにより考案され世界全体で40回以上国内では過去5回実施されてきました

(2)具体的な調査方法①最初に無作為に抽出された一般市民に対して通常と同様の世論調査(T1)を行う②その中からあらかじめ定めた日に1カ所に集まり開催する「討論フォーラム」に参加する者を無作為に抽出し討論課題についてバランスよく情報をまとめた討論資料を郵送し学習いただく③討論フォーラムの最初に2度目の意向調査(T2)を行う④討論フォーラムに参加した市民を小グループに分けて訓練されたモデレータの司会のもとで市民同士で討論を行う「小グループ討論」と参加者が専門家(パネリスト)に質問を行う「全体会議」を繰り返す

23 実行委員会が討論型世論調査の企画運営を行い中立的な運営を担保する方法の一つとして監修委員会の監修専門家委員会の意見や助言の提供第三者検証委員会による実行委員会から独立した立場での討論型世論調査の実施過程の検証が行われました24 2012 年 7 月 12 日に実行委員会より今回の討論型世論調査は無作為抽出による「電話世論調査」を 7月上旬から中旬に2日間の「討論フォーラム」を 8月 4日5日に行う事が発表されました

第144-1-1 国民的議論パンフレット(ジュニア用)より

55

第5節 エネルギー基本計画の検討

第4章

⑤討論フォーラムの最後に3度目の調査(T3)を行い三つの調査結果の変化を分析する

4パブリックコメント

 インターネット郵送FAXで「エネルギー環境に関する選択肢」に対する意見の募集を2012年 7月 2日から開始しました当初7月末日を締切としていましたが同年7月13日に締切を同年8月12日まで延長しました

第5節 エネルギー基本計画の検討

1基本問題委員会の設置

 エネルギー基本計画はエネルギー政策の基本的な方向性を示すためにエネルギー政策基本法に基づきエネルギーの需給に関する基本的な方針や講ずべき施策等を内容とする政府が策定する計画であり関係行政機関の長の意見を聴くとともに総合資源エネルギー調査会の意見を聴いて経済産業大臣が案を作成し閣議で決定することとなっています 直近のエネルギー基本計画は2010年 6月に策定されましたが東日本大震災及び東京電力福島第一原子力発電所の事故を踏まえエネルギー政策をゼロベースから見直し新たな計画を策定すべく2011年 10月に総合資源エネルギー調査会総合部会に基本問題委員会(以下委員会と表記)が設置され委員長に三村明夫総合資源エネルギー調査会総合部会長が就任しました

2委員会の議論の経過

 委員会は2011年 10月 3日に第1回委員会が開催されましたエネルギーに関する様々な議題についてこれまで約10カ月に亘り計30回開催され25エネルギーに関する相互に独立した審議会等からの報告等や議論が行われています

(1) 新しい「エネルギー基本計画」策定に向けた論点整理(2011年 12月 20日)

 第1回委員会以降委員会では様々な論点について幅広い意見が出され議論が行われましたそれを受け第6回基本問題委員会(2011年12月6日)に『新しい「エネルギー基本計画」策定に向けた論点整理(案)』が提示され第6回委員会第7回委員会(2011年 12月 13日)で議論が行われましたとりまとめられた論点整理では今後の本格的な議論の出発点として主要な論点についてこれまでの議論の大きな方向感が整理されました

(2) 「エネルギーミックスの選択肢の原案について」(2012年 6月19日)

 第27回委員会(2012年 6月 19日)においてエネルギー環境会議に報告を行う「エネルギーミックスの選択肢の原案」が取りまとめられ四つのエネルギーミックスの選択肢26がエネルギー環境会議に報告することとされました 提示された四つの選択肢はそのうち三つの選択肢(選択肢1~3)が「定量的なイメージ」と「必要な対策」の双方をパッケージとして含むものとされ四つ目の選択肢は「定量的なイメージ」を明示しない選択肢とされました(選択肢4)

①選択肢1意思を持って原子力発電比率ゼロをできるだけ早期に実現し再生可能エネルギーを基軸とした電源構成とする 《2030年の電源構成のイメージ》 原子力発電 0 再生可能エネルギー27 約 35 火力発電28 約 50 コジェネ29 約 15 省エネルギー(節電)30 約2割(約1割) エネルギー起源CO2排出量31 約16

25 2012 年 7 月 30 日現在26 同時に参考として「不確実な状況下での幅広い選択肢を確保するため意思を持って現状程度の原発の設備容量を維持し原子力発電比率を 2010 年度より拡大させる」シナリオについて経済影響や二酸化炭素排出量等の試算を行い上記のⅰ~ⅳの選択肢と併せて提示することとされました27 「再生可能エネルギー」には本来廃棄物発電は含まれませんがここでは便宜上廃棄物発電を含めたものが「再生可能エネルギー」とされました28 火力発電には自家発(モノジェネのみ)を含みます29 コジェネには家庭用燃料電池を含みますまた売電分(系統への逆潮流)を含みます

56

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第4章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえたエネルギー政策の見直し

第4章

30 省エネルギー及び節電の数字は2010 年度実績比です31 参考として1990 年比の数値を基本問題委員会事務局が試算した数値です

②選択肢2意思を持って再生可能エネルギーの利用拡大を最大限進め原子力依存度を低減させる併せて原子力発電の安全強化等を全力で推進する情勢の変化に柔軟に対応するため2030年以降の電源構成はその成果を見極めた上で本格的な議論を経て決定する 《2030年の電源構成のイメージ》 原子力発電 約 15 再生可能エネルギー 約 30 火力発電 約 40 コジェネ 約 15 省エネルギー(節電) 約 2割(約1割) エネルギー起源CO2排出量 約20

③選択肢3安全基準や体制の再構築を行った上で原子力発電への依存度は低減させるがエネルギー安全保障や人材技術基盤の確保地球温暖化対策等の観点から今後とも意思を持って一定の比率を中長期的に維持し再生可能エネルギーも含め多様で偏りの小さいエネルギー構成を実現する

 《2030年の電源構成のイメージ》 原子力発電 約 20~25 再生可能エネルギー 約 20~25 火力発電 約 35 コジェネ 約 15 省エネルギー(節電) 約 2割(約1割) エネルギー起源CO2排出量 約23

④選択肢4社会的コストを事業者(更には需要家)が負担する仕組みの下で市場における需要家の選択により社会的に最適な電源構成を実現する 《2030年の電源構成のイメージ》本選択肢についてはエネルギーミックスの定量的なイメージは提示しない

 以上の四つの選択肢がエネルギー環境会議に報告されエネルギー環境会議はこの原案を原子力委員会や中央環境審議会等で検討されている原子力政策や地球温暖化対策の選択肢の原案と合わせてとりまとめ「エネルギー環境戦略に関する選択肢」を統一的に提示し国民的な議論を進めることとなりました

(別表)第145-2-1 基本問題委員会 委員一覧(2012年 7月 30日現在)三村 明夫(委員長) 新日本製鐵代表取締役会長阿南 久 全国消費者団体連絡会事務局長飯田 哲也 NPO法人環境エネルギー政策研究所所長植田 和弘 京都大学大学院経済学研究科教授槍田 松瑩 三井物産取締役会長

枝廣 淳子 ジャパンフォーサステナビリティ代表幸せ経済社会研究所所長

大島 堅一 立命館大学国際関係学部教授柏木 孝夫 東京工業大学特命教授金本 良嗣 政策研究大学院大学教授学長特別補佐北岡 伸一 東京大学大学院法学政治学研究科教授橘川 武郎 一橋大学大学院商学研究科教授河野 龍太郎 BNPパリバ証券経済調査本部長チーフエコノミスト榊原 定征 東レ代表取締役会長

崎田 裕子 ジャーナリスト環境カウンセラーNPO法人持続可能な社会をつくる元気ネット理事長

菅家 功 日本労働組合総連合会副事務局長高橋 洋 富士通総研主任研究員辰巳 菊子 (公社)日本消費生活アドバイザーコンサルタント協会常任顧問

57

第5節 エネルギー基本計画の検討

第4章

田中 知 東京大学大学院工学系研究科教授寺島 実郎 (一財)日本総合研究所理事長豊田 正和 (一財)日本エネルギー経済研究所理事長

中上 英俊 住環境計画研究所代表取締役所長東京工業大学統合研究院特任教授

八田 達夫 学習院大学特別客員教授伴  英幸 認定NPO法人原子力資料情報室共同代表松村 敏弘 東京大学社会科学研究所教授山地 憲治 (公財)地球環境産業技術研究機構理事研究所長

(別表)第145-2-2 各開催回の議題と概要(第30回委員会まで)開催回 日時 議題 概要第1回 2011年

10月3日エネルギー基本計画の見直しについて

①「『革新的エネルギー環境戦略』策定に向けた中間的な整理」の報告②自由討議

第2回 10月26日 ベストミックスを考える視点等 阿南委員飯田委員橘川委員崎田委員及び高橋委員からのプレゼンテーションとそれに基づく質疑等

第3回 11月9日 ベストミックスと原子力の位置づけ国民視点からのエネルギー政策等

①ベストミックスと原子力の位置づけについて田中委員及び伴委員からのプレゼンテーションとそれに基づく質疑等②国民視点からのエネルギー政策について枝廣委員河野委員辰巳委員及び八田委員からのプレゼンテーションとそれに基づく質疑等

第4回 11月16日 国際情勢とベストミックスユーザーからみたベストミックス等

①国際情勢とベストミックスについてファンデルフーフェンIEA事務局長寺島委員及び豊田委員からのプレゼンテーションとそれに基づく質疑等②ユーザーからみたベストミックスについて榊原委員及び中上委員からのプレゼンとそれに基づく質疑等

第5回 11月30日 あるべきベストミックスと政策市場技術の関わり等

槍田委員柏木委員金本委員松村委員山地委員及び植田委員からのプレゼンとそれに基づく質疑等

第6回 12月6日 論点整理等 ①論点整理について議論②第2回核セキュリティサミット開催に向けた韓国の賢人会議について北岡委員によるプレゼンとそれに基づく質疑等③スウェーデンのエネルギー政策についてコーベリエル元スウェーデンエネルギー庁長官からのプレゼンとそれに基づく質疑等④2011年夏の電力需要対策のフォローアップについて

第7回 12月12日 論点整理等 ①論点整理について議論②当面の議題等について議論

第8回 2012年1月18日

電力システム改革についてエネルギー環境会議による「基本方針」及びコスト等検証委員会の結果 等

①電力システム改革について議論②エネルギー環境会議による「基本方針」及びコスト等検証委員会の結果等について議論③地球温暖化対策の経緯と現状④資源燃料の安定供給確保のための先行実施対策⑤電力システム改革に関するタスクフォース論点整理

第9回 1月24日 原子力発電の位置づけ 等 原子力発電の位置づけ等について議論第10回 2月1日 東京電力福島原子力発電所に

おける事故調査検証委員会の中間報告について新たな原子力安全規制体系の検討状況について 等

①東京電力福島原子力発電所における事故調査検証委員会の中間報告について②新たな原子力安全規制体系の検討状況について③東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の技術的知見に関する意見聴取会(原子力安全保安院)の中間論点整理について④東京電力による賠償進捗状況⑤東京電力福島原子力発電所における事故調査検証委員会 中間報告 について⑥内閣官房原子力安全規制組織等改革準備室 新たな原子力安全規制体系について⑦福島第一事故の技術的知見に関する意見聴取会 中間とりまとめ(案)について⑧世界の原子力賠償制度の概要原子力損害賠償補償契約の補償料率の改定について⑨低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ報告書について⑩原子力被災者への取組について

58

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第4章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえたエネルギー政策の見直し

第4章

32 <ヒアリング対象>電気事業連合会(八木誠会長)株式会社エネット(池辺裕昭社長)石油連盟(天坊昭彦会長)日本ガス協会(鳥原光憲会長)日本 LPガス協会(松澤純会長)33 <ヒアリング対象>全国知事会エネルギー環境問題特別委員会(橋本昌委員長(茨城県知事))

第11回 2月9日 省エネルギー節電対策(熱の有効活用を含む)について 等

省エネルギー節電対策(熱の有効活用を含む)等について議論

第12回 2月14日 主要なエネルギー供給事業者団体からのヒアリングと質疑エネルギー安全保障について(委員からの論点提起と質疑) 等

①主要なエネルギー供給事業者団体32からのヒアリングと質疑②エネルギー安全保障について事務局から資料()を提出するとともに飯田委員高橋委員田中委員寺島委員豊田委員八田委員からの論点提起と質疑日本に加え主要国(アメリカ英国フランスドイツスペイン中国インド韓国)の自給率一次エネルギー供給構成電源構成化石燃料輸入先停電時間省エネ等について分析した資料

第13回 2月22日 全国知事会からのヒアリングと質疑再生可能エネルギーの導入拡大の可能性について化石燃料の確保とクリーン利用の可能性について 等

①全国知事会33からのヒアリングと質疑②再生可能エネルギーの導入拡大の可能性について③化石燃料の確保とクリーン利用の可能性について④ドイツやスペインにおける固定価格買取制度の最近の状況 等

第14回 3月7日 原子力発電の位置づけ 等 ①原子力政策大綱の見直しや核燃料サイクル政策の選択肢の検討状況等に関する原子力委員会からの報告及び質疑等②ドイツにおける固定価格買取制度の最近の状況(続報)ドイツ商工会議所が行ったアンケート「明日のエネルギーと資源」の紹介 等

第15回 3月14日 エネルギーミックスの選択肢について 等

①各委員から提出されたエネルギーミックスに関する意見を元にエネルギーミックスの選択肢について議論②「エネルギーの使用の合理化に関する法律(省エネ法)の一部を改正する法律案」の概要

第16回 3月19日 エネルギーミックスの選択肢について 等

各委員から提出されたエネルギーミックスに関する意見を元にエネルギーミックスの選択肢について議論

第17回 3月27日 エネルギーミックスの選択肢について 等

各委員の意見を類型化したエネルギーミックスの選択肢に関する整理(案)を提示しどの選択肢を経済影響分析の対象とするかについて議論

第18回 4月11日 エネルギーミックスの選択肢について 等

エネルギーミックスの選択肢について各選択肢の基本的な考え方や対策等について議論

第19回 4月16日 エネルギーミックスの選択肢について 等

①エネルギーミックスの選択肢について各選択肢の基本的な考え方や対策等について議論②再生可能エネルギーの導入拡大に伴う追加的コスト

第20回 4月26日 エネルギーミックスの選択肢について 等

エネルギーミックスの選択肢について各選択肢の基本的な考え方や対策等について議論

第21回 5月9日 エネルギーミックスの選択肢について 等

エネルギーミックスの選択肢の候補の経済影響分析結果や選択肢の原案の取りまとめ方等について議論

第22回 5月14日 エネルギーミックスの選択肢について 等

①省エネに関する専門的な検証結果について議論②コジェネに関する専門的な検証結果について議論③「エネルギーミックスの選択肢の原案」の整理のあり方について議論

第23回 5月21日 エネルギーミックスの選択肢について 等

①電力システム改革専門委員会及び天然ガスシフト基盤整備専門委員会の検討状況の報告②経済影響分析に係る感度分析の結果について議論③「エネルギーミックスの選択肢の原案」の整理のあり方について議論

第24回 5月24日 エネルギーミックスの選択肢について 等

「エネルギーミックスの選択肢の原案」の整理のあり方について議論

第25回 5月28日 エネルギーミックスの選択肢について 等

①経済影響分析を巡る論点について議論②「エネルギーミックスの選択肢の原案」について議論

第26回 6月5日 エネルギーミックスの選択肢について 等

①「エネルギーミックスの選択肢の原案」について議論②2020年のエネルギーミックスのあり方について議論

第27回 6月19日 エネルギー基本計画の見直しについて(資源燃料政策について 等)

①エネルギー環境会議における選択肢に関する中間的整理について報告②エネルギー基本計画の見直しに関する主要な論点について議論③資源燃料の安定供給の課題と今後の対応について議論

第28回 7月5日 エネルギー基本計画の見直しについて(蓄電池及び水素についてエネルギー基本計画の見直しの主要論点について 等)

①エネルギー環境会議で提示された選択肢について報告②蓄電池及び水素について議論③資源確保戦略について

59

第5節 エネルギー基本計画の検討

第4章

第29回 7月11日 エネルギー基本計画の見直しについて(スマートコミュニティー熱国際エネルギー協力について 等)

①熱の有効利用及びスマートコミュニティについて議論②エネルギー基本計画』の見直しに関する主要な論点について議論③国際エネルギー環境協力について議論④天然ガスシフトに向けた基盤整備について議論

第30回 7月30日 エネルギー基本計画の見直しについて(電力システム改革コジェネ普及策「エネルギー基本計画」の骨子について 等)

①電力システム改革専門委員会の検討結果について報告②コジェネの導入促進のための取組について議論③エネルギーに関する今後の重点施策について議論

60

参考資料

東京電力福島原子力発電所における事故調査検証委員会 最終報告(概要)

はじめに【ⅠⅥはじめに】 平成 23 年 3 月 11 日東京電力株式会社(以下「東京電力」という)福島第一原子力発電所(以下「福島第一原発」という)及び福島第二原子力発電所(以下「福島第二原発」という)は東北地方太平洋沖地震とこれに伴う津波によって損傷し特に福島第一原発では国際原子力放射線事象評価尺度(INES)レベル 7の極めて深刻なシビアアクシデントが発生した 同年 5月 24 日この事故の原因及びこの事故による被害の原因を調査検証し事故による被害の拡大防止及び同種事故の再発防止等に関する政策提言を行うことを目的に閣議決定に基づき当委員会が設置された当委員会はその後福島第一原発及び福島第二原発を始めとする現地の視察関係地方自治体の首長や住民からの意見聴取関係者のヒアリング(対象者数 772 名)等の調査検証活動を行い同年 12 月 26 日に中間報告を取りまとめさらに平成 24 年 7 月 23日に最終報告を取りまとめた 最終報告は中間報告と一体となるものであり主として中間報告後の調査検証の結果を記述したものである この概要は最終報告のうち問題点の考察と提言に当たるⅥ章の記述を中心に簡略化したものである見出しの後の【 】内は「最終報告(本文編)」の主な該当箇所を示す提言は太字で表記している

1 主要な問題点の分析(1)事故発生後の東京電力等の対処及び損傷状況に関する分析a 福島第二原発における現場対処と比較した福島第一原発の問題点【Ⅱ 5(8)Ⅵ 1(1)a】 福島第一原発における事故対処に関する問題点については中間報告に記述したとおりであるがその後の調査で判明した福島第二原発における現場対処の実際と比較して以下のような問題点が改めて明らかとなった

(a)3号機代替注水 福島第一原発 3号機においては高圧注水系手動停止の際に代替手段をあらかじめ準備しなかったことにより6時間以上にわたって原子炉注水が中断した福島第二原発では手順の細目について相違があるものの基本的には次なる代替手段が実際に機能するか否かを確認の上で注水手段の切替えを行うという対応がとられていた 福島第二原発では外部電源が使用可能であったことから作業環境も福島第一原発と比較すると良好であり事態の対応に当たったスタッフは心理的にもより余裕があったと思われるしかしこれらの点を考慮したとしても福島第一原発における対応は適切さを欠いたものであった

(b)2号機 SC 圧力温度の監視 福島第一原発 2号機では平成 23 年 3 月 11 日の全電源喪失以降原子炉隔離時冷却系(RCIC)が作動していたものの電源喪失により制御不能でありいつ停止するかも分からない状況にあった中で同月 12 日 4 時頃以降RCIC の水源を復水貯蔵タンクから圧力抑制室(SC)に切り替えたしかし電源喪失によって残留熱除去系による冷却が期待できない場合にこのような運転方法を長時間継続するとSC の圧力及び温度が上昇しRCIC の冷却機能及び注水機能が低下するほかRCIC が機能しなくなった場合の次なる代替注水手段である消防車を用いた消火系注水に必要な主蒸気逃し安全弁(SR 弁)による減圧操作が困難になるなどのおそれがあったしたがってSC の圧力及び温度を継続して監視するとともにあらかじめ消防車注水ラインを準備しRCIC 停止を待たずに原子炉減圧操作を行う必要があったと考えられるしかし実際には同月 14 日 4 時 30 分頃まで前記のような計測が行われず速やかな代替注水が実施されることもなかった 他方福島第二原発ではRCIC 作動中から間断なく注水を実施することを視野に入れSC の圧力及び水温を監視しながら段階的に SR 弁を開操作して復水補給水系による注水を実施するなどの対応がとられた 前記(a)で述べように福島第一原発と福島第二原発では状況の違いはあるにせよ福島第一原発における対処は福島第

61

参考資料

二原発におけるそれと比べて適切さが欠けていたと指摘せざるを得ない

b 損傷状況の継続した徹底的な解明の必要性【Ⅵ 1(1)b】 当委員会は可能な限りの事実の調査検証を行ってきたが現地調査における困難性や時間的制約等のため福島第一原発の主要施設の損傷が生じた箇所その程度時間的経緯を始めとする全体的な損傷状況の詳細放射性物質の漏出経緯原子炉建屋爆発の原因等についていまだに解明できていない点も存在する国電力事業者原子力発電プラントメーカー研究機関関連学会といったおよそ原子力発電に関わる関係者(関係組織)は今回の事故の事実解明と検証を最後まで担うべき立場にありこうした未解明の諸事項についてそれぞれの立場で包括的かつ徹底した調査検証を継続する組織的態勢を組むべきである

(2)事故発生後の政府等の事故対処に関する分析a 原子力災害現地対策本部【Ⅲ 5(4)Ⅵ 1(2)a】 政府の原子力災害対策マニュアル(以下「原災マニュアル」という)は原子力災害現地対策本部(以下「現地対策本部」という)の設置される緊急事態応急対策拠点施設(以下「オフサイトセンター」という)が機能するということを前提に作成されているが今回の事故の際はその前提が崩れ原災マニュアルが予定していたような対応ができなくなるという問題が生じた そもそもシビアアクシデントにおいてもオフサイトセンターが機能するような方策をあらかじめ講じておくべきであったし仮にオフサイトセンターが機能しなくなるような事態になったとしても事故に対処できるような方策を併せて講じておく必要があった また原子力災害対策本部(以下「原災本部」という)長から現地対策本部長への権限の委任については原子力安全保安院(以下「保安院」という)職員が原災本部長である菅直人内閣総理大臣(以下「菅総理」という)の了承を求めるタイミングを失した上現地対策本部から再三にわたって委任手続の進捗状況の確認を求められても主体的に動かずまた内閣官房及び内閣府の職員も保安院に対して委任手続を進めるよう注意喚起せず委任手続が行われないという問題が発生した そのような状況において現地対策本部は経済産業省緊急時対応センター(ERC)に置かれた原災本部事務局とも協議の上必要な措置を漏れなく迅速に行うため権限の委任手続が終了しているものとして避難措置の実施等について種々の決定を行いかつ実施した

b 原子力災害対策本部【Ⅲ 2(1)4(2)Ⅵ 1(2)b】(a)官邸内の対応 原災マニュアルによれば原子力災害が発生した際政府における緊急事態応急対策の中心となる原災本部は官邸に設置しまた情報の集約内閣総理大臣への報告政府としての総合調整を集中的に行うため官邸地下にある官邸危機管理センターに官邸対策室を置くこととされているまた各省庁の局長級幹部職員は同センターに参集することとされておりそのメンバーを「緊急参集チーム」と呼んでいる同チームには緊急時において迅速的確な意思決定がなされるよう各省庁が持つ情報を迅速に集約しそれに基づいて機動的に意見調整を行うことが期待されている しかし今回の事故においては避難措置等の事故対応についての重要な意思決定の多くはこの官邸危機管理センター(緊急参集チーム)から離れて官邸地下の中 2階の一室又は官邸 5階において関係閣僚原子力安全委員会(以下「安全委員会」という)委員長保安院幹部東京電力幹部らにより行われた一般に原子力災害が発生した場合できる限り情報入手が容易で現場の動きを把握しやすい現場に近い場所に対策の拠点が設置される必要がある政府における福島第一原発の情報収集拠点であったERC から離れた官邸内において意思決定が行われていたことまた官邸内においてもその情報集約拠点である官邸危機管理センターとは離れた別の場所(官邸 5階等)において意思決定が行われていたことなどから情報の不足と偏在が生じ十分な情報がないままに意思決定せざるを得ない場合も生じたという点は今回の一つの大きな教訓とすべきである なお平成 23 年 3 月 15 日に東京電力本店に福島原子力発電所事故対策統合本部が設置されたことは福島第一原発についての情報アクセスの改善という面では積極的に評価をすることも可能であるが政府の対応に必要な情報は必ずしも東京電力に係る情報のみではない上東京に本社本店のない他の電力会社の原子力発電所において同様の事故が発生する場合もあり得ることから今回の事例を普遍的な先例とするべきではない正確な情報を迅速に入手することはいうまでもなく原子力災害対策の基本である電力事業者の本社本店に移動することなく官邸等政府施設内にいながらよ

62

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

り情報に近接することのできる仕組みの構築が検討されるべきである

(b)情報収集の問題点 中間報告で詳述したようにERCの中に東京電力本店やオフサイトセンターが東京電力のテレビ会議システムを通じて現場の情報を得ていることを把握している者はほとんどおらず東京電力のテレビ会議システムをERCにも設置するということに思いが至らなかったまた情報収集のために保安院職員を東京電力本店へ派遣するといった積極的な行動も起こさなかった

c 福島県災害対策本部【Ⅳ 3(2)bⅥ 1(2)c】 福島県は平成 23 年 3 月 11 日知事を本部長とする福島県災害対策本部(以下「県災対本部」という)を設置し事故対応に当たったが県災対本部内外の連携等が十分ではなかったために避難区域内に取り残された双葉病院の入院患者等の避難救出が大きく遅れるなどの問題が発生した 被災地からの避難救出における今回のような事態の再発を防ぐためには県が設置する災害対策本部の班編成を平時の組織を単に縦割り的に寄せ集めたものでなく対応すべき措置に応じた横断的機能的なものにするとともに全体を統括調整できる仕組みを設けかつ各班相互の意思疎通の強化を図ること防災計画においても県の災害対策本部に詰める職員のみならず必要に応じいつでも他の職員も災害対応に当たる全庁態勢をとること等が必要である また原子力災害においてはその規模の大きさから県が前面に出て対応に当たらなければならずこの点を踏まえた防災計画を策定する必要がある

d その他の具体的な対応に関する分析【Ⅲ 2(1)Ⅵ 1(2)d】(a)原子力緊急事態宣言の発出 平成 23 年 3 月 11 日 17 時 42 分頃海江田万里経済産業大臣(以下「海江田経産大臣」という)は寺坂信昭原子力安全保安院長(以下「寺坂保安院長」という)らと共に菅総理に対し原子力災害対策特別措置法第 15 条第 1項に定める原子力緊急事態の発生を報告するとともに原子力緊急事態宣言の発出について了承を求めたしかし寺坂保安院長らは菅総理から福島第一原発の原子炉の状況や関連法令等について問われこれに対して十分な説明をすることができないまま時間が経過し菅総理は同日 18 時 12 分頃から約 5分間予定されていた与野党党首会談に出席したため上申手続は一時中断した同会談から戻った菅総理は間もなく原子力緊急事態宣言の発出を了承し同宣言は同日 19 時 3 分に発出された一般的に原子力災害においては事態が急速に進展することがあり得るところであり進行している事態や関連法令の詳細についての把握よりまず緊急事態宣言の発出を優先すべきであったと思われる

(b)福島第一原発視察 菅総理は平成 23 年 3 月 12 日福島第一原発事故に関する情報が十分に入っていなかったことなどから福島第一原発の視察を実行したこの視察は事故もなく終了し結果的には福島第一原発におけるベント実施への影響もなかったと認められるしかしながら今回のような大規模災害事故が発生した場合において最高指揮官の立場にある内閣総理大臣が長時間にわたって官邸を離れ危険が伴う現地視察を行い緊急対応に追われていた現地を訪れたことについては他の代わりとなる人物を派遣して状況を確認させるなどの方法によるべきではなかったのかという点でなお疑問が残る

(c)具体的事故対処についての官邸の関与 菅総理は平成 23 年 3 月 12 日 18 時過ぎ頃海江田経産大臣からその直前に同大臣が発した福島第一原発 1号機原子炉への海水注入命令について報告を受けた際炉内に海水を注入すると再臨界の可能性があるのではないかとの疑問を発しその場に同席した班目春樹原子力安全委員会委員長(以下「班目委員長」という)がその可能性を否定しなかったことから更に海水注入の是非を検討させることとしたその場に同席していた東京電力の武黒一郎フェロー(以下「武黒フェロー」という)は同日 19 時過ぎ頃福島第一原発の吉田昌郎所長に電話し「今官邸で検討中だから海水注入を待ってほしい」と強く要請した菅総理が再臨界の可能性についての質問を発した際その場には班目委員長のほか平岡英治原子力安全保安院次長武黒フェロー等の原子炉に関する専門的知見を有する関係者が複数いたが的確な応答をした者はおらず誰一人として専門家としての役割を果たしていなかったまた安易に海水注入を中止させようとした東京電力幹部の姿勢にも問題があったこのようなすぐれて現場対処に関わる事柄はまず現場の状況を最も把握し専

63

参考資料

門的技術的知識も持ち合わせている事業者がその責任で判断すべきものであり政府官邸はその対応を把握し適否についても吟味しつつも事業者として適切な対応をとっているのであれば事業者に任せ対応が不適切不十分と認められる場合に限って必要な措置を講じることを命ずるべきである当初から政府や官邸が陣頭指揮をとるような形で現場の対応に介入することは適切ではないと言えよう

(3)被害の拡大防止策に関する分析a 原発事故の特異性【Ⅵ 1(3)a】 原子力発電所の大規模な事故は施設設備の壊滅的破壊という事故そのものが重大であるだけでなく放出された放射性物質の拡散によって広範な地域の住民等の健康生命に影響を与え市街地農地山林海水を汚染し経済的活動を停滞させひいては地域社会を崩壊させるなど他の分野の事故には見られない深刻な影響をもたらすという点で極めて特異であるこのような原発事故の調査検証に当たっては事故原因とその背景について明らかにするだけでなく被害の発生拡大を防止する取組が適切であったのか否かそれが十分なものでなかったとするならそれはなぜなのかといった問題についても多角的に調査分析しあるべき被害防止への方策を見いださなければならない

b モニタリングの在り方【Ⅳ 1(2)aⅥ 1(3)b】 モニタリングに関する問題点等については既に中間報告で述べたとおりであるがさらにオフサイトセンターが機能しない場合のモニタリングの役割分担について指摘しておきたい 今回の事故においてはオフサイトセンターにある現地対策本部を拠点としたモニタリング活動が十分でなかったことから平成 23 年 3 月 16 日関係機関の役割分担が整理され各機関が実施しているモニタリングのデータの取りまとめ及び公表は文部科学省がデータの評価は安全委員会が安全委員会が行った評価に基づく対応は原災本部がそれぞれ行うことが取り決められたしかし急を要する状況の中でデータ評価の範囲等について関係機関の間で事前に十分な調整が行われた上で取決めがなされたとは言い難い状況にあった このような応急の状況で役割分担の取決めが必要となったのはモニタリングデータの集約評価公表評価に基づく対応という一連の作業を担うこととされていた現地対策本部(オフサイトセンター)が機能しない事態が生ずることを想定していなかったためと考えられる今回の事態を教訓にモニタリング態勢整備の見直しが必要である

c SPEEDI の活用の在り方【Ⅳ 2(1)(3)(4)Ⅵ 1(3)c】(a)システム及びその活用主体の問題点 緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)は原子力事故発生時緊急時対策支援システム(ERSS)から伝送される放出源情報を前提に周辺環境における放射線量率等を予測することができる装置であるがERSS は事故発生時には機能しなくなるおそれがありその場合の SPEEDI の活用方法についてあらかじめ検討しその検討結果を事故対応に当たるべき関係者間で共有しておくべきであった しかしながら事故対応に当たっていた多くの者はERSS が機能しなくなるや SPEEDI を避難に活用する余地はないものと考えていた環境放射線モニタリング指針には放出源情報が得られない場合の SPEEDI の活用方法も記載されていたがこれを避難に活用できるとのコンセンサスもなかったまたオフサイトセンターが機能しなくなった場合における SPEEDI の活用主体(運用及び公表の責任を負う機関)についても明確になっていなかった

(b)SPEEDI と避難指示 SPEEDI が有効に活用されなかった大きな原因は前記(a)のとおりいずれの関係機関もERSS から放出源情報が得られない場合には SPEEDI を避難に活用することはできないという認識の下これを避難の実施に役立てるという発想を持ち合わせていなかった点にあったと考えられるしかしSPEEDI により単位量放出を仮定した予測結果は得られており仮にその情報が提供されていれば各地方自治体及び住民はより適切に避難のタイミングや避難の方向を選択できた可能性があったと言えようERSS から放出源情報を得られない場合でもSPEEDI を活用する余地はあったと考えられる

d 住民に対する避難指示【Ⅳ 3(1)b(2)Ⅵ 1(3)d】 住民に対する避難指示に関する問題点等については中間報告で述べたとおりであるが中間報告後の調査検証を踏まえ更に以下の点を指摘しておく

64

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

(a)福島第二原発から 10km圏外への避難指示 平成 23 年 3 月 12 日 17 時 39 分福島第二原発から半径 10km圏外への避難指示が発出されたこの避難指示は同日15 時 36 分の福島第一原発 1号機における爆発を受け官邸 5階において福島第二原発についても同様の事象が発生する可能性があるので万一の事態に備える必要があるとの判断に基づいて発出されたものであり原子炉への注水状況原子炉の水位や圧力等の福島第二原発の各号機の具体的状況を踏まえて検討されたものではなかった この避難措置の約 1時間後の同日 18 時 25 分福島第一原発から 20km圏外への避難指示が発出されたが広野町北端のごく一部の地域のみは福島第一原発から 20kmの範囲に含まれないので福島第二原発から 10km圏外への避難指示が発出されなければ避難指示区域に含まれることはなかった福島第二原発から 10km 圏外への避難指示については情報不足で混乱する中福島第一原発 1号機の原子炉建屋爆発という事態を受けて判断されたが当時の福島第二原発の状況は実際には比較的安定しておりその決定過程には問題が残った

(b)病院患者等の避難 寝たきりの患者が多く入院していた双葉病院については入院患者の救出が大きく遅れかつ搬送先が遠方の高等学校の体育館とされるなど不適切と言わざるを得ない事態が生じたこうした事態の再発を防ぐためには前記(2)cで指摘したもののほか避難を担当する自衛隊が警察無線を有する県警に協力を求めるなどして外部との連絡体制の確保に留意する必要があるまた言うまでもなく人命救助に当たる者は改めてその責任の重さを自覚し強い責任感を持って任務に当たるべきである

e 被ばくへの対応【Ⅳ 4(3)b(c)(5)ab(6)5(2)aⅥ 1(3)e】(a)APD の未装着問題 事故発生後の福島第一原発の作業員(放射線業務従事者)にとって各自が警報付きポケット線量計(APD)を装着しその受けた放射線量を測定することは線量限度を超える被ばくを避けるため不可欠であったしかし福島第一原発においてはもともと配備されていたAPD が被水するなどしたため平成 23年 3月 15日以降の作業において代表者のみがAPD を装着する例外的な運用を始めこれが同月 31 日まで続いた この問題について調査したところ実際には事故発生直後に他の発電所等から合計 950 個のAPD が届けられていたが適合する充電器や警報設定器がないなどとして使用されないまま放置されたこと等が明らかとなった その経緯等を見ると現場作業員の被ばく防止に関する東京電力社員の意識は低かったと言わざるを得ないこれは「被ばく線量はできる限り小さくすべきである」という広く受け入れられている国際放射線防護委員会(ICRP)の考え方が十分に理解されていないことをうかがわせるものであり東京電力における被ばく回避の放射線教育の在り方に問題があったと言わざるを得ない

(b)国のヨウ素剤服用指示 現地対策本部医療班は平成 23 年 3 月 13 日スクリーニングレベルに関する現地対策本部長指示を発出するための準備を始めたその過程において安全委員会はERCに対しスクリーニングレベルを超えた者に対しては安定ヨウ素剤を投与すべきとのコメントをFAX 送信し安全委員会からERCに派遣されていたリエゾンがこれを受け取ったしかしこのコメントはERC 医療班内で共有検討が行われず現地対策本部にも伝えられなかったこれは同リエゾンが安全委員会のコメントを本部長指示に盛り込むことの重要性必要性を認識していなかったことによるものと考えられる 他方安全委員会も前記コメントが前記指示に盛り込まれないであろうことを知りながら「委員会はあくまでも助言機関である助言すべき事項は既に助言した」との理由から何らそれ以上のアクションを起こさなかった点で国民の安全を所管する行政機関としての責任感に欠けていたと言わざるを得ない

(c)県のヨウ素剤服用指示 三春町は平成 23 年 3 月 14 日深夜住民の被ばくが予想されたことから安定ヨウ素剤の配布服用指示を決定し同月 15 日町民に周知を行い薬剤師の立会いの下安定ヨウ素剤の配布を行ったこれを知った福島県の職員は三春町に対し国からの指示がないことを理由に配布中止と回収の指示を出したが三春町はこれに従わなかった安定ヨウ素剤の服用についての安全委員会の意見が前記(b)のような経緯で葬られている点を考慮すると国からの指示がなかったからという理由で三春町の判断を不適切であったと言うことはできない現在安定ヨウ素剤の服用については基

65

参考資料

本的に国の災害対策本部の判断に委ねる運用となっているが前記経験を踏まえ各自治体等が独自の判断で住民に服用させることができる仕組み事前に住民に安定ヨウ素剤を配布することの是非等について見直すことがむしろ必要であろう

(d)スクリーニングレベルの引上げ 福島県は当初スクリーニングレベルを 40Bqcm2(1 万 3000cpm相当)と設定していたが平成 23 年 3 月 13 日同月 14 日以降の全身除染のスクリーニングレベルを 10 万 cpmに引き上げた安全委員会は福島県のスクリーニングレベル引上げの意向を知りERCに対し一旦はスクリーニングレベルを 1万 3000cpmに据え置くべきであるとの助言を行ったが同月 19 日には 10 万 cpmへの引上げを是認する助言を行い現地対策本部長は同月 20 日スクリーニングレベルを 10 万 cpmとする指示を発出した しかし当時は全身除染(シャワー)のスクリーニングレベルの引上げではなく線量等に応じたきめ細かな除染方法(脱衣拭き取り等)の策定こそが必要であったまた安全委員会が発出した 10 万 cpmというスクリーニングレベルを許容する助言及びこれに基づいて現地対策本部長が発出した指示はスクリーニングレベルを単純に 10 万 cpm に引き上げるのみで検出レベルが 1万 3000cpm 以上 10 万 cpm 未満であった者に対しては何らの除染も要求しておらずその者に対する除染は不要であるかのように解釈する余地があるものとなっておりかえって問題であったまたスクリーニングレベルについては同月 13 日に発せられた現地対策本部長指示が県災対本部の担当班に伝わっていないなど国と県のコミュニケーションに関する問題も発生した今回のような緊急事態にあっては重要情報を関係者がしっかりと共有することの重要性を認識し関係行政組織間の調整能力に長けた者が緊急事態対応部署(班)のトップを構成し国や地方自治体の関係行政機関が一体となって事故対処に当たることが不可欠である

(e)校舎校庭等の利用基準 文部科学省は平成 23 年 4 月 19 日学校等の校舎校庭等の利用判断基準について38μSvh(年間にすると ICRP が定める「現存被ばく状況」における参考レベルの上限値である 20mSv に相当)以上の空間線量率が測定された学校等については校庭での活動を 1日 1時間程度に制限し38μSvh 未満の空間線量率が測定された学校については平常どおり利用して差し支えないとする考え方を公表したこれに対してはあたかも 20mSv年までの被ばくを許容するもので子どもへの配慮に欠ける事前に十分な説明や広報がなされなかったといった批判や懸念が寄せられた 確かに文部科学省の当時の説明は20mSv年を利用の基準値にしたと理解されてもやむを得ない面があり放射線に対する強い不安を解消するものとは言い難くリスクコミュニケーションの観点から見ても適切ではなかったまた一般に大人よりも放射線の影響が大きいと言われる子どもが利用する校舎校庭等について「現存被ばく状況」の上限値を用いたことが適当であったかどうかについてもなお議論の余地があろう その後文部科学省はより生活実態に合わせた被ばく線量の再試算を行い1年間で 10mSv 以下という数値を示したしかし放射線が子どもに対して与える影響は大人に対するそれよりも大きいとされていることICRP 勧告が「現存被ばく状況」においても参考レベル 1~20mSv年の中でできる限り被ばく線量を低減するよう求めていること(防護の最適化)などを考慮すると国としては10mSv年という数値に安心することなく被ばく線量をできる限り低くするような方策をとるべきであり38μSvh 未満の学校等についても校庭等での活動に基準を設けるなどして被ばく線量をより低く抑えるよう配慮するのが適当であったと思われる

(f)緊急被ばく医療機関 福島第一原発において事故が発生した場合の初期被ばく医療機関として 6病院が指定されていたがそのうち 4病院は避難区域内に立地していたことから被ばく医療機関としての機能を果たすことができなかったしたがって今回のようなシビアアクシデントが発生した場合においても緊急被ばく医療が提供できるよう緊急被ばく医療機関を原子力発電所周辺に集中させず避難区域に含まれる可能性の低い地域を選定しそこに相当数の初期被ばく医療機関を指定しておくとともに緊急被ばく医療機関が都道府県を超えて広域的に連携する態勢を整える必要があると考えられる

(g)放射線に関する国民の理解 今回の事故を契機として改めて放射線防護に万全を期する必要があることが再確認されたが他方で放射線を「正しく恐れる」必要性についても認識させられた今後も不必要な被ばくをできる限り避けるため最大限の努力が払われるべきことは当然であるがそれと同時に個々の国民が放射線のリスクについて正確な情報に基づいて判断できるようすな

66

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

わち情報がないためにいたずらに不安を感じたり逆にリスクを軽視したりすることがないようできる限り国民が放射線に関する知識や理解を深める機会が多く設けられる必要がある

f 国民への情報提供に関する分析【Ⅳ 8(2)(4)(5)(8)(9)Ⅵ 1(3)f】(a)官邸の事前了解 平成 23 年 3 月 12 日福島第一原発 1号機の「炉心溶融」の可能性が保安院の中村幸一郎審議官によって広報された官邸に詰めていた関係者はそれまで「炉心溶融」の可能性について報告を受けていなかったため保安院が官邸の把握していない事実を事前告知することなく広報したとして問題視し広報内容について官邸への事前連絡を求めたこのことが契機となって寺坂保安院長の判断で保安院においてはプレス発表に先立って内容について官邸の事前了解を得ることとしたまた東京電力も同月 13 日以降プレス発表に先立って官邸の了解を得た上で広報することとしこれらが原因でプレス発表が遅れることがあった 政府の意思決定及び広報の中心となるべき官邸としては迅速な情報提供を求めるのは当然のことであるがプレス発表の際に事前了解を得た上で行うこととすると緊急性を有する情報が直ちに広報できない状況が生ずるおそれがある緊急性の高い情報については各広報機関が独自の判断で広報することが必要となる場面もあり情報の全てについて官邸の事前了解を求めることは必ずしも適切ではない

(b)炉心溶融を積極的に否定した保安院の広報 前記(a)のとおり保安院はプレス発表前に官邸の了解を得ることとしたがその後保安院広報官の一部には「炉心溶融」に言及するのを避けるためかなり無理のある広報をした形跡が認められるすなわち平成 23 年 3 月 14 日の保安院のプレス発表において西山英彦保安院付が炉心溶融の可能性を肯定し又は炉心溶融の可能性を否定しない発言を行った際同席した保安院職員が同発言を取り消すかのように「まだ溶融とかそういう段階ではないと思っております」などと炉心溶融の可能性を積極的に否定する趣旨の発言を行った 前記の保安院職員の発言はその主観的認識がどうであったかはともかく炉心溶融の可能性という否定し難い事実を積極的に否定する内容となっており中央及び現地の災害対策関係者や地域住民の切羽詰まった情報ニーズを誤った方向へ導く極めて不適切なものであった

(c)放射線の影響に関する広報 福島第一原発事故による一般住民等の被ばく又は被ばくのおそれについての広報の際政府はしばしば「直ちに(人体に影響を及ぼすものでない)」との表現を用いたしかしながら「直ちに人体に影響を及ぼすものではない」との表現については「人体への影響を心配する必要はない」という意味と反対に「直ちに人体に影響を及ぼすことはないが長期的には人体への影響がある」という意味がありいずれの意味で用いているのか必ずしも明らかではなかったこのようなどちらの意味にも受け取れる表現は緊急時における広報の在り方として避けるべきでありリスクコミュニケーションの観点からも今後の重要な検討課題である

(d)「不測事態シナリオの素描」の不公表問題 平成 23 年 3 月 22 日菅総理は原子力委員会委員長である近藤駿介氏に対し福島第一原発事故の最悪事態の想定とその場合の対策を検討するよう依頼したこの依頼を受けて同氏は「福島第一原子力発電所の不測事態シナリオの素描」(以下「素描」という)を作成し同月 25 日細野豪志内閣総理大臣補佐官(以下「細野補佐官」という)へ提出した細野補佐官は素描が示す対策についての検討を進めたが素描を公表することはしなかった素描はその内容が現実に発生する可能性の低い仮定的事実に基づいたシミュレーションであったことから素描を公表しなかったことが不適切であったとまでは言えないただし一般論として言えば仮定の事実に基づくシミュレーション結果であっても公表の必要性シミュレーション結果に対する対策の有無公表のタイミングを考慮し前提条件を丁寧に説明した上で公表するという選択肢もあり得ると考えられる

g 国外への情報提供や諸外国等との連携の在り方【Ⅳ 910(2)Ⅵ 1(3)g】(a)諸外国との情報共有 事故発生後我が国は必ずしも諸外国が満足するような事故関連情報の提供を行っていなかった諸外国とりわけ日本国内に多数の市民が在住する国や近隣国に対する情報提供は我が国の国民に対するそれと同様に極めて重要であ

67

参考資料

り迅速かつ正確な情報提供ができるよう言語の違いにも配慮した上積極的かつ丁寧な対応が求められる

(b)諸外国からの支援の受入れ 我が国は諸外国からの支援物資を受け入れる態勢に不備があったほか受入物資を保管する場所がなかったことから当初支援物資の提供を直ちに受け入れることができなかった原子力災害発生時に諸外国から支援物資の提供があった場合はできる限り早くこれを受け入れることが国際礼譲の点からも国内における支援物資の必要性を迅速に満たすという点からも必要である今後は今回のような初期段階での混乱と不適切な対応が生じないよう支援物資の受入態勢について担当官庁のマニュアルや原子力事業者防災業務計画等において対応方法を定めておく必要がある

(4)事故の未然防止策や事前の防災対策に関する分析a 総合的リスク評価とシビアアクシデント対策の必要性【Ⅴ 3(1)(2)Ⅵ 1(4)a】(a)外的事象を対象としたアクシデントマネジメント導入に至らなかった経緯 我が国においてはアクシデントマネジメントとして整備されたのは内的事象に起因する対策のみで地震津波等の外的事象は具体的な検討対象とはならなかった このような事情の背景としてはシビアアクシデント対策を検討するのに有用な手法とされる確率論的安全評価(PSA)については福島原発事故発生以前に確立されていた外的事象 PSAは地震 PSAのみで手法として限定的であったこと定期安全レビューが外的事象 PSA についての技術的水準の進歩を勘案してシビアアクシデント対策の改善を促す機会とはならなかったこと外的事象 PSA を実施して合理的追加対策があれば行うことを奨励すべきとの指摘があったものの耐震バックチェックの作業等の事情から早急に導入を検討するには至らなかったことなどが挙げられる その結果として地震 PSAによる評価や津波に対する安全評価を始めとして事故の起因となる可能性がある火災火山斜面崩落等の外部事象を含めた総合的なリスク評価は行われていなかった

(b)総合的リスク評価の必要性 施設の置かれた自然環境は様々であり発生頻度は高くない場合ではあっても地震地震随伴事象以外の溢水火山火災等の外的事象及び従前から評価の対象としてきた内的事象をも考慮に入れて施設の置かれた自然環境特性に応じて総合的なリスク評価を事業者が行い規制当局等が確認を行うことが必要であるその際には必ずしも PSA の標準化が完了していない外的事象についても事業者は現段階で可能な手法を積極的に用いるとともに国においてもその研究が促進されるよう支援することが必要である

(c)総合的リスク評価を踏まえたシビアアクシデント対策の策定 原子力発電施設の安全を今後とも確保していくためには外的事象をも考慮に入れた総合的安全評価を実施し様々な種類の内的事象や外的事象の各特性に対する施設の脆弱性を見いだしそれらの脆弱性に対し設計基準事象を大幅に超え炉心が重大な損傷を受けるような場合を想定して有効なシビアアクシデント対策を検討し準備しておく必要があるまたそれらの対策の有効性についてPSA 等の手法により評価する必要がある その場合PSA 手法の未成熟等によりリスク評価方法に制約があるとしてもその特徴と限界を理解の上事業者は自らの施設の安全性確保のためのシビアアクシデント対策の検討評価を行うべきでありその検討に当たっては諸外国の状況等についても十分参照する必要がある規制当局等も緊急性のあるシビアアクシデント対策の実施については自然災害等の際に果たして有効かどうかリスク評価手法等を用いて確認検討すべきである

b 原子力防災対策の見直し【Ⅴ 4(2)(3)Ⅵ 1(4)b】 原子力防災体制の整備については国際原子力機関(IAEA)における原子力又は放射線緊急事態に関する安全基準の策定に伴い平成 18 年に安全委員会において「原子力施設等の防災対策について」(以下「防災指針」という)の見直し作業が行われ我が国における予防的措置範囲(PAZ)の導入等が検討されたが安全委員会と保安院との調整の結果防災指針に PAZ の概念や範囲は直接には書き込まないこととなった 原子力災害と大規模自然災害とが同時期に発生する複合災害については保安院において検討が開始されたが自然災害原子力災害を所掌する中央防災会議での検討の申入れが行われたのは東日本大震災のわずか三日前であった 今回の事故以前の原子力防災対策を重点的に充実すべき地域の範囲は原子力発電所から8~10km 圏内とすることを大前提に仮想事故を相当に上回る事故の発生時でも十分対応可能であるとみなして設定されていたが今回の事故に鑑み

68

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

どのような事故を想定して避難区域等を設定するのか再検討することが必要である また原子力災害の際の国の責任の重要性に鑑み単に住民避難等の原子力施設敷地外の対応にとどまらず事業者と協議しつつ原子力災害の際に事業者への支援や協力として国が行うべきことの内容を検討すべきである

(5)原子力安全規制機関等に関する分析【Ⅴ6Ⅵ 1(5)】 保安院は事故の未然防止のための取組や事故後の対応においてその所掌にふさわしい役割を十分に果たしてきたとは言い難い保安院のこのような問題点を踏まえ当委員会は中間報告において原子力安全規制機関の在り方として5点の指摘を行った最終報告においてはその後の調査検証の結果を踏まえ以下の 2点の指摘を加えることとするなお今回追加する 2点は安全委員会についても共通する事柄である① 国際機関外国規制当局との積極的交流 現在の保安院等の定員状況ではIAEA やアメリカ合衆国原子力規制委員会への少数の人事交流にとどまりまた国内事務処理に優先的に当たらざるを得ないために国際会議等での十分なプレゼンスの発揮には限界があり規制当局等の組織の実力の向上や原子力安全に関する国際社会との協調に十分に資するには至っていない 国の行政機関の定員措置については行政機関全体の問題であることから保安院等のみに関する検討で済むものではないが原子力安全の重要性に鑑み新たに設置される原子力安全規制機関の定員措置については十分に考慮する必要があるまた新設の規制機関においては前記定員措置のほか国際貢献を果たすにふさわしい態勢整備に努めるとともに国際機関外国規制当局との人的交流を担える人材の育成に努めるべきである② 規制当局の態勢の強化 原子力発電の安全を確保するためには単に発生した個別問題への対応にとどまらず国内外の最新の知見はもとより国際的な安全規制や核セキュリティ等の動向にも留意しつつ国内規制を最新最善のものに改訂する努力を不断に継続する必要があるまた今回のような事故の未然防止が重要なことはいうまでもないが原子力災害の社会への影響の大きさに鑑みれば災害発生時に迅速かつ有効な活動が展開できるよう平常時から防災計画の策定や防災訓練等を実施し緊急時の対応に万全を期すべきであるさらに緊急事態において専門知識に基づく的確な助言指導ができる専門的技術能力や組織が有するリソースを有効かつ効率的に機能させるマネジメント能力の涵養に努めなければならないそのためにはそれにふさわしい予算人的スタッフの在り方の検討が必要である

(6)東京電力に関する分析【Ⅵ1(6)】a 危機対応能力の脆弱性 今回のシビアアクシデントに対する東京電力社員の対処対応を検証していくと自ら考えて事態に臨むという姿勢が十分ではなく危機対処に必要な柔軟かつ積極的な思考に欠ける点があったと言わざるを得ないこのことは個々人の問題というよりは東京電力がそのような資質能力の向上を図ることに主眼を置いた教育訓練を行ってこなかったことに問題があったと言うべきであろう更に問題を遡っていくと東京電力を含む電力事業者も国も我が国の原子力発電所では深刻なシビアアクシデントは起こり得ないという安全神話にとらわれていたがゆえに危機を身近で起こり得る現実のものと捉えられなくなっていたことに根源的な問題があると思われる 東京電力には原子力安全に関し一次的な責任を負う事業者としてこれまでの教育訓練の内容を真摯に見直し原子力に携わる者一人一人に対し事故対処に当たって求められる資質能力の向上を目指した実践的な教育訓練を実施するよう強く期待する

b 専門職掌別の縦割り組織の問題点 東京電力は原子力災害に組織的一体的に対処するため緊急時対策本部等の組織化を図りその中に発電班復旧班技術班等の機能班を設けているしかしこれらの機能班は事態を見渡して総合的に捉えその中に自らの班の役割を位置付け必要な支援業務を行うといった視点が不足していた

c 過酷な事態を想定した教育訓練の欠如 緊急時対策本部内の機能班に所属する一人一人が時宜にかなった判断をなし得ずまた機能班として十分な機能が果たし得なかったことの根底には複数号機において全交流電源が喪失するといった過酷な事態を想定した十分な教育訓練がなされていなかったことがあると考えられる

69

参考資料

d 事故原因究明への熱意の不足 東京電力は事故から 1年以上が経過した現時点においてもなお事故原因について徹底的に解明して再発防止に役立てようとする姿勢が十分とは言えない当委員会としては東京電力が今後も事故原因の解明を積極的に進めることを強く求める

e より高い安全文化の構築が必要 東京電力は原子力発電所の安全性に一義的な責任を負う事業者として国民に対して重大な社会的責任を負っているが津波を始め自然災害によって炉心が重大な損傷を受ける事態に至る事故の対策が不十分であり福島第一原発が設計基準を超える津波に襲われるリスクについても結果として十分な対応を講じていなかった組織的に見ても危機対応能力に脆弱な面があったこと事故対応に当たって縦割り組織の問題が見受けられたこと過酷な事態を想定した教育訓練が不十分であったこと事故原因究明への熱意が十分感じられないことなどの多くの問題が認められた東京電力は当委員会の指摘を真摯に受け止めてこれらの問題点を解消しより高いレベルの安全文化を全社的に構築するよう更に努力すべきである

(7)IAEA 基準などとの国際的調和に関する分析【Ⅴ5Ⅵ 1(7)】 保安院などの規制当局等はIAEA 安全基準を参照して国内基準の見直しや策定を行う必要性は認識していたもののほとんど実施してこなかった原子力発電の安全を確保するためには国内外の原子力に関する知見の蓄積や技術進歩に合わせて国内の規制水準を常に最新のものとしていくことが必要であるそのためにはIAEA等の国際基準の動向も参照して国内基準を最新最善のものとする不断の努力をすべきである またこれまでも地震や津波に関する分野ではIAEA の基準策定活動に我が国も貢献してきたが今回の事故への反省を踏まえて原子力安全に関する教訓を学びそれを我が国のみならず他国での同様の事故の発生防止に資するよう事故から得られた知見と教訓を国際社会に発信していく必要があるまた国内基準の見直しを行う場合それを国際基準として一般化することが有効有益なものについてはIAEA等の基準に反映されるように努めるなどして国際貢献を行うべきである

2 重要な論点の総括(1)抜本的かつ実効性ある事故防止策の構築【Ⅵ2(1)】 当委員会は福島第一原発の損傷状況や事故対処の実態国や東京電力等による原発事故防止に向けた事前の取組状況等について調査検証を行い中間報告及び最終報告においてそれぞれについて多くの問題点があったことを指摘した当委員会としては国電力事業者原子力発電プラントメーカー研究機関原子力学会といったおよそ原子力発電に関わる関係者が指摘を真摯に受け止め問題点を解消改善するための具体的取組を進めることを強く要望する技術的原子力工学的な問題点を解消改善するためにどのような具体的取組が必要かは原子力全般についての高度な専門的知見を踏まえた検討が必要なものも少なくないこれについては原子力発電に関わる関係者においてその専門的知見を活用して具体化すべきでありその検討に当たっては当委員会が指摘した問題点を十分考慮するとともにその検討の経緯及び結果について社会への説明責任を果たす必要があると考える

(2)複合災害という視点の欠如【Ⅵ2(2)】 東日本大震災は地震津波原発事故からなる大規模かつ広域的な複合災害であり国及び地方自治体は地震や停電等により通信手段等が途絶する中オフサイトセンターの機能が十分に発揮できなくなったりモニタリング機器等に損傷が生ずるなど様々な場面で混乱し問題への対応に遅れや不備等が生じた国や大半の地方自治体において原発事故が複合災害という形で発生することを想定していなかったことは原子力発電所それ自体の安全とそれを取り巻く地域社会の安全の両面において我が国の危機管理態勢の不十分さを示したものであった今後原子力発電所の安全対策を見直す際には大規模な複合災害の発生という点を十分に視野に入れた対応策の策定が必要である

(3)求められるリスク認識の転換【Ⅵ2(3)】 近年地震研究においてはプレートテクトニクス論をベースに震源域の地域別特性や大津波を引き起こすいわゆる津波地震の海底断層の特性発生の頻度と発生確率の確率論的な評価などが注目されるようになってきたそういう新たな知見を防災対策の重点地域の特定に利用することはそれなりに合理性があると言える

70

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

 しかし①地震津波の確率論的評価は記録が詳しく残っている限られた事例を根拠にしており古文書等の記録が不十分で地震津波の規模や震源モデルを推定しにくい長い周期で起きているものについてはデータベースから外されていること②研究組織や関係行政機関によって防災対策の根拠を明確にするために地震津波等の自然災害の発生確率計算の精度の向上が図られた反面自然現象には現在の学問の知見を超えるような事象が起こることがありそういう極めてまれな事象への備えも必ず並行して考慮しなくてはならないという伝統的な防災対策の心得が考慮されなくなりがちになっていたこと③地震津波の想定について極めてまれなケースについては「残余のリスク」「残る課題」等の表現で検討課題に挙げられてはきたが実際には継続して深く検討されずに放置されてきたこと等に見られるように学問の進歩の一方でそこから防災対策の隙間が生まれるという問題が生じていたこのような落とし穴から抜け出すには安全対策防災対策の前提となるリスクの捉え方を次のように大きく転換させる必要があろう ① 日本は古来様々な自然災害に襲われてきた「災害大国」であることを肝に命じて自然界の脅威地殻変動の規模と時間スケールの大きさに対し謙虚に向き合うこと ② リスクの捉え方を大きく転換すること 今回のような巨大津波災害や原子力発電所のシビアアクシデントのように広域にわたり甚大な被害をもたらす事故災害の場合には発生確率にかかわらずしかるべき安全対策防災対策を立てておくべきであるという新たな防災思想が行政においても企業においても確立される必要がある ③ 安全対策防災対策の範囲について一定の線引きをした場合「残余のリスク」「残る課題」とされた問題を放置することなく更なる掘り下げた検討を確実に継続させるための制度が必要である

(4)「被害者の視点からの欠陥分析」の重要性【Ⅵ2(4)】 原子力発電に関わる領域を「システム中枢領域」「システム支援領域」「地域安全領域」の三つに分けた上で事業者側の視点からシステムの安全性を見るとまず懸命に取り組むのは「システム中枢領域」の安全確保であるがその安全性の認識が確信にまでなると中枢領域以外の安全性の確保については緩みが生じがちになるまた「システム中枢領域」にせよ「システム支援領域」にせよ安全性を確保してあると言っても設計の前提条件の範囲内でのことであって条件外の事象が起きた場合には安全性は担保されなくなるすなわち ① 事業者や規制機関が「システム中枢領域」の安全性を設計の前提条件の枠の中だけで過信すると安全対策が破綻する ② 「システム支援領域」や「地域安全領域」における安全対策は「システム中枢領域」の安全性のレベルにかかわりなく万一の場合に独立して機能するものでなければならないその原則が忘れられると地域の人々の命に関わる安全防護壁に多くの「穴」(欠陥)ができてしまう危険性が高くなる そのような欠陥を見付け安全への防護壁を確実なものにするための方法として立ち位置を被害を受ける側に置いた「被害者の視点からの欠陥分析」と言うべき方法を提案したいこれは規制関係機関や地方自治体の防災担当者が災害問題の専門家の協力を得て「もしそこに住んでいるのが自分や家族だったら」という思いを込めて最悪の事態が生じた場合自分に何が降りかかってくるかを徹底的に分析するという方法である 行政と事業者がなすべきことは分析によって浮かび上がった対策の不備や欠陥について改善策を講じていくことであるがすぐに全ての欠陥の「穴」を塞ぐのは困難であろうその場合残された対策とその問題点を公表し今後どう対処していくべきかを規制関係機関と関係自治体が地域の住民と議論して共働で次善の策を絞り出すという取組が重要となるだろうそのような地域の住民の視点に立った災害の捉え方と安全への取組が定着して初めてこの国に真の安全で安心できる社会を創造することができると言えよう 事故が起きると広範囲の被害をもたらすおそれのある原子力発電所のようなシステムの設計設置運用に当たっては地域の避難計画を含めて安全性を確実なものにするために事業者や規制関係機関による「被害者の視点」を見据えたリスク要因の点検洗い出しが必要でありそうした取組を定着させるべきである なお住民の避難計画とその訓練については原発事故による放射性物質の飛散範囲が極めて広くなることを考慮して県と関係市町村が連合して混乱を最小限にとどめる実効性のある態勢を構築すべきである

(5)「想定外」問題と行政東京電力の危機感の希薄さ【Ⅵ2(5)】 「想定外」という言葉には大別すると二つの意味がある一つは最先端の学術的な知見をもってしても予測できなかった事象が起きた場合でありもう一つは予想されるあらゆる事態に対応できるようにするには財源等の制約から無理があるため現実的な判断により発生確率の低い事象については除外するという線引きをしていたところ線引きした範

71

参考資料

囲を大きく超える事象が起きたという場合である今回の大津波の発生はこの 10 年余りの地震学の進展と防災行政の経緯を調べてみると後者であったことが分かる福島県沖の津波地震への防災対策に関するこれまでの行政の意思決定過程を行政の論理の枠内で見るとそれなりの合理性があったことは否定できないしかし今回の事故による甚大な被害を前にして行政には何の誤りもなかった「想定外」の大地震大津波だったから仕方がないと言って済ますことはできるだろうかそれでは安全な社会づくりの教訓は何も得られないだろう 行政の論理や責任の有無とは関係なく被害を少しでも小さくする方法あるいは選択肢はなかったのか行政の意思決定の枠組みを変革する道はなかったのかという視点から要因分析を行うと次のような問題点が浮かび上がってくる ① 地震についての科学的知見はいまだ不十分なものであり研究成果を逐次取り入れて防災対策に生かしていかなければならない換言すればある時点までの知見で決められた方針を長期間にわたって引きずり続けることなく地震津波の学問研究の進展に敏感に対応し新しい重要な知見が登場した場合には適時必要な見直しや修正を行うことが必要である ② 発生確率が低いかあるいは不明という理由により財源等の制約からある地域が防災対策の強化対象から外されていた場合万一大地震大津波が発生すると被害は非常に大きくなると考えられる行政は少数であっても地震研究者が危険性を指摘する特定の領域や例えば津波堆積物のような古い時代に大地震大津波が発生した形跡がある領域については地震の実態解明を急ぐための研究プロジェクトを立ち上げるとか関係地域に情報を開示して行政住民専門家が一体となって万一に備える新しい発想の防災計画を策定する等の取組をすべきであろう ③ 中央防災会議が決める防災計画は原発立地を特別視することなく進められてきたが今後は原発立地の領域における災害リスクを注視すべきである原子力発電所の防災対策は保安院の担当とされてきたが中央防災会議の方針は原子力発電所の防災対策にも密接に関連することから中央防災会議においても原子力発電所を念頭に置いた検討を行うべきである一方東京電力の津波対策の経緯等を追ってみると同社には原発プラントに致命的な打撃を与えるおそれのある大津波に対する緊迫感と想像力が欠けていたと言わざるを得ないそしてそのことが深刻な原発事故を生じさせまた被害の拡大を防ぐ対策が不十分であったことの重要な背景要因の一つであったと言えるであろう

(6)政府の危機管理態勢の問題点【Ⅵ2(6)】 今回原災マニュアルに規定のない官邸 5階が一種の司令センターとなりまた菅総理が前面に出た形で事故対応に当たった背景には現地対策本部が本来的な役割を果たせなかったこと官邸による情報集約態勢や安全委員会による助言機能が十分ではなかったことなどの事情があったしかしながら内閣総理大臣は政府の各機関部局に情報収集とその対応策を任せ専門部署から上がる重要事項に関してのみ選択肢を出させた上で適切な最終決断を行うというのがその本来の役割である自らが当事者として現場介入することは現場を混乱させるとともに重要判断の機会を失しあるいは判断を誤る結果を生むことにもつながりかねず弊害の方が大きいと言うべきであろう 今回の事態を教訓に原子力事故と地震津波災害との複合災害の発生を想定した原災マニュアルの見直しを含め原子力災害発生時の危機管理態勢の再構築を早急に図る必要があるその検討に当たってはオフサイトセンターの強化という観点に加えてそもそも現地対策本部に関係機関が参集して事故対処に当たるという枠組みでは対応できない事態が発生した場合にどのような態勢で対応に当たるべきかについても具体的に検討し必要な態勢を構築しておく必要がある

(7)広報の問題点とリスクコミュニケーション【Ⅵ2(7)】 今回の事故において事故発生後の政府の国民に対する情報の提供の仕方には避難を余儀なくされた周辺住民や国民の立場からは真実を迅速正確に伝えていないのではないかとの疑問や疑いを生じさせかねないものが多く見られた周辺住民の避難にとって重要な放射性物質の拡散状況とその予測についての情報提供方法炉心の状態(特に炉心溶融)や福島第一原発 3号機の危機的な状態等に関する情報提供方法また放射線の人体への影響について頻繁に「直ちに人体に影響を及ぼすものではない」といった分かりにくい説明が繰り返されたことなどである 国民と政府機関との信頼関係を構築し社会に混乱や不信を引き起こさない適切な情報発信をしていくためには関係者間でリスクに関する情報や意見を相互に交換して信頼関係を構築しつつ合意形成を図るというリスクコミュニケーションの視点を取り入れる必要がある緊急時における迅速かつ正確でしかも分かりやすく誤解を生まないような国民への情報提供の在り方についてしかるべき組織を設置して政府として検討を行うことが必要である加えて広報の仕方によっては国民にいたずらに不安を与えかねないこともあることから非常時緊急時において広報担当の官房長官に的確な助言をすることのできるクライシスコミニュケーションの専門家を配置するなどの検討が必要である

72

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

(8)国民の命に関わる安全文化の重要性【Ⅵ2(8)】 事業者である東京電力及び規制当局である保安院のいずれについても安全文化が十分に定着しているとは言い難い状況にあった一旦事故が起きると重大な事態が生じる原子力発電事業においては安全文化の確立は国民の命に関わる問題である今回の大災害の発生を踏まえ事業者や規制当局関係団体審議会関係者などおよそあらゆる原発関係者には安全文化の再構築を図ることを強く求めたい

(9)事故原因被害の全容を解明する調査継続の必要性【Ⅵ2(9)】a 引き続き事故原因の解明が必要 当委員会は最終報告の提出をもって任務を終えることとなるが前記 1(1)bのとおり福島第一原発の主要施設の損傷が生じた箇所その程度時間的経緯を始めとする被害状況の詳細放射性物質の漏出経緯原子炉建屋爆発の原因等についていまだに解明できていない点も多々存在する また住民等の健康への影響農畜水産物等や空気土壌水等の汚染などは今後も継続的な調査検証を要する問題であるが現時点までの調査検証にとどめざるを得なかったさらに原子力損害賠償の在り方や除染等のように生じた損害の修復の問題でありかつ今後長期間の対応を要すると見込まれることから当委員会の調査検証の対象とはしなかったものの被害者や被災地にとって極めて重要で社会的関心の高い問題もある 国電力事業者原子力発電プラントメーカー研究機関関連学会といったおよそ原子力発電に関わる関係者(関係組織)は今回の事故の検証及び事実解明を積極的に担うべき立場にありこうした未解明の諸事項についてそれぞれの立場で包括的かつ徹底した調査検証を継続するべきである特に国は当委員会や国会に設置された東京電力福島原子力発電所事故調査委員会の活動が終わったことをもって福島原発災害に関する事故調査検証を終えたとするのでなく引き続き事故原因の究明に主導的に取り組むべきであるとりわけ放射線レベルが下がった段階での原子炉建屋内の詳細な実地検証(地震動の影響の検証も含む)は必ず行うべき作業である

b 被害の全容を明らかにするための調査が必要 今回の原発事故は実に様々な深刻な被害を広範囲にわたる地域にもたらした未曽有の原子力災害を経験した我が国としてなすべきことは「人間の被害」の全容について専門分野別の学術調査と膨大な数の関係者被害者の証言記録の収集による総合的な調査を行ってこれらを記録にまとめ被害者の救済支援復興事業が十分かどうかを検証するとともに原発事故がもたらす被害がいかに深く広いものであるかその詳細な事実を未来への教訓として後世に伝えることであろう福島原発災害に関わる総合的な調査の結果を踏まえて記された「人間の被害」の全容を教訓として後世に伝えることは国家的な責務であると当委員会は考える「人間の被害」の調査には様々な学問分野の研究者の参加と多くの費用と時間が必要となるだろうが国が率先して自治体研究機関民間団体等の協力を得て調査態勢を構築するとともに調査の実施についても必要な支援を行うことを求めたい

3 原子力災害の再発防止及び被害軽減のための提言 当委員会は中間報告及び最終報告においてこれまでの調査検証によって判明した事実を基に原子力災害の再発防止及び被害軽減のための提言を行った当委員会は国関係自治体事業者等の関係機関がこれらを今後の安全対策防災対策に反映させ実施していくことを強く要望する政府においては関係省庁関係部局に提言の反映や実施に向けた具体化を指示するとともに関係省庁関係部局の取組状況を把握しその状況を取りまとめて公表するなど確実なフォローアップをすることを求めたいまた関係自治体東京電力その他の関係機関においても同様に提言を反映実施するとともに取組状況をフォローアップすることを求めたい ここでは中間報告及び最終報告で行った提言を七つの項目に分類して整理しておく最終報告における提言は「最終報告(本文編)」の記載箇所及び本概要における該当頁を示した中間報告における提言は「中間報告(本文編)」の記載箇所を示すとともに提言自体を再録した

(1)安全対策防災対策の基本的視点に関するもの  複合災害を視野に入れた対策に関する提言(最終報告Ⅵ 2(2)概要 22 頁)  リスク認識の転換を求める提言(最終報告Ⅵ 2(3)概要 23 頁)  「被害者の視点からの欠陥分析」に関する提言(最終報告Ⅵ 2(4)概要 24 頁)  防災計画に新しい知見を取り入れることに関する提言(最終報告Ⅵ 2(5)概要 25 頁)

73

参考資料

(2)原子力発電の安全対策に関するもの  事故防止策の構築に関する提言(最終報告Ⅵ 2(1)概要 22 頁)  総合的リスク評価の必要性に関する提言(最終報告Ⅵ 1(4)a(b)概要 17 頁)  シビアアクシデント対策に関する提言(最終報告Ⅵ 1(4)a(c)概要 17 頁)

(3)原子力災害に対応する態勢に関するもの  原災時の危機管理態勢の再構築に関する提言(最終報告Ⅵ 2(6)概要 26 頁)  原子力災害対策本部の在り方に関する提言(最終報告Ⅵ 1(2)b(a)概要 4頁)  オフサイトセンターに関する提言(中間報告Ⅶ 3(1)a) 政府はオフサイトセンターが大規模災害にあっても機能を維持できる施設となるよう速やかに適切な整備を図る必要がある  原災対応における県の役割に関する提言(最終報告Ⅵ 1(2)c概要 6頁)

(4)被害の防止軽減策に関するもの  広報とリスクコミュニケーションに関する提言(最終報告Ⅵ 2(7)概要 27 頁)  モニタリングの運用改善に関する提言(中間報告Ⅶ 5(2)d) ① モニタリングシステムが肝心なときに機能不全に陥らないよう地震津波等の様々な事象を想定してシステム設計を行うとともに複合災害の場合も想定して対策を講じておく必要があるまたモニタリングカーについて地震による道路の損傷等の事態が発生した場合の移動巡回等の方法に関して必要な対策を講じるべきである ② モニタリングシステムの機能重要性について関係機関及び職員の認識を深めるために研修等の機会を充実させる必要がある  SPEEDI システムに関する提言(中間報告Ⅶ 5(3)c) 被害拡大を防止し国民の納得できる有効な情報を迅速に提供できるようSPEEDI システムの運用上の改善措置を講じる必要があるまた地震等の様々な複合要因に対してシステムの機能が損なわれることのないようハード面でも強化策が講じられる必要がある  住民避難の在り方に関する提言(①~④は中間報告Ⅶ 5(4)c更に最終報告Ⅵ 1(4)b概要 18 頁) ① 重大な原発事故が発生した場合に放射性物質がどのように放出拡散し地上にはどのように降ってくるのかについてまた放射線被ばくによる健康被害について住民が常日頃から基本的な知識を持っておけるよう公的な啓発活動が必要である ② 地方自治体は原発事故の特異さを考慮した避難態勢を準備し実際に近い形での避難訓練を定期的に実施し住民も真剣に訓練に参加する取組が必要である ③ 避難に関しては数千人から十数万人規模の住民の移動が必要になる場合もあることを念頭に置いて交通手段の確保交通整理遠隔地における避難場所の確保避難先での水食糧の確保等について具体的な計画を立案するなど平常時から準備しておく必要がある特に医療機関老人ホーム福祉施設自宅等における重症患者重度障害者等社会的弱者の避難については格別の対策を講じる必要がある ④ 以上のような対策を地元の市町村任せにするのではなく避難計画や防災計画の策定と運用について原子力災害が広域にわたることも考慮して県や国も積極的に関与していく必要がある  安定ヨウ素剤の服用に関する提言(最終報告Ⅵ 1(3)e(c)概要 11 頁)  緊急被ばく医療機関に関する提言(最終報告Ⅵ 1(3)e(f)概要 13 頁)  放射線に関する国民の理解に関する提言(最終報告Ⅵ 1(3)e(g)概要 14 頁)  諸外国との情報共有や諸外国からの支援受入れに関する提言(最終報告Ⅵ 1(3)g(a)(b)概要 16 頁)

(5)国際的調和に関するもの  IAEA 基準などとの国際的調和に関する提言(最終報告Ⅵ 1(7)概要 21 頁)

(6)関係機関の在り方に関するもの  原子力安全規制機関の在り方に関する提言 ① 独立性と透明性の確保(中間報告Ⅶ 8(2)a)

74

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

 独立性と透明性を確保することが必要であり自律的に機能できるために必要な権限財源と人員を付与すると同時に国民に対する原子力安全についての説明責任を持たせることが必要である ② 緊急事態に迅速かつ適切に対応する組織力(中間報告Ⅶ 8(2)b) 災害発生時に迅速な活動が展開できるよう平常時から防災計画の策定や防災訓練等を実施しておくことのみならず緊急事態において対応に当たる責任者や関係機関に対して専門知識に基づく助言指導ができる専門能力や組織が有するリソースを有効かつ効率的に機能させるマネジメント能力の涵養が必要である また責任を持って危機対処の任に当たることの自覚を強く持つとともに大規模災害に対応できるだけの体制を事前に整備し関係省庁や関係地方自治体と連携して関係組織全体で対応できる体制の整備も図った上その中での規制機関の役割も明確にしておく必要がある ③ 国内外への災害情報の提供機関としての役割の自覚(中間報告Ⅶ 8(2)c) 情報提供の在り方の重要性を組織として深く自覚し緊急時に適時適切な情報提供を行い得るよう平素から組織的に態勢を整備しておく必要がある ④ 優秀な人材の確保と専門能力の向上(中間報告Ⅶ 8(2)d) 優れた専門能力を有する優秀な人材を確保できるような処遇条件の改善職員が長期的研修や実習を経験できる機会の拡大原子力放射線関係を含む他の行政機関や研究機関との人事交流の実施など職員の一貫性あるキャリア形成を可能とするような人事運用計画の検討が必要である ⑤ 科学的知見蓄積と情報収集の努力(中間報告Ⅶ 8(2)e) 関連学会や専門ジャーナル(海外も含む)海外の規制機関等の動向を絶えずフォローアップし規制活動に資する知見を継続的に獲得していく必要があるまたその知見の意味するところを理解しこれを組織的に共有した上で十分に活用するとともにその成果を組織として継承伝達していく必要がある ⑥ 国際機関外国規制当局との積極的交流(最終報告Ⅵ 1(5)概要 19 頁) ⑦ 規制当局の態勢強化(最終報告Ⅵ 1(5)概要 19 頁)  東京電力の在り方に関する提言(最終報告Ⅵ 1(6)e概要 20 頁)  安全文化の再構築に関する提言(最終報告Ⅵ 2(8)概要 27 頁)

(7)継続的な原因解明被害調査に関するもの  事故原因の解明継続に関する提言(最終報告Ⅵ 2(9)a概要 28 頁)  被害の全容を明らかにする調査の実施に関する提言(最終報告Ⅵ 2(9)b概要 28 頁)

委員長所感抜粋(今回の事故で得られた知見について)

 今回の事故で得られた知見を他の分野にも適用することができ100 年後の評価にも耐えるようにするためにはこれを単なる個別の分野における知見で終わらせずより一般化普遍化された知識にまで高めることが必要である以下福島原発事故という未曽有の災害についての調査検証を締めくくるに当たり今回の事故からどのような知識が得られるかについて整理しその主なものを示しておくこととしたい

(1)あり得ることは起こるあり得ないと思うことも起こる 今回の事故の直接的な原因は「長時間の全電源喪失は起こらない」との前提の下に全てが構築運営されていたことに尽きる「あり得ることは起こる」と考えるべきであるさらに「あり得ないと思う」という認識にすら至らない現象もあり得る言い換えれば「思い付きもしない現象も起こり得る」ことも併せて認識しておく必要があろう

(2)見たくないものは見えない見たいものが見える 人間はものを見たり考えたりするとき自分が好ましいと思うものや自分がやろうと思う方向だけを見がちで見たくないもの都合の悪いことは見えないものである自分の利害だけでなく自分を取り巻く組織社会時代の様々な影響によって自分の見方が偏っていることを常に自覚し必ず見落としがあると意識していなければならない

75

参考資料

(3)可能な限りの想定と十分な準備をする 過去のある時点での想定にとらわれず常に可能な限り想定の見直しを行って事故や災害の未然防止策を講じるとともにこれまで思い付きもしない事態も起こり得るとの発想の下で十分な準備をすることが必要である

(4)形を作っただけでは機能しない仕組みは作れるが目的は共有されない 事業者も規制関係機関も地方自治体もそれぞれの組織が形式的には原発事故に対応する仕組みを作っていたしかしいざ事故が起こるとその対応には不備が散見されたそれは組織の構成員がその仕組みが何を目的とし社会から何を預託されているかについて十分自覚していなかったためと考えられる構成員それぞれが社会から何を預託され自分が全体の中でどこにいるのかまた自分の働きが全体にどのような影響を与えるかを常に考えているような状態を作らなければならない

(5)全ては変わるのであり変化に柔軟に対応する 与条件を固定して考えると詳細にしかも形の上では立派な対応ができるしかし与条件は常に変化するものであり常に変化に応じた対応を模索し続けなければ実態に合わなくなる全ての事柄が変化すると考え細心の注意を払って観察し外部の声に謙虚に耳を傾け適切な対応を続けることが必要である

(6)危険の存在を認め危険に正対して議論できる文化を作る どのような事態が生ずるかを完全に予見することは何人にもできないにもかかわらず危険を完全に排除すべきと考えることは可能性の低い危険の存在をないことにする「安全神話」につながる危険がある危険を危険として認め危険に正対して議論できる文化を作らなければ安全というベールに覆われた大きな危険を放置することになる

(7) 自分の目で見て自分の頭で考え判断行動することが重要であることを認識しそのような能力を涵養することが重要である想定外の事故災害に対処するには自ら考えて事態に臨む姿勢と柔軟かつ能動的な思考が必要である平時からこのような資質や能力を高める組織運営を行うとともに教育や訓練を行っておくことが重要である

 この事故は自然が人間の考えに欠落があることを教えてくれたものと受け止めこの事故を永遠に忘れることなく教訓を学び続けなければならない

東京電力福島原子力発電所における事故調査検証委員会委員長 畑村洋太郎

76

国会 東京電力福島原子力発電所事故調査委員会 報告書(ダイジェスト版)

はじめに 福島原子力発電所事故は終わっていないこれは世界の原子力の歴史に残る大事故であり科学技術先進国の一つである日本で起きたことに世界中の人々は驚愕した世界が注目する中日本政府と東京電力の事故対応の模様は世界が注目する中で日本が抱えている根本的な問題を露呈することとなった想定できたはずの事故がなぜ起こったのかその根本的な原因は日本が高度経済成長を遂げたころにまで遡る政界官界財界が一体となり国策として共通の目標に向かって進む中複雑に絡まった『規制の虜(Regulatory Capture)』が生まれた そこにはほぼ 50 年にわたる一党支配と新卒一括採用年功序列終身雇用といった官と財の際立った組織構造とそれを当然と考える日本人の「思いこみ(マインドセット)」があった経済成長に伴い「自信」は次第に「おごり慢心」に変わり始めた入社や入省年次で上り詰める「単線路線のエリート」たちにとって前例を踏襲すること組織の利益を守ることは重要な使命となったこの使命は国民の命を守ることよりも優先され世界の安全に対する動向を知りながらもそれらに目を向けず安全対策は先送りされたそして日本の原発はいわば無防備のまま311 の日を迎えることとなった 311 の日広範囲に及ぶ巨大地震津波という自然災害とそれによって引き起こされた原子力災害への対応は極めて困難なものだったことは疑いもないしかもこの 50 年で初めてとなる歴史的な政権交代からわずか 18 カ月の新政権下でこの事故を迎えた当時の政府規制当局そして事業者は原子力のシビアアクシデント(過酷事故)における心の準備や各自の地位に伴う責任の重さへの理解そしてそれを果たす覚悟はあったのかこの事故が「人災」であることは明らかで歴代及び当時の政府規制当局そして事業者である東京電力による人々の命と社会を守るという責任感の欠如があった この大事故から9か月国民の代表である国会(立法府)の下に憲政史上初めて政府からも事業者からも独立したこの調査委員会が衆参両院において全会一致で議決され誕生した今回の事故原因の調査は過去の規制や事業者との構造といった問題の根幹に触れずには核心にたどりつけない私たちは委員会の活動のキーワードを「国民」「未来」「世界」としたそして委員会の使命を「国民による国民のための事故調査」「過ちから学ぶ未来に向けた提言」「世界の中の日本という視点(日本の世界への責任)」とした限られた条件の中6か月の調査活動を行った総括がこの報告書である被災された福島の皆さま特に将来を担う子どもたちの生活が一日でも早く落ち着かれることを心から祈りたいまた日本が経験したこの大事故に手を差し伸べてくださった世界中の方々私たち委員会の調査に協力支援をしてくださった方々初めての国会の事故調査委員会誕生に力を注がれた立法府の方々に深い感謝の意を表したい

東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(国会事故調)委員長 黒川 清

提言提言1 規制当局に対する国会の監視国民の健康と安全を守るために規制当局を監視する目的で国会に原子力に係る問題に関する常設の委員会等を設置する

1) この委員会は規制当局からの説明聴取や利害関係者又は学識経験者等からの意見聴取その他の調査を恒常的に行う2) この委員会は最新の知見を持って安全問題に対応できるよう事業者行政機関から独立したグ ローバルな視点を持った専門家からなる諮問機関を設ける3) この委員会は今回の事故検証で発見された多くの問題に関しその実施改善状況について継続 的な監視活動を行う(「国会による継続監視が必要な事項」として本編に添付)4) この委員会はこの事故調査報告について今後の政府による履行状況を監視し定期的に報告を求める

77

参考資料

提言2 政府の危機管理体制の見直し緊急時の政府自治体及び事業者の役割と責任を明らかにすることを含め政府の危機管理体制に関係する制度についての抜本的な見直しを行う

1) 政府の危機管理体制の抜本的な見直しを行う緊急時に対応できる執行力のある体制づくり指揮命 令系統の一本化を制度的に確立する2) 放射能の放出に伴う発電所外(オフサイト)の対応措置は住民の健康と安全を第一に政府及び自治体が中心となって政府の危機管理機能のもとに役割分担を行い実施する3) 事故時における発電所内(オンサイト)での対応(止める冷やす閉じ込める)については第一義的に事業者の責任とし政治家による場当たり的な指示介入を防ぐ仕組みとする

提言3 被災住民に対する政府の対応被災地の環境を長期的継続的にモニターしながら住民の健康と安全を守り生活基盤を回復するため政府の責任において以下の対応を早急に取る必要がある

1) 長期にわたる健康被害及び健康不安へ対応するため国の負担による外部内部被ばくの継続的検査と健康診断及び医療提供の制度を設ける情報については提供側の都合ではなく住民の健康と安全を第一に住民個々人が自ら判断できる材料となる情報開示を進める2) 森林あるいは河川を含めて広範囲に存在する放射性物質は場所によっては増加することもあり得るので住民の生活基盤を長期的に維持する視点から放射性物質の再拡散や沈殿堆積等の継続的なモニタリング及び汚染拡大防止対策を実施する3) 政府は除染場所の選別基準と作業スケジュールを示し住民が帰宅あるいは移転補償を自分で判断し選択できるように必要な政策を実施する

提言4 電気事業者の監視東電は電気事業者として経産省との密接な関係を基に電事連を介して保安院等の規制当局の意思決定過程に干渉してきた国会は提言1に示した規制機関の監視監督に加えて事業者が規制当局に不当な圧力をかけることのないように厳しく監視する必要がある

1) 政府は電気事業者との間の接触についてルールを定めそれに従った情報開示を求める2) 電気事業者間において原子力安全のための先進事例を確認しその達成に向けた不断の努力を促す相互監視体制を構築する3) 東電に対してガバナンス体制危機管理体制情報開示体制等を再構築しより高い安全目標に向けて継続した自己改革を実施するように促す4) 以上の施策の実効性を確保するため電気事業者のガバナンスの健全性安全基準安全対策の遵守状態等を監視するために立ち入り調査権を伴う監査体制を国会主導で構築する

提言5 新しい規制組織の要件規制組織は今回の事故を契機に国民の健康と安全を最優先とし常に安全の向上に向けて自ら変革を続けていく組織になるよう抜本的な転換を図る新たな規制組織は以下の要件を満たすものとする1) 高い独立性①政府内の推進組織からの独立性②事業者からの独立性③政治からの独立性を実現し監督機能を強化するための指揮命令系統責任権限及びその業務プロセスを確立する2) 透明性①各種諮問委員会等を含めて意思決定過程を開示しその過程において電気事業者等の利害関係者の関与を排除する②定期的に国会に対して全ての意思決定過程決定参加者施策実施状況等について報告する義務を課す③推進組織事業者政治との間の交渉折衝等に関しては議事録を残し原則公開する④委員の選定は第三者機関に1次定として相当数の候補者の選定を行わせた上でその中から国会同意人事として国会が最終決定するといった透明なプロセスを設定する3) 専門能力と職務への責任感①新しい規制組織の人材を世界でも通用するレベルにまで早期に育成しまたそのよ

78

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

うな人材の採用育成を実現すべく原子力規制分野でのグローバルな人材交流教育訓練を実施する②外国人有識者を含む助言組織を設置し規制当局の運営人材在り方等の必要な要件設定等に関する助言を得る③新しい組織の一員として職務への責任感を持った人材を中心とすべく「ノーリターンルール」を当初より例外なく適用する4) 一元化特に緊急時の迅速な情報共有意思決定司令塔機能の発揮に向けて組織体制の効果的な一元化を図る5) 自律性本組織には国民の健康と安全の実現のため常に最新の知見を取り入れながら組織の見直しを行い自己変革を続けることを要求し国会はその過程を監視する

提言6 原子力法規制の見直し原子力法規制については以下を含め抜本的に見直す必要がある1) 世界の最新の技術的知見等を踏まえ国民の健康と安全を第一とする一元的な法体系へと再構築する2) 安全確保のため第一義的な責任を負う事業者と原子力災害発生時にこの事業者を支援する他の事故対応を行う各当事者の役割分担を明確化する3) 原子力法規制が内外の事故の教訓世界の安全基準の動向及び最新の技術的知見等が反映されたものになるよう規制当局に対してこれを不断かつ迅速に見直していくことを義務付けその履行を監視する仕組みを構築する4) 新しいルールを既設の原子炉にも遡及適用すること(いわゆるバックフィット)を原則としそれがルール改訂の抑制といった本末転倒な事態につながらないように廃炉すべき場合と次善の策が許される場合との線引きを明確にする

提言7 独立調査委員会の活用未解明部分の事故原因の究明事故の収束に向けたプロセス被害の拡大防止本報告で今回は扱わなかった廃炉の道筋や使用済み核燃料問題等国民生活に重大な影響のあるテーマについて調査審議するために国会に原子力事業者及び行政機関から独立した民間中心の専門家からなる第三者機関として(原子力臨時調査委員会〈仮称〉)を設置するまた国会がこのような独立した調査委員会を課題別に立ち上げられる仕組みとしこれまでの発想に拘泥せず引き続き調査検討を行う

結論の要旨【認識の共有化】 平成 23(2011)年 3月 11 日に起きた東日本大震災に伴う東京電力福島原子力発電所事故は世界の歴史に残る大事故であるそしてこの報告が提出される平成 24(2012)年 6月においても依然として事故は収束しておらず被害も継続している 破損した原子炉の現状は詳しくは判明しておらず今後の地震台風などの自然災害に果たして耐えられるのか分からない今後の環境汚染をどこまで防止できるのかも明確ではない廃炉までの道のりも長く予測できない一方被害を受けた住民の生活基盤の回復は進まず健康被害への不安も解消されていない 当委員会は「事故は継続しており被災後の福島第一原子力発電所(以下「福島第一原発」という)の建物と設備の脆弱性及び被害を受けた住民への対応は急務である」と認識するまた「この事故報告が提出されることで事故が過去のものとされてしまうこと」に強い危惧を覚える日本全体そして世界に大きな影響を与え今なお続いているこの事故は今後も独立した第三者によって継続して厳しく監視検証されるべきである(提言 7に対応) 当委員会はこのような認識を共有化して以下のような調査に当たった

【事故の根源的原因】 事故の根源的な原因は東北地方太平洋沖地震が発生した平成 23(2011)年 3月 11 日(以下「311」という)以前に求められる当委員会の調査によれば311 時点において福島第一原発は地震にも津波にも耐えられる保証がない脆弱な状態であったと推定される地震津波による被災の可能性自然現象を起因とするシビアアクシデント(過酷事故)への対策大量の放射能の放出が考えられる場合の住民の安全保護など事業者である東京電力(以下「東電」という)及び規制当局である内閣府原子力安全委員会(以下「安全委員会」という)経済産業省原子力安全保安院(以下「保安院」という)また原子力推進行政当局である経済産業省(以下「経産省」という)がそれまでに当然備えておくべきこと実施すべきことをしていなかった 平成 18(2006)年に耐震基準について安全委員会が旧指針を改訂し新指針として保安院が全国の原子力事業者に対

79

参考資料

して耐震安全性評価(以下「耐震バックチェック」という)の実施を求めた 東電は最終報告の期限を平成 21(2009)年 6月と届けていたが耐震バックチェックは進められずいつしか社内では平成 28(2016)年 1月へと先送りされた東電及び保安院は新指針に適合するためには耐震補強工事が必要であることを認識していたにもかかわらず1~3号機については全く工事を実施していなかった保安院はあくまでも事業者の自主的取り組みであるとし大幅な遅れを黙認していた事故後東電は5号機については目視調査で有意な損傷はなかったとしているがそれをもって 1~3号機に地震動による損傷がなかったとは言えない 平成 18(2006)年には福島第一原発の敷地高さを超える津波が来た場合に全電源喪失に至ること土木学会評価を上回る津波が到来した場合海水ポンプが機能喪失し炉心損傷に至る危険があることは保安院と東電の間で認識が共有されていた保安院は東電が対応を先延ばししていることを承知していたが明確な指示を行わなかった 規制を導入する際に規制当局が事業者にその意向を確認していた事実も判明している安全委員会は平成 5(1993)年に全電源喪失の発生の確率が低いこと原子力プラントの全交流電源喪失に対する耐久性は十分であるとしそれ以降長時間にわたる全交流電源喪失を考慮する必要はないとの立場を取ってきたが当委員会の調査の中でこの全交流電源喪失の可能性は考えなくてもよいとの理由を事業者に作文させていたことが判明したまた当委員会の参考人質疑で安全委員会が深層防護(原子力施設の安全対策を多段的に設ける考え方IAEA〈国際原子力機関〉では 5層まで考慮されている1について日本は 5層のうちの 3層までしか対応できていないことを認識しながら黙認してきたことも判明した 規制当局はまた海外からの知見の導入に対しても消極的であったシビアアクシデント対策は地震や津波などの外部事象に起因する事故を取り上げず内部事象に起因する対策にとどまった米国では 911 以降に B5b2に示された新たな対策が講じられたがこの情報は保安院にとどめられてしまった防衛にかかわる機微情報に配慮しつつ必要な部分を電力事業者に伝え対策を要求していれば今回の事故は防げた可能性がある このように今回の事故はこれまで何回も対策を打つ機会があったにもかかわらず歴代の規制当局及び東電経営陣がそれぞれ意図的な先送り不作為あるいは自己の組織に都合の良い判断を行うことによって安全対策が取られないまま 311 を迎えたことで発生したものであった 当委員会の調査によれば東電は新たな知見に基づく規制が導入されると既設炉の稼働率に深刻な影響が生ずるほか安全性に関する過去の主張を維持できず訴訟などで不利になるといった恐れを抱いておりそれを回避したいという動機から安全対策の規制化に強く反対し電気事業連合会(以下「電事連」という)を介して規制当局に働きかけていた このような事業者側の姿勢に対し本来国民の安全を守る立場から毅然とした対応をすべき規制当局も専門性において事業者に劣後していたこと過去に自ら安全と認めた原子力発電所に対する訴訟リスクを回避することを重視したことまた保安院が原子力推進官庁である経産省の組織の一部であったこと等から安全について積極的に制度化していくことに否定的であった 事業者が規制当局を骨抜きにすることに成功する中で「原発はもともと安全が確保されている」という大前提が共有され既設炉の安全性過去の規制の正当性を否定するような意見や知見それを反映した規制指針の施行が回避緩和先送りされるように落としどころを探り合っていた これを構造的に見れば以下のように整理できる本来原子力安全規制の対象となるべきであった東電は市場原理が働かない中で情報の優位性を武器に電事連等を通じて歴代の規制当局に規制の先送りあるいは基準の軟化等に向け強く圧力をかけてきたこの圧力の源泉は電力事業の監督官庁でもある原子力政策推進の経産省との密接な関係であり経産省の一部である保安院との関係はその大きな枠組みの中で位置付けられていた規制当局は事業者への情報の偏在自身の組織優先の姿勢等から事業者の主張する「既設炉の稼働の維持」「訴訟対応で求められる無謬性」を後押しすることになったこのように歴代の規制当局と東電との関係においては規制する立場とされる立場の「逆転関係」が起き規制当局は電力事業者の「虜(とりこ)」となっていたその結果原子力安全についての監視監督機能が崩壊していたと見ることができる3 当委員会は本事故の根源的原因は歴代の規制当局と東電との関係について「規制する立場とされる立場が『逆転関係』となることによる原子力安全についての監視監督機能の崩壊が起きた点に求められる」と認識する何度も事前に対策

1 IAEAの深層防護(Defence in Depth)2 平成 13(2001)年 9月 11 日の同時多発テロの後平成 14(2002)年 2月にNRC(米国原子力規制委員会)が策定したテロ対策全電源喪失を想定した機材の備えと訓練を米国の全原子力発電所に義務付けている3 これは規制当局が事業者の「虜(とりこ)」となって被規制産業である事業者の利益最大化に傾注するといういわゆる「規制の虜(Regulatory Capture)」によっても説明できるものである

80

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

を立てるチャンスがあったことに鑑みれば今回の事故は「自然災害」ではなくあきらかに「人災」である(提言1に対応)

【事故の直接的原因】 本事故の直接的原因は地震及び地震に誘発された津波という自然現象であるが事故が実際にどのように進展していったかに関しては重要な点において解明されていないことが多いその大きな理由の一つは本事故の推移と直接関係する重要な機器配管類のほとんどがこの先何年も実際に立ち入ってつぶさに調査検証することのできない原子炉建屋及び原子炉格納容器内部にあるためである しかし東電は事故の主因を早々に津波とし「確認できた範囲においては」というただし書きはあるものの「安全上重要な機器は地震で損傷を受けたものはほとんど認められない」と中間報告書に明記しまた政府も IAEAに提出した事故報告書に同趣旨のことを記した 直接的原因を実証なしに津波に狭く限定しようとする背景は不明だが本編第 1部で述べるように既設炉への影響を最小化しようという考えが東電の経営を支配してきたのであってここでもまた同じ動機が存在しているようにも見えるあるいは東電の中間報告にあるように「想定外」とすることで責任を回避するための方便のようにも聞こえるが当委員会の調査では地震のリスクと同様に津波のリスクも東電及び規制当局関係者によって事前に認識されていたことが検証されており言い訳の余地はない 事故の主因を津波のみに限定すべきでない理由としてスクラム(原子炉緊急停止)後に最大の揺れが到達したこと小規模の LOCA(小さな配管破断などの小破口冷却材喪失事故)の可能性は独立行政法人原子力安全基盤機構(JNES)の解析結果も示唆していること1号機の運転員が配管からの冷却材の漏れを気にしていたことそして 1号機の主蒸気逃がし安全弁(SR弁)は作動しなかった可能性を否定できないことなどが挙げられ特に 1号機の地震による損傷の可能性は否定できないまた外部送電系が地震に対して多様性独立性が確保されていなかったことまたかねてから指摘のあった東電新福島変電所の耐震性不足などが外部電源喪失の一因となった 当委員会は事故の直接的原因について「安全上重要な機器の地震による損傷はないとは確定的には言えない」特に「1号機においては小規模の LOCAが起きた可能性を否定できない」との結論に達したしかし未解明な部分が残っておりこれについて引き続き第三者による検証が行われることを期待する(提言 7に対応)

【運転上の問題の評価】 発電所の現場の運転上の問題についてはいくつか特記すべきことはあるがむしろ今回のようにシビアアクシデント対策がない場合全電源喪失状態に陥った際に現場で打てる手は極めて限られるということが検証された1号機の非常用復水器(IC)の操作及びその後の確認作業の是非については全交流電源喪失(SBO)直後からの系統確認としかるべき運転操作に迅速に対応できなかったしかし ICの操作に関してはマニュアルもなくまた運転員は十分訓練されていなかったさらに本事故においてはおそらく早期のうちに ICの蒸気管に非凝縮性の水素ガスが充満しそのために自然循環が阻害されICが機能喪失していたと当委員会は推測しているこうした事情を考慮すれば単純に事故当時の運転員の判断や操作の非を問うことはできない 東電の経営陣が耐震工事の遅れ及び津波対策の先送りの事実を把握し福島第一原発の脆弱性を認識していたと考えられることから被災時の現場の状態はある程度事前にも想像できたはずである少なくとも発電所の脆弱性を補うためにもシビアアクシデント時に現場で対応する準備を行わせるのは経営として必要なことであった東電の本店及び発電所の幹部もこのような状況下で少なくとも緊急時の現場の対応について準備をすることが必要であった以上を考えればこれは運転員作業員個人の問題に帰するのではなく東電の組織的問題として考えるべき事柄である ベントライン構成についても電源が喪失し放射線量の高い中でのライン構成作業自体が困難でありかつ時間がかかるものであったシビアアクシデント手順書の中の図面も不備であったことが判明しており見づらい図面を時間に追われつつ懐中電灯で解明する作業を強いられた官邸はベントに時間がかかることから東電への不信が高まったとしているが実際の作業は困難を極めるものであった 多重防護が一気に破られ同時に 4基の原子炉の電源が喪失するという中で2号機の原子炉隔離時冷却系(RCIC)が長時間稼働したこと2号機のブローアウトパネルが脱落したこと協力会社の決死のがれき処理が思った以上に進んだことなど偶然というべき状況がなければ23号機はさらに厳しい状況に陥ったとも考えられるシビアアクシデント対策がない状態で直流電源も含めた全電源喪失状況を作り出してしまったことで既にその後の結果は避けられなかったと判断した 当委員会は「過酷事故に対する十分な準備レベルの高い知識と訓練機材の点検がなされまた緊急性について運転

81

参考資料

員作業員に対する時間的要件の具体的な指示ができる準備があればより効果的な事後対応ができた可能性は否定できないすなわち東電の組織的な問題である」と認識する(提言 4に対応)

【緊急時対応の問題】 いったん事故が発災した後の緊急時対応について官邸規制当局東電経営陣にはその準備も心構えもなくその結果被害拡大を防ぐことはできなかった保安院は原子力災害対策本部の事務局としての役割を果たすことが期待されたが過去の事故の規模を超える災害への備えはなく本来の機能を果たすことはできなかった官邸は発災直後の最も重要な時間帯に緊急事態宣言を速やかに出すことができなかった本来官邸は現地対策本部を通じて事業者とコンタクトをすべきとされていたしかし官邸は東電の本店及び現場に直接的な指示を出しそのことによって現場の指揮命令系統が混乱したさらに15 日に東電本店内に設置された統合対策本部も法的な根拠はなかった 1号機のベントの必要性については官邸規制当局あるいは東電とも一致していたが官邸はベントがいつまでも実施されないことから東電に疑念不信を持った東電は平時の連絡先である保安院にはベントの作業中である旨を伝えていたがそれが経産省のトップそして官邸に伝えられていたという事実は認められない保安院の機能不全東電本店の情報不足は結果として官邸と東電の間の不信を募らせその後総理が発電所の現場に直接乗り込み指示を行う事態になったその後も続いた官邸による発電所の現場への直接的な介入は現場対応の重要な時間を無駄にするというだけでなく指揮命令系統の混乱を拡大する結果となった 東電本店は的確な情報を官邸に伝えるとともに発電所の現場の技術的支援という重要な役割を果たすべきであったが官邸の顔色をうかがいながらむしろ官邸の意向を現場に伝える役割だけの状態に陥った3月 14 日2号機の状況が厳しくなる中で東電が全員撤退を考えているのではないかという点について東電と官邸の間で認識のギャップが拡大したがこの根源には両者の相互不信が広がる中で東電の清水社長が官邸の意向を探るかのような曖昧な連絡に終始した点があったと考えられるただし①発電所の現場は全面退避を一切考えていなかったこと②東電本店においても退避基準の検討は進められていたが全面退避が決定された形跡はなく清水社長が官邸に呼ばれる前に確定した退避計画も緊急対応メンバーを残して退避するといった内容であったこと③当時清水社長から連絡を受けた保安院長は全面退避の相談とは受け止めなかったこと④テレビ会議システムでつながっていたオフサイトセンターにおいても全面退避が議論されているという認識がなかったこと等から判断して総理によって東電の全員撤退が阻止されたと理解することはできない 重要なのは時の総理の個人の能力判断に依存するのではなく国民の安全を守ることのできる危機管理の仕組みを構築することである 当委員会は事故の進展を止められなかったあるいは被害を最小化できなかった最大の原因は「官邸及び規制当局を含めた危機管理体制が機能しなかったこと」そして「緊急時対応において事業者の責任政府の責任の境界が曖昧であったこと」にあると結論付けた(提言 2に対応)

【被害拡大の要因】 事故発災当時政府から自治体に対する連絡が遅れたばかりではなくその深刻さも伝えられなかった同じように避難を余儀なくされた地域でも原子力発電所からの距離によって事故情報の伝達速度に大きな差が生じた立地町でさえ3km圏避難の出た 21 時 23 分には事故情報は住民の 20程度しか伝わっていない10km圏内の住民の多くは 15 条報告から 12 時間以上たった 3月 12 日の朝 5時 44 分の避難指示の時点で事故情報を知ったしかしその際に事故の進展あるいは避難に役立つ情報は伝えられなかった着の身着のままの避難多数回の避難移動あるいは線量の高い地域への移動が続出したその後の長期にわたる屋内避難指示及び自主避難指示での混乱モニタリング情報が示されないために線量の高い地域に避難した住民の被ばく影響がないと言われて 4月まで避難指示が出されず放置された地域など避難施策は混乱した当委員会は事故前の原子力防災体制の整備の遅れ複合災害対策の遅れとともに既存の防災体制の改善に消極的であった歴代の規制当局の問題点も確認している 当委員会は避難指示が住民に的確に伝わらなかった点について「これまでの規制当局の原子力防災対策への怠慢と当時の官邸規制当局の危機管理意識の低さが今回の住民避難の混乱の根底にあり住民の健康と安全に関して責任を持つべき官邸及び規制当局の危機管理体制は機能しなかった」と結論付けた(提言 2に対応)

【住民の被害状況】 本事故により合計約 15 万人が避難区域から避難した本事故の収束作業に従事した中で100mSv(シーベルト)を超え

82

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

る線量を被ばくした作業員は 167 人とされている福島県内の 1800km2 もの広大な土地が年間 5mSv 以上の積算線量をもたらす土地となってしまったと推定される被害を受けた広範囲かつ多くの住民は不必要な被ばくを経験したまた避難のための移動が原因と思われる死亡者も発生したしかも住民は事故から 1年以上たっても先が見えない状態に置かれている政府はこのような被災地域の住民の状況を十分把握した上で避難区域の再編生活基盤の回復除染医療福祉の再整備など住民の長期的な生活改善策を系統的継続的に打ち出していくべきであるが縦割り省庁別の通常業務的施策しかなく住民の目から見るといまだに整合性のある統合的な施策が政府から打ち出されていない 我々が実施したタウンミーティングや 1万人を超す住民アンケートにはいまだに進まない政府の対応に厳しい声が多数寄せられている 放射線の急性障害はしきい値があるとされているが低線量被ばくによる晩発障害はしきい値がなくリスクは線量に比例して増えることが国際的に合意されている 年齢個人の放射線感受性放射線量によってその影響は変わるまた未解明の部分も残る一方政府は一方的に線量の数字を基準として出すのみでどの程度が長期的な健康という観点からして大丈夫なのか人によって影響はどう違うのか今後どのように自己管理をしていかなければならないのかといった判断をするために住民が必要とする情報を示していない政府は住民全体一律ではなく乳幼児から若年層妊婦放射線感受性の強い人など住民個々人が自分の行動判断に役立つレベルまで理解を深めてもらう努力をしていない 当委員会は「被災地の住民にとって事故の状況は続いている放射線被ばくによる健康問題家族生活基盤の崩壊そして広大な土地の環境汚染問題は深刻であるいまだに被災者住民の避難生活は続き必要な除染あるいは復興の道筋も見えていない当委員会には多数の住民の方々からの悲痛な声が届けられている先の見えない避難所生活など現在も多くの人が心身ともに苦難の生活を強いられている」と認識するまたその理由として「政府規制当局の住民の健康と安全を守る意思の欠如と健康を守る対策の遅れ被害を受けた住民の生活基盤回復の対応の遅れさらには受け手の視点を考えない情報公表にある」と結論付けた(提言 3に対応)

【問題解決に向けて】 本事故の根源的原因は「人災」であるがこの「人災」を特定個人の過ちとして処理してしまう限り問題の本質の解決策とはならず失った国民の信頼回復は実現できないこれらの背後にあるのは自らの行動を正当化し責任回避を最優先に記録を残さない不透明な組織制度さらにはそれらを許容する法的な枠組みであったまた関係者に共通していたのはおよそ原子力を扱う者に許されない無知と慢心であり世界の潮流を無視し国民の安全を最優先とせず組織の利益を最優先とする組織依存のマインドセット(思い込み常識)であった 当委員会は事故原因を個々人の資質能力の問題に帰結させるのではなく規制される側とする側の「逆転関係」を形成した真因である「組織的制度的問題」がこのような「人災」を引き起こしたと考えるこの根本原因の解決なくして単に人を入れ替えあるいは組織の名称を変えるだけでは再発防止は不可能である(提言 45及び 6に対応)

【事業者】 東電はエネルギー政策や原子力規制に強い影響力を行使しながらも自らは矢面に立たず役所に責任を転嫁する経営を続けてきたそのため東電のガバナンスは自律性と責任感が希薄で官僚的であったがその一方で原子力技術に関する情報の格差を武器に電事連等を介して規制を骨抜きにする試みを続けてきた その背景には東電のリスクマネジメントのゆがみを指摘することができる東電はシビアアクシデントによって周辺住民の健康等に被害を与えること自体をリスクとして捉えるのではなくシビアアクシデント対策を立てるに当たって既設炉を停止したり訴訟上不利になったりすることを経営上のリスクとして捉えていた 東電は現場の技術者の意向よりも官邸の意向を優先したり退避に関する相談に際しても官邸の意向を探るかのような曖昧な態度に終始したりしたその意味で東電は官邸の過剰介入や全面撤退との誤解を責めることが許される立場にはなくむしろそうした混乱を招いた張本人であった 本事故発生後における東電の情報開示は必ずしも十分であったとはいえない確定した事実確認された事実のみを開示し不確実な情報のうち特に不都合な情報は開示しないといった姿勢がみられた特に 2号機の事故情報の開示に問題があったほか計画停電の基礎となる電力供給の見通しについても情報開示に遅れがみられた 当委員会は「規制された以上の安全対策を行わず常により高い安全を目指す姿勢に欠けまた緊急時に発電所の事故対応の支援ができない現場軽視の東京電力経営陣の姿勢は原子力を扱う事業者としての資格があるのか」との疑問を呈した(提言 4に対応)

83

参考資料

【規制当局】 規制当局は原子力の安全に対する監視監督機能を果たせなかった専門性の欠如等の理由から規制当局が事業者の虜(とりこ)となり規制の先送りや事業者の自主対応を許すことで事業者の利益を図り同時に自らは直接的責任を回避してきた規制当局の推進官庁事業者からの独立性は形骸化しておりその能力においても専門性においてもまた安全への徹底的なこだわりという点においても国民の安全を守るには程遠いレベルだった

 当委員会では「規制当局は組織の形態あるいは位置付けを変えるだけではなくその実態の抜本的な転換を行わない限り国民の安全は守られない国際的な安全基準に背を向ける内向きの態度を改め国際社会から信頼される規制機関への脱皮が必要であるまた今回の事故を契機に変化に対応し継続的に自己改革を続けていく姿勢が必要である」と結論付けた(提言 5に対応)

【法規制】 日本の原子力法規制はその改定において実際に発生した事故のみを踏まえた対症療法的パッチワーク的対応が重ねられ諸外国における事故や安全への取り組み等を真摯に受け止めて法規制を見直す姿勢にも欠けていたその結果予測可能なリスクであっても過去に顕在化していなければ対策が講じられず常に想定外のリスクにさらされることとなった また原子力法規制は原子力利用の促進が第一義的な目的とされ国民の生命身体の安全が第一とはされてこなかったさらに原子力法規制全体を通じての事業者の第一義的責任が明確にされておらず原子力災害発生時については第一義的責任を負う事業者に対し他の事故対応を行う各当事者がどのような活動を行ってこれを支援すべきかについての役割分担が不明確であった加えて諸外国で取り入れられている深層防護の考え方についても法規制の検討に際し十分に考慮されてこなかった 当委員会では「原子力法規制はその目的法体系を含めた法規制全般について抜本的に見直す必要があるかかる見直しに当たっては世界の最新の技術的知見等を反映しこの反映を担保するための仕組みを構築するべきである」と結論付けた(提言 6に対応) 以上のことを認識し教訓とした上で当委員会としては未来志向の立場に立って以下の 7つの提言を行う今後国会において十分な議論をいただきたいなおこの 7つの提言とは別に今後国会による継続監視が必要な事項を本編付録として添付した

提言の実現に向けて ここに示した 7つの提言は当委員会が国会から付託された使命を受けて調査作成した本報告書の最も基本的で重要なことを反映したものであるしたがって当委員会は国会に対してこの提言の実現に向けた実施計画を速やかに策定しその進捗の状況を国民に公表することを期待する この提言の実現に向けた第一歩を踏み出すことはこの事故によって日本が失った世界からの信用を取り戻し国家に対する国民の信頼を回復するための必要条件であると確信する 事故が起こってから 16 カ月が経過したこの間この事故について数多くの内外の報告書調査の記録著作等が作成されたそのいくつかには我々が意を強くする結論や提案がなされているしかしわが国の原子力安全の現実を目の当たりにした我々の視点からは根本的な問題の解決には不十分であると言わざるを得ない 原子力を扱う先進国は原子力の安全確保は第一に国民の安全にあるとし福島原子力発電所事故後はさらなる安全水準の向上に向けた取り組みが行われている一方わが国では従来もそして今回のような大事故を経ても対症療法的な対策が行われているにすぎないこのような小手先の対策を集積しても今回のような事故の根本的な問題は解決しない この事故から学び事故対策を徹底すると同時に日本の原子力対策を国民の安全を第一に考えるものに根本的に変革していくことが必要である ここにある提言を一歩一歩着実に実行し不断の改革の努力を尽くすことこそが国民から未来を託された国会議員国権の最高機関たる国会及び国民一人一人の使命であると当委員会は確信する 福島原発事故はまだ終わっていない被災された方々の将来もまだまだ見えない国民の目から見た新しい安全対策が今強く求められているこれはこの委員会の委員一同の一致した強い願いである

84

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

委員会について 当委員会の根拠法令である「東京電力福島原子力発電所事故調査委員会法(以下「委員会法」4という)」は平成 23 (2011)年 10 月 30 日に施行され委員長及び委員の 10 名は国会の承認を得て同年 12 月 8 日両議院の議長より任命された【委員長】黒川 清(政策研究大学院大学アカデミックフェロー元日本学術会議会長)【委員】石橋 克彦(理学博士地震学者神戸大学名誉教授)大島 賢三(独立行政法人国際協力機構顧問元国際連合大使)崎山 比早子(医学博士元放射線医学総合研究所主任研究官)櫻井 正史(弁護士元名古屋高等検察庁検事長元防衛省防衛監察監)田中 耕一(分析化学者株式会社島津製作所フェロー)田中 三彦(科学ジャーナリスト)野村 修也(中央大学法科大学院教授弁護士)蜂須賀 禮子(福島県大熊町商工会会長)横山 禎徳(社会システムデザイナー東京大学エグゼクティブマネジメントプログラム企画推進責任者)【調査の概要】ヒアリング 延べ 1167 人(900 時間超)原発視察(福島第一および第二女川東海) 9 回タウンミーティング 3 回(合計 400 人超)被災住民アンケート回答者数 住民 10633 人 (自由回答コメント 8066 人)作業従業員アンケート回答者数 2415 人東電規制官庁および関係者に対する資料請求 2000 件以上

【委員会の情報公開】委員会開催 19 回(動画中継合計 約 60 時間)すべての委員会を動画配信(合計視聴者数 約 80 万人) Facebookツイッターのソーシャルメディア活用 (17 万件以上の書き込み)東京電力福島原子力発電所事故から 16 カ月がたち既にその間に政府や東京電力のみならず数多くの検証の試みがなされ報告著書マスメディアなどの多様な媒体で公表されている国内ばかりでなく国際機関からもまた海外からも発信されているそれらに記述されていることとこの委員会報告に記載されていることは重複している部分も多くあるだろうしかし当委員会が参考人のヒアリングを世界に対して公開して行った意味はそれを見た一人一人がそれまでのメディアを通じた情報と比較しながらより立体的にまた客観的に事故の原因を把握し今後何をなすべきか判断できる材料を提供するということにあると考えるそこにこそ公開の意味があるのでありそのような認識でこの委

4 「東京電力福島原子力発電所事故調査委員会法」

85

参考資料

員会は活動を行い報告書を作成した

【当委員会で扱わなかった事項】 設置に際し委員会法 10 条各号により我々に課せられた課題解決を最優先とするため以下の点については今回の調査の対象外とした1) 日本の今後のエネルギー政策に関する事項(原子力発電の推進あるいは廃止も含めて)2) 使用済み核燃料処理処分等に関する事項3) 原子炉の実地検証を必要とする事項で当面線量が高くて実施ができない施設の検証に関する事項4) 個々の賠償除染などの事故処理費用に関する事項5) 事故処理費用の負担が事業者の支払い能力を超える場合の責任の所在に関する事項6) 原子力発電所事業に対する投資家株式市場の事故防止につながるガバナンス機能に関する事項7) 個々の原子力発電所の再稼働に関する事項8) 政策制度について通常行政府が行うべき具体的な設計に関する事項9) 事故後の原子炉の状況の把握及び廃炉のプロセスに関する事項発電所周辺地域の再生に関する事項10) その他委員の合意によって範囲外と決めた事項等 当委員会の根拠法令である「東京電力福島原子力発電所事故調査委員会法(以下「委員会法」4という)」は平成 23(2011)年 10 月 30 日に施行され委員長及び委員の 10 名は国会の承認を得て同年 12 月 8 日両議院の議長より任命されたhttpnaiicgojp本編要約をホームページで公開(日英)<お問い合わせ先>東京電力福島原子力発電所事故調査委員会事務局 e-mailpressnaiicjp

Page 3: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の

9

第1章

第1章東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故で明らかになった課題2

 本章では第2章以降で取り上げるエネルギー政策のゼロベースの見直しに先立ち東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故によって生じた被害の状況と明らかになった課題を概観します

第1節 電力

1被害の状況

 2011年 3月 11日東北地方太平洋沖地震とそれが引き起こした津波により東京電力福島第一原子力発電所において未曾有の大規模かつ長期にわたる原子力事故が発生しました東京電力福島第一原子力発電所からは大量の放射性物質が放出され住民が避難生活を余儀なくされていますまた原子力発電所の停止火力発電所の被災等により東京電力及び東北電力管内を中心に広範囲にわたり停電が発生しました

2講じた措置(対応)と明らかになった課題

 原子力施設の安全確保に向けた措置として事故の収束に向けた取組(原子力災害対策本部の設置等)全国の原子力施設の安全性安心を高める取組(緊急安全対策原子力発電所の停止要請等)を行いましたまた事故原因の究明として東京電力福島原子力発電所における事故調査検証委員会の設置IAEA報告書の提出等を行いました原子力被災者への対応としては原子力被災者生活支援チームの設置原子力損害賠償支援機構の設立等を行いました 東京電力福島第一原子力発電所の事故や火力発電所の停止等は東日本の電力供給力を一挙に大きく低下させましたが東日本(50Hz帯)の電力不足に対して西日本(60Hz帯)からの余剰電力の融通を十分に行う事等ができなかったため2011年 3月 14日以降東

京電力管内で計10日間計画停電の実施に至りました(第111-2-1) 2011年度夏期冬期の電力需給対策については電力需給緊急対策本部(2011年5月16日電力需給に関する検討会合に改組)において議論が積み重ねられました夏期の電力需給対策については供給力の追加措置を講じる一方東京電力及び東北電力管内においてはピーク期間時間帯3の使用最大電力について15の抑制(節電)を要請し特に大口需要家4については電気事業法第27条に基づく使用制限を実施する等の対応を行いましたまた関西電力管内においては全体として10以上の節電の要請を行い中西日本のその他の電力管内(中部電力北陸電力中国電力四国電力九州電力の各管内)においては国民生活や経済活動に支障を生じない範囲での節電に取り組みました冬期の電力需給対策については供給力の向上等の対策を行うとともにピーク電力不足による停電等を回避するため全国(沖縄を除く)の需要家の皆様に2011年12月1日から2012年3月30日までの

2 東日本大震災による電力都市ガス石油LPGの被害状況対応明らかになった課題については2011 年 7 月末頃までの経緯について「平成 22 年度エネルギーに関する年次報告」においても記載しています3 各電力会社管内において節電を要請する期間時間帯です4 東京電力及び東北電力並びにその供給区域内で供給している特定規模電気事業者と直接需給契約を締結している需要家です

5500

5000

4500

4000

3500

3000

2500

(万 kW) (回)8

7

6

5

4

3

2

1

0311 13 15 17 19 21 23 25 27 29 31

1

5 5

7

5

4

2

1 1 1

計画停電の延べ回数

供給能力の推移

需要予測の推移

震災と原発事故

第111-2-1 東京電力管内における計画停電の実施回数

10

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第1章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故で明らかになった課題

第1章

間節電を要請し特に需給の厳しい関西電力九州電力管内においては一定の期間中数値目標を設定5

して節電を要請しました このように東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所の事故は原子力の安全性確保周波数変換所や連系線の容量不足電力需給逼迫の産業への影響回避等の課題を明らかにしました

第2節 都市ガス

1被害の状況

 都市ガス事業等においては震災による津波や液状化等によりガスの製造設備や供給設備(導管等)が破損しました供給設備の被害は過去の震災においてもありましたが今回の東日本大震災では津波により一部の製造設備が機能停止にまで陥りました特に沿岸部にあった仙台市ガス局のLNG基地(LNGタンカーから受け入れたLNGを貯蔵気化させて都市ガスとして供給する施設)は津波で被災し主要な電気設備が冠水するとともに護岸の一部が流される等の甚大な被害が生じました今回の大震災において我が国は大規模な需要をまかなうLNG基地の機能停止を初めて経験しました

2講じた措置(対応)と明らかになった課題

 全国の都市ガス事業者による復旧応援移動式ガス発生設備による臨時供給を行ったほか復旧に1年近い期間を要することが見込まれていた仙台市ガス局のLNG基地に代わり新潟-仙台間を結ぶ広域天然ガスパイプラインによる代替供給(第112-2-1)を行い供給再開作業が可能となった結果大震災から1カ月強で復旧を完了しました 現状の我が国の天然ガスパイプラインネットワークを見ますと都市ガスの需要地ごとに分断されており新潟-仙台間のような広域的な天然ガスパイプラインが存在する地域は極めてまれであると言えますその意味において今回の震災によって仮に単独のLNG基地に供給を依存する地域において製造設備が被災し機能停止に陥った場合たとえ復旧応援があった

としても都市ガスの供給そのものが停止するため長期間に渡りガス供給が途絶するリスクがあることが顕在化しました

第3節 石油LPG

1被害の状況

 震災により臨海部を中心に港湾や道路が大きな被害を受けました東北地方で唯一の製油所であるJX日鉱日石エネルギー株式会社仙台製油所をはじめ東北関東地方にある9製油所のうち6製油所が被災しましたまた主要供給拠点である塩釜油槽所の受入港湾にタンカーが着桟できない状況となるとともにタンクローリーが多数被災する等被災地における石油製品の安定供給に支障を来しました またLPガス供給基地は東北各県及び茨城県の9基地中7基地が被災し充塡所は被災3県(岩手宮城福島)の160カ所中28カ所が使用不可能になりました 石油製品(ガソリン灯油軽油等)の流通網についてはタンクローリーが津波により多数被災したことに加え道路鉄道事情が大幅に悪化し交通網が分断状況となったこと等により油槽所からサービスス

5  関西電力管内2011 年 12 月 19 日~2012 年 3 月 23 日までの間「10以上」(ただし生産活動等に配慮) 九州電力管内2011 年 12 月 26 日~2012 年 2 月 3 日までの間「5以上」(ただし生産活動等に配慮)

仙台市ガス局LNG基地(被災)

LNG基地

ガス事業者

幹線パイプライン

第112-2-1 新潟 - 仙台間の天然ガスパイプライン

11

第3節 石油LPG

第1章

テーション(SS)へのガソリン等の安定的な輸送が困難な状況となりましたまた津波の影響でサービスステーション(SS)についても給油設備が被害を受けたこと等により岩手や宮城の一部地域において全てのサービスステーション(SS)が営業不能になった市町村もありました

2講じた措置(対応)と明らかになった課題

(1)震災において講じた対応①被災地からの個別燃料供給要請への対応 震災発生直後より医療機関や警察消防を始め各方面から差し迫った石油製品供給の要請がありました政府は石油連盟全国石油業共済協同組合連合会石油元売各社と協力して対応体制を構築し24時間態勢でこれらの要請に対応するとともにLPガスについても他地域からの輸送体制を強化6する等して被災地への供給確保を行うと共に軒下在庫7の活用及び仮設住宅への供給等8を行いました

② 包括的な供給プランの策定(東北地方(被災地)及び関東圏でのガソリン軽油等の供給確保) 今次震災においては津波等によるタンクローリーの被災や東北関東地方にある製油所の被災による国内の石油精製能力の低下によって被災地等における石油製品の安定供給に支障を来しました 石油元売各社は経済産業大臣からの被災地へのタンクローリーの追加投入や製油所稼働率の引き上げについての要請に基づき約300台のタンクローリーの追加投入や西日本における石油製品の増産を実施しましたその増産分についてはタンカー等により被災地へ大量転送しました 津波等により被災し出荷困難な状況に陥った太平洋側の油槽所については石油元売各社による設備の復旧関係機関協力下での近海海域の掃海周辺道路の回復による油槽所機能の早期回復が図られました また比較的被害の小さかった油槽所を複数の石油会社間で共同利用する等の柔軟な対応により被災地

への石油供給を行いました これらの対応に加え消防警察等の緊急車両への燃料供給を優先するよう石油販売業界に要請するとともに緊急車両に対して確実に燃料供給を行うために東北圏で合計385カ所関東圏で合計348カ所のサービスステーション(SS)を緊急重点サービスステーションとして認定しました また福島原子力発電所周辺地域においては住民の方々の自主避難を円滑に進めるため関係団体に対して重点的な燃料供給を行う旨の要請も行いました なお上記以外の対応としてタンク貨車による鉄道輸送やドラム缶のトラック等による被災地への石油製品の大量輸送石油備蓄法に基づく民間備蓄義務の引き下げ及び国家備蓄LPガスの放出(交換)等9を行い東北地方(被災地)及び関東圏における石油製品の供給確保に取り組みました

③エネルギー供給施設の復旧等の支援 今回の震災では津波により給油設備が被害を受け多くのサービスステーション(SS)が営業不能に陥りました被災地域における石油製品の供給体制を早期に回復させるため被害を受けた給油設備の補修や安全点検を行う等のサービスステーション早期復旧支援に取り組みつつサービスステーションの復旧が完了するまでの間についても移動式給油機やタンクコンテナを設置する等して簡易サービスステーションによる仮営業の支援も行いました また震災により経営が悪化した被災地域のサービスステーション(SS)の資金繰りに関しても全国石油協会が金融機関からの資金調達を行う際の保証人になり借入債務の保証を行うことで対応しました 更に津波等による損壊により通常の信用取引が困難になった被災地域のサービスステーション(SS)についても売掛債権の未回収リスクを国が負担することで石油製品の安定供給の支援を行いました LPガスについては中小企業が所有する10カ所程度の充填所や震災前に東北地方の半分以上のLPガス

6 LPガス輸入業者からなる日本 LPガス協会においてあらかじめ定めていた相互支援協定を発動し東北関東の他の基地等から代替供給を速やかに実施しました7 通常LPガスの供給先には LPガス容器が複数本設置され軒下在庫とも言われています復旧については個別の対応となるため早期の供給再開が可能です8 ほぼ全ての仮設住宅約 53000 軒に対して供給されています9 LPガス元売業者からの国家備蓄 LPガスの放出要請を受け「石油の備蓄の確保等に関する法律」に基づき隣接する神栖国家備蓄基地の備蓄 LPガスを 4万トン放出(交換)しました

12

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第1章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故で明らかになった課題

第1章

供給を担っていた仙台ガスターミナルに対し設備復旧の支援を行いましたまたLPガス輸入業者からなる日本LPガス協会においてあらかじめ定めていた相互支援協定を発動し上記国家備蓄の放出や東北関東の他の基地等からローリーによる代替供給を速やかに実施した結果東北地方におけるLPガスの安定供給を確保することが出来ました

10 東北地方(被災地)及び関東圏でのガソリン軽油等の供給確保 - 緊急の供給確保措置と拡大輸送ルートの設定(2011 年 3 月 17 日公表)より作成しています

(2)明らかになった課題 今回の震災での経験を踏まえ石油基地LPガス出荷基地充填所等の災害対応能力や物流機能の強化情報収集情報提供体制の強化等災害時にも確実に石油製品を供給できる体制の整備が課題として明らかになりました

稼働率アップによる追加増産分等を東北地方に転送(約2万 kℓ日)

輸出抑制需要抑制

西日本の製油所の稼働率95以上へ

ローリーの大量投入鉄道による輸送ルートの確保

拠点SSの整備

関東圏への安定供給

西日本の製油所における製品在庫の取り崩しと関東への転送(3日以内に5万kℓ)

関東圏の製油所にお ける製品在庫の取り 崩し(約3万kℓ)事業者間連携による 円滑な供給体制

東北地方への重要供給拠点タンク貯蔵量25kℓ出荷能力約5000kℓ日全油種合計の能力

(注) 1万 kℓ日=約63 万バレル日

(参考)宮城県の1日あたりの燃料油販売量は約1万kℓ日東北全体では38万kℓ日

JX大分製油所

太陽四国事業所

コスモ坂出製油所東燃ゼネラル

和歌山工場

コスモ四日市製油所昭シェル四日市製油所

出光愛知製油所昭シェル山口製油所

出光徳山製油所

JX麻里布製油所JX水島製油所 コスモ堺製油所東燃ゼネラル堺工場

新潟油槽所仙台

塩竈油槽所の機能回復

酒日油槽所気仙沼油槽所times

秋田油槽所 八戸油槽所times青森油槽所

室蘭製油所 苫小牧製油所

第113-2-1  東北地方(被災地)及び関東圏でのガソリン軽油等の供給確保の為の包括プラン10

13

第2章

 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故により我が国のエネルギーに関して様々な課題が明らかになり我が国はエネルギー政策のゼロベースの見直しを行ってきました11また同時に我が国はエネルギーに関して生じた課題について様々な対応を図ってきました本章では震災後から2012年 7月下旬頃までの電力省エネルギー新エネルギーに関して講じた施策について取り上げます12

第1節 電力需給対策

12011年度夏期の需給対策と結果

 震災後直ちに立ち上がった官房長官を本部長とする「電力需給緊急対策本部」において夏期の電力需給対策等について議論が積み重ねられ第5回電力需給緊急対策本部(2011年 5月 13日)13において「夏期の電力需給対策」が取りまとめられ対策が講じられました

(1)供給面の対策 主な供給面の対策として震災により失われた供給力を補うために東京電力及び東北電力が行う発電設備の設置事業について環境影響評価法の適用除外となることを確認したほか電気事業法に基づく火力発電施設の定期検査実施時期について最大1年間の延長を認める運用を実施することとしましたまた経済産業省から自家発設置事業者に対し売電要請設備導入や燃料費の補助等を措置することとしました

(2)節電要請 余震等による火力の復旧の遅れ再被災等のリスクを踏まえて供給力と需要が一致するギリギリのライ

ンではなく一定の余裕を持ったものとすることが適当であるという観点で行われました 東京電力及び東北電力管内においてはピーク期間時間帯の使用最大電力について15の抑制(節電)を要請し特に大口需要家については電気事業法第27条に基づく使用制限を実施する等の対応を行いました電気の使用制限期間は東京電力管内は2011年 7月 1日~9月22日の9時~20時(平日のみ)東北電力管内は同年7月1日~9月9日の9時~20時(平日のみ)とされました また関西電力管内においては全体として10以上の節電の要請を行いました節電要請期間は2011年7月25日~9月22日の9時~20時(平日のみ)とされました 中西日本のその他の電力管内(中部電力北陸電力中国電力四国電力九州電力の各管内)においては国民生活や経済活動に支障を生じない範囲での節電に取り組みました その後電気事業法第27条に基づく使用制限については2011年 8月 30日に東北東京電力管内の需給バランスが改善していることや被災地の方々からの早期終了を求める声があることを踏まえ「9月2日(金)を最後に東日本大震災及び新潟福島豪雨の被災地に所在する大口需要家の方々に対する電気事業法第27条に基づく電気の使用制限を終了すること」「9月9日(金)を最後に東京電力管内に所在する大口需要家の方々に対する電気事業法第27条に基づく電気の使用制限を終了すること」が決定されました

(3)2011年度夏期の結果①全体 節電要請等を踏まえた需要家の皆様の協力等により需要は各地域において概ね目標とする水準で推移しました2011年夏期の需要気温が高かった日と

11 第 1部第 4章に詳述しています12 石油LPG に関して講じた施策は第 4章第 3節に記載しています13 「電力需給緊急対策本部」は 2011 年 5 月 16 日をもって「電力需給に関する検討会合」に改組しました

第2章東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故後に講じたエネルギーに関する主な施策

14

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第2章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故後に講じたエネルギーに関する主な施策

第2章

2010年夏期の気温が同程度の日を選定して比較した場合ピーク時の電力需要は2010年比東京電力で19東北電力で18関西電力で8となり電力会社による供給力の積み上げや機動的な電力融通等の対応と相まって計画停電や需給ひっ迫による停電は回避することができました

②大口需要家(契約電力500kW以上の事業者) 最大ピーク需要を2010年比で見ますと東京電力で27東北電力で18関西電力で9の効果がありました使用制限を課した東京電力東北電力では目標以上の節電が行われ数値目標を提示しただけの関西電力でも目標に応じた節電効果がありました 大口需要家のうち産業部門に関しては電気の使用目的が生産活動に直結しており節電にはコストが伴いました休日夜間へのシフトのよる労務費増自家発活用による燃料費増等により相当のコストが発生した例もありました オフィスビルや店舗といった業務部門においては冷房や照明が電力需要の太宗を占めており照明の間引きLED照明の導入空調設定エレベーターの間引き等基本的には大きなコストをかけることなく電気代を節約しながら数値目標を実現しました

③小口需要家(契約電力500kW未満の事業者) 最大ピーク需要を2010年比で見ますと東京電力で19東北電力で17関西電力で10の効果がありました各電力管内とも節電要請に対応した自主的な数値目標でも目標に応じた節電効果が発揮されました 小口需要家のうち産業部門に関しては休日夜間へのシフトによる労務費増自家発活用による燃料費増等により相当のコストが発生した例もある等電気の使用目的が生産活動に直結しており節電にはコストが伴いましたコンビニエンスストア等の店舗を中心とする業務部門では電力使用の太宗を冷房や照明が占めており照明(間引きLED照明の導入)空調の設定エレベーターの間引き等基本的には大きなコストをかけることなく電気代を節約しながら数値目標を実現しました

④家庭 節電要請にほぼ対応した成果がありました家庭部

門においてはこまめな消灯LED照明の導入空調設定の工夫等により基本的には大きな支出をすることなく節電を実現しました

22011年度冬期の需給対策と結果

 2011年 11月 1日に合同開催されたエネルギー環境会議電力需給に関する検討会合において「今冬の電力需給対策」がとりまとめられ対策が講じられました

(1)供給面の対策 電力会社の取組としては引き続き供給力の積み増し努力を続けていくとともに日々の電力系統の運用において各社の需給状況を踏まえつつ更に機動的な相互の融通を行うことで需給がひっ迫する地域の需給バランスを確保できるような対応を行うこととしました 政府の取組としては2011年 11月 1日にエネルギー環境会議にてとりまとめられた「エネルギー需給安定行動計画」に基づき予算規制改革等あらゆる措置を検討しできる限りの措置を講じることとされました

(2)需要抑制の目標 供給力の最大限の積み上げを行った上でもなお存在する需給ギャップについてはピーク期間時間帯の使用最大電力(kW)の抑制(節電)により対応することとし節電要請は経済社会への影響を最小化するため「電気事業法第27条に基づく電気の使用制限は行わない」「具体的な節電の要請に当たっては経済活動や国民生活の実態に応じたきめ細かな対応を求める」という考え方に基づき行われました 関西電力と九州電力においては供給力が最大需要見通しを下回るためピーク期間時間帯の最大使用電力についてそれぞれ数値目標を伴う節電要請が行われましたなお病院や鉄道等ライフライン機能等の維持に支障が出る場合や生産活動に実質的な影響を及ぼす場合等については機能維持への支障や生産活動への実質的な影響が生じない範囲で自主的な目標を設定し節電を行うよう要請することとされました 関西電力管内には10以上の節電要請が行われました節電要請期間は2011年 12月 19日~2012年3月23日の9時~21時(平日(12月29日12月30日1月3日1月4日を除く)のみ)とされました

15

第1節 電力需給対策

第2章

 九州電力管内には5以上の節電要請が行われました節電要請期間は2011年 12月 19日~2012年2月 3日の9時~21時(平日(12月 29日12月 30日1月3日1月4日を除く)のみ)とされましたその後2011年 11月 24日付けで九州電力が玄海原子力発電所4号機の定期検査開始日を法定期限(13カ月)である2011年 12月 25日とすることを決定したことに伴い九州電力の需給バランスを再精査したところ玄海4号機の定期検査開始日までは一定の供給力が確保される見通しとなったため節電期間の開始日が当初の2011年 12月 19日から2011年 12月 26日に変更されました その他の電力会社(北海道電力東北電力東京電力中部電力北陸電力中国電力及び四国電力)管内については国民生活及び経済活動に支障を生じない範囲での期間時間帯における使用最大電力の抑制(具体的には照明空調機器等の節電等)が要請されました14節電要請期間は2011年 12月 1日~2012年 3月 30日の平日(12月 29日12月 30日1月3日1月4日を除く)9時~21時(九州電力管内については8時~21時)とされました

(3)2011年度冬期の結果①全体 節電要請等を踏まえた需要家の皆様の協力等により需要は各地域において概ね目標とする水準で推移しました2011年度冬の節電要請期間における電力需要と2010年度冬の同時期における電力需要とを比較した場合ピーク時の電力需要は関西電力で5九州電力で62となり電力会社による供給力の積み上げや機動的な電力融通等の対応と相まって計画停電や需給ひっ迫による停電は回避することができま

した15

②大口需要家(契約電力500kW以上の事業者) 最大ピーク需要を2010年度比でみますと生産活動等に配慮しても関西電力で6九州電力で7の効果がありました 多くの大口需要家は需給調整契約等における経済合理性を踏まえてピークカット等を実施し生産活動等への実質的な影響は回避されました

③小口需要家(契約電力500kW未満の事業者) 最大ピーク需要を2010年度比でみますと生産活動等に配慮しても関西電力で5九州電力で6の効果がありました 節電の内容は照明と空調に関するものが最も多く生産活動等への実質的な影響は回避されました

④家庭 家庭部門においてはこまめな消灯LED照明の導入空調設定の工夫等により基本的には大きな支出をすることなく節電を実現しました

32012年度夏期の需給対策

 2012年4月末から5月初旬にわたり今夏の需給見通しについてエネルギー環境会議及び電力需給に関する検討会合の下に設置された「需給検証委員会」で検討が行われました 検証の結果「関西電力管内で昨年の東京電力管内で想定されたピーク電力不足よりも厳しい状況になる恐れがあること」「九州電力北海道電力及び四国電力管内でも電力需給のひっ迫が見込まれるとともに全ての地域で火力発電所の稼働が増える結果燃料

14 数値目標付き節電期間以外の関西電力九州電力管内についても同様です15 数値目標を伴わない節電要請を行った電力管内のピーク需要については下記の通りです 北海道22東北22東京74中部28北陸33中国41四国29(2010 年比)

第121-3-1 でんき予報

16

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第2章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故後に講じたエネルギーに関する主な施策

第2章

コストが増加し2012年度には31兆円の国富の流出が生じると推計されておりこのまま放置すれば本年秋以降電気料金上昇のリスクも高まること」が明らかになりました これを受けて2012年 5月18日に合同開催されたエネルギー環境会議電力需給に関する検討会合において「今夏の電力需給対策」がとりまとめられ対策が講じられました

(1)供給面の対策 電力会社の取組としては需給検証委員会における検証を踏まえ現段階で確実と見られる供給力を基本とし今後確実に見込めるようになった供給力についてはその時点で上方修正することとしまた約2週間前(可能な範囲)1週間前前日の三段階で融通可能量を明確化する等日々の運用において中西日本の地域全体あるいは東日本の地域全体として機動的な電力融通を行うことにより地域全体としての需給バランスを確保できるような対応を行うこととされました 政府の取組としてはエネルギー需給安定関連の2011(平成23)年度補正予算2012(平成24)年度予算

の執行を加速しその際関西北海道九州東北及び四国を優先することとしましたまたエネルギー規制制度改革アクションプランを着実に実行することとされました

(2)需給ひっ迫時の対応 国民各層の節電への協力にもかかわらず急激な気温変化や大型発電所の計画外停止等により電力需給がひっ迫する可能性がある場合には政府はあらかじめひっ迫が想定される特定の電力会社管内に「電力需給ひっ迫警報」を発令し報道機関や地方公共団体等の協力を得て緊急節電要請を行うこととされました また計画停電は実施しないことが原則ですが大規模な電源の脱落等万が一に備えて関西電力管内に加えて予備率がマイナスと見込まれる九州電力北海道電力及び四国電力管内においても計画停電の準備を進めておくこととされました

(3)需要抑制の目標 需給検証委員会における検証結果を踏まえ需給ギャップ(kW)を解消するため需要家に対し節電を要

需給ひっ迫警報の発令(第一報)

需給ひっ迫警報の発令(続報)

「緊急速報メール」発出

節電協力による停電回避

電力会社が計画停電の実施を発表

前日1800目途

当日900目途

計画停電開始の3~4時間前

計画停電実施の2時間程度前

需給ひっ迫警報発令から計画停電への流れ

他社から電力融通を受けても需給がひっ迫する電力会社の供給予備率が3を下回る見通しとなった場合政府から当該電力会社の管内に対し警報を発令翌日行う可能性のある計画停電について電力会社から公表する

当日900を目途に政府から発令その後も需給状況の変化を踏まえて必要に応じ続報を発令

第1グループ(830~)から計画停電を実施する場合は900の警報の発令は行わない場合があるまた必要に応じ900以前に続報を発令する場合があるなお需給ひっ迫のおそれが解消されたと判断される場合には警報を解除する

引き続き需給のひっ迫状況が解消されない場合計画停電を開始する可能性がある時間の引き3~4時間前に政府から「緊急速報メール」を発信し電気の利用を極力控えることを要請

引き続き需給のひっ迫状況が解消されず最大限の融通を受けても中西日本全体若しくは北海道電力管内において供給予備率が1程度を下回る見通しとなった場合計画停電を実施する可能性がある時間帯ごとにその2時間程度前に電力会社から計画停電の実施を発表

大型発電機の計画外停止が重なり短時間に需給がひっ迫した場合等においては警報や緊急速報メールを発令することなく計画停電を実施する場合がある

(注) 北海道電力管内については北本連系線等が計画外停止した場合等においても更なる発電機等の計画外停止等が停電(計画停電や場合によっては不測の停電)につながる可能性があるためその旨を速やかに周知する万一不測の停電が起きた場合にも速やかに計画停電に移行する

当日早朝や午前中に大型発電所の計画外停止が重なった場合等においては急遽警報を発令する場合がある

緊急速報メールは早朝深夜の時間帯等需要抑制効果が見込めないと判断される場合には送信しない

第121-3-2 需給ひっ迫警報発令から計画停電への流れ

17

第1節 電力需給対策

第2章

請することとされましたこの際より合理的なピーク時の電力不足解消策として全国レベルでの節電と融通の最大活用を行うこととされました 個別の需要家に対する要請に当たっては需要家からの意見(「需要家間の公平性確保」)や需要家への「分かりやすさ」等も踏まえ2010年の使用電力需要の実績(節電影響を含まない需要実績)を基準として要請することとされました16 また被災地や高齢者等の弱者に対して無理な節電を要請することがないよう要請時には配慮を行うこととされました 併せて関連支援措置の執行の加速規制制度改革の推進等の構造的対策や需要の変動に効率的に対応する新たなピークカット対策を推進することとしこれらの需要面での対策に当たっては地方公共団体等の協力を得て創意工夫によるきめ細かい対応を行うことにより国民生活や経済活動への影響を最小化することを目指すこととされました 各電力会社管内の需要家に対する要請については北海道電力管内には2010年比7以上の節電要請が

行われました節電要請期間は2012年 7月 23日~9月7日9時~20時(平日(8月13日~15日)を除く)同年9月10日~14日 17時~20時とされました 東京東北電力管内には東日本全体としては2012年夏季想定需要(猛暑節電あり)の場合には最低限必要となる供給予備率(3)は確保できる見通しであること東北電力管内においては被災地の復興需要に配慮することが適切であることから数値目標を伴わない節電要請が行われました節電要請期間は2012年 7月 2日~9月28日の平日(同年8月13日~15日を除く)9時~20時とされました 中西日本各社の管内については中西日本における広域での節電目標を数値目標付きで要請し広く中西日本の需要家の協力を募ることにより関西電力及び九州電力の節電目標を引き下げ一律かつ強制的な手段である電力使用制限命令を回避するという方針を踏まえ関西電力管内には2010年比15以上の節電要請が行われました節電要請期間は2012年 7月 2日~9月7日9時~20時(平日(8月13日~15日を除く)とされました

16 病院や鉄道等のライフライン機能や国の安全保障上極めて重要な施設の機能等の維持に支障がでる場合には機能維持への支障が生じない範囲で自主的に目標を設定し実施することを要請(オフィス部門間接部門は共通目標の節電を要請)されました

需要サイドの取組

供給サイドの取組

新たなピークカット対策のためのアクションプラン(進捗状況)

自家発余剰購入の拡大 電力会社が需要家の自家発による電力を購入した場合買い取り分を需要家の節電とみなす指針(昨年11月公表)に基づき需要家において自家発を有効に活用今夏の節電期間において九カ所の自家発を活用し40カ所を超える供給地で節電みなしを実施する予定(化学電機製紙繊維等)この他検討中の案件ありまた補助金(6月29日まで公募)を通じて自家発設備の導入活用を促進分散型売電市場の開設 6月18日より分散型グリーン売電市場を開設自家発等の小規模電源や系統への送電量が一定ではない電力も売電可能6月27日には第一号案件の取引が成立(東京電力管内の複数のコジェネ電源最大32 万 kW程度)卸電力取引所の時間前市場の利用要件緩和 6月20日から卸電力取引所の時間前市場の買いに関する制限を撤廃し経済的理由での買い入札や差し替えを可能とする運用を開始

計画調整契約随時調整契約の拡充(特別高圧高圧大口小口向け) 各電力会社が需給調整契約のプランの拡充や割引単価を拡大(例関西電力が随時調整契約のうち前日通告プランに加え前週通告プランを新設中部電力は管外(関西電力)の需給ひっ迫時にも発動可能な契約を設定)季節別時間帯別料金の活用新たなピーク料金メニューの設定(低圧向け) 東京電力(61~)関西電力(71~)が新たなピーク料金メニューを導入(新メニューの申込み件数は東京電力約520件(511-73)関西電力約11900件(521-73))九州電力及び四国電力はピーク料金の実証を実施また関西電力及び北海道電力が一定の節電を達成した家庭にプレゼントを進呈するキャンペーン(7~9月)を実施アグリゲーターを活用したDSM(デマンドサイドマネージメント)(特別高圧高圧大口小口向け) 東京電力は複数の需要家のピーク需要抑制の取組を取りまとめることで大規模なピーク需要抑制を実現するプランを公募5件のプランについて取りまとめ事業者(アグリゲーター)との契約締結を発表(6月6日) 関西電力はBEMS(ビルエネルギー管理システム)を導入した複数の需要家に対し負荷調整を働きかけピーク抑制を実施するアグリゲーターを公募(528~615)18社の応募があり現在協議中 中部電力はアグリゲーター2社と契約し高圧小口の需要家を対象に遠隔操作によりデマンドコントローラーの設定値を低く設定すること等によりピーク時の需要を抑制(仮に管内で需給が厳しい状況とならずとも実証的に発動する予定)(626)入札等によるネガワット取引(特別高圧高圧大口向け) 関西電力が7月2日よりネガワット取引(需給ひっ迫が予想される場合に電力会社が需要家から節電(負荷抑制)を入札により確保する仕組)を実施その際関西電力管外(中部北陸中国)管内の需要家も対象とすることを発表(621)スマートメーター向け検定手数料の引き下げ(低圧向け)(エネルギー規制規制改革アクションプラン関連) 7月1日より低圧用スマートメーターの検定手数料を大幅に引き下げ(1台670円から370円に)

第121-3-3 新たなピークカット対策のためのアクションプラン(2012年 7月 5日現在)

18

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第2章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故後に講じたエネルギーに関する主な施策

第2章

 四国電力管内には2010年比7以上の節電要請が行われました節電要請期間は2012年 7月 2日~9月7日9時~20時(平日(8月13日~15日除く))とされました 九州電力管内には2010年比10以上の節電要請が行われました節電要請期間は2012年 7月 2日~9月7日9時~20時(平日(8月13日~15日を除く))とされました 中部北陸中国電力管内には2010年比5以上の節電要請が行われました節電要請期間は2012年7月2日~9月7日9時~20時(平日(8月13日~15日を除く))とされました その後2012年 7月 9日に大飯原子力発電所3号機が定格熱出力一定運転となったことを踏まえ同年7月10日から関西電力管内については2010年比10以上に低減中部北陸中国電力管内については定着した節電分相当を数値目標として設定することとしそれぞれ4以上4以上3以上に低減されました また数値目標を伴う節電要請期間及び時間は変更しないこととされました 更に7月25日に大飯原子力発電所4号機が定格熱出力一定運転となったことを踏まえ7月26日から中部北陸中国電力管内については数値目標(それぞれ2010年比4以上4以上3以上)を解除し「数値目標を伴わない節電」に変更関西電力管内については引き続き2010年比10以上の節電

要請を行うこととされましたが生産活動に支障が生じる場合は2010年比5以上に低減四国電力管内については2010年比7以上から2010年比5以上に低減することとされました また節電要請期間及び時間は変更しないこととされ引き続き高齢者乳幼児等の弱者熱中症等の健康被害への配慮を行うこととされました

第2節 原子力発電所再起動

1原子力施設の安全性安心を高める取組

(1)緊急安全対策等の実施 原子力安全保安院は今般の事故と同程度の地震と津波により全交流電源喪失最終ヒートシンクの喪失に至ったとしても炉心損傷等深刻な事態を回避し冷温停止状態に移行するための対策として2011年 3月 30日事業者に対して緊急安全対策を指示しました 短期対策としては電源車や代替注水のためのポンプの配備東京電力福島第一原子力発電所を襲ったものと同程度の津波を想定した建屋への浸水対策手順書の整備等に加え中長期対策として設備の本格的な水密化や防潮堤等の防護措置の実施を要求しましたその後これらの実施状況について事業者から報告を受け2011年 5月評価確認を実施しましたなお防潮堤の設置等の中長期対策の実施状況については引き続き厳格に確認を行っていく予定です また2011年 4月 15日には外部電源の信頼性の向上を図るため複数ルート回線の確保開閉所の耐震性確保等を指示し更に同年6月7日には万一シビアアクシデントが発生した場合でも迅速に対応するため事故時の通信管理機能確保放射線防護体制の強化を指示しましたこれらの指示に基づく実施状況についても現場確認を実施する等評価確認を行っています

第121-3-4 2012年度 夏季の節電メニュー中部 関西 北陸 中国 四国 九州

当初(7月 2日~) 5以上 15以上 5以上 5以上 7以上 10以上3号機定熱運転後(7月10日~)

4以上(定着した節電分)

10以上4以上

(定着した節電分)3以上

(定着した節電分) 7以上 10以上

4号機定熱運転後(7月26日~)

一般的な節電要請

10以上生産活動に支障が生じる場合は5以上

一般的な節電要請

一般的な節電要請

5以上 10以上

7月 25日 4号機定格熱出力一定運転(定熱運転)

第121-3-5 2012年度夏期節電目標の改訂の変遷

19

第2節 原子力発電所再起動

第2章

(2) 東京電力福島第一原子力発電所事故の知見 事故の原因等の調査については原子力安全と原子力防災を中心に事故の評価や得られた教訓を取りまとめ2011年 6月9月の2回IAEAに対して日本政府としての報告を提出しました また2011年 5月から6月にかけて各国の専門家及びIAEAの専門家で構成された調査団を受け入れ事実関係の調査を行いその時点における教訓等を国際社会と共有しました 更に事故から得られる技術的な知見を可能な限り抽出するため原子力安全保安院は2011年 10月から「東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の技術的知見に関する意見聴取会」を外部の専門家の参加を得て全面公開の下8回開催しパブリックコメントを経た上で2012年 3月に報告書をとりまとめましたその中で今回の事故では津波による被水によって所内電源設備や冷却設備が機能を喪失したことを受け今後の規制に反映すべきと考えられる事項として所内電源設備や冷却設備の位置的分散浸水対策事故時の最終ヒートシンクの強化等の必要性を提示した「30の対策」をとりまとめました 「東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の技術的知見に関する意見聴取会」に加え東京電力福島第一原発等で観測された地震津波等の影響については原子力安全保安院は2011年 9月から専門家の参加を得て「地震津波に関する意見聴取会」「建築物構造に関する意見聴取会」をそれぞれ11回8回開催し2012年2月に中間とりまとめを行いましたまた東京電力福島第一原発事故における経年劣化の影響について検証するため専門家の参加を得て「高経年化技術評価に関する意見聴取会」を6回開催し2012年 2月に取りまとめを行いましたこれらの検討結果についてはそれぞれ原子力安全委員会に報告するとともに「30の対策」に反映させています

(3)ストレステストによる評価 2011年7月6日の原子力安全委員会からの要請及び7月11日に公表された政府方針「我が国原子力発電所の安全性の確認について」に基づき原子力安全保安院では原子力発電所の更なる安全性の向上と安全性についての国民住民の方々の安心信頼の確保のため評価手法評価実施計画を作成し原子力安全委員会の確認を得た上で事業者に対して総合的安全評価(いわゆるストレステスト)の実施を指示しまし

た ストレステスト一次評価においては定期検査で停止中の原子力発電所について運転の再開の可否について判断することとしており全交流電源喪失及び最終ヒートシンク喪失に関してそれぞれの事象時の冷却継続時間クリフエッジの特定緊急安全対策の効果等について評価します事業者の一次評価の結果については原子力安全保安院が公開の会議で外部の専門家の意見を聴きつつ「東京電力福島第一原子力発電所を襲ったような地震津波が来襲しても炉心損傷に至らないこと」の確認を行い更に原子力安全保安院の審査の妥当性を原子力安全委員会が確認しますなお大飯発電所34号機については原子力安全保安院が審査書を2012年 2月 13日にとりまとめ同年3月23日に原子力安全委員会が見解をとりまとめています

2大飯発電所34号機の再起動

(1)原子力発電所に関する四大臣会合 2012年 3月に大飯発電所34号機について原子力安全保安院による審査結果及び原子力安全委員会による見解がとりまとめられたことを受けて内閣総理大臣内閣官房長官経済産業大臣内閣府特命担当大臣(原子力担当)からなる「原子力発電所に関する四大臣会合」を同年4月3日から6回にわたり開催しました まず東京電力福島第一原子力発電所事故の発生以降緊急安全対策等の安全対策の実施政府事故調や原子力安全保安院の意見聴取会等の専門家による事故検証や知見の蓄積ストレステスト一次評価による安全性評価等1年間の対策や知見の積み重ねを踏まえ分かりやすい形に整理したものとして四大臣会合で「原子力発電所の再起動にあたっての安全性に関する判断基準」を取りまとめました大飯発電所34号機は東京電力福島第一原子力発電所を襲ったような地震津波が来襲しても燃料損傷には至らないこと更なる安全性信頼性向上のための着実な実施計画が明らかになっていること等を確認したことから「原子力発電所の再起動にあたっての安全性に関する判断基準」に適合し安全性が十分に確保されていることを確認しました 併せて再起動の必要性を検証しましたその結果関西地域ではこれまでの供給力積み増しの努力を勘案してもなお電力不足となる可能性があること原子力

20

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第2章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故後に講じたエネルギーに関する主な施策

第2章

発電所の停止がもたらすコスト増により国民負担が増加しその影響は小売店や中小企業家庭に広く及ぶことエネルギー安全保障の確保等の点から大飯発電所34号機の再起動には必要性があることを確認しました 以上のように大飯34号機の再起動には安全性と必要性があることを判断し四大臣としてこの判断について国民の皆様に対して責任を持って説明し理解が得られるよう努めていくこと何よりも立地自治体の理解が得られるよう全力を挙げていくことそしてこうした一定の理解が得られた場合には最終的に再起動の是非について決断することを同年4月13日に確認しました

(2)立地自治体等への説明 2012年4月13日の四大臣会合を受けて同月14日に枝野経済産業大臣が福井県を訪問し西川福井県知事時岡おおい町長等と会談を行いましたまたおおい町からの要望を踏まえ同月26日に開催されたおおい町住民説明会において柳澤経済産業副大臣が政府の判断について説明を行いました 政府の再起動の安全性判断等について説明の要望があった関西広域連合京都府滋賀県等の周辺自治体に対しても関係閣僚等が説明を行いましたこれらの説明結果を踏まえ同年5月30日の四大臣会合において関係自治体の一定の理解が得られつつあると判断しこれまで40年間にわたって原子力発電所の安全確保に直接向き合い電力の安定供給に貢献してきた立地自治体である福井県おおい町の判断が得られれば政府として最終的な再起動判断をすることを決定しました これを受けて同年6月4日には細野内閣府特命担当大臣(原子力担当)齋藤内閣官房副長官牧野経済産業副大臣が福井県を訪問し西川福井県知事時岡おおい町長と会談し周辺自治体への説明状況等について説明を行いました同月8日には野田内閣総理大臣が記者会見を行い「国民の生活を守るために大飯発電所34号機を再起動すべきだというのが私の判断」との考えを国民に対し説明しました これらの国からの説明等を踏まえて福井県おおい町でも検討が行われ同月14日に時岡おおい町長が西川福井県知事に対して再起動に関する政府判断について了承する旨を伝え同月16日には西川福井県知事が野田内閣総理大臣等の関係閣僚と会談し政

府の再起動判断について了承する旨が伝えられました

(3)大飯発電所34号機の再起動 これを受けて原子力発電所に関する四大臣会合を同日に開催し四大臣として大飯発電所34号機を再起動することを政府の最終的な判断としました 四大臣会合では新たな規制機関の発足までの間地元の皆様の安全安心のため特別な監視体制を速やかに立ち上げ起動作業にあたっても安全に遺漏なきよう万全を期していくこと政府として原子力に関する安全性を確保しそれを更に高めていく努力をどこまでも不断に追求していくこと等を確認しました 同日の政府の最終判断を受けて関西電力は大飯34号機の再起動準備を行い3号機は同年7月1日に再起動され同月5日に調整運転を開始し4号機は同年7月18日に再起動され同月21日に調整運転を開始しました

第3節 電気料金制度の見直し1 現行の電気料金制度の問題点と見直しに至る経緯

 2011年3月の東日本大震災発生以降電力需給のひっ迫や原子力損害賠償燃料コスト増による電力コスト上昇懸念等電気事業をとりまく状況は大きく変化しましたこうした中東京電力による原子力損害賠償の支援スキームの策定に際し国民負担の最小化と電力の安定供給確保のため設置された「東京電力に関する経営財務調査委員会」の報告書(2011年 10月公

知見の整理

主な安全対策

地震津波に関する意見聴取会

緊急安全対策

外部電源対策等

シビアアクシデント対策

建築物構造に関する意見聴取会

高経年化技術評価に関する意見聴取会

総合的安全評価に関する意見聴取会(ストレステスト)

技術的知見に関する意見聴取会

安全性評価

進捗状況の反映

330基準1

H233 H241

67 618指示 確認(短期対策)

確認415 67

指示213722

指示1114

第1回 保安院審査書取りまとめ

1024第 1回

328

930

第 1回929第 1回

1129第 1回

実施状況の活用216

中間取りまとめ

中間取りまとめ

中間取りまとめ

67第 1回 1226中間取りまとめ福島原発事故独立検証委員会 227調査検証報告書

323

原安委確認

取りまとめ30の対策

知見の活用

取りまとめ

基準2

基準3

第1回43第2回45第3回46第4回49第5回412第6回413216

216

216

123-31IAEAレビュー

指示

大飯34号機

四大臣による整理確認

更なる知見の拡充

確認

東京電力福島原子力発電所における事故調査検証委員会

56事業者による更なる信頼性向上の取組

第122-2-1 これまでの安全性確保に向けた取り組み

21

第3節 電気料金制度の見直し

第2章

表)においても現行の電気料金制度とその運用について問題点が指摘されました 現行の制度は競争による経営効率化の効果を規制分野の需要家に機動的に還元するという観点から「値下げ届出制」を採用しています これは①事業者間のサービス向上競争の促進②経営効率化分の自主的な内部留保による財務体質の強化を目的に③経営効率化分の配分に対する説明責任を前提として導入されていたものですが他方で値下げの届出改定では行政は事前に原価査定を行わないため値下げ幅について事業者による効率化によるものか過去の届出原価の見積もりが過大であったこと等によるものなのかが明らかではないという問題がありました このため原価の適正性が確保されていないのではないかまた原価の中に電気の安定供給に必要なもの以外の費用が含まれているのではないかといった指摘が当該報告書においてなされることとなりました

2電気料金制度見直しの内容

 こうした現行制度とその運用への指摘を踏まえ2011年には「電気料金制度運用の見直しに関する有識者会議」が開催され規制料金として行政による原価の適正性確保と事業者の経営効率化インセンティブをどのようにバランスさせるかその際にどのような費用についてどのような水準までを適正な原価と考えるか対外的な説明責任をどのように確保するのかといった観点から現行の総括原価方式に基づく電気料金制度下において実施すべきものを中心に検討が行われました公開で行われた計6回の議論とパブリックコメントを経て2012年 3月に報告書がとりまとめられました報告書で示された基本的な考え方は以下の通りです (1)値上げ認可時の査定においては原価の厳格な査定を行う一方値下げ届出時や事業評価においては事業者による説明と行政による事後チェックを的確に行うことを徹底 (2)事業に要する費用全ての回収を認めるのではなくあるべき適正な費用のみの回収を認めることを徹底 (3)一般電気事業者が自らの供給力のみに依存する安定供給確保から他社供給力や需要側の取組も活用した安定供給確保に転換することを促す

<報告書の概要>(1)原価の適正性の確保値上げ認可時には広告宣伝費寄付金団体費については原価算入を認めないまた人件費修繕費等についてはメルクマール等により査定人件費の例一般企業の平均値を基本に他の公益企業の平均値とも比較(2)新しい火力入札火力電源を自社で新設増設リプレースする場合は原則全て入札(3)公正かつ適正な事業報酬正当な理由なく著しく低い稼働率となっている設備はレートベース対象資産(事業報酬の算定の基礎となる資産)の対象外(4)原価算定期間及び電源構成変動への対応経営効率化を織り込む等の観点から認可時は3年を原則また原価算定期間内に電源構成が大きく変動した場合には変動分のみを料金に反映(5)託送料金(送配電線の利用料)の適正化託送料金について第三者が適切性妥当性を確認(6)デマンドレスポンス料金とスマートメーターの導入時間帯別料金の多様化や三段階料金の見直し季節別料金の導入等の検討スマートメーターの導入に当たっては入札を原則(7)事後評価原価算定期間終了後には原価と実績値算定期間終了後の収支見通し利益の使途等について評価

 以上の報告書の内容を踏まえ一般電気事業供給約款料金算定規則一般電気事業供給約款料金審査要領電気料金情報公開ガイドライン等を2012年 3月に改正しました

3 東京電力の電気料金値上げに係る認可申請について

 2012年 5月 11日に東京電力から経済産業大臣に対し電気事業法第19条第1項の規定に基づき電気料金を平均1028引き上げる(値上げ)等の供給約款変更認可申請(以下「料金認可申請」という)が提出されました 東京電力は料金原価について合理化の実施により年平均2785億円の削減を行ったものの燃料費を中心として大幅な増加が避けられず収支不足額が年平均

22

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第2章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故後に講じたエネルギーに関する主な施策

第2章

6763億円となり赤字構造の早急な改善に向け値上げ認可申請がなされました 経済産業省においては電気料金認可プロセスに外部専門家の知見を取り入れ専門的かつ中立的客観的な観点から料金査定方針等の検討を行う観点から「総合資源エネルギー調査会総合部会電気料金審査専門委員会」(以下「委員会」という)を設置しました(委員長安念潤司 中央大学法科大学院教授委員長代理山内弘隆 一橋大学大学院商学研究科 教授) 2012年 5月 15日の第1回委員会以降委員会は東京電力から経済産業省に提出された料金認可申請について個別の原価にも踏み込んだ検討を含め計10回の審議を行いました開催に当たっては審議の透明性を高めるため委員会の審議は議事内容配布資料を含め全て公開形式で開催されました また料金認可申請が東京電力管内を中心に広く社会経済に影響を及ぼす事案であることに鑑み広く一般の意見を聴取するため第1回委員会においては自治体消費者団体中小企業団体関係者を招き意見を聴取しましたまた2012年 6月 7日に東京6月9日にさいたま市で電気事業法第108条に基づく公聴会を実施し国民から広く意見の聴取を行いました更に公聴会において委員会の委員も消費者からの生の声を聞くべきとの意見があったことを受けて第8回委員会において消費者団体を公募の上意見を聴取しました更にインターネットを通じた意見募集である「国民の声」や公聴会に寄せられた意見が経済産業省から報告され随時の論議に反映されました加えて第1回から第10回の全てにおいて消費者団体消費者庁からオブザーバーとしての参加を得て活発に議論が行われました 2012年 6月 12日の第5回委員会以降委員が2人1組となり担当分野につき査定方針を検討しましたその結果が第9回委員会において各担当委員から報告され2012年 7月 5日の第10回委員会において委員会としての査定方針案が取りまとめられ同日経済産業大臣に提出されました なお委員会は経済産業大臣から付託されたミッションに基づき電気事業法及び同法に基づく規則一般電気事業供給約款審査要領(以下「審査要領」という)「電気料金制度運用の見直しに係る有識者会議報告書」等の予め定められたルールに則って査定方針案を中立的客観的かつ専門的な見地から検討しました

 委員会でとりまとめられた査定方針案をもって経済産業省は消費者庁と協議を行い2012年 7月 12日には経済産業大臣と消費者担当大臣との間で電気の安定供給や原子力損害賠償の迅速かつ適切な実施の確保に支障を来さないことを前提に消費者の目線や他の公的資金投入企業の事例を踏まえ徹底的な経営合理化を図るものとするとの認識で一致し7月19日に協議が整いましたこれを受け経済産業省としての査定方針を策定し7月20日に物価問題に関する関係閣僚会議の了承を得ましたなお具体的な査定方針の主な内容としては以下の通りです(1)人件費について料金原価算定期間各年における管理職職員の年収を震災前と比べて3割超引き下げ3年間の全社員の平均年収で見ても近年の公的資金投入企業(最大2362)のいずれをも上回る削減率(2368)とすることにより約90億円の減額(2)調達等について総合特別事業計画に基づき修繕費委託費について既に10削減した上で料金認可申請がなされているがそれ以外の費用項目も含む随意契約について原則10削減を求め未達成分を減額するとともに子会社関連会社との随意契約取引について更なる深掘りを行うことにより約100億の原価の削減(3)燃料費について各火力発電所の燃料使用量を発電所の発電効率等を踏まえてより一層の効率化配分を徹底することにより相対的に燃料費の高い石油系火力発電所の燃料使用量を抑制していることを確認するとともに原価算定期間中に価格の更新時期を迎えるLNGのプロジェクトのうち近時の値上がり傾向の市況を踏まえ値上げを織り込んでいるものについて東京電力の交渉努力を先取りする形で直近実績レベルまで原価を減額する等により約120億円の原価の削減(4)福島第一原子力発電所56号機に係る安定化維持費用及び賠償関連費用について事故直後に特別損失として認識し処理した費用(約9000億円)は2011年度末までに特別損失で計上されておりこれ以外に新たに必要となる経費のうち資本的支出(設備投資)が生じた場合当該設備は将来の収益を生むものではなく資産性が認められないため会計上資産価値が特別損失処理され減価償却費が発生しないことから申請原価に含まれていない 他方で資本的支出以外の経常的に発生する費用である費用及び賠償に関する受付や業務フロー作成等の委託費をはじめとする賠償対応費用についてこう

23

第4節 再生可能エネルギー固定価格買取制度導入

第2章

した費用が原価算入されない場合東京電力としての原子炉廃止措置賠償といった責務が果たせなくなるとともに国民全体の負担に依らざるを得なくなるため東京電力が採用するADR弁護士費用は控除する等厳に必要な費用に限った上で原価へ算入 また事故に伴い発生した賠償支払額そのものは原子力損害賠償支援機構法の枠組に基づき原子力損害賠償支援機構から東京電力に対し国の交付国債を原資とする資金援助が行われていることから料金原価に含まれない(5)事業報酬の算定に当たっては震災後の経営リスクを踏まえ2011年 3月 11日から申請日前日の2012年 5月 10日までの期間の9電力会社平均の経営リスクに係る指標に基づいて算定を行い約93億円の原価の削減 2012年 7月 25日に東京電力より提出された申請内容の修正が査定方針通りであることが確認できたため電気事業法第19条に基づき経済産業大臣が認可を行い最終的な値上げ幅は平均846となりました なお消費者への十分な周知を図るために東京電力の値上げの実施時期を2012年 9月1日としました

第4節 再生可能エネルギー固定価格買取制度導入 近年新興国を中心としたエネルギー需要の急増に伴う国際的な資源獲得競争の激化や国内外における地球温暖化対策の強化が求められる状況の中純国産のエネルギー源であり二酸化炭素を排出しない再生可能エネルギーの果たす役割の重要性が高まってきています本項では再生可能エネルギーの導入支援策の大きな柱である固定価格買取制度導入の背景と経過制度開始後の状況をまとめます

1制度導入の背景

 固定価格買取制度は再生可能エネルギー(太陽光風力水力地熱バイオマス)によって発電された電気を国が定める一定の期間にわたって国が定める一定の価格で購入することを電気事業者に義務づける

制度ですこれにより再生可能エネルギーを用いる発電投資への投資回収の不確実性を低減させこれらに対する投資を促すことで再生可能エネルギーの導入拡大を加速化させる効果が得られると見込まれていますまた導入拡大が加速すれば設備の量産化が進み現時点では他のエネルギーに比して割高な再生可能エネルギーのコストダウンが進展することも期待されています このように再生可能エネルギーの導入拡大にとって大きな効果を持つ固定価格買取制度の導入は東日本大震災以前から検討されており「エネルギー基本計画」や「新成長戦略」においても言及がなされていました17この制度を実施に移すため2011年 3月 11日に「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」(以下「特措法」)案が閣議決定されましたその後東日本大震災及び福島第一原子力発電所における事故を経て中長期的に脱原子力依存を進めていくためにも再生可能エネルギーに対する期待はこれまで以上に高まりました同法案の国会審議の過程では政府が提出した法案に対して民主党自由民主党公明党の三党の合意に基づき一層の再生可能エネルギーの導入拡大の観点から修正がなされ最終的にこの修正を反映した形で同年8月26日に法案が成立し同年8月30日に公布されました

<参考>主な国会修正事項 政府案では太陽光発電以外は一律の価格と期間での買取りを想定していたところ再生可能エネルギー源の種別利用形態規模ごとに価格と期間を設定 事業活動に当たって電力を多く使用する事業を行う事業者に対する負担軽減措置の創設  (売上高当たりの電気使用量が製造業については製造業平均の8倍以上非製造業については非製造業平均の政令で定める倍数(14倍)以上の事業を行っている等の要件を満たす事業者に適用) 政府案では調達価格等の決定プロセスは総合資源エネルギー調査会の意見を聴いて定めることとされていたところ新たに設けられる調達価格等算定委員会の意見を尊重し定めることに変更 等

17 2010 年 6 月に改訂策定された「エネルギー基本計画」や同月に策定された「新成長戦略」においても一次エネルギーに占める再生可能エネルギーの割合を2020 年度までに 10に引き上げることを目標とする等これまで以上の再生可能エネルギーの導入拡大が求められるようになっておりこのような高い目標を実現するための最も効果的な手段として固定価格買取制度を導入することが検討されていました

24

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第2章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故後に講じたエネルギーに関する主な施策

第2章

2 調達価格等算定委員会の検討経過と結論

 上記のように特措法においては経済産業大臣は調達価格(電気事業者が買い取る際の価格)と調達期間(調達価格での買取りが継続する期間)を決定するにあたり国会の同意を得た上で任命される委員から構成される調達価格等算定委員会(以下「委員会」と言う)の意見を尊重することが明記されました2012年 3月に以下の5名が委員会の委員として両議院の同意を得た上で任命され同月から委員会での議論が開始されました 委員会では法律の内容や国会における議論を踏ま

えつつ業界団体等からのヒアリング(太陽光発電協会等の各種発電に係る業界団体や新規参入を予定している事業者経済団体等)各種論点についての詳細な議論検討が全7回にわたり行われました その上で委員会は2012年 4月27日に「平成24年度調達価格及び調達期間に関する意見」をとりまとめ枝野経済産業大臣に提出しました 経済産業省においては提出された意見を尊重し意見通り調達価格調達期間を決定し同年6月18日に告示しました(第124-2-1)また法律の規定に従い調達価格調達期間については委員会の意見と併せて国会にも報告がなされました

3制度開始後の状況

 2012年7月1日の制度開始以降同年7月末現在で33695件出力にして合計約57万kWの設備が制度の適用を受けることができる設備として経済産業大臣により認定されていますこうした認定を受けた案件を含め市場では固定価格買取制度の導入を機に様々な事業化プランの検討が進んでおり政府の試算では2012年度だけでも設備容量ベースで合計250万kW程度の再生可能エネルギーの導入拡大が進むと見込んでいます(第124-3-1) 一方で固定価格買取制度では電気事業者が再生可能エネルギー由来の電気の買取りに要した費用について賦課金として電気料金に上乗せする形で国民の皆様にご負担いただくことになっています2012年度

委員会名簿植田 和弘(委員長) 京都大学大学院経済学研究科教授

山内 弘隆(委員長代理)一橋大学大学院商学研究科教授

辰巳 菊子 (公社)日本消費生活アドバイザーコンサルタント協会理事環境委員長

山地 憲治 (公財)地球環境産業技術研究機構(RITE)理事研究所長

和田 武 日本環境学会会長

電源 太陽光 風力 地熱 中小水力

調達区分 10kW以上 20kW以上 20kW未満10kW未満(余剰買取)

15万kW以上

15万kW未満

1000kW以上30000kW未満

200kW以上1000kW未満

200kW未満

費用

費用

建設費

建設費

運転維持費(1年当たり)

運転維持費(1年当たり)

325万円kW 466万円kW 30万円kW 125万円kW 79万円kW 123万円kW 85万円kW 80万円kW 100万円kW

10千円kW

392万円 kW

47千円kW 60千円kW 33千円kW 48千円kW 95千円kW 69千円kW 75千円kW

税前 7税前7税前18税前8税前 6

税前 1 税前 8 税前 4 税前 4 税前 4

税前32(1) 税前13(2)IRR

IRR

調達価格1kWh当たり

調達価格1kWh当たり

税込(3)4200円

4095 円 3360 円 2520 円 1785 円 1365 円

42円(1)

2310円 5775円 2730円 4200円 2520円 3045円 3570円

税抜

税抜税込

40円

39円 32円 24円 17円 13円

42円 22円 55円 26円 40円 24円 29円 34円20年20年

20年

20年20年 15年15年10年調達期間

調達期間

電源 バイオマス

バイオマスの種類 ガス化(下水汚泥)

ガス化(家畜糞尿)

固形燃料燃焼(未利用木材)

固形燃料燃焼(一般木材)

固形燃料燃焼(一般廃棄物)

固形燃料燃焼(下水汚泥)

固形燃料燃焼(リサイクル木材)

41万円kW 41万円kW 31万円 kW 35万円kW27万円kW22万円 kW27万円kW27万円kW184万円 kW

調達区分

【メタンガス発酵ガス化バイオマス】 【未利用木材】【一般木材(含パーム梛子殻】

【廃棄物形(木質以外バイオマス)】 【リサイクル木材】

第124-2-1 告示された調達価格等

(注) 1 住宅用太陽光発電について       10kW未満の太陽光発電については一見10kW以上の価格と

同一のように見えるが家庭用についてはkW当たり35万円(2012年度)の補助金の効果を勘案すると実質48円に相当するなお一般消費者には消費税の納税義務がないことから税抜き価格と税込み価格が同じとなっている

   2 地熱発電のIRRについて       地表調査調査井の掘削など地点開発に一件当たり46億円程度

かかること事業化に結びつく成功率が低いこと(7程度)等に鑑みIRRは13と他の電源より高い設定を行っている

   3 消費税の取扱いについて       消費税については将来的な消費税の税率変更の可能性も想定

し外税方式とすることとしたただし一般消費者向けが太宗となる太陽光発電の余剰買取の買取区分については従来どおりとした

第 124-3-1  2012年度の再生可能エネルギーの導入量見込み

2011年度時点における導入量

2012年7月末までに認定を受けた設備容量

2012年度末までの導入予測

太陽光(住宅) 約400万kW 約144万kW +約150万kW

太陽光(非住宅) 約80万kW 約301万kW +約50万kW

風力 約250万kW 約122万kW +約38万kW

中小水力(1000kW以上30000kW未満)

約935万kW - +約2万kW

中小水力(1000kW未満)

約20万kW 約01万kW +約1万kW

バイオマス 約210万kW - +約9万kW

地熱 約50万kW - -

合計 約1945万kW 約567万kW +約250万kW

(出所) 1 単年度導入量については太陽光発電はJPEA出荷統計風力発電はJWPA統計その他電源はRPSデータ等より

    2 2012年度見込みについては各種前提により資源エネルギー庁推計

25

第5節 省エネルギー法改正に向けて

第2章

においては賦課金の単価は1kWh当たり022円となっていますこれにこれまで実施してきた太陽光の余剰電力買取制度の負担(全国平均で1kWh当たり007円)と併せて2012年度では1kWh当たり029円(全国平均)のご負担をお願いすることになりますこれは一月に7000円程度の電気料金をお支払いいただいているご家庭(一月300kWh程度の電力使用量を想定)であれば一月約87円の負担となります再生可能エネルギーの導入拡大が進めば賦課金の負担も増大していくことから負担が過重なものとならないよう常に配慮することが重要ですこのため固定価格買取制度の下では再生可能エネルギー発電事業者が実際に設備の設置等に要した費用について事後的に経済産業省に報告することを求めており集計されたデータを翌年度以降の調達価格の審査に活用することで発電設備等のコスト低減の成果を適切に調達価格の見直しに反映することとしています

第5節 省エネルギー法改正に向けて

1背景

 エネルギーの使用の合理化に関する法律(以下省エネ法)は「熱管理法」を全面改正する形で1979年に成立しました 1998年の改正で導入されたトップランナー制度はエネルギー消費機器の製造輸入事業者に対し3~10年程度先に設定される目標年度において高い水準(トップランナー基準)を満たすことを求め目標年度になると報告を求めてその達成状況を確認する制度です制度導入当初対象機器は乗用自動車エアコン蛍光灯等9品目でしたが最近ではルーター等も対象に追加され現在までに23品目に拡大し世帯当たり電気消費量に占める割合の6割をカバーしています2012年にはヒートポンプやLED照明といった近年急速に普及が見られた機器についてもトップランナー制度の対象に追加する等引き続き対象機器の拡大や目標値の強化を実施しています 2008年には10度目の改正を行い①これまでの工場事業場単位から事業者単位の規制に変更②事業者の省エネルギー状況を比較できる指標(ベンチマーク指標)を定め中長期的に達成すべき水準を目標として設定するセクター別ベンチマークを導入③事業者が自

主的に行う共同省エネルギー事業について国はその取組を促進するよう法律の施行にあたり適切な配慮をすることとしたこと等大きく三つの点が変更されました このような改正を経て省エネ法の規制対象事業者は改正前の7500事業者から約1万2000事業者に増加しました我が国はGDPが約2倍となった過去30年間でエネルギー効率を約37改善してきましたがその中で省エネ法は重要な役割を果たしてきたと言えます

2 省エネ法改正に向けた動きと省エネ部会における検討

 石油危機に端を発したエネルギー危機を乗り越えるために省エネ法は化石燃料の使用量の低減と経済成長を両立することを目指し需要サイドの努力によってこれを克服してきました そして東日本大震災及び東京電力福島第一原子力発電所事故以降エネルギーの需給問題に対する関心が高まりエネルギー政策の前提となる状況自体も大きく変わりました従来省エネルギーの議論の中心は化石燃料の使用量を全体としてどう減らすかということでありそのこと自体はオイルショック以来の流れの中で大きな意義がありました 震災以降のエネルギー需給の問題に鑑みますとエネルギー全体としての使用量の抑制だけではなく電力需要のピークにどう対応していくかの議論が必要であり現行省エネ法に含まれていない「ピーク対策」への対応は非常に重要な政策課題となりました また我が国の最終エネルギー消費は二度のオイ

19 倍

伸び(1973 rarr2010年度)

28倍

09 倍

0

100

200

300

400

500

600

0

50

100

150

200

250

300

350

400

450

73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 9192 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10

(100万石油換算トン) (兆円2000年価格)

産業部門

家庭部門

運輸部門

業務部門

439

188

229

144

655

92164

89

実質GDP1973rarr2010

24 倍

22倍

25倍

(注) 「総合エネルギー統計」は1990 年度以降の数値について算出方法が変更されている

(出所) 資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」内閣府「国民経済計算年報」(一財)日本エネルギー経済研究所「エネルギー経済統計要覧」

第125-2-1  最終エネルギー消費量の推移(1973年~2010年)

26

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第2章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故後に講じたエネルギーに関する主な施策

第2章

ルショック後や近年の不況時を除きほぼ一貫して増加しています部門別のエネルギー消費量はオイルショック以降産業部門が約09倍のところ民生部門は約25倍運輸部門は約19倍と大幅に増加しています(第125-2-1)従来から十分な努力により省エネルギーを進めてきた産業部門における更なる省エネルギー対策に加えエネルギー消費量の増加が著しい民生(業務家庭)部門において一層の省エネルギーを進める必要があります(第125-2-2) 民生部門対策としてはトップランナー制度による自動車や家電等機器の省エネルギー性能の向上や住宅建築物の省エネルギー基準の策定等を行ってきました今後は日常生活の中でエネルギーをいかに少なくしつつ快適な生活を送るかつまり我慢ではなく持続可能な省エネルギーを進めていく必要があり住宅建築物全体の省エネルギー性能の底上げについて検討が必要となります 総合資源エネルギー調査会省エネルギー部会ではこれらの背景を踏まえ今後の省エネルギー政策の展開について検討を行い2012年 2月に「中間取りまとめ」を取りまとめましたこの「中間取りまとめ」を踏まえ政府は電力ピーク対策及び民生部門の省エネルギ

ー対策を盛り込んだ省エネ法の改正案を2012年 3月13日に第180回通常国会に提出いたしました

3省エネ法改正案について

 我が国経済の発展のためにはエネルギー需給の早期安定化が不可欠であり供給体制の強化に万全を期しその上で需要サイドにおいては持続可能な省エネルギーを進めていくという観点から主に以下の2点の改正を実施します まず1点目は需要家が従来の省エネルギー対策に加え蓄電池やエネルギー管理システム(BEMSHEMS)自家発電蓄熱式の空調ガス空調等の活用等により電力需要ピーク時の系統電力の使用を低減する取組を行った場合にこれを評価できる体系にする点です具体的にはピーク時間帯に工夫して系統電力の使用を減らす取組(節電)をした場合にこれ以外の時間帯で系統電力の使用を減らした場合よりも改善の度合いを大きく評価することで省エネ法の努力目標(原単位の改善率年平均1)を達成しやすくなるよう努力目標の算出方法を見直します 2点目はこれまでエネルギーを消費する機械器具を対象としていたトップランナー制度にそれ自体はエネルギーを消費しないものの他の建築物や機器等のエネルギーの消費効率の向上に資する機械器具等を新たな対象として追加し住宅建築物分野の省エネルギー対策を強化する点ですこれまでのトップランナー制度は法律上エネルギーを消費する機械器具が対象であり他の建築物や機器等のエネルギーの消費効率向上に資する機械器具等は対象とされていませんでした新たにトップランナー制度に追加する機械器具等としては具体的には窓断熱材水回り設備等の建築材料等を想定しており企業の技術革新を促すことで住宅建築物の省エネルギー性能の底上げを図っていきます

建築物

給湯用14

暖房用16

動力他49

冷房用13

厨房用9

3

8

住宅

動力他35

冷房用

給湯用28

暖房用27

厨房用

(注) 建築材料等の省エネルギー性能の向上により住宅では約 6割建築物では約 4割を占める暖冷房給湯用エネルギー消費量の削減に貢献

(出所) (一財)日本エネルギー経済研究所「エネルギー経済統計要覧」

第125-2-2  民生分野におけるエネルギー消費の現状(2010年度)

27

第3章

 2011年 3月 11日に発生した東北地方太平洋沖地震とこれによる津波は東京電力福島第一原子力発電所において極めて重大かつ広範囲に影響を及ぼす原子力事故を引き起こしました 今回の事故に関する調査検証は「東京電力福島原子力発電所における事故調査検証委員会」(政府事故調)国会(東京電力福島原子力発電所事故調査委員会)18事故の当事者である東京電力や規制当局である経済産業省原子力安全保安院民間団体等によっても行われておりまた政府の原子力災害対策本部から国際原子力機関(IAEA)に対して日本国政府の報告書も提出されています 本章では「東京電力福島原子力発電所における事故調査検証委員会」(政府事故調)において行われた事故の原因調査究明事故を踏まえた緊急安全対策やストレステスト等の規制当局の取組原子力規制委員会の設立東京電力福島第一原子力発電所の廃止に向けた取組東京電力による被災者賠償と原子力損害賠償支援機構の設立原子力被災者支援について概要と現状今後への課題等を取り上げます

第1節  「東京電力福島原子力発電所における事故調査検証委員会」における事故原因の調査究明

1委員会の発足に至る背景

 政府は極めて重大かつ広範囲に影響を及ぼした今回の原子力事故の原因及び事故による被害の原因を究明するための調査検証を国民の目線に立って開かれた中立的な立場から多角的に行い被害の拡大防止及び同種事故の再発防止等に関する政策提言を行わせることを目的として2011年 5月 24日の閣議決定により内閣官房に「東京電力福島原子力発電所における事故調査検証委員会」(政府事故調)を設置しました

 同委員会は従来の原子力行政から独立した立場で技術的な問題のみならず制度的な問題も含めた包括的な検討を行うことを任務として調査検証を行いました

2委員会の構成

 委員会は畑村洋太郎委員長(東京大学名誉教授工学院大学教授)以下内閣総理大臣により指名された10人のメンバーで構成されました更に専門的技術的事項について助言を得るため委員長の指名により2名の技術顧問が置かれましたまた調査検証を補佐する事務局には事務局長以下の各府省庁出身者のほか社会技術論原子炉過酷事故解析避難行動等の分野の専門家8名を配置し専門家をチーム長として三つの調査検証チーム(社会システム等検証チーム事故原因等調査チーム被害拡大防止対策等検証チーム)が設置されました

第3章原子力発電所事故関連

18 報告書ダイジェスト版を参考資料に掲載しています

委員会名簿畑村 洋太郎(委員長) 東京大学名誉教授工学院大学教授

尾池 和夫 国際高等研究所所長前京都大学総長

柿沼 志津子 (独)放射線医学総合研究所放射線防護研究センターチームリーダー

高須 幸雄 東京大学グローバル地域研究機構特任教授前国際連合日本政府代表部特命全権大使

髙野 利雄 弁護士元名古屋高等検察庁検事長

田中 康郎 明治大学法科大学院教授元札幌高等裁判所長官

林 陽子 弁護士

古川 道郎 福島県川俣町長

柳田 邦男 作家評論家

吉岡 斉 九州大学副学長

安部 誠治(技術顧問) 関西大学教授

淵上 正朗(技術顧問) 株式会社小松製作所顧問工学博士

28

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第3章 原子力発電所事故関連

第3章

3調査検証の経過

 同委員会は2011年 6月 7日に開催された第1回委員会において基本的方向を定め調査検証に着手しました主として事務局を通じて東京電力原子力安全保安院原子力安全委員会をはじめとする関係事業者関係機関から資料の提出を受けてこれを分析するとともにこれらの役職員構成員や事故発生当時の閣僚更に学識経験者等を含め幅広く関係者のヒアリングが行われましたヒアリングを行った関係者は総数772名総聴取時間は概算で1479時間に上りました 作業の進捗は毎月1回開催される委員会において報告確認され2011年 12月 26日に開催された第6回委員会において中間報告がとりまとめられましたこの中間報告では今回の事故に対する国内外の関心の高さや関係機関における事故の教訓を踏まえた取組の進行状況を考慮しそれまでに明らかになった事実関係をできる限り詳細に記述するとともに事故発生後の政府諸機関の対応の問題点事前の津波シビアアクシデント対策の問題点等について可能な範囲で考察を加え緊急事態応急対策拠点施設(オフサイトセンター)の機能維持モニタリングの運用改善緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)の活用住民避難への備え原子力安全規制機関の在り方といった事柄について提言が行われました また2012年 2月 24日25日に開催された第8回委員会では調査検証の内容を国際的な関心に応えるものにするため海外5カ国(米仏スウェーデン韓中)から国際的に著名な原子力放射線等の専門家を招へいして意見交換が行われました このほか委員会は主に地震津波対策について検討するため事故現場である福島第一第二発電所に加え日本原子力発電東海第二発電所東北電力女川原子力発電所同社原町火力発電所中部電力浜岡原子力発電所及び東京電力刈羽原子力発電所を視察しました更に今回の原子力災害で被災した自治体のうち福島県大熊町双葉町浪江町南相馬市及び飯館村の各首長並びに浪江町から避難している住民からの意見聴取を行い仮設住宅の視察を行いました 2012年 7月 23日に開催された第13回委員会において最終報告19がとりまとめられ同日畑村委員長

から野田内閣総理大臣に手交されましたこの最終報告では中間報告の段階では調査が未了で取り上げることができなかった事項や中間報告で取り上げましたもののその後更なる調査検証が行われた事項等が盛り込まれました 最終報告では福島第一原子力発電所の1号機から3号機の主要な施設設備の被害状況について事態の進展に伴う損傷の拡大状況に関する分析も含めて改めて詳述するとともに同原発1号機3号機及び4号機の原子炉建屋の水素ガス爆発等に関する検討が行われました更に中間報告の段階では調査検証が未了であった同原子力発電所5号機及び6号機における事故対処同原発の外部電源復旧状況や福島第二原子力発電所における事故対処の状況原子力災害発生後の国等の組織的対応状況主として発電所外でなされた被害拡大防止のための対処としての環境放射線モニタリングSPEEDIの活用の在り方(SPEEDIにより単位量放出を仮定した予測結果は得られており仮にその情報が提供されていれば各地方自治体及び住民はより適切に避難のタイミングや避難の方向を選択できた可能性があったと言える事等)住民の避難等日本海溝沿いの地震津波に関する科学的知見シビアアクシデント対策の在り方原子力災害対応体制の検討経緯国際法国際基準関係について記述されました またこれらの主要な問題点に分析を加えた上「抜本的かつ実効性ある事故防止対策の構築」「複合災害という視点の欠如」「『被害者の視点からの欠陥分析』の重要性」等重要な論点9項目の総括を行いあわせて原子力災害の再発防止及び被害軽減のための同委員会の提言を七つのカテゴリーに分類して掲載しました(最終報告概要版を参考資料として第一部第4章第5節の後に記載)

<提言> (1)安全対策防災対策の基本的視点に関するもの  複合災害を視野に入れた対策に関する提言  リスク認識の転換を求める提言  「被害者の視点からの欠陥分析」に関する提言   防災計画に新しい知見を取り入れることに関す

る提言 (2)原子力発電の安全対策に関するもの

19 報告書概要を参考資料に掲載しています

29

第2節 東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえた規制当局の取組

第3章

  事故防止策の構築に関する提言  総合的リスク評価の必要性に関する提言  シビアアクシデント対策に関する提言 (3)原子力災害に対応する態勢に関するもの  原災時の危機管理態勢の再構築に関する提言  原子力災害対策本部の在り方に関する提言  オフサイトセンターに関する提言  原災対応における県の役割に関する提言 (4)被害の防止軽減策に関するもの  広報とリスクコミュニケーションに関する提言  モニタリングの運用改善に関する提言  SPEEDIシステムに関する提言  住民避難の在り方に関する提言  安定ヨウ素剤の服用に関する提言  緊急被ばく医療機関に関する提言  放射線に関する国民の理解に関する提言   諸外国との情報共有や諸外国からの支援受入れ

に関する提言 (5)国際的調和に関するもの  IAEA基準等との国際的調和に関する提言 (6)関係機関の在り方に関するもの  原子力安全規制機関の在り方に関する提言  東京電力の在り方に関する提言  安全文化の再構築に関する提言 (7)継続的な原因解明被害調査に関するもの  事故原因の解明継続に関する提言   被害の全容を明らかにする調査の実施に関する

提言

第2節  東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえた規制当局の取組

1 東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえた緊急安全対策

 原子力安全保安院は東京電力福島第一原子力発電所に来襲したものと同程度の地震と津波により全交流電源喪失に至ったとしても炉心損傷等深刻な事態を回避し冷温停止状態に繋げるための対策として2011年 3月 30日事業者に対して緊急安全対策を指示しました これまでに東京電力福島第一原子力発電所を除く全原子力発電所から実施状況報告を受け原子力安

全保安院として2011年 5月 6日には東京電力福島第一原子力発電所東京電力福島第二原子力発電所東北電力女川原子力発電所以外の各原子力発電所について同年6月1日には女川原子力発電所について同年11月28日には東京電力福島第二原子力発電所について緊急安全対策が適切に実施されていることを確認しました具体的には緊急時対応計画の作成緊急時の電源確保のための電源車や代替注水のための消防ポンプの配置浸水対策水源の確保や緊急時における手順書の整備訓練の実施といった対策(短期対策)が実施されたことを確認しましたこれらの対策については一部が技術基準における要求事項に含められたほか事故時の手順の整備が行われるよう保安規定も改定されています 更に緊急安全対策では海水ポンプ電動機等の予備品の確保空冷式非常用発電機等の設置や水密化防潮壁防潮堤の設置等津波に対する防護措置が中長期対策として要求されており原子力安全保安院は事業者が今後これらを適切に実施される計画を有していることを確認しました なお東京電力福島第二原子力発電所については冷温停止状態を維持するために必要な対策が取られているかという観点から確認を行いました 核燃料サイクル施設に関しては同年5月1日に再処理施設を対象に緊急安全対策を指示し同月中に各事業者から実施状況の報告を受けましたまた同年6月15日には各事業所において緊急安全対策(電源車浸水対策緊急時の手順書整備訓練の実施等短期対策)が適切に実施されていることを原子力安全保安院として確認しましたなお指示に対する報告があった時点において各施設は検査期間中であることから検査後の状況を踏まえた対策に関しては今後改めて報告がなされることとなっています

2 原子力発電所等の外部電源の信頼性確保

 2011年 3月 11日の地震により東京電力福島第一原子力発電所及び日本原電東海第二原子力発電所の外部電源が喪失したことに加え同年4月7日に宮城県沖で発生した地震により東北電力東通原子力発電所及び日本原燃六ヶ所再処理事業所において一時的に外部電源の喪失が発生しましたこれまで外部電源については特段の対策を求めてきませんでしたが今回外部電源の喪失が複数のサイトで発生したことを

30

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第3章 原子力発電所事故関連

第3章

踏まえ原子力安全保安院は外部電源の信頼性の更なる向上を図るため同年4月15日各事業者に対し外部電源の信頼性確保のための対応を検討しその結果を報告するよう指示を行い同年6月7日各社から報告の提出を受けて報告内容の評価確認を行いましたなお東京電力福島第二原子力発電所における外部電源の信頼性確保に係る対応については同年11月 28日に提出を受け評価確認を行いました今後各事業者から報告された各対策の実施状況を厳格に確認していくこととしています また原子力発電所の開閉所等の電気設備が機器の倒壊損傷等により機能不全に陥る事例も発生したことからこのような事態が発生する可能性についての影響評価及びその評価結果を踏まえた対策策定に係る実施状況についても報告することを各事業者に対して指示し2011年 7月 7日その実施状況について中間報告がなされました 更に2012年 1月 19日東京電力より東京電力福島第一原子力発電所等の開閉所に係る電気設備の損傷原因は東北地方太平洋沖地震により開閉所において発生した地震動が設計基準を超過したことであると報告されたことから各事業者に対して今後発生する可能性のある地震による耐震安全性の評価及び対策の実施を求めること等を追加指示しました同年2月17日各事業者等から耐震安全性評価に係る実施計画が報告されており今後評価結果が報告され次第その内容を確認していくこととしています

3 東京電力福島第一原子力発電所事故の技術的知見

 今回の事故から可能な限りの教訓を引き出し今後の原子力安全に役立てていくことは規制機関の責務です原子力安全保安院は事故の発生及び事故の進展について現時点までに判明している事実関係について工学的な観点から事故シーケンスに従って設備や操作手順に即して出来る限り深く整理分析することにより事象の各段階における技術的知見を体系的に抽出し主に設備手順に係る必要な対策の方向性について検討しました 具体的な検討の対象は東京電力福島第一原子力発電所の事故における外部電源設備(変電所開閉所等)所内電気設備(非常用電源設備等)冷却設備(炉心冷却系補機冷却系等)閉込機能に関する設備(格納容器ベント設備等)指揮通信計装制御設備(通信

設備炉内計装設備等)等です事故シーケンスにおける検討の範囲は地震の発生から炉心損傷及び閉込機能喪失により放射性物質が外部環境に放出されるまでの発電所で生じた事象としました 未だ放射性物質による汚染等のため現場の確認を行うことが難しい設備機器が多く溶融落下した炉心の状況等事象の解明が十分に進んでいない部分も残されていますが2011年 10月から8回にわたり公開の意見聴取会の場で外部の専門家によるレビューを受ける等して2012年 3月五つの分野について「30項目の安全対策」を以下のとおり取りまとめました (1) 外部電源対策(4対策)地震等による長時間の

外部電源喪失の防止 (2) 所内電気設備対策(7対策)共有要因による所

内電源の機能喪失防止や非常用電源の強化 (3) 冷却注水設備対策(6対策)冷却注水機能喪

失の防止 (4) 格納容器破損水素爆発対策(7対策)格納容

器の早期破損防止や放射性物質の非管理放出の防止

 (5) 管理計装設備対策(6対策)状態把握プラント管理機能の抜本的強化

 これらの対策は新たな規制の枠組みの下で技術的な要求事項を検討する際の基礎とすることを想定していますただしこれらの対策は地震と津波の重畳による全交流電源喪失を起因事象とする東京電力福島第一原子力発電所事故の事象面からボトムアップ的に導き出したものですそのためこれらの対策間の関係や重要度の比較システム全体としての安全性向上について検討するとともにより広い起因事象を包含したシビアアクシデントへの対応も含めトップダウン的な方法論により体系的に検討整理する必要がありますまた実際に規制として適用するに当たっては更に設計ガイドライン等の整備が必要です

4 既設の発電用原子炉施設等の安全性に関する総合評価(いわゆる「ストレステスト」)

 原子力安全委員会は東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえ既設の発電用原子炉施設について設計上の想定を超える外部事象に対する頑健性に関して総合的な評価を行うことが重要であるとの考えのもと2011年 7月 6日に「東京電力株式会社福島第一原子力発電所における事故を踏まえた既設の発電用原

31

第2節 東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえた規制当局の取組

第3章

子炉施設の安全性に関する総合的評価の実施について」をとりまとめ原子力安全保安院に対し発電用原子炉施設の安全性に関する総合的評価の実施を要請しました 我が国の原子力発電所の安全性については前述の緊急安全対策等により今般の事故と同程度の地震津波が発生しても深刻な事態に至ることなく冷温停止に繋げるための対策を実施しておりその結果については原子力安全保安院により確認がなされています他方定期検査後の原子力発電所の再起動に関しては原子力安全保安院による安全性の確認について国民住民の方々に十分な理解が得られているとは言い難い状況を踏まえ政府において原子力発電所の更なる安全性の向上と安全性についての国民住民の方々の安心信頼の確保のため欧州諸国を参考に新たな手続きルールに基づく安全評価としてストレステストを実施することが同年7月11日に閣僚レベルで方針決定されました この決定によれば原子力発電所のストレステストは2段階で評価することとしており一次評価は定期検査で停止中の原子力発電所の運転再開の可否について判断するために行われることになっています同年7月21日原子力安全保安院はこのストレステストを一次評価と二次評価に分けた評価手法及び実施計画を原子力安全委員会の確認を受けた上でとりまとめ翌日事業者に評価の実施を指示しました 一次評価においては「安全上重要な施設機器等について設計上の想定を超える事象に対してどの程度の安全裕度が確保されているか評価する評価は許容値等に対しどの程度の裕度を有するかという観点から行うまた設計上の想定を超える事象に対し安全性を確保するために取られている措置について多重防護(defense in depth)の観点からその効果を示すこれにより必要な安全水準に一定の安全裕度が上乗せされていることを確認する」としておりこれにより緊急安全対策の効果も含め先般の事故と同程度の地震津波が来襲しても炉心損傷といった深刻な事態に至らないことを確認します原子力安全保安院は事業者からこれまでに22プラント(2012年 7月 20日現在)について一次評価に係る報告書の提出を受けこのうち大飯発電所34号機及び伊方発電所3号機について原子力安全保安院の評価を終了していますまた大飯発電所34号機について原子力安全委員会は原子力安全保安院による評価の確

認を行い見解を取りまとめています 更に二次評価においては「設計上の想定を超える事象の発生を仮定し評価対象の原子力発電所がどの程度の事象まで燃料の重大な損傷を発生させることなく耐えることができるか安全裕度(耐力)を評価しますまた燃料の重大な損傷を防止するための措置について多重防護の観点からその効果を示すとともにクリフエッジを特定して潜在的な脆弱性を明らかにしますこれにより既設の発電用原子炉施設について設計上の想定を超える外部事象に対する頑健性に関して総合的に評価する」としています なお原子力安全保安院は2012年 1月IAEAによるレビューミッションを受け入れストレステストに関する原子力安全保安院の指示及び審査プロセスが基本的にIAEAの安全基準と整合していると結論づけられるとともに二次評価を含むストレステストのプロセスとそれ以外の規制活動の全般的な有効性を向上させると考えられる課題を特定し勧告がなされています IAEAからの指摘事項については耐震等を含め真摯に受け止め可能なものから順次実施していくこととしています 核燃料サイクル施設については原子力安全委員会からの要請等はなかったものの海外の状況等も踏まえて原子力安全保安院の判断により2011年 11月25日に加工事業者貯蔵事業者再処理事業者廃棄物管理事業者廃棄物埋設事業者に対して総合的評価の実施を指示しましたサイクル施設におけるストレステストは一次評価と二次評価に分けての評価は行いませんが安全裕度の確認と設計上の想定を超える事象の発生と拡大を防止するための措置の効果を明らかにするという方針は原子力発電所の場合とほぼ同様となっていますこれらの評価の結果は事業者が施設の安全性を向上させるための更なる対策を講じる際の参考となるものです各事業者からは2012年 4月 27日に原子力安全保安院に報告書の提出がありました

5シビアアクシデント管理

 我が国においては東京電力福島第一原子力発電所事故の発生前までシビアアクシデントは工学的には現実的に起こるとは考えられないほど発生の可能性は小さいとされ規制対象には含まれず事業者の自主的な取り組みとして対策が進められてきました事業

32

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第3章 原子力発電所事故関連

第3章

者は1992年に通商産業省からの要請を受けて確率論的安全評価の実施とアクシデントマネジメント(AM)対策の整備を進め東京電力福島第一原子力発電所においてもAM対策が整備されていましたしかし今回の事故を踏まえますとこのAM対策は外的事象特に津波により広範囲に電気系統が使用不能に陥る共通原因故障についての想定が十分でなくあらかじめ用意されていたAM対策は厳しい環境の中で十分に機能せず炉心溶融更には大規模放出を防ぐことができませんでした 更に従来の我が国はスリーマイルアイランド原子力発電所事故チェルノブイリ原子力発電所事故及び2001年の同時多発テロ等欧米等で進展している炉心損傷にいたる可能性のある事態に対する対策(シビアアクシデント対策)を含め国際機関や欧米諸国等の動向や研究成果に関する情報を入手し自らの規制活動に活用する努力が十分ではありませんでした 先般の事故を踏まえ2011年 6月原子力災害対策本部は「原子力安全に関するIAEA閣僚会議に対する日本国政府の報告書」においてこれまで事業者による自主的な取組みとしていたことを改めこれを法規制上の要求にするべきこと等シビアアクシデント対策に関する教訓をとりまとめました 原子力安全保安院は教訓のとりまとめと並行して2011年 6月 7日中央制御室の作業環境の確保通信設備の確保高線量対応防護服等の資機材の確保及び放射線管理のための体制の整備水素爆発防止対策並びにがれき撤去用の重機の配備の5項目を直ちに取り組むべき措置としてその実施を指示し立入検査等を通じて実施状況の確認を行いました また原子力安全委員会は2011年 10月に「発電用軽水型原子炉施設におけるシビアアクシデント対策について」を決定し従来多重防護の考えに基づく防護策の要求は設計基準事象への対処の範囲(IAEA-INSAG の多重防護策の定義による第3の防護レベルまで)にとどまっていましたが今後はIAEA-INSAG の定義による第4の防護レベルに相当する「シビアアクシデントの発生防止影響緩和」に対しても規制上の要求や確認対象の範囲を拡大することを含めて安全確保策を強化することとすべきとしました 政府においては2012年 1月に原子炉等規制法の改正を含む原子力組織制度改革法案を国会に提出しましたその後与党野党の協議の上法案を国会に提出し同年6月20日法案が成立していますまた

法律は同年6月27日に公布されています同法案ではこれらを踏まえてシビアアクシデントも考慮した安全規制への転換のための改正が含まれています 更に原子力安全保安院は前述のとおり東京電力福島第一原子力発電所事故の技術的知見としてシビアアクシデント時の代替注水機能の強化格納容器の過圧過温破損防止水素爆発の防止対策といったシビアアクシデント管理対策を含む30項目の対策をとりまとめた上でシビアアクシデント対策についてはトップダウンの方法論により今後体系的に検討整理する必要性を示しましたまた深層防護の考え方の徹底シビアアクシデント対策の多様性柔軟性操作性内的事象外的事象を広く包含したシビアアクシデント対策の必要性等今後の規制に反映すべき視点を挙げました 原子力安全保安院は上記の視点を踏まえ外部有識者の意見を聴きながらシビアアクシデント対策規制の基本的考え方について検討を進めています 加えて我が国は前述のとおり原子力発電所に対するストレステストとして2段階の評価を行っていますが原子力安全保安院は一次評価では主に燃料の重大な損傷を防止するとの観点でアクシデントマネジメント対策及び緊急安全対策の有効性を確認しています今後実施される予定である二次評価においてはIAEAの勧告及び助言も踏まえてシビアアクシデントに至った以降の対応の有効性についても燃料が損傷した後の緩和手段の有効性やクリフエッジに至るまでの時間の評価等について確認していきます その上で原子力安全保安院はシビアアクシデントマネジメントに係る中長期の取組として東京電力福島第一原子力発電所事故から得られた技術的な知見IAEAの安全基準や欧州のストレステストの実施状況等も参照の上検討を進めました 原子力安全保安院や原子力安全委員会の活動は新たな原子力規制機関に適切に引き継ぐこととされましたまた新たな原子力規制機関の下ではシビアアクシデント対策を法令要求化する改正原子炉等規制法に基づき事業者による総合的なアクシデントマネジメントプログラムの策定等について監視監督していくこととしています

6緊急時準備と対応

 原子力安全保安院は前述のとおり2011年 6月

33

第2節 東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえた規制当局の取組

第3章

備等の予算措置を講じているところです 更にオフサイトセンターの具体的な在り方を検討すべく原子力安全保安院において専門家による意見聴取会を開催しているところです意見聴取会や関係自治体の意見等を踏まえつつオフサイトセンターが担うべき役割を明確にし放射性物質の拡散影響や複合災害から受ける影響等も勘案してその立地地点や備えるべき遮へい機能等を検討することとしています なお新たな防災体制は今後新たな規制機関の設置と同時に行うことを想定していますがそれまでの間も万が一の事態発生に備え原子力災害対策本部事務局機能の官邸への集中と強化を進めるとともにPAZ の考え方を踏まえ直ちに避難に係る指示を行う等可能な限りこれらの新たな考え方を取り入れた対応を行えるようにすることとしています UPZ の導入により避難をあらかじめ準備しておくべき地域が大幅に拡大しまた関係する市町村の数も増加することからこれらの自治体における地域防災計画の策定準備も進められています 事故時に自治体や住民に対する情報提供が適切に行われていなかった点についても厳しい批判があり適切な時期に適切なデータを提供できなかったことから政府は情報を隠蔽しようとしたのではないかとの厳しい批判が寄せられました今後はこうした反省に立ち緊急時における情報提供の仕組みについても見直し通信システムも強化することとしています なお先に述べたとおり規制と利用の分離及び原子力安全規制の一元化の観点から政府は環境省に原子力規制庁を設置する等関係組織の再編及びその機能強化を行うこととしており原子力組織制度改革法案等を第180回通常国会に提出しましたその後与党野党の協議の上より独立性の高い原子力規制委員会を設置すべく法案を国会に提出し2012年 6月 20日法案が成立し同年6月27日に公布されています 今後速やかに原子力災害対策指針を策定することとしておりオフサイトセンターの在り方等の課題等について検討を進めその結果を原子力災害対策指針に反映させていくとともに緊急時に各機関が円滑な活動を実施できるよう防災基本計画を修正したほか原子力災害対策マニュアルについても改正することを予定しています

7日緊急時における発電所構内通信手段の確保等万一シビアアクシデントが発生した場合でも迅速に対応を確保する観点から直ちに取り組むべき緊急時における発電所構内通信手段の確保等の措置を整理指示しその実施状況を確認しました更に2012年 3月に原子力安全保安院がとりまとめた東京電力福島第一原子力発電所事故の技術的知見に関する報告書の中でとりまとめた30の対策には緊急時対策として事故時の指揮所の確保整備通信機能確保計装設備の信頼性確保プラント状態の監視機能の強化事故時モニタリング機能の強化及び非常事態への対応体制の構築訓練の実施が含まれていますこれらの対策については今後安全規制に反映すべき点として整理したものです 発電所外の広範囲の緊急時対策としては前述のとおり原子力安全委員会では『原子力施設等の防災対策について』の見直しについての検討を行い2012年3月予防的防護措置を準備する区域(PAZ)を概ね5km とすること緊急防護措置を準備する区域(UPZ)を概ね30km とすること放射性物質を含んだプルーム(気体状あるいは粒子状の物質を含んだ空気の一団)による被ばくの影響を避けるための防護措置を実施する地域(PPAPlume Protection Planning Area)を概ね50km(参考値)とすること等の考え方が示されました 加えて今回原子力災害対策本部事務局が情報のハブ機能を十分に果たすことが出来なかったこと原子力災害現地対策本部についても初期段階での人員参集の遅れや拠点となるオフサイトセンター機能の不全が生じてしまったこと等の反省に立ち政府の防災体制の全面的な見直しを図ることとしています具体的には原子力災害対策本部の事務局を官邸内に速やかに立ち上げ官邸を拠点として情報収集と対応情報発信に当たること原子力発電所の状況を速やかに把握するため電気事業者本社等の対策拠点に審議官級の職員を派遣するとともに官邸原子力安全規制機関電気事業者の対策拠点原子力発電所等を結ぶテレビ会議システムを立ち上げる等の対策を講ずることとしました 原子力安全保安院はオフサイトセンターについても緊急的な対策として昨年来衛星回線の拡充等の通信体制の強化放射線防護対策としての防護服やマスクの充実食料飲料水の備蓄の拡充代替オフサイトセンターに搬入可能な可搬型通信資機材の整

34

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第3章 原子力発電所事故関連

第3章

7国際協力に係る取組

 政府は東京電力福島第一原子力発電所事故から得られる知見と教訓を国際社会と共有し国際的な原子力安全の強化に貢献していくことを責務であると認識し2011年 6月の IAEA閣僚会議及び同年9月の IAEA総会の機会を捉え事故についての包括的な報告を行ってきました事故発生以降の近隣国及び国際社会とのコミュニケーション国際社会との協力原子力安全関連条約に関する取組IAEA安全基準への貢献及びその活用並びに国際的なピアレビューを踏まえ引き続き各国機関との一層効果的な連携を図ります

第3節 原子力規制委員会

1 規制組織の在り方に係る反省を踏まえた取組

 2011年 6月に公表された「原子力安全に関するIAEA閣僚会議に対する日本国政府の報告書」において「原子力安全確保に関する行政組織が分かれていることにより国民に対して災害防止上十分な安全確保活動が行われることに第一義的責任を有する者の所在が不明確であった」と指摘されているように東日本大震災以前まで我が国の原子力安全規制行政体制においてその第一義的責任を有する者の所在が不明確でした この反省を踏まえ政府は「原子力安全規制に関する組織等の改革の基本方針」(2011年 8月 15日閣議決定(以下基本方針))を公表しましたその中には「当面の安全規制組織の見直しの方針」として「①規制と利用の分離」「②原子力安全規制に係る関係業務の一元化」「③危機管理」「④官民を問わず質の高い人材の確保」「⑤規制の在り方や関係制度の見直し」という五つの見直しの方針や「新組織を設置するために必要な法律案の立案等の準備を2012年 4月の設置を目指して行うこと」「東京電力福島第一原子力発電所における事故調査検証委員会による組織の在り方に係る検証結果等が示された場合は柔軟に対応する」旨が盛り込まれましたまた「中長期的な原子力政策及びエネルギー政策の見直しや事故調査検証委員会による検証の結果を含めてより広範な検討を進め新組織が担うべき業務の在り方やより実効的で強

力な安全規制組織の在り方について2012年末を目途に成案を得る」こととされました 更にこの基本方針を基に原子力安全規制に関する組織のあり方原子力安全規制強化のあり方等について検討するため原発事故の収束及び再発防止担当大臣が当該分野に関する専門的知見を有する者に参集を求め意見を聞くことを目的として原子力事故再発防止顧問会議が開催されました2011年 10月 4日から12月 2日にかけて4回開催され「原子力事故再発防止顧問会議提言」がとりまとめられましたこの中で①「規制と利用の分離」②「一元化」③「危機管理」④「人材の育成」⑤「新安全規制」⑥「透明性」⑦「国際性」の七つの原則に基づいて原子力安全規制組織等の改革を進めていくべきであるとされました これらの議論を踏まえ原子力安全規制行政に係る組織及び制度の改革に関し国会における審議を経て衆議院環境委員長から「原子力規制委員会設置法案」が提案され2012年 6月 20日に可決成立しました

2原子力規制委員会設置法の概要

 このような経緯を踏まえ成立した原子力規制委員会設置法の概要については以下のとおりとなっています

原子力規制委員会設置法について(1)目的

 原子力利用に関する政策に係る縦割り行政の弊害を除去し並びに一の行政組織が原子力利用の推進及び規制の両方の機能を担うことにより生ずる問題を解消するため原子力利用における事故の発生を常に想定しその防止に最善かつ最大の努力をしなければならないという認識に立って確立された国際的な基準を踏まえて原子力利用における安全の確保を図るため必要な施策を策定しまたは実施する事務を一元的につかさどるとともにその委員長及び委員が専門的知見に基づき中立公正な立場で独立して職権を行使する原子力規制委員会を設置しもって国民の生命健康及び財産の保護環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的とする

(2)概要 ① 原子力規制委員会の組織及び機能

35

第4節 東京電力福島第一原子力発電所1~4号機の廃止に向けた取組

第3章

  環境省の外局として原子力規制委員会を設置(いわゆる「3条委員会」)(委員長及び委員4名は国会同意を得て総理が任命)

  原子力規制委員会の事務局として原子力規制庁を設置

  原子力安全規制核セキュリティ核不拡散の保障措置放射線モニタリング放射性同位元素等の規制を一元化

  (独)原子力安全基盤機構(JNES)を所管(必要となる法制上の措置を速やかに講じてJNESを原子力規制庁に統合)

  (独)日本原子力研究開発機構(JAEA)及び(独)放射線医学総合研究所の業務の一部を共管

 ② 原子力安全規制の転換

  重大事故対策の強化  最新の知見に基づく規制の実施(バックフィット制度)

  40年運転制限制の導入 等

 ③ 原子力防災対策の強化

  内閣に原子力防災会議を設置し関係機関との緊密な連携の下で原子力防災対策を推進

  原子力災害対策指針の法定化

  原子力災害対策本部の強化緊急事態解除後の事後対策の円滑化

  緊急時における原子力災害対策本部長(総理)の権限を明確化

(3)施行期日

  公布の日(2012年 6月 27日)から3月以内で政令で定める日

   (国会同意人事の手続きは公布日から施行)  核不拡散の保障措置放射線モニタリングの実施機能放射性同位元素等の規制の一元化等は2013年 4月 1日

  原子炉等規制法の改正は施行日施行日から10月以内で政令で定める日1年3月以内で政令で定める日と段階的に施行

  原子力災害対策特別措置法の改正の一部は施行日から6月以内で政令で定める日

第4節 東京電力福島第一原子力発電所1~4号機の廃止に向けた取組

1冷温停止に向けた取組

 事故の収束に向けては2011年 4月 17日に東京電力がとりまとめた「福島第一原子力発電所事故の収束に向けた道筋」(以下道筋)が着実かつ極力前倒しされて実施されるよう検討作業のフォローアップや必要な安全性の確認を行ってきました 2011年5月17日には原子力災害対策本部が「東京電力福島第一原子力発電所事故の収束検証に関する当面の取組のロードマップ」を公表し事故の収束までの政府の取組を示しましたまた同年5月17日及び同年6月17日には東京電力が道筋の改訂版をとりまとめ窒素封入や循環冷却システムの設置運転等の原子炉使用済燃料プールの安定的な冷却に向けた取組み汚染水処理設備の設置等の放射性物質で汚染された水の閉じこめ保管処理再利用の取組み飛散防止剤や原子炉建屋カバリングの設計導入支援等の大気土壌での放射性物質の抑制に向けた取

20 左の図緑色部分の組織と事務が右の図の原子力規制委員会に一元化されました

【これまでの規制体制】 【新しい規制体制】

内閣府経済産業省

経済産業省

文部科学省

原子力委員会

原子力規制委員会

委員長+委員4名(国会同意人事)

原子力規制庁(事務局)

環境省

規制規制ダブルチェックで規制

資源エネルギー庁

資源エネルギー庁

電力会社等 研究機関大学等

電力会社研究機関大学等

核物質を守るための対策の総合調整

原子炉の安全審査のダブルチェック等

発電用原子炉の安全規制 等

原子力安全委員会

原子力安全保安院

試験研究炉等の安全規制核不拡散の保障措置の規制(1)放射線のモニタリングSPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)の運用放射性同位元素等の規制201341より移管

第133-2-1 これまでの規制体制と新しい規制体制20

36

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第3章 原子力発電所事故関連

第3章

組み空間土壌海水等の体系的なモニタリングの実施等の取組みを行いました同年7月19日には道筋のステップ1の目標が概ね予定通りに達成されたことが確認されると共にステップ2に進むにあたり東京電力だけでなく政府もより一体となり事故収束に取り組む観点から東京電力の「道筋」と政府の「ロードマップ」を統合した「東京電力福島第一原子力発電所事故の収束に向けた道筋 当面の取組のロードマップ(改訂版)」を発表しました同年10月 3日にはステップ2完了後から廃炉作業の開始までの期間における安全確保のための基本目標を「中期的安全確保の考え方」として定め東京電力に対してこれに適合するよう指示しましたこれを受けて東京電力から提出された報告書について専門家の方々による緻密な検証作業を経て万一不測の事態が発生したとしても敷地境界における被ばく線量が十分低い状態を維持できるとの評価結果を得ました これを踏まえ東京電力福島第一原子力発電所が冷温停止状態に達したことを確認しステップ2の完了を判断したところです一方で漏水等のトラブルが発生していた状況を受けて2012年 3月 28日原子力安全保安院は東京電力に対して主要設備を仮設設備から恒久的な設備に更新すること等中長期的な信頼性向上のために優先的に取り組むべき事項についての具体的な実施計画を策定するよう指示しました

2中長期ロードマップに基づく取組

 ステップ2完了(2011年 12月)以降はそれまでのプラント安定化に向けた取組から確実にプラントの安定状態を維持する取組に移行するとともに1~4号機の使用済燃料プールからの燃料の取り出し1~3号機の原子炉圧力容器及び原子炉格納容器からの燃料デブリ(燃料と被覆管等が溶融し再固化したもの)の取り出し等廃止措置に向けた中長期に亘る取組が進められています このような中長期の取組については同年8月に原子力委員会に設置された東京電力福島第一原子力発電所における中長期措置検討専門部会において技術的課題研究開発項目が整理されるとともに「燃料デブリ取り出し開始までの期間は10年以内を目標廃止措置が全て終了するまでは30年以上の期間を要するものと推定される」との整理がなされています 同年11月 9日には経済産業大臣及び原発事故収束再発防止担当大臣より廃止措置等に向けた中長

期ロードマップの策定等についての指示が東京電力資源エネルギー庁原子力安全保安院に出されました 更に同年12月 16日ステップ2完了に伴い政府東京電力統合対策室を廃止し原子力災害対策本部の下中長期ロードマップの策定と進捗管理を行う政府東京電力中長期対策会議が設置され同年12月21日同会議において「東京電力福島第一原子力発電所1~4号機の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ」(以下中長期ロードマップ)が決定されました(第134-2-1) 中長期ロードマップではステップ2完了から2年以内の開始を目標とした使用済燃料プール内の燃料取り出し開始までを第1期と定義し使用済燃料プール内の燃料取り出し開始のための準備作業を行うとともに燃料デブリ取り出しに必要な研究開発を開始し成果を活用した現場調査に着手する等廃止措置等に向けた本格的な作業開始までの集中的な準備を行います 第1期以降ではステップ2完了から10年以内の開始を目標とした燃料デブリ取り出し開始までを第2期としその後の廃止措置終了までを第3期と定義しました また中長期ロードマップの進捗管理を着実に行うため政府東京電力中長期対策会議の下に「運営会

ステップ1 2 第 1期 第2期 第3期

現在(ステップ2完了) 2年以内 10年以内 30~40年後

<安定状態達成>冷温停止状態放出の大幅抑制

要員の計画的育成配置意欲向上策作業安全確保に向けた取組(継続実施)

使用済燃料プール内の燃料取り出しが開始されるまでの期間(2年以内)

燃料デブリ取り出しが開始されるまでの期間(10年以内)

廃止措置終了までの期間(30~ 40年後)

使用済燃料プール内の燃料の取り出し開始(4号機2年以内)発電所全体からの追加的放出及び事故後に発生した放射性廃棄物(水処理二次廃棄物ガレキ等)による放射線の影響を低減しこれらによる敷地境界にお け る 実 効 線 量1mSv年未満とする原子炉冷却滞留水処理の安定的継続信頼性向上燃料デブリ取り出しに向けた研究開発及び除染作業に着手放射性廃棄物処理処分に向けた研究開発に着手

全号機の使用済燃料プール内の燃料の取り出しの終了建屋内の除染格納容器の修復及び水張り等燃料デブリ取り出しの準備を完了し燃料デブリ取り出し開始(10 年以内目標)原子炉冷却の安定的な継続滞留水処理の完了放射性廃棄物処理処分に向けた研究開発の継続原子炉施設の解体に向けた研究開発に着手

燃料デブリの取り出し完了(20~25年後)廃止措置の完了(30 ~ 40 年後)放射性廃棄物の処理処分の実施

第134-2-1  中長期ロードマップ(2011年 12月 21日)の概要

37

第4節 東京電力福島第一原子力発電所1~4号機の廃止に向けた取組

第3章

議」が設置され中長期ロードマップの個別の計画ごとの進捗管理が行われています同会議の内容資料は経済産業省ホームページで公開されるとともに立地地域の地元自治体に対してはTV会議訪問説明等により個別情報提供がなされています 加えて中長期的に「冷温停止状態」を維持することを始めとして発電所の安全を確保するためには適切な保守管理の実施や設備の更新も含め信頼性向上に向けた取組を引き続き実施していくことが必要不可欠であることから2012年 3月 28日原子力安全保安院から東京電力に対し設備機器に関する中長期の信頼性の向上のための指示がなされ同年5月11日までに「実施計画」の提出が求められましたこれを受け政府東京電力中長期対策会議では東京電力が提出する「実施計画」を踏まえた中長期ロードマップの改訂を行い工程を厳格に管理することにより更なる安全性信頼性の確保を図ることとしています このように廃炉に向けた取組は中長期ロードマップに基づき発電所の安全に万全を期しながら国内外の叡智を結集し政府と東京電力が一体となって廃炉に至る最後の最後まで全力を挙げて取り組まれていきます

3研究開発

 先記の2011年11月9日における枝野経済産業大臣及び細野原発事故収束再発防止担当大臣からは資源エネルギー庁原子力安全保安院及び東京電力に対し中長期ロードマップの策定とともに廃止措置等のための研究開発計画の策定について指示が出されました これを受け資源エネルギー庁及び東京電力は文部科学省(独)日本原子力研究開発機構(JAEA)及び東京電力福島第一原子力発電所の設計建設に関して知見経験を有するプラントメーカーである東芝及び日立製作所日立GEニュークリアエナジーの協力を得ながら同年12月 21日に開催された政府東京電力中長期対策会議において研究開発計画を決定しました本計画では研究開発を作業に応じて「使用済燃料プール燃料取り出しに係る研究開発」「燃料デブリ取り出し準備に係る研究開発」「放射性廃棄物処理処分に係る研究開発」及び「遠隔操作機器に係る技術開発」に分類し実施することとしています 特に原子力施設の将来の廃炉安全基盤の強化のための技術基盤の整備国として知見経験の蓄積

共有を図ることが必要な研究開発等は国が行うべきものとして体制強化を図りながら実施します また同会議において研究開発計画の進捗管理を行う場として研究開発推進本部が設置され個別研究開発プロジェクトのマネジメント国内外叡智の結集のための具体的取組研究拠点構想等について集中的に議論を行ってきました 2012年 2月には「東京電力福島第一原子力発電所の廃止措置等に向けた燃料デブリ取出し準備の機器装置開発等に係る技術カタログ検討ワークショップ」を開催し研究開発プロジェクトにおいて採用すべき技術シーズのカタログの充実を図るため国内有識者を集め求められる技術ニーズ仕様を共有し意見を交換しました また同年3月には「東京電力福島第一原子力発電所1~4号機の廃止措置等に向けた研究開発計画に係る国際ワークショップシンポジウム」を開催し研究開発計画において取り組む課題及び対応の方向について国際的な情報発信を実施するとともに国内外の有識者専門家との間で課題への対応の方向について討議を実施し有識者専門家より技術的な提案アドバイスを受けました 更にプロジェクトの実施に当たり的確なマネジメントを行っていく観点から2011年度末に個々の研究開発プロジェクトの実績評価及び2012年度以降の計画見直しの方向を取りまとめた本見直しでは現場ニーズをプロジェクトに的確に反映するための体制の強化や中長期視点での人材確保育成を意識した取組を進めていくこととしています 今後も本計画に沿って東京電力福島第一原子力

燃料デブリ取出し準備ワーキングチーム

機器装置開発等サブワーキングチーム(SWT)

報告審議 報告審議

研究開発推進本部

報告審議

事務局

使用済燃料プール燃料取り出しワーキングチーム

炉内状況把握解析SWT

放射性廃棄物処理処分ワーキングチーム

遠隔技術タスクフォース

燃料デブリ性状把握処理準備SWT

23FY-

燃料集合体の長期健全性

25FY-

損傷燃料等の処理技術

23FY-

建屋内の遠隔除染

24FY-

総合的線量低減計画策定

23FY-

PCVRPV健全性評価

23FY-

建屋PCV漏えい箇所特定

23FY-

建屋PCV止水補修

23FY-

PCV内部調査

25FY-

RPV内部調査

27FY-

デブリ炉内構造物取出し

25FY-

デブリ燃料収納技術

24FY-

デブリ臨界管理

23FY-

事故進展解析

23FY-

模擬デブリ特性把握

23FY-

デブリ処置技術

24FY-

デブリ計量管理方策

28FY-

実デブリ性状分析

23FY-

汚染水処理の廃棄物安定化

23FY-

廃棄物の処理処分検討

第134-3-1 研究開発体制

38

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第3章 原子力発電所事故関連

第3章

発電所1~4号機の廃止措置等に向けた中長期の取組を進める上で必要な研究開発を着実に進めていきます なお研究開発の成果として得られた知見技術は国内外の将来の原子力施設の廃止措置や安全基盤の強化等にも広く役立つものと期待されます

第5節 原子力損害賠償

1 原子力損害賠償紛争審査会の設置及び指針の背景

 2011年3月11日の福島原子力発電所事故発生以降多くの住民が避難生活や生産及び営業を含めた事業活動の断念等を余儀なくされており被害者の方々が一日でも早く安心で安全な生活を取り戻せるよう迅速公平かつ適正な救済が必要です政府は今回の事故に関して原子力損害の賠償を円滑に進められるよう原子力損害の範囲など当事者による自主的な解決に資する一般的な指針の策定等の業務を行うため原子力損害の賠償に関する法律に基づき2011年 4月 11日より「原子力損害賠償紛争審査会」を設置しました 同審査会においては被害者の迅速な救済を図るため原子力損害に該当する蓋然性の高いものから順次指針として提示することとしました 紛争審査会は同年4月28日には政府等による指示等に基づく損害の範囲を示す第一次指針を策定しその後第二次指針(同年5月31日)及び第二次指針追補(同年6月31日)の策定により指針で示す原子力損害の範囲を拡大し同年8月5日には原子力損害の範囲の全体像を示す中間指針を策定しましたその間各省庁に加え地方公共団体事業者団体等からヒアリングを行うとともに17分野76名の専門委員による各分野の被害状況調査を行い被害状況等の把握に努めました その後紛争審査会では同年12月 6日に自主的避難等に係る損害に関する中間指針第一次追補2012年 3月 16日政府による避難区域等の見直し等に係る損害についての中間指針第二次追補を策定しましたまた指針に類型化した損害として明記されていないものが賠償の対象とならないというものではなく個別具体的な事情に応じて事故との相当因果関係のある損害として賠償され得ることも指針に明記さ

れています

(1) 原子力損害の範囲の全体像を示す中間指針の概要

 中間指針で示された項目は以下のとおりです 政府による避難等の指示等に係る損害  政府による航行危険区域等及び飛行禁止区域の設定に係る損害

  政府等による農林水産物等の出荷制限指示等に係る損害

 その他の政府指示等に係る損害  いわゆる風評被害(一般的基準農林漁業食品産業観光業製造業サービス業等輸出)

 いわゆる間接損害 放射線被曝による損害 被害者への各種給付金と損害賠償金との調整 地方公共団体等の財産的損害等

(2) 自主的避難に係る損害についての中間指針第一次追補の概要

 中間指針の策定の際事故との相当因果関係を判断する客観的基準を見いだすことが難しいことから継続審議事項とされた政府等の指示に基づかない「自主的避難」について2011年 12月 6日に自主的避難等に係る損害に関する中間指針第一次追補を策定しました[基本的考え方] 事故発生当初の十分な情報がない時期は大量の放射性物質の放出による被ばくへの恐怖不安を抱くことは年齢等問わず一定の合理性が認められる 事故発生からしばらく経過後は放射線量等に関する情報がある程度入手できるようになった状況下にあり少なくとも子供妊婦の場合は放射線への感受性が高い可能性があることが一般に認識されていることから被ばくへの恐怖不安を抱くことは一定の合理性が認められる 上記恐怖不安による自主的避難のみならず自主的避難を行わずに滞在し続けた者にも賠償すべき損害が認められる

[自主的避難等対象区域] 発電所からの距離避難指示等対象区域との近接性政府等から公表された放射線量に関する情報自主的避難の状況等を総合的に勘案して対象区域(福島県内の避難指示対象区域を除く23市町村)を明示

39

第5節 原子力損害賠償

第3章

(3) 政府による避難区域等の見直し等に係る損害についての中間指針第二次追補の概要

 政府の原子力災害対策本部が同年12月 16日原子炉は安定状態に達し事故そのものは収束に至ったことを確認し同月26日に避難指示区域の見直しに関する基本的考え方及び今後の課題を示したこと等を踏まえ紛争審査会は本年3月16日政府による避難区域等の見直し等に係る損害についての中間指針第二次追補を策定しました中間指針第二次追補で示された項目は以下のとおりです 避難区域見直し後の避難費用及び精神的損害 旧緊急時避難準備区域の避難費用及び精神的損害 特定避難勧奨地点の避難費用及び精神的損害 不動産の価値の喪失または減少等について 営業損害就労不能等に伴う損害 自主的避難等に係る損害 除染等に係る損害

2 原子力損害賠償紛争解決センターの設置

 原子力損害賠償紛争審査会は今回の東京電力福島第一第二原子力発電所事故により被害を受けた方々の原子力事業者(東京電力)に対する損害賠償について円滑迅速かつ公正に紛争を解決することを目的として同審査会の下に「原子力損害賠償紛争解決センター」を設置し2011年 9月東京都港区と福島県郡山市の2カ所において業務を開始しました同センターにおいては紛争の当事者(被害者または原子力事業者)の申立てにより仲介委員が申立人と相手方の双方から事情を聴き取って損害の調査検討を行い双方の意見を調整しながら和解案を提示する和解の仲介業務を実施しています 同センターでは2012年 2月以降多くの申立に共通すると思われる問題点に関して一定の基準を示す「総括基準」を順次策定公開しているほかセンターで実施されている和解仲介の結果を広く周知し今後の賠償を円滑に進めていく上での参考とするため和解実例を順次公開しています 更に同年7月には和解仲介の申立に関して出来る限り被害者の方々の居所等の近くで話し合いを実施する等きめ細やかな対応を実施するため福島県内の各地域(県北会津いわき相双)に同センター福島事務所の支所を設置しました

3 原子力損害賠償補償契約に関する法律に基づく措置

 政府は原子力損害賠償補償契約に関する法律に基づき原子力損害賠償補償契約を原子力事業者と締結しており地震噴火等により原子力損害が発生した場合にはこの契約に基づく補償金を支払うこととなっています 今般の事故を受け政府は2011年 11月原子力損害賠償補償契約に基づき東京電力福島第一原子力発電所分の1200億円を東京電力へ支払いました

4原子力損害賠償支援機構の設立の背景

 2011年 3月 11日の東日本大震災により東京電力福島原子力発電所事故による大規模な原子力損害の発生を受け2011年 6月 14日に「東京電力福島原子力発電所事故に係る原子力損害の賠償に関する政府の支援の枠組みについて」が閣議決定され東京電力福島原子力発電所事故に係る原子力損害の賠償に関する政府の支援の枠組みについて政府としてこれまで原子力政策を推進してきたことに伴う社会的な責任を負っていることに鑑み ① 被害者への迅速かつ適切な損害賠償のための万全の措置

 ② 東京電力福島原子力発電所の状態の安定化事故処理に関係する事業者等への悪影響の回避

 ③電力の安定供給の三つを確保するため「国民負担の極小化」を図ることを基本として損害賠償に関する支援を行うための万全の措置を講ずることが確認されました こうしたことを受け2011年 8月 10日に原子力損害賠償支援機構法及び関連する政省令が公布施行され原子力事業に係る巨額の損害賠償が生じる可能性を踏まえ原子力事業者による相互扶助の考えに基づき将来にわたって原子力損害賠償の支払等に対応できる支援組織を中心とした仕組みを構築するため同年9月12日に原子力損害賠償支援機構が設立されました なお原子力損害賠償支援機構法の附則において原子力損害賠償の実施状況等を踏まえ原子力損害の賠償に関する法律の改正等の抜本的な見直しをはじめとする必要な措置を講ずるものとされています

40

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第3章 原子力発電所事故関連

第3章

5原子力損害賠償支援機構の枠組み

 原子力損害賠償支援機構(以下機構)を中心とした原子力事業者による相互扶助の枠組みは以下のようになっています

(1)原子力事業者からの負担金の収納 原子力損害が発生した場合の損害賠償の支払等に対応するため損害賠償に備えるための積立てを行います 機構は機構の業務に要する費用として原子力事業者から負担金の収納を行います 機構に第三者委員会的な組織として「運営委員会」を設置し原子力事業者への資金援助に係る議決等機構の業務運営に関する議決を行います

(2)機構による通常の資金援助 原子力事業者が損害賠償を実施する上で機構の援助を必要とするときは機構は運営委員会の議決を経て資金援助(資金の交付株式の引受け融資社債の購入等)を行います 機構は資金援助に必要な資金を調達するため政府保証債の発行金融機関からの借入れをすることができます

(3)機構による特別資金援助①特別事業計画の認定 機構が原子力事業者に資金援助を行う際政府の特別な支援が必要な場合原子力事業者と共に「特別事業計画」を作成し主務大臣の認定を求めます 特別事業計画には原子力損害賠償額の見通し賠償の迅速かつ適切な実施のための方策資金援助の内容及び額経営の合理化の方策賠償履行に要する資金を確保するための関係者(ステークホルダー)の協力の要請経営責任の明確化のための方策等について記載します 機構は計画作成に当たり原子力事業者の資産の厳正かつ客観的な評価及び経営内容の徹底した見直しを行うとともに原子力事業者による関係者に対する協力の要請が適切かつ十分なものであるかどうかを確認します 主務大臣は関係行政機関の長への協議を経て特別事業計画を認定します

②特別事業計画に基づく事業者への援助 主務大臣の認定を受け機構は特別事業計画に基づく資金援助(特別援助)を実施するため政府は機構に国債を交付し機構は国債の償還を求め(現金化)原子力事業者に対し必要な資金を交付します 政府は国債が交付されてもなお損害賠償に充てるための資金が不足するおそれがあると認めるときに限り予算で定める額の範囲内において機構に対し必要な資金の交付を行うことができます 機構は政府保証債の発行等により資金を調達し事業者を支援します

③機構による国庫納付 機構から援助を受けた原子力事業者は特別負担金を支払います 機構は負担金等をもって国債の償還額に達するまで国庫納付を行います ただし政府は負担金によって電気の安定供給等に支障を来しまたは利用者に著しい負担を及ぼす過大な負担金を定めることとなり国民生活国民経済に重大な支障を生ずるおそれがある場合機構に対して必要な資金の交付を行うことができます

④損害賠償の円滑化業務 機構は損害賠償の円滑な実施を支援するため(ア)被害者からの相談に応じ必要な情報の提供及び助言を行うとともに(イ)原子力事業者が保有する資産の買取り及び(ウ)賠償支払の代行(原子力事業者からの委託を受けて賠償の支払国または都道府県知事の委託を受けて仮払金の支払)を行うことができます 平成二十三年原子力事故による被害に係る緊急措置に関する法律案に基づく国による仮払金

6特別事業計画策定の経緯と支援の経過

① 2011年11月4日に特別事業計画を認定(緊急特別事業計画の認定)

② 2012年 2月 13日に認定特別事業計画の変更認定

③ 2012年5月9日に認定特別事業計画の変更認定(総合特別事業計画の認定)

 機構は東京電力による賠償金の速やかな支払を確

41

第5節 原子力損害賠償

第3章

保するため2012年 2月に緊急特別事業計画の変更を行いましたこの中でその時点での要賠償額の見通し1兆7003億 2200万円から原子力損害の賠償に関する法律第7条第1項に規定する賠償措置額として既に東京電力が受領している1200億円を控除した金額を損害賠償の履行に充てるための資金として2012年度までに交付することとしていましたしかしながらその後新たな賠償基準の策定等により損害賠償の見通しが2兆5462億7100万円となったため機構は東京電力に対し当該要賠償額から上記1200億円を控除した2兆4262億 7100万円を損害賠償の履行に充てるための資金として交付することとしていますなお交付の時期についてはすでに機構が交付した1兆1168億円(同年7月26日時点)を控除した金額を2013年度までに交付する予定です また原子力損害賠償支援機構法第38条第1項の規定に基づき機構の業務に要する費用に充てるため各電力会社が負担する負担金については同年3月30日に2011年度一般負担金年度総額を815億と決定しました

7賠償の実績及び業務の改善

(1)賠償に向けた体制の整備及び賠償の実績 東京電力は2011年4月15日に国の「原子力発電所事故による経済被害対応本部」において原子力災害対策特別措置法の規定に基づき当面の必要な資金を「仮払補償金」として支払いするよう決定がなされたことを受け同日仮払補償金の開始を公表しましたまた同社は原子力損害賠償紛争審査会による中間指針(2011年 8月 5日)を踏まえ同年8月30日に個人の本賠償2011年 9月 21日に法人個人事業者の本賠償の開始を公表するとともに本賠償の対象賠償額の算定基準等を提示しました(法人個人事業者については同年9月21日に発表)個人事業者ともに同年9月に請求書送付受付(一次請求同年3~8月分)を開始し同年10月 5日に本賠償の支払いを開始しました2012年 7月末までに仮払補償金本賠償合計で約1兆795億円の支払いが行われています(仮払約1469億円本賠償約9326億円)

(2)賠償業務の改善 東京電力に対しては2011年 10月の本賠償開始後被害者の方々に対して親身親切な損害賠償が行われていない等の不満が多く寄せられておりました東京

電力は機構とともに策定した緊急特別事業計画においてこうした状況を改善すべく「5つのお約束」(迅速な賠償のお支払いきめ細やかな賠償のお支払い原子力損害賠償紛争解決センターの和解仲介案の尊重親切な書類手続き誠実な御要望への対応)を掲げ賠償業務の行程管理の徹底や請求書類の簡素化等東京電力の賠償実施体制の建て直しを行ってきました また機構はこうした東京電力の取組を継続的にモニタリングするほか自ら弁護士行政書士等からなる「訪問相談チーム」を派遣する等賠償の円滑化に向けた取組を行いました こうした取組の結果請求書類の確認や賠償金のお支払いについて計画に定めた目標期間内での対応の実現原子力損害賠償紛争解決センターの和解仲介案の尊重や指針外への対応等一定の改善も見られています

<総合特別事業計画(2012年5月9日認定)のポイント>(1) 東京電力の取組と関係者の協力 国と東京電力の双方には厳しい状況をともに連帯して乗り越えていく重い責務 東京電力はあらゆる手段を総動員し「賠償廃止措置安定供給」の責任を果たす 国はエネルギー政策や原子力政策全体についての責務と相まって責任を果たしていく 国家的難題に直面しているという認識の下関係者全ての持てる力を結集することが必要

(2) 東京電力の新経営体制①原子力損害賠償支援機構が東京電力の総議決権の2分の1超を取得(「一時的公的管理」)するとともに追加的に議決権を取得できる転換権付無議決権種類株式を引き受けることで潜在的には総議決権の3分の2超の議決権を確保②会長以下役員の退任顧問制度全廃退職慰労金の受取辞退 等

(3) 合理化の深掘り10年間で33兆円超のコスト削減を行う①人件費(10年間で12758億円削減)②資材役務経費(10年間で6641億円削減)③買電燃料調達に係る費用(10年間で1986億円削減)

42

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第3章 原子力発電所事故関連

第3章

④その他経費(10年間で9687億円削減)⑤資産売却不動産電気事業資産以外は原則全て売却(2472億円相当(時価ベース))有価証券2011年度から原則3年以内に3301億円相当の有価証券を売却子会社関連会社2011年度から原則3年以内に119社中45社 1301億円相当を売却

(4) 料金改定【前提】燃料費等増を合理化の徹底により圧縮した上で必要最小限の料金改定(3年原価とし柏崎刈羽原発の2013年度4月以降の順次稼働を収支計画の前提として置く)①規制部門で1028料金引上げ(原価算定期間の3年間)を収支計画の前提として置く(注電気事業法に基づく経済産業大臣認可が必要であり査定の結果846になった)②自由化部門は1639料金引上げ(査定の結果1490になった)「自由化料金については総原価洗替えの結果を反映し4月からの差額を割り引く」旨明記

(5) 賠償コスト廃炉コスト①帰還困難地域の財物全損賠償等の新基準を踏まえ約8500億円を積み増し(総額約25兆円)②除染は予算執行の進捗国からの求償等合理的な見積もりが可能になるまで計上せず③廃炉コストは「ロードマップ」に対応した積上げによる費用を今後見積もり

(6) 事業改革(東京電力の方向性改革の段取り)①入札による競争や外部事業者等との連携を通じた最適需給の実現②社内カンパニー(燃料火力送配電小売)(「自前主義」から「外部連携」へ)LNG発電コスト低減に焦点調達集約化インフラ共同運用IPP入札③国際標準に準拠したスマートメーターのオープンな調達企業連携による省エネサービス

(7) 金融機関株主責任財務基盤強化

①金融機関自律的な資金調達力の回復まで与信を維持主要取引機関は融資1兆円追加②機構による株式の引受け株主総会後払込金額総額1兆円21

③既存株主株式の希薄化当面の間 無配

第6節 原子力被災者支援 東京電力福島第一原子力発電所事故では政府による避難屋内退避の指示等により多数の居住者等が避難その他の行動を余儀なくされあるいは事業者が生産及び営業を含めた事業活動の断念を余儀なくされる等東京電力福島第一原子力発電所から半径約30km 圏内を中心に福島県全体のみならず周辺の各県も含めた広範囲に影響を及ぼす事態に至りました 2011年 3月 29日には原子力被災者への生活支援を強化するため原子力災害対策本部の下に原子力被災者生活支援チームが設置され避難受入れ態勢の確保除染体制の確保被災地への物資等の輸送補給被ばくに係る医療の確保環境モニタリングと正確迅速な情報提供等を行ってきました同年5月17日には原子力災害対策本部は「原子力被災者への対応に関する当面の取組方針」及び「原子力被災者への対応に関する当面の取組のロードマップ」を策定公表しこれらに基づき応急仮設住宅の確保計画的避難の実施住民の健康管理がれき汚泥の処理や放射線量等分布マップの作成農地土壌の除染技術開発に関する実証試験の実施等の取組を行ってきたところです 2012年 2月 10日には福島の復興再生に関する施策を総合的に策定し継続的迅速に実施するための組織として復興庁が設置され生活再建策(賠償長期避難者支援自治体ごとの帰還支援)産業振興及び雇用対策放射線対策等(リスクコミュニケーションモニタリング除染区域見直し)等につき関係省庁と連携して被災者支援をより一層推進するための体制が整備されましたまた同年3月30日には「福島復興再生特別措置法」が成立し同年4月5日には2012度予算として復興経費3兆7754億円が計上される等法制度及び予算の側面からも被災者支援を推進す

21 出資額は東京電力A種優先株式 16 億株(払込総額 3200 億円)と東京電力B種優先株式 34 億株(払込総額 6800 億円)の合計

43

第6節 原子力被災者支援

第3章

るための施策が講じられています

1避難指示区域等の設定経緯

 2011年 3月 11日東北地方太平洋沖地震とそれが引き起こした津波により東京電力の福島第一原子力発電所及び福島第二原子力発電所において原子力緊急事態が発生しましたこれを受けて同日政府は原子力緊急事態宣言を発出するとともに原子力災害対策本部を設置しました 事故の発生以降事故の深刻化に伴い住民に避難を求める区域を順次拡大し翌12日に原子力災害対策本部長は福島県知事及び関係市町村長に対し東京電力福島第一原子力発電所から半径20km圏内の住民等の避難を指示しましたまた同月15日には東京電力福島第一原子力発電所から半径20kmから30km圏内の居住者等の屋内退避を指示しました(第136-3-2) 更に同年4月21日には引き続き東京電力福島第一原子力発電所が不安定な状態であることに鑑み同発電所の半径20km圏内について住民等の避難を徹底し生命または身体に対する危険を防止するため

原子力災害対策本部長は福島県知事及び関係市町村長に対し同区域を警戒区域に設定することを指示しました翌22日の午前0時警戒区域が設定され緊急事態応急対策に従事する者以外の者は市町村長の許可なく同区域に立ち入ることができなくなりこの立入制限を徹底するため警戒区域境界に物理的な立入り制限の措置が講じられることとなりました また環境モニタリングにおいて東京電力福島第一原子力発電所の半径20km以遠において積算線量が高い地域が確認されたことから同年4月22日原子力災害対策本部長は福島県知事及び関係市町村長に対し事故発生から1年の期間内に積算線量が20mSvに達するおそれのある区域を計画的避難区域に設定し居住者等を計画的に避難させるよう指示しました 同時に東京電力福島第一原子力発電所から半径20kmから30kmの区域については屋内退避の指示を解除し今後なお緊急時に屋内退避や避難の対応が求められる可能性が否定できない区域(概ね東京電力福島第一原子力発電所から半径20kmから30kmの区域に相当)について原子力災害対策本部長は福島県知事及び関係市町村長に対し当該区域を緊急時避難準備区域に設定し居住者等に避難または屋内退避

浪江町葛尾村

双葉町

大熊町

富岡町

広野町

川内村

田村市

川俣町

伊達市

いわき市

小野町

二本松市

相馬市

福島第二原子力発電所

計画的避難区域

警戒区域

南相馬市飯舘村南相馬市避難指示解除準備区域(2012416~)

南相馬市帰還困難区域(2012416~)

南相馬市居住制限区域(2012416~)

田村市避難指示解除準備区域(201241~)

川内村避難指示解除準備区域(201241~)

川内村居住制限区域(201241~)

避難指示解除準備区域居住制限区域帰還困難区域

警戒区域計画的避難区域

凡例20km

楢葉町

飯舘村帰還困難区域(2012717~)

飯舘村居住制限区域(2012717~)

飯舘村避難指示解除準備区域(2012717~)

楢葉町避難指示解除準備区域(2012810~)

福島第一原子力発電所

約5km

図136-2-1  避難指示区域と警戒区域の概念図(2012年7月31日現在)

図136-1-1  東京電力福島第一原子力発電所に係る避難等の指示の経過

2011年3月11日2123

半径3km圏避難半径3~10km圏屋内退避

3月12日544

半径10km圏避難

3月12日1825

半径20km圏避難

3月15日1100

半径20~30km圏屋内退避

4月21日1100

半径20km圏警戒区域(設定は22日午前0時)

4月22日944

半径20~30km圏屋内退避の解除葛尾村浪江町飯舘村川俣町の一部及び南相馬市の一部避難(計画的避難区域)広野町楢葉町川内村田村市の一部及び南相馬市の一部緊急時避難準備区域

9月30日1811

広野町楢葉町川内村田村市の一部及び南相馬市の一部緊急時避難準備区域の解除

2012年3月30日

川内村田村市南相馬市警戒区域を解除し三つの新たな避難指示区域に見直し(川内村及び田村市は4月1日実施南相馬市は4月16日実施)

6月15日 飯舘村三つの新たな避難指示区域に見直し(7月17日に実施)

7月31日 楢葉町避難指示解除準備区域に見直し(8月10日に実施)富岡町大熊町双葉町及び浪江町海域のうち陸域の約5kmから東側の避難指示区域及び警戒区域を解除

44

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第3章 原子力発電所事故関連

第3章

の準備をさせるよう指示しました

2避難指示区域等の見直し

 東京電力福島第一原子力発電所の事故に伴い設定された避難指示区域及び警戒区域等は原子力発電所の安全性の確認や放射線被ばくの危険性の低下等を踏まえ区域の見直しを実施することとなりました 2011年 8月 9日原子力災害対策本部は緊急時避難準備区域について原子力発電所の安全性評価(水素爆発が生じたり原子炉等の冷却ができなくなる可能性が低くなっていること仮に注水が中断した場合でも発電所から20km以遠において受ける放射線影響が十分小さいこと等)区域内における放射線量の詳細なモニタリングの結果(学校等をはじめとする主要ポイントの周辺を含む測定をしたほとんどの地点で空間線量が十分低いことが確認されたこと)及び公的サービスインフラ等の復旧のめどが立ったことを踏まえ同区域を解除することを決定しました 関係市町村は当該方針に基づき住民の円滑な移転支援学校医療施設等の公的サービスの再開公的インフラの復旧学校グラウンド園庭等の除染を含む実情に応じた「復旧計画」を策定しましたこれを受け原子力災害対策本部は同年9月30日に緊急時避難準備区域を一括して解除することを決定し原子力災害対策本部長から福島県知事及び関係市町村長にその旨指示しました 2011年 12月 26日原子力災害対策本部は「放射性物質の放出が管理され放射線量が大幅に抑えられている」というステップ2の目標達成と完了を受けて東京電力福島第一原子力発電所の事故収束の状況や放射線被ばくの危険性の低下を踏まえ警戒区域(原子力発電所から半径20km の区域)についてはインフラ等の安全確認応急復旧を行うとともに防災防犯対策等について関係者間で十分に調整を図った上で解除することを決定しましたまた避難指示区域(原子力発電所から半径20km の区域及び同半径20km 以遠の計画的避難区域)については関係者と協議した上で放射線量を基準として以下の三つの区域に見直すことを決定しました

① 避難指示解除準備区域 年間積算線量が20mSv以下となることが確実であることが確認された区域同区域においては引き続き避難指示は継続されることとなりますが除染イ

ンフラ復旧雇用対策等の復旧復興のための支援策を迅速に実施し住民の一日でも早い帰還を目指します

② 居住制限区域 年間積算線量が20mSvを超えるおそれがあり住民の被ばく線量を低減する観点から引き続き避難を継続することが求められる区域同区域においては将来的に住民が帰還しコミュニティを再建することを目指し除染やインフラ復旧等を計画的に実施します

③ 帰還困難区域 5年間を経過してもなお年間積算線量が20mSvを下回らないおそれのある現時点で年間積算線量が50mSv超の区域同区域は将来にわたって居住を制限することを原則とし同区域の設定は5年間固定します 当該方針に基づき区域見直しに係る協議が整った市町村について区域見直しを実施しています(第136-2-1 2012年 7月 31日現在)

3警戒区域への一時立入り

 2011年 4月 22日午前0時東京電力福島第一原子力発電所から半径20km圏内は警戒区域に設定され当該区域への立入りが制限されることとなりました他方で着の身着のままで避難を余儀なくされた住民から自宅への一時立入り等に係る強い要望が寄せら

図136-3-1 警戒区域への一時立ち入り

一時立入り対象市町村

警戒域内の対象数

1巡目 2巡目

世帯数 人数バス立入り

車持ち出し

マイカー立入り バス立入り車持ち出し

世帯数 人数 台数 世帯数 人数 世帯数 人数 台数

田村市 約110 約400 76 130 6 112 260 0 0 2

南相馬市

約4000

約14300

2907 5030 511 3335 8169 66 95 102

楢葉町約2600

約7700

1909 3197 364 2067 5372 102 142 45

富岡町約6000

約16000

4537 7631 741 4757 10921 275 398 126

川内村 約160 約400 82 135 19 92 227 0 0 0

大熊町約4000

約11500

3525 5683 1021 3265 7495 210 308 129

双葉町約2400

約6900

2061 3547 573 1930 4638 177 279 62

浪江町約6700

約19600

4812 8218 916 4622 11031 234 345 90

葛尾村 約80 約300 17 27 1 40 91 0 0 0

計約26000

約77000

19850 33468 4146 20108 47944 1064 1567 554

45

第6節 原子力被災者支援

第3章

れましたこれを受け立入りを行う住民の安全確保を大前提に同年5月10日から当該区域への一時立入りを実施することとなりましたこれまで四巡目までの一時立入りを実施し延べ約73370世帯約162002人(2012年 7月末日現在)の住民が立入りを行っています 一巡目はバスによる集団での立入り方式のみにより実施していましたが持ち出せる荷物の量が少ない待ち時間が長いといった要望が寄せられました二巡目からは住民からのこうした要望等を踏まえバス方式と併せてマイカーによる一時立入りを可能としました

 更に三巡目からは立入りを行う住民の利便性を高めること等を目的として住民が車から降りることなく受付を行うドライブスルー方式の導入の他自宅以外の場所への一時立入り(墓参りのための立入り等)や引っ越し業者等の帯同を認める等の改善を行いました 加えて四巡目からはそれまで市町村が行っていた立入り日の調整等を新たに設置するコールセンターにおいて行うこととしこれまで以上にスムーズな受付が可能となりました 五巡目以降についても住民の安全確保を大前提として立入りを行う住民の負担の少ない方法で立入りが可能となる体制の構築を目指しています

4除染の実施

 東日本大震災に伴う原子力発電所の事故によって放出された放射性物質による環境の汚染が生じておりこれによる人の健康または生活環境に及ぼす影響を速やかに低減することが喫緊の課題となっていますこうした状況を踏まえ「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法」(以下「放射性物質汚染対処特措法」)が可決成立し2011年 8月 30日に公布されました 同年11月 11日には「放射性物質汚染対処特措法に基づく基本方針」を閣議決定し環境の汚染の状況についての監視測定事故由来放射性物質により汚染された廃棄物の処理土壌等の除染等の措置等に係る考え方が取りまとめられ関係者の連携の下事故由来放射性物質による環境の汚染が人の健康または生活環境に及ぼす影響が速やかに低減されるようまた復興の取組が加速されるよう同方針に基づき取り組むこととしています 除染の実施に当たり同年11月以降警戒区域や計画的避難区域等において除染の効果的な実施のために必要となる技術の実証実験等のための除染モデル実証事業等を実施しその成果を2012年 6月に公表しましたまた2011年 12月以降は自衛隊等による除染活動の拠点となる施設(役場公民館等)や除染を行う地域にアクセスする道路及び除染に必要な水等を供給するインフラ施設を対象に先行的な除染を実施しています 放射性物質汚染対処特措法に基づき国が除染を実

一時立入り対象市町村

警戒域内の対象数

3巡目 4巡目

世帯数 人数マイカー立入り

バス立入り車持ち出し

マイカー立入り

バス立入り

世帯数 人数 世帯数 人数 台数 世帯数 人数 世帯数 人数

田村市 約110 約400 90 196 0 0 0 - - - -

南相馬市

約4000

約14300

3032 7941 39 57 14 - - - -

楢葉町約2600

約7700

1951 5005 66 92 6 1826 4950 38 59

富岡町約6000

約16000

4240 10025 158 217 10 3721 8954 124 181

川内村 約160 約400 0 0 0 0 0 - - - -

大熊町約4000

約11500

2944 6936 162 234 8 2533 6328 98 148

双葉町約2400

約6900

1744 4362 92 140 7 1593 4184 85 125

浪江町約6700

約19600

3764 9207 209 305 10 3494 8761 157 226

葛尾村 約80 約300 0 0 0 0 0 0 0 0 0

計約26000

約77000

17675 43476 726 1045 55 13167 33177 502 739

(注) 1 全体の数値は平成22年度国勢調査及び各市町村データ(復旧計画等)からの概数

   2 マイカーを所有していない住民の方については近所の住民の方等が同乗させて1台で複数世帯分の立入りを行うケースがあるため立入台数が立入世帯数より少なくなる場合があるなお1世帯が複数台の自動車で立入ることは認められていない

46

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第3章 原子力発電所事故関連

第3章

施する除染特別地域においては市町村ごとに策定する特別地域内除染実施計画に従って事業を進めることとしており一時保管場所の確保や除染業務の発注に必要な情報が整った市町村について特別地域内除染実施計画に基づき本格除染の実施を開始していますまた市町村が中心となって除染を実施する除染実施区域においては市町村が除染実施計画を策定し除染事業を進めることとされており現在各地で除染事業の取組が進められています 環境省においては放射性物質汚染対処特措法が2012年 1月に全面施行されたことに伴い福島県等における除染を推進するために福島環境再生事務所を開所し体制の整備を行いました更に福島県及び環境省では除染等に関する専門家を市町村等の要請に応じて派遣するとともに除染のボランティア活動等の関連情報の収集発信を行うための拠点として国福島県関係機関関係団体等の連携を図る除染情報プラザを設置しました

5健康管理調査の支援等

(1)福島県民健康管理調査事業の支援 福島県民の皆様の中長期的な健康管理を可能とするため国では平成23年度(2011年度)第二次補正予算により福島県が創設した「福島県民健康管理基金」に782億円の交付金を拠出し全面的に県を支援しています福島県ではこの基金を活用して全県民を対象に県民健康管理調査を実施し被ばく線量の把握や健康状態を把握するための健康診査等を行うこととしています特に震災時点で18才以下であった全ての方を対象に甲状腺の超音波検査を実施していますこの他にホールボディカウンターによる検査や中学生以下の子ども及び妊婦に対する個人線量計(ガラ

スバッジ等)の貸与などを実施しています

(2) 原子力被災者等の健康不安対策に関するアクションプランの推進

 東京電力福島第一原発事故の被災者をはじめとする国民が抱える放射線による健康不安についてはこれまでも様々な取組を講じてきましたが ①今般の被災者等の不安を十分に踏まえた情報発信としていたか(平易な用語の使用等) ②専門家等からの一方的な情報発信に偏り不安を感じている被災者等との双方向のコミュニケーションが不足していなかったか ③不安解消のためのコミュニケーションを行う人や場(拠点を含む)が十分に確保されていたかといった問題により依然として不安を十分に解消できていない状況です

 関係省庁等がこうした問題意識を共有した上で必要となる施策の全体像を明らかにし政府一丸となって健康不安対策の確実な実施に取り組むべく2012年4月20日に環境大臣を議長とする原子力被災者等の健康不安対策調整会議を設置し同年5月31日にアクションプランを策定しました 重点施策として ①関係者の連携共通理解の醸成 ②放射線による健康影響等に係る人材育成国民とのコミュニケーション ③放射線影響等に係る拠点等の整備連携強化 ④国際的な連携の強化の4つを掲げており本取組を確実かつ計画的に実行していくこととしています

47

第4章

 東日本大震災を契機とした東京電力福島第一原子力発電所における事故により国民の生活地域経済環境に対して甚大な被害を与えたことに対する深い反省を踏まえ現行のエネルギー政策をゼロベースで見直すこととなりました 見直しにあたっては政府一丸となって策定するため国家戦略担当大臣を議長経済産業大臣と環境大臣兼原発事故の収束及び再発防止担当大臣を副議長とする「エネルギー環境会議」が設置されましたまた総合資源エネルギー調査会に「基本問題委員会」が設置される等相互に独立した関係審議会等が設置され議論が行われました 前述の「エネルギー環境会議」の方針によりエネルギー基本計画の策定に先立って「エネルギーミックスの選択肢」を国民に提示することとされ「基本問題委員会」において他の関係審議会の報告を受けつつ「エネルギーミックスの選択肢」の原案が策定されました 「エネルギー環境会議」はこの「エネルギーミックスの選択肢」の原案を原子力委員会や中央環境審議会等で検討されている原子力政策や地球温暖化対策の選択肢の原案と合わせてとりまとめ「エネルギー環境に関する選択肢」を統一的に提示し国民的な議論を進め「革新的エネルギー環境戦略」の決定を行い

ますエネルギー基本計画は関係行政機関の長の意見を聴くとともに総合資源エネルギー調査会の意見を聴いて経済産業大臣が案を作成し閣議で決定することとなっています 本章では2012年 7月末頃までのエネルギー環境会議総合資源エネルギー調査会基本問題委員会をはじめとする関係審議会等の構成検討結果等を概観します

第1節 電力システム改革関連

1対応の方向性

 電力システム改革に関する論点整理を目的として2011年11月に「電力システム改革に関するタスクフォース」を経済産業省内に立ち上げ同年12月末に「電力システム改革に関するタスクフォース論点整理」をとりまとめましたまた同月総合資源エネルギー調査会基本問題委員会において「新しい「エネルギー基本計画」策定に向けた論点整理」がとりまとめられましたこれらを踏まえ今後のあるべき電力システムの具体的な制度設計を行うため2012年 2月に総合資源エネルギー調査会総合部会に「電力システム改革専門委員会」を設置しました本専門委員会において8回にわたり精力的な検討を進め同年7月13日に「電力システム改革の基本方針」がとりまとめられました本基本方針では小売全面自由化卸電力市場の活性化送配電部門の広域性中立性の確保等が改革の基本方針として提言されています

2 電力システム改革専門委員会の発足に至る背景委員会の構成経過今後の動き

(1)背景 2011年12月にとりまとめた「電力システム改革に関するタスクフォース論点整理」においては「低廉で安定的な電力供給」を実現する「より競争的で開かれた電

第4章東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえたエネルギー政策の見直し

エネルギー環境会議

国民的議論

エネルギー環境の選択肢の原案提示

革新的エネルギー環境戦略提示

基本問題委員会事故調査委員会(1)

原発事故の技術知見委員会(2)

電力システム改革専門委員会

省エネルギー部会

天然ガスシフト基盤整備専門委員会

資源燃料政策(3)

内閣官房原子力委員会等

総合資源エネルギー調査会

(注) 1 東京電力福島原子力発電所における事故調査検証委員会等   2 東京電力福島第一原子力発電所事故の技術的知見に関する意見

聴取会意見聴取会   3 資源燃料政策に関する有識者との意見交換会

第140-0-1  エネルギー基本計画策定関連の政府内における主な検討の場

48

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第4章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえたエネルギー政策の見直し

第4章

力市場」を構築することを基本理念とし「新たな需要抑制策」「需要家の選択」「供給の多様化」「競争の促進と市場の広域化」「安定性と効率性の両立」について10の論点をまとめました また同月にとりまとめられた「新しい「エネルギー基本計画」策定に向けた論点整理」においては「大規模集中電源に大きく依存した現行の電力システムの限界が明らかになったことを踏まえ今後は需要家への多様な選択肢の提供と多様な供給力(再生可能エネルギーコジェネ自家発電等)の最大活用によってリスク分散と効率性を確保する次世代システムを実現していく必要があるとしていますまたこうしたシステムを盤石にするためにも送配電ネットワークの強化広域化や送電部門の中立性の確保が重要な課題である」等の基本的方向性が示されました この基本的方向に沿って今後のあるべき電力システムの具体的な制度設計を行うことが喫緊の課題であることから将来のエネルギーミックスのあり方と併せこれを支える電力システムについて専門的な検討を行うため総合資源エネルギー調査会総合部会の下に「電力システム改革専門委員会」を設置しました

(2)委員会の構成 電力システム改革専門委員会の委員は学識経験者や消費者代表者等を含む11名から構成されています 一般電気事業者や特定規模電気事業者(新電力)はオブザーバーとして参加しました

(3)経過 第1回(2012年 2月 2日) 議題 電力システム改革に関するタスクフォース「論

点整理」について 第2回(2012年 3月 6日) 議題需要サイドの取組について  東京都富士フイルム株式会社一般電気事業者(中部電力株式会社関西電力株式会社)新電力(株式会社エネット)からプレゼンテーション

 第3回(2012年 4月 3日) 議題供給の多様性について  株式会社日本製紙グループ本社東京ガス株式会社JX日鉱日石エネルギー株式会社一般電気事業者(中部電力株式会社関西電力株式会社)新電力(株式会社エネット)からプレゼンテーション

 第4回(2012年 4月 25日) 議題競争の促進と広域化について  フランス送電会社(RTE)公正取引委員会一般電気事業者(中部電力株式会社関西電力株式会社)新電力(株式会社エネット)からプレゼンテーション

 第5回(2012年 5月 18日) 議題 総合的な検討(1) 小売全面自由化送配電部

門の広域化中立化 第6回(2012年 5月 31日) 議題 総合的な検討(2) 送配電部門の広域化中立

化卸電力市場の活性化等 第7回(2012年 6月 21日) 議題 総合的な検討(3) 送配電部門の広域化中立

化卸電力市場の活性化等 第8回(2012年 7月 13日) 議題 総合的な検討(4) 電力システム改革の基本方

針案

(4)電力システム改革の基本方針①需要サイド(小売分野)の改革 ア)小売全面自由化(地域独占の撤廃)  一般電気事業者による地域独占を撤廃し小売全面自由化を実施  ただし「自由化」によって供給の空白地帯が生じないよう最終保障サービス等「自由化の代償措置」には周到な設計を行う(年内を目処に詳細設計)

委員会名簿伊藤 元重(委員長) 東京大学大学院経済学研究科教授

安念 潤司(委員長代理) 中央大学法科大学院教授

伊藤 敏憲 伊藤リサーチアンドアドバイザリー代表取締役兼アナリスト

大田 弘子 政策研究大学院大学教授

小笠原 潤一 (一財)日本エネルギー経済研究所電力グループマネージャー研究主幹

柏木 孝夫 東京工業大学特命教授高橋 洋 富士通総研経済研究所主任研究員

辰巳 菊子 (公社)日本消費生活アドバイザーコンサルタント協会常任顧問

八田 達夫 学習院大学特別客員教授松村 敏弘 東京大学社会科学研究所教授横山 明彦 東京大学大学院新領域創成研究科教授

49

第2節 天然ガス

第4章

 イ)料金規制の撤廃(総括原価方式の撤廃)  競争の進展に応じて一般電気事業者の供給義務や料金規制を撤廃

②供給サイド(発電分野)の改革 ア)発電の全面自由化(卸規制の撤廃)  卸規制(発電事業者から一般電気事業者への長期大量の電力供給に供給義務や料金規制を課している)を撤廃する

  ただし卸規制の撤廃が需給に混乱を与えないよう移行期間における十分な配慮を行う

 イ)卸電力市場の活性化  特定の供給区域の枠を超えて全国大で効率的な電源の有効活用を実現するため卸電力市場で既存の事業者の電源が活発に取引される方策を講じる  具体的には少なくとも供給予備力を超える電源は卸市場に投入するとの考え方を前提とし取引ルールを設計する

③送配電部門の改革(中立性公平性の徹底) ア)送配電部門の「広域性」の確保  これまでの「供給区域ごとに需給を管理する」仕組みを改めより広域的全国的に供給力を有効活用するため広域系統運用機関を設立する イ)送配電部門の「中立性」の確保  ①機能分離型または②法的分離型の方式により各供給区域の送配電部門の中立性を確保  機能分離型hellipエリアの系統計画系統運用の機能を一般電気事業者の送配電部門から分離し広域系統運用機関に移管する方式  法的分離型hellipエリアの系統計画系統運用の機能から送配電設備を所有し開発保守する業務までを含む送配電部門全体を別法人とする方式  いずれの方式であっても中立性確保のための人事予算等に係る行為規制や送配電部門と発電小売部門との情報の取扱契約の取扱の公平性の確保が不可欠であるこうした規制の内容や様々な技術的論点を精査しながら年内を目処に詳細設計を行う ウ)地域間連系線等の強化  50Hzと 60Hzの周波数変換設備と東西連系線の容量を増強(120万kWrarr210万kWrarr300万kW)  北海道本州間連系線の増強(60万kWrarr90万kW)を早期に実現風力発電の導入状況等を踏まえて

更なる増強を検討  風力発電の重点整備地区について政策的支援も含め送配電網整備の具体的方法を検討

④詳細設計へ向けて  改革実行の際には世界で最も高い信頼性を有する我が国の技術と人材の蓄積やる気を尊重する  以上の基本方針の下制度改革を着実に実行本制度改革は新たなシステムへの投資と大きな事業体制の変革を伴うものであり綿密な詳細設計と十分な時間をかけた手順工程表が必要  年内を目処に各課題について更に検討を進める

(5)今後の動き 電力システム改革専門委員会において取りまとめられた「電力システム改革の基本方針」を踏まえ制度改革を着実に実行することとしています詳細な制度設計については年内を目途に検討を進めることとしています

第2節 天然ガス

1 天然ガスシフト基盤整備専門委員会について

(1)背景 総合資源エネルギー調査会総合部会基本問題委員会(以下「基本問題委員会」という)において昨年12月に公表された論点整理では「天然ガスシフトを始め環境負荷に最大限配慮しながら化石燃料を有効活用す

広域系統運用者(全国機関)系統計画業務の実施広域連系線(地域間連系線+主要幹線)の運用エリア(九電力管内)系統運用者への系統運用監視勧告電力市場の形成

エリアの系統運用者(地方支部)

エリアの系統運用系統計画機能

エリアの系統運用者(電力事業者の送配電部門)人事予算等の独立性ルールが必要エリアの系統運用系統計画機能

+送配電設備の所有(開発保守)電力事業者の送配電部門

電力事業者の発電小売部門 電力事業者の発電小売部門

送配電設備の所有(開発保守)

規制対象

同一組織パターン1機能分離型

(機能を分離)パターン2法的分離型

(会社を分離)

広域連系線の開発保守指示

広域連系線の開発保守指示

エリア送配電設備の開発保守指示

別会社

第141-2-1 新しい送配電部門のイメージ像

50

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第4章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえたエネルギー政策の見直し

第4章

る(化石燃料のクリーン利用)」ことを基本的方向の一つとして更に議論を深めていくこととされました 天然ガスシフトの動きについては世界的に見てもいわゆる「シェールガス革命」といった新たな供給源の立ち上がりによって天然ガスの可採年数が大幅に増加し長期的にも世界全体の需要を満たすことができる見込みも高いことから今後天然ガスが果たす役割への期待はより一層高まってきています 我が国においては東日本大震災を契機として大規模集中電源に大きく依存した現行の電力システムの限界が明らかになりました今後は原子力発電への依存度をできる限り低減させていく方向性の中で再生可能エネルギーコジェネ自家発等の多様な分散型電源の供給力の最大活用によってリスク分散と効率性を確保する次世代システムを実現していくとともに熱の有効利用を含めた最先端の省エネルギー社会を実現していくこと等が必要となりますその中で化石燃料の中でも最もクリーンでかつ世界に広く分散して賦存する天然ガスへのシフトは一層重要な課題となるものと考えられます 一方天然ガスの供給については前述のとおり東日本大震災によって今後仮に一極集中したLNG基地に天然ガス供給を依存する大都市圏において基地の機能停止が起こった場合長期にわたり供給が途絶するリスクがあることが顕在化しました このような状況を踏まえれば今後の我が国の天然ガスシフトに向けては一段と高いレベルの天然ガス供給基盤のセキュリティが不可欠です 加えて天然ガスの供給基盤にはセキュリティの向上のみならず発電用燃料都市ガス原料としての天然ガスの利用可能性向上ガス価格低廉化の可能性二酸化炭素削減等といった多様な意義があり今後はこれらの意義を踏まえつつ今後の天然ガスシフトを支えるに十分な天然ガス供給基盤の整備を進めていく必要があります 更に将来的には国際天然ガスパイプラインネットワークの形成やメタンハイドレートの開発等の動きも視野に入れながら天然ガス利用のメリットを最大限享受できるような供給基盤が長期的に構築されていくことも期待されます 以上を踏まえ天然ガスシフトに向けた基盤(広域パイプライン等)整備に関する専門的検討を行うため総合資源エネルギー調査会総合部会の下に「天然ガスシフト基盤整備専門委員会」を設置しました

(2)委員構成委員長 横倉 尚 武蔵大学経済学部教授委員 柏木 孝夫 東京工業大学特命教授 橘川 武郎 一橋大学大学院商学研究科教授 古城 誠 上智大学法学部教授 八田 達夫 学習院大学特別客員教授 松村 敏弘 東京大学社会科学研究所教授 山内 弘隆 一橋大学大学院商学研究科教授

(3)審議経過第1回(2012年 1月 17日) 本委員会で明らかにしていくべき論点について 我が国の天然ガス及びその供給基盤の現状と課題

第2回(同年2月27日)  天然ガスシフトに向けた基盤整備について事業者及びユーザー企業より意見聴取

  bull 中堅中小ガス事業者(仙台市ガス局)  bull 都市ガスユーザー企業(ブリヂストン)  bull  広域でパイプライン整備に取り組んでいる事

業者(大阪ガス中部電力国際石油開発帝石)

  bull  地下貯蔵に知見を有する事業者(石油資源開発)

第3回(同年4月6日)  これまでの議論やヒアリング結果を踏まえた論点整理について

 海外調査結果について

第4回(同年5月15日)  東京ガス大阪ガス東邦ガスからの供給継続性に関するヒアリング

 天然ガスシフト基盤整備の新しいあり方について

第5回(同年6月13日) とりまとめに向けた議論

第6回(同年6月26日) 報告書(案)について

2対応の方針

 我が国における今後の天然ガスシフトを見据えればそれを支える広域天然ガスパイプラインネットワーク

51

第3節 石油LPG

第4章

という供給基盤をできるだけ早期に構築していく必要があります

(1)整備基本方針の策定 本委員会の報告書では我が国全体における全体最適的な観点からの広域天然ガスパイプライン地下貯蔵施設等の天然ガス供給基盤の整備基本方針を国が策定し民間事業者の活力を最大限活用していくことを官民の役割分担の基本的考えとし天然ガス供給基盤整備を推進していくこととされました 整備基本方針の策定に当たっては供給セキュリティ向上利用可能性向上価格低廉化二酸化炭素削減等の多様な意義社会的効果という要素のみならず将来の国際パイプラインとの連結やメタンハイドレートの活用も視野に入れつつ世界的な「天然ガスの黄金時代」の恩恵を国民が享受できるような環境を目指していく必要があります 本委員会では整備基本方針で定めるべき内容として以下の事項が挙げられました 整備ルート等の設定 スペック熱量等の設定 整備の時間軸プライオリティ

(2)事業者間連携に向けた利害調整 報告書では整備基本方針と民間事業者との利害が一致しない場合の調整や多様なエネルギー事業者同士の連携を促進するためエネルギー事業者間の利害調整を検討すべきとされました

(3)整備費用負担の在り方 基盤整備に当たっては事業収入に加えセキュリティ向上利用可能性向上価格低廉化二酸化炭素削減等といった社会的効果の部分も含め費用負担の問題を解決する必要があります 費用負担については「受益者負担」の原則を基本としつつも受益の種類によって負担の手法は様々であり特定負担一般負担全国民負担等の様々な組み合わせが考えられる上受益の範囲程度については個別事業に基づく調整が必要となります本委員会では整備基本方針において受益者負担の手法範囲程度時点の調整等の「基本的な考え方」を示しそれに基づき整備事業ごとに負担の在り方を検討することとされました

(4)整備促進の在り方(コスト低減需要増加) 整備費用そのものの低減のため関係規制の緩和や運用見直しを進め効果の高い財政支援措置等を検討するとともにパイプライン整備と一体的に天然ガス火力や天然ガスコジェネ等の新規沿線需要を喚起し事業採算性を高めていくことが必要とされました

3今後の方向性

 今後は新たなエネルギー基本計画の内容を踏まえ様々な分野の有識者や事業者の意見知見を傾聴しつつ必要な取組を速やかに講じていくこととしています

第3節 石油LPG

1対応の方向性

(1)資源確保戦略 第15回パッケージ型インフラ海外展開関係大臣会合(2012年 6月 27日開催)において「資源確保戦略」が報告されました本戦略は「資源確保指針」(2008年 3月 28日閣議了解)の考え方を踏まえつつ世界的な資源確保競争の激化や東日本大震災以降の化石燃料の調達コスト増大等資源を巡る国内外の厳しい情勢に鑑み現在の資源確保の現状及び今後の見通しをあらためて分析し我が国の官民の持つリソースを最大限活かすために策定されたものです 資源確保戦略の5本柱として①資源獲得の重要国に対する政府一体となった働きかけ②資源ユーザー産業の上流開発への関与の促進③資源国に対する協力のパッケージ化④資源権益獲得に対する資金供給の機能強化⑤国際的なフォーラムやルールの積極活用を重点的に取り組むこととしていますなお今後のエネルギー政策の見直し結果等に伴い本戦略についても必要に応じて見直しが行われる予定です

(2)国内災害対策①石油(ア)備蓄 東日本大震災により被災した久慈国家備蓄基地において原油流出等の二次被害を防ぐため仮設復旧工事を早期に行うとともに今後の津波対策として非常用電源等の重要設備を高台に移設するための対応を

52

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第4章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえたエネルギー政策の見直し

第4章

行いました また他基地においては地震津波対策として防災訓練や基地の耐震診断等を実施する等国家備蓄基地の災害対応能力向上を図りました(イ)流通 東日本大震災を教訓とし全国的な防災減災の観点から緊急車両への優先給油を含め地域における石油製品の供給体制の整備が重要ですそのため地域において中核となるSSを選定し自家発電設備等の災害対応能力を強化する設備投資に支援を行いました

② LPG 東日本大震災においては冠水による電気系統の故障や停電による出荷設備の一時的停止等により出荷が遅れたり災害時を想定した情報収集体制が脆弱であったため適切な情報収集に時間がかかってしまったLPガス基地充填所が多く存在しましたこのことからLPガス出荷基地及び充填所の災害対応能力及び情報収集情報提供体制の強化の必要性が改めて認識されたため出荷基地や充填所に対し自家発電設備や衛星電話等の設置を行う等災害対応能力の強化等に取り組んでいます

(3) 備蓄法(「石油の備蓄の確保等に関する法律」)改正

①背景 東日本大震災発生時には製油所油槽所等やタンクローリー等の物流網が広範囲にわたって被災したため政府石油業界をあげて供給体制の早期立て直しに取り組みましたまたこのとき国内災害時としては初めて石油会社等の石油の基準備蓄量を引き下げ民間の備蓄石油を放出できるよう措置することとしました

②概要 この震災時の経験を踏まえ1970年代の石油ショックの経験から主に海外からの原油供給が不足する事態に備えて制定された「石油の備蓄の確保等に関する法律」について(a)災害時における国内の特定の地域への石油の供給不足時に石油会社等が備蓄石油を放出するための要件を緩和し(b)一定規模以上の石油業者

に対し共同で地域ごとに災害時の連絡体制や設備の共同利用の方法等を定めた計画の作成を義務付ける規程を加える等の改正を行うことで災害時にも確実に石油を供給する体制を強化することとしました同改正案22は2012年 2月 10日に閣議決定し国会に提出されました

2 資源燃料政策に関する有識者との意見交換会

 本会は「エネルギー需給安定行動計画」(2011年 11月 1日エネルギー環境会議決定)を踏まえ資源燃料政策のうち先行して取り組むべき事項について個別施策の具体化な議論を行ために全5回わたり開催されましたまた従来の総合資源エネルギー調査会にとらわれずに意見交換会を行うため消費者被災自治体防災物流の専門家資源燃料のユーザ産業等の多岐にわたりメンバーを募集し並行して会合の開催と同時に事務局から示された「たたき台」をホームページで公表し国民各層からも広く意見を募集しました 本会は「災害時における石油ガスの安定供給」と「世界的な資源需要の高まりや災害等を踏まえた資源開発確保」という二つのテーマを設け前期テーマでは東日本大震災後に生じた供給支障の教訓をふまえた初動対応の迅速化大規模災害を見越した災害に強い供給体制の整備について検討を行いました後期テーマでは国際的な資源需要の高まり震災後の新たな資源需要を踏まえた化石燃料や鉱物資源地熱資源の開発の促進に向けての体制の検討を行いました とりまとめ後にWEB上で「資源燃料の安定供給確保のための先行実施対策」を公表し今後の資源確保の政府方針を示していきました

第4節 エネルギー環境会議 エネルギーシステムの歪み脆弱性を是正し安全安定供給効率環境の要請に応える短期中期長期からなる革新的エネルギー環境戦略及び2013年以降の地球温暖化対策の国内対策を政府一丸となって策定するため2011年 6月 7日にエネルギー環境会議が設置されました本会議は国家戦略担当大臣を

22 災害時における石油の供給不足への対処等のための石油の備蓄の確保等に関する法律等の一部を改正する法律案です

53

第4節 エネルギー環境会議

第4章

議長経済産業大臣と環境大臣兼原発事故の収束及び再発防止担当大臣を副議長とするものですエネルギー環境戦略の白紙からの見直しに先立ち2011年 7月 29日に「革新的エネルギー環境戦略策定に向けた中間的な整理」をまとめ原子力発電所への依存度低減分散型システムへの移行国民的議論の展開という三つの大きな方向性を提示しました エネルギー環境会議は2011年 10月 3日に「コスト等検証委員会」を設置しその検討の結果として同年12月 19日に同委員会報告書により戦略見直しの前提条件となる社会的費用も含めた電源別の発電コストを明らかにしましたまた同月21日に原子力発電所への依存度低減という方針を実現する上で化石燃料への依存度低減を旨とするエネルギー安全保障との両立をどう図るのか地球温暖化対策との両立をどう図るのか経済性に優れ安全なエネルギー確保をどう現実のものとするのかといった視点から春を目途にまずはエネルギー環境戦略に関する複数の選択肢を提示しその上で夏の戦略決定につなげるという基本方針を提示しました この基本方針に基づき原子力委員会総合資源エネルギー調査会及び中央環境審議会は原子力政策エネルギーミックス国内温暖化対策をどう組み直すのかという視点で選択肢提示に向けた検討を行いました2012年 6月 8日にエネルギー環境会議はこれら関係会議体での検討をとりまとめ統合的な選択肢案を提示するため選択肢設計の中間的整理を決定しました 更に関係会議体がこの中間的整理を踏まえながら検討を進め2012年 6月 29日に「エネルギー環境に関する選択肢」を提示しましたこの中で政府は新しいエネルギー選択として「原発からグリーンへ」とい

う大きな方向性のもと2030年に向け原子力発電所低減の度合いや再エネ省エネルギーの拡大の度合いやスピードが異なるゼロ1520~25の三つのシナリオを提示しました エネルギー環境会議ではこの三つのシナリオをもとに国民同士の対話が進むよう国民的議論を更に展開しエネルギー環境の選択肢に関する情報提供データベースの整備意見聴取会の全国11カ所での開催討論型世論調査パブリックコメントの募集等を行いました

1 エネルギー環境の選択肢に関する情報提供データベースの整備

 内閣官房国家戦略室ホームページに特設サイト「話そうldquoエネルギーと環境のみらいrdquo」を開設し三つの選択肢が決定されるまでの議論の経過や元となる考え方やデータこの課題に関する様々な分野の有識者の声等の提供を行いました(第144-1-1)

2意見聴取会

 2012年 7月 14日のさいたま市をはじめとして全国11カ所で「エネルギー環境の選択肢に関する意見聴取会」を実施しました(福島会場では「エネルギー環境の選択肢に関する福島県民の意見を聴く会」として開催)

(1)実施形式 参加者は一会場100~200名で希望者を公募し抽選で選出し聴取会をインターネットで中継配信しました 聴取会では担当省庁(内閣官房経済産業省環境省)の政務が出席し冒頭政府から選択肢について説明しましたその後に希望者を公募し抽選で選出した意見表明者全員の意見を聞いた上で意見表明者による追加コメント及びやり取りを行いました意見表明者の人数は当初三つのシナリオごとに3名ずつとしていましたが途中から人数を12名に拡大し三つのシナリオ以外の意見の表明者も追加し更に意見表明希望者の割合に応じて人数を配分することとしましたまた福島県民の意見を聴く会ではシナリオの区別なく意見表明者を公募し30名の意見表明者が陳述することとしました参加者に対しては会場でアンケートを実施しました

63

10

26

2010年実績 ゼロシナリオ 15シナリオ 20~25シナリオ

現行エネルギー基本計画

65

35

55

30

15

50 50

30

20

25

25

20

45

35

火力

原子力

再生可能エネルギー

第144-0-1  各シナリオにおける発電構成(2030年)

54

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第4章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえたエネルギー政策の見直し

第4章

(2)開催場所開催スケジュール7月14日 さいたま市7月15日 仙台市7月16日 名古屋市7月22日 札幌市大阪市7月28日 富山市7月29日 広島市那覇市8月1日 福島市(福島県民の意見を聴く会)8月4日 高松市福岡市

3討論型世論調査

 「エネルギー環境の選択肢に関する討論型世論調査実行委員会」23が政府のエネルギー環境会議より提示された「エネルギー環境に関する選択肢」(2012年 6月 29日)に関する「討論型世論調査」を2012年7月上旬から実施しました24

(1)討論型世論調査の概要 討論型世論調査とは複雑な政策課題についての市民の表面的な理解の下での意見を調べる通常の世論調査に加え無作為に抽出された属性や意見の異なる市民が当該課題について学習し専門家の情報提供を受け市民同士での議論を経ることにより熟慮した上での意見の変化を調べる手法です同手法は米国スタンフォード大学のフィシュキン教授らにより考案され世界全体で40回以上国内では過去5回実施されてきました

(2)具体的な調査方法①最初に無作為に抽出された一般市民に対して通常と同様の世論調査(T1)を行う②その中からあらかじめ定めた日に1カ所に集まり開催する「討論フォーラム」に参加する者を無作為に抽出し討論課題についてバランスよく情報をまとめた討論資料を郵送し学習いただく③討論フォーラムの最初に2度目の意向調査(T2)を行う④討論フォーラムに参加した市民を小グループに分けて訓練されたモデレータの司会のもとで市民同士で討論を行う「小グループ討論」と参加者が専門家(パネリスト)に質問を行う「全体会議」を繰り返す

23 実行委員会が討論型世論調査の企画運営を行い中立的な運営を担保する方法の一つとして監修委員会の監修専門家委員会の意見や助言の提供第三者検証委員会による実行委員会から独立した立場での討論型世論調査の実施過程の検証が行われました24 2012 年 7 月 12 日に実行委員会より今回の討論型世論調査は無作為抽出による「電話世論調査」を 7月上旬から中旬に2日間の「討論フォーラム」を 8月 4日5日に行う事が発表されました

第144-1-1 国民的議論パンフレット(ジュニア用)より

55

第5節 エネルギー基本計画の検討

第4章

⑤討論フォーラムの最後に3度目の調査(T3)を行い三つの調査結果の変化を分析する

4パブリックコメント

 インターネット郵送FAXで「エネルギー環境に関する選択肢」に対する意見の募集を2012年 7月 2日から開始しました当初7月末日を締切としていましたが同年7月13日に締切を同年8月12日まで延長しました

第5節 エネルギー基本計画の検討

1基本問題委員会の設置

 エネルギー基本計画はエネルギー政策の基本的な方向性を示すためにエネルギー政策基本法に基づきエネルギーの需給に関する基本的な方針や講ずべき施策等を内容とする政府が策定する計画であり関係行政機関の長の意見を聴くとともに総合資源エネルギー調査会の意見を聴いて経済産業大臣が案を作成し閣議で決定することとなっています 直近のエネルギー基本計画は2010年 6月に策定されましたが東日本大震災及び東京電力福島第一原子力発電所の事故を踏まえエネルギー政策をゼロベースから見直し新たな計画を策定すべく2011年 10月に総合資源エネルギー調査会総合部会に基本問題委員会(以下委員会と表記)が設置され委員長に三村明夫総合資源エネルギー調査会総合部会長が就任しました

2委員会の議論の経過

 委員会は2011年 10月 3日に第1回委員会が開催されましたエネルギーに関する様々な議題についてこれまで約10カ月に亘り計30回開催され25エネルギーに関する相互に独立した審議会等からの報告等や議論が行われています

(1) 新しい「エネルギー基本計画」策定に向けた論点整理(2011年 12月 20日)

 第1回委員会以降委員会では様々な論点について幅広い意見が出され議論が行われましたそれを受け第6回基本問題委員会(2011年12月6日)に『新しい「エネルギー基本計画」策定に向けた論点整理(案)』が提示され第6回委員会第7回委員会(2011年 12月 13日)で議論が行われましたとりまとめられた論点整理では今後の本格的な議論の出発点として主要な論点についてこれまでの議論の大きな方向感が整理されました

(2) 「エネルギーミックスの選択肢の原案について」(2012年 6月19日)

 第27回委員会(2012年 6月 19日)においてエネルギー環境会議に報告を行う「エネルギーミックスの選択肢の原案」が取りまとめられ四つのエネルギーミックスの選択肢26がエネルギー環境会議に報告することとされました 提示された四つの選択肢はそのうち三つの選択肢(選択肢1~3)が「定量的なイメージ」と「必要な対策」の双方をパッケージとして含むものとされ四つ目の選択肢は「定量的なイメージ」を明示しない選択肢とされました(選択肢4)

①選択肢1意思を持って原子力発電比率ゼロをできるだけ早期に実現し再生可能エネルギーを基軸とした電源構成とする 《2030年の電源構成のイメージ》 原子力発電 0 再生可能エネルギー27 約 35 火力発電28 約 50 コジェネ29 約 15 省エネルギー(節電)30 約2割(約1割) エネルギー起源CO2排出量31 約16

25 2012 年 7 月 30 日現在26 同時に参考として「不確実な状況下での幅広い選択肢を確保するため意思を持って現状程度の原発の設備容量を維持し原子力発電比率を 2010 年度より拡大させる」シナリオについて経済影響や二酸化炭素排出量等の試算を行い上記のⅰ~ⅳの選択肢と併せて提示することとされました27 「再生可能エネルギー」には本来廃棄物発電は含まれませんがここでは便宜上廃棄物発電を含めたものが「再生可能エネルギー」とされました28 火力発電には自家発(モノジェネのみ)を含みます29 コジェネには家庭用燃料電池を含みますまた売電分(系統への逆潮流)を含みます

56

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第4章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえたエネルギー政策の見直し

第4章

30 省エネルギー及び節電の数字は2010 年度実績比です31 参考として1990 年比の数値を基本問題委員会事務局が試算した数値です

②選択肢2意思を持って再生可能エネルギーの利用拡大を最大限進め原子力依存度を低減させる併せて原子力発電の安全強化等を全力で推進する情勢の変化に柔軟に対応するため2030年以降の電源構成はその成果を見極めた上で本格的な議論を経て決定する 《2030年の電源構成のイメージ》 原子力発電 約 15 再生可能エネルギー 約 30 火力発電 約 40 コジェネ 約 15 省エネルギー(節電) 約 2割(約1割) エネルギー起源CO2排出量 約20

③選択肢3安全基準や体制の再構築を行った上で原子力発電への依存度は低減させるがエネルギー安全保障や人材技術基盤の確保地球温暖化対策等の観点から今後とも意思を持って一定の比率を中長期的に維持し再生可能エネルギーも含め多様で偏りの小さいエネルギー構成を実現する

 《2030年の電源構成のイメージ》 原子力発電 約 20~25 再生可能エネルギー 約 20~25 火力発電 約 35 コジェネ 約 15 省エネルギー(節電) 約 2割(約1割) エネルギー起源CO2排出量 約23

④選択肢4社会的コストを事業者(更には需要家)が負担する仕組みの下で市場における需要家の選択により社会的に最適な電源構成を実現する 《2030年の電源構成のイメージ》本選択肢についてはエネルギーミックスの定量的なイメージは提示しない

 以上の四つの選択肢がエネルギー環境会議に報告されエネルギー環境会議はこの原案を原子力委員会や中央環境審議会等で検討されている原子力政策や地球温暖化対策の選択肢の原案と合わせてとりまとめ「エネルギー環境戦略に関する選択肢」を統一的に提示し国民的な議論を進めることとなりました

(別表)第145-2-1 基本問題委員会 委員一覧(2012年 7月 30日現在)三村 明夫(委員長) 新日本製鐵代表取締役会長阿南 久 全国消費者団体連絡会事務局長飯田 哲也 NPO法人環境エネルギー政策研究所所長植田 和弘 京都大学大学院経済学研究科教授槍田 松瑩 三井物産取締役会長

枝廣 淳子 ジャパンフォーサステナビリティ代表幸せ経済社会研究所所長

大島 堅一 立命館大学国際関係学部教授柏木 孝夫 東京工業大学特命教授金本 良嗣 政策研究大学院大学教授学長特別補佐北岡 伸一 東京大学大学院法学政治学研究科教授橘川 武郎 一橋大学大学院商学研究科教授河野 龍太郎 BNPパリバ証券経済調査本部長チーフエコノミスト榊原 定征 東レ代表取締役会長

崎田 裕子 ジャーナリスト環境カウンセラーNPO法人持続可能な社会をつくる元気ネット理事長

菅家 功 日本労働組合総連合会副事務局長高橋 洋 富士通総研主任研究員辰巳 菊子 (公社)日本消費生活アドバイザーコンサルタント協会常任顧問

57

第5節 エネルギー基本計画の検討

第4章

田中 知 東京大学大学院工学系研究科教授寺島 実郎 (一財)日本総合研究所理事長豊田 正和 (一財)日本エネルギー経済研究所理事長

中上 英俊 住環境計画研究所代表取締役所長東京工業大学統合研究院特任教授

八田 達夫 学習院大学特別客員教授伴  英幸 認定NPO法人原子力資料情報室共同代表松村 敏弘 東京大学社会科学研究所教授山地 憲治 (公財)地球環境産業技術研究機構理事研究所長

(別表)第145-2-2 各開催回の議題と概要(第30回委員会まで)開催回 日時 議題 概要第1回 2011年

10月3日エネルギー基本計画の見直しについて

①「『革新的エネルギー環境戦略』策定に向けた中間的な整理」の報告②自由討議

第2回 10月26日 ベストミックスを考える視点等 阿南委員飯田委員橘川委員崎田委員及び高橋委員からのプレゼンテーションとそれに基づく質疑等

第3回 11月9日 ベストミックスと原子力の位置づけ国民視点からのエネルギー政策等

①ベストミックスと原子力の位置づけについて田中委員及び伴委員からのプレゼンテーションとそれに基づく質疑等②国民視点からのエネルギー政策について枝廣委員河野委員辰巳委員及び八田委員からのプレゼンテーションとそれに基づく質疑等

第4回 11月16日 国際情勢とベストミックスユーザーからみたベストミックス等

①国際情勢とベストミックスについてファンデルフーフェンIEA事務局長寺島委員及び豊田委員からのプレゼンテーションとそれに基づく質疑等②ユーザーからみたベストミックスについて榊原委員及び中上委員からのプレゼンとそれに基づく質疑等

第5回 11月30日 あるべきベストミックスと政策市場技術の関わり等

槍田委員柏木委員金本委員松村委員山地委員及び植田委員からのプレゼンとそれに基づく質疑等

第6回 12月6日 論点整理等 ①論点整理について議論②第2回核セキュリティサミット開催に向けた韓国の賢人会議について北岡委員によるプレゼンとそれに基づく質疑等③スウェーデンのエネルギー政策についてコーベリエル元スウェーデンエネルギー庁長官からのプレゼンとそれに基づく質疑等④2011年夏の電力需要対策のフォローアップについて

第7回 12月12日 論点整理等 ①論点整理について議論②当面の議題等について議論

第8回 2012年1月18日

電力システム改革についてエネルギー環境会議による「基本方針」及びコスト等検証委員会の結果 等

①電力システム改革について議論②エネルギー環境会議による「基本方針」及びコスト等検証委員会の結果等について議論③地球温暖化対策の経緯と現状④資源燃料の安定供給確保のための先行実施対策⑤電力システム改革に関するタスクフォース論点整理

第9回 1月24日 原子力発電の位置づけ 等 原子力発電の位置づけ等について議論第10回 2月1日 東京電力福島原子力発電所に

おける事故調査検証委員会の中間報告について新たな原子力安全規制体系の検討状況について 等

①東京電力福島原子力発電所における事故調査検証委員会の中間報告について②新たな原子力安全規制体系の検討状況について③東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の技術的知見に関する意見聴取会(原子力安全保安院)の中間論点整理について④東京電力による賠償進捗状況⑤東京電力福島原子力発電所における事故調査検証委員会 中間報告 について⑥内閣官房原子力安全規制組織等改革準備室 新たな原子力安全規制体系について⑦福島第一事故の技術的知見に関する意見聴取会 中間とりまとめ(案)について⑧世界の原子力賠償制度の概要原子力損害賠償補償契約の補償料率の改定について⑨低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ報告書について⑩原子力被災者への取組について

58

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第4章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえたエネルギー政策の見直し

第4章

32 <ヒアリング対象>電気事業連合会(八木誠会長)株式会社エネット(池辺裕昭社長)石油連盟(天坊昭彦会長)日本ガス協会(鳥原光憲会長)日本 LPガス協会(松澤純会長)33 <ヒアリング対象>全国知事会エネルギー環境問題特別委員会(橋本昌委員長(茨城県知事))

第11回 2月9日 省エネルギー節電対策(熱の有効活用を含む)について 等

省エネルギー節電対策(熱の有効活用を含む)等について議論

第12回 2月14日 主要なエネルギー供給事業者団体からのヒアリングと質疑エネルギー安全保障について(委員からの論点提起と質疑) 等

①主要なエネルギー供給事業者団体32からのヒアリングと質疑②エネルギー安全保障について事務局から資料()を提出するとともに飯田委員高橋委員田中委員寺島委員豊田委員八田委員からの論点提起と質疑日本に加え主要国(アメリカ英国フランスドイツスペイン中国インド韓国)の自給率一次エネルギー供給構成電源構成化石燃料輸入先停電時間省エネ等について分析した資料

第13回 2月22日 全国知事会からのヒアリングと質疑再生可能エネルギーの導入拡大の可能性について化石燃料の確保とクリーン利用の可能性について 等

①全国知事会33からのヒアリングと質疑②再生可能エネルギーの導入拡大の可能性について③化石燃料の確保とクリーン利用の可能性について④ドイツやスペインにおける固定価格買取制度の最近の状況 等

第14回 3月7日 原子力発電の位置づけ 等 ①原子力政策大綱の見直しや核燃料サイクル政策の選択肢の検討状況等に関する原子力委員会からの報告及び質疑等②ドイツにおける固定価格買取制度の最近の状況(続報)ドイツ商工会議所が行ったアンケート「明日のエネルギーと資源」の紹介 等

第15回 3月14日 エネルギーミックスの選択肢について 等

①各委員から提出されたエネルギーミックスに関する意見を元にエネルギーミックスの選択肢について議論②「エネルギーの使用の合理化に関する法律(省エネ法)の一部を改正する法律案」の概要

第16回 3月19日 エネルギーミックスの選択肢について 等

各委員から提出されたエネルギーミックスに関する意見を元にエネルギーミックスの選択肢について議論

第17回 3月27日 エネルギーミックスの選択肢について 等

各委員の意見を類型化したエネルギーミックスの選択肢に関する整理(案)を提示しどの選択肢を経済影響分析の対象とするかについて議論

第18回 4月11日 エネルギーミックスの選択肢について 等

エネルギーミックスの選択肢について各選択肢の基本的な考え方や対策等について議論

第19回 4月16日 エネルギーミックスの選択肢について 等

①エネルギーミックスの選択肢について各選択肢の基本的な考え方や対策等について議論②再生可能エネルギーの導入拡大に伴う追加的コスト

第20回 4月26日 エネルギーミックスの選択肢について 等

エネルギーミックスの選択肢について各選択肢の基本的な考え方や対策等について議論

第21回 5月9日 エネルギーミックスの選択肢について 等

エネルギーミックスの選択肢の候補の経済影響分析結果や選択肢の原案の取りまとめ方等について議論

第22回 5月14日 エネルギーミックスの選択肢について 等

①省エネに関する専門的な検証結果について議論②コジェネに関する専門的な検証結果について議論③「エネルギーミックスの選択肢の原案」の整理のあり方について議論

第23回 5月21日 エネルギーミックスの選択肢について 等

①電力システム改革専門委員会及び天然ガスシフト基盤整備専門委員会の検討状況の報告②経済影響分析に係る感度分析の結果について議論③「エネルギーミックスの選択肢の原案」の整理のあり方について議論

第24回 5月24日 エネルギーミックスの選択肢について 等

「エネルギーミックスの選択肢の原案」の整理のあり方について議論

第25回 5月28日 エネルギーミックスの選択肢について 等

①経済影響分析を巡る論点について議論②「エネルギーミックスの選択肢の原案」について議論

第26回 6月5日 エネルギーミックスの選択肢について 等

①「エネルギーミックスの選択肢の原案」について議論②2020年のエネルギーミックスのあり方について議論

第27回 6月19日 エネルギー基本計画の見直しについて(資源燃料政策について 等)

①エネルギー環境会議における選択肢に関する中間的整理について報告②エネルギー基本計画の見直しに関する主要な論点について議論③資源燃料の安定供給の課題と今後の対応について議論

第28回 7月5日 エネルギー基本計画の見直しについて(蓄電池及び水素についてエネルギー基本計画の見直しの主要論点について 等)

①エネルギー環境会議で提示された選択肢について報告②蓄電池及び水素について議論③資源確保戦略について

59

第5節 エネルギー基本計画の検討

第4章

第29回 7月11日 エネルギー基本計画の見直しについて(スマートコミュニティー熱国際エネルギー協力について 等)

①熱の有効利用及びスマートコミュニティについて議論②エネルギー基本計画』の見直しに関する主要な論点について議論③国際エネルギー環境協力について議論④天然ガスシフトに向けた基盤整備について議論

第30回 7月30日 エネルギー基本計画の見直しについて(電力システム改革コジェネ普及策「エネルギー基本計画」の骨子について 等)

①電力システム改革専門委員会の検討結果について報告②コジェネの導入促進のための取組について議論③エネルギーに関する今後の重点施策について議論

60

参考資料

東京電力福島原子力発電所における事故調査検証委員会 最終報告(概要)

はじめに【ⅠⅥはじめに】 平成 23 年 3 月 11 日東京電力株式会社(以下「東京電力」という)福島第一原子力発電所(以下「福島第一原発」という)及び福島第二原子力発電所(以下「福島第二原発」という)は東北地方太平洋沖地震とこれに伴う津波によって損傷し特に福島第一原発では国際原子力放射線事象評価尺度(INES)レベル 7の極めて深刻なシビアアクシデントが発生した 同年 5月 24 日この事故の原因及びこの事故による被害の原因を調査検証し事故による被害の拡大防止及び同種事故の再発防止等に関する政策提言を行うことを目的に閣議決定に基づき当委員会が設置された当委員会はその後福島第一原発及び福島第二原発を始めとする現地の視察関係地方自治体の首長や住民からの意見聴取関係者のヒアリング(対象者数 772 名)等の調査検証活動を行い同年 12 月 26 日に中間報告を取りまとめさらに平成 24 年 7 月 23日に最終報告を取りまとめた 最終報告は中間報告と一体となるものであり主として中間報告後の調査検証の結果を記述したものである この概要は最終報告のうち問題点の考察と提言に当たるⅥ章の記述を中心に簡略化したものである見出しの後の【 】内は「最終報告(本文編)」の主な該当箇所を示す提言は太字で表記している

1 主要な問題点の分析(1)事故発生後の東京電力等の対処及び損傷状況に関する分析a 福島第二原発における現場対処と比較した福島第一原発の問題点【Ⅱ 5(8)Ⅵ 1(1)a】 福島第一原発における事故対処に関する問題点については中間報告に記述したとおりであるがその後の調査で判明した福島第二原発における現場対処の実際と比較して以下のような問題点が改めて明らかとなった

(a)3号機代替注水 福島第一原発 3号機においては高圧注水系手動停止の際に代替手段をあらかじめ準備しなかったことにより6時間以上にわたって原子炉注水が中断した福島第二原発では手順の細目について相違があるものの基本的には次なる代替手段が実際に機能するか否かを確認の上で注水手段の切替えを行うという対応がとられていた 福島第二原発では外部電源が使用可能であったことから作業環境も福島第一原発と比較すると良好であり事態の対応に当たったスタッフは心理的にもより余裕があったと思われるしかしこれらの点を考慮したとしても福島第一原発における対応は適切さを欠いたものであった

(b)2号機 SC 圧力温度の監視 福島第一原発 2号機では平成 23 年 3 月 11 日の全電源喪失以降原子炉隔離時冷却系(RCIC)が作動していたものの電源喪失により制御不能でありいつ停止するかも分からない状況にあった中で同月 12 日 4 時頃以降RCIC の水源を復水貯蔵タンクから圧力抑制室(SC)に切り替えたしかし電源喪失によって残留熱除去系による冷却が期待できない場合にこのような運転方法を長時間継続するとSC の圧力及び温度が上昇しRCIC の冷却機能及び注水機能が低下するほかRCIC が機能しなくなった場合の次なる代替注水手段である消防車を用いた消火系注水に必要な主蒸気逃し安全弁(SR 弁)による減圧操作が困難になるなどのおそれがあったしたがってSC の圧力及び温度を継続して監視するとともにあらかじめ消防車注水ラインを準備しRCIC 停止を待たずに原子炉減圧操作を行う必要があったと考えられるしかし実際には同月 14 日 4 時 30 分頃まで前記のような計測が行われず速やかな代替注水が実施されることもなかった 他方福島第二原発ではRCIC 作動中から間断なく注水を実施することを視野に入れSC の圧力及び水温を監視しながら段階的に SR 弁を開操作して復水補給水系による注水を実施するなどの対応がとられた 前記(a)で述べように福島第一原発と福島第二原発では状況の違いはあるにせよ福島第一原発における対処は福島第

61

参考資料

二原発におけるそれと比べて適切さが欠けていたと指摘せざるを得ない

b 損傷状況の継続した徹底的な解明の必要性【Ⅵ 1(1)b】 当委員会は可能な限りの事実の調査検証を行ってきたが現地調査における困難性や時間的制約等のため福島第一原発の主要施設の損傷が生じた箇所その程度時間的経緯を始めとする全体的な損傷状況の詳細放射性物質の漏出経緯原子炉建屋爆発の原因等についていまだに解明できていない点も存在する国電力事業者原子力発電プラントメーカー研究機関関連学会といったおよそ原子力発電に関わる関係者(関係組織)は今回の事故の事実解明と検証を最後まで担うべき立場にありこうした未解明の諸事項についてそれぞれの立場で包括的かつ徹底した調査検証を継続する組織的態勢を組むべきである

(2)事故発生後の政府等の事故対処に関する分析a 原子力災害現地対策本部【Ⅲ 5(4)Ⅵ 1(2)a】 政府の原子力災害対策マニュアル(以下「原災マニュアル」という)は原子力災害現地対策本部(以下「現地対策本部」という)の設置される緊急事態応急対策拠点施設(以下「オフサイトセンター」という)が機能するということを前提に作成されているが今回の事故の際はその前提が崩れ原災マニュアルが予定していたような対応ができなくなるという問題が生じた そもそもシビアアクシデントにおいてもオフサイトセンターが機能するような方策をあらかじめ講じておくべきであったし仮にオフサイトセンターが機能しなくなるような事態になったとしても事故に対処できるような方策を併せて講じておく必要があった また原子力災害対策本部(以下「原災本部」という)長から現地対策本部長への権限の委任については原子力安全保安院(以下「保安院」という)職員が原災本部長である菅直人内閣総理大臣(以下「菅総理」という)の了承を求めるタイミングを失した上現地対策本部から再三にわたって委任手続の進捗状況の確認を求められても主体的に動かずまた内閣官房及び内閣府の職員も保安院に対して委任手続を進めるよう注意喚起せず委任手続が行われないという問題が発生した そのような状況において現地対策本部は経済産業省緊急時対応センター(ERC)に置かれた原災本部事務局とも協議の上必要な措置を漏れなく迅速に行うため権限の委任手続が終了しているものとして避難措置の実施等について種々の決定を行いかつ実施した

b 原子力災害対策本部【Ⅲ 2(1)4(2)Ⅵ 1(2)b】(a)官邸内の対応 原災マニュアルによれば原子力災害が発生した際政府における緊急事態応急対策の中心となる原災本部は官邸に設置しまた情報の集約内閣総理大臣への報告政府としての総合調整を集中的に行うため官邸地下にある官邸危機管理センターに官邸対策室を置くこととされているまた各省庁の局長級幹部職員は同センターに参集することとされておりそのメンバーを「緊急参集チーム」と呼んでいる同チームには緊急時において迅速的確な意思決定がなされるよう各省庁が持つ情報を迅速に集約しそれに基づいて機動的に意見調整を行うことが期待されている しかし今回の事故においては避難措置等の事故対応についての重要な意思決定の多くはこの官邸危機管理センター(緊急参集チーム)から離れて官邸地下の中 2階の一室又は官邸 5階において関係閣僚原子力安全委員会(以下「安全委員会」という)委員長保安院幹部東京電力幹部らにより行われた一般に原子力災害が発生した場合できる限り情報入手が容易で現場の動きを把握しやすい現場に近い場所に対策の拠点が設置される必要がある政府における福島第一原発の情報収集拠点であったERC から離れた官邸内において意思決定が行われていたことまた官邸内においてもその情報集約拠点である官邸危機管理センターとは離れた別の場所(官邸 5階等)において意思決定が行われていたことなどから情報の不足と偏在が生じ十分な情報がないままに意思決定せざるを得ない場合も生じたという点は今回の一つの大きな教訓とすべきである なお平成 23 年 3 月 15 日に東京電力本店に福島原子力発電所事故対策統合本部が設置されたことは福島第一原発についての情報アクセスの改善という面では積極的に評価をすることも可能であるが政府の対応に必要な情報は必ずしも東京電力に係る情報のみではない上東京に本社本店のない他の電力会社の原子力発電所において同様の事故が発生する場合もあり得ることから今回の事例を普遍的な先例とするべきではない正確な情報を迅速に入手することはいうまでもなく原子力災害対策の基本である電力事業者の本社本店に移動することなく官邸等政府施設内にいながらよ

62

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

り情報に近接することのできる仕組みの構築が検討されるべきである

(b)情報収集の問題点 中間報告で詳述したようにERCの中に東京電力本店やオフサイトセンターが東京電力のテレビ会議システムを通じて現場の情報を得ていることを把握している者はほとんどおらず東京電力のテレビ会議システムをERCにも設置するということに思いが至らなかったまた情報収集のために保安院職員を東京電力本店へ派遣するといった積極的な行動も起こさなかった

c 福島県災害対策本部【Ⅳ 3(2)bⅥ 1(2)c】 福島県は平成 23 年 3 月 11 日知事を本部長とする福島県災害対策本部(以下「県災対本部」という)を設置し事故対応に当たったが県災対本部内外の連携等が十分ではなかったために避難区域内に取り残された双葉病院の入院患者等の避難救出が大きく遅れるなどの問題が発生した 被災地からの避難救出における今回のような事態の再発を防ぐためには県が設置する災害対策本部の班編成を平時の組織を単に縦割り的に寄せ集めたものでなく対応すべき措置に応じた横断的機能的なものにするとともに全体を統括調整できる仕組みを設けかつ各班相互の意思疎通の強化を図ること防災計画においても県の災害対策本部に詰める職員のみならず必要に応じいつでも他の職員も災害対応に当たる全庁態勢をとること等が必要である また原子力災害においてはその規模の大きさから県が前面に出て対応に当たらなければならずこの点を踏まえた防災計画を策定する必要がある

d その他の具体的な対応に関する分析【Ⅲ 2(1)Ⅵ 1(2)d】(a)原子力緊急事態宣言の発出 平成 23 年 3 月 11 日 17 時 42 分頃海江田万里経済産業大臣(以下「海江田経産大臣」という)は寺坂信昭原子力安全保安院長(以下「寺坂保安院長」という)らと共に菅総理に対し原子力災害対策特別措置法第 15 条第 1項に定める原子力緊急事態の発生を報告するとともに原子力緊急事態宣言の発出について了承を求めたしかし寺坂保安院長らは菅総理から福島第一原発の原子炉の状況や関連法令等について問われこれに対して十分な説明をすることができないまま時間が経過し菅総理は同日 18 時 12 分頃から約 5分間予定されていた与野党党首会談に出席したため上申手続は一時中断した同会談から戻った菅総理は間もなく原子力緊急事態宣言の発出を了承し同宣言は同日 19 時 3 分に発出された一般的に原子力災害においては事態が急速に進展することがあり得るところであり進行している事態や関連法令の詳細についての把握よりまず緊急事態宣言の発出を優先すべきであったと思われる

(b)福島第一原発視察 菅総理は平成 23 年 3 月 12 日福島第一原発事故に関する情報が十分に入っていなかったことなどから福島第一原発の視察を実行したこの視察は事故もなく終了し結果的には福島第一原発におけるベント実施への影響もなかったと認められるしかしながら今回のような大規模災害事故が発生した場合において最高指揮官の立場にある内閣総理大臣が長時間にわたって官邸を離れ危険が伴う現地視察を行い緊急対応に追われていた現地を訪れたことについては他の代わりとなる人物を派遣して状況を確認させるなどの方法によるべきではなかったのかという点でなお疑問が残る

(c)具体的事故対処についての官邸の関与 菅総理は平成 23 年 3 月 12 日 18 時過ぎ頃海江田経産大臣からその直前に同大臣が発した福島第一原発 1号機原子炉への海水注入命令について報告を受けた際炉内に海水を注入すると再臨界の可能性があるのではないかとの疑問を発しその場に同席した班目春樹原子力安全委員会委員長(以下「班目委員長」という)がその可能性を否定しなかったことから更に海水注入の是非を検討させることとしたその場に同席していた東京電力の武黒一郎フェロー(以下「武黒フェロー」という)は同日 19 時過ぎ頃福島第一原発の吉田昌郎所長に電話し「今官邸で検討中だから海水注入を待ってほしい」と強く要請した菅総理が再臨界の可能性についての質問を発した際その場には班目委員長のほか平岡英治原子力安全保安院次長武黒フェロー等の原子炉に関する専門的知見を有する関係者が複数いたが的確な応答をした者はおらず誰一人として専門家としての役割を果たしていなかったまた安易に海水注入を中止させようとした東京電力幹部の姿勢にも問題があったこのようなすぐれて現場対処に関わる事柄はまず現場の状況を最も把握し専

63

参考資料

門的技術的知識も持ち合わせている事業者がその責任で判断すべきものであり政府官邸はその対応を把握し適否についても吟味しつつも事業者として適切な対応をとっているのであれば事業者に任せ対応が不適切不十分と認められる場合に限って必要な措置を講じることを命ずるべきである当初から政府や官邸が陣頭指揮をとるような形で現場の対応に介入することは適切ではないと言えよう

(3)被害の拡大防止策に関する分析a 原発事故の特異性【Ⅵ 1(3)a】 原子力発電所の大規模な事故は施設設備の壊滅的破壊という事故そのものが重大であるだけでなく放出された放射性物質の拡散によって広範な地域の住民等の健康生命に影響を与え市街地農地山林海水を汚染し経済的活動を停滞させひいては地域社会を崩壊させるなど他の分野の事故には見られない深刻な影響をもたらすという点で極めて特異であるこのような原発事故の調査検証に当たっては事故原因とその背景について明らかにするだけでなく被害の発生拡大を防止する取組が適切であったのか否かそれが十分なものでなかったとするならそれはなぜなのかといった問題についても多角的に調査分析しあるべき被害防止への方策を見いださなければならない

b モニタリングの在り方【Ⅳ 1(2)aⅥ 1(3)b】 モニタリングに関する問題点等については既に中間報告で述べたとおりであるがさらにオフサイトセンターが機能しない場合のモニタリングの役割分担について指摘しておきたい 今回の事故においてはオフサイトセンターにある現地対策本部を拠点としたモニタリング活動が十分でなかったことから平成 23 年 3 月 16 日関係機関の役割分担が整理され各機関が実施しているモニタリングのデータの取りまとめ及び公表は文部科学省がデータの評価は安全委員会が安全委員会が行った評価に基づく対応は原災本部がそれぞれ行うことが取り決められたしかし急を要する状況の中でデータ評価の範囲等について関係機関の間で事前に十分な調整が行われた上で取決めがなされたとは言い難い状況にあった このような応急の状況で役割分担の取決めが必要となったのはモニタリングデータの集約評価公表評価に基づく対応という一連の作業を担うこととされていた現地対策本部(オフサイトセンター)が機能しない事態が生ずることを想定していなかったためと考えられる今回の事態を教訓にモニタリング態勢整備の見直しが必要である

c SPEEDI の活用の在り方【Ⅳ 2(1)(3)(4)Ⅵ 1(3)c】(a)システム及びその活用主体の問題点 緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)は原子力事故発生時緊急時対策支援システム(ERSS)から伝送される放出源情報を前提に周辺環境における放射線量率等を予測することができる装置であるがERSS は事故発生時には機能しなくなるおそれがありその場合の SPEEDI の活用方法についてあらかじめ検討しその検討結果を事故対応に当たるべき関係者間で共有しておくべきであった しかしながら事故対応に当たっていた多くの者はERSS が機能しなくなるや SPEEDI を避難に活用する余地はないものと考えていた環境放射線モニタリング指針には放出源情報が得られない場合の SPEEDI の活用方法も記載されていたがこれを避難に活用できるとのコンセンサスもなかったまたオフサイトセンターが機能しなくなった場合における SPEEDI の活用主体(運用及び公表の責任を負う機関)についても明確になっていなかった

(b)SPEEDI と避難指示 SPEEDI が有効に活用されなかった大きな原因は前記(a)のとおりいずれの関係機関もERSS から放出源情報が得られない場合には SPEEDI を避難に活用することはできないという認識の下これを避難の実施に役立てるという発想を持ち合わせていなかった点にあったと考えられるしかしSPEEDI により単位量放出を仮定した予測結果は得られており仮にその情報が提供されていれば各地方自治体及び住民はより適切に避難のタイミングや避難の方向を選択できた可能性があったと言えようERSS から放出源情報を得られない場合でもSPEEDI を活用する余地はあったと考えられる

d 住民に対する避難指示【Ⅳ 3(1)b(2)Ⅵ 1(3)d】 住民に対する避難指示に関する問題点等については中間報告で述べたとおりであるが中間報告後の調査検証を踏まえ更に以下の点を指摘しておく

64

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

(a)福島第二原発から 10km圏外への避難指示 平成 23 年 3 月 12 日 17 時 39 分福島第二原発から半径 10km圏外への避難指示が発出されたこの避難指示は同日15 時 36 分の福島第一原発 1号機における爆発を受け官邸 5階において福島第二原発についても同様の事象が発生する可能性があるので万一の事態に備える必要があるとの判断に基づいて発出されたものであり原子炉への注水状況原子炉の水位や圧力等の福島第二原発の各号機の具体的状況を踏まえて検討されたものではなかった この避難措置の約 1時間後の同日 18 時 25 分福島第一原発から 20km圏外への避難指示が発出されたが広野町北端のごく一部の地域のみは福島第一原発から 20kmの範囲に含まれないので福島第二原発から 10km圏外への避難指示が発出されなければ避難指示区域に含まれることはなかった福島第二原発から 10km 圏外への避難指示については情報不足で混乱する中福島第一原発 1号機の原子炉建屋爆発という事態を受けて判断されたが当時の福島第二原発の状況は実際には比較的安定しておりその決定過程には問題が残った

(b)病院患者等の避難 寝たきりの患者が多く入院していた双葉病院については入院患者の救出が大きく遅れかつ搬送先が遠方の高等学校の体育館とされるなど不適切と言わざるを得ない事態が生じたこうした事態の再発を防ぐためには前記(2)cで指摘したもののほか避難を担当する自衛隊が警察無線を有する県警に協力を求めるなどして外部との連絡体制の確保に留意する必要があるまた言うまでもなく人命救助に当たる者は改めてその責任の重さを自覚し強い責任感を持って任務に当たるべきである

e 被ばくへの対応【Ⅳ 4(3)b(c)(5)ab(6)5(2)aⅥ 1(3)e】(a)APD の未装着問題 事故発生後の福島第一原発の作業員(放射線業務従事者)にとって各自が警報付きポケット線量計(APD)を装着しその受けた放射線量を測定することは線量限度を超える被ばくを避けるため不可欠であったしかし福島第一原発においてはもともと配備されていたAPD が被水するなどしたため平成 23年 3月 15日以降の作業において代表者のみがAPD を装着する例外的な運用を始めこれが同月 31 日まで続いた この問題について調査したところ実際には事故発生直後に他の発電所等から合計 950 個のAPD が届けられていたが適合する充電器や警報設定器がないなどとして使用されないまま放置されたこと等が明らかとなった その経緯等を見ると現場作業員の被ばく防止に関する東京電力社員の意識は低かったと言わざるを得ないこれは「被ばく線量はできる限り小さくすべきである」という広く受け入れられている国際放射線防護委員会(ICRP)の考え方が十分に理解されていないことをうかがわせるものであり東京電力における被ばく回避の放射線教育の在り方に問題があったと言わざるを得ない

(b)国のヨウ素剤服用指示 現地対策本部医療班は平成 23 年 3 月 13 日スクリーニングレベルに関する現地対策本部長指示を発出するための準備を始めたその過程において安全委員会はERCに対しスクリーニングレベルを超えた者に対しては安定ヨウ素剤を投与すべきとのコメントをFAX 送信し安全委員会からERCに派遣されていたリエゾンがこれを受け取ったしかしこのコメントはERC 医療班内で共有検討が行われず現地対策本部にも伝えられなかったこれは同リエゾンが安全委員会のコメントを本部長指示に盛り込むことの重要性必要性を認識していなかったことによるものと考えられる 他方安全委員会も前記コメントが前記指示に盛り込まれないであろうことを知りながら「委員会はあくまでも助言機関である助言すべき事項は既に助言した」との理由から何らそれ以上のアクションを起こさなかった点で国民の安全を所管する行政機関としての責任感に欠けていたと言わざるを得ない

(c)県のヨウ素剤服用指示 三春町は平成 23 年 3 月 14 日深夜住民の被ばくが予想されたことから安定ヨウ素剤の配布服用指示を決定し同月 15 日町民に周知を行い薬剤師の立会いの下安定ヨウ素剤の配布を行ったこれを知った福島県の職員は三春町に対し国からの指示がないことを理由に配布中止と回収の指示を出したが三春町はこれに従わなかった安定ヨウ素剤の服用についての安全委員会の意見が前記(b)のような経緯で葬られている点を考慮すると国からの指示がなかったからという理由で三春町の判断を不適切であったと言うことはできない現在安定ヨウ素剤の服用については基

65

参考資料

本的に国の災害対策本部の判断に委ねる運用となっているが前記経験を踏まえ各自治体等が独自の判断で住民に服用させることができる仕組み事前に住民に安定ヨウ素剤を配布することの是非等について見直すことがむしろ必要であろう

(d)スクリーニングレベルの引上げ 福島県は当初スクリーニングレベルを 40Bqcm2(1 万 3000cpm相当)と設定していたが平成 23 年 3 月 13 日同月 14 日以降の全身除染のスクリーニングレベルを 10 万 cpmに引き上げた安全委員会は福島県のスクリーニングレベル引上げの意向を知りERCに対し一旦はスクリーニングレベルを 1万 3000cpmに据え置くべきであるとの助言を行ったが同月 19 日には 10 万 cpmへの引上げを是認する助言を行い現地対策本部長は同月 20 日スクリーニングレベルを 10 万 cpmとする指示を発出した しかし当時は全身除染(シャワー)のスクリーニングレベルの引上げではなく線量等に応じたきめ細かな除染方法(脱衣拭き取り等)の策定こそが必要であったまた安全委員会が発出した 10 万 cpmというスクリーニングレベルを許容する助言及びこれに基づいて現地対策本部長が発出した指示はスクリーニングレベルを単純に 10 万 cpm に引き上げるのみで検出レベルが 1万 3000cpm 以上 10 万 cpm 未満であった者に対しては何らの除染も要求しておらずその者に対する除染は不要であるかのように解釈する余地があるものとなっておりかえって問題であったまたスクリーニングレベルについては同月 13 日に発せられた現地対策本部長指示が県災対本部の担当班に伝わっていないなど国と県のコミュニケーションに関する問題も発生した今回のような緊急事態にあっては重要情報を関係者がしっかりと共有することの重要性を認識し関係行政組織間の調整能力に長けた者が緊急事態対応部署(班)のトップを構成し国や地方自治体の関係行政機関が一体となって事故対処に当たることが不可欠である

(e)校舎校庭等の利用基準 文部科学省は平成 23 年 4 月 19 日学校等の校舎校庭等の利用判断基準について38μSvh(年間にすると ICRP が定める「現存被ばく状況」における参考レベルの上限値である 20mSv に相当)以上の空間線量率が測定された学校等については校庭での活動を 1日 1時間程度に制限し38μSvh 未満の空間線量率が測定された学校については平常どおり利用して差し支えないとする考え方を公表したこれに対してはあたかも 20mSv年までの被ばくを許容するもので子どもへの配慮に欠ける事前に十分な説明や広報がなされなかったといった批判や懸念が寄せられた 確かに文部科学省の当時の説明は20mSv年を利用の基準値にしたと理解されてもやむを得ない面があり放射線に対する強い不安を解消するものとは言い難くリスクコミュニケーションの観点から見ても適切ではなかったまた一般に大人よりも放射線の影響が大きいと言われる子どもが利用する校舎校庭等について「現存被ばく状況」の上限値を用いたことが適当であったかどうかについてもなお議論の余地があろう その後文部科学省はより生活実態に合わせた被ばく線量の再試算を行い1年間で 10mSv 以下という数値を示したしかし放射線が子どもに対して与える影響は大人に対するそれよりも大きいとされていることICRP 勧告が「現存被ばく状況」においても参考レベル 1~20mSv年の中でできる限り被ばく線量を低減するよう求めていること(防護の最適化)などを考慮すると国としては10mSv年という数値に安心することなく被ばく線量をできる限り低くするような方策をとるべきであり38μSvh 未満の学校等についても校庭等での活動に基準を設けるなどして被ばく線量をより低く抑えるよう配慮するのが適当であったと思われる

(f)緊急被ばく医療機関 福島第一原発において事故が発生した場合の初期被ばく医療機関として 6病院が指定されていたがそのうち 4病院は避難区域内に立地していたことから被ばく医療機関としての機能を果たすことができなかったしたがって今回のようなシビアアクシデントが発生した場合においても緊急被ばく医療が提供できるよう緊急被ばく医療機関を原子力発電所周辺に集中させず避難区域に含まれる可能性の低い地域を選定しそこに相当数の初期被ばく医療機関を指定しておくとともに緊急被ばく医療機関が都道府県を超えて広域的に連携する態勢を整える必要があると考えられる

(g)放射線に関する国民の理解 今回の事故を契機として改めて放射線防護に万全を期する必要があることが再確認されたが他方で放射線を「正しく恐れる」必要性についても認識させられた今後も不必要な被ばくをできる限り避けるため最大限の努力が払われるべきことは当然であるがそれと同時に個々の国民が放射線のリスクについて正確な情報に基づいて判断できるようすな

66

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

わち情報がないためにいたずらに不安を感じたり逆にリスクを軽視したりすることがないようできる限り国民が放射線に関する知識や理解を深める機会が多く設けられる必要がある

f 国民への情報提供に関する分析【Ⅳ 8(2)(4)(5)(8)(9)Ⅵ 1(3)f】(a)官邸の事前了解 平成 23 年 3 月 12 日福島第一原発 1号機の「炉心溶融」の可能性が保安院の中村幸一郎審議官によって広報された官邸に詰めていた関係者はそれまで「炉心溶融」の可能性について報告を受けていなかったため保安院が官邸の把握していない事実を事前告知することなく広報したとして問題視し広報内容について官邸への事前連絡を求めたこのことが契機となって寺坂保安院長の判断で保安院においてはプレス発表に先立って内容について官邸の事前了解を得ることとしたまた東京電力も同月 13 日以降プレス発表に先立って官邸の了解を得た上で広報することとしこれらが原因でプレス発表が遅れることがあった 政府の意思決定及び広報の中心となるべき官邸としては迅速な情報提供を求めるのは当然のことであるがプレス発表の際に事前了解を得た上で行うこととすると緊急性を有する情報が直ちに広報できない状況が生ずるおそれがある緊急性の高い情報については各広報機関が独自の判断で広報することが必要となる場面もあり情報の全てについて官邸の事前了解を求めることは必ずしも適切ではない

(b)炉心溶融を積極的に否定した保安院の広報 前記(a)のとおり保安院はプレス発表前に官邸の了解を得ることとしたがその後保安院広報官の一部には「炉心溶融」に言及するのを避けるためかなり無理のある広報をした形跡が認められるすなわち平成 23 年 3 月 14 日の保安院のプレス発表において西山英彦保安院付が炉心溶融の可能性を肯定し又は炉心溶融の可能性を否定しない発言を行った際同席した保安院職員が同発言を取り消すかのように「まだ溶融とかそういう段階ではないと思っております」などと炉心溶融の可能性を積極的に否定する趣旨の発言を行った 前記の保安院職員の発言はその主観的認識がどうであったかはともかく炉心溶融の可能性という否定し難い事実を積極的に否定する内容となっており中央及び現地の災害対策関係者や地域住民の切羽詰まった情報ニーズを誤った方向へ導く極めて不適切なものであった

(c)放射線の影響に関する広報 福島第一原発事故による一般住民等の被ばく又は被ばくのおそれについての広報の際政府はしばしば「直ちに(人体に影響を及ぼすものでない)」との表現を用いたしかしながら「直ちに人体に影響を及ぼすものではない」との表現については「人体への影響を心配する必要はない」という意味と反対に「直ちに人体に影響を及ぼすことはないが長期的には人体への影響がある」という意味がありいずれの意味で用いているのか必ずしも明らかではなかったこのようなどちらの意味にも受け取れる表現は緊急時における広報の在り方として避けるべきでありリスクコミュニケーションの観点からも今後の重要な検討課題である

(d)「不測事態シナリオの素描」の不公表問題 平成 23 年 3 月 22 日菅総理は原子力委員会委員長である近藤駿介氏に対し福島第一原発事故の最悪事態の想定とその場合の対策を検討するよう依頼したこの依頼を受けて同氏は「福島第一原子力発電所の不測事態シナリオの素描」(以下「素描」という)を作成し同月 25 日細野豪志内閣総理大臣補佐官(以下「細野補佐官」という)へ提出した細野補佐官は素描が示す対策についての検討を進めたが素描を公表することはしなかった素描はその内容が現実に発生する可能性の低い仮定的事実に基づいたシミュレーションであったことから素描を公表しなかったことが不適切であったとまでは言えないただし一般論として言えば仮定の事実に基づくシミュレーション結果であっても公表の必要性シミュレーション結果に対する対策の有無公表のタイミングを考慮し前提条件を丁寧に説明した上で公表するという選択肢もあり得ると考えられる

g 国外への情報提供や諸外国等との連携の在り方【Ⅳ 910(2)Ⅵ 1(3)g】(a)諸外国との情報共有 事故発生後我が国は必ずしも諸外国が満足するような事故関連情報の提供を行っていなかった諸外国とりわけ日本国内に多数の市民が在住する国や近隣国に対する情報提供は我が国の国民に対するそれと同様に極めて重要であ

67

参考資料

り迅速かつ正確な情報提供ができるよう言語の違いにも配慮した上積極的かつ丁寧な対応が求められる

(b)諸外国からの支援の受入れ 我が国は諸外国からの支援物資を受け入れる態勢に不備があったほか受入物資を保管する場所がなかったことから当初支援物資の提供を直ちに受け入れることができなかった原子力災害発生時に諸外国から支援物資の提供があった場合はできる限り早くこれを受け入れることが国際礼譲の点からも国内における支援物資の必要性を迅速に満たすという点からも必要である今後は今回のような初期段階での混乱と不適切な対応が生じないよう支援物資の受入態勢について担当官庁のマニュアルや原子力事業者防災業務計画等において対応方法を定めておく必要がある

(4)事故の未然防止策や事前の防災対策に関する分析a 総合的リスク評価とシビアアクシデント対策の必要性【Ⅴ 3(1)(2)Ⅵ 1(4)a】(a)外的事象を対象としたアクシデントマネジメント導入に至らなかった経緯 我が国においてはアクシデントマネジメントとして整備されたのは内的事象に起因する対策のみで地震津波等の外的事象は具体的な検討対象とはならなかった このような事情の背景としてはシビアアクシデント対策を検討するのに有用な手法とされる確率論的安全評価(PSA)については福島原発事故発生以前に確立されていた外的事象 PSAは地震 PSAのみで手法として限定的であったこと定期安全レビューが外的事象 PSA についての技術的水準の進歩を勘案してシビアアクシデント対策の改善を促す機会とはならなかったこと外的事象 PSA を実施して合理的追加対策があれば行うことを奨励すべきとの指摘があったものの耐震バックチェックの作業等の事情から早急に導入を検討するには至らなかったことなどが挙げられる その結果として地震 PSAによる評価や津波に対する安全評価を始めとして事故の起因となる可能性がある火災火山斜面崩落等の外部事象を含めた総合的なリスク評価は行われていなかった

(b)総合的リスク評価の必要性 施設の置かれた自然環境は様々であり発生頻度は高くない場合ではあっても地震地震随伴事象以外の溢水火山火災等の外的事象及び従前から評価の対象としてきた内的事象をも考慮に入れて施設の置かれた自然環境特性に応じて総合的なリスク評価を事業者が行い規制当局等が確認を行うことが必要であるその際には必ずしも PSA の標準化が完了していない外的事象についても事業者は現段階で可能な手法を積極的に用いるとともに国においてもその研究が促進されるよう支援することが必要である

(c)総合的リスク評価を踏まえたシビアアクシデント対策の策定 原子力発電施設の安全を今後とも確保していくためには外的事象をも考慮に入れた総合的安全評価を実施し様々な種類の内的事象や外的事象の各特性に対する施設の脆弱性を見いだしそれらの脆弱性に対し設計基準事象を大幅に超え炉心が重大な損傷を受けるような場合を想定して有効なシビアアクシデント対策を検討し準備しておく必要があるまたそれらの対策の有効性についてPSA 等の手法により評価する必要がある その場合PSA 手法の未成熟等によりリスク評価方法に制約があるとしてもその特徴と限界を理解の上事業者は自らの施設の安全性確保のためのシビアアクシデント対策の検討評価を行うべきでありその検討に当たっては諸外国の状況等についても十分参照する必要がある規制当局等も緊急性のあるシビアアクシデント対策の実施については自然災害等の際に果たして有効かどうかリスク評価手法等を用いて確認検討すべきである

b 原子力防災対策の見直し【Ⅴ 4(2)(3)Ⅵ 1(4)b】 原子力防災体制の整備については国際原子力機関(IAEA)における原子力又は放射線緊急事態に関する安全基準の策定に伴い平成 18 年に安全委員会において「原子力施設等の防災対策について」(以下「防災指針」という)の見直し作業が行われ我が国における予防的措置範囲(PAZ)の導入等が検討されたが安全委員会と保安院との調整の結果防災指針に PAZ の概念や範囲は直接には書き込まないこととなった 原子力災害と大規模自然災害とが同時期に発生する複合災害については保安院において検討が開始されたが自然災害原子力災害を所掌する中央防災会議での検討の申入れが行われたのは東日本大震災のわずか三日前であった 今回の事故以前の原子力防災対策を重点的に充実すべき地域の範囲は原子力発電所から8~10km 圏内とすることを大前提に仮想事故を相当に上回る事故の発生時でも十分対応可能であるとみなして設定されていたが今回の事故に鑑み

68

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

どのような事故を想定して避難区域等を設定するのか再検討することが必要である また原子力災害の際の国の責任の重要性に鑑み単に住民避難等の原子力施設敷地外の対応にとどまらず事業者と協議しつつ原子力災害の際に事業者への支援や協力として国が行うべきことの内容を検討すべきである

(5)原子力安全規制機関等に関する分析【Ⅴ6Ⅵ 1(5)】 保安院は事故の未然防止のための取組や事故後の対応においてその所掌にふさわしい役割を十分に果たしてきたとは言い難い保安院のこのような問題点を踏まえ当委員会は中間報告において原子力安全規制機関の在り方として5点の指摘を行った最終報告においてはその後の調査検証の結果を踏まえ以下の 2点の指摘を加えることとするなお今回追加する 2点は安全委員会についても共通する事柄である① 国際機関外国規制当局との積極的交流 現在の保安院等の定員状況ではIAEA やアメリカ合衆国原子力規制委員会への少数の人事交流にとどまりまた国内事務処理に優先的に当たらざるを得ないために国際会議等での十分なプレゼンスの発揮には限界があり規制当局等の組織の実力の向上や原子力安全に関する国際社会との協調に十分に資するには至っていない 国の行政機関の定員措置については行政機関全体の問題であることから保安院等のみに関する検討で済むものではないが原子力安全の重要性に鑑み新たに設置される原子力安全規制機関の定員措置については十分に考慮する必要があるまた新設の規制機関においては前記定員措置のほか国際貢献を果たすにふさわしい態勢整備に努めるとともに国際機関外国規制当局との人的交流を担える人材の育成に努めるべきである② 規制当局の態勢の強化 原子力発電の安全を確保するためには単に発生した個別問題への対応にとどまらず国内外の最新の知見はもとより国際的な安全規制や核セキュリティ等の動向にも留意しつつ国内規制を最新最善のものに改訂する努力を不断に継続する必要があるまた今回のような事故の未然防止が重要なことはいうまでもないが原子力災害の社会への影響の大きさに鑑みれば災害発生時に迅速かつ有効な活動が展開できるよう平常時から防災計画の策定や防災訓練等を実施し緊急時の対応に万全を期すべきであるさらに緊急事態において専門知識に基づく的確な助言指導ができる専門的技術能力や組織が有するリソースを有効かつ効率的に機能させるマネジメント能力の涵養に努めなければならないそのためにはそれにふさわしい予算人的スタッフの在り方の検討が必要である

(6)東京電力に関する分析【Ⅵ1(6)】a 危機対応能力の脆弱性 今回のシビアアクシデントに対する東京電力社員の対処対応を検証していくと自ら考えて事態に臨むという姿勢が十分ではなく危機対処に必要な柔軟かつ積極的な思考に欠ける点があったと言わざるを得ないこのことは個々人の問題というよりは東京電力がそのような資質能力の向上を図ることに主眼を置いた教育訓練を行ってこなかったことに問題があったと言うべきであろう更に問題を遡っていくと東京電力を含む電力事業者も国も我が国の原子力発電所では深刻なシビアアクシデントは起こり得ないという安全神話にとらわれていたがゆえに危機を身近で起こり得る現実のものと捉えられなくなっていたことに根源的な問題があると思われる 東京電力には原子力安全に関し一次的な責任を負う事業者としてこれまでの教育訓練の内容を真摯に見直し原子力に携わる者一人一人に対し事故対処に当たって求められる資質能力の向上を目指した実践的な教育訓練を実施するよう強く期待する

b 専門職掌別の縦割り組織の問題点 東京電力は原子力災害に組織的一体的に対処するため緊急時対策本部等の組織化を図りその中に発電班復旧班技術班等の機能班を設けているしかしこれらの機能班は事態を見渡して総合的に捉えその中に自らの班の役割を位置付け必要な支援業務を行うといった視点が不足していた

c 過酷な事態を想定した教育訓練の欠如 緊急時対策本部内の機能班に所属する一人一人が時宜にかなった判断をなし得ずまた機能班として十分な機能が果たし得なかったことの根底には複数号機において全交流電源が喪失するといった過酷な事態を想定した十分な教育訓練がなされていなかったことがあると考えられる

69

参考資料

d 事故原因究明への熱意の不足 東京電力は事故から 1年以上が経過した現時点においてもなお事故原因について徹底的に解明して再発防止に役立てようとする姿勢が十分とは言えない当委員会としては東京電力が今後も事故原因の解明を積極的に進めることを強く求める

e より高い安全文化の構築が必要 東京電力は原子力発電所の安全性に一義的な責任を負う事業者として国民に対して重大な社会的責任を負っているが津波を始め自然災害によって炉心が重大な損傷を受ける事態に至る事故の対策が不十分であり福島第一原発が設計基準を超える津波に襲われるリスクについても結果として十分な対応を講じていなかった組織的に見ても危機対応能力に脆弱な面があったこと事故対応に当たって縦割り組織の問題が見受けられたこと過酷な事態を想定した教育訓練が不十分であったこと事故原因究明への熱意が十分感じられないことなどの多くの問題が認められた東京電力は当委員会の指摘を真摯に受け止めてこれらの問題点を解消しより高いレベルの安全文化を全社的に構築するよう更に努力すべきである

(7)IAEA 基準などとの国際的調和に関する分析【Ⅴ5Ⅵ 1(7)】 保安院などの規制当局等はIAEA 安全基準を参照して国内基準の見直しや策定を行う必要性は認識していたもののほとんど実施してこなかった原子力発電の安全を確保するためには国内外の原子力に関する知見の蓄積や技術進歩に合わせて国内の規制水準を常に最新のものとしていくことが必要であるそのためにはIAEA等の国際基準の動向も参照して国内基準を最新最善のものとする不断の努力をすべきである またこれまでも地震や津波に関する分野ではIAEA の基準策定活動に我が国も貢献してきたが今回の事故への反省を踏まえて原子力安全に関する教訓を学びそれを我が国のみならず他国での同様の事故の発生防止に資するよう事故から得られた知見と教訓を国際社会に発信していく必要があるまた国内基準の見直しを行う場合それを国際基準として一般化することが有効有益なものについてはIAEA等の基準に反映されるように努めるなどして国際貢献を行うべきである

2 重要な論点の総括(1)抜本的かつ実効性ある事故防止策の構築【Ⅵ2(1)】 当委員会は福島第一原発の損傷状況や事故対処の実態国や東京電力等による原発事故防止に向けた事前の取組状況等について調査検証を行い中間報告及び最終報告においてそれぞれについて多くの問題点があったことを指摘した当委員会としては国電力事業者原子力発電プラントメーカー研究機関原子力学会といったおよそ原子力発電に関わる関係者が指摘を真摯に受け止め問題点を解消改善するための具体的取組を進めることを強く要望する技術的原子力工学的な問題点を解消改善するためにどのような具体的取組が必要かは原子力全般についての高度な専門的知見を踏まえた検討が必要なものも少なくないこれについては原子力発電に関わる関係者においてその専門的知見を活用して具体化すべきでありその検討に当たっては当委員会が指摘した問題点を十分考慮するとともにその検討の経緯及び結果について社会への説明責任を果たす必要があると考える

(2)複合災害という視点の欠如【Ⅵ2(2)】 東日本大震災は地震津波原発事故からなる大規模かつ広域的な複合災害であり国及び地方自治体は地震や停電等により通信手段等が途絶する中オフサイトセンターの機能が十分に発揮できなくなったりモニタリング機器等に損傷が生ずるなど様々な場面で混乱し問題への対応に遅れや不備等が生じた国や大半の地方自治体において原発事故が複合災害という形で発生することを想定していなかったことは原子力発電所それ自体の安全とそれを取り巻く地域社会の安全の両面において我が国の危機管理態勢の不十分さを示したものであった今後原子力発電所の安全対策を見直す際には大規模な複合災害の発生という点を十分に視野に入れた対応策の策定が必要である

(3)求められるリスク認識の転換【Ⅵ2(3)】 近年地震研究においてはプレートテクトニクス論をベースに震源域の地域別特性や大津波を引き起こすいわゆる津波地震の海底断層の特性発生の頻度と発生確率の確率論的な評価などが注目されるようになってきたそういう新たな知見を防災対策の重点地域の特定に利用することはそれなりに合理性があると言える

70

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

 しかし①地震津波の確率論的評価は記録が詳しく残っている限られた事例を根拠にしており古文書等の記録が不十分で地震津波の規模や震源モデルを推定しにくい長い周期で起きているものについてはデータベースから外されていること②研究組織や関係行政機関によって防災対策の根拠を明確にするために地震津波等の自然災害の発生確率計算の精度の向上が図られた反面自然現象には現在の学問の知見を超えるような事象が起こることがありそういう極めてまれな事象への備えも必ず並行して考慮しなくてはならないという伝統的な防災対策の心得が考慮されなくなりがちになっていたこと③地震津波の想定について極めてまれなケースについては「残余のリスク」「残る課題」等の表現で検討課題に挙げられてはきたが実際には継続して深く検討されずに放置されてきたこと等に見られるように学問の進歩の一方でそこから防災対策の隙間が生まれるという問題が生じていたこのような落とし穴から抜け出すには安全対策防災対策の前提となるリスクの捉え方を次のように大きく転換させる必要があろう ① 日本は古来様々な自然災害に襲われてきた「災害大国」であることを肝に命じて自然界の脅威地殻変動の規模と時間スケールの大きさに対し謙虚に向き合うこと ② リスクの捉え方を大きく転換すること 今回のような巨大津波災害や原子力発電所のシビアアクシデントのように広域にわたり甚大な被害をもたらす事故災害の場合には発生確率にかかわらずしかるべき安全対策防災対策を立てておくべきであるという新たな防災思想が行政においても企業においても確立される必要がある ③ 安全対策防災対策の範囲について一定の線引きをした場合「残余のリスク」「残る課題」とされた問題を放置することなく更なる掘り下げた検討を確実に継続させるための制度が必要である

(4)「被害者の視点からの欠陥分析」の重要性【Ⅵ2(4)】 原子力発電に関わる領域を「システム中枢領域」「システム支援領域」「地域安全領域」の三つに分けた上で事業者側の視点からシステムの安全性を見るとまず懸命に取り組むのは「システム中枢領域」の安全確保であるがその安全性の認識が確信にまでなると中枢領域以外の安全性の確保については緩みが生じがちになるまた「システム中枢領域」にせよ「システム支援領域」にせよ安全性を確保してあると言っても設計の前提条件の範囲内でのことであって条件外の事象が起きた場合には安全性は担保されなくなるすなわち ① 事業者や規制機関が「システム中枢領域」の安全性を設計の前提条件の枠の中だけで過信すると安全対策が破綻する ② 「システム支援領域」や「地域安全領域」における安全対策は「システム中枢領域」の安全性のレベルにかかわりなく万一の場合に独立して機能するものでなければならないその原則が忘れられると地域の人々の命に関わる安全防護壁に多くの「穴」(欠陥)ができてしまう危険性が高くなる そのような欠陥を見付け安全への防護壁を確実なものにするための方法として立ち位置を被害を受ける側に置いた「被害者の視点からの欠陥分析」と言うべき方法を提案したいこれは規制関係機関や地方自治体の防災担当者が災害問題の専門家の協力を得て「もしそこに住んでいるのが自分や家族だったら」という思いを込めて最悪の事態が生じた場合自分に何が降りかかってくるかを徹底的に分析するという方法である 行政と事業者がなすべきことは分析によって浮かび上がった対策の不備や欠陥について改善策を講じていくことであるがすぐに全ての欠陥の「穴」を塞ぐのは困難であろうその場合残された対策とその問題点を公表し今後どう対処していくべきかを規制関係機関と関係自治体が地域の住民と議論して共働で次善の策を絞り出すという取組が重要となるだろうそのような地域の住民の視点に立った災害の捉え方と安全への取組が定着して初めてこの国に真の安全で安心できる社会を創造することができると言えよう 事故が起きると広範囲の被害をもたらすおそれのある原子力発電所のようなシステムの設計設置運用に当たっては地域の避難計画を含めて安全性を確実なものにするために事業者や規制関係機関による「被害者の視点」を見据えたリスク要因の点検洗い出しが必要でありそうした取組を定着させるべきである なお住民の避難計画とその訓練については原発事故による放射性物質の飛散範囲が極めて広くなることを考慮して県と関係市町村が連合して混乱を最小限にとどめる実効性のある態勢を構築すべきである

(5)「想定外」問題と行政東京電力の危機感の希薄さ【Ⅵ2(5)】 「想定外」という言葉には大別すると二つの意味がある一つは最先端の学術的な知見をもってしても予測できなかった事象が起きた場合でありもう一つは予想されるあらゆる事態に対応できるようにするには財源等の制約から無理があるため現実的な判断により発生確率の低い事象については除外するという線引きをしていたところ線引きした範

71

参考資料

囲を大きく超える事象が起きたという場合である今回の大津波の発生はこの 10 年余りの地震学の進展と防災行政の経緯を調べてみると後者であったことが分かる福島県沖の津波地震への防災対策に関するこれまでの行政の意思決定過程を行政の論理の枠内で見るとそれなりの合理性があったことは否定できないしかし今回の事故による甚大な被害を前にして行政には何の誤りもなかった「想定外」の大地震大津波だったから仕方がないと言って済ますことはできるだろうかそれでは安全な社会づくりの教訓は何も得られないだろう 行政の論理や責任の有無とは関係なく被害を少しでも小さくする方法あるいは選択肢はなかったのか行政の意思決定の枠組みを変革する道はなかったのかという視点から要因分析を行うと次のような問題点が浮かび上がってくる ① 地震についての科学的知見はいまだ不十分なものであり研究成果を逐次取り入れて防災対策に生かしていかなければならない換言すればある時点までの知見で決められた方針を長期間にわたって引きずり続けることなく地震津波の学問研究の進展に敏感に対応し新しい重要な知見が登場した場合には適時必要な見直しや修正を行うことが必要である ② 発生確率が低いかあるいは不明という理由により財源等の制約からある地域が防災対策の強化対象から外されていた場合万一大地震大津波が発生すると被害は非常に大きくなると考えられる行政は少数であっても地震研究者が危険性を指摘する特定の領域や例えば津波堆積物のような古い時代に大地震大津波が発生した形跡がある領域については地震の実態解明を急ぐための研究プロジェクトを立ち上げるとか関係地域に情報を開示して行政住民専門家が一体となって万一に備える新しい発想の防災計画を策定する等の取組をすべきであろう ③ 中央防災会議が決める防災計画は原発立地を特別視することなく進められてきたが今後は原発立地の領域における災害リスクを注視すべきである原子力発電所の防災対策は保安院の担当とされてきたが中央防災会議の方針は原子力発電所の防災対策にも密接に関連することから中央防災会議においても原子力発電所を念頭に置いた検討を行うべきである一方東京電力の津波対策の経緯等を追ってみると同社には原発プラントに致命的な打撃を与えるおそれのある大津波に対する緊迫感と想像力が欠けていたと言わざるを得ないそしてそのことが深刻な原発事故を生じさせまた被害の拡大を防ぐ対策が不十分であったことの重要な背景要因の一つであったと言えるであろう

(6)政府の危機管理態勢の問題点【Ⅵ2(6)】 今回原災マニュアルに規定のない官邸 5階が一種の司令センターとなりまた菅総理が前面に出た形で事故対応に当たった背景には現地対策本部が本来的な役割を果たせなかったこと官邸による情報集約態勢や安全委員会による助言機能が十分ではなかったことなどの事情があったしかしながら内閣総理大臣は政府の各機関部局に情報収集とその対応策を任せ専門部署から上がる重要事項に関してのみ選択肢を出させた上で適切な最終決断を行うというのがその本来の役割である自らが当事者として現場介入することは現場を混乱させるとともに重要判断の機会を失しあるいは判断を誤る結果を生むことにもつながりかねず弊害の方が大きいと言うべきであろう 今回の事態を教訓に原子力事故と地震津波災害との複合災害の発生を想定した原災マニュアルの見直しを含め原子力災害発生時の危機管理態勢の再構築を早急に図る必要があるその検討に当たってはオフサイトセンターの強化という観点に加えてそもそも現地対策本部に関係機関が参集して事故対処に当たるという枠組みでは対応できない事態が発生した場合にどのような態勢で対応に当たるべきかについても具体的に検討し必要な態勢を構築しておく必要がある

(7)広報の問題点とリスクコミュニケーション【Ⅵ2(7)】 今回の事故において事故発生後の政府の国民に対する情報の提供の仕方には避難を余儀なくされた周辺住民や国民の立場からは真実を迅速正確に伝えていないのではないかとの疑問や疑いを生じさせかねないものが多く見られた周辺住民の避難にとって重要な放射性物質の拡散状況とその予測についての情報提供方法炉心の状態(特に炉心溶融)や福島第一原発 3号機の危機的な状態等に関する情報提供方法また放射線の人体への影響について頻繁に「直ちに人体に影響を及ぼすものではない」といった分かりにくい説明が繰り返されたことなどである 国民と政府機関との信頼関係を構築し社会に混乱や不信を引き起こさない適切な情報発信をしていくためには関係者間でリスクに関する情報や意見を相互に交換して信頼関係を構築しつつ合意形成を図るというリスクコミュニケーションの視点を取り入れる必要がある緊急時における迅速かつ正確でしかも分かりやすく誤解を生まないような国民への情報提供の在り方についてしかるべき組織を設置して政府として検討を行うことが必要である加えて広報の仕方によっては国民にいたずらに不安を与えかねないこともあることから非常時緊急時において広報担当の官房長官に的確な助言をすることのできるクライシスコミニュケーションの専門家を配置するなどの検討が必要である

72

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

(8)国民の命に関わる安全文化の重要性【Ⅵ2(8)】 事業者である東京電力及び規制当局である保安院のいずれについても安全文化が十分に定着しているとは言い難い状況にあった一旦事故が起きると重大な事態が生じる原子力発電事業においては安全文化の確立は国民の命に関わる問題である今回の大災害の発生を踏まえ事業者や規制当局関係団体審議会関係者などおよそあらゆる原発関係者には安全文化の再構築を図ることを強く求めたい

(9)事故原因被害の全容を解明する調査継続の必要性【Ⅵ2(9)】a 引き続き事故原因の解明が必要 当委員会は最終報告の提出をもって任務を終えることとなるが前記 1(1)bのとおり福島第一原発の主要施設の損傷が生じた箇所その程度時間的経緯を始めとする被害状況の詳細放射性物質の漏出経緯原子炉建屋爆発の原因等についていまだに解明できていない点も多々存在する また住民等の健康への影響農畜水産物等や空気土壌水等の汚染などは今後も継続的な調査検証を要する問題であるが現時点までの調査検証にとどめざるを得なかったさらに原子力損害賠償の在り方や除染等のように生じた損害の修復の問題でありかつ今後長期間の対応を要すると見込まれることから当委員会の調査検証の対象とはしなかったものの被害者や被災地にとって極めて重要で社会的関心の高い問題もある 国電力事業者原子力発電プラントメーカー研究機関関連学会といったおよそ原子力発電に関わる関係者(関係組織)は今回の事故の検証及び事実解明を積極的に担うべき立場にありこうした未解明の諸事項についてそれぞれの立場で包括的かつ徹底した調査検証を継続するべきである特に国は当委員会や国会に設置された東京電力福島原子力発電所事故調査委員会の活動が終わったことをもって福島原発災害に関する事故調査検証を終えたとするのでなく引き続き事故原因の究明に主導的に取り組むべきであるとりわけ放射線レベルが下がった段階での原子炉建屋内の詳細な実地検証(地震動の影響の検証も含む)は必ず行うべき作業である

b 被害の全容を明らかにするための調査が必要 今回の原発事故は実に様々な深刻な被害を広範囲にわたる地域にもたらした未曽有の原子力災害を経験した我が国としてなすべきことは「人間の被害」の全容について専門分野別の学術調査と膨大な数の関係者被害者の証言記録の収集による総合的な調査を行ってこれらを記録にまとめ被害者の救済支援復興事業が十分かどうかを検証するとともに原発事故がもたらす被害がいかに深く広いものであるかその詳細な事実を未来への教訓として後世に伝えることであろう福島原発災害に関わる総合的な調査の結果を踏まえて記された「人間の被害」の全容を教訓として後世に伝えることは国家的な責務であると当委員会は考える「人間の被害」の調査には様々な学問分野の研究者の参加と多くの費用と時間が必要となるだろうが国が率先して自治体研究機関民間団体等の協力を得て調査態勢を構築するとともに調査の実施についても必要な支援を行うことを求めたい

3 原子力災害の再発防止及び被害軽減のための提言 当委員会は中間報告及び最終報告においてこれまでの調査検証によって判明した事実を基に原子力災害の再発防止及び被害軽減のための提言を行った当委員会は国関係自治体事業者等の関係機関がこれらを今後の安全対策防災対策に反映させ実施していくことを強く要望する政府においては関係省庁関係部局に提言の反映や実施に向けた具体化を指示するとともに関係省庁関係部局の取組状況を把握しその状況を取りまとめて公表するなど確実なフォローアップをすることを求めたいまた関係自治体東京電力その他の関係機関においても同様に提言を反映実施するとともに取組状況をフォローアップすることを求めたい ここでは中間報告及び最終報告で行った提言を七つの項目に分類して整理しておく最終報告における提言は「最終報告(本文編)」の記載箇所及び本概要における該当頁を示した中間報告における提言は「中間報告(本文編)」の記載箇所を示すとともに提言自体を再録した

(1)安全対策防災対策の基本的視点に関するもの  複合災害を視野に入れた対策に関する提言(最終報告Ⅵ 2(2)概要 22 頁)  リスク認識の転換を求める提言(最終報告Ⅵ 2(3)概要 23 頁)  「被害者の視点からの欠陥分析」に関する提言(最終報告Ⅵ 2(4)概要 24 頁)  防災計画に新しい知見を取り入れることに関する提言(最終報告Ⅵ 2(5)概要 25 頁)

73

参考資料

(2)原子力発電の安全対策に関するもの  事故防止策の構築に関する提言(最終報告Ⅵ 2(1)概要 22 頁)  総合的リスク評価の必要性に関する提言(最終報告Ⅵ 1(4)a(b)概要 17 頁)  シビアアクシデント対策に関する提言(最終報告Ⅵ 1(4)a(c)概要 17 頁)

(3)原子力災害に対応する態勢に関するもの  原災時の危機管理態勢の再構築に関する提言(最終報告Ⅵ 2(6)概要 26 頁)  原子力災害対策本部の在り方に関する提言(最終報告Ⅵ 1(2)b(a)概要 4頁)  オフサイトセンターに関する提言(中間報告Ⅶ 3(1)a) 政府はオフサイトセンターが大規模災害にあっても機能を維持できる施設となるよう速やかに適切な整備を図る必要がある  原災対応における県の役割に関する提言(最終報告Ⅵ 1(2)c概要 6頁)

(4)被害の防止軽減策に関するもの  広報とリスクコミュニケーションに関する提言(最終報告Ⅵ 2(7)概要 27 頁)  モニタリングの運用改善に関する提言(中間報告Ⅶ 5(2)d) ① モニタリングシステムが肝心なときに機能不全に陥らないよう地震津波等の様々な事象を想定してシステム設計を行うとともに複合災害の場合も想定して対策を講じておく必要があるまたモニタリングカーについて地震による道路の損傷等の事態が発生した場合の移動巡回等の方法に関して必要な対策を講じるべきである ② モニタリングシステムの機能重要性について関係機関及び職員の認識を深めるために研修等の機会を充実させる必要がある  SPEEDI システムに関する提言(中間報告Ⅶ 5(3)c) 被害拡大を防止し国民の納得できる有効な情報を迅速に提供できるようSPEEDI システムの運用上の改善措置を講じる必要があるまた地震等の様々な複合要因に対してシステムの機能が損なわれることのないようハード面でも強化策が講じられる必要がある  住民避難の在り方に関する提言(①~④は中間報告Ⅶ 5(4)c更に最終報告Ⅵ 1(4)b概要 18 頁) ① 重大な原発事故が発生した場合に放射性物質がどのように放出拡散し地上にはどのように降ってくるのかについてまた放射線被ばくによる健康被害について住民が常日頃から基本的な知識を持っておけるよう公的な啓発活動が必要である ② 地方自治体は原発事故の特異さを考慮した避難態勢を準備し実際に近い形での避難訓練を定期的に実施し住民も真剣に訓練に参加する取組が必要である ③ 避難に関しては数千人から十数万人規模の住民の移動が必要になる場合もあることを念頭に置いて交通手段の確保交通整理遠隔地における避難場所の確保避難先での水食糧の確保等について具体的な計画を立案するなど平常時から準備しておく必要がある特に医療機関老人ホーム福祉施設自宅等における重症患者重度障害者等社会的弱者の避難については格別の対策を講じる必要がある ④ 以上のような対策を地元の市町村任せにするのではなく避難計画や防災計画の策定と運用について原子力災害が広域にわたることも考慮して県や国も積極的に関与していく必要がある  安定ヨウ素剤の服用に関する提言(最終報告Ⅵ 1(3)e(c)概要 11 頁)  緊急被ばく医療機関に関する提言(最終報告Ⅵ 1(3)e(f)概要 13 頁)  放射線に関する国民の理解に関する提言(最終報告Ⅵ 1(3)e(g)概要 14 頁)  諸外国との情報共有や諸外国からの支援受入れに関する提言(最終報告Ⅵ 1(3)g(a)(b)概要 16 頁)

(5)国際的調和に関するもの  IAEA 基準などとの国際的調和に関する提言(最終報告Ⅵ 1(7)概要 21 頁)

(6)関係機関の在り方に関するもの  原子力安全規制機関の在り方に関する提言 ① 独立性と透明性の確保(中間報告Ⅶ 8(2)a)

74

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

 独立性と透明性を確保することが必要であり自律的に機能できるために必要な権限財源と人員を付与すると同時に国民に対する原子力安全についての説明責任を持たせることが必要である ② 緊急事態に迅速かつ適切に対応する組織力(中間報告Ⅶ 8(2)b) 災害発生時に迅速な活動が展開できるよう平常時から防災計画の策定や防災訓練等を実施しておくことのみならず緊急事態において対応に当たる責任者や関係機関に対して専門知識に基づく助言指導ができる専門能力や組織が有するリソースを有効かつ効率的に機能させるマネジメント能力の涵養が必要である また責任を持って危機対処の任に当たることの自覚を強く持つとともに大規模災害に対応できるだけの体制を事前に整備し関係省庁や関係地方自治体と連携して関係組織全体で対応できる体制の整備も図った上その中での規制機関の役割も明確にしておく必要がある ③ 国内外への災害情報の提供機関としての役割の自覚(中間報告Ⅶ 8(2)c) 情報提供の在り方の重要性を組織として深く自覚し緊急時に適時適切な情報提供を行い得るよう平素から組織的に態勢を整備しておく必要がある ④ 優秀な人材の確保と専門能力の向上(中間報告Ⅶ 8(2)d) 優れた専門能力を有する優秀な人材を確保できるような処遇条件の改善職員が長期的研修や実習を経験できる機会の拡大原子力放射線関係を含む他の行政機関や研究機関との人事交流の実施など職員の一貫性あるキャリア形成を可能とするような人事運用計画の検討が必要である ⑤ 科学的知見蓄積と情報収集の努力(中間報告Ⅶ 8(2)e) 関連学会や専門ジャーナル(海外も含む)海外の規制機関等の動向を絶えずフォローアップし規制活動に資する知見を継続的に獲得していく必要があるまたその知見の意味するところを理解しこれを組織的に共有した上で十分に活用するとともにその成果を組織として継承伝達していく必要がある ⑥ 国際機関外国規制当局との積極的交流(最終報告Ⅵ 1(5)概要 19 頁) ⑦ 規制当局の態勢強化(最終報告Ⅵ 1(5)概要 19 頁)  東京電力の在り方に関する提言(最終報告Ⅵ 1(6)e概要 20 頁)  安全文化の再構築に関する提言(最終報告Ⅵ 2(8)概要 27 頁)

(7)継続的な原因解明被害調査に関するもの  事故原因の解明継続に関する提言(最終報告Ⅵ 2(9)a概要 28 頁)  被害の全容を明らかにする調査の実施に関する提言(最終報告Ⅵ 2(9)b概要 28 頁)

委員長所感抜粋(今回の事故で得られた知見について)

 今回の事故で得られた知見を他の分野にも適用することができ100 年後の評価にも耐えるようにするためにはこれを単なる個別の分野における知見で終わらせずより一般化普遍化された知識にまで高めることが必要である以下福島原発事故という未曽有の災害についての調査検証を締めくくるに当たり今回の事故からどのような知識が得られるかについて整理しその主なものを示しておくこととしたい

(1)あり得ることは起こるあり得ないと思うことも起こる 今回の事故の直接的な原因は「長時間の全電源喪失は起こらない」との前提の下に全てが構築運営されていたことに尽きる「あり得ることは起こる」と考えるべきであるさらに「あり得ないと思う」という認識にすら至らない現象もあり得る言い換えれば「思い付きもしない現象も起こり得る」ことも併せて認識しておく必要があろう

(2)見たくないものは見えない見たいものが見える 人間はものを見たり考えたりするとき自分が好ましいと思うものや自分がやろうと思う方向だけを見がちで見たくないもの都合の悪いことは見えないものである自分の利害だけでなく自分を取り巻く組織社会時代の様々な影響によって自分の見方が偏っていることを常に自覚し必ず見落としがあると意識していなければならない

75

参考資料

(3)可能な限りの想定と十分な準備をする 過去のある時点での想定にとらわれず常に可能な限り想定の見直しを行って事故や災害の未然防止策を講じるとともにこれまで思い付きもしない事態も起こり得るとの発想の下で十分な準備をすることが必要である

(4)形を作っただけでは機能しない仕組みは作れるが目的は共有されない 事業者も規制関係機関も地方自治体もそれぞれの組織が形式的には原発事故に対応する仕組みを作っていたしかしいざ事故が起こるとその対応には不備が散見されたそれは組織の構成員がその仕組みが何を目的とし社会から何を預託されているかについて十分自覚していなかったためと考えられる構成員それぞれが社会から何を預託され自分が全体の中でどこにいるのかまた自分の働きが全体にどのような影響を与えるかを常に考えているような状態を作らなければならない

(5)全ては変わるのであり変化に柔軟に対応する 与条件を固定して考えると詳細にしかも形の上では立派な対応ができるしかし与条件は常に変化するものであり常に変化に応じた対応を模索し続けなければ実態に合わなくなる全ての事柄が変化すると考え細心の注意を払って観察し外部の声に謙虚に耳を傾け適切な対応を続けることが必要である

(6)危険の存在を認め危険に正対して議論できる文化を作る どのような事態が生ずるかを完全に予見することは何人にもできないにもかかわらず危険を完全に排除すべきと考えることは可能性の低い危険の存在をないことにする「安全神話」につながる危険がある危険を危険として認め危険に正対して議論できる文化を作らなければ安全というベールに覆われた大きな危険を放置することになる

(7) 自分の目で見て自分の頭で考え判断行動することが重要であることを認識しそのような能力を涵養することが重要である想定外の事故災害に対処するには自ら考えて事態に臨む姿勢と柔軟かつ能動的な思考が必要である平時からこのような資質や能力を高める組織運営を行うとともに教育や訓練を行っておくことが重要である

 この事故は自然が人間の考えに欠落があることを教えてくれたものと受け止めこの事故を永遠に忘れることなく教訓を学び続けなければならない

東京電力福島原子力発電所における事故調査検証委員会委員長 畑村洋太郎

76

国会 東京電力福島原子力発電所事故調査委員会 報告書(ダイジェスト版)

はじめに 福島原子力発電所事故は終わっていないこれは世界の原子力の歴史に残る大事故であり科学技術先進国の一つである日本で起きたことに世界中の人々は驚愕した世界が注目する中日本政府と東京電力の事故対応の模様は世界が注目する中で日本が抱えている根本的な問題を露呈することとなった想定できたはずの事故がなぜ起こったのかその根本的な原因は日本が高度経済成長を遂げたころにまで遡る政界官界財界が一体となり国策として共通の目標に向かって進む中複雑に絡まった『規制の虜(Regulatory Capture)』が生まれた そこにはほぼ 50 年にわたる一党支配と新卒一括採用年功序列終身雇用といった官と財の際立った組織構造とそれを当然と考える日本人の「思いこみ(マインドセット)」があった経済成長に伴い「自信」は次第に「おごり慢心」に変わり始めた入社や入省年次で上り詰める「単線路線のエリート」たちにとって前例を踏襲すること組織の利益を守ることは重要な使命となったこの使命は国民の命を守ることよりも優先され世界の安全に対する動向を知りながらもそれらに目を向けず安全対策は先送りされたそして日本の原発はいわば無防備のまま311 の日を迎えることとなった 311 の日広範囲に及ぶ巨大地震津波という自然災害とそれによって引き起こされた原子力災害への対応は極めて困難なものだったことは疑いもないしかもこの 50 年で初めてとなる歴史的な政権交代からわずか 18 カ月の新政権下でこの事故を迎えた当時の政府規制当局そして事業者は原子力のシビアアクシデント(過酷事故)における心の準備や各自の地位に伴う責任の重さへの理解そしてそれを果たす覚悟はあったのかこの事故が「人災」であることは明らかで歴代及び当時の政府規制当局そして事業者である東京電力による人々の命と社会を守るという責任感の欠如があった この大事故から9か月国民の代表である国会(立法府)の下に憲政史上初めて政府からも事業者からも独立したこの調査委員会が衆参両院において全会一致で議決され誕生した今回の事故原因の調査は過去の規制や事業者との構造といった問題の根幹に触れずには核心にたどりつけない私たちは委員会の活動のキーワードを「国民」「未来」「世界」としたそして委員会の使命を「国民による国民のための事故調査」「過ちから学ぶ未来に向けた提言」「世界の中の日本という視点(日本の世界への責任)」とした限られた条件の中6か月の調査活動を行った総括がこの報告書である被災された福島の皆さま特に将来を担う子どもたちの生活が一日でも早く落ち着かれることを心から祈りたいまた日本が経験したこの大事故に手を差し伸べてくださった世界中の方々私たち委員会の調査に協力支援をしてくださった方々初めての国会の事故調査委員会誕生に力を注がれた立法府の方々に深い感謝の意を表したい

東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(国会事故調)委員長 黒川 清

提言提言1 規制当局に対する国会の監視国民の健康と安全を守るために規制当局を監視する目的で国会に原子力に係る問題に関する常設の委員会等を設置する

1) この委員会は規制当局からの説明聴取や利害関係者又は学識経験者等からの意見聴取その他の調査を恒常的に行う2) この委員会は最新の知見を持って安全問題に対応できるよう事業者行政機関から独立したグ ローバルな視点を持った専門家からなる諮問機関を設ける3) この委員会は今回の事故検証で発見された多くの問題に関しその実施改善状況について継続 的な監視活動を行う(「国会による継続監視が必要な事項」として本編に添付)4) この委員会はこの事故調査報告について今後の政府による履行状況を監視し定期的に報告を求める

77

参考資料

提言2 政府の危機管理体制の見直し緊急時の政府自治体及び事業者の役割と責任を明らかにすることを含め政府の危機管理体制に関係する制度についての抜本的な見直しを行う

1) 政府の危機管理体制の抜本的な見直しを行う緊急時に対応できる執行力のある体制づくり指揮命 令系統の一本化を制度的に確立する2) 放射能の放出に伴う発電所外(オフサイト)の対応措置は住民の健康と安全を第一に政府及び自治体が中心となって政府の危機管理機能のもとに役割分担を行い実施する3) 事故時における発電所内(オンサイト)での対応(止める冷やす閉じ込める)については第一義的に事業者の責任とし政治家による場当たり的な指示介入を防ぐ仕組みとする

提言3 被災住民に対する政府の対応被災地の環境を長期的継続的にモニターしながら住民の健康と安全を守り生活基盤を回復するため政府の責任において以下の対応を早急に取る必要がある

1) 長期にわたる健康被害及び健康不安へ対応するため国の負担による外部内部被ばくの継続的検査と健康診断及び医療提供の制度を設ける情報については提供側の都合ではなく住民の健康と安全を第一に住民個々人が自ら判断できる材料となる情報開示を進める2) 森林あるいは河川を含めて広範囲に存在する放射性物質は場所によっては増加することもあり得るので住民の生活基盤を長期的に維持する視点から放射性物質の再拡散や沈殿堆積等の継続的なモニタリング及び汚染拡大防止対策を実施する3) 政府は除染場所の選別基準と作業スケジュールを示し住民が帰宅あるいは移転補償を自分で判断し選択できるように必要な政策を実施する

提言4 電気事業者の監視東電は電気事業者として経産省との密接な関係を基に電事連を介して保安院等の規制当局の意思決定過程に干渉してきた国会は提言1に示した規制機関の監視監督に加えて事業者が規制当局に不当な圧力をかけることのないように厳しく監視する必要がある

1) 政府は電気事業者との間の接触についてルールを定めそれに従った情報開示を求める2) 電気事業者間において原子力安全のための先進事例を確認しその達成に向けた不断の努力を促す相互監視体制を構築する3) 東電に対してガバナンス体制危機管理体制情報開示体制等を再構築しより高い安全目標に向けて継続した自己改革を実施するように促す4) 以上の施策の実効性を確保するため電気事業者のガバナンスの健全性安全基準安全対策の遵守状態等を監視するために立ち入り調査権を伴う監査体制を国会主導で構築する

提言5 新しい規制組織の要件規制組織は今回の事故を契機に国民の健康と安全を最優先とし常に安全の向上に向けて自ら変革を続けていく組織になるよう抜本的な転換を図る新たな規制組織は以下の要件を満たすものとする1) 高い独立性①政府内の推進組織からの独立性②事業者からの独立性③政治からの独立性を実現し監督機能を強化するための指揮命令系統責任権限及びその業務プロセスを確立する2) 透明性①各種諮問委員会等を含めて意思決定過程を開示しその過程において電気事業者等の利害関係者の関与を排除する②定期的に国会に対して全ての意思決定過程決定参加者施策実施状況等について報告する義務を課す③推進組織事業者政治との間の交渉折衝等に関しては議事録を残し原則公開する④委員の選定は第三者機関に1次定として相当数の候補者の選定を行わせた上でその中から国会同意人事として国会が最終決定するといった透明なプロセスを設定する3) 専門能力と職務への責任感①新しい規制組織の人材を世界でも通用するレベルにまで早期に育成しまたそのよ

78

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

うな人材の採用育成を実現すべく原子力規制分野でのグローバルな人材交流教育訓練を実施する②外国人有識者を含む助言組織を設置し規制当局の運営人材在り方等の必要な要件設定等に関する助言を得る③新しい組織の一員として職務への責任感を持った人材を中心とすべく「ノーリターンルール」を当初より例外なく適用する4) 一元化特に緊急時の迅速な情報共有意思決定司令塔機能の発揮に向けて組織体制の効果的な一元化を図る5) 自律性本組織には国民の健康と安全の実現のため常に最新の知見を取り入れながら組織の見直しを行い自己変革を続けることを要求し国会はその過程を監視する

提言6 原子力法規制の見直し原子力法規制については以下を含め抜本的に見直す必要がある1) 世界の最新の技術的知見等を踏まえ国民の健康と安全を第一とする一元的な法体系へと再構築する2) 安全確保のため第一義的な責任を負う事業者と原子力災害発生時にこの事業者を支援する他の事故対応を行う各当事者の役割分担を明確化する3) 原子力法規制が内外の事故の教訓世界の安全基準の動向及び最新の技術的知見等が反映されたものになるよう規制当局に対してこれを不断かつ迅速に見直していくことを義務付けその履行を監視する仕組みを構築する4) 新しいルールを既設の原子炉にも遡及適用すること(いわゆるバックフィット)を原則としそれがルール改訂の抑制といった本末転倒な事態につながらないように廃炉すべき場合と次善の策が許される場合との線引きを明確にする

提言7 独立調査委員会の活用未解明部分の事故原因の究明事故の収束に向けたプロセス被害の拡大防止本報告で今回は扱わなかった廃炉の道筋や使用済み核燃料問題等国民生活に重大な影響のあるテーマについて調査審議するために国会に原子力事業者及び行政機関から独立した民間中心の専門家からなる第三者機関として(原子力臨時調査委員会〈仮称〉)を設置するまた国会がこのような独立した調査委員会を課題別に立ち上げられる仕組みとしこれまでの発想に拘泥せず引き続き調査検討を行う

結論の要旨【認識の共有化】 平成 23(2011)年 3月 11 日に起きた東日本大震災に伴う東京電力福島原子力発電所事故は世界の歴史に残る大事故であるそしてこの報告が提出される平成 24(2012)年 6月においても依然として事故は収束しておらず被害も継続している 破損した原子炉の現状は詳しくは判明しておらず今後の地震台風などの自然災害に果たして耐えられるのか分からない今後の環境汚染をどこまで防止できるのかも明確ではない廃炉までの道のりも長く予測できない一方被害を受けた住民の生活基盤の回復は進まず健康被害への不安も解消されていない 当委員会は「事故は継続しており被災後の福島第一原子力発電所(以下「福島第一原発」という)の建物と設備の脆弱性及び被害を受けた住民への対応は急務である」と認識するまた「この事故報告が提出されることで事故が過去のものとされてしまうこと」に強い危惧を覚える日本全体そして世界に大きな影響を与え今なお続いているこの事故は今後も独立した第三者によって継続して厳しく監視検証されるべきである(提言 7に対応) 当委員会はこのような認識を共有化して以下のような調査に当たった

【事故の根源的原因】 事故の根源的な原因は東北地方太平洋沖地震が発生した平成 23(2011)年 3月 11 日(以下「311」という)以前に求められる当委員会の調査によれば311 時点において福島第一原発は地震にも津波にも耐えられる保証がない脆弱な状態であったと推定される地震津波による被災の可能性自然現象を起因とするシビアアクシデント(過酷事故)への対策大量の放射能の放出が考えられる場合の住民の安全保護など事業者である東京電力(以下「東電」という)及び規制当局である内閣府原子力安全委員会(以下「安全委員会」という)経済産業省原子力安全保安院(以下「保安院」という)また原子力推進行政当局である経済産業省(以下「経産省」という)がそれまでに当然備えておくべきこと実施すべきことをしていなかった 平成 18(2006)年に耐震基準について安全委員会が旧指針を改訂し新指針として保安院が全国の原子力事業者に対

79

参考資料

して耐震安全性評価(以下「耐震バックチェック」という)の実施を求めた 東電は最終報告の期限を平成 21(2009)年 6月と届けていたが耐震バックチェックは進められずいつしか社内では平成 28(2016)年 1月へと先送りされた東電及び保安院は新指針に適合するためには耐震補強工事が必要であることを認識していたにもかかわらず1~3号機については全く工事を実施していなかった保安院はあくまでも事業者の自主的取り組みであるとし大幅な遅れを黙認していた事故後東電は5号機については目視調査で有意な損傷はなかったとしているがそれをもって 1~3号機に地震動による損傷がなかったとは言えない 平成 18(2006)年には福島第一原発の敷地高さを超える津波が来た場合に全電源喪失に至ること土木学会評価を上回る津波が到来した場合海水ポンプが機能喪失し炉心損傷に至る危険があることは保安院と東電の間で認識が共有されていた保安院は東電が対応を先延ばししていることを承知していたが明確な指示を行わなかった 規制を導入する際に規制当局が事業者にその意向を確認していた事実も判明している安全委員会は平成 5(1993)年に全電源喪失の発生の確率が低いこと原子力プラントの全交流電源喪失に対する耐久性は十分であるとしそれ以降長時間にわたる全交流電源喪失を考慮する必要はないとの立場を取ってきたが当委員会の調査の中でこの全交流電源喪失の可能性は考えなくてもよいとの理由を事業者に作文させていたことが判明したまた当委員会の参考人質疑で安全委員会が深層防護(原子力施設の安全対策を多段的に設ける考え方IAEA〈国際原子力機関〉では 5層まで考慮されている1について日本は 5層のうちの 3層までしか対応できていないことを認識しながら黙認してきたことも判明した 規制当局はまた海外からの知見の導入に対しても消極的であったシビアアクシデント対策は地震や津波などの外部事象に起因する事故を取り上げず内部事象に起因する対策にとどまった米国では 911 以降に B5b2に示された新たな対策が講じられたがこの情報は保安院にとどめられてしまった防衛にかかわる機微情報に配慮しつつ必要な部分を電力事業者に伝え対策を要求していれば今回の事故は防げた可能性がある このように今回の事故はこれまで何回も対策を打つ機会があったにもかかわらず歴代の規制当局及び東電経営陣がそれぞれ意図的な先送り不作為あるいは自己の組織に都合の良い判断を行うことによって安全対策が取られないまま 311 を迎えたことで発生したものであった 当委員会の調査によれば東電は新たな知見に基づく規制が導入されると既設炉の稼働率に深刻な影響が生ずるほか安全性に関する過去の主張を維持できず訴訟などで不利になるといった恐れを抱いておりそれを回避したいという動機から安全対策の規制化に強く反対し電気事業連合会(以下「電事連」という)を介して規制当局に働きかけていた このような事業者側の姿勢に対し本来国民の安全を守る立場から毅然とした対応をすべき規制当局も専門性において事業者に劣後していたこと過去に自ら安全と認めた原子力発電所に対する訴訟リスクを回避することを重視したことまた保安院が原子力推進官庁である経産省の組織の一部であったこと等から安全について積極的に制度化していくことに否定的であった 事業者が規制当局を骨抜きにすることに成功する中で「原発はもともと安全が確保されている」という大前提が共有され既設炉の安全性過去の規制の正当性を否定するような意見や知見それを反映した規制指針の施行が回避緩和先送りされるように落としどころを探り合っていた これを構造的に見れば以下のように整理できる本来原子力安全規制の対象となるべきであった東電は市場原理が働かない中で情報の優位性を武器に電事連等を通じて歴代の規制当局に規制の先送りあるいは基準の軟化等に向け強く圧力をかけてきたこの圧力の源泉は電力事業の監督官庁でもある原子力政策推進の経産省との密接な関係であり経産省の一部である保安院との関係はその大きな枠組みの中で位置付けられていた規制当局は事業者への情報の偏在自身の組織優先の姿勢等から事業者の主張する「既設炉の稼働の維持」「訴訟対応で求められる無謬性」を後押しすることになったこのように歴代の規制当局と東電との関係においては規制する立場とされる立場の「逆転関係」が起き規制当局は電力事業者の「虜(とりこ)」となっていたその結果原子力安全についての監視監督機能が崩壊していたと見ることができる3 当委員会は本事故の根源的原因は歴代の規制当局と東電との関係について「規制する立場とされる立場が『逆転関係』となることによる原子力安全についての監視監督機能の崩壊が起きた点に求められる」と認識する何度も事前に対策

1 IAEAの深層防護(Defence in Depth)2 平成 13(2001)年 9月 11 日の同時多発テロの後平成 14(2002)年 2月にNRC(米国原子力規制委員会)が策定したテロ対策全電源喪失を想定した機材の備えと訓練を米国の全原子力発電所に義務付けている3 これは規制当局が事業者の「虜(とりこ)」となって被規制産業である事業者の利益最大化に傾注するといういわゆる「規制の虜(Regulatory Capture)」によっても説明できるものである

80

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

を立てるチャンスがあったことに鑑みれば今回の事故は「自然災害」ではなくあきらかに「人災」である(提言1に対応)

【事故の直接的原因】 本事故の直接的原因は地震及び地震に誘発された津波という自然現象であるが事故が実際にどのように進展していったかに関しては重要な点において解明されていないことが多いその大きな理由の一つは本事故の推移と直接関係する重要な機器配管類のほとんどがこの先何年も実際に立ち入ってつぶさに調査検証することのできない原子炉建屋及び原子炉格納容器内部にあるためである しかし東電は事故の主因を早々に津波とし「確認できた範囲においては」というただし書きはあるものの「安全上重要な機器は地震で損傷を受けたものはほとんど認められない」と中間報告書に明記しまた政府も IAEAに提出した事故報告書に同趣旨のことを記した 直接的原因を実証なしに津波に狭く限定しようとする背景は不明だが本編第 1部で述べるように既設炉への影響を最小化しようという考えが東電の経営を支配してきたのであってここでもまた同じ動機が存在しているようにも見えるあるいは東電の中間報告にあるように「想定外」とすることで責任を回避するための方便のようにも聞こえるが当委員会の調査では地震のリスクと同様に津波のリスクも東電及び規制当局関係者によって事前に認識されていたことが検証されており言い訳の余地はない 事故の主因を津波のみに限定すべきでない理由としてスクラム(原子炉緊急停止)後に最大の揺れが到達したこと小規模の LOCA(小さな配管破断などの小破口冷却材喪失事故)の可能性は独立行政法人原子力安全基盤機構(JNES)の解析結果も示唆していること1号機の運転員が配管からの冷却材の漏れを気にしていたことそして 1号機の主蒸気逃がし安全弁(SR弁)は作動しなかった可能性を否定できないことなどが挙げられ特に 1号機の地震による損傷の可能性は否定できないまた外部送電系が地震に対して多様性独立性が確保されていなかったことまたかねてから指摘のあった東電新福島変電所の耐震性不足などが外部電源喪失の一因となった 当委員会は事故の直接的原因について「安全上重要な機器の地震による損傷はないとは確定的には言えない」特に「1号機においては小規模の LOCAが起きた可能性を否定できない」との結論に達したしかし未解明な部分が残っておりこれについて引き続き第三者による検証が行われることを期待する(提言 7に対応)

【運転上の問題の評価】 発電所の現場の運転上の問題についてはいくつか特記すべきことはあるがむしろ今回のようにシビアアクシデント対策がない場合全電源喪失状態に陥った際に現場で打てる手は極めて限られるということが検証された1号機の非常用復水器(IC)の操作及びその後の確認作業の是非については全交流電源喪失(SBO)直後からの系統確認としかるべき運転操作に迅速に対応できなかったしかし ICの操作に関してはマニュアルもなくまた運転員は十分訓練されていなかったさらに本事故においてはおそらく早期のうちに ICの蒸気管に非凝縮性の水素ガスが充満しそのために自然循環が阻害されICが機能喪失していたと当委員会は推測しているこうした事情を考慮すれば単純に事故当時の運転員の判断や操作の非を問うことはできない 東電の経営陣が耐震工事の遅れ及び津波対策の先送りの事実を把握し福島第一原発の脆弱性を認識していたと考えられることから被災時の現場の状態はある程度事前にも想像できたはずである少なくとも発電所の脆弱性を補うためにもシビアアクシデント時に現場で対応する準備を行わせるのは経営として必要なことであった東電の本店及び発電所の幹部もこのような状況下で少なくとも緊急時の現場の対応について準備をすることが必要であった以上を考えればこれは運転員作業員個人の問題に帰するのではなく東電の組織的問題として考えるべき事柄である ベントライン構成についても電源が喪失し放射線量の高い中でのライン構成作業自体が困難でありかつ時間がかかるものであったシビアアクシデント手順書の中の図面も不備であったことが判明しており見づらい図面を時間に追われつつ懐中電灯で解明する作業を強いられた官邸はベントに時間がかかることから東電への不信が高まったとしているが実際の作業は困難を極めるものであった 多重防護が一気に破られ同時に 4基の原子炉の電源が喪失するという中で2号機の原子炉隔離時冷却系(RCIC)が長時間稼働したこと2号機のブローアウトパネルが脱落したこと協力会社の決死のがれき処理が思った以上に進んだことなど偶然というべき状況がなければ23号機はさらに厳しい状況に陥ったとも考えられるシビアアクシデント対策がない状態で直流電源も含めた全電源喪失状況を作り出してしまったことで既にその後の結果は避けられなかったと判断した 当委員会は「過酷事故に対する十分な準備レベルの高い知識と訓練機材の点検がなされまた緊急性について運転

81

参考資料

員作業員に対する時間的要件の具体的な指示ができる準備があればより効果的な事後対応ができた可能性は否定できないすなわち東電の組織的な問題である」と認識する(提言 4に対応)

【緊急時対応の問題】 いったん事故が発災した後の緊急時対応について官邸規制当局東電経営陣にはその準備も心構えもなくその結果被害拡大を防ぐことはできなかった保安院は原子力災害対策本部の事務局としての役割を果たすことが期待されたが過去の事故の規模を超える災害への備えはなく本来の機能を果たすことはできなかった官邸は発災直後の最も重要な時間帯に緊急事態宣言を速やかに出すことができなかった本来官邸は現地対策本部を通じて事業者とコンタクトをすべきとされていたしかし官邸は東電の本店及び現場に直接的な指示を出しそのことによって現場の指揮命令系統が混乱したさらに15 日に東電本店内に設置された統合対策本部も法的な根拠はなかった 1号機のベントの必要性については官邸規制当局あるいは東電とも一致していたが官邸はベントがいつまでも実施されないことから東電に疑念不信を持った東電は平時の連絡先である保安院にはベントの作業中である旨を伝えていたがそれが経産省のトップそして官邸に伝えられていたという事実は認められない保安院の機能不全東電本店の情報不足は結果として官邸と東電の間の不信を募らせその後総理が発電所の現場に直接乗り込み指示を行う事態になったその後も続いた官邸による発電所の現場への直接的な介入は現場対応の重要な時間を無駄にするというだけでなく指揮命令系統の混乱を拡大する結果となった 東電本店は的確な情報を官邸に伝えるとともに発電所の現場の技術的支援という重要な役割を果たすべきであったが官邸の顔色をうかがいながらむしろ官邸の意向を現場に伝える役割だけの状態に陥った3月 14 日2号機の状況が厳しくなる中で東電が全員撤退を考えているのではないかという点について東電と官邸の間で認識のギャップが拡大したがこの根源には両者の相互不信が広がる中で東電の清水社長が官邸の意向を探るかのような曖昧な連絡に終始した点があったと考えられるただし①発電所の現場は全面退避を一切考えていなかったこと②東電本店においても退避基準の検討は進められていたが全面退避が決定された形跡はなく清水社長が官邸に呼ばれる前に確定した退避計画も緊急対応メンバーを残して退避するといった内容であったこと③当時清水社長から連絡を受けた保安院長は全面退避の相談とは受け止めなかったこと④テレビ会議システムでつながっていたオフサイトセンターにおいても全面退避が議論されているという認識がなかったこと等から判断して総理によって東電の全員撤退が阻止されたと理解することはできない 重要なのは時の総理の個人の能力判断に依存するのではなく国民の安全を守ることのできる危機管理の仕組みを構築することである 当委員会は事故の進展を止められなかったあるいは被害を最小化できなかった最大の原因は「官邸及び規制当局を含めた危機管理体制が機能しなかったこと」そして「緊急時対応において事業者の責任政府の責任の境界が曖昧であったこと」にあると結論付けた(提言 2に対応)

【被害拡大の要因】 事故発災当時政府から自治体に対する連絡が遅れたばかりではなくその深刻さも伝えられなかった同じように避難を余儀なくされた地域でも原子力発電所からの距離によって事故情報の伝達速度に大きな差が生じた立地町でさえ3km圏避難の出た 21 時 23 分には事故情報は住民の 20程度しか伝わっていない10km圏内の住民の多くは 15 条報告から 12 時間以上たった 3月 12 日の朝 5時 44 分の避難指示の時点で事故情報を知ったしかしその際に事故の進展あるいは避難に役立つ情報は伝えられなかった着の身着のままの避難多数回の避難移動あるいは線量の高い地域への移動が続出したその後の長期にわたる屋内避難指示及び自主避難指示での混乱モニタリング情報が示されないために線量の高い地域に避難した住民の被ばく影響がないと言われて 4月まで避難指示が出されず放置された地域など避難施策は混乱した当委員会は事故前の原子力防災体制の整備の遅れ複合災害対策の遅れとともに既存の防災体制の改善に消極的であった歴代の規制当局の問題点も確認している 当委員会は避難指示が住民に的確に伝わらなかった点について「これまでの規制当局の原子力防災対策への怠慢と当時の官邸規制当局の危機管理意識の低さが今回の住民避難の混乱の根底にあり住民の健康と安全に関して責任を持つべき官邸及び規制当局の危機管理体制は機能しなかった」と結論付けた(提言 2に対応)

【住民の被害状況】 本事故により合計約 15 万人が避難区域から避難した本事故の収束作業に従事した中で100mSv(シーベルト)を超え

82

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

る線量を被ばくした作業員は 167 人とされている福島県内の 1800km2 もの広大な土地が年間 5mSv 以上の積算線量をもたらす土地となってしまったと推定される被害を受けた広範囲かつ多くの住民は不必要な被ばくを経験したまた避難のための移動が原因と思われる死亡者も発生したしかも住民は事故から 1年以上たっても先が見えない状態に置かれている政府はこのような被災地域の住民の状況を十分把握した上で避難区域の再編生活基盤の回復除染医療福祉の再整備など住民の長期的な生活改善策を系統的継続的に打ち出していくべきであるが縦割り省庁別の通常業務的施策しかなく住民の目から見るといまだに整合性のある統合的な施策が政府から打ち出されていない 我々が実施したタウンミーティングや 1万人を超す住民アンケートにはいまだに進まない政府の対応に厳しい声が多数寄せられている 放射線の急性障害はしきい値があるとされているが低線量被ばくによる晩発障害はしきい値がなくリスクは線量に比例して増えることが国際的に合意されている 年齢個人の放射線感受性放射線量によってその影響は変わるまた未解明の部分も残る一方政府は一方的に線量の数字を基準として出すのみでどの程度が長期的な健康という観点からして大丈夫なのか人によって影響はどう違うのか今後どのように自己管理をしていかなければならないのかといった判断をするために住民が必要とする情報を示していない政府は住民全体一律ではなく乳幼児から若年層妊婦放射線感受性の強い人など住民個々人が自分の行動判断に役立つレベルまで理解を深めてもらう努力をしていない 当委員会は「被災地の住民にとって事故の状況は続いている放射線被ばくによる健康問題家族生活基盤の崩壊そして広大な土地の環境汚染問題は深刻であるいまだに被災者住民の避難生活は続き必要な除染あるいは復興の道筋も見えていない当委員会には多数の住民の方々からの悲痛な声が届けられている先の見えない避難所生活など現在も多くの人が心身ともに苦難の生活を強いられている」と認識するまたその理由として「政府規制当局の住民の健康と安全を守る意思の欠如と健康を守る対策の遅れ被害を受けた住民の生活基盤回復の対応の遅れさらには受け手の視点を考えない情報公表にある」と結論付けた(提言 3に対応)

【問題解決に向けて】 本事故の根源的原因は「人災」であるがこの「人災」を特定個人の過ちとして処理してしまう限り問題の本質の解決策とはならず失った国民の信頼回復は実現できないこれらの背後にあるのは自らの行動を正当化し責任回避を最優先に記録を残さない不透明な組織制度さらにはそれらを許容する法的な枠組みであったまた関係者に共通していたのはおよそ原子力を扱う者に許されない無知と慢心であり世界の潮流を無視し国民の安全を最優先とせず組織の利益を最優先とする組織依存のマインドセット(思い込み常識)であった 当委員会は事故原因を個々人の資質能力の問題に帰結させるのではなく規制される側とする側の「逆転関係」を形成した真因である「組織的制度的問題」がこのような「人災」を引き起こしたと考えるこの根本原因の解決なくして単に人を入れ替えあるいは組織の名称を変えるだけでは再発防止は不可能である(提言 45及び 6に対応)

【事業者】 東電はエネルギー政策や原子力規制に強い影響力を行使しながらも自らは矢面に立たず役所に責任を転嫁する経営を続けてきたそのため東電のガバナンスは自律性と責任感が希薄で官僚的であったがその一方で原子力技術に関する情報の格差を武器に電事連等を介して規制を骨抜きにする試みを続けてきた その背景には東電のリスクマネジメントのゆがみを指摘することができる東電はシビアアクシデントによって周辺住民の健康等に被害を与えること自体をリスクとして捉えるのではなくシビアアクシデント対策を立てるに当たって既設炉を停止したり訴訟上不利になったりすることを経営上のリスクとして捉えていた 東電は現場の技術者の意向よりも官邸の意向を優先したり退避に関する相談に際しても官邸の意向を探るかのような曖昧な態度に終始したりしたその意味で東電は官邸の過剰介入や全面撤退との誤解を責めることが許される立場にはなくむしろそうした混乱を招いた張本人であった 本事故発生後における東電の情報開示は必ずしも十分であったとはいえない確定した事実確認された事実のみを開示し不確実な情報のうち特に不都合な情報は開示しないといった姿勢がみられた特に 2号機の事故情報の開示に問題があったほか計画停電の基礎となる電力供給の見通しについても情報開示に遅れがみられた 当委員会は「規制された以上の安全対策を行わず常により高い安全を目指す姿勢に欠けまた緊急時に発電所の事故対応の支援ができない現場軽視の東京電力経営陣の姿勢は原子力を扱う事業者としての資格があるのか」との疑問を呈した(提言 4に対応)

83

参考資料

【規制当局】 規制当局は原子力の安全に対する監視監督機能を果たせなかった専門性の欠如等の理由から規制当局が事業者の虜(とりこ)となり規制の先送りや事業者の自主対応を許すことで事業者の利益を図り同時に自らは直接的責任を回避してきた規制当局の推進官庁事業者からの独立性は形骸化しておりその能力においても専門性においてもまた安全への徹底的なこだわりという点においても国民の安全を守るには程遠いレベルだった

 当委員会では「規制当局は組織の形態あるいは位置付けを変えるだけではなくその実態の抜本的な転換を行わない限り国民の安全は守られない国際的な安全基準に背を向ける内向きの態度を改め国際社会から信頼される規制機関への脱皮が必要であるまた今回の事故を契機に変化に対応し継続的に自己改革を続けていく姿勢が必要である」と結論付けた(提言 5に対応)

【法規制】 日本の原子力法規制はその改定において実際に発生した事故のみを踏まえた対症療法的パッチワーク的対応が重ねられ諸外国における事故や安全への取り組み等を真摯に受け止めて法規制を見直す姿勢にも欠けていたその結果予測可能なリスクであっても過去に顕在化していなければ対策が講じられず常に想定外のリスクにさらされることとなった また原子力法規制は原子力利用の促進が第一義的な目的とされ国民の生命身体の安全が第一とはされてこなかったさらに原子力法規制全体を通じての事業者の第一義的責任が明確にされておらず原子力災害発生時については第一義的責任を負う事業者に対し他の事故対応を行う各当事者がどのような活動を行ってこれを支援すべきかについての役割分担が不明確であった加えて諸外国で取り入れられている深層防護の考え方についても法規制の検討に際し十分に考慮されてこなかった 当委員会では「原子力法規制はその目的法体系を含めた法規制全般について抜本的に見直す必要があるかかる見直しに当たっては世界の最新の技術的知見等を反映しこの反映を担保するための仕組みを構築するべきである」と結論付けた(提言 6に対応) 以上のことを認識し教訓とした上で当委員会としては未来志向の立場に立って以下の 7つの提言を行う今後国会において十分な議論をいただきたいなおこの 7つの提言とは別に今後国会による継続監視が必要な事項を本編付録として添付した

提言の実現に向けて ここに示した 7つの提言は当委員会が国会から付託された使命を受けて調査作成した本報告書の最も基本的で重要なことを反映したものであるしたがって当委員会は国会に対してこの提言の実現に向けた実施計画を速やかに策定しその進捗の状況を国民に公表することを期待する この提言の実現に向けた第一歩を踏み出すことはこの事故によって日本が失った世界からの信用を取り戻し国家に対する国民の信頼を回復するための必要条件であると確信する 事故が起こってから 16 カ月が経過したこの間この事故について数多くの内外の報告書調査の記録著作等が作成されたそのいくつかには我々が意を強くする結論や提案がなされているしかしわが国の原子力安全の現実を目の当たりにした我々の視点からは根本的な問題の解決には不十分であると言わざるを得ない 原子力を扱う先進国は原子力の安全確保は第一に国民の安全にあるとし福島原子力発電所事故後はさらなる安全水準の向上に向けた取り組みが行われている一方わが国では従来もそして今回のような大事故を経ても対症療法的な対策が行われているにすぎないこのような小手先の対策を集積しても今回のような事故の根本的な問題は解決しない この事故から学び事故対策を徹底すると同時に日本の原子力対策を国民の安全を第一に考えるものに根本的に変革していくことが必要である ここにある提言を一歩一歩着実に実行し不断の改革の努力を尽くすことこそが国民から未来を託された国会議員国権の最高機関たる国会及び国民一人一人の使命であると当委員会は確信する 福島原発事故はまだ終わっていない被災された方々の将来もまだまだ見えない国民の目から見た新しい安全対策が今強く求められているこれはこの委員会の委員一同の一致した強い願いである

84

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

委員会について 当委員会の根拠法令である「東京電力福島原子力発電所事故調査委員会法(以下「委員会法」4という)」は平成 23 (2011)年 10 月 30 日に施行され委員長及び委員の 10 名は国会の承認を得て同年 12 月 8 日両議院の議長より任命された【委員長】黒川 清(政策研究大学院大学アカデミックフェロー元日本学術会議会長)【委員】石橋 克彦(理学博士地震学者神戸大学名誉教授)大島 賢三(独立行政法人国際協力機構顧問元国際連合大使)崎山 比早子(医学博士元放射線医学総合研究所主任研究官)櫻井 正史(弁護士元名古屋高等検察庁検事長元防衛省防衛監察監)田中 耕一(分析化学者株式会社島津製作所フェロー)田中 三彦(科学ジャーナリスト)野村 修也(中央大学法科大学院教授弁護士)蜂須賀 禮子(福島県大熊町商工会会長)横山 禎徳(社会システムデザイナー東京大学エグゼクティブマネジメントプログラム企画推進責任者)【調査の概要】ヒアリング 延べ 1167 人(900 時間超)原発視察(福島第一および第二女川東海) 9 回タウンミーティング 3 回(合計 400 人超)被災住民アンケート回答者数 住民 10633 人 (自由回答コメント 8066 人)作業従業員アンケート回答者数 2415 人東電規制官庁および関係者に対する資料請求 2000 件以上

【委員会の情報公開】委員会開催 19 回(動画中継合計 約 60 時間)すべての委員会を動画配信(合計視聴者数 約 80 万人) Facebookツイッターのソーシャルメディア活用 (17 万件以上の書き込み)東京電力福島原子力発電所事故から 16 カ月がたち既にその間に政府や東京電力のみならず数多くの検証の試みがなされ報告著書マスメディアなどの多様な媒体で公表されている国内ばかりでなく国際機関からもまた海外からも発信されているそれらに記述されていることとこの委員会報告に記載されていることは重複している部分も多くあるだろうしかし当委員会が参考人のヒアリングを世界に対して公開して行った意味はそれを見た一人一人がそれまでのメディアを通じた情報と比較しながらより立体的にまた客観的に事故の原因を把握し今後何をなすべきか判断できる材料を提供するということにあると考えるそこにこそ公開の意味があるのでありそのような認識でこの委

4 「東京電力福島原子力発電所事故調査委員会法」

85

参考資料

員会は活動を行い報告書を作成した

【当委員会で扱わなかった事項】 設置に際し委員会法 10 条各号により我々に課せられた課題解決を最優先とするため以下の点については今回の調査の対象外とした1) 日本の今後のエネルギー政策に関する事項(原子力発電の推進あるいは廃止も含めて)2) 使用済み核燃料処理処分等に関する事項3) 原子炉の実地検証を必要とする事項で当面線量が高くて実施ができない施設の検証に関する事項4) 個々の賠償除染などの事故処理費用に関する事項5) 事故処理費用の負担が事業者の支払い能力を超える場合の責任の所在に関する事項6) 原子力発電所事業に対する投資家株式市場の事故防止につながるガバナンス機能に関する事項7) 個々の原子力発電所の再稼働に関する事項8) 政策制度について通常行政府が行うべき具体的な設計に関する事項9) 事故後の原子炉の状況の把握及び廃炉のプロセスに関する事項発電所周辺地域の再生に関する事項10) その他委員の合意によって範囲外と決めた事項等 当委員会の根拠法令である「東京電力福島原子力発電所事故調査委員会法(以下「委員会法」4という)」は平成 23(2011)年 10 月 30 日に施行され委員長及び委員の 10 名は国会の承認を得て同年 12 月 8 日両議院の議長より任命されたhttpnaiicgojp本編要約をホームページで公開(日英)<お問い合わせ先>東京電力福島原子力発電所事故調査委員会事務局 e-mailpressnaiicjp

Page 4: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の

10

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第1章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故で明らかになった課題

第1章

間節電を要請し特に需給の厳しい関西電力九州電力管内においては一定の期間中数値目標を設定5

して節電を要請しました このように東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所の事故は原子力の安全性確保周波数変換所や連系線の容量不足電力需給逼迫の産業への影響回避等の課題を明らかにしました

第2節 都市ガス

1被害の状況

 都市ガス事業等においては震災による津波や液状化等によりガスの製造設備や供給設備(導管等)が破損しました供給設備の被害は過去の震災においてもありましたが今回の東日本大震災では津波により一部の製造設備が機能停止にまで陥りました特に沿岸部にあった仙台市ガス局のLNG基地(LNGタンカーから受け入れたLNGを貯蔵気化させて都市ガスとして供給する施設)は津波で被災し主要な電気設備が冠水するとともに護岸の一部が流される等の甚大な被害が生じました今回の大震災において我が国は大規模な需要をまかなうLNG基地の機能停止を初めて経験しました

2講じた措置(対応)と明らかになった課題

 全国の都市ガス事業者による復旧応援移動式ガス発生設備による臨時供給を行ったほか復旧に1年近い期間を要することが見込まれていた仙台市ガス局のLNG基地に代わり新潟-仙台間を結ぶ広域天然ガスパイプラインによる代替供給(第112-2-1)を行い供給再開作業が可能となった結果大震災から1カ月強で復旧を完了しました 現状の我が国の天然ガスパイプラインネットワークを見ますと都市ガスの需要地ごとに分断されており新潟-仙台間のような広域的な天然ガスパイプラインが存在する地域は極めてまれであると言えますその意味において今回の震災によって仮に単独のLNG基地に供給を依存する地域において製造設備が被災し機能停止に陥った場合たとえ復旧応援があった

としても都市ガスの供給そのものが停止するため長期間に渡りガス供給が途絶するリスクがあることが顕在化しました

第3節 石油LPG

1被害の状況

 震災により臨海部を中心に港湾や道路が大きな被害を受けました東北地方で唯一の製油所であるJX日鉱日石エネルギー株式会社仙台製油所をはじめ東北関東地方にある9製油所のうち6製油所が被災しましたまた主要供給拠点である塩釜油槽所の受入港湾にタンカーが着桟できない状況となるとともにタンクローリーが多数被災する等被災地における石油製品の安定供給に支障を来しました またLPガス供給基地は東北各県及び茨城県の9基地中7基地が被災し充塡所は被災3県(岩手宮城福島)の160カ所中28カ所が使用不可能になりました 石油製品(ガソリン灯油軽油等)の流通網についてはタンクローリーが津波により多数被災したことに加え道路鉄道事情が大幅に悪化し交通網が分断状況となったこと等により油槽所からサービスス

5  関西電力管内2011 年 12 月 19 日~2012 年 3 月 23 日までの間「10以上」(ただし生産活動等に配慮) 九州電力管内2011 年 12 月 26 日~2012 年 2 月 3 日までの間「5以上」(ただし生産活動等に配慮)

仙台市ガス局LNG基地(被災)

LNG基地

ガス事業者

幹線パイプライン

第112-2-1 新潟 - 仙台間の天然ガスパイプライン

11

第3節 石油LPG

第1章

テーション(SS)へのガソリン等の安定的な輸送が困難な状況となりましたまた津波の影響でサービスステーション(SS)についても給油設備が被害を受けたこと等により岩手や宮城の一部地域において全てのサービスステーション(SS)が営業不能になった市町村もありました

2講じた措置(対応)と明らかになった課題

(1)震災において講じた対応①被災地からの個別燃料供給要請への対応 震災発生直後より医療機関や警察消防を始め各方面から差し迫った石油製品供給の要請がありました政府は石油連盟全国石油業共済協同組合連合会石油元売各社と協力して対応体制を構築し24時間態勢でこれらの要請に対応するとともにLPガスについても他地域からの輸送体制を強化6する等して被災地への供給確保を行うと共に軒下在庫7の活用及び仮設住宅への供給等8を行いました

② 包括的な供給プランの策定(東北地方(被災地)及び関東圏でのガソリン軽油等の供給確保) 今次震災においては津波等によるタンクローリーの被災や東北関東地方にある製油所の被災による国内の石油精製能力の低下によって被災地等における石油製品の安定供給に支障を来しました 石油元売各社は経済産業大臣からの被災地へのタンクローリーの追加投入や製油所稼働率の引き上げについての要請に基づき約300台のタンクローリーの追加投入や西日本における石油製品の増産を実施しましたその増産分についてはタンカー等により被災地へ大量転送しました 津波等により被災し出荷困難な状況に陥った太平洋側の油槽所については石油元売各社による設備の復旧関係機関協力下での近海海域の掃海周辺道路の回復による油槽所機能の早期回復が図られました また比較的被害の小さかった油槽所を複数の石油会社間で共同利用する等の柔軟な対応により被災地

への石油供給を行いました これらの対応に加え消防警察等の緊急車両への燃料供給を優先するよう石油販売業界に要請するとともに緊急車両に対して確実に燃料供給を行うために東北圏で合計385カ所関東圏で合計348カ所のサービスステーション(SS)を緊急重点サービスステーションとして認定しました また福島原子力発電所周辺地域においては住民の方々の自主避難を円滑に進めるため関係団体に対して重点的な燃料供給を行う旨の要請も行いました なお上記以外の対応としてタンク貨車による鉄道輸送やドラム缶のトラック等による被災地への石油製品の大量輸送石油備蓄法に基づく民間備蓄義務の引き下げ及び国家備蓄LPガスの放出(交換)等9を行い東北地方(被災地)及び関東圏における石油製品の供給確保に取り組みました

③エネルギー供給施設の復旧等の支援 今回の震災では津波により給油設備が被害を受け多くのサービスステーション(SS)が営業不能に陥りました被災地域における石油製品の供給体制を早期に回復させるため被害を受けた給油設備の補修や安全点検を行う等のサービスステーション早期復旧支援に取り組みつつサービスステーションの復旧が完了するまでの間についても移動式給油機やタンクコンテナを設置する等して簡易サービスステーションによる仮営業の支援も行いました また震災により経営が悪化した被災地域のサービスステーション(SS)の資金繰りに関しても全国石油協会が金融機関からの資金調達を行う際の保証人になり借入債務の保証を行うことで対応しました 更に津波等による損壊により通常の信用取引が困難になった被災地域のサービスステーション(SS)についても売掛債権の未回収リスクを国が負担することで石油製品の安定供給の支援を行いました LPガスについては中小企業が所有する10カ所程度の充填所や震災前に東北地方の半分以上のLPガス

6 LPガス輸入業者からなる日本 LPガス協会においてあらかじめ定めていた相互支援協定を発動し東北関東の他の基地等から代替供給を速やかに実施しました7 通常LPガスの供給先には LPガス容器が複数本設置され軒下在庫とも言われています復旧については個別の対応となるため早期の供給再開が可能です8 ほぼ全ての仮設住宅約 53000 軒に対して供給されています9 LPガス元売業者からの国家備蓄 LPガスの放出要請を受け「石油の備蓄の確保等に関する法律」に基づき隣接する神栖国家備蓄基地の備蓄 LPガスを 4万トン放出(交換)しました

12

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第1章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故で明らかになった課題

第1章

供給を担っていた仙台ガスターミナルに対し設備復旧の支援を行いましたまたLPガス輸入業者からなる日本LPガス協会においてあらかじめ定めていた相互支援協定を発動し上記国家備蓄の放出や東北関東の他の基地等からローリーによる代替供給を速やかに実施した結果東北地方におけるLPガスの安定供給を確保することが出来ました

10 東北地方(被災地)及び関東圏でのガソリン軽油等の供給確保 - 緊急の供給確保措置と拡大輸送ルートの設定(2011 年 3 月 17 日公表)より作成しています

(2)明らかになった課題 今回の震災での経験を踏まえ石油基地LPガス出荷基地充填所等の災害対応能力や物流機能の強化情報収集情報提供体制の強化等災害時にも確実に石油製品を供給できる体制の整備が課題として明らかになりました

稼働率アップによる追加増産分等を東北地方に転送(約2万 kℓ日)

輸出抑制需要抑制

西日本の製油所の稼働率95以上へ

ローリーの大量投入鉄道による輸送ルートの確保

拠点SSの整備

関東圏への安定供給

西日本の製油所における製品在庫の取り崩しと関東への転送(3日以内に5万kℓ)

関東圏の製油所にお ける製品在庫の取り 崩し(約3万kℓ)事業者間連携による 円滑な供給体制

東北地方への重要供給拠点タンク貯蔵量25kℓ出荷能力約5000kℓ日全油種合計の能力

(注) 1万 kℓ日=約63 万バレル日

(参考)宮城県の1日あたりの燃料油販売量は約1万kℓ日東北全体では38万kℓ日

JX大分製油所

太陽四国事業所

コスモ坂出製油所東燃ゼネラル

和歌山工場

コスモ四日市製油所昭シェル四日市製油所

出光愛知製油所昭シェル山口製油所

出光徳山製油所

JX麻里布製油所JX水島製油所 コスモ堺製油所東燃ゼネラル堺工場

新潟油槽所仙台

塩竈油槽所の機能回復

酒日油槽所気仙沼油槽所times

秋田油槽所 八戸油槽所times青森油槽所

室蘭製油所 苫小牧製油所

第113-2-1  東北地方(被災地)及び関東圏でのガソリン軽油等の供給確保の為の包括プラン10

13

第2章

 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故により我が国のエネルギーに関して様々な課題が明らかになり我が国はエネルギー政策のゼロベースの見直しを行ってきました11また同時に我が国はエネルギーに関して生じた課題について様々な対応を図ってきました本章では震災後から2012年 7月下旬頃までの電力省エネルギー新エネルギーに関して講じた施策について取り上げます12

第1節 電力需給対策

12011年度夏期の需給対策と結果

 震災後直ちに立ち上がった官房長官を本部長とする「電力需給緊急対策本部」において夏期の電力需給対策等について議論が積み重ねられ第5回電力需給緊急対策本部(2011年 5月 13日)13において「夏期の電力需給対策」が取りまとめられ対策が講じられました

(1)供給面の対策 主な供給面の対策として震災により失われた供給力を補うために東京電力及び東北電力が行う発電設備の設置事業について環境影響評価法の適用除外となることを確認したほか電気事業法に基づく火力発電施設の定期検査実施時期について最大1年間の延長を認める運用を実施することとしましたまた経済産業省から自家発設置事業者に対し売電要請設備導入や燃料費の補助等を措置することとしました

(2)節電要請 余震等による火力の復旧の遅れ再被災等のリスクを踏まえて供給力と需要が一致するギリギリのライ

ンではなく一定の余裕を持ったものとすることが適当であるという観点で行われました 東京電力及び東北電力管内においてはピーク期間時間帯の使用最大電力について15の抑制(節電)を要請し特に大口需要家については電気事業法第27条に基づく使用制限を実施する等の対応を行いました電気の使用制限期間は東京電力管内は2011年 7月 1日~9月22日の9時~20時(平日のみ)東北電力管内は同年7月1日~9月9日の9時~20時(平日のみ)とされました また関西電力管内においては全体として10以上の節電の要請を行いました節電要請期間は2011年7月25日~9月22日の9時~20時(平日のみ)とされました 中西日本のその他の電力管内(中部電力北陸電力中国電力四国電力九州電力の各管内)においては国民生活や経済活動に支障を生じない範囲での節電に取り組みました その後電気事業法第27条に基づく使用制限については2011年 8月 30日に東北東京電力管内の需給バランスが改善していることや被災地の方々からの早期終了を求める声があることを踏まえ「9月2日(金)を最後に東日本大震災及び新潟福島豪雨の被災地に所在する大口需要家の方々に対する電気事業法第27条に基づく電気の使用制限を終了すること」「9月9日(金)を最後に東京電力管内に所在する大口需要家の方々に対する電気事業法第27条に基づく電気の使用制限を終了すること」が決定されました

(3)2011年度夏期の結果①全体 節電要請等を踏まえた需要家の皆様の協力等により需要は各地域において概ね目標とする水準で推移しました2011年夏期の需要気温が高かった日と

11 第 1部第 4章に詳述しています12 石油LPG に関して講じた施策は第 4章第 3節に記載しています13 「電力需給緊急対策本部」は 2011 年 5 月 16 日をもって「電力需給に関する検討会合」に改組しました

第2章東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故後に講じたエネルギーに関する主な施策

14

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第2章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故後に講じたエネルギーに関する主な施策

第2章

2010年夏期の気温が同程度の日を選定して比較した場合ピーク時の電力需要は2010年比東京電力で19東北電力で18関西電力で8となり電力会社による供給力の積み上げや機動的な電力融通等の対応と相まって計画停電や需給ひっ迫による停電は回避することができました

②大口需要家(契約電力500kW以上の事業者) 最大ピーク需要を2010年比で見ますと東京電力で27東北電力で18関西電力で9の効果がありました使用制限を課した東京電力東北電力では目標以上の節電が行われ数値目標を提示しただけの関西電力でも目標に応じた節電効果がありました 大口需要家のうち産業部門に関しては電気の使用目的が生産活動に直結しており節電にはコストが伴いました休日夜間へのシフトのよる労務費増自家発活用による燃料費増等により相当のコストが発生した例もありました オフィスビルや店舗といった業務部門においては冷房や照明が電力需要の太宗を占めており照明の間引きLED照明の導入空調設定エレベーターの間引き等基本的には大きなコストをかけることなく電気代を節約しながら数値目標を実現しました

③小口需要家(契約電力500kW未満の事業者) 最大ピーク需要を2010年比で見ますと東京電力で19東北電力で17関西電力で10の効果がありました各電力管内とも節電要請に対応した自主的な数値目標でも目標に応じた節電効果が発揮されました 小口需要家のうち産業部門に関しては休日夜間へのシフトによる労務費増自家発活用による燃料費増等により相当のコストが発生した例もある等電気の使用目的が生産活動に直結しており節電にはコストが伴いましたコンビニエンスストア等の店舗を中心とする業務部門では電力使用の太宗を冷房や照明が占めており照明(間引きLED照明の導入)空調の設定エレベーターの間引き等基本的には大きなコストをかけることなく電気代を節約しながら数値目標を実現しました

④家庭 節電要請にほぼ対応した成果がありました家庭部

門においてはこまめな消灯LED照明の導入空調設定の工夫等により基本的には大きな支出をすることなく節電を実現しました

22011年度冬期の需給対策と結果

 2011年 11月 1日に合同開催されたエネルギー環境会議電力需給に関する検討会合において「今冬の電力需給対策」がとりまとめられ対策が講じられました

(1)供給面の対策 電力会社の取組としては引き続き供給力の積み増し努力を続けていくとともに日々の電力系統の運用において各社の需給状況を踏まえつつ更に機動的な相互の融通を行うことで需給がひっ迫する地域の需給バランスを確保できるような対応を行うこととしました 政府の取組としては2011年 11月 1日にエネルギー環境会議にてとりまとめられた「エネルギー需給安定行動計画」に基づき予算規制改革等あらゆる措置を検討しできる限りの措置を講じることとされました

(2)需要抑制の目標 供給力の最大限の積み上げを行った上でもなお存在する需給ギャップについてはピーク期間時間帯の使用最大電力(kW)の抑制(節電)により対応することとし節電要請は経済社会への影響を最小化するため「電気事業法第27条に基づく電気の使用制限は行わない」「具体的な節電の要請に当たっては経済活動や国民生活の実態に応じたきめ細かな対応を求める」という考え方に基づき行われました 関西電力と九州電力においては供給力が最大需要見通しを下回るためピーク期間時間帯の最大使用電力についてそれぞれ数値目標を伴う節電要請が行われましたなお病院や鉄道等ライフライン機能等の維持に支障が出る場合や生産活動に実質的な影響を及ぼす場合等については機能維持への支障や生産活動への実質的な影響が生じない範囲で自主的な目標を設定し節電を行うよう要請することとされました 関西電力管内には10以上の節電要請が行われました節電要請期間は2011年 12月 19日~2012年3月23日の9時~21時(平日(12月29日12月30日1月3日1月4日を除く)のみ)とされました

15

第1節 電力需給対策

第2章

 九州電力管内には5以上の節電要請が行われました節電要請期間は2011年 12月 19日~2012年2月 3日の9時~21時(平日(12月 29日12月 30日1月3日1月4日を除く)のみ)とされましたその後2011年 11月 24日付けで九州電力が玄海原子力発電所4号機の定期検査開始日を法定期限(13カ月)である2011年 12月 25日とすることを決定したことに伴い九州電力の需給バランスを再精査したところ玄海4号機の定期検査開始日までは一定の供給力が確保される見通しとなったため節電期間の開始日が当初の2011年 12月 19日から2011年 12月 26日に変更されました その他の電力会社(北海道電力東北電力東京電力中部電力北陸電力中国電力及び四国電力)管内については国民生活及び経済活動に支障を生じない範囲での期間時間帯における使用最大電力の抑制(具体的には照明空調機器等の節電等)が要請されました14節電要請期間は2011年 12月 1日~2012年 3月 30日の平日(12月 29日12月 30日1月3日1月4日を除く)9時~21時(九州電力管内については8時~21時)とされました

(3)2011年度冬期の結果①全体 節電要請等を踏まえた需要家の皆様の協力等により需要は各地域において概ね目標とする水準で推移しました2011年度冬の節電要請期間における電力需要と2010年度冬の同時期における電力需要とを比較した場合ピーク時の電力需要は関西電力で5九州電力で62となり電力会社による供給力の積み上げや機動的な電力融通等の対応と相まって計画停電や需給ひっ迫による停電は回避することができま

した15

②大口需要家(契約電力500kW以上の事業者) 最大ピーク需要を2010年度比でみますと生産活動等に配慮しても関西電力で6九州電力で7の効果がありました 多くの大口需要家は需給調整契約等における経済合理性を踏まえてピークカット等を実施し生産活動等への実質的な影響は回避されました

③小口需要家(契約電力500kW未満の事業者) 最大ピーク需要を2010年度比でみますと生産活動等に配慮しても関西電力で5九州電力で6の効果がありました 節電の内容は照明と空調に関するものが最も多く生産活動等への実質的な影響は回避されました

④家庭 家庭部門においてはこまめな消灯LED照明の導入空調設定の工夫等により基本的には大きな支出をすることなく節電を実現しました

32012年度夏期の需給対策

 2012年4月末から5月初旬にわたり今夏の需給見通しについてエネルギー環境会議及び電力需給に関する検討会合の下に設置された「需給検証委員会」で検討が行われました 検証の結果「関西電力管内で昨年の東京電力管内で想定されたピーク電力不足よりも厳しい状況になる恐れがあること」「九州電力北海道電力及び四国電力管内でも電力需給のひっ迫が見込まれるとともに全ての地域で火力発電所の稼働が増える結果燃料

14 数値目標付き節電期間以外の関西電力九州電力管内についても同様です15 数値目標を伴わない節電要請を行った電力管内のピーク需要については下記の通りです 北海道22東北22東京74中部28北陸33中国41四国29(2010 年比)

第121-3-1 でんき予報

16

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第2章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故後に講じたエネルギーに関する主な施策

第2章

コストが増加し2012年度には31兆円の国富の流出が生じると推計されておりこのまま放置すれば本年秋以降電気料金上昇のリスクも高まること」が明らかになりました これを受けて2012年 5月18日に合同開催されたエネルギー環境会議電力需給に関する検討会合において「今夏の電力需給対策」がとりまとめられ対策が講じられました

(1)供給面の対策 電力会社の取組としては需給検証委員会における検証を踏まえ現段階で確実と見られる供給力を基本とし今後確実に見込めるようになった供給力についてはその時点で上方修正することとしまた約2週間前(可能な範囲)1週間前前日の三段階で融通可能量を明確化する等日々の運用において中西日本の地域全体あるいは東日本の地域全体として機動的な電力融通を行うことにより地域全体としての需給バランスを確保できるような対応を行うこととされました 政府の取組としてはエネルギー需給安定関連の2011(平成23)年度補正予算2012(平成24)年度予算

の執行を加速しその際関西北海道九州東北及び四国を優先することとしましたまたエネルギー規制制度改革アクションプランを着実に実行することとされました

(2)需給ひっ迫時の対応 国民各層の節電への協力にもかかわらず急激な気温変化や大型発電所の計画外停止等により電力需給がひっ迫する可能性がある場合には政府はあらかじめひっ迫が想定される特定の電力会社管内に「電力需給ひっ迫警報」を発令し報道機関や地方公共団体等の協力を得て緊急節電要請を行うこととされました また計画停電は実施しないことが原則ですが大規模な電源の脱落等万が一に備えて関西電力管内に加えて予備率がマイナスと見込まれる九州電力北海道電力及び四国電力管内においても計画停電の準備を進めておくこととされました

(3)需要抑制の目標 需給検証委員会における検証結果を踏まえ需給ギャップ(kW)を解消するため需要家に対し節電を要

需給ひっ迫警報の発令(第一報)

需給ひっ迫警報の発令(続報)

「緊急速報メール」発出

節電協力による停電回避

電力会社が計画停電の実施を発表

前日1800目途

当日900目途

計画停電開始の3~4時間前

計画停電実施の2時間程度前

需給ひっ迫警報発令から計画停電への流れ

他社から電力融通を受けても需給がひっ迫する電力会社の供給予備率が3を下回る見通しとなった場合政府から当該電力会社の管内に対し警報を発令翌日行う可能性のある計画停電について電力会社から公表する

当日900を目途に政府から発令その後も需給状況の変化を踏まえて必要に応じ続報を発令

第1グループ(830~)から計画停電を実施する場合は900の警報の発令は行わない場合があるまた必要に応じ900以前に続報を発令する場合があるなお需給ひっ迫のおそれが解消されたと判断される場合には警報を解除する

引き続き需給のひっ迫状況が解消されない場合計画停電を開始する可能性がある時間の引き3~4時間前に政府から「緊急速報メール」を発信し電気の利用を極力控えることを要請

引き続き需給のひっ迫状況が解消されず最大限の融通を受けても中西日本全体若しくは北海道電力管内において供給予備率が1程度を下回る見通しとなった場合計画停電を実施する可能性がある時間帯ごとにその2時間程度前に電力会社から計画停電の実施を発表

大型発電機の計画外停止が重なり短時間に需給がひっ迫した場合等においては警報や緊急速報メールを発令することなく計画停電を実施する場合がある

(注) 北海道電力管内については北本連系線等が計画外停止した場合等においても更なる発電機等の計画外停止等が停電(計画停電や場合によっては不測の停電)につながる可能性があるためその旨を速やかに周知する万一不測の停電が起きた場合にも速やかに計画停電に移行する

当日早朝や午前中に大型発電所の計画外停止が重なった場合等においては急遽警報を発令する場合がある

緊急速報メールは早朝深夜の時間帯等需要抑制効果が見込めないと判断される場合には送信しない

第121-3-2 需給ひっ迫警報発令から計画停電への流れ

17

第1節 電力需給対策

第2章

請することとされましたこの際より合理的なピーク時の電力不足解消策として全国レベルでの節電と融通の最大活用を行うこととされました 個別の需要家に対する要請に当たっては需要家からの意見(「需要家間の公平性確保」)や需要家への「分かりやすさ」等も踏まえ2010年の使用電力需要の実績(節電影響を含まない需要実績)を基準として要請することとされました16 また被災地や高齢者等の弱者に対して無理な節電を要請することがないよう要請時には配慮を行うこととされました 併せて関連支援措置の執行の加速規制制度改革の推進等の構造的対策や需要の変動に効率的に対応する新たなピークカット対策を推進することとしこれらの需要面での対策に当たっては地方公共団体等の協力を得て創意工夫によるきめ細かい対応を行うことにより国民生活や経済活動への影響を最小化することを目指すこととされました 各電力会社管内の需要家に対する要請については北海道電力管内には2010年比7以上の節電要請が

行われました節電要請期間は2012年 7月 23日~9月7日9時~20時(平日(8月13日~15日)を除く)同年9月10日~14日 17時~20時とされました 東京東北電力管内には東日本全体としては2012年夏季想定需要(猛暑節電あり)の場合には最低限必要となる供給予備率(3)は確保できる見通しであること東北電力管内においては被災地の復興需要に配慮することが適切であることから数値目標を伴わない節電要請が行われました節電要請期間は2012年 7月 2日~9月28日の平日(同年8月13日~15日を除く)9時~20時とされました 中西日本各社の管内については中西日本における広域での節電目標を数値目標付きで要請し広く中西日本の需要家の協力を募ることにより関西電力及び九州電力の節電目標を引き下げ一律かつ強制的な手段である電力使用制限命令を回避するという方針を踏まえ関西電力管内には2010年比15以上の節電要請が行われました節電要請期間は2012年 7月 2日~9月7日9時~20時(平日(8月13日~15日を除く)とされました

16 病院や鉄道等のライフライン機能や国の安全保障上極めて重要な施設の機能等の維持に支障がでる場合には機能維持への支障が生じない範囲で自主的に目標を設定し実施することを要請(オフィス部門間接部門は共通目標の節電を要請)されました

需要サイドの取組

供給サイドの取組

新たなピークカット対策のためのアクションプラン(進捗状況)

自家発余剰購入の拡大 電力会社が需要家の自家発による電力を購入した場合買い取り分を需要家の節電とみなす指針(昨年11月公表)に基づき需要家において自家発を有効に活用今夏の節電期間において九カ所の自家発を活用し40カ所を超える供給地で節電みなしを実施する予定(化学電機製紙繊維等)この他検討中の案件ありまた補助金(6月29日まで公募)を通じて自家発設備の導入活用を促進分散型売電市場の開設 6月18日より分散型グリーン売電市場を開設自家発等の小規模電源や系統への送電量が一定ではない電力も売電可能6月27日には第一号案件の取引が成立(東京電力管内の複数のコジェネ電源最大32 万 kW程度)卸電力取引所の時間前市場の利用要件緩和 6月20日から卸電力取引所の時間前市場の買いに関する制限を撤廃し経済的理由での買い入札や差し替えを可能とする運用を開始

計画調整契約随時調整契約の拡充(特別高圧高圧大口小口向け) 各電力会社が需給調整契約のプランの拡充や割引単価を拡大(例関西電力が随時調整契約のうち前日通告プランに加え前週通告プランを新設中部電力は管外(関西電力)の需給ひっ迫時にも発動可能な契約を設定)季節別時間帯別料金の活用新たなピーク料金メニューの設定(低圧向け) 東京電力(61~)関西電力(71~)が新たなピーク料金メニューを導入(新メニューの申込み件数は東京電力約520件(511-73)関西電力約11900件(521-73))九州電力及び四国電力はピーク料金の実証を実施また関西電力及び北海道電力が一定の節電を達成した家庭にプレゼントを進呈するキャンペーン(7~9月)を実施アグリゲーターを活用したDSM(デマンドサイドマネージメント)(特別高圧高圧大口小口向け) 東京電力は複数の需要家のピーク需要抑制の取組を取りまとめることで大規模なピーク需要抑制を実現するプランを公募5件のプランについて取りまとめ事業者(アグリゲーター)との契約締結を発表(6月6日) 関西電力はBEMS(ビルエネルギー管理システム)を導入した複数の需要家に対し負荷調整を働きかけピーク抑制を実施するアグリゲーターを公募(528~615)18社の応募があり現在協議中 中部電力はアグリゲーター2社と契約し高圧小口の需要家を対象に遠隔操作によりデマンドコントローラーの設定値を低く設定すること等によりピーク時の需要を抑制(仮に管内で需給が厳しい状況とならずとも実証的に発動する予定)(626)入札等によるネガワット取引(特別高圧高圧大口向け) 関西電力が7月2日よりネガワット取引(需給ひっ迫が予想される場合に電力会社が需要家から節電(負荷抑制)を入札により確保する仕組)を実施その際関西電力管外(中部北陸中国)管内の需要家も対象とすることを発表(621)スマートメーター向け検定手数料の引き下げ(低圧向け)(エネルギー規制規制改革アクションプラン関連) 7月1日より低圧用スマートメーターの検定手数料を大幅に引き下げ(1台670円から370円に)

第121-3-3 新たなピークカット対策のためのアクションプラン(2012年 7月 5日現在)

18

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第2章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故後に講じたエネルギーに関する主な施策

第2章

 四国電力管内には2010年比7以上の節電要請が行われました節電要請期間は2012年 7月 2日~9月7日9時~20時(平日(8月13日~15日除く))とされました 九州電力管内には2010年比10以上の節電要請が行われました節電要請期間は2012年 7月 2日~9月7日9時~20時(平日(8月13日~15日を除く))とされました 中部北陸中国電力管内には2010年比5以上の節電要請が行われました節電要請期間は2012年7月2日~9月7日9時~20時(平日(8月13日~15日を除く))とされました その後2012年 7月 9日に大飯原子力発電所3号機が定格熱出力一定運転となったことを踏まえ同年7月10日から関西電力管内については2010年比10以上に低減中部北陸中国電力管内については定着した節電分相当を数値目標として設定することとしそれぞれ4以上4以上3以上に低減されました また数値目標を伴う節電要請期間及び時間は変更しないこととされました 更に7月25日に大飯原子力発電所4号機が定格熱出力一定運転となったことを踏まえ7月26日から中部北陸中国電力管内については数値目標(それぞれ2010年比4以上4以上3以上)を解除し「数値目標を伴わない節電」に変更関西電力管内については引き続き2010年比10以上の節電

要請を行うこととされましたが生産活動に支障が生じる場合は2010年比5以上に低減四国電力管内については2010年比7以上から2010年比5以上に低減することとされました また節電要請期間及び時間は変更しないこととされ引き続き高齢者乳幼児等の弱者熱中症等の健康被害への配慮を行うこととされました

第2節 原子力発電所再起動

1原子力施設の安全性安心を高める取組

(1)緊急安全対策等の実施 原子力安全保安院は今般の事故と同程度の地震と津波により全交流電源喪失最終ヒートシンクの喪失に至ったとしても炉心損傷等深刻な事態を回避し冷温停止状態に移行するための対策として2011年 3月 30日事業者に対して緊急安全対策を指示しました 短期対策としては電源車や代替注水のためのポンプの配備東京電力福島第一原子力発電所を襲ったものと同程度の津波を想定した建屋への浸水対策手順書の整備等に加え中長期対策として設備の本格的な水密化や防潮堤等の防護措置の実施を要求しましたその後これらの実施状況について事業者から報告を受け2011年 5月評価確認を実施しましたなお防潮堤の設置等の中長期対策の実施状況については引き続き厳格に確認を行っていく予定です また2011年 4月 15日には外部電源の信頼性の向上を図るため複数ルート回線の確保開閉所の耐震性確保等を指示し更に同年6月7日には万一シビアアクシデントが発生した場合でも迅速に対応するため事故時の通信管理機能確保放射線防護体制の強化を指示しましたこれらの指示に基づく実施状況についても現場確認を実施する等評価確認を行っています

第121-3-4 2012年度 夏季の節電メニュー中部 関西 北陸 中国 四国 九州

当初(7月 2日~) 5以上 15以上 5以上 5以上 7以上 10以上3号機定熱運転後(7月10日~)

4以上(定着した節電分)

10以上4以上

(定着した節電分)3以上

(定着した節電分) 7以上 10以上

4号機定熱運転後(7月26日~)

一般的な節電要請

10以上生産活動に支障が生じる場合は5以上

一般的な節電要請

一般的な節電要請

5以上 10以上

7月 25日 4号機定格熱出力一定運転(定熱運転)

第121-3-5 2012年度夏期節電目標の改訂の変遷

19

第2節 原子力発電所再起動

第2章

(2) 東京電力福島第一原子力発電所事故の知見 事故の原因等の調査については原子力安全と原子力防災を中心に事故の評価や得られた教訓を取りまとめ2011年 6月9月の2回IAEAに対して日本政府としての報告を提出しました また2011年 5月から6月にかけて各国の専門家及びIAEAの専門家で構成された調査団を受け入れ事実関係の調査を行いその時点における教訓等を国際社会と共有しました 更に事故から得られる技術的な知見を可能な限り抽出するため原子力安全保安院は2011年 10月から「東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の技術的知見に関する意見聴取会」を外部の専門家の参加を得て全面公開の下8回開催しパブリックコメントを経た上で2012年 3月に報告書をとりまとめましたその中で今回の事故では津波による被水によって所内電源設備や冷却設備が機能を喪失したことを受け今後の規制に反映すべきと考えられる事項として所内電源設備や冷却設備の位置的分散浸水対策事故時の最終ヒートシンクの強化等の必要性を提示した「30の対策」をとりまとめました 「東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の技術的知見に関する意見聴取会」に加え東京電力福島第一原発等で観測された地震津波等の影響については原子力安全保安院は2011年 9月から専門家の参加を得て「地震津波に関する意見聴取会」「建築物構造に関する意見聴取会」をそれぞれ11回8回開催し2012年2月に中間とりまとめを行いましたまた東京電力福島第一原発事故における経年劣化の影響について検証するため専門家の参加を得て「高経年化技術評価に関する意見聴取会」を6回開催し2012年 2月に取りまとめを行いましたこれらの検討結果についてはそれぞれ原子力安全委員会に報告するとともに「30の対策」に反映させています

(3)ストレステストによる評価 2011年7月6日の原子力安全委員会からの要請及び7月11日に公表された政府方針「我が国原子力発電所の安全性の確認について」に基づき原子力安全保安院では原子力発電所の更なる安全性の向上と安全性についての国民住民の方々の安心信頼の確保のため評価手法評価実施計画を作成し原子力安全委員会の確認を得た上で事業者に対して総合的安全評価(いわゆるストレステスト)の実施を指示しまし

た ストレステスト一次評価においては定期検査で停止中の原子力発電所について運転の再開の可否について判断することとしており全交流電源喪失及び最終ヒートシンク喪失に関してそれぞれの事象時の冷却継続時間クリフエッジの特定緊急安全対策の効果等について評価します事業者の一次評価の結果については原子力安全保安院が公開の会議で外部の専門家の意見を聴きつつ「東京電力福島第一原子力発電所を襲ったような地震津波が来襲しても炉心損傷に至らないこと」の確認を行い更に原子力安全保安院の審査の妥当性を原子力安全委員会が確認しますなお大飯発電所34号機については原子力安全保安院が審査書を2012年 2月 13日にとりまとめ同年3月23日に原子力安全委員会が見解をとりまとめています

2大飯発電所34号機の再起動

(1)原子力発電所に関する四大臣会合 2012年 3月に大飯発電所34号機について原子力安全保安院による審査結果及び原子力安全委員会による見解がとりまとめられたことを受けて内閣総理大臣内閣官房長官経済産業大臣内閣府特命担当大臣(原子力担当)からなる「原子力発電所に関する四大臣会合」を同年4月3日から6回にわたり開催しました まず東京電力福島第一原子力発電所事故の発生以降緊急安全対策等の安全対策の実施政府事故調や原子力安全保安院の意見聴取会等の専門家による事故検証や知見の蓄積ストレステスト一次評価による安全性評価等1年間の対策や知見の積み重ねを踏まえ分かりやすい形に整理したものとして四大臣会合で「原子力発電所の再起動にあたっての安全性に関する判断基準」を取りまとめました大飯発電所34号機は東京電力福島第一原子力発電所を襲ったような地震津波が来襲しても燃料損傷には至らないこと更なる安全性信頼性向上のための着実な実施計画が明らかになっていること等を確認したことから「原子力発電所の再起動にあたっての安全性に関する判断基準」に適合し安全性が十分に確保されていることを確認しました 併せて再起動の必要性を検証しましたその結果関西地域ではこれまでの供給力積み増しの努力を勘案してもなお電力不足となる可能性があること原子力

20

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第2章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故後に講じたエネルギーに関する主な施策

第2章

発電所の停止がもたらすコスト増により国民負担が増加しその影響は小売店や中小企業家庭に広く及ぶことエネルギー安全保障の確保等の点から大飯発電所34号機の再起動には必要性があることを確認しました 以上のように大飯34号機の再起動には安全性と必要性があることを判断し四大臣としてこの判断について国民の皆様に対して責任を持って説明し理解が得られるよう努めていくこと何よりも立地自治体の理解が得られるよう全力を挙げていくことそしてこうした一定の理解が得られた場合には最終的に再起動の是非について決断することを同年4月13日に確認しました

(2)立地自治体等への説明 2012年4月13日の四大臣会合を受けて同月14日に枝野経済産業大臣が福井県を訪問し西川福井県知事時岡おおい町長等と会談を行いましたまたおおい町からの要望を踏まえ同月26日に開催されたおおい町住民説明会において柳澤経済産業副大臣が政府の判断について説明を行いました 政府の再起動の安全性判断等について説明の要望があった関西広域連合京都府滋賀県等の周辺自治体に対しても関係閣僚等が説明を行いましたこれらの説明結果を踏まえ同年5月30日の四大臣会合において関係自治体の一定の理解が得られつつあると判断しこれまで40年間にわたって原子力発電所の安全確保に直接向き合い電力の安定供給に貢献してきた立地自治体である福井県おおい町の判断が得られれば政府として最終的な再起動判断をすることを決定しました これを受けて同年6月4日には細野内閣府特命担当大臣(原子力担当)齋藤内閣官房副長官牧野経済産業副大臣が福井県を訪問し西川福井県知事時岡おおい町長と会談し周辺自治体への説明状況等について説明を行いました同月8日には野田内閣総理大臣が記者会見を行い「国民の生活を守るために大飯発電所34号機を再起動すべきだというのが私の判断」との考えを国民に対し説明しました これらの国からの説明等を踏まえて福井県おおい町でも検討が行われ同月14日に時岡おおい町長が西川福井県知事に対して再起動に関する政府判断について了承する旨を伝え同月16日には西川福井県知事が野田内閣総理大臣等の関係閣僚と会談し政

府の再起動判断について了承する旨が伝えられました

(3)大飯発電所34号機の再起動 これを受けて原子力発電所に関する四大臣会合を同日に開催し四大臣として大飯発電所34号機を再起動することを政府の最終的な判断としました 四大臣会合では新たな規制機関の発足までの間地元の皆様の安全安心のため特別な監視体制を速やかに立ち上げ起動作業にあたっても安全に遺漏なきよう万全を期していくこと政府として原子力に関する安全性を確保しそれを更に高めていく努力をどこまでも不断に追求していくこと等を確認しました 同日の政府の最終判断を受けて関西電力は大飯34号機の再起動準備を行い3号機は同年7月1日に再起動され同月5日に調整運転を開始し4号機は同年7月18日に再起動され同月21日に調整運転を開始しました

第3節 電気料金制度の見直し1 現行の電気料金制度の問題点と見直しに至る経緯

 2011年3月の東日本大震災発生以降電力需給のひっ迫や原子力損害賠償燃料コスト増による電力コスト上昇懸念等電気事業をとりまく状況は大きく変化しましたこうした中東京電力による原子力損害賠償の支援スキームの策定に際し国民負担の最小化と電力の安定供給確保のため設置された「東京電力に関する経営財務調査委員会」の報告書(2011年 10月公

知見の整理

主な安全対策

地震津波に関する意見聴取会

緊急安全対策

外部電源対策等

シビアアクシデント対策

建築物構造に関する意見聴取会

高経年化技術評価に関する意見聴取会

総合的安全評価に関する意見聴取会(ストレステスト)

技術的知見に関する意見聴取会

安全性評価

進捗状況の反映

330基準1

H233 H241

67 618指示 確認(短期対策)

確認415 67

指示213722

指示1114

第1回 保安院審査書取りまとめ

1024第 1回

328

930

第 1回929第 1回

1129第 1回

実施状況の活用216

中間取りまとめ

中間取りまとめ

中間取りまとめ

67第 1回 1226中間取りまとめ福島原発事故独立検証委員会 227調査検証報告書

323

原安委確認

取りまとめ30の対策

知見の活用

取りまとめ

基準2

基準3

第1回43第2回45第3回46第4回49第5回412第6回413216

216

216

123-31IAEAレビュー

指示

大飯34号機

四大臣による整理確認

更なる知見の拡充

確認

東京電力福島原子力発電所における事故調査検証委員会

56事業者による更なる信頼性向上の取組

第122-2-1 これまでの安全性確保に向けた取り組み

21

第3節 電気料金制度の見直し

第2章

表)においても現行の電気料金制度とその運用について問題点が指摘されました 現行の制度は競争による経営効率化の効果を規制分野の需要家に機動的に還元するという観点から「値下げ届出制」を採用しています これは①事業者間のサービス向上競争の促進②経営効率化分の自主的な内部留保による財務体質の強化を目的に③経営効率化分の配分に対する説明責任を前提として導入されていたものですが他方で値下げの届出改定では行政は事前に原価査定を行わないため値下げ幅について事業者による効率化によるものか過去の届出原価の見積もりが過大であったこと等によるものなのかが明らかではないという問題がありました このため原価の適正性が確保されていないのではないかまた原価の中に電気の安定供給に必要なもの以外の費用が含まれているのではないかといった指摘が当該報告書においてなされることとなりました

2電気料金制度見直しの内容

 こうした現行制度とその運用への指摘を踏まえ2011年には「電気料金制度運用の見直しに関する有識者会議」が開催され規制料金として行政による原価の適正性確保と事業者の経営効率化インセンティブをどのようにバランスさせるかその際にどのような費用についてどのような水準までを適正な原価と考えるか対外的な説明責任をどのように確保するのかといった観点から現行の総括原価方式に基づく電気料金制度下において実施すべきものを中心に検討が行われました公開で行われた計6回の議論とパブリックコメントを経て2012年 3月に報告書がとりまとめられました報告書で示された基本的な考え方は以下の通りです (1)値上げ認可時の査定においては原価の厳格な査定を行う一方値下げ届出時や事業評価においては事業者による説明と行政による事後チェックを的確に行うことを徹底 (2)事業に要する費用全ての回収を認めるのではなくあるべき適正な費用のみの回収を認めることを徹底 (3)一般電気事業者が自らの供給力のみに依存する安定供給確保から他社供給力や需要側の取組も活用した安定供給確保に転換することを促す

<報告書の概要>(1)原価の適正性の確保値上げ認可時には広告宣伝費寄付金団体費については原価算入を認めないまた人件費修繕費等についてはメルクマール等により査定人件費の例一般企業の平均値を基本に他の公益企業の平均値とも比較(2)新しい火力入札火力電源を自社で新設増設リプレースする場合は原則全て入札(3)公正かつ適正な事業報酬正当な理由なく著しく低い稼働率となっている設備はレートベース対象資産(事業報酬の算定の基礎となる資産)の対象外(4)原価算定期間及び電源構成変動への対応経営効率化を織り込む等の観点から認可時は3年を原則また原価算定期間内に電源構成が大きく変動した場合には変動分のみを料金に反映(5)託送料金(送配電線の利用料)の適正化託送料金について第三者が適切性妥当性を確認(6)デマンドレスポンス料金とスマートメーターの導入時間帯別料金の多様化や三段階料金の見直し季節別料金の導入等の検討スマートメーターの導入に当たっては入札を原則(7)事後評価原価算定期間終了後には原価と実績値算定期間終了後の収支見通し利益の使途等について評価

 以上の報告書の内容を踏まえ一般電気事業供給約款料金算定規則一般電気事業供給約款料金審査要領電気料金情報公開ガイドライン等を2012年 3月に改正しました

3 東京電力の電気料金値上げに係る認可申請について

 2012年 5月 11日に東京電力から経済産業大臣に対し電気事業法第19条第1項の規定に基づき電気料金を平均1028引き上げる(値上げ)等の供給約款変更認可申請(以下「料金認可申請」という)が提出されました 東京電力は料金原価について合理化の実施により年平均2785億円の削減を行ったものの燃料費を中心として大幅な増加が避けられず収支不足額が年平均

22

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第2章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故後に講じたエネルギーに関する主な施策

第2章

6763億円となり赤字構造の早急な改善に向け値上げ認可申請がなされました 経済産業省においては電気料金認可プロセスに外部専門家の知見を取り入れ専門的かつ中立的客観的な観点から料金査定方針等の検討を行う観点から「総合資源エネルギー調査会総合部会電気料金審査専門委員会」(以下「委員会」という)を設置しました(委員長安念潤司 中央大学法科大学院教授委員長代理山内弘隆 一橋大学大学院商学研究科 教授) 2012年 5月 15日の第1回委員会以降委員会は東京電力から経済産業省に提出された料金認可申請について個別の原価にも踏み込んだ検討を含め計10回の審議を行いました開催に当たっては審議の透明性を高めるため委員会の審議は議事内容配布資料を含め全て公開形式で開催されました また料金認可申請が東京電力管内を中心に広く社会経済に影響を及ぼす事案であることに鑑み広く一般の意見を聴取するため第1回委員会においては自治体消費者団体中小企業団体関係者を招き意見を聴取しましたまた2012年 6月 7日に東京6月9日にさいたま市で電気事業法第108条に基づく公聴会を実施し国民から広く意見の聴取を行いました更に公聴会において委員会の委員も消費者からの生の声を聞くべきとの意見があったことを受けて第8回委員会において消費者団体を公募の上意見を聴取しました更にインターネットを通じた意見募集である「国民の声」や公聴会に寄せられた意見が経済産業省から報告され随時の論議に反映されました加えて第1回から第10回の全てにおいて消費者団体消費者庁からオブザーバーとしての参加を得て活発に議論が行われました 2012年 6月 12日の第5回委員会以降委員が2人1組となり担当分野につき査定方針を検討しましたその結果が第9回委員会において各担当委員から報告され2012年 7月 5日の第10回委員会において委員会としての査定方針案が取りまとめられ同日経済産業大臣に提出されました なお委員会は経済産業大臣から付託されたミッションに基づき電気事業法及び同法に基づく規則一般電気事業供給約款審査要領(以下「審査要領」という)「電気料金制度運用の見直しに係る有識者会議報告書」等の予め定められたルールに則って査定方針案を中立的客観的かつ専門的な見地から検討しました

 委員会でとりまとめられた査定方針案をもって経済産業省は消費者庁と協議を行い2012年 7月 12日には経済産業大臣と消費者担当大臣との間で電気の安定供給や原子力損害賠償の迅速かつ適切な実施の確保に支障を来さないことを前提に消費者の目線や他の公的資金投入企業の事例を踏まえ徹底的な経営合理化を図るものとするとの認識で一致し7月19日に協議が整いましたこれを受け経済産業省としての査定方針を策定し7月20日に物価問題に関する関係閣僚会議の了承を得ましたなお具体的な査定方針の主な内容としては以下の通りです(1)人件費について料金原価算定期間各年における管理職職員の年収を震災前と比べて3割超引き下げ3年間の全社員の平均年収で見ても近年の公的資金投入企業(最大2362)のいずれをも上回る削減率(2368)とすることにより約90億円の減額(2)調達等について総合特別事業計画に基づき修繕費委託費について既に10削減した上で料金認可申請がなされているがそれ以外の費用項目も含む随意契約について原則10削減を求め未達成分を減額するとともに子会社関連会社との随意契約取引について更なる深掘りを行うことにより約100億の原価の削減(3)燃料費について各火力発電所の燃料使用量を発電所の発電効率等を踏まえてより一層の効率化配分を徹底することにより相対的に燃料費の高い石油系火力発電所の燃料使用量を抑制していることを確認するとともに原価算定期間中に価格の更新時期を迎えるLNGのプロジェクトのうち近時の値上がり傾向の市況を踏まえ値上げを織り込んでいるものについて東京電力の交渉努力を先取りする形で直近実績レベルまで原価を減額する等により約120億円の原価の削減(4)福島第一原子力発電所56号機に係る安定化維持費用及び賠償関連費用について事故直後に特別損失として認識し処理した費用(約9000億円)は2011年度末までに特別損失で計上されておりこれ以外に新たに必要となる経費のうち資本的支出(設備投資)が生じた場合当該設備は将来の収益を生むものではなく資産性が認められないため会計上資産価値が特別損失処理され減価償却費が発生しないことから申請原価に含まれていない 他方で資本的支出以外の経常的に発生する費用である費用及び賠償に関する受付や業務フロー作成等の委託費をはじめとする賠償対応費用についてこう

23

第4節 再生可能エネルギー固定価格買取制度導入

第2章

した費用が原価算入されない場合東京電力としての原子炉廃止措置賠償といった責務が果たせなくなるとともに国民全体の負担に依らざるを得なくなるため東京電力が採用するADR弁護士費用は控除する等厳に必要な費用に限った上で原価へ算入 また事故に伴い発生した賠償支払額そのものは原子力損害賠償支援機構法の枠組に基づき原子力損害賠償支援機構から東京電力に対し国の交付国債を原資とする資金援助が行われていることから料金原価に含まれない(5)事業報酬の算定に当たっては震災後の経営リスクを踏まえ2011年 3月 11日から申請日前日の2012年 5月 10日までの期間の9電力会社平均の経営リスクに係る指標に基づいて算定を行い約93億円の原価の削減 2012年 7月 25日に東京電力より提出された申請内容の修正が査定方針通りであることが確認できたため電気事業法第19条に基づき経済産業大臣が認可を行い最終的な値上げ幅は平均846となりました なお消費者への十分な周知を図るために東京電力の値上げの実施時期を2012年 9月1日としました

第4節 再生可能エネルギー固定価格買取制度導入 近年新興国を中心としたエネルギー需要の急増に伴う国際的な資源獲得競争の激化や国内外における地球温暖化対策の強化が求められる状況の中純国産のエネルギー源であり二酸化炭素を排出しない再生可能エネルギーの果たす役割の重要性が高まってきています本項では再生可能エネルギーの導入支援策の大きな柱である固定価格買取制度導入の背景と経過制度開始後の状況をまとめます

1制度導入の背景

 固定価格買取制度は再生可能エネルギー(太陽光風力水力地熱バイオマス)によって発電された電気を国が定める一定の期間にわたって国が定める一定の価格で購入することを電気事業者に義務づける

制度ですこれにより再生可能エネルギーを用いる発電投資への投資回収の不確実性を低減させこれらに対する投資を促すことで再生可能エネルギーの導入拡大を加速化させる効果が得られると見込まれていますまた導入拡大が加速すれば設備の量産化が進み現時点では他のエネルギーに比して割高な再生可能エネルギーのコストダウンが進展することも期待されています このように再生可能エネルギーの導入拡大にとって大きな効果を持つ固定価格買取制度の導入は東日本大震災以前から検討されており「エネルギー基本計画」や「新成長戦略」においても言及がなされていました17この制度を実施に移すため2011年 3月 11日に「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」(以下「特措法」)案が閣議決定されましたその後東日本大震災及び福島第一原子力発電所における事故を経て中長期的に脱原子力依存を進めていくためにも再生可能エネルギーに対する期待はこれまで以上に高まりました同法案の国会審議の過程では政府が提出した法案に対して民主党自由民主党公明党の三党の合意に基づき一層の再生可能エネルギーの導入拡大の観点から修正がなされ最終的にこの修正を反映した形で同年8月26日に法案が成立し同年8月30日に公布されました

<参考>主な国会修正事項 政府案では太陽光発電以外は一律の価格と期間での買取りを想定していたところ再生可能エネルギー源の種別利用形態規模ごとに価格と期間を設定 事業活動に当たって電力を多く使用する事業を行う事業者に対する負担軽減措置の創設  (売上高当たりの電気使用量が製造業については製造業平均の8倍以上非製造業については非製造業平均の政令で定める倍数(14倍)以上の事業を行っている等の要件を満たす事業者に適用) 政府案では調達価格等の決定プロセスは総合資源エネルギー調査会の意見を聴いて定めることとされていたところ新たに設けられる調達価格等算定委員会の意見を尊重し定めることに変更 等

17 2010 年 6 月に改訂策定された「エネルギー基本計画」や同月に策定された「新成長戦略」においても一次エネルギーに占める再生可能エネルギーの割合を2020 年度までに 10に引き上げることを目標とする等これまで以上の再生可能エネルギーの導入拡大が求められるようになっておりこのような高い目標を実現するための最も効果的な手段として固定価格買取制度を導入することが検討されていました

24

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第2章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故後に講じたエネルギーに関する主な施策

第2章

2 調達価格等算定委員会の検討経過と結論

 上記のように特措法においては経済産業大臣は調達価格(電気事業者が買い取る際の価格)と調達期間(調達価格での買取りが継続する期間)を決定するにあたり国会の同意を得た上で任命される委員から構成される調達価格等算定委員会(以下「委員会」と言う)の意見を尊重することが明記されました2012年 3月に以下の5名が委員会の委員として両議院の同意を得た上で任命され同月から委員会での議論が開始されました 委員会では法律の内容や国会における議論を踏ま

えつつ業界団体等からのヒアリング(太陽光発電協会等の各種発電に係る業界団体や新規参入を予定している事業者経済団体等)各種論点についての詳細な議論検討が全7回にわたり行われました その上で委員会は2012年 4月27日に「平成24年度調達価格及び調達期間に関する意見」をとりまとめ枝野経済産業大臣に提出しました 経済産業省においては提出された意見を尊重し意見通り調達価格調達期間を決定し同年6月18日に告示しました(第124-2-1)また法律の規定に従い調達価格調達期間については委員会の意見と併せて国会にも報告がなされました

3制度開始後の状況

 2012年7月1日の制度開始以降同年7月末現在で33695件出力にして合計約57万kWの設備が制度の適用を受けることができる設備として経済産業大臣により認定されていますこうした認定を受けた案件を含め市場では固定価格買取制度の導入を機に様々な事業化プランの検討が進んでおり政府の試算では2012年度だけでも設備容量ベースで合計250万kW程度の再生可能エネルギーの導入拡大が進むと見込んでいます(第124-3-1) 一方で固定価格買取制度では電気事業者が再生可能エネルギー由来の電気の買取りに要した費用について賦課金として電気料金に上乗せする形で国民の皆様にご負担いただくことになっています2012年度

委員会名簿植田 和弘(委員長) 京都大学大学院経済学研究科教授

山内 弘隆(委員長代理)一橋大学大学院商学研究科教授

辰巳 菊子 (公社)日本消費生活アドバイザーコンサルタント協会理事環境委員長

山地 憲治 (公財)地球環境産業技術研究機構(RITE)理事研究所長

和田 武 日本環境学会会長

電源 太陽光 風力 地熱 中小水力

調達区分 10kW以上 20kW以上 20kW未満10kW未満(余剰買取)

15万kW以上

15万kW未満

1000kW以上30000kW未満

200kW以上1000kW未満

200kW未満

費用

費用

建設費

建設費

運転維持費(1年当たり)

運転維持費(1年当たり)

325万円kW 466万円kW 30万円kW 125万円kW 79万円kW 123万円kW 85万円kW 80万円kW 100万円kW

10千円kW

392万円 kW

47千円kW 60千円kW 33千円kW 48千円kW 95千円kW 69千円kW 75千円kW

税前 7税前7税前18税前8税前 6

税前 1 税前 8 税前 4 税前 4 税前 4

税前32(1) 税前13(2)IRR

IRR

調達価格1kWh当たり

調達価格1kWh当たり

税込(3)4200円

4095 円 3360 円 2520 円 1785 円 1365 円

42円(1)

2310円 5775円 2730円 4200円 2520円 3045円 3570円

税抜

税抜税込

40円

39円 32円 24円 17円 13円

42円 22円 55円 26円 40円 24円 29円 34円20年20年

20年

20年20年 15年15年10年調達期間

調達期間

電源 バイオマス

バイオマスの種類 ガス化(下水汚泥)

ガス化(家畜糞尿)

固形燃料燃焼(未利用木材)

固形燃料燃焼(一般木材)

固形燃料燃焼(一般廃棄物)

固形燃料燃焼(下水汚泥)

固形燃料燃焼(リサイクル木材)

41万円kW 41万円kW 31万円 kW 35万円kW27万円kW22万円 kW27万円kW27万円kW184万円 kW

調達区分

【メタンガス発酵ガス化バイオマス】 【未利用木材】【一般木材(含パーム梛子殻】

【廃棄物形(木質以外バイオマス)】 【リサイクル木材】

第124-2-1 告示された調達価格等

(注) 1 住宅用太陽光発電について       10kW未満の太陽光発電については一見10kW以上の価格と

同一のように見えるが家庭用についてはkW当たり35万円(2012年度)の補助金の効果を勘案すると実質48円に相当するなお一般消費者には消費税の納税義務がないことから税抜き価格と税込み価格が同じとなっている

   2 地熱発電のIRRについて       地表調査調査井の掘削など地点開発に一件当たり46億円程度

かかること事業化に結びつく成功率が低いこと(7程度)等に鑑みIRRは13と他の電源より高い設定を行っている

   3 消費税の取扱いについて       消費税については将来的な消費税の税率変更の可能性も想定

し外税方式とすることとしたただし一般消費者向けが太宗となる太陽光発電の余剰買取の買取区分については従来どおりとした

第 124-3-1  2012年度の再生可能エネルギーの導入量見込み

2011年度時点における導入量

2012年7月末までに認定を受けた設備容量

2012年度末までの導入予測

太陽光(住宅) 約400万kW 約144万kW +約150万kW

太陽光(非住宅) 約80万kW 約301万kW +約50万kW

風力 約250万kW 約122万kW +約38万kW

中小水力(1000kW以上30000kW未満)

約935万kW - +約2万kW

中小水力(1000kW未満)

約20万kW 約01万kW +約1万kW

バイオマス 約210万kW - +約9万kW

地熱 約50万kW - -

合計 約1945万kW 約567万kW +約250万kW

(出所) 1 単年度導入量については太陽光発電はJPEA出荷統計風力発電はJWPA統計その他電源はRPSデータ等より

    2 2012年度見込みについては各種前提により資源エネルギー庁推計

25

第5節 省エネルギー法改正に向けて

第2章

においては賦課金の単価は1kWh当たり022円となっていますこれにこれまで実施してきた太陽光の余剰電力買取制度の負担(全国平均で1kWh当たり007円)と併せて2012年度では1kWh当たり029円(全国平均)のご負担をお願いすることになりますこれは一月に7000円程度の電気料金をお支払いいただいているご家庭(一月300kWh程度の電力使用量を想定)であれば一月約87円の負担となります再生可能エネルギーの導入拡大が進めば賦課金の負担も増大していくことから負担が過重なものとならないよう常に配慮することが重要ですこのため固定価格買取制度の下では再生可能エネルギー発電事業者が実際に設備の設置等に要した費用について事後的に経済産業省に報告することを求めており集計されたデータを翌年度以降の調達価格の審査に活用することで発電設備等のコスト低減の成果を適切に調達価格の見直しに反映することとしています

第5節 省エネルギー法改正に向けて

1背景

 エネルギーの使用の合理化に関する法律(以下省エネ法)は「熱管理法」を全面改正する形で1979年に成立しました 1998年の改正で導入されたトップランナー制度はエネルギー消費機器の製造輸入事業者に対し3~10年程度先に設定される目標年度において高い水準(トップランナー基準)を満たすことを求め目標年度になると報告を求めてその達成状況を確認する制度です制度導入当初対象機器は乗用自動車エアコン蛍光灯等9品目でしたが最近ではルーター等も対象に追加され現在までに23品目に拡大し世帯当たり電気消費量に占める割合の6割をカバーしています2012年にはヒートポンプやLED照明といった近年急速に普及が見られた機器についてもトップランナー制度の対象に追加する等引き続き対象機器の拡大や目標値の強化を実施しています 2008年には10度目の改正を行い①これまでの工場事業場単位から事業者単位の規制に変更②事業者の省エネルギー状況を比較できる指標(ベンチマーク指標)を定め中長期的に達成すべき水準を目標として設定するセクター別ベンチマークを導入③事業者が自

主的に行う共同省エネルギー事業について国はその取組を促進するよう法律の施行にあたり適切な配慮をすることとしたこと等大きく三つの点が変更されました このような改正を経て省エネ法の規制対象事業者は改正前の7500事業者から約1万2000事業者に増加しました我が国はGDPが約2倍となった過去30年間でエネルギー効率を約37改善してきましたがその中で省エネ法は重要な役割を果たしてきたと言えます

2 省エネ法改正に向けた動きと省エネ部会における検討

 石油危機に端を発したエネルギー危機を乗り越えるために省エネ法は化石燃料の使用量の低減と経済成長を両立することを目指し需要サイドの努力によってこれを克服してきました そして東日本大震災及び東京電力福島第一原子力発電所事故以降エネルギーの需給問題に対する関心が高まりエネルギー政策の前提となる状況自体も大きく変わりました従来省エネルギーの議論の中心は化石燃料の使用量を全体としてどう減らすかということでありそのこと自体はオイルショック以来の流れの中で大きな意義がありました 震災以降のエネルギー需給の問題に鑑みますとエネルギー全体としての使用量の抑制だけではなく電力需要のピークにどう対応していくかの議論が必要であり現行省エネ法に含まれていない「ピーク対策」への対応は非常に重要な政策課題となりました また我が国の最終エネルギー消費は二度のオイ

19 倍

伸び(1973 rarr2010年度)

28倍

09 倍

0

100

200

300

400

500

600

0

50

100

150

200

250

300

350

400

450

73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 9192 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10

(100万石油換算トン) (兆円2000年価格)

産業部門

家庭部門

運輸部門

業務部門

439

188

229

144

655

92164

89

実質GDP1973rarr2010

24 倍

22倍

25倍

(注) 「総合エネルギー統計」は1990 年度以降の数値について算出方法が変更されている

(出所) 資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」内閣府「国民経済計算年報」(一財)日本エネルギー経済研究所「エネルギー経済統計要覧」

第125-2-1  最終エネルギー消費量の推移(1973年~2010年)

26

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第2章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故後に講じたエネルギーに関する主な施策

第2章

ルショック後や近年の不況時を除きほぼ一貫して増加しています部門別のエネルギー消費量はオイルショック以降産業部門が約09倍のところ民生部門は約25倍運輸部門は約19倍と大幅に増加しています(第125-2-1)従来から十分な努力により省エネルギーを進めてきた産業部門における更なる省エネルギー対策に加えエネルギー消費量の増加が著しい民生(業務家庭)部門において一層の省エネルギーを進める必要があります(第125-2-2) 民生部門対策としてはトップランナー制度による自動車や家電等機器の省エネルギー性能の向上や住宅建築物の省エネルギー基準の策定等を行ってきました今後は日常生活の中でエネルギーをいかに少なくしつつ快適な生活を送るかつまり我慢ではなく持続可能な省エネルギーを進めていく必要があり住宅建築物全体の省エネルギー性能の底上げについて検討が必要となります 総合資源エネルギー調査会省エネルギー部会ではこれらの背景を踏まえ今後の省エネルギー政策の展開について検討を行い2012年 2月に「中間取りまとめ」を取りまとめましたこの「中間取りまとめ」を踏まえ政府は電力ピーク対策及び民生部門の省エネルギ

ー対策を盛り込んだ省エネ法の改正案を2012年 3月13日に第180回通常国会に提出いたしました

3省エネ法改正案について

 我が国経済の発展のためにはエネルギー需給の早期安定化が不可欠であり供給体制の強化に万全を期しその上で需要サイドにおいては持続可能な省エネルギーを進めていくという観点から主に以下の2点の改正を実施します まず1点目は需要家が従来の省エネルギー対策に加え蓄電池やエネルギー管理システム(BEMSHEMS)自家発電蓄熱式の空調ガス空調等の活用等により電力需要ピーク時の系統電力の使用を低減する取組を行った場合にこれを評価できる体系にする点です具体的にはピーク時間帯に工夫して系統電力の使用を減らす取組(節電)をした場合にこれ以外の時間帯で系統電力の使用を減らした場合よりも改善の度合いを大きく評価することで省エネ法の努力目標(原単位の改善率年平均1)を達成しやすくなるよう努力目標の算出方法を見直します 2点目はこれまでエネルギーを消費する機械器具を対象としていたトップランナー制度にそれ自体はエネルギーを消費しないものの他の建築物や機器等のエネルギーの消費効率の向上に資する機械器具等を新たな対象として追加し住宅建築物分野の省エネルギー対策を強化する点ですこれまでのトップランナー制度は法律上エネルギーを消費する機械器具が対象であり他の建築物や機器等のエネルギーの消費効率向上に資する機械器具等は対象とされていませんでした新たにトップランナー制度に追加する機械器具等としては具体的には窓断熱材水回り設備等の建築材料等を想定しており企業の技術革新を促すことで住宅建築物の省エネルギー性能の底上げを図っていきます

建築物

給湯用14

暖房用16

動力他49

冷房用13

厨房用9

3

8

住宅

動力他35

冷房用

給湯用28

暖房用27

厨房用

(注) 建築材料等の省エネルギー性能の向上により住宅では約 6割建築物では約 4割を占める暖冷房給湯用エネルギー消費量の削減に貢献

(出所) (一財)日本エネルギー経済研究所「エネルギー経済統計要覧」

第125-2-2  民生分野におけるエネルギー消費の現状(2010年度)

27

第3章

 2011年 3月 11日に発生した東北地方太平洋沖地震とこれによる津波は東京電力福島第一原子力発電所において極めて重大かつ広範囲に影響を及ぼす原子力事故を引き起こしました 今回の事故に関する調査検証は「東京電力福島原子力発電所における事故調査検証委員会」(政府事故調)国会(東京電力福島原子力発電所事故調査委員会)18事故の当事者である東京電力や規制当局である経済産業省原子力安全保安院民間団体等によっても行われておりまた政府の原子力災害対策本部から国際原子力機関(IAEA)に対して日本国政府の報告書も提出されています 本章では「東京電力福島原子力発電所における事故調査検証委員会」(政府事故調)において行われた事故の原因調査究明事故を踏まえた緊急安全対策やストレステスト等の規制当局の取組原子力規制委員会の設立東京電力福島第一原子力発電所の廃止に向けた取組東京電力による被災者賠償と原子力損害賠償支援機構の設立原子力被災者支援について概要と現状今後への課題等を取り上げます

第1節  「東京電力福島原子力発電所における事故調査検証委員会」における事故原因の調査究明

1委員会の発足に至る背景

 政府は極めて重大かつ広範囲に影響を及ぼした今回の原子力事故の原因及び事故による被害の原因を究明するための調査検証を国民の目線に立って開かれた中立的な立場から多角的に行い被害の拡大防止及び同種事故の再発防止等に関する政策提言を行わせることを目的として2011年 5月 24日の閣議決定により内閣官房に「東京電力福島原子力発電所における事故調査検証委員会」(政府事故調)を設置しました

 同委員会は従来の原子力行政から独立した立場で技術的な問題のみならず制度的な問題も含めた包括的な検討を行うことを任務として調査検証を行いました

2委員会の構成

 委員会は畑村洋太郎委員長(東京大学名誉教授工学院大学教授)以下内閣総理大臣により指名された10人のメンバーで構成されました更に専門的技術的事項について助言を得るため委員長の指名により2名の技術顧問が置かれましたまた調査検証を補佐する事務局には事務局長以下の各府省庁出身者のほか社会技術論原子炉過酷事故解析避難行動等の分野の専門家8名を配置し専門家をチーム長として三つの調査検証チーム(社会システム等検証チーム事故原因等調査チーム被害拡大防止対策等検証チーム)が設置されました

第3章原子力発電所事故関連

18 報告書ダイジェスト版を参考資料に掲載しています

委員会名簿畑村 洋太郎(委員長) 東京大学名誉教授工学院大学教授

尾池 和夫 国際高等研究所所長前京都大学総長

柿沼 志津子 (独)放射線医学総合研究所放射線防護研究センターチームリーダー

高須 幸雄 東京大学グローバル地域研究機構特任教授前国際連合日本政府代表部特命全権大使

髙野 利雄 弁護士元名古屋高等検察庁検事長

田中 康郎 明治大学法科大学院教授元札幌高等裁判所長官

林 陽子 弁護士

古川 道郎 福島県川俣町長

柳田 邦男 作家評論家

吉岡 斉 九州大学副学長

安部 誠治(技術顧問) 関西大学教授

淵上 正朗(技術顧問) 株式会社小松製作所顧問工学博士

28

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第3章 原子力発電所事故関連

第3章

3調査検証の経過

 同委員会は2011年 6月 7日に開催された第1回委員会において基本的方向を定め調査検証に着手しました主として事務局を通じて東京電力原子力安全保安院原子力安全委員会をはじめとする関係事業者関係機関から資料の提出を受けてこれを分析するとともにこれらの役職員構成員や事故発生当時の閣僚更に学識経験者等を含め幅広く関係者のヒアリングが行われましたヒアリングを行った関係者は総数772名総聴取時間は概算で1479時間に上りました 作業の進捗は毎月1回開催される委員会において報告確認され2011年 12月 26日に開催された第6回委員会において中間報告がとりまとめられましたこの中間報告では今回の事故に対する国内外の関心の高さや関係機関における事故の教訓を踏まえた取組の進行状況を考慮しそれまでに明らかになった事実関係をできる限り詳細に記述するとともに事故発生後の政府諸機関の対応の問題点事前の津波シビアアクシデント対策の問題点等について可能な範囲で考察を加え緊急事態応急対策拠点施設(オフサイトセンター)の機能維持モニタリングの運用改善緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)の活用住民避難への備え原子力安全規制機関の在り方といった事柄について提言が行われました また2012年 2月 24日25日に開催された第8回委員会では調査検証の内容を国際的な関心に応えるものにするため海外5カ国(米仏スウェーデン韓中)から国際的に著名な原子力放射線等の専門家を招へいして意見交換が行われました このほか委員会は主に地震津波対策について検討するため事故現場である福島第一第二発電所に加え日本原子力発電東海第二発電所東北電力女川原子力発電所同社原町火力発電所中部電力浜岡原子力発電所及び東京電力刈羽原子力発電所を視察しました更に今回の原子力災害で被災した自治体のうち福島県大熊町双葉町浪江町南相馬市及び飯館村の各首長並びに浪江町から避難している住民からの意見聴取を行い仮設住宅の視察を行いました 2012年 7月 23日に開催された第13回委員会において最終報告19がとりまとめられ同日畑村委員長

から野田内閣総理大臣に手交されましたこの最終報告では中間報告の段階では調査が未了で取り上げることができなかった事項や中間報告で取り上げましたもののその後更なる調査検証が行われた事項等が盛り込まれました 最終報告では福島第一原子力発電所の1号機から3号機の主要な施設設備の被害状況について事態の進展に伴う損傷の拡大状況に関する分析も含めて改めて詳述するとともに同原発1号機3号機及び4号機の原子炉建屋の水素ガス爆発等に関する検討が行われました更に中間報告の段階では調査検証が未了であった同原子力発電所5号機及び6号機における事故対処同原発の外部電源復旧状況や福島第二原子力発電所における事故対処の状況原子力災害発生後の国等の組織的対応状況主として発電所外でなされた被害拡大防止のための対処としての環境放射線モニタリングSPEEDIの活用の在り方(SPEEDIにより単位量放出を仮定した予測結果は得られており仮にその情報が提供されていれば各地方自治体及び住民はより適切に避難のタイミングや避難の方向を選択できた可能性があったと言える事等)住民の避難等日本海溝沿いの地震津波に関する科学的知見シビアアクシデント対策の在り方原子力災害対応体制の検討経緯国際法国際基準関係について記述されました またこれらの主要な問題点に分析を加えた上「抜本的かつ実効性ある事故防止対策の構築」「複合災害という視点の欠如」「『被害者の視点からの欠陥分析』の重要性」等重要な論点9項目の総括を行いあわせて原子力災害の再発防止及び被害軽減のための同委員会の提言を七つのカテゴリーに分類して掲載しました(最終報告概要版を参考資料として第一部第4章第5節の後に記載)

<提言> (1)安全対策防災対策の基本的視点に関するもの  複合災害を視野に入れた対策に関する提言  リスク認識の転換を求める提言  「被害者の視点からの欠陥分析」に関する提言   防災計画に新しい知見を取り入れることに関す

る提言 (2)原子力発電の安全対策に関するもの

19 報告書概要を参考資料に掲載しています

29

第2節 東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえた規制当局の取組

第3章

  事故防止策の構築に関する提言  総合的リスク評価の必要性に関する提言  シビアアクシデント対策に関する提言 (3)原子力災害に対応する態勢に関するもの  原災時の危機管理態勢の再構築に関する提言  原子力災害対策本部の在り方に関する提言  オフサイトセンターに関する提言  原災対応における県の役割に関する提言 (4)被害の防止軽減策に関するもの  広報とリスクコミュニケーションに関する提言  モニタリングの運用改善に関する提言  SPEEDIシステムに関する提言  住民避難の在り方に関する提言  安定ヨウ素剤の服用に関する提言  緊急被ばく医療機関に関する提言  放射線に関する国民の理解に関する提言   諸外国との情報共有や諸外国からの支援受入れ

に関する提言 (5)国際的調和に関するもの  IAEA基準等との国際的調和に関する提言 (6)関係機関の在り方に関するもの  原子力安全規制機関の在り方に関する提言  東京電力の在り方に関する提言  安全文化の再構築に関する提言 (7)継続的な原因解明被害調査に関するもの  事故原因の解明継続に関する提言   被害の全容を明らかにする調査の実施に関する

提言

第2節  東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえた規制当局の取組

1 東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえた緊急安全対策

 原子力安全保安院は東京電力福島第一原子力発電所に来襲したものと同程度の地震と津波により全交流電源喪失に至ったとしても炉心損傷等深刻な事態を回避し冷温停止状態に繋げるための対策として2011年 3月 30日事業者に対して緊急安全対策を指示しました これまでに東京電力福島第一原子力発電所を除く全原子力発電所から実施状況報告を受け原子力安

全保安院として2011年 5月 6日には東京電力福島第一原子力発電所東京電力福島第二原子力発電所東北電力女川原子力発電所以外の各原子力発電所について同年6月1日には女川原子力発電所について同年11月28日には東京電力福島第二原子力発電所について緊急安全対策が適切に実施されていることを確認しました具体的には緊急時対応計画の作成緊急時の電源確保のための電源車や代替注水のための消防ポンプの配置浸水対策水源の確保や緊急時における手順書の整備訓練の実施といった対策(短期対策)が実施されたことを確認しましたこれらの対策については一部が技術基準における要求事項に含められたほか事故時の手順の整備が行われるよう保安規定も改定されています 更に緊急安全対策では海水ポンプ電動機等の予備品の確保空冷式非常用発電機等の設置や水密化防潮壁防潮堤の設置等津波に対する防護措置が中長期対策として要求されており原子力安全保安院は事業者が今後これらを適切に実施される計画を有していることを確認しました なお東京電力福島第二原子力発電所については冷温停止状態を維持するために必要な対策が取られているかという観点から確認を行いました 核燃料サイクル施設に関しては同年5月1日に再処理施設を対象に緊急安全対策を指示し同月中に各事業者から実施状況の報告を受けましたまた同年6月15日には各事業所において緊急安全対策(電源車浸水対策緊急時の手順書整備訓練の実施等短期対策)が適切に実施されていることを原子力安全保安院として確認しましたなお指示に対する報告があった時点において各施設は検査期間中であることから検査後の状況を踏まえた対策に関しては今後改めて報告がなされることとなっています

2 原子力発電所等の外部電源の信頼性確保

 2011年 3月 11日の地震により東京電力福島第一原子力発電所及び日本原電東海第二原子力発電所の外部電源が喪失したことに加え同年4月7日に宮城県沖で発生した地震により東北電力東通原子力発電所及び日本原燃六ヶ所再処理事業所において一時的に外部電源の喪失が発生しましたこれまで外部電源については特段の対策を求めてきませんでしたが今回外部電源の喪失が複数のサイトで発生したことを

30

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第3章 原子力発電所事故関連

第3章

踏まえ原子力安全保安院は外部電源の信頼性の更なる向上を図るため同年4月15日各事業者に対し外部電源の信頼性確保のための対応を検討しその結果を報告するよう指示を行い同年6月7日各社から報告の提出を受けて報告内容の評価確認を行いましたなお東京電力福島第二原子力発電所における外部電源の信頼性確保に係る対応については同年11月 28日に提出を受け評価確認を行いました今後各事業者から報告された各対策の実施状況を厳格に確認していくこととしています また原子力発電所の開閉所等の電気設備が機器の倒壊損傷等により機能不全に陥る事例も発生したことからこのような事態が発生する可能性についての影響評価及びその評価結果を踏まえた対策策定に係る実施状況についても報告することを各事業者に対して指示し2011年 7月 7日その実施状況について中間報告がなされました 更に2012年 1月 19日東京電力より東京電力福島第一原子力発電所等の開閉所に係る電気設備の損傷原因は東北地方太平洋沖地震により開閉所において発生した地震動が設計基準を超過したことであると報告されたことから各事業者に対して今後発生する可能性のある地震による耐震安全性の評価及び対策の実施を求めること等を追加指示しました同年2月17日各事業者等から耐震安全性評価に係る実施計画が報告されており今後評価結果が報告され次第その内容を確認していくこととしています

3 東京電力福島第一原子力発電所事故の技術的知見

 今回の事故から可能な限りの教訓を引き出し今後の原子力安全に役立てていくことは規制機関の責務です原子力安全保安院は事故の発生及び事故の進展について現時点までに判明している事実関係について工学的な観点から事故シーケンスに従って設備や操作手順に即して出来る限り深く整理分析することにより事象の各段階における技術的知見を体系的に抽出し主に設備手順に係る必要な対策の方向性について検討しました 具体的な検討の対象は東京電力福島第一原子力発電所の事故における外部電源設備(変電所開閉所等)所内電気設備(非常用電源設備等)冷却設備(炉心冷却系補機冷却系等)閉込機能に関する設備(格納容器ベント設備等)指揮通信計装制御設備(通信

設備炉内計装設備等)等です事故シーケンスにおける検討の範囲は地震の発生から炉心損傷及び閉込機能喪失により放射性物質が外部環境に放出されるまでの発電所で生じた事象としました 未だ放射性物質による汚染等のため現場の確認を行うことが難しい設備機器が多く溶融落下した炉心の状況等事象の解明が十分に進んでいない部分も残されていますが2011年 10月から8回にわたり公開の意見聴取会の場で外部の専門家によるレビューを受ける等して2012年 3月五つの分野について「30項目の安全対策」を以下のとおり取りまとめました (1) 外部電源対策(4対策)地震等による長時間の

外部電源喪失の防止 (2) 所内電気設備対策(7対策)共有要因による所

内電源の機能喪失防止や非常用電源の強化 (3) 冷却注水設備対策(6対策)冷却注水機能喪

失の防止 (4) 格納容器破損水素爆発対策(7対策)格納容

器の早期破損防止や放射性物質の非管理放出の防止

 (5) 管理計装設備対策(6対策)状態把握プラント管理機能の抜本的強化

 これらの対策は新たな規制の枠組みの下で技術的な要求事項を検討する際の基礎とすることを想定していますただしこれらの対策は地震と津波の重畳による全交流電源喪失を起因事象とする東京電力福島第一原子力発電所事故の事象面からボトムアップ的に導き出したものですそのためこれらの対策間の関係や重要度の比較システム全体としての安全性向上について検討するとともにより広い起因事象を包含したシビアアクシデントへの対応も含めトップダウン的な方法論により体系的に検討整理する必要がありますまた実際に規制として適用するに当たっては更に設計ガイドライン等の整備が必要です

4 既設の発電用原子炉施設等の安全性に関する総合評価(いわゆる「ストレステスト」)

 原子力安全委員会は東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえ既設の発電用原子炉施設について設計上の想定を超える外部事象に対する頑健性に関して総合的な評価を行うことが重要であるとの考えのもと2011年 7月 6日に「東京電力株式会社福島第一原子力発電所における事故を踏まえた既設の発電用原

31

第2節 東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえた規制当局の取組

第3章

子炉施設の安全性に関する総合的評価の実施について」をとりまとめ原子力安全保安院に対し発電用原子炉施設の安全性に関する総合的評価の実施を要請しました 我が国の原子力発電所の安全性については前述の緊急安全対策等により今般の事故と同程度の地震津波が発生しても深刻な事態に至ることなく冷温停止に繋げるための対策を実施しておりその結果については原子力安全保安院により確認がなされています他方定期検査後の原子力発電所の再起動に関しては原子力安全保安院による安全性の確認について国民住民の方々に十分な理解が得られているとは言い難い状況を踏まえ政府において原子力発電所の更なる安全性の向上と安全性についての国民住民の方々の安心信頼の確保のため欧州諸国を参考に新たな手続きルールに基づく安全評価としてストレステストを実施することが同年7月11日に閣僚レベルで方針決定されました この決定によれば原子力発電所のストレステストは2段階で評価することとしており一次評価は定期検査で停止中の原子力発電所の運転再開の可否について判断するために行われることになっています同年7月21日原子力安全保安院はこのストレステストを一次評価と二次評価に分けた評価手法及び実施計画を原子力安全委員会の確認を受けた上でとりまとめ翌日事業者に評価の実施を指示しました 一次評価においては「安全上重要な施設機器等について設計上の想定を超える事象に対してどの程度の安全裕度が確保されているか評価する評価は許容値等に対しどの程度の裕度を有するかという観点から行うまた設計上の想定を超える事象に対し安全性を確保するために取られている措置について多重防護(defense in depth)の観点からその効果を示すこれにより必要な安全水準に一定の安全裕度が上乗せされていることを確認する」としておりこれにより緊急安全対策の効果も含め先般の事故と同程度の地震津波が来襲しても炉心損傷といった深刻な事態に至らないことを確認します原子力安全保安院は事業者からこれまでに22プラント(2012年 7月 20日現在)について一次評価に係る報告書の提出を受けこのうち大飯発電所34号機及び伊方発電所3号機について原子力安全保安院の評価を終了していますまた大飯発電所34号機について原子力安全委員会は原子力安全保安院による評価の確

認を行い見解を取りまとめています 更に二次評価においては「設計上の想定を超える事象の発生を仮定し評価対象の原子力発電所がどの程度の事象まで燃料の重大な損傷を発生させることなく耐えることができるか安全裕度(耐力)を評価しますまた燃料の重大な損傷を防止するための措置について多重防護の観点からその効果を示すとともにクリフエッジを特定して潜在的な脆弱性を明らかにしますこれにより既設の発電用原子炉施設について設計上の想定を超える外部事象に対する頑健性に関して総合的に評価する」としています なお原子力安全保安院は2012年 1月IAEAによるレビューミッションを受け入れストレステストに関する原子力安全保安院の指示及び審査プロセスが基本的にIAEAの安全基準と整合していると結論づけられるとともに二次評価を含むストレステストのプロセスとそれ以外の規制活動の全般的な有効性を向上させると考えられる課題を特定し勧告がなされています IAEAからの指摘事項については耐震等を含め真摯に受け止め可能なものから順次実施していくこととしています 核燃料サイクル施設については原子力安全委員会からの要請等はなかったものの海外の状況等も踏まえて原子力安全保安院の判断により2011年 11月25日に加工事業者貯蔵事業者再処理事業者廃棄物管理事業者廃棄物埋設事業者に対して総合的評価の実施を指示しましたサイクル施設におけるストレステストは一次評価と二次評価に分けての評価は行いませんが安全裕度の確認と設計上の想定を超える事象の発生と拡大を防止するための措置の効果を明らかにするという方針は原子力発電所の場合とほぼ同様となっていますこれらの評価の結果は事業者が施設の安全性を向上させるための更なる対策を講じる際の参考となるものです各事業者からは2012年 4月 27日に原子力安全保安院に報告書の提出がありました

5シビアアクシデント管理

 我が国においては東京電力福島第一原子力発電所事故の発生前までシビアアクシデントは工学的には現実的に起こるとは考えられないほど発生の可能性は小さいとされ規制対象には含まれず事業者の自主的な取り組みとして対策が進められてきました事業

32

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第3章 原子力発電所事故関連

第3章

者は1992年に通商産業省からの要請を受けて確率論的安全評価の実施とアクシデントマネジメント(AM)対策の整備を進め東京電力福島第一原子力発電所においてもAM対策が整備されていましたしかし今回の事故を踏まえますとこのAM対策は外的事象特に津波により広範囲に電気系統が使用不能に陥る共通原因故障についての想定が十分でなくあらかじめ用意されていたAM対策は厳しい環境の中で十分に機能せず炉心溶融更には大規模放出を防ぐことができませんでした 更に従来の我が国はスリーマイルアイランド原子力発電所事故チェルノブイリ原子力発電所事故及び2001年の同時多発テロ等欧米等で進展している炉心損傷にいたる可能性のある事態に対する対策(シビアアクシデント対策)を含め国際機関や欧米諸国等の動向や研究成果に関する情報を入手し自らの規制活動に活用する努力が十分ではありませんでした 先般の事故を踏まえ2011年 6月原子力災害対策本部は「原子力安全に関するIAEA閣僚会議に対する日本国政府の報告書」においてこれまで事業者による自主的な取組みとしていたことを改めこれを法規制上の要求にするべきこと等シビアアクシデント対策に関する教訓をとりまとめました 原子力安全保安院は教訓のとりまとめと並行して2011年 6月 7日中央制御室の作業環境の確保通信設備の確保高線量対応防護服等の資機材の確保及び放射線管理のための体制の整備水素爆発防止対策並びにがれき撤去用の重機の配備の5項目を直ちに取り組むべき措置としてその実施を指示し立入検査等を通じて実施状況の確認を行いました また原子力安全委員会は2011年 10月に「発電用軽水型原子炉施設におけるシビアアクシデント対策について」を決定し従来多重防護の考えに基づく防護策の要求は設計基準事象への対処の範囲(IAEA-INSAG の多重防護策の定義による第3の防護レベルまで)にとどまっていましたが今後はIAEA-INSAG の定義による第4の防護レベルに相当する「シビアアクシデントの発生防止影響緩和」に対しても規制上の要求や確認対象の範囲を拡大することを含めて安全確保策を強化することとすべきとしました 政府においては2012年 1月に原子炉等規制法の改正を含む原子力組織制度改革法案を国会に提出しましたその後与党野党の協議の上法案を国会に提出し同年6月20日法案が成立していますまた

法律は同年6月27日に公布されています同法案ではこれらを踏まえてシビアアクシデントも考慮した安全規制への転換のための改正が含まれています 更に原子力安全保安院は前述のとおり東京電力福島第一原子力発電所事故の技術的知見としてシビアアクシデント時の代替注水機能の強化格納容器の過圧過温破損防止水素爆発の防止対策といったシビアアクシデント管理対策を含む30項目の対策をとりまとめた上でシビアアクシデント対策についてはトップダウンの方法論により今後体系的に検討整理する必要性を示しましたまた深層防護の考え方の徹底シビアアクシデント対策の多様性柔軟性操作性内的事象外的事象を広く包含したシビアアクシデント対策の必要性等今後の規制に反映すべき視点を挙げました 原子力安全保安院は上記の視点を踏まえ外部有識者の意見を聴きながらシビアアクシデント対策規制の基本的考え方について検討を進めています 加えて我が国は前述のとおり原子力発電所に対するストレステストとして2段階の評価を行っていますが原子力安全保安院は一次評価では主に燃料の重大な損傷を防止するとの観点でアクシデントマネジメント対策及び緊急安全対策の有効性を確認しています今後実施される予定である二次評価においてはIAEAの勧告及び助言も踏まえてシビアアクシデントに至った以降の対応の有効性についても燃料が損傷した後の緩和手段の有効性やクリフエッジに至るまでの時間の評価等について確認していきます その上で原子力安全保安院はシビアアクシデントマネジメントに係る中長期の取組として東京電力福島第一原子力発電所事故から得られた技術的な知見IAEAの安全基準や欧州のストレステストの実施状況等も参照の上検討を進めました 原子力安全保安院や原子力安全委員会の活動は新たな原子力規制機関に適切に引き継ぐこととされましたまた新たな原子力規制機関の下ではシビアアクシデント対策を法令要求化する改正原子炉等規制法に基づき事業者による総合的なアクシデントマネジメントプログラムの策定等について監視監督していくこととしています

6緊急時準備と対応

 原子力安全保安院は前述のとおり2011年 6月

33

第2節 東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえた規制当局の取組

第3章

備等の予算措置を講じているところです 更にオフサイトセンターの具体的な在り方を検討すべく原子力安全保安院において専門家による意見聴取会を開催しているところです意見聴取会や関係自治体の意見等を踏まえつつオフサイトセンターが担うべき役割を明確にし放射性物質の拡散影響や複合災害から受ける影響等も勘案してその立地地点や備えるべき遮へい機能等を検討することとしています なお新たな防災体制は今後新たな規制機関の設置と同時に行うことを想定していますがそれまでの間も万が一の事態発生に備え原子力災害対策本部事務局機能の官邸への集中と強化を進めるとともにPAZ の考え方を踏まえ直ちに避難に係る指示を行う等可能な限りこれらの新たな考え方を取り入れた対応を行えるようにすることとしています UPZ の導入により避難をあらかじめ準備しておくべき地域が大幅に拡大しまた関係する市町村の数も増加することからこれらの自治体における地域防災計画の策定準備も進められています 事故時に自治体や住民に対する情報提供が適切に行われていなかった点についても厳しい批判があり適切な時期に適切なデータを提供できなかったことから政府は情報を隠蔽しようとしたのではないかとの厳しい批判が寄せられました今後はこうした反省に立ち緊急時における情報提供の仕組みについても見直し通信システムも強化することとしています なお先に述べたとおり規制と利用の分離及び原子力安全規制の一元化の観点から政府は環境省に原子力規制庁を設置する等関係組織の再編及びその機能強化を行うこととしており原子力組織制度改革法案等を第180回通常国会に提出しましたその後与党野党の協議の上より独立性の高い原子力規制委員会を設置すべく法案を国会に提出し2012年 6月 20日法案が成立し同年6月27日に公布されています 今後速やかに原子力災害対策指針を策定することとしておりオフサイトセンターの在り方等の課題等について検討を進めその結果を原子力災害対策指針に反映させていくとともに緊急時に各機関が円滑な活動を実施できるよう防災基本計画を修正したほか原子力災害対策マニュアルについても改正することを予定しています

7日緊急時における発電所構内通信手段の確保等万一シビアアクシデントが発生した場合でも迅速に対応を確保する観点から直ちに取り組むべき緊急時における発電所構内通信手段の確保等の措置を整理指示しその実施状況を確認しました更に2012年 3月に原子力安全保安院がとりまとめた東京電力福島第一原子力発電所事故の技術的知見に関する報告書の中でとりまとめた30の対策には緊急時対策として事故時の指揮所の確保整備通信機能確保計装設備の信頼性確保プラント状態の監視機能の強化事故時モニタリング機能の強化及び非常事態への対応体制の構築訓練の実施が含まれていますこれらの対策については今後安全規制に反映すべき点として整理したものです 発電所外の広範囲の緊急時対策としては前述のとおり原子力安全委員会では『原子力施設等の防災対策について』の見直しについての検討を行い2012年3月予防的防護措置を準備する区域(PAZ)を概ね5km とすること緊急防護措置を準備する区域(UPZ)を概ね30km とすること放射性物質を含んだプルーム(気体状あるいは粒子状の物質を含んだ空気の一団)による被ばくの影響を避けるための防護措置を実施する地域(PPAPlume Protection Planning Area)を概ね50km(参考値)とすること等の考え方が示されました 加えて今回原子力災害対策本部事務局が情報のハブ機能を十分に果たすことが出来なかったこと原子力災害現地対策本部についても初期段階での人員参集の遅れや拠点となるオフサイトセンター機能の不全が生じてしまったこと等の反省に立ち政府の防災体制の全面的な見直しを図ることとしています具体的には原子力災害対策本部の事務局を官邸内に速やかに立ち上げ官邸を拠点として情報収集と対応情報発信に当たること原子力発電所の状況を速やかに把握するため電気事業者本社等の対策拠点に審議官級の職員を派遣するとともに官邸原子力安全規制機関電気事業者の対策拠点原子力発電所等を結ぶテレビ会議システムを立ち上げる等の対策を講ずることとしました 原子力安全保安院はオフサイトセンターについても緊急的な対策として昨年来衛星回線の拡充等の通信体制の強化放射線防護対策としての防護服やマスクの充実食料飲料水の備蓄の拡充代替オフサイトセンターに搬入可能な可搬型通信資機材の整

34

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第3章 原子力発電所事故関連

第3章

7国際協力に係る取組

 政府は東京電力福島第一原子力発電所事故から得られる知見と教訓を国際社会と共有し国際的な原子力安全の強化に貢献していくことを責務であると認識し2011年 6月の IAEA閣僚会議及び同年9月の IAEA総会の機会を捉え事故についての包括的な報告を行ってきました事故発生以降の近隣国及び国際社会とのコミュニケーション国際社会との協力原子力安全関連条約に関する取組IAEA安全基準への貢献及びその活用並びに国際的なピアレビューを踏まえ引き続き各国機関との一層効果的な連携を図ります

第3節 原子力規制委員会

1 規制組織の在り方に係る反省を踏まえた取組

 2011年 6月に公表された「原子力安全に関するIAEA閣僚会議に対する日本国政府の報告書」において「原子力安全確保に関する行政組織が分かれていることにより国民に対して災害防止上十分な安全確保活動が行われることに第一義的責任を有する者の所在が不明確であった」と指摘されているように東日本大震災以前まで我が国の原子力安全規制行政体制においてその第一義的責任を有する者の所在が不明確でした この反省を踏まえ政府は「原子力安全規制に関する組織等の改革の基本方針」(2011年 8月 15日閣議決定(以下基本方針))を公表しましたその中には「当面の安全規制組織の見直しの方針」として「①規制と利用の分離」「②原子力安全規制に係る関係業務の一元化」「③危機管理」「④官民を問わず質の高い人材の確保」「⑤規制の在り方や関係制度の見直し」という五つの見直しの方針や「新組織を設置するために必要な法律案の立案等の準備を2012年 4月の設置を目指して行うこと」「東京電力福島第一原子力発電所における事故調査検証委員会による組織の在り方に係る検証結果等が示された場合は柔軟に対応する」旨が盛り込まれましたまた「中長期的な原子力政策及びエネルギー政策の見直しや事故調査検証委員会による検証の結果を含めてより広範な検討を進め新組織が担うべき業務の在り方やより実効的で強

力な安全規制組織の在り方について2012年末を目途に成案を得る」こととされました 更にこの基本方針を基に原子力安全規制に関する組織のあり方原子力安全規制強化のあり方等について検討するため原発事故の収束及び再発防止担当大臣が当該分野に関する専門的知見を有する者に参集を求め意見を聞くことを目的として原子力事故再発防止顧問会議が開催されました2011年 10月 4日から12月 2日にかけて4回開催され「原子力事故再発防止顧問会議提言」がとりまとめられましたこの中で①「規制と利用の分離」②「一元化」③「危機管理」④「人材の育成」⑤「新安全規制」⑥「透明性」⑦「国際性」の七つの原則に基づいて原子力安全規制組織等の改革を進めていくべきであるとされました これらの議論を踏まえ原子力安全規制行政に係る組織及び制度の改革に関し国会における審議を経て衆議院環境委員長から「原子力規制委員会設置法案」が提案され2012年 6月 20日に可決成立しました

2原子力規制委員会設置法の概要

 このような経緯を踏まえ成立した原子力規制委員会設置法の概要については以下のとおりとなっています

原子力規制委員会設置法について(1)目的

 原子力利用に関する政策に係る縦割り行政の弊害を除去し並びに一の行政組織が原子力利用の推進及び規制の両方の機能を担うことにより生ずる問題を解消するため原子力利用における事故の発生を常に想定しその防止に最善かつ最大の努力をしなければならないという認識に立って確立された国際的な基準を踏まえて原子力利用における安全の確保を図るため必要な施策を策定しまたは実施する事務を一元的につかさどるとともにその委員長及び委員が専門的知見に基づき中立公正な立場で独立して職権を行使する原子力規制委員会を設置しもって国民の生命健康及び財産の保護環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的とする

(2)概要 ① 原子力規制委員会の組織及び機能

35

第4節 東京電力福島第一原子力発電所1~4号機の廃止に向けた取組

第3章

  環境省の外局として原子力規制委員会を設置(いわゆる「3条委員会」)(委員長及び委員4名は国会同意を得て総理が任命)

  原子力規制委員会の事務局として原子力規制庁を設置

  原子力安全規制核セキュリティ核不拡散の保障措置放射線モニタリング放射性同位元素等の規制を一元化

  (独)原子力安全基盤機構(JNES)を所管(必要となる法制上の措置を速やかに講じてJNESを原子力規制庁に統合)

  (独)日本原子力研究開発機構(JAEA)及び(独)放射線医学総合研究所の業務の一部を共管

 ② 原子力安全規制の転換

  重大事故対策の強化  最新の知見に基づく規制の実施(バックフィット制度)

  40年運転制限制の導入 等

 ③ 原子力防災対策の強化

  内閣に原子力防災会議を設置し関係機関との緊密な連携の下で原子力防災対策を推進

  原子力災害対策指針の法定化

  原子力災害対策本部の強化緊急事態解除後の事後対策の円滑化

  緊急時における原子力災害対策本部長(総理)の権限を明確化

(3)施行期日

  公布の日(2012年 6月 27日)から3月以内で政令で定める日

   (国会同意人事の手続きは公布日から施行)  核不拡散の保障措置放射線モニタリングの実施機能放射性同位元素等の規制の一元化等は2013年 4月 1日

  原子炉等規制法の改正は施行日施行日から10月以内で政令で定める日1年3月以内で政令で定める日と段階的に施行

  原子力災害対策特別措置法の改正の一部は施行日から6月以内で政令で定める日

第4節 東京電力福島第一原子力発電所1~4号機の廃止に向けた取組

1冷温停止に向けた取組

 事故の収束に向けては2011年 4月 17日に東京電力がとりまとめた「福島第一原子力発電所事故の収束に向けた道筋」(以下道筋)が着実かつ極力前倒しされて実施されるよう検討作業のフォローアップや必要な安全性の確認を行ってきました 2011年5月17日には原子力災害対策本部が「東京電力福島第一原子力発電所事故の収束検証に関する当面の取組のロードマップ」を公表し事故の収束までの政府の取組を示しましたまた同年5月17日及び同年6月17日には東京電力が道筋の改訂版をとりまとめ窒素封入や循環冷却システムの設置運転等の原子炉使用済燃料プールの安定的な冷却に向けた取組み汚染水処理設備の設置等の放射性物質で汚染された水の閉じこめ保管処理再利用の取組み飛散防止剤や原子炉建屋カバリングの設計導入支援等の大気土壌での放射性物質の抑制に向けた取

20 左の図緑色部分の組織と事務が右の図の原子力規制委員会に一元化されました

【これまでの規制体制】 【新しい規制体制】

内閣府経済産業省

経済産業省

文部科学省

原子力委員会

原子力規制委員会

委員長+委員4名(国会同意人事)

原子力規制庁(事務局)

環境省

規制規制ダブルチェックで規制

資源エネルギー庁

資源エネルギー庁

電力会社等 研究機関大学等

電力会社研究機関大学等

核物質を守るための対策の総合調整

原子炉の安全審査のダブルチェック等

発電用原子炉の安全規制 等

原子力安全委員会

原子力安全保安院

試験研究炉等の安全規制核不拡散の保障措置の規制(1)放射線のモニタリングSPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)の運用放射性同位元素等の規制201341より移管

第133-2-1 これまでの規制体制と新しい規制体制20

36

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第3章 原子力発電所事故関連

第3章

組み空間土壌海水等の体系的なモニタリングの実施等の取組みを行いました同年7月19日には道筋のステップ1の目標が概ね予定通りに達成されたことが確認されると共にステップ2に進むにあたり東京電力だけでなく政府もより一体となり事故収束に取り組む観点から東京電力の「道筋」と政府の「ロードマップ」を統合した「東京電力福島第一原子力発電所事故の収束に向けた道筋 当面の取組のロードマップ(改訂版)」を発表しました同年10月 3日にはステップ2完了後から廃炉作業の開始までの期間における安全確保のための基本目標を「中期的安全確保の考え方」として定め東京電力に対してこれに適合するよう指示しましたこれを受けて東京電力から提出された報告書について専門家の方々による緻密な検証作業を経て万一不測の事態が発生したとしても敷地境界における被ばく線量が十分低い状態を維持できるとの評価結果を得ました これを踏まえ東京電力福島第一原子力発電所が冷温停止状態に達したことを確認しステップ2の完了を判断したところです一方で漏水等のトラブルが発生していた状況を受けて2012年 3月 28日原子力安全保安院は東京電力に対して主要設備を仮設設備から恒久的な設備に更新すること等中長期的な信頼性向上のために優先的に取り組むべき事項についての具体的な実施計画を策定するよう指示しました

2中長期ロードマップに基づく取組

 ステップ2完了(2011年 12月)以降はそれまでのプラント安定化に向けた取組から確実にプラントの安定状態を維持する取組に移行するとともに1~4号機の使用済燃料プールからの燃料の取り出し1~3号機の原子炉圧力容器及び原子炉格納容器からの燃料デブリ(燃料と被覆管等が溶融し再固化したもの)の取り出し等廃止措置に向けた中長期に亘る取組が進められています このような中長期の取組については同年8月に原子力委員会に設置された東京電力福島第一原子力発電所における中長期措置検討専門部会において技術的課題研究開発項目が整理されるとともに「燃料デブリ取り出し開始までの期間は10年以内を目標廃止措置が全て終了するまでは30年以上の期間を要するものと推定される」との整理がなされています 同年11月 9日には経済産業大臣及び原発事故収束再発防止担当大臣より廃止措置等に向けた中長

期ロードマップの策定等についての指示が東京電力資源エネルギー庁原子力安全保安院に出されました 更に同年12月 16日ステップ2完了に伴い政府東京電力統合対策室を廃止し原子力災害対策本部の下中長期ロードマップの策定と進捗管理を行う政府東京電力中長期対策会議が設置され同年12月21日同会議において「東京電力福島第一原子力発電所1~4号機の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ」(以下中長期ロードマップ)が決定されました(第134-2-1) 中長期ロードマップではステップ2完了から2年以内の開始を目標とした使用済燃料プール内の燃料取り出し開始までを第1期と定義し使用済燃料プール内の燃料取り出し開始のための準備作業を行うとともに燃料デブリ取り出しに必要な研究開発を開始し成果を活用した現場調査に着手する等廃止措置等に向けた本格的な作業開始までの集中的な準備を行います 第1期以降ではステップ2完了から10年以内の開始を目標とした燃料デブリ取り出し開始までを第2期としその後の廃止措置終了までを第3期と定義しました また中長期ロードマップの進捗管理を着実に行うため政府東京電力中長期対策会議の下に「運営会

ステップ1 2 第 1期 第2期 第3期

現在(ステップ2完了) 2年以内 10年以内 30~40年後

<安定状態達成>冷温停止状態放出の大幅抑制

要員の計画的育成配置意欲向上策作業安全確保に向けた取組(継続実施)

使用済燃料プール内の燃料取り出しが開始されるまでの期間(2年以内)

燃料デブリ取り出しが開始されるまでの期間(10年以内)

廃止措置終了までの期間(30~ 40年後)

使用済燃料プール内の燃料の取り出し開始(4号機2年以内)発電所全体からの追加的放出及び事故後に発生した放射性廃棄物(水処理二次廃棄物ガレキ等)による放射線の影響を低減しこれらによる敷地境界にお け る 実 効 線 量1mSv年未満とする原子炉冷却滞留水処理の安定的継続信頼性向上燃料デブリ取り出しに向けた研究開発及び除染作業に着手放射性廃棄物処理処分に向けた研究開発に着手

全号機の使用済燃料プール内の燃料の取り出しの終了建屋内の除染格納容器の修復及び水張り等燃料デブリ取り出しの準備を完了し燃料デブリ取り出し開始(10 年以内目標)原子炉冷却の安定的な継続滞留水処理の完了放射性廃棄物処理処分に向けた研究開発の継続原子炉施設の解体に向けた研究開発に着手

燃料デブリの取り出し完了(20~25年後)廃止措置の完了(30 ~ 40 年後)放射性廃棄物の処理処分の実施

第134-2-1  中長期ロードマップ(2011年 12月 21日)の概要

37

第4節 東京電力福島第一原子力発電所1~4号機の廃止に向けた取組

第3章

議」が設置され中長期ロードマップの個別の計画ごとの進捗管理が行われています同会議の内容資料は経済産業省ホームページで公開されるとともに立地地域の地元自治体に対してはTV会議訪問説明等により個別情報提供がなされています 加えて中長期的に「冷温停止状態」を維持することを始めとして発電所の安全を確保するためには適切な保守管理の実施や設備の更新も含め信頼性向上に向けた取組を引き続き実施していくことが必要不可欠であることから2012年 3月 28日原子力安全保安院から東京電力に対し設備機器に関する中長期の信頼性の向上のための指示がなされ同年5月11日までに「実施計画」の提出が求められましたこれを受け政府東京電力中長期対策会議では東京電力が提出する「実施計画」を踏まえた中長期ロードマップの改訂を行い工程を厳格に管理することにより更なる安全性信頼性の確保を図ることとしています このように廃炉に向けた取組は中長期ロードマップに基づき発電所の安全に万全を期しながら国内外の叡智を結集し政府と東京電力が一体となって廃炉に至る最後の最後まで全力を挙げて取り組まれていきます

3研究開発

 先記の2011年11月9日における枝野経済産業大臣及び細野原発事故収束再発防止担当大臣からは資源エネルギー庁原子力安全保安院及び東京電力に対し中長期ロードマップの策定とともに廃止措置等のための研究開発計画の策定について指示が出されました これを受け資源エネルギー庁及び東京電力は文部科学省(独)日本原子力研究開発機構(JAEA)及び東京電力福島第一原子力発電所の設計建設に関して知見経験を有するプラントメーカーである東芝及び日立製作所日立GEニュークリアエナジーの協力を得ながら同年12月 21日に開催された政府東京電力中長期対策会議において研究開発計画を決定しました本計画では研究開発を作業に応じて「使用済燃料プール燃料取り出しに係る研究開発」「燃料デブリ取り出し準備に係る研究開発」「放射性廃棄物処理処分に係る研究開発」及び「遠隔操作機器に係る技術開発」に分類し実施することとしています 特に原子力施設の将来の廃炉安全基盤の強化のための技術基盤の整備国として知見経験の蓄積

共有を図ることが必要な研究開発等は国が行うべきものとして体制強化を図りながら実施します また同会議において研究開発計画の進捗管理を行う場として研究開発推進本部が設置され個別研究開発プロジェクトのマネジメント国内外叡智の結集のための具体的取組研究拠点構想等について集中的に議論を行ってきました 2012年 2月には「東京電力福島第一原子力発電所の廃止措置等に向けた燃料デブリ取出し準備の機器装置開発等に係る技術カタログ検討ワークショップ」を開催し研究開発プロジェクトにおいて採用すべき技術シーズのカタログの充実を図るため国内有識者を集め求められる技術ニーズ仕様を共有し意見を交換しました また同年3月には「東京電力福島第一原子力発電所1~4号機の廃止措置等に向けた研究開発計画に係る国際ワークショップシンポジウム」を開催し研究開発計画において取り組む課題及び対応の方向について国際的な情報発信を実施するとともに国内外の有識者専門家との間で課題への対応の方向について討議を実施し有識者専門家より技術的な提案アドバイスを受けました 更にプロジェクトの実施に当たり的確なマネジメントを行っていく観点から2011年度末に個々の研究開発プロジェクトの実績評価及び2012年度以降の計画見直しの方向を取りまとめた本見直しでは現場ニーズをプロジェクトに的確に反映するための体制の強化や中長期視点での人材確保育成を意識した取組を進めていくこととしています 今後も本計画に沿って東京電力福島第一原子力

燃料デブリ取出し準備ワーキングチーム

機器装置開発等サブワーキングチーム(SWT)

報告審議 報告審議

研究開発推進本部

報告審議

事務局

使用済燃料プール燃料取り出しワーキングチーム

炉内状況把握解析SWT

放射性廃棄物処理処分ワーキングチーム

遠隔技術タスクフォース

燃料デブリ性状把握処理準備SWT

23FY-

燃料集合体の長期健全性

25FY-

損傷燃料等の処理技術

23FY-

建屋内の遠隔除染

24FY-

総合的線量低減計画策定

23FY-

PCVRPV健全性評価

23FY-

建屋PCV漏えい箇所特定

23FY-

建屋PCV止水補修

23FY-

PCV内部調査

25FY-

RPV内部調査

27FY-

デブリ炉内構造物取出し

25FY-

デブリ燃料収納技術

24FY-

デブリ臨界管理

23FY-

事故進展解析

23FY-

模擬デブリ特性把握

23FY-

デブリ処置技術

24FY-

デブリ計量管理方策

28FY-

実デブリ性状分析

23FY-

汚染水処理の廃棄物安定化

23FY-

廃棄物の処理処分検討

第134-3-1 研究開発体制

38

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第3章 原子力発電所事故関連

第3章

発電所1~4号機の廃止措置等に向けた中長期の取組を進める上で必要な研究開発を着実に進めていきます なお研究開発の成果として得られた知見技術は国内外の将来の原子力施設の廃止措置や安全基盤の強化等にも広く役立つものと期待されます

第5節 原子力損害賠償

1 原子力損害賠償紛争審査会の設置及び指針の背景

 2011年3月11日の福島原子力発電所事故発生以降多くの住民が避難生活や生産及び営業を含めた事業活動の断念等を余儀なくされており被害者の方々が一日でも早く安心で安全な生活を取り戻せるよう迅速公平かつ適正な救済が必要です政府は今回の事故に関して原子力損害の賠償を円滑に進められるよう原子力損害の範囲など当事者による自主的な解決に資する一般的な指針の策定等の業務を行うため原子力損害の賠償に関する法律に基づき2011年 4月 11日より「原子力損害賠償紛争審査会」を設置しました 同審査会においては被害者の迅速な救済を図るため原子力損害に該当する蓋然性の高いものから順次指針として提示することとしました 紛争審査会は同年4月28日には政府等による指示等に基づく損害の範囲を示す第一次指針を策定しその後第二次指針(同年5月31日)及び第二次指針追補(同年6月31日)の策定により指針で示す原子力損害の範囲を拡大し同年8月5日には原子力損害の範囲の全体像を示す中間指針を策定しましたその間各省庁に加え地方公共団体事業者団体等からヒアリングを行うとともに17分野76名の専門委員による各分野の被害状況調査を行い被害状況等の把握に努めました その後紛争審査会では同年12月 6日に自主的避難等に係る損害に関する中間指針第一次追補2012年 3月 16日政府による避難区域等の見直し等に係る損害についての中間指針第二次追補を策定しましたまた指針に類型化した損害として明記されていないものが賠償の対象とならないというものではなく個別具体的な事情に応じて事故との相当因果関係のある損害として賠償され得ることも指針に明記さ

れています

(1) 原子力損害の範囲の全体像を示す中間指針の概要

 中間指針で示された項目は以下のとおりです 政府による避難等の指示等に係る損害  政府による航行危険区域等及び飛行禁止区域の設定に係る損害

  政府等による農林水産物等の出荷制限指示等に係る損害

 その他の政府指示等に係る損害  いわゆる風評被害(一般的基準農林漁業食品産業観光業製造業サービス業等輸出)

 いわゆる間接損害 放射線被曝による損害 被害者への各種給付金と損害賠償金との調整 地方公共団体等の財産的損害等

(2) 自主的避難に係る損害についての中間指針第一次追補の概要

 中間指針の策定の際事故との相当因果関係を判断する客観的基準を見いだすことが難しいことから継続審議事項とされた政府等の指示に基づかない「自主的避難」について2011年 12月 6日に自主的避難等に係る損害に関する中間指針第一次追補を策定しました[基本的考え方] 事故発生当初の十分な情報がない時期は大量の放射性物質の放出による被ばくへの恐怖不安を抱くことは年齢等問わず一定の合理性が認められる 事故発生からしばらく経過後は放射線量等に関する情報がある程度入手できるようになった状況下にあり少なくとも子供妊婦の場合は放射線への感受性が高い可能性があることが一般に認識されていることから被ばくへの恐怖不安を抱くことは一定の合理性が認められる 上記恐怖不安による自主的避難のみならず自主的避難を行わずに滞在し続けた者にも賠償すべき損害が認められる

[自主的避難等対象区域] 発電所からの距離避難指示等対象区域との近接性政府等から公表された放射線量に関する情報自主的避難の状況等を総合的に勘案して対象区域(福島県内の避難指示対象区域を除く23市町村)を明示

39

第5節 原子力損害賠償

第3章

(3) 政府による避難区域等の見直し等に係る損害についての中間指針第二次追補の概要

 政府の原子力災害対策本部が同年12月 16日原子炉は安定状態に達し事故そのものは収束に至ったことを確認し同月26日に避難指示区域の見直しに関する基本的考え方及び今後の課題を示したこと等を踏まえ紛争審査会は本年3月16日政府による避難区域等の見直し等に係る損害についての中間指針第二次追補を策定しました中間指針第二次追補で示された項目は以下のとおりです 避難区域見直し後の避難費用及び精神的損害 旧緊急時避難準備区域の避難費用及び精神的損害 特定避難勧奨地点の避難費用及び精神的損害 不動産の価値の喪失または減少等について 営業損害就労不能等に伴う損害 自主的避難等に係る損害 除染等に係る損害

2 原子力損害賠償紛争解決センターの設置

 原子力損害賠償紛争審査会は今回の東京電力福島第一第二原子力発電所事故により被害を受けた方々の原子力事業者(東京電力)に対する損害賠償について円滑迅速かつ公正に紛争を解決することを目的として同審査会の下に「原子力損害賠償紛争解決センター」を設置し2011年 9月東京都港区と福島県郡山市の2カ所において業務を開始しました同センターにおいては紛争の当事者(被害者または原子力事業者)の申立てにより仲介委員が申立人と相手方の双方から事情を聴き取って損害の調査検討を行い双方の意見を調整しながら和解案を提示する和解の仲介業務を実施しています 同センターでは2012年 2月以降多くの申立に共通すると思われる問題点に関して一定の基準を示す「総括基準」を順次策定公開しているほかセンターで実施されている和解仲介の結果を広く周知し今後の賠償を円滑に進めていく上での参考とするため和解実例を順次公開しています 更に同年7月には和解仲介の申立に関して出来る限り被害者の方々の居所等の近くで話し合いを実施する等きめ細やかな対応を実施するため福島県内の各地域(県北会津いわき相双)に同センター福島事務所の支所を設置しました

3 原子力損害賠償補償契約に関する法律に基づく措置

 政府は原子力損害賠償補償契約に関する法律に基づき原子力損害賠償補償契約を原子力事業者と締結しており地震噴火等により原子力損害が発生した場合にはこの契約に基づく補償金を支払うこととなっています 今般の事故を受け政府は2011年 11月原子力損害賠償補償契約に基づき東京電力福島第一原子力発電所分の1200億円を東京電力へ支払いました

4原子力損害賠償支援機構の設立の背景

 2011年 3月 11日の東日本大震災により東京電力福島原子力発電所事故による大規模な原子力損害の発生を受け2011年 6月 14日に「東京電力福島原子力発電所事故に係る原子力損害の賠償に関する政府の支援の枠組みについて」が閣議決定され東京電力福島原子力発電所事故に係る原子力損害の賠償に関する政府の支援の枠組みについて政府としてこれまで原子力政策を推進してきたことに伴う社会的な責任を負っていることに鑑み ① 被害者への迅速かつ適切な損害賠償のための万全の措置

 ② 東京電力福島原子力発電所の状態の安定化事故処理に関係する事業者等への悪影響の回避

 ③電力の安定供給の三つを確保するため「国民負担の極小化」を図ることを基本として損害賠償に関する支援を行うための万全の措置を講ずることが確認されました こうしたことを受け2011年 8月 10日に原子力損害賠償支援機構法及び関連する政省令が公布施行され原子力事業に係る巨額の損害賠償が生じる可能性を踏まえ原子力事業者による相互扶助の考えに基づき将来にわたって原子力損害賠償の支払等に対応できる支援組織を中心とした仕組みを構築するため同年9月12日に原子力損害賠償支援機構が設立されました なお原子力損害賠償支援機構法の附則において原子力損害賠償の実施状況等を踏まえ原子力損害の賠償に関する法律の改正等の抜本的な見直しをはじめとする必要な措置を講ずるものとされています

40

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第3章 原子力発電所事故関連

第3章

5原子力損害賠償支援機構の枠組み

 原子力損害賠償支援機構(以下機構)を中心とした原子力事業者による相互扶助の枠組みは以下のようになっています

(1)原子力事業者からの負担金の収納 原子力損害が発生した場合の損害賠償の支払等に対応するため損害賠償に備えるための積立てを行います 機構は機構の業務に要する費用として原子力事業者から負担金の収納を行います 機構に第三者委員会的な組織として「運営委員会」を設置し原子力事業者への資金援助に係る議決等機構の業務運営に関する議決を行います

(2)機構による通常の資金援助 原子力事業者が損害賠償を実施する上で機構の援助を必要とするときは機構は運営委員会の議決を経て資金援助(資金の交付株式の引受け融資社債の購入等)を行います 機構は資金援助に必要な資金を調達するため政府保証債の発行金融機関からの借入れをすることができます

(3)機構による特別資金援助①特別事業計画の認定 機構が原子力事業者に資金援助を行う際政府の特別な支援が必要な場合原子力事業者と共に「特別事業計画」を作成し主務大臣の認定を求めます 特別事業計画には原子力損害賠償額の見通し賠償の迅速かつ適切な実施のための方策資金援助の内容及び額経営の合理化の方策賠償履行に要する資金を確保するための関係者(ステークホルダー)の協力の要請経営責任の明確化のための方策等について記載します 機構は計画作成に当たり原子力事業者の資産の厳正かつ客観的な評価及び経営内容の徹底した見直しを行うとともに原子力事業者による関係者に対する協力の要請が適切かつ十分なものであるかどうかを確認します 主務大臣は関係行政機関の長への協議を経て特別事業計画を認定します

②特別事業計画に基づく事業者への援助 主務大臣の認定を受け機構は特別事業計画に基づく資金援助(特別援助)を実施するため政府は機構に国債を交付し機構は国債の償還を求め(現金化)原子力事業者に対し必要な資金を交付します 政府は国債が交付されてもなお損害賠償に充てるための資金が不足するおそれがあると認めるときに限り予算で定める額の範囲内において機構に対し必要な資金の交付を行うことができます 機構は政府保証債の発行等により資金を調達し事業者を支援します

③機構による国庫納付 機構から援助を受けた原子力事業者は特別負担金を支払います 機構は負担金等をもって国債の償還額に達するまで国庫納付を行います ただし政府は負担金によって電気の安定供給等に支障を来しまたは利用者に著しい負担を及ぼす過大な負担金を定めることとなり国民生活国民経済に重大な支障を生ずるおそれがある場合機構に対して必要な資金の交付を行うことができます

④損害賠償の円滑化業務 機構は損害賠償の円滑な実施を支援するため(ア)被害者からの相談に応じ必要な情報の提供及び助言を行うとともに(イ)原子力事業者が保有する資産の買取り及び(ウ)賠償支払の代行(原子力事業者からの委託を受けて賠償の支払国または都道府県知事の委託を受けて仮払金の支払)を行うことができます 平成二十三年原子力事故による被害に係る緊急措置に関する法律案に基づく国による仮払金

6特別事業計画策定の経緯と支援の経過

① 2011年11月4日に特別事業計画を認定(緊急特別事業計画の認定)

② 2012年 2月 13日に認定特別事業計画の変更認定

③ 2012年5月9日に認定特別事業計画の変更認定(総合特別事業計画の認定)

 機構は東京電力による賠償金の速やかな支払を確

41

第5節 原子力損害賠償

第3章

保するため2012年 2月に緊急特別事業計画の変更を行いましたこの中でその時点での要賠償額の見通し1兆7003億 2200万円から原子力損害の賠償に関する法律第7条第1項に規定する賠償措置額として既に東京電力が受領している1200億円を控除した金額を損害賠償の履行に充てるための資金として2012年度までに交付することとしていましたしかしながらその後新たな賠償基準の策定等により損害賠償の見通しが2兆5462億7100万円となったため機構は東京電力に対し当該要賠償額から上記1200億円を控除した2兆4262億 7100万円を損害賠償の履行に充てるための資金として交付することとしていますなお交付の時期についてはすでに機構が交付した1兆1168億円(同年7月26日時点)を控除した金額を2013年度までに交付する予定です また原子力損害賠償支援機構法第38条第1項の規定に基づき機構の業務に要する費用に充てるため各電力会社が負担する負担金については同年3月30日に2011年度一般負担金年度総額を815億と決定しました

7賠償の実績及び業務の改善

(1)賠償に向けた体制の整備及び賠償の実績 東京電力は2011年4月15日に国の「原子力発電所事故による経済被害対応本部」において原子力災害対策特別措置法の規定に基づき当面の必要な資金を「仮払補償金」として支払いするよう決定がなされたことを受け同日仮払補償金の開始を公表しましたまた同社は原子力損害賠償紛争審査会による中間指針(2011年 8月 5日)を踏まえ同年8月30日に個人の本賠償2011年 9月 21日に法人個人事業者の本賠償の開始を公表するとともに本賠償の対象賠償額の算定基準等を提示しました(法人個人事業者については同年9月21日に発表)個人事業者ともに同年9月に請求書送付受付(一次請求同年3~8月分)を開始し同年10月 5日に本賠償の支払いを開始しました2012年 7月末までに仮払補償金本賠償合計で約1兆795億円の支払いが行われています(仮払約1469億円本賠償約9326億円)

(2)賠償業務の改善 東京電力に対しては2011年 10月の本賠償開始後被害者の方々に対して親身親切な損害賠償が行われていない等の不満が多く寄せられておりました東京

電力は機構とともに策定した緊急特別事業計画においてこうした状況を改善すべく「5つのお約束」(迅速な賠償のお支払いきめ細やかな賠償のお支払い原子力損害賠償紛争解決センターの和解仲介案の尊重親切な書類手続き誠実な御要望への対応)を掲げ賠償業務の行程管理の徹底や請求書類の簡素化等東京電力の賠償実施体制の建て直しを行ってきました また機構はこうした東京電力の取組を継続的にモニタリングするほか自ら弁護士行政書士等からなる「訪問相談チーム」を派遣する等賠償の円滑化に向けた取組を行いました こうした取組の結果請求書類の確認や賠償金のお支払いについて計画に定めた目標期間内での対応の実現原子力損害賠償紛争解決センターの和解仲介案の尊重や指針外への対応等一定の改善も見られています

<総合特別事業計画(2012年5月9日認定)のポイント>(1) 東京電力の取組と関係者の協力 国と東京電力の双方には厳しい状況をともに連帯して乗り越えていく重い責務 東京電力はあらゆる手段を総動員し「賠償廃止措置安定供給」の責任を果たす 国はエネルギー政策や原子力政策全体についての責務と相まって責任を果たしていく 国家的難題に直面しているという認識の下関係者全ての持てる力を結集することが必要

(2) 東京電力の新経営体制①原子力損害賠償支援機構が東京電力の総議決権の2分の1超を取得(「一時的公的管理」)するとともに追加的に議決権を取得できる転換権付無議決権種類株式を引き受けることで潜在的には総議決権の3分の2超の議決権を確保②会長以下役員の退任顧問制度全廃退職慰労金の受取辞退 等

(3) 合理化の深掘り10年間で33兆円超のコスト削減を行う①人件費(10年間で12758億円削減)②資材役務経費(10年間で6641億円削減)③買電燃料調達に係る費用(10年間で1986億円削減)

42

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第3章 原子力発電所事故関連

第3章

④その他経費(10年間で9687億円削減)⑤資産売却不動産電気事業資産以外は原則全て売却(2472億円相当(時価ベース))有価証券2011年度から原則3年以内に3301億円相当の有価証券を売却子会社関連会社2011年度から原則3年以内に119社中45社 1301億円相当を売却

(4) 料金改定【前提】燃料費等増を合理化の徹底により圧縮した上で必要最小限の料金改定(3年原価とし柏崎刈羽原発の2013年度4月以降の順次稼働を収支計画の前提として置く)①規制部門で1028料金引上げ(原価算定期間の3年間)を収支計画の前提として置く(注電気事業法に基づく経済産業大臣認可が必要であり査定の結果846になった)②自由化部門は1639料金引上げ(査定の結果1490になった)「自由化料金については総原価洗替えの結果を反映し4月からの差額を割り引く」旨明記

(5) 賠償コスト廃炉コスト①帰還困難地域の財物全損賠償等の新基準を踏まえ約8500億円を積み増し(総額約25兆円)②除染は予算執行の進捗国からの求償等合理的な見積もりが可能になるまで計上せず③廃炉コストは「ロードマップ」に対応した積上げによる費用を今後見積もり

(6) 事業改革(東京電力の方向性改革の段取り)①入札による競争や外部事業者等との連携を通じた最適需給の実現②社内カンパニー(燃料火力送配電小売)(「自前主義」から「外部連携」へ)LNG発電コスト低減に焦点調達集約化インフラ共同運用IPP入札③国際標準に準拠したスマートメーターのオープンな調達企業連携による省エネサービス

(7) 金融機関株主責任財務基盤強化

①金融機関自律的な資金調達力の回復まで与信を維持主要取引機関は融資1兆円追加②機構による株式の引受け株主総会後払込金額総額1兆円21

③既存株主株式の希薄化当面の間 無配

第6節 原子力被災者支援 東京電力福島第一原子力発電所事故では政府による避難屋内退避の指示等により多数の居住者等が避難その他の行動を余儀なくされあるいは事業者が生産及び営業を含めた事業活動の断念を余儀なくされる等東京電力福島第一原子力発電所から半径約30km 圏内を中心に福島県全体のみならず周辺の各県も含めた広範囲に影響を及ぼす事態に至りました 2011年 3月 29日には原子力被災者への生活支援を強化するため原子力災害対策本部の下に原子力被災者生活支援チームが設置され避難受入れ態勢の確保除染体制の確保被災地への物資等の輸送補給被ばくに係る医療の確保環境モニタリングと正確迅速な情報提供等を行ってきました同年5月17日には原子力災害対策本部は「原子力被災者への対応に関する当面の取組方針」及び「原子力被災者への対応に関する当面の取組のロードマップ」を策定公表しこれらに基づき応急仮設住宅の確保計画的避難の実施住民の健康管理がれき汚泥の処理や放射線量等分布マップの作成農地土壌の除染技術開発に関する実証試験の実施等の取組を行ってきたところです 2012年 2月 10日には福島の復興再生に関する施策を総合的に策定し継続的迅速に実施するための組織として復興庁が設置され生活再建策(賠償長期避難者支援自治体ごとの帰還支援)産業振興及び雇用対策放射線対策等(リスクコミュニケーションモニタリング除染区域見直し)等につき関係省庁と連携して被災者支援をより一層推進するための体制が整備されましたまた同年3月30日には「福島復興再生特別措置法」が成立し同年4月5日には2012度予算として復興経費3兆7754億円が計上される等法制度及び予算の側面からも被災者支援を推進す

21 出資額は東京電力A種優先株式 16 億株(払込総額 3200 億円)と東京電力B種優先株式 34 億株(払込総額 6800 億円)の合計

43

第6節 原子力被災者支援

第3章

るための施策が講じられています

1避難指示区域等の設定経緯

 2011年 3月 11日東北地方太平洋沖地震とそれが引き起こした津波により東京電力の福島第一原子力発電所及び福島第二原子力発電所において原子力緊急事態が発生しましたこれを受けて同日政府は原子力緊急事態宣言を発出するとともに原子力災害対策本部を設置しました 事故の発生以降事故の深刻化に伴い住民に避難を求める区域を順次拡大し翌12日に原子力災害対策本部長は福島県知事及び関係市町村長に対し東京電力福島第一原子力発電所から半径20km圏内の住民等の避難を指示しましたまた同月15日には東京電力福島第一原子力発電所から半径20kmから30km圏内の居住者等の屋内退避を指示しました(第136-3-2) 更に同年4月21日には引き続き東京電力福島第一原子力発電所が不安定な状態であることに鑑み同発電所の半径20km圏内について住民等の避難を徹底し生命または身体に対する危険を防止するため

原子力災害対策本部長は福島県知事及び関係市町村長に対し同区域を警戒区域に設定することを指示しました翌22日の午前0時警戒区域が設定され緊急事態応急対策に従事する者以外の者は市町村長の許可なく同区域に立ち入ることができなくなりこの立入制限を徹底するため警戒区域境界に物理的な立入り制限の措置が講じられることとなりました また環境モニタリングにおいて東京電力福島第一原子力発電所の半径20km以遠において積算線量が高い地域が確認されたことから同年4月22日原子力災害対策本部長は福島県知事及び関係市町村長に対し事故発生から1年の期間内に積算線量が20mSvに達するおそれのある区域を計画的避難区域に設定し居住者等を計画的に避難させるよう指示しました 同時に東京電力福島第一原子力発電所から半径20kmから30kmの区域については屋内退避の指示を解除し今後なお緊急時に屋内退避や避難の対応が求められる可能性が否定できない区域(概ね東京電力福島第一原子力発電所から半径20kmから30kmの区域に相当)について原子力災害対策本部長は福島県知事及び関係市町村長に対し当該区域を緊急時避難準備区域に設定し居住者等に避難または屋内退避

浪江町葛尾村

双葉町

大熊町

富岡町

広野町

川内村

田村市

川俣町

伊達市

いわき市

小野町

二本松市

相馬市

福島第二原子力発電所

計画的避難区域

警戒区域

南相馬市飯舘村南相馬市避難指示解除準備区域(2012416~)

南相馬市帰還困難区域(2012416~)

南相馬市居住制限区域(2012416~)

田村市避難指示解除準備区域(201241~)

川内村避難指示解除準備区域(201241~)

川内村居住制限区域(201241~)

避難指示解除準備区域居住制限区域帰還困難区域

警戒区域計画的避難区域

凡例20km

楢葉町

飯舘村帰還困難区域(2012717~)

飯舘村居住制限区域(2012717~)

飯舘村避難指示解除準備区域(2012717~)

楢葉町避難指示解除準備区域(2012810~)

福島第一原子力発電所

約5km

図136-2-1  避難指示区域と警戒区域の概念図(2012年7月31日現在)

図136-1-1  東京電力福島第一原子力発電所に係る避難等の指示の経過

2011年3月11日2123

半径3km圏避難半径3~10km圏屋内退避

3月12日544

半径10km圏避難

3月12日1825

半径20km圏避難

3月15日1100

半径20~30km圏屋内退避

4月21日1100

半径20km圏警戒区域(設定は22日午前0時)

4月22日944

半径20~30km圏屋内退避の解除葛尾村浪江町飯舘村川俣町の一部及び南相馬市の一部避難(計画的避難区域)広野町楢葉町川内村田村市の一部及び南相馬市の一部緊急時避難準備区域

9月30日1811

広野町楢葉町川内村田村市の一部及び南相馬市の一部緊急時避難準備区域の解除

2012年3月30日

川内村田村市南相馬市警戒区域を解除し三つの新たな避難指示区域に見直し(川内村及び田村市は4月1日実施南相馬市は4月16日実施)

6月15日 飯舘村三つの新たな避難指示区域に見直し(7月17日に実施)

7月31日 楢葉町避難指示解除準備区域に見直し(8月10日に実施)富岡町大熊町双葉町及び浪江町海域のうち陸域の約5kmから東側の避難指示区域及び警戒区域を解除

44

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第3章 原子力発電所事故関連

第3章

の準備をさせるよう指示しました

2避難指示区域等の見直し

 東京電力福島第一原子力発電所の事故に伴い設定された避難指示区域及び警戒区域等は原子力発電所の安全性の確認や放射線被ばくの危険性の低下等を踏まえ区域の見直しを実施することとなりました 2011年 8月 9日原子力災害対策本部は緊急時避難準備区域について原子力発電所の安全性評価(水素爆発が生じたり原子炉等の冷却ができなくなる可能性が低くなっていること仮に注水が中断した場合でも発電所から20km以遠において受ける放射線影響が十分小さいこと等)区域内における放射線量の詳細なモニタリングの結果(学校等をはじめとする主要ポイントの周辺を含む測定をしたほとんどの地点で空間線量が十分低いことが確認されたこと)及び公的サービスインフラ等の復旧のめどが立ったことを踏まえ同区域を解除することを決定しました 関係市町村は当該方針に基づき住民の円滑な移転支援学校医療施設等の公的サービスの再開公的インフラの復旧学校グラウンド園庭等の除染を含む実情に応じた「復旧計画」を策定しましたこれを受け原子力災害対策本部は同年9月30日に緊急時避難準備区域を一括して解除することを決定し原子力災害対策本部長から福島県知事及び関係市町村長にその旨指示しました 2011年 12月 26日原子力災害対策本部は「放射性物質の放出が管理され放射線量が大幅に抑えられている」というステップ2の目標達成と完了を受けて東京電力福島第一原子力発電所の事故収束の状況や放射線被ばくの危険性の低下を踏まえ警戒区域(原子力発電所から半径20km の区域)についてはインフラ等の安全確認応急復旧を行うとともに防災防犯対策等について関係者間で十分に調整を図った上で解除することを決定しましたまた避難指示区域(原子力発電所から半径20km の区域及び同半径20km 以遠の計画的避難区域)については関係者と協議した上で放射線量を基準として以下の三つの区域に見直すことを決定しました

① 避難指示解除準備区域 年間積算線量が20mSv以下となることが確実であることが確認された区域同区域においては引き続き避難指示は継続されることとなりますが除染イ

ンフラ復旧雇用対策等の復旧復興のための支援策を迅速に実施し住民の一日でも早い帰還を目指します

② 居住制限区域 年間積算線量が20mSvを超えるおそれがあり住民の被ばく線量を低減する観点から引き続き避難を継続することが求められる区域同区域においては将来的に住民が帰還しコミュニティを再建することを目指し除染やインフラ復旧等を計画的に実施します

③ 帰還困難区域 5年間を経過してもなお年間積算線量が20mSvを下回らないおそれのある現時点で年間積算線量が50mSv超の区域同区域は将来にわたって居住を制限することを原則とし同区域の設定は5年間固定します 当該方針に基づき区域見直しに係る協議が整った市町村について区域見直しを実施しています(第136-2-1 2012年 7月 31日現在)

3警戒区域への一時立入り

 2011年 4月 22日午前0時東京電力福島第一原子力発電所から半径20km圏内は警戒区域に設定され当該区域への立入りが制限されることとなりました他方で着の身着のままで避難を余儀なくされた住民から自宅への一時立入り等に係る強い要望が寄せら

図136-3-1 警戒区域への一時立ち入り

一時立入り対象市町村

警戒域内の対象数

1巡目 2巡目

世帯数 人数バス立入り

車持ち出し

マイカー立入り バス立入り車持ち出し

世帯数 人数 台数 世帯数 人数 世帯数 人数 台数

田村市 約110 約400 76 130 6 112 260 0 0 2

南相馬市

約4000

約14300

2907 5030 511 3335 8169 66 95 102

楢葉町約2600

約7700

1909 3197 364 2067 5372 102 142 45

富岡町約6000

約16000

4537 7631 741 4757 10921 275 398 126

川内村 約160 約400 82 135 19 92 227 0 0 0

大熊町約4000

約11500

3525 5683 1021 3265 7495 210 308 129

双葉町約2400

約6900

2061 3547 573 1930 4638 177 279 62

浪江町約6700

約19600

4812 8218 916 4622 11031 234 345 90

葛尾村 約80 約300 17 27 1 40 91 0 0 0

計約26000

約77000

19850 33468 4146 20108 47944 1064 1567 554

45

第6節 原子力被災者支援

第3章

れましたこれを受け立入りを行う住民の安全確保を大前提に同年5月10日から当該区域への一時立入りを実施することとなりましたこれまで四巡目までの一時立入りを実施し延べ約73370世帯約162002人(2012年 7月末日現在)の住民が立入りを行っています 一巡目はバスによる集団での立入り方式のみにより実施していましたが持ち出せる荷物の量が少ない待ち時間が長いといった要望が寄せられました二巡目からは住民からのこうした要望等を踏まえバス方式と併せてマイカーによる一時立入りを可能としました

 更に三巡目からは立入りを行う住民の利便性を高めること等を目的として住民が車から降りることなく受付を行うドライブスルー方式の導入の他自宅以外の場所への一時立入り(墓参りのための立入り等)や引っ越し業者等の帯同を認める等の改善を行いました 加えて四巡目からはそれまで市町村が行っていた立入り日の調整等を新たに設置するコールセンターにおいて行うこととしこれまで以上にスムーズな受付が可能となりました 五巡目以降についても住民の安全確保を大前提として立入りを行う住民の負担の少ない方法で立入りが可能となる体制の構築を目指しています

4除染の実施

 東日本大震災に伴う原子力発電所の事故によって放出された放射性物質による環境の汚染が生じておりこれによる人の健康または生活環境に及ぼす影響を速やかに低減することが喫緊の課題となっていますこうした状況を踏まえ「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法」(以下「放射性物質汚染対処特措法」)が可決成立し2011年 8月 30日に公布されました 同年11月 11日には「放射性物質汚染対処特措法に基づく基本方針」を閣議決定し環境の汚染の状況についての監視測定事故由来放射性物質により汚染された廃棄物の処理土壌等の除染等の措置等に係る考え方が取りまとめられ関係者の連携の下事故由来放射性物質による環境の汚染が人の健康または生活環境に及ぼす影響が速やかに低減されるようまた復興の取組が加速されるよう同方針に基づき取り組むこととしています 除染の実施に当たり同年11月以降警戒区域や計画的避難区域等において除染の効果的な実施のために必要となる技術の実証実験等のための除染モデル実証事業等を実施しその成果を2012年 6月に公表しましたまた2011年 12月以降は自衛隊等による除染活動の拠点となる施設(役場公民館等)や除染を行う地域にアクセスする道路及び除染に必要な水等を供給するインフラ施設を対象に先行的な除染を実施しています 放射性物質汚染対処特措法に基づき国が除染を実

一時立入り対象市町村

警戒域内の対象数

3巡目 4巡目

世帯数 人数マイカー立入り

バス立入り車持ち出し

マイカー立入り

バス立入り

世帯数 人数 世帯数 人数 台数 世帯数 人数 世帯数 人数

田村市 約110 約400 90 196 0 0 0 - - - -

南相馬市

約4000

約14300

3032 7941 39 57 14 - - - -

楢葉町約2600

約7700

1951 5005 66 92 6 1826 4950 38 59

富岡町約6000

約16000

4240 10025 158 217 10 3721 8954 124 181

川内村 約160 約400 0 0 0 0 0 - - - -

大熊町約4000

約11500

2944 6936 162 234 8 2533 6328 98 148

双葉町約2400

約6900

1744 4362 92 140 7 1593 4184 85 125

浪江町約6700

約19600

3764 9207 209 305 10 3494 8761 157 226

葛尾村 約80 約300 0 0 0 0 0 0 0 0 0

計約26000

約77000

17675 43476 726 1045 55 13167 33177 502 739

(注) 1 全体の数値は平成22年度国勢調査及び各市町村データ(復旧計画等)からの概数

   2 マイカーを所有していない住民の方については近所の住民の方等が同乗させて1台で複数世帯分の立入りを行うケースがあるため立入台数が立入世帯数より少なくなる場合があるなお1世帯が複数台の自動車で立入ることは認められていない

46

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第3章 原子力発電所事故関連

第3章

施する除染特別地域においては市町村ごとに策定する特別地域内除染実施計画に従って事業を進めることとしており一時保管場所の確保や除染業務の発注に必要な情報が整った市町村について特別地域内除染実施計画に基づき本格除染の実施を開始していますまた市町村が中心となって除染を実施する除染実施区域においては市町村が除染実施計画を策定し除染事業を進めることとされており現在各地で除染事業の取組が進められています 環境省においては放射性物質汚染対処特措法が2012年 1月に全面施行されたことに伴い福島県等における除染を推進するために福島環境再生事務所を開所し体制の整備を行いました更に福島県及び環境省では除染等に関する専門家を市町村等の要請に応じて派遣するとともに除染のボランティア活動等の関連情報の収集発信を行うための拠点として国福島県関係機関関係団体等の連携を図る除染情報プラザを設置しました

5健康管理調査の支援等

(1)福島県民健康管理調査事業の支援 福島県民の皆様の中長期的な健康管理を可能とするため国では平成23年度(2011年度)第二次補正予算により福島県が創設した「福島県民健康管理基金」に782億円の交付金を拠出し全面的に県を支援しています福島県ではこの基金を活用して全県民を対象に県民健康管理調査を実施し被ばく線量の把握や健康状態を把握するための健康診査等を行うこととしています特に震災時点で18才以下であった全ての方を対象に甲状腺の超音波検査を実施していますこの他にホールボディカウンターによる検査や中学生以下の子ども及び妊婦に対する個人線量計(ガラ

スバッジ等)の貸与などを実施しています

(2) 原子力被災者等の健康不安対策に関するアクションプランの推進

 東京電力福島第一原発事故の被災者をはじめとする国民が抱える放射線による健康不安についてはこれまでも様々な取組を講じてきましたが ①今般の被災者等の不安を十分に踏まえた情報発信としていたか(平易な用語の使用等) ②専門家等からの一方的な情報発信に偏り不安を感じている被災者等との双方向のコミュニケーションが不足していなかったか ③不安解消のためのコミュニケーションを行う人や場(拠点を含む)が十分に確保されていたかといった問題により依然として不安を十分に解消できていない状況です

 関係省庁等がこうした問題意識を共有した上で必要となる施策の全体像を明らかにし政府一丸となって健康不安対策の確実な実施に取り組むべく2012年4月20日に環境大臣を議長とする原子力被災者等の健康不安対策調整会議を設置し同年5月31日にアクションプランを策定しました 重点施策として ①関係者の連携共通理解の醸成 ②放射線による健康影響等に係る人材育成国民とのコミュニケーション ③放射線影響等に係る拠点等の整備連携強化 ④国際的な連携の強化の4つを掲げており本取組を確実かつ計画的に実行していくこととしています

47

第4章

 東日本大震災を契機とした東京電力福島第一原子力発電所における事故により国民の生活地域経済環境に対して甚大な被害を与えたことに対する深い反省を踏まえ現行のエネルギー政策をゼロベースで見直すこととなりました 見直しにあたっては政府一丸となって策定するため国家戦略担当大臣を議長経済産業大臣と環境大臣兼原発事故の収束及び再発防止担当大臣を副議長とする「エネルギー環境会議」が設置されましたまた総合資源エネルギー調査会に「基本問題委員会」が設置される等相互に独立した関係審議会等が設置され議論が行われました 前述の「エネルギー環境会議」の方針によりエネルギー基本計画の策定に先立って「エネルギーミックスの選択肢」を国民に提示することとされ「基本問題委員会」において他の関係審議会の報告を受けつつ「エネルギーミックスの選択肢」の原案が策定されました 「エネルギー環境会議」はこの「エネルギーミックスの選択肢」の原案を原子力委員会や中央環境審議会等で検討されている原子力政策や地球温暖化対策の選択肢の原案と合わせてとりまとめ「エネルギー環境に関する選択肢」を統一的に提示し国民的な議論を進め「革新的エネルギー環境戦略」の決定を行い

ますエネルギー基本計画は関係行政機関の長の意見を聴くとともに総合資源エネルギー調査会の意見を聴いて経済産業大臣が案を作成し閣議で決定することとなっています 本章では2012年 7月末頃までのエネルギー環境会議総合資源エネルギー調査会基本問題委員会をはじめとする関係審議会等の構成検討結果等を概観します

第1節 電力システム改革関連

1対応の方向性

 電力システム改革に関する論点整理を目的として2011年11月に「電力システム改革に関するタスクフォース」を経済産業省内に立ち上げ同年12月末に「電力システム改革に関するタスクフォース論点整理」をとりまとめましたまた同月総合資源エネルギー調査会基本問題委員会において「新しい「エネルギー基本計画」策定に向けた論点整理」がとりまとめられましたこれらを踏まえ今後のあるべき電力システムの具体的な制度設計を行うため2012年 2月に総合資源エネルギー調査会総合部会に「電力システム改革専門委員会」を設置しました本専門委員会において8回にわたり精力的な検討を進め同年7月13日に「電力システム改革の基本方針」がとりまとめられました本基本方針では小売全面自由化卸電力市場の活性化送配電部門の広域性中立性の確保等が改革の基本方針として提言されています

2 電力システム改革専門委員会の発足に至る背景委員会の構成経過今後の動き

(1)背景 2011年12月にとりまとめた「電力システム改革に関するタスクフォース論点整理」においては「低廉で安定的な電力供給」を実現する「より競争的で開かれた電

第4章東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえたエネルギー政策の見直し

エネルギー環境会議

国民的議論

エネルギー環境の選択肢の原案提示

革新的エネルギー環境戦略提示

基本問題委員会事故調査委員会(1)

原発事故の技術知見委員会(2)

電力システム改革専門委員会

省エネルギー部会

天然ガスシフト基盤整備専門委員会

資源燃料政策(3)

内閣官房原子力委員会等

総合資源エネルギー調査会

(注) 1 東京電力福島原子力発電所における事故調査検証委員会等   2 東京電力福島第一原子力発電所事故の技術的知見に関する意見

聴取会意見聴取会   3 資源燃料政策に関する有識者との意見交換会

第140-0-1  エネルギー基本計画策定関連の政府内における主な検討の場

48

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第4章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえたエネルギー政策の見直し

第4章

力市場」を構築することを基本理念とし「新たな需要抑制策」「需要家の選択」「供給の多様化」「競争の促進と市場の広域化」「安定性と効率性の両立」について10の論点をまとめました また同月にとりまとめられた「新しい「エネルギー基本計画」策定に向けた論点整理」においては「大規模集中電源に大きく依存した現行の電力システムの限界が明らかになったことを踏まえ今後は需要家への多様な選択肢の提供と多様な供給力(再生可能エネルギーコジェネ自家発電等)の最大活用によってリスク分散と効率性を確保する次世代システムを実現していく必要があるとしていますまたこうしたシステムを盤石にするためにも送配電ネットワークの強化広域化や送電部門の中立性の確保が重要な課題である」等の基本的方向性が示されました この基本的方向に沿って今後のあるべき電力システムの具体的な制度設計を行うことが喫緊の課題であることから将来のエネルギーミックスのあり方と併せこれを支える電力システムについて専門的な検討を行うため総合資源エネルギー調査会総合部会の下に「電力システム改革専門委員会」を設置しました

(2)委員会の構成 電力システム改革専門委員会の委員は学識経験者や消費者代表者等を含む11名から構成されています 一般電気事業者や特定規模電気事業者(新電力)はオブザーバーとして参加しました

(3)経過 第1回(2012年 2月 2日) 議題 電力システム改革に関するタスクフォース「論

点整理」について 第2回(2012年 3月 6日) 議題需要サイドの取組について  東京都富士フイルム株式会社一般電気事業者(中部電力株式会社関西電力株式会社)新電力(株式会社エネット)からプレゼンテーション

 第3回(2012年 4月 3日) 議題供給の多様性について  株式会社日本製紙グループ本社東京ガス株式会社JX日鉱日石エネルギー株式会社一般電気事業者(中部電力株式会社関西電力株式会社)新電力(株式会社エネット)からプレゼンテーション

 第4回(2012年 4月 25日) 議題競争の促進と広域化について  フランス送電会社(RTE)公正取引委員会一般電気事業者(中部電力株式会社関西電力株式会社)新電力(株式会社エネット)からプレゼンテーション

 第5回(2012年 5月 18日) 議題 総合的な検討(1) 小売全面自由化送配電部

門の広域化中立化 第6回(2012年 5月 31日) 議題 総合的な検討(2) 送配電部門の広域化中立

化卸電力市場の活性化等 第7回(2012年 6月 21日) 議題 総合的な検討(3) 送配電部門の広域化中立

化卸電力市場の活性化等 第8回(2012年 7月 13日) 議題 総合的な検討(4) 電力システム改革の基本方

針案

(4)電力システム改革の基本方針①需要サイド(小売分野)の改革 ア)小売全面自由化(地域独占の撤廃)  一般電気事業者による地域独占を撤廃し小売全面自由化を実施  ただし「自由化」によって供給の空白地帯が生じないよう最終保障サービス等「自由化の代償措置」には周到な設計を行う(年内を目処に詳細設計)

委員会名簿伊藤 元重(委員長) 東京大学大学院経済学研究科教授

安念 潤司(委員長代理) 中央大学法科大学院教授

伊藤 敏憲 伊藤リサーチアンドアドバイザリー代表取締役兼アナリスト

大田 弘子 政策研究大学院大学教授

小笠原 潤一 (一財)日本エネルギー経済研究所電力グループマネージャー研究主幹

柏木 孝夫 東京工業大学特命教授高橋 洋 富士通総研経済研究所主任研究員

辰巳 菊子 (公社)日本消費生活アドバイザーコンサルタント協会常任顧問

八田 達夫 学習院大学特別客員教授松村 敏弘 東京大学社会科学研究所教授横山 明彦 東京大学大学院新領域創成研究科教授

49

第2節 天然ガス

第4章

 イ)料金規制の撤廃(総括原価方式の撤廃)  競争の進展に応じて一般電気事業者の供給義務や料金規制を撤廃

②供給サイド(発電分野)の改革 ア)発電の全面自由化(卸規制の撤廃)  卸規制(発電事業者から一般電気事業者への長期大量の電力供給に供給義務や料金規制を課している)を撤廃する

  ただし卸規制の撤廃が需給に混乱を与えないよう移行期間における十分な配慮を行う

 イ)卸電力市場の活性化  特定の供給区域の枠を超えて全国大で効率的な電源の有効活用を実現するため卸電力市場で既存の事業者の電源が活発に取引される方策を講じる  具体的には少なくとも供給予備力を超える電源は卸市場に投入するとの考え方を前提とし取引ルールを設計する

③送配電部門の改革(中立性公平性の徹底) ア)送配電部門の「広域性」の確保  これまでの「供給区域ごとに需給を管理する」仕組みを改めより広域的全国的に供給力を有効活用するため広域系統運用機関を設立する イ)送配電部門の「中立性」の確保  ①機能分離型または②法的分離型の方式により各供給区域の送配電部門の中立性を確保  機能分離型hellipエリアの系統計画系統運用の機能を一般電気事業者の送配電部門から分離し広域系統運用機関に移管する方式  法的分離型hellipエリアの系統計画系統運用の機能から送配電設備を所有し開発保守する業務までを含む送配電部門全体を別法人とする方式  いずれの方式であっても中立性確保のための人事予算等に係る行為規制や送配電部門と発電小売部門との情報の取扱契約の取扱の公平性の確保が不可欠であるこうした規制の内容や様々な技術的論点を精査しながら年内を目処に詳細設計を行う ウ)地域間連系線等の強化  50Hzと 60Hzの周波数変換設備と東西連系線の容量を増強(120万kWrarr210万kWrarr300万kW)  北海道本州間連系線の増強(60万kWrarr90万kW)を早期に実現風力発電の導入状況等を踏まえて

更なる増強を検討  風力発電の重点整備地区について政策的支援も含め送配電網整備の具体的方法を検討

④詳細設計へ向けて  改革実行の際には世界で最も高い信頼性を有する我が国の技術と人材の蓄積やる気を尊重する  以上の基本方針の下制度改革を着実に実行本制度改革は新たなシステムへの投資と大きな事業体制の変革を伴うものであり綿密な詳細設計と十分な時間をかけた手順工程表が必要  年内を目処に各課題について更に検討を進める

(5)今後の動き 電力システム改革専門委員会において取りまとめられた「電力システム改革の基本方針」を踏まえ制度改革を着実に実行することとしています詳細な制度設計については年内を目途に検討を進めることとしています

第2節 天然ガス

1 天然ガスシフト基盤整備専門委員会について

(1)背景 総合資源エネルギー調査会総合部会基本問題委員会(以下「基本問題委員会」という)において昨年12月に公表された論点整理では「天然ガスシフトを始め環境負荷に最大限配慮しながら化石燃料を有効活用す

広域系統運用者(全国機関)系統計画業務の実施広域連系線(地域間連系線+主要幹線)の運用エリア(九電力管内)系統運用者への系統運用監視勧告電力市場の形成

エリアの系統運用者(地方支部)

エリアの系統運用系統計画機能

エリアの系統運用者(電力事業者の送配電部門)人事予算等の独立性ルールが必要エリアの系統運用系統計画機能

+送配電設備の所有(開発保守)電力事業者の送配電部門

電力事業者の発電小売部門 電力事業者の発電小売部門

送配電設備の所有(開発保守)

規制対象

同一組織パターン1機能分離型

(機能を分離)パターン2法的分離型

(会社を分離)

広域連系線の開発保守指示

広域連系線の開発保守指示

エリア送配電設備の開発保守指示

別会社

第141-2-1 新しい送配電部門のイメージ像

50

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第4章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえたエネルギー政策の見直し

第4章

る(化石燃料のクリーン利用)」ことを基本的方向の一つとして更に議論を深めていくこととされました 天然ガスシフトの動きについては世界的に見てもいわゆる「シェールガス革命」といった新たな供給源の立ち上がりによって天然ガスの可採年数が大幅に増加し長期的にも世界全体の需要を満たすことができる見込みも高いことから今後天然ガスが果たす役割への期待はより一層高まってきています 我が国においては東日本大震災を契機として大規模集中電源に大きく依存した現行の電力システムの限界が明らかになりました今後は原子力発電への依存度をできる限り低減させていく方向性の中で再生可能エネルギーコジェネ自家発等の多様な分散型電源の供給力の最大活用によってリスク分散と効率性を確保する次世代システムを実現していくとともに熱の有効利用を含めた最先端の省エネルギー社会を実現していくこと等が必要となりますその中で化石燃料の中でも最もクリーンでかつ世界に広く分散して賦存する天然ガスへのシフトは一層重要な課題となるものと考えられます 一方天然ガスの供給については前述のとおり東日本大震災によって今後仮に一極集中したLNG基地に天然ガス供給を依存する大都市圏において基地の機能停止が起こった場合長期にわたり供給が途絶するリスクがあることが顕在化しました このような状況を踏まえれば今後の我が国の天然ガスシフトに向けては一段と高いレベルの天然ガス供給基盤のセキュリティが不可欠です 加えて天然ガスの供給基盤にはセキュリティの向上のみならず発電用燃料都市ガス原料としての天然ガスの利用可能性向上ガス価格低廉化の可能性二酸化炭素削減等といった多様な意義があり今後はこれらの意義を踏まえつつ今後の天然ガスシフトを支えるに十分な天然ガス供給基盤の整備を進めていく必要があります 更に将来的には国際天然ガスパイプラインネットワークの形成やメタンハイドレートの開発等の動きも視野に入れながら天然ガス利用のメリットを最大限享受できるような供給基盤が長期的に構築されていくことも期待されます 以上を踏まえ天然ガスシフトに向けた基盤(広域パイプライン等)整備に関する専門的検討を行うため総合資源エネルギー調査会総合部会の下に「天然ガスシフト基盤整備専門委員会」を設置しました

(2)委員構成委員長 横倉 尚 武蔵大学経済学部教授委員 柏木 孝夫 東京工業大学特命教授 橘川 武郎 一橋大学大学院商学研究科教授 古城 誠 上智大学法学部教授 八田 達夫 学習院大学特別客員教授 松村 敏弘 東京大学社会科学研究所教授 山内 弘隆 一橋大学大学院商学研究科教授

(3)審議経過第1回(2012年 1月 17日) 本委員会で明らかにしていくべき論点について 我が国の天然ガス及びその供給基盤の現状と課題

第2回(同年2月27日)  天然ガスシフトに向けた基盤整備について事業者及びユーザー企業より意見聴取

  bull 中堅中小ガス事業者(仙台市ガス局)  bull 都市ガスユーザー企業(ブリヂストン)  bull  広域でパイプライン整備に取り組んでいる事

業者(大阪ガス中部電力国際石油開発帝石)

  bull  地下貯蔵に知見を有する事業者(石油資源開発)

第3回(同年4月6日)  これまでの議論やヒアリング結果を踏まえた論点整理について

 海外調査結果について

第4回(同年5月15日)  東京ガス大阪ガス東邦ガスからの供給継続性に関するヒアリング

 天然ガスシフト基盤整備の新しいあり方について

第5回(同年6月13日) とりまとめに向けた議論

第6回(同年6月26日) 報告書(案)について

2対応の方針

 我が国における今後の天然ガスシフトを見据えればそれを支える広域天然ガスパイプラインネットワーク

51

第3節 石油LPG

第4章

という供給基盤をできるだけ早期に構築していく必要があります

(1)整備基本方針の策定 本委員会の報告書では我が国全体における全体最適的な観点からの広域天然ガスパイプライン地下貯蔵施設等の天然ガス供給基盤の整備基本方針を国が策定し民間事業者の活力を最大限活用していくことを官民の役割分担の基本的考えとし天然ガス供給基盤整備を推進していくこととされました 整備基本方針の策定に当たっては供給セキュリティ向上利用可能性向上価格低廉化二酸化炭素削減等の多様な意義社会的効果という要素のみならず将来の国際パイプラインとの連結やメタンハイドレートの活用も視野に入れつつ世界的な「天然ガスの黄金時代」の恩恵を国民が享受できるような環境を目指していく必要があります 本委員会では整備基本方針で定めるべき内容として以下の事項が挙げられました 整備ルート等の設定 スペック熱量等の設定 整備の時間軸プライオリティ

(2)事業者間連携に向けた利害調整 報告書では整備基本方針と民間事業者との利害が一致しない場合の調整や多様なエネルギー事業者同士の連携を促進するためエネルギー事業者間の利害調整を検討すべきとされました

(3)整備費用負担の在り方 基盤整備に当たっては事業収入に加えセキュリティ向上利用可能性向上価格低廉化二酸化炭素削減等といった社会的効果の部分も含め費用負担の問題を解決する必要があります 費用負担については「受益者負担」の原則を基本としつつも受益の種類によって負担の手法は様々であり特定負担一般負担全国民負担等の様々な組み合わせが考えられる上受益の範囲程度については個別事業に基づく調整が必要となります本委員会では整備基本方針において受益者負担の手法範囲程度時点の調整等の「基本的な考え方」を示しそれに基づき整備事業ごとに負担の在り方を検討することとされました

(4)整備促進の在り方(コスト低減需要増加) 整備費用そのものの低減のため関係規制の緩和や運用見直しを進め効果の高い財政支援措置等を検討するとともにパイプライン整備と一体的に天然ガス火力や天然ガスコジェネ等の新規沿線需要を喚起し事業採算性を高めていくことが必要とされました

3今後の方向性

 今後は新たなエネルギー基本計画の内容を踏まえ様々な分野の有識者や事業者の意見知見を傾聴しつつ必要な取組を速やかに講じていくこととしています

第3節 石油LPG

1対応の方向性

(1)資源確保戦略 第15回パッケージ型インフラ海外展開関係大臣会合(2012年 6月 27日開催)において「資源確保戦略」が報告されました本戦略は「資源確保指針」(2008年 3月 28日閣議了解)の考え方を踏まえつつ世界的な資源確保競争の激化や東日本大震災以降の化石燃料の調達コスト増大等資源を巡る国内外の厳しい情勢に鑑み現在の資源確保の現状及び今後の見通しをあらためて分析し我が国の官民の持つリソースを最大限活かすために策定されたものです 資源確保戦略の5本柱として①資源獲得の重要国に対する政府一体となった働きかけ②資源ユーザー産業の上流開発への関与の促進③資源国に対する協力のパッケージ化④資源権益獲得に対する資金供給の機能強化⑤国際的なフォーラムやルールの積極活用を重点的に取り組むこととしていますなお今後のエネルギー政策の見直し結果等に伴い本戦略についても必要に応じて見直しが行われる予定です

(2)国内災害対策①石油(ア)備蓄 東日本大震災により被災した久慈国家備蓄基地において原油流出等の二次被害を防ぐため仮設復旧工事を早期に行うとともに今後の津波対策として非常用電源等の重要設備を高台に移設するための対応を

52

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第4章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえたエネルギー政策の見直し

第4章

行いました また他基地においては地震津波対策として防災訓練や基地の耐震診断等を実施する等国家備蓄基地の災害対応能力向上を図りました(イ)流通 東日本大震災を教訓とし全国的な防災減災の観点から緊急車両への優先給油を含め地域における石油製品の供給体制の整備が重要ですそのため地域において中核となるSSを選定し自家発電設備等の災害対応能力を強化する設備投資に支援を行いました

② LPG 東日本大震災においては冠水による電気系統の故障や停電による出荷設備の一時的停止等により出荷が遅れたり災害時を想定した情報収集体制が脆弱であったため適切な情報収集に時間がかかってしまったLPガス基地充填所が多く存在しましたこのことからLPガス出荷基地及び充填所の災害対応能力及び情報収集情報提供体制の強化の必要性が改めて認識されたため出荷基地や充填所に対し自家発電設備や衛星電話等の設置を行う等災害対応能力の強化等に取り組んでいます

(3) 備蓄法(「石油の備蓄の確保等に関する法律」)改正

①背景 東日本大震災発生時には製油所油槽所等やタンクローリー等の物流網が広範囲にわたって被災したため政府石油業界をあげて供給体制の早期立て直しに取り組みましたまたこのとき国内災害時としては初めて石油会社等の石油の基準備蓄量を引き下げ民間の備蓄石油を放出できるよう措置することとしました

②概要 この震災時の経験を踏まえ1970年代の石油ショックの経験から主に海外からの原油供給が不足する事態に備えて制定された「石油の備蓄の確保等に関する法律」について(a)災害時における国内の特定の地域への石油の供給不足時に石油会社等が備蓄石油を放出するための要件を緩和し(b)一定規模以上の石油業者

に対し共同で地域ごとに災害時の連絡体制や設備の共同利用の方法等を定めた計画の作成を義務付ける規程を加える等の改正を行うことで災害時にも確実に石油を供給する体制を強化することとしました同改正案22は2012年 2月 10日に閣議決定し国会に提出されました

2 資源燃料政策に関する有識者との意見交換会

 本会は「エネルギー需給安定行動計画」(2011年 11月 1日エネルギー環境会議決定)を踏まえ資源燃料政策のうち先行して取り組むべき事項について個別施策の具体化な議論を行ために全5回わたり開催されましたまた従来の総合資源エネルギー調査会にとらわれずに意見交換会を行うため消費者被災自治体防災物流の専門家資源燃料のユーザ産業等の多岐にわたりメンバーを募集し並行して会合の開催と同時に事務局から示された「たたき台」をホームページで公表し国民各層からも広く意見を募集しました 本会は「災害時における石油ガスの安定供給」と「世界的な資源需要の高まりや災害等を踏まえた資源開発確保」という二つのテーマを設け前期テーマでは東日本大震災後に生じた供給支障の教訓をふまえた初動対応の迅速化大規模災害を見越した災害に強い供給体制の整備について検討を行いました後期テーマでは国際的な資源需要の高まり震災後の新たな資源需要を踏まえた化石燃料や鉱物資源地熱資源の開発の促進に向けての体制の検討を行いました とりまとめ後にWEB上で「資源燃料の安定供給確保のための先行実施対策」を公表し今後の資源確保の政府方針を示していきました

第4節 エネルギー環境会議 エネルギーシステムの歪み脆弱性を是正し安全安定供給効率環境の要請に応える短期中期長期からなる革新的エネルギー環境戦略及び2013年以降の地球温暖化対策の国内対策を政府一丸となって策定するため2011年 6月 7日にエネルギー環境会議が設置されました本会議は国家戦略担当大臣を

22 災害時における石油の供給不足への対処等のための石油の備蓄の確保等に関する法律等の一部を改正する法律案です

53

第4節 エネルギー環境会議

第4章

議長経済産業大臣と環境大臣兼原発事故の収束及び再発防止担当大臣を副議長とするものですエネルギー環境戦略の白紙からの見直しに先立ち2011年 7月 29日に「革新的エネルギー環境戦略策定に向けた中間的な整理」をまとめ原子力発電所への依存度低減分散型システムへの移行国民的議論の展開という三つの大きな方向性を提示しました エネルギー環境会議は2011年 10月 3日に「コスト等検証委員会」を設置しその検討の結果として同年12月 19日に同委員会報告書により戦略見直しの前提条件となる社会的費用も含めた電源別の発電コストを明らかにしましたまた同月21日に原子力発電所への依存度低減という方針を実現する上で化石燃料への依存度低減を旨とするエネルギー安全保障との両立をどう図るのか地球温暖化対策との両立をどう図るのか経済性に優れ安全なエネルギー確保をどう現実のものとするのかといった視点から春を目途にまずはエネルギー環境戦略に関する複数の選択肢を提示しその上で夏の戦略決定につなげるという基本方針を提示しました この基本方針に基づき原子力委員会総合資源エネルギー調査会及び中央環境審議会は原子力政策エネルギーミックス国内温暖化対策をどう組み直すのかという視点で選択肢提示に向けた検討を行いました2012年 6月 8日にエネルギー環境会議はこれら関係会議体での検討をとりまとめ統合的な選択肢案を提示するため選択肢設計の中間的整理を決定しました 更に関係会議体がこの中間的整理を踏まえながら検討を進め2012年 6月 29日に「エネルギー環境に関する選択肢」を提示しましたこの中で政府は新しいエネルギー選択として「原発からグリーンへ」とい

う大きな方向性のもと2030年に向け原子力発電所低減の度合いや再エネ省エネルギーの拡大の度合いやスピードが異なるゼロ1520~25の三つのシナリオを提示しました エネルギー環境会議ではこの三つのシナリオをもとに国民同士の対話が進むよう国民的議論を更に展開しエネルギー環境の選択肢に関する情報提供データベースの整備意見聴取会の全国11カ所での開催討論型世論調査パブリックコメントの募集等を行いました

1 エネルギー環境の選択肢に関する情報提供データベースの整備

 内閣官房国家戦略室ホームページに特設サイト「話そうldquoエネルギーと環境のみらいrdquo」を開設し三つの選択肢が決定されるまでの議論の経過や元となる考え方やデータこの課題に関する様々な分野の有識者の声等の提供を行いました(第144-1-1)

2意見聴取会

 2012年 7月 14日のさいたま市をはじめとして全国11カ所で「エネルギー環境の選択肢に関する意見聴取会」を実施しました(福島会場では「エネルギー環境の選択肢に関する福島県民の意見を聴く会」として開催)

(1)実施形式 参加者は一会場100~200名で希望者を公募し抽選で選出し聴取会をインターネットで中継配信しました 聴取会では担当省庁(内閣官房経済産業省環境省)の政務が出席し冒頭政府から選択肢について説明しましたその後に希望者を公募し抽選で選出した意見表明者全員の意見を聞いた上で意見表明者による追加コメント及びやり取りを行いました意見表明者の人数は当初三つのシナリオごとに3名ずつとしていましたが途中から人数を12名に拡大し三つのシナリオ以外の意見の表明者も追加し更に意見表明希望者の割合に応じて人数を配分することとしましたまた福島県民の意見を聴く会ではシナリオの区別なく意見表明者を公募し30名の意見表明者が陳述することとしました参加者に対しては会場でアンケートを実施しました

63

10

26

2010年実績 ゼロシナリオ 15シナリオ 20~25シナリオ

現行エネルギー基本計画

65

35

55

30

15

50 50

30

20

25

25

20

45

35

火力

原子力

再生可能エネルギー

第144-0-1  各シナリオにおける発電構成(2030年)

54

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第4章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえたエネルギー政策の見直し

第4章

(2)開催場所開催スケジュール7月14日 さいたま市7月15日 仙台市7月16日 名古屋市7月22日 札幌市大阪市7月28日 富山市7月29日 広島市那覇市8月1日 福島市(福島県民の意見を聴く会)8月4日 高松市福岡市

3討論型世論調査

 「エネルギー環境の選択肢に関する討論型世論調査実行委員会」23が政府のエネルギー環境会議より提示された「エネルギー環境に関する選択肢」(2012年 6月 29日)に関する「討論型世論調査」を2012年7月上旬から実施しました24

(1)討論型世論調査の概要 討論型世論調査とは複雑な政策課題についての市民の表面的な理解の下での意見を調べる通常の世論調査に加え無作為に抽出された属性や意見の異なる市民が当該課題について学習し専門家の情報提供を受け市民同士での議論を経ることにより熟慮した上での意見の変化を調べる手法です同手法は米国スタンフォード大学のフィシュキン教授らにより考案され世界全体で40回以上国内では過去5回実施されてきました

(2)具体的な調査方法①最初に無作為に抽出された一般市民に対して通常と同様の世論調査(T1)を行う②その中からあらかじめ定めた日に1カ所に集まり開催する「討論フォーラム」に参加する者を無作為に抽出し討論課題についてバランスよく情報をまとめた討論資料を郵送し学習いただく③討論フォーラムの最初に2度目の意向調査(T2)を行う④討論フォーラムに参加した市民を小グループに分けて訓練されたモデレータの司会のもとで市民同士で討論を行う「小グループ討論」と参加者が専門家(パネリスト)に質問を行う「全体会議」を繰り返す

23 実行委員会が討論型世論調査の企画運営を行い中立的な運営を担保する方法の一つとして監修委員会の監修専門家委員会の意見や助言の提供第三者検証委員会による実行委員会から独立した立場での討論型世論調査の実施過程の検証が行われました24 2012 年 7 月 12 日に実行委員会より今回の討論型世論調査は無作為抽出による「電話世論調査」を 7月上旬から中旬に2日間の「討論フォーラム」を 8月 4日5日に行う事が発表されました

第144-1-1 国民的議論パンフレット(ジュニア用)より

55

第5節 エネルギー基本計画の検討

第4章

⑤討論フォーラムの最後に3度目の調査(T3)を行い三つの調査結果の変化を分析する

4パブリックコメント

 インターネット郵送FAXで「エネルギー環境に関する選択肢」に対する意見の募集を2012年 7月 2日から開始しました当初7月末日を締切としていましたが同年7月13日に締切を同年8月12日まで延長しました

第5節 エネルギー基本計画の検討

1基本問題委員会の設置

 エネルギー基本計画はエネルギー政策の基本的な方向性を示すためにエネルギー政策基本法に基づきエネルギーの需給に関する基本的な方針や講ずべき施策等を内容とする政府が策定する計画であり関係行政機関の長の意見を聴くとともに総合資源エネルギー調査会の意見を聴いて経済産業大臣が案を作成し閣議で決定することとなっています 直近のエネルギー基本計画は2010年 6月に策定されましたが東日本大震災及び東京電力福島第一原子力発電所の事故を踏まえエネルギー政策をゼロベースから見直し新たな計画を策定すべく2011年 10月に総合資源エネルギー調査会総合部会に基本問題委員会(以下委員会と表記)が設置され委員長に三村明夫総合資源エネルギー調査会総合部会長が就任しました

2委員会の議論の経過

 委員会は2011年 10月 3日に第1回委員会が開催されましたエネルギーに関する様々な議題についてこれまで約10カ月に亘り計30回開催され25エネルギーに関する相互に独立した審議会等からの報告等や議論が行われています

(1) 新しい「エネルギー基本計画」策定に向けた論点整理(2011年 12月 20日)

 第1回委員会以降委員会では様々な論点について幅広い意見が出され議論が行われましたそれを受け第6回基本問題委員会(2011年12月6日)に『新しい「エネルギー基本計画」策定に向けた論点整理(案)』が提示され第6回委員会第7回委員会(2011年 12月 13日)で議論が行われましたとりまとめられた論点整理では今後の本格的な議論の出発点として主要な論点についてこれまでの議論の大きな方向感が整理されました

(2) 「エネルギーミックスの選択肢の原案について」(2012年 6月19日)

 第27回委員会(2012年 6月 19日)においてエネルギー環境会議に報告を行う「エネルギーミックスの選択肢の原案」が取りまとめられ四つのエネルギーミックスの選択肢26がエネルギー環境会議に報告することとされました 提示された四つの選択肢はそのうち三つの選択肢(選択肢1~3)が「定量的なイメージ」と「必要な対策」の双方をパッケージとして含むものとされ四つ目の選択肢は「定量的なイメージ」を明示しない選択肢とされました(選択肢4)

①選択肢1意思を持って原子力発電比率ゼロをできるだけ早期に実現し再生可能エネルギーを基軸とした電源構成とする 《2030年の電源構成のイメージ》 原子力発電 0 再生可能エネルギー27 約 35 火力発電28 約 50 コジェネ29 約 15 省エネルギー(節電)30 約2割(約1割) エネルギー起源CO2排出量31 約16

25 2012 年 7 月 30 日現在26 同時に参考として「不確実な状況下での幅広い選択肢を確保するため意思を持って現状程度の原発の設備容量を維持し原子力発電比率を 2010 年度より拡大させる」シナリオについて経済影響や二酸化炭素排出量等の試算を行い上記のⅰ~ⅳの選択肢と併せて提示することとされました27 「再生可能エネルギー」には本来廃棄物発電は含まれませんがここでは便宜上廃棄物発電を含めたものが「再生可能エネルギー」とされました28 火力発電には自家発(モノジェネのみ)を含みます29 コジェネには家庭用燃料電池を含みますまた売電分(系統への逆潮流)を含みます

56

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第4章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえたエネルギー政策の見直し

第4章

30 省エネルギー及び節電の数字は2010 年度実績比です31 参考として1990 年比の数値を基本問題委員会事務局が試算した数値です

②選択肢2意思を持って再生可能エネルギーの利用拡大を最大限進め原子力依存度を低減させる併せて原子力発電の安全強化等を全力で推進する情勢の変化に柔軟に対応するため2030年以降の電源構成はその成果を見極めた上で本格的な議論を経て決定する 《2030年の電源構成のイメージ》 原子力発電 約 15 再生可能エネルギー 約 30 火力発電 約 40 コジェネ 約 15 省エネルギー(節電) 約 2割(約1割) エネルギー起源CO2排出量 約20

③選択肢3安全基準や体制の再構築を行った上で原子力発電への依存度は低減させるがエネルギー安全保障や人材技術基盤の確保地球温暖化対策等の観点から今後とも意思を持って一定の比率を中長期的に維持し再生可能エネルギーも含め多様で偏りの小さいエネルギー構成を実現する

 《2030年の電源構成のイメージ》 原子力発電 約 20~25 再生可能エネルギー 約 20~25 火力発電 約 35 コジェネ 約 15 省エネルギー(節電) 約 2割(約1割) エネルギー起源CO2排出量 約23

④選択肢4社会的コストを事業者(更には需要家)が負担する仕組みの下で市場における需要家の選択により社会的に最適な電源構成を実現する 《2030年の電源構成のイメージ》本選択肢についてはエネルギーミックスの定量的なイメージは提示しない

 以上の四つの選択肢がエネルギー環境会議に報告されエネルギー環境会議はこの原案を原子力委員会や中央環境審議会等で検討されている原子力政策や地球温暖化対策の選択肢の原案と合わせてとりまとめ「エネルギー環境戦略に関する選択肢」を統一的に提示し国民的な議論を進めることとなりました

(別表)第145-2-1 基本問題委員会 委員一覧(2012年 7月 30日現在)三村 明夫(委員長) 新日本製鐵代表取締役会長阿南 久 全国消費者団体連絡会事務局長飯田 哲也 NPO法人環境エネルギー政策研究所所長植田 和弘 京都大学大学院経済学研究科教授槍田 松瑩 三井物産取締役会長

枝廣 淳子 ジャパンフォーサステナビリティ代表幸せ経済社会研究所所長

大島 堅一 立命館大学国際関係学部教授柏木 孝夫 東京工業大学特命教授金本 良嗣 政策研究大学院大学教授学長特別補佐北岡 伸一 東京大学大学院法学政治学研究科教授橘川 武郎 一橋大学大学院商学研究科教授河野 龍太郎 BNPパリバ証券経済調査本部長チーフエコノミスト榊原 定征 東レ代表取締役会長

崎田 裕子 ジャーナリスト環境カウンセラーNPO法人持続可能な社会をつくる元気ネット理事長

菅家 功 日本労働組合総連合会副事務局長高橋 洋 富士通総研主任研究員辰巳 菊子 (公社)日本消費生活アドバイザーコンサルタント協会常任顧問

57

第5節 エネルギー基本計画の検討

第4章

田中 知 東京大学大学院工学系研究科教授寺島 実郎 (一財)日本総合研究所理事長豊田 正和 (一財)日本エネルギー経済研究所理事長

中上 英俊 住環境計画研究所代表取締役所長東京工業大学統合研究院特任教授

八田 達夫 学習院大学特別客員教授伴  英幸 認定NPO法人原子力資料情報室共同代表松村 敏弘 東京大学社会科学研究所教授山地 憲治 (公財)地球環境産業技術研究機構理事研究所長

(別表)第145-2-2 各開催回の議題と概要(第30回委員会まで)開催回 日時 議題 概要第1回 2011年

10月3日エネルギー基本計画の見直しについて

①「『革新的エネルギー環境戦略』策定に向けた中間的な整理」の報告②自由討議

第2回 10月26日 ベストミックスを考える視点等 阿南委員飯田委員橘川委員崎田委員及び高橋委員からのプレゼンテーションとそれに基づく質疑等

第3回 11月9日 ベストミックスと原子力の位置づけ国民視点からのエネルギー政策等

①ベストミックスと原子力の位置づけについて田中委員及び伴委員からのプレゼンテーションとそれに基づく質疑等②国民視点からのエネルギー政策について枝廣委員河野委員辰巳委員及び八田委員からのプレゼンテーションとそれに基づく質疑等

第4回 11月16日 国際情勢とベストミックスユーザーからみたベストミックス等

①国際情勢とベストミックスについてファンデルフーフェンIEA事務局長寺島委員及び豊田委員からのプレゼンテーションとそれに基づく質疑等②ユーザーからみたベストミックスについて榊原委員及び中上委員からのプレゼンとそれに基づく質疑等

第5回 11月30日 あるべきベストミックスと政策市場技術の関わり等

槍田委員柏木委員金本委員松村委員山地委員及び植田委員からのプレゼンとそれに基づく質疑等

第6回 12月6日 論点整理等 ①論点整理について議論②第2回核セキュリティサミット開催に向けた韓国の賢人会議について北岡委員によるプレゼンとそれに基づく質疑等③スウェーデンのエネルギー政策についてコーベリエル元スウェーデンエネルギー庁長官からのプレゼンとそれに基づく質疑等④2011年夏の電力需要対策のフォローアップについて

第7回 12月12日 論点整理等 ①論点整理について議論②当面の議題等について議論

第8回 2012年1月18日

電力システム改革についてエネルギー環境会議による「基本方針」及びコスト等検証委員会の結果 等

①電力システム改革について議論②エネルギー環境会議による「基本方針」及びコスト等検証委員会の結果等について議論③地球温暖化対策の経緯と現状④資源燃料の安定供給確保のための先行実施対策⑤電力システム改革に関するタスクフォース論点整理

第9回 1月24日 原子力発電の位置づけ 等 原子力発電の位置づけ等について議論第10回 2月1日 東京電力福島原子力発電所に

おける事故調査検証委員会の中間報告について新たな原子力安全規制体系の検討状況について 等

①東京電力福島原子力発電所における事故調査検証委員会の中間報告について②新たな原子力安全規制体系の検討状況について③東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の技術的知見に関する意見聴取会(原子力安全保安院)の中間論点整理について④東京電力による賠償進捗状況⑤東京電力福島原子力発電所における事故調査検証委員会 中間報告 について⑥内閣官房原子力安全規制組織等改革準備室 新たな原子力安全規制体系について⑦福島第一事故の技術的知見に関する意見聴取会 中間とりまとめ(案)について⑧世界の原子力賠償制度の概要原子力損害賠償補償契約の補償料率の改定について⑨低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ報告書について⑩原子力被災者への取組について

58

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第4章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえたエネルギー政策の見直し

第4章

32 <ヒアリング対象>電気事業連合会(八木誠会長)株式会社エネット(池辺裕昭社長)石油連盟(天坊昭彦会長)日本ガス協会(鳥原光憲会長)日本 LPガス協会(松澤純会長)33 <ヒアリング対象>全国知事会エネルギー環境問題特別委員会(橋本昌委員長(茨城県知事))

第11回 2月9日 省エネルギー節電対策(熱の有効活用を含む)について 等

省エネルギー節電対策(熱の有効活用を含む)等について議論

第12回 2月14日 主要なエネルギー供給事業者団体からのヒアリングと質疑エネルギー安全保障について(委員からの論点提起と質疑) 等

①主要なエネルギー供給事業者団体32からのヒアリングと質疑②エネルギー安全保障について事務局から資料()を提出するとともに飯田委員高橋委員田中委員寺島委員豊田委員八田委員からの論点提起と質疑日本に加え主要国(アメリカ英国フランスドイツスペイン中国インド韓国)の自給率一次エネルギー供給構成電源構成化石燃料輸入先停電時間省エネ等について分析した資料

第13回 2月22日 全国知事会からのヒアリングと質疑再生可能エネルギーの導入拡大の可能性について化石燃料の確保とクリーン利用の可能性について 等

①全国知事会33からのヒアリングと質疑②再生可能エネルギーの導入拡大の可能性について③化石燃料の確保とクリーン利用の可能性について④ドイツやスペインにおける固定価格買取制度の最近の状況 等

第14回 3月7日 原子力発電の位置づけ 等 ①原子力政策大綱の見直しや核燃料サイクル政策の選択肢の検討状況等に関する原子力委員会からの報告及び質疑等②ドイツにおける固定価格買取制度の最近の状況(続報)ドイツ商工会議所が行ったアンケート「明日のエネルギーと資源」の紹介 等

第15回 3月14日 エネルギーミックスの選択肢について 等

①各委員から提出されたエネルギーミックスに関する意見を元にエネルギーミックスの選択肢について議論②「エネルギーの使用の合理化に関する法律(省エネ法)の一部を改正する法律案」の概要

第16回 3月19日 エネルギーミックスの選択肢について 等

各委員から提出されたエネルギーミックスに関する意見を元にエネルギーミックスの選択肢について議論

第17回 3月27日 エネルギーミックスの選択肢について 等

各委員の意見を類型化したエネルギーミックスの選択肢に関する整理(案)を提示しどの選択肢を経済影響分析の対象とするかについて議論

第18回 4月11日 エネルギーミックスの選択肢について 等

エネルギーミックスの選択肢について各選択肢の基本的な考え方や対策等について議論

第19回 4月16日 エネルギーミックスの選択肢について 等

①エネルギーミックスの選択肢について各選択肢の基本的な考え方や対策等について議論②再生可能エネルギーの導入拡大に伴う追加的コスト

第20回 4月26日 エネルギーミックスの選択肢について 等

エネルギーミックスの選択肢について各選択肢の基本的な考え方や対策等について議論

第21回 5月9日 エネルギーミックスの選択肢について 等

エネルギーミックスの選択肢の候補の経済影響分析結果や選択肢の原案の取りまとめ方等について議論

第22回 5月14日 エネルギーミックスの選択肢について 等

①省エネに関する専門的な検証結果について議論②コジェネに関する専門的な検証結果について議論③「エネルギーミックスの選択肢の原案」の整理のあり方について議論

第23回 5月21日 エネルギーミックスの選択肢について 等

①電力システム改革専門委員会及び天然ガスシフト基盤整備専門委員会の検討状況の報告②経済影響分析に係る感度分析の結果について議論③「エネルギーミックスの選択肢の原案」の整理のあり方について議論

第24回 5月24日 エネルギーミックスの選択肢について 等

「エネルギーミックスの選択肢の原案」の整理のあり方について議論

第25回 5月28日 エネルギーミックスの選択肢について 等

①経済影響分析を巡る論点について議論②「エネルギーミックスの選択肢の原案」について議論

第26回 6月5日 エネルギーミックスの選択肢について 等

①「エネルギーミックスの選択肢の原案」について議論②2020年のエネルギーミックスのあり方について議論

第27回 6月19日 エネルギー基本計画の見直しについて(資源燃料政策について 等)

①エネルギー環境会議における選択肢に関する中間的整理について報告②エネルギー基本計画の見直しに関する主要な論点について議論③資源燃料の安定供給の課題と今後の対応について議論

第28回 7月5日 エネルギー基本計画の見直しについて(蓄電池及び水素についてエネルギー基本計画の見直しの主要論点について 等)

①エネルギー環境会議で提示された選択肢について報告②蓄電池及び水素について議論③資源確保戦略について

59

第5節 エネルギー基本計画の検討

第4章

第29回 7月11日 エネルギー基本計画の見直しについて(スマートコミュニティー熱国際エネルギー協力について 等)

①熱の有効利用及びスマートコミュニティについて議論②エネルギー基本計画』の見直しに関する主要な論点について議論③国際エネルギー環境協力について議論④天然ガスシフトに向けた基盤整備について議論

第30回 7月30日 エネルギー基本計画の見直しについて(電力システム改革コジェネ普及策「エネルギー基本計画」の骨子について 等)

①電力システム改革専門委員会の検討結果について報告②コジェネの導入促進のための取組について議論③エネルギーに関する今後の重点施策について議論

60

参考資料

東京電力福島原子力発電所における事故調査検証委員会 最終報告(概要)

はじめに【ⅠⅥはじめに】 平成 23 年 3 月 11 日東京電力株式会社(以下「東京電力」という)福島第一原子力発電所(以下「福島第一原発」という)及び福島第二原子力発電所(以下「福島第二原発」という)は東北地方太平洋沖地震とこれに伴う津波によって損傷し特に福島第一原発では国際原子力放射線事象評価尺度(INES)レベル 7の極めて深刻なシビアアクシデントが発生した 同年 5月 24 日この事故の原因及びこの事故による被害の原因を調査検証し事故による被害の拡大防止及び同種事故の再発防止等に関する政策提言を行うことを目的に閣議決定に基づき当委員会が設置された当委員会はその後福島第一原発及び福島第二原発を始めとする現地の視察関係地方自治体の首長や住民からの意見聴取関係者のヒアリング(対象者数 772 名)等の調査検証活動を行い同年 12 月 26 日に中間報告を取りまとめさらに平成 24 年 7 月 23日に最終報告を取りまとめた 最終報告は中間報告と一体となるものであり主として中間報告後の調査検証の結果を記述したものである この概要は最終報告のうち問題点の考察と提言に当たるⅥ章の記述を中心に簡略化したものである見出しの後の【 】内は「最終報告(本文編)」の主な該当箇所を示す提言は太字で表記している

1 主要な問題点の分析(1)事故発生後の東京電力等の対処及び損傷状況に関する分析a 福島第二原発における現場対処と比較した福島第一原発の問題点【Ⅱ 5(8)Ⅵ 1(1)a】 福島第一原発における事故対処に関する問題点については中間報告に記述したとおりであるがその後の調査で判明した福島第二原発における現場対処の実際と比較して以下のような問題点が改めて明らかとなった

(a)3号機代替注水 福島第一原発 3号機においては高圧注水系手動停止の際に代替手段をあらかじめ準備しなかったことにより6時間以上にわたって原子炉注水が中断した福島第二原発では手順の細目について相違があるものの基本的には次なる代替手段が実際に機能するか否かを確認の上で注水手段の切替えを行うという対応がとられていた 福島第二原発では外部電源が使用可能であったことから作業環境も福島第一原発と比較すると良好であり事態の対応に当たったスタッフは心理的にもより余裕があったと思われるしかしこれらの点を考慮したとしても福島第一原発における対応は適切さを欠いたものであった

(b)2号機 SC 圧力温度の監視 福島第一原発 2号機では平成 23 年 3 月 11 日の全電源喪失以降原子炉隔離時冷却系(RCIC)が作動していたものの電源喪失により制御不能でありいつ停止するかも分からない状況にあった中で同月 12 日 4 時頃以降RCIC の水源を復水貯蔵タンクから圧力抑制室(SC)に切り替えたしかし電源喪失によって残留熱除去系による冷却が期待できない場合にこのような運転方法を長時間継続するとSC の圧力及び温度が上昇しRCIC の冷却機能及び注水機能が低下するほかRCIC が機能しなくなった場合の次なる代替注水手段である消防車を用いた消火系注水に必要な主蒸気逃し安全弁(SR 弁)による減圧操作が困難になるなどのおそれがあったしたがってSC の圧力及び温度を継続して監視するとともにあらかじめ消防車注水ラインを準備しRCIC 停止を待たずに原子炉減圧操作を行う必要があったと考えられるしかし実際には同月 14 日 4 時 30 分頃まで前記のような計測が行われず速やかな代替注水が実施されることもなかった 他方福島第二原発ではRCIC 作動中から間断なく注水を実施することを視野に入れSC の圧力及び水温を監視しながら段階的に SR 弁を開操作して復水補給水系による注水を実施するなどの対応がとられた 前記(a)で述べように福島第一原発と福島第二原発では状況の違いはあるにせよ福島第一原発における対処は福島第

61

参考資料

二原発におけるそれと比べて適切さが欠けていたと指摘せざるを得ない

b 損傷状況の継続した徹底的な解明の必要性【Ⅵ 1(1)b】 当委員会は可能な限りの事実の調査検証を行ってきたが現地調査における困難性や時間的制約等のため福島第一原発の主要施設の損傷が生じた箇所その程度時間的経緯を始めとする全体的な損傷状況の詳細放射性物質の漏出経緯原子炉建屋爆発の原因等についていまだに解明できていない点も存在する国電力事業者原子力発電プラントメーカー研究機関関連学会といったおよそ原子力発電に関わる関係者(関係組織)は今回の事故の事実解明と検証を最後まで担うべき立場にありこうした未解明の諸事項についてそれぞれの立場で包括的かつ徹底した調査検証を継続する組織的態勢を組むべきである

(2)事故発生後の政府等の事故対処に関する分析a 原子力災害現地対策本部【Ⅲ 5(4)Ⅵ 1(2)a】 政府の原子力災害対策マニュアル(以下「原災マニュアル」という)は原子力災害現地対策本部(以下「現地対策本部」という)の設置される緊急事態応急対策拠点施設(以下「オフサイトセンター」という)が機能するということを前提に作成されているが今回の事故の際はその前提が崩れ原災マニュアルが予定していたような対応ができなくなるという問題が生じた そもそもシビアアクシデントにおいてもオフサイトセンターが機能するような方策をあらかじめ講じておくべきであったし仮にオフサイトセンターが機能しなくなるような事態になったとしても事故に対処できるような方策を併せて講じておく必要があった また原子力災害対策本部(以下「原災本部」という)長から現地対策本部長への権限の委任については原子力安全保安院(以下「保安院」という)職員が原災本部長である菅直人内閣総理大臣(以下「菅総理」という)の了承を求めるタイミングを失した上現地対策本部から再三にわたって委任手続の進捗状況の確認を求められても主体的に動かずまた内閣官房及び内閣府の職員も保安院に対して委任手続を進めるよう注意喚起せず委任手続が行われないという問題が発生した そのような状況において現地対策本部は経済産業省緊急時対応センター(ERC)に置かれた原災本部事務局とも協議の上必要な措置を漏れなく迅速に行うため権限の委任手続が終了しているものとして避難措置の実施等について種々の決定を行いかつ実施した

b 原子力災害対策本部【Ⅲ 2(1)4(2)Ⅵ 1(2)b】(a)官邸内の対応 原災マニュアルによれば原子力災害が発生した際政府における緊急事態応急対策の中心となる原災本部は官邸に設置しまた情報の集約内閣総理大臣への報告政府としての総合調整を集中的に行うため官邸地下にある官邸危機管理センターに官邸対策室を置くこととされているまた各省庁の局長級幹部職員は同センターに参集することとされておりそのメンバーを「緊急参集チーム」と呼んでいる同チームには緊急時において迅速的確な意思決定がなされるよう各省庁が持つ情報を迅速に集約しそれに基づいて機動的に意見調整を行うことが期待されている しかし今回の事故においては避難措置等の事故対応についての重要な意思決定の多くはこの官邸危機管理センター(緊急参集チーム)から離れて官邸地下の中 2階の一室又は官邸 5階において関係閣僚原子力安全委員会(以下「安全委員会」という)委員長保安院幹部東京電力幹部らにより行われた一般に原子力災害が発生した場合できる限り情報入手が容易で現場の動きを把握しやすい現場に近い場所に対策の拠点が設置される必要がある政府における福島第一原発の情報収集拠点であったERC から離れた官邸内において意思決定が行われていたことまた官邸内においてもその情報集約拠点である官邸危機管理センターとは離れた別の場所(官邸 5階等)において意思決定が行われていたことなどから情報の不足と偏在が生じ十分な情報がないままに意思決定せざるを得ない場合も生じたという点は今回の一つの大きな教訓とすべきである なお平成 23 年 3 月 15 日に東京電力本店に福島原子力発電所事故対策統合本部が設置されたことは福島第一原発についての情報アクセスの改善という面では積極的に評価をすることも可能であるが政府の対応に必要な情報は必ずしも東京電力に係る情報のみではない上東京に本社本店のない他の電力会社の原子力発電所において同様の事故が発生する場合もあり得ることから今回の事例を普遍的な先例とするべきではない正確な情報を迅速に入手することはいうまでもなく原子力災害対策の基本である電力事業者の本社本店に移動することなく官邸等政府施設内にいながらよ

62

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

り情報に近接することのできる仕組みの構築が検討されるべきである

(b)情報収集の問題点 中間報告で詳述したようにERCの中に東京電力本店やオフサイトセンターが東京電力のテレビ会議システムを通じて現場の情報を得ていることを把握している者はほとんどおらず東京電力のテレビ会議システムをERCにも設置するということに思いが至らなかったまた情報収集のために保安院職員を東京電力本店へ派遣するといった積極的な行動も起こさなかった

c 福島県災害対策本部【Ⅳ 3(2)bⅥ 1(2)c】 福島県は平成 23 年 3 月 11 日知事を本部長とする福島県災害対策本部(以下「県災対本部」という)を設置し事故対応に当たったが県災対本部内外の連携等が十分ではなかったために避難区域内に取り残された双葉病院の入院患者等の避難救出が大きく遅れるなどの問題が発生した 被災地からの避難救出における今回のような事態の再発を防ぐためには県が設置する災害対策本部の班編成を平時の組織を単に縦割り的に寄せ集めたものでなく対応すべき措置に応じた横断的機能的なものにするとともに全体を統括調整できる仕組みを設けかつ各班相互の意思疎通の強化を図ること防災計画においても県の災害対策本部に詰める職員のみならず必要に応じいつでも他の職員も災害対応に当たる全庁態勢をとること等が必要である また原子力災害においてはその規模の大きさから県が前面に出て対応に当たらなければならずこの点を踏まえた防災計画を策定する必要がある

d その他の具体的な対応に関する分析【Ⅲ 2(1)Ⅵ 1(2)d】(a)原子力緊急事態宣言の発出 平成 23 年 3 月 11 日 17 時 42 分頃海江田万里経済産業大臣(以下「海江田経産大臣」という)は寺坂信昭原子力安全保安院長(以下「寺坂保安院長」という)らと共に菅総理に対し原子力災害対策特別措置法第 15 条第 1項に定める原子力緊急事態の発生を報告するとともに原子力緊急事態宣言の発出について了承を求めたしかし寺坂保安院長らは菅総理から福島第一原発の原子炉の状況や関連法令等について問われこれに対して十分な説明をすることができないまま時間が経過し菅総理は同日 18 時 12 分頃から約 5分間予定されていた与野党党首会談に出席したため上申手続は一時中断した同会談から戻った菅総理は間もなく原子力緊急事態宣言の発出を了承し同宣言は同日 19 時 3 分に発出された一般的に原子力災害においては事態が急速に進展することがあり得るところであり進行している事態や関連法令の詳細についての把握よりまず緊急事態宣言の発出を優先すべきであったと思われる

(b)福島第一原発視察 菅総理は平成 23 年 3 月 12 日福島第一原発事故に関する情報が十分に入っていなかったことなどから福島第一原発の視察を実行したこの視察は事故もなく終了し結果的には福島第一原発におけるベント実施への影響もなかったと認められるしかしながら今回のような大規模災害事故が発生した場合において最高指揮官の立場にある内閣総理大臣が長時間にわたって官邸を離れ危険が伴う現地視察を行い緊急対応に追われていた現地を訪れたことについては他の代わりとなる人物を派遣して状況を確認させるなどの方法によるべきではなかったのかという点でなお疑問が残る

(c)具体的事故対処についての官邸の関与 菅総理は平成 23 年 3 月 12 日 18 時過ぎ頃海江田経産大臣からその直前に同大臣が発した福島第一原発 1号機原子炉への海水注入命令について報告を受けた際炉内に海水を注入すると再臨界の可能性があるのではないかとの疑問を発しその場に同席した班目春樹原子力安全委員会委員長(以下「班目委員長」という)がその可能性を否定しなかったことから更に海水注入の是非を検討させることとしたその場に同席していた東京電力の武黒一郎フェロー(以下「武黒フェロー」という)は同日 19 時過ぎ頃福島第一原発の吉田昌郎所長に電話し「今官邸で検討中だから海水注入を待ってほしい」と強く要請した菅総理が再臨界の可能性についての質問を発した際その場には班目委員長のほか平岡英治原子力安全保安院次長武黒フェロー等の原子炉に関する専門的知見を有する関係者が複数いたが的確な応答をした者はおらず誰一人として専門家としての役割を果たしていなかったまた安易に海水注入を中止させようとした東京電力幹部の姿勢にも問題があったこのようなすぐれて現場対処に関わる事柄はまず現場の状況を最も把握し専

63

参考資料

門的技術的知識も持ち合わせている事業者がその責任で判断すべきものであり政府官邸はその対応を把握し適否についても吟味しつつも事業者として適切な対応をとっているのであれば事業者に任せ対応が不適切不十分と認められる場合に限って必要な措置を講じることを命ずるべきである当初から政府や官邸が陣頭指揮をとるような形で現場の対応に介入することは適切ではないと言えよう

(3)被害の拡大防止策に関する分析a 原発事故の特異性【Ⅵ 1(3)a】 原子力発電所の大規模な事故は施設設備の壊滅的破壊という事故そのものが重大であるだけでなく放出された放射性物質の拡散によって広範な地域の住民等の健康生命に影響を与え市街地農地山林海水を汚染し経済的活動を停滞させひいては地域社会を崩壊させるなど他の分野の事故には見られない深刻な影響をもたらすという点で極めて特異であるこのような原発事故の調査検証に当たっては事故原因とその背景について明らかにするだけでなく被害の発生拡大を防止する取組が適切であったのか否かそれが十分なものでなかったとするならそれはなぜなのかといった問題についても多角的に調査分析しあるべき被害防止への方策を見いださなければならない

b モニタリングの在り方【Ⅳ 1(2)aⅥ 1(3)b】 モニタリングに関する問題点等については既に中間報告で述べたとおりであるがさらにオフサイトセンターが機能しない場合のモニタリングの役割分担について指摘しておきたい 今回の事故においてはオフサイトセンターにある現地対策本部を拠点としたモニタリング活動が十分でなかったことから平成 23 年 3 月 16 日関係機関の役割分担が整理され各機関が実施しているモニタリングのデータの取りまとめ及び公表は文部科学省がデータの評価は安全委員会が安全委員会が行った評価に基づく対応は原災本部がそれぞれ行うことが取り決められたしかし急を要する状況の中でデータ評価の範囲等について関係機関の間で事前に十分な調整が行われた上で取決めがなされたとは言い難い状況にあった このような応急の状況で役割分担の取決めが必要となったのはモニタリングデータの集約評価公表評価に基づく対応という一連の作業を担うこととされていた現地対策本部(オフサイトセンター)が機能しない事態が生ずることを想定していなかったためと考えられる今回の事態を教訓にモニタリング態勢整備の見直しが必要である

c SPEEDI の活用の在り方【Ⅳ 2(1)(3)(4)Ⅵ 1(3)c】(a)システム及びその活用主体の問題点 緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)は原子力事故発生時緊急時対策支援システム(ERSS)から伝送される放出源情報を前提に周辺環境における放射線量率等を予測することができる装置であるがERSS は事故発生時には機能しなくなるおそれがありその場合の SPEEDI の活用方法についてあらかじめ検討しその検討結果を事故対応に当たるべき関係者間で共有しておくべきであった しかしながら事故対応に当たっていた多くの者はERSS が機能しなくなるや SPEEDI を避難に活用する余地はないものと考えていた環境放射線モニタリング指針には放出源情報が得られない場合の SPEEDI の活用方法も記載されていたがこれを避難に活用できるとのコンセンサスもなかったまたオフサイトセンターが機能しなくなった場合における SPEEDI の活用主体(運用及び公表の責任を負う機関)についても明確になっていなかった

(b)SPEEDI と避難指示 SPEEDI が有効に活用されなかった大きな原因は前記(a)のとおりいずれの関係機関もERSS から放出源情報が得られない場合には SPEEDI を避難に活用することはできないという認識の下これを避難の実施に役立てるという発想を持ち合わせていなかった点にあったと考えられるしかしSPEEDI により単位量放出を仮定した予測結果は得られており仮にその情報が提供されていれば各地方自治体及び住民はより適切に避難のタイミングや避難の方向を選択できた可能性があったと言えようERSS から放出源情報を得られない場合でもSPEEDI を活用する余地はあったと考えられる

d 住民に対する避難指示【Ⅳ 3(1)b(2)Ⅵ 1(3)d】 住民に対する避難指示に関する問題点等については中間報告で述べたとおりであるが中間報告後の調査検証を踏まえ更に以下の点を指摘しておく

64

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

(a)福島第二原発から 10km圏外への避難指示 平成 23 年 3 月 12 日 17 時 39 分福島第二原発から半径 10km圏外への避難指示が発出されたこの避難指示は同日15 時 36 分の福島第一原発 1号機における爆発を受け官邸 5階において福島第二原発についても同様の事象が発生する可能性があるので万一の事態に備える必要があるとの判断に基づいて発出されたものであり原子炉への注水状況原子炉の水位や圧力等の福島第二原発の各号機の具体的状況を踏まえて検討されたものではなかった この避難措置の約 1時間後の同日 18 時 25 分福島第一原発から 20km圏外への避難指示が発出されたが広野町北端のごく一部の地域のみは福島第一原発から 20kmの範囲に含まれないので福島第二原発から 10km圏外への避難指示が発出されなければ避難指示区域に含まれることはなかった福島第二原発から 10km 圏外への避難指示については情報不足で混乱する中福島第一原発 1号機の原子炉建屋爆発という事態を受けて判断されたが当時の福島第二原発の状況は実際には比較的安定しておりその決定過程には問題が残った

(b)病院患者等の避難 寝たきりの患者が多く入院していた双葉病院については入院患者の救出が大きく遅れかつ搬送先が遠方の高等学校の体育館とされるなど不適切と言わざるを得ない事態が生じたこうした事態の再発を防ぐためには前記(2)cで指摘したもののほか避難を担当する自衛隊が警察無線を有する県警に協力を求めるなどして外部との連絡体制の確保に留意する必要があるまた言うまでもなく人命救助に当たる者は改めてその責任の重さを自覚し強い責任感を持って任務に当たるべきである

e 被ばくへの対応【Ⅳ 4(3)b(c)(5)ab(6)5(2)aⅥ 1(3)e】(a)APD の未装着問題 事故発生後の福島第一原発の作業員(放射線業務従事者)にとって各自が警報付きポケット線量計(APD)を装着しその受けた放射線量を測定することは線量限度を超える被ばくを避けるため不可欠であったしかし福島第一原発においてはもともと配備されていたAPD が被水するなどしたため平成 23年 3月 15日以降の作業において代表者のみがAPD を装着する例外的な運用を始めこれが同月 31 日まで続いた この問題について調査したところ実際には事故発生直後に他の発電所等から合計 950 個のAPD が届けられていたが適合する充電器や警報設定器がないなどとして使用されないまま放置されたこと等が明らかとなった その経緯等を見ると現場作業員の被ばく防止に関する東京電力社員の意識は低かったと言わざるを得ないこれは「被ばく線量はできる限り小さくすべきである」という広く受け入れられている国際放射線防護委員会(ICRP)の考え方が十分に理解されていないことをうかがわせるものであり東京電力における被ばく回避の放射線教育の在り方に問題があったと言わざるを得ない

(b)国のヨウ素剤服用指示 現地対策本部医療班は平成 23 年 3 月 13 日スクリーニングレベルに関する現地対策本部長指示を発出するための準備を始めたその過程において安全委員会はERCに対しスクリーニングレベルを超えた者に対しては安定ヨウ素剤を投与すべきとのコメントをFAX 送信し安全委員会からERCに派遣されていたリエゾンがこれを受け取ったしかしこのコメントはERC 医療班内で共有検討が行われず現地対策本部にも伝えられなかったこれは同リエゾンが安全委員会のコメントを本部長指示に盛り込むことの重要性必要性を認識していなかったことによるものと考えられる 他方安全委員会も前記コメントが前記指示に盛り込まれないであろうことを知りながら「委員会はあくまでも助言機関である助言すべき事項は既に助言した」との理由から何らそれ以上のアクションを起こさなかった点で国民の安全を所管する行政機関としての責任感に欠けていたと言わざるを得ない

(c)県のヨウ素剤服用指示 三春町は平成 23 年 3 月 14 日深夜住民の被ばくが予想されたことから安定ヨウ素剤の配布服用指示を決定し同月 15 日町民に周知を行い薬剤師の立会いの下安定ヨウ素剤の配布を行ったこれを知った福島県の職員は三春町に対し国からの指示がないことを理由に配布中止と回収の指示を出したが三春町はこれに従わなかった安定ヨウ素剤の服用についての安全委員会の意見が前記(b)のような経緯で葬られている点を考慮すると国からの指示がなかったからという理由で三春町の判断を不適切であったと言うことはできない現在安定ヨウ素剤の服用については基

65

参考資料

本的に国の災害対策本部の判断に委ねる運用となっているが前記経験を踏まえ各自治体等が独自の判断で住民に服用させることができる仕組み事前に住民に安定ヨウ素剤を配布することの是非等について見直すことがむしろ必要であろう

(d)スクリーニングレベルの引上げ 福島県は当初スクリーニングレベルを 40Bqcm2(1 万 3000cpm相当)と設定していたが平成 23 年 3 月 13 日同月 14 日以降の全身除染のスクリーニングレベルを 10 万 cpmに引き上げた安全委員会は福島県のスクリーニングレベル引上げの意向を知りERCに対し一旦はスクリーニングレベルを 1万 3000cpmに据え置くべきであるとの助言を行ったが同月 19 日には 10 万 cpmへの引上げを是認する助言を行い現地対策本部長は同月 20 日スクリーニングレベルを 10 万 cpmとする指示を発出した しかし当時は全身除染(シャワー)のスクリーニングレベルの引上げではなく線量等に応じたきめ細かな除染方法(脱衣拭き取り等)の策定こそが必要であったまた安全委員会が発出した 10 万 cpmというスクリーニングレベルを許容する助言及びこれに基づいて現地対策本部長が発出した指示はスクリーニングレベルを単純に 10 万 cpm に引き上げるのみで検出レベルが 1万 3000cpm 以上 10 万 cpm 未満であった者に対しては何らの除染も要求しておらずその者に対する除染は不要であるかのように解釈する余地があるものとなっておりかえって問題であったまたスクリーニングレベルについては同月 13 日に発せられた現地対策本部長指示が県災対本部の担当班に伝わっていないなど国と県のコミュニケーションに関する問題も発生した今回のような緊急事態にあっては重要情報を関係者がしっかりと共有することの重要性を認識し関係行政組織間の調整能力に長けた者が緊急事態対応部署(班)のトップを構成し国や地方自治体の関係行政機関が一体となって事故対処に当たることが不可欠である

(e)校舎校庭等の利用基準 文部科学省は平成 23 年 4 月 19 日学校等の校舎校庭等の利用判断基準について38μSvh(年間にすると ICRP が定める「現存被ばく状況」における参考レベルの上限値である 20mSv に相当)以上の空間線量率が測定された学校等については校庭での活動を 1日 1時間程度に制限し38μSvh 未満の空間線量率が測定された学校については平常どおり利用して差し支えないとする考え方を公表したこれに対してはあたかも 20mSv年までの被ばくを許容するもので子どもへの配慮に欠ける事前に十分な説明や広報がなされなかったといった批判や懸念が寄せられた 確かに文部科学省の当時の説明は20mSv年を利用の基準値にしたと理解されてもやむを得ない面があり放射線に対する強い不安を解消するものとは言い難くリスクコミュニケーションの観点から見ても適切ではなかったまた一般に大人よりも放射線の影響が大きいと言われる子どもが利用する校舎校庭等について「現存被ばく状況」の上限値を用いたことが適当であったかどうかについてもなお議論の余地があろう その後文部科学省はより生活実態に合わせた被ばく線量の再試算を行い1年間で 10mSv 以下という数値を示したしかし放射線が子どもに対して与える影響は大人に対するそれよりも大きいとされていることICRP 勧告が「現存被ばく状況」においても参考レベル 1~20mSv年の中でできる限り被ばく線量を低減するよう求めていること(防護の最適化)などを考慮すると国としては10mSv年という数値に安心することなく被ばく線量をできる限り低くするような方策をとるべきであり38μSvh 未満の学校等についても校庭等での活動に基準を設けるなどして被ばく線量をより低く抑えるよう配慮するのが適当であったと思われる

(f)緊急被ばく医療機関 福島第一原発において事故が発生した場合の初期被ばく医療機関として 6病院が指定されていたがそのうち 4病院は避難区域内に立地していたことから被ばく医療機関としての機能を果たすことができなかったしたがって今回のようなシビアアクシデントが発生した場合においても緊急被ばく医療が提供できるよう緊急被ばく医療機関を原子力発電所周辺に集中させず避難区域に含まれる可能性の低い地域を選定しそこに相当数の初期被ばく医療機関を指定しておくとともに緊急被ばく医療機関が都道府県を超えて広域的に連携する態勢を整える必要があると考えられる

(g)放射線に関する国民の理解 今回の事故を契機として改めて放射線防護に万全を期する必要があることが再確認されたが他方で放射線を「正しく恐れる」必要性についても認識させられた今後も不必要な被ばくをできる限り避けるため最大限の努力が払われるべきことは当然であるがそれと同時に個々の国民が放射線のリスクについて正確な情報に基づいて判断できるようすな

66

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

わち情報がないためにいたずらに不安を感じたり逆にリスクを軽視したりすることがないようできる限り国民が放射線に関する知識や理解を深める機会が多く設けられる必要がある

f 国民への情報提供に関する分析【Ⅳ 8(2)(4)(5)(8)(9)Ⅵ 1(3)f】(a)官邸の事前了解 平成 23 年 3 月 12 日福島第一原発 1号機の「炉心溶融」の可能性が保安院の中村幸一郎審議官によって広報された官邸に詰めていた関係者はそれまで「炉心溶融」の可能性について報告を受けていなかったため保安院が官邸の把握していない事実を事前告知することなく広報したとして問題視し広報内容について官邸への事前連絡を求めたこのことが契機となって寺坂保安院長の判断で保安院においてはプレス発表に先立って内容について官邸の事前了解を得ることとしたまた東京電力も同月 13 日以降プレス発表に先立って官邸の了解を得た上で広報することとしこれらが原因でプレス発表が遅れることがあった 政府の意思決定及び広報の中心となるべき官邸としては迅速な情報提供を求めるのは当然のことであるがプレス発表の際に事前了解を得た上で行うこととすると緊急性を有する情報が直ちに広報できない状況が生ずるおそれがある緊急性の高い情報については各広報機関が独自の判断で広報することが必要となる場面もあり情報の全てについて官邸の事前了解を求めることは必ずしも適切ではない

(b)炉心溶融を積極的に否定した保安院の広報 前記(a)のとおり保安院はプレス発表前に官邸の了解を得ることとしたがその後保安院広報官の一部には「炉心溶融」に言及するのを避けるためかなり無理のある広報をした形跡が認められるすなわち平成 23 年 3 月 14 日の保安院のプレス発表において西山英彦保安院付が炉心溶融の可能性を肯定し又は炉心溶融の可能性を否定しない発言を行った際同席した保安院職員が同発言を取り消すかのように「まだ溶融とかそういう段階ではないと思っております」などと炉心溶融の可能性を積極的に否定する趣旨の発言を行った 前記の保安院職員の発言はその主観的認識がどうであったかはともかく炉心溶融の可能性という否定し難い事実を積極的に否定する内容となっており中央及び現地の災害対策関係者や地域住民の切羽詰まった情報ニーズを誤った方向へ導く極めて不適切なものであった

(c)放射線の影響に関する広報 福島第一原発事故による一般住民等の被ばく又は被ばくのおそれについての広報の際政府はしばしば「直ちに(人体に影響を及ぼすものでない)」との表現を用いたしかしながら「直ちに人体に影響を及ぼすものではない」との表現については「人体への影響を心配する必要はない」という意味と反対に「直ちに人体に影響を及ぼすことはないが長期的には人体への影響がある」という意味がありいずれの意味で用いているのか必ずしも明らかではなかったこのようなどちらの意味にも受け取れる表現は緊急時における広報の在り方として避けるべきでありリスクコミュニケーションの観点からも今後の重要な検討課題である

(d)「不測事態シナリオの素描」の不公表問題 平成 23 年 3 月 22 日菅総理は原子力委員会委員長である近藤駿介氏に対し福島第一原発事故の最悪事態の想定とその場合の対策を検討するよう依頼したこの依頼を受けて同氏は「福島第一原子力発電所の不測事態シナリオの素描」(以下「素描」という)を作成し同月 25 日細野豪志内閣総理大臣補佐官(以下「細野補佐官」という)へ提出した細野補佐官は素描が示す対策についての検討を進めたが素描を公表することはしなかった素描はその内容が現実に発生する可能性の低い仮定的事実に基づいたシミュレーションであったことから素描を公表しなかったことが不適切であったとまでは言えないただし一般論として言えば仮定の事実に基づくシミュレーション結果であっても公表の必要性シミュレーション結果に対する対策の有無公表のタイミングを考慮し前提条件を丁寧に説明した上で公表するという選択肢もあり得ると考えられる

g 国外への情報提供や諸外国等との連携の在り方【Ⅳ 910(2)Ⅵ 1(3)g】(a)諸外国との情報共有 事故発生後我が国は必ずしも諸外国が満足するような事故関連情報の提供を行っていなかった諸外国とりわけ日本国内に多数の市民が在住する国や近隣国に対する情報提供は我が国の国民に対するそれと同様に極めて重要であ

67

参考資料

り迅速かつ正確な情報提供ができるよう言語の違いにも配慮した上積極的かつ丁寧な対応が求められる

(b)諸外国からの支援の受入れ 我が国は諸外国からの支援物資を受け入れる態勢に不備があったほか受入物資を保管する場所がなかったことから当初支援物資の提供を直ちに受け入れることができなかった原子力災害発生時に諸外国から支援物資の提供があった場合はできる限り早くこれを受け入れることが国際礼譲の点からも国内における支援物資の必要性を迅速に満たすという点からも必要である今後は今回のような初期段階での混乱と不適切な対応が生じないよう支援物資の受入態勢について担当官庁のマニュアルや原子力事業者防災業務計画等において対応方法を定めておく必要がある

(4)事故の未然防止策や事前の防災対策に関する分析a 総合的リスク評価とシビアアクシデント対策の必要性【Ⅴ 3(1)(2)Ⅵ 1(4)a】(a)外的事象を対象としたアクシデントマネジメント導入に至らなかった経緯 我が国においてはアクシデントマネジメントとして整備されたのは内的事象に起因する対策のみで地震津波等の外的事象は具体的な検討対象とはならなかった このような事情の背景としてはシビアアクシデント対策を検討するのに有用な手法とされる確率論的安全評価(PSA)については福島原発事故発生以前に確立されていた外的事象 PSAは地震 PSAのみで手法として限定的であったこと定期安全レビューが外的事象 PSA についての技術的水準の進歩を勘案してシビアアクシデント対策の改善を促す機会とはならなかったこと外的事象 PSA を実施して合理的追加対策があれば行うことを奨励すべきとの指摘があったものの耐震バックチェックの作業等の事情から早急に導入を検討するには至らなかったことなどが挙げられる その結果として地震 PSAによる評価や津波に対する安全評価を始めとして事故の起因となる可能性がある火災火山斜面崩落等の外部事象を含めた総合的なリスク評価は行われていなかった

(b)総合的リスク評価の必要性 施設の置かれた自然環境は様々であり発生頻度は高くない場合ではあっても地震地震随伴事象以外の溢水火山火災等の外的事象及び従前から評価の対象としてきた内的事象をも考慮に入れて施設の置かれた自然環境特性に応じて総合的なリスク評価を事業者が行い規制当局等が確認を行うことが必要であるその際には必ずしも PSA の標準化が完了していない外的事象についても事業者は現段階で可能な手法を積極的に用いるとともに国においてもその研究が促進されるよう支援することが必要である

(c)総合的リスク評価を踏まえたシビアアクシデント対策の策定 原子力発電施設の安全を今後とも確保していくためには外的事象をも考慮に入れた総合的安全評価を実施し様々な種類の内的事象や外的事象の各特性に対する施設の脆弱性を見いだしそれらの脆弱性に対し設計基準事象を大幅に超え炉心が重大な損傷を受けるような場合を想定して有効なシビアアクシデント対策を検討し準備しておく必要があるまたそれらの対策の有効性についてPSA 等の手法により評価する必要がある その場合PSA 手法の未成熟等によりリスク評価方法に制約があるとしてもその特徴と限界を理解の上事業者は自らの施設の安全性確保のためのシビアアクシデント対策の検討評価を行うべきでありその検討に当たっては諸外国の状況等についても十分参照する必要がある規制当局等も緊急性のあるシビアアクシデント対策の実施については自然災害等の際に果たして有効かどうかリスク評価手法等を用いて確認検討すべきである

b 原子力防災対策の見直し【Ⅴ 4(2)(3)Ⅵ 1(4)b】 原子力防災体制の整備については国際原子力機関(IAEA)における原子力又は放射線緊急事態に関する安全基準の策定に伴い平成 18 年に安全委員会において「原子力施設等の防災対策について」(以下「防災指針」という)の見直し作業が行われ我が国における予防的措置範囲(PAZ)の導入等が検討されたが安全委員会と保安院との調整の結果防災指針に PAZ の概念や範囲は直接には書き込まないこととなった 原子力災害と大規模自然災害とが同時期に発生する複合災害については保安院において検討が開始されたが自然災害原子力災害を所掌する中央防災会議での検討の申入れが行われたのは東日本大震災のわずか三日前であった 今回の事故以前の原子力防災対策を重点的に充実すべき地域の範囲は原子力発電所から8~10km 圏内とすることを大前提に仮想事故を相当に上回る事故の発生時でも十分対応可能であるとみなして設定されていたが今回の事故に鑑み

68

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

どのような事故を想定して避難区域等を設定するのか再検討することが必要である また原子力災害の際の国の責任の重要性に鑑み単に住民避難等の原子力施設敷地外の対応にとどまらず事業者と協議しつつ原子力災害の際に事業者への支援や協力として国が行うべきことの内容を検討すべきである

(5)原子力安全規制機関等に関する分析【Ⅴ6Ⅵ 1(5)】 保安院は事故の未然防止のための取組や事故後の対応においてその所掌にふさわしい役割を十分に果たしてきたとは言い難い保安院のこのような問題点を踏まえ当委員会は中間報告において原子力安全規制機関の在り方として5点の指摘を行った最終報告においてはその後の調査検証の結果を踏まえ以下の 2点の指摘を加えることとするなお今回追加する 2点は安全委員会についても共通する事柄である① 国際機関外国規制当局との積極的交流 現在の保安院等の定員状況ではIAEA やアメリカ合衆国原子力規制委員会への少数の人事交流にとどまりまた国内事務処理に優先的に当たらざるを得ないために国際会議等での十分なプレゼンスの発揮には限界があり規制当局等の組織の実力の向上や原子力安全に関する国際社会との協調に十分に資するには至っていない 国の行政機関の定員措置については行政機関全体の問題であることから保安院等のみに関する検討で済むものではないが原子力安全の重要性に鑑み新たに設置される原子力安全規制機関の定員措置については十分に考慮する必要があるまた新設の規制機関においては前記定員措置のほか国際貢献を果たすにふさわしい態勢整備に努めるとともに国際機関外国規制当局との人的交流を担える人材の育成に努めるべきである② 規制当局の態勢の強化 原子力発電の安全を確保するためには単に発生した個別問題への対応にとどまらず国内外の最新の知見はもとより国際的な安全規制や核セキュリティ等の動向にも留意しつつ国内規制を最新最善のものに改訂する努力を不断に継続する必要があるまた今回のような事故の未然防止が重要なことはいうまでもないが原子力災害の社会への影響の大きさに鑑みれば災害発生時に迅速かつ有効な活動が展開できるよう平常時から防災計画の策定や防災訓練等を実施し緊急時の対応に万全を期すべきであるさらに緊急事態において専門知識に基づく的確な助言指導ができる専門的技術能力や組織が有するリソースを有効かつ効率的に機能させるマネジメント能力の涵養に努めなければならないそのためにはそれにふさわしい予算人的スタッフの在り方の検討が必要である

(6)東京電力に関する分析【Ⅵ1(6)】a 危機対応能力の脆弱性 今回のシビアアクシデントに対する東京電力社員の対処対応を検証していくと自ら考えて事態に臨むという姿勢が十分ではなく危機対処に必要な柔軟かつ積極的な思考に欠ける点があったと言わざるを得ないこのことは個々人の問題というよりは東京電力がそのような資質能力の向上を図ることに主眼を置いた教育訓練を行ってこなかったことに問題があったと言うべきであろう更に問題を遡っていくと東京電力を含む電力事業者も国も我が国の原子力発電所では深刻なシビアアクシデントは起こり得ないという安全神話にとらわれていたがゆえに危機を身近で起こり得る現実のものと捉えられなくなっていたことに根源的な問題があると思われる 東京電力には原子力安全に関し一次的な責任を負う事業者としてこれまでの教育訓練の内容を真摯に見直し原子力に携わる者一人一人に対し事故対処に当たって求められる資質能力の向上を目指した実践的な教育訓練を実施するよう強く期待する

b 専門職掌別の縦割り組織の問題点 東京電力は原子力災害に組織的一体的に対処するため緊急時対策本部等の組織化を図りその中に発電班復旧班技術班等の機能班を設けているしかしこれらの機能班は事態を見渡して総合的に捉えその中に自らの班の役割を位置付け必要な支援業務を行うといった視点が不足していた

c 過酷な事態を想定した教育訓練の欠如 緊急時対策本部内の機能班に所属する一人一人が時宜にかなった判断をなし得ずまた機能班として十分な機能が果たし得なかったことの根底には複数号機において全交流電源が喪失するといった過酷な事態を想定した十分な教育訓練がなされていなかったことがあると考えられる

69

参考資料

d 事故原因究明への熱意の不足 東京電力は事故から 1年以上が経過した現時点においてもなお事故原因について徹底的に解明して再発防止に役立てようとする姿勢が十分とは言えない当委員会としては東京電力が今後も事故原因の解明を積極的に進めることを強く求める

e より高い安全文化の構築が必要 東京電力は原子力発電所の安全性に一義的な責任を負う事業者として国民に対して重大な社会的責任を負っているが津波を始め自然災害によって炉心が重大な損傷を受ける事態に至る事故の対策が不十分であり福島第一原発が設計基準を超える津波に襲われるリスクについても結果として十分な対応を講じていなかった組織的に見ても危機対応能力に脆弱な面があったこと事故対応に当たって縦割り組織の問題が見受けられたこと過酷な事態を想定した教育訓練が不十分であったこと事故原因究明への熱意が十分感じられないことなどの多くの問題が認められた東京電力は当委員会の指摘を真摯に受け止めてこれらの問題点を解消しより高いレベルの安全文化を全社的に構築するよう更に努力すべきである

(7)IAEA 基準などとの国際的調和に関する分析【Ⅴ5Ⅵ 1(7)】 保安院などの規制当局等はIAEA 安全基準を参照して国内基準の見直しや策定を行う必要性は認識していたもののほとんど実施してこなかった原子力発電の安全を確保するためには国内外の原子力に関する知見の蓄積や技術進歩に合わせて国内の規制水準を常に最新のものとしていくことが必要であるそのためにはIAEA等の国際基準の動向も参照して国内基準を最新最善のものとする不断の努力をすべきである またこれまでも地震や津波に関する分野ではIAEA の基準策定活動に我が国も貢献してきたが今回の事故への反省を踏まえて原子力安全に関する教訓を学びそれを我が国のみならず他国での同様の事故の発生防止に資するよう事故から得られた知見と教訓を国際社会に発信していく必要があるまた国内基準の見直しを行う場合それを国際基準として一般化することが有効有益なものについてはIAEA等の基準に反映されるように努めるなどして国際貢献を行うべきである

2 重要な論点の総括(1)抜本的かつ実効性ある事故防止策の構築【Ⅵ2(1)】 当委員会は福島第一原発の損傷状況や事故対処の実態国や東京電力等による原発事故防止に向けた事前の取組状況等について調査検証を行い中間報告及び最終報告においてそれぞれについて多くの問題点があったことを指摘した当委員会としては国電力事業者原子力発電プラントメーカー研究機関原子力学会といったおよそ原子力発電に関わる関係者が指摘を真摯に受け止め問題点を解消改善するための具体的取組を進めることを強く要望する技術的原子力工学的な問題点を解消改善するためにどのような具体的取組が必要かは原子力全般についての高度な専門的知見を踏まえた検討が必要なものも少なくないこれについては原子力発電に関わる関係者においてその専門的知見を活用して具体化すべきでありその検討に当たっては当委員会が指摘した問題点を十分考慮するとともにその検討の経緯及び結果について社会への説明責任を果たす必要があると考える

(2)複合災害という視点の欠如【Ⅵ2(2)】 東日本大震災は地震津波原発事故からなる大規模かつ広域的な複合災害であり国及び地方自治体は地震や停電等により通信手段等が途絶する中オフサイトセンターの機能が十分に発揮できなくなったりモニタリング機器等に損傷が生ずるなど様々な場面で混乱し問題への対応に遅れや不備等が生じた国や大半の地方自治体において原発事故が複合災害という形で発生することを想定していなかったことは原子力発電所それ自体の安全とそれを取り巻く地域社会の安全の両面において我が国の危機管理態勢の不十分さを示したものであった今後原子力発電所の安全対策を見直す際には大規模な複合災害の発生という点を十分に視野に入れた対応策の策定が必要である

(3)求められるリスク認識の転換【Ⅵ2(3)】 近年地震研究においてはプレートテクトニクス論をベースに震源域の地域別特性や大津波を引き起こすいわゆる津波地震の海底断層の特性発生の頻度と発生確率の確率論的な評価などが注目されるようになってきたそういう新たな知見を防災対策の重点地域の特定に利用することはそれなりに合理性があると言える

70

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

 しかし①地震津波の確率論的評価は記録が詳しく残っている限られた事例を根拠にしており古文書等の記録が不十分で地震津波の規模や震源モデルを推定しにくい長い周期で起きているものについてはデータベースから外されていること②研究組織や関係行政機関によって防災対策の根拠を明確にするために地震津波等の自然災害の発生確率計算の精度の向上が図られた反面自然現象には現在の学問の知見を超えるような事象が起こることがありそういう極めてまれな事象への備えも必ず並行して考慮しなくてはならないという伝統的な防災対策の心得が考慮されなくなりがちになっていたこと③地震津波の想定について極めてまれなケースについては「残余のリスク」「残る課題」等の表現で検討課題に挙げられてはきたが実際には継続して深く検討されずに放置されてきたこと等に見られるように学問の進歩の一方でそこから防災対策の隙間が生まれるという問題が生じていたこのような落とし穴から抜け出すには安全対策防災対策の前提となるリスクの捉え方を次のように大きく転換させる必要があろう ① 日本は古来様々な自然災害に襲われてきた「災害大国」であることを肝に命じて自然界の脅威地殻変動の規模と時間スケールの大きさに対し謙虚に向き合うこと ② リスクの捉え方を大きく転換すること 今回のような巨大津波災害や原子力発電所のシビアアクシデントのように広域にわたり甚大な被害をもたらす事故災害の場合には発生確率にかかわらずしかるべき安全対策防災対策を立てておくべきであるという新たな防災思想が行政においても企業においても確立される必要がある ③ 安全対策防災対策の範囲について一定の線引きをした場合「残余のリスク」「残る課題」とされた問題を放置することなく更なる掘り下げた検討を確実に継続させるための制度が必要である

(4)「被害者の視点からの欠陥分析」の重要性【Ⅵ2(4)】 原子力発電に関わる領域を「システム中枢領域」「システム支援領域」「地域安全領域」の三つに分けた上で事業者側の視点からシステムの安全性を見るとまず懸命に取り組むのは「システム中枢領域」の安全確保であるがその安全性の認識が確信にまでなると中枢領域以外の安全性の確保については緩みが生じがちになるまた「システム中枢領域」にせよ「システム支援領域」にせよ安全性を確保してあると言っても設計の前提条件の範囲内でのことであって条件外の事象が起きた場合には安全性は担保されなくなるすなわち ① 事業者や規制機関が「システム中枢領域」の安全性を設計の前提条件の枠の中だけで過信すると安全対策が破綻する ② 「システム支援領域」や「地域安全領域」における安全対策は「システム中枢領域」の安全性のレベルにかかわりなく万一の場合に独立して機能するものでなければならないその原則が忘れられると地域の人々の命に関わる安全防護壁に多くの「穴」(欠陥)ができてしまう危険性が高くなる そのような欠陥を見付け安全への防護壁を確実なものにするための方法として立ち位置を被害を受ける側に置いた「被害者の視点からの欠陥分析」と言うべき方法を提案したいこれは規制関係機関や地方自治体の防災担当者が災害問題の専門家の協力を得て「もしそこに住んでいるのが自分や家族だったら」という思いを込めて最悪の事態が生じた場合自分に何が降りかかってくるかを徹底的に分析するという方法である 行政と事業者がなすべきことは分析によって浮かび上がった対策の不備や欠陥について改善策を講じていくことであるがすぐに全ての欠陥の「穴」を塞ぐのは困難であろうその場合残された対策とその問題点を公表し今後どう対処していくべきかを規制関係機関と関係自治体が地域の住民と議論して共働で次善の策を絞り出すという取組が重要となるだろうそのような地域の住民の視点に立った災害の捉え方と安全への取組が定着して初めてこの国に真の安全で安心できる社会を創造することができると言えよう 事故が起きると広範囲の被害をもたらすおそれのある原子力発電所のようなシステムの設計設置運用に当たっては地域の避難計画を含めて安全性を確実なものにするために事業者や規制関係機関による「被害者の視点」を見据えたリスク要因の点検洗い出しが必要でありそうした取組を定着させるべきである なお住民の避難計画とその訓練については原発事故による放射性物質の飛散範囲が極めて広くなることを考慮して県と関係市町村が連合して混乱を最小限にとどめる実効性のある態勢を構築すべきである

(5)「想定外」問題と行政東京電力の危機感の希薄さ【Ⅵ2(5)】 「想定外」という言葉には大別すると二つの意味がある一つは最先端の学術的な知見をもってしても予測できなかった事象が起きた場合でありもう一つは予想されるあらゆる事態に対応できるようにするには財源等の制約から無理があるため現実的な判断により発生確率の低い事象については除外するという線引きをしていたところ線引きした範

71

参考資料

囲を大きく超える事象が起きたという場合である今回の大津波の発生はこの 10 年余りの地震学の進展と防災行政の経緯を調べてみると後者であったことが分かる福島県沖の津波地震への防災対策に関するこれまでの行政の意思決定過程を行政の論理の枠内で見るとそれなりの合理性があったことは否定できないしかし今回の事故による甚大な被害を前にして行政には何の誤りもなかった「想定外」の大地震大津波だったから仕方がないと言って済ますことはできるだろうかそれでは安全な社会づくりの教訓は何も得られないだろう 行政の論理や責任の有無とは関係なく被害を少しでも小さくする方法あるいは選択肢はなかったのか行政の意思決定の枠組みを変革する道はなかったのかという視点から要因分析を行うと次のような問題点が浮かび上がってくる ① 地震についての科学的知見はいまだ不十分なものであり研究成果を逐次取り入れて防災対策に生かしていかなければならない換言すればある時点までの知見で決められた方針を長期間にわたって引きずり続けることなく地震津波の学問研究の進展に敏感に対応し新しい重要な知見が登場した場合には適時必要な見直しや修正を行うことが必要である ② 発生確率が低いかあるいは不明という理由により財源等の制約からある地域が防災対策の強化対象から外されていた場合万一大地震大津波が発生すると被害は非常に大きくなると考えられる行政は少数であっても地震研究者が危険性を指摘する特定の領域や例えば津波堆積物のような古い時代に大地震大津波が発生した形跡がある領域については地震の実態解明を急ぐための研究プロジェクトを立ち上げるとか関係地域に情報を開示して行政住民専門家が一体となって万一に備える新しい発想の防災計画を策定する等の取組をすべきであろう ③ 中央防災会議が決める防災計画は原発立地を特別視することなく進められてきたが今後は原発立地の領域における災害リスクを注視すべきである原子力発電所の防災対策は保安院の担当とされてきたが中央防災会議の方針は原子力発電所の防災対策にも密接に関連することから中央防災会議においても原子力発電所を念頭に置いた検討を行うべきである一方東京電力の津波対策の経緯等を追ってみると同社には原発プラントに致命的な打撃を与えるおそれのある大津波に対する緊迫感と想像力が欠けていたと言わざるを得ないそしてそのことが深刻な原発事故を生じさせまた被害の拡大を防ぐ対策が不十分であったことの重要な背景要因の一つであったと言えるであろう

(6)政府の危機管理態勢の問題点【Ⅵ2(6)】 今回原災マニュアルに規定のない官邸 5階が一種の司令センターとなりまた菅総理が前面に出た形で事故対応に当たった背景には現地対策本部が本来的な役割を果たせなかったこと官邸による情報集約態勢や安全委員会による助言機能が十分ではなかったことなどの事情があったしかしながら内閣総理大臣は政府の各機関部局に情報収集とその対応策を任せ専門部署から上がる重要事項に関してのみ選択肢を出させた上で適切な最終決断を行うというのがその本来の役割である自らが当事者として現場介入することは現場を混乱させるとともに重要判断の機会を失しあるいは判断を誤る結果を生むことにもつながりかねず弊害の方が大きいと言うべきであろう 今回の事態を教訓に原子力事故と地震津波災害との複合災害の発生を想定した原災マニュアルの見直しを含め原子力災害発生時の危機管理態勢の再構築を早急に図る必要があるその検討に当たってはオフサイトセンターの強化という観点に加えてそもそも現地対策本部に関係機関が参集して事故対処に当たるという枠組みでは対応できない事態が発生した場合にどのような態勢で対応に当たるべきかについても具体的に検討し必要な態勢を構築しておく必要がある

(7)広報の問題点とリスクコミュニケーション【Ⅵ2(7)】 今回の事故において事故発生後の政府の国民に対する情報の提供の仕方には避難を余儀なくされた周辺住民や国民の立場からは真実を迅速正確に伝えていないのではないかとの疑問や疑いを生じさせかねないものが多く見られた周辺住民の避難にとって重要な放射性物質の拡散状況とその予測についての情報提供方法炉心の状態(特に炉心溶融)や福島第一原発 3号機の危機的な状態等に関する情報提供方法また放射線の人体への影響について頻繁に「直ちに人体に影響を及ぼすものではない」といった分かりにくい説明が繰り返されたことなどである 国民と政府機関との信頼関係を構築し社会に混乱や不信を引き起こさない適切な情報発信をしていくためには関係者間でリスクに関する情報や意見を相互に交換して信頼関係を構築しつつ合意形成を図るというリスクコミュニケーションの視点を取り入れる必要がある緊急時における迅速かつ正確でしかも分かりやすく誤解を生まないような国民への情報提供の在り方についてしかるべき組織を設置して政府として検討を行うことが必要である加えて広報の仕方によっては国民にいたずらに不安を与えかねないこともあることから非常時緊急時において広報担当の官房長官に的確な助言をすることのできるクライシスコミニュケーションの専門家を配置するなどの検討が必要である

72

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

(8)国民の命に関わる安全文化の重要性【Ⅵ2(8)】 事業者である東京電力及び規制当局である保安院のいずれについても安全文化が十分に定着しているとは言い難い状況にあった一旦事故が起きると重大な事態が生じる原子力発電事業においては安全文化の確立は国民の命に関わる問題である今回の大災害の発生を踏まえ事業者や規制当局関係団体審議会関係者などおよそあらゆる原発関係者には安全文化の再構築を図ることを強く求めたい

(9)事故原因被害の全容を解明する調査継続の必要性【Ⅵ2(9)】a 引き続き事故原因の解明が必要 当委員会は最終報告の提出をもって任務を終えることとなるが前記 1(1)bのとおり福島第一原発の主要施設の損傷が生じた箇所その程度時間的経緯を始めとする被害状況の詳細放射性物質の漏出経緯原子炉建屋爆発の原因等についていまだに解明できていない点も多々存在する また住民等の健康への影響農畜水産物等や空気土壌水等の汚染などは今後も継続的な調査検証を要する問題であるが現時点までの調査検証にとどめざるを得なかったさらに原子力損害賠償の在り方や除染等のように生じた損害の修復の問題でありかつ今後長期間の対応を要すると見込まれることから当委員会の調査検証の対象とはしなかったものの被害者や被災地にとって極めて重要で社会的関心の高い問題もある 国電力事業者原子力発電プラントメーカー研究機関関連学会といったおよそ原子力発電に関わる関係者(関係組織)は今回の事故の検証及び事実解明を積極的に担うべき立場にありこうした未解明の諸事項についてそれぞれの立場で包括的かつ徹底した調査検証を継続するべきである特に国は当委員会や国会に設置された東京電力福島原子力発電所事故調査委員会の活動が終わったことをもって福島原発災害に関する事故調査検証を終えたとするのでなく引き続き事故原因の究明に主導的に取り組むべきであるとりわけ放射線レベルが下がった段階での原子炉建屋内の詳細な実地検証(地震動の影響の検証も含む)は必ず行うべき作業である

b 被害の全容を明らかにするための調査が必要 今回の原発事故は実に様々な深刻な被害を広範囲にわたる地域にもたらした未曽有の原子力災害を経験した我が国としてなすべきことは「人間の被害」の全容について専門分野別の学術調査と膨大な数の関係者被害者の証言記録の収集による総合的な調査を行ってこれらを記録にまとめ被害者の救済支援復興事業が十分かどうかを検証するとともに原発事故がもたらす被害がいかに深く広いものであるかその詳細な事実を未来への教訓として後世に伝えることであろう福島原発災害に関わる総合的な調査の結果を踏まえて記された「人間の被害」の全容を教訓として後世に伝えることは国家的な責務であると当委員会は考える「人間の被害」の調査には様々な学問分野の研究者の参加と多くの費用と時間が必要となるだろうが国が率先して自治体研究機関民間団体等の協力を得て調査態勢を構築するとともに調査の実施についても必要な支援を行うことを求めたい

3 原子力災害の再発防止及び被害軽減のための提言 当委員会は中間報告及び最終報告においてこれまでの調査検証によって判明した事実を基に原子力災害の再発防止及び被害軽減のための提言を行った当委員会は国関係自治体事業者等の関係機関がこれらを今後の安全対策防災対策に反映させ実施していくことを強く要望する政府においては関係省庁関係部局に提言の反映や実施に向けた具体化を指示するとともに関係省庁関係部局の取組状況を把握しその状況を取りまとめて公表するなど確実なフォローアップをすることを求めたいまた関係自治体東京電力その他の関係機関においても同様に提言を反映実施するとともに取組状況をフォローアップすることを求めたい ここでは中間報告及び最終報告で行った提言を七つの項目に分類して整理しておく最終報告における提言は「最終報告(本文編)」の記載箇所及び本概要における該当頁を示した中間報告における提言は「中間報告(本文編)」の記載箇所を示すとともに提言自体を再録した

(1)安全対策防災対策の基本的視点に関するもの  複合災害を視野に入れた対策に関する提言(最終報告Ⅵ 2(2)概要 22 頁)  リスク認識の転換を求める提言(最終報告Ⅵ 2(3)概要 23 頁)  「被害者の視点からの欠陥分析」に関する提言(最終報告Ⅵ 2(4)概要 24 頁)  防災計画に新しい知見を取り入れることに関する提言(最終報告Ⅵ 2(5)概要 25 頁)

73

参考資料

(2)原子力発電の安全対策に関するもの  事故防止策の構築に関する提言(最終報告Ⅵ 2(1)概要 22 頁)  総合的リスク評価の必要性に関する提言(最終報告Ⅵ 1(4)a(b)概要 17 頁)  シビアアクシデント対策に関する提言(最終報告Ⅵ 1(4)a(c)概要 17 頁)

(3)原子力災害に対応する態勢に関するもの  原災時の危機管理態勢の再構築に関する提言(最終報告Ⅵ 2(6)概要 26 頁)  原子力災害対策本部の在り方に関する提言(最終報告Ⅵ 1(2)b(a)概要 4頁)  オフサイトセンターに関する提言(中間報告Ⅶ 3(1)a) 政府はオフサイトセンターが大規模災害にあっても機能を維持できる施設となるよう速やかに適切な整備を図る必要がある  原災対応における県の役割に関する提言(最終報告Ⅵ 1(2)c概要 6頁)

(4)被害の防止軽減策に関するもの  広報とリスクコミュニケーションに関する提言(最終報告Ⅵ 2(7)概要 27 頁)  モニタリングの運用改善に関する提言(中間報告Ⅶ 5(2)d) ① モニタリングシステムが肝心なときに機能不全に陥らないよう地震津波等の様々な事象を想定してシステム設計を行うとともに複合災害の場合も想定して対策を講じておく必要があるまたモニタリングカーについて地震による道路の損傷等の事態が発生した場合の移動巡回等の方法に関して必要な対策を講じるべきである ② モニタリングシステムの機能重要性について関係機関及び職員の認識を深めるために研修等の機会を充実させる必要がある  SPEEDI システムに関する提言(中間報告Ⅶ 5(3)c) 被害拡大を防止し国民の納得できる有効な情報を迅速に提供できるようSPEEDI システムの運用上の改善措置を講じる必要があるまた地震等の様々な複合要因に対してシステムの機能が損なわれることのないようハード面でも強化策が講じられる必要がある  住民避難の在り方に関する提言(①~④は中間報告Ⅶ 5(4)c更に最終報告Ⅵ 1(4)b概要 18 頁) ① 重大な原発事故が発生した場合に放射性物質がどのように放出拡散し地上にはどのように降ってくるのかについてまた放射線被ばくによる健康被害について住民が常日頃から基本的な知識を持っておけるよう公的な啓発活動が必要である ② 地方自治体は原発事故の特異さを考慮した避難態勢を準備し実際に近い形での避難訓練を定期的に実施し住民も真剣に訓練に参加する取組が必要である ③ 避難に関しては数千人から十数万人規模の住民の移動が必要になる場合もあることを念頭に置いて交通手段の確保交通整理遠隔地における避難場所の確保避難先での水食糧の確保等について具体的な計画を立案するなど平常時から準備しておく必要がある特に医療機関老人ホーム福祉施設自宅等における重症患者重度障害者等社会的弱者の避難については格別の対策を講じる必要がある ④ 以上のような対策を地元の市町村任せにするのではなく避難計画や防災計画の策定と運用について原子力災害が広域にわたることも考慮して県や国も積極的に関与していく必要がある  安定ヨウ素剤の服用に関する提言(最終報告Ⅵ 1(3)e(c)概要 11 頁)  緊急被ばく医療機関に関する提言(最終報告Ⅵ 1(3)e(f)概要 13 頁)  放射線に関する国民の理解に関する提言(最終報告Ⅵ 1(3)e(g)概要 14 頁)  諸外国との情報共有や諸外国からの支援受入れに関する提言(最終報告Ⅵ 1(3)g(a)(b)概要 16 頁)

(5)国際的調和に関するもの  IAEA 基準などとの国際的調和に関する提言(最終報告Ⅵ 1(7)概要 21 頁)

(6)関係機関の在り方に関するもの  原子力安全規制機関の在り方に関する提言 ① 独立性と透明性の確保(中間報告Ⅶ 8(2)a)

74

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

 独立性と透明性を確保することが必要であり自律的に機能できるために必要な権限財源と人員を付与すると同時に国民に対する原子力安全についての説明責任を持たせることが必要である ② 緊急事態に迅速かつ適切に対応する組織力(中間報告Ⅶ 8(2)b) 災害発生時に迅速な活動が展開できるよう平常時から防災計画の策定や防災訓練等を実施しておくことのみならず緊急事態において対応に当たる責任者や関係機関に対して専門知識に基づく助言指導ができる専門能力や組織が有するリソースを有効かつ効率的に機能させるマネジメント能力の涵養が必要である また責任を持って危機対処の任に当たることの自覚を強く持つとともに大規模災害に対応できるだけの体制を事前に整備し関係省庁や関係地方自治体と連携して関係組織全体で対応できる体制の整備も図った上その中での規制機関の役割も明確にしておく必要がある ③ 国内外への災害情報の提供機関としての役割の自覚(中間報告Ⅶ 8(2)c) 情報提供の在り方の重要性を組織として深く自覚し緊急時に適時適切な情報提供を行い得るよう平素から組織的に態勢を整備しておく必要がある ④ 優秀な人材の確保と専門能力の向上(中間報告Ⅶ 8(2)d) 優れた専門能力を有する優秀な人材を確保できるような処遇条件の改善職員が長期的研修や実習を経験できる機会の拡大原子力放射線関係を含む他の行政機関や研究機関との人事交流の実施など職員の一貫性あるキャリア形成を可能とするような人事運用計画の検討が必要である ⑤ 科学的知見蓄積と情報収集の努力(中間報告Ⅶ 8(2)e) 関連学会や専門ジャーナル(海外も含む)海外の規制機関等の動向を絶えずフォローアップし規制活動に資する知見を継続的に獲得していく必要があるまたその知見の意味するところを理解しこれを組織的に共有した上で十分に活用するとともにその成果を組織として継承伝達していく必要がある ⑥ 国際機関外国規制当局との積極的交流(最終報告Ⅵ 1(5)概要 19 頁) ⑦ 規制当局の態勢強化(最終報告Ⅵ 1(5)概要 19 頁)  東京電力の在り方に関する提言(最終報告Ⅵ 1(6)e概要 20 頁)  安全文化の再構築に関する提言(最終報告Ⅵ 2(8)概要 27 頁)

(7)継続的な原因解明被害調査に関するもの  事故原因の解明継続に関する提言(最終報告Ⅵ 2(9)a概要 28 頁)  被害の全容を明らかにする調査の実施に関する提言(最終報告Ⅵ 2(9)b概要 28 頁)

委員長所感抜粋(今回の事故で得られた知見について)

 今回の事故で得られた知見を他の分野にも適用することができ100 年後の評価にも耐えるようにするためにはこれを単なる個別の分野における知見で終わらせずより一般化普遍化された知識にまで高めることが必要である以下福島原発事故という未曽有の災害についての調査検証を締めくくるに当たり今回の事故からどのような知識が得られるかについて整理しその主なものを示しておくこととしたい

(1)あり得ることは起こるあり得ないと思うことも起こる 今回の事故の直接的な原因は「長時間の全電源喪失は起こらない」との前提の下に全てが構築運営されていたことに尽きる「あり得ることは起こる」と考えるべきであるさらに「あり得ないと思う」という認識にすら至らない現象もあり得る言い換えれば「思い付きもしない現象も起こり得る」ことも併せて認識しておく必要があろう

(2)見たくないものは見えない見たいものが見える 人間はものを見たり考えたりするとき自分が好ましいと思うものや自分がやろうと思う方向だけを見がちで見たくないもの都合の悪いことは見えないものである自分の利害だけでなく自分を取り巻く組織社会時代の様々な影響によって自分の見方が偏っていることを常に自覚し必ず見落としがあると意識していなければならない

75

参考資料

(3)可能な限りの想定と十分な準備をする 過去のある時点での想定にとらわれず常に可能な限り想定の見直しを行って事故や災害の未然防止策を講じるとともにこれまで思い付きもしない事態も起こり得るとの発想の下で十分な準備をすることが必要である

(4)形を作っただけでは機能しない仕組みは作れるが目的は共有されない 事業者も規制関係機関も地方自治体もそれぞれの組織が形式的には原発事故に対応する仕組みを作っていたしかしいざ事故が起こるとその対応には不備が散見されたそれは組織の構成員がその仕組みが何を目的とし社会から何を預託されているかについて十分自覚していなかったためと考えられる構成員それぞれが社会から何を預託され自分が全体の中でどこにいるのかまた自分の働きが全体にどのような影響を与えるかを常に考えているような状態を作らなければならない

(5)全ては変わるのであり変化に柔軟に対応する 与条件を固定して考えると詳細にしかも形の上では立派な対応ができるしかし与条件は常に変化するものであり常に変化に応じた対応を模索し続けなければ実態に合わなくなる全ての事柄が変化すると考え細心の注意を払って観察し外部の声に謙虚に耳を傾け適切な対応を続けることが必要である

(6)危険の存在を認め危険に正対して議論できる文化を作る どのような事態が生ずるかを完全に予見することは何人にもできないにもかかわらず危険を完全に排除すべきと考えることは可能性の低い危険の存在をないことにする「安全神話」につながる危険がある危険を危険として認め危険に正対して議論できる文化を作らなければ安全というベールに覆われた大きな危険を放置することになる

(7) 自分の目で見て自分の頭で考え判断行動することが重要であることを認識しそのような能力を涵養することが重要である想定外の事故災害に対処するには自ら考えて事態に臨む姿勢と柔軟かつ能動的な思考が必要である平時からこのような資質や能力を高める組織運営を行うとともに教育や訓練を行っておくことが重要である

 この事故は自然が人間の考えに欠落があることを教えてくれたものと受け止めこの事故を永遠に忘れることなく教訓を学び続けなければならない

東京電力福島原子力発電所における事故調査検証委員会委員長 畑村洋太郎

76

国会 東京電力福島原子力発電所事故調査委員会 報告書(ダイジェスト版)

はじめに 福島原子力発電所事故は終わっていないこれは世界の原子力の歴史に残る大事故であり科学技術先進国の一つである日本で起きたことに世界中の人々は驚愕した世界が注目する中日本政府と東京電力の事故対応の模様は世界が注目する中で日本が抱えている根本的な問題を露呈することとなった想定できたはずの事故がなぜ起こったのかその根本的な原因は日本が高度経済成長を遂げたころにまで遡る政界官界財界が一体となり国策として共通の目標に向かって進む中複雑に絡まった『規制の虜(Regulatory Capture)』が生まれた そこにはほぼ 50 年にわたる一党支配と新卒一括採用年功序列終身雇用といった官と財の際立った組織構造とそれを当然と考える日本人の「思いこみ(マインドセット)」があった経済成長に伴い「自信」は次第に「おごり慢心」に変わり始めた入社や入省年次で上り詰める「単線路線のエリート」たちにとって前例を踏襲すること組織の利益を守ることは重要な使命となったこの使命は国民の命を守ることよりも優先され世界の安全に対する動向を知りながらもそれらに目を向けず安全対策は先送りされたそして日本の原発はいわば無防備のまま311 の日を迎えることとなった 311 の日広範囲に及ぶ巨大地震津波という自然災害とそれによって引き起こされた原子力災害への対応は極めて困難なものだったことは疑いもないしかもこの 50 年で初めてとなる歴史的な政権交代からわずか 18 カ月の新政権下でこの事故を迎えた当時の政府規制当局そして事業者は原子力のシビアアクシデント(過酷事故)における心の準備や各自の地位に伴う責任の重さへの理解そしてそれを果たす覚悟はあったのかこの事故が「人災」であることは明らかで歴代及び当時の政府規制当局そして事業者である東京電力による人々の命と社会を守るという責任感の欠如があった この大事故から9か月国民の代表である国会(立法府)の下に憲政史上初めて政府からも事業者からも独立したこの調査委員会が衆参両院において全会一致で議決され誕生した今回の事故原因の調査は過去の規制や事業者との構造といった問題の根幹に触れずには核心にたどりつけない私たちは委員会の活動のキーワードを「国民」「未来」「世界」としたそして委員会の使命を「国民による国民のための事故調査」「過ちから学ぶ未来に向けた提言」「世界の中の日本という視点(日本の世界への責任)」とした限られた条件の中6か月の調査活動を行った総括がこの報告書である被災された福島の皆さま特に将来を担う子どもたちの生活が一日でも早く落ち着かれることを心から祈りたいまた日本が経験したこの大事故に手を差し伸べてくださった世界中の方々私たち委員会の調査に協力支援をしてくださった方々初めての国会の事故調査委員会誕生に力を注がれた立法府の方々に深い感謝の意を表したい

東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(国会事故調)委員長 黒川 清

提言提言1 規制当局に対する国会の監視国民の健康と安全を守るために規制当局を監視する目的で国会に原子力に係る問題に関する常設の委員会等を設置する

1) この委員会は規制当局からの説明聴取や利害関係者又は学識経験者等からの意見聴取その他の調査を恒常的に行う2) この委員会は最新の知見を持って安全問題に対応できるよう事業者行政機関から独立したグ ローバルな視点を持った専門家からなる諮問機関を設ける3) この委員会は今回の事故検証で発見された多くの問題に関しその実施改善状況について継続 的な監視活動を行う(「国会による継続監視が必要な事項」として本編に添付)4) この委員会はこの事故調査報告について今後の政府による履行状況を監視し定期的に報告を求める

77

参考資料

提言2 政府の危機管理体制の見直し緊急時の政府自治体及び事業者の役割と責任を明らかにすることを含め政府の危機管理体制に関係する制度についての抜本的な見直しを行う

1) 政府の危機管理体制の抜本的な見直しを行う緊急時に対応できる執行力のある体制づくり指揮命 令系統の一本化を制度的に確立する2) 放射能の放出に伴う発電所外(オフサイト)の対応措置は住民の健康と安全を第一に政府及び自治体が中心となって政府の危機管理機能のもとに役割分担を行い実施する3) 事故時における発電所内(オンサイト)での対応(止める冷やす閉じ込める)については第一義的に事業者の責任とし政治家による場当たり的な指示介入を防ぐ仕組みとする

提言3 被災住民に対する政府の対応被災地の環境を長期的継続的にモニターしながら住民の健康と安全を守り生活基盤を回復するため政府の責任において以下の対応を早急に取る必要がある

1) 長期にわたる健康被害及び健康不安へ対応するため国の負担による外部内部被ばくの継続的検査と健康診断及び医療提供の制度を設ける情報については提供側の都合ではなく住民の健康と安全を第一に住民個々人が自ら判断できる材料となる情報開示を進める2) 森林あるいは河川を含めて広範囲に存在する放射性物質は場所によっては増加することもあり得るので住民の生活基盤を長期的に維持する視点から放射性物質の再拡散や沈殿堆積等の継続的なモニタリング及び汚染拡大防止対策を実施する3) 政府は除染場所の選別基準と作業スケジュールを示し住民が帰宅あるいは移転補償を自分で判断し選択できるように必要な政策を実施する

提言4 電気事業者の監視東電は電気事業者として経産省との密接な関係を基に電事連を介して保安院等の規制当局の意思決定過程に干渉してきた国会は提言1に示した規制機関の監視監督に加えて事業者が規制当局に不当な圧力をかけることのないように厳しく監視する必要がある

1) 政府は電気事業者との間の接触についてルールを定めそれに従った情報開示を求める2) 電気事業者間において原子力安全のための先進事例を確認しその達成に向けた不断の努力を促す相互監視体制を構築する3) 東電に対してガバナンス体制危機管理体制情報開示体制等を再構築しより高い安全目標に向けて継続した自己改革を実施するように促す4) 以上の施策の実効性を確保するため電気事業者のガバナンスの健全性安全基準安全対策の遵守状態等を監視するために立ち入り調査権を伴う監査体制を国会主導で構築する

提言5 新しい規制組織の要件規制組織は今回の事故を契機に国民の健康と安全を最優先とし常に安全の向上に向けて自ら変革を続けていく組織になるよう抜本的な転換を図る新たな規制組織は以下の要件を満たすものとする1) 高い独立性①政府内の推進組織からの独立性②事業者からの独立性③政治からの独立性を実現し監督機能を強化するための指揮命令系統責任権限及びその業務プロセスを確立する2) 透明性①各種諮問委員会等を含めて意思決定過程を開示しその過程において電気事業者等の利害関係者の関与を排除する②定期的に国会に対して全ての意思決定過程決定参加者施策実施状況等について報告する義務を課す③推進組織事業者政治との間の交渉折衝等に関しては議事録を残し原則公開する④委員の選定は第三者機関に1次定として相当数の候補者の選定を行わせた上でその中から国会同意人事として国会が最終決定するといった透明なプロセスを設定する3) 専門能力と職務への責任感①新しい規制組織の人材を世界でも通用するレベルにまで早期に育成しまたそのよ

78

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

うな人材の採用育成を実現すべく原子力規制分野でのグローバルな人材交流教育訓練を実施する②外国人有識者を含む助言組織を設置し規制当局の運営人材在り方等の必要な要件設定等に関する助言を得る③新しい組織の一員として職務への責任感を持った人材を中心とすべく「ノーリターンルール」を当初より例外なく適用する4) 一元化特に緊急時の迅速な情報共有意思決定司令塔機能の発揮に向けて組織体制の効果的な一元化を図る5) 自律性本組織には国民の健康と安全の実現のため常に最新の知見を取り入れながら組織の見直しを行い自己変革を続けることを要求し国会はその過程を監視する

提言6 原子力法規制の見直し原子力法規制については以下を含め抜本的に見直す必要がある1) 世界の最新の技術的知見等を踏まえ国民の健康と安全を第一とする一元的な法体系へと再構築する2) 安全確保のため第一義的な責任を負う事業者と原子力災害発生時にこの事業者を支援する他の事故対応を行う各当事者の役割分担を明確化する3) 原子力法規制が内外の事故の教訓世界の安全基準の動向及び最新の技術的知見等が反映されたものになるよう規制当局に対してこれを不断かつ迅速に見直していくことを義務付けその履行を監視する仕組みを構築する4) 新しいルールを既設の原子炉にも遡及適用すること(いわゆるバックフィット)を原則としそれがルール改訂の抑制といった本末転倒な事態につながらないように廃炉すべき場合と次善の策が許される場合との線引きを明確にする

提言7 独立調査委員会の活用未解明部分の事故原因の究明事故の収束に向けたプロセス被害の拡大防止本報告で今回は扱わなかった廃炉の道筋や使用済み核燃料問題等国民生活に重大な影響のあるテーマについて調査審議するために国会に原子力事業者及び行政機関から独立した民間中心の専門家からなる第三者機関として(原子力臨時調査委員会〈仮称〉)を設置するまた国会がこのような独立した調査委員会を課題別に立ち上げられる仕組みとしこれまでの発想に拘泥せず引き続き調査検討を行う

結論の要旨【認識の共有化】 平成 23(2011)年 3月 11 日に起きた東日本大震災に伴う東京電力福島原子力発電所事故は世界の歴史に残る大事故であるそしてこの報告が提出される平成 24(2012)年 6月においても依然として事故は収束しておらず被害も継続している 破損した原子炉の現状は詳しくは判明しておらず今後の地震台風などの自然災害に果たして耐えられるのか分からない今後の環境汚染をどこまで防止できるのかも明確ではない廃炉までの道のりも長く予測できない一方被害を受けた住民の生活基盤の回復は進まず健康被害への不安も解消されていない 当委員会は「事故は継続しており被災後の福島第一原子力発電所(以下「福島第一原発」という)の建物と設備の脆弱性及び被害を受けた住民への対応は急務である」と認識するまた「この事故報告が提出されることで事故が過去のものとされてしまうこと」に強い危惧を覚える日本全体そして世界に大きな影響を与え今なお続いているこの事故は今後も独立した第三者によって継続して厳しく監視検証されるべきである(提言 7に対応) 当委員会はこのような認識を共有化して以下のような調査に当たった

【事故の根源的原因】 事故の根源的な原因は東北地方太平洋沖地震が発生した平成 23(2011)年 3月 11 日(以下「311」という)以前に求められる当委員会の調査によれば311 時点において福島第一原発は地震にも津波にも耐えられる保証がない脆弱な状態であったと推定される地震津波による被災の可能性自然現象を起因とするシビアアクシデント(過酷事故)への対策大量の放射能の放出が考えられる場合の住民の安全保護など事業者である東京電力(以下「東電」という)及び規制当局である内閣府原子力安全委員会(以下「安全委員会」という)経済産業省原子力安全保安院(以下「保安院」という)また原子力推進行政当局である経済産業省(以下「経産省」という)がそれまでに当然備えておくべきこと実施すべきことをしていなかった 平成 18(2006)年に耐震基準について安全委員会が旧指針を改訂し新指針として保安院が全国の原子力事業者に対

79

参考資料

して耐震安全性評価(以下「耐震バックチェック」という)の実施を求めた 東電は最終報告の期限を平成 21(2009)年 6月と届けていたが耐震バックチェックは進められずいつしか社内では平成 28(2016)年 1月へと先送りされた東電及び保安院は新指針に適合するためには耐震補強工事が必要であることを認識していたにもかかわらず1~3号機については全く工事を実施していなかった保安院はあくまでも事業者の自主的取り組みであるとし大幅な遅れを黙認していた事故後東電は5号機については目視調査で有意な損傷はなかったとしているがそれをもって 1~3号機に地震動による損傷がなかったとは言えない 平成 18(2006)年には福島第一原発の敷地高さを超える津波が来た場合に全電源喪失に至ること土木学会評価を上回る津波が到来した場合海水ポンプが機能喪失し炉心損傷に至る危険があることは保安院と東電の間で認識が共有されていた保安院は東電が対応を先延ばししていることを承知していたが明確な指示を行わなかった 規制を導入する際に規制当局が事業者にその意向を確認していた事実も判明している安全委員会は平成 5(1993)年に全電源喪失の発生の確率が低いこと原子力プラントの全交流電源喪失に対する耐久性は十分であるとしそれ以降長時間にわたる全交流電源喪失を考慮する必要はないとの立場を取ってきたが当委員会の調査の中でこの全交流電源喪失の可能性は考えなくてもよいとの理由を事業者に作文させていたことが判明したまた当委員会の参考人質疑で安全委員会が深層防護(原子力施設の安全対策を多段的に設ける考え方IAEA〈国際原子力機関〉では 5層まで考慮されている1について日本は 5層のうちの 3層までしか対応できていないことを認識しながら黙認してきたことも判明した 規制当局はまた海外からの知見の導入に対しても消極的であったシビアアクシデント対策は地震や津波などの外部事象に起因する事故を取り上げず内部事象に起因する対策にとどまった米国では 911 以降に B5b2に示された新たな対策が講じられたがこの情報は保安院にとどめられてしまった防衛にかかわる機微情報に配慮しつつ必要な部分を電力事業者に伝え対策を要求していれば今回の事故は防げた可能性がある このように今回の事故はこれまで何回も対策を打つ機会があったにもかかわらず歴代の規制当局及び東電経営陣がそれぞれ意図的な先送り不作為あるいは自己の組織に都合の良い判断を行うことによって安全対策が取られないまま 311 を迎えたことで発生したものであった 当委員会の調査によれば東電は新たな知見に基づく規制が導入されると既設炉の稼働率に深刻な影響が生ずるほか安全性に関する過去の主張を維持できず訴訟などで不利になるといった恐れを抱いておりそれを回避したいという動機から安全対策の規制化に強く反対し電気事業連合会(以下「電事連」という)を介して規制当局に働きかけていた このような事業者側の姿勢に対し本来国民の安全を守る立場から毅然とした対応をすべき規制当局も専門性において事業者に劣後していたこと過去に自ら安全と認めた原子力発電所に対する訴訟リスクを回避することを重視したことまた保安院が原子力推進官庁である経産省の組織の一部であったこと等から安全について積極的に制度化していくことに否定的であった 事業者が規制当局を骨抜きにすることに成功する中で「原発はもともと安全が確保されている」という大前提が共有され既設炉の安全性過去の規制の正当性を否定するような意見や知見それを反映した規制指針の施行が回避緩和先送りされるように落としどころを探り合っていた これを構造的に見れば以下のように整理できる本来原子力安全規制の対象となるべきであった東電は市場原理が働かない中で情報の優位性を武器に電事連等を通じて歴代の規制当局に規制の先送りあるいは基準の軟化等に向け強く圧力をかけてきたこの圧力の源泉は電力事業の監督官庁でもある原子力政策推進の経産省との密接な関係であり経産省の一部である保安院との関係はその大きな枠組みの中で位置付けられていた規制当局は事業者への情報の偏在自身の組織優先の姿勢等から事業者の主張する「既設炉の稼働の維持」「訴訟対応で求められる無謬性」を後押しすることになったこのように歴代の規制当局と東電との関係においては規制する立場とされる立場の「逆転関係」が起き規制当局は電力事業者の「虜(とりこ)」となっていたその結果原子力安全についての監視監督機能が崩壊していたと見ることができる3 当委員会は本事故の根源的原因は歴代の規制当局と東電との関係について「規制する立場とされる立場が『逆転関係』となることによる原子力安全についての監視監督機能の崩壊が起きた点に求められる」と認識する何度も事前に対策

1 IAEAの深層防護(Defence in Depth)2 平成 13(2001)年 9月 11 日の同時多発テロの後平成 14(2002)年 2月にNRC(米国原子力規制委員会)が策定したテロ対策全電源喪失を想定した機材の備えと訓練を米国の全原子力発電所に義務付けている3 これは規制当局が事業者の「虜(とりこ)」となって被規制産業である事業者の利益最大化に傾注するといういわゆる「規制の虜(Regulatory Capture)」によっても説明できるものである

80

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

を立てるチャンスがあったことに鑑みれば今回の事故は「自然災害」ではなくあきらかに「人災」である(提言1に対応)

【事故の直接的原因】 本事故の直接的原因は地震及び地震に誘発された津波という自然現象であるが事故が実際にどのように進展していったかに関しては重要な点において解明されていないことが多いその大きな理由の一つは本事故の推移と直接関係する重要な機器配管類のほとんどがこの先何年も実際に立ち入ってつぶさに調査検証することのできない原子炉建屋及び原子炉格納容器内部にあるためである しかし東電は事故の主因を早々に津波とし「確認できた範囲においては」というただし書きはあるものの「安全上重要な機器は地震で損傷を受けたものはほとんど認められない」と中間報告書に明記しまた政府も IAEAに提出した事故報告書に同趣旨のことを記した 直接的原因を実証なしに津波に狭く限定しようとする背景は不明だが本編第 1部で述べるように既設炉への影響を最小化しようという考えが東電の経営を支配してきたのであってここでもまた同じ動機が存在しているようにも見えるあるいは東電の中間報告にあるように「想定外」とすることで責任を回避するための方便のようにも聞こえるが当委員会の調査では地震のリスクと同様に津波のリスクも東電及び規制当局関係者によって事前に認識されていたことが検証されており言い訳の余地はない 事故の主因を津波のみに限定すべきでない理由としてスクラム(原子炉緊急停止)後に最大の揺れが到達したこと小規模の LOCA(小さな配管破断などの小破口冷却材喪失事故)の可能性は独立行政法人原子力安全基盤機構(JNES)の解析結果も示唆していること1号機の運転員が配管からの冷却材の漏れを気にしていたことそして 1号機の主蒸気逃がし安全弁(SR弁)は作動しなかった可能性を否定できないことなどが挙げられ特に 1号機の地震による損傷の可能性は否定できないまた外部送電系が地震に対して多様性独立性が確保されていなかったことまたかねてから指摘のあった東電新福島変電所の耐震性不足などが外部電源喪失の一因となった 当委員会は事故の直接的原因について「安全上重要な機器の地震による損傷はないとは確定的には言えない」特に「1号機においては小規模の LOCAが起きた可能性を否定できない」との結論に達したしかし未解明な部分が残っておりこれについて引き続き第三者による検証が行われることを期待する(提言 7に対応)

【運転上の問題の評価】 発電所の現場の運転上の問題についてはいくつか特記すべきことはあるがむしろ今回のようにシビアアクシデント対策がない場合全電源喪失状態に陥った際に現場で打てる手は極めて限られるということが検証された1号機の非常用復水器(IC)の操作及びその後の確認作業の是非については全交流電源喪失(SBO)直後からの系統確認としかるべき運転操作に迅速に対応できなかったしかし ICの操作に関してはマニュアルもなくまた運転員は十分訓練されていなかったさらに本事故においてはおそらく早期のうちに ICの蒸気管に非凝縮性の水素ガスが充満しそのために自然循環が阻害されICが機能喪失していたと当委員会は推測しているこうした事情を考慮すれば単純に事故当時の運転員の判断や操作の非を問うことはできない 東電の経営陣が耐震工事の遅れ及び津波対策の先送りの事実を把握し福島第一原発の脆弱性を認識していたと考えられることから被災時の現場の状態はある程度事前にも想像できたはずである少なくとも発電所の脆弱性を補うためにもシビアアクシデント時に現場で対応する準備を行わせるのは経営として必要なことであった東電の本店及び発電所の幹部もこのような状況下で少なくとも緊急時の現場の対応について準備をすることが必要であった以上を考えればこれは運転員作業員個人の問題に帰するのではなく東電の組織的問題として考えるべき事柄である ベントライン構成についても電源が喪失し放射線量の高い中でのライン構成作業自体が困難でありかつ時間がかかるものであったシビアアクシデント手順書の中の図面も不備であったことが判明しており見づらい図面を時間に追われつつ懐中電灯で解明する作業を強いられた官邸はベントに時間がかかることから東電への不信が高まったとしているが実際の作業は困難を極めるものであった 多重防護が一気に破られ同時に 4基の原子炉の電源が喪失するという中で2号機の原子炉隔離時冷却系(RCIC)が長時間稼働したこと2号機のブローアウトパネルが脱落したこと協力会社の決死のがれき処理が思った以上に進んだことなど偶然というべき状況がなければ23号機はさらに厳しい状況に陥ったとも考えられるシビアアクシデント対策がない状態で直流電源も含めた全電源喪失状況を作り出してしまったことで既にその後の結果は避けられなかったと判断した 当委員会は「過酷事故に対する十分な準備レベルの高い知識と訓練機材の点検がなされまた緊急性について運転

81

参考資料

員作業員に対する時間的要件の具体的な指示ができる準備があればより効果的な事後対応ができた可能性は否定できないすなわち東電の組織的な問題である」と認識する(提言 4に対応)

【緊急時対応の問題】 いったん事故が発災した後の緊急時対応について官邸規制当局東電経営陣にはその準備も心構えもなくその結果被害拡大を防ぐことはできなかった保安院は原子力災害対策本部の事務局としての役割を果たすことが期待されたが過去の事故の規模を超える災害への備えはなく本来の機能を果たすことはできなかった官邸は発災直後の最も重要な時間帯に緊急事態宣言を速やかに出すことができなかった本来官邸は現地対策本部を通じて事業者とコンタクトをすべきとされていたしかし官邸は東電の本店及び現場に直接的な指示を出しそのことによって現場の指揮命令系統が混乱したさらに15 日に東電本店内に設置された統合対策本部も法的な根拠はなかった 1号機のベントの必要性については官邸規制当局あるいは東電とも一致していたが官邸はベントがいつまでも実施されないことから東電に疑念不信を持った東電は平時の連絡先である保安院にはベントの作業中である旨を伝えていたがそれが経産省のトップそして官邸に伝えられていたという事実は認められない保安院の機能不全東電本店の情報不足は結果として官邸と東電の間の不信を募らせその後総理が発電所の現場に直接乗り込み指示を行う事態になったその後も続いた官邸による発電所の現場への直接的な介入は現場対応の重要な時間を無駄にするというだけでなく指揮命令系統の混乱を拡大する結果となった 東電本店は的確な情報を官邸に伝えるとともに発電所の現場の技術的支援という重要な役割を果たすべきであったが官邸の顔色をうかがいながらむしろ官邸の意向を現場に伝える役割だけの状態に陥った3月 14 日2号機の状況が厳しくなる中で東電が全員撤退を考えているのではないかという点について東電と官邸の間で認識のギャップが拡大したがこの根源には両者の相互不信が広がる中で東電の清水社長が官邸の意向を探るかのような曖昧な連絡に終始した点があったと考えられるただし①発電所の現場は全面退避を一切考えていなかったこと②東電本店においても退避基準の検討は進められていたが全面退避が決定された形跡はなく清水社長が官邸に呼ばれる前に確定した退避計画も緊急対応メンバーを残して退避するといった内容であったこと③当時清水社長から連絡を受けた保安院長は全面退避の相談とは受け止めなかったこと④テレビ会議システムでつながっていたオフサイトセンターにおいても全面退避が議論されているという認識がなかったこと等から判断して総理によって東電の全員撤退が阻止されたと理解することはできない 重要なのは時の総理の個人の能力判断に依存するのではなく国民の安全を守ることのできる危機管理の仕組みを構築することである 当委員会は事故の進展を止められなかったあるいは被害を最小化できなかった最大の原因は「官邸及び規制当局を含めた危機管理体制が機能しなかったこと」そして「緊急時対応において事業者の責任政府の責任の境界が曖昧であったこと」にあると結論付けた(提言 2に対応)

【被害拡大の要因】 事故発災当時政府から自治体に対する連絡が遅れたばかりではなくその深刻さも伝えられなかった同じように避難を余儀なくされた地域でも原子力発電所からの距離によって事故情報の伝達速度に大きな差が生じた立地町でさえ3km圏避難の出た 21 時 23 分には事故情報は住民の 20程度しか伝わっていない10km圏内の住民の多くは 15 条報告から 12 時間以上たった 3月 12 日の朝 5時 44 分の避難指示の時点で事故情報を知ったしかしその際に事故の進展あるいは避難に役立つ情報は伝えられなかった着の身着のままの避難多数回の避難移動あるいは線量の高い地域への移動が続出したその後の長期にわたる屋内避難指示及び自主避難指示での混乱モニタリング情報が示されないために線量の高い地域に避難した住民の被ばく影響がないと言われて 4月まで避難指示が出されず放置された地域など避難施策は混乱した当委員会は事故前の原子力防災体制の整備の遅れ複合災害対策の遅れとともに既存の防災体制の改善に消極的であった歴代の規制当局の問題点も確認している 当委員会は避難指示が住民に的確に伝わらなかった点について「これまでの規制当局の原子力防災対策への怠慢と当時の官邸規制当局の危機管理意識の低さが今回の住民避難の混乱の根底にあり住民の健康と安全に関して責任を持つべき官邸及び規制当局の危機管理体制は機能しなかった」と結論付けた(提言 2に対応)

【住民の被害状況】 本事故により合計約 15 万人が避難区域から避難した本事故の収束作業に従事した中で100mSv(シーベルト)を超え

82

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

る線量を被ばくした作業員は 167 人とされている福島県内の 1800km2 もの広大な土地が年間 5mSv 以上の積算線量をもたらす土地となってしまったと推定される被害を受けた広範囲かつ多くの住民は不必要な被ばくを経験したまた避難のための移動が原因と思われる死亡者も発生したしかも住民は事故から 1年以上たっても先が見えない状態に置かれている政府はこのような被災地域の住民の状況を十分把握した上で避難区域の再編生活基盤の回復除染医療福祉の再整備など住民の長期的な生活改善策を系統的継続的に打ち出していくべきであるが縦割り省庁別の通常業務的施策しかなく住民の目から見るといまだに整合性のある統合的な施策が政府から打ち出されていない 我々が実施したタウンミーティングや 1万人を超す住民アンケートにはいまだに進まない政府の対応に厳しい声が多数寄せられている 放射線の急性障害はしきい値があるとされているが低線量被ばくによる晩発障害はしきい値がなくリスクは線量に比例して増えることが国際的に合意されている 年齢個人の放射線感受性放射線量によってその影響は変わるまた未解明の部分も残る一方政府は一方的に線量の数字を基準として出すのみでどの程度が長期的な健康という観点からして大丈夫なのか人によって影響はどう違うのか今後どのように自己管理をしていかなければならないのかといった判断をするために住民が必要とする情報を示していない政府は住民全体一律ではなく乳幼児から若年層妊婦放射線感受性の強い人など住民個々人が自分の行動判断に役立つレベルまで理解を深めてもらう努力をしていない 当委員会は「被災地の住民にとって事故の状況は続いている放射線被ばくによる健康問題家族生活基盤の崩壊そして広大な土地の環境汚染問題は深刻であるいまだに被災者住民の避難生活は続き必要な除染あるいは復興の道筋も見えていない当委員会には多数の住民の方々からの悲痛な声が届けられている先の見えない避難所生活など現在も多くの人が心身ともに苦難の生活を強いられている」と認識するまたその理由として「政府規制当局の住民の健康と安全を守る意思の欠如と健康を守る対策の遅れ被害を受けた住民の生活基盤回復の対応の遅れさらには受け手の視点を考えない情報公表にある」と結論付けた(提言 3に対応)

【問題解決に向けて】 本事故の根源的原因は「人災」であるがこの「人災」を特定個人の過ちとして処理してしまう限り問題の本質の解決策とはならず失った国民の信頼回復は実現できないこれらの背後にあるのは自らの行動を正当化し責任回避を最優先に記録を残さない不透明な組織制度さらにはそれらを許容する法的な枠組みであったまた関係者に共通していたのはおよそ原子力を扱う者に許されない無知と慢心であり世界の潮流を無視し国民の安全を最優先とせず組織の利益を最優先とする組織依存のマインドセット(思い込み常識)であった 当委員会は事故原因を個々人の資質能力の問題に帰結させるのではなく規制される側とする側の「逆転関係」を形成した真因である「組織的制度的問題」がこのような「人災」を引き起こしたと考えるこの根本原因の解決なくして単に人を入れ替えあるいは組織の名称を変えるだけでは再発防止は不可能である(提言 45及び 6に対応)

【事業者】 東電はエネルギー政策や原子力規制に強い影響力を行使しながらも自らは矢面に立たず役所に責任を転嫁する経営を続けてきたそのため東電のガバナンスは自律性と責任感が希薄で官僚的であったがその一方で原子力技術に関する情報の格差を武器に電事連等を介して規制を骨抜きにする試みを続けてきた その背景には東電のリスクマネジメントのゆがみを指摘することができる東電はシビアアクシデントによって周辺住民の健康等に被害を与えること自体をリスクとして捉えるのではなくシビアアクシデント対策を立てるに当たって既設炉を停止したり訴訟上不利になったりすることを経営上のリスクとして捉えていた 東電は現場の技術者の意向よりも官邸の意向を優先したり退避に関する相談に際しても官邸の意向を探るかのような曖昧な態度に終始したりしたその意味で東電は官邸の過剰介入や全面撤退との誤解を責めることが許される立場にはなくむしろそうした混乱を招いた張本人であった 本事故発生後における東電の情報開示は必ずしも十分であったとはいえない確定した事実確認された事実のみを開示し不確実な情報のうち特に不都合な情報は開示しないといった姿勢がみられた特に 2号機の事故情報の開示に問題があったほか計画停電の基礎となる電力供給の見通しについても情報開示に遅れがみられた 当委員会は「規制された以上の安全対策を行わず常により高い安全を目指す姿勢に欠けまた緊急時に発電所の事故対応の支援ができない現場軽視の東京電力経営陣の姿勢は原子力を扱う事業者としての資格があるのか」との疑問を呈した(提言 4に対応)

83

参考資料

【規制当局】 規制当局は原子力の安全に対する監視監督機能を果たせなかった専門性の欠如等の理由から規制当局が事業者の虜(とりこ)となり規制の先送りや事業者の自主対応を許すことで事業者の利益を図り同時に自らは直接的責任を回避してきた規制当局の推進官庁事業者からの独立性は形骸化しておりその能力においても専門性においてもまた安全への徹底的なこだわりという点においても国民の安全を守るには程遠いレベルだった

 当委員会では「規制当局は組織の形態あるいは位置付けを変えるだけではなくその実態の抜本的な転換を行わない限り国民の安全は守られない国際的な安全基準に背を向ける内向きの態度を改め国際社会から信頼される規制機関への脱皮が必要であるまた今回の事故を契機に変化に対応し継続的に自己改革を続けていく姿勢が必要である」と結論付けた(提言 5に対応)

【法規制】 日本の原子力法規制はその改定において実際に発生した事故のみを踏まえた対症療法的パッチワーク的対応が重ねられ諸外国における事故や安全への取り組み等を真摯に受け止めて法規制を見直す姿勢にも欠けていたその結果予測可能なリスクであっても過去に顕在化していなければ対策が講じられず常に想定外のリスクにさらされることとなった また原子力法規制は原子力利用の促進が第一義的な目的とされ国民の生命身体の安全が第一とはされてこなかったさらに原子力法規制全体を通じての事業者の第一義的責任が明確にされておらず原子力災害発生時については第一義的責任を負う事業者に対し他の事故対応を行う各当事者がどのような活動を行ってこれを支援すべきかについての役割分担が不明確であった加えて諸外国で取り入れられている深層防護の考え方についても法規制の検討に際し十分に考慮されてこなかった 当委員会では「原子力法規制はその目的法体系を含めた法規制全般について抜本的に見直す必要があるかかる見直しに当たっては世界の最新の技術的知見等を反映しこの反映を担保するための仕組みを構築するべきである」と結論付けた(提言 6に対応) 以上のことを認識し教訓とした上で当委員会としては未来志向の立場に立って以下の 7つの提言を行う今後国会において十分な議論をいただきたいなおこの 7つの提言とは別に今後国会による継続監視が必要な事項を本編付録として添付した

提言の実現に向けて ここに示した 7つの提言は当委員会が国会から付託された使命を受けて調査作成した本報告書の最も基本的で重要なことを反映したものであるしたがって当委員会は国会に対してこの提言の実現に向けた実施計画を速やかに策定しその進捗の状況を国民に公表することを期待する この提言の実現に向けた第一歩を踏み出すことはこの事故によって日本が失った世界からの信用を取り戻し国家に対する国民の信頼を回復するための必要条件であると確信する 事故が起こってから 16 カ月が経過したこの間この事故について数多くの内外の報告書調査の記録著作等が作成されたそのいくつかには我々が意を強くする結論や提案がなされているしかしわが国の原子力安全の現実を目の当たりにした我々の視点からは根本的な問題の解決には不十分であると言わざるを得ない 原子力を扱う先進国は原子力の安全確保は第一に国民の安全にあるとし福島原子力発電所事故後はさらなる安全水準の向上に向けた取り組みが行われている一方わが国では従来もそして今回のような大事故を経ても対症療法的な対策が行われているにすぎないこのような小手先の対策を集積しても今回のような事故の根本的な問題は解決しない この事故から学び事故対策を徹底すると同時に日本の原子力対策を国民の安全を第一に考えるものに根本的に変革していくことが必要である ここにある提言を一歩一歩着実に実行し不断の改革の努力を尽くすことこそが国民から未来を託された国会議員国権の最高機関たる国会及び国民一人一人の使命であると当委員会は確信する 福島原発事故はまだ終わっていない被災された方々の将来もまだまだ見えない国民の目から見た新しい安全対策が今強く求められているこれはこの委員会の委員一同の一致した強い願いである

84

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

委員会について 当委員会の根拠法令である「東京電力福島原子力発電所事故調査委員会法(以下「委員会法」4という)」は平成 23 (2011)年 10 月 30 日に施行され委員長及び委員の 10 名は国会の承認を得て同年 12 月 8 日両議院の議長より任命された【委員長】黒川 清(政策研究大学院大学アカデミックフェロー元日本学術会議会長)【委員】石橋 克彦(理学博士地震学者神戸大学名誉教授)大島 賢三(独立行政法人国際協力機構顧問元国際連合大使)崎山 比早子(医学博士元放射線医学総合研究所主任研究官)櫻井 正史(弁護士元名古屋高等検察庁検事長元防衛省防衛監察監)田中 耕一(分析化学者株式会社島津製作所フェロー)田中 三彦(科学ジャーナリスト)野村 修也(中央大学法科大学院教授弁護士)蜂須賀 禮子(福島県大熊町商工会会長)横山 禎徳(社会システムデザイナー東京大学エグゼクティブマネジメントプログラム企画推進責任者)【調査の概要】ヒアリング 延べ 1167 人(900 時間超)原発視察(福島第一および第二女川東海) 9 回タウンミーティング 3 回(合計 400 人超)被災住民アンケート回答者数 住民 10633 人 (自由回答コメント 8066 人)作業従業員アンケート回答者数 2415 人東電規制官庁および関係者に対する資料請求 2000 件以上

【委員会の情報公開】委員会開催 19 回(動画中継合計 約 60 時間)すべての委員会を動画配信(合計視聴者数 約 80 万人) Facebookツイッターのソーシャルメディア活用 (17 万件以上の書き込み)東京電力福島原子力発電所事故から 16 カ月がたち既にその間に政府や東京電力のみならず数多くの検証の試みがなされ報告著書マスメディアなどの多様な媒体で公表されている国内ばかりでなく国際機関からもまた海外からも発信されているそれらに記述されていることとこの委員会報告に記載されていることは重複している部分も多くあるだろうしかし当委員会が参考人のヒアリングを世界に対して公開して行った意味はそれを見た一人一人がそれまでのメディアを通じた情報と比較しながらより立体的にまた客観的に事故の原因を把握し今後何をなすべきか判断できる材料を提供するということにあると考えるそこにこそ公開の意味があるのでありそのような認識でこの委

4 「東京電力福島原子力発電所事故調査委員会法」

85

参考資料

員会は活動を行い報告書を作成した

【当委員会で扱わなかった事項】 設置に際し委員会法 10 条各号により我々に課せられた課題解決を最優先とするため以下の点については今回の調査の対象外とした1) 日本の今後のエネルギー政策に関する事項(原子力発電の推進あるいは廃止も含めて)2) 使用済み核燃料処理処分等に関する事項3) 原子炉の実地検証を必要とする事項で当面線量が高くて実施ができない施設の検証に関する事項4) 個々の賠償除染などの事故処理費用に関する事項5) 事故処理費用の負担が事業者の支払い能力を超える場合の責任の所在に関する事項6) 原子力発電所事業に対する投資家株式市場の事故防止につながるガバナンス機能に関する事項7) 個々の原子力発電所の再稼働に関する事項8) 政策制度について通常行政府が行うべき具体的な設計に関する事項9) 事故後の原子炉の状況の把握及び廃炉のプロセスに関する事項発電所周辺地域の再生に関する事項10) その他委員の合意によって範囲外と決めた事項等 当委員会の根拠法令である「東京電力福島原子力発電所事故調査委員会法(以下「委員会法」4という)」は平成 23(2011)年 10 月 30 日に施行され委員長及び委員の 10 名は国会の承認を得て同年 12 月 8 日両議院の議長より任命されたhttpnaiicgojp本編要約をホームページで公開(日英)<お問い合わせ先>東京電力福島原子力発電所事故調査委員会事務局 e-mailpressnaiicjp

Page 5: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の

11

第3節 石油LPG

第1章

テーション(SS)へのガソリン等の安定的な輸送が困難な状況となりましたまた津波の影響でサービスステーション(SS)についても給油設備が被害を受けたこと等により岩手や宮城の一部地域において全てのサービスステーション(SS)が営業不能になった市町村もありました

2講じた措置(対応)と明らかになった課題

(1)震災において講じた対応①被災地からの個別燃料供給要請への対応 震災発生直後より医療機関や警察消防を始め各方面から差し迫った石油製品供給の要請がありました政府は石油連盟全国石油業共済協同組合連合会石油元売各社と協力して対応体制を構築し24時間態勢でこれらの要請に対応するとともにLPガスについても他地域からの輸送体制を強化6する等して被災地への供給確保を行うと共に軒下在庫7の活用及び仮設住宅への供給等8を行いました

② 包括的な供給プランの策定(東北地方(被災地)及び関東圏でのガソリン軽油等の供給確保) 今次震災においては津波等によるタンクローリーの被災や東北関東地方にある製油所の被災による国内の石油精製能力の低下によって被災地等における石油製品の安定供給に支障を来しました 石油元売各社は経済産業大臣からの被災地へのタンクローリーの追加投入や製油所稼働率の引き上げについての要請に基づき約300台のタンクローリーの追加投入や西日本における石油製品の増産を実施しましたその増産分についてはタンカー等により被災地へ大量転送しました 津波等により被災し出荷困難な状況に陥った太平洋側の油槽所については石油元売各社による設備の復旧関係機関協力下での近海海域の掃海周辺道路の回復による油槽所機能の早期回復が図られました また比較的被害の小さかった油槽所を複数の石油会社間で共同利用する等の柔軟な対応により被災地

への石油供給を行いました これらの対応に加え消防警察等の緊急車両への燃料供給を優先するよう石油販売業界に要請するとともに緊急車両に対して確実に燃料供給を行うために東北圏で合計385カ所関東圏で合計348カ所のサービスステーション(SS)を緊急重点サービスステーションとして認定しました また福島原子力発電所周辺地域においては住民の方々の自主避難を円滑に進めるため関係団体に対して重点的な燃料供給を行う旨の要請も行いました なお上記以外の対応としてタンク貨車による鉄道輸送やドラム缶のトラック等による被災地への石油製品の大量輸送石油備蓄法に基づく民間備蓄義務の引き下げ及び国家備蓄LPガスの放出(交換)等9を行い東北地方(被災地)及び関東圏における石油製品の供給確保に取り組みました

③エネルギー供給施設の復旧等の支援 今回の震災では津波により給油設備が被害を受け多くのサービスステーション(SS)が営業不能に陥りました被災地域における石油製品の供給体制を早期に回復させるため被害を受けた給油設備の補修や安全点検を行う等のサービスステーション早期復旧支援に取り組みつつサービスステーションの復旧が完了するまでの間についても移動式給油機やタンクコンテナを設置する等して簡易サービスステーションによる仮営業の支援も行いました また震災により経営が悪化した被災地域のサービスステーション(SS)の資金繰りに関しても全国石油協会が金融機関からの資金調達を行う際の保証人になり借入債務の保証を行うことで対応しました 更に津波等による損壊により通常の信用取引が困難になった被災地域のサービスステーション(SS)についても売掛債権の未回収リスクを国が負担することで石油製品の安定供給の支援を行いました LPガスについては中小企業が所有する10カ所程度の充填所や震災前に東北地方の半分以上のLPガス

6 LPガス輸入業者からなる日本 LPガス協会においてあらかじめ定めていた相互支援協定を発動し東北関東の他の基地等から代替供給を速やかに実施しました7 通常LPガスの供給先には LPガス容器が複数本設置され軒下在庫とも言われています復旧については個別の対応となるため早期の供給再開が可能です8 ほぼ全ての仮設住宅約 53000 軒に対して供給されています9 LPガス元売業者からの国家備蓄 LPガスの放出要請を受け「石油の備蓄の確保等に関する法律」に基づき隣接する神栖国家備蓄基地の備蓄 LPガスを 4万トン放出(交換)しました

12

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第1章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故で明らかになった課題

第1章

供給を担っていた仙台ガスターミナルに対し設備復旧の支援を行いましたまたLPガス輸入業者からなる日本LPガス協会においてあらかじめ定めていた相互支援協定を発動し上記国家備蓄の放出や東北関東の他の基地等からローリーによる代替供給を速やかに実施した結果東北地方におけるLPガスの安定供給を確保することが出来ました

10 東北地方(被災地)及び関東圏でのガソリン軽油等の供給確保 - 緊急の供給確保措置と拡大輸送ルートの設定(2011 年 3 月 17 日公表)より作成しています

(2)明らかになった課題 今回の震災での経験を踏まえ石油基地LPガス出荷基地充填所等の災害対応能力や物流機能の強化情報収集情報提供体制の強化等災害時にも確実に石油製品を供給できる体制の整備が課題として明らかになりました

稼働率アップによる追加増産分等を東北地方に転送(約2万 kℓ日)

輸出抑制需要抑制

西日本の製油所の稼働率95以上へ

ローリーの大量投入鉄道による輸送ルートの確保

拠点SSの整備

関東圏への安定供給

西日本の製油所における製品在庫の取り崩しと関東への転送(3日以内に5万kℓ)

関東圏の製油所にお ける製品在庫の取り 崩し(約3万kℓ)事業者間連携による 円滑な供給体制

東北地方への重要供給拠点タンク貯蔵量25kℓ出荷能力約5000kℓ日全油種合計の能力

(注) 1万 kℓ日=約63 万バレル日

(参考)宮城県の1日あたりの燃料油販売量は約1万kℓ日東北全体では38万kℓ日

JX大分製油所

太陽四国事業所

コスモ坂出製油所東燃ゼネラル

和歌山工場

コスモ四日市製油所昭シェル四日市製油所

出光愛知製油所昭シェル山口製油所

出光徳山製油所

JX麻里布製油所JX水島製油所 コスモ堺製油所東燃ゼネラル堺工場

新潟油槽所仙台

塩竈油槽所の機能回復

酒日油槽所気仙沼油槽所times

秋田油槽所 八戸油槽所times青森油槽所

室蘭製油所 苫小牧製油所

第113-2-1  東北地方(被災地)及び関東圏でのガソリン軽油等の供給確保の為の包括プラン10

13

第2章

 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故により我が国のエネルギーに関して様々な課題が明らかになり我が国はエネルギー政策のゼロベースの見直しを行ってきました11また同時に我が国はエネルギーに関して生じた課題について様々な対応を図ってきました本章では震災後から2012年 7月下旬頃までの電力省エネルギー新エネルギーに関して講じた施策について取り上げます12

第1節 電力需給対策

12011年度夏期の需給対策と結果

 震災後直ちに立ち上がった官房長官を本部長とする「電力需給緊急対策本部」において夏期の電力需給対策等について議論が積み重ねられ第5回電力需給緊急対策本部(2011年 5月 13日)13において「夏期の電力需給対策」が取りまとめられ対策が講じられました

(1)供給面の対策 主な供給面の対策として震災により失われた供給力を補うために東京電力及び東北電力が行う発電設備の設置事業について環境影響評価法の適用除外となることを確認したほか電気事業法に基づく火力発電施設の定期検査実施時期について最大1年間の延長を認める運用を実施することとしましたまた経済産業省から自家発設置事業者に対し売電要請設備導入や燃料費の補助等を措置することとしました

(2)節電要請 余震等による火力の復旧の遅れ再被災等のリスクを踏まえて供給力と需要が一致するギリギリのライ

ンではなく一定の余裕を持ったものとすることが適当であるという観点で行われました 東京電力及び東北電力管内においてはピーク期間時間帯の使用最大電力について15の抑制(節電)を要請し特に大口需要家については電気事業法第27条に基づく使用制限を実施する等の対応を行いました電気の使用制限期間は東京電力管内は2011年 7月 1日~9月22日の9時~20時(平日のみ)東北電力管内は同年7月1日~9月9日の9時~20時(平日のみ)とされました また関西電力管内においては全体として10以上の節電の要請を行いました節電要請期間は2011年7月25日~9月22日の9時~20時(平日のみ)とされました 中西日本のその他の電力管内(中部電力北陸電力中国電力四国電力九州電力の各管内)においては国民生活や経済活動に支障を生じない範囲での節電に取り組みました その後電気事業法第27条に基づく使用制限については2011年 8月 30日に東北東京電力管内の需給バランスが改善していることや被災地の方々からの早期終了を求める声があることを踏まえ「9月2日(金)を最後に東日本大震災及び新潟福島豪雨の被災地に所在する大口需要家の方々に対する電気事業法第27条に基づく電気の使用制限を終了すること」「9月9日(金)を最後に東京電力管内に所在する大口需要家の方々に対する電気事業法第27条に基づく電気の使用制限を終了すること」が決定されました

(3)2011年度夏期の結果①全体 節電要請等を踏まえた需要家の皆様の協力等により需要は各地域において概ね目標とする水準で推移しました2011年夏期の需要気温が高かった日と

11 第 1部第 4章に詳述しています12 石油LPG に関して講じた施策は第 4章第 3節に記載しています13 「電力需給緊急対策本部」は 2011 年 5 月 16 日をもって「電力需給に関する検討会合」に改組しました

第2章東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故後に講じたエネルギーに関する主な施策

14

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第2章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故後に講じたエネルギーに関する主な施策

第2章

2010年夏期の気温が同程度の日を選定して比較した場合ピーク時の電力需要は2010年比東京電力で19東北電力で18関西電力で8となり電力会社による供給力の積み上げや機動的な電力融通等の対応と相まって計画停電や需給ひっ迫による停電は回避することができました

②大口需要家(契約電力500kW以上の事業者) 最大ピーク需要を2010年比で見ますと東京電力で27東北電力で18関西電力で9の効果がありました使用制限を課した東京電力東北電力では目標以上の節電が行われ数値目標を提示しただけの関西電力でも目標に応じた節電効果がありました 大口需要家のうち産業部門に関しては電気の使用目的が生産活動に直結しており節電にはコストが伴いました休日夜間へのシフトのよる労務費増自家発活用による燃料費増等により相当のコストが発生した例もありました オフィスビルや店舗といった業務部門においては冷房や照明が電力需要の太宗を占めており照明の間引きLED照明の導入空調設定エレベーターの間引き等基本的には大きなコストをかけることなく電気代を節約しながら数値目標を実現しました

③小口需要家(契約電力500kW未満の事業者) 最大ピーク需要を2010年比で見ますと東京電力で19東北電力で17関西電力で10の効果がありました各電力管内とも節電要請に対応した自主的な数値目標でも目標に応じた節電効果が発揮されました 小口需要家のうち産業部門に関しては休日夜間へのシフトによる労務費増自家発活用による燃料費増等により相当のコストが発生した例もある等電気の使用目的が生産活動に直結しており節電にはコストが伴いましたコンビニエンスストア等の店舗を中心とする業務部門では電力使用の太宗を冷房や照明が占めており照明(間引きLED照明の導入)空調の設定エレベーターの間引き等基本的には大きなコストをかけることなく電気代を節約しながら数値目標を実現しました

④家庭 節電要請にほぼ対応した成果がありました家庭部

門においてはこまめな消灯LED照明の導入空調設定の工夫等により基本的には大きな支出をすることなく節電を実現しました

22011年度冬期の需給対策と結果

 2011年 11月 1日に合同開催されたエネルギー環境会議電力需給に関する検討会合において「今冬の電力需給対策」がとりまとめられ対策が講じられました

(1)供給面の対策 電力会社の取組としては引き続き供給力の積み増し努力を続けていくとともに日々の電力系統の運用において各社の需給状況を踏まえつつ更に機動的な相互の融通を行うことで需給がひっ迫する地域の需給バランスを確保できるような対応を行うこととしました 政府の取組としては2011年 11月 1日にエネルギー環境会議にてとりまとめられた「エネルギー需給安定行動計画」に基づき予算規制改革等あらゆる措置を検討しできる限りの措置を講じることとされました

(2)需要抑制の目標 供給力の最大限の積み上げを行った上でもなお存在する需給ギャップについてはピーク期間時間帯の使用最大電力(kW)の抑制(節電)により対応することとし節電要請は経済社会への影響を最小化するため「電気事業法第27条に基づく電気の使用制限は行わない」「具体的な節電の要請に当たっては経済活動や国民生活の実態に応じたきめ細かな対応を求める」という考え方に基づき行われました 関西電力と九州電力においては供給力が最大需要見通しを下回るためピーク期間時間帯の最大使用電力についてそれぞれ数値目標を伴う節電要請が行われましたなお病院や鉄道等ライフライン機能等の維持に支障が出る場合や生産活動に実質的な影響を及ぼす場合等については機能維持への支障や生産活動への実質的な影響が生じない範囲で自主的な目標を設定し節電を行うよう要請することとされました 関西電力管内には10以上の節電要請が行われました節電要請期間は2011年 12月 19日~2012年3月23日の9時~21時(平日(12月29日12月30日1月3日1月4日を除く)のみ)とされました

15

第1節 電力需給対策

第2章

 九州電力管内には5以上の節電要請が行われました節電要請期間は2011年 12月 19日~2012年2月 3日の9時~21時(平日(12月 29日12月 30日1月3日1月4日を除く)のみ)とされましたその後2011年 11月 24日付けで九州電力が玄海原子力発電所4号機の定期検査開始日を法定期限(13カ月)である2011年 12月 25日とすることを決定したことに伴い九州電力の需給バランスを再精査したところ玄海4号機の定期検査開始日までは一定の供給力が確保される見通しとなったため節電期間の開始日が当初の2011年 12月 19日から2011年 12月 26日に変更されました その他の電力会社(北海道電力東北電力東京電力中部電力北陸電力中国電力及び四国電力)管内については国民生活及び経済活動に支障を生じない範囲での期間時間帯における使用最大電力の抑制(具体的には照明空調機器等の節電等)が要請されました14節電要請期間は2011年 12月 1日~2012年 3月 30日の平日(12月 29日12月 30日1月3日1月4日を除く)9時~21時(九州電力管内については8時~21時)とされました

(3)2011年度冬期の結果①全体 節電要請等を踏まえた需要家の皆様の協力等により需要は各地域において概ね目標とする水準で推移しました2011年度冬の節電要請期間における電力需要と2010年度冬の同時期における電力需要とを比較した場合ピーク時の電力需要は関西電力で5九州電力で62となり電力会社による供給力の積み上げや機動的な電力融通等の対応と相まって計画停電や需給ひっ迫による停電は回避することができま

した15

②大口需要家(契約電力500kW以上の事業者) 最大ピーク需要を2010年度比でみますと生産活動等に配慮しても関西電力で6九州電力で7の効果がありました 多くの大口需要家は需給調整契約等における経済合理性を踏まえてピークカット等を実施し生産活動等への実質的な影響は回避されました

③小口需要家(契約電力500kW未満の事業者) 最大ピーク需要を2010年度比でみますと生産活動等に配慮しても関西電力で5九州電力で6の効果がありました 節電の内容は照明と空調に関するものが最も多く生産活動等への実質的な影響は回避されました

④家庭 家庭部門においてはこまめな消灯LED照明の導入空調設定の工夫等により基本的には大きな支出をすることなく節電を実現しました

32012年度夏期の需給対策

 2012年4月末から5月初旬にわたり今夏の需給見通しについてエネルギー環境会議及び電力需給に関する検討会合の下に設置された「需給検証委員会」で検討が行われました 検証の結果「関西電力管内で昨年の東京電力管内で想定されたピーク電力不足よりも厳しい状況になる恐れがあること」「九州電力北海道電力及び四国電力管内でも電力需給のひっ迫が見込まれるとともに全ての地域で火力発電所の稼働が増える結果燃料

14 数値目標付き節電期間以外の関西電力九州電力管内についても同様です15 数値目標を伴わない節電要請を行った電力管内のピーク需要については下記の通りです 北海道22東北22東京74中部28北陸33中国41四国29(2010 年比)

第121-3-1 でんき予報

16

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第2章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故後に講じたエネルギーに関する主な施策

第2章

コストが増加し2012年度には31兆円の国富の流出が生じると推計されておりこのまま放置すれば本年秋以降電気料金上昇のリスクも高まること」が明らかになりました これを受けて2012年 5月18日に合同開催されたエネルギー環境会議電力需給に関する検討会合において「今夏の電力需給対策」がとりまとめられ対策が講じられました

(1)供給面の対策 電力会社の取組としては需給検証委員会における検証を踏まえ現段階で確実と見られる供給力を基本とし今後確実に見込めるようになった供給力についてはその時点で上方修正することとしまた約2週間前(可能な範囲)1週間前前日の三段階で融通可能量を明確化する等日々の運用において中西日本の地域全体あるいは東日本の地域全体として機動的な電力融通を行うことにより地域全体としての需給バランスを確保できるような対応を行うこととされました 政府の取組としてはエネルギー需給安定関連の2011(平成23)年度補正予算2012(平成24)年度予算

の執行を加速しその際関西北海道九州東北及び四国を優先することとしましたまたエネルギー規制制度改革アクションプランを着実に実行することとされました

(2)需給ひっ迫時の対応 国民各層の節電への協力にもかかわらず急激な気温変化や大型発電所の計画外停止等により電力需給がひっ迫する可能性がある場合には政府はあらかじめひっ迫が想定される特定の電力会社管内に「電力需給ひっ迫警報」を発令し報道機関や地方公共団体等の協力を得て緊急節電要請を行うこととされました また計画停電は実施しないことが原則ですが大規模な電源の脱落等万が一に備えて関西電力管内に加えて予備率がマイナスと見込まれる九州電力北海道電力及び四国電力管内においても計画停電の準備を進めておくこととされました

(3)需要抑制の目標 需給検証委員会における検証結果を踏まえ需給ギャップ(kW)を解消するため需要家に対し節電を要

需給ひっ迫警報の発令(第一報)

需給ひっ迫警報の発令(続報)

「緊急速報メール」発出

節電協力による停電回避

電力会社が計画停電の実施を発表

前日1800目途

当日900目途

計画停電開始の3~4時間前

計画停電実施の2時間程度前

需給ひっ迫警報発令から計画停電への流れ

他社から電力融通を受けても需給がひっ迫する電力会社の供給予備率が3を下回る見通しとなった場合政府から当該電力会社の管内に対し警報を発令翌日行う可能性のある計画停電について電力会社から公表する

当日900を目途に政府から発令その後も需給状況の変化を踏まえて必要に応じ続報を発令

第1グループ(830~)から計画停電を実施する場合は900の警報の発令は行わない場合があるまた必要に応じ900以前に続報を発令する場合があるなお需給ひっ迫のおそれが解消されたと判断される場合には警報を解除する

引き続き需給のひっ迫状況が解消されない場合計画停電を開始する可能性がある時間の引き3~4時間前に政府から「緊急速報メール」を発信し電気の利用を極力控えることを要請

引き続き需給のひっ迫状況が解消されず最大限の融通を受けても中西日本全体若しくは北海道電力管内において供給予備率が1程度を下回る見通しとなった場合計画停電を実施する可能性がある時間帯ごとにその2時間程度前に電力会社から計画停電の実施を発表

大型発電機の計画外停止が重なり短時間に需給がひっ迫した場合等においては警報や緊急速報メールを発令することなく計画停電を実施する場合がある

(注) 北海道電力管内については北本連系線等が計画外停止した場合等においても更なる発電機等の計画外停止等が停電(計画停電や場合によっては不測の停電)につながる可能性があるためその旨を速やかに周知する万一不測の停電が起きた場合にも速やかに計画停電に移行する

当日早朝や午前中に大型発電所の計画外停止が重なった場合等においては急遽警報を発令する場合がある

緊急速報メールは早朝深夜の時間帯等需要抑制効果が見込めないと判断される場合には送信しない

第121-3-2 需給ひっ迫警報発令から計画停電への流れ

17

第1節 電力需給対策

第2章

請することとされましたこの際より合理的なピーク時の電力不足解消策として全国レベルでの節電と融通の最大活用を行うこととされました 個別の需要家に対する要請に当たっては需要家からの意見(「需要家間の公平性確保」)や需要家への「分かりやすさ」等も踏まえ2010年の使用電力需要の実績(節電影響を含まない需要実績)を基準として要請することとされました16 また被災地や高齢者等の弱者に対して無理な節電を要請することがないよう要請時には配慮を行うこととされました 併せて関連支援措置の執行の加速規制制度改革の推進等の構造的対策や需要の変動に効率的に対応する新たなピークカット対策を推進することとしこれらの需要面での対策に当たっては地方公共団体等の協力を得て創意工夫によるきめ細かい対応を行うことにより国民生活や経済活動への影響を最小化することを目指すこととされました 各電力会社管内の需要家に対する要請については北海道電力管内には2010年比7以上の節電要請が

行われました節電要請期間は2012年 7月 23日~9月7日9時~20時(平日(8月13日~15日)を除く)同年9月10日~14日 17時~20時とされました 東京東北電力管内には東日本全体としては2012年夏季想定需要(猛暑節電あり)の場合には最低限必要となる供給予備率(3)は確保できる見通しであること東北電力管内においては被災地の復興需要に配慮することが適切であることから数値目標を伴わない節電要請が行われました節電要請期間は2012年 7月 2日~9月28日の平日(同年8月13日~15日を除く)9時~20時とされました 中西日本各社の管内については中西日本における広域での節電目標を数値目標付きで要請し広く中西日本の需要家の協力を募ることにより関西電力及び九州電力の節電目標を引き下げ一律かつ強制的な手段である電力使用制限命令を回避するという方針を踏まえ関西電力管内には2010年比15以上の節電要請が行われました節電要請期間は2012年 7月 2日~9月7日9時~20時(平日(8月13日~15日を除く)とされました

16 病院や鉄道等のライフライン機能や国の安全保障上極めて重要な施設の機能等の維持に支障がでる場合には機能維持への支障が生じない範囲で自主的に目標を設定し実施することを要請(オフィス部門間接部門は共通目標の節電を要請)されました

需要サイドの取組

供給サイドの取組

新たなピークカット対策のためのアクションプラン(進捗状況)

自家発余剰購入の拡大 電力会社が需要家の自家発による電力を購入した場合買い取り分を需要家の節電とみなす指針(昨年11月公表)に基づき需要家において自家発を有効に活用今夏の節電期間において九カ所の自家発を活用し40カ所を超える供給地で節電みなしを実施する予定(化学電機製紙繊維等)この他検討中の案件ありまた補助金(6月29日まで公募)を通じて自家発設備の導入活用を促進分散型売電市場の開設 6月18日より分散型グリーン売電市場を開設自家発等の小規模電源や系統への送電量が一定ではない電力も売電可能6月27日には第一号案件の取引が成立(東京電力管内の複数のコジェネ電源最大32 万 kW程度)卸電力取引所の時間前市場の利用要件緩和 6月20日から卸電力取引所の時間前市場の買いに関する制限を撤廃し経済的理由での買い入札や差し替えを可能とする運用を開始

計画調整契約随時調整契約の拡充(特別高圧高圧大口小口向け) 各電力会社が需給調整契約のプランの拡充や割引単価を拡大(例関西電力が随時調整契約のうち前日通告プランに加え前週通告プランを新設中部電力は管外(関西電力)の需給ひっ迫時にも発動可能な契約を設定)季節別時間帯別料金の活用新たなピーク料金メニューの設定(低圧向け) 東京電力(61~)関西電力(71~)が新たなピーク料金メニューを導入(新メニューの申込み件数は東京電力約520件(511-73)関西電力約11900件(521-73))九州電力及び四国電力はピーク料金の実証を実施また関西電力及び北海道電力が一定の節電を達成した家庭にプレゼントを進呈するキャンペーン(7~9月)を実施アグリゲーターを活用したDSM(デマンドサイドマネージメント)(特別高圧高圧大口小口向け) 東京電力は複数の需要家のピーク需要抑制の取組を取りまとめることで大規模なピーク需要抑制を実現するプランを公募5件のプランについて取りまとめ事業者(アグリゲーター)との契約締結を発表(6月6日) 関西電力はBEMS(ビルエネルギー管理システム)を導入した複数の需要家に対し負荷調整を働きかけピーク抑制を実施するアグリゲーターを公募(528~615)18社の応募があり現在協議中 中部電力はアグリゲーター2社と契約し高圧小口の需要家を対象に遠隔操作によりデマンドコントローラーの設定値を低く設定すること等によりピーク時の需要を抑制(仮に管内で需給が厳しい状況とならずとも実証的に発動する予定)(626)入札等によるネガワット取引(特別高圧高圧大口向け) 関西電力が7月2日よりネガワット取引(需給ひっ迫が予想される場合に電力会社が需要家から節電(負荷抑制)を入札により確保する仕組)を実施その際関西電力管外(中部北陸中国)管内の需要家も対象とすることを発表(621)スマートメーター向け検定手数料の引き下げ(低圧向け)(エネルギー規制規制改革アクションプラン関連) 7月1日より低圧用スマートメーターの検定手数料を大幅に引き下げ(1台670円から370円に)

第121-3-3 新たなピークカット対策のためのアクションプラン(2012年 7月 5日現在)

18

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第2章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故後に講じたエネルギーに関する主な施策

第2章

 四国電力管内には2010年比7以上の節電要請が行われました節電要請期間は2012年 7月 2日~9月7日9時~20時(平日(8月13日~15日除く))とされました 九州電力管内には2010年比10以上の節電要請が行われました節電要請期間は2012年 7月 2日~9月7日9時~20時(平日(8月13日~15日を除く))とされました 中部北陸中国電力管内には2010年比5以上の節電要請が行われました節電要請期間は2012年7月2日~9月7日9時~20時(平日(8月13日~15日を除く))とされました その後2012年 7月 9日に大飯原子力発電所3号機が定格熱出力一定運転となったことを踏まえ同年7月10日から関西電力管内については2010年比10以上に低減中部北陸中国電力管内については定着した節電分相当を数値目標として設定することとしそれぞれ4以上4以上3以上に低減されました また数値目標を伴う節電要請期間及び時間は変更しないこととされました 更に7月25日に大飯原子力発電所4号機が定格熱出力一定運転となったことを踏まえ7月26日から中部北陸中国電力管内については数値目標(それぞれ2010年比4以上4以上3以上)を解除し「数値目標を伴わない節電」に変更関西電力管内については引き続き2010年比10以上の節電

要請を行うこととされましたが生産活動に支障が生じる場合は2010年比5以上に低減四国電力管内については2010年比7以上から2010年比5以上に低減することとされました また節電要請期間及び時間は変更しないこととされ引き続き高齢者乳幼児等の弱者熱中症等の健康被害への配慮を行うこととされました

第2節 原子力発電所再起動

1原子力施設の安全性安心を高める取組

(1)緊急安全対策等の実施 原子力安全保安院は今般の事故と同程度の地震と津波により全交流電源喪失最終ヒートシンクの喪失に至ったとしても炉心損傷等深刻な事態を回避し冷温停止状態に移行するための対策として2011年 3月 30日事業者に対して緊急安全対策を指示しました 短期対策としては電源車や代替注水のためのポンプの配備東京電力福島第一原子力発電所を襲ったものと同程度の津波を想定した建屋への浸水対策手順書の整備等に加え中長期対策として設備の本格的な水密化や防潮堤等の防護措置の実施を要求しましたその後これらの実施状況について事業者から報告を受け2011年 5月評価確認を実施しましたなお防潮堤の設置等の中長期対策の実施状況については引き続き厳格に確認を行っていく予定です また2011年 4月 15日には外部電源の信頼性の向上を図るため複数ルート回線の確保開閉所の耐震性確保等を指示し更に同年6月7日には万一シビアアクシデントが発生した場合でも迅速に対応するため事故時の通信管理機能確保放射線防護体制の強化を指示しましたこれらの指示に基づく実施状況についても現場確認を実施する等評価確認を行っています

第121-3-4 2012年度 夏季の節電メニュー中部 関西 北陸 中国 四国 九州

当初(7月 2日~) 5以上 15以上 5以上 5以上 7以上 10以上3号機定熱運転後(7月10日~)

4以上(定着した節電分)

10以上4以上

(定着した節電分)3以上

(定着した節電分) 7以上 10以上

4号機定熱運転後(7月26日~)

一般的な節電要請

10以上生産活動に支障が生じる場合は5以上

一般的な節電要請

一般的な節電要請

5以上 10以上

7月 25日 4号機定格熱出力一定運転(定熱運転)

第121-3-5 2012年度夏期節電目標の改訂の変遷

19

第2節 原子力発電所再起動

第2章

(2) 東京電力福島第一原子力発電所事故の知見 事故の原因等の調査については原子力安全と原子力防災を中心に事故の評価や得られた教訓を取りまとめ2011年 6月9月の2回IAEAに対して日本政府としての報告を提出しました また2011年 5月から6月にかけて各国の専門家及びIAEAの専門家で構成された調査団を受け入れ事実関係の調査を行いその時点における教訓等を国際社会と共有しました 更に事故から得られる技術的な知見を可能な限り抽出するため原子力安全保安院は2011年 10月から「東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の技術的知見に関する意見聴取会」を外部の専門家の参加を得て全面公開の下8回開催しパブリックコメントを経た上で2012年 3月に報告書をとりまとめましたその中で今回の事故では津波による被水によって所内電源設備や冷却設備が機能を喪失したことを受け今後の規制に反映すべきと考えられる事項として所内電源設備や冷却設備の位置的分散浸水対策事故時の最終ヒートシンクの強化等の必要性を提示した「30の対策」をとりまとめました 「東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の技術的知見に関する意見聴取会」に加え東京電力福島第一原発等で観測された地震津波等の影響については原子力安全保安院は2011年 9月から専門家の参加を得て「地震津波に関する意見聴取会」「建築物構造に関する意見聴取会」をそれぞれ11回8回開催し2012年2月に中間とりまとめを行いましたまた東京電力福島第一原発事故における経年劣化の影響について検証するため専門家の参加を得て「高経年化技術評価に関する意見聴取会」を6回開催し2012年 2月に取りまとめを行いましたこれらの検討結果についてはそれぞれ原子力安全委員会に報告するとともに「30の対策」に反映させています

(3)ストレステストによる評価 2011年7月6日の原子力安全委員会からの要請及び7月11日に公表された政府方針「我が国原子力発電所の安全性の確認について」に基づき原子力安全保安院では原子力発電所の更なる安全性の向上と安全性についての国民住民の方々の安心信頼の確保のため評価手法評価実施計画を作成し原子力安全委員会の確認を得た上で事業者に対して総合的安全評価(いわゆるストレステスト)の実施を指示しまし

た ストレステスト一次評価においては定期検査で停止中の原子力発電所について運転の再開の可否について判断することとしており全交流電源喪失及び最終ヒートシンク喪失に関してそれぞれの事象時の冷却継続時間クリフエッジの特定緊急安全対策の効果等について評価します事業者の一次評価の結果については原子力安全保安院が公開の会議で外部の専門家の意見を聴きつつ「東京電力福島第一原子力発電所を襲ったような地震津波が来襲しても炉心損傷に至らないこと」の確認を行い更に原子力安全保安院の審査の妥当性を原子力安全委員会が確認しますなお大飯発電所34号機については原子力安全保安院が審査書を2012年 2月 13日にとりまとめ同年3月23日に原子力安全委員会が見解をとりまとめています

2大飯発電所34号機の再起動

(1)原子力発電所に関する四大臣会合 2012年 3月に大飯発電所34号機について原子力安全保安院による審査結果及び原子力安全委員会による見解がとりまとめられたことを受けて内閣総理大臣内閣官房長官経済産業大臣内閣府特命担当大臣(原子力担当)からなる「原子力発電所に関する四大臣会合」を同年4月3日から6回にわたり開催しました まず東京電力福島第一原子力発電所事故の発生以降緊急安全対策等の安全対策の実施政府事故調や原子力安全保安院の意見聴取会等の専門家による事故検証や知見の蓄積ストレステスト一次評価による安全性評価等1年間の対策や知見の積み重ねを踏まえ分かりやすい形に整理したものとして四大臣会合で「原子力発電所の再起動にあたっての安全性に関する判断基準」を取りまとめました大飯発電所34号機は東京電力福島第一原子力発電所を襲ったような地震津波が来襲しても燃料損傷には至らないこと更なる安全性信頼性向上のための着実な実施計画が明らかになっていること等を確認したことから「原子力発電所の再起動にあたっての安全性に関する判断基準」に適合し安全性が十分に確保されていることを確認しました 併せて再起動の必要性を検証しましたその結果関西地域ではこれまでの供給力積み増しの努力を勘案してもなお電力不足となる可能性があること原子力

20

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第2章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故後に講じたエネルギーに関する主な施策

第2章

発電所の停止がもたらすコスト増により国民負担が増加しその影響は小売店や中小企業家庭に広く及ぶことエネルギー安全保障の確保等の点から大飯発電所34号機の再起動には必要性があることを確認しました 以上のように大飯34号機の再起動には安全性と必要性があることを判断し四大臣としてこの判断について国民の皆様に対して責任を持って説明し理解が得られるよう努めていくこと何よりも立地自治体の理解が得られるよう全力を挙げていくことそしてこうした一定の理解が得られた場合には最終的に再起動の是非について決断することを同年4月13日に確認しました

(2)立地自治体等への説明 2012年4月13日の四大臣会合を受けて同月14日に枝野経済産業大臣が福井県を訪問し西川福井県知事時岡おおい町長等と会談を行いましたまたおおい町からの要望を踏まえ同月26日に開催されたおおい町住民説明会において柳澤経済産業副大臣が政府の判断について説明を行いました 政府の再起動の安全性判断等について説明の要望があった関西広域連合京都府滋賀県等の周辺自治体に対しても関係閣僚等が説明を行いましたこれらの説明結果を踏まえ同年5月30日の四大臣会合において関係自治体の一定の理解が得られつつあると判断しこれまで40年間にわたって原子力発電所の安全確保に直接向き合い電力の安定供給に貢献してきた立地自治体である福井県おおい町の判断が得られれば政府として最終的な再起動判断をすることを決定しました これを受けて同年6月4日には細野内閣府特命担当大臣(原子力担当)齋藤内閣官房副長官牧野経済産業副大臣が福井県を訪問し西川福井県知事時岡おおい町長と会談し周辺自治体への説明状況等について説明を行いました同月8日には野田内閣総理大臣が記者会見を行い「国民の生活を守るために大飯発電所34号機を再起動すべきだというのが私の判断」との考えを国民に対し説明しました これらの国からの説明等を踏まえて福井県おおい町でも検討が行われ同月14日に時岡おおい町長が西川福井県知事に対して再起動に関する政府判断について了承する旨を伝え同月16日には西川福井県知事が野田内閣総理大臣等の関係閣僚と会談し政

府の再起動判断について了承する旨が伝えられました

(3)大飯発電所34号機の再起動 これを受けて原子力発電所に関する四大臣会合を同日に開催し四大臣として大飯発電所34号機を再起動することを政府の最終的な判断としました 四大臣会合では新たな規制機関の発足までの間地元の皆様の安全安心のため特別な監視体制を速やかに立ち上げ起動作業にあたっても安全に遺漏なきよう万全を期していくこと政府として原子力に関する安全性を確保しそれを更に高めていく努力をどこまでも不断に追求していくこと等を確認しました 同日の政府の最終判断を受けて関西電力は大飯34号機の再起動準備を行い3号機は同年7月1日に再起動され同月5日に調整運転を開始し4号機は同年7月18日に再起動され同月21日に調整運転を開始しました

第3節 電気料金制度の見直し1 現行の電気料金制度の問題点と見直しに至る経緯

 2011年3月の東日本大震災発生以降電力需給のひっ迫や原子力損害賠償燃料コスト増による電力コスト上昇懸念等電気事業をとりまく状況は大きく変化しましたこうした中東京電力による原子力損害賠償の支援スキームの策定に際し国民負担の最小化と電力の安定供給確保のため設置された「東京電力に関する経営財務調査委員会」の報告書(2011年 10月公

知見の整理

主な安全対策

地震津波に関する意見聴取会

緊急安全対策

外部電源対策等

シビアアクシデント対策

建築物構造に関する意見聴取会

高経年化技術評価に関する意見聴取会

総合的安全評価に関する意見聴取会(ストレステスト)

技術的知見に関する意見聴取会

安全性評価

進捗状況の反映

330基準1

H233 H241

67 618指示 確認(短期対策)

確認415 67

指示213722

指示1114

第1回 保安院審査書取りまとめ

1024第 1回

328

930

第 1回929第 1回

1129第 1回

実施状況の活用216

中間取りまとめ

中間取りまとめ

中間取りまとめ

67第 1回 1226中間取りまとめ福島原発事故独立検証委員会 227調査検証報告書

323

原安委確認

取りまとめ30の対策

知見の活用

取りまとめ

基準2

基準3

第1回43第2回45第3回46第4回49第5回412第6回413216

216

216

123-31IAEAレビュー

指示

大飯34号機

四大臣による整理確認

更なる知見の拡充

確認

東京電力福島原子力発電所における事故調査検証委員会

56事業者による更なる信頼性向上の取組

第122-2-1 これまでの安全性確保に向けた取り組み

21

第3節 電気料金制度の見直し

第2章

表)においても現行の電気料金制度とその運用について問題点が指摘されました 現行の制度は競争による経営効率化の効果を規制分野の需要家に機動的に還元するという観点から「値下げ届出制」を採用しています これは①事業者間のサービス向上競争の促進②経営効率化分の自主的な内部留保による財務体質の強化を目的に③経営効率化分の配分に対する説明責任を前提として導入されていたものですが他方で値下げの届出改定では行政は事前に原価査定を行わないため値下げ幅について事業者による効率化によるものか過去の届出原価の見積もりが過大であったこと等によるものなのかが明らかではないという問題がありました このため原価の適正性が確保されていないのではないかまた原価の中に電気の安定供給に必要なもの以外の費用が含まれているのではないかといった指摘が当該報告書においてなされることとなりました

2電気料金制度見直しの内容

 こうした現行制度とその運用への指摘を踏まえ2011年には「電気料金制度運用の見直しに関する有識者会議」が開催され規制料金として行政による原価の適正性確保と事業者の経営効率化インセンティブをどのようにバランスさせるかその際にどのような費用についてどのような水準までを適正な原価と考えるか対外的な説明責任をどのように確保するのかといった観点から現行の総括原価方式に基づく電気料金制度下において実施すべきものを中心に検討が行われました公開で行われた計6回の議論とパブリックコメントを経て2012年 3月に報告書がとりまとめられました報告書で示された基本的な考え方は以下の通りです (1)値上げ認可時の査定においては原価の厳格な査定を行う一方値下げ届出時や事業評価においては事業者による説明と行政による事後チェックを的確に行うことを徹底 (2)事業に要する費用全ての回収を認めるのではなくあるべき適正な費用のみの回収を認めることを徹底 (3)一般電気事業者が自らの供給力のみに依存する安定供給確保から他社供給力や需要側の取組も活用した安定供給確保に転換することを促す

<報告書の概要>(1)原価の適正性の確保値上げ認可時には広告宣伝費寄付金団体費については原価算入を認めないまた人件費修繕費等についてはメルクマール等により査定人件費の例一般企業の平均値を基本に他の公益企業の平均値とも比較(2)新しい火力入札火力電源を自社で新設増設リプレースする場合は原則全て入札(3)公正かつ適正な事業報酬正当な理由なく著しく低い稼働率となっている設備はレートベース対象資産(事業報酬の算定の基礎となる資産)の対象外(4)原価算定期間及び電源構成変動への対応経営効率化を織り込む等の観点から認可時は3年を原則また原価算定期間内に電源構成が大きく変動した場合には変動分のみを料金に反映(5)託送料金(送配電線の利用料)の適正化託送料金について第三者が適切性妥当性を確認(6)デマンドレスポンス料金とスマートメーターの導入時間帯別料金の多様化や三段階料金の見直し季節別料金の導入等の検討スマートメーターの導入に当たっては入札を原則(7)事後評価原価算定期間終了後には原価と実績値算定期間終了後の収支見通し利益の使途等について評価

 以上の報告書の内容を踏まえ一般電気事業供給約款料金算定規則一般電気事業供給約款料金審査要領電気料金情報公開ガイドライン等を2012年 3月に改正しました

3 東京電力の電気料金値上げに係る認可申請について

 2012年 5月 11日に東京電力から経済産業大臣に対し電気事業法第19条第1項の規定に基づき電気料金を平均1028引き上げる(値上げ)等の供給約款変更認可申請(以下「料金認可申請」という)が提出されました 東京電力は料金原価について合理化の実施により年平均2785億円の削減を行ったものの燃料費を中心として大幅な増加が避けられず収支不足額が年平均

22

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第2章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故後に講じたエネルギーに関する主な施策

第2章

6763億円となり赤字構造の早急な改善に向け値上げ認可申請がなされました 経済産業省においては電気料金認可プロセスに外部専門家の知見を取り入れ専門的かつ中立的客観的な観点から料金査定方針等の検討を行う観点から「総合資源エネルギー調査会総合部会電気料金審査専門委員会」(以下「委員会」という)を設置しました(委員長安念潤司 中央大学法科大学院教授委員長代理山内弘隆 一橋大学大学院商学研究科 教授) 2012年 5月 15日の第1回委員会以降委員会は東京電力から経済産業省に提出された料金認可申請について個別の原価にも踏み込んだ検討を含め計10回の審議を行いました開催に当たっては審議の透明性を高めるため委員会の審議は議事内容配布資料を含め全て公開形式で開催されました また料金認可申請が東京電力管内を中心に広く社会経済に影響を及ぼす事案であることに鑑み広く一般の意見を聴取するため第1回委員会においては自治体消費者団体中小企業団体関係者を招き意見を聴取しましたまた2012年 6月 7日に東京6月9日にさいたま市で電気事業法第108条に基づく公聴会を実施し国民から広く意見の聴取を行いました更に公聴会において委員会の委員も消費者からの生の声を聞くべきとの意見があったことを受けて第8回委員会において消費者団体を公募の上意見を聴取しました更にインターネットを通じた意見募集である「国民の声」や公聴会に寄せられた意見が経済産業省から報告され随時の論議に反映されました加えて第1回から第10回の全てにおいて消費者団体消費者庁からオブザーバーとしての参加を得て活発に議論が行われました 2012年 6月 12日の第5回委員会以降委員が2人1組となり担当分野につき査定方針を検討しましたその結果が第9回委員会において各担当委員から報告され2012年 7月 5日の第10回委員会において委員会としての査定方針案が取りまとめられ同日経済産業大臣に提出されました なお委員会は経済産業大臣から付託されたミッションに基づき電気事業法及び同法に基づく規則一般電気事業供給約款審査要領(以下「審査要領」という)「電気料金制度運用の見直しに係る有識者会議報告書」等の予め定められたルールに則って査定方針案を中立的客観的かつ専門的な見地から検討しました

 委員会でとりまとめられた査定方針案をもって経済産業省は消費者庁と協議を行い2012年 7月 12日には経済産業大臣と消費者担当大臣との間で電気の安定供給や原子力損害賠償の迅速かつ適切な実施の確保に支障を来さないことを前提に消費者の目線や他の公的資金投入企業の事例を踏まえ徹底的な経営合理化を図るものとするとの認識で一致し7月19日に協議が整いましたこれを受け経済産業省としての査定方針を策定し7月20日に物価問題に関する関係閣僚会議の了承を得ましたなお具体的な査定方針の主な内容としては以下の通りです(1)人件費について料金原価算定期間各年における管理職職員の年収を震災前と比べて3割超引き下げ3年間の全社員の平均年収で見ても近年の公的資金投入企業(最大2362)のいずれをも上回る削減率(2368)とすることにより約90億円の減額(2)調達等について総合特別事業計画に基づき修繕費委託費について既に10削減した上で料金認可申請がなされているがそれ以外の費用項目も含む随意契約について原則10削減を求め未達成分を減額するとともに子会社関連会社との随意契約取引について更なる深掘りを行うことにより約100億の原価の削減(3)燃料費について各火力発電所の燃料使用量を発電所の発電効率等を踏まえてより一層の効率化配分を徹底することにより相対的に燃料費の高い石油系火力発電所の燃料使用量を抑制していることを確認するとともに原価算定期間中に価格の更新時期を迎えるLNGのプロジェクトのうち近時の値上がり傾向の市況を踏まえ値上げを織り込んでいるものについて東京電力の交渉努力を先取りする形で直近実績レベルまで原価を減額する等により約120億円の原価の削減(4)福島第一原子力発電所56号機に係る安定化維持費用及び賠償関連費用について事故直後に特別損失として認識し処理した費用(約9000億円)は2011年度末までに特別損失で計上されておりこれ以外に新たに必要となる経費のうち資本的支出(設備投資)が生じた場合当該設備は将来の収益を生むものではなく資産性が認められないため会計上資産価値が特別損失処理され減価償却費が発生しないことから申請原価に含まれていない 他方で資本的支出以外の経常的に発生する費用である費用及び賠償に関する受付や業務フロー作成等の委託費をはじめとする賠償対応費用についてこう

23

第4節 再生可能エネルギー固定価格買取制度導入

第2章

した費用が原価算入されない場合東京電力としての原子炉廃止措置賠償といった責務が果たせなくなるとともに国民全体の負担に依らざるを得なくなるため東京電力が採用するADR弁護士費用は控除する等厳に必要な費用に限った上で原価へ算入 また事故に伴い発生した賠償支払額そのものは原子力損害賠償支援機構法の枠組に基づき原子力損害賠償支援機構から東京電力に対し国の交付国債を原資とする資金援助が行われていることから料金原価に含まれない(5)事業報酬の算定に当たっては震災後の経営リスクを踏まえ2011年 3月 11日から申請日前日の2012年 5月 10日までの期間の9電力会社平均の経営リスクに係る指標に基づいて算定を行い約93億円の原価の削減 2012年 7月 25日に東京電力より提出された申請内容の修正が査定方針通りであることが確認できたため電気事業法第19条に基づき経済産業大臣が認可を行い最終的な値上げ幅は平均846となりました なお消費者への十分な周知を図るために東京電力の値上げの実施時期を2012年 9月1日としました

第4節 再生可能エネルギー固定価格買取制度導入 近年新興国を中心としたエネルギー需要の急増に伴う国際的な資源獲得競争の激化や国内外における地球温暖化対策の強化が求められる状況の中純国産のエネルギー源であり二酸化炭素を排出しない再生可能エネルギーの果たす役割の重要性が高まってきています本項では再生可能エネルギーの導入支援策の大きな柱である固定価格買取制度導入の背景と経過制度開始後の状況をまとめます

1制度導入の背景

 固定価格買取制度は再生可能エネルギー(太陽光風力水力地熱バイオマス)によって発電された電気を国が定める一定の期間にわたって国が定める一定の価格で購入することを電気事業者に義務づける

制度ですこれにより再生可能エネルギーを用いる発電投資への投資回収の不確実性を低減させこれらに対する投資を促すことで再生可能エネルギーの導入拡大を加速化させる効果が得られると見込まれていますまた導入拡大が加速すれば設備の量産化が進み現時点では他のエネルギーに比して割高な再生可能エネルギーのコストダウンが進展することも期待されています このように再生可能エネルギーの導入拡大にとって大きな効果を持つ固定価格買取制度の導入は東日本大震災以前から検討されており「エネルギー基本計画」や「新成長戦略」においても言及がなされていました17この制度を実施に移すため2011年 3月 11日に「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」(以下「特措法」)案が閣議決定されましたその後東日本大震災及び福島第一原子力発電所における事故を経て中長期的に脱原子力依存を進めていくためにも再生可能エネルギーに対する期待はこれまで以上に高まりました同法案の国会審議の過程では政府が提出した法案に対して民主党自由民主党公明党の三党の合意に基づき一層の再生可能エネルギーの導入拡大の観点から修正がなされ最終的にこの修正を反映した形で同年8月26日に法案が成立し同年8月30日に公布されました

<参考>主な国会修正事項 政府案では太陽光発電以外は一律の価格と期間での買取りを想定していたところ再生可能エネルギー源の種別利用形態規模ごとに価格と期間を設定 事業活動に当たって電力を多く使用する事業を行う事業者に対する負担軽減措置の創設  (売上高当たりの電気使用量が製造業については製造業平均の8倍以上非製造業については非製造業平均の政令で定める倍数(14倍)以上の事業を行っている等の要件を満たす事業者に適用) 政府案では調達価格等の決定プロセスは総合資源エネルギー調査会の意見を聴いて定めることとされていたところ新たに設けられる調達価格等算定委員会の意見を尊重し定めることに変更 等

17 2010 年 6 月に改訂策定された「エネルギー基本計画」や同月に策定された「新成長戦略」においても一次エネルギーに占める再生可能エネルギーの割合を2020 年度までに 10に引き上げることを目標とする等これまで以上の再生可能エネルギーの導入拡大が求められるようになっておりこのような高い目標を実現するための最も効果的な手段として固定価格買取制度を導入することが検討されていました

24

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第2章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故後に講じたエネルギーに関する主な施策

第2章

2 調達価格等算定委員会の検討経過と結論

 上記のように特措法においては経済産業大臣は調達価格(電気事業者が買い取る際の価格)と調達期間(調達価格での買取りが継続する期間)を決定するにあたり国会の同意を得た上で任命される委員から構成される調達価格等算定委員会(以下「委員会」と言う)の意見を尊重することが明記されました2012年 3月に以下の5名が委員会の委員として両議院の同意を得た上で任命され同月から委員会での議論が開始されました 委員会では法律の内容や国会における議論を踏ま

えつつ業界団体等からのヒアリング(太陽光発電協会等の各種発電に係る業界団体や新規参入を予定している事業者経済団体等)各種論点についての詳細な議論検討が全7回にわたり行われました その上で委員会は2012年 4月27日に「平成24年度調達価格及び調達期間に関する意見」をとりまとめ枝野経済産業大臣に提出しました 経済産業省においては提出された意見を尊重し意見通り調達価格調達期間を決定し同年6月18日に告示しました(第124-2-1)また法律の規定に従い調達価格調達期間については委員会の意見と併せて国会にも報告がなされました

3制度開始後の状況

 2012年7月1日の制度開始以降同年7月末現在で33695件出力にして合計約57万kWの設備が制度の適用を受けることができる設備として経済産業大臣により認定されていますこうした認定を受けた案件を含め市場では固定価格買取制度の導入を機に様々な事業化プランの検討が進んでおり政府の試算では2012年度だけでも設備容量ベースで合計250万kW程度の再生可能エネルギーの導入拡大が進むと見込んでいます(第124-3-1) 一方で固定価格買取制度では電気事業者が再生可能エネルギー由来の電気の買取りに要した費用について賦課金として電気料金に上乗せする形で国民の皆様にご負担いただくことになっています2012年度

委員会名簿植田 和弘(委員長) 京都大学大学院経済学研究科教授

山内 弘隆(委員長代理)一橋大学大学院商学研究科教授

辰巳 菊子 (公社)日本消費生活アドバイザーコンサルタント協会理事環境委員長

山地 憲治 (公財)地球環境産業技術研究機構(RITE)理事研究所長

和田 武 日本環境学会会長

電源 太陽光 風力 地熱 中小水力

調達区分 10kW以上 20kW以上 20kW未満10kW未満(余剰買取)

15万kW以上

15万kW未満

1000kW以上30000kW未満

200kW以上1000kW未満

200kW未満

費用

費用

建設費

建設費

運転維持費(1年当たり)

運転維持費(1年当たり)

325万円kW 466万円kW 30万円kW 125万円kW 79万円kW 123万円kW 85万円kW 80万円kW 100万円kW

10千円kW

392万円 kW

47千円kW 60千円kW 33千円kW 48千円kW 95千円kW 69千円kW 75千円kW

税前 7税前7税前18税前8税前 6

税前 1 税前 8 税前 4 税前 4 税前 4

税前32(1) 税前13(2)IRR

IRR

調達価格1kWh当たり

調達価格1kWh当たり

税込(3)4200円

4095 円 3360 円 2520 円 1785 円 1365 円

42円(1)

2310円 5775円 2730円 4200円 2520円 3045円 3570円

税抜

税抜税込

40円

39円 32円 24円 17円 13円

42円 22円 55円 26円 40円 24円 29円 34円20年20年

20年

20年20年 15年15年10年調達期間

調達期間

電源 バイオマス

バイオマスの種類 ガス化(下水汚泥)

ガス化(家畜糞尿)

固形燃料燃焼(未利用木材)

固形燃料燃焼(一般木材)

固形燃料燃焼(一般廃棄物)

固形燃料燃焼(下水汚泥)

固形燃料燃焼(リサイクル木材)

41万円kW 41万円kW 31万円 kW 35万円kW27万円kW22万円 kW27万円kW27万円kW184万円 kW

調達区分

【メタンガス発酵ガス化バイオマス】 【未利用木材】【一般木材(含パーム梛子殻】

【廃棄物形(木質以外バイオマス)】 【リサイクル木材】

第124-2-1 告示された調達価格等

(注) 1 住宅用太陽光発電について       10kW未満の太陽光発電については一見10kW以上の価格と

同一のように見えるが家庭用についてはkW当たり35万円(2012年度)の補助金の効果を勘案すると実質48円に相当するなお一般消費者には消費税の納税義務がないことから税抜き価格と税込み価格が同じとなっている

   2 地熱発電のIRRについて       地表調査調査井の掘削など地点開発に一件当たり46億円程度

かかること事業化に結びつく成功率が低いこと(7程度)等に鑑みIRRは13と他の電源より高い設定を行っている

   3 消費税の取扱いについて       消費税については将来的な消費税の税率変更の可能性も想定

し外税方式とすることとしたただし一般消費者向けが太宗となる太陽光発電の余剰買取の買取区分については従来どおりとした

第 124-3-1  2012年度の再生可能エネルギーの導入量見込み

2011年度時点における導入量

2012年7月末までに認定を受けた設備容量

2012年度末までの導入予測

太陽光(住宅) 約400万kW 約144万kW +約150万kW

太陽光(非住宅) 約80万kW 約301万kW +約50万kW

風力 約250万kW 約122万kW +約38万kW

中小水力(1000kW以上30000kW未満)

約935万kW - +約2万kW

中小水力(1000kW未満)

約20万kW 約01万kW +約1万kW

バイオマス 約210万kW - +約9万kW

地熱 約50万kW - -

合計 約1945万kW 約567万kW +約250万kW

(出所) 1 単年度導入量については太陽光発電はJPEA出荷統計風力発電はJWPA統計その他電源はRPSデータ等より

    2 2012年度見込みについては各種前提により資源エネルギー庁推計

25

第5節 省エネルギー法改正に向けて

第2章

においては賦課金の単価は1kWh当たり022円となっていますこれにこれまで実施してきた太陽光の余剰電力買取制度の負担(全国平均で1kWh当たり007円)と併せて2012年度では1kWh当たり029円(全国平均)のご負担をお願いすることになりますこれは一月に7000円程度の電気料金をお支払いいただいているご家庭(一月300kWh程度の電力使用量を想定)であれば一月約87円の負担となります再生可能エネルギーの導入拡大が進めば賦課金の負担も増大していくことから負担が過重なものとならないよう常に配慮することが重要ですこのため固定価格買取制度の下では再生可能エネルギー発電事業者が実際に設備の設置等に要した費用について事後的に経済産業省に報告することを求めており集計されたデータを翌年度以降の調達価格の審査に活用することで発電設備等のコスト低減の成果を適切に調達価格の見直しに反映することとしています

第5節 省エネルギー法改正に向けて

1背景

 エネルギーの使用の合理化に関する法律(以下省エネ法)は「熱管理法」を全面改正する形で1979年に成立しました 1998年の改正で導入されたトップランナー制度はエネルギー消費機器の製造輸入事業者に対し3~10年程度先に設定される目標年度において高い水準(トップランナー基準)を満たすことを求め目標年度になると報告を求めてその達成状況を確認する制度です制度導入当初対象機器は乗用自動車エアコン蛍光灯等9品目でしたが最近ではルーター等も対象に追加され現在までに23品目に拡大し世帯当たり電気消費量に占める割合の6割をカバーしています2012年にはヒートポンプやLED照明といった近年急速に普及が見られた機器についてもトップランナー制度の対象に追加する等引き続き対象機器の拡大や目標値の強化を実施しています 2008年には10度目の改正を行い①これまでの工場事業場単位から事業者単位の規制に変更②事業者の省エネルギー状況を比較できる指標(ベンチマーク指標)を定め中長期的に達成すべき水準を目標として設定するセクター別ベンチマークを導入③事業者が自

主的に行う共同省エネルギー事業について国はその取組を促進するよう法律の施行にあたり適切な配慮をすることとしたこと等大きく三つの点が変更されました このような改正を経て省エネ法の規制対象事業者は改正前の7500事業者から約1万2000事業者に増加しました我が国はGDPが約2倍となった過去30年間でエネルギー効率を約37改善してきましたがその中で省エネ法は重要な役割を果たしてきたと言えます

2 省エネ法改正に向けた動きと省エネ部会における検討

 石油危機に端を発したエネルギー危機を乗り越えるために省エネ法は化石燃料の使用量の低減と経済成長を両立することを目指し需要サイドの努力によってこれを克服してきました そして東日本大震災及び東京電力福島第一原子力発電所事故以降エネルギーの需給問題に対する関心が高まりエネルギー政策の前提となる状況自体も大きく変わりました従来省エネルギーの議論の中心は化石燃料の使用量を全体としてどう減らすかということでありそのこと自体はオイルショック以来の流れの中で大きな意義がありました 震災以降のエネルギー需給の問題に鑑みますとエネルギー全体としての使用量の抑制だけではなく電力需要のピークにどう対応していくかの議論が必要であり現行省エネ法に含まれていない「ピーク対策」への対応は非常に重要な政策課題となりました また我が国の最終エネルギー消費は二度のオイ

19 倍

伸び(1973 rarr2010年度)

28倍

09 倍

0

100

200

300

400

500

600

0

50

100

150

200

250

300

350

400

450

73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 9192 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10

(100万石油換算トン) (兆円2000年価格)

産業部門

家庭部門

運輸部門

業務部門

439

188

229

144

655

92164

89

実質GDP1973rarr2010

24 倍

22倍

25倍

(注) 「総合エネルギー統計」は1990 年度以降の数値について算出方法が変更されている

(出所) 資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」内閣府「国民経済計算年報」(一財)日本エネルギー経済研究所「エネルギー経済統計要覧」

第125-2-1  最終エネルギー消費量の推移(1973年~2010年)

26

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第2章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故後に講じたエネルギーに関する主な施策

第2章

ルショック後や近年の不況時を除きほぼ一貫して増加しています部門別のエネルギー消費量はオイルショック以降産業部門が約09倍のところ民生部門は約25倍運輸部門は約19倍と大幅に増加しています(第125-2-1)従来から十分な努力により省エネルギーを進めてきた産業部門における更なる省エネルギー対策に加えエネルギー消費量の増加が著しい民生(業務家庭)部門において一層の省エネルギーを進める必要があります(第125-2-2) 民生部門対策としてはトップランナー制度による自動車や家電等機器の省エネルギー性能の向上や住宅建築物の省エネルギー基準の策定等を行ってきました今後は日常生活の中でエネルギーをいかに少なくしつつ快適な生活を送るかつまり我慢ではなく持続可能な省エネルギーを進めていく必要があり住宅建築物全体の省エネルギー性能の底上げについて検討が必要となります 総合資源エネルギー調査会省エネルギー部会ではこれらの背景を踏まえ今後の省エネルギー政策の展開について検討を行い2012年 2月に「中間取りまとめ」を取りまとめましたこの「中間取りまとめ」を踏まえ政府は電力ピーク対策及び民生部門の省エネルギ

ー対策を盛り込んだ省エネ法の改正案を2012年 3月13日に第180回通常国会に提出いたしました

3省エネ法改正案について

 我が国経済の発展のためにはエネルギー需給の早期安定化が不可欠であり供給体制の強化に万全を期しその上で需要サイドにおいては持続可能な省エネルギーを進めていくという観点から主に以下の2点の改正を実施します まず1点目は需要家が従来の省エネルギー対策に加え蓄電池やエネルギー管理システム(BEMSHEMS)自家発電蓄熱式の空調ガス空調等の活用等により電力需要ピーク時の系統電力の使用を低減する取組を行った場合にこれを評価できる体系にする点です具体的にはピーク時間帯に工夫して系統電力の使用を減らす取組(節電)をした場合にこれ以外の時間帯で系統電力の使用を減らした場合よりも改善の度合いを大きく評価することで省エネ法の努力目標(原単位の改善率年平均1)を達成しやすくなるよう努力目標の算出方法を見直します 2点目はこれまでエネルギーを消費する機械器具を対象としていたトップランナー制度にそれ自体はエネルギーを消費しないものの他の建築物や機器等のエネルギーの消費効率の向上に資する機械器具等を新たな対象として追加し住宅建築物分野の省エネルギー対策を強化する点ですこれまでのトップランナー制度は法律上エネルギーを消費する機械器具が対象であり他の建築物や機器等のエネルギーの消費効率向上に資する機械器具等は対象とされていませんでした新たにトップランナー制度に追加する機械器具等としては具体的には窓断熱材水回り設備等の建築材料等を想定しており企業の技術革新を促すことで住宅建築物の省エネルギー性能の底上げを図っていきます

建築物

給湯用14

暖房用16

動力他49

冷房用13

厨房用9

3

8

住宅

動力他35

冷房用

給湯用28

暖房用27

厨房用

(注) 建築材料等の省エネルギー性能の向上により住宅では約 6割建築物では約 4割を占める暖冷房給湯用エネルギー消費量の削減に貢献

(出所) (一財)日本エネルギー経済研究所「エネルギー経済統計要覧」

第125-2-2  民生分野におけるエネルギー消費の現状(2010年度)

27

第3章

 2011年 3月 11日に発生した東北地方太平洋沖地震とこれによる津波は東京電力福島第一原子力発電所において極めて重大かつ広範囲に影響を及ぼす原子力事故を引き起こしました 今回の事故に関する調査検証は「東京電力福島原子力発電所における事故調査検証委員会」(政府事故調)国会(東京電力福島原子力発電所事故調査委員会)18事故の当事者である東京電力や規制当局である経済産業省原子力安全保安院民間団体等によっても行われておりまた政府の原子力災害対策本部から国際原子力機関(IAEA)に対して日本国政府の報告書も提出されています 本章では「東京電力福島原子力発電所における事故調査検証委員会」(政府事故調)において行われた事故の原因調査究明事故を踏まえた緊急安全対策やストレステスト等の規制当局の取組原子力規制委員会の設立東京電力福島第一原子力発電所の廃止に向けた取組東京電力による被災者賠償と原子力損害賠償支援機構の設立原子力被災者支援について概要と現状今後への課題等を取り上げます

第1節  「東京電力福島原子力発電所における事故調査検証委員会」における事故原因の調査究明

1委員会の発足に至る背景

 政府は極めて重大かつ広範囲に影響を及ぼした今回の原子力事故の原因及び事故による被害の原因を究明するための調査検証を国民の目線に立って開かれた中立的な立場から多角的に行い被害の拡大防止及び同種事故の再発防止等に関する政策提言を行わせることを目的として2011年 5月 24日の閣議決定により内閣官房に「東京電力福島原子力発電所における事故調査検証委員会」(政府事故調)を設置しました

 同委員会は従来の原子力行政から独立した立場で技術的な問題のみならず制度的な問題も含めた包括的な検討を行うことを任務として調査検証を行いました

2委員会の構成

 委員会は畑村洋太郎委員長(東京大学名誉教授工学院大学教授)以下内閣総理大臣により指名された10人のメンバーで構成されました更に専門的技術的事項について助言を得るため委員長の指名により2名の技術顧問が置かれましたまた調査検証を補佐する事務局には事務局長以下の各府省庁出身者のほか社会技術論原子炉過酷事故解析避難行動等の分野の専門家8名を配置し専門家をチーム長として三つの調査検証チーム(社会システム等検証チーム事故原因等調査チーム被害拡大防止対策等検証チーム)が設置されました

第3章原子力発電所事故関連

18 報告書ダイジェスト版を参考資料に掲載しています

委員会名簿畑村 洋太郎(委員長) 東京大学名誉教授工学院大学教授

尾池 和夫 国際高等研究所所長前京都大学総長

柿沼 志津子 (独)放射線医学総合研究所放射線防護研究センターチームリーダー

高須 幸雄 東京大学グローバル地域研究機構特任教授前国際連合日本政府代表部特命全権大使

髙野 利雄 弁護士元名古屋高等検察庁検事長

田中 康郎 明治大学法科大学院教授元札幌高等裁判所長官

林 陽子 弁護士

古川 道郎 福島県川俣町長

柳田 邦男 作家評論家

吉岡 斉 九州大学副学長

安部 誠治(技術顧問) 関西大学教授

淵上 正朗(技術顧問) 株式会社小松製作所顧問工学博士

28

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第3章 原子力発電所事故関連

第3章

3調査検証の経過

 同委員会は2011年 6月 7日に開催された第1回委員会において基本的方向を定め調査検証に着手しました主として事務局を通じて東京電力原子力安全保安院原子力安全委員会をはじめとする関係事業者関係機関から資料の提出を受けてこれを分析するとともにこれらの役職員構成員や事故発生当時の閣僚更に学識経験者等を含め幅広く関係者のヒアリングが行われましたヒアリングを行った関係者は総数772名総聴取時間は概算で1479時間に上りました 作業の進捗は毎月1回開催される委員会において報告確認され2011年 12月 26日に開催された第6回委員会において中間報告がとりまとめられましたこの中間報告では今回の事故に対する国内外の関心の高さや関係機関における事故の教訓を踏まえた取組の進行状況を考慮しそれまでに明らかになった事実関係をできる限り詳細に記述するとともに事故発生後の政府諸機関の対応の問題点事前の津波シビアアクシデント対策の問題点等について可能な範囲で考察を加え緊急事態応急対策拠点施設(オフサイトセンター)の機能維持モニタリングの運用改善緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)の活用住民避難への備え原子力安全規制機関の在り方といった事柄について提言が行われました また2012年 2月 24日25日に開催された第8回委員会では調査検証の内容を国際的な関心に応えるものにするため海外5カ国(米仏スウェーデン韓中)から国際的に著名な原子力放射線等の専門家を招へいして意見交換が行われました このほか委員会は主に地震津波対策について検討するため事故現場である福島第一第二発電所に加え日本原子力発電東海第二発電所東北電力女川原子力発電所同社原町火力発電所中部電力浜岡原子力発電所及び東京電力刈羽原子力発電所を視察しました更に今回の原子力災害で被災した自治体のうち福島県大熊町双葉町浪江町南相馬市及び飯館村の各首長並びに浪江町から避難している住民からの意見聴取を行い仮設住宅の視察を行いました 2012年 7月 23日に開催された第13回委員会において最終報告19がとりまとめられ同日畑村委員長

から野田内閣総理大臣に手交されましたこの最終報告では中間報告の段階では調査が未了で取り上げることができなかった事項や中間報告で取り上げましたもののその後更なる調査検証が行われた事項等が盛り込まれました 最終報告では福島第一原子力発電所の1号機から3号機の主要な施設設備の被害状況について事態の進展に伴う損傷の拡大状況に関する分析も含めて改めて詳述するとともに同原発1号機3号機及び4号機の原子炉建屋の水素ガス爆発等に関する検討が行われました更に中間報告の段階では調査検証が未了であった同原子力発電所5号機及び6号機における事故対処同原発の外部電源復旧状況や福島第二原子力発電所における事故対処の状況原子力災害発生後の国等の組織的対応状況主として発電所外でなされた被害拡大防止のための対処としての環境放射線モニタリングSPEEDIの活用の在り方(SPEEDIにより単位量放出を仮定した予測結果は得られており仮にその情報が提供されていれば各地方自治体及び住民はより適切に避難のタイミングや避難の方向を選択できた可能性があったと言える事等)住民の避難等日本海溝沿いの地震津波に関する科学的知見シビアアクシデント対策の在り方原子力災害対応体制の検討経緯国際法国際基準関係について記述されました またこれらの主要な問題点に分析を加えた上「抜本的かつ実効性ある事故防止対策の構築」「複合災害という視点の欠如」「『被害者の視点からの欠陥分析』の重要性」等重要な論点9項目の総括を行いあわせて原子力災害の再発防止及び被害軽減のための同委員会の提言を七つのカテゴリーに分類して掲載しました(最終報告概要版を参考資料として第一部第4章第5節の後に記載)

<提言> (1)安全対策防災対策の基本的視点に関するもの  複合災害を視野に入れた対策に関する提言  リスク認識の転換を求める提言  「被害者の視点からの欠陥分析」に関する提言   防災計画に新しい知見を取り入れることに関す

る提言 (2)原子力発電の安全対策に関するもの

19 報告書概要を参考資料に掲載しています

29

第2節 東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえた規制当局の取組

第3章

  事故防止策の構築に関する提言  総合的リスク評価の必要性に関する提言  シビアアクシデント対策に関する提言 (3)原子力災害に対応する態勢に関するもの  原災時の危機管理態勢の再構築に関する提言  原子力災害対策本部の在り方に関する提言  オフサイトセンターに関する提言  原災対応における県の役割に関する提言 (4)被害の防止軽減策に関するもの  広報とリスクコミュニケーションに関する提言  モニタリングの運用改善に関する提言  SPEEDIシステムに関する提言  住民避難の在り方に関する提言  安定ヨウ素剤の服用に関する提言  緊急被ばく医療機関に関する提言  放射線に関する国民の理解に関する提言   諸外国との情報共有や諸外国からの支援受入れ

に関する提言 (5)国際的調和に関するもの  IAEA基準等との国際的調和に関する提言 (6)関係機関の在り方に関するもの  原子力安全規制機関の在り方に関する提言  東京電力の在り方に関する提言  安全文化の再構築に関する提言 (7)継続的な原因解明被害調査に関するもの  事故原因の解明継続に関する提言   被害の全容を明らかにする調査の実施に関する

提言

第2節  東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえた規制当局の取組

1 東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえた緊急安全対策

 原子力安全保安院は東京電力福島第一原子力発電所に来襲したものと同程度の地震と津波により全交流電源喪失に至ったとしても炉心損傷等深刻な事態を回避し冷温停止状態に繋げるための対策として2011年 3月 30日事業者に対して緊急安全対策を指示しました これまでに東京電力福島第一原子力発電所を除く全原子力発電所から実施状況報告を受け原子力安

全保安院として2011年 5月 6日には東京電力福島第一原子力発電所東京電力福島第二原子力発電所東北電力女川原子力発電所以外の各原子力発電所について同年6月1日には女川原子力発電所について同年11月28日には東京電力福島第二原子力発電所について緊急安全対策が適切に実施されていることを確認しました具体的には緊急時対応計画の作成緊急時の電源確保のための電源車や代替注水のための消防ポンプの配置浸水対策水源の確保や緊急時における手順書の整備訓練の実施といった対策(短期対策)が実施されたことを確認しましたこれらの対策については一部が技術基準における要求事項に含められたほか事故時の手順の整備が行われるよう保安規定も改定されています 更に緊急安全対策では海水ポンプ電動機等の予備品の確保空冷式非常用発電機等の設置や水密化防潮壁防潮堤の設置等津波に対する防護措置が中長期対策として要求されており原子力安全保安院は事業者が今後これらを適切に実施される計画を有していることを確認しました なお東京電力福島第二原子力発電所については冷温停止状態を維持するために必要な対策が取られているかという観点から確認を行いました 核燃料サイクル施設に関しては同年5月1日に再処理施設を対象に緊急安全対策を指示し同月中に各事業者から実施状況の報告を受けましたまた同年6月15日には各事業所において緊急安全対策(電源車浸水対策緊急時の手順書整備訓練の実施等短期対策)が適切に実施されていることを原子力安全保安院として確認しましたなお指示に対する報告があった時点において各施設は検査期間中であることから検査後の状況を踏まえた対策に関しては今後改めて報告がなされることとなっています

2 原子力発電所等の外部電源の信頼性確保

 2011年 3月 11日の地震により東京電力福島第一原子力発電所及び日本原電東海第二原子力発電所の外部電源が喪失したことに加え同年4月7日に宮城県沖で発生した地震により東北電力東通原子力発電所及び日本原燃六ヶ所再処理事業所において一時的に外部電源の喪失が発生しましたこれまで外部電源については特段の対策を求めてきませんでしたが今回外部電源の喪失が複数のサイトで発生したことを

30

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第3章 原子力発電所事故関連

第3章

踏まえ原子力安全保安院は外部電源の信頼性の更なる向上を図るため同年4月15日各事業者に対し外部電源の信頼性確保のための対応を検討しその結果を報告するよう指示を行い同年6月7日各社から報告の提出を受けて報告内容の評価確認を行いましたなお東京電力福島第二原子力発電所における外部電源の信頼性確保に係る対応については同年11月 28日に提出を受け評価確認を行いました今後各事業者から報告された各対策の実施状況を厳格に確認していくこととしています また原子力発電所の開閉所等の電気設備が機器の倒壊損傷等により機能不全に陥る事例も発生したことからこのような事態が発生する可能性についての影響評価及びその評価結果を踏まえた対策策定に係る実施状況についても報告することを各事業者に対して指示し2011年 7月 7日その実施状況について中間報告がなされました 更に2012年 1月 19日東京電力より東京電力福島第一原子力発電所等の開閉所に係る電気設備の損傷原因は東北地方太平洋沖地震により開閉所において発生した地震動が設計基準を超過したことであると報告されたことから各事業者に対して今後発生する可能性のある地震による耐震安全性の評価及び対策の実施を求めること等を追加指示しました同年2月17日各事業者等から耐震安全性評価に係る実施計画が報告されており今後評価結果が報告され次第その内容を確認していくこととしています

3 東京電力福島第一原子力発電所事故の技術的知見

 今回の事故から可能な限りの教訓を引き出し今後の原子力安全に役立てていくことは規制機関の責務です原子力安全保安院は事故の発生及び事故の進展について現時点までに判明している事実関係について工学的な観点から事故シーケンスに従って設備や操作手順に即して出来る限り深く整理分析することにより事象の各段階における技術的知見を体系的に抽出し主に設備手順に係る必要な対策の方向性について検討しました 具体的な検討の対象は東京電力福島第一原子力発電所の事故における外部電源設備(変電所開閉所等)所内電気設備(非常用電源設備等)冷却設備(炉心冷却系補機冷却系等)閉込機能に関する設備(格納容器ベント設備等)指揮通信計装制御設備(通信

設備炉内計装設備等)等です事故シーケンスにおける検討の範囲は地震の発生から炉心損傷及び閉込機能喪失により放射性物質が外部環境に放出されるまでの発電所で生じた事象としました 未だ放射性物質による汚染等のため現場の確認を行うことが難しい設備機器が多く溶融落下した炉心の状況等事象の解明が十分に進んでいない部分も残されていますが2011年 10月から8回にわたり公開の意見聴取会の場で外部の専門家によるレビューを受ける等して2012年 3月五つの分野について「30項目の安全対策」を以下のとおり取りまとめました (1) 外部電源対策(4対策)地震等による長時間の

外部電源喪失の防止 (2) 所内電気設備対策(7対策)共有要因による所

内電源の機能喪失防止や非常用電源の強化 (3) 冷却注水設備対策(6対策)冷却注水機能喪

失の防止 (4) 格納容器破損水素爆発対策(7対策)格納容

器の早期破損防止や放射性物質の非管理放出の防止

 (5) 管理計装設備対策(6対策)状態把握プラント管理機能の抜本的強化

 これらの対策は新たな規制の枠組みの下で技術的な要求事項を検討する際の基礎とすることを想定していますただしこれらの対策は地震と津波の重畳による全交流電源喪失を起因事象とする東京電力福島第一原子力発電所事故の事象面からボトムアップ的に導き出したものですそのためこれらの対策間の関係や重要度の比較システム全体としての安全性向上について検討するとともにより広い起因事象を包含したシビアアクシデントへの対応も含めトップダウン的な方法論により体系的に検討整理する必要がありますまた実際に規制として適用するに当たっては更に設計ガイドライン等の整備が必要です

4 既設の発電用原子炉施設等の安全性に関する総合評価(いわゆる「ストレステスト」)

 原子力安全委員会は東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえ既設の発電用原子炉施設について設計上の想定を超える外部事象に対する頑健性に関して総合的な評価を行うことが重要であるとの考えのもと2011年 7月 6日に「東京電力株式会社福島第一原子力発電所における事故を踏まえた既設の発電用原

31

第2節 東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえた規制当局の取組

第3章

子炉施設の安全性に関する総合的評価の実施について」をとりまとめ原子力安全保安院に対し発電用原子炉施設の安全性に関する総合的評価の実施を要請しました 我が国の原子力発電所の安全性については前述の緊急安全対策等により今般の事故と同程度の地震津波が発生しても深刻な事態に至ることなく冷温停止に繋げるための対策を実施しておりその結果については原子力安全保安院により確認がなされています他方定期検査後の原子力発電所の再起動に関しては原子力安全保安院による安全性の確認について国民住民の方々に十分な理解が得られているとは言い難い状況を踏まえ政府において原子力発電所の更なる安全性の向上と安全性についての国民住民の方々の安心信頼の確保のため欧州諸国を参考に新たな手続きルールに基づく安全評価としてストレステストを実施することが同年7月11日に閣僚レベルで方針決定されました この決定によれば原子力発電所のストレステストは2段階で評価することとしており一次評価は定期検査で停止中の原子力発電所の運転再開の可否について判断するために行われることになっています同年7月21日原子力安全保安院はこのストレステストを一次評価と二次評価に分けた評価手法及び実施計画を原子力安全委員会の確認を受けた上でとりまとめ翌日事業者に評価の実施を指示しました 一次評価においては「安全上重要な施設機器等について設計上の想定を超える事象に対してどの程度の安全裕度が確保されているか評価する評価は許容値等に対しどの程度の裕度を有するかという観点から行うまた設計上の想定を超える事象に対し安全性を確保するために取られている措置について多重防護(defense in depth)の観点からその効果を示すこれにより必要な安全水準に一定の安全裕度が上乗せされていることを確認する」としておりこれにより緊急安全対策の効果も含め先般の事故と同程度の地震津波が来襲しても炉心損傷といった深刻な事態に至らないことを確認します原子力安全保安院は事業者からこれまでに22プラント(2012年 7月 20日現在)について一次評価に係る報告書の提出を受けこのうち大飯発電所34号機及び伊方発電所3号機について原子力安全保安院の評価を終了していますまた大飯発電所34号機について原子力安全委員会は原子力安全保安院による評価の確

認を行い見解を取りまとめています 更に二次評価においては「設計上の想定を超える事象の発生を仮定し評価対象の原子力発電所がどの程度の事象まで燃料の重大な損傷を発生させることなく耐えることができるか安全裕度(耐力)を評価しますまた燃料の重大な損傷を防止するための措置について多重防護の観点からその効果を示すとともにクリフエッジを特定して潜在的な脆弱性を明らかにしますこれにより既設の発電用原子炉施設について設計上の想定を超える外部事象に対する頑健性に関して総合的に評価する」としています なお原子力安全保安院は2012年 1月IAEAによるレビューミッションを受け入れストレステストに関する原子力安全保安院の指示及び審査プロセスが基本的にIAEAの安全基準と整合していると結論づけられるとともに二次評価を含むストレステストのプロセスとそれ以外の規制活動の全般的な有効性を向上させると考えられる課題を特定し勧告がなされています IAEAからの指摘事項については耐震等を含め真摯に受け止め可能なものから順次実施していくこととしています 核燃料サイクル施設については原子力安全委員会からの要請等はなかったものの海外の状況等も踏まえて原子力安全保安院の判断により2011年 11月25日に加工事業者貯蔵事業者再処理事業者廃棄物管理事業者廃棄物埋設事業者に対して総合的評価の実施を指示しましたサイクル施設におけるストレステストは一次評価と二次評価に分けての評価は行いませんが安全裕度の確認と設計上の想定を超える事象の発生と拡大を防止するための措置の効果を明らかにするという方針は原子力発電所の場合とほぼ同様となっていますこれらの評価の結果は事業者が施設の安全性を向上させるための更なる対策を講じる際の参考となるものです各事業者からは2012年 4月 27日に原子力安全保安院に報告書の提出がありました

5シビアアクシデント管理

 我が国においては東京電力福島第一原子力発電所事故の発生前までシビアアクシデントは工学的には現実的に起こるとは考えられないほど発生の可能性は小さいとされ規制対象には含まれず事業者の自主的な取り組みとして対策が進められてきました事業

32

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第3章 原子力発電所事故関連

第3章

者は1992年に通商産業省からの要請を受けて確率論的安全評価の実施とアクシデントマネジメント(AM)対策の整備を進め東京電力福島第一原子力発電所においてもAM対策が整備されていましたしかし今回の事故を踏まえますとこのAM対策は外的事象特に津波により広範囲に電気系統が使用不能に陥る共通原因故障についての想定が十分でなくあらかじめ用意されていたAM対策は厳しい環境の中で十分に機能せず炉心溶融更には大規模放出を防ぐことができませんでした 更に従来の我が国はスリーマイルアイランド原子力発電所事故チェルノブイリ原子力発電所事故及び2001年の同時多発テロ等欧米等で進展している炉心損傷にいたる可能性のある事態に対する対策(シビアアクシデント対策)を含め国際機関や欧米諸国等の動向や研究成果に関する情報を入手し自らの規制活動に活用する努力が十分ではありませんでした 先般の事故を踏まえ2011年 6月原子力災害対策本部は「原子力安全に関するIAEA閣僚会議に対する日本国政府の報告書」においてこれまで事業者による自主的な取組みとしていたことを改めこれを法規制上の要求にするべきこと等シビアアクシデント対策に関する教訓をとりまとめました 原子力安全保安院は教訓のとりまとめと並行して2011年 6月 7日中央制御室の作業環境の確保通信設備の確保高線量対応防護服等の資機材の確保及び放射線管理のための体制の整備水素爆発防止対策並びにがれき撤去用の重機の配備の5項目を直ちに取り組むべき措置としてその実施を指示し立入検査等を通じて実施状況の確認を行いました また原子力安全委員会は2011年 10月に「発電用軽水型原子炉施設におけるシビアアクシデント対策について」を決定し従来多重防護の考えに基づく防護策の要求は設計基準事象への対処の範囲(IAEA-INSAG の多重防護策の定義による第3の防護レベルまで)にとどまっていましたが今後はIAEA-INSAG の定義による第4の防護レベルに相当する「シビアアクシデントの発生防止影響緩和」に対しても規制上の要求や確認対象の範囲を拡大することを含めて安全確保策を強化することとすべきとしました 政府においては2012年 1月に原子炉等規制法の改正を含む原子力組織制度改革法案を国会に提出しましたその後与党野党の協議の上法案を国会に提出し同年6月20日法案が成立していますまた

法律は同年6月27日に公布されています同法案ではこれらを踏まえてシビアアクシデントも考慮した安全規制への転換のための改正が含まれています 更に原子力安全保安院は前述のとおり東京電力福島第一原子力発電所事故の技術的知見としてシビアアクシデント時の代替注水機能の強化格納容器の過圧過温破損防止水素爆発の防止対策といったシビアアクシデント管理対策を含む30項目の対策をとりまとめた上でシビアアクシデント対策についてはトップダウンの方法論により今後体系的に検討整理する必要性を示しましたまた深層防護の考え方の徹底シビアアクシデント対策の多様性柔軟性操作性内的事象外的事象を広く包含したシビアアクシデント対策の必要性等今後の規制に反映すべき視点を挙げました 原子力安全保安院は上記の視点を踏まえ外部有識者の意見を聴きながらシビアアクシデント対策規制の基本的考え方について検討を進めています 加えて我が国は前述のとおり原子力発電所に対するストレステストとして2段階の評価を行っていますが原子力安全保安院は一次評価では主に燃料の重大な損傷を防止するとの観点でアクシデントマネジメント対策及び緊急安全対策の有効性を確認しています今後実施される予定である二次評価においてはIAEAの勧告及び助言も踏まえてシビアアクシデントに至った以降の対応の有効性についても燃料が損傷した後の緩和手段の有効性やクリフエッジに至るまでの時間の評価等について確認していきます その上で原子力安全保安院はシビアアクシデントマネジメントに係る中長期の取組として東京電力福島第一原子力発電所事故から得られた技術的な知見IAEAの安全基準や欧州のストレステストの実施状況等も参照の上検討を進めました 原子力安全保安院や原子力安全委員会の活動は新たな原子力規制機関に適切に引き継ぐこととされましたまた新たな原子力規制機関の下ではシビアアクシデント対策を法令要求化する改正原子炉等規制法に基づき事業者による総合的なアクシデントマネジメントプログラムの策定等について監視監督していくこととしています

6緊急時準備と対応

 原子力安全保安院は前述のとおり2011年 6月

33

第2節 東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえた規制当局の取組

第3章

備等の予算措置を講じているところです 更にオフサイトセンターの具体的な在り方を検討すべく原子力安全保安院において専門家による意見聴取会を開催しているところです意見聴取会や関係自治体の意見等を踏まえつつオフサイトセンターが担うべき役割を明確にし放射性物質の拡散影響や複合災害から受ける影響等も勘案してその立地地点や備えるべき遮へい機能等を検討することとしています なお新たな防災体制は今後新たな規制機関の設置と同時に行うことを想定していますがそれまでの間も万が一の事態発生に備え原子力災害対策本部事務局機能の官邸への集中と強化を進めるとともにPAZ の考え方を踏まえ直ちに避難に係る指示を行う等可能な限りこれらの新たな考え方を取り入れた対応を行えるようにすることとしています UPZ の導入により避難をあらかじめ準備しておくべき地域が大幅に拡大しまた関係する市町村の数も増加することからこれらの自治体における地域防災計画の策定準備も進められています 事故時に自治体や住民に対する情報提供が適切に行われていなかった点についても厳しい批判があり適切な時期に適切なデータを提供できなかったことから政府は情報を隠蔽しようとしたのではないかとの厳しい批判が寄せられました今後はこうした反省に立ち緊急時における情報提供の仕組みについても見直し通信システムも強化することとしています なお先に述べたとおり規制と利用の分離及び原子力安全規制の一元化の観点から政府は環境省に原子力規制庁を設置する等関係組織の再編及びその機能強化を行うこととしており原子力組織制度改革法案等を第180回通常国会に提出しましたその後与党野党の協議の上より独立性の高い原子力規制委員会を設置すべく法案を国会に提出し2012年 6月 20日法案が成立し同年6月27日に公布されています 今後速やかに原子力災害対策指針を策定することとしておりオフサイトセンターの在り方等の課題等について検討を進めその結果を原子力災害対策指針に反映させていくとともに緊急時に各機関が円滑な活動を実施できるよう防災基本計画を修正したほか原子力災害対策マニュアルについても改正することを予定しています

7日緊急時における発電所構内通信手段の確保等万一シビアアクシデントが発生した場合でも迅速に対応を確保する観点から直ちに取り組むべき緊急時における発電所構内通信手段の確保等の措置を整理指示しその実施状況を確認しました更に2012年 3月に原子力安全保安院がとりまとめた東京電力福島第一原子力発電所事故の技術的知見に関する報告書の中でとりまとめた30の対策には緊急時対策として事故時の指揮所の確保整備通信機能確保計装設備の信頼性確保プラント状態の監視機能の強化事故時モニタリング機能の強化及び非常事態への対応体制の構築訓練の実施が含まれていますこれらの対策については今後安全規制に反映すべき点として整理したものです 発電所外の広範囲の緊急時対策としては前述のとおり原子力安全委員会では『原子力施設等の防災対策について』の見直しについての検討を行い2012年3月予防的防護措置を準備する区域(PAZ)を概ね5km とすること緊急防護措置を準備する区域(UPZ)を概ね30km とすること放射性物質を含んだプルーム(気体状あるいは粒子状の物質を含んだ空気の一団)による被ばくの影響を避けるための防護措置を実施する地域(PPAPlume Protection Planning Area)を概ね50km(参考値)とすること等の考え方が示されました 加えて今回原子力災害対策本部事務局が情報のハブ機能を十分に果たすことが出来なかったこと原子力災害現地対策本部についても初期段階での人員参集の遅れや拠点となるオフサイトセンター機能の不全が生じてしまったこと等の反省に立ち政府の防災体制の全面的な見直しを図ることとしています具体的には原子力災害対策本部の事務局を官邸内に速やかに立ち上げ官邸を拠点として情報収集と対応情報発信に当たること原子力発電所の状況を速やかに把握するため電気事業者本社等の対策拠点に審議官級の職員を派遣するとともに官邸原子力安全規制機関電気事業者の対策拠点原子力発電所等を結ぶテレビ会議システムを立ち上げる等の対策を講ずることとしました 原子力安全保安院はオフサイトセンターについても緊急的な対策として昨年来衛星回線の拡充等の通信体制の強化放射線防護対策としての防護服やマスクの充実食料飲料水の備蓄の拡充代替オフサイトセンターに搬入可能な可搬型通信資機材の整

34

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第3章 原子力発電所事故関連

第3章

7国際協力に係る取組

 政府は東京電力福島第一原子力発電所事故から得られる知見と教訓を国際社会と共有し国際的な原子力安全の強化に貢献していくことを責務であると認識し2011年 6月の IAEA閣僚会議及び同年9月の IAEA総会の機会を捉え事故についての包括的な報告を行ってきました事故発生以降の近隣国及び国際社会とのコミュニケーション国際社会との協力原子力安全関連条約に関する取組IAEA安全基準への貢献及びその活用並びに国際的なピアレビューを踏まえ引き続き各国機関との一層効果的な連携を図ります

第3節 原子力規制委員会

1 規制組織の在り方に係る反省を踏まえた取組

 2011年 6月に公表された「原子力安全に関するIAEA閣僚会議に対する日本国政府の報告書」において「原子力安全確保に関する行政組織が分かれていることにより国民に対して災害防止上十分な安全確保活動が行われることに第一義的責任を有する者の所在が不明確であった」と指摘されているように東日本大震災以前まで我が国の原子力安全規制行政体制においてその第一義的責任を有する者の所在が不明確でした この反省を踏まえ政府は「原子力安全規制に関する組織等の改革の基本方針」(2011年 8月 15日閣議決定(以下基本方針))を公表しましたその中には「当面の安全規制組織の見直しの方針」として「①規制と利用の分離」「②原子力安全規制に係る関係業務の一元化」「③危機管理」「④官民を問わず質の高い人材の確保」「⑤規制の在り方や関係制度の見直し」という五つの見直しの方針や「新組織を設置するために必要な法律案の立案等の準備を2012年 4月の設置を目指して行うこと」「東京電力福島第一原子力発電所における事故調査検証委員会による組織の在り方に係る検証結果等が示された場合は柔軟に対応する」旨が盛り込まれましたまた「中長期的な原子力政策及びエネルギー政策の見直しや事故調査検証委員会による検証の結果を含めてより広範な検討を進め新組織が担うべき業務の在り方やより実効的で強

力な安全規制組織の在り方について2012年末を目途に成案を得る」こととされました 更にこの基本方針を基に原子力安全規制に関する組織のあり方原子力安全規制強化のあり方等について検討するため原発事故の収束及び再発防止担当大臣が当該分野に関する専門的知見を有する者に参集を求め意見を聞くことを目的として原子力事故再発防止顧問会議が開催されました2011年 10月 4日から12月 2日にかけて4回開催され「原子力事故再発防止顧問会議提言」がとりまとめられましたこの中で①「規制と利用の分離」②「一元化」③「危機管理」④「人材の育成」⑤「新安全規制」⑥「透明性」⑦「国際性」の七つの原則に基づいて原子力安全規制組織等の改革を進めていくべきであるとされました これらの議論を踏まえ原子力安全規制行政に係る組織及び制度の改革に関し国会における審議を経て衆議院環境委員長から「原子力規制委員会設置法案」が提案され2012年 6月 20日に可決成立しました

2原子力規制委員会設置法の概要

 このような経緯を踏まえ成立した原子力規制委員会設置法の概要については以下のとおりとなっています

原子力規制委員会設置法について(1)目的

 原子力利用に関する政策に係る縦割り行政の弊害を除去し並びに一の行政組織が原子力利用の推進及び規制の両方の機能を担うことにより生ずる問題を解消するため原子力利用における事故の発生を常に想定しその防止に最善かつ最大の努力をしなければならないという認識に立って確立された国際的な基準を踏まえて原子力利用における安全の確保を図るため必要な施策を策定しまたは実施する事務を一元的につかさどるとともにその委員長及び委員が専門的知見に基づき中立公正な立場で独立して職権を行使する原子力規制委員会を設置しもって国民の生命健康及び財産の保護環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的とする

(2)概要 ① 原子力規制委員会の組織及び機能

35

第4節 東京電力福島第一原子力発電所1~4号機の廃止に向けた取組

第3章

  環境省の外局として原子力規制委員会を設置(いわゆる「3条委員会」)(委員長及び委員4名は国会同意を得て総理が任命)

  原子力規制委員会の事務局として原子力規制庁を設置

  原子力安全規制核セキュリティ核不拡散の保障措置放射線モニタリング放射性同位元素等の規制を一元化

  (独)原子力安全基盤機構(JNES)を所管(必要となる法制上の措置を速やかに講じてJNESを原子力規制庁に統合)

  (独)日本原子力研究開発機構(JAEA)及び(独)放射線医学総合研究所の業務の一部を共管

 ② 原子力安全規制の転換

  重大事故対策の強化  最新の知見に基づく規制の実施(バックフィット制度)

  40年運転制限制の導入 等

 ③ 原子力防災対策の強化

  内閣に原子力防災会議を設置し関係機関との緊密な連携の下で原子力防災対策を推進

  原子力災害対策指針の法定化

  原子力災害対策本部の強化緊急事態解除後の事後対策の円滑化

  緊急時における原子力災害対策本部長(総理)の権限を明確化

(3)施行期日

  公布の日(2012年 6月 27日)から3月以内で政令で定める日

   (国会同意人事の手続きは公布日から施行)  核不拡散の保障措置放射線モニタリングの実施機能放射性同位元素等の規制の一元化等は2013年 4月 1日

  原子炉等規制法の改正は施行日施行日から10月以内で政令で定める日1年3月以内で政令で定める日と段階的に施行

  原子力災害対策特別措置法の改正の一部は施行日から6月以内で政令で定める日

第4節 東京電力福島第一原子力発電所1~4号機の廃止に向けた取組

1冷温停止に向けた取組

 事故の収束に向けては2011年 4月 17日に東京電力がとりまとめた「福島第一原子力発電所事故の収束に向けた道筋」(以下道筋)が着実かつ極力前倒しされて実施されるよう検討作業のフォローアップや必要な安全性の確認を行ってきました 2011年5月17日には原子力災害対策本部が「東京電力福島第一原子力発電所事故の収束検証に関する当面の取組のロードマップ」を公表し事故の収束までの政府の取組を示しましたまた同年5月17日及び同年6月17日には東京電力が道筋の改訂版をとりまとめ窒素封入や循環冷却システムの設置運転等の原子炉使用済燃料プールの安定的な冷却に向けた取組み汚染水処理設備の設置等の放射性物質で汚染された水の閉じこめ保管処理再利用の取組み飛散防止剤や原子炉建屋カバリングの設計導入支援等の大気土壌での放射性物質の抑制に向けた取

20 左の図緑色部分の組織と事務が右の図の原子力規制委員会に一元化されました

【これまでの規制体制】 【新しい規制体制】

内閣府経済産業省

経済産業省

文部科学省

原子力委員会

原子力規制委員会

委員長+委員4名(国会同意人事)

原子力規制庁(事務局)

環境省

規制規制ダブルチェックで規制

資源エネルギー庁

資源エネルギー庁

電力会社等 研究機関大学等

電力会社研究機関大学等

核物質を守るための対策の総合調整

原子炉の安全審査のダブルチェック等

発電用原子炉の安全規制 等

原子力安全委員会

原子力安全保安院

試験研究炉等の安全規制核不拡散の保障措置の規制(1)放射線のモニタリングSPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)の運用放射性同位元素等の規制201341より移管

第133-2-1 これまでの規制体制と新しい規制体制20

36

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第3章 原子力発電所事故関連

第3章

組み空間土壌海水等の体系的なモニタリングの実施等の取組みを行いました同年7月19日には道筋のステップ1の目標が概ね予定通りに達成されたことが確認されると共にステップ2に進むにあたり東京電力だけでなく政府もより一体となり事故収束に取り組む観点から東京電力の「道筋」と政府の「ロードマップ」を統合した「東京電力福島第一原子力発電所事故の収束に向けた道筋 当面の取組のロードマップ(改訂版)」を発表しました同年10月 3日にはステップ2完了後から廃炉作業の開始までの期間における安全確保のための基本目標を「中期的安全確保の考え方」として定め東京電力に対してこれに適合するよう指示しましたこれを受けて東京電力から提出された報告書について専門家の方々による緻密な検証作業を経て万一不測の事態が発生したとしても敷地境界における被ばく線量が十分低い状態を維持できるとの評価結果を得ました これを踏まえ東京電力福島第一原子力発電所が冷温停止状態に達したことを確認しステップ2の完了を判断したところです一方で漏水等のトラブルが発生していた状況を受けて2012年 3月 28日原子力安全保安院は東京電力に対して主要設備を仮設設備から恒久的な設備に更新すること等中長期的な信頼性向上のために優先的に取り組むべき事項についての具体的な実施計画を策定するよう指示しました

2中長期ロードマップに基づく取組

 ステップ2完了(2011年 12月)以降はそれまでのプラント安定化に向けた取組から確実にプラントの安定状態を維持する取組に移行するとともに1~4号機の使用済燃料プールからの燃料の取り出し1~3号機の原子炉圧力容器及び原子炉格納容器からの燃料デブリ(燃料と被覆管等が溶融し再固化したもの)の取り出し等廃止措置に向けた中長期に亘る取組が進められています このような中長期の取組については同年8月に原子力委員会に設置された東京電力福島第一原子力発電所における中長期措置検討専門部会において技術的課題研究開発項目が整理されるとともに「燃料デブリ取り出し開始までの期間は10年以内を目標廃止措置が全て終了するまでは30年以上の期間を要するものと推定される」との整理がなされています 同年11月 9日には経済産業大臣及び原発事故収束再発防止担当大臣より廃止措置等に向けた中長

期ロードマップの策定等についての指示が東京電力資源エネルギー庁原子力安全保安院に出されました 更に同年12月 16日ステップ2完了に伴い政府東京電力統合対策室を廃止し原子力災害対策本部の下中長期ロードマップの策定と進捗管理を行う政府東京電力中長期対策会議が設置され同年12月21日同会議において「東京電力福島第一原子力発電所1~4号機の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ」(以下中長期ロードマップ)が決定されました(第134-2-1) 中長期ロードマップではステップ2完了から2年以内の開始を目標とした使用済燃料プール内の燃料取り出し開始までを第1期と定義し使用済燃料プール内の燃料取り出し開始のための準備作業を行うとともに燃料デブリ取り出しに必要な研究開発を開始し成果を活用した現場調査に着手する等廃止措置等に向けた本格的な作業開始までの集中的な準備を行います 第1期以降ではステップ2完了から10年以内の開始を目標とした燃料デブリ取り出し開始までを第2期としその後の廃止措置終了までを第3期と定義しました また中長期ロードマップの進捗管理を着実に行うため政府東京電力中長期対策会議の下に「運営会

ステップ1 2 第 1期 第2期 第3期

現在(ステップ2完了) 2年以内 10年以内 30~40年後

<安定状態達成>冷温停止状態放出の大幅抑制

要員の計画的育成配置意欲向上策作業安全確保に向けた取組(継続実施)

使用済燃料プール内の燃料取り出しが開始されるまでの期間(2年以内)

燃料デブリ取り出しが開始されるまでの期間(10年以内)

廃止措置終了までの期間(30~ 40年後)

使用済燃料プール内の燃料の取り出し開始(4号機2年以内)発電所全体からの追加的放出及び事故後に発生した放射性廃棄物(水処理二次廃棄物ガレキ等)による放射線の影響を低減しこれらによる敷地境界にお け る 実 効 線 量1mSv年未満とする原子炉冷却滞留水処理の安定的継続信頼性向上燃料デブリ取り出しに向けた研究開発及び除染作業に着手放射性廃棄物処理処分に向けた研究開発に着手

全号機の使用済燃料プール内の燃料の取り出しの終了建屋内の除染格納容器の修復及び水張り等燃料デブリ取り出しの準備を完了し燃料デブリ取り出し開始(10 年以内目標)原子炉冷却の安定的な継続滞留水処理の完了放射性廃棄物処理処分に向けた研究開発の継続原子炉施設の解体に向けた研究開発に着手

燃料デブリの取り出し完了(20~25年後)廃止措置の完了(30 ~ 40 年後)放射性廃棄物の処理処分の実施

第134-2-1  中長期ロードマップ(2011年 12月 21日)の概要

37

第4節 東京電力福島第一原子力発電所1~4号機の廃止に向けた取組

第3章

議」が設置され中長期ロードマップの個別の計画ごとの進捗管理が行われています同会議の内容資料は経済産業省ホームページで公開されるとともに立地地域の地元自治体に対してはTV会議訪問説明等により個別情報提供がなされています 加えて中長期的に「冷温停止状態」を維持することを始めとして発電所の安全を確保するためには適切な保守管理の実施や設備の更新も含め信頼性向上に向けた取組を引き続き実施していくことが必要不可欠であることから2012年 3月 28日原子力安全保安院から東京電力に対し設備機器に関する中長期の信頼性の向上のための指示がなされ同年5月11日までに「実施計画」の提出が求められましたこれを受け政府東京電力中長期対策会議では東京電力が提出する「実施計画」を踏まえた中長期ロードマップの改訂を行い工程を厳格に管理することにより更なる安全性信頼性の確保を図ることとしています このように廃炉に向けた取組は中長期ロードマップに基づき発電所の安全に万全を期しながら国内外の叡智を結集し政府と東京電力が一体となって廃炉に至る最後の最後まで全力を挙げて取り組まれていきます

3研究開発

 先記の2011年11月9日における枝野経済産業大臣及び細野原発事故収束再発防止担当大臣からは資源エネルギー庁原子力安全保安院及び東京電力に対し中長期ロードマップの策定とともに廃止措置等のための研究開発計画の策定について指示が出されました これを受け資源エネルギー庁及び東京電力は文部科学省(独)日本原子力研究開発機構(JAEA)及び東京電力福島第一原子力発電所の設計建設に関して知見経験を有するプラントメーカーである東芝及び日立製作所日立GEニュークリアエナジーの協力を得ながら同年12月 21日に開催された政府東京電力中長期対策会議において研究開発計画を決定しました本計画では研究開発を作業に応じて「使用済燃料プール燃料取り出しに係る研究開発」「燃料デブリ取り出し準備に係る研究開発」「放射性廃棄物処理処分に係る研究開発」及び「遠隔操作機器に係る技術開発」に分類し実施することとしています 特に原子力施設の将来の廃炉安全基盤の強化のための技術基盤の整備国として知見経験の蓄積

共有を図ることが必要な研究開発等は国が行うべきものとして体制強化を図りながら実施します また同会議において研究開発計画の進捗管理を行う場として研究開発推進本部が設置され個別研究開発プロジェクトのマネジメント国内外叡智の結集のための具体的取組研究拠点構想等について集中的に議論を行ってきました 2012年 2月には「東京電力福島第一原子力発電所の廃止措置等に向けた燃料デブリ取出し準備の機器装置開発等に係る技術カタログ検討ワークショップ」を開催し研究開発プロジェクトにおいて採用すべき技術シーズのカタログの充実を図るため国内有識者を集め求められる技術ニーズ仕様を共有し意見を交換しました また同年3月には「東京電力福島第一原子力発電所1~4号機の廃止措置等に向けた研究開発計画に係る国際ワークショップシンポジウム」を開催し研究開発計画において取り組む課題及び対応の方向について国際的な情報発信を実施するとともに国内外の有識者専門家との間で課題への対応の方向について討議を実施し有識者専門家より技術的な提案アドバイスを受けました 更にプロジェクトの実施に当たり的確なマネジメントを行っていく観点から2011年度末に個々の研究開発プロジェクトの実績評価及び2012年度以降の計画見直しの方向を取りまとめた本見直しでは現場ニーズをプロジェクトに的確に反映するための体制の強化や中長期視点での人材確保育成を意識した取組を進めていくこととしています 今後も本計画に沿って東京電力福島第一原子力

燃料デブリ取出し準備ワーキングチーム

機器装置開発等サブワーキングチーム(SWT)

報告審議 報告審議

研究開発推進本部

報告審議

事務局

使用済燃料プール燃料取り出しワーキングチーム

炉内状況把握解析SWT

放射性廃棄物処理処分ワーキングチーム

遠隔技術タスクフォース

燃料デブリ性状把握処理準備SWT

23FY-

燃料集合体の長期健全性

25FY-

損傷燃料等の処理技術

23FY-

建屋内の遠隔除染

24FY-

総合的線量低減計画策定

23FY-

PCVRPV健全性評価

23FY-

建屋PCV漏えい箇所特定

23FY-

建屋PCV止水補修

23FY-

PCV内部調査

25FY-

RPV内部調査

27FY-

デブリ炉内構造物取出し

25FY-

デブリ燃料収納技術

24FY-

デブリ臨界管理

23FY-

事故進展解析

23FY-

模擬デブリ特性把握

23FY-

デブリ処置技術

24FY-

デブリ計量管理方策

28FY-

実デブリ性状分析

23FY-

汚染水処理の廃棄物安定化

23FY-

廃棄物の処理処分検討

第134-3-1 研究開発体制

38

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第3章 原子力発電所事故関連

第3章

発電所1~4号機の廃止措置等に向けた中長期の取組を進める上で必要な研究開発を着実に進めていきます なお研究開発の成果として得られた知見技術は国内外の将来の原子力施設の廃止措置や安全基盤の強化等にも広く役立つものと期待されます

第5節 原子力損害賠償

1 原子力損害賠償紛争審査会の設置及び指針の背景

 2011年3月11日の福島原子力発電所事故発生以降多くの住民が避難生活や生産及び営業を含めた事業活動の断念等を余儀なくされており被害者の方々が一日でも早く安心で安全な生活を取り戻せるよう迅速公平かつ適正な救済が必要です政府は今回の事故に関して原子力損害の賠償を円滑に進められるよう原子力損害の範囲など当事者による自主的な解決に資する一般的な指針の策定等の業務を行うため原子力損害の賠償に関する法律に基づき2011年 4月 11日より「原子力損害賠償紛争審査会」を設置しました 同審査会においては被害者の迅速な救済を図るため原子力損害に該当する蓋然性の高いものから順次指針として提示することとしました 紛争審査会は同年4月28日には政府等による指示等に基づく損害の範囲を示す第一次指針を策定しその後第二次指針(同年5月31日)及び第二次指針追補(同年6月31日)の策定により指針で示す原子力損害の範囲を拡大し同年8月5日には原子力損害の範囲の全体像を示す中間指針を策定しましたその間各省庁に加え地方公共団体事業者団体等からヒアリングを行うとともに17分野76名の専門委員による各分野の被害状況調査を行い被害状況等の把握に努めました その後紛争審査会では同年12月 6日に自主的避難等に係る損害に関する中間指針第一次追補2012年 3月 16日政府による避難区域等の見直し等に係る損害についての中間指針第二次追補を策定しましたまた指針に類型化した損害として明記されていないものが賠償の対象とならないというものではなく個別具体的な事情に応じて事故との相当因果関係のある損害として賠償され得ることも指針に明記さ

れています

(1) 原子力損害の範囲の全体像を示す中間指針の概要

 中間指針で示された項目は以下のとおりです 政府による避難等の指示等に係る損害  政府による航行危険区域等及び飛行禁止区域の設定に係る損害

  政府等による農林水産物等の出荷制限指示等に係る損害

 その他の政府指示等に係る損害  いわゆる風評被害(一般的基準農林漁業食品産業観光業製造業サービス業等輸出)

 いわゆる間接損害 放射線被曝による損害 被害者への各種給付金と損害賠償金との調整 地方公共団体等の財産的損害等

(2) 自主的避難に係る損害についての中間指針第一次追補の概要

 中間指針の策定の際事故との相当因果関係を判断する客観的基準を見いだすことが難しいことから継続審議事項とされた政府等の指示に基づかない「自主的避難」について2011年 12月 6日に自主的避難等に係る損害に関する中間指針第一次追補を策定しました[基本的考え方] 事故発生当初の十分な情報がない時期は大量の放射性物質の放出による被ばくへの恐怖不安を抱くことは年齢等問わず一定の合理性が認められる 事故発生からしばらく経過後は放射線量等に関する情報がある程度入手できるようになった状況下にあり少なくとも子供妊婦の場合は放射線への感受性が高い可能性があることが一般に認識されていることから被ばくへの恐怖不安を抱くことは一定の合理性が認められる 上記恐怖不安による自主的避難のみならず自主的避難を行わずに滞在し続けた者にも賠償すべき損害が認められる

[自主的避難等対象区域] 発電所からの距離避難指示等対象区域との近接性政府等から公表された放射線量に関する情報自主的避難の状況等を総合的に勘案して対象区域(福島県内の避難指示対象区域を除く23市町村)を明示

39

第5節 原子力損害賠償

第3章

(3) 政府による避難区域等の見直し等に係る損害についての中間指針第二次追補の概要

 政府の原子力災害対策本部が同年12月 16日原子炉は安定状態に達し事故そのものは収束に至ったことを確認し同月26日に避難指示区域の見直しに関する基本的考え方及び今後の課題を示したこと等を踏まえ紛争審査会は本年3月16日政府による避難区域等の見直し等に係る損害についての中間指針第二次追補を策定しました中間指針第二次追補で示された項目は以下のとおりです 避難区域見直し後の避難費用及び精神的損害 旧緊急時避難準備区域の避難費用及び精神的損害 特定避難勧奨地点の避難費用及び精神的損害 不動産の価値の喪失または減少等について 営業損害就労不能等に伴う損害 自主的避難等に係る損害 除染等に係る損害

2 原子力損害賠償紛争解決センターの設置

 原子力損害賠償紛争審査会は今回の東京電力福島第一第二原子力発電所事故により被害を受けた方々の原子力事業者(東京電力)に対する損害賠償について円滑迅速かつ公正に紛争を解決することを目的として同審査会の下に「原子力損害賠償紛争解決センター」を設置し2011年 9月東京都港区と福島県郡山市の2カ所において業務を開始しました同センターにおいては紛争の当事者(被害者または原子力事業者)の申立てにより仲介委員が申立人と相手方の双方から事情を聴き取って損害の調査検討を行い双方の意見を調整しながら和解案を提示する和解の仲介業務を実施しています 同センターでは2012年 2月以降多くの申立に共通すると思われる問題点に関して一定の基準を示す「総括基準」を順次策定公開しているほかセンターで実施されている和解仲介の結果を広く周知し今後の賠償を円滑に進めていく上での参考とするため和解実例を順次公開しています 更に同年7月には和解仲介の申立に関して出来る限り被害者の方々の居所等の近くで話し合いを実施する等きめ細やかな対応を実施するため福島県内の各地域(県北会津いわき相双)に同センター福島事務所の支所を設置しました

3 原子力損害賠償補償契約に関する法律に基づく措置

 政府は原子力損害賠償補償契約に関する法律に基づき原子力損害賠償補償契約を原子力事業者と締結しており地震噴火等により原子力損害が発生した場合にはこの契約に基づく補償金を支払うこととなっています 今般の事故を受け政府は2011年 11月原子力損害賠償補償契約に基づき東京電力福島第一原子力発電所分の1200億円を東京電力へ支払いました

4原子力損害賠償支援機構の設立の背景

 2011年 3月 11日の東日本大震災により東京電力福島原子力発電所事故による大規模な原子力損害の発生を受け2011年 6月 14日に「東京電力福島原子力発電所事故に係る原子力損害の賠償に関する政府の支援の枠組みについて」が閣議決定され東京電力福島原子力発電所事故に係る原子力損害の賠償に関する政府の支援の枠組みについて政府としてこれまで原子力政策を推進してきたことに伴う社会的な責任を負っていることに鑑み ① 被害者への迅速かつ適切な損害賠償のための万全の措置

 ② 東京電力福島原子力発電所の状態の安定化事故処理に関係する事業者等への悪影響の回避

 ③電力の安定供給の三つを確保するため「国民負担の極小化」を図ることを基本として損害賠償に関する支援を行うための万全の措置を講ずることが確認されました こうしたことを受け2011年 8月 10日に原子力損害賠償支援機構法及び関連する政省令が公布施行され原子力事業に係る巨額の損害賠償が生じる可能性を踏まえ原子力事業者による相互扶助の考えに基づき将来にわたって原子力損害賠償の支払等に対応できる支援組織を中心とした仕組みを構築するため同年9月12日に原子力損害賠償支援機構が設立されました なお原子力損害賠償支援機構法の附則において原子力損害賠償の実施状況等を踏まえ原子力損害の賠償に関する法律の改正等の抜本的な見直しをはじめとする必要な措置を講ずるものとされています

40

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第3章 原子力発電所事故関連

第3章

5原子力損害賠償支援機構の枠組み

 原子力損害賠償支援機構(以下機構)を中心とした原子力事業者による相互扶助の枠組みは以下のようになっています

(1)原子力事業者からの負担金の収納 原子力損害が発生した場合の損害賠償の支払等に対応するため損害賠償に備えるための積立てを行います 機構は機構の業務に要する費用として原子力事業者から負担金の収納を行います 機構に第三者委員会的な組織として「運営委員会」を設置し原子力事業者への資金援助に係る議決等機構の業務運営に関する議決を行います

(2)機構による通常の資金援助 原子力事業者が損害賠償を実施する上で機構の援助を必要とするときは機構は運営委員会の議決を経て資金援助(資金の交付株式の引受け融資社債の購入等)を行います 機構は資金援助に必要な資金を調達するため政府保証債の発行金融機関からの借入れをすることができます

(3)機構による特別資金援助①特別事業計画の認定 機構が原子力事業者に資金援助を行う際政府の特別な支援が必要な場合原子力事業者と共に「特別事業計画」を作成し主務大臣の認定を求めます 特別事業計画には原子力損害賠償額の見通し賠償の迅速かつ適切な実施のための方策資金援助の内容及び額経営の合理化の方策賠償履行に要する資金を確保するための関係者(ステークホルダー)の協力の要請経営責任の明確化のための方策等について記載します 機構は計画作成に当たり原子力事業者の資産の厳正かつ客観的な評価及び経営内容の徹底した見直しを行うとともに原子力事業者による関係者に対する協力の要請が適切かつ十分なものであるかどうかを確認します 主務大臣は関係行政機関の長への協議を経て特別事業計画を認定します

②特別事業計画に基づく事業者への援助 主務大臣の認定を受け機構は特別事業計画に基づく資金援助(特別援助)を実施するため政府は機構に国債を交付し機構は国債の償還を求め(現金化)原子力事業者に対し必要な資金を交付します 政府は国債が交付されてもなお損害賠償に充てるための資金が不足するおそれがあると認めるときに限り予算で定める額の範囲内において機構に対し必要な資金の交付を行うことができます 機構は政府保証債の発行等により資金を調達し事業者を支援します

③機構による国庫納付 機構から援助を受けた原子力事業者は特別負担金を支払います 機構は負担金等をもって国債の償還額に達するまで国庫納付を行います ただし政府は負担金によって電気の安定供給等に支障を来しまたは利用者に著しい負担を及ぼす過大な負担金を定めることとなり国民生活国民経済に重大な支障を生ずるおそれがある場合機構に対して必要な資金の交付を行うことができます

④損害賠償の円滑化業務 機構は損害賠償の円滑な実施を支援するため(ア)被害者からの相談に応じ必要な情報の提供及び助言を行うとともに(イ)原子力事業者が保有する資産の買取り及び(ウ)賠償支払の代行(原子力事業者からの委託を受けて賠償の支払国または都道府県知事の委託を受けて仮払金の支払)を行うことができます 平成二十三年原子力事故による被害に係る緊急措置に関する法律案に基づく国による仮払金

6特別事業計画策定の経緯と支援の経過

① 2011年11月4日に特別事業計画を認定(緊急特別事業計画の認定)

② 2012年 2月 13日に認定特別事業計画の変更認定

③ 2012年5月9日に認定特別事業計画の変更認定(総合特別事業計画の認定)

 機構は東京電力による賠償金の速やかな支払を確

41

第5節 原子力損害賠償

第3章

保するため2012年 2月に緊急特別事業計画の変更を行いましたこの中でその時点での要賠償額の見通し1兆7003億 2200万円から原子力損害の賠償に関する法律第7条第1項に規定する賠償措置額として既に東京電力が受領している1200億円を控除した金額を損害賠償の履行に充てるための資金として2012年度までに交付することとしていましたしかしながらその後新たな賠償基準の策定等により損害賠償の見通しが2兆5462億7100万円となったため機構は東京電力に対し当該要賠償額から上記1200億円を控除した2兆4262億 7100万円を損害賠償の履行に充てるための資金として交付することとしていますなお交付の時期についてはすでに機構が交付した1兆1168億円(同年7月26日時点)を控除した金額を2013年度までに交付する予定です また原子力損害賠償支援機構法第38条第1項の規定に基づき機構の業務に要する費用に充てるため各電力会社が負担する負担金については同年3月30日に2011年度一般負担金年度総額を815億と決定しました

7賠償の実績及び業務の改善

(1)賠償に向けた体制の整備及び賠償の実績 東京電力は2011年4月15日に国の「原子力発電所事故による経済被害対応本部」において原子力災害対策特別措置法の規定に基づき当面の必要な資金を「仮払補償金」として支払いするよう決定がなされたことを受け同日仮払補償金の開始を公表しましたまた同社は原子力損害賠償紛争審査会による中間指針(2011年 8月 5日)を踏まえ同年8月30日に個人の本賠償2011年 9月 21日に法人個人事業者の本賠償の開始を公表するとともに本賠償の対象賠償額の算定基準等を提示しました(法人個人事業者については同年9月21日に発表)個人事業者ともに同年9月に請求書送付受付(一次請求同年3~8月分)を開始し同年10月 5日に本賠償の支払いを開始しました2012年 7月末までに仮払補償金本賠償合計で約1兆795億円の支払いが行われています(仮払約1469億円本賠償約9326億円)

(2)賠償業務の改善 東京電力に対しては2011年 10月の本賠償開始後被害者の方々に対して親身親切な損害賠償が行われていない等の不満が多く寄せられておりました東京

電力は機構とともに策定した緊急特別事業計画においてこうした状況を改善すべく「5つのお約束」(迅速な賠償のお支払いきめ細やかな賠償のお支払い原子力損害賠償紛争解決センターの和解仲介案の尊重親切な書類手続き誠実な御要望への対応)を掲げ賠償業務の行程管理の徹底や請求書類の簡素化等東京電力の賠償実施体制の建て直しを行ってきました また機構はこうした東京電力の取組を継続的にモニタリングするほか自ら弁護士行政書士等からなる「訪問相談チーム」を派遣する等賠償の円滑化に向けた取組を行いました こうした取組の結果請求書類の確認や賠償金のお支払いについて計画に定めた目標期間内での対応の実現原子力損害賠償紛争解決センターの和解仲介案の尊重や指針外への対応等一定の改善も見られています

<総合特別事業計画(2012年5月9日認定)のポイント>(1) 東京電力の取組と関係者の協力 国と東京電力の双方には厳しい状況をともに連帯して乗り越えていく重い責務 東京電力はあらゆる手段を総動員し「賠償廃止措置安定供給」の責任を果たす 国はエネルギー政策や原子力政策全体についての責務と相まって責任を果たしていく 国家的難題に直面しているという認識の下関係者全ての持てる力を結集することが必要

(2) 東京電力の新経営体制①原子力損害賠償支援機構が東京電力の総議決権の2分の1超を取得(「一時的公的管理」)するとともに追加的に議決権を取得できる転換権付無議決権種類株式を引き受けることで潜在的には総議決権の3分の2超の議決権を確保②会長以下役員の退任顧問制度全廃退職慰労金の受取辞退 等

(3) 合理化の深掘り10年間で33兆円超のコスト削減を行う①人件費(10年間で12758億円削減)②資材役務経費(10年間で6641億円削減)③買電燃料調達に係る費用(10年間で1986億円削減)

42

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第3章 原子力発電所事故関連

第3章

④その他経費(10年間で9687億円削減)⑤資産売却不動産電気事業資産以外は原則全て売却(2472億円相当(時価ベース))有価証券2011年度から原則3年以内に3301億円相当の有価証券を売却子会社関連会社2011年度から原則3年以内に119社中45社 1301億円相当を売却

(4) 料金改定【前提】燃料費等増を合理化の徹底により圧縮した上で必要最小限の料金改定(3年原価とし柏崎刈羽原発の2013年度4月以降の順次稼働を収支計画の前提として置く)①規制部門で1028料金引上げ(原価算定期間の3年間)を収支計画の前提として置く(注電気事業法に基づく経済産業大臣認可が必要であり査定の結果846になった)②自由化部門は1639料金引上げ(査定の結果1490になった)「自由化料金については総原価洗替えの結果を反映し4月からの差額を割り引く」旨明記

(5) 賠償コスト廃炉コスト①帰還困難地域の財物全損賠償等の新基準を踏まえ約8500億円を積み増し(総額約25兆円)②除染は予算執行の進捗国からの求償等合理的な見積もりが可能になるまで計上せず③廃炉コストは「ロードマップ」に対応した積上げによる費用を今後見積もり

(6) 事業改革(東京電力の方向性改革の段取り)①入札による競争や外部事業者等との連携を通じた最適需給の実現②社内カンパニー(燃料火力送配電小売)(「自前主義」から「外部連携」へ)LNG発電コスト低減に焦点調達集約化インフラ共同運用IPP入札③国際標準に準拠したスマートメーターのオープンな調達企業連携による省エネサービス

(7) 金融機関株主責任財務基盤強化

①金融機関自律的な資金調達力の回復まで与信を維持主要取引機関は融資1兆円追加②機構による株式の引受け株主総会後払込金額総額1兆円21

③既存株主株式の希薄化当面の間 無配

第6節 原子力被災者支援 東京電力福島第一原子力発電所事故では政府による避難屋内退避の指示等により多数の居住者等が避難その他の行動を余儀なくされあるいは事業者が生産及び営業を含めた事業活動の断念を余儀なくされる等東京電力福島第一原子力発電所から半径約30km 圏内を中心に福島県全体のみならず周辺の各県も含めた広範囲に影響を及ぼす事態に至りました 2011年 3月 29日には原子力被災者への生活支援を強化するため原子力災害対策本部の下に原子力被災者生活支援チームが設置され避難受入れ態勢の確保除染体制の確保被災地への物資等の輸送補給被ばくに係る医療の確保環境モニタリングと正確迅速な情報提供等を行ってきました同年5月17日には原子力災害対策本部は「原子力被災者への対応に関する当面の取組方針」及び「原子力被災者への対応に関する当面の取組のロードマップ」を策定公表しこれらに基づき応急仮設住宅の確保計画的避難の実施住民の健康管理がれき汚泥の処理や放射線量等分布マップの作成農地土壌の除染技術開発に関する実証試験の実施等の取組を行ってきたところです 2012年 2月 10日には福島の復興再生に関する施策を総合的に策定し継続的迅速に実施するための組織として復興庁が設置され生活再建策(賠償長期避難者支援自治体ごとの帰還支援)産業振興及び雇用対策放射線対策等(リスクコミュニケーションモニタリング除染区域見直し)等につき関係省庁と連携して被災者支援をより一層推進するための体制が整備されましたまた同年3月30日には「福島復興再生特別措置法」が成立し同年4月5日には2012度予算として復興経費3兆7754億円が計上される等法制度及び予算の側面からも被災者支援を推進す

21 出資額は東京電力A種優先株式 16 億株(払込総額 3200 億円)と東京電力B種優先株式 34 億株(払込総額 6800 億円)の合計

43

第6節 原子力被災者支援

第3章

るための施策が講じられています

1避難指示区域等の設定経緯

 2011年 3月 11日東北地方太平洋沖地震とそれが引き起こした津波により東京電力の福島第一原子力発電所及び福島第二原子力発電所において原子力緊急事態が発生しましたこれを受けて同日政府は原子力緊急事態宣言を発出するとともに原子力災害対策本部を設置しました 事故の発生以降事故の深刻化に伴い住民に避難を求める区域を順次拡大し翌12日に原子力災害対策本部長は福島県知事及び関係市町村長に対し東京電力福島第一原子力発電所から半径20km圏内の住民等の避難を指示しましたまた同月15日には東京電力福島第一原子力発電所から半径20kmから30km圏内の居住者等の屋内退避を指示しました(第136-3-2) 更に同年4月21日には引き続き東京電力福島第一原子力発電所が不安定な状態であることに鑑み同発電所の半径20km圏内について住民等の避難を徹底し生命または身体に対する危険を防止するため

原子力災害対策本部長は福島県知事及び関係市町村長に対し同区域を警戒区域に設定することを指示しました翌22日の午前0時警戒区域が設定され緊急事態応急対策に従事する者以外の者は市町村長の許可なく同区域に立ち入ることができなくなりこの立入制限を徹底するため警戒区域境界に物理的な立入り制限の措置が講じられることとなりました また環境モニタリングにおいて東京電力福島第一原子力発電所の半径20km以遠において積算線量が高い地域が確認されたことから同年4月22日原子力災害対策本部長は福島県知事及び関係市町村長に対し事故発生から1年の期間内に積算線量が20mSvに達するおそれのある区域を計画的避難区域に設定し居住者等を計画的に避難させるよう指示しました 同時に東京電力福島第一原子力発電所から半径20kmから30kmの区域については屋内退避の指示を解除し今後なお緊急時に屋内退避や避難の対応が求められる可能性が否定できない区域(概ね東京電力福島第一原子力発電所から半径20kmから30kmの区域に相当)について原子力災害対策本部長は福島県知事及び関係市町村長に対し当該区域を緊急時避難準備区域に設定し居住者等に避難または屋内退避

浪江町葛尾村

双葉町

大熊町

富岡町

広野町

川内村

田村市

川俣町

伊達市

いわき市

小野町

二本松市

相馬市

福島第二原子力発電所

計画的避難区域

警戒区域

南相馬市飯舘村南相馬市避難指示解除準備区域(2012416~)

南相馬市帰還困難区域(2012416~)

南相馬市居住制限区域(2012416~)

田村市避難指示解除準備区域(201241~)

川内村避難指示解除準備区域(201241~)

川内村居住制限区域(201241~)

避難指示解除準備区域居住制限区域帰還困難区域

警戒区域計画的避難区域

凡例20km

楢葉町

飯舘村帰還困難区域(2012717~)

飯舘村居住制限区域(2012717~)

飯舘村避難指示解除準備区域(2012717~)

楢葉町避難指示解除準備区域(2012810~)

福島第一原子力発電所

約5km

図136-2-1  避難指示区域と警戒区域の概念図(2012年7月31日現在)

図136-1-1  東京電力福島第一原子力発電所に係る避難等の指示の経過

2011年3月11日2123

半径3km圏避難半径3~10km圏屋内退避

3月12日544

半径10km圏避難

3月12日1825

半径20km圏避難

3月15日1100

半径20~30km圏屋内退避

4月21日1100

半径20km圏警戒区域(設定は22日午前0時)

4月22日944

半径20~30km圏屋内退避の解除葛尾村浪江町飯舘村川俣町の一部及び南相馬市の一部避難(計画的避難区域)広野町楢葉町川内村田村市の一部及び南相馬市の一部緊急時避難準備区域

9月30日1811

広野町楢葉町川内村田村市の一部及び南相馬市の一部緊急時避難準備区域の解除

2012年3月30日

川内村田村市南相馬市警戒区域を解除し三つの新たな避難指示区域に見直し(川内村及び田村市は4月1日実施南相馬市は4月16日実施)

6月15日 飯舘村三つの新たな避難指示区域に見直し(7月17日に実施)

7月31日 楢葉町避難指示解除準備区域に見直し(8月10日に実施)富岡町大熊町双葉町及び浪江町海域のうち陸域の約5kmから東側の避難指示区域及び警戒区域を解除

44

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第3章 原子力発電所事故関連

第3章

の準備をさせるよう指示しました

2避難指示区域等の見直し

 東京電力福島第一原子力発電所の事故に伴い設定された避難指示区域及び警戒区域等は原子力発電所の安全性の確認や放射線被ばくの危険性の低下等を踏まえ区域の見直しを実施することとなりました 2011年 8月 9日原子力災害対策本部は緊急時避難準備区域について原子力発電所の安全性評価(水素爆発が生じたり原子炉等の冷却ができなくなる可能性が低くなっていること仮に注水が中断した場合でも発電所から20km以遠において受ける放射線影響が十分小さいこと等)区域内における放射線量の詳細なモニタリングの結果(学校等をはじめとする主要ポイントの周辺を含む測定をしたほとんどの地点で空間線量が十分低いことが確認されたこと)及び公的サービスインフラ等の復旧のめどが立ったことを踏まえ同区域を解除することを決定しました 関係市町村は当該方針に基づき住民の円滑な移転支援学校医療施設等の公的サービスの再開公的インフラの復旧学校グラウンド園庭等の除染を含む実情に応じた「復旧計画」を策定しましたこれを受け原子力災害対策本部は同年9月30日に緊急時避難準備区域を一括して解除することを決定し原子力災害対策本部長から福島県知事及び関係市町村長にその旨指示しました 2011年 12月 26日原子力災害対策本部は「放射性物質の放出が管理され放射線量が大幅に抑えられている」というステップ2の目標達成と完了を受けて東京電力福島第一原子力発電所の事故収束の状況や放射線被ばくの危険性の低下を踏まえ警戒区域(原子力発電所から半径20km の区域)についてはインフラ等の安全確認応急復旧を行うとともに防災防犯対策等について関係者間で十分に調整を図った上で解除することを決定しましたまた避難指示区域(原子力発電所から半径20km の区域及び同半径20km 以遠の計画的避難区域)については関係者と協議した上で放射線量を基準として以下の三つの区域に見直すことを決定しました

① 避難指示解除準備区域 年間積算線量が20mSv以下となることが確実であることが確認された区域同区域においては引き続き避難指示は継続されることとなりますが除染イ

ンフラ復旧雇用対策等の復旧復興のための支援策を迅速に実施し住民の一日でも早い帰還を目指します

② 居住制限区域 年間積算線量が20mSvを超えるおそれがあり住民の被ばく線量を低減する観点から引き続き避難を継続することが求められる区域同区域においては将来的に住民が帰還しコミュニティを再建することを目指し除染やインフラ復旧等を計画的に実施します

③ 帰還困難区域 5年間を経過してもなお年間積算線量が20mSvを下回らないおそれのある現時点で年間積算線量が50mSv超の区域同区域は将来にわたって居住を制限することを原則とし同区域の設定は5年間固定します 当該方針に基づき区域見直しに係る協議が整った市町村について区域見直しを実施しています(第136-2-1 2012年 7月 31日現在)

3警戒区域への一時立入り

 2011年 4月 22日午前0時東京電力福島第一原子力発電所から半径20km圏内は警戒区域に設定され当該区域への立入りが制限されることとなりました他方で着の身着のままで避難を余儀なくされた住民から自宅への一時立入り等に係る強い要望が寄せら

図136-3-1 警戒区域への一時立ち入り

一時立入り対象市町村

警戒域内の対象数

1巡目 2巡目

世帯数 人数バス立入り

車持ち出し

マイカー立入り バス立入り車持ち出し

世帯数 人数 台数 世帯数 人数 世帯数 人数 台数

田村市 約110 約400 76 130 6 112 260 0 0 2

南相馬市

約4000

約14300

2907 5030 511 3335 8169 66 95 102

楢葉町約2600

約7700

1909 3197 364 2067 5372 102 142 45

富岡町約6000

約16000

4537 7631 741 4757 10921 275 398 126

川内村 約160 約400 82 135 19 92 227 0 0 0

大熊町約4000

約11500

3525 5683 1021 3265 7495 210 308 129

双葉町約2400

約6900

2061 3547 573 1930 4638 177 279 62

浪江町約6700

約19600

4812 8218 916 4622 11031 234 345 90

葛尾村 約80 約300 17 27 1 40 91 0 0 0

計約26000

約77000

19850 33468 4146 20108 47944 1064 1567 554

45

第6節 原子力被災者支援

第3章

れましたこれを受け立入りを行う住民の安全確保を大前提に同年5月10日から当該区域への一時立入りを実施することとなりましたこれまで四巡目までの一時立入りを実施し延べ約73370世帯約162002人(2012年 7月末日現在)の住民が立入りを行っています 一巡目はバスによる集団での立入り方式のみにより実施していましたが持ち出せる荷物の量が少ない待ち時間が長いといった要望が寄せられました二巡目からは住民からのこうした要望等を踏まえバス方式と併せてマイカーによる一時立入りを可能としました

 更に三巡目からは立入りを行う住民の利便性を高めること等を目的として住民が車から降りることなく受付を行うドライブスルー方式の導入の他自宅以外の場所への一時立入り(墓参りのための立入り等)や引っ越し業者等の帯同を認める等の改善を行いました 加えて四巡目からはそれまで市町村が行っていた立入り日の調整等を新たに設置するコールセンターにおいて行うこととしこれまで以上にスムーズな受付が可能となりました 五巡目以降についても住民の安全確保を大前提として立入りを行う住民の負担の少ない方法で立入りが可能となる体制の構築を目指しています

4除染の実施

 東日本大震災に伴う原子力発電所の事故によって放出された放射性物質による環境の汚染が生じておりこれによる人の健康または生活環境に及ぼす影響を速やかに低減することが喫緊の課題となっていますこうした状況を踏まえ「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法」(以下「放射性物質汚染対処特措法」)が可決成立し2011年 8月 30日に公布されました 同年11月 11日には「放射性物質汚染対処特措法に基づく基本方針」を閣議決定し環境の汚染の状況についての監視測定事故由来放射性物質により汚染された廃棄物の処理土壌等の除染等の措置等に係る考え方が取りまとめられ関係者の連携の下事故由来放射性物質による環境の汚染が人の健康または生活環境に及ぼす影響が速やかに低減されるようまた復興の取組が加速されるよう同方針に基づき取り組むこととしています 除染の実施に当たり同年11月以降警戒区域や計画的避難区域等において除染の効果的な実施のために必要となる技術の実証実験等のための除染モデル実証事業等を実施しその成果を2012年 6月に公表しましたまた2011年 12月以降は自衛隊等による除染活動の拠点となる施設(役場公民館等)や除染を行う地域にアクセスする道路及び除染に必要な水等を供給するインフラ施設を対象に先行的な除染を実施しています 放射性物質汚染対処特措法に基づき国が除染を実

一時立入り対象市町村

警戒域内の対象数

3巡目 4巡目

世帯数 人数マイカー立入り

バス立入り車持ち出し

マイカー立入り

バス立入り

世帯数 人数 世帯数 人数 台数 世帯数 人数 世帯数 人数

田村市 約110 約400 90 196 0 0 0 - - - -

南相馬市

約4000

約14300

3032 7941 39 57 14 - - - -

楢葉町約2600

約7700

1951 5005 66 92 6 1826 4950 38 59

富岡町約6000

約16000

4240 10025 158 217 10 3721 8954 124 181

川内村 約160 約400 0 0 0 0 0 - - - -

大熊町約4000

約11500

2944 6936 162 234 8 2533 6328 98 148

双葉町約2400

約6900

1744 4362 92 140 7 1593 4184 85 125

浪江町約6700

約19600

3764 9207 209 305 10 3494 8761 157 226

葛尾村 約80 約300 0 0 0 0 0 0 0 0 0

計約26000

約77000

17675 43476 726 1045 55 13167 33177 502 739

(注) 1 全体の数値は平成22年度国勢調査及び各市町村データ(復旧計画等)からの概数

   2 マイカーを所有していない住民の方については近所の住民の方等が同乗させて1台で複数世帯分の立入りを行うケースがあるため立入台数が立入世帯数より少なくなる場合があるなお1世帯が複数台の自動車で立入ることは認められていない

46

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第3章 原子力発電所事故関連

第3章

施する除染特別地域においては市町村ごとに策定する特別地域内除染実施計画に従って事業を進めることとしており一時保管場所の確保や除染業務の発注に必要な情報が整った市町村について特別地域内除染実施計画に基づき本格除染の実施を開始していますまた市町村が中心となって除染を実施する除染実施区域においては市町村が除染実施計画を策定し除染事業を進めることとされており現在各地で除染事業の取組が進められています 環境省においては放射性物質汚染対処特措法が2012年 1月に全面施行されたことに伴い福島県等における除染を推進するために福島環境再生事務所を開所し体制の整備を行いました更に福島県及び環境省では除染等に関する専門家を市町村等の要請に応じて派遣するとともに除染のボランティア活動等の関連情報の収集発信を行うための拠点として国福島県関係機関関係団体等の連携を図る除染情報プラザを設置しました

5健康管理調査の支援等

(1)福島県民健康管理調査事業の支援 福島県民の皆様の中長期的な健康管理を可能とするため国では平成23年度(2011年度)第二次補正予算により福島県が創設した「福島県民健康管理基金」に782億円の交付金を拠出し全面的に県を支援しています福島県ではこの基金を活用して全県民を対象に県民健康管理調査を実施し被ばく線量の把握や健康状態を把握するための健康診査等を行うこととしています特に震災時点で18才以下であった全ての方を対象に甲状腺の超音波検査を実施していますこの他にホールボディカウンターによる検査や中学生以下の子ども及び妊婦に対する個人線量計(ガラ

スバッジ等)の貸与などを実施しています

(2) 原子力被災者等の健康不安対策に関するアクションプランの推進

 東京電力福島第一原発事故の被災者をはじめとする国民が抱える放射線による健康不安についてはこれまでも様々な取組を講じてきましたが ①今般の被災者等の不安を十分に踏まえた情報発信としていたか(平易な用語の使用等) ②専門家等からの一方的な情報発信に偏り不安を感じている被災者等との双方向のコミュニケーションが不足していなかったか ③不安解消のためのコミュニケーションを行う人や場(拠点を含む)が十分に確保されていたかといった問題により依然として不安を十分に解消できていない状況です

 関係省庁等がこうした問題意識を共有した上で必要となる施策の全体像を明らかにし政府一丸となって健康不安対策の確実な実施に取り組むべく2012年4月20日に環境大臣を議長とする原子力被災者等の健康不安対策調整会議を設置し同年5月31日にアクションプランを策定しました 重点施策として ①関係者の連携共通理解の醸成 ②放射線による健康影響等に係る人材育成国民とのコミュニケーション ③放射線影響等に係る拠点等の整備連携強化 ④国際的な連携の強化の4つを掲げており本取組を確実かつ計画的に実行していくこととしています

47

第4章

 東日本大震災を契機とした東京電力福島第一原子力発電所における事故により国民の生活地域経済環境に対して甚大な被害を与えたことに対する深い反省を踏まえ現行のエネルギー政策をゼロベースで見直すこととなりました 見直しにあたっては政府一丸となって策定するため国家戦略担当大臣を議長経済産業大臣と環境大臣兼原発事故の収束及び再発防止担当大臣を副議長とする「エネルギー環境会議」が設置されましたまた総合資源エネルギー調査会に「基本問題委員会」が設置される等相互に独立した関係審議会等が設置され議論が行われました 前述の「エネルギー環境会議」の方針によりエネルギー基本計画の策定に先立って「エネルギーミックスの選択肢」を国民に提示することとされ「基本問題委員会」において他の関係審議会の報告を受けつつ「エネルギーミックスの選択肢」の原案が策定されました 「エネルギー環境会議」はこの「エネルギーミックスの選択肢」の原案を原子力委員会や中央環境審議会等で検討されている原子力政策や地球温暖化対策の選択肢の原案と合わせてとりまとめ「エネルギー環境に関する選択肢」を統一的に提示し国民的な議論を進め「革新的エネルギー環境戦略」の決定を行い

ますエネルギー基本計画は関係行政機関の長の意見を聴くとともに総合資源エネルギー調査会の意見を聴いて経済産業大臣が案を作成し閣議で決定することとなっています 本章では2012年 7月末頃までのエネルギー環境会議総合資源エネルギー調査会基本問題委員会をはじめとする関係審議会等の構成検討結果等を概観します

第1節 電力システム改革関連

1対応の方向性

 電力システム改革に関する論点整理を目的として2011年11月に「電力システム改革に関するタスクフォース」を経済産業省内に立ち上げ同年12月末に「電力システム改革に関するタスクフォース論点整理」をとりまとめましたまた同月総合資源エネルギー調査会基本問題委員会において「新しい「エネルギー基本計画」策定に向けた論点整理」がとりまとめられましたこれらを踏まえ今後のあるべき電力システムの具体的な制度設計を行うため2012年 2月に総合資源エネルギー調査会総合部会に「電力システム改革専門委員会」を設置しました本専門委員会において8回にわたり精力的な検討を進め同年7月13日に「電力システム改革の基本方針」がとりまとめられました本基本方針では小売全面自由化卸電力市場の活性化送配電部門の広域性中立性の確保等が改革の基本方針として提言されています

2 電力システム改革専門委員会の発足に至る背景委員会の構成経過今後の動き

(1)背景 2011年12月にとりまとめた「電力システム改革に関するタスクフォース論点整理」においては「低廉で安定的な電力供給」を実現する「より競争的で開かれた電

第4章東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえたエネルギー政策の見直し

エネルギー環境会議

国民的議論

エネルギー環境の選択肢の原案提示

革新的エネルギー環境戦略提示

基本問題委員会事故調査委員会(1)

原発事故の技術知見委員会(2)

電力システム改革専門委員会

省エネルギー部会

天然ガスシフト基盤整備専門委員会

資源燃料政策(3)

内閣官房原子力委員会等

総合資源エネルギー調査会

(注) 1 東京電力福島原子力発電所における事故調査検証委員会等   2 東京電力福島第一原子力発電所事故の技術的知見に関する意見

聴取会意見聴取会   3 資源燃料政策に関する有識者との意見交換会

第140-0-1  エネルギー基本計画策定関連の政府内における主な検討の場

48

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第4章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえたエネルギー政策の見直し

第4章

力市場」を構築することを基本理念とし「新たな需要抑制策」「需要家の選択」「供給の多様化」「競争の促進と市場の広域化」「安定性と効率性の両立」について10の論点をまとめました また同月にとりまとめられた「新しい「エネルギー基本計画」策定に向けた論点整理」においては「大規模集中電源に大きく依存した現行の電力システムの限界が明らかになったことを踏まえ今後は需要家への多様な選択肢の提供と多様な供給力(再生可能エネルギーコジェネ自家発電等)の最大活用によってリスク分散と効率性を確保する次世代システムを実現していく必要があるとしていますまたこうしたシステムを盤石にするためにも送配電ネットワークの強化広域化や送電部門の中立性の確保が重要な課題である」等の基本的方向性が示されました この基本的方向に沿って今後のあるべき電力システムの具体的な制度設計を行うことが喫緊の課題であることから将来のエネルギーミックスのあり方と併せこれを支える電力システムについて専門的な検討を行うため総合資源エネルギー調査会総合部会の下に「電力システム改革専門委員会」を設置しました

(2)委員会の構成 電力システム改革専門委員会の委員は学識経験者や消費者代表者等を含む11名から構成されています 一般電気事業者や特定規模電気事業者(新電力)はオブザーバーとして参加しました

(3)経過 第1回(2012年 2月 2日) 議題 電力システム改革に関するタスクフォース「論

点整理」について 第2回(2012年 3月 6日) 議題需要サイドの取組について  東京都富士フイルム株式会社一般電気事業者(中部電力株式会社関西電力株式会社)新電力(株式会社エネット)からプレゼンテーション

 第3回(2012年 4月 3日) 議題供給の多様性について  株式会社日本製紙グループ本社東京ガス株式会社JX日鉱日石エネルギー株式会社一般電気事業者(中部電力株式会社関西電力株式会社)新電力(株式会社エネット)からプレゼンテーション

 第4回(2012年 4月 25日) 議題競争の促進と広域化について  フランス送電会社(RTE)公正取引委員会一般電気事業者(中部電力株式会社関西電力株式会社)新電力(株式会社エネット)からプレゼンテーション

 第5回(2012年 5月 18日) 議題 総合的な検討(1) 小売全面自由化送配電部

門の広域化中立化 第6回(2012年 5月 31日) 議題 総合的な検討(2) 送配電部門の広域化中立

化卸電力市場の活性化等 第7回(2012年 6月 21日) 議題 総合的な検討(3) 送配電部門の広域化中立

化卸電力市場の活性化等 第8回(2012年 7月 13日) 議題 総合的な検討(4) 電力システム改革の基本方

針案

(4)電力システム改革の基本方針①需要サイド(小売分野)の改革 ア)小売全面自由化(地域独占の撤廃)  一般電気事業者による地域独占を撤廃し小売全面自由化を実施  ただし「自由化」によって供給の空白地帯が生じないよう最終保障サービス等「自由化の代償措置」には周到な設計を行う(年内を目処に詳細設計)

委員会名簿伊藤 元重(委員長) 東京大学大学院経済学研究科教授

安念 潤司(委員長代理) 中央大学法科大学院教授

伊藤 敏憲 伊藤リサーチアンドアドバイザリー代表取締役兼アナリスト

大田 弘子 政策研究大学院大学教授

小笠原 潤一 (一財)日本エネルギー経済研究所電力グループマネージャー研究主幹

柏木 孝夫 東京工業大学特命教授高橋 洋 富士通総研経済研究所主任研究員

辰巳 菊子 (公社)日本消費生活アドバイザーコンサルタント協会常任顧問

八田 達夫 学習院大学特別客員教授松村 敏弘 東京大学社会科学研究所教授横山 明彦 東京大学大学院新領域創成研究科教授

49

第2節 天然ガス

第4章

 イ)料金規制の撤廃(総括原価方式の撤廃)  競争の進展に応じて一般電気事業者の供給義務や料金規制を撤廃

②供給サイド(発電分野)の改革 ア)発電の全面自由化(卸規制の撤廃)  卸規制(発電事業者から一般電気事業者への長期大量の電力供給に供給義務や料金規制を課している)を撤廃する

  ただし卸規制の撤廃が需給に混乱を与えないよう移行期間における十分な配慮を行う

 イ)卸電力市場の活性化  特定の供給区域の枠を超えて全国大で効率的な電源の有効活用を実現するため卸電力市場で既存の事業者の電源が活発に取引される方策を講じる  具体的には少なくとも供給予備力を超える電源は卸市場に投入するとの考え方を前提とし取引ルールを設計する

③送配電部門の改革(中立性公平性の徹底) ア)送配電部門の「広域性」の確保  これまでの「供給区域ごとに需給を管理する」仕組みを改めより広域的全国的に供給力を有効活用するため広域系統運用機関を設立する イ)送配電部門の「中立性」の確保  ①機能分離型または②法的分離型の方式により各供給区域の送配電部門の中立性を確保  機能分離型hellipエリアの系統計画系統運用の機能を一般電気事業者の送配電部門から分離し広域系統運用機関に移管する方式  法的分離型hellipエリアの系統計画系統運用の機能から送配電設備を所有し開発保守する業務までを含む送配電部門全体を別法人とする方式  いずれの方式であっても中立性確保のための人事予算等に係る行為規制や送配電部門と発電小売部門との情報の取扱契約の取扱の公平性の確保が不可欠であるこうした規制の内容や様々な技術的論点を精査しながら年内を目処に詳細設計を行う ウ)地域間連系線等の強化  50Hzと 60Hzの周波数変換設備と東西連系線の容量を増強(120万kWrarr210万kWrarr300万kW)  北海道本州間連系線の増強(60万kWrarr90万kW)を早期に実現風力発電の導入状況等を踏まえて

更なる増強を検討  風力発電の重点整備地区について政策的支援も含め送配電網整備の具体的方法を検討

④詳細設計へ向けて  改革実行の際には世界で最も高い信頼性を有する我が国の技術と人材の蓄積やる気を尊重する  以上の基本方針の下制度改革を着実に実行本制度改革は新たなシステムへの投資と大きな事業体制の変革を伴うものであり綿密な詳細設計と十分な時間をかけた手順工程表が必要  年内を目処に各課題について更に検討を進める

(5)今後の動き 電力システム改革専門委員会において取りまとめられた「電力システム改革の基本方針」を踏まえ制度改革を着実に実行することとしています詳細な制度設計については年内を目途に検討を進めることとしています

第2節 天然ガス

1 天然ガスシフト基盤整備専門委員会について

(1)背景 総合資源エネルギー調査会総合部会基本問題委員会(以下「基本問題委員会」という)において昨年12月に公表された論点整理では「天然ガスシフトを始め環境負荷に最大限配慮しながら化石燃料を有効活用す

広域系統運用者(全国機関)系統計画業務の実施広域連系線(地域間連系線+主要幹線)の運用エリア(九電力管内)系統運用者への系統運用監視勧告電力市場の形成

エリアの系統運用者(地方支部)

エリアの系統運用系統計画機能

エリアの系統運用者(電力事業者の送配電部門)人事予算等の独立性ルールが必要エリアの系統運用系統計画機能

+送配電設備の所有(開発保守)電力事業者の送配電部門

電力事業者の発電小売部門 電力事業者の発電小売部門

送配電設備の所有(開発保守)

規制対象

同一組織パターン1機能分離型

(機能を分離)パターン2法的分離型

(会社を分離)

広域連系線の開発保守指示

広域連系線の開発保守指示

エリア送配電設備の開発保守指示

別会社

第141-2-1 新しい送配電部門のイメージ像

50

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第4章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえたエネルギー政策の見直し

第4章

る(化石燃料のクリーン利用)」ことを基本的方向の一つとして更に議論を深めていくこととされました 天然ガスシフトの動きについては世界的に見てもいわゆる「シェールガス革命」といった新たな供給源の立ち上がりによって天然ガスの可採年数が大幅に増加し長期的にも世界全体の需要を満たすことができる見込みも高いことから今後天然ガスが果たす役割への期待はより一層高まってきています 我が国においては東日本大震災を契機として大規模集中電源に大きく依存した現行の電力システムの限界が明らかになりました今後は原子力発電への依存度をできる限り低減させていく方向性の中で再生可能エネルギーコジェネ自家発等の多様な分散型電源の供給力の最大活用によってリスク分散と効率性を確保する次世代システムを実現していくとともに熱の有効利用を含めた最先端の省エネルギー社会を実現していくこと等が必要となりますその中で化石燃料の中でも最もクリーンでかつ世界に広く分散して賦存する天然ガスへのシフトは一層重要な課題となるものと考えられます 一方天然ガスの供給については前述のとおり東日本大震災によって今後仮に一極集中したLNG基地に天然ガス供給を依存する大都市圏において基地の機能停止が起こった場合長期にわたり供給が途絶するリスクがあることが顕在化しました このような状況を踏まえれば今後の我が国の天然ガスシフトに向けては一段と高いレベルの天然ガス供給基盤のセキュリティが不可欠です 加えて天然ガスの供給基盤にはセキュリティの向上のみならず発電用燃料都市ガス原料としての天然ガスの利用可能性向上ガス価格低廉化の可能性二酸化炭素削減等といった多様な意義があり今後はこれらの意義を踏まえつつ今後の天然ガスシフトを支えるに十分な天然ガス供給基盤の整備を進めていく必要があります 更に将来的には国際天然ガスパイプラインネットワークの形成やメタンハイドレートの開発等の動きも視野に入れながら天然ガス利用のメリットを最大限享受できるような供給基盤が長期的に構築されていくことも期待されます 以上を踏まえ天然ガスシフトに向けた基盤(広域パイプライン等)整備に関する専門的検討を行うため総合資源エネルギー調査会総合部会の下に「天然ガスシフト基盤整備専門委員会」を設置しました

(2)委員構成委員長 横倉 尚 武蔵大学経済学部教授委員 柏木 孝夫 東京工業大学特命教授 橘川 武郎 一橋大学大学院商学研究科教授 古城 誠 上智大学法学部教授 八田 達夫 学習院大学特別客員教授 松村 敏弘 東京大学社会科学研究所教授 山内 弘隆 一橋大学大学院商学研究科教授

(3)審議経過第1回(2012年 1月 17日) 本委員会で明らかにしていくべき論点について 我が国の天然ガス及びその供給基盤の現状と課題

第2回(同年2月27日)  天然ガスシフトに向けた基盤整備について事業者及びユーザー企業より意見聴取

  bull 中堅中小ガス事業者(仙台市ガス局)  bull 都市ガスユーザー企業(ブリヂストン)  bull  広域でパイプライン整備に取り組んでいる事

業者(大阪ガス中部電力国際石油開発帝石)

  bull  地下貯蔵に知見を有する事業者(石油資源開発)

第3回(同年4月6日)  これまでの議論やヒアリング結果を踏まえた論点整理について

 海外調査結果について

第4回(同年5月15日)  東京ガス大阪ガス東邦ガスからの供給継続性に関するヒアリング

 天然ガスシフト基盤整備の新しいあり方について

第5回(同年6月13日) とりまとめに向けた議論

第6回(同年6月26日) 報告書(案)について

2対応の方針

 我が国における今後の天然ガスシフトを見据えればそれを支える広域天然ガスパイプラインネットワーク

51

第3節 石油LPG

第4章

という供給基盤をできるだけ早期に構築していく必要があります

(1)整備基本方針の策定 本委員会の報告書では我が国全体における全体最適的な観点からの広域天然ガスパイプライン地下貯蔵施設等の天然ガス供給基盤の整備基本方針を国が策定し民間事業者の活力を最大限活用していくことを官民の役割分担の基本的考えとし天然ガス供給基盤整備を推進していくこととされました 整備基本方針の策定に当たっては供給セキュリティ向上利用可能性向上価格低廉化二酸化炭素削減等の多様な意義社会的効果という要素のみならず将来の国際パイプラインとの連結やメタンハイドレートの活用も視野に入れつつ世界的な「天然ガスの黄金時代」の恩恵を国民が享受できるような環境を目指していく必要があります 本委員会では整備基本方針で定めるべき内容として以下の事項が挙げられました 整備ルート等の設定 スペック熱量等の設定 整備の時間軸プライオリティ

(2)事業者間連携に向けた利害調整 報告書では整備基本方針と民間事業者との利害が一致しない場合の調整や多様なエネルギー事業者同士の連携を促進するためエネルギー事業者間の利害調整を検討すべきとされました

(3)整備費用負担の在り方 基盤整備に当たっては事業収入に加えセキュリティ向上利用可能性向上価格低廉化二酸化炭素削減等といった社会的効果の部分も含め費用負担の問題を解決する必要があります 費用負担については「受益者負担」の原則を基本としつつも受益の種類によって負担の手法は様々であり特定負担一般負担全国民負担等の様々な組み合わせが考えられる上受益の範囲程度については個別事業に基づく調整が必要となります本委員会では整備基本方針において受益者負担の手法範囲程度時点の調整等の「基本的な考え方」を示しそれに基づき整備事業ごとに負担の在り方を検討することとされました

(4)整備促進の在り方(コスト低減需要増加) 整備費用そのものの低減のため関係規制の緩和や運用見直しを進め効果の高い財政支援措置等を検討するとともにパイプライン整備と一体的に天然ガス火力や天然ガスコジェネ等の新規沿線需要を喚起し事業採算性を高めていくことが必要とされました

3今後の方向性

 今後は新たなエネルギー基本計画の内容を踏まえ様々な分野の有識者や事業者の意見知見を傾聴しつつ必要な取組を速やかに講じていくこととしています

第3節 石油LPG

1対応の方向性

(1)資源確保戦略 第15回パッケージ型インフラ海外展開関係大臣会合(2012年 6月 27日開催)において「資源確保戦略」が報告されました本戦略は「資源確保指針」(2008年 3月 28日閣議了解)の考え方を踏まえつつ世界的な資源確保競争の激化や東日本大震災以降の化石燃料の調達コスト増大等資源を巡る国内外の厳しい情勢に鑑み現在の資源確保の現状及び今後の見通しをあらためて分析し我が国の官民の持つリソースを最大限活かすために策定されたものです 資源確保戦略の5本柱として①資源獲得の重要国に対する政府一体となった働きかけ②資源ユーザー産業の上流開発への関与の促進③資源国に対する協力のパッケージ化④資源権益獲得に対する資金供給の機能強化⑤国際的なフォーラムやルールの積極活用を重点的に取り組むこととしていますなお今後のエネルギー政策の見直し結果等に伴い本戦略についても必要に応じて見直しが行われる予定です

(2)国内災害対策①石油(ア)備蓄 東日本大震災により被災した久慈国家備蓄基地において原油流出等の二次被害を防ぐため仮設復旧工事を早期に行うとともに今後の津波対策として非常用電源等の重要設備を高台に移設するための対応を

52

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第4章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえたエネルギー政策の見直し

第4章

行いました また他基地においては地震津波対策として防災訓練や基地の耐震診断等を実施する等国家備蓄基地の災害対応能力向上を図りました(イ)流通 東日本大震災を教訓とし全国的な防災減災の観点から緊急車両への優先給油を含め地域における石油製品の供給体制の整備が重要ですそのため地域において中核となるSSを選定し自家発電設備等の災害対応能力を強化する設備投資に支援を行いました

② LPG 東日本大震災においては冠水による電気系統の故障や停電による出荷設備の一時的停止等により出荷が遅れたり災害時を想定した情報収集体制が脆弱であったため適切な情報収集に時間がかかってしまったLPガス基地充填所が多く存在しましたこのことからLPガス出荷基地及び充填所の災害対応能力及び情報収集情報提供体制の強化の必要性が改めて認識されたため出荷基地や充填所に対し自家発電設備や衛星電話等の設置を行う等災害対応能力の強化等に取り組んでいます

(3) 備蓄法(「石油の備蓄の確保等に関する法律」)改正

①背景 東日本大震災発生時には製油所油槽所等やタンクローリー等の物流網が広範囲にわたって被災したため政府石油業界をあげて供給体制の早期立て直しに取り組みましたまたこのとき国内災害時としては初めて石油会社等の石油の基準備蓄量を引き下げ民間の備蓄石油を放出できるよう措置することとしました

②概要 この震災時の経験を踏まえ1970年代の石油ショックの経験から主に海外からの原油供給が不足する事態に備えて制定された「石油の備蓄の確保等に関する法律」について(a)災害時における国内の特定の地域への石油の供給不足時に石油会社等が備蓄石油を放出するための要件を緩和し(b)一定規模以上の石油業者

に対し共同で地域ごとに災害時の連絡体制や設備の共同利用の方法等を定めた計画の作成を義務付ける規程を加える等の改正を行うことで災害時にも確実に石油を供給する体制を強化することとしました同改正案22は2012年 2月 10日に閣議決定し国会に提出されました

2 資源燃料政策に関する有識者との意見交換会

 本会は「エネルギー需給安定行動計画」(2011年 11月 1日エネルギー環境会議決定)を踏まえ資源燃料政策のうち先行して取り組むべき事項について個別施策の具体化な議論を行ために全5回わたり開催されましたまた従来の総合資源エネルギー調査会にとらわれずに意見交換会を行うため消費者被災自治体防災物流の専門家資源燃料のユーザ産業等の多岐にわたりメンバーを募集し並行して会合の開催と同時に事務局から示された「たたき台」をホームページで公表し国民各層からも広く意見を募集しました 本会は「災害時における石油ガスの安定供給」と「世界的な資源需要の高まりや災害等を踏まえた資源開発確保」という二つのテーマを設け前期テーマでは東日本大震災後に生じた供給支障の教訓をふまえた初動対応の迅速化大規模災害を見越した災害に強い供給体制の整備について検討を行いました後期テーマでは国際的な資源需要の高まり震災後の新たな資源需要を踏まえた化石燃料や鉱物資源地熱資源の開発の促進に向けての体制の検討を行いました とりまとめ後にWEB上で「資源燃料の安定供給確保のための先行実施対策」を公表し今後の資源確保の政府方針を示していきました

第4節 エネルギー環境会議 エネルギーシステムの歪み脆弱性を是正し安全安定供給効率環境の要請に応える短期中期長期からなる革新的エネルギー環境戦略及び2013年以降の地球温暖化対策の国内対策を政府一丸となって策定するため2011年 6月 7日にエネルギー環境会議が設置されました本会議は国家戦略担当大臣を

22 災害時における石油の供給不足への対処等のための石油の備蓄の確保等に関する法律等の一部を改正する法律案です

53

第4節 エネルギー環境会議

第4章

議長経済産業大臣と環境大臣兼原発事故の収束及び再発防止担当大臣を副議長とするものですエネルギー環境戦略の白紙からの見直しに先立ち2011年 7月 29日に「革新的エネルギー環境戦略策定に向けた中間的な整理」をまとめ原子力発電所への依存度低減分散型システムへの移行国民的議論の展開という三つの大きな方向性を提示しました エネルギー環境会議は2011年 10月 3日に「コスト等検証委員会」を設置しその検討の結果として同年12月 19日に同委員会報告書により戦略見直しの前提条件となる社会的費用も含めた電源別の発電コストを明らかにしましたまた同月21日に原子力発電所への依存度低減という方針を実現する上で化石燃料への依存度低減を旨とするエネルギー安全保障との両立をどう図るのか地球温暖化対策との両立をどう図るのか経済性に優れ安全なエネルギー確保をどう現実のものとするのかといった視点から春を目途にまずはエネルギー環境戦略に関する複数の選択肢を提示しその上で夏の戦略決定につなげるという基本方針を提示しました この基本方針に基づき原子力委員会総合資源エネルギー調査会及び中央環境審議会は原子力政策エネルギーミックス国内温暖化対策をどう組み直すのかという視点で選択肢提示に向けた検討を行いました2012年 6月 8日にエネルギー環境会議はこれら関係会議体での検討をとりまとめ統合的な選択肢案を提示するため選択肢設計の中間的整理を決定しました 更に関係会議体がこの中間的整理を踏まえながら検討を進め2012年 6月 29日に「エネルギー環境に関する選択肢」を提示しましたこの中で政府は新しいエネルギー選択として「原発からグリーンへ」とい

う大きな方向性のもと2030年に向け原子力発電所低減の度合いや再エネ省エネルギーの拡大の度合いやスピードが異なるゼロ1520~25の三つのシナリオを提示しました エネルギー環境会議ではこの三つのシナリオをもとに国民同士の対話が進むよう国民的議論を更に展開しエネルギー環境の選択肢に関する情報提供データベースの整備意見聴取会の全国11カ所での開催討論型世論調査パブリックコメントの募集等を行いました

1 エネルギー環境の選択肢に関する情報提供データベースの整備

 内閣官房国家戦略室ホームページに特設サイト「話そうldquoエネルギーと環境のみらいrdquo」を開設し三つの選択肢が決定されるまでの議論の経過や元となる考え方やデータこの課題に関する様々な分野の有識者の声等の提供を行いました(第144-1-1)

2意見聴取会

 2012年 7月 14日のさいたま市をはじめとして全国11カ所で「エネルギー環境の選択肢に関する意見聴取会」を実施しました(福島会場では「エネルギー環境の選択肢に関する福島県民の意見を聴く会」として開催)

(1)実施形式 参加者は一会場100~200名で希望者を公募し抽選で選出し聴取会をインターネットで中継配信しました 聴取会では担当省庁(内閣官房経済産業省環境省)の政務が出席し冒頭政府から選択肢について説明しましたその後に希望者を公募し抽選で選出した意見表明者全員の意見を聞いた上で意見表明者による追加コメント及びやり取りを行いました意見表明者の人数は当初三つのシナリオごとに3名ずつとしていましたが途中から人数を12名に拡大し三つのシナリオ以外の意見の表明者も追加し更に意見表明希望者の割合に応じて人数を配分することとしましたまた福島県民の意見を聴く会ではシナリオの区別なく意見表明者を公募し30名の意見表明者が陳述することとしました参加者に対しては会場でアンケートを実施しました

63

10

26

2010年実績 ゼロシナリオ 15シナリオ 20~25シナリオ

現行エネルギー基本計画

65

35

55

30

15

50 50

30

20

25

25

20

45

35

火力

原子力

再生可能エネルギー

第144-0-1  各シナリオにおける発電構成(2030年)

54

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第4章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえたエネルギー政策の見直し

第4章

(2)開催場所開催スケジュール7月14日 さいたま市7月15日 仙台市7月16日 名古屋市7月22日 札幌市大阪市7月28日 富山市7月29日 広島市那覇市8月1日 福島市(福島県民の意見を聴く会)8月4日 高松市福岡市

3討論型世論調査

 「エネルギー環境の選択肢に関する討論型世論調査実行委員会」23が政府のエネルギー環境会議より提示された「エネルギー環境に関する選択肢」(2012年 6月 29日)に関する「討論型世論調査」を2012年7月上旬から実施しました24

(1)討論型世論調査の概要 討論型世論調査とは複雑な政策課題についての市民の表面的な理解の下での意見を調べる通常の世論調査に加え無作為に抽出された属性や意見の異なる市民が当該課題について学習し専門家の情報提供を受け市民同士での議論を経ることにより熟慮した上での意見の変化を調べる手法です同手法は米国スタンフォード大学のフィシュキン教授らにより考案され世界全体で40回以上国内では過去5回実施されてきました

(2)具体的な調査方法①最初に無作為に抽出された一般市民に対して通常と同様の世論調査(T1)を行う②その中からあらかじめ定めた日に1カ所に集まり開催する「討論フォーラム」に参加する者を無作為に抽出し討論課題についてバランスよく情報をまとめた討論資料を郵送し学習いただく③討論フォーラムの最初に2度目の意向調査(T2)を行う④討論フォーラムに参加した市民を小グループに分けて訓練されたモデレータの司会のもとで市民同士で討論を行う「小グループ討論」と参加者が専門家(パネリスト)に質問を行う「全体会議」を繰り返す

23 実行委員会が討論型世論調査の企画運営を行い中立的な運営を担保する方法の一つとして監修委員会の監修専門家委員会の意見や助言の提供第三者検証委員会による実行委員会から独立した立場での討論型世論調査の実施過程の検証が行われました24 2012 年 7 月 12 日に実行委員会より今回の討論型世論調査は無作為抽出による「電話世論調査」を 7月上旬から中旬に2日間の「討論フォーラム」を 8月 4日5日に行う事が発表されました

第144-1-1 国民的議論パンフレット(ジュニア用)より

55

第5節 エネルギー基本計画の検討

第4章

⑤討論フォーラムの最後に3度目の調査(T3)を行い三つの調査結果の変化を分析する

4パブリックコメント

 インターネット郵送FAXで「エネルギー環境に関する選択肢」に対する意見の募集を2012年 7月 2日から開始しました当初7月末日を締切としていましたが同年7月13日に締切を同年8月12日まで延長しました

第5節 エネルギー基本計画の検討

1基本問題委員会の設置

 エネルギー基本計画はエネルギー政策の基本的な方向性を示すためにエネルギー政策基本法に基づきエネルギーの需給に関する基本的な方針や講ずべき施策等を内容とする政府が策定する計画であり関係行政機関の長の意見を聴くとともに総合資源エネルギー調査会の意見を聴いて経済産業大臣が案を作成し閣議で決定することとなっています 直近のエネルギー基本計画は2010年 6月に策定されましたが東日本大震災及び東京電力福島第一原子力発電所の事故を踏まえエネルギー政策をゼロベースから見直し新たな計画を策定すべく2011年 10月に総合資源エネルギー調査会総合部会に基本問題委員会(以下委員会と表記)が設置され委員長に三村明夫総合資源エネルギー調査会総合部会長が就任しました

2委員会の議論の経過

 委員会は2011年 10月 3日に第1回委員会が開催されましたエネルギーに関する様々な議題についてこれまで約10カ月に亘り計30回開催され25エネルギーに関する相互に独立した審議会等からの報告等や議論が行われています

(1) 新しい「エネルギー基本計画」策定に向けた論点整理(2011年 12月 20日)

 第1回委員会以降委員会では様々な論点について幅広い意見が出され議論が行われましたそれを受け第6回基本問題委員会(2011年12月6日)に『新しい「エネルギー基本計画」策定に向けた論点整理(案)』が提示され第6回委員会第7回委員会(2011年 12月 13日)で議論が行われましたとりまとめられた論点整理では今後の本格的な議論の出発点として主要な論点についてこれまでの議論の大きな方向感が整理されました

(2) 「エネルギーミックスの選択肢の原案について」(2012年 6月19日)

 第27回委員会(2012年 6月 19日)においてエネルギー環境会議に報告を行う「エネルギーミックスの選択肢の原案」が取りまとめられ四つのエネルギーミックスの選択肢26がエネルギー環境会議に報告することとされました 提示された四つの選択肢はそのうち三つの選択肢(選択肢1~3)が「定量的なイメージ」と「必要な対策」の双方をパッケージとして含むものとされ四つ目の選択肢は「定量的なイメージ」を明示しない選択肢とされました(選択肢4)

①選択肢1意思を持って原子力発電比率ゼロをできるだけ早期に実現し再生可能エネルギーを基軸とした電源構成とする 《2030年の電源構成のイメージ》 原子力発電 0 再生可能エネルギー27 約 35 火力発電28 約 50 コジェネ29 約 15 省エネルギー(節電)30 約2割(約1割) エネルギー起源CO2排出量31 約16

25 2012 年 7 月 30 日現在26 同時に参考として「不確実な状況下での幅広い選択肢を確保するため意思を持って現状程度の原発の設備容量を維持し原子力発電比率を 2010 年度より拡大させる」シナリオについて経済影響や二酸化炭素排出量等の試算を行い上記のⅰ~ⅳの選択肢と併せて提示することとされました27 「再生可能エネルギー」には本来廃棄物発電は含まれませんがここでは便宜上廃棄物発電を含めたものが「再生可能エネルギー」とされました28 火力発電には自家発(モノジェネのみ)を含みます29 コジェネには家庭用燃料電池を含みますまた売電分(系統への逆潮流)を含みます

56

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第4章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえたエネルギー政策の見直し

第4章

30 省エネルギー及び節電の数字は2010 年度実績比です31 参考として1990 年比の数値を基本問題委員会事務局が試算した数値です

②選択肢2意思を持って再生可能エネルギーの利用拡大を最大限進め原子力依存度を低減させる併せて原子力発電の安全強化等を全力で推進する情勢の変化に柔軟に対応するため2030年以降の電源構成はその成果を見極めた上で本格的な議論を経て決定する 《2030年の電源構成のイメージ》 原子力発電 約 15 再生可能エネルギー 約 30 火力発電 約 40 コジェネ 約 15 省エネルギー(節電) 約 2割(約1割) エネルギー起源CO2排出量 約20

③選択肢3安全基準や体制の再構築を行った上で原子力発電への依存度は低減させるがエネルギー安全保障や人材技術基盤の確保地球温暖化対策等の観点から今後とも意思を持って一定の比率を中長期的に維持し再生可能エネルギーも含め多様で偏りの小さいエネルギー構成を実現する

 《2030年の電源構成のイメージ》 原子力発電 約 20~25 再生可能エネルギー 約 20~25 火力発電 約 35 コジェネ 約 15 省エネルギー(節電) 約 2割(約1割) エネルギー起源CO2排出量 約23

④選択肢4社会的コストを事業者(更には需要家)が負担する仕組みの下で市場における需要家の選択により社会的に最適な電源構成を実現する 《2030年の電源構成のイメージ》本選択肢についてはエネルギーミックスの定量的なイメージは提示しない

 以上の四つの選択肢がエネルギー環境会議に報告されエネルギー環境会議はこの原案を原子力委員会や中央環境審議会等で検討されている原子力政策や地球温暖化対策の選択肢の原案と合わせてとりまとめ「エネルギー環境戦略に関する選択肢」を統一的に提示し国民的な議論を進めることとなりました

(別表)第145-2-1 基本問題委員会 委員一覧(2012年 7月 30日現在)三村 明夫(委員長) 新日本製鐵代表取締役会長阿南 久 全国消費者団体連絡会事務局長飯田 哲也 NPO法人環境エネルギー政策研究所所長植田 和弘 京都大学大学院経済学研究科教授槍田 松瑩 三井物産取締役会長

枝廣 淳子 ジャパンフォーサステナビリティ代表幸せ経済社会研究所所長

大島 堅一 立命館大学国際関係学部教授柏木 孝夫 東京工業大学特命教授金本 良嗣 政策研究大学院大学教授学長特別補佐北岡 伸一 東京大学大学院法学政治学研究科教授橘川 武郎 一橋大学大学院商学研究科教授河野 龍太郎 BNPパリバ証券経済調査本部長チーフエコノミスト榊原 定征 東レ代表取締役会長

崎田 裕子 ジャーナリスト環境カウンセラーNPO法人持続可能な社会をつくる元気ネット理事長

菅家 功 日本労働組合総連合会副事務局長高橋 洋 富士通総研主任研究員辰巳 菊子 (公社)日本消費生活アドバイザーコンサルタント協会常任顧問

57

第5節 エネルギー基本計画の検討

第4章

田中 知 東京大学大学院工学系研究科教授寺島 実郎 (一財)日本総合研究所理事長豊田 正和 (一財)日本エネルギー経済研究所理事長

中上 英俊 住環境計画研究所代表取締役所長東京工業大学統合研究院特任教授

八田 達夫 学習院大学特別客員教授伴  英幸 認定NPO法人原子力資料情報室共同代表松村 敏弘 東京大学社会科学研究所教授山地 憲治 (公財)地球環境産業技術研究機構理事研究所長

(別表)第145-2-2 各開催回の議題と概要(第30回委員会まで)開催回 日時 議題 概要第1回 2011年

10月3日エネルギー基本計画の見直しについて

①「『革新的エネルギー環境戦略』策定に向けた中間的な整理」の報告②自由討議

第2回 10月26日 ベストミックスを考える視点等 阿南委員飯田委員橘川委員崎田委員及び高橋委員からのプレゼンテーションとそれに基づく質疑等

第3回 11月9日 ベストミックスと原子力の位置づけ国民視点からのエネルギー政策等

①ベストミックスと原子力の位置づけについて田中委員及び伴委員からのプレゼンテーションとそれに基づく質疑等②国民視点からのエネルギー政策について枝廣委員河野委員辰巳委員及び八田委員からのプレゼンテーションとそれに基づく質疑等

第4回 11月16日 国際情勢とベストミックスユーザーからみたベストミックス等

①国際情勢とベストミックスについてファンデルフーフェンIEA事務局長寺島委員及び豊田委員からのプレゼンテーションとそれに基づく質疑等②ユーザーからみたベストミックスについて榊原委員及び中上委員からのプレゼンとそれに基づく質疑等

第5回 11月30日 あるべきベストミックスと政策市場技術の関わり等

槍田委員柏木委員金本委員松村委員山地委員及び植田委員からのプレゼンとそれに基づく質疑等

第6回 12月6日 論点整理等 ①論点整理について議論②第2回核セキュリティサミット開催に向けた韓国の賢人会議について北岡委員によるプレゼンとそれに基づく質疑等③スウェーデンのエネルギー政策についてコーベリエル元スウェーデンエネルギー庁長官からのプレゼンとそれに基づく質疑等④2011年夏の電力需要対策のフォローアップについて

第7回 12月12日 論点整理等 ①論点整理について議論②当面の議題等について議論

第8回 2012年1月18日

電力システム改革についてエネルギー環境会議による「基本方針」及びコスト等検証委員会の結果 等

①電力システム改革について議論②エネルギー環境会議による「基本方針」及びコスト等検証委員会の結果等について議論③地球温暖化対策の経緯と現状④資源燃料の安定供給確保のための先行実施対策⑤電力システム改革に関するタスクフォース論点整理

第9回 1月24日 原子力発電の位置づけ 等 原子力発電の位置づけ等について議論第10回 2月1日 東京電力福島原子力発電所に

おける事故調査検証委員会の中間報告について新たな原子力安全規制体系の検討状況について 等

①東京電力福島原子力発電所における事故調査検証委員会の中間報告について②新たな原子力安全規制体系の検討状況について③東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の技術的知見に関する意見聴取会(原子力安全保安院)の中間論点整理について④東京電力による賠償進捗状況⑤東京電力福島原子力発電所における事故調査検証委員会 中間報告 について⑥内閣官房原子力安全規制組織等改革準備室 新たな原子力安全規制体系について⑦福島第一事故の技術的知見に関する意見聴取会 中間とりまとめ(案)について⑧世界の原子力賠償制度の概要原子力損害賠償補償契約の補償料率の改定について⑨低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ報告書について⑩原子力被災者への取組について

58

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第4章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえたエネルギー政策の見直し

第4章

32 <ヒアリング対象>電気事業連合会(八木誠会長)株式会社エネット(池辺裕昭社長)石油連盟(天坊昭彦会長)日本ガス協会(鳥原光憲会長)日本 LPガス協会(松澤純会長)33 <ヒアリング対象>全国知事会エネルギー環境問題特別委員会(橋本昌委員長(茨城県知事))

第11回 2月9日 省エネルギー節電対策(熱の有効活用を含む)について 等

省エネルギー節電対策(熱の有効活用を含む)等について議論

第12回 2月14日 主要なエネルギー供給事業者団体からのヒアリングと質疑エネルギー安全保障について(委員からの論点提起と質疑) 等

①主要なエネルギー供給事業者団体32からのヒアリングと質疑②エネルギー安全保障について事務局から資料()を提出するとともに飯田委員高橋委員田中委員寺島委員豊田委員八田委員からの論点提起と質疑日本に加え主要国(アメリカ英国フランスドイツスペイン中国インド韓国)の自給率一次エネルギー供給構成電源構成化石燃料輸入先停電時間省エネ等について分析した資料

第13回 2月22日 全国知事会からのヒアリングと質疑再生可能エネルギーの導入拡大の可能性について化石燃料の確保とクリーン利用の可能性について 等

①全国知事会33からのヒアリングと質疑②再生可能エネルギーの導入拡大の可能性について③化石燃料の確保とクリーン利用の可能性について④ドイツやスペインにおける固定価格買取制度の最近の状況 等

第14回 3月7日 原子力発電の位置づけ 等 ①原子力政策大綱の見直しや核燃料サイクル政策の選択肢の検討状況等に関する原子力委員会からの報告及び質疑等②ドイツにおける固定価格買取制度の最近の状況(続報)ドイツ商工会議所が行ったアンケート「明日のエネルギーと資源」の紹介 等

第15回 3月14日 エネルギーミックスの選択肢について 等

①各委員から提出されたエネルギーミックスに関する意見を元にエネルギーミックスの選択肢について議論②「エネルギーの使用の合理化に関する法律(省エネ法)の一部を改正する法律案」の概要

第16回 3月19日 エネルギーミックスの選択肢について 等

各委員から提出されたエネルギーミックスに関する意見を元にエネルギーミックスの選択肢について議論

第17回 3月27日 エネルギーミックスの選択肢について 等

各委員の意見を類型化したエネルギーミックスの選択肢に関する整理(案)を提示しどの選択肢を経済影響分析の対象とするかについて議論

第18回 4月11日 エネルギーミックスの選択肢について 等

エネルギーミックスの選択肢について各選択肢の基本的な考え方や対策等について議論

第19回 4月16日 エネルギーミックスの選択肢について 等

①エネルギーミックスの選択肢について各選択肢の基本的な考え方や対策等について議論②再生可能エネルギーの導入拡大に伴う追加的コスト

第20回 4月26日 エネルギーミックスの選択肢について 等

エネルギーミックスの選択肢について各選択肢の基本的な考え方や対策等について議論

第21回 5月9日 エネルギーミックスの選択肢について 等

エネルギーミックスの選択肢の候補の経済影響分析結果や選択肢の原案の取りまとめ方等について議論

第22回 5月14日 エネルギーミックスの選択肢について 等

①省エネに関する専門的な検証結果について議論②コジェネに関する専門的な検証結果について議論③「エネルギーミックスの選択肢の原案」の整理のあり方について議論

第23回 5月21日 エネルギーミックスの選択肢について 等

①電力システム改革専門委員会及び天然ガスシフト基盤整備専門委員会の検討状況の報告②経済影響分析に係る感度分析の結果について議論③「エネルギーミックスの選択肢の原案」の整理のあり方について議論

第24回 5月24日 エネルギーミックスの選択肢について 等

「エネルギーミックスの選択肢の原案」の整理のあり方について議論

第25回 5月28日 エネルギーミックスの選択肢について 等

①経済影響分析を巡る論点について議論②「エネルギーミックスの選択肢の原案」について議論

第26回 6月5日 エネルギーミックスの選択肢について 等

①「エネルギーミックスの選択肢の原案」について議論②2020年のエネルギーミックスのあり方について議論

第27回 6月19日 エネルギー基本計画の見直しについて(資源燃料政策について 等)

①エネルギー環境会議における選択肢に関する中間的整理について報告②エネルギー基本計画の見直しに関する主要な論点について議論③資源燃料の安定供給の課題と今後の対応について議論

第28回 7月5日 エネルギー基本計画の見直しについて(蓄電池及び水素についてエネルギー基本計画の見直しの主要論点について 等)

①エネルギー環境会議で提示された選択肢について報告②蓄電池及び水素について議論③資源確保戦略について

59

第5節 エネルギー基本計画の検討

第4章

第29回 7月11日 エネルギー基本計画の見直しについて(スマートコミュニティー熱国際エネルギー協力について 等)

①熱の有効利用及びスマートコミュニティについて議論②エネルギー基本計画』の見直しに関する主要な論点について議論③国際エネルギー環境協力について議論④天然ガスシフトに向けた基盤整備について議論

第30回 7月30日 エネルギー基本計画の見直しについて(電力システム改革コジェネ普及策「エネルギー基本計画」の骨子について 等)

①電力システム改革専門委員会の検討結果について報告②コジェネの導入促進のための取組について議論③エネルギーに関する今後の重点施策について議論

60

参考資料

東京電力福島原子力発電所における事故調査検証委員会 最終報告(概要)

はじめに【ⅠⅥはじめに】 平成 23 年 3 月 11 日東京電力株式会社(以下「東京電力」という)福島第一原子力発電所(以下「福島第一原発」という)及び福島第二原子力発電所(以下「福島第二原発」という)は東北地方太平洋沖地震とこれに伴う津波によって損傷し特に福島第一原発では国際原子力放射線事象評価尺度(INES)レベル 7の極めて深刻なシビアアクシデントが発生した 同年 5月 24 日この事故の原因及びこの事故による被害の原因を調査検証し事故による被害の拡大防止及び同種事故の再発防止等に関する政策提言を行うことを目的に閣議決定に基づき当委員会が設置された当委員会はその後福島第一原発及び福島第二原発を始めとする現地の視察関係地方自治体の首長や住民からの意見聴取関係者のヒアリング(対象者数 772 名)等の調査検証活動を行い同年 12 月 26 日に中間報告を取りまとめさらに平成 24 年 7 月 23日に最終報告を取りまとめた 最終報告は中間報告と一体となるものであり主として中間報告後の調査検証の結果を記述したものである この概要は最終報告のうち問題点の考察と提言に当たるⅥ章の記述を中心に簡略化したものである見出しの後の【 】内は「最終報告(本文編)」の主な該当箇所を示す提言は太字で表記している

1 主要な問題点の分析(1)事故発生後の東京電力等の対処及び損傷状況に関する分析a 福島第二原発における現場対処と比較した福島第一原発の問題点【Ⅱ 5(8)Ⅵ 1(1)a】 福島第一原発における事故対処に関する問題点については中間報告に記述したとおりであるがその後の調査で判明した福島第二原発における現場対処の実際と比較して以下のような問題点が改めて明らかとなった

(a)3号機代替注水 福島第一原発 3号機においては高圧注水系手動停止の際に代替手段をあらかじめ準備しなかったことにより6時間以上にわたって原子炉注水が中断した福島第二原発では手順の細目について相違があるものの基本的には次なる代替手段が実際に機能するか否かを確認の上で注水手段の切替えを行うという対応がとられていた 福島第二原発では外部電源が使用可能であったことから作業環境も福島第一原発と比較すると良好であり事態の対応に当たったスタッフは心理的にもより余裕があったと思われるしかしこれらの点を考慮したとしても福島第一原発における対応は適切さを欠いたものであった

(b)2号機 SC 圧力温度の監視 福島第一原発 2号機では平成 23 年 3 月 11 日の全電源喪失以降原子炉隔離時冷却系(RCIC)が作動していたものの電源喪失により制御不能でありいつ停止するかも分からない状況にあった中で同月 12 日 4 時頃以降RCIC の水源を復水貯蔵タンクから圧力抑制室(SC)に切り替えたしかし電源喪失によって残留熱除去系による冷却が期待できない場合にこのような運転方法を長時間継続するとSC の圧力及び温度が上昇しRCIC の冷却機能及び注水機能が低下するほかRCIC が機能しなくなった場合の次なる代替注水手段である消防車を用いた消火系注水に必要な主蒸気逃し安全弁(SR 弁)による減圧操作が困難になるなどのおそれがあったしたがってSC の圧力及び温度を継続して監視するとともにあらかじめ消防車注水ラインを準備しRCIC 停止を待たずに原子炉減圧操作を行う必要があったと考えられるしかし実際には同月 14 日 4 時 30 分頃まで前記のような計測が行われず速やかな代替注水が実施されることもなかった 他方福島第二原発ではRCIC 作動中から間断なく注水を実施することを視野に入れSC の圧力及び水温を監視しながら段階的に SR 弁を開操作して復水補給水系による注水を実施するなどの対応がとられた 前記(a)で述べように福島第一原発と福島第二原発では状況の違いはあるにせよ福島第一原発における対処は福島第

61

参考資料

二原発におけるそれと比べて適切さが欠けていたと指摘せざるを得ない

b 損傷状況の継続した徹底的な解明の必要性【Ⅵ 1(1)b】 当委員会は可能な限りの事実の調査検証を行ってきたが現地調査における困難性や時間的制約等のため福島第一原発の主要施設の損傷が生じた箇所その程度時間的経緯を始めとする全体的な損傷状況の詳細放射性物質の漏出経緯原子炉建屋爆発の原因等についていまだに解明できていない点も存在する国電力事業者原子力発電プラントメーカー研究機関関連学会といったおよそ原子力発電に関わる関係者(関係組織)は今回の事故の事実解明と検証を最後まで担うべき立場にありこうした未解明の諸事項についてそれぞれの立場で包括的かつ徹底した調査検証を継続する組織的態勢を組むべきである

(2)事故発生後の政府等の事故対処に関する分析a 原子力災害現地対策本部【Ⅲ 5(4)Ⅵ 1(2)a】 政府の原子力災害対策マニュアル(以下「原災マニュアル」という)は原子力災害現地対策本部(以下「現地対策本部」という)の設置される緊急事態応急対策拠点施設(以下「オフサイトセンター」という)が機能するということを前提に作成されているが今回の事故の際はその前提が崩れ原災マニュアルが予定していたような対応ができなくなるという問題が生じた そもそもシビアアクシデントにおいてもオフサイトセンターが機能するような方策をあらかじめ講じておくべきであったし仮にオフサイトセンターが機能しなくなるような事態になったとしても事故に対処できるような方策を併せて講じておく必要があった また原子力災害対策本部(以下「原災本部」という)長から現地対策本部長への権限の委任については原子力安全保安院(以下「保安院」という)職員が原災本部長である菅直人内閣総理大臣(以下「菅総理」という)の了承を求めるタイミングを失した上現地対策本部から再三にわたって委任手続の進捗状況の確認を求められても主体的に動かずまた内閣官房及び内閣府の職員も保安院に対して委任手続を進めるよう注意喚起せず委任手続が行われないという問題が発生した そのような状況において現地対策本部は経済産業省緊急時対応センター(ERC)に置かれた原災本部事務局とも協議の上必要な措置を漏れなく迅速に行うため権限の委任手続が終了しているものとして避難措置の実施等について種々の決定を行いかつ実施した

b 原子力災害対策本部【Ⅲ 2(1)4(2)Ⅵ 1(2)b】(a)官邸内の対応 原災マニュアルによれば原子力災害が発生した際政府における緊急事態応急対策の中心となる原災本部は官邸に設置しまた情報の集約内閣総理大臣への報告政府としての総合調整を集中的に行うため官邸地下にある官邸危機管理センターに官邸対策室を置くこととされているまた各省庁の局長級幹部職員は同センターに参集することとされておりそのメンバーを「緊急参集チーム」と呼んでいる同チームには緊急時において迅速的確な意思決定がなされるよう各省庁が持つ情報を迅速に集約しそれに基づいて機動的に意見調整を行うことが期待されている しかし今回の事故においては避難措置等の事故対応についての重要な意思決定の多くはこの官邸危機管理センター(緊急参集チーム)から離れて官邸地下の中 2階の一室又は官邸 5階において関係閣僚原子力安全委員会(以下「安全委員会」という)委員長保安院幹部東京電力幹部らにより行われた一般に原子力災害が発生した場合できる限り情報入手が容易で現場の動きを把握しやすい現場に近い場所に対策の拠点が設置される必要がある政府における福島第一原発の情報収集拠点であったERC から離れた官邸内において意思決定が行われていたことまた官邸内においてもその情報集約拠点である官邸危機管理センターとは離れた別の場所(官邸 5階等)において意思決定が行われていたことなどから情報の不足と偏在が生じ十分な情報がないままに意思決定せざるを得ない場合も生じたという点は今回の一つの大きな教訓とすべきである なお平成 23 年 3 月 15 日に東京電力本店に福島原子力発電所事故対策統合本部が設置されたことは福島第一原発についての情報アクセスの改善という面では積極的に評価をすることも可能であるが政府の対応に必要な情報は必ずしも東京電力に係る情報のみではない上東京に本社本店のない他の電力会社の原子力発電所において同様の事故が発生する場合もあり得ることから今回の事例を普遍的な先例とするべきではない正確な情報を迅速に入手することはいうまでもなく原子力災害対策の基本である電力事業者の本社本店に移動することなく官邸等政府施設内にいながらよ

62

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

り情報に近接することのできる仕組みの構築が検討されるべきである

(b)情報収集の問題点 中間報告で詳述したようにERCの中に東京電力本店やオフサイトセンターが東京電力のテレビ会議システムを通じて現場の情報を得ていることを把握している者はほとんどおらず東京電力のテレビ会議システムをERCにも設置するということに思いが至らなかったまた情報収集のために保安院職員を東京電力本店へ派遣するといった積極的な行動も起こさなかった

c 福島県災害対策本部【Ⅳ 3(2)bⅥ 1(2)c】 福島県は平成 23 年 3 月 11 日知事を本部長とする福島県災害対策本部(以下「県災対本部」という)を設置し事故対応に当たったが県災対本部内外の連携等が十分ではなかったために避難区域内に取り残された双葉病院の入院患者等の避難救出が大きく遅れるなどの問題が発生した 被災地からの避難救出における今回のような事態の再発を防ぐためには県が設置する災害対策本部の班編成を平時の組織を単に縦割り的に寄せ集めたものでなく対応すべき措置に応じた横断的機能的なものにするとともに全体を統括調整できる仕組みを設けかつ各班相互の意思疎通の強化を図ること防災計画においても県の災害対策本部に詰める職員のみならず必要に応じいつでも他の職員も災害対応に当たる全庁態勢をとること等が必要である また原子力災害においてはその規模の大きさから県が前面に出て対応に当たらなければならずこの点を踏まえた防災計画を策定する必要がある

d その他の具体的な対応に関する分析【Ⅲ 2(1)Ⅵ 1(2)d】(a)原子力緊急事態宣言の発出 平成 23 年 3 月 11 日 17 時 42 分頃海江田万里経済産業大臣(以下「海江田経産大臣」という)は寺坂信昭原子力安全保安院長(以下「寺坂保安院長」という)らと共に菅総理に対し原子力災害対策特別措置法第 15 条第 1項に定める原子力緊急事態の発生を報告するとともに原子力緊急事態宣言の発出について了承を求めたしかし寺坂保安院長らは菅総理から福島第一原発の原子炉の状況や関連法令等について問われこれに対して十分な説明をすることができないまま時間が経過し菅総理は同日 18 時 12 分頃から約 5分間予定されていた与野党党首会談に出席したため上申手続は一時中断した同会談から戻った菅総理は間もなく原子力緊急事態宣言の発出を了承し同宣言は同日 19 時 3 分に発出された一般的に原子力災害においては事態が急速に進展することがあり得るところであり進行している事態や関連法令の詳細についての把握よりまず緊急事態宣言の発出を優先すべきであったと思われる

(b)福島第一原発視察 菅総理は平成 23 年 3 月 12 日福島第一原発事故に関する情報が十分に入っていなかったことなどから福島第一原発の視察を実行したこの視察は事故もなく終了し結果的には福島第一原発におけるベント実施への影響もなかったと認められるしかしながら今回のような大規模災害事故が発生した場合において最高指揮官の立場にある内閣総理大臣が長時間にわたって官邸を離れ危険が伴う現地視察を行い緊急対応に追われていた現地を訪れたことについては他の代わりとなる人物を派遣して状況を確認させるなどの方法によるべきではなかったのかという点でなお疑問が残る

(c)具体的事故対処についての官邸の関与 菅総理は平成 23 年 3 月 12 日 18 時過ぎ頃海江田経産大臣からその直前に同大臣が発した福島第一原発 1号機原子炉への海水注入命令について報告を受けた際炉内に海水を注入すると再臨界の可能性があるのではないかとの疑問を発しその場に同席した班目春樹原子力安全委員会委員長(以下「班目委員長」という)がその可能性を否定しなかったことから更に海水注入の是非を検討させることとしたその場に同席していた東京電力の武黒一郎フェロー(以下「武黒フェロー」という)は同日 19 時過ぎ頃福島第一原発の吉田昌郎所長に電話し「今官邸で検討中だから海水注入を待ってほしい」と強く要請した菅総理が再臨界の可能性についての質問を発した際その場には班目委員長のほか平岡英治原子力安全保安院次長武黒フェロー等の原子炉に関する専門的知見を有する関係者が複数いたが的確な応答をした者はおらず誰一人として専門家としての役割を果たしていなかったまた安易に海水注入を中止させようとした東京電力幹部の姿勢にも問題があったこのようなすぐれて現場対処に関わる事柄はまず現場の状況を最も把握し専

63

参考資料

門的技術的知識も持ち合わせている事業者がその責任で判断すべきものであり政府官邸はその対応を把握し適否についても吟味しつつも事業者として適切な対応をとっているのであれば事業者に任せ対応が不適切不十分と認められる場合に限って必要な措置を講じることを命ずるべきである当初から政府や官邸が陣頭指揮をとるような形で現場の対応に介入することは適切ではないと言えよう

(3)被害の拡大防止策に関する分析a 原発事故の特異性【Ⅵ 1(3)a】 原子力発電所の大規模な事故は施設設備の壊滅的破壊という事故そのものが重大であるだけでなく放出された放射性物質の拡散によって広範な地域の住民等の健康生命に影響を与え市街地農地山林海水を汚染し経済的活動を停滞させひいては地域社会を崩壊させるなど他の分野の事故には見られない深刻な影響をもたらすという点で極めて特異であるこのような原発事故の調査検証に当たっては事故原因とその背景について明らかにするだけでなく被害の発生拡大を防止する取組が適切であったのか否かそれが十分なものでなかったとするならそれはなぜなのかといった問題についても多角的に調査分析しあるべき被害防止への方策を見いださなければならない

b モニタリングの在り方【Ⅳ 1(2)aⅥ 1(3)b】 モニタリングに関する問題点等については既に中間報告で述べたとおりであるがさらにオフサイトセンターが機能しない場合のモニタリングの役割分担について指摘しておきたい 今回の事故においてはオフサイトセンターにある現地対策本部を拠点としたモニタリング活動が十分でなかったことから平成 23 年 3 月 16 日関係機関の役割分担が整理され各機関が実施しているモニタリングのデータの取りまとめ及び公表は文部科学省がデータの評価は安全委員会が安全委員会が行った評価に基づく対応は原災本部がそれぞれ行うことが取り決められたしかし急を要する状況の中でデータ評価の範囲等について関係機関の間で事前に十分な調整が行われた上で取決めがなされたとは言い難い状況にあった このような応急の状況で役割分担の取決めが必要となったのはモニタリングデータの集約評価公表評価に基づく対応という一連の作業を担うこととされていた現地対策本部(オフサイトセンター)が機能しない事態が生ずることを想定していなかったためと考えられる今回の事態を教訓にモニタリング態勢整備の見直しが必要である

c SPEEDI の活用の在り方【Ⅳ 2(1)(3)(4)Ⅵ 1(3)c】(a)システム及びその活用主体の問題点 緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)は原子力事故発生時緊急時対策支援システム(ERSS)から伝送される放出源情報を前提に周辺環境における放射線量率等を予測することができる装置であるがERSS は事故発生時には機能しなくなるおそれがありその場合の SPEEDI の活用方法についてあらかじめ検討しその検討結果を事故対応に当たるべき関係者間で共有しておくべきであった しかしながら事故対応に当たっていた多くの者はERSS が機能しなくなるや SPEEDI を避難に活用する余地はないものと考えていた環境放射線モニタリング指針には放出源情報が得られない場合の SPEEDI の活用方法も記載されていたがこれを避難に活用できるとのコンセンサスもなかったまたオフサイトセンターが機能しなくなった場合における SPEEDI の活用主体(運用及び公表の責任を負う機関)についても明確になっていなかった

(b)SPEEDI と避難指示 SPEEDI が有効に活用されなかった大きな原因は前記(a)のとおりいずれの関係機関もERSS から放出源情報が得られない場合には SPEEDI を避難に活用することはできないという認識の下これを避難の実施に役立てるという発想を持ち合わせていなかった点にあったと考えられるしかしSPEEDI により単位量放出を仮定した予測結果は得られており仮にその情報が提供されていれば各地方自治体及び住民はより適切に避難のタイミングや避難の方向を選択できた可能性があったと言えようERSS から放出源情報を得られない場合でもSPEEDI を活用する余地はあったと考えられる

d 住民に対する避難指示【Ⅳ 3(1)b(2)Ⅵ 1(3)d】 住民に対する避難指示に関する問題点等については中間報告で述べたとおりであるが中間報告後の調査検証を踏まえ更に以下の点を指摘しておく

64

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

(a)福島第二原発から 10km圏外への避難指示 平成 23 年 3 月 12 日 17 時 39 分福島第二原発から半径 10km圏外への避難指示が発出されたこの避難指示は同日15 時 36 分の福島第一原発 1号機における爆発を受け官邸 5階において福島第二原発についても同様の事象が発生する可能性があるので万一の事態に備える必要があるとの判断に基づいて発出されたものであり原子炉への注水状況原子炉の水位や圧力等の福島第二原発の各号機の具体的状況を踏まえて検討されたものではなかった この避難措置の約 1時間後の同日 18 時 25 分福島第一原発から 20km圏外への避難指示が発出されたが広野町北端のごく一部の地域のみは福島第一原発から 20kmの範囲に含まれないので福島第二原発から 10km圏外への避難指示が発出されなければ避難指示区域に含まれることはなかった福島第二原発から 10km 圏外への避難指示については情報不足で混乱する中福島第一原発 1号機の原子炉建屋爆発という事態を受けて判断されたが当時の福島第二原発の状況は実際には比較的安定しておりその決定過程には問題が残った

(b)病院患者等の避難 寝たきりの患者が多く入院していた双葉病院については入院患者の救出が大きく遅れかつ搬送先が遠方の高等学校の体育館とされるなど不適切と言わざるを得ない事態が生じたこうした事態の再発を防ぐためには前記(2)cで指摘したもののほか避難を担当する自衛隊が警察無線を有する県警に協力を求めるなどして外部との連絡体制の確保に留意する必要があるまた言うまでもなく人命救助に当たる者は改めてその責任の重さを自覚し強い責任感を持って任務に当たるべきである

e 被ばくへの対応【Ⅳ 4(3)b(c)(5)ab(6)5(2)aⅥ 1(3)e】(a)APD の未装着問題 事故発生後の福島第一原発の作業員(放射線業務従事者)にとって各自が警報付きポケット線量計(APD)を装着しその受けた放射線量を測定することは線量限度を超える被ばくを避けるため不可欠であったしかし福島第一原発においてはもともと配備されていたAPD が被水するなどしたため平成 23年 3月 15日以降の作業において代表者のみがAPD を装着する例外的な運用を始めこれが同月 31 日まで続いた この問題について調査したところ実際には事故発生直後に他の発電所等から合計 950 個のAPD が届けられていたが適合する充電器や警報設定器がないなどとして使用されないまま放置されたこと等が明らかとなった その経緯等を見ると現場作業員の被ばく防止に関する東京電力社員の意識は低かったと言わざるを得ないこれは「被ばく線量はできる限り小さくすべきである」という広く受け入れられている国際放射線防護委員会(ICRP)の考え方が十分に理解されていないことをうかがわせるものであり東京電力における被ばく回避の放射線教育の在り方に問題があったと言わざるを得ない

(b)国のヨウ素剤服用指示 現地対策本部医療班は平成 23 年 3 月 13 日スクリーニングレベルに関する現地対策本部長指示を発出するための準備を始めたその過程において安全委員会はERCに対しスクリーニングレベルを超えた者に対しては安定ヨウ素剤を投与すべきとのコメントをFAX 送信し安全委員会からERCに派遣されていたリエゾンがこれを受け取ったしかしこのコメントはERC 医療班内で共有検討が行われず現地対策本部にも伝えられなかったこれは同リエゾンが安全委員会のコメントを本部長指示に盛り込むことの重要性必要性を認識していなかったことによるものと考えられる 他方安全委員会も前記コメントが前記指示に盛り込まれないであろうことを知りながら「委員会はあくまでも助言機関である助言すべき事項は既に助言した」との理由から何らそれ以上のアクションを起こさなかった点で国民の安全を所管する行政機関としての責任感に欠けていたと言わざるを得ない

(c)県のヨウ素剤服用指示 三春町は平成 23 年 3 月 14 日深夜住民の被ばくが予想されたことから安定ヨウ素剤の配布服用指示を決定し同月 15 日町民に周知を行い薬剤師の立会いの下安定ヨウ素剤の配布を行ったこれを知った福島県の職員は三春町に対し国からの指示がないことを理由に配布中止と回収の指示を出したが三春町はこれに従わなかった安定ヨウ素剤の服用についての安全委員会の意見が前記(b)のような経緯で葬られている点を考慮すると国からの指示がなかったからという理由で三春町の判断を不適切であったと言うことはできない現在安定ヨウ素剤の服用については基

65

参考資料

本的に国の災害対策本部の判断に委ねる運用となっているが前記経験を踏まえ各自治体等が独自の判断で住民に服用させることができる仕組み事前に住民に安定ヨウ素剤を配布することの是非等について見直すことがむしろ必要であろう

(d)スクリーニングレベルの引上げ 福島県は当初スクリーニングレベルを 40Bqcm2(1 万 3000cpm相当)と設定していたが平成 23 年 3 月 13 日同月 14 日以降の全身除染のスクリーニングレベルを 10 万 cpmに引き上げた安全委員会は福島県のスクリーニングレベル引上げの意向を知りERCに対し一旦はスクリーニングレベルを 1万 3000cpmに据え置くべきであるとの助言を行ったが同月 19 日には 10 万 cpmへの引上げを是認する助言を行い現地対策本部長は同月 20 日スクリーニングレベルを 10 万 cpmとする指示を発出した しかし当時は全身除染(シャワー)のスクリーニングレベルの引上げではなく線量等に応じたきめ細かな除染方法(脱衣拭き取り等)の策定こそが必要であったまた安全委員会が発出した 10 万 cpmというスクリーニングレベルを許容する助言及びこれに基づいて現地対策本部長が発出した指示はスクリーニングレベルを単純に 10 万 cpm に引き上げるのみで検出レベルが 1万 3000cpm 以上 10 万 cpm 未満であった者に対しては何らの除染も要求しておらずその者に対する除染は不要であるかのように解釈する余地があるものとなっておりかえって問題であったまたスクリーニングレベルについては同月 13 日に発せられた現地対策本部長指示が県災対本部の担当班に伝わっていないなど国と県のコミュニケーションに関する問題も発生した今回のような緊急事態にあっては重要情報を関係者がしっかりと共有することの重要性を認識し関係行政組織間の調整能力に長けた者が緊急事態対応部署(班)のトップを構成し国や地方自治体の関係行政機関が一体となって事故対処に当たることが不可欠である

(e)校舎校庭等の利用基準 文部科学省は平成 23 年 4 月 19 日学校等の校舎校庭等の利用判断基準について38μSvh(年間にすると ICRP が定める「現存被ばく状況」における参考レベルの上限値である 20mSv に相当)以上の空間線量率が測定された学校等については校庭での活動を 1日 1時間程度に制限し38μSvh 未満の空間線量率が測定された学校については平常どおり利用して差し支えないとする考え方を公表したこれに対してはあたかも 20mSv年までの被ばくを許容するもので子どもへの配慮に欠ける事前に十分な説明や広報がなされなかったといった批判や懸念が寄せられた 確かに文部科学省の当時の説明は20mSv年を利用の基準値にしたと理解されてもやむを得ない面があり放射線に対する強い不安を解消するものとは言い難くリスクコミュニケーションの観点から見ても適切ではなかったまた一般に大人よりも放射線の影響が大きいと言われる子どもが利用する校舎校庭等について「現存被ばく状況」の上限値を用いたことが適当であったかどうかについてもなお議論の余地があろう その後文部科学省はより生活実態に合わせた被ばく線量の再試算を行い1年間で 10mSv 以下という数値を示したしかし放射線が子どもに対して与える影響は大人に対するそれよりも大きいとされていることICRP 勧告が「現存被ばく状況」においても参考レベル 1~20mSv年の中でできる限り被ばく線量を低減するよう求めていること(防護の最適化)などを考慮すると国としては10mSv年という数値に安心することなく被ばく線量をできる限り低くするような方策をとるべきであり38μSvh 未満の学校等についても校庭等での活動に基準を設けるなどして被ばく線量をより低く抑えるよう配慮するのが適当であったと思われる

(f)緊急被ばく医療機関 福島第一原発において事故が発生した場合の初期被ばく医療機関として 6病院が指定されていたがそのうち 4病院は避難区域内に立地していたことから被ばく医療機関としての機能を果たすことができなかったしたがって今回のようなシビアアクシデントが発生した場合においても緊急被ばく医療が提供できるよう緊急被ばく医療機関を原子力発電所周辺に集中させず避難区域に含まれる可能性の低い地域を選定しそこに相当数の初期被ばく医療機関を指定しておくとともに緊急被ばく医療機関が都道府県を超えて広域的に連携する態勢を整える必要があると考えられる

(g)放射線に関する国民の理解 今回の事故を契機として改めて放射線防護に万全を期する必要があることが再確認されたが他方で放射線を「正しく恐れる」必要性についても認識させられた今後も不必要な被ばくをできる限り避けるため最大限の努力が払われるべきことは当然であるがそれと同時に個々の国民が放射線のリスクについて正確な情報に基づいて判断できるようすな

66

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

わち情報がないためにいたずらに不安を感じたり逆にリスクを軽視したりすることがないようできる限り国民が放射線に関する知識や理解を深める機会が多く設けられる必要がある

f 国民への情報提供に関する分析【Ⅳ 8(2)(4)(5)(8)(9)Ⅵ 1(3)f】(a)官邸の事前了解 平成 23 年 3 月 12 日福島第一原発 1号機の「炉心溶融」の可能性が保安院の中村幸一郎審議官によって広報された官邸に詰めていた関係者はそれまで「炉心溶融」の可能性について報告を受けていなかったため保安院が官邸の把握していない事実を事前告知することなく広報したとして問題視し広報内容について官邸への事前連絡を求めたこのことが契機となって寺坂保安院長の判断で保安院においてはプレス発表に先立って内容について官邸の事前了解を得ることとしたまた東京電力も同月 13 日以降プレス発表に先立って官邸の了解を得た上で広報することとしこれらが原因でプレス発表が遅れることがあった 政府の意思決定及び広報の中心となるべき官邸としては迅速な情報提供を求めるのは当然のことであるがプレス発表の際に事前了解を得た上で行うこととすると緊急性を有する情報が直ちに広報できない状況が生ずるおそれがある緊急性の高い情報については各広報機関が独自の判断で広報することが必要となる場面もあり情報の全てについて官邸の事前了解を求めることは必ずしも適切ではない

(b)炉心溶融を積極的に否定した保安院の広報 前記(a)のとおり保安院はプレス発表前に官邸の了解を得ることとしたがその後保安院広報官の一部には「炉心溶融」に言及するのを避けるためかなり無理のある広報をした形跡が認められるすなわち平成 23 年 3 月 14 日の保安院のプレス発表において西山英彦保安院付が炉心溶融の可能性を肯定し又は炉心溶融の可能性を否定しない発言を行った際同席した保安院職員が同発言を取り消すかのように「まだ溶融とかそういう段階ではないと思っております」などと炉心溶融の可能性を積極的に否定する趣旨の発言を行った 前記の保安院職員の発言はその主観的認識がどうであったかはともかく炉心溶融の可能性という否定し難い事実を積極的に否定する内容となっており中央及び現地の災害対策関係者や地域住民の切羽詰まった情報ニーズを誤った方向へ導く極めて不適切なものであった

(c)放射線の影響に関する広報 福島第一原発事故による一般住民等の被ばく又は被ばくのおそれについての広報の際政府はしばしば「直ちに(人体に影響を及ぼすものでない)」との表現を用いたしかしながら「直ちに人体に影響を及ぼすものではない」との表現については「人体への影響を心配する必要はない」という意味と反対に「直ちに人体に影響を及ぼすことはないが長期的には人体への影響がある」という意味がありいずれの意味で用いているのか必ずしも明らかではなかったこのようなどちらの意味にも受け取れる表現は緊急時における広報の在り方として避けるべきでありリスクコミュニケーションの観点からも今後の重要な検討課題である

(d)「不測事態シナリオの素描」の不公表問題 平成 23 年 3 月 22 日菅総理は原子力委員会委員長である近藤駿介氏に対し福島第一原発事故の最悪事態の想定とその場合の対策を検討するよう依頼したこの依頼を受けて同氏は「福島第一原子力発電所の不測事態シナリオの素描」(以下「素描」という)を作成し同月 25 日細野豪志内閣総理大臣補佐官(以下「細野補佐官」という)へ提出した細野補佐官は素描が示す対策についての検討を進めたが素描を公表することはしなかった素描はその内容が現実に発生する可能性の低い仮定的事実に基づいたシミュレーションであったことから素描を公表しなかったことが不適切であったとまでは言えないただし一般論として言えば仮定の事実に基づくシミュレーション結果であっても公表の必要性シミュレーション結果に対する対策の有無公表のタイミングを考慮し前提条件を丁寧に説明した上で公表するという選択肢もあり得ると考えられる

g 国外への情報提供や諸外国等との連携の在り方【Ⅳ 910(2)Ⅵ 1(3)g】(a)諸外国との情報共有 事故発生後我が国は必ずしも諸外国が満足するような事故関連情報の提供を行っていなかった諸外国とりわけ日本国内に多数の市民が在住する国や近隣国に対する情報提供は我が国の国民に対するそれと同様に極めて重要であ

67

参考資料

り迅速かつ正確な情報提供ができるよう言語の違いにも配慮した上積極的かつ丁寧な対応が求められる

(b)諸外国からの支援の受入れ 我が国は諸外国からの支援物資を受け入れる態勢に不備があったほか受入物資を保管する場所がなかったことから当初支援物資の提供を直ちに受け入れることができなかった原子力災害発生時に諸外国から支援物資の提供があった場合はできる限り早くこれを受け入れることが国際礼譲の点からも国内における支援物資の必要性を迅速に満たすという点からも必要である今後は今回のような初期段階での混乱と不適切な対応が生じないよう支援物資の受入態勢について担当官庁のマニュアルや原子力事業者防災業務計画等において対応方法を定めておく必要がある

(4)事故の未然防止策や事前の防災対策に関する分析a 総合的リスク評価とシビアアクシデント対策の必要性【Ⅴ 3(1)(2)Ⅵ 1(4)a】(a)外的事象を対象としたアクシデントマネジメント導入に至らなかった経緯 我が国においてはアクシデントマネジメントとして整備されたのは内的事象に起因する対策のみで地震津波等の外的事象は具体的な検討対象とはならなかった このような事情の背景としてはシビアアクシデント対策を検討するのに有用な手法とされる確率論的安全評価(PSA)については福島原発事故発生以前に確立されていた外的事象 PSAは地震 PSAのみで手法として限定的であったこと定期安全レビューが外的事象 PSA についての技術的水準の進歩を勘案してシビアアクシデント対策の改善を促す機会とはならなかったこと外的事象 PSA を実施して合理的追加対策があれば行うことを奨励すべきとの指摘があったものの耐震バックチェックの作業等の事情から早急に導入を検討するには至らなかったことなどが挙げられる その結果として地震 PSAによる評価や津波に対する安全評価を始めとして事故の起因となる可能性がある火災火山斜面崩落等の外部事象を含めた総合的なリスク評価は行われていなかった

(b)総合的リスク評価の必要性 施設の置かれた自然環境は様々であり発生頻度は高くない場合ではあっても地震地震随伴事象以外の溢水火山火災等の外的事象及び従前から評価の対象としてきた内的事象をも考慮に入れて施設の置かれた自然環境特性に応じて総合的なリスク評価を事業者が行い規制当局等が確認を行うことが必要であるその際には必ずしも PSA の標準化が完了していない外的事象についても事業者は現段階で可能な手法を積極的に用いるとともに国においてもその研究が促進されるよう支援することが必要である

(c)総合的リスク評価を踏まえたシビアアクシデント対策の策定 原子力発電施設の安全を今後とも確保していくためには外的事象をも考慮に入れた総合的安全評価を実施し様々な種類の内的事象や外的事象の各特性に対する施設の脆弱性を見いだしそれらの脆弱性に対し設計基準事象を大幅に超え炉心が重大な損傷を受けるような場合を想定して有効なシビアアクシデント対策を検討し準備しておく必要があるまたそれらの対策の有効性についてPSA 等の手法により評価する必要がある その場合PSA 手法の未成熟等によりリスク評価方法に制約があるとしてもその特徴と限界を理解の上事業者は自らの施設の安全性確保のためのシビアアクシデント対策の検討評価を行うべきでありその検討に当たっては諸外国の状況等についても十分参照する必要がある規制当局等も緊急性のあるシビアアクシデント対策の実施については自然災害等の際に果たして有効かどうかリスク評価手法等を用いて確認検討すべきである

b 原子力防災対策の見直し【Ⅴ 4(2)(3)Ⅵ 1(4)b】 原子力防災体制の整備については国際原子力機関(IAEA)における原子力又は放射線緊急事態に関する安全基準の策定に伴い平成 18 年に安全委員会において「原子力施設等の防災対策について」(以下「防災指針」という)の見直し作業が行われ我が国における予防的措置範囲(PAZ)の導入等が検討されたが安全委員会と保安院との調整の結果防災指針に PAZ の概念や範囲は直接には書き込まないこととなった 原子力災害と大規模自然災害とが同時期に発生する複合災害については保安院において検討が開始されたが自然災害原子力災害を所掌する中央防災会議での検討の申入れが行われたのは東日本大震災のわずか三日前であった 今回の事故以前の原子力防災対策を重点的に充実すべき地域の範囲は原子力発電所から8~10km 圏内とすることを大前提に仮想事故を相当に上回る事故の発生時でも十分対応可能であるとみなして設定されていたが今回の事故に鑑み

68

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

どのような事故を想定して避難区域等を設定するのか再検討することが必要である また原子力災害の際の国の責任の重要性に鑑み単に住民避難等の原子力施設敷地外の対応にとどまらず事業者と協議しつつ原子力災害の際に事業者への支援や協力として国が行うべきことの内容を検討すべきである

(5)原子力安全規制機関等に関する分析【Ⅴ6Ⅵ 1(5)】 保安院は事故の未然防止のための取組や事故後の対応においてその所掌にふさわしい役割を十分に果たしてきたとは言い難い保安院のこのような問題点を踏まえ当委員会は中間報告において原子力安全規制機関の在り方として5点の指摘を行った最終報告においてはその後の調査検証の結果を踏まえ以下の 2点の指摘を加えることとするなお今回追加する 2点は安全委員会についても共通する事柄である① 国際機関外国規制当局との積極的交流 現在の保安院等の定員状況ではIAEA やアメリカ合衆国原子力規制委員会への少数の人事交流にとどまりまた国内事務処理に優先的に当たらざるを得ないために国際会議等での十分なプレゼンスの発揮には限界があり規制当局等の組織の実力の向上や原子力安全に関する国際社会との協調に十分に資するには至っていない 国の行政機関の定員措置については行政機関全体の問題であることから保安院等のみに関する検討で済むものではないが原子力安全の重要性に鑑み新たに設置される原子力安全規制機関の定員措置については十分に考慮する必要があるまた新設の規制機関においては前記定員措置のほか国際貢献を果たすにふさわしい態勢整備に努めるとともに国際機関外国規制当局との人的交流を担える人材の育成に努めるべきである② 規制当局の態勢の強化 原子力発電の安全を確保するためには単に発生した個別問題への対応にとどまらず国内外の最新の知見はもとより国際的な安全規制や核セキュリティ等の動向にも留意しつつ国内規制を最新最善のものに改訂する努力を不断に継続する必要があるまた今回のような事故の未然防止が重要なことはいうまでもないが原子力災害の社会への影響の大きさに鑑みれば災害発生時に迅速かつ有効な活動が展開できるよう平常時から防災計画の策定や防災訓練等を実施し緊急時の対応に万全を期すべきであるさらに緊急事態において専門知識に基づく的確な助言指導ができる専門的技術能力や組織が有するリソースを有効かつ効率的に機能させるマネジメント能力の涵養に努めなければならないそのためにはそれにふさわしい予算人的スタッフの在り方の検討が必要である

(6)東京電力に関する分析【Ⅵ1(6)】a 危機対応能力の脆弱性 今回のシビアアクシデントに対する東京電力社員の対処対応を検証していくと自ら考えて事態に臨むという姿勢が十分ではなく危機対処に必要な柔軟かつ積極的な思考に欠ける点があったと言わざるを得ないこのことは個々人の問題というよりは東京電力がそのような資質能力の向上を図ることに主眼を置いた教育訓練を行ってこなかったことに問題があったと言うべきであろう更に問題を遡っていくと東京電力を含む電力事業者も国も我が国の原子力発電所では深刻なシビアアクシデントは起こり得ないという安全神話にとらわれていたがゆえに危機を身近で起こり得る現実のものと捉えられなくなっていたことに根源的な問題があると思われる 東京電力には原子力安全に関し一次的な責任を負う事業者としてこれまでの教育訓練の内容を真摯に見直し原子力に携わる者一人一人に対し事故対処に当たって求められる資質能力の向上を目指した実践的な教育訓練を実施するよう強く期待する

b 専門職掌別の縦割り組織の問題点 東京電力は原子力災害に組織的一体的に対処するため緊急時対策本部等の組織化を図りその中に発電班復旧班技術班等の機能班を設けているしかしこれらの機能班は事態を見渡して総合的に捉えその中に自らの班の役割を位置付け必要な支援業務を行うといった視点が不足していた

c 過酷な事態を想定した教育訓練の欠如 緊急時対策本部内の機能班に所属する一人一人が時宜にかなった判断をなし得ずまた機能班として十分な機能が果たし得なかったことの根底には複数号機において全交流電源が喪失するといった過酷な事態を想定した十分な教育訓練がなされていなかったことがあると考えられる

69

参考資料

d 事故原因究明への熱意の不足 東京電力は事故から 1年以上が経過した現時点においてもなお事故原因について徹底的に解明して再発防止に役立てようとする姿勢が十分とは言えない当委員会としては東京電力が今後も事故原因の解明を積極的に進めることを強く求める

e より高い安全文化の構築が必要 東京電力は原子力発電所の安全性に一義的な責任を負う事業者として国民に対して重大な社会的責任を負っているが津波を始め自然災害によって炉心が重大な損傷を受ける事態に至る事故の対策が不十分であり福島第一原発が設計基準を超える津波に襲われるリスクについても結果として十分な対応を講じていなかった組織的に見ても危機対応能力に脆弱な面があったこと事故対応に当たって縦割り組織の問題が見受けられたこと過酷な事態を想定した教育訓練が不十分であったこと事故原因究明への熱意が十分感じられないことなどの多くの問題が認められた東京電力は当委員会の指摘を真摯に受け止めてこれらの問題点を解消しより高いレベルの安全文化を全社的に構築するよう更に努力すべきである

(7)IAEA 基準などとの国際的調和に関する分析【Ⅴ5Ⅵ 1(7)】 保安院などの規制当局等はIAEA 安全基準を参照して国内基準の見直しや策定を行う必要性は認識していたもののほとんど実施してこなかった原子力発電の安全を確保するためには国内外の原子力に関する知見の蓄積や技術進歩に合わせて国内の規制水準を常に最新のものとしていくことが必要であるそのためにはIAEA等の国際基準の動向も参照して国内基準を最新最善のものとする不断の努力をすべきである またこれまでも地震や津波に関する分野ではIAEA の基準策定活動に我が国も貢献してきたが今回の事故への反省を踏まえて原子力安全に関する教訓を学びそれを我が国のみならず他国での同様の事故の発生防止に資するよう事故から得られた知見と教訓を国際社会に発信していく必要があるまた国内基準の見直しを行う場合それを国際基準として一般化することが有効有益なものについてはIAEA等の基準に反映されるように努めるなどして国際貢献を行うべきである

2 重要な論点の総括(1)抜本的かつ実効性ある事故防止策の構築【Ⅵ2(1)】 当委員会は福島第一原発の損傷状況や事故対処の実態国や東京電力等による原発事故防止に向けた事前の取組状況等について調査検証を行い中間報告及び最終報告においてそれぞれについて多くの問題点があったことを指摘した当委員会としては国電力事業者原子力発電プラントメーカー研究機関原子力学会といったおよそ原子力発電に関わる関係者が指摘を真摯に受け止め問題点を解消改善するための具体的取組を進めることを強く要望する技術的原子力工学的な問題点を解消改善するためにどのような具体的取組が必要かは原子力全般についての高度な専門的知見を踏まえた検討が必要なものも少なくないこれについては原子力発電に関わる関係者においてその専門的知見を活用して具体化すべきでありその検討に当たっては当委員会が指摘した問題点を十分考慮するとともにその検討の経緯及び結果について社会への説明責任を果たす必要があると考える

(2)複合災害という視点の欠如【Ⅵ2(2)】 東日本大震災は地震津波原発事故からなる大規模かつ広域的な複合災害であり国及び地方自治体は地震や停電等により通信手段等が途絶する中オフサイトセンターの機能が十分に発揮できなくなったりモニタリング機器等に損傷が生ずるなど様々な場面で混乱し問題への対応に遅れや不備等が生じた国や大半の地方自治体において原発事故が複合災害という形で発生することを想定していなかったことは原子力発電所それ自体の安全とそれを取り巻く地域社会の安全の両面において我が国の危機管理態勢の不十分さを示したものであった今後原子力発電所の安全対策を見直す際には大規模な複合災害の発生という点を十分に視野に入れた対応策の策定が必要である

(3)求められるリスク認識の転換【Ⅵ2(3)】 近年地震研究においてはプレートテクトニクス論をベースに震源域の地域別特性や大津波を引き起こすいわゆる津波地震の海底断層の特性発生の頻度と発生確率の確率論的な評価などが注目されるようになってきたそういう新たな知見を防災対策の重点地域の特定に利用することはそれなりに合理性があると言える

70

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

 しかし①地震津波の確率論的評価は記録が詳しく残っている限られた事例を根拠にしており古文書等の記録が不十分で地震津波の規模や震源モデルを推定しにくい長い周期で起きているものについてはデータベースから外されていること②研究組織や関係行政機関によって防災対策の根拠を明確にするために地震津波等の自然災害の発生確率計算の精度の向上が図られた反面自然現象には現在の学問の知見を超えるような事象が起こることがありそういう極めてまれな事象への備えも必ず並行して考慮しなくてはならないという伝統的な防災対策の心得が考慮されなくなりがちになっていたこと③地震津波の想定について極めてまれなケースについては「残余のリスク」「残る課題」等の表現で検討課題に挙げられてはきたが実際には継続して深く検討されずに放置されてきたこと等に見られるように学問の進歩の一方でそこから防災対策の隙間が生まれるという問題が生じていたこのような落とし穴から抜け出すには安全対策防災対策の前提となるリスクの捉え方を次のように大きく転換させる必要があろう ① 日本は古来様々な自然災害に襲われてきた「災害大国」であることを肝に命じて自然界の脅威地殻変動の規模と時間スケールの大きさに対し謙虚に向き合うこと ② リスクの捉え方を大きく転換すること 今回のような巨大津波災害や原子力発電所のシビアアクシデントのように広域にわたり甚大な被害をもたらす事故災害の場合には発生確率にかかわらずしかるべき安全対策防災対策を立てておくべきであるという新たな防災思想が行政においても企業においても確立される必要がある ③ 安全対策防災対策の範囲について一定の線引きをした場合「残余のリスク」「残る課題」とされた問題を放置することなく更なる掘り下げた検討を確実に継続させるための制度が必要である

(4)「被害者の視点からの欠陥分析」の重要性【Ⅵ2(4)】 原子力発電に関わる領域を「システム中枢領域」「システム支援領域」「地域安全領域」の三つに分けた上で事業者側の視点からシステムの安全性を見るとまず懸命に取り組むのは「システム中枢領域」の安全確保であるがその安全性の認識が確信にまでなると中枢領域以外の安全性の確保については緩みが生じがちになるまた「システム中枢領域」にせよ「システム支援領域」にせよ安全性を確保してあると言っても設計の前提条件の範囲内でのことであって条件外の事象が起きた場合には安全性は担保されなくなるすなわち ① 事業者や規制機関が「システム中枢領域」の安全性を設計の前提条件の枠の中だけで過信すると安全対策が破綻する ② 「システム支援領域」や「地域安全領域」における安全対策は「システム中枢領域」の安全性のレベルにかかわりなく万一の場合に独立して機能するものでなければならないその原則が忘れられると地域の人々の命に関わる安全防護壁に多くの「穴」(欠陥)ができてしまう危険性が高くなる そのような欠陥を見付け安全への防護壁を確実なものにするための方法として立ち位置を被害を受ける側に置いた「被害者の視点からの欠陥分析」と言うべき方法を提案したいこれは規制関係機関や地方自治体の防災担当者が災害問題の専門家の協力を得て「もしそこに住んでいるのが自分や家族だったら」という思いを込めて最悪の事態が生じた場合自分に何が降りかかってくるかを徹底的に分析するという方法である 行政と事業者がなすべきことは分析によって浮かび上がった対策の不備や欠陥について改善策を講じていくことであるがすぐに全ての欠陥の「穴」を塞ぐのは困難であろうその場合残された対策とその問題点を公表し今後どう対処していくべきかを規制関係機関と関係自治体が地域の住民と議論して共働で次善の策を絞り出すという取組が重要となるだろうそのような地域の住民の視点に立った災害の捉え方と安全への取組が定着して初めてこの国に真の安全で安心できる社会を創造することができると言えよう 事故が起きると広範囲の被害をもたらすおそれのある原子力発電所のようなシステムの設計設置運用に当たっては地域の避難計画を含めて安全性を確実なものにするために事業者や規制関係機関による「被害者の視点」を見据えたリスク要因の点検洗い出しが必要でありそうした取組を定着させるべきである なお住民の避難計画とその訓練については原発事故による放射性物質の飛散範囲が極めて広くなることを考慮して県と関係市町村が連合して混乱を最小限にとどめる実効性のある態勢を構築すべきである

(5)「想定外」問題と行政東京電力の危機感の希薄さ【Ⅵ2(5)】 「想定外」という言葉には大別すると二つの意味がある一つは最先端の学術的な知見をもってしても予測できなかった事象が起きた場合でありもう一つは予想されるあらゆる事態に対応できるようにするには財源等の制約から無理があるため現実的な判断により発生確率の低い事象については除外するという線引きをしていたところ線引きした範

71

参考資料

囲を大きく超える事象が起きたという場合である今回の大津波の発生はこの 10 年余りの地震学の進展と防災行政の経緯を調べてみると後者であったことが分かる福島県沖の津波地震への防災対策に関するこれまでの行政の意思決定過程を行政の論理の枠内で見るとそれなりの合理性があったことは否定できないしかし今回の事故による甚大な被害を前にして行政には何の誤りもなかった「想定外」の大地震大津波だったから仕方がないと言って済ますことはできるだろうかそれでは安全な社会づくりの教訓は何も得られないだろう 行政の論理や責任の有無とは関係なく被害を少しでも小さくする方法あるいは選択肢はなかったのか行政の意思決定の枠組みを変革する道はなかったのかという視点から要因分析を行うと次のような問題点が浮かび上がってくる ① 地震についての科学的知見はいまだ不十分なものであり研究成果を逐次取り入れて防災対策に生かしていかなければならない換言すればある時点までの知見で決められた方針を長期間にわたって引きずり続けることなく地震津波の学問研究の進展に敏感に対応し新しい重要な知見が登場した場合には適時必要な見直しや修正を行うことが必要である ② 発生確率が低いかあるいは不明という理由により財源等の制約からある地域が防災対策の強化対象から外されていた場合万一大地震大津波が発生すると被害は非常に大きくなると考えられる行政は少数であっても地震研究者が危険性を指摘する特定の領域や例えば津波堆積物のような古い時代に大地震大津波が発生した形跡がある領域については地震の実態解明を急ぐための研究プロジェクトを立ち上げるとか関係地域に情報を開示して行政住民専門家が一体となって万一に備える新しい発想の防災計画を策定する等の取組をすべきであろう ③ 中央防災会議が決める防災計画は原発立地を特別視することなく進められてきたが今後は原発立地の領域における災害リスクを注視すべきである原子力発電所の防災対策は保安院の担当とされてきたが中央防災会議の方針は原子力発電所の防災対策にも密接に関連することから中央防災会議においても原子力発電所を念頭に置いた検討を行うべきである一方東京電力の津波対策の経緯等を追ってみると同社には原発プラントに致命的な打撃を与えるおそれのある大津波に対する緊迫感と想像力が欠けていたと言わざるを得ないそしてそのことが深刻な原発事故を生じさせまた被害の拡大を防ぐ対策が不十分であったことの重要な背景要因の一つであったと言えるであろう

(6)政府の危機管理態勢の問題点【Ⅵ2(6)】 今回原災マニュアルに規定のない官邸 5階が一種の司令センターとなりまた菅総理が前面に出た形で事故対応に当たった背景には現地対策本部が本来的な役割を果たせなかったこと官邸による情報集約態勢や安全委員会による助言機能が十分ではなかったことなどの事情があったしかしながら内閣総理大臣は政府の各機関部局に情報収集とその対応策を任せ専門部署から上がる重要事項に関してのみ選択肢を出させた上で適切な最終決断を行うというのがその本来の役割である自らが当事者として現場介入することは現場を混乱させるとともに重要判断の機会を失しあるいは判断を誤る結果を生むことにもつながりかねず弊害の方が大きいと言うべきであろう 今回の事態を教訓に原子力事故と地震津波災害との複合災害の発生を想定した原災マニュアルの見直しを含め原子力災害発生時の危機管理態勢の再構築を早急に図る必要があるその検討に当たってはオフサイトセンターの強化という観点に加えてそもそも現地対策本部に関係機関が参集して事故対処に当たるという枠組みでは対応できない事態が発生した場合にどのような態勢で対応に当たるべきかについても具体的に検討し必要な態勢を構築しておく必要がある

(7)広報の問題点とリスクコミュニケーション【Ⅵ2(7)】 今回の事故において事故発生後の政府の国民に対する情報の提供の仕方には避難を余儀なくされた周辺住民や国民の立場からは真実を迅速正確に伝えていないのではないかとの疑問や疑いを生じさせかねないものが多く見られた周辺住民の避難にとって重要な放射性物質の拡散状況とその予測についての情報提供方法炉心の状態(特に炉心溶融)や福島第一原発 3号機の危機的な状態等に関する情報提供方法また放射線の人体への影響について頻繁に「直ちに人体に影響を及ぼすものではない」といった分かりにくい説明が繰り返されたことなどである 国民と政府機関との信頼関係を構築し社会に混乱や不信を引き起こさない適切な情報発信をしていくためには関係者間でリスクに関する情報や意見を相互に交換して信頼関係を構築しつつ合意形成を図るというリスクコミュニケーションの視点を取り入れる必要がある緊急時における迅速かつ正確でしかも分かりやすく誤解を生まないような国民への情報提供の在り方についてしかるべき組織を設置して政府として検討を行うことが必要である加えて広報の仕方によっては国民にいたずらに不安を与えかねないこともあることから非常時緊急時において広報担当の官房長官に的確な助言をすることのできるクライシスコミニュケーションの専門家を配置するなどの検討が必要である

72

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

(8)国民の命に関わる安全文化の重要性【Ⅵ2(8)】 事業者である東京電力及び規制当局である保安院のいずれについても安全文化が十分に定着しているとは言い難い状況にあった一旦事故が起きると重大な事態が生じる原子力発電事業においては安全文化の確立は国民の命に関わる問題である今回の大災害の発生を踏まえ事業者や規制当局関係団体審議会関係者などおよそあらゆる原発関係者には安全文化の再構築を図ることを強く求めたい

(9)事故原因被害の全容を解明する調査継続の必要性【Ⅵ2(9)】a 引き続き事故原因の解明が必要 当委員会は最終報告の提出をもって任務を終えることとなるが前記 1(1)bのとおり福島第一原発の主要施設の損傷が生じた箇所その程度時間的経緯を始めとする被害状況の詳細放射性物質の漏出経緯原子炉建屋爆発の原因等についていまだに解明できていない点も多々存在する また住民等の健康への影響農畜水産物等や空気土壌水等の汚染などは今後も継続的な調査検証を要する問題であるが現時点までの調査検証にとどめざるを得なかったさらに原子力損害賠償の在り方や除染等のように生じた損害の修復の問題でありかつ今後長期間の対応を要すると見込まれることから当委員会の調査検証の対象とはしなかったものの被害者や被災地にとって極めて重要で社会的関心の高い問題もある 国電力事業者原子力発電プラントメーカー研究機関関連学会といったおよそ原子力発電に関わる関係者(関係組織)は今回の事故の検証及び事実解明を積極的に担うべき立場にありこうした未解明の諸事項についてそれぞれの立場で包括的かつ徹底した調査検証を継続するべきである特に国は当委員会や国会に設置された東京電力福島原子力発電所事故調査委員会の活動が終わったことをもって福島原発災害に関する事故調査検証を終えたとするのでなく引き続き事故原因の究明に主導的に取り組むべきであるとりわけ放射線レベルが下がった段階での原子炉建屋内の詳細な実地検証(地震動の影響の検証も含む)は必ず行うべき作業である

b 被害の全容を明らかにするための調査が必要 今回の原発事故は実に様々な深刻な被害を広範囲にわたる地域にもたらした未曽有の原子力災害を経験した我が国としてなすべきことは「人間の被害」の全容について専門分野別の学術調査と膨大な数の関係者被害者の証言記録の収集による総合的な調査を行ってこれらを記録にまとめ被害者の救済支援復興事業が十分かどうかを検証するとともに原発事故がもたらす被害がいかに深く広いものであるかその詳細な事実を未来への教訓として後世に伝えることであろう福島原発災害に関わる総合的な調査の結果を踏まえて記された「人間の被害」の全容を教訓として後世に伝えることは国家的な責務であると当委員会は考える「人間の被害」の調査には様々な学問分野の研究者の参加と多くの費用と時間が必要となるだろうが国が率先して自治体研究機関民間団体等の協力を得て調査態勢を構築するとともに調査の実施についても必要な支援を行うことを求めたい

3 原子力災害の再発防止及び被害軽減のための提言 当委員会は中間報告及び最終報告においてこれまでの調査検証によって判明した事実を基に原子力災害の再発防止及び被害軽減のための提言を行った当委員会は国関係自治体事業者等の関係機関がこれらを今後の安全対策防災対策に反映させ実施していくことを強く要望する政府においては関係省庁関係部局に提言の反映や実施に向けた具体化を指示するとともに関係省庁関係部局の取組状況を把握しその状況を取りまとめて公表するなど確実なフォローアップをすることを求めたいまた関係自治体東京電力その他の関係機関においても同様に提言を反映実施するとともに取組状況をフォローアップすることを求めたい ここでは中間報告及び最終報告で行った提言を七つの項目に分類して整理しておく最終報告における提言は「最終報告(本文編)」の記載箇所及び本概要における該当頁を示した中間報告における提言は「中間報告(本文編)」の記載箇所を示すとともに提言自体を再録した

(1)安全対策防災対策の基本的視点に関するもの  複合災害を視野に入れた対策に関する提言(最終報告Ⅵ 2(2)概要 22 頁)  リスク認識の転換を求める提言(最終報告Ⅵ 2(3)概要 23 頁)  「被害者の視点からの欠陥分析」に関する提言(最終報告Ⅵ 2(4)概要 24 頁)  防災計画に新しい知見を取り入れることに関する提言(最終報告Ⅵ 2(5)概要 25 頁)

73

参考資料

(2)原子力発電の安全対策に関するもの  事故防止策の構築に関する提言(最終報告Ⅵ 2(1)概要 22 頁)  総合的リスク評価の必要性に関する提言(最終報告Ⅵ 1(4)a(b)概要 17 頁)  シビアアクシデント対策に関する提言(最終報告Ⅵ 1(4)a(c)概要 17 頁)

(3)原子力災害に対応する態勢に関するもの  原災時の危機管理態勢の再構築に関する提言(最終報告Ⅵ 2(6)概要 26 頁)  原子力災害対策本部の在り方に関する提言(最終報告Ⅵ 1(2)b(a)概要 4頁)  オフサイトセンターに関する提言(中間報告Ⅶ 3(1)a) 政府はオフサイトセンターが大規模災害にあっても機能を維持できる施設となるよう速やかに適切な整備を図る必要がある  原災対応における県の役割に関する提言(最終報告Ⅵ 1(2)c概要 6頁)

(4)被害の防止軽減策に関するもの  広報とリスクコミュニケーションに関する提言(最終報告Ⅵ 2(7)概要 27 頁)  モニタリングの運用改善に関する提言(中間報告Ⅶ 5(2)d) ① モニタリングシステムが肝心なときに機能不全に陥らないよう地震津波等の様々な事象を想定してシステム設計を行うとともに複合災害の場合も想定して対策を講じておく必要があるまたモニタリングカーについて地震による道路の損傷等の事態が発生した場合の移動巡回等の方法に関して必要な対策を講じるべきである ② モニタリングシステムの機能重要性について関係機関及び職員の認識を深めるために研修等の機会を充実させる必要がある  SPEEDI システムに関する提言(中間報告Ⅶ 5(3)c) 被害拡大を防止し国民の納得できる有効な情報を迅速に提供できるようSPEEDI システムの運用上の改善措置を講じる必要があるまた地震等の様々な複合要因に対してシステムの機能が損なわれることのないようハード面でも強化策が講じられる必要がある  住民避難の在り方に関する提言(①~④は中間報告Ⅶ 5(4)c更に最終報告Ⅵ 1(4)b概要 18 頁) ① 重大な原発事故が発生した場合に放射性物質がどのように放出拡散し地上にはどのように降ってくるのかについてまた放射線被ばくによる健康被害について住民が常日頃から基本的な知識を持っておけるよう公的な啓発活動が必要である ② 地方自治体は原発事故の特異さを考慮した避難態勢を準備し実際に近い形での避難訓練を定期的に実施し住民も真剣に訓練に参加する取組が必要である ③ 避難に関しては数千人から十数万人規模の住民の移動が必要になる場合もあることを念頭に置いて交通手段の確保交通整理遠隔地における避難場所の確保避難先での水食糧の確保等について具体的な計画を立案するなど平常時から準備しておく必要がある特に医療機関老人ホーム福祉施設自宅等における重症患者重度障害者等社会的弱者の避難については格別の対策を講じる必要がある ④ 以上のような対策を地元の市町村任せにするのではなく避難計画や防災計画の策定と運用について原子力災害が広域にわたることも考慮して県や国も積極的に関与していく必要がある  安定ヨウ素剤の服用に関する提言(最終報告Ⅵ 1(3)e(c)概要 11 頁)  緊急被ばく医療機関に関する提言(最終報告Ⅵ 1(3)e(f)概要 13 頁)  放射線に関する国民の理解に関する提言(最終報告Ⅵ 1(3)e(g)概要 14 頁)  諸外国との情報共有や諸外国からの支援受入れに関する提言(最終報告Ⅵ 1(3)g(a)(b)概要 16 頁)

(5)国際的調和に関するもの  IAEA 基準などとの国際的調和に関する提言(最終報告Ⅵ 1(7)概要 21 頁)

(6)関係機関の在り方に関するもの  原子力安全規制機関の在り方に関する提言 ① 独立性と透明性の確保(中間報告Ⅶ 8(2)a)

74

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

 独立性と透明性を確保することが必要であり自律的に機能できるために必要な権限財源と人員を付与すると同時に国民に対する原子力安全についての説明責任を持たせることが必要である ② 緊急事態に迅速かつ適切に対応する組織力(中間報告Ⅶ 8(2)b) 災害発生時に迅速な活動が展開できるよう平常時から防災計画の策定や防災訓練等を実施しておくことのみならず緊急事態において対応に当たる責任者や関係機関に対して専門知識に基づく助言指導ができる専門能力や組織が有するリソースを有効かつ効率的に機能させるマネジメント能力の涵養が必要である また責任を持って危機対処の任に当たることの自覚を強く持つとともに大規模災害に対応できるだけの体制を事前に整備し関係省庁や関係地方自治体と連携して関係組織全体で対応できる体制の整備も図った上その中での規制機関の役割も明確にしておく必要がある ③ 国内外への災害情報の提供機関としての役割の自覚(中間報告Ⅶ 8(2)c) 情報提供の在り方の重要性を組織として深く自覚し緊急時に適時適切な情報提供を行い得るよう平素から組織的に態勢を整備しておく必要がある ④ 優秀な人材の確保と専門能力の向上(中間報告Ⅶ 8(2)d) 優れた専門能力を有する優秀な人材を確保できるような処遇条件の改善職員が長期的研修や実習を経験できる機会の拡大原子力放射線関係を含む他の行政機関や研究機関との人事交流の実施など職員の一貫性あるキャリア形成を可能とするような人事運用計画の検討が必要である ⑤ 科学的知見蓄積と情報収集の努力(中間報告Ⅶ 8(2)e) 関連学会や専門ジャーナル(海外も含む)海外の規制機関等の動向を絶えずフォローアップし規制活動に資する知見を継続的に獲得していく必要があるまたその知見の意味するところを理解しこれを組織的に共有した上で十分に活用するとともにその成果を組織として継承伝達していく必要がある ⑥ 国際機関外国規制当局との積極的交流(最終報告Ⅵ 1(5)概要 19 頁) ⑦ 規制当局の態勢強化(最終報告Ⅵ 1(5)概要 19 頁)  東京電力の在り方に関する提言(最終報告Ⅵ 1(6)e概要 20 頁)  安全文化の再構築に関する提言(最終報告Ⅵ 2(8)概要 27 頁)

(7)継続的な原因解明被害調査に関するもの  事故原因の解明継続に関する提言(最終報告Ⅵ 2(9)a概要 28 頁)  被害の全容を明らかにする調査の実施に関する提言(最終報告Ⅵ 2(9)b概要 28 頁)

委員長所感抜粋(今回の事故で得られた知見について)

 今回の事故で得られた知見を他の分野にも適用することができ100 年後の評価にも耐えるようにするためにはこれを単なる個別の分野における知見で終わらせずより一般化普遍化された知識にまで高めることが必要である以下福島原発事故という未曽有の災害についての調査検証を締めくくるに当たり今回の事故からどのような知識が得られるかについて整理しその主なものを示しておくこととしたい

(1)あり得ることは起こるあり得ないと思うことも起こる 今回の事故の直接的な原因は「長時間の全電源喪失は起こらない」との前提の下に全てが構築運営されていたことに尽きる「あり得ることは起こる」と考えるべきであるさらに「あり得ないと思う」という認識にすら至らない現象もあり得る言い換えれば「思い付きもしない現象も起こり得る」ことも併せて認識しておく必要があろう

(2)見たくないものは見えない見たいものが見える 人間はものを見たり考えたりするとき自分が好ましいと思うものや自分がやろうと思う方向だけを見がちで見たくないもの都合の悪いことは見えないものである自分の利害だけでなく自分を取り巻く組織社会時代の様々な影響によって自分の見方が偏っていることを常に自覚し必ず見落としがあると意識していなければならない

75

参考資料

(3)可能な限りの想定と十分な準備をする 過去のある時点での想定にとらわれず常に可能な限り想定の見直しを行って事故や災害の未然防止策を講じるとともにこれまで思い付きもしない事態も起こり得るとの発想の下で十分な準備をすることが必要である

(4)形を作っただけでは機能しない仕組みは作れるが目的は共有されない 事業者も規制関係機関も地方自治体もそれぞれの組織が形式的には原発事故に対応する仕組みを作っていたしかしいざ事故が起こるとその対応には不備が散見されたそれは組織の構成員がその仕組みが何を目的とし社会から何を預託されているかについて十分自覚していなかったためと考えられる構成員それぞれが社会から何を預託され自分が全体の中でどこにいるのかまた自分の働きが全体にどのような影響を与えるかを常に考えているような状態を作らなければならない

(5)全ては変わるのであり変化に柔軟に対応する 与条件を固定して考えると詳細にしかも形の上では立派な対応ができるしかし与条件は常に変化するものであり常に変化に応じた対応を模索し続けなければ実態に合わなくなる全ての事柄が変化すると考え細心の注意を払って観察し外部の声に謙虚に耳を傾け適切な対応を続けることが必要である

(6)危険の存在を認め危険に正対して議論できる文化を作る どのような事態が生ずるかを完全に予見することは何人にもできないにもかかわらず危険を完全に排除すべきと考えることは可能性の低い危険の存在をないことにする「安全神話」につながる危険がある危険を危険として認め危険に正対して議論できる文化を作らなければ安全というベールに覆われた大きな危険を放置することになる

(7) 自分の目で見て自分の頭で考え判断行動することが重要であることを認識しそのような能力を涵養することが重要である想定外の事故災害に対処するには自ら考えて事態に臨む姿勢と柔軟かつ能動的な思考が必要である平時からこのような資質や能力を高める組織運営を行うとともに教育や訓練を行っておくことが重要である

 この事故は自然が人間の考えに欠落があることを教えてくれたものと受け止めこの事故を永遠に忘れることなく教訓を学び続けなければならない

東京電力福島原子力発電所における事故調査検証委員会委員長 畑村洋太郎

76

国会 東京電力福島原子力発電所事故調査委員会 報告書(ダイジェスト版)

はじめに 福島原子力発電所事故は終わっていないこれは世界の原子力の歴史に残る大事故であり科学技術先進国の一つである日本で起きたことに世界中の人々は驚愕した世界が注目する中日本政府と東京電力の事故対応の模様は世界が注目する中で日本が抱えている根本的な問題を露呈することとなった想定できたはずの事故がなぜ起こったのかその根本的な原因は日本が高度経済成長を遂げたころにまで遡る政界官界財界が一体となり国策として共通の目標に向かって進む中複雑に絡まった『規制の虜(Regulatory Capture)』が生まれた そこにはほぼ 50 年にわたる一党支配と新卒一括採用年功序列終身雇用といった官と財の際立った組織構造とそれを当然と考える日本人の「思いこみ(マインドセット)」があった経済成長に伴い「自信」は次第に「おごり慢心」に変わり始めた入社や入省年次で上り詰める「単線路線のエリート」たちにとって前例を踏襲すること組織の利益を守ることは重要な使命となったこの使命は国民の命を守ることよりも優先され世界の安全に対する動向を知りながらもそれらに目を向けず安全対策は先送りされたそして日本の原発はいわば無防備のまま311 の日を迎えることとなった 311 の日広範囲に及ぶ巨大地震津波という自然災害とそれによって引き起こされた原子力災害への対応は極めて困難なものだったことは疑いもないしかもこの 50 年で初めてとなる歴史的な政権交代からわずか 18 カ月の新政権下でこの事故を迎えた当時の政府規制当局そして事業者は原子力のシビアアクシデント(過酷事故)における心の準備や各自の地位に伴う責任の重さへの理解そしてそれを果たす覚悟はあったのかこの事故が「人災」であることは明らかで歴代及び当時の政府規制当局そして事業者である東京電力による人々の命と社会を守るという責任感の欠如があった この大事故から9か月国民の代表である国会(立法府)の下に憲政史上初めて政府からも事業者からも独立したこの調査委員会が衆参両院において全会一致で議決され誕生した今回の事故原因の調査は過去の規制や事業者との構造といった問題の根幹に触れずには核心にたどりつけない私たちは委員会の活動のキーワードを「国民」「未来」「世界」としたそして委員会の使命を「国民による国民のための事故調査」「過ちから学ぶ未来に向けた提言」「世界の中の日本という視点(日本の世界への責任)」とした限られた条件の中6か月の調査活動を行った総括がこの報告書である被災された福島の皆さま特に将来を担う子どもたちの生活が一日でも早く落ち着かれることを心から祈りたいまた日本が経験したこの大事故に手を差し伸べてくださった世界中の方々私たち委員会の調査に協力支援をしてくださった方々初めての国会の事故調査委員会誕生に力を注がれた立法府の方々に深い感謝の意を表したい

東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(国会事故調)委員長 黒川 清

提言提言1 規制当局に対する国会の監視国民の健康と安全を守るために規制当局を監視する目的で国会に原子力に係る問題に関する常設の委員会等を設置する

1) この委員会は規制当局からの説明聴取や利害関係者又は学識経験者等からの意見聴取その他の調査を恒常的に行う2) この委員会は最新の知見を持って安全問題に対応できるよう事業者行政機関から独立したグ ローバルな視点を持った専門家からなる諮問機関を設ける3) この委員会は今回の事故検証で発見された多くの問題に関しその実施改善状況について継続 的な監視活動を行う(「国会による継続監視が必要な事項」として本編に添付)4) この委員会はこの事故調査報告について今後の政府による履行状況を監視し定期的に報告を求める

77

参考資料

提言2 政府の危機管理体制の見直し緊急時の政府自治体及び事業者の役割と責任を明らかにすることを含め政府の危機管理体制に関係する制度についての抜本的な見直しを行う

1) 政府の危機管理体制の抜本的な見直しを行う緊急時に対応できる執行力のある体制づくり指揮命 令系統の一本化を制度的に確立する2) 放射能の放出に伴う発電所外(オフサイト)の対応措置は住民の健康と安全を第一に政府及び自治体が中心となって政府の危機管理機能のもとに役割分担を行い実施する3) 事故時における発電所内(オンサイト)での対応(止める冷やす閉じ込める)については第一義的に事業者の責任とし政治家による場当たり的な指示介入を防ぐ仕組みとする

提言3 被災住民に対する政府の対応被災地の環境を長期的継続的にモニターしながら住民の健康と安全を守り生活基盤を回復するため政府の責任において以下の対応を早急に取る必要がある

1) 長期にわたる健康被害及び健康不安へ対応するため国の負担による外部内部被ばくの継続的検査と健康診断及び医療提供の制度を設ける情報については提供側の都合ではなく住民の健康と安全を第一に住民個々人が自ら判断できる材料となる情報開示を進める2) 森林あるいは河川を含めて広範囲に存在する放射性物質は場所によっては増加することもあり得るので住民の生活基盤を長期的に維持する視点から放射性物質の再拡散や沈殿堆積等の継続的なモニタリング及び汚染拡大防止対策を実施する3) 政府は除染場所の選別基準と作業スケジュールを示し住民が帰宅あるいは移転補償を自分で判断し選択できるように必要な政策を実施する

提言4 電気事業者の監視東電は電気事業者として経産省との密接な関係を基に電事連を介して保安院等の規制当局の意思決定過程に干渉してきた国会は提言1に示した規制機関の監視監督に加えて事業者が規制当局に不当な圧力をかけることのないように厳しく監視する必要がある

1) 政府は電気事業者との間の接触についてルールを定めそれに従った情報開示を求める2) 電気事業者間において原子力安全のための先進事例を確認しその達成に向けた不断の努力を促す相互監視体制を構築する3) 東電に対してガバナンス体制危機管理体制情報開示体制等を再構築しより高い安全目標に向けて継続した自己改革を実施するように促す4) 以上の施策の実効性を確保するため電気事業者のガバナンスの健全性安全基準安全対策の遵守状態等を監視するために立ち入り調査権を伴う監査体制を国会主導で構築する

提言5 新しい規制組織の要件規制組織は今回の事故を契機に国民の健康と安全を最優先とし常に安全の向上に向けて自ら変革を続けていく組織になるよう抜本的な転換を図る新たな規制組織は以下の要件を満たすものとする1) 高い独立性①政府内の推進組織からの独立性②事業者からの独立性③政治からの独立性を実現し監督機能を強化するための指揮命令系統責任権限及びその業務プロセスを確立する2) 透明性①各種諮問委員会等を含めて意思決定過程を開示しその過程において電気事業者等の利害関係者の関与を排除する②定期的に国会に対して全ての意思決定過程決定参加者施策実施状況等について報告する義務を課す③推進組織事業者政治との間の交渉折衝等に関しては議事録を残し原則公開する④委員の選定は第三者機関に1次定として相当数の候補者の選定を行わせた上でその中から国会同意人事として国会が最終決定するといった透明なプロセスを設定する3) 専門能力と職務への責任感①新しい規制組織の人材を世界でも通用するレベルにまで早期に育成しまたそのよ

78

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

うな人材の採用育成を実現すべく原子力規制分野でのグローバルな人材交流教育訓練を実施する②外国人有識者を含む助言組織を設置し規制当局の運営人材在り方等の必要な要件設定等に関する助言を得る③新しい組織の一員として職務への責任感を持った人材を中心とすべく「ノーリターンルール」を当初より例外なく適用する4) 一元化特に緊急時の迅速な情報共有意思決定司令塔機能の発揮に向けて組織体制の効果的な一元化を図る5) 自律性本組織には国民の健康と安全の実現のため常に最新の知見を取り入れながら組織の見直しを行い自己変革を続けることを要求し国会はその過程を監視する

提言6 原子力法規制の見直し原子力法規制については以下を含め抜本的に見直す必要がある1) 世界の最新の技術的知見等を踏まえ国民の健康と安全を第一とする一元的な法体系へと再構築する2) 安全確保のため第一義的な責任を負う事業者と原子力災害発生時にこの事業者を支援する他の事故対応を行う各当事者の役割分担を明確化する3) 原子力法規制が内外の事故の教訓世界の安全基準の動向及び最新の技術的知見等が反映されたものになるよう規制当局に対してこれを不断かつ迅速に見直していくことを義務付けその履行を監視する仕組みを構築する4) 新しいルールを既設の原子炉にも遡及適用すること(いわゆるバックフィット)を原則としそれがルール改訂の抑制といった本末転倒な事態につながらないように廃炉すべき場合と次善の策が許される場合との線引きを明確にする

提言7 独立調査委員会の活用未解明部分の事故原因の究明事故の収束に向けたプロセス被害の拡大防止本報告で今回は扱わなかった廃炉の道筋や使用済み核燃料問題等国民生活に重大な影響のあるテーマについて調査審議するために国会に原子力事業者及び行政機関から独立した民間中心の専門家からなる第三者機関として(原子力臨時調査委員会〈仮称〉)を設置するまた国会がこのような独立した調査委員会を課題別に立ち上げられる仕組みとしこれまでの発想に拘泥せず引き続き調査検討を行う

結論の要旨【認識の共有化】 平成 23(2011)年 3月 11 日に起きた東日本大震災に伴う東京電力福島原子力発電所事故は世界の歴史に残る大事故であるそしてこの報告が提出される平成 24(2012)年 6月においても依然として事故は収束しておらず被害も継続している 破損した原子炉の現状は詳しくは判明しておらず今後の地震台風などの自然災害に果たして耐えられるのか分からない今後の環境汚染をどこまで防止できるのかも明確ではない廃炉までの道のりも長く予測できない一方被害を受けた住民の生活基盤の回復は進まず健康被害への不安も解消されていない 当委員会は「事故は継続しており被災後の福島第一原子力発電所(以下「福島第一原発」という)の建物と設備の脆弱性及び被害を受けた住民への対応は急務である」と認識するまた「この事故報告が提出されることで事故が過去のものとされてしまうこと」に強い危惧を覚える日本全体そして世界に大きな影響を与え今なお続いているこの事故は今後も独立した第三者によって継続して厳しく監視検証されるべきである(提言 7に対応) 当委員会はこのような認識を共有化して以下のような調査に当たった

【事故の根源的原因】 事故の根源的な原因は東北地方太平洋沖地震が発生した平成 23(2011)年 3月 11 日(以下「311」という)以前に求められる当委員会の調査によれば311 時点において福島第一原発は地震にも津波にも耐えられる保証がない脆弱な状態であったと推定される地震津波による被災の可能性自然現象を起因とするシビアアクシデント(過酷事故)への対策大量の放射能の放出が考えられる場合の住民の安全保護など事業者である東京電力(以下「東電」という)及び規制当局である内閣府原子力安全委員会(以下「安全委員会」という)経済産業省原子力安全保安院(以下「保安院」という)また原子力推進行政当局である経済産業省(以下「経産省」という)がそれまでに当然備えておくべきこと実施すべきことをしていなかった 平成 18(2006)年に耐震基準について安全委員会が旧指針を改訂し新指針として保安院が全国の原子力事業者に対

79

参考資料

して耐震安全性評価(以下「耐震バックチェック」という)の実施を求めた 東電は最終報告の期限を平成 21(2009)年 6月と届けていたが耐震バックチェックは進められずいつしか社内では平成 28(2016)年 1月へと先送りされた東電及び保安院は新指針に適合するためには耐震補強工事が必要であることを認識していたにもかかわらず1~3号機については全く工事を実施していなかった保安院はあくまでも事業者の自主的取り組みであるとし大幅な遅れを黙認していた事故後東電は5号機については目視調査で有意な損傷はなかったとしているがそれをもって 1~3号機に地震動による損傷がなかったとは言えない 平成 18(2006)年には福島第一原発の敷地高さを超える津波が来た場合に全電源喪失に至ること土木学会評価を上回る津波が到来した場合海水ポンプが機能喪失し炉心損傷に至る危険があることは保安院と東電の間で認識が共有されていた保安院は東電が対応を先延ばししていることを承知していたが明確な指示を行わなかった 規制を導入する際に規制当局が事業者にその意向を確認していた事実も判明している安全委員会は平成 5(1993)年に全電源喪失の発生の確率が低いこと原子力プラントの全交流電源喪失に対する耐久性は十分であるとしそれ以降長時間にわたる全交流電源喪失を考慮する必要はないとの立場を取ってきたが当委員会の調査の中でこの全交流電源喪失の可能性は考えなくてもよいとの理由を事業者に作文させていたことが判明したまた当委員会の参考人質疑で安全委員会が深層防護(原子力施設の安全対策を多段的に設ける考え方IAEA〈国際原子力機関〉では 5層まで考慮されている1について日本は 5層のうちの 3層までしか対応できていないことを認識しながら黙認してきたことも判明した 規制当局はまた海外からの知見の導入に対しても消極的であったシビアアクシデント対策は地震や津波などの外部事象に起因する事故を取り上げず内部事象に起因する対策にとどまった米国では 911 以降に B5b2に示された新たな対策が講じられたがこの情報は保安院にとどめられてしまった防衛にかかわる機微情報に配慮しつつ必要な部分を電力事業者に伝え対策を要求していれば今回の事故は防げた可能性がある このように今回の事故はこれまで何回も対策を打つ機会があったにもかかわらず歴代の規制当局及び東電経営陣がそれぞれ意図的な先送り不作為あるいは自己の組織に都合の良い判断を行うことによって安全対策が取られないまま 311 を迎えたことで発生したものであった 当委員会の調査によれば東電は新たな知見に基づく規制が導入されると既設炉の稼働率に深刻な影響が生ずるほか安全性に関する過去の主張を維持できず訴訟などで不利になるといった恐れを抱いておりそれを回避したいという動機から安全対策の規制化に強く反対し電気事業連合会(以下「電事連」という)を介して規制当局に働きかけていた このような事業者側の姿勢に対し本来国民の安全を守る立場から毅然とした対応をすべき規制当局も専門性において事業者に劣後していたこと過去に自ら安全と認めた原子力発電所に対する訴訟リスクを回避することを重視したことまた保安院が原子力推進官庁である経産省の組織の一部であったこと等から安全について積極的に制度化していくことに否定的であった 事業者が規制当局を骨抜きにすることに成功する中で「原発はもともと安全が確保されている」という大前提が共有され既設炉の安全性過去の規制の正当性を否定するような意見や知見それを反映した規制指針の施行が回避緩和先送りされるように落としどころを探り合っていた これを構造的に見れば以下のように整理できる本来原子力安全規制の対象となるべきであった東電は市場原理が働かない中で情報の優位性を武器に電事連等を通じて歴代の規制当局に規制の先送りあるいは基準の軟化等に向け強く圧力をかけてきたこの圧力の源泉は電力事業の監督官庁でもある原子力政策推進の経産省との密接な関係であり経産省の一部である保安院との関係はその大きな枠組みの中で位置付けられていた規制当局は事業者への情報の偏在自身の組織優先の姿勢等から事業者の主張する「既設炉の稼働の維持」「訴訟対応で求められる無謬性」を後押しすることになったこのように歴代の規制当局と東電との関係においては規制する立場とされる立場の「逆転関係」が起き規制当局は電力事業者の「虜(とりこ)」となっていたその結果原子力安全についての監視監督機能が崩壊していたと見ることができる3 当委員会は本事故の根源的原因は歴代の規制当局と東電との関係について「規制する立場とされる立場が『逆転関係』となることによる原子力安全についての監視監督機能の崩壊が起きた点に求められる」と認識する何度も事前に対策

1 IAEAの深層防護(Defence in Depth)2 平成 13(2001)年 9月 11 日の同時多発テロの後平成 14(2002)年 2月にNRC(米国原子力規制委員会)が策定したテロ対策全電源喪失を想定した機材の備えと訓練を米国の全原子力発電所に義務付けている3 これは規制当局が事業者の「虜(とりこ)」となって被規制産業である事業者の利益最大化に傾注するといういわゆる「規制の虜(Regulatory Capture)」によっても説明できるものである

80

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

を立てるチャンスがあったことに鑑みれば今回の事故は「自然災害」ではなくあきらかに「人災」である(提言1に対応)

【事故の直接的原因】 本事故の直接的原因は地震及び地震に誘発された津波という自然現象であるが事故が実際にどのように進展していったかに関しては重要な点において解明されていないことが多いその大きな理由の一つは本事故の推移と直接関係する重要な機器配管類のほとんどがこの先何年も実際に立ち入ってつぶさに調査検証することのできない原子炉建屋及び原子炉格納容器内部にあるためである しかし東電は事故の主因を早々に津波とし「確認できた範囲においては」というただし書きはあるものの「安全上重要な機器は地震で損傷を受けたものはほとんど認められない」と中間報告書に明記しまた政府も IAEAに提出した事故報告書に同趣旨のことを記した 直接的原因を実証なしに津波に狭く限定しようとする背景は不明だが本編第 1部で述べるように既設炉への影響を最小化しようという考えが東電の経営を支配してきたのであってここでもまた同じ動機が存在しているようにも見えるあるいは東電の中間報告にあるように「想定外」とすることで責任を回避するための方便のようにも聞こえるが当委員会の調査では地震のリスクと同様に津波のリスクも東電及び規制当局関係者によって事前に認識されていたことが検証されており言い訳の余地はない 事故の主因を津波のみに限定すべきでない理由としてスクラム(原子炉緊急停止)後に最大の揺れが到達したこと小規模の LOCA(小さな配管破断などの小破口冷却材喪失事故)の可能性は独立行政法人原子力安全基盤機構(JNES)の解析結果も示唆していること1号機の運転員が配管からの冷却材の漏れを気にしていたことそして 1号機の主蒸気逃がし安全弁(SR弁)は作動しなかった可能性を否定できないことなどが挙げられ特に 1号機の地震による損傷の可能性は否定できないまた外部送電系が地震に対して多様性独立性が確保されていなかったことまたかねてから指摘のあった東電新福島変電所の耐震性不足などが外部電源喪失の一因となった 当委員会は事故の直接的原因について「安全上重要な機器の地震による損傷はないとは確定的には言えない」特に「1号機においては小規模の LOCAが起きた可能性を否定できない」との結論に達したしかし未解明な部分が残っておりこれについて引き続き第三者による検証が行われることを期待する(提言 7に対応)

【運転上の問題の評価】 発電所の現場の運転上の問題についてはいくつか特記すべきことはあるがむしろ今回のようにシビアアクシデント対策がない場合全電源喪失状態に陥った際に現場で打てる手は極めて限られるということが検証された1号機の非常用復水器(IC)の操作及びその後の確認作業の是非については全交流電源喪失(SBO)直後からの系統確認としかるべき運転操作に迅速に対応できなかったしかし ICの操作に関してはマニュアルもなくまた運転員は十分訓練されていなかったさらに本事故においてはおそらく早期のうちに ICの蒸気管に非凝縮性の水素ガスが充満しそのために自然循環が阻害されICが機能喪失していたと当委員会は推測しているこうした事情を考慮すれば単純に事故当時の運転員の判断や操作の非を問うことはできない 東電の経営陣が耐震工事の遅れ及び津波対策の先送りの事実を把握し福島第一原発の脆弱性を認識していたと考えられることから被災時の現場の状態はある程度事前にも想像できたはずである少なくとも発電所の脆弱性を補うためにもシビアアクシデント時に現場で対応する準備を行わせるのは経営として必要なことであった東電の本店及び発電所の幹部もこのような状況下で少なくとも緊急時の現場の対応について準備をすることが必要であった以上を考えればこれは運転員作業員個人の問題に帰するのではなく東電の組織的問題として考えるべき事柄である ベントライン構成についても電源が喪失し放射線量の高い中でのライン構成作業自体が困難でありかつ時間がかかるものであったシビアアクシデント手順書の中の図面も不備であったことが判明しており見づらい図面を時間に追われつつ懐中電灯で解明する作業を強いられた官邸はベントに時間がかかることから東電への不信が高まったとしているが実際の作業は困難を極めるものであった 多重防護が一気に破られ同時に 4基の原子炉の電源が喪失するという中で2号機の原子炉隔離時冷却系(RCIC)が長時間稼働したこと2号機のブローアウトパネルが脱落したこと協力会社の決死のがれき処理が思った以上に進んだことなど偶然というべき状況がなければ23号機はさらに厳しい状況に陥ったとも考えられるシビアアクシデント対策がない状態で直流電源も含めた全電源喪失状況を作り出してしまったことで既にその後の結果は避けられなかったと判断した 当委員会は「過酷事故に対する十分な準備レベルの高い知識と訓練機材の点検がなされまた緊急性について運転

81

参考資料

員作業員に対する時間的要件の具体的な指示ができる準備があればより効果的な事後対応ができた可能性は否定できないすなわち東電の組織的な問題である」と認識する(提言 4に対応)

【緊急時対応の問題】 いったん事故が発災した後の緊急時対応について官邸規制当局東電経営陣にはその準備も心構えもなくその結果被害拡大を防ぐことはできなかった保安院は原子力災害対策本部の事務局としての役割を果たすことが期待されたが過去の事故の規模を超える災害への備えはなく本来の機能を果たすことはできなかった官邸は発災直後の最も重要な時間帯に緊急事態宣言を速やかに出すことができなかった本来官邸は現地対策本部を通じて事業者とコンタクトをすべきとされていたしかし官邸は東電の本店及び現場に直接的な指示を出しそのことによって現場の指揮命令系統が混乱したさらに15 日に東電本店内に設置された統合対策本部も法的な根拠はなかった 1号機のベントの必要性については官邸規制当局あるいは東電とも一致していたが官邸はベントがいつまでも実施されないことから東電に疑念不信を持った東電は平時の連絡先である保安院にはベントの作業中である旨を伝えていたがそれが経産省のトップそして官邸に伝えられていたという事実は認められない保安院の機能不全東電本店の情報不足は結果として官邸と東電の間の不信を募らせその後総理が発電所の現場に直接乗り込み指示を行う事態になったその後も続いた官邸による発電所の現場への直接的な介入は現場対応の重要な時間を無駄にするというだけでなく指揮命令系統の混乱を拡大する結果となった 東電本店は的確な情報を官邸に伝えるとともに発電所の現場の技術的支援という重要な役割を果たすべきであったが官邸の顔色をうかがいながらむしろ官邸の意向を現場に伝える役割だけの状態に陥った3月 14 日2号機の状況が厳しくなる中で東電が全員撤退を考えているのではないかという点について東電と官邸の間で認識のギャップが拡大したがこの根源には両者の相互不信が広がる中で東電の清水社長が官邸の意向を探るかのような曖昧な連絡に終始した点があったと考えられるただし①発電所の現場は全面退避を一切考えていなかったこと②東電本店においても退避基準の検討は進められていたが全面退避が決定された形跡はなく清水社長が官邸に呼ばれる前に確定した退避計画も緊急対応メンバーを残して退避するといった内容であったこと③当時清水社長から連絡を受けた保安院長は全面退避の相談とは受け止めなかったこと④テレビ会議システムでつながっていたオフサイトセンターにおいても全面退避が議論されているという認識がなかったこと等から判断して総理によって東電の全員撤退が阻止されたと理解することはできない 重要なのは時の総理の個人の能力判断に依存するのではなく国民の安全を守ることのできる危機管理の仕組みを構築することである 当委員会は事故の進展を止められなかったあるいは被害を最小化できなかった最大の原因は「官邸及び規制当局を含めた危機管理体制が機能しなかったこと」そして「緊急時対応において事業者の責任政府の責任の境界が曖昧であったこと」にあると結論付けた(提言 2に対応)

【被害拡大の要因】 事故発災当時政府から自治体に対する連絡が遅れたばかりではなくその深刻さも伝えられなかった同じように避難を余儀なくされた地域でも原子力発電所からの距離によって事故情報の伝達速度に大きな差が生じた立地町でさえ3km圏避難の出た 21 時 23 分には事故情報は住民の 20程度しか伝わっていない10km圏内の住民の多くは 15 条報告から 12 時間以上たった 3月 12 日の朝 5時 44 分の避難指示の時点で事故情報を知ったしかしその際に事故の進展あるいは避難に役立つ情報は伝えられなかった着の身着のままの避難多数回の避難移動あるいは線量の高い地域への移動が続出したその後の長期にわたる屋内避難指示及び自主避難指示での混乱モニタリング情報が示されないために線量の高い地域に避難した住民の被ばく影響がないと言われて 4月まで避難指示が出されず放置された地域など避難施策は混乱した当委員会は事故前の原子力防災体制の整備の遅れ複合災害対策の遅れとともに既存の防災体制の改善に消極的であった歴代の規制当局の問題点も確認している 当委員会は避難指示が住民に的確に伝わらなかった点について「これまでの規制当局の原子力防災対策への怠慢と当時の官邸規制当局の危機管理意識の低さが今回の住民避難の混乱の根底にあり住民の健康と安全に関して責任を持つべき官邸及び規制当局の危機管理体制は機能しなかった」と結論付けた(提言 2に対応)

【住民の被害状況】 本事故により合計約 15 万人が避難区域から避難した本事故の収束作業に従事した中で100mSv(シーベルト)を超え

82

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

る線量を被ばくした作業員は 167 人とされている福島県内の 1800km2 もの広大な土地が年間 5mSv 以上の積算線量をもたらす土地となってしまったと推定される被害を受けた広範囲かつ多くの住民は不必要な被ばくを経験したまた避難のための移動が原因と思われる死亡者も発生したしかも住民は事故から 1年以上たっても先が見えない状態に置かれている政府はこのような被災地域の住民の状況を十分把握した上で避難区域の再編生活基盤の回復除染医療福祉の再整備など住民の長期的な生活改善策を系統的継続的に打ち出していくべきであるが縦割り省庁別の通常業務的施策しかなく住民の目から見るといまだに整合性のある統合的な施策が政府から打ち出されていない 我々が実施したタウンミーティングや 1万人を超す住民アンケートにはいまだに進まない政府の対応に厳しい声が多数寄せられている 放射線の急性障害はしきい値があるとされているが低線量被ばくによる晩発障害はしきい値がなくリスクは線量に比例して増えることが国際的に合意されている 年齢個人の放射線感受性放射線量によってその影響は変わるまた未解明の部分も残る一方政府は一方的に線量の数字を基準として出すのみでどの程度が長期的な健康という観点からして大丈夫なのか人によって影響はどう違うのか今後どのように自己管理をしていかなければならないのかといった判断をするために住民が必要とする情報を示していない政府は住民全体一律ではなく乳幼児から若年層妊婦放射線感受性の強い人など住民個々人が自分の行動判断に役立つレベルまで理解を深めてもらう努力をしていない 当委員会は「被災地の住民にとって事故の状況は続いている放射線被ばくによる健康問題家族生活基盤の崩壊そして広大な土地の環境汚染問題は深刻であるいまだに被災者住民の避難生活は続き必要な除染あるいは復興の道筋も見えていない当委員会には多数の住民の方々からの悲痛な声が届けられている先の見えない避難所生活など現在も多くの人が心身ともに苦難の生活を強いられている」と認識するまたその理由として「政府規制当局の住民の健康と安全を守る意思の欠如と健康を守る対策の遅れ被害を受けた住民の生活基盤回復の対応の遅れさらには受け手の視点を考えない情報公表にある」と結論付けた(提言 3に対応)

【問題解決に向けて】 本事故の根源的原因は「人災」であるがこの「人災」を特定個人の過ちとして処理してしまう限り問題の本質の解決策とはならず失った国民の信頼回復は実現できないこれらの背後にあるのは自らの行動を正当化し責任回避を最優先に記録を残さない不透明な組織制度さらにはそれらを許容する法的な枠組みであったまた関係者に共通していたのはおよそ原子力を扱う者に許されない無知と慢心であり世界の潮流を無視し国民の安全を最優先とせず組織の利益を最優先とする組織依存のマインドセット(思い込み常識)であった 当委員会は事故原因を個々人の資質能力の問題に帰結させるのではなく規制される側とする側の「逆転関係」を形成した真因である「組織的制度的問題」がこのような「人災」を引き起こしたと考えるこの根本原因の解決なくして単に人を入れ替えあるいは組織の名称を変えるだけでは再発防止は不可能である(提言 45及び 6に対応)

【事業者】 東電はエネルギー政策や原子力規制に強い影響力を行使しながらも自らは矢面に立たず役所に責任を転嫁する経営を続けてきたそのため東電のガバナンスは自律性と責任感が希薄で官僚的であったがその一方で原子力技術に関する情報の格差を武器に電事連等を介して規制を骨抜きにする試みを続けてきた その背景には東電のリスクマネジメントのゆがみを指摘することができる東電はシビアアクシデントによって周辺住民の健康等に被害を与えること自体をリスクとして捉えるのではなくシビアアクシデント対策を立てるに当たって既設炉を停止したり訴訟上不利になったりすることを経営上のリスクとして捉えていた 東電は現場の技術者の意向よりも官邸の意向を優先したり退避に関する相談に際しても官邸の意向を探るかのような曖昧な態度に終始したりしたその意味で東電は官邸の過剰介入や全面撤退との誤解を責めることが許される立場にはなくむしろそうした混乱を招いた張本人であった 本事故発生後における東電の情報開示は必ずしも十分であったとはいえない確定した事実確認された事実のみを開示し不確実な情報のうち特に不都合な情報は開示しないといった姿勢がみられた特に 2号機の事故情報の開示に問題があったほか計画停電の基礎となる電力供給の見通しについても情報開示に遅れがみられた 当委員会は「規制された以上の安全対策を行わず常により高い安全を目指す姿勢に欠けまた緊急時に発電所の事故対応の支援ができない現場軽視の東京電力経営陣の姿勢は原子力を扱う事業者としての資格があるのか」との疑問を呈した(提言 4に対応)

83

参考資料

【規制当局】 規制当局は原子力の安全に対する監視監督機能を果たせなかった専門性の欠如等の理由から規制当局が事業者の虜(とりこ)となり規制の先送りや事業者の自主対応を許すことで事業者の利益を図り同時に自らは直接的責任を回避してきた規制当局の推進官庁事業者からの独立性は形骸化しておりその能力においても専門性においてもまた安全への徹底的なこだわりという点においても国民の安全を守るには程遠いレベルだった

 当委員会では「規制当局は組織の形態あるいは位置付けを変えるだけではなくその実態の抜本的な転換を行わない限り国民の安全は守られない国際的な安全基準に背を向ける内向きの態度を改め国際社会から信頼される規制機関への脱皮が必要であるまた今回の事故を契機に変化に対応し継続的に自己改革を続けていく姿勢が必要である」と結論付けた(提言 5に対応)

【法規制】 日本の原子力法規制はその改定において実際に発生した事故のみを踏まえた対症療法的パッチワーク的対応が重ねられ諸外国における事故や安全への取り組み等を真摯に受け止めて法規制を見直す姿勢にも欠けていたその結果予測可能なリスクであっても過去に顕在化していなければ対策が講じられず常に想定外のリスクにさらされることとなった また原子力法規制は原子力利用の促進が第一義的な目的とされ国民の生命身体の安全が第一とはされてこなかったさらに原子力法規制全体を通じての事業者の第一義的責任が明確にされておらず原子力災害発生時については第一義的責任を負う事業者に対し他の事故対応を行う各当事者がどのような活動を行ってこれを支援すべきかについての役割分担が不明確であった加えて諸外国で取り入れられている深層防護の考え方についても法規制の検討に際し十分に考慮されてこなかった 当委員会では「原子力法規制はその目的法体系を含めた法規制全般について抜本的に見直す必要があるかかる見直しに当たっては世界の最新の技術的知見等を反映しこの反映を担保するための仕組みを構築するべきである」と結論付けた(提言 6に対応) 以上のことを認識し教訓とした上で当委員会としては未来志向の立場に立って以下の 7つの提言を行う今後国会において十分な議論をいただきたいなおこの 7つの提言とは別に今後国会による継続監視が必要な事項を本編付録として添付した

提言の実現に向けて ここに示した 7つの提言は当委員会が国会から付託された使命を受けて調査作成した本報告書の最も基本的で重要なことを反映したものであるしたがって当委員会は国会に対してこの提言の実現に向けた実施計画を速やかに策定しその進捗の状況を国民に公表することを期待する この提言の実現に向けた第一歩を踏み出すことはこの事故によって日本が失った世界からの信用を取り戻し国家に対する国民の信頼を回復するための必要条件であると確信する 事故が起こってから 16 カ月が経過したこの間この事故について数多くの内外の報告書調査の記録著作等が作成されたそのいくつかには我々が意を強くする結論や提案がなされているしかしわが国の原子力安全の現実を目の当たりにした我々の視点からは根本的な問題の解決には不十分であると言わざるを得ない 原子力を扱う先進国は原子力の安全確保は第一に国民の安全にあるとし福島原子力発電所事故後はさらなる安全水準の向上に向けた取り組みが行われている一方わが国では従来もそして今回のような大事故を経ても対症療法的な対策が行われているにすぎないこのような小手先の対策を集積しても今回のような事故の根本的な問題は解決しない この事故から学び事故対策を徹底すると同時に日本の原子力対策を国民の安全を第一に考えるものに根本的に変革していくことが必要である ここにある提言を一歩一歩着実に実行し不断の改革の努力を尽くすことこそが国民から未来を託された国会議員国権の最高機関たる国会及び国民一人一人の使命であると当委員会は確信する 福島原発事故はまだ終わっていない被災された方々の将来もまだまだ見えない国民の目から見た新しい安全対策が今強く求められているこれはこの委員会の委員一同の一致した強い願いである

84

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

委員会について 当委員会の根拠法令である「東京電力福島原子力発電所事故調査委員会法(以下「委員会法」4という)」は平成 23 (2011)年 10 月 30 日に施行され委員長及び委員の 10 名は国会の承認を得て同年 12 月 8 日両議院の議長より任命された【委員長】黒川 清(政策研究大学院大学アカデミックフェロー元日本学術会議会長)【委員】石橋 克彦(理学博士地震学者神戸大学名誉教授)大島 賢三(独立行政法人国際協力機構顧問元国際連合大使)崎山 比早子(医学博士元放射線医学総合研究所主任研究官)櫻井 正史(弁護士元名古屋高等検察庁検事長元防衛省防衛監察監)田中 耕一(分析化学者株式会社島津製作所フェロー)田中 三彦(科学ジャーナリスト)野村 修也(中央大学法科大学院教授弁護士)蜂須賀 禮子(福島県大熊町商工会会長)横山 禎徳(社会システムデザイナー東京大学エグゼクティブマネジメントプログラム企画推進責任者)【調査の概要】ヒアリング 延べ 1167 人(900 時間超)原発視察(福島第一および第二女川東海) 9 回タウンミーティング 3 回(合計 400 人超)被災住民アンケート回答者数 住民 10633 人 (自由回答コメント 8066 人)作業従業員アンケート回答者数 2415 人東電規制官庁および関係者に対する資料請求 2000 件以上

【委員会の情報公開】委員会開催 19 回(動画中継合計 約 60 時間)すべての委員会を動画配信(合計視聴者数 約 80 万人) Facebookツイッターのソーシャルメディア活用 (17 万件以上の書き込み)東京電力福島原子力発電所事故から 16 カ月がたち既にその間に政府や東京電力のみならず数多くの検証の試みがなされ報告著書マスメディアなどの多様な媒体で公表されている国内ばかりでなく国際機関からもまた海外からも発信されているそれらに記述されていることとこの委員会報告に記載されていることは重複している部分も多くあるだろうしかし当委員会が参考人のヒアリングを世界に対して公開して行った意味はそれを見た一人一人がそれまでのメディアを通じた情報と比較しながらより立体的にまた客観的に事故の原因を把握し今後何をなすべきか判断できる材料を提供するということにあると考えるそこにこそ公開の意味があるのでありそのような認識でこの委

4 「東京電力福島原子力発電所事故調査委員会法」

85

参考資料

員会は活動を行い報告書を作成した

【当委員会で扱わなかった事項】 設置に際し委員会法 10 条各号により我々に課せられた課題解決を最優先とするため以下の点については今回の調査の対象外とした1) 日本の今後のエネルギー政策に関する事項(原子力発電の推進あるいは廃止も含めて)2) 使用済み核燃料処理処分等に関する事項3) 原子炉の実地検証を必要とする事項で当面線量が高くて実施ができない施設の検証に関する事項4) 個々の賠償除染などの事故処理費用に関する事項5) 事故処理費用の負担が事業者の支払い能力を超える場合の責任の所在に関する事項6) 原子力発電所事業に対する投資家株式市場の事故防止につながるガバナンス機能に関する事項7) 個々の原子力発電所の再稼働に関する事項8) 政策制度について通常行政府が行うべき具体的な設計に関する事項9) 事故後の原子炉の状況の把握及び廃炉のプロセスに関する事項発電所周辺地域の再生に関する事項10) その他委員の合意によって範囲外と決めた事項等 当委員会の根拠法令である「東京電力福島原子力発電所事故調査委員会法(以下「委員会法」4という)」は平成 23(2011)年 10 月 30 日に施行され委員長及び委員の 10 名は国会の承認を得て同年 12 月 8 日両議院の議長より任命されたhttpnaiicgojp本編要約をホームページで公開(日英)<お問い合わせ先>東京電力福島原子力発電所事故調査委員会事務局 e-mailpressnaiicjp

Page 6: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の

12

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第1章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故で明らかになった課題

第1章

供給を担っていた仙台ガスターミナルに対し設備復旧の支援を行いましたまたLPガス輸入業者からなる日本LPガス協会においてあらかじめ定めていた相互支援協定を発動し上記国家備蓄の放出や東北関東の他の基地等からローリーによる代替供給を速やかに実施した結果東北地方におけるLPガスの安定供給を確保することが出来ました

10 東北地方(被災地)及び関東圏でのガソリン軽油等の供給確保 - 緊急の供給確保措置と拡大輸送ルートの設定(2011 年 3 月 17 日公表)より作成しています

(2)明らかになった課題 今回の震災での経験を踏まえ石油基地LPガス出荷基地充填所等の災害対応能力や物流機能の強化情報収集情報提供体制の強化等災害時にも確実に石油製品を供給できる体制の整備が課題として明らかになりました

稼働率アップによる追加増産分等を東北地方に転送(約2万 kℓ日)

輸出抑制需要抑制

西日本の製油所の稼働率95以上へ

ローリーの大量投入鉄道による輸送ルートの確保

拠点SSの整備

関東圏への安定供給

西日本の製油所における製品在庫の取り崩しと関東への転送(3日以内に5万kℓ)

関東圏の製油所にお ける製品在庫の取り 崩し(約3万kℓ)事業者間連携による 円滑な供給体制

東北地方への重要供給拠点タンク貯蔵量25kℓ出荷能力約5000kℓ日全油種合計の能力

(注) 1万 kℓ日=約63 万バレル日

(参考)宮城県の1日あたりの燃料油販売量は約1万kℓ日東北全体では38万kℓ日

JX大分製油所

太陽四国事業所

コスモ坂出製油所東燃ゼネラル

和歌山工場

コスモ四日市製油所昭シェル四日市製油所

出光愛知製油所昭シェル山口製油所

出光徳山製油所

JX麻里布製油所JX水島製油所 コスモ堺製油所東燃ゼネラル堺工場

新潟油槽所仙台

塩竈油槽所の機能回復

酒日油槽所気仙沼油槽所times

秋田油槽所 八戸油槽所times青森油槽所

室蘭製油所 苫小牧製油所

第113-2-1  東北地方(被災地)及び関東圏でのガソリン軽油等の供給確保の為の包括プラン10

13

第2章

 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故により我が国のエネルギーに関して様々な課題が明らかになり我が国はエネルギー政策のゼロベースの見直しを行ってきました11また同時に我が国はエネルギーに関して生じた課題について様々な対応を図ってきました本章では震災後から2012年 7月下旬頃までの電力省エネルギー新エネルギーに関して講じた施策について取り上げます12

第1節 電力需給対策

12011年度夏期の需給対策と結果

 震災後直ちに立ち上がった官房長官を本部長とする「電力需給緊急対策本部」において夏期の電力需給対策等について議論が積み重ねられ第5回電力需給緊急対策本部(2011年 5月 13日)13において「夏期の電力需給対策」が取りまとめられ対策が講じられました

(1)供給面の対策 主な供給面の対策として震災により失われた供給力を補うために東京電力及び東北電力が行う発電設備の設置事業について環境影響評価法の適用除外となることを確認したほか電気事業法に基づく火力発電施設の定期検査実施時期について最大1年間の延長を認める運用を実施することとしましたまた経済産業省から自家発設置事業者に対し売電要請設備導入や燃料費の補助等を措置することとしました

(2)節電要請 余震等による火力の復旧の遅れ再被災等のリスクを踏まえて供給力と需要が一致するギリギリのライ

ンではなく一定の余裕を持ったものとすることが適当であるという観点で行われました 東京電力及び東北電力管内においてはピーク期間時間帯の使用最大電力について15の抑制(節電)を要請し特に大口需要家については電気事業法第27条に基づく使用制限を実施する等の対応を行いました電気の使用制限期間は東京電力管内は2011年 7月 1日~9月22日の9時~20時(平日のみ)東北電力管内は同年7月1日~9月9日の9時~20時(平日のみ)とされました また関西電力管内においては全体として10以上の節電の要請を行いました節電要請期間は2011年7月25日~9月22日の9時~20時(平日のみ)とされました 中西日本のその他の電力管内(中部電力北陸電力中国電力四国電力九州電力の各管内)においては国民生活や経済活動に支障を生じない範囲での節電に取り組みました その後電気事業法第27条に基づく使用制限については2011年 8月 30日に東北東京電力管内の需給バランスが改善していることや被災地の方々からの早期終了を求める声があることを踏まえ「9月2日(金)を最後に東日本大震災及び新潟福島豪雨の被災地に所在する大口需要家の方々に対する電気事業法第27条に基づく電気の使用制限を終了すること」「9月9日(金)を最後に東京電力管内に所在する大口需要家の方々に対する電気事業法第27条に基づく電気の使用制限を終了すること」が決定されました

(3)2011年度夏期の結果①全体 節電要請等を踏まえた需要家の皆様の協力等により需要は各地域において概ね目標とする水準で推移しました2011年夏期の需要気温が高かった日と

11 第 1部第 4章に詳述しています12 石油LPG に関して講じた施策は第 4章第 3節に記載しています13 「電力需給緊急対策本部」は 2011 年 5 月 16 日をもって「電力需給に関する検討会合」に改組しました

第2章東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故後に講じたエネルギーに関する主な施策

14

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第2章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故後に講じたエネルギーに関する主な施策

第2章

2010年夏期の気温が同程度の日を選定して比較した場合ピーク時の電力需要は2010年比東京電力で19東北電力で18関西電力で8となり電力会社による供給力の積み上げや機動的な電力融通等の対応と相まって計画停電や需給ひっ迫による停電は回避することができました

②大口需要家(契約電力500kW以上の事業者) 最大ピーク需要を2010年比で見ますと東京電力で27東北電力で18関西電力で9の効果がありました使用制限を課した東京電力東北電力では目標以上の節電が行われ数値目標を提示しただけの関西電力でも目標に応じた節電効果がありました 大口需要家のうち産業部門に関しては電気の使用目的が生産活動に直結しており節電にはコストが伴いました休日夜間へのシフトのよる労務費増自家発活用による燃料費増等により相当のコストが発生した例もありました オフィスビルや店舗といった業務部門においては冷房や照明が電力需要の太宗を占めており照明の間引きLED照明の導入空調設定エレベーターの間引き等基本的には大きなコストをかけることなく電気代を節約しながら数値目標を実現しました

③小口需要家(契約電力500kW未満の事業者) 最大ピーク需要を2010年比で見ますと東京電力で19東北電力で17関西電力で10の効果がありました各電力管内とも節電要請に対応した自主的な数値目標でも目標に応じた節電効果が発揮されました 小口需要家のうち産業部門に関しては休日夜間へのシフトによる労務費増自家発活用による燃料費増等により相当のコストが発生した例もある等電気の使用目的が生産活動に直結しており節電にはコストが伴いましたコンビニエンスストア等の店舗を中心とする業務部門では電力使用の太宗を冷房や照明が占めており照明(間引きLED照明の導入)空調の設定エレベーターの間引き等基本的には大きなコストをかけることなく電気代を節約しながら数値目標を実現しました

④家庭 節電要請にほぼ対応した成果がありました家庭部

門においてはこまめな消灯LED照明の導入空調設定の工夫等により基本的には大きな支出をすることなく節電を実現しました

22011年度冬期の需給対策と結果

 2011年 11月 1日に合同開催されたエネルギー環境会議電力需給に関する検討会合において「今冬の電力需給対策」がとりまとめられ対策が講じられました

(1)供給面の対策 電力会社の取組としては引き続き供給力の積み増し努力を続けていくとともに日々の電力系統の運用において各社の需給状況を踏まえつつ更に機動的な相互の融通を行うことで需給がひっ迫する地域の需給バランスを確保できるような対応を行うこととしました 政府の取組としては2011年 11月 1日にエネルギー環境会議にてとりまとめられた「エネルギー需給安定行動計画」に基づき予算規制改革等あらゆる措置を検討しできる限りの措置を講じることとされました

(2)需要抑制の目標 供給力の最大限の積み上げを行った上でもなお存在する需給ギャップについてはピーク期間時間帯の使用最大電力(kW)の抑制(節電)により対応することとし節電要請は経済社会への影響を最小化するため「電気事業法第27条に基づく電気の使用制限は行わない」「具体的な節電の要請に当たっては経済活動や国民生活の実態に応じたきめ細かな対応を求める」という考え方に基づき行われました 関西電力と九州電力においては供給力が最大需要見通しを下回るためピーク期間時間帯の最大使用電力についてそれぞれ数値目標を伴う節電要請が行われましたなお病院や鉄道等ライフライン機能等の維持に支障が出る場合や生産活動に実質的な影響を及ぼす場合等については機能維持への支障や生産活動への実質的な影響が生じない範囲で自主的な目標を設定し節電を行うよう要請することとされました 関西電力管内には10以上の節電要請が行われました節電要請期間は2011年 12月 19日~2012年3月23日の9時~21時(平日(12月29日12月30日1月3日1月4日を除く)のみ)とされました

15

第1節 電力需給対策

第2章

 九州電力管内には5以上の節電要請が行われました節電要請期間は2011年 12月 19日~2012年2月 3日の9時~21時(平日(12月 29日12月 30日1月3日1月4日を除く)のみ)とされましたその後2011年 11月 24日付けで九州電力が玄海原子力発電所4号機の定期検査開始日を法定期限(13カ月)である2011年 12月 25日とすることを決定したことに伴い九州電力の需給バランスを再精査したところ玄海4号機の定期検査開始日までは一定の供給力が確保される見通しとなったため節電期間の開始日が当初の2011年 12月 19日から2011年 12月 26日に変更されました その他の電力会社(北海道電力東北電力東京電力中部電力北陸電力中国電力及び四国電力)管内については国民生活及び経済活動に支障を生じない範囲での期間時間帯における使用最大電力の抑制(具体的には照明空調機器等の節電等)が要請されました14節電要請期間は2011年 12月 1日~2012年 3月 30日の平日(12月 29日12月 30日1月3日1月4日を除く)9時~21時(九州電力管内については8時~21時)とされました

(3)2011年度冬期の結果①全体 節電要請等を踏まえた需要家の皆様の協力等により需要は各地域において概ね目標とする水準で推移しました2011年度冬の節電要請期間における電力需要と2010年度冬の同時期における電力需要とを比較した場合ピーク時の電力需要は関西電力で5九州電力で62となり電力会社による供給力の積み上げや機動的な電力融通等の対応と相まって計画停電や需給ひっ迫による停電は回避することができま

した15

②大口需要家(契約電力500kW以上の事業者) 最大ピーク需要を2010年度比でみますと生産活動等に配慮しても関西電力で6九州電力で7の効果がありました 多くの大口需要家は需給調整契約等における経済合理性を踏まえてピークカット等を実施し生産活動等への実質的な影響は回避されました

③小口需要家(契約電力500kW未満の事業者) 最大ピーク需要を2010年度比でみますと生産活動等に配慮しても関西電力で5九州電力で6の効果がありました 節電の内容は照明と空調に関するものが最も多く生産活動等への実質的な影響は回避されました

④家庭 家庭部門においてはこまめな消灯LED照明の導入空調設定の工夫等により基本的には大きな支出をすることなく節電を実現しました

32012年度夏期の需給対策

 2012年4月末から5月初旬にわたり今夏の需給見通しについてエネルギー環境会議及び電力需給に関する検討会合の下に設置された「需給検証委員会」で検討が行われました 検証の結果「関西電力管内で昨年の東京電力管内で想定されたピーク電力不足よりも厳しい状況になる恐れがあること」「九州電力北海道電力及び四国電力管内でも電力需給のひっ迫が見込まれるとともに全ての地域で火力発電所の稼働が増える結果燃料

14 数値目標付き節電期間以外の関西電力九州電力管内についても同様です15 数値目標を伴わない節電要請を行った電力管内のピーク需要については下記の通りです 北海道22東北22東京74中部28北陸33中国41四国29(2010 年比)

第121-3-1 でんき予報

16

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第2章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故後に講じたエネルギーに関する主な施策

第2章

コストが増加し2012年度には31兆円の国富の流出が生じると推計されておりこのまま放置すれば本年秋以降電気料金上昇のリスクも高まること」が明らかになりました これを受けて2012年 5月18日に合同開催されたエネルギー環境会議電力需給に関する検討会合において「今夏の電力需給対策」がとりまとめられ対策が講じられました

(1)供給面の対策 電力会社の取組としては需給検証委員会における検証を踏まえ現段階で確実と見られる供給力を基本とし今後確実に見込めるようになった供給力についてはその時点で上方修正することとしまた約2週間前(可能な範囲)1週間前前日の三段階で融通可能量を明確化する等日々の運用において中西日本の地域全体あるいは東日本の地域全体として機動的な電力融通を行うことにより地域全体としての需給バランスを確保できるような対応を行うこととされました 政府の取組としてはエネルギー需給安定関連の2011(平成23)年度補正予算2012(平成24)年度予算

の執行を加速しその際関西北海道九州東北及び四国を優先することとしましたまたエネルギー規制制度改革アクションプランを着実に実行することとされました

(2)需給ひっ迫時の対応 国民各層の節電への協力にもかかわらず急激な気温変化や大型発電所の計画外停止等により電力需給がひっ迫する可能性がある場合には政府はあらかじめひっ迫が想定される特定の電力会社管内に「電力需給ひっ迫警報」を発令し報道機関や地方公共団体等の協力を得て緊急節電要請を行うこととされました また計画停電は実施しないことが原則ですが大規模な電源の脱落等万が一に備えて関西電力管内に加えて予備率がマイナスと見込まれる九州電力北海道電力及び四国電力管内においても計画停電の準備を進めておくこととされました

(3)需要抑制の目標 需給検証委員会における検証結果を踏まえ需給ギャップ(kW)を解消するため需要家に対し節電を要

需給ひっ迫警報の発令(第一報)

需給ひっ迫警報の発令(続報)

「緊急速報メール」発出

節電協力による停電回避

電力会社が計画停電の実施を発表

前日1800目途

当日900目途

計画停電開始の3~4時間前

計画停電実施の2時間程度前

需給ひっ迫警報発令から計画停電への流れ

他社から電力融通を受けても需給がひっ迫する電力会社の供給予備率が3を下回る見通しとなった場合政府から当該電力会社の管内に対し警報を発令翌日行う可能性のある計画停電について電力会社から公表する

当日900を目途に政府から発令その後も需給状況の変化を踏まえて必要に応じ続報を発令

第1グループ(830~)から計画停電を実施する場合は900の警報の発令は行わない場合があるまた必要に応じ900以前に続報を発令する場合があるなお需給ひっ迫のおそれが解消されたと判断される場合には警報を解除する

引き続き需給のひっ迫状況が解消されない場合計画停電を開始する可能性がある時間の引き3~4時間前に政府から「緊急速報メール」を発信し電気の利用を極力控えることを要請

引き続き需給のひっ迫状況が解消されず最大限の融通を受けても中西日本全体若しくは北海道電力管内において供給予備率が1程度を下回る見通しとなった場合計画停電を実施する可能性がある時間帯ごとにその2時間程度前に電力会社から計画停電の実施を発表

大型発電機の計画外停止が重なり短時間に需給がひっ迫した場合等においては警報や緊急速報メールを発令することなく計画停電を実施する場合がある

(注) 北海道電力管内については北本連系線等が計画外停止した場合等においても更なる発電機等の計画外停止等が停電(計画停電や場合によっては不測の停電)につながる可能性があるためその旨を速やかに周知する万一不測の停電が起きた場合にも速やかに計画停電に移行する

当日早朝や午前中に大型発電所の計画外停止が重なった場合等においては急遽警報を発令する場合がある

緊急速報メールは早朝深夜の時間帯等需要抑制効果が見込めないと判断される場合には送信しない

第121-3-2 需給ひっ迫警報発令から計画停電への流れ

17

第1節 電力需給対策

第2章

請することとされましたこの際より合理的なピーク時の電力不足解消策として全国レベルでの節電と融通の最大活用を行うこととされました 個別の需要家に対する要請に当たっては需要家からの意見(「需要家間の公平性確保」)や需要家への「分かりやすさ」等も踏まえ2010年の使用電力需要の実績(節電影響を含まない需要実績)を基準として要請することとされました16 また被災地や高齢者等の弱者に対して無理な節電を要請することがないよう要請時には配慮を行うこととされました 併せて関連支援措置の執行の加速規制制度改革の推進等の構造的対策や需要の変動に効率的に対応する新たなピークカット対策を推進することとしこれらの需要面での対策に当たっては地方公共団体等の協力を得て創意工夫によるきめ細かい対応を行うことにより国民生活や経済活動への影響を最小化することを目指すこととされました 各電力会社管内の需要家に対する要請については北海道電力管内には2010年比7以上の節電要請が

行われました節電要請期間は2012年 7月 23日~9月7日9時~20時(平日(8月13日~15日)を除く)同年9月10日~14日 17時~20時とされました 東京東北電力管内には東日本全体としては2012年夏季想定需要(猛暑節電あり)の場合には最低限必要となる供給予備率(3)は確保できる見通しであること東北電力管内においては被災地の復興需要に配慮することが適切であることから数値目標を伴わない節電要請が行われました節電要請期間は2012年 7月 2日~9月28日の平日(同年8月13日~15日を除く)9時~20時とされました 中西日本各社の管内については中西日本における広域での節電目標を数値目標付きで要請し広く中西日本の需要家の協力を募ることにより関西電力及び九州電力の節電目標を引き下げ一律かつ強制的な手段である電力使用制限命令を回避するという方針を踏まえ関西電力管内には2010年比15以上の節電要請が行われました節電要請期間は2012年 7月 2日~9月7日9時~20時(平日(8月13日~15日を除く)とされました

16 病院や鉄道等のライフライン機能や国の安全保障上極めて重要な施設の機能等の維持に支障がでる場合には機能維持への支障が生じない範囲で自主的に目標を設定し実施することを要請(オフィス部門間接部門は共通目標の節電を要請)されました

需要サイドの取組

供給サイドの取組

新たなピークカット対策のためのアクションプラン(進捗状況)

自家発余剰購入の拡大 電力会社が需要家の自家発による電力を購入した場合買い取り分を需要家の節電とみなす指針(昨年11月公表)に基づき需要家において自家発を有効に活用今夏の節電期間において九カ所の自家発を活用し40カ所を超える供給地で節電みなしを実施する予定(化学電機製紙繊維等)この他検討中の案件ありまた補助金(6月29日まで公募)を通じて自家発設備の導入活用を促進分散型売電市場の開設 6月18日より分散型グリーン売電市場を開設自家発等の小規模電源や系統への送電量が一定ではない電力も売電可能6月27日には第一号案件の取引が成立(東京電力管内の複数のコジェネ電源最大32 万 kW程度)卸電力取引所の時間前市場の利用要件緩和 6月20日から卸電力取引所の時間前市場の買いに関する制限を撤廃し経済的理由での買い入札や差し替えを可能とする運用を開始

計画調整契約随時調整契約の拡充(特別高圧高圧大口小口向け) 各電力会社が需給調整契約のプランの拡充や割引単価を拡大(例関西電力が随時調整契約のうち前日通告プランに加え前週通告プランを新設中部電力は管外(関西電力)の需給ひっ迫時にも発動可能な契約を設定)季節別時間帯別料金の活用新たなピーク料金メニューの設定(低圧向け) 東京電力(61~)関西電力(71~)が新たなピーク料金メニューを導入(新メニューの申込み件数は東京電力約520件(511-73)関西電力約11900件(521-73))九州電力及び四国電力はピーク料金の実証を実施また関西電力及び北海道電力が一定の節電を達成した家庭にプレゼントを進呈するキャンペーン(7~9月)を実施アグリゲーターを活用したDSM(デマンドサイドマネージメント)(特別高圧高圧大口小口向け) 東京電力は複数の需要家のピーク需要抑制の取組を取りまとめることで大規模なピーク需要抑制を実現するプランを公募5件のプランについて取りまとめ事業者(アグリゲーター)との契約締結を発表(6月6日) 関西電力はBEMS(ビルエネルギー管理システム)を導入した複数の需要家に対し負荷調整を働きかけピーク抑制を実施するアグリゲーターを公募(528~615)18社の応募があり現在協議中 中部電力はアグリゲーター2社と契約し高圧小口の需要家を対象に遠隔操作によりデマンドコントローラーの設定値を低く設定すること等によりピーク時の需要を抑制(仮に管内で需給が厳しい状況とならずとも実証的に発動する予定)(626)入札等によるネガワット取引(特別高圧高圧大口向け) 関西電力が7月2日よりネガワット取引(需給ひっ迫が予想される場合に電力会社が需要家から節電(負荷抑制)を入札により確保する仕組)を実施その際関西電力管外(中部北陸中国)管内の需要家も対象とすることを発表(621)スマートメーター向け検定手数料の引き下げ(低圧向け)(エネルギー規制規制改革アクションプラン関連) 7月1日より低圧用スマートメーターの検定手数料を大幅に引き下げ(1台670円から370円に)

第121-3-3 新たなピークカット対策のためのアクションプラン(2012年 7月 5日現在)

18

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第2章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故後に講じたエネルギーに関する主な施策

第2章

 四国電力管内には2010年比7以上の節電要請が行われました節電要請期間は2012年 7月 2日~9月7日9時~20時(平日(8月13日~15日除く))とされました 九州電力管内には2010年比10以上の節電要請が行われました節電要請期間は2012年 7月 2日~9月7日9時~20時(平日(8月13日~15日を除く))とされました 中部北陸中国電力管内には2010年比5以上の節電要請が行われました節電要請期間は2012年7月2日~9月7日9時~20時(平日(8月13日~15日を除く))とされました その後2012年 7月 9日に大飯原子力発電所3号機が定格熱出力一定運転となったことを踏まえ同年7月10日から関西電力管内については2010年比10以上に低減中部北陸中国電力管内については定着した節電分相当を数値目標として設定することとしそれぞれ4以上4以上3以上に低減されました また数値目標を伴う節電要請期間及び時間は変更しないこととされました 更に7月25日に大飯原子力発電所4号機が定格熱出力一定運転となったことを踏まえ7月26日から中部北陸中国電力管内については数値目標(それぞれ2010年比4以上4以上3以上)を解除し「数値目標を伴わない節電」に変更関西電力管内については引き続き2010年比10以上の節電

要請を行うこととされましたが生産活動に支障が生じる場合は2010年比5以上に低減四国電力管内については2010年比7以上から2010年比5以上に低減することとされました また節電要請期間及び時間は変更しないこととされ引き続き高齢者乳幼児等の弱者熱中症等の健康被害への配慮を行うこととされました

第2節 原子力発電所再起動

1原子力施設の安全性安心を高める取組

(1)緊急安全対策等の実施 原子力安全保安院は今般の事故と同程度の地震と津波により全交流電源喪失最終ヒートシンクの喪失に至ったとしても炉心損傷等深刻な事態を回避し冷温停止状態に移行するための対策として2011年 3月 30日事業者に対して緊急安全対策を指示しました 短期対策としては電源車や代替注水のためのポンプの配備東京電力福島第一原子力発電所を襲ったものと同程度の津波を想定した建屋への浸水対策手順書の整備等に加え中長期対策として設備の本格的な水密化や防潮堤等の防護措置の実施を要求しましたその後これらの実施状況について事業者から報告を受け2011年 5月評価確認を実施しましたなお防潮堤の設置等の中長期対策の実施状況については引き続き厳格に確認を行っていく予定です また2011年 4月 15日には外部電源の信頼性の向上を図るため複数ルート回線の確保開閉所の耐震性確保等を指示し更に同年6月7日には万一シビアアクシデントが発生した場合でも迅速に対応するため事故時の通信管理機能確保放射線防護体制の強化を指示しましたこれらの指示に基づく実施状況についても現場確認を実施する等評価確認を行っています

第121-3-4 2012年度 夏季の節電メニュー中部 関西 北陸 中国 四国 九州

当初(7月 2日~) 5以上 15以上 5以上 5以上 7以上 10以上3号機定熱運転後(7月10日~)

4以上(定着した節電分)

10以上4以上

(定着した節電分)3以上

(定着した節電分) 7以上 10以上

4号機定熱運転後(7月26日~)

一般的な節電要請

10以上生産活動に支障が生じる場合は5以上

一般的な節電要請

一般的な節電要請

5以上 10以上

7月 25日 4号機定格熱出力一定運転(定熱運転)

第121-3-5 2012年度夏期節電目標の改訂の変遷

19

第2節 原子力発電所再起動

第2章

(2) 東京電力福島第一原子力発電所事故の知見 事故の原因等の調査については原子力安全と原子力防災を中心に事故の評価や得られた教訓を取りまとめ2011年 6月9月の2回IAEAに対して日本政府としての報告を提出しました また2011年 5月から6月にかけて各国の専門家及びIAEAの専門家で構成された調査団を受け入れ事実関係の調査を行いその時点における教訓等を国際社会と共有しました 更に事故から得られる技術的な知見を可能な限り抽出するため原子力安全保安院は2011年 10月から「東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の技術的知見に関する意見聴取会」を外部の専門家の参加を得て全面公開の下8回開催しパブリックコメントを経た上で2012年 3月に報告書をとりまとめましたその中で今回の事故では津波による被水によって所内電源設備や冷却設備が機能を喪失したことを受け今後の規制に反映すべきと考えられる事項として所内電源設備や冷却設備の位置的分散浸水対策事故時の最終ヒートシンクの強化等の必要性を提示した「30の対策」をとりまとめました 「東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の技術的知見に関する意見聴取会」に加え東京電力福島第一原発等で観測された地震津波等の影響については原子力安全保安院は2011年 9月から専門家の参加を得て「地震津波に関する意見聴取会」「建築物構造に関する意見聴取会」をそれぞれ11回8回開催し2012年2月に中間とりまとめを行いましたまた東京電力福島第一原発事故における経年劣化の影響について検証するため専門家の参加を得て「高経年化技術評価に関する意見聴取会」を6回開催し2012年 2月に取りまとめを行いましたこれらの検討結果についてはそれぞれ原子力安全委員会に報告するとともに「30の対策」に反映させています

(3)ストレステストによる評価 2011年7月6日の原子力安全委員会からの要請及び7月11日に公表された政府方針「我が国原子力発電所の安全性の確認について」に基づき原子力安全保安院では原子力発電所の更なる安全性の向上と安全性についての国民住民の方々の安心信頼の確保のため評価手法評価実施計画を作成し原子力安全委員会の確認を得た上で事業者に対して総合的安全評価(いわゆるストレステスト)の実施を指示しまし

た ストレステスト一次評価においては定期検査で停止中の原子力発電所について運転の再開の可否について判断することとしており全交流電源喪失及び最終ヒートシンク喪失に関してそれぞれの事象時の冷却継続時間クリフエッジの特定緊急安全対策の効果等について評価します事業者の一次評価の結果については原子力安全保安院が公開の会議で外部の専門家の意見を聴きつつ「東京電力福島第一原子力発電所を襲ったような地震津波が来襲しても炉心損傷に至らないこと」の確認を行い更に原子力安全保安院の審査の妥当性を原子力安全委員会が確認しますなお大飯発電所34号機については原子力安全保安院が審査書を2012年 2月 13日にとりまとめ同年3月23日に原子力安全委員会が見解をとりまとめています

2大飯発電所34号機の再起動

(1)原子力発電所に関する四大臣会合 2012年 3月に大飯発電所34号機について原子力安全保安院による審査結果及び原子力安全委員会による見解がとりまとめられたことを受けて内閣総理大臣内閣官房長官経済産業大臣内閣府特命担当大臣(原子力担当)からなる「原子力発電所に関する四大臣会合」を同年4月3日から6回にわたり開催しました まず東京電力福島第一原子力発電所事故の発生以降緊急安全対策等の安全対策の実施政府事故調や原子力安全保安院の意見聴取会等の専門家による事故検証や知見の蓄積ストレステスト一次評価による安全性評価等1年間の対策や知見の積み重ねを踏まえ分かりやすい形に整理したものとして四大臣会合で「原子力発電所の再起動にあたっての安全性に関する判断基準」を取りまとめました大飯発電所34号機は東京電力福島第一原子力発電所を襲ったような地震津波が来襲しても燃料損傷には至らないこと更なる安全性信頼性向上のための着実な実施計画が明らかになっていること等を確認したことから「原子力発電所の再起動にあたっての安全性に関する判断基準」に適合し安全性が十分に確保されていることを確認しました 併せて再起動の必要性を検証しましたその結果関西地域ではこれまでの供給力積み増しの努力を勘案してもなお電力不足となる可能性があること原子力

20

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第2章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故後に講じたエネルギーに関する主な施策

第2章

発電所の停止がもたらすコスト増により国民負担が増加しその影響は小売店や中小企業家庭に広く及ぶことエネルギー安全保障の確保等の点から大飯発電所34号機の再起動には必要性があることを確認しました 以上のように大飯34号機の再起動には安全性と必要性があることを判断し四大臣としてこの判断について国民の皆様に対して責任を持って説明し理解が得られるよう努めていくこと何よりも立地自治体の理解が得られるよう全力を挙げていくことそしてこうした一定の理解が得られた場合には最終的に再起動の是非について決断することを同年4月13日に確認しました

(2)立地自治体等への説明 2012年4月13日の四大臣会合を受けて同月14日に枝野経済産業大臣が福井県を訪問し西川福井県知事時岡おおい町長等と会談を行いましたまたおおい町からの要望を踏まえ同月26日に開催されたおおい町住民説明会において柳澤経済産業副大臣が政府の判断について説明を行いました 政府の再起動の安全性判断等について説明の要望があった関西広域連合京都府滋賀県等の周辺自治体に対しても関係閣僚等が説明を行いましたこれらの説明結果を踏まえ同年5月30日の四大臣会合において関係自治体の一定の理解が得られつつあると判断しこれまで40年間にわたって原子力発電所の安全確保に直接向き合い電力の安定供給に貢献してきた立地自治体である福井県おおい町の判断が得られれば政府として最終的な再起動判断をすることを決定しました これを受けて同年6月4日には細野内閣府特命担当大臣(原子力担当)齋藤内閣官房副長官牧野経済産業副大臣が福井県を訪問し西川福井県知事時岡おおい町長と会談し周辺自治体への説明状況等について説明を行いました同月8日には野田内閣総理大臣が記者会見を行い「国民の生活を守るために大飯発電所34号機を再起動すべきだというのが私の判断」との考えを国民に対し説明しました これらの国からの説明等を踏まえて福井県おおい町でも検討が行われ同月14日に時岡おおい町長が西川福井県知事に対して再起動に関する政府判断について了承する旨を伝え同月16日には西川福井県知事が野田内閣総理大臣等の関係閣僚と会談し政

府の再起動判断について了承する旨が伝えられました

(3)大飯発電所34号機の再起動 これを受けて原子力発電所に関する四大臣会合を同日に開催し四大臣として大飯発電所34号機を再起動することを政府の最終的な判断としました 四大臣会合では新たな規制機関の発足までの間地元の皆様の安全安心のため特別な監視体制を速やかに立ち上げ起動作業にあたっても安全に遺漏なきよう万全を期していくこと政府として原子力に関する安全性を確保しそれを更に高めていく努力をどこまでも不断に追求していくこと等を確認しました 同日の政府の最終判断を受けて関西電力は大飯34号機の再起動準備を行い3号機は同年7月1日に再起動され同月5日に調整運転を開始し4号機は同年7月18日に再起動され同月21日に調整運転を開始しました

第3節 電気料金制度の見直し1 現行の電気料金制度の問題点と見直しに至る経緯

 2011年3月の東日本大震災発生以降電力需給のひっ迫や原子力損害賠償燃料コスト増による電力コスト上昇懸念等電気事業をとりまく状況は大きく変化しましたこうした中東京電力による原子力損害賠償の支援スキームの策定に際し国民負担の最小化と電力の安定供給確保のため設置された「東京電力に関する経営財務調査委員会」の報告書(2011年 10月公

知見の整理

主な安全対策

地震津波に関する意見聴取会

緊急安全対策

外部電源対策等

シビアアクシデント対策

建築物構造に関する意見聴取会

高経年化技術評価に関する意見聴取会

総合的安全評価に関する意見聴取会(ストレステスト)

技術的知見に関する意見聴取会

安全性評価

進捗状況の反映

330基準1

H233 H241

67 618指示 確認(短期対策)

確認415 67

指示213722

指示1114

第1回 保安院審査書取りまとめ

1024第 1回

328

930

第 1回929第 1回

1129第 1回

実施状況の活用216

中間取りまとめ

中間取りまとめ

中間取りまとめ

67第 1回 1226中間取りまとめ福島原発事故独立検証委員会 227調査検証報告書

323

原安委確認

取りまとめ30の対策

知見の活用

取りまとめ

基準2

基準3

第1回43第2回45第3回46第4回49第5回412第6回413216

216

216

123-31IAEAレビュー

指示

大飯34号機

四大臣による整理確認

更なる知見の拡充

確認

東京電力福島原子力発電所における事故調査検証委員会

56事業者による更なる信頼性向上の取組

第122-2-1 これまでの安全性確保に向けた取り組み

21

第3節 電気料金制度の見直し

第2章

表)においても現行の電気料金制度とその運用について問題点が指摘されました 現行の制度は競争による経営効率化の効果を規制分野の需要家に機動的に還元するという観点から「値下げ届出制」を採用しています これは①事業者間のサービス向上競争の促進②経営効率化分の自主的な内部留保による財務体質の強化を目的に③経営効率化分の配分に対する説明責任を前提として導入されていたものですが他方で値下げの届出改定では行政は事前に原価査定を行わないため値下げ幅について事業者による効率化によるものか過去の届出原価の見積もりが過大であったこと等によるものなのかが明らかではないという問題がありました このため原価の適正性が確保されていないのではないかまた原価の中に電気の安定供給に必要なもの以外の費用が含まれているのではないかといった指摘が当該報告書においてなされることとなりました

2電気料金制度見直しの内容

 こうした現行制度とその運用への指摘を踏まえ2011年には「電気料金制度運用の見直しに関する有識者会議」が開催され規制料金として行政による原価の適正性確保と事業者の経営効率化インセンティブをどのようにバランスさせるかその際にどのような費用についてどのような水準までを適正な原価と考えるか対外的な説明責任をどのように確保するのかといった観点から現行の総括原価方式に基づく電気料金制度下において実施すべきものを中心に検討が行われました公開で行われた計6回の議論とパブリックコメントを経て2012年 3月に報告書がとりまとめられました報告書で示された基本的な考え方は以下の通りです (1)値上げ認可時の査定においては原価の厳格な査定を行う一方値下げ届出時や事業評価においては事業者による説明と行政による事後チェックを的確に行うことを徹底 (2)事業に要する費用全ての回収を認めるのではなくあるべき適正な費用のみの回収を認めることを徹底 (3)一般電気事業者が自らの供給力のみに依存する安定供給確保から他社供給力や需要側の取組も活用した安定供給確保に転換することを促す

<報告書の概要>(1)原価の適正性の確保値上げ認可時には広告宣伝費寄付金団体費については原価算入を認めないまた人件費修繕費等についてはメルクマール等により査定人件費の例一般企業の平均値を基本に他の公益企業の平均値とも比較(2)新しい火力入札火力電源を自社で新設増設リプレースする場合は原則全て入札(3)公正かつ適正な事業報酬正当な理由なく著しく低い稼働率となっている設備はレートベース対象資産(事業報酬の算定の基礎となる資産)の対象外(4)原価算定期間及び電源構成変動への対応経営効率化を織り込む等の観点から認可時は3年を原則また原価算定期間内に電源構成が大きく変動した場合には変動分のみを料金に反映(5)託送料金(送配電線の利用料)の適正化託送料金について第三者が適切性妥当性を確認(6)デマンドレスポンス料金とスマートメーターの導入時間帯別料金の多様化や三段階料金の見直し季節別料金の導入等の検討スマートメーターの導入に当たっては入札を原則(7)事後評価原価算定期間終了後には原価と実績値算定期間終了後の収支見通し利益の使途等について評価

 以上の報告書の内容を踏まえ一般電気事業供給約款料金算定規則一般電気事業供給約款料金審査要領電気料金情報公開ガイドライン等を2012年 3月に改正しました

3 東京電力の電気料金値上げに係る認可申請について

 2012年 5月 11日に東京電力から経済産業大臣に対し電気事業法第19条第1項の規定に基づき電気料金を平均1028引き上げる(値上げ)等の供給約款変更認可申請(以下「料金認可申請」という)が提出されました 東京電力は料金原価について合理化の実施により年平均2785億円の削減を行ったものの燃料費を中心として大幅な増加が避けられず収支不足額が年平均

22

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第2章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故後に講じたエネルギーに関する主な施策

第2章

6763億円となり赤字構造の早急な改善に向け値上げ認可申請がなされました 経済産業省においては電気料金認可プロセスに外部専門家の知見を取り入れ専門的かつ中立的客観的な観点から料金査定方針等の検討を行う観点から「総合資源エネルギー調査会総合部会電気料金審査専門委員会」(以下「委員会」という)を設置しました(委員長安念潤司 中央大学法科大学院教授委員長代理山内弘隆 一橋大学大学院商学研究科 教授) 2012年 5月 15日の第1回委員会以降委員会は東京電力から経済産業省に提出された料金認可申請について個別の原価にも踏み込んだ検討を含め計10回の審議を行いました開催に当たっては審議の透明性を高めるため委員会の審議は議事内容配布資料を含め全て公開形式で開催されました また料金認可申請が東京電力管内を中心に広く社会経済に影響を及ぼす事案であることに鑑み広く一般の意見を聴取するため第1回委員会においては自治体消費者団体中小企業団体関係者を招き意見を聴取しましたまた2012年 6月 7日に東京6月9日にさいたま市で電気事業法第108条に基づく公聴会を実施し国民から広く意見の聴取を行いました更に公聴会において委員会の委員も消費者からの生の声を聞くべきとの意見があったことを受けて第8回委員会において消費者団体を公募の上意見を聴取しました更にインターネットを通じた意見募集である「国民の声」や公聴会に寄せられた意見が経済産業省から報告され随時の論議に反映されました加えて第1回から第10回の全てにおいて消費者団体消費者庁からオブザーバーとしての参加を得て活発に議論が行われました 2012年 6月 12日の第5回委員会以降委員が2人1組となり担当分野につき査定方針を検討しましたその結果が第9回委員会において各担当委員から報告され2012年 7月 5日の第10回委員会において委員会としての査定方針案が取りまとめられ同日経済産業大臣に提出されました なお委員会は経済産業大臣から付託されたミッションに基づき電気事業法及び同法に基づく規則一般電気事業供給約款審査要領(以下「審査要領」という)「電気料金制度運用の見直しに係る有識者会議報告書」等の予め定められたルールに則って査定方針案を中立的客観的かつ専門的な見地から検討しました

 委員会でとりまとめられた査定方針案をもって経済産業省は消費者庁と協議を行い2012年 7月 12日には経済産業大臣と消費者担当大臣との間で電気の安定供給や原子力損害賠償の迅速かつ適切な実施の確保に支障を来さないことを前提に消費者の目線や他の公的資金投入企業の事例を踏まえ徹底的な経営合理化を図るものとするとの認識で一致し7月19日に協議が整いましたこれを受け経済産業省としての査定方針を策定し7月20日に物価問題に関する関係閣僚会議の了承を得ましたなお具体的な査定方針の主な内容としては以下の通りです(1)人件費について料金原価算定期間各年における管理職職員の年収を震災前と比べて3割超引き下げ3年間の全社員の平均年収で見ても近年の公的資金投入企業(最大2362)のいずれをも上回る削減率(2368)とすることにより約90億円の減額(2)調達等について総合特別事業計画に基づき修繕費委託費について既に10削減した上で料金認可申請がなされているがそれ以外の費用項目も含む随意契約について原則10削減を求め未達成分を減額するとともに子会社関連会社との随意契約取引について更なる深掘りを行うことにより約100億の原価の削減(3)燃料費について各火力発電所の燃料使用量を発電所の発電効率等を踏まえてより一層の効率化配分を徹底することにより相対的に燃料費の高い石油系火力発電所の燃料使用量を抑制していることを確認するとともに原価算定期間中に価格の更新時期を迎えるLNGのプロジェクトのうち近時の値上がり傾向の市況を踏まえ値上げを織り込んでいるものについて東京電力の交渉努力を先取りする形で直近実績レベルまで原価を減額する等により約120億円の原価の削減(4)福島第一原子力発電所56号機に係る安定化維持費用及び賠償関連費用について事故直後に特別損失として認識し処理した費用(約9000億円)は2011年度末までに特別損失で計上されておりこれ以外に新たに必要となる経費のうち資本的支出(設備投資)が生じた場合当該設備は将来の収益を生むものではなく資産性が認められないため会計上資産価値が特別損失処理され減価償却費が発生しないことから申請原価に含まれていない 他方で資本的支出以外の経常的に発生する費用である費用及び賠償に関する受付や業務フロー作成等の委託費をはじめとする賠償対応費用についてこう

23

第4節 再生可能エネルギー固定価格買取制度導入

第2章

した費用が原価算入されない場合東京電力としての原子炉廃止措置賠償といった責務が果たせなくなるとともに国民全体の負担に依らざるを得なくなるため東京電力が採用するADR弁護士費用は控除する等厳に必要な費用に限った上で原価へ算入 また事故に伴い発生した賠償支払額そのものは原子力損害賠償支援機構法の枠組に基づき原子力損害賠償支援機構から東京電力に対し国の交付国債を原資とする資金援助が行われていることから料金原価に含まれない(5)事業報酬の算定に当たっては震災後の経営リスクを踏まえ2011年 3月 11日から申請日前日の2012年 5月 10日までの期間の9電力会社平均の経営リスクに係る指標に基づいて算定を行い約93億円の原価の削減 2012年 7月 25日に東京電力より提出された申請内容の修正が査定方針通りであることが確認できたため電気事業法第19条に基づき経済産業大臣が認可を行い最終的な値上げ幅は平均846となりました なお消費者への十分な周知を図るために東京電力の値上げの実施時期を2012年 9月1日としました

第4節 再生可能エネルギー固定価格買取制度導入 近年新興国を中心としたエネルギー需要の急増に伴う国際的な資源獲得競争の激化や国内外における地球温暖化対策の強化が求められる状況の中純国産のエネルギー源であり二酸化炭素を排出しない再生可能エネルギーの果たす役割の重要性が高まってきています本項では再生可能エネルギーの導入支援策の大きな柱である固定価格買取制度導入の背景と経過制度開始後の状況をまとめます

1制度導入の背景

 固定価格買取制度は再生可能エネルギー(太陽光風力水力地熱バイオマス)によって発電された電気を国が定める一定の期間にわたって国が定める一定の価格で購入することを電気事業者に義務づける

制度ですこれにより再生可能エネルギーを用いる発電投資への投資回収の不確実性を低減させこれらに対する投資を促すことで再生可能エネルギーの導入拡大を加速化させる効果が得られると見込まれていますまた導入拡大が加速すれば設備の量産化が進み現時点では他のエネルギーに比して割高な再生可能エネルギーのコストダウンが進展することも期待されています このように再生可能エネルギーの導入拡大にとって大きな効果を持つ固定価格買取制度の導入は東日本大震災以前から検討されており「エネルギー基本計画」や「新成長戦略」においても言及がなされていました17この制度を実施に移すため2011年 3月 11日に「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」(以下「特措法」)案が閣議決定されましたその後東日本大震災及び福島第一原子力発電所における事故を経て中長期的に脱原子力依存を進めていくためにも再生可能エネルギーに対する期待はこれまで以上に高まりました同法案の国会審議の過程では政府が提出した法案に対して民主党自由民主党公明党の三党の合意に基づき一層の再生可能エネルギーの導入拡大の観点から修正がなされ最終的にこの修正を反映した形で同年8月26日に法案が成立し同年8月30日に公布されました

<参考>主な国会修正事項 政府案では太陽光発電以外は一律の価格と期間での買取りを想定していたところ再生可能エネルギー源の種別利用形態規模ごとに価格と期間を設定 事業活動に当たって電力を多く使用する事業を行う事業者に対する負担軽減措置の創設  (売上高当たりの電気使用量が製造業については製造業平均の8倍以上非製造業については非製造業平均の政令で定める倍数(14倍)以上の事業を行っている等の要件を満たす事業者に適用) 政府案では調達価格等の決定プロセスは総合資源エネルギー調査会の意見を聴いて定めることとされていたところ新たに設けられる調達価格等算定委員会の意見を尊重し定めることに変更 等

17 2010 年 6 月に改訂策定された「エネルギー基本計画」や同月に策定された「新成長戦略」においても一次エネルギーに占める再生可能エネルギーの割合を2020 年度までに 10に引き上げることを目標とする等これまで以上の再生可能エネルギーの導入拡大が求められるようになっておりこのような高い目標を実現するための最も効果的な手段として固定価格買取制度を導入することが検討されていました

24

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第2章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故後に講じたエネルギーに関する主な施策

第2章

2 調達価格等算定委員会の検討経過と結論

 上記のように特措法においては経済産業大臣は調達価格(電気事業者が買い取る際の価格)と調達期間(調達価格での買取りが継続する期間)を決定するにあたり国会の同意を得た上で任命される委員から構成される調達価格等算定委員会(以下「委員会」と言う)の意見を尊重することが明記されました2012年 3月に以下の5名が委員会の委員として両議院の同意を得た上で任命され同月から委員会での議論が開始されました 委員会では法律の内容や国会における議論を踏ま

えつつ業界団体等からのヒアリング(太陽光発電協会等の各種発電に係る業界団体や新規参入を予定している事業者経済団体等)各種論点についての詳細な議論検討が全7回にわたり行われました その上で委員会は2012年 4月27日に「平成24年度調達価格及び調達期間に関する意見」をとりまとめ枝野経済産業大臣に提出しました 経済産業省においては提出された意見を尊重し意見通り調達価格調達期間を決定し同年6月18日に告示しました(第124-2-1)また法律の規定に従い調達価格調達期間については委員会の意見と併せて国会にも報告がなされました

3制度開始後の状況

 2012年7月1日の制度開始以降同年7月末現在で33695件出力にして合計約57万kWの設備が制度の適用を受けることができる設備として経済産業大臣により認定されていますこうした認定を受けた案件を含め市場では固定価格買取制度の導入を機に様々な事業化プランの検討が進んでおり政府の試算では2012年度だけでも設備容量ベースで合計250万kW程度の再生可能エネルギーの導入拡大が進むと見込んでいます(第124-3-1) 一方で固定価格買取制度では電気事業者が再生可能エネルギー由来の電気の買取りに要した費用について賦課金として電気料金に上乗せする形で国民の皆様にご負担いただくことになっています2012年度

委員会名簿植田 和弘(委員長) 京都大学大学院経済学研究科教授

山内 弘隆(委員長代理)一橋大学大学院商学研究科教授

辰巳 菊子 (公社)日本消費生活アドバイザーコンサルタント協会理事環境委員長

山地 憲治 (公財)地球環境産業技術研究機構(RITE)理事研究所長

和田 武 日本環境学会会長

電源 太陽光 風力 地熱 中小水力

調達区分 10kW以上 20kW以上 20kW未満10kW未満(余剰買取)

15万kW以上

15万kW未満

1000kW以上30000kW未満

200kW以上1000kW未満

200kW未満

費用

費用

建設費

建設費

運転維持費(1年当たり)

運転維持費(1年当たり)

325万円kW 466万円kW 30万円kW 125万円kW 79万円kW 123万円kW 85万円kW 80万円kW 100万円kW

10千円kW

392万円 kW

47千円kW 60千円kW 33千円kW 48千円kW 95千円kW 69千円kW 75千円kW

税前 7税前7税前18税前8税前 6

税前 1 税前 8 税前 4 税前 4 税前 4

税前32(1) 税前13(2)IRR

IRR

調達価格1kWh当たり

調達価格1kWh当たり

税込(3)4200円

4095 円 3360 円 2520 円 1785 円 1365 円

42円(1)

2310円 5775円 2730円 4200円 2520円 3045円 3570円

税抜

税抜税込

40円

39円 32円 24円 17円 13円

42円 22円 55円 26円 40円 24円 29円 34円20年20年

20年

20年20年 15年15年10年調達期間

調達期間

電源 バイオマス

バイオマスの種類 ガス化(下水汚泥)

ガス化(家畜糞尿)

固形燃料燃焼(未利用木材)

固形燃料燃焼(一般木材)

固形燃料燃焼(一般廃棄物)

固形燃料燃焼(下水汚泥)

固形燃料燃焼(リサイクル木材)

41万円kW 41万円kW 31万円 kW 35万円kW27万円kW22万円 kW27万円kW27万円kW184万円 kW

調達区分

【メタンガス発酵ガス化バイオマス】 【未利用木材】【一般木材(含パーム梛子殻】

【廃棄物形(木質以外バイオマス)】 【リサイクル木材】

第124-2-1 告示された調達価格等

(注) 1 住宅用太陽光発電について       10kW未満の太陽光発電については一見10kW以上の価格と

同一のように見えるが家庭用についてはkW当たり35万円(2012年度)の補助金の効果を勘案すると実質48円に相当するなお一般消費者には消費税の納税義務がないことから税抜き価格と税込み価格が同じとなっている

   2 地熱発電のIRRについて       地表調査調査井の掘削など地点開発に一件当たり46億円程度

かかること事業化に結びつく成功率が低いこと(7程度)等に鑑みIRRは13と他の電源より高い設定を行っている

   3 消費税の取扱いについて       消費税については将来的な消費税の税率変更の可能性も想定

し外税方式とすることとしたただし一般消費者向けが太宗となる太陽光発電の余剰買取の買取区分については従来どおりとした

第 124-3-1  2012年度の再生可能エネルギーの導入量見込み

2011年度時点における導入量

2012年7月末までに認定を受けた設備容量

2012年度末までの導入予測

太陽光(住宅) 約400万kW 約144万kW +約150万kW

太陽光(非住宅) 約80万kW 約301万kW +約50万kW

風力 約250万kW 約122万kW +約38万kW

中小水力(1000kW以上30000kW未満)

約935万kW - +約2万kW

中小水力(1000kW未満)

約20万kW 約01万kW +約1万kW

バイオマス 約210万kW - +約9万kW

地熱 約50万kW - -

合計 約1945万kW 約567万kW +約250万kW

(出所) 1 単年度導入量については太陽光発電はJPEA出荷統計風力発電はJWPA統計その他電源はRPSデータ等より

    2 2012年度見込みについては各種前提により資源エネルギー庁推計

25

第5節 省エネルギー法改正に向けて

第2章

においては賦課金の単価は1kWh当たり022円となっていますこれにこれまで実施してきた太陽光の余剰電力買取制度の負担(全国平均で1kWh当たり007円)と併せて2012年度では1kWh当たり029円(全国平均)のご負担をお願いすることになりますこれは一月に7000円程度の電気料金をお支払いいただいているご家庭(一月300kWh程度の電力使用量を想定)であれば一月約87円の負担となります再生可能エネルギーの導入拡大が進めば賦課金の負担も増大していくことから負担が過重なものとならないよう常に配慮することが重要ですこのため固定価格買取制度の下では再生可能エネルギー発電事業者が実際に設備の設置等に要した費用について事後的に経済産業省に報告することを求めており集計されたデータを翌年度以降の調達価格の審査に活用することで発電設備等のコスト低減の成果を適切に調達価格の見直しに反映することとしています

第5節 省エネルギー法改正に向けて

1背景

 エネルギーの使用の合理化に関する法律(以下省エネ法)は「熱管理法」を全面改正する形で1979年に成立しました 1998年の改正で導入されたトップランナー制度はエネルギー消費機器の製造輸入事業者に対し3~10年程度先に設定される目標年度において高い水準(トップランナー基準)を満たすことを求め目標年度になると報告を求めてその達成状況を確認する制度です制度導入当初対象機器は乗用自動車エアコン蛍光灯等9品目でしたが最近ではルーター等も対象に追加され現在までに23品目に拡大し世帯当たり電気消費量に占める割合の6割をカバーしています2012年にはヒートポンプやLED照明といった近年急速に普及が見られた機器についてもトップランナー制度の対象に追加する等引き続き対象機器の拡大や目標値の強化を実施しています 2008年には10度目の改正を行い①これまでの工場事業場単位から事業者単位の規制に変更②事業者の省エネルギー状況を比較できる指標(ベンチマーク指標)を定め中長期的に達成すべき水準を目標として設定するセクター別ベンチマークを導入③事業者が自

主的に行う共同省エネルギー事業について国はその取組を促進するよう法律の施行にあたり適切な配慮をすることとしたこと等大きく三つの点が変更されました このような改正を経て省エネ法の規制対象事業者は改正前の7500事業者から約1万2000事業者に増加しました我が国はGDPが約2倍となった過去30年間でエネルギー効率を約37改善してきましたがその中で省エネ法は重要な役割を果たしてきたと言えます

2 省エネ法改正に向けた動きと省エネ部会における検討

 石油危機に端を発したエネルギー危機を乗り越えるために省エネ法は化石燃料の使用量の低減と経済成長を両立することを目指し需要サイドの努力によってこれを克服してきました そして東日本大震災及び東京電力福島第一原子力発電所事故以降エネルギーの需給問題に対する関心が高まりエネルギー政策の前提となる状況自体も大きく変わりました従来省エネルギーの議論の中心は化石燃料の使用量を全体としてどう減らすかということでありそのこと自体はオイルショック以来の流れの中で大きな意義がありました 震災以降のエネルギー需給の問題に鑑みますとエネルギー全体としての使用量の抑制だけではなく電力需要のピークにどう対応していくかの議論が必要であり現行省エネ法に含まれていない「ピーク対策」への対応は非常に重要な政策課題となりました また我が国の最終エネルギー消費は二度のオイ

19 倍

伸び(1973 rarr2010年度)

28倍

09 倍

0

100

200

300

400

500

600

0

50

100

150

200

250

300

350

400

450

73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 9192 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10

(100万石油換算トン) (兆円2000年価格)

産業部門

家庭部門

運輸部門

業務部門

439

188

229

144

655

92164

89

実質GDP1973rarr2010

24 倍

22倍

25倍

(注) 「総合エネルギー統計」は1990 年度以降の数値について算出方法が変更されている

(出所) 資源エネルギー庁「総合エネルギー統計」内閣府「国民経済計算年報」(一財)日本エネルギー経済研究所「エネルギー経済統計要覧」

第125-2-1  最終エネルギー消費量の推移(1973年~2010年)

26

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第2章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故後に講じたエネルギーに関する主な施策

第2章

ルショック後や近年の不況時を除きほぼ一貫して増加しています部門別のエネルギー消費量はオイルショック以降産業部門が約09倍のところ民生部門は約25倍運輸部門は約19倍と大幅に増加しています(第125-2-1)従来から十分な努力により省エネルギーを進めてきた産業部門における更なる省エネルギー対策に加えエネルギー消費量の増加が著しい民生(業務家庭)部門において一層の省エネルギーを進める必要があります(第125-2-2) 民生部門対策としてはトップランナー制度による自動車や家電等機器の省エネルギー性能の向上や住宅建築物の省エネルギー基準の策定等を行ってきました今後は日常生活の中でエネルギーをいかに少なくしつつ快適な生活を送るかつまり我慢ではなく持続可能な省エネルギーを進めていく必要があり住宅建築物全体の省エネルギー性能の底上げについて検討が必要となります 総合資源エネルギー調査会省エネルギー部会ではこれらの背景を踏まえ今後の省エネルギー政策の展開について検討を行い2012年 2月に「中間取りまとめ」を取りまとめましたこの「中間取りまとめ」を踏まえ政府は電力ピーク対策及び民生部門の省エネルギ

ー対策を盛り込んだ省エネ法の改正案を2012年 3月13日に第180回通常国会に提出いたしました

3省エネ法改正案について

 我が国経済の発展のためにはエネルギー需給の早期安定化が不可欠であり供給体制の強化に万全を期しその上で需要サイドにおいては持続可能な省エネルギーを進めていくという観点から主に以下の2点の改正を実施します まず1点目は需要家が従来の省エネルギー対策に加え蓄電池やエネルギー管理システム(BEMSHEMS)自家発電蓄熱式の空調ガス空調等の活用等により電力需要ピーク時の系統電力の使用を低減する取組を行った場合にこれを評価できる体系にする点です具体的にはピーク時間帯に工夫して系統電力の使用を減らす取組(節電)をした場合にこれ以外の時間帯で系統電力の使用を減らした場合よりも改善の度合いを大きく評価することで省エネ法の努力目標(原単位の改善率年平均1)を達成しやすくなるよう努力目標の算出方法を見直します 2点目はこれまでエネルギーを消費する機械器具を対象としていたトップランナー制度にそれ自体はエネルギーを消費しないものの他の建築物や機器等のエネルギーの消費効率の向上に資する機械器具等を新たな対象として追加し住宅建築物分野の省エネルギー対策を強化する点ですこれまでのトップランナー制度は法律上エネルギーを消費する機械器具が対象であり他の建築物や機器等のエネルギーの消費効率向上に資する機械器具等は対象とされていませんでした新たにトップランナー制度に追加する機械器具等としては具体的には窓断熱材水回り設備等の建築材料等を想定しており企業の技術革新を促すことで住宅建築物の省エネルギー性能の底上げを図っていきます

建築物

給湯用14

暖房用16

動力他49

冷房用13

厨房用9

3

8

住宅

動力他35

冷房用

給湯用28

暖房用27

厨房用

(注) 建築材料等の省エネルギー性能の向上により住宅では約 6割建築物では約 4割を占める暖冷房給湯用エネルギー消費量の削減に貢献

(出所) (一財)日本エネルギー経済研究所「エネルギー経済統計要覧」

第125-2-2  民生分野におけるエネルギー消費の現状(2010年度)

27

第3章

 2011年 3月 11日に発生した東北地方太平洋沖地震とこれによる津波は東京電力福島第一原子力発電所において極めて重大かつ広範囲に影響を及ぼす原子力事故を引き起こしました 今回の事故に関する調査検証は「東京電力福島原子力発電所における事故調査検証委員会」(政府事故調)国会(東京電力福島原子力発電所事故調査委員会)18事故の当事者である東京電力や規制当局である経済産業省原子力安全保安院民間団体等によっても行われておりまた政府の原子力災害対策本部から国際原子力機関(IAEA)に対して日本国政府の報告書も提出されています 本章では「東京電力福島原子力発電所における事故調査検証委員会」(政府事故調)において行われた事故の原因調査究明事故を踏まえた緊急安全対策やストレステスト等の規制当局の取組原子力規制委員会の設立東京電力福島第一原子力発電所の廃止に向けた取組東京電力による被災者賠償と原子力損害賠償支援機構の設立原子力被災者支援について概要と現状今後への課題等を取り上げます

第1節  「東京電力福島原子力発電所における事故調査検証委員会」における事故原因の調査究明

1委員会の発足に至る背景

 政府は極めて重大かつ広範囲に影響を及ぼした今回の原子力事故の原因及び事故による被害の原因を究明するための調査検証を国民の目線に立って開かれた中立的な立場から多角的に行い被害の拡大防止及び同種事故の再発防止等に関する政策提言を行わせることを目的として2011年 5月 24日の閣議決定により内閣官房に「東京電力福島原子力発電所における事故調査検証委員会」(政府事故調)を設置しました

 同委員会は従来の原子力行政から独立した立場で技術的な問題のみならず制度的な問題も含めた包括的な検討を行うことを任務として調査検証を行いました

2委員会の構成

 委員会は畑村洋太郎委員長(東京大学名誉教授工学院大学教授)以下内閣総理大臣により指名された10人のメンバーで構成されました更に専門的技術的事項について助言を得るため委員長の指名により2名の技術顧問が置かれましたまた調査検証を補佐する事務局には事務局長以下の各府省庁出身者のほか社会技術論原子炉過酷事故解析避難行動等の分野の専門家8名を配置し専門家をチーム長として三つの調査検証チーム(社会システム等検証チーム事故原因等調査チーム被害拡大防止対策等検証チーム)が設置されました

第3章原子力発電所事故関連

18 報告書ダイジェスト版を参考資料に掲載しています

委員会名簿畑村 洋太郎(委員長) 東京大学名誉教授工学院大学教授

尾池 和夫 国際高等研究所所長前京都大学総長

柿沼 志津子 (独)放射線医学総合研究所放射線防護研究センターチームリーダー

高須 幸雄 東京大学グローバル地域研究機構特任教授前国際連合日本政府代表部特命全権大使

髙野 利雄 弁護士元名古屋高等検察庁検事長

田中 康郎 明治大学法科大学院教授元札幌高等裁判所長官

林 陽子 弁護士

古川 道郎 福島県川俣町長

柳田 邦男 作家評論家

吉岡 斉 九州大学副学長

安部 誠治(技術顧問) 関西大学教授

淵上 正朗(技術顧問) 株式会社小松製作所顧問工学博士

28

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第3章 原子力発電所事故関連

第3章

3調査検証の経過

 同委員会は2011年 6月 7日に開催された第1回委員会において基本的方向を定め調査検証に着手しました主として事務局を通じて東京電力原子力安全保安院原子力安全委員会をはじめとする関係事業者関係機関から資料の提出を受けてこれを分析するとともにこれらの役職員構成員や事故発生当時の閣僚更に学識経験者等を含め幅広く関係者のヒアリングが行われましたヒアリングを行った関係者は総数772名総聴取時間は概算で1479時間に上りました 作業の進捗は毎月1回開催される委員会において報告確認され2011年 12月 26日に開催された第6回委員会において中間報告がとりまとめられましたこの中間報告では今回の事故に対する国内外の関心の高さや関係機関における事故の教訓を踏まえた取組の進行状況を考慮しそれまでに明らかになった事実関係をできる限り詳細に記述するとともに事故発生後の政府諸機関の対応の問題点事前の津波シビアアクシデント対策の問題点等について可能な範囲で考察を加え緊急事態応急対策拠点施設(オフサイトセンター)の機能維持モニタリングの運用改善緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)の活用住民避難への備え原子力安全規制機関の在り方といった事柄について提言が行われました また2012年 2月 24日25日に開催された第8回委員会では調査検証の内容を国際的な関心に応えるものにするため海外5カ国(米仏スウェーデン韓中)から国際的に著名な原子力放射線等の専門家を招へいして意見交換が行われました このほか委員会は主に地震津波対策について検討するため事故現場である福島第一第二発電所に加え日本原子力発電東海第二発電所東北電力女川原子力発電所同社原町火力発電所中部電力浜岡原子力発電所及び東京電力刈羽原子力発電所を視察しました更に今回の原子力災害で被災した自治体のうち福島県大熊町双葉町浪江町南相馬市及び飯館村の各首長並びに浪江町から避難している住民からの意見聴取を行い仮設住宅の視察を行いました 2012年 7月 23日に開催された第13回委員会において最終報告19がとりまとめられ同日畑村委員長

から野田内閣総理大臣に手交されましたこの最終報告では中間報告の段階では調査が未了で取り上げることができなかった事項や中間報告で取り上げましたもののその後更なる調査検証が行われた事項等が盛り込まれました 最終報告では福島第一原子力発電所の1号機から3号機の主要な施設設備の被害状況について事態の進展に伴う損傷の拡大状況に関する分析も含めて改めて詳述するとともに同原発1号機3号機及び4号機の原子炉建屋の水素ガス爆発等に関する検討が行われました更に中間報告の段階では調査検証が未了であった同原子力発電所5号機及び6号機における事故対処同原発の外部電源復旧状況や福島第二原子力発電所における事故対処の状況原子力災害発生後の国等の組織的対応状況主として発電所外でなされた被害拡大防止のための対処としての環境放射線モニタリングSPEEDIの活用の在り方(SPEEDIにより単位量放出を仮定した予測結果は得られており仮にその情報が提供されていれば各地方自治体及び住民はより適切に避難のタイミングや避難の方向を選択できた可能性があったと言える事等)住民の避難等日本海溝沿いの地震津波に関する科学的知見シビアアクシデント対策の在り方原子力災害対応体制の検討経緯国際法国際基準関係について記述されました またこれらの主要な問題点に分析を加えた上「抜本的かつ実効性ある事故防止対策の構築」「複合災害という視点の欠如」「『被害者の視点からの欠陥分析』の重要性」等重要な論点9項目の総括を行いあわせて原子力災害の再発防止及び被害軽減のための同委員会の提言を七つのカテゴリーに分類して掲載しました(最終報告概要版を参考資料として第一部第4章第5節の後に記載)

<提言> (1)安全対策防災対策の基本的視点に関するもの  複合災害を視野に入れた対策に関する提言  リスク認識の転換を求める提言  「被害者の視点からの欠陥分析」に関する提言   防災計画に新しい知見を取り入れることに関す

る提言 (2)原子力発電の安全対策に関するもの

19 報告書概要を参考資料に掲載しています

29

第2節 東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえた規制当局の取組

第3章

  事故防止策の構築に関する提言  総合的リスク評価の必要性に関する提言  シビアアクシデント対策に関する提言 (3)原子力災害に対応する態勢に関するもの  原災時の危機管理態勢の再構築に関する提言  原子力災害対策本部の在り方に関する提言  オフサイトセンターに関する提言  原災対応における県の役割に関する提言 (4)被害の防止軽減策に関するもの  広報とリスクコミュニケーションに関する提言  モニタリングの運用改善に関する提言  SPEEDIシステムに関する提言  住民避難の在り方に関する提言  安定ヨウ素剤の服用に関する提言  緊急被ばく医療機関に関する提言  放射線に関する国民の理解に関する提言   諸外国との情報共有や諸外国からの支援受入れ

に関する提言 (5)国際的調和に関するもの  IAEA基準等との国際的調和に関する提言 (6)関係機関の在り方に関するもの  原子力安全規制機関の在り方に関する提言  東京電力の在り方に関する提言  安全文化の再構築に関する提言 (7)継続的な原因解明被害調査に関するもの  事故原因の解明継続に関する提言   被害の全容を明らかにする調査の実施に関する

提言

第2節  東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえた規制当局の取組

1 東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえた緊急安全対策

 原子力安全保安院は東京電力福島第一原子力発電所に来襲したものと同程度の地震と津波により全交流電源喪失に至ったとしても炉心損傷等深刻な事態を回避し冷温停止状態に繋げるための対策として2011年 3月 30日事業者に対して緊急安全対策を指示しました これまでに東京電力福島第一原子力発電所を除く全原子力発電所から実施状況報告を受け原子力安

全保安院として2011年 5月 6日には東京電力福島第一原子力発電所東京電力福島第二原子力発電所東北電力女川原子力発電所以外の各原子力発電所について同年6月1日には女川原子力発電所について同年11月28日には東京電力福島第二原子力発電所について緊急安全対策が適切に実施されていることを確認しました具体的には緊急時対応計画の作成緊急時の電源確保のための電源車や代替注水のための消防ポンプの配置浸水対策水源の確保や緊急時における手順書の整備訓練の実施といった対策(短期対策)が実施されたことを確認しましたこれらの対策については一部が技術基準における要求事項に含められたほか事故時の手順の整備が行われるよう保安規定も改定されています 更に緊急安全対策では海水ポンプ電動機等の予備品の確保空冷式非常用発電機等の設置や水密化防潮壁防潮堤の設置等津波に対する防護措置が中長期対策として要求されており原子力安全保安院は事業者が今後これらを適切に実施される計画を有していることを確認しました なお東京電力福島第二原子力発電所については冷温停止状態を維持するために必要な対策が取られているかという観点から確認を行いました 核燃料サイクル施設に関しては同年5月1日に再処理施設を対象に緊急安全対策を指示し同月中に各事業者から実施状況の報告を受けましたまた同年6月15日には各事業所において緊急安全対策(電源車浸水対策緊急時の手順書整備訓練の実施等短期対策)が適切に実施されていることを原子力安全保安院として確認しましたなお指示に対する報告があった時点において各施設は検査期間中であることから検査後の状況を踏まえた対策に関しては今後改めて報告がなされることとなっています

2 原子力発電所等の外部電源の信頼性確保

 2011年 3月 11日の地震により東京電力福島第一原子力発電所及び日本原電東海第二原子力発電所の外部電源が喪失したことに加え同年4月7日に宮城県沖で発生した地震により東北電力東通原子力発電所及び日本原燃六ヶ所再処理事業所において一時的に外部電源の喪失が発生しましたこれまで外部電源については特段の対策を求めてきませんでしたが今回外部電源の喪失が複数のサイトで発生したことを

30

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第3章 原子力発電所事故関連

第3章

踏まえ原子力安全保安院は外部電源の信頼性の更なる向上を図るため同年4月15日各事業者に対し外部電源の信頼性確保のための対応を検討しその結果を報告するよう指示を行い同年6月7日各社から報告の提出を受けて報告内容の評価確認を行いましたなお東京電力福島第二原子力発電所における外部電源の信頼性確保に係る対応については同年11月 28日に提出を受け評価確認を行いました今後各事業者から報告された各対策の実施状況を厳格に確認していくこととしています また原子力発電所の開閉所等の電気設備が機器の倒壊損傷等により機能不全に陥る事例も発生したことからこのような事態が発生する可能性についての影響評価及びその評価結果を踏まえた対策策定に係る実施状況についても報告することを各事業者に対して指示し2011年 7月 7日その実施状況について中間報告がなされました 更に2012年 1月 19日東京電力より東京電力福島第一原子力発電所等の開閉所に係る電気設備の損傷原因は東北地方太平洋沖地震により開閉所において発生した地震動が設計基準を超過したことであると報告されたことから各事業者に対して今後発生する可能性のある地震による耐震安全性の評価及び対策の実施を求めること等を追加指示しました同年2月17日各事業者等から耐震安全性評価に係る実施計画が報告されており今後評価結果が報告され次第その内容を確認していくこととしています

3 東京電力福島第一原子力発電所事故の技術的知見

 今回の事故から可能な限りの教訓を引き出し今後の原子力安全に役立てていくことは規制機関の責務です原子力安全保安院は事故の発生及び事故の進展について現時点までに判明している事実関係について工学的な観点から事故シーケンスに従って設備や操作手順に即して出来る限り深く整理分析することにより事象の各段階における技術的知見を体系的に抽出し主に設備手順に係る必要な対策の方向性について検討しました 具体的な検討の対象は東京電力福島第一原子力発電所の事故における外部電源設備(変電所開閉所等)所内電気設備(非常用電源設備等)冷却設備(炉心冷却系補機冷却系等)閉込機能に関する設備(格納容器ベント設備等)指揮通信計装制御設備(通信

設備炉内計装設備等)等です事故シーケンスにおける検討の範囲は地震の発生から炉心損傷及び閉込機能喪失により放射性物質が外部環境に放出されるまでの発電所で生じた事象としました 未だ放射性物質による汚染等のため現場の確認を行うことが難しい設備機器が多く溶融落下した炉心の状況等事象の解明が十分に進んでいない部分も残されていますが2011年 10月から8回にわたり公開の意見聴取会の場で外部の専門家によるレビューを受ける等して2012年 3月五つの分野について「30項目の安全対策」を以下のとおり取りまとめました (1) 外部電源対策(4対策)地震等による長時間の

外部電源喪失の防止 (2) 所内電気設備対策(7対策)共有要因による所

内電源の機能喪失防止や非常用電源の強化 (3) 冷却注水設備対策(6対策)冷却注水機能喪

失の防止 (4) 格納容器破損水素爆発対策(7対策)格納容

器の早期破損防止や放射性物質の非管理放出の防止

 (5) 管理計装設備対策(6対策)状態把握プラント管理機能の抜本的強化

 これらの対策は新たな規制の枠組みの下で技術的な要求事項を検討する際の基礎とすることを想定していますただしこれらの対策は地震と津波の重畳による全交流電源喪失を起因事象とする東京電力福島第一原子力発電所事故の事象面からボトムアップ的に導き出したものですそのためこれらの対策間の関係や重要度の比較システム全体としての安全性向上について検討するとともにより広い起因事象を包含したシビアアクシデントへの対応も含めトップダウン的な方法論により体系的に検討整理する必要がありますまた実際に規制として適用するに当たっては更に設計ガイドライン等の整備が必要です

4 既設の発電用原子炉施設等の安全性に関する総合評価(いわゆる「ストレステスト」)

 原子力安全委員会は東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえ既設の発電用原子炉施設について設計上の想定を超える外部事象に対する頑健性に関して総合的な評価を行うことが重要であるとの考えのもと2011年 7月 6日に「東京電力株式会社福島第一原子力発電所における事故を踏まえた既設の発電用原

31

第2節 東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえた規制当局の取組

第3章

子炉施設の安全性に関する総合的評価の実施について」をとりまとめ原子力安全保安院に対し発電用原子炉施設の安全性に関する総合的評価の実施を要請しました 我が国の原子力発電所の安全性については前述の緊急安全対策等により今般の事故と同程度の地震津波が発生しても深刻な事態に至ることなく冷温停止に繋げるための対策を実施しておりその結果については原子力安全保安院により確認がなされています他方定期検査後の原子力発電所の再起動に関しては原子力安全保安院による安全性の確認について国民住民の方々に十分な理解が得られているとは言い難い状況を踏まえ政府において原子力発電所の更なる安全性の向上と安全性についての国民住民の方々の安心信頼の確保のため欧州諸国を参考に新たな手続きルールに基づく安全評価としてストレステストを実施することが同年7月11日に閣僚レベルで方針決定されました この決定によれば原子力発電所のストレステストは2段階で評価することとしており一次評価は定期検査で停止中の原子力発電所の運転再開の可否について判断するために行われることになっています同年7月21日原子力安全保安院はこのストレステストを一次評価と二次評価に分けた評価手法及び実施計画を原子力安全委員会の確認を受けた上でとりまとめ翌日事業者に評価の実施を指示しました 一次評価においては「安全上重要な施設機器等について設計上の想定を超える事象に対してどの程度の安全裕度が確保されているか評価する評価は許容値等に対しどの程度の裕度を有するかという観点から行うまた設計上の想定を超える事象に対し安全性を確保するために取られている措置について多重防護(defense in depth)の観点からその効果を示すこれにより必要な安全水準に一定の安全裕度が上乗せされていることを確認する」としておりこれにより緊急安全対策の効果も含め先般の事故と同程度の地震津波が来襲しても炉心損傷といった深刻な事態に至らないことを確認します原子力安全保安院は事業者からこれまでに22プラント(2012年 7月 20日現在)について一次評価に係る報告書の提出を受けこのうち大飯発電所34号機及び伊方発電所3号機について原子力安全保安院の評価を終了していますまた大飯発電所34号機について原子力安全委員会は原子力安全保安院による評価の確

認を行い見解を取りまとめています 更に二次評価においては「設計上の想定を超える事象の発生を仮定し評価対象の原子力発電所がどの程度の事象まで燃料の重大な損傷を発生させることなく耐えることができるか安全裕度(耐力)を評価しますまた燃料の重大な損傷を防止するための措置について多重防護の観点からその効果を示すとともにクリフエッジを特定して潜在的な脆弱性を明らかにしますこれにより既設の発電用原子炉施設について設計上の想定を超える外部事象に対する頑健性に関して総合的に評価する」としています なお原子力安全保安院は2012年 1月IAEAによるレビューミッションを受け入れストレステストに関する原子力安全保安院の指示及び審査プロセスが基本的にIAEAの安全基準と整合していると結論づけられるとともに二次評価を含むストレステストのプロセスとそれ以外の規制活動の全般的な有効性を向上させると考えられる課題を特定し勧告がなされています IAEAからの指摘事項については耐震等を含め真摯に受け止め可能なものから順次実施していくこととしています 核燃料サイクル施設については原子力安全委員会からの要請等はなかったものの海外の状況等も踏まえて原子力安全保安院の判断により2011年 11月25日に加工事業者貯蔵事業者再処理事業者廃棄物管理事業者廃棄物埋設事業者に対して総合的評価の実施を指示しましたサイクル施設におけるストレステストは一次評価と二次評価に分けての評価は行いませんが安全裕度の確認と設計上の想定を超える事象の発生と拡大を防止するための措置の効果を明らかにするという方針は原子力発電所の場合とほぼ同様となっていますこれらの評価の結果は事業者が施設の安全性を向上させるための更なる対策を講じる際の参考となるものです各事業者からは2012年 4月 27日に原子力安全保安院に報告書の提出がありました

5シビアアクシデント管理

 我が国においては東京電力福島第一原子力発電所事故の発生前までシビアアクシデントは工学的には現実的に起こるとは考えられないほど発生の可能性は小さいとされ規制対象には含まれず事業者の自主的な取り組みとして対策が進められてきました事業

32

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第3章 原子力発電所事故関連

第3章

者は1992年に通商産業省からの要請を受けて確率論的安全評価の実施とアクシデントマネジメント(AM)対策の整備を進め東京電力福島第一原子力発電所においてもAM対策が整備されていましたしかし今回の事故を踏まえますとこのAM対策は外的事象特に津波により広範囲に電気系統が使用不能に陥る共通原因故障についての想定が十分でなくあらかじめ用意されていたAM対策は厳しい環境の中で十分に機能せず炉心溶融更には大規模放出を防ぐことができませんでした 更に従来の我が国はスリーマイルアイランド原子力発電所事故チェルノブイリ原子力発電所事故及び2001年の同時多発テロ等欧米等で進展している炉心損傷にいたる可能性のある事態に対する対策(シビアアクシデント対策)を含め国際機関や欧米諸国等の動向や研究成果に関する情報を入手し自らの規制活動に活用する努力が十分ではありませんでした 先般の事故を踏まえ2011年 6月原子力災害対策本部は「原子力安全に関するIAEA閣僚会議に対する日本国政府の報告書」においてこれまで事業者による自主的な取組みとしていたことを改めこれを法規制上の要求にするべきこと等シビアアクシデント対策に関する教訓をとりまとめました 原子力安全保安院は教訓のとりまとめと並行して2011年 6月 7日中央制御室の作業環境の確保通信設備の確保高線量対応防護服等の資機材の確保及び放射線管理のための体制の整備水素爆発防止対策並びにがれき撤去用の重機の配備の5項目を直ちに取り組むべき措置としてその実施を指示し立入検査等を通じて実施状況の確認を行いました また原子力安全委員会は2011年 10月に「発電用軽水型原子炉施設におけるシビアアクシデント対策について」を決定し従来多重防護の考えに基づく防護策の要求は設計基準事象への対処の範囲(IAEA-INSAG の多重防護策の定義による第3の防護レベルまで)にとどまっていましたが今後はIAEA-INSAG の定義による第4の防護レベルに相当する「シビアアクシデントの発生防止影響緩和」に対しても規制上の要求や確認対象の範囲を拡大することを含めて安全確保策を強化することとすべきとしました 政府においては2012年 1月に原子炉等規制法の改正を含む原子力組織制度改革法案を国会に提出しましたその後与党野党の協議の上法案を国会に提出し同年6月20日法案が成立していますまた

法律は同年6月27日に公布されています同法案ではこれらを踏まえてシビアアクシデントも考慮した安全規制への転換のための改正が含まれています 更に原子力安全保安院は前述のとおり東京電力福島第一原子力発電所事故の技術的知見としてシビアアクシデント時の代替注水機能の強化格納容器の過圧過温破損防止水素爆発の防止対策といったシビアアクシデント管理対策を含む30項目の対策をとりまとめた上でシビアアクシデント対策についてはトップダウンの方法論により今後体系的に検討整理する必要性を示しましたまた深層防護の考え方の徹底シビアアクシデント対策の多様性柔軟性操作性内的事象外的事象を広く包含したシビアアクシデント対策の必要性等今後の規制に反映すべき視点を挙げました 原子力安全保安院は上記の視点を踏まえ外部有識者の意見を聴きながらシビアアクシデント対策規制の基本的考え方について検討を進めています 加えて我が国は前述のとおり原子力発電所に対するストレステストとして2段階の評価を行っていますが原子力安全保安院は一次評価では主に燃料の重大な損傷を防止するとの観点でアクシデントマネジメント対策及び緊急安全対策の有効性を確認しています今後実施される予定である二次評価においてはIAEAの勧告及び助言も踏まえてシビアアクシデントに至った以降の対応の有効性についても燃料が損傷した後の緩和手段の有効性やクリフエッジに至るまでの時間の評価等について確認していきます その上で原子力安全保安院はシビアアクシデントマネジメントに係る中長期の取組として東京電力福島第一原子力発電所事故から得られた技術的な知見IAEAの安全基準や欧州のストレステストの実施状況等も参照の上検討を進めました 原子力安全保安院や原子力安全委員会の活動は新たな原子力規制機関に適切に引き継ぐこととされましたまた新たな原子力規制機関の下ではシビアアクシデント対策を法令要求化する改正原子炉等規制法に基づき事業者による総合的なアクシデントマネジメントプログラムの策定等について監視監督していくこととしています

6緊急時準備と対応

 原子力安全保安院は前述のとおり2011年 6月

33

第2節 東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえた規制当局の取組

第3章

備等の予算措置を講じているところです 更にオフサイトセンターの具体的な在り方を検討すべく原子力安全保安院において専門家による意見聴取会を開催しているところです意見聴取会や関係自治体の意見等を踏まえつつオフサイトセンターが担うべき役割を明確にし放射性物質の拡散影響や複合災害から受ける影響等も勘案してその立地地点や備えるべき遮へい機能等を検討することとしています なお新たな防災体制は今後新たな規制機関の設置と同時に行うことを想定していますがそれまでの間も万が一の事態発生に備え原子力災害対策本部事務局機能の官邸への集中と強化を進めるとともにPAZ の考え方を踏まえ直ちに避難に係る指示を行う等可能な限りこれらの新たな考え方を取り入れた対応を行えるようにすることとしています UPZ の導入により避難をあらかじめ準備しておくべき地域が大幅に拡大しまた関係する市町村の数も増加することからこれらの自治体における地域防災計画の策定準備も進められています 事故時に自治体や住民に対する情報提供が適切に行われていなかった点についても厳しい批判があり適切な時期に適切なデータを提供できなかったことから政府は情報を隠蔽しようとしたのではないかとの厳しい批判が寄せられました今後はこうした反省に立ち緊急時における情報提供の仕組みについても見直し通信システムも強化することとしています なお先に述べたとおり規制と利用の分離及び原子力安全規制の一元化の観点から政府は環境省に原子力規制庁を設置する等関係組織の再編及びその機能強化を行うこととしており原子力組織制度改革法案等を第180回通常国会に提出しましたその後与党野党の協議の上より独立性の高い原子力規制委員会を設置すべく法案を国会に提出し2012年 6月 20日法案が成立し同年6月27日に公布されています 今後速やかに原子力災害対策指針を策定することとしておりオフサイトセンターの在り方等の課題等について検討を進めその結果を原子力災害対策指針に反映させていくとともに緊急時に各機関が円滑な活動を実施できるよう防災基本計画を修正したほか原子力災害対策マニュアルについても改正することを予定しています

7日緊急時における発電所構内通信手段の確保等万一シビアアクシデントが発生した場合でも迅速に対応を確保する観点から直ちに取り組むべき緊急時における発電所構内通信手段の確保等の措置を整理指示しその実施状況を確認しました更に2012年 3月に原子力安全保安院がとりまとめた東京電力福島第一原子力発電所事故の技術的知見に関する報告書の中でとりまとめた30の対策には緊急時対策として事故時の指揮所の確保整備通信機能確保計装設備の信頼性確保プラント状態の監視機能の強化事故時モニタリング機能の強化及び非常事態への対応体制の構築訓練の実施が含まれていますこれらの対策については今後安全規制に反映すべき点として整理したものです 発電所外の広範囲の緊急時対策としては前述のとおり原子力安全委員会では『原子力施設等の防災対策について』の見直しについての検討を行い2012年3月予防的防護措置を準備する区域(PAZ)を概ね5km とすること緊急防護措置を準備する区域(UPZ)を概ね30km とすること放射性物質を含んだプルーム(気体状あるいは粒子状の物質を含んだ空気の一団)による被ばくの影響を避けるための防護措置を実施する地域(PPAPlume Protection Planning Area)を概ね50km(参考値)とすること等の考え方が示されました 加えて今回原子力災害対策本部事務局が情報のハブ機能を十分に果たすことが出来なかったこと原子力災害現地対策本部についても初期段階での人員参集の遅れや拠点となるオフサイトセンター機能の不全が生じてしまったこと等の反省に立ち政府の防災体制の全面的な見直しを図ることとしています具体的には原子力災害対策本部の事務局を官邸内に速やかに立ち上げ官邸を拠点として情報収集と対応情報発信に当たること原子力発電所の状況を速やかに把握するため電気事業者本社等の対策拠点に審議官級の職員を派遣するとともに官邸原子力安全規制機関電気事業者の対策拠点原子力発電所等を結ぶテレビ会議システムを立ち上げる等の対策を講ずることとしました 原子力安全保安院はオフサイトセンターについても緊急的な対策として昨年来衛星回線の拡充等の通信体制の強化放射線防護対策としての防護服やマスクの充実食料飲料水の備蓄の拡充代替オフサイトセンターに搬入可能な可搬型通信資機材の整

34

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第3章 原子力発電所事故関連

第3章

7国際協力に係る取組

 政府は東京電力福島第一原子力発電所事故から得られる知見と教訓を国際社会と共有し国際的な原子力安全の強化に貢献していくことを責務であると認識し2011年 6月の IAEA閣僚会議及び同年9月の IAEA総会の機会を捉え事故についての包括的な報告を行ってきました事故発生以降の近隣国及び国際社会とのコミュニケーション国際社会との協力原子力安全関連条約に関する取組IAEA安全基準への貢献及びその活用並びに国際的なピアレビューを踏まえ引き続き各国機関との一層効果的な連携を図ります

第3節 原子力規制委員会

1 規制組織の在り方に係る反省を踏まえた取組

 2011年 6月に公表された「原子力安全に関するIAEA閣僚会議に対する日本国政府の報告書」において「原子力安全確保に関する行政組織が分かれていることにより国民に対して災害防止上十分な安全確保活動が行われることに第一義的責任を有する者の所在が不明確であった」と指摘されているように東日本大震災以前まで我が国の原子力安全規制行政体制においてその第一義的責任を有する者の所在が不明確でした この反省を踏まえ政府は「原子力安全規制に関する組織等の改革の基本方針」(2011年 8月 15日閣議決定(以下基本方針))を公表しましたその中には「当面の安全規制組織の見直しの方針」として「①規制と利用の分離」「②原子力安全規制に係る関係業務の一元化」「③危機管理」「④官民を問わず質の高い人材の確保」「⑤規制の在り方や関係制度の見直し」という五つの見直しの方針や「新組織を設置するために必要な法律案の立案等の準備を2012年 4月の設置を目指して行うこと」「東京電力福島第一原子力発電所における事故調査検証委員会による組織の在り方に係る検証結果等が示された場合は柔軟に対応する」旨が盛り込まれましたまた「中長期的な原子力政策及びエネルギー政策の見直しや事故調査検証委員会による検証の結果を含めてより広範な検討を進め新組織が担うべき業務の在り方やより実効的で強

力な安全規制組織の在り方について2012年末を目途に成案を得る」こととされました 更にこの基本方針を基に原子力安全規制に関する組織のあり方原子力安全規制強化のあり方等について検討するため原発事故の収束及び再発防止担当大臣が当該分野に関する専門的知見を有する者に参集を求め意見を聞くことを目的として原子力事故再発防止顧問会議が開催されました2011年 10月 4日から12月 2日にかけて4回開催され「原子力事故再発防止顧問会議提言」がとりまとめられましたこの中で①「規制と利用の分離」②「一元化」③「危機管理」④「人材の育成」⑤「新安全規制」⑥「透明性」⑦「国際性」の七つの原則に基づいて原子力安全規制組織等の改革を進めていくべきであるとされました これらの議論を踏まえ原子力安全規制行政に係る組織及び制度の改革に関し国会における審議を経て衆議院環境委員長から「原子力規制委員会設置法案」が提案され2012年 6月 20日に可決成立しました

2原子力規制委員会設置法の概要

 このような経緯を踏まえ成立した原子力規制委員会設置法の概要については以下のとおりとなっています

原子力規制委員会設置法について(1)目的

 原子力利用に関する政策に係る縦割り行政の弊害を除去し並びに一の行政組織が原子力利用の推進及び規制の両方の機能を担うことにより生ずる問題を解消するため原子力利用における事故の発生を常に想定しその防止に最善かつ最大の努力をしなければならないという認識に立って確立された国際的な基準を踏まえて原子力利用における安全の確保を図るため必要な施策を策定しまたは実施する事務を一元的につかさどるとともにその委員長及び委員が専門的知見に基づき中立公正な立場で独立して職権を行使する原子力規制委員会を設置しもって国民の生命健康及び財産の保護環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的とする

(2)概要 ① 原子力規制委員会の組織及び機能

35

第4節 東京電力福島第一原子力発電所1~4号機の廃止に向けた取組

第3章

  環境省の外局として原子力規制委員会を設置(いわゆる「3条委員会」)(委員長及び委員4名は国会同意を得て総理が任命)

  原子力規制委員会の事務局として原子力規制庁を設置

  原子力安全規制核セキュリティ核不拡散の保障措置放射線モニタリング放射性同位元素等の規制を一元化

  (独)原子力安全基盤機構(JNES)を所管(必要となる法制上の措置を速やかに講じてJNESを原子力規制庁に統合)

  (独)日本原子力研究開発機構(JAEA)及び(独)放射線医学総合研究所の業務の一部を共管

 ② 原子力安全規制の転換

  重大事故対策の強化  最新の知見に基づく規制の実施(バックフィット制度)

  40年運転制限制の導入 等

 ③ 原子力防災対策の強化

  内閣に原子力防災会議を設置し関係機関との緊密な連携の下で原子力防災対策を推進

  原子力災害対策指針の法定化

  原子力災害対策本部の強化緊急事態解除後の事後対策の円滑化

  緊急時における原子力災害対策本部長(総理)の権限を明確化

(3)施行期日

  公布の日(2012年 6月 27日)から3月以内で政令で定める日

   (国会同意人事の手続きは公布日から施行)  核不拡散の保障措置放射線モニタリングの実施機能放射性同位元素等の規制の一元化等は2013年 4月 1日

  原子炉等規制法の改正は施行日施行日から10月以内で政令で定める日1年3月以内で政令で定める日と段階的に施行

  原子力災害対策特別措置法の改正の一部は施行日から6月以内で政令で定める日

第4節 東京電力福島第一原子力発電所1~4号機の廃止に向けた取組

1冷温停止に向けた取組

 事故の収束に向けては2011年 4月 17日に東京電力がとりまとめた「福島第一原子力発電所事故の収束に向けた道筋」(以下道筋)が着実かつ極力前倒しされて実施されるよう検討作業のフォローアップや必要な安全性の確認を行ってきました 2011年5月17日には原子力災害対策本部が「東京電力福島第一原子力発電所事故の収束検証に関する当面の取組のロードマップ」を公表し事故の収束までの政府の取組を示しましたまた同年5月17日及び同年6月17日には東京電力が道筋の改訂版をとりまとめ窒素封入や循環冷却システムの設置運転等の原子炉使用済燃料プールの安定的な冷却に向けた取組み汚染水処理設備の設置等の放射性物質で汚染された水の閉じこめ保管処理再利用の取組み飛散防止剤や原子炉建屋カバリングの設計導入支援等の大気土壌での放射性物質の抑制に向けた取

20 左の図緑色部分の組織と事務が右の図の原子力規制委員会に一元化されました

【これまでの規制体制】 【新しい規制体制】

内閣府経済産業省

経済産業省

文部科学省

原子力委員会

原子力規制委員会

委員長+委員4名(国会同意人事)

原子力規制庁(事務局)

環境省

規制規制ダブルチェックで規制

資源エネルギー庁

資源エネルギー庁

電力会社等 研究機関大学等

電力会社研究機関大学等

核物質を守るための対策の総合調整

原子炉の安全審査のダブルチェック等

発電用原子炉の安全規制 等

原子力安全委員会

原子力安全保安院

試験研究炉等の安全規制核不拡散の保障措置の規制(1)放射線のモニタリングSPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)の運用放射性同位元素等の規制201341より移管

第133-2-1 これまでの規制体制と新しい規制体制20

36

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第3章 原子力発電所事故関連

第3章

組み空間土壌海水等の体系的なモニタリングの実施等の取組みを行いました同年7月19日には道筋のステップ1の目標が概ね予定通りに達成されたことが確認されると共にステップ2に進むにあたり東京電力だけでなく政府もより一体となり事故収束に取り組む観点から東京電力の「道筋」と政府の「ロードマップ」を統合した「東京電力福島第一原子力発電所事故の収束に向けた道筋 当面の取組のロードマップ(改訂版)」を発表しました同年10月 3日にはステップ2完了後から廃炉作業の開始までの期間における安全確保のための基本目標を「中期的安全確保の考え方」として定め東京電力に対してこれに適合するよう指示しましたこれを受けて東京電力から提出された報告書について専門家の方々による緻密な検証作業を経て万一不測の事態が発生したとしても敷地境界における被ばく線量が十分低い状態を維持できるとの評価結果を得ました これを踏まえ東京電力福島第一原子力発電所が冷温停止状態に達したことを確認しステップ2の完了を判断したところです一方で漏水等のトラブルが発生していた状況を受けて2012年 3月 28日原子力安全保安院は東京電力に対して主要設備を仮設設備から恒久的な設備に更新すること等中長期的な信頼性向上のために優先的に取り組むべき事項についての具体的な実施計画を策定するよう指示しました

2中長期ロードマップに基づく取組

 ステップ2完了(2011年 12月)以降はそれまでのプラント安定化に向けた取組から確実にプラントの安定状態を維持する取組に移行するとともに1~4号機の使用済燃料プールからの燃料の取り出し1~3号機の原子炉圧力容器及び原子炉格納容器からの燃料デブリ(燃料と被覆管等が溶融し再固化したもの)の取り出し等廃止措置に向けた中長期に亘る取組が進められています このような中長期の取組については同年8月に原子力委員会に設置された東京電力福島第一原子力発電所における中長期措置検討専門部会において技術的課題研究開発項目が整理されるとともに「燃料デブリ取り出し開始までの期間は10年以内を目標廃止措置が全て終了するまでは30年以上の期間を要するものと推定される」との整理がなされています 同年11月 9日には経済産業大臣及び原発事故収束再発防止担当大臣より廃止措置等に向けた中長

期ロードマップの策定等についての指示が東京電力資源エネルギー庁原子力安全保安院に出されました 更に同年12月 16日ステップ2完了に伴い政府東京電力統合対策室を廃止し原子力災害対策本部の下中長期ロードマップの策定と進捗管理を行う政府東京電力中長期対策会議が設置され同年12月21日同会議において「東京電力福島第一原子力発電所1~4号機の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ」(以下中長期ロードマップ)が決定されました(第134-2-1) 中長期ロードマップではステップ2完了から2年以内の開始を目標とした使用済燃料プール内の燃料取り出し開始までを第1期と定義し使用済燃料プール内の燃料取り出し開始のための準備作業を行うとともに燃料デブリ取り出しに必要な研究開発を開始し成果を活用した現場調査に着手する等廃止措置等に向けた本格的な作業開始までの集中的な準備を行います 第1期以降ではステップ2完了から10年以内の開始を目標とした燃料デブリ取り出し開始までを第2期としその後の廃止措置終了までを第3期と定義しました また中長期ロードマップの進捗管理を着実に行うため政府東京電力中長期対策会議の下に「運営会

ステップ1 2 第 1期 第2期 第3期

現在(ステップ2完了) 2年以内 10年以内 30~40年後

<安定状態達成>冷温停止状態放出の大幅抑制

要員の計画的育成配置意欲向上策作業安全確保に向けた取組(継続実施)

使用済燃料プール内の燃料取り出しが開始されるまでの期間(2年以内)

燃料デブリ取り出しが開始されるまでの期間(10年以内)

廃止措置終了までの期間(30~ 40年後)

使用済燃料プール内の燃料の取り出し開始(4号機2年以内)発電所全体からの追加的放出及び事故後に発生した放射性廃棄物(水処理二次廃棄物ガレキ等)による放射線の影響を低減しこれらによる敷地境界にお け る 実 効 線 量1mSv年未満とする原子炉冷却滞留水処理の安定的継続信頼性向上燃料デブリ取り出しに向けた研究開発及び除染作業に着手放射性廃棄物処理処分に向けた研究開発に着手

全号機の使用済燃料プール内の燃料の取り出しの終了建屋内の除染格納容器の修復及び水張り等燃料デブリ取り出しの準備を完了し燃料デブリ取り出し開始(10 年以内目標)原子炉冷却の安定的な継続滞留水処理の完了放射性廃棄物処理処分に向けた研究開発の継続原子炉施設の解体に向けた研究開発に着手

燃料デブリの取り出し完了(20~25年後)廃止措置の完了(30 ~ 40 年後)放射性廃棄物の処理処分の実施

第134-2-1  中長期ロードマップ(2011年 12月 21日)の概要

37

第4節 東京電力福島第一原子力発電所1~4号機の廃止に向けた取組

第3章

議」が設置され中長期ロードマップの個別の計画ごとの進捗管理が行われています同会議の内容資料は経済産業省ホームページで公開されるとともに立地地域の地元自治体に対してはTV会議訪問説明等により個別情報提供がなされています 加えて中長期的に「冷温停止状態」を維持することを始めとして発電所の安全を確保するためには適切な保守管理の実施や設備の更新も含め信頼性向上に向けた取組を引き続き実施していくことが必要不可欠であることから2012年 3月 28日原子力安全保安院から東京電力に対し設備機器に関する中長期の信頼性の向上のための指示がなされ同年5月11日までに「実施計画」の提出が求められましたこれを受け政府東京電力中長期対策会議では東京電力が提出する「実施計画」を踏まえた中長期ロードマップの改訂を行い工程を厳格に管理することにより更なる安全性信頼性の確保を図ることとしています このように廃炉に向けた取組は中長期ロードマップに基づき発電所の安全に万全を期しながら国内外の叡智を結集し政府と東京電力が一体となって廃炉に至る最後の最後まで全力を挙げて取り組まれていきます

3研究開発

 先記の2011年11月9日における枝野経済産業大臣及び細野原発事故収束再発防止担当大臣からは資源エネルギー庁原子力安全保安院及び東京電力に対し中長期ロードマップの策定とともに廃止措置等のための研究開発計画の策定について指示が出されました これを受け資源エネルギー庁及び東京電力は文部科学省(独)日本原子力研究開発機構(JAEA)及び東京電力福島第一原子力発電所の設計建設に関して知見経験を有するプラントメーカーである東芝及び日立製作所日立GEニュークリアエナジーの協力を得ながら同年12月 21日に開催された政府東京電力中長期対策会議において研究開発計画を決定しました本計画では研究開発を作業に応じて「使用済燃料プール燃料取り出しに係る研究開発」「燃料デブリ取り出し準備に係る研究開発」「放射性廃棄物処理処分に係る研究開発」及び「遠隔操作機器に係る技術開発」に分類し実施することとしています 特に原子力施設の将来の廃炉安全基盤の強化のための技術基盤の整備国として知見経験の蓄積

共有を図ることが必要な研究開発等は国が行うべきものとして体制強化を図りながら実施します また同会議において研究開発計画の進捗管理を行う場として研究開発推進本部が設置され個別研究開発プロジェクトのマネジメント国内外叡智の結集のための具体的取組研究拠点構想等について集中的に議論を行ってきました 2012年 2月には「東京電力福島第一原子力発電所の廃止措置等に向けた燃料デブリ取出し準備の機器装置開発等に係る技術カタログ検討ワークショップ」を開催し研究開発プロジェクトにおいて採用すべき技術シーズのカタログの充実を図るため国内有識者を集め求められる技術ニーズ仕様を共有し意見を交換しました また同年3月には「東京電力福島第一原子力発電所1~4号機の廃止措置等に向けた研究開発計画に係る国際ワークショップシンポジウム」を開催し研究開発計画において取り組む課題及び対応の方向について国際的な情報発信を実施するとともに国内外の有識者専門家との間で課題への対応の方向について討議を実施し有識者専門家より技術的な提案アドバイスを受けました 更にプロジェクトの実施に当たり的確なマネジメントを行っていく観点から2011年度末に個々の研究開発プロジェクトの実績評価及び2012年度以降の計画見直しの方向を取りまとめた本見直しでは現場ニーズをプロジェクトに的確に反映するための体制の強化や中長期視点での人材確保育成を意識した取組を進めていくこととしています 今後も本計画に沿って東京電力福島第一原子力

燃料デブリ取出し準備ワーキングチーム

機器装置開発等サブワーキングチーム(SWT)

報告審議 報告審議

研究開発推進本部

報告審議

事務局

使用済燃料プール燃料取り出しワーキングチーム

炉内状況把握解析SWT

放射性廃棄物処理処分ワーキングチーム

遠隔技術タスクフォース

燃料デブリ性状把握処理準備SWT

23FY-

燃料集合体の長期健全性

25FY-

損傷燃料等の処理技術

23FY-

建屋内の遠隔除染

24FY-

総合的線量低減計画策定

23FY-

PCVRPV健全性評価

23FY-

建屋PCV漏えい箇所特定

23FY-

建屋PCV止水補修

23FY-

PCV内部調査

25FY-

RPV内部調査

27FY-

デブリ炉内構造物取出し

25FY-

デブリ燃料収納技術

24FY-

デブリ臨界管理

23FY-

事故進展解析

23FY-

模擬デブリ特性把握

23FY-

デブリ処置技術

24FY-

デブリ計量管理方策

28FY-

実デブリ性状分析

23FY-

汚染水処理の廃棄物安定化

23FY-

廃棄物の処理処分検討

第134-3-1 研究開発体制

38

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第3章 原子力発電所事故関連

第3章

発電所1~4号機の廃止措置等に向けた中長期の取組を進める上で必要な研究開発を着実に進めていきます なお研究開発の成果として得られた知見技術は国内外の将来の原子力施設の廃止措置や安全基盤の強化等にも広く役立つものと期待されます

第5節 原子力損害賠償

1 原子力損害賠償紛争審査会の設置及び指針の背景

 2011年3月11日の福島原子力発電所事故発生以降多くの住民が避難生活や生産及び営業を含めた事業活動の断念等を余儀なくされており被害者の方々が一日でも早く安心で安全な生活を取り戻せるよう迅速公平かつ適正な救済が必要です政府は今回の事故に関して原子力損害の賠償を円滑に進められるよう原子力損害の範囲など当事者による自主的な解決に資する一般的な指針の策定等の業務を行うため原子力損害の賠償に関する法律に基づき2011年 4月 11日より「原子力損害賠償紛争審査会」を設置しました 同審査会においては被害者の迅速な救済を図るため原子力損害に該当する蓋然性の高いものから順次指針として提示することとしました 紛争審査会は同年4月28日には政府等による指示等に基づく損害の範囲を示す第一次指針を策定しその後第二次指針(同年5月31日)及び第二次指針追補(同年6月31日)の策定により指針で示す原子力損害の範囲を拡大し同年8月5日には原子力損害の範囲の全体像を示す中間指針を策定しましたその間各省庁に加え地方公共団体事業者団体等からヒアリングを行うとともに17分野76名の専門委員による各分野の被害状況調査を行い被害状況等の把握に努めました その後紛争審査会では同年12月 6日に自主的避難等に係る損害に関する中間指針第一次追補2012年 3月 16日政府による避難区域等の見直し等に係る損害についての中間指針第二次追補を策定しましたまた指針に類型化した損害として明記されていないものが賠償の対象とならないというものではなく個別具体的な事情に応じて事故との相当因果関係のある損害として賠償され得ることも指針に明記さ

れています

(1) 原子力損害の範囲の全体像を示す中間指針の概要

 中間指針で示された項目は以下のとおりです 政府による避難等の指示等に係る損害  政府による航行危険区域等及び飛行禁止区域の設定に係る損害

  政府等による農林水産物等の出荷制限指示等に係る損害

 その他の政府指示等に係る損害  いわゆる風評被害(一般的基準農林漁業食品産業観光業製造業サービス業等輸出)

 いわゆる間接損害 放射線被曝による損害 被害者への各種給付金と損害賠償金との調整 地方公共団体等の財産的損害等

(2) 自主的避難に係る損害についての中間指針第一次追補の概要

 中間指針の策定の際事故との相当因果関係を判断する客観的基準を見いだすことが難しいことから継続審議事項とされた政府等の指示に基づかない「自主的避難」について2011年 12月 6日に自主的避難等に係る損害に関する中間指針第一次追補を策定しました[基本的考え方] 事故発生当初の十分な情報がない時期は大量の放射性物質の放出による被ばくへの恐怖不安を抱くことは年齢等問わず一定の合理性が認められる 事故発生からしばらく経過後は放射線量等に関する情報がある程度入手できるようになった状況下にあり少なくとも子供妊婦の場合は放射線への感受性が高い可能性があることが一般に認識されていることから被ばくへの恐怖不安を抱くことは一定の合理性が認められる 上記恐怖不安による自主的避難のみならず自主的避難を行わずに滞在し続けた者にも賠償すべき損害が認められる

[自主的避難等対象区域] 発電所からの距離避難指示等対象区域との近接性政府等から公表された放射線量に関する情報自主的避難の状況等を総合的に勘案して対象区域(福島県内の避難指示対象区域を除く23市町村)を明示

39

第5節 原子力損害賠償

第3章

(3) 政府による避難区域等の見直し等に係る損害についての中間指針第二次追補の概要

 政府の原子力災害対策本部が同年12月 16日原子炉は安定状態に達し事故そのものは収束に至ったことを確認し同月26日に避難指示区域の見直しに関する基本的考え方及び今後の課題を示したこと等を踏まえ紛争審査会は本年3月16日政府による避難区域等の見直し等に係る損害についての中間指針第二次追補を策定しました中間指針第二次追補で示された項目は以下のとおりです 避難区域見直し後の避難費用及び精神的損害 旧緊急時避難準備区域の避難費用及び精神的損害 特定避難勧奨地点の避難費用及び精神的損害 不動産の価値の喪失または減少等について 営業損害就労不能等に伴う損害 自主的避難等に係る損害 除染等に係る損害

2 原子力損害賠償紛争解決センターの設置

 原子力損害賠償紛争審査会は今回の東京電力福島第一第二原子力発電所事故により被害を受けた方々の原子力事業者(東京電力)に対する損害賠償について円滑迅速かつ公正に紛争を解決することを目的として同審査会の下に「原子力損害賠償紛争解決センター」を設置し2011年 9月東京都港区と福島県郡山市の2カ所において業務を開始しました同センターにおいては紛争の当事者(被害者または原子力事業者)の申立てにより仲介委員が申立人と相手方の双方から事情を聴き取って損害の調査検討を行い双方の意見を調整しながら和解案を提示する和解の仲介業務を実施しています 同センターでは2012年 2月以降多くの申立に共通すると思われる問題点に関して一定の基準を示す「総括基準」を順次策定公開しているほかセンターで実施されている和解仲介の結果を広く周知し今後の賠償を円滑に進めていく上での参考とするため和解実例を順次公開しています 更に同年7月には和解仲介の申立に関して出来る限り被害者の方々の居所等の近くで話し合いを実施する等きめ細やかな対応を実施するため福島県内の各地域(県北会津いわき相双)に同センター福島事務所の支所を設置しました

3 原子力損害賠償補償契約に関する法律に基づく措置

 政府は原子力損害賠償補償契約に関する法律に基づき原子力損害賠償補償契約を原子力事業者と締結しており地震噴火等により原子力損害が発生した場合にはこの契約に基づく補償金を支払うこととなっています 今般の事故を受け政府は2011年 11月原子力損害賠償補償契約に基づき東京電力福島第一原子力発電所分の1200億円を東京電力へ支払いました

4原子力損害賠償支援機構の設立の背景

 2011年 3月 11日の東日本大震災により東京電力福島原子力発電所事故による大規模な原子力損害の発生を受け2011年 6月 14日に「東京電力福島原子力発電所事故に係る原子力損害の賠償に関する政府の支援の枠組みについて」が閣議決定され東京電力福島原子力発電所事故に係る原子力損害の賠償に関する政府の支援の枠組みについて政府としてこれまで原子力政策を推進してきたことに伴う社会的な責任を負っていることに鑑み ① 被害者への迅速かつ適切な損害賠償のための万全の措置

 ② 東京電力福島原子力発電所の状態の安定化事故処理に関係する事業者等への悪影響の回避

 ③電力の安定供給の三つを確保するため「国民負担の極小化」を図ることを基本として損害賠償に関する支援を行うための万全の措置を講ずることが確認されました こうしたことを受け2011年 8月 10日に原子力損害賠償支援機構法及び関連する政省令が公布施行され原子力事業に係る巨額の損害賠償が生じる可能性を踏まえ原子力事業者による相互扶助の考えに基づき将来にわたって原子力損害賠償の支払等に対応できる支援組織を中心とした仕組みを構築するため同年9月12日に原子力損害賠償支援機構が設立されました なお原子力損害賠償支援機構法の附則において原子力損害賠償の実施状況等を踏まえ原子力損害の賠償に関する法律の改正等の抜本的な見直しをはじめとする必要な措置を講ずるものとされています

40

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第3章 原子力発電所事故関連

第3章

5原子力損害賠償支援機構の枠組み

 原子力損害賠償支援機構(以下機構)を中心とした原子力事業者による相互扶助の枠組みは以下のようになっています

(1)原子力事業者からの負担金の収納 原子力損害が発生した場合の損害賠償の支払等に対応するため損害賠償に備えるための積立てを行います 機構は機構の業務に要する費用として原子力事業者から負担金の収納を行います 機構に第三者委員会的な組織として「運営委員会」を設置し原子力事業者への資金援助に係る議決等機構の業務運営に関する議決を行います

(2)機構による通常の資金援助 原子力事業者が損害賠償を実施する上で機構の援助を必要とするときは機構は運営委員会の議決を経て資金援助(資金の交付株式の引受け融資社債の購入等)を行います 機構は資金援助に必要な資金を調達するため政府保証債の発行金融機関からの借入れをすることができます

(3)機構による特別資金援助①特別事業計画の認定 機構が原子力事業者に資金援助を行う際政府の特別な支援が必要な場合原子力事業者と共に「特別事業計画」を作成し主務大臣の認定を求めます 特別事業計画には原子力損害賠償額の見通し賠償の迅速かつ適切な実施のための方策資金援助の内容及び額経営の合理化の方策賠償履行に要する資金を確保するための関係者(ステークホルダー)の協力の要請経営責任の明確化のための方策等について記載します 機構は計画作成に当たり原子力事業者の資産の厳正かつ客観的な評価及び経営内容の徹底した見直しを行うとともに原子力事業者による関係者に対する協力の要請が適切かつ十分なものであるかどうかを確認します 主務大臣は関係行政機関の長への協議を経て特別事業計画を認定します

②特別事業計画に基づく事業者への援助 主務大臣の認定を受け機構は特別事業計画に基づく資金援助(特別援助)を実施するため政府は機構に国債を交付し機構は国債の償還を求め(現金化)原子力事業者に対し必要な資金を交付します 政府は国債が交付されてもなお損害賠償に充てるための資金が不足するおそれがあると認めるときに限り予算で定める額の範囲内において機構に対し必要な資金の交付を行うことができます 機構は政府保証債の発行等により資金を調達し事業者を支援します

③機構による国庫納付 機構から援助を受けた原子力事業者は特別負担金を支払います 機構は負担金等をもって国債の償還額に達するまで国庫納付を行います ただし政府は負担金によって電気の安定供給等に支障を来しまたは利用者に著しい負担を及ぼす過大な負担金を定めることとなり国民生活国民経済に重大な支障を生ずるおそれがある場合機構に対して必要な資金の交付を行うことができます

④損害賠償の円滑化業務 機構は損害賠償の円滑な実施を支援するため(ア)被害者からの相談に応じ必要な情報の提供及び助言を行うとともに(イ)原子力事業者が保有する資産の買取り及び(ウ)賠償支払の代行(原子力事業者からの委託を受けて賠償の支払国または都道府県知事の委託を受けて仮払金の支払)を行うことができます 平成二十三年原子力事故による被害に係る緊急措置に関する法律案に基づく国による仮払金

6特別事業計画策定の経緯と支援の経過

① 2011年11月4日に特別事業計画を認定(緊急特別事業計画の認定)

② 2012年 2月 13日に認定特別事業計画の変更認定

③ 2012年5月9日に認定特別事業計画の変更認定(総合特別事業計画の認定)

 機構は東京電力による賠償金の速やかな支払を確

41

第5節 原子力損害賠償

第3章

保するため2012年 2月に緊急特別事業計画の変更を行いましたこの中でその時点での要賠償額の見通し1兆7003億 2200万円から原子力損害の賠償に関する法律第7条第1項に規定する賠償措置額として既に東京電力が受領している1200億円を控除した金額を損害賠償の履行に充てるための資金として2012年度までに交付することとしていましたしかしながらその後新たな賠償基準の策定等により損害賠償の見通しが2兆5462億7100万円となったため機構は東京電力に対し当該要賠償額から上記1200億円を控除した2兆4262億 7100万円を損害賠償の履行に充てるための資金として交付することとしていますなお交付の時期についてはすでに機構が交付した1兆1168億円(同年7月26日時点)を控除した金額を2013年度までに交付する予定です また原子力損害賠償支援機構法第38条第1項の規定に基づき機構の業務に要する費用に充てるため各電力会社が負担する負担金については同年3月30日に2011年度一般負担金年度総額を815億と決定しました

7賠償の実績及び業務の改善

(1)賠償に向けた体制の整備及び賠償の実績 東京電力は2011年4月15日に国の「原子力発電所事故による経済被害対応本部」において原子力災害対策特別措置法の規定に基づき当面の必要な資金を「仮払補償金」として支払いするよう決定がなされたことを受け同日仮払補償金の開始を公表しましたまた同社は原子力損害賠償紛争審査会による中間指針(2011年 8月 5日)を踏まえ同年8月30日に個人の本賠償2011年 9月 21日に法人個人事業者の本賠償の開始を公表するとともに本賠償の対象賠償額の算定基準等を提示しました(法人個人事業者については同年9月21日に発表)個人事業者ともに同年9月に請求書送付受付(一次請求同年3~8月分)を開始し同年10月 5日に本賠償の支払いを開始しました2012年 7月末までに仮払補償金本賠償合計で約1兆795億円の支払いが行われています(仮払約1469億円本賠償約9326億円)

(2)賠償業務の改善 東京電力に対しては2011年 10月の本賠償開始後被害者の方々に対して親身親切な損害賠償が行われていない等の不満が多く寄せられておりました東京

電力は機構とともに策定した緊急特別事業計画においてこうした状況を改善すべく「5つのお約束」(迅速な賠償のお支払いきめ細やかな賠償のお支払い原子力損害賠償紛争解決センターの和解仲介案の尊重親切な書類手続き誠実な御要望への対応)を掲げ賠償業務の行程管理の徹底や請求書類の簡素化等東京電力の賠償実施体制の建て直しを行ってきました また機構はこうした東京電力の取組を継続的にモニタリングするほか自ら弁護士行政書士等からなる「訪問相談チーム」を派遣する等賠償の円滑化に向けた取組を行いました こうした取組の結果請求書類の確認や賠償金のお支払いについて計画に定めた目標期間内での対応の実現原子力損害賠償紛争解決センターの和解仲介案の尊重や指針外への対応等一定の改善も見られています

<総合特別事業計画(2012年5月9日認定)のポイント>(1) 東京電力の取組と関係者の協力 国と東京電力の双方には厳しい状況をともに連帯して乗り越えていく重い責務 東京電力はあらゆる手段を総動員し「賠償廃止措置安定供給」の責任を果たす 国はエネルギー政策や原子力政策全体についての責務と相まって責任を果たしていく 国家的難題に直面しているという認識の下関係者全ての持てる力を結集することが必要

(2) 東京電力の新経営体制①原子力損害賠償支援機構が東京電力の総議決権の2分の1超を取得(「一時的公的管理」)するとともに追加的に議決権を取得できる転換権付無議決権種類株式を引き受けることで潜在的には総議決権の3分の2超の議決権を確保②会長以下役員の退任顧問制度全廃退職慰労金の受取辞退 等

(3) 合理化の深掘り10年間で33兆円超のコスト削減を行う①人件費(10年間で12758億円削減)②資材役務経費(10年間で6641億円削減)③買電燃料調達に係る費用(10年間で1986億円削減)

42

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第3章 原子力発電所事故関連

第3章

④その他経費(10年間で9687億円削減)⑤資産売却不動産電気事業資産以外は原則全て売却(2472億円相当(時価ベース))有価証券2011年度から原則3年以内に3301億円相当の有価証券を売却子会社関連会社2011年度から原則3年以内に119社中45社 1301億円相当を売却

(4) 料金改定【前提】燃料費等増を合理化の徹底により圧縮した上で必要最小限の料金改定(3年原価とし柏崎刈羽原発の2013年度4月以降の順次稼働を収支計画の前提として置く)①規制部門で1028料金引上げ(原価算定期間の3年間)を収支計画の前提として置く(注電気事業法に基づく経済産業大臣認可が必要であり査定の結果846になった)②自由化部門は1639料金引上げ(査定の結果1490になった)「自由化料金については総原価洗替えの結果を反映し4月からの差額を割り引く」旨明記

(5) 賠償コスト廃炉コスト①帰還困難地域の財物全損賠償等の新基準を踏まえ約8500億円を積み増し(総額約25兆円)②除染は予算執行の進捗国からの求償等合理的な見積もりが可能になるまで計上せず③廃炉コストは「ロードマップ」に対応した積上げによる費用を今後見積もり

(6) 事業改革(東京電力の方向性改革の段取り)①入札による競争や外部事業者等との連携を通じた最適需給の実現②社内カンパニー(燃料火力送配電小売)(「自前主義」から「外部連携」へ)LNG発電コスト低減に焦点調達集約化インフラ共同運用IPP入札③国際標準に準拠したスマートメーターのオープンな調達企業連携による省エネサービス

(7) 金融機関株主責任財務基盤強化

①金融機関自律的な資金調達力の回復まで与信を維持主要取引機関は融資1兆円追加②機構による株式の引受け株主総会後払込金額総額1兆円21

③既存株主株式の希薄化当面の間 無配

第6節 原子力被災者支援 東京電力福島第一原子力発電所事故では政府による避難屋内退避の指示等により多数の居住者等が避難その他の行動を余儀なくされあるいは事業者が生産及び営業を含めた事業活動の断念を余儀なくされる等東京電力福島第一原子力発電所から半径約30km 圏内を中心に福島県全体のみならず周辺の各県も含めた広範囲に影響を及ぼす事態に至りました 2011年 3月 29日には原子力被災者への生活支援を強化するため原子力災害対策本部の下に原子力被災者生活支援チームが設置され避難受入れ態勢の確保除染体制の確保被災地への物資等の輸送補給被ばくに係る医療の確保環境モニタリングと正確迅速な情報提供等を行ってきました同年5月17日には原子力災害対策本部は「原子力被災者への対応に関する当面の取組方針」及び「原子力被災者への対応に関する当面の取組のロードマップ」を策定公表しこれらに基づき応急仮設住宅の確保計画的避難の実施住民の健康管理がれき汚泥の処理や放射線量等分布マップの作成農地土壌の除染技術開発に関する実証試験の実施等の取組を行ってきたところです 2012年 2月 10日には福島の復興再生に関する施策を総合的に策定し継続的迅速に実施するための組織として復興庁が設置され生活再建策(賠償長期避難者支援自治体ごとの帰還支援)産業振興及び雇用対策放射線対策等(リスクコミュニケーションモニタリング除染区域見直し)等につき関係省庁と連携して被災者支援をより一層推進するための体制が整備されましたまた同年3月30日には「福島復興再生特別措置法」が成立し同年4月5日には2012度予算として復興経費3兆7754億円が計上される等法制度及び予算の側面からも被災者支援を推進す

21 出資額は東京電力A種優先株式 16 億株(払込総額 3200 億円)と東京電力B種優先株式 34 億株(払込総額 6800 億円)の合計

43

第6節 原子力被災者支援

第3章

るための施策が講じられています

1避難指示区域等の設定経緯

 2011年 3月 11日東北地方太平洋沖地震とそれが引き起こした津波により東京電力の福島第一原子力発電所及び福島第二原子力発電所において原子力緊急事態が発生しましたこれを受けて同日政府は原子力緊急事態宣言を発出するとともに原子力災害対策本部を設置しました 事故の発生以降事故の深刻化に伴い住民に避難を求める区域を順次拡大し翌12日に原子力災害対策本部長は福島県知事及び関係市町村長に対し東京電力福島第一原子力発電所から半径20km圏内の住民等の避難を指示しましたまた同月15日には東京電力福島第一原子力発電所から半径20kmから30km圏内の居住者等の屋内退避を指示しました(第136-3-2) 更に同年4月21日には引き続き東京電力福島第一原子力発電所が不安定な状態であることに鑑み同発電所の半径20km圏内について住民等の避難を徹底し生命または身体に対する危険を防止するため

原子力災害対策本部長は福島県知事及び関係市町村長に対し同区域を警戒区域に設定することを指示しました翌22日の午前0時警戒区域が設定され緊急事態応急対策に従事する者以外の者は市町村長の許可なく同区域に立ち入ることができなくなりこの立入制限を徹底するため警戒区域境界に物理的な立入り制限の措置が講じられることとなりました また環境モニタリングにおいて東京電力福島第一原子力発電所の半径20km以遠において積算線量が高い地域が確認されたことから同年4月22日原子力災害対策本部長は福島県知事及び関係市町村長に対し事故発生から1年の期間内に積算線量が20mSvに達するおそれのある区域を計画的避難区域に設定し居住者等を計画的に避難させるよう指示しました 同時に東京電力福島第一原子力発電所から半径20kmから30kmの区域については屋内退避の指示を解除し今後なお緊急時に屋内退避や避難の対応が求められる可能性が否定できない区域(概ね東京電力福島第一原子力発電所から半径20kmから30kmの区域に相当)について原子力災害対策本部長は福島県知事及び関係市町村長に対し当該区域を緊急時避難準備区域に設定し居住者等に避難または屋内退避

浪江町葛尾村

双葉町

大熊町

富岡町

広野町

川内村

田村市

川俣町

伊達市

いわき市

小野町

二本松市

相馬市

福島第二原子力発電所

計画的避難区域

警戒区域

南相馬市飯舘村南相馬市避難指示解除準備区域(2012416~)

南相馬市帰還困難区域(2012416~)

南相馬市居住制限区域(2012416~)

田村市避難指示解除準備区域(201241~)

川内村避難指示解除準備区域(201241~)

川内村居住制限区域(201241~)

避難指示解除準備区域居住制限区域帰還困難区域

警戒区域計画的避難区域

凡例20km

楢葉町

飯舘村帰還困難区域(2012717~)

飯舘村居住制限区域(2012717~)

飯舘村避難指示解除準備区域(2012717~)

楢葉町避難指示解除準備区域(2012810~)

福島第一原子力発電所

約5km

図136-2-1  避難指示区域と警戒区域の概念図(2012年7月31日現在)

図136-1-1  東京電力福島第一原子力発電所に係る避難等の指示の経過

2011年3月11日2123

半径3km圏避難半径3~10km圏屋内退避

3月12日544

半径10km圏避難

3月12日1825

半径20km圏避難

3月15日1100

半径20~30km圏屋内退避

4月21日1100

半径20km圏警戒区域(設定は22日午前0時)

4月22日944

半径20~30km圏屋内退避の解除葛尾村浪江町飯舘村川俣町の一部及び南相馬市の一部避難(計画的避難区域)広野町楢葉町川内村田村市の一部及び南相馬市の一部緊急時避難準備区域

9月30日1811

広野町楢葉町川内村田村市の一部及び南相馬市の一部緊急時避難準備区域の解除

2012年3月30日

川内村田村市南相馬市警戒区域を解除し三つの新たな避難指示区域に見直し(川内村及び田村市は4月1日実施南相馬市は4月16日実施)

6月15日 飯舘村三つの新たな避難指示区域に見直し(7月17日に実施)

7月31日 楢葉町避難指示解除準備区域に見直し(8月10日に実施)富岡町大熊町双葉町及び浪江町海域のうち陸域の約5kmから東側の避難指示区域及び警戒区域を解除

44

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第3章 原子力発電所事故関連

第3章

の準備をさせるよう指示しました

2避難指示区域等の見直し

 東京電力福島第一原子力発電所の事故に伴い設定された避難指示区域及び警戒区域等は原子力発電所の安全性の確認や放射線被ばくの危険性の低下等を踏まえ区域の見直しを実施することとなりました 2011年 8月 9日原子力災害対策本部は緊急時避難準備区域について原子力発電所の安全性評価(水素爆発が生じたり原子炉等の冷却ができなくなる可能性が低くなっていること仮に注水が中断した場合でも発電所から20km以遠において受ける放射線影響が十分小さいこと等)区域内における放射線量の詳細なモニタリングの結果(学校等をはじめとする主要ポイントの周辺を含む測定をしたほとんどの地点で空間線量が十分低いことが確認されたこと)及び公的サービスインフラ等の復旧のめどが立ったことを踏まえ同区域を解除することを決定しました 関係市町村は当該方針に基づき住民の円滑な移転支援学校医療施設等の公的サービスの再開公的インフラの復旧学校グラウンド園庭等の除染を含む実情に応じた「復旧計画」を策定しましたこれを受け原子力災害対策本部は同年9月30日に緊急時避難準備区域を一括して解除することを決定し原子力災害対策本部長から福島県知事及び関係市町村長にその旨指示しました 2011年 12月 26日原子力災害対策本部は「放射性物質の放出が管理され放射線量が大幅に抑えられている」というステップ2の目標達成と完了を受けて東京電力福島第一原子力発電所の事故収束の状況や放射線被ばくの危険性の低下を踏まえ警戒区域(原子力発電所から半径20km の区域)についてはインフラ等の安全確認応急復旧を行うとともに防災防犯対策等について関係者間で十分に調整を図った上で解除することを決定しましたまた避難指示区域(原子力発電所から半径20km の区域及び同半径20km 以遠の計画的避難区域)については関係者と協議した上で放射線量を基準として以下の三つの区域に見直すことを決定しました

① 避難指示解除準備区域 年間積算線量が20mSv以下となることが確実であることが確認された区域同区域においては引き続き避難指示は継続されることとなりますが除染イ

ンフラ復旧雇用対策等の復旧復興のための支援策を迅速に実施し住民の一日でも早い帰還を目指します

② 居住制限区域 年間積算線量が20mSvを超えるおそれがあり住民の被ばく線量を低減する観点から引き続き避難を継続することが求められる区域同区域においては将来的に住民が帰還しコミュニティを再建することを目指し除染やインフラ復旧等を計画的に実施します

③ 帰還困難区域 5年間を経過してもなお年間積算線量が20mSvを下回らないおそれのある現時点で年間積算線量が50mSv超の区域同区域は将来にわたって居住を制限することを原則とし同区域の設定は5年間固定します 当該方針に基づき区域見直しに係る協議が整った市町村について区域見直しを実施しています(第136-2-1 2012年 7月 31日現在)

3警戒区域への一時立入り

 2011年 4月 22日午前0時東京電力福島第一原子力発電所から半径20km圏内は警戒区域に設定され当該区域への立入りが制限されることとなりました他方で着の身着のままで避難を余儀なくされた住民から自宅への一時立入り等に係る強い要望が寄せら

図136-3-1 警戒区域への一時立ち入り

一時立入り対象市町村

警戒域内の対象数

1巡目 2巡目

世帯数 人数バス立入り

車持ち出し

マイカー立入り バス立入り車持ち出し

世帯数 人数 台数 世帯数 人数 世帯数 人数 台数

田村市 約110 約400 76 130 6 112 260 0 0 2

南相馬市

約4000

約14300

2907 5030 511 3335 8169 66 95 102

楢葉町約2600

約7700

1909 3197 364 2067 5372 102 142 45

富岡町約6000

約16000

4537 7631 741 4757 10921 275 398 126

川内村 約160 約400 82 135 19 92 227 0 0 0

大熊町約4000

約11500

3525 5683 1021 3265 7495 210 308 129

双葉町約2400

約6900

2061 3547 573 1930 4638 177 279 62

浪江町約6700

約19600

4812 8218 916 4622 11031 234 345 90

葛尾村 約80 約300 17 27 1 40 91 0 0 0

計約26000

約77000

19850 33468 4146 20108 47944 1064 1567 554

45

第6節 原子力被災者支援

第3章

れましたこれを受け立入りを行う住民の安全確保を大前提に同年5月10日から当該区域への一時立入りを実施することとなりましたこれまで四巡目までの一時立入りを実施し延べ約73370世帯約162002人(2012年 7月末日現在)の住民が立入りを行っています 一巡目はバスによる集団での立入り方式のみにより実施していましたが持ち出せる荷物の量が少ない待ち時間が長いといった要望が寄せられました二巡目からは住民からのこうした要望等を踏まえバス方式と併せてマイカーによる一時立入りを可能としました

 更に三巡目からは立入りを行う住民の利便性を高めること等を目的として住民が車から降りることなく受付を行うドライブスルー方式の導入の他自宅以外の場所への一時立入り(墓参りのための立入り等)や引っ越し業者等の帯同を認める等の改善を行いました 加えて四巡目からはそれまで市町村が行っていた立入り日の調整等を新たに設置するコールセンターにおいて行うこととしこれまで以上にスムーズな受付が可能となりました 五巡目以降についても住民の安全確保を大前提として立入りを行う住民の負担の少ない方法で立入りが可能となる体制の構築を目指しています

4除染の実施

 東日本大震災に伴う原子力発電所の事故によって放出された放射性物質による環境の汚染が生じておりこれによる人の健康または生活環境に及ぼす影響を速やかに低減することが喫緊の課題となっていますこうした状況を踏まえ「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法」(以下「放射性物質汚染対処特措法」)が可決成立し2011年 8月 30日に公布されました 同年11月 11日には「放射性物質汚染対処特措法に基づく基本方針」を閣議決定し環境の汚染の状況についての監視測定事故由来放射性物質により汚染された廃棄物の処理土壌等の除染等の措置等に係る考え方が取りまとめられ関係者の連携の下事故由来放射性物質による環境の汚染が人の健康または生活環境に及ぼす影響が速やかに低減されるようまた復興の取組が加速されるよう同方針に基づき取り組むこととしています 除染の実施に当たり同年11月以降警戒区域や計画的避難区域等において除染の効果的な実施のために必要となる技術の実証実験等のための除染モデル実証事業等を実施しその成果を2012年 6月に公表しましたまた2011年 12月以降は自衛隊等による除染活動の拠点となる施設(役場公民館等)や除染を行う地域にアクセスする道路及び除染に必要な水等を供給するインフラ施設を対象に先行的な除染を実施しています 放射性物質汚染対処特措法に基づき国が除染を実

一時立入り対象市町村

警戒域内の対象数

3巡目 4巡目

世帯数 人数マイカー立入り

バス立入り車持ち出し

マイカー立入り

バス立入り

世帯数 人数 世帯数 人数 台数 世帯数 人数 世帯数 人数

田村市 約110 約400 90 196 0 0 0 - - - -

南相馬市

約4000

約14300

3032 7941 39 57 14 - - - -

楢葉町約2600

約7700

1951 5005 66 92 6 1826 4950 38 59

富岡町約6000

約16000

4240 10025 158 217 10 3721 8954 124 181

川内村 約160 約400 0 0 0 0 0 - - - -

大熊町約4000

約11500

2944 6936 162 234 8 2533 6328 98 148

双葉町約2400

約6900

1744 4362 92 140 7 1593 4184 85 125

浪江町約6700

約19600

3764 9207 209 305 10 3494 8761 157 226

葛尾村 約80 約300 0 0 0 0 0 0 0 0 0

計約26000

約77000

17675 43476 726 1045 55 13167 33177 502 739

(注) 1 全体の数値は平成22年度国勢調査及び各市町村データ(復旧計画等)からの概数

   2 マイカーを所有していない住民の方については近所の住民の方等が同乗させて1台で複数世帯分の立入りを行うケースがあるため立入台数が立入世帯数より少なくなる場合があるなお1世帯が複数台の自動車で立入ることは認められていない

46

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第3章 原子力発電所事故関連

第3章

施する除染特別地域においては市町村ごとに策定する特別地域内除染実施計画に従って事業を進めることとしており一時保管場所の確保や除染業務の発注に必要な情報が整った市町村について特別地域内除染実施計画に基づき本格除染の実施を開始していますまた市町村が中心となって除染を実施する除染実施区域においては市町村が除染実施計画を策定し除染事業を進めることとされており現在各地で除染事業の取組が進められています 環境省においては放射性物質汚染対処特措法が2012年 1月に全面施行されたことに伴い福島県等における除染を推進するために福島環境再生事務所を開所し体制の整備を行いました更に福島県及び環境省では除染等に関する専門家を市町村等の要請に応じて派遣するとともに除染のボランティア活動等の関連情報の収集発信を行うための拠点として国福島県関係機関関係団体等の連携を図る除染情報プラザを設置しました

5健康管理調査の支援等

(1)福島県民健康管理調査事業の支援 福島県民の皆様の中長期的な健康管理を可能とするため国では平成23年度(2011年度)第二次補正予算により福島県が創設した「福島県民健康管理基金」に782億円の交付金を拠出し全面的に県を支援しています福島県ではこの基金を活用して全県民を対象に県民健康管理調査を実施し被ばく線量の把握や健康状態を把握するための健康診査等を行うこととしています特に震災時点で18才以下であった全ての方を対象に甲状腺の超音波検査を実施していますこの他にホールボディカウンターによる検査や中学生以下の子ども及び妊婦に対する個人線量計(ガラ

スバッジ等)の貸与などを実施しています

(2) 原子力被災者等の健康不安対策に関するアクションプランの推進

 東京電力福島第一原発事故の被災者をはじめとする国民が抱える放射線による健康不安についてはこれまでも様々な取組を講じてきましたが ①今般の被災者等の不安を十分に踏まえた情報発信としていたか(平易な用語の使用等) ②専門家等からの一方的な情報発信に偏り不安を感じている被災者等との双方向のコミュニケーションが不足していなかったか ③不安解消のためのコミュニケーションを行う人や場(拠点を含む)が十分に確保されていたかといった問題により依然として不安を十分に解消できていない状況です

 関係省庁等がこうした問題意識を共有した上で必要となる施策の全体像を明らかにし政府一丸となって健康不安対策の確実な実施に取り組むべく2012年4月20日に環境大臣を議長とする原子力被災者等の健康不安対策調整会議を設置し同年5月31日にアクションプランを策定しました 重点施策として ①関係者の連携共通理解の醸成 ②放射線による健康影響等に係る人材育成国民とのコミュニケーション ③放射線影響等に係る拠点等の整備連携強化 ④国際的な連携の強化の4つを掲げており本取組を確実かつ計画的に実行していくこととしています

47

第4章

 東日本大震災を契機とした東京電力福島第一原子力発電所における事故により国民の生活地域経済環境に対して甚大な被害を与えたことに対する深い反省を踏まえ現行のエネルギー政策をゼロベースで見直すこととなりました 見直しにあたっては政府一丸となって策定するため国家戦略担当大臣を議長経済産業大臣と環境大臣兼原発事故の収束及び再発防止担当大臣を副議長とする「エネルギー環境会議」が設置されましたまた総合資源エネルギー調査会に「基本問題委員会」が設置される等相互に独立した関係審議会等が設置され議論が行われました 前述の「エネルギー環境会議」の方針によりエネルギー基本計画の策定に先立って「エネルギーミックスの選択肢」を国民に提示することとされ「基本問題委員会」において他の関係審議会の報告を受けつつ「エネルギーミックスの選択肢」の原案が策定されました 「エネルギー環境会議」はこの「エネルギーミックスの選択肢」の原案を原子力委員会や中央環境審議会等で検討されている原子力政策や地球温暖化対策の選択肢の原案と合わせてとりまとめ「エネルギー環境に関する選択肢」を統一的に提示し国民的な議論を進め「革新的エネルギー環境戦略」の決定を行い

ますエネルギー基本計画は関係行政機関の長の意見を聴くとともに総合資源エネルギー調査会の意見を聴いて経済産業大臣が案を作成し閣議で決定することとなっています 本章では2012年 7月末頃までのエネルギー環境会議総合資源エネルギー調査会基本問題委員会をはじめとする関係審議会等の構成検討結果等を概観します

第1節 電力システム改革関連

1対応の方向性

 電力システム改革に関する論点整理を目的として2011年11月に「電力システム改革に関するタスクフォース」を経済産業省内に立ち上げ同年12月末に「電力システム改革に関するタスクフォース論点整理」をとりまとめましたまた同月総合資源エネルギー調査会基本問題委員会において「新しい「エネルギー基本計画」策定に向けた論点整理」がとりまとめられましたこれらを踏まえ今後のあるべき電力システムの具体的な制度設計を行うため2012年 2月に総合資源エネルギー調査会総合部会に「電力システム改革専門委員会」を設置しました本専門委員会において8回にわたり精力的な検討を進め同年7月13日に「電力システム改革の基本方針」がとりまとめられました本基本方針では小売全面自由化卸電力市場の活性化送配電部門の広域性中立性の確保等が改革の基本方針として提言されています

2 電力システム改革専門委員会の発足に至る背景委員会の構成経過今後の動き

(1)背景 2011年12月にとりまとめた「電力システム改革に関するタスクフォース論点整理」においては「低廉で安定的な電力供給」を実現する「より競争的で開かれた電

第4章東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえたエネルギー政策の見直し

エネルギー環境会議

国民的議論

エネルギー環境の選択肢の原案提示

革新的エネルギー環境戦略提示

基本問題委員会事故調査委員会(1)

原発事故の技術知見委員会(2)

電力システム改革専門委員会

省エネルギー部会

天然ガスシフト基盤整備専門委員会

資源燃料政策(3)

内閣官房原子力委員会等

総合資源エネルギー調査会

(注) 1 東京電力福島原子力発電所における事故調査検証委員会等   2 東京電力福島第一原子力発電所事故の技術的知見に関する意見

聴取会意見聴取会   3 資源燃料政策に関する有識者との意見交換会

第140-0-1  エネルギー基本計画策定関連の政府内における主な検討の場

48

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第4章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえたエネルギー政策の見直し

第4章

力市場」を構築することを基本理念とし「新たな需要抑制策」「需要家の選択」「供給の多様化」「競争の促進と市場の広域化」「安定性と効率性の両立」について10の論点をまとめました また同月にとりまとめられた「新しい「エネルギー基本計画」策定に向けた論点整理」においては「大規模集中電源に大きく依存した現行の電力システムの限界が明らかになったことを踏まえ今後は需要家への多様な選択肢の提供と多様な供給力(再生可能エネルギーコジェネ自家発電等)の最大活用によってリスク分散と効率性を確保する次世代システムを実現していく必要があるとしていますまたこうしたシステムを盤石にするためにも送配電ネットワークの強化広域化や送電部門の中立性の確保が重要な課題である」等の基本的方向性が示されました この基本的方向に沿って今後のあるべき電力システムの具体的な制度設計を行うことが喫緊の課題であることから将来のエネルギーミックスのあり方と併せこれを支える電力システムについて専門的な検討を行うため総合資源エネルギー調査会総合部会の下に「電力システム改革専門委員会」を設置しました

(2)委員会の構成 電力システム改革専門委員会の委員は学識経験者や消費者代表者等を含む11名から構成されています 一般電気事業者や特定規模電気事業者(新電力)はオブザーバーとして参加しました

(3)経過 第1回(2012年 2月 2日) 議題 電力システム改革に関するタスクフォース「論

点整理」について 第2回(2012年 3月 6日) 議題需要サイドの取組について  東京都富士フイルム株式会社一般電気事業者(中部電力株式会社関西電力株式会社)新電力(株式会社エネット)からプレゼンテーション

 第3回(2012年 4月 3日) 議題供給の多様性について  株式会社日本製紙グループ本社東京ガス株式会社JX日鉱日石エネルギー株式会社一般電気事業者(中部電力株式会社関西電力株式会社)新電力(株式会社エネット)からプレゼンテーション

 第4回(2012年 4月 25日) 議題競争の促進と広域化について  フランス送電会社(RTE)公正取引委員会一般電気事業者(中部電力株式会社関西電力株式会社)新電力(株式会社エネット)からプレゼンテーション

 第5回(2012年 5月 18日) 議題 総合的な検討(1) 小売全面自由化送配電部

門の広域化中立化 第6回(2012年 5月 31日) 議題 総合的な検討(2) 送配電部門の広域化中立

化卸電力市場の活性化等 第7回(2012年 6月 21日) 議題 総合的な検討(3) 送配電部門の広域化中立

化卸電力市場の活性化等 第8回(2012年 7月 13日) 議題 総合的な検討(4) 電力システム改革の基本方

針案

(4)電力システム改革の基本方針①需要サイド(小売分野)の改革 ア)小売全面自由化(地域独占の撤廃)  一般電気事業者による地域独占を撤廃し小売全面自由化を実施  ただし「自由化」によって供給の空白地帯が生じないよう最終保障サービス等「自由化の代償措置」には周到な設計を行う(年内を目処に詳細設計)

委員会名簿伊藤 元重(委員長) 東京大学大学院経済学研究科教授

安念 潤司(委員長代理) 中央大学法科大学院教授

伊藤 敏憲 伊藤リサーチアンドアドバイザリー代表取締役兼アナリスト

大田 弘子 政策研究大学院大学教授

小笠原 潤一 (一財)日本エネルギー経済研究所電力グループマネージャー研究主幹

柏木 孝夫 東京工業大学特命教授高橋 洋 富士通総研経済研究所主任研究員

辰巳 菊子 (公社)日本消費生活アドバイザーコンサルタント協会常任顧問

八田 達夫 学習院大学特別客員教授松村 敏弘 東京大学社会科学研究所教授横山 明彦 東京大学大学院新領域創成研究科教授

49

第2節 天然ガス

第4章

 イ)料金規制の撤廃(総括原価方式の撤廃)  競争の進展に応じて一般電気事業者の供給義務や料金規制を撤廃

②供給サイド(発電分野)の改革 ア)発電の全面自由化(卸規制の撤廃)  卸規制(発電事業者から一般電気事業者への長期大量の電力供給に供給義務や料金規制を課している)を撤廃する

  ただし卸規制の撤廃が需給に混乱を与えないよう移行期間における十分な配慮を行う

 イ)卸電力市場の活性化  特定の供給区域の枠を超えて全国大で効率的な電源の有効活用を実現するため卸電力市場で既存の事業者の電源が活発に取引される方策を講じる  具体的には少なくとも供給予備力を超える電源は卸市場に投入するとの考え方を前提とし取引ルールを設計する

③送配電部門の改革(中立性公平性の徹底) ア)送配電部門の「広域性」の確保  これまでの「供給区域ごとに需給を管理する」仕組みを改めより広域的全国的に供給力を有効活用するため広域系統運用機関を設立する イ)送配電部門の「中立性」の確保  ①機能分離型または②法的分離型の方式により各供給区域の送配電部門の中立性を確保  機能分離型hellipエリアの系統計画系統運用の機能を一般電気事業者の送配電部門から分離し広域系統運用機関に移管する方式  法的分離型hellipエリアの系統計画系統運用の機能から送配電設備を所有し開発保守する業務までを含む送配電部門全体を別法人とする方式  いずれの方式であっても中立性確保のための人事予算等に係る行為規制や送配電部門と発電小売部門との情報の取扱契約の取扱の公平性の確保が不可欠であるこうした規制の内容や様々な技術的論点を精査しながら年内を目処に詳細設計を行う ウ)地域間連系線等の強化  50Hzと 60Hzの周波数変換設備と東西連系線の容量を増強(120万kWrarr210万kWrarr300万kW)  北海道本州間連系線の増強(60万kWrarr90万kW)を早期に実現風力発電の導入状況等を踏まえて

更なる増強を検討  風力発電の重点整備地区について政策的支援も含め送配電網整備の具体的方法を検討

④詳細設計へ向けて  改革実行の際には世界で最も高い信頼性を有する我が国の技術と人材の蓄積やる気を尊重する  以上の基本方針の下制度改革を着実に実行本制度改革は新たなシステムへの投資と大きな事業体制の変革を伴うものであり綿密な詳細設計と十分な時間をかけた手順工程表が必要  年内を目処に各課題について更に検討を進める

(5)今後の動き 電力システム改革専門委員会において取りまとめられた「電力システム改革の基本方針」を踏まえ制度改革を着実に実行することとしています詳細な制度設計については年内を目途に検討を進めることとしています

第2節 天然ガス

1 天然ガスシフト基盤整備専門委員会について

(1)背景 総合資源エネルギー調査会総合部会基本問題委員会(以下「基本問題委員会」という)において昨年12月に公表された論点整理では「天然ガスシフトを始め環境負荷に最大限配慮しながら化石燃料を有効活用す

広域系統運用者(全国機関)系統計画業務の実施広域連系線(地域間連系線+主要幹線)の運用エリア(九電力管内)系統運用者への系統運用監視勧告電力市場の形成

エリアの系統運用者(地方支部)

エリアの系統運用系統計画機能

エリアの系統運用者(電力事業者の送配電部門)人事予算等の独立性ルールが必要エリアの系統運用系統計画機能

+送配電設備の所有(開発保守)電力事業者の送配電部門

電力事業者の発電小売部門 電力事業者の発電小売部門

送配電設備の所有(開発保守)

規制対象

同一組織パターン1機能分離型

(機能を分離)パターン2法的分離型

(会社を分離)

広域連系線の開発保守指示

広域連系線の開発保守指示

エリア送配電設備の開発保守指示

別会社

第141-2-1 新しい送配電部門のイメージ像

50

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第4章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえたエネルギー政策の見直し

第4章

る(化石燃料のクリーン利用)」ことを基本的方向の一つとして更に議論を深めていくこととされました 天然ガスシフトの動きについては世界的に見てもいわゆる「シェールガス革命」といった新たな供給源の立ち上がりによって天然ガスの可採年数が大幅に増加し長期的にも世界全体の需要を満たすことができる見込みも高いことから今後天然ガスが果たす役割への期待はより一層高まってきています 我が国においては東日本大震災を契機として大規模集中電源に大きく依存した現行の電力システムの限界が明らかになりました今後は原子力発電への依存度をできる限り低減させていく方向性の中で再生可能エネルギーコジェネ自家発等の多様な分散型電源の供給力の最大活用によってリスク分散と効率性を確保する次世代システムを実現していくとともに熱の有効利用を含めた最先端の省エネルギー社会を実現していくこと等が必要となりますその中で化石燃料の中でも最もクリーンでかつ世界に広く分散して賦存する天然ガスへのシフトは一層重要な課題となるものと考えられます 一方天然ガスの供給については前述のとおり東日本大震災によって今後仮に一極集中したLNG基地に天然ガス供給を依存する大都市圏において基地の機能停止が起こった場合長期にわたり供給が途絶するリスクがあることが顕在化しました このような状況を踏まえれば今後の我が国の天然ガスシフトに向けては一段と高いレベルの天然ガス供給基盤のセキュリティが不可欠です 加えて天然ガスの供給基盤にはセキュリティの向上のみならず発電用燃料都市ガス原料としての天然ガスの利用可能性向上ガス価格低廉化の可能性二酸化炭素削減等といった多様な意義があり今後はこれらの意義を踏まえつつ今後の天然ガスシフトを支えるに十分な天然ガス供給基盤の整備を進めていく必要があります 更に将来的には国際天然ガスパイプラインネットワークの形成やメタンハイドレートの開発等の動きも視野に入れながら天然ガス利用のメリットを最大限享受できるような供給基盤が長期的に構築されていくことも期待されます 以上を踏まえ天然ガスシフトに向けた基盤(広域パイプライン等)整備に関する専門的検討を行うため総合資源エネルギー調査会総合部会の下に「天然ガスシフト基盤整備専門委員会」を設置しました

(2)委員構成委員長 横倉 尚 武蔵大学経済学部教授委員 柏木 孝夫 東京工業大学特命教授 橘川 武郎 一橋大学大学院商学研究科教授 古城 誠 上智大学法学部教授 八田 達夫 学習院大学特別客員教授 松村 敏弘 東京大学社会科学研究所教授 山内 弘隆 一橋大学大学院商学研究科教授

(3)審議経過第1回(2012年 1月 17日) 本委員会で明らかにしていくべき論点について 我が国の天然ガス及びその供給基盤の現状と課題

第2回(同年2月27日)  天然ガスシフトに向けた基盤整備について事業者及びユーザー企業より意見聴取

  bull 中堅中小ガス事業者(仙台市ガス局)  bull 都市ガスユーザー企業(ブリヂストン)  bull  広域でパイプライン整備に取り組んでいる事

業者(大阪ガス中部電力国際石油開発帝石)

  bull  地下貯蔵に知見を有する事業者(石油資源開発)

第3回(同年4月6日)  これまでの議論やヒアリング結果を踏まえた論点整理について

 海外調査結果について

第4回(同年5月15日)  東京ガス大阪ガス東邦ガスからの供給継続性に関するヒアリング

 天然ガスシフト基盤整備の新しいあり方について

第5回(同年6月13日) とりまとめに向けた議論

第6回(同年6月26日) 報告書(案)について

2対応の方針

 我が国における今後の天然ガスシフトを見据えればそれを支える広域天然ガスパイプラインネットワーク

51

第3節 石油LPG

第4章

という供給基盤をできるだけ早期に構築していく必要があります

(1)整備基本方針の策定 本委員会の報告書では我が国全体における全体最適的な観点からの広域天然ガスパイプライン地下貯蔵施設等の天然ガス供給基盤の整備基本方針を国が策定し民間事業者の活力を最大限活用していくことを官民の役割分担の基本的考えとし天然ガス供給基盤整備を推進していくこととされました 整備基本方針の策定に当たっては供給セキュリティ向上利用可能性向上価格低廉化二酸化炭素削減等の多様な意義社会的効果という要素のみならず将来の国際パイプラインとの連結やメタンハイドレートの活用も視野に入れつつ世界的な「天然ガスの黄金時代」の恩恵を国民が享受できるような環境を目指していく必要があります 本委員会では整備基本方針で定めるべき内容として以下の事項が挙げられました 整備ルート等の設定 スペック熱量等の設定 整備の時間軸プライオリティ

(2)事業者間連携に向けた利害調整 報告書では整備基本方針と民間事業者との利害が一致しない場合の調整や多様なエネルギー事業者同士の連携を促進するためエネルギー事業者間の利害調整を検討すべきとされました

(3)整備費用負担の在り方 基盤整備に当たっては事業収入に加えセキュリティ向上利用可能性向上価格低廉化二酸化炭素削減等といった社会的効果の部分も含め費用負担の問題を解決する必要があります 費用負担については「受益者負担」の原則を基本としつつも受益の種類によって負担の手法は様々であり特定負担一般負担全国民負担等の様々な組み合わせが考えられる上受益の範囲程度については個別事業に基づく調整が必要となります本委員会では整備基本方針において受益者負担の手法範囲程度時点の調整等の「基本的な考え方」を示しそれに基づき整備事業ごとに負担の在り方を検討することとされました

(4)整備促進の在り方(コスト低減需要増加) 整備費用そのものの低減のため関係規制の緩和や運用見直しを進め効果の高い財政支援措置等を検討するとともにパイプライン整備と一体的に天然ガス火力や天然ガスコジェネ等の新規沿線需要を喚起し事業採算性を高めていくことが必要とされました

3今後の方向性

 今後は新たなエネルギー基本計画の内容を踏まえ様々な分野の有識者や事業者の意見知見を傾聴しつつ必要な取組を速やかに講じていくこととしています

第3節 石油LPG

1対応の方向性

(1)資源確保戦略 第15回パッケージ型インフラ海外展開関係大臣会合(2012年 6月 27日開催)において「資源確保戦略」が報告されました本戦略は「資源確保指針」(2008年 3月 28日閣議了解)の考え方を踏まえつつ世界的な資源確保競争の激化や東日本大震災以降の化石燃料の調達コスト増大等資源を巡る国内外の厳しい情勢に鑑み現在の資源確保の現状及び今後の見通しをあらためて分析し我が国の官民の持つリソースを最大限活かすために策定されたものです 資源確保戦略の5本柱として①資源獲得の重要国に対する政府一体となった働きかけ②資源ユーザー産業の上流開発への関与の促進③資源国に対する協力のパッケージ化④資源権益獲得に対する資金供給の機能強化⑤国際的なフォーラムやルールの積極活用を重点的に取り組むこととしていますなお今後のエネルギー政策の見直し結果等に伴い本戦略についても必要に応じて見直しが行われる予定です

(2)国内災害対策①石油(ア)備蓄 東日本大震災により被災した久慈国家備蓄基地において原油流出等の二次被害を防ぐため仮設復旧工事を早期に行うとともに今後の津波対策として非常用電源等の重要設備を高台に移設するための対応を

52

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第4章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえたエネルギー政策の見直し

第4章

行いました また他基地においては地震津波対策として防災訓練や基地の耐震診断等を実施する等国家備蓄基地の災害対応能力向上を図りました(イ)流通 東日本大震災を教訓とし全国的な防災減災の観点から緊急車両への優先給油を含め地域における石油製品の供給体制の整備が重要ですそのため地域において中核となるSSを選定し自家発電設備等の災害対応能力を強化する設備投資に支援を行いました

② LPG 東日本大震災においては冠水による電気系統の故障や停電による出荷設備の一時的停止等により出荷が遅れたり災害時を想定した情報収集体制が脆弱であったため適切な情報収集に時間がかかってしまったLPガス基地充填所が多く存在しましたこのことからLPガス出荷基地及び充填所の災害対応能力及び情報収集情報提供体制の強化の必要性が改めて認識されたため出荷基地や充填所に対し自家発電設備や衛星電話等の設置を行う等災害対応能力の強化等に取り組んでいます

(3) 備蓄法(「石油の備蓄の確保等に関する法律」)改正

①背景 東日本大震災発生時には製油所油槽所等やタンクローリー等の物流網が広範囲にわたって被災したため政府石油業界をあげて供給体制の早期立て直しに取り組みましたまたこのとき国内災害時としては初めて石油会社等の石油の基準備蓄量を引き下げ民間の備蓄石油を放出できるよう措置することとしました

②概要 この震災時の経験を踏まえ1970年代の石油ショックの経験から主に海外からの原油供給が不足する事態に備えて制定された「石油の備蓄の確保等に関する法律」について(a)災害時における国内の特定の地域への石油の供給不足時に石油会社等が備蓄石油を放出するための要件を緩和し(b)一定規模以上の石油業者

に対し共同で地域ごとに災害時の連絡体制や設備の共同利用の方法等を定めた計画の作成を義務付ける規程を加える等の改正を行うことで災害時にも確実に石油を供給する体制を強化することとしました同改正案22は2012年 2月 10日に閣議決定し国会に提出されました

2 資源燃料政策に関する有識者との意見交換会

 本会は「エネルギー需給安定行動計画」(2011年 11月 1日エネルギー環境会議決定)を踏まえ資源燃料政策のうち先行して取り組むべき事項について個別施策の具体化な議論を行ために全5回わたり開催されましたまた従来の総合資源エネルギー調査会にとらわれずに意見交換会を行うため消費者被災自治体防災物流の専門家資源燃料のユーザ産業等の多岐にわたりメンバーを募集し並行して会合の開催と同時に事務局から示された「たたき台」をホームページで公表し国民各層からも広く意見を募集しました 本会は「災害時における石油ガスの安定供給」と「世界的な資源需要の高まりや災害等を踏まえた資源開発確保」という二つのテーマを設け前期テーマでは東日本大震災後に生じた供給支障の教訓をふまえた初動対応の迅速化大規模災害を見越した災害に強い供給体制の整備について検討を行いました後期テーマでは国際的な資源需要の高まり震災後の新たな資源需要を踏まえた化石燃料や鉱物資源地熱資源の開発の促進に向けての体制の検討を行いました とりまとめ後にWEB上で「資源燃料の安定供給確保のための先行実施対策」を公表し今後の資源確保の政府方針を示していきました

第4節 エネルギー環境会議 エネルギーシステムの歪み脆弱性を是正し安全安定供給効率環境の要請に応える短期中期長期からなる革新的エネルギー環境戦略及び2013年以降の地球温暖化対策の国内対策を政府一丸となって策定するため2011年 6月 7日にエネルギー環境会議が設置されました本会議は国家戦略担当大臣を

22 災害時における石油の供給不足への対処等のための石油の備蓄の確保等に関する法律等の一部を改正する法律案です

53

第4節 エネルギー環境会議

第4章

議長経済産業大臣と環境大臣兼原発事故の収束及び再発防止担当大臣を副議長とするものですエネルギー環境戦略の白紙からの見直しに先立ち2011年 7月 29日に「革新的エネルギー環境戦略策定に向けた中間的な整理」をまとめ原子力発電所への依存度低減分散型システムへの移行国民的議論の展開という三つの大きな方向性を提示しました エネルギー環境会議は2011年 10月 3日に「コスト等検証委員会」を設置しその検討の結果として同年12月 19日に同委員会報告書により戦略見直しの前提条件となる社会的費用も含めた電源別の発電コストを明らかにしましたまた同月21日に原子力発電所への依存度低減という方針を実現する上で化石燃料への依存度低減を旨とするエネルギー安全保障との両立をどう図るのか地球温暖化対策との両立をどう図るのか経済性に優れ安全なエネルギー確保をどう現実のものとするのかといった視点から春を目途にまずはエネルギー環境戦略に関する複数の選択肢を提示しその上で夏の戦略決定につなげるという基本方針を提示しました この基本方針に基づき原子力委員会総合資源エネルギー調査会及び中央環境審議会は原子力政策エネルギーミックス国内温暖化対策をどう組み直すのかという視点で選択肢提示に向けた検討を行いました2012年 6月 8日にエネルギー環境会議はこれら関係会議体での検討をとりまとめ統合的な選択肢案を提示するため選択肢設計の中間的整理を決定しました 更に関係会議体がこの中間的整理を踏まえながら検討を進め2012年 6月 29日に「エネルギー環境に関する選択肢」を提示しましたこの中で政府は新しいエネルギー選択として「原発からグリーンへ」とい

う大きな方向性のもと2030年に向け原子力発電所低減の度合いや再エネ省エネルギーの拡大の度合いやスピードが異なるゼロ1520~25の三つのシナリオを提示しました エネルギー環境会議ではこの三つのシナリオをもとに国民同士の対話が進むよう国民的議論を更に展開しエネルギー環境の選択肢に関する情報提供データベースの整備意見聴取会の全国11カ所での開催討論型世論調査パブリックコメントの募集等を行いました

1 エネルギー環境の選択肢に関する情報提供データベースの整備

 内閣官房国家戦略室ホームページに特設サイト「話そうldquoエネルギーと環境のみらいrdquo」を開設し三つの選択肢が決定されるまでの議論の経過や元となる考え方やデータこの課題に関する様々な分野の有識者の声等の提供を行いました(第144-1-1)

2意見聴取会

 2012年 7月 14日のさいたま市をはじめとして全国11カ所で「エネルギー環境の選択肢に関する意見聴取会」を実施しました(福島会場では「エネルギー環境の選択肢に関する福島県民の意見を聴く会」として開催)

(1)実施形式 参加者は一会場100~200名で希望者を公募し抽選で選出し聴取会をインターネットで中継配信しました 聴取会では担当省庁(内閣官房経済産業省環境省)の政務が出席し冒頭政府から選択肢について説明しましたその後に希望者を公募し抽選で選出した意見表明者全員の意見を聞いた上で意見表明者による追加コメント及びやり取りを行いました意見表明者の人数は当初三つのシナリオごとに3名ずつとしていましたが途中から人数を12名に拡大し三つのシナリオ以外の意見の表明者も追加し更に意見表明希望者の割合に応じて人数を配分することとしましたまた福島県民の意見を聴く会ではシナリオの区別なく意見表明者を公募し30名の意見表明者が陳述することとしました参加者に対しては会場でアンケートを実施しました

63

10

26

2010年実績 ゼロシナリオ 15シナリオ 20~25シナリオ

現行エネルギー基本計画

65

35

55

30

15

50 50

30

20

25

25

20

45

35

火力

原子力

再生可能エネルギー

第144-0-1  各シナリオにおける発電構成(2030年)

54

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第4章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえたエネルギー政策の見直し

第4章

(2)開催場所開催スケジュール7月14日 さいたま市7月15日 仙台市7月16日 名古屋市7月22日 札幌市大阪市7月28日 富山市7月29日 広島市那覇市8月1日 福島市(福島県民の意見を聴く会)8月4日 高松市福岡市

3討論型世論調査

 「エネルギー環境の選択肢に関する討論型世論調査実行委員会」23が政府のエネルギー環境会議より提示された「エネルギー環境に関する選択肢」(2012年 6月 29日)に関する「討論型世論調査」を2012年7月上旬から実施しました24

(1)討論型世論調査の概要 討論型世論調査とは複雑な政策課題についての市民の表面的な理解の下での意見を調べる通常の世論調査に加え無作為に抽出された属性や意見の異なる市民が当該課題について学習し専門家の情報提供を受け市民同士での議論を経ることにより熟慮した上での意見の変化を調べる手法です同手法は米国スタンフォード大学のフィシュキン教授らにより考案され世界全体で40回以上国内では過去5回実施されてきました

(2)具体的な調査方法①最初に無作為に抽出された一般市民に対して通常と同様の世論調査(T1)を行う②その中からあらかじめ定めた日に1カ所に集まり開催する「討論フォーラム」に参加する者を無作為に抽出し討論課題についてバランスよく情報をまとめた討論資料を郵送し学習いただく③討論フォーラムの最初に2度目の意向調査(T2)を行う④討論フォーラムに参加した市民を小グループに分けて訓練されたモデレータの司会のもとで市民同士で討論を行う「小グループ討論」と参加者が専門家(パネリスト)に質問を行う「全体会議」を繰り返す

23 実行委員会が討論型世論調査の企画運営を行い中立的な運営を担保する方法の一つとして監修委員会の監修専門家委員会の意見や助言の提供第三者検証委員会による実行委員会から独立した立場での討論型世論調査の実施過程の検証が行われました24 2012 年 7 月 12 日に実行委員会より今回の討論型世論調査は無作為抽出による「電話世論調査」を 7月上旬から中旬に2日間の「討論フォーラム」を 8月 4日5日に行う事が発表されました

第144-1-1 国民的議論パンフレット(ジュニア用)より

55

第5節 エネルギー基本計画の検討

第4章

⑤討論フォーラムの最後に3度目の調査(T3)を行い三つの調査結果の変化を分析する

4パブリックコメント

 インターネット郵送FAXで「エネルギー環境に関する選択肢」に対する意見の募集を2012年 7月 2日から開始しました当初7月末日を締切としていましたが同年7月13日に締切を同年8月12日まで延長しました

第5節 エネルギー基本計画の検討

1基本問題委員会の設置

 エネルギー基本計画はエネルギー政策の基本的な方向性を示すためにエネルギー政策基本法に基づきエネルギーの需給に関する基本的な方針や講ずべき施策等を内容とする政府が策定する計画であり関係行政機関の長の意見を聴くとともに総合資源エネルギー調査会の意見を聴いて経済産業大臣が案を作成し閣議で決定することとなっています 直近のエネルギー基本計画は2010年 6月に策定されましたが東日本大震災及び東京電力福島第一原子力発電所の事故を踏まえエネルギー政策をゼロベースから見直し新たな計画を策定すべく2011年 10月に総合資源エネルギー調査会総合部会に基本問題委員会(以下委員会と表記)が設置され委員長に三村明夫総合資源エネルギー調査会総合部会長が就任しました

2委員会の議論の経過

 委員会は2011年 10月 3日に第1回委員会が開催されましたエネルギーに関する様々な議題についてこれまで約10カ月に亘り計30回開催され25エネルギーに関する相互に独立した審議会等からの報告等や議論が行われています

(1) 新しい「エネルギー基本計画」策定に向けた論点整理(2011年 12月 20日)

 第1回委員会以降委員会では様々な論点について幅広い意見が出され議論が行われましたそれを受け第6回基本問題委員会(2011年12月6日)に『新しい「エネルギー基本計画」策定に向けた論点整理(案)』が提示され第6回委員会第7回委員会(2011年 12月 13日)で議論が行われましたとりまとめられた論点整理では今後の本格的な議論の出発点として主要な論点についてこれまでの議論の大きな方向感が整理されました

(2) 「エネルギーミックスの選択肢の原案について」(2012年 6月19日)

 第27回委員会(2012年 6月 19日)においてエネルギー環境会議に報告を行う「エネルギーミックスの選択肢の原案」が取りまとめられ四つのエネルギーミックスの選択肢26がエネルギー環境会議に報告することとされました 提示された四つの選択肢はそのうち三つの選択肢(選択肢1~3)が「定量的なイメージ」と「必要な対策」の双方をパッケージとして含むものとされ四つ目の選択肢は「定量的なイメージ」を明示しない選択肢とされました(選択肢4)

①選択肢1意思を持って原子力発電比率ゼロをできるだけ早期に実現し再生可能エネルギーを基軸とした電源構成とする 《2030年の電源構成のイメージ》 原子力発電 0 再生可能エネルギー27 約 35 火力発電28 約 50 コジェネ29 約 15 省エネルギー(節電)30 約2割(約1割) エネルギー起源CO2排出量31 約16

25 2012 年 7 月 30 日現在26 同時に参考として「不確実な状況下での幅広い選択肢を確保するため意思を持って現状程度の原発の設備容量を維持し原子力発電比率を 2010 年度より拡大させる」シナリオについて経済影響や二酸化炭素排出量等の試算を行い上記のⅰ~ⅳの選択肢と併せて提示することとされました27 「再生可能エネルギー」には本来廃棄物発電は含まれませんがここでは便宜上廃棄物発電を含めたものが「再生可能エネルギー」とされました28 火力発電には自家発(モノジェネのみ)を含みます29 コジェネには家庭用燃料電池を含みますまた売電分(系統への逆潮流)を含みます

56

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第4章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえたエネルギー政策の見直し

第4章

30 省エネルギー及び節電の数字は2010 年度実績比です31 参考として1990 年比の数値を基本問題委員会事務局が試算した数値です

②選択肢2意思を持って再生可能エネルギーの利用拡大を最大限進め原子力依存度を低減させる併せて原子力発電の安全強化等を全力で推進する情勢の変化に柔軟に対応するため2030年以降の電源構成はその成果を見極めた上で本格的な議論を経て決定する 《2030年の電源構成のイメージ》 原子力発電 約 15 再生可能エネルギー 約 30 火力発電 約 40 コジェネ 約 15 省エネルギー(節電) 約 2割(約1割) エネルギー起源CO2排出量 約20

③選択肢3安全基準や体制の再構築を行った上で原子力発電への依存度は低減させるがエネルギー安全保障や人材技術基盤の確保地球温暖化対策等の観点から今後とも意思を持って一定の比率を中長期的に維持し再生可能エネルギーも含め多様で偏りの小さいエネルギー構成を実現する

 《2030年の電源構成のイメージ》 原子力発電 約 20~25 再生可能エネルギー 約 20~25 火力発電 約 35 コジェネ 約 15 省エネルギー(節電) 約 2割(約1割) エネルギー起源CO2排出量 約23

④選択肢4社会的コストを事業者(更には需要家)が負担する仕組みの下で市場における需要家の選択により社会的に最適な電源構成を実現する 《2030年の電源構成のイメージ》本選択肢についてはエネルギーミックスの定量的なイメージは提示しない

 以上の四つの選択肢がエネルギー環境会議に報告されエネルギー環境会議はこの原案を原子力委員会や中央環境審議会等で検討されている原子力政策や地球温暖化対策の選択肢の原案と合わせてとりまとめ「エネルギー環境戦略に関する選択肢」を統一的に提示し国民的な議論を進めることとなりました

(別表)第145-2-1 基本問題委員会 委員一覧(2012年 7月 30日現在)三村 明夫(委員長) 新日本製鐵代表取締役会長阿南 久 全国消費者団体連絡会事務局長飯田 哲也 NPO法人環境エネルギー政策研究所所長植田 和弘 京都大学大学院経済学研究科教授槍田 松瑩 三井物産取締役会長

枝廣 淳子 ジャパンフォーサステナビリティ代表幸せ経済社会研究所所長

大島 堅一 立命館大学国際関係学部教授柏木 孝夫 東京工業大学特命教授金本 良嗣 政策研究大学院大学教授学長特別補佐北岡 伸一 東京大学大学院法学政治学研究科教授橘川 武郎 一橋大学大学院商学研究科教授河野 龍太郎 BNPパリバ証券経済調査本部長チーフエコノミスト榊原 定征 東レ代表取締役会長

崎田 裕子 ジャーナリスト環境カウンセラーNPO法人持続可能な社会をつくる元気ネット理事長

菅家 功 日本労働組合総連合会副事務局長高橋 洋 富士通総研主任研究員辰巳 菊子 (公社)日本消費生活アドバイザーコンサルタント協会常任顧問

57

第5節 エネルギー基本計画の検討

第4章

田中 知 東京大学大学院工学系研究科教授寺島 実郎 (一財)日本総合研究所理事長豊田 正和 (一財)日本エネルギー経済研究所理事長

中上 英俊 住環境計画研究所代表取締役所長東京工業大学統合研究院特任教授

八田 達夫 学習院大学特別客員教授伴  英幸 認定NPO法人原子力資料情報室共同代表松村 敏弘 東京大学社会科学研究所教授山地 憲治 (公財)地球環境産業技術研究機構理事研究所長

(別表)第145-2-2 各開催回の議題と概要(第30回委員会まで)開催回 日時 議題 概要第1回 2011年

10月3日エネルギー基本計画の見直しについて

①「『革新的エネルギー環境戦略』策定に向けた中間的な整理」の報告②自由討議

第2回 10月26日 ベストミックスを考える視点等 阿南委員飯田委員橘川委員崎田委員及び高橋委員からのプレゼンテーションとそれに基づく質疑等

第3回 11月9日 ベストミックスと原子力の位置づけ国民視点からのエネルギー政策等

①ベストミックスと原子力の位置づけについて田中委員及び伴委員からのプレゼンテーションとそれに基づく質疑等②国民視点からのエネルギー政策について枝廣委員河野委員辰巳委員及び八田委員からのプレゼンテーションとそれに基づく質疑等

第4回 11月16日 国際情勢とベストミックスユーザーからみたベストミックス等

①国際情勢とベストミックスについてファンデルフーフェンIEA事務局長寺島委員及び豊田委員からのプレゼンテーションとそれに基づく質疑等②ユーザーからみたベストミックスについて榊原委員及び中上委員からのプレゼンとそれに基づく質疑等

第5回 11月30日 あるべきベストミックスと政策市場技術の関わり等

槍田委員柏木委員金本委員松村委員山地委員及び植田委員からのプレゼンとそれに基づく質疑等

第6回 12月6日 論点整理等 ①論点整理について議論②第2回核セキュリティサミット開催に向けた韓国の賢人会議について北岡委員によるプレゼンとそれに基づく質疑等③スウェーデンのエネルギー政策についてコーベリエル元スウェーデンエネルギー庁長官からのプレゼンとそれに基づく質疑等④2011年夏の電力需要対策のフォローアップについて

第7回 12月12日 論点整理等 ①論点整理について議論②当面の議題等について議論

第8回 2012年1月18日

電力システム改革についてエネルギー環境会議による「基本方針」及びコスト等検証委員会の結果 等

①電力システム改革について議論②エネルギー環境会議による「基本方針」及びコスト等検証委員会の結果等について議論③地球温暖化対策の経緯と現状④資源燃料の安定供給確保のための先行実施対策⑤電力システム改革に関するタスクフォース論点整理

第9回 1月24日 原子力発電の位置づけ 等 原子力発電の位置づけ等について議論第10回 2月1日 東京電力福島原子力発電所に

おける事故調査検証委員会の中間報告について新たな原子力安全規制体系の検討状況について 等

①東京電力福島原子力発電所における事故調査検証委員会の中間報告について②新たな原子力安全規制体系の検討状況について③東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の技術的知見に関する意見聴取会(原子力安全保安院)の中間論点整理について④東京電力による賠償進捗状況⑤東京電力福島原子力発電所における事故調査検証委員会 中間報告 について⑥内閣官房原子力安全規制組織等改革準備室 新たな原子力安全規制体系について⑦福島第一事故の技術的知見に関する意見聴取会 中間とりまとめ(案)について⑧世界の原子力賠償制度の概要原子力損害賠償補償契約の補償料率の改定について⑨低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ報告書について⑩原子力被災者への取組について

58

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部第4章 東日本大震災東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえたエネルギー政策の見直し

第4章

32 <ヒアリング対象>電気事業連合会(八木誠会長)株式会社エネット(池辺裕昭社長)石油連盟(天坊昭彦会長)日本ガス協会(鳥原光憲会長)日本 LPガス協会(松澤純会長)33 <ヒアリング対象>全国知事会エネルギー環境問題特別委員会(橋本昌委員長(茨城県知事))

第11回 2月9日 省エネルギー節電対策(熱の有効活用を含む)について 等

省エネルギー節電対策(熱の有効活用を含む)等について議論

第12回 2月14日 主要なエネルギー供給事業者団体からのヒアリングと質疑エネルギー安全保障について(委員からの論点提起と質疑) 等

①主要なエネルギー供給事業者団体32からのヒアリングと質疑②エネルギー安全保障について事務局から資料()を提出するとともに飯田委員高橋委員田中委員寺島委員豊田委員八田委員からの論点提起と質疑日本に加え主要国(アメリカ英国フランスドイツスペイン中国インド韓国)の自給率一次エネルギー供給構成電源構成化石燃料輸入先停電時間省エネ等について分析した資料

第13回 2月22日 全国知事会からのヒアリングと質疑再生可能エネルギーの導入拡大の可能性について化石燃料の確保とクリーン利用の可能性について 等

①全国知事会33からのヒアリングと質疑②再生可能エネルギーの導入拡大の可能性について③化石燃料の確保とクリーン利用の可能性について④ドイツやスペインにおける固定価格買取制度の最近の状況 等

第14回 3月7日 原子力発電の位置づけ 等 ①原子力政策大綱の見直しや核燃料サイクル政策の選択肢の検討状況等に関する原子力委員会からの報告及び質疑等②ドイツにおける固定価格買取制度の最近の状況(続報)ドイツ商工会議所が行ったアンケート「明日のエネルギーと資源」の紹介 等

第15回 3月14日 エネルギーミックスの選択肢について 等

①各委員から提出されたエネルギーミックスに関する意見を元にエネルギーミックスの選択肢について議論②「エネルギーの使用の合理化に関する法律(省エネ法)の一部を改正する法律案」の概要

第16回 3月19日 エネルギーミックスの選択肢について 等

各委員から提出されたエネルギーミックスに関する意見を元にエネルギーミックスの選択肢について議論

第17回 3月27日 エネルギーミックスの選択肢について 等

各委員の意見を類型化したエネルギーミックスの選択肢に関する整理(案)を提示しどの選択肢を経済影響分析の対象とするかについて議論

第18回 4月11日 エネルギーミックスの選択肢について 等

エネルギーミックスの選択肢について各選択肢の基本的な考え方や対策等について議論

第19回 4月16日 エネルギーミックスの選択肢について 等

①エネルギーミックスの選択肢について各選択肢の基本的な考え方や対策等について議論②再生可能エネルギーの導入拡大に伴う追加的コスト

第20回 4月26日 エネルギーミックスの選択肢について 等

エネルギーミックスの選択肢について各選択肢の基本的な考え方や対策等について議論

第21回 5月9日 エネルギーミックスの選択肢について 等

エネルギーミックスの選択肢の候補の経済影響分析結果や選択肢の原案の取りまとめ方等について議論

第22回 5月14日 エネルギーミックスの選択肢について 等

①省エネに関する専門的な検証結果について議論②コジェネに関する専門的な検証結果について議論③「エネルギーミックスの選択肢の原案」の整理のあり方について議論

第23回 5月21日 エネルギーミックスの選択肢について 等

①電力システム改革専門委員会及び天然ガスシフト基盤整備専門委員会の検討状況の報告②経済影響分析に係る感度分析の結果について議論③「エネルギーミックスの選択肢の原案」の整理のあり方について議論

第24回 5月24日 エネルギーミックスの選択肢について 等

「エネルギーミックスの選択肢の原案」の整理のあり方について議論

第25回 5月28日 エネルギーミックスの選択肢について 等

①経済影響分析を巡る論点について議論②「エネルギーミックスの選択肢の原案」について議論

第26回 6月5日 エネルギーミックスの選択肢について 等

①「エネルギーミックスの選択肢の原案」について議論②2020年のエネルギーミックスのあり方について議論

第27回 6月19日 エネルギー基本計画の見直しについて(資源燃料政策について 等)

①エネルギー環境会議における選択肢に関する中間的整理について報告②エネルギー基本計画の見直しに関する主要な論点について議論③資源燃料の安定供給の課題と今後の対応について議論

第28回 7月5日 エネルギー基本計画の見直しについて(蓄電池及び水素についてエネルギー基本計画の見直しの主要論点について 等)

①エネルギー環境会議で提示された選択肢について報告②蓄電池及び水素について議論③資源確保戦略について

59

第5節 エネルギー基本計画の検討

第4章

第29回 7月11日 エネルギー基本計画の見直しについて(スマートコミュニティー熱国際エネルギー協力について 等)

①熱の有効利用及びスマートコミュニティについて議論②エネルギー基本計画』の見直しに関する主要な論点について議論③国際エネルギー環境協力について議論④天然ガスシフトに向けた基盤整備について議論

第30回 7月30日 エネルギー基本計画の見直しについて(電力システム改革コジェネ普及策「エネルギー基本計画」の骨子について 等)

①電力システム改革専門委員会の検討結果について報告②コジェネの導入促進のための取組について議論③エネルギーに関する今後の重点施策について議論

60

参考資料

東京電力福島原子力発電所における事故調査検証委員会 最終報告(概要)

はじめに【ⅠⅥはじめに】 平成 23 年 3 月 11 日東京電力株式会社(以下「東京電力」という)福島第一原子力発電所(以下「福島第一原発」という)及び福島第二原子力発電所(以下「福島第二原発」という)は東北地方太平洋沖地震とこれに伴う津波によって損傷し特に福島第一原発では国際原子力放射線事象評価尺度(INES)レベル 7の極めて深刻なシビアアクシデントが発生した 同年 5月 24 日この事故の原因及びこの事故による被害の原因を調査検証し事故による被害の拡大防止及び同種事故の再発防止等に関する政策提言を行うことを目的に閣議決定に基づき当委員会が設置された当委員会はその後福島第一原発及び福島第二原発を始めとする現地の視察関係地方自治体の首長や住民からの意見聴取関係者のヒアリング(対象者数 772 名)等の調査検証活動を行い同年 12 月 26 日に中間報告を取りまとめさらに平成 24 年 7 月 23日に最終報告を取りまとめた 最終報告は中間報告と一体となるものであり主として中間報告後の調査検証の結果を記述したものである この概要は最終報告のうち問題点の考察と提言に当たるⅥ章の記述を中心に簡略化したものである見出しの後の【 】内は「最終報告(本文編)」の主な該当箇所を示す提言は太字で表記している

1 主要な問題点の分析(1)事故発生後の東京電力等の対処及び損傷状況に関する分析a 福島第二原発における現場対処と比較した福島第一原発の問題点【Ⅱ 5(8)Ⅵ 1(1)a】 福島第一原発における事故対処に関する問題点については中間報告に記述したとおりであるがその後の調査で判明した福島第二原発における現場対処の実際と比較して以下のような問題点が改めて明らかとなった

(a)3号機代替注水 福島第一原発 3号機においては高圧注水系手動停止の際に代替手段をあらかじめ準備しなかったことにより6時間以上にわたって原子炉注水が中断した福島第二原発では手順の細目について相違があるものの基本的には次なる代替手段が実際に機能するか否かを確認の上で注水手段の切替えを行うという対応がとられていた 福島第二原発では外部電源が使用可能であったことから作業環境も福島第一原発と比較すると良好であり事態の対応に当たったスタッフは心理的にもより余裕があったと思われるしかしこれらの点を考慮したとしても福島第一原発における対応は適切さを欠いたものであった

(b)2号機 SC 圧力温度の監視 福島第一原発 2号機では平成 23 年 3 月 11 日の全電源喪失以降原子炉隔離時冷却系(RCIC)が作動していたものの電源喪失により制御不能でありいつ停止するかも分からない状況にあった中で同月 12 日 4 時頃以降RCIC の水源を復水貯蔵タンクから圧力抑制室(SC)に切り替えたしかし電源喪失によって残留熱除去系による冷却が期待できない場合にこのような運転方法を長時間継続するとSC の圧力及び温度が上昇しRCIC の冷却機能及び注水機能が低下するほかRCIC が機能しなくなった場合の次なる代替注水手段である消防車を用いた消火系注水に必要な主蒸気逃し安全弁(SR 弁)による減圧操作が困難になるなどのおそれがあったしたがってSC の圧力及び温度を継続して監視するとともにあらかじめ消防車注水ラインを準備しRCIC 停止を待たずに原子炉減圧操作を行う必要があったと考えられるしかし実際には同月 14 日 4 時 30 分頃まで前記のような計測が行われず速やかな代替注水が実施されることもなかった 他方福島第二原発ではRCIC 作動中から間断なく注水を実施することを視野に入れSC の圧力及び水温を監視しながら段階的に SR 弁を開操作して復水補給水系による注水を実施するなどの対応がとられた 前記(a)で述べように福島第一原発と福島第二原発では状況の違いはあるにせよ福島第一原発における対処は福島第

61

参考資料

二原発におけるそれと比べて適切さが欠けていたと指摘せざるを得ない

b 損傷状況の継続した徹底的な解明の必要性【Ⅵ 1(1)b】 当委員会は可能な限りの事実の調査検証を行ってきたが現地調査における困難性や時間的制約等のため福島第一原発の主要施設の損傷が生じた箇所その程度時間的経緯を始めとする全体的な損傷状況の詳細放射性物質の漏出経緯原子炉建屋爆発の原因等についていまだに解明できていない点も存在する国電力事業者原子力発電プラントメーカー研究機関関連学会といったおよそ原子力発電に関わる関係者(関係組織)は今回の事故の事実解明と検証を最後まで担うべき立場にありこうした未解明の諸事項についてそれぞれの立場で包括的かつ徹底した調査検証を継続する組織的態勢を組むべきである

(2)事故発生後の政府等の事故対処に関する分析a 原子力災害現地対策本部【Ⅲ 5(4)Ⅵ 1(2)a】 政府の原子力災害対策マニュアル(以下「原災マニュアル」という)は原子力災害現地対策本部(以下「現地対策本部」という)の設置される緊急事態応急対策拠点施設(以下「オフサイトセンター」という)が機能するということを前提に作成されているが今回の事故の際はその前提が崩れ原災マニュアルが予定していたような対応ができなくなるという問題が生じた そもそもシビアアクシデントにおいてもオフサイトセンターが機能するような方策をあらかじめ講じておくべきであったし仮にオフサイトセンターが機能しなくなるような事態になったとしても事故に対処できるような方策を併せて講じておく必要があった また原子力災害対策本部(以下「原災本部」という)長から現地対策本部長への権限の委任については原子力安全保安院(以下「保安院」という)職員が原災本部長である菅直人内閣総理大臣(以下「菅総理」という)の了承を求めるタイミングを失した上現地対策本部から再三にわたって委任手続の進捗状況の確認を求められても主体的に動かずまた内閣官房及び内閣府の職員も保安院に対して委任手続を進めるよう注意喚起せず委任手続が行われないという問題が発生した そのような状況において現地対策本部は経済産業省緊急時対応センター(ERC)に置かれた原災本部事務局とも協議の上必要な措置を漏れなく迅速に行うため権限の委任手続が終了しているものとして避難措置の実施等について種々の決定を行いかつ実施した

b 原子力災害対策本部【Ⅲ 2(1)4(2)Ⅵ 1(2)b】(a)官邸内の対応 原災マニュアルによれば原子力災害が発生した際政府における緊急事態応急対策の中心となる原災本部は官邸に設置しまた情報の集約内閣総理大臣への報告政府としての総合調整を集中的に行うため官邸地下にある官邸危機管理センターに官邸対策室を置くこととされているまた各省庁の局長級幹部職員は同センターに参集することとされておりそのメンバーを「緊急参集チーム」と呼んでいる同チームには緊急時において迅速的確な意思決定がなされるよう各省庁が持つ情報を迅速に集約しそれに基づいて機動的に意見調整を行うことが期待されている しかし今回の事故においては避難措置等の事故対応についての重要な意思決定の多くはこの官邸危機管理センター(緊急参集チーム)から離れて官邸地下の中 2階の一室又は官邸 5階において関係閣僚原子力安全委員会(以下「安全委員会」という)委員長保安院幹部東京電力幹部らにより行われた一般に原子力災害が発生した場合できる限り情報入手が容易で現場の動きを把握しやすい現場に近い場所に対策の拠点が設置される必要がある政府における福島第一原発の情報収集拠点であったERC から離れた官邸内において意思決定が行われていたことまた官邸内においてもその情報集約拠点である官邸危機管理センターとは離れた別の場所(官邸 5階等)において意思決定が行われていたことなどから情報の不足と偏在が生じ十分な情報がないままに意思決定せざるを得ない場合も生じたという点は今回の一つの大きな教訓とすべきである なお平成 23 年 3 月 15 日に東京電力本店に福島原子力発電所事故対策統合本部が設置されたことは福島第一原発についての情報アクセスの改善という面では積極的に評価をすることも可能であるが政府の対応に必要な情報は必ずしも東京電力に係る情報のみではない上東京に本社本店のない他の電力会社の原子力発電所において同様の事故が発生する場合もあり得ることから今回の事例を普遍的な先例とするべきではない正確な情報を迅速に入手することはいうまでもなく原子力災害対策の基本である電力事業者の本社本店に移動することなく官邸等政府施設内にいながらよ

62

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

り情報に近接することのできる仕組みの構築が検討されるべきである

(b)情報収集の問題点 中間報告で詳述したようにERCの中に東京電力本店やオフサイトセンターが東京電力のテレビ会議システムを通じて現場の情報を得ていることを把握している者はほとんどおらず東京電力のテレビ会議システムをERCにも設置するということに思いが至らなかったまた情報収集のために保安院職員を東京電力本店へ派遣するといった積極的な行動も起こさなかった

c 福島県災害対策本部【Ⅳ 3(2)bⅥ 1(2)c】 福島県は平成 23 年 3 月 11 日知事を本部長とする福島県災害対策本部(以下「県災対本部」という)を設置し事故対応に当たったが県災対本部内外の連携等が十分ではなかったために避難区域内に取り残された双葉病院の入院患者等の避難救出が大きく遅れるなどの問題が発生した 被災地からの避難救出における今回のような事態の再発を防ぐためには県が設置する災害対策本部の班編成を平時の組織を単に縦割り的に寄せ集めたものでなく対応すべき措置に応じた横断的機能的なものにするとともに全体を統括調整できる仕組みを設けかつ各班相互の意思疎通の強化を図ること防災計画においても県の災害対策本部に詰める職員のみならず必要に応じいつでも他の職員も災害対応に当たる全庁態勢をとること等が必要である また原子力災害においてはその規模の大きさから県が前面に出て対応に当たらなければならずこの点を踏まえた防災計画を策定する必要がある

d その他の具体的な対応に関する分析【Ⅲ 2(1)Ⅵ 1(2)d】(a)原子力緊急事態宣言の発出 平成 23 年 3 月 11 日 17 時 42 分頃海江田万里経済産業大臣(以下「海江田経産大臣」という)は寺坂信昭原子力安全保安院長(以下「寺坂保安院長」という)らと共に菅総理に対し原子力災害対策特別措置法第 15 条第 1項に定める原子力緊急事態の発生を報告するとともに原子力緊急事態宣言の発出について了承を求めたしかし寺坂保安院長らは菅総理から福島第一原発の原子炉の状況や関連法令等について問われこれに対して十分な説明をすることができないまま時間が経過し菅総理は同日 18 時 12 分頃から約 5分間予定されていた与野党党首会談に出席したため上申手続は一時中断した同会談から戻った菅総理は間もなく原子力緊急事態宣言の発出を了承し同宣言は同日 19 時 3 分に発出された一般的に原子力災害においては事態が急速に進展することがあり得るところであり進行している事態や関連法令の詳細についての把握よりまず緊急事態宣言の発出を優先すべきであったと思われる

(b)福島第一原発視察 菅総理は平成 23 年 3 月 12 日福島第一原発事故に関する情報が十分に入っていなかったことなどから福島第一原発の視察を実行したこの視察は事故もなく終了し結果的には福島第一原発におけるベント実施への影響もなかったと認められるしかしながら今回のような大規模災害事故が発生した場合において最高指揮官の立場にある内閣総理大臣が長時間にわたって官邸を離れ危険が伴う現地視察を行い緊急対応に追われていた現地を訪れたことについては他の代わりとなる人物を派遣して状況を確認させるなどの方法によるべきではなかったのかという点でなお疑問が残る

(c)具体的事故対処についての官邸の関与 菅総理は平成 23 年 3 月 12 日 18 時過ぎ頃海江田経産大臣からその直前に同大臣が発した福島第一原発 1号機原子炉への海水注入命令について報告を受けた際炉内に海水を注入すると再臨界の可能性があるのではないかとの疑問を発しその場に同席した班目春樹原子力安全委員会委員長(以下「班目委員長」という)がその可能性を否定しなかったことから更に海水注入の是非を検討させることとしたその場に同席していた東京電力の武黒一郎フェロー(以下「武黒フェロー」という)は同日 19 時過ぎ頃福島第一原発の吉田昌郎所長に電話し「今官邸で検討中だから海水注入を待ってほしい」と強く要請した菅総理が再臨界の可能性についての質問を発した際その場には班目委員長のほか平岡英治原子力安全保安院次長武黒フェロー等の原子炉に関する専門的知見を有する関係者が複数いたが的確な応答をした者はおらず誰一人として専門家としての役割を果たしていなかったまた安易に海水注入を中止させようとした東京電力幹部の姿勢にも問題があったこのようなすぐれて現場対処に関わる事柄はまず現場の状況を最も把握し専

63

参考資料

門的技術的知識も持ち合わせている事業者がその責任で判断すべきものであり政府官邸はその対応を把握し適否についても吟味しつつも事業者として適切な対応をとっているのであれば事業者に任せ対応が不適切不十分と認められる場合に限って必要な措置を講じることを命ずるべきである当初から政府や官邸が陣頭指揮をとるような形で現場の対応に介入することは適切ではないと言えよう

(3)被害の拡大防止策に関する分析a 原発事故の特異性【Ⅵ 1(3)a】 原子力発電所の大規模な事故は施設設備の壊滅的破壊という事故そのものが重大であるだけでなく放出された放射性物質の拡散によって広範な地域の住民等の健康生命に影響を与え市街地農地山林海水を汚染し経済的活動を停滞させひいては地域社会を崩壊させるなど他の分野の事故には見られない深刻な影響をもたらすという点で極めて特異であるこのような原発事故の調査検証に当たっては事故原因とその背景について明らかにするだけでなく被害の発生拡大を防止する取組が適切であったのか否かそれが十分なものでなかったとするならそれはなぜなのかといった問題についても多角的に調査分析しあるべき被害防止への方策を見いださなければならない

b モニタリングの在り方【Ⅳ 1(2)aⅥ 1(3)b】 モニタリングに関する問題点等については既に中間報告で述べたとおりであるがさらにオフサイトセンターが機能しない場合のモニタリングの役割分担について指摘しておきたい 今回の事故においてはオフサイトセンターにある現地対策本部を拠点としたモニタリング活動が十分でなかったことから平成 23 年 3 月 16 日関係機関の役割分担が整理され各機関が実施しているモニタリングのデータの取りまとめ及び公表は文部科学省がデータの評価は安全委員会が安全委員会が行った評価に基づく対応は原災本部がそれぞれ行うことが取り決められたしかし急を要する状況の中でデータ評価の範囲等について関係機関の間で事前に十分な調整が行われた上で取決めがなされたとは言い難い状況にあった このような応急の状況で役割分担の取決めが必要となったのはモニタリングデータの集約評価公表評価に基づく対応という一連の作業を担うこととされていた現地対策本部(オフサイトセンター)が機能しない事態が生ずることを想定していなかったためと考えられる今回の事態を教訓にモニタリング態勢整備の見直しが必要である

c SPEEDI の活用の在り方【Ⅳ 2(1)(3)(4)Ⅵ 1(3)c】(a)システム及びその活用主体の問題点 緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)は原子力事故発生時緊急時対策支援システム(ERSS)から伝送される放出源情報を前提に周辺環境における放射線量率等を予測することができる装置であるがERSS は事故発生時には機能しなくなるおそれがありその場合の SPEEDI の活用方法についてあらかじめ検討しその検討結果を事故対応に当たるべき関係者間で共有しておくべきであった しかしながら事故対応に当たっていた多くの者はERSS が機能しなくなるや SPEEDI を避難に活用する余地はないものと考えていた環境放射線モニタリング指針には放出源情報が得られない場合の SPEEDI の活用方法も記載されていたがこれを避難に活用できるとのコンセンサスもなかったまたオフサイトセンターが機能しなくなった場合における SPEEDI の活用主体(運用及び公表の責任を負う機関)についても明確になっていなかった

(b)SPEEDI と避難指示 SPEEDI が有効に活用されなかった大きな原因は前記(a)のとおりいずれの関係機関もERSS から放出源情報が得られない場合には SPEEDI を避難に活用することはできないという認識の下これを避難の実施に役立てるという発想を持ち合わせていなかった点にあったと考えられるしかしSPEEDI により単位量放出を仮定した予測結果は得られており仮にその情報が提供されていれば各地方自治体及び住民はより適切に避難のタイミングや避難の方向を選択できた可能性があったと言えようERSS から放出源情報を得られない場合でもSPEEDI を活用する余地はあったと考えられる

d 住民に対する避難指示【Ⅳ 3(1)b(2)Ⅵ 1(3)d】 住民に対する避難指示に関する問題点等については中間報告で述べたとおりであるが中間報告後の調査検証を踏まえ更に以下の点を指摘しておく

64

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

(a)福島第二原発から 10km圏外への避難指示 平成 23 年 3 月 12 日 17 時 39 分福島第二原発から半径 10km圏外への避難指示が発出されたこの避難指示は同日15 時 36 分の福島第一原発 1号機における爆発を受け官邸 5階において福島第二原発についても同様の事象が発生する可能性があるので万一の事態に備える必要があるとの判断に基づいて発出されたものであり原子炉への注水状況原子炉の水位や圧力等の福島第二原発の各号機の具体的状況を踏まえて検討されたものではなかった この避難措置の約 1時間後の同日 18 時 25 分福島第一原発から 20km圏外への避難指示が発出されたが広野町北端のごく一部の地域のみは福島第一原発から 20kmの範囲に含まれないので福島第二原発から 10km圏外への避難指示が発出されなければ避難指示区域に含まれることはなかった福島第二原発から 10km 圏外への避難指示については情報不足で混乱する中福島第一原発 1号機の原子炉建屋爆発という事態を受けて判断されたが当時の福島第二原発の状況は実際には比較的安定しておりその決定過程には問題が残った

(b)病院患者等の避難 寝たきりの患者が多く入院していた双葉病院については入院患者の救出が大きく遅れかつ搬送先が遠方の高等学校の体育館とされるなど不適切と言わざるを得ない事態が生じたこうした事態の再発を防ぐためには前記(2)cで指摘したもののほか避難を担当する自衛隊が警察無線を有する県警に協力を求めるなどして外部との連絡体制の確保に留意する必要があるまた言うまでもなく人命救助に当たる者は改めてその責任の重さを自覚し強い責任感を持って任務に当たるべきである

e 被ばくへの対応【Ⅳ 4(3)b(c)(5)ab(6)5(2)aⅥ 1(3)e】(a)APD の未装着問題 事故発生後の福島第一原発の作業員(放射線業務従事者)にとって各自が警報付きポケット線量計(APD)を装着しその受けた放射線量を測定することは線量限度を超える被ばくを避けるため不可欠であったしかし福島第一原発においてはもともと配備されていたAPD が被水するなどしたため平成 23年 3月 15日以降の作業において代表者のみがAPD を装着する例外的な運用を始めこれが同月 31 日まで続いた この問題について調査したところ実際には事故発生直後に他の発電所等から合計 950 個のAPD が届けられていたが適合する充電器や警報設定器がないなどとして使用されないまま放置されたこと等が明らかとなった その経緯等を見ると現場作業員の被ばく防止に関する東京電力社員の意識は低かったと言わざるを得ないこれは「被ばく線量はできる限り小さくすべきである」という広く受け入れられている国際放射線防護委員会(ICRP)の考え方が十分に理解されていないことをうかがわせるものであり東京電力における被ばく回避の放射線教育の在り方に問題があったと言わざるを得ない

(b)国のヨウ素剤服用指示 現地対策本部医療班は平成 23 年 3 月 13 日スクリーニングレベルに関する現地対策本部長指示を発出するための準備を始めたその過程において安全委員会はERCに対しスクリーニングレベルを超えた者に対しては安定ヨウ素剤を投与すべきとのコメントをFAX 送信し安全委員会からERCに派遣されていたリエゾンがこれを受け取ったしかしこのコメントはERC 医療班内で共有検討が行われず現地対策本部にも伝えられなかったこれは同リエゾンが安全委員会のコメントを本部長指示に盛り込むことの重要性必要性を認識していなかったことによるものと考えられる 他方安全委員会も前記コメントが前記指示に盛り込まれないであろうことを知りながら「委員会はあくまでも助言機関である助言すべき事項は既に助言した」との理由から何らそれ以上のアクションを起こさなかった点で国民の安全を所管する行政機関としての責任感に欠けていたと言わざるを得ない

(c)県のヨウ素剤服用指示 三春町は平成 23 年 3 月 14 日深夜住民の被ばくが予想されたことから安定ヨウ素剤の配布服用指示を決定し同月 15 日町民に周知を行い薬剤師の立会いの下安定ヨウ素剤の配布を行ったこれを知った福島県の職員は三春町に対し国からの指示がないことを理由に配布中止と回収の指示を出したが三春町はこれに従わなかった安定ヨウ素剤の服用についての安全委員会の意見が前記(b)のような経緯で葬られている点を考慮すると国からの指示がなかったからという理由で三春町の判断を不適切であったと言うことはできない現在安定ヨウ素剤の服用については基

65

参考資料

本的に国の災害対策本部の判断に委ねる運用となっているが前記経験を踏まえ各自治体等が独自の判断で住民に服用させることができる仕組み事前に住民に安定ヨウ素剤を配布することの是非等について見直すことがむしろ必要であろう

(d)スクリーニングレベルの引上げ 福島県は当初スクリーニングレベルを 40Bqcm2(1 万 3000cpm相当)と設定していたが平成 23 年 3 月 13 日同月 14 日以降の全身除染のスクリーニングレベルを 10 万 cpmに引き上げた安全委員会は福島県のスクリーニングレベル引上げの意向を知りERCに対し一旦はスクリーニングレベルを 1万 3000cpmに据え置くべきであるとの助言を行ったが同月 19 日には 10 万 cpmへの引上げを是認する助言を行い現地対策本部長は同月 20 日スクリーニングレベルを 10 万 cpmとする指示を発出した しかし当時は全身除染(シャワー)のスクリーニングレベルの引上げではなく線量等に応じたきめ細かな除染方法(脱衣拭き取り等)の策定こそが必要であったまた安全委員会が発出した 10 万 cpmというスクリーニングレベルを許容する助言及びこれに基づいて現地対策本部長が発出した指示はスクリーニングレベルを単純に 10 万 cpm に引き上げるのみで検出レベルが 1万 3000cpm 以上 10 万 cpm 未満であった者に対しては何らの除染も要求しておらずその者に対する除染は不要であるかのように解釈する余地があるものとなっておりかえって問題であったまたスクリーニングレベルについては同月 13 日に発せられた現地対策本部長指示が県災対本部の担当班に伝わっていないなど国と県のコミュニケーションに関する問題も発生した今回のような緊急事態にあっては重要情報を関係者がしっかりと共有することの重要性を認識し関係行政組織間の調整能力に長けた者が緊急事態対応部署(班)のトップを構成し国や地方自治体の関係行政機関が一体となって事故対処に当たることが不可欠である

(e)校舎校庭等の利用基準 文部科学省は平成 23 年 4 月 19 日学校等の校舎校庭等の利用判断基準について38μSvh(年間にすると ICRP が定める「現存被ばく状況」における参考レベルの上限値である 20mSv に相当)以上の空間線量率が測定された学校等については校庭での活動を 1日 1時間程度に制限し38μSvh 未満の空間線量率が測定された学校については平常どおり利用して差し支えないとする考え方を公表したこれに対してはあたかも 20mSv年までの被ばくを許容するもので子どもへの配慮に欠ける事前に十分な説明や広報がなされなかったといった批判や懸念が寄せられた 確かに文部科学省の当時の説明は20mSv年を利用の基準値にしたと理解されてもやむを得ない面があり放射線に対する強い不安を解消するものとは言い難くリスクコミュニケーションの観点から見ても適切ではなかったまた一般に大人よりも放射線の影響が大きいと言われる子どもが利用する校舎校庭等について「現存被ばく状況」の上限値を用いたことが適当であったかどうかについてもなお議論の余地があろう その後文部科学省はより生活実態に合わせた被ばく線量の再試算を行い1年間で 10mSv 以下という数値を示したしかし放射線が子どもに対して与える影響は大人に対するそれよりも大きいとされていることICRP 勧告が「現存被ばく状況」においても参考レベル 1~20mSv年の中でできる限り被ばく線量を低減するよう求めていること(防護の最適化)などを考慮すると国としては10mSv年という数値に安心することなく被ばく線量をできる限り低くするような方策をとるべきであり38μSvh 未満の学校等についても校庭等での活動に基準を設けるなどして被ばく線量をより低く抑えるよう配慮するのが適当であったと思われる

(f)緊急被ばく医療機関 福島第一原発において事故が発生した場合の初期被ばく医療機関として 6病院が指定されていたがそのうち 4病院は避難区域内に立地していたことから被ばく医療機関としての機能を果たすことができなかったしたがって今回のようなシビアアクシデントが発生した場合においても緊急被ばく医療が提供できるよう緊急被ばく医療機関を原子力発電所周辺に集中させず避難区域に含まれる可能性の低い地域を選定しそこに相当数の初期被ばく医療機関を指定しておくとともに緊急被ばく医療機関が都道府県を超えて広域的に連携する態勢を整える必要があると考えられる

(g)放射線に関する国民の理解 今回の事故を契機として改めて放射線防護に万全を期する必要があることが再確認されたが他方で放射線を「正しく恐れる」必要性についても認識させられた今後も不必要な被ばくをできる限り避けるため最大限の努力が払われるべきことは当然であるがそれと同時に個々の国民が放射線のリスクについて正確な情報に基づいて判断できるようすな

66

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

わち情報がないためにいたずらに不安を感じたり逆にリスクを軽視したりすることがないようできる限り国民が放射線に関する知識や理解を深める機会が多く設けられる必要がある

f 国民への情報提供に関する分析【Ⅳ 8(2)(4)(5)(8)(9)Ⅵ 1(3)f】(a)官邸の事前了解 平成 23 年 3 月 12 日福島第一原発 1号機の「炉心溶融」の可能性が保安院の中村幸一郎審議官によって広報された官邸に詰めていた関係者はそれまで「炉心溶融」の可能性について報告を受けていなかったため保安院が官邸の把握していない事実を事前告知することなく広報したとして問題視し広報内容について官邸への事前連絡を求めたこのことが契機となって寺坂保安院長の判断で保安院においてはプレス発表に先立って内容について官邸の事前了解を得ることとしたまた東京電力も同月 13 日以降プレス発表に先立って官邸の了解を得た上で広報することとしこれらが原因でプレス発表が遅れることがあった 政府の意思決定及び広報の中心となるべき官邸としては迅速な情報提供を求めるのは当然のことであるがプレス発表の際に事前了解を得た上で行うこととすると緊急性を有する情報が直ちに広報できない状況が生ずるおそれがある緊急性の高い情報については各広報機関が独自の判断で広報することが必要となる場面もあり情報の全てについて官邸の事前了解を求めることは必ずしも適切ではない

(b)炉心溶融を積極的に否定した保安院の広報 前記(a)のとおり保安院はプレス発表前に官邸の了解を得ることとしたがその後保安院広報官の一部には「炉心溶融」に言及するのを避けるためかなり無理のある広報をした形跡が認められるすなわち平成 23 年 3 月 14 日の保安院のプレス発表において西山英彦保安院付が炉心溶融の可能性を肯定し又は炉心溶融の可能性を否定しない発言を行った際同席した保安院職員が同発言を取り消すかのように「まだ溶融とかそういう段階ではないと思っております」などと炉心溶融の可能性を積極的に否定する趣旨の発言を行った 前記の保安院職員の発言はその主観的認識がどうであったかはともかく炉心溶融の可能性という否定し難い事実を積極的に否定する内容となっており中央及び現地の災害対策関係者や地域住民の切羽詰まった情報ニーズを誤った方向へ導く極めて不適切なものであった

(c)放射線の影響に関する広報 福島第一原発事故による一般住民等の被ばく又は被ばくのおそれについての広報の際政府はしばしば「直ちに(人体に影響を及ぼすものでない)」との表現を用いたしかしながら「直ちに人体に影響を及ぼすものではない」との表現については「人体への影響を心配する必要はない」という意味と反対に「直ちに人体に影響を及ぼすことはないが長期的には人体への影響がある」という意味がありいずれの意味で用いているのか必ずしも明らかではなかったこのようなどちらの意味にも受け取れる表現は緊急時における広報の在り方として避けるべきでありリスクコミュニケーションの観点からも今後の重要な検討課題である

(d)「不測事態シナリオの素描」の不公表問題 平成 23 年 3 月 22 日菅総理は原子力委員会委員長である近藤駿介氏に対し福島第一原発事故の最悪事態の想定とその場合の対策を検討するよう依頼したこの依頼を受けて同氏は「福島第一原子力発電所の不測事態シナリオの素描」(以下「素描」という)を作成し同月 25 日細野豪志内閣総理大臣補佐官(以下「細野補佐官」という)へ提出した細野補佐官は素描が示す対策についての検討を進めたが素描を公表することはしなかった素描はその内容が現実に発生する可能性の低い仮定的事実に基づいたシミュレーションであったことから素描を公表しなかったことが不適切であったとまでは言えないただし一般論として言えば仮定の事実に基づくシミュレーション結果であっても公表の必要性シミュレーション結果に対する対策の有無公表のタイミングを考慮し前提条件を丁寧に説明した上で公表するという選択肢もあり得ると考えられる

g 国外への情報提供や諸外国等との連携の在り方【Ⅳ 910(2)Ⅵ 1(3)g】(a)諸外国との情報共有 事故発生後我が国は必ずしも諸外国が満足するような事故関連情報の提供を行っていなかった諸外国とりわけ日本国内に多数の市民が在住する国や近隣国に対する情報提供は我が国の国民に対するそれと同様に極めて重要であ

67

参考資料

り迅速かつ正確な情報提供ができるよう言語の違いにも配慮した上積極的かつ丁寧な対応が求められる

(b)諸外国からの支援の受入れ 我が国は諸外国からの支援物資を受け入れる態勢に不備があったほか受入物資を保管する場所がなかったことから当初支援物資の提供を直ちに受け入れることができなかった原子力災害発生時に諸外国から支援物資の提供があった場合はできる限り早くこれを受け入れることが国際礼譲の点からも国内における支援物資の必要性を迅速に満たすという点からも必要である今後は今回のような初期段階での混乱と不適切な対応が生じないよう支援物資の受入態勢について担当官庁のマニュアルや原子力事業者防災業務計画等において対応方法を定めておく必要がある

(4)事故の未然防止策や事前の防災対策に関する分析a 総合的リスク評価とシビアアクシデント対策の必要性【Ⅴ 3(1)(2)Ⅵ 1(4)a】(a)外的事象を対象としたアクシデントマネジメント導入に至らなかった経緯 我が国においてはアクシデントマネジメントとして整備されたのは内的事象に起因する対策のみで地震津波等の外的事象は具体的な検討対象とはならなかった このような事情の背景としてはシビアアクシデント対策を検討するのに有用な手法とされる確率論的安全評価(PSA)については福島原発事故発生以前に確立されていた外的事象 PSAは地震 PSAのみで手法として限定的であったこと定期安全レビューが外的事象 PSA についての技術的水準の進歩を勘案してシビアアクシデント対策の改善を促す機会とはならなかったこと外的事象 PSA を実施して合理的追加対策があれば行うことを奨励すべきとの指摘があったものの耐震バックチェックの作業等の事情から早急に導入を検討するには至らなかったことなどが挙げられる その結果として地震 PSAによる評価や津波に対する安全評価を始めとして事故の起因となる可能性がある火災火山斜面崩落等の外部事象を含めた総合的なリスク評価は行われていなかった

(b)総合的リスク評価の必要性 施設の置かれた自然環境は様々であり発生頻度は高くない場合ではあっても地震地震随伴事象以外の溢水火山火災等の外的事象及び従前から評価の対象としてきた内的事象をも考慮に入れて施設の置かれた自然環境特性に応じて総合的なリスク評価を事業者が行い規制当局等が確認を行うことが必要であるその際には必ずしも PSA の標準化が完了していない外的事象についても事業者は現段階で可能な手法を積極的に用いるとともに国においてもその研究が促進されるよう支援することが必要である

(c)総合的リスク評価を踏まえたシビアアクシデント対策の策定 原子力発電施設の安全を今後とも確保していくためには外的事象をも考慮に入れた総合的安全評価を実施し様々な種類の内的事象や外的事象の各特性に対する施設の脆弱性を見いだしそれらの脆弱性に対し設計基準事象を大幅に超え炉心が重大な損傷を受けるような場合を想定して有効なシビアアクシデント対策を検討し準備しておく必要があるまたそれらの対策の有効性についてPSA 等の手法により評価する必要がある その場合PSA 手法の未成熟等によりリスク評価方法に制約があるとしてもその特徴と限界を理解の上事業者は自らの施設の安全性確保のためのシビアアクシデント対策の検討評価を行うべきでありその検討に当たっては諸外国の状況等についても十分参照する必要がある規制当局等も緊急性のあるシビアアクシデント対策の実施については自然災害等の際に果たして有効かどうかリスク評価手法等を用いて確認検討すべきである

b 原子力防災対策の見直し【Ⅴ 4(2)(3)Ⅵ 1(4)b】 原子力防災体制の整備については国際原子力機関(IAEA)における原子力又は放射線緊急事態に関する安全基準の策定に伴い平成 18 年に安全委員会において「原子力施設等の防災対策について」(以下「防災指針」という)の見直し作業が行われ我が国における予防的措置範囲(PAZ)の導入等が検討されたが安全委員会と保安院との調整の結果防災指針に PAZ の概念や範囲は直接には書き込まないこととなった 原子力災害と大規模自然災害とが同時期に発生する複合災害については保安院において検討が開始されたが自然災害原子力災害を所掌する中央防災会議での検討の申入れが行われたのは東日本大震災のわずか三日前であった 今回の事故以前の原子力防災対策を重点的に充実すべき地域の範囲は原子力発電所から8~10km 圏内とすることを大前提に仮想事故を相当に上回る事故の発生時でも十分対応可能であるとみなして設定されていたが今回の事故に鑑み

68

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

どのような事故を想定して避難区域等を設定するのか再検討することが必要である また原子力災害の際の国の責任の重要性に鑑み単に住民避難等の原子力施設敷地外の対応にとどまらず事業者と協議しつつ原子力災害の際に事業者への支援や協力として国が行うべきことの内容を検討すべきである

(5)原子力安全規制機関等に関する分析【Ⅴ6Ⅵ 1(5)】 保安院は事故の未然防止のための取組や事故後の対応においてその所掌にふさわしい役割を十分に果たしてきたとは言い難い保安院のこのような問題点を踏まえ当委員会は中間報告において原子力安全規制機関の在り方として5点の指摘を行った最終報告においてはその後の調査検証の結果を踏まえ以下の 2点の指摘を加えることとするなお今回追加する 2点は安全委員会についても共通する事柄である① 国際機関外国規制当局との積極的交流 現在の保安院等の定員状況ではIAEA やアメリカ合衆国原子力規制委員会への少数の人事交流にとどまりまた国内事務処理に優先的に当たらざるを得ないために国際会議等での十分なプレゼンスの発揮には限界があり規制当局等の組織の実力の向上や原子力安全に関する国際社会との協調に十分に資するには至っていない 国の行政機関の定員措置については行政機関全体の問題であることから保安院等のみに関する検討で済むものではないが原子力安全の重要性に鑑み新たに設置される原子力安全規制機関の定員措置については十分に考慮する必要があるまた新設の規制機関においては前記定員措置のほか国際貢献を果たすにふさわしい態勢整備に努めるとともに国際機関外国規制当局との人的交流を担える人材の育成に努めるべきである② 規制当局の態勢の強化 原子力発電の安全を確保するためには単に発生した個別問題への対応にとどまらず国内外の最新の知見はもとより国際的な安全規制や核セキュリティ等の動向にも留意しつつ国内規制を最新最善のものに改訂する努力を不断に継続する必要があるまた今回のような事故の未然防止が重要なことはいうまでもないが原子力災害の社会への影響の大きさに鑑みれば災害発生時に迅速かつ有効な活動が展開できるよう平常時から防災計画の策定や防災訓練等を実施し緊急時の対応に万全を期すべきであるさらに緊急事態において専門知識に基づく的確な助言指導ができる専門的技術能力や組織が有するリソースを有効かつ効率的に機能させるマネジメント能力の涵養に努めなければならないそのためにはそれにふさわしい予算人的スタッフの在り方の検討が必要である

(6)東京電力に関する分析【Ⅵ1(6)】a 危機対応能力の脆弱性 今回のシビアアクシデントに対する東京電力社員の対処対応を検証していくと自ら考えて事態に臨むという姿勢が十分ではなく危機対処に必要な柔軟かつ積極的な思考に欠ける点があったと言わざるを得ないこのことは個々人の問題というよりは東京電力がそのような資質能力の向上を図ることに主眼を置いた教育訓練を行ってこなかったことに問題があったと言うべきであろう更に問題を遡っていくと東京電力を含む電力事業者も国も我が国の原子力発電所では深刻なシビアアクシデントは起こり得ないという安全神話にとらわれていたがゆえに危機を身近で起こり得る現実のものと捉えられなくなっていたことに根源的な問題があると思われる 東京電力には原子力安全に関し一次的な責任を負う事業者としてこれまでの教育訓練の内容を真摯に見直し原子力に携わる者一人一人に対し事故対処に当たって求められる資質能力の向上を目指した実践的な教育訓練を実施するよう強く期待する

b 専門職掌別の縦割り組織の問題点 東京電力は原子力災害に組織的一体的に対処するため緊急時対策本部等の組織化を図りその中に発電班復旧班技術班等の機能班を設けているしかしこれらの機能班は事態を見渡して総合的に捉えその中に自らの班の役割を位置付け必要な支援業務を行うといった視点が不足していた

c 過酷な事態を想定した教育訓練の欠如 緊急時対策本部内の機能班に所属する一人一人が時宜にかなった判断をなし得ずまた機能班として十分な機能が果たし得なかったことの根底には複数号機において全交流電源が喪失するといった過酷な事態を想定した十分な教育訓練がなされていなかったことがあると考えられる

69

参考資料

d 事故原因究明への熱意の不足 東京電力は事故から 1年以上が経過した現時点においてもなお事故原因について徹底的に解明して再発防止に役立てようとする姿勢が十分とは言えない当委員会としては東京電力が今後も事故原因の解明を積極的に進めることを強く求める

e より高い安全文化の構築が必要 東京電力は原子力発電所の安全性に一義的な責任を負う事業者として国民に対して重大な社会的責任を負っているが津波を始め自然災害によって炉心が重大な損傷を受ける事態に至る事故の対策が不十分であり福島第一原発が設計基準を超える津波に襲われるリスクについても結果として十分な対応を講じていなかった組織的に見ても危機対応能力に脆弱な面があったこと事故対応に当たって縦割り組織の問題が見受けられたこと過酷な事態を想定した教育訓練が不十分であったこと事故原因究明への熱意が十分感じられないことなどの多くの問題が認められた東京電力は当委員会の指摘を真摯に受け止めてこれらの問題点を解消しより高いレベルの安全文化を全社的に構築するよう更に努力すべきである

(7)IAEA 基準などとの国際的調和に関する分析【Ⅴ5Ⅵ 1(7)】 保安院などの規制当局等はIAEA 安全基準を参照して国内基準の見直しや策定を行う必要性は認識していたもののほとんど実施してこなかった原子力発電の安全を確保するためには国内外の原子力に関する知見の蓄積や技術進歩に合わせて国内の規制水準を常に最新のものとしていくことが必要であるそのためにはIAEA等の国際基準の動向も参照して国内基準を最新最善のものとする不断の努力をすべきである またこれまでも地震や津波に関する分野ではIAEA の基準策定活動に我が国も貢献してきたが今回の事故への反省を踏まえて原子力安全に関する教訓を学びそれを我が国のみならず他国での同様の事故の発生防止に資するよう事故から得られた知見と教訓を国際社会に発信していく必要があるまた国内基準の見直しを行う場合それを国際基準として一般化することが有効有益なものについてはIAEA等の基準に反映されるように努めるなどして国際貢献を行うべきである

2 重要な論点の総括(1)抜本的かつ実効性ある事故防止策の構築【Ⅵ2(1)】 当委員会は福島第一原発の損傷状況や事故対処の実態国や東京電力等による原発事故防止に向けた事前の取組状況等について調査検証を行い中間報告及び最終報告においてそれぞれについて多くの問題点があったことを指摘した当委員会としては国電力事業者原子力発電プラントメーカー研究機関原子力学会といったおよそ原子力発電に関わる関係者が指摘を真摯に受け止め問題点を解消改善するための具体的取組を進めることを強く要望する技術的原子力工学的な問題点を解消改善するためにどのような具体的取組が必要かは原子力全般についての高度な専門的知見を踏まえた検討が必要なものも少なくないこれについては原子力発電に関わる関係者においてその専門的知見を活用して具体化すべきでありその検討に当たっては当委員会が指摘した問題点を十分考慮するとともにその検討の経緯及び結果について社会への説明責任を果たす必要があると考える

(2)複合災害という視点の欠如【Ⅵ2(2)】 東日本大震災は地震津波原発事故からなる大規模かつ広域的な複合災害であり国及び地方自治体は地震や停電等により通信手段等が途絶する中オフサイトセンターの機能が十分に発揮できなくなったりモニタリング機器等に損傷が生ずるなど様々な場面で混乱し問題への対応に遅れや不備等が生じた国や大半の地方自治体において原発事故が複合災害という形で発生することを想定していなかったことは原子力発電所それ自体の安全とそれを取り巻く地域社会の安全の両面において我が国の危機管理態勢の不十分さを示したものであった今後原子力発電所の安全対策を見直す際には大規模な複合災害の発生という点を十分に視野に入れた対応策の策定が必要である

(3)求められるリスク認識の転換【Ⅵ2(3)】 近年地震研究においてはプレートテクトニクス論をベースに震源域の地域別特性や大津波を引き起こすいわゆる津波地震の海底断層の特性発生の頻度と発生確率の確率論的な評価などが注目されるようになってきたそういう新たな知見を防災対策の重点地域の特定に利用することはそれなりに合理性があると言える

70

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

 しかし①地震津波の確率論的評価は記録が詳しく残っている限られた事例を根拠にしており古文書等の記録が不十分で地震津波の規模や震源モデルを推定しにくい長い周期で起きているものについてはデータベースから外されていること②研究組織や関係行政機関によって防災対策の根拠を明確にするために地震津波等の自然災害の発生確率計算の精度の向上が図られた反面自然現象には現在の学問の知見を超えるような事象が起こることがありそういう極めてまれな事象への備えも必ず並行して考慮しなくてはならないという伝統的な防災対策の心得が考慮されなくなりがちになっていたこと③地震津波の想定について極めてまれなケースについては「残余のリスク」「残る課題」等の表現で検討課題に挙げられてはきたが実際には継続して深く検討されずに放置されてきたこと等に見られるように学問の進歩の一方でそこから防災対策の隙間が生まれるという問題が生じていたこのような落とし穴から抜け出すには安全対策防災対策の前提となるリスクの捉え方を次のように大きく転換させる必要があろう ① 日本は古来様々な自然災害に襲われてきた「災害大国」であることを肝に命じて自然界の脅威地殻変動の規模と時間スケールの大きさに対し謙虚に向き合うこと ② リスクの捉え方を大きく転換すること 今回のような巨大津波災害や原子力発電所のシビアアクシデントのように広域にわたり甚大な被害をもたらす事故災害の場合には発生確率にかかわらずしかるべき安全対策防災対策を立てておくべきであるという新たな防災思想が行政においても企業においても確立される必要がある ③ 安全対策防災対策の範囲について一定の線引きをした場合「残余のリスク」「残る課題」とされた問題を放置することなく更なる掘り下げた検討を確実に継続させるための制度が必要である

(4)「被害者の視点からの欠陥分析」の重要性【Ⅵ2(4)】 原子力発電に関わる領域を「システム中枢領域」「システム支援領域」「地域安全領域」の三つに分けた上で事業者側の視点からシステムの安全性を見るとまず懸命に取り組むのは「システム中枢領域」の安全確保であるがその安全性の認識が確信にまでなると中枢領域以外の安全性の確保については緩みが生じがちになるまた「システム中枢領域」にせよ「システム支援領域」にせよ安全性を確保してあると言っても設計の前提条件の範囲内でのことであって条件外の事象が起きた場合には安全性は担保されなくなるすなわち ① 事業者や規制機関が「システム中枢領域」の安全性を設計の前提条件の枠の中だけで過信すると安全対策が破綻する ② 「システム支援領域」や「地域安全領域」における安全対策は「システム中枢領域」の安全性のレベルにかかわりなく万一の場合に独立して機能するものでなければならないその原則が忘れられると地域の人々の命に関わる安全防護壁に多くの「穴」(欠陥)ができてしまう危険性が高くなる そのような欠陥を見付け安全への防護壁を確実なものにするための方法として立ち位置を被害を受ける側に置いた「被害者の視点からの欠陥分析」と言うべき方法を提案したいこれは規制関係機関や地方自治体の防災担当者が災害問題の専門家の協力を得て「もしそこに住んでいるのが自分や家族だったら」という思いを込めて最悪の事態が生じた場合自分に何が降りかかってくるかを徹底的に分析するという方法である 行政と事業者がなすべきことは分析によって浮かび上がった対策の不備や欠陥について改善策を講じていくことであるがすぐに全ての欠陥の「穴」を塞ぐのは困難であろうその場合残された対策とその問題点を公表し今後どう対処していくべきかを規制関係機関と関係自治体が地域の住民と議論して共働で次善の策を絞り出すという取組が重要となるだろうそのような地域の住民の視点に立った災害の捉え方と安全への取組が定着して初めてこの国に真の安全で安心できる社会を創造することができると言えよう 事故が起きると広範囲の被害をもたらすおそれのある原子力発電所のようなシステムの設計設置運用に当たっては地域の避難計画を含めて安全性を確実なものにするために事業者や規制関係機関による「被害者の視点」を見据えたリスク要因の点検洗い出しが必要でありそうした取組を定着させるべきである なお住民の避難計画とその訓練については原発事故による放射性物質の飛散範囲が極めて広くなることを考慮して県と関係市町村が連合して混乱を最小限にとどめる実効性のある態勢を構築すべきである

(5)「想定外」問題と行政東京電力の危機感の希薄さ【Ⅵ2(5)】 「想定外」という言葉には大別すると二つの意味がある一つは最先端の学術的な知見をもってしても予測できなかった事象が起きた場合でありもう一つは予想されるあらゆる事態に対応できるようにするには財源等の制約から無理があるため現実的な判断により発生確率の低い事象については除外するという線引きをしていたところ線引きした範

71

参考資料

囲を大きく超える事象が起きたという場合である今回の大津波の発生はこの 10 年余りの地震学の進展と防災行政の経緯を調べてみると後者であったことが分かる福島県沖の津波地震への防災対策に関するこれまでの行政の意思決定過程を行政の論理の枠内で見るとそれなりの合理性があったことは否定できないしかし今回の事故による甚大な被害を前にして行政には何の誤りもなかった「想定外」の大地震大津波だったから仕方がないと言って済ますことはできるだろうかそれでは安全な社会づくりの教訓は何も得られないだろう 行政の論理や責任の有無とは関係なく被害を少しでも小さくする方法あるいは選択肢はなかったのか行政の意思決定の枠組みを変革する道はなかったのかという視点から要因分析を行うと次のような問題点が浮かび上がってくる ① 地震についての科学的知見はいまだ不十分なものであり研究成果を逐次取り入れて防災対策に生かしていかなければならない換言すればある時点までの知見で決められた方針を長期間にわたって引きずり続けることなく地震津波の学問研究の進展に敏感に対応し新しい重要な知見が登場した場合には適時必要な見直しや修正を行うことが必要である ② 発生確率が低いかあるいは不明という理由により財源等の制約からある地域が防災対策の強化対象から外されていた場合万一大地震大津波が発生すると被害は非常に大きくなると考えられる行政は少数であっても地震研究者が危険性を指摘する特定の領域や例えば津波堆積物のような古い時代に大地震大津波が発生した形跡がある領域については地震の実態解明を急ぐための研究プロジェクトを立ち上げるとか関係地域に情報を開示して行政住民専門家が一体となって万一に備える新しい発想の防災計画を策定する等の取組をすべきであろう ③ 中央防災会議が決める防災計画は原発立地を特別視することなく進められてきたが今後は原発立地の領域における災害リスクを注視すべきである原子力発電所の防災対策は保安院の担当とされてきたが中央防災会議の方針は原子力発電所の防災対策にも密接に関連することから中央防災会議においても原子力発電所を念頭に置いた検討を行うべきである一方東京電力の津波対策の経緯等を追ってみると同社には原発プラントに致命的な打撃を与えるおそれのある大津波に対する緊迫感と想像力が欠けていたと言わざるを得ないそしてそのことが深刻な原発事故を生じさせまた被害の拡大を防ぐ対策が不十分であったことの重要な背景要因の一つであったと言えるであろう

(6)政府の危機管理態勢の問題点【Ⅵ2(6)】 今回原災マニュアルに規定のない官邸 5階が一種の司令センターとなりまた菅総理が前面に出た形で事故対応に当たった背景には現地対策本部が本来的な役割を果たせなかったこと官邸による情報集約態勢や安全委員会による助言機能が十分ではなかったことなどの事情があったしかしながら内閣総理大臣は政府の各機関部局に情報収集とその対応策を任せ専門部署から上がる重要事項に関してのみ選択肢を出させた上で適切な最終決断を行うというのがその本来の役割である自らが当事者として現場介入することは現場を混乱させるとともに重要判断の機会を失しあるいは判断を誤る結果を生むことにもつながりかねず弊害の方が大きいと言うべきであろう 今回の事態を教訓に原子力事故と地震津波災害との複合災害の発生を想定した原災マニュアルの見直しを含め原子力災害発生時の危機管理態勢の再構築を早急に図る必要があるその検討に当たってはオフサイトセンターの強化という観点に加えてそもそも現地対策本部に関係機関が参集して事故対処に当たるという枠組みでは対応できない事態が発生した場合にどのような態勢で対応に当たるべきかについても具体的に検討し必要な態勢を構築しておく必要がある

(7)広報の問題点とリスクコミュニケーション【Ⅵ2(7)】 今回の事故において事故発生後の政府の国民に対する情報の提供の仕方には避難を余儀なくされた周辺住民や国民の立場からは真実を迅速正確に伝えていないのではないかとの疑問や疑いを生じさせかねないものが多く見られた周辺住民の避難にとって重要な放射性物質の拡散状況とその予測についての情報提供方法炉心の状態(特に炉心溶融)や福島第一原発 3号機の危機的な状態等に関する情報提供方法また放射線の人体への影響について頻繁に「直ちに人体に影響を及ぼすものではない」といった分かりにくい説明が繰り返されたことなどである 国民と政府機関との信頼関係を構築し社会に混乱や不信を引き起こさない適切な情報発信をしていくためには関係者間でリスクに関する情報や意見を相互に交換して信頼関係を構築しつつ合意形成を図るというリスクコミュニケーションの視点を取り入れる必要がある緊急時における迅速かつ正確でしかも分かりやすく誤解を生まないような国民への情報提供の在り方についてしかるべき組織を設置して政府として検討を行うことが必要である加えて広報の仕方によっては国民にいたずらに不安を与えかねないこともあることから非常時緊急時において広報担当の官房長官に的確な助言をすることのできるクライシスコミニュケーションの専門家を配置するなどの検討が必要である

72

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

(8)国民の命に関わる安全文化の重要性【Ⅵ2(8)】 事業者である東京電力及び規制当局である保安院のいずれについても安全文化が十分に定着しているとは言い難い状況にあった一旦事故が起きると重大な事態が生じる原子力発電事業においては安全文化の確立は国民の命に関わる問題である今回の大災害の発生を踏まえ事業者や規制当局関係団体審議会関係者などおよそあらゆる原発関係者には安全文化の再構築を図ることを強く求めたい

(9)事故原因被害の全容を解明する調査継続の必要性【Ⅵ2(9)】a 引き続き事故原因の解明が必要 当委員会は最終報告の提出をもって任務を終えることとなるが前記 1(1)bのとおり福島第一原発の主要施設の損傷が生じた箇所その程度時間的経緯を始めとする被害状況の詳細放射性物質の漏出経緯原子炉建屋爆発の原因等についていまだに解明できていない点も多々存在する また住民等の健康への影響農畜水産物等や空気土壌水等の汚染などは今後も継続的な調査検証を要する問題であるが現時点までの調査検証にとどめざるを得なかったさらに原子力損害賠償の在り方や除染等のように生じた損害の修復の問題でありかつ今後長期間の対応を要すると見込まれることから当委員会の調査検証の対象とはしなかったものの被害者や被災地にとって極めて重要で社会的関心の高い問題もある 国電力事業者原子力発電プラントメーカー研究機関関連学会といったおよそ原子力発電に関わる関係者(関係組織)は今回の事故の検証及び事実解明を積極的に担うべき立場にありこうした未解明の諸事項についてそれぞれの立場で包括的かつ徹底した調査検証を継続するべきである特に国は当委員会や国会に設置された東京電力福島原子力発電所事故調査委員会の活動が終わったことをもって福島原発災害に関する事故調査検証を終えたとするのでなく引き続き事故原因の究明に主導的に取り組むべきであるとりわけ放射線レベルが下がった段階での原子炉建屋内の詳細な実地検証(地震動の影響の検証も含む)は必ず行うべき作業である

b 被害の全容を明らかにするための調査が必要 今回の原発事故は実に様々な深刻な被害を広範囲にわたる地域にもたらした未曽有の原子力災害を経験した我が国としてなすべきことは「人間の被害」の全容について専門分野別の学術調査と膨大な数の関係者被害者の証言記録の収集による総合的な調査を行ってこれらを記録にまとめ被害者の救済支援復興事業が十分かどうかを検証するとともに原発事故がもたらす被害がいかに深く広いものであるかその詳細な事実を未来への教訓として後世に伝えることであろう福島原発災害に関わる総合的な調査の結果を踏まえて記された「人間の被害」の全容を教訓として後世に伝えることは国家的な責務であると当委員会は考える「人間の被害」の調査には様々な学問分野の研究者の参加と多くの費用と時間が必要となるだろうが国が率先して自治体研究機関民間団体等の協力を得て調査態勢を構築するとともに調査の実施についても必要な支援を行うことを求めたい

3 原子力災害の再発防止及び被害軽減のための提言 当委員会は中間報告及び最終報告においてこれまでの調査検証によって判明した事実を基に原子力災害の再発防止及び被害軽減のための提言を行った当委員会は国関係自治体事業者等の関係機関がこれらを今後の安全対策防災対策に反映させ実施していくことを強く要望する政府においては関係省庁関係部局に提言の反映や実施に向けた具体化を指示するとともに関係省庁関係部局の取組状況を把握しその状況を取りまとめて公表するなど確実なフォローアップをすることを求めたいまた関係自治体東京電力その他の関係機関においても同様に提言を反映実施するとともに取組状況をフォローアップすることを求めたい ここでは中間報告及び最終報告で行った提言を七つの項目に分類して整理しておく最終報告における提言は「最終報告(本文編)」の記載箇所及び本概要における該当頁を示した中間報告における提言は「中間報告(本文編)」の記載箇所を示すとともに提言自体を再録した

(1)安全対策防災対策の基本的視点に関するもの  複合災害を視野に入れた対策に関する提言(最終報告Ⅵ 2(2)概要 22 頁)  リスク認識の転換を求める提言(最終報告Ⅵ 2(3)概要 23 頁)  「被害者の視点からの欠陥分析」に関する提言(最終報告Ⅵ 2(4)概要 24 頁)  防災計画に新しい知見を取り入れることに関する提言(最終報告Ⅵ 2(5)概要 25 頁)

73

参考資料

(2)原子力発電の安全対策に関するもの  事故防止策の構築に関する提言(最終報告Ⅵ 2(1)概要 22 頁)  総合的リスク評価の必要性に関する提言(最終報告Ⅵ 1(4)a(b)概要 17 頁)  シビアアクシデント対策に関する提言(最終報告Ⅵ 1(4)a(c)概要 17 頁)

(3)原子力災害に対応する態勢に関するもの  原災時の危機管理態勢の再構築に関する提言(最終報告Ⅵ 2(6)概要 26 頁)  原子力災害対策本部の在り方に関する提言(最終報告Ⅵ 1(2)b(a)概要 4頁)  オフサイトセンターに関する提言(中間報告Ⅶ 3(1)a) 政府はオフサイトセンターが大規模災害にあっても機能を維持できる施設となるよう速やかに適切な整備を図る必要がある  原災対応における県の役割に関する提言(最終報告Ⅵ 1(2)c概要 6頁)

(4)被害の防止軽減策に関するもの  広報とリスクコミュニケーションに関する提言(最終報告Ⅵ 2(7)概要 27 頁)  モニタリングの運用改善に関する提言(中間報告Ⅶ 5(2)d) ① モニタリングシステムが肝心なときに機能不全に陥らないよう地震津波等の様々な事象を想定してシステム設計を行うとともに複合災害の場合も想定して対策を講じておく必要があるまたモニタリングカーについて地震による道路の損傷等の事態が発生した場合の移動巡回等の方法に関して必要な対策を講じるべきである ② モニタリングシステムの機能重要性について関係機関及び職員の認識を深めるために研修等の機会を充実させる必要がある  SPEEDI システムに関する提言(中間報告Ⅶ 5(3)c) 被害拡大を防止し国民の納得できる有効な情報を迅速に提供できるようSPEEDI システムの運用上の改善措置を講じる必要があるまた地震等の様々な複合要因に対してシステムの機能が損なわれることのないようハード面でも強化策が講じられる必要がある  住民避難の在り方に関する提言(①~④は中間報告Ⅶ 5(4)c更に最終報告Ⅵ 1(4)b概要 18 頁) ① 重大な原発事故が発生した場合に放射性物質がどのように放出拡散し地上にはどのように降ってくるのかについてまた放射線被ばくによる健康被害について住民が常日頃から基本的な知識を持っておけるよう公的な啓発活動が必要である ② 地方自治体は原発事故の特異さを考慮した避難態勢を準備し実際に近い形での避難訓練を定期的に実施し住民も真剣に訓練に参加する取組が必要である ③ 避難に関しては数千人から十数万人規模の住民の移動が必要になる場合もあることを念頭に置いて交通手段の確保交通整理遠隔地における避難場所の確保避難先での水食糧の確保等について具体的な計画を立案するなど平常時から準備しておく必要がある特に医療機関老人ホーム福祉施設自宅等における重症患者重度障害者等社会的弱者の避難については格別の対策を講じる必要がある ④ 以上のような対策を地元の市町村任せにするのではなく避難計画や防災計画の策定と運用について原子力災害が広域にわたることも考慮して県や国も積極的に関与していく必要がある  安定ヨウ素剤の服用に関する提言(最終報告Ⅵ 1(3)e(c)概要 11 頁)  緊急被ばく医療機関に関する提言(最終報告Ⅵ 1(3)e(f)概要 13 頁)  放射線に関する国民の理解に関する提言(最終報告Ⅵ 1(3)e(g)概要 14 頁)  諸外国との情報共有や諸外国からの支援受入れに関する提言(最終報告Ⅵ 1(3)g(a)(b)概要 16 頁)

(5)国際的調和に関するもの  IAEA 基準などとの国際的調和に関する提言(最終報告Ⅵ 1(7)概要 21 頁)

(6)関係機関の在り方に関するもの  原子力安全規制機関の在り方に関する提言 ① 独立性と透明性の確保(中間報告Ⅶ 8(2)a)

74

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

 独立性と透明性を確保することが必要であり自律的に機能できるために必要な権限財源と人員を付与すると同時に国民に対する原子力安全についての説明責任を持たせることが必要である ② 緊急事態に迅速かつ適切に対応する組織力(中間報告Ⅶ 8(2)b) 災害発生時に迅速な活動が展開できるよう平常時から防災計画の策定や防災訓練等を実施しておくことのみならず緊急事態において対応に当たる責任者や関係機関に対して専門知識に基づく助言指導ができる専門能力や組織が有するリソースを有効かつ効率的に機能させるマネジメント能力の涵養が必要である また責任を持って危機対処の任に当たることの自覚を強く持つとともに大規模災害に対応できるだけの体制を事前に整備し関係省庁や関係地方自治体と連携して関係組織全体で対応できる体制の整備も図った上その中での規制機関の役割も明確にしておく必要がある ③ 国内外への災害情報の提供機関としての役割の自覚(中間報告Ⅶ 8(2)c) 情報提供の在り方の重要性を組織として深く自覚し緊急時に適時適切な情報提供を行い得るよう平素から組織的に態勢を整備しておく必要がある ④ 優秀な人材の確保と専門能力の向上(中間報告Ⅶ 8(2)d) 優れた専門能力を有する優秀な人材を確保できるような処遇条件の改善職員が長期的研修や実習を経験できる機会の拡大原子力放射線関係を含む他の行政機関や研究機関との人事交流の実施など職員の一貫性あるキャリア形成を可能とするような人事運用計画の検討が必要である ⑤ 科学的知見蓄積と情報収集の努力(中間報告Ⅶ 8(2)e) 関連学会や専門ジャーナル(海外も含む)海外の規制機関等の動向を絶えずフォローアップし規制活動に資する知見を継続的に獲得していく必要があるまたその知見の意味するところを理解しこれを組織的に共有した上で十分に活用するとともにその成果を組織として継承伝達していく必要がある ⑥ 国際機関外国規制当局との積極的交流(最終報告Ⅵ 1(5)概要 19 頁) ⑦ 規制当局の態勢強化(最終報告Ⅵ 1(5)概要 19 頁)  東京電力の在り方に関する提言(最終報告Ⅵ 1(6)e概要 20 頁)  安全文化の再構築に関する提言(最終報告Ⅵ 2(8)概要 27 頁)

(7)継続的な原因解明被害調査に関するもの  事故原因の解明継続に関する提言(最終報告Ⅵ 2(9)a概要 28 頁)  被害の全容を明らかにする調査の実施に関する提言(最終報告Ⅵ 2(9)b概要 28 頁)

委員長所感抜粋(今回の事故で得られた知見について)

 今回の事故で得られた知見を他の分野にも適用することができ100 年後の評価にも耐えるようにするためにはこれを単なる個別の分野における知見で終わらせずより一般化普遍化された知識にまで高めることが必要である以下福島原発事故という未曽有の災害についての調査検証を締めくくるに当たり今回の事故からどのような知識が得られるかについて整理しその主なものを示しておくこととしたい

(1)あり得ることは起こるあり得ないと思うことも起こる 今回の事故の直接的な原因は「長時間の全電源喪失は起こらない」との前提の下に全てが構築運営されていたことに尽きる「あり得ることは起こる」と考えるべきであるさらに「あり得ないと思う」という認識にすら至らない現象もあり得る言い換えれば「思い付きもしない現象も起こり得る」ことも併せて認識しておく必要があろう

(2)見たくないものは見えない見たいものが見える 人間はものを見たり考えたりするとき自分が好ましいと思うものや自分がやろうと思う方向だけを見がちで見たくないもの都合の悪いことは見えないものである自分の利害だけでなく自分を取り巻く組織社会時代の様々な影響によって自分の見方が偏っていることを常に自覚し必ず見落としがあると意識していなければならない

75

参考資料

(3)可能な限りの想定と十分な準備をする 過去のある時点での想定にとらわれず常に可能な限り想定の見直しを行って事故や災害の未然防止策を講じるとともにこれまで思い付きもしない事態も起こり得るとの発想の下で十分な準備をすることが必要である

(4)形を作っただけでは機能しない仕組みは作れるが目的は共有されない 事業者も規制関係機関も地方自治体もそれぞれの組織が形式的には原発事故に対応する仕組みを作っていたしかしいざ事故が起こるとその対応には不備が散見されたそれは組織の構成員がその仕組みが何を目的とし社会から何を預託されているかについて十分自覚していなかったためと考えられる構成員それぞれが社会から何を預託され自分が全体の中でどこにいるのかまた自分の働きが全体にどのような影響を与えるかを常に考えているような状態を作らなければならない

(5)全ては変わるのであり変化に柔軟に対応する 与条件を固定して考えると詳細にしかも形の上では立派な対応ができるしかし与条件は常に変化するものであり常に変化に応じた対応を模索し続けなければ実態に合わなくなる全ての事柄が変化すると考え細心の注意を払って観察し外部の声に謙虚に耳を傾け適切な対応を続けることが必要である

(6)危険の存在を認め危険に正対して議論できる文化を作る どのような事態が生ずるかを完全に予見することは何人にもできないにもかかわらず危険を完全に排除すべきと考えることは可能性の低い危険の存在をないことにする「安全神話」につながる危険がある危険を危険として認め危険に正対して議論できる文化を作らなければ安全というベールに覆われた大きな危険を放置することになる

(7) 自分の目で見て自分の頭で考え判断行動することが重要であることを認識しそのような能力を涵養することが重要である想定外の事故災害に対処するには自ら考えて事態に臨む姿勢と柔軟かつ能動的な思考が必要である平時からこのような資質や能力を高める組織運営を行うとともに教育や訓練を行っておくことが重要である

 この事故は自然が人間の考えに欠落があることを教えてくれたものと受け止めこの事故を永遠に忘れることなく教訓を学び続けなければならない

東京電力福島原子力発電所における事故調査検証委員会委員長 畑村洋太郎

76

国会 東京電力福島原子力発電所事故調査委員会 報告書(ダイジェスト版)

はじめに 福島原子力発電所事故は終わっていないこれは世界の原子力の歴史に残る大事故であり科学技術先進国の一つである日本で起きたことに世界中の人々は驚愕した世界が注目する中日本政府と東京電力の事故対応の模様は世界が注目する中で日本が抱えている根本的な問題を露呈することとなった想定できたはずの事故がなぜ起こったのかその根本的な原因は日本が高度経済成長を遂げたころにまで遡る政界官界財界が一体となり国策として共通の目標に向かって進む中複雑に絡まった『規制の虜(Regulatory Capture)』が生まれた そこにはほぼ 50 年にわたる一党支配と新卒一括採用年功序列終身雇用といった官と財の際立った組織構造とそれを当然と考える日本人の「思いこみ(マインドセット)」があった経済成長に伴い「自信」は次第に「おごり慢心」に変わり始めた入社や入省年次で上り詰める「単線路線のエリート」たちにとって前例を踏襲すること組織の利益を守ることは重要な使命となったこの使命は国民の命を守ることよりも優先され世界の安全に対する動向を知りながらもそれらに目を向けず安全対策は先送りされたそして日本の原発はいわば無防備のまま311 の日を迎えることとなった 311 の日広範囲に及ぶ巨大地震津波という自然災害とそれによって引き起こされた原子力災害への対応は極めて困難なものだったことは疑いもないしかもこの 50 年で初めてとなる歴史的な政権交代からわずか 18 カ月の新政権下でこの事故を迎えた当時の政府規制当局そして事業者は原子力のシビアアクシデント(過酷事故)における心の準備や各自の地位に伴う責任の重さへの理解そしてそれを果たす覚悟はあったのかこの事故が「人災」であることは明らかで歴代及び当時の政府規制当局そして事業者である東京電力による人々の命と社会を守るという責任感の欠如があった この大事故から9か月国民の代表である国会(立法府)の下に憲政史上初めて政府からも事業者からも独立したこの調査委員会が衆参両院において全会一致で議決され誕生した今回の事故原因の調査は過去の規制や事業者との構造といった問題の根幹に触れずには核心にたどりつけない私たちは委員会の活動のキーワードを「国民」「未来」「世界」としたそして委員会の使命を「国民による国民のための事故調査」「過ちから学ぶ未来に向けた提言」「世界の中の日本という視点(日本の世界への責任)」とした限られた条件の中6か月の調査活動を行った総括がこの報告書である被災された福島の皆さま特に将来を担う子どもたちの生活が一日でも早く落ち着かれることを心から祈りたいまた日本が経験したこの大事故に手を差し伸べてくださった世界中の方々私たち委員会の調査に協力支援をしてくださった方々初めての国会の事故調査委員会誕生に力を注がれた立法府の方々に深い感謝の意を表したい

東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(国会事故調)委員長 黒川 清

提言提言1 規制当局に対する国会の監視国民の健康と安全を守るために規制当局を監視する目的で国会に原子力に係る問題に関する常設の委員会等を設置する

1) この委員会は規制当局からの説明聴取や利害関係者又は学識経験者等からの意見聴取その他の調査を恒常的に行う2) この委員会は最新の知見を持って安全問題に対応できるよう事業者行政機関から独立したグ ローバルな視点を持った専門家からなる諮問機関を設ける3) この委員会は今回の事故検証で発見された多くの問題に関しその実施改善状況について継続 的な監視活動を行う(「国会による継続監視が必要な事項」として本編に添付)4) この委員会はこの事故調査報告について今後の政府による履行状況を監視し定期的に報告を求める

77

参考資料

提言2 政府の危機管理体制の見直し緊急時の政府自治体及び事業者の役割と責任を明らかにすることを含め政府の危機管理体制に関係する制度についての抜本的な見直しを行う

1) 政府の危機管理体制の抜本的な見直しを行う緊急時に対応できる執行力のある体制づくり指揮命 令系統の一本化を制度的に確立する2) 放射能の放出に伴う発電所外(オフサイト)の対応措置は住民の健康と安全を第一に政府及び自治体が中心となって政府の危機管理機能のもとに役割分担を行い実施する3) 事故時における発電所内(オンサイト)での対応(止める冷やす閉じ込める)については第一義的に事業者の責任とし政治家による場当たり的な指示介入を防ぐ仕組みとする

提言3 被災住民に対する政府の対応被災地の環境を長期的継続的にモニターしながら住民の健康と安全を守り生活基盤を回復するため政府の責任において以下の対応を早急に取る必要がある

1) 長期にわたる健康被害及び健康不安へ対応するため国の負担による外部内部被ばくの継続的検査と健康診断及び医療提供の制度を設ける情報については提供側の都合ではなく住民の健康と安全を第一に住民個々人が自ら判断できる材料となる情報開示を進める2) 森林あるいは河川を含めて広範囲に存在する放射性物質は場所によっては増加することもあり得るので住民の生活基盤を長期的に維持する視点から放射性物質の再拡散や沈殿堆積等の継続的なモニタリング及び汚染拡大防止対策を実施する3) 政府は除染場所の選別基準と作業スケジュールを示し住民が帰宅あるいは移転補償を自分で判断し選択できるように必要な政策を実施する

提言4 電気事業者の監視東電は電気事業者として経産省との密接な関係を基に電事連を介して保安院等の規制当局の意思決定過程に干渉してきた国会は提言1に示した規制機関の監視監督に加えて事業者が規制当局に不当な圧力をかけることのないように厳しく監視する必要がある

1) 政府は電気事業者との間の接触についてルールを定めそれに従った情報開示を求める2) 電気事業者間において原子力安全のための先進事例を確認しその達成に向けた不断の努力を促す相互監視体制を構築する3) 東電に対してガバナンス体制危機管理体制情報開示体制等を再構築しより高い安全目標に向けて継続した自己改革を実施するように促す4) 以上の施策の実効性を確保するため電気事業者のガバナンスの健全性安全基準安全対策の遵守状態等を監視するために立ち入り調査権を伴う監査体制を国会主導で構築する

提言5 新しい規制組織の要件規制組織は今回の事故を契機に国民の健康と安全を最優先とし常に安全の向上に向けて自ら変革を続けていく組織になるよう抜本的な転換を図る新たな規制組織は以下の要件を満たすものとする1) 高い独立性①政府内の推進組織からの独立性②事業者からの独立性③政治からの独立性を実現し監督機能を強化するための指揮命令系統責任権限及びその業務プロセスを確立する2) 透明性①各種諮問委員会等を含めて意思決定過程を開示しその過程において電気事業者等の利害関係者の関与を排除する②定期的に国会に対して全ての意思決定過程決定参加者施策実施状況等について報告する義務を課す③推進組織事業者政治との間の交渉折衝等に関しては議事録を残し原則公開する④委員の選定は第三者機関に1次定として相当数の候補者の選定を行わせた上でその中から国会同意人事として国会が最終決定するといった透明なプロセスを設定する3) 専門能力と職務への責任感①新しい規制組織の人材を世界でも通用するレベルにまで早期に育成しまたそのよ

78

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

うな人材の採用育成を実現すべく原子力規制分野でのグローバルな人材交流教育訓練を実施する②外国人有識者を含む助言組織を設置し規制当局の運営人材在り方等の必要な要件設定等に関する助言を得る③新しい組織の一員として職務への責任感を持った人材を中心とすべく「ノーリターンルール」を当初より例外なく適用する4) 一元化特に緊急時の迅速な情報共有意思決定司令塔機能の発揮に向けて組織体制の効果的な一元化を図る5) 自律性本組織には国民の健康と安全の実現のため常に最新の知見を取り入れながら組織の見直しを行い自己変革を続けることを要求し国会はその過程を監視する

提言6 原子力法規制の見直し原子力法規制については以下を含め抜本的に見直す必要がある1) 世界の最新の技術的知見等を踏まえ国民の健康と安全を第一とする一元的な法体系へと再構築する2) 安全確保のため第一義的な責任を負う事業者と原子力災害発生時にこの事業者を支援する他の事故対応を行う各当事者の役割分担を明確化する3) 原子力法規制が内外の事故の教訓世界の安全基準の動向及び最新の技術的知見等が反映されたものになるよう規制当局に対してこれを不断かつ迅速に見直していくことを義務付けその履行を監視する仕組みを構築する4) 新しいルールを既設の原子炉にも遡及適用すること(いわゆるバックフィット)を原則としそれがルール改訂の抑制といった本末転倒な事態につながらないように廃炉すべき場合と次善の策が許される場合との線引きを明確にする

提言7 独立調査委員会の活用未解明部分の事故原因の究明事故の収束に向けたプロセス被害の拡大防止本報告で今回は扱わなかった廃炉の道筋や使用済み核燃料問題等国民生活に重大な影響のあるテーマについて調査審議するために国会に原子力事業者及び行政機関から独立した民間中心の専門家からなる第三者機関として(原子力臨時調査委員会〈仮称〉)を設置するまた国会がこのような独立した調査委員会を課題別に立ち上げられる仕組みとしこれまでの発想に拘泥せず引き続き調査検討を行う

結論の要旨【認識の共有化】 平成 23(2011)年 3月 11 日に起きた東日本大震災に伴う東京電力福島原子力発電所事故は世界の歴史に残る大事故であるそしてこの報告が提出される平成 24(2012)年 6月においても依然として事故は収束しておらず被害も継続している 破損した原子炉の現状は詳しくは判明しておらず今後の地震台風などの自然災害に果たして耐えられるのか分からない今後の環境汚染をどこまで防止できるのかも明確ではない廃炉までの道のりも長く予測できない一方被害を受けた住民の生活基盤の回復は進まず健康被害への不安も解消されていない 当委員会は「事故は継続しており被災後の福島第一原子力発電所(以下「福島第一原発」という)の建物と設備の脆弱性及び被害を受けた住民への対応は急務である」と認識するまた「この事故報告が提出されることで事故が過去のものとされてしまうこと」に強い危惧を覚える日本全体そして世界に大きな影響を与え今なお続いているこの事故は今後も独立した第三者によって継続して厳しく監視検証されるべきである(提言 7に対応) 当委員会はこのような認識を共有化して以下のような調査に当たった

【事故の根源的原因】 事故の根源的な原因は東北地方太平洋沖地震が発生した平成 23(2011)年 3月 11 日(以下「311」という)以前に求められる当委員会の調査によれば311 時点において福島第一原発は地震にも津波にも耐えられる保証がない脆弱な状態であったと推定される地震津波による被災の可能性自然現象を起因とするシビアアクシデント(過酷事故)への対策大量の放射能の放出が考えられる場合の住民の安全保護など事業者である東京電力(以下「東電」という)及び規制当局である内閣府原子力安全委員会(以下「安全委員会」という)経済産業省原子力安全保安院(以下「保安院」という)また原子力推進行政当局である経済産業省(以下「経産省」という)がそれまでに当然備えておくべきこと実施すべきことをしていなかった 平成 18(2006)年に耐震基準について安全委員会が旧指針を改訂し新指針として保安院が全国の原子力事業者に対

79

参考資料

して耐震安全性評価(以下「耐震バックチェック」という)の実施を求めた 東電は最終報告の期限を平成 21(2009)年 6月と届けていたが耐震バックチェックは進められずいつしか社内では平成 28(2016)年 1月へと先送りされた東電及び保安院は新指針に適合するためには耐震補強工事が必要であることを認識していたにもかかわらず1~3号機については全く工事を実施していなかった保安院はあくまでも事業者の自主的取り組みであるとし大幅な遅れを黙認していた事故後東電は5号機については目視調査で有意な損傷はなかったとしているがそれをもって 1~3号機に地震動による損傷がなかったとは言えない 平成 18(2006)年には福島第一原発の敷地高さを超える津波が来た場合に全電源喪失に至ること土木学会評価を上回る津波が到来した場合海水ポンプが機能喪失し炉心損傷に至る危険があることは保安院と東電の間で認識が共有されていた保安院は東電が対応を先延ばししていることを承知していたが明確な指示を行わなかった 規制を導入する際に規制当局が事業者にその意向を確認していた事実も判明している安全委員会は平成 5(1993)年に全電源喪失の発生の確率が低いこと原子力プラントの全交流電源喪失に対する耐久性は十分であるとしそれ以降長時間にわたる全交流電源喪失を考慮する必要はないとの立場を取ってきたが当委員会の調査の中でこの全交流電源喪失の可能性は考えなくてもよいとの理由を事業者に作文させていたことが判明したまた当委員会の参考人質疑で安全委員会が深層防護(原子力施設の安全対策を多段的に設ける考え方IAEA〈国際原子力機関〉では 5層まで考慮されている1について日本は 5層のうちの 3層までしか対応できていないことを認識しながら黙認してきたことも判明した 規制当局はまた海外からの知見の導入に対しても消極的であったシビアアクシデント対策は地震や津波などの外部事象に起因する事故を取り上げず内部事象に起因する対策にとどまった米国では 911 以降に B5b2に示された新たな対策が講じられたがこの情報は保安院にとどめられてしまった防衛にかかわる機微情報に配慮しつつ必要な部分を電力事業者に伝え対策を要求していれば今回の事故は防げた可能性がある このように今回の事故はこれまで何回も対策を打つ機会があったにもかかわらず歴代の規制当局及び東電経営陣がそれぞれ意図的な先送り不作為あるいは自己の組織に都合の良い判断を行うことによって安全対策が取られないまま 311 を迎えたことで発生したものであった 当委員会の調査によれば東電は新たな知見に基づく規制が導入されると既設炉の稼働率に深刻な影響が生ずるほか安全性に関する過去の主張を維持できず訴訟などで不利になるといった恐れを抱いておりそれを回避したいという動機から安全対策の規制化に強く反対し電気事業連合会(以下「電事連」という)を介して規制当局に働きかけていた このような事業者側の姿勢に対し本来国民の安全を守る立場から毅然とした対応をすべき規制当局も専門性において事業者に劣後していたこと過去に自ら安全と認めた原子力発電所に対する訴訟リスクを回避することを重視したことまた保安院が原子力推進官庁である経産省の組織の一部であったこと等から安全について積極的に制度化していくことに否定的であった 事業者が規制当局を骨抜きにすることに成功する中で「原発はもともと安全が確保されている」という大前提が共有され既設炉の安全性過去の規制の正当性を否定するような意見や知見それを反映した規制指針の施行が回避緩和先送りされるように落としどころを探り合っていた これを構造的に見れば以下のように整理できる本来原子力安全規制の対象となるべきであった東電は市場原理が働かない中で情報の優位性を武器に電事連等を通じて歴代の規制当局に規制の先送りあるいは基準の軟化等に向け強く圧力をかけてきたこの圧力の源泉は電力事業の監督官庁でもある原子力政策推進の経産省との密接な関係であり経産省の一部である保安院との関係はその大きな枠組みの中で位置付けられていた規制当局は事業者への情報の偏在自身の組織優先の姿勢等から事業者の主張する「既設炉の稼働の維持」「訴訟対応で求められる無謬性」を後押しすることになったこのように歴代の規制当局と東電との関係においては規制する立場とされる立場の「逆転関係」が起き規制当局は電力事業者の「虜(とりこ)」となっていたその結果原子力安全についての監視監督機能が崩壊していたと見ることができる3 当委員会は本事故の根源的原因は歴代の規制当局と東電との関係について「規制する立場とされる立場が『逆転関係』となることによる原子力安全についての監視監督機能の崩壊が起きた点に求められる」と認識する何度も事前に対策

1 IAEAの深層防護(Defence in Depth)2 平成 13(2001)年 9月 11 日の同時多発テロの後平成 14(2002)年 2月にNRC(米国原子力規制委員会)が策定したテロ対策全電源喪失を想定した機材の備えと訓練を米国の全原子力発電所に義務付けている3 これは規制当局が事業者の「虜(とりこ)」となって被規制産業である事業者の利益最大化に傾注するといういわゆる「規制の虜(Regulatory Capture)」によっても説明できるものである

80

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

を立てるチャンスがあったことに鑑みれば今回の事故は「自然災害」ではなくあきらかに「人災」である(提言1に対応)

【事故の直接的原因】 本事故の直接的原因は地震及び地震に誘発された津波という自然現象であるが事故が実際にどのように進展していったかに関しては重要な点において解明されていないことが多いその大きな理由の一つは本事故の推移と直接関係する重要な機器配管類のほとんどがこの先何年も実際に立ち入ってつぶさに調査検証することのできない原子炉建屋及び原子炉格納容器内部にあるためである しかし東電は事故の主因を早々に津波とし「確認できた範囲においては」というただし書きはあるものの「安全上重要な機器は地震で損傷を受けたものはほとんど認められない」と中間報告書に明記しまた政府も IAEAに提出した事故報告書に同趣旨のことを記した 直接的原因を実証なしに津波に狭く限定しようとする背景は不明だが本編第 1部で述べるように既設炉への影響を最小化しようという考えが東電の経営を支配してきたのであってここでもまた同じ動機が存在しているようにも見えるあるいは東電の中間報告にあるように「想定外」とすることで責任を回避するための方便のようにも聞こえるが当委員会の調査では地震のリスクと同様に津波のリスクも東電及び規制当局関係者によって事前に認識されていたことが検証されており言い訳の余地はない 事故の主因を津波のみに限定すべきでない理由としてスクラム(原子炉緊急停止)後に最大の揺れが到達したこと小規模の LOCA(小さな配管破断などの小破口冷却材喪失事故)の可能性は独立行政法人原子力安全基盤機構(JNES)の解析結果も示唆していること1号機の運転員が配管からの冷却材の漏れを気にしていたことそして 1号機の主蒸気逃がし安全弁(SR弁)は作動しなかった可能性を否定できないことなどが挙げられ特に 1号機の地震による損傷の可能性は否定できないまた外部送電系が地震に対して多様性独立性が確保されていなかったことまたかねてから指摘のあった東電新福島変電所の耐震性不足などが外部電源喪失の一因となった 当委員会は事故の直接的原因について「安全上重要な機器の地震による損傷はないとは確定的には言えない」特に「1号機においては小規模の LOCAが起きた可能性を否定できない」との結論に達したしかし未解明な部分が残っておりこれについて引き続き第三者による検証が行われることを期待する(提言 7に対応)

【運転上の問題の評価】 発電所の現場の運転上の問題についてはいくつか特記すべきことはあるがむしろ今回のようにシビアアクシデント対策がない場合全電源喪失状態に陥った際に現場で打てる手は極めて限られるということが検証された1号機の非常用復水器(IC)の操作及びその後の確認作業の是非については全交流電源喪失(SBO)直後からの系統確認としかるべき運転操作に迅速に対応できなかったしかし ICの操作に関してはマニュアルもなくまた運転員は十分訓練されていなかったさらに本事故においてはおそらく早期のうちに ICの蒸気管に非凝縮性の水素ガスが充満しそのために自然循環が阻害されICが機能喪失していたと当委員会は推測しているこうした事情を考慮すれば単純に事故当時の運転員の判断や操作の非を問うことはできない 東電の経営陣が耐震工事の遅れ及び津波対策の先送りの事実を把握し福島第一原発の脆弱性を認識していたと考えられることから被災時の現場の状態はある程度事前にも想像できたはずである少なくとも発電所の脆弱性を補うためにもシビアアクシデント時に現場で対応する準備を行わせるのは経営として必要なことであった東電の本店及び発電所の幹部もこのような状況下で少なくとも緊急時の現場の対応について準備をすることが必要であった以上を考えればこれは運転員作業員個人の問題に帰するのではなく東電の組織的問題として考えるべき事柄である ベントライン構成についても電源が喪失し放射線量の高い中でのライン構成作業自体が困難でありかつ時間がかかるものであったシビアアクシデント手順書の中の図面も不備であったことが判明しており見づらい図面を時間に追われつつ懐中電灯で解明する作業を強いられた官邸はベントに時間がかかることから東電への不信が高まったとしているが実際の作業は困難を極めるものであった 多重防護が一気に破られ同時に 4基の原子炉の電源が喪失するという中で2号機の原子炉隔離時冷却系(RCIC)が長時間稼働したこと2号機のブローアウトパネルが脱落したこと協力会社の決死のがれき処理が思った以上に進んだことなど偶然というべき状況がなければ23号機はさらに厳しい状況に陥ったとも考えられるシビアアクシデント対策がない状態で直流電源も含めた全電源喪失状況を作り出してしまったことで既にその後の結果は避けられなかったと判断した 当委員会は「過酷事故に対する十分な準備レベルの高い知識と訓練機材の点検がなされまた緊急性について運転

81

参考資料

員作業員に対する時間的要件の具体的な指示ができる準備があればより効果的な事後対応ができた可能性は否定できないすなわち東電の組織的な問題である」と認識する(提言 4に対応)

【緊急時対応の問題】 いったん事故が発災した後の緊急時対応について官邸規制当局東電経営陣にはその準備も心構えもなくその結果被害拡大を防ぐことはできなかった保安院は原子力災害対策本部の事務局としての役割を果たすことが期待されたが過去の事故の規模を超える災害への備えはなく本来の機能を果たすことはできなかった官邸は発災直後の最も重要な時間帯に緊急事態宣言を速やかに出すことができなかった本来官邸は現地対策本部を通じて事業者とコンタクトをすべきとされていたしかし官邸は東電の本店及び現場に直接的な指示を出しそのことによって現場の指揮命令系統が混乱したさらに15 日に東電本店内に設置された統合対策本部も法的な根拠はなかった 1号機のベントの必要性については官邸規制当局あるいは東電とも一致していたが官邸はベントがいつまでも実施されないことから東電に疑念不信を持った東電は平時の連絡先である保安院にはベントの作業中である旨を伝えていたがそれが経産省のトップそして官邸に伝えられていたという事実は認められない保安院の機能不全東電本店の情報不足は結果として官邸と東電の間の不信を募らせその後総理が発電所の現場に直接乗り込み指示を行う事態になったその後も続いた官邸による発電所の現場への直接的な介入は現場対応の重要な時間を無駄にするというだけでなく指揮命令系統の混乱を拡大する結果となった 東電本店は的確な情報を官邸に伝えるとともに発電所の現場の技術的支援という重要な役割を果たすべきであったが官邸の顔色をうかがいながらむしろ官邸の意向を現場に伝える役割だけの状態に陥った3月 14 日2号機の状況が厳しくなる中で東電が全員撤退を考えているのではないかという点について東電と官邸の間で認識のギャップが拡大したがこの根源には両者の相互不信が広がる中で東電の清水社長が官邸の意向を探るかのような曖昧な連絡に終始した点があったと考えられるただし①発電所の現場は全面退避を一切考えていなかったこと②東電本店においても退避基準の検討は進められていたが全面退避が決定された形跡はなく清水社長が官邸に呼ばれる前に確定した退避計画も緊急対応メンバーを残して退避するといった内容であったこと③当時清水社長から連絡を受けた保安院長は全面退避の相談とは受け止めなかったこと④テレビ会議システムでつながっていたオフサイトセンターにおいても全面退避が議論されているという認識がなかったこと等から判断して総理によって東電の全員撤退が阻止されたと理解することはできない 重要なのは時の総理の個人の能力判断に依存するのではなく国民の安全を守ることのできる危機管理の仕組みを構築することである 当委員会は事故の進展を止められなかったあるいは被害を最小化できなかった最大の原因は「官邸及び規制当局を含めた危機管理体制が機能しなかったこと」そして「緊急時対応において事業者の責任政府の責任の境界が曖昧であったこと」にあると結論付けた(提言 2に対応)

【被害拡大の要因】 事故発災当時政府から自治体に対する連絡が遅れたばかりではなくその深刻さも伝えられなかった同じように避難を余儀なくされた地域でも原子力発電所からの距離によって事故情報の伝達速度に大きな差が生じた立地町でさえ3km圏避難の出た 21 時 23 分には事故情報は住民の 20程度しか伝わっていない10km圏内の住民の多くは 15 条報告から 12 時間以上たった 3月 12 日の朝 5時 44 分の避難指示の時点で事故情報を知ったしかしその際に事故の進展あるいは避難に役立つ情報は伝えられなかった着の身着のままの避難多数回の避難移動あるいは線量の高い地域への移動が続出したその後の長期にわたる屋内避難指示及び自主避難指示での混乱モニタリング情報が示されないために線量の高い地域に避難した住民の被ばく影響がないと言われて 4月まで避難指示が出されず放置された地域など避難施策は混乱した当委員会は事故前の原子力防災体制の整備の遅れ複合災害対策の遅れとともに既存の防災体制の改善に消極的であった歴代の規制当局の問題点も確認している 当委員会は避難指示が住民に的確に伝わらなかった点について「これまでの規制当局の原子力防災対策への怠慢と当時の官邸規制当局の危機管理意識の低さが今回の住民避難の混乱の根底にあり住民の健康と安全に関して責任を持つべき官邸及び規制当局の危機管理体制は機能しなかった」と結論付けた(提言 2に対応)

【住民の被害状況】 本事故により合計約 15 万人が避難区域から避難した本事故の収束作業に従事した中で100mSv(シーベルト)を超え

82

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

る線量を被ばくした作業員は 167 人とされている福島県内の 1800km2 もの広大な土地が年間 5mSv 以上の積算線量をもたらす土地となってしまったと推定される被害を受けた広範囲かつ多くの住民は不必要な被ばくを経験したまた避難のための移動が原因と思われる死亡者も発生したしかも住民は事故から 1年以上たっても先が見えない状態に置かれている政府はこのような被災地域の住民の状況を十分把握した上で避難区域の再編生活基盤の回復除染医療福祉の再整備など住民の長期的な生活改善策を系統的継続的に打ち出していくべきであるが縦割り省庁別の通常業務的施策しかなく住民の目から見るといまだに整合性のある統合的な施策が政府から打ち出されていない 我々が実施したタウンミーティングや 1万人を超す住民アンケートにはいまだに進まない政府の対応に厳しい声が多数寄せられている 放射線の急性障害はしきい値があるとされているが低線量被ばくによる晩発障害はしきい値がなくリスクは線量に比例して増えることが国際的に合意されている 年齢個人の放射線感受性放射線量によってその影響は変わるまた未解明の部分も残る一方政府は一方的に線量の数字を基準として出すのみでどの程度が長期的な健康という観点からして大丈夫なのか人によって影響はどう違うのか今後どのように自己管理をしていかなければならないのかといった判断をするために住民が必要とする情報を示していない政府は住民全体一律ではなく乳幼児から若年層妊婦放射線感受性の強い人など住民個々人が自分の行動判断に役立つレベルまで理解を深めてもらう努力をしていない 当委員会は「被災地の住民にとって事故の状況は続いている放射線被ばくによる健康問題家族生活基盤の崩壊そして広大な土地の環境汚染問題は深刻であるいまだに被災者住民の避難生活は続き必要な除染あるいは復興の道筋も見えていない当委員会には多数の住民の方々からの悲痛な声が届けられている先の見えない避難所生活など現在も多くの人が心身ともに苦難の生活を強いられている」と認識するまたその理由として「政府規制当局の住民の健康と安全を守る意思の欠如と健康を守る対策の遅れ被害を受けた住民の生活基盤回復の対応の遅れさらには受け手の視点を考えない情報公表にある」と結論付けた(提言 3に対応)

【問題解決に向けて】 本事故の根源的原因は「人災」であるがこの「人災」を特定個人の過ちとして処理してしまう限り問題の本質の解決策とはならず失った国民の信頼回復は実現できないこれらの背後にあるのは自らの行動を正当化し責任回避を最優先に記録を残さない不透明な組織制度さらにはそれらを許容する法的な枠組みであったまた関係者に共通していたのはおよそ原子力を扱う者に許されない無知と慢心であり世界の潮流を無視し国民の安全を最優先とせず組織の利益を最優先とする組織依存のマインドセット(思い込み常識)であった 当委員会は事故原因を個々人の資質能力の問題に帰結させるのではなく規制される側とする側の「逆転関係」を形成した真因である「組織的制度的問題」がこのような「人災」を引き起こしたと考えるこの根本原因の解決なくして単に人を入れ替えあるいは組織の名称を変えるだけでは再発防止は不可能である(提言 45及び 6に対応)

【事業者】 東電はエネルギー政策や原子力規制に強い影響力を行使しながらも自らは矢面に立たず役所に責任を転嫁する経営を続けてきたそのため東電のガバナンスは自律性と責任感が希薄で官僚的であったがその一方で原子力技術に関する情報の格差を武器に電事連等を介して規制を骨抜きにする試みを続けてきた その背景には東電のリスクマネジメントのゆがみを指摘することができる東電はシビアアクシデントによって周辺住民の健康等に被害を与えること自体をリスクとして捉えるのではなくシビアアクシデント対策を立てるに当たって既設炉を停止したり訴訟上不利になったりすることを経営上のリスクとして捉えていた 東電は現場の技術者の意向よりも官邸の意向を優先したり退避に関する相談に際しても官邸の意向を探るかのような曖昧な態度に終始したりしたその意味で東電は官邸の過剰介入や全面撤退との誤解を責めることが許される立場にはなくむしろそうした混乱を招いた張本人であった 本事故発生後における東電の情報開示は必ずしも十分であったとはいえない確定した事実確認された事実のみを開示し不確実な情報のうち特に不都合な情報は開示しないといった姿勢がみられた特に 2号機の事故情報の開示に問題があったほか計画停電の基礎となる電力供給の見通しについても情報開示に遅れがみられた 当委員会は「規制された以上の安全対策を行わず常により高い安全を目指す姿勢に欠けまた緊急時に発電所の事故対応の支援ができない現場軽視の東京電力経営陣の姿勢は原子力を扱う事業者としての資格があるのか」との疑問を呈した(提言 4に対応)

83

参考資料

【規制当局】 規制当局は原子力の安全に対する監視監督機能を果たせなかった専門性の欠如等の理由から規制当局が事業者の虜(とりこ)となり規制の先送りや事業者の自主対応を許すことで事業者の利益を図り同時に自らは直接的責任を回避してきた規制当局の推進官庁事業者からの独立性は形骸化しておりその能力においても専門性においてもまた安全への徹底的なこだわりという点においても国民の安全を守るには程遠いレベルだった

 当委員会では「規制当局は組織の形態あるいは位置付けを変えるだけではなくその実態の抜本的な転換を行わない限り国民の安全は守られない国際的な安全基準に背を向ける内向きの態度を改め国際社会から信頼される規制機関への脱皮が必要であるまた今回の事故を契機に変化に対応し継続的に自己改革を続けていく姿勢が必要である」と結論付けた(提言 5に対応)

【法規制】 日本の原子力法規制はその改定において実際に発生した事故のみを踏まえた対症療法的パッチワーク的対応が重ねられ諸外国における事故や安全への取り組み等を真摯に受け止めて法規制を見直す姿勢にも欠けていたその結果予測可能なリスクであっても過去に顕在化していなければ対策が講じられず常に想定外のリスクにさらされることとなった また原子力法規制は原子力利用の促進が第一義的な目的とされ国民の生命身体の安全が第一とはされてこなかったさらに原子力法規制全体を通じての事業者の第一義的責任が明確にされておらず原子力災害発生時については第一義的責任を負う事業者に対し他の事故対応を行う各当事者がどのような活動を行ってこれを支援すべきかについての役割分担が不明確であった加えて諸外国で取り入れられている深層防護の考え方についても法規制の検討に際し十分に考慮されてこなかった 当委員会では「原子力法規制はその目的法体系を含めた法規制全般について抜本的に見直す必要があるかかる見直しに当たっては世界の最新の技術的知見等を反映しこの反映を担保するための仕組みを構築するべきである」と結論付けた(提言 6に対応) 以上のことを認識し教訓とした上で当委員会としては未来志向の立場に立って以下の 7つの提言を行う今後国会において十分な議論をいただきたいなおこの 7つの提言とは別に今後国会による継続監視が必要な事項を本編付録として添付した

提言の実現に向けて ここに示した 7つの提言は当委員会が国会から付託された使命を受けて調査作成した本報告書の最も基本的で重要なことを反映したものであるしたがって当委員会は国会に対してこの提言の実現に向けた実施計画を速やかに策定しその進捗の状況を国民に公表することを期待する この提言の実現に向けた第一歩を踏み出すことはこの事故によって日本が失った世界からの信用を取り戻し国家に対する国民の信頼を回復するための必要条件であると確信する 事故が起こってから 16 カ月が経過したこの間この事故について数多くの内外の報告書調査の記録著作等が作成されたそのいくつかには我々が意を強くする結論や提案がなされているしかしわが国の原子力安全の現実を目の当たりにした我々の視点からは根本的な問題の解決には不十分であると言わざるを得ない 原子力を扱う先進国は原子力の安全確保は第一に国民の安全にあるとし福島原子力発電所事故後はさらなる安全水準の向上に向けた取り組みが行われている一方わが国では従来もそして今回のような大事故を経ても対症療法的な対策が行われているにすぎないこのような小手先の対策を集積しても今回のような事故の根本的な問題は解決しない この事故から学び事故対策を徹底すると同時に日本の原子力対策を国民の安全を第一に考えるものに根本的に変革していくことが必要である ここにある提言を一歩一歩着実に実行し不断の改革の努力を尽くすことこそが国民から未来を託された国会議員国権の最高機関たる国会及び国民一人一人の使命であると当委員会は確信する 福島原発事故はまだ終わっていない被災された方々の将来もまだまだ見えない国民の目から見た新しい安全対策が今強く求められているこれはこの委員会の委員一同の一致した強い願いである

84

エネルギーを巡る課題と対応~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~第1部

委員会について 当委員会の根拠法令である「東京電力福島原子力発電所事故調査委員会法(以下「委員会法」4という)」は平成 23 (2011)年 10 月 30 日に施行され委員長及び委員の 10 名は国会の承認を得て同年 12 月 8 日両議院の議長より任命された【委員長】黒川 清(政策研究大学院大学アカデミックフェロー元日本学術会議会長)【委員】石橋 克彦(理学博士地震学者神戸大学名誉教授)大島 賢三(独立行政法人国際協力機構顧問元国際連合大使)崎山 比早子(医学博士元放射線医学総合研究所主任研究官)櫻井 正史(弁護士元名古屋高等検察庁検事長元防衛省防衛監察監)田中 耕一(分析化学者株式会社島津製作所フェロー)田中 三彦(科学ジャーナリスト)野村 修也(中央大学法科大学院教授弁護士)蜂須賀 禮子(福島県大熊町商工会会長)横山 禎徳(社会システムデザイナー東京大学エグゼクティブマネジメントプログラム企画推進責任者)【調査の概要】ヒアリング 延べ 1167 人(900 時間超)原発視察(福島第一および第二女川東海) 9 回タウンミーティング 3 回(合計 400 人超)被災住民アンケート回答者数 住民 10633 人 (自由回答コメント 8066 人)作業従業員アンケート回答者数 2415 人東電規制官庁および関係者に対する資料請求 2000 件以上

【委員会の情報公開】委員会開催 19 回(動画中継合計 約 60 時間)すべての委員会を動画配信(合計視聴者数 約 80 万人) Facebookツイッターのソーシャルメディア活用 (17 万件以上の書き込み)東京電力福島原子力発電所事故から 16 カ月がたち既にその間に政府や東京電力のみならず数多くの検証の試みがなされ報告著書マスメディアなどの多様な媒体で公表されている国内ばかりでなく国際機関からもまた海外からも発信されているそれらに記述されていることとこの委員会報告に記載されていることは重複している部分も多くあるだろうしかし当委員会が参考人のヒアリングを世界に対して公開して行った意味はそれを見た一人一人がそれまでのメディアを通じた情報と比較しながらより立体的にまた客観的に事故の原因を把握し今後何をなすべきか判断できる材料を提供するということにあると考えるそこにこそ公開の意味があるのでありそのような認識でこの委

4 「東京電力福島原子力発電所事故調査委員会法」

85

参考資料

員会は活動を行い報告書を作成した

【当委員会で扱わなかった事項】 設置に際し委員会法 10 条各号により我々に課せられた課題解決を最優先とするため以下の点については今回の調査の対象外とした1) 日本の今後のエネルギー政策に関する事項(原子力発電の推進あるいは廃止も含めて)2) 使用済み核燃料処理処分等に関する事項3) 原子炉の実地検証を必要とする事項で当面線量が高くて実施ができない施設の検証に関する事項4) 個々の賠償除染などの事故処理費用に関する事項5) 事故処理費用の負担が事業者の支払い能力を超える場合の責任の所在に関する事項6) 原子力発電所事業に対する投資家株式市場の事故防止につながるガバナンス機能に関する事項7) 個々の原子力発電所の再稼働に関する事項8) 政策制度について通常行政府が行うべき具体的な設計に関する事項9) 事故後の原子炉の状況の把握及び廃炉のプロセスに関する事項発電所周辺地域の再生に関する事項10) その他委員の合意によって範囲外と決めた事項等 当委員会の根拠法令である「東京電力福島原子力発電所事故調査委員会法(以下「委員会法」4という)」は平成 23(2011)年 10 月 30 日に施行され委員長及び委員の 10 名は国会の承認を得て同年 12 月 8 日両議院の議長より任命されたhttpnaiicgojp本編要約をホームページで公開(日英)<お問い合わせ先>東京電力福島原子力発電所事故調査委員会事務局 e-mailpressnaiicjp

Page 7: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 8: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 9: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 10: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 11: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 12: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 13: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 14: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 15: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 16: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 17: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 18: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 19: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 20: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 21: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 22: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 23: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 24: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 25: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 26: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 27: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 28: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 29: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 30: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 31: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 32: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 33: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 34: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 35: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 36: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 37: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 38: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 39: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 40: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 41: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 42: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 43: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 44: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 45: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 46: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 47: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 48: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 49: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 50: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 51: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 52: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 53: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 54: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 55: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 56: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 57: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 58: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 59: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 60: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 61: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 62: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 63: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 64: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 65: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 66: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 67: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 68: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 69: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 70: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 71: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 72: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 73: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 74: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 75: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 76: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 77: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 78: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の
Page 79: p007 第01部 扉 - METI第1部 エネルギーを巡る課題と対応 ~東日本大震災と我が国エネルギー政策の聖域無き見直し~ 2012 8 第1部 2011年3月11日に発生したマグニチュード9.0の