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PC 鋼材破断を想定した PC 橋の健全性に関する解析的検討 CORE * ** ** *** Analytical Study for Health Assessment of a PC Bridge by Simulating PC Tendon Rupture Hiroshi NISHI * , Tsutomu OTSUKA ** , Keita KAMEI *** and Hiroshi ONISHI *** * CORE Institute of technology Corporation 3-8-5 Asakusabasi, taitou-ku, Tokyo, 111-0053, Japan E-mail: [email protected] ** Infrastructure Maintenance Department, Tokyo Metro Co.,Ltd. 3-19-6 Higashi-ueno, taitou-ku, Tokyo, 110-8614, Japan E-mail: [email protected], [email protected] *** Department of System Innovation Engineering, Faculty of Science and Engineering, Iwate University 4-3-5 Ueda, Morioka, Iwate, 020-8551, Japan E-mail: [email protected] 1 195km 85% 15% 9% 17.4km T PCT PCT 1960 PC PC 1) PC RC PC PC PC PC PC PC 2) PCT Fig.1 PC PCT PC 3 FEM PCT PCT PCT PC 2 PCT 1969 50 PC Fig.1 View of the PCT bridge Fig.2 Sectional View Table.1 Specifications of the bridge A-Line Structure type Posttension system simple girder Girder length 24.96m Span length 24.10m Width 4.39m Angle 90°00’00” Live load Axle load 16tf Train load Concrete strength Girder 40N/mm 2 Slab Beam 30N/mm 2 Prestressing steel PC steel wire SWPR 12 7mm PC steet stick SBPC110 24mm Reinforcing bar SR235 Cracking load fbck=1.34N/mm 2 40N/mm 2 h=1.8m

PC 鋼材破断を想定した PC 橋の健全性に関する解 …PC 鋼材破断を想定した PC 橋の健全性に関する解析的検討 CORE * ** ** *** Analytical Study for

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PC 鋼材破断を想定した PC 橋の健全性に関する解析的検討 (株)CORE 技術研究所 ○西 弘* 東京地下鉄(株) 大塚 努** 東京地下鉄(株) 亀井 啓太** 岩手大学 大西 弘志***

Analytical Study for Health Assessment of a PC Bridge by Simulating PC Tendon Rupture Hiroshi NISHI*, Tsutomu OTSUKA**, Keita KAMEI***and Hiroshi ONISHI***

* CORE Institute of technology Corporation

3-8-5 Asakusabasi, taitou-ku, Tokyo, 111-0053, Japan

E-mail: [email protected]

** Infrastructure Maintenance Department, Tokyo Metro Co.,Ltd.

3-19-6 Higashi-ueno, taitou-ku, Tokyo, 110-8614, Japan

E-mail: [email protected], [email protected]

*** Department of System Innovation Engineering, Faculty of Science and Engineering, Iwate University

4-3-5 Ueda, Morioka, Iwate, 020-8551, Japan

E-mail: [email protected]

1 緒緒緒緒 言言言言 東京地下鉄株式会社(以下,東京メトロと称す)では,現在,営業線約 195km のうちトンネルが約 85%を占め,残り 15%の地上構造物のうち約 9%の 17.4kmがポストテンション方式単純 T 桁橋(以下,PCT 桁橋と称す)である.東京メトロの PCT 桁橋の特徴は,1960 年代に建設されている高架橋であり,その多くが市街地に隣接している.主ケーブルには上縁定着方式の PC 鋼線が採用され,横締めケーブルには PC 鋼棒が使用されている 1).一方,PC 構造物は密実なコンクリートを使用し,プレストレスによりひび割れを制御していることから,RC構造物に比べ,外部からの劣化因子が侵入し難く,耐久性に優れる構造物である.しかし,PC グラウト充填不足や PC 鋼材の腐食等が主な原因で,重大な変状が生じたものや落橋した PC 橋も存在する.以上から構造物管理者は予防保全的に維持管理を行うため,PC 橋の PC グラウト充填状況や PC 鋼材の腐食,破断に関する調査を行って,その状況や傾向等について把握することが重要であると言われている 2).そのため PCT 桁橋を多く保有している東京メトロ東西線(Fig.1)では,予防保全として主ケーブルと横締めケーブルの PC グラウト充填度調査を含む横締め突出防止工,断面修復工,ひび割れ注入工,表面保護工等の補修工事を実施している.また,仮に PCT 桁橋の PC 鋼材が破断に至った場合,どの部位に変状が生じるかを把握しておき,橋梁点検時,補修施工時,緊急対策時においても速やかに判断する必要があることから,リスクマネジメントの一つとして 3 次元 FEM解析にてプレストレス低下による PCT 桁橋の耐荷性能に関する解析的検討を行って,ひび割れの発生をシナリオ上にて整理している.本稿では東西線 PCT 桁橋において,上述の解析的検討により整理した PCT 桁橋の維持管理の留意事項を示すとともに,予防保全として実施したPC グラウト充填度調査の結果を報告するものである.

2 東西線東西線東西線東西線 PCT 桁橋のリスク桁橋のリスク桁橋のリスク桁橋のリスク 東京メトロ東西線の全線開通は 1969 年であり約 50 年経過している.一般に建設時期が古い PC 橋は経年の影

Fig.1 View of the PCT bridge

Fig.2 Sectional View

Table.1 Specifications of the bridge(A-Line)

Structure type Posttension system simple girder

Girder length 24.96m(Span length 24.10m)

Width 4.39m

Angle 90°00’00”

Live load Axle load 16tf(Train load)

Concrete

strength

Girder 40N/mm2 ,

Slab・Beam 30N/mm2

Prestressing

steel

PC steel wire SWPR 12φ7mm

PC steet stick SBPC110 φ24mm

Reinforcing bar SR235

Cracking load fbck=1.34N/mm2(40N/mm2 h=1.8m)

G1 G2 G1 G2 90521001850210013651800 Drainage concrete DrainBallast Railway materials4390 8320 3930B-LineA-Line

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響を受け,古い橋梁ほど健全度が劣る傾向が示されている.また PC グラウト技術が未熟であったことなどから,完全に PC グラウトが充填されていない可能性を有している 2).以上から東西線 PCT 桁橋においても PC グラウト充填不足と PC 鋼材腐食や破断に対してリスクが高いと言える.その理由を整理すると以下の通りとなる.

(1) 建設年次が 1960 年代であることから,PC グラウト材料のブリージング,PC グラウトの先流れ現象,施工機器の性能による空隙など,品質管理や施工管理が原因で PC グラウト充填不足のリスクが高い.

(2) PC 鋼材種別では,横締めケーブルに PC 鋼棒φ24mm,鋼製シースφ35mm が使用されており,シースの空隙率による PC グラウト充填不足や鋼製シースの腐食のリスクと破断した場合に PC 鋼棒突出による第三者被害に対するリスクが高い.

(3) 構造形式は PCT 桁であり,主ケーブルに PC 鋼線 12φ7mm が配置されており,主ケーブルのほぼ 3 割が上縁定着されているため,上縁定着部からの水の侵入や定着部のあと処理の不具合などが懸念される. 以上のリスクを考慮して,現在,PC グラウト充填度調査を含む補修工事を実施している.今回報告する調査結果は補修工事が完了した東西線葛西駅から妙典駅間のうち 33 径間である.幅員構成は 1 径間当たり 2 主桁が 1 連として 2 連配置されており(4 主桁/径間),調査数量は拡幅径間を含む 68 連である.なお,補修施工時に,PCT 桁橋の状況が迅速に判断できるように,事前にFEM 解析による検討を行い,施工管理上の目安とするためにひび割れやたわみ等の性状と応力状態の関係を整理している.

3 PCT 桁橋の耐荷性能の検討桁橋の耐荷性能の検討桁橋の耐荷性能の検討桁橋の耐荷性能の検討

3.1 検討対象径間検討対象径間検討対象径間検討対象径間 東西線では建設当時にキロ程,橋長,車線に分類し標準桁が設定され設計されている(以下,標準設計と称す).検討対象径間は,標準設計より設計荷重時に最も大きい断面力が生じている径間で,Fig.2に示す A-Line の 1 連を選定した.Table.1 に橋梁諸元を示す.

3.2 検討方法検討方法検討方法検討方法 検討方法は 3 次元ソリッドモデルによる線形 FEM 解析を用いた.主ケーブル本数は 1 主桁当たり 13 ケーブル配置されており,そのうち上縁定着ケーブルは 4 本配置されている.

PC 鋼材の破断の想定は,プレストレスによる曲げ応力度の影響が大きい最下段の主ケーブルから 1本毎にプレストレス量を除去することとし,除去本数は最多 4 ケーブルとして,プレストレス低下による主桁,床版,横桁の応力状態と変位を確認した. 主ケーブルのプレストレスを低下させる主桁は G1 桁を基本とし,2 主桁とも破断した場合の影響を確認するために G2 桁が健全な場合と主ケーブル 1 本除去した場合を検討した.また,横締めケーブルのプレストレス低下の影響を確認するために床版,横桁の横締めケーブルについても 1~2 ケーブルのプレストレス量を除去する

検討を行った.ひび割れの評価は死荷重時と設計荷重時における各部材の引張応力度が,コンクリート標準示方書の曲げひび割れ強度(fbck=1.34N/mm2,40N/mm2)に達した時にひび割れが発生することとした.

3.3 解析モデル解析モデル解析モデル解析モデル 東西線 PCT 桁では 1連が 2 主桁の構成であること,PC 鋼材の破断対象を主ケーブルと横締めケーブルに着目することから,主桁,床版,横桁を構成した 2 主桁で,橋軸方向の対称性を考慮した支間 1/2モデルとした.使用要素はコンクリートがソリッド要素,PC ケーブルと鉄筋を埋込鉄筋要素とした.なお,解析ステップは建設当時の施工順序(主桁架設,横組工,橋面工,活荷重)を再現した.解析モデルを Fig.3 に示す.

3.4 PCT 桁橋の桁橋の桁橋の桁橋の FEM 解析解析解析解析結果結果結果結果

(1) 主桁の主桁の主桁の主桁のひび割れひび割れひび割れひび割れ Fig.4 に G1 桁の主ケーブルを 1 本毎にプレストレス量を除去した時の主桁下縁支間中央部の合成応力度を示す. 設計荷重時において G1 桁の主ケーブルを 3 本除去した場合,G1 桁下縁に引張応力度 2.12N/mm2 が生じ,曲げ引張強度(1.34N/mm2)以上となる.さらに主ケーブル 4 本除去すると,主桁下縁引張応力度 3.00N/mm2 となり,コンクリート引張強度(2.69N/mm2)以上となる.

Fig.3 Analysis model of the PCT bridge

Fig.4 Combined Stress(Bottom fiber)

C.L. 1800 12430 6000 6050 380 4390

【G1】 【G2】 【FEM Mesh Configuration】・Concrete:Solid Elements・PC cable ,Reinforing bar:Embedded Reinforcement Elements・Shoe:Beam Element・Number nodes:69,217・Number of elements:59,483

-6.16

-5.25

-4.36

-3.44

-0.60

0.32

1.20

2.12

3.00

-6.96-6.54

-6.11-5.71

-2.02-1.60

-1.17-0.77

-0.32

-8.00

-6.00

-4.00

-2.00

0.00

2.00

4.00

0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

Ben

din

g S

tres

s(N/mm2

)Number of prestressing steel in each cable(Girder G2 soundness)

Dead load G1

Designed load G1

Dead load G2

Designed Load G2

「-」Compression,「+」Tension

crack occurrence

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死荷重時では G1 桁の主ケーブル 9 本除去すると主桁下縁に曲げひび割れ強度以上,10 本除去するとコンクリート引張強度以上の曲げ応力度が発生する.

G1 桁のプレストレスの低下とともに,G1 桁のたわみが増加して G2 桁に荷重分配する.その G2 桁に生じる増加応力は G1 桁の主ケーブル 1 本除去ごとに 0.4N/mm2程度発生することが確認できた.

G2 桁の主ケーブル 1 本除去した場合の検討では,G1桁に曲げひび割れが生じる G1 桁の主ケーブル除去本数は 2 本となり,1連当たり除去する主ケーブル本数(設計荷重時 1連当たり 3 本除去)と同等な時期に主桁下縁支間中央部に曲げひび割れ強度以上の引張応力度が発生する結果が得られた.

(2) 横桁横桁横桁横桁ののののひび割れひび割れひび割れひび割れ 上部工の挙動は主ケーブルのプレストレス低下により,プレストレスが低下した主桁のたわみが増加する.この時 G1 桁と G2 桁のたわみ差によって,主桁と横桁にねじりが生じ,主桁と端部横桁,主桁と中間横桁の接合付近に橋軸直角方向の引張力が発生する.

G1 桁の主ケーブル除去本数が 2 本の場合,死荷重時に主桁と端部横桁の接続付近に,3 本の場合には主桁と中間横桁の接続付近に,それぞれの横桁下縁側に曲げひび割れ強度(fbck=1.18N/mm2,30N/mm2)以上の引張応力度が発生する結果となった. 横締めケーブルのプレストレス低下の影響は,床版,横桁ともにプレストレスによる応力度がそのまま減少し,合成応力度上,曲げひび割れ強度以上の引張応力度が発生するが,主桁の耐荷性能に大きな影響を与えるまでには至らないことが確認できた.

(3) 主桁の主桁の主桁の主桁の変位変位変位変位 Fig.5 に G2 桁が健全な場合で,G1 桁の主ケーブル 1~4 本のプレストレスを除去した時の鉛直変位を示す.4 本除去した場合,G1 桁では支間中央部の主桁下縁 b で 4.2mm,G2 桁の主桁下縁 d では 2.6mm の鉛直変位が生じている.G1 桁の主ケーブルのプレストレス量が 1 本分除去する毎に 1mm程度の鉛直変位が G1桁の支間中央部で発生することが確認できた.そのため,高感度の計測機器を用いることで上部工の健全度をモニタリングできる可能性が有ると考えられる.

3.5 PCT 桁橋の桁橋の桁橋の桁橋の維持管理に関する着目点維持管理に関する着目点維持管理に関する着目点維持管理に関する着目点 今回の解析結果より,主桁に着目した場合の PCT 桁橋の外観変状と耐荷性能の状態をシナリオ上にまとめると以下の通りとなる.

(1) PC ケーブルに沿ったひび割れケーブルに沿ったひび割れケーブルに沿ったひび割れケーブルに沿ったひび割れ 外観変状外観変状外観変状外観変状:PC グラウト充填不足が存在すると,その充填不足部分に水や塩化物などの劣化因子が侵入し,水の凍結膨張圧あるいはシースや PC 鋼材が腐食することが原因で PC ケーブルに沿ったひび割れが生じる. 対策対策対策対策案案案案:PC グラウト充填度調査,PC 鋼材腐食状況調査,補修の検討を実施することが望ましい.

(2) 主桁と端部横桁主桁と端部横桁主桁と端部横桁主桁と端部横桁の接合部にひび割れの接合部にひび割れの接合部にひび割れの接合部にひび割れ 外観変状外観変状外観変状外観変状:死荷重時において,主ケーブル 2 本分のプレ

ストレスが低下すると,主桁の相対変位に伴い主桁と横桁にねじりが生じて(Fig.6),主桁と端部横桁の接合部に橋軸直角方向のひび割れが生じる.この時,主桁が健全な時と比べると,主桁のたわみ量は鉛直方向に約 2mm増加する. 対策対策対策対策案案案案:PC 鋼材腐食状況,残存プレストレス量,上部工の変位量などに着目した詳細調査と健全度を検討して,補修および補強の計画を実施することが望ましい.

(3) 主桁と中間横桁の接合部主桁と中間横桁の接合部主桁と中間横桁の接合部主桁と中間横桁の接合部,主桁支間中央,主桁支間中央,主桁支間中央,主桁支間中央にひび割れにひび割れにひび割れにひび割れ 外観変状外観変状外観変状外観変状:死荷重時において,主ケーブル 3 本分のプレストレスが低下すると,主桁と中間横桁の接合部に橋軸直角方向のひび割れが生じる.また,設計荷重時では主桁の支間中央部で曲げひび割れが生じる.この時,死荷重時の主桁のたわみ量は鉛直方向に約 3mm となる. 対策対策対策対策案案案案:主桁の応力改善を目的とした補強を実施することが望ましい.

(4) 主桁の支間中央部に曲げひび割れ主桁の支間中央部に曲げひび割れ主桁の支間中央部に曲げひび割れ主桁の支間中央部に曲げひび割れ(設計荷重時)(設計荷重時)(設計荷重時)(設計荷重時) 外観変状外観変状外観変状外観変状:設計荷重時において,主ケーブル 4 本分のプレストレスが低下すると,主桁の支間中央部に上記(3)より顕著に曲げひび割れが発生する.この時の死荷重時

Fig.5 Vertical Displacement

Fig.6 Behavior after prestressing steels removal

【G2】 【G1】End of Girder

C.L.Center of Span

Deflection of main girder occurred

after a prestressing steel was

removed from a PC cable.

Defection of main girder caused main

girder and cross beam torsion.

Torsion took place perpendicular

to a bridge due to tensile

strength.

-4.79mm

-4.17mm

-2.31mm

-2.60mm

Value:Verical displacement after prestressing steels removal.

-1.2

-2.4

-3.6

-4.8

-1.0

-2.0

-3.1

-4.2

-0.5

-1.1

-1.7

-2.3

-0.6

-1.2

-1.9-2.6

-7.0

-6.0

-5.0

-4.0

-3.0

-2.0

-1.0

0.0

0 1 2 3 4 5

Ver

tica

l D

ispla

cem

ent(mm)

Number of prestressing steel in each cable(Girder G2 soundness)a b c d【G2】 【G1】 a

b

c

d

CL

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の主桁のたわみ量は鉛直方向に約 4~5mm となる. 対策対策対策対策案案案案:列車運行停止の準備とともに,上部工の荷重支持による緊急対策を実施することが望ましい.

(5) 主桁の支間中央部に曲げひび割れ主桁の支間中央部に曲げひび割れ主桁の支間中央部に曲げひび割れ主桁の支間中央部に曲げひび割れ(死荷重時)(死荷重時)(死荷重時)(死荷重時) 外観変状外観変状外観変状外観変状:死荷重時において,主ケーブル 9 本分のプレストレスが低下すると,主桁の支間中央部に顕著に曲げひび割れが発生する.この時の死荷重時の主桁のたわみ量は鉛直方向に約 10~11mm となる. 対策対策対策対策案案案案:列車運行停止と抜本的な対策が必要となる.

4 実橋での実橋での実橋での実橋での PC グラウト充填度調査グラウト充填度調査グラウト充填度調査グラウト充填度調査

4.1 調査調査調査調査方針方針方針方針 東西線 PCT 桁橋では,主ケーブルが桁長の関係などにより 1 桁当たり 11~13 本配置されている.その中で 2~4 本が上縁定着ケーブルである.この上縁定着ケーブルは端部定着ケーブルと比べ,主ケーブルの曲上げ角度が大きいため,PC グラウト充填不足の可能性が高く,主桁上縁に切欠部を有することから,劣化因子の侵入リスクが高いケーブルである 2).以上からリスクが高い上縁定着ケーブル 2~4 本/桁の充填状況を確認し,その結果から端部定着ケーブルの充填状況を類推して,主ケーブル全体の充填状況を評価することとした.そのため,主ケーブルの調査対象は全ての上縁定着ケーブルとした.一方,横締めケーブルには PC 鋼棒が使用されており,PC 鋼棒突出による第三者被害に対するリスクを保有していることから,調査対象は床版および横桁に配置されている全ての横締めケーブルとした. 調査方法はコンクリートと PC 鋼材を極力傷つけることなく,PC グラウトの充填状況が判断できる非破壊調査手法から,衝撃弾性波法,超音波法,電磁パルス法,X 線透過法を抽出し,適用範囲,作業性,実績,経済性から衝撃弾性波法を選定した.また,衝撃弾性波法により充填不足が疑われた PC ケーブルについては, PC グラウト充填状況と PC 鋼材の腐食状況を確認するために,ドリルによる削孔と CCDカメラを挿入してシース内の状況を確認した(以下,削孔法と称す).なお,削孔法による調査の結果,PC グラウトが充填不足と判断された場合は,速やかに PC グラウトの再注入を行っている.

4.2 主ケーブルの主ケーブルの主ケーブルの主ケーブルの調査方法調査方法調査方法調査方法 主ケーブルには,部分的な空洞の有無を判断することができるインパクトエコー

法を採用した.Fig.7 に調査方法の概要を示す.コンクリート表面をインパクタにて弾性波を入力し,弾性波の縦波成分が,コンクリート内部の空洞などの境界面に反射して,コンクリート表面と空洞の境界面との間に往復する定常な波が生じる(縦波共振現象).この現象を利用して入力付近で計測された波形の周波数スペクトルのピーク位置からコンクリートの内部状況を推定する方法である 3) 5).PC グラウト充填度調査の場合は,予め電磁波レーダにて PC ケーブルの配置位置とシースのかぶりを特定し,その部分のコンクリート表面に弾性波を入力し,反射波をセンサにて受信することで,PC ケーブル内部の空隙の有無から PC グラウト充填状況を定性的に判断する非破壊調査手法であり,近年,使用実績が多くなっている.

4.3 横締めケーブルの横締めケーブルの横締めケーブルの横締めケーブルの調査方法調査方法調査方法調査方法 横締めケーブルは,直線状に配置されている PC ケーブル全長に対して充填状況を確認するために利用されている打音振動法を採用した.調査方法の概要を Fig.8 に示す.PC 鋼材定着部付近のコンクリート表面にハンマーやバネポインターなどで打撃して弾性波を入力し,その近傍の入力信号と反対側の定着部付近に伝播した弾性波の出力信号を AEセンサにて受信する方法であり,PC グラウト充填状況を伝播特性の変化を利用して判定する非破壊調査手法である 4) 5).評価方法は PC 鋼材を伝播する弾性波の伝播エネルギーの減衰程度と伝播速度を測定することで,PCグラウト充填状況を定性的に評価することができる方法であり,1990 年代半ばから実用化され実績も多い.

4.4 調査結果と考察調査結果と考察調査結果と考察調査結果と考察 PC グラウト充填度調査を実施した径間数は 33径間(68連)である.主桁本数は 140 桁であり,調査対象とした上縁定着ケーブル数は 476 ケーブル(インパクトエコー法の調査箇所数は 952箇所)である.横締めケーブルの調査数量は,床版が 2,662 ケーブル,横桁が 336 ケーブル(打音振動法による調査数量は 2,998 ケーブル)である. インパクトエコー法と打音振動法による調査の結果,充填不足として判定したケーブルは,削孔法により充填状況と PC 鋼材腐食状況を確認した.その数量は主桁では 5 ケーブル,床版が 117 ケーブル,横桁が 39 ケーブ

Fig.7 Comparison of grout fill level and frequency response

Amplifier

Waveform recorder

Receiving

AE sensor

Hammer &

AE sensor

Transverse

steel tendon Elastic wave

Fig.8 Measurement set-up for impact-elastic wave method

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ルであった.なお,充填不足の最終判定は目視確認ができる削孔法の調査結果を優先に判定することとした.Table.2 に PC グラウト充填度調査結果の総括を示す.主ケーブルでは 476 ケーブルのうち 1 ケーブルが充填不足(充填不足率 0.21%)であり,概ね PC グラウトが充填されている結果が得られた.上縁定着ケーブルは端部定着ケーブルと比べ充填不足と PC 鋼材腐食に対するリスクが高いケーブルである.今回調査対象とした上縁定着ケーブルでは PC グラウト充填率が高かったこと,建設時の PC グラウト注入は一連で施工することが基本であることから,今回調査していない端部定着ケーブルもほぼ PC グラウトが充填されているものと考えられる.以上から,今回調査した区間の主桁は,PC グラウト充填に対して健全性は確保されていると考えられる. 横締めケーブルでは 2,998 ケーブルのうち 126 ケーブルが充填不足(充填不足率 4.20%)であり,充填不足率は低いものの PC グラウトの充填不足が認められた.部材別の PC グラウト充填状況を Fig.9 に示す.床版が3.68%であり,横桁が 8.33%である.横締めケーブルはPC 鋼棒突出による第三者災害に対するリスクを有していること,東西線は市街地に隣接していることから,今後も予防保全として PC 鋼棒突出防止を実施する必要があると言える.

Fig.10 に車線別に分類した PC グラウト充填状況を示す.A~D 線のうち B 線の充填不足率が最も高い値(充填不足率 4.93%)を示している.Fig.11 に区間別に分類した PC グラウト充填状況を示す.区間は補修工事の工区にて分類しており第 1区間は葛西方面,第 3区間は行徳方面であり,第 2区間は第 1区間と第 3区間の間である.そのうち第 2区間の充填不足率が最も高い値(充填不足率 7.25%)を示している.このデータから,車線別と区間別に分類した PC グラウト充填状況の傾向は特に得られなかった.今後も継続的に予防保全対策の一環としてデータ蓄積と分析を行う予定である.

5 まとめまとめまとめまとめ

5.1 PCT 桁橋の耐荷性能の検討桁橋の耐荷性能の検討桁橋の耐荷性能の検討桁橋の耐荷性能の検討 プレストレス低下による PCT 桁橋の耐荷性能に関する解析的検討の結果をまとめると以下の通りとなる.

(1) 上部工の挙動は,主ケーブルのプレストレスが低下すると,主桁の相対変位に伴ない主桁と横桁にねじりが生じ,主桁と横桁の接合部に橋軸直角方向の引張応力が生じる.その後,プレストレス低下が進むと主桁の支間中央部に曲げひび割れが生じることが確認できた.

(2) 解析の結果,例えば G1 桁の主ケーブル 2 本分のプレストレスを除去すると,死荷重時に主桁と横桁の接合部の横桁側に曲げひび割れ強度以上の引張応力度が発生する.この時,主桁にはひび割れは発生していないが,主ケーブル 3 本分のプレストレスが除去され,列車荷重が載荷されると G1 桁の支間中央部に曲げひび割れが発生する.

Table.2 Summary of grouting filling condition of PC bridge

Fully

grouting

Poor

grouting

Fully

grouting

Poor

grouting

IE Method 476 471 5 - - -Impact elastic wave method - - - 2,998 2,842 156

Drilling Method 5 4 1 156 30 126

Final judgement 476 475 1 2,998 2,872 126

Filling Rate of Grout

Notes IE Metod:Impact-Echo Method Unit:Cable     Drilling Method:Drilling+CCD Camera     Insufficient filling rate of grout:        Number of insufficient grouting of drilling method/ number of samples×100

0.21% 4.20%

Item

Main Girder Slab/Cross Beam

Number of

samples

Crouting conditionsNumber of

samples

Crouting conditions

Fully grouting

99.79%Fully grouting

96.32%

Fully grouting

91.67%

Poor grouting

0.21%

Poor grouting

3.68%Poor grouting

8.33%

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

Main Girder Slab Cross Beam

Gro

uti

ng f

illi

ng c

on

dit

ion

of

PC

bri

dge

(%)

Fully grouting

97.39%Fully grouting

95.07%

Fully grouting

100%

Poor grouting

2.61%

Poor grouting

4.93%

Poor grouting

0%

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

Line A Line B Line C/D

Gro

uti

ng f

illi

ng c

on

dit

ion

of

PC

bri

dge

(%)

Fig.9 部材別のPCグラウト充填状況

Fig.10 路線別のPCグラウト充填状況Fully grouting

99.72% Fully grouting

92.75%

Fully grouting

97.93

Poor grouting

0.28%

Poor grouting

7.25%

Poor grouting

2.07%

0%

10%

20%

30%

40%

50%

60%

70%

80%

90%

100%

Section 1(13 spans) Section 2 (13 spans) Section 3 (7 spans)

Gro

uti

ng f

illi

ng c

on

dit

ion

of

PC

bri

dge

(%)

Fig.11 区間別のPCグラウト充填状況

Fig.9 Grouting filling condition of PC bridge by elements

Fig.10 Grouting filling condition of PC bridge by routes

Fig.11 Grouting filling condition of PC bridge by Secton

Page 6: PC 鋼材破断を想定した PC 橋の健全性に関する解 …PC 鋼材破断を想定した PC 橋の健全性に関する解析的検討 CORE * ** ** *** Analytical Study for

(3) 主ケーブル 4 本分のプレストレスを除去した場合の設計荷重時には,G1 桁の支間中央部に発生している曲げひび割れは顕著となる.そのため,主桁に曲げひび割れが認められた場合は,速やかに詳細調査,健全度評価,列車運行停止の準備を行うとともに耐荷性能を回復するための対策が必要となる.

(4) 一連当たりの主ケーブルのプレストレスが 1 本除去する毎に 1mm 程度の鉛直変位が主桁の支間中央部で発生することから,高感度の計測機器を用いることで上部工の健全度をモニタリングできる可能性が有ることが判った.

5.2 実橋での実橋での実橋での実橋でのPCグラウト充填度調査グラウト充填度調査グラウト充填度調査グラウト充填度調査 予防保全として東西線 PCT 桁橋 33 径間(68 連)を対象に,PC グラウト充填度調査を行った.その結果をまとめると以下の通りとなる.

(1) 主ケーブルでは 476 ケーブルのうち 1 ケーブルが充填不足(充填不足率 0.21%)であり,概ね PC グラウトが充填されている結果が得られた.

(2) PC グラウト充填不足と PC 鋼材腐食に対するリスクが高い上縁定着ケーブルの充填率が高かったこと,建設時の PC グラウト注入は一連の施工であり,調査対象としていない端部定着ケーブルも概ね充填されているとの推察から,今回調査した主桁の PC グラウト充填に対する健全性は,ほぼ良好であると考えられる.

(3) 横締めケーブルでは 2,998ケーブルのうち 126ケーブルが充填不足(充填不足率 4.20%)となり,充填不足率は低いものの,PC グラウトの充填不足が認められた.

(4) 横締めケーブルの充填不足率の内訳は,床版が 3.68%,横桁が 8.33%であり,PC 鋼棒突出による第三者災害に対するリスクを有していること,東西線は市街地に隣接していることから,今後も予防保全として PC鋼棒突出防止を実施する必要があると言える.

5.3 今後の検討今後の検討今後の検討今後の検討 今回,PCT 桁橋の補修工事にあたって,耐荷性能とひび割れの発生をシナリオ上にて整理し,予め着目すべきひび割れの発生位置を示すことで,施工管理上,容易に判断することができた.実橋ではコンクリートの浮き,剥離などの断面欠損が認められていることから,今後,橋梁定期点検の結果から,実橋での変状の種類,発生位置,大きさを集計して,それらの変状による剛性低下を評価した検討を行い,さらに実務者に便利に利用できる維持管理の着目点を整理する予定である.

一方,今回行った PC グラウト充填度調査の対象径間では,概ね PC グラウトは充填されていたものの,横締めケーブルには一部充填不足が認められた.また,東西線はリスクが比較的高いと言われている年代の PCT 桁橋であることから,今後も予防保全としての補修工事や,リスク低減としての PC グラウト充填度調査およびデータ蓄積を継続的に行う予定である. 参考文献参考文献参考文献参考文献

1) 柳沢有一朗,小柴康平,亀井啓太,保栖重雄,西弘,小椋紀彦,橋本達朗,益村拓朗:プレストレス低下によるポストテンション単純 T 桁橋の健全性に関する検討,土木学会第 70 回年次学術講演会,Ⅵ-141,pp281-282,2015.9.

2) プレストレストコンクリート工学会:既設ポストテンション橋のPC鋼材調査および補修・補強指針,2016.9.

3) 鎌田敏郎,内田慎哉,大西弘志,葛目和宏,真鍋英規,藤原規雄,玉越隆史:叩けばわかる!道路橋鉄筋コンクリート床版の疲労による水平ひび割れの検出,検査技術,2009.4.

4) Kazuo Kobayashi,Toyoaki Miyagawa,Yoshihiro

Hatta,Kazuhiro Kuzume : NDT OF GROUTING

INTRANSVERSE PRESTRESSING STEEL IN

T-BEAM BRIDGE,Sixth International Conference

on StructuralFaults and Repair 3rd July 1995,Volume1.pp73-80,1995.7

5) Norihiko Ogura, Hiroshi Nishi, Hideki Manabe,

Tae-Ho Ahn:Various non-destructive tests for

infrastructures in JAPAN, Journal of Ceramic

Processing Research.Vol.16,Special.1,pp.132-137,2015.3

6) 鎌田敏郎,淺野雅則,川嶋雅道,内田慎哉,六郷恵哲:弾性波によるPCグラウト充填評価手法の実構造物への適用,土木学会論文集,Vol.62,No.3,pp.569-586,2006.9

7) 鎌田敏郎,内田慎哉,角田蛍,佐藤浩二:実橋梁PC桁での非破壊試験によるPCグラウト充填評価方法に関する研究,土木学会論文集,Vol.68,No.4,pp.238-250,2012.

8) 竹内祐樹,中村英佑,渡辺博志,木村嘉富:PCグラウトの充填度評価と再注入に関する基礎的研究,プレストレストコンクリート技術協会第18回シンポジウム論文集,pp365-370,2009.10