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PC オーディオでマルチアンプシステムを構成する 概要 本書は PC オーディオを利用してオーディオでは最高の音質を得られる可能性のあるマルチアンプ(帯域別ア ンプを割り当てる)オーディオシステムを安価にかつ高性能なものを構成する方を支援する目的で書かれました。 開発の経緯 私はご存じの方もおられますが、オーディオが大好きで大学を出て測定技術と機器について学びフ使えるよう に測定器メーカーと思った Hewlett Packard 社の日本子会社に入社しました。あにはからんや数学科出身で あったため、コンピュータ専門となり 30 年も測定システムやワークステーション、サーバシステムのエンジニアと して過ごしてしまいました。おかげで IT 技術には強いほうだと思います。 そのうちに 1990 年代からオーディオ測定でも比較的手に届く価格で昔の数千万円もした測定システムが PC ベースでできそうになりました。やがて PC でいろいろなオーディオに関連したハードウェアも出そろい、ソフトも ASIO とかで対応が広くなりました。 測定については疑似無響室測定(Psedo Un-Echoic Measurement)さえ PC で可能となりました。 1998 年に書かれたものですが測定はこんなものからはじめました。 http://www.aedio.co.jp/sokutei/laud/ そのうちに何とか-6dB/oct の一次アナログフィルター以外に PC のデジタル処理技術を使ってスピーカーをリニ アフェーズとして動作させる方法はないかと 2000 年ころから模索をはじめました。進んだ方々はある方はモト ローラの DSP チップ評価キットで作ったり、LINUX BruteFIR というツールがあるらしいとかも聞きました。 できれば何とか Windows でできないかと考えていろいろな方に相談しました。このチャンネル・デバイダーの最 初の開発者は当時ソフト会社で携帯電話のソフト開発をしていた方々で foobar2000 にプラグインとして開発す るのが良いとの実装方法を提案され、2way のものから実装されたのが最初です。現在のものは 2006 年ころに minn 氏が余暇の時間を割いて書き直して 2way 用、3way 用を実装してくれました。またリニアフェーズであるこ とも別の方が合成波形などで確認していただいています。複数のユニットを使ってリニアフェーズでしかもシャー プなスロープでクロスできるシステムを求めた結果、やはり IT 技術を使ったものに行き着いたということです。 その結果が PC ソース、デジタルフィルター、デジタルアンプにマルチユニットスピーカーの構成です。 通常のマルチアンプとどう違うのか?-限定した条件で最高の音質を 現在までマルチアンプオーディオシステムといえば、プリアンプの後にチャンネル・デバイダー、さらに複数の高 価なパワーアンプを設置し大型のスピーカーシステムを構成するのが普通でした。 この PC オーディオによるマルチアンプシステムはある意味「限定された環境(リニア PCM の音楽再生専用)ために」特化した「最高のコストパフォーマンス」の「リニアフェーズデジタル帯域分割フィルター」を持つ世でも 最も進んだデジタルオーディオ再生システムでもあります。しかも測定以外のソフトは無で手に入ります。つま り「安」を目しているのではなく、ある限られた環境のでの最高のシステムを手に届く価格で提しようとす るものです。 このシステムの構成から再生までの基幹となっているソフトハード以のものを利用します。 (1) OS 本ハードウェア=Windows7 PC(メモリは 2GB HDD は音楽データを別として 100GB くらい)CPU Core i3 3220T 、最構成は ALC662 ALC892 などのオンードのサウンド チップが搭載されたマードを持った PC 選択または作する。 (2) リッピング、データ=iTunes (3) 音楽再生用ソフト=foobar2000([1])2way/3way 用デジタルチャンデバモジュール([2]) (4) スピーカーはどのようなハイエンドのものもある程度の質でらしります。私どもでしたものは本書の でご案いたします。 (5) PC 内蔵可能な型デジタルアンプ (4ch =2way x 2 帯域分割)または型デジタルアンプ(4ch +ウーフ用アンプ x2) (6) スピーカー測定のツール=ARTA Lab [3](イルの存、再ロードには有償ラインスが

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PCオーディオでマルチアンプシステムを構成する

概要

本書は PCオーディオを利用してオーディオでは最高の音質を得られる可能性のあるマルチアンプ(帯域別アンプを割り当てる)オーディオシステムを安価にかつ高性能なものを構成する方を支援する目的で書かれました。

開発の経緯私はご存じの方もおられますが、オーディオが大好きで大学を出て測定技術と機器について学びフ使えるよう

に測定器メーカーと思ったHewlett Packard社の日本子会社に入社しました。あにはからんや数学科出身であったため、コンピュータ専門となり 30年も測定システムやワークステーション、サーバシステムのエンジニアとして過ごしてしまいました。おかげで IT技術には強いほうだと思います。そのうちに 1990年代からオーディオ測定でも比較的手に届く価格で昔の数千万円もした測定システムが PCベースでできそうになりました。やがて PCでいろいろなオーディオに関連したハードウェアも出そろい、ソフトもASIOとかで対応が広くなりました。測定については疑似無響室測定(Psedo Un-Echoic Measurement)さえ PCで可能となりました。1998年に書かれたものですが測定はこんなものからはじめました。http://www.aedio.co.jp/sokutei/laud/そのうちに何とか-6dB/octの一次アナログフィルター以外に PCのデジタル処理技術を使ってスピーカーをリニアフェーズとして動作させる方法はないかと 2000年ころから模索をはじめました。進んだ方々はある方はモトローラのDSPチップ評価キットで作ったり、LINUXで BruteFIRというツールがあるらしいとかも聞きました。できれば何とかWindowsでできないかと考えていろいろな方に相談しました。このチャンネル・デバイダーの最初の開発者は当時ソフト会社で携帯電話のソフト開発をしていた方々で foobar2000にプラグインとして開発するのが良いとの実装方法を提案され、2wayのものから実装されたのが最初です。現在のものは 2006年ころにminn氏が余暇の時間を割いて書き直して 2way用、3way用を実装してくれました。またリニアフェーズであることも別の方が合成波形などで確認していただいています。複数のユニットを使ってリニアフェーズでしかもシャー

プなスロープでクロスできるシステムを求めた結果、やはり IT技術を使ったものに行き着いたということです。その結果が PCソース、デジタルフィルター、デジタルアンプにマルチユニットスピーカーの構成です。

通常のマルチアンプとどう違うのか?-限定した条件で最高の音質を

現在までマルチアンプオーディオシステムといえば、プリアンプの後にチャンネル・デバイダー、さらに複数の高

価なパワーアンプを設置し大型のスピーカーシステムを構成するのが普通でした。

この PCオーディオによるマルチアンプシステムはある意味「限定された環境(リニア PCMの音楽再生専用)のために」特化した「最高のコストパフォーマンス」の「リニアフェーズデジタル帯域分割フィルター」を持つ世界でも

最も進んだデジタルオーディオ再生システムでもあります。しかも測定以外のソフトは無償で手に入ります。つま

り「安物」を目指しているのではなく、ある限られた環境の中での最高のシステムを手に届く価格で提供しようとす

るものです。

このシステムの構成から再生までの基幹となっているソフトハード以下のものを利用します。

(1) OSと基本ハードウェア=Windows7 の PC(メモリは 2GB以上、HDDは音楽データを別として 100GBくらい)、CPUはCore i3 3220T以上、最小構成は ALC662や ALC892などのオンボードのサウンド

チップが搭載されたマザーボードを持った PCを選択または自作する。

(2) リッピング、データ管理=iTunes(3) 音楽再生用ソフト=foobar2000(無償[注 1])、2way/3way用デジタルチャンデバモジュール(無償[注

2])(4) スピーカーはどのようなハイエンドのものもある程度の質で鳴らし切ります。私どもで試したものは本書の

中でご案内いたします。

(5) PCに内蔵可能な小型デジタルアンプ (4ch分=2way x 2帯域分割)または小型デジタルアンプ(4ch分+サブウーファ用アンプ x2)

(6) スピーカー測定のツール=ARTA Lab [注 3](ファイルの保存、再ロードには有償ライセンスが必要

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20000円くらい)、測定用マイク(低価格のものだと 8000円くらい)、マイクアンプなど

[注 1] http://www.foobar2000.org/ より download リンクでダウンロードする。[注 2] http://www.aedio.co.jp/download/index_j.html よりダウンロードする。[注 3] http://www.artalabs.hr/download.htm よりダウンロードする。

以上のうち、(1)と無償のソフト(iTunes,foobar2000,チャンデバソフト、ARTAデモ版)をインストールした状態に

して(5)を 4チャンネル分付けて 10万円にて提供いたします。

本システムの制限

ほとんどのオーディオファンの音源は今やCDやリニア PCM(WAV/flac/alac/mp3)が主流です。これらの音源

に限れば本書で示した PCオーディオによるマルチアンプで対応できます。現実に 192KHz24bitの音源であっ

ても比較的安価なシステムでできます。

特に VortexBoxやNASを使って音楽を保存している方には最適の再生側システムと言えます。

使用できないデータソース(音源)

アナログレコード、2 トラ 38のテープ、SACDのみ聞く方にはデータ変換が必要ですし、ビデオと共用したい

(DVD ビデオでオペラの再生をしたい方には画面のほうが早く再生されるため、現実的には共存はすぐにはで

きないのが本書の方式のデメリットです。

一方でメリットは PCで一般的に扱えるリニア PCMデータ(WAV/flac/AIFF/alac)とMP3/WMAなどの一般的な

圧縮形式の音声データは扱うことができます。DIFFなどはいったんリニア PCMデータとして変換しないと扱え

ません。

それでは具体的な設計、設定の手順を見ていきます。

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まず Windows7(Windows8でも動作するはずですが、試しておりません)の PCに必要なソフトを

インストールします。

スピーカーユニットの選定必要帯域が再生でき、好みの音質のスピーカーユニットを決めます。カタログやWebサイトではある程度のデー

タは分かりますが自分の好みかどうかの判定はやはり聞かないと無理です。こんなことを言うとスピーカーメー

カーあるいは大手オーディオメーカーに怒られますが、スピーカーシステムの音質は同じ箱であれば当然、ス

ピーカーユニットが支配的です。ハイエンドの中には箱を異常に手をかけた=箱が金属の削り出しとか高価な=ものがありますが、意外にも少し高いが特性/音質の良いスピーカーユニットを使ったほうが箱に無駄に凝るより良

い音質が得られる場合もあるくらいです。

スピーカーはハイエンドを展示会やハイエンドショップで聞いてみてください

私はオーディオ商売に入る前、感心したスピーカーが 20年ほど前にありました。ARTEMISの EOSと Avalonの初期モデルです。スピーカーの後ろに奥行がありいわゆる音場が広がり当時としては驚くべきクラシックの再

生をしてくれました。いずれも使用しているのと同等のユニットが市販されているのを知り、後にスピーカーユニッ

トの輸入販売を始めたという経緯もあります。

ぜひ臆せずハイエンドのスピーカーシステムをハイエンドショップで聞いてみてください。使われているスピー

カーユニットがわからなくても、私どもでしたらある程度同等以上のものを推奨できます。

なにしろハイエンドのスピーカーシステムではスピーカーユニットの価格は全体の 5%~20%くらいです。最近話

題のハイエンドスピーカーの Tidal Contriva Diacera(定価 620万円~)でも 30mmのダイアモンド TWが 100万円ほどするのでユニットの単価の合計は 150万円ほどです。これはユニットの価格割合としてはかなり高い部

類に入ります。それでもうまくいけば 600万円のスピーカーが 200万円くらいで作れ、さらにそれをマルチアンプで駆動するシステムとして構成できます。ハイエンドと同等のスピーカーユニット単体で音質の核となるものを

使い、自作の箱またはキットベースの箱でも好みのハイエンドに近い、あるいはご自身の好みによった質が得ら

れます。

低価格デジタルアンプで本当にドライブできるのか

今回のような小型のミッドレンジとサブウーファでは能率とアンプのゲイン、出力から 6~8 畳の家庭用を想定し

ています。

ホールで鳴らすのは難しいです。サブウーファ領域を含めて出力が 20Wですので基本的には家庭用に限定し

て考えています。もし大ホールや少し大きなホームシアターでしたら、パワーアンプのゲイン(+30dB くらい)と出力(50W以上)と少し大きめのものにするのが良いでしょう。サブウーファアンプの利用(50W~1000Wまで 3~

10万円/ベアなどいろいろ売られています)やサブウーファだけたとえば FOSTEXのCW-200やCW-250の併

用も面白いと思います。自作者でしたら LM3886(ジェフのアンプで使われていたもの)の ICアンプを作ってもよいでしょう。お奨めは別府さんの最近上梓したCQ出版のムック本に出ていたアンプのうち、竹コースに

MUSES 02を使ったものなどです。ただこれでもすぐ数万円 upするので今回はミニマリズムで最低限我慢でき

る部品で構成することにしました。6~8 畳の部屋であれば本書に出てきた低価格のデジタルアンプで十分な質

と音量で音楽再生できます。実はデジタルアンプもいくつか試しましたが結果が良かったものを選んでいます。

ただし価格は電源別で 3000円/2chで 20W/chというとんでもない低価格のものです。しかも PCIのカードの形状をしています。+12V 単電源で動作する今は亡き?トライパスの TA2021Bというチップを中心に構成されたも

ので出力の高周波フィルターが空芯コイルで構成されたものです。絶対にこれというわけではないですが高周

波カットのフィルターはデジタルアンプの要のひとつで TA2020など仕様のもののほとんどはコア入りコイルでの

フィルターが多く弦などがあまり好みの音質ではないためこの選択となりました。

本当にオンボードのサウンドチップで音質はマシなのか

-電源/CPU/システムディスクなどが重要

これは昔から PCを使っている方には懐疑的になる疑念です。私もそうでした。しかし、最近の低消費電力の高

速 CPUを LGA1155か LGA1150のマザーに載せ、十分な電力余裕を持った ATX電源(できればファンレス)

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を使い、SSDをシステム用に使えば電源経由で重畳するノイズはオンボードのサウンドチップでもクラシックの

オーケストラで弦の弾いている押しているか弾いているか判別できるくらいバックグラウンドノイズが下がります。

ほぼファンレスの状態にしてあります。

今回テストしたのは Intelのマザーボードとその上のRealTek ALC662のものと ASUS Tekのマザーボードに

ALC892を搭載したものです。それにできるだけ CPUは低消費電力で速いもの、メモリは 32bit OSでしたら4GB Max、64bit OSでしたら 8GB くらいはWindows7/8では搭載したものが良いでしょう。

こうした配慮をすることでオンボードサウンドチップでも非常に質が上がります。たぶん私が聞いているようにオン

ボードサウンドチップにヘッドホンアンプを追加した状態でヘッドホンを聞くときっとこれがオンボード?!と驚かれ

ると思います。

さらに現在は電源経由のノイズを小さくできるようにスイッチング電源ではなくアナログ電源で動作させる実験も

しています。こうなるとさらにオンボードサウンドチップと高級 DACの差は小さくなります。

もちろん全てDACもアンプも最高級に近い構成でやったほうがもちろん音質は向上します。ただし、それをやる

と 1000万円近く費やさないと効果は限定的、あるいは判別できないレベルと言えます。今回のシステムを開発

して友人に聞かせたところまぁ 300万円くらいのオーディオシステムの音はしているのではと言われました。今の

構成ではそれに対してコストはほぼ 1/8~1/10です。つまり IT技術がオーディオの質も変える可能性があるということなのです。

既にアンプやDACをお持ちの方はDAC/アンプは好みのもの、手持ちのものを利用したシステムがバランスとし

ては好ましいと思います。オンボードのものはどうしても嫌だという方には次の選択肢はUSBのマルチチャンネルDAC、最低価格のものはクリエイティブの X-fi Surround 5.1で実売価格が 6000円ほどです。PCI/PCI-eの7.1chのカードでよいものでも 3万円以下です。さらに高性能なものでは cost no object(価格度外視)のシステムの場合にはマルチチャンネルで AES/EBU出力を持つ Lynx Studioの AES-16eなどを利用して S/PDIF出力を 2chx2または 2ch x3出力させてDACに出力させることもできます。ハイサンプリングの生録の再生モニ

ターで使われています。文末に利用例を追加しています。この場合には PCをソースに使いますが価格もDAC/アンプも性能も本当のハイエンドの構成となり価格も 300万円を超えます。

必要な知識とユニット使用上の注意(ホーン、低域カット)

ここに書いたようなアプローチであればそれほど専門的な知識なしでもある程度のスピーカーユニットに対して

対応できると思います。また高能率のホーン(コンプレッション)ロードドライバを利用している方はぜひアンプの

後ろに 10dB 程度の抵抗アッテネータを入れ、さらにカットオフ付近でカットされるキャパシタ(コンデンサ)を入れないと壊す可能性があるのでご注意ください。またツイーターはダイナミックダイレクトドライバ(通常のユーロユニットなど)はクロスオーバー周波数より 1オクターブ以上低い周波数で-3dB となる程度のキャパシタ(コンデンサ)をDCまたはポップノイズ、ハムノイズなどの影響を受けにくいように入れたほうがトラブルが未然に防げます。

こうしたことを理解するにはある程度工学的な知識があったほうがシステム全体の設定は楽に理解できます。クロ

スオーバーより 1オクターブ低くするのはクロス付近でのリニアフェーズ=位相が回転しないことを保証するため

です。

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スピーカーシステムの設計・構成

ユニットが好きなものに決まったら、次に最初に低域のウーファの担当する低域の上限はサブウーファ的に

200Hz以下に設定するか(2way+サブ)あるいは 3wayで各帯域に振り分けるかを検討します。

サブウーファタイプでは 200Hz以下が担当帯域であり、2wayは小型の 2wayのネットワーク付そのままでも利

用できる。ただしサブウーファに使うものは通常同一口径のものと比してコーンを重く設計されているため、アン

プ側にかなりな負荷がかかります。たとえば私どもで試した例では 2wayのスピーカーシステム(14cmウーファ+ハイルドライバ類似のプリーツリボンツイーター)に小型のサブウーファ(18cmサブウーファ専用ユニット利用、下

図)でしたがこれで使ったサブウーファは少し能率が低かったのですが、合わせることはできました。展示会にも

2way+サブの展示を行いました。

今回のスピーカーシステム構成と実測データ

今回は

・新しい構成のスピーカーシステムを利用する。

・もっとも効果が高い 2wayスピーカー+500Hz以下の低域ウーファの構成

2wayスピーカーといっても使うスピーカーは市販のものではないので、各ユニットの特性を図ってしかもネット

ワークを作る必要があります。これだけでも結構な工数です。幸いに今回は手持ちの 2way用の別のスピーカー用に作られた割と質の良いネットワークがあったのでこれを流用しました。まずこのネットワークを使って小型のあ

まり低域の出ない 2wayで質の良いものを作ります。その後でウーファをクロスを変えながら調整してマルチアン

プの構成にしました。

選んだスピーカーも大変特徴のあるユニットを選んでみました。つまり小型ミッドレンジ的ウーファ+ツイーターの2way 小型スピーカー+ウーファという構成です。

ミッドレンジ: できれば FOSTEX FE83En とかフルレンジファンにおなじみのものを使いたかったのですが、注文

したが間に合いませんでした。そこで少しばかり珍しいHivi Research社のメタルコーンミッドバス(小型ウーファ)のHivi B4Nというのを使ってみました。箱は手持ちのものですので自作感満載です(笑)。論理実験から商品化

への実験ですのでご容赦ください。

小型 2wayウーファ(実際はミッド)HiVi Research B4N 仕様:継続入力 (RMS) 25 W/ 最大入力 (max) 50 W 公称インピーダンス 8Ω/周波数特性 50 ~ 3,000 Hz 能率: 85 dB 2.83V/1m / ボイスコイル径: 25.4mm THIELE-SMALL パラメータ最低共振周波数 (Fs) 56 Hz/ DC 抵抗(Re) 6.5Ω メカニカルQ (Qms) 3.91/電気的Q(Qes) 0.63/ トータルQ (Qts) 0.52 / 等価容積(Vas) 4.5 l / サスペンションメカニカルコンプライアンス

1.11mm/N / BL 積 5.1Tm / 等価質量 6.8g / リニアピストン最大範囲

3.2mm / 振動板面積 53 cm² 材質: アルミ/マグネシウムコーン/ ボイスコイルボビン カプトン/ポリイミ

ド /磁気回路:フェライト

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ツイーターは Dayton AMT1-4

ツイーターは珍しいだけでなく価格(24000円/本くらい)の割にはハイエンドの質を発揮するものです。メーカー

ではハイルドライバーの思想を受け継いだとのコメントのあるドイツMundorff 製の振動系を生かした Air MotionツイーターDayton AMT1-4を使いました。

Dayton AMT1-4の仕様:入力: 30W rms/最大 60Wクロスオーバー2500Hz/12dB/octのネットワーク利用の時 / 公称

インピーダンス 4Ω/ 周波数特性 2500~30KHz / 能率 95dB at 1W/1m 外径 96mm 他右図参照

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まず 2wayをネットワーク付で構成

今回の主題はこの部分ではないので軽く触れます。測定で調整した結果がこのデータです。歪率中心に ARTA Labで測りましたがまずまずの結果です。

Hivi B4N と Dayton AMT1-4のネットワークによる 2wayの周波数特性と歪率特性(Swept Sine by ARTA 96KHz/24bit)

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このグラフを見る限りでは 100Hz~20KHz±3dB、200Hz以上のクロス、できれば 400Hz以上のクロスであれば

歪も 1%以下と少ない再生ができそうです。興味がある方はネットワークも公開しますが、ある程度測定をすれば

この程度には追い込めます。ウーファのクロスは 2KHz 付近、ツイーターのクロスは 3KHz 付近と少し離した状態

になっていますがトータルではまずまずの特性です。

また 1.5KHz~3KHzの落ち込みは foobar2000 側でGraphic EQで補正します。

ウーファは?下の SW182BD01-04↓でもいいのですが、3wayでたとえば 20~20KHzをほぼ均等に担当(3オクターブ程度)させようとしたときは全体の再生帯域が 30~20KHzのとき、ウーファが 30Hz~400Hz、ミッドレンジが 400Hz~

2.5KHz、ツイーターが 2.5KHz~20KHzを担当というように設定できます。この使い方には SW182BD01-04は高域の特性があまり良くないのでサブウーファ的な 200Hz以下のクロスにしか向きません。実験ではもっと広い

ものがあったほうが良いかもしれません。

そこで手持ちのウーファと箱の中から少し無理がありますが Audio Technology 6B77SD を使いました。価格はかなり高めの AudioTechnologyの 6B77(2本で 14万円+)を 14 リットルのバスレフに入れたものを利用します。

仕様のデータとしては少し違いますがほぼ似た 6H52のものを掲載しています。

これとツィータだけで本当は 2wayでもできるのですが、実験でミッドとの確かめる範囲が広いことを優先したた

めの選択です。なぜ 3wayにするのかというとやはりユニットが優秀でも再生周波数範囲が 5オクターブとかに

なると下の周波数が上の周波数を変調(モジュレーション)することで音程が狂ったような混変調歪を生じます。こ

れを避けたいためです。Audio Technology 6B77ウーファの仕様(一部 6H52より代用) 振動板面積(Sd): 174cm² / 公称インピーダンス

(Z): 8Ω/ 最低共振週数(fs) 32Hz / 等価容積 65 l / 機械的Q(Qms): 1.76 / 電気的Q(Qes): 0.33 / トータルQ(Qts): 0.28 / 最大入力 160W / 周波数特性 38~3800Hz/ 直流抵抗(DC/Re): 5.5Ω/ 公称能率 90 dB SPL /ボイスコイル径 77mm

14 リットルに入れた 6B77の実測特性

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これも 150Hz以下(100Hz +2~+3dB くらい、40Hzまでを+6dB くらい)を foobar2000のGraphics EQでブー

ストしてさらに 300Hz くらいでのデジタルチャンデバでのクロスとすればほぼフラットで質の良い(歪の少ない)音質となりそうです。ミッドレンジとの能率差はクロスの周波数により違いますがどうも 3~6dB くらいこちらのほうが高そうです。これはチャンデバのレベル調整で行います。

[参考:別の 3way / 予定としては下のものを試す予定でしたが…]

今回はフルレンジを使っている方がそのまま 2way/3wayに発展する想定として次のような内容にしました。ウー

ファは最低域は 35Hz くらいまで再生できるWaveCorの SW182BD01の 18cmサブウーファ上限は 200Hzが良いところです。これにフルレンジの 8cmスピーカーをミッドレンジとして組み合わせます。ツイーターはちょっと

おごって Scan-Speakのリングドームの高級機R2904-7000-00にしてみました。アンバランスに見えますがひ

とつのチャレンジとして試してみたいと思いこのような構成にしてみました。

今回のシステムの設計(上の 2wayは LCRネットワークで検討してみると…)

今回はフルレンジと書いたものに FOSTEXのフルレンジ

の小型ユニット 8cmの FE83Enを 3way構成のミッドレン

ジに使ってみようという企画です。簡単にするためミッドレ

ンジとツイーターはネットワークでの接続です。このネット

ワークの設計は例えば下のURLにある 2nd Linkwitz-Rileyのフィルター計算をそのまま用いてテストをはじめて

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も良いです。http://www.carstereo.com/help/Articles.cfm?id=14たとえば、FOSTEXの FE83Enを 8Ω、Scan-Speakの R2904-7000-00を 4Ωとして計算させると下のようになりま

す。

これだけではフラットに近いネットワークはで

きません。能率の差があるからです。

これはある程度カタログで見当がつきます。

F OSTEXの FE83Enのグラフは下のようです。

平均的にはバッフルが今回は P800Eを使う予定ですので中低域が低下し実態の能率

は 85dB SPL at 2.83V というところでしょう。

ツイーターはそれに対して下のグラフです。3KHz以上では 92dB SPL at 2.83Vという感じでしょうか?ざっと計算

するとツイーターのほうを抵抗で 5~8dB 程度、減衰(アッテネート)させることになりそうです。このあたりは測定して調べる必要がありそうです。また FOSTEX 側にはインピーダンス補正(Zobel)素子が必要です。Le=0.0267mH Re=7.5Ωとして 0.47uFと 8Ωの直列素子をユニットに並列に入れればよいでしょう。

FOSTEX FE83En の特性(参考)

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下は Scan-Speaj R2904/700-00の特性(参考)

かりに-6dBだと 2Ω直列、4Ω並列です。インピーダンスを少し変えてやればネットワークは実測しながら決めて

いけばなんとかできるかもしれません。

ここまで作って測定してみます。最後の詰めはツイーターのアッテネータの抵抗と直列のキャパシタ、ミッドレン

ジの並列キャパシタなどで調整します。

さてここまでで FOSTEXの FE83En と Scan-Speak R2904/7000-00という何とも珍妙な 2wayスピーカーシステムもできました。これを測定しながら調整します。これにはARTA Labという測定ソフトを利用します。このソフトは192KHz24bitでもA/Dコンバータ、D/Aコンバータの性能に応じて測定することが可能です。早速計測してみる

と低域のバッフル効果がないせいで中低域は低下しています。これは Edge.exe というソフトでもある程度

simulationしてみることができます。[注 5]また室内での疑似無響室測定(Pseudo An-Echoic environment measurement)で使われるM 系列のデータを用いた測定ができ、インピーダンスも簡単なジグを追加するだけで

できる優れものです。

[注 5]edge.exeは以下からダウンロードする。 http://www.tolvan.com/edge/help.htmバッフルとスピーカーユニットによりバッフル回折効果を数値化して図示します。

全て無償のソフトでやりたい向きは Speaker Workshopでも 44.1KHzベースのMLS疑似無響室測定ができます。疑似無響室測定でユニットの間のクロスと能率差を確認します。これをメモしておき、後に foobar2000 内のコン

ポーネントとして位置付けられたデジタル・チャンデバのレベル差を設定します。またできればユニット間の遅延

もある程度 MLSの測定時の遅延時間から見当が付けられます。

また上のバッフル回折効果やサブウーファの低域低下に対して補正するためにグラフィックイコライザを用いる

可能性もあります。

PCのオンボードサウンドの設定

オンボードサウンドチップで 5.1ch7.1chの出力がそのまま出ているものは良いのですが、今回のデモに使用した

Intel DQ77MKのALC662は PCのパネルに通常ではライン出力(水色 Blue)、ライン出力またはヘッドホン出力

(薄緑、Green)、そしてマイク入力(ピンク Redまたは Pink)とされた 3種のミニステレオジャックしかありません。

ここでは[コントロールパネル]→[サウンド]→[RealTek HD Sound]→[構成ボタン]→スピーカー構成を 4chにする

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ことで 2wayの設定、5.1chを設定することで 3wayの対応となります。比較的低価格で 96KHz24bitまでのソースを 2ch~6chまでそのまま再生できるのがALC662の特徴です。4chに設定されるとライン入力(Blue)がサラウンド出力となります。下図のような設定です。

これでテストボタンをすべてのスピーカーから正しく音が出るのを確かめます。低域や大入力が入ると破壊される

可能性のあるホーンドライバやツイーターなどは保護用のキャパシタや抵抗などを入れてからにしてください。

私も壊した苦い経験があります

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foobar2000での設定ダウンロードした foo_dsp_channel_F2.dllなどを foobar2000の実行プログラムが入っているディレクトリ直下の

componentsディレクトリに入れます。そして起動して[Preference]→[Playback]→[DSP Manager]でAvailable DSPsから左側のActive DSPsに移します。そして channeldividerF2Bを選んで Configure Selectedをたたくと下

図の左側のメニューが出てきます。

これはバッフル回折低下分補正機能の付いた 2way用のリニアフェーズチャンネルデバイダーです。同様に

channeldividerF(2way用バッフル回折補正なし)、channeldividerF3(回折補正なしの 3way用)、channeldividerF3B(バッフル回折補正機能付き、リニアフェーズ 3way用)を選んで使います。

緑のジャックの出力を低域用ウーファ用アンプの入力に接続、青の端子の出力を中高域のアンプの入力に接続

しさらにスピーカーに接続できれば準備完了です。

foobar2000で曲をAdd folderなどであらかじめ入っているアルバムなどを指定します。

再生時はこれで[Preference]→[PlayBack]→[OUTPUT]でWASAPI :RealTek HD Audio Output スピーカーを選

べばばっちり出ます。

これで再生のファイルを指定すればもうマルチアンプシステムは動作し始めます。

ちなみに 3wayバッフル回折補正付の設定画面は次のようになります。

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たとえば、SW182BD01-04を 300Hzまで FOSTEX FE83Enは 300Hzから 3KHzまでを担当させるときは下のよ

うな感じになります。遅延もレベル設定もしています。

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最終調整

最終調整は測定システムを使って遅延、レベル調整、バッフル回折補正などを実施します。

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3チャンネルマルチシステムの音量調節にMVRを採用して

1 デジタル式マルチチャンネルシステムの薦め

LCネットワークを使用した 2WAYの自作 SPシステム(Scan-Speak 18W8545、Dynaudio T330D)を使用していましたが、ボーカル再生の向上を目的に 3WAY化(Scan-Speak 18W8545 , Dynaudio M-560D , Accuton D20-6-031)を図りました。ユニットの入れ替えも行い、再生音はそれなりに充実しました。

ところがある日、イーディオさんの所でお仲間でminnさんが作成された foobar用のデジタル式のチャンネルデ

バイダーのプラグインを使用して、ローランドの多チャンネルDAC(Edirol UA-1000)、マランツの普及品のAVアンプ(Marantz PS-4500)で、一般的なユニット(Scan-Speak 18W8546 18cm ケブラーコーン/Vifa MD10MD39-08 10cm ミッド/Vifa XT25TG30-04 25mm リングドーム)で構成された 3WAYのシステムを聞かせてもらいました。

音のクォリティ自体は、私の家のシステムの方が上でしたが、低中音域のすっきり感に驚きました。私の家のシス

テムは、秋月のインダクタンス計キットを作って、ウーファ用のコイルを太い銅線で巻いたものに変えるなどしてい

ましたが、インダクタンスが大きくなる低域では、低音帯域の音の切れが悪く、中音域にかけて紙のコーンが鳴っ

ている感じが付きまとうことが気になっていました。

そこで、ローランドのUA-101(USB入力対応 6チャネルDACとして)、マランツの下から 2番目のAVアンプ(型式 PS-5400、デジタル回路が別トランスということで選択)を購入して、マルチ化しました。それまでは、多トラ

ンスの別府式のDAC/パワーアンプを使用していたので、音のクォリティーは比較になりませんが、やはり低音

域から中低域にかけてのすっきり感は変え難いものでした。マルチチャンネル方式の採用を決定しました。

[図 1:FIRフィルタープラグインを利用したときのフィルターの減衰率特性]

(デジタル・チャンネルデバイダーを用いたマルチチャンネル方式のメリット)

・minnさん作成のプラグインソフトによる急峻な遮断特性およびインダクターをなくすことによる低中域のすっきり

感。

・前頁の図のように simulationによる計算結果例で 2000Hzで 501タップの例でカットオフ特性が 100dB/oct以上と急峻であること。

それに加え、周波数を任意に、かつリアルタイムで変えられるので、音を聞きながら各ユニットの最適カットオフ

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周波数を決められること。私の家のシステムでは LCネットワークに比較し、カットオフ周波数を中音域では上に

(600Hzから 850Hzに変更)、高音域では下(5KHzから 3200Hzに変更)にずらした方が良好であることが判明。

これは音質が良いユニットに音質が劣化する限界ぎりぎりの周波数レンジまで担当させられる点でも大きい。

・最新のプラグインでは、箱のサイズによる回折効果から低域が減衰する現象を、補正することが可能なので、

低域の再生能力の改善ができる。(バッフル効果の補正 は bタイプのフィルターで実装しています)以下のよう

に上の特性と比べて 800Hz~200Hzにかけてブーストするなどの操作が可能です。

[図 2:図 1の状態にバッフルステップ補正を追加して中低域ブーストした特性]

・アンプ出力が同じでも、大入力の入る低域アンプに高域が重畳しないので、高域のクリップが発生しづらくなり、

結果的に帯域別にすることでアンプの出力がアップするのと同じ効果が得られます。

・プラグインでは、チャンネルの再生音を連続的ではありませんが 1サンプル分づつ遅延させることが出来るので、各ユニットから出る音の波面を揃える方向に遅延距離を設定することができます。この機能を利用することに

より、各ユニットを同一バッフルに取り付けても、ユニウェーブ SP的な効果(各周波数の遅延が一定に揃った、い

わゆるリニアフェーズのスピーカー)を得ることができます。

(同上デメリット)

・再生システム全体が大掛かりになること。システム全体の再生音のクォリティを上げるにはDAC、アンプなどにコストが掛かること。

システムが大掛かりになる点に関しては、最近のAVアンプはHDMI端子が備えられているので、AVアンプ内

部のDACを利用して、PCとHDMI ケーブル 1本で接続することにより、簡単に 2チャンネルまたは 3チャンネルのマルチシステムを構成できます。

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[PCとAVアンプをHDMIで接続したマルチアンプシステム]

少し前、知人から PCオーディオによるステレオシステムの立上げを依頼されました。カットオフが 3000Hzの2WAYだったので、簡単なネットワーク方式を薦めたのですが、マルチチャンネル方式の希望があったので、AVアンプを購入してもらい、HDMI ケーブルで接続する 2チャンネルマルチシステムとしました。結果としては、大成功でした。カットオフ周波数と遅延設定は PCで、高音チャンネルのレベル設定はAVアンプで行うことにより、ネットワーク方式よりも簡単に、最適な状態に設定することが出来ました。小生はマルチチャンネルシステムは 3チャンネルからという思い込みがあったのですが、2チャンネルでもこのような構成にすると、簡単にまとめられる

ことが分かりました。

2 マルチチャンネルボリューム

AVアンプでしばらく聞いていたのですが、再生帯域などはそれほど気にならなかったものの、別府アンプを聞き

なれていた耳には、音の分離や定位感、空間再現能力などの点が気になって来て、低域だけ以前の別府アン

プで鳴らすことにしました。(アンプの入力感度は大きく違わなかったのですが、チャンネル間のレベル調整は

AVアンプの場合は簡単に設定できます。)

結果としては、エネルギー的に相当部分を受け持つ低域用アンプの改善は、再生音質の向上に大きく貢献しま

した。この結果に気をよくして、一寸、手を抜いた別府式アンプ(トランスの数を 16から半減、木製ケースに 2台分)を組み立て、パワーアンプはAVアンプから完全に独立させました。(AVアンプはプリ・インとプリ・アウトを利用し、コントロールアンプとして使用)

Avアンプの 5.1chまたは7.1chの出力を各帯域ごと

のスピーカユニットに接続し

て周波数帯域で分割した出

力を与える ( 例 : Front =ウーファ、サラウンド

=Tweeter 、センター /LFEまたはサイドの出力はミッド

など )

HDMI ケーブル

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次のステップとして、DACをローランドの多チャンネルのものに替えて、イーディオさんからMSBの Platinum DACの第 1世代 1台と第 2世代 2台と、AES/EBU出力が得られる LynxのボードをセットしたHPの PCを入手しました。各チャンネル独立DACに変更した時点で、さらにエネルギー感の向上などが実現できましたが、シス

テム全体のバランスから見て、AVアンプによる音量調節部分が気になってきました。LCネットワーク時代に使用していたセイデンのロータリースイッチを利用したボリュームがあったので、あと 2チャンネル分を追加製作し

て、モータで同期回転させる案などを検討しましたが、制御・機構部分に関する技術不足とコストの点で断念し

ました。このような用途に使えるボリュームの市販品はないようで、デジタルボリューム ICを利用した自作品の情

報はネット上にありましたが、如何せん技術がありません。

そうこうしている内に、アメリカMSB社のサイトで、MVC-1という 8チャンネルのデジタルボリュームを見つけ、

ディスカウントで売られていたので早速購入しました。(イーディオ注:これも少しですが在庫がありますので安価

に販売できます)AVアンプと入れ替えましたが、当初は大きな差はありませんでした。付属していた電源アダプ

ターは、台湾製で外見はスイッチング風にも拘らず、かなり重いものです。感心しない音の原因は付属電源では

ないかと考え、供給電圧とDINタイプのコネクターのピン配置を確認して、しっかりしたトランス式の電源を自作

し、つなぎ替えましたところ、かなりの改善が認められました。1から自作することを考えれば、かなり安価に手に

入りましたが、ケースの蓋を開けて見ると電解コンデンサーなどの部品は一般的なものです。出力バッファーの

ICはリニアテクノロジーのもので、ネット上では音が良いという情報がありました。部品をオーディオ用のものに入

れ替える検討もしてみたのですが、バランスが崩れてしまう懸念があり、諦めました。

ウーファをAudiotechnologyの 23I52に変更し、絶縁トランスの導入などにより、システム全体としてはかなり良く

なってきたのですが、このボリューム部分については何とか改善したいと考えていました。

3 MVRの導入使わなくなった別府 DACを使用した 2WAYネットワーク方式によるサブシステム(Audiotechnology 15H52 , Accuton D20-6-031)があります。これには前記のアッテネータ式のボリュームを使用していましたが、少しゲイン

の不足を感じていました。

イーディオさんの掲示板を時々覗いているのですが、昨年、MUSEの新しいボリューム用 ICを使用した電子ボ

リュームの発表記事を見つけました。これは、オペアンプに高音質のMUSEの ICを使用、+8dBのゲインを持ち、

通常時は制御用のクロックが停止する特長を有するものなので、早速注文しました。セイデンのロータリースイッ

チを使用した自作ボリュームと、サイズはほとんど変わらなかったので、入れ替えて使ったところ、やわらかくて静

かな音に感心しました。アナログ式ボリュームよりも刺激が少ない音です。また、レベル調整のスムーズなこと、設

定レベルの保持機能など使い勝手も優れていました。欠点は電源を必要とすることくらいです。

期待以上の性能だったので、このボリュームを利用した 3チャンネルのボリュームが出来ないかとイーディオさん

に相談したところ、市場ニーズなどを検討してみるということになり、別府さんによる開発がスタートしました。お願

いしたのは、リモートコントロールが効くこと、チャンネル間のレベル調整が可能なこと、出来上がりの寸法の 3点でした。

開発にはいろいろご苦労があったようですが、2月に試作品が完成しました。早速 MSBのものと入れ替えて試

聴いたしました。

(MSBのMVC-1に比較したMVRの効果)

・音質の変化:静かで、かつ明確な音に変化しました。

・定位感の向上:音像が小さくなった。特にワンポイント録音の生録のソースで違いが感じられます。また、CDソースにおいても、左右方向だけではなく、少し上下方向にも広がって感じられた音が、左右の SP間に降りてきたように聞こえます。

・微小音の再現性の向上:直接音以外のホールの残響やボーカルのエコー(人工的なもの)がヘッドフォーンで

聞いているように、良く聞こえるようになりました。

・ノイズ感の減少:コントロール用のクロックが、レベル変更操作終了とともに停止するので、わずかに感じられて

いたザラっとした感じが少なくなりました。

・チャンネル間のトリム調整:0.5dBステップで可能となり、デジタル表示で操作しやすいことから、最適と思われ

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るポイントに追い込むことがしやすくなった。結果的にはMSBの時と若干、異なる設定値(今のところ中音・高音

ともに-1.5dB)となりました。

以上は導入時点での印象ですが、エージング効果なのか不明ではあるものの、1ヶ月ほど使用している内に気

づいた点を追記します。

・再生帯域としては、上下に伸びたという印象は最初は余り感じられなかったが、聞き込むと床などを伝わってく

る低音のエネルギー感が強くなったように感じます。

・ピアノの音の立ち上がりが良くなりました。人の声とともにピアノの再生は難しいので、この点は貴重な改善点で

す。

4 MVRの総合評価・ボリュームはシステム全体の中でも、音質向上を図る上で手を抜けない部分。マルチチャンネルシステム対応

の製品は、市販品にはほとんどない中で、オーダーメードに近い状態とは言え、商品として入手できるのは貴重

です。

・値段はそれなりに高いが、ハイエンドの音質を得るには検討対象から外せない商品と考えます。

・左右・プラスマイナス独立のトランス、圧着端子式の電解コンデンサーや SBDを使用した電源により、別府アン

プの特長である空間再現性の良い音が得られる。耳障りのする音がせず、エネルギー感のある音が聞こえます。

          写真: 3チャンネルマルチシステム外観

 中央の台の下から低域アンプ、中高域アンプ、MVR 試作機。その上の段はMSBの Platinum DAC3台。ディスプレイの右側はタキオンさんのルビジュームクロックキット。SPの各ユニットには重りが付いています。右下に少

し見えるのは絶縁トランス。PCと低域アンプの電源供給部の一部は裏側にあります。(音は良いのですが、見場

が悪い点はご容赦ください。)