9
1346-8375/03/400/ /JCLS ヒト とと いる A man is as old as his arteries.から る- って にさまざま る。まさにヒト いてゆく。 に各 わり し,多く 患を させ,し う。こういった ほぼ あるが, 2態がある。 ける くが, 確に atherosclerosis あり, こる粥 atherosis こる sclerosis を意 している。 ,粥 がみられ, plaque ruptureをきっかけに ずる させるこ されて以 して, するatherosisされている。一 ずる変 あるい コンプライ アンス して められるが,こ コンプ ライアンス 態あるい にさまざまに影 するため ある。 コンプライアンス いくつかあるが, ,そ めてい PWV)について概 する。 太い 大腿 3 がある。いずれ 3 から るが,そ により異 る。 )から る。 され, 維(エラスチン), 維(コラーゲ ン) される。 ,エラスチン, コラーゲン されているが,そこに ,栄 する。 大き 違い 1 はじめに 動脈系の構造 ヒトは血管とともに老いる A man is as old as his arteries. -脈波速度から血管の老化を診る- 山科 東京医科大学第二内科 The 7th Asia/Oceania Regional Congress of Gerontology Luncheon SeminarA man is as old as his arteries」講演 要旨に大 エラスチン ,コラーゲン により いコンプライアンスが する。 コンプラ イアンスが する Windkessel り, ,拡 をきたし 圧を させる。 し,さら させる。 (コンプライアンス) させ, をより させる。 において するよう ,拡 による冠 をきたし, させる。こういった にさまざま 因を えて し, 患が する。したがって, あるい する ある。そ 一つ して されている。 この論文は、「Arterial Stiffness」WEBサイトに掲載されています。その他の論文はこちら Click "Arterial Stiffness" web site for more articles.

Luncheon Seminar A man is as old as his arteries ヒトは トは血管とともに老いるA man is as old as his arteries.-脈波速度から血管の老化を診る- エラスチンにかかり動脈壁は進展しやすいが,平滑

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1346-8375/03/¥400/論文/JCLS ヒトは血管とともに老いる A man is as old as his arteries.-脈波速度から血管の老化を診る-

加齢に伴って動脈構造にさまざまな変化を生ず

る。まさにヒトは血管とともに老いてゆく。血管

障害は加齢変化に各種の動脈障害因子が加わり進

展し,多くの心血管疾患を発症させ,しばしば命

を奪う。こういった血管障害は動脈硬化とほぼ同

義であるが,動脈硬化には2つの病態がある。動脈

硬化は日本語では動脈が硬く化けると書くが,正

確にはatherosclerosisであり,内膜に起こる粥腫形

成atherosisと中膜を中心に起こる壁硬化sclerosisの

両者を意味している。内膜には脂肪斑,粥腫,石

灰化,潰瘍形成,血栓付着がみられ,p l a q u e

ruptureをきっかけに生ずる血栓性閉塞が急性冠症

候群などを発症させることが紹介されて以来,心

血管疾患発症の重要な病態として,内膜を主病変

とするatherosisが注目されている。一方,中膜に

生ずる変化は動脈壁硬化あるいは動脈コンプライ

アンス低下として認められるが,この動脈コンプ

ライアンス低下も血行動態あるいは動脈硬化の進

行にさまざまに影響するため臨床的に重要である。

動脈コンプライアンスの指標はいくつかあるが,

本講演では,そのなかで最近再び注目を集めてい

る脈波速度(PWV)について概説する。

動脈には大動脈や肺動脈などの太い弾性動脈,

大腿動脈や撓骨動脈などの中等大の筋型動脈と,

抵抗血管となる細動脈の3種類がある。いずれも,

内膜,中膜,外膜の3層構造からなるが,その構造,

組成は動脈により異なる。内膜は一層の上皮性細

胞とその内皮下組織の基底板(膜)からなる。中膜

は内側を内弾性板,外側を外弾性板で境され,弾

性線維(エラスチン),平滑筋,膠原線維(コラーゲ

ン)で構成される。外膜は線維芽細胞,エラスチン,

コラーゲンで構成されているが,そこには血管運

動神経,知覚神経,栄養血管が存在する。

弾性動脈と筋型動脈の大きな違いは,図1のごと

はじめに

動脈系の構造

ヒトは血管とともに老いるA man is as old as his arteries.-脈波速度から血管の老化を診る-

山科 章 東京医科大学第二内科

The 7th Asia/Oceania Regional Congress of Gerontology「Luncheon Seminar:A man is as old as his arteries」講演

要旨:

加齢とともに大動脈などの弾性動脈ではエラスチンの減少,コラーゲンの増加な

どにより動脈壁は硬くなり弾性を失いコンプライアンスが低下する。動脈コンプラ

イアンスが低下するとWindkessel効果がなくなり,収縮期血圧上昇,拡張期血圧低

下をきたし脈圧を増加させる。脈圧増大は末梢動脈を障害し,さらなる動脈硬化を

進行させる。動脈の衝撃吸収作用(コンプライアンス)低下は脈波速度を促進させ,

反射波をより早期に出現させる。中枢動脈において反射波が収縮期に出現するよう

になると,左室後負荷増加,拡張期圧低下による冠灌流減少をきたし,心機能も低

下させる。こういった血管の老化にさまざまな要因を加えて動脈硬化が進展し,心

血管疾患が発病する。したがって,血管の老化あるいは血管障害を適切に評価する

ことは重要である。その指標の一つとして脈波速度が近年再び注目されている。

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Arterial Stiffness動脈壁の硬化と老化 No.6 2004

く中膜の構造で,弾性動脈はエラスチンと平滑筋が

交互に同心円状に重なる層状構造になっているが,

筋型動脈ではエラスチンは少なく,主に平滑筋によ

り構成されている。細動脈の中膜は数層の平滑筋細

胞と周皮細胞からなり弾性板はない。血管の伸展性

はエラスチン,平滑筋,コラーゲンのもつ物理学的

性質による。エラスチンが多いほど伸展性に富み,

コラーゲンが多いほど伸展性が乏しく,弾性動脈と

筋型動脈の伸展性の違いはエラスチンの量および構

造の違いによる。弾性動脈の伸展性調節については

O'Rourkeの説明が理解しやすい(図2)。平滑筋が弛

緩している場合にはコラーゲンも弛緩しており圧は

図2 弾性動脈壁におけるコラーゲン,エラスチン,平滑筋の関係を表す模式図

内皮細胞内皮細胞

平滑筋平滑筋

神経神経

内膜内膜

中膜中膜

内皮下結合組織内皮下結合組織

内皮下結合組織内皮下結合組織

外膜外膜

基底板基底板

肥満細胞肥満細胞

線維芽細胞線維芽細胞 脈管血管脈管血管

弾性板弾性板 (有窓性の)(有窓性の)

内皮細胞内皮細胞

平滑筋平滑筋

神経神経

内膜内膜

中膜中膜

内弾性板内弾性板

弾性線維弾性線維 外膜外膜

基底板基底板

肥満細胞肥満細胞

線維芽細胞線維芽細胞

内皮細胞

平滑筋

神経

内膜

中膜

内皮下結合組織

内皮下結合組織

外膜

基底板

肥満細胞

線維芽細胞 脈管血管 脈管血管脈管血管 脈管血管

弾性板 (有窓性の)

内皮細胞

平滑筋

神経

内膜

中膜

内弾性板

外弾性板外弾性板 外弾性板

弾性線維 (エラスチン)(エラスチン) (エラスチン)

外膜

基底板

肥満細胞

線維芽細胞

弾性動脈 筋型動脈

図1 動脈壁の構造弾性動脈と筋性動脈の大きな相違は中膜の構造にある。

エラスチン

平滑筋収縮

圧はコラーゲンへ

平滑筋弛緩

圧はエラスチンへ

休止状態

平滑筋

コラーゲン

(Braunwald, ed. Heart disease 6th ed. plate 17. を参考に作図)

(McDonald’s Blood Flow in arteries. 4th ed. p.387. より引用)

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ヒトは血管とともに老いる A man is as old as his arteries.-脈波速度から血管の老化を診る-

エラスチンにかかり動脈壁は進展しやすいが,平滑

筋が収縮しているとコラーゲンが伸展するため,動

脈への圧負荷はコラーゲンにかかり伸展性が低下す

る。このように平滑筋の収縮性がエラスチンとコラ

ーゲンへの負荷を微妙に調節し,動脈全体の伸展性

をコントロールしている。

大動脈などの弾性動脈が心収縮期に拡張し心拡

張期には元に戻ろうとする作用はWindkessel効果

と呼ばれ,心臓の収縮期/拡張期を通じて血液を末

梢に送る要因となり,拡張期圧が比較的高い値に

保たれる理由となっている。

大動脈が伸展性に富む場合は,図3上段のごとく

心臓から駆出された血液の約60%が収縮期に大動

脈に蓄えられ,それが拡張期に末梢に送られる。

しかしながら弾性動脈の中膜に存在するエラスチ

ンは生ゴムと同じで,高い圧(張力)に頻回に曝さ

れると劣化し,その量も減少する。エラスチンに

置き替わるように平滑筋やコラーゲンが増加する

ため,加齢により動脈のしなやかさが失われる。

動脈伸展性あるいは動脈コンプライアンスが低下

すると,前述のWindkessel作用がなくなり,図3下段

のごとく収縮期血圧は上昇,拡張期血圧は低下し,

脈圧は増大する。その結果,中枢側に対しては左

室後負荷による左室肥大,末梢側には脈圧の増大に

よる内皮機能障害を介する動脈障害を引き起こす。

血圧値に影響するもう一つの要素に反射波があ

る。心臓の血液拍出により生じた圧脈波は,末梢

の抵抗にぶつかると中枢に向かって反射するため,

中心動脈の圧波形に影響する。通常は,反射波は

拡張期に出現し冠灌流増加に寄与するが,血管の

伸展性が低下するとPWVは速くなり,反射波の戻

りがより早期となり収縮期血圧に重なる。そうな

ると,図4の高齢者の大動脈圧に示されるように,

ますます収縮期血圧は高くなり,拡張期血圧が低

下する。こういった一連の圧動態の変化は,中枢

側に対しては,左室後負荷あるいは冠灌流の減少

を,末梢側には脈圧増大による内皮機能障害を介

する動脈障害を引き起こすことになる。したがっ

て,動脈硬化あるいはそれに伴う心血管合併症の

進展を防止するためには動脈コンプライアンスを

保つことが重要となる。

前述のように,動脈の伸展性低下とともに収縮期

血圧は上昇し拡張期血圧は低下する。したがって,

脈圧の増大は動脈硬化,特に伸展性障害の重要な所

見である。加齢に伴い収縮期血圧が上昇する一方で,

拡張期血圧は低下していくため脈圧は増大する。脈

図3 大動脈コンプライアンスと血圧の関係の模式図

動脈コンプライアンス正常

動脈コンプライアンス低下

収縮期

60%

50%

40% 60%

50% 50%

拡張期 血圧

収縮期 拡張期 血圧

(London GM. Am Heart J, 1999; 138: 220-4. より引用)

動脈コンプライアンスと脈圧

脈圧と予後

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Arterial Stiffness動脈壁の硬化と老化 No.6 2004

圧が10mmHg増加するごとに心血管疾患による死亡

率が2 0%増加すると報告 1)され,特に脈圧が

65mmmHgを超えると要注意である。図5は脈圧から

みた生存曲線である。平均血圧の低い群(左),高い

群(右)のいずれも,脈圧が大きくなるにつれて予後

が悪いことがわかる。収縮期血圧,拡張期血圧と頸

動脈の内・中膜複合体壁厚(頸動脈IMT)の関係の検

討でも,収縮期血圧が高いほど,拡張期血圧が低い

ほど頸動脈IMTが厚いと報告2)されている。

管の中を脈波が伝播するとき,その管が細いほ

ど,壁が厚いほど,弾性率が高い(伸びにくい)ほ

ど,中の物質の密度が低いほど,速く伝わること

が物理学的に証明されている(Moens-Korteweg式)。

この原理を人体,なかでも動脈波に応用したのが

PWVである。この理論を動脈にあてはめると,内

径が細く,壁が厚く,しかも伸展性に乏しい動脈

ほど脈が速く伝わることになる。また,血圧が高

0

100

95

90

85

80

752

生存率(%)

生存率(%)

4 6

経過(年)

脈圧≦45

p(Cox)=0.0027 p(Cox)=0.0043

経過(年)

8 10 12 14 16 18 20 22 0

100

95

90

85

80

752 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22

年齢(≧55歳),平均血圧<107mmHg 年齢(≧55歳),平均血圧≧107mmHg

45<脈圧≦50 50<脈圧<65 脈圧≧65

図5 脈圧からみた生存曲線

(文献1より引用)

図4 大動脈伸展性と大動脈圧波形との関係を表す模式図

1. 大動脈圧 (mmHg)

130

80

収縮期

拡張期

160

70

160

140

120

100

80

60

5.0 10.0

若年者 高齢者

拡張早期 収縮後期 3. 反射波

4. 大動脈圧  波形

2. PWV (m/sec)

後負荷↑

冠灌流↓

(Smulyan H. Ann Int Med, 2000; 132: 233-7. より引用)

脈波速度(PWV)とその計測法

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ヒトは血管とともに老いる A man is as old as his arteries.-脈波速度から血管の老化を診る-

いと血管壁張力が増し,伸展性(コンプライアンス)

が低下するのでPWVは速くなる。したがって,

PWVは心血管合併症発生リスクを決定する二大要

因である動脈硬化度と血圧の両者を反映する血管

障害の重要な指標となる可能性がある。

PWVは人体のどの部位でも計測できるが,これ

までは頸動脈と大腿動脈の脈波によるcarot id-

femoral法(cfPWV)が主に用いられてきた。cfPWV

は動脈のWindkessel機能の大部分の役割を果たす

大動脈を主な測定部位とするため臨床的意義が最

も高いが,計測するには頸動脈と大腿動脈の2ヵ所

で動脈の拍動が最もよく触れる場所に脈波計を固

定する必要があり煩雑さを伴う。その点,図6のご

とく四肢(両上腕と両足首)に巻いた血圧測定カフ

の容積脈波からPWVを測定する方法(brachial-ankle

法,baPWV法)は簡便であり臨床応用に適している。

大動脈弁口~上腕(Lb),大動脈弁口~足首(La)の

距離は,身長から求める推定式により求め,そう

して求めた(La-Lb)を上腕と足首間の脈波立ち上

がりの時間差(Δt)で除して求めることができる。

baPWVとカテーテル法による大動脈PWVとの相関

はよく,再現性も良好である3)。baPWV法では四肢

血圧も測定するので,足首上腕血圧比(ank le -

brachial pressure index;ABPIないしABI)も同時に

計測できる利便性がある。

筆者らの健診受診者における動脈硬化関連心血

管疾患のない12,517名(平均年齢48歳)の検討では,

baPWVに最も影響する因子は,年齢、血圧,性であ

り 4),年齢が増すほど,収縮期血圧が高いほど

baPWVが高値であった。性差では50歳までは男性

の方が高値であるが,閉経を過ぎる頃から男女差

がなくなっている。PWVに血圧が影響するのは,

血管内圧が高いと血管壁の張力が増すからである。

したがって,単純にPWV値のみで動脈壁自身の硬

化度の指標とはならない。図7は血圧以外の動脈危

険因子のない健診受診者のbaPWVを収縮期血圧と

の関係で表示したノモグラムである 5)。前述の

12,517名全例のbaPWVと上腕動脈で測定した脈圧

と年齢との関係を検討すると,baPWVは20歳から

増加するのに対して,脈圧は60歳代を過ぎて初め

て増加し始めており,PWVが脈圧より鋭敏な指標

であることを示唆している。

大動脈弁口~ 上腕距離(Lb)

大動脈弁口~ 足首距離(La)

左上腕 収縮期血圧

上腕血圧波形

baPWV= (La-Lb)

右上腕 収縮期血圧

左足首 収縮期血圧

右足首 収縮期血圧

足首血圧波形

T

T

ABI= 足首収縮期血圧

上腕収縮期血圧

図6 baPWVとABIの計測方法

PWVに影響する要素

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Arterial Stiffness動脈壁の硬化と老化 No.6 2004

PWVは,動脈硬化危険因子のある症例で高値で

あることが報告されている。糖尿病の合併症と

PWVについても多くの研究があり,Lehmanらは糖

尿病の合併症の重症度とPWVが良好に相関するこ

とを示しており6),Cruickshankらは,あらゆる血

圧レベルにおいて糖尿病患者は非糖尿病患者より

大動脈PWVが高値であると報告している7)。糖尿病

においてどの動脈部位のPWVが高値になるかを検

討したKimotoらの報告8)では,心臓-大腿動脈間

のPWVが有意さをもって上腕や下肢のPWVより早

期に高値となっており,大動脈コンプライアンス

が選択的に障害されていることがわかる。高血圧

や高脂血症など動脈硬化危険因子のある群でも

PWVは高値であることが実証されている。筆者ら

の高血圧患者における検討では左室拡張能とPWV

の間には相関があり,ドプラ心エコーによる左室

流入速波形から求めるE/AとbaPWVには,図8のご

とく良好な負の相関を認める。あるいは大動脈や

冠動脈の石灰化,頸動脈内中膜壁厚(IMT)などで動

脈硬化所見の強い患者ほどcfPWVが速いことも報

告されている9)。リスクファクターから今後10年間

における心血管疾患の発症リスクを算出し,健常

者とのオッズ比として表す計算式がFramingham研

究から提案10)されているが,筆者らの健診受診者

における1万例を超える検討11)でも,Framingham

Risk Score(FRS)とbaPWVの間に良好な相関を認め

ている。

心筋梗塞,脳血管障害,末梢動脈疾患など臓器

障害を発病した群でもP W Vは亢進している。

Phillippeらは,冠動脈の病変枝数別にカテーテルに

よる大動脈の脈圧を比較しているが,病変枝数が

増すにつれて大動脈脈圧が大きくなることを報告

している12)。筆者らの検討でも,冠動脈造影によ

って75%以上の有意狭窄を認める症例では,血圧,

性をマッチングさせた健常者との比較であらゆる

年代でbaPWVは有意に高値であり,病変枝数が多

いほどbaPWVが高値であった13)。また,カテーテ

ル治療後の再狭窄についても脈圧,PWVが関係す

ることが明らかとなっており,Nakayamaらは大動

脈の脈圧を平均血圧で除した fractional pulse

pressure(FPP)が高いほど再狭窄率が高く,大動脈

FPPの最高3分位は最低3分位の16倍の再狭窄率で

あったと報告している14)。筆者らのカテーテル治

療後再狭窄率の後ろ向き検討でも,再狭窄を認め

た例はステント留置の有無にかかわらずbaPWVが

高値であった。

近年,動脈硬化進展に対するさまざまな因子の

関与が報告されている。例えば,動脈硬化と骨代

謝障害は病態早期より共通する病因の存在が示唆

されており,骨粗鬆症は動脈壁硬化の促進因子と

男 性

収縮期血圧(mmHg)

70-

3,000

2,500

2,000

1,500

1,000

500

baPWV(cm/sec)

3,000

2,500

2,000

1,500

1,000

500

baPWV(cm/sec)

70-

60-

50-40-

30-

60-50-

40-30-

女 性

80 100 120 140 160 180 200 220

収縮期血圧(mmHg)

80 100 120 140 160 180 200 220

図7 心血管疾患および血圧を除く動脈硬化危険因子のない健診受診者における年代別にみた収縮期血圧とbaPWV

(文献5より引用)

PWVの臨床的意義

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ヒトは血管とともに老いる A man is as old as his arteries.-脈波速度から血管の老化を診る-

なると考えられている。7,865名の骨密度とbaPWV

を計測した筆者らの健診での検討15)でも,骨密度

低下は年齢を除外してもbaPWV高値の有意な説明

因子であることが判明している。

動脈硬化における炎症の関与,例えばChlamydia

pneumoniaeやH. pyloriの感染の関与が指摘されて

いる。C型肝炎ウィルスの関与を検討した筆者ら16)

の健診結果においても,受診者7,514名中,HCV抗

体陽性者であった87名は陰性者に比してbaPWVが

有意に高値(1,482±359 vs 1,291±263,p<0.01)で

あり,動脈壁硬化におけるC型肝炎ウィルスの関与

が示唆された。また,健診受診者で高感度CRPを

測定したところ,PWVが高いほど高感度CRPが高

値であった。高感度CRPとPWVを各4分位としてそ

れぞれで前述のFRSを出してみると,高感度CRPが

高いほど,同じCRPならPWVが高いほどリスクが

高まることが判明した17)。特に女性でこの傾向が

高く,今後の検討が必要と考えられた。

Boutouyrieらは本態性高血圧患者においてPWV

が他の要因と独立した冠動脈イベント予測因子で

あると報告している18)。心血管疾患のない1,045人

の高血圧患者(平均年齢51歳)を対象としてcfPWV

を測定し,平均5.7年間の追跡調査を行い,FRS補

正後もPWVは1SD増加するにつれて冠動脈イベン

トの相対危険度が1.34倍高くなり,PWVは独立し

た予測因子となることが実証されている。

末期腎不全患者においてもPWV値により大きく

予後が異なり,Blacherらは241名の末期腎不全患

者を平均11年間追跡し,cfPWV高値群での全死亡

と心血管死亡がきわめて高いことを示している19)。

糖尿病患者においてもPWV値と予後の検討が行

われている。前述のCruickshankらは,2型糖尿病

において収縮期血圧とPWV値から予後を平均10年

追跡した結果,あらゆる収縮期血圧レベルにおい

てもPWV高値患者において死亡者を多く認めてお

り,PWVが糖尿病患者における独立した予後予測

指標になると報告している7)。

Guerinらは降圧療法を行った末期腎不全患者で

の平均51ヵ月の追跡調査で,PWV非改善例は改善

例に比べて有意に死亡率が高く,そのほとんどが

心血管死亡によると報告20)している。PWVの改善

が予後の改善に結びついており,PWVが末期腎不

全の降圧療法の代用エンドポイントとなると提案

している。また,高血圧患者における降圧治療の

代用エンドポイントとしてPWVが用いられるよう

になっている。降圧薬によって同じ降圧が得られ

ても,薬剤によってPWVの改善率が異なっており,

血管壁組成に対する効果の差で降圧薬の有用性を

評価しようとするものである。死亡や重大心血管

イベントの発症を一次エンドポイントとしてその

1.6

1.2

0.8

0.4

0

E/A比

1,000 2,000

p<0.05 R=-0.367

3,000

baPWV(cm/sec)

PWVと予後

治療的介入とPWV

図8 治療中の軽症高血圧患者における左室拡張能(左室流入波形におけるE/A比)とbaPWV

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Arterial Stiffness動脈壁の硬化と老化 No.6 2004

有効性を評価するには,重症患者あるいは膨大な

症例数を必要とするからである。実際,降圧治療

によりPWVの改善率がよい群では急性心筋梗塞な

ど心血管イベント発生率が低いといわれており,

PWVをエンドポイントとした降圧薬による大規模

介入試験も開始されている21)。

図9のごとく加齢現象として生じる動脈壁のエラ

スチンの減少とコラーゲンの増加は動脈壁硬化を

もたらすが,それに高血糖,高脂血症,高インス

リン血症,高血圧などによる内皮機能が引き金と

なって動脈硬化が促進され,心血管イベントが発

症する。その過程において動脈壁硬化あるいは動

脈コンプライアンスは重要であり,それを評価す

ることは図10のごとく動脈硬化性心血管疾患の,

①早期発見,②重症度評価,③治療モニター,な

どを目的として,今後,積極的に臨床導入すべき

と考えられる。なかでもPWVは簡便かつ再現性の

高い指標であり,適切に用れば,血管の障害進展

を遅延させ,ヒトの老いを引き延ばしてくれるで

あろう。

内皮細胞機能低下

動脈壁硬化 (Arterial Stiffness)

脈圧上昇/ 高血圧

左室不全/ 左室肥大

心筋虚血/ 代謝量上昇

コラーゲン 増加

エラスチン 減少

加齢 加齢

酸化性ストレス 高血糖 高血圧

高脂血症 高インスリン血症

図9 動脈壁硬化に影響する各種病態と疾患の発症

動脈コンプライアンス

心血管疾患の 重症度評価

治療に対する 血管状態変化のモニター

血管疾患の 早期発見

図10 動脈コンプライアンスの臨床応用

(Kaplan NM, ed. Hypertension Therapy, 2002. p.116. より引用)

おわりに

(Woodman RJ, et al. Med Sci Monit 2003; 9: 81. より引用)

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Page 9: Luncheon Seminar A man is as old as his arteries ヒトは トは血管とともに老いるA man is as old as his arteries.-脈波速度から血管の老化を診る- エラスチンにかかり動脈壁は進展しやすいが,平滑

ヒトは血管とともに老いる A man is as old as his arteries.-脈波速度から血管の老化を診る-

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