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PFU 技術の源泉は コンピュータ開発から PFU 技術の源泉は コンピュータ開発から 1960 1970 1980 1990 ユーザック電子工業 パナファコム 1990 オープン化と ダウンサイジング化が進む 1981 OAブーム 1987 PFU誕生 オフコン・ミニコン・ WSの時代を牽引 1993 帳票ソフト FUJITSU GRANPOWER6000 1997 Intel製プロセッサ採用オフコン PD2100シリーズ DX2モデル 1995 初代カードPC 超小型CPUモジュール MEDIASTAFF PGモデル 1994 MEDIASTAFF初代モデル M3093DE 1996 両面同時読み取り DS server 7000シリーズ 1991 オープン化時代のUNIXマシン A-30 1986 UNIX搭載ミニコン オープンアーキテクチャ採用 FACOM K-250LK-250 1984 オフコンブームの火付け役 FACOM K-10 1984 卓上型オフコン U4301B 1984 初代イメージスキャナ New MPP 1984 小型軽量多目的プリンタ FUJITSU NetVehicle-1EX3 1997 インターネットルータ 高機能・低価格機の先駆け PANAFACOM C-280 1983 パーソナルコンピュータ 2ジョブ・マルチタスクOS搭載 プリンタとスキャナ プリンタとスキャナ 多目的プリンタ技術が イメージスキャナへ伝承 ネットワーク機器 ネットワーク機器 コンピュータのハード/ソフト の技術を結集 2 PFU Tech. Rev., 28, 1,pp.2-9 (06,2017) PFU のルーツはユーザック電子工業とパナファコム という,日本のコンピュータ産業の黎明期を支えた二つ の企業です.この 2 社が 1987 年に合併し,PFU が誕 生しました. 両社のオフコン,ミニコンの技術はワークステーショ ン,ビジネスサーバを経て ProDeS(組込みコンピュー タ製品,KIOSK 端末製品),ネットワーク機器へ.コ ンピュータとプリンタの技術はシェア No.1 のイメー ジスキャナへ.ベンチャー精神によって培われた高い技 術は着実に受け継がれ,時代をリードする製品やサービ スに結実しています. < PFU テクニカルレビュー 50 号発刊記念特集> PFU技術その歴史 と「DNAPFUの技術 「挑戦・創造・伝承」の50年 PFU テクニカルレビューが今号で 50 号を迎えました. これを記念して,PFUの根幹にある「技術」について特集します.PFUの歴史と, 受け継がれる「DNA」にフォーカスし,その強さの秘密をご紹介します.

PFUの技術ーその歴史と「DNA...GIプロセッサー デュアルコアCPU スキャナ本体での画像処理実現 fi-5950 2010 クラス最高読み取り性能 超音波方式マルチーフィード検出

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Page 1: PFUの技術ーその歴史と「DNA...GIプロセッサー デュアルコアCPU スキャナ本体での画像処理実現 fi-5950 2010 クラス最高読み取り性能 超音波方式マルチーフィード検出

PFU技術の源泉はコンピュータ開発からPFU技術の源泉はコンピュータ開発から

1960 1970 1980 1990 2000 2010 2017

ユーザック電子工業

パナファコム

1990 2002 2010オープン化とダウンサイジング化が進む

富士通グループ構造改革を受け新たなビジネス創造へ

クラウド時代への「飛翔」1981OAブーム

1987

PFU誕生オフコン・ミニコン・WSの時代を牽引

コンピュータ技術の融合(専用CPU開発)

新たなビジネスモデルの確立へ

ネットワーク機器からセキュリティ製品へ発展

ドキュメント・イメージングソリューションとして進化

fi-7180 fi-7280

クラス最高の読み取り性能

2008

OCRソフト

OCRソフト

運転免許証カメラOCR帳票ソフト

ファイリングソフト2003

ファイリングソフト

1993

帳票ソフト

Omoidori

新コンセプト iPhoneアルバムスキャナ

ScanSnap iX500

クラウドサービス

ScanSnap iX100

モバイル活用

GIプロセッサー

デュアルコアCPUスキャナ本体での画像処理実現

fi-59502010

クラス最高読み取り性能超音波方式マルチーフィード検出

GRANPOWER70001997

64ビットCPU大規模LSIの開発

fi-4750C2000

カラー読み取りを実現

ScanSnap fi-4110EOXシリーズ2001

初代ScanSnapワンプッシュ簡単スキャン

FUJITSU IPCOM 1002002

ネットワークワークアプライアンス装置初代IPCOMシリーズ

FUJITSU NetVSheiter/FW2000

Linuxベースファイアウォール装置

FUJITSU GRANPOWER60001997

Intel製プロセッサ採用オフコン

PD2100シリーズ DX2モデル1995

初代カードPC超小型CPUモジュール

MEDIASTAFF PGモデル1994

MEDIASTAFF初代モデル

M3093DE1996

両面同時読み取り

DS server 7000シリーズ1991

オープン化時代のUNIXマシン

A-301986

UNIX搭載ミニコンオープンアーキテクチャ採用

FACOM K-250L,K-2501984

オフコンブームの火付け役

FACOM K-101984

卓上型オフコン

U4301B1984

初代イメージスキャナ

New MPP1984

小型軽量多目的プリンタ

Pragma スキャナPD-PGM50S

1998

ScanSnapの礎

FUJITSU NetVehicle-1,EX31997

インターネットルータ高機能・低価格機の先駆けPANAFACOM C-280

1983

パーソナルコンピュータ2ジョブ・マルチタスクOS搭載

IPCOM EXシリーズ

多様化する脅威への対応力を拡大

iNetSec Smart Finder

不正接続を検知し遮断

AR8300シリーズ

組込みコンピュータ

AM120シリーズ

システムオン モジュール

MEDIASTAFF TM

情報KIOSK端末組込みコンピュータ情報KIOSK端末組込みコンピュータ情報KIOSK端末

オフコン・ミニコン技術の伝承

プリンタとスキャナプリンタとスキャナ多目的プリンタ技術がイメージスキャナへ伝承

ソフトウェアソフトウェア多彩なソリューションを展開

ネットワーク機器ネットワーク機器コンピュータのハード/ソフト

の技術を結集

2 PFU Tech. Rev., 28, 1,pp.2-9 (06,2017)

PFU のルーツはユーザック電子工業とパナファコム

という,日本のコンピュータ産業の黎明期を支えた二つ

の企業です.この 2 社が 1987 年に合併し,PFU が誕

生しました.

両社のオフコン,ミニコンの技術はワークステーショ

ン,ビジネスサーバを経て ProDeS(組込みコンピュー

タ製品,KIOSK 端末製品),ネットワーク機器へ.コ

ンピュータとプリンタの技術はシェア No.1 のイメー

ジスキャナへ.ベンチャー精神によって培われた高い技

術は着実に受け継がれ,時代をリードする製品やサービ

スに結実しています.

<PFUテクニカルレビュー50号発刊記念特集>

PFUの技術ーその歴史と「DNA」

PFUの技術「挑戦・創造・伝承」の50年

PFU テクニカルレビューが今号で 50 号を迎えました.これを記念して,PFU の根幹にある「技術」について特集します.PFU の歴史と,受け継がれる「DNA」にフォーカスし,その強さの秘密をご紹介します.

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PFU技術の源泉はコンピュータ開発からPFU技術の源泉はコンピュータ開発から

1960 1970 1980 1990 2000 2010 2017

ユーザック電子工業

パナファコム

1990 2002 2010オープン化とダウンサイジング化が進む

富士通グループ構造改革を受け新たなビジネス創造へ

クラウド時代への「飛翔」1981OAブーム

1987

PFU誕生オフコン・ミニコン・WSの時代を牽引

コンピュータ技術の融合(専用CPU開発)

新たなビジネスモデルの確立へ

ネットワーク機器からセキュリティ製品へ発展

ドキュメント・イメージングソリューションとして進化

fi-7180 fi-7280

クラス最高の読み取り性能

2008

OCRソフト

OCRソフト

運転免許証カメラOCR帳票ソフト

ファイリングソフト2003

ファイリングソフト

1993

帳票ソフト

Omoidori

新コンセプト iPhoneアルバムスキャナ

ScanSnap iX500

クラウドサービス

ScanSnap iX100

モバイル活用

GIプロセッサー

デュアルコアCPUスキャナ本体での画像処理実現

fi-59502010

クラス最高読み取り性能超音波方式マルチーフィード検出

GRANPOWER70001997

64ビットCPU大規模LSIの開発

fi-4750C2000

カラー読み取りを実現

ScanSnap fi-4110EOXシリーズ2001

初代ScanSnapワンプッシュ簡単スキャン

FUJITSU IPCOM 1002002

ネットワークワークアプライアンス装置初代IPCOMシリーズ

FUJITSU NetVSheiter/FW2000

Linuxベースファイアウォール装置

FUJITSU GRANPOWER60001997

Intel製プロセッサ採用オフコン

PD2100シリーズ DX2モデル1995

初代カードPC超小型CPUモジュール

MEDIASTAFF PGモデル1994

MEDIASTAFF初代モデル

M3093DE1996

両面同時読み取り

DS server 7000シリーズ1991

オープン化時代のUNIXマシン

A-301986

UNIX搭載ミニコンオープンアーキテクチャ採用

FACOM K-250L,K-2501984

オフコンブームの火付け役

FACOM K-101984

卓上型オフコン

U4301B1984

初代イメージスキャナ

New MPP1984

小型軽量多目的プリンタ

Pragma スキャナPD-PGM50S

1998

ScanSnapの礎

FUJITSU NetVehicle-1,EX31997

インターネットルータ高機能・低価格機の先駆けPANAFACOM C-280

1983

パーソナルコンピュータ2ジョブ・マルチタスクOS搭載

IPCOM EXシリーズ

多様化する脅威への対応力を拡大

iNetSec Smart Finder

不正接続を検知し遮断

AR8300シリーズ

組込みコンピュータ

AM120シリーズ

システム オン モジュール

MEDIASTAFF TM

情報KIOSK端末組込みコンピュータ情報KIOSK端末組込みコンピュータ情報KIOSK端末

オフコン・ミニコン技術の伝承

プリンタとスキャナプリンタとスキャナ多目的プリンタ技術がイメージスキャナへ伝承

ソフトウェアソフトウェア多彩なソリューションを展開

ネットワーク機器ネットワーク機器コンピュータのハード/ソフト

の技術を結集

PFU Tech. Rev., 28, 1, (06,2017) 3

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4 PFU Tech. Rev., 28, 1, (06,2017)

~「愚直さと粘り強さ」,「挑戦者魂」,「進取の精神」~製品に見るPFUの「DNA」PFU の「DNA」.それはベンチャーをルーツに新しい分野を開拓する歴史の中で芽生えた,「愚直さと粘り強さ」,「挑戦者魂」,「進取の精神」にほかなりません.ここでは,それらの DNA の働きを示す端的な例を,製品を軸に当時の開発者の言葉でご紹介します.

イメージスキャナ開発の初期の要求仕様は,紙が数枚

搬送できれば可,紙詰まりのためのユニット開閉は手先

が入る角度(数十度)でよい,というものでした.しか

し開発を進めていくうち,50 枚の給紙は必要,開閉部

はフルオープン構造であることなど,仕様の要求が徐々

に高くなっていきました.初期の頃は繰り出し不良,重

送,紙詰まりの率が非常に高く,紙が詰まる様子を見た

周囲からは「シュレッダー」と酷評されたものでした.

そこで,給紙技術の高い社内の多目的プリンタ開発者

に,いろいろな特性を持った「紙」の扱い方を教わりま

した.そして,教わった技術を取り込んで給紙構造を全

面変更し,恒温恒湿室の中でひたすら紙を流し続けまし

た.低温低湿では手をかじかませながら,高温高湿では

汗が紙に滴らないよう気をつけながら,改善を続けまし

た.これは今も変わらない姿です.

それから数年後,当時の品質保証部門の部長から「多

目的プリンタとスキャナを比べると,給紙性能はスキャ

ナが上だ」と褒められ,技術者たちは苦労が報われたこ

とを喜びました.

開発立ち上げから約 30 年が経過しましたが,現在も

いろいろな種類の紙と格闘し,給紙構造の改良を続けて

います.

これらひとつひとつの対応の積み重ねこそが次の製品

を生み出し,また私たちの中に「愚直さと粘り強さ」と

いう DNA を培っていくのです.

fi-5950定評ある給紙性能に加えてクラス最速(A4横送り毎分135枚・270面)の読み取りを実現したフラッグシップモデル.

愚直さと粘り強さ「ものづくり」における妥協を許さぬ DNA

初期の多目的プリンタ,ユーザック電子工業の「MPP-3」(86年)は連続帳票から名刺サイズ,封筒など,さまざまな紙に対応していた.ここで蓄積した技術とノウハウはスキャナの開発に受け継がれ,礎となった.

技術の伝承

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PFU Tech. Rev., 28, 1, (06,2017) 5

製品に見るPFUの「DNA」 挑戦者魂諦めないチャレンジで不可能を可能にする DNA

進取の精神未知の脅威にも果敢にトライする DNA

カードサイズの PC 開発,それは技術の粋を集め,不

可能を可能にするチャレンジでした.これは,パソコン

のマザーボード機能をクレジットカードサイズに凝縮し

て提供しようという発想から生まれたアプローチです.

パソコンの心臓部を小型化してパソコン以外のお客様向

けのビジネスを構築することを目的としており,当時の

最先端テクノロジの枠を越える,極めて高難度のチャレ

ンジだったといえます.

最初にカードサイズという高いハードルを掲げたがゆ

えに,実装技術という面で大きな苦労がありました.し

かし,それまでに培ってきたノート PC の小型化技術を

応用したり,CPU 周辺のチップセットを半導体ベンダ

と協力したりすることで,ブレークスルーを果たせると

いう十分な確信がありました.

私たちが超小型パッケージとして注目したCSP(チッ

プサイズパッケージ)は,今でこそ一般的ですが当時は

研究段階で,実用化には数年を要すると言われていまし

た.しかもチップセットをカードサイズに収めるとい

う構想には,さらなる超小型化が不可欠でした.しかし

PFU は半導体ベンダとの共同開発によって,わずか 1

年で量産化を実現しました.さらに高密度集積技術を採

用することで,ついにカード PC を完成させ,市場に送

り出すことができたのです.

その後も,熱解析および冷却技術による高速 CPU 搭

載,プリント基板の素材技術,BIOS(Basic Input/

Output System)などの要素技術を進化させることで,

ファクトリーオートメーション,産業ロボット,半導体

製造装置などを新しい市場に浸透させていきました.

カード PC で培った技術ノウハウは,その後のエンベ

デッド事業に受け継がれ,SOM(システムオンモジュー

ル)や組込みコンピュータなどの開発に継承されて発展

しています.

挑戦者魂と組みになる形で力を発揮するのが「進取の

精神」という DNA です.時代の要請にハードとソフト

両面からいち早く対応したネットワーク関連製品はその

よい例です.

パソコンが企業のネットワークにつながり,業務利用

が進むと,パソコンの脆弱性を狙ったウィルスが猛威を

振るいはじめました.当時,これらの対策は海外ベンダ

の製品が主流でしたが,日本のお客様のきめ細かな要求

には耐えられないものでした.

そこで,これまで培ったネットワーク技術を基盤に,

セキュリティの脆弱性を検知し,危険なパソコンをネッ

トワークから遮断する国産初の検疫ネットワークソフト

「iNetSec Inspection Center」を自社開発,商品化

しました.

知名度では海外ベンダに劣り,事業は厳しい状況が

続きましたが,「お客様の安心・安全ネットワークを守

り続ける」ことをコンセプトに技術を磨き続け,導入や

運用を簡単にするために,自社のコンピュータ技術と

組み合わせてアプライアンス化した「iNetSec Smart

Finder」へと発展させ,ついに国内シェア 1 位注1)を獲

得しました.

さらに近年は,攻撃者のネットワーク上の行動を監視,

分析することでサイバー攻撃を検知する独自の MIPS

(Malicious Intrusion Process Scan)技術を開発

し,次々と現れる新たな脅威への対応を進めています.

注1) 検疫ツール市場において.出典 : 株式会社富士キメラ総研「2012 ~ 2016 ネットワークセキュリティビジネス調査総覧」

IT 機器管理アプライアンスiNetSec Smart Finder接続を許可していないPCやスマートデバイス(スマートフォン,タブレット)の不正接続を検知し遮断.

カード PC PD2100 シリーズチップサイズパッケージが至難の業だった90年代半ば,半導体ベンダすら実現できなかったPCのカードサイズ化を,PFUはわずか 1年で成功させた.

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6 PFU Tech. Rev., 28, 1, (06,2017)

脈々と受け継がれる

PFUの「DNA」を語る

PFU の技術力の源泉は「コンピュータ開発」

―PFU の「DNA」を浮き彫りにするにあたって,PFU の基礎あるいは根幹にあるものは何か,新出さんはどのようにお考えですか.新出 「PFU の前身であるユーザック電子工業とパナ

ファコムの両社が,コンピュータメーカとして起業した」

ということに尽きると思います.イメージスキャナやソ

フトウェア,ソリューションといった独自の製品やサー

ビスを提供することも,PFU がコンピュータメーカとし

て起業したからこそではないでしょうか.

―IT の中心であるコンピュータそのものを作る力があるからこそ,周辺機器やソフトなどの各分野でも,性能と品質が高くオリジナリティのある製品を作れるということですね.では,これまで新出さんご自身が携わった仕事と,特に苦心した点について教えてください.新出 最も難しいと感じ,取り組んだことは LSI注1)の

開発です.オフコンでは「K-600」シリーズ,UNIX

ワークステーションでは「S ファミリ」,サーバでは

「GP7000」や「PRIMEPOWER」シリーズなどで

LSI の大きな開発プロジェクトがありました.LSI 開

発の怖さは,リメイク(設計のやり直し)に尽きます.

1990 年代でも開発費は数千万円.最近では数億円から

十数億円になります.また,そのやり直しには1年前後

の時間がかかります.つまりリメイクが発生すると,製

品開発は最低1年遅れるということになります.たった

一つのバグだけでもリメイクすることがありますから,

設計効率と品質のために,さまざな手段を講じてきたと

の思いがあります.LSI 開発で最も腐心したことは,図

面(回路図)で設計していたスタイルを,言語(VHDL)

注1) LSI(Large Scale Integration)は,大規模集積回路のこと.

設計に切り替えたことですね.1990 年前後です.量産

品開発にこの取り組みを適用させたということでは,4

~5年,他社に先駆けたものだったかもしれません.言

語設計に換えることで,設計効率や検証効率を徹底的に

磨きあげることができました.

―言語設計の採用は,非常に大きな転換ですね.よく思いきりました.新出 PFU の DNA の一つである進取の精神を端的に

表していると思います.とはいえ当時は社内の意志統一

だけでも大仕事でした.そしてさらに大変だったのが,

言語設計のための CAD という開発環境の整備です.言

語で LSI を作ることと CAD との関係は密接にして不

可分なのです.そのため私も当時現れ始めていた CAD

ベンダの間を飛び回りました.当時はインターネットな

どがない時代でしたから,外資系 CAD ベンダが持って

いる情報に大きな価値がありました.加えて,海外の競

合ベンダの最新 CAD への取り組みの動向を探り,その

情報を基に,PFU にとって最適な言語設計や CAD の

アウトソーシングへの切り替えを決断しました.いささ

かの抵抗があったように記憶しておりますが,「海外と

勝負していくには,これしかない」が判断材料であり説

得材料でした.

技術者が開発環境と工場に深く関与

―新出さんご自身が技術者でありながら,そうした面のマネジメントにも関わってきたということでしょうか.新出 私だけがそうだということではなく,PFU では

伝統的に,コンピュータ本体を設計する技術者が開発環

境作りや工場のマネジメントに深く関わってきている

のです.開発環境に関しては「技術者が力を最大限に発

揮するためには開発環境が不可欠」という哲学が,私が

他にない特長を持つ PFU 製品には,PFU の「DNA」ともいうべき何かが息づいています.その「受け継がれるもの」について,技術のトップ 3 名に,インタビューと対談で思いを語ってもらいました.そこから見えてくる,次代へとつなぐ DNA の本質とは.

①コンピュータメーカならではの底力新 出 浩 丈執行役員常務,エンベデッドビジネスユニット長,共通技術担当

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PFU Tech. Rev., 28, 1, (06,2017) 7

84 年にユーザック電子工業に入社す

る前から連綿と受け継がれています.

黎明期の先輩方は,自分はハードだけ,

ソフトだけ,工場だけというようには

拘ってはいられなかったと思います.

だから「必然的に,すべてをわかって

いる」メンバーが多くいたのだと思い

ます.

開発にとって最も肝心なことは,「量

産のことまで考えた設計をできるか」

ということです.不良率が非常に低い

状態にコントロールされた製品と工場

あってこそ,「ものづくり」であると

言えますし,ものづくりの本質がここ

にあると考えます.だから,私は今でも「出荷判定」を

最も神聖な言葉だと思っています.

―高品質な製品を量産してこそのメーカ,ということですね.ところで,2002 年の富士通グループの構造改革では,サーバ開発が富士通に,製造も PFU の笠島工場(現・富士通 IT プロダクツ)に集約され,PFU にとって第 2 創業期ともいえる,自主独立路線へ大きく舵をきることになりました.この重要な時期に,PFU の DNA はどのような形で受け継がれたのでしょうか.新出 このとき,我々は新たに ProDeS注2)という概念

を創り出しました.ある意味で ODM注3)をブランド化

したということになるかと思います.当初は見通しの悪

いままでしたが,皆,ベンチャーからスタートしたメー

カならではの DNA,挑戦者魂を持っており,集中的

に取り組んでいきました.しかし,コンピュータ技術,

OEM ビジネス中心で生きてきた我々にとって,大きな

試練がありました.商談として経験の乏しいものも受注

し,その結果,膨大な数の製品種と部品種が存在するこ

とになり,開発と工場の混乱を引き起こすことになりま

した.このような苦い経験と紆余曲折を経て ProDeS

は,エンベデッド製品(組込みコンピュータ)事業と

KIOSK 製品(情報端末)事業に集約されたわけです.

しかし,ProDeS のビジョンにあった「顧客の希望に

徹底して沿う」の実践は,多彩な標準製品とカスタム

モデル製品を半々に出荷する実績を作り上げました.

PFU の「ものづくり」の幅は間違いなく広がりました.

注2) ProDeS(Product Design Services)は,PFU が提供する開発・製造一貫支援サービス.

注3) Original Design Manufacturing の略.委託者のブランド名で,製品の設計から製造までを行うこと.

スキャナに息づく コンピュータ技術―PFU は世界シェア「No.1」注4)のイメージスキャナを永年,世の中に送り出していますが,コンピュータ開拓者としての DNA はイメージスキャナ作りにも活かされているのでしょうか.新出 イメージスキャナも,永年の技

術の蓄積が詰まった製品ですが,我々

のコンピュータ技術で進化を遂げたと

言えます.私が周辺機であるイメー

ジスキャナの LSI 開発のプロデュー

スを担当するというきっかけがあって,コンピュータ

とイメージスキャナの技術のさらなる連携が進みまし

た.その成果は「ScanSnap iX500」と「ScanSnap

iX100」,及び fi-7000 シリーズに織り込まれています.

ここには独自開発した「GI プロセッサー」が搭載され

ており,二つの CPU と,二つの OS が入っています.

スキャナ制御,画像処理,およびネットワーク制御のす

べてをそこに搭載しました.当時の私の勝手な思いは,

コンピュータ技術と融合したイメージスキャナを“周辺

機器とは呼ばせない”だったように思います.

―特に「ScanSnap iX500」はお家芸のスムーズな給紙,画像処理などのあらゆる面でスピード感が際立っていますが,そういう理由があったのですね.新出 これは当社内部の話になりますが,イメージス

キャナなどの周辺機器開発部門とコンピュータ開発部門

が深くタッグを組んだプロジェクトでした.両部門とも

にこれを成功させようとの思いで,大きな理解と協力

( 参加メンバーの供出)がありました.私が知る限り,

そこまでの連携は過去にはなく,歴史的な取り組みとい

えるのかもしれません.

―今や多彩な顔を持つ PFU ですが,底力の源泉がコンピュータ技術にあり,その技術は他の製品にも息づいていることがよくわかりました.また,「愚直さと粘り強さ」「挑戦者魂」「進取の精神」という DNA もはっきりと浮かび上がりました.ありがとうございました .

注4) ド キ ュ メ ン ト ス キ ャ ナ を 対 象 と す る. 日 本・ 北 米 はInfoTrends 社により集計(2015 年実績).ドキュメントスキャナ集計より Mobile/Micro を除く 6 セグメントの合計マーケットシェア(主に 8ppm 以上のドキュメントスキャナ全体). 欧州は InfoSource 社(2015 年実績)の集計に基づき,西欧地区(トルコとギリシャを含む)におけるシェアを PFU グループにて推計.

コンピュータメーカであればこそ独自の製品やサービスを提供できる―新出浩丈執行役員常務

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8 PFU Tech. Rev., 28, 1, (06,2017)

脈々と受け継がれるPFUの「DNA」を語る

自由闊達な社風に育まれて

―ユーザック電子工業とパナファコムが合併して PFUが誕生したのが 1987 年.お二人はその直前にいずれかに入社されています.当時はどんな雰囲気でしたか.小箱 私は 83 年にユーザック電子工業に入りました.

最初は部署の先輩たちが大声で言い合いをしているの

に驚きましたね.まるでケンカのよ

うでした.でもよく聞くと,それは

技術に関する激しい議論だったので

す.あの自由闊達な雰囲気は,強く

印象に残っています.

伊藤 私は合併前年の 86 年,パナ

ファコムに入社しました.オフコン

やミニコンの時代です.入社してす

ぐ,社内にもわかる人がほとんどい

ない,LISP という言語で書かれた

プログラムを扱う仕事を任されまし

た.「ここにソースコードあるから

ね.頑張って」と,ポイッと投げら

れて.「どうせできないだろうけど」

という感じだったので,こちらとし

ては「あ,できちゃいましたよ」と

軽く言いたくて,残業して頑張りま

した(笑).

―90 年前後に始まる,いわゆるオープン化による変革期,記憶に残る仕事があればお話しください.伊藤 特徴あるソフトウェア開発の必要性が高まったた

め,私も情報配信システムなどさまざまなソフトを作り

ましたが,変わり種といえば 95 年の「Magicbaton」

でしょう.マウスを使ってクラシック音楽をリアルタイ

ムで指揮するエンタテインメントソフトで,かなり評判

になりました.日米で流通ルートも開拓し,燕尾服を着

て店頭デモンストレーションも行いましたよ(笑).

―おもしろいですね.今でも通用する企画性を感じます.小箱さんはいかがですか.小箱 プリンタで培った技術を活かしたスキャナ開発の

方向へとシフトする中,私も 90 年頃からスキャナの部

署でアーキテクチャを担当するようになりました.思い

出されるのは,海外の印刷機器メーカの依頼で高精細の

カラースキャナを作ったときのことです.そこまで高精

細のものは経験がなかったので,海外の客先に飛んで教

えを請うたところ,「お前はどこまで知っている?」.「い

や,わからないから教えてほしい」と言ったら「素人と

話している暇はない」.本当にまったく教えてくれませ

ん.でも「好きに見て回っていい」と.

そこで全部を回りました.思えば,

あそこでスパッと言ってもらったの

が今につながっている.自分たちで

苦労してプロにならなければならな

いと,改めて気づかされました.

開発のポイントは 「見る」ことにある―開発者として,PFU の「ものづくり」にはどのような特徴があると思われますか.伊藤 独自性を求める傾向は強いと

思います.自分がおもしろいと直感

したことは,何であれ気になるとい

うか.

小箱 人とは違うことをしたいとい

う思いは強いですね.最近ではヘッドがグーンと動いて

スキャンする「ScanSnap SV600」や,iPhone を

カメラにした「SnapLite」「Omoidori」といった変

わり種を手がけました.もちろん単に変わったことをし

たかったわけではなく,当社スキャナが大きなシェアを

取っている現状にあって,スキャンして電子化すること

の便利さを感じてもらい,ユーザーの裾野を広げたとい

うことですね.

―そうした開発にあたって心掛けていることは?小箱 利用されている方の声を聞くというのは当然あり

ますが,実はあまり聞いてしまうと逆に見えなくなると

ころもあります.だから聞くというより,本当は「見る」

ことのほうが個人的には大切だと思います.

伊藤 誰かが仕事をしている様子をよく見ていると,

もっとよくしていこうとする粘りと根性は PFUならでは

―小箱雅彦フェロー

小 箱 雅 彦フェロー,先行技術開発統括部

伊 藤 泰 成フェロー,先行技術開発統括部

②粘り強い「ものづくり」の血脈

Page 8: PFUの技術ーその歴史と「DNA...GIプロセッサー デュアルコアCPU スキャナ本体での画像処理実現 fi-5950 2010 クラス最高読み取り性能 超音波方式マルチーフィード検出

PFU Tech. Rev., 28, 1, (06,2017) 9

「あ,僕らがそこを作ればもっとスムーズにできるじゃ

ないか」ということがいっぱいありますよね.

小箱 その上で「どうなったらおもしろいだろう」と考

えて,プロトタイプを作ってみる.それがもし駄目な

ら,遠慮なく駄目と言ってくれればいいのです.もちろ

ん事業としては売れなければいけませんから,今の技術

を進化させていくこともしますが,それとは違う切り口

でも見ていく,提案していくということですね.そうし

た積み重ねが,いつか形を変えて結実することもありま

す.たとえば,下敷きのように薄く,写真も読めるよう

なスキャナを 10 年ほど前に検討したことがありました

が,それ自体は製品化には至りませんでした.ところが

東日本大震災のとき,被災地の方々が位牌と写真を持っ

て逃げる光景を見て,自分の中でス

トンと「腑に落ちる」ものがあり,

「Omoidori」という新しい製品につ

ながるトリガーとなりました.

―「リンゴが落ちてきた」という感じでしょうか.小箱 そんなにすごいものではあり

ません.私たちの仕事では,リン

ゴはほとんど落ちてきません(笑).

いろいろな選択肢の中で,いちばん

シンプルな方法は何だろうと考えて

いくだけです.

伊藤 私は「Magicbaton」のとき,

指揮をパソコンに伝える方法をいろ

いろ考えて,最終的にマウスの動き

で伝えることにしました.人間が指

揮棒を見て理解できるなら,マシン

だってマウスを見れば理解できるはずだから.人間にで

きることは機械にもできる,これは一つの信念として常

にあります.

小箱 それは確かにありますね.

伊藤 「やれば何でもできる」と,頭のどこかで常に思っ

ていますね.私たちはベンチャーという挑戦者の立場に

始まり,今に至るまでにさまざまなことを他に先んじて

実現してきましたから,みんなが自信と自負を持ってい

るはずです.

責任を持って「よいモノ」を作る

―「やれば何でもできる」という言葉や「Magicbaton」のお話には,PFU の DNA である「挑戦者魂」と

「進取の精神」がはっきりと現れていますね.また「Omoidori」誕生のエピソードには,もう一つのDNA である「愚直さと粘り強さ」も垣間見られるように思います.小箱 その「粘り」に関して最も端的なのは,当社のス

キャナで高い評価をいただいている,さまざまな紙を安

定して送る用紙の搬送でしょう.これは,古くは多目的

プリンタの時代から培ってきた技術です.紙は湿度や気

温によって挙動が変わる,生き物のようなもの.これに

関しては,開発時に環境試験室で徹

底的に評価を重ね,また現場での経

験からも膨大なデータとノウハウを

積み重ねてきています.十分な性能

が得られてもそこで止まらず,もっ

とよくしていこうとする,その粘り

と根性は PFU ならではのものだと

思います.

伊藤 「挑戦者魂」について補足す

れば,独立心と負けん気もそれを支

えているでしょう.時には「やせ我

慢」が伴うことになるかもしれませ

んが(笑).自分なりの自信を活か

して,野心を持つことのできる会社

でもありますね.

小箱 「ものづくり」が好きで,今

どうすればいいのかを一人ひとりが

真剣に考える,そういう血脈がありますよね.「モノよ

りコト」と言われる時代ですが,コトを起こすためにも,

よいモノは必要です.

伊藤 その通りだと思います.そして,みんなが責任を

持って仕事をしている会社だからこそ,追い詰められて

も問題を解決して,よいモノを作っていける.PFU は

とにかく,粘り強い会社ですよ.

―お話をうかがい,PFU の DNA がより具体的に見えてきたように思います,本日はありがとうございました.

「何でもできる」という自信と自負がある

―伊藤泰成フェロー