2
背景 動脈stiffness、加齢増加、心血管系疾患 独立した危険因子となる。継続的運動、加齢によ 動脈伸展性低下(動脈stiffness増加)改善せるがその効果には個人差められるエンドセリ ET、血管収縮作用動脈硬化促進作用ることから、動脈stiffness影響ぼす可能性えられる。近年、ET関連遺伝子多型、血圧などの環機能影響えることが報告されているしかしな がら、中高齢者における動脈stiffness運動効果人差ET関連遺伝子多様性影響するかどうかはである目的 本研究、動脈stiffnessにおける運動効果個人差 ET関連遺伝子多様性影響するとの仮説をたて中高齢者における習慣的運動による動脈stiffness改善効果とエンドセリン変換酵素(ECE-1ECE-2エンドセリン-A受容体(ET-A)、エンドセリン-B受容 体(ET-B遺伝子多型との関連性検討した方法・対象 喫煙・投薬習慣のない健康中高齢者191 名(65 ± 1 歳、男性70 名、女性121 名)対象とした。対象一日平均身体活動量中央値である186kcal/dayとして活動群非活動群とにけた。動脈stiffness 指標として、上腕-足首間脈波伝播速度(baPWVをコーリン社製from ABI/PWVいて測定した。各 被検者血液からDNA抽出ECE-12013(+ 289A/GNCBI accession #rs212528)、ECE-2669+17T/CNCBI accession #rs2272471)、 ET-A958A/GNCBI accession #rs5333)、ET-B831A/GNCBI accession #rs5351遺伝子多型Taqmanいて判定した。血漿中ET-1 濃度sandwich-EIAにて測定した結果 活動群baPWV、非活動群比較して有意低値 したが1,475 ±23 vs. 1,554 ±28cm/secp 0.05)、血圧には有意められなかったまたECE-1ECE-2ET-AおよびET-B遺伝子多型においてそれぞれの多型間baPWV有意められなか ったECE-1およびECE-2 遺伝子多型、活動群活動群baPWV影響しなかった 1 )。 しかしながらET-A遺伝子多型においてAAbaPWV活動群非活動群との有意差められたがAG+GGめられなかった1 )。またET-B遺伝子多 においてはAG+GGbaPWV活動群非活動 との有意差められたがAAではられなかった1 )。 さらに、血中 ET-1 濃度 baPWVとの相関関係ET-AAAでは有意正相 められたがAG+GGではめられなかった 2 )。それ以外ECE-1ECE-2およびET-B遺伝子多 、血中ET濃度baPWVとの相関関係影響ぼさなかった2 )。 ECE-1遺伝子多型においてAA収縮期血圧(SBPおよび拡張期血圧(DBPAG+GG比較して低値 したがSBP128 ±2 vs. 136 ±2 mmHgDBP78 ±1 vs. 80 ±1 mmHgp 0.05)、 それ以外多型においてそれぞれの多型間血圧められなかった考察・結論 本研究により、習慣的運動ってきた中高齢者動脈stiffness、身体活動ない比較してことがされたこの習慣的運動による動脈stiffness 改善効果個人差ECE-1 2013 (+289A/GおよびECE-2 669 (+17T/C遺伝子多型影響 中高齢者における動脈stiffnessの運動効果に エンドセリン関連遺伝子多型が影響する Polymorphism in endothelin-related genes limits exercise-induced decreases in arterial stiffness in older subjects. Iemitsu M, Maeda S, Otsuki T, Sugawara J, Tanabe T, Jesmin S, Kuno S, Ajisaka R, Miyauchi T, Matsuda M. Hypertension. 2006; 47: 928-36. 家光素行 (筑波大学大学院人間総合科学研究科・先端学際領域研究センター) 前田清司/大槻 毅/菅原 順/田辺 匠/Subrina Jesmin/久野譜也/鰺坂隆一/宮内 卓/松田光生 英文原著論文紹介 運動 17 82 この論文は、「Arterial Stiffness」WEBサイトに掲載されています。その他の論文はこちら Click "Arterial Stiffness" web site for more articles.

Polymorphism in endothelin-related genes limits …Polymorphism in endothelin-related genes limits exercise-induced decreases in arterial stiffness in older subjects. Iemitsu M, Maeda

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Page 1: Polymorphism in endothelin-related genes limits …Polymorphism in endothelin-related genes limits exercise-induced decreases in arterial stiffness in older subjects. Iemitsu M, Maeda

背景 動脈stiffnessは、加齢に伴い増加し、心血管系疾患の独立した危険因子となる。継続的な運動は、加齢による動脈伸展性の低下(動脈stiffnessの増加)を改善させるが、その効果には個人差が認められる。エンドセリン(ET)は、血管収縮作用や動脈硬化促進作用を有することから、動脈stiffnessに影響を及ぼす可能性が考えられる。近年、ET関連遺伝子多型が、血圧などの循環機能に影響を与えることが報告されている。しかしながら、中高齢者における動脈stiffnessの運動効果の個人差にET関連遺伝子の多様性が影響するかどうかは不明である。

目的 本研究は、動脈stiffnessにおける運動効果の個人差にET関連遺伝子の多様性が影響するとの仮説をたて、中高齢者における習慣的な運動による動脈stiffnessの

改善効果とエンドセリン変換酵素(ECE)-1、ECE-2、エンドセリン-A受容体(ET-A)、エンドセリン-B受容体(ET-B)の遺伝子多型との関連性を検討した。

方法・対象 喫煙・投薬習慣のない健康な中高齢者191名(65±1歳、男性70名、女性121名)を対象とした。対象の一日の平均身体活動量の中央値である186kcal/dayを基準として活動群と非活動群とに分けた。動脈stiffness

の指標として、上腕-足首間脈波伝播速度(baPWV)をコーリン社製from ABI/PWVを用いて測定した。各被検者の血液からDNAを抽出し、ECE-1;2013(+289)A/G(NCBI accession #rs212528)、ECE-2;669(+17)T/C(NCBI accession #rs2272471)、ET-A;958A/G(NCBI accession #rs5333)、ET-B;831A/G(NCBI accession #rs5351)の遺伝子多型はTaqman法を用いて判定した。血漿中のET-1濃度は、

sandwich-EIA法にて測定した。

結果 活動群のbaPWVは、非活動群と比較して有意に低値を 示 し た が(1,475±23 vs. 1,554±28cm/sec、p

<0.05)、血圧には有意な差が認められなかった。また、ECE-1、ECE-2、ET-AおよびET-B遺伝子多型において、それぞれの多型間のbaPWVに有意な差は認められなかった。ECE-1およびECE-2遺伝子多型は、活動群と非活動群のbaPWVに影響しなかった(図1)。しかしながら、ET-A遺伝子多型において、AA型のbaPWVは活動群と非活動群との間に有意差が認められたが、AG+GG型では差が認められなかった(図1)。また、ET-B遺伝子多型においては、AG+GG型のbaPWVは活動群と非活動群との間に有意差が認められたが、AA型では差が認められなかった(図1)。さらに、血中のET-1濃度とbaPWVとの相関関係は、ET-AのAA型では有意な正相関が認められたが、AG+GG型では認められなかった(図2)。それ以外のECE-1、ECE-2およびET-B遺伝子多型は、血中のET濃度とbaPWVとの相関関係に影響を及ぼさなかった(図2)。 ECE-1遺伝子多型において、AA型の収縮期血圧(SBP)および拡張期血圧(DBP)はAG+GG型と比較して有意に低値を示したが(SBP;128±2 vs. 136±2

mmHg、DBP;78±1 vs. 80±1 mmHg、p<0.05)、それ以外の多型において、それぞれの多型間の血圧に有意な差は認められなかった。

考察・結論 本研究により、習慣的な運動を行ってきた中高齢者の動脈stiffnessは、身体活動が少ない者と比較して低いことが示された。この習慣的な運動による動脈stiffness

の改善効果の個人差に、ECE-1[2013(+289)A/G]およびECE-2[669(+17)T/C]の遺伝子多型は影響

中高齢者における動脈stiffnessの運動効果にエンドセリン関連遺伝子多型が影響する

Polymorphism in endothelin-related genes limits exercise-induced decreases in arterial stiffness in older subjects.Iemitsu M, Maeda S, Otsuki T, Sugawara J, Tanabe T, Jesmin S, Kuno S, Ajisaka R, Miyauchi T, Matsuda M.Hypertension. 2006; 47: 928-36.

家光素行(筑波大学大学院人間総合科学研究科・先端学際領域研究センター)前田清司/大槻 毅/菅原 順/田辺 匠/Subrina Jesmin/久野譜也/鰺坂隆一/宮内 卓/松田光生

英文原著論文紹介 運動17

82

この論文は、「Arterial Stiffness」WEBサイトに掲載されています。その他の論文はこちらClick "Arterial Stiffness" web site for more articles.

Page 2: Polymorphism in endothelin-related genes limits …Polymorphism in endothelin-related genes limits exercise-induced decreases in arterial stiffness in older subjects. Iemitsu M, Maeda

英文原著論文紹介 

運動

17

しないが、ETの受容体のET-A[958A/G]および ET-B

[831A/G]遺伝子多型は影響することが示された。さらに、ET-A[958A/G]遺伝子多型は、血中ET-1濃度と動脈stiffnessの正の相関関係にも影響した。また、ECE-1多型はbasalな血圧に影響することが示された。

83

図1  活動群および非活動群のbaPWVにおけるECE-1[2013(+289)A/G]、ECE-2[669(+17)T/C]、ET-A[958A/G]および ET-B[831A/G]遺伝子多型の影響

A

1,700

baPW

V(cm

/sec)

活動群

1,600

1,500

1,400

1,300

ECE-1[2013(+289)A/G]

非活動群

AA AG+GG AA AG+GG

B

1,700

baPW

V(cm

/sec)

活動群

1,600

1,500

1,400

1,300

ECE-2[669(+17)T/C]

非活動群

TT TC+CC TT TC+CC

1,700

baPW

V(cm

/sec)

活動群

1,600

1,500

1,400

1,300

ET-A(958A/G)

非活動群

AA AG+GG AA AG+GG

p<0.05

C

1,700

baPW

V(cm

/sec)

活動群

1,600

1,500

1,400

1,300

ET-B(831A/G)

非活動群

AA AG+GG AA AG+GG

p<0.05

D

図2  ECE-1[2013(+289)A/G]、ECE-2[669(+17)T/C]、ET-A[958A/G]および ET-B[831A/G]遺伝子多型のそれぞれの多型におけるbaPWVと血漿ET-1濃度の関係

A2,500

baPW

V(cm

/sec)

1,000

ECE-1[2013(+289)AA]

Plasma ET-1(pg/mL)0 1 2 3 4 5 6 7

y=80x+1,268、r=0.45、p<0.01

2,000

1,500

B2,500

baPW

V(cm

/sec)

1,000

ECE-1[2013(+289)AG+GG]

Plasma ET-1(pg/mL)0 1 2 3 4 5 6 7

y=103x+1,274、r=0.33、p<0.05

2,000

1,500

C2,500

baPW

V(cm

/sec)

1,000

ECE-2[669(+17)TT]

Plasma ET-1(pg/mL)0 1 2 3 4 5 6 7

y=82x+1,246、r=0.43、p<0.05

2,000

1,500

D2,500

baPW

V(cm

/sec)

1,000

ECE-2[669(+17)TC+CC]

Plasma ET-1(pg/mL)0 1 2 3 4 5 6 7

y=92x+1,272、r=0.38、p<0.01

2,000

1,500

E2,500

baPW

V(cm

/sec)

1,000

ET-A(958AA)

Plasma ET-1(pg/mL)0 1 2 3 4 5 6 7

y=107x+1,226、r=0.43、p<0.05

2,000

1,500

G2,500

baPW

V(cm

/sec)

1,000

ET-B(831AA)

Plasma ET-1(pg/mL)0 1 2 3 4 5 6 7

y=84x+1,252、r=0.43、p<0.05

2,000

1,500

H2,500

baPW

V(cm

/sec)

1,000

ET-B(831AG+GG)

Plasma ET-1(pg/mL)0 1 2 3 4 5 6 7

y=87x+1,299、r=0.37、p<0.01

2,000

1,500

F2,500

baPW

V(cm

/sec)

1,000

ET-A(958AG+GG)

Plasma ET-1(pg/mL)0 1 2 3 4 5 6 7

y=62x+1,352、r=0.25、n.s.

2,000

1,500

以上の結果から、エンドセリンシステムに関連する遺伝子の多様性は、中高齢者における習慣的な運動による動脈stiffnessの改善効果の個人差やbasalな血圧調節の個人差に関与することが考えられた。

この論文は、「Arterial Stiffness」WEBサイトに掲載されています。その他の論文はこちらClick "Arterial Stiffness" web site for more articles.