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2006日本 IVR学会総会「技術教育セミナー」:田中良一
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1.腎動脈狭窄の診断とインターベンション岩手医科大学 放射線科田中良一
はじめに
腎動脈狭窄は,腎血管性高血圧と呼ばれる二次性高血圧を引き起こすだけでなく,腎機能の悪化の原因となる。また,近年心不全を悪化させる要因の一つとして認識されている。経皮的腎動脈形成術(percutaneous transluminal renal angioplasty:PTRA)は低侵襲的治療法として広く認知されるとともに,本症の診断および治療適応にも変化が見られる。本稿では腎動脈狭窄の診断と治療の現状について解説する。
腎動脈狭窄の診断
腎動脈狭窄を含む疾患の診断・治療に関連するエビデンスをまとめたものとしてACC/AHAガイドラインがある1)。このガイドラインではエビデンスレベルに基づいて,検査項目や治療手技を評価しているが,診断根拠としては,若年性高血圧,高齢者における薬剤抵抗性高血圧や急性増悪,原因不明の腎機能悪化などが挙げられている。CTやMRIの発達で最近では他疾患の検査を行っているときに偶然に発見されることもあるが,CTやMRIは腎動脈狭窄の存在が明らかな場合の他覚的検査方法としては優れるものの,スクリーニング検査としては必ずしも適さない。この点においては超音波検査が最も重要な検査となり,腎動脈の加速血流の証明は腎動脈狭窄を強く疑わせる所見となる。また,腎動脈狭窄が生理的に異常を来しうる程度かどうかを判定し,侵襲的治療の適応を判断する際の指標として超音波検査による腎動脈血流速度は重要である。さらに超音波検査は形態診断として腎の形態や大きさの測定にも有用であり,条件がそろえば腎動脈狭窄部位の評価も可能である。しかし,高度な石灰化を伴う病変などでは内腔の厳密な評価は困難であり,しばしば複数本存在する腎動脈の場合は,判定が困難となることもある。よって,より客観性を持たせる意味で,MRIやCTによる形態評価を加えることは重要である。 腎動脈を評価する際,CTでは被曝とともに造影剤による腎毒性を考慮する必要がある。腎動脈狭窄を有する症例では細動脈硬化を伴い,腎機能障害を有する症例も少なからず存在する。石灰化の程度や瘤の合併などの判定においてはCTが優れる点もあるが,まずはMRIによる評価が望ましい。MRIでは造影MRAが
最も汎用的な手法であるが,MRIではしばしば病変が実際より狭く描出されるため,超音波検査での血流速度などを考慮する必要がある。 カプトリル負荷腎シンチグラフィや選択的腎静脈レニン測定は歴史がある検査法ではあるが,腎動脈狭窄の診断を確定するための検査としては否定的なエビデンスが提示されている。また,末梢静脈血でのレニン活性は高値を示せば有意であり診断に寄与するが,血行動態的に有意な腎動脈狭窄があっても正常値を示す症例もあることを念頭におく必要がある。
経皮的腎動脈形成術(percutaneous transluminal renal angioplasty:PTRA)
PTRAは手術治療と並んで,腎動脈狭窄に対する積極的治療法として確立されている。アプローチの方法やデバイスの使い方など手技の詳細については様々であり議論の余地も残されているところではあるが,腎動脈入口部病変に対するステント留置は特に動脈硬化性腎動脈狭窄においては標準的手技と考えられる2)(図1)。本邦では保険適応として使用できるステントはPalmaz stent(図2)に限定されるが,諸外国では様々なステントが認可を受けており使用が可能である。この領域では特にバルーン拡張型ステントを用いるが,血管の屈曲に追従しやすいようにブリッジの構造が工夫されている。本邦では胆管用ステントとして認可されているPalmaz genesisなどはこのような構造を持つステントである。 腎動脈へのアプローチは通常総大腿動脈穿刺によるアプローチで,renal double curve(RDC)Iなどのガイディングカテーテルを用いて行われる。腎動脈の選択は動脈壁プラークの移動を防ぎ,かつ,末梢の塞栓症を防ぐ意味で慎重に行うべきであるが,慎重になりすぎて位置確認のための造影剤使用量が増えるようでは本末転倒である。ダブルワイヤー法やnon-touch techniqueなどは知識としては必要で,症例によっては利用すべき場合もあると思われるが,その手技に囚われるべきではないと考える。プロテクションデバイスの使用は議論があるところではあるが,手技が煩雑であり,プロテクションデバイス挿入そのものにより血管損傷を起こすリスクもあることや,分枝が近位部にある場合は有効ではないことなどを考えると,余計な操作を行わず丁寧かつ迅速に治療を行うことが現時
連載❻
PTAの基本(中級編)
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技術教育セミナー / PTAの基本(中級編)
点では重要と思われる。もちろん,理想的なデバイスの開発は必要であり,そのようなデバイスが利用できる場合には使用することも考慮すべきであるが,デバイスの特性を理解し使用する必要がある。 実際的な治療の手順であるが,ガイディングカテーテルで腎動脈を選択した後,狭窄部を慎重にガイドワイヤーで通過する。使用するガイドワイヤーはあまり太さにとらわれる必要は無く,病変の程度に応じ選択するのが良いと思われる。重要なことは他のデバイスとの相性であり,0.035 inch対応のカテーテルやステントを使用する際に細径のワイヤーを使用するとカテーテルとの段差が生じたり,ワイヤーのサポート力が不足したりして思わぬ合併症を生じることになるため,正しいデバイスの使用を心がける必要がある。病変が
非常にきつい場合,通過したガイドワイヤーが解離腔に迷入することもある。そのような場合は病変を拡張する前に必ず病変より末梢まで細径のカテーテルを挿入し,逆血を確認する。逆血が確認されたら,さらに慎重な造影にて分枝が描出されることを確認して真腔にカテーテルおよびワイヤーが挿入されていることを確かめる。 病変が軽微な場合は前拡張を行わずステントを留置することもあるが,原則的に前拡張は行う。その際は過拡張しないように4㎜前後の径のバルーンを選択する。前拡張後にはステント挿入時に安定するように病変を越える位置までガイディングカテーテルを挿入するのが基本であるが,ステントが堅い場合は途中の屈曲部でガイディングカテーテルの内腔を損傷するこ
図1 腎動脈入口部病変に対するPTRAa : 右腎動脈起始部に狭窄を認める。b : ステント挿入。Palmaz stent(5㎜×10㎜)を病変部に挿入し拡張している。
c : 治療後の造影。右腎動脈起始部にステントは良好に留置されている。ステントは大動脈に1~2㎜ほど突出するように留置されている。
図2 Palmaz stenta : 拡張前のPalmaz stent。バルーンに乗せられた状態で,この状態で病変部に挿入する。
b : 拡張時のPalmaz stent。バルーン拡張型ステントであるため,拡張するバルーンの大きさで最終拡張径も決まる。
a
b
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ともあるので注意が必要である。挿入時の抵抗が強い場合には,無理をしないことも重要である。また,必要以上に大きい径のものや長いステントを使用するのも好ましくない。病変を確認し必要最小限のものを選択すべきである。バルーン拡張型ステントの場合は後拡張により拡張径をあとで大きくすることも可能であるため,最初のステント拡張時にはステントが逸脱しない程度に充分な径で拡張しておき,後拡張にて目的とする径まで拡張することも場合によっては必要である。腎動脈入口部病変へのステント留置の場合は大動脈側に1~2㎜程度ステントを出すように留置することも重要である。足側からカテーテルを挿入している場合,ガイドワイヤーやカテーテルの挿入により腎動脈は頭側に移動する。したがってガイドワイヤー抜去時には腎動脈は尾側へ移動するため,その分を見越してステントの位置決めをする。具体的にはステントの近位端下面が腎動脈入口部より1㎜ほど大動脈側に位置するようにし拡張する(図3)。その際ステント近位端上面はやや大動脈に突出が目立つこともあるが,カテーテル抜去時に腎動脈位置が戻る際に通常は調整される。したがって,腎動脈の本来の分岐角にも留意し,ステント位置を微調整する必要がある。 ステント留置後は大動脈に軽度ステントが出るため
バルーンの挿入が難しくなることもあるが,その際はガイディングカテーテルを腎動脈入口部の高さでローテーションさせることにより,ステントの内腔を選択することが可能であり,ガイディングカテーテルでステント内腔を選択した後にバルーンを挿入すると良い(図4)。また,ステント留置直後に大きいサイズのバルーンで拡張する場合は,最初のバルーンを収縮させる際に,バルーンの端までガイディングカテーテル先端を持っていき,バルーンをすぼませると同時にガイディングカテーテルを押し込んでいく方法でも内腔を選択可能である。バルーンが収縮する際にガイディングカテーテル先端に引きつけられることにより,バルーンとカテーテル先端で段差が無くなり,ステント端に引っかかることなくガイディングカテーテルを誘導できる(図5)。
適応基準
腎動脈狭窄の診断がついた後に治療適応を決める必要があるが,その判断基準に関しては,現在混沌としている。AHA/ACCのガイドラインでは無症候性狭窄の場合は両側性狭窄や生存の可能性のある単腎の治療としては考慮しても良いとされている。ただし,無症候性の片側性狭窄では有用性のエビデンスは無いとさ
図3 ステント位置決めa : ステント挿入時。ステント近位側の下面と腎動脈入口部が交わる点を参考にし,1㎜ほど大動脈側に出るようにステント位置を調整する。この際,上面側は下面側より突出するように見える。
b : バルーン拡張時。拡張してステントを留置する。(この際ステントが壁に密着しかかった状態でバルーンが水平になるように,ややカテーテルを押しこむことでより自然な状態に近い角度でステントを留置できるが,ステントが移動しないように留意する必要がある。)
c : バルーンカテーテルおよびワイヤー抜去後。腎動脈が本来の角度に戻り,ステントが入口部に留置される。最初の位置決めでやや突出気味であった上面も腎動脈側へ若干シフトする。(バルーンカテーテル抜去時には拡張したステント端までガイディングカテーテルを持ってゆき,支えるようにするとバルーンカテーテル抜去時の摩擦抵抗でステントが移動することを予防できる。)
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図5 バルーン収縮時のガイディングカテーテルの誘導方法a : ステントを拡張させたバルーンを減圧する。この際,陰圧にせず,大気圧に開放すると良い。b : ガイディングカテーテルをバルーン端に誘導する。バルーンがすぼむ前に誘導することが重要である。c : バルーンは減圧とともにすぼむが,その際にガイディングカテーテルを軽く押し当てると,手前からすぼんでゆく。このときバルーンがいわゆるシースの内套のような働きをするため,ガイディングカテーテル先端がステント端に引っかかることなく,ステント内まで誘導可能である。ガイディングカテーテルが誘導できたら,陰圧をかけて,バルーンを完全にすぼめて抜去する。
図4 ステント留置後のステント内腔の選択の仕方a : ステント挿入部の高さにカテーテル先端を置く。この際,カテーテル先端はステント入口部とは反対の方向に向けておく。
b : カテーテルを大動脈内腔側に向けるように回転をかけてゆく。c : さらに回転をかけカテーテル先端がステント端を乗り越えるような形で回転させる。d : ステント内腔が選択された状態で回転を止める。カテーテルにねじれの力が残ることもあるので,微調整する。
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れている。 症候性の場合,高血圧に対しては血行動態的に有意な腎動脈狭窄を有する場合PTRAは妥当とされている。また腎機能保護の観点からは,両側腎動脈狭窄や単腎の腎動脈狭窄の場合にはPTRAは妥当とされており,慢性腎不全の症例における片側性の腎動脈狭窄に対してもPTRAを考慮しても良いとされている。 さらに,うっ血性心不全と不安定狭心症の症例においては,血行動態的に有意な腎動脈狭窄を有する場合にはPTRAは妥当とされている。これは腎動脈狭窄が存在することにより,これらの心疾患の病態を悪化させることが証明されているからであり 3),腎動脈狭窄治療の適応を広げる要因ともなっているが,一方でこのことが心合併症を予防する目的として拡大解釈されている傾向もあり,注意が必要である。
腎機能の評価
腎動脈狭窄を治療するにあたって,腎機能の評価および治療後の経過観察は重要である。一般にクレアチニン値が参照されることが多いが,GFRとの相関は直線的ではなく,クレアチニン値のみでは厳密な機能評価は出来ない。つまり,クレアチニン値が正常でもGFRが低下している症例は存在するため,クレアチニン値が正常であるからと言って腎機能低下が無いとは言えないことになる。一方でクレアチニン値が高い場合は腎機能低下が存在する可能性は非常に高く,治療適応決定や術後経過観察には慎重を要する。 腎動脈血流速度よりもとめられる resistance index(RI)は腎硬化の指標であり,80以下がPTRA後の腎機能温存の指標になると報告されている 4)。自験例でもRIが80以下の症例で検討すると,クレアチニン値が2㎎/㎗を超えるような症例でも術後の腎機能の有意な悪化は見られなかった。したがって,適応を考える際の安全域を図る指標としては有用であると思われる。一方で,RIが80を超える症例でも腎機能悪化を来さず治療できたとする報告もあり 5),絶対的な適応決定の指標とはし難い。この点においては,まだ絶対的な適応の指標は無いのが現状である。しかし,PTRAでは常に腎機能を悪化させるリスクを内包しており,術前からのhydrationや使用する造影剤量を最小限にとどめること,および不要な塞栓症のリスクを避けるために無駄な血管内操作を極力行わないようにする努力が最も大切であると思われる。
治療後遠隔期の経過観察
ステントが挿入されることが多いため,MRIやCTといった画像診断は経過観察に必ずしも有用ではない。特にMRIではステント挿入部の評価は困難で,CTでは造影剤使用が必須であるため,腎負荷の観点から
推奨はできない。再狭窄の有無だけの評価であれば腎動脈血流速度の測定が有用であり,侵襲性の観点から考えても超音波検査による経過観察が最も妥当であろう。その他,血圧測定や血清クレアチニン値の測定は経過観察の指標としては重要である。また,腎動脈狭窄とともにレニン活性が上昇する症例では,レニン活性測定も経過観察の指標として有用である。 これらの検査で再狭窄が疑われる際は血管造影などで評価する必要があるが,その際も最も低侵襲で診断および再治療が行われるように計画を立てることが重要であると思われる。
【文献】1) Hirsch AT, Haskal ZJ, Hertzer NR, et al : ACC/AHA
2005 Practice Guidelines for the management of patients with peripheral ar terial disease (lower extremity, renal, mesenteric, and abdominal aortic) : a collaborative report from the American Association for Vascular Surgery/Society for Vascular Surgery, Society for Cardiovascular Angiography and Interventions, Society for Vascular Medicine and Biology, Society of Interventional Radiology, and the ACC/AHA Task Force on Practice Guidelines (Writing Committee to Develop Guidelines for the Management of Patients With Peripheral Arterial Disease) : endorsed by the American Association of Cardiovascular and Pulmonary Rehabilitation ; National Heart, Lung, and Blood Institute ; Society for Vascular Nursing ; TransAtlantic Inter-Society Consensus; and Vascular Disease Foundation. Circulation 113 : e463 -654, 2006.
2) van de Ven PJ, Kaatee R, Beutler JJ, et al : Arterial stenting and balloon angioplasty in ostial atherosclerotic renovascular disease : a randomised trial. Lancet 353 : 282 -286, 1999.
3) Murphy TP, Rundback JH, Cooper C, et al : Chronic renal ischemia : implications for cardiovascular disease risk. J Vasc Interv Radiol 13 ; 1187 -1198, 2002.
4) Radermacher J, Chavan A, Bleck J, et al : Use of Doppler ultrasonography to predict the outcome of therapy for renal-artery stenosis. N Engl J Med 344 : 410 -417, 2001.
5) Zeller T, Muller C, Frank U, et al : Stent angioplasty of severe atherosclerotic ostial renal ar ter y stenosis in patients with diabetes mellitus and nephrosclerosis. Catheter Cardiovasc Interv 58 : 510 -515, 2003.
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