1

re nk newgate05 honmon - アルファポリス · 2017-11-24 · エリザの開けてくれた扉をくぐって、シンは部屋の中に入る。この受付嬢はエリザという名前らしい。扉の向こうからは男性の声で返答が来た。

  • Upload
    others

  • View
    0

  • Download
    0

Embed Size (px)

Citation preview

Page 1: re nk newgate05 honmon - アルファポリス · 2017-11-24 · エリザの開けてくれた扉をくぐって、シンは部屋の中に入る。この受付嬢はエリザという名前らしい。扉の向こうからは男性の声で返答が来た。
Page 2: re nk newgate05 honmon - アルファポリス · 2017-11-24 · エリザの開けてくれた扉をくぐって、シンは部屋の中に入る。この受付嬢はエリザという名前らしい。扉の向こうからは男性の声で返答が来た。

目次 Contents

用語解説 ――――――― 003登場人物紹介 ――――――― 004

ワールドマップ ――――――― 006

Chapter1 集いし刃 ――――――― 007Chapter2 戦場の暴風 ――――――― 103Chapter3 宴への誘い ――――――― 207

Side Story 込められた想い ――――――― 227

ステータス紹介 ――――――― 291

Page 3: re nk newgate05 honmon - アルファポリス · 2017-11-24 · エリザの開けてくれた扉をくぐって、シンは部屋の中に入る。この受付嬢はエリザという名前らしい。扉の向こうからは男性の声で返答が来た。
Page 4: re nk newgate05 honmon - アルファポリス · 2017-11-24 · エリザの開けてくれた扉をくぐって、シンは部屋の中に入る。この受付嬢はエリザという名前らしい。扉の向こうからは男性の声で返答が来た。
Page 5: re nk newgate05 honmon - アルファポリス · 2017-11-24 · エリザの開けてくれた扉をくぐって、シンは部屋の中に入る。この受付嬢はエリザという名前らしい。扉の向こうからは男性の声で返答が来た。

9  Chap t e r 1 集いし刃 THE NEW GATE 05  8

シンもまた、衛兵に場所を聞いて冒険者ギルドへ向かう。

「ベイルリヒトとファルニッドの中間くらいか?」

シンが口にしたのは、見かける人種の話だ。ベイルリヒトよりも獣人が多いが、ファルニッドよ

りはヒューマンが多く、エルフやドラグニルもそれなりに目にした。

聖地から溢あ

れ出すモンスターを食い止める防衛の要か

なめで

あり、山と海の恵みが豊かな都市というだ

けあって、様々な種族が集まっているのだろう。

「にぎやかだな」

足早にしばらく歩くと、見慣れた看板が見えてきた。

扉を開いて中に入ると、カウンターに向かう。

「すいません。ギルドマスターに取り次いでいただきたいのですが」

「失礼ですが、どのようなご用件でしょうか?」

メガネをかけた、キャリアウーマンのような印象を受けるエルフの受付嬢が、怪け

訝げん

な顔で尋た

ねて

くる。

シンはバルメルに来たのは初めてだ。顔見知りならいざ知らず、面識のない冒険者がいきなりギ

ルドマスターを呼べと言えば、不ふ

審しん

にも思うだろう。

「『氾濫』について情報があります。ギルドカード以外にも、身分を保証する物もありますが」

「……少々お待ちください」

「見えてきた!」

シンと、ベイルリヒト王国第2王女であるリオンが聖地カルキアに転移してから3日。南下を続

ける2人の視界に、城

じょう

砦さい

都市バルメルの城

じょう

壁へき

が見えてきた。

本来なら3日で着くなど不可能なのだが、そこは上級選せ

定てい

者しゃ

。飛竜もかくやという速度で飛ばし

た結果だ。

同じく聖地からバルメルに向かう、モンスターの大群との距離はかなりある。ゴブリンなどが主

体で動きは遅いので、まだ1週間近く余よ

裕ゆう

があるだろう。

「私は領主に会いに行く。シンは冒険者ギルドに報告を頼む」

「わかった。その後はどうする?」

「『氾は

濫らん

』――モンスターの大規模侵攻を迎撃するとなれば、ギルドと軍の協力は不可欠だ。すぐ

に選定者が集まることになる」

「なるほど、了解だ」

現在の時刻は、ちょうど正午を過ぎたところだ。深夜や早朝ではないので、受付で待たされるこ

ともないだろう。

リオンは門の詰つ

め所にいた衛兵に事情を話し、領主の城へと案内されていった。

Page 6: re nk newgate05 honmon - アルファポリス · 2017-11-24 · エリザの開けてくれた扉をくぐって、シンは部屋の中に入る。この受付嬢はエリザという名前らしい。扉の向こうからは男性の声で返答が来た。

11  Chap t e r 1 集いし刃 THE NEW GATE 05  10

「……まるで見てきたような言い方だね。情報源を聞いてもいいかな?」

「おっしゃる通り、見てきました。詳しくは言えませんが、聖地の近くまで行った際に大量のモン

スターがバルメルへ向けて移動しているのを確認しています。すでに連れがここの領主に連絡しに

行っています」

「領主に? 

お連れの方は身分の高い方なのかな?」

わずかに目を細めて、バレンは問う。

領主にすぐ謁え

見けん

できるとなれば、それなりに地位の高い人物でなくてはならない。さすがに聖地

に近い都市のギルドマスター。話が早い。

「連れの身分についてはすぐにわかるでしょう。間もなく情報が下りてくるはずです。それより、

俺の情報は信じていただけますかね?」

「ふむ、私としても『氾濫』と聞いて黙っているわけにはいかない。しかし、現状では君の言うこ

とには一切の証拠がない――」

そう言いながら顎あ

に手をやるバレン。

ただ、言葉とは裏腹にすでに早馬を出して情報の成否を確かめているようだ。ギルドから慌あ

ただ

しく出ていく者たちがいることを、シンは感知していた。

「君がAランクの冒険者とでもいうなら、話は別なのだがね」

バレンとしては、早く行動に移せるに越したことはない。しかし、組織の長である以上、シンの

一瞬黙も

考こう

し、受付嬢が軽く会え

釈しゃくし

て奥へと引っ込む。『氾濫』と聞いては無視するわけにもいか

ないのだろう。

「こちらへどうぞ」

数分で戻ってきた受付嬢が、シンを奥の部屋へとうながした。ギルド内の作りはどこの街でもほ

とんど同じらしく、少し歩くと大きな扉が見えてきて、受付嬢がそれをノックする。

「エリザです。例の冒険者の方をお連れしました」

「開いている。入ってもらえ」

扉の向こうからは男性の声で返答が来た。

この受付嬢はエリザという名前らしい。

エリザの開けてくれた扉をくぐって、シンは部屋の中に入る。

「ようこそ冒険者ギルドへ。私がギルドマスターのバレン・ラクトだ。『氾濫』についての情報を持っ

てきたということだが、詳しく聞かせてくれんかね」

ソファーを勧す

められたとき、バレンに観察されているとシンは感じた。

バレンの見た目は60すぎといったところ。髪は白いものが多く、顔には皺し

も目立つ。しかし、柔

にゅう

和わ

な顔をしていても、その眼光はバルクスにも劣お

らぬ鋭す

るどさ

を持っていた。

「俺はシンといいます。『氾濫』が発生したのは聖地カルキア周辺。ゴブリン、オーガなどの人型

モンスターが主となっています。進行速度から見て、こちらに来るまで一週間はかかると思われます」

Page 7: re nk newgate05 honmon - アルファポリス · 2017-11-24 · エリザの開けてくれた扉をくぐって、シンは部屋の中に入る。この受付嬢はエリザという名前らしい。扉の向こうからは男性の声で返答が来た。

13  Chap t e r 1 集いし刃 THE NEW GATE 05  12

やるべきことは多い。

「君はこれからどうする? 

察するに上級選定者なのだろう? 

私としては是ぜ

非ひ

とも協力願いたい

が」

「聞かれるまでもないですよ。おっしゃる通り上級選定者ですから、ある程度は期待していただい

て結構です」

「それは心強い。ならば、この都市にいる他の選定者と顔合わせをしておくといい」

バレンの話では主力となる選定者、とくに上級選定者クラスは一般の冒険者や騎士と同じ部隊に

はできないので、選定者同士でパーティを組んで戦うことになるという。武具も自分専用の物を持っ

ていることが多いので、通常の冒険者より準備に手間取らないそうだ。

「今はバルメルを守る選定者が、1人少ないと聞きましたが」

「知っていたか。こちらとしてもそれを懸け

念ねん

していたんだが、君という戦力が加わってくれたから

ね。幾い

分ぶん

かマシになったと思いたいところだよ」

「連れも選定者ですから、だいぶ当てにできますよ」

「それはありがたいことだ」

選定者が経営しているという店の場所を聞き、シンは冒険者ギルドを後にした。選定者といって

も皆が皆、冒険者や騎士になるわけではないのだろう。

情報をすぐ鵜う

呑の

みにするようなことはできない。

「では、これでいかがです?」

探るような視線を受けて、シンはアイテムボックスから月の祠ほ

こらの

紹介状を取り出した。

「まさか……」

紹介状を見て、エリザが言葉を漏も

らす。

「すでにベイルリヒトのギルドマスターに、本物だとお墨す

付つ

きをもらっていますよ」

「……なるほど、これを見せられては信じないわけにはいかないな」

バレンも視線に含んでいた疑ぎ

念ねん

を消した。

「確かめないので?」

「生あ

憎にく

と私は紹介状を持っていなくてね。ただ、君が言ったようにバルクス殿と連絡を取ることは

できる。君が嘘をついていてもすぐにわかるというわけだ」

「では――」

「うむ、これより非常事態宣言を発令する。君の言う連れが領主に話をつけてくれるなら、すぐに

でも軍は動くだろう。連絡が来しだい、我々は住民の避難準備を開始する。エリザ、各ギルドの代

表者に連絡をつけてくれ」

「承知しました」

命令を受けたエリザが部屋を後にした。軍や部隊の編成、物資の調達、住民の避難と、これから

Page 8: re nk newgate05 honmon - アルファポリス · 2017-11-24 · エリザの開けてくれた扉をくぐって、シンは部屋の中に入る。この受付嬢はエリザという名前らしい。扉の向こうからは男性の声で返答が来た。

15  Chap t e r 1 集いし刃 THE NEW GATE 05  14

その人物は、シンの顔を確認すると全身で驚きを表現した。

種族は猫のハイビースト。外見は、二足歩行の猫が服を着ている、という以外に表現のしようが

ない。顔は大部分が白いのだが耳だけが黒い。なぜか顔の毛の一部が灰色になっており、それがタ

イルに入ったひび割れのように見える。

シンが呼んだ「ひびねこ」というのはそこからついたあだ名だ。ゲームだったころのアバター名

は、【猫ね

又また

@ライジング】である。

声だけ聞けば、渋し

い壮そ

年ねん

の男性を思い浮かべるのだが、低身長、着ぐるみ体型のせいで、遊園地

にいるような動物をデフォルメしたマスコットキャラクターに見えなくもない。

頭上にビックリマークでも浮かんでいそうな仰の

け反ぞ

り具合が、見た目と相まって漫画のギャグ

キャラのようである。

「そ、そっくりさんですかな?」

「誰のですか! 

あ、いやでも、なんで。ひびねこさん、あなたはデスゲームで……」

死んだはず。

声にこそ出さなかったが、シンはそれが間違いないことを知っている。

しかし、【分ア

ナライズ析

】で表示されるのは間違いなく【猫又@ライジング】だ。

「本当に、シンにゃー

0

0

0

0

0

なのか……?」

「あー……間違いなくひびねこさんだ……とりあえずその呼び方をやめようか」

        

「あれか……どっかで見たような看板だな」

言われた通り道を進んだ先で、目印の看板を見つける。肉球と小さな魚の描かれた看板に、シン

は首を傾か

げた。

「肉球、小魚……いや待て、あれは……煮に

干ぼ

し?」

肉球と煮干し。その組み合わせに、シンの脳の

裏り

に閃ひ

らめく

ものがあった。

「店の名前は、『にゃんダーランド』……だと? 

ま、まさか」

ここにはいないはずの人物を思い浮かべながら、シンは店の扉を開ける。カランとベルの鳴る音

を立てて店の中に入ると、そこは落ち着いた雰囲気のバーになっていた。

見覚えのある、否い

、見覚えのありすぎる内装にシンはどう動くべきか一瞬迷った。

「ん? 

お客さん、申し訳ありませんがまだ開店前となっております。お酒はもう少し日が傾か

たむい

からの方が、美お

味い

しくいただけますよ」

シンが固まったまさにその時、店の奥から深みのある男性の声が聞こえた。

これまた聞き覚えのありすぎる声に、シンは声のした方向へ顔を向ける。

「……ひびねこ、さん?」

「確かに、親しい人にはそう呼ばれていますが……゙にゃ゙にゃ゙にゃっ!?」

Page 9: re nk newgate05 honmon - アルファポリス · 2017-11-24 · エリザの開けてくれた扉をくぐって、シンは部屋の中に入る。この受付嬢はエリザという名前らしい。扉の向こうからは男性の声で返答が来た。

17  Chap t e r 1 集いし刃 THE NEW GATE 05  16

バルメルは一番最初に辿た

り着いた場所らしく、ここを拠き

点てん

に冒険者として活動していたという。

「じゃあこの店は何なんです?」

「冒険者として活動するよりも、こっちのほうが性し

ょうに

合っていたのだ」

バー『にゃんダーランド』は、ゲーム時代にひびねこがやっていた店の名前だ。メニューの半分

が猫まんま

0

0

0

0

の系統なのも変わっていない。

「それに、他にもプレイヤーが来た時の目印にもなる」

「他にもいるんですか!?」

どうやら、シンが思っていたより事態は大規模なようだ。デスゲームで死んだはずのプレイヤー

が何人もいるなど、予想外にもほどがある。

「吾輩が知っている限りではシャドにゃー、ホーにゃー、マサにゃー、ヒラにゃーがこの世界に来

てるのは間違いない。ただ……」

「ただ?」

「他にもPKが何人か来ているようだ」

「PKが!?」

プレイヤーが来ている。それを聞いて、たとえ元の世界で死んでもこっちで生きていられるのな

ら救いがあると思ったシンだが、続くひびねこの言葉を聞いて表情が変わる。

PK――プレイヤーキル、もしくはプレイヤーキラーの略称だ。プレイヤーがプレイヤーを殺す

名前の最後に「にゃー」をつける独特の呼び方に、シンは緊張が霧む

散さん

するのを感じた。思えばゲー

ムだったときも、意図せず場の空気を変えるプレイヤーだった。

「はぁ、なんだかよくわかりませんが、お久しぶりです、ひびねこさん。いや、猫又@ライジング

さんと呼んだほうがいいですかね?」

「むぐっ、吾わ

輩はい

の封印されし真し

名めい

を知っているとは、やはりシンにゃー」

「【分ア

ナライズ析

】で見ただけですけどね。というか、マジでシンナーみたいな呼び方はやめてください」

以前も交か

わしたことのあるやり取りをしながら、シンはため息をつく。

「ふぅむ、どうやら本当にシンのようだな……なあ、シン。これだけは、確認させてほしい。シン

は死んでしまったのか?」

「いや、それはない、はずです」

シンは【オリジン】に勝ってから自分の身に起こったことを簡単に話す。少なくとも死んでいな

いはずなのだ。

「いやはや、そんなことが」

「こっちとしては、どうしてひびねこさんがここにいるのかが気になるんですが」

「それについては吾輩にもわからん。デスゲームで命を落として、気がついたら草原に寝ていたの

だ。レベル、ステータス、アイテム。そういったものは死ぬ前と変わりなかったので、生きていく

には苦労はしなかったがな」

Page 10: re nk newgate05 honmon - アルファポリス · 2017-11-24 · エリザの開けてくれた扉をくぐって、シンは部屋の中に入る。この受付嬢はエリザという名前らしい。扉の向こうからは男性の声で返答が来た。

19  Chap t e r 1 集いし刃 THE NEW GATE 05  18

るのかと思ってしまう。

「まあ、今は考えても詮せ

無な

きこと。それよりもシンはなぜこの店に?」

「ああ、もうすぐ連絡が来ると思うんですけど、『氾濫』が起こったんですよ。で、ギルドマスター

に選定者同士顔合わせをしておくといい、って言われてここに」

「そういうことか。なら、シャドにゃーたちにも声をかけておこう」

ひびねこは少しの間、黙り込む。プレイヤーだということもあって、シンはひびねこが【心し

話わ

を使っていることがわかった。

「シンのことを話したら、すぐに来ると言っていたぞ」

「近くにいるんですか?」

「お隣と

なりさ

んだ。看板を見なかったかね?」

「それが、肉球の看板に注意がいってまして」

「喫き

茶さ

店てん

『B&W』を見逃すとは、シンもまだまだだな」

「『B&W』? 

それってシャドゥさんとホーリーさんの」

「そういうことだ。ちなみに、娘さんもいるぞ」

「マジですか!?」

娘がいる、のくだりで驚くシン。この世界では元プレイヤーでも子供が作れるらしい。

詳しい話を聞こうとしたところで、店の扉が勢いよく開かれた。

行為、もしくはそういった行動をするプレイヤーを指す。今回は後者の意味だ。

そして、デスゲーム時代のPKといえば、好んで人を殺す凶

きょう

悪あく

な者たちがほとんど。

「誰が来てるか、わかりますか?」

「さすがにすべては把は

握あく

できていない。ただ、ハーメルンが来ているのは間違いないようだ」

「あいつが来てるんですか? 

厄やっ

介かい

な……」

ハーメルン、その名を聞いたシンの表情は硬い。

デスゲーム時代にモンスターを利用したPK――MPK(モンスタープレイヤーキル)の常習犯

として知られていたプレイヤー、それがハーメルンだ。

ハイピクシーであり、シュニーたちほどではないが、この世界の上級選定者を上回る戦闘力を持っ

ていた。

「この世界でも、すでに多くの国で指名手配されている」

「何をしたんですか?」

聞かずとも予想はできたが、それでもシンは聞いた。

「大量のモンスターを引き連れて、街を襲ったらしい。大きな街ではなかったようだが、全滅した

という話だ」

「あの野郎。こっちでもやってることは同じか」

デスゲーム時に止と

めを刺した因縁を持つシンとしては、なんでそんなプレイヤーがこの世界にい

Page 11: re nk newgate05 honmon - アルファポリス · 2017-11-24 · エリザの開けてくれた扉をくぐって、シンは部屋の中に入る。この受付嬢はエリザという名前らしい。扉の向こうからは男性の声で返答が来た。

21  Chap t e r 1 集いし刃

「シンちゃんがいるってほんとなの!?」

「おいホーリー、少し落ち着け」

扉を蹴け

破やぶ

るように入ってきたのは、ハイエルフとハイロードの2人組だ。

大声を上げたのがハイエルフの女性で、ゆるくウェーブのかかった白髪と蒼あ

く透す

き通った瞳が印

象的だ。そんな彼女をたしなめているのが、シンと同じ黒髪黒目のハイロードの男性。美男美女と

いう言葉が、実によく似合う2人である。

「あの……ホーリーさん……できれば、ちゃん

0

0

0

付けはやめてください」

相手をちゃん付けするのはホーリーの癖なのだが、シンはどこかの幼稚園児と同じ呼び名になっ

てしまうので、呼ばれるたびに訂正するように要求していた。最後に会ったときは君付けだったの

だが、動転しているせいかすっかり忘れているようだ。

「ほ、ほんとにシンちゃんだわ。ああ、なんてことなの……」

「……ひびねこさん。なんだか思いっきり勘違いしてるっぽいんですけど」

「う、うむ、シンに聞いた話は大方伝えたはずだが」

どうやら死んでこの世界に来たと思っているようだ。目に涙を溜た

めていることからも、間違いな

いだろう。

「おいホーリー、シンは死んでいないぞ。ひびねこの話を聞いていただろう」

「えっ? 

そうなの?」

Page 12: re nk newgate05 honmon - アルファポリス · 2017-11-24 · エリザの開けてくれた扉をくぐって、シンは部屋の中に入る。この受付嬢はエリザという名前らしい。扉の向こうからは男性の声で返答が来た。

23  Chap t e r 1 集いし刃 THE NEW GATE 05  22

もともと早とちりな性格だったのだが、こっちにきてもそれは変わらないらしい。シャドゥがた

しなめるのもいつものことだ。

「本当ですよ。少なくとも、HPが0になってこっちに来たんじゃないのは間違いありません」

「よかったわ。私てっきり……でも、ならどうしてここに?」

「わからないと言っていただろう。それにしても久しぶりだな、シン。また会えて嬉しい、と言っ

ていいのかはわからんが」

ホーリーの問いに答えつつ、シャドゥが声をかけてきた。

「いえ、俺も会えて嬉しいですよ……再会、できたんですね」

「死んだあとというのは、予想していなかったがな」

シンとシャドゥは、このメンツの中では一番付き合いが長い。一時、パーティを組んでいたこと

もある。シンはシャドゥとホーリーが一緒にいるのを見て嬉しく、同時に羨う

らやま

しくなった。

シャドゥとホーリーは現実世界でも夫婦で、仲のよさは仲間内でも評判だったのだ。死してなお、

異世界とはいえ共にいられるということに、軽く嫉し

妬と

してしまう。

(まあ、俺とあいつ

0

0

0

の場合はちょっと事情が違うからな)

2人みたいな再会を願いそうになって、自じ

重ちょうす

るようにシンは小さく肩をすくめた。

「とりあえず、再会を喜ぶのはここまでにしましょう。ちょっと状況が状況なんで」

「そうだな。『氾濫』が起こったと聞いては、吾輩も落ち着いてはいられん」

シャドゥも表情を変える。

「冒険者ギルドはもう動いているのか?」

「はい、領主にも連れが話をしてます。各ギルドにも連絡がいってるはずです」

「さすがに対応が早いわね。でも、シン君の話をギルドマスターがよく信じてくれたわね」

「そこは、これを」

シンはホーリーの前に月の祠の紹介状を取り出す。それを見ると、皆納得したようにうなずいた。

「そっか。もうホームには行ったのね」

「目覚めた場所から近かったので、最初に行きました。もうシュニーとも会いましたよ」

3人とも月の祠の状況は知っていたようで、ホーリーなどは、シンに詳しい話を聞きたそうにし

ていた。しかしさすがに呑の

気き

にしている場合ではないので、シンはホーリーの視線をスルーして話

を戻す。

「ギルマスにも言いましたが、モンスターはゴブリンやオーガといった人型がメインです。注意す

るべきはとにかく数ですね。ゲームのイベントでもそうは見ない数でした」

「低レベルモンスターが大量に湧くのは『氾濫』の特徴だ。吾輩たち近接タイプは面の攻撃への対

応が難しいが、シンがいてくれるなら心配はいらなそうだな」

「見つけたときにやってしまえばよかったんじゃないか?」

シャドゥが冗談とも本気ともつかない調子で言った。

Page 13: re nk newgate05 honmon - アルファポリス · 2017-11-24 · エリザの開けてくれた扉をくぐって、シンは部屋の中に入る。この受付嬢はエリザという名前らしい。扉の向こうからは男性の声で返答が来た。

25  Chap t e r 1 集いし刃 THE NEW GATE 05  24

「いやそれが、例の連れってのがベイルリヒト王国の第2王女様なんですよ。さすがにそんな人の

前で力を使うのはなあ、と」

「怖がるか、称た

えるか、いずれにしろ混乱するでしょうねぇ。こっちじゃハイヒューマンって、半

分神様みたいな扱いを受けてるし。シン君のサポートキャラクターのシュニーちゃんはすごく有名

だし」

「そうなんですよ。しかも今でも十分興味持たれてて。シャドゥさんの言うとおり、俺も戦って犠

牲を出さないようにするつもりなんですけど、俺だってことがばれたくないんです」

そう、数がいくらいようと所詮は大半がレベル100もいかない雑ざ

魚こ

。広範囲魔術スキルで焼き

払えなくはないのだ。

それをしなかったのは、リオンが近くにいたからだ。

「権力者というのは、いつの時代も厄や

介かい

なものだ。件く

だんの

第2王女の場合は、そこまで毒されてはい

ないと聞くが」

ひびねこに続いてシャドゥが口を開く。

「まあ、王族となれば俺たちとは配置が違うだろう。おそらく、派遣組と一緒になるはずだ」

派遣組とは持ち回りで各地に配属される選定者たちのことだ。リオンの言っていた魔剣士と魔導

士が該が

当とう

する。

「だといいんですけど」

「それに我々が知り合いだと言えば、王女と別々になるのはほぼ確定だろう。急造のパーティと連

携の取れるパーティとでは、戦果が大きく違う。そのあたりはギルドマスターも理解している」

「むしろ私たちが足手まといになるかしら……シュニーちゃんは来ないの?」

「今はベイルリヒトです。俺がここにいる原因でもあるんですけど、王城内に瘴デ

ーモン魔

がいたみたいで」

「瘴デ

ーモン魔

が?」

シンの言葉にシャドゥが反応する。ひびねこやホーリーも声には出さなかったが、同じように驚

いているようだった。

「シュニーの話じゃ、天て

変ぺん

地ち

異い

から500年、まったく見かけなかったって聞きましたけど」

「うむ、吾輩も聞いたことはないな」

それに、シャドゥとホーリーもうなずく。

何があったのかはわからないが、再び瘴デ

ーモン魔

が動き始めたというのはあまりいい予感はしない。念

のため、王城内で何があったかも伝えておく。

「伯カ

ウント爵

級か。その程度なら吾輩たちでもなんとかなるな」

「それ以上ならダンジョンかクエストでしか戦ったことはないが」

「今じゃ地形が変わってるし、原因はちょっとわからないわね。この世界で私たちが行ったことの

あるダンジョンに、そういうところはなかったけど」

3人は顔を見合わせて眉ま

をひそめた。

Page 14: re nk newgate05 honmon - アルファポリス · 2017-11-24 · エリザの開けてくれた扉をくぐって、シンは部屋の中に入る。この受付嬢はエリザという名前らしい。扉の向こうからは男性の声で返答が来た。

27  Chap t e r 1 集いし刃 THE NEW GATE 05  26

「まあ、知らないよりはましだと思うので、一応頭の隅す

にでも置いといてください。今はもっと優

先しないといけないこともありますし」

考えたところで答えは出ないので、瘴デ

ーモン魔

のことはひとまず置いておく。

「とりあえず、武器と防具を強化するんで今使ってるやつを預からせてください」

「いいの?」

「今回は俺がいますけど、この先何があるかわかりません。強化しておいて損はないと思います。

もちろん、本気でやるんで期待してもらっていいですよ」

今回はシンがいる。ギルドや領主の準備を無駄にしてしまうが、はなから犠牲者など出す気はない。

シンの意識はすでに、いずれまた起こるであろう『氾濫』に向いていた。

「ふ、ふむ……シンの本気か。頼もしいが、おそろしい武器が出来そうだ」

「武器を渡すのが怖いな」

ひびねことシャドゥが若干上ずった声で言う。なまじシンの実力を知っているだけに、愛用の武

器にどんな魔改造を施ほ

どこさ

れるのか、という不安が頭をよぎっていた。

「よろしくお願いするわね! 

シン君がいなくても私たちがしっかりここを守るんだから!」

額ひたいか

ら汗を流す男性陣とは違い、ホーリーはやる気に満ちた顔で、さっそくシンにカード化した

ままの武器を渡す。

そこに、魔改造への不安は見えない。

「任せてください」

シャドゥとひびねこの分のカードも受け取って、一い

旦たん

アイテムボックスにしまう。作業は夜になっ

てからバルメルを抜け出し、月の祠を出現させてやるつもりだ。

「あ、そうだ。せっかくなんで俺の相棒を紹介しときます」

「相棒? 

シュにゃーさんなら知っているが」

「調テ

イマー

教師のジョブを取るとモンスターをテイムできるじゃないですか。あれですよ」

相棒と聞いてシュニーを思い浮かべたひびねこに、シンはモンスターをテイムしたことを告げる。

「ほほう、シンの目に適か

うモンスターがそういるとは思えないが」

髭ひげ

をいじりながら、ひびねこは興味深げに目を細めた。

「あまり強いモンスターっていなかったわよね」

「ふむ、このあたりならミストガルーダあたりか?」

興きょう

味み

津しん

々しん

なのはこちらも変わらないようで、ホーリーとシャドゥも心当たりを口にしている。

「今呼びますから少し待ってください」

そう言ってシンは、ユズハにパートナー同士の念話をつなぐ。

(こちらシン。ユズハ聞こえるか?)

(くぅ? 

なーにー?)

(ユズハを知り合いに紹介しようと思ってな。こっちに呼ぼうと思うんだが大丈夫か?)

Page 15: re nk newgate05 honmon - アルファポリス · 2017-11-24 · エリザの開けてくれた扉をくぐって、シンは部屋の中に入る。この受付嬢はエリザという名前らしい。扉の向こうからは男性の声で返答が来た。

29  Chap t e r 1 集いし刃 THE NEW GATE 05  28

(ちょっとまって……うん、シュニーお姉ちゃんもティエラお姉ちゃんも「また後で」だって)

少しの間は2人に確認を取っていたからのようだ。

「じゃあ、いきますよ。契サ

モン・パートナー

約獣召喚!」

シンが呪文を唱えると、足元に複雑な模も

様よう

が描かれた召

しょう

喚かん

陣じん

が出現する。

本来なら、これでシンの足元にユズハが現れるはずだったのだが――。

「きゃあっ!!」

「くぅっ!?」

「は? 

――むぐっ!」

短い悲鳴が聞こえたと思った矢先、顔を何か柔らかいものに包まれ、シンの視界が閉ざされた。

姿勢を崩し地面に倒れ込む。

するとシンが倒れた音以外にも、何かが地面に落ちた音が店内に響いた。

「いたた……いったい何が……って師し

匠しょう

!! 

何やってるんですか!?」

ティエラが痛みに目を潤う

ませながら視線を上げると、そこにはシンの頭を胸元に抱き込んだシュ

ニーの姿があった。

「……つい」

「ついじゃなくて、ああもう! 

いいからシンを放してください! 

苦しそうですよ」

息ができないのだろう。シンはしきりにシュニーの背を叩いている。胸元から漏れてくる「むむ! 

むむー!」という声は、「ギブ! 

ギブー!」と聞こえなくもなかった。

「こ、これが、うわさに聞く、天国と、地獄か……」

シュニーの抱ほ

擁よう

から解放されたシンが、ぜぃぜぃ言いながらつぶやく。ちょうど息を吐き出した

タイミングだったので、冗談抜きで窒ち

息そく

するところだったのだ。

最初は天国、終わりは地獄である。実は、避けようと思えば避けられたのはシンだけの秘密だ。

「……えーと、これはどういうことかしら?」

シュニーたちの突然の出現に固まっていたシャドゥ、ホーリー、ひびねこのうち、もっとも早く

再起動したのはホーリーだった。

「お、俺にも、さっぱり」

乱れた呼吸を整えながら、シンは答える。さすがに、ユズハと一緒にシュニーとティエラまで現

れるとは思っていなかったのだ。

「それについては私が」

何事もなかったかのようにシュニーが説明を始める。

それによると、ユズハを中心にした召喚陣にシュニーたちが引っ張られたらしい。本来は対象と

なる相手だけを転移させるはずなのだが、なぜか2人もユズハと同じような存在として認識された

ようだ。

Page 16: re nk newgate05 honmon - アルファポリス · 2017-11-24 · エリザの開けてくれた扉をくぐって、シンは部屋の中に入る。この受付嬢はエリザという名前らしい。扉の向こうからは男性の声で返答が来た。

31  Chap t e r 1 集いし刃 THE NEW GATE 05  30

「推す

測そく

ですが、召喚陣の中にいたのが原因ではないでしょうか?」

「巻き込まれ召喚ってやつか」

「召喚陣は直径1メルはありましたから、私もティエラも召喚陣の中にいたのは間違いないはずで

す」

「……そういえば、カシミアがそんなことを言ってたような」

シンはギルド六ろ

天てん

の召サ

モナー

喚士兼調テ

イマー

教師、カシミアの言葉を思い出す。

『パートナーを呼ぶときに他のパートナーが召喚陣の中にいると、時々一緒に現れることがあるの

よ。バグじゃないらしいんだけど』

内容はこんな感じだったはず、とシンは記憶が間違っていないことを確認する。

おそらく、もともと【T

ザHE Nニ

ーEW

Gゲ

ATE】にあった仕様のひとつなのだろう。

「いやはや、シンといると退屈しないな」

「まったくだ」

我に返って、呆あ

れたように言うひびねことシャドゥ。

「皆さま、お久しぶりです」

「シュにゃーさんも変わりないようでなにより」

「今度、シン君と再会した時のことを聞かせてね」

気軽に声を交わすシュニーたちを見て、シンはふと思った。

「なあ、シュニーって、ひびねこさんたちがこっちに来てるって知ってたのか?」

「はい、シンの友人ということで、いろいろとお話を聞かせてもらいました」

「それならもう少し早く言ってほしかったぜ。いや、ジラートのこととかあったからしょうがない

のかもしれんが」

自分以外にプレイヤーがいると知っていれば、シンの行動もまた違っていたはずだ。とはいえ、

死期が迫るジラードに会いにいかないという選択肢はあの時なかったので、怒ろうと思わない。

「申し訳ありません。隠しておくつもりはなかったのですが、言い出すきっかけがつかめず……」

「まあまあ、男の子が細かいことを気にしちゃダメよ。それより、私としては早くそっちのエルフ

ちゃんと子こ

狐ぎつねち

ゃんを紹介してほしいわ」

シュニーの内心を知ってか知らずか、ホーリーはティエラたちの紹介を求めた。

「わかってますよ。シュニーはもう知ってるでしょうから割か

愛あい

するとして、子狐がユズハで、エル

フがティエラです」

「くぅ!」

「ティエラ・ルーセントと申します」

ユズハが元気よく鳴き、ティエラが丁て

寧ねい

に頭を下げる。

「で、次はこっちな。この額ひ

たいに

ひびが入ったような顔をしているのが猫又さん、俺たちはひびねこ

さんって呼んでる。そっちがハイエルフのホーリーさんで、その隣にいるのがハイロードのシャドゥ

alphapolis-sp
テキストボックス
立ち読みサンプル はここまで