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52 SCG Article SCG Article そりゃあ、先手が取れれば簡単な話だ。 先手ならそのゲームで最初に土地を置き、だ いたいは最初の脅威を繰り出すことになる。ゲ ームを先導し、マナの面でも序盤に唱えられる 呪文の面でも有利に立てる。アグロ・デッキが、 対戦相手より先に問題を突きつけることができ れば、すべてはこちらのものだ。またコントロー ル・デッキであっても、安 全なターンがひとつ 増えることで、相手に邪魔されることなく順 風 満帆な航海を進めることができるだろう。 常に先手が取れるものなら、きっと『マジック』 は簡単だ。だが『マジック』の大会で勝つには、 後手のゲームをいくつも勝たなければならない。 事実、勝ちの数が上回っているなら、最終的に 先手のゲームより後手のゲームの方が多くなる。 つまり、デッキを後手でもうまく戦えるように組 めていないなら、その時点で失敗への道を歩ん でいるということなのだ。 「サービス・ブレイク」はテニス用語だ。先手 を打てず「受け」に回らなければならない不利 なゲームで、勝つことを意味する。ときには、相 手の動きを予想してボールを打ち返す方向を決 める必要があるだろう。「アブザン・コントロール」 が サ イド ボ ード に《 羊 毛 鬣 の ラ イオ ン/ Fleecemane Lion(THS)》を4 枚搭載している ことを知っていれば、《稲妻の一撃/ Lightning Strike(THS)》はかなり効果的だ……だが相 手は、本当にそれをサイドボーディング後に入れ てくるだろうか? その読みが当たれば大きい が、外せば悲惨なことになる。またサイドボー ディング後、本来ならしっかり受けられる構成に すべきところを攻撃的な形にしてしまうと、もっ と悲惨なことになるだろう。その逆もまた然りだ。 『マジック』で勝つための大きな鍵になること のひとつは、いつギアを切り替えるかを知るこ とであり、先手か後手かというのはまさにそう いった判断をもたらしうる。「受け」に回ったと きの対応を知っておくことは欠かせないのだ。 私の「ボス・スライ」デッキには、実はまだど こにも語っていない秘密の一手があった。この デッキが人気を集め出して、ミラー・マッチが 起こるようになったとき、私はサイドボーディン グ後のゲームでその秘密の一手を披露した。「後 手を選択する」という一手をね。なぜわざわざ 後手を? このデッキのミラー・マッチでは必ず 1 対1交換の戦いになり、最後にクリーチャーを 残した方が勝つからだ。デッキの速度が同じな ら、速さで圧倒することは不可能だ。「受け」 に回って半歩だけ遅れることで、同系の赤単を 息切れに陥らせることができるのだ。 ス・ レイ 原文:Tom Ross 翻訳:矢吹哲也 監修:鈴木健二 SCG Article#1 世界最強のチームとして名高い Channel Fireball の 一 員。 プ ロ ツ アーホノルル 2009 のベスト 8 入り の他、2014 年のグランプリグラン プリニュージャージー準優勝と、現 在も最前線で戦い続けるトッププレ イヤーである。 Tom Ross トム・ロス

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 そりゃあ、先手が取れれば簡単な話だ。

 先手ならそのゲームで最初に土地を置き、だいたいは最初の脅威を繰り出すことになる。ゲームを先導し、マナの面でも序盤に唱えられる呪文の面でも有利に立てる。アグロ・デッキが、対戦相手より先に問題を突きつけることができれば、すべてはこちらのものだ。またコントロール・デッキであっても、安全なターンがひとつ増えることで、相手に邪魔されることなく順風満帆な航海を進めることができるだろう。

 常に先手が取れるものなら、きっと『マジック』は簡単だ。だが『マジック』の大会で勝つには、後手のゲームをいくつも勝たなければならない。事実、勝ちの数が上回っているなら、最終的に先手のゲームより後手のゲームの方が多くなる。つまり、デッキを後手でもうまく戦えるように組

めていないなら、その時点で失敗への道を歩んでいるということなのだ。

 「サービス・ブレイク」はテニス用語だ。先手を打てず「受け」に回らなければならない不利なゲームで、勝つことを意味する。ときには、相手の動きを予想してボールを打ち返す方向を決める必要があるだろう。「アブザン・コントロール」が サイド ボ ード に《 羊 毛 鬣 の ライオン/Fleecemane Lion(THS)》を4枚搭載していることを知っていれば、《稲妻の一撃/ Lightning Strike(THS)》はかなり効果的だ……だが相手は、本当にそれをサイドボーディング後に入れてくるだろうか? その読みが当たれば大きいが、外せば悲惨なことになる。またサイドボーディング後、本来ならしっかり受けられる構成にすべきところを攻撃的な形にしてしまうと、もっと悲惨なことになるだろう。その逆もまた然りだ。

 『マジック』で勝つための大きな鍵になることのひとつは、いつギアを切り替えるかを知ることであり、先手か後手かというのはまさにそういった判断をもたらしうる。「受け」に回ったときの対応を知っておくことは欠かせないのだ。

 私の「ボス・スライ」デッキには、実はまだどこにも語っていない秘密の一手があった。このデッキが人気を集め出して、ミラー・マッチが起こるようになったとき、私はサイドボーディング後のゲームでその秘密の一手を披露した。「後手を選択する」という一手をね。なぜわざわざ後手を? このデッキのミラー・マッチでは必ず1対1交換の戦いになり、最後にクリーチャーを残した方が勝つからだ。デッキの速度が同じなら、速さで圧倒することは不可能だ。「受け」に回って半歩だけ遅れることで、同系の赤単を息切れに陥らせることができるのだ。

サービス・ブレイク 原文:Tom Ross 翻訳:矢吹哲也 監修:鈴木健二

SCG Article#1世 界 最 強 の チ ームとして名 高 い

Channel Fireball の 一員。プロツ

アーホノルル2009のベスト8入り

の他、2014 年のグランプリグラン

プリニュージャージー準優勝と、現

在も最前線で戦い続けるトッププレ

イヤーである。

Tom Rossトム・ロス

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 カードは、先に使うか後に使うかによってその強さが変わるものだ。以下に、スタンダードの主力カードで先手後手の影響を特に大きく受けるものをいくつかご紹介しよう。マッチアップによって変わる立ち回りや影響を受けにくいカードを把握しているかどうかは、試合の勝敗を分け得るからね。

後手で使って強いカード

◆《乱撃斬/ Wild Slash(FRF)》  新 た に 加 わ った《 焦 熱 の 衝 動 / Fiery Impulse(ORI)》や時々サイドボードに見受けられる《マグマのしぶき/ Magma Spray(JOU)》にも同じことが言えるが、《乱撃斬/ Wild Slash

(FRF)》を撃ち込む対象は以下のどれかになるだろう。

・《 鐘 突 き の ズ ルゴ/ Zurgo Bellstriker(DTK)》や《アクロスの英雄、キテオン/Kytheon, Hero of Akros(ORI)》といった、その強烈なまでの攻勢を止める必要がある1マナ域。・《 ラ ク シ ャ ー サ の 死 与 え / Rakshasa Deathdealer(KTK)》 や《 道 の 探 求 者 /Seeker of the Way(KTK)》、《ヴリンの神童、 ジ ェイ ス /Jace, Vryn’s Prodigy

(ORI)》といった、主力となる2マナ域。・《 ゴ ブ リ ン の 熟 練 扇 動 者 / Goblin Rabblemaster(M15)》のような、それ1枚で勝てる3マナ域。

 ここぞというときには軽いコストで前線を押し上げるのに使える《乱撃斬》だが、わずか1マナで対戦相手の動きを見事に寸断することもで

きる。そのため、軽量クリーチャーによる猛攻が予想される場合、初手に欲しいカードだ。

◆《 白 蘭 の 騎 士 / Knight of the White Orchid(ORI)》 まだスタンダードの舞台に登場したばかりのため、《 白蘭の 騎 士 / Knight of the White Orchid(ORI)》が多くのデッキリストに入っていないことはそう驚くことではないだろう。マジック・コミュニティは「白単『信心』」が活躍を見せる瞬間が来るのかを未だ見定められずにおり、 ま た《 徴 税 の 大 天 使 / Archangel of Tithes(ORI)》といったカードが隣にあるものだから、《白蘭の騎士》自体の強さが見えにくくなっているのだ。

 どのマッチアップにおいても特に強みのない2マナ域のクリーチャーをサイドボードの選択肢として検討しているのは、滑稽に感じるかもしれない。だが《白蘭の騎士》は、後手の不利を取り返すことができる極めて強力な1枚だ——白が《エルフの神秘家/ Elvish Mystic

(M15)》や《爪鳴らしの神秘家/ Rattleclaw Mystic(KTK)》、《 森 の 女 人 像 / Sylvan Caryatid(THS)》といったものと同じ機能を持つカードを扱えるのは、珍しいことなのだ。

◆《勇敢な姿勢/ Valorous Stance(FRF)》、《 軽 蔑 的 な 一 撃 / Disdainful Stroke(KTK)》 これら2 枚は、対象がいなければ死に札となる可能性がある代わりに、マナ・コストで上回るカードに対処できる。つまり2マナでよりコストの重いカード、基本的には4マナ以上のものと交換が取れるのだ。《勇敢な姿勢/ Valorous

Stance(FRF)》は、《クルフィックスの狩猟者/ Courser of Kruphix(BNG)》や「英雄的」で強化されたクリーチャーはもちろん、《包囲サイ/ Siege Rhino(KTK)》のような4マナ域の多くに対処できる。3ターン目に土地をタップ・インしつつ、対戦相手のクリーチャーを除去したり打ち消したりする動きは、後手で勝つうえで必須のものとなるだろう。

◆《 悲 哀 ま み れ / Drown in Sorrow(BNG)》、《 神 々 の 憤 怒 / Anger of the Gods(THS)》 これらは、「エスパー・ドラゴン」や「ジェスカイ・コントロール」など、小型のクリーチャーを用いないデッキにうってつけなサイドカードだ。「ジェスカイ・トークン」や「アブザン・ミッドレンジ」のようなデッキも採用しているのは興味深いが、相応のリスクも伴うことになるだろう。軽い全体除去が「アタルカ・レッド」のようなデッキとの対戦においてこの上なく強いのは明白だが、こちらも軽量クリーチャーを駆使するミラー・マッチにおいてはどうなのだろうか?

◆《思考囲い/ Thoughtseize(THS)》 1ゲーム目に手札破壊ができるのは悪くない。だが実は、手札破壊は後手でこそ強く、先手ではやや劣るのだ。その理由を語ろう。

 こちらがリソース的に優位にいて、1対1交換ができる状況なら、消耗戦は望むところだろう。後手ならドローが 1回多いため、1対1交換に向 い て い る の だ。 ま た、《 思 考 囲 い /Thoughtseize(THS)》なら対戦相手の2マナ域や3マナ域のカードを取り去って、マナ・カー

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ブに沿った展開も阻害できる。

 一方で、マナ・カーブ通りに展開を進めるフェアなゲームにおいて先手を取ると、《思考囲い》のようなカードは比較的弱くなる。カードが1枚少ない状態で盤面の展開が進んでいないときに、1対1交換は望ましくないのだ。《思考囲い》をはじめとした手札破壊を用いるプレイヤーたちに、ひとつ言っておこう。対戦相手がコンボ・デッキでないなら、先手のゲームでは手札破壊をサイド・アウトして、より前向きなカードを入れると良いだろう。

後手で使うと弱いカード

◆《ゴブリンの熟練扇動者》 《ゴブリンの熟練扇動者》は、ここ最近の環境を席巻している1枚だ。1点、6点、8点、10点。ひとたび戦場に現れると、ターンが進むごとにそれだけのダメージを叩き出す。しかも2ターン目に繰り出すこともでき、レガシーなら1ターン目も夢ではない。ゲーム序盤に繰り出して対処されなかった場合の力は、疑う余地がないだろう。

 だが後手では……対戦相手がきちんと備えていればなおさら……《ゴブリンの熟練扇動者》は急に立ち往生し始める。ゴブリン・トークンは先に出されたブロッカーに返り討ちを受け、すると《ゴブリンの熟練扇動者》までもが攻撃力を失うのだ——防御力も頼りないのは言うまでもないだろう。さらに相手が《英雄の破滅/Hero’s Downfall(THS)》などで《ゴブリンの熟練扇動者》をしっかり対処し、積極的な姿勢を崩さなければ、こちらはあっという間に追い詰められる。相手の除去が軽いもので、そのターンにもうひとつ動きを見せようものなら、希望は完全に絶たれることだろう。

◆《大歓楽の幻霊/ Eidolon of the Great Revel(JOU)》 もうひとつ、先手では驚くほどの力を発揮するクリーチャーがこの《 大 歓 楽 の 幻 霊 /Eidolon of the Great Revel(JOU)》 だ。「 エスパー・ドラゴン」のようなゲーム後半に勝負を決めるデッキや、「緑赤『信心』」のように一発で40点ほどの強打を狙うデッキを相手にする場合は、先手後手いずれにしてもこちらのライフ・ロスは気にならないだろう。だが一方で、赤いデッキの射程内で戦う場合は、先手か後手によって2 対1交換の大活躍か決して唱えられないか、明暗が大きく分かれる。《大歓楽の幻霊》をメインから採用しているなら、同系との戦いにおいては、後手のゲームではサイド・アウトするのが賢明だろう。

◆《ヴリンの神童、ジェイス/Jace, Vryn’s Prodigy(ORI)》 シカゴで行なわれた「SCG Open」にてその

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力を存分に振るった《ヴリンの神童、ジェイス/ Jace, Vryn’s Prodigy(ORI)》だが、劣勢をすぐに挽回するようなカードではない。先手2ターン目にプレイするものとしては文句なしで、また遅いデッキに対してはいつ繰り出しても強い1枚だが、しかし積極的にプレッシャーをかけてくるアグレッシブなデッキと後手番で対峙すると、散々なものになる。その状況での《ヴリンの神童、ジェイス》は何の脅威にもならず、

《乱撃斬》のような軽い呪文であっさり除去されてしまうのだ。

◆《 歓 楽 者 ゼ ナ ゴ ス / Xenagos, the Reveler(THS)》 「緑赤『信心』」デッキにてマナ加速と盤面の脅威の両面で活躍する《歓楽者ゼナゴス/Xenagos, the Reveler(THS)》だが、生み出すトークンのサイズが心許なかったり、ゲーム序盤にクリーチャーが除去されるおそれがあったりするマッチアップでは、その強みを活かせない。その状況では、[+1]能力も貧弱なものと化すのだ。

◆《秘宝の探求者/ Relic Seeker(ORI)》 このカードを初めて目にしたとき、私は(他にも多くの者が同じことを感じたと思うが)《石鍛冶の神秘家/ Stoneforge Mystic(WWK)》の再来になり得る、と感じた。しかし、シカゴでの「SCG Open」の上位64人のデッキリストには、

《秘宝の探求者/ Relic Seeker(ORI)》の姿を1枚も見かけられなかった。ここで私が、なぜそうなったのか、「装備品の選択肢が乏しい」という以外の理由をお教えしよう。このカードは、後手では目も当てられないことになるのだ。このカードの利点を活かせるかは、対戦相手の動きにかかっている。そして、それは後手で得られるようなものではないのだ。《秘宝の探求者》は「高名」を持つものの中でも一際優れている。だがそれは、「高名」を達成できてこその話なのだ。

先手後手どちらでも強力なカード

◆《エルフの神秘家》 Brad Nelson(ブラッド・ネルソン)は、スタンダード最高のカードとして《エルフの神秘家》を挙げた。「緑赤『信心』」にて、《岩だらけの高地/ Rugged Highlands(KTK)》が入ってこない限りはデッキ中唯一のレアや神話レアでない《エルフの神秘家》が、長きにわたりそのデッキの主力を担っていることからも、このカードの強さがわかるだろう。後手のときにわずか1マナで後手の不利を覆し、《クルフィックスの狩猟者/ Courser of Kruphix(BNG)》や《死霧の猛禽/ Deathmist Raptor(DTK)》、あるいは《棲み家の防御者/ Den Protector(DTK)》を裏向きに繰り出す動きへ繋げることができる、というのもその強みのひとつだ……そして先手なら「2ターンも」先んじることができ、対戦相

手がまだ土地を2 枚置いただけのタイミングで《囁きの森の精霊》を盤面に送り出すこともできるのだから、もはや卑怯なくらいだね。

◆《カマキリの乗り手/Mantis Rider(KTK)》 シカゴで行なわれた「SCG Open」では、「マジック・オリジン」で新たに得られた革新的なアイデアを受けて、「ジェスカイ」が大挙して押し寄せることとなった。Gerry Thompson(ジェリー・トンプソン)が検討していたように、さまざまな形の「ジェスカイ」が現れたのだ。その中で、トークンを中心にした戦略以外のものにはほぼ確実に採用されているのが《カマキリの乗り手/ Mantis Rider(KTK)》だ。現在の環境においては、速攻を持つクリーチャーの活躍は「疾駆」能力のものが大半だった。《カマキリの乗り手》は、先手では大きな推進力となり、後手でもライフ・レースを始めるのに十分な戦力だ。どちらにしても、対戦 相手が《稲妻の一撃/Lightning Strike(THS)》や《 胆汁病/ Bile Blight(BNG)》を扱うデッキで2マナを構えていない限り、《カマキリの乗り手》はかなり頼もしい1枚となるだろう。

エターナルでの一例

 広く常識になっているかどうかは分からないが、少なくともここ数年のレガシーで青を駆使するプレイヤーたちにとっては、打ち消し呪文の真理とも言うべきことがある。

 すなわち、「後手では《Force of Will(ALL)》、先手では《目くらまし/ Daze(NEM)》」だ。

  対 戦 相手 の理 想 的な回りには《Force of Will》で対応したいところだが、そうするとカードを2 枚失うことになる。しかし、ドローが1枚多い後手なら《Force of Will》の痛みは和らぐため、より使いやすくなるだろう。一方《目くらまし》は、後手では土地の枚数で対戦相手に先を越されるため、マナを支払われてしまう可能性が高いのだ。

新たなマリガン・ルール

 プロツアー「マジック・オリジン」では、新たに実験的なマリガン・ルールが施行される。マリガンを選択して初期手札が6 枚以下になったプレイヤーは、その後に占術1を行えるというものだ。この新しいマリガン・ルールを個人的に試してみたというプレイヤーたちから話を聞いてみると、その反応は完全に肯定的なものだった。直接聞いた話でもソーシャルメディア上でも、マイナス面の評価はひと言も出なかったほどだ。私としても、プロツアーでのテスト後にこの新しいルールがスタンダードに適用されることを願っている。と言うより、採用されない理由が見当たらない。

 実際のところ、マリガン後の占術によって何が起こるだろうか?《秘密を掘り下げる者》を変身させられるというのはもちろんだが、それ以外にも、ライブラリーの一番下へ送りたくなるようなものでなければ一番上のカードを知ることができる、というのが大きいだろう。これにより、1ターン目にプレイする土地を「フェッチ・ランド」にするか「占術土地」にするかという選択に大きな影響が与えられるのだ。

 ここで、先手でマリガンを行った場合には、やや難しい判断を迫られることになる。後手の場合は最初の土地を置く前にドローを行なうため、ライブラリーの一番上のカードに気を揉む必要はないのだ。全体的に見れば、今回の新しいマリガン・ルールは先手より後手に有利に働くということであり、それは大いに歓迎したい。ダイス・ロールに負けたり、不運なマリガンだったりということのダメージを軽減してくれることは、『マジック』にとって実に望ましいことと言えるだろう。

 このルールはのちにデッキ構築にも影響を与え、後手で強い形のものが増えると私は予想している。そして恐らく、実際に後手を選ぶ機会もぐっと増えるだろう。私はこのルールが正式に採用され、先手でも戦えるが後手でこそ強いデッキを持って『マジック』の大会へ行く日を心待ちにしている。試合前のダイス・ロールで先手を取ることが、大事でなくなる日を楽しみにしているよ。

終わりに

 今回ご紹介した先手と後手それぞれの強みが、みんなの助けになれば幸いだ。とはいえ、記事のどこかで間違いを起こしているかもしれないな。誤解を恐れず言うなら、私自身はややカード・アドバンテージに傾倒したところがある。ときどき、他のプレイヤーより後手を選ぶ回数が多いんじゃないかと自問しているよ。そういえば、つい最近モダンで行なわれた大会でも、私は積極的に後手を選んだ。私の考えでは、後手を選ぶことは『マジック』で最も過小評価されていて、研究の進んでいない部分だと思う。サイド後のゲームは1対1交換の勝負になりやすく、ゲームの速度が落ちやすい。次に大会に出たときにでも、ちょっと考えてみてくれ。ミラー・マッチや消耗戦になりやすいマッチアップでは、序盤にプレッシャーをかけていくのと最後に脅威を残すのと、どっちが勝てるだろうかと。『マジック』における重要な選択は、ゲームが始まる前にもやってくる。ゲーム中の立ち回り、適切なサイドボーディング、そして、カードを1枚多く手に入れるかどうか、だ。