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新商品・ソリューション・サービス解説 166 富士ゼロックス テクニカルレポート No.24 2015 宅配便のように帳票を追跡し業務プロセスを 可視化するソリューション・サービス事例 Solutions and Services Monitoring Work Processes by Tracking Forms and Documents 人が関わる業務には、帳票や書類を回付しながら仕 事を行う事務プロセスがある。富士ゼロックスはこの ような業務プロセスに対して、製造業の生産管理で POP(Point Of Production)として知られているシ ステムの適用を試みた。POPの考え方を取り入れるこ とで、事務業務においても、現場の活動状況を反映し たデータをリアルタイムに収集・管理でき、業務状況 の可視化と業務改善のPDCAサイクルを回すことが できる。しかし、POPの導入は一般に業務事情に合わ せた個別システム開発を伴い、高額な投資が必要とな るため、事務業務にはほとんど導入されていない。そ こで、宅配便のように帳票を追跡する帳票トレーサビ リティと、ビッグデータ管理に用いられる非構造化 データベースとを用いて、個別システム開発を抑え、 安価に導入可能な事務業務向けPOPを考案した。これ を、社内の事務業務に適用し、業務プロセスのスピー ド向上と品質向上に成功した事例を紹介する。 Abstract In office work, people pass around forms and documents. This is where Fuji Xerox applied a system that is known as the POP (Point of Production) in the manufacturing industry’s production control process. Even in office work, this system offers a way to monitor operational status, implement the PDCA cycle, and improve operations through collecting and managing real-time data showing the actual work progress. However, the POP has rarely been implemented in office work due to a hefty cost needed to develop a customized system tailored to each client's requirements. Fuji Xerox thereby devised a low-cost POP system for office work that does not require any customized development. This was made possible by combining traceability that tracks forms and documents in the same way as for those used for package deliveries, with unstructured database used for big data management. This paper introduces an example in which we adopted this system to the in-house office work processes and successfully improved both speed and quality of the operations. 執筆者 川邉 惠久(Shigehisa Kawabe國武 節(Setsu Kunitake鈴木 明(Akira Suzuki大橋 宏光(Hiromitsu Ohashi商品開発本部 システム企画部 System Platform Strategy & Planning, Product Development Group【キーワード】 ファストサービス、スマートビズトレース、ト レーサビリティ、業務プロセス、ヒューマンワー ク、帳票、POP KeywordsFastService, SmartBizTrace, traceability, work process, human work, business form, POP.

Solutions and Services Monitoring Work Processes by ......Solutions and Services Monitoring Work Processes by Tracking Forms and Documents 要 旨 人が関わる業務には、帳票や書類を回付しながら仕

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新商品・ソリューション・サービス解説

166 富士ゼロックス テクニカルレポート No.24 2015

宅配便のように帳票を追跡し業務プロセスを可視化するソリューション・サービス事例 Solutions and Services Monitoring Work Processes byTracking Forms and Documents 要 旨

人が関わる業務には、帳票や書類を回付しながら仕

事を行う事務プロセスがある。富士ゼロックスはこの

ような業務プロセスに対して、製造業の生産管理で

POP(Point Of Production)として知られているシ

ステムの適用を試みた。POPの考え方を取り入れるこ

とで、事務業務においても、現場の活動状況を反映し

たデータをリアルタイムに収集・管理でき、業務状況

の可視化と業務改善のPDCAサイクルを回すことが

できる。しかし、POPの導入は一般に業務事情に合わ

せた個別システム開発を伴い、高額な投資が必要とな

るため、事務業務にはほとんど導入されていない。そ

こで、宅配便のように帳票を追跡する帳票トレーサビ

リティと、ビッグデータ管理に用いられる非構造化

データベースとを用いて、個別システム開発を抑え、

安価に導入可能な事務業務向けPOPを考案した。これ

を、社内の事務業務に適用し、業務プロセスのスピー

ド向上と品質向上に成功した事例を紹介する。

Abstract

In office work, people pass around forms and documents. This is where Fuji Xerox applied a system that is known as the POP (Point of Production) in the manufacturing industry’s production control process. Even in office work, this system offers a way to monitor operational status, implement the PDCA cycle, and improve operations through collecting and managing real-time data showing the actual work progress. However, the POP has rarely been implemented in office work due to a hefty cost needed to develop a customized system tailored to each client's requirements. Fuji Xerox thereby devised a low-cost POP system for office work that does not require any customized development. This was made possible by combining traceability that tracks forms and documents in the same way as for those used for package deliveries, with unstructured database used for big data management. This paper introduces an example in which we adopted this system to the in-house office work processes and successfully improved both speed and quality of the operations.

執筆者 川邉 惠久(Shigehisa Kawabe) 國武 節(Setsu Kunitake) 鈴木 明(Akira Suzuki) 大橋 宏光(Hiromitsu Ohashi) 商品開発本部 システム企画部 (System Platform Strategy & Planning, Product

Development Group)

【キーワード】

ファストサービス、スマートビズトレース、ト

レーサビリティ、業務プロセス、ヒューマンワー

ク、帳票、POP

【Keywords】

FastService, SmartBizTrace, traceability, work

process, human work, business form, POP.

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新商品・ソリューション・サービス解説

宅配便のように帳票を追跡し業務プロセスを可視化するソリューション・サービス事例

富士ゼロックス テクニカルレポート No.24 2015 167

1. はじめに

オフィスには帳票や書類(以降、まとめて帳

票と記す)を回付して仕事を行う、さまざまな

事務業務がある。このような業務の生産性や業

務品質を改善するため、帳票を電子化し、帳票

の授受をワークフローシステム*1で管理する方

法が提案されている。

しかし、ワークフローシステムでは十分な改

善効果を上げられない場合がある。たとえば、

紙帳票を電子化するスキャン作業の工数が大き

な負担になる場合や、重要物の授受の証しとし

て紙帳票をなくせない場合には、電子化帳票へ

の移行は容易ではない。

また、紙帳票を扱うときの生産性は、まだま

だ電子帳票のそれに勝る場合が多いため、電子

化する前と同じ生産性を出せない場合もある。

このような事情で、IT化から取り残された業務

が多くある。

筆者らは、このような現状を鑑み、製造業の

生産管理に用いられている「POP:現場データ

管理システム」の考え方*2を事務業務プロセス

に適用する方法を考案した。その上で、現状の

業務のやり方を大きく変えずに業務プロセスを

可視化・整流化するシステム(SmartBizTrace)

を開発した。

このシステムは、特に事務業務プロセスにお

いて、個別の事情で発生するカスタマイズのた

めの開発費用を抑えて、安価に導入できるよう

にすることを狙っており、これにより、現場主

導で業務プロセスの生産性と品質の向上につな

がる改善活動を可能にする。

本稿では、まず、事務業務プロセスでの問題

点と、製造業での問題点との類似性を述べ、事

務業務プロセスへのPOPの適用を提案する。次

に、事務業務へPOPを適用した事例を紹介し、

有効性を検証した結果を示す。 後に、事務業

務へPOPを適用するうえでの課題とそれを解

決するための技術を説明する。

*1 ワークフローシステム:電子化された申請書などを、あ

らかじめ登録したルート(作業手順)に従って、回付し

決裁等の業務を支援するシステムのこと *2 POP:Point Of Production systemの略。物品販売に

おけるPOS(Point Of Sale system)の考え方を、製造

現場に取り入れたものと考えられる

2. 問題点と解決に向けたアプローチ

2.1 事務業務プロセスの現状と問題点

筆者らは、自社業務やお客様の業務の中で、

人が帳票を回付する事務業務プロセスに着目し、

ヒアリングや分析を行った。その結果、事務業

務プロセスには、次のような共通する問題点が

あり、いずれも有効な施策を打つのが難しいこ

とがわかった。

問題1:処理の遅延や滞留が検知できず業務品

質が低下する

IT化が遅れている業務プロセスでは、回付さ

れるべき帳票が担当者のミスで遅延や滞留をし

ていても、検知できない場合が多い。その結果、

処理の締め切り日に間に合わない、などの致命

的な問題が発生することがある。このような問

題は、特に納期遅延が許されない業務では、業

務品質に深刻な影響がある。

問題2:人員配置のムリ・ムダ・ムラが

避けられない

業務フローの後工程では、前工程から回付さ

れる帳票の量を、事前に把握することができな

い。このため、作業者のシフト計画は勘と経験

に頼って作成され運用されている。予測と実際

の業務量との間に大きな乖離があった場合、作

業者に待ち時間が発生したり、逆に、時間外の

業務で補わなければならなくなったりする。

問題3:付帯作業のために本来業務の生産性が

低くなる

帳票を回付する業務では、重要書類の授受確

認を確実に行うため、送付リストの作成や、授

受台帳への記録が行われている。また、手続き

に不備があった場合には、eメールや電話で連絡

するとともに、不備通知書の作成や、返却台帳

の記録などの作業が発生している。

それ以外にも、他部門からの進捗の問い合わ

せに対応するために、担当者に確認したり現物

帳票を探したりすることも多い。さらに、週次・

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新商品・ソリューション・サービス解説

宅配便のように帳票を追跡し業務プロセスを可視化するソリューション・サービス事例

168 富士ゼロックス テクニカルレポート No.24 2015

月次での集計作業も行っている。これらの作業

は、単純だが手間がかかるものが多く、生産性

への影響は見過ごすことができない。

2.2 生産管理での類似課題

筆者らは、こうした問題点が、かつての製造

業において直面していた問題点(図1)と類似

していることに気づいた。

森野[文献1)]によると、IT化が遅れていた製造

現場では、製造品の種類や個数、不良品発生な

どの作業実績報告が紙の日報で行われていた。

このため、作業の記録、報告や集計に手間がか

かっていた。その上、欠陥の発生のような重要

な問題が管理者にすぐには伝わらず、対処が遅

れてしまうことがあった。その結果、不良原因

の特定に着手したときには、発生から時間が経

過していて分析に必要なデータが集められない、

というような問題が起きていた。

また、生産状況をリアルタイムに把握できな

いため、機械、作業者などの割り付けや作業の

優先順位づけを、精度よく行うことができない、

という問題点があった(野口[文献2)])。

そのような現場にPOPを導入したことで、生

産状況がリアルタイムに把握できるようになり、

従業員の意識が改革されたことも手伝って、効

率を15%向上でき、同時にPDCAの短サイクル

化も達成できた、と報告されている。

このように、POPには、工場や生産の現場で

発生するデータを、発生源である「機械・設備・

作業者・製造品」から採取し、リアルタイムに

作業者や管理者に提供する意義がある。

3. 事務業務へのPOP適用事例

富士ゼロックスサービスクリエイティブは、

富士ゼロックスおよび販売会社における契約確

認や請求、代金回収を代行する売上計上事務

サービスを行っている。事務の効率化・省力化・

ス ピ ー ド ア ッ プ を 狙 い 、 2013 年 に

SmartBizTraceシステム(以降、新システム)

を導入した。

3.1 導入前の状況

売上計上業務は、東西2カ所の事務センター

に集約されており、全国の営業拠点と事務セン

ターとの間で、契約書などの重要書類をやり取

りしている(図2)。販売後は、営業拠点から事

務センターへ書類が送付されるだけだが、内容

に不備があった場合など、営業担当者に返却し

て是正してもらうこともある。

新システムの導入前(図3)は、送付時には

Excel®などで送付リストを作成して同封し、受

領時には送付リストと送付書類とを突き合わせ

て合致していることを目視で確認していた。ま

た、受け取った書類の番号や商談名などを台帳

へ入力して受領記録を残していた。送付された

書類に不備があった場合には、不備理由通知書

に必要事項をタイプ入力して添付し、さらに、

急ぎの場合には電話やeメールで不備内容を連

絡していた。

しかし、全国の営業拠点から送付される売上

計上申請書は1日に1万件を超すこともあり、授

受のたびにそれぞれの商談名などを記録するこ

とは、事務センターや営業拠点の担当者にとっ

て大きな負担となっていた。

図2 売上計上業務における書類の流れ

Document flows in sales recording process 図1 製造業での関連する問題点

Problems in the work processes of the manufacturing industry

工程1 工程2 工程3 工程4

集計や現状把握に

時間と手間がかかる

日報の作成に手間がかかる

生産状況を リアルタイムに把握できない

不良発生へ

の対処が

遅れる

お客様

お客様

お客様

販売会社

支店

営業所

事務 センター

契約書 関連書類

差し戻し 再提出

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宅配便のように帳票を追跡し業務プロセスを可視化するソリューション・サービス事例

富士ゼロックス テクニカルレポート No.24 2015 169

そこで、商談名などの記載をやめ、授受を件

数だけで管理する方式に変更した。その結果、

どの商談の書類を受領したかが管理できなくな

り、「受領していない」「提出したはず」といっ

たやり取りが行われるようになり、書類を探索

するためにムダな工数が発生するようになった。

このように、送付リスト作成、台帳記入、月

末集計など授受管理のための工数は、業務品質

とトレードオフの関係にあることがわかった。

3.2 改善に向けた取り組み

売上計上業務の現場からは、新システムに対

して「作業者の負担を増やさずに現場の活動状

況をリアルタイムに把握できるようにして欲し

い」という要望が出された。この要望を満たす

ため、筆者らは、作業の履歴を電子的に収集す

るPOPの考え方を取り入れたシステムを検討

した(図4)。

3.2.1 帳票の印刷(回付の開始)

営業担当者は、売上計上を申請するために「売

上計上申請書」をプリントアウトする。

新システムの導入にあたって、全国の営業担

当者のPCに、業務データを収集するプリンター

ドライバーを設置した。このプリンタードライ

バーは、次のような特徴がある。

a) プリントアウトする帳票が「売上計上申請

書」であることを検知すると、自動的にプ

リントデータから業務データ(後述)を抽

出してデータベースに登録する。

b) 宅配便のように帳票を追跡するための「追

跡番号」をバーコードとして「売上計上申

請書」に自動的に付与する。

帳票から抽出する業務データは、「商談の番号」

や「商談名」、「営業担当者」など、「売上計上申

請書」に記載されているデータである。これら

とバーコードの追跡番号とが、ひもづけてデー

タベースに登録される。営業担当者は、導入時

に新システム用のプリンタードライバーを設置

するだけで、日々の業務では従来どおりの操作

を行えばよい。

3.2.2 送付ステータスの登録

図5に示すように、営業拠点では、帳票と契

約書などの関連書類を事務センターに送付する

ときに次のような操作を行う。

Webブラウザーに新システムの送付ステー

タス登録用画面を表示させ、「売上計上申請書」

帳票 (電子)

帳票(紙)

印刷 送付 受領 不備返却

データベース内部の概念的な動作

印刷 履歴データ

送付 履歴データ

受領 履歴データ

不備返却履歴データ

業務データ 追跡する帳票ごとに 新しいBOXができる

不備理由

データベース

作業履歴

図4 SmartBizTraceの動作原理 Basic operations of SmartBizTrace

事務センター

付帯作業

の種類

受領

送付

印刷

内容 チェック

不備返却

不備 対応

月度集計

月度集計

受領

請求業務計上業務

aへ

aより

不備アリ

進捗確認

授受 記録

集計表作成

帳票 作成

問い合わせ や連絡

突き合 わせ

図3 書類の授受に伴う付帯作業の例 Examples of incidental work involved in exchanging documents

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宅配便のように帳票を追跡し業務プロセスを可視化するソリューション・サービス事例

170 富士ゼロックス テクニカルレポート No.24 2015

のバーコードをリードして「送付」ステータス

を登録する(図5の①)。複数の商談の書類を一

度に送付する場合は、すべてのバーコードを

リードしたあと、まとめてデータベースに登録

することができる。この操作を行うことにより、

いつ、誰が、どの商談の書類を送付したかがデー

タベースに登録される。

帳票の送付のときに同封する送付リストは、

「売上計上申請書」から抽出したデータを、空

の送付リストに差し込んで生成し、担当者のPC

にダウンロードさせることができる(図5の②)。

また、送付リストには、受領時に行う突き合わ

せ確認を自動的化するための「送付番号」のバー

コード(図5の③)が付与される。「送付番号」

では、「どの帳票をひとまとめにして送付したか」

を管理している。

3.2.3 受領ステータスの登録

事務センターでは、帳票を受領すると、次の

ような操作を行う。

Webブラウザーに新システムの受領ステー

タス登録用画面を表示させ、送付リストのバー

コード(図5の④)と、「売り上げ計上申請書」

のバーコードをすべてリードし(図5の⑤)「受

領」ステータスを登録する。

送付リストのバーコードには、送付リストに

一覧表示されている帳票の追跡番号と件数がひ

もづけられている。その結果、「送付リストの内

容と、実際に受領した売上計上申請書とが合致

している」、という突き合わせ確認が、自動的に

行われる(図5の⑥)。

3.2.4 不備返却ステータスの登録

送付された書類に不備があり、不備を是正す

るため営業担当者へ返却する場合は、次のよう

な操作を行う。

Webブラウザーに新システムの不備返却ス

テータス登録用画面を表示させ、「売上計上申請

書」のバーコードをリードし、不備理由や再提

出の期限を入力し、「不備返却」ステータスを登

録する(図6)。

返却する帳票に同封する不備理由通知書は、

送付リストの場合と同じように新システムのア

プリケーションから出力させることができる。

同時に、営業担当者へ不備理由を知らせるeメー

ルも新システムから自動的に送信される。

図5 送付リストと受領した帳票との突き合わせ Checking consistency between lists of formsto be received and those actually received

図6 不備返却ステータス登録のUI画面 UI for status registration for flawed forms to be sent back

送付リスト送付リストと、現物の

売り上げ計上申請書

を自動的に突き合わ

せ、差異を表示する。

4

5

重要書類 送付リスト

送付リストを自動的に生

成しプリントアウトする。

バーコード付きの帳票か

ら追跡番号をリードする。

1

2

3

送付

初に送付番号

をリードする。

6

拠点間の集配車や宅

配便により事務セン

ターに送付する。

送付番号が

付与される。

再提出締切日や不備

理由を入力する。

返却する売上計上申請書

追跡番号をバーコー

ドからリードする。

不備アリ

返却

メール通知

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宅配便のように帳票を追跡し業務プロセスを可視化するソリューション・サービス事例

富士ゼロックス テクニカルレポート No.24 2015 171

3.2.5 進捗の把握(商談ごとの状況)

営業拠点と事務センターでは、Webブラウ

ザーに新システムの検索画面を表示させ、商談

の番号や担当者名、受領した日付などの検索条

件を指定して、調べたい帳票の処理状況( 新

のステータス)や各工程で入力されたデータを

詳細に見ることができる(図7)。

3.2.6 進捗の把握(全体の状況)

事務センターでは、その日に「送付」ステー

タスが登録された帳票を検索することで、翌日

に到着する件数を把握し、商談ごとに設定され

た納期も確認できる。

その結果、これまで、勘や経験を頼りに行っ

てきた整員シフトや処理の優先度の調整を、実

データに基づいて行えるようになった。また、

新システムに蓄積されたデータを用いて、営業

拠点ごとの不備返却の集計値や不備理由をリス

ト化・分析し、改善計画の立案と実施に取りか

かる、といった活用も行われている。

3.3 導入効果

新システムは2013年1月に稼働し、2014

年12月で2年が経過した。ユーザー数は約

4,500名で、アクセス数は10万ページビュー

/日に及び、365日・24時間稼働するシステ

ムとして、当社および販売会社のすべての営業

部門と事務サービス部門で活用されている。

新システムを導入した結果、帳票の授受が商

談名などを含めて確実に管理できるようになり、

かつ、表1に示す付帯作業を自動化できた。そ

の結果、人員リソースを本来の事務処理に集中

させられるようになった。たとえば、2014年

の3月には、対前年比で15%増の規模の商談件

数となったが、前年と同数の人員で処理できた。

工程 作 業 の 種 類 提 供 機 能 導入前(人/月)

導入後(人/月)

現物の受領確認 自動突き合わせ

2.28 0.16受領台帳の記入 自動台帳記録

問い合わせ対応 ステータス検索

通知書の作成 自動通知書作成

1.96 0.58不備理由の作成 自動メール通知

返却台帳の記入 自動台帳記録

合計 4.24 0.74

また、作業の担当者からは、「進捗の問い合わ

せが大幅に減少し、授受に関する水掛け論もな

くなった。」「不備理由通知書の作成や営業担当

者への個別連絡から解放された。」「繁忙期に優

先させる業務の調整ができるようになった。」

などの声も寄せられている。

3.4 改善のポイント(まとめ)

SmartBizTraceの導入で、2章に示した事務

業務プロセスの3つの問題点は、大きく改善さ

れることが確認できた。本事例での改善のポイ

ントをまとめておく。

a) 作業者の負担を増やさずにリアルタイムに

現場データを収集し、検索・活用できるよ

うになった

b) 各種回付用帳票の作成、授受実績の記録、

送付リストとの突き合わせ、不備通知の

eメール送信、集計作業が自動化された

c) 現場データの統計処理、大局的な現状把握、

改善に先だって必要となる分析や課題抽出

を、科学的に行うことが可能になった

4. 事務業務へのPOP適用の障壁

4.1 課題

事務業務の場合でもPOPを適用すれば、紙帳

票による業務プロセスを大きく変えないで、業

務改善が可能なことを確認した。しかし、事例

を通じて、システムの導入を妨げる要因がある

こともわかり、事務業務プロセスに対して、広

く適用可能なソリューション・サービスとする

ためには、次のような課題を解決しなければな

らないと考えた。

図7 検索条件を入力するUI画面と検索結果

UI for specifying search conditions andshowing results

表1 SmartBizTraceの導入で改善された作業と効果 Work processes and related data before and after being improved by SmartBizTrace

検索したい業務デー

タを指定する。

検索したい履歴デー

タを指定する。

検索結果

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宅配便のように帳票を追跡し業務プロセスを可視化するソリューション・サービス事例

172 富士ゼロックス テクニカルレポート No.24 2015

課題1:現場主導で導入できる

従来型のシステム開発では、情報システム部

門が主体となって構築を進めるのが一般的で

あった。この方法では、企業内のさまざまな部

門や業務の課題をとりまとめ、優先順位を付け

ながら仕様がまとめられる。結果として、電子

化が困難な業務や、ルールが複雑で構築に期間

と費用がかかるような業務課題は先送りとなり、

システム化から取り残されている場合も少なく

ない。このように先送りされた課題を抱える部

門では、現場部門の予算の範囲で導入して運用

できるようなシステムが求められる。

また、近年では、事務業務に対する生産性や

品質の向上が常に求められており、現場の意識

も高まってきている。現場において具体的な改

善効果が実感できないようなシステムの導入は、

現場の作業者に受け入れられない。そのような

観点でも、「現場の事情に合わせて現場が主体と

なって導入できるシステム」が求められる。

課題2:すばやく導入でき、導入してからの

変更も簡単にできる

従来型のシステム開発では、構築に何カ月も

の開発期間が必要で、いったん稼働すると簡単

にシステムの変更はできない。その一方で、人

が関わる業務においては、現場の取り組みや工

夫で柔軟に業務ルールや仕事のやり方を変えて

いきたい、という要求がある。

こうした要求に対して、[文献3)]や[文献4)]か

ら、「すばやく構築できるシステム」、「ノンプロ

グラミングのデータベース」といったソフト

ウェアが販売されていることがわかる。これら

は、システム開発の専門知識が不要で、時間を

かけずに業務システムを構築できることを特徴

としている。

たとえば、栗原[文献5)]は、画面とデータ項目

を定義するだけでデータベースシステムを構築

した事例を紹介しており、また、浦野[文献6)]

は、情報システム部門主導の業務アプリ開発に

は限界が出始めており、近年、そのようなシス

テムの販売量が伸びていると述べている。

4.2 課題解決の方針

上記の課題について、筆者らも、独自にアン

ケート調査を行い「安価で簡単に現場に導入で

きる業務システム」への要求が強いことを確認

している。もし、お客様の業務に適合した業務

システムを、ノンプログラミングで構築できる

ならば、従来の個別開発によるシステム構築よ

りも、安価にお客様に提供できる。

そこで筆者らは、現場で効果を体感しつつ、

改善を進められるように、ノンプログラミング

でカスタマイズしたPOPを提供するソリュー

ション・サービスの仕組みの開発にチャレンジ

した。この仕組みをファストサービスのPOPと

呼ぶ。この節では、ファストサービスのPOPを

実現するための4つの基本方針を説明する。

方針1:帳票を介して現場データを収集して

活用する

事務業務プロセスでは、表2に示すように帳票

が「① 作業責任の証しとなるトークン*3」と、

「② 工程間のコミュニケーションの媒体」の役

割を担っている。業務プロセスの進捗状況の可視

化は、①トークンである帳票を追跡し、逐次、帳

票の所在やステータスをデータベースに記録す

ることで可能となる。

さらに、②コミュニケーションの媒体である帳

票にプリントされたデータや、回付中に発生する

データを、簡単な操作で帳票にひもづけてデータ

ベースに記録することができれば、現在の業務と

ほとんど変わらない手順で、現場データを集め、

現場が主体となって活用することが可能となる。

役割 説明・例

①作業責任の証しとなるトークン

帳票を受け取ると作業責任が発生し、帳票を持っている部門や担当者が、その事案の作業をしていることを示す。

②コミュニケーションの媒体

帳票ごとに、お客様名、担当者、金額や納期など、その事案についての業務データが記載されている。

*3 トークン:権利や責任の証しとなる物。例:引換券、代

用貨幣、商品券など。商品券は、発行した店舗において

額面金額の商品と交換する権利(商店にとっては責任)

を示すトークンであると考えられる

表2 業務プロセスで回付される帳票が果たす役割 Two functions of business forms in work process

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宅配便のように帳票を追跡し業務プロセスを可視化するソリューション・サービス事例

富士ゼロックス テクニカルレポート No.24 2015 173

種類 例

業務データ

商談コード:14012345

お客様名:○○商事株式会社

販売金額:123,456円

請求書必着日:2014/11/25

担当者:富士太郎

履歴データ 「富士太郎」が「2014/11/12」に「送付」

「山田花子」が「2014/11/13」に「受領」

証跡文書 「保守契約書」、「設置確認書」、「作業報告書」…

範囲 説明

ステータスの種類 帳票のバーコードをリードするときに、どの工程でどのステータスを登録するか

業務データの種類 帳票のプリントアウト時やWeb画面で入力をするときに、どの種類の業務データを入力するか

履歴データの種類 帳票のバーコードをリードするときに、どの工程でどの種類の履歴データを入力するか

証跡文書 どの工程でどのような文書をスキャンするか、あるいはUI画面からアップロードするか

追跡する帳票 どの種類の帳票を追跡するか、バーコードの種類、形、位置をどうするか、どの位置から業務データを抽出するか

生成する帳票 どのような個票(送付票、通知票など)とするか、あるいは、どのような台帳(管理表、集計表)とするか

メール通知 どのタイミングでどのようなeメールを送付するか

方針2:現場データの管理に適したデータ

ベースを構築する

業務の可視化や整流化のために集める必要が

ある現場データは次の3種類である。

業務データ

履歴データ

証跡文書

これらの例を表3に示す。現場データはそれ

ぞれ異なる性質を持っているため、それらを適

切に管理でき、かつ、導入時のスキーマ*4の設

計が不要なデータベースを新たに開発した。

方針3:カスタマイズの範囲を明確化する

ファストサービスのためには、導入時のカス

タマイズ範囲を明確に規定することがポイント

となる。範囲を狭くすると、実現性は容易にな

*4 スキーマ:データベースにおいて、管理するデータ(属

性)の種類や相互の関係を定義した情報。リレーショナルデータベースでは、スキーマ定義を行わないとデータの登録や検索ができない

るものの、一般の事務業務に広く適応すること

ができない。範囲を広げすぎると、技術的に「ノ

ンプログラミングで導入できること」を実現す

ることが困難になる。またカスタマイズ作業が

複雑となり現場で簡単には、導入できなくなる。

そこで、筆者らは、実際の事務業務の観察と

検討を繰り返し、ファストサービスのPOPとし

て対応する範囲を、表4のように定め、業務の

可視化・整流化のアプリケーションを開発した。

方針4:アプライアンスサーバーとして

パッケージ化する

導入コストや運用コストを抑えたソリュー

ション・サービスとするため、Webアプリケー

ションやデータベースなどのソフトウェアモ

ジュールがプリインストールされたアプライア

ンスサーバーとして提供することを検討した。

5. 機能の詳細

本システムは、図8に示すように、次の3つの

機能群で構成されている。

a) データベース

b) 入力アプリケーション

c) 可視化・整流化アプリケーション

本章では、ファストサービスを実現するため

の機能や工夫したことを中心に解説する。

5.1 データベース

非構造化データベース*5は、事前にどのよう

な種類の属性を管理するか(スキーマ)を定め

なくても、さまざまなデータを管理できる。田

辺[文献7)]は、頻繁にスキーマ(データモデル)

が変更されるデータの管理には、非構造化デー

タベースが適していると述べている。

大量で多様なデータを管理できる、というだ

けでなく、事前のスキーマ定義が不要、という

*5 非構造化データベース:非構造化データを管理するデー

タベース。非構造化データは、構造が定義されておらず、主にリレーショナルモデルに適合しないデータのこと。非構造化データのうち、特に、電子メールやXMLなどのテキストデータは、半構造化データとして、区別する場合もある

表3 事務業務プロセスにおける現場データの例 Example of data types in the office work process

表4 カスタマイズ可能な機能の範囲(抜粋) Scope of customizable functions for each work process (examples)

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宅配便のように帳票を追跡し業務プロセスを可視化するソリューション・サービス事例

174 富士ゼロックス テクニカルレポート No.24 2015

特徴は、ファストサービスのPOPにとって都合

がよい。そこで筆者らは、現場データを管理す

るデータベースとして非構造化データベースを

採用した。

また、データベースでは、カスタマイズの設

計図に相当する「カスタマイズ仕様ファイル」

を管理する。たとえば、入力アプリケーション

でどのような現場データを入力するか、可視

化・整流化アプリケーションでどのような検索

条件や検索結果を表示するか、など、アプリケー

ションの動作を規定する情報が格納されている。

5.2 入力アプリケーション

現場データを入力するアプリケーションは、

回付される帳票を介して現場データを入力させ、

データベースに登録するアプリケーションであ

る。代表的なものとしては、プリント、Webア

プリケーション、バーコードリード、スキャン

を用意している。

5.2.1 プリント(帳票からの入力)

本システムでは現場ユーザーの手間をかけず

に、現場データを入力するためにプリンタード

ライバーを用いる。

回付用に帳票を用意する方法として、基幹業

務システムからダウンロードした電子帳票をプ

リントアウトしたり、Excel®、Word®などのソ

フトウェアで作成した電子帳票をプリントアウ

トしたりする例はよく見られる。この場合には、

プリンタードライバーを通過する帳票のプリン

トデータ(ページの描画命令の列)を解析する

仕組み*6を備えることで、帳票の所定の場所に

記載されている、その事案の業務データ*7を抽

出することができる。

帳票上のどの位置からどの業務データを入力

するかは、プリンタードライバーが前述したカ

スタマイズ仕様ファイルを参照して決定する。

5.2.2 Webアプリケーション

Webアプリケーションでは、さまざまな現場

データを入力させることができる。たとえば、

関係者や後工程の作業者に向けた申し送り事項

などを、Webアプリケーションで入力させ、追

跡番号(バーコード)とひもづけて登録する。

また、ファイルを証跡文書として登録(アッ

プロード)することもできる*8。Webアプリ

ケーションも、カスタマイズ仕様ファイルを参

照して画面や動作を決定する。

5.2.3 その他の入力アプリケーション

このほか、PCから離れた場所で、操作画面な

しに無線バーコードリーダーを使って現場デー

タを入力させる方法もある。

*6 抽出できる文字データは、テキスト描画命令で印字され

ている場合に限る。画像データやベクトル情報として印

字される場合は、文字コードを取得できないため、本シ

ステムでは、抽出・収集の対象とならない

*7 3章の事例では、お客様名、担当者、金額や納期である

*8 証跡文書の登録は必須ではない

図8 SmartBizTraceのシステム構成の概要 Schematic diagram of SmartBizTrace system configuration

プリント (帳票からの入力)

バーコードリード

Webアプリ (データの入力)

スキャン (文書の登録)

帳票の生成 検索とモニタリング メール

通知

基幹業務システム

2014年度

文書管理システム

契約書

入力連携

プラグイン

出力連携

プラグイン

カスタマイズ

仕様ファイル

社内ネットワーク

可 視 化 ・ 整 流 化 ア プ リ ケ ー シ ョ ン

データベース

入 力 ア プ リ ケ ー シ ョ ン

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富士ゼロックス テクニカルレポート No.24 2015 175

たとえば、図9のように帳票の追跡番号を表

すバーコード以外に、工程番号を示すバーコー

ドを用意しておくことで作業中の工程を登録す

ることができる。また、バーコード付きの帳票

をスキャナーで読み取って、スキャンイン文書

を追跡番号とひもづけて登録することもできる。

5.2.4 入力連携プラグイン

既存の業務システムとの連携では、密に結合

せずに、緩やかな連携を取る方式を採用した。

たとえば、業務システムで管理されているマス

ターデータ*9を、入力連携プラグイン*10を介

して本システムのデータベースにコピーするこ

とで、各アプリケーションから参照可能になる。

5.3 可視化・整流化アプリケーション

可視化・整流化アプリケーションは、データ

ベースに登録されたデータを取捨選択・加工し

て「情報化」して取り出す機能を提供する。

5.3.1 検索とモニタリング

検索は、ユーザーがWebアプリケーションの

画面上で、業務データや履歴データを特定する

検索条件を指定して行う。どのような検索条件

を指定できるようにするか、および、検索結果

*9 マスターデータ:例としては、お客様の住所データやカ

タログ品の型番データなどが考えられる

*10 既存の業務システムがSmartBizTraceで規定する形式

のデータを出力できない場合は、その業務システムに合

わせた入力連携プラグインを開発する必要がある

の表にどのような項目を表示するかはカスタマ

イズ仕様ファイルを参照して決定する。

モニタリングでは、所定の検索条件による、

検索結果に対して、集計や平均などの統計処理

を行った結果が表示される。あらかじめ、ユー

ザーが監視したいKPI*11について、算定の基に

なるデータを検索する条件と、統計処理の種類

とをカスタマイズ仕様ファイルに設定しておき、

検索と統計処理を行った結果を表示させる。

5.3.2 帳票の生成

帳票の生成を行うためは、出力させたい帳票

の雛型をExcel®ファイル形式で本システムに登

録しておく。そして、帳票の内容に応じた検索

を実行し、検索結果をExcel®ファイルに差し込

んで生成する。結果として、雛型のExcel®ファ

イルと同じ見栄えの帳票が生成される。生成さ

れた帳票は、Web画面からの指示により、ユー

ザーのPCにダウンロードしたりプリントアウ

トしたりすることができる*12。

5.3.3 メール通知

本システムは、特定の条件に合致する履歴

データの登録を検知し、通知用のeメールを生成

し送信する機能がある。eメールを送信する条件

*11 KPI:Key Performance Indicatorsの略。組織の目標

達成の度合いを計る定量的な指標のこと

*12 3章では、重要書類の送付リスト、不備理由通知書をデー

タベースのデータから自動生成する例を示した

図9 バーコードで作業の履歴データを入力・収集する例 Example of history data entry / acquisition using barcodes

ピッ!

作業中の工程を

バーコードで登録す

るための帳票

ピッ!

工程番号を示す

バーコード

追跡番号の

リード

各工程ごとの

作業中件数は?

データベース 工程番号のリード

ピッ!

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176 富士ゼロックス テクニカルレポート No.24 2015

と、eメールのあて先や内容は、カスタマイズ仕

様ファイルに登録しておく。

5.3.4 出力連携プラグイン

本システムは、出力連携プラグインを介して、

現場データを外部のサービスに転送する機能が

ある。たとえば、所定の文書管理システム用の

連携プラグインを設定しておけば、データベー

スに証跡文書が登録されたときに、追跡番号に

ひもづけて収集されている現場データのいずれ

かをフォルダー名や属性に指定して、その証跡

文書を登録すること、などができる。

5.4 アプライアンスサーバー*13

本節では、4.2節の方針4で示した、アプライ

アンスサーバーとして提供する狙いと機能を説

明する。

5.4.1 設置条件の緩和

複合機の拡張機能として、小型、静音、低消

費電力のPCハードウェアにPOPのための機能

をパッケージ化することで、設置場所に関する

制約を緩やかにできる。たとえば、空調設備の

整ったサーバー室など、サーバー用の環境を用

意しなくても導入できる(図10)。

5.4.2 設置工数の削減

POPに必要なソフトウェアを導入した状態

で提供するため、お客様先での設置工数を削減

できる。また、ほかのソフトウェアと共存する

必要がないため、メモリー量やディスク量で変

動するパラメーター調整の作業は不要となる。

*13 当社では、「図面差分検出ボックス」や「授業支援ボッ

クス」など、複合機の特定業種向け拡張機能をアプライ

アンスサーバーとして販売している

5.4.3 運用コストの削減

一般に、個別開発のシステムでは、運用コス

トの削減を図る目的で、データ規模や構成に適

合したシステム監視ソフトを導入する。本シス

テムでは、アプライアンスとして、以下のシス

テム監視機能を組み込んでいる。

1つめは、不要データの監視・削除機能であ

る。本システムは、運用を続けるにつれ、管理

する総データ量が増加していく。データ量が増

加すると、徐々に検索処理が遅くなる。これを

回避するには、古い不要データを保管形式で取

り出し、データベースから削除する「データ管

理作業」が必要となる。これを自動化しデータ

管理の工数の削減を図っている。

2つめは、高可用性構成での監視・管理機能

である。本システムは、2台を組み合わせた構

成が可能である。2台めのサーバーを冗長化

サーバー(故障時の代替機)として配置してお

き、1台めのサーバーが故障しても、代替機に

自動的に切り替わって稼働することで、システ

ムの停止期間を短くできる。この構成では、運

用中のサーバーが停止していないかを監視し、

故障が発生した場合には代替機に切り替える

「システム管理作業」が必要となる。これを自動

化し、システム管理の工数の削減を図っている。

図10 複合機の機能を拡張するアプライアンスサーバー

Appliance server to expand the functionality of multifunction printers (MFP) 図11 USB出力可能なデジタルノギスからのデータ収集

Data acquisition using digital calipers equipped witha USB port

データベース USB出力可能な

デジタルノギス

タブレット 無線

バーコードリーダー

追跡番号と計測値を

ひもづけて、登録する。 検査仕様書からバーコード

(追跡番号)をリードする。

1 2

空の品質証明書(雛型) 自動生成した品質証明書

製造品の仕様データや

計測値の差し込み

3

回付用の検査仕様書

追跡する帳票のデータ

を管理するBOX

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宅配便のように帳票を追跡し業務プロセスを可視化するソリューション・サービス事例

富士ゼロックス テクニカルレポート No.24 2015 177

6. おわりに

本稿では、帳票が電子化されていない事務業

務であっても、POPを導入することで業務の可

視化や生産性の改善を達成した実務事例を報告

した。また、個別システム開発を抑え、安価に

導入可能とする「ファストサービスのPOP」を

提案した。

SmartBizTraceを適用できる業務は、売上計上

のような事務業務だけにとどまらず、受注型の製

造品の検査工程を対象とすることも考えられる。

その一例として、検査仕様書に従って製造品

の寸法の計測を行い、計測値を検査報告書に記

入し、次工程ではその報告書を見て、計測値を

記入した品質証明書を作成する業務がある。こ

の業務に、SmartBizTraceとデジタル計測器と

を組み合わせて導入することで、まず、検査の

工程では、計測値を追跡番号とひもづけた現場

データとして電子的に収集することが可能とな

る(図11の①と②)。品質証明書を作成する工

程では、あらかじめ本システムに空の品質証明

書(雛型)を登録しておき、検査工程で収集し

た計測値を、品質証明書の雛型に差し込むこと

で、計測値が記載された品質証明書を自動的に

生成することができる(図11の③)。このよう

に、それぞれの工程で発生していた付帯作業を

自動化できる。

今後は、部門・工程をまたいで追跡する対象

に電子帳票も取り扱えるように機能を拡張して

いく。これまでの活動を通じて得られた知見を

活用し、人が関わるさまざまな定型業務プロセ

スに適用範囲を広げ、新たなソリューション・

サービスの開発に取り組んでいきたい。

7. 商標について

FastService 、 SmartBizTrace お よ び

ApeosPortは、富士ゼロックス株式会社の登

録商標です。

Excel お よ び Word は 、 米 国 Microsoft

Corporationの米国およびその他の国におけ

る登録商標または商標です。

kintoneは、サイボウズ株式会社の登録商標です。

UnitBaseは、株式会社ジャストシステムの

登録商標です。

livedoorは、株式会社ライブドアの登録商標

です。

そのほかの商品名、会社名は、一般に各社の

商号、登録商標または商標です。

8. 参考文献

1) 森野進: “POPで設備総合効率を15%向上、

PDCAの短サイクル化も実現”, 工場管理

(日刊工業新聞社刊), Vol.55, No.14,

pp.28-35, (2009).

2) 野口恒: “POPシステムを使って製造現場の

生産情報を直接採取”, 2007:

http://www.navipara.com/sec/manu

f/m013/m001.html

3) ビジネスアプリ作成プラットフォーム

「kintone®」:

https://kintone.cybozu.com/jp/

4) ノンプログラミングWebデータベースソ

フト「UnitBase®」:

http://www.justsystems.com/jp/produ

cts/unitbase/

5) 栗原雅: “ツールを駆使して少人数で短期開

発”, IT Leaders, No.1, pp.18-20, (2011).

6) 浦野孝嗣: “SEがやるべき2つの新たな役

割”, livedoor® NEWS, 2014:

http://news.livedoor.com/article/

detail/8929039/

7) 田辺里美: “非構造データベースとしての

XMLDB”, ITpro 日経BP, 2012:

http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/

COLUMN/20120312/385905/

筆者紹介

川邉 惠久 商品開発本部 システム企画部に所属

専門分野:情報工学、システムアーキテクチャー

國武 節 商品開発本部 システム企画部に所属

専門分野:情報工学、帳票トレーサビリティ

鈴木 明 商品開発本部 システム企画部に所属

専門分野:情報工学、ドキュメントプロセッシング

大橋 宏光 商品開発本部 システム企画部に所属

専門分野:ソフトウェア工学、マーケティング(プリンター)