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課題切り替えにおける刺激セットと反応セット 1 ERP による比較 梅林薫 2 沖田庸嵩 愛知淑徳大学 Stimulus set and response set in task switching: A comparison using ERP Kaoru Umebayashi and Tsunetaka Okita ïAichi Shukutoku Universityð Event-related potential ïERPð and reaction time ïRTð were recorded to investigate the time course of processes involved in set switching. The cued set-switching paradigm required participants to switch stimulus task sets between male and female face-images memorized as targets prior to a trial block and response task sets between two stimulus-response mappings for each stimulus task. Replicating previous ndings, an RT switch-cost was found when compared with set-repeat trials. The RT was also prolonged for a stimulus task requirement of memory comparison with two-face targets rather than one face. A similar prolongation with memory comparison was observed in P3b latency, which showed no switch eect. The switch eect was observed for the onset latency of stimulus-locked lateralized readiness potentialïLRPð, measured as an index of commencement of motor processes after response selection. The response-locked LRP indicated that the nal process of motor execution itself was not modied by set switching. The processes producing the stimulus-locked LRP switch cost, associated with response task set, were discussed in terms of two hypotheses, exogenous reconguration and carryover. Key words: task switching, switch cost, event-related potential ïERPð, memory search. The Japanese Journal of Psychology 2008, Vol. 79, No. 5, pp. 399-406 我々は日々の生活において,様々な課題を効率的に 遂行することが求められる。そのような状況では注意 あるいは行動の柔軟な切り替えが必要であり,現在こ の問題に関して課題切り替え(task switching)研究と して多くの報告がなされている。課題を切り替える際 には認知的負荷として切り替えコスト(switch costが生じる。これは同一課題の反復試行よりも切り替え 試行で反応時間(reaction time:以下 RT とする)が延 長し,誤答率が増加するというものである。またこの 切り替えコストは,たとえ切り替え操作に有効な予期 や十分な準備期間が与えられていようとも残存する (残余コスト:residual cost; Rogers & Monsell, 1995)。 課題切り替え研究が始まるきっかけは,Allport, Styles, & Hsieh1994)の報告であった。Allport et al. 1994)は,切り替えコストは実行制御過程のような 処理期間の延長を直接反映するのではなく,むしろ先 行課題が現行課題に順向的に干渉し,持ち越すことで 生 じ る と 考 え た。こ れ に 対 し,Rogers & Monsell 1995)は,課題切り替えには遂行すべき課題に対す る構えの再構築(task-set reconguration)が必要であ り,その制御操作の時間が切り替えコストとして生じ ると主張した。 先行課題の自動的な持ち越しか,あるいは内因的再 構築という実行制御過程が存在するのか,その後,こ の代表的な二つの課題切り替え理論を支持する報告が それぞれに得られている(Meiran, 2000b; Monsell, Sumner, & Waters, 2003; Rubinstein, Meyer, & Evans, 2001; Waszak, Hommel, & Allport, 2003; Wylie & Allport, 2000)。また,最近の動向として,持ち越し効果と事 前的再構築の折衷的理論も提唱され始めている Meiran, 2000a)。このモデルによれば,切り替え試行 では刺激レベルと反応レベルのいずれの課題切り替え でもコストが生じる。しかしながら,手がかりと課題 刺激の呈示間隔に十分な時間があれば,その間に特定 の刺激に対する構え(刺激課題セット,以下,刺激セ ットとする)が完了するため RT には影響しない。こ 心理学研究 2008 年第 79 巻第 5 pp. 399-406 原著 Correspondence concerning this article should be sent to: Kaoru Umebayashi, Graduate School of Psychology, Department of Psychology, Aichi Shukutoku University, Nagakute- cho, Aichi 480- 1197, Japane-mail: [email protected]1 本研究の一部は平成 15 17 年度科学研究費補助金基盤(B) (課題番号 15330158,研究代表者沖田庸嵩)および平成 1819 年度愛知淑徳大学研究助成を受けて行われた。 2 本論文の作成にあたり,顔刺激例の使用を快諾して下さった 方々に感謝致します。

Stimulussetandresponsesetintaskswitching:AcomparisonusingERP · 2017-04-07 · しており(梅林他,2006),Meiran(2000a)の折衷的 なモデルと一致する部分がある。

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課題切り替えにおける刺激セットと反応セット1

ERPによる比較

梅林薫2 沖田庸嵩 愛知淑徳大学

Stimulus set and response set in task switching: A comparison using ERP

Kaoru Umebayashi and Tsunetaka Okita �Aichi Shukutoku University�

Event-related potential �ERP� and reaction time �RT� were recorded to investigate the time course of processes

involved in set switching. The cued set-switching paradigm required participants to switch stimulus task sets

between male and female face-images memorized as targets prior to a trial block and response task sets between

two stimulus-response mappings for each stimulus task. Replicating previous ndings, an RT switch-cost was

found when compared with set-repeat trials. The RT was also prolonged for a stimulus task requirement of memory

comparison with two-face targets rather than one face. A similar prolongation with memory comparison was

observed in P3b latency, which showed no switch e唖ect. The switch e唖ect was observed for the onset latency of

stimulus-locked lateralized readiness potential�LRP�, measured as an index of commencement of motor processes

after response selection. The response-locked LRP indicated that the nal process of motor execution itself was not

modied by set switching. The processes producing the stimulus-locked LRP switch cost, associated with response

task set, were discussed in terms of two hypotheses, exogenous reconguration and carryover.

Key words: task switching, switch cost, event-related potential �ERP�, memory search.

The Japanese Journal of Psychology2008, Vol. 79, No. 5, pp. 399-406

我々は日々の生活において,様々な課題を効率的に

遂行することが求められる。そのような状況では注意

あるいは行動の柔軟な切り替えが必要であり,現在こ

の問題に関して課題切り替え(task switching)研究と

して多くの報告がなされている。課題を切り替える際

には認知的負荷として切り替えコスト(switch cost)

が生じる。これは同一課題の反復試行よりも切り替え

試行で反応時間(reaction time:以下 RTとする)が延

長し,誤答率が増加するというものである。またこの

切り替えコストは,たとえ切り替え操作に有効な予期

や十分な準備期間が与えられていようとも残存する

(残余コスト:residual cost; Rogers & Monsell, 1995)。

課題切り替え研究が始まるきっかけは,Allport,

Styles, & Hsieh(1994)の報告であった。Allport et al.

(1994)は,切り替えコストは実行制御過程のような

処理期間の延長を直接反映するのではなく,むしろ先

行課題が現行課題に順向的に干渉し,持ち越すことで

生じると考えた。これに対し,Rogers & Monsell

(1995)は,課題切り替えには遂行すべき課題に対す

る構えの再構築(task-set reconguration)が必要であ

り,その制御操作の時間が切り替えコストとして生じ

ると主張した。

先行課題の自動的な持ち越しか,あるいは内因的再

構築という実行制御過程が存在するのか,その後,こ

の代表的な二つの課題切り替え理論を支持する報告が

それぞれに得られている(Meiran, 2000b; Monsell,

Sumner, & Waters, 2003; Rubinstein, Meyer, & Evans,

2001; Waszak, Hommel, & Allport, 2003; Wylie & Allport,

2000)。また,最近の動向として,持ち越し効果と事

前的再構築の折衷的理論も提唱され始めている

(Meiran, 2000a)。このモデルによれば,切り替え試行

では刺激レベルと反応レベルのいずれの課題切り替え

でもコストが生じる。しかしながら,手がかりと課題

刺激の呈示間隔に十分な時間があれば,その間に特定

の刺激に対する構え(刺激課題セット,以下,刺激セ

ットとする)が完了するため RTには影響しない。こ

梅 林・沖 田:課題切り替えの刺激セットと反応セット 399心理学研究 2008 年 第 79 巻 第 5 号 pp. 399-406原著

Correspondence concerning this article should be sent to: Kaoru

Umebayashi, Graduate School of Psychology, Department of

Psychology, Aichi Shukutoku University, Nagakute-cho, Aichi 480-

1197, Japan(e-mail: [email protected])1 本研究の一部は平成 15 17 年度科学研究費補助金基盤(B)

(課題番号 15330158,研究代表者沖田庸嵩)および平成 18・19

年度愛知淑徳大学研究助成を受けて行われた。2 本論文の作成にあたり,顔刺激例の使用を快諾して下さった

方々に感謝致します。

Page 2: Stimulussetandresponsesetintaskswitching:AcomparisonusingERP · 2017-04-07 · しており(梅林他,2006),Meiran(2000a)の折衷的 なモデルと一致する部分がある。

れに対し,刺激-反応(S-R)マッピングといった反

応課題セット(以下,反応セットとする)が関わる反

応選択過程は手がかりに関わらず切り替え試行では先

行試行の影響により延長すると想定している。

最近,これらの課題切り替え過程は事象関連電位

(event-related potential:以下 ERPとする)を用いた多

くの研究で検討されてきた(Hsieh & Liu, 2005; Hsieh

& Yu, 2003; Nicholson, Karayanidis, Poboka, Heathcote, &

Michie, 2005)。反応セットに関する ERP研究として,

Hsieh & Liu(2005)や Hsieh & Yu(2003)がある。こ

れらの実験では手がかり切り替えパラダイムを用い

て,刺激(シンボル)の色と反応の手で設定した S-R

マッピングの切り替えを要請し,RTと ERPの潜時か

ら切り替えコストの同定を試みた。刺激評価終了の指

標とした P300潜時は手がかりの有無に関わらず切り

替え効果を示さなかったが,反応選択終了の指標とし

た刺激ロックの片側性準備電位(stimulus-locked later-

alized readiness potential:以下 S-LRP とする)の立ち

上がり潜時および RTでは切り替えによる延長を見出

した。この結果から,切り替えコストは持ち越し効果

による反応選択過程の延長にあると結論づけた。他

方,刺激セットに関して,梅林・沖田・清水(2006)

はアルファベット文字の属性間で課題(母音・子音判

断,大文字・小文字判断)を切り替える実験を行っ

た。その結果,手がかり呈示により予期が可能な場合

には RTに切り替えコストがないこと,また ERPで

は手がかり呈示後の切り替え関連の後頭部陽性電位,

さらに課題刺激呈示後の ERPには手がかりと切り替

えの要因による効果を認めた。こうした知見は,反応

セットの切り替えによる持ち越し効果とともに

(Hsieh & Liu, 2005; Hsieh & Yu, 2003),刺激セットの

切り替え手がかりが構えの再構築をもたらすことを示

しており(梅林他,2006),Meiran(2000a)の折衷的

なモデルと一致する部分がある。

また Rushworth, Passingham, & Nobre(2005)は刺激

セットの切り替え実験を行い,先行して報告した反応

セット切り替え実験(Rushworth, Passingham, & Nobre,

2002)と比較した。彼らは 8 17試行ごとに手がかり

によって切り替えか続行かを指示し,反応セット切り

替えでは S-R マッピングを,他方,刺激セット切り

替えでは刺激の物理的属性(色,形)間で要請した。

切り替え手がかり呈示に対し頭頂部 ERPには両セッ

ト間で共通した変化が観察されたが,その変化に先行

する前頭部電位はセット間で異なり,反応セットでは

内側前頭部に,刺激セットでは外側前頭部に切り替え

効果が生じた。さらに,切り替え第 1試行の課題刺激

に対しても異なる ERP変化が観察され,刺激セット

切り替えは初期の後頭部優勢な視覚性陰性成分(潜時

120 160 ms)を,反応セット切り替えは後期の反応

関連電位を変化させた。Rushworth et al.(2005)は,

刺激レベルと反応レベルのセット切り替えに共有する

過程を示すとともに,異なる神経過程に依存する過程

もあることを示唆した。

課題切り替えに関する ERP研究はいずれも刺激セ

ットと反応セットの切り替えで異なる実行制御過程が

働くことを示唆する。しかし,こうした研究は,

Rushworth et al.(2002,2005)に典型的にみられるよ

うに,刺激セットと反応セットの切り替えについて異

なる実験でしかも異なる課題を用いて比較検討してお

り,一つの実験で二つの課題セットを比較した ERP

研究は見当たらない。これらの課題セットの相違を明

確にするには,同一実験内で操作して直接比較する必

要がある。

本研究では,手がかりを用いた予期可能切り替えパ

ラダイムで刺激セットと反応セットそれぞれに関わる

切り替えを求めた。刺激セットでは,実験参加者は各

試行ブロックの最初に呈示される標的項目の男女の顔

を記銘した後,手がかりと課題刺激が対呈示される試

行ブロックから,手がかりに応じて課題刺激が標的か

非標的かを判断することが要請された。さらに反応セ

ットでは,男女の標的に対し異なる手で反応すること

が求められた。従って,本研究で要請される刺激セッ

ト切り替えは男女それぞれに応じた標的記憶表象の入

れ替えであり,反応セット切り替えは男女それぞれに

設定された S-Rマッピングの切り替えであった。本

研究の目的は,上記の刺激セットと反応セットの切り

替え操作がもたらすコストを,主に RTと ERP潜時

を使用して課題関連処理に要する時間的な面から検討

し,切り替えコストをもたらす情報処理過程を特定す

ることであった。

課題刺激呈示後の一連の処理過程は,符号化 記憶

探索 反応選択 反応実行を想定することができる

(Sternberg, 1966)。ここで符号化とは顔の神経コード

が形成され脳内処理が可能になるまで,記憶探索は標

的となる顔記憶表象と課題刺激の神経コードとの照

合,続く反応選択は S-Rマッピングに従い刺激コー

ドを反応コードに変換する過程,そして反応実行は運

動命令により身体反応を賦活する過程である。本研究

ではそれぞれの処理過程に応じた指標として,N1,

P3b, S-LRP,反応ロック LRP(response-locked LRP:

以下 R-LRPとする)を採用した。N1(N170)は後側

頭部における潜時約 170 msの陰性成分であり,顔知

覚の符号化過程を反映する(Allison, McCarthy, Nobre,

Puce, & Belger, 1994)。P3b潜時は,行動出力(反応選

択,実行)過程と独立させて,刺激評価時間を測定す

るために広範に使用され(McCarthy & Donchin,

1981),符号化開始から記憶探索に基づく標的,非標

的決定までの刺激評価時間を(条件間の相対的相違と

して)推定することができる。LRP は一次運動野の

反応賦活の指標とされ(Kutas & Donchin, 1980),S-

心理学研究 2008 年 第 79 巻 第 5 号400

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LRP開始時点は反応選択過程が終了し反応実行の始

まりを示す指標になる。R-LRPの出現時間帯は反応

実行の持続期間に対応する(Hsieh & Yu, 2003)。こう

して,N1は符号化,P3bは刺激評価(記憶探索),S-

LRPは反応選択過程,R-LRPは反応実行過程と対応

づけることができ,これらの潜時に基づき RTととも

に処理過程の時系列分析を本研究では試みることとし

た。

課題刺激に対する刺激セットと反応セットの処理が

相互に独立して実行されるならば,それぞれの課題セ

ット切り替え効果も独立して観察されるであろう。刺

激セットに関わる処理(刺激評価)時間は記憶照合に

依存するので,標的の顔が 1人か 2人かによって P3b

潜時と RTに違いが生じるであろう(沖田・小西・今

塩屋,2002; Sternberg, 1966)。この刺激セットの切り

替え操作が,課題刺激呈示の後,記憶照合過程で実行

されるなら,その操作時間が加算され,P3b 潜時と

RTを延長させるであろう。しかし,先述の研究結果

が示すように,手がかりにより課題刺激の呈示以前に

刺激セット切り替えが完了するなら,P3b潜時と RT

に切り替え効果は生じないであろう。こうした刺激セ

ットに関わる処理は符号化後に実行されるので,符号

化を反映する N1潜時には影響しないであろう。反応

セットに関わる処理は刺激評価後に実行されるため,

切り替えに伴う P3b潜時延長がなく,RTに切り替え

コストが生じたならば,反応選択あるいは反応実行過

程にその起源を推定できる。こうした場合,反応選択

過程での切り替えコストは S-LRP立ち上がり潜時の

延長,反応実行では R-LRPの延長をもたらすであろ

う。

方 法

実験参加者 大学院生 12名(女 11名,男 1名:平

均年齢 26.4歳,範囲 22 38歳),全員が右手利きで,

矯正視力を含め正常な視力を有していた。

刺激 未知の男性顔,女性顔のグレースケール写真

各 20種類を刺激として用いた。その中から,各試行

ブロックにおいて,男女合わせて 3種類の写真を選

び,これを標的刺激とした。こうした標的刺激は他の

試行ブロックで非標的刺激となることもあった。非標

的刺激はそのブロックの標的刺激以外の写真から男女

各 11種類の刺激を使用し,1ブロック内において 1

回のみ呈示した。写真は視角にして約 5.5°×5.5°で,

眼前 60 cmの位置に設置されたディスプレイ画面にコ

ンピュータ制御により呈示した。Figure 1に示すよう

に,標的刺激が男女合わせて 3人の写真,例えば,1

人の男性顔と 2人の女性顔(それぞれ標的サイズ 1:

T1と標的サイズ 2:T2の条件となる)の場合,画面

中央から左 2.7°の位置に男性顔,画面中央から右 2.7°

の上下それぞれ 2.7°の位置に 2 人の女性顔を呈示し

た2。左右の呈示位置については均等になるようにし

た。課題刺激は画面中央に 1人の写真を呈示した。ま

た各試行で課題刺激に先行して,画面中央に�男�ま

たは�女�(約 2.7°×2.7°)の漢字 1文字を手がかりと

して呈示した。

手続きと課題 実験参加者は記録電極装着後,実験

に関する教示を受け,顔面固定台で頭部を固定された

状態で練習試行を行った。続いて,各ブロック 44試

行,8ブロックから成る実験が実施された。

各試行ブロックにおいて,まず,実験参加者は最初

に呈示される標的刺激を記銘し,記銘後に自らボタン

を押して標的刺激を消した。その後,あらかじめ教示

されていた男男女女男男女女の順序で手がかりと課題

刺激から成る一連の試行が始まった(Figure 1参照)。

手がかりは 1 s間,課題刺激は 0.2 s間呈示され,実験

参加者の反応後,試行間間隔 1 s で次の試行に移っ

た。

実験参加者の課題は,課題刺激が標的か非標的かを

判断し,男女の標的,非標的に対し異なる手でボタン

を押すことであった。この S-Rマッピングは実験を

通して一貫しており,半数の参加者は男の標的に右

手,非標的に左手,女の標的には左手,非標的に右手

で反応し,残りの参加者は左右逆の手で反応した。

上記のように,課題刺激は男女が 2試行ずつ交互に

呈示されるため,切り替え(Sw)試行と反復(Re)試行

数は等しく(男(または女)の第 1 試行が Sw,第 2

試行が Re),標的・非標的刺激の割合も均等であっ

た。

記録と解析 ERP は両耳朶を基準電極とし,国際

10-20法により F3・F4・C³3(C3より前方 1 cm)・C³

4(C4 より前方 1 cm)・O1・O2・F7・F8・T3・T4・

梅 林・沖 田:課題切り替えの刺激セットと反応セット 401

Figure 1. Schematic diagram showing the sequence of a trial

block in the experiment.

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T5(10%法 P7)・T6(P8)・Fz・Cz・Pz から導出した

(電極抵抗はいずれも 5k`以下)。C³3,C³4の設定は

LRP算出を目的とし,当該運動野に近い部位に置か

れた。さらに Fpzで垂直眼球電図を,左右眼角外側で

水平眼球電図を同時に記録した(帯域フィルタ:0.05

30 Hz)。A/D 変換のサンプリング間隔は 5 ms であ

った。ERP分析はブロックの最初 4試行と誤反応試

行,さらに分析区間中に眼球電図あるいはノイズの影

響として± 100 μV以上の電位がみられる試行を除外

した後,条件,部位ごとに加算処理した。なお,加算

回数は 16 40回(平均 33.1回)であった。分析区間

は,課題刺激呈示後,刺激ロック ERP は刺激前 200

ms から刺激後 800 ms,反応ロック ERP は反応前

1 000 msから反応後 200 msであった。また基線は刺

激ロック ERPでは分析区間最初の 200 ms,反応ロッ

ク ERPは最初の 800 msの平均電位とした。

N1は課題刺激開始後 150 200 ms間の最大陰性電

位,P3bは 300 ms以降の最大陽性電位として同定し,

それぞれ頂点潜時を測定した。LRPはボタン押し反

応の手と反対側の C³3(または,C³4)導出の波形を

平均したものから,反応手と同側の C³4(または,C³

3)導出 ERPの平均を引き算し,両波形間の差として

求めた。なお,P3b と LRP についてはデジタルフィ

ルタ(帯域 0.1 10 Hz)をかけた上で潜時を測定し

た。これらにより得られた結果の統計分析には反復測

度分散分析を用いた。

結 果

行動指標

RTの実験参加者間平均を Table 1に示す。正反応

の平均 RTについて標的サイズ(T1・T2)×切り替え

(Sw・Re)×刺激(標的・非標的)の 3 要因分散分析

を行ったところ,標的サイズ,切り替え,および刺激

要因に主効果がみられ(それぞれF(1, 11)=148.63,

p< .001;F(1, 11)= 33.06, p< .001;F(1, 11)= 33.64,

p<.001),さらに標的サイズ×切り替え×刺激の交互

作用が認められた(F(1, 11)=15.82, p<.01)。続く単

純・単純主効果の検定は,すべての比較において有意

であり(F値範囲:Fs(1, 44)=4.51 96.04,いずれも

p<.05),加えて,切り替えに関わる単純交互作用と

して非標的における標的サイズ×切り替えの効果もみ

られた(F(1, 22)=21.37, p<.001)。この交互作用は

非標的において T2条件より T1条件で切り替えコス

トが大きいことを示した。誤答率についても,3要因

分散分析を行ったところ,標的サイズと切り替えの主

効果が認められ,T2条件(4%)は T1条件(2%)よ

り も(F(1, 11)= 24.14, p< .001),ま た Sw 条 件

(4%)は Re 条件(2%)よりも有意に高い誤答率を

示した(F(1, 11)=8.19, p<.05)。

ERP

Figure 2 は課題刺激呈示後の後側頭部(T5,T6)

と正中頭頂部位(Pz)の参加者 12名の総平均 ERPであ

る。ここでは課題刺激呈示から反応実行までの情報処

理時間に焦点を合わせて分析するため,ERP潜時を

中心に報告する。

N1 Figure 2に示すように,課題刺激呈示後約 160

msに,いわゆる顔関連電位とみなせる後側頭部優勢

な陰性電位 N1が惹起された。N1の頂点潜時につい

て T5・T6の部位要因を含めて,標的サイズ×切り替

え×刺激×部位の 4要因分散分析を行ったところ,い

ずれの要因に関しても有意な効果は認められなかっ

た。なお頂点振幅では,切り替え×部位の交互作用が

みられ(F(1, 11)=9.11, p<.05),単純主効果の検定

の結果,T5 の頂点振幅において,Sw 条件(-5.1

μV)は Re条件(-4.1 μV)よりも有意に陰性電位が

増大した(F(1, 22)=17.35, p<.001)。

P3b Figure 2 に示すように,Pz に刺激後約 400

ms 以降から緩徐な陽性電位 P3b が発達した。Pz の

P3b潜時の分析では,標的サイズと刺激の主効果がみ

られ(それぞれ,F(1, 11)=5.26, p< .05;F(1, 11)=

31.96, p< .001),T2 条件(619 ms)は T1 条件(583

ms)よりも,非標的条件(630 ms)は標的条件(573

心理学研究 2008 年 第 79 巻 第 5 号402

Table 1

Mean reaction time and P3b latency (ms±SD) for task stimuli identifi ed as a target (target) and non-target task stimuli in the one-face

(T1) and two-face target (T2) conditions, shown separately for set switch and set repeat trials

Target Non-Target

T1 T2 T1 T2

Reaction Time

Set Switch 586(104) 685(102) 673(109) 734(121)Set Repeat 537 (77) 614 (79) 568 (73) 684 (95)

P3b Latency

Set Switch 547 (86) 592 (81) 629 (75) 640 (74)Set Repeat 559(101) 593 (60) 598 (97) 653 (60)

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ms)よりも潜時が延長した(Table 1 参照)。他方,

切り替え要因に関わる有意な効果はなかった。頂点振

幅の分析では,切り替え要因の主効果がみられ(F(1,

11)=34.14, p<.001),Sw 条件(13.3 μV)は Re 条件

(15.6 μV)より有意な P3b振幅減衰を示した。

S-LRP Figure 3左は実験参加者 12名の S-LRP総

平均波形である。S-LRPの発達開始時点を同定するた

めに,課題刺激呈示後 300 500 ms間を 10 ms区間ご

とに,反応手に対し反対側と同側の中心部位(C³3・

C³4)で測定した電位に基づき,部位×標的サイズ×

切り替え×刺激の 4要因分散分析を行った3。部位要

因に関して,360 410 ms 間と 420 440 ms 間で,2

区間以上連続して部位×切り替えの交互作用がみられ

た(Fs(1, 11)=5.07 21.25,いずれも p<.05)。続く

梅 林・沖 田:課題切り替えの刺激セットと反応セット 403

Figure 2. Grand average(N=12)ERPs to task stimuli at the occipito-temporal T5

and T6 and midline-parietal Pz sites. The waveforms are depicted separately for target

(i.e., task stimulus identied as a target: upper)and non-target(lower)task stimuli and

are compared for set-switch(solid lines)and set-repeat trials(dotted lines)in the one-

face(T1: thick lines)and two- face target(T2:thin lines)conditions. Negativity is

upward.

Figure 3. Grand average(N=12)waveforms of stimulus-locked lateralized readi-

ness potential(LRP)(left)and response- locked LRP(right). The waveforms are

depicted separately for target(i.e., task stimulus identied as a target: upper)and non-

target(lower)and are compared for set- switch(solid lines)and set- repeat(dotted

lines)trials in the one- face(T1: thick lines)and two- face target(T2: thin lines)

conditions. The 0 point of time axis indicates the onset of task stimuli for stimulus-locked

LRP and the onset of button- press responses for response- locked LRP. Negativity is

upward.

3 Cb3と Cb4の差波形について,短い潜時帯に区切って電位の

発達(あるいは分岐点)を求める方法は,Talsma, Wijers, Klaver,

& Mulder(2001)を参考にした。S-LRP分析では,300 500 ms

間を 10 msで区切った振幅値に対して反復測度分散分析を 20回

行った。このような手続きで有意確率 0.05に設定すると,20区

間のうち 1区間が 20×0.05=1.0のチャンスで有意効果を示す可

能性が生じる。こうした type I errorのチャンスを弱めるため,2

区間以上連続して有意水準に達した時のみ有意効果とみなした

(20×0.05×0.05=0.05)。

Page 6: Stimulussetandresponsesetintaskswitching:AcomparisonusingERP · 2017-04-07 · しており(梅林他,2006),Meiran(2000a)の折衷的 なモデルと一致する部分がある。

単純主効果検定は Re条件で反対側導出の陰性シフト

が同側導出より大きいことを示し,Re条件における

S-LRPの発達を認めた。また,部位の主効果が 390

500 ms 間で有意となり(Fs(1, 11)=6.39 17.27,い

ずれも p<.05),反対側導出の陰性シフトが一貫して

みられた。これらの結果は,S-LRPの発達が Sw条件

(440 ms)に比べ Re条件(360 ms)で早いことを示し

た。

R-LRP Figure 3 右は,反応に同期させた R-LRP

の総平均波形である。反応前 100 200 ms間で 10 ms

区間ごとに S-LRPと同様の分析を行った。その結果,

R-LRPの有意な発達を示す部位の主効果が反応前 100

190 ms間で認められたが(Fs(1, 11)=4.91 64.90,

いずれも p<.05),反応実行に関連した部位(C³3・

C³4)に関わる有意な切り替え効果はなかった。

考 察

本研究は予期可能な事態で刺激セットとともに反応

セットの切り替えを要請し,切り替えコストが生じる

処理過程を RTと ERP潜時を中心に検討した。RTは

反復試行に比べ切り替え試行で延長し,従来の結果に

一致して(Rogers & Monsell, 1995),課題刺激後にも

残存する切り替えコストを認めた。ERP では,刺激

評価に関わる N1潜時と P3b潜時に切り替え効果はな

く,反応選択後の S-LRPに切り替えに伴う遅延が生

じた。反応実行の所要時間自体を示す R-LRPに切り

替え効果はなかった。

反応時間における切り替えコスト

RTにおける切り替え効果は刺激入力から行動出力

までのいずれかの過程で生じたコストを反映し,その

コストをもたらす処理過程の特定は難しい。この特定

作業を一部可能にするため,本研究では変数に加えた

標的サイズと切り替え要因との交互作用から,記憶照

合における刺激セット切り替え操作の影響を推測しよ

うと試みた(Sternberg, 1966)。すなわち,両要因の交

互作用が見出されれば,切り替え操作が標的一つあた

りの記憶照合時間に影響したと推測できる。本結果は

非標的刺激において交互作用が観察されたものの,

T1条件の切り替えコストは約 105 ms, T2条件では約

50 msであり,これは T1より T2で切り替えコストが

大きくなると予測した仮説に反する効果であった。さ

らに,この結果は後述する刺激評価時間の指標である

P3b 潜時に切り替え効果がなかった結果とも矛盾す

る。この解釈については,次に述べる切り替え操作と

は独立した記憶探索過程における確認作業の関与が考

えられる。

沖田(1992)によれば,記憶探索課題の遂行にあた

って,まず自動処理により標的と非標的が選別され

る。しかし,その結果に基づいて直ちに反応選択・実

行に移るのではなく,制御処理により標的・非標的選

別結果の確認作業が実行される。本結果の非標的刺激

の T2条件から T1条件を引いた場合,Sw条件は約 61

ms, Re条件は約 117 msの差がある。このことは切り

替えや記憶セットサイズの負荷により確認作業の方略

が異なり,T2/Re条件に比べ T2/Sw条件では確認作業

が短縮し,見かけ上,T2の切り替えコストを消失さ

せた可能性がある。そして,もう一つの候補は反応選

択処理の短縮である。反応実行時間の短縮は R-LRP

の持続時間から考えにくい。確認操作あるいは反応選

択の短縮については,いずれも T2/Sw/非標的条件に

おける誤答率が高かったこととも一致する。

刺激評価とN1・P3b

顔(課題刺激)符号化の指標である N1潜時と刺激

評価時間を反映する P3b潜時は,ともに切り替え効

果を示さなかった。これらの結果は,符号化と記憶照

合の両処理を介し,課題刺激の標的・非標的判別まで

の処理段階で,時間的な切り替えコストが生じなかっ

たことを示す。

P3b 潜時には,従来の結果と一致して(Brookhuis,

Mulder, Mulder, Gloerich, van Dellen, van der Meere, &

Ellermann, 1981),RTとともに標的サイズと標的・非

標的刺激効果がみられた。これらは符号化後から刺激

評価終了までの間に刺激セット関連の処理が生じたこ

とを示しており,上記の P3b潜時を刺激セット関連

処理に関係づけたこととも整合性がある。

振幅に目を移せば,N1は左後側頭部(T5)で増大し

た。顔処理成分である N170については一般に右側導

出(T6 に相当)優勢が報告されているが(Allison

et al., 1994),Rossion, Dricot, Devolder, Bodart,

Crommelinck, de Gelder, & Zoontjes(2000)は顔の処理

様式によって半球間優位性が変わることを示し,部分

依存型処理では左半球,全体依存型処理では右半球が

それぞれ優勢になると主張している。本研究で得られ

た T5優勢な結果は,実験参加者の記憶照合の方略が

顔の部分的特徴をもとになされたと推察される。そし

て T5における切り替え関連の N1振幅増大について

は,符号化過程の積極的な部分特徴抽出,すなわち先

行試行とは異なる顔の部分特徴の抽出が行われた可能

性がある。梅林他(2006)は後側頭部 N1から手がか

りに応じた実行制御による文字属性の特徴抽出を認め

ており,整合性もある。

P3b振幅の切り替え効果については,P3bに反映さ

れる処理資源の配分(Wickens, Kramer, Vanasse, &

Donchin, 1983),記憶探索に関わる陰性電位(Okita,

Wijers, Mulder, & Mulder, 1985)の重畳,さらには課題

刺激に先行する随伴性陰性変動(CNV)の基線復帰

(陽性電位)などもあわせて考える必要がある。P3b

潜時の結果から,刺激セットの切り替えは RT切り替

心理学研究 2008年 第 79巻 第 5号404

Page 7: Stimulussetandresponsesetintaskswitching:AcomparisonusingERP · 2017-04-07 · しており(梅林他,2006),Meiran(2000a)の折衷的 なモデルと一致する部分がある。

えコストとして表出されなかったものの,P3b振幅が

示す処理資源の配分で切り替えに対応している可能性

や,記憶照合と切り替えが相互に関係し,記憶照合過

程に負荷がかかったことも考えられる。

本研究は顔刺激を用いて,刺激セットの切り替えを

N1と P3b成分から検討したが,顔処理メカニズムは

他刺激と比べ特異的な部分を含むことも考えられ,今

後同一パラダイムを用いた顔刺激以外での検討も必要

である。

反応出力過程と LRP

課題刺激呈示から運動準備電位の発達開始までの経

過時間となる S-LRP立ち上がり潜時に切り替えコス

トが生じたが,反応から遡ってみた反応実行時間を表

す R-LRPには切り替え効果はなかった。上記のよう

に,刺激セット関連処理に関係づけた P3b潜時では

切り替えコストがなく,したがって,S-LRPで生じた

結果は反応セット関連処理における効果とみなせるで

あろう。本研究では反応セットを男女の顔標的に応じ

て異なる手で反応させることにより操作した。こうし

た S-Rマッピングに基づく反応選択過程の切り替え

コストは,Hsieh & Yu(2003)や Hsieh & Liu(2005)

の報告と一致する。刺激セットと異なり,反応セット

の切り替えは手がかりの予告では(完全には)難し

く,課題刺激呈示後の処理過程が延長するという報告

を本結果は支持する。

課題切り替えモデル

本研究の知見をまとめると,刺激セット切り替え

は,P3b潜時に切り替えコストが認められないことか

ら,課題刺激呈示前の事前的な切り替えが可能である

との再構築的立場(Meiran, 2000a; Rogers & Monsell,

1995)を支持する結果であった。反応セットの切り替

えは,反応時間切り替えコストとして行動に表出さ

れ,そのコストの起源が反応選択に関わる過程の延長

にあることを示唆した。

再構築理論によれば,課題刺激以前の予期的切り替

え操作(内因的制御)が始まるものの完了することは

できず,刺激後の操作として反応選択に先行する外因

的制御過程の付加により残余コストが生じる(Rogers

& Monsell, 1995;Rubinstein et al., 2001)。他方,持ち

越し効果理論は切り替えコストの起源を,予期の効果

とは独立した先行試行の S-R干渉による反応選択過

程の延長として考えている(Allport et al., 1994;Hsieh

& Liu, 2005;Hsieh & Yu, 2003;Meiran, 2000a)。本研

究の切り替えコストはあくまでも刺激評価後から反応

選択終了までの間で生じる延長を示すものであり,本

結果で生じたコストが外因的制御過程によるものか,

反応選択過程自体の延長なのか,ここで結論を出すこ

とは難しい。しかしながら,刺激セットと反応セット

は異なる処理機構をもち,それぞれの切り替えモデル

を想定する必要がある(Rushworth et al., 2005)。刺激

セット切り替えは予期が可能である場合,実行機能に

よる制御系が働き,切り替えコストが行動面に表出す

ることを防ぎうる。他方,反応セット切り替えは事前

的な実行機能が働きにくく,切り替えコストとして生

じるといえるかもしれない。

Liston, Matalon, Hare, Davidson, & Casey(2006)は,

機能的磁気共鳴画像を用いて左右視野で上下に動く色

丸に対して色と動き判断の課題を切り替える実験を行

った。ここでは刺激レベルにおいて色の彩度による知

覚的負荷を,反応レベルでは色課題と動き課題の反応

の一致・不一致で負荷を操作している。その結果,刺

激レベルは後頭頂皮質が,反応レベルは前部帯状回が

それぞれの負荷に伴い賦活し,さらに反応レベルの負

荷効果は切り替え時のみにみられた。このような切り

替えと反応負荷との関連性や前部帯状回が作業記憶の

制御操作に深く関わるとの従来の知見(Smith &

Jonides, 1999)を考え合わせると,反応セット切り替

えは刺激セット切り替えよりも制御負荷が高く,内因

的な切り替え操作を難しくしているようである。

以上,本研究は刺激セットと反応セットにおける切

り替え操作の違いを示し,行動に表出される切り替え

コストには反応セットが関わることを示唆した。しか

し,反応セットの切り替えには制御系が関与するの

か,これについては結論が出ていない。今後は前頭部

制御における実行系も含めた切り替えメカニズムの解

明が必要である。

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