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武器としての交渉術 前編 ―星海社新書 Ustream 講義― 瀧本哲史 (京都大学客員准教授・星海社新書軍事顧問) Tetsufumi Takimoto 2011

Takimoto koushou

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武器としての交渉術前編

―星海社新書  Ustream講義―

瀧本哲史(京都大学客員准教授・星海社新書軍事顧問)

c  Tetsufumi Takimoto 2011

大学卒業してから、10年以上が経過しているが、最初はほぼ3年ごとに転「職」(転「社」だけでなく)している

投資家経営者 コンサルタント   

学者

時期

タイトル

94.4-97.3

97.4-00.3

00.4-03.5

03.6-現在

東京大学大学院法学政治学研究科助手

McKinsey& Company アソシエート

日本交通グループ役員

•エンジェルインベスター•ファンドマネージャー

キャリアの変遷

京都大学産官学連携センター寄付研究部門准教授( 8ヶ月のみ)現在は、客員准教授

学者 ?

一見すると脈略のないキャリアに見えるが、、、c  Tetsufumi Takimoto 2011

日常の売買お小遣いの値上げ企業間取引雇用者と被用者の合意外交関係における合意

交渉とは、立場が異なる二者以上が合意を目指して話し合うことである

辞書的定義

交渉とは

基本要素

例えば、、、

「取り決めをするために、相手と話し合うこと。」「人と人との交わり。かかわりあい。関係。」(明鏡国語辞典)Discussion aimed at reaching an agreement (OED)

話し合い合意を目的としていてる

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交渉とは相手と自分の両方に選択権がある場合であり、選択権を持つもので内容が異なる

指令

交渉ではないもの

相手側の意思決定に対してただ従う

意思決定

ディベート

交渉

いくつかの選択肢から自分の価値観にあったモノを選択する

立場の異なる二者が、第三者に対する説得を行う

立場の異なり自由に意思決定ができる二者が合意を目指す

内容 選択権者相手

自分

第三者

相手と自分

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強い立場であっても弱い立場を完全に屈服させることはできない弱い立場の行動次第で強い立場の方も影響を受ける

「権威なき」、「非対称」で「相互依存」の時代である、現代は、「交渉の時代」でもある

権威なき時代

なぜ、今「交渉」が求められるのか?

非対称の時代

相互依存の時代

誰かが正しいことを決めていて、それにしたがっていればよい時代ではない神に対する誓約→契約へ

対等な同輩のクラブから立場の違う人たちの共同体へ世代、性別、社会階層、国籍、エスニックグループなどの差異、格差が明確になる

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なぜ私が交渉の授業をやるのか

社会の根拠

•職業上、様々な交渉を経験•交渉に関して個人的に研究•ニコ動での反響

交渉の授業をやる理由

Liberal Arts

瀧本がやる意味

•市場経済は合意を基礎にしている•個人の尊厳を重視する社会では何事も相互の合意が必要である

•自由人のための学芸•教養課程の意味•若者の「旅」に必要なもの

c  Tetsufumi Takimoto 2011

当事者の利害よりもレイヤーが高い価値観、ルールを形成する活動

交渉と隣接しており、交渉の要素を持っているが交渉とは違う活動として以下のような活動がある

コミュニケーション

交渉でないが隣接しているもの

マーケティング

社会運動

情報の伝達言語的なモノだけでなく、非言語的なモノも含む

「マーケティングとは、製品と価値を生み出して他者と交換することによって、個人や団体が必要なものや欲しいものを手に入れるために利用する社会上・経営上のプロセス」(コトラー)

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客観的な現実は存在せず、我々の認識枠組みによって、認識しているに過ぎない

交渉は、様々なアプローチ、いろいろな視点を「武器」として必要とする

利用可能性バイアス

なぜ様々なアプローチ?

内在的理解

モデルはモデル過ぎない

金槌を持っていれば釘に見える様々なアプローチを知っていれば、より望ましい解決策にたどり着きやすくなる

他者が自分と違う結論に達しているときになぜそうなっているか理解できる他者にその考えの相対性を示せるあるいはその枠組みでの説得を試みる

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経済学のパレート均衡、ゲーム理論→行動経済学、心理学

前編は、合理的な個人を前提とした交渉理論を中心に、後編は人間の非合理性を前提にした交渉理論を中心に扱います

想定している人間像

古い交渉理論から新しい交渉理論へ

関心範囲

主な分析手法

自己の利益を計算して最大化しようとする「合理的な個人」→感情的で非合理な個人

利害の調整、相互の利益を最大化する均衡点の存在証明→人間関係の構築といった心理学、社会学の影響を受けた研究

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交渉とはどんなことか?

大富豪の課題

見知らぬ二人が電車の中で声をかけられたここに 100万円あるのでその配分方法を二人で合意すること話し合いで金額に関して合意できれば、 100万円を渡すもし、合意できなければ渡さないこのゲームが終わった後二人は二度と接触しないこと条件提示を 1回だけするというルールだとどうなるか

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交渉とはどんなことか?

オレンジを巡る交渉

姉妹が一つオレンジを巡って争っていています

半分に分けたらと親が言ったところ、双方とも「 1個分必要」と主張して譲りません

数分後、無事に交渉は妥結して二人とも満足しました。一体何が起きたのでしょう? c  Tetsufumi Takimoto 2011

相手側に説明すべきなのは自分の立場なのか?

就職活動

就職活動の面接で、自己紹介と志望理由が良く聞かれます

しかし、この状況で本当に自己紹介をしたり、本当の志望理由を説明してはいけませんそれでは、どのような視点で自己紹介、志望理由を説明すべきでそれはなぜでしょうか?

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交渉力は何で決まるか?

家賃交渉と引っ越しのタイミング

編集者の柿内さんは定期的に引っ越しをすることで、多様な視点をもつようにしています

賃貸を借りるときの契約交渉で最も重要な争点は家賃となりますが、新居を探すときどのタイミングで引っ越しすると家賃交渉が有利になるでしょう

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合意とはどういうことか?

給与交渉

営業担当の Aさんは、部内でも一番の成績を上げているのに、同期と給与が待った同じなのは不公平すぎると思いました。

そこで、上司が社長と掛け合って10%アップしてくれることになりました。これは社内規定で最高の上げ幅ですAさんはこの提示で満足すべきでしょうか? c  Tetsufumi Takimoto 2011

Best Alternative to a Negotiated Agreement合意することが常に正解とは限らない「合意しない場合」のポジションとの比較で決まる

古典的な交渉理論における基本原則は以下の通り

立場ではなく利害に焦点を合わせる

交渉の基本原則

パイを分ける前にパイを大きくする

BATNA(バトナ)

自分の立場と相手の立場がぶつかっていると考えるのではなく、相互の利害を調整する相手の利害を理解し、それを満たすことで自分の利害を実現する

相手側の利害とこちら側の利害が完全に対立していない限り(「 100万円を分ける」ケース)、必ず、双方の利益が増やせる解決策を探すことができる(「オレンジ分割」のケース)

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相手の価値判断基準欲しいものを知る相手側に BATNAに気がつかせる、あるいは誤解させる

BATNAは古典的な交渉理論における基本的な「武器」であり、いろいろな場面での使いこなしが重要

不合理な合意を避ける

BATNAの活用法

自分の「 BATNAの改善」という視点を持つ

相手の「 BATNA」の予想・コントロール

交渉を続ける中で、なんとしても合意しようとして不合理な合意をするのを避ける最悪の状況が想定できるので、精神的な余裕を持てる

この交渉が成立しなかった場合の他のオプションをなるべくたくさん出しておき、その中で最善なものを選んでおくその過程で BATNAと合理を統一的に評価する基準を作っておく自分の「本当の」 BATNAを相手に悟られないようにする

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合意内容が BATNAを上回っている限りにおいて、両当事者の利益は改善されておりWin-Winと言えるがどちらがどれくらいWinかは状況による

Win-Winでないと交渉における合意は成立しないが、 Win-Winとなる解は実はあまた存在し、その中での交渉になる

ZOPAの定義

BATNAと ZOPA

ZOPAのない場合

Win-Win?

Zone Of Possible Agreement両当事者が BATNAとの関係で受け入れる可能性がある合意の組み合わせの集合体

双方の利害が価格のみであり売り手が2000円以上で売ろうと考えており、買い手が 18 00円以下で買おうとしている場合には ZOPAは存在しない

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今までの自分の交渉を振り返ってみて下さい

失敗した交渉

今まで、自分が行ってきた幾つかの交渉を思い出して下さい。そのなかで、自分が成功したものと失敗したものの違いを自分なりに分析してみましょうBATNA、 ZOPAという観点から見て、その交渉はどのように評価可能でしょうか?

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不利な状況での交渉

選挙ポスター

アメリカ大統領選挙で、来週からの大キャンペーンで使用するポスターを全国に配った後、致命的なことが発覚しましたじつは、そのポスターの写真を撮影した写真家の許諾を取っておらず、差し止めされたり、法外な損害賠償請求、ライセンス要求のリスクがあります。一方、今、ポスターを差し替えるのは選挙戦術上かなり不利となります選対委員長のあなたは、写真家にこれから電話をするとして、どのような交渉スタンスで望みますか

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お互いの条件の隔たりが大きくて、取引が成立しなかった必要以上に譲歩してしまった

典型的な」「価値分割型」交渉での失敗パターンは以下の通り

間違った条件提示

「価値分割型」交渉で失敗するパターン

分析不足

譲歩の失敗

自分から間違った条件提示をしたり、相手側の条件にアンカリングされた

自分の立場を話し続けて、相手側の主張を聞く時間が少なかった情報を引き出したり、解釈したり、自分の仮定の見直しをしなかったBATNA,ZOPAの事前分析、再分析が足りなかった

c  Tetsufumi Takimoto 2011

初期に提示された条件は、アンカーとして強く作用し、しかもそれは無意識的なものである

不動産取引の研究

全く同じ物件をベテラン不動産業者に評価させたところ、鑑定価格は「表示価格」に左右された

しかし、実験に参加した不動産業者の80%は「表示価格には左右されていない」と回答した

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お互いの隔たりを埋めるには何をしたらよいか譲歩を引き出すために何をすべきか譲歩にどう対応したらよいか

特定の条件に関して、双方で綱引きがある価値分割型の交渉においては条件提示とその反応が最も重要

どのように条件を提示するか

価値分割に関する争点

条件提示にどう反応するか

どのように妥結するか

自分から初期条件を提示すべきか初期条件を提示する前に何を行うべきか初期条件はどのように決めるべきか

アンカリングをどのようにコントロールするか条件提示から何を読み取るべきか

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バザールでの一回切りのビジネスでは初期条件を非合理にすることも有りだが、相手の信頼を失うのは得策でない説明可能な方が、相手が自分のBATNAを過大評価し、またアンカリングされやすくなる

初期条件をだせばアンカリングができるので、初期条件を適切に設定できる自信があるのであれば、提示した方がよい

高い目標

初期条件のポイント

現実的

説明可能

初期提示条件よりも、良い条件になることはないので、できるだけ高い目標にする最初に提示した条件はアンカーになる相手が認識しているであろう相手の BATNAとの関係で成立可能な条件を提示するただし、 BATNAをこちら側から過大評価する必要はない

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情報を出して、反論、質問、再検討を促す相手側がメンツをつぶさずに譲歩できる助け船を出す

逆に条件提示を受けた場合にはかなり意識してアンカリングの罠から逃れる必要がある

アンカリングを避ける

条件提示への反応

カウンターアンカーを出す

譲歩を促す

アンカーを無視する相手のアンカーをじっくり検討しない

初期条件の三要件(高い、現実的、説明可能)を満たすカウンターアンカーを出す

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気まずくなっても、沈黙を守る相手が譲歩をしようとしているときには辛抱強く話を聞いて相手側の利害を分析する

譲歩をするのは相手側の譲歩を引き出すためであり、取引を成立させるためではない

条件を付けて譲歩する

譲歩の仕方

常に BATNAを意識

沈黙と忍耐

一方的な譲歩をしない自分が譲歩した(自分の利害を大きく削って、相手の利害に大きく貢献した)ことを相手にアピールする条件付の譲歩を様々提案する譲歩幅のアンカリングに留意する

自分側の BATNAを高く認識させ、譲歩に限界があることを意識させる相手側に相手側の BATNAを低く認識させそれより高いことをアピールする自分にとって実は重要でなく、相手にとって重要なものを探す

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条件付契約で不確実性、不透明性、虚偽表示を避ける間接的な質問を行う

効率よく譲歩を引き出すためには、情報の収集分析が重要

必要な情報の収集・分析

譲歩を引き出す方法

自分の仮定の分析、批判

相手側の出したくない情報を引き出す

相手側の BATNA、利害関係について詳細に調査を行う自分側の BATNA、利害関係について分析し、優先順位を付けておく

事実関係や相手側の利害について自分がおいている仮定、前提を確認し、それを検証する

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最終的な相手側の「満足度」を高めるようにする長期的な関係も配慮して、あえてカウンターで妥協する

相手側が譲歩した場合にはそれ自体を一つのメッセージと考え、分析した上で対応を決定する

即座に受諾しない

譲歩への反応

背景の分析

交渉の満足度

あまりにも魅力的な提案であっても、即座に承諾しない念のためにさらに譲歩を促す

なぜ、相手側がその譲歩をできるのか、その理由を分析しそれをもとに、さらに戦略を再構築する

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複数の論点を出して、相手の反応の違いを見る複数の提案を比較させて相手の反応を見る情報の不確実性リスクを提案に織り込むオファーを組み合わせる

特定の条件に関して、双方で綱引きがある価値分割型の交渉においては条件提示とその反応が最も重要

相手の反応を解析する

情報収集の戦略

協力的な姿勢を示す

複数の提案をする

なぜ、相手側がそのような提案、拒絶を行うか、理由を聞いて背景にある意図を分析するその理由に対応したカウンターオファーで反応を見る

利害の調整という姿勢を明確にする情報の一部を共有する見えない、意外な第三者との協力を意識する

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交渉の相手方に価値を提案するときには一般論ではなく個別具体性が重要

セグメンテーション

提案を考えるときの視点

USP

Value Base Pricing

すべての人にとって価値があるものは誰にも価値がない同じ人間であっても、状況によってセグメントは異なる(オケージョンによるセグメンテーション)同じ会社でも立場によってセグメントは異なる(テクニカルバイヤーとエコノミックバイヤー)

相手側にとっての価値との関係での値付けを目指す適切な BATNAとの比較で安いか、高いかは決まる自分がかけているコストはあまり関係がない

Unique Selling Propositionほかの誰かも提供しているものではなく、自分だけが今だけ提供できる価値を打ち出す自分が作った機能ではなく、相手にとっての価値

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ケースを通じて、交渉の基本的な視点を学習した

BATNA

交渉を考えるときの視点(その1)

ZOPA

条件提示とアンカリング

Best Alternative To a Negotiated Agreement交渉が合意に至らなかったときに得られるものとの差が交渉の成果条件が悪化するときには合意しない方がまし自分と相手の BATNAを正確に理解するとともに、自分と相手の BATNAに関する相手の予期をコントロールする

交渉者は意識的、無意識的にアンカリングに拘束される(不動産業者の研究)高く、現実的で説明可能な条件提示戦略的譲歩(条件付き、質問、反論、忍耐と沈黙、メンツ、仮定の検証、情報戦)

Zone Of Possible Agreement両社の BATNAからの可能性の組み合わせZOPAの中では Win –Winだが small win , big winはある

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ケースを通じて、交渉の基本的な視点を学習した

複数条件のトレードオフ

交渉を考えるときの視点(その2)

情報の非対称性

価値創造

複数条件の当事者にとっての価値の違いが交渉可能性を生む時間、金銭、リスク選好度隠れた譲れない点、重要でない点

価値は完全に定量化されるもの以外は完全に相対的なもの(セグメント、オケージョン)提供する側の都合ではなく、される側の都合で判断される(コストベースではなくバリューベース)USP ( Unique Selling Proposition)なにが BATNAか?

相手の反応の解析(提案の受け入れ、拒絶、理由のヒアリング)協力姿勢による情報公開メリットの共有複数論点、複数提案による反応の差分を分析

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