Title 3歳男児に見られた尿管ポリープの膀胱内脱出の1例

Author(s) 佐野, 克行; 寺島, 和光; 相田, 典子; 井尻, 理恵子; 田中, 祐吉; 野坂, 俊介

Citation 泌尿器科紀要 (1998), 44(10): 737-738

Issue Date 1998-10

URL http://hdl.handle.net/2433/116269

Right

Type Departmental Bulletin Paper

Textversion publisher

Kyoto University

泌 尿 紀要44:737-738,l998 737

3歳 男児に見 られた尿管ポ リープの膀胱内脱出の1例

神奈川県立こども医療センター泌尿器科(部 長:寺 島和光〉

佐 野 克行,寺 島 和 光

神奈川県立こども医療センター放射線科(医 長:相 田典子)

相 田 典 子

神奈川県立こども医療センター病理科(医 長:田 中祐吉)

井尻 理恵子,田 中 祐吉

聖マリアンナ医科大学放射線科学教室(主 任=石 川 徹教授)

野 坂 俊 介

A CASE OF URETERAL POLYP PROLAPSING INTO BLADDER

IN A 3-YEAR-OLD BOY

Katsuyuki SANO and Kazumitsu TERASHIMA

From the Department of Urology, Kanagawa Children's Medical Center

Noriko AIDA

From the Department of Radiology, Kanagawa Children's Medical Center

Rieko IJIRI and Yukichi TANAKA

From the Department of Pathology, Kanagawa Children's Medical Center

Shunsuke NOSAKA

From the Department of Radiology, Saint Marianna Medical University

A 3-year-old boy was referred to us with a diagnosis of bladder tumor. On cystoscopy, a

yellowish-white pedunculated tumor was found at the right trigone and biopsy revealed an inflammatory change. Computed tomographic (CT) scan showed a soft tissue density from the lower ureter to the bladder. Open surgery confirmed a ureteral polyp originating from the lower ureter

prolapsing into the bladder, which mimicked bladder tumor. The need of open surgery in such cases is discussed.

(Acta Urol. Jpn. 44: 737-738, 1998) Key words : Polyps, Ureteral neoplasms

緒 言

尿管のポリープは小児には比較的稀な疾患である.

現代の画像診断技術の進歩によって,こ の疾患の大部

分は観血的手術によらずに診断されるようになってき

た,し か し尿管末端部のポリープが膀胱に逸脱した場

合,膀 胱腫瘍 と誤認されることがあり,そ のようなと

きは確診のために手術 を必要 とすることもある.わ れ

われは3歳 男児の膀胱に生 じた腫瘤性病変として紹介

され,結 果的には尿管ポリープであった1症 例につい

て報告 し,考 察を行った.

症 例}

患者13歳,男 児

主訴=尿 潜血のみ

既往歴 家族歴:特 記すべきことなし

現病歴:3歳 児検診にて尿潜血を指摘されたため前

医を受診.腹 部エコーと静脈性尿路造影(IVU)に て

膀胱内に突出する径Icmの 腫瘤 と右下部尿管の拡張

を指摘された(Fig.1)。 当科に紹介され1996年12月20

日に初診となった.

受診時の所見:顕 微鏡的血尿(高 倍率で1視 野に

100個以上)以 外は異常所見なし.

膀胱鏡所見:翌 日の検査では右三角部に黄白色表面

不整な腫瘤を認めた.鉗 子で生検 した標本は非特異的

炎症で悪性像なしとのことであった.

画像診断:CTお よびMRI検 査では膀胱内に突出

した腫瘤が見られ,拡 張 した右尿管下端近くにも軟組

織が認められた(Fig.2).リ ンパ節腫大はなく,ほ か

の異常も見 られなかった.

これらの所見から悪性病変の可能性は低いと推定さ

れた.し かし本症例の生検標本はきわめて小さく,こ

738 泌尿紀要44巻10号1998年

断 され た,

考 察

Fig.1.Intravenouspyelographyshoweddila-

tationoftherightureterandtumor-

likedefectinthebladder.

Fig.2.Computcdtomographyofthebladdershowedaprotrudinglesionintothebladder(thickarrow)andamasscon-tinuingfromthelesionintherightureter

(thinarrow).

れ らか ら病 変 の全 体像 を推 定 す るの は危 険 で あ る と考

えた ため,生 検 か ら2週 間 後 に観 血 的 に膀 胱 を開 いて

確 認 す る こ とと した。

手 術 所 見:膀 胱 を開 いた とこ ろ粘膜 に はな ん の変 化

もな く腫瘤 は ま った く存 在 しなか った。 と ころ が右 の

尿 管 を剥 離 抜 去 す る と,尿 管 内 に は尿 管 口 よ り4cm

あ た り まで 達 す る異 物 が 触 知 され た.そ こで 尿 管 を

開 く と,長 さ4cm,径lcmの 黄 白色 ポ リー プ が 現

われ た.ポ リー プ の尿 管粘 膜 へ の付 着 部 は尿管 口か ら

6cmの と ころ にあ った.ポ リー プ を含 め て尿 管 を末

端 か ら7cm切 除 し,psoashitch法 に て 尿 管 と膀 胱

を吻合 した.ポ リー プお よび尿 管 の病 理検 査 で は悪 性

像 は 見 られず,炎 症 を伴 うfibroepithelialpolypと 診

小児の尿管ポリープの報告例は少なく,現 在までに

約90例 が文献 として見られる1'2)う ち,61例 は本邦

で報告されたものである2)そ の中では圧倒的に(60

例)男 子に多いが2)欧米では75%程 度が男子に見 られ

る.ま た,本 邦では左側での発生が90%,上 部尿管例

が95%と 局在性が強 く見られ2),本 症例のような発生

部位はきわめて少数派に属する.年 齢的にも小学生以

上で診断される例が多 く2)(90%)本 症例のような経

緯をたどることは稀であろうと思われる.し たがっ

て,わ れわれも,鑑 別診断として尿管ポリープを考え

たにもかかわらず,確 診はで きなかった.最 近では画

像診断によって尿管ポリープはかなりの精度で診断さ

れるようになってきているが,本 症例のように尿管末

端に近 く発生 した場合,膀 胱に逸脱して膀胱腫瘍 と誤

認されることがあるのを承知 しておくべ きであろう.

今回のような経過をたどった場合,は たして観血的

手術が必要か どうかには議論があるだろう.CT,

MRIで は膀胱の腫瘤 と尿管内の病変に連続性が示唆

されている し,生 検標本か らは悪性像が認められな

かった.と りあえずTURに て腫瘤 を切除 して検討

するというのは成人であれば妥当な順序であったと考

えられる3)し かし3歳 の男児に使用可能な切除鏡は

存在 しない.の みならず,生 検に使用できる鉗子 もき

わめて小さいものに限定され,十 分な量の標本は期待

で きない.生 検の結果が良性だったとしても,観 血的

手術に踏み切ったことには妥当性があったと考えてい

る。今後同様な画像所見が見られたときには,尿 管ポ

リープが逸脱 したとするのが もっとも可能性の高い結

論であろう.し かし,小 児の膀胱にも葡萄状肉腫 を初

めとする悪性腫瘍が発生 しうるのであるから,特 に乳

児や年少幼児に対しては確診が得られるまで観血的な

手段をためらってはいけないと考える。

結 語

3歳 男児に見られた尿管ポリープの膀胱内逸脱例 を

報告し,診 断法と手術の可否について考察 した.

文 献

1)B・1・ ・nD,S・ ・ll・・ML・ndI・vyP・Fib…pi・h,li。l

ureteralpolypsandurolithiasis .Urology44:582-

587,1994

2)斎 藤 一 隆,湯 村 寧,千 葉 喜 美 男 ,ほ か=小 児 尿

管 ポ リ ー プ の1例.泌 尿 紀 要43:45-47 ,1997

3)C・ ・P・・SC・ndH・w・ ・eyCE・Fib…pi・h・li・lp。lyp

oftheureter.Urology50:280-281,1997

(長:::臨 瀞h2::1991)